衆議院

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第2号 平成16年1月21日(水曜日)

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平成十六年一月二十一日(水曜日)

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 議事日程 第二号

  平成十六年一月二十一日

    午後一時開議

 一 国務大臣の演説に対する質疑

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本日の会議に付した案件

 国務大臣の演説に対する質疑


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    午後一時三分開議

議長(河野洋平君) これより会議を開きます。

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 国務大臣の演説に対する質疑

議長(河野洋平君) 国務大臣の演説に対する質疑に入ります。菅直人君。

    〔菅直人君登壇〕

菅直人君 民主党・無所属クラブを代表して、さらには今回我が民主党に支持をいただいた二千二百万人を超える国民の皆さんを代表して、そして五十八名の新しい議員を選出していただいた国民の皆さんを代表して、さらに言えば、さきの選挙では小泉総理の言葉を信じて投票はしたけれども、その後の小泉総理の行動に失望して怒りを感じている人の気持ちも体して、先日の小泉総理の施政方針演説に対して質問を申し上げます。(拍手)

 いよいよ陸上自衛隊の先遣隊がイラクに入りました。まず、議論に入る前に、派遣をされた自衛隊員の皆様に対して、その労苦に対し心から敬意をあらわすとともに、その任務を果たされて、無事全員が一日も早く日本に帰国されることを心から願っておきたいと思います。(拍手)

 さて、皆さん、日本が実質上の軍隊である自衛隊を戦争が継続している外国の領土イラクに派遣したというのは、まさに戦後の新しい歴史の一ページだと思います。軍隊を他国の領土に送るということは、いずれの時代においても、いずれの国においても、国家主権にかかわる重大事であります。

 総理は、さきの施政方針演説の中で、平和のための行動だ、そのような趣旨のことを、高揚した口調でこの場で話をされました。しかし、それでは、平和のために自衛隊を戦地に送る、平和のために戦争に送るということなんでしょうか。

 私は、この自衛隊の派遣が、いろいろな理屈をつけようとも、戦地に、自衛隊を戦争目的で海外に送らないとしてきた憲法の原則を大きく破るものであるということは疑いのないところであります。そのことを明確に指摘をしておきたいと思います。

 もし、総理が、イラクに自衛隊を送らなければ日本の平和が維持できない、そのように本当に思われるならば、その理由を明確にした上で、自衛隊をイラクに派遣できるような憲法改正を提起するのが筋ではないですか。(拍手)

 小泉総理は、憲法を変えることもなく、明らかに憲法に違反する行動を命令している。まさに民主主義を破壊する暴挙とこれを言わないで、何を暴挙と言うんでしょうか。

 それとも、小泉総理は、この行動は憲法に違反しない、もしそういうふうに考えるならば、国民にわかりやすく明確に説明をする義務があるわけであります。

 総理は、イラクは安全と言えないから自衛隊に行ってもらうんだとか、多くの国がイラクに出ているから日本も自衛隊に行ってもらうんだとか、こういったことを言っておりますが、これが日本国憲法に反して自衛隊を送る理由にならないことは、だれの目にも明らかではありませんか。

 それに加えて、小泉総理は、施政方針演説の中で、自衛隊は武力行使をしないんだ、また、近くで戦闘行為が行われる場合には、活動を休止して避難をするんだ、こういったことを言われております。

 しかし、それでは聞きましょう。自衛隊がテロ攻撃を受けた場合に反撃をするのは武力行使にならないんですか。それとも、まさか反撃をしないと言われるわけではないでしょう。

 それに加えて、今のイラクの現状の中で、戦闘行為に当たらないような活動が一体どこであるというんでしょうか。近くで戦闘行為があれば中止するというのであれば、今、イラクの中に活動できるところは一カ所たりともないというのが常識ではないでしょうか。

 防衛庁長官は、テロは戦闘行為ではないというふうなことを言われたそうであります。それでは、さきおととしですか、九月十一日のあのアメリカに対する連続テロが、まさに戦争である、攻撃であるとしてブッシュ大統領が自衛権を発動したことに賛成をし、支持を与えたのは、自民党、小泉政権ではありませんか。

 あるときには戦争と言い、あるときには戦闘行為ですらないと言うのは、言い逃れの詭弁以上の何物でもないではありませんか。総理に明確な答弁を求めます。(拍手)

 さらに、総理は、自衛隊は戦争に行くのではない、こういう説明を何度もされております。しかし、私の手元に届いたCPAのブレマー長官の書簡によれば、派遣された自衛隊員の身分はアメリカ軍やイギリス軍と同じコアリションパーソネル、つまりは連合国の要員、連合国の一員としてのそういう法律的な位置であるということが明記をされております。また、そうでなければ、例えば万一自衛隊がイラクの市民を殺傷するようなことが起きたときの裁判権の問題がどちらになるのかという極めて重大な問題を惹起するからであります。つまりは、連合国の一員であるということで、戦時国際法の適用を受けて、いわば治外法権的な扱いを受けるというためのその措置がこの書簡ではありませんか。

 あるときには戦争を前提としたそういう身分保障を受けながら、しかし一方では戦争に行くのではない、これまた憲法違反を言い逃れするためのまさに二枚舌としか言いようがないじゃありませんか。この点についても明確な答弁を求めます。(拍手)

 私は、今回の自衛隊のイラク派遣がこういった意味で現行憲法に明らかに違反した活動であって、その行動を命令し承認した小泉総理は、民主主義国日本の総理としてはその資格を欠いている、辞任をこの場で強く要求したいと思います。(拍手)

 さらに、自衛隊派遣の露払いを積極的に務めた公明党も同罪です。神崎委員長には、委員長としてのその職を辞することを勧告申し上げたいと思います。(拍手)

 さて、次に、北朝鮮の問題について申し上げたいと思います。

 一昨年、小泉総理が北朝鮮を訪問して日朝平壌宣言が発せられてから一年半が経過しようとしております。帰ってこられた拉致被害者の家族の帰国問題はいまだに実現をしておりません。

 私たち民主党は、さきの総選挙のマニフェストの追加項目の中で、日本から北朝鮮に対する送金を停止できる法律案を出すべきだということを申し上げました。この国会で超党派で法案が出せることになったことは喜ばしいことだと考えます。こうした超党派的な努力もあって、北朝鮮は、何らかの事態の打開のため、最も強硬派と目されている平沢議員や我が党議員を含め、働きかけが来ていると聞いております。しかし、政府・与党はすべてを官僚に任せるだけで、その執行部の責任ある行動はまだ少なくとも私たちの目には見えておりません。

 そこで、総理に申し上げます。

 総理、この問題で最も熱心で最も強硬派とされている安倍幹事長を政府特使として北朝鮮に派遣されるおつもりはありませんか。そして、政府・与党、責任を持ってこの事態を解決しない限り、官僚にやらせておいて、そして、官僚が妥協をしたら強硬派と言われる人たちがそれをバッシングするというやり方では、何も進展しないことは明らかではありませんか。総理の見解を聞きたいと思います。(拍手)

 私は、小泉総理のこの間の活動や言動を見ていて、一体この日本をどの方向に導いていこうとするのか、全く理解することができません。その都度状況に応じて判断をするという、まさに状況追従型の政治と言わなければなりません。イラクに対するあの先制攻撃を支持したときの、大量破壊兵器が拡散するということを防ぐために支持したんだという大義名分は、一体どこに消えてしまったんですか。

 そして、今は、イラクの民主政権をつくる、こう言っておられます。大変結構なことです。しかし、中東には、イラクに限らず、必ずしも民主政権と言われない王政の国などがたくさんあります。すべての国の民主化が我が国の使命だ、そういう前提で話をされているんですか。その見解を聞きます。

 また、テロの温床にしないための活動だ、そういう大義名分を掲げられましたが、少なくともフセイン時代のイラクは、危険な独裁政権ではありましたけれども、海外のアルカイーダといったようなテロ組織がイラク国内で活動していたということは聞いておりません。

 結局のところ、状況が変わっていけば、くるくるとそれに合わせて大義名分を変えていく、このようなやり方で日本を導いていく。私は、総理としては最も危険な総理である。かつて戦前の政府が、軍部が生み出した状況を追認する形で、気がついてみたら、だれの責任かはっきりしないまま、アメリカとの戦争に突入していた。まさにこれと同じ政治スタイルじゃありませんか。(拍手)

 こういった意味で、今の総理のあり方には、日本の総理としてはふさわしくないということを重ねて申し上げておきます。

 さて、さきの衆議院の選挙において、私たちは政権交代を求めて戦いました。残念ながら政権交代には至らなかったわけですけれども、もし民主党中心の政権が生まれていたら、今ごろは我が党マニフェストに沿って迅速な改革が進んでいたであろうことを思うと、残念でなりません。

 逆に言えば、総理はさきの選挙で国民の信を得たわけですから、小泉マニフェストをだれにはばかることなくどんどん推進すればいいではありませんか。しかし、現実に、そのマニフェストを現実化するとされた平成十六年度予算に向かっての政府・与党の決定は、まともな改革は一つたりとも見当たらないじゃありませんか。(拍手)

 例えば年金改革については、二〇〇四年に抜本改革を行うと書いてありますけれども、厚生年金の数字合わせにとどまっただけで、崩壊寸前の国民年金については何も触れられておりません。

 我が党は、国民年金、厚生年金、共済年金の一本化と、そして基礎年金に対する将来の消費税投入を含む税による負担という、まさに抜本的な改革を提示しておりますが、総理のこの問題に対する見解を伺います。

 さらに、道路公団の改革について、小泉マニフェストでは、民営化推進委員会の意見を尊重すると書いてありますが、政府・与党が合意をしたその日に、民営化推進委員会の会長代理は抗議の辞任をされました。通行料を借金の返済に優先するとする、その民営化推進委員会の、まさに意見の中心が無視されたことに抗議しての行動であります。これでもまだ高速道路の改革がマニフェストどおり進んでいると総理は強弁をされるんでしょうか。

 私は、このどたばた劇を見ていて、我が党が提起した高速道路無料化という考え方が最も必要な政策であるという思いを、一層その思いを深くしたところであります。

 つまり、これまで道路に使われてきたガソリン税などの九兆円の費用のうち、二兆円を道路公団の負債の返済に充てれば無料化が可能になります。そして、残りの七兆円の資金によって、必要な道路、場合によっては高速道路も含めて建設をすることによって、例えば、先日伺った秋田などでは、高速道路が無料になれば野菜などを首都圏に運ぶことも可能だ、そして、現在の関所とも言えるあの料金所を廃止して出入り口を大きくすることによって、かつて織田信長が行った関所の廃止と、いわゆる楽市楽座のような地方経済の活性化が大きく期待できるということを、私は、確信を持って改めてこの場で申し上げたいと思います。(拍手)

 さらに言えば、分権改革という中で鳴り物入りで始められた三位一体の改革についても、結局は負担を地方にいわば肩がわりをしてもらうだけであって、本当の意味の分権改革には何もなっていないじゃないですか。

 我が党は、霞が関からひものついた補助金を原則全廃して、国の仕事は、外交、防衛、通貨、さらには福祉や都市計画の基本ルールをつくることに権限や仕事を限定して、他の仕事はすべてを地方自治体に移していくという、本格的な分権提案をいたしております。これに対して、総理のマニフェストは全くそうした方向が進んでいない、このように申し上げなければなりませんが、反論があればお聞かせください。

 さらに、財政再建について、最もインチキなところがこの財政再建ではないでしょうか。

 総理が就任してから、GDPに対する公債の残高の比率は毎年大きく高まっております。総理は、当初、国債発行を三十兆円枠にとどめるということで財政再建を訴えましたが、初年度からその枠を突破したばかりでなく、今や、予算の約半分が国債に依存するところまで来ているじゃないですか。

 来年について、プライマリーバランスの赤字幅が狭まったかのような説明をする大臣もありますけれども、それでは、景気が上昇し、金利が上昇したときに、GDP比でどんどん膨らんでいるこの国債残高の金利の負担がどのようになるのか。二〇一〇年代初頭にプライマリーバランスを黒字化するというそのマニフェストが、本当に実行可能だと総理は思っているんですか。それとも、二〇一〇年代初頭といえば、もう自分が総理大臣なんかやっていないから、一度言った以上はそのまま約束をしておこう、これが実態ではないですか、皆さん。反論があったらお聞かせください。(拍手)

 さらに、雇用については、五百三十万人の雇用創出、あるいは二年間で三百万人の雇用の創出ということをマニフェストで述べられていますが、それでは、同じ期間にリストラなどによって雇用が失われる数は一体幾らに上るんですか。現実に、小泉総理が就任して以来、就業者の数は、この三年近くで約百万人余り正味で減っているじゃないですか。マニフェストで掲げた二年間で三百万人という数字なら、正味で何人ふえるのか、それとも減るのか、総理の口からはっきりと明言をいただきたい。(拍手)

 さきの民主党の党大会で、私は、国民主権の立場に立った新しい憲法をつくることを国民運動として、いわば市民革命の現代の活動として国民に呼びかけました。総理からは、早速、自民党との間での協議ということが言われましたけれども、総理は本当に、私が提起した問題を理解いただいているんでしょうか。

 与党の第一党と野党の第一党がまず議論を始めるということは、まさに国民不在の談合政治そのものじゃないですか。そうではなくて、国民の中で広く議論をしてこそ、本物の国民主権の憲法をつくり、国民主権の国をつくることになる、このように考えるから国民の皆さんに対して訴えたということをぜひ御理解いただきたいと思います。

 憲法に違反した行動を平気でとろうとしている総理に、憲法の議論をする資格があるのかどうかが疑われておりますが、いかがでしょうか。(拍手)

 最後に申し上げます。

 昨年初め以来、私が民主党代表として総理大臣と議論をするのは、今回で十五回目になります。私は、この討論を通して、最近は、終わった後にむなしさを感じてなりません。それは、総理の答弁がまともな、真正面からの答弁ではなく、問題をすりかえ、そして単に切り返しの答弁に終始することが多いからです。

 そこで、総理に強くお願いをしておきます。

 つまり、総理は、私の質問に対して、私に答えるつもりではなくて、総理の発言を注目し、総理のその決定によって大きく生活を左右され、そして影響を受けている国民一人一人の皆さんに答えるおつもりで答弁をいただきたい、このことを強く要請申し上げておきます。(拍手)

 そして、もし私に対するその答弁が国民に対する答弁としても不十分な場合には、私に与えられた時間の範囲で再質問を行う用意があることを最後に申し添えて、私の質問を終わりたいと思います。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 菅議員に答弁いたします。

 自衛隊のイラク派遣は憲法違反ではないかというお尋ねではございますが、現在の現地の治安情勢は、必ずしも予断を許さない、安全とは言えない状況であるということは私も認めます。しかし、自衛隊は、これまでの調査や各種の情報を踏まえまして、非戦闘地域の要件を満たす区域において人道復興支援を行うものであります。万一、活動の場所において戦闘行為が発生した場合などには、法の定めるところに従い、実施区域の変更や避難等の措置を行うこととしております。

 さらに、現地において、自衛隊員やあるいは一緒にいる人に危険が迫った場合、やむを得ず武器を使用する行為は憲法で違反じゃないかというお尋ねではございますが、正当に自分の身を守る行為、これが私は憲法違反に当たる武力行使とは思っておりません。憲法で禁じられた、国際紛争を解決する手段としての国家意思の発動である武力行使と、私は、正当防衛の武器の使用というのは全く違うものだと思っております。したがって、自衛隊の活動は憲法に違反するものとは私は思っておりません。(拍手)

 また、イラクには、すべて戦闘地域ではないかというお尋ねではございますが、私は、イラク特措法に基づく自衛隊の活動、いわゆる非戦闘地域の要件を満たす地域があると思っているからこそ自衛隊を派遣しているわけであります。自衛隊の活動は可能であります。

 自衛隊のイラク国内での法的地位と憲法との関係についてのお尋ねがございました。

 連合暫定施政当局命令第十七号及びブレマー長官の書簡は、イラクに派遣される自衛隊が、我が国の排他的管轄権に服し、イラクにおいて裁判権免除等の特権免除を享受することを確認したものであって、武力紛争当事者に適用される戦時法規の適用を受ける軍隊であるとは述べておりません。イラク人道復興支援特措法に基づき自衛隊が行う活動は、憲法との関係で問題はないと思っております。

 自衛隊派遣の理由についてでございます。

 私は、イラクに安定した民主的な政権をつくるということは、日本にとっても大変大事であると同時に、世界全体にとって極めて重要なことだと思っております。まず、我が国が世界の平和と安定のために何をなし得るかということを考えるべきだと思います。テロに屈して手をこまねいていては、私は、イラクがテロの温床になってしまうのではないか、テロの温床になってしまっては、これは日本の脅威のみならず世界にとって脅威であります。

 今、多くの国がイラクの人道復興支援に取り組んでおります。私は、この際、我が国はお金に関しては協力するが人的な貢献はしないということでは国際社会の中で責任ある行動とは言えないのではないかという観点から、今回、人的支援として自衛隊の諸君に、困難である任務であると思いますが、行ってもらう、立派に任務を果たしていただきたい。期待しております。自衛隊諸君に対しましては、心から敬意を表したいと思います。そして、できるだけ早くイラク人のためのイラク人の政府を立ち上げることができるように、日本としてもできるだけの協力をしていくことが重要であると思っております。

 また、今、一般の民間人が行って十分な活動ができるとは思っておりません。自衛隊だからこそ、日ごろから訓練を積んでおります。また、厳しい環境においても十分活動できる自己完結性を備えております。また、危険を回避する能力も、普通の民間人に比べれば持っております。そういうことから、私は、自衛隊の諸君であるならば、地元のイラク人からも評価を得ることができるような活動ができると考えております。

 私は、今までも自衛隊派遣の理由については一貫した説明を行ってきていると思っております。

 拉致問題への取り組みについてでございます。

 拉致問題は、日本全体、小泉内閣全体の最重要課題であると思っております。北朝鮮に対しましては、日本国民の総意として、誠意ある対応を求め、早期に政府間協議に応じるよう働きかけてきておりまして、今後とも、拉致問題の一刻も早い解決のため、あらゆる機会を通じて努力をしていきたいと思います。

 また、安倍幹事長を特使として派遣してはどうかというお尋ねでございますが、現時点で、私が、あるいは官房長官等、安倍幹事長等、訪朝することは考えておりません。

 年金改革についてでございます。

 今回の年金制度改革案は、将来の負担が過大とならないよう極力抑制して、その上限を国民に明らかにするとともに、少なくとも現役世代の平均的収入の五〇%の給付水準を維持しつつ、急速な少子高齢化が進行する中で、年金を支える力と給付の均衡をとることのできる仕組みに転換していくものであります。また、課題であった基礎年金の国庫負担割合についても引き上げの道筋を示すなど、持続可能な制度の構築に向けた、根幹にかかわる大きな改正であると考えております。

 道路公団民営化についてでございます。

 今般の改革は、特殊法人である公団が二十兆円の事業費で九千三百四十二キロメートルをつくるという従来の方式を改め、民営化の原点である、債務を確実に返済すること、真に必要な道路について、会社の自主性を尊重しつつ、できるだけ少ない国民負担のもとでつくることという意見書の根幹に沿って、民営化の基本的枠組みを取りまとめたものであります。

 具体的には、厳格な評価を行った上で、抜本的見直し区間を設定し、徹底したコスト削減等により有料道路の事業費を半減するとともに、債務は民営化後四十五年以内にすべて返済いたします。また、通行料金を当面、平均一割程度引き下げるとともに、日本道路公団を三社に地域分割し、あわせて、新規建設に当たっては会社の自主性を尊重することといたします。

 これらは、委員会の意見を基本的に尊重し、戦後有料道路制度の初の抜本的改革として行うものであり、改革の名に値しないとの批判は全く当たらないものと考えます。(拍手)

 基礎的財政収支回復などの財政再建についての質問でございますが、平成十六年度予算においては、一般会計歳出及び一般歳出を実質的に前年度の水準以下に抑制しました。こうした努力などの結果、国、地方を通じた基礎的財政収支は改善が見込まれ、黒字化に向けた一つの手がかりをつくることができたと考えております。

 今後も、持続可能な財政構造の構築に向けて、歳出改革を推進するとともに、民需主導の持続的成長を実現するための構造改革を加速することにより、二〇一〇年代初頭の基礎的財政収支の黒字化を目指してまいります。

 三位一体の改革でございますが、平成十六年度に、補助金一兆円の廃止・縮減等を行うとともに、地方の歳出の徹底的な抑制を図り、地方交付税を一兆二千億円減額いたします。また、平成十八年度までに所得税から個人住民税への本格的な税源移譲を実施することとし、当面の措置として、所得譲与税を創設し、四千二百億円の税源を移譲いたします。

 三位一体の改革については、改革の第一歩として、全国知事会、市長会など、地方公共団体からも評価をいただいており、地方にできることは地方にとの原則のもと、来年度以降も改革を加速してまいります。

 五百三十万人雇用創出についてでございます。

 経済環境が急速に変化するもとで雇用の安定確保を図るためには、雇用減少分野における余剰雇用を吸収し、新たな雇用機会を創出することが不可欠であります。このため、政府としては、サービス分野を中心に、五百三十万人の雇用の創出に取り組んでいるところであります。

 雇用情勢は厳しい状況ではございますが、全体として雇用が増加している状況にありませんが、就業構造は変化し、この三年間でサービス分野においては約二百万人の雇用が創出されたと見込まれます。

 今後とも、規制や制度の改革、人材育成や公的業務の民間委託などをさらに進め、サービス分野を中心とした雇用の創出に全力で取り組んでまいります。

 憲法改正についてでございます。

 自由民主党結党五十周年を来年迎えますが、私は、この五十周年を契機に自民党としての憲法草案を取りまとめるように、既に党に指示しております。菅さんは二〇〇六年度に民主党としての改正案をまとめたいというお話のようでございますが、私は、憲法の基本理念である民主主義、平和主義及び基本的人権の尊重は、これまで一貫して国民から広く支持されてきたものであり、将来においてもこれを堅持すべきものと考えております。

 もともと、憲法問題というのは非常に重要な問題であり、一党だけで憲法改正ができると思っておりません。でき得れば、野党第一党の民主党とも十分協議をして、そして国民のさまざまな意見を聞きながら、日本としての新しい時代に対応できるような憲法改正ができればなと期待しております。

 今後、自由民主党も民主党も共通した理念を持っている方も多々あるようでありますので、その辺のところは、自民党一党だけでやろう、そういうこだわりは持っておりません。幅広く、多くの政党の方々、国民各界各層の意見を聞きながら、国民的議論を喚起いたしまして、日本にふさわしい憲法改正案が国民合意のもとにできればなと。このための議論については、今後とも、国会の憲法調査会も活発な議論が行われています。お互い胸襟を開いて大いに議論をしていきたい。そして、よりよい、時代にふさわしい憲法改正ができることを期待しております。

 以上でございます。(拍手)

議長(河野洋平君) 菅直人君から再質疑の申し出がありますから、これを許します。菅直人君。

    〔菅直人君登壇〕

菅直人君 今の小泉総理の答弁は、従来からのイラクに対する自衛隊派遣に対する見解を超えたものではありません。しかし、私が質問をしたのは、まさに、その小泉総理のこれまでの説明がまともな説明になっていないのではないかということなんです。

 先ほども小泉総理は、自衛隊を送る理由として、危険な地域であるから、それを回避する能力がより強いから自衛隊を送ると言われました。しかし、軍隊を他国に送るということは、それを理由とするには足らないんじゃないでしょうか。

 つまりは、かつて我が国は、シベリアに他国と一緒に多くの軍隊を送った歴史があります。そのことが、日本のその後の外国への大規模な兵隊の派遣のいわば先例をつくったというのは歴史の教えるところであります。原則もなく、単に危ないところだから自衛隊を送る、これは理由にはならないということを申し上げたのであります。(拍手)

 さらに、小泉総理は、ブレマーCPA長官の書簡の理解として、私が申し上げたように、裁判権を日本が持つということは認められた上で、しかし、戦時法規ということは述べられていないと言われています。

 確かに、戦時法規という文章がその中にはありませんけれども、しかし、普通の国民がイラクや他の国に行って何かの事件に巻き込まれて、それが正当防衛であるか何かは別としても、人を殺傷したような場合には、まず第一義的な裁判権がその国にあることは世界の常識であります。

 つまりは、その例外を認めるということは、まさに戦時国際法の考え方に基づいて、日本を多国籍軍の一員として認めたということになるのではないか。もしそうならないというのであれば、ならない根拠、そして、ならない場合に、もし自衛隊が攻撃を受けた場合に反撃をしてイラクの人を殺傷した場合の扱いについてどうなるのか、この場で明確にお答えをいただきたいと思います。(拍手)

 さらに一点、私の方から先ほど十分に申し上げられなかった問題の中で、先日、総理は、食料の安全性の問題について視察をされたようであります。私も、秋田における大潟村の視察を行って、農業の新しいあり方について大きな可能性を感じたところであります。

 雇用の拡大ということを考えるときに、従来のようないわゆる公共事業中心の、大型公共事業中心のそういう雇用から、環境を守り、そして農業を促進するような新しい自然回復型の雇用の拡大ということを、私たち民主党はそのマニフェストの中で既に申し上げているところであります。

 総理は、ただ単にサービス業における雇用の拡大ということを言われましたけれども、第一次産業における雇用拡大といった観点について、総理の見解があればお聞きをいたしたい、このように思っております。(拍手)

 最後に、総理は財政再建について、私の最終的な質問に答えておられません。つまりは、二〇一〇年代初頭にプライマリーバランスを黒字化するという、そのマニフェストの目標が達成できるという根拠がどこにあるのかということについてお聞きしましたけれども、それについて明確な答弁はありませんでした。

 つまり、今、景気回復が叫ばれておりますけれども、景気回復には金利の上昇を伴うことは、一般的には常識的なことです。そして、現在平均二%とされる国債に対する金利払いが例えば三%、四%となったときには、国債費が増大することも明らかであります。

 それを、単に単年度のプライマリーバランスの黒字幅が〇・幾つ縮小したから改善の芽が出たとはとても言えないわけでありまして、そういった意味で、二〇一〇年代の初頭のプライマリーバランスの黒字化というマニフェスト自体がその根拠を失っている、このことを申し上げたわけですけれども、これに対しての明確な答弁を再度求めておきたいと思います。

 最後に、憲法改正についてもるる小泉総理が答弁をされましたけれども、基本的な姿勢についてまだ十分な理解をいただいていないようであります。

 私が憲法について議論を提起いたしましたのは、現在の日本国憲法は、国民主権の考え方が、法文上、憲法の条文上はしっかりと書き込まれておりますけれども、実際には、官僚丸投げの自民党政権が続いているために、国民主権の国となっていない。その反省に立って、改めて市民革命とも言える国民的な運動を起こそう、このことを提起しているわけであります。

 総理は、まず、みずからの官僚丸投げ政治に対する反省の中から憲法についての議論を始めていただきたい、そのことについても御意見があれば最後にお聞きをして、私の再質問を終わらせていただきます。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 再答弁いたしますが、菅議員は、自衛隊は連合軍の一員、すなわち占領軍としてみなされていることは明らかではないか、これはブレマー長官の書簡を指すものだと思います。

 この点につきましては、連合暫定施政当局命令第十七号における連合の要員とは、連合軍の要員のみならず、イラクにおいてさまざまな形でイラクの復興等に貢献するために活動する諸国の要員をも含むものであります。

 いずれにせよ、我が国は、いかなる意味においても、武力紛争の当事国ではなく、また占領国に当たらず、あくまでも自衛隊は我が国の指揮下において活動するものであります。

 また、財政再建の問題につきましては、既に基礎的財政収支の中で答弁しております。

 農業の問題については、最初の質問になかったんですよ。再質問じゃなくて、全く最初の質問にないものを答えようがないでしょう。これは答弁漏れじゃないんです。質問にないことを答弁したらおかしいでしょう。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 額賀福志郎君。(発言する者あり)お静かに願います。

    〔額賀福志郎君登壇〕

額賀福志郎君 静かにしてください。

 私は……(発言する者あり)

議長(河野洋平君) 御静粛に願います。――静粛に願います。

 質問を始めてください。

額賀福志郎君(続) 私は、政党政治家らしく、秩序ある国会の中で演説をさせていただきたいと思います。(拍手)

 私は、国民政党である自由民主党を代表し、つまり、ほとんどの国民が支持をしている自由民主党を代表し、民主党を支持している仲間も含めまして、国民を代表して質問を小泉総理にさせていただきたいと思います。(拍手)

 質問に先立ちまして、昨年十一月二十九日、イラクのチクリット近郊におきまして、奥克彦大使、井ノ上正盛一等書記官の二名の外交官がテロの凶弾に倒れ殉職されましたことにつきまして、改めて心からの哀悼の意を表したいと思います。崇高な志を持った二人の外交官がイラクの平和と安定のために命をかけて最大限の努力をされたことは、我が国国民の誇りであり、皆さんとともに心から敬意を表したいと思うのであります。(拍手)

 また、さきのイランの大地震による被害に対しましても、阪神・淡路大震災等を経験した日本国民の一人として、心から国会の皆さん方とともにお悔やみを申し上げたいと思います。

 小泉政権が誕生してから二年半が過ぎまして、この四月二十六日には満三年を迎えることになります。いよいよ小泉改革の真価が問われていくことになるわけであります。

 通常国会の最大の焦点は国民生活に直結する予算の成立にあることは、改めて指摘するまでもありません。イラク復興支援の経済協力を含む平成十五年度補正予算はもとより、思い切った歳出の重点化、効率化を実現した平成十六年度予算を一日も早く成立をさせ、我が国経済にあらわれ始めました明るい兆しを確かなものにしていくことは、政治家としての最も重要な職務であります。(拍手)

 我が国経済は、小泉改革の進展により、経済活性化と民間主導の新たな成長が展望できつつあるのであります。最も強調すべきことは、単に財政支出を追加して需要を創出するという従来型の手法に頼ることではなくて、民間がみずからの生きる道、進むべき道を切り開いていくという必死の努力の末に自律的な回復の兆しが見えつつあるというところに我々の真価があるわけであります。こうした流れを加速した小泉改革に一定の成果があらわれつつあると評価してもよいのではないかと考えるのであります。(拍手)

 一方、国民におきましては、国、地方の長期債務残高が十六年度末で七百十九兆円に達し、GDPの一・四三倍にも達する見通しとなっていることや、少子高齢化の進展とともに年々膨れ上がる社会保障関係費の増大に強い危機感を持ち、将来の負担増に対する不安を強めております。

 私たちが目指しているのは、安易に国民に負担を求めず、また、国債増発による歳出の増加を極力避けながら、規制、税制、金融、歳出の改革を断行し、自由な経済社会と小さな政府を実現することでございます。これによりまして、将来世代のために借金を減らして財政を健全化しながら、自律的な経済成長が両立する仕組みを構築していくことが求められているものと考えます。

 政府は、二〇〇六年度にはGDP名目二%の成長率を達成するとともに、二〇一〇年代初頭には財政のプライマリーバランスを黒字化する目標を掲げております。我々もこれを支持しているところであります。いまだデフレからの脱却にあえいでいる今日、いかなる政策展開によってこれらを実現していくのか、そのプロセス、道筋を明確に示していただきたいと考えるのであります。

 小泉首相の掲げる構造改革については、さまざまな議論、意見はあるものの、先ほども触れましたように、着実に成果を上げていることは事実であります。例えば、不良債権の処理も進行しておりますし、企業収益の回復により設備投資も持ち直し、株価も一万円台を回復するなど、全体として明るい方向に向かっていることは、多くの国民の皆さん方が認めていることであります。

 しかしながら、景気のマクロ指数の改善は大企業の製造業が支えておりまして、中小企業、中でもサービス業等の分野におきましては、壊滅的な疲弊が指摘されているのであります。さらに、地域経済は厳しい状況が続いているのが実態でありまして、景気回復の格差が拡大し、はっきりと二極化現象が起こっていることも確かなことでございます。

 こうした二極化現象におきまして、勝ち組だけが景気回復を謳歌し、負け組はすごすごと舞台から退却するようなことを放置するわけにはまいりません。なぜならば、国民及び企業の大半は負け組に属することになり、構造改革の成果が勝ち組の独占物になってしまったのでは、深刻な雇用問題を引き起こすばかりか、構造改革の失敗につながりかねないからであります。

 そこで、生産性、成長性の低い分野から高い分野へ労働力をスムーズにどういうふうに流動化させるかの問題や、新たな雇用を生み出す新規事業の創出、技術革新への取り組み、産業金融機能の強化など、経済活性化にさらに強力に取り組む必要があるものと考えます。

 かつて、江戸城を無血開城させ、明治維新の扉を開く重要な役割を務めました勝海舟は、行財政改革というものはよく気をつけないと弱い者いじめになる、全体、改革というものは公平でなくてはならない、大きいものから始めて小さいものを後にするのがよい、言いかえれば、改革者が一番先に自分を改革することだと言っております。

 今、構造改革を実行している最中の政府・与党、政治家は、野党も含めまして、国民に痛みを求めているだけに、みずからの政治姿勢が問われていることはもとより、一省庁一業界の利益、都合を主張しているようでは、国家の利益を図る器量ではないと警鐘をしているものと私は受け取ったのであります。世紀の構造改革をなし遂げていくためには、責任ある指導者の役割は、比類なき重いものがあるということを改めて感じているのは私一人ではないと考えます。

 今後の構造改革を進めていく上におきまして、総理の御決意を改めてお聞かせ願いたいと思います。

 さらに、小泉総理は、施政方針演説の中で、これまで構造改革を進める上でナンバーワンのプライオリティーに置いておりました不良債権の問題について、予定どおり十六年度末までに処理を終了すると明確に語っております。

 御承知のとおり、不良債権の処理は、過去の負の遺産の処理でありまして、どちらかというと後ろ向きの対応に引きずられまして、国民にとっては暗いイメージを持って受け取られているのであります。

 不良債権の処理に最後まで不退転の決意で臨むべきことは言うまでもないことであります。しかしながら、その処理に一応のめどが立ってきたことを考えるならば、ここまで歯を食いしばって頑張ってこられた国民に対しまして、この長かったトンネルの先に何があるのかを提示していくことこそが政治家の我々の役目ではないでしょうか。

 春になって一斉に木が芽吹き花を咲かせるのは、雪の中にあって将来の開花に向けての準備が着実に行われてこその話であります。積もり積もった不良債権の雪が解け出しつつある今こそ、将来の夢と希望の持てる政策を打ち出すべく、大きくかじを切る切りかえのときに来ているのではないのか。

 総理はいかにお考えか、御所見をいただきたいと思います。

 ところで、ここからは民主党の皆さん方にも聞いていただきたいと思うのでありますけれども、最近は、国民の多くは、大企業の収益が回復いたしましても、それがかつての高度成長期のように系列企業に波及をし、社員、従業員の給与も上がり、潤いを分かち合える構造は過去のものになってしまったという雰囲気があります。

 大企業は、国際社会の中でいかに競争力を高めるかだけを考え、成果主義の考えのもとに、年俸制、給与は据え置くというのが相場となっておりまして、社員、従業員は逆に将来への不安を抱えているというのが実情であります。まして、大企業から執拗にコスト削減を要求される中小企業は推して知るべしであります。

 このため、こうした経済社会構造の中で、働く人々の中心であるサラリーマンを核とする新中間層あるいは新中流層の間では、構造改革だけでは生活の向上、充実を実感できる真の豊かさを求めることは無理であるとの自信喪失感が生まれつつあります。

 私は、これまでの企業の競争促進に焦点を当てた規制改革等の構造改革は、それによって生活がどう改善するのかが見えないために、どうしても国民や働く人々にとっては実感がわかず、心に訴えることができなかったのではないかと懸念をしているのであります。これが、小泉構造改革の先のビジョンが見えないという批判が起こってくるゆえんと思われます。

 したがって、これからは、国民が肌で感じることのできる経済活性化のために、例えば、ベンチャーなどの企業活動と新規事業の創出、雇用と人材育成、地域再生と観光事業の振興など、構造改革のプラス面を前面に出すことが不可欠であると考えると同時に、国民の生活設計、ライフスタイルを改革することによって、国民の生活の向上、充実を実感できる真の豊かさ構築のためのライフスタイル改革を提唱する必要があると考えます。

 二十世紀は、大量生産、大量消費、効率化、物の豊かさを求めたのであります。二十一世紀は、健康、安全、清潔、教育、環境、文化、自然、こうした生活の安らぎ、ゆとりを求める時代だと思います。

 かつて宮沢政権は、生活大国という政策目標を立てて努力をしたことがあります。家の面積など量的拡大の志向が強く出たために、バブルの経済の崩壊もありまして、生活の質の改善に結びつけることが十分にできなかったと考えるのであります。

 私たちの政策目標や行動基準も、GDP一点張りから、文化の創造、文化の享受などを含めた新たな幸福度というか満足度ともいうべき基準というものを加味した真の豊かさを実感できる日本を建設していく時期に来たのではないかと考えるものであります。

 英国のブレア首相は、クール・ブリタニカ、かっこいい英国の政策をひっ提げましたけれども、我が国も、クール・ジャパン、かっこいい日本を打ち出していく時期に来たというのがそのねらいなのであります。

 今、行財政改革の中で、行政サービスのむだを省き、効率化を進めようという動きが本格化しつつありますけれども、末端の国民に対してサービスの低下を押しつけるわけにはまいりません。このため、民間が事業ベースでサービスを請け負う分野をつくり出していくことと、NPO活動等の充実によりましてサービスの低下を補完することが重要なポイントになります。

 今後、地域コミュニティーを充実していくためにはNPOを大きく育てていくことが不可欠であり、税制面で思い切った措置をとっていかなければならないと考えます。こうしたNPO活動の展開によりまして、地域コミュニティーの参加や新しい人生の目標を立てることによって生活者の生きがいや充実感が広がっていくことは間違いがないと考えます。

 一方、国民の負担感の重いものに教育費があります。現在、中学、高校生の間では、平均して塾に通う費用として年間二十万円を要すると言われております。実に、総額一兆三千億円に上ります。本来、公立学校や私立学校でまともな教育をしていれば、受験技術の習得のために塾へ通わなくてもよいわけでありますから、親は余計な出費をしていることになるわけであります。

 もともと、真の学力、真の実力向上に結びつかない受験戦争も問題であり、この際、しっかりと教育改革を行い、子供たちを受験の呪縛から解き放ち、親もゆとりのある生活と文化を享受できるようなライフスタイルに持っていかなければならないと考えるのであります。(拍手)

 また、我が国の場合、衣食住のコストも欧米と比べると高いものになっており、高速道路などの運輸、エネルギーコストの高コスト構造も解決されておりません。こうした分野におきましても、規制改革や競争原理の導入によって改革されることは、企業の生産性だけではなくて、国民のライフスタイルを変えていくインセンティブに結びついていくものと思います。

 欧米では、三百万から四百万円で立派な生活ができると言われております。我が国におきましても、年収四百万円から五百万円で立派な中流生活が送れるような生活基盤をつくり上げていく時代になってきているものと思います。

 小泉首相は、これまで進めてきた構造改革をきっちりと完成させていくためにも、二十一世紀の豊かな新中流生活構想を打ち出し、サラリーマンを中心とする多くの働く人たちへのメッセージをぶち上げるべきだと思いますが、いかがですか。総理のお考えをお聞かせいただきたいと考えます。

 地域経済は、先ほども述べましたように、現在、少子高齢化や国際化の急激な進展など大きな構造変化のうねりの中で、極めて厳しい状況に直面しております。今後、地域それぞれの個性や特徴を生かし、地域の創意を引き出していくような取り組みが必要不可欠のものであります。

 これまでの地域再生の動向は、隣の芝生的な対応が多く、隣村にあるのにおらが村にはないものを要望するというぐあいに、他人が持っていて自分にないものを足すといった横並び的なやり方のために、ほとんどの地域が金太郎あめの状況になっているわけであります。

 どこの地域にも自然環境や伝統や文化などの特徴を持っております。それぞれの地域で、何が自慢の種なのか、何を誇れるのかを発掘し、単なる経済評価だけではなく、文化、歴史、環境評価など多様な地域形成を行うインセンティブを与えたらいかがでしょうか。

 観光の国イタリアにおきましては、どこへ行っても、歴史と農業と観光が有機的につながって、イタリアならではの文化の薫りと魅力を発揮しております。充実した豊かさを謳歌しているのではないかと推察をいたしております。

 総理は地域活性化にどのように取り組まれるのか、お聞かせ願いたいと思います。

 郵政、道路公団の民営化についてもお伺いをいたします。

 政府は、郵政事業を平成十九年四月から民営化するため、経済財政諮問会議で具体案の検討を進めておりますけれども、我が党も郵政事業民営化にかかわる特命委員会を今月中に開き、論点整理をしてまいりたいと考えます。

 道路関係四公団の民営化については、民間でできることは民間にゆだねるとの原則に基づき、今国会に法案が提出される予定でありますけれども、先ほども総理が申しておりましたように、民営化に際しては約四十兆円に上る債務を確実に返済すること、真に必要な道路を、会社の自主性を尊重しつつ、早期に、できるだけ少ない国民負担のもとで建設すること、民間ノウハウの発揮により、多様で弾力的な料金設定やサービス提供を行うことなどが中心となっているのであります。

 私が最近残念に思っていますことは、高速道路を建設することは、いかにもむだな公共事業を実施しているような印象で語られていることであります。

 高速道路は生活道路であり、産業道路であり、地震や災害時の緊急避難用の道路であります。極めて多面的な用途で使われるのであります。まして、今後、地方分権、地方自治の充実が国家命題とすれば、道州制の導入などで地方の経済自立を図っていくことや、国際経済の中で地方が、地域が自らの特性を生かして貿易の振興を図っていく上で、高速道路などの交通体系が整備されていくことは不可欠の条件なのであります。目先の利害関係だけで国家の大きな目標を見失ってはいけないと思います。

 郵政、道路公団の民営化について、総理の基本的なお考えを聞かせていただきたいと思います。

 次に、年金、医療、介護等の社会保障制度についてお伺いをいたします。

 国民の安心や生活の安定を支える重要な役割を担っている社会保障制度は、急激な少子高齢化が進展する中で、これらの制度を国民に信頼される持続可能で安定的なものにしていくためには、給付と負担の見直しを初め、不断の改革を行っていくことが必要であります。さらには、中長期的には抜本的な改革が必要だと考えます。

 そこで、まず、社会保障制度全体の改革の方向性をどのように考え、また、今後、具体的にどのように進めていくのか、総理のお考えを聞かせていただきたいと思います。

 本年の年金制度改革におきましては、昨年、年金制度の根幹とも言える給付と負担、基礎年金に対する二分の一国庫負担の問題について、与党内で合意を得ておりますけれども、今後、年金制度改革をどのように進めていかれるのか、また、これらの改革によりまして年金受給者である方々にどういう影響が及んでいくのか、総理にお伺いをしたいと思います。

 次に、国の基本にかかわる治安の問題についてお伺いをいたします。

 これまで我が国は、主要先進国の中で最も治安のよい国であることを誇りとしてきました。しかしながら、平成十四年まで、刑法犯の認知件数は七年連続で戦後最多を更新し、昭和期の二倍となっております。その一方で、検挙率は約二割と過去最低の水準に落ち込み、我が国の治安はまさに危機的状況にあります。このため、昨年、我が党では治安強化に関する緊急提言を明らかにいたしました。その中で、五年で治安の危機的状況を脱することを掲げ、治安関係人員の思い切った増員及び治安関係予算に関して特別な配慮をすべきであることなど、政府における総合的な治安対策の推進を提言をしたところであります。

 また、国際的テロの懸念も国民の大きな不安となっております。テロ対策を含めて、治安強化の取り組みに対する政府の方針と総理のお考えを聞かせていただきたいと思います。

 さらに、我が国の経済は、国際社会との連携の中で成り立っていることは言うまでもありません。その意味で、自由貿易協定、FTAは、貿易立国である我が国経済を中長期的に再活性化させるかぎとして、我が国対外政策の最重要課題なのであります。特に、経済関係の緊密な東アジア諸国とは、FTAにより経済連携を強化し、世界経済の確固たる一極として、域内諸国が互いに繁栄できる経済圏の確立を目指す上で必要不可欠なものであります。我が国が強いリーダーシップを持って臨むべき課題であるということは、さきのASEAN会議で総理も述べておられることでございます。

 今後、メキシコや東アジア地域とのFTAを進めていく上におきまして、我が党の方におきましてもFTA特命委員会で積極的に意思決定を図っていきたいと思っておりますけれども、政府の方では、当面、差し迫っているメキシコとの交渉をどうまとめようとされているのか、小泉総理のお考えを聞かせていただきたいと思います。

 メキシコとの交渉の一方におきまして、既に韓国、タイ、マレーシア、フィリピンについても、昨年十二月に交渉開始に合意したところであります。ASEAN諸国との有意義な、幅広い次世代のFTAを締結するために、農業構造改革や人の移動の問題に関してどう取り組み、さらに、FTA交渉の推進に向けた国民的合意をどう形成していくのか、小泉総理のお考えをお伺いしたいと思います。

 さて、我が国の平和と繁栄が、我が国一国だけでなし得るものではなく、国際社会の安定によっていることは疑う余地はないと思います。まさに、イラク復興への協力が大きな課題となっているわけでありますけれども、イラクの再建は、イラク国民にとって、また、中東地域及び国際社会の平和と安定にとりまして極めて大事であることは我々が主張してきたことであり、石油資源の九割近くを中東に依存する日本の国益にも直結するものであります。

 このような状況下におきまして、航空自衛隊に続き、陸上自衛隊の先遣隊が、先週、イラクに向けて出発をいたしました。

 総理もおっしゃっておりますように、一般国民にはできない、自衛隊だからこそできる活動が要望されているわけであります。その際、自衛隊員の安全確保対策が最重要だと考えます。私たちは、国民とともに、誇りを持って、自衛隊員の無事を祈って送り出して、その任務を果たしていただきたいと祈るばかりであります。

 イラクへの自衛隊派遣につきまして、陸上自衛隊の本隊をいつ派遣するのかを含めまして、総理のお考えを国民の前にきちっと説明していただきたいと思います。

 また、私が心配することは、陸上自衛隊がサマワで復興支援事業を行うために総勢六百人も集まる陣地を築いていくことになると聞いておりますけれども、最も心配なことは、テロ集団が迫撃砲弾をもって宿営陣地を攻撃してきたときに、隊員の安全を守れるのかどうかということであります。こういう体制にも万全の形で備えていただかなければならないと考えます。

 さらに、どういう事態になれば自衛隊の任務が終了することになるのかを明確にしておくことも大事なことであろうと思います。

 我が国の自衛隊員がオランダ軍とともに仕事をしているときに、テロ集団がオランダ軍に万一攻撃をしかけてきたときに、我が国の自衛隊の対応は、自分の隊を守る以外は茫然とオランダ軍への攻撃を見守っていることになるのか。こういうことは国際常識の中でどういうふうに考えられていくのかも、我々はよく注意していかなければならないし、みずからの問題として受けとめていかなければならないと思います。

 これらにつきましても、総理の御所見をお伺いいたします。

 また、国際的な平和と安定を維持増進するためには、PKO法やテロ特措法やイラク復興支援特措法を再検討し、国際協力のための恒久法を検討し、その法律化を図る必要もあると考えておりますけれども、総理のお考えをお聞かせいただきたいと思います。

 なお、関連をいたしまして、最近、武器輸出三原則に関連をして議論されていることがありますけれども、武器輸出三原則については、従来から、さまざまな論点が指摘をされているところであります。BMDとの関係だけにとらわれずに、幅広い議論が必要ではないかと考えますが、政府のお考えを聞かせていただきたいと思います。

 拉致問題及び対北朝鮮外交についてお伺いをさせていただきます。

 北朝鮮問題は、我が国の安全保障上、最も懸念される課題であります。この問題の解決に向けまして、我が国といたしましては、拉致問題を抜きにして語ることはできません。拉致被害者が帰国されて、はや二度目の正月を迎えました。しかしながら、一向に解決のめどが立っておらないのであります。総理は、この問題にどのように臨まれるのか。

 私は、この問題を解決するには、我が国の毅然とした姿勢が必要であると考えます。政府は、対話と圧力を基本姿勢としていながら、具体的な圧力の姿勢が見られません。我が党は、圧力の具体的な方策として、我が国単独で送金停止等の経済制裁を可能とする外為法改正案を今国会に提出することといたしております。特定外国船舶の入港を禁止する法律も検討をしております。

 総理は、この圧力のカードを持つことや、このカードをどういうふうに利用していくのかについて、お考えを、あれば聞かせていただきたいと思います。

 また、最近の北朝鮮のさまざまの動きから、北朝鮮が拉致問題及び核開発問題に関連いたしまして柔軟な対応を見せてきているとの情報もあるわけでありますけれども、このような北朝鮮側の姿勢につきまして、総理はどのように評価をされているのか、また、それとも関連して、六者協議開催の今後の見通しについても、あわせお伺いをさせていただきたいと思います。

 小泉総理は、さきの総選挙の際、党の政権公約二〇〇三において、立党五十年を迎える二〇〇五年に憲法草案を準備することを公約として国民にお約束をしております。

 私は、この政権公約を作成した者の一人として、この中で最も大事なことは、国民的な議論を行い、憲法に対する認識を共有するプロセスが大事だと思います。

 現行憲法は、周知のように、我が国がさきの第二次世界大戦で無条件降伏をし、占領中に占領軍から提案をされ、しかも、ほとんどの国民がいわば虚脱状態の中で、みずからの意思、考えを十分に言い尽くせない形で成立したことは、御承知のとおりであります。

 このため、現行憲法は自分たちが甲論乙駁をしてつくり上げたものではないという意識なり潜在意識を持ってきたために、どうしても、国家社会の営みの中で、憲法と国民一人一人とのかかわりぐあいや、国家社会への参加意識が受動的なものになっていることは残念なことであります。特に、公共心や安全保障に関する問題意識が置き去りになり、思考停止状態であったことは、戦後の歴史が証明していることであります。

 したがって、戦後六十年を経ようとしている今、さらに、来年の立党五十年には新しい憲法草案をつくろうとしている今、現在の憲法がいいか悪いかということではなくて、現行憲法はどうなっているのか、どうしてこうなったのか、それでよいのかどうか、さらに、新しい時代に対応していくためにはどうするのか等を真剣に議論し、新しい憲法草案を作成していくことが大事だと思っております。それによって初めて、国民一人一人がみずからの生活と考えの中に憲法のあり方を位置づけ、新しい国づくりのために積極的な参加意識が生まれ、生きた憲法と成熟した民主主義国家が生まれることと思います。

 総理の新しい憲法草案作成に当たっての基本的な考えをお聞かせ願いたいと思います。

 最後に、質問を終わるに当たりまして申し上げたいことは、現在行っている構造改革が勝ち組、負け組をつくり出し、人の上に人をつくるようなことになってはいけないし、人の下に人をつくるようなことになってもいけないわけであります。

 エドモンド・バークも、保守を守りたければ改革せよと言っております。

 我が国の構造改革は、官僚主導から政治主導へ政治の道を本筋の道に戻すと同時に、自由と活力に満ちた力強い経済社会を構築し、国民生活も文化に富んだ品格のある成熟した民主国家をつくり上げることに我々の理想があるわけであります。(拍手)

 小泉総理におかれましては、施政方針演説の中で孟子の言葉を引用して、構造改革に取り組む断固たる決意を示されました。私も、孟子の言葉を引用して、「天下の広居に居り、天下の正位に立ち、天下の大道を行く」という言葉をエールに送りたいと思います。これは、天下の真ん中に立って天下の大道を行い、志を受け入れられなければ自分一人でもその道を行うという意味であります。

 この難局に当たり、政府・与党一体となって地平を切り開いていくことをお誓いし、質問を終わらせていただきます。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 額賀議員にお答えいたします。

 激励をいただきまして、ありがとうございます。

 まず、経済問題、名目成長率と基礎的財政収支についてでございます。

 今まで改革路線を進めてまいりましたが、ようやく日本経済も、企業収益が改善し、設備投資が増加するなど、明るい兆しも見えてまいりました。国主導の財政出動に頼らなくても、民需が主導する形で着実に回復してきたなという印象を持っております。また、名目成長率は過去半年間においてプラスになるほか、物価にも下げどまりの兆しがあります。さらには、国、地方を合わせた基礎的財政収支の赤字は、平成十六年度から縮小に向かうと見込まれております。

 今後とも、日銀と一体となってデフレ克服を目指しながら、引き続き構造改革を進めて、創造的な企業活動を促進することなどを通じて新規需要や雇用を創出し、地域経済を活性化させていきたいと思います。また同時に、二〇一〇年代初頭に基礎的財政収支黒字化を目指す、これに向かって改革を進めていく必要があると思っております。消費、投資を活性化させる、これらにより、民間需要主導の力強い、持続的な経済成長を図っていきたいと思います。

 また、構造改革の進むべき姿についてさまざまな御提言をいただきました。この御提言を踏まえ、そして今までの成果を踏まえて、さらなる改革に取り組んでいきたいと思います。

 御指摘にありましたように、サラリーマンを含めて国民一人一人が将来の希望を持てるような社会をつくることが必要だ、全く同感であります。

 私は、種々御指摘のあった点も踏まえまして、規制改革を通じたサービスの向上、あるいは科学技術を活用した環境と経済の両立、観光立国の推進、また我が国が世界に誇る文化芸術の振興など、国民生活の質の豊かさを多くの国民が実感できる社会の実現に向けた取り組みを総合的に進めていく考えであります。

 地域経済の活性化についてでございますが、都市再生、また構造改革特区、一地域一観光など、地域の文化や歴史、環境などの特色を生かした各地域の知恵とやる気を国として積極的に支援してまいります。

 昨年末から行われました地域再生構想の提案募集には、約七百件もの応募が寄せられております。これを実現するためにはどうすればよいかという基本姿勢で検討を行ってまいります。地域の実情に合わせた制度改革、あるいは施策の連携、集中を進めて、地域の再生を支援してまいります。

 郵政民営化についてのお尋ねでございます。

 長年、自民党も含めて、野党も民営化反対論者が多かったわけでありますが、ようやく民営化是か非かは決着したと考えております。選挙の公約で、自民党も改革推進政党になったな、民営化反対論者も賛成に変わってくれた。問題は、これから、もう民営化是か非かじゃないです、民営化のためにどういう案がいいかということを、政府と一体となって取り組んでまいりたいと思います。ことしの秋ごろまでには民営化の具体案をまとめて、来年の国会に法案を提出して、民営化実現に持っていきたいと思います。

 道路四公団の民営化の基本的な考えについてでございます。

 これも、さすが自由民主党、改革推進政党になった。民営化反対論者も賛成に回って、道路四公団の改革については、道路関係四公団民営化推進委員会の意見を基本的に尊重するということに賛成していただきました。

 約四十兆円に上る債務を確実に返済し、真に必要な道路を、会社の自主性を尊重しつつ、早期に、できるだけ少ない国民負担のもとで建設するとの方針のもと、現行公団方式を改め、徹底したコストの縮減を行い、民間にできることは民間にゆだねるとの原則に基づいて、競争原理を導入し、民営化することといたしました。

 こうした方針のもとに、抜本的見直し区間の設定、有料道路事業費の半減、四十五年以内の債務返済、通行料金の引き下げ、道路公団を分割・民営化して民営化会社の自主性が生かされる仕組みとすることなどを内容とする民営化の基本的枠組みを取りまとめることができました。これらを内容とする関連法案を今国会に提出し、平成十七年度に民営化を実現していきたいと思いますので、よろしく御協力をお願いいたします。

 社会保障制度改革についてでございます。

 急速な少子高齢化が進む我が国にあって、社会保障制度を将来にわたって持続可能で安定的なものとして維持していくことは、政治の大事な任務であります。

 年金については今国会に年金制度改革法案を提出するとともに、十七年度には介護制度改革を行うこととしております。これらの改革に際しては、自助と自律の精神を基本としつつ、年金、医療、介護といった各制度ごとのみならず、社会保障制度全体を総合的に取り上げ、国民的な開かれた議論のもとに改革を進め、若者と高齢者が支え合い、国民が安心して暮らすことができる社会保障制度を構築してまいります。

 年金改革についてです。

 この年金制度改正については、昨年末、少なくとも現役世代の平均的収入の五〇%の給付水準を維持しつつ、負担が過大とならないよう保険料を極力抑制して、その上限を国民に明らかにするとともに、課題であった基礎年金の国庫負担割合の二分の一への引き上げに道筋をつける改革案を取りまとめたところであります。多様な生き方、働き方に対応した制度の見直しとあわせ、今国会に関係法案を提出し、持続可能な、安心できる制度の構築に向けた改革を進めてまいります。

 その際、既に年金を受給している方については、物価や賃金水準が低下しない限り現在受給されている年金額を下回らないこととし、高齢者の生活に配慮した調整を行うこととしております。

 治安強化の取り組みについてでございます。

 昨年末に犯罪対策閣僚会議が策定した行動計画に基づいて、まず、政府といたしましては、犯罪の生じにくい社会環境の整備、水際対策を初めとする各種犯罪対策、治安関係機関の体制強化など、総合的な対策を講じてまいります。世界一安全な国日本の復活を目指して、これからも全力を尽くしていきたいと思います。

 国内外におけるテロ関連情報の収集及び警戒警備を強化するとともに、関係機関による実践的訓練を積み重ねることにより、緊急事態に的確に対処できる体制の整備にも努めてまいります。

 メキシコとのFTA交渉ですが、我が国の重要な戦略的課題の一つであると認識しております。精力的に交渉を重ねておりますが、現在、交渉は最終段階に入っております。我が国全体の国益の観点から、日本とメキシコ双方の努力により、早期に交渉全体を取りまとめていきたいと考えております。

 ASEAN諸国とのFTAについてですが、ASEAN諸国と我が国のFTAの問題は、これまた大変重要な戦略的課題であります。特に、タイ、マレーシア、フィリピンとのFTAは、昨年末の日本ASEAN特別首脳会議において、各国の首脳と議論し、交渉開始を決定いたしました。ぜひ成功させていきたいと考えております。

 御指摘の農業や人の移動などの課題への対応を含めまして、国内の構造改革を進めることが重要でありまして、十分な国民的議論を行いながら、これらのFTA交渉の成功に向けて積極的に取り組んでまいります。

 イラクへの自衛隊派遣の理由と時期についてでございます。

 イラクが安定した民主的な国になるということは、日本の国益であると同時に、世界にとっても極めて重要な課題であります。私は、日本も世界各国と協力して、また、アメリカとの日米同盟、この関係を重要視しまして、日米同盟と国際協調を両立させて、イラクの復興と安定した国づくりにどのような役割を日本が果たすことができるかということを真剣に考えてまいりました。

 こういう状況で、もしこのテロに屈して、イラクが不安定な国になってテロの温床になってしまったらどうなるか、これはだれもが大変深刻に考えている問題だと思います。その際に、私は、イラクに対して、日本は資金協力もいたします、人的協力もしなきゃいけない。そういう中から私は、今回自衛隊の諸君にも、大変厳しい状況で、必ずしも一〇〇%安全とは言えない、危険を伴うかもしれないけれども、この困難な任務を果たしてくれるのは自衛隊諸君であるという考え方から、自衛隊派遣を決定いたしました。

 私は、こういう活動というものは、我が国憲法に合致するし、そして、国際社会の責任ある一員として必要なことだと思っております。できるだけ早くイラク人の政府を円滑に実現するためにも、今こそ、日本も応分の協力をすべきだと思っております。

 また、陸上自衛隊の本隊の具体的な派遣時期については、安全確保に十分留意して、先遣隊が収集した現地状況に関する情報などを踏まえて、適切に判断してまいりたいと思います。

 派遣された自衛隊が不測の事態に遭った場合どうするか、また、その任務を終了させる事態についてどうなのかというお話でございます。

 私は、現在の治安状況をよく見きわめるとともに、御指摘のような事態に対しても、適切な監視体制や防護体制を構築することによって自衛隊員の安全を確保することができると考えております。

 また、イラク特措法の目的が達成され、自衛隊が現地で活動する必要がなくなった場合のほか、活動する場所で戦闘行為が行われるようになるなど、非戦闘地域の要件を満たさない状況が生じた場合には、自衛隊は任務を終了することとなると考えております。

 自衛隊は、外国軍隊の安全確保や、また現地の治安維持を任務とはしておりませんが、いずれにせよ、自衛隊の武器使用については、イラク特措法の規定に基づき、自衛隊員や自己の管理下に入った者などを守るために、やむを得ない場合に認められているというふうに考えます。

 国際平和協力のための一般法の整備についてでございます。

 国際平和協力法、テロ特措法に基づき、我が国はさまざまな国際平和協力を行ってきております。国際平和協力の一般法の整備については、我が国の国際平和協力のあり方にかかわる問題であり、今後、国民的議論を踏まえて検討すべき課題であると考えます。

 武器輸出三原則についてですが、弾道ミサイル防衛システムに関する日米共同技術研究が進む中、これとの関係も踏まえ、国際紛争等を助長することを回避するという基本理念に立って検討していくことが必要であると考えます。

 拉致問題への取り組みでございますが、北朝鮮に対しましては、日本国民の総意として、誠意ある対応を求め、早期に政府間協議に応じるよう働きかけておりまして、今後とも、国際社会の理解と協力を得つつ、拉致問題の一刻も早い解決のため、あらゆる機会を通じて最善を尽くしてまいります。

 また、北朝鮮に対する圧力についてでございます。

 現在、各党において、北朝鮮に対して種々の措置をとり得るようにする立法が検討されていると承知しております。北朝鮮問題の解決のため、対話と圧力の両面から働きかけていくべきであり、いろいろな選択肢を持つことは有意義であると考えます。また、今後、北朝鮮が事態を悪化させた場合には、状況をよく見きわめ、適切な措置を講ずる考えであります。

 北朝鮮の姿勢と六者会合の見通しについてでございます。

 最近、北朝鮮の言動を見ますと、その意図や背景については、よく本音と建前を見きわめなきゃならないと思っております。関係国とも連携しつつ、北朝鮮が、核・ミサイル問題等の安全保障上の問題、拉致問題等の諸懸案の包括的な解決に向けて誠意ある対応をとることを期待しております。

 また、六者会合の次回開催の日程は現在確定しておりませんが、我が国は、次回の会合を、前提条件をつけずに可能な限り早期に開催すべきであるという立場であります。このため、関係国と緊密に連携しながら外交努力を継続してまいりたいと思います。

 憲法改正についてでございます。

 この問題については、二年後には自民党結党五十周年を迎えます。一つの節目でありますし、この問題については、党としても、来年の秋までには自民党案をまとめて、そして国民的な議論を喚起しながら、時代にふさわしい日本の新憲法を制定できるように、自民党、また野党の協力もできれば得ながら、与党の協議も十分進めまして、国民的な議論を喚起しながら、よりよい憲法を制定できるように努力をしてまいりたいと思います。(拍手)

    ―――――――――――――

    〔議長退席、副議長着席〕

副議長(中野寛成君) 松本剛明君。

    〔松本剛明君登壇〕

松本剛明君 民主党の松本剛明です。

 私は、民主党・無所属クラブを代表して、施政方針演説について総理に質問をいたします。(拍手)

 まず、先ほどの菅代表の再質問に対する総理の答弁は、まことに残念でありました。雇用に関して、第一次産業、農業のことにまで言及をして聞いたにもかかわらず、手続論にかこつけてお答えになりませんでした。もし手続に落ち度があると認定されたとしても、雇用、農業という重大な問題に、この本会議の大事な場で総理は御自分の考えを述べるのが国民に対する総理の責任だと思います。(拍手)

 申し上げまいと思っておりましたが、一昨日、総理の演説中に、まさかと思いましたが、何人もの閣僚がお休みになっているように見受けられました。きょうは質問がいいからお休みになっている方はいないようでありますが、ぜひ総理には、眠たくなることのないような、真摯な議論に資する誠意ある御答弁をお願いいたします。もし答弁が不十分と考えたときは、時間の範囲内で再質問をさせていただきますので、よろしくお願いいたします。(拍手)

 まず、外交から伺います。

 日本は、国際社会の中にあって、外交によって我が国の国益を図ることが国政の最大の責務です。世界の平和と安定の中に我が国の安全と繁栄がある、それゆえに、築き上げるものである平和のために、日本も行動によって国際社会の一員の任務を果たさなければならず、我が国にとって必要なら、自衛隊の派遣も行わなくてはならないと私たちも考えております。(拍手)

 総理は、一国平和主義か国際協調主義かと言われていますが、それなら、間違いなく私たち民主党こそが国際協調主義です。私たちは、それぞれの国が主権を維持し、他国と対等な関係に立とうとする国際社会を考えていますが、総理がもし国際協調主義だとおっしゃるなら、総理の世界観、考えておられるのは、米国一国中心の国際社会なのでしょうか。米国がすべてを支配するから、その要望には従うしかないというのでしょうか。私は、米国はそのような独善的な国であるとは思いません。

 米国との関係は我が国にとっても大変重要です。しかし、一方で、日本の国益のために、関係を維持しつつ、ぎりぎりまで粘り強く折衝する必要があるときがあると思っています。

 同じように米国との関係を重視されるお二人の方が、こう述べています。田中秀征元経企庁長官は、時の内閣は霞が関との距離、米国との距離ではかられるが、一定の距離を保つことが首相の節度、見識であると。そして、最も親米派とも言える宮沢喜一元総理が、小泉総理の米国支持の姿勢はいささか踏み込み過ぎていると言っておられ、米国に振り回されることに警鐘を鳴らしています。総理は、霞が関にもブッシュ政権にも近過ぎるのではありませんか。(拍手)

 日本と米国の国益が一〇〇%一致することはありません。

 例えば、昨年、日本が取り組んできたイラン・アサデガン油田開発について、米国石油メジャーの思惑が背景にあるとも言われる米国からの横やりが入り、日本は優先交渉権を失いました。石油エネルギーは国の根幹にかかわる問題です。平沼前経産相の国会答弁からもうかがえるように、サウジアラビア・カフジ油田の権益交渉に失敗した我が国にとって、かけがえのないぐらい重要な案件であると政府は考えているはずです。核開発が許されないことは当然ですが、アドバンテージを失ったロスは否めません。

 円・ドル為替相場も同じです。大統領選を前にブッシュ政権は、ドル安容認姿勢を示して、昨年だけでも一〇%以上円高・ドル安方向に誘導し、米国の雇用の確保が図られていますが、その分、日本経済には打撃が生じます。

 BSEの問題でも、先年日本で発生したときの米国の対応と、このたび米国で発生したときの日本に対する態度には、相当な落差が感じられます。

 いつも米国の言い値で何もかも受け入れていては、我が国と国民のマイナスははかり知れません。交渉を放棄した外交の怠慢は許されるものではありません。総理の御見解を伺います。(拍手)

 また、力の外交の思想に影響されたのでしょうか、防衛庁長官から、BMD関連、米国向けを超えて武器輸出三原則を緩和する趣旨の発言があったように伝えられております。先ほどの答弁でも、大変わかりにくい回答でございました。もう一度、政府の武器輸出三原則に対する回答を求めます。

 続いて、イラク問題について伺います。

 まず、昨年十一月末、イラクで殉職された奥大使、井ノ上一等書記官、我が国スタッフとして亡くなったジョルジース職員、そして御遺族の方々に、その功績をたたえ、心から弔意を表します。私たちは、お二人の外交官の死を本当の意味でむだにしてはならない、そう考えております。

 そのために、何よりもまず真相が究明されなくてはなりません。事件発生から二カ月、不可解な情報が錯綜するばかりで、政府は、現地にも行かず、積極的な取り組みも説明もないままに終始しています。ところが、我が党の渡辺周議員が米国国防総省幹部にただしたところ、公表していないが、報告書は関係者に送ってある、こういう回答でありました。政府の対応と、米国の言うところの報告書について、答弁を求めます。

 いよいよ陸自先遣隊がイラクに入りました。私たちも、命ぜられた任務に忠実な自衛官諸官に敬意を表し、無事を心から祈っております。

 その上で、今回の自衛隊イラク派遣の是非については、幾ら派遣の既成事実を積み重ねて逃げ切ろうとするこそくなやり方をされても、私たちは、我が国の未来を憂うる立場から、総理と見解を異にし、即時撤退を求めて、国会の場で徹底的に議論させていただく、そういう考えであります。(拍手)

 派遣を認められない第一の理由は、今回のイラク戦争に大義がないからです。総理は大量破壊兵器の脅威を根拠にされましたが、情報操作疑惑は出てくる、いまだに発見されない、いかにいいかげんな理由づけであったか、語るもむなしいほどであります。テロとの闘いにすりかえて済む話ではありません。

 国連憲章は、国連の決議による場合と自衛権行使のケースにのみ武力行使を認めています。自衛のための先制攻撃というブッシュ・ドクトリン、国連を軽んじた武力行使は、世界を大戦前の何十年も昔に引き戻すだけで、到底くみすることはできません。私たちは、世界の安定的な平和のために、国際法に準拠したルールが確立される方向に進むべきであります。

 また、米英主導の占領統治を支援することも問題です。主導する米国ですら国際社会の関与を模索する中で、アジアの一員として、また中東に石油の八割、九割を依存する国として、慎重な中東外交を展開してきた積み重ねをすべて失ってアラブ諸国や世界各国との関係を変えてしまうことが、本当に日本にプラスになるとは思えません。総理の御所見を伺います。(拍手)

 特措法の枠組みにも問題があります。

 先ほど、菅代表は、憲法改正の視点から、正面から議論をさせていただきましたが、その回答は、非戦闘地域理論でありました。非戦闘地域なるものを設定した細工は最初から無理だったんです。国会での議論から既にその理論構成が破綻していることは明らかであります。政府の甘い見通しを覆した現下のイラクは、そのような法のもとでの対応が可能な情勢にありません。直接ツケを払わされる派遣された自衛官が気の毒であります。

 そもそも、長く国会の過半数を制して政権にありながら、いつも安全保障の問題に正攻法で取り組まずにその場しのぎに終始し、憲法改正も、結党以来、もう間もなく五十年ですか、その理念と言いながら、いつも何もかもを官僚任せにして、政治として何もしてこなかった自民党に責任があります。急遽迫られて、急に迫られて場当たりの対応が必要になって、非戦闘地域のような細工をするからおかしなことになるのであります。(拍手)

 私たちの政権担当能力を御心配いただいておりますが、懸念には及びません。自民党の政権担当能力が、この五十年何をしてきたかということで、問われているのであります。民主党は、結党してさして間がありませんが、安全保障にも憲法改正にも真正面から取り組む決意であります。

 国会承認はシビリアンコントロールの根幹です。自衛隊の出動は、武力攻撃事態の防衛出動、周辺事態法やPKO協力法でも、原則、国会による事前承認です。ところが、復興支援を目的とするはずのイラク特措法では事後承認となっており、しかも、政府は、航空自衛隊先遣隊の派遣時期のみが明示された昨年十二月十九日付の一般命令をもって、今後の活動全般についての一括した承認を求めるということですが、これでは白紙委任です。それこそ、政治の責任放棄であります。本来、その趣旨からして、自衛隊による活動はそれぞれ国会による承認を求めるべきであります。国会の関与のあり方について、総理の見解をお尋ねいたします。

 自衛隊の撤退についても、あわせてお尋ねをいたします。

 近くで戦闘行為が行われるに至った場合には、活動の一時休止や避難等を行うとしていますが、どのような基準で、だれが判断して撤退をされるのでしょうか。また、任務は何をもって完了となり、撤退をされるのでしょうか。総理の見解を伺います。

 今回の自衛隊派遣は、人道復興支援と言いながら、派遣そのものが目的化していることは明らかであります。民主党がかねてから現地のニーズの一つが雇用だと申し上げてきたのに、自衛隊派遣に関連して慌てて雇用対策を行おうとする姿勢がその証拠であります。また、国民に説明を避けておりますが、安全確保支援活動、すなわち米英等連合軍の後方支援も行うはずであります。総理の確認を求めたいと思います。

 民主党は、イラク国民による政権が樹立され、明確な国連安保理決議が採択されて、自衛隊の活用も含めたイラクへの復興支援の環境が整うと考えます。イラク国民による政権樹立、国際協調に向けた取り組み、国連主導の復興支援の枠組み実現の見通しをお示しください。

 北朝鮮に関連することについては、私も準備をしてまいりましたが、先ほど、菅代表から提案を含めて要請をさせていただいたところであります。私からも、拉致問題、大量破壊兵器問題の、早急に、完全に解決されることを強く求めてまいりたいと思います。

 一点だけ、お伺いをいたします。

 日本として、多額のODAを供与していて密接な関係にあるはずの中国にも、大変この問題では影響力が大きいだけに、強く助力を要請すべきだと考えます。

 総理が中国首脳との信頼関係を築けず、二年以上、国際会議のときを除いてトップ同士の会談がない、そんな状態が響いているのではないでしょうか。今、結果が北朝鮮の問題について出ていない、その実態を重く受けとめて、解決のために総理御自身が何をされ、政府がどう対応し、しようとしているのか、伺いたいと思います。(拍手)

 昨今、大量破壊兵器、特に核の拡散問題がいよいよ切迫した脅威となっています。この中、小型核兵器の開発問題は憂慮すべき問題であります。昨年、米議会は、十年ぶりに研究解禁を認める法案を可決し、研究予算を要求の半減で合意いたしました。ブッシュ政権が示す使える核への意欲を議会側が条件つきながら認めたことになります。

 使える核が実用化すれば、曲がりなりにも保たれている核の抑止力体制は、確実に崩壊への道に踏み出すことになります。政府は、核不拡散体制を強化するとの立場ですが、小型核兵器開発問題に対する見解を総理に伺います。

 国民保護法制について伺います。

 私たちは、有事法制は必要であるとの立場で、当時の与党三党と修正協議を行い、成立させました。しかしながら、同時に、いかなる場合であっても憲法で定める国民の自由、権利は尊重されなければならないという観点から、特に基本的人権の扱いが極めて重要であると考えております。

 基本的人権の尊重は、政府策定の国民保護法制の「要旨」で配慮事項として明記されましたが、法案化に当たって、いかに具体的に担保され、実質的な歯どめとなるのか、政府のお考えを伺います。

 我が国外交の柱は、日米同盟、アジア外交、国連の三本であります。

 国連について、政府は、安保理非常任理事国選挙への意欲や分担率の見直しを唱えておられますが、これは分担金の軽減を図ろうとしているのか、それとも、世界の平和のために国連が大きな使命を果たせるような改革に、分担金に見合った発言力を確保して戦略的に取り組もうとしておられるのか、総理の御所見を伺います。

 また、FTA締結の動きが加速する中、アジアで中国に後塵を拝するなど、日本の取り組みの遅さが目立ちます。族議員と官僚に意思決定を任せる、FTAと農業をてんびんにかけるような発想から抜け出さない限り、他国との交渉の進展も望めません。アジア外交・通商政策の両面から、政治のリーダーシップで大胆な戦略を持って臨むべきだと考えます。総理の答弁を求めてまいります。

 日米同盟を強化、進化させていくには、両国の国民の理解と支持が不可欠です。昨年、沖縄に関する特別行動委員会最終報告が発表され、期限の七年目を迎えましたが、普天間基地の返還は、現在、実態としてほとんど進んでいません。ブッシュ政権は、今、在外米軍再編に関して関係方面との見直し協議を本格化させるとしています。この機会に在日米軍、特に沖縄の駐留米軍基地問題を進展させるべきと考えますが、総理の見解を求めます。

 次に、教育の問題についてお尋ねをいたします。

 教育は百年の大計とも言われ、米百俵の精神も教育の大切さを示したものと思いますが、めり張りをつけた予算でも教育は重点ではないようで、総理の考え方がうかがえます。

 民主党は、教育の多様性を確保し、子供や教師に加えて保護者や地域の主体性が反映されるよう、地方分権を徹底し、各地域、学校が特色を生かして教育を行えるようにしながら、各ライフステージに必要な教育を実現すべきであると考えています。

 私たちは、マニフェストで、小学校三年生以下について三十人以下学級を提言しました。一人一人に目の行き届いた教育を進めるとともに、教師、子供、地域社会の一員である家族が、それぞれの立場からきずなをはぐくむこともできると考えているからです。総理のお考え、見解を求めます。

 配偶者の暴力の防止に関する法、DV防止法について質問をいたします。

 DVが抱える根の深さに現行法が対応し切れていない現状があり、見直しの必要性の指摘にこたえて、国会で超党派の議員による作業が進んでおります。政府の対応方針について、総理の答弁を求めます。

 我が国の国民と未来のための改革を進めるには、政治に対する国民の信頼を取り戻さなくてはなりません。その観点から、三点質問をいたします。

 第一に、逮捕された起訴勾留中の国会議員の歳費の問題です。民主党は、昨年、凍結法案を提出いたしましたが、残念ながら与党が了解をされず、審議採決に至りませんでした。総理は、昨年、予算委員会で見直すべきだとの答弁をされましたが、私たちの提案に御賛同いただけますか、総理の御答弁を求めたいと思います。

 第二に、政治資金の透明化及びあっせん利得処罰の問題です。民主党は、公共事業受注企業からの献金禁止、企業・団体献金の公開基準を、現行の年間五万円を超えるものの公開から全面公開へ広げること、収支報告等のインターネット公開、あっせん利得処罰法の処罰対象に政治家全般の私設秘書や親族も含めることの四点の法改正を行うべきと考えております。

 民主党の提案に対して、自民党はどう取り組むおつもりか、自民党総裁の総理の決意をお聞かせください。

 また、先ほど額賀政調会長もみずから痛みをと言っておられましたが、現下の社会情勢にかんがみれば、国会議員についてもそのままというわけにはいきません。私たちはマニフェストで、衆議院の小選挙区の一票の格差是正と比例定数の八十議席削減を提案いたしました。総理の御所見を伺いたいと思います。

 経済について伺います。

 十九日に発表された月例経済報告によれば、景気は設備投資と輸出に支えられ着実に回復しているそうですが、国民にとって実感とかけ離れています。政府が作成した「改革と展望―二〇〇三年度改定」でも認めているように、中小企業や非製造業、家計に景気回復の動きが見られないからであります。

 今回の「改革と展望―二〇〇三年度改定」で、十六年度のGDPデフレーターの下落が予想を上回る見通しとなり、十八年度名目成長率二%の目標達成のために計算方式を変えてしまいました。下方修正せざるを得ない状況に追い込まれたらベースを変えるとは、公約は大したことがないと思っておられる総理らしいといえばそれまでですが、公約の中身を変更することは許されることではありません。

 私には改革が進んでいるとは思えませんが、もし総理の言われるとおり改革が進んでいるとしても、効果が上がっていないのではありませんか。一部に明るい兆しがあると言われますが、それは世界経済の好調に助けられているだけで、政策が奏功しているわけでなく、我が国経済が根本的に回復しているのでもありません。

 総理は、経済の状況判断をどのようにされておられるのでしょうか。新丸ビルを見に行かれるのでしょうか。時に都合よくつくられた統計値を頼られるのでしょうか。国民の声に耳を傾ける気はありませんか。事実を直視し、率直に失政をお認めになっていただきたい。総理の認識をお聞きいたします。(拍手)

 いまだ、多くの中小企業や地方は不況の真っただ中にあります。強者と弱者の格差は拡大する一方で、中小企業の経営者、従業員、家族が塗炭の苦しみから逃れることは困難と言えます。十六年度予算を見ると、中小企業対策費はわずかに予算の〇・二%しか配分されていません。余りに少な過ぎる。中小企業行政をより横断的にするために担当大臣を置き、少なくとも歳出額を倍増させるなど、中小企業に手厚い対策をとるべきだと考えております。政府の取り組みについて、総理の見解を求めたいと思います。

 金融も大切な問題であります。不良債権処理が進んでいると言いますが、目的は不良債権処理なのでしょうか。本来、金融仲介機能の回復、守るべき対象は、預金者、投資家及び借り手の企業や個人であるはずであります。しかし、実情は銀行の貸し渋り、貸しはがしで、銀行貸し出しはどんどん縮小するばかり。間接金融に頼らざるを得ない中小企業にとっては、過酷な状況であります。りそな銀行や足利銀行の処理でも、守られたのは金融庁だけだと言ってもいいのかもしれません。大変地域の皆さんには気の毒な状態になっております。

 私たちは、そのような視点から、金融再生ファイナルプランを提案し、また中小企業向けの対策も提案をしております。

 金融失政について率直に反省をして、道を改めていただきたい。総理の御見解をお尋ねいたします。

 税制も、公正で活力ある経済社会の実現には大変大切なポイントであります。その点で、一点だけお伺いをいたします。

 与党の税制大綱は、個人増税のオンパレードであります。年金課税の強化に加えて、十七、十八年度で定率減税の縮小、廃止、十九年度の消費税増税と、年金も地方分権も将来像を全く示さずに、行政改革に目を向けることもなく、ただひたすらに負担のしわ寄せを行おうとしている国民負担増プランであります。与党自民党総裁として、総理は税制大綱に責任があるはずであります。総理の見解を伺います。

 雇用が政治の重大な使命であることは、総理も御認識のとおりであろうというふうに思います。先ほど、菅代表からも雇用についてお伺いをいたしました。我々がここで総理にお伺いをしなければいけないのは、小泉内閣の雇用創出の数字というのは何なのかということであります。

 五百三十万人の雇用創出、二百万人雇用ができた、三百万人雇用が創出された、数字は躍っていますが、雇用の就業者数は減っているんです。もしそれだけふやしたとすれば、それ以上に減らしたという、そういう経済運営を小泉政権はされているということにほかなりません。(拍手)

 これから三百万人の雇用機会を創出されると言っておられますが、少なくとも、来年の経済見通しでは就業者数は横ばいであります。小泉総理がふえる、雇用を創出すると言われた分だけ間違いなく雇用を失う、喪失があるんだというふうに我々は読まなければいけない、聞かなければいけないのか、このことを総理にお尋ねさせていただきたいと思います。

 小泉政権最初の十三年度の補正予算の審議のときに、この補正予算で十一万の雇用効果が出ると政府は言われました。その実績も集計をすると審議のときには約束されましたが、結局、集計も約束も果たされませんでした。小泉内閣の雇用に関する数字はいつも言いっ放しのいいかげんな数字ではありませんか。ぜひ、総理の見解を求めたいと思います。(拍手)

 ことしも八十兆円を超える予算は、使い方次第で雇用をふやすことができるのであります。私たちの試算によれば、十五年度の予算を組み替えると百万人の雇用増を実現できました。貴重な税金を最も有効に使わないことは罪であります。私たちに政権をゆだねて、予算を編成させてみた方がよっぽど国民の幸せにつながる、私はそのように思っております。

 総理の御意見を伺い、重ねて、再質問が要らないような答弁を総理にお願い申し上げて、私の質問を終わりたいと思います。ありがとうございます。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 松本議員に答弁する前に、先ほど菅議員の追加答弁の要求がありましたので、お答えいたします。

 五百三十万人雇用創出プログラムについてですが、その具体的数字を申し上げますと、二〇〇三年上期を二〇〇〇年上期と比べると、全産業で百五十七万人の雇用が減少する一方、サービス業では百五十五万人増加しており、全体として雇用者は二万人の減少となっております。

 松本議員の質問でございますが、日米関係についてのお尋ねでございます。

 日米関係は、日本外交のかなめであります。お互い協力しながら、世界の中での日米同盟とはどうあるべきか、言うべきことは言い、やるべきことはやる、お互いの立場を尊重しながらやっていくことが必要だと思っております。

 武器輸出三原則についてでございますが、弾道ミサイル防衛システムに関する日米共同技術研究が進む中、これとの関係を踏まえまして、国際紛争等を助長することを回避するという基本理念に立って検討していくことが必要であると考えております。

 イラクにおける我が国外交官の殺害事件についてでございますが、このたび奥大使、井ノ上書記官を失ったことは、まことに痛恨のきわみでございます。我が国としては、事件の真相解明を強く望んでおります。

 また、現在も現地において捜査が継続されているほか、我が国の警察当局も必要な捜査を行っているところであります。連合暫定政府当局及び現地の米軍からは最大限の協力を得ており、随時関連情報の提供を受けておりますが、いまだ事件の最終的な捜査結果が出されたとは承知しておりません。

 政府としては、現地の関係当局とも引き続き緊密に連絡をとりつつ、真相の解明に努めてまいります。

 自衛隊のイラク派遣が我が国の中東外交に与える影響についての御指摘でございます。

 私は、イラクの復興に関して、人道復興支援活動を中心に日本が積極的に取り組むことにより、我が国が必ずやイラク人から評価を得られるものと信じております。したがって、イラクへの自衛隊の派遣によってこれまでの中東外交における積み重ねを失ってしまうとの御指摘は早計に過ぎるものと考えております。

 イラク特措法に基づく自衛隊の活動についてでございます。

 イラクの治安情勢は全般として予断を許さない状況が続いておりますが、これまでの調査や各種の情報を踏まえ、いわゆる非戦闘地域の要件を満たす地域に自衛隊を派遣するものであり、このような地域においてはイラク特措法に基づく自衛隊の活動は可能であると考えております。

 国会の承認についてでございます。

 イラク特措法は、イラクにおける主要な戦闘が終わった後の状況において、人道復興支援の目的で、イラクへの自衛隊等を派遣するために必要な法的枠組みを制定したものであります。したがって、同法が国会の審議を経て成立したことにより、自衛隊派遣について国会の承認が得られたと考えることもできるため、具体的な派遣について事後承認とする仕組みになっている点も特段問題はないと考えております。

 また、国会承認を求めるべきではないかというお尋ねでございます。

 イラク特措法によれば、国会承認の対象は基本計画に定められた対応措置の実施についてであり、具体的には、人道復興支援活動または安全確保支援活動を自衛隊の部隊等が実施すること及びいかなる国において実施するかという点であります。したがって、一つの基本計画に定められている対応措置の実施について一つの国会承認を求めることは適当であると考えます。

 近くで戦闘行為が行われた場合の一時休止や避難等についてのお尋ねでございます。

 自衛隊の部隊が活動している場所の近傍において戦闘行為が行われるに至ったかについては、現場の部隊長等が、計画性、組織性、継続性等の観点から、攻撃の主体、対象や態様などを総合的に勘案して認定することとなります。

 自衛隊の任務の完了についてでございます。

 派遣の終了時期については、イラク特措法の期間内において、現地の政治・治安情勢を考慮しつつ、イラク人による国家再建の進展状況を総合的に踏まえて、適切に判断してまいります。

 安全確保支援活動の実施についてでございます。

 自衛隊の部隊は人道復興支援活動を中心にするとの方針のもと、同活動を行う区域に限って、同活動に支障を及ぼさない範囲で、医療、輸送、修理もしくは整備、補給といった安全確保支援活動を行うこととしております。このことは基本計画においても定められており、かねてより説明しているとおりであります。

 イラクにおける新政権樹立、国際協調に向けた取り組み及び国連主導の復興支援の枠組みの実現の見通しについてでございます。

 政治面では、昨年十一月十五日に、イラク人によるイラク人のための新しい政府の樹立に至る道筋が示され、現在、その具体化に向けた議論が行われております。

 国連の役割については、当面、選挙問題及び治安問題に焦点を当てて議論が行われていくものと承知しております。

 我が国は、昨年末の特使の派遣等、国際協調を強化するため外交努力を行っており、今後も取り組みを継続強化してまいります。

 拉致問題への取り組みについてでございます。

 この拉致問題については、内閣全体の最重要課題の一つとして取り組んでおります。北朝鮮に対しましては、誠意ある対応を求め、早期に政府間協議に応じるよう働きかけてきており、今後とも拉致問題の一刻も早い解決のため、あらゆる機会を通じて最善を尽くしてまいります。

 また、問題解決に向けた国際社会の理解と協力を得るために、中国に対しましても積極的に協力を働きかけ、また、中国側からも積極的な支援を得て六者会合等、中国と日本とそして韓国、アメリカ、ロシア、この六者協議の実現に向けて協力しながら進めていきたいと思います。

 六者会合については、私は、北朝鮮の核やミサイルの問題等を平和的、外交的手段によって包括的に解決すべく、積極的に役割を果たしていく考えであります。我が国は、次回六者会合を前提条件を付さずに可能な限り早期に開催すべきとの立場であり、そのため、関係国と引き続き緊密に連携しつつ外交努力を傾注してまいります。

 国民保護法制についてでございますが、武力攻撃事態への対処においても基本的人権は最大限に尊重されなければなりません。国民保護法制の中では、物資の収用や土地の使用などの処分に当たってあらかじめ任意の要請を行うことや、公用令書の発行、適切な損失補償の実施などの具体的な仕組みの中でこうした配慮を規定してまいりたいと考えます。

 国連改革については、我が国は、国連改革への機運が高まっている現状をとらえ、確実に改革の実現につなげていくために、二〇〇五年に国連改革に関する首脳会議を開催することを提唱いたしました。今後、国連の場での議論や関係国との協議を精力的に重ね、国連改革の早期実現に向けて積極的に取り組んでいく考えであります。

 FTA締結の動きと我が国のアジア外交・通商政策についてでございます。

 我が国は、アジア太平洋地域の安定と繁栄を実現するために、引き続き、二国間の関係強化に加え、さまざまな地域協力を重層的に推進しております。また、韓国やASEAN諸国とのFTAは、我が国の重要な戦略的課題であります。各国の首脳と議論し、交渉開始を昨年、私自身決定したものであり、ぜひ成功させたいと考えております。我が国の取り組みがおくれているのではないかという御指摘は当たらないと思います。

 米軍の軍事態勢の見直しに関する協議についてです。

 在日米軍の軍事態勢の見直しに関する協議においては、在日米軍が有している抑止力が効率的に維持されるとともに、沖縄を含む米軍施設・区域が所在する自治体の負担が十分念頭に置かれるべきと考えており、こうした観点からアメリカ側との協議を進めてまいります。

 教育問題についてでございます。

 発展の原動力は人であります。教育改革の推進は全く最重要問題であるという認識は共通しております。新しい時代を切り開く心豊かでたくましい人材の育成を目指し、画一と受け身から自立と創造へという理念のもとに、地域住民による学校を活用した小中学生の体験活動を支援するなど、各学校や地域の特色を生かしつつ、社会全体で子供をはぐくむ環境を整備してまいります。

 また、民主党は、全国一律の三十人学級を実現するという提案をなされておりますが、政府としては、学級という概念にとらわれることなく、少人数指導や習熟度別指導の充実など、きめ細かい教育の実現に努めていく考えであります。

 配偶者からの暴力の防止に関する、いわゆるDV法についてでございます。

 配偶者からの暴力の防止と被害者の保護は男女共同参画社会の重要な課題であり、政府としては、これまでの法施行の状況を踏まえ、改善要望について、法改正を含めて積極的に対応してまいります。

 起訴勾留中の議員に対する歳費の凍結、一票の格差是正、衆議院議員の定数削減についてのお尋ねでございます。

 起訴勾留中の国会議員の歳費の凍結、一票の格差是正、衆議院議員の定数削減について前向きな議論がなされることについては、私も賛成であります。いずれも議会政治の根幹にかかわる問題であり、今後国会の各党各会派の間で十分議論をいただくべきものであると考えます。

 政治資金につきましては、政治資金の透明性を確保しながら、広く、薄く、公正に政治資金を確保することが認められるルールをつくっていくべきであると考えます。

 献金規制、政治資金の公開基準、方法については、この基本的な考え方に従い、一定の提案について幅広い理解が得られるよう、各党各会派間で十分に議論を深めていくべきものと考えます。

 また、あっせん利得処罰法は、政治倫理の確立や政治活動のあり方にかかわるものであり、さらなる改正が必要かどうかにつきましては、最近の改正の効果などを見きわめながら、各党で議論を深めていくべきものと考えます。

 経済の状況判断についてでございます。

 日本経済は、企業収益が改善し、設備投資が増加するなど、国主導の財政出動に頼らなくても、民需が主導する形で着実に回復しております。雇用情勢は厳しいものの求人が増加するなど持ち直しの動きがあり、物価にも下げどまりの兆しが見られ、今後の政府、日銀と一体となった取り組みの強化により、デフレ克服に向けた着実な進展が見込まれると思います。決してデフレ脱却の見直しを先送りしたわけでもなく、これまでの改革の成果が確実にあらわれつつあるものと考えております。

 今後とも、日本銀行と一体となってデフレ克服を目指しながら、金融、税制、規制、歳出の構造改革を進め、民間と地方のやる気を引き出し、民間需要主導の力強い持続的な経済成長を図ってまいります。

 中小企業についてでございますが、我が国経済の活力の源泉であります。厳しい環境の中にありましても、やる気と能力のある中小企業は現在でも日本にたくさんあります。その力を発揮できるよう、中小企業政策を総合的に推進する立場にある経済産業大臣を中心として各般の政策を進めております。

 中小企業対策予算については、厳しい財政事情の中にあって増額し、千七百三十八億円を計上しております。金融セーフティーネット対策、再生支援策、新たな事業に挑戦する中小企業支援策などに重点化し、今後とも中小企業を支援してまいります。

 金融行政についてですが、政府としては、構造改革を支えるより強固な金融システムを構築するため、中小企業へのセーフティーネットに万全を期しつつ、不良債権問題に強力に取り組んでまいりました。主要行の不良債権残高はこの一年半で九兆円以上減少し、不良債権比率も目標に向け順調に低下するなど、その成果は着実にあらわれているものと考えております。また、無担保無保証融資の拡大など、中小企業金融にも新たな動きが出てきております。

 今後とも、地域や中小企業に必要な資金を行き渡らせるため、金融システムの改革に取り組んでいくことが政府の責務と考えております。

 税制改革は、先般の与党税制改正大綱において、持続可能な社会保障制度の確立、地方分権の推進という課題に対応するため、個人所得課税や消費税を中心に、今後数年間の税制改革の道筋が示されました。

 政府としては、国民の将来不安を払拭し、公正で活力ある経済社会を実現するため、与党大綱を踏まえ、社会保障制度の見直しや三位一体の改革とあわせ、経済社会の動向を勘案しながら、中長期的視点に立って、税制の抜本的改革に取り組んでまいります。

 五百三十万人雇用創出についてでございます。

 経済環境が急速に変化する中で雇用の安定確保を図るためには、雇用減少分野における余剰雇用を吸収し、新たな雇用機会を創出することが重要であります。

 政府としては、サービス分野を中心に、二〇〇五年を目途として、五百三十万人の雇用の創出に取り組んでいるところであります。雇用情勢は依然として厳しく、全体として雇用が増加している状況にはありませんが、就業構造は変化し、この三年間で、サービス分野においては約二百万人の雇用が創出されたと見込まれます。

 昨年六月には、企業・団体向けサービスなど九分野の分野別対策及び横断的対策から成る五百三十万人雇用創出プログラムを策定したところであり、今後とも、同プログラムに基づき、規制や制度の改革、人材育成や公的業務の民間委託などを進め、サービス分野を中心とした新たな雇用の創出に取り組むなど、雇用機会の確保に全力で取り組んでまいります。

 民主党の平成十五年度予算についての組み替え案についてでございます。

 さまざまな政策手段により雇用の創出、維持、確保に努めることは重要であると認識しておりますが、公共事業等の削減により八・八兆円の財源を捻出し、それを雇用対策等に振りかえることにより百万人の雇用増を実現できるという御提案だと思いますが、一方、公共事業削減による雇用へのマイナスの影響も出てくると思います。この点どの程度勘案しているか不明な部分もあるなど、具体的な雇用創出効果が出てくるかどうか、必ずしも明らかではないと考えております。

 政府としては、民間需要主導の持続的な経済成長の実現を図るとともに、雇用対策に全力を挙げ、平成十五年度予算及び十六年度予算において、求人と求職のミスマッチの解消や早期再就職の支援とともに、若年者や高齢者の雇用対策に万全を期すなど十分な施策を盛り込んでいるところであります。(拍手)

副議長(中野寛成君) 松本剛明君から再質疑の申し出がありますから、これを許します。松本剛明君。

    〔松本剛明君登壇〕

松本剛明君 民主党の松本剛明でございます。

 今の総理の御答弁、残念ながらほとんどすべての点についてもう一度お聞きをしたいぐらいでありますが、時間に限りがありますので、八点についてお伺いをいたしたいと思います。(拍手)

 まず、武器輸出三原則の問題、改めて確認をさせていただきたいと思います。

 拡大をされようとしているのか、それとも弾道ミサイル防衛関連に絞ってなのか、明確な御答弁をいただきたいと思います。

 二点目、奥大使を初めとする外交官が殺害をされた事件に関して、はっきりと国防総省の幹部が報告書を関係者に送ったと言っております。まさか日本政府が関係者でないということはないと思います。そういう報告は承知をしていないという答弁では大変不誠実な答弁ではないかというふうに思います。

 三点目、国会承認の問題でありますが、法で承認をしたに等しいというようなニュアンスの御答弁だったように思いますが、あのとき総理は、法は枠組みをつくっただけで、出すか出さないかはわからないと言われた。今回も、先遣隊を出されて、戻ってきて、報告を聞いて、本隊を出すか出さないか決めると言う。枠だけ決めて承認をしろというから白紙委任ではないかと私は申し上げた。総理のは御答弁にはなっていないというふうに思います。

 四点目、安全確保支援活動についてでありますが、医療、補給等のお話がありましたが、米英等連合軍の後方支援ですねと私は確認をいたしました。もう一度確認を明確にしていただきたいというふうに思います。

 五点目は、北朝鮮の問題。中国について、私自身、総理自身どのようにされるおつもりがあるのかというふうに質問で申し上げました。総理自身が乗り出すつもりがないような問題だとおっしゃるとは思えません。総理自身がどのようにされるつもりなのか、回答をいただきたいと思います。

 六点目は、小型核兵器開発問題であります。これについては御回答をまだいただいてないように思います。総理御自身が、ブッシュ大統領と会われたときにこのことについてしっかり遺憾の意を示すべきだと思いますが、そのことを含めて御答弁をいただきたいと思います。

 七点目は、消費税の問題であります。与党税制大綱を踏まえてということでありますが、消費税を総理がお上げになるのかならないのか、検討するのかしないのか、はっきりとここでお答えになるのが総理大臣の責任ではないかというふうに思いますので、回答を求めたいと思います。(拍手)

 最後に、雇用であります。

 その前に、民主党の予算案についてお話がありましたが、民主党の予算案は、差し引きをした上で、総理の雇用の数字とは違うんです。我々は、しっかり純増で百万人と申し上げているわけであります。総理の雇用創出のように、そのように、純増ではなく、できた分だけをおっしゃるというような雇用の数字を申し上げているわけではありません。改めて、総理が五百三十万人雇用と言いながら、それは純増ではない、同じ分だけ減って、そして雇用は変わらないというのであれば、そのことも含めておっしゃるのが誠意だろうというふうに思います。

 以上、八点について御質問を申し上げて、私の再質問といたします。ありがとうございます。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 余りにも多い再質問ですが、恐らく、松本議員の御質問は、私の答弁に不満であるということはわかっております。しかし、私は、すべてしていると思っております。納得できないということはよくわかります。これは、今後の問題で、いずれ委員会等でもあると思いますが、私は、質問には全部触れていると思っております。

 何かまた御不満があれば、委員会でしていただきたいと思います。(拍手、発言する者多し)

副議長(中野寛成君) ただいま議場内交渉係による協議が続いております。このまましばらくお待ちください。

 松本剛明君からさらに再質疑の申し出がありますが、残りの時間がわずかでありますから、ごく簡単に願います。松本剛明君。

    〔松本剛明君登壇〕

松本剛明君 民主党の松本剛明でございます。

 私も議会の議員でありますから、議院運営委員会のメンバーの皆さんがお決めになったことに従って、改めて質問をさせていただきたいと思います。(拍手)

 お聞きをさせていただくのは、武器輸出三原則についてもう一度明快な政府の御見解を求めた。これが一点。

 二点目は、外交官の殺害に関連して政府の対応と報告書について最初の質問でお聞きをいたしましたが、特に報告書については、アメリカの国防総省の幹部の方がはっきりと関係者に送ったと言ったのに、承知をしていない。その場に。その中で、ああいった答弁では私は納得ができないので、もう一度お聞きをしているわけであります。

 国会承認のことについては、法の枠組み、そして、今回の最初の先遣隊の派遣も、本隊が出るかどうかは先遣隊の報告を聞いてからだというのであれば、それぞれ国会が承認をするべきだというふうに申し上げたことに対して、総理の御答弁では回答にならないというふうに申し上げたわけであります。改めてお聞きをしております。

 四点目、四点目は確認を求めたものであります。

 安全確保支援活動は、医療、補給等というふうに総理は説明をされましたが、米英連合軍の後方支援活動ということで間違いないのですね、イエスかノーかの確認を求めたので、お返事をいただければありがたいというふうに思っております。

 五点目は、最初からそのようにお聞きをしたとおり、繰り返し私はお願いをしておりますが、五点目は、北朝鮮について、中国との関係、総理自身はどのようにされるおつもりなのか、これも最初に質問させていただいた質問を繰り返しております。

 六点目、小型核兵器に対する政府と総理の対応については、まだお答えを全くいただいておりません。

 最後に一点、雇用については、先ほど申し上げた、最初に申し上げたとおりであります。

 私たちは、雇用は純増で見るべきだというふうに申し上げていますが、総理御自身は、創出とおっしゃる数字はいつも純増ではない数字をおっしゃる。ぜひ純増の数字をきちっとお示しをいただきたいということを最初の質問からお願いを申し上げております。

 以上で質問にさせていただきます。ありがとうございます。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 松本議員にお答えいたします。

 米国における小型核兵器の問題です。

 昨年、米国において国防予算授権法が成立し、小型核兵器の研究の再開が認められましたが、これは研究のみを可能とするものであります。開発には別途議会の承認が必要とされており、小型核兵器の実用化を認めるものではありません。

 我が国は、米国政府に対し、本件については、国際世論において核軍縮、不拡散体制に悪影響を及ぼす可能性等について懸念があることも念頭に置いて対応してほしい旨要請しております。

 その他の質問でありますが、私はすべて答えております。不平は、これまた別問題であります。

 本会議の質疑と答弁と委員会の質疑と答弁、よく議運で協議していただきたいと思います。(拍手、発言する者多し)

     ――――◇―――――

小渕優子君 国務大臣の演説に対する残余の質疑は延期し、明二十二日午後二時から本会議を開きこれを継続することとし、本日はこれにて散会されることを望みます。

副議長(中野寛成君) 小渕優子さんの動議に御異議ありませんか。

    〔「異議なし」「異議あり」と呼び、その他発言する者多し〕

副議長(中野寛成君) この際、小渕優子君の動議を改めて採決いたします。

 賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

副議長(中野寛成君) 起立多数。よって、動議のとおり決まりました。

 本日は、これにて散会いたします。

    午後三時四十八分散会

     ――――◇―――――

 出席国務大臣

        内閣総理大臣  小泉純一郎君

        総務大臣    麻生 太郎君

        法務大臣    野沢 太三君

        外務大臣    川口 順子君

        財務大臣    谷垣 禎一君

        文部科学大臣  河村 建夫君

        厚生労働大臣  坂口  力君

        農林水産大臣  亀井 善之君

        経済産業大臣  中川 昭一君

        国土交通大臣  石原 伸晃君

        環境大臣    小池百合子君

        国務大臣    井上 喜一君

        国務大臣    石破  茂君

        国務大臣    小野 清子君

        国務大臣    金子 一義君

        国務大臣    竹中 平蔵君

        国務大臣    福田 康夫君

        国務大臣    茂木 敏充君

 出席内閣官房副長官

        内閣官房副長官 細田 博之君

 出席政府特別補佐人

        内閣法制局長官 秋山  收君


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