衆議院

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第26号 平成15年5月6日(火曜日)

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平成十五年五月六日(火曜日)
    ―――――――――――――
 議事日程 第十七号
  平成十五年五月六日
    午後一時開議
 第一 個人情報の保護に関する法律案(枝野幸男君外八名提出)
 第二 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案(枝野幸男君外八名提出)
 第三 独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律案(枝野幸男君外八名提出)
 第四 情報公開・個人情報保護審査会設置法案(枝野幸男君外八名提出)
 第五 個人情報の保護に関する法律案(内閣提出)
 第六 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案(内閣提出)
 第七 独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律案(内閣提出)
 第八 情報公開・個人情報保護審査会設置法案(内閣提出)
 第九 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出)
 第十 自動車安全運転センター法の一部を改正する法律案(内閣提出)
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 日程第一 個人情報の保護に関する法律案(枝野幸男君外八名提出)
 日程第二 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案(枝野幸男君外八名提出)
 日程第三 独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律案(枝野幸男君外八名提出)
 日程第四 情報公開・個人情報保護審査会設置法案(枝野幸男君外八名提出)
 日程第五 個人情報の保護に関する法律案(内閣提出)
 日程第六 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案(内閣提出)
 日程第七 独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律案(内閣提出)
 日程第八 情報公開・個人情報保護審査会設置法案(内閣提出)
 日程第九 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出)
 日程第十 自動車安全運転センター法の一部を改正する法律案(内閣提出)
 労働基準法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明及び質疑


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    午後一時三分開議
議長(綿貫民輔君) これより会議を開きます。
     ――――◇―――――
議長(綿貫民輔君) この際、新たに議席に着かれました議員を紹介いたします。
 第百六十番、東京都第六区選出議員、小宮山洋子君。
    〔小宮山洋子君起立、拍手〕
 第四百三十六番、茨城県第七区選出議員、永岡洋治君。
    〔永岡洋治君起立、拍手〕
 第四百三十七番、東北選挙区選出議員、津島恭一君。
    〔津島恭一君起立、拍手〕
 第四百三十八番、山梨県第三区選出議員、保坂武君。
    〔保坂武君起立、拍手〕
     ――――◇―――――
 日程第一 個人情報の保護に関する法律案(枝野幸男君外八名提出)
 日程第二 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案(枝野幸男君外八名提出)
 日程第三 独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律案(枝野幸男君外八名提出)
 日程第四 情報公開・個人情報保護審査会設置法案(枝野幸男君外八名提出)
 日程第五 個人情報の保護に関する法律案(内閣提出)
 日程第六 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案(内閣提出)
 日程第七 独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律案(内閣提出)
 日程第八 情報公開・個人情報保護審査会設置法案(内閣提出)
 日程第九 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出)
議長(綿貫民輔君) 日程第一、枝野幸男君外八名提出、個人情報の保護に関する法律案、日程第二、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案、日程第三、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律案、日程第四、情報公開・個人情報保護審査会設置法案、日程第五、内閣提出、個人情報の保護に関する法律案、日程第六、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案、日程第七、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律案、日程第八、情報公開・個人情報保護審査会設置法案、日程第九、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案、右九案を一括して議題といたします。
 委員長の報告を求めます。個人情報の保護に関する特別委員長村井仁君。
    ―――――――――――――
 個人情報の保護に関する法律案(枝野幸男君外八名提出)及び同報告書
 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案(枝野幸男君外八名提出)及び同報告書
 独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律案(枝野幸男君外八名提出)及び同報告書
 情報公開・個人情報保護審査会設置法案(枝野幸男君外八名提出)及び同報告書
 個人情報の保護に関する法律案(内閣提出)及び同報告書
 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案(内閣提出)及び同報告書
 独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律案(内閣提出)及び同報告書
 情報公開・個人情報保護審査会設置法案(内閣提出)及び同報告書
 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出)及び同報告書
    〔本号末尾に掲載〕
    ―――――――――――――
    〔村井仁君登壇〕
村井仁君 ただいま議題となりました各法律案につきまして、個人情報の保護に関する特別委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。
 まず、民主党・無所属クラブ、自由党、日本共産党及び社会民主党・市民連合の共同提案に係る枝野幸男君外八名提出の四法律案の概要について申し上げます。
 個人情報の保護に関する法律案は、個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定めるとともに、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定め、及び個人情報保護委員会を設置することにより、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人情報の取得、利用、第三者に対する提供等に関し本人が関与することその他の個人の権利利益を保護しようとするものであります。
 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案は、行政機関における個人情報の取り扱いに関する基本的事項を定めることにより、個人情報の取得、利用、第三者に対する提供等に関し本人が関与することその他の個人の権利利益を保護しようとするものであります。
 独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律案は、行政機関に準じて、独立行政法人等における個人情報の取り扱いについて定めようとするものであります。
 情報公開・個人情報保護審査会設置法案は、内閣府に、情報公開・個人情報保護審査会を置くとともに、その調査審議の手続等について定めようとするものであります。
 引き続きまして、内閣提出の五法律案の概要について申し上げます。
 個人情報の保護に関する法律案は、個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定めるとともに、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定めることにより、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護しようとするものであります。
 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案は、行政機関における個人情報の取り扱いに関する基本的事項を定めることにより、行政の適正かつ円滑な運営を図りつつ、個人の権利利益を保護しようとするものであります。
 独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律案は、行政機関に準じて、独立行政法人等における個人情報の取り扱いについて定めようとするものであります。
 情報公開・個人情報保護審査会設置法案は、内閣府に、情報公開・個人情報保護審査会を置くとともに、その調査審議の手続等について定めようとするものであります。
 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案は、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴い、関係法律の規定の整備等を行おうとするものであります。
 以上の各案は、去る四月八日の本会議において趣旨説明及び質疑が行われ、同日本委員会に付託されました。
 本委員会におきましては、同日細田国務大臣及び片山総務大臣並びに提出者細野豪志君から提案理由の説明を聴取し、同月十四日から一括して質疑に入り、連日、熱心に質疑を行いました。二十一日には参考人から意見を聴取し、二十五日には小泉内閣総理大臣に対する質疑を行う等、広範多岐にわたる論議を行い、慎重に審査を重ね、同日質疑を終了いたしました。
 質疑終了後、枝野幸男君外八名提出の個人情報の保護に関する法律案及び情報公開・個人情報保護審査会設置法案につきまして、国会法の規定に基づき内閣の意見を聴取いたしました。引き続き、討論を行い、採決いたしましたところ、まず、枝野幸男君外八名提出の四法律案はいずれも賛成少数をもって否決すべきものと決しました。次いで、内閣提出の五法律案はいずれも賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。
 なお、個人情報の保護に関する法律案に対し、個別法の早急な検討等を内容とする六項目の附帯決議が、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案に対し、訴訟の管轄についての検討等を内容とする五項目の附帯決議が付されました。
 以上、御報告申し上げます。(拍手)
    ―――――――――――――
議長(綿貫民輔君) 九案につき討論の通告があります。順次これを許します。石毛えい子君。
    〔石毛えい子君登壇〕
石毛えい子君 民主党の石毛えい子です。
 私は、民主党・無所属クラブを代表して、民主党、自由党、日本共産党、社会民主党提出の個人情報保護関連法案に賛成し、政府提出の個人情報保護関連五法案に反対する立場から討論を行います。(拍手)
 昨年までに政府が提出した一連の法案は、個人情報取扱事業者に対する主務大臣の権限が強大であり、義務規定の適用除外となる報道の範囲があいまいであるなど、個人情報保護の名のもとに官が国民を監視し、管理しようという意図が透けて見える一方、膨大な個人情報を取り扱う官僚に対しては甘い内容のものでした。そのため、野党四党は一致結束して撤回を求め、廃案に追い込みました。
 政府は、廃案となった旧法案に、行政機関に関しては罰則を設け、報道機関等に関しては適用除外する等の修正を加えた上で、国会に出し直してきましたが、官僚による国民管理という思想が依然として背後にある一方、官僚みずからには甘い法案であることに全く変わりはありません。
 先日、このことをまさに象徴する事件が発覚いたしました。防衛庁が、自衛官募集のダイレクトメールを送るために、満十八歳を迎える適齢者の情報の提供を各市町村に要求し、石川県七尾市が提供した一覧表では、両親の離婚や別居などの家庭環境までが推測できる内容となっていたことが明らかになりました。
 この事件は、行政が家庭の情報を勝手に収集、蓄積して活用しているのではないかという国民の不安や不信をさらに増幅させることでした。不透明に行われている行政側の情報収集や、センシティブ情報の収集を何ら禁ずることのない政府案では、この国民の不信や不安を到底払拭できません。
 以下、野党四党案に賛成し、政府案に反対する理由を具体的に申し述べます。
 政府案には、それぞれの個人が自分に関する情報はみずからコントロールできるという自己情報コントロール権に関する規定がありません。これでは、個人情報保護法制の哲学がないも同然であり、個人情報保護とは名ばかりのものとなりかねません。
 それに対し、野党案は、「個人情報の取得、利用、第三者に対する提供等に関し本人が関与することその他の個人の権利利益を保護する」旨の規定を法律に明記しており、自己情報コントロール権の社会的認知を後押しするための具体的な措置を講じています。
 真の個人情報保護を実現するために、思想、信条その他の心身、経歴等に関する一般に公表を欲しない個人情報及び差別の原因となるおそれのある個人情報、すなわちセンシティブ情報については、特に慎重な取り扱いを求めるべきです。
 しかし、政府案には、そのような規定がありません。
 それに対し、野党案では、センシティブ情報の特に慎重な取り扱いを個人情報取扱事業者及び行政機関に義務づけています。
 次に、個人情報の保護に関する法律案について申し述べます。
 個人情報保護の名のもとに行政が恣意的介入を行えば、国民管理につながります。法案作成に当たっては、個人情報保護の名のもとに行政が国民生活を管理し、干渉することのないよう、十分配慮しなければなりません。
 しかるに、政府案には、事業者に対する主務大臣の監督権限が依然残されており、恣意的な介入や特定業者との癒着が起こるおそれがあります。特に、報道機関に関しては、放送機関、新聞社、通信社は適用除外と明記していますが、そのほかについては、「その他の報道機関」と一くくりにされており、主務大臣や官僚の裁量にゆだねられかねないおそれがあります。
 それに対し、野党案では、内閣府設置法第四十九条第二項に基づく第三者機関に権限を与え、国会への報告を義務づけるなどして、恣意的な介入や特定業者との癒着が起こらないよう最大限配慮する内容となっています。
 新たな第三者機関設置は行政改革に反するという政府答弁がなされましたが、それは、見せかけの省庁の数だけで行政改革だと言ってきた橋本行革以来のまやかしにすぎません。むだな仕事をなくし、真に必要な組織をつくることこそが、今求められている行政改革にほかなりません。
 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案について申し述べます。
 個人情報を収集、利用する際の行政機関の裁量の幅が大きいと、国民監視になりかねないくらいに膨大な個人情報が収集されたり、悪用されるおそれがあります。
 政府案では、個人情報の収集について、収集方法や収集範囲等を制限する明確な規定がなく、官僚にフリーハンドを与える内容になっています。また、個人情報の目的外利用の要件が緩やかで行政の裁量幅が大きく、本人の知らない間に個人情報が流用されたりするおそれがあります。
 それに対し、野党案は、利用目的以外の目的のために保有個人情報をみずから利用し、提供しようとすることに関しては、個人情報保護の観点から、一定の制限を設け、官僚の行動に歯どめをかけています。
 高度情報化社会においては、簡単にデータのやりとりができます。行政機関が勝手にお互いの保持する個人情報を交換して国民監視リストともいうべきデータリストをつくり上げたり、行政機関の巨大なデータリストを利用して有利に営業を行おうとする者がクラッキングしたりするなど、不法な目的外利用・提供や情報漏えいのおそれが常にあります。
 政府は、目的外利用の制限で足りるとしていますが、野党案では、慎重に慎重を期して、データマッチングに関する規定を設けています。
 個人情報に係る取り消し訴訟に関しては、国民全員の利便性に配慮する必要があります。
 しかるに、政府案には、裁判管轄に関する明示の規定がないため、東京地方裁判所以外には訴訟をできないことになっており、地方居住者の訴訟権の平等に対する配慮が欠けています。
 それに対し、野党案では、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所にも提起することができるものとしております。
 膨大な個人情報を保持する行政機関には、特に厳しい姿勢で臨み、実効性のある罰則を設けなければなりません。
 しかるに、政府案では、罰則規定は、官僚等が利己的動機で個人情報を不正利用した場合などにしか対応しておりません。防衛庁において、別の情報公開の担当者や関連部署から請求者の情報を聞き出すなどして、請求時には記述の必要のない情報公開請求者本人の生年月日や所属する市民グループなどの個人情報を記載したリストを作成したというような、さきに起きた事件は不問に付される可能性が非常に高く、その意味で、政府案は行政機関に甘い法案であると言わざるを得ません。
 それに対し、野党案は、行政機関に厳しい姿勢を求め、実効性のある罰則を設けております。
 以上のように、政府案は、個人情報保護の名をかりて、官僚や与党政治家にとって有利な、住みやすい世の中をつくるための法案にすぎません。それに対し、野党案は、高度情報化社会における真の個人情報保護を目指すと同時に、表現の自由を初め、国民生活の自由に最大限に配慮した法案となっていることを最後に申し述べ、私の討論を終わります。(拍手)
議長(綿貫民輔君) 桝屋敬悟君。
    〔桝屋敬悟君登壇〕
桝屋敬悟君 公明党の桝屋敬悟でございます。
 私は、自由民主党、公明党並びに保守新党を代表いたしまして、ただいま議題となりました内閣提出の個人情報の保護に関する法律案等関係五法案について、賛成の立場から討論を行います。(拍手)
 近年の高度情報通信社会の急速な進展のもと、各種の事業において、個人情報の利用は著しく拡大しております。しかし、残念ながら、顧客名簿の流出、インターネットホームページからの個人情報の漏えいなどの事例が発生しているのも事実であります。このような中、自分の個人情報が果たして適切に用いられているのかといった国民の不安感は解消されず、国民のプライバシー意識も高まりつつあります。
 一方、このIT時代において、個人情報の有用性に着目をし、国民がIT技術の利便性を享受することも重要であります。
 すなわち、今、我が国に必要なのは、個人情報の有用性に配慮しつつ、プライバシーを初めとする個人の権利利益を保護することであります。
 内閣提出の個人情報の保護に関する法律案は、まさに、このような今日的課題に的確に対応できる法案であり、IT時代における国民生活の保護のために不可欠な基盤法制であります。
 しかしながら、一部に、個人情報の保護に関する法律案はメディア規制を意図するものであるとの不安、懸念が払拭されない状況にあったことは、まことに遺憾であります。与党三党としても、このような不安、懸念を払拭するための努力を重ね、与党修正要綱を昨年十二月に取りまとめました。
 内閣提出の個人情報の保護に関する法律案は、この与党修正要綱に沿って、昨年廃案となりました旧法案を修正したものであり、具体的には、一、旧法案における基本原則を削除する、二、報道機関等への情報提供者に対し、主務大臣は関与しないことを明記する、三、報道の定義を明記する、四、報道機関に個人を含むことを明記する、五、著述を業として行う者を個人情報取扱事業者に対する義務規定の適用除外とすることを明記するなどの修正を行っております。
 この修正によりまして、個人情報の保護に関する法律案がメディア規制を意図したものであるという不安、懸念は払拭できたものと考えております。
 また、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案は、昭和六十三年に制定されました現行の行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律について、一、保護の対象となる個人情報の範囲を、電算処理された個人情報ファイルから、行政機関が組織的に保有するすべての個人情報に拡大する、二、新たに訂正請求権、利用停止請求権を明記するなど、現行法を全面的に充実強化するものであります。
 なお、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案も、昨年廃案となった旧法案から与党修正要綱に沿った修正を行い、行政機関におけるIT化の進展状況にかんがみ、行政に対する国民からの信頼を確保するため、新たに罰則を設けております。
 このたびの内閣提出の個人情報の保護に関する法律案及び行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案等の関係五法案により、官民の両分野において、IT社会にふさわしい個人情報の保護が推進されるものと確信しております。
 以上、内閣提出の個人情報の保護に関する法律案等関係五法案に対する賛成の理由を申し述べました。
 最後に、野党四党提出の法案につきましては、私は、対案をおまとめいただいて終始真摯な議論をしていただいた、私が経験する委員会の中で大変にすばらしい委員会であった、このように感じているわけでありまして、ただ、自己情報コントロール権やセンシティブ情報の取り扱い、第三者機関の設置などについて立場を異にするとともに、先ほど石毛さんがおっしゃった、官僚や与党の大物政治家のための法律などという、そういう勘違いはぜひやめていただきたいなということも最後にお願いいたしまして、与党三党を代表しての賛成討論を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
議長(綿貫民輔君) 黄川田徹君。
    〔黄川田徹君登壇〕
黄川田徹君 自由党の黄川田徹であります。
 私は、自由党を代表して、政府提出の個人情報の保護に関する法律案、行政機関における個人情報の保護に関する法律案等五法案に反対の立場、並びに、民主党、自由党、共産党、社会民主党共同提案の個人情報の保護に関する法律案、行政機関における個人情報の保護に関する法律案等四法案に賛成の立場から討論をいたします。(拍手)
 さて、一昨年三月末に提出された旧政府案は、表現の自由、報道の自由等を制限するなど、個人情報保護の法制度としても欠陥が多かったため、我々野党四党を初め、マスコミや市民団体等からの激しい反対を受け、昨年末、廃案となりました。
 これを受け、政府は、旧法案から、利用目的の制限などの基本五原則の廃止や適用除外対象の追加等の大幅な修正を行った個人情報保護法案や、個人情報を取り扱う行政機関の職員に対して新たに罰則規定を設けた行政機関における個人情報保護法案等を提出いたしました。しかしながら、政府案の本質的な問題点は変わっておりません。
 まず、政府提案の個人情報保護法案に反対の理由を順次述べたいと思います。
 反対の第一の理由は、自己コントロール権について一切触れていないことであります。
 政府案では、個人情報の取り扱いに関して、政府が基本理念と基本方針を定め、国、地方公共団体の責務を明確にするとともに、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務を定めることとなっておりますが、これだけでは、個人情報の保護という本来の目的に反して、むしろ、政府・与党がジャーナリズムや表現活動に新たな制約を加えるおそれがあり、いわば官が情報をコントロールするだけの法案になってしまう懸念が非常に強くあります。
 したがって、少なくとも、法案の「目的」に、個人情報の取得、利用、第三者に対する提供等に関し本人が関与することや、個人の権利権益を保護すること等の自己情報のコントロール権を明確に位置づけるとともに、個人情報の収集、利用、第三者に対する提供に係る本人の権利権益を保護することも明記すべきであります。
 第二の理由は、センシティブ情報の無原則な収集を許さないための、取り扱いについての基本理念や具体的な事項がないなど、極めて重要な点について一切触れられていないことであります。
 個人情報の中でも、思想、信条や医療に関する事項、福祉に係る給付事項、犯罪歴に関する事項、人種、民族、社会的身分、出生地や本籍に関する事項については、特に慎重に取り扱う必要があります。
 センシティブ情報の無原則な収集を許すことは、そのこと自体が個人のプライバシーを侵すことになるのは明白であり、本来であれば、センシティブ情報の特に慎重な取り扱いを個人情報取扱事業者に義務づけるとともに、具体的な項目や例外規定についての項目を明記するべきであります。
 第三の理由は、公権力による表現、報道の自由への不当介入を招くおそれがあるからであります。
 政府案では、個人情報を取り扱う事業者の事業内容によって主務大臣を置くこととしているため、所管大臣ごとに異なる取り扱いがされるなどの事態が生じる可能性があります。また、主務大臣が報道機関などに個人情報を提供する行為については、その権限を行使しないと規定されましたが、報道かどうかの判断については主務大臣が行うことになっているため、公平な判断がなされないおそれがあります。
 したがって、所管ごとの主務大臣の関与はやめ、統一的な個人情報保護の第三者機関として個人情報保護委員会を独立した委員会として設置するべきであります。
 次に、政府提案の行政機関が保有する個人情報保護法案の問題点を述べたいと思います。
 政府案では、センシティブ情報の慎重な取り扱いのための具体的内容については一切触れられておりません。また、自己コントロール権についても、法案の目的としていないばかりか、具体的な点についても抜け道が多いものとなっております。
 例えば、個人情報ファイル簿の作成、公表についても、公表しなくてもよい場合が多く、説明責任を果たせないものとなっており、さらに、開示の例外規定についても、行政機関の長が認めることに相当の理由がある場合などとするなど、拡大解釈のおそれがあるものとなっております。
 また、本人の同意・提供以外の目的外利用については第三者的機関がチェックするシステムがないなど、極めて問題の多い内容となっております。
 以上、政府提案の五法案は問題点が極めて多く、到底容認できる内容ではありません。これに対し、民主党、自由党、共産党、社会民主党提案の四法案は、政府案に見られる問題点は解消され、真に国民生活に必要な内容となっていると思われます。
 よって、自由党は、政府提案の五法案に反対、民主党、自由党、共産党、社会民主党提案の四法案に賛成することを表明して、私の討論を終わります。(拍手)
議長(綿貫民輔君) 春名直章君。
    〔春名直章君登壇〕
春名直章君 私は、日本共産党を代表して、政府提出の個人情報の保護に関する法律案及び関連四法案に反対、野党提出の個人情報の保護に関する法律案及び関連三法案に賛成の討論を行います。(拍手)
 まず初めに、国民の個人情報の取り扱いに対する政府の姿勢が厳しく問われている自衛官適齢者名簿提供問題について申し上げたい。
 防衛庁が三十七年にわたって八百二十二もの自治体から住所、氏名、年齢、性別という個人の四情報を入隊適齢者名簿として提供させていたこと、うち四百四十一自治体からは健康や職業、続柄など募集に無関係の情報までも提供させていたこと、さらに、応募者の情報は警察に提供され、思想、信条まで含めた調査に利用されていることが明らかとなりました。驚くべき事態であります。
 「四情報も非公開に」が国民の多くの声であり、プライバシーを尊重する立場から個人情報保護法をつくろうという今、国の行政機関は、外部提供を原則禁じている住民基本台帳法の趣旨も踏みにじって国民が知らない間にその個人情報を収集する、こんなことは断じて許されません。直ちにやめるべきであります。しかも、出された報告書は極めてずさんであり、徹底した解明が必要であることを強く指摘するものであります。
 政府案に反対する理由の第一は、旧法案に引き続いて、表現、報道の自由侵害のおそれが排除されていないことであります。
 民間事業者を対象にした政府基本法案には、個人情報を取り扱う事業者を監督するために主務大臣制が設けられています。主務大臣には、事業者の取り扱う個人情報が報道目的なのか著述目的なのかの判断がゆだねられており、報道や著述が狭く限定されたり、恣意的な判断がなされるという危険な構造となっていることは重大です。
 また、政府案は、放送機関や新聞社などに、個人情報の苦情処理や適正な取り扱いを求める規定を設けています。メディアが自律的に定めるルールや倫理を国が法律で指示し、公権力の介入に道を開くべきではありません。疑惑の政治家が、この規定を根拠に、苦情に応ぜよと要求し、報道取材活動を妨害する口実にもなりかねません。
 一方、野党案には、表現、報道及び個人のプライバシーに公権力を介入させないために、これを実施する監督機関を、行政から独立性を持つ第三者機関で公正中立に行うことを規定しています。第三者機関は、政府案を検討してきた専門家も参考人質問でその必要性を認め、イギリス、ドイツ、フランスでも実施されている国際標準であります。
 第二は、思想、信条など個人の名誉、信用、秘密に直接かかわるセンシティブ情報の規定が欠落していることであります。
 これらの個人情報は、野党案に規定されているように、民間事業者であれ、行政機関であれ、特別の場合を除いて原則収集禁止というのが、憲法に定められた幸福追求権や法のもとの平等原則からも当然であります。
 政府は、類型化できないからと拒否しています。しかし、この規定は、諸外国でも設けられ、個人情報保護条例を策定している地方自治体の六割が既に実施しております。さらに、経済産業省などのガイドラインにも明記され、現に運用しており、明記できない理由は何もないと思います。
 第三は、自分の情報の取り扱いに自分が関与し選択するという自己情報コントロール権の立場をとっていないために、企業や行政機関の運営が優先され、個人の権利が後景に追いやられていることであります。
 それは、行政機関法案の「行政の適正かつ円滑な運営を図りつつ、個人の権利利益を保護する」という目的規定にも端的にあらわれています。
 目的外利用についても、「相当な理由のあるとき」というあいまいな規定では、行政の都合や利便性に偏った判断で、個人情報が国の機関から地方公共団体まで全国の行政機関で使い回しされるおそれがあります。
 国民の批判を受けて新設された罰則規定も、職務のためとの理由がつけば適用除外となることが明らかになりました。
 行政機関法のこうした欠陥の重大性は、さきに述べた自衛官適齢者名簿提供事件によって一層浮き彫りになったことを指摘しておくものであります。
 野党案は、法案の「目的」に、個人情報の取得、利用、提供などに本人が関与する自己情報コントロール権の立場を明記し、目的外使用についても、第三者機関である個人情報保護審査会に諮問し、客観的立場からの検討を経てから使用の是非を決めるなど、政府案の欠陥をふさぎ、行政の恣意的判断を排除する仕組みになっていることも強調するものであります。
 反対の第四の理由は、政府案の制定によって、金融、通信など、手厚く個人情報保護策を講ずる必要がある分野の施策がむしろ後退するおそれがあることであります。
 これらの分野は、現在、所管省で、基本法案よりレベルが高いガイドラインを設けて個人情報を保護しています。ところが、所管省からは、基本法案に合わせてガイドラインのレベルを引き下げる意向が審議の中で明らかにされました。
 個人情報保護法の制定が個人情報保護策の引き下げの役割を果たそうとしていることは極めて重大だということを指摘しておきたいと思います。
 日本共産党は、今後も、基本的人権の大切な柱であるプライバシー権を守り、個人情報の保護と表現、報道の自由を守るために国民の皆さんとともに全力を尽くすことを申し上げまして、私の討論を終わります。(拍手)
議長(綿貫民輔君) 保坂展人君。
    〔保坂展人君登壇〕
保坂展人君 社民党・市民連合の保坂展人です。
 私は、内閣提出、個人情報保護関連五法案に反対、野党共同提案の四法案に賛成の討論を行います。(拍手)
 戦後初めて報道の定義を法律に書き込んだのが、小泉内閣の提出した、民間を対象とした今回の法案です。戦前は、御存じのように、徹底した言論統制が行われ、当時の新聞紙法の定義は、題号をもって定期的に発行するものでありました。ところが、今回の法案の「不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること」という定義は、著しく不明確で狭い。
 政府は、たびたび、最高裁判決に照らして報道を定義したと説明してきましたが、私が特別委員会の審議でいつ何どきの判決なのか明らかにするよう求めたところ、昭和四十四年の最高裁判決として、労働組合の機関紙に掲載された記事が公選法違反に当たるのかどうかを争った事件の決定を答弁者は読み上げました。
 驚くべきは、政府は、原則として公判を開き、公判廷で申し渡す判決と、書面審理のみで下される決定の違いすらも認識せずに、大胆にも報道を定義したのであります。我々が政府の意図を読み解こうと、幾ら報道の自由を争った最高裁判決を探しても探してもこの定義が出てこないのは、当然でありました。
 しかも、政府が例示した最高裁決定には、「不特定かつ多数の」という文言は一つも出てこないのであります。わずか五百四十人の組合員に配付した労働組合の機関紙、これは特定多数であって、政府の報道の定義からもはみ出してしまいます。あえて政府が参考にしようとしているのであれば、労働組合の機関紙で報道だと主張しても最後は有罪ですよというように参考にしたとしか思えないのであります。
 さらに、細田大臣は、これは単純な公選法違反事件で、表現の自由を憲法訴訟として争ったものではない、表現の自由はあくまでも傍論であり主論ではない、したがって、政府が報道の定義をこの事件でしたかに受け取られると間違いですと、全面撤回されました。何が政府の報道の定義なのか、ついに根拠を示すことはないまま、今日に至っております。
 もともと政府案は、表現の自由、報道の自由をめぐって野党四党を初めとした世論からの激しい批判を受け、昨年末に廃案になったものであります。その最大の論点には慎重にして精緻な議論があってしかるべきですが、余りものお粗末さ、ずさんさ、でたらめさ、いいかげんな定義を撤回も修正もせず平気でいられる小泉内閣の神経、そしてまた、明らかに不十分な論点を整理することもなく、与党中心の数で押し切った議事運営にも強い怒りを感じます。
 また、個人情報取扱事業者の定義をめぐる答弁も迷走いたしました。電話番号を打ち込んで個人宅の位置を検索するカーナビを使用する者は事業者に該当すると当初政府は答弁したものの、携帯電話のナビはどうなのか、インターネットで電話番号調べはどうなのか、このように問いただすと答弁は混乱し、米屋さんや本屋さんが配達をしたら取扱事業者というのは常識から考えてもおかしいと細田大臣は発言され、その後、宅配便業者がカーナビを使って配達したら事業者だろうと答弁して、さらに問うと、いや、事業者じゃないかもしれないと、二転三転、繰り返しました。
 さらに、政府は、氏名、住所、電話番号を個人識別情報として定義し、大半のカーナビは住所、電話番号で氏名がないのだから問題ない、こうしたわけですけれども、それでは年賀状ソフトはどうなのか、電話帳ソフトはどうなのか、このように問うと再び混乱し、まあ常識的な使い方をした人は大丈夫ですよ、こういうずさんな議論に至りました。
 最後には、内閣の見解は、カーナビやCD―ROM、電話帳ソフトなどは、単なるユーザーはオーケーだが、加工したらだめだと。皆さん、加工しない電子データベースなどあり得るでしょうか。年賀状ソフトや電話帳ソフトを加工しないで使っている人がいるのでしょうか。これでは、IT革命どころかIT萎縮、あるいはITの自粛をもたらす非常に大きな問題点を残していると言わざるを得ません。
 あれはどうか、これはどうかと言われるときちんと答えられない部分がある、その辺はお互い良識を持ってやろうと小泉総理はおっしゃいました。半年以下の懲役、罰金三十万円、最悪は逮捕されることもある法案で、この態度は全く無責任だと思います。
 このような混乱が生まれるのも、無理やり一般法、包括法に罰則までつけているからであり、厳密な個別法で対処すべきと考えます。
 民間法制では、取扱事業者に対する主務大臣の監督権限がいまだ残されたまま、また、ジャーナリストは例外になっても出版社は明記されていない、センシティブ情報の取得の禁止がないなどの大きな問題を抱えています。
 さらに、行政機関法制では、罰則の一部が手直しされただけで、自己情報コントロール権が不明確、あるいは情報の取得に対する禁止の歯どめが弱い、目的外利用に関する行政の裁量幅が大きくて役所内部での個人情報の使い回しを事実上許容している、センシティブ情報の収集禁止規定が盛り込まれていない、個人情報ファイルの事前通知、個人情報ファイル簿の作成、公表の例外が多過ぎる、データマッチングが禁止されていない、情報公開法にある裁判管轄の特例などがないなどの問題が残っています。
 このような問題を、野党四党は、自己情報コントロール権、センシティブ情報の慎重な取り扱い、個人情報保護委員会の設置など、政府案の欠陥にできるだけメスを入れた提案をして議論してまいりました。
 審議の中で、防衛庁による適齢者情報収集問題が明るみに出ました。現在の行政機関保護法制では、これらの問題に全く歯どめがかからないことも明らかになりました。情報取得と使用の実態、行政内部及び国、自治体における情報のやりとりによって歯どめがかかっていない問題や、センシティブ情報規制の必要性なども改めて明らかになりましたし、防衛庁のこの事態の報告が極めてずさんで、委員会に提出された報告が三十カ所近く、数字もすべて間違っている、このような事態であったことも許しがたいことだと思います。
 基本的人権にかかわる重要法案でありながら、委員会審議において中央・地方公聴会を開催しないばかりか、担当大臣の答弁も、勉強します、検討させてくださいなど、極めてあいまい、かつ、いいかげんな答えが続きました。そもそも、規制の必要性や法案の優先度の異なる民間法制と行政機関法制を特別委員会でごちゃまぜに議論したところ、審議したところに大きな問題点があったと言えると思います。
 この政府案の成立阻止に向けて、広範な市民との連携及び野党の共闘を強化し、全力で臨む決意であることを表明し、私の討論を終わります。(拍手)
議長(綿貫民輔君) これにて討論は終局いたしました。
    ―――――――――――――
議長(綿貫民輔君) これより採決に入ります。
 まず、日程第一ないし第四の枝野幸男君外八名提出の四案を一括して採決いたします。
 四案の委員長の報告はいずれも否決であります。この際、四案の原案について採決いたします。
 四案を原案のとおり可決するに賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
議長(綿貫民輔君) 起立少数。よって、四案とも否決されました。
 次に、日程第五ないし第九の内閣提出の五案を一括して採決いたします。
 五案の委員長の報告はいずれも可決であります。五案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
議長(綿貫民輔君) 起立多数。よって、五案とも委員長報告のとおり可決いたしました。(拍手)
     ――――◇―――――
 日程第十 自動車安全運転センター法の一部を改正する法律案(内閣提出)
議長(綿貫民輔君) 日程第十、自動車安全運転センター法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 委員長の報告を求めます。内閣委員長佐々木秀典君。
    ―――――――――――――
 自動車安全運転センター法の一部を改正する法律案及び同報告書
    〔本号末尾に掲載〕
    ―――――――――――――
    〔佐々木秀典君登壇〕
佐々木秀典君 ただいま議題となりました自動車安全運転センター法の一部を改正する法律案につきまして、内閣委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。
 本案は、特殊法人等改革基本法に基づき策定された特殊法人等整理合理化計画の実施の一環として、自動車安全運転センターを民間法人化するため、政府の出資、役員の選任等に係る政府の関与の縮小等について所要の改正を行うものであります。
 本案は、去る四月十七日本委員会に付託され、翌十八日谷垣国家公安委員会委員長から提案理由の説明を聴取いたしました。同月二十五日質疑を行い、採決いたしましたところ、本案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと決した次第であります。
 なお、本案に対し附帯決議が付されました。
 以上、御報告申し上げます。(拍手)
    ―――――――――――――
議長(綿貫民輔君) 採決いたします。
 本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
議長(綿貫民輔君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。
     ――――◇―――――
 労働基準法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明
議長(綿貫民輔君) この際、内閣提出、労働基準法の一部を改正する法律案について、趣旨の説明を求めます。厚生労働大臣坂口力君。
    〔国務大臣坂口力君登壇〕
国務大臣(坂口力君) 労働基準法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明申し上げます。
 我が国の経済社会を取り巻く状況が大きく変化し、産業・雇用構造の変化が進んでいる中で、我が国の経済社会の活力を維持向上させていくためには、労働者一人一人が主体的に多様な働き方を選択できる可能性を拡大するとともに、働き方に応じた適正な労働条件を確保し、紛争の解決にも資するよう、労働契約や労働時間など働き方に係るルールを整備することが重要な課題となっております。
 このため、労働契約や労働時間に係る制度について、多様な働き方に応じた実効あるものとするための見直しを行うこととし、この法律案を提出した次第であります。
 次に、この法律案の内容につきまして、概要を御説明申し上げます。
 第一に、有期労働契約に関する見直しであります。
 雇用形態の多様化が進展する中で、有期労働契約が労使双方にとって良好な雇用形態として活用されるようにしていくため、有期労働契約の契約期間の上限を一年から三年に延長するとともに、高度の専門的な知識等を有する者や満六十歳以上の者については、その期間の上限を五年とすることとしております。
 また、有期労働契約の締結時及び期間の満了時における労働者と使用者との間の紛争を未然に防止するため、厚生労働大臣が、使用者の講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項等についての基準を定めるとともに、使用者に対して必要な助言及び指導を行うことができることとしております。
 第二に、解雇に係る規定の整備であります。
 解雇をめぐる紛争が労働条件をめぐる紛争において大きな割合を占め、また、増加している現状にかんがみ、このような紛争を防止し、その解決に資するため、使用者がその有する解雇権を濫用した場合には無効となることを内容とする規定の整備を行うこととしております。
 また、解雇を予告された労働者は、解雇前においても当該解雇の理由について証明書を請求できることとするほか、就業規則の必要記載事項に解雇の事由を含めることとしております。
 第三に、裁量労働制の見直しであります。
 裁量労働制が多様な働き方の選択肢の一つとして有効に機能するようにするため、企画業務型裁量労働制について、その導入の際の要件、手続を緩和するとともに、裁量労働制が働き過ぎにつながることのないよう、専門業務型裁量労働制においても、健康・福祉確保措置等の導入を必要とすることとしております。
 なお、この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとしております。
 以上が、労働基準法の一部を改正する法律案の趣旨でございます。何とぞよろしくお願い申し上げます。(拍手)
     ――――◇―――――
 労働基準法の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑
議長(綿貫民輔君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。城島正光君。
    〔城島正光君登壇〕
城島正光君 民主党の城島正光でございます。
 ただいま議題となりました労働基準法の一部を改正する法律案につきまして、民主党・無所属クラブを代表いたしまして、小泉総理大臣並びに厚生労働大臣、法務大臣に質問をいたします。(拍手)
 我が国は、バブル崩壊後、十年以上にわたって景気の低迷が続き、これに伴う解雇と失業者の増大はますます深刻な問題となっております。
 発足して二年たつ小泉内閣が国民にもたらしたものは、雇用不安、個人消費の冷え込み、景気の落ち込みという悪循環であり、雇用に関して申し上げれば、新規雇用創出五百三十万人といった看板とは裏腹に、何の成果もなく時が浪費されてまいりました。
 史上最悪の完全失業率五・四%、フリーターを象徴とする若年失業者問題はますます深刻化し、自殺者は年三万人を超え、リストラが進み、長期失業者がふえる一方、残された社員は長時間労働を強いられるというのが現状であります。国民、勤労者が痛みに耐えて苦境を克服しようと必死の努力をしているにもかかわらず、小泉総理は、そこから抜け出すための方向性さえ示しておりません。
 総理の現下の雇用失業情勢に対する御認識と、一体いつになったらせめて総理就任時の完全失業率四・八%に戻す見通しをお持ちなのか、冒頭お伺いしたいと思います。(拍手)
 さて、景気が低迷する時代に、解雇にかかわる問題をいかに扱うかは、国の政策の根幹にかかわる事柄であります。
 諸外国の例を見ますと、フランスでは、一九七三年、正当な理由のない解雇の規制が行われました。七五年には、経営上の理由による解雇を規制する国内法の整備に関するEC指令が出され、全EC加盟国で解雇規制の法整備がされております。まさに、オイルショックによる景気低迷の時期のことであります。
 また、お隣の韓国では、一九九六年に、勤労基準法に解雇ルールが盛り込まれ、九八年の大改正では、正当な理由のない解雇は違法とされ、整理解雇四要件が盛り込まれました。これもまた、アジア通貨危機によりウォンが暴落、IMFの管理下に置かれるなど、経済危機に見舞われたときのことであります。
 さらに、アメリカ合衆国は、成文法ではなく判例法の支配する国でありますが、人種、性、障害、年齢などの差別が法律によって禁止されております。
 このアメリカでは、多数の労働事件が裁判所で救済されております。九九年に合衆国連邦地方裁判所に新しく提訴された民事事件のうち、実に一八・四%が労働契約関係であります。日本で民事訴訟に占める労働事件はわずか〇・五%にすぎませんから、単純に比較しても三十七倍もの格差があるわけであります。その中で解雇事件は大きな割合を占めていると言われております。アメリカは解雇が自由な国であるという俗論は、完全な誤りであります。
 こうした実例に照らしても、また、雇用不安、個人消費の冷え込み、景気の落ち込みという悪循環を断ち切り、日本経済を再生させるためにも、国の施策として、解雇を規制する法律を整備する必要があります。いわんや、解雇しやすくする政策は、雇用不安を増大させ、この悪循環に拍車をかけるものであり、論外であります。この点についての総理大臣の認識と見解をお尋ねいたします。
 次に、景気低迷時における経営者のあり方と国家政策の関係についてお尋ねいたします。
 財界の総理大臣とも呼ぶべき日本経団連の奥田会長は、七〇年代以降、最高裁判所が形成してきた解雇法理について、これを緩和することがあってはならないと繰り返し主張しているわけであります。その理由について、奥田会長は、一昨年、日経連経営トップセミナーにおいてこう述べております。
 すなわち、「不良債権の最終処理では、離職者がなるべく少なくなる方法を採用するとともに、仮に過剰感があっても雇用に手をつけるのは最後の手段だという共通認識のもとで、それを回避するために労使で最大限の努力をしなければならない。万が一、経営者のモラルハザードが広がれば、便乗解雇が横行し、社会全体が崩壊しかねないと心配している。今、一部の論者からは解雇規制の緩和を求める声が出ているが、これは最もやってはいけないことだ。」と述べているわけであります。
 私も、現在の日本で便乗解雇が横行すれば、社会の底が抜け、社会全体が崩壊し、経営者のモラル崩壊にも直結するとの、この奥田会長の指摘に同感するものであります。
 特に、解雇法理のルールは中小企業経営者にほとんど知られておらず、解雇をめぐる紛争を誘発する原因の一つとなっているわけであります。
 京都大学の村中孝史教授らの調査によりますと、労働基準法二十条の解雇予告義務について知っているとの回答は九二%もあるのに、裁判所が解雇権に制限を加えていると回答したのはわずか七%、法律の制限さえ守ればよしと答えた人が七〇%も占めているわけであります。
 解雇をめぐる紛争は、労働者だけではなく、中小企業経営者にも、経済的・精神的負担が大きくのしかかります。ルール無視に起因する無用な解雇紛争を極力防ぐことは、国の施策としても重要であります。ましてや、国の法律によって、正当な理由がなくても解雇は自由にできるという誤解を誘発するようなことは断じてあってはならないと思います。
 こうした点につきまして、総理の認識と御見解をお尋ねいたします。
 次に、厚生労働大臣にお尋ねいたします。
 今回の労基法改正案の第十八条の二には、「使用者は、この法律又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解雇することができる。ただし、その解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とあります。
 この条文では、使用者が解雇できるのが原則であり、例外的に、労働者の側が解雇権濫用の証明に成功した場合だけ解雇が無効になると解釈されます。
 そもそも、最高裁の日本食塩製造事件判決で確立された解雇権濫用法理では、解雇に客観的に合理的な理由があることについて、形式的な証明責任は労働者が負いますが、実質的な証明責任は使用者に負担させております。今回の条文では、実質的な証明責任を使用者が負担することは全く明らかにされておらず、解雇権濫用法理を大きく後退させるものと言わざるを得ません。
 条文が使用者に主張立証を促すことが明らかでなければ、判例において確立している解雇権濫用法理を足しも引きもせず、そっくりそのまま法律上に明記するという厚生労働省の説明と全くもって矛盾することになるわけであります。
 それだけではありません。労働関係において契約自由の原則は修正されなければならないという憲法第二十七条第二項の理念をなし崩しにし、労働基準法において、まさに、契約自由の原則、自由競争原理がむき出しのまま労働関係に持ち込まれんとするおそれがあるものであります。
 政府案は大いに問題があり、このままでは解雇促進法になりかねず、抜本修正が何としても必要であります。厚生労働大臣の見解を伺います。(拍手)
 また、改正案第十八条の二について、厚生労働省は、立法者意思により、今の裁判の取り扱いを変えるものではないことを明確にすると私どもに説明しております。
 そこで、法務大臣にお尋ね申し上げます。
 行政法の場合、行政に対する国会の優位性を背景に、立法者意思で行政を拘束することが可能でありますが、刑事、民事の法律の場合、これと全く異なり、刑事、民事の法律の運用をつかさどる裁判官は、憲法七十六条により憲法と法律のみに拘束されます。すなわち、裁判官は立法者意思に拘束されず、立法者意思は条文解釈をする際の判断材料の一つにすぎないと考えられますが、いかがでしょうか。
 また、国会での質疑や国会決議などの立法者意思で条文を補充しなければならないような前例は存在しないと考えますが、いかがでしょうか。お答え願いたいと思います。
 従前、最高裁が形成した解雇法理は、大きく分けて二種類あります。一つは、解雇権濫用法理であり、もう一つが、就業規則の解雇条項による解雇規制であります。解雇についての法整備がおくれている日本では、裁判実務において、就業規則に掲げる解雇事由を限定列挙と解することにより、使用者に解雇の理由とその正当性などの証明責任を負わせてまいりました。
 しかるに、三十一回にもわたって法案審議をした厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会では、解雇法制と就業規則の関係という最も基本的かつ初歩的な論点が完全に抜け落ち、議論も皆無なのであります。
 そこで、厚生労働大臣にお尋ねいたします。
 就業規則の解雇条項について、審議会で検討が一切なされなかった結果、第十八条の二の前段部分を根拠に、就業規則の解雇条項による解雇規制は事実上機能しなくなり、これまで形成された最高裁判例がことごとく覆されることになると解さざるを得ません。かかる致命的な欠陥を持つ法案は、直ちに取り下げるか、審議会に差し戻すか、あるいは抜本修正、すなわち、就業規則の解雇事由に該当する事実の証明責任について、使用者が負担している旨明らかにする必要があると考えますが、厚生労働大臣の見解をお聞かせください。(拍手)
 次に、有期雇用の原則一年を原則三年にする上限延長についてお伺いいたします。
 民法六百二十八条は、有期雇用の契約期間途中での解約に関して、労働者の退職の自由を制限する一方、労基法第十四条は、長期労働契約による人身拘束の弊害を排除するため、契約期間の最長期間を原則一年に制限しているわけであります。
 ところが、今回の上限延長により、最長三年間、専門職は五年間の有期雇用を締結した場合、その間、退職の自由が認められず、使用者に拘束されることになるわけであります。
 有期労働契約については、これまでも、契約途中でやめたいが、募集費用や教育訓練費用の賠償を請求するとおどされているといった労働相談が多数寄せられているわけであります。上限延長は、使用者側にとっては、まことに使い勝手のよい道具となりますが、働く側にとっては、再雇用の保障がない不安定雇用であるばかりでなく、退職の自由が認められない期間が単に延長されるだけであり、転職の機会あるいは職業選択の自由が狭められることになります。
 本来、有期雇用の契約期間中であっても労働者には退職の自由が認められるべきであると考えますが、厚生労働大臣の御見解を承りたいと思います。(拍手)
 「労働は、商品ではない。」この言葉は、一九四四年、ILO総会のフィラデルフィア宣言でうたわれた有名な基本原則であります。労働とは、その人の人格や尊厳と切り離すことのできないものであり、この精神は時代と国境を超えて変えることなくはぐくんでいかなければならないものであると考えます。
 労働基準法は、その第一条に、「労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべき」水準、すなわち、働く人たちが健康でしかも自己の創造性を主体的に展開し、かつ、生き生きとして個性を発揮しながら、一人一人が社会の主役になることができる生活水準を労働条件の原則としてうたっているわけであります。
 その意味においても、本改正案は、まさに先人の幾多の努力と英知の結晶である労働基準法の基本理念を根本から否定し、雇用不安、社会不安を増大させ、日本の雇用関係、ひいては日本社会を根底から壊しかねないものであることを強く指摘し、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕
内閣総理大臣(小泉純一郎君) 城島議員にお答えいたします。
 雇用情勢に対する認識及び見通しについてでございます。
 現下の雇用情勢については、完全失業率が高水準で推移するなど、引き続き厳しい状況にあるものと認識しております。一方、新規求人はここのところ増加しており、この背景には雇用のミスマッチがあるものと考えられます。
 日本経済は構造改革の途上にあり、雇用環境については、当面、厳しい状況が継続することは避けられないと考えておりますが、政府としては、さまざまなサービス分野において規制改革を進めるなどにより、いわゆる五百三十万人雇用創出を目指して新規雇用の創出を図るとともに、平成十四年度補正予算及び平成十五年度予算とを合わせた切れ目のない執行を通じ、早期再就職の支援やミスマッチの解消など、雇用のセーフティーネットに万全を期しているところであります。
 解雇に関する政策でございます。
 今回の改正における解雇についての規定の新設は、最高裁の判例で確立しているものの、これまで労使当事者間に十分に周知されていなかった、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として認められない解雇は解雇権の濫用として無効となるとの解雇権濫用法理を法律上明確にしようとするものであります。
 これにより解雇に関するルールが社会全体に認識され、解雇をめぐるトラブルの防止、解決につながるものと考えており、雇用不安の拡大や不当解雇の助長を招くものとは考えておりません。
 いずれにしても、厳しい雇用失業情勢の続く中、使用者に解雇が自由にできるというような誤解が生じることのないよう、この規定の趣旨について周知徹底を図ってまいります。
 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)
    〔国務大臣坂口力君登壇〕
国務大臣(坂口力君) 城島議員にお答えを申し上げたいと存じます。
 今回の解雇に係る規定についてお尋ねがございました。
 解雇訴訟において、現実に、使用者により多くの主張立証活動を行わせるといった裁判実務上の取り扱いがなされております。今回新設する規定は、これまで判例法理として裁判実務に定着していたものを法律上規定するものでありまして、このような裁判実務上の取り扱いを変更することを意図するものではございません。また、裁判実務上の取り扱いも変わらないものと考えております。
 政府としては、この規定により解雇に関するルールが社会全体に認識され、合理的な理由を欠く解雇が少なくなるなど、解雇をめぐるトラブルの防止、解決に資するものと考えているところでございます。
 就業規則と解雇の関係についてお尋ねがありました。
 これまでの解雇訴訟におきましては、就業規則の定め方等により使用者が当該就業規則において解雇事由を限定したものと解される場合には、当該事由に該当する事実のないことを判断することにより、解雇権の濫用法理を当てはめるまでもなく、解雇の効力を否定する判断がなされてきたところであります。
 今回の改正法案中、十八条の二の前段部分は、民法第六百二十七条第一項を確認的に規定したものであり、就業規則で使用者がみずから解雇権を制限することを否定するものではありません。
 したがって、このような場合において、主張立証に係る裁判実務上の取り扱いは、従前と何ら変わらないものと考えております。
 有期労働契約期間中の退職についてお尋ねがございました。
 御指摘のように、退職の自由を保障する旨規定することは、労働者からの労働契約の中途解除についてのみ、契約解除により現に生じた損害は損害を発生した側が補償するという民法の原則に修正を加えるものでありますが、このような制度の創設は社会的なコンセンサスが得られておらず、困難であると考えております。
 しかし、期間途中でありましても、やむを得ない事由が存在する場合には、現行法において、労働者から即時解約することが可能であるとされているところでございます。
 以上、三点についてお答えを申し上げました。(拍手)
    〔国務大臣森山眞弓君登壇〕
国務大臣(森山眞弓君) 城島議員にお答えを申し上げます。
 まず、裁判官は立法者意思に拘束されないのではないかというお尋ねがございました。
 議員御指摘のとおり、憲法第七十六条第三項によれば、裁判官は憲法及び法律にのみ拘束されるものであるとされておりますが、裁判官が法律の条文を解釈するに当たり、立法者意思はその重要な参考資料になるものとされております。
 次に、立法者意思で条文を補充するような前例に関するお尋ねがございました。
 一般的に申し上げれば、法律は多かれ少なかれ解釈の余地があるものでございますが、裁判で特定の規定の解釈について争いが生じた場合において、裁判所が法制定時の立法者意思を考慮してその解釈をした例は少なくないものと承知しております。(拍手)
    ―――――――――――――
議長(綿貫民輔君) 藤島正之君。
    〔藤島正之君登壇〕
藤島正之君 私は、自由党を代表して、ただいま議題となりました労働基準法の一部を改正する法律案について質問いたします。(拍手)
 まず、この法律案の提案理由は、我が国の経済社会を取り巻く状況が変化し、産業・雇用の構造変化が進む中で、経済社会の活力を維持向上させていくためと説明しております。
 しかし、そのためには、前提として、日本の経済社会の変化をどのようにとらえ、将来の経済社会、ひいては日本の国家像をどう描いていこうと考えているのか、これを明確にしなければなりません。そうでなければ、この国の変化に伴う国民の将来不安を解消し、国民自身が真に自立して未来設計を掲げるようにすることはできないからであります。
 小泉総理の目指す経済社会の将来像とは、一体どのようなものなのでしょうか。総理就任から二年の時が過ぎました。私たちは、小泉総理の就任当初から、総理の描く国家像とは何か、総理の絶叫する構造改革の先にどのような経済社会が待っているのかと問い続けてまいりました。しかし、総理は、構造改革なくして景気回復なしといったお題目に終始し、まさにお題目にすぎません、その答えを示そうとしておりません。
 実際、真の構造改革は何一つ果たされていないのであります。これまでのなし崩し的、先送り的な政策に構造改革という名前をつけただけにすぎないのであります。
 例えば、医療制度改革は、構造改革と称しておきながら、ふたをあけたら、医療費負担増と保険料の引き上げだけで、制度設計の見直しはすべて先送りしました。道路公団の民営化にしましても、確かに口火を切ったのは総理でしょうが、何の具体的な理念もないままに委員会にただ丸投げしただけであります。高速道路の整備にどのような将来像があるのか、だれにも全くわかりません。
 一方で、供給過剰を徹底的にたたくだけで、需要の喚起を促す政策は全く行わず、理念なき緊縮経済政策を続けた結果、デフレの長期化や景気の底割れによって、国民に塗炭の苦しみを強いているのであります。
 小泉総理は、二、三年のマイナス成長は我慢しようと最初から言っていたじゃないですか、そのように言いますが、現在の深刻な経済状況は、構造改革が進んでいるから一時的に後退している、そういうものではありません。総理の経済政策の失敗、これは明らかであります。これを構造改革という言葉でごまかしているだけであります。
 そのような小泉総理であってみれば、日本の国民一人一人の自立したライフスタイルの将来像を全く描くことなどできないのは当然であります。個人の雇用のあり方、雇用の危機が訪れた際のセーフティーネットのあり方、また、病気や介護の世話になるときに頼れる基礎的社会保障のあり方、それらについて明確な将来像や連携したシステムがなければ、国民は自分の責任でどうやって将来設計をしていけばいいのかわからないではありませんか。その結果、今、日本の経済社会は漠然とした不安感に襲われ、国民生活も企業活動も萎縮し、経済危機に拍車をかけているのであります。
 こうした国民の先行き不安と経済社会の悪循環について、総理はどのような御認識でいるのでしょうか。また、その悪循環を断ち切るために、経済運営の失敗を率直に認め、不況期の緊縮経済政策という小泉政策を変えるべきであると私は思います。総理の見解はこれまでどおりなのでしょうか。お伺いいたします。
 労働雇用の基本的なルールを整備していくことは、労働者の生活スタイルや将来設計に直結する問題でもあります。したがって、見直しに当たっては、明確な労働雇用の将来像を示しながら、それに連携する経済社会システムもあわせて将来像を示していかなければなりません。
 例えば、経済社会環境の多様化に合わせて雇用・労働の仕組みを変えようというのであれば、あわせて、社会保障制度や税制のあり方も抜本的に整備しなければなりません。パッケージとして基盤整備されなければ、どんなに女性や高齢者の雇用拡大を掲げても、当事者である女性や高齢者自身は新しい就業への挑戦にちゅうちょし、不安は解消されないからであります。
 また、同一労働・同一賃金といった基本原則を明確にしなければ、雇用契約の違いによる待遇の差別といった問題について解消を図ることなどはできないのであります。
 政府が就業スタイルの多様化を促し整備しようとするのであれば、それに見合う、公正公平で、だれもがわかる基本原則を示すべきであると考えます。
 小泉総理にとって、公正公平で、だれもがわかる将来の雇用・労働環境のあり方とはどのようなものとお考えなのか、お伺いいたします。
 あわせて、坂口厚生労働大臣には、今後どのような理念に基づいて今回の改正案を提出されたのかをお伺いいたします。
 次に、法案の内容に関連して質問いたします。
 まず、解雇ルールの法制化についてお聞きいたします。
 今回の改正案では、解雇にかかわる紛争の防止と解決のため、使用者が有する解雇権を濫用した場合には無効とするという最高裁判例に基づく解雇権濫用法理を成文化することで、一定の解雇ルールを明確化することを掲げております。
 しかし、ここで改めて、長年、解雇ルールを判例による法理に依存してきたことに対して、法体系の整理を含めて慎重な検討が必要であると考えるわけであります。
 法案では、解雇権濫用法理の前文に、「使用者は、この法律又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解雇することができる。」と明示しています。
 しかし、解雇に関しては、現行法では既に民法六百二十七条の規定などもあり、今回改めてここに明示することにどのような意味があるのでしょうか。さらに、この条文では、解雇は法律上で制限される一部を除いて原則自由という解釈を前面に押し出し、解雇無効はごく例外的に限定されたことであるという位置づけで読めますが、そうした解釈でいいのか、坂口厚生労働大臣にお伺いいたします。
 また、法案にある、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」というのは、具体的には、だれが何をもって判断することになるのでしょうか。運用上は変わらないということであれば、司法が判断するということであり、労働基準監督署等の行政機関は特に関与の仕方は変わらないのでしょうか。坂口厚生労働大臣の御説明を求めます。
 以上の意味からしますと、この解雇に関する規定は、労働基準法上の問題なのか、民法上の問題なのか、政府としてはどちらの問題としてとらえることが適当であるとお考えなのでしょうか。労働基準法で整理すべきことであるとするならば、労働者保護の観点から、不当解雇の疑いがあればすぐに行政機関が実効的に関与できるよう法整備を強化することや、民法上の法体系も踏まえて整理することもあるのではないかと考えます。この点について、坂口厚生労働大臣にお伺いいたします。
 次に、有期労働契約の期間上限の延長についてお聞きいたします。
 改正案では、雇用の多様化が進展する中で、有期労働契約が労使双方にとってより有効な雇用形態として活用させるため、契約期間の上限を一年から原則三年、一部を五年へ延長することとしております。また、有期労働契約の締結・更新・雇いどめに関する基準を策定することとしております。
 多様な就業形態を整備することは少子高齢社会において必要不可欠であることは言うまでもありません。その際、基本として忘れてならないことは、どのような就業形態であれ、労働者の意思が十分に反映される均等な労働環境の確保にあるということであります。
 有期労働契約を延長することによって、どのような就業環境の変化がもたらされ、労働者側にとっては具体的にどのようなメリットが生まれるとお考えか、厚生労働大臣にお伺いいたします。
 また、有期労働契約の締結・更新・雇いどめに関する基準をつくることについては、まさに契約に関する問題であり、トラブルになりやすい部分でございます。本来は、こうした点について、一定の基本方針を法律で定め、方向性をはっきりさせるべきではないかと思うわけでありますが、この点について、坂口厚生労働大臣の説明を求めます。
 最後に、経済産業形態の多様化や人口高齢化の進展に伴い、それぞれのライフスタイルの中で労働価値を見出すため、多様な労働環境を準備することは必要なことであります。
 しかし、整備を進めるほど、税制や社会保障などのセーフティーネットのひずみが広がり、この不安や負担が労働者にはね返ってくるのでは、逆に、生活の安心、安定を脅かすものになりかねません。個別の論点を整理する前に、政府の労働行政について、他の政策とあわせて検証し、整理すべきではないかと思います。この点について小泉総理にお伺いし、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕
内閣総理大臣(小泉純一郎君) 藤島議員にお答えいたします。
 日本経済の現状及び経済政策についてでございます。
 日本経済は、世界的規模での社会経済変動の中、単なる景気循環ではなく、複合的な構造要因による景気低迷に直面しております。また、不良債権や財政赤字など負の遺産を抱え、戦後経験したことのないデフレ状態が継続しているなど、厳しい状況にあると認識しております。
 こうした中、小泉内閣は、日本経済の再生のためにはデフレ克服を目指しながら改革を進める以外に道はないとの認識のもと、改革の基本戦略や将来の展望を国民に明確に示しつつ、構造改革を推進し、経済情勢に応じては大胆かつ柔軟に対応するという一貫した方針で経済運営に当たってまいりました。
 改革は道半ばにあり、改革の成果が明確にあらわれるまでにはいまだしばらく時間が必要ですが、引き続き、デフレ克服に向け、日本銀行と一体となって総合的に取り組むとともに、各般の構造改革をさらに加速することにより、国民全体の不安感を解消するとともに、民間需要主導の持続的な経済成長の実現を図っていく考えであります。
 なお、十五年度予算においては、四十二兆円しか税収がない中で三十六兆円の国債発行を行っているなど、小泉内閣が緊縮経済政策を行っているとの指摘は当たらないと考えます。
 将来の雇用労働環境のあり方についてでございます。
 産業構造や企業活動、労働者の就業意識等が大きく変化する中、我が国の経済社会の活力を今後とも維持していくためには、労働者が多様な働き方を選択できる可能性を拡大するとともに、働き方に応じた適正な労働条件を確保し、だれもが安心して働ける労働環境を整備していくことが重要と考えております。そうした中で、個々の労働者が自己の個性や能力を十分発揮するとともに、全体として企業活動自身が活性化していくものと考えます。
 なお、その際、個々の労働者は能力や努力に応じ公正公平な処遇を受けるべきものと考えております。
 政府の労働行政のあり方についてでございます。
 我が国の経済社会を活力ある豊かなものとしていくためには、社会を支える一人一人の国民がその個性や能力を十分発揮でき、安心して将来を設計することのできるような環境を整備していくことが重要であります。
 このような認識のもと、今回提出している労働基準法改正案など労働面の改革を進めているところですが、税制や社会保障制度も含め、多様な労働環境に適合できるよう、今後とも、必要な改革を総合的に進めてまいります。
 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)
    〔国務大臣坂口力君登壇〕
国務大臣(坂口力君) 藤島議員にお答えを申し上げたいと存じます。
 今後の雇用労働環境のあり方と今回の改正案についてのお尋ねがございました。
 我が国の経済社会が大きく変化する中で、その活力を維持向上させていくためには、産業構造、企業活動の変化や労働者の就業意識の変化に対応して、個人が持てる力を有効に発揮できる社会を実現していくことが重要であると思います。労働重視型社会を掲げまして、その具体化を今進めているところでございます。
 今回の労働基準法の改正は、そのような社会の実現を目指しまして、労働者が主体的に多様な働き方を選択できる可能性を拡大しますとともに、働き方に応じた適正な労働条件を確保する観点から行おうとするものでございます。
 今回の解雇に係る規定についてお尋ねがございました。
 解雇に関しましては、いわゆる解雇権濫用法理が裁判上確立しておりますが、しかしながら、これにより使用者の解雇権の行使が一定の場合には無効となることがあることは、労使当事者に十分に周知されているとは言えない状況にございます。
 今回の解雇に係る規定につきましては、労働基準法において、解雇に関する基本的なルールを明確にすることを目的として規定しようとするものでありますが、これを規定するに当たりましては、民法第六百二十七条第一項に規定されている内容とその解雇権の行使が権利濫用となる場合とを一体として規定することが適当であると考えたところでございます。
 今回の解雇に係る規定において、解雇無効は例外的に限定された位置づけのものであるのかといったお尋ねがございました。
 今回の解雇に係る規定は、解雇権濫用法理を確立した最高裁判決を踏まえまして、解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合には無効となる旨を規定しようとするものであります。
 したがって、これまで判例法理において解雇が無効と判断されてきた範囲を変更することを意図するものではありません。また、今後もその範囲は変わらないものと考えており、解雇が無効とされる範囲は例外的に限定されたものではありません。
 今回の解雇に係る規定についての行政機関の関与に関するお尋ねがございました。
 今回の解雇に係る規定は、解雇権濫用法理を確立した最高裁判決を踏まえまして、解雇が無効となる要件等を規定しようとするものであり、解雇の効力の判断は裁判所が行うこととなるものと思っております。
 都道府県労働局を初めとする関係行政機関におきましては、判例の周知等により、この規定の趣旨について使用者及び労働者の理解を促進しますとともに、解雇をめぐる紛争について解決を求められた場合は、引き続き、個別労働紛争解決制度の適切な運用によってその簡易迅速な解決を図っていきたいと考えております。
 今回の解雇に係る規定の性格についてお尋ねがございました。
 解雇は労働条件にかかわる重要な問題の一つでありますとともに、解雇をめぐる紛争が労働条件をめぐる紛争において大きな割合を占めている現状にあります。
 解雇をめぐる紛争は民法上の契約終了の効力にかかわる問題ではありますが、労働基準法が労働条件に関する基準を定めた法律であることにかんがみまして、この法律に解雇の民事的効力に関する事項を定めることとしたものでございます。
 有期労働契約の上限延長によるメリットについてお尋ねがございました。
 今回の改正案は、有期労働契約が労使双方から良好な雇用形態の一つとして活用されるようにするため、有期契約労働者の多くが契約の更新を繰り返すことにより一定期間継続して雇用されている現状等を踏まえまして、有期労働契約の期間の上限の延長等の見直しを行おうとするものであります。
 これにより、有期労働契約により働く労働者におきましては、三年までの契約の締結が可能となることにより労働者の雇用の選択肢が拡大し、雇用の安定が図られ、長期的視点からの能力やキャリア形成が可能になるといったメリットがあるものと考えております。
 有期労働契約の雇いどめ等に関する基準についてのお尋ねがございました。
 有期労働契約におきましては、雇いどめ等をめぐるトラブルが大きな問題となっておりますから、今回の改正におきましては、厚生労働大臣が有期労働契約の締結及び更新・雇いどめに関する基準を定めまして、使用者に対し必要な助言指導を行うものといたしております。
 この基準におきましては、使用者が講ずべき措置として、労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項を定めることを法律の規定上も明らかにしているところでありまして、この事項を含め、契約の締結及び更新・雇いどめをめぐる紛争の防止や解決に資するよう、必要な内容を定めてまいりたいと考えているところでございます。(拍手)
    ―――――――――――――
    〔議長退席、副議長着席〕
副議長(渡部恒三君) 山口富男君。
    〔山口富男君登壇〕
山口富男君 日本共産党を代表して、労働基準法の一部を改正する法律案について、総理並びに関係大臣に質問いたします。(拍手)
 まず、労働基準法の基本理念についてです。
 労働基準法は、国民の生存権をうたった憲法が第二十七条で、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」としたことに基づくものです。
 一九四五年まで、我が国の労働者は、劣悪な労働条件と低賃金、世界に類のない長期労働契約など、「女工哀史」にも示されたような厳しい状態を強いられてきました。こうした歴史を踏まえて、憲法は、労使関係の契約自由の原則を修正し、国が労働条件などの基準を積極的に提示することによって、違反者には罰則を科し、労働者の保護を図ることにしたのです。
 ところが、一九八〇年代半ば以降の労働法制の相次ぐ改悪は、八時間労働、直接雇用の原則などを崩し、サービス残業や長時間・過密労働、不安定雇用を広げてきました。しかも、解雇、リストラによる失業が増大し、二〇〇二年度は、失業率で五・四%、完全失業者で三百六十万人と、過去最悪を記録するに至っています。
 雇用の維持と安定を図ることは、今や緊急の社会的要請です。安心して働くことができずに、どうして人間らしく生きることができるでしょうか。今こそ、労働者保護を基本理念とする労働基準法が本来の役割を発揮すべきときです。
 以下、法案に即して具体的にお聞きしたい。
 第一に、解雇にかかわる規定です。
 我が国でも、解雇には正当な理由が必要というルールが、判例法上、確立してきました。
 一九七五年、最高裁判所は、解雇に対する考え方として、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認できない場合には、解雇は権利の濫用として無効になるとしました。さらに、一九七九年、東京高等裁判所は、経済的理由に基づく整理解雇についても、人員削減の必要性、解雇回避の努力、被解雇者選定の合理性、適正な手続の四要件を満たさない解雇を無効としました。
 総理、今求められているのは、こうして確立してきた解雇規制のルールを労働基準法に明記し、労働者の雇用の安定を積極的に図ることではありませんか。(拍手)
 ところが、本改正案は、法の規定などで解雇が制限されている場合を除き、「労働者を解雇することができる」としています。使用者の解雇権限を労働基準法にあえて書き込むことは、解雇は原則自由という誤った考え方、あるいは不当解雇の助長さえ促すことになりかねません。これでは、整理解雇の四要件を初め、確立してきた解雇規制のルールを掘り崩すばかりか、労働者を保護するはずの労働基準法の基本理念まで変質させるではありませんか。
 本改正案は、ただし書きで、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、権利の濫用であり、「無効とする」としています。
 問題は、現に解雇、リストラが大規模に行われているもとで、「客観的に合理的な理由」や「社会通念上相当である」と認められる場合とは一体何かということです。例えば、電機メーカーなどは国際競争を勝ち抜くとして大量の人員整理を進めていますが、これらは「客観的に合理的な理由」と言えるのですか。権利の濫用ではありませんか。明快な答弁を求めます。(拍手)
 さらに、解雇の不当性を裁判などで争った場合、本改正案では、労働者側に解雇の不当性を立証する責任を負わせるのですか。それとも、使用者側に解雇の正当性を立証する責任があるのか、明確にしていただきたい。
 本改正案は、就業規則の退職に関する事項に解雇の事由を明記するよう求めています。そこで尋ねますが、使用者が一方的に解雇の事由をつくることになれば恣意的な解雇を増大させるのではありませんか。そうならない保証はどこにあるのか、答弁を求めます。
 第二に、裁量労働制についてです。
 一九八八年に裁量労働制が導入された際には、業務の性質上、通常の方法による労働時間の算定が適切でない事業を専門業務型裁量労働とし、その対象業種は五業種に限定されました。その後、これを十八業種にまで拡大し、九八年には、労使委員会での合意を条件に、業務の種類を限定しない企画型裁量労働を新設しました。
 幾ら働いても決めた時間しか働いたと認めない裁量労働制は、実際の労働時間の把握を困難にします。しかも、現実には、法律要件を満たさない裁量労働制が広く導入され、これが違法なサービス残業の温床となってきました。厚生労働省も、二〇〇一年四月にサービス残業解消通達を出して、企業にその是正を求めたところです。
 総理、こうした実態からいっても、裁量労働制は、あくまで限定的なものにとどめ、原則禁止とすべきです。少なくとも、無限定に裁量労働制を拡大しない措置こそ今とるべきではありませんか。
 ところが、本改正案は、企画型裁量労働について、「事業運営上の重要な決定が行われる事業場」という規定を削除し、本社機能以外の事業場でも広範囲に企画型裁量労働を実施できるようにしています。しかも、労使委員会の全員の合意を五分の四の多数に変え、労働基準監督署への労使委員会の設置の届け出を廃止するなど、企画型裁量労働を導入する手続を大幅に緩和しています。
 坂口大臣、なぜ、今、導入要件を大幅に緩和する必要があるのですか。これは、いわゆるホワイトカラー労働者のすべてに企画型裁量労働の適用を広げるものではありませんか。
 さらに、本改正案は、裁量労働者への健康及び福祉を確保するための措置や苦情の処理について、使用者側の責任を求めています。これは、過労死、過労自殺、メンタルヘルス障害の多発という、まさに裁量労働が引き起こす問題の深刻さを裏書きするものにほかなりません。
 しかし、本改正案では、労働基準監督署への裁量労働者の労働時間の状況などの定期的報告を廃止するとしています。過労死判定の基準となる労働時間は、裁量労働者の場合、どのように把握するのですか。肝心の労働時間の把握を困難にしておいて、過労死、過労自殺などの深刻な事態は解消に向かうのですか。これでは、労災認定すら困難になるではありませんか。坂口大臣の答弁を求めます。(拍手)
 第三に、有期雇用契約についてです。
 派遣や契約社員、パートタイムなど非正規雇用労働者は、既に雇用労働者の三割に上っています。内閣府が本年三月に発表した「雇用創出と失業に関する実証研究」によれば、九五年以降、大企業を中心に、フルタイム雇用の減少した事業所でパート雇用の増加が最も大きく、パート雇用の四割を大企業が占めています。この結果に見られるように、大企業を中心にして、常用雇用を非正規雇用に置きかえる事態が進んでいます。
 派遣や契約社員、パートなど非正規雇用労働者の賃金や労働条件は、正社員との均等待遇が保障されず、極めて劣悪な状態に置かれています。こうした現状を放置したまま、人件費削減、安易な雇用調整の手だてとして派遣や契約社員の導入を拡大することは、決して許されるものではありません。
 我が党が今国会に短時間労働者、有期雇用労働者等と通常の労働者との均等な待遇の確保等に関する法律案を提出し、パート、有期労働者と正社員との均等な待遇の確保、雇用管理の改善を図るよう求めているのも、こうした現状を踏まえてのことです。
 ところが、本改正案には、有期雇用契約を結ぶ労働者の雇用安定のための施策が全くありません。均等待遇や雇用の安定をどう進めるのか、明確にしていただきたい。
 さらに、有期雇用契約の期間の上限を一年から三年に延ばし、専門的労働者と六十歳以上の労働者の場合には、三年を五年に延ばしています。これでは、労働コストの大幅削減を目当てに常用の雇用を有期雇用に置きかえる道をこれまで以上に広げることになるのではありませんか。また、新卒者に有期雇用契約が広がれば、総理、事実上の若年定年制に道を開く危険さえあるではありませんか。
 最後にただしたいのは、労働政策審議会の最終案で示された、補償金を払えば解雇できるとした問題です。
 これは、判決で解雇が無効であることが確定した場合でも、補償金を払えば、労働契約の終了、打ち切りを裁判所に請求できるという驚くべき内容でした。厳しい批判の前に本改正案への盛り込みが断念されたのは当然のことです。金を払えば解雇できる、職場にも戻さないということがまかり通れば、労働者保護どころか、労働者から、裁判を受ける権利も、人間らしく働く権利も奪うことになるからです。
 ところが、三月二十八日に閣議決定した規制改革推進三カ年計画(再改定)では、「「金銭賠償方式」という選択肢を導入することを検討し、その結論を早急に取りまとめ、」今国会中に「所要の措置を講ずる。」としています。一たん本改正案への盛り込みを断念しておきながら所要の措置を講ずるなど、断じて許されません。重ねて、金銭賠償方式の導入中止を求めるものです。(拍手)
 労働基準法の基本理念に反する本改正案に対して、連合、全労連、全労協など、当事者である労働者、労働組合はもちろんのこと、日本弁護士連合会を初め法曹諸団体、労働法と憲法の研究者からも厳しい批判が本改正案に寄せられています。
 本改正案は、我が国の労働者が二十一世紀に人間らしく生き、そして安心して働くことを保障する上での基本的な前提を掘り崩すものです。本改正案の撤回を強く求め、質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕
内閣総理大臣(小泉純一郎君) 山口議員にお答えいたします。
 解雇に関する規定についてでございます。
 今回の改正における解雇に関する規定の新設は、最高裁の判例で確立しているものの、これまで労使当事者間に十分に周知されていなかった解雇権濫用法理を法律上明確にしようとするものです。
 これにより解雇に関するルールが社会全体に認識され、合理的な理由を欠く解雇が少なくなるなど、解雇をめぐるトラブルの防止、解決につながるものと考えており、不当解雇を助長するものとは考えておりません。
 なお、解雇の理由が「客観的に合理的な理由」や「社会通念上相当である」場合に該当するか否かは、リストラによる整理解雇を含め個々の事例ごとに判断されるべきものと考えており、一概に類型化することは困難であると考えております。
 いずれにしても、政府としては、判例を周知すること等により、この規定の趣旨について使用者及び労働者の理解の促進に努めてまいります。
 主張立証責任についてでございます。
 解雇権濫用法理のもとでは、解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないことを基礎づける事実の主張立証責任は、従来より労働者側にあるものとされており、今回の改正により主張立証責任の所在が変わるものではありません。
 就業規則についてでございます。
 今回の改正において、就業規則に解雇の事由を記載することを法律上明確に義務づけることにより、その作成段階で解雇の事由が整理されることを通じ、労使当事者間において解雇についての事前の予測可能性が高まり、解雇をめぐるトラブルの防止につながるものと考えております。
 また、就業規則に記載された事由による解雇であっても、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は無効となるものです。
 したがって、今回の改正により、使用者の恣意的な解雇が増大するものとは考えておりません。
 裁量労働制についてでございます。
 裁量労働制については、事業運営に関する企画立案の業務など、成果等が必ずしも労働時間の長短に比例しない性格の業務を行う労働者が増加する中で、このような労働者が主体的に多様な働き方を選択できる可能性を拡大するために、その選択肢の一つとして有効に機能するようにすることが必要と考えております。
 このため、今回の改正においては、労使の十分な話し合いに基づくことを前提とした裁量労働制の基本的枠組みを維持しつつ、その導入、運用に当たっての要件、手続を緩和することとしたところであり、裁量労働制が無限定に拡大することはないものと考えます。
 有期雇用契約についてでございます。
 有期労働契約の上限の延長により、現在よりも長期の雇用も可能となることから、労働者の雇用の選択肢が拡大し、雇用の安定につながるものと考えます。
 一方、労働者の待遇は職務内容などに応じて決定されるものであり、有期契約労働者と常用労働者との間で待遇の均等化を一律に図ることは困難と考えます。
 なお、各企業における常用労働者と有期契約労働者の構成については、企業の事業戦略等の一環として、人員構成・配置、キャリア形成のあり方など種々の観点を総合的に考慮して定まるものであり、今回の改正により、常用雇用の有期雇用への代替など、御懸念のような事態を直ちに招くものとは考えておりません。
 解雇の金銭的解決制度についてでございます。
 解雇の金銭的解決制度については、その申し立ての要件や金銭の額等のあり方について、労使からさまざまな意見が出されたことから、今般の改正法案には盛り込まないこととし、引き続き検討することとしたところであります。
 いずれにしても、金銭的解決制度の導入については、労使の意見を十分に踏まえた上で対応することが必要と考えております。
 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)
    〔国務大臣坂口力君登壇〕
国務大臣(坂口力君) 山口議員にお答えを申し上げたいと存じます。
 まず、裁量労働制についてお尋ねがございました。
 企画業務型裁量労働制につきましては、労働者が主体的に多様な働き方を選択できる可能性を拡大するために、その選択肢の一つとして有効に機能するよう、その導入、運用に係る要件、手続を緩和しようとするものであります。
 見直し後においても、導入に当たっては労使の十分な話し合いを必要とすることなど、制度の基本的な枠組みが維持されることから、裁量労働制の対象者が無限定に拡大することはなく、制度の適正な運営が確保できるものと考えております。
 裁量労働制の適用対象者に関する労働時間の把握についてお尋ねがございました。
 企画業務型裁量労働制の適用対象者の労働時間につきましては、健康・福祉確保措置の前提として、既に大臣告示において、出退勤時間または入退室時間の記録等により把握することとしているところであります。
 今回の見直し後においても、企画業務型裁量労働制の適用対象者について講じる健康・福祉確保措置につきましては、適用対象者の労働時間の状況も含め、引き続き労働基準監督署に報告させることとしているところでございまして、御懸念のような事態は生じないものと考えております。(拍手)
    ―――――――――――――
副議長(渡部恒三君) 金子哲夫君。
    〔金子哲夫君登壇〕
金子哲夫君 私は、社会民主党・市民連合を代表して、ただいま提案されました労働基準法の一部を改正する法律案に対し、小泉総理並びに坂口厚生労働大臣にお尋ねいたします。(拍手)
 まず、小泉総理にお聞きいたします。
 勤勉性や技術力を誇る我が国労働者の特性を踏まえた雇用創出ビジョンもなく、さらには、日本経済の底力そのものであった中小企業再生への確たる政策提示もないまま、時の流れに身を任せるばかりという小泉政権の無気力さは、次のてんまつからもあらわとなっております。
 有期労働契約期間の上限延長を本改正案のトップバッターに据えるという手法をしてであります。多様な就業形態を持った柔軟な労働をつくり出していくことで、経済社会の活力を維持したいとの腹づもりがあるのかもしれません。しかし、労働の柔軟化が我が国の現状からすれば一層の不安定雇用を増大させることは、疑いようのない事実ではありませんか。
 不安定雇用の拡大が、労働者の生活不安を拡大し、前向きな消費性向を冷やし、収益減少による企業体力の劣化、そのことがパートや有期などの非正規労働者の急増をもたらし、結果的には勤労者全体の所得低迷を蔓延化させ、ひいては、一層の物余り、消費不況の拡大へという経済総収縮の回路をより強固にする作用として働くしかないことは、火を見るよりも明らかであります。
 すなわち、市場環境悪化や業績不振への対応として、リストラ、賃下げなど人件費カットに手を染めることは、個々の企業行動からすれば合理的に見えるかもしれませんが、国民経済全体から見ればデフレ不況を増幅し、自分で自分の首を絞める悲劇を生むことにつながります。小泉不況の深化とは、合成の誤謬の軌跡そのものと言えます。
 今回の改正内容、とりわけ有期労働契約期間の上限延長措置、職種の拡大は、デフレ不況下、禁じ手以外の何物でもないことは経済・雇用政策のイロハでしょう。この常識をなぜ欠落させてしまったのか、納得できる答弁を求めます。
 非正規雇用の拡大が、均等待遇や訓練機会の充実など雇用の質改善のための条件整備を軽視し、人件費抑制を追求する短兵急な成果主義にのっとって強要されるならば、人的資源の枯渇を招くことは不可避であります。
 その意味で、有期労働者の適正な労働条件の確保、いわゆる均等待遇原則に一切触れられていないこと自体が、規制緩和論者の声高な主張にひれ伏してきた小泉流雇用対策の内実を見事に浮き彫りにしています。
 労働基準法は、その名のとおり、労働者が人間らしい生活を営むことを保障していく観点から、労働条件の最低基準を規定する極めて重要な法規です。むしろ、他法案との横並び意識を克服して、憲法で保障する生存権、労働権を実質的に実現するための改正水準が望まれているのであります。
 職務が通常の労働者と同じであり、かつ、労働者の人材活用の仕組みや運用等も通常の労働者と同様である非正規労働者の取り扱いについては、両者の処遇の決定方式を合わせるなど同一処遇決定方式を採用する、ここから始めるならば、波及性と整合性を兼ね備えるだけではなく、事の順逆もわきまえた提起たり得るのではありませんか。明快な答弁を求めます。
 日本経済百年の大計を定めるに等しい重みを持つとの認識を、与野党の違いを超えて共有する必要があります。本法の審議入りに際し、せめて均等待遇制度導入の目途を明らかにする責任が政府にはあるのです。その用意、決意がおありか、確たる答弁を求めるものであります。
 次に、坂口大臣にお尋ねいたします。
 労働契約期間の上限が一年から三年になることの影響は、とりわけ女性において顕在化せざるを得ないでしょう。二十代前半から一期ないし二期の間雇って、三十前後で終わりにするなど、女性労働者に雇用・人件費管理の調整弁的位置づけしか与えてこなかった、かつての若年定年制の復活に手をかすことは避けられないのではありませんか。そうならないという確証をどうして持ち得るのか、お聞かせください。
 現在、パート労働者の多くは有期雇用労働者で、契約は三カ月から一年という期間ごとに反復更新されています。その契約が一定期間、例えば二年から五年程度延長されると、雇用期間に定めのない労働者、つまりは正規雇用労働者として定年まで雇用される期待権が法的に生まれるとの判例が積み上げられてきた経緯があります。
 ところが、政府案のように有期労働契約の上限が三年となれば、有期雇用労働者は有期契約のまま雇いどめとなる可能性が格段に高くならざるを得ないのではありませんか。納得できる答弁を求めます。
 また、契約上限の延長は、さきに触れたように、反復更新された労働契約については実質的に期間の定めのないものとみなし、労働者の権利利益を尊重してきた判例の成果を無に帰しかねない危険性を内在することは避けられないのではありませんか。悪影響が懸念されるこの重大問題に対してどのように対処されるおつもりか、具体的にお答えください。
 多くの企業が恒常的に必要な業務に有期労働者を雇い入れているのは、人件費抑制以外に、判例で確立している解雇権濫用法理や労働条件の不利益変更の法理等を免れる余地が大きいことや、契約更新・雇いどめの権能を機動的に行使できるなど、使用者に大きなメリットがあるからにほかなりません。契約期間の上限延長は、使用者のメリットを拡大する一方で、労働者の権利侵害の可能性はそれに比例して高まらざるを得ません。
 政府案は、有期労働契約の締結及び更新・雇いどめに関する基準を定めることができる根拠規定を設けるとしています。しかし、当該基準に基づく指導が罰則を伴わないなど、必要な強制力を何ら備えていないのは不可解そのものであります。
 世界標準を改革のてこにしてきた小泉政権ならば、EU指令に範をとり、有期労働の更新に際しては、客観的な理由の明示及び有期労働の最長継続期間の定めなど、実効かつ罰則を伴う規定として盛り込むべきではありませんか。確たる答弁を求めます。
 本案に企画業務型裁量労働の対象事業場の拡大が何事もないかのように組み込まれているのは、悪い冗談か、それとも、机の上でしか物を見られなくなってしまった厚生労働省の体質がきわまった証左だと受けとめるしかないのでしょうか。
 このままでは、ノルマや期日に追われ、労働時間の配分に全く裁量の余地がないホワイトカラー全般に対する、裁量労働制と称した違法なサービス残業の横行を容認するだけでなく、成果主義賃金などの一体化とも相まって、労働者をさらなる長時間労働あるいは過密労働へと駆り立てることは必至と言わなければなりません。
 厚生労働省が思考停止の状態にあるのならいざ知らず、今、裁量労働制に求められている改革事項とは、導入にかかわる実体要件の厳格化に尽きるのではありませんか。誠実な答弁を求めるものであります。
 解雇規制ルールの法制化の必要性は高まってきています。しかし、解雇がまずありきの解釈を成立させかねない条文の構成は、その目的を損ねていることをどうしてわかろうとしないのか、理解に苦しみます。労働者の権利を忘れたところに労働行政の存在価値があろうはずがありません。
 整理解雇の四要件をそのまま法定化することが使用者の理解が得られないのならば、次善の策として、不当な解雇は許さないとしてきた従来の労働行政の本旨に立ち返るべきなのであります。この立脚点における素直な条文とは、「使用者は、正当な理由なくして労働者を解雇してはならない。ただし、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当であると認められる場合を除く。」などに見出されるべきであります。この趣旨を入れる用意がありますか。
 また、裁判実務上、解雇の正当性にかかわる挙証責任を使用者に負わせてきた実態が、今回の規定によって労働者に転嫁されかねないとの危惧も広がっております。この問題に対する責任ある見解もあわせ、明快な答弁を求めます。
 それにしても、今回の労働基準法の見直しは、一体だれが望んでいるのでありましょうか。結局は、規制緩和に奉仕するための改正に成り下がってしまったとの失望感が強まるばかりであります。
 社民党は、真の意味での労働者の権利を保護するために、ワークシェアリングによる解雇回避義務を新たに加えた整理解雇の五要件にかかわる解雇規制のルール化を行うとともに、雇用の入り口における差別の禁止に始まり、雇用の全ステージでの法的保障を確保する雇用継続保障大綱の枠組みを提唱してきました。この考えに基づき、政府の姿勢をただしてまいりました。
 小泉政権の失政が招いたデフレ不況下、価格競争力を維持するため、企業の行動原理は性急な成果を求めがちであります。ただし、政策的なアプローチまでもがこの発想一色に染められるとき、日本経済は戻りようのない落日の道へと確実に足を踏み入れることになります。このカードをあえて切ろうとする本改正案に強く警鐘を鳴らし、質問の締めくくりといたします。(拍手)
    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕
内閣総理大臣(小泉純一郎君) 金子議員にお答えいたします。
 有期労働契約期間の上限延長についてでございます。
 今回の改正は、労働者が主体的に多様な働き方を選択できる可能性を拡大するとともに、働き方に応じた適正な労働条件が確保されるよう、働き方についてのルールを見直そうとするものであります。中でも有期労働契約の見直しは、これにより有期労働契約が労使双方から良好な雇用形態の一つとして活用され、その結果、労働者の選択肢も拡大するものと考えており、不安定な雇用の拡大など、御懸念のような事態を招くものとは考えておりません。
 均等待遇制度についてでございます。
 パートタイム労働者の増加など就労形態が多様化する中で、公正で、だれもが安心して働くことができるような労働環境を整備していくことが重要な課題であると考えます。
 このため、政府においては、パートタイム労働者について、通常の労働者と同様の職務を行い、人材活用の仕組みや運用等が通常の労働者と同様の実態にある者については、同一の処遇決定方式を用いるなど、通常の労働者との均衡を考慮した公正な処遇を確保する方策を検討しているところであります。
 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)
    〔国務大臣坂口力君登壇〕
国務大臣(坂口力君) 金子議員にお答えをさせていただきたいと思います。
 まず、有期労働契約の上限延長がいわゆる若年定年制につながるのではないかというお尋ねがございました。
 各企業における常用労働者と有期契約労働者の構成等につきましては、産業構造の変化、経済の国際化の進展、労働移動の増加等の中にありまして、企業の人材戦略、事業戦略等の一環として、種々の観点から総合的に考慮されて定まっていくものであると考えております。
 したがって、法制度上の労働契約期間の上限を延長することに伴いまして、個々の企業において、有期労働契約が御懸念のように扱われるものではないと考えております。今までの雇用動向調査等を見ましても、明らかな点でございます。
 有期労働契約の雇いどめについてお尋ねがございました。
 有期労働契約の雇いどめに関しまして、裁判例上、解雇権濫用法理が類推適用された事案におきまして、個々の事案に応じて、契約が反復更新される回数のみではなく、事業の内容、雇用継続を期待させる使用者の言動等を総合的に考慮して判断されており、また、契約が一度も更新されていない場合でありましても、使用者の更新拒否は許されないと判示した裁判例も存在しております。
 このような裁判例の状況をかんがみますと、契約期間の上限が延長されたことにより、契約期間が長くなって契約の反復更新の回数が減少したとしても、裁判における判断は変わらないものと考えております。
 反復更新された有期労働契約についてお尋ねがございました。
 有期労働契約の雇いどめに関しましては、最高裁の判例におきまして、有期労働契約が反復更新され、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状況になるなど一定の事情が存在する場合には、解雇に関する法理を類推適用すべきであるとされております。
 解雇に関する法理を類推適用すべきであるかどうかは、契約期間の長短にかかわらず個別の事案に即して判断されており、有期労働契約の期限の上限を延長することによって裁判における判断は変わらないものと考えております。
 有期労働契約の雇いどめに関する基準についてのお尋ねがございました。
 有期労働契約におきましては、雇いどめ等をめぐるトラブルが大きな問題となっていますことから、今般の改正におきまして、厚生労働大臣が有期労働契約の締結及び更新・雇いどめに関する基準を定めまして、使用者に対し必要な助言指導を行おうとするものであります。
 有期労働契約の更新に関し、最長継続期間の限定等を罰則を伴って規定することは、有期契約労働者が更新を繰り返しながら長期にわたり継続して雇用される現状を踏まえると適当ではないと考えております。
 裁量労働制についてのお尋ねがございました。
 企画業務型裁量労働制については、労働者が主体的に多様な働き方を選択できる可能性を拡大するために、その選択肢の一つとして有効に機能するよう、その導入、運用に係る要件、手続を緩和しようとするものであります。
 見直し後におきましても、導入に当たっては労使の十分な話し合いを必要とすることなど、制度の基本的な枠組みが維持されることから、制度の適正な運営が確保できるものと考えております。
 サービス残業は法律違反であります。今後、一層厳しく対処してまいる所存でございます。
 解雇に係る規定の整備についてお尋ねがありました。
 解雇権濫用法理が確立して以来、約三十年近く、同法理が法規範として機能してきた結果、裁判実務や企業実務は同法理を前提にしてきたものが大勢を占める状況となっているところでございます。
 このような現状を踏まえまして、解雇に関する基本的なルールの法制化に関し、昨年末の労働政策審議会の建議におきましても、「判例において確立している解雇権濫用法理を法律に明記すること」との提言をいただいたものであり、御指摘のような形で規定することは適当でないと考えております。
 今回の解雇に係る規定と解雇訴訟における主張立証との関係についてお尋ねがございました。
 解雇権濫用法理におきましては、これを確立した最高裁判決を初め、解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないことを基礎づける事実の主張立証責任は労働者側にあるものとされております。今回の解雇に係る規定はこの最高裁判決を踏まえて規定しようとするものであることから、主張立証責任の所在が変わることはないものと考えております。
 また、解雇訴訟において現実に当事者にどのような主張立証活動を行わせるかは裁判実務上の取り扱いであると認識いたしておりますが、今回新設する規定は、これまで判例法理として裁判実務に定着していたものを法律上規定するものでありまして、使用者により多くの主張立証活動を行わせるといった現在の裁判実務上の取り扱いを変更することを意図するものではありません。また、裁判実務上の取り扱いは変わらないものと考えております。(拍手)
    ―――――――――――――
副議長(渡部恒三君) 山谷えり子君。
    〔山谷えり子君登壇〕
山谷えり子君 質疑に入る前に、先ほど個人情報保護関連法案が多数の賛成で衆議院を通過したこの記念すべき日に、議員各位にどうしても申し上げておきたいことがございます。
 それは、昨日の未明、午前二時ごろ、神奈川県藤沢市で発生した、後援会名簿等個人情報が詰まっている現職の与党衆議院議員の個人事務所に、連休中の、しかも深夜に侵入し、その情報を窃盗する目的で悪事を働き、神奈川県警に現行犯で逮捕されているのであります。
 それが、驚くことに、同一選挙区の野党議員の秘書であり、しかも、本人が逃走中に名刺入れを落とし、本人の自白をまつまでもなく、既に犯人の政治的意図が明々白々となったのであります。本日は、新聞休刊日に当たり、いまだにほとんど公になっていませんが、やがて、捜査当局の御努力により全容が示されるはずであります。
 この際、選挙活動の激化に伴い、手段を選ばないこのような卑劣きわまりない行為は厳に慎むべきであり、このような行為を行った当人はもとより、みずからの秘書がこのような日本版ウォーターゲート事件のごとき悪劣な犯罪を犯した秘書を雇用している議員自身の明白な説明を求めておきたいと思います。(拍手)
 さて、私は、自由民主党、公明党、保守新党を代表し、ただいま提案されました労働基準法の一部を改正する法律案に対し、総理並びに坂口厚生労働大臣に質問します。
 激しい国際競争の時代を迎え、終身雇用、年功賃金、労使協調などのいわゆる日本型経営が企業の高コスト要因であるとして、その見直しが急速に進められております。
 しかしながら、私たちは、この日本型経営が、すぐれたわざを磨き、工夫を重ねてよいものをつくるという伝統を生む土壌となり、我が国を世界に冠たる物づくり大国に押し上げ、世界第二の経済大国を築いたことを忘れてはなりません。
 すぐれた技術や知恵は、雇用が不安定な中からは決して生まれません。計画的な能力開発、雇用の長期的安定と労使一体のチームワークにより培われます。短期的な視点からコストがかかるという理由だけで安易にリストラに走り、流動化を進め、雇用の場を不安定にしていくことは、労働者にとって不利になるだけでなく、我が国経済や産業にとっても大きなマイナスになります。能力主義、成果主義により、先輩社員が後輩に教えなくなり、飲みにも連れていかず、企業内人間関係が冷え冷えしていく会社がふえています。
 どんなシステムにもよい面と悪い面があります。大切なことは、日本型経営のよい面を生かし、高度な技術や知恵を生み、伝え育てる雇用のあり方は、ぜひともこれを維持すべきであると考えます。この点についての総理の御見解をお伺いいたします。
 現在、失業者の約半数は若年層であり、フリーターが二百万人にも達しています。日本再生のために、若者たちに希望あふれるチャレンジの場と制度をつくらなければなりません。
 アメリカでは、十数万人のキャリアカウンセラーが小学校から生涯学習社会、地域社会の中で職業やボランティア紹介のため働いていますし、イギリスでは、雇用促進ニューディール政策を進め、また、業種ごとに能力技術基準を定め、横断的評価により労働市場流動化に対応しています。また、保守新党は、二十一世紀基幹産業として観光産業を育成し、老若男女二百五十万人の新規雇用増を政策として掲げています。
 二十一世紀の働く人のグランドデザインの中で、今回の労働基準法改正をどう位置づけておられるのか、総理のビジョンをお聞かせください。
 次に、解雇に係る規定の整備についてお伺いいたします。
 本法案では、解雇に係る規定の整備として、解雇に関する基本的なルールを法律上明確にすることとし、使用者がその有する解雇権を濫用した場合には無効となる旨を労働基準法に規定することとしています。このようなルールの明確化は、長引く不況の影響もあって、解雇をめぐる労使間のトラブルがふえており、労働関係の紛争全体の約三分の一を占めているというデータもある中で、まことに時宜を得たものであります。
 この規定は、既に判例として確立している解雇権濫用法理に則して、解雇権の行使が権利濫用となる場合を法律において規定するものでありますが、これまで判例に基づき判断されてきたものを、法律により、「解雇することができる。」と規定していることから、解雇が促進されるのではないかという懸念が、連合、労働者側から指摘されております。
 法律に規定することにより解雇のルールが明確になり、これまでの判例のみによる解雇権濫用法理のもとにおいてよりも不合理な解雇は少なくなり、解雇が促進されることはなくなるのか、今回の解雇に関する基本的なルールについて、規定を創設することの意義について総理の御見解をお伺いいたします。
 次に、解雇に係る規定の整備が解雇に関する裁判にどのような影響を及ぼすかという点についてお伺いいたします。
 本法案において、使用者が解雇権を濫用した場合には無効となる旨を規定しております。しかしながら、解雇が無効となる要件に該当する事実のあるなしがはっきりしない場合、どちらが訴訟において不利益を受けるか、どちらが主張立証責任を負うことになるのかという問題があります。
 主張立証責任については、裁判においてみずからに有利な法律効果の発生を求める側が主張立証責任を負うというのが民事訴訟法の原則であります。これを今回の規定に則して考えれば、権利の濫用を裏づける事実についての主張立証責任は労働者側が負うことになります。
 しかしながら、整理解雇など解雇を行う場合、使用者側が多くの情報を持っており、その情報を明らかにしなければ事実に即した的確な判断ができない場合も多いと考えます。これまでの裁判実務においても、この点を重視し、主張立証責任が労働者側にあるにもかかわらず、使用者側に解雇権濫用に当たらないことについての主張立証をより多く行わせる取り扱いがなされてきております。
 今回の規定の新設により、労働者側には今までよりも多くの主張立証を必要とし、解雇に関する裁判において労働者側に不利に働くのではないかとの懸念の声が、私のところにも寄せられております。政府としてはどのように考えて本法案を策定したのか、坂口厚生労働大臣の御見解を伺います。
 次に、有期労働契約についてお伺いします。
 本法案では、有期労働契約の契約期間の上限について、原則一年を三年に延長し、高度で専門的な知識等を有する労働者等については五年とするとともに、厚生労働大臣が有期労働契約の締結及び更新・雇いどめに関する基準を定めることとしております。
 有期労働契約で仕事についておられる方々も、その理由はさまざまであります。私自身が働く方々の生の声をお聞きした中でも、本当は正社員になりたいと思いながらも有期労働契約で働いている方もおられる一方で、有期契約という働き方を積極的に選んでいる方も多くいらっしゃいます。まことに、人生いろいろ、働き方もいろいろの時代です。
 有期労働契約者の実態がこのような状態にある中で、今回の改正はどのような意義を持つのか、厚生労働大臣の見解を伺います。
 また、有期労働契約の契約期間の上限を延長したことに伴い、今までは期間の定めのない社員として雇用していた労働者を有期契約労働者にかえることがあるのではないか、若年定年制に利用されるのではないかとの心配もあります。
 したがって、有期労働契約の契約期間の上限を延長するに際しても、合理的な理由もなく期間の定めのない社員を有期労働契約に切りかえることのないようにすることが必要と考えています。厚生労働大臣の御見解をお伺いし、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕
内閣総理大臣(小泉純一郎君) 山谷議員にお答えいたします。
 雇用のあり方についてでございます。
 長期雇用や年功賃金などを特徴とする日本型雇用慣行が、これまで我が国産業の生産性を高め、競争力を維持してきたことは御指摘のとおりと考えておりますが、国際競争の激化、経済産業構造や就業意識の変化などの中で、従来の雇用慣行をそのまま維持することは困難になってきているものと認識しております。
 こうした点を踏まえ、政府としては、企業や国民のさまざまな要求を踏まえつつ、多様な労働環境や労働条件の整備を進めているところですが、例えば、物づくり活動の中核を担う技術者について、長期雇用の上、企業内部で集中育成を行うなど、高度な技術や知恵を生み、伝え育てる日本型雇用慣行のメリットを生かした雇用のあり方については、私は、今後とも大切にされてしかるべきものと考えております。
 今回の労働基準法の改正の位置づけについてでございます。
 我が国経済社会の大きな変化の中で、産業構造、企業活動の変化や労働者の就業意識の変化に対応しつつ、御指摘のあった若年層を含め、国民一人一人が持てる力を発揮できる活力ある社会を実現していくためには、労働者が主体的に多様な働き方を選択できる可能性を拡大するとともに、働き方に応じた適正な労働条件を確保していくことが不可欠と考えます。こうした考えのもと、今般、労働契約のルール整備を行うなどの労働基準法の改正を行うこととしたところであります。
 なお、御指摘の若年層の失業問題は、政府としても重要な課題と認識しており、インターンシップや職業訓練の充実など、産業界や教育界とも連携した、よりきめの細かい対策が講じられるよう、関係大臣間で協力して取り組んでいくこととしております。
 解雇についての規定についてでございます。
 今回の改正における解雇についての規定の新設は、最高裁の判例で確立しているものの、これまで労使当事者間に十分に周知されていなかった解雇権濫用法理を法律上明確にしようとするものであります。
 これにより解雇に関するルールが社会全体に認識され、合理的な理由を欠く解雇が少なくなるなど、解雇をめぐるトラブルの防止、解決につながるものと考えております。
 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)
    〔国務大臣坂口力君登壇〕
国務大臣(坂口力君) 山谷議員にお答えを申し上げたいと存じます。
 三問ちょうだいをいたしましたが、今回の解雇に係る規定と解雇訴訟における主張立証との関係についてのお尋ねがございました。
 解雇訴訟におきましては、現実に当事者にどのような主張立証活動を行わせるかは裁判実務上の取り扱いであると認識いたしておりますが、裁判実務上は、使用者と労働者との間の情報量に差があるなどの事情が考慮されまして、使用者により多くの主張立証活動を行わせるといった取り扱いがされていることが多いと承知いたしております。
 今回新設する規定は、これまで判例法理として裁判実務に定着していたものを法律上規定するものでありまして、このような現在の裁判実務上の取り扱いを変更することを意図したものではございません。また、裁判実務上の取り扱いが変わるとは考えておりません。
 有期の労働契約の見直しの意義についてお尋ねがございました。
 産業・雇用構造の変化に対応して、労働者が主体的に多様な働き方を選択できる可能性を拡大するとともに、働き方に応じた適正な労働条件が確保されるよう、労働契約などの働き方にかかわるルールを整備することが重要な課題となっております。
 こうしたことから、今回の改正案におきましては、有期労働契約が労使双方から良好な雇用形態の一つとして活用されるようにするために、有期契約労働者の多くが契約の更新を繰り返すことにより一定の期間継続して雇用されている現実等を踏まえて、有期労働契約の期間の上限の延長等の見直しを行うこととしたところでございます。
 最後に、常用労働者から有期契約労働者への代替が進むのではないかとのお尋ねがございました。
 各企業におきます常用労働者と有期契約労働者の構成につきましては、産業構造の変化、経済の国際化の進展、労働移動の増加等の中にあって、企業の人材戦略や事業戦略等の一環として、種々の観点を総合的に考慮して定まっていくものと考えております。
 したがいまして、法制度上、労働契約期間の上限を延長することに伴って、個々の企業において常用労働者から有期契約労働者への代替が直ちに進むものではないと考えており、このような認識のもとで今回の見直しを行うこととしたところでございます。(拍手)
副議長(渡部恒三君) これにて質疑は終了いたしました。
     ――――◇―――――
副議長(渡部恒三君) 本日は、これにて散会いたします。
    午後三時四十二分散会


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