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第一九八

衆第三〇

   認知症基本法案

目次

 第一章 総則(第一条−第十条)

 第二章 認知症施策推進基本計画等(第十一条−第十三条)

 第三章 基本的施策(第十四条−第二十三条)

 第四章 認知症施策推進本部(第二十四条−第三十三条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、我が国における急速な高齢化の進展に伴い認知症である者(以下「認知症の人」という。)が増加している現状等に鑑み、認知症の予防等を推進しながら、認知症の人が尊厳を保持しつつ社会の一員として尊重される社会の実現を図るため、認知症に関する施策(以下「認知症施策」という。)に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体等の責務を明らかにし、及び認知症施策の推進に関する計画の策定について定めるとともに、認知症施策の基本となる事項を定めること等により、認知症施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において「認知症」とは、アルツハイマー病その他の神経変性疾患、脳血管疾患その他の疾患(次条第五号において「アルツハイマー病その他の疾患」という。)により日常生活に支障が生じる程度にまで認知機能が低下した状態として政令で定める状態をいう。

 (基本理念)

第三条 認知症施策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。

 一 常に認知症の人の立場に立ち、認知症の人及びその家族の意向の尊重に配慮して行われること。

 二 認知症に関する国民の理解が深められ、認知症の人及びその家族がその居住する地域にかかわらず日常生活及び社会生活を円滑に営むことができるとともに、認知症の人が地域において尊厳を保持しつつ他の人々と共生することを妨げられないことを旨とすること。

 三 認知症の人の意思決定の支援が適切に行われるとともに、その意向を十分に尊重し、その尊厳を保持しつつ、切れ目なく保健医療サービス、福祉サービスその他のサービスが提供されること。

 四 認知症の人に対する支援のみならず、その家族その他認知症の人と日常生活において密接な関係を有する者(以下「家族等」という。)に対する必要な支援が行われること。

 五 認知症に関する専門的、学際的又は総合的な研究を推進するとともに、認知症及び軽度認知障害(アルツハイマー病その他の疾患により認知機能が低下した状態(認知症を除く。)として政令で定める状態をいう。第十七条及び第二十条第一項において同じ。)に係る予防、診断及び治療並びにリハビリテーション及び介護方法その他の事項に関する研究開発等の成果を普及し、活用し、及び発展させること。

 六 教育、地域づくり、雇用、保健、医療、福祉等の関連分野における総合的な取組として行われること。

 (国の責務)

第四条 国は、前条の基本理念にのっとり、認知症施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

 (地方公共団体の責務)

第五条 地方公共団体は、第三条の基本理念にのっとり、認知症施策に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

 (保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者の責務)

第六条 保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者は、国及び地方公共団体が講ずる認知症施策に協力するとともに、良質かつ適切な保健医療サービス又は福祉サービスを提供するよう努めなければならない。

 (日常生活及び社会生活を営む基盤となるサービスを提供する事業者の責務)

第七条 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成十八年法律第九十一号)第二条第四号に規定する公共交通事業者等、金融機関、小売業者その他の日常生活及び社会生活を営む基盤となるサービスを提供する事業者(前条に規定する者を除く。)は、国及び地方公共団体が実施する認知症施策に協力するとともに、そのサービスを提供するに当たっては、その事業の遂行に支障のない範囲内において、認知症の人に対し必要かつ合理的な配慮をするよう努めなければならない。

 (国民の責務)

第八条 国民は、認知症に関する正しい知識を持ち、認知症の予防に必要な注意を払うよう努めるとともに、認知症の人の自立及び社会参加に協力するよう努めなければならない。

 (認知症の日及び認知症月間)

第九条 国民の間に広く認知症についての関心と理解を深めるため、認知症の日及び認知症月間を設ける。

2 認知症の日は九月二十一日とし、認知症月間は同月一日から同月三十日までとする。

3 国及び地方公共団体は、認知症の日においてその趣旨にふさわしい事業を実施するよう努めるものとするとともに、認知症月間においてその趣旨にふさわしい行事が実施されるよう奨励しなければならない。

 (法制上の措置等)

第十条 政府は、認知症施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。

   第二章 認知症施策推進基本計画等

 (認知症施策推進基本計画)

第十一条 政府は、認知症施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、認知症施策推進基本計画(以下「基本計画」という。)を策定しなければならない。

2 基本計画に定める施策については、原則として、当該施策の具体的な目標及びその達成の時期を定めるものとする。

3 内閣総理大臣は、基本計画の案につき閣議の決定を求めなければならない。

4 政府は、基本計画を策定したときは、遅滞なく、これを国会に報告するとともに、インターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。

5 政府は、適時に、第二項の規定により定める目標の達成状況を調査し、その結果をインターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。

6 政府は、認知症に関する状況の変化を勘案し、及び認知症施策の効果に関する評価を踏まえ、少なくとも五年ごとに、基本計画に検討を加え、必要があると認めるときには、これを変更しなければならない。

7 第三項及び第四項の規定は、基本計画の変更について準用する。

 (都道府県認知症施策推進計画)

第十二条 都道府県は、基本計画を基本とするとともに、当該都道府県の実情に即した都道府県認知症施策推進計画(以下この条及び次条第一項において「都道府県計画」という。)を策定するよう努めなければならない。

2 都道府県計画は、社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)第百八条第一項に規定する都道府県地域福祉支援計画、医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第三十条の四第一項に規定する医療計画、老人福祉法(昭和三十八年法律第百三十三号)第二十条の九第一項に規定する都道府県老人福祉計画、介護保険法(平成九年法律第百二十三号)第百十八条第一項に規定する都道府県介護保険事業支援計画その他の法令の規定による計画であって認知症施策に関連する事項を定めるものと調和が保たれたものでなければならない。

3 都道府県は、都道府県計画の案を作成しようとするときは、あらかじめ、認知症の人及び家族等の意見を聴くよう努めなければならない。

4 都道府県は、都道府県計画を策定したときは、遅滞なく、これをインターネットの利用その他適切な方法により公表するよう努めなければならない。

5 都道府県は、適時に、都道府県計画に基づいて実施する施策の実施状況の評価を行い、その結果をインターネットの利用その他適切な方法により公表するよう努めなければならない。

6 都道府県は、当該都道府県における認知症に関する状況の変化を勘案し、及び当該都道府県における認知症施策の効果に関する評価を踏まえ、少なくとも五年ごとに、都道府県計画に検討を加え、必要があると認めるときには、これを変更するよう努めなければならない。

7 第三項の規定は第五項の評価の結果の取りまとめを行おうとする場合について、第三項及び第四項の規定は都道府県計画の変更について、それぞれ準用する。

 (市町村認知症施策推進計画)

第十三条 市町村(特別区を含む。)は、基本計画(都道府県計画が策定されているときは、基本計画及び都道府県計画)を基本とするとともに、当該市町村の実情に即した市町村認知症施策推進計画(以下この条において「市町村計画」という。)を策定するよう努めなければならない。

2 市町村計画は、社会福祉法第百七条第一項に規定する市町村地域福祉計画、老人福祉法第二十条の八第一項に規定する市町村老人福祉計画、介護保険法第百十七条第一項に規定する市町村介護保険事業計画その他の法令の規定による計画であって認知症施策に関連する事項を定めるものと調和が保たれたものでなければならない。

3 前条第三項から第七項までの規定は、市町村計画について準用する。

   第三章 基本的施策

 (認知症に関する教育の推進等)

第十四条 国及び地方公共団体は、国民が、認知症に関する知識及び認知症の人に関する理解を深めることができるよう、学校教育及び社会教育における認知症に関する教育の推進、認知症の人に関する理解を深めるための運動の展開その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (認知症の人の生活におけるバリアフリー化の推進等)

第十五条 国及び地方公共団体は、認知症の人が安心して暮らすことのできる安全な地域づくりの推進を図るため、移動のための交通手段の確保、交通の安全の確保、地域において認知症の人を見守るための体制の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。

2 国及び地方公共団体は、認知症の人の権利利益の保護を図るため、成年後見制度の利用の促進、消費生活における被害を防止するための啓発、認知症の人がその権利を円滑に行使することができるようにするための関係職員に対する研修その他の必要な施策を講ずるものとする。

3 国及び地方公共団体は、認知症の人の生活を支援するため、認知症の人にとって利用しやすい製品及びサービスの開発及び普及の促進、民間における自主的な取組の促進その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (認知症の人の社会参加の機会の確保)

第十六条 国及び地方公共団体は、認知症の人が生きがいを持って生活を営むことができるよう、認知症の人の社会参加の機会の確保その他の必要な施策を講ずるものとする。

2 国及び地方公共団体は、前項の施策を講ずるに当たっては、六十五歳未満の認知症の人(以下この項において「若年性認知症の人」という。)その他の認知症の人の意欲及び能力に応じた雇用の継続、円滑な就職等が重要であることに鑑み、事業主に対する若年性認知症の人その他の認知症の人の就労に関する啓発及び知識の普及その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (認知症の予防等)

第十七条 国及び地方公共団体は、認知症及び軽度認知障害の予防の推進のため、予防に関する啓発及び知識の普及、予防に資すると考えられる地域における活動の推進、予防に係る情報の収集その他の必要な施策を講ずるものとする。

2 国及び地方公共団体は、認知症及び軽度認知障害の早期発見及び早期対応を推進するため、介護保険法第百十五条の四十六第一項に規定する地域包括支援センター、医療機関、民間団体等の間における連携協力体制の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (保健医療サービス及び福祉サービスの提供体制の整備等)

第十八条 国及び地方公共団体は、認知症の人がその居住する地域にかかわらず等しくその状態に応じた適切な医療を受けることができるよう、認知症に係る専門的な医療の提供等を行う医療機関の整備を図るために必要な施策を講ずるものとする。

2 国及び地方公共団体は、認知症の人に対し適時に、かつ、適切な保健医療サービス及び福祉サービスを総合的に提供するため、地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律(平成元年法律第六十四号)第二条第一項に規定する地域包括ケアシステムを構築することを通じ、保健及び医療並びに福祉の相互の有機的な連携の確保その他の必要な施策を講ずるものとする。

3 国及び地方公共団体は、認知症の人の状態に応じた保健医療サービス及び福祉サービスが提供されるよう、医療従事者及び介護従事者に対する認知症の人への対応を向上させるための研修の実施、医療及び介護に係る人材の確保、養成及び資質の向上その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (相談体制の整備等)

第十九条 国及び地方公共団体は、関係機関相互の有機的連携の下に、認知症の人及び家族等からの各種の相談に応ずるため必要な体制の整備を図るものとする。

2 国及び地方公共団体は、認知症の人同士及び家族等同士が支え合うために交流する活動に対する支援を行うものとする。

3 国及び地方公共団体は、家族等の負担の軽減を図るため、前項に規定するもののほか、認知症の人の状態に応じた対処についての学習の機会の提供その他の必要な施策を講ずるものとする。

 (研究開発の推進等)

第二十条 国及び地方公共団体は、認知症の本態解明、認知症及び軽度認知障害の予防、診断及び治療に関する方法の開発その他の認知症の予防等に資する事項並びに認知症の人の状態に応じたリハビリテーション及び介護方法の開発その他の認知症の人の生活の質の維持向上等に資する事項についての基礎研究及び臨床研究の促進、その成果の活用その他の必要な施策を講ずるものとする。

2 国は、前項の施策を講ずるに当たっては、官民の連携を図るとともに、全国的な規模の追跡調査の実施の推進、治験の迅速かつ容易な実施のための環境の整備その他の認知症に関する研究開発の基盤を構築するために必要な施策を講ずるものとする。

 (認知症施策の策定に必要な調査の実施)

第二十一条 国は、認知症施策を適正に策定し、及び実施するため、認知症に関する調査の実施及び調査に必要な体制の整備を図るものとする。

 (多様な主体の連携等)

第二十二条 国は、国、地方公共団体、保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者、第七条に規定する日常生活及び社会生活を営む基盤となるサービスを提供する事業者等の多様な主体が相互に連携して認知症施策に取り組むことができるよう必要な施策を講ずるものとする。

 (国際協力)

第二十三条 国は、認知症施策を国際的協調の下に推進するため、外国政府、国際機関又は関係団体等との情報の交換その他必要な施策を講ずるものとする。

   第四章 認知症施策推進本部

 (設置)

第二十四条 認知症施策を総合的かつ計画的に推進するため、内閣に、認知症施策推進本部(以下「本部」という。)を置く。

 (所掌事務)

第二十五条 本部は、次に掲げる事務をつかさどる。

 一 基本計画の案の作成及び実施の推進に関すること。

 二 関係行政機関が基本計画に基づいて実施する施策の総合調整及び実施状況の評価に関すること。

 三 前二号に掲げるもののほか、認知症施策で重要なものの企画及び立案並びに総合調整に関すること。

2 本部は、次に掲げる場合には、あらかじめ、認知症の人及び家族等の意見を聴かなければならない。

 一 基本計画の案を作成しようとするとき。

 二 前項第二号の評価について、その結果の取りまとめを行おうとするとき。

3 前項(第一号に係る部分に限る。)の規定は、基本計画の変更の案の作成について準用する。

 (組織)

第二十六条 本部は、認知症施策推進本部長、認知症施策推進副本部長及び認知症施策推進本部員をもって組織する。

 (認知症施策推進本部長)

第二十七条 本部の長は、認知症施策推進本部長(以下「本部長」という。)とし、内閣総理大臣をもって充てる。

2 本部長は、本部の事務を総括し、所部の職員を指揮監督する。

 (認知症施策推進副本部長)

第二十八条 本部に、認知症施策推進副本部長(次項及び次条第二項において「副本部長」という。)を置き、内閣官房長官、健康・医療戦略推進法(平成二十六年法律第四十八号)第二十四条第一項に規定する健康・医療戦略担当大臣及び厚生労働大臣をもって充てる。

2 副本部長は、本部長の職務を助ける。

 (認知症施策推進本部員)

第二十九条 本部に、認知症施策推進本部員(次項において「本部員」という。)を置く。

2 本部員は、本部長及び副本部長以外の全ての国務大臣をもって充てる。

 (資料の提出その他の協力)

第三十条 本部は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関、地方公共団体、独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。)及び地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。)の長並びに特殊法人(法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人であって、総務省設置法(平成十一年法律第九十一号)第四条第一項第九号の規定の適用を受けるものをいう。)の代表者に対して、資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。

2 本部は、その所掌事務を遂行するために特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。

 (事務)

第三十一条 本部に関する事務は、内閣官房において処理し、命を受けて内閣官房副長官補が掌理する。

 (主任の大臣)

第三十二条 本部に係る事項については、内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣は、内閣総理大臣とする。

 (政令への委任)

第三十三条 この法律に定めるもののほか、本部に関し必要な事項は、政令で定める。

   附 則

 (施行期日)

1 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

 (検討)

2 本部については、この法律の施行後五年を目途として総合的な検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

3 前項に定める事項のほか、国は、この法律の施行後五年を目途として、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。


     理 由

 我が国における急速な高齢化の進展に伴い認知症の人が増加している現状等に鑑み、認知症の予防等を推進しながら、認知症の人が尊厳を保持しつつ社会の一員として尊重される社会の実現を図るため、認知症施策に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体等の責務を明らかにし、及び認知症施策の推進に関する計画の策定について定めるとともに、認知症施策の基本となる事項を定めること等により、認知症施策を総合的かつ計画的に推進する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

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