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法律第九十五号(昭五〇・一二・二七)

  ◎油濁損害賠償保障法

目次

 第一章 総則(第一条・第二条)

 第二章 油濁損害賠債責任及び責任の制限(第三条―第十二条)

 第三章 油濁損害賠償保障契約(第十三条―第二十一条)

 第四章 国際基金

  第一節 国際基金に対する請求(第二十二条―第二十七条)

  第二節 国際基金に対する拠出(第二十八条―第三十条)

 第五章 責任制限手続(第三十一条―第三十九条)

 第六章 雑則(第四十条―第四十四条)

 第七章 罰則(第四十五条―第五十条)

 附則

   第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、船舶から流出し、又は排出された油によつて油濁損害が生じた場合における船舶所有者の責任を明確にし、及び油濁損害の賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて船舶による油の海上輸送の健全な発達に資することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 一 責任条約 油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約をいう。

 二 国際基金条約 油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する国際条約(千九百六十九年の油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約の補足)をいう。

 三 油 原油、重油、潤滑油その他の蒸発しにくい油で政令で定めるものをいう。

 四 船舶 ばら積みの油の海上輸送のための船舟類をいう。

 五 船舶所有者 船舶法(明治三十二年法律第四十六号)第五条第一項の規定又は外国の法令の規定により船舶の所有者として登録を受けている者(当該登録を受けている者がないときは、船舶を所有する者)をいう。ただし、外国が所有する船舶について当該国において当該船舶の運航者として登録を受けている会社その他の団体があるときは、当該登録を受けている会社その他の団体をいう。

 六 油濁損害 次に掲げる損害又は費用をいう。

  イ ばら積みの油の輸送の用に供している船舶から流出し、又は排出された油による汚染(貨物又は燃料として積載されていた油による汚染に限る。)により生ずる責任条約の締約国の領域(領海を含む。)内における損害

  ロ イに掲げる損害の原因となる事実が生じた後にその損害を防止し、又は軽減するために執られる相当の措置に要する費用及びその措置により生ずる損害

 七 船舶所有者の損害防止措置費用等 船舶所有者が自発的に前号ロに規定する措置を執る場合におけるその措置に要する費用及びその措置によつて当該船舶所有者に生ずる損害をいう。

 八 一単位 純分千分の九百の金六十五・五ミリグラムの価値に相当する政令で定める金額をいう。

 九 保険者等 この法律で定める油濁損害賠償保障契約において船舶所有者の損害をてん補し、又は賠償の義務の履行を担保する者をいう。

 十 国際基金 国際基金条約第二条第一項に規定する油による汚染損害の補償のための国際基金をいう。

 十一 制限債権 船舶所有者又は保険者等が、この法律で定めるところによりその責任を制限することができる債権をいう。

 十二 受益債務者 当該責任制限手続における制限債権に係る債務者で、責任制限手続開始の申立てをした者以外のものをいう。

   第二章 油濁損害賠償責任及び責任の制限

 (油濁損害賠償責任)

第三条 油濁損害が生じたときは、当該油濁損害に係る油が積載されていた船舶の船舶所有者は、その損害を賠償する責めに任ずる。ただし、当該油濁損害が次の各号の一に該当するときは、この限りでない。

 一 戦争、内乱又は暴動により生じたこと。

 二 異常な天災地変により生じたこと。

 三 専ら当該船舶所有者及びその使用する者以外の者の悪意により生じたこと。

 四 専ら国又は公共団体の航路標識又は交通整理のための信号施設の管理の瑕疵により生じたこと。

2 二以上の船舶に積載されていた油により油濁損害が生じた場合において、当該油濁損害がいずれの船舶から流出し、又は排出された油によるものであるかを分別することができないときは、各船舶所有者は、連帯してその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、当該油濁損害が前項各号の一に該当するときは、この限りでない。

3 前二項に規定する船舶所有者は、油濁損害の原因となつた最初の事実が生じた時における船舶所有者とする。

4 第一項本文又は第二項本文の場合において、当該船舶の船舶賃借人及び当該船舶の船舶所有者又は船舶賃借人の使用する者は、その損害を賠償する責めに任じない。

5 前項の規定は、損害を賠償した船舶所有者の第三者に対する求償権の行使を妨げない。

 (賠償についてのしんしやく)

第四条 被害者の故意又は過失により油濁損害が生じたときは、裁判所は、損害賠償の責任及び額を定めるについて、これをしんしやくすることができる。

 (船舶所有者の責任の制限)

第五条 第三条第一項又は第二項の規定により油濁損害の賠償の責めに任ずる船舶所有者(法人である船舶所有者の無限責任社員を含む。以下同じ。)は、当該油濁損害に基づく債権について、この法律で定めるところにより、その責任を制限することができる。ただし、当該油濁損害が自己の故意又は過失により生じたものであるときは、この限りでない。

2 海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約の締約国であり、責任条約の締約国でない国の国籍を有する船舶の船舶所有者は、前項の規定によりその責任を制限することができる債権について、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号。以下「責任制限法」という。)第三条第一項の規定によりその責任を制限することができる。

 (責任限度額)

第六条 船舶所有者がその責任を制限することができる場合における責任の限度額(以下「責任限度額」という。)は、次に掲げる金額のうちいずれか少ない金額とする。

 一 一単位の二千倍に船舶のトン数を乗じて得た金額

 二 一単位の二億一千万倍

 (船舶のトン数の算定)

第七条 前条第一号の船舶のトン数は、船舶積量測度法(大正三年法律第三十四号)の規定に従い、純積量の算定に当たり機関室の積量として総積量から控除した積量を純積量に加えた積量をトンで表したものとする。ただし、運輸省令で定める特殊な構造を有する船舶については、当該船舶が輸送することができる油の質量を運輸省令で定める算定方法に従い換算したものをトン数とみなす。

 (責任の制限の及ぶ範囲)

第八条 船舶所有者の責任の制限は、当該船舶ごとに、同一の事故から生じた当該船舶に係る船舶所有者及び保険者等に対するすべての制限債権に及ぶ。

 (制限債権者が受ける弁済の割合)

第九条 船舶所有者がその責任を制限した場合には、制限債権者は、その制限債権の額の割合に応じて弁済を受ける。

 (権利の消滅)

第十条 第三条第一項又は第二項の規定に基づく船舶所有者に対する損害賠償請求権は、油濁損害が生じた日から三年以内に裁判上の請求がされないときは、消滅する。当該油濁損害の原因となつた最初の事実が生じた日から六年以内に裁判上の請求がされないときも、同様とする。

 (船舶所有者に対する油濁損害賠償請求事件の管轄)

第十一条 第三条第一項又は第二項の規定に基づく船舶所有者に対する訴えは、他の法律により管轄裁判所が定められていないときは、最高裁判所が定める地の裁判所の管轄に属する。

 (外国判決の効力)

第十二条 責任条約第九条第一項の規定により管轄権を有する外国裁判所が油濁損害の賠償の請求の訴えについてした確定判決は、次に掲げる場合を除き、その効力を有する。

 一 当該判決が詐欺によつて取得された場合

 二 被告が訴訟の開始に必要な呼出し又は命令の送達を受けず、かつ、自己の主張を陳述するための公平な機会が与えられなかつた場合

2 前項に規定する確定判決についての執行判決に関しては、民事訴訟法(明治二十三年法律第二十九号)第五百十五条第二項第二号中「第二百条ノ条件ヲ具備セザルトキ」とあるのは、「油濁損害賠償保障法第十二条第一項各号ノ一ニ該当スルモノナルトキ」とする。

   第三章 油濁損害賠償保障契約

 (保障契約の締結強制)

第十三条 日本国籍を有する船舶は、これについてこの法律で定める油濁損害賠償保障契約(以下「保障契約」という。)が締結されているものでなければ、二千トンを超えるばら積みの油の輸送の用に供してはならない。

2 前項に規定する船舶以外の船舶は、これについて保障契約が締結されているものでなければ、二千トンを超えるばら積みの油を積載して、本邦内の港に入港し、本邦内の港を出港し、又は本邦内の係留施設を使用してはならない。

 (保障契約)

第十四条 保障契約は、船舶(二千トン以下のばら積みの油の輸送の用に供する船舶を除く。)の船舶所有者が当該船舶に積載されていた油による油濁損害の賠償の責めに任ずる場合において、その賠償の義務の履行により当該船舶所有者に生ずる損害をてん補する保険契約又はその賠償の義務の履行を担保する契約とする。

2 保障契約は、当該契約において船舶所有者の損害をてん補し、又は賠償の義務の履行を担保する者が船主相互保険組合、保険会社その他の政令で定める者であるものでなければならない。

3 保障契約は、当該契約において船舶所有者の損害をてん補するための保険金額又は賠償の義務の履行が担保されている油濁損害の額が当該契約に係る船舶ごとに当該船舶所有者の責任限度額に満たないものであつてはならない。

4 保障契約は、責任条約第七条第五項の規定に適合する場合に限り、その効力を失わせ、又はその内容を変更することができるものでなければならない。

 (保険者等に対する損害賠償額の請求等)

第十五条 第三条第一項又は第二項の規定による船舶所有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、保険者等に対し、損害賠償額の支払を請求することができる。ただし、船舶所有者の悪意によつてその損害が生じたときは、この限りでない。

2 前項本文の場合において、保険者等は、船舶所有者が被害者に対して主張することができる抗弁のみをもつて被害者に対抗することができる。

3 第三条第五項、第五条第一項本文及び第六条から第十条までの規定は、第一項の規定に基づき損害賠償額の支払をする保険者等について準用する。

 (保険者等に対する油濁損害賠償請求事件の管轄)

第十六条 前条第一項の規定に基づく保険者等に対する訴えは、第三条第一項又は第二項の規定に基づく船舶所有者に対する訴えについて管轄権を有する裁判所に提起することができる。

 (保障契約証明書)

第十七条 運輸大臣は、船舶(責任条約の締約国である外国の国籍を有する船舶を除く。)について保障契約を保険者等と締結している者の申請があつたときは、当該船舶について保障契約が締結されていることを証する書面を交付しなければならない。

2 前項の申請をしようとする者は、船名、保障契約の種類その他の運輸省令で定める事項を記載した申請書を運輸大臣に提出しなければならない。

3 前項の申請書には、保障契約の契約書の写し並びに船舶の国籍及び第七条に規定するトン数を証する書面を添付しなければならない。

4 第一項に規定する書面(以下「保障契約証明書」という。)の交付を受けた者は、保障契約証明書を滅失し、若しくは損傷し、又はその識別が困難となつたときは、その再交付を受けることができる。

5 保障契約証明書の交付又は再交付を申請しようとする者は、運輸省令で定めるところにより、手数料を納付しなければならない。

6 前各項に定めるもののほか、保障契約証明書の有効期間、記載事項その他保障契約証明書に関し必要な事項は、運輸省令で定める。

 (保障契約証明書の記載事項の変更)

第十八条 保障契約証明書の交付を受けた者は、当該保障契約証明書の記載事項の変更があつたときは、その変更があつた日から十五日以内に、その変更に係る事項を運輸大臣に届け出なければならない。ただし、次条の規定により当該保障契約証明書を返納しなければならないときは、この限りでない。

2 前項の届出があつたときは、運輸大臣は、当該届出をした者に対し、新たな保障契約証明書を交付しなければならない。

3 前項の場合において、当該届出をした者は、遅滞なく、第一項の保障契約証明書を運輸大臣に返納しなければならない。

 (保障契約証明書の返納)

第十九条 保障契約証明書の交付を受けた者は、保障契約証明書の有効期間が満了し、又は保障契約証明書の有効期間の満了前に当該保障契約証明書に係る保障契約が効力を失い、若しくは第十四条の規定に適合しないこととなつたときは、遅滞なく、当該保障契約証明書を運輸大臣に返納しなければならない。

 (保障契約証明書の備置き)

第二十条 日本国籍を有する船舶は、保障契約証明書が備え置かれているものでなければ、二千トンを超えるばら積みの油の輸送の用に供してはならない。

2 前項に規定する船舶以外の船舶は、保障契約証明書、責任条約の締約国である外国が交付した当該船舶について保障契約が締結されていることを証する責任条約の附属書の様式による書面又は外国が交付した責任条約第七条第十二項に規定する証明書の記載事項を記載した書面が備え置かれているものでなければ、二千トンを超えるばら積みの油を積載して、本邦内の港に入港し、本邦内の港を出港し、又は本邦内の係留施設を使用してはならない。

 (適用除外)

第二十一条 この章(前条第二項を除く。)の規定は、外国が所有する船舶であつて、これについて保障契約が締結されていないものについては、適用しない。

   第四章 国際基金

    第一節 国際基金に対する請求

 (国際基金に対する被害者の補償の請求)

第二十二条 被害者は、国際基金条約で定めるところにより、国際基金に対し、賠償を受けることができなかつた油濁損害の金額について国際基金条約第四条第一項に規定する補償を求めることができる。

 (国際基金に対する船舶所有者等の補てんの請求)

第二十三条 船舶所有者又は保険者等は、国際基金条約で定めるところにより、国際基金に対し、損害賠償額の支払の責めに任じた金額について国際基金条約第五条第一項に規定する補てんを求めることができる。

 (国際基金の訴訟参加)

第二十四条 第三条第一項若しくは第二項の規定に基づく船舶所有者に対する訴え又は第十五条第一項の規定に基づく保険者等に対する訴えが係属する場合には、国際基金は、当事者として当該訴訟に参加することができる。

2 民事訴訟法第七十一条後段の規定は、前項の場合について準用する。

 (国際基金への訴訟係属の通告)

第二十五条 前条第一項に規定する場合には、当事者は、国際基金にその旨を通告することができる。

2 民事訴訟法第七十七条の規定は、前項の場合について準用する。

 (国際基金に対する請求訴訟の管轄)

第二十六条 国際基金条約第四条第一項に規定する補償又は国際基金条約第五条第一項に規定する補てんを求めるための国際基金に対する訴えは、第三条第一項又は第二項の規定に基づく船舶所有者に対する訴えについて管轄権を有する裁判所(その訴えが船舶所有者の損害防止措置費用等のみについての補償又は補てんを求めるものであるときは、船舶所有者の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所又はこの裁判所がないときは、最高裁判所が定める地を管轄する裁判所)に提起することができる。

2 前項の訴えは、同一の油濁損害に関し、第三条第一項若しくは第二項の規定に基づく船舶所有者に対する訴え若しくは第十五条第一項の規定に基づく保険者等に対する訴えが第一審の裁判所に係属し、又は責任制限事件が係属する場合には、当該裁判所の管轄に専属する。

 (外国判決の効力)

第二十七条 第十二条の規定は、国際基金条約第七条第一項又は第三項の規定により管轄権を有する外国裁判所がした確定判決について準用する。

    第二節 国際基金に対する拠出

 (特定油量の報告)

第二十八条 政令で定める原油及び重油であつて本邦内において荷揚げされるもの(以下この節において「特定油」という。)を前年中に船舶から受け取つた者(他人のために特定油を船舶から受け取つた者を除くものとし、その者に受け取らせた者を含む。以下「油受取人」という。)の前年中に船舶から受け取つた特定油(自己のために船舶から受け取らせた特定油を含む。以下同じ。)の合計量が十五万トンを超えるときは、当該油受取人は、毎年、運輸省令で定めるところにより、その受取量を運輸大臣に報告しなければならない。

2 前年中に、油受取人の事業活動を支配する者があつた場合において、当該油受取人の船舶から受け取つた特定油の合計量(当該支配する者が船舶から受け取つた特定油があるときは、その合計量にその受取量を加算した量)が十五万トンを超えるときは、当該支配する者は、毎年、運輸省令で定めるところにより、油受取人ごとにその受取量を運輸大臣に報告しなければならない。この場合において、その報告に係る油受取人については、前項の規定は、適用しない。

3 前項に規定する油受取人の事業活動を支配する者の範囲は、政令で定める。

 (国際基金への資料の送付等)

第二十九条 運輸大臣は、前条第一項又は第二項の報告があつたときは、その内容を通商産業大臣に通知した上、国際基金条約第十五条第二項に規定する事項を記載した書面を作成し、同項の規定により、これを国際基金に送付しなければならない。

2 運輸大臣は、前項の規定により作成した書面を国際基金に送付したときは、当該書面に記載された油受取人に、その者に係る当該書面に記載された特定油の量を通知しなければならない。

 (国際基金に対する拠出)

第三十条 第二十八条第一項又は第二項の規定によりその受取量を報告すべき特定油に係る油受取人は、国際基金条約第十一条から第十三条までの規定により、国際基金条約第十条の拠出金を国際基金に納付しなければならない。

   第五章 責任制限手続

 (責任制限事件の管轄)

第三十一条 責任制限事件は、本邦内において油濁損害が生じたときは、当該油濁損害の生じた地を管轄する地方裁判所の管轄に、本邦内における損害を防止するための第二条第六号ロに規定する措置が本邦外において執られ、かつ、本邦内において損害が生じなかつたときは、当該措置を執つた者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所又はこの裁判所がないときは、最高裁判所が定める地方裁判所の管轄に専属する。

 (責任制限事件の移送)

第三十二条 裁判所は、著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると認めるときは、職権で、責任制限事件を他の管轄裁判所、制限債権者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所又は同一の事故から生じた責任制限法の規定による責任制限事件の係属する裁判所に移送することができる。

 (国際基金の参加)

第三十三条 国際基金は、最高裁判所規則で定めるところにより、責任制限手続に参加することができる。

 (国際基金への責任制限手続係属の通告等)

第三十四条 責任制限手続が係属するときは、責任制限手続の申立てをした者、受益債務者又は責任制限手続に参加した者は、国際基金に対してその旨を通告することができる。

2 前項の規定による通告は、第三十八条において準用する責任制限法第二十八条第一項各号に掲げる事項を記載した書面を裁判所に提出してしなければならない。

3 裁判所は、前項の書面を国際基金に対して送達しなければならない。

第三十五条 裁判所は、国際基金が責任制限手続に参加し、又は国際基金に対して前条第三項の規定による送達がされた場合において、第三十八条において準用する責任制限法第二十八条第一項各号に掲げる事項に変更が生じたときはその変更に係る事項を記載した書面を、第三十八条において準用する責任制限法第三十一条第一項、第八十五条第一項又は第八十七条第一項の規定による公告がされたときはその公告に係る事項を記載した書面を、国際基金に対して送達しなければならない。この場合においては、責任制限法第十五条の規定を準用する。

 (自発的に損害防止措置を執つた場合における船舶所有者の責任制限手続への参加)

第三十六条 船舶所有者は、自発的に第二条第六号ロに規定する措置を執つたときは、船舶所有者の損害防止措置費用等について制限債権を有するものとみなし、これをもつて責任制限手続に参加することができる。

2 責任制限法第四十七条第五項、第五十条(責任制限法第五十一条第二項において準用する場合を含む。)及び第五十三条の規定は、前項の場合について準用する。

 (訴訟手続の中止)

第三十七条 次条において準用する責任制限法第四十七条第五項の規定により制限債権の届出がされた場合において、当該債権に関する債権者及び申立人又は受益債務者間の訴訟が係属するときは、裁判所は、国際基金が当該訴訟に参加し又は当該訴訟に関し第二十五条第一項の通告を受けている場合にあつては原告の申立てにより又は職権で、その他の場合にあつては原告の申立てにより、その訴訟手続の中止を命ずることができる。

2 前項に規定する届出又は前条第二項において準用する責任制限法第四十七条第五項の規定による届出がされた場合において、当該債権に関し、国際基金条約第四条第一項に規定する補償を求めるための国際基金に対する訴えが係属するときは、裁判所は、職権で、その訴訟手続の中止を命ずることができる。

3 第一項の場合において原告の申立てにより訴訟手続の中止が命ぜられたときは、裁判所は、原告の申立てにより、当該訴訟手続の中止の決定を取り消すことができる。

 (責任制限法の準用)

第三十八条 この法律の規定による責任制限手続については、責任制限法第三章(第九条、第十条、第十六条、第四節、第五十四条及び第六十四条を除く。)の規定を準用する。この場合において、責任制限法第十三条、第十四条第一項、第十五条、第三十三条及び第四十条第一項中「この法律」とあるのは「油濁損害賠償保障法第三十八条において準用するこの法律」と、責任制限法第十七条第一項中「船舶所有者等又は船長等」とあるのは「船舶所有者(法人である船舶所有者の無限責任社員を含む。)又は保険者等」と、責任制限法第十九条第二項中「第二条第七号」とあるのは「油濁損害賠償保障法第二条第八号」と、責任制限法第四十七条第一項中「制限債権(利息又は不履行による損害賠償若しくは違約金の請求権については、制限債権の調査期日の開始の日までに生じたものに限る。以下この章において同じ。)」とあるのは「制限債権」と、責任制限法第五十七条中「並びに制限債権であるときは、その内容及び人の損害に関する債権と物の損害に関する債権との別」とあるのは 「及び制限債権であるときは、その内容」と、責任制限法第六十条中「内容並びに人の損害に関する債権と物の損害に関する債権との別」とあるのは「内容」と、責任制限法第六十一条第二項中「内容及び人の損害に関する債権と物の損害に関する債権との別」とあるのは「内容」と、責任制限法第六十六条第一項中「手続外訴訟」とあるのは「債権者及び申立人又は受益債務者間の訴訟(以下「手続外訴訟」という。)」と、責任制限法第七十条第二項中「事項を人の損害に関する債権と物の損害に関する債権との別に従つて」とあるのは「事項を」と続み替えるものとする。

 (最高裁判所規則)

第三十九条 この法律の定めるもののほか、責任制限手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。

   第六章 雑則

 (船舶先取特権)

第四十条 制限債権者は、その制限債権につき、事故に係る船舶、その属具及び受領していない運送賃の上に先取特権を有する。

2 前項の先取特権は、商法(明治三十二年法律第四十八号)第八百四十二条第八号の先取特権に次ぐ。

3 商法第八百四十三条、第八百四十四条第二項本文及び第三項、第八百四十五条、第八百四十六条、第八百四十七条第一項並びに第八百四十九条の規定は、第一項の先取特権について準用する。

4 第一項の先取特権が消滅する前に責任制限手続開始の決定があつた場合において、その決定を取り消す決定又は責任制限手続廃止の決定が確定したときは、前項において準用する商法第八百四十七条第一項の規定にかかわらず、第一項の先取特権は、その確定後一年を経過した時に消滅する。

 (締約国である外国における基金の形成の効果)

第四十一条 責任条約の締約国である外国において責任条約第五条の規定により基金が形成された場合においては、当該基金から支払を受けることができる制限債権については、その制限債権者は、当該基金以外の船舶所有者又は保険者等の財産に対してその権利を行使することができない。

2 責任制限法第三十四条から第三十六条までの規定は、前項の場合について準用する。

 (保障契約証明書の提示)

第四十二条 運輸大臣は、第一条の目的を達成するため必要があると認めるときは、その職員に、保障契約証明書又は第二十条第二項に規定する書面を船舶において管理する者に対し、その書面の提示を求めさせることができる。

2 前項の規定により提示を求める職員は、その身分を示す証票を携帯し、関係人にこれを提示しなければならない。

 (適用除外)

第四十三条 この法律の規定は、公用に供する船舶については、適用しない。

 (権限の委任)

第四十四条 この法律の規定により運輸大臣の権限に属する事項は、運輸省令で定めるところにより、海運局長に行わせることができる。

    第七章 罰則

第四十五条 第三十八条において準用する責任制限法第二十七条の規定により選任された管理人又は第三十八条において準用する責任制限法第四十三条第一項の規定により選任された管理人代理がその職務に関し賄賂を収受し、又はこれを要求し、若しくは約束したときは、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

2 前項の場合において、収受した賄賂は、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。

第四十六条 前条第一項に規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

第四十七条 次の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

 一 第十三条第一項の規定に違反した者

 二 第十三条第二項の規定の違反となるような行為をした者

 三 偽りその他不正の手段により、保障契約証明書の交付又は再交付を受けた者

 四 第三十八条において準用する責任制限法第四十条第二項の規定による報告又は書類の提出を求められて、報告をせず、若しくは書類の提出をせず、又は虚偽の報告をし、若しくは虚偽の書類の提出をした者

第四十八条 次の各号の一に該当する者は、十万円以下の罰金に処する。

 一 第十九条の規定に違反した者

 二 第二十条第一項の規定に違反した者

 三 第二十条第二項の規定の違反となるような行為をした者

 四 第二十八条第一項又は第二項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者

 五 第四十二条第一項の規定による提示を拒み、又は妨げた者

第四十九条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務に関して前二条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、前二条の罰金刑を科する。

第五十条 次の各号の一に該当する者は、三万円以下の過料に処する。

 一 第十八条第一項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者

 二 第十八条第三項の規定に違反した者

   附 則

 (施行期日)

第一条 この法律は、責任条約が日本国について効力を生ずる日から施行する。ただし、第四章第一節及び第三十三条から第三十五条までの規定は国際基金条約が日本国について効力を生ずる日又は国際基金条約第四十条第一項の規定により国際基金条約が効力を生ずる日(以下「国際基金条約発効日」という。)から起算して百二十日を経過した日のうちいずれか遅い日から、第二十八条、第四十八条第四号及び第四十九条の規定は公布の日から起算して一月を超えない範囲内において政令で定める日から、第二十九条及び第三十条の規定は国際基金条約が日本国について効力を生ずる日から施行する。

 (経過措置)

第二条 この法律(第四章第一節及び第三十三条から第三十五条までを除く。以下この項において同じ。)の規定は油濁損害の原因となつた最初の事実がこの法律の施行前に生じた場合における当該油濁損害について、第四章第一節及び第三十三条から第三十五条までの規定は油濁損害の原因となつた最初の事実がこれらの規定の施行前に生じた場合における当該油濁損害については、適用しない。

2 国際基金条約第四条第一項に規定する補償又は国際基金条約第五条第一項に規定する補てんを求めるための国際基金に対する訴えは、国際基金条約発効日から起算して二百四十日を経過する日までは提起することができない。

 (地方税法の一部改正)

第三条 地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)の一部を次のように改正する。

  第十四条の十三第一項第四号中「又は船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号)第九十五条第一項」を「、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号)第九十五条第一項の先取特権又は油濁損害賠償保障法(昭和五十年法律第九十五号)第四十条第一項」に改める。

 (国税徴収法の一部改正)

第四条 国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)の一部を次のように改正する。

  第十九条第一項第四号中「又は船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号)第九十五条第一項」を「、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号)第九十五条第一項(船舶先取特権)又は油濁損害賠償保障法(昭和五十年法律第九十五号)第四十条第一項」に改める。

 (海洋汚染防止法の一部改正)

第五条 海洋汚染防止法(昭和四十五年法律第百三十六号)の一部を次のように改正する。

  第四十一条に次の一項を加える。

 5 第一項に規定する場合において、その講じられた措置が油濁損害賠償保障法(昭和五十年法律第九十五号)第二条第六号ロに規定する措置に該当するときは、その措置に要した費用については、前各項の規定は、適用しない。ただし、その措置に要した費用の負担の履行であつて同法第三条第一項又は第二項の規定に基づく油濁損害の賠償の義務の履行であるものについては、第三項の規定の例による。

 (民事訴訟費用等に関する法律の一部改正)

第六条 民事訴訟費用等に関する法律(昭和四十六年法律第四十号)の一部を次のように改正する。

  別表第一の一七の項ロ中「又は船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号)」を「、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号)又は油濁損害賠償保障法(昭和五十年法律第九十五号)」に改める。

 (船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部改正)

第七条 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を次のように改正する。

  第十条中「管轄裁判所又は」を「管轄裁判所、」に改め、「地方裁判所」の下に「又は同一の事故から生じた油濁損害賠償保障法(昭和五十年法律第九十五号)の規定による責任制限事件の係属する裁判所」を加える。

  第四十八条に次の一項を加える。

 2 前項の規定は、制限債権につき申立人及び受益債務者以外に全部の履行をする義務を負う者がある場合において、その者のために油濁損害賠償保障法の規定により責任制限手続が開始されたときにおける同法第二条第六号に規定する油濁損害に基づく債権(制限債権に該当するものに限る。)について準用する。

 (油濁損害賠償保障法の一部改正)

第八条 油濁損害賠償保障法の一部を次のように改正する。

  第三十八条中「「制限債権」と」の下に「、責任制限法第四十八条第二項中「油濁損害賠償保障法」とあるのは「この法律」と、「同法」とあるのは「油濁損害賠償保障法」と」を加える。

 (運輸省設置法の一部改正)

第九条 運輸省設置法(昭和二十四年法律第百五十七号)の一部を次のように改正する。

  第四条第一項第十五号の四の次に次の一号を加える。

  十五の四の二 油濁損害賠償保障契約に関する証明を行うこと。

  第二十三条第一項第七号の次に次の一号を加える。

  七の二 油濁損害賠償保障契約及び油による汚染損害の補償のための国際基金に関すること。

  第四十条第一項中第四号の七を第四号の八とし、第四号の二から第四号の六までを一号ずつ繰り下げ、第四号の次に次の一号を加える。

  四の二 油濁損害賠償保障契約に関すること。

(法務・大蔵・運輸・自治・内閣総理大臣署名) 

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