第一六八回
参第四号
特定肝炎対策緊急措置法案
目次
第一章 総則(第一条)
第二章 医療費の支給(第二条−第二十四条)
第三章 検討等(第二十五条−第二十八条)
附則
第一章 総則
(趣旨)
第一条 この法律は、ウイルス性肝炎のうちB型肝炎及びC型肝炎(以下「特定肝炎」という。)に係るウイルスへの感染について国の責めに帰すべき事由によりもたらされ、又はその原因が解明されていなかったことによりもたらされたものがあること並びに特定肝炎について重度の疾病への進展を防ぐことのできる有効な治療の方法が存在するにもかかわらず患者の経済的負担が過重であるために当該治療が十分に行われていないことにかんがみ、特定肝炎の対策に関し緊急に講ずべき措置として、特定肝炎の患者に対する医療費の支給の措置等を定めるものとする。
第二章 医療費の支給
(医療費の支給)
第二条 厚生労働大臣は、特定肝炎(特定肝炎が進行した状態にあるものとして厚生労働省令で定めるものを含む。以下同じ。)にかかり、かつ、当該特定肝炎についてインターフェロンを用いた治療として政令で定めるもの(以下「特定治療」という。)を受けることが適当である旨の認定を受けた者(以下「被認定者」という。)が、その認定に係る特定肝炎につき、第十一条第一項の規定により指定された機関(以下「指定医療機関」という。)であって次条第二項の規定により定められたもの(第五条第二項の規定により変更されたものを含む。以下同じ。)から特定治療及びこれに伴うその他の医療で政令で定めるもの(以下「特定治療等」という。)を受けたときは、当該被認定者に対し、その請求に基づき、医療費を支給する。
2 前項の医療費は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、同一の月に一の次条第二項の規定により定められた指定医療機関から受けた特定治療等に要する費用の額から、当該特定治療等につき、健康保険法(大正十一年法律第七十号)その他の政令で定める法律(以下「健康保険法等」という。)の規定により受け、又は受けることができた医療に関する給付の額を控除して得た額が、当該各号に定める額を超えるときに、その超える額に相当する額を支給するものとする。
一 次号及び第三号に掲げる場合以外の場合 一万円
二 被認定者に関して政令で定めるところにより算定した所得の額が政令で定める額以上である場合 二万円
三 被認定者に関して地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)の規定による市町村民税が課されない場合として政令で定める場合 零
3 前項の特定治療等に要する費用の額は、健康保険の療養に要する費用の額の算定方法の例により算定するものとする。ただし、現に要した費用の額を超えることができない。
4 第一項の医療費の支給を受けようとする被認定者は、厚生労働省令で定めるところにより、次条第二項の規定により定められた指定医療機関に特定肝炎患者健康手帳を提示して特定治療等を受けなければならない。ただし、緊急の場合その他やむを得ない事由のある場合については、この限りでない。
(認定等)
第三条 前条第一項の認定(以下「認定」という。)は、医療費の支給を受けようとする者の申請に基づき、厚生労働大臣が行う。
2 厚生労働大臣は、認定を行ったときは、指定医療機関の中から、当該被認定者が特定治療等を受けるものを定めるものとする。
3 厚生労働大臣は、認定を行ったときは、被認定者に対し、特定肝炎患者健康手帳を交付するものとする。
(認定の有効期間)
第四条 認定は、特定肝炎の種類等に応じて政令で定める期間(第六条第一項及び第二項において「有効期間」という。)内に限り、その効力を有する。
(指定医療機関の変更)
第五条 被認定者は、現に受けている認定に係る第三条第二項の規定により定められた指定医療機関について変更の必要があるときは、厚生労働大臣に対し、その変更を申請することができる。
2 厚生労働大臣は、前項の申請又は職権により、被認定者につき、同項の指定医療機関について変更の必要があると認めるときは、当該被認定者が特定治療等を受ける指定医療機関を変更することができる。
(認定の更新)
第六条 被認定者が当該認定に係る特定肝炎について有効期間の満了後においても引き続き特定治療を受けることが必要となる見込みがあるときは、当該被認定者は、厚生労働大臣に対し、認定の更新を申請することができる。
2 厚生労働大臣は、前項の規定による申請があった場合において、被認定者が当該申請に係る特定肝炎について有効期間の満了後においても引き続き特定治療を受けることが適当であると認めるときは、当該特定肝炎に係る認定を更新するものとする。
3 第四条の規定は、前項の規定により更新される認定について準用する。
(認定の取消し)
第七条 厚生労働大臣は、被認定者が当該認定に係る特定肝炎について特定治療を受けることが必要でなくなったと認めるときは、当該認定を取り消すものとする。
(学識経験者からの意見聴取)
第八条 厚生労働大臣は、認定、第六条第二項の規定による認定の更新及び前条の規定による認定の取消しを行おうとするときは、特定肝炎の治療に関する学識経験者の意見を聴くものとする。
(指定医療機関に対する医療費の支払等)
第九条 被認定者が、当該認定に係る特定肝炎について、第三条第二項の規定により定められた指定医療機関から特定治療等を受けた場合において、当該特定治療等について第二条第一項の医療費の支給を受けることができるときは、厚生労働大臣は、同項の医療費として当該被認定者に支給すべき額の限度において、その者が当該特定治療等に関し当該指定医療機関に支払うべき費用を、当該被認定者に代わり、当該指定医療機関に支払うことができる。
2 前項の規定による支払があったときは、当該被認定者に対し、第二条第一項の医療費の支給があったものとみなす。
3 健康保険法等の規定による被保険者又は組合員である被認定者が、当該認定に係る特定肝炎について第三条第二項の規定により定められた指定医療機関から特定治療等を受ける場合には、健康保険法等の規定により当該指定医療機関に支払うべき一部負担金については、同一の月に一の当該指定医療機関に支払うべき一部負担金の額のうち、第二条第二項各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額を超える額に相当する額は、健康保険法等の規定にかかわらず、当該特定治療等に関し厚生労働大臣が第一項の規定による支払をしない旨の決定をするまでは、支払うことを要しない。
第十条 厚生労働大臣は、前条第一項の規定による支払をなすべき額を決定するに当たっては、社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)に定める審査委員会、国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)に定める国民健康保険診療報酬審査委員会その他政令で定める医療に関する審査機関の意見を聴かなければならない。
2 国は、前条第一項の規定による支払に関する事務を社会保険診療報酬支払基金、国民健康保険団体連合会その他厚生労働省令で定める者に委託することができる。
(指定医療機関)
第十一条 厚生労働大臣は、健康保険法第六十三条第三項第一号に規定する保険医療機関又は保険薬局その他病院、診療所(これらに準ずるものを含む。)又は薬局で厚生労働省令で定めるものについて、その開設者の同意を得て、特定治療等を担当させる機関を指定する。
2 指定医療機関は、厚生労働大臣の定めるところにより、特定治療等を担当しなければならない。
3 指定医療機関は、特定治療等について、厚生労働大臣が行う指導に従わなければならない。
4 指定医療機関は、その指定を辞退しようとするときは、辞退の日の三十日前までに、厚生労働大臣にその旨を届け出なければならない。
5 指定医療機関が第二項又は第三項の規定に違反したときその他特定治療等を行うについて不適当であると認められるに至ったときは、厚生労働大臣は、その指定を取り消すことができる。
(緊急時等における医療費の支給の特例)
第十二条 厚生労働大臣は、被認定者が緊急その他やむを得ない理由により第三条第二項の規定により定められた指定医療機関以外の病院、診療所又は薬局その他の者から特定治療等を受けた場合において、その必要があると認めるときは、第二条第一項の規定にかかわらず、当該被認定者に対し、その請求に基づき、医療費を支給することができる。
2 第二条第二項及び第三項の規定は、前項の医療費について準用する。この場合において、同条第二項中「次条第二項の規定により定められた指定医療機関」とあるのは、「病院、診療所又は薬局その他の者」と読み替えるものとする。
3 第一項の医療費の支給の請求は、その請求をすることができる時から二年を経過したときは、することができない。
(医療費の免責)
第十三条 第二条第一項又は前条第一項の医療費(以下この章において単に「医療費」という。)の支給を受けることができる者に対し、同一の事由について、損害のてん補がされた場合においては、厚生労働大臣は、その価額の限度で医療費を支給する義務を免れる。
(他の法令による給付との調整)
第十四条 医療費は、被認定者に対し、当該認定に係る特定肝炎について、健康保険法等以外の法令(条例を含む。)の規定により特定治療等に関する給付が行われるべき場合には、その給付の限度において、支給しない。
(不正利得の徴収)
第十五条 偽りその他不正の手段により医療費の支給を受けた者があるときは、厚生労働大臣は、国税徴収の例により、その支給を受けた額に相当する金額の全部又は一部をその者から徴収することができる。
2 前項の規定による徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。
(受給権の保護)
第十六条 医療費の支給を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。
(公課の禁止)
第十七条 租税その他の公課は、医療費として支給を受けた金銭を標準として、課することができない。
(指定医療機関に対する報告の徴収等)
第十八条 厚生労働大臣は、第九条第一項の規定による指定医療機関に対する医療費の支払に関し必要があると認めるときは、指定医療機関の管理者に対して必要な報告を求め、又は当該職員に、指定医療機関についてその管理者の同意を得て、実地に診療録その他の帳簿書類(その作成又は保存に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)の作成又は保存がされている場合における当該電磁的記録を含む。)を検査させることができる。
2 前項の規定により検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人に提示しなければならない。
3 第一項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
4 厚生労働大臣は、指定医療機関の管理者が、正当な理由がなく第一項の規定による報告の求めに応ぜず、若しくは虚偽の報告をし、又は正当な理由がなく同項の同意を拒んだときは、当該指定医療機関に対する医療費の支払を一時差し止めることができる。
(診療を行った者等に対する報告の徴収等)
第十九条 厚生労働大臣は、認定又は医療費の支給に関し必要があると認めるときは、当該認定の申請に係る診断若しくは医療費に関する診療、薬剤の支給若しくは手当を行った者又はこれを使用する者に対し、その行った診断又は診療、薬剤の支給若しくは手当につき、報告若しくは診療録その他の物件の提示を求め、又は当該職員に質問させることができる。
2 前条第二項の規定は前項の規定による質問について、同条第三項の規定は前項の規定による権限について準用する。
(無症状ウイルス保有者に対する適用)
第二十条 この章の規定は、特定肝炎に係るウイルスを保有している者であって当該特定肝炎の症状を呈していないもの(第二十五条第一項において「無症状ウイルス保有者」という。)についても適用する。この場合において、必要な技術的読替えその他必要な事項は、政令で定める。
(都道府県が処理する事務)
第二十一条 この法律に規定する厚生労働大臣の権限に属する事務の一部は、政令で定めるところにより、都道府県知事が行うこととすることができる。
(権限の委任)
第二十二条 この法律に規定する厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、地方厚生局長に委任することができる。
2 前項の規定により地方厚生局長に委任された権限は、厚生労働省令で定めるところにより、地方厚生支局長に委任することができる。
(命令への委任)
第二十三条 この章に定めるもののほか、この章の規定の実施に関し必要な事項は、命令で定める。
(罰則)
第二十四条 第十九条第一項の規定により報告若しくは診療録その他の物件の提示を求められて、これに従わず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の規定による質問に対して、答弁せず、若しくは虚偽の答弁をした者は、二十万円以下の罰金に処する。
2 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、前項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、同項の刑を科する。
第三章 検討等
(検討及び法制上の措置等)
第二十五条 政府は、この法律の施行後速やかに、特定肝炎の患者(無症状ウイルス保有者を含む。以下同じ。)が特定治療以外の特定肝炎の治療を受けた場合における当該特定肝炎の患者に対する医療費の支給について検討を行い、その結果に基づいて必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
2 政府は、この法律の施行後三年以内に、この法律の施行の状況を勘案し、特定肝炎の対策に係る費用の負担の在り方その他総合的な特定肝炎の対策の在り方について検討を行い、その結果に基づいて必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
(調査及び研究)
第二十六条 政府は、前条第二項の検討に資するため、特定肝炎の対策に関する調査研究を推進するものとする。
(意見聴取)
第二十七条 政府は、第二十五条第一項及び第二項の検討を行うに当たっては、特定肝炎対策推進協議会の意見を聴くものとする。
(特定肝炎対策推進協議会)
第二十八条 厚生労働省に、前条に規定する事項を処理するため、特定肝炎対策推進協議会(以下「協議会」という。)を置く。
2 協議会は、委員二十人以内で組織する。
3 協議会の委員は、特定肝炎の患者及びその家族を代表する者、特定肝炎に係る医療に従事する者、学識経験者その他の者のうちから、厚生労働大臣が任命する。
4 協議会の委員は、非常勤とする。
5 前三項に定めるもののほか、協議会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(社会保険診療報酬支払基金法の一部改正)
第二条 社会保険診療報酬支払基金法の一部を次のように改正する。
第十五条第二項中「又は障害者自立支援法(平成十七年法律第百二十三号)第七十三条第三項」を「、障害者自立支援法(平成十七年法律第百二十三号)第七十三条第三項又は特定肝炎対策緊急措置法(平成十九年法律第▼▼▼号)第十条第一項」に、「又は障害者自立支援法第七十三条第四項」を「、障害者自立支援法第七十三条第四項又は特定肝炎対策緊急措置法第十条第二項」に改める。
(厚生労働省設置法の一部改正)
第三条 厚生労働省設置法(平成十一年法律第九十七号)の一部を次のように改正する。
第六条第二項中「がん対策推進協議会」を
「 |
がん対策推進協議会 |
|
|
特定肝炎対策推進協議会 |
」 |
に改める。
第十一条の三の次に次の一条を加える。
(特定肝炎対策推進協議会)
第十一条の四 特定肝炎対策推進協議会については、特定肝炎対策緊急措置法(平成十九年法律第▼▼▼号。これに基づく命令を含む。)の定めるところによる。
第十八条第一項中「第二十二号、第二十三号」を「第二十一号から第二十三号まで」に改める。
理 由
ウイルス性肝炎のうちB型肝炎及びC型肝炎に係るウイルスへの感染について国の責めに帰すべき事由によりもたらされ、又はその原因が解明されていなかったことによりもたらされたものがあること並びにB型肝炎及びC型肝炎について重度の疾病への進展を防ぐことのできる有効な治療の方法が存在するにもかかわらず患者の経済的負担が過重であるために当該治療が十分に行われていないことにかんがみ、B型肝炎及びC型肝炎の対策に関し緊急に講ずべき措置として、B型肝炎及びC型肝炎の患者に対する医療費の支給の措置等を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
この法律の施行に伴い必要となる経費
この法律の施行に伴い必要となる経費は、平年度約二百八十億円の見込みである。