衆議院

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第一七一回

衆第五〇号

   障がい者虐待の防止、障がい者の介護者に対する支援等に関する法律案

目次

 第一章 総則(第一条−第六条)

 第二章 障がい者虐待防止・介護者支援センター(第七条−第十四条)

 第三章 介護者による障がい者虐待の防止、介護者に対する支援等(第十五条−第二十六条)

 第四章 障がい者福祉施設従事者等による障がい者虐待の防止等(第二十七条−第三十一条)

 第五章 使用者による障がい者虐待の防止等(第三十二条−第三十六条)

 第六章 就学する障がい者等に対する虐待の防止等(第三十七条−第三十九条)

 第七章 雑則(第四十条−第四十四条)

 第八章 罰則(第四十五条・第四十六条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、障がい者に対する虐待が深刻な状況にあり、障がい者の自立及び社会参加にとって障がい者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等にかんがみ、障がい者に対する虐待の禁止、障がい者虐待の防止等に関する国等の責務、障がい者虐待を受けた障がい者に対する保護のための措置、介護者の負担の軽減を図ること等の介護者に対する介護者による障がい者虐待の防止に資する支援(以下「介護者に対する支援」という。)のための措置等を定めることにより、障がい者虐待の防止、介護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって障がい者の権利利益の擁護に資することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において「障がい者」とは、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)第二条に規定する障害者をいう。

2 この法律において「障がい者虐待」とは、介護者による障がい者虐待、障がい者福祉施設従事者等による障がい者虐待及び使用者による障がい者虐待をいう。

3 この法律において「介護者」とは、障がい者を現に介護する者であって障がい者福祉施設従事者等又は使用者以外のものをいう。

4 この法律において「障がい者福祉施設従事者等」とは、障害者自立支援法(平成十七年法律第百二十三号)第五条第十二項に規定する障害者支援施設(以下「障害者支援施設」という。)若しくは独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園法(平成十四年法律第百六十七号)第十一条第一号の規定により独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園が設置する施設(以下「のぞみの園」という。)(以下「障がい者福祉施設」という。)又は障害者自立支援法第五条第一項に規定する障害福祉サービス事業、同条第十七項に規定する相談支援事業、同条第二十項に規定する移動支援事業、同条第二十一項に規定する地域活動支援センターを経営する事業若しくは同条第二十二項に規定する福祉ホームを経営する事業その他厚生労働省令で定める事業(以下「障害福祉サービス事業等」という。)に係る業務に従事する者をいう。

5 この法律において「使用者」とは、障がい者を雇用する事業主(当該障がい者が派遣労働者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号)第二条第二号に規定する派遣労働者をいう。以下同じ。)である場合において当該派遣労働者に係る労働者派遣(同条第一号に規定する労働者派遣をいう。)の役務の提供を受ける事業主を含み、国及び地方公共団体を除く。以下同じ。)又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をする者をいう。

6 この法律において「介護者による障がい者虐待」とは、次のいずれかに該当する行為をいう。

 一 介護者がその介護する障がい者について行う次に掲げる行為

  イ 障がい者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障がい者の身体を拘束すること。

  ロ 障がい者にわいせつな行為をすること又は障がい者をしてわいせつな行為をさせること。

  ハ 障がい者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の障がい者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

  ニ 障がい者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、介護者以外の同居人によるイからハまでに掲げる行為と同様の行為の放置等介護を著しく怠ること。

 二 介護者又は障がい者の親族が当該障がい者の財産を不当に処分することその他当該障がい者から不当に財産上の利益を得ること。

7 この法律において「障がい者福祉施設従事者等による障がい者虐待」とは、障がい者福祉施設従事者等が、当該障がい者福祉施設に入所し、その他当該障がい者福祉施設を利用する障がい者又は当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの提供を受ける障がい者について行う次のいずれかに該当する行為をいう。

 一 障がい者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障がい者の身体を拘束すること。

 二 障がい者にわいせつな行為をすること又は障がい者をしてわいせつな行為をさせること。

 三 障がい者に対する著しい暴言若しくは著しく拒絶的な対応その他の障がい者に著しい心理的外傷を与える言動又は不当な差別的言動を行うこと。

 四 障がい者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、当該障がい者福祉施設に入所し、その他当該障がい者福祉施設を利用する他の障がい者又は当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの提供を受ける他の障がい者による前三号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の障がい者を介護すべき職務上の義務を著しく怠ること。

 五 障がい者の財産を不当に処分すること、障がい者に支払うべき賃金又は工賃を支払わないこと、障がい者を当該障がい者福祉施設の利用の目的又は当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの利用の目的から逸脱した作業に従事させることその他当該障がい者から不当に財産上の利益を得ること。

8 この法律において「使用者による障がい者虐待」とは、使用者が当該事業所に使用される障がい者について行う次のいずれかに該当する行為をいう。

 一 障がい者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障がい者の身体を拘束すること。

 二 障がい者にわいせつな行為をすること又は障がい者をしてわいせつな行為をさせること。

 三 障がい者に対する著しい暴言若しくは著しく拒絶的な対応その他の障がい者に著しい心理的外傷を与える言動又は不当な差別的言動を行うこと。

 四 障がい者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、当該事業所に使用される他の労働者による前三号に掲げる行為と同様の行為の放置その他これらに準ずる行為を行うこと。

 五 障がい者の財産を不当に処分すること、障がい者に支払うべき賃金を支払わないこと、障がい者に当該障がい者に係る労働条件と相違する労働を行わせることその他障がい者から不当に財産上の利益を得ること。

 (障がい者に対する虐待の禁止)

第三条 何人も、障がい者に対し、虐待をしてはならない。

 (国及び地方公共団体の責務等)

第四条 国及び地方公共団体は、障がい者虐待の防止、障がい者虐待を受けた障がい者の迅速かつ適切な保護及び適切な介護者に対する支援を行うため、関係省庁相互間その他関係機関及び民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援その他必要な体制の整備に努めなければならない。

2 国及び地方公共団体は、障がい者虐待の防止、障がい者虐待を受けた障がい者の保護及び介護者に対する支援が専門的知識に基づき適切に行われるよう、これらの職務に携わる専門的知識及び技術を有する人材その他必要な人材の確保並びに資質の向上を図るため、関係機関の職員の研修等必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

3 国及び地方公共団体は、障がい者虐待の防止、障がい者虐待を受けた障がい者の保護及び介護者に対する支援に資するため、障がい者福祉施設の設置者、障害福祉サービス事業等を行う者、事業主等に対する研修、障がい者虐待に係る通報義務、人権侵犯事件に係る救済制度等について必要な広報その他の啓発活動を行うものとする。

 (国民の責務)

第五条 国民は、障がい者虐待の防止、介護者に対する支援等の重要性に関する理解を深めるとともに、国又は地方公共団体が講ずる障がい者虐待の防止、介護者に対する支援等のための施策に協力するよう努めなければならない。

 (障がい者虐待の早期発見等)

第六条 障がい者福祉施設、学校、医療機関、保健所その他障がい者の福祉に業務上関係のある団体及び障がい者福祉施設従事者等、学校の教職員、医師、歯科医師、保健師、弁護士その他障がい者の福祉に職務上関係のある者は、障がい者虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、障がい者虐待の早期発見に努めなければならない。

2 前項に規定する者は、国及び地方公共団体が講ずる障がい者虐待の防止のための啓発活動及び障がい者虐待を受けた障がい者の保護のための施策に協力するよう努めなければならない。

   第二章 障がい者虐待防止・介護者支援センター

 (市町村障がい者虐待防止・介護者支援センター)

第七条 市町村は、障がい者の福祉に関する事務を所掌する部局又は当該市町村が設置する施設において、当該部局又は施設が障がい者虐待防止・介護者支援センター(以下「市町村センター」という。)としての機能を果たすようにするものとする。

2 市町村センターは、障がい者虐待の防止、障がい者虐待を受けた障がい者の保護及び介護者に対する支援その他障がい者に対する支援のため、次に掲げる業務を行うものとする。

 一 障がい者虐待の防止等に関し、相談、指導、助言その他必要な援助を行うこと又は相談、指導、助言その他必要な援助を行う機関を紹介すること。

 二 第十五条第一項、第二十八条第一項若しくは第三十三条第一項の規定による通報又は第十七条第一項に規定する届出若しくは第二十八条第二項若しくは第三十三条第二項の規定による届出を受理すること。

 三 第十七条第一項の規定による事実の確認のための措置を講ずること。

 四 第十七条第二項の措置を講ずること。

 五 第四十三条第一項の規定により相談に応じ、又は関係機関を紹介すること。

 六 障がい者虐待を受けた障がい者の支援に関し、相談、情報の提供、助言、関係機関との連絡調整その他必要な援助を行うこと。

 七 障がい者虐待の防止及び介護者に対する支援に関する情報を収集し、分析し、及び提供すること。

 八 障がい者虐待の防止及び介護者に対する支援に関する広報その他の啓発活動を行うこと。

 (事務の委託)

第八条 市町村は、第十条の規定により当該市町村と連携協力する者(以下「市町村障がい者虐待対応協力者」という。)のうち適当と認められるものに、前条第二項に掲げる業務(同項第四号に掲げる業務を除く。)及び第二十六条第一項の規定による介護者の負担の軽減のための措置に関する事務の全部又は一部を委託することができる。

2 前項の規定による委託を受けた市町村障がい者虐待対応協力者若しくはその役員若しくは職員又はこれらの者であった者は、正当な理由なしに、その委託を受けた事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。

 (専門的に従事する職員の確保)

第九条 市町村センター及び前条第一項の規定による委託を受けた者は、障がい者虐待の防止、障がい者虐待を受けた障がい者の保護及び介護者に対する支援を適切に実施するために、障がい者の福祉に関し専門的知識又は経験を有し、かつ、これらの事務に専門的に従事する職員を確保するよう努めなければならない。

 (連携協力体制)

第十条 市町村は、介護者による障がい者虐待の防止、介護者による障がい者虐待を受けた障がい者の保護及び介護者に対する支援を適切に実施するため、社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に定める福祉に関する事務所(以下「福祉事務所」という。)その他関係機関、民間団体等との連携協力体制を整備しなければならない。この場合において、介護者による障がい者虐待にいつでも迅速に対応することができるよう、特に配慮しなければならない。

 (都道府県障がい者虐待防止・介護者支援センター)

第十一条 都道府県は、障がい者の福祉に関する事務を所掌する部局又は当該都道府県が設置する施設において、当該部局又は施設が障がい者虐待防止・介護者支援センター(以下「都道府県センター」という。)としての機能を果たすようにするものとする。

2 都道府県センターは、障がい者虐待の防止及び介護者に対する支援その他障がい者に対する支援のため、次に掲げる業務を行うものとする。

 一 次章及び第四章の規定により市町村が行う措置の実施に関し、市町村相互間の連絡調整、市町村に対する情報の提供、助言その他必要な援助を行うこと。

 二 障がい者虐待の防止及び介護者に対する支援に関し、相談、指導、助言その他必要な援助を行うこと又は相談、指導、助言その他必要な援助を行う機関を紹介すること。

 三 障がい者虐待を受けた障がい者の支援に関し、相談、情報の提供、助言、関係機関との連絡調整その他必要な援助を行うこと。

 四 障がい者虐待の防止及び介護者に対する支援に関する情報を収集し、分析し、及び提供すること。

 五 障がい者虐待の防止及び介護者に対する支援に関する広報その他の啓発活動を行うこと。

 (事務の委託)

第十二条 都道府県は、第十四条の規定により当該都道府県と連携協力する者(以下「都道府県障がい者虐待対応協力者」という。)のうち適当と認められるものに、前条第二項に掲げる業務(同項第一号に掲げる業務を除く。)の全部又は一部を委託することができる。

2 前項の規定による委託を受けた都道府県障がい者虐待対応協力者若しくはその役員若しくは職員又はこれらの者であった者は、正当な理由なしに、その委託を受けた事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。

 (専門的に従事する職員の確保)

第十三条 都道府県センター及び前条第一項の規定による委託を受けた者は、障がい者虐待の防止及び介護者に対する支援を適切に実施するために、障がい者の福祉に関し専門的知識又は経験を有し、かつ、これらの事務に専門的に従事する職員を確保するよう努めなければならない。

 (連携協力体制)

第十四条 都道府県は、障がい者虐待の防止及び介護者に対する支援を適切に実施するため、福祉事務所その他関係機関、民間団体等との連携協力体制を整備しなければならない。

   第三章 介護者による障がい者虐待の防止、介護者に対する支援等

 (介護者による障がい者虐待に係る通報等)

第十五条 介護者による障がい者虐待(十八歳未満の障がい者について行うものを除く。以下この章において同じ。)を受けたと思われる障がい者を発見した者は、速やかに、これを市町村センターに通報しなければならない。

2 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。

第十六条 市町村センターが前条第一項の規定による通報又は次条第一項に規定する届出を受けた場合においては、当該通報又は届出を受けた市町村センターの職員(第八条第一項の規定による委託を受けた市町村障がい者虐待対応協力者が当該通報又は届出を受けた場合においては、当該通報又は届出を受けた市町村障がい者虐待対応協力者又はその役員若しくは職員)は、その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない。

 (通報等を受けた場合の措置)

第十七条 市町村センターは、第十五条第一項の規定による通報又は障がい者からの介護者による障がい者虐待を受けた旨の届出を受けたときは、速やかに、当該障がい者の安全の確認その他当該通報又は届出に係る事実の確認のための措置を講ずるとともに、市町村障がい者虐待対応協力者とその対応について協議を行うものとする。

2 市町村センターは、第十五条第一項の規定による通報又は前項に規定する届出があった場合において、介護者による障がい者虐待により当該通報又は届出に係る障がい者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるときは、当該障がい者を一時的に保護するため、当該障がい者を当該市町村の設置する障害者支援施設又は障害者自立支援法第五条第五項の厚生労働省令で定める施設(以下「障害者支援施設等」という。)に入所させなければならない。

3 市町村は、前項の措置に代えて、国、都道府県若しくは他の市町村若しくは社会福祉法人の設置する障害者支援施設等、のぞみの園又は独立行政法人国立病院機構若しくは高度専門医療に関する研究等を行う独立行政法人に関する法律(平成二十年法律第九十三号)第四条第一項に規定する国立高度専門医療研究センターの設置する医療機関であって厚生労働大臣の指定するもの(以下「指定医療機関」という。)に当該障がい者の入所又は入院を委託することができる。

4 市町村長は、第十五条第一項の規定による通報又は第一項に規定する届出があった場合には、当該通報又は届出に係る障がい者に対する介護者による障がい者虐待の防止及び当該障がい者の保護が図られるよう、適切に、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)第五十一条の十一の二又は知的障害者福祉法(昭和三十五年法律第三十七号)第二十八条の規定により審判の請求をするものとする。

 (措置の受託義務)

第十八条 障害者支援施設等、のぞみの園又は指定医療機関の設置者は、前条第三項の規定による委託を受けたときは、正当な理由がない限り、これを拒んではならない。

 (措置の解除に係る説明等)

第十九条 市町村長は、第十七条第二項又は第三項の措置を解除する場合には、あらかじめ、当該措置に係る者に対し、当該措置の解除の理由について説明するとともに、その意見を聴かなければならない。ただし、当該措置に係る者から当該措置の解除の申出があった場合その他厚生労働省令で定める場合においては、この限りでない。

 (行政手続法の適用除外)

第二十条 第十七条第二項又は第三項の措置を解除する処分については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第三章(第十二条及び第十四条を除く。)の規定は、適用しない。

 (費用)

第二十一条 身体障害者福祉法(昭和二十四年法律第二百八十三号)第三十五条第二号、第三十六条の二、第三十七条、第三十七条の二第二号及び第三十八条の規定は、第十七条第二項及び第三項の措置に要する費用について準用する。この場合において、同法第三十五条第二号中「第十三条、第十四条、第十七条の二及び第十八条の規定により市町村が行う行政措置」とあるのは、「障がい者虐待の防止、障がい者の介護者に対する支援等に関する法律第十七条第二項及び第三項の措置」と読み替えるほか、必要な技術的読替えは、政令で定める。

 (居室の確保)

第二十二条 市町村は、介護者による障がい者虐待を受けた障がい者について第十七条第二項又は第三項の措置を採るために必要な居室を確保するための措置を講ずるものとする。

 (立入調査)

第二十三条 市町村長は、介護者による障がい者虐待により障がい者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるときは、市町村センターの職員をして、当該障がい者の住所又は居所に立ち入り、必要な調査又は質問をさせることができる。

2 前項の規定による立入り及び調査又は質問を行う場合においては、当該職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。

3 第一項の規定による立入り及び調査又は質問を行う権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

 (警察署長に対する援助要請等)

第二十四条 市町村長は、前条第一項の規定による立入り及び調査又は質問をさせようとする場合において、これらの職務の執行に際し必要があると認めるときは、当該障がい者の住所又は居所の所在地を管轄する警察署長に対し援助を求めることができる。

2 市町村長は、障がい者の生命又は身体の安全の確保に万全を期する観点から、必要に応じ適切に、前項の規定により警察署長に対し援助を求めなければならない。

3 警察署長は、第一項の規定による援助の求めを受けた場合において、障がい者の生命又は身体の安全を確保するため必要と認めるときは、速やかに、所属の警察官に、同項の職務の執行を援助するために必要な警察官職務執行法(昭和二十三年法律第百三十六号)その他の法令の定めるところによる措置を講じさせるよう努めなければならない。

 (面会の制限)

第二十五条 介護者による障がい者虐待を受けた障がい者について第十七条第二項又は第三項の措置が採られた場合においては、市町村長又は当該措置に係る障害者支援施設等若しくはのぞみの園の長若しくは当該措置に係る指定医療機関の管理者は、介護者による障がい者虐待の防止及び当該障がい者の保護の観点から、当該介護者による障がい者虐待を行った介護者について当該障がい者との面会を制限することができる。

 (介護者の支援)

第二十六条 市町村センターは、第七条第二項に掲げる業務のほか、介護者の負担の軽減のため、介護者に対する相談、指導及び助言その他必要な措置を講ずるものとする。

2 市町村センターは、前項の措置として、介護者の心身の状態に照らしその介護の負担の軽減を図るため緊急の必要があると認める場合に障がい者が短期間介護を受けるために必要となる居室を確保するための措置を講ずるものとする。

   第四章 障がい者福祉施設従事者等による障がい者虐待の防止等

 (障がい者福祉施設従事者等による障がい者虐待の防止等のための措置)

第二十七条 障がい者福祉施設の設置者又は障害福祉サービス事業等を行う者は、障がい者福祉施設従事者等の研修の実施、当該障がい者福祉施設に入所し、その他当該障がい者福祉施設を利用し、又は当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの提供を受ける障がい者及びその家族からの苦情の処理の体制の整備その他の障がい者福祉施設従事者等による障がい者虐待の防止等のための措置を講ずるものとする。

 (障がい者福祉施設従事者等による障がい者虐待に係る通報等)

第二十八条 障がい者福祉施設従事者等による障がい者虐待を受けたと思われる障がい者を発見した者は、速やかに、これを市町村センターに通報しなければならない。

2 障がい者福祉施設従事者等による障がい者虐待を受けた障がい者は、その旨を市町村センターに届け出ることができる。

3 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通報(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。次項において同じ。)をすることを妨げるものと解釈してはならない。

4 障がい者福祉施設従事者等は、第一項の規定による通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。

第二十九条 市町村は、市町村センターが前条第一項の規定による通報又は同条第二項の規定による届出を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該通報又は届出に係る障がい者福祉施設従事者等による障がい者虐待に関する事項を、当該障がい者福祉施設従事者等による障がい者虐待に係る障がい者福祉施設又は当該障がい者福祉施設従事者等による障がい者虐待に係る障害福祉サービス事業等の事業所の所在地の都道府県に報告しなければならない。

第三十条 市町村センターが第二十八条第一項の規定による通報又は同条第二項の規定による届出を受けた場合においては、当該通報又は届出を受けた市町村センターの職員(第八条第一項の規定による委託を受けた市町村障がい者虐待対応協力者が当該通報又は届出を受けた場合においては、当該通報又は届出を受けた市町村障がい者虐待対応協力者又はその役員若しくは職員)は、その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない。都道府県が前条の規定による報告を受けた場合における当該報告を受けた都道府県の職員についても、同様とする。

 (通報等を受けた場合の措置)

第三十一条 市町村センターが第二十八条第一項の規定による通報若しくは同条第二項の規定による届出を受け、又は都道府県が第二十九条の規定による報告を受けたときは、市町村長又は都道府県知事は、障がい者福祉施設の業務又は障害福祉サービス事業等の適正な運営を確保することにより、当該通報又は届出に係る障がい者に対する障がい者福祉施設従事者等による障がい者虐待の防止及び当該障がい者の保護を図るため、社会福祉法、障害者自立支援法その他関係法律の規定による権限を適切に行使するものとする。

   第五章 使用者による障がい者虐待の防止等

 (使用者による障がい者虐待の防止等のための措置)

第三十二条 障がい者を雇用する事業主は、労働者の研修の実施、当該事業所の障がい者及びその家族からの苦情の処理の体制の整備その他の使用者による障がい者虐待の防止等のための措置を講ずるものとする。

 (使用者による障がい者虐待に係る通報等)

第三十三条 使用者による障がい者虐待を受けたと思われる障がい者を発見した者は、速やかに、これを市町村センターに通報しなければならない。

2 使用者による障がい者虐待を受けた障がい者は、その旨を市町村センターに届け出ることができる。

3 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通報(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。次項において同じ。)をすることを妨げるものと解釈してはならない。

4 労働者は、第一項の規定による通報又は第二項の規定による届出(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。)をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。

第三十四条 市町村は、市町村センターが前条第一項の規定による通報又は同条第二項の規定による届出を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該通報又は届出に係る使用者による障がい者虐待に関する事項を、当該使用者による障がい者虐待に係る事業所の所在地を管轄する都道府県労働局に報告しなければならない。

第三十五条 市町村センターが第三十三条第一項の規定による通報又は同条第二項の規定による届出を受けた場合においては、当該通報又は届出を受けた市町村センターの職員(第八条第一項の規定による委託を受けた市町村障がい者虐待対応協力者が当該通報又は届出を受けた場合においては、当該通報又は届出を受けた市町村障がい者虐待対応協力者又はその役員若しくは職員)は、その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない。都道府県労働局が前条の規定による報告を受けた場合における当該報告を受けた都道府県労働局の職員についても、同様とする。

 (報告を受けた場合の措置)

第三十六条 都道府県労働局が第三十四条の規定による報告を受けたときは、都道府県労働局長又は労働基準監督署長若しくは公共職業安定所長は、事業所における障がい者の適正な労働条件及び雇用管理を確保することにより、当該報告に係る障がい者に対する使用者による障がい者虐待の防止及び当該障がい者の保護を図るため、当該報告に係る市町村との連携を図りつつ、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)、最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成十三年法律第百十二号)その他関係法律の規定による権限を適切に行使するものとする。

   第六章 就学する障がい者等に対する虐待の防止等

 (就学する障がい者に対する虐待の防止等)

第三十七条 学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校をいう。以下同じ。)の長は、教職員、児童、生徒、学生その他の関係者に対する障害及び障がい者に関する理解を深めるための研修の実施及び普及啓発、就学する障がい者に対する虐待に関する相談に係る体制の整備、就学する障がい者に対する虐待に対処するための措置その他の当該学校に就学する障がい者に対する虐待を防止するため必要な措置を講ずるものとする。

 (保育所等に入所する障がい者に対する虐待の防止等)

第三十八条 保育所(児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第三十九条第一項に規定する保育所をいう。)又は認定こども園(就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成十八年法律第七十七号)第六条第二項に規定する認定こども園をいう。)(以下「保育所等」という。)の長は、保育所等の職員その他の関係者に対する障害及び障がい者に関する理解を深めるための研修の実施及び普及啓発、保育所等に入所する障がい者に対する虐待に関する相談に係る体制の整備、保育所等に入所する障がい者に対する虐待に対処するための措置その他の当該保育所等に入所する障がい者に対する虐待を防止するため必要な措置を講ずるものとする。

 (医療機関を利用する障がい者に対する虐待の防止等)

第三十九条 医療機関(医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第一条の五に規定する病院又は診療所をいう。以下同じ。)の管理者は、医療機関の職員その他の関係者に対する障害及び障がい者に関する理解を深めるための研修の実施及び普及啓発、医療機関を利用する障がい者に対する虐待に関する相談に係る体制の整備、医療機関を利用する障がい者に対する虐待に対処するための措置その他の当該医療機関を利用する障がい者に対する虐待を防止するため必要な措置を講ずるものとする。

   第七章 雑則

 (周知)

第四十条 市町村又は都道府県は、市町村センター又は都道府県センターとしての機能を果たす部局又は施設及び市町村障がい者虐待対応協力者又は都道府県障がい者虐待対応協力者の名称を明示すること等により、当該部局又は施設及び市町村障がい者虐待対応協力者又は都道府県障がい者虐待対応協力者を周知させなければならない。

 (公表)

第四十一条 国及び地方公共団体は、毎年度、障がい者虐待(介護者による障がい者虐待であって、十八歳未満の障がい者について行うものを除く。以下この条において同じ。)の状況、障がい者虐待があった場合に採った措置その他厚生労働省令で定める事項を公表するものとする。

 (調査研究)

第四十二条 国及び地方公共団体は、障がい者虐待を受けた障がい者がその心身に著しく重大な被害を受けた事例の分析を行うとともに、障がい者虐待の予防及び早期発見のための方策、障がい者虐待があった場合の適切な対応方法、介護者に対する支援の在り方その他障がい者虐待の防止、障がい者虐待を受けた障がい者の保護及び介護者に対する支援のために必要な事項についての調査及び研究を行うものとする。

 (財産上の不当取引による被害の防止等)

第四十三条 市町村センターは、介護者、障がい者の親族、障がい者福祉施設従事者等又は使用者以外の者が不当に財産上の利益を得る目的で障がい者と行う取引(以下「財産上の不当取引」という。)による障がい者の被害について、相談に応じ、又は消費生活に関する業務を担当する部局その他の関係機関を紹介するものとする。

2 市町村長は、財産上の不当取引の被害を受け、又は受けるおそれのある障がい者について、適切に、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第五十一条の十一の二又は知的障害者福祉法第二十八条の規定により審判の請求をするものとする。

 (成年後見制度の利用促進)

第四十四条 国及び地方公共団体は、障がい者虐待の防止及び障がい者虐待を受けた障がい者の保護並びに財産上の不当取引による障がい者の被害の防止及び救済を図るため、成年後見制度の周知のための措置、成年後見制度の利用に係る経済的負担の軽減のための措置等を講ずることにより、成年後見制度が広く利用されるようにしなければならない。

   第八章 罰則

第四十五条 第八条第二項又は第十二条第二項の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

第四十六条 正当な理由がなく、第二十三条第一項の規定による立入調査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは障がい者に答弁をさせず、若しくは虚偽の答弁をさせた者は、三十万円以下の罰金に処する。

   附 則

 (施行期日)

第一条 この法律は、平成二十二年四月一日から施行する。

 (検討)

第二条 学校、保育所等、医療機関、矯正施設等における障がい者に対する虐待の防止等の体制の在り方及び障がい者の安全の確認又は安全の確保を実効的に行うための方策、障がい者を訪問して相談等を行う体制の充実強化その他の障がい者虐待の防止、介護者に対する支援等のための制度については、この法律の施行後三年を目途として、児童虐待、高齢者虐待、配偶者からの暴力等の防止等に関する法制度全般の見直し及び精神科病院等における精神障害者の処遇の在り方の見直しの状況を踏まえ、この法律の施行状況等を勘案して検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

 (身体障害者更生援護施設等に対するこの法律の適用)

第三条 この法律の施行の日から障害者自立支援法附則第一条第三号に掲げる規定の施行の日の前日までの間は、同法附則第四十一条第一項の規定によりなお従前の例により運営をすることができることとされた同項に規定する身体障害者更生援護施設、同法附則第四十八条の規定によりなお従前の例により運営をすることができることとされた同条に規定する精神障害者社会復帰施設及び同法附則第五十八条第一項の規定によりなお従前の例により運営をすることができることとされた同項に規定する知的障害者援護施設は、障がい者福祉施設又は障害福祉サービス事業等に含まれるものとする。

 (高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律の一部改正)

第四条 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成十七年法律第百二十四号)の一部を次のように改正する。

  第二条の見出しを「(定義等)」に改め、同条に次の一項を加える。

 6 六十五歳未満の者であって養介護施設に入所し、その他養介護施設を利用し、又は養介護事業に係るサービスの提供を受ける障がい者(障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)第二条に規定する障害者をいう。)については、高齢者とみなして、養介護施設従事者等による高齢者虐待に関する規定を適用する。


     理 由

 障がい者に対する虐待が深刻な状況にあり、障がい者の自立及び社会参加にとって障がい者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等にかんがみ、障がい者虐待の防止、介護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって障がい者の権利利益の擁護に資するため、障がい者に対する虐待の禁止、障がい者虐待の防止等に関する国等の責務、障がい者虐待を受けた障がい者に対する保護のための措置、介護者に対する支援のための措置等を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。


   本案施行に要する経費

 本案施行に要する経費としては、平年度約十億円の見込みである。

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