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鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律案要綱

一 目的
この法律は、農山漁村地域において鳥獣による農林水産業等に係る被害が深刻な状況にあり、これに対処することが緊急の課題となっていることにかんがみ、農林水産大臣による基本指針の策定、市町村による被害防止計画の作成及びこれに基づく特別の措置等について定めることにより、鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための施策を総合的かつ効果的に推進し、もって農林水産業の発展及び農山漁村地域の振興に寄与することを目的とすること。(第1条関係)

二 定義
 1 この法律において「鳥獣」とは、鳥類又は哺乳類に属する野生動物をいうこと。
 2 この法律において「農林水産業等に係る被害」とは、農林水産業に係る被害及び農林水産業に従事する者等の生命又は身体に係る被害その他の生活環境に係る被害をいうこと。
(第2条関係)
 
三 基本指針
1 基本指針の策定
  農林水産大臣は、鳥獣による農林水産業等に係る被害を防止するための施策(以下「被害防止施策」という。)を総合的かつ効果的に実施するための基本的な指針(以下「基本指針」という。)を定めるものとすること。(第3条第1項関係)
2 基本指針に定めるべき事項
基本指針においては、次に掲げる事項を定めるものとすること。(第3条第2項関係)
 (1)被害防止施策の実施に関する基本的な事項
 (2)四の被害防止計画に関する事項
 (3)その他被害防止施策を総合的かつ効果的に実施するために必要な事項
3 鳥獣保護法の基本指針との整合性
  基本指針は、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(以下「鳥獣保護法」という。)第3条第1項に規定する基本指針と整合性のとれたものでなければならないこと。(第3条第3項関係)
4 環境大臣との協議
  農林水産大臣は、基本指針を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、環境大臣と協議するものとすること。(第3条第4項関係)
5 公表
  農林水産大臣は、基本指針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならないこと。(第3条第5項関係)

四 被害防止計画
1 被害防止計画の作成
  市町村は、その区域内で被害防止施策を総合的かつ効果的に実施するため、基本指針に即して、単独で又は共同して、鳥獣による農林水産業等に係る被害を防止するための計画(以下「被害防止計画」という。)を定めることができること。(第4条第1項関係)
2 被害防止計画に定めるべき事項
被害防止計画においては、次に掲げる事項を定めるものとすること。(第4条第2項関係)
(1)鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止に関する基本的な方針
(2)当該市町村の区域内における農林水産業等に係る被害の原因となっている鳥獣であって被害防止計画の対象とするもの(以下「対象鳥獣」という。)の種類
(3)被害防止計画の期間
(4)対象鳥獣の捕獲等に関する事項
(5)対象鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための防護柵の設置その他の対象鳥獣の捕獲等以外の被害防止施策に関する事項
(6)被害防止施策の実施体制に関する事項
(7)捕獲等をした対象鳥獣の処理に関する事項
(8)その他被害防止施策の実施に関し必要な事項
 3 対象鳥獣の捕獲等の許可に関する記載
   2の(4)の事項には、鳥獣保護法第9条第1項の規定により都道府県知事が行うこととされている対象鳥獣の捕獲等の許可であって五の1により被害防止計画を作成した市町村の長が行うことができるものに係る事項(以下「許可権限委譲事項」という。)を記載することができること。(第4条第3項関係)
4 鳥獣保護事業計画等との整合性
  被害防止計画は、鳥獣保護事業計画(特定鳥獣保護管理計画が定められている都道府県の区域内の市町村の被害防止計画にあっては、鳥獣保護事業計画及び特定鳥獣保護管理計画)と整合性のとれたものでなければならないこと。(第4条第4項関係)
5 都道府県知事との協議等
(1)市町村は、被害防止計画を定めようとする場合には、あらかじめ、都道府県知事に協議しなければならないこと。この場合において、被害防止計画に許可権限委譲事項を記載しようとするときは、当該許可権限委譲事項について都道府県知事の同意を得なければならないこと。(第4条第5項関係)
(2)都道府県知事は、被害防止計画が当該市町村の鳥獣による農林水産業等に係る被害の状況に基づいて作成される必要があり、かつ、当該市町村がその状況を適確に把握することができる立場にあることを踏まえ、(1)の協議を行うものとすること。(第4条第6項関係)
(3)都道府県知事は、許可権限委譲事項が記載された被害防止計画について(1)の協議を受けた場合には、当該都道府県の区域内において当該許可権限委譲事項に係る対象鳥獣の数が著しく減少しているとき、当該許可権限委譲事項に係る対象鳥獣について広域的に保護を行う必要があるときその他の当該都道府県の区域内において当該許可権限委譲事項に係る対象鳥獣の保護を図る上で著しい支障を生じるおそれがあるときを除き、(1)の同意をしなければならないこと。(第4条第7項関係)
6 公表等
  市町村は、被害防止計画を定めたときは、遅滞なく、これを公表しなければならないこと。この場合において、当該被害防止計画に許可権限委譲事項を記載したときは、当該許可権限委譲事項を公告しなければならないこと。(第4条第8項関係)
7 被害防止計画の変更
  5及び6は、被害防止計画の変更について準用すること。(第4条第9項関係)
8 被害防止計画の実施状況の報告
  被害防止計画を作成した市町村は、毎年度、被害防止計画の実施状況について、都道府県知事に報告しなければならないこと。(第4条第10項関係)
9 都道府県知事に対する援助の要請
 市町村は、都道府県知事に対し、被害防止計画の作成及び実施に関し、情報の提供、技術的な助言その他必要な援助を求めることができること。(第4条第11項関係)
10 市町村に対する援助
 都道府県知事は、市町村に対し、被害防止計画の作成及び実施に関し、情報の提供、技術的な助言その他必要な援助を行うよう努めなければならないこと。(第5条関係)

五 対象鳥獣の捕獲等に関する許可権限の委譲等
 1 市町村長は、鳥獣保護法第9条第1項の規定にかかわらず、四の6の公告の日から許可権限委譲事項が記載された被害防止計画の期間が満了する日までの間に限り、許可権限委譲事項に係る対象鳥獣の捕獲等の許可を行うことができること。
 2 1による許可を与える方法等(例えば、許可基準、許可の有効期間を定めること、許可に当たって必要な条件を付けること等)については、都道府県知事が鳥獣の捕獲等の許可をする場合の方法等と同様とすること。
 3 都道府県知事は、1により市町村長が許可を行うことができる場合において鳥獣の保護を図るため必要があると認めるときは、当該市町村に対し、当該許可に関し必要な指示をすることができること。
(第6条関係)

六 特定鳥獣保護管理計画の作成又は変更
 都道府県知事は、当該都道府県の区域内における被害防止計画の作成状況、四の8による報告の内容等を踏まえ、必要があると認めるときは、特定鳥獣保護管理計画を作成し、又は変更するよう努めるものとすること。(第7条関係)

七 財政上の措置
  国及び都道府県は、市町村が行う被害防止計画に基づく被害防止施策が円滑に実施されるよう、地方交付税制度の拡充その他の必要な財政上の措置を講ずるものとすること。(第8条関係)

八 鳥獣被害対策実施隊の設置等
1 鳥獣被害対策実施隊の設置
市町村は、対象鳥獣の捕獲等、防護柵の設置その他の被害防止計画に基づく被害防止施策を適切に実施するため、鳥獣被害対策実施隊を設けることができること。(第9条第1項関係)
2 鳥獣被害対策実施隊員
(1)鳥獣被害対策実施隊に鳥獣被害対策実施隊員を置くこと。(第9条第2項関係)
(2)(1)の鳥獣被害対策実施隊員は、次に掲げる者をもって充てること。(第9条第3項関係)
ア 市町村長が市町村の職員のうちから指名する者
イ 被害防止計画に基づく被害防止施策の実施に積極的に取り組むことが見込まれる者(主として対象鳥獣の捕獲等に従事することが見込まれる者にあっては、これを適正かつ効果的に行うことができる者に限る。)のうちから、市町村長が任命する者
(3)(2)イに掲げる鳥獣被害対策実施隊員は、非常勤とすること。(第9条第4項関係)
3 対象鳥獣捕獲員に係る狩猟者登録等の特例
(1)対象鳥獣捕獲員(鳥獣被害対策実施隊員であって主として対象鳥獣の捕獲等に従事することが見込まれる者として市町村長により指名され、又は任命されたものをいう。以下同じ。)が狩猟者登録を受けようとする場合には、その申請書には、対象鳥獣捕獲員である旨を記載するものとする特例を設けること。
(2)対象鳥獣捕獲員である旨の記載がある(1)の申請書の提出があったときは、狩猟者登録簿には、対象鳥獣捕獲員である旨を登録するものとする特例を設けること。
(第9条第5項関係)
4 鳥獣被害対策実施隊員に係る狩猟税の軽減等
2(1)の鳥獣被害対策実施隊員については、被害防止計画に基づく被害防止施策の適切かつ円滑な実施に資するため、地方税法の定めるところによる狩猟税の軽減の措置その他の必要な措置が講ぜられるものとすること。(第9条第6項関係)

九 捕獲等をした対象鳥獣の処理
 国及び地方公共団体は、被害防止計画に基づき捕獲等をした対象鳥獣が適正に処理されるよう、当該対象鳥獣に関し、処理するための施設の充実、環境に悪影響を及ぼすおそれのない処理方法その他適切な処理方法についての指導、有効な利用方法の開発その他の必要な措置を講ずるものとすること。(第10条関係)

十 農林水産大臣の協力要請等
 1 農林水産大臣は、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、環境大臣その他の関係行政機関の長又は関係地方公共団体の長に対し、必要な資料又は情報の提供、意見の開陳その他必要な協力を求めることができること。(第11条第1項関係)
 2 農林水産大臣は、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、環境大臣に対して鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関し、文部科学大臣又は文部科学大臣を通じ文化庁長官に対して天然記念物の保存に関し、意見を述べることができること。(第11条第2項関係)
 3 環境大臣は、鳥獣の保護を図る等の見地から被害防止施策に関し必要があると認めるときは、農林水産大臣に対して意見を述べることができること。(第11条第3項関係)

十一 国、地方公共団体等の連携及び協力
 1 国及び地方公共団体は、被害防止施策を総合的かつ効果的に実施するため、農林水産業及び農山漁村の振興に関する業務を担当する部局、鳥獣の保護及び管理に関する業務を担当する部局その他鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止に関連する業務を担当する部局の相互の緊密な連携を確保しなければならないこと。(第12条第1項関係)
2 地方公共団体は、被害防止施策を効果的に実施するため、被害防止計画の作成及び実施等に当たっては、当該地方公共団体における鳥獣による農林水産業等に係る被害の状況等に応じ、地方公共団体相互の広域的な連携協力を確保しなければならないこと。(第12条第2項関係)
3 地方公共団体は、被害防止施策を実施するに当たっては、地域における一体的な取組が行われるよう、当該地域の農林漁業団体その他の関係団体との緊密な連携協力の確保に努めなければならないこと。(第12条第3項関係)
4 農林漁業団体その他の関係団体は、自主的に鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止に努めるとともに、被害防止計画に基づく被害防止施策の実施その他の国及び地方公共団体が講ずる被害防止施策に協力するよう努めなければならないこと。(第12条第4項関係)

十二 被害の状況、鳥獣の生息状況等の調査
 1 国及び地方公共団体による調査の実施
国及び地方公共団体は、被害防止施策を総合的かつ効果的に実施するため、鳥獣による農林水産業等に係る被害の状況、農林水産業等に係る被害に係る鳥獣の生息の状況及び生息環境その他鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止に関し必要な事項について調査を行うものとすること。(第13条第1項関係)
 2 調査結果の公表及び活用
国及び地方公共団体は、1の調査の結果を公表するとともに、基本指針の策定又は変更、被害防止計画の作成又は変更その他この法律の運用に当たって、適切にこれを活用しなければならないこと。(第13条第2項関係)

十三 被害原因の究明、調査研究及び技術開発の推進等
  国及び都道府県は、被害防止施策の総合的かつ効果的な実施を推進するため、十二の1による調査の結果等を踏まえ、鳥獣による農林水産業等に係る被害の原因を究明するとともに、鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止に関し、調査研究及び技術開発の推進並びに情報の収集、整理、分析及び提供を行うものとすること。(第14条関係)

十四 人材の育成
国及び地方公共団体は、鳥獣の習性等鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止に関する事項について専門的な知識経験を有する者、農林水産業等に係る被害の原因となっている鳥獣の捕獲等について技術的指導を行う者その他の鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止に寄与する人材の育成を図るため、研修の実施その他必要な措置を講ずるものとすること。(第15条関係)

十五 狩猟免許等に係る手続的な負担の軽減
 国及び地方公共団体は、被害防止施策の実施に携わる者の狩猟免許等に係る手続的な負担の軽減に資するため、これらの手続の迅速化、狩猟免許又はその更新を受けようとする者の利便の増進に係る措置その他のこれらの手続についての必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。(第16条関係)

十六 国民の理解と関心の増進
  国及び地方公共団体は、鳥獣の習性等を踏まえて鳥獣による農林水産業等に係る被害を防止することの重要性に関する国民の理解と関心を深めるよう、鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止に関する知識の普及及び啓発のための広報活動その他必要な措置を講ずるものとすること。(第17条関係)

十七 生息環境の整備及び保全
 国及び地方公共団体は、人と鳥獣の共存に配慮し、鳥獣の良好な生息環境の整備及び保全に資するため、地域の特性に応じ、間伐の推進、広葉樹林の育成その他の必要な措置を講ずるものとすること。(第18条関係)

十八 被害防止施策を講ずるに当たっての配慮
  国及び地方公共団体は、被害防止施策を講ずるに当たっては、生物の多様性の確保に留意するとともに、その数が著しく減少している鳥獣又は著しく減少するおそれのある鳥獣については、当該鳥獣の特性を考慮した適切な施策を講ずることによりその保護が図られるよう十分配慮するものとすること。(第19条関係)

十九 農林漁業等の振興及び農山漁村の活性化
  国及び地方公共団体は、被害防止施策と相まって農林漁業及び関連する産業の振興並びに農山漁村の活性化を図ることにより、安全にかつ安心して農林水産業を営むことができる活力ある農山漁村地域の実現を図るよう努めなければならないこと。(第20条関係)

二十 施行期日
  この法律は、公布の日から起算して2月を経過した日から施行すること。(附則第1条関係)

二十一 見直し
  被害防止施策については、この法律の施行後5年を目途として、この法律の施行の状況、鳥獣による農林水産業等に係る被害の発生状況等を勘案し、その全般に関して検討が加えられ、その結果に基づき、必要な見直しが行われるものとすること。(附則第2条関係)

二十二 鳥獣保護法の一部改正
  環境大臣及び都道府県知事は、鳥獣の生息の状況、その生息地の状況その他必要な事項について定期的に調査をし、その結果を、鳥獣保護法の基本指針の策定又は変更その他鳥獣保護法の適正な運用に活用する旨の規定を、鳥獣保護法に追加すること。(附則第3条関係)

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