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第一八〇回

参第一三号

   東京電力原子力事故の被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律案

 (目的)

第一条 この法律は、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故(以下「東京電力原子力事故」という。)により放出された放射性物質が広く拡散していること、当該放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていないこと等のため、一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住し、又は居住していた者及び政府による避難に係る指示により避難を余儀なくされている者並びにこれらの者に準ずる者(以下「被災者」という。)が、健康上の不安を抱え、生活上の負担を強いられており、その支援の必要性が生じていることに鑑み、被災者の生活支援等に関する施策(以下「被災者生活支援等施策」という。)の基本となる事項を定めることにより、被災者生活支援等施策を推進し、もって被災者の不安の解消及び安定した生活の実現に寄与することを目的とする。

 (基本理念)

第二条 被災者生活支援等施策は、東京電力原子力事故による災害の状況、当該災害からの復興等に関する正確な情報の提供が図られつつ、行われなければならない。

2 被災者生活支援等施策は、被災者一人一人が第七条の支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない。

3 被災者生活支援等施策は、被災者の東京電力原子力事故に係る放射線による健康上の不安が早期に解消されるよう最大限の努力がなされるものでなければならない。

4 被災者生活支援等施策を講ずるに当たっては、被災者に対するいわれなき差別が生ずることのないよう、適切な配慮がなされなければならない。

5 被災者生活支援等施策を講ずるに当たっては、子ども(胎児を含む。)が放射線による健康への影響を受けやすいことを踏まえ、子ども及び妊婦に対して特別の配慮がなされなければならない。

 (国の責務)

第三条 国は、原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護すべき責任を負っていることに鑑み、前条の基本理念にのっとり、被災者生活支援等施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

 (法制上の措置等)

第四条 政府は、被災者生活支援等施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。

 (汚染の状況についての調査等)

第五条 国は、被災者の生活支援等の効果的な実施に資するため、東京電力原子力事故に係る放射性物質による汚染の状況の調査について、東京電力原子力事故により放出された可能性のある放射性物質の性質等を踏まえつつ、当該放射性物質の種類ごとにきめ細かく、かつ、継続的に実施するものとする。

2 国は、被災者の第二条第二項の選択に資するよう、前項の調査の結果及び環境中における放射性物質の動態等に関する研究の成果を踏まえ、放射性物質による汚染の将来の状況の予測を行うものとする。

3 国は、第一項の調査の結果及び前項の予測の結果を随時公表するものとする。

 (除染の継続的かつ迅速な実施)

第六条 国は、前条第一項の調査の結果を踏まえ、放射性物質により汚染された土壌等の除染等の措置を継続的かつ迅速に実施するため必要な措置を講ずるものとする。

 (支援対象地域で生活する被災者への支援)

第七条 国は、支援対象地域(その地域における放射線量が政府による避難に係る指示が行われるべき基準を下回っているが一定の基準以上である地域をいう。以下同じ。)で生活する被災者を支援するため、医療の確保に関する施策、子どもの就学等の援助に関する施策、食の安全及び安心の確保に関する施策、生活上の負担を軽減するための地域における取組の支援に関する施策、自然体験活動等を通じた心身の健康の保持に関する施策その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (支援対象地域以外の地域で生活する被災者への支援)

第八条 国は、支援対象地域から移動して支援対象地域以外の地域で生活する被災者を支援するため、支援対象地域からの移動の支援に関する施策、移動先における住宅の確保に関する施策、移動先における就業の支援に関する施策、移動先の地方公共団体による役務の提供を円滑に受けることができるようにするための施策、支援対象地域の地方公共団体との関係の維持に関する施策その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (支援対象地域以外の地域から帰還する被災者への支援)

第九条 国は、前条に規定する被災者で当該移動前に居住していた地域に再び居住するもの及びこれに準ずる被災者を支援するため、当該地域への移動の支援に関する施策、当該地域における住宅の確保に関する施策、当該地域における就業の支援に関する施策、当該地域の地方公共団体による役務の提供を円滑に受けることができるようにするための施策その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (避難指示区域から避難している被災者への支援)

第十条 国は、政府による避難に係る指示の対象となっている区域から避難している被災者を支援するため、特定原子力事業者(原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号)第三条第一項の規定により東京電力原子力事故による損害の賠償の責めに任ずべき原子力事業者(同法第二条第三項に規定する原子力事業者をいう。)をいう。第十七条において同じ。)による損害賠償の支払の促進等資金の確保に関する施策(当該区域における土地等の取扱いに関するものを含む。)その他の必要な施策を講ずるものとする。

2 国は、前項に規定する被災者で当該避難前に居住していた地域に再び居住するもの及びこれに準ずる被災者を支援するため、前条の施策に準じた施策を講ずるものとする。

 (措置についての情報提供)

第十一条 国は、第七条から前条までの施策に関し具体的に講ぜられる措置について、被災者に対し必要な情報を提供するための体制整備に努めるものとする。

 (放射線による健康への影響に関する調査、医療の提供等)

第十二条 国は、東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響に関する調査、当該放射線による被ばくに起因する健康被害が将来発生した場合に必要となる医療の提供その他の必要な措置を講ずるための体制整備の支援に努めるものとする。

 (調査研究等及び成果の普及)

第十三条 国は、低線量被ばくの人の健康への影響等に関する調査研究及び技術開発(以下この条及び次条において「調査研究等」という。)を推進するため、調査研究等を自ら実施し、併せて調査研究等の民間による実施を促進するとともに、その成果の普及に関し必要な施策を講ずるものとする。

 (国際的な連携協力)

第十四条 国は、調査研究等の効果的かつ効率的な推進を図るため、低線量被ばくの人の健康への影響等に関する高度の知見を有する外国政府及び国際機関との連携協力その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (研究業績等の顕彰)

第十五条 国は、低線量被ばくの人の健康への影響等に関する国際的に卓越した研究業績を挙げた者及び被災者に対する支援活動に関する顕著な功績があった者の顕彰に努めるものとする。

 (国民の理解)

第十六条 国は、被災者生活支援等施策に関する国民の理解を深めるため、学校教育及び社会教育における放射線に関する学習の機会の提供に関する施策その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (損害賠償との調整)

第十七条 国は、被災者生活支援等施策の実施に要した費用のうち特定原子力事業者に対して求償すべきものについて、適切に求償するものとする。

   附 則

 (施行期日)

1 この法律は、公布の日から施行する。

 (見直し)

2 国は、第五条第一項の調査その他の放射線量に係る調査の結果に基づき、毎年支援対象地域等の対象となる区域を見直すものとする。


     理 由

 平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質が広く拡散していること、当該放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていないこと等のため、一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住し、又は居住していた者及び政府による避難に係る指示により避難を余儀なくされている者並びにこれらの者に準ずる者が、健康上の不安を抱え、生活上の負担を強いられており、その支援の必要性が生じていることに鑑み、これらの者の生活支援等に関する施策を推進し、当該者の不安の解消及び安定した生活の実現に寄与するため、当該施策の基本となる事項を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

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