第二一二回
衆第一四号
インターネット誹謗中傷による被害の救済に資するための弁護士等の報酬の補助に関する法律案
(目的)
第一条 この法律は、インターネット誹(ひ) 謗(ぼう)中傷による被害が多数発生していることに鑑み、インターネット誹謗中傷による被害に係る民事裁判手続の準備及び追行に必要な費用に係る負担の軽減を図るため、特定電気通信役務提供者(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成十三年法律第百三十七号)第二条第三号に掲げる特定電気通信役務提供者をいう。第五条第一項において同じ。)等が出えんする基金を活用して行う弁護士等に支払うべき報酬の補助について定めることにより、弁護士等のサービスの利用を容易にし、もってインターネット誹謗中傷による被害の救済に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「インターネット誹謗中傷」とは、電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に掲げる電気通信をいう。以下この項において同じ。)の送信(公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信を除く。)による権利利益侵害情報(人に対して誹謗中傷をすること、人を不当に差別すること、人を侮辱すること、人の名誉を毀損することその他の人の権利利益を侵害することを内容とする情報をいう。)の流通をいう。
2 この法律において「インターネット誹謗中傷による被害に係る民事裁判手続」とは、裁判所における民事事件に関する手続であって、インターネット誹謗中傷による被害の回復又は被害の拡大の防止に係るものをいう。
3 この法律において「弁護士等」とは、弁護士、弁護士法人、弁護士・外国法事務弁護士共同法人、司法書士又は司法書士法人をいう。
(指定等)
第三条 総務大臣は、インターネット誹謗中傷による被害の救済に寄与することを目的とする一般社団法人又は一般財団法人であって、次条に規定する業務(以下「補助業務」という。)を適正かつ確実に行うことができると認められるものを、その申請により、全国を通じて一個に限り、補助業務を行う者として指定することができる。
2 総務大臣は、前項の規定による指定をしたときは、当該指定を受けた者(以下「指定法人」という。)の名称、住所及び事務所の所在地を公示しなければならない。
3 指定法人は、その名称、住所又は事務所の所在地を変更しようとするときは、あらかじめ、その旨を総務大臣に届け出なければならない。
4 総務大臣は、前項の規定による届出があったときは、当該届出に係る事項を公示しなければならない。
(業務)
第四条 指定法人は、インターネット誹謗中傷による被害に係る民事裁判手続において自己の権利を実現するための準備及び追行に必要な費用を支払う資力がない者又はその支払により生活に著しい支障を生ずる者を援助するため、次に掲げる業務を行う。
一 インターネット誹謗中傷による被害に係る民事裁判手続の準備及び追行(インターネット誹謗中傷による被害に係る民事裁判手続に先立つ和解の交渉を含む。)のためその事件を受任した弁護士等に支払うべき報酬(これに相当する日本司法支援センター(総合法律支援法(平成十六年法律第七十四号)第十三条に規定する日本司法支援センターをいう。)に償還すべき立替金又は支払うべき報酬に相当する額を含む。)の一部を補助する業務
二 前号に掲げる業務に附帯する業務
(基金)
第五条 指定法人は、補助業務に関する基金を設け、補助業務に要する費用に充てることを条件として特定電気通信役務提供者等から出えんされた金額及び次項の規定により交付を受けた補助金の金額の合計額に相当する金額をもってこれに充てるものとする。
2 政府は、予算の範囲内において、指定法人に対し、前項の基金に充てる資金を補助することができる。
(業務規程)
第六条 指定法人は、補助業務を行うときは、その開始前に、補助業務に関する規程(以下この条及び第十二条第一項第三号において「業務規程」という。)を定め、総務大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
2 業務規程には、次に掲げる事項を定めておかなければならない。
一 第四条第一号に掲げる業務に係る補助(以下この項において単に「補助」という。)の要件に関する事項
二 補助の申請及び決定の手続に関する事項
三 補助の額の算定の基準及び交付の方法に関する事項
四 前三号に掲げるもののほか、総務省令で定める事項
3 指定法人は、第一項の認可を受けたときは、遅滞なく、その業務規程を公表しなければならない。
4 総務大臣は、第一項の認可をした業務規程が補助業務の適正かつ確実な実施上不適当となったと認めるときは、指定法人に対し、これを変更すべきことを命ずることができる。
(事業計画等)
第七条 指定法人は、毎事業年度、総務省令で定めるところにより、補助業務に関し事業計画書及び収支予算書を作成し、総務大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
2 指定法人は、前項の認可を受けたときは、遅滞なく、その事業計画書及び収支予算書を公表しなければならない。
3 指定法人は、総務省令で定めるところにより、毎事業年度終了後、補助業務に関し事業報告書及び収支決算書を作成し、総務大臣に提出するとともに、これを公表しなければならない。
(区分経理)
第八条 指定法人は、補助業務に係る経理については、その他の経理と区分し、特別の勘定を設けて整理しなければならない。
(秘密保持義務)
第九条 指定法人の役員若しくは職員又はこれらの職にあった者は、補助業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。
(報告及び検査)
第十条 総務大臣は、この法律を施行するために必要な限度において、指定法人に対し、補助業務若しくは経理の状況に関し必要な報告若しくは資料の提出を求め、又はその職員に、指定法人の事務所に立ち入り、補助業務の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
2 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならない。
3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
(監督命令)
第十一条 総務大臣は、この法律を施行するために必要な限度において、指定法人に対し、補助業務に関し監督上必要な命令をすることができる。
(指定の取消し)
第十二条 総務大臣は、指定法人が次の各号のいずれかに該当するときは、第三条第一項の規定による指定(以下この条において単に「指定」という。)を取り消すことができる。
一 補助業務を適正かつ確実に実施することができないと認められるとき。
二 指定に関し不正の行為があったとき。
三 この法律の規定若しくは当該規定に基づく命令若しくは処分に違反したとき又は第六条第一項の認可を受けた業務規程によらないで補助業務を行ったとき。
2 総務大臣は、前項の規定により指定を取り消したときは、その旨を公示しなければならない。
(総務省令への委任)
第十三条 この法律に定めるもののほか、補助業務に係る指定法人の財務及び会計に関し必要な事項その他この法律を実施するため必要な事項は、総務省令で定める。
(罰則)
第十四条 第九条の規定に違反して秘密を漏らした者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
第十五条 第十条第一項の規定による報告若しくは資料の提出をせず、若しくは虚偽の報告をし、若しくは虚偽の資料を提出し、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、若しくは同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をしたときは、その違反行為をした指定法人の役員又は職員は、三十万円以下の罰金に処する。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(経過措置)
2 刑法等の一部を改正する法律(令和四年法律第六十七号)の施行の日(以下「刑法施行日」という。)の前日までの間における第十四条の規定の適用については、同条中「拘禁刑」とあるのは、「懲役」とする。刑法施行日以後における刑法施行日前にした行為に対する同条の規定の適用についても、同様とする。
理 由
インターネット誹謗中傷による被害が多数発生していることに鑑み、インターネット誹謗中傷による被害に係る民事裁判手続の準備及び追行に必要な費用に係る負担の軽減を図るため、特定電気通信役務提供者等が出えんする基金を活用して行う弁護士等に支払うべき報酬の補助について定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。