衆議院

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第16号 平成28年12月13日(火曜日)

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平成二十八年十二月十三日(火曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 鈴木 淳司君

   理事 今野 智博君 理事 土屋 正忠君

   理事 平口  洋君 理事 古川 禎久君

   理事 宮崎 政久君 理事 井出 庸生君

   理事 逢坂 誠二君 理事 國重  徹君

      赤澤 亮正君    安藤  裕君

      井野 俊郎君    奥野 信亮君

      門  博文君    城内  実君

      鈴木 貴子君    辻  清人君

      野中  厚君    福山  守君

      藤原  崇君    古田 圭一君

      三ッ林裕巳君    宮川 典子君

      宮路 拓馬君    宗清 皇一君

      山田 賢司君    吉野 正芳君

      若狭  勝君    枝野 幸男君

      階   猛君    山尾志桜里君

      大口 善徳君    吉田 宣弘君

      畑野 君枝君    藤野 保史君

      木下 智彦君    上西小百合君

    …………………………………

   法務大臣         金田 勝年君

   法務副大臣        盛山 正仁君

   法務大臣政務官      井野 俊郎君

   政府参考人

   (金融庁総務企画局審議官)            中島 淳一君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    小川 秀樹君

   政府参考人

   (国土交通省大臣官房審議官)           伊藤 明子君

   参考人

   (独立行政法人都市再生機構理事)         伊藤  治君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

十二月十三日

 辞任         補欠選任

  菅家 一郎君     三ッ林裕巳君

  辻  清人君     福山  守君

  宮路 拓馬君     宗清 皇一君

同日

 辞任         補欠選任

  福山  守君     辻  清人君

  三ッ林裕巳君     菅家 一郎君

  宗清 皇一君     宮路 拓馬君

    ―――――――――――――

十二月十三日

 商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案(内閣提出第一六号)は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 民法の一部を改正する法律案(内閣提出、第百八十九回国会閣法第六三号)

 民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出、第百八十九回国会閣法第六四号)


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     ――――◇―――――

鈴木委員長 これより会議を開きます。

 第百八十九回国会、内閣提出、民法の一部を改正する法律案及び民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案の両案を一括して議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 両案審査のため、本日、参考人として独立行政法人都市再生機構理事伊藤治君の出席を求め、意見を聴取することとし、また、政府参考人として金融庁総務企画局審議官中島淳一君、法務省民事局長小川秀樹君及び国土交通省大臣官房審議官伊藤明子君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

鈴木委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

鈴木委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。今野智博君。

今野委員 おはようございます。自由民主党の今野智博です。(発言する者あり)ありがとうございます。

 本日、質問の機会をいただきましたこと、感謝申し上げるとともに、本国会も最終盤を迎えるに当たりまして、本委員会においては落ちついた雰囲気の中で質疑が行えること、委員長初め委員各位の御尽力に改めて感謝を申し上げながら質問に入ります。

 今まで、この民法改正の質疑、三十時間弱の質疑時間が積み上げられまして、かなり、いろいろな論点について多岐にわたる質問がされ、議論も深化してきたのではないかなと思っております。

 言うまでもなく、今回の民法改正は、本来あるべき条文の追加であったり、あるいは長年にわたる実務の慣行、判例法理等を明文化するということが主眼である一方で、保証や時効については、新たな慣行を形成すべく条文を追加したということでございます。

 私、質疑を聞いておりまして、この委員会での質疑の中で、こんな論点があったのかということで気づかされる部分も多々ありましたし、また、聞いていて、もう少し深掘りをしたらどうかという論点もございました。きょうは、せっかく質問の機会をいただきましたので、細かな点にはなりますけれども、私が委員会の質疑を聞きながら少し気になったことについて質問をしたいと思います。

 先日、公明党の吉田委員が御質問をされていた論点でございますけれども、改正案条文の四百六十五条の十というところで、保証の情報提供ということが書かれております。この中に、主たる債務者は、委託を受ける者、保証人に対して、財産の状況を通知しなければならない、それを保証人が誤認した場合に保証契約を取り消すことができるというような趣旨の条文がございます。

 まず、これに関して、当然、債権者側とすれば保証契約を取り消されるというのはかなり不利益が大きいということが考えられますので、そう軽々に取り消されてはたまらないということだと思いますが、では、財産状況の誤認ということについて、具体的には今後実務が積み上げられていくと思いますけれども、どの程度の誤認があれば取り消しが可能なのか、現段階で具体的なもので何かお考えがあればお聞かせ願いたいと思います。

小川政府参考人 取り消し権を行使するには、その情報提供義務によって主債務者が情報提供すべき事項について誤認をしたというだけではなく、その誤認と保証契約の締結との間に因果関係があることが必要になります。そのため、その誤認の程度は、その誤認がなければ保証契約の締結をしない程度でなければならないわけですが、このような義務を設けた趣旨が、保証人において保証契約を締結するリスクの判断を可能にするためであることに照らせば、保証することによる具体的なリスクの程度を見誤らせるような事項についての誤認であったかどうかが重要であると考えられるところでございます。

 例えばということになりますが、主債務者に換価可能な資産がある、あるいは一定の収益があるといった事情は保証契約を締結するリスクを低減させるものでありますので、典型的には、主債務者に不動産などの換価可能な資産があるとの説明があったにもかかわらずそのような資産がないといったケースや、あるいは、収益が上がっているとの説明があったにもかかわらず全く収益がないといったケースなどは、通常、取り消し権を行使するに足りる誤認があったと認められるものと考えられると思います。

今野委員 ありがとうございます。

 続きまして、これも保証に関係する条文でございますけれども、改正案の四百五十八条の三、主たる債務者が期限の利益を喪失した場合の情報の通知、情報の提供義務ということでございますが、具体的に言えば、その通知をしなければ、保証人に対して遅延損害金を請求できなくなるというような趣旨の条文が新たに設けられております。

 一般的に、意思表示に関しては到達主義がとられるということの関係で、この四百五十八条の三の通知、これに関しては、実際に保証人のところに到達することが必要なのかどうか。仮に保証人が引っ越しや行方不明ということで通知が難しい場合にどのような手続、方法が用意されているのか、それについてお伺いいたします。

小川政府参考人 まず、四百五十八条の三の通知の性質でございますが、いわゆる意思表示というのは、一般に、一定の法律効果の発生を欲する意思を表示する行為をいうとされております。これに対しまして、四百五十八条の三の期限の利益の喪失の通知は、主債務者が期限の利益を喪失したという事実を保証人に知らせるものでありまして、講学上はいわゆる観念の通知と呼ばれるものでございます。先ほど申し上げました意思表示とは、その意味では厳密には異なる概念であると理解されております。

 この観念の通知は、意思表示それ自体ではないわけですが、基本的に意思表示に関する規定が類推適用されると解されておりますので、これも、相手方に到達しなければその効力を生じないということになります。したがいまして、期限の利益の喪失の通知についても、通知を発したが保証人に到達しなかった、そういう場合には通知したとは言えないということになります。

 このように、通知は保証人に到達することが必要ではありますが、保証契約の締結後に保証人の所在が不明となり、債権者が保証人に通知することが事実上困難となった場合には、債権者は、裁判所に申し立てをすることにより、公示により意思表示と同様の手法で保証人への通知をすることが可能でございます。したがいまして、そういう手法をとることによって、債権者の利益が不当に害されることはないというふうに考えております。

今野委員 一般的には、保証契約というのは債権者と保証人との間の契約ですので、一定程度、債権者に対しても、保証人の所在については調査を尽くすことを前提とした制度だというふうに理解をいたしました。

 ちょっと、時間の関係で、続きまして、債権譲渡、とりわけ私が今一番聞きたいのが、譲渡禁止特約というものが付されている場合の債権譲渡についてでございます。

 今までの条文ですと、譲渡禁止特約が付されている場合については、その譲渡については無効になるというような解釈が一般であったかと思いますけれども、今回の改正によって、債権譲渡そのものに関しては効力を妨げられないというようなことで、少なくとも譲り渡し人、譲り受け人との間においてはその譲渡が有効である。これは、債権その他の資産を流動化させるということの社会的な要請の一環でそうした条文が設けられたのかなという気がしております。

 ただ、そうはいっても、譲渡禁止特約をする債務者側の利益、いきなり、わけのわからない、知らないところで債権者がかわってしまって、厳しい取り立てに遭うとかそういったことを避ける、あるいは、債務者側も、債権者側に対して何か債権を取得する予定があって将来的には相殺をしようとか、そういったさまざまな利益があるわけでございますけれども、今回、そうしたことを含みおきながら、いろいろな条文が設けられております。

 とりわけ、改正案の四百六十六条の二ということで、これは、債権譲渡禁止特約がついた債権が譲渡された場合の債務者の利益を保護するために、債権者不確知ということで、二重払いの危険にさらされた債務者側が供託をすることができるというような条文が設けられております。

 供託できるというふうに条文では書かれておるんですが、実際上は、債務者側としては常に供託をしなければいけない、そういった状況に置かれるのではないかと私は考えられるんですけれども、その点はいかがでしょうか。

小川政府参考人 まず、現行法のもとの御説明をいたしますと、譲渡制限特約つきの債権が譲渡された場合において、譲り受け人が特約の存在を知っているか否かなどを債務者が知ることができないときは、債務者は債権者を確知することができないとして、債権者不確知の弁済供託をすることによって債務を免れることができることになります。

 実際には、譲渡制限特約つきの債権が譲渡された場合には、債務者は、この弁済供託を利用することによって弁済の相手方を誤るリスクを事前に回避しておくという運用が多く行われていると承知しております。

 改正法案におきましては、譲渡制限特約が付されていても債権の譲渡の効力が妨げられないこととしております。そのため、譲渡制限特約つきの債権が譲渡された場合には、譲り受け人が譲渡禁止特約が付されていることを知っているか否かにかかわらず債権者は常に譲り受け人となるため、形式的には、債権者を確知することができないという状態ではない、債権者不確知という状態ではないということになります。

 しかし、他方で、改正法案のもとでも、譲渡制限特約が付されていることを譲り受け人が知っていたかどうかによって債務者が有効に弁済をすることができる相手方は異なるため、同様に、債務者が供託することで債務を免れさせる必要は高いと考えられます。

 そこで、改正法案では、新たな供託原因を創設し、譲渡制限特約が付された金銭債権が譲渡された場合には債務者は供託をすることができることとしております。

 もっとも、債務者が弁済の相手方を誤るリスクを回避することを目的として供託することが想定されておりますので、例えば譲り受け人が悪意または重過失であることが明らかであるような場合、これは典型的には債権の譲渡が担保目的や売買目的で行われるといったケースで、相手方が一般の金融機関や企業であるような場合ということになると思いますが、こういった場合には、債務者としては、あえて供託という手続はとらず、譲渡人に対して弁済をするという方法を選択することも十分にあり得るものと考えられております。

今野委員 言葉でこれを聞くとなかなか理解がしがたいんですが、じっくり議事録を後で読んでいただきたいと思います。

 それと、四百六十六条の二の第二項で、供託をした場合に、債務者が譲り渡し人及び譲り受け人に対して遅滞なく供託の通知をしなければいけないというふうな条文があります。

 遅滞なく通知をしなかった場合に、では結局、債務者側がどのような不利益をこうむるのか。場合によっては債務不履行ということで責任を追及されることがあるのか。その点はいかがでしょうか。

小川政府参考人 まず、通知義務を課した理由でございますが、四百六十六条の二第一項の規定に基づいて「供託をした債務者は、遅滞なく、譲渡人及び譲受人に供託の通知をしなければならない。」とされております。これは、弁済供託一般について、「供託をした者は、遅滞なく、債権者に供託の通知をしなければならない。」とされていることから、これを参照して、債務者に、今回の改正法案の制度についても通知義務を課すこととしたものでございます。

 この一般の弁済供託においては、供託をした者が民法第四百九十五条第三項に基づく通知義務を怠った場合には、供託の効力が否定されるということではなくて、供託をした者が被供託者に対して損害賠償責任を負うと解されております。したがいまして、四百六十六条の二第二項に基づく通知義務を債務者が怠った場合につきましても同様に、この義務違反に基づく損害賠償責任を負うことになると解されるところでございます。

今野委員 ありがとうございました。

 私が若干気になっていた点について、きょうの質疑において明らかにしていただきました。

 またきょうも充実した審議が行われることを期待いたしまして、質問を終わります。ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、吉田宣弘君。

吉田(宣)委員 おはようございます。公明党の吉田宣弘でございます。

 本日も、質疑の機会を賜りましたこと、心から感謝を申し上げて、限られた時間でございます、早速質問に入らせていただきます。

 まず、意思無能力者の法律行為に関する規定、これは現行民法には規定がなかったというふうに承知をしております。意思無能力者の法律行為は無効と解されてきたというふうに承知をしておりますけれども、間違いないか、確認の意味でお聞かせください。

小川政府参考人 現行法におきましては明文の規定はございませんが、意思無能力者がした法律行為は無効となると解釈されておりまして、この点につきましては判例、学説上異論なく認められていたところだというふうに理解しております。

吉田(宣)委員 今般の法改正でこの内容が規定をされたというふうに私は承知をしております。

 次に、錯誤について。

 これまで、意思表示に要素の錯誤がある場合には無効であると規定をされていたというふうに承知をしております。今般の改正で、無効でなく、これが取り消しという規定の仕方になったというふうなことでございますけれども、無効から取り消しになった趣旨について御説明を願いたいと思います。

小川政府参考人 現行法の九十五条は、錯誤による意思表示につきましては無効としております。この無効という効果の一般的な理解によれば、まず無効は誰でも主張することができるということ、それから無効を主張することができる期間には制限はないというのが、二つ挙げられようかと思います。もっとも、錯誤による意思表示の効力を否定するのは意思表示をしました表意者を保護するためでありますので、相手方やそれ以外の第三者が意思表示の無効を主張することを認める必要はないと考えられます。そこで、判例も、取り消しと同様に、原則として意思表示をした者のみが錯誤により意思表示の効力を否定することができるとしております。

 また、他人の欺罔行為に基づいて誤解を生じたという、いわゆる詐欺の場合を考えますと、意思表示は無効でなく取り消しとされておりますため、その効力を否定することができる期間は五年間に制限されるにもかかわらず、他人の欺罔行為によることなくみずから誤解をするに至った錯誤の場合にはそのような期間制限がないということになりまして、そのままでは、落ち度のある表意者をより保護する結果となっておって、バランスを欠いていると考えられます。

 そこで、改正法案におきましては、以上のような点を考慮いたしまして、錯誤による意思表示は、無効ではなく、取り消すことができるものとしております。

吉田(宣)委員 いわゆる表意者保護に関する視点からそのような改正がなされたというふうな御説明であったかと思います。

 加えて、現行法では、無権代理人の行った法律行為は本人との関係では効果が帰属しないと承知をしておりますけれども、改正法でも変化がないのでしょうか。お聞かせください。

小川政府参考人 現行法百十三条一項は、「代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。」と規定しておりまして、無権代理人が行った法律行為は、原則としては本人との関係でその効力が生じないものとされております。

 改正法案におきましても、この現行法百十三条第一項については改正を行っておりませんで、改正法案のもとにおいてもこの点については変更はございません。

吉田(宣)委員 さらに進ませていただきます。

 次に、無権利者に対する弁済の効力についてお聞きをしたいと思います。

 無権利者に対する弁済の効力は無効であるというふうに承知をしております。まず、この認識で間違いがないのか。

 また、改正法では、意思無能力者の行った法律行為について無効であるとの明文の規定が施されたのに対し、無権利者に対する弁済については現行法も改正法も規定がないというふうに承知をしております。改正法において規定がない理由を御説明願いたいと思います。

小川政府参考人 弁済を受領する権限のない無権利者に対する弁済は、これは原則として効力を有しません。このことについては、条文上明記はされておりませんが、異論なく認められるところだというふうに理解しております。

 それから、規定を設けなかった理由でございますが、現行法においてはそもそも弁済という用語の意義が明らかになるような規定さえございませんでしたので、改正法案においては、債務者が債権者に対して弁済をしたときにはその債権は消滅する旨の弁済の原則的な規定を設けることとしております。民法改正法案の第四百七十三条でございます。

 他方で、この規定を前提とする限り、無権利者に対する弁済が有効とならないことにつきましては、その規定の反対解釈から容易に読み取ることができるというふうに考えられますので、その趣旨を明示する規定を設ける必要性は改正法案のもとでは低くなっていると考えられます。そこで、無権利者に対する弁済について、その効力を有しない旨の規定を置くこととはしなかったものでございます。

吉田(宣)委員 加えて問いをさせていただきたいと思います。

 この無権利者への弁済、これは現行民法で四百七十八条という例外規定があると承知をしておりますけれども、改正法案の中に本条に対応する規定はあるかどうか教えてください。

小川政府参考人 現行法第四百七十八条に対応する規定は改正法案でも存在しておりますし、条文番号も変わっておりませんので、四百七十八条がこれに対応する規定でございます。

吉田(宣)委員 先ほど改正法の民法のたてつけについて説明がございましたけれども、やはり私はちょっと疑問なんです。

 なぜかと申しますと、無権利者の弁済については、原則明文の規定がなくて、例外について明文の規定があるということなんですね。

 最初に御説明いただいたとおり、現行法は、意思無能力の法律行為は無効と解されていて、争いの余地はなかった。とりたてて明文の規定を立てなくても国民生活には私は特段混乱は生じなかったであろうと思います。ただ、国民にわかりやすい民法を目指すという意味において、明文化した意義そのものを否定するつもりはもちろんございません。

 錯誤無効については、権利の内容が変更されているという意味でお聞きをいたしました。

 無権代理行為が本人との関係で効果が帰属をしない、これは現行法にも規定がある。

 しかし、無権利者への弁済の効力について、これは原則であるにもかかわらず明文の規定がない、例外については明文規定があるという状態が改正法でも維持されるということに、私だけかもしれませんが、違和感があります。

 そこで、もう一度、念のため確認したいんですけれども、現行民法四百七十八条と改正法の四百七十八条は、無権利者への弁済が無効であるという原則に対する例外規定であるという理解で間違いないか、確認の意味でお聞かせください。

小川政府参考人 委員の御理解のとおり、現行法四百七十八条は、弁済を受領する権限のない無権利者に対する弁済が効力を有しないという原則に対する一定の例外を定めておりまして、改正法案における四百七十八条も同様の例外を定めております。

吉田(宣)委員 もう少し議論を深めさせていただきたいと思います。具体的な例を立ててお聞きしたいと思います。

 預金通帳を登録の印鑑とともに盗まれて、窃盗人が銀行の窓口でその通帳から預金の払い戻しを受けた場合、被害者は救済されるかという例でお聞きしたいと思いますが、先般、参考人質疑で資料配付されました「消費者からみた民法改正」というオレンジ色の本に書いてある事例です。

 この場合、窃盗人は預金については当然無権利者ということで、したがって、銀行の払い戻し行為は無権利者への弁済であって無効となる、銀行には払い戻した現金の返還請求権が発生するだけで、預金者の権利には影響を及ぼさない、これが原則であるということで間違いないか、お聞かせください。

小川政府参考人 先ほども申し上げましたように、弁済を受領する権限のない無権利者に対する弁済は、原則として効力を有しないものでございます。

 委員御指摘の預金通帳と登録印鑑を窃取した者ということになりますと、弁済を受領する権限のない無権利者の典型であると考えられますので、その意味では、弁済としての効力を有せず、預金者の権利には影響を及ぼさないのが原則でございます。

吉田(宣)委員 原則、影響がないということなんですね。すなわち、預金者を保護する必要性はこの時点ではないということになります。

 しかし、現行法でも改正法でも四百七十八条があるので、銀行は払い戻し行為につき善意無過失であれば払い戻しは弁済として有効となり、原則は修正されて、預金者が今度は窃盗人に対して不当利得返還請求権を行使するしかすべはないという結論になると考えますが、これで間違いございませんでしょうか。

小川政府参考人 現行法四百七十八条は、債権の準占有者に対してした弁済は、弁済が善意でかつ無過失であったときに限り有効であるとしております。

 委員御指摘の、預金通帳及び登録印を所持している者についてはこの債権の準占有者に当たるとする判断が裁判例としても多いというふうに指摘されております。

 改正法案は、債権の準占有者という用語の意味内容を明確化することとしておりますが、その範囲を実質的に改めるものではございません。したがいまして、先ほど申し上げました指摘を前提といたしますと、債務者名義の預金通帳などを持参した者は四百七十八条に該当することになるものと考えられます。

 したがいまして、委員御指摘の事例については、現行法と改正法案のいずれにおいても、もちろん個別の事案ごとの判断ではございますが、四百七十八条により、その払い戻しは弁済としての効力を生じ、預金者の債権は消滅することになることと考えられます。このため、預金者は、銀行に対して払い戻しを請求することはできず、民法の規定のみを前提とする限りは、窃盗した者に対する不当利得返還請求権あるいは不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することによって救済を受けることになると考えられるところでございます。

吉田(宣)委員 四百七十八条の適用があれば、今度は預金者は自分で救済を図らなければいけないということになります。

 では次に、窃盗人が窃取したキャッシュカードを用いて銀行のATMから預金を引き出した場合はどうか、お尋ねしたいと思います。

 民法上の説明と特別法上の説明、それぞれお願いしたいと思います。

小川政府参考人 まず、民法の観点から申し上げますと、現行法の四百七十八条は、現金自動入出機、いわゆるATMによる預金の払い戻しについても適用されると解されております。判例もあるところでございます。したがいまして、民法の規定のみを前提とする限りは、預金債権の弁済について、いわゆるATMを用いた払い戻しがされた場合と、銀行の窓口において払い戻しがされた場合とで、その有効無効を判断するに際して適用される条文自体は異ならないということになります。

中島政府参考人 特別法の規定について御説明申し上げます。

 平成十七年に議員立法により制定されましたいわゆる預貯金者保護法におきましては、民法の特例が規定されております。

 御指摘の、盗難カードを用いて金融機関のATMから預金を引き出した場合には、民法第四百七十八条の規定が適用されますが、預貯金者保護法におきましては、預貯金者がキャッシュカードを盗取された旨を速やかに当該金融機関に対して通知するなど一定の要件を満たした場合には、当該金融機関に対して補填を求めることができ、その場合には、預貯金者の故意、または金融機関が善意無過失でかつ預貯金者の重大な過失があるとき等を除いて、当該金融機関は補填を行わなければならないと規定されております。

吉田(宣)委員 民法の原則が、民法の四百七十八条、改正法でも同じですけれども、これに修正をされて、加えてこの特別法で、修正された原則が修正されるというふうなたてつけになっているかと思います。

 今御説明があったこの預金者保護法は、公明党が弱者救済の観点から立法をリードしたというふうに承知をしておりますけれども、例えば、金融庁の調査によると、偽造キャッシングカード事案で、平成十二年四月から平成二十八年の六月までの統計で、実に九六%の事案でこの特別法において救済がされているということであり、国民の救済の願いにかなう運用がなされているというふうに思っております。

 この点、民法では救済されないわけでございますが、これは、民法は当事者を対等な前提で規定をされているので、先ほどのような、民事局長から御説明があったような結論になるのは私はやむを得ないというふうに思います。

 ただ、この四百七十八条の準占有者に対する弁済の要件の善意無過失については、議論の過程で中間試案というのがあり、それは、「正当な理由がある場合に限り、」という要件、すなわち、主観的要件ではなくて、その他の事案も加味して考えるべきというふうな意見があったことも承知をしております。こういった意見について、私は、預金者たる国民の立場からは十分に尊重ができる意見であったろうというふうに思います。

 いずれにせよ、今後とも、国民の立場に立った民法のあり方、これについてはしっかり検討をしていくこと、そのことを申し述べて、時間が参りましたので、質問を終わります。

 ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、枝野幸男君。

枝野委員 枝野でございます。よろしくお願いいたします。

 きょうは、まず、継続的契約における債務不履行解除、改正案では五百四十一条等に絡むところになりますが、このあたりから確認を幾つかしていきたいというふうに思います。

 債務者の帰責事由を問わずに債権者が解除できるというたてつけになっているというふうに思います。確かに、大規模災害のような場合に継続的契約を途中で解除できないと、実際に東日本のときもありましたが、被災地から調達していた部品をやむなく別のところから調達せざるを得ない、解除ができないということになると困ったことになるというのはわからないではないんですが、でも、一般的に常にそうかということがあります。

 例えば、一般的には、労働契約は労働関係の各法律で、特別法で規制されていますが、そうした労働法制の対象にならない請負的就業などについても、本当に債務者の帰責事由を問わずに解除できるということでいいのかどうか、このあたりはどういうふうに判断をされたのかという関係を御説明ください。

小川政府参考人 お答えいたします。

 改正法案におきましては、御指摘がありましたように、債務不履行について、債務者に帰責事由がない場合にも債権者は契約を解除することができることとしております。

 これに対しまして、改正法案の立案に向けた議論の過程では、個人が請負契約や業務委託契約などの名目で特定の相手方に対して継続的に役務を提供する契約を締結している場合には就労者として保護すべきであるという認識を前提として、天災などによってその債務を履行することができなかったときにも契約の解除ができるとすればその保護が後退するとして、そのような契約については解除の要件を加重すべきであるなどの意見がございました。

 確かに、相当長期間にわたって委託を受けて専属的に役務を提供し、その役務の提供のために多額の費用をかけている場合など、契約の内容によっては、契約の存続に対する債務者の期待を特に保護すべき場合もあると解されるものの、そのような保護を要する契約を的確に類型化することは実際上は困難でございます。それにもかかわらず、特定の類型の契約についてのみ解除の要件を加重する規定を設けますと、かえって、そうした規定がない類型の契約については保護される余地がないという反対解釈を招きかねず、契約の内容や性質に応じた柔軟な解釈による救済の可能性を妨げるおそれもあると考えられました。

 そこで、改正法案におきましては、個人が特定の相手方に対して請負契約などの名目で継続的に役務を提供する契約を締結している場合について、解除の要件を加重する特別の規定を設けるということはしておりません。

 ということになりますが、もっとも、継続的契約につきましては、現行法のもとでも、契約の解除をするには、当事者間の信頼関係の破壊などの、契約を継続しがたいやむを得ないような事由が必要であるなどとして、事案によって解除の要件を加重するような解釈がされております。

 したがいまして、改正法案におきましては、その明文化は見送られましたが、必要に応じてこのような解釈を通じて債務者の救済が図られることが想定されております。

枝野委員 今のお答えでいいかと思いますが、もう一度、最後の部分だけ確認をさせてください。

 条文上は、債務者の帰責事由を問わずに債権者が解除できるという規定だけ置いてありますが、継続的契約の双方の信頼関係その他、事情によっては債権者の解除が解釈上制約されることがあり得る、この従来の判例の考え方は改正によっても変わらない、これでよろしいですね。

小川政府参考人 御指摘のとおり、改正によっても変わらないというふうに考えております。

枝野委員 このあたりのところは実務において柔軟な対応がなされることを期待したいというふうに思います。

 条文では少し頭の方に戻りまして、先ほどもお話がありました意思能力についてです。確認的にお尋ねをしたいと思います。

 そもそも意思能力とはどういう能力なのか、意思能力を有しなかったときというのはどういう場合なのか、その解釈について説明ください。

小川政府参考人 一般に、意思能力とは、行為の結果を判断するに足りるだけの精神能力をいうなどと言われております。

 その具体的な内容についてどう考えるかということになりますと、学説が分かれておりまして、意思能力を事理弁識能力と理解し、個別具体的な法律行為の内容にかかわらず一律に判断されるとする考え方と、個別具体的な法律行為の内容に即して判断されるとする考え方とが対立している状況でございます。

枝野委員 今回、意思能力の定義を置かなかったわけですが、今、どちらの説に立つでしょうか、新法は。

小川政府参考人 その点は学説に委ねているということになります。

枝野委員 念のため聞きますが、従来も、条文はなかったけれども意思能力が欠如したら無効である、確定的な判例もない、こういう理解でしょうか。

小川政府参考人 この点に関する確定的な判例もございませんでした。

枝野委員 では、逆にこういう聞き方をしましょう。意思能力の有無の判断は、例えば、意思能力に関連して成年後見などの規定がありますが、こうした手続がとられているとかとられていないとかということとは全く関係なく、完全に関係なくとは言えないかもしれませんが、別に成年後見の被後見になっていなくても意思能力がないと解釈されることはあるし、場合によっては、成年後見の手続がとられて被後見になっている場合でも、意思能力、この条文での意思能力という意味では、あると認められるケースもある、これでよろしいですね。

小川政府参考人 御指摘のとおり、意思能力の有無につきましては、成年後見手続の有無、すなわち後見開始の審判を受けているか否かと関係なく判断されて、例えば後見開始の審判を経ていない者について意思能力がないといった判断がされることはあるというふうに考えられます。

枝野委員 成年後見などの手続、規定、運用を十分にやることで、実は、この規定が余り使われない方が本来はそうした立場の人たちの保護のためには厚いのかなというふうには思いますが、そうした例外的な場合というか極限的な場合にこの規定が生きるんだろうというふうには思います。そう考えると、私は先ほどの解釈でいうと前者の方が適切なのかなと思いますけれども、これは今後の実務の中で蓄積されていくんだろうなということで、次へ進みたいというふうに思います。

 錯誤、これも確認的にまずお尋ねをさせていただきたいというふうに思います。

 いわゆる動機の錯誤、九十五条の、新設された二項に絡むところですが、ここでは表示が必要であるというふうに今度の改正で規定をされています。

 従来も、動機の錯誤については、それが表示をされていた場合という判例だったと私は理解していますし、ただ、この場合の表示は黙示的なものでも表示として認定されるという解釈であったというふうに思いますが、確認的に、新たに条文で動機の錯誤に関する第二項が新設されても、黙示の場合も含めて表示というのは解釈される、これは変わらないということでよろしいですね。

小川政府参考人 改正法案において新設しております九十五条二項では、意思表示の動機となった事情が法律行為の基礎とされていることが表示されているときという要件を定めておりますが、これは、その事情が法律行為の当然の前提となっていることが相手方において認識することができるように表示されている場合という意味でございまして、黙示的に表示されている場合も含みます。

 判例は、動機の表示は黙示のものでも足りると理解しておりまして、改正法案によってこの点が影響を受けるということはないものと考えております。

枝野委員 問題は、動機の錯誤の原因が相手方の事実と異なる表示であった場合、勝手に錯誤に陥ったなら別なんですが、相手からの表示が事実と違っていたために動機の錯誤に陥った、でも詐欺等の要件までには当たっていない、こうしたケースにおいてはより緩やかに取り消しを可能にすべきではないかと思いますが、中間試案等ではそういう考え方もあったと承知をしているんですが、そういう規定を置かなかった理由と、こうした場合は、どういう形で救済されるというか、実態に合った解決が図られるのかを御説明ください。

小川政府参考人 改正法案では、動機の錯誤を理由とする意思表示の取り消しは、「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。」こととしております。

 しかし、法制審議会における審議の過程では、動機の錯誤において、相手方がその錯誤を惹起した場合については、その意思表示が取り消されても相手方はこれを甘受すべきであるとして、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されているかどうかにかかわらず、意思表示を取り消すことができるとする特則を設ける案も検討されました。

 しかし、この案に対しましては、錯誤により意思表示を取り消すことができる範囲が現状の無効とされている範囲よりも拡大し、これによって取引の安全が害されるのではないか、あるいは自由で活発な取引を萎縮させるおそれがあるのではないかといった観点からの反対意見のほか、不実の表示をして錯誤を惹起した者が情報量や交渉力に劣る中小企業あるいは消費者などである場合にまで容易に意思表示の取り消しが認められることになるという観点からの反対意見なども出されました。

 また、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されているとは、先ほど申し上げましたが、明示的に表示されている場合だけでなく、その意思表示に至る経緯などに鑑みて、黙示的に表示されている場合も含むものでございます。

 したがいまして、相手方が惹起した錯誤が契約などで重要な意味を持ち、意思表示の取り消しを認めるのが相当な事案については、明示の表示がなくても、黙示的に表示されていると認定することによって事案の適切な解決を図ることが可能であると考えられるところでございます。

 こういった点を踏まえまして、改正法案では、相手方が錯誤を惹起した場合についての特則は設けなかったということでございます。

枝野委員 最後のところは、やはりここも大事ですので念押しで確認をしたいと思いますが、相手方が事実と異なった表示をした等、相手方の行動によって錯誤が惹起された場合には、黙示の表示があった等の認定などの事実認定のところで、それが適切な場合には取り消しの対象になり得るということでよろしいですね。

小川政府参考人 御指摘のとおりだと思います。

枝野委員 このあたりも、実際に法律が成立したら、運用において柔軟かつ適切な対応が必要なところではないかというふうに思いますので、議事録の上でしっかりと指摘をしておきたいというふうに思います。

 次に、相殺の規定、不法行為債務との相殺、改正案では五百九条になろうかと思いますが、これについてお尋ねをしたいと思います。

 まず、不法行為等を原因とする債務をもって相殺することはできないということ、そのケースを改正法では限定しました。どのような考え方に基づいて限定したんでしょうか。

小川政府参考人 現行法の五百九条では、不法行為に基づく損害賠償請求権を受働債権とする相殺は一律に禁止されております。その趣旨は、不法行為の被害者に現実に弁済を受けさせることによりその保護を図ること、及び、金銭債権を有する債権者が債務者に対して不法行為を行うことを誘発するというのを防止することにあると指摘されております。

 もっとも、これらの趣旨に鑑みますと、例えば過失に基づく不法行為については、相殺を許しても不法行為を誘発するおそれは乏しいと考えられますし、不法行為債権の債権者が無資力になった場合には、相殺禁止によってむしろ当事者間の公平を害する事案も生じているとして、五百九条の趣旨に反しない限りで、相殺禁止の範囲を現行法よりも狭くすべきであるという指摘がされておりました。

 そこで、改正法案においては、禁止される相殺の範囲を現行法よりも限定する方向で見直すこととしております。

 まず、人の生命または身体の侵害による損害賠償債権については、被害者保護のために現実に弁済を受けさせる必要が特に高いと考えられることから、これを受働債権とする相殺は一律に禁止しております。

 他方、財産的損害などに係る不法行為に基づく損害賠償債権については、不法行為の誘発の防止という趣旨からは、悪意によるものを相殺禁止の対象とすれば十分であり、それ以外はむしろ相殺を可能とすることによって当事者間の公平を図るのが相当であると考えられます。

 なお、人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権については、不法行為ではなく債務不履行を原因として生ずるものであっても、現実に弁済を受けさせることによる被害者保護の必要性は不法行為の場合と同様に高いと考えられますので、これを受働債権とする相殺についても禁止しております。

枝野委員 まず、この一号の「悪意」なんですけれども、普通、悪意は、民法上の規定では知っていることなんですが、今の説明を聞くと、ここだけは、知っていることを超えて、わざとという意味で、だからというふうにもとれなくはないんですが、ここの「悪意」は、いわゆる他の規定における悪意と一緒なんですか。それとも、わざとみたいな意味で、もうちょっと普通の日本語としての悪意に近いものなんですか。どちらなんですか。

小川政府参考人 改正法案では、不法行為などにより生じた債権を受働債権とする相殺の禁止に関しまして、先ほど申し上げましたが、一定の例外を設けることとしておりますが、その趣旨から見まして、五百九条第一号の「悪意による不法行為」の、ここで言う「悪意」とは、積極的に他人を害する意思を持って行うことを意味するものでございます。したがって、単に知っているという意味での悪意よりさらに狭い概念ということになります。

枝野委員 これは、そういう答えが来るのかなと思いましたけれども、いいんでしょうかね。

 私も、何年前だろう、三十数年前、大学に入って民法を勉強して、悪意というのが普通の日本語と違うよねというところが、びっくりしたというか、なるほどなと思ったんですが、普通の日本語としてある悪意という言葉が、一般的には、法律、民法の中では違った意味で解される。なおかつ、さらにこの規定だけ違う意味があるということは、ちょっと混乱の原因になるんじゃないかなと思うんですが、大丈夫ですか。

小川政府参考人 今回、ある意味参考にしましたものは、これは破産法での免責許可の場合の、非免責債権などについての例として挙げております「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」、これもいわゆる害意ということでございますので、それとの並びという点も考慮いたしました。

 「悪意」の内容については、十分周知できるように、解説、説明などで努力したいというふうに考えております。

枝野委員 今回の改正の趣旨が、できるだけ普通の人にもわかりやすくしていこうということにあるんだとすれば、むしろ、破産法の規定も含めて今回の機に変えるということの方がわかりやすいということではないのかな。

 済みません。私、正直言って、きょう、同じ意味ですという答えが来るんだと思っていましたので、やはり、ここは普通の悪意とは意味が違うということは、これは今からでも手直しをされた方が混乱を招かないんじゃないのかなということを少し指摘しておきたいというふうに思います。別の書き方、書きようがあると思いますので、何も悪意という言葉を使う必要はないんじゃないのかなというふうに申し上げておきたいと思います。

 もう一つ、相殺に関連して、改正案の五百十一条にある被差し押さえ債権を受働債権とする相殺について、いわゆる無制限説をとる判例の考え方をそのまま改正案で明文化したというふうに承知をしております。

 ただ、一方で、従来から、受働債権を履行しないで自働債権の弁済期到来まで待っていたような第三債務者を保護する、相殺ができるということで保護することは、保護に値しないんじゃないかという制限説も一定の影響力というか説得力を持っていたというふうに思います。

 なぜ、制限説をとらず、無制限説をとったのか。他のところでは別に判例の判断と違う条文の置き方をしたところもありますから、単に判例がそうだからではなく、実質的に見て、どうして無制限説をとったのか。そして、制限説が指摘するような、保護に値しない者まで保護することになるのではないかという指摘に対しては、どういう運用で適正な解決を図るのか、御説明ください。

小川政府参考人 委員御指摘のとおり、判例は、第三債務者が差し押さえ前に取得した債権であれば、これによる相殺を無制限に差し押さえ債権者に対抗することができるかという点につきまして、弁済期の先後を問わず、自己の有する債権を差し押さえ前に取得している限り、第三債務者は相殺を無制限に対抗することができるという、いわゆる無制限説をとっておりまして、今日ではこの判例が広く支持されております。そこで、改正法案におきましては、この確立した判例を明文化することとしております。

 この点については、もちろん、委員御指摘のような理由、自働債権の弁済期到来を待って相殺する第三債務者は保護に値しないといった理由から制限説というものも主張されていることは承知しておりますし、学説上はなお議論もあるようでございますが、先ほど申し上げました判例、これは、判例の経過は御案内のとおりですが、昭和三十九年に制限説が最高裁によって出され、その後、昭和四十五年に無制限説に変わり、それ以後は無制限説を前提として極めて安定した実務運用が築かれてきたという実態がございますので、その意味で、ここでは判例どおりに明文化するという考え方が大方の賛同を得たものと考えております。

 実務上も、既に無制限説を前提とした運用がされているということでございます。

枝野委員 更問いなので、即答できるのかできないのか。私も結論的には無制限説でいいんだと思うんですが、まさに制限説が言っているような、本当にこんな人まで保護するのというケースについては、これは運用上どういうふうに処理をすることが想定されているんでしょうか。

小川政府参考人 制限説が問題視します公平でないような相殺ということにつきましては、判例なども、いわゆる相殺権の濫用という考え方がございますので、そういったものによって個別に対応することが可能であるというふうに考えております。

枝野委員 相殺権の濫用の法理を柔軟、適切に使うということが前提で無制限説だというふうに思いますので、今の答弁もしっかりとテークノートしたいと思います。

 済みません。不法行為等のところにもう一回戻りたいんですが、御指摘のとおり、今回の改正案にあるようなケースだけ相殺禁止をする、不法行為等の債権ですね、それは非常によくわかるんですが、もともと条文上は制約なく、不法行為等による債権であれば相殺対象にしないというものが、改正によって制限をされた、限定をされたわけなので、気をつけないと、限定という部分が強調されて解釈をされるおそれがあるんじゃないかと思います。

 ただ、私は、現時点で余り具体的な想定はできないけれども、今回、一号、二号で規定をしたのに準ずるようなケースで、これは相殺を認めると不適切であるというようなケースが将来的にあり得るんじゃないかというふうに思いますので、念のため、ここは、先ほど御答弁をいただいたような趣旨でこの二つの号に書かれているものが相殺禁止の対象になっているのであって、それ以外の相殺禁止を一切認めない趣旨ではない、解釈上十分にこれに準ずるケースについては、それこそ相殺権濫用などを持ち出すのか、何らかの形で相殺が制約される場合があり得るということを確認したいんですが、よろしいでしょうか。

小川政府参考人 具体的な場合が今はどうかというのは、なかなかこれは難しいところでございますが、先ほど申し上げました改正は、相殺が禁止される趣旨を踏まえたものでございますので、基本的にはその趣旨に応じて解釈、運用されるべきでございまして、そういったことが期待されているというふうに考えております。

枝野委員 当然のこととは思うんですが、あえて今回限定をしているだけに、今の答弁をしっかりと残しておきたいというふうに思います。

 代理の規定、時間を見て一問だけ入っておきたいと思いますが、代理人が、代理人としての権限を持っているんだけれども、私は代理人ですと言って法律行為を行ったのではなくて、本人であると称して意思表示をした場合については、規律する条項が置かれませんでした。

 本人を僣称した代理人の効力はどうなるんでしょうか。

小川政府参考人 御指摘いただきましたように、代理人がみずから、本人であることを前提に、本人であると称して法律行為をした場合にもその効果が本人に帰属するとするのが判例であり、通説であるというふうに言われております。

 改正法案のもとでは、この点について特段の規定は設けられておりませんが、先ほど申し上げました解釈に従いますと、本人に効果が帰属することになると考えられるところでございます。

枝野委員 法律に書いちゃうと、本人を僣称することを何か承認するみたいなことになっちゃうので条文は置かなかったということでありますが、当然のことながら、実際に行われてしまったら今のような効果になるのが適切だと思いますので、そこは変わらないということで、しっかりとテークノートしたいというふうに思います。

 残りの時間がありませんので、もう一度、質問ではなくて、ぜひ政務三役の皆さんに、先ほどの不法行為と相殺、五百九条、まさに普通の人にわかりやすい民法にするという趣旨と、悪意という日本語が、一般の普通名詞としての悪意と、法律用語として一般に言われる悪意と、この条文の場合の悪意と、三つごちゃごちゃになるというのは、これはちょっと、せっかく変えるんですから、もともとあるもので仕方がない、解釈で柔軟にやるしかないというのと違うので、せっかく変える機会なんですから、ここはぜひ、専門家は多分それでもうまく運用、解釈するんですが、そこはまさに政治の目として、こういうことは変えた方がいいんじゃないかということを、ぜひ事務方とも御相談して検討していただきたいということを申し上げて、きょうの質問はここまでにさせていただきたいというふうに思います。

 ありがとうございました。

鈴木委員長 次に、逢坂誠二君。

逢坂委員 逢坂誠二でございます。きょうもよろしくお願いいたします。

 きょうは、この間もちょっと質問しかけたのでありますけれども、暴利行為についてお伺いをしたいと思います。

 今回、暴利行為、いろいろ議論されたんだけれども、これを法文化することは見送ったということでありますけれども、改めて、暴利行為の定義、これはどのように法務省として考えておられるのか、御説明いただけますでしょうか。

小川政府参考人 暴利行為とは、これは一般的に言われているということになりますが、一般的には、他人の窮迫、無経験などに乗じて著しく過当な利益を得ることを目的とするような行為をいうなどと言われておりまして、このような行為は公序良俗に反するものとして現行法の九十条により無効であると判断した判例がございます。

逢坂委員 今回、暴利行為について、法文化、明文化は見送られたということでありますけれども、どういう議論を経て今回この暴利行為が盛り込まれるのが見送られたか、御説明いただけますでしょうか。

小川政府参考人 先ほど申し上げました意味の暴利行為が公序良俗違反として民法第九十条により無効であるとの結論を導くことは、九十条の文言からは必ずしも容易ではございませんので、法制審議会においては、予測可能性を確保するため、先ほど申し上げました判例を参考に、暴利行為を無効とする明文の規定を設けることが検討されました。

 しかし、何をもって暴利行為というかを抽象的な要件で規定すると取引への萎縮効果が生ずるとして、経済団体を中心に、明文の規定を設けることに反対する意見がございました。

 また、最近の下級審裁判例では、暴利行為として無効となる範囲が広がりつつあるという見方もありましたが、無効とされるべき暴利行為の内容が確立しているとは言いがたい現状において、このような最近の裁判例をも踏まえてその要件を適切に設定することは困難であり、必ずしも予測可能性を確保するという目的を達成することはできない上に、現時点で一定の要件を設定することで将来の議論の発展を阻害しかねないとも考えられたところでございます。

 そこで、改正法案におきましては、法制審議会における議論の状況を踏まえ、暴利行為に関する規定を設けることとはせず、引き続き、個別の事案に応じた現行法第九十条の解釈に委ねることとしたものでございます。

逢坂委員 いろいろ説明いただいたんですが、すぐ、すとんとは理解できない。理解できないというのは、今の説明が悪いという意味ではなくて、どういう理由であったかというのはすとんとわからないところもあるんですが、いずれにしても、その暴利行為なるものの範囲というか、それがどういうものであるかがなかなか確定しづらいというのが、平たく言えば、そういう意味だったのかなとは理解をいたしました。

 ただ、現に暴利行為なるものが存在しているわけですね。だから、私はもう少し踏み込んだ議論が法制審で必要だったのかなという気はするんですけれども、その際に、例えば経済活動に対する制約になるとか、経済活動を萎縮させるなどといった議論はあったんでしょうか。

小川政府参考人 やはり、どこまでが暴利行為になるのかということで、要件が抽象的なままということになりますと、取引への萎縮効果が生ずるという意見はございました。

逢坂委員 でも、私は、法律というのはやはり何を守るのかというところが非常に大事だと思っていまして、経済活動を守るということもそれは大事なんでしょうけれども、そのことによって現に困っている人がいる、困る人がいるということ、そちらの方、困りかねないというか、それはもちろん判例法理によって対応できるんだということなんだろうとは思うんですけれども、でも、それは事後的に、困った後にそういうことが行われるわけですね。だから、もう少し踏み込んだことが要るんじゃないか。

 今回の民法改正の議論を通して、保証人のところもそうなんですけれども、経済活動に対する制約になる、あるいは萎縮させる、それがやはり大きな理由になってさまざまな改正が及び腰になっていくというのは、私は少し残念な気がするんですけれども、そのあたり、法務省としてどう考えるんでしょうか。

 経済活動を優先させているのか、それとも、国民の保護といいましょうか、それを優先させているのか。何か私は、どうも今回の民法改正の議論を聞いていると、経済活動優先というふうに思えてならないのでありますけれども、このあたりはいかがでしょうか。

小川政府参考人 もちろん、経済活動が活発に行われることと国民生活が保全されるということ、これは両方のバランスでございます。

 定型約款などにつきましても、当初、経済界の反対は非常に強うございましたが、最終的には、議論の結果、一定の内容で盛り込まれたということからも示されますように、バランスの問題だというふうに理解しております。

逢坂委員 今後、この暴利行為なるものが法文化される可能性というか、あるいは、法文化されるともしするならば、どんな課題を乗り越えなければこれは法文化されないというふうに考えているでしょうか。

小川政府参考人 先ほども申し上げましたが、暴利行為に関する明文の規定を設けることとしなかった理由としては、何をもって暴利行為というかを抽象的な要件で規定すると取引への萎縮効果が生ずるとして、それに対する反対があったこと、あるいは、最近の下級審裁判例では範囲は広がりつつあるという見方もある一方で、無効とされるべき暴利行為の内容が確立しているとは言いがたい現状で、近時の裁判例を踏まえて要件を設定することは困難ではないかということ、それから、現時点で一定の要件を設定することで将来の議論の発展を阻害しかねないという点も指摘されております。

 したがいまして、暴利行為に関する明文の規定を設けるには、少なくともこういった懸念の解消が課題でございますが、そのためには、具体的な事案を前提とした最高裁判例ですとか下級審裁判例が蓄積し、これについての学説上の議論が積み重ねられて、暴利行為についての適切な要件設定の議論が可能となることが必要であるというふうに考えられます。

逢坂委員 そこが、何となく私は、法律の無力さと言うとちょっと言い過ぎかもしれませんけれども、力のなさを感ずるんですね。

 実は、昔、よくこんなことがありまして、結構危険な交差点があって、信号を設置してほしい、いろいろ公安委員会にお願いすると、なかなか設置してもらえない。そのお話の中で、正式には余り言うことはないんですけれども、もう少し重大な事故でも起きれば、また優先順位が上がるんですけれどもねみたいなことを言われることがあって、現に、危険な交差点で死亡事故なんかが発生した後に、優先順位が一気に上がって信号がつくなんということがある。

 だから、今の答弁を聞いていると、ある程度、国民の困った事例の積み上げがなければ明文化できないんだと言っている、これは少し後ろ向きではないかな。そういうものをどうやって乗り越えるのかというところが、私は、法律の審議をする際には非常に重要だと思うんです。

 このあたりについて、ここは通告していないのでお答えにくいかもしれないんですけれども、何か、私は立法にかかわっている、皆さんは行政の仕事でありますけれども、無力さを感ずる。ある程度の判例が積み上がらないと明文化できない、確かにそれはそうなんでしょうけれども、それは、ある種国民を、犠牲とは言わないけれども、国民の困った事例を積み上げるということになるわけですので、このあたり、どうすればそれを乗り越えられるんでしょうか。

 本当は、国民が困る前に何らかの手だてを講ずるというのが当たり前の考え方のような気がするんです。答えにくいかもしれませんけれども、どうですか。

小川政府参考人 まず第一に、規定がなくても、もちろん解釈で、九十条の解釈としてこれまでも暴利行為についての判断はされておりましたし、今後もそういう意味では変わるところがないだろうというふうに思っております。

 それから、やはり今の時点では、いろいろな意味で、下級審の裁判例も動いていたり、あるいは学説的にも、冒頭、定義の段階で過当な利益というふうに申し上げましたが、そういった過当性をどこまで要求するかとか、あるいは暴利行為をする者の主観的な要件としてどこまで要求するかといった点については、まさに議論がいろいろあるところでございまして、特に、無効という効果を招来する、そういう意味では重要な条文ということになりますので、一定の判例あるいは学説の蓄積を待たざるを得ないというところだと思います。

逢坂委員 これは何も責めているわけではなくて、そういう事情もわからなくもないんですけれども、何となく無力を感じるなという気がするんですね。これをどうやって乗り越えていくのかというのをもう少し私も勉強させてもらいたいと思いますけれども、暴利行為の規定については、できれば早い時期にしっかりと明文化できればいいがなという思いを述べさせていただいて、このテーマは終わります。

 では次に、民法九十条、先ほど来出ていますけれども、「公の秩序」ということですけれども、改めて、公の秩序というのはどういうものであるのかを御説明いただけますか。

小川政府参考人 一般に、公の秩序とは、国家、社会の一般的利益を意味するなどと言われておりますが、民法第九十条で並列されております「善良の風俗」との区別は必ずしも明瞭ではなく、両者が相まって行為の社会的な妥当性を意味するものと考えて差し支えないともされておりまして、一括して公序良俗と略称されることが多いものというふうに理解しております。

逢坂委員 そうなんですねというか、公の秩序単体ではなかなか意味がつかみにくいというか、公序良俗と、セットで何となく全体のイメージをつくっているわけですね。

 それで、もう一つ、我々の社会の中に公益という言葉がある。これは、民法の中には、公益という言葉、そういう概念が含まれているところはありましたでしょうか。

小川政府参考人 民法の中で、公益という用語は三十三条二項のみに用いられております。これは法人に関する規定の中で、公益法人に関する規定について、具体的なものは他の法律で定める旨を宣言する趣旨の規定でございまして、その内容は、公益法人という文脈のものでございます。

 この意味での公益は、一般には、不特定多数人の利益ですとか社会全般の利益を意味するなどとされております。

逢坂委員 公益ということでいいますと、先ほどの第九十条の公序良俗でありますけれども、公益に反する法律行為は無効になるということは、この条文から読めるんでしょうか。

 先ほど、公の秩序とは何かとか、善良の風俗のところまで説明をいただきましたが、その中にも公の利益という言葉があったかなかったか、ちょっと聞き取れはしなかったのでありますけれども、公益に反する法律行為は無効ということは言えるんでしょうか。

小川政府参考人 民法には公益に反する法律行為は無効であるといった規定はございませんで、民法上、公益に反することが直ちに法律行為の無効につながるとは言いがたいものと考えられます。

 法律行為が無効であるかどうかは、より具体的に、どのような点で社会的に見て弊害のある行為なのかを探求した上で、それが公の秩序または善良の風俗、いわゆる公序良俗に反するものかといった観点で判断されるものと考えられるところでございます。

逢坂委員 私が何でこんなことを言い出しているかといいますと、最近、TPPの議論のときもそうだったんですけれども、国益という言葉が出てきたり、社会の利益みたいなことをよく言われるところがあるんですが、非常にその辺が曖昧で、何か、国益とか、公の利益、公益といえば、さまざまな議論を捨象して、ある種すっ飛ばして、とにかく国益を守るんだとか公益を守るんだみたいなことが非常に最近多いような気がして、実は最近だけではない、戦前もそういうことが非常に多かったんだろうとは思うんですが、そういう、ある種、十分に議論をせずに、国益だ、公の利益だというふうに、ある一定の方向へ進んでいく危うさを感ずるんですね。

 だから、もう少し、この九十条のところを含めて、公の秩序とか公の利益とか、そういうことについてはもっと議論を深める必要があるのではないかなというふうに私自身は思っております。

 さてそこで、私は、例えば、今、暴利行為の話をしました、これは前にも質問をしたところなんですが、今回の民法改正で、無理して急がなくてもいいという感じのするところもやはりあるような気がするんです。最後に、この点、ちょっと改めてお伺いをしたい。

 確かに長い時間議論をしてきている、だからこの法律は何とか成立させたいという気持ちは私はわかります。それはわかります、気持ちとしては。だけれども、あえて無理をしなくても、もうちょっと、一呼吸置いてもというようなところもあるような気がするんです。そのあたりについて、改めて、どう考えているのかを聞いて質問を終わりたいと思います。

小川政府参考人 今回の民法の改正については、社会、経済の変化への対応を図る観点がありますということを申し上げているわけですが、御議論になっております保証ですとか法定利率、定型約款等の規定は、いずれも国民生活にとって身近なものでございます。

 例えば、保証は、一般市民が保証人の地位に立つなどすることもあるものでありますし、それから法定利率も、不法行為に巻き込まれたような場合に問題になります。それから、社会生活を送る上で、鉄道やバスを利用して移動することは極めて日常的でございますので、乗車契約などに約款が用いられることも留意する必要があろうかと思います。

 これらの事例を例にとっても、国民に身近な事象に適用される規定を現代の社会経済情勢に合わせて適切な内容に見直していくことが必要でございまして、現に、これらの制度の見直しは、基本的に多くの関係各界からもその必要性が指摘されているところでございます。

 したがいまして、民法の改正はできる限り速やかに行わなければ、国民生活に各種の不都合が生じるものであるというふうに考えております。

逢坂委員 発言しないつもりだったんですが、関係各界から必要性が要請されている、これも冒頭の私の問題意識に戻るんですけれども、確かに関係各界は必要としているのかもしれませんけれども、国民が本当にそのことを理解して必要としているのかというところは、もう少し丁寧に議論をしなきゃいけないのかなと思っています。

 以上、終わります。

鈴木委員長 次に、井出庸生君。

井出委員 民進党、信州長野の井出庸生です。本日もよろしくお願いを申し上げます。

 十二月の中旬であることも忘れるかのように、民法、民法とやってまいりましたが、引き続き、これまで深めさせていただいてきた論点について伺いたいと思います。

 何回か取り上げてきております取引上の社会通念と契約その他の債務の発生原因のところなんですが、これは、条文の中で「取引上の社会通念」というものが九カ所入る。その影響というものを考えて、特に四百十五条と五百四十八条の二についてこれまで聞いてまいりました。

 四百十五条の関係で申し上げますと、小川局長の答弁は、契約その他の債務の発生原因と取引上の社会通念は、お互い並列、イコールの関係で、その両方を勘案すると。前回もそういう御答弁がありまして、そのとき、契約内容や取引通念を考慮するということがまず実務上ある、それから、弁護士や実務家の立場から、契約条項で全て責任の有無が決せられるように誤解されるとして批判があった、そういうことで取引上の社会通念、常識というものが出てきたというのはおっしゃるとおりなんですが、前回は、「両者を総合的に考慮することを明らかにする趣旨」で今回の条文になったという話だったんですが、それが最終的に本当に、取引上の社会通念と契約その他の債務の発生原因がイコール関係というところは法制審できちっと合意がされたのか。

 私は、取引上の社会通念を入れてほしいと言った弁護士さんをしても、やはり契約の事情をまず主体的に考えるべきじゃないかというお考えに立っているんじゃないかなと思うんですが、その点を改めて伺いたいと思います。

小川政府参考人 契約その他の債務の発生原因と取引上の社会通念の関係がイコールという整理の仕方が必ずしも十分理解できていないのかもしれませんが、もちろん、この点については、法制審の中でも両者の関係をめぐっての議論というのはございました。契約と取引通念、契約あるいはその関連情報ということになりますが、それと取引通念をそれぞれ考慮事由として掲げるか、あるいは、その上位概念を例えば契約の趣旨などとして設けることとして、これを考慮要素とするかといったことについて、法制審の議論の中でも検討が行われております。

 これらの事由をそれぞれ掲げた場合には、特に、帰責事由の存否は契約でどのような定めがされているかで定まるべきであるとの立場からは、その趣旨がぼやけてしまうという批判がされておりました。他方で、これらの事由の上位概念を契約の趣旨などとして設ける考え方に対しては、弁護士や実務家の立場からは、契約条項で全て責任の有無が決せられるように誤解されるとして批判もございました。

 しかし、この上位概念を設ける考え方が合理的であるとする立場も、その判断に際して取引通念が考慮されることを否定するものではなかったこと、それから、実務上も契約内容や取引通念を考慮すると理解されていたことから、取引通念が考慮されないとの誤解を避け、両者を総合的に考慮することを明らかにする趣旨で、契約その他の債務の発生原因と取引上の社会通念を並列して考慮要素として規定したものでございます。

 以前の私の答弁は、こういった意味で、四百十五条の帰責事由の有無の判断に当たっては二つの考慮要素の両方を勘案することを述べたものでございます。

 さらに、二つの考慮要素の関係をどう見るかということですが、法制審議会においては、さきに申し上げましたいずれの立場からも、契約その他の債務の発生原因を中心に判断がされるべきであるとの理解が示されておりまして、少なくとも、当事者間の合意をおよそ無視して、社会通念のみに依拠して法律上の要件の存否を判断するなどといった、これは現在の裁判実務では起きていない事態だと思われますが、こういうことが生ずることはないという点については異論がなかったものと考えられます。この意味で、二つの考慮要素のうち、契約その他の債務の発生原因がより重視されるべき考慮要素であると理解されていたものと考えられます。

 もっとも、四百十五条の帰責事由の判断に当たりましては、契約で明示的に決められていない事柄が問題となることもあり得ますので、取引上の社会通念を無視して契約その他の債務の発生原因のみが考慮されるということはなく、その二つの考慮要素はあくまで総合考慮されるものでございますので、いわばその重みをどうつけるかということについては、契約その他の債務の発生原因の方が重視されるとしても、特に取引上の社会通念に契約その他の債務の発生原因が優先するというところまでは理解されていないということだというふうに思っております。

井出委員 答弁の後半の方は、何か、私が主張していた部分に沿った答弁が出てきたんですが、ちょっとまた最後の一文がううんという感じだったのですが、従前より丁寧に答弁をいただいているかと思います。

 そこで、取引上の社会通念と契約その他の債務の発生原因との関係は、四百十五条だけじゃなくて定型約款のところにも出てくるんですけれども、その定型約款の部分のところで少しお話をしたいんですが、十二月十日土曜日の毎日新聞の夕刊の一面にカード契約に関する記事が出ておりまして、「知らぬ間にリボ払い カード契約、小さい規約文字 高率な手数料相談急増」。

 毎月の返済額に上限を設けるクレジットカードのリボ払いをめぐるトラブルが、二〇〇六年に百九十七件だった国民生活センターなどへの相談が一五年度には七百七十四件と四倍になった、専門家が注意を呼びかけていて、記事によりますと、経産省も注意をしている、クレジット協会にリボ払いをもっとちゃんと説明しろと言っているようなんですが、相談件数は減っていない。

 これは何が問題の原因になっているのか。国民生活センターによりますと、トラブルの原因は、「カード作成時に、すべてリボ払いになってしまう項目に知らずにチェックを入れてしまう」「リボ払い専用のカードだと気付かずに使う」「あるカード会社では、入会時の会員規約の文字が一ミリ以下と小さいうえ、リボ払い上限額設定の項目が「あと決めプラン」と表記されているため分かりづらく、チェックを入れると、買い物の際に」その御本人がどんなに、一回で、一括でと「指定しても、リボ払いになってしまう。」、結果として、本人は一括で払っているつもりでも支払いの金額が残って、その支払い残高には年率一五%の高い手数料がついて、知らない間に残高が膨らんでいく、そういう問題なんです。

 カードの契約というのは恐らく定型約款なのかなと思うんですね。この間も、恐らくカードの契約は定型約款になるというようなお話も実際あったと思うんですが、取引上の社会通念と契約その他の債務の発生原因、例えばあるカード会社の入会時の会員規約の文字が一ミリ以下と小さい、そういうようなものがあったときに、いや、でも定型約款できちっと合意が一度なされてチェックもされているんだから有効だとしてしまうのか、それとも逆に、いや、通常の常識からいったら、会員規約の文字が一ミリ以下と小さいということは常識上許容されないとなるのか、ちょっとこのケースについての御見解をいただければと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 まさに不当条項の問題として、定型約款の個別の条項が信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるかどうかということだと思いますが、もちろん最終的には個別の事案によりますとしか申し上げようがないんですが、考慮すべき事由としましては、取引上の社会通念のみならず、その定型取引の態様ですとか実情といった点も考慮し、それに照らして不当条項かどうか、信義則に反するかどうかということを判断することとされておりますので、それらの事情を全て総合考慮した上での結論になるということだと思います。

井出委員 今、その定型取引の態様、実情、以前にも取り上げたんですが、カード契約の定型取引、一般的な特質と、それから個別の契約の実情ということで。

 なぜ法制審で弁護士の方が社会的な通念を入れろという御主張をされたのか。弁護士の方は、参考人質疑でも、消費者の視点に立ってこの問題に取り組んできたと。本まで出されているのでそれはそのとおりかなと思うんですが、特定の契約の発生原因等で、要は事業者側がいろいろ契約の情報も知っている、立場的に強い、立場的に弱いのは消費者である、契約だけで物事を解決されてしまったら消費者のためにならないから、社会通念、常識も入れてくれないかというような御趣旨だったんじゃないかなと考えるんです。

 そうすると、まさに、例えばこの会員規約の文字が一ミリ以下と小さいという話は、これは、もしこの新法が始まれば、定型約款の定義、相手方に表示をするその仕方にもかかってくるんですが、こういうものが世の中に出回らない、相談件数がこれだけ多くなればできれば早急に改善してほしいですし、そういうことがないような定型約款の社会をつくろうというのが、当初弁護士会が主張した社会通念を取り入れろということだったんじゃないかなと思うんです。

 この社会通念というものに、契約界のルールではなくて、契約の、弱い立場の側から見た常識、そういうものがきちっともう当然読み込める、そういうふうに解していいのかどうか、答弁をいただきたいと思います。

小川政府参考人 契約の趣旨といいますか、契約書をどう見るかということと、それから社会通念の関係をどう理解するかというのはいろいろ理解はあり得ると思いますが、十一月二十二日付の岡参考人の御発言で、契約だけではなく取引上の社会通念というものも判断要素に入ることがプラスになったのではないかと思っているという、この条文の問題とは違います、一般論としてですけれども、ちょっと引用させていただきますと、「弁護士会としては、契約に決めたら契約が全てだ、そうなると契約強者が強くなってしまう、こういう問題意識を持っておりましたので、契約が中心だけれども取引上の社会通念も配慮はする、こういう条文になったことで、従来の実務がより明確になって、また明確にして充実したものに実務として対応していけるのではないか、」ということを言われております。

 やはり、考慮要素というのもいろいろな意味でバランスをとる必要がございますので、契約の趣旨あるいは契約書の作成の経過などに尽きるのではなくて、取引上の社会通念によってもう一度考慮するという点が重要であるということについての御認識は、私も、参考人の御意見のとおりかなというふうに理解しております。

井出委員 今、岡参考人の御発言、そのとおりというお話がありましたが、その発言については私も結構だと思いますので、今、一定の御答弁をいただいたのかなと思います。

 この取引上の社会通念というものが債務不履行の損害賠償と定型約款以外にもありまして、そこのところもきょう一応確認をしておきたいと思います。

 まず、五百四十一条ですが、五百四十一条は、履行遅滞等による解除権です。

 現行法が、「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。」。

 改正案は、まず現行法の文章をそのまま第一文に持ってきて、その後、ただし書きで、「ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。」と。

 この「契約及び取引上の社会通念に照らして」という言葉と、あと、その後に「軽微」という言葉を入れられているかと思うんですが、この五百四十一条の、新法の趣旨について御説明いただきたいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 現行法の五百四十一条は、契約の解除をするために必要な債務不履行の程度を文言上特に限定しておりませんので、ごくわずかな不履行を理由としてであっても契約の解除をすることができるように読めるわけでございます。

 もっとも、判例は、不履行の部分がわずかである場合ですとか契約目的を達成するために必須とは言えない付随的な義務の不履行の場合には、契約の解除を制限しております。その趣旨は、契約の解除は、債務の不履行により契約の目的を達成することができない債権者を救済するためのものであることから、不履行の程度が軽微なものにとどまる場合にまで解除によって契約関係を消滅させるのは相当でないというところにございます。

 そこで、改正法案におきましては、催告解除の要件を具体化する観点から、これらの判例の基本的な考え方を前提に、解除が制限される要件を明文化することとしております。具体的には、催告の「期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」には、債権者は契約の解除をすることができない旨の規定を設けることとしております。

 この文言を加える理由ということになりますが、改正法案におきましては、こういった形で「軽微」という文言をまず加えております。これは、判例の基本的な考え方を前提に、解除が制限される要件を明文化するためというのが理由でございます。そして、判例上、軽微という非常に抽象的な要件が問題になるわけですので、そういった抽象的な要件の存否を判断する際に、判例の中でも、契約に関する諸事情及び取引に関して形成される社会通念を総合考慮するという判断の枠組みが採用されておりますので、そのような判断の枠組みを明らかにするという観点から、「契約及び取引上の社会通念」という文言を加えたということでございます。

井出委員 確かに、昭和十三、十四、昭和三十六年ですとか、そういう判例によりますと、「主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠つたに過ぎないような場合には、」「当該契約を解除することができない」というような判例がある、それを条文化されたということで、今、一定の説明をいただきました。

 次に、五百四条、債権者による担保の喪失等のところですが、現行法は、「第五百条の規定により代位をすることができる者がある場合において、債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位をすることができる者は、その喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において、その責任を免れる。」と。

 新法の方は、五百四条の一が、ちょっといろいろ書きぶりが変わっていて少し複雑なんですが、その上で、第二項で「前項の規定は、債権者が担保を喪失し、又は減少させたことについて取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるときは、適用しない。」と。

 これは、一見すると、やはり例外規定のようなものが設けられたのかなと思うんですが、この「取引上の社会通念に照らして」というものを入れる必要性について御説明をいただきたいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 五百四条の説明をさせていただきたいと思います。

 まず、現行法の五百四条は、担保は、債権者のみならず保証人ですとか物上保証人などの代位権者、弁済による代位をする者の求償権、弁済による代位をした後で求償権を取得しますので、その確保にも資することから、担保が債権者の故意または過失により喪失または減少した場合には、代位をする者、代位権者は債権者との関係で免責されることとしております。このような効果が発生するため、債権者は一般に担保保存義務を負っていると言われることがございます。

 これに関する実情ということになりますが、銀行などが行う融資におきましては、第三者が担保を設定している場合には、債務者の経営状況の変化などに伴い、担保の差しかえですとか一部解除の要請がしばしば行われておりますが、この担保の差しかえや一部解除を行うこと、これは形式的には、五百四条が定めます担保の喪失ですとか減少に該当いたします。そのため、債権者にとって、そういう担保の差しかえや一部解除をするという要請が合理的なものであったとしても、債権者としては代位権者全員の個別の同意を得ない限り債務者からの要請に応ずることができず、円滑な取引を阻害しているという指摘がございます。

 そこで、改正法案では、債権者が故意または過失により担保を喪失または減少させたとしても、これについて合理的な理由があると認められるときは代位権者は免責されないこととしております。これが五百四条の二項の趣旨でございます。

 そして、改正法案におきましては、判例が「金融取引上の通念から見て合理性を有し、保証人等が特約の文言にかかわらず正当に有し、又は有し得べき代位の期待を奪うものとはいえないとき」、こういう場合に担保保存義務を免除する旨の特約が有効であるという判断を示しておりますので、こういった点も踏まえまして、「合理的な理由」という点では非常に抽象的な要件ということになりますので、その抽象的な要件についての判断の枠組みを示すという意味で、先ほど申し上げました判例も踏まえて、「取引上の社会通念」を考慮して判断するという表現としたものでございます。

井出委員 次に、四百八十三条、特定物の現状による引き渡し。

 現行法は、「債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。」。

 これに対して、新法ですと、「債権の目的が特定物の引渡しである場合において、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。」。

 ここの追加された文言の趣旨について、御説明いただきたいと思います。

小川政府参考人 お答えいたします。

 現行法の四百八十三条は、「債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。」、現状で引き渡せばいいんだということを定めています。

 この規定、現行法の規定ということになりますが、典型的には特定物の売買がされた場合について適用されるということと考えられているんですが、今般の改正におきましては、売買契約に関しては、その目的物にふぐあいがあった場合の買い主の救済手段を明確化するなどの観点から、引き渡すべきときの物の品質は、特定物の売買であっても当事者間の合意によって定まるという考え方を前提としております。いわゆる瑕疵担保責任についての見直しに関連するものでございます。

 要するに、特定物であっても当事者間の合意によって引き渡すべきときの物の品質が決まるというのが売買などの契約の前提ということになりますので、現行法の四百八十三条のいわば存在価値が問題になってまいります。このため、四百八十三条の規定をそのまま存置することはできませんので、この規定の適用範囲を、引き渡すべきときの物の品質が当事者間の合意で定まらない場合に限定するということが考えられるわけでございます。

 以上を踏まえまして、改正法案におきましては、四百八十三条の規律内容が「その引渡しをすべき時の品質を定めることができないとき」に適用される規定であることとしております。

 そして、引き渡すべきときの品質が何に基づいて定まり得るものなのか、これも非常に抽象的なものでございまして、一見して明瞭なものとは言いがたいところでございますので、その判断の根拠を明示する趣旨で、契約を原因とする引き渡し債務であればその原因である契約自体、それから、不当利得などの法定債権につきましては、それを原因とする引き渡し債務であればその原因となる事実関係であることを明らかにしつつ、その際には、一般に、契約などの発生原因に加え、取引上の社会通念も含めた上で総合考慮されることを明示したものでございます。

 したがいまして、その旨を文言上も明らかにするという趣旨で、「取引上の社会通念に照らし」という文言を加えることとしたものでございます。

井出委員 もう少し一つ一つ聞いていきたいところなんですが、時間の関係もありますので。

 「取引上の社会通念」という言葉が九カ所入って、その前段に「契約その他の債務の発生原因」というものが入ったり入らなかったり、またもしくは、例えば九十五条では「取引上の社会通念」の前に「法律行為の目的及び」ということが入るんですが、共通しているのは、やはり現行の民法の規定、それはそのとおりなんだけれども、そうはいっても、実態、いろいろな判例があるので、そういうところを象徴する言葉としてこの「取引上の社会通念」というものが入ってきているのかな、そういう推測に至るわけなんです。

 そこで、この問題の象徴的な事例で伺いたいのは、以前の参考人質疑で加藤参考人がおっしゃっていた、四百十五条に戻りますが、債務不履行の損害賠償というものが過失責任なのか無過失責任なのか。

 九日に、階委員への答弁で、小川局長は、「無過失責任に変わることはございません。」と、無過失責任に変わることはないということをはっきりとおっしゃったんですが、果たして本当にそう言い切れるのかどうか、その点をもう一度伺いたいと思います。

小川政府参考人 まず、過失責任主義というのは何かということから申し上げたいと思うんですが、過失責任主義とは、一般に、ある行為について故意または過失がなければ損害賠償責任を負わないという考え方をいいます。

 現行法において、この過失責任主義は、不法行為責任に関する現行法第七百九条において明示的に採用されております。他方、債務不履行による損害賠償責任についても、伝統的な通説によれば、現行法四百十五条後段で債務者の帰責事由が必要とされているのは過失責任主義のあらわれであるという説明がされております。

 もっとも、そもそも帰責事由を過失責任主義と関連するものと理解するか、また、過失責任主義を前提とするとしても、その具体的な内容をどのように理解するかについては、これは学説も非常に多岐に分かれておりまして、必ずしも明瞭ではないというのが現状でございます。

 改正法案におきましては、現行法の四百十五条後段の債務者の帰責事由という要件を、債務不履行の全般を対象として維持することとしております。帰責事由という文言の意味内容についてどのように理解するかは必ずしも明瞭ではございませんので、これをめぐる学問的な、あるいは学理的な議論には踏み込まずに、債務者の帰責事由という現行法の文言をそのまま維持することとしたものでございます。

 その上で、改正法案においては、帰責事由の有無の判断に当たって考慮すべき事情を明確化するために、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」との文言を加えることとしております。現在の裁判実務などにおきましては、帰責事由の有無は、個々の取引関係に即し、契約の性質や目的等の、契約その他の債務の発生原因に関する諸事情を考慮し、あわせて社会通念をも勘案して判断されておりますので、このような実務上の取り扱いを明確化するものでございます。

 以上のとおり、改正法案は、債務不履行による損害賠償責任について、学理的な争いには立ち入らないこととした上で、従来の通説的見解からは過失責任主義のあらわれとされております債務者の帰責事由という要件をそのまま維持しておりますほか、現在の実務上の取り扱いに従って帰責事由の有無を判断する際の考慮事情を明確化しております。

 このように、改正後の条文の文言上、債務者は自己に帰責事由がなければ損害賠償責任を免れるとしていることに照らせば、帰責事由がなくとも債務者が損害賠償責任を負うなどといったことはなく、第四百十五条第一項の改正によって無過失責任主義に変わることはないと言えるということでございます。

井出委員 ちょっと最後の部分が……。

 これまでの民法は過失責任なんだけれども、実態は社会通念とか取引の形態に応じて、一〇〇%過失責任かというと、時に無過失責任ととられるような事例とか判例があったから、両方がごちゃごちゃになっているというようなことではないんですか。それをちょっと、もう一度お願いします。

小川政府参考人 いわゆる過失責任主義をとる立場であっても、今委員御指摘のような形で、無過失責任主義をとるような判例があったからそこが不明確になっているんじゃないかというような点はございません。

井出委員 今回の改正をもって無過失責任に変わることはないと。

 この過失責任、無過失責任については、たしか商法だったと思うんですが、商法の中にも過失推定責任の原則がある。物品の運送に係る運送人の責任について、商法は、運送品の受け取り、引き渡し、保管及び運送に関し注意を怠らなかったことを証明しなければ、運送品の滅失、損傷または延着につき損害賠償責任を免れないとして、過失推定責任の原則を定めている。

 加藤参考人は、端的に、この商法との関係、新法によってお互いの整合性がとれなくなるんじゃないかというようなことを御指摘されておりますが、その点についても見解をいただきたいと思います。

小川政府参考人 御指摘いただきましたような条文はいろいろあって、帰責事由という表現を使うのもあれば、それから「注意ヲ怠ラサリシコトヲ証明スルニ非サレハ」みたいな表現を使うのもあって、その点の商法の責任のあり方について今回の民法は特段影響を与えるものではないというふうに考えております。

井出委員 もう少し私自身の研究が必要なのかなと思うのですが。

 次に、また定型約款のところ、前回最後に取り上げたんですが、みなしと推定です。五百四十八条の二、定型約款に「合意をしたものとみなす。」。ここが推定じゃだめなのかというところで教えていただきたいんです。

 人が大きい災害とか大きな飛行機事故とかでお亡くなりになったときに失踪宣告をするというような仕組みがあるかと思うんですが、失踪宣告の関係は、たしか、死亡したとみなすと。だから、あるときふっとその方が出てきても、そのままほっておくと、その人は死んだままになっている。

 飛行機事故か何かでたくさんの方が死んだ、ある方の御家族が三人、四人と親子で死んでしまった、例えば子供と親が本当に一緒に死んだのかわからないようなときに、同時に死亡したと推定をするような法律もあるやに聞いているんですが、そちらの方は、あるときひょっこりその方が帰ってきたら、あ、やはりその人は生きていて、よかったよかったということになる。

 みなしと推定というものは、それだけ大きい違いが法律上あるんじゃないかなと思うんですが、その点についてまず教えていただきたいと思います。

小川政府参考人 まず、みなすということですが、法律用語辞典などで見ますと、ある事物と性質を異にする他の事物について、一定の法律関係においてその事物と同一視して、ある事物について生ずる法的効果をその他の事物に生じさせることをいうというような定義がされております。また、推定するというのは、ある事柄について当事者間に取り決めがない場合に、法令が一応、一定の事実状態にあるものとして判断し、そのように取り扱うことをいうとされております。

 両者の違いでございますが、みなすとされる場合には、一定の法律関係に関する限り、いわば絶対的にその法律関係がみなす対象とされることと同一視されますので、同一の事物でないということの反証を許さないということになります。これに対し、推定するとされる場合には、当事者間に別段の取り決めがあり、または反対の証拠があるということが証明されるときはその取り決めまたは証拠に基づいて判断されるという点において、両者は異なるものでございます。

井出委員 この約款の拘束力、みなしか推定かで、みなしの方が約款の拘束力は強いということだと思いますが、約款の拘束に関する判例、リーディングケースと言われているものが大正四年の火災保険に関するものでありまして、火災保険については、保険加入者は、反証のない限り約款の内容による意思で契約したものと推定すべきであると判示をし、これを意思推定説という。

 この意思推定説という言葉は、私は最近知ったんですけれども、この世界の方であればどなたでも御存じのことかと思うんですが、判例のリーディングケースとかから見ても、果たして今回、定型約款の規定を「みなす。」とすることが、そこまで本当に拘束力が強いものなのかどうなのか、その点について伺いたいと思います。

小川政府参考人 契約当事者が約款の条項に拘束される根拠につきましては、判例、これは大審院の大正四年という古い判例でございますが、この判例は、火災保険約款中の免責条項の効力が争われた事案の中で、当事者双方が特に保険約款によらない旨の意思表示をせずに契約したときは、その約款による意思で契約したものと推定すべきであるとしております。このような判例の立場を一般に意思推定説と呼んでおります。

 この判例は、約款による契約の成立要件について、約款の内容を認識していなくとも、特定の約款によることの合意があれば原則として契約の内容となるとしたものと解されておりまして、約款を利用した取引の安定を図るという観点からは、この判例の考え方を基本的に、まさに基本的には踏襲することが妥当であると考えられるところでございます。

 また、実際上も、特定の約款によることの合意をしている当事者がその約款の内容に拘束されるのはみずからの責任に基づくものであると言えますし、約款の内容を認識していないことにより生じ得る不利益については不当条項規制を設けることによって対応することが可能でございます。

 そこで、改正法案におきましては、定型取引をするという合意があった場合において、定型約款を契約の内容とする旨の合意があったとき、またはあらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたときに、定型約款の個別の条項について合意があったものとみなすこととした上で、信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められる条項については合意しなかったものとみなす、そういう制度としております。

 では、合意をしたものと推定するということでいいのではないかという御意見もあろうかと思いますが、そういう考え方の問題点として申し上げたいと思うんです。まず、意思推定説をとるとする判例の理解についても、これは必ずしも一様ではございませんが、個別の条項について合意をしたものと推定するにとどまるという考え方であると理解いたしますと、改正法案におきましては、こういった推定によるという考え方を採用するといたしますと、以下に申し上げるような問題があると考えられます。

 まず、定型約款の規定を設けるというのは、定型約款中の条項の内容を認識していないにもかかわらず当事者がこれに拘束される根拠を与えるためのものでございます。そのため、合意があったことを推定する旨の規定を設けたとしても、定型約款については、当事者がその内容を認識していないということが通常であるということでございますので、そういうことを前提といたしますと、先ほどの推定とみなすの違いで申し上げましたように、推定というのは覆される可能性がありますので、常に推定が覆されるということにもなりかねず、取引の安定を確保することができないと考えられます。その意味では、みなすという形にせずに推定によるとする方法では、制度として設ける場合の対応としては不十分であるということが言えようかと思います。

 また、合意があったことを推定する構成となりますと、推定が覆らない限りは当事者間には真に合意があったことを前提とするということになります。しかし、改正法案での不当条項の排除のルールは、そもそも個別の各条項についてまでは具体的な合意が存在しないという実態にあることを前提として設けたものでございますので、合意の推定という構成によると、このルールの創設も理論的には困難になりかねず、要するに、合意があったということを前提として、例えば公序良俗のような形でその効力を無効とするというような説明をせざるを得なくなりますので、少なくとも不当条項の説明の仕方としては大分変わってくるということが言えようかと思います。そういった点も考慮いたしますと、相手方保護の問題にも及ぶわけでございます。

 以上のとおり、定型約款中の条項について合意をしたものとみなすこととしました改正法案の内容は、取引の安定の確保と、取引の相手方の保護の要請の双方に配慮した合理的なものであるのに対しまして、合意をしたものと推定する旨の構成には、取引の安定確保という観点、それから相手方保護の点から見ましても問題があるのではないかと考えられるところでございます。

井出委員 今、定型約款はみなし規定で不当条項の規定もある。それは恐らく、定型約款という大きい枠組みがあって、それにまず合意したとみなして、その中に何かおかしなものがあったら、それは排除、取り除きますよ。では、定型約款のそもそもが推定だったら、恐らく丸がもっと小さくなるんじゃないかなと思うんですね。いろいろなものを、何か問題があったものを排除するというよりも、小さな丸があって、むしろ何か必要なものがあったら加えてくれとか、そのぐらいの違いがあるんじゃないかなと思うんです。

 でも、たしか法制審では、今御議論させていただいたようなことをやっていると思うんですね。平成二十五年の中間試案、このときは約款の定義と約款の組み入れ要件と、それから不当条項規制はしてあり、「無効とする。」となっていて、それが、今提案されているものは「みなす。」、それから不当条項についても「みなす。」ということになっているんです。

 では、さっきの毎日新聞の記事になるんですけれども、このケースなんかはまさに、文字が小さいとか、例えばリボ払いの上限設定の項目を後から決めていいですよというその項目がよくわかっていない、これは、後で自分で連絡すれば変えられますよとかネットからでも変えられますよみたいな話だと思うんですけれども、こういうのは大体私も忘れてしまうんですが。カード契約の話は、裁判に至る前にこれだけ問題が出てきております。

 あともう一つは、前回の質問の繰り返しになってしまうんですけれども、まさに裁判になったときにこの条文が問題になってくる。裁判になると、消費者側が何かしら反証する理由があって、裁判にならなければ定型約款の画一性、定型約款をみなすということはお互いにとってメリットがあると思うんですけれども、やはり、裁判になったらきちっと個別のものが争える場になっていかなきゃいけないんじゃないか。そのときに、みなし規定だから、この間の質問と一緒なんです、即却下、訴えは認められませんというようなことになりかねないんじゃないか。その点について、改めて伺いたいと思います。

小川政府参考人 五百四十八条の二は、確かに「個別の条項についても合意したものとみなす。」ということとしているわけですが、その前提として、当然のように一定の要件、定義というのがございますので、その定義に当たらないということでみなしの効力自体を争うことも当然のことながら可能でございます。それから、これもつけ加えますと、不当条項による争い方というのも当然考えられようかと思います。

井出委員 定型約款を、最初、推定という言葉にして、小さい枠組みにして、その後いろいろ追加したり落としたりするのか、それとも、定型約款をより大きな枠組みにして、不当条項、それから定型約款の定義というものをきちっとしているから、そこで消費者といいますか契約者側の主張も通ると解されるかというところなのかなと思いますが、それをこれ以上ここで追及する材料がなくなったので、この問題はちょっときょうはここまでにしておきたいと思います。

 最後に、保証のところをちょっと伺いたいんです。

 前回公証人の話をしまして、要は、第三者保証を、新里先生のように禁止することは適当ではない、だから公証人というものを入れることになって、その公証人は本当に大丈夫かというところは前回さんざんやったのできょうは聞かないんですが。

 配偶者のところなんですが、例えば、経営、会社と家計の一体性の話が出ていたかと思うんですけれども、会社の金とおうちの金が別々だったら、ではそういう配偶者は、今までの答弁だと、やはり公正証書、公証人のところへ行くということでいいのかどうか、まず伺いたいと思います。

小川政府参考人 規定上は、配偶者であって業務に現に従事している者が例外ということになりますので、今言われた点も、それに当たればもちろん例外ということになると思います。

井出委員 配偶者を例外規定に入れた理由の一つに、経営と家計の一体性を何回か挙げられているわけですね。だから、経営と家計が一体じゃなかったら例外には当たらない、そういうことを聞いているんですけれども、やはり例外に当たるんですか。済みません、ちょっと聞き方が悪かった。もう一回お願いします。

小川政府参考人 夫婦の場合は夫婦共有財産ですので、純然たる特有財産を除けば、夫婦共有財産として、それこそ共有が推定されるということだと思います。例えば、全く特有財産だけで全てが別会計というような状態があったとしても、普通、業務に従事をし、それに伴っていわば労力を提供しているという状態になりますので、個人事業者の家計についての共有財産化というのは図られていくというのが通常だと思います。

 委員が言われているのが、およそ特有財産そのものをベースにして全く共有財産が入り込む余地がないということであれば議論の可能性はあるかもしれませんが、通常の夫婦共有財産を前提にすれば、夫婦は、そういう意味では、個人事業者で現に業務に従事しているということであれば、経済的には一体性があるということだと思います。

井出委員 一緒に仕事をして利益が上がる、それが共有の財産であるということであればわかるんですが、例えば、配偶者がその相方の仕事に現に従事をしているんですが、午前中とか夜は別の仕事をしているとかということもあるかと思いますし、あと、配偶者は例外で、では、例えば子供、将来、あと二十年もしたらお父さんの跡をとるけれども、一緒にやっている、そういう人も配偶者と余り変わりがよくわからない。子供も例外にしても、まあ、私は配偶者は例外にしちゃだめだと思っているのでその理屈には立たないんですけれども、配偶者がよくて子供がだめというところはどうしてなんでしょうか。

小川政府参考人 先ほど申し上げましたように、夫婦の場合は夫婦共有財産で、いわば共同で財産を形成していく状態にあって、その意味で経済的な一体性があるということだと思います。それが、事業をしている場合の事業と家計の一体性が分離されていないということを意味するわけでございます。

 子供の場合は、そういった夫婦共有財産のようなものとは全く異なって、別の財産を有する主体であって、夫婦共有財産のような、共有で整理するようなことにはなっておりませんので、そういう意味では別会計ということになろうかと思います。

井出委員 御夫婦で働かれて利益が上がって、御主人が亡くなられたりしたら相続、それはお子さんも一緒だと思うんですけれども。

小川政府参考人 もちろん、相続が発生すれば財産が移転するわけですが、それとは別に、夫婦の場合は、夫婦でいる間に共同で財産を形成するということと、仮に離婚になれば財産分与が働くという意味で、子供とは全く違う法律関係だと思います。

井出委員 この配偶者のところ、「共同して事業を行う者又は主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者」。

 これは前からも少し指摘された委員もいるかもしれませんが、基本法に「配偶者」という言葉を特出しする、それよりはむしろ、事業に現に従事している人ですとか共同して事業を行う者の定義、書類上だけでいいのかとか、現に従事しているというのが月に何日だとか何年だみたいなところもあると思うんですけれども。

 配偶者とか子供とかそういうところを離れて、もうちょっと純然たる条件を、だからその厳しい条件から見て配偶者が例外に当たるときもあれば当たらないときもあるよ、それから内縁の妻はどうなんだという話で、内縁の妻はたしか改正法だと認められないという話もあるかと思うんですけれども、配偶者か内縁の妻か子供かという基準じゃなくて、事業に従事しているというところをもう少し具体化して、それをもとに公証人が必要、必要でないということを決められた方が何か基本法にふさわしいんじゃないかなと思うんですが、その点についてはいかがでしょうか。

小川政府参考人 ここでの、三号の、共同事業者とは別の要件の、後半部分の方の整理の仕方としますと、一定の関係に立っている者として配偶者、個人事業者の配偶者ということを考えた上で事業で絞っている、現に事業に従事しているということで絞っています。

 仮に、事業で絞るだけだとすると、例えば従業員のような者をどうするかとか、また別の入り方も考えられるわけですので、委員御指摘のような点についても、何らかの形で、抽象的な、利害の共同のようなものがあった上で事業の従事性で絞っていくという考え方ではないかと思いますが。(発言する者あり)

井出委員 相当難しいというお話が今ありましたが、第三者保証の禁止、その原則を民法できちっと打ち出すのが難しいから、公証人を入れて公証人のいろいろな手続を考えるというところで、今、配偶者の議論があると思うんです。

 例えば、第三者保証の禁止にしても、土屋先生が前におっしゃられたように、現状として、青色申告の話であれば、二百万、三百万は配偶者が保証人、一千万を超えれば物なんだというお話もあったし、前に階先生との御議論の中で、例えば、保証の意思のある人の契約について民法で一律に禁止していくことは慎重な検討を要する経緯があったというようなことはあるかと思うんですけれども、新里先生がおっしゃったように、みんなで第三者保証ができるだけなくてもいい社会を目指す、奨学金の問題とか家賃保証の問題とかも、そのときは同じ保証にもいろいろあるんだというようなことを挙げられていたんです。

 今、改正法は、公証人というところで大きい枠組みをつくっておりますけれども、第三者保証について、基本法として禁止をしてほしいと私は思っているんです。民法だって、基本はこうなんだけれどもただし書きみたいなことを今までほかの条項でさんざんやってきたわけですから、第三者保証だって禁止の理念を打ち出すということは私は全く不可能ではなくて、むしろ検討すべきだし、それを望んでいる人も多いんじゃないかというところを最後にお答えをいただいて、質問を終わりたいと思います。

小川政府参考人 もちろん第三者保証をめぐってはさまざまな議論があるわけでございますが、私どもの方の改正案としてお出しいたしましたのは、リスクの意思確認をするという観点での公証人による意思確認の手続ということによる第三者保証の適正化ということでございまして、中小企業団体などの御意見なども踏まえた上での方向としてお出ししているものでございます。

井出委員 適正化、リニューアルということだと思うんですが、やはり抜本的な問題、しっかり議論する必要があるということを申し上げて、終わりたいと思います。きょうは、大臣に聞けなくて済みませんでした。

 どうもありがとうございました。

鈴木委員長 次に、畑野君枝君。

畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。

 民法の債権にかかわる改正案の中で、敷金、原状回復、修繕義務及び定型約款について、きょうは質問をいたします。

 まず、賃貸借の終了時における敷金の返還や賃借物の原状回復の範囲について規定が盛り込まれております。新たに、賃貸借における敷金、原状回復義務の規定を設けた趣旨について御説明ください。

金田国務大臣 畑野委員の御質問にお答えします。

 敷金と原状回復義務、それぞれに関します規定を設けた趣旨をお尋ねであります。

 敷金の返還をめぐる紛争というものは日常的に極めて多数生じておるところでありまして、この一方で、この種の紛争に関しましては既に安定した判例が形成されている。そういう状況の中で、改正法案では、民法を国民一般にわかりやすいものとするために、敷金の定義そして基本的な規律について、その明文化を図ることとしたものであります。

 そして、原状回復義務につきましても、賃貸借契約におきます原状回復義務は賃借人の負う基本的な義務である上に、原状回復義務の範囲をめぐって実務的に紛争が生ずることが多いということから、民法を国民一般にわかりやすいものにしなければいけないという観点から、改正法案では原状回復義務について明文の規定を設けることとしたものであります。

畑野委員 金田法務大臣から、その趣旨について御説明がありました。

 それでは、今回の法案によって、敷金、原状回復についての判断の枠組みは明確になるのでしょうか。

小川政府参考人 まず、敷金の問題でございますが、敷金の返還をめぐっては、例えば、敷金をいつ返還するのか、あるいはどのような範囲で返還するのかといった紛争が日常的に極めて多数生じております。

 そこで、改正法案では、まず、敷金の定義自体を明瞭なものとするほか、敷金返還債務の発生時期については、判例に従い、賃貸借が終了して目的物が返還されたときに敷金返還債務が生ずるなどとしております。さらに、返還すべき敷金の額についても、判例に従いまして、賃貸物の返還完了のときに、受け取った敷金の額からそれまでに生じた被担保債権の額を控除した残額につき発生するなどとしております。

 次に、賃借人の原状回復義務に関する問題でございますが、賃貸借契約における原状回復義務をめぐりましては、例えば、どのような損傷であれば借り主が原状回復義務を負い、どのような損傷であれば貸し主が負担するのかといった紛争が生ずることも多く、特に、通常生ずべき損耗や経年変化について賃借人が負担すべきかといった紛争が生ずることも少なくありません。

 そこで、改正法案では、原状回復義務について、通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗やその経年変化については賃借人が原状回復義務を負わないことなどを明記することとしております。

 このように、原状回復義務あるいは敷金について明文の規定を設けることで基本的な判断の枠組みは明瞭なものとなり、実際に生ずることの多い賃貸借契約終了時の紛争につきまして、それを予防するという効果と、その適正迅速な解決に資する効果を期待することができるものと考えております。

畑野委員 そこで、通常の使用収益によって生じた損耗や経年変化ということなんですが、具体的にどういうことなのか、もう少し詳しく御説明していただけますか。

小川政府参考人 改正法案では、従来の確立した判例実務を踏まえまして、通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗、すなわち通常損耗ですとか賃借物の経年変化については賃借人は原状回復義務を負わないことを明文化しております。

 このうち、通常損耗とは賃借人の通常の使用により生ずる賃借物の損耗などを意味し、経年変化とは年数を経ることによる賃借物の自然的な劣化または損耗等を意味するものでございますが、いずれにしても賃借人が原状回復をすべきものではないこともあり、ある特定の損傷などがこのいずれに当たるのかを厳密に区別することは実益に乏しいとも考えられます。

 これらの概念については、例えば賃貸期間がどの程度であったかといった具体的な事実関係によるところもあり、必ずしも一般化できない面はございますが、あくまで例えばということですが、家具の設置によって床のカーペットが若干へこんだというようなケースが通常損耗に当たると考えられます。また、日照等による床や壁紙の変色などは経年変化に当たると考えられます。他方で、たばこのやにやペットによってつけられた傷などは、通常損耗にも経年変化にも該当しないと考えられるところでございます。

畑野委員 通常損耗そして経年変化について御説明をいただきました。

 それでは次に、修繕義務について伺います。

 法案の六百六条一項にただし書きが追加されています。この改正案の趣旨は何か、今までの規定の趣旨を変更するものなのかどうか、御説明ください。

小川政府参考人 お答えいたします。

 現行法の第六百六条一項は「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。」と規定しておりますが、賃借人の責めに帰すべき事由によって目的物の修繕が必要となった場合については、賃貸人に修繕義務がないのか、あるいは、修繕義務はあるが、その費用分を賃借人が負担するということであるのかなどは直ちに明らかでなく、解釈が分かれておりました。

 もっとも、賃貸借契約の当事者間の公平を図る観点からは、たとえその費用を最終的には賃借人が負担するとはいえ、この場合について、賃貸人に修繕義務を負わせるのは相当でないと考えられます。

 そこで、改正法案では、賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要となった場合については、賃貸人は修繕義務を負わないこととしたものでございます。

畑野委員 そうしますと、この規定によって、修繕義務について借り主の責任が重くなるということはないんでしょうか。

小川政府参考人 賃借人の責めに帰すべき事由によって目的物の修繕が必要となった場合に賃貸人に修繕義務が生ずるかどうかが直ちに明らかではなく、解釈が分かれておりますが、この場合には、賃借人がその責めに帰すべき事由に基づく賃貸物の修繕費用を負担するという点では大方の見解は一致していたものでございます。

 改正法案は、このような状況を踏まえ、賃借人の実質的な負担は変わらないが、賃貸人に不公平に過大な負担を負わせるべきではないという観点から、その内容を改めるというものでございます。

 したがいまして、借り主、賃借人の方の負担が現行法よりも重くなるということはないものと考えております。

畑野委員 重くないということでした。

 それで、六百六条一項のただし書きに「賃借人の責めに帰すべき事由」というのがあるんですが、これはどういうことなのか。そして、どのような場合に賃借人の責めに帰すべき事由があるというふうに認定されるのか。この点について伺います。

小川政府参考人 御指摘ありました六百六条第一項の「責めに帰すべき事由」とは、これは講学上帰責事由と呼ばれるものでございまして、民法中では多用されている概念と言えようかと思います。

 六百六条第一項の「賃借人の責めに帰すべき事由」にどういう場合が該当するのか、該当し得る場合として考えられる例を挙げますと、例えば、賃借人が正当な理由なく意図的に賃借建物の一部を破損したような場合ですとか、あるいは、賃借人が適切な汚れ防止の措置を講ずることなく室内を汚すといった行為を行う場合などが考えられると思われます。

畑野委員 この修繕義務についてですけれども、例えば、住宅の賃貸借契約において、特約を設けて賃借人の責任を重くしている例があるというふうに聞いております。

 そこで伺いたいんですが、そもそも、修繕義務について、民法上、特約を設けることはできるのですか。

小川政府参考人 御指摘の第六百六条第一項は、一般に任意規定と言われるものでございまして、そのことを前提とした最高裁判所の判例もございます。

 したがいまして、この規定と異なる特約を締結することは可能であると解されるところでございます。

畑野委員 そういう点では問題が残っておりまして、修繕義務について多くを賃借人負担としているという契約書も見られるわけです。

 それで、賃貸借契約で、法案六百六条一項ただし書きと異なる特約があった場合は、民法上、いかなる場合に無効になるんでしょうか。

小川政府参考人 先ほども申し上げましたが、民法第六百六条第一項は任意規定であると解されておりますので、特約それ自体が、六百六条の一項の規定と異なるというそのことをもって無効となるということは基本的にはないものと考えられるところでございます。

 もっとも、例外的に、民法第九十条によってその特約が無効となったり、あるいは権利濫用に当たるとして、その特約の効力を主張することが認められないこととなる余地はございます。例えば、賃貸人が意図的に賃借建物を破損したような場合も含めて、全て賃貸人は修繕義務を負わないというような特約、これはもちろん個別の事実関係にもよるとは思われますが、今申し上げましたような特約は無効となることがあり得るものと考えております。

畑野委員 具体的なお話がありました。一般条項九十条に委ねるということでなくて、やはりこの明確な基準を定めていく必要があると私は思います。

 そこで、具体的に国土交通省に伺います。

 きょう、資料を幾つか持ってまいりました。大きく言って三つ資料がありまして、一つは法務省のカラーの資料で、今いろいろと御説明いただいたんですが、二つ目の資料は国土交通省住宅局からいただいた資料です。この原状回復をめぐるトラブルとガイドラインを作成しております。

 このガイドラインに基づいて、そこでは、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しております。これは民法改正案の趣旨に沿ったものなのでしょうか、伺います。

伊藤政府参考人 お答えいたします。

 国土交通省においては、賃貸住宅の退去時におけるトラブルの未然防止を図るために、原状回復の費用負担の考え方等の一般的な基準として、原状回復をめぐるトラブルとガイドラインを取りまとめて公表しております。

 本ガイドラインにおいては、近時の判例や取引等の実務を考慮の上、借り主が義務を負う原状回復について、借りたときの状態そのものに復旧することではなく、先ほどお読みいただいたとおり、「賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しております。

 この定義については、今般の民法改正案第六百二十一条において判例法理を明文化する賃借人の原状回復義務と、基本的には同一の意味内容のものと理解しております。

畑野委員 このガイドラインの中、見せていただきました。それで、あわせて、資料にもつけておりますが、「特約」というのがガイドラインの六ページにございます。七ページのところに要件が三つ書かれているんですが、これについて御説明をしていただけますか。

伊藤政府参考人 お答えいたします。

 この七ページの枠の中に書かれているとおりでございまして、「賃借人に特別の負担を課す特約の要件」といたしましては、「特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的な理由が存在すること」、それから、「賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること」「賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること」、双方において合意がなされているということだというふうに理解しております。

畑野委員 それでは、もう一つ、この国土交通省の資料のつづりの一番最後のところに、賃貸住宅契約書と、その解説コメントというのを資料としてつけさせていただきました。この点について伺います。

 まず、賃貸借の原状回復について、これは実は、住宅契約書の資料ではなくて、その前のページにガイドラインから載せたものが載っておりますので、大体同じというふうに読んでいただけたらいいんですけれども、原状回復についてどのように述べられているのか、伺います。

伊藤政府参考人 お答えいたします。

 原状回復につきましては、先ほど御説明いたしましたとおり、通常の損耗等に関しましては貸し主負担を原則としているところでございます。

 なお、御指摘の賃貸住宅契約書、賃貸住宅標準契約書についても御指摘いただいたかと思いますが、この「契約期間中の修繕」につきましては、原則としては貸し主が実施主体になり費用負担するというふうにしているところでありますが、一方で、例えば畳表や電球の取りかえ、ふすまの張りかえなど、費用が軽微な修繕については、借り主と貸し主の合意によって、借り主がみずからの負担で行うこともできるというふうにしているところでございます。

畑野委員 資料が行ったり来たりしたわけですが、「原状回復の条件について」という点では、おっしゃったように、「賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用方法を超えるような使用による損耗等については、賃借人が負担すべき費用となる」ということと、「建物・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年変化)及び賃借人の通常の使用により生ずる損耗等(通常損耗)については、賃貸人が負担すべき費用となる」ということが、ガイドラインでも、また契約書でも確認をされているということでございますね。

 それで、その上で、今おっしゃっていただきましたように、戻りますが、資料の賃貸住宅契約書の修繕の問題、第九条のところでお話が進んだわけですけれども、これは、貸す側が必要な修繕を行わなければならない、借りた側の故意または過失により必要となった修繕に要する費用は借り側が負担しなければならないというふうに九条で書かれて、その三項に、借りる側は、貸す側の承諾を得ることなく、別表第四に掲げる修繕をみずからの負担において行うことができるというふうにあり、そして、その別表第四ということで、「畳表の取替え、裏返し」あるいは「ふすま紙の張替え」、こういうふうに書かれているわけなんです。

 それで、解説コメントの中で、なぜそのようにしているのかということで、「契約期間中の修繕(第九条)」というのがございます。その三項のところについて伺いたいと思いますが、御説明いただけますか。

伊藤政府参考人 お答えいたします。

 ここの三項の解説にございますとおり、修繕の中には、安価な費用で実施でき、建物の損傷を招くなどの不利益を貸し主にもたらすものでもなく、また、借り主にとっても貸し主の修繕の実施を待っていてはかえって不都合が生じるようなものもあるということがございますので、軽微な修繕については借り主がみずからの負担で行うことができる、こういう考え方でございます。

畑野委員 そうしますと、借り主みずからの負担で行うことができる、だから、しなくてもいい、貸し主にやってもらうということでいいのかというのが一点と、それから、その解説コメントの第三項のその後に、「なお、別表第四にあらかじめ記載している修繕については、当事者間での合意により、変更、追加又は削除できることとしている。」というふうに書かれておりますが、その点の確認、二つさせていただけますか。

伊藤政府参考人 お答えいたします。

 本標準契約書の性格でございますが、この標準契約書は法令に基づき使用を義務づけているという性格ではございません。したがって、個別の賃貸借契約における修繕の実施主体及び費用負担については、最終的に当事者間の合意になるということでございます。

 したがって、先ほどお話しいただいた点についても「できること」としておりますが、それについて、双方の合意に基づいてどちらかが負担するということを決めることも当然可能だというふうに考えております。

畑野委員 それでは、あわせて修繕義務についてなんですが、九条に、畳、ふすまの区分というのが別表の第四のところで書かれていたということなんですが、これについても話し合いで決めることもあるということですか。

伊藤政府参考人 お答えいたします。

 これは例示でございますので、当然にそういうお答えになると思います。双方の合意によって決めることができるということでございます。

畑野委員 なぜこのようなことを聞かせていただいたかということです。

 それでは、独立行政法人都市再生機構にきょうはお越しいただきました。ありがとうございます。

 資料のもう一つの中に、都市機構賃貸住宅賃貸借契約書というのがあります。この契約書では畳、ふすまの修繕義務についてはどのように書かれているか、御説明ください。

伊藤参考人 お答えいたします。

 当機構では、お住まいいただいております期間中に必要となります修繕のうち、費用が軽微な修繕は借り主様の御負担で修繕をいただくものとして、あらかじめ修理細目通知というような書面に明示をいたしまして、賃貸借契約の一部として御理解、御了承いただいた上で契約をしております。畳、ふすまについてもその項目に該当してございます。

 以上です。

畑野委員 御理解というお話がございましたが、私はいろいろと声を聞かせていただいているんです。これが軽微なのかという問題もございます。

 お手元の資料の二枚目のところに、契約書の第十二条ということで、修理または取りかえは借りる側が行うというふうに、今おっしゃったように書いてあります。一、畳、二、障子、ふすま等外回り建具以外の建具及び外回り建具のガラス、三、その他別に定める小修理に属するものと。

 それで、その具体的なものが、今おっしゃったように、次のページの修理細目通知書です。

 私は、ちょっとこれを読ませていただいて驚いたんです。皆さん、一枚目だけではありません、二枚目もずっとあるんです。これがURの賃貸住宅の通知書なんです。数えてみましたら、八十一項目あるんですね。畳表、畳床、それから、ずっと次のページに行くと、洗面器の陶器や便器、あるいは台所の換気扇等々、もうありとあらゆるものが書かれているんです。

 それで、もう一つ、次のページをめくっていただきますと、ちょっと余りにもこれはどうかなと思って、URの住宅経営部が出された修繕の取り扱いについてというものを見ますと、「このような取扱いは、民間の賃貸住宅事業者の修繕の取扱いと同様」だ、「一般的な取引慣行に照らしても、特異なものではございません。」というふうに言っているんです。

 例えば、一番左がUR、真ん中がA社と書いてあって、そのA社は、真ん中のところで、三、借り主は貸し主の「承諾を得ることなく、別表第四に掲げる修繕を自らの負担において行うことができる。」と書いてあって、例えば「畳の取替え、裏返し」という例なんですね。ところが、URの場合は、これは借り主が行うものであるというので畳とかふすまとか書かれているんです。

 しかも、御丁寧に一番最後に、「また、国交省の賃貸住宅標準契約書においても、費用が軽微な修繕については、貸主の義務ではなく、借主の権利として構成し、借主が貸主の承諾なしに行えることとしています。」というので、これはちょっと違うんじゃないですかということなんです、国土交通省のは。

 だから、こういうことをきちっと、今、民法の改正案の議論をしているんですけれども、ちょっと見直していただくということを含めて持ち帰っていただきたいと思うんですが、URさん、いかがですか。

伊藤参考人 お答えいたします。

 当機構としましては、これまでも、賃貸借契約の内容を必要に応じて随時見直しを行っております。御指摘の修繕区分、負担区分の件につきましても、今後、民法、それから標準契約書、あるいは社会一般の取引慣行、そういったものを踏まえまして検討はしてまいりたいと思っております。

畑野委員 大事な御答弁であったと思います。

 全国公団住宅自治会協議会の皆さんからは、UR、都市再生機構が畳やふすま等の修繕を居住者負担にしているのは、民法や国土交通省の指導に照らして不当ではないか、再検討するべきではないかという御意見がございました。ぜひ、そういう再検討をしていただきたいと思います。

 そこで、私、その次の資料のページにニュースをつけさせていただきました。カラーのものです。

 これは現地で確認をしていただければいいんですけれども、例えば集会場の天井が傾斜しているとか、あるいは、換気扇とガス台が接近していて、消防署から湯沸かし器は設置できないと、遮蔽板設置を都市機構に要望しても、それは居住者負担と言われているとか、換気扇のスリーブ、枠が拡張していないので市販の換気扇が設置できないとか、これは公田町団地の実態を皆さんで調べたんですが、こういうこともきちっとやっていただきたいと思うんですが、これは調べていただけますか。

伊藤参考人 お答えいたします。

 住宅内部におきます設備の設置状況あるいは設置する場合の条件等は物件によってさまざまでございますので、個別の住宅におきます設備の状況、設備の設置に係る費用等につきましては、調査の上、適切に対応いたします。

畑野委員 神奈川自治協のニュースを御紹介させていただきましたが、これはここだけではなくて全国の問題だと思いますので、調査をしていただきたいと思います。

 今ずっと議論してきたんですが、次に、定型約款の観点から少し伺いたいんです。

 一体、定型約款とは何ですか。

小川政府参考人 まず、現代社会の中では、多数の顧客との間で同種の取引を効率的に行うために、契約の当事者の一方が詳細な契約条件をあらかじめ準備することが広く行われております。このように準備された契約状態の総体については、これを作成した事業者はともかく、取引の相手方である顧客は実際上細部までその条項を読むことはございませんのが普通でございます。そのため、取引の安定を図る観点から、相手方がその内容を認識していなくてもその個別の条項について合意したものとみなす旨の規定などを設ける必要がございます。

 その上で、要件としましては、画一的であることが当事者の双方に合理的なこと、それから、不特定多数の者を相手方とする取引、こういった点を要件といたしまして、改正法案の中では、具体的に、もう一度申し上げますと、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」、これを定型取引と定義した上で、この定型取引において、「契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」、これを定型約款と定義しております。

畑野委員 最後に確認です。

 一般にですが、賃貸借の契約は定型約款に当たり得るのでしょうか。

小川政府参考人 一口に賃貸用建物の一室の賃貸借契約といいましても、さまざまな形態のものがございます。

 個人が自己の所有する建物の一室を第三者に賃貸するといった場合には、仮に市販のひな形などを参照して契約書を作成したとしても、それは事務の簡易化などを意図したにすぎず、取引内容が画一である必要性が存しません。このような事情は、自己の所有する土地上に比較的小規模な賃貸用の建物を建設し、その居室ごとの賃貸借契約を同一の契約書に基づいて締結しようとする場合でも基本的に同様でございまして、取引内容を画一にする必要性は高くございません。

 また、賃借人の側から見ても、契約内容が画一であることから利益を享受しているとは言えず、賃借人にとって、画一的であることに合理性があるとは言いがたいのが通常でございます。

 他方で、複数の大規模な居住用建物を建設した大手の不動産会社が、同一の契約書のひな形を使って多数に上る各居室の賃貸借契約を締結しているといった事情がある場合には、契約内容を画一的なものとすることにより各種管理コストが低減し、入居者としても契約内容が画一であることから利益を享受することもあり得ます。そのような場合には、個別の事情により、例外的にひな形が定型約款に該当することがあり得ると考えられます。

 したがいまして、賃貸借契約の契約条項のひな形は、同じ賃貸借契約といいましても、その取引実態は大きく異なるものであるため、定型約款に該当するか否かを一概に申し上げることはできませんが、今申し上げましたような例外的な事案におきましては該当する余地はあるものと考えております。

畑野委員 終わります。

鈴木委員長 次に、木下智彦君。

木下委員 日本維新の会、木下智彦でございます。

 本日もお時間をいただきまして、ありがとうございます。本日もということなんですけれども、私ごとで大変恐縮なんですけれども、きょうで、きょうというか今度で、私、初当選から丸四年になります。きょうのこの質問が実は百回目の質問ということで、これは皆様に御協力いただいたからこういうふうな話ができるんだと思っておりますので、これからもよろしくお願いいたします。(発言する者あり)ありがとうございます。

 きょうは短くこの話をさせていただきたいと思います。今までずっと話してきた話なんですけれども、やはり、民法、債権法に関して、法律改正案と実際の政策の方向性が少しまだギャップがあるんじゃないかという話を今までもさせていただいておりました。その背景の中に、法制審議会での議論の仕方、それからメンバーがどうだとか、そういうふうな話をさせていただいていたんですけれども、やはりこういうふうにして考えると、どっちが本音でどっちが建前なのかというのはそれぞれの立場によって違うのかもしれないな、ただ、そういう本音と建前というのがまだこの方向性の中に見え隠れすると言わざるを得ないのかなと思っていたんですね。

 実は、質問を百回やりましたというふうに言いながら、先週の火曜日から、火、水、木、金、月、きょうが火と、毎日質問させていただいておりまして、きのうの月曜日も質問だったんです。月曜日は何をしたかというと、決算行政監視委員会、この中で、オリンピック・パラリンピックの関連について質問があったんです。

 そのときに、ほかの方が質問していたときに、これは民法の話とはちょっと違うんですけれども、本音と建前といえばというところで思い出すのが、前回、ある一定時間質疑があった外国人技能実習制度について、大臣は恐らく参議院で今国会、審議されていると思うんですけれども、それについて話があったんですね。

 その中で国交省の方から話があったんですけれども、なぜ国交省かというと、オリンピック・パラリンピックで、要は人材不足に陥ることがないように、建設がしっかりとできるようにするということで質問があって、それに対して国交省がお答えされていたんですね。

 どんな話かというと、外国人技能実習制度にかかわるところで、外国人建設就労者受入事業に関すること。この中で、へえ、そういうことがあるんだと思って聞いていたら、何かちょっと、私が前回質問しているような、本音と建前というのがもう明らかなんじゃないか。

 というのは、外国人建設就労者受入事業は、ちょっと目的の部分を読ませていただくと、「復興事業の一層の加速化を図りつつ、二〇二〇年オリンピック・パラリンピック東京大会関連の建設需要に適確に対応するため、国内人材の確保に最大限努める。」、これはわかります。「その上でこの告示は、緊急かつ時限的な措置として即戦力となる外国人建設就労者の受入れを行う外国人建設就労者受入事業について、その適正かつ円滑な実施を図ることを目的とする。」。

 これだけだったらあれなんですけれども、そのためにやっているのが、外国人技能実習制度の中で、既に三年を迎えた人がその後二年延長できるとか、一遍自分の自国に帰った人たちがまた帰ってきて二年間は仕事ができるということなんです。

 この中に本来であれば書くべきものは何かというと、この法律の枠組みでは、大臣も言われていたと思いますけれども、あくまでも、外国人技能実習制度、法律じゃないですね、制度自体は国際貢献のためにあるんだ、日本の人材不足を補うためにあるんじゃないんだ、だからこそ、この制度がちゃんと生かしていけるんだと。今のこの国交省の告示を見ていると、全くそれがうたわれていないんですよね。

 それと同じようなことがこの民法でも起こり得るんじゃないかな。要は、特に保証制度についてそういうふうなことが起こり得るんじゃないか。

 というのは、国の政策としては、なるだけ第三者保証についてはないような、そういう金融システムの確立ということを言っていたんです。今まで私の方から、政府側として経産省それから金融庁も来ていただいて参考意見を述べていただきましたけれども、まさしくそうだと思うんです。ただ、法律の中ではそういうことまで書いていない。当然書けない、一般的なことを書いているから。ただ、捉えられ方として、ひとり歩きすると、こういうことが起こり得る。ましてや、外国人技能実習のことについては国交省が言っちゃっているんですね。

 だから、そういうことはあり得ると思うので、やはり、そうじゃないんだ、これは保証人をしっかりと保護するところで例外的に認めているんだということが本当であるんだったら、これをもっと前面に出した何らかのことを言っていくべきなんじゃないかなというふうに私は思いました。

 これは意見だけですけれども、やはりそういうふうにして考えたときに、もっと大きなところでいうと、世の中の流れ、変化に対応した改正だと今回言われているけれども、実際にどうなんだろうなということなんです。

 同じように、法律と並行してというのか、まずそれよりも先行してあるべきなのは当然のことながら政策。ここは難しいところですけれども、政策は、法律よりももっと時代の流れに合致したような、そういう政策でなければならない、その政策が法律に反映されなければならないというふうに私は思っているので、政策と法律の改正というのが合致しなければならないのではないかというふうに思っているんです。

 そこで、最後、一つだけ、皆さんにこれはお聞きしたいんです。

 百二十年間変わらなかった。今回、法律を変えます、改正します。今後、何年ぐらい変えなくていいと思われるか。これはまず民事局長から、どう思っていらっしゃるか。これは答えがないと思いますけれども、皆さんがどういう認識かということをお聞かせいただけますでしょうか。

小川政府参考人 民法全体を一概に捉えることは非常に難しいと思いますので、社会の変化に即応しなければならない部分、そういったものについてはまさに迅速にそれに対応する必要がございますし、一定の施行後の状況を見なければならない、いわば安定的な運用状況を見なければならない領域もあろうかと思っております。

金田国務大臣 委員の御指摘はいつも非常に示唆に富むものだなというふうに思っております。

 そういう中で、次はいつかとなりますと、やはり社会経済情勢をどう受けとめるか、そしてまた、そういう法改正の必要性をどう受けとめるかというのが一般的にあるんだと思います。それに加えて、前にどなたかの質問に対して御説明を申し上げたことがあるんですが、やはり民法というのは非常に、体系的に関連する規定が多い、内容も多い。したがって、それをどういう形で改正を図るかということもあろうかと思います。

 ですから、必要に応じてその検討は常にしていかなければいけないと思うんですが、実際に法改正となったときに、どういう形でどういうふうなポイントを優先してとか、いろいろな意味で、これはその状況の中で判断していくことになるのではないか、このように思っております。

木下委員 ありがとうございます。

 本当に、社会の必要に応じて、これが一番重要だ。もう一つ大きなところは、必要に応じてという、必要なというのが実際に何なのかということだと思うんです。そのために私がずっと言っているのは、法制審議会でどういう審議をするのか、ここでどういうふうな審議をするのか、それから、本音と建前というのがなるべくないようにするべきだ。これは何度も言っていることだと思いますけれども、大臣のお答え、それから民事局長のお答えを聞いていて、少し安心いたしました。これからもよろしくお願いいたします。

 ありがとうございます。

鈴木委員長 次回は、明十四日水曜日午前十一時二十分理事会、午前十一時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時七分散会


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