答弁本文情報
昭和六十三年五月三十一日受領答弁第三二号
内閣衆質一一二第三二号
昭和六十三年五月三十一日
内閣総理大臣臨時代理
国務大臣 宮澤喜一
国務大臣 宮澤喜一
衆議院議長 原 健三郎 殿
衆議院議員坂上富男君提出凍結受精卵の臨床応用に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員坂上富男君提出凍結受精卵の臨床応用に関する質問に対する答弁書
1 体外受精は他に手段のない不妊症の治療を目的として行うものであり、受精卵の凍結保存法は、体外受精により得られた受精卵を適切な時期に子宮に戻すことができ、妊娠率を向上させられることや、採卵のための手術の回数を減少させられることにより、患者の身体的負担や採卵に伴う危険を軽減することができるものである。
また、諸外国では、既に臨床応用が開始され、新生児誕生が報告されており、その異常発生率は自然妊娠の場合と大差がないと判断されていると聞いている。
2 凍結受精卵の臨床応用については、生命と倫理に関する重要な問題であるとともに、凍結受精卵の管理及び保存期間の問題などを含んでいるので、関係大学においては、関係学会等の意見を踏まえながら、倫理委員会で十分検討した上で取り組むなど慎重な対応が望ましいと考えている。
3 凍結受精卵の臨床応用については、現段階の在り方として伝えられているごとく凍結受精卵の使用を厳正な手続により婚姻中の夫婦のみを対象とする方法がとられるのであれば、民法上の問題は少ないが、受精卵の長期保存により、夫の死亡又は離婚等によつて婚姻が解消された後に妻の子宮に受精卵を移植することも可能性のなかに含まれるとする場合、あるいは、移植対象を第三者の女性にまで広げて考える場合には、親子関係の確定、相続等に関し、問題が生じ得るものと考える。
刑法上は、事実関係のいかんにより、凍結受精卵を客体とする窃盗罪、器物損壊罪等の成否及び母体等を客体とする傷害罪等の成否等が問題となり得るものと考える。
4 凍結受精卵を用いての体外受精については、日本産科婦人科学会の見解に基づき不妊症の治療として適切に実施されるならば、立法措置については必要ないものと考えている。