衆議院

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第20号 平成30年6月13日(水曜日)

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平成三十年六月十三日(水曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長 平口  洋君

   理事 大塚  拓君 理事 門  博文君

   理事 田所 嘉徳君 理事 藤原  崇君

   理事 古川 禎久君 理事 山尾志桜里君

   理事 源馬謙太郎君 理事 國重  徹君

      安藤  裕君    井野 俊郎君

      上野 宏史君    鬼木  誠君

      門山 宏哲君    神田  裕君

      菅家 一郎君    城内  実君

      黄川田仁志君    小林 茂樹君

      高村 正大君    谷川 とむ君

      中曽根康隆君    古川  康君

      山下 貴司君    和田 義明君

      逢坂 誠二君    松田  功君

      松平 浩一君    階   猛君

      柚木 道義君    大口 善徳君

      黒岩 宇洋君    藤野 保史君

      串田 誠一君    重徳 和彦君

    …………………………………

   法務大臣政務官      山下 貴司君

   参考人

   (神戸大学大学院法学研究科教授)         窪田 充見君

   参考人

   (明治大学法学部教授)

   (北海道大学名誉教授)  鈴木  賢君

   参考人

   (早稲田大学大学院法務研究科教授)        吉田 克己君

   法務委員会専門員     齋藤 育子君

    ―――――――――――――

委員の異動

六月十三日

 辞任         補欠選任

  谷川 とむ君     高村 正大君

同日

 辞任         補欠選任

  高村 正大君     谷川 とむ君

    ―――――――――――――

六月十二日

 裁判所の人的・物的充実に関する請願(藤野保史君紹介)(第二〇三一号)

 治安維持法犠牲者に対する国家賠償法の制定に関する請願(今井雅人君紹介)(第二〇三二号)

 同(藤野保史君紹介)(第二〇三三号)

 同(堀越啓仁君紹介)(第二〇三四号)

 同(日吉雄太君紹介)(第二一一二号)

 民法・戸籍法の差別的規定の廃止・法改正を求めることに関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第二〇三五号)

 同(笠井亮君紹介)(第二〇三六号)

 同(穀田恵二君紹介)(第二〇三七号)

 同(志位和夫君紹介)(第二〇三八号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第二〇三九号)

 同(田村貴昭君紹介)(第二〇四〇号)

 同(高橋千鶴子君紹介)(第二〇四一号)

 同(畑野君枝君紹介)(第二〇四二号)

 同(藤野保史君紹介)(第二〇四三号)

 同(宮本岳志君紹介)(第二〇四四号)

 同(宮本徹君紹介)(第二〇四五号)

 同(本村伸子君紹介)(第二〇四六号)

 共謀罪法の廃止に関する請願(石川香織君紹介)(第二一一一号)

 法務局・更生保護官署・入国管理官署及び少年院施設の増員に関する請願(城内実君紹介)(第二一六八号)

同月十三日

 裁判所の人的・物的充実に関する請願(枝野幸男君紹介)(第二一九九号)

 同(遠山清彦君紹介)(第二二〇〇号)

 同(田嶋要君紹介)(第二四〇八号)

 治安維持法犠牲者に対する国家賠償法の制定に関する請願(枝野幸男君紹介)(第二二〇一号)

 同(金子恵美君紹介)(第二二〇二号)

 同(吉川元君紹介)(第二二〇三号)

 同(笠井亮君紹介)(第二三〇一号)

 同(小宮山泰子君紹介)(第二三〇二号)

 同(田村貴昭君紹介)(第二四〇九号)

 同(照屋寛徳君紹介)(第二四一〇号)

 同(山花郁夫君紹介)(第二四一一号)

 民法を改正し、選択的夫婦別氏制度の導入を求めることに関する請願(泉健太君紹介)(第二二九七号)

 国籍選択制度の廃止に関する請願(枝野幸男君紹介)(第二二九八号)

 もともと日本国籍を持っている人が日本国籍を自動的に喪失しないよう求めることに関する請願(枝野幸男君紹介)(第二二九九号)

 外国人住民基本法の制定に関する請願(阿部知子君紹介)(第二三〇〇号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案(内閣提出第五八号)

 法務局における遺言書の保管等に関する法律案(内閣提出第五九号)


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     ――――◇―――――

平口委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案及び法務局における遺言書の保管等に関する法律案の両案を議題といたします。

 本日は、両案審査のため、参考人として、神戸大学大学院法学研究科教授窪田充見君、明治大学法学部教授・北海道大学名誉教授鈴木賢君及び早稲田大学大学院法務研究科教授吉田克己君、以上三名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多忙の中、御臨席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れれば幸いに存じます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、窪田参考人、鈴木参考人、吉田参考人の順に、それぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず窪田参考人にお願いいたします。

窪田参考人 おはようございます。ただいま御紹介いただきました神戸大学の窪田でございます。

 本日は、このような意見陳述の機会をいただき、まことにありがとうございます。

 私は、今回の法案について、法制審議会民法(相続関係)部会の委員として、また、それに先立って開催された相続法制検討ワーキングチームのメンバーとして、その検討作業にかかわってまいりましたが、本日は、民法の研究者の一人として、今回の法案に対する意見を述べさせていただきたいと思っております。

 まず最初に、今回の法案が、戦後の相続法において最も包括的な改正提案であるということを確認しておきたいと思います。もちろん、これまでも、配偶者相続分の改正、寄与分制度の創設等、幾つかの重要な改正がなされてきております。しかし、そうした中で、今回の法案は、相続法全般に関する見直しという性格を有するという点で特筆すべきものであると思っております。

 相続法は、戦後、全面的に改正されましたが、極めて限られた時間の中での改正であったことから、不透明な部分や制度的な課題もかなり多く残されていたと思っております。さらに、判例によって多くのルールが形成されてきたこともあり、専門家以外には容易には理解することができないほど、全体としての見通しが悪い状況になっておりました。そうした中で、今回、相続法の幅広い領域について見直しが図られたことは、それ自体として積極的に評価されるべき意義があるというのが私の基本的な認識でございます。

 今回、意見を述べる機会を頂戴いたしましたが、このように今回の法案の内容は非常に多岐にわたるため、特に五つのポイントに絞って、簡単に意見を述べさせていただくことにしたいと思います。

 第一に、今回の法案において新たに創設される制度の一つである配偶者居住権の制度について意見を述べさせていただきます。

 まず、配偶者居住権ですが、これは、残された配偶者の利益を実現するオプションとして新たに考えられたものでございます。相続という仕組みは、基本的には、被相続人の財産がどのように承継されるのか、誰に権利が帰属するのかを決める仕組みだと言えます。もっとも、残された配偶者については、特に配偶者が比較的御高齢の場合、特定の建物の所有権を帰属させるという形でより、むしろ特定の建物について終身の利用を認めるという形でその保護を図るということは十分に考えられるところですし、また、合理的な解決の一つであろうと思います。

 このように、残された配偶者の終身の居住権を認めるということについては、現行法でも遺言を通じてある程度実現することができるのではないかとも考えられます。

 そうした方策の一つとしては、後継ぎ遺贈と呼ばれるものがあります。しかし、そもそもそうした後継ぎ遺贈が有効なのかという問題があります。また、負担つき遺贈といった方法もあるんですが、これについても、その建物の所有権を取得した者が建物を処分してしまった場合など、その履行を確保することができるのかという問題が残ります。

 その点では、今回、残された配偶者の終身の建物利用を認める制度が相続における明確なオプションの一つとして創設されたということの意義は大変に大きいものであると思っております。

 また、配偶者については短期居住権も創設されましたが、これは従来、判例によって形成されてきた使用貸借を使った保護をより明確にした制度ということになります。

 なお、配偶者以外については従来の判例のルールによって処理がされることになりますが、今回、配偶者短期居住権として制度的に整備されたものが判例のルールに反映されていくということは十分に考えられるのではないかと思っております。

 第二に、今回の法案において、権利と義務の承継について透明度の高い形で整備されていることの意義について触れておきたいと思います。これは、幾つかの観点でその積極的意義を示すことができるものであろうと思っております。

 まず、かなり専門的なことになって恐縮ですが、相続に際して承継される財産については、相続のルールによるものとして理解するのか、財産の処分として理解するのかによって、その取扱いが大きく異なってきました。相続による承継だとすると、登記等の対抗要件がなくても取得した権利を第三者に対抗することができる、他方、財産の処分だとされると、対抗要件がなければ第三者に対抗することができないとされてきました。

 冒頭でも申し上げたとおり、我が国の相続法では、判例によって形成されてきたルールが重要な位置を占めておりますが、その中でも、とりわけこの点については大変に見通しの悪い状況、整合的な説明が、あるいは理解が困難な状況になっておりました。実際にはほとんど同じ内容の遺言であるのに、ある場面では対抗要件が不要とされ、別の場面では対抗要件が必要とされるといったことについて、適切に説明することはもはや困難となっていたように思われます。

 今回の法案においては、法定相続分を前提としつつ、それを超える部分について対抗要件を備えることが必要だという形で、一貫したルールを整備することが提案されております。これによって制度的な見通しは大変によくなるのではないかと考えております。

 次に、相続財産に銀行の預貯金が含まれる場合の規律が明確になり、また、実際上の扱いも明確にされるということの意義が大きいものと思っております。

 相続財産の中では、不動産だけではなく、預貯金も大きな意味を持っております。不動産は所有していなくても預貯金はあるという場合は決して少なくはないものと思います。

 これも専門的なことになって大変に恐縮でございますが、こうした預貯金については、従来は当然に分割承継されるとされておりまして、遺産分割の対象とならないとされてきました。このため、特別受益や寄与分を考慮して決まる具体的相続分を踏まえた遺産分割、これを通じて相続人間の公平を実現するという仕組みは、預貯金については機能してきませんでした。

 今回の法制審議会では、そうした問題があることを踏まえて、かなりこれについては検討が重ねられておりました。ただ、法制審議会の審議の途中の段階でしたが、最高裁が、預貯金も遺産分割の対象となる遺産に含まれるという判断を示しました。これによって、ここでの問題は半分は解消されたというふうに思います。

 半分と申し上げましたのは、最終的に遺産分割の対象となるということは明らかになったものの、遺産分割までの間、どのように扱うのかという点では、実際上も問題が残っていたからであります。特に、手元に現金がない場合、被相続人の葬儀の費用をどのように支出するのか、被相続人が負担していた債務の弁済をどのようにするのか等が問題となります。

 今回の法案においては、遺産分割までの間の仮払い制度が創設されるとともに、家事事件手続法における見直しが図られておりますが、これはこうした問題に具体的に対応するもので、制度的にも必要な改正であると思われます。また、一部分割についても、特に預貯金を意識しながら、もちろんそれだけではありませんが、適切に対応できるようにしたものとなっております。

 今回の法案においては、こうした預貯金の取扱いが重要なポイントとして、かなり細部まで詰めて規定の整備が提案されております。これは、実際上も必要性が高く、意義は大きいものと思っております。

 その他、債務の承継についても、やはり判例によって示されてきたルールを受ける形で、民法上、より明確な規定が設けられるように提案されております。

 これらの権利義務の承継に関するルールの整備は、相続法の最も基本的な部分に関する改正で、積極的に評価されるべきものであるというのが私の認識でございます。

 第三に、遺言に関する制度整備についても触れさせていただきたいと思います。

 遺言の中で圧倒的に利用件数が多いのは自筆証書遺言でございますが、自筆証書遺言は、非常に簡単に作成ができるものの、遺言の存否自体が明らかではないということがあります。もちろん、通常はそうではないのでしょうが、遺言の存在を明らかにすれば利害関係がある者による改ざんや廃棄のリスクにさらされ、他方で、明らかにしなければ遺言が認識されないまま遺産分割がされてしまうというリスクがあるということになります。

 今回の法案においては、自筆証書遺言について、方式要件の緩和とともに保管制度の創設が提案されております。とりわけ、公的機関による自筆証書遺言の保管制度の創設については、今述べた問題点との関係で大きな意義を有しているように思われます。

 恐らく、この保管制度については、さらに将来的には、死亡届が出された場合の仕組み等をより整備していくことで、実際にも利用されやすいものとなっていくのではないかと思います。今回の自筆証書遺言の保管制度の創設は、そうしたいわば将来の制度の基盤を整備するものとして積極的に評価されるべきものであると考えております。

 なお、先ほど申し述べましたとおり、権利義務の承継というルールの中では、法定相続分を前提として法律関係を考えるという基本的なアプローチがとられています。その点では、相続における法定相続分の役割がより明確に位置づけられ、その意義が重視されていると言ってもよいかと思います。今回の法案においては、それとともに、遺言制度を整備し、遺言を通じた被相続人の意思の実現を図るという仕組みが整えられておりますことは、全体として大変にバランスがよいものではないかと思っております。

 第四に、遺留分制度の改正は、やはり今回の法案の大きなポイントであると思っております。

 遺留分制度は、かなり複雑な仕組みで、その性格についてもさまざまな議論があるところでございます。ただ、遺留分が侵害された場合の従来の遺留分減殺請求権については、その行使によって非常に複雑な法律関係が生じてしまうということ、具体的には、遺贈等の減殺によって、多くの場合に目的物の共有状態が生じてしまい、さらにその後の解決が必要となる、また、この共有状態の解消というのは必ずしも容易ではないといった点については、恐らく現行の遺留分制度の問題点として広く認識が共有されてきたのではないかと思います。

 今回の法案においては、遺留分侵害の効果は遺留分侵害額に相当する金銭の支払いの請求権とされ、それによって、この点の解決が単純で明快なものとなり、紛争の一回的解決を実現することが可能となっております。その上で、その支払い猶予を認めることにより請求された側の負担の軽減を図っており、制度を過度に複雑にせず、遺留分の実現を容易にするという意味でも、積極的に評価されてよいものであると思っております。

 最後に、相続人以外の者の貢献について、新たに設けられた特別寄与料の仕組みについて意見を述べさせていただきたいと思います。

 こうした問題について、従来の判例は、相続人ではない者、寄与分制度の対象とならない者が貢献した場合については、その者の配偶者等、相続人となる者の寄与分に反映させるという解決をとってまいりました。こうした従来の判例については、異なる観点からの評価があったものと思います。

 一方で、なぜ実際に貢献した本人ではなく、その配偶者等の寄与分に算入できるのかという問題があります。夫婦とはいっても、それぞれが独立の人格ですから、実際に貢献したのが妻又は夫であるなら、貢献したわけではない夫又は妻の相続における取り分をふやすということが当然に正当化されるわけではないと思います。

 ただ、他方で、実際に貢献した者の貢献が全く考慮されず、その分までもが他の共同相続人にも相続分に応じて承継されるということが適当なのかといえば、やはりそれもおかしいだろうという問題があります。

 従来の判例は、そうした状況の中で、次善のものではあるのかもしれませんが、より適切な解決を求めてきたものとして理解することができるように思われます。

 この問題については、今回の制度の中でも立場が分かれ得るものであるというふうに認識しております。法制審議会の議論の中でも、あくまで財産法上のルールによって処理すべきで、このような制度は不要だという考え方、一定の人的範囲でこうした制度を認めるべきだという考え方、人的範囲を制限せずにこうした制度を認めるべきだという考え方、こうした三つの考え方が対立していたと認識しております。

 こうした対立する考え方がある中で、今回の制度整備は、従来も既に判例によって扱われてきたケースについて限定的に対応するものであり、その点では、小さな改正にとどまるのだという見方も可能かもしれません。ただ、従来の判例はあくまで相続人である配偶者等の寄与分として考慮されるというだけで、本人の貢献が本人の利益として反映されるというものではございませんでした。これに対して、今回の法案により本人に利益を帰属させることが可能となるという点の意義は、やはり決して小さいものではないと思っております。

 今回の法案については、当然のことですが、全て私自身が研究者として考えていたことと一致するわけではございません。別の制度設計が考えられるのではないかと思う部分もございます。しかし、相続という仕組みは国民の全てにかかわる基本的な制度である以上、単純に理論的に正しいか否かということが決まるようなものではなく、その内容が幅広く共有され、理解されるものであるかが重要であるように思います。その点では、以上述べてきた五つのポイントについては、十分に理解することができ、また積極的に評価されるべきものであるというふうに考えております。

 以上が、私の本法案に対する意見でございます。

 御清聴いただき、ありがとうございました。(拍手)

平口委員長 ありがとうございました。

 次に、鈴木参考人にお願いいたします。

鈴木参考人 おはようございます。

 本日は、参考人としてこのような場を与えていただきましたこと、まことに感謝申し上げます。

 私は、およそ三十年前から、同性愛の当事者として、主に札幌、東京で同性愛者などいわゆるLGBTの人たちの居場所づくり、また人間の尊厳を取り戻すための活動を続けてまいりました。昨年六月には、私たちは、政令指定都市として初めてとなる札幌市パートナーシップ宣誓制度の創設という制度的な成果を獲得いたしました。現在、各自治体におきまして同性パートナー認証制度の導入に向けて働きかける活動を行っているところでございます。

 また同時に、私は、北海道大学及び明治大学において中国法、台湾法の研究、教育に従事し、それぞれの家族法の研究などをしております。

 本日は、同性愛者の困難解消と尊厳の回復及び台湾法、中国法との対比の視点から、相続法改正、とりわけ法律案の第千五十条に規定されております相続人以外の者の貢献を考慮するための方策に絞って意見を述べさせていただきます。

 最初に、今回の相続法改正の背景について確認しておきたいと思います。

 法改正の背景としては、急速に高齢化社会が進展したこと、相続を取り巻く社会情勢に大きな変化が生じてきていること、また、家族のあり方に関する国民の意識にも著しい変化が見られること、家族形態に変化が見られることや、要介護高齢者や独居老人が増加するなど、さまざまな社会問題も生じてきております。こうしたことが今回の法改正の背景として指摘されているところでございます。

 家族をめぐる変化といたしましては、家族形態やライフスタイルの多様化また多国籍化などを指摘することができます。具体的には、非婚カップル、同性カップル、性愛を前提としない新しい形の親密圏、あるいは国際カップルの増加などがあると思われます。

 しかし、現行の相続制度には、こうした新しい家族の形に十分対応し切れていない部分がございます。今回の改正案に含まれます相続人以外の者の貢献を考慮するための方策は、まさにこの改善のための一助になるのではないかと考えております。

 この制度は、被相続人に対して無償で療養看護その他労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者に、特別寄与料の支払いを相続人に求めることを認めるものであります。これは、相続人以外の者であっても、財産の維持、増加に無償の貢献があった場合に、これを評価して、事実上、遺産の一部を取得させるものであります。介護などの貢献に報い、関係者間の実質的公平を図ることを狙ったものと説明されております。

 しかし、本年三月十三日に提出されました改正案では、遺憾ながら、この特別寄与者の範囲を被相続人の親族に限定しています。平成二十九年七月の法制審議会追加試案までは、請求権者の範囲を限定しないなどとする乙案が併記されておりましたけれども、最終案ではそれは採用されませんでした。

 このように請求権者の範囲を親族に限定すると、親族以外の者が貢献を行った場合に請求権が与えられないということになり、それでは家族の多様化に対応して実質的な公平を図るという目的が達成できないケースが出てくることを懸念いたします。特に、事実婚の異性パートナー、同性パートナーは、何年連れ添って、どれだけ貢献をしても、特別寄与料の請求はできません。これでは、約四十年ぶりに二十一世紀に行われる相続法改正としては、新たな時代に即応した改正とは言えなくなると思います。

 同性カップルは既に日本社会に数多く存在いたしますが、同性愛者は偏見、無理解にさらされ、相続はもちろん、婚姻、社会保障、税制など、あらゆる法制度において、いかなる法的保護も与えられておりません。私自身、同性パートナーとの共同生活は既に十九年目に入りました。

 本年四月二十六日には、大阪地裁に以下のような訴訟が提起されました。資料として配付しておりますけれども、六十九歳の原告は、同性同士の生活を四十年以上も続け、パートナーとともに自営業を営み、ともに財産を築いたにもかかわらず、パートナーの急逝後、相続人である実の妹さんに全ての遺産を、財産を持ち去られ、火葬に立ち会うことも許されませんでした。原告は本訴において財産の引渡し及び慰謝料の請求を行っています。

 このように、日本の法律では、同性カップルがたとえ何年連れ添っても、協力して財産を築こうが、相続において評価される仕組みが一切ありません。そのため、本件のような悲劇が繰り返されています。

 台湾では、二〇一五年十月に、台湾人の同性パートナーと三十五年同居していたフランス人の元台湾大学教授ジャック・ピック氏が、パートナーの病死後、末期治療の決定にもかかわれず、同居していたマンションの相続もかなわないという状況で、メンタルヘルスに不調を来し、ついには飛びおり自殺をするという悲劇が起きています。台湾では、この事件をきっかけに同性カップルの法的権利の保障の必要性についての社会的関心が高まり、昨年五月二十四日には憲法裁判所に相当する司法院大法官が、同性間の婚姻を認めていない民法を違憲と判断し、二年以内の法改正を命じることにつながりました。台湾では、遅くとも来年の五月までには、恐らくアジアで最初に、同性間の婚姻届が受理されるということが確実となりました。

 今回の改正では、特別寄与料の請求権という形で、同性パートナーも保護の対象となることが期待されていましたところ、先述のように、最終案では、親族要件によって排除されてしまいました。

 現在、既に世界の二十五カ国で同性間の婚姻を認めておりますが、日本でもようやく同性カップルを家族として扱う動きがあらわれています。二〇一五年に始まる渋谷区、世田谷区の同性パートナーシップ制度が、そのきっかけであります。同様の制度は、これまで伊賀市、宝塚市、那覇市、札幌市、福岡市に広がり、近く中野区、大阪市、千葉市などでも導入が予定されています。今後も更に全国の自治体へ拡大させるため、この六月四日には、首都圏を中心に二十七の自治体の議会に対しまして、各地の住民から一斉に請願、陳情などが提起され、報道されたところであります。こうして、同性パートナーシップ制度は、全国の自治体へとドミノ現象を起こす前夜にあると感じられます。

 これらの自治体のパートナーシップ制度には、直接的な法的効力はありません。しかし、この制度ができたことが、既に社会的な波及効果を発揮し始めております。すなわち、企業の中には、その顧客や社員に対する扱いに同性パートナーを含めるところが出てきております。例えば、資料としてお配りをしました、銀行の住宅ローンにおける同性パートナーに共同ローンを適用する、あるいは生命保険会社が同性パートナーを死亡保険金の受取人に指定するということができるようになっています。また、NTTなど大企業が、手当支給、休暇、社宅への入居につき、配偶者と同等の扱いを始めております。こうしたことは、同性カップルにも事実上の配偶者と認めるという社会的な傾向が広がっているというふうに考えられます。

 このように、日本でもようやく同性カップルに対する法的な保障を実現するための社会通念が広がり始めたのではないかというふうに思います。今回の相続法改正におきましては、ぜひともこの流れに沿って、同性パートナーにも特別寄与料の請求を認めるべきであると考えております。

 これに対しては、同性、異性を問わず、事実婚のパートナーには、例えば、準委任契約による報酬請求であるとか、不当利得返還請求であるとか、あるいは遺言によって遺贈をしておくなどの既存の制度による対応で足りるのではないかとの立場があるようであります。しかし、特別寄与料の請求という制度の趣旨は、明確な契約や遺言がないまま被相続人が死亡してしまった場合に、事後的に実質的公平を図る点にございます。現状では婚姻という選択肢が与えられていない同性カップルに対して、この程度の法的保障を与えても何ら弊害はないと考えております。

 なお、一部に、憲法二十四条一項が「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、」と規定していることを、憲法を改正しなければ同性間の婚姻を認めることができないと説く向きがありますので、ここで一言しておきたいと思います。

 まず、二十四条には同性間の婚姻についての明文での言及はございません。文理上、したがいまして、同性間の婚姻を禁止していると読むことはできません。

 問題は、この「両性の合意のみに」の「のみ」がどの文言を受けたものであるかでありますけれども、憲法制定時の経緯、また世界の婚姻法において当時同性間の婚姻を認める例はなかったということからすると、これを合意のみの成立ということを含意するものであると解釈するのが適当であろうというふうに思います。つまり、親や家の合意を要しないで、当事者の合意のみによって婚姻は成立するというのが二十四条の意味であろうというふうに思っております。

 一九四六年、憲法制定時に、二〇〇一年に世界では初めてオランダで同性婚が始まりますけれども、四六年の時点で二〇〇一年のことをあらかじめ予見し、前もって同性間の婚姻を禁止していたという解釈は余りにも荒唐無稽だというふうに思います。

 実はこのことは、本年五月十一日の内閣答弁書、これは逢坂誠二議員による「日本国憲法下での同性婚に関する質問主意書」への答弁におきましても確認されているところでございます。安倍晋三首相名での答弁書では、同性間の婚姻が受理されない理由は、憲法二十四条ではなく民法、戸籍法に求められておりまして、法改正によって同性婚の実現が可能であることを示唆されております。

 また、同性間の婚姻届が出された場合に不受理証明が出されますが、そこに憲法上問題があるというように書く実務は既に行われていないということは、法務省民事局第一課長が論文で認めているところでございます。

 親族以外の事実上の貢献者に遺産の一部を取得させる制度は、私の研究対象である中国法では既に行われて久しいものがございます。一九八五年に制定された中国相続法では、生前の扶養、介護と死後の相続の対価的関係を承認する制度を設けております。例えば、同法第十四条では、相続人以外で被相続人からの扶養に依存していた、労働能力を欠き、かつ生活の糧を持たない者又は相続人以外で被相続人を比較的多く扶養した者には、適当な遺産を配分することができると規定しております。

 本条は、相続人以外の者でも、被相続人を比較的多く扶養した、この中国法上の扶養は、経済上の援助にとどまらず、生活面での支援や看護、療養を含むものでありますけれども、そうした者については遺産配分請求権を付与するというものであります。これには親族要件は付されておりませんし、また、このことが紛争を複雑化させ長期化させているとの情報もございません。

 以上をまとめますと、千五十条の「特別の寄与をした被相続人の親族」という文言を「特別の寄与をした者」に変更し、特別寄与料の請求から親族要件を外すべきであるというふうに考えます。特別の寄与をした者全てを対象とすることで、関係者間の実質的公平を図るという当初の趣旨がより徹底できるというふうに考えます。

 同時に、そうすることで、日本でも同性カップルに対する法的保護の第一歩をしるすべきであります。既に同性家族の法律化は世界的潮流になっていますし、二〇二〇年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、LGBTに対する日本政府の対応を整えることにもなります。オリンピック憲章では、性的指向による差別を禁止しております。先述の台湾大法官憲法解釈でも言うとおり、同性カップルを婚姻から排除することは、国が法律によって同性愛者を差別することに加担することにほかなりません。せめて相続法における特別寄与料請求からは排除しないという姿勢を示すことで、同性愛者に対する法による差別をやめる方向へ転換すべきことを強く求めたいと存じます。

 町で手をつないで歩くことすら勇気が要る同性カップル。今後は何はばかることなく生活できる、そんな世の中を私は若者たちには与えてやりたい。法律の小さい文言ですけれども、それが日本を変える力になります。当委員会の委員におかれましては、御賢察を賜りますようお願い申し上げます。

 以上とさせていただきます。ありがとうございます。(拍手)

平口委員長 ありがとうございました。

 次に、吉田参考人にお願いをいたします。

吉田参考人 おはようございます。早稲田大学で民法を担当しております吉田克己と申します。

 本日は、大変貴重な機会を与えていただきまして、どうもありがとうございます。

 私は、大きくは二つの内容でお話をさせていただきたいと思っています。最初に、第一点として、やや大きな観点から、相続法改正に関して現在どのような点が課題になっているかを整理してみます。いわば総論的な検討でございます。次に、第二点として、今回の改正法案の内容につきまして、総論的な検討も踏まえながら、若干の意見を申し述べたいと思います。いわば各論的な検討でございます。レジュメを用意いたしましたので、御参照いただければ幸いでございます。

 まず、総論的な検討でございますけれども、ここでは、歴史的な視角と比較法的視角という二つの視角から、日本における相続法改正の現代的な課題を整理してみます。

 歴史をごく簡単に振り返りますと、相続法が対象とする相続現象は、大きく二つの時代に分かれるのではないかと思います。

 第一の時代は近代で、ざっくりとまとめますと、西欧の十九世紀から二十世紀初頭あるいは中葉までの時代でございます。ここでは、相続の対象は、主要には生産、経営の基盤となる大土地所有でございました。それはまた、所有者の社会における政治的活動を支えるものでもありました。そして、そのような財であるがゆえに、世代を超えたその一体的承継が要請されました。大規模な経営財、政治財に関する単独相続の時代でございます。

 第二の時代は現代で、この時代は、二十世紀に始まり、とりわけ二十世紀後半期をカバーいたします。その特徴は、相続の対象財産が小規模化するとともに、相続が問題となる家族の数が大幅に増加してくるというところに求められます。その背景にあるのは、一つには、勤労者等を主体とした消費家族が、持家等の資産を形成して相続法の世界に登場してくる、もう一つには、小規模な生産と経営の主体も資産を形成するようになることでございます。後者の典型は、戦後日本の農地改革でございました。

 このような経緯を背景としながら、相続法においては、均分相続が主流になってきます。消費家族においては、単独相続への動因が基本的には存在しないからでございます。しかし、小規模生産経営家族においては、経営財の一体的承継への要請が存在いたします。そこで、均分相続を前提としながらも、例えば農家相続に関する特例法などの試みがなされることになります。

 現時点での相続法は、この現代という時代に属する相続法です。つまり、消費財と小経営財を対象とする相続法なのでございますけれども、これまでと異なる新しい状況がつけ加わっている点に注意を要すると思います。新たな状況というのは、家族的結合の多様化と少子高齢社会の進行、そして人口減少社会の到来でございます。

 まず、前者の家族的結合の多様化です。

 家族的な人間の結合は、現実のあり方においては極めて多様です。しかし、近代民法は、多様な家族的結合のうち、法律婚を特に取り上げて、それに特権的な地位を与えてきました。そのような考え方が、近時、西欧諸国において大きく揺らいできております。いわば、法律婚の相対化が進展しているわけでございます。

 そのような中で、法律婚以外の家族的結合における財産承継をどのように考えていくのか。狭義の相続法に限定されず、相続代替制度も含めた幅広い検討が要請されているように思われます。

 次に、少子高齢化の進行ですが、この現象に伴って、被相続人の死亡年齢の高齢化と相続人の高齢化が生じています。

 まず、被相続人の高齢化に伴いまして、被相続人に対する生活支援及び介護問題の重要性が増大してきております。そういたしますと、それらへの貢献を相続に際してどのように考慮するのかという問題の検討が求められるようになるわけです。対価相続あるいは扶養と相続と呼ばれる問題の登場でございまして、日本の相続法に即して言いますと、寄与分制度の再定義が求められております。

 次に、相続人の高齢化に伴いまして、相続の意味が変化してきます。配偶者の高齢化に伴う生活支援の必要性が増大している、それがその一つでございます。子供につきましても、相続の意味の変化が見られます。従来は自立への経済的支援という意味が強かったわけでございますけれども、相続時の年齢の上昇に伴って、自立後さらにはリタイア後の経済的支援へと相続の意味が変わってきます。

 人口減少社会到来との関係では、相続財産の資産価値の低下が大きな意味を持ってきています。相続財産は、場合によってはマイナスの財産、つまり負財化いたします。それに伴って、遺産の事実的あるいは法的な管理不全問題が顕在化してくるわけでございます。近時、喫緊の政策的課題として議論の対象になっております所有者不明土地問題は、まさにその端的なあらわれでございます。

 次に、比較法的視角から日本の相続法を見ますと、そこにはかなりの特殊性が存在していることに気づきます。三点ほど指摘したいと思います。

 第一点は、財産承継の基本的考え方でございます。世界の相続法システムは、この点に関して、積極財産承継主義と包括承継主義との二つの対照的なシステムが存在いたします。

 積極財産承継主義は、イギリスなどのコモンロー系の国が採用するシステムで、相続処理に当たる専門家が債務を弁済し、その後の積極財産だけを相続人に分割する仕組みでございます。

 これに対して、包括承継主義は、ドイツ、フランスなど大陸法系の国が採用する仕組みでございまして、債務を含めた被相続人の全財産が相続人に包括的に承継されます。日本もこの主義を採用しています。

 しかし、現実には、ドイツやフランスでは、遺産裁判官や公証人などの専門家が関与して債務をまず弁済するというコモンロー的な処理が行われているようでございます。ところが、日本はかなり純粋の包括承継主義を保持しています。その点で、ひとり取り残されているという印象を受ける次第でございます。

 第二点は、日本の相続法においては、包括承継される財産が遺産から流出していく可能性が大きいという点でございます。換言いたしますと、日本では、相続において遺産分割手続の持つ意味が小さいということでございます。

 レジュメには三点ほど記載しておきましたが、ここでは、可分債権の当然分割主義だけ触れておきます。

 つまり、可分債権は、相続開始とともに、法定相続分の割合で当然に共同相続人間で分割されますので、遺産分割の対象である遺産から流出していくわけでございます。これは、他の大陸法系の相続法とは異なる日本独自の特徴でございます。それによって遺産分割の対象が狭まりますので、遺産分割の柔軟な処理が大いに妨げられます。

 最も重要な預貯金債権については、二〇一六年の大法廷決定によって別扱いが認められましたので、大きな変化が生じました。しかし、可分債権一般については、やはり当然分割主義が維持されております。

 第三点は、相続のインフラストラクチャーの不十分性という点でございます。

 相続は、複雑な法的処理が必要な分野ですので、なかなか素人である相続の当事者だけでは問題を処理することができません。専門家の助力が要請されます。イギリス、ドイツ、フランスとも、この点についてはそれなりの体制が準備されています。しかし、日本の場合には、この点が極めて弱いと言わざるを得ません。家裁の調停制度はこの点で評価される制度ですが、相続全体の中では、ごく一部に対応できているにすぎません。

 次に、今回の法案につきまして、若干の所見を申し上げます。

 最初に全体的な評価でございますけれども、一つには、家族的結合の多様性への対応が必ずしも十分ではないことを指摘できると思います。

 今回の改正作業の契機は、婚外子相続分差別違憲の大法廷決定にありました。この違憲決定に対して、法律婚を強化しよう、配偶者の法的地位を強化しようというのが、改正作業のそもそもの出発点にあった問題意識でした。

 配偶者の法的地位の強化は、それ自体は、先ほどの相続法の現代的課題においても指摘した重要な課題でございますけれども、他方で、家族的結合の多様性への対応が置き去りにされていることは否定できないように思います。これは、単に置き去りにされているというだけではなくて、それへの対応が相対的に弱くなってしまうというような危険もあると思います。相続法外の対応も含めて、今後の検討が望まれます。

 もう一点指摘したいのは、日本相続法の特殊な構造の克服へ向けての端緒的な対応も見出されるということでございます。これは確かに端緒的な対応にすぎないのでございますけれども、今後、この方向を大事にして、今回の改正が今後のさらなる改正への第一歩となることを期待しております。

 次に、法案の個別的提案に対する所見でございます。時間の関係もあり、全面的に検討することはできません。何点かポイントを絞って、重要な点を申し上げるにとどめざるを得ません。

 第一に、配偶者居住権を保護するための方策を見てみますと、これは、今回の改正法案のいわば目玉ともいうべき構想でございます。生存配偶者の生活保障という観点から、積極的に評価すべき提案だと思われます。

 この制度の基本的考え方は、一定の場合に、生存配偶者に長期の配偶者居住権を付与するとともに、居住権を取得した配偶者はその財産的価値を相続したものと扱うというものでございます。この考え方にかかわって、なお何点かの検討事項があるように思います。

 最初に、居住権の財産的価値の評価をどのようにして行うのか、これが重要な問題となります。一応、事務局から示された評価に関する考え方もあるわけでございますけれども、これにつきましては、共同相続人の納得を得られませんと、制度はうまく動かないと思われます。この点に関して、制度を動かしながら、一層の検討を期待したいと思います。

 次に、この居住権には、財産的価値があるはずですのに、譲渡性が認められません。そこで、居住権の付与を受けた配偶者が転居したい場合にどうするかが問題になります。確かに、譲渡性が認められても、終身の場合にはその配偶者の死亡までに限定される居住権が、容易に譲渡できるとは思われません。しかし、建物所有者との関係で、残存価値の償還等を考える余地はあるのではないかとも思えます。この点については、さらなる検討を期待したいと思います。

 さらに、レジュメには、この居住権の法的性質に関する所見も述べておきましたけれども、これは省略したいと思います。

 第二に、特別の寄与の制度の新設について触れます。

 この制度は、相続人以外の者の被相続人への療養看護等の提供に対して金銭的に報いる制度でございます。先に整理しました相続法の現代的課題にかかわる改正で、基本的には、積極的に評価してよろしいと考えます。ただし、多少の点を指摘する必要はあるでしょう。

 まず、法案は、現行の寄与分制度と同様に、財産の維持又は増加についての特別の寄与を要求しています。しかし、この制度において重要なのは、実質的に無償で療養看護等を提供しているかどうかということでありましょう。財産の維持又は増加が、それに加えた独自の要件になっていると解するとしますと、制度の硬直的な運用につながらないかが危惧される次第です。

 さらに、改正法案は、無償性を要件としています。寄与分制度については無償が明示的には規定されていませんので、少し気になるところでございます。この要件につきましても、それを厳格に形式的に解すべきではないと思われます。つまり、多少のお礼があっても、実質的に無償であることを妨げられないことを明確にすべきだと思われます。それは、不動産等の利用関係について、多少のお礼があっても使用貸借と法性決定することを妨げないのと同じでございます。

 第三に、共同相続における権利承継の対抗要件に関する改正案を取り上げます。

 改正案は、相続承継について対抗要件が必要である場面を拡大しようとするものでございます。現在の判例法理のもとで、相続登記の対抗要件としての機能が大きく減殺されています。とりわけ問題が大きいのは、相続させる旨の遺言による権利承継を登記なくして第三者に対抗し得るとした判例理論でございます。改正法案は、この状況を改善しようとしているわけで、支持し得るものでございます。更に指摘しますと、この改正は、相続未登記問題という現下の喫緊の課題への対応としても意味があることと思われます。

 しかし、多少の検討事項もなお残されているように思います。改正法案は、相続分指定についても、この扱いを貫徹することにしています。その結果、相続人は、指定相続分による承継についてまず登記を要求され、その後、遺産分割による承継についても登記を要求される。つまり、二重の登記を要求されるということになります。これは、過重な負担になる危険もあります。この措置を導入するのであれば、登録免許税を始めとする相続登記のための金銭的負担に関する軽減措置をリンクさせる必要があると考えます。

 第四に、改正法案は、遺産分割前の遺産に属する財産の処分があった場合について、遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができるとする規定の新設を提案しています。遺産から財産が簡単に流出するという日本相続法の特殊な構造への対応を行うもので、支持し得る提案でございます。

 私といたしましては、この制度改正をそのような性格を有するものと捉えて、他の問題の検討にもつなげることが望ましいと考えています。これは、根本的には、遺留分制度とか持ち戻し制度の再定義にもつながる問題です。しかし、現実には、これらの制度に手をつけることまで行くのは難しいだろうとは考えております。

 最後、第五に、法務局における遺言書の保管制度の新設について触れたいと思います。

 これは、日本の相続法システムの弱点である相続インフラストラクチャーの不十分性に対する一定の対応という点で、注目すべき制度改革であると考えます。公的支援ということでは、相続未登記問題との関連で、法定相続情報証明制度が既に動いております。このような方向を更に追求することが望ましいと思われます。

 しかし、相続インフラストラクチャーの不十分性への対応の中心は、相続の処理を援助する専門家をどこにどのように求めるのか、公証人や司法書士、弁護士などをどのように位置づけるかでございます。これらの問題につきましては、なお今後の検討に委ねられる部分が大きいように思われます。

 以上でございます。御清聴どうもありがとうございました。(拍手)

平口委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

平口委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。神田裕君。

神田(裕)委員 おはようございます。自由民主党の神田裕でございます。

 本日は、質問の機会をいただきまして、感謝申し上げます。

 ただいま参考人の皆様より、貴重な民法改正等に対する御意見をお聞かせいただきました。早速、私から質問をさせていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 さて、御承知のとおり、我が国における被相続人の高齢化が急速に進んでおります。平成元年で八十歳以上の被相続人が三八・九%、これが平成二十五年には六八・三%となりまして、そのうち九十歳以上の被相続人が二三・七%となっております。相続人も被相続人の配偶者の方々も本当に高齢化になっておるわけでございますが、このような急速な高齢化という社会的な変化の中で、今回、約四十年ぶりに相続法の抜本的改正が実施されるものと理解をいたしております。

 さて、今回の改正法案におきましては、これまでになかった新たな権利や制度、すなわち、短期及び長期の配偶者居住権や預貯金の仮払い制度、自筆証書遺言の保管制度の創設など、見直しの内容は多岐にわたっておりますが、まず、この法案全体の内容につきましてどのように評価されているのでしょうか。改めまして、全参考人にお伺いいたします。

窪田参考人 それでは、ただいま御質問を受けた点について、私の意見を申し上げさせていただきたいと思います。

 冒頭の意見陳述でも申し上げたところで、かなり明確になっているかとは思いますが、基本的には、相続法全体の見直しということを、特に二つの点で積極的に評価したいというふうに考えております。

 第一の点は、今、御質問の中でも触れられたところですが、特に高齢化社会といった形での社会の変化を受けとめるものであるという部分は、非常に重要な意味を持っているんだろうというふうに思います。

 もう一つの側面としては、これはむしろ個人的な認識ということになるのかもしれませんが、これも意見陳述の中で申し上げたとおり、現在の判例法は、判例によって形成されたルールが非常にたくさんあるわけですが、それらのルールというのがどうも相互に整合的なものとなっておらず、非常に見通しが悪いという状況になっているように思います。

 今回の改正法の中では、権利義務の承継の部分は、どちらかといえば余り目立つ部分ではないのかもしれませんが、そうした点を含めまして見直しが図られているという点は非常に意味があることだというふうに認識しております。

 以上でございます。

鈴木参考人 お答えいたします。

 私の立場としては、同性カップルに法的保護を与える方策としては二つあるわけですけれども、一つは、正面から同性間の婚姻を認めてしまう。今回はそれは改正事項に入っておりませんので、今回それを実現するということは困難であるというふうに理解しております。

 他方で、もう一つは、婚姻以外の多様な家族に対する遺産継承ないしは相続代替的な措置による実質的な遺産の取得を認める制度を設けるという方向でございます。それは、今回新設されようとしています特別寄与者に対する新たな制度の創設ということがございますけれども、ここにおきましても親族要件によって同性カップルは排除されているということでございますので、いずれにしても、この問題は今回の、現在のところの改正案では解決できないということになりますので、ぜひ、この審議の中でその辺のところを改善するようお願い申し上げたいというふうに思っております。

 全体といたしましては、私の観点からするならば、婚姻以外の多様な家族への配慮というものがやや足りないのではないかというふうに思っております。

吉田参考人 私の意見は、先ほど申し上げましたが、今回の改正法案は、特に家族の多様化に対する配慮という点で不十分であるというのが基本的な評価になります。ただ、提案されているさまざまな制度自体は基本的に評価できるところが多いとは思っております。

 ただ、その上で、ちょっと先ほど申し上げなかった点を一点補足させていただきたいんですけれども、それは、鈴木参考人の方からも非常に強調されました、特別の寄与分について親族要件が入った点に関してでございます。

 私も、これはちょっと家族の多様化への対応として問題があるとは思っていますけれども、ただ、現在の寄与分ができたときに、二つの位置づけがありまして、一方では財産法的な論理で解決する、他方ではあくまで相続の枠内で解決するという議論があったわけですが、基本的にやはり相続の枠内で解決するということで現行の寄与分制度ができた、それが制度にも非常に反映しております。

 今回の特別の寄与分制度についても、その辺のいきさつを引きずって、やはり相続に引きつけられた形で制度化されているわけですね。そうなりますと、相続人以外の者の寄与を評価するのに非常に難しい枠組みになっちゃっているということで、私は、家族の多様化を踏まえた制度としては、もっと財産法的な論理を前面に出した、そういうような相続代替制度が望ましいのではないかとも思っております。

 以上です。

神田(裕)委員 ありがとうございました。

 ただいまの参考人よりのお話等にもございましたが、先日の当委員会における質疑におきまして、相続人以外の者が被相続人に対して介護などの貢献を行った場合に相続人に対する金銭請求を認める制度について、その請求権者の範囲を被相続人の親族に限定するという点について質問がございました。これは、被相続人の親族に限定すると、事実婚の配偶者や同性のパートナーが介護などを行っても、この制度による保護の対象にならないことを指摘するものでございますが、この点について窪田参考人はどのようにお考えでしょうか、お伺いいたします。

窪田参考人 それでは、ただいま御質問を受けた点について、私の見解を述べさせていただきたいと思います。

 もう既に出てきておりますとおり、今回の法案は親族という形を前提としておりますので、事実婚のパートナーであるとかいわゆる親族要件に該当しない者については、直接の適用対象にはならないということになろうかと思います。

 そのことを確認した上で、二点述べさせていただきたいんですが、まず第一点として、一つは、この制度の対象にならないとしても、パートナー間での遺言等によって相手方の保護を図るということはもちろん可能ですし、恐らく、今、参考人の吉田教授から出た御意見にも触れられた点なんですが、財産法上での保護を図るという仕組みはあり得るんだろうと思います。

 法制審議会の議論の中では、事実婚をめぐってそれを保護するかどうかという論点もございましたが、それ以上に非常に明確に対立していたのが、制限せずに、清算ということを貫いてこういう制度を適用するという考え方と、こういうのを相続の枠組みに持ち込むべきではない、むしろ財産法によって明確に規律するべきであるという基本的な考え方であったということではないかと思います。

 その意味では、相続という枠組みの中で紛争が複雑化、長期化することを避けるという意味もあって人的範囲は限定されたということだろうと思いますが、そうはいいつつ、財産法上の解決というのは十分に残されているものだというふうに認識しております。

 それから、第二点として、少し長くなって恐縮なんですが、事実婚をめぐる問題が非常に重要だということは私自身も強く認識しております。ただ、事実婚のパートナーもこの請求権者に含まれるとした場合、適用対象となる事実婚の範囲をどこまでにするのかといった問題が多分非常に難しい問題として出てくるんだろうと思います。いわゆる事実婚と呼ばれるものについても、法律婚ではないという意味では共通するものの、その中に非常にタイプの異なるものが含まれているのではないかと思います。

 恐らく、これらの問題というのは基本的には親族法をめぐる問題なのではないかと思いますが、そこの部分を必ずしも十分に検討しないまま、相続法における問題という形で財産の帰属に関する問題として解決するということは、論理的に不可能だというふうに申し上げるつもりはないですが、やはり非常に困難なのではないかというふうに考えております。

 わかりにくいお答えだったかと思いますが、以上でございます。

神田(裕)委員 ありがとうございました。

 前回の当委員会における質疑におきまして、法制審議会における審議の手続につきまして、多数の委員の意見ではなく、特定の委員の意見によって結論が決められてしまったのではないかとの議論がございました。

 窪田参考人は、法制審議会民法(相続関係)部会の委員として議論に加わっておられたわけですが、この指摘についてはどのようにお考えでしょうか。窪田参考人にお伺いいたします。

窪田参考人 御質問にお答えさせていただきます。

 私自身は、そのような認識は持っておりません。議事録をごらんになっていただければわかると思うんですが、非常に自由な形で議論がされていたのではないかと思います。実際に、研究者、実務家、それぞれの委員の間でもかなり激しく意見が対立することがありましたが、それらは法律上の議論として非常に誠実になされたのではないかというふうに理解しております。

 以上です。

神田(裕)委員 ありがとうございました。

 御案内のとおり、本法律案では、社会の高齢化に対応するために、民法に、これまでにない新しい権利として配偶者居住権を創設し、遺産分割又は遺贈によりこれを取得することができる制度が設けられるわけでございますが、ここで、この制度の創設の意義について、窪田参考人に改めてお伺いいたします。

窪田参考人 先ほどの意見陳述の中でも申し上げさせていただきましたが、残された配偶者について終身の建物の利用を認めるということについては、従来からも強いニーズがあったのではないかと考えております。

 特に、比較的高齢の配偶者の場合、所有権の帰属という形で建物を取得させますと、結局、それによって取得する財産が非常に高額になるため、ほかの財産を一切承継することができないということになります。それに対して、終身ということですから、一定の期待値で計算するしかないわけですが、それを前提とした利用を認めるという形であれば、そこの部分の金額というのはもう少し抑えることができる。そうすれば、その他の財産、例えば金銭であるとか預金であるというのも取得して、そして最終的には、よりきちんとした生活の保護が図られるのではないかということがあるんだろうと思います。

 先ほど申し上げたとおり、従来からも後継ぎ遺贈であるとか負担つき遺贈であるという解決が提案され、それについて議論がされてきたというのは、こうしたニーズがずっとあったということを示しているんだろうと思います。

 その意味では、そうしたニーズに端的に対応するものというふうな評価をすることができると思いますし、そうしたものとして意義があるというふうに言っていいのではないかと思います。

 以上でございます。

神田(裕)委員 貴重な御見解をいただき、ありがとうございました。

 近年、遺産分割をめぐる家裁の調停や審判手続が増加傾向にございまして、相続紛争の増加が本当に大変懸念をされております。今後、我が国の人口減少は、二〇三〇年代には毎年八十万人台に達し、二〇四〇年代には九十万人台に達すると推計されておりまして、それに伴いまして相続の件数も確実に増加するものと思っております。

 本法案が成立、施行後は、親族間のトラブルが減少して、そして長期化しないようになって、平成最後の相続法大改正があってよかった、そういうふうに言われるのではないかと期待をいたしております。

 時間でございますので、質問を終わらせていただきます。本日はありがとうございました。

平口委員長 次に、國重徹君。

國重委員 おはようございます。公明党の國重徹でございます。

 本日は、三名の参考人に当委員会までお越しいただきまして、貴重な御意見を賜りましたこと、まずもって心より感謝と御礼を申し上げます。

 まず、窪田参考人にお伺いいたします。

 私は窪田先生の論文を読ませていただきました。

 その中に、相続という制度について、その不条理な性格、それが言い過ぎだとすれば、合理的に説明することが困難な性格があるんだというような記述がございます。

 その上で、このような記述もございました。

 実際の相続法は、単純な一つの根拠によって基礎づけられているわけではなく、多くの原理が複合したものである。したがって、相続制度を単一の原理で説明しようとすることは不可能だし、また期待されていないだろう。しかし、複数の異なる機能を実現する制度であるということは、その制度の複合的な性格の分析を拒むことを意味するわけではない。もっとも、法制審議会における議論等においても、複数の目的、機能として何があるのか、それらは相互にどのような関係に立つのかといった視点とは別の次元で、すなわち、被相続人の意思か、清算か、扶養かといった複数の要請の対立とは別に、そもそもそうした分析を受け入れるのかという基本的な姿勢での対立図式があったように思われるというようなことを述べられております。

 私も、相続、法定相続分、配偶者が二分の一で、子供も総体で二分の一だとか、相続人の範囲はこの範囲なんだというようなものを何か所与のものとして考えていましたけれども、確かに、先生の論文を読ませていただいて、なるほど相続の根拠というのもなかなか難しいものがあるなというものを感じさせていただきました。

 その上で、今回の法制審において要綱を取りまとめるに当たって最も苦労した点、これはどのような点だったのか、ちょっと雑駁な質問になりますけれども、ぜひお伺いしたいと思います。

窪田参考人 要綱を取りまとめる担当者ではございませんでしたので、あくまで私の立場からということで述べさせていただきたいと思いますが。

 委員から今御指摘のありました点というのは、相続について基本的な性格をどう考えるのかというレベルで、恐らく契約法とか不法行為法についていろんな考え方があるというのとはかなり違うレベルで議論が対立している、あるいはそもそもはっきりしていないということがあるのではないかと思います。

 私自身はもう、言及してくださった論文の中にありますとおり、かなり複雑な性格であるけれども、その複雑な性格というのをある程度までは分析して、そして制度をつくっていくことができるのではないか、先ほどちょっと触れましたが、清算といった側面をもう少し表に出して考えていくことができるのではないかというふうに思っておりましたし、そういうものの具体例としては、最終的には見送られましたが、相続分をめぐる問題、それから寄与分をめぐる問題、そして今回残った特別寄与の問題というのがあったというふうに思っております。

 ただ、恐らくそうではなくて、そういうふうな分析の観点とは別に、やはり紛争を長期化、複雑化させるということを避けるべきだという御意見も大変に強かったと思いますし、それは幾つかの分析とは全く性格の違うものだということは私も思うんですが、ただ、じゃ、全く理解できないかというと、よくわかるような気もいたします。

 つまり、人生にとって、一生に一度あるかないかではなくて、誰でも必ず被相続人にはなるわけですから、必ず誰にとっても身近なものである相続というのが非常に複雑な制度になっているというのは、それ自体避けるべきだろうということがありますし、ひょっとすると、相続というのは、余り細かい分析をせずに、割り切りをすることによって初めてその仕組みとして機能しているといったような見方もあるのかなというふうに思います。その見方に賛成だというわけではないんですけれども、理解はできるということになります。

 そうしますと、全体としてこういった制度をどうやってつくっていくのか、何と何が対立しているのかという話が大変にわかりにくい形で議論がなされていくということになりますし、法制審議会の議論の中でも、AとBが対立しているというような単純な構造ではなくて、AとBの、それとは別のところで甲と乙が対立しているというような、そういった議論構造になっていたのが、最終的な法案にまでまとまるまでの間の、特に担当の方が苦労された点ではないかと思います。

 ただ、それを踏まえましても、最終的にでき上がったものというのは、それなりに参加していたメンバーの相互の理解が得られるようなものになっていたというふうに認識しております。

 御質問をいただいた点について適切にお答えできているかどうかわからないんですが、御容赦いただければと思います。

國重委員 ありがとうございました。

 続きまして、吉田参考人にお伺いいたします。

 吉田先生の先ほど配付いただいた論文も読ませていただきました。その中にこのような記述がございました。「法律婚の価値だけでなく他の家族的結合の価値も同様に重視して、相続法が多元的な価値の調整の上に成り立つ法制度になるよう努めることである。」というような記述がございました。

 確かに、家族のあり方も多様化していっておりまして、こういうものは私も認めていくべきだと思っております。

 先ほど同性婚のお話もされました。私の地元の大阪事務所がある行政区というのは大阪市淀川区といいまして、LGBT支援宣言を全国で一番最初に出したところが私の地元でございます。そういうことで、当事者の方からも数多くお話も聞いてまいりました。

 私は、選択的夫婦別氏制度とかも将来的には我が国へ導入せざるを得ないんじゃないかと思っていますし、また、同性婚ないしそれに準じるような制度についても、やはり将来こういったものも視野に入ってくるというように思っております。

 ただ、どういうふうな順序を追ってやっていくのか、やはりLGBTの方々への理解を促進していくような、いろいろ漸進的なやり方を考えていかないといけないんじゃないかと個人的には思っておりますけれども、そういう方向も大事だと思っております。

 また、内縁の一方の配偶者が亡くなった場合に、支え合って生きてきた一方の配偶者に対して何らかの配慮というのもあっていいんじゃないかというふうにも思います。ただそれが、生前贈与なのか、遺言制度なのか、それともこの相続法の中に何か入れてくるのかということについてはまたいろいろと、私も個人的に研さんをまた積んでいかないといけないなと思っているところであります。

 他方で、民法には法律婚というのが決められていまして、法律婚があるからには、やはり一定のインセンティブというのがそこになければいけないというか、法律婚だからこそ何か保護されるというものもあってしかるべきなのではないかというふうにも思うところでありまして、吉田先生がここでおっしゃられている、「同様に重視して、相続法が多元的な価値の調整の上に成り立つ法制度になるよう努めることである。」これは将来的にどのようなものを視野に入れて考えられているのか、お伺いしたいと思います。

吉田参考人 御質問どうもありがとうございました。

 私は、家族的結合の多様化を踏まえて、それぞれの結合について個人の尊厳を大事にしながら法的にも一定の保護を与えていく、これがやはりあるべき姿と思っていますけれども、他方で、保護のあり方もまた多様であり得ると思うんですね。

 例えば法律婚、これが一つの核心的な制度になっていますけれども、法律婚という制度がある以上、それを選んだ人に対して法律婚に与えられる保護を与える、選ばなかった場合、それは別である、これは制度がある以上は当然だと思います。ただし、法律婚に余り特権的な地位を与えることはほかの家族的結合に対する配慮という点でどうなんだろうか、こういうことを思いますので、だから法律婚と同じ保護を等し並みに与えるということにはならないと思いますけれども、やはりそれぞれの特性に見合った法的保護を与えていく、これがあるべき姿だろうと思っております。

 その際、相続法がどういう意味を持つかということですけれども、これも今申し上げたこととリンクしまして、つまり、全ての家族的結合の場合に相続権を与える、そういうことにはならないと思うんですよね。ただ、その際に、相続権でない場合も、相続代替制度という言葉が時々使われますけれども、それ以外のいろいろな法的制度を使った保護、適切な保護というのはどういうものがあり得るのか、これを詰めていく、また、もちろん場合によっては相続法の制度を使いながら保護を与えていく、こういうことをきめ細かに検討していくことが将来のあるべき姿ではないかと思っている次第でございます。

 以上です。

國重委員 ありがとうございました。

 続きまして、鈴木参考人にお伺いいたします。

 鈴木参考人にも同じように、今の社会の中で、家族の多様なあり方がある中で、どのような方向性に今後相続法制を持っていくことが適切だと思われるのか。

 それと、この大きな視点と、先ほど、特別の寄与の範囲、寄与者の範囲について、被相続人の親族に限定するのではなくて、より広く考えていくべきだというようなお話がございました。中国にもそのような法制があるんだということでした。

 ただ、一方で、複雑化、長期化しないのかなという懸念も生じて、これもある意味当然だとも思います。中国ではなぜそういうようなことが複雑化、長期化しないのか。例えば私もちょっと面倒を見たよというようなことをいろいろな人が言い出したら、いつまでたっても紛争が、相続が決着しないということにもなりかねません。

 この辺のことについて、複雑化、長期化しないためにどのような方策が必要だとお考えなのか、このあたりについてもお伺いしたいと思います。

鈴木参考人 お答え申し上げます。

 私としては、先ほども申し上げたとおりですけれども、過度に法律婚を特権化しない方がよい、多様な家族を営む人に対してニュートラルな制度設計をすべきであるというふうに思っております。そういう意味では、今回の改正草案はややその点の配慮が足りないのではないかというふうに思います。

 法律婚をどう考えるかというのは非常に難しいですけれども、いずれにしろ、何を選ぶかについて、何かを選んだからといって不利益になるような制度設計にはすべきではないというふうに思っておりまして、いかなる人生を歩むかを個々の国民が選択する、どれを選択しても損にならないような仕組みを整えるのが法的な立場としては望ましいのではないかというふうに思っています。

 それから、特別寄与につきましては、先ほども申し上げたとおり、親族要件を外すべきである、そうしないと、今の段階では同性カップルは全く排除されてしまいますので、そのように思っております。

 財産法的処理についての御指摘もございましたけれども、同性カップルがそういうものを実際に使えるか、例えば契約を結んだりあるいは遺言を残すということができるのかということは、私は実際としては非常に難しいというふうに思っています。ですから、それで解決しろというのは無理を強いることではないのか。

 いずれにしても、被相続人の相続人との間で争いが起きることになります。そのときに同性パートナーが闘わなきゃいけないんですね。その武器を与えていただきたいと私は思います。いずれにしても、弱い立場にあって、表立って主張することがすごくはばかられるような、そういう状況にある同性パートナーが、ちゃんとした法的な権利を主張できるような手だてを与えていただきたいというふうに思います。

 将来的には、当然、同性婚を認めるという方向に行くんだろうと思いますけれども、理解が先か法が先かという議論はよくありますけれども、先日、フランスの方々とシンポジウムをしました。フランスでは、やはり法律が先行しているんですね。今でも反対論は渦巻いています。しかし、法律ができることによって、とにかく語ることができるようになる。アジェンダが設定される。これは非常に重要でして、そのことが理解を促進していくわけで、理解があるから法律ができるのではない、私は順番が逆だろうというふうに思っております。

國重委員 ありがとうございました。しっかりと今の御意見も踏まえて、私も検討してまいりたいと思います。

 ちょっともう時間がなくなったので、最後、私が話して終わりにしますけれども。

 私は、そういった同性パートナーの方たちも、いろいろと今後配慮できるような世の中にしていかないといけないと思っております。また、これは同性パートナーとか法律婚の配偶者とか親族とか関係なく、やはり相続というのは、私も弁護士出身ですけれども、争う族の争族になりかねない。遺言を残した場合には比較的そういうことにはならない、スムーズに処理していける場合が多いかと思っております。もちろん、それぞれの事情に応じてですけれども、この遺言制度をより活用できるような世の中にしていくことが必要なんじゃないかな、残された人への愛情とか思いやりというのもそういう中に一端があらわれるのではないかなというふうに思います。

 もちろん、しかるべき年齢にならないとなかなかつくらないとかいうようなことはあるかもしれませんけれども、引き続き、遺言制度についても研究しながら、また、きょう三名の参考人からいただきました貴重な御意見をもとに、更に研さんを深めてまいりたいと思います。

 以上で質問を終わります。ありがとうございました。

平口委員長 次に、山尾志桜里君。

山尾委員 立憲民主党の山尾志桜里です。

 参考人お三方、本当にありがとうございました。

 まず、窪田参考人にお伺いをしたいと思います。

 窪田参考人は、途中からこの相続部会の部会長代理になられて、ある意味取りまとめる立場にあった、あるいはなったという面があるんだと思うんですけれども、その部会長代理という立場を離れて、一専門家、民法の専門家として、この今問題となっている特別寄与制度における親族要件、これがあるものとないもの、どちらがよりよい、望ましいというふうにお考えですか。

窪田参考人 ただいまの御質問についてお答えさせていただきます。

 もう議事録をごらんいただければわかりますが、私自身は乙案をずっと支持する立場で発言しておりました。

 ただ、乙案に対しては、もう先ほども繰り返しお話をしたことですが、非常に反対論も強かった。それは、恐らく、一定の身分に限るべきということよりも、むしろ、こうした制度を取り込んでしまうと、せっかく比較的単純な形で相続という仕組みがあったのに、それが極めて複雑になってしまう、もう財産法上処理ができるものについては、あくまで財産法でいくべきだという議論の対立であったと思います。

 その意味では、結論として、どちらがいいのかというよりは、基本的な制度の設計の仕方のところで基本的な対立があり、私自身は、清算という仕組みをより明確に出した乙案のような立場をとるということが考えられたのではないかというふうに思っておりました。

 以上です。

山尾委員 乙案というのは、つまり、親族要件を外した方がいいという案で、先日、委員会でも御紹介をしましたけれども、パブリックコメントでは、いわゆる絞る甲案に比べて三倍の御意見があったというものであります。そして、窪田委員も乙案に賛成の議論を張っておられたということをお話しいただきました。

 実際に、十九回の法制審議会の資料を見ても、このように書かれているんですよね。本部会の資料では、乙を基本としてさらなる検討を進めることにするというふうに書かれておりまして、しかも、ここには、パブリックコメントでは甲案より乙に賛成する意見が比較的多く、また、本方策が相続人でないというある種形式的な理由で相続財産の分配にあずかれない不都合を解消するためのものであることを踏まえると、この場面で再度親族関係を要件とするのは不徹底な感を免れないと考えられるというふうに、法制審議会の十九回でここまで事務局が、紙を用意して配って、書いているわけですけれども、そこから結論が甲案になっていく過程が、やはり議事録を見ていても、ちょっとなかなか納得しがたい状況があるわけですけれども、その場におられたのが三人の中で窪田委員だけでありますので、少しこの経過をお話しいただければと思います。

窪田参考人 私の認識の範囲でお答えさせていただきます。

 甲案と乙案に関して、意見分布を見た場合に、先ほど委員から御指摘ありましたとおり、乙案の方が多かったのではないかということはそういうふうに理解しております。

 ただし、先ほども少し申し上げた点なんですが、絞るという案と絞らないという案でいくと、絞らないという方が強いというのはあったんですが、そもそもこの制度自体が適切ではないのではないか、つまり、こういうふうな仕組みを相続の中に持ち込むということ自体が不適当なのではないかという意見も実は大変に強かったのではないかと思います。

 その意味では、先ほど、乙案と対立するのは実は甲案ではなくて、そもそも不要なんだというものだったのではないかと思います。それは、実は統計の中には余りきれいに出ていないという形だと思います。

 そうした中で、せっかく、やはりできるだけ何とか手当てしてあげようよというニーズと、しかし、それを無制限に広げてしまったら、相続という制度が極めて複雑なものを取り込んでしまって収拾がつかなくなってしまうという、特にこれは実務家からの御懸念もあったと思うんですが、そうした枠組みの中で、一定の範囲に絞るということが出てきたということなのではないかと思います。

 先ほど吉田委員からも御指摘ありましたが、かつての寄与分制度の創設の際にも全く類似のことがございまして、全面的に清算を認めるという考え方と、あくまで相続の枠組みの中でというのがありましたが、その意味で、一定の妥協的な解決になったんだろうと思います、寄与分に関しては。

 今回の特別寄与に関しても、類似のものとして理解するということが一応可能なのではないかなというふうに私自身は思っております。

山尾委員 制度そのものに消極という意見、そして、制度をもしとるなら、親族要件を外して、広く保障するべきだという意見、この意見が複数、一定程度のボリュームでそれぞれあったということは私も承知をしていて、しかし、制度をとりつつ、しかも絞るという甲案の意見に積極的によって立つ方は少なかったのではないのかなということは指摘をさせていただきたいと思うのですが、時間のこともあります。鈴木委員に少し続きをお伺いしたいと思います。

 財産法での救済は無理を強いるものであり、せめて、表に立ちにくいものが闘うための法律上の、あるいは制度上の武器が必要だ、こういうお話がございました。少し具体的にお話をいただきたいと思います。

 実際に同性カップルが事前に契約をする、あるいは遺言する、あるいは事後に事務管理、不当利得で争っていく、どれだけ無理を強いるものなのかということです。

鈴木参考人 お答えいたします。

 まず、事前に準委任等の契約をするというのは、一般的日本人の契約観念からしますと、最も密接な関係にある者との間で契約を交わすということは通常あり得ないことですね。それを同性愛者にだけ求めるというのは、私はやはり差別だと思います、それは。それは無理を強いるものだというのはそういう意味です。つまり、通常の異性愛者には強いないことをなぜ我々にだけそれを強いなければいけないのかということですね。

 それから、親族との間で争いになるということが予想されます。先ほど御紹介した大阪の事例はまさにそうなわけですけれども。

 そうした中で、では、どういう生活実態だったのか、それから、二人はどういう関係で、どういう生活をしていたのか、これを全て法廷で述べなければいけないわけですね。そうしたプライバシーを全部さらけ出して、法的に闘わなければいけない。それを既存の制度の中でやれと。そういう判例もありませんし、そういうことを闘った人もこれまでいない中で、従来の道具立てがあるからそれでいいだろうというふうには私はならないと思います。

 今回、特別寄与の制度ができて、同性カップルでも使えますよということが伝われば、それは使おうという人たちが出てきますし、従来の道具立てと比べればはるかにハードルが低いものになるだろうと思います。

 これはいずれにしても過渡的なことでございまして、将来は婚姻法の改正を展望しなければいけないと思いますけれども、それへの一里塚として、つまり、同性カップルでも利用可能な法制度をつくるということが次の段階への流れを加速させる、そういうことになっていくのではないかと思っておりますので、今回はぜひ親族要件を排除していただきたいというふうに思っております。

山尾委員 もう一度、窪田参考人にお尋ねをいたします。

 今、やはり財産法での救済というのは事実上無理を強いるものなのだ、そしてまた事後的に裁判で争うというのは異性愛者以上に大変な困難を伴うんだというお話がございました。これを今聞いていただいて、その点、どうお考えでしょう。

窪田参考人 鈴木教授の御意見、大変考えなければいけない点が多い、非常に大切な御指摘をいただいたものだと思っております。

 ただ、言葉を返すわけではないんですが、特別寄与の制度を使ったとしても、恐らく、全部プライバシーを明らかにしていかないとこの制度を利用することができないという問題はやはり残るんだろうと思います。

 現在の寄与分の仕組みにおいても、介護について、何月何日にどういうふうにやって、何時間介護してとかということを全部出して初めて一定の特別寄与分が認められるというような形になっていますので、この特別寄与に関しても、一定の関係があったら当然に一定額が認められるとか一定割合が認められるということには恐らくならないだろうと思います。

 その意味では、いただいた問題というのは非常に重要な問題であると思うんですが、本来、この特別寄与で扱う問題というよりは、やはり親族法の問題としてきちんと考えていかなければいけない問題なのではないかなというふうに私自身は思っております。

山尾委員 あと五分になりました。

 私自身は、異性愛者であれば、一定の親密な関係があるということは、何か微に入り細に入り主張しなくても、これは認められるわけですよね。でも、同性愛者の場合は、さまざまな社会的な括弧つきの常識の中で主張して繰り広げていかなければいけないという、より困難が伴うということがあるんだと思います。

 もう一つ、私、鈴木参考人に、今の窪田参考人の御意見に対してまた御意見があればあわせてと思いますけれども、一つ、論文を読んで、ちょっとこの場でもお話しいただきたい点がございます。

 よく、こういったLGBTの話になると、しっかりと政府は実態を把握すべきという話になります。一定の把握の必要性は理解しますけれども、私自身は、やはり、性というものにはグラデーションがあること、そして人間のプライバシーの最たるものであること、そして割合が多いからといって保障を強くすべきだという関係には立たないんだということですね。少数者であるからこそ、私たち社会みんなで保障していかなければいけない。そうすると、実態把握の必要性と、そしてまたその限界というところに私たち立法府も敏感になるべきだということを思うので、その点も含めてお話をいただければと思います。

鈴木参考人 お答え申し上げます。

 全く同感でございます。どのぐらいの割合で国民の中に性的マイノリティーと呼ばれる方々の層がいるのかということについては、御案内のとおり、さまざまな調査が行われているところです。行政が施策を展開したり、あるいは法律を制定したりする際のエビデンスとして、どのぐらいの人口がいるのかということを示せということをよく言われるわけですね。

 私、最近一番注目している調査は、三重県の高校生一万人、四十九校、県立高校全部に対して行った調査がございます。昨年の暮れに行った調査ですが、高校でやっていますので、当然、回答率が非常に高い。九〇%のうちの回答で、広い意味での性的マイノリティーが一〇%、ちょうど一〇%です。その中の半分は、よくわからないとか、このうちの選択肢にはないとか、決められないとか、そういう回答をしている人が五%いるんですね。

 高校二年生が対象ですので、思春期だということで、まだ性が揺れているということがあろうかと思いますが、そもそも性指向や性自認というものは非常に複雑で、揺れを伴うものです。

 先日、勝間和代さんという経済評論家の方が女性のパートナーと暮らされているということを公表されましたけれども、彼女は二度異性の方と結婚をされ、三人の子供さんがおられる。そういう方が、もう五十になろうかというときに女性のパートナーと暮らされる。これはまさにセクシュアリティーの揺れというのをあらわしているわけでして、そういうものを数字でかちっとつかまえてこようということ自体、私は間違っているというふうに思います。

 ですから、三重県の高校の調査で一〇%ということですので、その数字で我慢すべきだろう。調査は非常に微妙です。選択肢のつくり方によって数字はいかようにでも変わる。ある意味、数字は調達できるという、調査によってですね、そういう性質のものでございます。

 三重県の調査は非常に丁寧に選択肢をつくっていまして、わからないとか、この中にはないとか、曖昧な選択肢がたくさんございます。その結果、そういう数字を獲得できておりまして、私は当面の日本の一つの縮図をあらわしているのではないかというふうに思っていますので、そういうことで、立法府におきましても政策を進めていただければというふうに思います。

 確かに、数が多いからどうとか少ないからどうとかいう問題ではございません。存在するということは確かですから、それを認めて政策を前に進めていただきたいというふうに思っております。

 どうもありがとうございます。

山尾委員 ありがとうございました。

 そのとおりだと思います。存在するということを私たちが共有すれば、それ以上でもそれ以下でもないということだと思います。

 最後に、済みません、一問だけ吉田参考人にお伺いをします。

 核心になると思うんですけれども、やはりこの特別寄与分制度、実質的公平の実現から、事実婚や同性婚パートナー、法律婚になれないことについて帰責性のない人々を排除すべきでないという立場に私は立っているのですけれども、改めて吉田参考人の御意見を伺います。

吉田参考人 お答え申し上げます。

 私も基本的に同じ立場でございます。

 ただ、その上で、先ほど窪田参考人もおっしゃったことですけれども、相続法を使ってやるのか、それとも別の法で、つまり相続代替制度でやるのかという問題は論点として残ると思うんですね。

 私は、鈴木参考人がおっしゃったことはそのとおりだと思うんですけれども、私が考えているのはやはり不当利得法理で、ただ、現在の不当利得法理ですぐにいけるかどうかは非常に難しい。そこで、特別法なりを立法化することによって、より実効的にそのような方の動きを考慮する、そういうのが多分一番望ましいのではないかと思っております。

 以上です。

山尾委員 ありがとうございました。しっかり参考にします。

平口委員長 次に、柚木道義君。

柚木委員 国民民主党の柚木道義でございます。

 参考人の皆様、きょうは本当にありがとうございます。

 私も、この相続制度のあり方というのは、亡くなる方はもとより、相続をされる立場になり得る方々にとって、死にざま、生きざまそのものだというふうにも思いますし、まさに、社会全体の、それぞれの社会の時代の価値観も反映されるということで、非常に、直面してみて、その重要性を再認識する部分もあろうかと思いますが、だからこそ、その備えとしての制度の議論というのは非常に重要だと思っておりまして、ちょっと順番、逆からで恐縮ですが、吉田参考人にまず幾つかお伺いをさせていただきたいと思っています。

 家族法の専門家でいらっしゃるわけでございますが、民法八百七十七条第一項で、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」と規定がございますが、この規定のために、例えば我が国では、障害を抱えたお子さん、あるいはなかなか自立が難しいお子さんを持った場合に、これという相続財産がない御家庭であった場合に、自活がなかなか難しいお子さんを養う義務を、自分たちが亡くなった後に、親御さん、その子の兄弟姉妹が負うことになるということなんだと思うわけですが、これは、障害をお持ちの方など誰もが親やあるいは兄弟姉妹に頼らずに自立して生きていけるようになれば、このようなことで悩むことが少なくとも軽減をされていくというふうに思うわけでございますが、残念ながら現実はそうでない面がございます。

 吉田参考人に、この民法八百七十七条の直系血族、兄弟姉妹の扶養義務についての御見解をお述べいただければと思います。

吉田参考人 お答え申し上げます。

 障害を持った方を含めて、そのようないわば弱者に対して支援をしていく、これはまさに私どもというか社会の責務だろうとまず思っています。そのことは申し上げたいと思うんですけれども、ただ問題は、社会的責務という場合に、公的なアクターと私的アクターがいるわけで、そのいずれかといいますか、どのように責務を果たしていくのか、これが基本的な問題だと思います。

 もちろん、これは、いずれかというわけではなくて、いずれも、それはバランスの問題だと思いますけれども、日本の現状につきましては、やはり私的セクターへの責務といいますか義務づけが強過ぎるのではないか、そういうふうに思っております。ですから、公的アクター、生活保護も含めて、もう少し、もちろん財政問題とかあることは承知の上でございますけれども、役割を果たした方がよろしいのではないか、そういうふうに考える次第でございます。

 もちろん、そのようにした場合も、私的セクター、家族が中心ですけれども、精神的な支援や日常生活の支援を含めて幾らでもやるべきことはあるわけで、適切なバランスがそのようにして確保されるのではないかと思っております。

 それを申し上げる上で、今度は、現在の民法では直系血族とそれから兄弟姉妹、これが並んで扶養義務者として出てくるわけでございますけれども、これが適切なのかどうかという問題があろうかと思います。

 これは明治民法の時代からずっとあるわけですけれども、そのころの時代に兄弟姉妹が持っている意味と、現代において兄弟姉妹が持っている意味とは随分やはり違うと思うんですね。ですから、直系血族と同列に兄弟姉妹を位置づけるという考え方についてはやはり再検討の余地はあるのではないか、そのように思っている次第でございます。

 以上です。

柚木委員 ありがとうございます。今後の議論の示唆を与えていただいたと思っております。

 続いて吉田参考人に伺いたいのが、もう御承知のように、例えば欧米などでは教会や慈善団体に遺産相続の際に寄附をするいわゆる遺贈が一定割合ございますが、なかなか、日本でもこういう状況が進んでいけばという思いがあるわけです。そうすることで、例えば、先ほど公私という話がありましたが、まさにNPOなどの第三の公の活動などもより活発化し、そういう意味では、我々のいろいろな意味での選択肢、生活の豊かさ等にもつながっていくと考えるわけでございます。

 障害のある方が亡くなった場合に相続人がいない場合の、特別縁故者としてのその障害者の入居していた障害者支援施設、こういった施設を経営する社会福祉法人を認めた、これは名古屋高裁金沢支部平成二十八年十一月二十八日判決などの判例がございますが、特別縁故者としてではなくて、遺贈などの形で、社福法人に限らず公的な組織や自治体などに寄附をふやす仕組みを考えたらよいのではというふうに私は思うわけでございますが、参考人の御所見をお述べいただければと思います。

吉田参考人 お答えいたします。

 今、特別縁故者の制度について言及をしていただきました。これは、御案内のように、第一義的には内縁配偶者を想定したものだと思いますけれども、しかし、その他、被相続人と特別の縁故があった者についても特別縁故者と扱うことは可能ですので、社会福祉法人なども当然特別縁故者とされることはありますし、事実、裁判例でもそのような裁判例は出ております。

 遺贈による寄附、これはもちろん可能でございまして、だから、法制度的には可能だということを前提にして、どのようにもう少し促進したらいいのかということだろうと思いますけれども、なかなかそこは難しい問題があろうかと思います。

 一つには、ちょっと言葉はあれですが、啓蒙活動というか、やはりそういう制度があるので、使いたいと思えば使う。ただ、その中で、例えば、社会福祉法人に遺贈してください、こういう形の啓蒙活動はちょっと難しいと思いますけれども。要するに、自分の財産については自分の意思に基づいてきちっと処分できる、そういう制度もあるんだよということは伝えていく必要があろうかと思います。

 もう一つは、遺言の利用の促進ということだろうと思います。

 これは、この間指摘があったわけでありますけれども、既に、自筆証書の方式緩和ですとか、それから自筆証書遺言の法務局保管制度など、一定の方策が講じられていますし、そのような制度的な手当てを更に進めるということではないかと思います。

 以上でございます。

柚木委員 ありがとうございます。

 それでは、鈴木参考人に伺います。

 委員のそれぞれの御意見をお聞きしていて、私も、先ほどの公明党の國重委員さんの認識と自分自身近いなと思いながらちょっとお聞きしておったんですが、鈴木参考人は月刊自治研のことしの六月号でLGBTのパートナーシップについての論文もお書きになられたと思いますが、今回改正で法律婚による婚姻二十年以上の配偶者の配偶者居住権が定められましたが、この改正で見送られているのがLGBTのパートナーをこの配偶者に位置づけることでございまして、そのお考えをお伺いしたいのと、あわせて、ちょっと時間の関係があって伺いたいのが、内縁関係、事実婚など法律婚でないケースについての、これは先ほどの冒頭の所見でもお述べいただけたとは思うんですが、鈴木参考人のお考えを伺えればと思います。

鈴木参考人 お答え申し上げます。

 まず、同性パートナーにも配偶者居住権というのは、私は実質的にはその保護の必要があるだろうというふうに思います。

 長い間一緒に生活をともにし、一方の方が先に亡くなられたときに継続して住みなれたところに住み続けるということは必要性があるだろうと思います。しかし、今回の改正では、配偶者居住権という位置づけですので、残念ながら、法律婚が認められていない同性パートナーには与えられないということになります。ですから、これはやはり将来的には婚姻を認める方向で法改正を進めるべきだろうというふうに思っています。

 それから、まだ法律婚がない段階において、配偶者居住権ではない、つまり、事実上の生活をともにしてきたパートナーに対する居住権の付与ということはあり得ることだろうと思います。

 今回の改正ではそれは難しいかもしれませんが、将来的には、この配偶者居住権を拡大して、配偶者でない者についても居住を認めるという制度への変更は大いにあり得るのではないかというふうに思っております。

 しかし、時間としましては、やはり先に同性婚の実現をしていただきたいというふうに思っております。これは、婚姻には、御案内のとおり、さまざまな権利や利益がぶら下がってございます。したがいまして、婚姻を認めないということによっていろいろなところで損をしているわけでして、中には命にもかかわるようなことが発生しております。

 とりわけ外国におきましては同性婚を認める国が広がっている中で、外国で外国のパートナーと日本人が婚姻をして日本に帰ってくるという例がたくさん生まれてきております。そうした外国人パートナーに対する在留資格の問題というのが実は非常に喫緊の問題として迫ってきています。

 日本は、グローバリゼーションの中で、人の移動はどんどん盛んになっております。そうした有為な人材を日本につなぎとめておくためにも、これは政治の力で解決をしていただく必要が非常に急務だろうというふうに私は思っております。

柚木委員 大変参考になる御所見、ありがとうございます。

 限られた時間で、あと窪田参考人にちょっと二問まとめてお伺いできればと思っておりまして、一つは、被相続人の預金については全てが相続財産になるという考え方が今回法改正の根底にあると思うんですが、生命保険の扱い、これが実務ではわかりにくいという面があると承知をしておりまして、これは、お亡くなりになった被相続人がみずからを被保険者とした生命保険を掛けていた場合に、その生命保険の保険金が相続財産になるのかどうかについての御所見をお述べいただきたいのと、もう一点は、これも関係すると思うんですが、最高裁平成二十八年十二月十九日判決において、被相続人の預貯金債権は全て相続財産とするとしたと。ただ、今回の民法改正では、この判例を受けて、標準的な当面の必要生計額、平均的な葬儀の費用などを単独で相続財産の預貯金から引き出せるという規定になっております。

 東京地裁平成二十六年七月八日判決においては、日本人夫妻が、これはアメリカのハワイ州で開設したジョイントアカウント預金が夫の死亡による相続財産に該当しないとされましたが、今回の法改正にもかかわらず、法律の適用に関する、これは通則法第七、第八条によって、夫婦がアメリカで預金口座を開いた場合、相続のときにその預金をどう位置づけるかはアメリカのその州の法によるという判断になるのかどうなのか。これは御専門であると思われまして、御所見をいただければと思います。

窪田参考人 専門であるということで御質問いただきましたが、最初の問題は恐らく保険法にかかわる問題で、次の問題は国際私法にかかわる問題だったというふうに認識しておりますので、誤ったことを答えてしまうかもしれませんが、まず最初の御質問、生命保険に関しては、基本的には相続財産ではないというのが一般的な理解であると思います。

 これは、被相続人を受取人とする場合であったとしても、あくまで保険金の受取人が相続分に応じて取得するというだけで、相続によって承継する財産ではないというふうに理解しております。生命保険契約の対価であると。

 その上で、もちろん、特別受益の計算において、生命保険金が特別受益になるのか、あるいは掛金が特別受益になるのか、あるいは解約返戻金が特別受益になるのかといった議論はあったというふうに承知しておりますが、いずれにしても相続財産というわけではないだろうと思います。

 それから、外国における預金に関してなんですが、第二問に関して言うと、まず最初に確認しておきたいのは、先ほど指摘された平成二十八年の最高裁判決ですが、最高裁判決は、あの判決で初めて預金も相続財産になるというふうに言ったわけではなくて、今までは遺産分割の対象となる遺産とはならないというふうに言っていたのが、遺産分割の対象となると言っただけだというふうに理解しております。そういう意味では、相続財産であるかどうかということについて、あの判決によって変わったわけではないというふうに理解しております。

 その上で、相続に関しての準拠法が日本法であるとすれば誰が相続するかということはそこで決まるわけですが、実際に外国にある銀行口座の預金ということになりますと、それについてどういう扱いをするかということは、その国の法律を準拠法とするということは十分に考えられますし、あるいは、預金契約の中で準拠法についての合意をしておけばそれによって決まるということなのではないかと思います。

 いずれの答えも余り自信がございませんが、一応そういうふうにお答えさせていただきます。

柚木委員 それぞれから大変御示唆に富む御意見を賜りまして、ありがとうございました。

 以上で終わります。

平口委員長 次に、黒岩宇洋君。

黒岩委員 無所属の会の黒岩宇洋でございます。

 きょうは、三人の参考人の先生方から大変貴重な意見を陳述いただきました。また、質疑においても大変価値あるお話をいただきましたことを感謝を申し上げます。

 そもそも論も含めてお三方の先生にお聞きしたいと思うんですが、まずは、法制審の委員として取りまとめをされた窪田参考人にお聞きします。

 今回のこの改正、施行期日に違いがある。いわゆる第一弾として一年以内の施行期日、これは新九章、新十章になるわけですけれども、この特別寄与料、特別寄与制度についてが一年以内。新八章になる配偶者居住権についてが第二弾として二年以内。この時間軸の違いが設定されたのはいかなる理由なのか、まず、このそもそも論を教えていただけますでしょうか。

窪田参考人 施行期日に関しては、法制審の中では特に扱っていませんので、私自身はどういう経緯で決まったのかということについて特に承知はしておりません。

 ただ、一般論として考えた場合に、比較的、新たな制度の周知とかということを要せずにその仕組みを適用することができるというタイプのものと、配偶者居住権のようなものに関して言いますと、こういうことがオプションとしてあるんだということを十分に周知した上で、そして、遺産分割の段階で決まるというのもありますが、多くの場合、あそこで想定しているのは遺言の中で記載されるというタイプのものなんだろうと思います。そうなりますと、そうした周知期間を経てそれが利用されるということを考えて、二つの段階に分けられたのではないかというふうに推測はしておりますが、正しい認識かどうかはわかりません。

黒岩委員 確かに、実際に、この施行期日、こういったことについて定めたのは、法務省でいうと民事局になるわけですけれども、民事局の説明ですと、今参考人のおっしゃった周知期間という、大枠ではそういうことだと私も聞いております。

 特に配偶者居住権については、その価値評価に一定以上の時間がかかる、さらに、配偶者居住権と税金の関係、この整理にも時間がかかる、こういう理解を私はしておるんですけれども、やはり現実的にも、民法の専門家としても、実務上において、施行期日、第二弾については一年以上、二年ぐらいかかる、改めて、こういう理解でよろしいんでしょうか。

窪田参考人 施行期日について十分理解していなかったということで、むしろ、今御説明をいただいて、ああということで、納得できた部分もあるんですが。

 今御指摘のありました評価方法については、先ほど詳しく触れることはできなかったんですが、法制審議会の議論の中でも、どういうふうに評価するのかということがかなり問題になっておりました。

 単純に、これを非常に高い賃料相当額か何かで計算すると、もう配偶者居住権というのは余り意味がなくなってしまう、どこかで家を借りればいいわけですから。そうではない金額でどうやって導くのかということに関して、幾つかの方法があるということではございましたけれども、それについてまだ十分に詰められていない。これは、配偶者居住権という制度をつくったとしても、そこの部分を詰めないと、恐らく、特に税制の関係とかでも問題が生じるんだろうというふうに思っています。

 もちろん、遺産分割協議の中で配偶者居住権を決めるという場合であれば、それを幾ら相当で考えようかということは当事者が決めればいいんだろうと思いますが、恐らくその場合も税制上の問題というのが出てくると思いますので、一定の準備期間が必要だということは一応理解ができるのではないかと思っております。

黒岩委員 私も、これをお聞きしたのは、若干私も違和感がありまして、三十八年ぶりの大改正ということで、これについてはすごく入念に時間をかけて部会でも審議された、そのように承知をしております。

 であるならば、これだけ高齢化も進んでいく、そして家族の多様化も進んでいるという時点で、喫緊の課題というならば、ここもしっかり詰めていただいて、評価に時間がかかるとか、税金との関係についての整理とか、こういったことも、私は、もう少し詰めた形で、本当にこれが必要な改正であるならば、速やかに公布後施行できるような、そんな体制であるべきかなという、これは私の意見でございますけれども、今先生ともお話をして、これは実務的に事務方がまたしっかり詰めていくことだというので、この後の委員会質疑でも、この点については当局の方に私の方からもお尋ねしようかと思っております。

 それでは、今のやりとりの中で、幾つか私もなかなか不明なところもありましたので、確認ですけれども、吉田先生にお伺いしたいと思います。

 先ほど質疑の中で先生はこうおっしゃられていました。法律婚と事実婚は法的に区別がある、よって、その効果において違いがあるということは、区別があるということは理解されると。ただ、そこに先生がおっしゃられたのは、法律婚に特権を与えるべきではないとあわせておっしゃいました。

 私、聞きながら、ちょっと合点がいかなかったのは、特権を与えるべきでないということは、すなわち区別がないということに私は理解するんですけれども、先生の御意見としては、特権を与えるべきでないならば、私は、効果においても本来なら区別がないべきである、そのような理解をしたんですけれども、この理解でよろしいんでしょうか。

吉田参考人 お答え申し上げます。

 大変貴重な御指摘ありがとうございます。私、特権というふうに申し上げたわけでございますけれども、一般的な区別自体は不可避というか、全く同じにはならないと私は思います。ですから、現在も、内縁関係と法律婚が全く同じに扱われるかというと、それはそうではなくて、かなりの部分については婚姻の規定が準用されますけれども、内縁について適用されない規定もある、相続権などがその一つですけれども。

 それから、法律婚の場合には、当事者が選択するという要素がございます。当事者というのはパートナーです。ということで、パートナー間では、こちらの制度を選ぶ、あるいはこちらの制度を選ぶということで、複数の選択肢の対象が存在してよろしいと思います。

 ですから、法律婚であれ事実婚であれ、あるいはそこにいかないパートナーシップ関係であれ、複数の制度にそれぞれの法的な保護が認められてよろしい。

 ただし、それに対して、法律婚の場合に、やはり子供の問題があると思うんですね。子供については、基本的には、子供は自分で身分を選べるわけではありませんので、区別を設けるべきではない。典型的には、相続の差別問題は大法廷決定で解決がついたわけでございますけれども、同様な配慮はほかの問題にもあるだろう。

 その点で、根拠のない区別を設けている場合に、それは特権として否定されるべきではないか、そういうことでございます。

 以上です。

黒岩委員 ありがとうございます。

 根拠のない区別というものは特権であるから認めるべきではないと。後で議事録をしっかり私も拝読しながら、私としても深く理解をまた進めて質疑に当たろうと思います。これは大変微妙なニュアンスだと思うんですけれども。

 私、鈴木参考人にもお聞きしたいんです。

 そもそも、今回の相続改正の背景、三十八年ぶりだ。非常にいろんな、まさに社会的にも時間軸においても多様な状況の中で、ようやく三十八年ぶりに改正に踏み切る。その背景について、急速な高齢化社会の進展、これは非常にわかりやすいと思います。三十八年間、時間軸においても超高齢社会が進んできました。また、空間的に、これはわかりやすく言えば都市部と地方部においても、これも同じく急速な高齢化が、都市部の方はおくれてですけれども、今なお進んでいる。そこにおいて、これに対応していく法改正をしていく。非常に私もすとんと落ちるところです。

 ただ、先生のおっしゃる、この背景の三番目なんですけれども、レジュメの一ページ目ですね、家族のあり方に関する国民意識の著しい変化と。これは国民意識という表現になっていますけれども、これこそ、私も三十八年間、多少なりともその時間を生きてきた人間として、また特に私は地方部の人間でありますので、そういった郡部で、なおかつ、現在も、こういった多様な家族のあり方についての国民意識というのは、都市部と同じような状況で多様性を認めていくというような変化がしっかりとある、そのように認識をされていらっしゃるのかどうか。この点についてお聞かせいただけますでしょうか。

鈴木参考人 お答え申し上げます。

 国民意識の変化につきましては、法制審議会の改正の背景の文書の中に出てくる表現でございます。私は、そうした認識、私も同感でありますけれども、都市部と郡部において多様化の進展のテンポについては違いがあるということはあるだろうと思います。しかし、いずれにしましても、郡部におきましても早晩そうした変化が及んでいくだろうというふうに考えています。

 先ほどちょっと御紹介いたしました、今、二十七の自治体でパートナーシップ制をつくっていただくための同時請願をやっておりますが、実は先日、一番最初に採択されたのが埼玉県の毛呂山町というところでございます。町で初めて採択をされております。これは制度化につながるかどうかまだわかりませんけれども、郡部だからといって当事者がいないということではございません。

 ですから、郡部で、過疎化が進んでいるような町で、マイノリティーにも住みよい町をつくっていくという戦略のもとで、あえてそういうことをやっていくというのは、私はむしろあり得るのではないかというふうに思っています。

 これは、まさに政治の力で、地域の活性化なり、魅力をアップさせるための方策として、家族の多様化を推し進める、そういう立場に立たれるというのが過疎地についてはむしろいいのではないか。

 私自身、札幌でその運動をしたときにも、札幌市にもそういうことを申し上げました。北海道も人口が減りつつありますので、札幌の魅力の一つとして、目玉商品としてあり得るのではないかという話をさせていただきましたが、そういうふうに考えてございます。

黒岩委員 ありがとうございます。私も全く同感であります。

 ただ、私も懸念するのは、当然、先生のおっしゃるように、郡部、地方部においてもマイノリティーの方は存在するわけです。ただ、そこはなかなか露見しづらい。もっと言えば、言いづらいという社会環境が、今のこの二十一世紀においても私は根強くあると思っている。それを政治の力で多様化を、意識を高めていくというか、深めていくというか、これも重要なことだと思っています。

 今の埼玉県の町の話というのは、私も大変ありがたい御指摘だったと思います。というのも、先生の札幌市とか、大阪だとか渋谷区だとか、都市部でこの話がすごく先行している。これは、時間軸においても空間軸においても理解するんですけれども、今申し上げたように、空間軸においては、ともすると、時代的に言うと、何十年、時間がまた現在においてもずれている、そういった地域は正直言ってありますので。

 これについても、私は、国民意識という、確かに、日本というのは国民として非常に均質化した国であるという認識もありますので。ただ、そうはいいながら、都市部と地方部では意識の違いがいまだに歴然とある。これをあわせて国民意識と呼んでいけるのかどうか。これは、これからの法案質疑にもかかっていると思いますし、今先生のおっしゃるように、政治の場で、この三十八年ぶりの改正については、推し進めるのであれば、よい点は推し進めていく、ただ、消極的に評価すべきところは、私たちもきつく評価を下さざるを得ない。

 この点を改めて私も認識いたしまして、きょうの参考人質疑を終わらせていただきます。

 大変ありがとうございました。

平口委員長 次に、藤野保史君。

藤野委員 日本共産党の藤野保史です。

 きょうは、三人の参考人の皆様、本当にありがとうございます。

 それでは、早速質問させていただきます。

 まず、窪田参考人にお伺いしたいんですが、先ほど、今回の法改正が戦後最も包括的である、幅広い改正だという御指摘をいただきましたが、その上でなんですけれども、今後、この相続に関する課題はあるのかないのか、あるとすれば、どういう点かについて御意見をいただければと思います。

窪田参考人 お答えさせていただきます。

 今後の課題として残る部分ということになりますが、恐らく、具体的には、先ほどもありました特別寄与の問題等を含めまして、これは自分自身の、個人の考え方が中心になってしまうのかもしれませんが、やはりもう少し清算等について合理的な仕組みというのをつくっていけないのかということが一般論としてはあります。

 それともかかわりますが、今回、検討の途中までで残っていて、しかし最終的には見送られたという問題もあります。それは、具体的には、相続分に関しての一定の計算方法の見直しであるとか、あるいは、既存の寄与分制度、これについてもう少し見直しができないかということが見送りになりました。

 これは、改正が見送りになったというのは、改正の必要性がないということよりは、合理的にみんなが共有できる着地点が見つからなかったということだろうと思いますので、その点では、今後の課題としてやはりまだ残っている部分なのではないかというふうに認識しております。

 その他、細かいことを挙げますと、多分、規定の相互の関係が不明確であるとか、そうした問題というのはなお非常にたくさん残っているというふうに認識しております。

藤野委員 次に、鈴木参考人にお伺いしたいんですが、いただいた資料では台湾の判決のことも御紹介いただいておりますが、この間の世界の流れとして、やはりこうした同性婚、あるいは多様な性のあり方というのを法制度でも認めていこうという流れがあると思うんですが、そうした世界の流れと、あと、今回のその台湾の判決がアジアで初めてということで、これが日本に与えるインプリケーションといいますか、示唆といいますか、そういった点について教えていただければと思います。

鈴木参考人 お答え申し上げます。

 これまで、明治維新以来、日本はアジアにおける近代化のトップを走ってきたわけです。これは法制度についても同様でございます。台湾の制度も、もともとは中国で、清末に日本人の助けのもとで法継受がなされてきたものをベースにしております。それから、台湾は五十年間日本の植民地統治を受けておりますので、台湾の方々は日本法の生活を五十年経験されている。

 そういうところで、今回、日本よりも先に同性婚の実現がなされようとしているということは、日本に対しては非常に大きなショックだろうと思います。つまり、明治以来の順番が狂ってしまったわけですね。ですから、日本としてはもっと焦ってもいいのではないかというふうに思います。いつまでも日本がアジアの盟主ではありませんけれども、そうした地位が具体的に揺るがされようとしているということの一つの象徴ではないかというふうに思います。

 どんどん外国の方が日本に入ってきております。何人かの在外公館の大使や公使といった方々も、同性パートナーを連れて日本に赴任をしております。そうした中で、日本法がいつまでも同性パートナーについての法律関係を認めないというのは、国際社会ではもう通用しなくなっていくだろうというふうに思いますので、早急な法的な再検討がなされることを私は期待をしております。

藤野委員 重ねて鈴木参考人にお聞きしたいんですが、事前にいただいた資料の中で、憲法二十四条二項との関係で、やはり同性カップルも法で認めるべきではないかという御指摘もいただいていると思うんです。

 憲法二十四条二項というのは、規定ではこうなっております。「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」こうなっておりまして、世界でも、ここまで詳しく家族に関する、個別に並べて明記して、個人の尊厳ということを書いている憲法というのはあるのかなというふうに思うんですが、この憲法との関係で民法あるいは親族法のあるべき姿というのをどのようにお考えでしょうか。

鈴木参考人 お答えいたします。

 私、先ほど、二十四条一項との関係で、法律によって同性婚を認めることは憲法が障害になるものではないというふうに申し上げましたが、二項とあわせて読むならば、むしろ、立法府に対して憲法は、同性婚を認めるべく法を制定する方が、二項との整合性からいいますとより好ましいと私は考えています。

 それは、委員がただいま読まれました個人の尊厳というところでございます。配偶者の選択は個人の尊厳に合うように法律をつくりなさいというふうに憲法は立法者に命じているわけであります。憲法という法は権力を縛るためのものでございます。つまり、立法権も憲法によって縛られているわけで、家族法については二十四条二項に沿った形で法律をつくることが立法府に求められているわけです。

 現在、同性愛者は配偶者を選択する権利を奪われております。そのことは著しく尊厳を傷つけていると私は思います。したがって、二十四条二項との関係で、同性婚を認めない現行法は重大な問題を生じているとむしろ思っておりまして、二十四条の趣旨を生かすならば、一日も早く同性婚を認めるための民法改正を行うべきだというふうに思います。

藤野委員 次に、吉田参考人にお伺いしたいんです。

 比較法的視角からの課題の把握ということで、大変参考になったんですが、これは全部もっとしっかり聞きたいんですけれども、かなり純粋な包括承継主義だという純粋という意味、あるいは、流出の可能性、包括承継される財産が遺産から流出していく可能性、そしてインフラストラクチャーの不十分性、それぞれ、もう少し詳しくお話しいただければと思うんですが。

吉田参考人 お答え申し上げます。

 レジュメの二ページで、今御指摘をいただきました比較法的視角からの課題の把握ということを三点でまとめております。もう少し説明せよという大変ありがたい御質問でございます。

 最初の、純粋の包括承継主義、これは、包括承継主義自体は割と常識的な理解で、要するに、被相続人に帰属する全ての債権、債務、財産が包括的に相続人に承継される、こういう意味でございます。それが、コモンローの国の、人格代表者という存在がまず債務を整理して、残ったネットの積極財産を分ける、これと対極的な仕組みである、こういうことでございます。

 ただ、私がきょう強調しましたことは、包括承継主義といっても、ドイツ、フランスもそうなんですが、日本と、ドイツ、フランスが、現在、運用の線でかなり違ってきているのではないかということでございまして、これはレジュメに書きましたけれども、ドイツやフランスでは専門家が、その存在がとても大きいと思いますが、関与して、かなりの程度、その債務まで処理をした上で遺産分割に入っていく、こういうことになっているようです。それに対して日本は、いわば、先ほど申し上げた理念型的な包括承継がそのまま残っているというようなことで、比較法的にはちょっと特殊な構造に結果的になっているのではないかということでございます。

 それで、二番目に指摘しましたのが、その包括承継主義を前提にした上でも、遺産から流出していく財産が多くて、遺産分割の持つ意味が小さくなっているということですね。

 これも、ちょっと時間の関係もあります、余り詳しくは申し上げることができないと思いますけれども、先ほどの意見陳述では1について御説明しましたけれども、2をごく簡単に申し上げますと、例えば日本の相続法は、母法はフランス法だと言われています。ただ、遺留分の考え方あるいは特別受益の持ち戻しの考え方、これは大きく違います。

 簡単に言えば、フランスでは、遺留分もそうですし持ち戻しもそうなんですけれども、遺産に一回返す。遺産を再構成して、その再構成された遺産を法定相続人で分ける。だから、日本のように、具体的相続分という考え方はないんですね。これが日本の相続法のかなり構造的な問題となっているのではないか、これが私の理解でございます。

 それから、三番目のインフラストラクチャー、これは非常に大きな問題だと思うんですけれども、繰り返し申し上げますが、相続を専門家の関与なしに素人が処理するのは非常に難しい話であります。

 これはやはり、ほかの西欧諸国では体制がかなり整っていまして、特にフランスでは公証人が非常に大きな役割を果たしております。ほとんど全ての相続に公証人が絡んで、きちっと、特別受益的なものの持ち戻しから始まって、税金の申告、それから、日本で言う相続登記の処理、遺産分割処理、これまで、公証人が非常に大きな役割を果たしているということでございます。

 日本もこのようになればいいなと思っていますけれども、ただ、残念なことに、日本の公証人はフランスに比べて量的にも圧倒的に少ない。フランスの場合には一万一千人いますけれども、日本の場合には五百人いない。フランスと同じような役割を果たすのは難しい。それでは、司法書士の先生方とか弁護士の先生方はどうか。これは、利益相反の問題がありましてなかなかうまくいかない。このあたりは、今後、真剣に議論して対策を講じていく必要があるのではないか、このように考えている次第でございます。

 以上です。

藤野委員 もう一問、吉田参考人にお聞きしたいんですが、先ほど御発言の中で、現行の寄与制度ができたときに、いわゆる相続法の論理と財産法の論理で議論もあった、相続法に引きずられたという御指摘がありましたが、どういうことか、ちょっと当時の議論を含めまして御紹介いただければと思うんですが。

吉田参考人 お答え申し上げます。

 当時、財産権的なロジックというのは、非常に簡単に言えば、寄与分が問題となるケースというのは、特にあのころは農家が大きな問題でしたけれども、農家の後継ぎがいわば無償労働を長年やっている、相続が開始したときにそれが何も考慮されないのはおかしい。これはそのとおりなんですけれども、その考慮する際のロジックとして、一つは、無償労働をやっているんだから、それを事後的に計算をして幾ら幾らの未払い分があると。一つの不当利得的な考えだと思いますけれども、そういうことを計算した上で相続財産から支払っていく。これが一つの例、一つの考え方で、財産権的な論理ということになります。

 もう一つは、そうではなくて、要するに、寄与をしたにかかわらず同じというのはやはり相続人間の実質的な公平に反する、だから、その実質的な公平を、是正するために相続手続の枠内で調整をする。これが相続的な論理ということになります。

 いろいろ議論があったんですけれども、結局、後者のロジックがまさりまして、となると、論理必然的に、相続人でなければ寄与分の受益者にはなれない、こういうことでございます。

 今回は、また同じような議論が再燃したわけでございますけれども、結局、後者的にです。ただ、後者的と申し上げますのは、こうした相続的ですが、これは相続人以外の者の寄与を問題にするわけですから、完全に相続法のロジックでは処理できないわけですね。しかしながら、全体としてやはり相続の手続の枠を外れない形で処理しようということで、制度的に位置づけるのが難しい制度になってしまったのではないかと私は思っております。

 以上です。

藤野委員 最後にお三人にお聞きしたいんですけれども、今やはり少子高齢化が問題になっているという指摘もありました。しかし、実際、介護をやって、医療費控除を申し込みたいけれども、それは親族でないと受けられないとか、あるいは成年後見制度も親族でないと申立てできないとか、医療同意も時々、厳格に親族でないといけないとか、要するに民法に基づいていろいろなことが組み立てられている。

 それに実際のデメリットを経済的にも精神的にも受けてしまうということがありますので、やはり今、日本が抱えている少子高齢化、シングルマザーが寡婦控除を受けられないとか今言った介護の問題等を含めて、この日本が今抱えている問題との関係でも、民法がやはり事実婚に向けて踏み出していくことが必要ではないかというふうに思うんですが、最後、その点についてお願いいたします。

窪田参考人 今御指摘をいただいたような問題を我が国が抱えているということは確かだろうと思います。また、そうした問題を民法の枠組みの中で、家族という枠組みの中で対応するということが困難になっているということもあるのではないかと思います。

 あと、非常に大きな規模の家族というのを前提として、相互に助け合うということができた時代と異なって、それぞれ規模も小さくなり、そしてみんなが年をとっていくというところでは、そうした問題は民法のスキームで扱うということ自体が難しいのではないかと思います。

 したがって、事実婚の問題というのは非常に重要な問題ではあると思いますけれども、事実婚の問題を民法の中に取り込むことによって、今お示しになった問題が解決されるというわけではないのではないかと私自身は考えております。

鈴木参考人 お答えいたします。

 私は、基本的に委員のお考えに賛成でございます。法律婚を過度に特別化して、それ以外の関係には極力効力を認めないという方向のあり方というのは、今後はいろいろな弊害が出てくるのではないかと思っています。

 親密圏のつくり方は人それぞれであります。したがって、少なくとも民法では、そうした、民法には出てこないような多様なあり方を阻害しないような形で法を定めておかなければならないだろうというふうに思います。

 例えば、先ほど御指摘になりました病院における手術に対する同意権であるとか、あるいは医療情報に対するアクセスの問題とか、これも法律上は決まってはいないのですけれども、やはり病院としては、親族関係のある人を呼んでくださいというようなことをすぐ言ってしまうんですね。それはやはり法の影響をすごく受けております。必ずしもそれは従わなくてもよいとはいっても、いろいろな考慮をするわけですね。

 ですから、法を制定する際には、そうした多様な家族のあり方を阻害しないようにするという配慮をいただければというふうに思っております。

吉田参考人 お答えを申し上げます。

 家族の多様化に対応した法制度の整備というのは、これからの最大の課題だろうと思っています。

 その上で、民法とそれ以外の法制などのやはり相互関係という問題がありまして、全てを民法で処理できるかどうかはよくわからない点もあります。

 しかし、今、鈴木参考人がおっしゃったことだと思いますけれども、少なくとも民法が多様な家族の尊重に対して阻害的であってはいけない。その意味では、やはり法律婚の特権的な地位というのは維持すべきではないと思っております。

 その上で、先ほど申し上げました、それ以外、例えば制度的には、社会保障でも、それはそれで違う制度でやればいいと思いますし、あるいは、民法の中でも、相続法という領域で対応できる問題と、少しちょっと別の領域で対応した方がいいような問題もあると思いますので、それは、柔軟といいますか、視野を広くとって問題を考えていくことが必要ではないかと考えます。

藤野委員 どうもありがとうございました。

平口委員長 次に、串田誠一君。

串田委員 日本維新の会の串田誠一でございます。

 きょうの最後の質疑者ということになります。

 まず、お一人一問ずつお聞きしたいと思うんですが、いろいろ資料も読ませていただいているんですけれども、きょうは、先ほどのお話の中で質問させていただきたいと思います。

 まず、窪田先生にお話をお聞きしたいんですが、遺言書の保管制度、先生は、まだ不十分だというようなお話もちょっとあったかと思うんです。

 今回、原本を保管するというような制度になっているんですが、それとともに、いろいろな遺産分割の財産を、印刷したものでもよいと。今までは手書きだったんですけれども、印刷したものでもよいということであるならば、例えば電子化にして、今、クレジットカードで求められているのは署名だけのようなので、クレジットカードで、よくペンみたいなもので書くと署名になるというようなこともあるんですが、こういう電子化というようなこともこれからは考えていいんじゃないかなとは思っているんですけれども、先生の言うその不十分というのは、例えば将来的にはどんなようなことが改善されればいいかということをお話をいただければと思います。

窪田参考人 御質問ありがとうございます。

 二点、お話しさせていただきたいと思います。

 まず、今回、財産目録についてはプリントアウトしたものでもいいんだからということで、将来は全部電子化してちゃっちゃっとサインするというのはあるかもしれないというのは、ひょっとしたら五十年後はもうそうなっているのかもしれないんですが、ただ、私自身は、その意味でのハードルを下げるということに関してはやや慎重でございます。

 というのは、日ごろクレジットカードにサインするのと違って、自分の財産を、全ての財産についてその行き先を決めるというものは、もう少し深刻なものであってもいいのではないかという気もしますので、自筆という要件はなお残っても構わないのではないかと思っております。

 私自身が、最初、意見陳述の中で、将来の制度としてもう少し発展できるのではないかというふうに申し上げましたのは、現在の提案の仕組みですと、基本的には、法務局において保管はされますが、それに対して検索をかけると、ああ、こういう遺言がありますよということは答えてくれますが、検索をかけなければ伝わる仕組みにはなっていないということです。

 これが、例えば、死亡届を出すと、死亡届の出された窓口において、遺言書が法務局において保管されていますよということが届出人あるいは相続人に通知されるという仕組みになっていれば、後から聞いてみたら実は遺言があったとかということにならずに、非常に、死亡届を提出するということと有機的に連携した上で対応できるということになるのではないかと思います。

 死亡届に関して言いますと、国の法定受託事務として市区町村がやっておりますので、それ自体は、連携するということについて、法的にそれほど問題はないのではないかと思います。

 ただ、その基盤となるネットワークのシステム等々はまだ課題が残っているんだろうと思いますが、そうしたことが実現されますと、法務局に預けておけば、ちゃんと、死亡したときに相続人たちにあるいは遺族に、そういうふうな遺言書の存在も、そして内容もわかるからということで、安心して使うことができるし、より使われる頻度は高まるのではないかと一方的に考えております。

 以上です。

串田委員 大変参考になりました。

 私の知るところでは、公正証書遺言もまだ公証人役場から連絡が行っていないのかなと思いますので、両方改正されれば本当にいいのかなと思います。

 次に、鈴木先生にお話をお聞きしたいんですが、先ほどからずっと各委員から事実婚のお話があったんですけれども、事実婚の中には、通常の男女で、届出をしようと思えばできるのにしない場合と、LGBTのように、今、法律的に認められないというような場合とがあって、それを事実婚ということで一まとめにしている部分もあるかと思うんですけれども、この違いというのは先生としては感じられているのか、やはりそれも同じように扱うべきなのかということは、どうでしょうか。

鈴木参考人 お答え申し上げます。

 今の現状では、同性間の事実上の関係について、男女の関係と同じように事実婚として扱うということはほとんど行われていないだろうと思います、いまだにですね。裁判の例はまだございませんし、今闘われている例は幾つかございますけれども、まだ結論は出ておりません。

 社会的実態としては事実婚的な扱いが広がっているということはございますが、まだかなりの差がある。とりわけ、社会保障関係の法律には、事実上の配偶者を含むという規定が明文上設けられているのがございますけれども、そういうものに同性カップルを含めるという実例はまだないのではないかと思います。特に遺族年金とか、必要性の高い制度もありますけれども、それについてはまだ適用されていないのが現状だろうと思います。

 男女の婚姻の場合には夫婦同氏を強制しておりますので、そういうこともあって、法律婚を避けている、できないでおられるという方々もおられます。そういう意味では、そういう方々について言いますと、ある意味、同性カップルに似たところもありますね。

 ですから、今の法律を改正しないままの状況の中でも、解釈として、同性カップルを事実婚的な扱いをする、与えるということは、私は、もう既に今でも十分可能だろうというように思いますので、可能な部分から進めていただきたいなというように思っております。

串田委員 ありがとうございました。

 普通の男女の場合には、届出をしないというのは、何か法律的な関連を持たないことを当事者間で決めているという部分もあるかと思うので、そこがLGBTとちょっと違うのかなと。

 むしろ、LGBTについては特別に法律で保護するというようなことも考えていいのかなというのもちょっとあるのと、選択的別氏制度ができた場合には、事実婚というのは今度は法的に保護しなくていいのかなというような部分が出てくる、そういう概念もあるのかな、ちょっとそんなような、非常に勉強になりました。

 次に、吉田先生にちょっとお聞きしたいんですけれども、相続と扶養のあり方が高齢化社会でいろいろ変わってきたというお話なんですけれども、高齢化して配偶者一人になるということは、逆に言うと、子供たちも相当高齢化している。場合によっては、もう定年を迎えて、自分自身が非常に生活が大変だというようなこともあります。さらには、今、年金の年齢が上がるんじゃないかという話の中で、扶養というものが大変やりにくくなってきたというようなことも踏まえますと、相続の将来のあり方、先生としては、例えばどんなふうにお考えでしょうか。

吉田参考人 お答え申し上げます。

 どうもありがとうございます。

 私が意見陳述の中で、相続、扶養という言葉を使いましたのは、その論点のもとで、高齢者になった被相続人に対する介護がとりわけ問題となってくる、そういう文脈でこれまで議論されてきましたし、私もあの言葉では、そういう事態を一応念頭に置いて申し上げました。

 ですから、介護の提供を相続に際してきちっとやはり評価していく。現行の寄与分で一応その評価は不可能ではないんですけれども、療養看護ということで、しかも財産要件とリンクしていますので、なかなかうまくいかない場合もあったんですね。そのあたり、現行の寄与分制度についても、制度的あるいは解釈的な対応をこれからしていくことが必要だろう、そういう文脈で申し上げました。

 以上でございます。

串田委員 非常に、そういう意味で、子供たちも高齢化していく、人生百年時代ということになれば、場合によっては、配偶者一人になったときに子供が七十歳とかということも十分あり得るわけでして、そういった意味で、相続と扶養というのはこれから非常に難しい問題があるのかなと思います。

 それでは、窪田先生にまたちょっと質問させていただきたいんですが、先ほど、非常に興味深いお話、判例が整合性を欠いているという部分がありまして、その原因は何かなと、ちょっと聞きながら感じていたんです。

 判例が整合性がないということは、一つ考えられるのは、地方色。例えば都会の配偶者居住権を認める場合と地方の配偶者居住権を認める場合というのが、相続人として、要するに、核家族化が十分進んでいる都会とそうでない地方という部分の中で、相続に関連する判例というものがちょっと変わってくるというのもあり得るのかな、だから整合性がないのかな、ちょっとそんなふうに私は聞きながら感じたんですけれども、先生としては、その整合性がない原因というのは何か思い当たるところがあれば、教えていただきたいと思います。

窪田参考人 難しい御質問ですけれども、恐らく地方色ということではないだろうと思います。下級審レベルであれば、というふうにいっても、下級審でも裁判官はみんな全国を異動しておりますので。それで、最後は最高裁まで上がるということになるわけですが、恐らく、相続法に関する具体的なケースというのを一個一個丁寧に見ていくと、それぞれについては、一定の理由があってこの判断になったんだろうなと。

 ところが、相続法の恐らく全体の体系というのが余り明確ではないということもあって、そういうことに関する判例というのはいっぱいあるんだけれども、こっちの判例とこっちの判例は、その意味ではもう少しきちんとした形で、全体的な接合の中でできるのかというと、うまくいっていないという感じなのかなというふうに思っておりました。

 その意味では、個々の事件についてはそれなりに適切な解決を得たということが全体にうまくつながらないということと、恐らく、私自身は、戦後の相続法改正というのが非常に限られた時間の中でなされましたので、必ずしも、規定自体あるいは体系自体が十分に整備されていないということが、なおやはりその潜在的な問題の背景にあるのではないかというふうに思っております。

 以上でございます。

串田委員 鈴木先生にお話をお聞きしたいと思うんですが、私も、法務委員会ということもありますし、前からちょっとそういう意味で注目をしていて、LGBT、参議院の映画会で先生がお話をされたのも私は聞かせていただいたんですけれども、非常に勉強させていただきました。

 例えば借地借家法の内縁というのは、私の教わったときには、結婚式を挙げたとか、そういうような形式的なことをやっているけれども、婚姻届だけ出さない場合を内縁というんだよ、そんなような教わり方をしたんです。

 LGBTの場合には、男性同士、女性同士が一緒に暮らしているときに、部屋をシェアしているのか、友人関係なのかというのが外形的に非常にわかりづらいという部分もあるかと思うんですけれども、何らかの形で、LGBTで、要するに、法律婚と同じような扱い方をするところの何か外形的なメルクマールというものはあり得るのか。それはないから、署名か何かをしないとそれは証明できないのか。それは、先生はどうでしょうか。

鈴木参考人 お答えいたします。

 最近は、結婚式のようなことをするカップルも結構ございます。教会やそれからお寺でも、男女じゃなくてもやっていただけるところが出てきていますので、そういうパーティーをやったり、お友達や親を呼んでそういうことを行われる方もおられます。

 しかし、大多数の方は、事実上一緒に住んでいるというのがほとんどでして、そういう意味では、外形的なメルクマールというのは非常に不明確だと思います。

 その点で私が注目するのは、やはり自治体のパートナーシップ制度でして、これは、自治体に行って宣誓をし、宣誓書受領証を発行してもらい、それで、札幌や福岡の場合、カードもくれるんですね。財布なんかにいつも入れておけるようなカードがあるんですね。そういうのを発行できるようになれば、それは外に対して証明する際に非常に便利になりますので、一つのメルクマールとして機能するのではないかというふうに思います。

 もっとも、それも、それを欲しいと思うカップルが利用するというだけですので、今のところ、七つの都市で始まりましたが、日本全体で二百組ぐらいでしょうか、決して多いとは言えないわけですけれども、これもだんだんと、自己肯定感が高まって、カムアウトするということに抵抗がなくなっていけば、より多くの方がそれを使うことによって社会的な可視化も進んでいくのではないかというふうに思っております。

 以上です。

串田委員 公示力というのが一つ大事なことなのかなと思いますので、その点で、今回の法改正の中で短期居住権は認めていいんじゃないかな、同居という公示力がありますので、それは私は認めていいんじゃないかな、そんなふうに思ったわけですが。

 次に、吉田先生にお伺いしたいんですけれども、先ほど、相続についてインフラがちょっとおくれているということで、イギリス、フランス、ドイツでしょうか、挙げられたんですが、その諸外国のインフラと日本のインフラとの大きな違い、あるいは日本がこれから改善していく点というのを、最後になりましたけれども、先生の御発言で終わりにしたいと思います。

吉田参考人 お答え申し上げます。

 私は、日本のインフラを考える場合に、やはり日本の相続法の母法はフランスと言われていますので、フランスの状況と比較することが有益ではないかと思っております。

 その観点から見ますと、公証人のあり方が全くといいますか相当違う。つまり、先ほど量の問題は申し上げました。さらに、質とは申し上げませんが、やっている仕事の中身も、日本の場合には狭い、フランスは非常に広い、相続もカバーする、こういうことでございます。

 それで、先ほど、司法書士の先生あるいは弁護士の先生について、もちろんそれを期待するところはあるわけで、実際、司法書士の先生方などは、相続の処理、相談をたくさん受けておられます。ただ、その場合に、最終的に問題になるのは、紛争性が出てくると、やはりこれは利益相反の問題が出てきますので、かかわることは非常に難しいということでございまして、この点については立法措置も含めて何か検討していただけるといいのかなというようなことは思っております。

 以上です。

串田委員 大変参考になりました。今度、金曜日に質疑が行われるんですけれども、各委員、非常に参考にさせていただけたと思います。

 ありがとうございました。

平口委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、参考人各位に一言御礼を申し上げます。

 参考人の方々には、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。

 次回は、来る十五日金曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時六分散会


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