衆議院

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第8号 平成31年4月3日(水曜日)

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平成三十一年四月三日(水曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 葉梨 康弘君

   理事 石原 宏高君 理事 田所 嘉徳君

   理事 平沢 勝栄君 理事 藤原  崇君

   理事 宮崎 政久君 理事 山尾志桜里君

   理事 階   猛君 理事 浜地 雅一君

      赤澤 亮正君    井野 俊郎君

      奥野 信亮君    鬼木  誠君

      門  博文君    門山 宏哲君

      上川 陽子君    黄川田仁志君

      国光あやの君    小林 茂樹君

      齋藤  健君    津島  淳君

      中曽根康隆君    百武 公親君

      古川  康君    三谷 英弘君

      逢坂 誠二君    黒岩 宇洋君

      松田  功君    松平 浩一君

      山本和嘉子君    源馬謙太郎君

      遠山 清彦君    藤野 保史君

      串田 誠一君    井出 庸生君

    …………………………………

   法務大臣政務官      門山 宏哲君

   参考人

   (一橋大学大学院法学研究科教授)         山本 和彦君

   参考人

   (松浦法律事務所弁護士) 松浦由加子君

   参考人

   (かんま法律事務所弁護士)            合間  利君

   参考人

   (せたがや市民法律事務所弁護士)         三上  理君

   法務委員会専門員     齋藤 育子君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月三日

 辞任         補欠選任

  神田  裕君     百武 公親君

  黄川田仁志君     津島  淳君

  古川 禎久君     齋藤  健君

  和田 義明君     三谷 英弘君

同日

 辞任         補欠選任

  齋藤  健君     古川 禎久君

  津島  淳君     黄川田仁志君

  百武 公親君     神田  裕君

  三谷 英弘君     和田 義明君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第二八号)


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     ――――◇―――――

葉梨委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、参考人として、一橋大学大学院法学研究科教授山本和彦君、松浦法律事務所弁護士松浦由加子君、かんま法律事務所弁護士合間利君及びせたがや市民法律事務所弁護士三上理君、以上四名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多忙の中、御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れれば幸いに存じます。よろしくお願いいたします。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、山本参考人、松浦参考人、合間参考人、三上参考人の順に、それぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず山本参考人にお願いいたします。

山本参考人 一橋大学の山本と申します。

 私は、大学では、民事執行法その他民事手続法の研究及び教育に携わっております。また、今回の改正案との関係では、法務大臣からの諮問を受けてこの問題について審議をしてまいりました法制審議会民事執行法部会の委員、部会長として、その審議に関与をいたしました。そのような立場から、今回の政府提出法案につきまして若干の意見を申し述べたく存じます。

 まず第一に、債務者の財産の開示制度の実効性の向上についてであります。

 日本では、強制執行を申し立てるには、債権者の側で債務者の対象財産を特定する必要があります。ただ、債権者が債務者の財産状態を把握していない場合も多く、また、特に最近は、債務者の財産が外部からはなかなか見えにくい状況になっているという面もあります。

 そのような中、強制執行の前提として、債務者の財産の探知手続を創設するということは、世界的な課題にもなっております。

 日本は、平成十五年の民事執行法の改正によって、債務者自身がみずからの財産を開示するという財産開示の手続を導入いたしましたが、残念ながら、十分に機能しているとは言いがたい状況にあります。

 そこで、今回、現行の財産開示手続についてはその要件を緩和しながら、違反に対する罰則を強化するということでより実効的なものにするということに加えて、新たに第三者からの情報取得の手続を創設することが提案されております。

 今回の提案は、銀行など金融機関から預貯金や上場株式等に関する情報、登記所から債務者の所有する不動産に関する情報、そして市区町村や年金機構等からは債務者の勤務先に関する情報を取得することを、債務名義を有する債権者に認めるものであります。

 ただ、このような制度を設けるについては、執行手続を実効化するという要請とともに、個人情報やプライバシーの保護とのバランスを慎重に考える必要があるところであります。そこで、例えば、勤務先の情報については、まず債務者による財産開示の手続を先行させる、あるいは、情報を得られる債権者を、養育費の債権者あるいは犯罪被害者など、特に要保護性の強い債権者に限定するなどの配慮を加えているものであります。

 以上のような改正は、近時の国際的な潮流にも合致するものと承知しております。かつては日本同様に債務者による財産開示制度しかなかったドイツや韓国においても、近時相次いで第三者からの情報取得の手続を導入しておりますし、またフランスなどでは最初から第三者を対象とした手続しか有していなかったものであります。また、情報取得の対象となる機関についても、大きく言えば金融機関と公的機関ということでありまして、ある程度国際的に共通しているものと理解しております。

 現在、日本の強制執行制度の最大の課題の一つは実効性の確保という点にあり、この点が必ずしも十分でないために国民の司法の利用自体をシュリンクさせているという見方もあるところであります。この部分の改正は司法制度全体の観点からも大きな意味があるというふうに考えておりまして、一日も早い改正法の成立が期待されます。

 次に、不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策についてであります。

 現行法においては、暴力団員の買受け自体を制限する規定は民事執行法に存在しないところ、全国の暴力団事務所の一割余りが不動産競売の経歴を有しているとされています。この統計が民事執行法部会において示されたとき、私自身大きな衝撃を受けましたし、部会全体にも驚きの空気が流れたことを記憶しております。

 そもそも日本の競売手続には、歴史的に見て、反社会的な集団がさまざまな形で関与してまいりました。これは日本の司法制度において大変残念な特徴であったとも言えます。国際的な会議でこのような日本の競売の実態をお話しすると、日本社会に対する国際的な、一般的なイメージと異なるものとして、多くの国々の方に驚かれた経験があります。

 もちろん、これまで、さまざまな努力の中で、反社会的集団の競売手続への関与は徐々に制限され、特にバブル崩壊期に大きな社会問題となった暴力団等による執行妨害はほぼ根絶されるに至ったものと思われます。しかしながら、最後に残ったものとして、この買受けへの関与の問題があるということであります。

 今回は、暴力団員等の競売買受けの申出及びそれらの者の計算による買受けの申出を制限し、売却の不許可事由を新設するものであります。

 このような制度を提案するに際しては、競売の迅速、円滑な実現とのバランスを十分に考える必要がありました。競売手続の迅速性という観点も、競売市場の信頼確保のためこの二十年近く進められてきた重要な政策課題であるからです。

 今回、最高価買受申出人の決定後に警察への調査嘱託の制度を設けておりますが、それによって競売手続が過度に遅延することになってはなりません。そのため、売却不許可の要件等をできるだけ明確化するなどして対応したものであります。国際的に見ても恥ずかしくない執行手続のために、やはり一日も早い御対応を期待しております。

 最後に、子の引渡し及び国際的な子の返還の強制執行に関する規律の明確化、見直しについてであります。

 従来、民事執行法には、子の引渡しの強制執行に関する規定が全くありませんでした。そのこと自体やや信じられないところもありますが、かつては、そもそも子の奪い合いの紛争自体が少なく、また、紛争があっても多くは話合いで解決していたものが、近時は、離婚の増加や少子化の影響などもあって、子をめぐる紛争が増加するとともに、親同士の対立が先鋭化し、強制執行の問題になりやすい傾向があるように思われます。

 ところが、明文の規定がないため、動産の引渡しに関する規定などを類推して実務的に対応してきましたが、子供は確かに動くものではありますが物ではありませんので、当然のことながら、このような対応はそもそも適当なものではなく、また、裁判所や執行官の実務における負担も大きなものになっているように思われます。その意味で、今回の明文化は時宜にかなったものと言えます。

 今回の改正案は、既に存在した国際的な子の返還の強制執行の手続を一つの出発点として議論されましたが、主に問題となったのは、直接的な引渡しを行う前に間接強制、すなわちお金を払わせることで心理的に強制する手続を先行させるかどうかという点と、執行に際して債務者、すなわち現在監護している親の同席を必要的とするかどうかという点でありました。ハーグの手続では、これらをいずれも必要的なものとしていたところ、債務者の抵抗や意図的な執行妨害を招いており、必ずしも十分に機能していないという批判もあったところであります。

 そこで、新たな手続では、間接強制を一律に先行させることはせず、その意味が少ないと見られる場合や子の危険を防止するために必要な場合には、直ちに直接的な強制執行を可能にすることとしております。加えて、債務者である親がその場にいなくても、債権者である親、他方の親が立ち会っていれば執行を可能にすることで、より実効的かつ円滑な強制執行を可能にしようとしたものであります。その審議の過程では国際的な動向も参考とされましたが、最終的にはドイツの制度などと類似するものとなりました。

 このような提案をした部会審議の過程では、立会人や執行補助者として強制執行に関与された経験のある児童心理の専門家等を参考人としてヒアリングを行いましたが、そこでは、執行の現場で債務者が子に対してどちらの親を選択するのかということを迫ったような事案や、子供が債権者のもとに帰りたいと泣いて訴えたにもかかわらず、債務者が介入して、結局、執行完了に至らなかった生々しい事案が紹介されたところであります。そのような実際の状況なども踏まえて、今回の改正提案になったものであります。

 もちろん、現在のハーグの規定も、子の心身への負担をできるだけ少ないものにするという観点から定められているものでありまして、そのような意味で、強制執行も子の利益、福祉のために行われるものでなければならないという点は、部会の共通認識としてありました。そのような観点を踏まえ、執行手続の実効化を図るとともに、改正法案百七十六条にありますような子の心身に対する配慮の責務を裁判所や執行官に課すようにしたものであります。

 以上のような国内の子の引渡しの強制執行の規律の新設を踏まえて、ハーグ条約における子の返還の執行手続も同様の形で見直すこととなりました。子の返還と子の引渡しとでは事情がやや異なる面もありますが、子の利益のために迅速かつ実効的な執行を行うべきであるという点には違いはないと考えられるため、最終的には同じ規律になるべきと部会では判断されたものであります。

 その結果、子の返還の手続でも、間接強制を必ず先行させることにはせず、また債務者の同時存在も不要としております。そのため、部会の審議の過程では追加試案を作成し、この部分について特にパブリックコメントを改めて行うとともに、その分野の専門家に委員、幹事として御参加いただくなど、慎重に議論を進めたものであります。この改正点は、条約上の日本国の義務をよりよく履行するという観点からも重要なものと考えております。

 このほか、債権執行事件の終了時期をめぐる規律や差押禁止債権の規律の見直しも、実務界からの強い要望に基づき部会で審議した重要な改正点であります。ここでは、時間の関係で詳細な言及は控えさせていただきますが、一点だけ、収入、資産の少ない債務者による差押禁止範囲の変更の制度、これは従来からあったものでありますが、従来は余り知られておらず、活用されていないことから、今回、この制度を差押えをするに当たって債務者に必ず教示するという手続を設けました。この点は重要な点と思われます。強制執行の実効性を一方で高めるとともに、他方では保護すべき弱い債務者が適切に保護されるという、めり張りのきいた執行制度が目指されるべきものと考えております。

 今回、改正の対象とされている事項は、いずれも、理論的に見ても実務的に見ても極めて重要なものであり、また国際的潮流という観点を踏まえても、一刻も早い対応が望まれているものであります。また、部会における審議も、パブリックコメント等を経て慎重に行い、最終的には全会一致で採択されたものであります。そのような点も踏まえまして、一日も早く法案が成立し、これが実務において実施されることを期待いたしまして、私の意見陳述を終わりたいと思います。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

葉梨委員長 ありがとうございました。

 次に、松浦参考人にお願いいたします。

松浦参考人 本日は、このようにお話しする機会をいただき、ありがとうございます。

 私は、まず大阪で働いていて、今は京都で弁護士をしております。弁護士十七年目になります。

 きょうは、山尾先生から、特に子供への配慮について問題意識を持っているとお伺いしております。

 私自身、子の引渡しの直接執行の経験もありますし、また、知人の弁護士数名から子の引渡しの経験談をヒアリングしております。また、日弁連、日本弁護士連合会で、子の引渡しに実際にかかわったことがある方からアンケートをしておりますので、それに基づいて、できるだけ実務的なお話をしたいと思っております。

 まず、子の引渡しの直接執行がどのようなものかということをお話ししていきたいと思います。

 子の引渡しの事件の典型例は、離婚に向けて別居している御夫婦の間で、未成年の子供さんがいらっしゃって、どちらが引き取るかというので争いになり、片方の親が片方の親に引き渡せと求める裁判を起こしたというものが典型例になります。簡単に言うと、お子さんが奪い合いになっている事件ということになります。

 審判は、家裁、家庭裁判所で行われるのですが、子供の心理について専門的知見を持っておられる調査官という職種の方が、両親やお子さんと面談をしたり、あるいは家庭訪問をしたりして調査した上で、それに基づいて裁判官が判断をするという流れになります。

 審判がなくても自主的にお子さんを引き渡す親御さんもいらっしゃいますし、子を引き渡すように命ずる審判が出れば、もちろんそれに従ってお子さんを引き渡す親御さんも少なくはありません。

 なので、子供を取り戻すために執行官による執行までされるケースというのは非常に少なくて、今回の統計資料の十一の一にもあるんですが、年間、全国で百件前後というのがこの十年ぐらいは続いているようです。都道府県によっては、年に一件もないというところも多数あると思われます。

 同じ表にも記載があるのですが、子の引渡し執行は、近年は三割前後というふうに完了率が高くないというのが実情になっております。以前は、平成二十二年前後ぐらいは四割程度だったので、そのころから導入された債務者の同時存在の原則が影響して、少し完了率が下がったのではないかというふうに思われます。

 次に、子の引渡しの執行をする、つまり、実際に執行官が子供を取り戻しに行くことが決まった後の流れなどについてお話ししていきたいと思います。

 ここからは、国内法とハーグ条約実施法では、ほぼ同じ仕組みになっております。

 以下、お子さんを取り戻そうとしている親御さんのことを債権者、子供と同居している方の親御さんのことを債務者と申し上げますので、御了解ください。

 改正後も今でも同じく、現場に行くのは執行官ですので、その執行官が、まず債権者あるいはその弁護人、両方という場合が非常に多いんですけれども、が執行官に会いに行って、どのように執行を行うかということを打合せします。

 この段階では、債権者の側は家裁調査官の調査報告書を持っていることがほとんどです。そこには、今のお子さんの生活パターンがどんなふうかとか、お子さんの性格や発達段階がどのような状況かとかいうことが記載されていますので、それをもとに、お子さんの性格を考えたり、どのようなタイミングで、どこで執行するのがよいかというのを協議します。

 ただ、調査報告書には書けないことも調査官としてはあると聞いています。つまり、親御さんが両方見るので、子供が親に知られたくないということは書かないようにしていることもあると聞いていますので、場合によっては、調査官、直接話をしてということが必要な場合もあるのかもしれませんが、ただ、ちょっと、今回の制度改正でもそこまでは担保はされていないようです。

 また、調査官の調査後に、子供を隠すために引っ越したりとか親戚に預けたりするケースもありますので、結局、子供の居どころがつかめず、執行ができないというケースもなくはないというふうに聞いております。

 この打合せのときに、後ほど申し上げる、執行に立ち会う専門家が立ち会うことが望ましいのではありますが、スケジュール的にそれがかなわないということもあるようです。

 執行の時間帯や場所ですけれども、近年は、先ほど御説明もあったように、ハーグ条約実施法と同じく、債務者がいないと執行できないという運用になっていて、債務者が働いている場合は、在宅している時間となりますと早朝や夜遅くに執行せざるを得ないというケースが少なくなく、特に、小さいお子さんには、もうおねむの時間ということもあって非常に負担になっていたのですが、今回の改正のとおりにいけば、これは改善されることというふうに思われます。昼間にも執行ができる可能性が非常に高くなる。

 また、現在は義務づけられていませんが、すぐにお子さんを引き取れるようにということで、債権者が執行現場の近くに待機していることがほとんどです。ただ、その反面、このため、債権者が遠方に住んでいる場合などは、交通費がかかることはもちろん、宿泊の手配をしておく必要もありますし、実際に宿泊が必要な場合も多いというふうに思われます。

 執行の場所は、こちらの統計資料にもありますように、従前から債務者の自宅というのが非常に多かったようですが、祖父母に預けておられることも多いので、親戚の自宅ということも間々あるようです。

 債務者だけでなく、祖父母、債務者の両親のことが多いんですけれども、子の引渡しに強く抵抗されることがあります。恐らく、そういうためもあって、トラブルを避けるために、平成二十六年以前は、保育所や小学校や、場合によっては公道などが執行場所に選ばれることがあったようです、こちらの資料にもありましたけれども。恐らく、公道というのは、家や保育所にちょっと踏み込めないので、出てきたところを狙ってということが多かったのではというふうに推測されます。

 ただ、保育所などで執行する場合も、保護者の了解が得られないからというので引渡しを拒否される場合も聞いておりますし、あるいは、債務者やその両親に連絡をして、保育所に、学校でもいいんですけれども、彼らが駆けつけてきて、結局トラブルになるということがよくあるようです。

 また、既に指摘があったようですけれども、保育所や学校で執行する場合は、ほかのお子さんの目の前でやられてしまうと、お子さんの心の傷になりますので、そのやり方については十分に配慮する必要はあると思います。

 執行前の打合せでは、こういったことをシミュレーションしながら段取りを取り決めていくというふうになります。

 執行の現場ですけれども、どんな人員配置が必要かという観点からまずお話しさせていただきますが、債務者あるいは祖父母がいる自宅で執行する場合は、まず、その債務者や祖父母に説明し、説得する必要があります。債務者や祖父母、場合によったらおじさん、おばさんとか親戚が駆けつけてきてということもありますので、そうすると、それが数名いる場合は、場合によっては物理的に抵抗されるおそれもありますので、その人数以上の人員を裁判所がそろえていく必要はあります。できたら多い方がいいということになると思います。

 債務者や祖父母の抵抗がどんなものがあるかですけれども、先ほど申し上げたアンケートのほか、杉山初江さんという方が横浜地裁の付近の執行状況を調査した文献があるので、それの中からの事例とかを見ていると、大声で威嚇し続けるとか、鍵を施錠してあけない、また、鍵屋さんに鍵を無理やりあけさせないといけないとか、暴れる、乱暴をするとか、近くに人がいるのに車で急に発進してその場を強引に走り去ろうとするとか、あるいは子供を抱えて放さないなどの、いろいろな抵抗のケースが見受けられます。もちろん、警察に警備を頼むことは可能なのですが、それでも、余りにも危険な場合には、執行を断念せざるを得ません。

 結局、人身保護法という、刑事罰を伴う、勾引、勾留もできるような強力な手続があるんですけれども、人身保護法でもう一回子供の引渡しができるかどうかというのをチャレンジしないといけないというのが現状になります。

 債務者等への説得は、執行官が担当することが多いですが、債権者代理人や子供の専門家が立ち会っている場合は、一緒に説得に当たることもあります。執行官も研さんを積まれていますが、家事事件全般には詳しくありませんし、また、引渡し後のことについてはかかわらないということになりますので、事後的なことについては債権者代理人から説明することもよくありますし、あるいは子の心理の専門家の方が子供さんについてのアドバイスはできますので、そういったこともなされる場合があるようです。

 これに対して、保育所や小学校などで執行する場合は、大人からの抵抗を受ける可能性は少ないのは少ないのですが、先ほど申し上げたように、債務者たちが駆けつけてくるリスクはありますので、それに備える必要はあります。

 以上が大人への対策ということになりますが、もちろん、執行の対象になっているお子さんに対する対応が一番重要で、大人とは別の担当者、執行補助者などが必要というふうに考えます。トラブルになっているときにお子さんがそばにいるということもありますし、何より、執行の対象になっているお子さんに丁寧に説明する必要があります、乳児、言葉がしゃべれないようなちっちゃいお子さんではない限り。お子さんが、結局、債権者についていくかどうか迷っておられる場合もありますので、お子さんに寄り添う立場の人が誰かいる必要があると思います。お子さんにできれば一人ずつ人員が配置されることが望ましいし、現在もそのように運用されているようです。

 改正後は、債権者の出頭が原則になりますし、立入りすることもできるようになりますので、債権者にその役割を担わせることも、選択肢の一つにはふえます。しかし、債権者が自宅に入ると、債務者やその親族が強く抵抗して現場が荒れることも少なくありませんし、対象となるお子さんが複数おられることもあります。また、債務者にいろいろ吹き込まれてというのもありまして、例えば、おまえのことを嫌いだったから出ていっちゃったんだよみたいに言われたりして、お子さんが債権者に対して複雑な気持ちを持っておられることも非常に多いので、債権者が出ていけば必ずしもいいとは限りません。なので、やはり債権者以外に子供の担当者を配置する必要があることは変わらないと思います。

 では、子供の担当者としてどのような方がふさわしいかですが、これは非常に難しい問題だというふうに思います。

 古い事例を見ていると、保育士の方に依頼されたケースもあるようです。乳児の場合であれば、そういった方が適任という場合もあるんじゃないかなというふうに思います。

 ただ、大きくなってくると難しい。子の心理の専門家というんですけれども、ただ、今までも御説明したように、子の引渡しの執行というのは、事前に調査報告書を読んで、債権者と打合せをして、親御さんと打合せしてというのができるだけで、執行の現場でゆっくりお子さんとお話しできるとは限りません。また、幼いお子さんが多い、十歳以下のお子さんがほとんどなので、そうすると、発達段階にもよりますが、うまく言葉で自分の気持ちが表現できないお子さんも多いので、通常の大人と同様のアプローチは難しくという問題があります。

 そうすると、子供について臨床経験があって、紛争性の高い場での対応のトレーニングがある方ということになるんですが、先ほど申し上げましたように、件数が非常に少ないので、そこまでして養育できるかというのは非常に難しい問題がございます。

 法制審の部会の中でも心理職の方が、役割分担の問題はあるんだけれども、トレーニングを受けていない部分もあるので、対応が難しい部分もあるというふうにお話しされていました。

 個人的には、家庭裁判所の調査官が、児童心理について専門的知見を持っているとともに、紛争に関与するのがお仕事ですので、適任じゃないかとは思うんですが、これは制度的になかなか難しいようです。そこで、調査官OBなどを活用するのも一つだと思います。現在も、調査官OBが多く所属しておられるFPICという団体に依頼されているケースも多いようです。

 このほか、件数が少ないので、経験の積み重ねにより執行官や執行補助者がブラッシュアップしていくというのが非常に難しいようです。また、先ほど申し上げたように、適任者が全国にいるとは限りません。

 前者に関しては、全国的規模で、執行補助者の方も入れて、特に子の引渡しの執行について事例集積して、経験交流をして、研究してブラッシュアップしていく仕組みの構築が不可欠だというふうに思います。

 後者については、件数が少ないことがあって、各地で専門家を擁するのはなかなか難しいので、都会から専門家が派遣できるように交通費や宿泊費の問題をクリアしていく必要があるのではないかと思っています。一方で、その費用を債権者負担とすると、過疎地の債権者が、経済的な問題から執行できないというふうになりかねないので、大きな問題だというふうに思っております。

 最後に、子の所在の調査について一言申し上げたいと思います。

 子の引渡しは、子供がどこにいるかわからないとできません。一方で、子の引渡しの事件で執行まで至るケースは対立が深いケースがほとんどで、このため、子供を親戚や知人に預けるなどして隠したり、ホテルを転々としたり、保育所や学校にも行かせないというような悪質なケースも散見されます。

 ハーグ条約実施法では、国の行政機関や地方公共団体の協力を得て所在の特定を行う制度がありますが、国内法にはありませんし、今回の改正でも、ちょっとその制度については見送りになりました。

 先ほど山本先生のお話の中で実効性の確保という問題がありましたが、国際的な指摘はさておいて、とりあえず、日本の国の中で、子供を隠したら返さずに済むというのは法秩序をないがしろにするものですし、非常によくないことだというふうに思います。ぜひ、この点について改善していっていただきたいというふうに思っております。

 以上です。ありがとうございました。(拍手)

葉梨委員長 ありがとうございました。

 次に、合間参考人にお願いいたします。

合間参考人 弁護士の合間と申します。

 弁護士になって十七年目、先ほどの松浦さんと同じになります。弁護士になった当初から、犯罪被害を受けられた方の支援を弁護士の立場からしてきました。

 今回は、貴重なお時間をいただいた中で、新設された第四章の債務者の財産状況の調査に関する改正について、犯罪被害を受けた方、この法案では人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権を有する方といった表現になっていますけれども、その犯罪被害者の方を支援する弁護士の立場から意見を申し述べたいというふうに思っています。

 まず、前提として、犯罪の被害者が民事執行の場面にどのようにかかわってくるかについて若干整理させてください。議論をわかりやすくするために、経済犯罪の被害者の方についてはちょっと除かせていただきます。

 犯罪の被害を受けると、治療費、仕事を休むことによる休業損害、精神的な損害に対する慰謝料など、さまざまな損害が発生します。交通事故で加害者が保険に加入している場合などはともかく、殺人や傷害、性犯罪など、被害者は、原則として、みずから加害者に対し損害の賠償を請求していく必要があります。

 示談ができるなどしてある程度賠償を受けることができれば、まだいい方だと思います。ただ、示談ができる場合といっても、早く終わらせたいからとか、お金がないからということで、本来受け取るべき金額より安い金額で終わらすこともあるということは頭に置いておいていただければと思います。

 示談ができなかった場合、損害賠償を請求する手段として、民事訴訟の提起など、加害者に請求していくことになります。ただ、その時点では、そもそも相手に資力がない、財産がわからない、それなのに費用と手間、時間をかけてやっていく必要があるのかとして、民事訴訟などの法的手段をとることをそもそも諦める場合も決して少なくはありません。

 それでも、みずから費用と手間をかけて民事訴訟を提起したらどうなるか。和解を成立させて支払いの約定を交わすこともあるでしょうし、それができなければ、判決を得るということになります。

 しかし、加害者に損害の賠償を命じる判決を受けたとしても、加害者が支払わなければ、それはただの紙切れになってしまいます。和解においても、和解ですから払われるのかと思うかもしれませんけれども、一括で支払われる場合はともかく、長期の分割の場合には、途中で滞ってしまったら、やはり同じ問題が生じます。

 この場面で、加害者の財産への執行という場面が生じます。

 ただ、その時点までに、加害者と何らかの交渉、やりとりがなされていたとしても、加害者の財産状況を被害者側が把握していることはまずありません。債務名義を得た上で、銀行に当たりをつけて、弁護士法の照会であったりとか、あるいは債権執行してみたりといったこともあり得るとは思いますけれども、なかなかうまくいくものではありません。私自身も、差押えをしてみて、結局該当がなかったという経験は何度もあります。

 また、給与債権を差し押さえようとしても、勤務先を把握することも容易ではありません。実際、私が担当した、お子さんを亡くされた事件の民事訴訟においても、結局、裁判で、お金がないとか言われて、財産の有無もわからないまま判決を得て、一円も回収できないまま終わったというような事案もありました。

 だからこそ、犯罪被害者にとって、加害者、これからは債務者という言い方もさせていただきますけれども、その財産を調査する手続というのはとても重要なものということになります。

 現行の財産開示手続は、基本的には、債務者の方からの陳述がなされなければ財産を把握できない、そういう制度であります。債務者が出頭しなかったり、あるいは出頭しても正直に話さなかったりすれば、結局、責任財産を把握することはできません。これでは実際の効果は期待できません。ですから、現行の財産開示制度は余り利用されていなかったというふうに私は理解していますし、実際、私自身もほとんど利用したことはありません。

 そこで、今回の改正案では、財産開示制度について、不出頭、虚偽の陳述に対して、三十万以下の過料であったものが、六カ月以下の懲役又は五十万以下の罰金と、その制裁が強化されるというふうに伺っています。

 確かに、罰則が強化される、特に、過料から刑事罰に変わるというのは大きな意味があると思います。そのことによって開示が進むということの効果はあるんだろうなというふうには思います。

 ただ、結局、財産開示制度自体、債務者の自主申告によるものですから、個人的には、債務者の責任財産の把握にそこまで効果的かと言われると、そこまでの感覚は私自身は持っていません。

 やはり、今回の改正でのポイントは、債務者の申告によるものではない、第三者からの情報取得手続というふうに考えています。この手続によって、不動産や給与債権、預貯金債権などの財産の情報を第三者から取得できるという点で、より実効性のある手続の創設だというふうに考えます。

 給与債権については、執行の対象となることは債務者の生活に直結するものです。慎重に考えなければいけないとは思いますが、改正案では、その情報を取得できるのは、養育費とか、先ほどの犯罪被害者といった債権者に限られているので、濫用を防止するという意味でも、限った点はいいのかなというふうに思っています。

 これまで、正直、訴訟で勝っても、相手の財産がわからない、財産開示手続は使えない、それなのにそもそも訴訟まで提起する必要があるのか、悩んできたこともあります。

 実際、社会内にいて働いているのは確かなんですけれども、その勤務先がわからない、もう事件から離れたいというお話を受けて、結局訴訟を諦めたということも経験しています。被害者にとっても、訴訟をするということは、加害者にかかわり続けるということになり、費用の問題をおくとしても、簡単に選択できる手続ではないからです。比較的執行しやすい、給与債権や預貯金債権などの情報を明らかにできる手段があるのであれば、執行まで考えた訴訟の提起を考えるに当たって、プラスに働く要素だと思っています。

 ただ、この手続は、残念ながら、使いにくい面も残っているかなというふうに思っています。

 まず、不動産や給与債権に関する情報取得について、財産開示手続を前置しなければならないとなっているのは、手続的な負担が重いかなというふうに感じています。

 例えば、財産開示手続の要件として、強制執行の不奏功、つまり、強制執行がうまくいかなかったことというのが依然として要件となっています。こういった要件を経て、財産開示手続を経てということを考えていただけると、手続的負担が重いというのもおわかりいただけるのではないかなというふうに思います。

 また、財産開示手続は、一回行うと三年間は使えない、できないという制度になっています。特に、給与債権については、債務者の勤務先がかわった場合であっても、三年間は、前置ということが前提であれば、改めて情報取得ができないことになってしまいます。

 給与債権は、継続的に回収が可能、払われるたびにお金を差押えすることができるという点でも、被害回復に役立つものですし、改正案でも、給与債権について情報取得手続を申し立てるのは、先ほど申し上げたとおり、限られた債権者になっていますので、より使いやすい手続を検討していただければなというふうには思っています。

 また、預貯金債権などについては、確かに、金融機関から情報を取得できる点ではとてもいいのですけれども、その金融機関を特定するのはやはり申立人ということになっているようです。その申立人が特定をするということは、やはり使いにくくなるのではないかなという危惧を抱いています。

 そもそも、金融機関が絞れていないので情報が欲しいわけであって、無数にある金融機関のそれぞれについて、では、情報を開示してほしいというような、取得したいという申立てをすると、それだけで極めて大きな負担になってしまう可能性があるのかなというふうに思っています。

 また、預貯金等の債権についての内容の面でも、これまでの債権執行の場合と変わらず、取得できる情報は預貯金の有無と残高といったところになるようです。結局、開示されたその時点の静的な、静的という言い方が正しいかわかりませんが、情報になります。極端なことを言えば、前日に預金を引き出していれば、残高はゼロ、お金がない、資力がないということになります。

 より知りたいのは、預貯金の動き、動的な情報ですので、例えば、年数を限って、債権者などの要件も限るなどして、取引履歴などについての情報を取得することができないかということも検討していただきたいなというふうには思います。

 第三者からの情報取得手続について少しまとめますと、債務者の陳述に頼ったこれまでの財産開示手続に比べ、取得できる情報の質という点ですぐれていますし、実際に使ってみたい制度だと思います。その意味で、今回の改正案は、被害者保護の点から、一歩前進した改正案だと思います。

 ただ、現時点で想定してみると、これまで述べさせていただいたとおり、使いやすい手続とは言えない部分もあります。債務名義を得るだけでも相当負担であるのに、報われるとは限らない執行やその前段階の調査について申立人側が手続的負担を負うという実情に変わりはありません。被害者は、貸付けのリスクや回収のコストといった観点は全く関係なく、ただ、こうむった損害を少しだけでも填補したいというだけなのに、むしろ負担がふえていってしまうという現実には残念ながら変わりはありません。

 本当に使いやすい、使える制度なのか、改正法の施行後も調査を継続し、一定期間経過後にはぜひ検証していただきたいと思います。

 最後に、ちょっと長いですが、債務者の財産調査や執行は、被害者にとってやはり負担なのです。

 そこで、被害者等の限られた債権者に対しては、国側が債務者の資産を調査し、情報提供する制度も考えられてはいいのではないでしょうか。申立人が抽象的に調査を申し立て、国側が各所へ情報提供を求めて、申立人にその情報をフィードバックするといったことも考えてもいいのではないかなというふうに思います。

 更に言えば、犯罪被害者は、多くの場合、加害者側に資力がないという問題に直面しています。その状況下で、最初にも述べさせていただいたとおり、早期解決のため、あるいはお金がないからということで、判決であれば認められるであろう金額に満たない金額で示談することもあります。

 示談せず、賠償金の一部を受け取るだけだったり受領を拒絶して、その上で民事訴訟などの法的手段をとり、債務名義を得たとしても、金銭的、心理的負担にもかかわらず、支払いを受けることができる可能性は極めて低いのが現実です。ですから、訴訟提起の前に諦めてしまうこともありますし、現実的な支払いを受けられないということをわかって、刑事だけでなく民事上の責任も理解してほしいという一点だけで訴訟を提起する場合もあります。時効消滅を避けるためだけに一旦債務名義をとっても、改めて訴訟を提起せざるを得ない場合もあります。

 これでは被害者は負担ばかりふえていってしまいます。

 そこで、債務名義を得た場合には、国がその一部でも肩がわりし、その分は国が加害者、債務者に請求、求償していく、執行していく。将来的な課題として検討していってほしいと思います。財源の問題、債務者とのバランスなど、検討すべき問題はありますが、ぜひ議論していっていただきたいと思います。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

葉梨委員長 ありがとうございました。

 次に、三上参考人にお願いいたします。

三上参考人 せたがや市民法律事務所の弁護士の三上理と申します。

 日本弁護士連合会では消費者問題対策委員会の多重債務部会に所属しており、東京弁護士会では消費者問題特別委員会の委員長をしております。また、任意団体である全国ヤミ金融・悪質金融対策会議の事務局長を務めております。

 これまで、主として多重債務問題を始めとする消費者問題に取り組んできた弁護士として、債務者の財産状況の調査に関する規定の整備と差押禁止債権に関する規律の見直しについて意見を述べさせていただきたいと思います。

 参考資料として、二〇一七年一月二十日付の日本弁護士連合会の提言と、二〇一七年十月二十六日付の全国ヤミ金融・悪質金融対策会議の意見を配付させていただきました。この二つの意見書については、私自身、ほぼ同じ考えを持っておりますので、御参考にしていただければ幸いに存じます。

 それでは、まず、基本的な視点について述べます。

 私自身、消費者問題に取り組む弁護士として、例えば、振り込め詐欺、投資被害、サクラサイト、原野商法などの被害に遭ってしまった方から依頼を受けて、そのお金を取り戻すために裁判をして、苦労して判決をとったのに、回収ができず、歯がゆい思いをするということがあります。

 こういう悪質商法を行い、多額の資金を集めていた者に換価すべき財産がないはずがないのに、債権者となる被害者には、どこにどんな財産があるかの情報がないために執行ができないというのは不合理であって、このような債務者の逃げ得を許すべきでない、だからこそ、私は、債権者が債務者の財産に関する情報を取得する制度が必要であると考えるものです。

 ただ、他方で、私は、長年多重債務問題に取り組む中で、そもそも換価すべき財産を持たない、債務名義があっても払おうにも払うことができない方を多く見てきました。貯蓄のない世帯、全世帯の三割、単身世帯の四割とも言われています。貯蓄のない世帯の債務者に対し、給与の差押えや年金、生活保護費が振り込まれる預金口座の差押えがされることは、極めて深刻な打撃となります。給与の差押えを受け、会社をやめざるを得なかった人、その差押えを取り下げてもらうために闇金から借りてでも支払うという選択をしてしまった人を見てきました。

 債務者への過酷な執行を防ぐための制度が必要であると痛感しております。

 この民事執行の手続が目指すべき方向性について、これまで真正面から議論することが避けられてきたように私には思える問題があります。

 債権者に対し、換価すべき財産を持っている債務者の、その財産に関する情報を取得させることで、民事執行の手続、つまり、債務者の財産の換価による債権の回収の実現を目指すのか、それのみならず、換価すべき財産を持たない債務者に対する心理的な威嚇力によって、知人から、親戚から、又は闇金から借りてでも支払うようにしむけることまで是とするのか、あるいは、債務名義に基づく支払いができない者は、健康で文化的な最低限度の生活にも満たないような暮らしを強いられることもやむを得ないと考えるのかということです。

 債権者の立場では、債務者に換価すべき財産がないのであれば、親戚から借りてでも払ってほしいと思うのは当たり前です。私でもと言ったら変ですが、私でも、債権者の代理人として行動するときは、相手方である債務者が低所得であるからといって差押えの手続を遠慮するというわけにはいきません。

 民事執行は、中でも給与の差押えは、単なる財産の換価のみならず、債務者に対する心理的な強力な威嚇となり得るものであって、債権者としてもそういうものとして利用することをとめられないものであるからこそ、制度設計に当たっては、債務者の生活保障のための目配りが欠かせないものであるというふうに考えております。

 次に、第三者から情報を取得する制度について述べます。

 中間試案では、預貯金と給与に関する情報だけがこの制度の対象とされておりました。しかし、これでは、株式、社債、投資信託等の金融資産や不動産などの換価すべき財産を持っているのに支払わない債務者に対しては、逃げ得を許すことになります。他方で、このような金融資産や不動産などの財産を持たない、わずかな収入でぎりぎりの生活をしている債務者の給与の差押えや、年金、生活保護費が振り込まれる預金の差押えだけは確実にしようとする。中間試案の制度設計は不合理であったと言わざるを得ません。

 私は、この法律案が、株式、社債、投資信託等の金融資産や不動産に関する情報を対象にしていることには賛成するものです。むしろ、今後の課題として、さらに、振替制度の対象として取り扱われていない投資信託等の金融資産についても、金融機関からの情報取得を認める方向で検討すべきではないかというふうに思っております。

 他方、中間試案では、債務者の給与に関する情報について、無限定に全ての債権者が公的機関から情報を取得できるものとしていましたが、これでは過酷執行を誘発するものであり、私は反対意見でした。

 この点、この法律案では、養育費等を請求する場合や、生命身体に対する侵害による損害賠償請求をする場合に限ってこの制度を利用できるものとしています。

 養育費等を請求する場合に公的機関から給与に関する情報を取得できるものとすることについては、私も賛成できるものです。養育費の金額は債務者の収入が幾らであるかに応じて決められるものであり、債務者の収入が変わったときは養育費の金額自体を変えることもできるものであって、養育費は給与を引き当てにしているという実質があるからです。

 しかし、生命身体の侵害による損害賠償請求をする場合にもこの制度を利用できるものとすることについては、私は疑問に思っております。養育費とは違って、それが給与を引き当てとしているという実質を持っているわけではないからです。

 要保護性という意味では理解できるところはありますけれども、要保護性というものをメルクマールにしてしまったら、私が取り扱っているような、例えば、老後の資金として蓄えていたものを根こそぎ持っていかれてしまった詐欺被害者である高齢者についてはどうなのか、あるいは、性犯罪の被害者についてはどうなのか。要保護性ということをメルクマールにしてしまったら、どこまでも広がっていってしまうおそれがあるんだろうと。

 生命身体に対する侵害による損害賠償請求については要保護性が高い、しかし、財産犯罪の被害者、性犯罪の被害者については要保護性はそれほど認められないなどという区別ができるのかどうか。メルクマールとしての曖昧さが残っていると思います。

 一旦これを認めてしまうと、今後、債権者の範囲が更に拡大されていくことを私は懸念するものであります。

 次に、給与の差押禁止の下限について述べます。

 現行法の問題点として、どんなに低い金額の給与でも、その四分の一が差し押さえられることになっています。低所得の世帯の生計を支える債務者の給与が差し押さえられると、健康で文化的な最低限度の生活にも満たない暮らしを強いられるおそれがあります。既に生活保護基準にも満たないような暮らしをしている世帯の債務者に対してさえ、給与の差押えがされることがあります。憲法二十五条で保障する生存権という観点から、見過ごせない問題であるというふうに考えております。

 この点、ドイツの民事訴訟法でも、あるいは、我が国でも国税徴収法では、債務者の生活保障のために、給与の額が一定の金額に満たないときはその全額を差押禁止にするということを定めております。民事執行法でも、債務者の生活保障のために、このような定めは当然に必要不可欠であるというふうに思います。

 日弁連もその旨の提言をし、中間試案に対するパブリックコメントでも、この論点についてはかなり積極的に見直しを求める意見があり、現状よりも債務者を保護する方向での見直しを求める意見が多数寄せられていたとされているにもかかわらず、この法律案でこの点が盛り込まれなかったことは極めて残念に思います。私がこの法律案について最も残念に思うのはこの点です。

 法制審では、債務者は、給与の差押えにより生活ができなくなるときは、みずから差押禁止債権の範囲変更の申立てをすればよい、したがって、債務者に対しては、その制度の存在を教示すれば足りるというふうに考えられたようですけれども、私は疑問に思います。制度の存在を教示したからといって、債務者がみずからこの申立てができるようになるとは私には思えないからです。

 最後に、差押禁止債権の範囲変更の手続の教示について述べます。

 給与の差押えを受けた債務者が、みずから範囲変更の申立てをするのも、ましてや弁護士に依頼してその申立てをしてもらうというのも、容易なことではありません。申立てをしようにも、どんな事情を説明すればどれだけ差押えを取り消してもらえるのか、基準もなく、予測可能性もありません。

 法制審の第十八回議事録によれば、東京地裁では、平成二十九年の一年間で、給与の差押えに対して範囲変更の申立てがされたものはわずか五件しかなく、しかも、その申立てが認められたものは一件もなかったとされています。つまり、現状では、給与の差押えを受けた債務者から範囲変更の申立てはほとんどされていないし、仮に申立てをしても、ほとんど認められていないということです。

 他方、低い金額の給与が差し押さえられている事例の多さについて、同じく法制審の第十九回議事録によれば、東京地裁では、平成三十年五月七日から五月十八日まで、わずか二週間で、実際に債務者が働いている勤務先への給与が差し押さえられた事例六十五件のうち、給与の額が十万円以下のものが七件あったとされています。

 つまり、給与の差押えがされた事例のうち、一割以上は十万円以下という低い金額の給与が差し押さえられていたということです。そして、このような低い金額の給与の差押えを受けた債務者からは範囲変更の申立てができていないわけです。

 債務者にとってのハードルの高さについて、東京地裁では、生活保護を受給している方が生活保護費の振り込まれた預金の差押えを受けたケースを想定して、「差押範囲変更(減縮)の申立てをする方へ」という書面をつくっています。そこでは、生活保護を受けるに至った事情、その後の現在に至るまでの生活状況、家計の状況を事細かに陳述させるとともに、必要書類、証拠資料の提出を求めています。債務者にとってはハードルが高過ぎると私は思います。

 この書面を参考にして、みずから範囲変更の申立てができた債務者がどれだけいたのか、ここ数年で一人でも二人でもいたのかどうか、ぜひ調査していただきたいと思うところです。

 今後、債務者に教示すべき事項と教示のあり方について、これは最高裁判所規則で定められることになるようですけれども、申立てに際して債務者が明らかにすべき事項の例示とその提出資料の例示は必須であると思います。

 ただし、完璧な、申立てさえすればすぐに認められるような、そんな申立書のつくり方まで教示しようとする必要はないと思います。生活保護の申請について、いわゆる水際作戦というものが問題になりますけれども、債務者に対し範囲変更の手続を教示することが、間違っても、申立てを諦めさせる方向に働くようなことがあってはならないというふうに考えます。不十分な内容でもよいから、不備があれば必要に応じて追完すればよいから、とにかく、低所得の債務者が差押えを受けたときは誰でも簡単に申立てができるように誘導するための教示が求められると考えます。

 そして、改正法の施行の前後で範囲変更の申立て件数がどれだけ変わるのか、例えば、申立て件数がふえた裁判所と余り変わらない裁判所があったとすれば、その違いはどこにあるのか、その効果測定はぜひお願いしたいというふうに思います。

 債務者の生存権にもかかわる問題を、今までどおり百五十三条の手続に、債務者がみずから申立てができるかどうかということに委ねたままでよいのかどうか。その効果測定の結果次第で、改めて、今度こそ、給与の差押禁止の下限の定めを民事執行法の中に導入することを実現できるように、今回の手続教示の導入を、これで終わりではなく、まず第一歩としていただきたいというふうに思っております。

 私からは以上です。(拍手)

葉梨委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

葉梨委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。宮崎政久君。

宮崎委員 自由民主党の宮崎政久です。

 四名の参考人の先生方、きょうは大変貴重な御意見をいただきました。本当に心から感謝を申し上げます。ありがとうございます。

 限られた時間でありますので、全ての先生に御質問できないかもしれませんが、御了解いただきまして、質問させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 今回の民事執行法の改正法案の大きな柱の一つが、現行の財産開示制度の見直しにあります。まず、この財産開示について御質問したいと思います。

 私も、二十年、弁護士として実務の現場で仕事をして、この国会にやってまいりました。貸金の返還請求であっても、また合間先生からは被害者のお話に触れていただきましたけれども、交通事故でも犯罪でも、被害者からの損害賠償請求、また松浦先生からは離婚を伴う話もいただきました、離婚の際の養育費の支払い請求なども含めて、権利の実現ということに関しては、常に弁護士というのは悩みがあり、また実務の現場では非常に苦労の多いところでございます。

 本案、つまり裁判で勝つことができても、判決内容を執行する場面になると、裁判で確定した権利を実現することが困難な場合があるわけであります。その一つの大きな原因が、債務者がどこに財産を有しているのかについては債権者が特定をしなければならず、その特定が非常に難しい。私も、債務者の住所地近くの金融機関全てに対して全店照会をかけて債務者の財産状態の把握をしようとしたけれども空振りに終わったという経験ももちろんございます。今回の財産開示制度の見直しによってこの問題が改善されることが期待されておりますし、私もこれは大変期待をしているところでございます。

 山本参考人が書かれました「金銭執行の実効性確保のための立法論的検討」という論文を読ませていただきました。従前の日本の執行制度は、債務者保護にバランスが傾き過ぎている、その原因の一つに、民事執行法などの手続法は、いわゆる私法、公法という意味では公法に考えられているという指摘があり、また、今の司法界における司法制度改革が、頼りがいのある司法を目指して、一石を投じたと。山本参考人を始め皆さんが、和解を勧める裁判官が、執行制度のゆがみのもとで、司法制度に対して国民の皆様から不信感を抱かれることになるなどの問題意識を持たれたことなどもあって、今回の法改正に結びついたと思います。

 山本参考人の先ほどのお話の中で、日本の法制度の課題は実効性の確保なのであって、日本では司法制度の利用がシュリンクしている、収縮しているという御指摘もあったところであります。

 そこで、この財産開示制度の見直しのうち、新設をされる第三者からの情報取得手続について、対象とされる第三者とその情報の具体的な範囲を定めるに当たってどういう視点があったのか、お聞きをしたいと思っています。また、今、決める段階でこう言うのもなんですけれども、今後、これを拡大していこうというふうに考えたときにはどういう点に留意をしていったらいいのかということを、今回の法制度に当たって、山本参考人の御意見を聞きたいと思います。

山本参考人 御質問ありがとうございます。

 今のお尋ねは、第三者に対する情報取得の制度で、第三者を定める際にどのような点を考慮すべきか、それが今後どういうように拡大していく可能性があるかという御質問であったかと思います。

 部会の審議等で恐らく前提とされたものは、まず第一に、債権者側から見た必要性という点がやはりあるんだろうと思います。

 今の現状では、第三者から情報を取得できないと、なかなか執行ができない。今お話があった預金情報というのはその典型的なもので、最高裁判所の判例は、金融機関だけを特定するのではなくて、更にその支店まで特定しなければならないと言っているわけですので、これはまさに莫大な数の申立てをしないとなかなかヒットしないという状況になる。そこで、事前に金融機関から口座情報を取得するということが、執行制度を実効化するには必然的なもの、不可欠なものということが認識された、そういう債権者側から見た必要性というのが一方である。

 他方では、第三債務者のやはり負担という問題があるんだろうと思います。

 第三債務者というのは、民事執行法の泰斗である中野貞一郎先生の教科書には、世界の中で最も不幸な人たちである、債権者と債務者の争いに巻き込まれて、自分は何の責任もないのにいろいろな負担を押しつけられる存在であるという御指摘がございます。

 そうであるとすれば、やはり第三債務者にできるだけ負担をかけないような形で執行制度、特に債権執行制度をつくっていく必要がある。

 そういう観点から見れば、今の預金のような場合には、当然、金融機関の社会的責任という問題もありますし、それから、何よりも、口座情報というのは既に金融機関の中でコンピューターで把握されており、ほとんど一挙手一投足で、その債務者の口座があるかどうかということが把握できる。そういう意味では、第三債務者にかける負担というのが非常に小さいという観点を踏まえてこのような制度がつくられたということです。

 したがって、今後、この制度をもし拡大していくのであれば、今のような点、債権者からどの程度この制度によることが必要なのかという点と、それから第三債務者に対する負担が過度なものにならないのかどうかという点を考慮しながら、制度の拡大の必要性、対象について考えていくべきものと考えております。

 私からのお答えは以上でございます。

宮崎委員 ありがとうございます。

 第三者からの情報取得制度を設けるに当たっての点、もう一点、聞きたいと思います。

 国内における問題点を把握することはもちろんですけれども、比較法的にいろいろなことを考えていくことは大変重要だと考えております。

 山本参考人がお書きになりました「フランス法からみた金銭執行の実効性確保」という論文も読ませていただきました。端的に申し上げて、フランスなどの諸外国での、どういう制度が採用されていて、それで、今回の法改正に、我が国の法制化に当たって示唆を与えてくれた点を御説明いただきたいと思っています。

 先ほどの御発言の中でも、国際的潮流から見ても一刻も早く成立することが求められるという、最後に現場というか法制を考えた上でのお声がありましたので、こういった比較法的な観点からの御説明、少し付加していただければと思います。

山本参考人 御質問ありがとうございます。

 比較法的な観点ということでありますけれども、この点につきましては、法制審議会が始まる前に、私ども民事手続法の研究者で研究会を組んで、かなり多くの国を調べました。そして、実際に実地にも参りまして、私もフランスとか韓国に参りまして、その状況についてお話を伺ってまいりました。

 そこで我々が得たことは、やはり、債務者の責任財産に関する情報の探知というのは本当に世界的な課題になっていて、それぞれの国が毎年のように法改正等を行って、債権者が情報を探知できるような制度、当然、債務者の個人情報、プライバシーとのバランスということもありますけれども、それに考慮しているということであったかと思います。

 これは、例えば中国などは、もっとはるかに先を進んでいる、そこまで行くのがいいかどうかわかりませんけれども、債権者側で債務者の財産を特定しないでも、裁判所の方が責任を持って調べるというような制度をとっております。中国は、いろいろそういう個人情報を国家機関が調べるような制度があるようでして、それを裁判所の方が責任を持って調べて、その執行が本当に成功するかどうかは裁判所の責任であるというような考え方がとられています。

 そこまで日本等が進むということはないと思うんですけれども、韓国やドイツなどでも、先ほどの、財産開示の制度をより実効化するために、財産開示に従わなかった債務者の名簿を公表するというような制度を持っております。この制度が、財産開示制度を実効化するにおいては非常に重要な意義を持っているということでありまして、そういう自分の情報を開示されたくないがために財産開示に応じるというような債務者も相当数いるというようなことを現地で伺ってまいりました。

 そういう意味で、債務者のプライバシー、個人情報とのバランスというのを図りながら、諸外国もさまざまな試みをしているというところがございまして、日本も今回その中で、国際的潮流から見れば、私から見るとややおくれていたところがあったところ、その国際潮流に従った方向で改正がなされようとしている、私の比較法的な理解はそのようなところであります。

宮崎委員 ありがとうございます。

 次に、合間参考人にお伺いをしたいと思います。

 犯罪被害者の被害回復という視点から、第三者からの情報取得制度の新設が使いやすい制度であるのかどうかということについて、先ほど大変貴重な御示唆をいただいたと思っております。

 私自身も、現場で弁護士として仕事をしていく中で、幾つもありましたけれども、やはり、性犯罪の被害者の方の支援をしているときに、先生が先ほどお話しになったようなことと同じように、壁にぶち当たって、山本参考人がお話しになった言葉で言えば、やはり司法制度の利用が収縮してしまうような場面に直面したことは幾度となくありました。

 先ほど御指摘もいただいているんですが、少し簡潔に、もう少し補足していただいて結構ですので、使いやすい制度であるためにはこうあるべきじゃないかということをもう少し付言していただけたら大変助かります。

合間参考人 質問ありがとうございます。

 使いやすいということでいえば、金融機関、特定を申立人側がするというのはやはりかなり負担感があると思いますので、そこの部分が、できるだけ網羅的に調査をできるような形ができればいいかということです。

 それから、先ほど山本先生からもお話ありましたけれども、中国の話がありましたけれども、ノルウェーとかスウェーデンでもやはり、強制執行庁とか回収庁というような名前で、行政機関が強制執行をするというところ、債務名義をとった上でですね、詳細はあれですけれども、ということがあります。

 そういった形で、国家がある程度のそういったことをするということは、いろいろ問題もあるとは思いますけれども、どこまでかということでやっていくということはあり得るのかなと。

 ただ一方で、私はノルウェー、スウェーデンしか知らないんですけれども、そこの場合は、債権者側もそうですけれども、同時に債務者側の更生とかそういったことも同じ機関が一緒に扱っていて、そのバランスの中でそういった回収を図っていくという制度のたてつけになっていますので、一方に偏らない形でやるということも必要かなというふうには思っています。

 ちょっと、お答えになっているかわかりませんが、以上です。

宮崎委員 ありがとうございます。

 冒頭、先ほど御説明いただいたことも含めて、よく私たちもかみしめていきたいと思っております。ありがとうございます。

 子の引渡しの方に移りたいと思います。

 子供の引渡しの強制執行において重要な役割を果たすのは執行官であります。執行官については、これまでは何か建物の明渡しとか不動産とか動産差押えみたいな場面に登場するというイメージが強かったわけでありますけれども、今後は、子の引渡しの強制執行においても役割は非常に大きくなっていくと思うわけです。

 山本参考人の「執行現場における現状と課題」という論文を読ませていただきました。平成十六年の六百五十人をピークに漸減していて、平成二十九年時点は三百三十八人にまで執行官が減少している、昭和五十三年以来、四十年ぶりの低水準だと。男女別の構成を見ると、男性のみで、いまだかつて女性はおらず、山本参考人の言葉をかりれば、現在の日本では驚異的なジェンダーバイアスを示している、こういう指摘が書かれておりました。

 今後は、従来の業務に加えて、子の引渡しという新たな役割が付加されるとともに、こうした分野でも女性の皆さんにも仕事をしっかりしていただかないといけないという意味で、執行官の育成、将来像、こういったところについての山本参考人のお考えを聞きたいと思います。

山本参考人 御質問ありがとうございます。

 執行官につきましては、今御指摘がありましたように、最新の数字では恐らく三百人を割るような水準になっているというふうに承知をしています。

 これは、執行事件全体が減少しているという面もありまして、報酬体系の問題などから、なかなか新しい執行官を現場に投入できないような状況になっているということで、私は、かなり現在の執行官制度というのは危機的な状況にあるというふうに思っております。

 他方では、きょうもお話があった、子の引渡しなどにおいては専門性というものが重視されるようになっているという、先ほどお話があったところでありまして、そのとおりだろうと思います。また、今お話があったように、女性の登用、子の引渡しなどということを考えると、やはり、女性もこの執行官というところに参加していくということは不可欠だろうと思います。

 そういう意味では、現在の報酬の体系から見て、有為な人材、必要な人材、その専門性を確保できるような制度にうまくなっているのかどうかということは、やはり抜本的に考えなければならないような時期に来ているのではないかというのが私の認識でございまして、この執行官制度というものについても、ぜひ目を向けていきたいというふうに私自身は考えております。

宮崎委員 ありがとうございました。

 きょうお聞きをしました参考人の皆さんの御意見をしっかりと踏まえて、速やかに適切な立法措置を図っていくことをお約束申し上げまして、質問を終わらせていただきます。

 本日はありがとうございました。

葉梨委員長 以上で宮崎政久君の質疑は終了しました。

 次に、遠山清彦君。

遠山委員 公明党の遠山清彦でございます。

 私からも、四名の参考人の先生方に、貴重な御意見を賜りましたこと、心から感謝を申し上げたいと思います。

 時間の関係で全ての参考人の皆様にお話を伺えないかもしれませんけれども、御理解のほど、よろしくお願いいたします。

 私、まず、子の連れ去り問題の解決というのが今回の法改正案の一つの柱でございます。先ほど来話がありますとおり、強制執行の実効性を高める、担保していくということが非常に重要な論点かというふうに思っております。

 これをもっと具体的に申し上げますと、先ほど松浦参考人からも御指摘がありましたように、親権者、債権者が子供の引渡しを求めた件数、昨年は百七件、全国であったわけですが、約三割しか実現をしていないという現状。この数字がこの改正案が成立した後に改善していくのかどうかというところに国民の多くの皆様は関心があるんだろうというふうに思っております。

 そこで、まず一つ目の質問は、山本参考人と松浦参考人、両人にお伺いをしたいと思いますが、先ほど来お話を伺っておりますと、抵抗されている債務者、あるいはその関係者、先ほど、債務者の両親とか親戚が出てくることもあるということが松浦参考人のお話の中でありましたけれども、執行官が、そういう抵抗している方、子の引渡しに抵抗している方々の説得に当たるんだというお話がありました。そうすると、先ほど山本参考人のお話の中で、執行官制度自体がちょっと危機的だというお話があったんですが、私の関心は、そういうさまざまな御家庭御家庭でかなり事情が異なる、場合によっては非常に難しい現場で説得に当たる執行官の方々の訓練とか教育というのは、この日本においてどうなっているのかということに私は関心があるんですね。

 実は、私自身、イギリスの大学で修士号と博士号、平和学というのをやっておりまして、私が受けていた大学院教育の中では、紛争解決の理論と実践というようなテーマの授業がありました。日本の大学では、当時はほとんど教えられていなかったんですね。そういう授業をとっていた私としては、紛争解決の、弁護士の皆さんが受けている専門性の訓練とはまた別に、交渉術とか、俗な言い方をすると交渉術とか言われるものなんですけれども、いきり立っている、場合によっては暴力に訴えかねない相手を前に、どういうふうに交渉していけばそこを解決に導けるのかということを理論的に、実践的に追求するような授業がイギリスの大学でございました。

 そういう観点から、執行官の訓練とか教育というのはどう行われているのか、あるいは改善点があるとすればどういうところなのか、両参考人に伺いたいと思います。

山本参考人 御質問ありがとうございます。

 執行官の訓練の問題であります。私が承知しているところでは、現在の執行官の大多数は裁判所職員の経験者であるというふうに承知をしております。そういう意味では、裁判所職員時代のさまざまなやりとり、これは書記官であり事務官としての、債権者等とやりとりをすることがあるわけでありますけれども、そこでかなりの程度、そういうある種の説得の技術とかそういうものが涵養されていくのではないかというふうに承知をしております。

 その後、裁判所職員総合研修所というところがございまして、これは裁判所職員全体の研修の場ですが、そこでも執行官に対して一定の研修が行われているのではないかというふうに思います。

 ただ、実際にはやはりかなりの程度がOJTに委ねられている部分が多くあって、委員御指摘のような形で、体系的な形で教育というか研修が行われているという状況には必ずしもない。先ほどの執行官の人数の問題もありますし、かなり忙しいという点ももちろんあると思います。

 そういう意味では、やはりもう少し体系的な形で教育がなされ、訓練がなされるということが恐らく望ましいというふうには思っていますが、それに対してどういうような形で基盤の整備を図っていくのかというのが問題になろうかと思います。

 私からは以上であります。

松浦参考人 私はちょっと執行官の研究制度というのは存じ上げないので、余りお話しできることはないのですが、司法修習のときに執行官の方とお話をしたり執行についていったりする中で、OJTでかなり経験を積まれている部分が大きいのかなというふうに思いました。

 執行官の方というのは総じて、体格が非常によい、見た目がいかつい男性の方が多いのですが、ただ、反面、そんなに威圧的にお話しされることはほとんどなくて、比較的物やわらかに交渉される方が多いような印象を受けておりますので、そういう意味では、子の引渡しの執行の場でも、相手方が、男性がおられてちょっと暴れそうだとかいう場合でも、体格が割と大きい方がおられると少しおとなしくなったりというのはありますし、反面、怒らせるようなことは言われないので、そういう意味では説得がうまくできる場合もあるというふうには感じております。

 済みません、以上です。

遠山委員 松浦参考人、大変貴重な、体格のいい方じゃないとなかなか執行官になれないというと、私はすぐなれないんですが。

 もう一つ、松浦参考人にちょっと今の話の続きで伺いたいんですけれども、先ほどの陳述でもございましたが、今度は子供に配慮しなきゃいけないというのが大きな視点なんですね。

 そこで、今回の改正案の中でも、児童心理学等の専門的知見を有する者の協力というのが現場で大事だということで、先ほど松浦参考人のお話の中では、家裁の調査官のOBの方が集まっている団体があって、そこから派遣を受けたりしているということなんですけれども。

 先ほど、体格のいい方が行くと、抵抗している債務者あるいはその関係者が少しおとなしくなるという非常に現場的なお話があったんですが、今度、その場にいるお子様に、特に十歳以下のお子様が多いとおっしゃっていたので、お子様の心身に悪い影響がないように配慮していかなきゃいけない。そうすると、そういう人材も必要なんだと思いますが、率直に、そういう人材が日本で足りているのか、それからもう一つは、そういう人材はいるんだけれども、そういう執行現場に確保するのが実はすごく大変なのではないかと素人的にはちょっと考えるところがあるんです。

 そういった、児童に対する専門人材は足りているのか否か、また、いるんだけれども、本当に今度、じゃ、執行現場で確保できるようになっているのかどうか、その点について松浦参考人からお伺いできればと思います。

松浦参考人 足りているかどうかといいますと、非常に難しい問題がありまして、恐らく、東京、大阪には非常に人が多いけれども、地方に行くと難しいということではないかというふうに思っています。

 法制審の部会の議事録で見たことなので山本先生の方がお詳しいかもしれませんけれども、割と遠方に要請があると、東京のFPICの方がお話しされていたんですが、長野に来てくれと言われて、交通費の問題で断ったというふうなことが出てきましたので、地方に不足しているということだというふうに思っています。

遠山委員 これは、済みません、松浦さん、続けて。

 簡潔で結構ですが、今、交通費の問題で断ったという方、おっしゃったと言っていましたけれども、これは、交通費の負担というのは原則債権者なんですか。それとも、交通費が高いから断ったというお話だと、派遣される専門家自身が負担して長野まで行かなきゃいけないから、そこは自己負担だから断ったということなのか。普通は依頼元が負担するのかなというふうに思うんですが、そこをもう一回お答えしていただいてもよろしいですか。

松浦参考人 済みません、ちょっと私も議事録を見ただけなのではっきりはわからないんですけれども、ただ、問題意識としては、多分、事前打合せが必要なんだけれども、それが十分にできない。少なくとも事前打合せの交通費等は出ないようでして、日当とかも出ないようでして、そこがネックになったという話だったのだと思います。

 詳しくは山本先生の方が御存じだと思います。

遠山委員 ちょっと持ち時間もありませんので、山本参考人に、今の私がやりとりした点について、もし補足でお話があればお伺いをしたい。

 特にこの交通費の問題で、子供に配慮するために必要な専門家が執行の現場でなかなか確保できないということがあれば、幾ら法律を変えてもこれは実態上は絵に描いた餅になってしまいますので、そこの部分、例えば国がもうちょっと負担を、交通費ぐらいすればきちっとできるのかどうかも含めて、御見解を伺えればと思います。

 それからもう一つ。もう時間がないので、これは最後の質問に、山本参考人にさせていただきますが、今、児童虐待の問題が、国会で、違う法案で話題になっているわけですが、これについては、加害者の親、被害者の子供、そして、学校、児童相談所、病院、警察、こういった関係機関の連携をもうちょっと強化しなければいけないというのが大きな主張になっていて、ここは与野党、余り不一致はないと思うんですね。

 今回の子の連れ去り問題の解決で、警察とか学校とか、場合によっては病院、まあ病院というと今度虐待の話が出てきちゃうのかもしれませんが、こういった、執行官とか専門家とか以外の、関係する可能性のある機関との連携とか関与というのもケースによっては必要なのではないかというふうに思いますが、その点については、慎重にやった方がいいのか、それとももう少し積極的に、非常に抵抗が強い場合は警察の立会い等も求めた方がいいのか、その点もあわせてお答えいただければと思います。

山本参考人 ありがとうございます。

 まず第一点で費用の負担ですが、私もちょっとその議事録のやりとりを正確に記憶はしていないのですが、一般論として言えば、それは、債権者が要請して現場に行くということになると、まず第一次的には債権者負担になるんだろうというふうに思います。それが執行手続上の執行費用になるのであるとすれば、最終的にはそれは債務者の負担になる可能性はあるということになるかもしれません。ただ、その場合も、まず債権者が予納して、債務者から実際に取り立てるという形になりますので、それは実際に実効的に取り立てられるかという問題はあろうかというふうに思います。

 第二点の児童虐待について、関係諸機関の連携の必要ということがございました。子の引渡しの執行においても、私はそのような連携は必要なんだろうと思います。

 民事執行法の中には、執行官がそういう公的機関に対して一定の協力を要請することができるという規定がございますので、必要に応じて、警察であったり、また学校なども、先ほどもお話がありましたが、学校で子供の引渡しの実行をするというのは、他の児童等に対してもさまざまな影響がございますので、もしやるとすれば、学校側で、あるいは保育所等で、何らかの環境整備といいますか、そういうものを図っていただく必要があると思いますので、そこは密に執行官と連携していくという必要がある場合もあろうかと思います。

 そういう意味では、そういう関係機関間の連携の必要というのは、この場面においてもあるというふうに理解をしております。

 私からは以上でございます。

遠山委員 大変参考になりました。ありがとうございました。

 以上で終わります。

葉梨委員長 以上で遠山清彦君の質疑は終了いたしました。

 次に、山尾志桜里君。

山尾委員 参考人の皆様、きょうはありがとうございます。

 立憲民主党の山尾です。

 私の方から、まず、今も議論になっていました子供の引渡しの強制執行について。

 私、議論を聞いていますと、論点を二つ提示したいんですけれども、まず一つは、補助者として、立会人としてよりも、多分、補助者として、専門家を確保ができるのかどうか。もう一つが、確保したとして、現場のみならず事前ミーティングも含めて、きちっと専門的な関与を持てるのかどうか。ちょっとこの二つに分けてお伺いをしていきたいというふうに思っております。

 まず一点目の、専門家としての確保の論点なんですけれども、これは松浦参考人と山本参考人にまずお伺いをしたいんです。

 まず、執行官そのものの専門性を高めてもらうためのブラッシュアップという考え方と、むしろ専門家を、立ち会ってもらう、関与してもらうという考え方があると思うんですけれども、きょうのお話を聞いていると、現実的なのは後者なのかなと思いました。

 年間で百件前後ということを考えると、専門家の関与は可能かなとも思いますし、逆に、御指摘あったように、今の執行官にOJTを通じてブラッシュアップをしてもらうというのはなかなか難しいということを考えると、執行官のブラッシュアップは必要とはいえ、まずは専門家の確保、関与をどのように担保していくかという方にちょっと焦点をまず当てるべきなのかなというのが私の感覚なんですけれども、その感覚、間違っているか、ちょっとほかの考えがあるか、お二人にお伺いしたいと思います。

松浦参考人 私も、そのとおりだというふうに思います。

山本参考人 ありがとうございます。

 もちろん、執行官の専門性を高めるということも必要でありますけれども、現実的な点として、やはり補助者としての専門家をできるだけ確保していくということが必要であるという委員御指摘の点は、私もそのとおりだと思います。

山尾委員 先ほど、遠山議員からの論点にもなっていたんですけれども、とすると、確保が必ずしも十分担保されていないという原因を、金銭的な問題なのか、あるいは関連団体ともっと広く連携のネットワークをつくっていくということをすべきなのか、もしお二方から更にこんな工夫もあり得るというのがあれば、追加で教えてください。

松浦参考人 なかなか養成が難しいというのは、経済的な問題も大きいと思います。件数が少ないので、これを非常に、その研さんを積んだとしても、それで食べていけるわけではない。だから、ほかの仕事をしつつ、執行の場に専門家として関与できるというような仕組みづくりが必要なので、その点の問題が非常に大きいのではないかと思います。

 心理職の方については、先ほども申し上げましたが、基本的に子供の専門家自体が非常に少ないと思いますし、その中でしかも紛争性に強いというふうになると、非常に、よりハードルが高くなるということではないかなと。

 大阪では何件かそういう補助者に入っておられる団体についてお聞きしましたけれども、両方とも面会交流を主に支援している団体で、面会交流のスキルがこちらにも生かせるということでやっておられるようでした。

 以上です。

山本参考人 私は、つけ加えることは特にありません。

 御指摘のとおりで、FPICというような団体が中心的に活動しているということを承知しておりますが、この団体は面会交流などを積極的に進めているというふうに、そのスキルを生かそうということだと思いますけれども、特に財政的な問題というのが恐らく非常に大きいんだろうなというふうに認識をしております。

山尾委員 ありがとうございます。

 もう一つ、立会人と執行補助者ということで、やはり、その場にいるだけではなくて、事前の打合せの際に専門家のアドバイスをきちっと取り入れていくということが必要不可欠ではないかなということを思ったんです。

 ちょっと部会の議事録を見ていてびっくりしたのは、多分、これは関係官なので、実務の、政府の方かな、あるいは裁判所の方かなと思うんですけれども、要するに、立会人だと、これは執行の適正監視の役目なので、ミーティングに関与するということはおよそあり得ないと。一方で、執行補助者だと、制度的には可能なんだけれども、実際に家裁でのミーティングで補助者が関与するということは想定されていないと。ただ、全国統一ではないので、ある程度、裁判所によっては、それぞれで柔軟にやっているところもあるようですというぐらいの話だったかと思うんですね。

 山本参考人にちょっと、議論の経過を知っていらっしゃいますのでお伺いをしたいんですけれども、このことについては、つまり、専門家が確保できれば、制度上、事前ミーティングから関与してもらうことはできるんだけれども、実務上、それがうまくやれ切れていないよねという話なのか、制度上もちょっとハードルがあるよという話なのか。ちょっとそこら辺の整理や、今後の課題としてのこの検討状況を教えてください。

山本参考人 ありがとうございます。

 私が理解している限りにおいては、立会人というのは、まさにその現場で立ち会って、今お話があったように、執行手続の適正性を担保するという職務として民事執行法上規定をされておりますので、そういう事前のミーティングというようなものへの参加というのが想定されていないというのは、恐らくそこでの発言のとおりなんだろうと思います。

 他方、執行補助者というのは、これは恐らく、その補助の仕方としてさまざまなやり方があり得て、そういう意味では、事前のミーティング、執行手続を円滑に進めるために補助者がそこの場に参加して協議するということが必要なのであれば、私は、制度的にはそれは、そのようなミーティングへの参加が禁止されているということでは恐らくはないんだろうと思います。

 ただ、そこで、どの程度の参加が必要なのか、そして、先ほど来ずっとあるように、費用の問題もありますので、そういうことも踏まえて、参加を求めるのかということは各裁判所の判断等に委ねられているということを多分その発言者は言われたんだろうと思いますけれども、私は、それはそういうことなのかなというふうに思っております。

山尾委員 ありがとうございます。

 およそ一年で百件前後という件数ですから、もし金銭的な負担のところで、私たち立法府としても、やはり少し、ちょっとより踏み込んだ提案なり修正なりができるようであればちょっと取り組みたいなということは今改めて感じております。ありがとうございました。

 次なんですけれども、第三者からの情報取得の方に移りたいと思います。

 先ほど、三上弁護士の方から、なるほどと思いましたのは、やはり、給与債権に関する情報取得が可能な債権の範囲について、それこそ、給与と連動する実質を持つ養育費債権者はともかく、一方で、生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求の債権者、ここについては、要保護性という物差しはまだ不明瞭で、かなり説明として合理性にちょっと欠ける部分があるのではないかと。これは要約、ちょっと正しいかわからないけれども、こういう指摘があって、私もなるほどなというふうに思いました。

 ここで、ちょっとまず山本参考人にお伺いしたいのは、この「生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権」という中に性被害による損害賠償請求権は入っているや否や、これについてお伺いします。

山本参考人 ありがとうございます。

 私の記憶では、その点は、必ずしも法制審議会で十分な議論はなく、明確な形にはなっていないのではないかというふうに思います。そこは解釈に委ねられているところかなというふうに思っています。

山尾委員 今のだとすると、私は、身体の侵害に対する損害賠償請求権だからおよそ入るけれども、ここを曖昧にしたままいくと、本当に、事例によってまちまちですということになるのかなと。

 少し、三上参考人、この点で付加してお話し、説明いただける、あるいは懸念について説明いただけるところがあれば。ちょっと私は今、まだ法制審で特に決め打ちはできていませんという話を聞いてすごく懸念を強めたんですけれども、いかがでしょうか。

三上参考人 三上です。

 この制度を使える債権者に性犯罪の被害者が該当するかどうかということを執行裁判所が事案ごとに判断していくということでいいのかどうかということについては疑問に思っていますし、債権者の種類について、要保護性をメルクマールとして区別していくときに、今のは生命身体の侵害による損害賠償請求債権者に当たるかどうかという解釈論の問題ですけれども、今後の立法政策として考えるときには、やはり私は、要保護性をメルクマールにしたら、高齢者の消費者被害に遭って老後の蓄えを根こそぎ持っていかれてしまった高齢被害者というのも大いに保護すべき人だと思いますし、それを基準にしてしまったら、友達に貸したお金を返してもらえない人の債権について、これは要保護性がそれほど高くはないと言っていいのかどうかという問題もあると思いますので、なかなか、この制度を使える債権者の範囲を要保護性をメルクマールとして決めていいのかどうかということについては、私は疑問に思っているところです。

 以上です。

山尾委員 例えば、この点について、合間弁護士も、やはりさまざまな態様の被害に遭われている犯罪被害者の方々と接してこられたと思うんですけれども、もし今の論点で御意見があれば、お願いしたいと思います。

合間参考人 合間です。

 私は、性被害は生命身体に入る、当然のことと思っていましたので、今ここでそういう御指摘があるというのはちょっと、少し当惑しているというところでございます。

 それから、要保護性を基準にするというお話もありましたけれども、生命身体に関する罪ということで、いろいろな法律で、例えば被害者参加であるとか、そういった形で区分けをして、ある程度明確な形というのはできると思うので、どこまで広げるかということは、当然、政策判断なので、要保護性だけがどうだという話にはならないと思いますけれども、必要な者に対してきちんと権利の執行を認めていくという立場からすれば、ある程度明確な基準として認められてもいいのではないかなというふうに私は思っています。

山尾委員 これはもう一度、山本参考人に戻りたいんですけれども、そもそも、この範囲を生命身体の侵害による損害賠償請求権というふうに区切ったというか、広げたというか、そこの制度趣旨ですよね、そこのところをちょっと本質的に御説明いただければと思います。

山本参考人 先ほどの私の発言ですが、もちろん、性犯罪の場において身体が傷つけられたというようなことがあれば、それはこの要件に該当することは明らかであるということですが、そういう身体的な傷害とはされないような形での性犯罪というのがもしあるとすれば、それは解釈に委ねられているということを申し上げたということでございます。

 これに限った趣旨でありますけれども、先ほど来申し上げておりますように、この問題というのは、一方では債権者の要保護性と、他方では第三者に与える負担、債務者の個人情報、プライバシーの問題がありますので、その範囲を慎重に画するということで、基本的には、異論のないところをできるだけ絞り出そうということであったということです。

 生命身体に限定するというのは、私の承知している限りでは、他の法制においても、例えば、破産法で免責の効力が及ばない非免責債権というのがございますけれども、それについて生命身体に限定するとか、あるいは、民法の時効の規定においてもこういうものが入ったというふうに理解をしておりますけれども、他の法制においても、生命身体に限定する形で特に強く保護するというような政策がとられている部分というのはございますので、それを踏まえて、今回、その範囲を限定したというふうに理解をしております。

山尾委員 なるほど。少しここは、この委員会の場でも、対政府も含めて、議論をきちっとしていく必要があろうかと思います。

 やはり、性的被害の保護法益、何を一番大事なものと位置づけるかは、議論が進んで、発展しているところでもありますし、あわせて、三上弁護士がおっしゃった、要保護性という物差しだと、それは、じゃ何を保護する、何をどう優劣をつけるのかということも確かに私も論点としてあると思いますので。

 時間が終了しましたけれども、しっかり質疑をして、よい形で立法府としていい法案にしていきたいと思っておりますので、本日はありがとうございました。

葉梨委員長 以上で山尾志桜里君の質疑は終了いたしました。

 次に、階猛君。

階委員 参考人の皆様、本日は、お忙しいところありがとうございます。

 国民民主党の階猛と申します。

 山本先生にまず二点お伺いしたいんですが、今回、情報取得手続で金融機関から得られる情報の中に私は貸し金庫契約の有無も入れるべきではないかと思っていまして、実際、貸し金庫に重要な財産が格納されているケースもあって、その引渡請求権を差し押さえるという必要性も高いのではないか。そのような議論が法制審議会の中であったのか、あったとすれば、なぜ今回含まれていないのか、その辺を教えていただきたいのが一点です。

 それから、今回、差押禁止債権をめぐる規律の見直しということで、債権については差押えの範囲変更を認めているわけですけれども、認めているというか、その使い勝手をよくしているわけですけれども、動産の差押えについては同じような仕組みというのを設けられなかったのはなぜかということも教えていただければと思います。

山本参考人 まず第一点でありますけれども、貸し金庫契約の問題でありますけれども、先ほど来申し上げていますように、対象とするについては、一方では、債権者側にどの程度のこの制度によることの必要性があるのかということと、他方では、第三債務者に対する負担ということが考慮されたということを申し上げました。

 私自身、ちょっと、部会での審議、正確に記憶はしていないのですけれども、明示的な提案としては恐らくこれはなかったということなんだろうと思います。ただ、各委員、幹事の御意見の中でそういうものもということがひょっとしたらあったのかもしれません。私自身はその程度の認識です。

 今ここで私自身の見解といいますか、それを申し上げるとすると、貸し金庫については、確かに委員御指摘のとおり、重要なものが入っている可能性もあるわけですが、金融機関から見ても、そもそも何が入っているのかというのはわからないわけですし、あけるまでは確かめるすべもないという状況があって、それから、実際に差押えが行われている件数というような点から考えても、恐らくは、銀行預金等に比べるとそれは必ずしも多いものではないということがあって、そういう意味で、債権者側の必要性というものがどの程度あるのかということが必ずしも論証は十分されなかったということがあろうかと思います。

 他方で、銀行預金のデータベースのようなものがこの貸し金庫契約について金融機関側でつくられているのかということも問題としてはありそうな感じがします。その点は私自身は事実を認識はしておりませんけれども、必ずしも、そのあたりで、現段階で貸し金庫にまでこれを及ぼすというところにまでは至らなかったのかなと。

 ただ、もちろん、将来的には、その必要性というものが明らかになってくれば、そこにも拡大していくという余地はあるんだろうというふうに思っています。

 それから、第二点ですが、動産について教示の手続をつくらなかったのはどうしてかということでありますけれども、一つは、恐らく、動産についても、確かに委員御指摘のように、差押財産の変更の手続というのは存在をします。存在はしますけれども、現在は、動産執行の大宗は、そもそも差押えできる財産が現場においてないということで、終了している場合が私は多いんだろうというふうに認識をしています。

 差押禁止動産の解釈は、現在においてもかなり広い範囲で解釈がされていて、そういう意味では、あえて、もちろん、やろうと思えば、執行官がその場に、差押えの現場に行って、債務者に、こういう制度があります、だから差押禁止の範囲の拡大をする申立てをするならしてくださいというようなことを教示するという制度は考えられないではないと思いますけれども、現状においては、恐らく、預金等に比べて、そこまでそういうことをしなければいけないほどの立法事実というか必要性というものが必ずしも見出されなかったということかなというふうに思っております。

階委員 ありがとうございます。

 では、合間先生にもお伺いしたいと思います。

 先ほど山尾委員からも取り上げられた点ですけれども、今回の、給与債権、勤務先の情報を入手できる資格として、財産犯の被害者が除かれているわけですね。

 私も実は、国会議員になったのは十二年前ですけれども、当時も振り込め詐欺の被害が問題になっていまして、振り込め詐欺の被害者の救済法というのを議員立法としてつくった経験があるんですね。議員になって一番最初にかかわった議員立法でした。そのときに、やはり、被害者が多数の者であって、個々に損害賠償請求をしていくのは大変だということで、被害者のお金が振り込まれる口座、これを凍結して、破産手続と同じように、それぞれの被害者の損害賠償額に応じて、案分して被害金を返していこうみたいなことをやったんですね。

 そうした制度というのは被害者の救済の中で役立っているのかどうかというのが一点お聞きしたいのと、あともう一つは、私もちょっとうろ覚えで恐縮なんですが、私も被害者支援にかかわってくる中で、刑事手続に被害者が参加するという仕組みもだんだん拡充されてきて、そういった中で、損害賠償について刑事手続の中で和解をできる、被害者側と加害者側、そういう制度もあったと思うんですね。その仕組みというのは使い勝手がどうなのか。

 きょうのお話からはちょっと離れるんですけれども、そうした現行制度の使い勝手とか実際の利用状況などについて、もし今おわかりのことがあれば、その範囲で結構ですので、教えてください。

合間参考人 合間です。質問をありがとうございます。

 まず、財産を集めて、特に、集団的なそういう経済犯罪の被害者がお金を集めてやるというのは、とても役に立っていると思います。特に、預金を凍結して分配するというのは、こういった形で分配できますよということで案内も来ますし、結局、最終的に被害者の支援に回っているという理解で私はいます。

 それから、お尋ねの刑事手続におけるもの、刑事和解というものだと思うんですけれども、これは実際にはほとんど使われていません。刑事手続の中で和解をして、その和解のものを調書上に残すというようになるとは思うんですけれども、刑事手続が進んでいる中で和解をするというと、結局、訴外の示談というのがあって、お金が払われればそれで、特に更に債務名義まで必要になるかというと、今度は長期の分割の話になるので、そういったものが、じゃ、刑事手続が進んでいる中で加害者側と被害者側でできるかというと、なかなか、余り事例はないという理解でいます。

 私自身、一件経験はありますけれども、そんなに使われているわけではなくて、今はやはり、損害賠償命令というのがございますので、刑事手続が終わった後に、その証拠資料を使って、その後に民事的なものをやるということがありますので、そこを利用することの方が多いのかなと。

 損害賠償命令手続もいろいろ、いい点もあるし、悪い面もありますけれども、むしろ、刑事和解よりは、そちらを使ってやっていくというような感触でおります。

 以上です。

階委員 ありがとうございます。

 損害賠償命令にしても、結局、執行は民事執行手続によるわけですから、今回の法改正というのがやはり重要なわけですね。

 それで、もう一点、合間先生にお聞きしたいんですが、勤務先の情報、これを取得するに当たって、財産開示手続の前置主義、これがちょっと問題じゃないかと。私も、お話を聞いて、なるほどと思うんですが、もし事前にそういう手続が債務者に知れ渡ってしまうと、当然、勤務先をかえようということとか、あるいは、勤務先との間で、情報は出さないでくれとか、そんなような、変なやりとりが行われかねないと思っていまして、この前置主義というのはやはり改めた方がいいということを私も強く思ったわけですが、その点についてもう一度お考えを明確にしていただければと思います。

合間参考人 合間です。

 三上先生からも御指摘があったとおり、どこまで給与債権の情報を取得する範囲を限るのかというのは、やはり難しい問題だとは私も思います。

 決して債権者の債権の実現だけが認められていくべきではないということについては、思っているという前提で申し上げますけれども、やはり、財産開示手続をやるということは、かなり呼出しがあって、そこに出てというような、まあ、出ないかもしれませんけれども、そういった手続があった上でということですので、やはり当然、債務者側というのは警戒しますし、給与債権をそのまま差し押さえたから必ずすぐ出てくるかというと、やはり、先ほど御指摘あったように、勤務先がかわってしまったりとかということもあるので、できれば速やかにその情報というのは取得できる方がいいと思いますし、三年間の間に勤務先をかえないかと言われると、そんなことはないと思うんですね。今の社会で、では、ずっとそこの同じ場所に勤め続けるかというと、そういうことの方が少なくなっている時代ですので、やはり少しずつ転職をしていくということもあるので、できるだけ使いやすい形にしていってほしいというのは私の考えであります。

 以上です。

階委員 三上先生にもお尋ねしますけれども、第三者からの情報取得の対象となる資産についてなんですけれども、今回の改正案では、預貯金債権とか上場株式や国債といった振替制度の対象資産ということなわけですけれども、先ほどのお話の中で、もっと幅広くやるべきだということをおっしゃっていたと思います。

 具体的にはどのような資産を対象として広げるべきなのかということについて教えていただけますか。

三上参考人 とりあえず、法制審の中で議論されていたものとしては、今回、結論としては、振替制度の対象となっている株式、社債、投資信託等に限るということにされたわけですけれども、振替制度の対象として取り扱われていない投資信託等の金融資産についてもやはり対象とすべきではないかという議論がされていたところで、最終的には法律案には盛り込まれなかったわけですけれども、それは、金融機関の側の体制が整っているかどうかとか、そういう技術的な問題だとは思いますが、今後の課題としては、やはりそれも認めさせる方向で考えるべきではないかというふうに思っております。

 やはり、債務者が、金融資産として投資信託であるとかそういう財産を持っているのに、それを隠して払わないという状態はおかしいと思いますし、法律上の差押禁止でも何でもない、債務者を保護するような必要性が全く考えられないような、そういう財産について、事実上差押えができない財産になってしまっているという状況は改めなければいけないんだろうというふうに思います。

 また、情報開示という話とは違う話になってくるかもしれないですけれども、最近でいえば、例えば仮想通貨についての差押えということについても、きちんとできるように立法的な手当てが必要だと思いますし、債務者の生活保障のための差押禁止という趣旨が働かない財産について、法律の不備のために事実上差押えができないようになってしまっているという状況は改めていかなければならないだろうというふうに思っております。

階委員 きのう、私も仮想通貨は対象に含めるべきだということをお話ししたところだったので、我が意を得たりという感を抱きました。

 最後に松浦先生にもお尋ねしたいんですが、最後の方で、子供の所在が、結局、いろいろな隠匿的な手段を使ってわからなくしてしまうようなケースがあって、それで執行不能になるケースがあるんだというお話なんですが、それへの対策として立法府としてこういうことをやるべきだというのがあれば、御教示いただければと思います。

松浦参考人 現場を経験した方とお話ししておりますと、最近は携帯電話をみんな持っておりますので、携帯電話の履歴というか発信履歴とかで所在が突きとめられたら一番効果的ではないかというような話はしております。

 ただ、それをどのように立法化するのか、仕組みをつくるのかというのは確かに非常に難しくて、ハーグの場合は行政機関が、外務省が関与しますのでああいうたてつけができるんですけれども、国内の執行法の場合は、じゃ、裁判所にそういう令状みたいな命令を出してもらえるのかとか、そういった問題はあるのはあって、難しいんですが、実務上、実際、仕組みとしてあればいいのは、携帯電話で所在が突きとめられる制度だと思います。

 以上です。

階委員 通信傍受法についてはいろいろ私は微妙な問題があると思っていまして、参考までに伺っておきます。

 きょうはありがとうございました。

葉梨委員長 以上で階猛君の質疑は終了いたしました。

 次に、藤野保史君。

藤野委員 日本共産党の藤野保史です。

 きょうは、参考人の皆様、本当に貴重な御意見をありがとうございます。

 早速ですが、まず山本参考人にお伺いしたいんですが、昨日、私、当委員会の質疑で、差押禁止債権の範囲変更の申立てが何件かということを聞きましたらば、二〇一七年は、給与に関してなんですけれども、給与に限りますと、申立てが五件のみで、認められたのはゼロ件だったという答弁がございました。

 これは、何でこの手続がここまで使われていないのか、ちょっと御所見を教えていただければと思います。

山本参考人 ありがとうございます。

 数字については私自身十分把握していませんが、ただ、余り使われていないということはいろいろなところで伺っています。

 その原因についてですけれども、やはり一番大きなことは、この制度が知られていないということが大きいのかなというふうに思っています。

 私は大学で民事執行法を教えていますが、法科大学院の学生には、この変更の申立ての制度だけは覚えておいてくれ、そういう依頼があった場合には必ずそれが助言できるように、これだけは覚えてくれというふうに言っておりますけれども、なかなかこの制度がまだ十分浸透していないということではないかというふうに思っております。

藤野委員 では、重ねて山本参考人にお伺いしたいんですが、では、教示すれば活用されるようになるということだと思うんですが、教示すべき事項としてはどのようなものが望ましいとお考えでしょうか。

山本参考人 この点は法制審議会でも議論になったところでありますけれども、やはり債務者にとってのわかりやすさということが重要でありますので、恐らく、単にその条文を掲げるだけというようなことでは十分ではないんだろうというふうに思います。

 こう言うとあれですが、ごく普通の人にもわかる言葉で、こういう制度があって、どこにどういう申立てをすればこういうことが認められる可能性があるのだということを、ある程度丁寧に教示をするということが必要だろうというふうに思っております。

藤野委員 三上参考人にお伺いしたいんですが、そういう意味で、申立てが行われていない理由について先生はどのようにお考えか、まずそれをお伺いしたいと思います。

三上参考人 まず、前提として、制度が知られていないということは当然あるんだろうと思いますけれども、この制度があることを知らせさえすれば申立てができるかどうかということについては、私は大いに疑問を持っているところで、仮に、この制度の存在を知った債務者が自分で裁判所に行ったらどうなるか。

 生活保護を受けている方が生活保護が振り込まれた預金が差し押さえられてしまったときに、裁判所に行ったら、なぜ生活保護を受けたのか、その後、現在に至るまでどのような生活をしていたのか、書面で書くことを求められるわけです。家計の状況として、生活保護費を何に幾ら使っているのか、支出の内訳を逐一提出することを求められるわけです。それについての領収書の提出まで指示されるわけです。ほとんどの債務者は、そこで諦めると思います。

 仮に、弁護士のところに相談に行ったら、どうか。

 これは弁護士の私が言うのもちょっとどうかとは思うんですけれども、弁護士としても、申立てをすれば確実に差押えを取り消してもらえるという見通しを立てることはできません。申立てをして認められるかどうかわからないという状況の中で、給与の差押えを受けて、まさに今、その日の生活に困っている人から弁護士費用をもらうことができるかどうか。十万円の給与のうちの二万五千円を差し押さえられてしまった方が、弁護士に相談に来たときに、弁護士費用を五万円も払うことはできないと思います。そのときに、一万円とか二万円とかで依頼を受けられる弁護士がいるかどうか、その一万円、二万円を払える債務者がいるかどうか、大いに疑問に思っております。

 制度の存在を教示すれば申立てができるようには思えないというのが私の意見です。

 以上です。

藤野委員 この申立て、私もその書面も拝見したんですが、書面も、今おっしゃられたものもありますし、あと、郵便切手が五千八十円も要るというので、数万円で困っている方に、そこまで費用的にも負担させるというのはどうかなというふうに思いました。

 その上で、ちょっと一点、松浦参考人にお聞きしたいんです。

 先ほどの御指摘の中で、家裁調査官がまず調査をして、それに基づいて判決も行われるという御指摘があったと思います。そういう意味では、家裁調査官の役割というのがやはり土台になっているといいますか、それに基づいて事前の打合せも行われて、執行に向かうという御指摘だったと思うんです。

 そういう意味で、家裁調査官、この執行とは若干、土台的な話になりますが、参考人から見て、家裁調査官の役割というのは、執行との関係でどのようにお考えでしょうか。

松浦参考人 とりあえず、執行に際して、調査官の報告書が非常に有益だということは言えるとは思います。とりあえず、生活パターン、何時に起きて、何時に保育園へ行って、何時に帰ってきてみたいなことも書いてありますし、調査官によって多少は違いますが、先ほど申し上げたように、お子さんの発達段階だとか性格だとかも記載しておりますので、そういった点で、執行に直結して役立つということはあると思います。

 あとは、相手方とか、親にもよるんですけれども、調査官がお話をされる中で、気持ちが和らいで、引き渡そうというふうに思われる方もおられるわけで、そういう意味では、執行にならないようにするというような役割が果たせる方も中にはおられるんじゃないかなというふうに思います。

 以上です。

藤野委員 それで、先ほどFPICという、ファミリー・プロブレム・インフォメーション・センターの頭文字だと思うんですが、山本参考人の著書も、私、読ませていただいて、執行官の方に女性がいないと。びっくりしたんですが、このFPICの方は、会員が八十九名で、男性五十一名、女性が三十八名ということで、二〇一七年でいえば、女性のFPICの会員が同行した方が多かったというふうにも伺っております。

 やはりそういう点で、こうした組織の協力も得ながら、このFPICは、二〇一四年のハーグ実施法を受けて、二〇一五年に最高裁民事局から、立会人や補助執行官として協力してほしいという最高裁からの依頼を受けて今の業務をやられていると認識しているんですけれども、ただ、御指摘あったように、やはりなかなか、きのうの話ですと、昨年でいえば、子供の事件、八十三件中四十七件が補助官なり立会いとして専門家がついていった、だから五割、六割にとどまっているという答弁もありまして、やはり今後、執行において子の利益を配慮していくという上で、FPICを始めとしたいろいろな形の協力というのは必要だと思うんです。

 山本参考人にお伺いしたいんですが、先ほど財政的な支援がやはり大事だという御指摘があったんですが、その点についてもう少し付言していただければと思うんです。

山本参考人 私も、FPICを始めとして、このような活動をしている団体がどういう財政基盤を持っているかということを必ずしもよく承知しているわけではありませんけれども、仄聞するところによると、なかなか、会費収入とか寄附金とかそういうもの、必ずしも安定的ではない財源で組織全体が運用されているということでありますので、可能であれば、かなりこういう公的な役割を果たすところでありますので、公的な形での支援も含めて考えていただく必要はあるのかなというふうに思っております。

藤野委員 合間参考人と三上参考人にお伺いしたいんですが、今回、財産開示手続違反者に対して罰則が強化されるということであります。罰則強化は両面あると思うんですが、それぞれについて、参考人、どのようにお考えでしょうか。

合間参考人 罰則強化によって財産開示が速やかになされるのであればいいとは思うんですけれども、先ほども申し上げましたとおり、結局、自主申告という制度設計自体は変わらないので、いたずらにただ刑罰を重くすればいいというふうに直結するかと言われると、個人的には、余り、実効性という意味では、ないのかな、むしろ第三者からの情報取得とか、そういったところを充実させていった方が実益があるのではないかなというふうには感じています。

三上参考人 手続違背に対する罰則の強化という、手続違背といってもいろいろありまして、いわゆる虚偽陳述、実際持っている財産について隠しているというような虚偽陳述について罰則を強化する、刑事罰を科するというところは理解できるところですけれども、期日に出頭しなかった不出頭の場合まで刑事罰を科すということについては、私は疑問に思っております。

 あと、法定刑について、懲役刑まで科すというのは行き過ぎではないかというふうに思っております。いわゆる換価すべき財産を持たない債務者にとっては、開示すべき財産を持たない債務者にとっては、ただ単に、自分がどこで働いているか、勤務先に関する情報を開示することを強制される手続になるわけで、そういう零細な債務者に対しては、心理的な威嚇力として余りにも強過ぎる、過度な負担ではないかというふうに思っております。

 他方では別の面もありまして、本当に財産を持っているのに、それを隠すつもりで、確信犯的に出頭しない悪質な債務者にとって、実際にこのペナルティーを科すことができるのかどうか。現在は、過料の制裁については、債権者から上申書を出せば、ほぼ確実に過料の制裁を科されているわけですけれども、検察官が起訴するかどうかに委ねられたときに、起訴裁量によって悪質な債務者がかえって見過ごされてしまうという問題もあるかもしれないというふうに思っております。

 あと、もう一点、済みません。財産開示の手続違背について、三十万円の過料では不十分であるとして、五十万円以下の罰金、六月以下の懲役という刑事罰を科すという方向にしようとしているときに、他方で、債権者が得た情報を目的外に使う目的外利用については、従前どおり三十万円の過料にとどめるということになっております。

 出頭しない債務者に対しては懲役刑を科す、目的外に利用した債権者については三十万円の過料というのも、ちょっとバランスを欠いているのではないかというふうに私は思うところです。

藤野委員 ありがとうございます。

 続いて、三上参考人にお伺いしたいんですが、先ほど、申立てについて、なかなか教示では難しいというお話だったんですが、一方、教示という制度が始まるという段階で、これを実効あらしめるためには、例えば、どのような教示というのがいいんじゃないかというような、もしお考えがあれば、教えていただければと思います。

三上参考人 やはり、範囲変更の申立てをするに当たって債務者が明らかにすべき事項と提出すべき資料の例示は必須だろうというふうに思います。あと、実務上は、その申立書のひな形を同封するということも求められるだろうと。

 勤務先、複数の仕事をかけ持ちしているとか、給与収入はわずかだけれども財産はいっぱい持っているとか、いろいろな例外的な事情はありますけれども、典型的なケースを念頭に置けば、給与が幾らしかありません、預貯金も数万円しかありません、ほかに収入はありません、財産もありませんという債務者は、そのことさえ明らかにすれば申立てをすることができるように、低所得の債務者が差し押さえられたときに誰でも簡単に申立てができるようにと促すような教示が必要であろうというふうに思います。簡単なサンプルが求められると思っています。

藤野委員 最後になるかもしれませんが、そうした申立て、ある意味、正確な表現かどうかわかりませんが、事後的な救済で救っていこう、変更を申し立てればいいじゃないか、そういうたてつけで、それを促進しようということで、今回、教示という制度も導入されるんですが、三上参考人にお伺いしたいんですが、やはり、そういうやり方がなかなか実効、ワークしていないもとで、下限を設けるべきではないか、給与の差押禁止について、こういう御指摘があったと思うんですが、この点についてもう少し付言をいただければと思います。

三上参考人 せっかく今回、手続の教示というのが導入されることになりますので、ぜひやっていただきたいと思いますし、これを導入することによって、範囲変更の申立て、今まで使われていなかったものがきちんと使われるようになるのかどうか、申立て件数がこれからふえていくことになるかどうかということについての効果の測定は必ずやっていただきたいというふうに思います。

 やはり、相変わらずこの手続が使われないというような事情があれば、今度こそ必ず給与の差押禁止の下限を設けることが必要であろうと。日弁連の提言としては、給与の額が十万円に満たないときは、その全額について差押えを禁止する、その債務者について扶養家族があるときは、扶養家族の数一人につき四万五千円を十万円に加算した金額について差押えを禁止するということを提言しているところです。

 そういう、債務者から申立てがなくても、法律で差押禁止の下限を設けるという制度を民事執行の中にぜひ入れていただきたいというふうに思っております。

藤野委員 本日は、大変貴重な御意見をありがとうございました。

 質問を終わります。

葉梨委員長 以上で藤野保史君の質疑は終了いたしました。

 次に、串田誠一君。

串田委員 日本維新の会の串田でございます。

 きょうはどうもありがとうございます。

 最初に、山本先生と松浦先生にお聞きをしたいんですが、子供の執行というのはできればない方がいいと思います。なければ問題が起きないんですけれども、現実に今あるからこういったようなことの法律の規制があると思うんですけれども、私が一番気になるのは、そういう状況のときの子供へのメンタル的なショックだと思うんですよね。

 要するに、今回は、債務者がいなくても執行ができるというようなことでありますので、子供がひとり部屋にいるときに、急に人がやってきて、そして執行されていくというようなことに対する非常なショックというのがあると思うんです。

 債権者が立会いがあるということなんですが、この立会いというものの概念というのをもう少しちょっと明確にしていただけるとありがたいんです。

 今、立会いで何だといって非常にかたい感じなんですが、本当の現場に行きますと、非常におびえる子供に対して、例えば、お父さんだよとかお母さんだよと言って部屋に入って、おいでとかというようなことが現実にはあるのかなと。知らない大人が子供を引きずり出そうとしているときに外で待っているだけなのかどうかというのは、そこら辺もちょっと気になるところなんですが、この立会いというのは、今、言うと執行のちょっと補助みたいになってしまうんですけれども、立会いというのはどこまでができるというふうにお考えでしょうか。

山本参考人 ありがとうございます。

 法律の条文によれば、債権者がその執行の場所に出頭した場合に限りすることができるということになっております。

 委員御指摘のように、この場合に、債権者が出頭して、それでどのようなことができるのかということが問題になろうかと思います。

 基本的には、これについては、執行官の権限の問題として、法案だと百七十五条の一項二号になろうかと思いますが、債権者若しくはその代理人と子を面会させることができるというようなことが規定をされておりますし、その執行場所に債権者又はその代理人を立ち入らせることもできるということになっております。

 したがって、執行官がそういうことを許可するというか、執行官の権限の範囲内の前提ということでありますけれども、今委員御指摘のような形で、債権者を部屋に立ち入らせて、そして子供と面会させて会話をさせるというようなことも制度上可能であるというふうに理解をしております。

松浦参考人 執行現場での話は山本先生につけ加えることはほとんどないんですけれども、お子さんのメンタルの面のケアという観点からすると、執行の場でのケアも、配慮も十分にする必要はありますが、事後的にやはりケアをする必要はあるのではないかなというふうに思っています。

 それは、引渡しに限らず、例えば、最近は面前DVが注目されていますけれども、親が対立している場合のお子さん一般の問題でもあるんですが、特に子の引渡しの執行に関して言うと、事後的なケアが本当は必要なんだろうなと。それは、執行の制度としてではなくて、行政として何らかの仕組みが本当はあった方がいいのではないかなと思っています。

 以上です。

串田委員 先ほど言いましたように、本来は執行するようなことがないのが一番いいんですが。

 またちょっとお二人にお聞きしたいんですけれども、こういうような連れ去りという問題が、日本は、アメリカから不履行国という認定もされているぐらい、ほかの国と比べると比較的にそういった面が多いのかなという気がするんです。

 本来であれば、そういったことがなければ子供に対するメンタル的なショックもないんだと思うんですが、我が国が、子供を連れ去るということに対して少し寛容し過ぎているのではないかという認識を私は持っているんですけれども、両先生はその点どうでしょうか。

山本参考人 御質問ありがとうございます。

 お答えすることは大変難しい問題だというふうに思います。

 数として、日本が、連れ去る事案というのが世界的に多いのかどうかというのは、ちょっと私自身、手元に統計がないので、必ずしもわからないところですけれども、寛容かどうかという点を法制度から見れば、確かに御指摘のように、アメリカの一部の州だと思いますが、においては、これを刑事罰をもって、他方の親の同意を得ずに勝手に子供の居場所を変えてしまうということを刑事罰をもって罰している国もあるというふうに理解をしておりますし、あるいはヨーロッパでも、子供の引渡し、少なくとも裁判所の引渡しの命令が出たときに、それに従わない場合には刑事罰を科すというような制度を持っている国もあります。

 恐らく、そういう国では、そういう刑事罰化することを容認するような世論が多分一般的にあるんだろうと思いますが、私は、日本ではまだそこまでの世論が果たしてあるのだろうかというふうに思わないでもないところがございまして、そういう意味では、寛容であるという委員御指摘の点は、あるいはそうなのかもしれないということは思います。

松浦参考人 私は、DVの被害者側の代理人をすることも多いので、非常に難しい質問だと思うのですが、基本的には、山本先生がおっしゃるように、今の日本の法制度の中で、連れ去り離婚、無断で実家に子供を連れて帰るというのを刑事罰とか厳しく罰するというのは、まだ時期尚早だというふうに思います。

 現実問題、離婚調停中だったんですけれども、お子さんのとり合いになっていて、なので子の引渡しについて調停を申し立てたんですけれども、裁判所の方は、同居中なので離婚に準ずるというのでは扱えないので調停できませんと、そもそも子の引渡し自体の調停をしてくれなかったという経験もございます。

 そうすると、親権が決まるまでということになり、親権が決まるまでとなると、離婚訴訟をやって、終わるまでということになってしまい、そうすると、同居中で、親が毎日のようにけんかしている中でお子さんが過ごされるというような現実がございますので、それに向けていくのであれば、いろいろな法制度を整備していく必要があると思います。

 以上です。

串田委員 私も、DV被害は、絶対にこれはなくさなければいけないという気持ちは同じなんですね。

 ただ、そういう意味では、法制度が非常に日本はほかの国と比べると特殊であるというような部分があって、今、国内では、連れ去った方が監護権を得られるというような事実上の状態があるという部分が蔓延していて、今、先ほど山本先生がおっしゃられましたけれども、国民的なそういうコンセンサスが得られていないというのもあると思うんです。

 ただ、そういう意味で、今、ハーグ条約というのは、国際的な部分の中で、今度は執行ということになってしまって、日本の感覚からいうとそれは寛容であったとしても、国際的には許されないからこういう執行になるわけで、それに対する一番の被害者はやはり子供だと思うんですよ。

 そういったようなところにやはり視点を当てていかないと、執行だけしっかりやっていけばいいという問題では私はないと思うので。うなずいていただけているので、同意していただけているのかなと思います。

 それでは、合間先生にちょっと教えていただきたいんですが、給与債権に関してというお話があったんですけれども、就職先を探すのが非常に大変だという認識もあるんですが、これに関して先生としてはどんなような対策を法政策として考えておられますでしょうか。

合間参考人 法政策として考えているというと、今回、第三者からの情報取得手続というのが出たので、これが一つの法政策なんだと思います。

 やはり探すのは大変だ、事実上難しいというところで、今SNSとかいろいろあって、そこに上げていて、そこで勤務先がわかるとかということもあるのかもしれませんけれども、やはりなかなか、じゃ、本当に、たどっていって、そこで勤めているかというと、そういうわけでもなかったりとか、逆に余り近づき過ぎても危ないということもありますので、やはり、できるだけ公的なものであったり、第三者を間に入れて情報を取得していくというのは、犯罪被害者という意味でいえば、直接というのは危ないときもありますので、今回のような手続が一つ必要なのかなというふうに思っています。

串田委員 そこで、今マイナンバーカードというのもありますので、例えば納税とか社会保障とか、そういったような形で、カードで管理されているという部分から、国が就職先というものを、ある程度そういう意味で協力していくということも私としては提案したいなとは思うんですが、先生としては、これに対するデメリットもあるのかもしれませんが、御意見をいただけたらと思うんです。

合間参考人 やはり、マイナンバーをどう使うかというのはなかなか難しい問題というのは国会でも議論されているというふうに承知はしているのですけれども、先ほどちょっと申し上げたノルウェーとかスウェーデンでは、もう国民総背番号制で、それこそ、加害者に対する執行というのは、勤務先とか、それから預貯金、車、不動産、全て把握をして、そこから必要な範囲で回収をしていくというのを国が行うという形を行っています。

 その国というのも、債務者に、いたずらに取っていくというわけではなくて、債務者の生活状況も聴取をして、実際に生活している中の範囲で、例えば長期分割だったり、例えば払えたりという形でやっていくというような制度がございます。

 そういう意味で、国がその情報を適切に管理をして、先ほど私の方で申し上げた、責任を追及していくということが非常に難しい、困難であったり過負担になっているような人たちが、限られた範囲で国にそういう請求を肩がわりしてもらうということはあり得るのではないかなというふうに思っています。

 ただ、その前提としては、制度の透明性というか、国家に対する信頼感とかということがとても重要になると思いますので、やはりそこもクリアしなければいけない問題だというふうには考えています。

串田委員 次に、三上先生にちょっとお聞きをしたいんですが、先ほどからずっと四分の一というのがあるんですけれども、この四分の一というのはどのぐらいの生活水準を前提として四分の一は妥当性があるのかどうか、その点、先生のお考えをお聞きしたいと思うんです。

三上参考人 四分の一という割合については、どのような生活水準であろうと四分の一差し押さえられるということになってしまっていますので、法律上は、標準的な世帯の生活費を参考にして、三十三万円というのが差押禁止範囲の上限という形で定められておりまして、その標準的な世帯の生活費三十三万円を超える部分は、四分の一に限らず幾らでも差し押さえることができるという定めが今あるわけです。

 それに対して、低所得の世帯については、どれだけ苦しい世帯でも四分の一の差押えができてしまう。差押禁止の上限があるのに下限が定められていないというところが現在の法律の不備なんだろうというふうに思っております。

串田委員 私もまさにそのとおりだと思うんですが、山本先生にちょっとお聞きをしたいんですけれども、いただいた資料の中で、判決文の中で、特定性に欠けているという部分の中で、第三者が特定するのが容易でない、時間的にちょっとかかるという場合には、これは特定性とは言えないという理由の判決文というのが添付されていたと思うんですけれども、この場合に、執行に関して、その第三者がもっと協力をしていくという方向性もあっていいんじゃないかと思うんですが、先生としてはどのようなお考えでしょうか。

山本参考人 ありがとうございます。

 御指摘は最高裁の判例だと思いますけれども、確かに、第三債務者について、一定の協力、執行に対する協力を求めていく、これは恐らく、世界的に見ても、歴史的に見ても、徐々にそういう協力をさせていく方向で制度がつくられてきているというふうに思っています。

 しかし、他方では、先ほどちょっと私、中野先生の御本を引用しましたけれども、第三債務者というのは、本来、債権者と債務者の紛争に巻き込まれた、ある種の被害者的な面もある主体でございますので、そこにどれだけ協力を求めていくのかというのは、やはり社会的な納得が得られる範囲でないとなかなか難しい。

 それが、今回、この制度をつくる議論をする中で一番難しかった点でございまして、今回はそこで一定の線を引いたということになろうかと思います。

串田委員 大変参考になりました。

 ありがとうございました。

葉梨委員長 以上で串田誠一君の質疑は終了いたしました。

 次に、井出庸生君。

井出委員 社会保障を立て直す国民会議という会派におります井出庸生と申します。

 先生方、きょうはよろしくお願いをいたします。

 社会保障政策を特化してやっていこうという無所属の議員の集まりですので、特に構えずに、忌憚のない御指導をいただければと思っております。

 早速質問に入りますが、まず、合間先生に伺いたいのですが、先生は以前に、ノルウェーとスウェーデンに行かれて、二〇一四年の十二月に発行されている「自由と正義」という雑誌に寄稿をされているのを拝見したんですが、ノルウェーとスウェーデンは犯罪被害者を支援する専門の省庁がある、このことについて、その特徴、日本との違い、参考にすべきところを少し伺いたいんです。

 まず、その上で、ポイントは二つありまして、一つは、きょうの話にも絡む、やはり賠償の話。それともう一つは、日本では、犯罪被害者支援は警察の関係で、犯罪被害者支援センターというものが全国の都道府県に、十数年少し前ですか、整備をされて、最近では性犯罪被害に特化をしたワンストップセンターが、これも全国、各都道府県にできました。

 ただ、その現状を見ますと、性犯罪被害のワンストップの方は、まだできて一、二、三年ぐらいということもあって、予算も潤沢についている。残念ながら、警察からできた犯罪被害者支援センターの方は、どうも、皆さん、かなり手弁当でやっていただいている。それも賛助会員とか寄附に頼っているところが多くて、その御苦労も聞いておるんですが、犯罪被害者支援をしていく運営面と、その二点について、少しお話をいただければと思います。

合間参考人 御質問ありがとうございます。

 民事執行法の改正からは少し離れるかもしれませんけれども、せっかくの御質問ですので、お答えさせていただければと思います。

 ノルウェーとスウェーデンには、犯罪被害者庁というような訳語で言われている、犯罪被害者の支援を専門に扱う省庁がございます。前提として、ノルウェー、スウェーデンはすごく社会保障が厚いところですので、そういった国の、日本からすれば小さい国の制度という前提ではありますけれども、そういったところがあります。

 そこでは、当然、被害者の相談を受けたりとか、あとは、被害者支援に関する情報発信であるとか、それから、ちょっと後の質問に絡むかもしれませんけれども、例えば、一定の刑を受けた人から一定の金額を徴収して、それを基金の形にして、その基金を支援者であるとか犯罪被害者支援の研究に払うといった基金の運営とか、そういったことをやっているところでございます。独立していて、それからあと、賠償金の支払いというのもやっています。

 賠償金を支払うというふうになったとき、どうなるかというと、国によってちょっと違うので詳細はあれですけれども、仮に、そういったお金を被害者側に払うとなると、払った分については国が代位をして、国側が加害者に求償していくという形になります。その求償を担当するところが、回収庁とか強制執行庁とかと言われている、先ほどちょっと私触れましたけれども、といった執行を専門にしているところということになります。

 そこの執行を専門にしているところが国民の情報をある程度管理していますので、そこが管理しているというか、それが政府の情報にアクセスをして、必要な範囲で執行していったり、執行するとともに、執行される側の生活の立て直しとか、そういったことにも相談に乗っていくという一連の流れになっているところであります。

 賠償という意味でいえば、そういった形で手厚い社会保障、その後のそれでも足りない部分について被害者庁から賠償金の支給があって、その賠償金の支給というのは、みずからやるというよりは、もちろん、加害者から支払われればそれで受け取りますけれども、そうでない場合には国に肩がわりをしてもらって、国が請求をするという形になっているというのが大まかな流れになります。

 日本の支援センターのことについては、二番目の質問だったと思いますけれども、まず、ワンストップセンター、一、二、三年なので資金は潤沢というお話がありましたけれども、それはとんでもないことでして、私も存じ上げていますけれども、とても厳しい財政状況の中で、本当に手弁当でやっているというのが本当は実情だと思います。支援センターも同義です。

 今は、どちらかというと、支援センターもワンストップ支援センターもできてまだ間もないので、当然、開設者の熱意というか、といった形で運営されているところが多くて、その方たちの何かある意味犠牲の上に成り立ってしまっているようなところというのは感じないわけにはいかないです。

 やはり、特に犯罪被害者支援とか性犯罪の支援というのは、専門的な知見とか、それから、当然、寄り添っていくやり方とかというのはありますので、そういったものに対するきちんとした対価というのは最低限、もうけろという意味ではありませんけれども、専門性に対するきちんとした対価は必要なんじゃないかなというふうには思っています。

 以上です。

井出委員 ありがとうございます。

 やはり人の熱意ですね。私も、手弁当で、ボランティア的、人の熱意というものは大変尊重されるべきだと思うんですが、やはりそれだけですと長続きは難しいなという思いを感じておりまして、そこは警察御出身の委員長にもよく聞いておいていただければと思います。

 それから、三上先生にお伺いしたいんですが、きょういただいております書面の「基本的な視点」、「執行強化の必要性」、それから「債務者保護の必要性」、これは、全くそのとおりの論点だなと思います。

 いただいた資料の二ページの下の方に、給与情報の取得につきまして、生命身体の侵害による損害賠償請求をする場合には疑問である、理論的な説明が困難で、更に拡大されていくことの懸念があるとのお話がありまして、この身体生命の侵害による損害賠償請求というものがやはり犯罪被害を想定をされているというのが、きのうの委員会議論でも、私、少ししたんです。

 犯罪被害を見ますと、例えば、交通事故であれば、保険に入っていることもあって、割合、その賠償が加害者からもされている、保険でもされているという部分がある。

 一方で、性被害ですとかストーカー、DV、殺人は少し払われているような数字が出ているように見受けられたんですが、性被害とかそういったものは九割を超える数字が全く支払いがされていないという実態があって、本当に、犯罪に巻き込まれてしまったその被害者、その関係者からしますと、まず、その犯罪に遭ったこと自体が、どうして私の関係者が、身内が、自分がという思いもありますし、犯罪というのは、加害者、人がなすことですから、その方に対する感情というものもやはりあるのかなと。その部分においては、やはり犯罪被害の賠償というものをきちっとやってほしいなという声に私も少し同調する部分がございます。

 ただ、先生おっしゃるように、犯罪にかかわった加害者とはいえ、社会復帰をしていく上で最低限度の生活を、その力すら奪ってしまったら本当に社会復帰を妨げることにならないのか、そういうお考えも私は十分理解できるものであります。

 先ほど合間先生からあったお話を踏まえて、犯罪被害者の金銭的な賠償の支援の部分で、やはり、加害者に払えるのであれば当然払っていただくという部分はあるんですが、国が、行政がその部分に少しかかわっていくという、そのことについての先生の御意見、お考えを少し伺えればと思います。

三上参考人 私自身も犯罪被害者の支援の必要性ということについては全く否定するものではありませんし、先ほど私が申し述べたのは、養育費とは違って、給与を引き当てとしているという実質があるわけではないので、そういう要保護性というのをメルクマールにしてしまったら、犯罪被害者に限らず、これから広がっていくおそれがあるのではないかということを表明したまでであるということをお断りしたいと思います。

 その上で、犯罪被害者に損害賠償がきちんとされるかどうかという問題が、加害者が財産を持っているかどうかによって左右されてしまうということ自体が、やはり問題としておかしいのではないかというところがあると思いますので、犯罪被害者の損害の賠償ということについては国が補償するという形で対応するというのは、それは立法政策の問題としては十分にあり得ることなんだろうというふうに思っております。

井出委員 ありがとうございます。

 次に、山本先生にお伺いしたいんですが、冒頭の先生からの御意見の中で、子供の連れ去り、それがかつては少なくて、話合いで解決する部分もあったというお話がございました。

 私も、まあそうかなと思う一面、日本の場合、協議離婚が圧倒的に多い。大体、お母さんのもとに行くというケースが非常に多い。何というんですかね、私もうまく説明できないし、聞かれたら自分も説明できないんですが、連れ去りが少ないというよりは、何か社会通念的に、離婚したらお母さんのもとに行く、そういうことが何か容認されているような感じがあるのではないか、連れ去りが少ないということではなくてですね。

 本来であれば、やはり、離婚をしてしまっても、子供に対して両配偶者ができるだけ同等に責任を負っていくというのが本来のあるべき姿なのかなと思うんですが、そのあたりの先生のお考えを改めて伺いたいと思います。

山本参考人 ありがとうございます。

 私が先ほど申し上げたのは、今先生が言われたよりも更に前の時代の話なのかもしれません。現在の民事執行法の中になぜ子供の引渡しの規定が存在しないのかということの理由として、そういうことが考えられるのではないかということを申し上げたところで、これがつくられた明治とか大正、それぐらいのころにはそうだったのかもしれないということを申し上げたということでございます。

 離婚した際に、子供に対して両親がどのような関与の仕方をしていくかというのは、共同親権とか共同監護の問題とも関連するところだというふうに思いまして、私自身は必ずしもこの問題の専門家ではございませんので、一般論として申し上げれば、それは、できるだけ両方の親がきちんと子供に対して、離婚しても親であることは変わりないので、きちんとして監護にかかわっていくということが必要なんだろうというふうに思いまして、今回の執行制度の中でそのようなことに近づけていけばいいなというふうに思っているところです。

井出委員 ありがとうございます。

 同じ趣旨の質問を松浦先生にも、そういった連れ去り、お子さんの引取りの現場にかかわってこられたお立場から、私が少し申し上げました、離婚をしたらそのお母さんのもとに、そういうケースが多数あるという現状に対しての先生のお考えを少し伺えればと思います。

松浦参考人 私は平成十四年十月に弁護士登録をしているんですけれども、当時はもう既に、深刻な争いになる事件がふえつつある時期でした。

 子の引渡しの問題もありますが、総じて言うと、親権の争いだと思いますので、親権の争いでというのでお話ししますと、先輩の弁護士方にお聞きすると、やはり、昔はどちらかが諦めるということが多かったと。ただ、近年は、非常に、どちらの親も親権をとりたいという方がふえてきて、そういった事件がふえているという印象を受けているというふうにおっしゃっていて、実際にそういった面はあるんだとは思います。

 子の引渡しの事件そのものに関して言いますと、従前は、先ほどちょっと申し上げた、人身保護法という制度で取戻しをしていたケースが非常に多かったようですが、平成の六年ぐらいだったと思うんです、最高裁の方が、手続を踏んだ上でじゃないと人身保護請求は使えないというような判例が出て、それ以降、動産の執行の手続を準用して使えるというふうになっていったというような経緯で聞いております。

 なので、子の引渡しの執行が動産執行を準用してやっているという歴史自体は、多分十年から十五年ぐらいという、そんなに長くない歴史だというふうにお聞きしています。

 多分、母性優先の原則があるんじゃないかということをおっしゃっているんだと思うんですが、それは、実際にそういった面はあると思います。ただ、実態として、今の日本社会では母親の方が子の養育監護にかかわっているケースが非常に多いので、それが、適切に働く、適切というか、正しいことが統計的には多分多いんだと思います。

 ただ、お父さんの方がもちろん親権者としてふさわしいケースも、今は特に父親が育児にかかわるようになってきていますので、いる例も多いと思うんですが、今はちょっとその辺の過渡期にあるんじゃないかなと思います。

 以上です。

井出委員 本来、ケース・バイ・ケースだと思うんですけれども、少し難しいことに御意見いただきまして、ありがとうございました。

 時間になりましたので、終わります。きょうはありがとうございました。

葉梨委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、参考人各位に一言御礼を申し上げます。

 参考人の方々には、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時四十八分散会


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