衆議院

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第一八〇回

参第三四号

   防災・減災体制再構築推進基本法案

目次

 第一章 総則(第一条−第五条)

 第二章 防災・減災総点検(第六条−第十四条)

 第三章 防災・減災体制再構築推進基本計画等(第十五条−第二十条)

 第四章 基本的施策(第二十一条−第四十五条)

 第五章 防災・減災体制再構築推進本部(第四十六条−第五十五条)

 第六章 危機管理庁の設置に関する基本方針(第五十六条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、大規模な地震、豪雨その他の大規模かつ異常な自然現象により生ずる被害(以下「大規模自然災害」という。)に対処する必要性に鑑み、防災・減災体制再構築の推進に関し、基本理念を定め、国及び地方公共団体の責務を明らかにし、並びに防災・減災総点検、防災・減災体制再構築推進基本計画その他防災・減災体制再構築の推進に関する施策の基本となる事項を定めるとともに、防災・減災体制再構築推進本部を設置すること等により、防災・減災体制再構築の推進に関する施策を総合的かつ集中的に推進し、もって大規模自然災害から国民の生命、身体及び財産並びに国土を保護し、あわせて国民経済の発展に資することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において「防災・減災」とは、大規模自然災害の発生の防止又は大規模自然災害が発生した場合における被害の軽減をあらかじめ図ることをいう。

2 この法律において「防災・減災体制再構築」とは、従来の防災行政の在り方について見直しを行い、防災・減災のために必要な地域における体制の整備及び社会資本等の整備を行うことをいう。

3 この法律において「防災・減災総点検」とは、我が国における社会資本等の大規模自然災害に対する安全性の実情(経年劣化に関する技術的評価を含む。以下同じ。)を明らかにするとともに、防災・減災体制再構築推進基本計画の策定その他防災・減災体制再構築の推進に関する施策の企画及び立案に必要な資料を得るために行う科学的かつ総合的な点検をいう。

 (基本理念)

第三条 防災・減災体制再構築の推進は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。

 一 東日本大震災において、地震及び津波に対する対策が講じられていたにもかかわらず甚大な被害が生じたことに鑑み、従来の防災行政の在り方について見直し、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震の最大の震度若しくは首都直下地震(東京圏及びその周辺の地域における地殻の境界又はその内部を震源とする大規模な地震をいう。第七条第四項において同じ。)若しくは南海トラフ巨大地震(駿河湾から遠州灘、熊野灘、紀伊半島の南側の海域及び土佐湾を経て日向灘沖までの地域並びにその周辺の地域における地殻の境界における極めて広い領域を震源とする大規模な地震をいう。第七条第四項において同じ。)において想定される最大の震度に相当する震度の地震若しくは当該地震による津波又は平成二十三年台風第十二号による豪雨若しくは平成二十四年七月九州北部豪雨における降水量に相当する降水量の豪雨による被害その他科学的知見に基づいて想定される大規模自然災害から国民の生命、身体及び財産を保護することを旨とすること。

 二 防災・減災のために必要な地域における体制の整備は、国民一人一人が自発的に行動すること、地域、学校、職域等において関係者が相互扶助の精神に基づいて相互に協力すること並びに国及び地方公共団体による防災・減災に係る対策が調和を保ちつつ組み合わされることにより、地域における自主的な防災力を向上させることを旨とすること。

 三 防災・減災のために必要な社会資本等の整備は、次に掲げるところによること。

  イ 既存の社会資本の有効活用、公共工事の入札及び契約の改善、技術開発等により費用の縮減を図ること。

  ロ 既存の施設又は設備(以下「施設等」という。)について科学的知見に基づいてその状態を調査し、及びその経年劣化に関する技術的評価を行い、これを基に既存の施設等の改修又は増改築と施設等の新築又は新設を総合的に比較した上で、いずれかを計画的に実施することにより、施設等の効率的かつ効果的な維持管理を図ること。

  ハ 施設等の整備における環境への負荷の低減に資する資材等の使用又は工法の採用、施設等の緑化、雨水の利用等により地球環境の保全を図るとともに、施設等の周囲の自然的環境、地域の歴史及び文化等との調和を保つよう努めること。

 四 防災・減災体制再構築の推進に関する施策の策定及び実施に当たっては、多様な国民の意向が尊重され、とりわけ、女性、高齢者、子ども、障害者等の視点を重視しつつ、妊産婦、高齢者、子ども、障害者等を大規模自然災害から保護することに特に留意すること。

 (国の責務)

第四条 国は、前条の基本理念にのっとり、防災・減災体制再構築の推進に関する施策を総合的かつ集中的に策定し、及び実施する責務を有する。

 (地方公共団体の責務)

第五条 地方公共団体は、第三条の基本理念にのっとり、防災・減災体制再構築の推進に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

   第二章 防災・減災総点検

 (防災・減災総点検の実施の努力)

第六条 政府は、次に掲げるものについて、防災・減災総点検を実施するよう努めなければならない。

 一 社会福祉施設、学校、医療施設その他の主として高齢者、障害者、乳幼児等の特に防災・減災上の配慮を要する者が利用する施設

 二 前号に掲げるもののほか、公的建造物その他不特定かつ多数の者が利用する建築物

 三 災害時における被災者の救護、被害状況の把握及び住民に対する情報の伝達並びに飲料水、食糧、電源等の確保のために必要な施設等その他の災害時における応急的な措置のために必要な施設等

 四 津波、洪水又は高潮による被害の発生を防止し、又は軽減するために必要な海岸法(昭和三十一年法律第百一号)第二条第一項に規定する海岸保全施設又は河川法(昭和三十九年法律第百六十七号)第三条第二項に規定する河川管理施設

 五 砂防法(明治三十年法律第二十九号)第一条に規定する砂防設備、森林法(昭和二十六年法律第二百四十九号)第四十一条に規定する保安施設事業に係る保安施設、地すべり等防止法(昭和三十三年法律第三十号)第二条第三項に規定する地すべり防止施設、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和四十四年法律第五十七号)第二条第二項に規定する急傾斜地崩壊防止施設又は土地改良法(昭和二十四年法律第百九十五号)第二条第二項第一号に規定する農業用用排水施設であるため池で、防災・減災上必要なもの

 六 道路、橋、トンネル、鉄道、港湾、空港その他の交通施設

 七 電気若しくはガスを供給するための施設、水道施設若しくは下水道施設又は電気通信を行うための施設

 八 住居、工場又は事業場

 九 有形の文化財

 十 前各号に掲げるもののほか、防災・減災総点検を実施することが必要なもの

 (実施計画及び防災・減災総点検のための点検の準則)

第七条 政府は、防災・減災総点検を実施するときは、その実施に関する計画(以下この章において「実施計画」という。)を策定し、これを公表しなければならない。

2 実施計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。

 一 防災・減災総点検の目標

 二 防災・減災総点検のための点検の対象とするもの(第四項において「点検対象物」という。)の基準

 三 防災・減災総点検の実施期間

 四 前三号に掲げるもののほか、防災・減災総点検の実施に関し必要な事項

3 政府は、防災・減災総点検を実施するときは、防災・減災総点検のための点検の準則を定め、これを公表するものとする。

4 前項の準則は、点検対象物が、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震の最大の震度若しくは首都直下地震若しくは南海トラフ巨大地震において想定される最大の震度に相当する震度の地震による振動、衝撃、地盤の液状化若しくは津波又は平成二十三年台風第十二号による豪雨若しくは平成二十四年七月九州北部豪雨における降水量に相当する降水量の豪雨による被害その他科学的知見に基づいて想定される大規模自然災害を防止し、又は軽減することができるものであるかどうかを経年劣化の進行を踏まえて明らかにすることができるように定めるものとする。

 (防災・減災総点検のための点検)

第八条 防災・減災総点検を実施するときは、主務大臣(第六条各号に掲げるものに関する主務大臣をいう。以下この章において同じ。)は、同条各号に掲げるものであって国が管理するものについて、実施計画に従い、防災・減災総点検のための点検を実施するものとする。

第九条 防災・減災総点検を実施するときは、地方公共団体は、第六条各号に掲げるものであって地方公共団体が管理するものについて、実施計画に従い、防災・減災総点検のための点検を実施し、その結果を主務大臣に報告するよう努めなければならない。

2 地方公共団体は、防災・減災総点検のための点検を実施するに当たっては、自主防災組織(災害対策基本法(昭和三十六年法律第二百二十三号)第五条第二項の自主防災組織をいう。第十八条第二項及び第二十四条第一項において同じ。)その他の住民の意見を聴くこと等により、地域の実情を十分に踏まえるものとする。

第十条 防災・減災総点検を実施するときは、電気、ガス、医療等の公益的事業を営む者その他の者で第六条各号に掲げるものを管理するもの(国又は地方公共団体を除く。)は、その管理する同条各号に掲げるものについて、実施計画に従い、防災・減災総点検のための点検を実施し、その結果を主務大臣に報告するよう努めるものとする。

 (財政上の措置等)

第十一条 政府は、第九条第一項の規定による防災・減災総点検のための点検の実施に要する経費について必要な財政上の措置を講じるものとする。

2 政府は、前条の規定による防災・減災総点検のための点検の実施に要する経費について必要な財政上、税制上又は金融上の措置を講じるものとする。

 (結果の公表)

第十二条 政府は、防災・減災総点検を実施したときは、その結果を取りまとめ、その概要を公表しなければならない。

 (権限の委任)

第十三条 この章に規定する主務大臣の権限は、政令で定めるところにより、地方支分部局の長に委任することができる。

 (防災・減災総点検を実施している間の措置)

第十四条 第四章に定める基本的施策を実施するための措置であって、大規模自然災害から国民の生命、身体及び財産を保護するためにできる限り速やかに講じる必要があるものは、防災・減災総点検を実施している間においても、これを行うものとする。

   第三章 防災・減災体制再構築推進基本計画等

 (防災・減災体制再構築推進基本計画)

第十五条 政府は、防災・減災体制再構築の推進に関する施策に関し、防災・減災体制再構築の推進に関する基本的な計画(以下「防災・減災体制再構築推進基本計画」という。)を定めなければならない。

2 防災・減災体制再構築推進基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。

 一 防災・減災体制再構築の推進に関する施策についての基本的方針

 二 防災・減災体制再構築の推進に関し、政府が総合的かつ集中的に講ずべき施策

 三 前二号に掲げるもののほか、防災・減災体制再構築の推進に関する施策を総合的かつ集中的に推進するために必要な事項

3 防災・減災体制再構築推進基本計画に定める施策については、原則として、当該施策の具体的な目標及びその達成の期間を定めるものとする。

4 防災・減災体制再構築推進基本計画は、防災・減災総点検が実施されたときは、その結果に基づく我が国における社会資本等の大規模自然災害に対する安全性の実情を踏まえるとともに、防災・減災総点検のための点検を実施した国の機関、地方公共団体及び第十条に規定する者の意見を十分尊重して定めるものとする。

5 防災・減災体制再構築推進基本計画は、おおむね十年の間に集中的に施策が講じられ、かつ、その期間において特に必要性が高いと認められる施策が優先的に講じられるよう定めるものとする。

6 内閣総理大臣は、防災・減災体制再構築推進基本計画の案につき閣議の決定を求めなければならない。

7 内閣総理大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、防災・減災体制再構築推進基本計画を公表しなければならない。

8 前二項の規定は、防災・減災体制再構築推進基本計画の変更について準用する。

 (資金の確保のための措置)

第十六条 政府は、防災・減災体制再構築推進基本計画に定める施策の実施に要する経費に関し必要な資金の確保を図るため、施策の性質及び内容に応じ、財政法(昭和二十二年法律第三十四号)第四条第一項ただし書の規定により公債を発行し、別に法律で定めるところにより償還のために必要な財源を確保した上で公債を発行し、又は民間の資金を活用するものとする。

 (財政上、税制上又は金融上の措置)

第十七条 国は、防災・減災体制再構築推進基本計画に定める施策に係る事業を実施する者に対し、財政上、税制上又は金融上の措置を講ずるよう努めなければならない。

 (都道府県防災・減災体制再構築推進計画)

第十八条 都道府県は、防災・減災体制再構築推進基本計画を基本とし、及び防災・減災総点検が実施されたときはその結果に基づく当該都道府県の区域内における社会資本等の大規模自然災害に対する安全性の実情を踏まえ、当該都道府県の区域内における防災・減災体制再構築の推進に関する施策についての計画(以下この章において「都道府県防災・減災体制再構築推進計画」という。)を定めなければならない。

2 都道府県は、都道府県防災・減災体制再構築推進計画を定めるに当たっては、自主防災組織その他の住民の意見を反映させるために必要な措置を講じるものとする。

3 都道府県は、都道府県防災・減災体制再構築推進計画を定めたときは、遅滞なく、これを公表するものとする。

4 前二項の規定は、都道府県防災・減災体制再構築推進計画の変更について準用する。

 (市町村防災・減災体制再構築推進計画)

第十九条 市町村(特別区を含む。以下この章において同じ。)は、防災・減災体制再構築推進基本計画及び都道府県防災・減災体制再構築推進計画を基本とし、並びに防災・減災総点検が実施されたときはその結果に基づく当該市町村の区域内における社会資本等の大規模自然災害に対する安全性の実情を踏まえ、当該市町村の区域内における防災・減災体制再構築の推進に関する施策についての計画(以下この章において「市町村防災・減災体制再構築推進計画」という。)を定めなければならない。

2 前条第二項から第四項までの規定は、市町村防災・減災体制再構築推進計画について準用する。

 (国の援助)

第二十条 国は、都道府県又は市町村による都道府県防災・減災体制再構築推進計画又は市町村防災・減災体制再構築推進計画に定める施策に係る事業の実施に関し、経費の補助、都道府県又は市町村が必要とする経費の財源に充てるため起こした地方債に係る元利償還に要する経費の当該都道府県又は市町村に交付すべき地方交付税の額の算定に用いる基準財政需要額への算入、必要な資金の確保その他の援助に努めなければならない。

   第四章 基本的施策

 (学校教育等における防災教育の充実等)

第二十一条 国は、国民が、大規模自然災害に関する記録及び最新の知見、大規模自然災害が発生した場合に地域において想定される被害、大規模自然災害が発生した場合にとるべき行動等に関する知識の習得を通じ、大規模自然災害が発生した場合に、自発的に、迅速かつ適切な行動をとること及び地域、学校、職域等において相互に協力することを目標として、学校教育その他多様な機会における防災教育の充実、防災思想の普及等に必要な施策を講じるものとする。

 (広域にわたる大規模自然災害等を想定した広域的又は総合的な防災訓練の推進)

第二十二条 国は、災害対策基本法第四十七条第一項に規定する災害予防責任者が、住民その他関係者の協力を得つつ、共同して、広域にわたる大規模自然災害の発生その他大規模自然災害に係る各種の事態を想定した広域的又は総合的な防災訓練を行うことを推進するために必要な施策を講じるものとする。

 (災害応急対策又は災害復旧に関する人材の育成及び確保)

第二十三条 国は、大規模自然災害が発生した場合の地方公共団体における災害応急対策又は災害復旧に関する専門的な知識又は技術を有する人材の育成及び確保のために必要な施策を講じるものとする。

 (消防団及び水防団の強化並びに自主防災組織の充実等)

第二十四条 国は、大規模自然災害が発生した場合に、消防団、水防団及び自主防災組織が、安全を確保しつつ、災害応急対策に係る多様な活動を地域に密着して行うことができるよう、消防団及び水防団の装備の充実その他の消防団及び水防団の強化並びに自主防災組織の充実のために必要な施策を講じるものとする。

2 国は、大規模自然災害が発生した場合に、災害応急対策又は災害復旧のための自発的な活動に携わるボランティアが、相互に広域的な連携を図りつつ、迅速かつ適切な行動をとることができるよう必要な施策を講じるものとする。

 (業務継続計画等の整備の支援)

第二十五条 国は、大規模自然災害による地方公共団体の業務に係る被害の発生等により地方公共団体の業務を継続して執行することに著しい支障が生じたとした場合において必要な業務を継続して執行するために必要な事項を定める計画の策定その他その場合に対処するための体制の整備を支援するために必要な施策を講じるものとする。

2 国は、事業者が大規模自然災害により被災したとした場合においてその事業を継続して実施するために必要な事項を定める計画の策定その他その場合に対処するための体制の整備を支援するために必要な施策を講じるものとする。

 (被災者支援情報システムの整備及び情報通信手段の確保等)

第二十六条 国は、地方公共団体が、大規模自然災害により死亡し又は負傷した住民及び避難住民の安否に関する情報その他の大規模自然災害により生じた被害の状況に関する情報の収集及び整理並びにその提供を行うとともに、被災者の所在する場所、り災の事実に係る証明書の発行の状況、救援に必要な食糧等の物資の管理の状況その他の被災者に対する支援を行うために必要な情報を適切に管理する体制の整備を支援するために必要な施策を講じるものとする。

2 国は、大規模自然災害に関する情報、予報及び警報の伝達並びに避難場所その他の円滑な避難を確保するために必要な情報の提供が、適時に、かつ、適切な方法で行われるようにするため、多様な通信手段の確保、情報通信網の強化等に係る体制の整備のために必要な施策を講じるものとする。

 (情報収集等の機能を有する自動二輪車の配備の促進)

第二十七条 国は、大規模自然災害が発生した場合において災害応急対策を効果的かつ効率的に行うことができるよう、地域の被害状況に関する情報の収集及び伝達、初期の消防活動又は簡易な救急活動を行う機能を有する自動二輪車の消防機関等への配備を促進するために必要な施策を講じるものとする。

 (帰宅困難者のための物資の備蓄等)

第二十八条 国は、大規模自然災害による交通機関の運行の停止等により帰宅が困難な状況に置かれる者が生じた場合に対処するため、事業場、学校等における非常用食糧等の物資の備蓄、これらの者が一時的に滞在するための施設の確保、代替的な輸送手段の確保、学校、保育所等における児童、幼児等の一時的な保護等のために必要な施策を講じるものとする。

 (防災・減災上の配慮を要する者のための避難路の整備、要員又は物資の確保等)

第二十九条 国は、大規模自然災害が発生した場合に、妊婦、乳幼児、高齢者、障害者、外国人等の特に防災・減災上の配慮を要する者が、円滑かつ迅速に避難し、及び避難施設その他の避難場所において安全な避難生活を営むことができるよう、避難路の整備、これらの者の特性に応じて必要となる要員又は物資の確保等のために必要な施策を講じるものとする。

 (交通が途絶するおそれのある地域についての物資の備蓄等)

第三十条 国は、大規模自然災害が発生した場合に、土砂の流出等による道路の損壊、津波による港湾施設の崩壊等により交通が途絶するおそれのある地域について、非常用食糧等の物資の備蓄、人員又は物資の緊急輸送のための施設等の整備等のために必要な施策を講じるものとする。

 (家庭における自主的な防災・減災のための取組の支援)

第三十一条 国は、地方公共団体が家庭における自主的な防災・減災のための取組を効果的に支援することができるようにするために必要な施策を講じるものとする。この場合において、高齢者、障害者その他の自ら取組を行うことが困難である者に対する配慮がされなければならない。

 (観測及び測量の強化並びに調査研究の推進等)

第三十二条 国は、大規模な地震、豪雨その他の大規模かつ異常な自然現象に係る観測及び測量の強化に努めるとともに、大規模自然災害の予測に関する関係行政機関、大学等の調査研究の結果を収集し及びこれを集約して公表する等防災・減災に必要な調査研究を推進し及びその成果を普及するために必要な施策を講じるものとする。

 (海外からの支援を緊急かつ円滑に受け入れるための外国政府等との連携体制の整備等)

第三十三条 国は、大規模自然災害が発生した場合に海外から申出があった支援を緊急かつ円滑に受け入れることができるよう、外国政府、国際機関等との連携に係る体制の整備、支援の受入れに係る制度の整備その他の必要な施策を講じるものとする。

 (緊急の医療提供体制の充実及び災害時多目的船等における医療の提供等並びに福祉サービスの維持)

第三十四条 国は、大規模自然災害が発生した場合に緊急に医療を提供する体制を充実させるために必要な施策を講じるとともに、大規模自然災害により医療施設が被害を受けた場合等に中長期的かつ広域的に医療に係る災害応急対策を実施することができるよう、災害応急対策をその用途とする船舶その他の船舶における医療の提供、傷病者の広域にわたる搬送、医療従事者の継続的な派遣等のために必要な施策を講じるものとする。

2 国は、大規模自然災害により社会福祉施設が被害を受けた場合等に福祉サービスを維持することができるよう、当該施設の入所者等の他の社会福祉施設等における受入れ、職員が不足している社会福祉施設等への人員の派遣等のために必要な施策を講じるものとする。

 (人員又は物資の輸送の確保のための交通網の整備)

第三十五条 国は、大規模自然災害が発生した場合における人員又は物資の輸送を確保するため、全国的な交通網を構成する道路、鉄道、港湾、空港等の交通施設の体系を整備するために必要な施策を講じるものとする。

 (津波避難施設等の整備及び住居等の移転の促進)

第三十六条 国は、大規模自然災害が発生した場合に係る津波、洪水又は高潮による被害を防止し、又は軽減するため、津波避難施設(津波により浸水すると想定される地域における一時的な避難場所としての機能を有する堅固な建築物又は工作物をいう。)、海岸法第二条第一項に規定する海岸保全施設、河川法第三条第二項に規定する河川管理施設等を整備するとともに、津波、洪水若しくは高潮による被害が発生した地域又は当該被害の発生の危険性の高い地域にある住居等の移転を促進するために必要な施策を講じるものとする。

 (砂防設備等の整備)

第三十七条 国は、大規模自然災害が発生した場合に係る土砂の流出等による被害を防止し、又は軽減するため、砂防法第一条に規定する砂防設備、森林法第四十一条に規定する保安施設事業に係る保安施設、地すべり等防止法第二条第三項に規定する地すべり防止施設、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律第二条第二項に規定する急傾斜地崩壊防止施設、土地改良法第二条第二項第一号に規定する農業用用排水施設であるため池その他の施設等を整備するために必要な施策を講じるものとする。

 (電気又はガスの供給施設等の改修及び共同溝等の整備)

第三十八条 国は、大規模自然災害が発生した場合において電気又はガスを供給するための施設並びに水道施設及び下水道施設の安全を確保するため、これらの施設を改修するとともに、共同溝、電線共同溝等の電線、水管等の公益物件を収容するための施設を整備するために必要な施策を講じるものとする。

 (電源の多様化、エネルギー供給施設の分散配置等)

第三十九条 国は、大規模自然災害による電気の供給、熱供給その他のエネルギー供給の体制に係る被害が最小となるようにするため、発電に係るエネルギー源の多様化、エネルギー供給施設の各地域への分散配置及び蓄電池設備、自家発電設備等の電源設備の普及のために必要な施策を講じるものとする。

 (建築物等の耐震改修)

第四十条 国は、教育施設、医療施設、社会福祉施設その他大規模自然災害が発生した場合に地域の災害応急対策若しくは災害復旧又は避難の拠点となる施設(これらの施設が建築物である場合には、天井、窓ガラスその他建築物の主体となる構造部分以外の部材及び附属設備を含む。)の耐震改修(大規模な地震に対する安全性の向上を目的として、増築、改築、修繕若しくは模様替又は敷地の整備をすることをいう。次項において同じ。)のために必要な施策を講じるものとする。

2 前項の規定によるもののほか、国は、大規模な地震に対する安全性の向上を図ることが必要な民間建築物(住宅を含む。)の耐震改修のために必要な施策を講じるものとする。

 (密集市街地における建築物等の整備)

第四十一条 国は、大規模自然災害が発生した場合に係る市街地における火災による被害を防止し、又は軽減するため、密集市街地(当該区域内に老朽化した木造の建築物が密集しており、防災・減災上の支障が生じている市街地をいう。)において建築物及び建築物の敷地並びに防災・減災上必要な道路、公園その他の公共施設を整備するために必要な施策を講じるものとする。

 (地盤の液状化による被害の防止又は軽減)

第四十二条 国は、大規模な地震が発生した場合に係る地盤の液状化による被害を受けるおそれのある土地において地盤の液状化による被害を防止し、又は軽減するために必要な施策を講じるものとする。

 (有形の文化財の保護)

第四十三条 国は、大規模自然災害が発生した場合に係る有形の文化財に対する被害を防止し、又は軽減するための施設等の整備のために必要な施策を講じるものとする。

 (国の統治機能及び都市機能の維持)

第四十四条 国は、第二十一条から前条までに定めるもののほか、大規模自然災害が発生した場合において国の統治機能及び都市機能が維持されるために必要な施策を講じるものとする。

 (地方公共団体の施策)

第四十五条 地方公共団体は、第二十一条から前条までの国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の地域の状況に応じた防災・減災体制再構築の推進に関する施策を講じるものとする。

   第五章 防災・減災体制再構築推進本部

 (設置)

第四十六条 防災・減災体制再構築の推進に関する施策を総合的かつ集中的に推進するため、内閣に、防災・減災体制再構築推進本部(以下「本部」という。)を置く。

 (所掌事務)

第四十七条 本部は、次に掲げる事務をつかさどる。

 一 防災・減災体制再構築推進基本計画の案の作成、実施の推進及び実施の状況の検証に関すること。

 二 関係行政機関が防災・減災体制再構築推進基本計画に基づいて実施する施策の総合調整に関すること。

 三 前二号に掲げるもののほか、防災・減災体制再構築の推進に関する施策で重要なものの企画及び立案並びに総合調整に関すること。

2 本部は、防災・減災総点検を実施するときは、その実施の推進及び総合調整に関する事務をつかさどる。

 (組織)

第四十八条 本部は、防災・減災体制再構築推進本部長、防災・減災体制再構築推進副本部長及び防災・減災体制再構築推進本部員をもって組織する。

 (防災・減災体制再構築推進本部長)

第四十九条 本部の長は、防災・減災体制再構築推進本部長(以下「本部長」という。)とし、内閣総理大臣をもって充てる。

2 本部長は、本部の事務を総括し、所部の職員を指揮監督する。

 (防災・減災体制再構築推進副本部長)

第五十条 本部に、防災・減災体制再構築推進副本部長(以下「副本部長」という。)を置き、内閣官房長官及び防災・減災体制再構築推進担当大臣(内閣総理大臣の命を受けて、防災・減災体制再構築の推進に関する施策の総合的かつ集中的な推進に関し内閣総理大臣を助けることをその職務とする国務大臣をいう。)をもって充てる。

2 副本部長は、本部長の職務を助ける。

 (防災・減災体制再構築推進本部員)

第五十一条 本部に、防災・減災体制再構築推進本部員(以下「本部員」という。)を置く。

2 本部員は、本部長及び副本部長以外の全ての国務大臣をもって充てる。

 (資料の提出その他の協力)

第五十二条 本部は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関、地方公共団体、独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。)及び地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。)の長並びに特殊法人(法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人であって、総務省設置法(平成十一年法律第九十一号)第四条第十五号の規定の適用を受けるものをいう。)の代表者に対して、資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。

2 本部は、その所掌事務を遂行するため特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。

 (事務局)

第五十三条 本部に、その事務を処理させるため、事務局を置く。

2 事務局に、事務局長その他の職員を置く。

3 事務局長は、関係のある他の職を占める者をもって充てられるものとする。

4 事務局長は、本部長の命を受け、局務を掌理する。

 (主任の大臣)

第五十四条 本部に係る事項については、内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣は、内閣総理大臣とする。

 (政令への委任)

第五十五条 この法律に定めるもののほか、本部に関し必要な事項は、政令で定める。

   第六章 危機管理庁の設置に関する基本方針

第五十六条 別に法律で定めるところにより、危機管理庁(次項に規定する事務を行う行政組織をいう。以下同じ。)を設置するものとする。

2 危機管理庁は、大規模自然災害が発生し、又は発生するおそれがある場合にその発生を防御し、又は応急的救助を行う等大規模自然災害の拡大を防止するために必要な事務をつかさどるものとする。

3 危機管理庁については、都道府県警察、消防機関、自衛隊その他の災害応急対策に係る活動を実施する機関との連携協力体制が構築されるものとする。

4 危機管理庁は、できるだけ早期に設置することとし、政府は、前三項に定めるところにより、危機管理庁を設置するために必要な措置について検討を行い、可能な限り早い時期に法制上の措置を講じるものとする。

   附 則

 (施行期日)

1 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

 (関係法令等についての措置)

2 政府は、関係法令又は関係行政機関の長(当該行政機関が合議制の機関である場合にあっては、当該行政機関)が他の法令の規定に基づいて作成する防災に関連する計画その他の制度が、この法律に基づく施策と矛盾し、又は抵触することのないよう、可能な限り速やかに法制上その他の必要な措置を講じるものとする。


     理 由

 大規模自然災害に対処する必要性に鑑み、大規模自然災害から国民の生命、身体及び財産並びに国土を保護し、あわせて国民経済の発展に資するため、防災・減災体制再構築の推進に関し、基本理念を定め、国及び地方公共団体の責務を明らかにし、並びに防災・減災総点検、防災・減災体制再構築推進基本計画その他防災・減災体制再構築の推進に関する施策の基本となる事項を定めるとともに、防災・減災体制再構築推進本部を設置すること等により、防災・減災体制再構築の推進に関する施策を総合的かつ集中的に推進する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

衆議院
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