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平成十一年三月二十六日受領
答弁第九号

  内閣衆質一四五第九号
    平成十一年三月二十六日
内閣総理大臣 小渕恵三

         衆議院議長 伊(注)宗一郎 殿

衆議院議員中川智子君提出薬害クロイツフェルト・ヤコブ病問題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員中川智子君提出薬害クロイツフェルト・ヤコブ病問題に関する質問に対する答弁書



一から三までについて

 ヒト乾燥硬膜は、開頭手術等により硬膜等に欠損が生じた場合において、当該欠損部位の補てん等の整形の目的で直接身体に縫合する等の方法で用いられる物であり、骨接合板、骨接合用ねじ等の用品類と同様に身体の整形に直接使用される物であるので、薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)第二条第四項に規定する医療用具のうち、薬事法施行令(昭和三十六年政令第十一号)別表第一医療用品の項第四号の整形用品に該当するものである。
 また、B・ブラウン社製のヒト乾燥硬膜「ライオデュラ」(以下「ライオデュラ」という。)の薬事法第二十三条において準用する同法第十四条の規定に基づく輸入の承認が行われた昭和四十八年当時における承認の申請の際の添付資料については、「医療用具の取扱いについて」(昭和三十六年七月八日付け薬発第二百八十一号厚生省薬務局長通知)において「効能、効果の判定を要する医療用具の承認を申請するときは、その申請書に、権威ある機関における理論的効果についての研究業績及び大学病院又は権威ある総合病院の臨床成績を添付させること。この場合の臨床成績は、一適応症につき、二以上の病院において集められた一病院あたり少なくとも三十例について、形式、内容とも学会で発表できるように作成されたものであること。」と定められており、臨床試験において副作用に起因する症例の発生があった場合には、臨床成績に記述されることとされていたところである。
 医療用具について、薬事法及びこれに基づく法令において、製造業者又は輸入販売業者に対し、副作用に起因する重篤な症例の発生に関する報告義務(以下「副作用に係る報告義務」という。)が課されたのは、昭和五十五年四月一日からであり、その使用によるものと疑われる感染症の発生に関する報告義務(以下「感染症に係る報告義務」という。)が課されたのは、平成九年四月一日からである。これらの時期は、医薬品についての副作用に係る報告義務及び感染症に係る報告義務が制度化された時期と同じである。
 御指摘の昭和六十二年当時、厚生省はライオデュラの輸入販売業者から、米国食品医薬品局(以下「FDA」という。)が同年四月に発した安全警告(以下「FDA安全警告」という。)及び御指摘のアルカリ処理工程の導入について報告は受けていない。

四について

 御指摘のファクシミリを用いた照会は、平成八年五月の厚生省特定疾患調査研究事業におけるクロイツフェルト・ヤコブ病等に関する緊急全国調査研究班の設置を契機として、当時の薬務局関係職員がヒト乾燥硬膜の輸入販売業者やクロイツフェルト・ヤコブ病(以下「CJD」という。)を専門とする研究者等に対する関連事項の聴取り調査あるいは関連文献の入手を行う過程において、FDA安全警告が発せられている旨の情報を得たことから、当事者であるFDAから直接、迅速かつ正確な事実関係を確認し、併せて関連の追加的な情報の提供を依頼するために行ったものである。
 厚生省においては、ヒト乾燥硬膜の安全性に関して、平成八年六月十九日に中央薬事審議会伝達性海綿状脳症対策特別部会(以下「特別部会」という。)において検討に着手し、同年八月一日に開催された特別部会においては、資料として提出されたFDA安全警告等も審議の対象とした上で、同日付けの特別部会意見において「ヒト乾燥硬膜の製造会社はドイツに二社あり、現在は、クロイツフェルト・ヤコブ病、B型肝炎、C型肝炎等に罹患している可能性のあるドナーを排除する基準及びクロイツフェルト・ヤコブ病の病原物質と考えられるタンパク質の一種であるプリオンを不活化する水酸化ナトリウム処理工程を導入して」おり、「データ、プロセス及び両社からの説明による限り、現在適用されている安全対策により、現在供給されているヒト乾燥硬膜は、臨床的には安全と考えられる」との評価を行うとともに、「今後安全性を高めるため、ドナー選択の強化等に努めること」、「今後とも必要な情報収集に努めること」及び「未処理の製品については既に医療機関には存在しないと両社から報告されているが、念のため両社から納入した医療機関に対し、改めてしかるべき情報提供を再度行わせること」が適当であると述べたところであり、厚生省においては、これを踏まえ、同年八月五日付けで各都道府県に対して未処理製品の医療機関における存在の有無につき調査を依頼する等の所要の対応を行ってきたところである。
 その後、平成九年三月二十七日に世界保健機関(WHO)が「ヒト乾燥硬膜の移植例から五十例以上のクロイツフェルト.ヤコブ病が発生していることにかんがみ、今後ヒト硬膜を使用しないこと」との勧告を行ったことを踏まえて、厚生省においては、直ちに同月二十八日付けでヒト乾燥硬膜販売輸入業者に対し、薬事法第六十九条の二の規定に基づき、ヒト乾燥硬膜の販売等の一時停止、回収及び納入医療機関に対して直ちにヒト乾燥硬膜の使用を停止すべき旨の連絡を行うことを内容とする緊急命令を発したところである。
 なお、当該措置について、同年四月二十一日に開催された特別部会は、「アルカリ処理を行った乾燥ヒト硬膜の使用例におけるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の発症例はこれまでに内外とも確認されておらず、また、ドナー選択基準の強化等も図られてきているところであるが、プリオンのような未知の病原体による汚染の可能性を将来にわたって完全に否定することは難しいこと、また、人工硬膜や自己筋膜の使用等ヒト硬膜に代替する方法が存在していることに鑑み、ヒト硬膜を使用しないようにするとの今般の対応については、適切なものであったと考える」と述べているところである。

五について

 御指摘の準備書面において被告である国が論じているのは、当該準備書面に係る民事訴訟の原告である患者に対してヒト乾燥硬膜移植手術が実施されたとする時点(平成元年一月二十三日)までにおける予見可能性についてである。

六について

 厚生省の特定疾患調査研究事業は、原因が不明であって治療方法が確立されていない疾病等のうち、厚生省が定める特定の疾患(いわゆる難病)について、その原因の解明、治療方法の確立等のための研究を促進することを目的として実施しているものである。昭和五十一年度から、同事業において「スローウイルス感染と難病発生機序に関する研究班」(昭和五十四年度以降は「遅発性ウイルス感染調査研究班」と改称した。以下「遅発性ウイルス研究班」という。)を設置し、当時、亜急性硬化性全脳炎、進行性多巣性白質脳症、多発性硬化症等とともに遅発性ウイルス感染症と総称されていた疾病の一つとしてCJDも研究の対象としたところである。
 御指摘のこの病気の重要性が何を指すかは不明であるが、遅発性ウイルス研究班においては、CJDを含む遅発性ウイルス感染症全般について、我が国における患者の実態の疫学的調査、ウイルス学、病理学、免疫学等からの病因及び病態の解明並びに治療法及び予防法の開発の三点を主な目標として研究が開始されたものである。遅発性ウイルス研究班の研究内容や研究手法は広範多岐にわたるものであるが、現在まで御指摘のヒト乾燥硬膜を使用した動物実験は行われていないと承知している。
 御指摘の脳病理及び脳外科関係者に対する注意喚起としては、昭和五十三年度の遅発性ウイルス研究班の研究報告書において、「現時点ではウイルス病は治療よりも予防の方が重要かつ確実である」とした上で、脳病理及び脳外科関係者が感染症の患者を診察する際の注意として「CJ病では患者脳組織に直接接触することによってのみ伝達が可能なので、脳病理、脳外科関係者に厳重注意を呼びかける」との記載が行われている。
 国及び輸入販売業者に対し損害賠償を求める民事訴訟において、原告らは、昭和六十二年度までの研究班報告書の一部や海外文献により、CJDの第一症例報告が行われた昭和六十二年以前の国の予見可能性について主張しているが、国においては、原告らが指摘する文献はヒト乾燥硬膜とCJD発生の直接的な関連を示唆するものではなく、当該文献の存在をもって昭和六十二年までにヒト乾燥硬膜の移植によるCJD発症の危険性を予見することは到底できなかった旨の主張を行っているところである。
 厚生省においては、遅発性ウイルス研究班において海外情報の入手がどのようにして行われたのか、研究報告書が海外関係機関に送付されているのか否かについては、承知していない。

七について

 お尋ねの国立予防衛生研究所における議論については、昭和六十二年当時同研究所においては米国疾病対策予防センター(CDC)の週報(以下「MMWR」という。)を入手し、これに掲載された記事のうち重要と認識されたものについて、同研究所が毎月発行している「病原微生物検出情報」に掲載することとしていたが、平成九年に厚生省において「病原微生物検出情報」の当時の編集関係者等に照会したところ、当時の編集責任者であった同研究所ウイルス中央検査部長(当時)から、「昭和六十二年二月及び同年六月のMMWRのヒト乾燥硬膜移植後のCJD関連の記事については、当該記事を掲載するかどうか所内の編集会議で検討したが、当時、CJDは発症原因としてのプリオン説がまだ確立しておらず、ヒトへの感染機構、病因論自体が極めて不明瞭であり、当該記事にも病原体及び病原診断としての情報が含まれていなかったことから、掲載する必要性の高いものとの認識はなく、編集責任者の判断でしばらく状況をフォローしてみることになったと思う。」との回答があったところである。
 平成九年五月六日の衆議院厚生委員会における総務審議官答弁及び平成十年九月八日の同委員会における医薬安全局長答弁は、厚生省所管の試験研究機関と厚生省内部部局との連携等に関する過去の実態について問われたため、これについて、それぞれの時点から振り返ってみれば反省すべき点もあったとの認識を一般論として述べたものであり、本年二月四日の衆議院予算委員会における医薬安全局長答弁は、東京地方裁判所及び大津地方裁判所に提訴されている七件の損害賠償請求事件に関する被告である国の法的責任について問われたため、これについての被告としての考え方を述べたものである。

八について

 御指摘の当事者照会は、平成十年五月一日付けで原告の代理人から被告である国の指定代理人に対し、ライオデュラの輸入の承認及び一部変更の承認を行った当時並びにMMWRにおいてライオデュラに係るCJDの第一症例報告がなされた当時の厚生省の担当部署並びに当該担当部署における局長以下の全役職者及び担当者の氏名、現在の住所、連絡先等十六項目にわたる広範なものである。これらの照会に対し、被告である国は、その指定代理人を通じ、本件訴訟の進行状況に照らして、訴訟における主張又は立証の準備のために必要な情報については裁判所を介することなく当事者間で直接入手できるようにするという当事者照会の趣旨を踏まえ、民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第百六十三条の規定に基づき、同年七月十三日付けで回答を行ったところである。
 当該回答においては、当時の局長等の役職者及び担当者のうち照会された当時既に退職していた者については氏名及び退職の事実を回答したが、退職後の住所等については、一般私人と同様の個人のプライバシーであり、民事訴訟法第百六十三条第六号に照らし、同法第百九十七条第一項第一号に規定する証言を拒むことができる場合に該当すると考えられることから、回答する必要がないと判断したものである。また、御指摘の当時の薬務局長については、平成十年十一月六日付けで原告の代理人から被告である国の指定代理人に対し、現在環境衛生金融公庫理事長の職にある者と同一人物かという旨の再照会があったことから、同月二十日付けで両者は同一人物である旨の追加回答を行ったところである。したがって、このような国の対応により御指摘のように訴訟の適正かつ迅速な進行が妨げられているとは考えていない。
 今後とも、国は、当事者として、信義に従い誠実に訴訟を追行するという民事訴訟法に定める原則に従い、適切な訴訟進行が図られるよう努めてまいりたい。

九について

 CJD患者に対しては、CJDを特定疾患治療研究事業の対象疾患に指定し、医療費について医療保険制度による自己負担額の全額を公費負担とするとともに、訪問介護員を派遣する等の支援を行っているところであるが、ヒト乾燥硬膜の移植によってCJDを発症したと主張する患者等に係る国家賠償の問題は、民事訴訟における裁判所の判断を仰ぐべき問題と考えている。
 また、御指摘の事実の解明については、民事訴訟において必要な事実が明らかにされるものと考えており、八についてで述べたとおり、国は、当事者として信義に従い誠実に対応してまいりたい。
 なお、今後とも、人体の組織を用いた医療用具等について、薬事法に基づく製造の承認等の申請があった場合には、その特性に留意して有効性、安全性等についての適切な審査を行う必要があると考えている。





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