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第一六五回

参第四号

   日本国教育基本法案

 心身ともに健やかな人間の育成は、教育の原点である家庭と、学校、地域、社会の、広義の教育の力によって達成されるものである。

 また、日本国民ひいては人類の未来、我が国及び世界の将来は、教育の成果に依存する。

 我々が直面する課題は、自由と責任についての正しい認識と、また、人と人、国と国、宗教と宗教、人類と自然との間に、共に生き、互いに生かされるという共生の精神を醸成することである。

 我々が目指す教育は、人間の尊厳と平和を重んじ、生命の尊さを知り、真理と正義を愛し、美しいものを美しいと感ずる心を育み、創造性に富んだ、人格の向上発展を目指す人間の育成である。

 さらに、自立し、自律の精神を持ち、個人や社会に起こる不条理な出来事に対して、連帯して取り組む豊かな人間性と、公共の精神を大切にする人間の育成である。

 同時に、日本を愛する心を涵養し、祖先を敬い、子孫に想いをいたし、伝統、文化、芸術を尊び、学術の振興に努め、他国や他文化を理解し、新たな文明の創造を希求することである。

 我々は、教育の使命を以上のように認識し、国政の中心に教育を据え、日本国憲法の精神と新たな理念に基づく教育に日本の明日を託す決意をもって、ここに日本国教育基本法を制定する。

 (教育の目的)

第一条 教育は、人格の向上発展を目指し、日本国憲法の精神に基づく真の主権者として、人間の尊厳を重んじ、男女の平等を尊重し、民主的で文化的な国家、社会及び家庭の形成者たるに必要な資質を備え、世界の平和と人類の福祉に貢献する心身ともに健やかな人間の育成を期して行われなければならない。

 (学ぶ権利の保障)

第二条 何人も、生涯にわたって、学問の自由と教育の目的の尊重の下に、健康で文化的な生活を営むための学びを十分に奨励され、支援され、及び保障され、その内容を選択し、及び決定する権利を有する。

 (適切かつ最善な教育の機会及び環境の享受等)

第三条 何人も、その発達段階及びそれぞれの状況に応じた、適切かつ最善な教育の機会及び環境を享受する権利を有する。

2 何人も、人種、性別、言語、宗教、信条、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。

3 国及び地方公共団体は、すべての幼児、児童及び生徒の発達段階及びそれぞれの状況に応じた、適切かつ最善な教育の機会及び環境の確保及び整備のための施策を策定し、及びこれを実施する責務を有する。

4 国及び地方公共団体は、経済的理由によって修学困難な者に対して、十分な奨学の方法を講じなければならない。

 (学校教育)

第四条 国及び地方公共団体は、すべての国民及び日本に居住する外国人に対し、意欲を持って学校教育を受けられるよう、適切かつ最善な学校教育の機会及び環境の確保及び整備に努めなければならない。

2 学校教育は、我が国の歴史と伝統文化を踏まえつつ、国際社会の変動、科学と技術の進展その他の社会経済情勢の変化に的確に対応するものでなければならない。

3 学校教育においては、学校の自主性及び自律性が十分に発揮されなければならない。

4 法律に定める学校は、その行う教育活動に関し、幼児、児童、生徒及び学生の個人情報の保護に留意しつつ、必要な情報を本人及び保護者等の関係者に提供し、かつ、多角的な観点から点検及び評価に努めなければならない。

5 国及び地方公共団体は、前項の学校が行う情報の提供並びに点検及び評価の円滑な実施を支援しなければならない。

 (教員)

第五条 法律に定める学校は、公の性質を有するものであり、その教員は、全体の奉仕者であって、自己の崇高な使命を自覚し、その職責の十全な遂行に努めなければならない。

2 前項の教員は、その身分が尊重され、その待遇が適正に保障されなければならない。

3 第一項の教員については、その養成と研修の充実が図られなければならない。

 (幼児期の教育)

第六条 幼児期にあるすべての子どもは、その発達段階及びそれぞれの状況に応じて、適切かつ最善な教育を受ける権利を有する。

2 国及び地方公共団体は、幼児期の子どもに対する無償教育の漸進的な導入に努めなければならない。

 (普通教育及び義務教育)

第七条 何人も、別に法律で定める期間の普通教育を受ける権利を有する。国民は、その保護する子どもに、当該普通教育を受けさせる義務を負う。

2 義務教育は、真の主権者として民主的で文化的な国家、社会及び家庭の形成者を育成することを目的とし、基礎的な学力の修得及び体力の向上、心身の調和的発達、道徳心の育成、文化的素養の醸成、国際協調の精神の養成並びに自主自立の精神の体得を旨として行われるものとする。

3 国は、普通教育の機会を保障し、その最終的な責任を有する。

4 国は、普通教育に関し、地方公共団体の行う自主的かつ主体的な施策に配慮し、地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえつつ、その地域の特性に応じた施策を講ずるものとする。

5 国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については授業料は徴収せず、その他義務教育に関する費用については、保護者の負担は、できる限り軽減されるものとする。

 (高等教育)

第八条 高等教育は、我が国の学術研究の分野において、その水準の向上及びその多様化を図るとともに、社会の各分野における創造性に富む担い手を育成することを旨として行われるものとする。

2 高等教育を行う学校は、社会に開かれたものとなるよう、職業人としての資質の向上に資する社会人の受入れの拡大、地域、産業、文化、社会等の活性化に資する人材の養成を目指す関係者との連携等を積極的に図るものとする。

3 高等教育については、無償教育の漸進的な導入及び奨学制度の充実等により、能力に応じ、すべての者に対してこれを利用する機会が与えられるものとする。

 (建学の自由及び私立の学校の振興)

第九条 建学の自由は、別に法律で定めるところにより、教育の目的の尊重の下に、保障されるものとする。国及び地方公共団体は、これを最大限尊重し、あわせて、多様な教育の機会の確保及び整備の観点から、私立の学校への助成及び私立の学校に在籍する者への支援に努めなければならない。

 (家庭における教育)

第十条 家庭における教育は、教育の原点であり、子どもの基本的な生活習慣、倫理観、自制心、自尊心等の資質の形成に積極的な役割を果たすことを期待される。保護者は、子どもの最善の利益のため、その能力及び資力の範囲内で、その養育及び発達についての第一義的な責任を有する。

2 国及び地方公共団体は、保護者に対して、適切な支援を講じなければならない。

3 国及び地方公共団体は、健やかな家庭環境を享受できないすべての子どもに対して、適当な養護、保護及び援助を行わなければならない。

 (地域における教育)

第十一条 地域における教育においては、地域住民の自発的取組が尊重され、多くの人々が、学校及び家庭との連携の下に、その担い手になることが期待され、そのことを奨励されるものとする。

 (生涯学習及び社会教育)

第十二条 国及び地方公共団体は、国民が生涯を通じて、あらゆる機会に、あらゆる場所において、多様な学習機会を享受できるよう、社会教育の充実に努めなければならない。

2 国及び地方公共団体が行う社会教育の充実は、図書館、博物館、公民館等の施設と機能の整備その他適当な方法によって、図られるものとする。

 (特別な状況に応じた教育)

第十三条 障がいを有する子どもは、その尊厳が確保され、共に学ぶ機会の確保に配慮されつつ自立や社会参加が促進され、適切な生活を享受するため、特別の養護及び教育を受ける権利を有する。国及び地方公共団体は、障がい、発達状況、就学状況等、それぞれの子どもの状況に応じて、適切かつ最善な支援を講じなければならない。

 (職業教育)

第十四条 何人も、学校教育と社会教育を通じて、勤労の尊さを学び、職業に対する素養と能力を修得するための職業教育を受ける権利を有する。国及び地方公共団体は、職業教育の振興に努めなければならない。

 (政治教育)

第十五条 国政及び地方自治に参画する良識ある真の主権者としての自覚と態度を養うことは、教育上尊重されなければならない。

2 法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。

 (生命及び宗教に関する教育)

第十六条 生の意義と死の意味を考察し、生命あるすべてのものを尊ぶ態度を養うことは、教育上尊重されなければならない。

2 宗教的な伝統や文化に関する基本的知識の修得及び宗教の意義の理解は、教育上重視されなければならない。

3 宗教的感性の涵養及び宗教に関する寛容の態度を養うことは、教育上尊重されなければならない。

4 国、地方公共団体及びそれらが設置する学校は、特定の宗教の信仰を奨励し、又はこれに反対するための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。

 (情報文化社会に関する教育)

第十七条 すべての児童及び生徒は、インターネット等を利用した仮想情報空間におけるコミュニケーションの可能性、限界及び問題について、的確に理解し、適切な人間関係を構築する態度と素養を修得するよう奨励されるものとする。

2 すべての児童及び生徒は、文化的素養を醸成し、他者との対話、交流及び協働を促進する基礎となる国語力を身につけるための適切かつ最善な教育の機会を得られるよう奨励されるものとする。

3 すべての児童及び生徒は、その健やかな成長に有害な情報から保護されるよう配慮されるものとする。

 (教育行政)

第十八条 教育行政は、民主的な運営を旨として行われなければならない。

2 地方公共団体が行う教育行政は、その施策に民意を反映させるものとし、その長が行わなければならない。

3 地方公共団体は、教育行政の向上に資するよう、教育行政に関する民主的な組織を整備するものとする。

4 地方公共団体が設置する学校は、保護者、地域住民、学校関係者、教育専門家等が参画する学校理事会を設置し、主体的かつ自律的運営を行うものとする。

 (教育の振興に関する計画)

第十九条 政府は、国会の承認を得て、教育の振興に関する基本的な計画を定めるとともに、これを公表しなければならない。

2 前項の計画には、我が国の国内総生産に対する教育に関する国の財政支出の比率を指標として、教育に関する国の予算の確保及び充実の目標が盛り込まれるものとする。

3 政府は、第一項の計画の実施状況に関し、毎年、国会に報告するとともに、これを公表しなければならない。

4 地方公共団体は、その議会の承認を得て、その実情に応じ、地域の教育の振興に関する具体的な計画を定めるとともに、これを公表しなければならない。

5 前項の計画には、教育に関する当該地方公共団体の予算の確保及び充実の目標が盛り込まれるものとする。

6 地方公共団体の長は、第四項の計画の実施状況に関し、毎年、その議会に報告するとともに、これを公表しなければならない。

 (予算の確保)

第二十条 政府及び地方公共団体は、前条第一項又は第四項の計画の実施に必要な予算を安定的に確保しなければならない。

 (法令の制定)

第二十一条 この法律に規定する諸条項を実施するため、必要な法令が制定されなければならない。

   附 則

 (施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第十八条第二項から第四項までの規定は、平成二十年四月一日から施行する。

 (教育基本法の廃止)

第二条 教育基本法(昭和二十二年法律第二十五号)は、廃止する。

 (学校教育法の一部改正)

第三条 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)の一部を次のように改正する。

  附則に次の一条を加える。

 第百十一条 義務教育の期間及び当該期間に係る学校教育に関する制度については、日本国教育基本法(平成十八年法律第▼▼▼号)の施行後三年以内に、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

 (社会教育法等の一部改正)

第四条 次に掲げる法律の規定中「教育基本法(昭和二十二年法律第二十五号)」を「日本国教育基本法(平成十八年法律第▼▼▼号)」に改める。

 一 社会教育法(昭和二十四年法律第二百七号)第一条

 二 産業教育振興法(昭和二十六年法律第二百二十八号)第一条

 三 理科教育振興法(昭和二十八年法律第百八十六号)第一条

 四 高等学校の定時制教育及び通信教育振興法(昭和二十八年法律第二百三十八号)第一条

 五 義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法(昭和二十九年法律第百五十七号)第一条

 六 国立大学法人法(平成十五年法律第百十二号)第三十七条第一項

 七 独立行政法人国立高等専門学校機構法(平成十五年法律第百十三号)第十六条

 (放送大学学園法の一部改正)

第五条 放送大学学園法(平成十四年法律第百五十六号)の一部を次のように改正する。

  第十八条の見出し中「教育基本法」を「日本国教育基本法」に改め、同条中「教育基本法(昭和二十二年法律第二十五号)第九条第二項」を「日本国教育基本法(平成十八年法律第▼▼▼号)第十六条第四項」に改める。

 (構造改革特別区域法の一部改正)

第六条 構造改革特別区域法(平成十四年法律第百八十九号)の一部を次のように改正する。

  第二十条第十七項中「教育基本法(昭和二十二年法律第二十五号)第九条第二項」を「日本国教育基本法(平成十八年法律第▼▼▼号)第十六条第四項」に改める。


     理 由

 新たな文明の創造を希求し、未来を担う人間の育成について教育が果たすべき使命の重要性にかんがみ、新たに日本国教育基本法を制定し、教育の目的を明らかにするとともに、学ぶ権利の保障を施策の中心に据えつつ、適切かつ最善な教育の機会及び環境の確保及び整備、教育現場の自主性及び自律性の確保その他教育の基本となる事項を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

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