衆議院

メインへスキップ



第一六四回

衆第一八号

   医療を受ける者の尊厳の保持及び自己決定に資する医療情報の提供、相談支援及び医療事故等の原因究明の促進等に関する法律案

目次

 第一章 総則(第一条―第七条)

 第二章 医療機関等に関する情報の提供(第八条―第十二条)

 第三章 診療に係る情報の提供等

  第一節 診療に関する説明等(第十三条―第十七条)

  第二節 診療記録の開示及び訂正等(第十八条―第二十五条)

  第三節 領収書の交付等(第二十六条)

  第四節 診療に係る情報の提供等に関する体制等の整備(第二十七条・第二十八条)

 第四章 相談支援(第二十九条・第三十条)

 第五章 安全な医療を確保するための体制の整備

  第一節 医療機関における体制の整備(第三十一条・第三十二条)

  第二節 医療事故等の報告(第三十三条)

 第六章 医療に関する評価(第三十四条・第三十五条)

 第七章 雑則(第三十六条―第四十条)

 第八章 罰則(第四十一条―第四十三条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、医療を受ける者に対し医療に関する情報がその者及びその家族にとって十分に納得することができる程度に提供されているとはいえない状況にあること、医療に係る相談に応じる体制が不十分であること、医療に係る事故等とこれに対する医療機関等の対応の在り方が問われる事態の相次ぐ発生等により医療に対する国民の信頼が低下しつつあること等にかんがみ、医療を受ける者に対する医療に関する情報の提供についての基本的な事項、医療を受ける者に対する相談支援に関し必要な事項、医療事故等の原因究明等安全な医療を確保するために必要な事項等について定めることにより、医療を受ける者の尊厳が保持され、医療を受ける者の理解と自己決定に基づいた良質かつ適切な医療の提供を促進し、もって我が国の医療の信頼性の確保及び向上と医療を受ける者の権利利益の擁護に資することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において「医療機関」とは、病院(医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第一条の五第一項に規定する病院をいう。以下同じ。)、診療所(同条第二項に規定する診療所をいう。以下同じ。)、介護老人保健施設(介護保険法(平成九年法律第百二十三号)第八条第二十五項に規定する介護老人保健施設をいう。)その他の医療を提供する機関であって厚生労働省令で定めるものをいう。

2 この法律において「医療機関の開設者等」とは、医療機関を開設した者(国の開設する医療機関その他の厚生労働省令で定める医療機関にあっては、厚生労働省令で定める者)をいう。

3 この法律において「医療機関の管理者」とは、医療機関を管理する者をいう。

4 この法律において「医療従事者」とは、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療業務に従事する者をいう。

5 この法律において「診療記録」とは、診療録、処方せん、検査記録、看護記録、エックス線写真その他の診療の過程において医療従事者が作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって厚生労働省令で定めるものをいう。

 (基本的理念)

第三条 医療は、医療を受ける者の人格と権利利益が尊重され、医療を受ける者と医療従事者との信頼関係の下に医療を受ける者の理解と自己決定に基づいて行われることを基本とするとともに、それが提供されるに当たっては、安全で、かつ、その時点における医療の水準及び医学に関する専門的科学的知見に照らして適切なものとなるよう最大限の配慮がなされなければならない。

第四条 医療に関する情報は、医療を受ける者の理解と自己決定に資するよう、適切に提供されるものとする。

2 医療を受ける者の診療に係る情報については、当該医療を受ける者の心身に関するものであることを踏まえ、個人の尊厳が重んぜられるべきとの理念の下に、その安全の確保に特に留意しつつ、適正な管理及び利用がなされるとともに、医療を受ける者と医療従事者との間で当該情報が共有化されるよう、当該情報に対する医療を受ける者の適切な関与につき配慮されなければならない。

 (医療機関及び医療従事者の責務)

第五条 医療機関及び医療従事者は、この法律の趣旨にのっとり、医療を受ける者の信頼を確保することに特に留意しつつ、自ら、医療に関する情報の適切な提供について積極的に取り組むとともに、全力を挙げて安全な医療を行うよう努めなければならない。

 (医療を受ける者の責務)

第六条 医療を受ける者は、医療がその理解と自己決定に基づいて行われるべきものであることを自覚して、医療従事者に協力しつつ、それにできる限り主体的に取り組むよう努めるものとする。

 (国及び地方公共団体の責務)

第七条 国及び地方公共団体は、医療に関する情報の適正かつ円滑な提供の促進及び安全かつ適正な医療の確保を図るために必要な各般の措置を講ずるとともに、医療を受ける者によりこの法律に定める権利等が適切に行使されるよう、それに関する国民の理解を深めるための教育及び啓発に努めるものとする。

   第二章 医療機関等に関する情報の提供

 (医療機関による情報の提供)

第八条 医療機関は、医療を受ける者の自己決定に資するため、適切な方法により、できる限り広く、その提供する医療の内容に関する情報、その有する人員、施設及び設備に関する情報その他の当該医療機関に関する情報を提供するよう努めなければならない。

 (都道府県知事への報告等)

第九条 医療機関の管理者(厚生労働省令で定める者を除く。以下この条において同じ。)は、厚生労働省令で定めるところにより、当該医療機関に関する次に掲げる事項を当該医療機関の所在地の都道府県知事に報告するとともに、当該事項を記載した書面を当該医療機関において閲覧に供しなければならない。

 一 医療従事者の員数及び医療従事者のうち医師、歯科医師その他厚生労働省令で定める医療従事者の氏名

 二 厚生労働省令で定める施設及び設備に関する事項

 三 過去五年間の入院患者及び外来患者の数その他の医療の提供の実績に関する事項として厚生労働省令で定める事項

 四 厚生労働省令で定める管理及び運営の状況に関する事項

 五 その他厚生労働省令で定める事項

2 医療機関の管理者は、前項の規定により報告した事項について変更が生じたときは、厚生労働省令で定めるところにより、速やかに、当該医療機関の所在地の都道府県知事に報告するとともに、同項に規定する書面の記載を変更しなければならない。

3 医療機関の管理者は、第一項の規定による書面の閲覧に代えて、厚生労働省令で定めるところにより、当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって厚生労働省令で定めるものにより提供することができる。

4 都道府県知事は、第一項又は第二項の規定による報告の内容を確認するために必要があると認めるときは、市町村その他の官公署に対し、当該都道府県の区域内に所在する医療機関に関し必要な情報の提供を求めることができる。

5 都道府県知事は、厚生労働省令で定めるところにより、第一項及び第二項の規定により報告された事項を公表しなければならない。

6 都道府県知事は、医療機関の管理者が第一項若しくは第二項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたときは、期間を定めて、当該医療機関の開設者等に対し、当該医療機関の管理者をしてその報告を行わせ、又はその報告の内容を是正させることを命ずることができる。

第十条 薬局開設者(薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)第四条第一項の許可を受けた者をいう。以下同じ。)は、厚生労働省令で定めるところにより、その開設した薬局(同法第二条第十一項に規定する薬局をいう。以下同じ。)に関する次に掲げる事項を当該薬局の所在地の都道府県知事に報告するとともに、当該事項を記載した書面を当該薬局において閲覧に供しなければならない。

 一 薬剤師の氏名

 二 過去五年間の取扱い処方せんの総数その他の調剤の実績に関する事項として厚生労働省令で定める事項

 三 その他厚生労働省令で定める事項

2 薬局開設者は、前項の規定により報告した事項について変更が生じたときは、厚生労働省令で定めるところにより、速やかに、当該薬局の所在地の都道府県知事に報告するとともに、同項に規定する書面の記載を変更しなければならない。

3 薬局開設者は、第一項の規定による書面の閲覧に代えて、厚生労働省令で定めるところにより、当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって厚生労働省令で定めるものにより提供することができる。

4 都道府県知事は、第一項又は第二項の規定による報告の内容を確認するために必要があると認めるときは、市町村その他の官公署に対し、当該都道府県の区域内に所在する薬局に関し必要な情報の提供を求めることができる。

5 都道府県知事は、厚生労働省令で定めるところにより、第一項及び第二項の規定により報告された事項を公表しなければならない。

6 都道府県知事は、薬局開設者が第一項若しくは第二項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたときは、期間を定めて、当該薬局開設者に対し、その報告を行い、又はその報告の内容を是正すべきことを命ずることができる。

 (掲示義務)

第十一条 医療機関の管理者は、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる事項について、当該医療機関内において医療を受ける者の見やすいように掲示しなければならない。

 一 当該医療機関に関する事項を記載した書類を閲覧することができる場合(第九条第三項の規定による提供を受けることができる場合を含む。)には、その旨及びその閲覧又は提供の方法

 二 患者は診療に際して受ける説明の概要を記載した書面の交付を医師又は歯科医師に対し求めることができる旨

 三 患者はその診療に係る診療記録の開示を請求することができる旨及び開示を受けた診療記録に記録されている当該患者に関する情報の内容に事実に関する誤りがあると認めるときはその訂正等を請求することができる旨並びにそれらの請求の方法

 四 患者は当該患者に係る医療に要した費用の内容の詳細な内訳を記載した書面の交付を申し出ることができる旨

 (医療機関に係る広告の規制の緩和)

第十二条 医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告できる事項を定めることの廃止その他の第八条の趣旨を踏まえた医療機関に係る広告についての事項、内容及び方法に関する規制を緩和するために必要な措置は、別に法律で定める。

   第三章 診療に係る情報の提供等

    第一節 診療に関する説明等

 (患者の理解と自己決定に基づいた医療の実施)

第十三条 医療従事者は、診療その他の医療の提供につき、患者に対して懇切丁寧に説明等を行い、患者からの求めに誠意をもって対応し、その他患者の立場に立ってその役務の提供を行うことにより、患者の理解と自己決定に基づいた医療を行うよう努めなければならない。

 (診療に関する説明)

第十四条 医師又は歯科医師は、診療に際し、患者(患者がその説明を理解することが困難な状態にあるときは、患者の家族その他患者を看護する者(以下「家族等」という。)。第三項及び第十七条第一項において同じ。)に対し、当該患者の心身の状況に応じつつ、適切な方法により、当該診療に関する次に掲げる事項について、十分に納得が得られるような説明を行うものとする。

 一 傷病名(その疑いがあると診断されたものを含む。)及び主要症状

 二 行おうとする治療又は検査の目的、方法及び予測される効果等(当該治療又は検査が患者の心身に対して負担又は危険を伴うおそれがあるものである場合にはその内容及び程度を、当該治療又は検査に代わり得る他の治療又は検査の方法がある場合にはその方法及びそれによることとしたときの予測される効果等の相違を、当該治療又は検査の内容に薬剤の投与が含まれる場合にはその薬剤の名称、効能、効果、特に注意すべき副作用等を、それぞれ含むものとする。)

 三 行おうとする治療又は検査を拒否できること(当該治療を行わないこととしたときに予測される当該患者の心身の状況を含む。)。

 四 自己において必要な診療を行うことが困難である場合その他必要な診療を他の医師又は歯科医師に行わせることが適当である場合には、その旨、その理由及び他の医師又は歯科医師に関する情報、他の医療機関に関する情報その他の当該患者が当該必要な診療を受けるために必要な事項

 五 その他診療に関する重要な事項

2 医師又は歯科医師は、前項の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当する場合においては、同項各号に掲げる事項の全部又は一部について、同項の説明を行わないことができる。

 一 緊急に診療を行う必要があるために前項の説明を行ういとまがない場合

 二 前項の説明を行うことが当該患者に対する治療の効果等に明らかに悪影響を及ぼすおそれがある場合

 三 前項の説明を受けることを希望しない旨の患者の意思の表明があった場合

 四 当該診療に関し説明すべき事項について既に説明が行われている場合

3 医師又は歯科医師は、第一項の説明について、患者から書面の交付を求められたときは、これを拒むことにつき正当な理由がある場合を除き、当該説明の概要を記載した書面を交付するものとする。

 (説明等と異なる診療又は適切でない診療が行われた場合の患者等に対する報告)

第十五条 医師又は歯科医師は、前条第一項の規定によりあらかじめ行われた説明の内容若しくはそれに基づいて決定された内容と異なる診療が行われた場合又は診療が適切に行われなかった場合には、できる限り速やかに、当該診療を受けた患者(患者が当該診療に関する報告を理解することが困難な状態にあるときは家族等、患者が当該診療に起因して死亡したときはその遺族)に対し、適切な方法により、その事実及び当該診療の概要(当該患者に生命若しくは身体の被害が生じた場合又はそれらの被害が生ずるおそれがある場合には、その概要及びそれに関して講じた措置又は講ずることが必要となると認められる措置を含む。)並びにそのような事態に至った経緯その他当該診療等に関しそれらの者に知らせるべき事項について、報告しなければならない。

 (説明及び報告に当たっての医療従事者間の連携)

第十六条 医師又は歯科医師による第十四条の規定による説明及び前条の規定による報告は、他の医療従事者との連携の下に、行われなければならない。

 (調剤に関する説明等)

第十七条 薬剤師は、薬局で調剤する場合であって、処方せんに薬剤師が複数の商品から選択して調剤することが可能となる内容の記載がされているときは、患者に対し、当該患者が調剤される商品を決定することができるよう、調剤することができるそれぞれの商品について、適切な方法により、十分に納得が得られるような説明を行うものとする。

2 薬局開設者は、薬剤師が前項の処方せんにより調剤したときは、当該処方せんを交付した医師又は歯科医師に対し、厚生労働省令で定めるところにより、調剤した商品の名称を通知するものとする。

    第二節 診療記録の開示及び訂正等

 (診療記録の開示)

第十八条 患者(患者であった者を含む。以下この節において同じ。)又はその遺族は、当該患者の診療に係る診療記録について、当該診療に係る医療機関の管理者(法令の規定により医療機関の管理者以外の者が保存することとされている診療記録については、当該法令の規定によりそれを保存することとされている者。以下この節において同じ。)に対し、その開示を請求することができる。

2 患者が未成年者又は成年被後見人であるときは、その法定代理人は、当該患者に代わって前項の規定による開示の請求(以下「開示請求」という。)をすることができる。ただし、当該開示請求をすることが当該患者の意思に反することが明らかである場合は、この限りでない。

3 前二項に規定する者のほか、患者の家族は、患者が診療記録に記録されている情報の内容について理解することが困難な状態にあるとき又は患者の同意があるときは、当該患者に代わって開示請求をすることができる。

第十九条 医療機関の管理者は、開示請求があったときは、当該開示請求をした者に対し、当該開示請求に係る診療記録(当該診療記録に当該開示請求に係る患者に関する情報以外の情報が記録されている場合には、当該患者に関する情報に係る部分に限る。第二十四条第一項及び第四節を除き、以下同じ。)を開示しなければならない。ただし、開示することにより次の各号のいずれかに該当する場合は、その全部又は一部を開示しないことができる。

 一 当該患者に対する治療の効果等に明らかに悪影響を及ぼすおそれがある場合その他当該患者の生命、身体その他の権利利益を著しく害するおそれがある場合

 二 第三者(当該患者及び当該医療機関の医療従事者以外の者をいう。)の権利利益を害するおそれがある場合

 (不開示等の通知)

第二十条 医療機関の管理者は、前条ただし書の規定に基づき開示請求に係る診療記録の全部若しくは一部を開示しないとき又は開示請求に係る診療記録を保存していないときは、当該開示請求をした者に対し、その旨を通知しなければならない。

 (開示又は通知の期限)

第二十一条 第十九条の規定による開示又は前条の規定による通知(次項において「開示又は通知」という。)は、開示請求があった日から七日以内に行うものとする。

2 医療機関の管理者は、事務処理上の困難その他正当な理由により前項に規定する期間内に開示又は通知をすることができないときは、同項に規定する期間内に、開示請求をした者に対し、同項の期間内に開示又は通知をすることができない理由及び開示又は通知の期限を通知するものとする。

 (開示の実施)

第二十二条 診療記録の開示は、文書又は図画については閲覧又は写しの交付により、電磁的記録については当該電磁的記録を出力することにより作成した書面の交付により行うものとする。

2 医療機関の管理者は、診療記録の開示を受ける者から、当該開示の実施に関し、実費の範囲内において、手数料を徴収することができる。

 (診療記録に記録されている情報の内容の訂正等)

第二十三条 患者は、第十九条の規定により開示を受けた診療記録に記録されている当該患者に関する情報の内容に事実に関する誤りがあると認めるときは、当該診療記録を保存する医療機関の管理者に対し、当該情報の内容の訂正、追加又は削除(以下「訂正等」という。)を請求することができる。

2 第十八条第二項及び第三項の規定は、前項の規定による訂正等の請求(以下「訂正等の請求」という。)について準用する。

第二十四条 医療機関の管理者は、訂正等の請求があった場合において、当該訂正等の請求に係る情報の内容についての事実に関する誤りがあると認めるときは、診療記録の作成及び保存の目的の達成に必要な範囲内において訂正等を行い、当該訂正等の請求をした者に対し、その旨及び訂正等の内容を通知しなければならない。

2 医療機関の管理者は、訂正等の請求に係る情報の内容について、訂正等を行わないときは、当該訂正等の請求をした者に対し、理由を示してその旨を通知するとともに、当該訂正等の請求に係る診療記録に、訂正等の請求があった旨及びその概要を記載し、又は記録しなければならない。

3 第一項の規定による訂正等及び通知又は前項の規定による通知及び記載若しくは記録(次項において「訂正等又は通知」という。)は、訂正等の請求があった日から三十日以内に行うものとする。

4 医療機関の管理者は、事務処理上の困難その他正当な理由により前項に規定する期間内に訂正等又は通知をすることができないときは、同項に規定する期間内に、訂正等の請求をした者に対し、同項の期間内に訂正等又は通知をすることができない理由及び訂正等又は通知の期限を通知するものとする。

 (開示等の請求を受け付ける方法)

第二十五条 医療機関は、開示請求及び訂正等の請求(以下この条において「開示等の請求」という。)に関し、厚生労働省令で定めるところにより、請求は書面によることとする等開示等の請求を受け付ける方法について定めることができる。この場合において、開示等の請求をする者は、当該方法に従って、請求をするものとする。

2 医療機関は、前項の規定に基づき開示等の請求を受け付ける方法を定めるに当たっては、必要最小限のものに限り、かつ、開示等の請求をする者に過重な負担を課するものとならないよう配慮しなければならない。

    第三節 領収書の交付等

第二十六条 医療機関は、患者に係る医療に要した費用につき支払が行われるに際し、厚生労働省令で定めるところにより、当該患者その他の当該費用の支払をする者に対し、その費用の内容の内訳が分かる領収書を交付するものとする。

2 医療機関(厚生労働省令で定めるものを除く。以下この項において同じ。)は、患者、その遺族その他前項の支払をする者から、当該患者に係る医療に要した費用の内容の詳細な内訳を記載した書面の交付の申出があったときは、厚生労働省令で定めるところにより、その書面を交付するものとする。この場合において、患者以外の者に対する書面の交付に際しては、医療機関は、当該患者の権利利益を害することとならないよう配意するものとする。

    第四節 診療に係る情報の提供等に関する体制等の整備

 (医療機関における診療に係る情報の管理、提供等に関する体制の整備)

第二十七条 医療機関は、診療記録の作成及び保存、診療に係る情報の提供等に関する具体的な指針の策定、それらに関する当該医療機関に勤務する医療従事者に対する教育、診療記録を管理する専任の者の配置その他の当該医療機関における診療に係る情報の適切な管理、提供等を行うために必要な体制の整備に努めなければならない。

 (診療記録等に関する制度の整備)

第二十八条 看護記録の作成等の義務付け、診療録等の保存期間の延長その他の診療記録に関する制度及び調剤録の保存期間の延長その他の調剤に係る記録に関する制度の整備に関し必要な事項は、別に法律で定める。

   第四章 相談支援

 (相談への対応)

第二十九条 医療機関及び医療従事者は、その提供する医療又はその医療に関する情報の提供に対する患者その他の者からの相談について、適切かつ迅速な対応に努めなければならない。

2 医療機関は、患者その他の者からの相談に適切かつ迅速に対応することができるようにするため、相談に応じるための窓口を設置する等の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

 (医療相談支援センター)

第三十条 都道府県は、二次医療圏(医療法第三十条の三第二項第一号に規定する区域をいう。)ごとに、次の事務を実施する施設(以下「医療相談支援センター」という。)を設置しなければならない。

 一 患者その他の者からの当該患者に対し行われた診療その他の医療又は第三章の規定による診療に関する説明、診療記録の開示その他の診療に係る情報の提供についての相談に応じること。

 二 必要に応じ、前号の相談をした者又は当該相談に係る医療機関の管理者に対して助言を行うこと。

2 都道府県は、医療相談支援センターの名称及び所在地を公示しなければならない。

3 都道府県は、民法(明治二十九年法律第八十九号)第三十四条の規定により設立された法人その他の厚生労働省令で定める者に対し、医療相談支援センターにおける業務を委託することができる。

4 医療相談支援センターの業務に従事する職員(前項の規定により委託を受けた者(その者が法人である場合にあっては、その役員)及びその職員を含む。)又はその職にあった者は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。

   第五章 安全な医療を確保するための体制の整備

    第一節 医療機関における体制の整備

 (医療機関における安全な医療の確保)

第三十一条 医療機関は、医療に係る事故の防止に関する具体的な指針の策定、当該医療機関に勤務する医療従事者の資質の向上等を図るための医療技術及び安全管理に関する研修の実施その他の当該医療機関において安全な医療を確保するために必要な措置を講じなければならない。

 (医療安全管理委員会)

第三十二条 病院、患者を入院させるための施設を有する診療所その他厚生労働省令で定める数以上の者を入所させるための施設を有する医療機関の開設者等は、当該医療機関に医療安全管理委員会を設置しなければならない。

2 医療安全管理委員会は、当該医療機関における次に掲げる事項について調査審議し、その結果に基づいて、当該医療機関の開設者等又は医療機関の管理者に対し、意見を述べるものとする。

 一 医療の提供の過程において発生した人の生命又は身体の被害が生じた事故及びそれらの被害が生ずるおそれがあったと認められる事態に関する事項

 二 医療に係る事故を防止するための対策に関する事項

 三 その他医療の安全管理に関する重要な事項

3 厚生労働省令で定める数以上の者を入院させ、又は入所させるための施設を有する医療機関の医療安全管理委員会の組織については、その中立性が確保されるよう、その委員のうち少なくとも一人以上は、当該医療機関に勤務する者以外の者でなければならないものとする。

    第二節 医療事故等の報告

第三十三条 医療機関の開設者等は、医療の提供の過程において患者の生命又は身体の被害が生じた事故及びそれらの被害が生ずるおそれがあったと認められる事態(以下「医療事故等」という。)が当該医療機関において発生したときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該医療事故等の発生した日時、当該医療事故等の概要その他の厚生労働省令で定める事項を当該医療機関の所在地を管轄する都道府県知事(診療所その他の厚生労働省令で定める医療機関にあっては、その所在地が地域保健法(昭和二十二年法律第百一号)第五条第一項の規定に基づく政令で定める市(以下「保健所を設置する市」という。)又は特別区にある場合においては、当該保健所を設置する市の市長又は特別区の区長。次項において同じ。)に報告しなければならない。

2 都道府県知事は、前項の規定により医療の提供の過程において患者の生命又は身体の被害が生じた事故の報告を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣に報告しなければならない。

3 前項の規定による保健所を設置する市の市長又は特別区の区長の厚生労働大臣に対する報告は、都道府県知事を経由して行わなければならない。

   第六章 医療に関する評価

 (医療技術評価の促進等)

第三十四条 国は、医療技術の普及及び医療の質の向上等に資するため、医療技術に関する情報の収集、評価、整理及び提供等が行われるための基盤の整備、医療技術に関する評価の方法の研究開発の推進、医療技術に関する評価に係る成果を普及させるための環境の整備その他医療技術に関する評価及びそれに係る成果の活用の促進に関し必要な施策を講ずるものとする。

2 医療機関その他の関係機関及び医療従事者その他の関係者は、国が講ずる前項の施策に協力するとともに、自主的かつ主体的に医療技術に関する評価及びそれに係る成果の活用に取り組むよう努めるものとする。

 (医療機関及び医療機関が提供する医療に関する評価の促進)

第三十五条 国は、良質かつ適切な医療の確保及び医療を受ける者の自己決定に資するため、この法律の公布の日後三年以内に医療機関及び医療機関が提供する医療に関する客観的な評価が行われる仕組みを整備するものとする。

2 国は、前項に規定する仕組みが医療機関によって活用され、及び同項に規定する評価に関する情報が医療を受ける者に対して提供されるようにするため、必要な施策を講ずるものとする。

3 医療法第四条第一項に規定する地域医療支援病院、同法第四条の二第一項に規定する特定機能病院その他これらの病院に準ずる病院であって厚生労働省令で定めるものは、第一項に規定する仕組みにより、当該病院及び当該病院が提供する医療について、客観的な評価を受けなければならない。

   第七章 雑則

 (往診医師等に対する規定の適用)

第三十六条 医療法第五条第一項に規定する医師又は歯科医師については、当該医師又は歯科医師を医療機関とみなして第二十六条の規定を適用し、当該医師又は歯科医師を医療機関の開設者等と、当該医師又は歯科医師の住所を医療機関の所在地とみなして第三十三条の規定を適用する。

2 前項に定めるもののほか、医療法第五条第一項に規定する医師又は歯科医師に対するこの法律の規定の適用について必要な事項は、厚生労働省令で定める。

 (事務の区分)

第三十七条 第三十三条第二項及び第三項の規定により都道府県、保健所を設置する市又は特別区が処理することとされている事務は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務とする。

 (国の開設する医療機関に関する特例)

第三十八条 国の開設する医療機関に関しては、この法律の規定の適用について、政令で特別の定めをすることができる。

 (経過措置)

第三十九条 この法律の規定に基づき厚生労働省令を制定し、又は改廃する場合においては、その厚生労働省令で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要と判断される範囲内において、所要の経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)を定めることができる。

 (厚生労働省令への委任)

第四十条 この法律に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

   第八章 罰則

第四十一条 第三十条第四項の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

第四十二条 第十一条の規定による掲示を怠り、又は虚偽の掲示をした者は、二十万円以下の罰金に処する。

第四十三条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して前条に規定する違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても同条の刑を科する。

   附 則

 (施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、第二十六条第一項の規定は、平成十八年十月一日から施行する。

 (医療事故等の調査の制度に関する検討)

第二条 政府は、医療の提供の過程において患者の生命又は身体の被害が生じた事故その他の医療事故等の調査に関する制度に関し、専門的な調査機関の創設その他の医療事故等の調査を行う体制の整備のための方策、その調査方法、医療の提供の過程において患者の生命又は身体の被害が生じた事故の所轄警察署への届出の制度の在り方その他の必要な事項について速やかに検討を加え、その結果に基づいて、法制の整備その他の必要な措置を講ずるものとする。

 (診療記録の開示に関する特例)

第三条 この法律の施行の日前に行われた診療につき作成され、又は取得された診療記録(当該診療に係る情報が記録されている部分に限る。以下この条において同じ。)の開示については、第十九条本文及び第二十二条第一項の規定にかかわらず、当該診療記録の閲覧若しくは写しの交付又は電磁的記録を出力することにより作成した書面の交付に代えて、当該診療記録に記録されている当該診療に係る情報の概要を記載した書面の閲覧又は交付により行うことができる。

2 診療記録の開示につき前項の規定に基づき診療記録に記録されている情報の概要を記載した書面の閲覧若しくは交付により行う場合又はそれにより行った場合における第三章第二節の規定の適用について必要な事項は、厚生労働省令で定める。

 (地方自治法の一部改正)

第四条 地方自治法の一部を次のように改正する。

  別表第一に次のように加える。

医療を受ける者の尊厳の保持及び自己決定に資する医療情報の提供、相談支援及び医療事故等の原因究明の促進等に関する法律(平成十八年法律第   号)

第三十三条第二項及び第三項の規定により都道府県、保健所を設置する市又は特別区が処理することとされている事務

 (沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律の一部改正)

第五条 沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律(昭和四十六年法律第百二十九号)の一部を次のように改正する。

  第百条第三項中「並びに第三十三条」の下に「並びに医療を受ける者の尊厳の保持及び自己決定に資する医療情報の提供、相談支援及び医療事故等の原因究明の促進等に関する法律(平成十八年法律第  号)第十四条から第十六条まで」を加え、「同法」を「医師法」に改め、同条第六項中「、医療法」を「医療法」に、「適用する」を「適用し、当該場所を医療機関とみなして医療を受ける者の尊厳の保持及び自己決定に資する医療情報の提供、相談支援及び医療事故等の原因究明の促進等に関する法律の医療機関に関する規定を適用する」に、「同法第七条第一項」を「医療法第七条第一項」に、「あるのは」を「あり、医療を受ける者の尊厳の保持及び自己決定に資する医療情報の提供、相談支援及び医療事故等の原因究明の促進等に関する法律第九条第一項第一号中「医師、歯科医師」とあり、同法第十一条第二号中「医師又は歯科医師」とあるのは」に改め、同条第七項中「前項後段」の下に「並びに医療を受ける者の尊厳の保持及び自己決定に資する医療情報の提供、相談支援及び医療事故等の原因究明の促進等に関する法律第三十六条」を加え、「行なう」を「行う」に、「同法」を「医療法」に改める。

  第百一条第二項中「並びに第三十一条」の下に「並びに医療を受ける者の尊厳の保持及び自己決定に資する医療情報の提供、相談支援及び医療事故等の原因究明の促進等に関する法律第十四条から第十六条まで」を加え、「同法」を「歯科医師法」に改める。

 (関係法律の整備等)

第六条 前三条に定めるもののほか、この法律の施行に伴い必要な関係法律の整備その他必要な事項は、別に法律で定める。


     理 由

 医療を受ける者に対し医療に関する情報がその者及びその家族にとって十分に納得することができる程度に提供されているとはいえない状況にあること、医療に係る相談に応じる体制が不十分であること、医療に係る事故等とこれに対する医療機関等の対応の在り方が問われる事態の相次ぐ発生等により医療に対する国民の信頼が低下しつつあること等にかんがみ、医療を受ける者の尊厳が保持され、医療を受ける者の理解と自己決定に基づいた良質かつ適切な医療の提供を促進するため、医療を受ける者に対する医療に関する情報の提供についての基本的な事項、医療を受ける者に対する相談支援に関し必要な事項、医療事故等の原因究明等安全な医療を確保するために必要な事項等について定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.