衆議院

メインへスキップ



第5号 平成14年11月1日(金曜日)

会議録本文へ
平成十四年十一月一日(金曜日)
    ―――――――――――――
  平成十四年十一月一日
    午後一時 本会議
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 永年在職の議員野呂田芳成君、熊谷弘君及び衛藤征士郎君に対し、院議をもって功労を表彰することとし、表彰文は議長に一任するの件(議長発議)
 裁判官弾劾裁判所裁判員の予備員辞職の件
 裁判官訴追委員の予備員辞職の件
 裁判官弾劾裁判所裁判員の予備員の選挙
 裁判官訴追委員の予備員の選挙
 検察官適格審査会委員の予備委員の選挙
 国土開発幹線自動車道建設会議委員の選挙
 知的財産基本法案(内閣提出)の趣旨説明及び質疑


このページのトップに戻る

    午後一時三分開議
議長(綿貫民輔君) これより会議を開きます。
     ――――◇―――――
議長(綿貫民輔君) この際、新たに議席に着かれました議員を紹介いたします。
 第一番、神奈川県第八区選出議員、江田憲司君。
    〔江田憲司君起立、拍手〕
 第百九十七番、九州選挙区選出議員、米澤隆君。
    〔米澤隆君起立、拍手〕
 第二百五番、山形県第四区選出議員、齋藤淳君。
    〔齋藤淳君起立、拍手〕
 第四百三十六番、大阪府第十区選出議員、松浪健太君。
    〔松浪健太君起立、拍手〕
 第四百三十七番、福岡県第六区選出議員、荒巻隆三君。
    〔荒巻隆三君起立、拍手〕
 第四百四十三番、新潟県第五区選出議員、星野行男君。
    〔星野行男君起立、拍手〕
     ――――◇―――――
 永年在職議員の表彰の件
議長(綿貫民輔君) お諮りいたします。
 国会議員として在職二十五年に達せられました野呂田芳成君、熊谷弘君及び衛藤征士郎君に対し、先例により、院議をもってその功労を表彰いたしたいと存じます。
 表彰文は議長に一任されたいと存じます。これに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
議長(綿貫民輔君) 御異議なしと認めます。よって、そのとおり決まりました。
 これより表彰文を順次朗読いたします。
 議員野呂田芳成君は国会議員として在職すること二十五年に及び常に憲政のために尽くし民意の伸張に努められた
 よって衆議院は君が永年の功労を多とし特に院議をもってこれを表彰する
    〔拍手〕
    …………………………………
 議員熊谷弘君は国会議員として在職すること二十五年に及び常に憲政のために尽くし民意の伸張に努められた
 よって衆議院は君が永年の功労を多とし特に院議をもってこれを表彰する
    〔拍手〕
    …………………………………
 議員衛藤征士郎君は国会議員として在職すること二十五年に及び常に憲政のために尽くし民意の伸張に努められた
 よって衆議院は君が永年の功労を多とし特に院議をもってこれを表彰する
    〔拍手〕
 この贈呈方は議長において取り計らいます。
    ―――――――――――――
議長(綿貫民輔君) この際、野呂田芳成君、熊谷弘君及び衛藤征士郎君から発言を求められております。順次これを許します。野呂田芳成君。
    〔野呂田芳成君登壇〕
野呂田芳成君 ただいま、院議をもって在職二十五周年の表彰をいただき、まことにありがとうございます。
 これもひとえに、先輩、同僚の皆様方の御鞭撻のおかげであり、とりわけ、永年にわたり温かい友情で私をはぐくんでいただいた、ふるさと秋田の皆様の御支援、御友情のおかげでありまして、心から御礼を申し上げる次第でございます。ありがとうございました。(拍手)
 四半世紀にわたる政治生活の中で、私にとって大変幸せであったと思いますことの一つは、食糧政策と国防政策にかかわる仕事に携わる機会をお与えいただいたということであります。
 二千五百年前、子貢は、孔子に対し、政治の基本について尋ねております。これに対し、孔子は、「食糧を備蓄し、軍備を整え、そして国民に政治を信頼させることだ。」と教えております。子貢が重ねて、「もし、このうちの何か一つを切り捨てなければならないとすれば、何を捨てるべきか。」と尋ねたのに対し、孔子は、「まず軍備を切り捨てることだ。」と教え、重ねての子貢の質問に対し、「次は食糧を捨てることだ。」と教えた上で、「しかしながら、国民の信頼を失っては国家の政治は成り立たないので、これを捨てることは絶対に許されない。民、信無くんば立たずだ。」と教えております。
 私は、農林水産大臣や防衛庁長官として、国を守る要諦にかかわる食糧と国防の二つの問題について勉強をさせていただいたことを心から感謝している次第です。
 しかしながら、最も大事な、国民に信じられなくては国家の政治は成立しないということに深く思いをいたし、国民の信頼を取り戻すために、政治に携わる者として、政治改革を急がなくてはならないことを痛感する次第です。一人一人が「今やらずしていつできる。俺がやらずに誰がやる。」という旺盛な気概で取り組んでいかなければならないと思います。(拍手)
 私は、二十歳代の後半に、天下の碩学、安岡正篤先生のお話を伺う機会に恵まれたことがありました。そのとき、安岡先生から伺って、深く感銘を受け、私の人生の道標となった二つのお話があります。
 一つは、「任怨分謗」という教えでありました。「大きな仕事をやろうとする時には、決まって誰かの怨を買う。だが、怨を気にしていたんでは仕事をやれない。そんなときは敢えて怨を受けるべきである。ただ、大事なことは、仕事をともにやっている仲間が怨を分担して受けてやり、一緒に火の粉をかぶってやる気概が必要だ。」ということでありました。後年、ある書物で、故吉田茂首相がこれを座右の銘としておられたということを知り、むべなるかなと思いました。
 いま一つは、佐藤一斉先生の「言志晩録」十三条の、「一燈を提げて暗夜を行く。暗夜を憂うること勿れ。ただ一燈を頼め。」という言葉でありました。これは、人生において、右顧左眄することなく自分の信念を貫けという教えでありましょう。
 私は、この二つの教えを人生の指標として今日まで努力してまいったつもりでありますが、力及ばず、「辿り来て未だ山麓」の心境であります。
 私も人生七十歳代に立ちました。ここに至って想起することは、憲政の神様と言われた尾崎咢堂先生の生き様であります。先生の生涯をかけた努力は、憲政の樹立と政党の組織訓練でありましたが、軍国主義の思潮の渦巻く中で、もはやその実現がかないそうもない情勢となって、先生は、自分は「一生を無駄に過ごしてしまった」と痛く煩悶します。そして、煩悶の末に先生が得た結論は、「昨日までの仕事は、すべて、今日以後の準備行動にすぎない。人間たるものは、そう心得ねばならぬ。人生の本舞台は常に将来にあり。」というものでありました。
 先生がこの思想に到達したのは、犬養木堂先生暗殺の翌年、昭和八年で、咢堂先生、実に七十五歳のときであったと「咢堂日記」に書かれております。先生は、爾来、国政に参加し続け、昭和二十八年、九十五歳に至るまで、議政壇上で縦横無尽の活躍をされたのであります。
 咢堂先生のこの偉大な活動を見るとき、ただただ敬服のほかありませんが、私も、こうした大先達の驥尾に伏して、経済、外交、政治改革等、内外多事多難の状況下にあって、日本の平和と繁栄のため、ふるさと秋田の発展のために、決意を新たに献身してまいる覚悟であります。どうぞ、今後、一段の御鞭撻と御支援のほどをお願い申し上げる次第であります。
 最後に、本日は、私の家族を傍聴席にお招きいただき、感激をともに味あわせていただき、御配慮に深く感謝を申し上げます。
 心よりの御礼の言葉とさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
議長(綿貫民輔君) 熊谷弘君。
    〔熊谷弘君登壇〕
熊谷弘君 このたび、永年在職議員表彰を受けました。これはひとえに、静岡県民、ふるさとの皆様の二十五年にわたる御支援の賜物であり、深く感謝いたします。さらに、院を構成する先輩、同僚議員、関係者各位に御礼を申し上げます。(拍手)
 さて、私が国会に議席を得たのは、昭和五十二年の参議院議員選挙でした。戦後、経済復興をなし遂げた日本は、第一次オイルショックを経て高度成長から安定成長に移行する過程にあって、世界において相応の役割を果たすことが求められていた時代でありました。
 我が国は、さまざまな経済摩擦を乗り越え、世界の秩序維持に貢献できるまでに至った途端、東西冷戦の終焉を迎えました。その後の世界の激動は、政治、経済、社会のすべてにわたって今も続いておりますが、我が国が能動的かつ十分な役割を果たしているかという点につきましては、国政に身を置く一人として反省することしきりであります。
 しかし、憂いに浸っている暇はありません。我が国内外の諸課題の重圧は、ますます厳しさを増しています。政治家たる者、いっときの停止も許されません。
 明治維新、戦後に次ぐ第三の歴史的転換期と言われている今、初心を忘れることなく、政治的諸課題に誠実に対処し、国民に奉仕する決意を表明して、永年在職表彰への謝辞とさせていただきます。(拍手)
議長(綿貫民輔君) 衛藤征士郎君。
    〔衛藤征士郎君登壇〕
衛藤征士郎君 ただいま、院議をもって永年在職の表彰を賜りました。身に余る光栄でございます。
 先輩、同僚議員各位の御厚情と、本日までの御指導、御鞭撻に心からの御礼を申し上げます。また、郷土大分県の皆様が、昭和五十二年、参議院選挙に、三十六歳の若輩である私を全県一区の代表として国会にお送りくださり、以来、今日まで力強い御支援をちょうだいしてまいりました。厚く御礼を申し上げます。(拍手)
 二十五年の節目に当たり、蘇る場面の数々は限りなく、長年、厳粛なる国会の議席にあってその重責を果たし得たかと、及ばざるを自省し、さらなる精進をせんと決意を新たにしております。
 昭和五十二年、私の初出馬の参議院選挙当時は、ロッキード事件による政治不信が募っており、政治への信頼回復、行政改革、景気浮揚、外交防衛等々を火急の課題として論争が高まりました。二十五年の歳月を経た現下、まさに、そのままの案件が国政の最重要課題であります。我々、政治にかかわる者が、国民の負託にこたえる責任を痛感し、迅速かつ効率的な政策の立案、実行に一層の努力が求められていると存じます。
 国民は、国政に信頼とスピードを求めております。そのためにも、私は、衆議院と参議院を統合し、一院制の立法府として構造改革を急ぐべきであると主張してまいりました。私は、参議院、衆議院の両院の議員を経験いたしましたが、一院制の国会は、十分な審議時間を生み出し、速やかな政治を可能にし、国家と国民により多くの公益をもたらすものであると確信いたしております。参議院は良識の府と呼ばれてきましたが、もとより立法府は、選良が集う良識の府であります。一院制と二院制の利点が、政治のコスト、政治のスピード、国民の信頼等々、さまざまな観点から真剣に検討されることを望みます。
 私が政治に目を向けたのは、小学生のころでありました。私が育ったのは、馬車も通わぬ山村であります。病人を町まで運ぶこともできない。政治家になってこの村にバスを走らせる。奮い立った子供心をはっきりと記憶いたしております。
 私は、昭和四十六年、二十九歳で大分県玖珠町長に選任されました。就任以来、高速道路等々の道路整備に全力を挙げてまいりました。今、高速道路建設の是非が問われておりますが、地方の国土を守り、そこに暮らす人々の切実なる思いが十分に反映されているとは思えません。少数の人々に政治の光が当たらない不公平は、断じてあってはなりません。私は、政治を志した原点に立って、今後とも、地方で生活をする人のために全力を挙げてまいります。(拍手)
 現在、まさに日朝国交正常化交渉の渦中にあります。拉致問題では、被害者、そして御家族の皆様の修復しがたい御労苦に、深い心痛と政治の責任を覚えます。平和と安全を守る外交の速やかなる展開を国民挙げて切望し、交渉の行方に注目が集まっております。
 サンフランシスコ講和条約及び日米安全保障条約のもと、日韓・日中国交回復、日本・インド国交五十周年等々、アジアの国々との平和外交は一歩一歩前進しておりますが、アジア全体としての安定はいまだほど遠く、平和構築に向かって日本がその最も大きな役割を担っておりますことは、だれの目にも明らかであります。日本は、自国の国益を守り、繁栄を図ると同時に、広くアジアのために、求められている責務をより積極的に果たさなければなりません。
 我が国は、国土も資源も小さいながら、敗戦の痛手の中から世界屈指の経済大国としてたくましく成長してきました。秀でた国であり、秀でた国民であるという自負心を持って世界平和に貢献していきたいと思います。
 国連中心の外交が世界の基軸である今、我が国が早急に国連常任理事国入りを果たし、名実ともにアジア圏のリーダーとして明確に位置づけられる日本でありたいものであります。
 私は、このたびの栄誉に改めて身を引き締め、国政壇上に立つ使命を全うすべく、国際社会を生き抜く誇り高い国をつくらんと志を高く掲げ、研鑽と努力を重ねてまいります。本日はまことにありがとうございました。(拍手)
     ――――◇―――――
 裁判官弾劾裁判所裁判員の予備員辞職の件
 裁判官訴追委員の予備員辞職の件
議長(綿貫民輔君) お諮りいたします。
 裁判官弾劾裁判所裁判員の予備員小坂憲次君から予備員を、また、裁判官訴追委員の予備員山本有二君から予備員を、辞職いたしたいとの申し出があります。右申し出をそれぞれ許可するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
議長(綿貫民輔君) 御異議なしと認めます。よって、許可することに決まりました。
     ――――◇―――――
 裁判官弾劾裁判所裁判員の予備員の選挙
 裁判官訴追委員の予備員の選挙
 検察官適格審査会委員の予備委員の選挙
 国土開発幹線自動車道建設会議委員の選挙
議長(綿貫民輔君) つきましては、裁判官弾劾裁判所裁判員の予備員及び裁判官訴追委員の予備員の選挙を行うのでありますが、この際、あわせて、検察官適格審査会委員の予備委員及び国土開発幹線自動車道建設会議委員の選挙を行います。
下村博文君 各種委員等の選挙は、いずれもその手続を省略して、議長において指名され、裁判官弾劾裁判所裁判員の予備員、裁判官訴追委員の予備員の職務を行う順序については、議長において定められることを望みます。
議長(綿貫民輔君) 下村博文君の動議に御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
議長(綿貫民輔君) 御異議なしと認めます。よって、動議のとおり決まりました。
 議長は、裁判官弾劾裁判所裁判員の予備員に熊代昭彦君を指名いたします。
 なお、その職務を行う順序は第三順位といたします。
 次に、裁判官訴追委員の予備員に佐藤剛男君を指名いたします。
 なお、その職務を行う順序は第二順位といたします。
 次に、検察官適格審査会委員の予備委員に棚橋泰文君を指名し、牧野隆守君の予備委員といたします。
 次に、国土開発幹線自動車道建設会議委員に吉田公一君を指名いたします。
     ――――◇―――――
 知的財産基本法案(内閣提出)の趣旨説明
議長(綿貫民輔君) この際、内閣提出、知的財産基本法案について、趣旨の説明を求めます。経済産業大臣平沼赳夫君。
    〔国務大臣平沼赳夫君登壇〕
国務大臣(平沼赳夫君) 知的財産基本法案につきまして、その趣旨を御説明申し上げます。
 我が国は、これまで国民のたゆまぬ努力により、かつてない経済的繁栄とともに豊かで文化的な生活を享受できる社会を実現してきましたが、近年は低廉な労働コストや生産技術の向上等を背景にしたアジア諸国の急速な追い上げを受けるなど厳しい経済情勢にあります。我が国が今後とも世界で確固たる地位を維持していくためには、創造力の豊かな人材を育成し、すぐれた発明、製造ノウハウ、デザイン、ブランド、コンテンツなどの知的財産を戦略的に創造、保護及び活用することにより、産業の国際競争力を強化し、活力ある経済社会の実現を図る、いわゆる知的財産立国を目指して進んでいくことが不可欠であります。
 このような認識のもと、本法案におきましては、知的財産の創造、保護及び活用に関し、その基本理念、国の責務その他の基本となる事項を定めるとともに、知的財産戦略本部を設置すること等により、知的財産に関する施策を集中的かつ計画的に推進することを目的とするものであります。
 次に、本法案の内容の概要を御説明申し上げます。
 第一に、知的財産の定義として、発明、著作物など人間の創造的活動により生み出されるもの、商標など商品等を表示するもの及び営業秘密など事業活動に有用な技術上または営業上の情報を定めております。
 第二に、基本理念として、知的財産に関する施策の推進は、国民経済の健全な発展及び豊かな文化の創造、我が国産業の国際競争力の強化及びその持続的発展に寄与すべき旨を規定しております。
 第三に、基本的施策として、大学等における研究開発の推進、特許権等の権利の付与の迅速化、訴訟手続の充実及び迅速化、国内及び国外における権利侵害への措置、新分野における知的財産の保護、専門的知識を有する人材の確保等を規定しております。
 第四に、知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画について、原則として施策の具体的な目標や達成の時期を付すべきこと等所要の事項を規定しております。
 第五に、推進体制として、内閣に知的財産戦略本部を設置することとし、内閣総理大臣を本部長とするなど組織、所掌事務等を規定しております。
 以上が、この法律案の趣旨でございます。
 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決あらんことをお願い申し上げます。(拍手)
     ――――◇―――――
 知的財産基本法案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑
議長(綿貫民輔君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。これを許します。田中慶秋君。
    〔田中慶秋君登壇〕
田中慶秋君 私は、民主党・無所属クラブを代表し、政府提出の知的財産基本法案に対し、平沼経済産業大臣に所見をお伺いします。(拍手)
 小泉総理が、先日の所信表明演説で、東大阪市、大田区の中小企業に触れられておりました。また、視察をされたとも聞いております。しかしながら、二、三回の視察で、その厳しい実態はわからないと私は思っております。
 今、私は、時間の許す限り、地元の中小零細企業に足を運び、経営者、従業員の方々の意見を聞く機会を持つように心がけております。その中で感じることは、資金繰りの苦労は無論でありますが、日本が築き上げてきた物づくりの大切さがこのままでは失われてしまうのではないかという危機感であります。後継者も育たず、工場が廃墟化していく様子は、そのまま日本が滅びてしまう縮図を目の当たりにするような気がしてならないわけであります。
 日本の製造業、九九%以上が中小零細企業で占められております。この中小零細企業が元気になることが日本経済がよみがえる必須の条件だと私は思っております。
 しかしながら、日本を支えるためにこの条件を満たさなければならないはずの中小企業経営者は、自分が築き上げてきた事業を守ろうと必死の努力にもかかわらず、万策が尽き、命を絶たなければならない状態にまで追い込まれているのであります。私の知り合いにも、自殺を余儀なくされてしまった人がおります。まことに残念に思っております。額に汗し、繁栄を築き上げてきた職人のすばらしい技術も、このままでは途絶えてしまいます。
 大臣は、この方たちの心の葛藤をどれほどおわかりでしょうか。本当におわかりであるならば、総理は、改革なくして景気回復なしばかりを言っておられないはずであります。今、物づくりに携わる人たちが求めていることは、改革ではなく、物づくりのための技術の伝承、そして、だれもが守られなければいけない保護政策をより充実させることであります。そのためには、すぐれた技術を持つ中小企業、零細企業が知的財産を取得しやすい環境をつくり出し、競争力をつけて、企業活力を充実させることではないでしょうか。
 その中で、政府は、国家戦略の柱としてベンチャー企業の育成を進めておりますが、しかし、他方では、知的財産権に対する取り組みのおくれが指摘をされ、これでは、時代に即しているとは決して言えません。
 かつて世界を席巻した日本企業の国際競争力は、著しく低下しております。スイスのシンクタンクの調査によれば、一九九三年まで八年連続首位を占めていた日本の競争力は、ことしは三十位まで転落しているのです。
 対照的にアメリカは、一九八〇年代から、ヤング・レポートに端を発した知的財産の国家戦略を打ち出してまいりました。日本に対して強力な輸出規制圧力を加えながら、知的財産権の育成と保護のために強力なプロパテント政策を実行し、国際競争力の強化を図ってきたのであります。二〇〇〇年における特許使用料収支については、アメリカがトップで、二百十九億ドルの黒字を、一方、日本は八億ドルの赤字となってしまったのであります。
 このような事態に至った背景には、政府が、八〇年代までの成功のおごりに安住し、各省庁の縦割りを是正できず、知的財産に関する国家戦略を確立できなかったことにあると思います。
 また、過去の失政の総括もせず、基本法だけを提出して事足れりとする政府の姿勢は問題であります。この国会に特許法改正などの具体的な法案も提出できず、後手後手に回っている政府には、危機の意識のかけらすら感じないのであります。
 我が国は、一日も早く、知的財産の保護を視野に入れて国家的な戦略を打ち立てることが急務であります。これまでのように、ツーリトル・ツーレートといった対応では取り返しのつかない事態に発展しかねません。
 まず、日本の競争力低下を招いた政府の責任を明らかにした上で、知的財産戦略を組み立てるべきではありませんか。今後、政府が取り組んでいく知的財産政策は今までとどこが異なるのか、通商政策などを含めた国家戦略をどう確立するのか、日本の産業競争力をいつまでにどのような形で回復させるつもりなのか、明らかにすべきであろうと思います。大臣の答弁を求めます。
 政府が提出した基本法は、内閣に知的財産戦略本部を設置することを柱としております。しかし、これまで内閣に設置されたIT戦略本部、都市再生本部、総合科学技術会議、バイオテクノロジー戦略会議など、雨後のタケノコのようにつくられた組織を検証すると、多くの機関が機能不全に至っているのです。IT戦略本部一つとっても、経済産業省、総務省の縄張り争いから抜本的政策を打ち出すことができずに、情報通信の面でのおくれが目立っております。
 私たちは、今般の知的財産戦略本部が実効ある機関になるのか、疑念を抱いているのであります。知的財産権を全般的に管轄する知的財産権庁を置き、文部科学省、文化庁あるいは特許庁、農水省、厚生労働省にまたがる知的財産関係のすべての行政機関を整理統合するべきではありませんか。こうした行政機関の裏づけなくして本部だけつくっても、看板倒れに終わってしまうことは必至と考えております。大臣の答弁を求めるものであります。
 政府提出の基本法案は、具体的な内容が明示されておりません。個別法も提出に至っておりません。とりわけ、知的財産権の基礎とも言える特許法改正が欠落していることは政府の怠慢さを示すものであると思います。
 また、今後、知的財産訴訟が増加することが予想され、また、知的財産訴訟にかかわる特許権の技術内容は高度化かつ複雑化しているのであります。
 アメリカが特許紛争を一元的に扱う裁判所を設置したわけであります。これを見習って、知的財産権の紛争を専門的に扱う特許裁判所の設置が必要であると思いますけれども、法務大臣の取り組みについてお伺いいたします。
 今、日本において、知的財産への関心がかつてないほど高まっております。つい先日、一民間企業の研究者であります田中耕一さんがノーベル賞を受賞されました。まことにおめでたいことであります。優秀な研究者、技術者が大勢いるにもかかわらず経済が低迷しているのは、政治の責任によるところが大きいと言わざるを得ません。有能な若手研究者がもっと自由に研究できるような環境の整備を考えますと、国の予算についても若手研究者に優先的に配分することが必要であると思います。大臣の答弁を求めます。
 また、職人がとうとばれる文化を持った日本において今日の繁栄を築き上げたのは物づくりであります。そして、それは今もって日本の強みであります。しかし、一方においては、日本において製造業の空洞化が恐るべき勢いで進行しつつあることも事実であります。
 バイオやナノテクノロジーのような先端技術の開発を進める一方で、先端技術と結びついた物づくりは何としてでも守っていかなければなりません。しかし、現実には、多くの製造業者が最先端技術を抱えたまま海外に渡ってしまい、その技術を現地の技術者たちにあけっ広げにして、盗まれてしまっているのが現実であります。
 技術の流出を防ぎ、なおかつ、国内における物づくりのさらなる空洞化を防ぐために、新たに出願された特許を使った製品については、できるだけ国内で生産できるような誘導策を講じるべきであろうと思いますが、大臣の答弁をお願いします。
 今、日本の映画や漫画、アニメ、ゲームソフトといった映像文化や歌謡曲は、アジアの近隣諸国に住む人たちにとってあこがれの文化であります。しかし、残念ながら、ハリウッドの映画に比肩し得るようなこれらの日本の大衆文化も、アジア諸国に蔓延する模倣品のため、その本来の経済的価値に見合った収益を上げることはできないのであります。
 例えば、中国の音楽ソフトの市場のうち、九割が海賊版で、邦楽はそのうち三割と推定されます。ソフト製品だけではなく、中国における模倣品は、バイクから始まりオーディオ製品、DVDなど、多岐にわたっております。
 政府は、今後、中国における模倣品の対策にどのように取り組んでいくつもりなのか。既にWTOに加盟となった中国に対し、厳しい態度で臨むことが当然であろうと思います。大臣の答弁を求めます。
 二十一世紀、元気で活力のある社会を実現するために、また、失われた十年というこの空白を取り戻す意味でも、知的財産基本法は国家戦略の重要な柱とするべきであろうと思います。大臣の見解を求め、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
    〔国務大臣平沼赳夫君登壇〕
国務大臣(平沼赳夫君) 田中議員にお答えをさせていただきたいと思います。
 私に対する御質問は八問であったと思っております。
 まず、中小零細企業の厳しい経営状況について、その痛みがわかっているのか、こういうお尋ねでございました。
 私の地元の選挙区の中でも、支援者の方が厳しい経済状況の中で自殺に追い込まれる、大変気の毒な、そして、涙なしでは語れない事例がございました。このデフレの中で日本の企業が厳しい状況に置かれている、このことを私どもは重く受けとめて、この国会においても中小企業対策の法案を出させていただいております。そして、セーフティーネットをしっかりと構築し、そして、物づくりが伝承できるような、そういう経済社会をつくっていくために、これからも努力をしなければいかぬと思っているわけであります。
 次に、これまでの知的財産政策とどこが異なるかについてのお尋ねであります。
 まず、これまでの知的財産政策につきましては、個別の法律を所管する関係府省によりまして、それぞれの観点から行われてきた、こういう面があったと思っております。
 しかし、今後は、知的財産をてこにして、我が国産業の国際競争力の強化と経済社会の再活性化を図ることが明確な国家の基本理念となり、また、本法案により設置される知的財産戦略本部が、推進計画を策定するなどによりまして、関係府省の施策も含め、政府の知的財産政策を一体的、集中的に推進することになると思います。
 また、本部が策定する推進計画には、個々の知的財産の施策につきまして具体的な目標及び達成の時期を定めることといたしておりまして、施策の達成度合いを明らかにすることを通じて政府の政策遂行責任が明確になる、このように考えているところでございます。
 次に、我が国の産業競争力の回復に向けた知的財産戦略についてのお尋ねであります。
 知的財産基本法案は、知的財産の戦略的創造、保護及び活用による我が国の産業競争力の強化と経済活性化を目指すものであります。
 このためのより具体的な施策として、一つは、大学や研究機関による知的財産の創造促進、二つ目は、迅速、的確な特許審査のための取り組みの推進、三つ目は、海賊版の海外及び水際における対策の強化、四つ目は、営業秘密の保護強化などがありまして、本法案により設置される知的財産戦略本部によって、これらの施策が知的財産推進計画の中で位置づけられ、推進されることに相なります。
 こうした知的財産基本法に基づく諸施策の実施を通じて、知的創造サイクルの活性化を図ることによりまして、他の経済構造改革とあわせまして、速やかに我が国の産業競争力の回復を図っていく所存でございます。
 次に、これまで内閣に設置された本部というのは何ら抜本的な政策を打ち出していない、したがって知的財産権庁を置くべきではないか、こういうお尋ねであります。
 これまで我が国の知的財産政策は、産業の発達や文化の発展という観点から、それぞれの省庁において、先ほど申し上げたとおり取り組んでまいりました。
 しかしながら、今後は、行政組織の簡素化が求められる中、我が国産業の国際競争力の強化に向けまして、政府一体となって知的財産戦略を実施するため、内閣総理大臣を本部長とする知的財産戦略本部を内閣に設置いたすことにいたしております。
 本部は、総理のリーダーシップのもと、すべての省庁の協力を得まして、知的財産の創造、保護及び活用並びにこれらを支える人材の育成に関するすべての政策を、総合調整の上、知的財産推進計画にまとめ、これを集中的かつ計画的に推進するものでありまして、十分に実効的な知的財産戦略の推進機関である、このように考えております。
 若手研究者に予算を優先的に配分するなど、彼らが自由に研究できるような環境を整備すべきだ、このような御指摘でございます。
 若手の研究者が自由に研究できる環境の整備については、経済産業省といたしましても、産業につながる革新的な技術シーズを発掘するためには、大学や独立行政法人を中心とした若手の研究者が柔軟な発想で研究を行うことが重要であると認識しております。
 このため、平成十二年度から、産業界のニーズを踏まえた技術シーズの発掘と若手の人材育成を図るために、大学や独立行政法人等の若手研究者を対象とした産業技術研究助成事業を実施してきているところでございます。今後も、若手の研究者がその創造性を十分に発揮できるように、引き続き本事業の拡充に努めてまいる所存でございます。
 次に、海外への技術の流出を防いで、新たに出願された特許を使った製品はでき得る限り国内で生産されるように誘導策を講ずるべきだ、こういうお尋ねがありました。
 経済のグローバル化が進展する中で、我が国産業の空洞化を防ぐためには、企業にとって国内の事業環境を魅力のあるものにすることを通じまして、新たな技術を活用した高付加価値分野の国内生産の維持拡大を促していくことが何より重要であると考えております。具体的には、知的財産戦略の推進のみならず、高コスト構造の是正、規制改革、産業技術力の強化など、総合的な経済構造改革に取り組むことが必要であると考えております。
 政府といたしましては、知的財産に関する諸々の施策を着実に実施し、他の経済構造改革とあわせて、すぐれた知的財産を有する企業が発展するように環境整備を図っていかなければならない、このように思っております。
 また、中国における模倣品対策についてのお尋ねがございました。
 模倣品・海賊版対策の強化は、知的財産基本法案においても、国が講ずべき基本的施策の中で位置づけられております。
 私どもが昨年行った調査によれば、模倣品の製造の現状を国別で見ると、中国が全体の約三分の一と最も多いだけでなく、被害業種も多岐にわたるなど、被害は一層深刻化をいたしております。
 政府といたしましては、これまでも、WTOや二国間協議など各種の通商協議等の機会を利用した中国に対する働きかけを行ってまいりました。加えて、来る十二月には、民間の反模倣品・海賊版団体、国際知的財産保護フォーラムの対中国ミッションにハイレベルの者を同行させ、中国政府に取り締まりの強化の要請を行うなど、官民一体となった対策をより一層強化していかなければならないと思っておりますし、御指摘のように、中国がWTOに加盟をいたしましたので、そういった場を通じましても私どもはしっかりとやっていかなければならないと思っております。
 また、知的財産基本法を国家戦略の柱とすべきとの御指摘であります。
 私もそれには全く同感でございまして、アジア諸国の急速な追い上げの中で、今後我が国が進むべき道は、すぐれた発明等の知的財産を戦略的に創造、活用しまして、これによって我が国産業の国際競争力を高め、再び活力ある経済社会を実現することであると思っております。
 知的財産の創造、保護及び活用に関する施策を集中的かつ計画的に推進することを目的といたします知的財産基本法案が、今国会の御審議を経て速やかに成立することを心から希望いたしまして、答弁にかえさせていただきます。
 ありがとうございました。(拍手)
    〔国務大臣森山眞弓君登壇〕
国務大臣(森山眞弓君) 田中議員から私に対しては、知的財産権の紛争を専門的に取り扱う特許裁判所の設置についてのお尋ねがございました。
 特許権、実用新案権等に関する訴訟事件について、東京、大阪両地方裁判所への専属管轄化を図ることにより、東京、大阪両地方裁判所の知的財産権関係訴訟を取り扱う専門部を実質的に特許裁判所として機能させることを検討しておりまして、平成十五年通常国会に所要の法律案を提出するべく作業を進めているところでございます。(拍手)
議長(綿貫民輔君) これにて質疑は終了いたしました。
     ――――◇―――――
議長(綿貫民輔君) 本日は、これにて散会いたします。
    午後一時五十四分散会


このページのトップに戻る
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.