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第一七一回

参第一五号

   障がい者制度改革推進法案

目次

 第一章 総則(第一条−第三条)

 第二章 基本方針(第四条−第二十条)

 第三章 障がい者制度改革推進計画(第二十一条)

 第四章 障がい者制度改革推進本部(第二十二条−第三十三条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、障がい者(障害を有する者をいう。以下同じ。)の自立及び社会参加の支援等を一層推進するとともに、障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という。)において締約国が措置をとることとされている事項を達成するために、障がい者に係る制度の抜本的な改革と基盤の整備(以下「障がい者制度改革」という。)を行うことが緊要な課題であることにかんがみ、障がい者制度改革について、その基本的な理念及び方針並びに国の責務を定めるとともに、障がい者制度改革推進本部を設置すること等により、これを総合的かつ集中的に推進することを目的とする。

 (基本理念)

第二条 障がい者制度改革は、次に掲げる事項を基本として行われるものとする。

 一 障がい者に対する給付、手当等の根拠となる制度について、障がい者の自立及び社会参加のために必要な水準の給付、手当等が確保され、かつ、障がい者の意思が真に尊重されたものとすること。

 二 障がい者の日常生活及び社会生活の基盤について、障がい者の自立及び社会参加のために必要な整備を推進すること。

 三 障がい者がその権利を擁護され、かつ、差別を受けないようにすること等、障害者権利条約において締約国が措置をとることとされている事項を達成すること。

 四 何らかの障害により自立及び社会参加のために支援を必要とする者を広く施策の対象とするとともに、その者の年齢及び障害の状態に応じて必要な支援を的確に講ずること。

 (国の責務)

第三条 国は、前条に定める基本理念にのっとり、障がい者制度改革を推進する責務を有する。

   第二章 基本方針

 (障害者権利条約の実施状況の監視等を行う機関)

第四条 障害者権利条約に基づき実施する施策の実施状況を監視し、必要があると認めるときは関係行政機関の長に勧告する等のために、政府に新たに機関を置くものとする。

2 前項の機関を置くに当たっては、人権の保護及び促進のための国内機構の地位及び役割に関する原則を踏まえるものとする。

 (障害を理由とする差別等の禁止に係る制度)

第五条 障がい者に対し障害を理由として差別することその他の障がい者の権利利益を侵害する行為を禁止する新たな制度を設けるものとする。

 (障がい者に対する虐待の防止に係る措置)

第六条 障がい者に対する虐待の防止に係る措置について、虐待を受けた障がい者の迅速かつ適切な保護及び障がい者の介護者に対する適切な支援に係る措置を含め、障がい者に対する虐待の防止等の状況を踏まえ、必要な措置を講ずるものとする。

 (選挙等)

第七条 法律の定めるところにより行われる選挙、投票又は国民審査(以下この条において「選挙等」という。)において、障がい者が選挙等に参加できる機会を一層確保するため、障がい者が当該選挙に係る候補者に関する情報を容易に入手できるようにすること、障がい者が容易に投票できる体制を整備すること等の措置を講ずるものとする。

 (司法に係る手続)

第八条 司法に係る手続(犯罪捜査の段階における手続を含む。)について、当該手続における障がい者の権利の行使若しくは義務の履行を容易にし、又は障がい者が当該手続において障害を理由として不利益を被ることのないようにするため、障がい者と障がい者以外の者の意思疎通を仲介する者の配置を促進すること等の措置を講ずるものとする。

 (教育)

第九条 義務教育制度について、障がい者が障がい者以外の者と共に教育を受ける機会を確保することを基本とし、障がい者又はその保護者が希望するときは、特別支援学校又は特別支援学級における教育を受けることができるようにするものとする。

2 義務教育について、障がい者と障がい者以外の者の意思疎通を仲介する者の配置の促進、障がい者に係る教育に関する専門的知識を有する教員の充実等の人的体制の整備、障がい者が十分な教育を受けるために必要な学校の施設及び設備の充実、障がい者が使用するための教材の普及等の物的条件の整備その他の障がい者が教育を受ける環境の整備を行うものとする。

3 後期中等教育(中等教育のうち義務教育終了後に行われるものをいう。)、高等教育その他の義務教育以外の教育について、前二項の措置に準ずる措置を講ずるものとする。

 (障がい者が円滑に利用できる製品、施設等の普及等)

第十条 製品、環境、計画又はサービスが、調整又は特別な設計を必要とすることなく、最大限可能な範囲で障がい者等を含むすべての者が利用できるものとなるよう、これらの設計に係る研究開発を促進するとともに、その成果の普及のための措置を講ずるものとする。この場合において、製品、環境、計画又はサービスを当該設計に対応させることに伴う事業者の負担が軽減されるよう必要な支援を行うものとする。

2 障がい者の日常生活に適するような構造及び設備を備えた住宅の建築について必要な支援を行うものとする。

3 既存の交通施設その他の公共的施設について、障がい者が円滑に利用できるよう、その構造及び設備の整備等を支援するとともに、可能な限り、時限を付して当該整備等を義務付ける措置を講ずるものとする。

4 障がい者の移動又は施設の利用に係る身体の負担の軽減によりその移動上又は施設の利用上の利便性及び安全性の向上を図るため、障がい者が日常生活又は社会生活において利用する施設及び当該施設相互間の経路を構成する道路その他の施設の一体的な整備を一層推進するものとする。

 (情報の入手、利用等)

第十一条 障害の種類に応じた方法により、障がい者が国及び地方公共団体の事務に関する情報を容易に入手できるようにするとともに、障がい者に対し公共分野におけるサービスの利用に係る情報を積極的に提供するための措置を講ずるものとする。

2 電気通信及び放送その他の情報の提供に係る役務の提供並びに電子計算機及びその関連装置その他情報通信機器の製造等を行う事業者が当該役務の提供又は当該機器の製造等に当たって障がい者の利用の便宜を図ることを一層促進するものとする。

3 障がい者に対し災害情報が迅速かつ的確に伝達されるようにするための措置を講ずるものとする。

 (雇用等)

第十二条 障がい者の雇用を一層促進するため、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)に定める障害者雇用率について、その引上げ、その算定の基礎となる障がい者の範囲の拡大等を行うものとする。

2 障がい者と障がい者以外の者の意思疎通を仲介する者の配置の促進、障がい者が雇用されるのに伴い必要となる施設及び設備の整備その他の事業主による障がい者の雇用及びその継続のための措置を支援するものとする。

3 障がい者が自ら又は協同して事業を営むことその他雇用以外の就業形態により障がい者が就業することを促進するため、障がい者による起業を支援すること等の措置を講ずるものとする。

4 公契約(国等を当事者の一方とする契約で国等以外の者のする工事の完成若しくは作業その他の役務の給付又は物品の納入に対し国等が対価の支払をすべきものをいう。)の落札者を決定するに当たって、その入札者が障害者の雇用の促進等に関する法律第四十三条第一項の規定に違反していないこと、障害者自立支援法(平成十七年法律第百二十三号)第五条第十二項に規定する障害者支援施設その他の障がい者に就労の機会を提供する施設又は障がい者が従業者のうちに占める割合が高い事業所(次項において「障害者支援施設等」という。)から相当程度の物品等を購入していること等を総合的に評価する方式の導入について検討するものとする。

5 国等の物品、役務等の調達に関し、障害者支援施設等の受注の機会の増大を図るよう、国等が障害者支援施設等から物品等を優先的に調達する等のための措置を講ずるものとする。

 (所得保障)

第十三条 障害を支給事由とする年金の制度の在り方について、公的年金制度の抜本的な見直しの際に検討するものとする。

2 国民年金制度の発展過程において生じた特別な事情その他の事情により年金受給権を有しない障がい者に対する措置の在り方について、年金の支給を含め、公的年金制度の抜本的な見直しの際に検討するものとする。

3 障害を支給事由とする手当の支給に係る制度について、当該手当を就労による所得を補完するものと位置付けた上で、その支給対象を拡大し、かつ、その支給額を引き上げるものとする。

4 障がい者に対し賃貸住宅等における居住に要する費用に係る手当を支給する制度を設けるものとする。

 (障害福祉サービス等)

第十四条 障害者自立支援法その他の障がい者の福祉に関する法律を見直し、障害福祉サービス等に係る制度について、次に掲げる措置を講ずるものとする。

 一 障害者の定義について、何らかの障害により自立及び社会参加のために支援を必要とする者を広く含むものとすること。

 二 現行の障害の種類ごとの手帳制度を廃止し、障害の種類にかかわらず、障がい者に対する給付の支給決定に関する証明書を交付する制度を設けること。この場合において、現行の手帳制度からの移行が円滑になされるようにすること。

 三 障がい者に対する給付の支給決定に関する手続について、障がい者の意思が真に尊重されたものとするとともに、当該給付の内容について、障がい者が地域社会において自立した生活を営むのに十分なものとすること。

 四 障がい者の経済的負担の軽減を図るため、障がい者が障害福祉サービスを受けたときに要する費用に係る自己負担の額を障がい者の負担能力に応じたものとすること。

 五 障害福祉サービス等の措置について、障害の種類にかかわらず、一体的に位置付けること。

 (障がい児の福祉)

第十五条 障がい児(障害を有する児童をいう。以下この条において同じ。)の児童福祉施設への入所等に係る都道府県の事務について、市町村に権限を委譲するものとする。この場合において、市町村において障がい児の福祉に関する専門的知識を有する人材を確保し、その他必要な体制を整備するとともに、都道府県が市町村に対し必要な支援を行う体制を整備するための措置を講ずるものとする。

2 障がい児に係る児童福祉施設について、障がい児に必要な医療等を提供することができる施設の整備及び充実を図るとともに、障がい児が障害の種類及び程度にかかわらず地域において自立に必要な支援を受けることができる体制を整備するための措置を講ずるものとする。

 (医療)

第十六条 障がい者の経済的負担の軽減を図るため、障がい者がその心身の障害の状態の軽減を図り、自立した日常生活又は社会生活を営むために必要な医療を受けたときに要する費用に係る自己負担の額を障がい者の負担能力に応じたものとする措置を講ずるものとする。

2 病院又は診療所へ入院することなく行われる精神障害の医療と病院又は診療所へ入院して行われる精神障害の医療が連携のとれた制度とするとともに、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)の保護者に係る制度、都道府県知事による入院措置に係る制度等について、障がい者で精神に障害を有するものが地域社会において自立した生活を営むことができるようにする観点から見直すものとする。

 (難病対策)

第十七条 障害の原因となる難病について、その原因、予防及び治療に関する調査研究の体制を一層整備するとともに、長期の療養を必要とすること、病状の程度が重いこと等により医療を受けたときに要する費用が高額となる難病患者について、当該費用に係る負担の軽減を継続的に行う制度を設けるものとする。

 (障がい者のための施策に関する予算の確保)

第十八条 障がい者のための施策に関する国の予算の確保を図るため、我が国の国内総生産に対する障がい者のための施策に関する国の財政支出の比率を指標として、当該確保の目標を定めるものとする。

 (障害者権利条約において措置をとることとされているその他の事項)

第十九条 第四条から前条までのほか、障害者権利条約において締約国が措置をとることとされている事項について必要な措置を講ずるものとする。

 (法制上の措置等)

第二十条 政府は、第四条から前条までの基本方針に基づく施策を実施するため必要な法制上又は財政上その他の措置を講じなければならない。

   第三章 障がい者制度改革推進計画

第二十一条 政府は、障がい者制度改革に関し講ずべき措置について必要な計画(以下「障がい者制度改革推進計画」という。)を定めなければならない。

2 内閣総理大臣は、障がい者制度改革推進計画の案につき閣議の決定を求めなければならない。

3 内閣総理大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、障がい者制度改革推進計画を公表しなければならない。

4 前二項の規定は、障がい者制度改革推進計画の変更について準用する。

   第四章 障がい者制度改革推進本部

 (設置)

第二十二条 障がい者制度改革を総合的かつ集中的に推進するため、内閣に、障がい者制度改革推進本部(以下「本部」という。)を置く。

 (所掌事務)

第二十三条 本部は、次に掲げる事務をつかさどる。

 一 障がい者制度改革の推進に関する総合調整に関すること。

 二 障がい者制度改革推進計画の案の作成及び実施の推進に関すること。

 三 障がい者制度改革の総合的かつ集中的な推進のために必要な法律案及び政令案の立案に関すること。

 (組織)

第二十四条 本部は、障がい者制度改革推進本部長、障がい者制度改革推進副本部長及び障がい者制度改革推進本部員をもって組織する。

 (障がい者制度改革推進本部長)

第二十五条 本部の長は、障がい者制度改革推進本部長(以下「本部長」という。)とし、内閣総理大臣をもって充てる。

2 本部長は、本部の事務を総括し、所部の職員を指揮監督する。

 (障がい者制度改革推進副本部長)

第二十六条 本部に、障がい者制度改革推進副本部長(以下「副本部長」という。)を置き、国務大臣をもって充てる。

2 副本部長は、本部長の職務を助ける。

 (障がい者制度改革推進本部員)

第二十七条 本部に、障がい者制度改革推進本部員(以下「本部員」という。)を置く。

2 本部員は、本部長及び副本部長以外のすべての国務大臣をもって充てる。

 (障がい者制度改革推進委員会)

第二十八条 本部に、障がい者制度改革推進委員会(以下「委員会」という。)を置く。

2 委員会は、次に掲げる事務をつかさどる。

 一 障がい者制度改革推進計画の案に関し、本部長に意見を述べること。

 二 前号に掲げるもののほか、障がい者制度改革に関する事項について調査審議し、その結果に基づき、本部長に意見を述べること。

3 委員会は、委員二十人以内で組織する。

4 委員会の委員は、障がい者、障がい者の福祉に関する事業に従事する者及び学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する。この場合において、委員の構成については、委員会が様々な障がい者の意見を聴き障がい者の実情を踏まえた協議を行うことができることとなるよう、配慮されなければならない。

5 委員会の委員は、非常勤とする。

 (資料の提出その他の協力)

第二十九条 本部(委員会を含む。以下同じ。)は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関、地方公共団体、独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。)及び地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。)の長並びに特殊法人(法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人であって、総務省設置法(平成十一年法律第九十一号)第四条第十五号の規定の適用を受けるものをいう。)の代表者に対して、資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。

2 本部は、その所掌事務を遂行するために特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。

 (本部の事務)

第三十条 本部に関する事務は、内閣府において処理する。

 (設置期限)

第三十一条 本部は、その設置の日から起算して五年を経過する日まで置かれるものとする。

 (主任の大臣)

第三十二条 本部に係る事項については、内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣は、内閣総理大臣とする。

 (政令への委任)

第三十三条 この法律に定めるもののほか、本部に関し必要な事項は、政令で定める。

   附 則

 (施行期日)

1 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第四章及び次項の規定は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

 (内閣府設置法の一部改正)

2 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)の一部を次のように改正する。

  附則第二条の見出しを削り、附則第一条の次に次の見出し及び一条を加える。

  (所掌事務の特例)

 第一条の二 内閣府は、第四条に規定する事務のほか、障がい者制度改革推進法(平成二十一年法律第▼▼▼号)の定めるところにより内閣に置かれる障がい者制度改革推進本部の設置の日から起算して五年を経過する日までの間、同法第三十条の規定により内閣府が処理することとされている事務をつかさどる。


     理 由

 障がい者の自立及び社会参加の支援等を一層推進するとともに、障害者の権利に関する条約において締約国が措置をとることとされている事項を達成するために、障がい者制度改革を行うことが緊要な課題であることにかんがみ、障がい者制度改革を総合的かつ集中的に推進するため、その基本的な理念及び方針並びに国の責務を定めるとともに、障がい者制度改革推進本部を設置する等の必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。


   この法律の施行に伴い必要となる経費

 この法律の施行に伴い必要となる経費は、平年度約二億二千万円の見込みである。

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