衆議院

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第25号 平成17年5月17日(火曜日)

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平成十七年五月十七日(火曜日)

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 議事日程 第十九号

  平成十七年五月十七日

    午後一時開議

 第一 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書の締結について承認を求めるの件

 第二 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する陸路、海路及び空路により移民を密入国させることの防止に関する議定書の締結について承認を求めるの件

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本日の会議に付した案件

 永年在職の議員中井洽君に対し、院議をもって功労を表彰することとし、表彰文は議長に一任するの件(議長発議)

 日程第一 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書の締結について承認を求めるの件

 日程第二 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する陸路、海路及び空路により移民を密入国させることの防止に関する議定書の締結について承認を求めるの件

 会社法案(内閣提出)

 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出)

 特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律案(内閣提出、参議院送付)

 労働安全衛生法等の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明及び質疑

 総合的な国土の形成を図るための国土総合開発法等の一部を改正する等の法律案(内閣提出)の趣旨説明及び質疑


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    午後一時二分開議

議長(河野洋平君) これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

 永年在職議員の表彰の件

議長(河野洋平君) お諮りいたします。

 本院議員として在職二十五年に達せられました中井洽君に対し、先例により、院議をもってその功労を表彰いたしたいと存じます。

 表彰文は議長に一任されたいと存じます。これに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、そのとおり決まりました。

 表彰文を朗読いたします。

 議員中井洽君は衆議院議員に当選すること九回在職二十五年に及び常に憲政のために尽くし民意の伸張に努められた

 よって衆議院は君が永年の功労を多とし特に院議をもってこれを表彰する

    〔拍手〕

 この贈呈方は議長において取り計らいます。

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) この際、中井洽君から発言を求められております。これを許します。中井洽君。

    〔中井洽君登壇〕

中井洽君 ただいま、院議をもちまして在職二十五年の表彰をいただきました。感激にたえません。

 長年にわたる郷土三重の皆様や先輩、友人の皆様方の御支援と、国会の先輩、同僚議員の御指導のおかげと、心より厚く御礼申し上げます。(拍手)

 私の選挙区は、旧三重一区、新三重一区であります。住居は伊賀市にあります。昨年の合併前までは、人口六万人の城下町です。ここには、三代目自民党の衆議院議員と、昨年引退された二代目の自民党参議院議員が本拠地を構えられております。その中で私の父親は社会党、私は、民社党、新進党、自由党、民主党と歩んでまいりました。(拍手)当選九回、落選一回、それぞれの選挙や日常活動は、筆舌に尽くせぬ悪戦苦闘の連続でありました。

 組織も金もなく、ただ政権交代可能な政治体制をつくると訴えるだけの私を、党派を超えて支援し続けていただいている選挙区の皆様方に改めて御礼を申し上げますとともに、今日の栄誉も見ず死去した妻や、家族、親族にも改めて感謝の意を表します。(拍手)

 初当選は、昭和五十一年、三十四歳のときでした。ロッキード事件の後の選挙で、金権政治批判、政権交代のない日本政治の欠陥等が問われた選挙でした。今日の国政でも同様のことが論じ続けられることを考えると、自分自身の力のなさを反省せざるを得ません。

 二十五年間の国政活動の中で、一番の思い出は細川内閣の成立です。首班指名投票で、自分自身の記した名前が初めて総理大臣に当選したときの感激を忘れることはできません。(拍手)

 私は、その細川内閣で商工委員長、そして羽田内閣の途中から法務大臣と、かつての野党では考えられもしなかったポストを経験させていただきました。それぞれのときの使命感と緊張感は、野党時代とは全く別のものだと実感をいたしました。その中から、野党でも何の違和感もなく日本のかじ取りができるとの自信の裏づけができたことも事実でありました。(拍手)また、当時の与野党の緊迫感も、それまで経験したことのないほどのものでした。

 その中から、小選挙区制の導入やその後の諸政治改革や政治資金規正改革が少しずつ実現し、国政や国会も変革を遂げつつあります。やはり、民主主義の政治体制にとって、政権交代が一番大事な機能だと言わざるを得ません。(拍手)これからも初心忘れず、情熱を燃やし、信念を矜持し続け、選挙による政権交代実現を目指し頑張る決意です。

 同僚議員の皆さん方の今後ともの一層の御指導をお願いし、お礼の言葉といたします。

 ありがとうございました。(拍手)

     ――――◇―――――

 日程第一 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書の締結について承認を求めるの件

 日程第二 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する陸路、海路及び空路により移民を密入国させることの防止に関する議定書の締結について承認を求めるの件

議長(河野洋平君) 日程第一、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書の締結について承認を求めるの件、日程第二、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する陸路、海路及び空路により移民を密入国させることの防止に関する議定書の締結について承認を求めるの件、右両件を一括して議題といたします。

 委員長の報告を求めます。外務委員長赤松広隆君。

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 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書の締結について承認を求めるの件及び同報告書

 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する陸路、海路及び空路により移民を密入国させることの防止に関する議定書の締結について承認を求めるの件及び同報告書

    〔本号(二)に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔赤松広隆君登壇〕

赤松広隆君 ただいま議題となりました両件につきまして、外務委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 国際的な組織犯罪が近年急速に複雑化し、深刻化してきたことを背景として、これに効果的に対処するためには、それぞれの国が自国の刑事司法制度を強化するのみならず、国際社会全体が協力して取り組むことが不可欠であるとの認識のもと、平成十年、政府間特別委員会が国際連合総会決議によって設立されました。

 同特別委員会では、平成十二年十月に、両議定書の案文についての合意が成立した結果、同年十一月に、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約とあわせて両議定書が国際連合総会において採択されました。

 まず、国際組織犯罪防止条約人身取引議定書は、人身取引を防止すること等を目的としており、その主な内容は、

 締約国は、人身取引に係る一定の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとること、

 適当な場合には、人身取引の被害者の私生活及び身元関係事項を保護すること、

 人身取引を防止し、及びこれと戦うことについての包括的な政策を定めること、

 情報交換することにより相互に協力すること

等であります。

 次に、国際組織犯罪防止条約密入国議定書は、移民を密入国させることを防止すること等を目的としており、その主な内容は、

 締約国は、移民を密入国させること及び移民を密入国させることを可能にする目的で不正な旅行証明書を製造すること等一定の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとること、

 海路により移民を密入国させることを防止し、及び抑止するため、可能な最大限度の協力を行うこと、

 移民を密入国させることを防止し、及び探知するために必要な国境管理を強化すること

等であります。

 両件は、去る四月十五日外務委員会に付託され、二十二日町村外務大臣から提案理由の説明を聴取し、五月十三日質疑を行い、討論の後、採決を行いました結果、いずれも全会一致をもって承認すべきものと議決した次第であります。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 両件を一括して採決いたします。

 両件は委員長報告のとおり承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、両件とも委員長報告のとおり承認することに決まりました。

     ――――◇―――――

梶山弘志君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。

 内閣提出、会社法案、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案、右両案を一括議題とし、委員長の報告を求め、その審議を進められることを望みます。

議長(河野洋平君) 梶山弘志君の動議に御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、日程は追加されました。

    ―――――――――――――

 会社法案(内閣提出)

 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出)

議長(河野洋平君) 会社法案、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案、右両案を一括して議題といたします。

 委員長の報告を求めます。法務委員長塩崎恭久君。

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 会社法案及び同報告書

 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案及び同報告書

    〔本号(二)に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔塩崎恭久君登壇〕

塩崎恭久君 ただいま議題となりました両法律案につきまして、法務委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 両案は、最近の社会経済情勢の変化に対応するために会社に関する各種制度を見直し、これを現代用語の表記にし、わかりやすく再編成する措置を講ずるとともに、あわせて、有限会社法等を廃止するほか、商法その他の関連する諸法律の規定の整備等を行おうとするものであります。

 両案は、四月七日本会議において趣旨説明及び質疑を行い、八日委員会において南野法務大臣から提案理由の説明を聴取いたしました。

 続いて、十五日、十九日に質疑を行い、二十日に参考人の意見を聴取し、財務金融委員会及び経済産業委員会との連合審査会を開催し、慎重に審査を行い、二十六日、五月十日、十三日に質疑を行いました。

 最後に、本日質疑を終局したところ、両案それぞれに対し、取締役等の利益供与責任、自己株式の市場売却及び株主代表訴訟に関する修正案と、これに伴う関係法律の整備に関する修正案が、自由民主党、民主党・無所属クラブ及び公明党の共同で提案され、趣旨の説明を聴取した後、採決の結果、両案いずれも全会一致をもって修正議決すべきものと決しました。

 なお、会社法案に対し附帯決議が付されたことを申し添えます。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 両案を一括して採決いたします。

 両案の委員長の報告はいずれも修正であります。両案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(河野洋平君) 起立多数。よって、両案とも委員長報告のとおり修正議決いたしました。

     ――――◇―――――

梶山弘志君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。

 内閣提出、参議院送付、特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律案を議題とし、委員長の報告を求め、その審議を進められることを望みます。

議長(河野洋平君) 梶山弘志君の動議に御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、日程は追加されました。

    ―――――――――――――

 特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律案(内閣提出、参議院送付)

議長(河野洋平君) 特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。環境委員長小沢鋭仁君。

    ―――――――――――――

 特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律案及び同報告書

    〔本号(二)に掲載〕

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    〔小沢鋭仁君登壇〕

小沢鋭仁君 ただいま議題となりました法律案につきまして、環境委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、公道を走行しない特殊自動車について、その排出ガスの排出を抑制し、もって大気の汚染に関し、国民の健康を保護するとともに生活環境を保全するため、特定原動機の型式指定及び特定特殊自動車の型式届け出の制度を設けるとともに、技術基準に適合しない特定特殊自動車の使用の規制を行う等の措置を講じようとするものであります。

 本案は、参議院先議に係るもので、五月十二日本委員会に付託され、翌十三日小池環境大臣から提案理由の説明を聴取し、本日質疑を行い、質疑終局後、直ちに採決いたしました結果、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと議決した次第であります。

 なお、本案に対し附帯決議が付されたことを申し添えます。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

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議長(河野洋平君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は可決であります。本案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 労働安全衛生法等の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明

議長(河野洋平君) この際、内閣提出、労働安全衛生法等の一部を改正する法律案について、趣旨の説明を求めます。厚生労働大臣尾辻秀久君。

    〔国務大臣尾辻秀久君登壇〕

国務大臣(尾辻秀久君) 労働安全衛生法等の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明申し上げます。

 働き方の多様化が進む中で、製造業等における重大な労働災害の頻発、長時間労働に伴う脳・心臓疾患や精神障害の増加など労働者の生命や生活にかかわる問題が深刻化していることに的確に対処していくことが喫緊の課題となっております。

 このため、政府といたしましては、必要な施策を整備充実するため、本法律案を作成し、ここに提出した次第であります。

 次に、この法律案の内容につきまして、概要を御説明申し上げます。

 第一に、労働安全衛生法の一部改正であります。

 事業者の自主的な安全衛生活動の促進、危険有害な化学物質の表示制度の改善、製造業等における元方事業者による作業間の連絡調整の実施など事業者による措置の充実を図るとともに、医師による面接指導の実施等により、過重労働、メンタルヘルス対策の充実を図ることとしております。

 第二に、労働者災害補償保険法の一部改正であります。

 複数就業者の事業場間の移動、単身赴任者の赴任先住居と帰省先住居の間の移動を、通勤災害保護制度の対象とすることとしております。

 第三に、労働保険の保険料の徴収等に関する法律の一部改正であります。

 事業の期間が予定されている事業である有期事業に関し、事業場ごとの災害率により保険料を増減させるメリット制について、その増減幅の上限を百分の三十五から百分の四十に拡大することとしております。

 第四に、労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法の一部改正であります。

 全労働者一律の目標に向けた労働時間の短縮を図る法律から、労働者の健康や生活に配慮した労働時間等の設定に向けた関係者の自主的な努力を促進する法律に改めるとともに、指定法人を通じた助成等の仕組みを廃止することとしております。

 なお、この法律は、一部を除き、平成十八年四月一日から施行することとしております。

 以上が、この法律案の趣旨でございます。(拍手)

     ――――◇―――――

 労働安全衛生法等の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑

議長(河野洋平君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。これを許します。園田康博君。

    〔園田康博君登壇〕

園田康博君 民主党の園田康博でございます。

 私は、ただいま議題となりました政府提出の労働安全衛生法等の一部を改正する法律案につきまして、民主党・無所属クラブを代表いたしまして質問をいたします。(拍手)

 冒頭、先月二十五日に発生いたしましたJR西日本福知山線の脱線事故におきまして、お亡くなりになられた方々の御冥福をお祈りし、御遺族の皆様に心からお悔やみを申し上げます。また、被害に遭われ負傷された方々の一日も早い御回復を心からお祈り申し上げたいと存じます。

 私たちは、今回の大惨事に茫然と立ち尽くすのではなく、非常時の医療体制や労災体制、そして再発防止に万全を尽くす必要がございます。また、会社の体質として、効率を優先する余り公共性や安全性の意識が欠如していなかったのか、労働基準法や労働安全衛生法違反はなかったのか、まず、大臣の御見解を冒頭お伺いいたします。

 さらに、今回の脱線事故は、安全をないがしろにする体質や風土が日本社会全体に広がってはいないかという危機感をも私たちに突きつけています。

 私たちの生命、身体、健康は何よりも重要でございます。これが労働によって損なわれることなく、健康に、しかも安全に働くことのできる快適な職場環境をつくることは、労働者本人、経営者、そして社会全体にとって、いつの時代においても極めて重要な課題でございます。

 しかしながら、小泉内閣の構造改革、規制緩和の大合唱のもと、産業構造や企業の経営のあり方、就労形態の激しい変化が広がった結果、私たちの健康と安全を脅かす新たな社会問題が山積してきております。

 労働時間の二極化に象徴されますように、一般労働者の総実労働時間は二千二十一時間と、政府目標の千八百時間には遠く及ばず、サービス残業とも不払い労働とも呼ばれる法律違反が横行し、長時間労働に伴う過労死や自殺が頻繁に報道され、一昨年夏以来、多発した爆発や火災災害などによって、多くの死傷者が出たことも記憶に新しいところでございます。働く現場において、健康と安全を脅かす深刻な問題がふえ続けている原因は何でしょうか。現下の社会、経済、雇用状況とあわせて、大臣の御見解をお伺いいたします。(拍手)

 それではまず、改正案のうち労働安全衛生対策についてお伺いいたします。

 職場の安全衛生を確保し、重大災害の再発を防止するためには、労働環境や雇用形態の変化を前提に、ILO、ISO、EU等国際的な安全衛生基準を考慮しつつ、労働安全衛生法全般にわたる見直しが常に必要と考えますが、政府は今回の法改正により、どのような安全衛生効果を見込んでいるのでしょうか。数値目標とともに、描く社会像についてお答えください。

 また、二十一世紀の安全衛生の考え方として、労使が自主的に安全衛生水準を向上させるためには、事業者の安全配慮義務はもちろんのこと、労働者自身が事業者の方針や計画、事業場の危険有害性を知る権利、リスクアセスメントや安全衛生活動の評価に参加する権利など、労働者の基本的権利とその尊重とを法律で明確に示す必要があると考えますが、大臣の御見解をお伺いいたします。

 次に、長時間労働と健康の問題についてお伺いいたします。

 平成十五年度の厚生労働省調査によりますと、脳・心臓疾患を発症した人の労災請求件数は七百五件で、そのうち労災認定件数は三百十二件、うち過労死は百五十七件にも上っており、さらに仕事上のストレスが原因でうつ病や心的外傷後ストレス障害、PTSDなどになった精神障害の労災請求件数は四百三十八件で過去最多を更新しており、労災認定件数は百八件、そのうち自殺者は四十件にも上っております。

 ことし三月、最大手の人材派遣会社の三十二歳の元副支店長の自殺について、長時間労働でうつ状態となり自殺をしたとして労災認定がなされました。この会社では、総額約三十億円の残業代未払いが発覚したばかりですが、この男性は、午前八時半までに出社し、ノルマに従い二十五社から三十社の企業を回って、帰宅は午後十一時を過ぎ、週末出勤も常態化していたそうであります。この会社の就業規則と一緒に配付された行動指針には、夜中になろうが結果を出すまでやめるなといった言葉が並んでいたとされています。

 また、業務請負の形で大手光学機器メーカーに派遣された二十三歳の男性は、作業服、マスク、手袋などで全身を覆ったまま、十時間近くの不規則なシフト勤務を続け、うつ病を発症し、その後、退職を申し出たものの受け入れられず、自殺に追い込まれてしまいました。死の直前には十五日連続の長時間勤務をしていたそうであります。

 東京地裁は、長時間勤務と劣悪な勤務環境が原因として、このメーカーと業務請負会社に、約二千四百八十万円の支払いを命じました。判決では、人材派遣、業務請負など契約形態の違いは別としても、両社は疲労や心理的負担が蓄積し過ぎないよう注意すべきだったと、企業の安全配慮義務違反が認定されております。

 大臣、このような悲惨な労働実態について、どうお感じになりますか。率直な御所見をお答えください。(拍手)

 しかも、こうしたケースは決して特殊なものではありません。

 二〇〇二年の労働力調査によれば、週の労働時間が六十時間以上の人は全体の一二・八%に達しています。週に六十時間労働とは、週二十時間前後は、不払い労働であろうが副業であろうが、とにかく時間外で残業している状態であり、一日当たり四時間とすれば毎晩十時まで働き、月間では七十から八十時間の残業をしていることを意味しております。よほどタフな人以外は過労死予備軍と申し上げて過言ではありません。労働時間の実態に警鐘を鳴らす数字であると存じます。

 翻って、今回の改正案は、こうした社会の危機的状況に的確に対応しているでしょうか。私は、不十分だと考えております。すなわち、月百時間を超える時間外労働等を行った労働者だけを対象に、しかも、本人からの申し出があれば医師による面接指導を行うとなっており、現行の厚生労働省が実施しているガイドラインよりも明らかに後退しているではありませんか。大臣は、これで過労死が減ると本当にお考えでしょうか。

 長時間労働によって健康に深刻な影響を及ぼす可能性が高くなることは、医学的知見としても認められております。企業の社会的責任が厳しく求められる昨今、管理監督者も含めた労働時間の把握については、事業者の安全配慮義務として位置づけ、特に明らかに働き過ぎである月百時間、または二カ月から六カ月にわたって月平均八十時間を超える超長時間労働者または長期継続長時間労働者については、労働者の申し出いかんにかかわらず、医師の面接指導等必要な措置を講ずる必要があり、あわせて、月四十五時間を超える時間外労働についても、必要な措置を講じなければならないこととすべきだと考えますが、いかがでしょうか。

 大臣、社会全体のコンセンサスとして、長時間労働を防ぐための指針や目標を早急かつ強力に設定しなければ、この先、メンタルヘルスや過労死問題は一層先鋭化し、結果的に日本が誇る人材の枯渇、社会的コストの増大、日本社会全体の生産性低下につながってまいります。御見解をお伺いいたします。(拍手)

 次に、労働時間短縮の重要性についてお伺いいたします。

 日本の総実労働時間は一見短縮しているように見えますが、それはパート労働者も含めた計算上の話であり、人員削減、事業再編成、能力・業績主義などにより、一般労働者の労働時間は二千二十一時間とむしろ増加しており、疲労やストレスが蓄積し、慢性化していると考えられます。

 この点、小泉首相は、平成十五年、「労働時間の短縮に取り組むことは重要な課題と考えております。このため、小泉内閣においても、年間総実労働時間千八百時間の達成、定着に向けて取り組むことを平成十三年八月の閣議決定において明確に定めているところであります。」と国会答弁ではっきりと述べられております。また、ことし二月の我が党の横路ネクスト厚生労働大臣にも、「それはその目標に向かって進むべきであって、労基法に違反するような長時間労働はあってはならないことだと私は思っております。」とお答えになりました。

 一連の小泉首相の発言を踏まえた上で、労働時間短縮の重要性を政府はどう認識しておられるのか、見解をお伺いいたします。(拍手)

 次に、労災保険法改正案についてお伺いいたします。

 今回の改正案では、それぞれ八十万人を超える複数就業者及び単身赴任者について、通勤災害保護制度が改正されますが、ここで確認しておきたいのが、労災保険制度の目的でございます。

 私は、労災保険制度とは、労働者が被災したことにより喪失した稼得能力を補てんするために創出されたと理解しております。すなわち、労働者が二つの職場で働いている場合、通常、その収入を合わせた額で生計を立てているものであり、移動先の職場の賃金のみを算定根拠にするならば、稼得能力の補てんがされるのは一方の職場の賃金に見合う部分に限定されてしまいます。特に、賃金の高い本業から賃金の低い副業に移動する通勤途上で被災した場合、失った所得と実際に給付される保険給付との乖離は著しいものになってしまいます。

 そこで、労災保険の目的からすれば、一方の職場から他の職場への移動に伴う通勤災害に係る給付基礎日額の算定方法については、複数の職場から支払われていた賃金を合算した額をその基礎として定めるべきであり、その旨明確にすべきだと考えますが、政府の見解をお伺いいたします。

 また、今回の改正においては通勤災害に限られておりますが、今後も多様な働き方が広がり、複数就業が増加すると見込まれる中、業務災害においてもこうした制度を早期に整備すべきと考えますが、いかがでしょうか。

 働く人の健康と安全を維持し、快適な職場を形成していくためには、労働者個人、国、経営者それぞれの協力と努力が不可欠であります。

 私ども民主党は、まじめで正直な人たちが報われ、何より健康に暮らせる社会にするためにも、社会の根底を支える労働安全衛生対策は一層の向上が図られなければならないと考えます。国民の健康にかかわる重要法案にもかかわらず、ホッチキスで束ねられたような四法案一体の改正案というのでは、労働者や家で無事の帰宅を祈っているその家族、国民を余りにも軽視していると言わざるを得ません。

 委員会における十分な審議が必要であることを指摘するとともに、郵政民営化法案を最重要法案と位置づけ、その審議のための特別委員会設置を強硬に行おうとする小泉内閣の横暴さと、国民不在の政治が行われ、国民の生命、身体、健康に関する重要法案が大きな影響を受けていることを強く主張して、私の質問を終わります。(拍手)

    〔国務大臣尾辻秀久君登壇〕

国務大臣(尾辻秀久君) JR福知山線脱線事故に関してのお尋ねがございました。

 厚生労働省といたしましては、事故発生当日、直ちに兵庫労働局及び尼崎労働基準監督署より職員を現地に派遣いたしますとともに、事故対策本部を設置いたしまして、運転士所属の京橋電車区等に対する調査を実施しているところでございます。

 調査は、御指摘のとおり、公共性、安全性の確保は企業経営における最優先事項であるという認識のもとに、労働基準関係法令に照らし、事業場の安全管理や健康管理などに問題がなかったか、また、適法であったとしても形骸化してはいなかったかというような観点から進めているところでございまして、調査結果を踏まえ、必要な措置を講じてまいる所存でございます。

 労働者の健康と安全を脅かす問題の原因についてお尋ねがございました。

 労働者の健康と安全を脅かす問題が増加している原因はさまざまありますけれども、その根底には、企業間競争の激化と働き方の多様化の進展があると考えております。そして、このことが、持続的な経済成長を達成しつつ、労働者に健康で安全な就業の場を確保する上で、深刻かつ緊急に取り組むべき問題を生じさせていると考えております。

 このような認識に立って、問題に的確に対処するため、労働安全衛生法等四つの法律を改正する法律案を提出した次第でございます。

 今般の法改正の効果等についてのお尋ねがございました。

 今般の法改正は、働き方の多様化が進む中で、労働者の生命や生活にかかわる問題が深刻化していることに対処するものでございます。

 数値目標につきましては、平成十五年に策定した第十次労働災害防止計画において、労働災害による死亡者数について年間千五百人を大きく下回ること、計画期間中における労働災害総件数を二〇%以上減少させることなどを掲げており、こうした具体的な目標を実現していきたいと考えております。

 この法改正に基づき、事業者、労働者、国等の関係者が緊密な連携を図りながら労働災害の防止のための取り組みを進めることが、私どもが目指す社会像である労働者の安全と健康が確保される社会の実現に資するものと考えております。

 安全衛生活動における労働者の権利についてお尋ねがございました。

 労働災害の減少のためには、各事業場において労使が自主的に安全衛生活動に取り組むことが重要であります。

 このため、今回の労働安全衛生法の改正におきましては、労使の自主的な取り組みを重視し、それを促す観点から、危険性、有害性の調査、いわゆるリスクアセスメントを努力義務化することとしております。また、労使がともに参加する安全・衛生委員会において、調査結果に基づいて実施すべき措置等について審議することとしたいと考えております。

 厚生労働省としては、このように、労働者自身の安全衛生活動への参画の重要性にかんがみ、その確保を図るため、職場における危険性、有害性を低減させるための自主的な取り組みを制度化することといたしております。

 長時間労働と健康の問題についてのお尋ねがございました。

 脳・心臓疾患については長時間労働と関連性が強いとの医学的知見があり、また、労災認定された自殺事案については、長時間労働が心の健康にも大きく関与していることが考えられるとの報告が出されております。今、幾つかの例についてもお聞きをいたしました。労働者の健康に配慮した労働時間の設定など、職場環境の整備が重要であります。

 このため、時間外労働の限度基準を初めとする労働基準関係法令の厳格な運用を図りますとともに、今般の時短促進法改正に基づき、労働者の健康に配慮した労働時間の設定に向けた労使の自主的な取り組みを促進することにより、職場環境の改善を進めてまいります。

 長時間労働による健康障害の防止に係る措置についてのお尋ねがございました。

 今回法制化しようとする面接指導は、これまで行政指導で行っていたものを法律に基づく措置として位置づけるものでございます。

 この義務化に当たって、時間外労働が月百時間を超え、疲労の蓄積があると認められる者に対して、申し出という手続を経て行うことをその要件等といたしましたのは、健康障害リスクの高い労働者に対し確実な面接指導等を実施するためのものでございます。

 また、時間外労働が月百時間以下の者など、この面接指導の対象にならない者であっても、これまで行政指導の対象としてきた健康への配慮が必要な者については、今般の改正法で必要な措置を講じることを事業者の努力義務とすることとしておりまして、これらの措置により労働者の健康確保が進むものと考えております。

 長時間労働防止のための社会全体のコンセンサスについてのお尋ねがございました。

 メンタルヘルスや過労死が日本社会全体の生産性の低下に影響する問題であるという認識に立って、メンタルヘルスや過労死につながる長時間労働の防止に早急に取り組む必要があると考えております。

 このため、職場ごとに、個々の労働者の心身の健康や生活に配慮した労働時間の設定改善を行うことが全体としての生産性の向上につながるという認識を共有した上で、労使が労働時間の設定改善に自主的に取り組めるような環境整備のための施策を進めてまいります。

 労働時間短縮の重要性についてお尋ねがございました。

 労働時間の短縮に取り組むことは重要な課題でありまして、現在、平成十七年度末をもって廃止することとされております時短法に基づき、年間総実労働時間千八百時間を目標に、労使初め関係者一体となった取り組みを行っているところでございます。

 平成十八年度以降の労働時間対策につきましては、全労働者一律に目標を掲げて行う従来の取り組みが時宜に合わなくなっていると考えられることから、労働者一人一人の健康や生活に配慮した多様な労働時間や休暇、休日の設定を主眼とし、それに向けた労使の自主的取り組みを促進する中で長時間労働の抑制を図っていくことが重要であると認識をいたしております。

 複数就業者に係る通勤災害における給付基礎日額についてのお尋ねがございました。

 労災保険制度の目的は、事業主の災害補償責任を担保することを基本としつつ、被災労働者に対して必要な保険給付を行うことであります。

 複数就業者の給付基礎日額の算定方法の見直しにつきましては、審議会における検討の中で、通勤災害のみならず業務災害にもかかわる影響の大きな問題であり、給付の増加に係る負担のあり方など慎重な検討を要すること等の問題点が指摘され、見直しを行うべきとの合意は得られなかったところでございます。

 このため、昨年十二月の審議会の建議においては、この問題につきまして、「複数就業者の賃金等の実態を調査した上で、専門的な検討の場において引き続き検討を行うことが適当である」という考え方が示されておりますので、これを踏まえて対応してまいります。

 業務災害についてもお尋ねがございました。

 複数就業者の給付基礎日額の問題につきましては、業務災害の場合と通勤災害の場合とを区別することなく、共通の問題として検討すべきものと考えております。業務災害に係る給付基礎日額の問題につきましても、先ほど述べました審議会の建議を踏まえて対応してまいります。(拍手)

議長(河野洋平君) これにて質疑は終了いたしました。

     ――――◇―――――

 総合的な国土の形成を図るための国土総合開発法等の一部を改正する等の法律案(内閣提出)の趣旨説明

議長(河野洋平君) この際、内閣提出、総合的な国土の形成を図るための国土総合開発法等の一部を改正する等の法律案について、趣旨の説明を求めます。国土交通大臣北側一雄君。

    〔国務大臣北側一雄君登壇〕

国務大臣(北側一雄君) 総合的な国土の形成を図るための国土総合開発法等の一部を改正する等の法律案につきまして、その趣旨を御説明申し上げます。

 我が国が人口減少時代を迎えつつある今日、国民の不安感や不透明感が拡大する中で、国土及び国民生活の将来の姿を示すことが極めて重要であります。現在及び将来の国民に安心かつ豊かな生活を確保するためには、その特性に応じて自立的に発展する地域社会、国際競争力を備えた活力ある経済社会、地球環境の保全にも寄与する豊かな環境等の基盤となる国土を実現することが求められます。

 しかし、我が国の国土政策の根幹を定める国土総合開発計画の根拠法である国土総合開発法にあっては、それが制定された昭和二十五年当時の社会経済情勢を背景に、開発を基調とした量的拡大を志向したものとなっております。このため、地方分権や国内外の連携に的確に対応しつつ、国土の質的向上を図り、国民生活の安全、安心、安定の実現を目指す成熟社会にふさわしい国土のビジョンを提示する上で、計画制度を抜本的に見直すことが急務となっております。

 この法律案は、このような必要性を踏まえて提案することとした次第でございます。

 次に、この法律案の概要について御説明申し上げます。

 第一に、国土総合開発法について、法律の題名を国土形成計画法に、計画の名称を国土形成計画に改めることとしております。また、国土形成計画を、国土の利用、整備及び保全に関する施策の指針となる全国計画と、ブロック単位の地方ごとに国及び都府県等が適切な役割分担のもとで連携協力して地域の将来像を定める広域地方計画から成るものとしております。

 第二に、海域の利用及び保全、環境の保全及び良好な景観の形成に関することを加えるなど計画事項を改めるとともに、地方公共団体による計画提案制度を創設することとしております。また、全国計画については、国土利用計画法に基づく国土利用計画全国計画と一体のものとして定めるものとしております。

 第三に、広域地方計画制度の創設に伴い、各大都市圏の整備に関する計画を整理するとともに、各地方の開発促進法を廃止することとしております。

 その他、これらに関連いたしまして、所要の規定の整備を行うこととしております。

 以上が、総合的な国土の形成を図るための国土総合開発法等の一部を改正する等の法律案の趣旨でございます。(拍手)

     ――――◇―――――

 総合的な国土の形成を図るための国土総合開発法等の一部を改正する等の法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑

議長(河野洋平君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。葉梨康弘君。

    〔葉梨康弘君登壇〕

葉梨康弘君 自由民主党の葉梨康弘です。

 私は、自由民主党及び公明党を代表して、ただいま議題となりました総合的な国土の形成を図るための国土総合開発法等の一部を改正する等の法律案について質問いたします。(拍手)

 昭和三十七年、池田内閣の所得倍増計画を具体化するため、第一次全国総合開発計画が策定されて以来、いわゆる全総は、戦後日本の創業期をリードし、大きな存在感を持ってきました。しかし、未曾有の人口減社会を目前にした今、私たちは、創業の難きよりも守成の困難にこそ立ち向かわなければなりません。

 私は、戦後の復興と成長を担った全総の歴史的な意味を率直に評価しており、むだな公共事業の山を築いただけといった極端な論調にくみするものではありません。

 ただ、歴史も教えているように、創業期には有効であったパラダイムや成功体験を守成期においても引きずることが、むしろマイナスに作用し、改革の妨げとなる危険性も指摘せざるを得ません。

 その意味で私は、今回、法律の題名をも改め、新たなパラダイムを構築しようという政府の意気込みを、国土計画における構造改革の断行として、高く評価するものであります。(拍手)

 そこで、まず、北側大臣に、今回の改革にかける御決意をお伺いいたします。

 以下、従来の全総の評価に関連し、二点質問いたします。

 全総は、国土の均衡ある発展と東京一極集中の是正という理念のもと、開発モデルを志向してきました。しかし、国民生活が豊かになり、目が肥えてくると、均一的な開発により地方に東京並みの施設をつくっても、しょせん並は並で、東京一極集中への歯どめにはなりにくくなっています。

 他方、大都市への過小な予算配分とインフラ整備のおくれが我が国の国際競争力の低下を招いているという指摘もされています。これではアブハチ取らずで、今や、均一的な開発モデルからの脱却と見直しが必要と考えます。

 そこで、従来の全総の考え方をどのように見直し、東京一極集中の是正と国際競争力の強化のため、どのような国土のビジョンを示していくお考えか、国土交通大臣の御所見を伺います。

 また、かつての全総は新たな社会資本の量的拡大に重点を置いてきましたが、この点に関し、JR福知山線の事故を念頭にお尋ねいたします。

 初めに、このたびの列車脱線事故につきまして、事故に遭いお亡くなりになられた方々の御冥福をお祈りし、御遺族の皆様に心よりのお悔やみを申し上げますとともに、事故で負傷された方々の一刻も早い御回復を心よりお祈り申し上げます。

 そして、この大惨事では、JR西日本の体質といったソフト面だけでなく、鉄道施設そのもののハード面から、どの程度の点検がなされ、安全対策が施されてきたのか、疑問を持たざるを得ません。私は、このような事故や災害を二度と起こさせないためにも、改めて、既存社会資本の質的点検の必要性を訴えます。

 そこで、これまでの社会資本の量的拡大路線をどのように改め、さらに、既存社会資本の質的向上のため、どのような取り組みを行うお考えか、国土交通大臣の御所見を伺います。

 次に、新たな国土形成計画に関連し、三点質問いたします。

 第一は、国民生活の将来ビジョンについてであります。

 我が国の人口は、平成十九年以降の九十年間で、年平均約六十八万人の減少と推計され、これを現在の人口当たりの議員数に換算すると、毎年二・六人の衆議院議員がこの議場から消えていくこととなります。

 このような人口減社会にあって、マクロ経済として、資産デフレを回避し、持続的成長を目指すためには、国民一人一人の生活を、消費、土地利用の両面でより豊かにしていくことが不可欠です。

 新たな計画では、このような観点から、明確な国民生活の将来ビジョンを示す必要があると考えます。国土交通大臣の御所見を伺います。

 第二は、我が国の新たなフロンティアについてであります。

 国土計画は、国民に夢を与えるものでなければなりません。その意味で、これからの人類のフロンティアは、海と宇宙です。とりわけ海洋については、我が国は、隣国中国の数倍、約四百五十万平方キロという、世界第六位の排他的経済水域を有しています。

 本法案は、海域の利用及び保全を計画事項に加えています。その一方、個別事業や具体的方針は、全国計画でなく、広域地方計画で規定することとされています。

 私は、我が国のフロンティア、国民全体の夢である海洋の利用保全の具体的戦略は、事国益の根幹にかかわる問題であり、国の責任として、可能な限り全国計画において措置すべきと考えます。国土交通大臣の御所見を伺います。

 第三は、各自治体間のまちづくり意識の共有についてであります。

 例えば、中心市街地の活性化を図るため、関係自治体が共同してコンパクトシティー構想を進めていこうとしても、抜け駆けをして線引きを緩め、郊外へイオンなどの大型スーパー進出を促進し、税収増を図ろうとする自治体が一つでも出現すると、構想自体が崩壊、再び乱開発合戦を招くこととなります。

 国土計画にあっては、地方の積極的な参画とともに、それぞれの自治体がまちづくり意識を共有していくことが大切と考えます。

 今後の計画策定に当たり、このような観点から、どのような工夫をされていくお考えか、国土交通大臣の御所見を伺います。

 さて、国土という理念は、土地の精神と産業の精神を融合させた、まさに国家の基盤であり、古代中国でも社稷と表現され、極めて重視されてきました。しかし、幾ら重要だからといって、かつての社会主義のように、計画それ自体が自己目的化することは、あってはならないことです。

 私は、「民を貴しと為し、社稷之れに次ぐ」という国民本位の基本を忘れてはならないものと考えます。だからこそ、今回の改正で、新たな時代に対応した、真に国民本意の国土づくりが実現することを強く要望し、私の質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。(拍手)

    〔国務大臣北側一雄君登壇〕

国務大臣(北側一雄君) 葉梨議員にお答え申し上げます。

 今回の改革にかける決意についてお尋ねがございました。

 国土総合開発法は昭和二十五年に制定をされましたが、その後、五次にわたる全国総合開発計画が策定されてまいりました。全総は、それぞれの時代に応じた国土政策の基本方向を示し、相応の成果を上げてきたものと認識をしております。

 しかしながら、現在の社会経済情勢は、人口減少への対応、国土の質的向上、地方分権の推進など、国土総合開発法制定当時とは著しく異なる状況に直面していることから、このたび、同法の抜本的な見直しを図ることといたしました。

 国土交通省といたしましては、国民が安心して豊かな生活を営むことができる経済社会の実現に向けて、国土計画における構造改革に全力で取り組んでまいる所存でございます。

 次に、全総の考え方の見直しとこれからの国土ビジョンについてお尋ねがございました。

 全総の根拠法である国土総合開発法は、人口の急増、右肩上がり、開発を時代背景として制定されていることから、今後の人口減少、安定的な成長、安心、安全、安定な国民生活といった状況に対応することが難しくなっております。したがって、これからの状況に応じた法改正を行い、既存ストックの有効活用や景観・環境の保全・創出など、成熟社会にふさわしい国土計画を策定する必要があると考えております。

 また、これまでの全総の基本理念であった国土の均衡ある発展は、ややもすると全国を画一的に開発することと理解され、いわゆる金太郎あめやフルセット主義の開発を招いたとの御指摘があることも承知しております。今後は、その本来の趣旨を踏まえながら地域の個性ある発展を図ることが重要と考えております。

 御指摘の東京一極集中への対応につきましては、国から地方へとの考え方のもと、個性ある地域の自立的発展を促し、国土全体としてバランスのとれた機能分担を図ることが重要と考えております。

 一方、国際競争力を確保していくためには、新規事業の創出など新たな価値創造活動の促進、東アジア経済圏との連携に資する交通・情報インフラ等の整備、活用、都市機能の維持向上などを図ることが必要と考えております。

 新たな計画の策定に当たりましては、これらの点を十分に検討し、新たな時代にふさわしい国土のビジョンを提示してまいりたいと思います。

 次に、既存社会資本の質的向上のための取り組みについてお尋ねがございました。

 このたび、西日本旅客鉄道株式会社福知山線の列車脱線事故につきましては、事故の再発防止に向けて事故原因の徹底究明を図るとともに、国民の信頼回復に向け、さらなる輸送の安全確保に万全を期してまいります。

 国土交通省といたしましては、全国の陸海空の公共交通事業者に対し安全対策の徹底を強く要請するとともに、二度とこのような惨事を引き起こさないため、鉄道事業者に対し、既存のATSに急曲線区間手前の速度超過を防止する機能の付加を義務づけるなど、対策の徹底に努めてまいります。

 御指摘の既存社会資本の質的向上の取り組みに関しましては、これまで国土交通省において、九本の事業分野別計画を社会資本整備重点計画に一本化し、計画内容をつくる側の事業の量から国民から見た達成される成果に転換するなど、量的拡大から質的向上へと社会資本整備のあり方の見直しを図ってきたところでございます。

 さらに、新たな国土形成計画においては、人口減少を所与の条件として作成することから、人口増加、開発基調の計画を改め、成熟社会にふさわしいものとする必要があります。したがって、量的な充足に主眼が置かれていたこれまでの国土基盤整備を改め、既存の社会資本を十分に活用しながら、質的な面、特に景観、環境への配慮や、地域の個性に重点を置いた国民生活の安全、安心、安定の実現を目指す取り組みを推進してまいります。

 次に、国民生活の将来ビジョンについてお尋ねがございました。

 資産デフレを回避し、持続的成長を目指すためには、地域再生、都市再生等の推進により民間投資の誘発を図るとともに、不動産証券化の推進などによって土地の利用価値を高め、需要を広く喚起することが重要と考えます。

 具体的には、景観、環境を含めた国土の質的向上、都市的土地利用の中心部への集約化と自然環境の再生、活用によるコンパクトな都市構造への転換などの方策を推進することが必要です。さらには、重点的かつ効果的な国土基盤整備によって民間投資の誘発等を図ることも求められます。これらの施策の推進は、国民生活の安定かつ豊かな生活の実現にも資するものと考えております。

 これまでの計画では、国土基盤整備を通じた国土の姿に重点を置いてまいりましたが、新たな計画では、国土基盤整備のあり方や国土利用の姿ばかりでなく、その結果としての豊かでゆとりある国民生活のあるべき姿も提示したいと考えております。

 海洋の利用保全の具体的戦略についてお尋ねがございました。

 近年、国連海洋法条約の発効やヨハネスブルク・サミットの開催等を背景といたしまして、世界各国において、総合的な海洋政策に取り組む動きが活発化しております。四方を海で囲まれた海洋国家である我が国においても、国連海洋法条約の批准を受け、大陸棚の画定などに取り組んでいるところであり、国土政策として海洋・沿岸域に関する取り組みの重要性が高まっております。

 新たな全国計画においては、海洋・沿岸域を国民共通の財産として、貴重な国土空間として認識し、適正な保全、多面的な利用の観点から、可能な限り具体的な戦略を国として明らかにしてまいりたいと考えております。

 本法案では、国土形成計画の基本理念を、「国が本来果たすべき役割を踏まえ、国の責務が全うされることとなるよう定めるもの」としております。海洋の利用、保全のような国益の根幹にかかわる重要事項については、この基本理念の趣旨を踏まえ、全国計画において可能な限り具体的な国家戦略を明らかにしてまいります。

 最後に、自治体間のまちづくり意識の共有についてお尋ねがございました。

 国民にとって望ましい国土を実現していくためには、国と地方公共団体、さらには地方公共団体相互が適切に役割を分担し、連携協力して国土の利用、整備及び保全に関する広範な施策を総合的かつ効率的に推進していく必要があります。

 本法案においては、国から地方への考え方のもと、国土形成計画への提案権の付与など、地方公共団体の主体性、自主性の尊重、計画策定への積極的な参加を促す仕組みとしております。特に、各地域でつくられる広域地方計画では、国と都府県等の連携協力の場である広域地方計画協議会において、あるべきまちづくりの方向性について、国と地方が対等な立場で徹底的に議論していきたいと考えております。

 広域地方計画の策定過程を通じて、各地域がまちづくり意識を共有しつつ、協働して住民本位の地域づくりを進めるよう、国としても積極的に取り組んでまいります。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 三日月大造君。

    〔三日月大造君登壇〕

三日月大造君 民主党の三日月大造です。

 ただいま議題となりました総合的な国土の形成を図るための国土総合開発法等の一部を改正する等の法律案につきまして、民主党・無所属クラブを代表して質問をさせていただきます。(拍手)

 まず、冒頭、先月二十五日にJR西日本福知山線列車脱線事故が発生してから二十二日が経過いたしました。お亡くなりになられた百七名の方々の御冥福をお祈りいたしますとともに、御遺族の方々、被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。

 一国民として、一国会議員として悲しく、同時に、元JR西日本の社員として、元電車の運転士として残念、そして心から無念です。

 結果的にこうした大事故を起こした事業者JR西日本の責任は極めて重いと断ぜざるを得ませんが、曲線に入る前に減速させることのできるATSの設置基準や運転士の事故後再教育のガイドラインが整備されていなかったこと、事故の兆候の調査や保安監査が徹底されていなかったことなど、人任せ、事業者任せ、交通運輸行政として事業者への監督が不十分であったことも明らかになってきています。(拍手)

 今後、徹底した原因究明とともに、真に再発防止につながる事故調査機関の設置、安全が確実に担保される交通運輸行政の充実を早急に果たし、二度とこのような事故が起こらない国づくりに向け、全力を傾注してまいる所存です。(拍手)

 今回の事故を初め、頻発する交通機関の事故の背景には、最も大切にされるべき人間の生命より利益や効率を重視してきた国家経営そのものにも大きな問題があるのではないでしょうか。謙虚に検証する必要があると思います。

 人間の生命より郵政民営化なんでしょうか。生活の安全を犠牲にしてまで経済の効率化を図っていくんでしょうか。政治家が、国会が、時間と情熱を傾けるべきテーマについても、根幹から見直す必要があるのではないでしょうか。(拍手)

 人間の生活の基礎となる安全を確保すべき、また、事前規制を排し競争を認めれば認めるほど事後チェックや監督が必要となるはずだった交通運輸行政を所管される北側国土交通大臣に、まず御所見をお伺いいたします。(拍手)

 さて、このたび提出されました本法案の中身を議論する前に、これまでの計画の評価をしっかりと行うことが肝要です。これまで五次にわたる全総計画の壮大な夢物語の無残な姿は、枚挙にいとまがありません。個別に挙げれば切りがありませんので、以下、四つの観点から伺います。

 まず第一は、全体的総括です。

 これまでの五次にわたる全総計画をどのように評価されていますか。確かに、この間の計画や事業によって社会資本の整備は進みました。世界に類を見ない速度で経済成長を遂げてこられたことは、その一つの成果であったと言えるでしょう。しかし、計画倒れが多過ぎ、負の遺産が大き過ぎます。

 そもそも、国土の均衡ある発展を目指してきたにもかかわらず、結果的には、人も物も金も東京に一極集中し、地方の個性が奪われ、衰退してしまい、かけがえのない自然を破壊してきてしまいました。北側大臣より、評価と、特に反省に基づく全体の総括をお伺いいたします。(拍手)

 第二に、財政面からの検証をしなければなりません。

 四十年余り、これらの計画を実施するのに、一体幾らのお金を投じてきたのでしょうか。投資総額にして千五百兆円以上、公的固定資本形成だけでも、二〇〇三年度までで九百兆円以上を投じてきています。その結果膨らんだ国と地方の長期債務残高は七百七十四兆円にまで達し、現在と将来の国民の大きな重荷となってしまいました。どのように処理されるおつもりでしょうか。

 新規のインフラ投資だけでなく、つくったインフラの災害対策補強も含めた維持管理、更新投資なども必要になってきています。全体の、将来の投資の規模やバランスをどのように見積もっていらっしゃるのか。

 北側大臣、谷垣財務大臣、それぞれ方針とともに明確にお示しをいただきたいと思います。

 第三は、破綻をしてしまった大規模開発の清算についてです。

 途中、借金のつけかえなど措置は講じられるも、一九九九年の清算後、二度にわたる目標も大きく下回る分譲しかできていない苫小牧東部大規模工業基地、当時第三セクターとして過去最大の負債を抱えて破綻し、その後の施設誘致も難航してしまっているむつ小川原コンビナート、一日の交通量が供用時の計画の半分と低迷をしている東京湾横断道路など、全国に散在し、今なお先の見えない開発の夢物語の無残な現状を今後どのように処理、解決されるおつもりなんでしょうか。

 北側大臣、お答えください。

 中川経済産業大臣には、むつ小川原コンビナートの現状と今後の計画についてもお示しをいただきたいと思います。

 第四に、信頼回復についてです。

 何より憂慮すべきことは、これら全総計画が、指定実施する公共事業とともに、国と地方の関係においては依存と分配、中央省庁、関係業界、族議員、特殊法人や特別会計も絡めた利権政治やむだ遣いの温床の原因となり、政治や公共事業そのものの信頼を大きく失墜させてしまっていることです。

 これら計画や事業のすべてが悪かったと言うつもりはありませんが、将来展望も歯どめもなく血税を注ぎ込んできたことに対し、この間一貫して政権を担ってこられた自民党には猛省を促し、当然のことながら責任を明確にとっていただかなければなりません。もはや、政権を交代するということでしか信頼回復の処方せんはないと考えます。

 これら計画を大義名分に、金や利権と政治が不正常に結びつき、政治や公共事業そのものの信頼を著しく損なってきたことに対する反省と、信頼回復のためにはまず政権交代しかないとの国民の評価に対して、お答えになられにくいでしょうけれども、北側国土交通大臣の御見解をお伺いいたします。

 以下、具体的に法案の内容に触れながら、政府の見解をただしてまいります。

 まず、政府として、目指すべき国土の形をどのように描いているのかということです。

 本法律案では、基本理念として、目指すべき国土の形らしきものが記されています。しかし、すべて当たり前で、これまでの反省でしかありません。何より夢がないのです。

 もっと血の通った、思いのこもった、先を見越した表現で提案をすべきです。現段階での国土のありようについての政府のビジョンを、思いと決意を込めて、責任を持って、北側大臣、明確にお示しください。

 同時に、この時代の国土計画の策定、実行に当たり、国が果たすべき役割とは何なんでしょうか。お答えをいただきたいと思います。

 以下、この目指すべき国土に関連し、五点を提起し、伺います。

 第一に、人口についてです。

 二〇〇六年をピークとして人口が減少することは、既に推計されています。以前から予想されていたにもかかわらず、拡大開発路線を継続してきたことは大きな問題です。

 ただ、国土計画は五十年後、百年後の日本の国土や生活を展望する計画であることを勘案すれば、人口減少を余りにも所与の条件として容易に認め過ぎてはいないでしょうか。子供を産み、育てやすくするための支援の視点、ソフト、ハード両面でのバリアフリー、ユニバーサルデザインという視点を強く打ち出すことで、出生率を向上させ、長期的に人口を増加させるぐらいの気構えをまず持つべきではないでしょうか。

 北側大臣、人口と国土計画との関係についてお答えください。

 第二に、地方主権の観点から、もっと大胆に国土計画を改革すべきだということです。

 北側大臣は、地方の意見を反映できるようとたびたび強調され、協議制度や提案制度などの導入が提案されています。

 しかし、これまで陳情という形で国が地方の意見を聞き、歯どめなく盛り込む無責任な計画をつくってきた結果が、総花的で画一的な国土、東京一極集中と地方の過疎化、そして財政破綻をつくり出してきてしまったと言っても過言ではありません。

 今見直すべきことは、国と地方の力関係です。やるべきことは、全国的に関係する最低限の計画だけを国が策定し、地方の計画は地方でつくり、責任を持って実行される枠組みを整備することではないでしょうか。

 今回の法改正では、国土形成計画を、全国計画と、首都圏、近畿圏、中部圏を含めた広域地方計画という区域に再編されます。その広域地方計画の組み合わせは政府お得意の政令で定めることとなっておりますが、そもそも、国がその組み合わせを規定すること自体が地方主権の趣旨に反しているのではないでしょうか。

 首都圏、近畿圏、中部圏にだけ残る整備計画との関係も全く不明確です。むしろこの機会に、地方の計画全体を抜本的に再編し、都道府県がおのおの隣り合う県と協議し、組み、計画を立てられる自由度をまず許容すべきです。

 加えて、計画実行のエンジンとして、EUの構造基金、結束基金のようなインセンティブ付与型の基金を創設することが重要だと考えますが、北側大臣のお考えをお聞かせいただきたいと思います。

 第三は、自然との共生という観点です。

 本法案において、これまでの計画の反省に立ち、開発だけでなく利用や保全という観点を盛り込もうとされていることは一歩前進と評価いたします。ただ、残念なことに中途半端です。

 北側大臣、この時期、どうせつくりかえるなら、もっと明確に、もっと前面に、自然との共生、特に将来世代への責任という言葉を明示した理念を打ち出すべきではないでしょうか。

 この地球、自然をこれ以上壊さず将来世代へ責任を持って引き継ぐ決意のメッセージを承りたいと存じます。

 第四は、国土計画の範囲についてです。

 この二十一世紀は、あらゆる分野、段階で国境を越えて交流や取引が行われるグローバル時代です。その時代にふさわしく、単に国境や領土というものにとらわれない国土計画をつくるべきです。

 特に、アジアの中での日本の位置づけ、役割をもっと強く自覚し、それを国土計画に反映すべきではないでしょうか。単なる国際競争力の強化というものの一歩先を展望し、ODAも戦略的に活用しながら、アジアの中での水平的分業や役割分担も視野に入れた広い国土計画にすべきです。

 中国や韓国との日常の外交関係も築けない小泉内閣では到底無理な話かもしれませんが、北側大臣のお考えをお聞かせいただきたいと思います。

 また、時代おくれの全総計画よりも、進んでアジアを見据えながら産業振興策を構築していると自負される中川経済産業大臣の御見解もあわせてお伺いをいたします。

 第五は、生活圏レベルの諸課題への対応です。

 急速な少子高齢化、これまでのさまざまな政策の失敗により、地方山間部においては過疎化と高齢化による活力の低下、それに伴うサービスの低下の悪循環が進行中です。治安の悪化も深刻です。全体的な計画も、個々の国民の日々の生活の中でその成果が実感されてこそ、初めて意味をなすものです。

 新しい国土形成計画において、福祉、教育、医療、交通など生活圏レベルの課題にどのように対応されていかれるおつもりなんでしょうか。北側大臣、お答えをいただきたいと思います。

 以上、五つの視点で問題提起をいたしました。

 これ以外にも、法律や計画の体系が多岐にわたっており、形成と利用、国と地方の計画が並び立つ、役割分担も責任の所在も不明確な計画はそのままです。政策評価についても、全国計画だけが対象で、広域地方計画や国土利用計画などは対象となっておらず、評価の実効性の面からも大きな疑問が残ります。

 これらのことを総合的に勘案すると、従来の延長線上で、評価も反省もけじめもなく、なし崩し的に、お茶を濁す形で計画の名称やつくり方だけを変えるだけでは、結局何も変わらないのではないでしょうか。

 私たち民主党がかねてから提案をしているように、国土総合開発法をまず一たん廃止して、原点から国土のあり方を検討し直すべきです。セットになっている補助金、そこにぶら下がっている特殊法人や特別会計についても大胆にメスを入れ、廃止や統合を含めて根本的に見直すべきです。過去の呪縛、利権を断ち切り、見直し、転換期二十一世紀の日本にふさわしい国土計画をつくり直すことが必要だと考えますが、北側大臣、いかがでしょうか。

 最後に、今、改めてこれまでを振り返り、また立ちどまって静かに考えようではありませんか。

 戦後六十年、先人の御努力で、我が国は目覚ましい復興と発展を遂げてまいりました。大規模なインフラ整備、一ミリ一秒一円を争う経済活動は、この国日本を世界に冠たる経済大国として成長させました。おかげで、物質的な豊かさだけは高いレベルで享受できるようになりました。これからも、このペースで国家経営を行っていくんでしょうか。

 今、生きる生命を軽んじ、海に囲まれ閉鎖的な狭いこの国土や国益のことだけを考え、今の繁栄だけをせつな的に享受し、自然や地球を壊し、汚し続けていいはずありません。

 今、まさに転換点です。

 幸い、まだまだ日本には悠久の歴史、豊かな自然、まじめな人材、すぐれた技術があります。今こそ、これまでの計画を国家経営も含めて真摯に反省し、省庁や地域、有力議員への配慮と遠慮の塊のような国土計画を改めて、真に未来を展望し、将来世代にも責任ある国土計画への転換を行うべきであるということを強く重ねて主張し、私の質問を終わります。(拍手)

    〔国務大臣北側一雄君登壇〕

国務大臣(北側一雄君) 三日月議員からは、全部で十四問の御質問をちょうだいいたしました。

 まず最初に、交通運輸行政の安全確保についてお尋ねがございました。

 公共交通機関の最大の使命は、輸送の安全確保でございます。今回の脱線事故を初め、事故やトラブルが短期間のうちに継続して起こり、輸送の安全に対する信頼を損なったことはまことに遺憾でございます。安全確保こそ利用者に対する最大のサービスでございます。そのことを、ぜひ事業者の皆様には、経営トップの方々から現場の皆様まで肝に銘じていただきたいというふうに思っております。

 今回の脱線事故につきましては、航空・鉄道事故調査委員会の調査究明を受けまして、万全の再発防止策を講じることが必要でございますが、緊急にできる対策として、急曲線区間の手前において速度超過を防止するためのATSシステムの改良の義務づけや、運転士の資格要件等のあり方についての議論を早急に進めてまいります。今回の事故の重大性を十分に認識し、鉄道に関する今までの安全行政につきましても真摯に検証してまいる所存でございます。

 いずれにいたしましても、今後とも、国民の公共交通機関に対する信頼回復に向け、公共交通機関の安全確保に全力を尽くしてまいる所存でございます。

 これまでの全総の評価についてお尋ねがございました。

 これまでの全国総合開発計画は、時代に応じた国土政策の基本方向を示し、工業、教育機関の地方分散など、相応の効果を上げてきたものと認識をしております。しかしながら、東京圏への一極集中の継続、過疎問題の一層の深刻化が懸念される状況であり、国土の均衡ある発展の当初の目的は必ずしも十分に達成されていないと考えております。

 また、国土の均衡ある発展という言葉が、いわゆる金太郎あめやフルセット主義の開発を招いたとの御指摘もあることも承知をしております。

 今後は、国土の均衡ある発展の本来の趣旨を踏まえながら、個性ある地域の自立的発展を促し、環境の保全にも配慮した、国土全体としてのバランスのとれた発展を図ることが重要であると考えております。

 国と地方の債務と維持管理、更新投資の規模、バランスについてお尋ねがございました。

 我が国の財政が厳しい状況にあることは十分承知をしております。既存の国土基盤の更新に今後必要な費用について、一定の仮定のもとで試算いたしますと、二〇二〇年前後から更新投資が新規投資に厳しい制約を与えると想定しております。

 このような状況のもと、適切な投資バランスを保ちつつ、成熟社会にふさわしい国土基盤整備を推進していくため、これまでにも増して投資の重点化、効率化を図ることが重要でございます。例えば、災害対策など、国民生活の安全、安心、安定の確保等に重点を置いて取り組んでまいりたいと考えております。

 既に構築した国土基盤については、その十分な有効活用を図り、国土の質的向上に努めてまいる所存でございます。

 大規模開発の考え方についてお尋ねがございました。

 大規模開発については、経済社会状況の変化に対して機動的に見直していくことが重要であると認識しており、御指摘の事業についても、随時必要な見直しを行ってきたところでございます。

 今後の人口減少社会におきましては、大規模開発を取り巻く環境がより厳しくなることが予想されることから、このような状況の変化に一層適切に対応した取り組みを進めてまいります。

 さらに、新しい国土形成計画法のもとにおきましても、計画の政策評価を義務づけ、常に社会経済情勢に即した計画になるよう努めてまいります。

 政治と公共事業に対する信頼回復についてお尋ねがございました。

 公共事業の実施に当たりましては、むだなものはつくらない、真に国民のためになるものという観点から、第三者委員会の御意見をいただきながら、事業評価を客観的かつ厳格に実施しているところでございます。さらに、透明性を高める観点から、この評価結果も積極的に公表しているところでございます。もって公共事業の信頼回復に努めているところでございます。

 全国総合開発計画は、国土の利用、開発及び保全に関する総合的かつ基本的な計画として、国土政策の基本的な方向性を示すものであり、御指摘のような性格のものではないと考えておるところでございます。

 目指すべき国土と国が果たすべき役割についてお尋ねがございました。

 二〇〇七年から始まる人口減少を控え、不安、不透明感が拡大をしております。国土政策上も、地域社会の維持が困難な地域の拡大、森林、農地の荒廃など、喫緊の課題が表面化しております。国際的には東アジアが急速に台頭しており、我が国が二十一世紀中も経済社会の活力を維持していくためには、東アジアとの緊密な連携が極めて重要となっております。

 新たな計画では、これらの課題に対応した処方せんを示し、国民が安心して生活し得る国土の将来像を提示してまいります。

 また、国の果たすべき役割につきましては、危機管理、防災対策に配慮した国土基盤整備、地球環境問題への対応、海洋の利用、保全等を明らかにしてまいります。

 人口と国土計画の関係についてお尋ねがございました。

 人口と国土計画は不可分の関係にあると認識しております。少子化が急速に進展した結果、我が国の総人口は、長期的に見て減少が避けられない情勢となっております。

 このような状況のもと、政府は、昨年六月に少子化社会対策大綱を閣議決定し、バリアフリーを含めた子育てを支援する生活環境の整備など、少子化の流れをとめるための各種施策の総合的な推進に取り組んでいるところでございます。

 今後の国土計画の策定に当たりましては、こうした観点を十分に踏まえて取り組んでまいりたいと考えております。

 広域地方計画区域の設定の方法についてお尋ねがございました。

 広域地方計画は、国の地方支分部局と関係都府県等が対等な立場で協議する広域地方計画協議会を設け、国と地方の協働によるビジョンづくりを進めるものでございます。

 広域地方計画区域は、法制定後おおむね一年以内を目途に、広く関係者の意見を聴取しながら圏域の設定作業を行いたいと考えておりますが、その制度の趣旨を踏まえ、関係都府県等の意向をできる限り尊重してまいります。

 広域地方計画と大都市圏整備計画の関係については、大都市圏整備法につきましては、三大都市圏において大都市圏固有の問題を解決するため、政策区域制度や税財政上の特例措置など、それに関連する諸制度を有しております。

 したがって、大都市圏整備法に基づく計画は存置することとした上で、その実施のために必要な毎年度の事業を記載した事業計画を廃止するなど、計画制度の整理合理化を行うとともに、国土形成計画との調和規定を設けることとしております。

 広域地方計画を推進するための具体的な方策についてお尋ねがございました。

 EUの基金について、御指摘がございましたが、当省におきましても、人口減少が進む地方都市等の活性化促進等の観点から、新たな施策の展開に取り組んでいるところでございます。今後、御指摘のような観点からの検討も必要と考えております。

 新たな計画の策定に当たりましては、御指摘の点も参考にしながら、計画自体に広域地方計画の実効性を確保するための措置を記述することなども含め、検討を進めてまいります。

 自然との共生の観点から、将来世代に対する責任を明示した理念を打ち出すことについてお尋ねがございました。

 将来世代のためにも、自然との共生を進めることは極めて重要な課題であると認識をしております。

 このため、法案は、基本理念において「地球環境の保全にも寄与する豊かな環境の基盤となる国土を実現する」ことを明示する等、環境の保全を重視したものとしております。また、目的規定におきましても、「現在及び将来の国民が安心して豊かな生活を営むことができる経済社会の実現に寄与すること」としており、将来世代に対しても十分配慮したものと考えております。

 新しい計画における日本とアジア地域との連携、役割分担についてお尋ねがございました。

 我が国がアジアの一員として活力ある国土を形成することは重要な課題と認識をしております。

 国土形成計画の基本理念では、我が国及び世界の社会経済構造の変化に的確に対応した国土の形成に関する施策を、国内外の連携の確保に配意しつつ適切に定めてまいります。

 具体的には、ODAの活用等によりアジアの経済発展に引き続き貢献していくとともに、アジアとの連携の強化も視野に入れた国土基盤のあり方を検討し、その考え方を新たな計画に反映させてまいります。

 生活圏レベルの諸問題に対する対応についてお尋ねがございました。

 教育、医療など生活サービスの提供につきましては、安全、安心、安定した生活が確保できるよう、国民の受益の観点から整備していくことが必要と考えております。

 今後、特に地方圏におきましては、大幅な人口減少が予想され、基礎的な生活サービスの提供が困難な地域の拡大も見込まれることから、その対応は極めて重要でございます。

 このような地域では、生活圏域内外での機能分担と相互補完を図るとともに、情報通信技術等を活用した新しいサービスの提供など、特色ある地域づくりを検討してまいりたいと考えております。

 最後に、国土総合開発法は廃止すべきではないかとのお尋ねがございました。

 国土総合開発法の改正は、法改正の手続上は一部改正としておりますが、法律の題名、計画の名称を含め、ほぼすべての条文を抜本的に見直しております。

 したがって、本法案により、開発中心からの転換、国と地方との協働作業によるビジョンづくりなど、二十一世紀の日本にふさわしい国土計画をつくることができるものと考えております。(拍手)

    〔国務大臣谷垣禎一君登壇〕

国務大臣(谷垣禎一君) 三日月議員にお答えいたします。

 まず最初に、国、地方の長期債務残高が七百七十四兆円まで達しているのをどうするつもりかというお問いかけでございました。

 我が国の財政状況は、バブル経済崩壊後景気が低迷する中で、累次にわたる経済対策としての歳出の拡大や減税措置を行ったことなどによりまして、急速に悪化しております。平成十七年度末の国及び地方の長期債務残高は七百七十四兆円程度に達する見込みであるなど、非常に厳しい現実がございます。

 こうした中、政府としては、まずは二〇一〇年代初頭の国、地方を合わせた基礎的財政収支の黒字化を目指して取り組んでいるわけでございますが、その際、特に、社会保障制度を身の丈に合った持続可能なものにしていくための見直しや、国と地方のいわゆる三位一体の改革、それから、必要な公的サービスの費用を広く公平に分かち合うための税制改革への取り組みが重要であると考えております。

 今後とも、手綱を緩めることなく、歳出歳入両面からバランスのとれた財政構造改革を強力に推進してまいります。

 次に、そういう中で、社会資本の維持、更新に係る投資についてどうしていくのかというお問いかけでございました。

 我が国の社会資本については、戦後一貫して高水準の公共投資が行われまして、その結果、ストックは大幅に増大してきております。

 その中で、社会資本ストックの補強や維持、更新に係る投資については、厳しい財政事情等を踏まえますと、個別の投資の必要性を十分精査して、十分なコスト縮減等が図られなければならないと考えております。

 さらに、社会資本整備の進捗によりまして、将来の新規投資への需要は低下していくと考えられますので、将来の維持、更新等に係る投資が直ちに歳出の大幅な増加要因となるものではないと考えております。

 いずれにしても、公共投資については、社会資本の整備状況等を踏まえまして、今後とも、重点化、効率化を図っていく必要があると考えております。(拍手)

    〔国務大臣中川昭一君登壇〕

国務大臣(中川昭一君) むつ小川原コンビナートにおける企業立地支援についてのお尋ねですが、むつ小川原開発は昭和四十四年以降進められており、このうち工業用地に関しましては、エネルギー関連の立地を中心に、これまで一千百七十ヘクタールの分譲が進められております。

 経済産業省といたしましては、今後とも、青森県の進めるクリスタルバレイ構想等のプロジェクトと強力に連携協力を図ることとしており、最近では分譲の引き合いもふえてきていることから、企業立地促進補助金等の措置を有効に活用することにより分譲を支援してまいります。

 国土計画にアジアの中での日本の位置づけ、役割を反映させることについてのお尋ねですが、高い潜在成長力を有し、製造業の生産ネットワークを中心に相互依存関係が深まるアジアの現状にかんがみれば、我が国は、みずからの高付加価値産業のさらなる発展を推進していくとともに、アジアにおける生産ネットワークをより効率的かつ強固なものにしていく必要があります。

 経済産業省では、このような認識のもと、平成十三年度から産業クラスター計画を強力に推進し、アジアにおける水平的分業や役割分担を意識した我が国におけるイノベーション創出環境整備を進めるとともに、アジア諸国のクラスター形成活動との連携強化を図ってきたところであります。

 今後とも、アジアの中での日本の位置づけ、役割を踏まえた産業クラスター形成を進めてまいる所存であり、国土計画におきましてもそうした観点が強く反映されるべきと考えております。(拍手)

議長(河野洋平君) これにて質疑は終了いたしました。

     ――――◇―――――

議長(河野洋平君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後二時三十九分散会

     ――――◇―――――

 出席国務大臣

       法務大臣    南野知惠子君

       外務大臣    町村 信孝君

       財務大臣    谷垣 禎一君

       厚生労働大臣  尾辻 秀久君

       経済産業大臣  中川 昭一君

       国土交通大臣  北側 一雄君

       環境大臣    小池百合子君

 出席副大臣

       厚生労働副大臣 衛藤 晟一君

       国土交通副大臣 蓮実  進君


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