衆議院

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第一六六回

衆第三八号

   環境健康被害者等救済基本法案

目次

 前文

 第一章 総則(第一条−第十一条)

 第二章 基本的施策(第十二条−第二十二条)

 第三章 環境健康被害者等施策推進会議(第二十三条−第二十九条)

 附則

 健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受できる社会を実現することは、国民すべての願いであるとともに、国の重要な責務であり、我が国においては、社会経済活動その他の活動による環境汚染等により人の健康等に被害が生じることを防止するためのたゆみない努力が重ねられてきた。

 しかしながら、戦後の復興から経済繁栄を目指す過程で悲惨かつ不幸な幾多の環境汚染等の影響による健康被害が生じ、また、今日においても依然として生じている状況にある。それらに巻き込まれた環境汚染等による被害者等の多くは、原因の究明が困難であること等のため、長期間十分な支援を受けられず、社会において孤立することを余儀なくされてきている。このような、環境汚染等による被害者等の多大の苦難、生活の困窮及びこれらから派生する様々な支障に思いをいたすべきである。

 もとより、環境汚染等の影響による健康被害について第一義的責任を負うのは、環境汚染等の原因を作り出した者である。しかしながら、環境汚染等を防止し、健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受することのできる社会の実現に向けて、国においてもまた、環境汚染等による被害者等の声に耳を傾け、迅速な救済を図っていくことが重要であり、環境汚染等による被害者等の視点に立ってその権利利益の保護を図るための施策が講ぜられなければならない。さらに、国民の誰もが環境汚染等による被害者等となる可能性があり、自らの活動に伴って環境汚染等が生ずるおそれがあることにかんがみ、国民一人一人が環境汚染等の影響による健康被害等及びその防止に関する知識と理解を深めていくことが重要である。

 ここに、環境汚染等による被害者等の救済のための施策の基本理念を明らかにしてその方向を示し、国、地方公共団体及びその他の関係機関並びに民間の団体等の連携の下、環境汚染等による被害者等の救済のための施策を総合的かつ計画的に推進するため、この法律を制定する。

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、環境健康被害者等の救済のための施策に関し、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにするとともに、環境健康被害者等の救済のための施策の基本となる事項を定めること等により、環境健康被害者等の救済のための施策を総合的かつ計画的に推進し、もって環境健康被害者等の権利利益の保護を図ることを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において「環境健康被害」とは、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動又は悪臭(以下「環境汚染等」という。)の影響による健康被害をいう。

2 この法律において「環境健康被害等」とは、環境健康被害及び環境汚染等の影響により生ずる蓋然性が高いと認められる健康被害をいう。

3 この法律において「環境健康被害者等」とは、環境健康被害等を受けた者及びその家族又は遺族をいう。

4 この法律において「環境健康被害者等の救済のための施策」とは、環境健康被害者等が、その受けた被害を回復し、又は軽減し、再び平穏な生活を営むことができるよう救済するための施策をいう。

 (基本理念)

第三条 すべて環境健康被害者等は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する。

2 環境健康被害者等の救済のための施策は、環境健康被害等の状況及び原因、環境健康被害者等が置かれている状況その他の事情に応じて適切に講ぜられるものとする。

3 環境健康被害者等の救済のための施策は、環境健康被害者等が、環境健康被害等を受けたときから再び平穏な生活を営むことができるようになるまでの間、必要な支援を途切れることなく受けることができるよう、講ぜられるものとする。

4 事業者は、その事業活動に伴って環境汚染等を生じさせたときは、当該環境汚染等の影響による環境健康被害に係る損害を賠償する責任を負うものとする。

 (国の責務)

第四条 国は、前条の基本理念(次条において「基本理念」という。)にのっとり、環境健康被害者等の救済のための施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

 (地方公共団体の責務)

第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた環境健康被害者等の救済のための施策を策定し、及び実施する責務を有する。

 (事業者の責務)

第六条 事業者は、その事業活動を行うに当たっては、環境汚染等を防止し、環境健康被害が生じないよう必要な措置を講ずる責務を有する。

2 事業者は、その事業活動に関し、国又は地方公共団体が実施する環境健康被害者等の救済のための施策に協力する責務を有する。

 (国民の責務)

第七条 国民は、誰もが環境健康被害者等となる可能性があること及び自らの活動に伴って環境汚染等が生ずるおそれがあることにかんがみ、環境健康被害等及びその防止に関する知識と理解を深めるとともに、国及び地方公共団体が実施する環境健康被害者等の救済のための施策に協力するよう努めなければならない。

 (連携協力)

第八条 国、地方公共団体その他の関係機関、環境健康被害者等の援助を行う民間の団体その他の関係する者は、環境健康被害者等の救済のための施策が円滑に実施されるよう、相互に連携を図りながら協力しなければならない。

 (環境健康被害者等基本計画)

第九条 政府は、環境健康被害者等の救済のための施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、環境健康被害者等の救済のための施策に関する基本的な計画(以下「環境健康被害者等基本計画」という。)を定めなければならない。

2 環境健康被害者等基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。

 一 総合的かつ長期的に講ずべき環境健康被害者等の救済のための施策の大綱

 二 前号に掲げるもののほか、環境健康被害者等の救済のための施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項

3 内閣総理大臣は、環境健康被害者等基本計画の案につき閣議の決定を求めなければならない。

4 内閣総理大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、環境健康被害者等基本計画を公表しなければならない。

5 前二項の規定は、環境健康被害者等基本計画の変更について準用する。

 (法制上の措置等)

第十条 政府は、この法律の目的を達成するため、必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。

 (年次報告)

第十一条 政府は、毎年、国会に、政府が講じた環境健康被害者等の救済のための施策についての報告を提出しなければならない。

   第二章 基本的施策

 (相談及び情報の提供等)

第十二条 国及び地方公共団体は、環境健康被害者等が日常生活及び社会生活を円滑に営むことができるようにするため、環境健康被害者等が直面している各般の問題について相談に応じ、必要な情報の提供及び助言を行い、環境健康被害者等の援助に精通している者を紹介する等必要な施策を講ずるものとする。

 (損害賠償の請求についての援助等)

第十三条 国及び地方公共団体は、環境健康被害者等が受けた被害に係る損害賠償の請求の適切かつ円滑な実現を図るため、その請求を行う環境健康被害者等に対し、環境健康被害等に関して学識経験を有する者の紹介、環境健康被害等の原因を究明するための調査の結果の提供その他の援助を行うための制度を整備する等必要な施策を講ずるものとする。

 (救済給付に係る制度の整備等)

第十四条 国及び地方公共団体は、環境健康被害者等が受けた環境健康被害等による経済的負担の軽減を図るため、次に掲げる方針に従い、医療費その他環境健康被害者等の救済のために支給される給付(以下「救済給付」という。)を行うための制度を整備する等必要な施策を講ずるものとする。

 一 救済給付は、都道府県に置かれる環境健康被害者等認定審査会により環境健康被害者等としての認定がされた者に対し、民法(明治二十九年法律第八十九号)第三十四条の規定により設立された法人であって内閣総理大臣が指定するもの(第三号及び第五号において「指定機関」という。)が支給するものとすること。

 二 第二十二条の環境健康被害等基準策定等委員会は、環境健康被害等が生じたと認めたときは、前号の認定の基準を速やかに策定するものとすること。

 三 指定機関は、救済給付の支給に要する費用に充てるため環境健康被害等救済基金を設けるものとすること。

 四 前号の環境健康被害等救済基金は、国から交付された資金、地方公共団体から拠出された資金、次号の拠出金等の収入をもって充てるものとすること。

 五 指定機関は、救済給付の支給に要する費用に充てるため、環境健康被害に係る環境汚染等を生じさせた事業者から、拠出金を徴収するものとすること。

 (保健医療サービス及び福祉サービスの提供)

第十五条 国及び地方公共団体は、環境健康被害等及びこれに伴い心身に受けた影響から回復できるようにするため、その心身の状況等に応じた適切な保健医療サービス及び福祉サービスが提供されるよう必要な施策を講ずるものとする。

 (雇用の安定)

第十六条 国及び地方公共団体は、環境健康被害者等の雇用の安定を図るため、環境健康被害者等が置かれている状況について事業主の理解を深め、かつ、その協力を得るよう必要な施策を講ずるものとする。

 (国民の理解の増進)

第十七条 国及び地方公共団体は、教育活動、広報活動等を通じて、環境健康被害者等が置かれている状況、環境健康被害者等の名誉又は生活の平穏への配慮の重要性等について国民の理解を深めるよう必要な施策を講ずるものとする。

 (原因の調査)

第十八条 国及び地方公共団体は、環境汚染等の影響によるものと疑われる健康被害の発生を知った場合には、速やかに、その原因を究明するための調査を行うものとする。

2 国及び地方公共団体は、前項の調査を適確に行うことができるよう体制の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (調査研究の推進等)

第十九条 国及び地方公共団体は、環境健康被害者等に対し専門的知識に基づく迅速かつ適切な支援を行うことができるようにするため、環境汚染等が人の健康に及ぼす影響及び環境健康被害者等の健康を回復させるための方法等に関する調査研究の推進並びに国の内外の情報の収集、整理及び活用、環境健康被害者等の支援に係る人材の養成及び資質の向上等必要な施策を講ずるものとする。

 (民間の団体に対する援助)

第二十条 国及び地方公共団体は、環境健康被害者等に対して行われる各般の支援において環境健康被害者等の援助を行う民間の団体が果たす役割の重要性にかんがみ、その活動の促進を図るため、財政上及び税制上の措置、情報の提供、便宜の供与等必要な施策を講ずるものとする。

 (意見の反映及び透明性の確保)

第二十一条 国及び地方公共団体は、環境健康被害者等の救済のための施策の適正な策定及び実施に資するため、環境健康被害者等の意見を施策に反映し、当該施策の策定の過程の透明性を確保するための制度を整備する等必要な施策を講ずるものとする。

 (環境健康被害等基準策定等委員会の設置)

第二十二条 環境健康被害者等の救済のための施策が、科学的知見に基づき、客観的かつ中立公正に行われるようにするため、別に法律で定めるところにより、内閣府に、環境健康被害等の原因の究明その他の環境健康被害等に関する調査並びに第十四条第一号の認定の基準の策定及び同号の認定についての不服申立てに対する裁決等を行うための機関として環境健康被害等基準策定等委員会を設置するものとする。

2 前項の環境健康被害等基準策定等委員会には、立入調査の権限その他その所掌事務を遂行するために必要な権限を付与するものとする。

   第三章 環境健康被害者等施策推進会議

 (設置及び所掌事務)

第二十三条 内閣府に、特別の機関として、環境健康被害者等施策推進会議(以下「会議」という。)を置く。

2 会議は、次に掲げる事務をつかさどる。

 一 環境健康被害者等基本計画の案を作成すること。

 二 前号に掲げるもののほか、環境健康被害者等の救済のための施策に関する重要事項について審議するとともに、環境健康被害者等の救済のための施策の実施を推進し、並びにその実施の状況を検証し、評価し、及び監視すること。

 (組織)

第二十四条 会議は、会長及び委員十人以内をもって組織する。

 (会長)

第二十五条 会長は、内閣官房長官をもって充てる。

2 会長は、会務を総理する。

3 会長に事故があるときは、あらかじめその指名する委員がその職務を代理する。

 (委員)

第二十六条 委員は、次に掲げる者をもって充てる。

 一 内閣官房長官以外の国務大臣のうちから、内閣総理大臣が指定する者

 二 環境健康被害者等の救済に関し優れた識見を有する者のうちから、内閣総理大臣が任命する者

2 前項第二号の委員は、非常勤とする。

 (委員の任期)

第二十七条 前条第一項第二号の委員の任期は、二年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。

2 前条第一項第二号の委員は、再任されることができる。

 (資料提出の要求等)

第二十八条 会議は、その所掌事務を遂行するために必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができる。

2 会議は、その所掌事務を遂行するために特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。

 (政令への委任)

第二十九条 この章に定めるもののほか、会議の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。

   附 則

 (施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

 (一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の一部改正)

第二条 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成十八年法律第五十号)の一部を次のように改正する。

  第百六十八条の三の次に次の一条を加える。

  (環境健康被害者等救済基本法の一部改正)

 第百六十八条の四 環境健康被害者等救済基本法(平成十九年法律第▼▼▼号)の一部を次のように改正する。

   第十四条第一項第一号中「民法(明治二十九年法律第八十九号)第三十四条の規定により設立された法人」を「一般社団法人又は一般財団法人」に改める。

 (内閣府設置法の一部改正)

第三条 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)の一部を次のように改正する。

  第四条第二項中「推進」の下に「、環境健康被害者等の権利利益の保護」を加え、同条第三項第四十六号の三の次に次の一号を加える。

  四十六の四 環境健康被害者等基本計画(環境健康被害者等救済基本法(平成十九年法律第▼▼▼号)第九条第一項に規定するものをいう。)の作成及び推進に関すること。

  第四十条第三項の表中

自殺総合対策会議

自殺対策基本法

 を

自殺総合対策会議

自殺対策基本法

 

 

環境健康被害者等施策推進会議

環境健康被害者等救済基本法

 に改める。


     理 由

 環境健康被害者等が置かれている現状にかんがみ、環境健康被害者等の権利利益の保護を図るため、環境健康被害者等の救済のための施策に関し、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにするとともに、環境健康被害者等の救済のための施策の基本となる事項を定めること等により、環境健康被害者等の救済のための施策を総合的かつ計画的に推進する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

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