衆議院

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第24号 令和5年5月9日(火曜日)

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令和五年五月九日(火曜日)

    ―――――――――――――

 議事日程 第十三号

  令和五年五月九日

    午後一時開議

 第一 防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律案(内閣提出)

 第二 出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案(内閣提出)

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日程第一 防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律案(内閣提出)

 日程第二 出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案(内閣提出)

 刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明及び質疑


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    午後一時二分開議

議長(細田博之君) これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

 日程第一 防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律案(内閣提出)

議長(細田博之君) 日程第一、防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。安全保障委員長鬼木誠君。

    ―――――――――――――

 防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔鬼木誠君登壇〕

鬼木誠君 ただいま議題となりました法律案につきまして、安全保障委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、我が国を含む国際社会の安全保障環境の複雑化及び装備品等の高度化に伴い、装備品等の的確な調達を行うためには、装備品製造等事業者の装備品等の開発及び生産のための基盤を強化することが一層重要となっていることに鑑み、装備品製造等事業者による特定取組、装備移転仕様等調整等を促進するための措置、装備品等契約における秘密の保全措置、指定装備品製造施設等の取得及び管理の委託等について定めるものであります。

 本案は、去る四月七日、本会議において趣旨説明及び質疑が行われた後、本委員会に付託されました。

 本委員会におきましては、十四日浜田防衛大臣から趣旨の説明を聴取し、二十一日から質疑に入り、二十五日参考人から意見を聴取しました。二十七日に質疑を行い、討論、採決の結果、賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。

 なお、本案に対し附帯決議が付されたことを申し添えます。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(細田博之君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(細田博之君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 日程第二 出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案(内閣提出)

議長(細田博之君) 日程第二、出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。法務委員長伊藤忠彦君。

    ―――――――――――――

 出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔伊藤忠彦君登壇〕

伊藤忠彦君 ただいま議題となりました法律案につきまして、法務委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、退去強制手続における送還、収容の現状に鑑み、退去強制手続を一層適切かつ実効的なものとするため、在留特別許可の申請手続の創設、収容に代わる監理措置の創設、難民認定手続中の送還停止に関する規定の見直し、本邦からの退去を命ずる命令制度の創設等の措置を講ずるほか、難民に準じて保護すべき者に関する規定の整備その他所要の措置を講じようとするものであります。

 本案は、去る四月十三日、本会議において趣旨説明及び質疑が行われた後、本委員会に付託され、翌十四日齋藤法務大臣から趣旨の説明を聴取し、十八日質疑に入り、二十一日参考人から意見を聴取しました。

 二十八日、本案に対し、自由民主党・無所属の会、日本維新の会、公明党及び国民民主党・無所属クラブの共同提案により、難民の認定等の申請をした外国人に対する適切な配慮に関する規定の追加等を内容とする修正案が提出され、提出者から趣旨の説明を聴取し、原案及び修正案に対する質疑を行い、質疑を終局いたしました。次いで、討論、採決の結果、修正案及び修正部分を除く原案はいずれも賛成多数をもって可決され、本案は修正議決すべきものと決しました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(細田博之君) 討論の通告があります。順次これを許します。米山隆一君。

    〔米山隆一君登壇〕

米山隆一君 立憲民主党・無所属会派を代表して、ただいま議題となりました出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案及びその修正案に対して、反対の立場で討論をいたします。(拍手)

 まずもって、二〇二一年三月六日、名古屋入管に収容中のウィシュマ・サンダマリさんが亡くなられたほか、幾人もの外国人の方々が、収容中に過度に自由を奪われ、健康を損ない、そして命をなくしたことに心より哀悼の意を表させていただきます。

 私たちは、二度とこのような事件を起こしてはいけません。異国で身柄を拘束され、病に伏し、治療を求めて幾ら頼んでも取り合ってもらえず命を落とす、そんな絶望を味わう人を二度とこの日本で生んではいけません。そして、そのために、私たちは、外国人、難民の方々の人権が守られる公正中立な入管行政を担保する法制度をつくらなければいけません。

 しかし、今般提出された法案は、この点において全く不十分なものだと言わざるを得ません。

 新たに収容に代わる監理措置が導入されたことは一歩前進ではありますが、その適用は、出入国管理庁の広範な行政裁量に委ねられています。また、監理措置を行う監理人は、時に三百万円もの保証金を払わねばならず、義務に違反した場合には十万円以下の過料を科せられます。多くの外国人、難民の方々にとって、このような重い義務を引き受けてくれる人を探すことは極めて困難でしょう。これでは、結局のところ、多くの人は収容され、全件収容主義とやゆされる現実は実質的に変わりません。そして、一度収容されれば、三か月に一度の見直しがあるとはいえ、永遠の収容を禁止する規定はありません。

 収容期間中の仮放免について、請求の理由が健康上の理由である場合には、医師の意見を聞くなどして、収容されている者の治療の必要性その他その者の健康状態に十分配慮して仮放免に係る判断をするよう努めなければならないとされたこともまた一歩前進ではありますが、あくまで努力義務であり、再びウィシュマ・サンダマリさんの悲劇が起こらない保証はどこにもないのです。

 難民認定についても、この法案は大きな問題を抱えています。

 二回難民認定申請をして認められなかった人、そして第六十一条の二の九第四項二号に該当する人は、難民認定申請中でも直ちに送還される危険があります。もちろん、時に強制送還がやむを得ない方がおられることは否定しません。しかし、現実に母国で迫害を受けるおそれがある人にとって、その国に強制送還されることは、最悪の場合、死刑執行と等しい意味を持ちます。

 難民認定は、実質的な審査の機会を十分に確保し、慎重の上にも慎重を期し、公正中立に行われなければいけません。また、その基準は、自由主義社会の維持に責任を持つ国家として、世界の先進国と同じ水準でなければいけません。

 しかし、この法案では、そのいずれも満たされません。母国から命からがら逃げてきて、二度の申請時には十分な証拠が集まらず、三度目の申請の証拠の提出が間に合わなかったというただそれだけの理由で、強制送還されてしまうかもしれません。条文上、労働組合のビラを配っただけで、テロ犯と認めるに足りる相当の理由がある者として法務大臣が認定すると疑うに足りる相当な理由があるという極めて漠然とした不可解な要件で、一度も難民認定審査を受けることがなく、拷問や死刑が待ち受けている国に強制送還されてしまうかもしれません。そして、その審査は常に出入国行政を行う出入国管理庁によって行われ、我々立憲民主党が再三求めてきた第三者機関による公正中立な審査を受けることはできません。

 そもそも、現在の日本の難民認定はその基準が厳し過ぎ、二〇二一年の難民認定数は七十四人、認定率は〇・七%で、ドイツの三万九千人、二五%、カナダの三万四千人、六二%に遠く及ばず、全く国際的標準に達していません。これでは、我が国は自由主義社会の一員として当然果たすべき義務を果たしているとは言えません。そして、今般の改正案でそれを補うはずの補完的保護要件も定義が不明確で、本当に救うべき人を救えるのか明らかではありません。

 何より大きな問題は、在留資格のない子供たちです。

 今、日本には、日本で生まれ育ち、母国と言える国が日本しかないのに、在留資格を持たない子供たちが二百一人います。

 しかし、この法案では、その子供たちとその家族に特別在留許可を与える仕組みが明確ではありません。このままでは、日本は、日本を母国として育ち、日本を母国として思ってくれる子供たちの未来を摘み、見捨てる国になってしまいます。私は、それは日本の進むべき道ではないと思います。

 これらに対して杞憂だとおっしゃられる方もいるかもしれません。しかし、今まで述べてきたこの法案に対する幾つもの懸念は、決して私を含む一部の人だけのものではありません。二〇二一年三月三十一日付の国連人権理事会の特別報告者らの日本政府に対する書簡で、同年四月九日の国連難民高等弁務官事務所の見解で、本年四月十八日の国連人権理事会の特別報告者らの日本政府に対する書簡で、再三指摘されていることなのです。

 このように言うと、日本は日本だ、我々のやり方でやればいいと思われる方もおられるかもしれません。

 しかし、今や日本人が海外に働きに行く時代です。私たちだって、私たちの子供たちだって、いつ何どき、海外に働きに行って、在留資格を失い、何らかの事情で帰れなくなることがあるかもしれません。そのとき、人権をないがしろにされ人間として遇されなかったら、私たちの子供たちが異国の入管施設で病に倒れ命を失ったら、どんな気持ちになるでしょうか。逆に、そのとき、人権を尊重され人間として遇されたら、どれほどうれしいでしょうか。

 それどころではありません。今、私たちは熱心に安全保障に取り組んでいます。しかし、戦争があるということは、私たちが負けることだってあるということです。戦争に敗れ、圧制がしかれた日本から命からがら逃げ出し、たどり着いた異国で、迫害と死が待つ国に追い返されたら、私たちはどんな気持ちになるでしょう。逆に、そのとき、庇護すべき人たちとして温かく受け入れてもらえたら、どれほど救われるでしょうか。

 日本が迫害に苦しむ世界中の人々にとって最も頼れる国の一つになることは、決して、外国人、難民の人たちのためだけではありません。それは、世界中の自由と人権と民主主義を守るとりでとなり、きっと私たち自身を救うことになります。そして、それこそが、自由主義社会のリーダーとして、誇りある日本の進むべき道だと私は思います。

 だから、私は、今ここに、この議場にいる皆さんに訴えさせていただきたい。今、賛成を予定している全ての方々に伏してお願いしたい。外国人、難民の方々の人権と命と子供たちの未来を守るために、そして、日本が世界の全ての人々の人権を守る自由主義国家のリーダーとしての誇り高い道を歩むために、未来の私たちや私たちの子供たちをあらゆる迫害から守るために、この法案に反対して廃案にしてほしい。

 そして、共に知恵を出し、制度設計を根幹からやり直して、公正な判断をする第三者機関をつくり、条文の穴を埋め、基準を明確化し、迫害に苦しむ全ての人に公正で明確で十分な審査が制度的に保障され、必要な保護が与えられる法律を作ろうじゃないですか。外国人、難民の子供たちと私たちの子供たちが同じ未来を信じることができる日本を、世界をつくろうじゃないですか。

 最後に、祈るような気持ちで今この採決を見守っている難民、外国人、そして日本人の方々に申し上げます。

 アメリカ合衆国三十五代大統領ジョン・F・ケネディの言葉があります。

 「イフ ア フリー ソサエティー キャント ヘルプ ザ メニー フー アー プア イット キャント セーブ ザ フュー フー アー リッチ」。

 もし自由主義社会が多くの貧しい人に手を差し伸べることができないなら、僅かな富める人を救うこともできない。

 私は同じだと思います。

 イフ ジャパン キャント ヘルプ ユー レフュジーズ イット キャント セーブ アス ジャパニーズ。 ソー イット ハス トゥー イット シュアリー ハス トゥー ヘルプ ユー トゥー セーブ アス。 ウィー シャル メイク イット。

 私たちが難民の方々に手を差し伸べられなければ、日本人も救えません。私たちは、私たちを救うためにこそ、皆さんに手を差し伸べなければいけません。私たちは、そんな日本をきっとつくります。

 ありがとうございます。(拍手)

議長(細田博之君) 熊田裕通君。

    〔熊田裕通君登壇〕

熊田裕通君 自由民主党・無所属の会の熊田裕通です。

 私は、会派を代表して、本法律案及びその修正案について、賛成の立場から討論いたします。(拍手)

 本法律案は、現行の三つの課題を一体的に解決しようとするものであります。

 第一の課題は、送還忌避問題です。現行法上、我が国からの退去が確定しても、難民認定申請しさえすれば無制限に送還が停止され、重大犯罪者やテロリストであっても送還ができません。

 第二の課題は、収容の長期化であります。現行法では、収容の長期化回避には、逃亡等の防止手段が十分ではない仮放免制度を用いるしかなく、その結果、仮放免中の逃亡事案が発生し、令和二年末時点で四百十五人、令和三年末時点で五百九十九人、令和四年末時点で約千四百人と急増しております。しかも、仮放免中に犯罪行為に及び逮捕される事例も後を絶たず、我が国の治安維持に懸念を生じさせております。

 第三に、現行法では、ウクライナ避難民のような紛争避難民などを確実に保護する制度が十分ではありません。

 本法律案では、これらの三つの課題を解決するため、まず、難民と同様に保護すべき者を補完的保護対象者と認定する制度を創設するとともに、在留特別許可制度の一層の適正化などを図っております。補完的保護対象者の認定制度により、ウクライナ避難民のような紛争避難民に、より安定的な在留や制度に裏づけられた支援を可能とするなど、保護すべき者を確実に保護できます。

 次に、難民認定申請を誤用、濫用する送還忌避者や三年以上の実刑前科のある者、テロリストなどの送還を可能とし、かつ、退去の命令制度などにより、我が国に在留を認められない者を迅速かつ確実に国外に退去させることができます。加えて、本法律案では、そもそも、退去強制事由に該当する者の約七割が、新たな出国命令制度により、直ちに出国することも期待されます。

 長期収容問題については、ただいま申し上げた出国命令制度の活用により、退去強制事由に該当する外国人の大半がそもそも収容の対象とはならないこととなります。また、監理人による監理の下で逃亡等を防止しつつ、収容せずに退去強制手続を進める監理措置制度の創設により、全件収容主義などと批判される現行法の仕組みを抜本的に改め、加えて、三か月ごとの収容の見直しにより不必要な収容が防止され、長期収容問題が解消されます。

 審議では、監理人に一定の義務が課されることへの批判もありましたが、仮放免中の逃亡事案、犯罪の発生、特定の身元保証人が多数の逃亡者を発生させている事態を踏まえれば、立法により、しっかりとした逃亡等の防止措置を講じることが必要であります。

 本法律案につきましては、十九時間にわたる対政府質疑、二時間半にわたる参考人質疑、名古屋入管の視察、五時間のビデオ視聴を行った上で、三日間、計五回にわたる修正協議も行われました。与党からは、野党側に大幅に譲歩し、本則、附則、附帯決議及び運用上の対応など、考え得る限りの修正を提案しましたが、残念ながら、合意に至りませんでした。

 本法律案は、慎重かつ丁寧な議論を経て、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党提案の難民認定手続の一層の適正化を図るための修正案による修正も施した上で、法務委員会における採決に至りました。審議が不十分という指摘は全く当たりません。

 最後に、我が国において外国人と日本人とが安全、安心に暮らせる共生社会を実現するためには、日本人が外国人への差別、偏見をなくし、人権を尊重することが必要であることはもちろん当然のことであります。一方で、必要なルールを定めること、外国人にもルールを守っていただくべきこともまた当然であります。

 本法律案は、こうした共生社会実現の基盤となるルール作りであることを申し上げ、私の賛成討論とさせていただきます。

 ありがとうございました。(拍手)

議長(細田博之君) 本村伸子君。

    〔本村伸子君登壇〕

本村伸子君 私は、日本共産党を代表して、入管法改悪法案に反対の討論を行います。(拍手)

 本法案によって人生を絶望し、壮絶な不安を抱える方々の悲鳴のような声を聞くべきです。ある当事者は、もし送還されるなら、その場で自ら命を絶つと語りました。なぜそこまで追い詰めるのですか。当事者、家族、弁護士、支援者の参考人質疑も行わず、採決を強行することは、人権無視であり、国会の責任放棄にほかなりません。命、人権は、そんな軽いものであっていいはずがありません。

 そもそも、難民認定がほかの先進諸国と比べても非常に狭く、何回難民認定申請をしても難民と認められません。

 参考人から、出身国情報を把握する能力が弱いことも指摘されました。それにもかかわらず、難民認定申請中でも送還が可能というのは余りにも理不尽です。

 参考人から、難民の追放、送還は、場合によっては死刑の執行と同じ効力を持つと述べられましたが、生命や自由が脅かされるおそれがある国への追放、送還を禁じた難民条約、ノン・ルフールマン原則に関わる特別な審査体制もないではありませんか。難民認定の専門性のある第三者機関をつくることこそ、最優先にするべきです。

 本法案は、ウィシュマさんを死ぬまで追い詰めた、命と尊厳を軽視してきた入管行政を抜本的に改めるものになっていません。

 一部公開されたウィシュマさんの映像記録は、報告書が真実を隠蔽していることを明らかにしました。全ての映像記録と資料を国会に提出し、死因始め真相究明をすることは、入管の権限を強める法案審議の大前提です。

 法案は、監理措置が適用されない限り常に収容が優先する原則収容主義が維持されており、収容に当たっての司法審査もなく、収容期間の上限もありません。国連人権理事会特別報告者などからの、この法案は国際人権基準を下回っている、国際人権法に違反する、徹底的に見直しをとの厳しい指摘に真摯に向き合うべきです。

 さらに、仮放免や在留資格のない子供を放置し、送還すること、医療を受けさせないことなどは、今でも子どもの権利条約違反です。子供と家族に今すぐ在留特別許可を出すべきです。

 政府は、本法案を撤回し、国際人権基準に沿った人権尊重の制度に徹底的に見直すことを強く求め、反対の討論といたします。(拍手)

議長(細田博之君) 漆間譲司君。

    〔漆間譲司君登壇〕

漆間譲司君 日本維新の会の漆間譲司です。

 私は、党を代表して、内閣提出の出入国管理法の一部を改正する法案並びに日本維新の会、自民党、公明党、国民民主党、有志の会の四党一会派共同提案による同改正法案の修正案に賛成する立場から討論を行います。(拍手)

 我が国の国際社会における役割が大きくなるにつれ、来日される外国人の数は年々増加の一途をたどっています。その中で、残念ながら、ルールを守らずに入国してしまう、あるいは不法な滞在を続けてしまう事例も多数発生しています。

 入管行政は、諸外国からの訪日外国人の玄関口を安心、安全なものとして整備する重要な役割を果たさなければなりません。しかし、その一方、不法滞在等の重大事案が増え続ける中で、課題解決に関しては限界を迎えつつあります。こうした状況の中で、入管法の改正は一刻の猶予もない緊急の課題でありました。

 既に二年前に改正案が国会に提出されていました。私たち維新の会は、このときも、改正案がよりよいものとして成立するように、与党に対して修正の協議を呼びかけてまいりました。しかし、改正法案自体が審議未了のまま一度廃案になってしまったことは、誠に遺憾なことです。

 法改正が先送りされたこの二年間の中で、収容施設の中で無辜の貴い命が失われるという痛ましい事案も発生しました。このことを真摯に反省するならば、全件収容主義と呼ばれてしまう現行法を改めて、不必要な収容を回避するため、原則収容ではなく、個別事案ごとに監理措置か収容かを適切に判断する監理措置制度を新たに導入することは、再考の機会を広げるものであり、必要な改善であります。

 また、現行法では、難民認定申請中は、何度でも、一律に送還が停止するという送還停止効の規定があります。このことが収容の長期化などの様々な問題の要因になってきたことは否めません。

 今回の改正案では、三回目以降の申請者、三年以上の実刑前科者、テロリストを送還停止効の例外とする規定を設けています。これにより、収容件数を減らすことや、真に保護すべき難民を迅速に認定できるようになります。

 この送還停止効の例外規定をもって、認定申請中の難民を強制送還するものだとする批判もありますが、二回の審査を受けた上での不認定であり、また、三回目以降の申請でも、難民等と認めるべき相当の理由がある資料を提出すれば送還停止可能にする規定も設けられており、申請中でも強制送還との批判は、改正案の趣旨をねじ曲げたものだと言わざるを得ません。

 もっとも、これまでの不適切な対応によって、入管行政に対する国民の信頼が損なわれていたり、国際社会からの批判の声があることも受け止めなければなりません。政府が一丸となって信頼回復に努めるべきです。既に、出入国在留管理庁が中心となり、組織、業務改善に真摯に取り組んでいることに対し、我が党は一定の評価をしております。

 我が党が提案に積極的に加わった今回の修正案は、一つ、難民の認定等の申請をした外国人に対する適切な配慮、二つ、難民の認定等を適正に行うための措置、三つ、収容に代わる監理措置等に係る判断の適正等の確保を改正案に加えるものです。

 この修正により、難民調査官は、難民の認定又は補完的保護対象者の認定の申請をした外国人に対し質問をする際、特に、その心身の状況、国籍又は市民権の属する国において置かれていた環境などの状況に応じ、適切な配慮をすることが必要とされています。

 また、法務大臣は、難民調査官の育成に責任を負うこととなり、難民調査官に対して必要な研修等を実施し、外国人の人権に関する理解を深めさせるとともに、難民条約の趣旨や内容、国際情勢に関する知識など、難民の認定や補完的保護対象者の適正な認定を行うために必要な知識と技能を習得、向上させなければなりません。

 さらに、監理措置や仮放免の制度の運用に当たっては、人権に配慮し、判断の適正さを確保しなければならず、監理措置決定をしない、あるいは仮放免を不許可とした場合は、その理由をしっかりと認識できるよう書面に記載するなど、手続の透明性の確保が規定されています。

 これらの修正は、外国人への人権尊重と難民認定の適正化が確実に履行される保障となるものです。

 一部野党は、修正案に対して、実効性は全くないなどと非難していますが、今まで不十分だったことを補い、これから完成度を高めて実行しようという提案を、どうして実効性がないなどと断定できるのでしょうか。実効性がないなどという反対理由では、反対のための反対でしかなく、修正案の中身については反対できないことを示すものでしかありません。

 本改正案に対して、廃案にすべきだと主張する人もいます。しかし、今回もまた改正を見送れば、欠点や不十分さが多く指摘されている現行法がそのまま継続するだけです。全件収容主義は人権に反すると主張しながら、その全件収容主義を見直す改正に反対するのは矛盾しています。

 難民認定ではもっと申請者の声をよく聞くべきだと主張しながら、申請者の聴取に当たっての配慮義務を規定した修正案に、中身は何も変わらないと反対する人たちこそ、虚心坦懐に、改正案、修正案が言わんとすることに耳を傾けるべきです。

 まだまだ足りないところがあるという主張は当然あるでしょう。

 修正案を議論すべく理事会派で立ち上げました計五回の議論の中で、最終的な合意とは至りませんでしたが、自民党宮崎理事、公明党大口理事、立憲民主党寺田理事、そして我が党の沢田理事で、各党の意見や対案を持ち寄り、最後の最後まで改善を諦めず、法案の方向性を試行錯誤してまいりました。野党筆頭の寺田理事は、粘り強い交渉の上、足りないところを補うべく、複数の提案を与党からテーブルに出させていたにもかかわらず、立憲民主党が修正のテーブルから去ったことは痛恨の極みでした。改正案に反対する会派の議員がSNSで、少数派である野党がかたくなに一〇〇%の結果を求めても何も得られない、不毛な結果だという発言をされていました。

 改正案が成立すればあとはお任せすればいいというわけではなく、人命と人権に向き合う入管行政においては、日々、改善、改良が求められます。我々国会議員もしっかりとそれを見届け、必要な改善点があれば積極的に提案すべきです。

 二年前に廃案にしたことで、仮放免中に千四百人にわたる逃亡者を出し、逮捕された仮放免者数が令和三年は三百三十七人、令和四年は三百六十一人もいるという事実に国民の命を預かる我々は向き合うべきであり、まだ不十分だとお考えの議員の方も含めて、改善の第一歩として、御賛同を賜りますよう願うものです。

 また、私たち維新の会は、マニフェストに外国籍住民との共生を掲げる党として、四党一会派による修正が加えられた本改正案が成立することを機に、なお一層、日本人と外国人が共に安全、安心に暮らせる共生社会を実現させ、外国人への差別、偏見を根絶し、その人権がより尊重されるよう力を尽くしていくことをお誓い申し上げ、私の賛成討論といたします。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

議長(細田博之君) 日下正喜君。

    〔日下正喜君登壇〕

日下正喜君 公明党の日下正喜です。(拍手)

 冒頭、一言申し上げます。

 二〇二一年三月六日にお亡くなりになったウィシュマ・サンダマリさんの御冥福を心からお祈りするとともに、二度とこうした事案を生じさせないよう、立法府に所属する議員として最善を尽くしていくことをお誓い申し上げます。

 私は、ただいま議題となりました法律案につきまして、公明党を代表して、賛成の立場から討論を行います。

 本法案に対する賛成理由の第一は、保護すべき者を確実に保護するという理念の具現化であります。

 紛争避難民は、必ずしも難民条約上の難民に該当せず、現行法制上、ウクライナ避難民のような紛争避難民等を難民と同様に保護できる制度が存在しなかったところ、本改正により、難民に準じた形で保護できる補完的保護対象者の認定制度が創設され、より安定した在留資格の付与など、制度的裏づけのある支援が実現します。これは、真に庇護すべき人々を救済するという観点で、画期的な前進と言えます。

 また、難民認定手続の透明性、信頼性を高める難民該当性判断の手引が策定され、例えば、性的マイノリティーやジェンダーに関連する迫害についても、難民条約に言う特定の社会的集団の構成員を理由とする迫害に該当し得る旨が明記されるなど、迫害についての考え方などが具体的に示されています。この手引は、難民審査に携わる難民調査官や難民審査参与員、そして難民認定を受けようとする方々にも共有されることから、難民認定申請の誤用や濫用を防ぐとともに、審査においても難民該当性判断が一層適正なものになることが期待できます。

 委員会修正におきましても、難民や補完的保護対象者の認定を専門的知識に基づいて適正に行うため、出身国情報を充実させるとともに、難民審査の要ともなる難民調査官の人権に対する理解の深化や調査能力の向上を図ることとしており、適正な審査を担保する上で重要な基盤が整備されます。

 さらに、本来退去すべき立場にある外国人について、在留を特別に許可すべき事情があると法務大臣が認めた場合にその在留を認める在留特別許可制度についても、これまでは判断過程や理由が不透明であると指摘されていましたが、本改正により、難民等認定手続と分離する形で申請手続が創設され、退去強制手続の当初の段階から在留特別許可の申請が可能となります。また、より的確に申請を行うことを可能とするため、その許否判断における考慮事情を法律上明示することとされています。

 この点について、我が党からの質疑に対し、法務大臣より、それぞれの考慮事情の評価に関する考え方を運用上の新たなガイドラインとして策定すること、例えば、日本人の地域社会との関係、本邦で家族とともに生活する子供の利益の保護の必要性などを積極事情とする予定であること、本法案施行前に退去強制令書が発付された者について、新たなガイドラインに基づき、職権で在留特別許可の許否判断をすること、その際、不法滞在期間が長くなっている点について、特例として消極事情としないことなどの検討方針が示されました。

 加えて、在留特別許可をしない処分をするときには、理由を付した書面をもって通知することとされており、手続保障が確保されたことについても高く評価するものです。

 以上のような観点から、本法案は、保護すべき者を確実に保護するという理念の具現化を大きく進めるものになったと考えます。

 賛成理由の第二は、送還忌避、長期収容問題への対応です。

 三年以上にも及ぶ新型コロナウイルス感染症が感染法上の二類から五類に引き下げられ、水際対策も先月解除されました。今後、海外からのインバウンドの回復、そして外国人材の受入れ等も本格化され、ますます、日本に入国、滞在する外国人の増加が予想されます。それと同時に、不法残留、送還忌避の増加も懸念され、現行入管法下で生じている送還忌避、長期収容問題は、早期に解決すべき喫緊の課題であります。

 現行法では、難民認定手続中の外国人は、申請の回数や理由を問わず送還が停止され、日本にとどまることができます。一部の外国人は、これに着目し、難民認定申請を繰り返すことで送還を回避し、その結果、収容施設における長期収容の問題が生じてまいりました。

 と同時に、難民に該当しない多くの外国人が難民認定申請を繰り返すことで入管の難民認定業務が圧迫され、真に難民として保護すべき方の審査に遅れが生じ、その迅速な救済に支障が出ていたこと。そして、難民認定申請者の多くは、観光、留学、技能実習などの正規の在留資格で入ってきた後に、本来の目的から外れた段階で難民認定申請をするケースなども多く見られ、難民申請の誤用、濫用が指摘されてきました。

 こうしたことを踏まえ、本改正では、認定すべき相当の資料が提出されなければ、三回目以降の難民等認定申請者や三年以上の実刑前科者等について、送還停止効の例外とすることとしています。長期収容による様々な弊害や、薬物事犯、窃盗、傷害、性犯罪など前科を有する仮放免された外国人の逃亡事案などの現実を踏まえると、妥当な措置であると考えます。

 また、被収容者の人権上の配慮からも、全件収容主義が改められ、収容に代わる監理措置が創設されるとともに、収容施設における常勤医師の確保のための措置、健康上の理由に基づく仮放免請求については、医師の意見を聞くなどして、被収容者の健康状態に十分配慮して判断を行うべきことを定めた規定の整備など、被収容者への健康上、人道上の配慮もより適切なものになっていると考えます。

 以上、現行法の課題を一体的に解決しようとする本法案に対する賛成理由を述べてまいりましたが、最後に、保護すべき者を確実に保護するという理念が十全に発揮されるよう、豊かな人権感覚を備えた一層適切な運用がなされることを切に願うところです。

 公明党は、これからも、日本人と外国人が安全、安心に暮らせる共生社会の実現へ全力を尽くしていくことをお誓いし、私の賛成討論といたします。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

議長(細田博之君) これにて討論は終局いたしました。

    ―――――――――――――

議長(細田博之君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は修正であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(細田博之君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり修正議決いたしました。

     ――――◇―――――

 刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明

議長(細田博之君) この際、内閣提出、刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案について、趣旨の説明を求めます。法務大臣齋藤健君。

    〔国務大臣齋藤健君登壇〕

国務大臣(齋藤健君) 刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。

 性犯罪は、被害者の尊厳を著しく侵害し、その心身に長年にわたり重大な苦痛を与え続ける悪質、重大な犯罪であり、厳正に対処することが必要です。

 平成二十九年には、刑法の一部を改正する法律により、性犯罪の構成要件を見直すなどの改正が行われましたが、同法の附則において、性犯罪における被害の実情や改正後の規定の施行状況等を勘案し、性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策の在り方について検討を加えることとされており、性犯罪について、被害の実情や事案の実態に即した規定とすることが求められています。

 そこで、この法律案は、近年における性犯罪をめぐる状況に鑑み、この種の犯罪に適切に対処できるようにするため、刑法及び刑事訴訟法を改正し、所要の法整備を行おうとするものであります。

 この法律案の要点を申し上げます。

 第一は、性犯罪の罰則規定が安定的に運用されることに資するため、強制わいせつ罪及び準強制わいせつ罪並びに強制性交等罪及び準強制性交等罪をそれぞれ統合した上で、同意しない意思の形成、表明、全うが困難な状態でのわいせつな行為又は性交等であることを中核とする要件に整理し、不同意わいせつ罪及び不同意性交等罪とするものであります。

 第二は、若年者の性被害の実情に鑑み、現行法上、十三歳未満とされている、いわゆる性交同意年齢について、十六歳未満とした上で、その者が十三歳以上であるときは、行為者が五歳以上年長である場合に処罰することとし、これにより、十三歳未満の者に対してわいせつな行為又は性交等をした者に加えて、十三歳以上十六歳未満の者に対しわいせつな行為又は性交等をしたその者より五歳以上年長の者についても、不同意わいせつ罪又は不同意性交等罪として処罰することとするものであります。

 第三は、若年者の性被害を未然に防止するため、わいせつの目的で、十六歳未満の者に対し、威迫、偽計、利益供与等の手段を用いて面会を要求する行為等を処罰対象とする罪を新設するものであります。

 第四は、性犯罪の被害申告の困難性等に鑑み、性犯罪についての公訴時効期間を五年延長するとともに、被害者が十八歳未満である場合には、その者が十八歳に達するまでの期間に相当する期間、更に公訴時効期間を延長するものであります。

 第五は、被害状況等を繰り返し供述することによる心理的、精神的負担を軽減するため、いわゆる司法面接的手法を用いて被害者から聴取した結果等を記録した録音、録画記録媒体について、一定の要件の下、反対尋問の機会を保障した上で、主尋問に代えて証拠とすることができることとするものであります。

 このほか、所要の規定の整備を行うこととしております。

 以上が、刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案の趣旨であります。(拍手)

     ――――◇―――――

 刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑

議長(細田博之君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。吉田はるみ君。

    〔吉田はるみ君登壇〕

吉田はるみ君 立憲民主党・無所属の吉田はるみです。

 会派を代表しまして、ただいま議題になりました内閣提出法案、刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案について質問いたします。(拍手)

 今回改正される不同意性交等罪が適用されるためには、次の八つの要件のいずれかに該当し、かつ、同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態にあることが必要です。

 八つの要件とは、一、暴行、脅迫。二、心身の障害。三、アルコール、薬物の影響。四、睡眠そのほかの意識不明瞭。五、同意しない意思を形成、表明、全うするいとまの不存在。六、予想と異なる事態との直面に起因する恐怖又は驚愕。七、虐待に起因する心理的反応。八、経済的、社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮。

 この八つの要件は、不同意を表明したくてもできなかった、あるいは表明したが全うできなかった場合を多面的にカバーしている点はよいと思います。

 念のために確認いたしますが、不同意、つまり同意していないを表明した場合は、これらの要件をクリアしていなくても、即、不同意性交等罪又は不同意わいせつ罪に問われるということでよろしいですね。不同意を表明しても罪に問えなかったら、この法律の欠陥です。

 現実に、実の父や、母の再婚相手の義理の父、同居する親族などからの性的虐待に苦しんでいる方が大勢います。多くの場合、まさに毎日の生活の現場での被害であり、声も上げられません。勇気を振り絞って被害を訴えた場合であっても、信じてもらえない、あなたに隙があった、はっきり拒否したらよかったのになどと、心ない言葉に被害者は二重の苦しみにさらされます。性暴力は魂の殺人です。

 地位、関係性を利用した処罰規定に関しては、不同意性交等罪の要件の八に「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。」とありますが、憂慮は主観によって差が生じる可能性があり、新たな司法判断のばらつきが生まれます。

 被害の実態を調査し、処罰されるべき加害行為は適切に処罰されるように、改めて、地位、関係性を利用した処罰規定の見直しを検討すべきと考えますが、政府の見解を伺います。

 本年三月十七日には、元自衛官の五ノ井里奈さんに強制わいせつをしたとして、元陸上自衛官三人が在宅起訴されています。また、本年四月には、パラリンピック代表チームのイタリア人コーチが性加害で解任されています。芸能界の状況も深刻です。四月十二日には、元ジャニーズジュニアのカウアン・オカモトさんが性被害を訴え、日本外国特派員協会にて記者会見をしています。声を上げられない芸能関係者、アスリートの方々も多いのではないでしょうか。民間企業でも、その地位を利用した性被害があります。

 政府、そして民間企業も含め、この認識を社会で共有すべきと考えますが、この法案を通しましただけでは不十分です。地位を利用したわいせつ行為や性交等をすることは許されないというメッセージを社会に届けるべきです。政府は、どんな広報手段で、どの程度の予算を割き、どの程度の期間で周知する計画でしょうか。

 性交同意年齢とは、性行為をするか否か、自ら判断できる下限の年齢です。現行では十三歳で、これは明治四十年より、実に百十六年変わっていません。今改正で十六歳に引き上げられるわけですが、その点は評価いたします。つまり、十六歳未満の子供と性行為を行った場合は、同意の有無にかかわらず処罰の対象になると理解しています。

 しかし、こう歯切れよく言えないわけです。条文には、「(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)」という括弧書きが付されています。この一言で理解できた議員の方がいたら、私、びっくりです。

 なぜ十三歳以上十六歳未満の性交にはプラス五歳までは例外とするという規定を設けたのですか。例えば、なぜ三歳ではなく五歳なのですか。そもそも、このプラス何歳という規定は必要でしょうか。

 例えば、十三歳の中学一年生と十八歳の高校三年生が性交した場合、この十八歳の高校三年生は罪になる可能性があります。また、十五歳の高校一年生と二十歳の大学三年生が性交した場合、これも罪になる可能性があります。同意があったとしてもです。

 例え話ですが、私の娘が十五歳の高校一年生とします。家庭教師の二十一歳の大学生と性交したことが分かった。私は激怒。娘は同意があったと言うが、許せない。私はこの大学三年生を不同意性交等罪で告訴して、有罪となった場合、この大学生は執行猶予なしで五年以上刑務所に入ることになります。信じられないかもしれないが、これは本当です。

 今、例に出したようなケースも起こり得る中、こんなことが起こり得る中、こんなに分かりにくい規定をどうやって社会に知らせるのでしょうか。家庭では無理です。小学校、中学校、高校の学校教育の場で、正しい性教育とともに教えるべきです。政府の見解を伺います。

 この法案を通し、性犯罪者を罰して終わりだけでは駄目です。性犯罪者を厳しく処罰することと併せ、被害者をしっかり保護し、そして同時に、性犯罪者を生まないことが重要なのではないでしょうか。そうであるならば、本改正とセットで、一、対象年齢者への適切な性教育、二、性犯罪は許さないという社会全体への認知、三、性犯罪者の更生とモニタリングを実行しなくてはなりません。

 性教育に関して、学習指導要領には、小学五年生の理科では、人の受精に至る過程は取り扱わないものとする、また、中学一年の保健体育科では、妊娠の経過は取り扱わないものとあり、つまり、学校教育の中では妊娠に至る経緯である性交は取り扱わないという方針です。

 なぜここまで性交を含む性教育を回避するのでしょうか。寝た子を起こすなということでしょうか。それは既に時代遅れです。性教育を否定する旧統一教会の影響があるのではないでしょうか。

 子供たちは、デジタルネイティブと呼ばれるインターネット世代であり、フェイクを含め、既に情報氾濫の時代に生きています。内閣府男女共同参画局の調査では、若者が性暴力被害に遭った場所として一番多いのが学校で、二二・五%という結果が出ています。興味や関心が芽生える思春期の子供たちの現状をしっかり受け止め、この情報があふれる時代にあるからこそ、今回の法改正で処罰される行為も含めた正確な情報を伝える性教育が求められていると考えますが、政府の見解を伺います。

 トー横キッズという言葉を御存じでしょうか。新宿歌舞伎町に集まる、虐待やいじめなど生きづらさを感じている子供たちが全国から集まって過ごしている場所です。大阪ミナミにはグリ下と呼ばれる場所があります。東京と大阪だけではありません。日本全国に、居場所を求め、愛情を求め、さまよう子供たちが大勢います。

 この中には十六歳未満の子が含まれます。この苦しい状況につけ込んで、違法薬物や性被害に遭わせてしまう大人がいます。生きるために、食べるために、そして、その夜の寝床を求めてパパ活する子もいます。しかし、今回の刑法改正は、性交同意年齢の引上げで、十六歳未満の性交等は、同意があったとしても処罰をされます。十六歳未満のパパ活は違法になります。パパ活なんか本当はしたくない、でも、生きていくために仕方なく売春する子供たち。自分を消してしまいたいと、風邪薬などを大量に飲むオーバードースも多発しています。

 こうしたトー横キッズ、そしてグリ下に集まる子供たちを支援しているのは、NPOや支援団体です。このような人の善意頼みでは限界があります。政府として、予算をつけ、実態調査をし、そして支援要員を配置するなどの具体的な対策はあるのでしょうか。

 また、いわゆるグルーミング罪と呼ばれる、わいせつ目的で若年者を懐柔する行為に関わる罪も新設されました。通常、こうした出会いは、わいせつ目的で相手を探すような出会い系又はマッチングアプリを使用しています。

 今回の法改正で、このような事業者は処罰されますか。また、十六歳未満の登録者や利用者を出さないために、事業者に、利用者の自己申告ではなく、保険証やマイナンバーカードなど公的証明書を利用した本人確認をさせるなどの措置は考えていますか。

 法務総合研究所研究部報告五十五によると、子供への性犯罪の再犯率は八五%と非常に高いことが明らかになりました。一人の人が何人もの子供へわいせつな行為を繰り返している実態があります。こどもまんなか社会において、子供の性被害は絶対に見過ごすことができません。

 こども家庭庁が、保育士や教員、部活動のコーチ、塾講師など、子供に関わる職に就く者への性犯罪加害履歴がないかどうかをチェックする仕組みである日本版DBS導入に向けての取組を進めていると報道されていますが、現状はいかがでしょうか。また、障害児が通う特別支援学校や福祉施設などで働く職員にも対象を広げるべきと考えますが、政府の見解を伺います。

 被害当時のことを思い出すと涙が止まらなくなり、過呼吸になる。うつ病やPTSDに苦しむ被害者の実態があります。自分が四十代、五十代になってようやく、あれは性被害だったと思い出すことも多々あります。

 本改正では公訴時効の五年延長が提示されていますが、三十三歳上限は短過ぎます。女性の二十代、三十代は結婚や妊娠、出産、子育て期に当たり、実際、この年齢のときに性被害を訴え、司法手続をすることは、配偶者や未成年の子供のことを考えると非常に困難です。法務省は、五年延長の根拠として、内閣府調査を基にしており、相談できた被害者の大部分が五年の間に相談がされているからという説明をしていますが、そもそも、相談できなかった方が女性では六割、男性では七割もいます。

 日本においても、性犯罪には断固とした姿勢で臨むということを示すためにも、公訴時効は撤廃すべきと考えますが、政府の見解を伺います。

 性被害は魂の殺人と言われます。生涯を通じて、被害者の方を苦しめ、その方から笑顔を奪い、人生まで狂わせてしまいます。性被害者に全面的に寄り添い、継続的な精神的サポート体制を構築しなければなりません。

 この法律を通して終わりにしないでください。犯罪者を罰するだけではなく、国は、性犯罪は絶対に、断固として許さないというメッセージを広く社会全体に知らしめてください。これは被害者保護の観点からも重要なメッセージであり、そして、加害者を出さないための抑止力にもなります。

 声を上げた女性も、声をのみ込んでいる女性も、そして全ての性被害に苦しんでいる方々、被害者を支援している方々、そして多くの国民が、岸田総理の覚悟ある行動を見ています。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

    〔国務大臣齋藤健君登壇〕

国務大臣(齋藤健君) 吉田はるみ議員にお答え申し上げます。

 まず、改正後の不同意わいせつ罪、不同意性交等罪の成立要件についてお尋ねがありました。

 これらの罪が成立するためには、改正後の刑法第百七十六条第一項、百七十七条第一項の各号に掲げる行為、事由又はそれらに類する行為、事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態となることが必要です。

 お尋ねの、不同意を表明した場合の意味するところが必ずしも明らかではありませんが、同意しない意思を表明することはできたとしても、各号に掲げる行為、事由又はそれらに類する行為、事由に該当した上で、それらにより、同意しない意思を全うすることが困難な状態に陥ったと認められるのであれば、これらの罪が成立することになります。

 次に、地位、関係性を利用した性犯罪処罰規定の見直しに関してお尋ねがありました。

 本法律案においては、例えば、経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させることにより、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせて性的行為をすることを処罰対象としています。

 他方、この状態に陥っていないのに、一定の地位、関係性にある者が性的行為をしただけで処罰対象とするような明確かつ限定的な要件を設けることは困難であると考えられます。

 そのため、本法律案による改正とは別に、更に御指摘のような見直しを行うことについては、慎重な検討が必要であると考えています。

 次に、地位、関係性を利用した性的行為が許されないというメッセージの周知、広報に関してお尋ねがありました。

 具体的な予算等について現段階で確たることをお答えすることは困難ですが、法務省としては、改正が実現した場合には、改正の趣旨や内容について、関係省庁、機関と連携しつつ、適切に周知、広報してまいりたいと考えています。

 次に、いわゆる性交同意年齢を引き上げる改正における年齢差の要件についてお尋ねがありました。

 十三歳以上十六歳未満の者は、おおむね中学生の年齢層であり、性的行為に関する能力のうち、相手方との関係において、性的行為が自己に及ぼす影響を理解し、対処する能力が十分に備わっておらず、対等な関係の下でなければ、性的行為について有効に自由な意思決定をする前提となる能力に欠けると考えられることから、対象となる年齢を十六歳未満に引き上げることとしています。

 そして、一般に、相手方との年齢差が大きくなるほど、両者の社会経験等の差異により対等な関係でなくなると考えられるところ、性的行為をしたこと自体で性犯罪が成立するものとする規定であることから、刑罰の謙抑性の観点から、双方の年齢が要件を満たすだけで、例外なく、およそ対等な関係があり得ず、有効に自由な意思決定をすることが困難であると言えるものであることが必要であると考えられます。

 本法律案においては、そのような観点から、心理学的、精神医学的知見も踏まえ、五歳以上年長であることを要件としているものです。

 次に、改正後の刑法第百八十二条の罪の処罰対象となるかについてお尋ねがありました。

 同条は、十六歳未満の者に対して威迫するなどして面会を要求する行為等をした場合に成立するものですが、お尋ねの事業者について、具体的にどのような行為をすることを事業内容とするものと想定しているかが必ずしも明らかではなく、いずれにしても、具体的な事案における犯罪の成否につきましては、捜査機関が収集した証拠関係に基づいて個別に判断されるべき事柄であるため、一概にお答えすることは困難であります。

 最後に、性犯罪に係る公訴時効を撤廃することについてお尋ねがありました。

 本法律案においては、性犯罪の一般的な特性に鑑み、公訴時効の対象とした上で、その期間を延長することとしています。

 他方、現行法上、公訴時効の対象とならない罪は、侵害されると回復の余地のない、人の生命という究極の法益が侵害され、かつ、罪の重さを示す法定刑として最も重い死刑が定められている殺人罪等に限られています。

 性犯罪は、被害者の尊厳を著しく侵害し、その心身に長年にわたり重大な苦痛を与え続ける悪質な罪ですが、侵害されると回復の余地がない生命を侵害する罪とは異なり、罪の重さを示す法定刑に照らしても、死刑が定められている殺人罪等と同等とまでは言い難いと考えられます。

 そのため、公訴時効を撤廃することとはいたしておりません。(拍手)

    〔国務大臣永岡桂子君登壇〕

国務大臣(永岡桂子君) 吉田はるみ議員にお答えいたします。

 まず、いわゆる性交同意年齢の引上げの周知と性教育についてお尋ねがありました。

 学校教育においては、児童生徒の発達段階に応じて、受精、妊娠、性感染症の予防などの身体的側面のみならず、異性の尊重、性情報への適切な対処や行動の選択など様々な観点から、性に関する指導を行うこととしております。

 文部科学省においては、子供たち自身が性に関して正しく理解し適切な行動が取れるよう、学習指導要領に基づく着実な指導に取り組んでまいります。

 また、子供たちを性犯罪、性暴力の加害者、被害者、傍観者にさせないための生命の安全教育を推進しているところです。

 本改正法案の内容の周知につきましては、法務省と連携し、適切に対応してまいります。

 次に、正確な情報を伝える性教育についてお尋ねがありました。

 学校における性に関する指導に当たっては、生徒間で発達の差異が大きく、保護者等の性に対する考え方が多様であることなどから、集団指導と個別指導とを区別して実施しています。

 こうした中、全ての生徒に共通に指導する内容としては、妊娠の経過は取り扱わないこととしていますが、個々の生徒の状況等に応じ、必要な個別指導が行われることが重要と考えております。

 また、性犯罪への対応については、文部科学省において生命の安全教育を推進し、性暴力の根底にある誤った認識や行動、性暴力が及ぼす影響などを正しく理解した上で、自分や相手を尊重する態度等を身につけさせることとしております。(拍手)

    〔国務大臣谷公一君登壇〕

国務大臣(谷公一君) 繁華街等に集まる子供たちへの対策について御質問がありました。

 警察においては、必要な予算を確保し、街頭補導活動等を通じて少年の非行の原因の究明や犯罪被害等の実態の把握に努めるとともに、少年相談やカウンセリング等のため、専門家を配置するなど、必要な支援を行っているところでございますが、引き続き、繁華街等に集まる少年の健全な育成のため、児童相談所やNPO等の関係機関としっかり連携して対応するよう、警察を指導してまいります。

 次に、出会い系サイトなどにおける本人確認について御質問がありました。

 出会い系、マッチングアプリなどの名称にかかわらず、インターネット異性紹介事業者は、出会い系サイト規制法により、連絡先の情報等を提供する場合には、公的証明書の提示等によって利用者が十八歳未満でないことを必ず確認することが義務づけられております。

 引き続き、法を適切に施行するよう、警察を指導してまいります。(拍手)

    〔国務大臣小倉將信君登壇〕

国務大臣(小倉將信君) 性犯罪歴を確認する仕組みの検討状況と対象職種の範囲についてお尋ねがございました。

 教育、保育施設等や子供が活動する場等において働く際に性犯罪歴等についての証明を求める仕組みについては、こども家庭庁の専門チームにおいてその導入に向けた検討を進めているところです。

 具体的には、職業選択の自由やプライバシー権との関係を含む法的論点の整理や、証明のための具体的な手続やシステムの在り方等について検討を進めているところであり、現時点で導入時期が定まっているものではありませんが、できるだけ速やかに導入できるよう、しっかりと取り組んでまいります。

 また、対象職種の範囲については、今後、法的論点の整理等と併せて検討を進めてまいります。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(細田博之君) 本村伸子君。

    〔本村伸子君登壇〕

本村伸子君 私は、日本共産党を代表して、性犯罪に関わる刑法及び刑事訴訟法の改定案について質問をいたします。(拍手)

 同意のない性的行為について、暴行、脅迫要件が立証の壁となり、性犯罪の成立が困難であることが長年の課題でした。二〇一九年三月、名古屋地方裁判所岡崎支部の判決は、実の父親による性交に娘が不同意だったことを認定する一方、抗拒不能ではなかったと、父親を無罪にしました。この月に相次いだ四件の無罪判決が衝撃を広げ、性暴力根絶と同意のない性的行為の処罰を求めるフラワーデモが広がりました。被害当事者が検討会、法制審議会の部会に入り、今回の法案で不同意性交等罪が明記されることとなりました。

 問題は、この法案で、同意のない性交等が適切に処罰されるかという点です。

 そのためには、何を同意とするのかを明確にする必要があります。

 検討会の中では、同意についての以下のような指摘がありました。年齢、成熟度、発達度、役割、経験に基づいて何がなされているか理解していること、性行為をした場合に起こり得る結果と性行為を行わないという別の選択肢もあるというそれぞれを承知していること、性行為に賛成する意思と反対する意思の両方の選択肢が平等に尊重されているという前提があること、意思決定が自発的になされることなど。

 同意とは、こうした条件を満たすものであるべきです。

 法案は、心身の障害があることを、同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態に含めています。しかし、障害がある人は、特性に応じて自らの意思を示しています。障害があることをもって意思の形成が困難とすることは侮辱的との声があります。

 障害がある人の意思形成を考慮した規定に改めるべきです。

 さらに、教師と生徒、施設職員と利用者など、対等性のない関係は、地位、関係性として、監護者性交等罪と同等の犯罪類型として処罰規定を創設するべきです。

 今回の改定に当たり、保護法益を性的自由にとどめず、個人の尊厳、心身の完全性、人格そのものを脅かす性的暴行からの保護と抜本的に改めるべきです。

 本法案は、現行法の公訴時効を五年延長するなどを規定しています。

 その根拠となった内閣府の調査では、相談に五年以上かかったが約一割、そもそも、相談もできなかったは、女性では六割、男性では七割もあるにもかかわらず、なぜ五年としたのですか。なぜ相談できなかったケースを切り捨てたのですか。

 性暴力被害者・支援者団体スプリングの皆様の二〇二〇年被害実態調査では、挿入を伴う性被害を認識するまで二十六年以上かかったは三十五件、三十一年以上かかったは十九件ありました。また、長期にわたって被害の記憶を喪失した被害当事者もいます。なぜ幼少期から性虐待を受けてきた被害当事者の方々の実態調査をしてこなかったのですか。

 公訴時効の撤廃あるいは時効停止の大幅延長をするべきです。

 法案は、一定の事件の被害者の主尋問に代えて、一定の録音、録画記録媒体の証拠能力を伝聞法則の例外として規定しています。

 刑事訴訟法における証拠は、事実認定者が法廷において供述者から直接供述を聞き、反対尋問による検証を経るのが基本であり、原則として、公判外供述が証拠能力を持つことはありません。したがって、その適用範囲は本来限定的でなければなりません。

 なぜ聴取対象を子供や障害者、性犯罪被害者に限定しないのですか。文言上、あらゆる犯罪類型におけるあらゆる関係者に適用することが可能となっています。伝聞例外を拡大するものではないですか。

 さらに、検察官、警察官など、中立性のない捜査機関が聴取者になることが想定されています。冤罪の危険性がないと言えるのですか。聴取主体は中立的な司法面接の専門家に限定するべきです。

 以上を申し述べ、質問を終わらせていただきます。(拍手)

    〔国務大臣齋藤健君登壇〕

国務大臣(齋藤健君) 本村伸子議員にお答え申し上げます。

 まず、同意のない性的行為の処罰についてお尋ねがありました。

 本法律案は、現行刑法の強制性交等罪や準強制性交等罪などについて、より明確で、判断のばらつきが生じない規定とするため、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」という文言を用いて統一的に整理をし、その状態の原因となり得る行為や事由を具体的に列挙することとするものであります。

 これにより、現行法の下でも本来なら処罰されるべき、同意していない性的行為がより的確に処罰されるようになると考えています。

 次に、性的行為の同意に関してお尋ねがありました。

 性犯罪の本質は、自由な意思決定が困難な状態で行われる性的行為を処罰することにあると考えられます。

 そこで、本法律案においては、性的行為に関する自由な意思決定の前提となる能力、具体的には、行為の性的意味を認識する能力や、相手方との関係において性的行為が自己に及ぼす影響を理解し対処する能力が十分備わっているとは言えない年齢として、いわゆる性交同意年齢を十三歳未満から十六歳未満に引き上げ、性犯罪の本質的な要素を、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」という文言を用いて統一的な要件とすることとしており、これにより、本来処罰されるべき、同意していない性的行為を的確に処罰し得ると考えています。

 次に、障害を有する方の意思形成を考慮した規定に改めるべきではないかとのお尋ねがありました。

 改正後の刑法第百七十六条第一項、第百七十七条第一項において各号に掲げる行為、事由は、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態かどうかの判断を容易かつ安定的に行い得るようにするため、そのような状態の原因となり得る行為、事由を列挙したものであり、それらに該当することをもって、同意しない意思の形成等が困難な状態であるとする趣旨ではありません。

 第二号の心身の障害があることという要件についても、これに該当するだけではなく、それが原因となって、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態という要件に該当することが犯罪の成立には必要なのであり、御指摘は当たらないと考えています。

 次に、地位、関係性を利用した性犯罪の処罰規定に関してお尋ねがありました。

 本法律案においては、例えば、経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させることにより、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせて性行為をすることを処罰対象としています。

 他方、この状態に陥っていないのに、一定の地位、関係性にある者が性的行為をしただけで処罰対象とするような明確かつ限定的な要件を設けることは困難であると考えられます。

 そのため、本法律案においては、ただいま答弁した処罰規定とは別に、御指摘のような規定を設けることとはいたしておりません。

 次に、性犯罪の保護法益を改めることに関してお尋ねがありました。

 強制性交等罪などの性犯罪の保護法益については、一般に、性的自由又は性的自己決定権と解されており、改正後の不同意わいせつ罪、不同意性交等罪についても同様と考えています。

 御指摘のように、性犯罪の保護法益を個人の尊厳や心身の完全性などと捉えることについては、それらの内容が明らかでなく、また、それらを侵害するのは性犯罪に限られず、他の犯罪においても侵害し得ることから、慎重な検討が必要であると考えています。

 次に、性犯罪に係る公訴時効期間を延長する期間についてお尋ねがありました。

 本法律案においては、性犯罪について、一般に、その性質上、被害申告が困難であり、類型的に被害が潜在化しやすいことを踏まえ、公訴時効期間を延長することとしています。

 そして、延長する期間については、一般的、類型的に、被害に遭ってからどれだけの期間がたてば被害を外部に表出できるようになるかを可能な限り実証的な根拠に基づいて定めるという観点から、内閣府の調査において、無理やりに性交等をされたことがあり、被害を誰かに相談した方のうち、被害に遭ってから相談するまでにかかった期間が五年以内であった方が大半であったことを踏まえ、五年としています。

 次に、性犯罪に係る公訴時効期間の延長に関する実情調査についてお尋ねがありました。

 本法律案においては、先ほど答弁したように、内閣府が実施した調査の結果を踏まえて公訴時効期間を延長することとしていますが、この調査の回答者には、被害に遭った当時に若年であった方も含むものと承知しています。

 また、法律案の作成に先立って行われた性犯罪に関する刑事法検討会や法制審議会の部会においては、幼少期における性的虐待の実情について知見を有する有識者が委員として参画したほか、若年時に被害に遭った性犯罪の被害当事者の方や性犯罪被害者に関する知見を有する専門家等からヒアリングを実施したものと承知しています。

 本法律案は、それらを通じて得られた知見を十分に踏まえつつ立案したものであります。

 次に、性犯罪に係る公訴時効を撤廃し又は公訴時効期間を大幅に延長することについてお尋ねがありました。

 現行法上、公訴時効の対象とならない罪は、侵害されると回復の余地のない、人の生命という究極の法益が侵害され、かつ、罪の重さを示す法定刑として最も重い死刑が定められている殺人罪等に限られています。

 性犯罪は、被害者の尊厳を著しく侵害し、その心身に長年にわたり重大な苦痛を与え続ける悪質な罪ですが、侵害されると回復の余地がない生命を侵害する罪とは異なり、罪の重さを示す法定刑に照らしても、死刑が定められている殺人罪等と同等とまでは言い難いことから、性犯罪に係る公訴時効を撤廃することは困難であると考えています。

 また、性犯罪に係る公訴時効期間をどの程度延長するかについては、先ほど申し上げたとおり、実証的な根拠に基づいて五年としているものであり、現時点において、これを超える期間延長を相当とすることの実証的な根拠が示されているとは言い難いことから、お尋ねのように大幅に延長することは困難であると考えています。

 次に、改正後の刑事訴訟法第三百二十一条の三の要件に関してお尋ねがありました。

 いわゆる伝聞証拠には原則として証拠能力が認められないこととされており、その理由については、一般に、伝聞証拠が供述内容の真実性を吟味、確保するための要素を欠くことにあるとされていますが、現行の刑事訴訟法においても、証拠としての必要性と信用性の情況的保障の強弱の兼ね合いにより、伝聞例外として証拠能力を認める要件が定められています。

 改正後の刑事訴訟法第三百二十一条の三において、性犯罪の被害者等の供述であるという証拠としての必要性に関する要件と、司法面接的手法の中核的な要素である所定の措置が特に取られたこと、聴取に至るまでの状況その他の事情を考慮し相当と認められること、聴取の全過程を録音、録画すること、訴訟関係人に証人尋問の機会を与えることという信用性の情況的保障に関する要件を定めることとしており、これらの要件の兼ね合いにより、証拠能力を認める要件として十分なものになっていると考えています。

 次に、改正後の刑事訴訟法第三百二十一条の三第一項の対象者の範囲についてお尋ねがありました。

 同条は、聴取を受けた者が更に公判期日において供述する場合に生ずる心理的、精神的負担の軽減を図るため、いわゆる司法面接的手法による聴取の結果を記録した録音、録画記録媒体を公判に顕出するための新たな伝聞例外を設けるものです。

 そして、このような負担軽減の必要性があり、かつ、司法面接的手法を用いることにより信用性が担保されるのは、性犯罪の被害者に限られるものではないと考えられます。

 そのため、対象者の範囲については、性犯罪の被害者に限らず、更に公判準備又は公判期日において供述するときは精神の平穏を著しく害するおそれがあると認められる者も対象とすることが必要かつ相当であり、これによって伝聞例外を不当に拡大するとの御指摘は当たらないと考えています。

 最後に、改正法の刑事訴訟法第三百二十一条の三第一項の聴取主体についてお尋ねがありました。

 司法面接的手法による聴取の結果を記録した録音、録画記録媒体の証拠能力の要件としては、聴取主体が誰であれ、司法面接的手法において求められている措置が取られたことこそが重要であり、かつ、それで足りると考えられます。

 その上で、お尋ねの冤罪の危険性の意味するところが必ずしも明らかではありませんが、その趣旨が捜査機関は中立でないため誘導的になりがちであるということであれば、供述の内容に不当な影響を与えないようにするために必要な措置が取られたかどうかは、録音、録画記録媒体を確認することによって判別可能であると考えられます。

 そのため、御指摘のように聴取主体を限定することは必要でなく、かつ、相当でもないと考えています。(拍手)

議長(細田博之君) これにて質疑は終了いたしました。

     ――――◇―――――

議長(細田博之君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後二時三十四分散会

     ――――◇―――――

 出席国務大臣

       法務大臣   齋藤  健君

       文部科学大臣 永岡 桂子君

       防衛大臣   浜田 靖一君

       国務大臣   小倉 將信君

       国務大臣   谷  公一君

 出席副大臣

       法務副大臣  門山 宏哲君


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