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   ハンセン病問題の解決の促進に関する法律案要綱


「らい予防法」を中心とする国の隔離政策により、ハンセン病の患者であった者等が地域社会において平穏に生活することを妨げられ、身体及び財産に係る被害その他社会生活全般にわたる人権上の制限、差別等を受けたことについて、平成十三年六月、我々は悔悟と反省の念を込めて深刻に受け止め、深くお詫びするとともに、「ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律」を制定し、その精神的苦痛の慰謝並びに名誉の回復及び福祉の増進を図り、あわせて、死没者に対する追悼の意を表することとした。この法律に基づき、ハンセン病の患者であった者等の精神的苦痛に対する慰謝と補償の問題は解決しつつあり、名誉の回復及び福祉の増進等に関しても一定の施策が講ぜられているところである。
しかしながら、国の隔離政策に起因してハンセン病の患者であった者等が受けた身体及び財産に係る被害その他社会生活全般にわたる被害の回復には、未解決の問題が多く残されている。とりわけ、ハンセン病の患者であった者等が、地域社会から孤立することなく、良好かつ平穏な生活を営むことができるようにするための基盤整備は喫緊の課題であり、適切な対策を講ずることが急がれており、また、ハンセン病の患者であった者等に対する偏見と差別のない社会の実現に向けて、真摯に取り組んでいかなければならない。
ここに、ハンセン病の患者であった者等の福祉の増進、名誉の回復等のための措置を講ずることにより、ハンセン病問題の解決の促進を図るため、この法律を制定する。
第一 総則
一 趣旨
   この法律は、国によるハンセン病の患者に対する隔離政策に起因して生じた問題であって、ハンセン病の患者であった者等の福祉の増進、名誉の回復等に関し現在もなお存在するもの(以下「ハンセン病問題」という。)の解決の促進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、ハンセン病問題の解決の促進に関する必要な事項を定めるものとすること。(第一条関係)
二 定義
1 この法律において「国立ハンセン病療養所」とは、厚生労働省設置法第十六条第一項に規定する国立ハンセン病療養所をいうこと。(第二条第一項関係)
2 この法律において「国立ハンセン病療養所等」とは、国立ハンセン病療養所及び本邦に設置された厚生労働大臣が定めるハンセン病療養所をいうこと。(第二条第二項関係)
3 この法律において「入所者」とは、らい予防法の廃止に関する法律(以下「廃止法」という。)によりらい予防法(以下「予防法」という。)が廃止されるまでの間に、ハンセン病を発病した後も相当期間日本国内に住所を有していた者であって、現に国立ハンセン病療養所等に入所しているものをいうこと。(第二条第三項関係)
三 基本理念
  1 ハンセン病問題に関する施策は、国によるハンセン病の患者に対する隔離政策によりハンセン病の患者であった者等が受けた身体及び財産に係る被害その他社会生活全般にわたる被害に照らし、その被害を可能な限り回復することを旨として行われなければならないこと。(第三条第一項関係)
2 ハンセン病問題に関する施策を講ずるに当たっては、入所者が、現に居住する国立ハンセン病療養所等において、その生活環境が地域社会から孤立することなく、安心して豊かな生活を営むことができるように配慮されなければならないこと。(第三条第二項関係)
  3 何人も、ハンセン病の患者であった者等に対して、ハンセン病の患者であったこと又はハンセン病に罹患していることを理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならないこと。(第三条第三項関係)
四 国の責務
国は、三に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、ハンセン病の患者であった者等の福祉の増進等を図るための施策を策定し、及び実施する責務を有すること。(第四条関係)
 五 地方公共団体の責務
地方公共団体は、基本理念にのっとり、国と協力しつつ、その地域の実情を踏まえ、ハンセン病の患者であった者等の福祉の増進等を図るための施策を策定し、及び実施する責務を有すること。(第五条関係)
六 ハンセン病の患者であった者等その他の関係者の意見の反映のための措置
   国は、ハンセン病問題に関する施策の策定及び実施に当たっては、ハンセン病の患者であった者等その他の関係者との協議の場を設ける等これらの者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとすること。(第六条関係)
第二 国立ハンセン病療養所等における療養及び生活の保障
一 国立ハンセン病療養所における療養
   国は、国立ハンセン病療養所において、国立ハンセン病療養所の入所者(国立ハンセン病療養所に入所している者に限る。第二の三及び第三の一を除き、以下同じ。)に対して、必要な療養を行うものとすること。(第七条関係)
二 国立ハンセン病療養所への再入所及び新規入所
1 国立ハンセン病療養所の長は、廃止法により予防法が廃止されるまでの間に、国立ハンセン病療養所等に入所していた者であって、現に国立ハンセン病療養所等を退所しており、かつ、日本国内に住所を有するもの(以下「退所者」という。)又は廃止法により予防法が廃止されるまでの間に、ハンセン病を発病した後も相当期間日本国内に住所を有したことがあり、かつ、国立ハンセン病療養所等に入所したことがない者であって、現に国立ハンセン病療養所等に入所しておらず、かつ、日本国内に住所を有するもののうち、厚生労働大臣が定める者(以下「非入所者」という。)が、必要な療養を受けるために国立ハンセン病療養所への入所を希望したときは、入所させないことについて正当な理由がある場合を除き、国立ハンセン病療養所に入所させるものとすること。(第八条第一項関係)
2 国は、1により国立ハンセン病療養所に入所した者に対して、必要な療養を行うものとすること。(第八条第二項関係)
三 国立ハンセン病療養所以外のハンセン病療養所に係る措置
   国は、入所者(第一の二の2の厚生労働大臣が定めるハンセン病療養所に入所している者に限る。)に対する必要な療養が確保されるよう、必要な措置を講ずるものとすること。(第九条関係)
四 意思に反する退所及び転所の禁止
国は、入所者の意思に反して、現に入所している国立ハンセン病療養所から当該入所者を退所させ、又は転所させてはならないこと。(第十条関係)
 五 国立ハンセン病療養所における医療及び介護に関する体制の整備のための措置
1 国は、医師、看護師及び介護員の確保等国立ハンセン病療養所における医療及び介護に関する体制の整備のために必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。(第十一条第一項関係)
2 地方公共団体は、1の国の施策に協力するよう努めるものとすること。(第十一条第二項関係)
六 良好な生活環境の確保のための措置等
1 国は、入所者の生活環境が地域社会から孤立することのないようにする等入所者の良好な生活環境の確保を図るため、国立ハンセン病療養所の土地、建物、設備等を地方公共団体又は地域住民等の利用に供する等必要な措置を講ずることができること。(第十二条第一項関係)
2 国は、1の措置を講ずるに当たっては、入所者の意見を尊重しなければならないこと。(第十二条第二項関係)
七 福利の増進
   国は、入所者の教養を高め、その福利を増進するよう努めるものとすること。(第十三条関係)
第三 社会復帰の支援並びに日常生活及び社会生活の援助
一 社会復帰の支援のための措置
国は、国立ハンセン病療養所等からの退所を希望する入所者(廃止法により予防法が廃止されるまでの間に、国立ハンセン病療養所等に入所していた者に限る。)の円滑な社会復帰に資するため、退所の準備に必要な資金の支給等必要な措置を講ずるものとすること。(第十四条関係)
二 ハンセン病療養所退所者給与金及びハンセン病療養所非入所者給与金の支給
1 国は、退所者に対し、その生活の安定等を図るため、ハンセン病療養所退所者給与金を支給するものとすること。(第十五条第一項関係)
2 国は、非入所者に対し、その生活の安定等を図るため、ハンセン病療養所非入所者給与金を支給するものとすること。(第十五条第二項関係)
3 租税その他の公課は、1のハンセン病療養所退所者給与金及び2のハンセン病療養所非入所者給与金を標準として、課することができないこと。(第十五条第四項関係)
三 ハンセン病等に係る医療体制の整備
   国及び地方公共団体は、退所者及び非入所者が、国立ハンセン病療養所等及びそれ以外の医療機関において、安心してハンセン病及びその後遺症その他の関連疾患の治療を受けることができるよう、医療体制の整備に努めるものとすること。(第十六条関係)
四 相談及び情報の提供等
   国及び地方公共団体は、退所者及び非入所者が日常生活又は社会生活を円滑に営むことができるようにするため、これらの者からの相談に応じ、必要な情報の提供及び助言を行う等必要な措置を講ずるものとすること。(第十七条関係)
第四 名誉の回復及び死没者の追悼
国は、ハンセン病の患者であった者等の名誉の回復を図るため、国立のハンセン病資料館の設置、歴史的建造物の保存等ハンセン病及びハンセン病対策の歴史に関する正しい知識の普及啓発その他必要な措置を講ずるとともに、死没者に対する追悼の意を表するため、国立ハンセン病療養所等において収蔵している死没者の焼骨に係る改葬費の遺族への支給その他必要な措置を講ずるものとすること。(第十八条関係)
第五 親族に対する援護
一 親族に対する援護の実施
1 都道府県知事は、国立ハンセン病療養所の入所者の親族のうち、当該入所者が入所しなかったならば、主としてその者の収入によって生計を維持し、又はその者と生計を共にしていると認められる者で、当該都道府県の区域内に居住地を有するものが、生計困難のため、援護を要する状態にあると認めるときは、これらの者に対し、この法律の定めるところにより、援護を行うことができること。ただし、これらの者が他の法律(生活保護法を除く。)に定める扶助を受けることができる場合においては、その受けることができる扶助の限度においては、その法律の定めるところによること。(第十九条第一項関係)
2 1による援護(以下「援護」という。)は、金銭を支給することによって行うものとすること。ただし、これによることができないとき、これによることが適当でないとき、その他援護の目的を達するために必要があるときは、現物を支給することによって行うことができること。(第十九条第二項関係)
3 援護の種類、範囲、程度その他援護に関し必要な事項は、政令で定めること。(第十九条第四項関係)
二 都道府県の支弁
都道府県は、援護に要する費用を支弁しなければならないこと。(第二十条関係)
三 費用の徴収
都道府県知事は、援護を行った場合において、その援護を受けた者に対して、民法の規定により扶養の義務を履行しなければならない者(入所者を除く。)があるときは、その義務の範囲内において、その者からその援護の実施に要した費用の全部又は一部を徴収することができること。(第二十一条第一項関係)
四 国庫の負担
国庫は、政令で定めるところにより、二により都道府県が支弁する費用の全部を負担すること。(第二十二条関係)
五 公課及び差押えの禁止
1 租税その他の公課は、援護として支給される金品を標準として、課することができないこと。(第二十三条第一項関係)
2 援護として支給される金品は、既に支給を受けたものであるとないとにかかわらず、差し押さえることができないこと。(第二十三条第二項関係)
第六 施行期日等
一 施行期日
  この法律は、平成二十一年四月一日から施行すること。(附則第一条関係)
 二 らい予防法の廃止に関する法律の廃止
   らい予防法の廃止に関する法律は、廃止すること。(附則第二条関係)
三 経過措置等
この法律の施行に関し必要な経過措置を定めるとともに、関係法律の規定の整備を行うものとすること。(附則第三条から第九条まで関係)

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