第一七一回
衆第八号
消費者権利院法案
目次
第一章 総則(第一条・第二条)
第二章 組織
第一節 消費者権利官(第三条−第八条)
第二節 消費者権利官補(第九条)
第三節 消費者権利委員会(第十条−第十八条)
第四節 事務総局(第十九条)
第五節 地方消費者権利官及び地方消費者権利局(第二十条)
第六節 消費生活相談員(第二十一条−第二十六条)
第三章 権限
第一節 定義(第二十七条)
第二節 消費生活に関する相談及び苦情の処理のあっせん、情報収集及び商品試験、啓発及び教育等(第二十八条−第三十条)
第三節 消費者問題に係る資料の提出要求その他の調査(第三十一条−第三十四条)
第四節 消費者問題に係る処分等の勧告及びその公表(第三十五条・第三十六条)
第五節 消費者権利官の申立てによる裁判所の緊急命令
第一款 行為の禁止又は停止命令(第三十七条)
第二款 財産保全命令(第三十八条−第四十五条)
第三款 適格消費者団体に対する通知等(第四十六条・第四十七条)
第六節 消費者問題に係る訴訟援助(第四十八条・第四十九条)
第七節 消費者団体訴訟を追行する適格消費者団体の登録及び支援(第五十条)
第八節 国会等との関係(第五十一条・第五十二条)
第四章 補則(第五十三条−第五十七条)
第五章 罰則(第五十八条−第六十条)
附則
第一章 総則
(目的及び設置)
第一条 消費者基本法(昭和四十三年法律第七十八号)に定める消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念にのっとり、消費者の権利利益の擁護及び増進を図るため、内閣の所轄の下に、消費者権利院を置く。
(所掌事務)
第二条 消費者権利院は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 消費生活に関する相談、助言、調査及び苦情の処理のあっせんに関すること。
二 消費生活に関する情報収集、商品試験、調査研究及び情報提供に関すること。
三 消費者に対する啓発及び教育に関すること。
四 消費者問題に係る資料の提出要求その他の調査に関すること。
五 消費者問題に係る処分等の勧告及びその公表に関すること。
六 消費者問題に係る裁判所の緊急命令の申立てに関すること。
七 消費者問題に係る訴訟援助に関すること。
八 適格消費者団体の登録及び支援に関すること。
九 国会の要請による特定事項の調査及び報告に関すること。
十 国会及び内閣に対する意見の申出に関すること。
十一 前各号に掲げるもののほか、法律(法律に基づく命令を含む。)に基づき消費者権利院に属させられた事務
第二章 組織
第一節 消費者権利官
(消費者権利官)
第三条 消費者権利院の長は、消費者権利官とする。
2 消費者権利官は、消費者権利院の事務を統括し、その職員を指揮監督する。
(任命)
第四条 消費者権利官は、人格が高潔で、消費者の被害の防止及び救済のための業務に従事し、かつ、消費者の権利利益の擁護及び増進に関し優れた識見を有する者のうちから、国会の議決を経て、内閣が任命する。
2 消費者権利官の任期が満了し、又は消費者権利官が欠けた場合において、国会の閉会又は衆議院の解散のために国会の議決を経ることができないときは、内閣は、前項の規定にかかわらず、同項に定める資格を有する者のうちから、消費者権利官を任命することができる。
3 前項の場合においては、任命後最初の国会でその事後の承認を得なければならない。
4 消費者権利官の任免は、天皇がこれを認証する。
(任期)
第五条 消費者権利官の任期は、六年とする。
2 消費者権利官は、再任されることができない。
3 消費者権利官の任期が満了したときは、当該消費者権利官は、後任者が任命されるまで引き続きその職務を行うものとする。
(身分保障)
第六条 消費者権利官は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、在任中、その意に反して罷免されることがない。
一 禁錮 二 国会の議決により、心身の故障のため職務の執行ができないと認められたとき又は職務上の義務違反その他消費者権利官たるに適しない非行があると認められたとき。
三 第四条第三項の場合において、国会の事後の承認を得られなかったとき。
(罷免)
第七条 内閣は、消費者権利官が前条各号のいずれかに該当するときは、その消費者権利官を罷免しなければならない。
(服務等)
第八条 消費者権利官は、職務上知ることができた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、同様とする。
2 消費者権利官は、在任中、政党その他の政治的団体の役員となり、又は積極的に政治運動をしてはならない。
3 消費者権利官は、在任中、営利事業を営み、その他金銭上の利益を目的とする業務を行い、又は内閣の許可のある場合を除くほか、報酬を得て他の職務に従事してはならない。
4 消費者権利官の給与は、別に法律で定める。
第二節 消費者権利官補
第九条 消費者権利院に、消費者権利官補一人を置く。
2 消費者権利官補は、消費者権利官を助け、消費者権利官に事故があるとき又は消費者権利官が欠けたときは、その職務を行う。
3 前節(第三条及び第四条第四項を除く。)の規定は、消費者権利官補について準用する。
第三節 消費者権利委員会
(設置及び権限)
第十条 消費者権利院に、消費者権利委員会(以下この節において「委員会」という。)を置く。
2 次に掲げる事項は、委員会の議決を経なければならない。
一 消費者権利院規則の制定及び改廃
二 第三十四条第一項の規定による立入検査
三 第三十五条第一項の規定による勧告
四 第三十六条の規定による公表
五 第四十九条第一項の規定による訴訟参加
六 第五十二条第一項の規定による意見の申出
七 その他委員会の議決によりその議決を必要とされた事項
(組織)
第十一条 委員会は、委員五人をもって組織する。
2 委員は、消費者権利官及び消費者権利官補並びに審議委員三人をもって充てる。
(委員長)
第十二条 委員会に委員長を置き、消費者権利官をもって充てる。
2 委員長は、委員会の会務を総理し、委員会を代表する。
(審議委員の任命)
第十三条 審議委員は、消費者の権利利益の擁護及び増進に関し優れた識見を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣が任命する。
2 審議委員の任期が満了し、又は欠員が生じた場合において、国会の閉会又は衆議院の解散のために両議院の同意を得ることができないときは、内閣は、前項の規定にかかわらず、同項に定める資格を有する者のうちから、審議委員を任命することができる。
3 前項の場合においては、任命後最初の国会で両議院の事後の承認を得なければならない。
(審議委員の任期)
第十四条 審議委員の任期は、三年とする。ただし、補欠の審議委員の任期は、前任者の残任期間とする。
2 審議委員は、再任されることができる。
3 審議委員の任期が満了したときは、当該審議委員は、後任者が任命されるまで引き続きその職務を行うものとする。
(審議委員の身分保障)
第十五条 審議委員は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、在任中、その意に反して罷免されることがない。
一 禁錮以上の刑に処せられたとき。
二 委員会により、心身の故障のため職務の執行ができないと認められたとき又は職務上の義務違反その他審議委員たるに適しない非行があると認められたとき。
三 第十三条第三項の場合において、両議院の事後の承認を得られなかったとき。
(審議委員の罷免)
第十六条 内閣は、審議委員が前条各号のいずれかに該当するときは、その審議委員を罷免しなければならない。
(服務等に関する規定の準用)
第十七条 第八条の規定は、審議委員について準用する。
(会議)
第十八条 委員会の会議は、委員長が招集する。
2 委員会は、委員長及び二人以上の委員の出席がなければ、会議を開き、議決をすることができない。
3 委員会の議事は、出席者の過半数でこれを決し、可否同数のときは、委員長の決するところによる。
4 委員会が第十五条第二号の規定による認定をするには、前項の規定にかかわらず、本人を除く全員の一致がなければならない。
5 前各項に定めるもののほか、議事の手続その他委員会の運営に関し必要な事項は、消費者権利院規則で定める。
第四節 事務総局
第十九条 消費者権利院に、事務総局を置く。
2 事務総局に、事務総長一人、事務総局次長一人その他所要の職員を置く。
3 前項の職員の任免は、消費者権利官が行う。
4 前三項に定めるもののほか、事務総局の組織に関し必要な事項は、消費者権利院規則で定める。
第五節 地方消費者権利官及び地方消費者権利局
第二十条 消費者権利院の地方機関として、都道府県の区域ごとに地方消費者権利局を置く。
2 地方消費者権利局の長は、地方消費者権利官とする。
3 地方消費者権利官は、地域社会における消費生活の実情に通じ、消費者の権利利益の擁護及び増進について理解のある者のうちから、都道府県知事の意見を聴いて、消費者権利官が任命する。
4 地方消費者権利局の所掌事務の一部を分掌させるため、所要の地に、支局を置く。
5 地方消費者権利局及びその支局の名称、位置及び管轄区域は、消費者権利院規則で定める。
第六節 消費生活相談員
(設置)
第二十一条 事務総局及び地方消費者権利局に、消費生活相談員(以下「相談員」という。)を置く。
2 相談員は、その専門的な知識経験に基づいて、消費者の権利利益の擁護及び増進のための活動に従事し、消費者基本法に定める消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念の実現に貢献することをその職責とする。
3 消費者権利官は、前項の相談員の職責にかんがみ、これを遂行するのにふさわしい人材の確保及び養成に努めるとともに、その活動の充実を図るために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
(委嘱)
第二十二条 事務総局に置かれる相談員は、消費生活に関する消費者と事業者との間に生じた苦情に係る相談その他の消費生活に関する事項について専門的な知識経験を有する者として消費者権利院規則で定める条件に適合する者のうちから、消費者権利官が委嘱する。
2 地方消費者権利局に置かれる相談員は、前項に規定する条件に適合する者のうちから、当該都道府県の区域内の弁護士会及び適格消費者団体(消費者団体訴訟法(平成二十一年法律第▼▼▼号)第二条第三項に規定する適格消費者団体をいう。以下同じ。)の意見を聴いて、地方消費者権利官が委嘱する。
(定数)
第二十三条 各都道府県ごとの相談員の定数は、その地域の人口、経済その他の事情を考慮して、消費者権利院規則で定める。
2 相談員の定数は、全国を通じて一万人を超えないものとする。
(任期等)
第二十四条 相談員の任期は、十年とする。
2 相談員は、再任されることができる。
3 相談員の任期が満了したときは、当該相談員は、後任者が委嘱されるまで引き続きその職務を行うものとする。
4 相談員は、非常勤とする。
(職務)
第二十五条 相談員の職務は、次のとおりとする。
一 消費生活に関する相談に応じ、及び苦情の処理のあっせんを行うこと。
二 消費者に対する啓発及び教育に努めること。
三 その他消費者の権利利益の擁護及び増進に努めること。
(解嘱)
第二十六条 消費者権利官又は地方消費者権利官は、それぞれその委嘱に係る相談員が次のいずれかに該当するときは、その相談員を解嘱することができる。
一 心身の故障のため職務の執行ができないと認められるとき。
二 職務上の義務違反その他相談員たるに適しない非行があると認められるとき。
2 地方消費者権利官は、前項の規定により相談員を解嘱しようとするときは、あらかじめ、関係適格消費者団体の意見を聴かなければならない。
3 第一項の規定による解嘱は、当該相談員に、解嘱の理由が説明され、かつ、弁明の機会が与えられた後でなければ行うことができない。
第三章 権限
第一節 定義
第二十七条 この法律において「消費者問題」とは、事業者(法人その他の団体及び事業として又は事業のためにした行為が次の各号のいずれかに該当する場合における個人をいう。)による次に掲げる行為に起因する消費生活における問題であって、多数の消費者の生命、身体又は財産を不当に侵害する一切のものをいう。
一 消費者契約(消費者契約法(平成十二年法律第六十一号)第二条第三項に規定する消費者契約をいう。以下同じ。)の締結又はその勧誘における、詐欺、強迫、重要事実について事実と異なることを告げることその他の違法又は不当な行為
二 欠陥のある商品(不動産を含む。次号において同じ。)又は安全性が確保されていない役務を提供する行為
三 自己の供給する商品又は役務の取引について、事実と異なる表示をすることにより、当該商品又は役務が実際のものよりも著しく優良であり、又は著しく有利であると消費者に誤認させる行為
四 前三号に掲げるもののほか、消費者の権利利益の擁護に関する法令の規定に違反する行為その他の消費者の権利利益に重大な影響を及ぼす行為として消費者権利院規則で定めるもの
第二節 消費生活に関する相談及び苦情の処理のあっせん、情報収集及び商品試験、啓発及び教育等
(消費生活に関する相談、助言、調査及び苦情の処理のあっせん等)
第二十八条 消費者権利官は、消費生活に関する各般の問題について、相談に応じ、必要な助言を行うものとする。
2 消費者権利官は、消費生活に関し消費者と事業者との間に生じた苦情が適切かつ迅速に処理されるよう、必要な調査を行うとともに、苦情の処理のあっせんその他必要な措置を講ずるものとする。
(消費生活に関する情報収集及び商品試験等)
第二十九条 消費者権利官は、広く消費生活に関する情報を収集し、その整理及び分析を行うとともに、必要に応じて国民に対する情報の提供を行うものとする。
2 消費者権利官は、消費者からの苦情等に関する商品についての試験、検査等及び役務についての調査研究等を行い、必要に応じて試験、検査、調査研究等の結果を公表するものとする。
(消費者に対する啓発及び教育)
第三十条 消費者権利官は、消費者が自主的かつ合理的に行動することができるよう、消費生活に関する知識の普及、消費者契約に関する情報の提供その他消費者に対する啓発及び教育に努めなければならない。
第三節 消費者問題に係る資料の提出要求その他の調査
(資料の提出要求)
第三十一条 消費者権利官は、消費者問題による被害の発生若しくは拡大の防止又は救済のため必要があると認めるときは、国の行政機関の長、地方公共団体の長その他の者に対し、期限を定めて、報告又は資料の提出を求めることができる。
(報告義務)
第三十二条 国の行政機関の長又は地方公共団体の長は、消費者問題が発生し、又は発生するおそれのある事実があると認めるときは、当該事実について、消費者権利院規則で定めるところにより、消費者権利官に報告しなければならない。
(調査の要求)
第三十三条 消費者権利官は、消費者問題による被害の発生若しくは拡大の防止又は救済のため必要があると認めるときは、国の行政機関の長又は地方公共団体の長に対し、期限を定めて、調査を求めることができる。
2 消費者権利官は、国の行政機関の長又は地方公共団体の長に対し、前項の調査の経過について、報告を求め、又は意見を述べることができる。
3 国の行政機関の長又は地方公共団体の長は、第一項の調査を終了したときは、遅滞なく、消費者権利官に対し、当該調査の結果を報告しなければならない。ただし、期限内に報告することができないことについて正当な理由がある場合において、その理由及び報告することができる合理的な期限を明示したときは、この限りでない。
(報告及び検査)
第三十四条 消費者権利官は、消費者問題による被害の発生若しくは拡大の防止又は救済のため必要があると認めるときは、当該消費者問題に係る事業者に対し、必要な報告を求め、又はその職員に当該事業者の事務所その他の場所に立ち入り、帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
2 前項の規定により職員に立入検査をさせる場合においては、当該職員に身分を示す証明書を携帯させ、関係者に提示させなければならない。
3 第一項の規定による処分の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
第四節 消費者問題に係る処分等の勧告及びその公表
(処分等の勧告)
第三十五条 消費者権利官は、消費者問題が発生し、又は発生するおそれがある場合において、その被害の発生若しくは拡大の防止又は救済のため必要があると認めるときは、国の行政機関の長又は地方公共団体の長に対し、期限を定めて、事業者に対する処分等(法令の規定に基づいてされる行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第二号に規定する処分及び同条第六号に規定する行政指導をいう。)を行うべき旨の勧告を行うことができる。
2 前項の勧告を受けた国の行政機関の長又は地方公共団体の長は、当該勧告を受けた日から二十日以内に、消費者権利官に対し、当該勧告に係る措置を講ずるか否かを回答しなければならない。この場合において、当該国の行政機関の長又は地方公共団体の長が勧告に係る措置を講じない旨の回答をするときは、その理由を明示してしなければならない。
3 消費者権利官は、前項後段の理由を受諾することができないときは、第一項の勧告をした旨、前項後段の回答及びその理由並びに当該理由を受諾することができない旨を国会及び内閣総理大臣に報告するものとする。
(勧告の公表)
第三十六条 消費者権利官は、前条第一項の勧告をした場合において、当該消費者問題による被害の発生又は拡大の防止のため緊急の必要があると認めるときは、当該勧告をした旨及び当該勧告に係る事業者の名称その他勧告の内容を公表することができる。
第五節 消費者権利官の申立てによる裁判所の緊急命令
第一款 行為の禁止又は停止命令
第三十七条 裁判所は、消費者問題が発生し、又は発生するおそれがある場合において、当該消費者問題による被害の程度が著しく、かつ、緊急の必要があると認めるときは、消費者権利官の申立てにより、当該消費者問題に係る行為を行い、又は行おうとする事業者に対し、一月以内の期間を定めてその行為の禁止又は停止を命ずることができる。
2 裁判所は、前項の規定により発した命令を取り消し、又は変更することができる。
3 前二項の事件は、被申立人の住所地の地方裁判所の管轄とする。
4 第一項及び第二項の裁判については、非訟事件手続法(明治三十一年法律第十四号)の定めるところによる。
第二款 財産保全命令
(財産保全命令の申立て)
第三十八条 裁判所は、消費者問題により多数の消費者に生じた損害賠償請求権その他の金銭債権について、強制執行をすることができなくなるおそれ又は強制執行が著しく困難となるおそれがあり、かつ、緊急の必要があると認めるときは、消費者権利官の申立てにより、財産保全命令を発して、当該消費者問題に係る行為を行った者の財産につき、その処分を禁止することができる。
2 財産保全命令は、保全すべき債権(以下「対象債権」という。)及びその額を定め、特定の物について発しなければならない。ただし、動産については、目的物を特定しないで発することができる。
3 裁判所は、財産保全命令が確定したときは、速やかに、許可の決定の主文その他最高裁判所規則で定める事項を公告しなければならない。
4 前項の公告は、官報又は時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法その他不特定多数の者が公告すべき内容である情報を認識することができる状態に置く措置として最高裁判所規則で定める方法でしなければならない。
(対象債権等の届出)
第三十九条 対象債権に係る訴えを提起した債権者及び対象債権の債権者のために損害賠償等団体訴訟(消費者団体訴訟法第二条第二項に規定する損害賠償等団体訴訟をいう。)を提起した適格消費者団体は、前条第三項の公告の日から六月以内に、当該対象債権に係る財産保全命令を発した裁判所(以下「保全裁判所」という。)に対し、次に掲げる事項を届け出ることができる。
一 債権者又は適格消費者団体の氏名又は名称及び住所
二 当該訴えに係る債権の額及び原因
三 当該訴訟の係属する裁判所
四 前三号に掲げるもののほか、最高裁判所規則で定める事項
2 前項の届出には、訴訟の係属を証する書面その他最高裁判所規則で定める書類を添付しなければならない。
(届出債権表の作成)
第四十条 保全裁判所の裁判所書記官は、対象債権のうち前条第一項の届出があったものについて、届出債権表を作成しなければならない。
2 前項の届出債権表には、対象債権のうち前条第一項の届出があったものについて、同項第一号から第三号までに掲げる事項その他最高裁判所規則で定める事項を記載しなければならない。
3 届出債権表に誤りがあるときは、保全裁判所の裁判所書記官は、消費者権利官、前条第一項の届出をした者(以下「届出債権者等」という。)若しくは相手方の申立てにより又は職権で、いつでもその記載を更正する処分をすることができる。
(財産保全命令の取消し)
第四十一条 第三十九条第一項の期間内に同項の届出がなかったときは、保全裁判所は、相手方の申立てにより、財産保全命令を取り消さなければならない。
(届出債権表の記載の削除等)
第四十二条 保全裁判所は、届出債権表に記載されている債権の全部又は一部について、その不存在又は消滅が明らかであると認めるときは、消費者権利官又は届出債権者等の申立てにより、決定で、当該債権について、その記載を削除し、又は変更することができる。
2 保全裁判所は、前項の申立てに係る裁判をする場合には、消費者権利官、当該申立てをした届出債権者等及び削除又は変更に係る債権の届出債権者等を審尋しなければならない。
3 第一項の申立てを却下する決定に対しては、不服を申し立てることができない。
4 第一項の規定による届出債権表の記載を削除し、又は変更する決定に対しては、当該削除又は変更に係る債権の届出債権者等に限り、即時抗告をすることができる。
5 第一項の規定による届出債権表の記載を削除し、又は変更する決定が確定したときは、裁判所書記官は、当該決定の内容を届出債権表に記載しなければならない。
(財産保全命令の効力)
第四十三条 財産保全命令は、届出債権表に記載された届出債権者等のために、民事保全法(平成元年法律第九十一号)の規定による仮差押命令と同一の効力を有する。
(民事保全法の準用)
第四十四条 財産保全命令については、その性質に反しない限り、民事保全法中仮差押命令に関する規定を準用する。
(最高裁判所規則)
第四十五条 この法律に定めるもののほか、財産保全命令について必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
第三款 適格消費者団体に対する通知等
(適格消費者団体に対する通知)
第四十六条 消費者権利官は、第三十七条第一項若しくは第二項の規定による行為の禁止若しくは停止の命令に係る決定又は第三十八条第一項の規定による財産保全命令に係る決定が確定したときは、すべての適格消費者団体及び消費者権利官が電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法をいう。)を利用して同一の情報を閲覧することができる状態に置く措置その他の消費者権利院規則で定める方法により、適格消費者団体に対し、当該決定の内容その他消費者権利院規則で定める事項を伝達するものとする。
(裁判所の緊急命令に関する情報の公表)
第四十七条 消費者権利官は、消費者の被害の防止及び救済に資するため、第三十七条第一項若しくは第二項の規定による行為の禁止若しくは停止の命令に係る決定又は第三十八条第一項の規定による財産保全命令に係る決定が確定したときは、インターネットの利用その他適切な方法により、速やかに、当該決定の内容その他消費者権利院規則で定める事項を公表するものとする。
第六節 消費者問題に係る訴訟援助
(資料の閲覧及び謄抄本の交付)
第四十八条 消費者権利官は、消費者問題が発生した場合において、当該消費者問題の被害者又は適格消費者団体から、消費者権利官が保有する当該消費者問題に関する資料の閲覧又は謄本若しくは抄本の交付の申出があるときは、当該被害者の権利の行使のため必要があると認める場合その他正当な理由がある場合であって、関係者の権利利益その他の事情を考慮して相当と認めるときは、申出をした者にその閲覧をさせ、又はその謄本若しくは抄本を交付することができる。
2 消費者権利官は、前項の規定により資料の閲覧をさせ、又はその謄本若しくは抄本の交付をした場合において、当該被害者が当事者となっている当該消費者問題に関する請求に係る訴訟の相手方から、当該資料の閲覧又は謄本若しくは抄本の交付の申出があるときは、申出をした者にその閲覧をさせ、又はその謄本若しくは抄本を交付しなければならない。
3 前二項の規定により謄本又は抄本の交付を求めようとする者は、実費の範囲内において消費者権利院規則で定める額の手数料を納めなければならない。
4 消費者権利官は、経済的困難その他特別の理由があると認めるときは、消費者権利院規則で定めるところにより、前項の手数料を減額し、又は免除することができる。
(訴訟参加)
第四十九条 消費者権利官は、消費者問題が発生した場合において、当該消費者問題に係る行為の内容、性質その他の事情にかんがみ必要があると認めるときは、当該行為に関する請求に係る訴訟に参加することができる。
2 前項の規定による参加の申出については、民事訴訟に関する法令の規定中補助参加の申出に関する規定を準用する。
3 消費者権利官が第一項の規定による参加の申出をした場合において、当事者が当該訴訟における請求が当該消費者問題に係る行為に関するものでない旨の異議を述べたときは、裁判所は、参加の許否について、決定で、裁判をする。この場合においては、消費者権利官は、当該訴訟における請求が当該消費者問題に係る行為に関するものであることを疎明しなければならない。
4 前項の異議及び裁判については、民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第四十四条第二項及び第三項の規定を準用する。
5 第一項の規定により訴訟に参加した消費者権利官については、民事訴訟法第四十五条第一項及び第二項の規定(同条第一項の規定中上訴の提起及び再審の訴えの提起に関する部分を除く。)を準用する。
6 民事訴訟法第六十一条から第六十五条までの規定は、第三項の異議によって生じた訴訟費用の消費者権利官とその異議を述べた当事者との間における負担の関係及び第一項の規定による参加によって生じた訴訟費用の消費者権利官と相手方との間における負担の関係について準用する。
7 消費者権利官が参加人である訴訟における確定した訴訟費用の裁判は、国に対し、又は国のために、効力を有する。
第七節 消費者団体訴訟を追行する適格消費者団体の登録及び支援
第五十条 消費者権利官は、消費者団体訴訟法で定めるところにより、事業者に対し差止請求又は損害賠償請求を行う適格消費者団体の登録及び監督に関する事務を行うものとする。
2 消費者権利官は、適格消費者団体による消費者の被害の防止及び救済に関する業務の確実かつ効果的な実施のため、この法律及び消費者団体訴訟法で定めるところにより、適格消費者団体に対する情報の提供その他必要な支援を行うものとする。
第八節 国会等との関係
(国会の要請による特定事項の調査及び報告)
第五十一条 消費者権利官は、各議院の委員会又は参議院の調査会から国会法(昭和二十二年法律第七十九号)第百五条の二(同法第五十四条の四第一項において準用する場合を含む。)の規定による要請があったときは、当該要請に係る特定の事項について調査を実施し、その結果を報告することができる。
(法令の制定又は改廃に関する意見の申出)
第五十二条 消費者権利官は、消費者の権利利益の擁護及び増進を図るため、必要な法令の制定又は改廃に関し、国会及び内閣に意見を申し出ることができる。
2 内閣は、前項の意見を尊重しなければならない。
第四章 補則
(関係行政機関及び消費者団体等との連携)
第五十三条 消費者権利官は、この法律の運用に当たっては、捜査機関その他の関係行政機関、地方公共団体及び消費者団体その他の関係団体と、情報の共有その他の緊密な連携を図るよう努めなければならない。
2 地方消費者権利官は、地域社会の実情を踏まえ、消費者の被害の防止及び救済のための事務が適正かつ円滑に実施されるよう、地方公共団体の消費生活に関する業務を担当する部局と緊密な連絡を保ち、相互に協力しなければならない。
(国際的な連携)
第五十四条 消費者権利官は、消費生活における国際化の進展にかんがみ、消費者の権利利益の擁護に関する国際的な連携を図るよう努めなければならない。
(法務大臣の指揮等の例外)
第五十五条 消費者権利官がこの法律に規定する権限の行使に関して当事者又は参加人となる訴訟又は非訟事件については、国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律(昭和二十二年法律第百九十四号)第六条(同法第九条において準用する場合を含む。)の規定は、適用しない。
(権限の委任)
第五十六条 この法律に規定する消費者権利官の権限は、消費者権利院規則で定めるところにより、地方消費者権利官に委任することができる。
(規則制定権)
第五十七条 消費者権利官は、消費者権利院の内部規律その他所掌事務に関し必要な事項について消費者権利院規則を定めることができる。
第五章 罰則
第五十八条 第三十七条第一項又は第二項の規定による裁判所の命令に違反した者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第五十九条 法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めがあるものを含む。以下この条において同じ。)の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、同条の罰金刑を科する。
第六十条 第八条第一項(第九条第三項及び第十七条において準用する場合を含む。)の規定に違反して秘密を漏らした者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次条第一項、附則第三条第三項及び附則第七条の規定は、公布の日から施行する。
(経過措置)
第二条 第四条第一項の規定による消費者権利官の任命、第九条第三項において準用する第四条第一項の規定による消費者権利官補の任命及び第十三条第一項の規定による審議委員の任命に関し必要な行為は、この法律の施行前においても行うことができる。
2 この法律の施行の日(以下「施行日」という。)以後最初に任命される消費者権利官又は消費者権利官補の任命について、国会の閉会又は衆議院の解散のため国会の議決を経ることができないときは、第四条第二項及び第三項並びに第六条第三号の規定を準用する。
3 施行日以後最初に任命される審議委員の任命について、国会の閉会又は衆議院の解散のため両議院の同意を得ることができないときは、第十三条第二項及び第三項並びに第十五条第三号の規定を準用する。
4 施行日以後最初に任命される審議委員の任期は、第十四条第一項の規定にかかわらず、内閣の指定するところにより、一人は一年、一人は二年、一人は三年とする。
(独立行政法人国民生活センター法の廃止その他の措置)
第三条 独立行政法人国民生活センター法(平成十四年法律第百二十三号)は、廃止する。
2 独立行政法人国民生活センターは、施行日において解散するものとし、その資産及び債務は、その時において国が承継し、一般会計に帰属する。
3 前項に定めるもののほか、独立行政法人国民生活センターの解散に関し必要な事項は、別に法律で定める。
(国会法の一部改正)
第四条 国会法の一部を次のように改正する。
第五十四条の四第一項中「第百五条」の下に「、第百五条の二」を加える。
第六十九条第二項中「承認を得て」の下に「、消費者権利官」を加える。
第百五条の次に次の一条を加える。
第百五条の二 各議院の委員会は、審査又は調査のため必要があるときは、消費者権利官に対し、国民の消費生活に関する特定の事項について調査を行い、その結果を報告するよう求めることができる。
各議院の委員会は、その委員の五分の一以上から前項の報告を求めるよう要請があつたときは、その日から三十日を経過した日に、報告を求めるものとする。ただし、要請の日から七日以内に、委員会において報告を求めないものと議決したときは、この限りでない。
(国家公務員法の一部改正)
第五条 国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)の一部を次のように改正する。
第二条第三項第一号の次に次の一号を加える。
一の二 消費者権利官及び消費者権利官補
(特別職の職員の給与に関する法律の一部改正)
第六条 特別職の職員の給与に関する法律(昭和二十四年法律第二百五十二号)の一部を次のように改正する。
第一条第一号の次に次の一号を加える。
一の二 消費者権利官及び消費者権利官補
第一条第十一号の次に次の一号を加える。
十一の二 消費者権利委員会の審議委員
第四条第一項中「第一条第十二号」を「第一条第十一号の二」に改める。
別表第一内閣総理大臣の項の次に次のように加える。
消費者権利官 |
一、六五七、○○○円 |
別表第一官職名の欄中「検査官(会計検査院長を除く。)」を
「 |
消費者権利官補 |
|
|
検査官(会計検査院長を除く。) |
」 |
に、
「常勤の内閣総理大臣補佐官」を
「 |
常勤の内閣総理大臣補佐官 |
|
|
消費者権利委員会の審議委員 |
」 |
に改める。
(関係法律の整備)
第七条 附則第三条から前条までに定めるもののほか、この法律の施行に伴う関係法律の整備については、別に法律で定める。
理 由
消費者基本法に定める消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念にのっとり、消費者の権利利益の擁護及び増進を図るため、内閣の所轄の下に、消費者権利院を置く必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
本案施行に要する経費
本案施行に要する経費としては、約千億円の見込みである。