衆議院

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第一六四回

衆第一一号

   食料の国内生産及び安全性の確保等のための農政等の改革に関する基本法案

目次

 第一章 総則(第一条―第五条)

 第二章 国内の農業生産の確保等のための農政の改革に関する方針(第六条―第十六条)

 第三章 国内の漁業生産の確保のための水産行政の改革に関する方針(第十七条―第二十一条)

 第四章 食料の安全性及び消費者の安心の確保のための農政等の改革に関する方針(第二十二条・第二十三条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、将来における世界的な食料の供給の不足が予想される中で、食料の相当部分を輸入に依存している我が国において、必要な数量の農産物及び水産物の主たる部分を国内で生産できるようにすること及び食料の安全性を確保すること等が、国民が健全な食生活を送るために緊要な課題であることにかんがみ、食料の国内生産及び安全性の確保等のための農政等の改革について、その基本理念及び方針、国及び地方公共団体の責務その他の基本となる事項を定め、食料の国内生産及び安全性の確保等のための農政等の改革に関する施策を総合的に推進することにより、食料の国内生産及び安全性の確保等を図り、もって国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

 (基本理念)

第二条 食料の国内生産の確保のための農政等の改革は、国民に対し食料の安定的な供給を行うために、主要な農産物については、目標を定めてその生産の確保を図るとともに、水産物については、適切な資源管理を行うことによりその生産の確保を図ることを旨として行われなければならない。

2 食料の国内生産の確保のための農政等の改革は、農業及び水産業の有する農産物及び水産物の供給の機能以外の多面にわたる機能(以下「多面的機能」という。)に配意するとともに、農産物及び水産物の品質の向上を図ることを旨として行われなければならない。

3 食料の国内生産の確保のための農政の改革は、農業が将来にわたり国の根幹的な産業であるにもかかわらず、我が国と外国との生産条件に格差があること及び国内の他の産業と比較して生産性が低いことにかんがみ、国又は地方公共団体による必要な関与の下に農産物の生産の確保が図られることを旨として行われなければならない。

4 食料の国内生産の確保のための農政等の改革は、農産物及び水産物の生産の確保のために必要な措置について広く国民の理解が得られるよう、適切な情報の公開によりその透明性及び公正性が確保されることを旨として行われなければならない。

5 食料の安全性の確保のための農政等の改革は、農林水産物が食生活を通じて国民の健康の維持に大きな影響を及ぼすことにかんがみ、その安全性の確保が図られることを旨として行われなければならない。

 (国及び地方公共団体の責務)

第三条 国は、前条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、食料の国内生産及び安全性の確保等のための農政等の改革(以下「食料生産確保等の改革」という。)に関する施策を総合的に策定するとともに、生産者その他の関係者の協力を得つつ、その施策を実施する責務を有する。

2 地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携の下に、食料生産確保等の改革に関し、その地域の特性に応じた施策を策定するとともに、生産者その他の関係者の協力を得つつ、その施策を実施する責務を有する。

 (法制上の措置等)

第四条 国は、食料生産確保等の改革に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。

 (改革の実施時期)

第五条 食料生産確保等の改革は、平成十九年四月一日以降、できる限り速やかに、実施するものとする。

   第二章 国内の農業生産の確保等のための農政の改革に関する方針

 (食料自給率の目標)

第六条 国は、我が国の食料自給率については、食料として供給される熱量で、第八条第一項の生産数量の目標が設定された年度から起算して十年度を経過した年度においては五十パーセントに達するようにするとともに、将来においては六十パーセントに達するようにすることを目標とするものとする。

 (主要農産物)

第七条 この章の規定に基づいて講ずる施策の対象とする主要農産物は、次に掲げるものとする。

 一 米、小麦、大豆及び菜種

 二 前号に掲げる農産物以外の農産物であって、我が国の食料自給率の向上に資すると認められるものとして国が当該施策において定めるもの

 三 前二号に掲げる農産物以外の農産物であって、地域の農業の振興を図るため必要があると認められるものとして、地方公共団体の意見を踏まえて、国が当該施策において定めるもの

 (生産数量の目標)

第八条 国は、第六条の食料自給率の目標の達成に資するため、主要農産物について、その種類ごとに生産数量の目標を設定するものとする。

2 都道府県は、前項の国の生産数量の目標を踏まえ、主要農産物について、その種類ごとに当該都道府県の区域内における生産数量の目標を設定するものとする。

3 市町村は、前項の都道府県の生産数量の目標を踏まえ、主要農産物について、その種類ごとに当該市町村の区域内における生産数量の目標を設定するものとする。

4 国、都道府県及び市町村は、前三項の生産数量の目標を設定するに当たっては、農業者その他の関係者の意見を聴くものとするとともに、都道府県にあっては国と、市町村にあっては都道府県と必要な協議を行うものとする。

5 国、都道府県及び市町村は、第一項から第三項までの生産数量の目標を設定したときは、その達成に努めるものとする。

 (販売を行う農業者に対する直接支払の導入)

第九条 国及び地方公共団体は、我が国の食料自給率の向上に資するとともに、農業の有する多面的機能が将来にわたって適切かつ十分に発揮されるようにするため、我が国と外国との生産条件の格差の是正を図ることを目的として、販売に供する目的で主要農産物を計画的に生産する農業者について、直接支払(国又は地方公共団体の行う支出であって、その相手方の所得を補う目的を有するものをいう。以下同じ。)を行うものとする。

2 前項の直接支払は、主要農産物の種類ごとに標準的な販売価格と標準的な生産費との差額を基本としてその需要及び供給の動向を考慮して面積当たりの単価を定め、その単価を基にして同項の農業者に係る当該主要農産物の生産面積(別に法律で生産面積として定める面積をいう。以下同じ。)に応じて算定をした当該種類ごとの額を合算して得た額の交付金を、国及び地方公共団体が当該農業者に対して交付することにより、行うものとする。この場合において、当該交付金の額に係る当該算定に当たっては、生産面積の規模に応じた加算、品質に応じた加算及び当該生産が環境保全に資する度合に応じた加算を行うものとする。

3 第一項の直接支払の総額は、一年度当たりおおむね一兆円を目途とするものとする。

 (米の生産調整の廃止)

第十条 米の生産調整は、前条第一項の直接支払の実施の時に廃止するものとする。

 (農業集落に対する支援)

第十一条 国及び地方公共団体は、農業生産の維持・増進に資するとともに、農業及び農村の有する多面的機能が将来にわたって適切かつ十分に発揮されるようにするため、集落が行う農地、農業用の水路等の保全、管理等の取組を支援するために必要な施策を講ずるものとする。

 (農業への参入要件の緩和等)

第十二条 国は、農業生産力の増進を図るため、農業経営基盤強化促進法(昭和五十五年法律第六十五号)第四章の三に規定するもののほか、農用地区域(農業振興地域の整備に関する法律(昭和四十四年法律第五十八号)第八条第二項第一号に規定する農用地区域をいう。以下同じ。)以外の区域であって農業の振興を図る必要があると認められる区域において、耕作の継続を条件として、農業生産法人(農地法(昭和二十七年法律第二百二十九号)第二条第七項に規定する農業生産法人をいう。以下同じ。)以外の法人に農用地(農業経営基盤強化促進法第四条第一項第一号に規定する農用地をいう。)の貸付けをすることができるようにするために必要な施策を講ずるものとする。

第十三条 国は、農業生産力の増進を図るため、農業生産法人の要件について、その緩和のために必要な施策を講ずるものとする。

第十四条 国は、農業生産力の増進を図るため、農用地区域以外の区域であって農業の振興を図る必要があると認められる区域における農地法第三条の規定による許可については、同条第二項第五号に定める農地等に係る権利の取得のための最低限度の面積の要件の適用を除外するために必要な施策を講ずるものとする。

第十五条 国は、遊休農地(農業経営基盤強化促進法第五条第二項第四号ハに規定する遊休農地をいう。)について、同法第四章の二に規定するもののほか、農業上の利用を促進するために必要な施策を講ずるものとする。

 (食料の備蓄の推進)

第十六条 国は、凶作、輸入の途絶等の不測の要因により国内における需給が相当の期間著しくひっ迫し、又はひっ迫するおそれがある場合においても、国民生活の安定等に著しい支障を生じないよう、主要農産物であって主食としての役割を果たしているものについて、必要な数量の備蓄を行うものとする。

2 前項の備蓄は、一定の期間保有を続ける方式によるものとし、当該備蓄に係る主要農産物がその期間を経過したときは、飼料、バイオマス(生物に由来する有機物をエネルギー源その他の資源として利用することをいう。)その他の用途に利用するものとする。

   第三章 国内の漁業生産の確保のための水産行政の改革に関する方針

 (水産資源に関する調査及び研究)

第十七条 国は、水産資源の適切な保存及び管理に資するため、地方公共団体と連携し、水産資源の種類を定めて、我が国の周辺の海域等における水産資源に関する調査及び研究その他必要な施策を講ずるものとする。

 (漁獲限度量の割当て及び漁業権等の見直し)

第十八条 国は、水産資源の適切な保存及び管理に資するため、海洋生物資源の保存及び管理に関する法律(平成八年法律第七十七号)第十一条に規定するもののほか、水産物の種類を定めて、当該水産物の漁獲を行う漁業者について登録の制度を設け、その登録を受けた漁業者及び遊漁船業の適正化に関する法律(昭和六十三年法律第九十九号)第二条第三項に規定する遊漁船業者(以下「漁業者等」という。)に当該水産物の漁獲量の限度の割当てを行うことができるようにするために必要な施策を講ずるものとする。この場合において、国は、当該施策の実施に伴い収入の減少が生ずる漁業者等について、当該収入の減少に係る直接支払を行うものとする。

2 国は、前項の施策を実施する等のため、水産資源の適切な保存及び管理の観点から、漁業権等に関する制度について、必要な見直しを行うものとする。

 (漁場環境の保全)

第十九条 国は、水産資源の回復に資するため、藻場又は干潟の造成その他の漁場環境の保全のために必要な施策を講ずるものとする。

2 国は、水産資源の回復に資するため、水域の環境と密接な関係を有する地域の森林の保全及び整備のために必要な施策を講ずるものとする。

 (水産資源の保存及び管理のための輸入の制限等)

第二十条 国は、水産資源の適切な保存及び管理のため必要があると認めるときは、漁業者その他の関係者の意見を踏まえ、水産物の種類を定めて、その輸入の制限その他必要な施策を講ずるものとする。

 (漁業集落に対する支援)

第二十一条 国及び地方公共団体は、漁業生産の維持・増進を図るとともに、水産業及び漁村の有する多面的機能が将来にわたって適切かつ十分に発揮されるようにするため、集落が行う漁場の生産力の増進に関する取組を支援するために必要な施策を講ずるものとする。

   第四章 食料の安全性及び消費者の安心の確保のための農政等の改革に関する方針

 (加工食品等の原材料原産地の表示)

第二十二条 国は、食品の表示が消費者の選択及び食品の安全性の確保において重要な役割を果たしていることにかんがみ、その充実を図るため、加工食品(店舗等において提供される料理を含む。)の原材料の原産地(輸入された原材料にあっては、原産国)について、表示することが困難でない限り、その表示を行わせるために必要な施策を講ずるものとする。

 (輸入検疫体制の強化等)

第二十三条 国は、外国から輸入される食料について、国内で生産される食料と同等の安全性を確保するために必要な施策を講ずるものとする。

2 国は、食料の安全性の確保に資するため、外国から輸入される動植物について、家畜の伝染病のまん延又は有害な動植物の付着の防止のために必要な施策を講ずるものとする。

3 国は、食料の安全性の確保に資するため、我が国に食料を輸出する国と協定を締結し、職員を駐在させて、その国の農林水産物に関して必要な査察を行わせる等の必要な施策を講ずるものとする。

   附 則

 この法律は、公布の日から施行する。


     理 由

 将来における世界的な食料の供給の不足が予想される中で、食料の相当部分を輸入に依存している我が国において、必要な数量の農産物及び水産物の主たる部分を国内で生産できるようにすること及び食料の安全性を確保すること等が、国民が健全な食生活を送るために緊要な課題であることにかんがみ、食料の国内生産及び安全性の確保等のための農政等の改革の方針を定める等の必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

衆議院
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