衆議院

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第1号 平成29年2月21日(火曜日)

会議録本文へ
平成二十九年二月二十一日(火曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 浜田 靖一君

   理事 石田 真敏君 理事 菅原 一秀君

   理事 西村 康稔君 理事 葉梨 康弘君

   理事 宮下 一郎君 理事 武藤 容治君

   理事 大西 健介君 理事 長妻  昭君

   理事 赤羽 一嘉君

      伊藤 達也君    石崎  徹君

      石破  茂君    岩屋  毅君

      江藤  拓君    衛藤征士郎君

      小倉 將信君    大串 正樹君

      奥野 信亮君    加藤 寛治君

      門  博文君    黄川田仁志君

      工藤 彰三君    國場幸之助君

      佐田玄一郎君    鈴木 俊一君

      高橋ひなこ君    辻  清人君

      とかしきなおみ君    根本  匠君

      野田  毅君    野中  厚君

      鳩山 二郎君    原田 義昭君

      平口  洋君    星野 剛士君

      保岡 興治君    山下 貴司君

      渡辺 博道君    青柳陽一郎君

      井坂 信彦君    井出 庸生君

      今井 雅人君    小川 淳也君

      緒方林太郎君    後藤 祐一君

      前原 誠司君    升田世喜男君

      本村賢太郎君    伊藤  渉君

      國重  徹君    富田 茂之君

      真山 祐一君    高橋千鶴子君

      畠山 和也君    藤野 保史君

      宮本  徹君    井上 英孝君

      伊東 信久君    浦野 靖人君

    …………………………………

   公述人

   (株式会社大和総研執行役員調査本部副本部長チーフエコノミスト)      熊谷 亮丸君

   公述人

   (特定非営利活動法人日本国際ボランティアセンター人道支援/平和構築グループマネージャー)     今井 高樹君

   公述人

   (東京大学大学総合教育研究センター教授)     小林 雅之君

   公述人

   (嘉悦大学教授)     高橋 洋一君

   公述人

   (BNPパリバ証券株式会社投資調査本部長)    中空 麻奈君

   公述人

   (日本労働組合総連合会事務局長)         逢見 直人君

   公述人

   (昭和電気鋳鋼株式会社代表取締役社長)      手塚加津子君

   公述人

   (全国労働組合総連合議長)            小田川義和君

   予算委員会専門員     柏  尚志君

    ―――――――――――――

委員の異動

二月二十一日

 辞任         補欠選任

  石破  茂君     とかしきなおみ君

  小倉 將信君     辻  清人君

  長坂 康正君     加藤 寛治君

  今井 雅人君     升田世喜男君

  後藤 祐一君     青柳陽一郎君

  福島 伸享君     本村賢太郎君

  真山 祐一君     富田 茂之君

  赤嶺 政賢君     宮本  徹君

  高橋千鶴子君     藤野 保史君

  伊東 信久君     浦野 靖人君

同日

 辞任         補欠選任

  加藤 寛治君     工藤 彰三君

  辻  清人君     小倉 將信君

  とかしきなおみ君   石破  茂君

  青柳陽一郎君     後藤 祐一君

  升田世喜男君     今井 雅人君

  本村賢太郎君     井出 庸生君

  富田 茂之君     真山 祐一君

  藤野 保史君     高橋千鶴子君

  宮本  徹君     畠山 和也君

  浦野 靖人君     伊東 信久君

同日

 辞任         補欠選任

  工藤 彰三君     鳩山 二郎君

  井出 庸生君     福島 伸享君

  畠山 和也君     赤嶺 政賢君

同日

 辞任         補欠選任

  鳩山 二郎君     高橋ひなこ君

同日

 辞任         補欠選任

  高橋ひなこ君     長坂 康正君

    ―――――――――――――

本日の公聴会で意見を聞いた案件

 平成二十九年度一般会計予算

 平成二十九年度特別会計予算

 平成二十九年度政府関係機関予算


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     ――――◇―――――

浜田委員長 これより会議を開きます。

 平成二十九年度一般会計予算、平成二十九年度特別会計予算、平成二十九年度政府関係機関予算、以上三案について公聴会を開きます。

 この際、公述人各位に一言御挨拶申し上げます。

 公述人各位におかれましては、大変お忙しい中御出席を賜り、まことにありがとうございます。平成二十九年度の総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうぞ忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。

 御意見を賜る順序といたしましては、まず熊谷亮丸公述人、次に今井高樹公述人、次に小林雅之公述人、次に高橋洋一公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、熊谷公述人にお願いいたします。

熊谷公述人 おはようございます。大和総研の熊谷亮丸でございます。

 本日は、お招きいただきまして、心より光栄に存じます。御審議の御参考にさせていただきたく、平成二十九年度の予算案につきまして、賛成の立場から意見を申し述べたいと思います。よろしくお願いいたします。

 それでは、お手元の資料で、「世界経済の潮流と日本経済の行方」という資料をごらんいただきたいと思いますけれども、まず一ページ目でございます。

 きょう、私からは、大きく三つの点について申し上げたい。

 一点目としては、日本経済の現状と展望ということでございますが、メーンのシナリオとしては、日本経済は着実な景気の回復が見込まれる。先月、私はダボス会議に参加してまいりましたけれども、ここでも、海外の財務当局もしくはIMFのラガルド専務理事を初めとした方々は、基本的には、景気は着実に循環面では回復をしていく、こういう見方でございました。ただ、他方で、海外の下振れのリスクについては引き続き留意が必要である。

 二番目のところに書いてございますけれども、一つは、今後のトランプ政権の政策がどうなるかということ。二点目として、中国経済のいわゆるバブルがこれからはじけるのかどうかということ。そして、アメリカが出口戦略、金利を上げていったときに、新興国からお金が引き揚げられて新興国の経済が動揺する可能性。さらには、地政学的なリスクなどと言われる、世界じゅうでいろいろなトラブルが起きて、これによってリスクオフと言われている円高、株安が進む可能性。そして、ブレグジットの影響等を受けて欧州経済が動揺する。これらの中では、特にやはり一番目のトランプ政権、それから二番目の中国経済、ここをかなり慎重に見きわめていくことが必要であると思います。

 三点目として、アベノミクスでございますけれども、私は、基本的な方向性は、正しい方向での政策が打たれている、こういう考え方でございます。ただ、まだ道半ばということでございますので、例えば、社会保障制度の抜本的な改革、もしくは三本目の矢、成長戦略の強化、これらについては従来以上に加速をしていくことが必要になる。成長戦略の中でいうと、やはり労働市場の改革というのが最大の課題であるというふうに思います。

 きょうは、以上の三点につきまして、残された時間で、具体的なデータ等を使ってお話をさせていただきたいと思います。

 二ページ目をごらんください。

 一番上のところに書いてございますけれども、これから日本経済は、私どもの見通しとしては、一七年度一・三%、一八年度一・一%ということで、世界経済の回復にも支えられて、メーンのシナリオでは緩やかな景気の回復を続けるという見方です。

 三ページ目をごらんください。

 今、日本経済は着実な回復の軌道に入ってきた。

 まず、左のグラフでございますが、赤い線が輸出の動き、そしてブルーの線が生産の動きということですけれども、世界経済が今サイクル的によくなっていることもあって、この輸出と生産が着実に今拡大の方向に向かっているということ。

 さらには、右のグラフがいわゆる在庫循環というものでございます。縦軸が出荷の伸び、横軸が在庫の伸びでございますが、時計回りでぐるぐると回りながら在庫調整というのが進んでいく。そして、左下のところから、今、ぐるりと回り込んで、在庫循環が上の方向に向かっている。徐々に景気が回復をして、これから在庫を積み増していく局面に、循環的に見れば入っているということでございます。

 四ページ目をごらんください。

 その背景としては、冒頭、ダボス会議の話をさせていただきましたけれども、世界経済のサイクルが今着実に改善の方向に向かっている。ブルーの線が世界の景気先行指数、緑の線が日本の生産ということですが、やはり日本経済は、海外経済の動向によってかなり振らされるところがあるわけでございますので、今、世界的にITの在庫なども軽くなって、世界の生産が戻っていく、その中で日本経済も、若干のタイムラグを置いて回復の方向に来ているということがございます。

 五ページ目をごらんください。

 実質賃金が低迷している、こういう議論があったわけでございますが、ここで四種類の賃金をお示ししております。国民経済にとって最も重要なのは、紫の白丸の線で示したもの、つまり、一人当たりの賃金に雇用者数を掛けて、国民の懐に入るお金の総額が、これを物価と比べたときにどうかというものでございますけれども、これは今、直近のデータでは前年比で二%弱ぐらい伸びているということでございますので、今、物価と比べたときの国民全体の懐ぐあいも着実に回復の方向に来ている。

 そして、六ページ目。

 従来から、伸びているのは非正規ばかりである、こういう議論があったわけでございますが、現状は、正規雇用の伸びが非正規雇用を上回っている。二〇一五年に八年ぶりに正規雇用が増加をした、そこから正規雇用は八十万人弱程度増加をしておるわけでございまして、しかも今、非正規雇用の伸びを上回ってきているということがございます。

 七ページ目でございます。

 今後の課題としては、やはりしっかりとベースアップを行っていくということが必要になる。

 ここでお示しをしているのは、一万円賃金が上がったときに、赤で示しているのは、ベースアップなどで一万円上がると、グラフの左端の部分で、消費は八千六百円程度ふえる。ところが、ボーナスで一万円所得がふえたとしても、消費に回るのは千十七円しかない。これは私どもが過去のデータで推計したものでございますけれども、こういう観点からも、今の政労使会議をさらに強化して、企業がベースアップをしっかりと行っていくことが鍵になるということです。

 八ページ目は、原油が下がってきたことも日本経済を下支えするということ。

 図表の左上の部分で、赤で囲んだ部分がございますけれども、原油が百五ドルで高どまりしていたときと現状で比較をすると、私どものマクロモデルを使うと、一七年度の国内総生産、GDPが〇・九%程度、五兆円近く押し上げられるという結果でございます。

 九ページ以降で、本日の二つ目の論点、リスク要因ということで、特にトランプ政権の動向、加えて中国経済について、ポイントを絞ってお話をしたいと思います。

 十ページ目をごらんください。

 トランプ政権については、やはりいい材料と悪い材料が混在している状況です。

 上半分に書いてある好材料、今、マーケットはこちらに注目しているわけでございますけれども、まず、短期的には、大型の減税やインフラ投資によって景気が刺激される。

 二点目として、アメリカが国内への資金還流策をとっている。今、アメリカは、海外に二・五兆ドル、三百兆円近いいわゆる留保利益を持っているわけですから、このお金をアメリカに入れたとき、税制上の優遇を行うと言われておりますので、これがドル高ですとかアメリカの株高などへとつながる。

 三点目として、金融規制の緩和。

 四点目として、金利が上がることによって日米の金利差が拡大して円安・ドル高になり、それが日本にとってもプラスである。

 これらの四点は好材料です。

 他方で、将来的に若干心配な点は、やはりこれだけの政策をとると、双子の赤字、財政赤字、経常赤字が拡大してくる。そうなってくると、アメリカの当局がいずれはドル安カードを切って、円高・ドル安になるリスクも存在する。また、孤立主義によって地政学的なリスクが出る。そして、保護貿易主義の問題等々。

 今のところは、この上半分のところを市場は好感しているわけですけれども、下半分の方に移行しないかどうかということ、これを慎重に見きわめることが必要であると思います。

 十一ページでございますけれども、左下の赤い部分、今アメリカが言っている財政政策を全てとると、五・九兆ドル、十年間で六百兆円以上、アメリカの財政赤字が拡大してくる可能性というのがある。

 もう一つ心配なのは、十二ページ以降のいわゆるドル安カードでございます。

 十二ページでお示ししたように、アメリカは非常に利己的な通貨戦略というのを行ってきた。

 具体的には、十三ページでございますけれども、三つのステップがあって、最初にドル高政策をとる。ドル高政策をとると赤字が拡大して、そうなると次に二番目のドル安政策に行く。ドル安をとっていると、インフレの問題、トリプル安の問題、こういうものが出てきて、ドルの安定化策に行って、市場が落ちついてくるとまた一番に戻る。過去数十年間、このサイクルを何度も繰り返してきたという歴史があります。

 十四ページに、このサイクルが何によって決まっているかというのを示しておりますけれども、基本的には三つの要因で決まっている。アメリカの経常赤字の動向、アメリカのインフレの動向、アメリカの金融市場の動向ということでございますが、これから、(1)のドル高から(2)のドル安に行くとすれば、今、三条件の中で、一の経常赤字の拡大は満たしている、三の金融市場の安定も満たしている。残された条件は、二のインフレがある程度抑制されてマネジャブルな状況になれば、アメリカは、過去の経験から見ると、ドル高政策からドル安政策へと転換する可能性というのがあるわけでございますので、これについてもかなり警戒的に見ておくことが必要であると思います。

 十五ページは、中国でございます。

 今、金融面での過剰が一千百兆円弱、設備の過剰が七百四十兆円弱。ただ、やろうと思えば、財政出動は六百から八百兆円ぐらい、まだ出すことが可能でございますので、結論は、少なくとも一、二年はカンフル剤でもたせた後で、中長期、早ければ向こう三年から五年ぐらいのところで、若干、バブル崩壊を警戒的に見ていくことが必要ではないかという考え方でございます。

 十六ページは、三つのシナリオがございますけれども、これから、最悪のシナリオとしては、三のメルトダウンシナリオというのを頭の片隅に置いておくことが必要である。

 十七ページに、今申し上げたメルトダウンシナリオの概要がございますけれども、もし中国が景気刺激策をとらずに自然体で調整したとすれば、実力の成長率が一・六%程度まで将来的に落ちる可能性というのが出てくる。

 ただ、十八ページをごらんいただくと、中国は社会主義の国でございますから、短期的には、景気刺激策によって当面景気は底がたい動きが予想される。緑の線が、景気循環信号指数といって、十個のデータを合成したもの、これによって政策判断の局面を五つに分けることができるわけですが、一番下の低迷が視野に入ると、やはりカンフル剤を打って、一度は真ん中の方向に押し戻していく。ことしは政治のイベント等もございますので、その意味では、少なくとも一、二年程度は中国経済は底がたい動きが予想されるということでございます。

 十九ページをごらんください。

 冒頭申し上げたように、私は、アベノミクスの基本的な方向性は正しいという考え方でございまして、いわゆる追い出し五点セットもしくは七重苦、これらを全て反対の方向に転換して、今、着実に景気は回復軌道に入っている。

 ただ、二十ページの部分で、課題でございますけれども、一つは、社会保障制度の改革等によって財政の規律を維持すること、二点目として、成長戦略を強化すること、三点目として、分配政策を強化するということでございますが、私がきょう強調したいポイントとして、この二と三は一体の課題である。つまり、国民の所得をふやすときに、三の分配政策だけでは所得はふえない。二の成長戦略と三の分配政策、これを同時並行的に行うことこそが、持続的に国民の所得を伸ばすための鍵であるということです。

 なぜそう考えているかというのは、二十一ページでございますけれども、日米独の時間当たりの実質賃金というのを比較してみたものでございます。

 一の生産性、二の企業の競争力、三の労働分配率、この三つに要因分解できるわけでございますが、確かに三の分配率は若干下がっている。ただ、ほかの国も同じぐらいのペースで下がっているわけでございますから、もちろん日本は、対策は打たなくてはいけないけれども、世界の潮流に逆らうということはなかなか難しい部分もある。そうなってくると、一の生産性、それから二の広い意味での企業の競争力、これらは分配政策では上がらないわけで、やはり三本目の矢の成長戦略を強化すること、それから分配政策を行うこと、この成長と分配の二兎を追うことこそが、国民の所得を持続的に伸ばすための鍵だという考え方です。

 二十二ページは、女性の活躍の重要性。これは見てのとおりでございますけれども、女性が活躍している国ほど、国際的に見れば経済状況がいい。

 そして、二十三ページ以降、最大の成長戦略の鍵は労働市場の改革である。

 二十三ページにお示しをしているように、メンバーシップ型の正社員と非正規雇用への二極化、ここから日本のさまざまな問題が起きているわけであって、まず上半分のところでいえば、過重労働の問題、高齢者の活用のおくれ、そして不十分な職業訓練等があって、右上のところにある労働生産性の低迷という問題が起きている。そして、一番下の部分でございますけれども、やはり、将来不安から、少子化それから消費の低迷ということが起きているわけでございますので、具体的には、二十四ページにあるような、同一労働同一賃金を軸としたさまざまな施策を講じて労働市場の改革を行っていく、これがやはりこれからの成長戦略の鍵であるということでございます。

 最後に、財政について一言だけ申し上げますと、二十七ページをごらんください。

 二十七ページの右側に数字、左側にグラフがございますけれども、右の図表を見ていただくと、まず一番上にあるのが現状、今の財政状況がどうであるか。右上のところを見ていただくと、国の借金はGDPの一九〇%まで来ている。

 そして、上半分、ケースの一が経済成長に失敗するケース、そして下半分が経済成長に成功するケースということでございますが、やはり上半分の、成長がうまくいかないと、財政状況は非常に厳しい状態になってしまう。そして、下半分の部分で、成長に成功したとしても、それだけではやはり財政再建は難しいということがあって、下半分で、改革なしですと、右端で、二七八%まで債務は積み上がる。これを一〇〇%まで落としていく改革。

 改革のAというのは、国民負担はふやさずに給付だけを減らす。改革のBは、消費税を二〇%まで上げて、そして給付を抑制するということでございますが、左のグラフで見ていただくと、まず改革のAは、左下にあるブルーの小さな丸、改革のBは、真ん中の上の方にある茶色の大きな丸ということでございますが、これが恐らく二つの両極で、この間の部分で国民がどういう負担、そしてどういう給付を望むか。このあたりを国民的な定量的な議論として行っていくことが必要であると考える次第でございます。

 私の方から御報告は以上でございまして、ポイントとしては、日本経済は着実に回復をしている、ただ、海外にはリスク要因が山積している、アベノミクスは基本的に正しい方向で政策が打たれていますが、積み残した課題、社会保障制度の改革ですとか成長戦略、とりわけ労働市場の改革などの課題について、これからさらに取り組んでいくことが必要であると思います。

 私からは以上でございます。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

浜田委員長 ありがとうございました。

 次に、今井公述人にお願いいたします。

今井公述人 皆さん、おはようございます。日本国際ボランティアセンター、JVCの今井高樹と申します。

 本日は、このような場にお招きいただきまして、本当にありがとうございます。

 日本国際ボランティアセンターといいますのは、NGO、非政府組織でありまして、世界、アジアあるいは中東、アフリカの国で人道支援活動あるいは開発援助、平和構築の活動を行っております。私も通常、海外に駐在しておりまして、三日前に日本に戻ってきたところです。

 本日は、この間予算委員会でも議論になっております南スーダンの問題、自衛隊派遣あるいは駆けつけ警護、宿営地防護の新任務といったことについて、現地の状況を知る者として意見を述べたいと思います。よろしくお願いいたします。

 私自身は、二〇〇七年から二〇一〇年の前半まで南スーダンのジュバに住んで、駐在しておりました。そして、そのときは、帰還してきた難民の支援の活動を行っておりました。当時のジュバは、まだ独立前でしたけれども、非常にいい時代で、人々は希望にあふれ、町も落ちついていて、まさに今の南スーダンの状況は当時からは信じられないような感じになります。

 その後、私どもは二〇一一年に南スーダンの難民キャンプで活動を始めまして、年に一回あるいは二回ぐらい私も出張しておりました。さらに、昨年は、御存じのとおり、七月に大きな戦闘がありました。その後、この戦闘で被災された方々、避難された方への支援のために、私自身が九月それから十一月にジュバを訪問いたしまして、緊急人道支援活動、食料援助ですとか医薬品の支援を行っております。

 最初に、今の南スーダンの全般的な状況ですけれども、お手元の資料の方をごらんください。

 こちらは国連、UNOCHAの出しているものですけれども、皆さん御存じかと思いますけれども、国内避難民が百九十万人、それから国外に逃れた難民が百五十万人、合わせて三百四十万人、およそ国民の三人に一人ぐらいが家を追われて避難生活を送っているような状況になっております。あるいは、国民の半分が非常に深刻な食料不足に陥っているということで、一言で申し上げると、昨年の七月以降、情勢は安定しているどころか、ますます悪化しているといったところだと思います。

 昨年の後半、特に特徴的なこととしては、エクアトリア地区と呼ばれる国の南側に暴力が拡散しています。この地図でいいますと、ちょうどこのあたりになります。

 もともと南スーダンの紛争は、御承知のとおり、キール大統領の出身部族であるディンカ族、それと元副大統領マシャールさんの出身部族のヌエルとの戦いであって、主に国の北側の方で戦闘が行われていたんですけれども、昨年後半にはこれが国の南側の方に、エクアトリア人といったような人が住んでいる地域ですけれども、そちらに拡散しています。

 もう一枚のパネルの方で、そういったエクアトリアの地域では、村が武装グループに襲撃をされて焼き討ちをされています。この下の方の写真は私自身が撮ったわけではなくて、これは南スーダンの教会系の団体が撮ったものを私がいただいてきたんですけれども、ロボノクというジュバから八十キロ離れた場所ですけれども、こういったように、武装グループによって村が襲撃をされ、焼かれ、人々は殺されたりレイプをされたり。

 私、実際にジュバで、このロボノクという村から避難してきた人とお会いしました。食料支援を行いましたけれども、その方が言っていたのは、その方はディンカと言っていましたけれども、ディンカの武装したグループが村に来て、無差別的に銃を乱射して、人を殺し、子供たちを殺し、最後は死体を切り刻んで家の中に投げ込んで火をつけたといったような、ちょっと信じられないような話をしていらっしゃいました。

 あるいは別の避難民の方は、こういったエクアトリアの村々では、まさに子供たちが、鶏を殺すように、鶏を絞めるような形で殺されているといったような話を聞きました。

 多くの村が無人化しています。このエクアトリア地域から昨年の後半だけで約四十万人がウガンダの方に避難民になっています。

 やられた村の方、エクアトリアの人たちも、ただ黙っているわけではもちろんありません。自分たちで自警団をつくったり、あるいは新しい武装グループをつくって報復に出ています。ですから、エクアトリアの人たちがディンカを攻撃するといったことが起きています。

 具体的には、このエクアトリアの地域を通る幹線道路でバスを襲撃して、中に乗っているディンカを捜し出して処刑をするといったようなことが行われています。もちろん、ディンカの人もそれに対して報復をしようということで、そういったエクアトリア人は許せないといったキャンペーンが行われまして、非常に民族間の対立、報復の連鎖、憎悪の連鎖ということが広がっています。

 ですから、皆さん、エクアトリアの方も、あるいはディンカの方もそうですけれども、自分たちがいつ標的になるのか、自分たちがいつ殺されるのかということで、一般の住民の方は非常におびえているのが南スーダンの現実です。

 ですから、国連も、皆さん御承知のように、南スーダンに大量虐殺の危険があると警告していますけれども、南スーダンはそういったまさに紛争状態、混乱した状態にあると私は認識しています。ですから、PKO五原則については崩れているというふうに思っております。

 ただ、そうは申しましてもといいますか、私も国会の議論も聞いておりますけれども、稲田防衛大臣は、そうはいってもジュバは安全なんだ、ジュバは落ちついているんだというふうに繰り返しておっしゃっておられます。ただ、本当にそうなのかということで、少しお話をさせていただきます。

 私は、九月と十一月に合わせて約三週間ぐらいジュバにおりましたけれども、確かに表面的にはジュバは落ちついています。そこでは普通の市民生活、子供が学校に行き、女性が買い物したりといったものが一応表面的には見られているわけなんですけれども、ただ、実際には、皆さん非常におびえていらっしゃいます。

 例えば、昨年の十月にこんなことがジュバでありました。キール大統領が死んだというようなうわさがジュバで流れたんですね。そのときに、多くの、ほとんどの住民がすぐに家に逃げ込みました。町からは人影が消えて、商店街といいますか市場は全てシャッターをおろしてというか閉じられて、誰も、人っ子一人いない状態になったと聞いています。それが三日間続いたというふうに聞いています。

 人々は、これはうわさだけなんですけれども、キール大統領が死んだことによって後継者争いとかで新しい戦闘が起きるのではないか、そうした戦闘が起きたときには自分たちが殺されるのではないかと。特にエクアトリアの方々は、さっき申し上げましたように、ディンカとの対立がありますので、大統領派の軍の主力であるディンカがエクアトリア人を殺しに来るのではないかということで、皆さん恐れて、家の中に閉じこもった、あるいはもうジュバから逃げ出した人もいたというふうに聞いています。

 この混乱をおさめるために、三日たってやっとキール大統領は姿をあらわしたんですけれども、キール大統領は、宣伝カーのような車に乗ってジュバの町中を走り回って、自分は生きているんだということをアピールしたそうなんですが、そのぐらいしないとおさまらないぐらいのパニック状態だったと聞いています。

 そういった形で、今のジュバは、もし何かあったら、これは住民の皆さん自身が、虐殺にしろ、暴動にしろ、戦闘にしろ、一体何が起きるかわからないということで恐れています。

 具体的に、政治的な混乱の要因というのはあります。

 この二週間の間に、新聞等でも報道されていますけれども、大統領派の軍のSPLAの司令官が一人辞任しております。あるいは労働大臣も辞任をしております。こういった方々は、まさに今のキール政権のやり方はおかしい、国民を虐殺している、ディンカ民族を中心にしてほかの民族を排斥するようなことをやっているということで、不満を、抗議の意思を表明して辞任しているわけなんですけれども、そういったことを契機にしまして、いつどこで戦闘が起きてもおかしくないような状況だと思います。

 もう一つは、非常に南スーダンの経済は、内戦、今の紛争によって破綻している状態です。

 通貨である南スーダン・ポンドは大暴落をしておりまして、物価は一年前に対して五倍、六倍に上がっています。あと、物が不足しています。これは、外貨がないので物が輸入できない、あるいは輸入しようとしても、その輸入ルートが非常に危険で、トラックが物資を運べないということで、ガソリンが非常に不足しています。

 私、ジュバの町を走りますと、あちこちで道路渋滞のようなものに遭遇するんですけれども、それは渋滞ではなくて、ガソリンスタンドの前に何百メートルも車が列をつくっています。ガソリンがないとどうなるかといいますと、直撃されるのは水なんですね。ジュバの多くの地域では、もちろん上水道はないです、ナイル川の水を給水車が運んで供給をしているんですけれども、そういった給水車が走ることができません。あるいは、非常に水の値段が高くなっています。私が聞いたある方は、自分の収入のほとんどが水を買って消えてしまうというような話をしていらっしゃいました。

 この写真の上の方ですけれども、これは私たちが訪問した、あるいは支援した避難民キャンプで、このお母さんと子供たちは、近くから野草をとってきて、その草を食べているところなんです。そういった物価高の中で、食料品の価格が非常に高くて、皆さん食料が買えません。ですので、決して避難民キャンプだけではなくて、ジュバの中の、特に郊外なんですけれども、地域では、こうやって草をとってきて食べるようなことも行われています。

 そういったように、こういった経済的な状況が社会不安を起こしている、しかも民族間の敵対がある。非常に不安定なジュバの状況です。

 この避難民の方々は、私どもが支援しましたけれども、実は皆さん、ジュバのある一地域から避難してきた方なんです。昨年の七月の戦闘からもうそろそろ半年たっていますけれども、まだ自宅には戻れません。こういった方の自宅の周辺は非常に治安に不安がある。皆さん、自宅には戻れないと言っていらっしゃいます。

 もう一枚の資料ですけれども、こちらはジュバの地図になります。今お話をした避難民の方は、ジュバの北側に空港がありまして、御承知のように空港の脇に自衛隊の宿営地があるわけですけれども、東側にナイル川がありまして、西側のこのあたり、ちょうど国連の避難民保護施設、UNハウスの近くですけれども、このあたりから避難してきた方々です。

 この場所は、七月以前は副大統領派、リヤク・マシャール派の軍事拠点があったところです。ですので、七月には大変な激戦になりまして、皆さん避難したんですけれども、ただ、その後も、人々の話では、ここには元マシャール派が潜んでいるかもしれない、あるいは、政府軍、大統領派は、このあたりに元マシャール派が帰ってくるかもしれないということで、常に大統領派の軍隊がパトロールを続けている。そこにもし住民が戻ってきたら、おまえはマシャール派の仲間だということで、尋問をされ、あるいは襲撃をされ、女性であればレイプをされるといったようなことを皆さん恐れて、家には戻れない状態になっています。

 さらに、ここにある避難民保護施設の中には、マシャールさんの出身部族であるヌエルの人たちが多くいます。大統領派は、その中にはマシャール派の元兵士といいますか幹部も紛れ込んでいるというふうに考えていまして、避難民保護施設に対して七月には直接の攻撃も加えられていましたけれども、その後もそういった幹部を引き渡せといったような動きもあって、この避難民保護施設の周辺というのはジュバの中でも最も不安定な場所になっていて、市民の方もそちらにはなかなか近づきたがらない場所になっています。

 皆さん御承知のように、自衛隊は、その宿営地、それからまさにこの避難民保護施設で今活動を行っております。自衛隊が活動を行っているところというのは、まさにジュバの中で最も不安定な、何がしかの衝突が起こっても全く不思議ではないような場所で行っているということです。

 私、今ジュバで、確かに昨年の七月のような大規模な戦闘、戦車部隊ですとかヘリコプターが出ての戦闘が行われるということは非常に考えにくいと思います。ただ、今申し上げましたように、さまざまな不安定要因の中で、軍の内部分裂、あるいは住民の暴動ですとか、それに対する虐殺が起きる可能性は決して少なくはない。

 もしそういったときに、自衛隊が巻き込まれる、あるいは駆けつけ警護なり宿営地防護をした場合に、そこで巻き込まれて戦闘当事者になってしまう、もし一発でも自衛隊が撃ってしまえば、それは日本に対する非常に大きな敵対感情を巻き起こします。それは政府軍、大統領派の中に巻き起こすかもしれませんし、あるいはその逆、あるいは住民の中に巻き起こすかもしれませんけれども、そういったことに容易になってしまうのが今の南スーダンの現状です。

 私どもNGOの立場からしますと、もしそういったように日本に対する反感が巻き起これば、私どものような日本のNGOは非常に活動がしづらくなります。住民の方が敵対意識を持ってくれば、もちろん人道支援活動はできません。この自衛隊の駆けつけ警護の問題は、NGOとかで、あるいは国連で働いている邦人を保護する、そういうことも言われていますけれども、実際には、そういった武力をもって、自衛隊が武力行使をすれば、逆に私たちの活動がやりにくくなるといったふうに思っております。

 では、NGOはどうやって自分たちの安全を守るのかということがよくこれもまた質問されるところですけれども、私どもは、NGOの中でNGOフォーラムという、日本だけではなくて各国から来ているNGOが集まって、常に安全対策のミーティングを持ったり、情報交換をしながら活動しております。あるいは、現地のジュバの一般の方からさまざまな情報をもらいながら、危険を回避するような形で活動を行っています。

 あるいは、仮に私どもが例えば拘束されるといったようなことがあった場合に、でも、それは決して武力で解決するのではなくて、現実的にはやはり交渉、話し合いで解決をする方がよほど安全です。これは実際に、今まで南スーダンのPKOも、PKO部隊の一部が反政府勢力に拘束されたこともありましたけれども、やはり交渉によって解決されています。

 この間、予算委員会では、ジュバで昨年の七月にあったものが戦闘なのか、あるいは衝突なのかといったような議論も繰り広げられてきましたけれども、私は、率直に言いまして、こういったことは言葉遊びのようなものではないかというふうに思っております。現地にいる人から見れば、皆さん、自分たちの家族を亡くし、あるいは自分たちの家を追われ、今も避難生活を続けています。多くの方が亡くなりました。ジュバの戦闘でも、二百七十人、三百人という数字は決して実態ではないと思います。多くの方が千人ぐらいは死んでいると言っていますけれども、それが現実なわけです。衝突と呼ぼうが、戦闘と呼ぼうが、起きたことは変わりません。

 そういった南スーダンの方は、私も話を聞きますと、とにかく戦争をやめてほしい、殺し合いをやめてほしい、普通の生活を取り戻したいというふうにおっしゃっています。そのために国際社会に何とかしてほしいというふうに皆さんおっしゃっています。そういったことに対して一体日本に何ができるのかということをもっと考えなければいけないと思います。

 私は、それは決して自衛隊の派遣ではないと思います。自衛隊の方は、ジュバで非常に困難な状況の中活動をされていて、その御苦労に私は敬意を表します。しかし、自衛隊派遣ではなくて、もっと別のやり方で日本は南スーダンの和平に、平和な社会づくりに貢献すべきではないかと思っています。

 それは、自衛隊の活動、先ほど申し上げましたように、PKOの五原則は崩れています。今の状況で自衛隊がいても、もともと計画していた南スーダンの国づくり支援をやることはできません。あるいは、むしろ戦闘に巻き込まれるリスクが高くなっています。

 それよりも、日本がやるべきことは、武力ではない協力。日本は、憲法九条を持つ国として、武力でもって紛争解決はできないというふうに宣言をしております。まさに今、そのことを南スーダンの人たち、特に紛争当事者に伝えていく。残念ながら、南スーダンの紛争当事者は、問題があれば武力で解決できるという考えを強く持っています。それに対して、いや、そうではないんだということで、日本がほかの国と協力して、南スーダンの戦闘当事者が和解をするような、そういった話し合いをぜひ、仲介といいますか、することが日本のすべきことだと思います。

 南スーダン周辺諸国、エチオピア、ケニア、ウガンダ、スーダン、こういった国もこの南スーダンの紛争に大きくかかわっているわけですけれども、日本はその周辺のどの国とも非常に良好な外交関係を持っています。

 特にスーダン、それとウガンダ、この両方が非常に強くかかわっていますけれども、その両国と良好な関係を持っている国というのはそんなに多くはないです。日本は非常に良好です。そういった立場も生かして、周辺国も含めて、しかも、キール大統領だけではなくて、そのほかの反政府勢力、武装した人たちもいます、非武装の人たちもいます、そういった方も含めて話し合いの場を持つ。最初は非公式ででもいいと思いますけれども、そういった和解の手助けをするというのが、まさに日本がやるべきことではないかといったように思います。

 ただ、そうはいっても、自衛隊の問題を言うときに、今さらPKOから撤収できないのではないかといったような意見も聞くことがあります。私は、決してそういうことではないと思います。

 皆さん御存じのように、PKOというのは必ずしも軍だけではありません。軍はもちろんPKF、ピース・キーピング・フォースと呼ばれますけれども、PKO、ピース・キーピング・オペレーションの中には、それ以外の文民部門と呼ばれる部門もあるわけですね。それは文民警察もあります、あるいは警察以外のさまざまな行政機構の整備、あるいは法律の整備といった部門のスタッフもいらっしゃいます。そういったところに派遣することで、日本は大きな貢献ができるのではないかと私は思っております。

 最後になりますけれども、何とかこの殺し合いをとめることがもちろん第一ではありますけれども、現実には、目の前で苦しんでいる人たちへの人道支援ということもまた非常に大きな課題です。こういった面でも日本は積極的に取り組むべきと思いますけれども、一つだけ私の立場から申し上げさせていただきますと、今、日本のNGOは、非常に日本人スタッフが南スーダンに入りにくい状況になっています。

 これは、日本のNGOが日本政府、外務省から助成金をもらって活動していると、南スーダンへの渡航が現状では非常に規制されております。私が南スーダンに行っているのは、私どもは南スーダンについては外務省の助成金を受けずに活動しておりますので入れますけれども、そういった助成金を受けていると入れないといったような状態です。

 もともと、皆さん覚えていらっしゃると思いますけれども、安倍首相が駆けつけ警護の話をしたときに、現地で頑張っているNGOの方がいる、そういう方を見捨てていいのかといったような話をされたかと思いますけれども、現実に今、日本政府がやっていることは、NGOの日本人が南スーダンには入れない、あるいは非常に入りにくいようなことをやっております。これはNGOだけではありません。日本人の研究者の方もなかなか入れません。そのことによって、日本に入ってくる南スーダンの情報は非常に限られています。

 南スーダンに対して日本がどういった外交的な努力ができるのかを考えるときに、現地の情報は非常に重要だと思います。しかも、それは政府の皆さんだけではなくて、民間の、あるいは研究者の方、いろいろな情報を集めて初めて正しい判断ができると思いますけれども、現実にはそれができない状態になっている。ここについてもぜひ皆さんに再考していただきたいというふうな問題提起を最後にいたしまして、私の話を終わらせていただきたいと思います。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

浜田委員長 ありがとうございました。

 次に、小林公述人にお願いいたします。

小林公述人 おはようございます。

 このような場にお招きいただきまして、まことにありがとうございます。

 というのは、教育費というのは国の予算の中でもかなり大きな部分を占めているわけでありますけれども、実は、なかなか教育費の問題ということが語られるということは少ないわけであります。

 教育というのは、時間的にも空間的にも非常に広がりを持った問題です。国家百年の計と言われることもあるように、時間的にも非常に長いスパンのものでありますし、社会、経済にも影響を及ぼしますし、福祉その他の領域にもかかわっている問題であります。しかしながら、教育費の問題が正面を切って取り上げられるということはなかなか少ないのではないかというふうに思っておりまして、このような場で教育費の問題について、きょうは特にその中でも、時間の制限もありますので奨学金の問題だけに絞ってお話ししたいと思いますが、意見を表明する機会を与えていただいたことを改めて感謝を申し上げます。

 私はこの問題を長年研究している者でありますけれども、諸外国も実は同じような問題を抱えております。公財政が逼迫しており教育費の負担が重くなっている、進学率を上げるためには教育費がかかるという問題を抱えているわけでありまして、全ての国が、いわばそれぞれ工夫をしながら、何とか自分たちの教育を質を上げよう、量的にふやそう、そういう努力をしているのが現状だろうというふうに思っております。

 そういう中で、私は、特に奨学金制度の改革について、さまざまな、文部科学省の委員会、あるいは日本学生支援機構の改革にも取り組んでまいりました。そういう観点から、少し今度の新しい給付型奨学金制度を中心として意見を述べたいと思います。

 まず申し上げたいことは、この制度が非常に画期的な制度であるということであります。これは意外かと思われる方もいらっしゃるかもしれませんけれども、実は給付型奨学金制度というものがないのは日本とアイスランドだけで、つい最近まで韓国もなかったんですけれども、韓国はこれが急速に近年整備されました。ということで、実質的に日本が非常に立ちおくれていたということがあります。あしたから韓国に参ってこの点を議論することになっているんですけれども、そういう意味でも日本は立ちおくれていたということが言えるかと思います。

 もう一つ強調したいのは、この給付型奨学金制度というのは、ただこの制度の改革だけではなくて、新しい所得連動型返還制度というものとセットになっているということであります。この点については比較的見落とされがちなのでありますので、この点についてきょうは少し意見を述べたいと思っております。

 給付型奨学金制度というものは、言うまでもなく、低所得層の方々に進学を促進するという役割を持っているものでありまして、これは明確な目的であります。これに対して所得連動型というものは、低所得層だけではなくて中所得層にとっても、非常に教育費の負担を軽減する、あるいは、ローン回避と呼ばれる現象を防止するという意味で、非常に重要な意味を持っております。量的にも、これは無利子奨学金全員が対象でありますので、非常に大きな制度であります。

 したがいまして、現在、二つの大きな奨学金制度の改革が進行しているということをまず申し述べたいと思います。

 なぜこうした制度の改革が必要だったかということについてでありますけれども、これまで日本は、諸外国に比べますと、やはり教育費負担が家族主義であるという傾向が非常に強かったというふうに考えられます。

 教育というのは親の責任であって、責任である以上、教育の費用も親が負担するんだという考え方でありまして、これは、公的負担主義のヨーロッパ、あるいは、個人主義的な、個人が負担するというアングロサクソン的な考え方、つまりイギリス、ニュージーランド、オーストラリア、アメリカといった国と非常に対照をなしているわけであります。そういったこともありまして、こういった奨学金制度が十分に整備されてこなかったという背景があります。

 そういう中で、授業料の高騰だけが続いてまいりました。これは御存じの方も非常に多いかと思いますけれども、改めて確認しておきたいわけでありますが、そこに簡単なグラフを、見ていただければわかりますように、一九七二年に三倍に値上げされて以降、国立大学の授業料は急速な勢いで値上げを繰り返してきたわけであります。最近十年ほどは落ちついておりますけれども、これだけ急激に値上げがなされたものというのは少ないかと思います。

 これに対して諸外国の場合には、やはり授業料の高騰ということは見られるんですけれども、それに対して奨学金を整備するという、いわばセットにして改革が進められていたということが特徴なんですけれども、日本の場合は、それに対して遺憾ながら奨学金の制度改革がなされてこなかった、ほとんど七十年間同じ制度が続いてきたということに大きな問題があるというふうに考えております。

 私立大学の方も参考に挙げてあります。

 資料二ページ目にもありますが、これに対しまして日本で起こったのは有利子奨学金の爆発的な量的な拡大でありまして、そのグラフに示しましたように、有利子奨学金が創設されたのは一九八四年でありますけれども、これが一九九八年以降爆発的に拡大しまして、当時の七倍以上の規模に上っているわけであります。

 これがいろいろな問題を引き起こしている背景でありまして、最近は少し減少しておりますけれども、これは、第一種奨学金、無利子奨学金がふえているということもありますし、大学生の数自体がふえていないということ、あるいは、先ほど少し申しました、ローン回避と申しまして、奨学金を借りたくないという人たちがふえているという問題があるかというふうに思います。こういった、奨学金がふえている、制度の改革がなされないまま量的に拡大したということがこの問題の背景、制度改革が必要な大きな背景であるかと思います。

 それは、返還の負担が非常に重くなってきた、そういう中でローン回避傾向が発生しているということで、これは日本だけの現象ではありませんで、アメリカあるいはイギリスのような国でも非常にこのローン回避と言われる問題が起きております。これは、奨学金を借りて進学する、そして卒業後にそれを返すという仕組みで成り立っているわけでありますけれども、奨学金を借りないという選択をする、そのために進学を極端な場合には断念するというようなことが起きているということが問題になってきているわけであります。

 この背景にありますのは、言うまでもなく、大卒労働市場が非常に不安定になっているということ、雇用が不安定になっているということが背景にあります。大卒者の三人に一人が三年で離職するというような状況でありますので、従来のような、終身雇用制で安定した収入が得られ、返済の見込みが立っているという状況ではなくなってきている、そういうことが挙げられるわけであります。とりわけリーマン・ショック以降、社会経済的な格差が拡大しているという中で、教育の格差も拡大しております。

 その点について、きょうは所得階層間の格差だけ御紹介したいのでありますけれども、実は地域間の格差というものも非常に大きな問題でありまして、都道府県別の大学進学率は、最高の東京都と最低の鹿児島県あるいは沖縄県では四〇%の差がありまして、非常に大きな格差があります。この地域間の格差も非常に大きな問題です。

 それから、男女間についても、最近急速に女子の四年制大学進学率は伸びておりますけれども、まだ、二年制の短期大学進学率というものもありますので、その間にも格差があります。

 それから、強調しておきたいのは、こういった格差というものは単独に発生するものではなくて、地域間、男女間、所得階層間の格差というものが複合して格差を拡大しているということであります。

 この中で、奨学金に関連します所得階層別の進路だけ見ておきたいのでありますけれども、左側、図の四は二〇〇六年に行われた東京大学の調査であります。これを見ますと、私立大学進学率について、所得階層別に非常に大きな格差があるということがおわかりだと思います。これは大学進学率という形でよく資料に出されておるわけでありますけれども、ここでは国公立大学と私立大学に分けて表示してあります。

 私がむしろ注目したいのは、二〇〇六年の段階では、国公立大学進学率、図の一〇%程度のところですけれども、見にくくて恐縮でありますけれども、これは大体フラットであります。つまり、二〇〇六年段階では、国公立大学というのはどの所得階層にも比較的平等に開かれていた。これは、国公立大学のミッションが全ての国民に教養の機会を提供することでありますから、そのミッションを十分に果たしていたというふうに考えられるわけであります。

 ところが、二〇一二年にもう一つの調査を行ったところ、私立大学については同じように大きな格差があるんですが、国公立大学についても非常に大きな格差が見られるようになってきたということであります。図で見ますと余り大きな格差というふうに見られないかもしれませんが、低所得層の四百万円以下の層では七%、一千五十万円の高所得層では二一%と、三倍の格差が出ているということになります。

 こうしますと、国公立大学がそのミッションを果たせないということにもなりかねないわけでありまして、この一つの調査だけで結論を申し述べるつもりはありませんけれども、現在も引き続き同じような調査を行っていますが、もしこれが事実だとすると大きな問題であるというふうに考えるわけであります。

 こういった格差の拡大に対して、やはり奨学金制度の改革ということが不可避になってきたというのが制度の改革の背景にある問題だろうというふうに思っております。

 創設される給付型奨学金制度について若干意見を申したいと思いますが、この制度については、新聞報道等でなされておるものを拝見しますと、非常に少な過ぎるという意見が強いかというふうに思います。規模あるいは金額ともに非常に小さいということが多く意見として見られます。

 これに対して私は、規模については、住民税非課税世帯というのは一つの明確な基準でありまして、これは非常に意味があるものだというふうに思っております。したがって、規模については、現在のところは、低所得層の進学を促すという制度の趣旨から見て、もちろん将来的に規模を拡大するということは課題でありますけれども、意味があるのではないかというふうに思っております。

 それに対しまして、給付額が二万円から四万円、月額ですが、これは諸外国に比べても少な過ぎるのではないかというふうに考えております。大体、年額にしますと三十万から八十万円ぐらいが、最高額ですけれども、多いわけでありまして、それに比べると少ない。そして、低所得の人たちというのは、高校を出てすぐ働かなければいけないという条件にあるような方も多いわけでありますので、たとえ授業料が無償であっても、それだけではなかなか進学を促すという効果はありませんので、そういう意味でも金額はもう少しふやした方がよかったのではないかというのが私の意見です。

 それから、新所得連動型返還制度についてでありますが、これについては三ページ目の図をごらんください。

 比較的わかりにくい制度でありますので少し解説したいと思いますが、これは所得に応じて一定の金額を返済するという制度でありまして、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、あるいはアメリカの一部で使われている制度であります。これは、言うまでもなく所得に応じるわけでありますから、低所得の場合には返済の負担感というものが非常に小さいということが大きな特徴でありまして、返済の負担に対する保険の役割を果たすというふうに言われております。そういう意味で、ローン回避を防ぐ有効な方策であるというふうにも言われております。

 この新しくできます制度でありますけれども、大体、これは大卒者本人の所得が非課税の場合には二千円程度、月額です。所得に応じまして課税所得の九%程度を支払うということでありまして、現在、私立自宅生が奨学生では一番多いわけですが、これが月額一万四千四百円でありますけれども、それに達するのが大体年収が四百万円を超えるということでありまして、大体二十代のうちは非常に返済の負担が少なくなっているというのが大きな特徴であります。

 こういった新しい制度をつくったわけでありますけれども、これが、これからもちろん国会で議論していただくことになると思いますが、一つの問題としてありますのは、従来の制度も残したということでありまして、そのために非常に選択が難しくなっているという問題があります。従来の制度、定額返還型と所得連動型を高校生が十八歳のときに選ばなければいけないという問題が生じているわけであります。

 これに対しまして、情報の周知とかガイダンスの必要性ということを強調したいと思っておりまして、この点につきましては、新しくスカラシップアドバイザー制度というものをつくりまして、ファイナンシャルプランナーの方にお願いして、各高校に十分説明をしてもらって、それから高校から高校生に説明するというような制度をつくっていただくということになっておりますが、これをぜひ強力に推進していただきたいというふうに思っております。

 最後に、今後の課題でありますが、今回の制度は、残念ながら、私の意見では、完璧な制度というものではありません。さまざまな現実の制約の中で妥協を強いられたものであります。

 まず第一に、今回の制度というものは進学の促進ということでありますので、高校生のときに採用する制度でありまして、大学在学時についての経済的な支援ではございません。

 現在問題になっているのは、家計急変と申しまして、親がリストラになる、病気になる、あるいはお亡くなりになるというような場合に、授業料が未納で退学になってしまうというようなケースが非常にふえているわけでありますけれども、こうした点に対して、遺憾ながら、公的な奨学金制度というのが十分に整備されていない。この点についてはまだ全く未解決であります。

 それから、先ほど申しました給付型奨学金の金額が少な過ぎるという問題ですが、これは、私は段階的な金額設定ということを提案したいと思います。これは諸外国でもよく見られている方式でありまして、例えば一万円から七万円というふうにしますと、最高が七万円ということになりますので、そういう意味で、所得の低い人により手厚い制度になるということであります。

 それから、三番については言うまでもございません。

 四番も、先ほど申しましたが、こういった、現在広がっているのは、情報を持っている人、持たない人の差が非常に拡大しているという問題でありまして、特に最近は、奨学金についても、SNS等を通じて非常に誤った情報が拡散しているというような状況にあります。大学の教員でも、かなり間違った情報をSNS等で発信しております。

 こういった事態に対しまして、こういった情報ギャップというものを是正するためには、金融リテラシーのための教育というものが不可欠であるというふうに考えております。これは、現在、文部科学省によりますと、高校の家庭科が必修でありまして、そこで消費者教育、ローンの教育ということが行われるということでありますけれども、遺憾ながら、奨学金については特に触れられていません。こういったことをどこかで教えるということが非常に重要になってくるというふうに考えております。

 それから五番目に、こういった厳しい公財政の中にありましては、教育のための寄附の増加と教育費負担を再検討するということがどうしても必要になるかというふうに思っております。

 大学が独自に奨学金をつくって学生の支援に乗り出しているということが、最近非常に多く見られるようになりました。これに対しまして、寄附税制等についてもかなり緩和がなされておりますけれども、まだまだアメリカ等に比べると十分ではありませんので、こういった点、一層支援策を求めたいというふうに思っております。

 これで、象徴的なことでありますが、孫への教育資金について相続税の非課税ということが行われておりますが、これが大体現在一兆円規模ございます。非常に大きな市場規模になっているわけで、これは先ほど申しましたように、日本では教育は親の責任、家族の責任でありますから、こういったことには非常にお金を使う、孫のためにはお金を使うわけですけれども、それを公的な形で税金として取られるのは嫌だということでありますので、そういった考え方を少しずつ変えていかなければならないのではないかというふうに思っております。

 そういう意味で教育の家族主義的なものを転換していくということでありまして、これは教育を公的な負担とするということの意味を問い直すということになりまして、税金を使う以上、教育が非常に公的な意味を持っているということを大学の側も発信していかなければならないというふうに考えております。

 最後になりますが、私のセンターで卒業時に東大生の調査というものを行っておりまして、東京大学で税金で教育を受けたという意識があるかということを聞いているんですが、毎年、大体半数です。遺憾ながら半数しかそういう意識を持てないということでありまして、そういうことになりますと、社会に出てから貢献する必要もないというようなことにもなりかねませんので、税金を使っているんだという意識を持たせていくということも必要ではないかというふうに思っております。

 いずれにいたしましても、新制度、これからスタートするわけでありますが、不断に手直しをしながら、さらによい制度を目指していくということが必要であるというふうに考えております。

 以上です。ありがとうございました。(拍手)

浜田委員長 ありがとうございました。

 次に、高橋公述人、お願いいたします。

高橋公述人 おはようございます。嘉悦大学の高橋洋一でございます。

 きょうは、このような意見陳述の機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。

 二十九年度予算に関連しまして、三つほど話題を述べたいと思っております。

 結論を先に申し上げれば、一つ目は、最近のマクロ経済学から見て、財政事情というのは統合政府、この統合政府というのは政府と中央銀行を会計的に一体と見る考え方でありますけれども、これで見るべきであるということ。二番目は、教育支出、これは未来投資として捉えるべきだ。三番目は、予算の無駄遣い批判というのがありますけれども、これに対しては天下り根絶を徹底的に行うこと。この三つが結論であります。

 それでは最初に、二ページというか、皆さんにお配りしている資料ですと最初の資料の下の方になりますか、これで財政、金融のモデルを三つほど挙げております。

 一つは、伝統的な財政政策と金融政策のモデル。二番目は、今話題になっているFTPL、財政の物価理論、フィスカル・セオリー・オブ・プライス・レベルというものです。三番目は、統合政府という話であります。

 最初に、伝統的なもの、これは多分御承知だと思いますけれども、政府というのはどこを見ていっているかというと、政府のバランスシートの右側のグロスの債務を見て、またはそのグロスの債務の対GDP比でもいいんですけれども、いずれにしてもグロスの債務を見て、増税、歳出カットで財政再建をしようと。金融政策の方は何になっているかというと、物価水準。物価水準と失業というのは、逆相関といって、フィリップス関係というんですけれども、これを前提とすれば、実は、物価とともに雇用を金融政策によって達成するというモデルであります。これは、財政政策と金融政策を分離したモデルでありまして、よく出てくる話です。

 二番目のFTPL、これは最近、シムズさん、アメリカのプリンストン大学の教授ですけれども、それを浜田先生が日本に紹介しまして、最近話題になっているものでありますね。

 このFTPLというのは、説明し出しますと難しい数式がたくさん並んでいて非常に大変だと言われるんですけれども、実は私は数学出身なので、こういう人から見たら物すごく簡単です。

 簡単に言うと、財政の予算式というのがありまして、どういうものかというと、これは予算委員会ですから皆さん御承知でしょうけれども、支出というのは税収と国債で成り立っているという、それだけです。それを言い直すと、国債というのは、実は、支出から税収を引いたものになるということですね。これは今までの話ですけれども、これを将来にわたって足し算していくとどうなるか。当然のことながら、債務残高というのは、将来の財政支出、これは先ほどの支出から税収の逆でして、税収から支出を引いたものの足し算で賄わなければならない、たったこれだけの話です。

 これの解釈の仕方として、一つの財政再建のやり方とすれば、真面目に財政再建をすると言いまして、将来の財政収支をよくする、そのために増税をする、そういう考え方があります。もう一方は、財政再建、これを真面目に言わない。真面目に言わないで、インフレによって実質的な債務残高を減らす。そういうふうな、どちらかの選択になります。シムズさんは後者の方の話をより強調しているということになります。

 ただ、財政再建を真面目にしないという話ですから、これはとてつもなく不謹慎だという議論が実はあります。学説ですから、学説というか物の考え方なので、論理的には先ほどの二つの選択肢は否定できないわけなんですけれども、最も伝統的なモデルから見れば物すごくこれは不謹慎になります。

 大体、そういう不謹慎なんて言っている人は伝統的なモデルにとらわれている人だと思いますけれども、実は、FTPLでも、その理論式をきちんと見ると、これは債務残高と書いたんですが、実は伝統的なモデルのグロスの債務残高ではないですね。グロスの債務残高というのは、皆さん御承知でしょうけれども、一千兆円という話で、GDPの二倍とかいう話になりますけれども、ここではないですね。

 ですから、それは三ページ目にちょっと書いておきましたけれども、この三ページ目、これは政府のバランスシートなんですけれども、日銀が入っていないもの、これは今でも実は財務省のホームページに出ています。でも実は、これをつくったのは、私が二十年前、財務省の役人、大蔵省の役人だったときなので、それはその後、十年間ほどお蔵入りして公表されなかったですが、小泉政権のときから公表されて、今に至っております。ですから、この数字は、そのままとってきて、それをただ丸めただけであります。

 これを見ますと、FTPLのところを忠実に考えると、実は、ネットの債務残高ですから、四百五十兆円というレベルでの話になりまして、シムズの議論もそんなに大げさな話には、極端な話にはならないというふうに思います。

 さらに、このFTPLを拡張、一般化して考えることもできます。これが実は統合政府になるんですけれども、こういうふうに拡張、一般化するというのは、数学者が最も得意だし、好きな考えなんですね。こういうふうに拡張、一般化しますと本質が見えてくる、そういう原理もあるくらいなんですけれども、それで見ます。

 FTPLでは、政府のみを考えまして、実は中央銀行を入れた予算式は考えないことが多いです。これは人によってちょっと違うんですけれども、大体は考えていないです。ただ、これは、実際の経済を考えるときにはちょっと問題が出てきます。

 というのは、これは予算委員会ですから皆さん御承知でしょうけれども、財政収入の中には税収以外もありますね。税外収入です。税外収入の多くのものというのは、実はこれは中央銀行の納付金ですね。たまたま今の制度では、中央銀行の方がいろいろと積立金を立てると納付金が減っちゃいますけれども、それを全部抜きにして考えると、それなりの納付金があります。

 これはどこの国も一緒ですね。つまり、これは通貨発行益というわけでして、実際の予算制度の中では、中央銀行の予算式は組み込まれております。この数字、毎年のはちょっと小さく見えます。例えば、数兆円のオーダーですけれども、小さく見えますけれども、このFTPLのようにずっと将来まで足し算したらどうなるかというと、すごくでっかい金額になります。ストックベースですと、やはり数百兆というオーダーになりますね。

 ですから、そういう意味で、実際の経済を考えるときには、中央銀行は実は考えざるを得ないんですね。今、毎年は少ないけれどもそれを全部足し算すると大きくなると言ったんですけれども、これは、細かい数学のテクニックは省きますけれども、実は、足し算すると通貨を発行した金額になります。それが、ですから通貨発行益というわけでして、もしそれを証明したければ、高校程度の数学の知識があれば証明もできます。

 要するに、中央銀行を含めた予算式でないと実際の分析がなかなかできないというわけになります。経済学ではここで、政府と中央銀行を会計的に合算したものを統合政府と呼びます。この考え方がありまして、もちろん、統合政府といいましても、行動として、中央銀行は政策手段の独立性はあります。普通の意味での独立性ではないんですけれども、政策手段の独立性はあります。ただ、あくまでも、法的には公的、あと会計的には子会社なので、それで合算する、連結するというので統合政府の考え方ができていて、それで分析するのが多くあります。

 この場合、財政の着目点はどこになるかというと、実は統合政府のネット債務という形になります。これは、資料の四ページ目、先ほどの政府のバランスシートの下に書きました。これを書いたのは私なんですけれども、上の政府のバランスシートから、簡単でして、中央銀行のバランスシートを足し算すれば、これはできます。

 ですから、左の方には資産と国債が載っかってきて、右の方には国債と日銀券、銀行券という形が載っかりますね。

 ちょっとここで余計な話も書いちゃったんですけれども、実は徴税権というのがあって、これは私が勝手につけたものでありまして、これはなくても別に議論は問題ないのでちょっと省いて考えますと、まあ、それを除いても、統合政府の資産というのは千三百兆円。それで、負債の方は、国債が千三百五十あって、銀行券というのがあるんですけれども、この銀行券というのは利子なし、償還負担なしですから、普通の意味での債務ではありません。これが意味しているのは、要するに、統合政府のBSを考えると、ネット債務はほぼゼロというのが現状です。このBSを見まして、財政危機と言う人はまずいないと思います。

 もっとも、こういうふうに言いますと、資産で売れないものがあるとか、いろいろな批判があります。ただ、資産で売れないものを見ても、数は、そんなに量的には大きくないんです。資産の大半というのは実は金融資産でありまして、これは後で、最後に述べます天下りに大いに関係しております。はっきり言えば、天下り先への出資金、貸付金が極めて多いというのが現状です。

 資産で売れないと言っているんですが、天下り先の政府子会社を処分しては困るという程度の話でありまして、これは官僚の泣き言という側面が大きいです。

 もし本当に政府が大変になればどうなるか。関係子会社だって売るに決まっていますし、民営化するに決まっています。これは民間会社でも同じでありまして、政府でも、例えば、本当に財政危機に陥ったギリシャなんかは猛烈な勢いで売りました。これが普通です。道路なんかは売れないというのは確かにそのとおりなんですけれども、これはどこでも一緒で、少額ですし、数字的に大きなものは天下り先への資金提供の金融資産であります。

 海外から見れば、日本政府がたっぷりと金融資産を持っていて、民営化もほとんどしないという状況を見たり、売却をしないという状況を見れば、財政破綻のはずがないと思うのが普通であります。そういう形で、もう見透かされております。

 この統合政府から見ますと、アベノミクスによる量的緩和で、実は財政再建がほぼできてしまったというのがあります。かつて、私のプリンストン大学での先生はベン・バーナンキです。バーナンキが前に言っておりましたけれども、量的緩和すればデフレから脱却できるだろう、そうでなくても財政再建はできるよというふうに言いましたけれども、まさにそのとおりになっております。消費増税しないと財政破綻して国債が暴落するなんというのは、こういうふうなバランスシートを見ている人から見れば、最も考えられない話であります。

 財政再建ができたということを、ちょっとわかりにくいかもしれませんけれども、これを統合政府のBSに即して具体的に言ってみたいと思います。

 資産は九百兆あります。これは、先ほど述べたように、金融資産が大半であります。その収益というのは、ほぼ国債金利と同じです。ですが、これに相当する実は税外収入というのがあります。

 また、日銀の保有している国債、これは四百兆円ですけれども、ここは財政負担がありません。この分は、実は日銀に対して利払いはします。利払いはしますけれども、それは納付金で返ってきます。だから、その意味では財政負担がないということです。

 つまり、負債の千三百五十兆円というのがあるんですけれども、この利払い負担というのは資産側の税外収入でほぼ賄われるという形になっておりまして、この意味で、財政再建がほぼできているということになります。

 これを言いますと、これはストックの話でしょう、フローもあるでしょうという話も必ずあります。そこで、フローの話もちょっとつけ加えて、次の資料の五ページというのに書いておきました。

 フローという懸念は確かにあります。これからの話です。ただし、フローのプライマリーバランスというのは結構簡単な原理でできておりまして、一年前の名目経済成長率にほぼリンクしています。これは、日本に限らず、先進国どこでも一緒です。要するに、一年前の名目成長率を高めればおのずと回復するというレベルの話でありますから、そうしますと、これは、名目成長率を高く、つまりデフレ脱却というのを進めればいいという形になります。

 ここまで来ますと、シムズ氏のように、財政再建を無責任にしないで財政支出せよという言い方ではなくて、実は、そもそも財政再建問題がないのですから、デフレ脱却に向けて財政政策、金融政策もフル活動すればいいというふうな非常に単純な結論になります。

 シムズ氏は、実はゼロ金利では金融政策では制約もあるという言い方もするんですけれども、これも統合政府の観点から簡単に導き出されます。

 今のようなゼロ金利の世界では、中央銀行によって得られる毎年の通貨益はわずかしかない。このために、実は物価上昇の、上げる効果が弱くなります。ですから、こういうときには、公共投資及び国債を増発して財政政策で有効需要をつくるということになります。要するに、財政、金融の併用という形になりますね。

 こういうふうな話をしますと、確かにケインズの話を持ち出す人もいるんですね。ケインズの一般理論の中に、財政出動、公共投資について、穴を掘って埋めるといって、これが無駄な事業の代名詞のように実は説明されますけれども、その原文をきちんと読むとどういうふうに書いてあるかというと、貨幣を詰めた瓶を埋めて掘り返すと書いてあります。これは何を言っているか。貨幣を詰めた瓶ですから、掘り出せば金融緩和になるわけで、実は、財政、金融の一体という話をしているだけです。ですから、そういう意味で、この財政、金融の一体発動は全く古くからの話であります。

 今の金融政策、これは実は、六ページに書いてありますけれども、詳細は除きますけれども、金利管理というやり方なんですけれども、国債をある程度発行しないと、実は金融引き締めに陥ってしまうという弊害もあるということを指摘しておきたいと思います。

 次に、国債にふさわしい政策課題といえば、実は、これは次の七ページ目の話ですけれども、教育という形になろうかと思います。これは未来投資ですね。

 要するに、基礎教育とか基礎研究、教育なんかは、成果が出るまでの期間が長くて、大規模で広範囲に行う必要がありますので、そういう投資というのは公共事業が主導するべきであって、その財源は、実は税金ではなくて国債がふさわしいと思います。

 高等教育を実施すれば、実は、所得増、失業減があるので、結果として、かけた費用に対する便益が二倍以上になるという試算もあります。これは、はっきり言えば、今の公共事業選択基準を軽くクリアする話でありまして、教育とか研究開発というのは、いわば優良事業という見方もできます。ひとまず国債発行で賄って、効果の出る次の世代で返してもらうという形になります。

 そもそも、物に対する公共投資というのがあるのに、人への投資が税財源というのは、ちょっとつじつまが合わないと思います。

 実は、この話というのは、「予算と財政法」という、これは財務省の言ってみるとコンメンタールなんですけれども、そこの中にもちょっと記述があります。

 読みますと、「技術の進歩等を通じて後世代がその利益を享受でき、その意味で無形の資産と観念し得るものについては、後世代に相応の負担を求めるという観点から公債対象経費とすることについて妥当性があるものと考えられる。」と。まあ、ぐちゃぐちゃ言っていますけれども、はっきり言うと、出資金処理すれば、こういう形でやっても構わないと。過去にも、出資金処理でこういうような経費を公債対象経費としたことがあります。

 ちなみに、その下に財政法四条がありまして、ここには、公共事業と出資金、貸付金は、実は公債、建設公債から出せるという規定がありますから、今の法令のもとでやりますと、出資金にするのが一番簡単なので、そこでこういうような支出をやったこともあります。はっきり言うと、ここをちょっと改正して、教育関係にして、予算総則で教育関係費を書くのがすっきりしているのかもしれません。

 いずれにしましても、こういうのでやるという形になると、教育の無償化というのが今憲法改正でやるという議論が出てきたのは、非常に実はこの議論を加速する面で望ましいと思います。憲法で言うことになれば、時の政権や法律改正という話ではなくて、国の基本になりますので、その方が確実だと思います。

 最後に、天下りの話。ここはよく触れておきたいと思います。九ページであります。

 先ほど政府BSで述べましたように、資産の大半というのは天下り先への出資金、貸付金で、それだけ多くのストックがあるということは、毎年の予算でも財政支出があるということであります。

 私は、かつて第一次安倍政権のときの内閣参事官で、この天下り規制を企画した担当者です。そのときに、天下り規制というか再就職規制をつくったのは、余りに予算とかがひどく扱われているんじゃないのという話と、役所の人事の方がかかわってこういうふうなものが横行していたからであります。

 天下りというと、不適切な再就職というふうに定義しておきます。適切な再就職もあるわけでありまして、ちなみに私は適切な再就職をしたつもりです。ポイントは、役所があっせんを尽力することです。要するに、役所の力をかりて就職せずに独力で一人でやれば、これは適切な再就職になっております。

 こういうふうな役所人事、退職人事は、一定の管理職であれば経験をしております。私も、公務員だったときに管理職だったので、退職時には経験しました。結構きついですね。ただし、そこまでいかない人でも、天下り先の予算、手心を加えた予算をつける作業とか、それから監督権限で、多少手かげんした処分をした経験のある人はいるでしょう。こういうのが、ちょっとゆがめていると思います。

 再就職のポイントというのは、要するに、自分の関係先への求職はだめ、それと、あと、役所の人事のあっせんはだめというその二つになります。要するに独力でやれということであります。

 先日、全府省の調査というのが私のところに来ました。そこでは、再就職の経緯について細かく書くということですけれども、こういうふうな全数調査を行うのであれば、恒常的に調査機関をつくった方が簡単ですね。はっきり言えば、ちょっと人事をやっている人から見たら、この再就職に役所の関与があったかどうかなんというのは、かなり簡単にわかります。

 ちなみに、後発で再就職規制を実施した大阪府市では、第三者の手もかりながら、このような全数調査をしておりまして、それがかなりの牽制効果があっていると私は聞いております。

 また、役所の関連団体が人材を募集するとき、いきなり役所の人事課に話しにすぐ来るんじゃなくて、ハローワークを使ってやるというのがはるかにいいですね。要するに、ハローワークを使います、そうしますと、民間から求人がたくさん来ますよ、あんないいポストですからというので。そうしますと、少なくとも選考するときに民間と全く同一になりますから、手続がかなり透明化されると思います。

 さらに、制度的な改正というのもあります。

 今の再就職規制の抜け穴というと、官僚OBのあっせんというのは実は網がかかっていないです。官僚OBについては、何かの行為をしたらいけないというのは書いてあるんですけれども、人事課にかわってあっせんするのはかからないんですね。実際、そういうふうな事例を私も見聞きしました。

 あと、今の再就職規制違反というのは刑事罰はかかっていません。このようなのは実は検討した方がいいと思いますね。

 以上、三点でありまして、統合政府で財政は見るべきということ、教育というのは未来投資として考えるべきということ、それとあと、天下り根絶の実効性をさらに上げて、予算に対する批判がなくなってもらいたいと思っております。

 この三点を強調して、終わります。

 どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

浜田委員長 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

浜田委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。門博文君。

門委員 自由民主党の門博文でございます。

 きょうは、朝から公述人の皆様、公聴会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。

 私も、今、それぞれ四名の方々からお話を聞かせていただいて、それぞれの分野でそれぞれの御見識を聞かせていただきまして、大変勉強になりました。

 まず最初に、経済の問題について、熊谷公述人と高橋公述人にお話を伺えたらと思うんですけれども、まず、熊谷先生の方のお話にありましたように、アメリカの新政権のお話がありました。

 アメリカという国は、誰もが御存じのとおり、自由を謳歌して、自由の国ということでもありましたし、そして経済的にも、自由主義、自由貿易というものを標榜して、今まで世界の経済の先頭を走ってきました。私たち日本も、日米同盟を基軸にして、安全保障であり経済政策についても、アメリカに追随をして今まで進んできたところが多かったと思います。

 また、これは日本にはまだそういう観点は出ていないのかもわかりませんけれども、トランプ新政権の中で私が一つ注目したいのは、移民に対するさまざまな考え方。

 そもそも、アメリカは移民によって成立した国でありますし、過去、ここまで来るところの成長の過程の中で、移民の力に頼って成長を維持してきた、そんな背景もあったかと思います。しかし、その国が、新しいリーダーの誕生のもとに、また移民政策についても大きな転換を図ろうということを今考えておるところであります。

 そういった中で、自由貿易、自由主義から保護貿易、保護主義へ移ろうとしている新政権。そしてまた、移民の問題も今申し上げたとおりですけれども、日本は今まで、そういうアメリカの行き方を参考にして、日本の行き方もそれになぞらえてやってきた部分が多かったと思います。

 ただ、別の見方を私はいつもするんですけれども、今、日本にも海外から二千万人を超える観光客が訪れる、かつて今までの日本になかったような状態が起こったり、それから労働市場も、先般、厚労省からの発表にありましたように、いよいよ、日本で働いている外国人の方々は、いろいろな種別も含めて百万人も超えた。

 そしてまた、今度は、TPPはちょっと今いろいろなことがあれですけれども、その議論の中であったように、例えば、農作物を海外にどんどん輸出していこうという考え方があって、今まで日本というのは、鎖国が解けていた、開国されていたと思っていた部分の中で、まだまだ日本だけで抱え込んでいたようなことがあったと思うんですけれども、それがどんどんどんどん開けていこうとしたところで、さっき申し上げたように、トランプ政権が突然誕生して、何でも自由、何でも競争、何でもオープンにとやっていたのが、追いかけていた向こうがくるっとこっちを回って、保護主義、守りに転換したような気がするんです。

 こういう背景の中で、これから日本がとっていく政策として、短期的に、そして長期的に見て、何か熊谷公述人からヒントというかお考えを聞かせていただけたらと思うんですけれども、よろしくお願いいたします。

熊谷公述人 御質問ありがとうございます。

 日本がどういう方向に行くかということでいえば、もともと資源もない国であるし、それからやはり少子高齢化などが進展しているということもあるわけですから、やはり海外の成長の果実を日本に取り込んでいく、とりわけやはりこれから伸びていくのはアジアということですから、ここをしっかりと日本の成長の糧にしていくということ、これが非常に重要なポイントなんじゃないかと考えます。

 ちょっと一つデータを御説明させていただきたいのが、私の資料の四十九ページでございますけれども、例えば、これは、アメリカで二百万人から三百万人の移民の強制送還を行う、こういう話がありますが、ここで移民の強制送還などをやるとどれぐらいアメリカの潜在成長率、実力の成長率が下がるか、そういうシミュレーションでございます。

 横軸の方で、左にマイナス二百、これは二百万人、不法移民を強制送還すると、そのずっと下のところを見ていただいて、縦軸が、設備がどれぐらいふえるかですが、ゼロというところでいうと、アメリカの潜在成長率は〇・七%ぐらい落ちる。もしくは、三百万人強制送還するのであれば一・一%ぐらい落ちるということですから、やはり、今、アメリカは移民で成り立っている。人口のうち一四%程度が移民であって、人口がふえているうち四割以上が移民だということでございますので、これを閉ざしたときの悪影響。

 もしくは、保護貿易主義をとれば、アメリカは年間で二・二兆ドルの輸入をしている。二百五十兆円程度、世界の物を買って、そのことで世界が成り立っているわけですから、やはり、アメリカの方向性とは逆で、国を開き、とりわけ自由貿易などを推進していくということが日本にとっては非常に重要なんじゃないかと思います。

 ありがとうございます。

門委員 ありがとうございました。

 続いて、高橋公述人にお願いしたいんですけれども、さっき資料で統合政府のバランスシートを拝見しまして、なるほど、こういうふうにちゃんと見立てをすれば日本もそんなに心配じゃないんだなということがよくわかりました。

 その上で、やはり金融政策と財政政策一体になってやっていかなきゃいけないということで、今のお話の中では、我々、財政政策とか財政出動というと、とかく公共事業とかというところにまず目が行きがちなんですけれども、それはそれとして、今御指摘いただいたように、教育とか研究とかいうところにも、その投資先ということで御提案をいただいたというふうに思います。

 確かに、私たちも地域でいろいろな方々からお話を聞いていますと、要するにアベノミクスがまだ地域の隅々まで届いていないというようなお話をされて、確かにそう感じる部分もなきにしもあらずなんですけれども、そのとき本当によく思うのは、金融政策は積極的に今までやってきたんだと思います。ところが、やはり財政政策については、財政規律の問題があったり、いろいろな手かせ足かせがあって、まだまだ、せっかく水を沸騰させてお湯にしようとしているんですけれども、六十度とか七十度ぐらいのところでちまちまちまちまやっているような気がするんです。

 私もやはり財政政策を積極的にこれからやっていかなきゃいけないというふうに思っておりまして、そのあたり、今お話しをいただいた時間も足りなかったのかもわからないので、もうちょっと補足でお話を聞かせていただけたらと思います。

高橋公述人 時間でしゃべったんですけれども、いろいろな支出というときに、消費性のものと投資的なものがあるんですね。

 投資的なものというのはどこでも別に、ちゃんと投資の効率というか、BバイCとか、そういうようないろいろな採択基準を持って、それでクリアすれば、実は幾らやっても構わないというのが原則です。ですから、全く無駄な話ということになりますと、その採択基準が要するにひどいということですね。投資しても全然効果がないというのはだめなわけです。

 それで、物への投資ですと、物的な投資なのでかなりわかりやすく、BバイCとか、そういうのがあるわけですけれども、実はそれは無形固定資産で全く同じにできるんですよね。だから、無形固定資産でも同じような基準でちゃんと投資効率のあるものがいい。

 それで、これを経理するとどうなるかというと、無形資産ですから、今までの会計はちょっと変えないといけないんですけれども、ただ、物的なものについては公債対象経費になっていて無形はならないというのは全くロジカルじゃないと私は思っているんですよね。ですから、無形資産の形成になるような投資であって、かつ、今の物的投資と同じレベルの投資採択基準があれば、私は可能だと思います。

 そういうものというのはすごく多いと思うんですけれども、今までは、それは形式的に、無形固定資産ですから公債対象経費じゃないですよというんですね。そういう形でいいますと、ほかの税財源からこの支出をカットしなさいとか振りかえなさい、そういう話になるんですね。もちろんそれも無駄カットの中でできる範囲はありますけれども、そういう範囲で考えるのか、無形固定資産として投資採択基準を満たせばそれを全ていいと思うかで大分違うと思うんですよね。

 これからは無形固定資産にやはり投資すべきだと思うし、GDPなんかも、最近、無形固定資産の研究開発とか、そういうのをカウントするという話になっていますよね。そうしますと、それに資するような話というのは、以前よりかは実はかなり計測可能だと思うんですよね。ですから、そういう形で、無形固定資産に対する投資というのをちゃんとした採択基準のもとでやるということでぜひ政策をやっていただいたらいいのかなと思っております。

門委員 ありがとうございました。

 本当に、おっしゃるように未来への投資ということで、全部が全部成功することではない部分もあると思いますけれども、やはりそこに積極的に投資をしていくべきだと私も感じます。

 次に、そうしたら小林公述人にお話を聞かせていただきたいんです。

 きょうお話しいただいた御専門の部分とちょっと外れるかもわからないんですけれども、きょうのお話は大学進学のときの奨学金制度についてでしたけれども、私たちも地元でいろいろお話を聞いている中で、大学へ行くまでのところ、ここでもう家庭の所得の格差があって、結局、大学受験にさえたどり着けていない、そういう学力の格差というのが広がっている。

 大学受験するときの一つの仕組みとして今回の奨学金制度というのがこれから有効に活用されると思うんですけれども、そこへ行く手前のところの今の教育の経済的な格差の部分で、何かちょっと御意見を賜れたらと思うんです。

小林公述人 御質問ありがとうございました。

 確かに進学の問題で一番大きいのは学力問題でありまして、次に教育費の負担というのが順番であります。

 ただ、学力の格差というものは非常に簡単に解決するのが難しい、そこに行くまでに、就学前あるいは初等中等教育という形でさまざまな格差が拡大しているというのが現状でありまして、それを直すのは非常に難しい。

 ただ、そういう中で、一定の学力がありながら経済的な理由だけで進学できない方がいるということも事実でありまして、政策の順序といたしまして、まずそちらの方を優先して、とにかく経済的な理由だけで進学できない方を救うというのが今回の給付型奨学金の制度だというふうに考えております。

 政策の優先順位の問題というふうに考えております。

門委員 ありがとうございました。

 そういう優先順位ということなので、続けて我々もまた、今こちらから発言したようなテーマについても取り組んでいきたいと思います。

 そうしたら、最後に今井公述人にお伺いしたいんです。

 最後の方のお話にありましたように、PKO以外にも日本がやれることがあるということで、もちろん我々も、国際貢献、そして国際社会の中で日本がどうあるべきかという一環の中で、今回このPKO活動、自衛隊の方々に行っていただいているんですけれども。

 今現地がどういう状況かというのは先ほどのお話でよくわかった部分もあるんですけれども、改めて、そうしたら、PKO五原則が満たされていない、これは公述人が判断されるんじゃなくて政府が今度判断するわけですけれども、そういうときに、もし万が一撤退ということが仮に起こったとしたら、最後の方でおっしゃっていたように、では日本は何をしたらいいのか。もちろん、近隣諸国との間に入っていろいろな和平交渉というお話もありましたけれども、それはある面、現実的である面もあると思いますし、現実的にならない部分もあって、私でもきょう何かできるかと聞いたときに、何ができるか、最後に教えていただけたらありがたいんですけれども、国際貢献という意味でスーダンに。

今井公述人 御質問ありがとうございます。

 具体的にできること、確かに、外交面でのかかわりというのは非常に難しいというのは理解できますけれども、私は、一つは余りにも日本はそういったことに関しては及び腰かなと思います。率直に申し上げまして、私も海外に駐在しておりまして、大使館の方ですとかと話す機会は多いんですけれども、ちょっと日本は余りそういうことにはかかわらないといったような立場も見受けられますので。

 日本に対する期待といいますか印象、さっき、周辺諸国どこも良好な関係と申し上げましたけれども、あるいは、キール政権側もあるいは反政府の人たちも、日本に対しては欧米とはまた違った、あるいは中国とかロシアとは違った意味で、より中立的であるといったようないい意味での印象を持っていますので、そういったところを利用していろいろなことができる、さっき非公式な折衝とか言いましたけれども。

 そういう意味では、国会議員の皆さんは、ぜひそういった意味で、皆さん、議員さんとして議員外交というのもあるのかもしれませんし、今の政府に対してそういった提案をしていただきたいというふうに思っております。

 PKOについては、さっきも申し上げましたとおり、自衛隊ではなくてPKOの文民部門というのがありますので、これも皆さんもうよくわかっていらっしゃるとおり、今、いわゆる先進国の多くの国は、PKF、軍ではなくて文民部門に要員を派遣したりしていますので、そういったところにはもっともっとできるのではないかと思っております。

門委員 私の方からの質問は終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

浜田委員長 次に、富田茂之君。

富田委員 公明党の富田茂之でございます。

 四人の公述人の先生方、大変貴重な御意見、ありがとうございました。六年ぶりに予算委員会の席に座って、本当に勉強になりました。ありがとうございます。

 私の方からは、特に小林先生に、給付型奨学金の制度設計について、教育再生実行会議の専門家会議とか、私ども公明党の給付型奨学金推進プロジェクトチームにも来ていただきまして御講演をいただきまして、大変参考になりましたので、その点も含めて、きょうの御意見を踏まえた上で、何点か確認をさせていただきたいというふうに思います。

 先生は、制度設計に当たって、公明新聞の方でインタビューをさせていただいたときに、こんなふうに言われておりました。

 経済的理由で進学が難しい子供の背中を押せる制度かどうか、これが一番ポイントだ、進学先の少ない地方に住む低所得世帯の子供をどう支援するかが議論の一つの出発点になる、そうした子供たちは、自宅から通えず進学費用がかさむ上に、学習環境が不十分で、学力が低いことも多い、成績要件を高くしてしまうと進学が難しい、一方、大学側が単位認定を厳格化している中で、卒業できることも必要である、無条件で成績要件を外すことは疑問だというふうに御提言をしてくださいました。

 先生のこの提言を踏まえて、私ども公明党も、また自民党の皆さんと一緒に何度も協議を重ねて今回の制度設計をした上で、二十九年度予算案、また独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律案という形でこの国会に提出をさせていただきました。

 一七年度は約二千八百人の枠で、本格実施となる一八年度からは約二万人規模で実施をされます。先ほど先生からもありましたけれども、住民税非課税世帯から大学や専門学校などへの進学者のうち、高校など学校の推薦を受けた人に毎月二万から四万円が支給されます。また、公明党の提案で、児童養護施設出身者などには入学時に二十四万円が追加支給されることとなりました。

 また、一七年度からは、無利子奨学金の貸与人数が拡大します。住民税非課税世帯を対象に成績要件が実質的に撤廃され、要件を満たしていても予算の関係で借りられないいわゆる残存適格者、二・四万人いらっしゃいますが、この方たちも解消されます。

 先ほど先生から詳しく説明していただきました、卒業後の所得に応じて奨学金の返還額を変える新所得連動返還型奨学金も、一七年度から導入されることになります。

 この給付型奨学金の導入、無利子奨学金における低所得世帯の成績要件の事実上撤廃、そして新所得連動返還型の導入、私はこの三点がセットになっていると思うんです。先生は二つが画期的な制度だというふうに先ほど御紹介していただきましたけれども、この三点のセットの評価。

 そしてまた、先ほど先生の方からもお話がありましたが、規模が小さいという批判が結構あります。ただ、二〇一二年度の学校基本調査等によれば、経済的理由で四年制大学へ進学できなかった者は一・九万人という数字が出ています。先生の大学の方でもこういう調査をされたというふうに伺っております。

 今回の制度設計は、私どもは十分進学の後押しになるというふうに考えているんですが、この点、先生の御意見はいかがでしょうか。

小林公述人 御質問ありがとうございます。

 まず、最初の学力要件の問題です。

 十分に御質問を理解できているかどうかわかりませんけれども、これは学力要件を片方で残すということについてなんです。これは私個人的な意見に近いんですけれども、一つは、学力要件を残すということによって、単なる福祉政策ではなくて、奨学金をもらうことが誇りになる、そういうような性格を持たせたいと思っております。

 先ほども申し上げましたが、十分説明できなかったかと思いますけれども、将来の社会貢献をそれによってしていただく。そういった奨学金をもらうことが誇りになって、将来の社会貢献をしていただくということのためにも、学力要件を給付型奨学金については残したいというふうに考えております。ただ、現実の問題といたしましては、一律の数値だけを当てはめるということは非常に危険なことでありますので、高校長の推薦という形にまとめさせていただいたというのが文部科学省のPTの結論であります。

 片方で、それと矛盾するようなことで、成績要件を外すということがあるわけであります。これは無利子奨学金のことでありますけれども、これにつきましては、逆に、全ての者に教育の機会を与える、そういう目的からしますと、とにかくチャンスを与えるということが重要でありますから、進学できるということによってある程度の学力要件は担保できているというふうに考えますので、そのことによって十分な、特に所得の低い、経済的な要件だけで進学できない子供たちにチャンスを与えるということで、そういった要件を外すということは非常に意味があるというふうに思っております。

 ですから、矛盾するようですけれども、この二つは目的が異なるので、両立するのではないかというふうに私は考えております。

 以上です。

    〔委員長退席、武藤(容)委員長代理着席〕

富田委員 小林先生にもう何点か質問したいんです。

 先ほど、二万円から四万円は欧米に比べて額が少ないというお話がありました。私どもも、大学や学生へ直接いろいろヒアリングいたしまして、私立の大学生は年間百二十万ぐらいかかる、その半分ぐらいの額が給付型で支給されない限り、給付型を借りようというインセンティブにはならないというようなお話が大分ありました。

 そういったことで、できれば月額五万円ということで自民党の皆さんと調整させていただいたんですが、なかなか財源の制限もございますので、できませんでした。

 そこで、社会的養護を必要とする学生には増額すべきではないかということを、公明党から自民党に提案させていただきまして、自民党の皆さんと一緒に総理にも申し入れをさせていただきました。

 社会的養護を必要とする児童養護施設の出身者の学生さんは、大学入学とともに自立する必要があります。生活の基盤をすぐそこでつくらなきゃならない。そして、ほかの学生さんと違って、なかなか御家族からの援助は困難な状況にあります。児童養護施設出身のお子さんの進学率が、二十六年四月の厚生労働省の調査で二二・六%、全世帯の大学の現役進学率は、平成二十七年度の学校基本調査によると七三・二%と、はるかに、先ほど先生言われたように、格差が生じているのは明らかであります。

 そういった意味で、何とかこの子たちに援助ができないかということで協議をさせていただいて、文科省の方でもいろいろ調べていただきました。児童養護施設出身者の方の進学先が短期大学や専門学校にかなり偏っているということで、ここは二年間ですので、一般の学生さんに月一万円プラスしたとすると二十四万円になる、この二十四万円を入学時に渡すことによって進学の後押しができないかということで、自民党の皆さんの了解もいただいて、文科省と協議して、社会的養護を必要とする学生への追加給付ということが決まりました。こういったことについての評価をまずお聞きしたい。

 もう一点、財源をどうするかというのが大変問題でした。財源なしに、できるだけ多くの方に給付できればいいんですけれども、そうもいきませんので、私どもは、平成十六年度採用者から廃止になっている教員・研究職特別返還免除制度に目をつけまして、これが平成三十二年度以降毎年必要額が減少していって、百五十億とか百七十億ぐらい枠が余ってくるんですね。ここを何とか使えないかということで財務省とも調整しまして、最終的に、この枠に加えて、奨学金事業の見直し、そして全予算の中で既定経費を見直して、平年度ベースで二百二十億円を何とか確保することができて今回の給付型が始まるんですが、先ほど先生言われていた、やはりそれだけでは足りない。

 今回の仕組みの中で、日本学生支援機構法の改正案の第二十三条の二第一項に学資支給基金という新たな基金を設けて、この基金に充てることを条件として政府以外の者から出捐することが可能な仕組みをつくらせていただきました。これは公明党から、やはり安定した資金が必要なんじゃないかということで提案させていただいて、こういう仕組みをつくったんですが、この基金のあり方というか、今後どういうふうに活用していったらいいか、この二点について御意見を伺えればと思います。

小林公述人 御質問ありがとうございます。

 初めに、社会的弱者、とりわけ養護施設退所者についてでありますが、これは今、富田先生御指摘のように、非常に厳しい状況に置かれておりますので、なかなか進学がおぼつかない。ただし、私たちもいろいろな調査をしておりまして、その中で、こういった方の中で、非常に立派な成績を上げて大学に進学されているという方もいらっしゃるということも十分存じ上げておりますので、こういった方のまさしく背中を押したいというふうに考えております。

 その方にとっては、入学金というのは非常に大きな制約になっているということも事実でありまして、これはなかなか知られていないことなんですけれども、日本では、大学のときに入学金というのを三十万円程度払わなければいけないわけで、これが実は進学の大きな制約になっております。これは世界的に見ても珍しい制度でありまして、これだけ高い入学金を取っている国はほかにないわけであります。ですから、この障害を除くということで、非常に意味がある制度であるというふうに考えております。

 もう一つ、その財源論についての御質問なんですけれども、これは先ほど少し申し上げましたけれども、私は、自分の子供や孫の教育のためにお金を出すというだけではなくて、やはり社会全体で少しお金を出していくような仕組みをつくることが重要ではないかというふうに思っておりまして、そういう意味では、基金という形で寄附を募っていくというのは非常に一つのやり方として有効であるというふうに考えておりますけれども、より本質的には、やはり相続税なりをもう少しきちんとしていくということも必要ではないかというふうに考えております。

 以上です。

富田委員 高橋公述人にお伺いしたいんですが、先ほど、教育は未来への投資だということでお話をされていました。固定資産についてBバイCのような基準がきちんとあるのであれば、無形資産についても同じように考えられるのではないか。そのとおりだと思うんですが、やはり財政法四条をどう乗り越えるかだと思うんですね、先ほど門先生の質問に答えられていましたけれども。

 実は、この予算委員会でも、麻生財務大臣は、それは子供に借金を残すことになるじゃないかということで、教育国債については余り肯定的な御意見ではありませんでした。高橋公述人は財務省出身ですので、そこらあたりは御意見が違うんだと思うんですが、未来への投資ということで、この財政法四条の規定をどう乗り越えたらいいのか。先ほど、出資金というお話もありました。公債の中に入ってもいいんじゃないかという御意見もありました。何か具体的に、財政法四条の壁を乗り越えるような案がありますでしょうか。

高橋公述人 案はたくさんあるんですけれども、一番単刀直入に言えば、財政法四条を改正すれば簡単ですね。公共事業関係費の次に教育関係費として、その細目については予算総則に書けば一番簡単でありますね。それでなければ、さっき言ったように出資金処理をして、それでやるというのが一つのパターンですね。

 もう一個、財源を探せと言われたら、結構簡単な話なんですけれども、私、先ほど、統合政府で通貨発行益を利用すると言いましたよね。これは結構簡単に利用できるのがあって、例えば、通貨発行益を妨げているというのは、日本銀行の方で先に使っちゃって政府への税外収入が少なくなっている要因で、一番簡単なのは、実は日銀当座預金への付利、利子をつけていることですが、〇・一%つけているんですけれども、大体、当座預金に利子がつくというのは民間でありますかという議論ですね。

 民間金融機関は、そもそも、普通の企業から当座預金を受けていますけれども、これは無利子ですよね。その無利子のお金をそのまま日銀に持っていって〇・一%さやがとれるというのはとんでもない話でして、これが日銀当座預金の中で二百兆円ほどあるんですけれども、そこに〇・一%くっついていますから、これだけで二千億円ほど実は税外収入が減っています。だから、この〇・一%を〇・〇五%にすれば、一千億円ほどの財源は簡単に出てきますね。

 ですから、こういうふうな話というのは、もうちょっと、本来であれば予算委員会で議論すべきだと思いますけれども、この話というのは結構簡単に、通貨発行益という税外収入を何に使うかという話を議論すれば、全く正当化できる理論でありますね。

 ですから、こんな財源がごろごろしているのにと私なんかは思いますけれども、そういう中で、百億円が大変だとかいう話を聞くと、皆さん大変なんだろうなと思って、思わず、ううんとうなってしまったんですけれども、もし簡単に財源をひねり出せと言ったら、この程度のことは実はあっという間にできると思います。

    〔武藤(容)委員長代理退席、委員長着席〕

富田委員 最後に熊谷公述人に。

 資料をずっと見ていましたら、二十四ページのポンチ絵の一番最後に、教育費等の支援としっかり書かれていました。今の小林先生、そして高橋先生のお話を聞かれた上で、熊谷公述人が考える教育への投資というのはどんなところを考えていらっしゃるのか、最後にお聞かせ願えればと思います。

浜田委員長 熊谷公述人、時間が来ておりますので、よろしくお願いいたします。済みません。

熊谷公述人 はい。

 やはり今、先ほど来議論が出ているように、教育については機会の平等というのが非常に重要なことだと思いますから、そこの部分がまず一番重要なことになってくる。実際、教育によってかなり労働生産性が上がるということもあるわけですし、諸外国と比べると、日本は、例えば社内の教育投資などが大分減って、そのことが労働生産性を下げているわけですから、そのあたりを含めて、学校教育、さらには現場での教育などをしっかりとやることが必要じゃないかと思います。

 ありがとうございます。

富田委員 終わります。

 ありがとうございました。

浜田委員長 次に、緒方林太郎君。

緒方委員 民進党、緒方林太郎でございます。

 本日、中央公聴会で質疑をさせていただきますこと、本当にありがとうございます。

 本日は、今井公述人、お越しになっておられまして、南スーダンの話をさせていただければと思います。

 私も外務省時代、アフリカに二年勤めておりまして、そして、全然逆側ですけれども、西側のセネガルというところに二年、そして、その間にも、隣国でクーデターがあったとか、今PKOが出ているマリという国が担当だったとかいろいろありまして、いつも感じるのは、なかなか日本で広くアフリカというものがよく理解されない、しっかりと理解されないということについては、私自身よく感じているところであります。

 その中でも、今回、先ほど言われたように、戦闘とか衝突とかいう話がありました。その裏には、実は今、南スーダンで国に準ずる組織がないというような話もあります。

 私、自分自身の経験からも、社会情勢とか文化とか、あと国の成り立ちとか、そういったものを考えるときに、そもそもそんな国に準ずる組織のようなものが南スーダンに生じてくることというのはないんだと思うんですね。そもそもあり得ないんだと思います。

 先生も、論考の中で、現在の南スーダンの情勢というのは戦国時代であるというような話をしておられました。そういった、日本とちょっと感覚の違う南スーダンの情勢について、全体像、ジュバのみならず全体像、こういう国なんだということについて、一言御質問させていただければと思います。

今井公述人 御質問ありがとうございます。

 南スーダンの全体像といいますか、軍なり政治なりがどうなっているかということですけれども、この国は、一九五六年にスーダン共和国として独立をしまして、その後、約半世紀内戦が続きました。その内戦が終わって南スーダンが独立をして、またさらに内戦になっているんですけれども、その内戦の間に多くの軍閥が形成されてきました。

 もともとは、部族ごとにもちろんグループがあるんですけれども、ただ、それは軍閥といったようなものではなかったんです。ただ、そういった内戦中にほかの国が、ほかの国といいますか、例えばスーダン政府あるいはほかの諸国が介入をして武器を援助していく、それでもってお互いに戦わせるといったような分断工作とかいろいろなことがありまして、それぞれの基本的には部族を中心としたようなグループが政治化をしていき、そして武器を持ち、これは私がちょっと書いたあくまでも例えですけれども、日本の戦国時代といったような状況になっています。

 ですから、今の南スーダンの大統領派の軍、つまり政府軍についても、統一した指揮系統があるかといえば、決してそうとも言い切れない面があると思います。

 つまり、南スーダンの政治家の多くは元軍人なわけなんですけれども、それぞれが自分の部隊というのを持っている。つまり、軍が、それぞれの司令官といいますか、ボスである軍司令官あるいは政治家の指揮下にあるといったような感じで、何か一たび事が起これば、では俺たちの部隊はサルバ・キールさんではなくてマシャールにつくぞと言えば、それが国軍であっても、すぐにそこから出ていってマシャール派につく、あるいはその逆の寝返りも起きるといったようなことになっていて、指揮系統がないという意味でいうと、国軍も大統領派も副大統領派も、程度の差はありますけれども、同じような状態というのはあると思いますね。

 国に準ずる組織について申しますと、そういった中で、何をもって国に準ずる組織というのかは非常に難しい問題だとまさに私も思いますけれども、一定の領域を持ってということも定義づけにありますけれども、マシャール派、副大統領派もパガックというところに本拠がありまして、これは南スーダン国内ですね、一定の支配領域があります。

 ですから、私は、この間の国会の議論で何度も何度もそういう議論が、一定の支配領域を持っていなければ国に準ずる組織ではないといった話が出ていますけれども、彼ら副大統領派も、一定の領域、そんなに広くはないですけれども持っていまして、一定の行政のようなことも、知事を任命するとかということもやっています。

 また、何よりも、もともとの和平合意、二〇一五年の和平合意の中では、副大統領派は、例えば国会の議席とか大臣の椅子で、ポストでいいますと三三%割り当てられていますので、国際的な話し合いの中で、はっきりと一つの、私が考えるところではやはりそれは国に準ずる組織だと思いますけれども、と認定されているからこそ、統一政府の構成の一つの側、当事者であり、三三%の大臣なり国会の議席も持ってやっていたんだろうというふうに私は認識しています。

 以上です。

緒方委員 貴重な御指摘、ありがとうございました。

 この南スーダンで今起こっていることというものの性質についても一言御答弁いただければと思うんですが、現在起こっていることは、これは民族紛争だというふうに思われますでしょうか。よくディンカ族とかヌエル族と言われますけれども、私が理解するところでは、別にディンカ族という一つでっかい組織があって、統一された指揮命令系統があってとかそういうことではなくて、民族紛争という形だけで整理をしてしまうのはちょっと違うのではないかなと思いますが、御見解を伺えればと思います。

今井公述人 私は、これは民族紛争といったような形をとった政治闘争といいますか、利権争いだと思っております。

 つまり、南スーダンには、たくさんのといいますか、石油を中心にした、あるいは独立した後、復興援助資金がたくさん入ってきまして、そういった利権をめぐってそれぞれの政治家が対立する中で、その政治家のグループ、利権をめぐるグループというのが、部族を中心にすると一番それはグループになりやすいということで、そういったグループができてきているということだと思っています。

 私が、これは私ではなくて南スーダンの私の友人と話していたときに、彼はディンカでもヌエルでもないエクアトリア人なんですけれども、ディンカだってヌエルだって千年間も共存してきたというふうに言って、そんな部族対立なんか、争いはありましたけれども、でも、別に千年間も共存してきた、だから、それがこんなふうになっているのは、それは内戦あるいは紛争の結果なんだと。

 つまり、民族対立というのは、紛争の原因ではなくて結果。そういった利権争いの中で戦闘が、利権争いが起きる中で、そういった民族、政治家を中心にした軍閥のボスが敵対感情をあおる。自分たちの軍人、兵士ですとか住民を動員するために敵対感情をあおって、これはディンカとヌエルの戦いであるといったような形で、皆さんがそういったことに巻き込まれて敵対感情を持ってしまうわけなので、これは一つの結果なんだというふうにおっしゃっていました。

 以上です。

緒方委員 ありがとうございました。

 私が感じているところともうほぼ同じでありまして、そう考えていくと、例えばどの勢力が善であるとかどの勢力が悪であるとか、そういうことというのは多分言えないんだというふうに私自身は思っています。

 現在、南スーダン政府がUNMISSというものに対してどういう思いというか姿勢で接しているのかということ、そして、究極のところでありますけれども、政府軍とUNMISSの部隊が戦闘になる可能性、これは以前もテレインホテルへの襲撃等々ございましたけれども、そういう可能性についてどうお考えでしょうか。

今井公述人 まず最初に、その善悪というものがないというお話で、私もそのとおりだと思います。

 南スーダンの方と話をしていくと、もちろんさまざまな意見がありますけれども、一般の方は、なかなか皆さん口には出せないですけれども、サルバ・キール大統領もリヤク・マシャール元副大統領も両方ともよくない、ああいった人たちが自分たちの利権をめぐって争っているから国がこんなことになって自分たちは苦しんでいるんだ、両方ともやめてほしいといったような声は聞くことが結構ありますね。そういった意味では、南スーダンの皆さんも、善悪ではないということで考えていらっしゃると思います。

 UNMISSと南スーダン政府との関係ですけれども、南スーダン政府は、全般的に言いますと、UNMISSが今まで副大統領派を支持してきたというふうに考えていまして、ですから、全般的には割と敵対、敵対と言うと言い過ぎかもしませんが、余り好ましくない感情を持っているというのは確かだろうと思います。そういった意味で、UNMISSの活動についても、例えばUNMISSの車両の移動を制限するですとか活動を制限するということもやっていますし、まさに四千人の追加部隊についても、受け入れると言いながら受け入れないと言ってみたりということがあるわけですね。

 ただ、UNMISSと南スーダン政府の全面的な戦争になるかといえば、それは、南スーダン政府も国際的な目も気にしていますから、全面的な戦争をすることはないとは思います。ただ、その中の部隊が、さっきも申し上げましたように、必ずしも統一的な指揮系統が確立しているわけではないので、偶発的に衝突をする、テレインホテルの件は偶発的というよりは計画されていたというような見方も結構ありますけれども、ただ、そういった一部の部隊が何らかの衝突を引き起こす可能性は、決してそんなに低くもないとは思います。

緒方委員 ありがとうございます。

 国会で質疑をしておりますと、政府の方から、昨年の七月の戦闘は確かに激しかったけれども、その後は結構落ちついてきているんだ、反政府勢力とか今のキール大統領と対抗している勢力についても小さくなってきているとか、そういった話があります。しかし、きょうの公述でもありましたとおりですし、私自身が理解するところでも、決して事態が改善の方向に劇的に向かっているということではなくて、むしろ悪化しているんじゃないか、南スーダン全体で見たときに。

 そして、ジュバ市内についても、先ほど意見陳述の際にもございましたけれども、私、自分の経験からして、表面的に何となくのどかで安定していることというのと、それが本当に安定している状態なのかということについては、これは分けて考える必要があるといつも思っています。

 私の経験からも、すごくのどかで安全だったと言われていた国が、私が行ったときにすごく安全そうに見えたところが、もう三週間後にクーデターでどんといってしまったことというのは、これは経験があるわけでありまして、見た目の、表面上の安寧、安定というものが必ずしも本当の安定を意味していないのではないかというふうに思いますが、いかがでしょうか。

今井公述人 ありがとうございます。

 それはおっしゃるとおりだと思います。今のジュバはさらに厳しくてといいますか、表面的にも、確かに、さっき私も申し上げましたけれども、その町中で子供が遊んでいるとか日常生活はあるんですけれども、ただ、のどかというような状況ではないですね。常に皆さん、例えば夜になると、私も銃声をジュバの市内で聞きましたけれども、あちこちで銃声が聞こえる。それは戦闘ではなくて、強盗団が出没していて強盗団が撃ったりしているんですけれども、子供がとてもそんな安心して生活できる状態ではないというふうなことを結構皆さんおっしゃっていました。

 ですから、そういったこともありますし、さっき申し上げましたけれども、今、南スーダン政府の中で、この二週間ぐらいで軍の司令官が辞任するですとか労働大臣が辞任するですとかということで、まさにキール政権の独裁的なやり方に対する反対が政府の中でも起きてきている。

 そういった意味では、そういったことが端緒になって、何らかの、大規模戦闘ではないですけれども、衝突がジュバで起きる、あるいはジュバ以外の地方で起きているような、これはもう大規模な戦闘と言っていいと思いますけれども、それがジュバに波及することも全く否定はできない、今すぐではないですけれども、と思っています。

緒方委員 最後に一問だけ質問させていただきます。

 今井公述人は、キール政権支持ではこの紛争状態は終わらないというようなことを書かれております。私もそのとおりだと思います。キール政権が全ての反政府派を掃討して、それで安定、和平が成立することは恐らくあり得ないんだというふうに私は思います。

 そうすると、最終的にどういう状態が生ずれば和平が訪れるというふうにお思いになりますでしょうか、今井公述人。

浜田委員長 今井公述人、済みません、時間が来ておりますので、簡潔に願います。

今井公述人 アフリカではよくあることで、一般的にパワーシェアリングと呼ばれますけれども、権力の分掌ですね。ですから、南スーダンのさまざまなグループ、勢力がとにかく話し合いの場を持つことが第一ですけれども、その上で皆さんが参加をする。それは、例えば大臣のポストとかいろいろな役職を分け合うような形になるんでしょうけれども、そういった形で統一的な政府をつくるしかないと思います。

 でも、まずは今は、そのためには何らかの形の話し合い、つまり、国際社会は結構、日本も含めてサルバ・キール政権を後押しするというようなことで、そういう傾向が強いですけれども、そうではなくて、もっとほかの勢力も含めた話をもう一度持ちましょうといったような動きをつくることが重要だと思っています。

    〔委員長退席、葉梨委員長代理着席〕

緒方委員 終えさせていただきます。

 ありがとうございました。

葉梨委員長代理 次に、宮本徹君。

宮本(徹)委員 日本共産党の宮本徹です。

 きょうは、お忙しい中、貴重な御意見を聞かせていただきまして、本当にありがとうございます。

 まず、小林公述人にお伺いいたします。

 今回、給付制奨学金が初めて創設されるという予算案になっておりまして、画期的だというお話もありまして、大事な一歩だと私たちも考えております。

 それで、総理も、誰もが希望すればどんな家庭に育っても大学に進学できる環境を整えなければならないというふうにおっしゃったわけですけれども、実際にそういう状況をつくり出そうと思ったら、例えば給付制奨学金でいえば、将来的には、年収でいえばどこぐらいまで広げる必要があるのか、あるいは大学の授業料の水準というのはどこぐらいまで下げる必要があるとお考えなのか、お聞かせください。

小林公述人 御質問ありがとうございます。ただし、大変難しい質問でありまして、簡単に計算はできないのでありますけれども。

 高等教育の場合は、進学率をどの程度に設定するかということが一つのポイントになります。と申しますのは、全ての者が進学するというわけではなくて、義務教育ではありませんので、それをどうするかということが一つ規模の推計に当たっては重要なことになります。

 それから、進学率を設定した上で、どの程度のものが必要かということになるわけでありますけれども、授業料水準については、日本は国際的に見て非常に高いということは言えますけれども、これがどの程度適正な水準になっているかということは実は簡単に計算できないというような性格を持っておりまして、国際的に比較して高いということは言えるんですけれども、それがどの程度高いか、あるいは適正であるかということはなかなか簡単に判断できないということであります。

 これは私の方で勉強不足でありまして、もう少し研究した上でお答えしたいというふうに思っております。済みません、お答えになりませんが。

宮本(徹)委員 引き続き小林公述人にお伺いしますが、先ほどの資料を見ていましたら、国立大学でも収入による進学率の格差が大きく広がっているというグラフがありました。

 それで、今度の給付制奨学金で、国立大学の場合、授業料免除を受けて、減免を受けた場合は、自宅生は二万円ではなくてゼロ円にする、自宅外生も三万円と言っていたのが二万円になるという方向で今検討がされているわけですけれども、こういうことをしますと、国立に通う学生にとっては進学の後押しにこの給付制奨学金がならないんじゃないか、この点は再考が必要なんじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。

小林公述人 この点については、私も、明確な意見としてそういうふうに思います。

 といいますのは、給付型奨学金の方が今回先に予約でもらえるわけでありますから、それが国公立大学に進学した場合に授業料減免を受けられないということになりますと、結果的に非常に苦しい生活を強いるということになります。授業料減免を得て、しかも、生活費を給付型奨学金で、あるいはアルバイトをして、あるいは貸与奨学金を受けて初めて進学できるというような階層の子供たちがたくさんいるわけでありますので、併用ができないということについては私は明確に反対であります。

宮本(徹)委員 それから、今度の給付制奨学金の財源なんですけれども、いろいろなところから捻出することになっていますが、そのうちの一つが、今ある給付制奨学金を見直して、出す。一つは、大学院生の奨学金の返済免除制度を縮小していくということ、それからあと無利子奨学金、一定の収入がある世帯に対しては借りられる額を制限していくということも給付制奨学金の財源の一つとして今検討をされております。

 これでは、本当に困っている人を助けるための給付制奨学金をつくることによって新たに困る学生、院生が出てしまうということになるので、こういうのも改める必要があるんじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。

小林公述人 その議論については詳しくはお聞きしておりませんが、大学院生に関して申しますと、これは、この制度自体が非常に変則的な制度でありまして、優秀者免除と申しまして、一割が全額免除、二割が半額免除というような形で返還の免除をするという形になっておりますけれども、これ自体が非常に予見可能性が低い制度でありまして、私はこれは問題であるというふうに思っております。

 別の問題ではありますけれども、これによって、大学院への進学というものが非常に予見可能性が低くなるというような問題をはらんでおりますので、この制度をさらに縮小するということは非常に問題があるというふうに考えております。

 それから、もう一つの点につきましては、済みません、私は今初めて聞きましたので、回答できませんので、申しわけございません。

    〔葉梨委員長代理退席、委員長着席〕

宮本(徹)委員 もう一点、小林公述人にお伺いしますが、今、教育の無償化、かなりここでも議論されるようになっておりますが、それを憲法改正と結びつける議論があるわけですが、高等教育まで含めた無償化はもちろん憲法に書かなくても政策判断で当然できるものなわけですけれども、これをあえて政治的思惑を持った憲法改正と結びつける議論についてどういうふうにお考えなのか、お聞かせください。

小林公述人 これは非常に慎重な検討が必要な事項であろうというふうに考えております。

 と申しますのは、例えばドイツの場合でありますと、憲法あるいは高等教育の大綱法というような法律がありまして、そこに高等教育まで含めて無償にするということがあります。ところが、現実の問題としては、連邦制でありますので非常に複雑な問題ですけれども、授業料を徴収していたということがあります。最終的には、憲法によって、授業料は徴収しないということになったわけでありますけれども、そこに至るまで非常に何十年という長い時間がかかっております。

 日本の場合には、国際人権規約を批准したのが数年前でありますので、私立大学が非常に多いということもありますので、この中で憲法改正のみで高等教育を無償化するということをいたしましても、それだけではなかなか問題は解決しない、むしろ、その以前にやることがたくさんあるのではないかというふうに考えております。

宮本(徹)委員 ありがとうございます。

 続いて、今井公述人にお伺いします。

 きょうは本当に、南スーダンの状況が大変詳しく、よくわかりまして、日本としてもいろいろなことを考えなきゃいけないということもわかりました。

 それで、きょうお伺いしたいのは、昨年十二月に、国連安保理で南スーダン政府に対する武器禁輸などを定めた制裁決議案が出されましたが、日本政府は中国やロシアなどと一緒に棄権するということになって、これは廃案になってしまったわけですが、今の南スーダンに対して武器を禁輸していく、これはどういう意味があるというふうにお考えでしょうか。

今井公述人 武器の禁輸は、もちろん多くの武器が南スーダンに入ってきています。その中には、小火器もあれば、あるいは、私の話の中で言ったような戦車ですとかヘリコプターもあります。ですから、そういった意味で、それが実際に戦闘を起こして人々を殺しているわけですから、武器を禁輸することは、それは何よりも重要であると思います。

 ただ、武器を禁輸すればそれで戦闘がやむのかというと、そうではないと思います。といいますのは、やはり正規の輸入ルートではなくて、周辺国から流れてくるような、例えば、武装勢力が隣の国に出て、そこで何らかの形で武器を得て、また入ってくるといったようなルートもありますし、それだけで、つまり、武器の禁輸だけで武器はとめられない。あるいは、もっと言いますと、武器も使わないような、つまり、おのとか、なたとかといったもので殺傷しちゃうというようなことも行われています。

 ですから、武器禁輸はもちろん必要だと思います。ただ、その上で、それだけではない、どうやって和解を達成していくかということが重要だと思います。

宮本(徹)委員 ありがとうございました。

 熊谷公述人にお伺いをいたします。

 アメリカのトランプ政権の評価のところで好材料、円安、株高というお話がありましたが、一方で、円安は物価高を国民にはもたらして、先日もエンゲル係数が二十九年ぶりに高くなったという総務省の家計調査も出ましたが、円安が個人消費に与える影響についてはどのようにお考えでしょうか。

熊谷公述人 御質問ありがとうございます。

 ちょっと私の資料の九十ページのところを見ていただくと、円安になったけれども輸出が伸びていないじゃないか、こういう議論がよくあるわけでございますが、ただ、もし円安になっていなければ輸出はもっと減っていたということですから、やはり円安になることが輸出を支えているところがある。

 そして、日本経済はやはり輸出主導型の経済構造でございますので、輸出が伸びると、そのことによって最終的には日本経済にとってもプラスの影響が及んでくるということがあるわけです。私どもが実際、定量的なシミュレーションを行ってみても、確かに、円安のメリットは主として大企業のところに及んでいる、これはあるわけでございますが、ただ、中小企業だとか非製造業も、これもわずかではあるけれども、やはりプラスの影響自体は出ているということがあるわけでございますので。

 私は、日本経済は、やはり構造から見れば、円安にして、そして輸出を支える、もしくは、企業の売上高が伸びることによって、そのことが国内の所得に還流するという、これらのプラスの効果があるんじゃないかと考えている。

 もう一つちょっとデータの御説明をさせていただくと、九十一ページの右側の図表です。右側の図表は、円安で日本の企業の売上高が海外で伸びることによって、そのお金が日本に還流をしてきて、これが個人消費を支える。具体的には九十一ページ右側の真ん中の黄色い部分でございますけれども、円安で日本企業の海外の売り上げがふえて、そのお金が日本に流れ込むことによって、個人消費は二・四兆円程度支えられている。

 ですから、これらの面で見れば、円安に功罪があることはわかりますけれども、やはり日本の場合は円安にした方が、適度な円安にするのであれば経済にとってはプラスである、こういう考え方でございます。

宮本(徹)委員 最後に、熊谷公述人と高橋公述人にお伺いをいたします。

 今の日本経済の状況を見ていまして、私は必ずしも経済の好循環が生まれているとまでは言い切れないというふうに見ています。やはり個人消費が低迷が続いているということもあります。総理は、確実に経済の好循環が生まれています、こう言い切るんですけれども、こう言い切れるほどの状況になっているのかどうかというのをお二人の公述人にお伺いしたいと思います。

熊谷公述人 確かにまだベースアップが大きく来るところまでは来ていないわけでございますが、ただ、大きな流れとしては、例えば、名目GDPでいえば四十四兆円増加をしている、それから地方経済等についても、さまざまな指標で見て、例えば有効求人倍率が全ての県で一を超えているような状況でございますので、課題が残っている、道半ばであることは事実ですが、大きな流れとしてはやはり経済の好循環が徐々に回り始めているんじゃないか、こういう認識でございます。

高橋公述人 経済をどのように見るかということなんですけれども、二つの見方、指標があると思います。一つはGDPで見るもの、あともう一個は雇用で見るものですね。先ほど私、説明したように、財政政策の方ですと比較的GDPの方に影響があって、金融政策が雇用です。

 それで、どちらを見るかというと、私が官邸にいたときに、ミニマムラインをどっちに引くか、普通は雇用です。ですから、雇用がよければ実は六十点ぐらいとれて、さらにGDPがよければ、実はかなりそれの上の八十点、九十点になるというところだと思います。

 そこで考えますと、金融緩和しているので、実質金利が下がって、かなり雇用はよくなっています。ですから、そのところで思うと六十点の及第点はとれている。ただし、GDPの方の話、これは実は財政政策の話なんですけれども、消費増税してしまいましたので、あれは大失敗ですね。あれがなければ非常によかったと思います。その意味で、今は、消費増税の失敗があって金融政策がよかった、そういう話なので、六十点か七十点、そういうレベルだと思います。

 あとは、これは今後財政政策をどのようにやるかということにかかってくると思いまして、そこで財政政策を入れれば、多分これはいい方向に行くんじゃないかなというふうに思います。

宮本(徹)委員 どうもありがとうございました。

浜田委員長 次に、伊東信久君。

伊東(信)委員 日本維新の会の伊東信久でございます。

 本日は、お忙しい中、四人の公述人の先生方、どうもありがとうございます。貴重な御意見、拝聴いたしました。

 先生方にいろいろお聞きしたいと思っているんですけれども、時間も限られていますので、幾つか絞って御質問させていただきたいと思うんです。

 その中で、まず御質問したいのは、いわゆる教育無償化についてなんです。

 まずは高橋洋一先生に質問させていただきたいんですけれども、先生の資料の中で、いわゆる無償化の財源として教育国債も合理的ではないかといった御意見が書かれております。

 先ほど公明党の富田議員の質問にもあったんですけれども、麻生財務大臣は、いわゆる国債というのは未来へのツケになると。実は、こういった質問もさきの予算委員会で私自身が麻生財務大臣に御質問したところ、財務省としてはそういった意味からいかがなものかというお答えもあったわけです。

 我々日本維新の会としては、まずは行財政改革による財源の捻出といったところもあるんですけれども、やはり二本立てで教育国債についても考えてみたいということで、前回の臨時国会で教育国債に関する議員立法も提出したわけなんですけれども、率直に高橋洋一先生の教育国債に関する御所見をお聞きしたいんです。

高橋公述人 今は財政法のもとですから、この中でいろいろなことをやろうとするとなかなか大変です。ですから、一番最初のステップとしては、やはり無駄の削減というのでやるというのは、それは現実的な話だと思います。ただ、将来を見据えたときに二本立ての方がいいと思いましたので、教育国債の話をしました。

 それで、麻生大臣の方は将来にツケを残すという言い方をするんですけれども、そういう言い方をしますと、実は、建設国債で物的な資産があるものはツケを残すんですか、そういうふうな反論が簡単にできますね。ですから、これは無形資産の話なので、それについて将来にツケを残すという言い方はちょっと間違いというか、答弁としてはおかしいと私は思います。

 ですから、無形固定資産については、実は以前も出資金という形でやったこともありますので、財政出動もしたことがありますから、そういう形にしますと、その前の話は全部うそだったんですかという話で、私だったらすぐその場で、そんなことを言うとちょっと問題がありますよと申し上げたいぐらいの答弁だと思いますね。

 それで、私が示した資料は、実は財務省の中のコンメンタールにもそう書いてあるということを言っているわけですよね。ですから、そのコンメンタールに書いてあることは、実はあれは五訂版でして、もうずっと前から書いてあります。ですから、それを示して、これを書いたのは間違いですかと言いたいくらいですね。

 実は、五訂版というのはついこの間出たばかりなんですよね。ですから、それはずっと書いてある話なので、ただ単に将来にツケを残すという言い方は実は赤字国債のときの言い方でありまして、要するに、無形固定資産及び有形固定資産で残すようなものについては、将来にツケというのは答弁として普通じゃないと思います。

 ですから、その意味で、ここは立法府ですから、ちゃんとした制度の話をしてもらいたいと思いまして、財務省の大臣がこういうふうに言っているからというのであれば、立法でそれを乗り越えるとかいうことも考えていただいてもいいんじゃないかなと思います。

 ただ、今の現状のもとで考えると、それといろいろと無駄の話、それと私、先ほど通貨発行益の話で財源なんかこのくらい簡単に捻出できるという話もしましたけれども、そういうのでやるというのは物すごく具体的な話だし、最初は必要だと思います。ただ、将来を見据えたときには二本立てで、やはり国債で未来への投資ということも考えた方がいいんじゃないかなと思いまして、申し上げました。

伊東(信)委員 ありがとうございます。

 いわゆる教育国債を発行することによって、国の本気度も見えてくるのではないかなと思います。

 未来のことを考えるのであれば、やはり安定した教育の無償化というのが非常に大事になると思います。るる議論になっているのは、では、安定した教育の無償化をするために憲法改正も必要なのではないかなという議論もやはり出てくるわけです。

 先ほど小林先生には答弁の中でいただきましたので、今回は高橋洋一先生と熊谷先生に、教育無償化に対する憲法改正の必要性について御意見いただければと思います。

 では、高橋先生から。

高橋公述人 私は、政策を実現するためにどのようにしたら一番確率が高くなるか、そういう非常に実践的なアプローチをとるんですね。

 そういう観点から立ちますと、教育の無償化を憲法でやるということは、実は非常にいいアプローチだと思います。要するに、憲法という形にしますと国の基本がはっきりしますし、それで議論も非常に深まると思います。こういう形にしますと、それに応じていろいろな法整備というのが出てくると思いますね。ですから、そういう意味では非常に望ましいと思います。

 逆に言うと、よく批判で、これは憲法改正なしでもできるんじゃないかと言うかもしれませんけれども、それはそうかもしれませんが、実は、では改正して何が悪いのというレベルの話であると思います。憲法改正してより進むのであればそれの方が望ましいという観点から、憲法改正して全く支障がないのであれば、何か大きな弊害があるんだったら別ですけれども、ただ単に憲法改正するというだけですから。

 それで、日本の憲法というのは実は非常に硬性憲法で、ほとんど、改正したことがないというので世界で有名なぐらいの話なので、少なくとも、統治機構の部分とか行政の普通の部分はもうちょっと弾力的に改正してもいいんじゃないかなと思いまして、そういう観点から思うと、この教育の無償化というのは非常にいい題材なのかな。

 同じ憲法でも濃淡あるんですね。ここは慎重にやるべき、それとあと行政とか統治機構に関するところというのは、どこの国でもそんなに、憲法改正しちゃいけないなんという議論はないですよね。

 そういう観点から思うと、より政策実施がうまくできるのであれば、あと、こういうふうに憲法の話にしますと、時の政権とか時の法律では関係なくなりますので安定性が増すと思いますし、それとあと、さらに、こういうことをやろうと思うといろいろな制度というのをよく考えて深く深掘りしますので、その意味でも憲法改正というのは望ましいと私は思っております。

伊東(信)委員 ありがとうございます。

 濃淡の話をしていただきましたけれども、憲法改正の三つの柱の中に我々は教育無償化を入れているわけなんですけれども、熊谷先生のお話の中で、いわゆる財政出動の中に研究と教育ということもおっしゃっていたんですけれども、そういったところを後押しする意味でも、やはり憲法を改正した方がより法律もつくりやすいし、いろいろな施策をやりやすいとも我々は思っておるわけでありますけれども、熊谷先生の御意見をお伺いしたいと思います。

熊谷公述人 ありがとうございます。

 この点に関しては、ちょっと私、明確な意見を現時点で固めているわけではなくて、ただ、一般論として言えば、やはり日本の憲法自体が硬性憲法ということもあるわけでございますから、国民的な議論の中でそのことが必要だということが大多数を占めれば、それは毅然とやっていくということではないか。

 もう一つは、確かに無償化ということ自体も重要だと思いますけれども、これから人工知能、AIなどが出てくる中で、やはり今までの日本の中間層の教育というのが現実に合わなくなってくるわけでございますので、より創造性だとか、人工知能が発達したとしても生き残っていけるような、そういう教育内容に変えること、これもあわせてやはり非常に重要な論点じゃないかと思います。

伊東(信)委員 ありがとうございます。

 人工知能ができて、AIができた場合のいわゆる働き方というか職業においても、私は実は外科医でもあるんですけれども、AIが発達してきたら外科医は要らないんじゃないか、そういったことも言われているような時代なんですけれども、AIに負けないように私も頑張りたいと思うんですけれども。

 小林先生には先ほどお答えいただいていたんですけれども、ちょっと加えて、給付型奨学金の話の中に、日本のいわゆる教育というのは家族的なところがあると。個人じゃなく家族的というのも、やはりそれは義務教育ということが憲法に明記されているからということで、これはいいとか悪いとか、むしろ、悪いということを言っているわけではなくて、こういった観点からも、憲法の縛りで義務教育の義務という項目を外して教育無償化を進めていくのもどうかなと思うんですけれども、先生の御意見をお願いいたします。

小林公述人 御質問ありがとうございます。

 先ほども申し上げましたけれども、この問題については非常にいろいろ考えなければいけない論点があるかと思います。

 その中の一つだけ今お答えしたいと思いますけれども、一つは、やはり高等教育というのは、先ほど申し上げましたように、全員が進学するわけではないということであります。そうしますと、進学しない人との公平性ということを考えなければいけないという問題があります。

 そうしますと、一番問題になっているのは、現在進学している人はどうしても所得の高い人が多いわけでありますから、結果的には、所得の再分配が逆進性を持ってしまうという問題があります。この問題を解決しない限り、やはり公平性の問題というのが残るということですね。

 もう一つは、やはり先ほど来問題になっていますように財源の問題がありますので、非常に大きな政府を目指すということで、そういう国家観の転換が国民の合意が得られれば、高等教育を無償化にするというのは、これは先ほども申し上げましたように、世界人権規約で日本もそれを目指すということにはなっているわけですから、そういう意味で目標としてはあり得ると思いますけれども、非常に遠い目標であるということで、私は、今の現実ではもう少しほかにやることがあるのではないかというふうに思っております。

伊東(信)委員 ありがとうございます。

 本当に、最終的に財源に行き着くわけで、財源の方法論としても憲法改正の話を、議論ということを申し上げているつもりなんですけれども。

 やはり財源に関しては、先ほどからるる申し上げているように、まず優先すべきことは行財政改革である。そういった中で、公務員の人件費が、国は五兆円、地方は二十兆円ある。そのうち二割削減すれば、四兆二千億円強の教育無償化の所要額に到達するのではないか。

 我々日本維新の会はおおさか維新の会が前身ですので、どうしても大阪の話になっちゃうんですけれども、大阪では、議員の給料を三割削減することによって行財政改革をして私立高校の無償化を推し進めていったわけなんですけれども、この公務員の人件費の削減というのも、本当に国として、政府として本気を出せば可能ではないかなと思うわけなんですけれども、そういった観点で高橋先生の御意見をお伺いしたいんです。

高橋公述人 公務員の給与の話でいきますと、民間準拠というルールがあるわけでして、それで、民間準拠というときに、実は人事院が調べるんですが、それは、その抽出している先はごく一部の大企業ですね。ですから、これが果たして民間準拠なのかどうかということをチェックしたらいいと思います。

 それで、これは闇の世界みたいな形でなかなか難しいんですけれども、普通に計算しますと、民間給与というので大企業だけじゃなくて全部計算したというのは、実は国税庁の方の調査というのもありまして、この国税庁の調査はもともと所得調査というのがあるんですが、民間委託した調査なんですね。ですから非常に簡単にできていて、いろんな階層から全部とっちゃっているんですね。それからとってくると、大分、人事院の数字と全く違うんですね。

 もちろんその抽出する先が違うというところがポイントでありまして、一事業所当たり五十人とかいってほぼ大企業だけを抽出すれば、それは高くなるでしょうということなんですけれども、これは公務員の給与の決め方、民間準拠というのの具体的な話だと思います。それを例えば国税庁の調査にのっとってやれば、先ほどの二割削減というのは大体そうなっちゃいますね。二割削減ぐらいになっちゃうんですね。

 ですから、これは、基準をどのように決めてやるかという問題に帰着して、かなり具体的な話として、やろうと思えばできると私は思います。

伊東(信)委員 ありがとうございます。

 やはり優先すべき問題は公務員の人件費削減による財源の捻出ではないかなとは改めて思う次第でございます。

 時間もそろそろ終わりなので、最後に今井公述人にお聞きしたいんですけれども、先ほど私が外科医であることを申し上げたんですけれども、南スーダンの、特にジュバの地域の話になると思うんですけれども、自衛隊員のやはり安全、安心というのは確保されなければいけないんですけれども、医療の立場として、そういった今現在の自衛隊員に対する医療体制に対して、現状、今どのようになっているか、もし知り得るところがあれば教えていただければと思うんですけれども。

今井公述人 済みません。私は、ジュバに行っておりますけれども、自衛隊の取材等をしているわけではございませんで、ちょっと自衛隊の医療体制についてはお答えできるだけの知識を持っておりません。申しわけないです。

浜田委員長 伊東君、時間が来ております。

伊東(信)委員 ありがとうございます。

 つけ加えてお聞きしたいこともあるんですが、時間ですので終わります。

 ありがとうございました。

浜田委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、本当にありがとうございました。厚く御礼申し上げます。(拍手)

 午後一時から公聴会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午前十一時四十五分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

浜田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 平成二十九年度総予算についての公聴会を続行いたします。

 この際、公述人各位に一言御挨拶申し上げます。

 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。平成二十九年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、忌憚のない御意見をよろしくお願いをする次第であります。本日は本当にありがとうございます。

 御意見を賜る順序といたしましては、まず中空麻奈公述人、次に逢見直人公述人、次に手塚加津子公述人、次に小田川義和公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、中空公述人にお願いいたします。

中空公述人 きょうは大変貴重なお時間を賜りまして、また機会を賜りまして、どうもありがとうございます。

 私は、BNPパリバ証券というところでクレジットアナリストというのをやっています。クレジットアナリストというのは、日本国債の格付がどうなるのかとか、財政再建ができなければその後どうなっていくのかとか、そんなようなものを見ているわけなんですが、そういうクレジットアナリストの観点から、このまま日本の財政を放置しておくとよくないトラップがたくさん埋め込まれていますよという話をきょうはさせていただきに参りました。

 いろいろな国の話を少しずつさせていただくことになるので、あちこちに飛ぶことを御容赦いただきたいんですが、私がお配りさせていただきましたレジュメが、日本財政とマーケット動向というものでございます。

 ごらんいただきたいと思っているのが、まず二ページ目、下の方の表からです。

 世界はポピュリズムの台頭警戒感が充満しているというタイトルをつけましたが、日本の国債の市場もだんだんと金利が上がってきているわけですね。ところが、ほかの国をちょっとごらんいただくと、トランプ政権になったアメリカはイの一番に金利が上がっていますし、ほかの国、欧州でも、ちょっと注目していただきたいんですが、フランスなんかを中心に金利がまた上がってきています。

 これは何で上がってきているかというと、フランスについては特にもうすぐ大統領選挙があります。大統領選挙があって、欧州なんかの流れはポピュリズムの台頭ですので、このポピュリズムの台頭というのは、我々の言語で置きかえますと、金融政策から財政政策へ完全にシフトしますよということを示しますから、そういう意味でいくと、お金を使って景気をよくすることは確かなんですね。ところが、財政再建はできなくなりますので、そういう意味では金利がだんだん上がってくるということになるわけなんです。こういう状況を捉まえて、現状ではフランスも金利が上がってきているということでございます。

 ポピュリズムの台頭とか、財政再建ができないかもしれないとか、そういったちょっとしたことでマーケットは嫌気を差して売ってくる。なので、少しずつ金利が上がってくるんです。これは日本でも同じなんですということでございます。

 さて、ほかの国の話をもう少し続けたいと思います。

 日本でもマイナス金利というのが導入されて久しいわけですが、もう丸一年たちました。ほかの国、欧州におきましては、二〇一四年の六月にマイナス金利を導入していますので、そこの様子を見たいと思っているんですね。

 ページをめくっていただきまして、三ページ、上の表になるんですけれども、マイナス金利をどう見るのかということです。日本のことをとやかく言うと何となく評判が悪いかもしれないんですが、欧州のことですのでざっくばらんに聞いていただけるんじゃないかと思うんです。

 欧州の話、まず、マイナス金利を導入したのが二〇一四年の六月でございます。この前後で何が起きなきゃいけないかというと、GDPが成長して、それから為替レート、ユーロ安になる等、好ましい、マイナス金利を導入したことの効果が出ましたという一応の帰着なんですね。それが三ページの左の上の表で確認されます。マイナス金利を導入したことによって、ユーロ安になったし、GDPも上がってきたねと。

 ところが、余りそういう土壌にないと、つまり、どれだけ金利を下げても意味がないぐらい、需要が起きてこないような状況のままそれをしますと、どこかでもう効力を発揮しなくなるんですね。この状況が三ページの左の下でございまして、ユーロ圏の与信推進力と経済成長率という少し古いデータになりますが、これ以上マイナス金利を導入しても、経済成長はもうしませんよ、貸し出しは伸びませんよということになってきたわけです。実際に、右の下の表、ユーロ圏における貸出残高は伸びなくなりましたというのが現状なんですね。

 こういう状況を捉まえて、やはり副作用が出てきています。それは欧州の金融機関に出てきているんですね。

 四ページに行っていただくと、欧州の金融機関のマイナス金利導入によってどんな影響があったかということが書いてあります。一番、でも、ここまで赤字にならずに頑張ってきているんですね、欧州の金融機関は。私も欧州の金融機関の人間なんですが。

 どうやって頑張ってきたかというと、一番大きなポイントは、金利が残っていたということなんですね。この四ページの右の表がそうなんですが、この預貸しのスプレッドが二パーをまだ残しているということが大きなポイントです。日本の場合はというと、同じことをしますと、一%を割っているんです。というふうになってくると、またドルの調達コストも一%に近づいていますので、どうあってもマージンが取れなくなってきているというのが日本の金融機関です。

 さて、欧州の金融機関は、そのマージンを落としてくる傍ら、収益を確保するために何をしたかというと、下の方にたらたらといろいろ書きました。マイナス金利をいかに個人預金者も含めて転嫁したかということが書いてあります。

 結局、最終的には、個人預金者にも転嫁を始めているということです。日本においてはそれがすなわちできるかというと、銀行の預金がマイナス金利になっていいかというと、多分できないんだとは思うんですが、ということは、金融機関が損を出してくるということです。金融機関が損を出してくるということは、いずれは貸し出しが回らなくなってきて、少し時間はかかるかもしれませんが、個人預金者に必ず返ってきてしまうということが起きていますということです。

 欧州のマイナス金利の導入は、日本の金融機関に対する収益の下押し圧力を既にあらわしているよということが、まずお話ししたい一点目でございます。

 そんな中で、外国人の投資家というのは、そうはいっても、日本の国債のマーケットに物すごく参加してくれているんですね。

 五ページに参りたいと思います。

 日本国債市場というのは、よく皆さんも御存じのとおり、九五%以上、長期のものについては日本人が持っているので、日本国内で何が起こったって売られないんですという解説があると思うんですね。これは今でも正しいです。

 しかしながら、海外の投資家というのは、海外とまとめて言うのもなんなんですが、つまり、収益にはとても敏感だというふうに受け取っていただくといいと思うんですが、短期国債の海外保有割合というのが、五ページの左の方に出ています。

 短期国債については、日銀保有を除くと、既に九〇%が海外投資家によって持たれています。私たちから見てドルの調達コストが高いということは、海外勢から見て円の調達は安いんですね。ですので、そういう意味で、安いコストで調達をしたもので、日本の国債の短期で運用してくれているわけです。

 これはいいことでしょうか、悪いことでしょうかなんですね。もちろん、お金は回っているわけですから、そして、ドルを結果的に私たちは調達しているので、決してネガティブなことばかりではないんですが、コントロールできなくなっているということに関しては、少し危機感を持っていただければありがたいなというふうに思っております。

 基本的に、海外投資家がこれをしてきているのは、目的は、ドル建てのアセットスワップ、申し上げたように、安いコストで調達した資金で何とかもうけようと思って来ているだけなんですね。ですので、安定しているかというとそうではないということが、見ていただきたい点になります。

 実際に、五ページの右の表、海外投資家の日本国債セクター別買い越し額というのを見ていただくと、月間平均で既に一・四兆円程度の買い越しが見られるようになってきています。安定していない短期マーケットということを見ていただきたいこのページだったわけですね。

 その次に行きたいと思います。

 六ページですが、日本国債のマーケットというのは、短期のマーケットは海外勢にやられていて、少し安定性を欠いていると言っているんだね、では、長期はどうですかと。

 長期は、確かに日本人が持っているんです。なので、いざというとき、何か来たときにも、日本人がばんばん売るという局面ではもちろんないわけなんですね。ないわけなんですが、ただ、いかんせん、日銀がやっているイールドカーブコントロールのせいでなのか、おかげでなのかわからないんですが、少し柔軟性を欠き始めました。

 何かといいますと、六ページの左の表で少しごらんいただけるかなと思うんですが、短期とか超長期は金利が動くんですよ。ところが、十年の金利だけはなかなか動かないという状況になっているんですね。

 十年金利のところというのは、通常、日本国債のベンチマークになるところでございます。それが、ベンチマークの機能を失っていて、かつ、そこでなかなか投資できない投資家の人たちがたくさん出てきている。機関投資家は、仕方がなく、短期に行けないので超長期に行くわけですね。超長期にたくさんの国債を持っている、まず、例えば生保とかが、恐らくは、金利が上昇してくると自分のポジションの中に大きな含み損を抱えることになる、そういう危険な状況が今来ているということをここでごらんいただきたいと思います。

 しかしながら、でも、生命保険会社や機関投資家、銀行なんかがそうでも、別に日本全体には関係ないとおっしゃるかもしれません。

 七ページへ行っていただきたいんですが、これは、日本銀行の持ち分になるわけですね。日銀がどれぐらい国債を保有し始めているか。もうこれは古くて新しいというか、多くの人に言われている議論なので、改めて皆様に御説明するまでもないとは思うんですが、この右側の表で見ていただいてもわかりますとおり、日銀の持ち分、びょんと上がっています。ここまで上がってくると、極端なケース、もう日本国債のマーケットなんかなくてもいいわけですね。財務省が出したものを日銀が全部買えば、お金は一応回るわけです。でも、それでいいんでしょうかという話なんですね。

 日本国債のマーケットがなくなった場合は、金融システム不安に私は直結しやすくなってくる。つまりは、お金を貸し出しをしようという金融機関はみんな脆弱になってしまうからです。それが一つ。

 それから、ドルの調達が難しくなるでしょうということがありますね。余りにも自分のところでお金を回し過ぎると、では、どうやってドルを調達するんでしたっけという話にいずれなる。

 この二つは、やはり大きなトラップとして残ってくると思いますので、お伝えしておきたい点だというふうに思っております。

 さて、こういった日本国債の市場、いびつにはなっているんですが、何とか回っちゃっているので、回っているならいいじゃないのという発想もあるかとは思うんですが、ただ、ゆがんではきていて、そこのゆがみは皆様のような方にはお伝えしておかないと、いずれ金利が上がったときにはトラップになっていましたということがあり得ると思うからなんですね。

 そのときに、もうにっちもさっちもいかない状況でトラップを皆さんが知ることになるよりは、最初からそういうことがあるんだよねと思っておいていただいて、どこにリスクがあるのか、金利高騰するリスク、急上昇するリスクが、日本の名立たる大きな金融機関を中心に、微に入り細に入り、そして日銀まで同じリスクを持っているということです。ですので、金利が何かの都合で急上昇したときは大変なことが起こり得るということですね。

 では、大変なことが起こり得るようなそういう局面は何で起こってくるのかというお話をしたいと思っているんですが、一つは格下げでございます。

 八ページに日本国債の格付が書いてあります。「正当か?」と私は書きました、本当にこの格付でいいんですかと。私たちが見ているクレジットというのは、発行した債券が三年から五年先に確実に返ってくるかどうかを示しているんです。だから、三年から五年先に確実に返ってくれば、日本国債だって、シングルAとか言われる筋合いは本当はないわけなんですね、トリプルAでもいいぐらいなんです。

 ところが、債務の状況はどんどん悪化していますし、これを正当に評価すると本当にいいのかとか、先ほど申し上げたような、日本国債のマーケット自体がだんだんと不感症になってきていることを放置している現状は果たして健全なのかと考えたときに、やはり格付はもうちょっと落ちる可能性があるよねというふうに見ています。

 我々、金融市場では、これはもう本当にただの読みなんですが、七月とか八月とかに消費増税の先送りの話が出るんじゃないかとどんどん言われ始めています。これは言われると、今度三回目の消費税の先送りになってしまいますから、その場合は確実に格付が下がらないといけないと思うんですね。

 格付が下がると何かいいことがあるのか、悪いことがあるのかというお話をしたいんですが、格付なんて無視するということはあると思うんですね。実際に、長期の国債に関しては、九十何%を日本人が持っているわけですから、日本人が持っているものはガイドラインを変えて、日本国債を特別に持っておくということは可能なわけです。しかしながら、それをいつまでもできるかというと、結局できません。

 なぜかといいますと、九ページの方に行っていただきたいんですが、バーゼル3ですとか、それからイギリスの銀行課税ですとか、いろいろな国でいろいろなリスクに対する見方があるわけですね。ほかの国から見て、あるいはバーゼル3という銀行を仕切る標準から見たら、我々に出してくる日本国債はもうリスク資産ですよと言われ始めるわけです。

 格付がさらに落ちる、今はシングルAとかという格付でとまっていますが、仮にこれがトリプルBになってきたらどうでしょう。やはり、それなりに売る人が出てくるんじゃないか。それがきっかけで金利上昇というのが起こるということは、十分考えておかなければいけないことです。金利が上昇すると、先ほど申し上げたように、最終的には日本国民に返ってくるであろう銀行なんかの力強さというのが落ちてくるということを踏まえていただければなというふうに思います。

 イギリスの銀行課税が厳しくなって、イギリスの銀行から見て日本国債がリスクが高くなったらイギリスが持たなければそれでいいことなんですが、でも、同じことですね。どこの国の銀行もみんな同じようなガイドラインを持ちますので、どこの国からも日本国債が相手にされなくなってくるという事態が格付の低下なのでございます。

 なので、無視して、とりあえずいいじゃないかということは可能ですが、無視していいことは何もないということを、金融市場にいる者としてはお伝えしたいというふうに思います。

 最後のページなんですが、格下げになるということは、金利の上昇する一つの要素だということでお話をしました。ほかにもまだあるんですね。

 例えば、私たちがコントロールが難しい為替水準です。今だと、例えば百二十円とかという水準がついてくると、ああ、異様に円安になってしまったと思って、日本国債をこれ以上持っていてもしようがないんじゃないかという話になってくるというふうに言われています。為替が急に円安になったとき、為替というのは円安、株高というイメージがあるので、円安はいいじゃないかと思われるかもしれないんですが、円安になってくることによって、日本国債の売りが出る可能性は十分あるわけですね。これが為替もあり得ますよということ。格付もそうですし。

 なので、外部的な要素、日本の中で完結できないような要件が変わることによって金利が高騰するかもしれないということがやはりあるということ、これもトラップになっているということを見ておいていただきたいなというふうに思っています。

 もう一つが、マーケットの期待感なんですね。マーケットの期待感というのはとても怪しいものですし、移ろいやすいし、変わりやすいです。どう醸成するかというのは非常に難しいんですけれども、例えば、十ページを見ていただきたいと思っています。

 これは、つい先ごろ内閣府が出してきた、財政再建のための、それを計算するためのシナリオになっているわけです。経済再生ケースとベースラインケースというのは嫌というほど私たちは見ていて、それに基づいて、財政再建がどこまでできるのかというカウントをしているわけですよね。

 ついこの間、二〇二〇年の目標がさくっと二〇二五年に変わっていたのをごらんになっていると思いますが、こういう状況で、随分と、経済再生モデルとかあるいはこのベースラインケースというのをつくって、一生懸命財政再建をやろうとしていることはわかるんですが、そして、その財政再建をやろうという意思を見せることはとても大事なんですが、見ていただきたいのは、例えば、弊社BNPパリバの予想ですとかIMFの予想、もう全然違っているんですね。ドイツなんかでは、こういう経済再生ケースとあるいはこのベースラインケースと、実際の実績値がほとんど差がありません。そういう国と、もともと希望を持ってつくり過ぎているものとの差が余りあると、さすがに、日本というのは財政再建する気がないんじゃないかという変なメッセージにマーケットには伝わる可能性があるわけです。

 ですので、これを捉まえると、マーケットの期待感を醸成するのは実は簡単です。これはやれるよということをしっかりと見せていただく、それを本当にやっていただくことによって、マーケットは信頼もするし、外人投資家も、そうなのか、じゃあやる気なんだなと見えてくると思うんですね。

 余りにも望みの高いことを見せられて、やはりできなかったじゃないかと。今回、消費増税をまた先送りかという話になってくると、失望でしかなくなってくるわけですね。それを醸成することは、正直言って意味がないこと、マーケットの変な混乱を招くだけだというふうに思っています。

 ですので、私、三つほど申し上げました。為替の水準であるとか格付であるとか、あとはマーケットの期待感等の醸成、実績との違いですね。この辺を、外部から出てくることですので、それをコントロールしておかないと、ある程度ちゃんと見ておかないと、金利が急騰して思わぬトラップが日本という国全体に来るかもしれませんということをお話しさせていただきました。

 ちょうどお時間に、一分ぐらいありますが、終わったと思うので、これにて私の時間を終わらせていただきたいと思います。

 ありがとうございました。(拍手)

浜田委員長 ありがとうございました。

 次に、逢見公述人にお願いいたします。

逢見公述人 御紹介いただきました連合の逢見でございます。

 本日は、このような場で私たち連合の意見を表明する機会をいただき、感謝申し上げます。

 私からは、働く者の立場から見た我が国の経済社会における課題を踏まえ、とりわけ、税と社会保障、子ども・子育て、教育分野においてとるべき政策について申し述べます。お手元に資料も配付してございますので、逐次、参照しながらお聞きいただきたいと思います。

 日本の景気は緩やかな回復基調にあるとされていますが、ほとんどの国民には、景気がよくなったという実感がありません。

 一枚目のスライドのとおり、二〇一四春季生活闘争から三年連続の賃金の引き上げにより雇用者の報酬総額が増加する一方、GDPの約六割を占める個人消費は依然として弱い状況にあります。その要因として、非正規雇用の増加による低賃金労働者の拡大や、社会保障負担の増加による可処分所得の減少が消費マインドにマイナスの影響を与えていることなどが挙げられます。

 また、生活保護受給者は過去最多を更新し、年金、医療、介護に関する社会保障制度が超少子高齢化や単身世帯の増加に対応し切れていないなど、国民の将来不安が一向に解消されていないことが、それらに拍車をかけているものと思われます。

 二〇一七年度予算案では過去最大の九十七・五兆円が計上されていますが、広がる貧困の解消や格差の是正など、私たち働く者、生活者の声に応える予算であるとは言える状況にありません。

 いかに国民の将来不安を払拭し、持続可能で包摂的な社会をつくり上げていくのか、そのことが、今、私たちに問われています。社会の安定と自律的な経済成長、財政健全化のいずれにおいても、雇用の安定と暮らしの底上げが大前提であり、そのための予算編成が必要であると連合は考えております。

 次に、財政の基盤である税制の課題について触れたいと思います。

 我が国が抱える課題の一つに、低所得世帯が増加し、貧困に苦しむ国民がふえていることが挙げられます。

 とりわけ、所得の格差を解消するためには、税制が本来持つ所得再分配機能を有効に活用すべきですが、二枚目のスライドのとおり、我が国の税制における所得再分配機能は先進国の中でも最低レベルにあり、税制の抜本的な見直しが求められます。しかし、二〇一七年度の税制改正法案では、こうした観点からの見直しがなされず、極めて残念に思います。

 その一方で、所得税の人的控除に関して、配偶者控除、配偶者特別控除の見直しが盛り込まれています。我が国の成長力の底上げのため、就業調整を意識させない制度構築が目的とのことですが、一九八七年の配偶者特別控除の創設により、制度上は就業調整への影響は解消したとされています。今回の配偶者控除の見直しが就業調整にどれほどの効果があるのか、甚だ疑問と言わざるを得ません。

 連合は、むしろ、社会保険料の支払いが発生する百三十万円の壁が就業調整に大きく影響していると考えており、このことは厚生労働省の調査でも明らかになっております。働き方に中立的な税、社会保障制度の構築に当たっては、後に触れる社会保険の適用拡大と被扶養者認定の年収要件引き下げを最優先に進めるべきであります。

 なお、今国会には、民進党から、格差是正及び経済成長のために講ずべき給付付き税額控除の導入その他の税制上の措置に関する法律案が提出されております。この中に盛り込まれている給付つき税額控除の導入や、個人所得課税における基礎控除や扶養控除の税額控除化などは、税による所得再分配機能を強化し、低所得世帯の暮らしの底上げ、底支えを行うという観点から、大変重要な政策です。

 我が国の課題の早期解決のために、与党、野党にかかわらず、すぐれた政策は積極的に取り入れていただくようにお願いをいたします。

 次に、国民生活の基盤である社会保障について、幾つか指摘したいと思います。

 一点目は、子ども・子育て支援と待機児童の問題です。

 保育所の待機児童数は、この間、減少傾向にありましたが、二〇一五年度に再び増加に転じ、昨年四月時点で二万三千人余りの子供が認可保育所に入れずにいます。また、最近でも、ことし四月の入園時期を控え、保育所からの落選通知を受け取ったという、保護者である連合の組合員からの悲痛な声も多く寄せられております。

 国は、施設などの整備を図り、今年度末までに五十万人分の保育の受け皿を確保するとしていますが、それには約九万人の保育士が必要であると試算されています。

 保育職場は都市部を中心に慢性的な人材不足であり、保育士の有効求人倍率は昨年十一月には二・三四倍に達しています。三枚目のスライドにもあるように、保育士の資格を持ちながら保育士としての就職を希望しない求職者を、職場をやめています。また、保育士としての就業を希望しない理由を聞いた調査では、賃金が希望に合わないが最多に挙げられており、保育現場の処遇改善は喫緊の課題となっています。

 二〇一七年度予算案における保育士の処遇改善は、一定の評価をしつつも、いまだ道半ばであると言わざるを得ません。四枚目のスライドのとおり、勤続年数を考慮する必要があるとはいえ、全産業平均との間には大きな賃金格差が残っています。このことが、保育士の就労希望者がふえないことや職場への定着が進まない大きな要因の一つであることは自明の理であり、長く働き続けることができる賃金制度の確立と賃金水準の底上げが必要です。

 一方、国会には育児・介護休業法の再改正法案が提出されています。この法案には、待機児童対策が進まない中、子供を保育所に入れられない保護者など、やむを得ない場合のセーフティーネットとして、育児休業の延長が盛り込まれました。

 育児休業取得が女性に偏っている中での休業延長は、性別役割分担意識を助長し、女性活躍の阻害要因ともなります。そのため、男女ともに働き方を見直すことや、男性の育児休業取得促進を進めることが求められます。

 また、既にことしの一月から施行されている改正育児・介護休業法では、制度の利用促進の観点から、休業の分割取得や、介護も含めたハラスメント防止対策などが盛り込まれました。

 二〇一五年に実施した連合の調査では、制度利用者の約三割が何らかのハラスメント等を受けていることが明らかになっています。今後、改正によって制度利用者がふえることにより、ハラスメント被害も増加することが懸念されるため、改正法の施行状況を厳しく注視し、調査分析、法の見直しなど、必要な施策の実行を求めます。

 社会保障の二点目は、介護の問題です。

 介護の分野でも、高齢者の生命身体にかかわるという業務の特性に見合った労働条件が確保されているとは到底言えず、全産業平均との間には、保育士以上の賃金格差があります。介護労働者が職場に定着し、経験やスキルの蓄積によって専門性を向上させていくことは、介護サービス利用者の安全、安心の確保においても重要な課題です。

 今般、連合が主張してきた二〇一七年度介護報酬改定が期中に行われ、介護職員処遇改善加算に新たな区分が創設されることは、率直に評価したいと思います。しかし、加算で得た原資の使途は各事業所に委ねられており、厚生労働省の調査では、多くの事業所において新規採用者に手厚く配分されていることが明らかになっています。このことは、処遇改善加算が、新規人材の確保に役立つ反面、介護労働者の職場への定着や経験、スキルの蓄積を促すという役割を十分に果たせていないことを示しています。

 そのため、より介護労働者が長く働き続けることを促し、サービスの質の向上に資する仕組みへと見直す必要があります。

 次に、貧困、格差問題について指摘させていただきます。

 まずは、厚生年金、医療保険のさらなる適用拡大です。二〇一二年八月の法改正により適用範囲の拡大が行われていますが、昨年十月から新たに適用対象となったのはわずか二十五万人と極めて限定的です。高齢世帯の貧困を防止する意味からも、社会保険のさらなる適用拡大を社会保障審議会などで早急に検討すべきです。

 次に、スライドの五枚目をごらんください。一人親世帯の課題です。

 一人親世帯の多くが母子家庭であると言われていますが、有業者であっても貧困状態に陥りやすい傾向が見られます。母子家庭の就労率は八五%と高いにもかかわらず、非正規の職しか得られないケースが多く、約七割が年間就労収入二百万円未満となっています。母子家庭の母親は、子育てを一人で担う責任と経済的な困難に直面するリスクをあわせ持つため、総合的な対策が必要です。

 また、貧困については世代間連鎖の防止が大きな課題です。その背景となっている教育機会の格差を解消するためにも、奨学金制度の拡充が求められます。

 スライドの六枚目、左上のグラフをごらんください。

 連合が二〇一五年十月に行った調査では、大学の学費が高騰する中で、世帯年収が二百万円から四百万円の低所得世帯の学生のうち、実に六割以上が奨学金を利用していました。しかも、奨学金を利用している学生の借入総額は平均で三百一・八万円と、卒業後の返済が大きな負担となっていることが明らかとなっています。

 政府が国会に提出している給付型奨学金の制度化の法案が成立すれば、国として初めて高等教育に導入されることになります。それ自体は大きな前進ですが、その中身については問題があります。二〇一七年度は先行的に二千八百人を対象として予算化し、翌年度以降は約二万人まで拡大する予定ですが、給付額はいずれも最大で月四万円です。

 同じスライドの右上のグラフをごらんください。

 大学生の生活費の実態からすれば、給付型奨学金を加味しても、私立大、下宿生では最大で年間百五十五万円以上の赤字になります。この赤字を貸与型奨学金の借り入れや家計負担で担わねばなりませんが、経済的に困窮している家庭にはこうした負担を受け入れる余地はありません。

 左下のグラフのように、貧困世帯の大学などへの進学率は、非貧困世帯と比べると明らかに低くなっています。

 また、右下をごらんいただくと、こうした貧困世帯とされる児童養護施設や里親家庭の出身者、生活保護世帯、住民税非課税世帯の子供のうち、約六・一万人が高等教育に進学するとされていますが、政府の案では、本格実施でも二万人しか対象になっておらず、三分の一しか給付を受けられません。さらに、経済的理由で進学を諦めている学生が最大で六万人以上いることも想定され、これらを踏まえれば、政府の給付型奨学金は、本来目的としている教育機会の格差の解消にほど遠いばかりか、深刻な分断を招きかねず、余りにも不十分であると言えます。

 教育機会の格差の解消のためには、就学前教育から高等教育まで全ての教育費用の無償化を行うことにより、社会全体で子供たちの学びを支え、将来社会の担い手を育成すべきであります。

 最後に、働く者のセーフティーネット拡充について意見を申し上げます。

 まずは、雇用保険制度についてです。

 政府が管掌する雇用保険の被保険者は実に四千百万人以上に上っており、これら労働者の失業時における生活安定が国の責務であることは言うまでもありません。

 今国会には雇用保険法等改正法案が提出されており、それが成立した暁には、失業等給付への国庫負担が、法律本則の二五%から二・五%まで、三年間の時限的措置として引き下げられます。その一方で、昨年三月の雇用保険法改正時には、政府の責任として、雇用保険の国庫負担に関する暫定措置を早期に廃止し、本則に戻す旨の附帯決議がなされています。

 政府におかれましては、雇用保険制度に対する国の責務を改めて御認識いただき、三年後には法律本則まで確実に国庫負担が復帰するよう、不断の努力をお願いいたします。

 また、かつて雇用保険制度が厳しい財政状況に直面したことから、給付水準は二〇〇〇年と二〇〇三年の改正で引き下げられ、その後も据え置かれたままとなっています。その一方で、財政状況は改善の一途をたどり、現在の積立金残高は六兆円を超えています。

 この積立金は労使が拠出した保険料で構成されており、働く者の立場からすれば、失業というリスクに備えて政府に預けているものであって、他の財源とは一線を画すべきものと認識しています。したがって、その使途については、労使の意見を最大限に尊重すべきであります。

 次に、セーフティーネットとしての職業能力開発についてです。

 雇用形態や企業規模、在職、離職の違いにかかわらず、全ての働く者に適切な職業能力開発の機会を提供することは極めて重要と考えます。職業能力の開発、底上げは、働く者にとっては失業リスクを回避し、処遇格差を改善することにつながる一方、我が国の競争力の源泉となります。

 したがいまして、人を育てる企業への支援強化や、非正規雇用の労働者、中小企業の労働者など、全ての働く者の中長期的なキャリア形成の機会確保に政府は一層注力していくべきです。加えて、学校教育段階からの職業教育、キャリア教育の充実が図られるよう、施策の強化をお願いいたします。

 今、我が国は、本格的な人口減少、超少子高齢社会を迎え、本日申し上げた格差や貧困、分配のあり方など、経済社会のあらゆる側面での構造的な課題に直面しています。

 私ども連合も、こうした課題の一つ一つを着実に克服していくため、二〇一七春季生活闘争において、全ての働く者の底上げ、底支え、格差是正を目指し、定期昇給相当分を含め四%程度の賃上げ目標を掲げながら、サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正な分配に資する公正取引の実現に向けて、取り組みを進めていく所存であります。

 このことを最後に申し上げ、私からの意見陳述とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

浜田委員長 ありがとうございました。

 次に、手塚公述人にお願いいたします。

手塚公述人 昭和電気鋳鋼株式会社代表取締役の手塚と申します。

 本日は、貴重な機会を賜りまして、まことにありがとうございます。先生方におかれましては、日ごろより中小企業、小規模事業に大変御理解をいただき、活性化に向けた施策の数々、この場をおかりいたしまして厚く御礼を申し上げます。

 本日は、平成二十九年度予算案に賛成の立場から発言をさせていただきます。

 私どもは、群馬県高崎市において、従業員九十名、社内で働く外注も含め百四十名ほどで、鋳鋼という鋳物を製造しております。従業員とその家族、そして弊社と関係する多くのサプライヤーの方々の責任を担う者として、弊社の実情を御報告させていただきます。

 同時に、弊社が所属する鋳物業界初め中小企業の現状を正直にお話しし、先生方の御判断の一助となりますれば幸いでございます。

 まず、弊社は鋳鋼鋳物を生産していると申しましたが、鋳鋼というものは、鉄スクラップを溶解したものにシリコンやマンガンなどの成分を加え、かたいだけではなく、靱性、つまり伸びる力を備えた鉄製品であり、船舶、建設機械、産業機械、鉄道などの力のかかる部分に使われております。重要保安部品、つまり部品が損傷した場合に人命にかかわるような重大な事故になってしまうという、機械設備の大切な部分に使われる製品でございます。

 例えば弊社のカプラーベースという製品は、トレーラーの運転台と荷台をつなぐ唯一の部品で、製造しておりますのは日本で弊社だけになっております。

 弊社は、国内最大手の建設機械メーカー様、破砕機メーカー様の部品を得意としており、海外の資源開発用の大型建機に最も多く使われていますので、直接輸出はしておりませんが、弊社の部品を使った製品は世界じゅうで活躍しております。

 しかし、日本全国の鋳鋼生産量は年々低迷を続け、二〇〇九年のリーマン・ショック後に半減した最低のラインを、直近の二十四カ月、連続して前年同月比マイナスの生産量となっております。

 全国七十四工場のうち、昨年二社が廃業し、七十二工場となりました。これは、鋳鋼の最大の需要家である船舶と建設機械が国内で振るわないことが主たる原因です。

 二〇一二年十二月に第二次安倍内閣が発足し、それまで六重苦と言われて暗雲立ち込めていた経済界に春風が吹き込まれました。確かに、株価は上がり、円高は解消され、輸出をするメーカーにはとても有利な状況が生まれ、大企業の多くが為替差益で大幅な黒字を計上しました。

 しかし、私たち部品を供給するいわゆる下請はその恩恵にあずかることはなく、アベノミクスが最終目標とする一億総活躍、経済の好循環、賃金の上昇を実現することは困難でした。

 特に弊社は電力多消費の企業であり、東日本大震災の後、電気代が三割上昇したことは経営を圧迫いたしましたが、政府の後押しもいただき、業界全体で、製品価格にその上昇分を反映していただけるよう必死に活動いたしました。

 そのような折、安倍総理から、中小企業の経営者二十数名が官邸にお招きいただきました。その折、総理は、安倍政権の政策の柱として一貫しているものは中小・小規模企業政策であり、それを全国津々浦々に行き渡らせることが重要である、補正予算には、省エネ型設備投資への補助金、低利子融資の創設、さらにものづくり補助金を盛り込んでいる、人手不足、地方の停滞、原材料の上昇など、不安な状況を突破する鍵は経営者の皆さんとそこで働く人々の知恵と頑張りにあるので、しっかりと雇用を守っていただきたいと述べられました。

 さらに、我々中小企業の声を直接熱心にお聞きいただいて、参考にしますとおっしゃっていただいたことで、日ごろの苦労が吹き飛び、大いに勇気づけられました。

 それから二年、政府におかれては、総理のお考えを実現して、多くの施策で御支援いただいております。弊社、昭和電気鋳鋼もそれをひしひしと実感しております。

 まず、二〇一二年、国内立地推進事業補助金において、弊社が四十四年間毎日補修をしながら使い続けた老朽化した設備を更新することができ、まさに業を継続することが可能になりました。

 その後、二〇一五年七月には、ものづくり補助金を採択していただき、金属の内部欠陥を調べる非破壊検査試験機を取得することができました。それまでの検査方法では十ミリの欠陥があるかないかしか調べられなかったものが、その機器の取得により、一ミリの欠陥を検出でき、さらに欠陥の種類、形状及び範囲の特定が容易に正確にできるようになりました。

 このことにより、既存顧客の高度化する要求品質を実現するとともに、需要が増加している新事業分野への参入が可能となりました。その分野では、高品質が求められるため対応できる企業が限られており、私どもは、今後は品質保証体制を武器にその分野に攻めていきたいと思っております。

 昨年七月に施行された中小企業等経営強化法の優遇税制では、認定を受けた企業の特定の設備は三年間固定資産税が二分の一に軽減されることになっています。弊社のこの設備は現時点では残念ながら対象設備には当たりませんが、この法による経営強化と生産性向上に向けた支援の仕組みは大変すばらしく、我々製造業だけではなく、サービス業においても大きな効果と期待が寄せられているとお聞きしています。

 鋳物の現場作業は、古来からの製造工程と大きな変化はなく、砂をつき固めて流し入れた鉄を、不要な部分を切り取り、磨いて製品にしていくという、人の手による工程の連続です。

 日本の将来を考えれば、労働人口が半減していく中で、IT活用による生産性の向上は必至であり、弊社も近いうちにこの強化法を利用させていただいて、小さくてもイノベーションを起こしていきたいものと考えております。

 また、金融支援では、商工中金の地域中核企業支援貸付制度で、十年間返済不要という制度を利用させていただいております。金融機関の貸し出し状況は、リーマン・ショック前、私が銀行に借り入れを申し込んだころとさま変わりし、成長しようという企業を積極的に支援し、企業を育てようという姿勢がはっきりと見てとれます。

 将来を見越した勇気ある設備投資に対して、減価償却を加味しないという御判断をされる金融機関もなくはありませんが、ほとんどそのようなことはなく、国として低金利融資を奨励していただいていることに感謝する次第です。

 また、昨年、戦略的基盤技術高度化支援事業、いわゆるサポインで、非鉄金属の鋳物の企業と埼玉工業大学、群馬県産業技術センターとのチームに参加し、従来の製品と一線を画す製品づくりに挑戦しております。研究に予算がついていることは将来の夢が描けるということであり、社員の生活を預かる者として心からありがたく思うところであります。

 さて、私ども、メーカーに部品を供給する下請企業は、いつも一円でも安く、世界のどこにもないほどの高品質品をタイムリーにお客様にお届けするのが当たり前という世界で生きてまいりました。優秀な中小企業が先を争うように供給責任を果たしてきた歴史が、日本製品への揺るがない信頼の根源なのだと思います。

 チームワークで難問を解決してきた中小企業の姿は「下町ロケット」という小説に描かれ、テレビでごらんになられた先生もいらっしゃるかと存じます。私も、毎週テレビを見て、泣いたり笑ったり共感の連続でございました。

 あの中に、給料に不満を持ってやめていった社員がいました。けれども、誰もそれを責めることはできません。私も、社員の幸せを誰よりも望みながら、賃上げの原資を生み出せず苦しんでおります。

 昨年九月に発表された経済産業大臣の世耕プランを見たとき、総理がどれほどの決意を持って国民の幸せと国の発展を願い、日々の激務を行っておられるか、伝わってまいりました。二〇一五年の官邸で話されたことが絵に描いた餅ではなく、誰でもが理解し、実行できるよう、そして確実に実行されたかをフォローすることも明記されていました。

 特に鋳造の業界では、木型の保管は下請事業者が無償で保管することが慣例であります。どこの鋳造会社に行っても大きな倉庫に木型がぎっしりと保存してあり、その倉庫の固定資産税は当然鋳造会社が持っております。

 弊社は高崎市にありますが、市町村合併により高崎市が中核市に昇格したため、事業所税なるものが発生することになりました。工場建屋の敷地面積一平米当たり六百円の事業所税も弊社負担となっております。事業所税については、固定資産税と二重課税ではないかと思うところではありますが、その議論は別の場に委ねるとして、とにかく、型の保管費用について、これを機会に意識を大きく転換し、交渉してまいりたいと思います。

 また、毎年当然のように原価低減要請をされることや、手形での支払い、さらに賃金引き上げに伴う労務費の上昇分も、発注事業者様と協議できる土俵ができました。画期的なことだと思います。もちろん、我々下請事業者も努力を重ねた上、転注におびえることなく、協議、交渉してまいりたいと考えます。

 以上のように、中小企業としてさまざまな問題に追われる毎日でありますが、憂慮していることが三点あります。

 一点は、素形材を専門に研究する大学の学部が少なくなってきていることです。

 若者を育てるのは、企業と業界団体に委ねられています。大企業は独自に研修機関を持っているかもしれませんが、中小企業にはその力はありません。鋳造協会においては、危機感を抱いて、鋳造カレッジという勉強の場をつくっています。スタートから十年が経過し、毎年約百名ほど各社から従業員の参加を募り、約八カ月間、断続的に勉強をいたします。既に七百三十一名が卒業いたしました。若者を育て、鋳造の原理を教育する大変よい取り組みです。しかし、これは研究機関ではありません。よい素形材がよい機械設備のもととなります。国として、素形材の底力が落ちないよう御配慮いただければありがたく存じます。

    〔委員長退席、宮下委員長代理着席〕

 もう一点は、事業承継です。

 弊社は、私の祖父が起こし、三十年社長を務め、次に父が約三十年、そして私が十年務めたところです。父は、私に鋳物製造業を引き継ぐことは全く考えていませんでした。理由は、私が女性であるからです。

 昨年、製造業の女性社長が約五十人集まり、ものづくりなでしこという団体を立ち上げました。非常に意欲的、アグレッシブ、勉強家で、すばらしい経営者の集団です。

 私も娘が三人いますので、そのうちに誰か手を挙げてくれるだろうと期待しています。重い税額負担を考えると、早く準備を始めなければならないと気持ちが焦っているところです。

 女性でも仕事と育児が両立できるのが当たり前になり、中小企業が稼ぐ力を持って、戦後最大の名目GDP六百兆円の屋台骨として、魅力的で、やりがいに満ち、娘がどうしても社長になりたいと思うよう、自分も努力してまいりたいと思っております。税制面での御配慮をいただければ幸いに存じます。

 最後に、今政府で進めている下請企業対策について、自動車工業会は自主行動計画をすぐに作成し、発表していただきました。自動車関連に限らず、ほかの多くの産業でも強力に展開していただきたいと希望しております。私ども中小企業が仕上げた成果が正当に評価された価格で大企業から購入されるよう、徹底をお願いいたします。

 大企業も中小企業も一緒になって日本を世界一の物づくりの大国にしていきたい、そんな私の夢を抱いています。実現するためにお力をかしていただきたいと思います。

 中小企業、小規模事業への御理解の上、御審議賜りますようよろしくお願い申し上げます。

 御清聴ありがとうございます。(拍手)

    〔宮下委員長代理退席、委員長着席〕

浜田委員長 ありがとうございました。

 次に、小田川公述人にお願いいたします。

小田川公述人 私は、全国労働組合総連合で議長を務めております小田川と申します。

 こういう場で貴重な時間を頂戴し、意見を開陳できますことに強く感謝を申し上げたいと思います。

 さて、昨年来、政府の審議会の設置もありまして、日本の労働者の働き方への関心が高まり、本国会での議論も予定をされていると承知をいたします。せっかくいただいた機会ですので、私どもがかねてから実現を求めています、働きがいのある人間らしい仕事、ディーセントワークの実現に向けた働き方改革の御検討をお願いすることで、私の公述とさせていただきたいと思います。

 私の発言は、第一に、働くルールの論議に当たっては、一九九〇年代半ば以降悪化をした労働者全体の状態を直視していただくことが必要だ、この立場で、釈迦に説法かとは存じますが、賃金低下と長時間労働が労働者にどのような悪影響を与えているのかを特徴的に申し上げたいと思います。

 第二に、その現状との対比で、私たちが感じています政府の働き方改革実現会議の論議状況に対する意見を申し上げます。

 第三に、日本でのディーセントワークの実現に向け、御議論いただきたい主要点三点について、全労連としての意見を申し上げさせていただきます。

 この間、経済のグローバル化やこれに伴う産業構造、企業経営、雇用状況の変化は大変激しくて、正規男性社員に代表される労働者像や一部大企業の労働者が全体の状況を代表する、こういうことにはなっていないと思います。

 二〇一六年の段階で、働く者の四割、二千万人を超えようとしています非正規労働者。一九七〇年には千七百九十万、三四・一%を占めていた第二次産業従事者が、二〇一〇年には千四百十二万、二五・二%に九ポイント低下をする一方で、同じ時期に、三次産業の従事者は、二千四百五十一万人、四六・六%から三千九百六十五万人、七〇・六%に、二四ポイントもふえている就業構造の変化などは、その特徴的な例だと思います。

 少し乱暴に申し上げれば、川下の産業、企業や雇用形態の労働者がふえているのだと思います。私は、労働者の実態を見るときに、この現状を直視することが必要だと思います。

 先日私どもが開催をいたしました集会での非正規労働者の発言を御紹介します。

 その方の職場は流通関連の下請企業であり、正規雇用労働者は三百人、非正規雇用労働者は六百人という雇用状況です。その非正規雇用労働者の賃金は、この十年間、最低賃金に張りついた状況で、昨年秋から時給九百三十二円となりました。最低賃金が改善をされなければ、賃金が上がらない中で、携帯もテレビも持てない、実家の母が倒れたけれども交通費が工面できず見舞いにも行けない、こういう生活の厳しさを訴えました。

 政府の各種統計でも、労働者の貧困化はさまざま明らかになっています。

 例えば、二〇一二年時点で、ワーキングプアと言われる年収二百万円未満の青年労働者は、男性が一七・六%、女性が三九・〇%であります。いずれも、九〇年代半ばと比較して増加をしています。一年間働く労働者全体では、二〇一五年時点で四人に一人がワーキングプアという状況になっています。

 このことが、金融資産を保有しない世帯が二〇一六年には三五・五%にも達するという深刻な事態を引き起こしています。

 ちなみに、資産なし世帯が、二〇一二年からの四年間だけを見ても、二八・〇%から三五・五%に急増していますことは、九〇年代半ばから賃金が低下し続けてきたことの累積であり、思い切った対策の緊急性を示唆しているように思います。

 保有資産を持たないということは、何らかのアクシデント、例えば病気や失業によって即座に貧困の底に沈む危険性を持っているということであります。潜在的な生活保護世帯の増加という社会的リスクの増加をも示唆していると考える必要があると思います。

 このような労働者の貧困化がなぜ進行したのか。私は、労働分配率の低下の一方での大企業での内部留保の高蓄積に見られる富の配分の偏りを指摘したいと思います。

 比較可能な二〇一二年時点で、欧米諸国に比して、日本の労働分配率の低さは目立つ状況です。労働者への配分とかかわって生産性の低さを指摘する向きもありますけれども、日本の労働生産性は、一九九五年を一〇〇として二〇一四年には約二〇%伸びたにもかかわらず、賃金はマイナスになっている。この一事を見ても、その指摘は妥当しないと思います。

 また、日本では、中位所得が一九九二年をピークに二〇一四年時点まで一貫して減少しているとの民間シンクタンクの研究があります。厚生労働省の国民生活基礎調査によれば、中位所得の半分、いわゆる相対的貧困ラインは、一九九七年の百四十九万円から二〇一二年には百二十二万円に下がっていますように、中位所得の低下は、より低い所得層の増加、かつて中間層と言われた層の所得低下を意味しているように思います。

 このような連続した状況が、先ほど申し上げました資産なし世帯の増加となっていることは容易に推測でき、最初に御紹介をした労働者の発言になっていることを改めて強調させていただきます。

 二つ目に、非正規雇用の労働者が四割に達する一方で、正規一般労働者の労働時間の短縮が進まないという状況が一貫して続いています。

 とりわけの問題は、月末一週間に六十時間以上働く労働者が二〇〇〇年代に入っても低下しておらず、特に三十歳代、四十歳代の男性労働者で深刻な状況にあることは、政府の統計からも明らかだと思います。

 別の用紙になっております別添一のグラフをごらんいただきたいと思いますが、厚生労働省の統計データから私どもで作成したものですけれども、月八十時間を超える時間外労働となると過労死が急増すること、そして八十時間未満でも過労死認定される事案があること、二つのことが示されています。

 ちなみに、労働者の年次有給休暇の取得率も、二〇〇〇年代に低下をし続けています。長時間労働は減らない、そのもとで休暇取得率も下がっているという状況です。

 このような労働時間の実態は、私どもの労働相談を通じても、悲痛な声として寄せられています。

 一例を申し上げれば、就業規則改悪に伴って、固定残業代が月二十時間から月六十時間に変更され、賃金低下と上限なしの長時間労働が同時に押しつけられたという相談がありました。何時間時間外労働しても定額の手当しか払わない、この事例の相談は近年増加をし、時間管理なしの残業が押しつけられている実態も散見をされる状況です。

 こういったブラックな働かせ方は、流通、サービスなど川下の下請産業で広く蔓延をしており、例えば、全労連傘下の労働組合で行いましたトラック運転手へのアンケートでは、居眠り運転の経験が、よくあるが五%、時々あるが三九%と回答し、バス運転手へのアンケートでは、深夜を含む不規則な勤務時間と休息時間の短さの労働への悪影響が明らかになっています。

 長時間労働が労働者の健康、命をむしばんでいると同時に安全を損なうこと、その安全を第一に働く労働者が一定時間の休息時間の規制を強く求めていることは、ぜひお聞き取りいただきたいと思います。

 以上のような働く者の実態の認識のもとに、政府が進めていらっしゃいます働き方改革会議の論議への私どもの意見を申し上げます。

 この間、取りまとめられました同一労働同一賃金のガイドライン、長時間労働規制案は、申し上げたような深刻な状況における労働者の実態と声が余り反映をしていない、労働基準法が定める労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たすもの、これになっていない、このように受けとめています。

 第一に、同一労働同一賃金でのガイドラインについての意見です。

 特に問題だと考えますのは、基本給について、職務経験、能力に応じて支給する場合における、管理職となるキャリアコースの新卒正社員よりも、仕事を指導する熟練パートタイム労働者の賃金を低くしてもよいとする例示であります。

 管理職コースとその他の採用コースとを区分し、当初から前者を賃金上も優遇する、この考え方は、戦前の官吏、吏員、雇員という身分差別をほうふつさせるような例示だと思います。そのこともありまして、この例示には、非正規雇用労働者から失望したとの声が強いことを申し上げておきたいと思います。

 各種手当や福利厚生面での同一処遇は、現行の労働契約法、パート労働法の範囲の内であって、おくれていた運用解釈が明示されたものと思います。ただ、手当についても、退職手当への言及がないことの問題点など、なお残っている課題もあると受けとめております。

 第二に、時間外労働の上限規制についてです。

 事務局案では、三六協定について、臨時的に特別の事情がある場合に、年七百二十時間、月平均六十時間の特例を認めるとしていますけれども、到底賛同できるものではありません。

 巷間言われていますように、一時的に業務量が増大する場合の、最低限、上回ることのできない上限について、月百時間、二カ月平均八時間という、過労死認定基準さえ超える時間がなお検討の対象になっているとすれば、論外だと思います。

 先ほどのグラフでもお示しをいたしましたように、あるいは厚生労働省の過労死認定基準でも、長期の疲労蓄積について、四十五時間を超える時間外労働がある場合は業務と発症との関連性が強まることが明記をされています。その上での、発症前一カ月、百時間を超える時間外労働などのより過重な労働の基準を設けているのでありまして、六カ月間の過重負荷と前一カ月間の過重負荷が同じ重みの基準として考えられていると思っております。

 こういう点を踏まえれば、週や月単位の規制もなしに、年間制限だけを論議することの乱暴さは御理解いただけるのではないでしょうか。

 また、インターバル規制の法定化が見送られようとしていますが、先ほど申し上げましたバス運転手の例を繰り返すまでもなく、一日二十四時間の生体リズムの人間の労働であることを踏まえれば、一定時間の休息の健康と安全への効果は再検討されるべきだと思います。

 イギリスの研究機関が行った睡眠不足の経済的影響についての研究では、睡眠不足は労働者の生産性を大幅に低下させる、死亡率を増加させ、経済に重大な損失をもたらしているという指摘が行われています。

 一日の平均睡眠時間が六時間を下回る人は、睡眠時間が七時間から九時間の人と比較して、死亡率が一三%増加をする。これをもとに経済的損失を試算すると、日本ではGDPの二・九%に当たります約十六兆円余りの損失がある、労働時間にして六十万日の損失があるという試算が出されております。

 長時間労働は決して美徳だとは言えないのではないでしょうか。

 最初に申し上げました労働者の実態を踏まえ、今緊急に御議論いただきたい働き方改革課題として、私どもの意見、次の三点を申し上げさせていただきます。

 第一は、賃金低下に歯どめをかけ、労働者の格差と貧困の是正、中間層の再生を目指すことを目的に、最低賃金の大幅引き上げを政策的に御検討いただきたいということであります。

 現行の最低賃金制度は、その水準の低さと地域間格差の大きさ、この二点に大きな問題があると考えています。

 水準の低さという点では、フルタイム労働者の賃金の中央値に対する最低賃金の比率が、日本は〇・三五、イギリスは〇・四六、オーストラリア〇・五二、フランス〇・六三、このようになっていることを指摘させていただきたいと思います。

 最低賃金の改善につなげるために、速やかに全国平均時給千円を実現し、時給千五百を目指す、この政治的な決断をお願いしたいと思います。

 また、最低賃金の地域間格差は、現在、最も高い東京都で九百三十二円、最も低い宮崎、沖縄では七百十四円と、二百十八円、三〇・五%もの差があります。

 この弊害はさまざまあると思いますが、私どもの検討では、別添二の図表で示させていただいていますように、人口移動との関係で、有意な関係が確認できる状況だと思います。賃金の低いところから高いところへの人口移動が続くことで地域の経済にダメージを与えている。その声は地方の経済界や自治体からも出始めていることを私たちの取り組みの中でも確認をしているところであります。

 なお、最低賃金の引き上げを政策的に進めていただく場合に、中小零細企業への助成措置の拡充、公契約法、公契約条例の制定と普及、中小企業の社会保険料の負担軽減、下請取引の公正ルールの強化、確立などの施策を同時に御検討いただきたいということも申し添えさせていただきます。

 第二は、雇用、職業における差別禁止の立場での同一労働同一賃金の実現論議をお願いしたいということであります。

 非正規雇用に女性の割合が多く、正規労働者との賃金格差は、雇用形態と同時に、性による格差ともなっています。人材育成コースの違いによる処遇差が女性の活躍を妨げる一因になっているとして、賃金制度の見直しに着手をした企業があることが先日マスコミでも報じられていました。

 全労連といたしましては、雇用形態だけではなく、性別などに基づく合理性のない差別の禁止、均等待遇の原則の明示、人材活用の仕組みなどに基づく格差を合理的なものとしない、これらを法令上明記することとし、労働基準法、男女雇用機会均等法、労働契約法などの改正論議をお願いしたいと考えております。

 また、政府で論議中のガイドラインにかかわりまして、先ほど申し上げました問題点の解決と同時に、待遇に格差をつける場合の合理性の立証を使用者が行うよう措置していただくことを強く要望いたします。

 第三に、労働時間の規制強化は、雇用の量を拡大し、非正規雇用労働者の減少や雇用そのものの拡大にも効果があることは明らかだと思います。そのことから、今の深刻な長時間過密労働を解消し、過労死などのあってはならない事態を根絶することを検討の最優先事項にしていただきたいと思います。

 その立場から、既に国会に提出をされていますプロフェッショナル労働制創設や裁量労働制を拡大する労働基準法改正法案、継続審議となっておりますが、これは、長時間労働の是正に逆行するものであって、撤回を強く要望したいと思います。

 長時間労働の規制は、現行の厚生労働大臣告示に週単位の上限規制も加えて、週十五時間、月四十五時間、年三百六十時間とし、これを超える時間外労働は認めない、違反した場合の罰則を法令上に明記をしていただくことを要望いたします。

 また、二十四時間について連続十一時間以上の休息時間を与える勤務時間インターバル制度、この創設や、夜勤、交代制労働は社会的に必要不可欠な事業に限って認めることとして、法定労働時間をこれらの労働者については通常よりも短くすることを法令上明記していただくことを要望したいと思います。

 なお、規制の強化の実効性を高めるためには、労働基準監督官の増員が不可欠であることは言うまでもないと思います。

 最後にその点を申し添えまして、私の公述とさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

浜田委員長 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

浜田委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。小倉將信君。

小倉委員 自由民主党の小倉將信です。

 公述人の皆様、丁寧な御説明、どうもありがとうございました。

 今回の予算案とともに提出をされました財務省の財政見通しの試算を見ますと、三%の経済成長シナリオでもなお二〇二〇年の基礎的財政収支が六・四兆円の赤字ということで、二〇二〇年のプライマリーバランスの黒字化目標、これを達成するのは依然としてかなりチャレンジングな状況であるというのは間違いないと思います。

 そういった中で、このプライマリーバランスの黒字化目標を達成するためには、歳出歳入の両面にわたる改革、見直しに加えまして、この経済成長シナリオが、期待や楽観ではなくて、やはり現実のものとして実現をさせていかなければいけないというふうに思っております。

 これまでも、経済再生を目的として、安倍政権はアベノミクスの三本の矢ということで、大胆な金融緩和、機動的な財政運営、そして成長戦略、これを着実に推進したわけでありますけれども、中空公述人がおっしゃいましたように、金融政策は、マイナス金利政策も含めて限界もあるし、副作用もあるということだろうと思います。中空公述人の、このまま財政拡大を続けていくと国債の格付に影響が出る、国債の格下げの影響というのは過小評価をしてはいけないというのは、私も同意見であります。

 ここの資料に書かれておりますように、やはり、日本の企業が海外で資金調達をする際には国債の格付というのがキャップになりますので、日本の国債の格付が下がると、そのまま日本の企業が海外で外貨を調達するときにコストが上がってしまうということで、せっかく実力のある日本の企業も海外展開をしにくくなってしまう、これは日本経済にとっても足かせになり得るわけであります。

 そういう意味では、金融政策、財政政策についての中空公述人のただいまの御意見が、カッサンドラの予言、ギリシャの神話にもありますように、そういったものにならないように、我々国会議員は肝に銘じなければいけないなというふうに思います。

 そうなると、やはり私が重要だと思うのは、成長戦略であります。

 これまでも安倍政権は、エネルギー改革でありましたり、農協改革、法人税の引き下げ等々の成長戦略を実行してまいりました。これについては、ツーリトル・ツーレートではないか、このような批判がありますけれども、私は、こういう経済構造改革というのは、必ず、改革をすることによって権利を失う方であったりとか、あるいは損をする方が出てくるわけで、我が国は民主主義の国ですから、こういった方々を既得権益とみなしてばっさり切り捨てるよりも、そういった反対意見に耳を傾けながら、でき得る限りコンセンサスを形成しながら改革を前に進めていくのが正しい姿勢なのではないかな。「大国を治むるは小鮮を烹るがごとし」というような言葉がございますけれども、そういった態度で臨んでいかなければならないというふうに思っております。

 そういう意味では、中空公述人には、成長戦略全般について、どこが踏み込み不足かというふうなことをお伺いしたいと思います。

 特に、私が注目しておりますのはコーポレートガバナンス改革でありまして、これは安倍政権のもとでかなり前進した部分だと思います。会社法を改正して、上場企業に対して社外取締役を事実上義務づけましたし、コーポレートガバナンス・コード、そしてスチュワードシップ・コードを導入して、株主とあるいは企業の対話、投資家と企業の対話を促進いたしました。

 こういったコーポレートガバナンス改革を含めて、これまでの安倍政権の成長戦略について中空公述人はどのように評価をされているのか、まずはお伺いしたいと思います。

中空公述人 御質問いただきましてありがとうございます。

 日銀出身のハンサムな若い先生だと聞いて緊張しておりましたが、何となく穏やかな質問をいただきまして、日銀の政策をいじめられるんじゃないかと思っていたんですが、よかったです。

 成長戦略に関しまして、規制緩和に関しまして、確実にやっていただかなければいけないというふうに思いますが、問題なのは、どこに規制があって、どこが成長戦略を阻害しているのか、はっきりと見えてこないということなのかというふうに思っているんです。

 私自身もいろいろなところで、何が行われると何が進むんですかというようなことを聞くことがあるんですが、例えば、日本の証券市場というのはなぜ外国人がなかなか入ってこない、日本の社債市場はなぜ厚みが増さないという一つの問題をとっても、どこにも実は規制はなくて、規制はないんですが、慣習だったり、わけのわからないもので阻まれているものが多いというふうに聞いています。

 ですので、先ほど、農協や法人など、ツーリトル・ツーレートかもしれないけれどもやっていくというふうに言っていただいたのは大変心強いというふうに思っています。

 あと、踏み込み不足ということで言わせていただくと、海外勢から、海外の投資家から一番望まれているのは、やはり、減っていく人数をどうするのか、人口をどうするのかということなんです。なので、例えば移民問題というのは、いろいろなタブーもあるかもしれませんが、少し突っ込んで考えていただきたい。

 その中の一つとして、例えば、外国人の若者だとかそういう人を連れてきて、日本で英語を教えさせる、そういうプログラムをつくることはどうだろうかとか、外国人投資家の人たちもかなりそういう意見を蓄えていますので、小倉先生のような方がそういう意見を聞いていただけると大変ありがたいなというふうに思います。

 以上です。ありがとうございます。

小倉委員 どうもありがとうございました。大変貴重な意見を承りました。

 やはり、安倍政権の経済成長率、実質で大体一・三%ぐらい、先進国に比べると低い水準なんですけれども、日本の潜在成長率が恐らくゼロ%台なので、それに比べると実力以上のパフォーマンスを上げているということになろうかと思います。

 潜在成長率をどう上げていくかというと、経済学的に言えば、資本をふやすか、労働力をふやしていくか、あるいは生産性を上げるかしかないわけでありまして、そういった中で労働力の不足にどう対応していくか、そういったことは非常に重要だと思います。

 我が党としては、簡単に言えば、移民問題についてはより深い議論が必要だという立場ではありますけれども、そういった現状の中でどういったことが実現をできるのか、しっかりと考えてまいりたいなというふうに思います。ありがとうございます。

 またちょっと、中空公述人にお伺いしたいんですけれども、今回の予算委員会で、GPIFについての議論がございました。ちょうど日米首脳会談の前に、安倍総理が、GPIFに対して、アメリカのインフラファンドに投資することを手土産にしてトランプ大統領との面談に臨むのではないのか、そういう新聞記事が出まして、それをもとにしての質疑がございました。これに対しては、安倍総理は、現行法上、総理とはいえどもGPIFに対して特定の資産に対して投資をしろというような指図はできないと明確に答弁で否定をされておられました。

 私、こういう議論を見ておりますと、あたかも、GPIFがアメリカのインフラに投資をしたりとか、あるいは、広くやらんとしているオルタナティブ投資、これに手を出すこと自体、何か危ないものであるとか、やってはいけないことであるというような、特に予算委員会の場合はテレビの中継もございますし、そういった印象を国民の皆さんに与えるのではないのか、そういうふうな懸念をいたしております。

 同様の議論が、ポートフォリオの株式の割合をふやした、引き上げたときにもあったわけでありますけれども、金融の専門家として、これまでのGPIFのポートフォリオ構成の変更、これについてどう評価をされているのか、お伺いしたいと思います。

中空公述人 引き続きまして、ありがとうございます。

 GPIFに関しましては、巨大資産を持っておりますので、我々金融市場にいる者から見ましても、大変投資家としても興味深いところではあるんですね。ただ、我々の年金を預かってくれているということで考えますと、やはり、リスク、リターンを考えた投資をしていただくことは重要なんだとは思います。

 ただし、昨今の状況を考えますと、リターンが余り上がらないのもどうなのということは確かだと思っておりまして、そういう意味で、株を持つ、オルタナティブファンド、オルタナティブ投資をしてもらうというのは、知見のある人がやっているので、私は、正しい選択、正しい方向に行っているというふうに思っています。

 一番やってはいけないことだと私が感じているのは、短期的なポートフォリオの収益状況を発表することですね。オルタナティブファンドにしても、あるいはオルタナティブ投資にしても、株にしても、どうしてもサイクルがございます。ですので、そのサイクルの、下げているときに一々言って、だめだということを言うことには余り意味がない。逆に言うと、上がっていますよと言って自慢されても余り意味がないと思っているんですね。

 なので、利益を確定してもらってできるだけ資産をふやしていただく、これこそが一番大事なことなので、そういう長期投資のスタンスに立ったポートフォリオ運用をやっていただいている以上、余り細かいディスクロージャーは、世の中的に逆行しているかもしれませんが、それが正しい方向なんじゃないかと思っています。

 ですので、金融機関の、ちょっとした、三カ月をとると大きなマイナスというのはよくあることなので、それを捉まえてGPIFのコードにするのはおかしいというふうに思っています。

 以上です。ありがとうございます。

小倉委員 どうもありがとうございました。

 私もちょっとイギリスで金融工学を勉強したことがありまして、まず最初に学んだのが長期分散投資の有用性であります。一つのバスケットに卵を全部入れるなというような名言がありますように、やはり、オルタナティブ投資であっても株式であっても債券であっても、さまざまな資産に対してバランスよく投資をする、しかも長期で持つということが重要だというふうに思っております。特に年金の場合は、長期の債務に対する運用でありますから、まさにこの長期分散投資がうってつけなわけであります。

 それに対して、四半期で、もちろん利益が上がったときもそうでありますけれども、損失が幾ら出たとか殊さらに喧伝することは、かえってこの年金の運用の意味を阻害するものなのではないのかな、私も中空公述人と同意見でございます。

 最後に御質問をしたいのが手塚公述人でございます。予算案に賛成をしてくださるということで、どうもありがとうございました。とりわけ、お話を聞いて勇気づけられたのは、金融機関の姿勢がリーマン・ショック以降大きく変わったというふうな発言であります。

 昔は、銀行は雨の日に傘を取り上げて、晴れれば傘を差し出す、こんなことを言われてまいりました。それではいけないだろうということで、金融庁が、これまでは、バブル崩壊以降、不良債権の処理ということで、とりあえず身ぎれいにしろということを言い続けてきたわけでありますけれども、最近の金融庁は、むしろ事業性を評価して、将来をきちんと見た上で、担保に偏らずに企業と対話をしながら融資をしてくださいよということを強く言っています。

 そういったことが徐々に徐々にこの安倍政権下でもあらわれているんじゃないかなというふうに思っておりますし、より将来有望な、大企業だけじゃなくて中小企業も、銀行と手を携えて事業拡大できるような関係をつくっていきたいなというふうに思います。

 それで、手塚公述人のインタビュー記事、拝見をさせてもらいました。参考資料でございまして、やはりすごいなと思ったのが、専業主婦をずっと続けてこられて、いきなり経営者になられた。いろいろな御苦労があったんじゃないかなというふうに思います。インタビュー記事を見ていても、従業員の方のシャツが汗を吸わないことだとか、あるいはトイレがきれいじゃない、こういうことまで気づかれるきめ細やかなところと、あるいは、十数億の投資だっていとわない、ベトナムにも提携をして進出をする、そういう大胆さが手塚公述人の成功の秘訣なのではないかなと素人ながら推察をいたしますけれども、手塚公述人のように、今、女性経営者の素質を秘めた方というのはまだまだ埋もれているというふうに思うんですね。

 やはり、安倍政権下で女性の労働参加率は確実に高まっていますけれども、女性の管理職がまだまだ少ないという話があります。いわんや女性の経営者となるとまだまだ物珍しいのが現状であります。ただ、日本全体で見ると、事業承継の問題で後を継いでくれる子供がいない、そんな問題もありますし、あるいは起業の点も、なかなか起業率、開業率が高まらないという点がある中で、やはり女性の方も生き生きと起業ができ、あるいは事業承継できるような環境を国としてもつくっていかなければいけないというふうに思っているんです。

 そういった観点から、女性経営者を勇気づける、そして応援、支援をする策として何があるのか、手塚公述人の経験にちなんで御教示願えればなというふうに思います。

手塚公述人 御質問いただきましてありがとうございます。

 私が、父が亡くなりまして銀行に行きましたときに、負の遺産があるのを君は御存じでしょうかということで、相続しなくてはならないのは正の遺産だけではなく負の遺産というものがあるというのを初めて知ったというような、そのような無知な状態から今日に至っております。

 経営者としてやることは、女性であっても男性であっても同じことです。数字をきちっと出していくということだと思います。

 何が一番女性経営者にとって励みになることかといいますと、もちろん、女性、男性はないのですけれども、男性の皆様においては、大変多く先輩の皆様に教えていただきました。と同時に、私は、げたを履いてそれに乗るわけではなくて、一緒に手を携えてやっていただけるということが何よりもありがたいことと考えております。

 今後とも、男性の皆様のサポートもいただきながら、私たちも頑張ってまいりたいと思います。どうもありがとうございます。

小倉委員 どうもありがとうございました。

 以上で質問を終わります。

浜田委員長 次に、伊藤渉君。

伊藤(渉)委員 公明党の伊藤渉でございます。

 きょうは、中空本部長、そして逢見事務局長、また手塚社長、そして小田川議長、それぞれの公述人の皆様には、大変お忙しい中、国会に運んでいただきまして、大変にありがとうございます。

 まず、四人の皆様の意見陳述をお聞かせいただきまして、この予算委員会でも一貫して議論されていることの一つ、また我が国が抱えている大きな根本的な課題の一つが、やはり人口減少であろうと思います。その中でも、やはり、いわゆる支え手というか現役といいますか、生産年齢人口の減少が全体の人口減少の速度よりも速く進んでいくという、我が国が抱える構造的な課題を克服していかなければならないと思います。

 まず初めは、四人の皆様にそれぞれ、それぞれの立場で思うところをざっくばらんにぜひお話しいただきたいと思います。

 きょうは、手塚社長にも先ほど来、大変実感のある、心に響く公述をいただいておりますけれども、日本の雇用の七割は、中小企業そして小規模事業者が支えていただいております。ここがやはりよくならないと我が国の経済はよくなっていかないし、ここがよくならないと、まさに財政の再建ということも成り立たないのであろう、よって、ここにどれだけ我々が力を注げるか、そしてそれが実効性を上げられるか、これが大変重要なんだろう、こういうふうに思っております。

 先ほど手塚社長からもるるお話をいただきましたけれども、例えば、ものづくり補助金と呼ばれる補助金を、文字どおり物づくりだけではなくて、今では七割の雇用を支えると言われるサービス業にも展開をしたり、中小企業強化法に基づく設備投資に対しては、赤字法人でもその恩恵が行き渡るように、固定資産税の減免ということにも乗り出しております。

 こうしたさまざまな取り組みを行って、政府・与党としてもやれることは何でもやって、とにかく景気を改善させ、逢見事務局長が言われるところの分配をし、そして、中空本部長が言われるところの財政の再建をしていく、このラインの中で全力で取り組んでいるわけです。

 その中で、やはり人口が減っているものですから、いわゆる生産性というものを上げなきゃいけない。これが実は、先ほど小田川議長からは、一九〇〇年代から見ると上がっているんだという話もいただきましたけれども、近年なかなか上がらないというのが我々の問題意識でございまして、まず四人の皆様にお伺いをしたいのは、特に、中小企業そして小規模事業者の皆さんの生産性を向上させていくために何をしていくべきか、それぞれのお立場で御所見をお伺いできればと思います。

中空公述人 よろしくお願いします。ありがとうございます。

 金融マーケットにいる者としては、少し違っている御質問をいただいている気がするんですが、私なりのお答えをしたいと思います。

 まず、あらゆる政府が出してくる補助金というものが効果があるのかというと、私は、最初は効果があっても、後々それが副作用のようになってきたり、あるいは無駄遣いの温床になっていたりということは、その例を出すと枚挙にいとまがないというふうに思っています。

 ですので、積極的に補助金を出しましょうというふうに言われると、金融市場から見ると、余りうれしくないというか、評価できない政策だというふうに感じられます。

 しかしながら、では、中小企業の人たちが活発に働かなくていいのか、働けなくていいのか、その状況はいいのかというと、政治家の先生方から見たら、だめでしょうと思います。

 財政審でお世話になっている、もともと東大教授だった吉川先生は、その御著書の中でイノベーションだとおっしゃっていますので、中小企業の方々にイノベーションをやるときにお金を出すとか、そういうことを考えられたらよろしいんじゃないかなというふうに考えました。

 ちょっと門外漢の意見ではありますが、私なりのコメントです。ありがとうございます。

逢見公述人 人口減少社会と生産性という問題でございますが、連合としても、この課題は正面から受けとめて、中期、長期的にどういう形を描くべきかということを現在我々も研究中でございます。

 まず、人口減少については、これは基本的に与件として受け入れなければいけないと思うんですが、しかし、その人口減少がなだらかなのか急激なのかによって、特に労働力人口というのは大きく変わってまいりますので、少なくともそれはなだらかな現象にとどめるべきであって、そのためには、子育て環境の整備といったようなことをしていく必要があると思います。

 その上で、生産性についてですが、釈迦に説法ですが、土地、資本、労働とあった場合に、労働力人口が減るということは、そのまま解釈すれば労働投入量が減っていくわけですから、その部分を、しかし、土地でカバーするというわけにはいきませんので、資本と、それ以外の要素として一番大きいのはイノベーションということだと思います。

 このイノベーションについては、第四次産業革命であるとか、あるいはソサエティー五・〇という形で、AI、ビッグデータ、IoTといった新しい技術の芽が出てきております。こういったものを取り込むことによって、人口減少であっても、しかし、それをカバーするイノベーションが可能になるというふうに思っておりまして、そういった意味での、政府でも未来投資会議というのもやっておりますが、我々も、そうした新たなイノベーションを取り入れていくべく、そして、それを担う人材が必要だというふうに思っていまして、そういう人材をつくっていく、そういうためのたゆまぬ努力を続けてまいりたいと思っております。

手塚公述人 ありがとうございます。

 イノベーションというお言葉がお二方の公述人の皆様から出てきているわけですが、生産をしている現場から申し上げますと、生産性を、効率を上げるとかイノベーションをするということは簡単なことではございません。

 ただ、私どもができる、生産性を上げるというのは、要は、無理、無駄、むらという三つのないをなくしていくということに尽きるわけで、一歩一歩、一つずつの無理、無駄をなくしていくということに尽きております。例えば、不良品をつくると、せっかく最後までつくって検査までいったものがもう一度戻らなくてはならないんです。そういうようなことを一つずつなくしていくことしかないかと思っています。

 また、小さなイノベーションかもしれませんけれども、生産現場の設備について、ITを使って予知保全をしていくというようなことは私も考えております。

 以上です。

小田川公述人 私が申し上げました労働生産性の上昇という指摘は、たしか二〇一五年の労働経済白書でなされているデータだと承知をいたしますが、申し上げたかったことは、生産性が向上しても、それが労働者に分配をされていない、言葉をかえれば国内に循環をされていないということではないかと思います。

 もちろん、個別企業の成長や、あるいは、おっしゃいますように、労働人口減少のもとでのさまざまな障害といいますか、足かせがあることは承知をいたしますが、何よりも今考えるべきは、先般のGDPの結果でもありませんけれども、国内、内需の減少、消費の縮小というのが、膨らんでこないという状況をどうするかという需要の部分なしに生産性の議論というのもなかなか成り立たないのではないかというふうに考えております。

伊藤(渉)委員 ありがとうございました。

 例えば中空さんにはちょっと難しいことを専門外かもしれませんけれどもお聞きして、今、中空さんからも逢見さんからもイノベーションということが出まして、それに対して手塚社長から、まさに細かいことの積み上げでそれが成り立っていくのが現場である、こういう話がございまして、そのとおりだろうなと。それをどれだけ粘り強く我々はサポートし、国を挙げてそれを続けていくことができるか、こういうことが極めて重要なんだ、こう思います。

 また、もう一つ、時間も切れてきておりますので、これは連合の逢見局長と手塚社長、お二人にお聞きをしたいと思います。

 この生産性の向上ということと、やはり、構造的な要因の結果、全般的に人手が不足をしてきていると言われております。特に、介護ですとか飲食業ですとか建設業ですとか、どうしても根本的にたくさんの人手を必要とするこういう業界で、気をつけなければ、この人手の不足が供給制限を起こしかねないというようなことも懸念をされながら、今進んでいるわけです。

 一方で、きょうも逢見事務局長からお話があったとおり、働き方改革の議論も進んでおりまして、インターバル規制ですとか残業の上限をどうするのか、一人一人のワーク・ライフ・バランスを整えていく、これは最終的には労働生産性の向上にもつながっていきますから、これはこれでとても重要なんだろうと思います。

 この構造的な要因とも言える人手不足の解消について、お考えを事務局長と手塚社長にお伺いをしたいと思います。

逢見公述人 人手不足の問題については幾つかの意見があると思いますが、一つは外国人をもっと入れたらいいじゃないかということですが、私ども、高度な人材については国境を越えて入れるべきだと思いますが、しかし、単純労働を移民として受け入れるということについては反対ということだと思います。

 これはなぜかといいますと、そこにディーセントではない、劣悪な労働条件の第二労働市場をつくってしまう懸念がありまして、単なる人手不足対策としてそれを入れるべきではないと思っています。

 国内的にはまだ、女性、高齢者など、労働市場にもっと参加する余地のある人たちがたくさんいます。そういう人たちがなぜ参加できないかというと、働き方が、長時間であったり、あるいは長距離通勤であったりという形で、なかなかディーセントな形での働き方ができないということがありますので、そうした働き方改革によってディーセントな職場をつくることによって、女性や高齢者が働きやすい職場をつくることによって、まだ新たな労働力を参入させることができるというふうに思っております。

手塚公述人 ありがとうございます。

 私どものような中小企業、また製造の会社にとって、働く皆様、従業員というのはまさに一番大切な資源であります。ですので、社員の生活が、ワーク・ライフ・バランスであるとか働きやすいということについて、私も最大限考えていきたいと思っておるところですが、人手不足は深刻な状況にあります。どこの会合に行きましても、必ず話題に上ります。

 解決の方法としては、私は四つほどあると思っております。

 一つは、やはり女性が職場で活躍ができること。それにつきましては、私たちの製造現場は非常に厳しいので、女性が働くことは難しいのではありますが、その環境を整えることは男性が働くことの環境改善にもなりますので、進めていきたいと思っています。

 二つ目には、外国人のエンジニアを、弊社では、ベトナム人のエンジニアを二名採用しております。もう既に日本で結婚して、非常に活躍している。

 それから三つ目は、シニアの活躍ということで、弊社でも大企業のOBの方に活躍していただいています。

 そして四つ目はロボットでありますが、ITの活用で、私どもの会社ではないのですけれども、インドに工場をつくって、そのデータは日本で管理をするというようなことを考えている会社もあります。

 そういったことで人材不足を解消していきたいと考えております。

伊藤(渉)委員 大変貴重なお話、ありがとうございました。きょうお伺いをした内容をしっかり我々も加味して、さらに政策の実現につなげていきたいと思います。

 ありがとうございました。

浜田委員長 次に、井坂信彦君。

井坂委員 民進党の井坂信彦です。

 公述人の皆様には、本日はお忙しい中さまざまな知見を与えていただきまして、心より御礼を申し上げます。

 まず、働き方改革について逢見公述人に伺います。

 現在、働き方改革の実現会議で長時間労働規制が議論をされております。その中で、経営者側の複数の委員から、残業の上限規制はよいが、一方で裁量労働制の拡大とまた高度プロフェッショナル制度、こちらもセットでやってほしいというような意見が出されております。

 まず、この裁量労働制の拡大、加えて高度プロフェッショナル制度ということについて、働く側の代表としてお考えをお伺いいたします。

逢見公述人 現在、労基法は継続審議となっておりますが、その中には裁量労働制の拡大、高度プロフェッショナル制度というのが入っているわけです。

 裁量労働制については、この対象業務を拡大することについては、私どもは基本的に反対です。

 今回、対象業務となっておりますのは、課題解決型提案営業、それからもう一つが、裁量的にPDCAを回す業務というのを追加するということになっておりますが、この課題解決型提案営業、法人顧客に対する販売やサービスの提供を担う労働者ということなんですが、これは非常に広く捉えられる懸念があります。

 どうも法人営業については全面的に解禁されたような、何かそういう話が流布しておりますが、営業従事者というのは三百万人を超えておりまして、もしこれが全て裁量労働ということになると大変な混乱を招くことになります。

 裁量労働というのは、結果を出すために労働者みずからが働く時間、仕事ぶりを自由にコントロールできるということでありますが、ノルマを持たされた営業マンが自由に仕事をコントロールできるとは到底思えません。成果を出せ、予算を達成しろと上司から言われれば、その達成のために朝早くから夜遅くまで働くことになりかねない。そういう長時間労働を助長しかねないという意味で、この課題解決型法人営業については大きな問題があると思っております。

 PDCAについても、非常に曖昧で、一体どういうものが対象になるのかよくわかりませんが、実際にPDCAを管理するというのは、既にもう管理監督職の中に含まれるのではないか。これを新たに裁量労働にする意味というのは、私は理解できません。

 また、選出の仕方が労使委員会選出ということになっているんですが、労働組合があるところはまだいいんですけれども、そうでないところの従業員代表というのは、今の過半数代表の選び方についてもさまざまな問題がございまして、そういう労使委員会の中で選出手続が不透明あるいは不適切である可能性もありますので、運用によっては大きな労働者への影響、負の影響ということが懸念されますので、反対であります。

井坂委員 ありがとうございます。

 重ねて伺いますが、この裁量労働制、今回仮に拡大されないにしても、そもそも裁量労働制の今の仕組み自体が、残業時間に上限を設けたとしても、現状では、裁量労働制は、みなし労働時間をカウントして、それが上限を超えなければ全然構わないということになっております。

 しかし、実際は、この裁量労働制は、実労働時間、実際に働いている労働時間は一日十二時間を超えるような方も多く出てきているということで、まさに今せっかく実現会議で議論をしている残業時間上限、長時間労働規制の、規制を設けながら同時に抜け穴になってしまっているというようなことを懸念しております。

 我々は、裁量労働制であっても、実労働時間をきちんと記録して、そしてその実労働時間について残業の上限規制をかける、こういう議員立法を既に昨年提出しているわけでありますけれども、この裁量労働制も実労働時間できちんと残業上限をかけるべきだということに対して、お考えをお伺いしたいと思います。

逢見公述人 現在の労働時間法制がさまざまな穴があるという御指摘は、私ども、まさにそうだと思っておりまして、原則は定められておりますが、その原則に入らない例外というのがいろいろあって、そういう中で長時間労働、それが過労死、過労自殺を招いているという問題があります。

 今、働き方改革で議論されているのは、そうした穴になっている例外をできるだけなくして、そして上限をかける、例外なく上限をかけるべきというのが我々の主張なんですが、そうした中で、今御指摘のように、裁量労働制に対して上限規制をどうするのかということが今後議論になってくると思います。

 裁量労働制を適用されている労働者の中には、仕事量の負担感が重いと思っている労働者もおりまして、健康確保のために労働時間を適切に把握することは非常に重要だと思います。特に、健康確保という観点からは、まず事業場内にいた時間、そして場外にいた労働の時間の合計というものをきちんと把握し確保するということが使用者に義務づけられるべきだと思っております。

井坂委員 次に、中空公述人に年金運用のことについてお伺いをしたいと思います。

 いただいた資料の七ページの資料で、公的年金が国債を保有する割合というのがここ最近大きく低下をしてしまっている、この紫色のグラフでありますけれども。

 お伺いをしたいのは、きょういろいろ御説明をいただいた、マイナス金利、また国債市場のゆがみということが公的年金の運用に与える影響、またリスクということについて、お考えをお伺いしたいと思います。

中空公述人 ありがとうございます。

 さっきの質問より何か得意分野に戻ってきて、安心しています。

 GPIFがやっているにかかわらず、公的年金がどういう運用をしていくかということに関しては、我々の大事な年金の原資ですから、きちんとふやしてもらうということが大事だとは思っているんですね。

 今の現状でいきますと、金融政策ありきで動いています。なので、基本的には究極的に日銀が全部買ってしまうということが前提になりますので、それ以外のところの買い手というのは選択肢としてなくなってきていると私たちはみなしています。もちろん、自由度がないわけではないんですが、そういうふうな方向に来てしまっている。そうしますと、安定していると思われている債券の運用、とりわけJGB、日本国債の運用が難しくなってくるということですね。

 ただ、申し上げましたように、金利が急騰した場合のリスクを全部抱えることにもなりますので、何でもかんでも債券で投資していれば安心というものでもないわけです。

 ですので、先ほど小倉先生がおっしゃっていただきましたが、ポートフォリオはいろいろなものが入っていることが正しいので、そういう意味で、さまざまなものを持っていくきっかけになり、それが収益を上げる、GPIFも年金もみんな収益を上げていけるようなきっかけにちゃんとなっていくのであれば、それは大きく我々が懸念するものではないというふうに思っています。

 なので、将来的なリスクが高いものになりつつある現状というのは、普通ですと債券に運用していれば安心だったんですが、そうなってきていないというのが一つの問題提起で、ですので、あとは、こういった状況の中でどこまで安定運用していただけるかということに尽きるというふうに思っています。

 以上です。ありがとうございます。

井坂委員 ありがとうございます。

 逢見公述人にまたお伺いをしたいんですが、この公的年金は、これまで国債中心の運用から株式運用が倍増し、また、ことしはアメリカやヨーロッパのインフラなどのいわゆるオルタナティブ投資をGPIFはさらに進めるんだということを言っております。

 年金積立金を預けている側の代表として、このオルタナティブ運用ということについてのお考えをお伺いしたいと思います。

逢見公述人 厚生年金保険法あるいはGPIF法では、年金積立金を専ら被保険者のために長期的な観点から安全かつ確実に運用するというふうにしております。この趣旨からいいますと、保険料を拠出している被保険者、これは将来受給者になるということですから、こうした受給者の立場から、長期的な観点から安全かつ確実に運用するということだと思います。

 そういう意味で、運用についてのさまざまな仕組みの変更というのは、やはり保険料を拠出している者に対してもきちんとした説明がなされるべきだと思います。

 公的年金の運用利回りは、自主運用を始めたとき、二〇〇一年から二〇一三年度の平均で二・五二%ということであり、これはGPIFの運用目標を上回っております。それなのに、二〇一四年に株式比率を五〇%に拡大したということで、それまでが目標を下回っているのであれば、変更の見直しというのは合理的議論としてあると思うんですけれども、上回っているのになぜ株式を五〇%まで高めたかということに対して十分な説明がなされていないと思います。

 さらに、オルタナティブということになりますと、さまざまなリスクが考えられます。特にインフラ投資というのは、カントリーリスクも含めて、それが長期的にうまく回っていくのかということについてのさまざまな検証がされなければいけませんが、そういうことが、何か一方的に、拠出者の声とは別なところからそういう方針が決まっていくようなことはあってはならないというふうに思っております。

井坂委員 ありがとうございます。

 最後に、中空公述人にお伺いをしたいと思いますが、いただいた資料の最後のページ、十ページ目で、日本政府の将来見通しが甘過ぎるんじゃないかという御指摘をいただきました。

 私も、昨年末、年金カット法案で政府といろいろ激論を交わす中で、そもそも将来見通しについて大きく食い違って、不毛な議論になってしまったんです。ほとほと困ったなというふうに思っております。

 ドイツのことを例に出されましたけれども、あそこは、経済、財政、社会保障の将来推計機関というものをもう一九六〇年代から、一番早い段階から持って、まさに政府と独立して、専門家としてかた目の数字、要は目標や期待ではなくて、出してやっている。だから推計が食い違わないんだというふうに理解をしております。

 その後も、今、ヨーロッパ各国はどんどんこういうのをつくっておりまして、二〇一四年段階で二十の国でこういうものができているというふうに承知をしております。

 私はやはり、最後のページのグラフを見て、日本にも要るのではないかな、独立将来推計機関が要るのではないかなというふうに思いますが、そういったことの必要性について、最後にお伺いをしたいと思います。

中空公述人 ありがとうございます。

 内閣府に同じような質問をしたときに、なぜ経済再生シナリオがあるんだと。二つ、ベースラインと経済再生シナリオがある理由は、やはり目標がないとやっていられないからだという答えをいただきました。

 でも、目標と現実が余りに違い過ぎるとマーケットはがっかりするだけだという説明をさせていただいたとおりで、その後、先生の方から、私は二十カ国もそういう国があるというのを知らなかったんですが、本来、日本みたいないろいろなものが精緻な国がその機能を持っていないのはおかしいと思っています。なので、全面的にそういう機能ができることを賛成したいと思います。

 以上です。ありがとうございます。

井坂委員 ありがとうございます。

 ちょっとお二方に質問が届かず、大変申しわけありませんでした。

 どうもありがとうございました。

浜田委員長 次に、畠山和也君。

畠山委員 日本共産党の畠山和也です。

 四人の公述人の皆様には、お忙しい中、足をお運びいただき、貴重な公述もいただきました。本当にありがとうございます。

 限られた時間の中で、私は、働き方改革を中心にした質問をさせていただきたいと思っています。

 今国会でも安倍政権がこの働き方改革の実現を大きな柱に据えているんですが、改めて第一回の働き方改革実現会議の安倍首相の発言を読みますと、これは、第三の矢、構造改革の柱と位置づけがされていまして、社会問題であるだけでなく、経済問題だという位置づけをしています。

 長時間労働によって、言ってみれば、購買する時間も機会もないことだとか、賃金が低過ぎて購買力が低下しているという文脈であれば理解はできるわけですが、先ほどから話がありましたように、実際は裁量労働制の導入などで、本当に労働者のための改革になるのかという疑念があります。

 そこで、まず初めに小田川公述人に伺いたいと思います。

 こういう改革と名が打たれたときに何を基準と考えるかということの一つに、国際基準を据えてはどうかと私は思います。労働の現場でいえばILO、また、きょう小田川公述人の資料にはEU指令などの文言も見られました。今、日本の働き方が国際基準から見てどのようにあるとお考えか、御意見をいただければと思います。

小田川公述人 例えば労働時間にかかわって申し上げれば、御案内のように、ILOの条約を、残念ながら日本は労働時間関係については批准をしていない。そのこともあって、一日八時間、週四十時間という法定労働時間がありながら、それを抜けていくようなさまざまな仕組み、三六協定であるとか特別条項というものを認めるような法制度になっているというふうに思います。

 諸外国の例を言えば、一定時間の上限を設けて、それ以上は時間外も含めて認めないという仕組みを持っているところは幾つかあるように承知をしますので、その点での日本の働き方の国際基準からの立ちおくれというのがあるのではないかと思います。

 賃金の水準については、先ほど申し上げたとおりであります。

畠山委員 ありがとうございます。

 もう一つ小田川公述人には伺いたいんですが、先ほどの質疑の中で、逢見公述人への裁量労働制についての質問がありました。この点については私も非常に危惧を持っています。社会的な問題になった高橋まつりさんの亡くなられた件で、この点で実は参議院で我が党の議員が質問を行っています。

 先ほどもありましたように、今度の対象業務が拡大される中に課題解決型提案営業が含まれる見込みで、これは先ほど名前を挙げた高橋まつりさんがかかわるネット広告に関する企画提案などが当たるのではないかということを問うたのに対して、厚労大臣から、三年から五年お勤めになった一定の技術を持った方が対象になるので、新人であった高橋まつりさんは当たらないという大臣の答弁だったんですね。

 そういうことも含めて、まだ労働基準法については議論の進行中でありますけれども、この裁量労働制の考え方について、改めて小田川公述人に、こういう現場の実態を踏まえた上での御意見をいただければと思います。

小田川公述人 現在国会に上程をされています労働基準法改正法案に対する意見は、先ほど逢見公述人がおっしゃられた立場と全く一緒でありまして、私ども全労連としても反対の立場であります。

 現状から申し上げれば、現行の裁量労働制も、言えば、対象業務が現実の運用の中では拡大をされて十分規制がかかり切れていない現状であるとか、そのことによる過労死あるいは健康を損なう労働者の存在が繰り返し私どもの相談でも寄せられていることなどを踏まえれば、裁量労働制という働き方そのものに大きな問題があるというふうに考えています。

畠山委員 ありがとうございます。

 本当に長時間労働をいかに克服していくかということは大きな課題でありまして、国会でも引き続き議論していきたいと思います。

 そこで、これは逢見公述人と小田川公述人お二方に同じテーマでお聞きしたいのですが、その規制に当たっては、上限を規制するということとともに、インターバルの規制ということも挙げられていると思います。こちらのインターバル規制についてはなかなか取り上げる機会もないものですから、こういうせっかくの機会でもありますので、その意義や必要性なども、現場の実態なども踏まえてこの機会に公述していただければと思います。

 お二人の公述人にお願いいたします。

逢見公述人 インターバル規制の必要性についてですが、今の我が国の労働基準法では、一つの勤務が終わってその次の勤務に入るまでの時間というのが、勤務中の休憩時間はあっても、次の勤務に入るまでのインターバルについての記載が全くない。したがって、例えば夜勤が明けてそのまま日勤に入っても、それは労基法上違法にならないということです。

 現実に、例えば、ファストフードとかあるいはコンビニエンスストアで次の交代で来る予定の人が来なかったというときに、結局、自分がかわりの人が来るまでずっとそこで仕事を連続しなければいけなかったということで、夜勤からそのまま昼間の勤務に入ってしまったというのがあります。

 それから、ホワイトカラーでは、さまざまなクライアントから仕事の注文を受けてそれをこなしていくわけですけれども、製造業のラインの作業とは違って、そういうクライアントから仕事が一遍に来ることもあるわけです。そうすると、それを受けるためには自分が担当しているものをこなさなきゃいけないので、そのためには徹夜してでも準備をして、そして翌朝にはすぐ相手先へ行っていろいろなクライアントとの折衝、営業をやるということになると、その人本人にとっては連続した労働が日付をまたいで行われる。

 これが過労死、過労自殺の原因になっているのではないかというふうに思っておりまして、そういう意味で、ヨーロッパではEU指令によって入っておりますインターバル規制を我が国にも入れる必要があるというふうに思っております。

小田川公述人 さまざまな働き方、多様な働き方があるかと思うんですけれども、自律的な働き方もあれば他律的な働き方もあって、先ほどおっしゃいましたように、顧客の皆さんあるいは親企業からの要請によって、自分たちで時間管理ができない働き方はたくさんあると思います。あるいは、御紹介をしましたように、バスであるとかトラックであるとかのように、流通関係のところでも、自分たちできちっと決めた時間だけで物事を貫徹できないという他律的な要素を持っている労働はたくさんあると思うんです。

 そういうところで、長時間であると同時に次の勤務との間が非常に短くなって、例えば、先ほど御紹介をしたバスの運転手の例で申し上げますと、六時間程度の休憩で次の運転に入っていくというような事例がたくさんあります。あるいは看護師さんの職場でいえば、十六時間連続の二交代制というのがあるわけであって、そういう場合には、八時間の間に、次にあるのは一般的な休憩時間しかないという状況になっていて、それを過ぎた後になお次の日の深夜に入るという場合があるような事例も散見をされていると思います。

 そういう意味で、先ほども申し上げましたけれども、二十四時間を単位として人間の生体リズムはできているわけで、それを壊すような働かせ方が現に起きていることに目を向ければ、インターバル規制、勤務と勤務の間に一定時間を置いて休憩を保障するという仕組みは絶対に必要だというふうに考えております。

畠山委員 貴重な御意見をありがとうございました。

 手塚公述人に、中小企業における働き方改革について伺います。

 中小企業において、賃金の引き上げや労働時間は、もちろん法令遵守の立場であることは、多くの中小企業はその立場であることは間違いないんですが、現実はなかなか大変なことがあるかと思います。

 先ほどの公述でも、最後の要望の中で、賃上げの原資をどうするか、またあるいは、納期に応える物づくりの世界ですので、そこにおいての労働現場というのは、かなり社員さんの御苦労はあるかと思います。経営者としての御苦労もあるかと思います。

 下請と元請の関係でいえば、安倍首相が言っていましたが、五十年ぶりに下請法を改定したということもありますが、労働時間をどうするかというのは中小企業においても必要な観点だと思います。

 そこで、元請との関係で、手塚公述人の元請の関係を話すと角が立ちますので、一般論や同業者などとのことでも構わないと思いますが、実際の納期、働き方の関係で、こういう機会ですから、そこがやはり一つ大きな鍵を握るのではないかと思いますし、賃金の原資にかかわっても、先ほど最後に述べられたことの問題意識とあわせて御意見をいただければと思います。

手塚公述人 ありがとうございます。

 ひたすら、これはお客様との交渉以外にはないと思っております。もちろん、私どもの会社は粉じん職場で、労基上、二時間以上の残業はできないことになっておりますので、私どもの経営理念の中にも法令を遵守するということを明記している以上、それをきちんと守っておりますので、お客様には御理解をいただき、お受けするときに、これぐらいの納期がかかりますということでお話をさせていただき、交渉させていただいております。

 賃金の方に関しましては、賃金の原資は、私が賃金の原資を持っているわけではなくて、お客様からいただくものですから、安倍内閣においては、賃上げに関しての原資をお客様にお願いしていくということも土俵に上げられるようになっておりますので、そのあたりを今後お客様にお話をしていきたいと思っております。

畠山委員 非常に控え目に御回答いただきまして、本当に社長さんのお人柄がよくわかりました。

 本当に、中小企業に至るまで安心して働ける環境をどうつくるかというのは、先ほど小田川公述人の記載にもありましたけれども、一体的に考えていかなければいけないことだろうと思います。

 そこで、最後に中空公述人に、ちょっと時間が短いんですが、法人税の減税などが、ちょっと分野が違うことかもしれませんが、この間一貫して経済界なども要求があり、しかし、日本においては、一方で、内部留保がたまりにたまってしまい、これが、麻生副総理もよく言いますが、賃金や設備投資に回っていないということが日本の経済の成長性もとめているのではないかという問題意識が今広くなってきていると思います。この辺についての御見解を最後に伺えればと思います。

中空公述人 ありがとうございます。では、手短にお話をしたいと思います。

 法人税減税は、国際基準から考えると下げるのは仕方がないというふうに思っています。それが高いままだとやはりグローバル競争力で負けるというのはもう基本だと思っています。

 また、民間がためている内部留保に関しては、内部留保を使いたくなるような設備投資先がないから動いていないというふうに私は思っていて、何も自分で全部持っていることが正しいと言っているわけではないと思っているんですね。設備投資をしたら利益が上がるというような環境さえあれば内部留保は必ず出てくるというふうに思っています。何かが違っているんだということだと思っていて、なので、企業が節約して持ってしまっているんだという発想は、できれば捨てていただけたらというふうに思います。

 以上です。

畠山委員 四人の公述人の皆さんに改めて感謝を申し上げます。ありがとうございました。

浜田委員長 次に、浦野靖人君。

浦野委員 日本維新の会の浦野靖人です。

 本日は、お忙しい中、ありがとうございます。

 早速、お話をお伺いしたいと思います。

 逢見公述人の方からは教育に関するお話もありましたけれども、我々日本維新の会、今は我々だけではなくて多くの政党が、教育無償化についていろいろな前向きな発言を行っております。それについて、公述人の皆様、立場立場は皆さん違うと思いますけれども、そういった教育無償化についてどういった評価をされていて、賛成、反対含めて、皆さんのお立場から、教育無償化についての、一言、考えを教えていただけたらと思います。

中空公述人 ありがとうございます。

 教育無償化というのは、それは高校のことでしょうか。(浦野委員「全部です」と呼ぶ)全部ですね。

 私は、教育は受ける権利として平等であるべきだ、機会平等であるべきだというふうに思っています。それが結果平等かどうかということは、もうそこは関知するものではないと思っています。機会平等が与えられないのであれば、無償というのはありだと思っています。

 ただし、無償というときに、やはり、いろいろなものがただになってくるということは正しいと思っているんですが、例えば補助金が出るとか、そういうお金が流れるのではなくて、もう完全に高校に行ったり中学に行ったり小学校に行くのがただになるということであれば、私は、国民として納得性が高いんじゃないかなというふうに思います。何にせよ、機会平等が守られるということが国民としては大事だと思っています。

 ただし、今の現状を考えると、必要なところにお金を回さなければ財政再建はできませんので、むやみやたらにお金を回すことが正しいかどうかということも検証する必要はあるというふうに思います。

 以上です。

逢見公述人 資源に乏しい我が国にとって、我が国が世界の中でも先進国としてすぐれた技術を持って経済活動していくのは、やはり人材がベースだというふうに思います。そういう意味で、今後とも人材を大事にする国であってほしいと思います。

 明治維新のときには、日本は一気に近代国家になったわけですけれども、それを支えたのは、寺子屋を含めて、教育がしっかりしていたから近代化が早期になし遂げられたということで、先人もやはりそういう教育についてしっかりとした理想と仕組みをつくっていたということだと思います。

 現在、義務教育の両側にある就学前と高等教育のところについて非常に負担が大きくて、そのことが、子育てについても、第一子から二子、三子というふうに子供を産むことについての不安材料になっているということがあります。そのことが人口減少に拍車をかけるということにもなっておりますので、そういう意味では、教育の無償化ということを志向すべきというふうに私は考えます。

 財源の問題を示すと、すぐには難しいというのはあるかもしれませんが、やはりその方向性をきちんと定めた上で、そのために今どうすべきかということを考えるべきだというふうに思っております。

手塚公述人 ありがとうございます。

 基本的には、逢見公述人と同じ考えを持っております。やはり平等に権利を与えられること、機会が与えられることは正しいかなと思うのですが、ただ、甘えてしまうところもあるかと思いますので、そこのところは、きちっと教育を受けたいという意思がはっきりしている、そしてそれを国に返していくぐらいの気概を持った方々に勉強していっていただきたいなと思うところであります。

小田川公述人 義務教育就学前、それから大学を含めた高等教育の部分も含めて無償化すべきだと思っておりまして、その方向を目指していただくことが必要だと思います。

 理由は幾つかありますけれども、一つは、現状の問題で、大学卒業時に数百万円、大学院まで行かれる方は一千万を超えるような借金を抱えて卒業せざるを得ないような現状というのはやはり異常だと思うのが一つと、二つ目には、貧困と教育の格差という問題が有意な関係にあるということは、これは強く指摘をされていると思います。

 貧困の世襲といいますか、格差の世襲といいますか、そういう問題も指摘される現状を克服するためには、どうしても教育費の無償化という問題は議論されるべき必要があるというふうに私も考えております。

 以上です。

浦野委員 中空公述人もおっしゃっておりましたけれども、やはり機会の均等、小田川公述人も同じ意味のことだったと思いますけれども、我々、大阪で高校の授業料無償化をしたときも、やはり機会の均等がまずあるべきだということで取り組みました。小田川公述人がおっしゃったように、やはり家庭の事情で高校進学を諦める子供がたくさんいてるという現状を何とか打破していこうということで取り組んだのが大阪でした。

 確かに、皆さんがおっしゃるように、進めるべきであるけれども、原資の問題ももちろんありますので、我が党は原資については非常に単純明快に提案をさせていただいていますけれども、どっちにしても、中空公述人がきょうもおっしゃっていた財政再建というのは、絶対に欠かせないことだと思うんですね。

 これは、経済学者の中でも、いや、日本は資産を持っているから大丈夫なんだと言う方もたくさんいらっしゃいます。中空公述人のように、いやいや、そうじゃないですよ、一千兆円を超える赤字をどうやって処理していくんですかと。私もそういうふうに思っている方ですけれども。

 私も経済の専門家として国会に来ているわけではないので、私にもわからない、経済の専門家の人たちの中でも意見が分かれている、このことについてどうお考えなのかをちょっとお聞かせいただきたいと思います。

中空公述人 ありがとうございます。

 負債のことを言うときに資産のことを言えということはよく言われます。しかしながら、日本の公会計を考えたときに、資産サイドにあるものを見ると、売れるのかというものが多いわけです。山であったり港湾であったり、あるいは外貨準備だって、いざというときに使わなきゃいけない大変貴重な資産を、では、どんどんどんどん消していけるのかというと、そうではありません。なので、我々の力を保つために持っておかなければいけない資産は、売ることができない資産です。

 その資産を考えて、相殺すると負債がこれだけという議論は、はなから間違っているというふうに思っておりまして、それについてそういうふうに言う人は、究極的にはそういう考えができますねと言っているだけだと思っています。なので、現実的な話をしている人ではないというふうに考えています。

 また、一般的にリフレ派と言われる人についても、本当に経済成長ができるんだったら先にさせてくれというふうに私は思っていて、なので、地に足のついた議論をしていかないとこれからはいけないんじゃないかというふうに思っています。なので、差が出ているというふうに考えています。

 以上です。

浦野委員 そうじゃないんだという方が午前中に我が党の公述人でいらっしゃっていましたけれども。我々も、ここは本当にどっちなのかというのは、専門家の皆さんで意見が分かれてしまっているので、なかなか判断しづらいというのは一個人として思っております。

 ただ、やはりどっちにしても、たとえ余裕があったとしても、そういう負債を減らすことは、資料の中にもおっしゃっていらっしゃったように、国債の格付だとか、そういう関係もあって、やはり減らす努力はしないといけない。

 その努力を、では安倍政権がどこまで今やれているかというのは、これも非常に意見が分かれますけれども、私はやはり、これはある程度のところで、国民の皆さんに、痛みを伴う改革をしなければいけないということをもっときっちりと説明をしていかないといけないというふうに思っているんです。

 ドイツなんかは例えばそういったことをかなりやられたということを聞くことがあるんですけれども、中空公述人から見ても、やはりドイツというのは学ぶべきことが多いというふうにお考えですか。

中空公述人 ありがとうございます。

 ドイツの財務省にインタビューに行かせていただいたことがあって、なぜドイツはそういう上手なことができるのかと聞いたらば、皆さんの前であれなんですが、政治家は信用できないと。選挙を考えると言うことが変わってしまう、なので、財政再建をするためには全て法律に書き込む必要があると言っておられました。

 なので、例えば景気に連動しないで年金を払う払い方、あるいは、景気が落ちたときには素直に年金の支払いが減るということを前提とした払い方をもう法律に明記しているわけですね。

 そういった政治的な思惑なり、いろいろな声をできるだけ排除できる形をつくるということは、全面的にいいかどうかはわかりません、ただ、学ぶべき一つの点なのではないかというふうに思っています。

 以上です。

浦野委員 政治家としてしっかりと胸に刻んで、これからもやっていきたいと思います。

 最後に、逢見公述人がおっしゃっている中に、私も実は資格を持っていながら働いていない、現場に出ていない保育士の一人なんですけれども、子育て世代、待機児童の解消という一つの大きな声がわっとなってしまって、今、躍起になって待機児童の解消をやろうということでやっていますけれども、私は、待機児童の解消を前面に出してやっていくのが果たして本当に子供にとっていいのかというのは、ちょっと疑問には思っているんですね。保育園を経営している身でありながら、そういう疑義も持っているんです。

 私は、どちらかというと、子育て世代のそういう政策を行う、国がやる優先順位は、やはり保育士の賃金を上げることだというふうに思っているんですけれども、優先させるならば、待機児童を解消するために保育園をどんどんつくっていくのが先なのか、いや、そのお金は保育士の給料に回してあげるべきなのかというのは、どちらだと思われますか。

逢見公述人 難しい問いですが、政府は、先にまず保育施設をつくるということを先行させた。そのときに私は、連合は、箱をつくるだけではだめなんだ、そこに保育士がいないと子供を預けることができない、これは両方見てやる必要があるということで、その後、政府も保育士の処遇の改善ということに取り組んできているわけです。

 これはまさに、器をつくっても、そこを運営する人がいなければ、保育する人がいないといけないという、これは当たり前のことでありまして、やはり両方が満たされる政策を追求すべきだというふうに思います。

浦野委員 箱は幾らでも工事をすればできてしまうので、人というのはそう簡単にできないからこそやはり先に人を育てるべきだと私は思っておりますので、またいろいろと御意見をお聞かせいただけたらと思います。

 本日は、どうも長時間ありがとうございました。

浜田委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 以上をもちまして公聴会は終了いたしました。

 公聴会は、これにて散会いたします。

    午後三時二十九分散会


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