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第一五一回

衆第三九号

   ダム事業の抜本的な見直し及び治水のための森林の整備の推進等のための緊急措置法案

 (目的)

第一条 この法律は、ダムが自然の生態系に影響を与え、かつ、ダムの建設予定地の住民の生活基盤を奪うものであることにかんがみ、緊急にダム事業の抜本的な見直しを行うための措置としてダム事業の停止及び再評価、再評価に基づくダム事業の中止等について定めるとともに、ダムに代わる治水のための森林の整備を推進し、あわせてダム事業を中止した地域等の活性化対策を講ずることにより、自然環境の保全及び関係住民の生活の安定と福祉の向上を図ることを目的とする。

 (ダム事業の停止)

第二条 国、水資源開発公団又は都道府県は、平成十四年三月三十一日までに、その実施する河川法(昭和三十九年法律第百六十七号)第三条第一項に規定する河川に関するダムの新築の事業(農業用ダムその他の政令で定めるダムの新築の事業を除く。以下「ダム事業」という。)を停止しなければならない。

 (ダム事業の再評価)

第三条 国土交通大臣は、前条の規定により停止した国又は水資源開発公団が実施するダム事業について、事業の継続の適否を判断するための評価(以下「再評価」という。)を行うものとする。

2 前項の再評価は、次に掲げる観点から行うものとする。

 一 事業の必要性の度合

 二 事業の効果(費用効果分析を含む。)

 三 事業の円滑な実施の可能性

 四 事業の実施に係る環境等への影響

 五 事業の目的とする効果と同程度の効果を実現する別の方策の有無

 六 事業を中止した場合の影響

3 国土交通大臣は、第一項の再評価を行うに当たっては、関係行政機関の長及び関係地方公共団体の意見を聴かなければならない。

4 国土交通大臣は、第一項の再評価を行うに当たっては、同項の再評価の対象となるダム事業に関する資料を公開し、広く住民の意見を聴かなければならない。

5 国土交通大臣は、第一項の再評価を行うに当たっては、公共事業調査会の意見を聴かなければならない。この場合において、国土交通大臣は、前項の規定により聴取した住民の意見の概要を記載した書類を公共事業調査会に提出しなければならない。

6 国土交通大臣は、第一項の再評価を行ったときは、その結果に関する報告書を作成し、これを内閣を経て国会に提出しなければならない。

7 都道府県知事は、前条の規定により停止した当該都道府県が実施するダム事業について、再評価を行うものとする。

8 第二項から六項までの規定は、前項の規定により都道府県知事が行う再評価について準用する。この場合において、第三項中「関係行政機関の長及び関係地方公共団体」とあるのは「関係地方公共団体」と、第五項中「公共事業調査会」とあるのは「地方ダム評価委員会」と、第六項中「内閣を経て国会」とあるのは「当該都道府県の議会」と読み替えるものとする。

 (再評価に基づくダム事業の中止)

第四条 国、水資源開発公団又は都道府県は、その実施するダム事業について、再評価の結果に基づき、事業の継続が適当でないと判断したときは、当該ダム事業を中止しなければならない。

2 国、水資源開発公団又は都道府県は、前項の規定によりダム事業を中止したときは、その旨を公表しなければならない。

 (再評価に基づくダム事業の継続)

第五条 国土交通大臣は、国が実施するダム事業について、再評価の結果に基づき、事業を継続しようとするときは、当該ダム事業の実施計画を作成し、これを内閣を経て国会に提出し、その承認を受けなければならない。

2 前項のダム事業の実施計画には、次に掲げる事項を定めなければならない。

 一 名称

 二 目的

 三 施行区域

 四 環境保全のための措置

 五 工期

 六 費用

 七 その他政令で定める事項

3 国土交通大臣は、第一項のダム事業の実施計画の案を作成しようとするときは、関係行政機関の長に協議するとともに、関係地方公共団体の意見を聴かなければならない。

4 国土交通大臣は、第一項のダム事業の実施計画の案を作成したときは、これを公開し、広く住民の意見を聴かなければならない。

5 国土交通大臣は、第一項のダム事業の実施計画を作成しようとするときは、公共事業調査会の意見を聴かなければならない。この場合において、国土交通大臣は、前項の規定により聴取した住民の意見の概要を記載した書類を公共事業調査会に提出しなければならない。

6 水資源開発公団は、その実施するダム事業について、再評価の結果に基づき、事業を継続しようとするときは、当該ダム事業の実施計画を作成し、国土交通大臣の認可を受けなければならない。

7 第二項から第四項までの規定は、前項の規定によるダム事業の実施計画の作成について準用する。この場合において、第三項中「関係行政機関の長に協議するとともに、関係地方公共団体」とあるのは、「関係地方公共団体」と読み替えるものとする。

8 国土交通大臣は、第六項の認可をしようとするときは、公共事業調査会の意見を聴かなければならない。

9 国土交通大臣は、第六項の認可をしようとするときは、内閣を経て国会の承認を受けなければならない。

10 都道府県知事は、当該都道府県が実施するダム事業について、再評価の結果に基づき、事業を継続しようとするときは、当該ダム事業の実施計画を作成し、当該都道府県の議会の承認を受けなければならない。

11 第二項から第五項までの規定は、前項の規定によるダム事業の実施計画の作成について準用する。この場合において、第三項中「関係行政機関の長に協議するとともに、関係地方公共団体」とあるのは「関係地方公共団体」と、第五項中「公共事業調査会」とあるのは「地方ダム評価委員会」と読み替えるものとする。

 (ダム事業実施計画の不承認等によるダム事業の中止)

第六条 国、水資源開発公団又は都道府県は、その実施するダム事業について、平成十六年三月三十一日までに、前条第一項の承認、同条第六項の認可又は同条第十項の承認を受けなかったときは、当該ダム事業を中止しなければならない。この場合において、第四条第二項の規定を準用する。

 (治水のための森林の整備等)

第七条 国及び地方公共団体は、第四条又は前条の規定によりダム事業が中止されたときは、速やかに、森林の整備その他の治水のために必要な措置を講じなければならない。第五条の規定によりダム事業を継続する場合であって、ダム事業の事業規模を縮小するときも、同様とする。

 (治水森林整備推進基本方針)

第八条 農林水産大臣は、前条の規定に基づくダムに代わる治水のための森林の整備を推進するため、治水森林整備推進基本方針(以下「基本方針」という。)を定めるものとする。

2 基本方針には、次に掲げる事項を定めるものとする。

 一 造林の推進に関する事項

 二 間伐及び保育の推進に関する事項

 三 その他治水のために必要な森林の整備の推進に関する事項

3 農林水産大臣は、基本方針を定めようとするときは、関係行政機関の長に協議するとともに、関係地方公共団体の意見を聴かなければならない。

4 農林水産大臣は、基本方針を定めたときは、内閣を経て国会に報告しなければならない。

5 前二項の規定は、基本方針の変更について準用する。

 (基本方針と全国森林計画との関係)

第九条 森林法(昭和二十六年法律第二百四十九号)第四条第一項に規定する全国森林計画(以下「全国森林計画」という。)は、基本方針と調和が保たれたものでなければならない。

 (全国森林計画等の変更)

第十条 農林水産大臣は、基本方針を定め、又は変更したときは、速やかに、全国森林計画を変更しなければならない。

2 都道府県知事は、前項の規定により全国森林計画が変更された場合において、必要があると認めるときは、速やかに、森林法第五条第一項に規定する地域森林計画(以下「地域森林計画」という。)を変更しなければならない。

3 森林管理局長は、第一項の規定により全国森林計画が変更された場合において、必要があると認めるときは、速やかに、森林法第七条の二第一項に規定する森林計画を変更しなければならない。

4 市町村は、第二項の規定により地域森林計画が変更された場合において、必要があると認めるときは、速やかに、森林法第十条の五第一項に規定する市町村森林整備計画を変更しなければならない。

 (森林所有者に対する国の補助)

第十一条 国は、政令で定めるところにより、ダムに代わる治水のための森林の整備をする都道府県、市町村その他の森林所有者(森林法第二条第二項に規定する森林所有者をいう。)に対し、これに要する費用の全部を補助する。

 (雇用の機会の創出等)

第十二条 国及び地方公共団体は、ダムに代わる治水のための森林の整備を推進するに当たっては、地域における雇用の機会の創出を図る等地域経済の活性化に努めなければならない。

2 国及び地方公共団体は、ダムに代わる治水のための森林の整備を推進するに当たっては、これにより生じる間伐材の利用の促進を図るよう努めなければならない。

3 国及び地方公共団体は、ダムに代わる治水のための森林の整備を推進するに当たっては、地域の住民及び団体等との連携を積極的に図り、これらの者の有する技能及びその創意工夫等が十分に発揮されるよう努めなければならない。

 (振興地域の指定等)

第十三条 総務大臣、農林水産大臣及び国土交通大臣は、都道府県知事の申出に基づき、第四条又は第六条の規定によるダム事業の中止(第五条の規定によりダム事業を継続する場合におけるダム事業の事業規模の縮小を含む。)に伴い、地域の活性化のための対策を講ずることにより、住民の生活の安定と福祉の向上を図る必要があると認められる地域を振興地域として指定するものとする。

2 都道府県知事は、前項の規定による申出をしようとするときは、あらかじめ関係市町村長の意見を聴かなければならない。

3 総務大臣、農林水産大臣及び国土交通大臣は、第一項の規定により振興地域を指定したときは、その旨を公示しなければならない。

4 前三項の規定は、振興地域の変更について準用する。

 (市町村振興地域活性化計画)

第十四条 市町村長は、前条第三項の公示があったときは、速やかに、当該市町村の議会の議決を経た上、総務大臣、農林水産大臣及び国土交通大臣の同意を得て、当該振興地域に係る市町村振興地域活性化計画(以下「市町村計画」という。)を作成しなければならない。

2 市町村計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。

 一 地域の活性化の基本的方針に関する事項

 二 産業の振興及び観光の開発に関する事項

 三 生活環境の整備に関する事項

 四 住民の福祉の向上に関する事項

 五 地域文化の振興に関する事項

 六 集落の整備に関する事項

 七 自然環境の保全及び回復に関する事項

 八 ダムの建設予定地であった地域の住民の生活の支援に関する事項

 九 ダムの建設予定地であった地域から転出を希望する者の転出の支援に関する事項

 十 ダムの建設予定地であった地域に転入を希望する者の転入の支援に関する事項

 十一 土地改良事業並びに下水道及び浄化槽の整備に係る住民の負担の軽減に関する事項

 十二 第八号から前号までに掲げるもののほか、住民の生活の支援に関する事項

 十三 レクリエーションその他住民の親睦を深めるための活動の推進に関する事項

 十四 その他地域の活性化に関し必要な事項

3 市町村長は、市町村計画を作成しようとするときは、関係地方公共団体の意見を聴かなければならない。

4 前項の規定により地方公共団体が意見を述べようとするときは、当該地方公共団体の議会の議決を経なければならない。

5 市町村長は、市町村計画を作成しようとするときは、公聴会の開催等関係住民の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない。

6 市町村長は、市町村計画を作成したときは、これを公表するとともに、総務大臣、農林水産大臣及び国土交通大臣に提出しなければならない。

7 第一項及び第三項から前項までの規定は、市町村計画の変更について準用する。

第十五条 市町村長は、市町村計画に基づく前条第二項第九号に掲げる事項に係る事業を実施するに当たっては、第二条の規定によるダム事業の停止前にダムの建設予定地から転出した者との均衡に十分配慮しなければならない。

 (都道府県振興地域活性化計画)

第十六条 都道府県知事は、第十三条第三項の公示があったときは、速やかに、当該都道府県の議会の議決を経た上、総務大臣、農林水産大臣及び国土交通大臣の同意を得て、当該振興地域に係る都道府県振興地域活性化計画(以下「都道府県計画」という。)を作成しなければならない。

2 都道府県計画は、第十四条第二項第一号から第七号までに掲げる事項について、当該都道府県が振興地域に係る市町村に協力して講じようとする措置の計画とする。

3 第十四条第三項から第七項までの規定は、都道府県計画について準用する。

 (市町村計画に基づく事業に係る国の負担等)

第十七条 市町村計画に基づく第十四条第二項第二号から第七号までに掲げる事項に係る事業及び都道府県計画に基づく事業に要する費用については、国が負担する。

2 都道府県は、市町村に対し、市町村計画に基づく第十四条第二項第八号から第十四号までに掲げる事項に係る事業に要する費用の一部を補助することができる。

3 国は、都道府県に対し、前項の規定による補助に要した費用の一部を補助することができる。

 (地方ダム評価委員会)

第十八条 都道府県に、地方ダム評価委員会を置く。

2 地方ダム評価委員会は、この法律の規定によりその権限に属させられた事項を処理する。

3 地方ダム評価委員会の組織及び運営に関し必要な事項は、条例で定める。

 (公共事業基本法の適用除外等)

第十九条 公共事業基本法(平成十三年法律第▼▼▼号)第七条の規定は、平成十六年三月三十一日までの間は、ダム事業については、適用しない。

2 第三条第一項の規定に基づくダム事業についての再評価は、公共事業基本法第七条第一項の規定に基づく公共事業についての再評価とみなす。

   附 則

1 この法律は、平成十三年十月一日から施行する。

2 この法律は、平成二十六年三月三十一日限り、その効力を失う。ただし、ダムに代わる治水のための森林の整備並びに市町村計画及び都道府県計画に基づく事業に係る国の負担金又は補助金のうち平成二十六年度以降に繰り越されるものについては、第十一条及び第十七条の規定は、この法律の失効後もなおその効力を有する。

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