衆議院

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第33号 平成18年6月1日(木曜日)

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平成十八年六月一日(木曜日)

    ―――――――――――――

 議事日程 第二十六号

  平成十八年六月一日

    午後一時開議

 第一 分布範囲が排他的経済水域の内外に存在する魚類資源(ストラドリング魚類資源)及び高度回遊性魚類資源の保存及び管理に関する千九百八十二年十二月十日の海洋法に関する国際連合条約の規定の実施のための協定の締結について承認を求めるの件(参議院送付)

 第二 二千年の危険物質及び有害物質による汚染事件に係る準備、対応及び協力に関する議定書の締結について承認を求めるの件(参議院送付)

 第三 国と民間企業との間の人事交流に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出)

 第四 公職選挙法の一部を改正する法律案(参議院提出)

 第五 意匠法等の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)

 第六 遺失物法案(内閣提出)

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本日の会議に付した案件

 日程第一 分布範囲が排他的経済水域の内外に存在する魚類資源(ストラドリング魚類資源)及び高度回遊性魚類資源の保存及び管理に関する千九百八十二年十二月十日の海洋法に関する国際連合条約の規定の実施のための協定の締結について承認を求めるの件(参議院送付)

 日程第二 二千年の危険物質及び有害物質による汚染事件に係る準備、対応及び協力に関する議定書の締結について承認を求めるの件(参議院送付)

 日程第三 国と民間企業との間の人事交流に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出)

 日程第四 公職選挙法の一部を改正する法律案(参議院提出)

 日程第五 意匠法等の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)

 日程第六 遺失物法案(内閣提出)

 日本国憲法の改正手続に関する法律案(保岡興治君外四名提出)及び日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(枝野幸男君外三名提出)の趣旨説明及び質疑


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    午後一時二分開議

議長(河野洋平君) これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

 日程第一 分布範囲が排他的経済水域の内外に存在する魚類資源(ストラドリング魚類資源)及び高度回遊性魚類資源の保存及び管理に関する千九百八十二年十二月十日の海洋法に関する国際連合条約の規定の実施のための協定の締結について承認を求めるの件(参議院送付)

 日程第二 二千年の危険物質及び有害物質による汚染事件に係る準備、対応及び協力に関する議定書の締結について承認を求めるの件(参議院送付)

議長(河野洋平君) 日程第一、分布範囲が排他的経済水域の内外に存在する魚類資源(ストラドリング魚類資源)及び高度回遊性魚類資源の保存及び管理に関する千九百八十二年十二月十日の海洋法に関する国際連合条約の規定の実施のための協定の締結について承認を求めるの件、日程第二、二千年の危険物質及び有害物質による汚染事件に係る準備、対応及び協力に関する議定書の締結について承認を求めるの件、右両件を一括して議題といたします。

 委員長の報告を求めます。外務委員長原田義昭君。

    ―――――――――――――

 分布範囲が排他的経済水域の内外に存在する魚類資源(ストラドリング魚類資源)及び高度回遊性魚類資源の保存及び管理に関する千九百八十二年十二月十日の海洋法に関する国際連合条約の規定の実施のための協定の締結について承認を求めるの件及び同報告書

 二千年の危険物質及び有害物質による汚染事件に係る準備、対応及び協力に関する議定書の締結について承認を求めるの件及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔原田義昭君登壇〕

原田義昭君 ただいま議題となりました両件につきまして、外務委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 まず、国連公海漁業協定について申し上げます。

 昭和五十七年に採択された国連海洋法条約は、分布範囲が排他的経済水域の内外に存在する魚類資源及び高度回遊性魚類資源の保存、利用について、沿岸漁業国と遠洋漁業国との間の協力義務を定めております。これを受け、協力の内容及びこれら魚類資源の保存、管理の一般原則を整備するための協定を起草する国際連合会議が平成五年から六回にわたり開催された結果、平成七年八月、ニューヨークにおいて本協定が採択されました。

 本協定の主な内容は、地域漁業管理機関等が定めた保存管理措置に同意する国のみがその漁業資源を利用できること、当該機関等が対象とする公海水域において、締約国の検査官は、他の締約国の漁船に乗船し、検査ができること等でございます。

 次に、二千年危険・有害物質汚染事件に関する議定書について申し上げます。

 平成二年十一月に国際海事機関が主催した会議において、千九百九十年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約が採択されましたが、その際、同条約の規定の範囲を油以外の危険・有害物質に拡大することを検討する旨の決議がなされ、これを受け、平成十二年三月、ロンドンで開催された国際会議において本議定書が採択されました。

 本議定書の主な内容は、締約国が、自国の船舶、海港並びに危険・有害物質の取扱施設に責任を有する管理者等に対し、危険・有害物質汚染事件に関する緊急計画等を備えることを要求すること、また、汚染事件が重大なものである場合には、関係する他の締約国の要請に応じ協力すること等でございます。

 両件は、四月十四日に参議院より送付され、五月十八日に外務委員会に付託されたものであります。

 外務委員会におきましては、十九日麻生外務大臣から提案理由の説明を聴取し、二十六日質疑を行い、採決を行いました結果、両件は全会一致をもって承認すべきものと議決した次第であります。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 両件を一括して採決いたします。

 両件は委員長報告のとおり承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、両件とも委員長報告のとおり承認することに決まりました。

     ――――◇―――――

 日程第三 国と民間企業との間の人事交流に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出)

議長(河野洋平君) 日程第三、国と民間企業との間の人事交流に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。総務委員長中谷元君。

    ―――――――――――――

 国と民間企業との間の人事交流に関する法律の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔中谷元君登壇〕

中谷元君 ただいま議題となりました国と民間企業との間の人事交流に関する法律の一部を改正する法律案につきまして、総務委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、国と民間企業との間の交流採用の一層の拡大を図るため、交流採用をする者について、交流元企業との雇用関係を継続できるようにする等の措置を講じようとするものであります。

 本案は、去る五月二十二日本委員会に付託され、翌二十三日竹中総務大臣から提案理由の説明を聴取いたしました。同月三十日質疑を行い、討論、採決の結果、本案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(河野洋平君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 日程第四 公職選挙法の一部を改正する法律案(参議院提出)

議長(河野洋平君) 日程第四、公職選挙法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員長鈴木恒夫君。

    ―――――――――――――

 公職選挙法の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔鈴木恒夫君登壇〕

鈴木恒夫君 ただいま議題となりました法律案につきまして、政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、参議院選挙区選出議員の選挙について、選挙区間の人口と定数に係る不均衡を是正するため、各選挙区の定数の配分を改めようとするもので、東京都を八人から十人に、千葉県を四人から六人に、それぞれ増員し、栃木県及び群馬県を四人から二人に、それぞれ減員するものであります。

 本案は、公布の日から施行することとし、施行日以後公示される参議院議員の通常選挙から適用することといたしております。

 本案は、参議院提出に係るもので、五月二十六日本委員会に付託され、三十一日参議院議員阿部正俊君から提案理由の説明を聴取し、質疑、討論を行った後、採決の結果、賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 討論の通告があります。これを許します。大串博志君。

    〔大串博志君登壇〕

大串博志君 民主党の大串博志でございます。

 民主党・無所属クラブを代表しまして、自民党、公明党両党提出の公職選挙法の一部を改正する法律案に対し、反対する立場から討論を行います。(拍手)

 公職選挙法は、衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長を公選する選挙制度を確立するための法律でありますが、現在、公職選挙法にのっとって選出された国会議員によって形成される国会の場において、残念な状況が起こっております。

 社会保険庁による年金偽装の問題が全国各地で続々と発覚しています。

 年金の問題は、国民が最も関心を寄せる大変重要な問題であるにもかかわらず、与党は、この年金不正免除の問題に関して国会の場で真相を解明していくことに対して、極めて消極的な態度を見せています。昨日になって、今国会中に、この社会保険庁の問題について六時間以上集中して審議することが約束されましたが、真相解明なくして国民のための対策なし。国会の場において徹底的な真相の究明が必要です。

 また、小泉総理が今国会の延長は行わないという指示を出されたようであります。

 今国会においては、教育基本法などを初めとして、与党として本当に成立を期するのであれば、さらにじっくり時間をかけて、国民の理解と合意を醸成しつつ、議論を深めることが必要な法案が残っています。

 特に教育基本法は、与党の要求であえて特別委員会まで設置したにもかかわらず、総理としてどれだけの強い意志を持って教育基本法改正案を今国会中に議論しようと考えておられるのか、その熱意がいま一つ伝わってきません。

 これらは、小泉政権が終わりに近づく中で次々と見られるようになってきた、棚上げ、先送りという政権の末期症状の典型例であります。

 今回の公職選挙法改正案においても、同様の状況が見られます。

 これは、平成十六年一月の最高裁判決において、仮に次回選挙においてもなお、無為のうちに漫然と現在の状況が維持されたままであったとしたならば、違憲判断がなさるべき余地は十分に存在するものと言わなければならないと指摘され、参議院が設置した各会派から成る参議院議員選挙の定数較差問題に関する協議会における努力の結果、報告書はまとめられたものの、成案は得られず、報告書で併記された案の中で四増四減案を採用して与党から提出されたものであります。

 しかしながら、この法案に採用された四増四減の案は、現在の五・一倍の格差を四・八倍にするだけのものであり、極めて小手先の是正にしかすぎません。この案では、早晩、平成二十二年の参議院議員通常選挙においてでも、再度最高裁の指摘を受ける状態になるであろうことは明白であります。

 まさに、この法案においても、無為のうちに漫然と棚上げ、先送りを行っているのであります。

 一票の価値の平等とこれまでの都道府県単位の地域代表的性格の制度を両立することが困難である以上、参議院制度のあり方を根本から改革する選挙制度を構築する以外に手だてはありません。

 今回我々が提案した二増二減案は、鳥取、島根の両県を合区して格差を三・八倍まで縮小させるものであります。与党案より十分な検討期間を確保できることで参議院の抜本改革にもつながり得る案でありますが、参議院で審議未了の扱いとなったことは大変残念であります。

 今後、抜本的な改革案を参議院が提示できるのか、参議院側の協議を見守りたいと思いますが、今回の与党案はあくまで小手先の是正案であり、とりあえずの棚上げ、先送りという政権の末期症状を示すものでしかない以上、民主党は反対の立場であることを明確に表明して、私の討論を終わります。

 以上であります。(拍手)

議長(河野洋平君) これにて討論は終局いたしました。

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(河野洋平君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 日程第五 意匠法等の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)

議長(河野洋平君) 日程第五、意匠法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。経済産業委員長石田祝稔君。

    ―――――――――――――

 意匠法等の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔石田祝稔君登壇〕

石田祝稔君 ただいま議題となりました法律案につきまして、経済産業委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、我が国産業の国際競争力を強化するために、意匠権の存続期間の延長等の改正を行い、産業財産権の一層の保護を図るとともに、模倣品対策を強化する観点から、模倣品の輸出を侵害行為とするなど所要の措置を講じるものであります。

 本案は、参議院先議に係るもので、去る五月十六日本委員会に付託され、翌十七日二階経済産業大臣から提案理由の説明を聴取した後、質疑に入り、昨日質疑を終了いたしました。質疑終局後、討論、採決を行った結果、本案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決いたしました。

 なお、本案に対し附帯決議が付されました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(河野洋平君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 日程第六 遺失物法案(内閣提出)

議長(河野洋平君) 日程第六、遺失物法案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。内閣委員長佐藤剛男君。

    ―――――――――――――

 遺失物法案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔佐藤剛男君登壇〕

佐藤剛男君 ただいま議題となりました法律案につきまして、内閣委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 まず、本案の概要を申し上げます。

 第一は、拾得された物件の返還及び売却のための手続に関する規定の整備であります。

 すなわち、警察本部長は、警察署長が公告をした物件等に関する情報をインターネットの利用その他の方法により公表することとするものであります。また、警察署長は、日常生活の用に供され、かつ、広く販売されている物等については、公告の日から二週間以内にその遺失者が判明しないときは売却することができること等とするものであります。

 第二は、施設において拾得された物件に係る手続の特例に関する規定の整備であります。

 すなわち、特例施設占有者は、警察署長に届け出たときは、その施設において拾得された物件を警察署長に提出しないことができること等とするものであります。

 第三は、拾得者等への所有権の帰属に関する規定の整備であります。

 すなわち、個人の身分もしくは地位または個人の一身に専属する権利を証する文書、図画または電磁的記録等については、拾得者等は所有権を取得することができないこと等とするものであります。さらに、遺失者が判明しないことにより拾得者が物件の所有権を取得する期間を六カ月から三カ月に短縮することとするほか、罰則規定その他の規定の整備等を行うものであります。

 本案は、去る五月十八日本委員会に付託され、五月二十六日沓掛国家公安委員会委員長から提案理由の説明を聴取いたしました。次いで、五月三十一日に質疑を行い、質疑終局後、直ちに採決いたしましたところ、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと決した次第であります。

 なお、本案に対し附帯決議を付することに決しました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は可決であります。本案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 日本国憲法の改正手続に関する法律案(保岡興治君外四名提出)及び日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(枝野幸男君外三名提出)の趣旨説明

議長(河野洋平君) この際、保岡興治君外四名提出、日本国憲法の改正手続に関する法律案及び枝野幸男君外三名提出、日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案について、順次趣旨の説明を求めます。提出者保岡興治君。

    〔保岡興治君登壇〕

保岡興治君 ただいま議題となりました自由民主党及び公明党共同提出の日本国憲法の改正手続に関する法律案につきまして、提出者を代表して、提案の理由及び内容の概要を御説明申し上げます。

 日本国憲法は、その第九十六条において改正のための手続を定めているにもかかわらず、そのための具体的な国民投票法制につきましては、日本国憲法が施行されてから六十年近く経過しようとしている今日に至るまで、整備されてまいりませんでした。このような基本的な憲法附属法典の整備は、国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関として国民の負託を受けている私ども国会議員の基本的責務であり、今日までこれが成立を見ていないことは国会の怠慢であったと言っても過言ではありません。憲法改正国民投票法制の整備は、憲法制定権力の担い手である国民がその権利を行使する制度を整備することであり、憲法改正に対する国民の主権を回復し、憲法それ自体が基本的理念とする国民主権を具体化することにほかならないからであります。

 この憲法改正国民投票法制の整備をも含む日本国憲法に関するあらゆる論点については、平成十二年一月に衆議院に設置された憲法調査会が、中山太郎会長のもとで、一貫して、公正かつ円満に、精力的な調査活動を行ってまいりました。その五年余りに及ぶ調査活動の内容を取りまとめた最終報告書が、昨年の四月十五日、河野議長に提出されたのは御承知のとおりかと存じますが、この最終報告書においても、憲法改正国民投票法制については、これを早急に整備するべきであるとする意見が多数であったと明確に述べられているところであります。

 この最終報告書の趣旨に基づいて、昨年九月の衆議院議員総選挙後の特別会で設置されました日本国憲法に関する調査特別委員会におきまして、まず各会派からの意見表明に始まり、この分野の専門家を招致しての参考人質疑、委員間の自由討議など、実にさまざまな観点から活発な論議が繰り広げられてまいりました。

 本年に入ってからは、これらの調査と並行して、理事懇談会において、憲法改正国民投票法制の是非を含めて、その具体的な制度設計に関する論点整理を合計七回にわたって行ってまいりました。その委員会における調査及び理事懇談会における論点整理の協議の時間は、総計で四十七時間に及ぶものでございます。

 これに加えて、昨年の十一月には、本院からの議員派遣として、自民、民主、公明、共産、社民の各会派所属の議員から成る欧州各国国民投票制度調査議員団が、約二週間にわたってスイス、スペイン、フランス等に派遣され、各国における国民投票法制及びその実態に関する詳細な調査を行いました。この調査結果も詳しく報告書に取りまとめて議長に提出し、かつ、委員会の参考に供するため各委員に配付いたしたところでございます。

 これらの成果を踏まえながら、本年三月以降は、憲法調査特別委員会の理事懇談会において、先ほども申し上げたとおり、具体的な法制度の設計に関する論点整理を進めた結果、自由民主党、公明党及び民主党の三党間においては、法制度設計に当たってのほとんどの事項について共通の認識が得られるところまで参りました。しかし同時に、なお幾つかの重要な点において意見の相違が確認されたところでございます。

 そこで、お互いが現時点で最良と考える法制度について具体的な法律案の形で提出し、これを国会の委員会、本会議という国民に見える公の場において論議をし、かつ、これに対する御意見、御批判をいただきながら、さらに幅広い合意形成を目指してよりよいものにしていくことが、憲法という国家の基本ルールの改正に関する手続法の制定手続としては望ましいと考えました。

 これが、本法律案の提出に至るまでの経緯でございます。

 本法律案は、以上述べましたような経緯と基本的な考え方に基づきまして、志を同じくする自由民主党及び公明党が共同で提出いたしたものでございますが、本法律案においては、日本国憲法第九十六条に定める日本国憲法の改正について、その国民投票の手続に関する事項を定めるとともに、それに先行する手続である国会における憲法改正の発議手続に関する整備を図るための国会法の改正をあわせて行うこととしております。

 それは、すなわち、憲法改正手続に関しましては、国会における憲法改正原案の提案、その憲法改正原案の憲法審査会における審査、両議院の本会議における三分の二以上の賛成による国民への発議という憲法改正の発議手続に関する国会法の一部改正部分と、国民投票の期日の決定及び告示、衆参両院議員から成る広報協議会の設置と国民への周知広報、投票人名簿の作成、国民投票の結果の確定とこれに異議がある場合の無効訴訟などといった国民投票の実施手続に関する部分とは、憲法改正という国家の重要事項に関する一連の手続であるばかりではなく、相互に密接に関連する事項が幾つもあるからであり、その整合性を図る必要性があるからでございます。

 そこで、憲法調査特別委員会での論点整理に際しましては、中山委員長に民主党筆頭の枝野理事及び与党筆頭の私が同行する形で、二度にわたって議院運営委員会理事会に赴いて、この点についての御説明及び御報告を行い、その御了承をいただいた上で、国会法改正部分を含めた調査を進めてまいったところであります。

 本法律案は、このような事情をも踏まえて、一本の法律案として立案、提出したものでございます。

 以下、本法律案の主な内容について御説明を申し上げます。

 第一は、右に述べたところからも明らかなように、本法律案の国民投票は、あくまでも日本国憲法第九十六条の実施法であり、憲法改正国民投票だけを対象としているものであります。

 現行憲法のもとで認められている国政ベースでの直接民主制は、この憲法改正国民投票と、最高裁判所裁判官の国民審査、そして地方自治特別法の三つの場合に限定されており、これ以外の場合に直接民主制の制度を創設することは、そのことの是非はさておき、基本的には憲法改正を伴うものと考えるのが素直だからであります。

 第二に、国民投票の期日は、国会が憲法改正を発議した日から起算して六十日以後百八十日以内において、国会自身が議決した期日に行うことといたしております。

 第三に、国民投票の投票権者は、日本国民で年齢満二十年以上の者とし、この要件に合致する限り、成年被後見人以外のすべての日本国民に投票権を与えることといたしております。

 ここで、公職選挙法の選挙権年齢と同じく二十歳以上としたのは、国政に対する参政権を付与するにふさわしい判断能力の基準という観点からは、憲法改正国民投票の場合であると通常の国政選挙の場合であるとで基本的な違いはないものと考えるからであります。昨年の海外調査においても、すべての国において、選挙権年齢と国民投票の投票権年齢は同一でありました。

 なお、投票人名簿及び在外投票人名簿は、国民投票が行われることとなった場合に、その都度これを調製することとし、選挙人名簿等への登録要件とされているいわゆる三カ月居住要件は外すことといたしております。

 第四に、憲法改正の発議があったときは、国会に両議院の議員各十名で構成する憲法改正案広報協議会を設置することといたしております。

 この広報協議会は、憲法改正案やその要旨、説明等を客観的かつ中立的に記載するとともに、その憲法改正案に対する賛否両方の意見を公正かつ平等に記載した国民投票公報の原稿の作成や、憲法改正案に関する説明会の開催等を行うなど、憲法改正案の内容を国民に周知広報する活動を行う機関でありますが、このような周知広報活動は、憲法改正案の内容を熟知している国会議員でもって組織する国会の機関がみずから行うことがふさわしいとの考えから、このようにしているところであります。

 なお、その委員の選任に当たっては、原則、各会派の所属議員の数の比率による割り当てということになりますが、しかし、この原則により委員を割り当てた場合に憲法改正の発議に係る議決において反対の表決を行った議員の所属する会派から委員が一人も選任されないこととなるときは、各議院において、当該会派にも委員を割り当て選任するよう、できる限り配慮することといたしております。

 第五に、投票の方式については、賛成するときはマルの記号を、反対するときはバツの記号を自書することとし、白票は無効としております。あくまでも、投票において積極的に賛否の意思を表明したものを基準に民意をはかることが望ましいと考えられるからであります。

 そして、このマルの記号を自書した賛成の投票数が有効投票総数の二分の一を超えた場合に、国民の承認があったものとし、内閣総理大臣は、直ちに憲法改正の公布のための手続をとらなければならないことといたしております。

 第六に、国民投票運動についてでございますが、多くの国民の皆さんがこれにかかわるであろうことを前提に、国民投票運動は基本的に自由とし、投票の公正さを確保するための必要最小限の規制のみを設けることといたしております。このことは、適用上の注意として設けた、表現の自由、学問の自由、政治活動の自由等への配慮規定にもあらわれているところであります。

 その上で、選管職員等の投票事務関係者や裁判官、検察官、警察官等の特定公務員の在職中の国民投票運動の禁止、公務員等や教育者の地位を利用して行う国民投票運動の禁止、国民投票の期日前一週間のテレビ、ラジオにおける広告放送の制限などに関する規定を設けております。他方、国会に議席を有する政党等に対する、テレビやラジオ、新聞における無料広告枠の提供といった国民投票運動の一部公営に関する規定も設けております。

 第七に、罰則についても、職権濫用による国民投票の自由妨害罪、投票の秘密侵害罪等の投票の公正さを確保するための必要最小限の規定のみを設けることとしたほか、いわゆる買収罪についても、人を選ぶ選挙運動と国家の基本法制のあり方を選択する国民投票運動との差異にかんがみて、その対象を社会常識的な行為を逸脱する悪質な行為に限定するべく、組織により、多数の投票人に対し、賛成または反対の投票をし、またはしないよう勧誘する行為であって、その報酬として、金銭や投票行動に影響を与えるに足りる物品を供与する行為等に限ることといたしたところであります。

 第八は、国民投票に関し異議がある場合には、国民投票の結果の告示の日から三十日以内に、東京高等裁判所に訴訟を提起することができることとするとともに、この訴訟の提起があっても、原則として、国民投票の効力は停止しないものとしております。

 第九は、憲法改正発議のための国会法の一部改正に関する事項でありますが、まず、個々の議員が憲法改正原案を提案するには、衆議院においては議員百人以上、参議院においては議員五十人以上の賛成を要するものとすること、次に、憲法改正原案の提案は、内容において関連する事項ごとに区分して行うものといたしております。さらに、日本国憲法等について広範かつ総合的に調査を行い、憲法改正原案や日本国憲法の改正手続に係る法律案等を審査するため、各議院に憲法審査会を設けることといたしております。

 最後に、この法律の規定のうち国民投票の実施に関する部分は、公布の日から起算して二年を経過した日から、また、国会法の一部改正の部分は、公布の日以後初めて召集される国会の召集の日から、それぞれ施行することといたしました。

 以上が、この法律案を提出いたしました理由及びその内容の概要でございます。

 最後に、昨年、中山太郎委員長と御一緒に、自由民主党から派遣されて、EU憲法条約に係るフランスの国民投票の視察に行ってまいりましたが、政府はもとより、国会における圧倒的な多数で国民投票に付した案件が、その国会が代表しているはずの国民の投票において否決されるという、国民投票という直接の国民主権の行使の持つ力のすごさを目の当たりにしてまいりました。

 そのような観点からも、この憲法改正国民投票法制に係る法律案が、我が日本国の歴史上初めて、国民が直接に国家の基本ルールの制定に関与することを可能とするものであり、この法案が国会に上程され、今日審議が始まったことの歴史的な意義は、幾ら強調しても強調し過ぎることはないと存じます。

 その上で、改めて申し上げますが、この手続法がなければ憲法改正ができないことは確かではありますが、この法律自体は、特定の改憲のためのルールでも、特定の護憲のためのルールでもありません。憲法改正の基本的手続を定める、それ自体として公正中立なルールでございます。

 今後とも引き続き、慎重かつ真摯な議論を行いながら、できるだけ論議を尽くし、知恵を出し合って、できるだけ多くの幅広い会派間の合意のもとで歴史的な本法律が成立するよう、議員各位の格段の御理解と御協力をお願い申し上げる次第でございます。

 ありがとうございました。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 提出者枝野幸男君。

    〔枝野幸男君登壇〕

枝野幸男君 私は、民主党・無所属クラブの提案者を代表し、ただいま議題となりました日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案について、その趣旨を説明いたします。

 この法律案は、日本国憲法九十六条に規定する憲法改正国民投票に関する手続と、国政における重要な問題についての諮問的国民投票に関する手続とを一体のものとして定め、あわせて、それぞれの発議に関する手続の整備を行うものです。

 憲法改正に係る国会による発議手続や国民投票のための具体的手続は、本来、一九四六年改正の際、憲法附属法として同時に整備されるべきものでした。ところが、四六年改正の後、間もなくすると、発議や国民投票の手続を整備することが憲法改正そのものの是非論と結びつき、具体的テーマとなり得ない状況となってしまいました。

 しかし、これら手続の整備は、本来、憲法改正そのものに関する議論と区別して進められるべきです。

 そもそも、憲法がその改正に国民投票を要求しているのは、憲法や立憲主義の本質的意義に由来します。すなわち、憲法とは、主権者が、国家の公的機関に権力の行使を委託し、その公権力行使に関する基本的ルールを規定するものです。民主主義の国家においては、主権者たる国民が、国会、内閣、裁判所、地方公共団体などの機関にその権力を委託し、その行使に関するルールと限界を規定するという性格を持ちます。だからこそ、委託を受けている国会のみではその改正を判断することができず、委託をしている主権者みずからが直接判断することとされているのです。

 したがって、その手続は、主権者たる国民の意思が正確に反映されるよう、中立公正に整備される必要があります。この手続が偏ったものであるならば、改正されるにしろされないにしろ、立憲主義そのものの正当性に大きな疑念を生じることになるからです。

 中立公正な手続をつくるためには、憲法そのものの議論とは切り離すことが不可欠です。具体的な憲法改正案を前提として議論すれば、改正を推進する者はできるだけ改正が簡単であるように、改正に反対する者はできるだけ改正が困難であるように、それぞれ手続のあり方を考えてしまいがちです。また、そう考えるであろうという疑いの目で見られること自体、でき上がった手続に対する信頼を損ねることになります。

 残念ながら、既に、具体的な憲法改正案を提示している政党が存在する一方で、いかなる改正でも反対するという政党も存在し、中立公正な手続をつくるための前提は崩れつつあるとも言えます。しかし、幸いにして我が党は、憲法を変えることを含めて、そのあり方を一から議論し、国民との対話集会を重ねていますが、具体的改正の是非についての結論は出していません。すなわち、改正が容易な手続にすべきであるのか、改正が困難な手続にすべきであるのか、中立性を疑われにくい立場にあります。

 私たちは、こうした重要な立場にある責任を十分自覚しながら、中立公正な国民投票制度のあり方を真摯に議論してまいりました。具体的改憲案を持っている政党にとっても、一切の改正に……(発言する者あり)うるさい。うるさい。黙らせてください、議長。(発言する者あり)

議長(河野洋平君) お静かに願います。お静かに願います。発言者は発言を続けてください。

枝野幸男君(続) 議長の御指示でありますので、失礼な、無礼なやじがありましたが、引き続き趣旨の説明を続けさせていただきます。

 私たちは、改正が容易な手続にすべきであるのか、改正が困難な手続にすべきであるのか、中立性を疑われにくい立場にあると思っております。

 私たちは、こうした重要な立場にある責任を十分自覚しながら、中立公正な国民投票制度のあり方を真摯に議論してまいりました。具体的改憲案を持っている政党にとっても、一切の改正に反対する政党にとっても、どちらから見ても中立的な制度を構築するには、民主党の議論が軸にならざるを得ないという自負と責任感を持って本法律案を提起しております。(拍手)

 ところで、憲法改正国民投票制度は、間接民主制を基本とする我が国政にあって、直接的に国民の意思を問う例外的な制度です。そして、立憲主義の観点から、直接的に国民の意思を問うことが望ましい案件は、憲法の条文そのものを改正するケースに必ずしも限られません。

 もちろん、国会が国権の最高機関であり、唯一の立法機関であるとする憲法の規定に照らし、国会の意思とは無関係に、国会の立法権限を法的に制約するような手続は認められません。しかし、特に立憲主義にかかわる問題について、国会がみずからの意思に基づき、諮問的に国民の意思を問い、その主権者の意思を十分に考慮しながら権限行使することは、何ら憲法に反するものではなく、むしろその趣旨にかなうことです。

 こう考えると、法体系的には、国会が一般的に国民の意思を問う諮問的国民投票制度こそが基本に存在し、特に憲法で規定された、必要的で拘束力を持つ憲法改正国民投票制度は、その特例として位置づけられます。一般法がないまま特例法を制定するのは不自然なことです。

 このため、私たちは、一般法である諮問的国民投票制度の創設と、その特例法である憲法改正国民投票制度の創設とを一本の法律として提案しています。

 以上が、本法律案を提出するに至った経緯及び理由でありますが、以下、ポイントとなる点に絞って、その内容を説明いたします。(発言する者あり)

 第一に、投票権者の範囲です。

 我が党は、従来から、選挙権年齢や少年法適用範囲を初めとする成人年齢について、国際的な標準や社会通念に基づき、十八歳に引き下げることを主張しています。(発言する者あり)

議長(河野洋平君) 静粛に願います。

枝野幸男君(続) このこと自体、速やかに実現すべきと考えますが、残念ながら、その具体的めどは立っていません。

 こうした中、せめて、少なくとも憲法改正国民投票に関しては、他に先行してでも十八歳に引き下げるべきです。

 すなわち、選挙権行使の結果選ばれる議員等の任期は、最長でも六年であります。これに対して、憲法の場合、もし改正されると、相当長期にわたってその効果が継続します。したがって、この国の未来に、より長期にわたってかかわっていく若い世代に、可能な限り決定に参加する機会を認めることが必要です。アメリカ合衆国第三代大統領で、合衆国憲法起草者の一人でもあり、立憲主義の父とも言われるトーマス・ジェファーソンも、死者が生者を拘束すべき理由はない、各世代はそれぞれみずからの憲法を選ぶべきであると述べています。

 こうしたことから、本法律案では、投票権年齢を原則十八歳まで引き下げ、さらには、案件によっては、国会の意思に基づき、これを十六歳まで引き下げることが可能なこととしています。

 第二に、投票用紙への記載方法及び過半数の意義についてです。(発言する者あり)聞いた上で御批判いただければと思います。

 憲法九十六条は、国会の発議に対する国民の承認を要求しています。承認するということは、発議を是とするということです。投票に行くことなく、積極的にみずからの権利を放棄した者まで分母に加えることは適切ではないと考えますが、わざわざ投票所まで足を運び、かつ、是とする意思を示さなかった者については、承認の意思がなかったものと判断するのが適切であります。

 このため、本法律案では、国会の発議を是としこれを承認する者が投票用紙にマルを付すものとし、マルを付した票が投票総数の過半数に達した場合に憲法が改正されるものとしました。

 第三に、いわゆる国民投票運動についてです。

 国民投票と公職選挙は、投票という行動では似ています。しかし、公職選挙が特定の人や政党を選ぶのに対して、国民投票は国民としての政治的意思そのものを選択するものであり、全く質が異なっています。また、選挙においては、政党や候補者という運動主体が事実上限定的に存在しますが、国民投票においては、賛成または反対の意見を持つすべての国民が運動の主体となり得ます。

 特に、選挙においては、候補者の氏名等を表示しなければ、原則として政治的意見表明とされ、運動規制の対象とはならないのが普通です。しかし、国民投票では、改正に賛成または反対と言わなくても、具体的な政治的意見を表明すれば、それが改正賛成または反対の運動をするのとほぼ同じ効果が発生します。もし具体的に賛成または反対と言わなくても規制の対象になり得るならば、政治的意見表明との区別がつかず、政治的意見表明そのものに強い萎縮効果が働きます。

 憲法二十一条でも規定している表現の自由、特に政治的表現の自由は、民主主義が健全に機能するための前提として不可欠なものです。しかも、主権者として最も重要な権利行使の機会である憲法改正手続においてこの政治的表現の自由が害されるならば、民主主義は機能しないことになります。

 このため、少しでも萎縮効果の生じることのないよう、次の二点で特に配慮した制度としています。

 一つは、特定公務員の運動禁止や、公務員、教育者の地位利用による運動禁止についてです。

 運動と意見表明が明確に区別できない以上、これらの者に選挙法類似の規制をかければ、事実上、意見表明の自由すら奪われかねないことになります。また、地位利用に限定するとしても、公職選挙法における地位利用の解釈は、教員が授業で話すことなど、かなり広範に認められています。つまり、大学の憲法教官が授業で憲法に関する意見を述べることにまで萎縮効果が働きかねないという、おかしなことが生じます。

 このため、本法律案では、規制の対象を投票事務等に関与する公務員に限定しました。これらの者については、萎縮効果のおそれを考慮しても、投票管理の公正さの観点から規制が必要であると考えたからです。

 もう一つは、買収罪についてです。

 私たちも、一票を金で買うような行為が国民投票においても許されるものではないと考えます。一方で、例えば仕事帰りの職場仲間が居酒屋で憲法談義を展開することは、国民投票の際に期待される望ましい姿です。ところが、運動と意見表明の区別が明確にできない中では、こうしたケースで上司が飲み代を払った場合、買収罪に該当する可能性があることを明確に排除することはできません。

 いろいろと工夫を重ねてまいりましたが、萎縮効果が生じないよう、本当に悪質なケースだけが対象になる構成要件を設けることは困難であるとの結論に達し、買収罪を設けないことといたしました。

 以上が、本法律案の主な内容ですが、最後に皆さんに申し上げます。

 一つは、この法律案と与党案が、一九四六年の憲法全面改正後に審議されたすべての法律案の中で、ある意味最も重要な法律案であるということです。

 私たち国会議員は、さまざまな政策課題についてさまざまな権限を行使しています。このことの正当性はすべて憲法に由来します。その憲法改正にかかわる手続が中立公正でなければ、権限行使の正当性そのものが揺らぎます。

 四六年改正以降、憲法改正手続に関する法律案の審議は一切なされてきませんでした。今回初めて行われるこの審議が、慎重かつ真摯に、そして公平公正になされなければ、他のすべてについて、私たちの議論と権限行使そのものの正当性が疑われることになります。

 また、各種世論調査等によると、憲法改正に国民投票が必要であることを知っている国民は、多くても二割程度にとどまってきました。国民自身がみずからの主権を行使するための手続なのですから、その中身について十分な理解を得た上で整備すべきことは当然であります。中身どころか、必要性すら周知されていない状況を踏まえるならば、国会での開かれた真摯な議論を通じて、まずは国民の理解を得ることが重要です。

 議員各位には、ぜひこうした謙虚な姿勢で法案審議に臨まれること、そして、拙速に陥ることなく、広範な理解と合意を形成するために努力いただきますよう強く希望いたします。

 もう一つ、まずは具体的改正案をお持ちの皆さん。

 これら法律案の審議は、改憲への一里塚でも改憲へのステップでもありません。憲法改正の是非を判断するのは主権者である国民であり、これから議論される手続が、改正のための手続としての意味を持つのか、それとも改正を否定するための手続としての意味を持つのか、それはその都度国民が決めることです。

 改正に向けたものとしてこの法律案をとらえ、そのような主張をされるならば、改正に有利な制度になるのではないか、中立公正な制度にはならないのではないかとの重大な疑義を生じます。これは、我が国立憲主義にとって自殺行為です。私は、このような考え方を持ち、このような発言をされる方々とは、この法律案について真摯に議論することが不可能であると考えています。

 一方、一切の憲法改正に反対であることを表明されている皆さん。

 皆さんは、国民の多くが改正を望んでいないとして、そのことを国民投票法制が必要でないことの論拠としています。しかし、そうであるならば、むしろ国民投票によって具体的改憲発議を否決し、そのことで国民の意思をより明確にすべきではないでしょうか。

 もちろん、制度設計によっては、国民の意思が正確に投票結果に反映しないおそれがあるのは確かです。しかし、だからこそ、改正を目指す者と改正に反対する者とが真摯に議論し、双方が納得できる中立公正な制度を創設することが重要なのであります。改正を進めるための手続として違う意見を、意見を聞く前からやじで否定するような人たちはこうした前提を欠いているといって、私は問題にしているんです。(拍手)

 中立公正な制度をつくるために、特に、すべての憲法改正に反対であると考えていらっしゃる皆さん、皆さんはその中立公正な制度とすることに重い責任を負っており、この議論において積極的な役割を果たす必要があることをぜひともお考えいただきたいとお願いを申し上げます。

 私は、この法律案のうち、少なくとも憲法改正に関連する部分については、時間をかけてでも、全会一致で制定されることが望ましいと考えています。繰り返しますが、改正賛成派に有利であっても、改正反対派に有利であっても、国民の正確な意思をとらえることはできず、そうなれば、立憲主義と民主主義そのものの自殺行為であります。

 私たちは、そうさせないために、これから行われる委員会審議においても、繰り返しますが、意見も聞かないうちに、話も聞かないうちに、人の意見をやじで封鎖するような考え方ではなくて、お互いに何が中立公正なのかということを真摯に意見を出し合って、真摯に事実を調査して、そして双方が納得できる結論が得られるように努力をすること、その努力をする意思のない皆さんとは私たちは協議はできないということを申し上げて、提案の理由の説明といたします。(拍手)

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 日本国憲法の改正手続に関する法律案(保岡興治君外四名提出)及び日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(枝野幸男君外三名提出)の趣旨説明に対する質疑

議長(河野洋平君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。甘利明君。

    〔甘利明君登壇〕

甘利明君 私は、自由民主党を代表いたしまして、ただいま議題となりました自由民主党、公明党共同提出の日本国憲法の改正手続に関する法律案及び民主党提出の日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案に関して質問をさせていただきます。(拍手)

 思い返せば、昨年の四月二十六日、本院の憲法調査会の中山太郎会長が、この演壇から、同月十五日に河野議長に提出をされました衆議院憲法調査会の最終報告書について報告をされてから一年余りがたちました。

 その御報告の冒頭で、中山会長は、「本報告書に記された内容を端的に申し上げますならば、現行日本国憲法については、その基本的な原則を今後とも堅持しつつも、施行後この五十八年間に生じた憲法と現実との乖離を解消し、また、憲法施行後の国内外の諸情勢の変化等に対応するため、少なからぬ条章について明文による憲法改正が必要であるとする意見が多く述べられた」と総括をされました。

 私や我が党議員を含めて、本日この議場におられます、全国民を代表する議員の皆さんの大多数がこれと同じ思いをお持ちであることは明らかであると思います。

 また、この最終報告書においては、憲法改正のための手続法を早急に整備すべきであるとする意見が多く述べられたと記されておりました。これを受けて、昨年九月に、本院に憲法調査特別委員会が設置され、同委員会において、日本国憲法改正のための国民投票制度に関する調査が精力的に進められてきたわけであります。その現場の与野党の先生方の大変な御努力によって憲法改正手続法制に関する論点の詰めがなされた結果が、今回提出されました与党及び民主党の二つの大法律案に結実したのであって、まずは、憲法調査特別委員会の中山太郎委員長を初め、各党理事その他の関係者の皆さんの御尽力に衷心より敬意を表したいと思います。(拍手)

 さて、このたび、与党案と民主党案の両案を一読した印象を素直に申し上げますと、違いがほとんどわからない、大変酷似したものになっているということであります。

 このことは、すなわち、この法律案はあくまで憲法改正の手続を定めるものであって、どういう憲法改正をするか、その内容がどうであるかとは無関係に、中立的な手続というものはおのずと決まってくるということを示していると思います。そうであるならば、もう少し知恵があれば、共同提案ということも内容的にはそんなに困難なことではなかったのではないかなと正直思うわけであります。

 ただ、現に二つの法律案が既に提出をされているわけでありますし、また、なお幾つかの相違点もあるわけでございますので、それらの点については後ほど具体的にお聞きしたいとは思いますが、もう大体落ちつきどころは少しずつ見えているのではないか、手続についての議論もいいですけれども、早く憲法改正の中身についての議論に入っていただければと思うのであります。

 昨年十一月二十二日、我が党は結党五十周年のときに当たり、新憲法草案を取りまとめ、公表をいたしました。これは、今世紀を見据え、あるべき国の形を主権者国民の皆さんの目に見える形でお示しをしたものであり、過去二回の総選挙の公約に掲げて国民の皆さんとお約束をしたことであります。

 このことをもって、しばしば、具体的な憲法改正案を提示している政党が提案をする憲法改正手続法案が中立公正なものであるはずがないとか、できるだけ改正が容易になるように小細工をしてくるはずだなどという、ためにする御批判を時に耳にしますが、憲法調査特別委員会の現場の御努力を承知されない方が口にする、とんでもない言いがかりではないかなと思います。そのような根拠もないことを言われないようにするためにも、我が党は手続に関する議論にも正々堂々と応じてまいりたいと思います。

 以下、与党案及び民主党案の提出者に御質問をいたします。

 憲法九十六条に憲法改正に関する規定が定められております理由は、通常の法律の制定手続よりも困難な手続を設けるということによって、その時々の権力が政権の都合によって安易に憲法を変えることのないようにするとともに、同時に、幾ら国家の基本法とはいえども、政治や社会の有機的な変化を柔軟に受けとめ、これに適応していくためには、変更すべきは変更する、そのための方法をあらかじめ確保しておくということにあると言えます。時代の変化に対応する柔軟性を失ってしまってもなお改正できないような憲法であるならば、国民としてはそれを断念するほかなく、それはすなわち、硬性憲法の永続性が逆に保てなくなるからであります。

 このように考えますと、日本国憲法の永続性と柔軟性を担保するためにも、憲法改正手続法は、本来、憲法制定時から必要とされていたものであり、一刻も早く法整備を図るべきものと言わざるを得ません。

 また、憲法施行後約六十年間、我が国の社会も、我が国を取り巻く環境も大きく変貌を遂げており、その結果、日本国憲法と現実との間にはさまざまなひずみが出てきたようにも思えます。

 以上のことを踏まえまして、まず、与党案提出者は、憲法改正手続法の必要性、そして憲法を取り巻く情勢の変化にかんがみた憲法改正の必要性についてどのように御認識をしておられるか、お伺いをいたします。

 今回の手続法の制定については、今申し上げましたとおり、大変重要なことであり、憲法改正の機運の盛り上がりが背景にあることは確かだとは思いますが、しかし、あえてここで確認をさせていただくならば、この手続法の議論と憲法改正の中身の議論は別個のものであり、具体的な憲法改正の中身の議論は別途行われるべきものであると存じます。この点は、一部に、憲法改正国民投票法は九条改憲の条件づくりだなどということを言われる方が時々おられますが、それはとんでもない誤解か、ためにする議論だと思います。

 今回の立法は、あくまでも憲法の要請に基づいて行われる公正中立な手続法の整備であり、憲法の中身をどうするかとの議論は、まさに本法律案に定められている憲法審査会において、広く国民の理解を得ながら、じっくりと腰を据えて取り組むべきことであると考えますが、この点について、与党案及び民主党案の提出者の御認識を伺いたいと思います。

 次に、やや具体的な各論的論点について伺ってまいりたいと思います。

 まず、国民投票の対象について、与党案では、憲法九十六条が定める憲法改正国民投票だけを定めておりますが、民主党案では、これに加えて、「国政における重要な問題に係る案件」についての国民投票、いわゆる一般的国民投票までその対象としております。

 確かに、欧州各国におきましてはそのような国民投票の制度は珍しくないと伺っておりますが、我が国の現行憲法のもとで、本当にそのような国民投票制度を構想することが可能でありましょうか。幾ら諮問的なものであっても、一たん国民投票が実施をされますと、その事実上の拘束力は、決して諮問的であるというようなものではなくなることは容易に予想されるのではないでしょうか。

 民主党案の提出者は、この点についてどのようにお考えになっておられるのでありましょうか。また、そもそも、この「国政における重要な問題に係る案件」とは、具体的にどのような事項をお考えになっているのでありましょうか。

 他方、与党案提出者に対しましては、このような一般的な国民投票制度を対象とされなかったのはなぜか、その御認識について伺いたいと存じます。

 次に、いわゆる個別発議あるいは個別投票の原則についてお尋ねをいたします。

 与党案及び民主党案ともに、国会法改正に関する規定の中で、「憲法改正原案の発議に当たつては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする。」と規定をしております。現実的に考えても、例えば、よく言われますように、九条改正案と環境権条項の追加案をいわば抱き合わせ販売のような形で一括して投票に付するということは、国民投票の趣旨からいって適切ではなく、この個別発議の原則は適切なものであると考えております。

 その上でお伺いをするわけでありますが、この「内容において関連する事項」とは、具体的にどのようなイメージを考えておられるのでしょうか。前文の改正は、各条との関係で「内容において関連する」のでありましょうか。また、自由民主党の新憲法草案のように現行憲法の全面改正を行うことは、この条項によって否定されてしまうのでしょうか。この点については、与党案の提出者にお伺いをしたいと存じます。

 次に、いわゆる国民投票運動の規制についてお伺いをいたします。

 一昨年末の与党合意案では、マスコミの虚偽報道や不法利用について、公選法と同様に、罰則をもって禁止する旨の提案があり、また、ことしに入ってからは、報道機関の自主的取り組みを促す旨の訓示規定や配慮規定の再提案があったとの報道にも接しておりますが、今回提出をされた法律案では、いわゆるマスコミ規制は全く設けられていなかったようであります。最終的にそのようにされた理由について、与党案提案者にお伺いをいたします。

 もう一点、罰則規定、特に買収行為に関する罰則規定について伺います。

 国民投票に関する運動や議論等について、国民的論議の活性化が必要でありますし、基本的には、国民一人一人の自由な意思で行われることが望ましいと考えております。そのためには、国民的議論の盛り上がりに水を差すようなことがないように、できるだけ自由なものにするべきでありますし、当選を相争う選挙の世界とは異なって、規制もできるだけ緩やかなものにすべきだと考えております。

 そこで、与党案及び民主党案の提出者それぞれに、罰則の考え方についてお尋ねをいたします。

 与党案では、買収行為について、組織的で多数を買収するような悪質なものに限定して買収罪を設け、いやしくも金で票を買うような行為があってはならないとされております。ところが、民主党案では、買収行為について全く罰則が規定されておりません。民主党案においては、例えば、与党案で明記されているような、組織的に多人数に対して金品供与などにより明らかに投票に関する勧誘行為がなされた場合等、どのように投票の公正性を担保されるのでありましょうか。

 最後に、一言申し述べます。

 冒頭にも申し上げましたが、今回提出された両法律案を並べて読んでみても、ほとんどの項目について一致をしている、そのことが多い、これは一目瞭然であります。一般的国民投票制度の是非など、違いは確かにありますけれども、乗り越えられない違いとは思えません。

 今後、憲法調査特別委員会における各会派間の真摯な議論を踏まえて、早急にこの憲法改正国民投票法制が整備されることを強く希望いたしまして、私の質問を終わります。(拍手)

    〔保岡興治君登壇〕

保岡興治君 与党提出者を代表いたしまして、甘利議員の御質問にお答えを申し上げたいと思います。

 まず、憲法改正手続法の必要性、そして憲法を取り巻く情勢の変化にかんがみた憲法改正の必要性についてお尋ねがありましたが、憲法制定権力の担い手である国民がその権利を行使するための制度を早急に整備することは、先ほどの提案の趣旨でも申し上げましたとおり、立法府としての極めて重い責任だと思います。憲法改正に対する国民の主権を回復し、真の国民主権を具体化するということは、国民の代表者としての大切な使命であると考えています。

 また、憲法を取り巻く状況は、憲法制定以来、著しく変貌を遂げております。内外とも、別世界とも言っていいほどの変化であります。その具体例としては、我が国に対する国際貢献の期待の高まり、科学技術の進歩、環境問題の発生などが挙げられます。これらの状況の変化に対応した規定を憲法に設けるべきであると考えております。

 次に、憲法改正手続法制と憲法改正との関係について、これらを切り離して行うべきではないかとのお尋ねがございましたが、各党において、憲法を改正するかしないか、あるいは、どのように改正をすべきであるかという論議は、当然あってしかるべきでございます。ただ、各党においてそのような論議がなされているからといって、国会で改正手続の論議が一切できなくなるということにはならないと考えております。

 もちろん、憲法改正案の内容と手続の議論が結びつけられるのは好ましくないという御指摘は、十分に踏まえる必要があるものと考えています。そうであるからこそ、憲法改正に係る手続法は、今後とも、憲法改正の内容とは切り離して冷静に論議し、公正中立なルールをつくるべきでございます。

 現時点で最良と考えられる国民投票の手続をあらかじめ整備し、国民の前に提示しておくということは、憲法改正に対する立場の違いを超えて、その論議を建設的なものにするためにも、また、国民にとって憲法論議の理解を広め、深めていくためにも、極めて重要なことであると認識しております。

 なお、残余の質問に対しては、同僚議員から答弁させていただきます。(拍手)

    〔葉梨康弘君登壇〕

葉梨康弘君 憲法改正国民投票等について定める歴史的な法案について、甘利議員の御質問、四問にお答え申し上げます。

 まず、一般的な国民投票制度を取り込まなかった理由についてお尋ねがありました。

 日本国憲法は、国会を国の唯一の立法機関であると規定し、議会制民主主義を採用しています。一般的国民投票制度は、その効果が諮問的なものであるとしても、事実上の拘束力があり得ることは否定できず、議会制民主主義の根幹にかかわる重大な問題をはらんでいると考えます。したがって、その導入自体が場合によっては憲法改正を要する問題であり、一般法、特別法といった単純な議論でなく、なお慎重な検討を要するべきものと考えます。

 さらに、国民投票が必要的な要件とされており、かつ、その結果に法的拘束力がある憲法改正国民投票と、任意で諮問的な効果が想定される一般的な国民投票とでは、その本質を全く異にするものと考えます。このため、今回は憲法改正国民投票法制に特化した議論に限定したところであり、一般的国民投票制度は別途検討すべきものと考えております。

 次に、個別発議の原則についてお尋ねがありました。

 国家の基本ルールの変更に当たっては、民意を正確に反映させるべきであり、例えば、憲法九条の改正と環境権の創設という全く別個の事項について、一括して国民投票に付することは好ましくないものと考えます。この法案は、具体的改正案を前提としたものでなく、その原則を素直に明記することとしたものでございます。

 問題は、何が内容ごとに関連するまとまりのある事項かということになります。これは、一方では、個別の憲法政策ごとに民意を問うという要請、他方では、相互に矛盾のない憲法体系を構築するという要請から決定されるべきものと考えます。そして、個別具体的事例については、国会が発議するに当たって、しかるべき判断を行うものになると考えます。

 次に、マスコミ規制についてお尋ねがありました。

 一昨年末に公表されたいわゆる与党合意案における国民投票法案骨子では、虚偽報道の禁止、不法利用の制限などが盛り込まれておりました。これらの規制のあり方については、いやしくも、国家の基本ルールを定める憲法改正国民投票において、国民への情報提供において重要な役割を担うマスメディアが、虚偽や金銭等の不当な利益によってその報道をゆがめるようなことがあってはならないとの趣旨から検討を行ってきたところであります。

 しかし、その後、同規定をめぐってさまざまな議論を行い、私どもも、どのような虚偽報道が想定されるか、それが政治的意見表明と明確に区別できるものか、あるいは罰則をもって担保するほどの立法事実があるかなどの点を検討し、さらに、参考人を招いて真摯に検討を重ねた結果、報道内容の適正化については、既に放送法に規定されていること、マスコミ各社において倫理綱領を定めたり、第三者機関を置くなどの措置を講じていることなどから、新たな規制を設ける必要はないとの結論に至ったものであります。

 このような議論を背景として、法案ではマスコミ規制を設けないこととしております。

 最後に、罰則、特に買収罪についてのお尋ねがありました。

 国民投票運動は、主権者である国民の政治的意思の表明そのものであります。国民一人一人が萎縮することなく自由に国民投票運動を行い、自由闊達な意見を闘わせることが必要です。したがって、国民投票運動は原則自由とし、規制はあくまでも投票が公正に行われるための必要最小限なものに限定すべきと考えます。

 このような観点から、私どもの法案では、買収罪を規定するに当たっては、組織性の要件、被買収者の多数性の要件、勧誘行為の要件、報酬性の要件、財産上の利益の限定を明確に規定したところであります。このような要件に該当する行為は非常に悪質なものに限定されており、本法案においては、かかる行為に限定して罰則を付すこととしております。

 以上で答弁を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

    〔鈴木克昌君登壇〕

鈴木克昌君 ただいま、民主党案に対する甘利議員からの御質問がございました。その質問にお答えを申し上げたいと存じます。

 まず最初に、公正中立な手続法の整備と憲法の中身をどうするかとの議論は別ではないか、こういう我々の考え方についてのお尋ねがございました。

 御指摘のとおり、今回の法案は手続法の整備であり、憲法本体に対する議論とは別個のものと認識しております。国民投票法制そのものは、現行憲法の中身に対する是非を評価しているものではなく、改憲、護憲の立場に対して公正中立な手続であるべきです。民主党案は、公正中立であることを主眼に据えています。

 憲法の中身については、日本全体、あらゆる年代、また将来の世代にかかわる問題であることから、じっくりと時間をかけ、広く国民の理解を得ながら議論を進めていくべきものと考えております。民主党は、昨年秋、憲法提言をまとめるとともに、現在、各地で憲法対話集会を開催しております。それはまさに、国民の皆様の生の意見を聴取し、憲法議論に腰を据えてじっくり取り組んでいくべきだと考えているからであります。

 次に、一般的国民投票制度が想定する案件、その事実上の拘束力についてのお尋ねがありました。

 民主党案で、「国政における重要な問題に係る案件」として国民投票に付すことが想定される案件とは、例えば、皇室典範のように憲法問題に準ずる事項、自衛隊のイラク派遣のように国家全体の運命に関する重要事項、安楽死など、その他の国家の重要政策問題であります。

 民主党案では、憲法が定める間接民主制の原則に反しないよう、国政問題国民投票の結果は、国やその機関を拘束しないものとし、国家意思の形成に当たって事実上参考とされるにとどまるものとしております。

 甘利議員が懸念されているとおり、幾ら国やその機関を拘束しない諮問的投票であるといっても、確かに事実上の拘束力が発生することは考えられます。それゆえ、この国政問題国民投票に付すべき案件にかかわる議題を発議するには、通常の議案よりも賛成者の員数要件を加重しており、どのような事項を国民投票に付すかについては、国会において十分議論されて決せられることになると考えます。

 また、もし国民投票に付すべき案件について明確に限定をかけておく必要があれば、民主党案提出者としては、今後の議論の中で案件を法律上限定することも含め、柔軟に検討していく考えであります。

 次に、民主党案における国民投票運動に対する規制、罰則の考え方についてお尋ねがありました。

 人を選ぶ選挙と国家の基本的なあり方に関する国民投票とでは、同じ投票行為であっても質的に根本的な違いがあります。よって、どのような罰則を設けるべきかという点においても大きな違いがあるものと考えております。

 国民投票運動は主権者である国民の政治的意思の表明そのものでありますから、国民一人一人が萎縮することなく自由かつ活発に国民投票運動を行い、自由闊達な意見を闘わせることが必要であります。この国民による国民投票運動の自由が確保されなければ、国民投票は絵にかいたもちになってしまいます。したがって、国民投票運動は原則自由とし、規制はあくまでも投票が公正に行われるための必要最小限のものとすべきであると考えます。

 買収罪については、確かに私たちも、一票を金で買うような行為が国民投票においても許されるものではないと考えております。しかし、甘利議員が挙げた行為類型を買収罪として罰則を設けることにより、例えば、先ほど枝野議員からもお話がありました、仕事帰りの職場仲間が居酒屋で憲法談義を展開することは、国民投票の際に期待される望ましい姿でありながら、こうしたケースで上司が飲み代を払った場合、買収罪に該当する可能性があることを明確に排除することができなくなってしまいます。

 このように、運動と意見表明の区別が明確にできない中、本当に悪質なケースだけが対象になる構成要件を設けることは困難であるとの結論に達しました。

 一方で、有権者の数や当選に必要な票数が限定されている公職の選挙と異なり、国民投票においては、一億の国民が有権者であり、その過半数を得なければ買収が意味を持ちません。小規模な買収なら過半数の成否に影響を及ぼす蓋然性に乏しく、他方、大規模な買収には途方もない多額の資金が必要である上に、これを秘密裏に進めることは困難であり、明るみになれば社会的に十分な制裁を受けると思われます。

 こうした判断に基づき、買収罪の規定そのものを設けないことにしておりますが、これによる弊害は生じないと考えております。

 以上であります。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 古川元久君。

    〔古川元久君登壇〕

古川元久君 民主党の古川元久です。

 私は、ただいま議題となりました民主党提出の日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案及び自由民主党、公明党提出の日本国憲法の改正手続に関する法律案について、民主党・無所属クラブを代表して質問いたします。(拍手)

 私たち民主党の基本的な立ち位置は、民主党案の趣旨説明にもありましたが、この国民投票法案が、主権者たる国民の自由闊達な議論を通じてみずからの憲法を選び取るための中立公正なルール設定のための法案であるという認識です。

 私は、昨年秋以来の憲法調査特別委員会における論点整理を踏まえて、今般、与党及び民主党から国民投票法案が提出されるに至ったことを大変意義深いことと考えております。特に、当初、与党の皆さんが提示した案が委員会での議論を通じて修正され、今回提出された与党案では、多くの点で民主党の考えが取り入れられたことに関しては、率直に評価したいと思います。しかし、現時点においても、民主党案と与党案とは、幾つかの点で内容を異にしています。

 以下、こうした点について順次両案の提出者にお尋ねし、両案の共通の立脚点となっている骨格的な考え方、現時点での相違点などを明確にしたいと思います。

 さて、日本国憲法の立脚する国民主権原理は、憲法第九十六条が規定するところ、すなわち、憲法改正権限を国民自身の直接民主制的手続に係らしめているという点に究極的に表現されています。この意味で、国民投票法制は、まさに国民主権原理をいかに実質的に機能させるかという観点から検討され、定められるべきだと考えます。言いかえれば、憲法を変えるも変えないも主権者である国民が実質的かつ最終的に判断すべきであり、そのための言論の機会などをいかに保障し、国民の意思をいかに的確に反映させることができるかということこそが国民投票法制の制度設計の基本であるべきだということです。

 現在、一部の世論や政党に、この国民投票法について、戦争をできる国家への改憲への一里塚、国民はこのような法律の制定を求めていないなどと激しく攻撃する議論が見られます。こうした批判の背景には、自由民主党が昨年十一月二十二日に新憲法草案を発表し、憲法改正のスタンスを明確にしていることもあると考えられます。

 そこで、両案の提出者にお聞きします。

 自由民主党の提案者は、今回の当国民投票法案は、ずばり、みずからの改憲案を実現することを目的に考えておられるのでしょうか。あるいは、党内にそのような声がやはり根強くあるのでしょうか。公明党の提出者は、自民党の改憲案の実現を手助けするためにこの法案を共同で提出されたのでしょうか。

 また、民主党案提出者は、国民投票法制を整備すること自体が改憲を目的とするものだとの批判についてどのようにお考えでしょうか。

 次に、憲法改正国民投票制度と一般的国民投票制度をあわせて整備することの是非についてお尋ねします。

 民主党案では、憲法改正国民投票だけでなく、国政の重要問題に関する国民投票制度も一体として導入することとしています。現行憲法の議院内閣制の枠内で諮問的効果にとどまる国民投票制度を、あえて一体として整備する理由はどこにあるのでしょうか。

 一方、与党案では、国民投票の対象は憲法改正だけとなっております。国政の重要問題を外した理由は何でしょうか。憲法改正国民投票と性質が異なることを理由に、別途検討すべきというスタンスなのでしょうか。あるいは、全く否定的にお考えなのでしょうか。性質が異なるが検討の余地があるというのであれば、対案を示していただきたいと思います。

 次に、憲法改正案の原案の内閣の発案権の有無についてお尋ねします。

 現行憲法にはこの点について明示的な規定はありませんが、民主党案では発案者を国会議員に限定し、内閣には認めていません。それはどのような趣旨に基づくものなのでしょうか。

 また、与党案提出者は、この点、どのように考えるのか、お答えください。

 次に、投票権者の範囲についてお伺いします。

 民主党案では原則として十八歳以上となっており、その趣旨について、憲法の場合は、長期にわたってその効果が継続するため、若い世代に可能な限り参加する機会を認めるべきだとの御説明がありました。十八歳という年齢にした理由は何でしょうか。また、例外的に十六歳まで下げることが可能と規定されておりますが、どのような案件について例外的に投票年齢を引き下げることを想定しているのでしょうか。

 与党案提出者は、投票権者の範囲を二十歳とした根拠をお聞かせください。特に公明党では、公明党のマニフェストで十八歳選挙権の実現を掲げていることとの整合性を踏まえ、投票年齢を十八歳以上にすべきではないかとの意見が大勢を占めたと伺っております。公明党の提出者は、投票年齢を十八歳とした民主党案についてどのようにお考えか、お答えください。

 次に、国民投票の過半数の分母の問題についてお尋ねします。

 憲法第九十六条では、憲法改正の成立に国民投票で過半数の賛成を必要とするとされていますが、過半数を計数する際の分母をどのようにとるかで両案には違いがあります。

 民主党案では、所定の用紙を用いない投票を無効投票とした上で、投票総数の過半数の賛成で改正が成立することとしていますが、マル印以外の他事記載をした投票は有効となり投票総数にカウントされ、所定の用紙を用いない、例えば広告の裏にマル印を記入したような投票は投票総数にはカウントされないという趣旨と解してよろしいのでしょうか。一般的に、公職選挙法などでは他事記載は無効票とされますが、このようにあえて異なる考え方を採用した理由をお尋ねします。

 一方、与党案では、マル・バツ印以外の他事記載を無効票とした上で、有効投票総数の過半数の賛成で改正が成立することとしていますが、あえてこのように分母となる投票の範囲を狭めるのは、憲法改正をできるだけ容易にしようとする意図によるものなのでしょうか。

 次に、国民投票運動に対する規制の考え方についてお尋ねします。

 これまでの議論の中では、国民投票運動と公職選挙法における選挙運動とを類似のものとみなし、国民投票運動に対して選挙運動規制と同様の規制を行うべきとする意見もありました。しかし、選挙運動の場合には、その実質的担い手が主に候補者や政党であるのに対して、国民投票運動の場合には主権者である国民一人一人であるという点で大きく異なっているように思います。

 こうした点も含め、両案の提出者は、国民投票運動への規制を検討するに当たり、公職選挙法との相違点をどのように考えているかをお尋ねいたします。

 これに関連して、国民投票運動が禁止される特定公務員の範囲について、民主党案では投票事務関係者等に限定しています。その理由は何でしょうか。民主党案提出者にお尋ねします。

 一方、与党案では、裁判官、検察官、警察官なども特定公務員として禁止されるとしています。ここまで特定公務員の範囲を広げる理由は何でしょうか。与党案提出者にお尋ねします。

 また、公務員等、教育者の地位利用による国民投票運動についても、与党案では禁止規定を設けています。この理由はどこにあるのでしょうか。例えば、大学の憲法の授業で教授が憲法改正案を批判することは、教育者の地位利用国民投票運動に該当するのでしょうか。あわせてお答えください。

 一方、民主党案では、公務員等、教育者の地位利用国民投票運動に関する禁止規定を置いていませんが、この理由は何でしょうか。

 あわせて、与党案では、国民投票運動の際に、買収を行った場合の罰則が規定されています。規定を設けた理由は何でしょうか。ミュージシャンなどが改憲賛成集会、反対集会に無料出演し、歌でみずからのメッセージを伝えることは同罪に該当するのでしょうか。

 一方、民主党案では、買収罪は設けられていませんが、国民投票が金銭で買われるようなことがあるのは望ましくないのではないでしょうか。対価性が極めて明らかなケースは規制してもよいのではないかとも考えられますが、この点、民主党案提出者はどのように考えますか。

 最後に、国民投票と報道の自由をめぐる問題についてお尋ねします。

 憲法改正国民投票法制において、国民が主権者として主体的に正しい判断を下すには、いかに有用な情報を得るかがとても重要です。その際、マスコミなどの報道機関の役割は、言論の自由、報道の自由という消極的な意味だけではなく、むしろ積極的に評価されるべきではないかと思います。その意味において、当初、マスコミの報道規制を検討していた与党がそれを削除したことは、評価すべきだと考えます。与党案、民主党案の両提出者は、憲法改正国民投票におけるマスコミなど報道機関の役割についてどのように考えますか。また、マスコミの報道規制についてどのように考えているのでしょうか。

 一方、両案ともに、投票日一週間前の広告放送を禁止しておりますが、その理由は何でしょうか。この広告放送禁止は報道、言論規制には当たらないのでしょうか。また逆に、広告放送については、投票日一週間前に限らず全面的に禁止すべきだとの意見も聞かれます。これらの点につき、両案の提出者のお考えをお尋ねします。

 以上、本日は、両国民投票法案の骨格的な部分についてお尋ねしてまいりました。本日の質疑内容を踏まえ、今後さらに十分な時間をかけ、有識者や国民の皆さんの意見にも耳を傾けつつ議論を深め、だれが見ても中立公正な国民投票法が、改憲、護憲の立場を超えた幅広い合意によって制定されるよう努力していくべきことを最後に申し上げ、私の質問といたします。(拍手)

    〔船田元君登壇〕

船田元君 与党案の提出者を代表いたしまして、古川議員の御質問について答弁を申し上げます。

 私からは四問申し上げます。

 まず、国民投票法制定の目的についてのお尋ねがございました。

 御指摘のとおり、自由民主党は昨年秋に新憲法草案を公表しております。公党として、国民に対して憲法のあり方について一つの見識を示すのは、当然のことであると考えております。

 しかし、各党において、憲法改正の是非やその具体的な内容についての議論と改正手続法の議論とは、切り離して行われるべきであります。この法律案は、改憲のためのルールでも護憲のためのルールでも、どちらでもないのであります。憲法改正の基本的手続を定める、それ自体として公正中立なルールであると考えておりますし、改正に関する国民の極めて重要な権利の行使を可能とするものである、そのようなものとして提案をしているところでございます。

 次に、一般的国民投票制度を設けなかった理由に関するお尋ねがございました。

 日本国憲法は、国会を国の唯一の立法機関であると規定し、議会制民主主義を採用しているところであります。一般的国民投票制度は、その効果が諮問的なものであるとしても、事実上の拘束力があり得ることは否定できず、議会制民主主義の根幹にかかわる重大な問題であって、その導入自体が場合によっては憲法改正を要する問題であるとも考えております。

 また、国民投票が必要的な要件とされており、かつ、その結果に法的拘束力がある憲法改正国民投票と、一方で、任意で諮問的な効果しか有しない一般的な国民投票とでは、その本質を全く異にするものであること等を考えれば、今回は憲法改正国民投票法制に特化した議論に限定をし、一般的国民投票制度は、その意義を否定するものではありませんけれども、別途慎重に検討すべき事項であると考えております。

 次いで、憲法改正原案の提案者に関するお尋ねがございました。

 憲法制定権力は国民に存すること等にかんがみれば、憲法改正原案の提案権も基本的に国民代表である国会議員に属するものと理解をしておりますし、多くの学説においてもそのように解されていると承知しています。

 しかし、内閣にも憲法改正原案の提出権があるという学説が一方であること、また、その旨の内閣法制局の答弁が過去においてなされていることも承知をしております。

 ただ、今回の立法は、議員による憲法改正原案の提出手続を定めたものでありまして、内閣の提出権については規定をしておらず、内閣に提出権があるかどうかをこの法案では決しておりません。別途議論されるべきだと思っております。

 最後に、過半数の意義についてのお尋ねでございます。

 国民投票において考慮されるべき民意というものは、あくまでも明確にその意思を表示した国民の意思であるべきであると考えます。一方、白票については、そこに示された国民の意思が、例えば、わからない、賛否いずれでもない、あるいは決めがたいなど、多様な意思が含まれていると考えております。したがいまして、白票などについて、これを一律に反対の意思表示とみなす、あるいは反対の意思表示と同じカウントをするということは、民意を解釈するということではなく、民意をつくり出すことにもなりかねない、そういう危険な方法ではないかと思っております。

 このように考えますと、当然のこととして、有効投票総数の過半数でもって国民投票は決せられるべきであるとの結論が導かれるのであります。

 なお、残余の質問に対しましては、同僚議員から答弁させていただきます。(拍手)

    〔斉藤鉄夫君登壇〕

斉藤鉄夫君 古川議員の御質問に、七点お答え申し上げます。

 まず、法律案の提出の理由につき、公明党に対して、自民党の改憲を手助けするためかとの御指摘がございました。

 自由民主党が昨年秋に新憲法草案を公表していらっしゃることは承知しております。しかし、我が公明党は、現行憲法を堅持しつつ時代の変化に応じて足りない部分を加えていく、いわゆる加憲こそがあるべき憲法改正の姿であると考えております。この点においては、自由民主党とは考え方を異にするところでございます。

 しかし、ただいま船田議員も御答弁されたように、この憲法改正手続法は、憲法改正の是非や内容とは切り離して議論するべき、公正中立なルール設定の問題であると理解しております。

 次に、投票権者の年齢要件についてのお尋ねがございました。

 国政選挙と国民投票は、いずれも国民主権の発現形態であり、国政への参政権として共通の基盤の上に立つものであり、選挙権年齢と投票権年齢は基本的に同一であるべきと考えております。現に、諸外国の例を見ても、ほとんど例外なく選挙権年齢と投票権年齢は一致しております。

 また、年齢要件を十八歳以上とした民主党案についての考え方でありますが、私ども公明党は、マニフェストにおいて、公職選挙法について十八歳選挙権を主張しておりますし、この趣旨から、国民投票の投票権も十八歳以上とすることが望ましいと考えております。

 しかし、その前提にあるのは、あくまでも公選法の選挙権年齢と国民投票の投票権年齢は、国民の国政参加権として同一に取り扱うべきということであります。

 したがいまして、当面は、選挙権年齢を含めて成人年齢を定める民法その他の関連法律の改正に向けて精力的かつ慎重な検討を加えるべきものと考えており、それまでの間は二十歳以上とするのが適当であると考えている次第でございます。

 次に、国民投票運動の規制と公職選挙法の規制との相違点についてお尋ねがございました。

 人を選ぶ選挙と国家の基本的なあり方を選択する国民投票とでは、どのような運動規制を設けるべきかという点において大きな違いがあるものと考えております。

 国民投票運動は、主権者である国民の政治的意思の表明そのものでありますから、国民一人一人が萎縮することなく自由に国民投票運動を行い、自由闊達な意見を闘わせることが必要であると考えます。したがいまして、国民投票運動は原則自由とし、規制はあくまでも投票が公正に行われるための必要最小限のものとすべきであると考え、この法律案を立案いたしました。

 さらに、特定公務員の範囲についてのお尋ねがございました。

 裁判官、検察官、公安委員会の委員、警察官は、国民投票の取り締まりやその公判に関与する可能性のある人たちであり、その職務の性格や強制力によって、投票人の意思決定に対し、他の一般国民ではなし得ない大きな影響を及ぼすおそれがある職種の方々であります。

 このような人たちが、単なる意見表明を超えて他人に対する勧誘行為を積極的に行うこととした場合、国民投票の公正さに対する疑義が生ずるおそれなしとしません。このような弊害を除去するため、これらの方の国民投票運動を禁止したものであります。

 また、公務員等や教育者の地位利用による国民投票運動についてのお尋ねがございました。

 公務員等や教育者は、その地位を利用した場合には、投票人の意思決定に対し、他の一般国民ではなし得ない不当な影響を及ぼすおそれがある職種の方々であります。これらの弊害を避けるため、公務員等や教育者の地位利用による国民投票運動を禁止したものでございます。あくまでも地位利用によるものでございます。

 具体的に禁止される行為は、許可、認可の権限を有する公務員が、関係者に対し、その権限に基づく影響力を利用することや、教育者が児童を通じて間接的にその保護者に働きかける場合や、児童に対する教育者としての地位を利用して直接に保護者に働きかける場合などであります。

 お尋ねのような、大学の憲法の授業で教授が憲法改正案を批判する場合につきましては、学術的に自分の考え方を表明することが今回のこの規制の対象になるとは考えられません。

 さらに、買収罪についてのお尋ねがございました。

 まず、買収罪の是非とその要件については、私どもは、票を金で買うような行為は決して許されてはならないこと、他方、一人一人の国民が萎縮することなく、国民投票に参加して自由に政治的意見表明ができるよう運動の盛り上がりが期待されること、この両面から検討したところでございます。

 その結果、その対象を社会常識で許容される範囲を逸脱する悪質な行為に限定するため、一、組織による、多数の投票人に対するものであること、二、明示的な勧誘行為が存在するものであり、その対価として報酬が供与される場合であること、そして、三、投票行動に影響を与えるに足りる物品等が供与されることといった行為に限定をいたしております。

 このような限定した要件に該当する行為は、非常に悪質なものであり、国民の常識からも認められる、このように考えております。

 お尋ねの、ミュージシャンが集会に無料出演し歌でみずからのメッセージを伝えるような場合については、先ほど述べた多数人買収罪の要件に該当することはないのではないか、このように考えます。

 次に、マスコミ規制についての御質問がございました。

 国家の基本的なあり方を選択する国民投票では、いかに多くの有益な情報が国民に提供されるかが国民による適切な判断の基礎となるものと考えるものであります。

 そこで、本法律案では、民主主義の基盤である表現の自由に基づいて多様な観点からの自由な報道がなされることが、国民の知る権利に奉仕し、投票に際しての判断に資するとの考えから、メディアの役割を重視し、報道についての一切の規制を排除したところでございます。

 最後に、投票日前一週間の広告放送に関する規制についてのお尋ねがございました。

 活字メディアと違い、音声や映像を用いる放送メディアは、国民世論に対して大きな影響力、時として理性ではなくて感情に訴えるという意味で、扇情的な影響力を有するものであります。国民投票期日の直前にこのような国民の感覚に訴える扇情的な広告放送が集中的に流されたような場合、基本的に言論に対しては言論でもって対処するとはいっても、これを言論の自由市場で淘汰する時間的余裕がないことになってしまうのであります。そこで、扇情的な言論に対しても冷静な言論で対処し、国民が冷静にそれを判断できるいわば冷却期間を置くために、御指摘のような措置を講じたところでございます。

 以上で答弁を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

    〔小川淳也君登壇〕

小川淳也君 古川議員にお答えを申し上げます。

 まず、国民投票法制の整備が改憲を目的とするものではないか、その批判についてのお尋ねがございました。

 率直に申し上げて、そうした御批判に対しては耳を傾けねばならないと思います。しかしながら、あくまで冷静に、客観的に理解を求めねばなりません。この法案は、憲法改正の肯定はもとより、その否定をも含めて国民の意思表明に道を開くもの、そのための手続を定めようとするものでございます。

 その意味では、決して改憲を容易にするものでも、また困難にするものでも、ましてや、それを目指すものでもございません。ただただ、国民の自由な議論を確保し、その意思を的確に反映すべきこと、そのことに腐心をしたものであること、御理解をいただきたいと思います。

 特に、我が党案は、憲法改正に限定をせず、広く国政一般の重要課題について国民の声を聞きたい、そういう案となっておりますことをあわせて強調させていただきたいと思います。

 次に、一般的国民投票法制を一体で整備する理由についてお尋ねがございました。

 確かに、間接民主制、代議制を採用する我が国の統治理念、これは十分踏まえねばなりません。しかし、昨今のEU憲章をめぐるヨーロッパでの国民投票、また、国内でも市町村合併や米軍基地問題をめぐる住民投票、こうした例に見られるように、国民の皆様が直接意見表明をされる機会がふえつつあることも事実であります。

 こうした中、我が国においても、特に重要な課題については、間接民主制を補完するものとして、直接国民の意思が表明される機会が保障されてしかるべき、そうした観点に立ち、今回の一体整備を目指すものでございます。

 憲法改正の国民投票法制は、その意味ではこの一般的な投票法制の特例として位置づけられるものになりますし、あわせて、一般的な国民投票制度については、間接民主制を採用する我が国の統治原理と矛盾しないよう、あくまで諮問的なものとして整備する予定でございます。

 次に、憲法改正の発案を国会議員に限定した理由についてお尋ねがございました。

 憲法の制定、改廃は、国内法制上最上位に位置づけられる立法行為でございます。だからこそ、その最終決定権は、主権者たる国民自身の手にゆだねられております。したがって、この発案過程においても、その行為の重みに十分配慮をし、国民の代表、国権の最高機関の構成員である国会議員に限定されてしかるべきではないか、そうした考えに立っております。

 仮に内閣による発案を認めることとすれば、これは、実質的には中央官庁の手によって発案が促されることとなり、これでは、本来的に国家権力、行政権力の統制という側面をあわせ持った憲法の役割を侵しかねない、そうした懸念からも、政府からの発案については極めて抑制的に考えるべきと考えております。

 次に、投票権者の年齢についてお尋ねがございました。

 国際的に見れば、既に議論がございましたとおり、多くの国々で参政権は十八歳から付与をされております。特に先進主要国では、もはや我が国だけが取り残された状況にあります。民法の成人規定は百年以上前の価値観によって立ち、結婚や自動車免許の取得では、既に十八歳をもってその資格が付与をされております。

 我が党は、そもそも参政権を十八歳以上に引き下げるべきことを主張しており、これとの関連で、若い世代の声を政治に反映させる必要性、特に憲法改正のようにその効果が長期に及ぶもの、これについてはその必要性が特に高い、そうした認識に立っております。

 なお、十六歳の例外規定については、国内でも、市町村合併の是非を問う住民投票に中学生が参画した事例がございました。こうした事例も踏まえ、今後の委員会審議等を通じてこの点の議論を深めてまいりたいと思います。

 最後に、投票用紙の扱い及び投票総数の考え方についてお尋ねがございました。

 所定の用紙外の投票を無効とする点については、議論をまたないと思います。一方の他事記載を伴った投票、これを総数に組み入れることについては、御指摘のとおり、公職選挙と取り扱いを異にするものでございます。

 この点、国民投票においては、他事記載等によって選挙の秘密を侵し、その公正を害される蓋然性が低いこと、加えて、白票の扱いについても、複数の選択肢から具体的な投票先を確定し、その多寡を競わねばならない公職選挙とは異なり、発案への賛成が全体として、総体として過半を超えるのか否か、その点に絞った評価をすれば足りること、同時に、こうした扱いこそが憲法の条文に最も素直な国民の意思の評価ではないかと考えられること、以上の判断によって立ったものでございます。

 残余の質問につきましては、同僚議員からお答えをさせていただきます。(拍手)

    〔園田康博君登壇〕

園田康博君 古川議員の残余の質問、四点についてお答えを申し上げます。

 国民投票運動への規制を検討するに当たり、公職選挙法との相違点についてどう考えるかとのお尋ねでございました。

 質問者の御指摘のとおり、公職選挙における選挙運動の担い手は主に候補者や政党であり、国民投票における運動の担い手は国民一人一人でございます。また、運動のテーマとなるのは、公職選挙では特定の人や政党への支持、不支持であるのに対し、国民投票では主権者である国民としての意思、政治的意思の表明そのものでございます。このことから、国民投票では、国民一人一人が萎縮することなく自由に運動を行い、自由闊達な意見を闘わせることが特に必要であると考えられます。

 また、公職選挙法は、一九五〇年以来、幾度と行われた選挙を通じて明らかになった弊害を是正するために、種々の規制を設けてきました。そういう意味では、規制の根拠となる立法事実が明確でございます。しかし、国民投票は、今回の立法によって初めて実施されることになるものであり、どういった弊害があるのかも予測の範囲を超えるものではございません。今後、国民投票の実施を重ねる中で、深刻な弊害が生じれば、その段階で規制のあり方について検討を加えるべきであると考えるものであります。

 したがって、国民投票運動は原則自由とし、規制は、あくまでも投票が公正に行われるための必要最小限度のものとすべきであると考えております。

 次に、民主党案で、国民投票運動が禁止される特定公務員の範囲を投票事務関係者等に限定した理由、公務員等、教育者の地位利用による国民投票運動についての禁止規定を置かなかった理由についてのお尋ねがございました。

 民主党案では、公職選挙法で選挙運動が禁止されている裁判官、検察官、会計検査官、公安委員会の委員、警察官、収税官吏及び徴税の吏員については、国民投票運動を禁止しておりません。これらの者については、国民投票においては、投開票事務等に直接従事する者とは異なり、国民運動を行ったからといって特段の大きな弊害は想定しがたいことから、国民投票運動を原則自由とし、極力規制範囲を狭くすべきだと考えたためであります。

 次に、公務員等、教育者の地位利用による国民投票運動については、古川議員先ほどの御指摘ではございますが、単純に地位利用による運動規制という形で規定をいたしますと、私もそうでありますけれども、学者が大学の講義で憲法改正について意見を述べるということに関して、先ほどは、学術的なものについては考えられないということでありますけれども、地位の利用によって外形的にその要件に当てはまるという危惧も私は感じているところでございます。

 そもそも憲法改正国民投票においては、公務員や教育者も含めた国民一人一人が自由にその政治的意見表明をすることが極めて重要であると考えられるものであり、そのような意見表明と国民投票運動とは連続的で、これを区別することが困難なものであることを考えますと、萎縮効果をもたらしかねません。したがいまして、このような運動禁止規定を設けることは適切でないと言わざるを得ないと考えた次第でございます。

 次に、民主党案で買収罪に関する規定を置かなかったことに関連してお尋ねがございました。

 御指摘のとおり、国民投票が金銭によって買われることがあってはならないという御指摘は、一般論としてそのとおりだと考えております。しかし、具体的な行為態様を検討いたしますと、これを犯罪行為として規定することは、立法技術上なかなか困難なことではないかと思われます。

 例えば、憲法改正のための国民投票であれば、多数の国民がその課題について認識し、議論を深めることが望ましいと言えます。先ほど来お話がありますように、仕事帰りに、例えば赤ちょうちんでありますとか、そういうもとでの憲法論議、こういったものも活発に行われること、これはむしろ歓迎すべきものであると思われます。しかし、その際、例えば上司が憲法改正についての賛否を示して飲み代をおごるというようなことになると、買収罪に問われる可能性があるということになりかねませんし、自由闊達な憲法論議が行われにくくなるということもございます。

 また、街頭で憲法改正についての賛否を示したうちわやティッシュなどを配るというような行為は、むしろ国民啓発の観点から許されるべき行為であると考えられますが、いわゆる買収規定が置かれることになりますと、こうした行為も犯罪ということになってしまいます。

 むしろ、指弾されるような金銭のやりとりなどが行われれば、メディアもこれを報じるでしょうし、それに対する批判によって淘汰されるべきことであると考えます。

 対価性の極めて明らかなケースにつきましては、例えば賛否の投票の対価として直接金銭の受け渡しをする場合が好ましくないのは御指摘のとおりでございます。しかし、立法技術としては、そのような積極財産の増加というだけではなく、債務免除、例えば投票の対価として借金の棒引きをするというような消極財産の減少、これも法的評価は同一になると考えるというのはごく一般的な考え方でございます。

 そうすると、憲法改正賛成、反対を呼びかけるコンサートを著名なミュージシャンたちが無料で開催するようなケース、これを想定いたしますと、本来相当額の支払いが生じるコンサートチケット代を免除したことと評価されます。

 したがって、自由闊達な議論を萎縮させるリスクを勘案すると、仮に対価性が明らかなケースであったとしても、メディアを初めとする言論による淘汰、これによるべきであると考えております。

 次に、国民投票と報道の役割、報道規制についてどう考えるか、また、広告放送の規制を設ける理由についてお尋ねがございました。

 民主党は、報道機関による報道が現代社会において極めて貴重な役割を果たしていることにかんがみ、その自由は最大限保障されるべきであるとの立場で当初から一貫しております。

 仮に不当な報道があった場合には、当然、言論により対抗されることが予想されますので、あえてマスコミ規制を持ち出す必要はありません。したがって、本来、本法律案においてマスコミ規制が設けられていないことは当然のことと考えております。

 広告放送についても、基本的には、言論の自由市場における淘汰、すなわち、不当な広告放送があった場合でも言論によって対抗することが可能であるとの考えから、これを全面的に禁止することとはしておりませんが、投票日一週間前については、このような言論による対抗によって淘汰されることなく、一方的な主張が扇情的に放送されるままになることが懸念されるため、いわば冷却期間を設ける意味で、これを禁止することといたしました。

 もちろん、投票日一週間前であっても、広告放送以外の報道、評論や討論番組などは放送法に抵触しない限りで可能でございますので、報道、言論規制には当たらないと考えております。(拍手)

    ―――――――――――――

    〔議長退席、副議長着席〕

副議長(横路孝弘君) 石井啓一君。

    〔石井啓一君登壇〕

石井啓一君 私は、公明党を代表して、ただいま議題となりました自由民主党、公明党提出の日本国憲法の改正手続に関する法律案及び民主党提出の日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案に関して質問をさせていただきます。(拍手)

 質問に先立ち、現行憲法及び憲法改正に対する公明党の基本的な考え方を述べさせていただきます。

 公明党は、現行の日本国憲法はすぐれた憲法であり、戦後日本の平和と安定、発展に大きく寄与してきたと高く評価しております。中でも、国民主権主義、恒久平和主義、基本的人権の保障の憲法三原則は、不変のものとしてこれを堅持すべきだと考えております。また、憲法第九条に関しては、アジアの諸国民に多大な犠牲を強いたさきの戦争に対する反省と、再び戦争を繰り返さないというメッセージを発してきた平和主義の根拠であり、戦後の日本の平和と繁栄を築く上で極めて大きな役割を果たしてきたと認識しております。

 しかし、日本国憲法制定以来六十年近い歳月が経過し、制定時には想像されることがなかった新しい国民の権利や新たな課題が提起されるようになりました。すなわち、国民主権の一層の明確化、環境の重視、知る権利やプライバシー権など新たな人権の確立、平和主義のもとでの国際貢献の推進、地方分権の確立等であります。

 憲法は、その国のあり方を規定する柱であり、憲法論議は、二十一世紀の日本をどのような国にするのかとの未来志向に立ち、五十年先、百年先を見据えて進めるべきであります。

 こうした認識の上から、公明党は、憲法三原則と平和憲法の象徴である憲法九条を堅持した上で、時代の変化に応じて現行憲法を部分的に見直し、新しい条文を加え、現行憲法を補強していく加憲という立場に立っております。

 この加憲方式は、次のような理由から極めて現実的な方法と考えております。

 第一に、現行の憲法はすぐれた憲法であり、広く国民の間に定着し、支持されているというのが基本認識であります。

 第二に、憲法を見直すに当たって、条文すべてを見直すべきとの全部改正論や、逆に全く変えてはいけないとするかたくなな護憲論は、ともに国民の幅広い理解を得るのは難しいと考えます。その点、加憲は、国民に広く定着している現行憲法の条文は残した上で、時代の進展に伴って必要なものがあるならば、それを加えて補強していく方式であり、現時点では最も現実的な手法であると考えております。

 第三に、憲法改正について規定をいたした憲法第九十六条では、第一項で改正の手続を規定し、第二項で改正の公布について、「憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。」と規定しておりまして、現行憲法と改正憲法とが「一体を成すもの」との表現は、加憲的な方向性を示していると理解をしております。

 また、アメリカ合衆国憲法における修正条項、フランス憲法前文における従前の憲法規定への言及や条項の追加などといった立憲主義先進国の例も、時代状況に合わせて憲法を補強していくというスタンスをとっていると認識をしております。

 このように、加憲方式をとることは、現行憲法の原理原則を生かしながら、必要と思われるテーマについて民主主義的な形で幅広い合意を形成していけるものであります。

 衆議院憲法調査特別委員会における参考人質疑の中でも、加憲については、広く国民の合意を得る上で現実的な選択肢であると評価されているところであります。

 続いて、具体的な質問に入ります。

 このたび、憲法改正の手続を定めた両法律案が提出をされました。現行の日本国憲法は、日本国民の間にその理念、精神が浸透し、広く国民に受け入れられておりますが、憲法第九十六条の中で規定されている改正の手続については、この六十年近くの間、定められませんでした。

 憲法改正手続法案の提出は、これに対する意識、世論の高まりと憲法の要請に応じたものであり、今国会において精力的な議論を経て提出に至った意義は、歴史的に見ても大変大きなことであり、評価すべきことであると考えます。

 そこで、まず、このたびの法案提出に至った意義について、両法案提出者に見解を伺います。

 今回の手続法の制定については、ただいま申し上げたとおり大変重要なことではありますが、あえて確認するならば、この手続法の議論と憲法改正の中身の議論は別のものであり、具体的な憲法改正に関する論議は別途行うべきであります。今回の立法は、憲法の要請と世論の高まりに応じた手続法の整備であり、憲法の中身をどうするかの議論は、広く国民の理解を得ながら、じっくりと腰を据えて取り組むべきものであると考えております。

 この点について、両法案提出者の認識を伺います。

 次に、ただいまの改正論議の質問に関連をして、国会法の一部改正における憲法審査会について伺います。

 両法案では、各議院に設置する憲法審査会が、日本国憲法及びその関連法制について広範かつ総合的に調査を行うとともに、憲法改正の原案及び憲法改正手続法案を審査するとしておりますが、この規定は大変に重みを持つものであります。憲法の改正について国民が丁寧な判断をするためには、国会において十分丁寧な議論をすることが重要であります。ゆえに、まず、憲法改正の是非、変えるとすれば何をどのように変えるのか、また、憲法の条文を変えなくとも運用を変えればよいのか等の議論が必要であり、ここの条文で規定されているように、憲法審査会で広範かつ総合的な調査を十分に行うことが重要であります。

 したがって、今回の手続法が成立をして、公布の日以後初めて召集される国会で両院に憲法審査会が設置されたとしても、直ちに憲法改正原案を審査するような拙速な論議は避け、まずは、改正の是非も含め、憲法に関し丁寧に調査することが必要と考えます。

 この点について、両法案提出者はどのようにお考えか、伺います。

 次に、これまで憲法調査特別委員会での議論の中でも大きな論点となってきた点についてお尋ねをいたします。

 まず、国民投票の対象についてであります。

 一般的な国民投票を否定するわけではありませんが、国民投票が要件であり、その結果に法的拘束力がある憲法改正の国民投票と、任意で諮問的な効果しか有しない一般的な国民投票とは切り離して論じるべきだと考えます。与党案でその対象範囲を憲法改正国民投票に絞った理由を確認いたします。

 次に、投票権者の範囲についてであります。

 基本的には、国政選挙と一致させるべきだと考えます。その上で、できる限り多くの方に判断していただけることが望ましいと考えております。対象年齢に関しては、公明党は、公職選挙法の対象としては十八歳選挙権を主張しておりますが、国民投票の対象年齢は、現行公選法に合わせ、当面二十歳以上にせざるを得ないと考えます。一方で、今後、国民投票の投票権年齢は、我が党が主張する公選法の選挙権年齢と合わせ、十八歳に引き下げる努力をすべきと考えますが、与党案提出者の見解を伺います。

 次に、投票用紙への記載方法と過半数の意義についてであります。

 実際の投票に当たっては、国民の多様な意思をより的確に反映させることが重要であります。この点、与党案においては、憲法改正案に対し、賛成するときはマルの記号を、反対するときはバツの記号を自書することとし、憲法改正案に対する賛成の投票数が白票等を除いた有効投票の総数の二分の一を超えた場合に、憲法改正について国民の承認があったものとしており、投票者の賛否の意思を的確に反映するものと評価をいたします。一方、民主党案では、憲法改正案に賛成するときはマルの記号を自書し、反対する者は何も記載しないこととしております。これでは、白票に積極的な反対の意思と中間的な立場の意思が混在することになり、有権者の意思を的確に反映できるとは考えられません。また、多様な意思が含まれ得る白票を一律に反対票とみなすことには無理があると考えます。

 この点について、与党案提出者の考え方を確認いたします。

 次に、個別発議についてお尋ねします。

 憲法改正原案の発議に当たっては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする個別発議が規定をされておりますが、現実的に考えてもこの方法が適切であり、評価すべきであります。例えば、安全保障の問題、プライバシー権などの人権の問題、環境権の問題などはそれぞれ異なる内容の問題であり、それぞれの内容について国民の意思を確認することにより、国民の意思をより的確に反映させることができると考えます。

 その上で、国民の間で国民投票に対するイメージの共有がなされることが重要であります。発議された関連する内容ごとに投票用紙が配られ、それぞれ別の投票箱に投票するという具体的なイメージを国民の皆さんに持ってもらうことが重要であります。

 この点について、両法案提出者に見解を伺います。

 次に、いわゆるマスコミ規制について伺います。

 与党案の当初の協議では、報道機関に対して、国民投票の公正を害することのないよう、自主的な取り組みに努めるものとする等の訓示規定を設けるとの考え方があり、その後、報道機関による配慮のみ求めるとの議論になり、さまざまな議論を経て、最終的には、いわゆるマスコミ規制については全く設けないこととされたと認識をしております。

 そこで、マスコミ規制を全く設けなかった理由について、与党案提出者に確認をいたします。

 次に、罰則規定について伺います。

 国民投票に関する運動や議論等については、基本的には、広く国民一人一人の自由な意思で行われることが望ましいと考えております。したがって、投票運動に対して萎縮効果があらわれないよう、公職選挙法で規定されているような罰則よりも緩やかなものとすべきだと考えております。

 そこで、与党案提出者に罰則の考え方について確認をいたします。

 それに対して、民主党案では、買収行為については全く罰則が規定されておりません。例えば、与党案で明記されているような、組織的に多人数に対して金品供与などにより投票に関する勧誘行為がなされた場合、どのように投票の公正性を担保するのでしょうか。

 この点について、民主党案提出者にお尋ねをいたします。

 最後になりますが、今回提出された両法案を並べて読んでみると、ほとんどの項目について一致をしております。これは、広く各党の合意を得るという前提で、これまで丁寧な議論がなされてきた成果であると存じます。

 憲法改正のルールは、仮に現在の与野党の立場が変わったとしても、変わらないことが重要であります。そのため、公平中立なルールとして、多くの政党、議員の賛同が得られることが重要です。したがって、より幅広い合意を得るために、今後の国会審議において、与党と民主党双方が一致した形での法案成立を目指していくべきだと考えます。

 この点について両法案提出者の見解を伺い、私の質問を終わらせていただきます。(拍手)

    〔船田元君登壇〕

船田元君 与党案の提出者を代表いたしまして、石井議員の御質問について答弁を申し上げます。

 私からは五問ございます。

 まず、法案提出の意義についてのお尋ねがありましたが、日本国憲法は、その九十六条において改正のための手続を定めているにもかかわらず、そのための具体的な国民投票法制につきましては、日本国憲法が施行されてから六十年近くを経過しようとしている今日に至るまで、整備されてまいりませんでした。

 憲法改正国民投票法制の整備は、憲法制定権力の担い手である国民がその権利を行使する制度を整備することであり、憲法改正に対する国民の主権を回復し、真の国民主権を具体化することにほかなりません。今般、憲法改正国民投票法案が提出されるに至ったことは、国民主権の観点から歴史的な意義を持つものである、このように考えております。

 次に、憲法改正論議と憲法改正手続法との分離についてのお尋ねがございました。

 各党において、憲法を改正するかしないか、あるいはどのように改正するかという議論は、当然あってしかるべきであると考えます。ただ、そのことと憲法改正手続法の議論とは別個の問題であり、手続法自体は、改憲のためのルールでも護憲のためのルールでもない、現行憲法自体が想定している公正中立なルールであると考えております。

 次に、一般的国民投票制度を設けなかった理由についてのお尋ねがございました。

 日本国憲法は、国会を国の唯一の立法機関であると規定し、議会制民主主義を採用しているところでございます。一般的国民投票制度は、その効果が諮問的なものであるとしても、事実上の拘束力があり得ることは否定できず、議会制民主主義の根幹にかかわる重大な問題であり、その導入自体が場合によっては憲法改正を要する問題であると考えております。したがいまして、今回は憲法改正国民投票法制に特化した議論に限定をし、一般的国民投票制度は、その意義を否定するものではありませんが、別途慎重に検討すべき事項と考えております。

 次に、投票用紙への記載方法と過半数の意義についてのお尋ねでございますが、国民投票において考慮されるべき民意というのは、あくまでも明確にその意思を表示した国民の意思であるべきと考えております。したがいまして、白票などについて、これを一律に反対の意思表示とみなすことは、民意をつくり出すことにもなりかねない、そういう危険な行為であると考えております。

 このように考えますと、賛成、反対の意思をそれぞれ明確に表示していただくべきであって、また、当然のこととして、有効投票総数の過半数でもって国民投票は決せられるべきである、こういう結論になると思っております。

 最後に、与党と民主党との合意形成についてのお尋ねがございました。

 これまで、憲法調査会での五年を超える議論、また憲法調査特別委員会における活発な議論、さらにこれと並行して理事懇談会で行われた論点整理は、意見の違いを乗り越えて、各会派参加のもと、中山太郎会長・委員長のもと、公正かつ円満に行ってまいってきたと存じております。

 その結果、憲法改正国民投票法制に関しては、国会法改正部分も含めて、法案を提出している与党と民主党の間では、二つの法案を見比べていただければ、ほとんどの部分において既に合意形成、一致点がなされているところでございまして、相違点は、確かに重要な事項ではございますけれども、あとわずかであると認識をしております。

 今後、この本会議、そして委員会という公開の場で真剣にかつ建設的な議論を行っていけば、決して乗り越えられないハードルではないと思っております。決して対決法案ではないと私は認識をいたします。準憲法的法律として、できるだけ幅広い会派の合意の上で成立させられますように、今後とも尽力してまいりたいと思っています。

 なお、残余の質問に対しましては、同僚議員から答弁させていただきます。(拍手)

    〔斉藤鉄夫君登壇〕

斉藤鉄夫君 石井啓一議員の御質問に、五点お答え申し上げます。

 まず、憲法審査会における原案審査の開始時期についてのお尋ねでございますが、憲法審査会は調査権限と審査権限を有する常設の機関でございます。

 とりわけ、憲法改正原案については、国民に開かれた形で、特に慎重かつ十分な審議の必要性があることから、一、国民に開かれた審議の要請にかんがみて、公聴会の開催を義務づけること、二、会期をまたがって慎重な審議がなされる議案であることにかんがみて、閉会中審査について特例を設けること、三、審議の段階から両院間の意思の疎通を図る必要性も考えられることから、合同審査会に関する規定を設けることなど、ほかの委員会と異なる取り扱いをする必要があります。そのため、憲法審査会という特別の機関として位置づけたものでございます。

 この趣旨にかんがみれば、事前に改正の要否やその具体的内容及び論点に関する調査がなされ、これらを踏まえて憲法改正原案が提案され、その審査が行われていくというのが通常の手続であろうかと思われます。憲法審査会発足当初、少なくとも国民投票法本体が施行されるまでの二年間は、改正の要否とその具体的な論点の調査に専念されることになるものと考えております。

 次に、投票権の年齢要件に関するお尋ねであります。

 私ども公明党は、マニフェストにおいて、公職選挙法について十八歳選挙権を主張しておりますし、この趣旨から、国民投票の投票権も十八歳以上とすることが望ましいと考えております。

 しかし、その前提にあるのは、あくまでも公選法の選挙権年齢と国民投票の投票権年齢は国民の国政参加権として同一に取り扱うべきということでございます。国政選挙と国民投票は、いずれも国民主権の発現形態であり、また、国政への参政権として共通の基盤の上に立つものでありますから、選挙権年齢と投票権年齢は基本的に同一であるべきだからでございます。現に、諸外国の例を見ても、ほとんど例外なく選挙権年齢と投票権年齢は一致しております。

 したがいまして、選挙権年齢を含めて成人年齢を定める民法その他の関連法律の改正に向けて精力的かつ慎重な検討を加えるべきものと考えております。

 次に、個別発議の原則についてお尋ねがありました。

 国家の基本ルールの変更に当たっては、民意を正確に反映させるべきであり、例えば九条の改正と環境権の創設という全く別個の事項について、一括して国民投票に付することは好ましくないということは言うまでもございません。この法案は、個別発議、個別投票の原則を明記することとしております。

 問題は、何が内容ごとに関連するまとまりのある事項かということになりますが、一方では個別の憲法政策ごとに民意を問うという要請から、他方では相互に矛盾のない憲法体系を構築するという要請から、決定されるべきものと考えます。そして、個別具体的事例については、国会が発議するに当たってしかるべき判断を行うことになるものと考えます。

 具体的な個別発議のイメージ、一枚一枚の投票用紙、そしてそれをそれぞれ別な投票箱に一つ一つ投票するというイメージ、このイメージを国民に共有されるよう、今後しっかりと議論をしていきたい、周知をしていきたいと考えております。

 さらに、マスコミ規制を設けないこととした点についてお尋ねがございました。

 一昨年末に公表されたいわゆる与党合意案における国民投票法案骨子では、虚偽報道の禁止、不法利用の制限等が盛り込まれておりました。その趣旨は、いやしくも国家の基本ルールを定める憲法改正国民投票において、国民への情報提供において重要な役割を担うマスメディアが、虚偽や金銭等の不当な利益によってその報道をゆがめるようなことがあってはならないとの趣旨から出たものでありました。

 しかし、その後、同規定をめぐってさまざまな議論が行われ、私どもも、どのような虚偽が想定されるのか、それが政治的意見表明と明確に区別できるものか、あるいは罰則をもって担保するほどの立法事実があるかなどを検討し、さらには、参考人を招いて真摯に検討を重ねた結果、報道内容の適正化については既に放送法に規定されている上、マスコミ各社において倫理綱領を定めたり第三者機関を置く等の措置を講じており、新たな規制を設ける必要はないとの結論に至ったものであります。このような議論を背景にして、改めてマスコミ規制を一切設けないこととしたものであります。

 最後に、罰則の考え方についてのお尋ねであります。

 人を選ぶ選挙と国家の基本的なあり方を選択する国民投票とでは、どのような罰則を設けるべきかという点においても大きな違いがあるものと考えております。

 すなわち、国民投票運動は主権者である国民の政治的意思の表明そのものでありますから、国民一人一人が萎縮することなく自由に国民投票運動を行い、自由闊達な意見を闘わせることが必要であります。したがって、国民投票運動は原則自由とし、規制はあくまでも投票が公正に行われるための必要最小限のものとすべきであります。

 このような考え方に基づき、この法律案では、組織的多数人買収、利害誘導罪のほか、職権濫用による国民投票の自由妨害罪など、投票の公正さを確保するための必要最小限度の罰則規定のみを設けることとしております。

 以上でございます。(拍手)

    〔鈴木克昌君登壇〕

鈴木克昌君 私から石井議員に対して、三点御答弁をさせていただきたいと思います。

 まず、このたびの法案提出に至った意義についてお尋ねがございました。

 日本国憲法の立脚する国民主権原理は、憲法第九十六条の規定により、憲法改正を国民投票という直接民主制的手続にかかわらしめるということで、その究極的な表現を見出すことができると思っております。この意味で、国民投票法案は、現憲法制定後の六十年の歴史の中でも最も重要な立法としての意義を持つものだというふうに思っております。

 この重要な法案について、これまでの憲法調査特別委員会における各党の議論によって到達した共通認識や見解を異にする点について、国会という公開の場での審議を通じて、国民にわかりやすい形でしっかり議論がなされていくことには大変意義があることだと考えております。

 次に、手続法の整備と憲法の中身をどうするのかとの議論は別だとする私どもの考え方についてお尋ねがございました。

 先ほど、甘利議員にもお答えを申し上げましたが、御指摘のとおり、今回の法案は手続法の整備であり、憲法本体に対する議論とは別個のものと認識をしております。国民投票法制そのものは、現行憲法の中身に対する是非を評価しているものではなく、改憲、護憲の立場に対し公正中立な手続であるべきであります。民主党案は、公正中立であることを主眼に据えております。

 憲法の中身については、日本全体、あらゆる年代、また将来の世代にかかわる問題であることから、じっくり時間をかけ、広く国民の理解を得ながら議論を進めていくべきだと考えております。

 続いて、憲法審査会が設置された場合でも、直ちに憲法改正原案を審査するような拙速な議論は避け、まずは改正の是非を含め、憲法に関し丁寧に調査することが必要との私どもの考えについての御質問がございました。

 法案成立後の憲法審査会における憲法改正原案の審査に当たっては、常識的に考えれば、いきなり憲法改正原案が出てきてそれを審査するというよりは、事前に改正の要否やその具体的内容及び論点に関する調査がなされていることが予定されております。なぜなら、憲法改正には、いずれにしても国会内における三分の二の多数を獲得するための合意形成、さらには国民投票における過半数を獲得するための合意形成が必要であり、これらに向けたさまざまな努力がなされるべきだと考えるからであります。

 これらを踏まえて、憲法改正原案が提案され、その審査が行われていくというのが通常のルートであろうかと思われます。

 したがいまして、憲法審査会発足当初、少なくとも国民投票法本体が施行されるまでの二年間は、石井議員が御懸念されているように、いきなり憲法改正案の条文の検討が行われるというようなことではなく、衆議院憲法調査会でまとめた報告書などを出発点に、改正の要否とその具体的な論点の調査に専念し、これを深めていくことから始まるものと考えております。

 残余の質問につきましては、同僚議員からお答えをさせていただきます。(拍手)

    〔小川淳也君登壇〕

小川淳也君 石井議員の残余の御質問にお答え申し上げます。

 まず、発議の方法と投票の方法に関するイメージについてお尋ねがございました。

 憲法改正は、国家の基本的なルールの変更に当たります。それだけに、できるだけ具体的に、的確に民意を反映せねばなりません。だからこそ、可能な限り、まとまりのある課題ごとに個別に発議をし、個別にその是非を問うことが望ましいと考えております。例えば、安全保障の問題とプライバシーや環境権創設に係る議論、これを抱き合わせでその是非を問うようなことは許されないと考えております。

 具体的な投票方法については、選挙の際と同様、個別投票案件ごとに投票用紙を受け取り、記入をし、投票箱に投じ、次の投票に移る、そうした手法が想定されるのではないかと考えております。

 次に、国民投票に関する買収行為について、民主党案に対するお尋ねをいただきました。

 国民投票制度は、既に議論になっておりますとおり、個人の当落を争う選挙とは異なり、個人的利害から買収行為へとつながる危険性は高くありません。そこに基本的な差異があると認識をいたしております。同時に、国民投票運動は主権者たる国民の政治的意思の表明の機会であり、最大限自由な議論の機会が保障されねばなりません。

 もとより、金品で投票を誘導することは許されることではありませんし、居酒屋での例はるる申し上げました。その弊害が生じる蓋然性、危険性と、一方で、自由な議論を最大限保障せねばならない、国民の議論を萎縮させてはならないことの要請、この両者の比較考量から今回の判断に至ったものでございます。

 最後に、与野党が一致して法案成立を目指すべきではないかという趣旨のお尋ねをいただきました。

 国民投票法制については、与野党間が利害を衝突させ、それを争う性質の案件ではございません。この点、全く同感でございます。その意味では、御指摘の与党、そして我が党はもとより、現段階においては投票法制の制定そのものに反対をしておられる会派の皆様を含め、幅広に議論が行われ、合意形成が進められることが期待されるものと考えております。

 しかしながら、そうは申しましても、通すべき議論は通し、闘わせるべき議論は闘わせねばなりません。そして、その私どもの主張の原動力は、ひとえに、いかに投票過程に国民の意思を的確に反映させるか、その点に絞った建設的な議論である旨申し添え、答弁を終わらせていただきます。(拍手)

    ―――――――――――――

副議長(横路孝弘君) 笠井亮君。

    〔笠井亮君登壇〕

笠井亮君 私は、日本共産党を代表して、憲法改正手続法案について、自民、公明の両党並びに民主党、両案の提出者に質問いたします。(拍手)

 今回の憲法改正の手続を定める法案の国会提出は、現憲法制定後、初めてのことであります。これは、憲法第九条を変えて、日本を海外で戦争をする国につくりかえる改憲の動きをさらに一歩進める、極めて重大なものだと言わなければなりません。しかも、国の最高法規である憲法にかかわる重要な法案を、会期末に駆け込みで提出し、審議を推し進めようとするなど論外であります。両案ともに、直ちに撤回するよう強く求めるものであります。

 今なぜ、提出者は改憲手続法をつくろうというのでしょうか。

 憲法九十六条に改正規定があるのに、その手続法がないことは国民主権をないがしろにするものだなどといいますが、この六十年、改憲手続法がつくられてこなかったのは、国民が改憲を具体的に必要としてこなかったからであります。手続法がないことで国民の権利が侵害された事実はどこにもないではありませんか。

 この間の世論調査でも、国民は、改憲手続法の制定を国政の重要課題とは見ておりません。改憲の焦点となっている九条は、変えるべきではないという声が多数です。その九条改憲のための手続法をつくることは、国民の要求に反するものにほかなりません。

 具体的な改憲構想とは切り離して公正中立な制度をつくるといっても、自民党は、既に昨年十一月、新憲法草案を正式に決定し、憲法調査会長も、改憲手続法は改憲の準備に直結すると明言しています。民主党は、来年、独自の改憲案をつくると幹事長が発言し、公明党も、加憲案をことし秋に出すとしています。

 まさに、今回の法案提出は、単なる形式的な手続法づくりではなく、現に進行している改憲案づくりと密接不可分に結びついていることは、紛れもない事実ではありませんか。各党の提出者の見解を求めます。

 そこで問題は、各党がどんな憲法改定を目指そうとしているかであります。

 自民党の新憲法草案は、戦力不保持、交戦権否認を定めた九条二項を削除し、自衛軍の保持と海外での武力行使を可能にする規定を盛り込んでいます。これは、集団的自衛権の行使ができるようにし、アメリカが世界各地で起こす戦争に参戦し、武力行使を可能にしようということではありませんか。また、新憲法草案は、国民に国や社会を守るなどといって、新たな義務や責務を強要することを盛り込んでいます。これは、国民が国家権力を縛るという人類が到達した立憲主義を否定するものではありませんか。これがどうして、新しい時代の憲法と言えるのですか。

 民主党は、党としては改憲するかしないかの決定はしていないと言いますが、昨年十月に発表した憲法提言は、制約された自衛権、武力行使を含む国連多国籍軍への参加などに触れています。これは結局、党として九条改憲を方向づけるということではありませんか。

 公明党も、一項、二項は残すから九条改憲ではないと主張していますが、三項を加えて自衛隊の存在と国際貢献のあり方を明記するということは、結局、九条を改憲することになるのではありませんか。

 以上、各党の答弁を求めます。

 憲法九条は、日本が侵略戦争の反省に立って世界に発した不戦の宣言であり、二十一世紀に日本がアジアや世界の諸国とともに平和を築いていくための貴重な指針であります。その九条を改変し、アメリカの先制攻撃の戦争に参戦するために、自衛隊を戦争のできる軍隊にし、日本を戦争をする国につくりかえる、このような危険な道を決してとるべきではありません。日本共産党は、憲法を守り、今こそ、日本の国づくりと平和のために生かすことを強く主張するものであります。(拍手)

 我が党は、憲法改正手続法をつくること自体に反対ですが、両法案の内容について言えば、最大の問題は、改憲推進勢力にとって改憲案を通しやすい可能なあらゆる仕組みとなっていることであります。加えて、改憲案を論議する常設機関として憲法審査会を設置し、この法案と連続的に改憲の流れを推し進めようとするものであります。

 具体的に三点をただしたい。

 第一に、国民の自由な意見表明、憲法にかかわる運動を制限している問題です。

 与党案は、公務員等及び教育者がその地位を利用して国民投票運動をすることができないと禁止しています。規制対象は、全国で約四百万人もの公務員、約百三十万人もの教育者に及びます。これだけ多数の国民、しかも憲法遵守義務を負い、それを誓約して働いている人々が、憲法改正についての言論、表現活動を萎縮させられるのは異常なことであります。さらに、買収罪など、罰則も設けています。なぜ、このような規制をあるいは罰則をかけるのか、明確な答弁を求めます。

 民主党案は、国家公務員法などの政治活動の制限規定で対処するとしていますが、そもそもこれは憲法違反の規定であり、市民的及び政治的権利に関する国際規約にも反する規定であります。憲法改正という場面で、なぜ、この規定を適用するのか、お答えいただきたい。

 第二は、改憲推進の大キャンペーンができる仕組みの問題です。

 国会に設置するとしている広報機関は、改憲に賛成した議員が圧倒的に占める構成であり、その運営、パンフレット作成などを改憲に賛成した議員が有利に進めることが可能な仕組みです。また、政党等による無料のテレビ、ラジオのCMや新聞広告は、所属国会議員数を踏まえて配分されるため、改憲に賛成した政党が圧倒的に利用できるものになります。さらに、テレビ、ラジオの有料CMも、改憲を推進している財界を初め、資金力のある団体などが買い占めることができる一方、資金力のない国民はメディアから締め出されることになりかねません。

 メディア規制は削除したと言いますが、これでは逆にマスメディアを改憲キャンペーンに協力させる仕組みではありませんか。これでどうして公正中立な制度と言えるのか、両提出者の明確な答弁を求めます。

 第三に、改憲案の国民の承認に関する過半数の意味についてであります。

 与党案は、なぜ有効投票総数の過半数としたのですか。民主党案は、なぜ投票総数の過半数としたのですか。また、それぞれ最低投票率を設けなかったのはなぜですか。その根拠について明確に答えられたい。

 与党案では、例えば投票率が五割だった場合、二割台の賛成で改憲案が承認されることにもなりかねません。民主党案も同様です。ことし三月の岩国市での米艦載機移転の賛否を問う住民投票では、有権者の過半数で反対の意思を形成しました。憲法改正国民投票で、一つの政治問題の賛否を問う住民投票よりハードルを低く設定しているのはなぜですか。これで、国民の意思を酌み尽くすと言えるのか。最低限の国民の賛成で改憲案を通そうという意図があるからではありませんか。

 今、全国では、五千に迫る九条の会を初め、憲法九条改悪に反対する広範な運動が党派を超えて広がっています。今、国会がやるべきは、この願いを踏みにじって改憲を推し進めることではありません。重ねて、改憲手続法案の撤回を求めて、質問を終わります。(拍手)

    〔船田元君登壇〕

船田元君 笠井議員の御質問について御答弁申し上げます。

 私からは三問であります。

 まず、憲法改正論議と憲法改正手続法との関係についてのお尋ねでございます。

 各党において、憲法を改正するかしないか、あるいはどのように改正するかという議論は、当然あってしかるべきであると思っております。ただ、そのことと憲法改正手続法の議論とは別個の問題である、手続法自体は、改憲のためのルールでも護憲のためのルールでもない、現行憲法自体が想定している公正中立なルールであると理解をしております。

 次に、自民党の新憲法草案に関するお尋ねがございました。

 まず、第九条の改正についての方向でございますが、自衛隊の存在をはっきりと憲法に明記するとともに、国際的に協調して行われる活動に積極的に参加すべきことが望ましいとの私どもの考え方を示したものでありますが、御指摘のような、アメリカが起こす戦争に参戦することを目的とするものでは決してないということを申し上げておきたいと思います。

 もう一つ。憲法は、主権者であり被治者である国民が権力を有する統治者の行動を縛る、いわゆる制限規範であり、これが近代立憲主義の大原則であるということはよく理解をしておるつもりです。

 しかし、その上で、我々は、このような近代立憲主義の二十一世紀における発展の形態として、常に国家と個人を二項対立的に対峙しているものと考えるのではなくて、時として、同じ方向を向いて協働する関係にある存在としての側面もあるのではないか。例えば、国家目標の設定、国民としての行為規範の設定といった側面であります。これが二十一世紀の新しい憲法の形の一つの要素となり得るのではないか、このように考えて提言をしているところでございます。

 次いで、国民投票運動規制と罰則に関するお尋ねがございました。

 人を選ぶ選挙と国家の基本的なあり方を選択する国民投票とにおいては、どのような規制や罰則を設けるべきかという点において、確かに大きな違いがあるものと考えております。

 国民投票運動は主権者である国民の政治的意思の表明そのものでありますから、国民一人一人が萎縮することなく自由に国民投票運動を行い、自由闊達な意見を闘わせることが必要でございます。したがって、国民投票運動は原則自由とし、規制はあくまでも投票が公正に行われるための必要最小限のものとすべきであります。その必要最小限のものとして、ごく限られた国民投票運動の規制と罰則規定を設けた次第でございます。

 最後に、過半数の意義及び最低投票率制度についてのお尋ねでございました。

 国民投票において考慮されるべき民意というのは、あくまでも明確にその意思を表示した国民の意思であるべきと考えております。したがいまして、白票などについて、これを一律に反対の意思表示とみなすことは、民意をつくり出すことにもなりかねない、これは先ほども申し上げたことでございます。このように考えますと、理の当然として、有効投票総数の過半数でもって国民投票は決せられるべきだ、こういう結論が導かれるわけであります。

 また、最低投票率制度につきましては、投票ボイコット運動の誘発等の弊害や、憲法九十六条が規定する以上の加重要件を課すことについての憲法上の疑義等にかんがみて、これを設けないこととしたものでございます。低い投票率に対する懸念は、むしろ、投票率を上げるための国民に対する周知広報や国民投票運動のあり方でもって対処すべきものであると考えております。

 なお、残余の質問に対しましては、同僚議員から答弁させていただきます。(拍手)

    〔斉藤鉄夫君登壇〕

斉藤鉄夫君 笠井議員の御質問について、二点御答弁申し上げます。

 憲法改正手続法制と憲法改正の内容との関係その他の御質問についてでございます。

 まず、今回の法案提出は、単なる形式的な手続法づくりではなく、現に進行している改憲案づくりと密接不離に結びついているのではないかとの御指摘がございました。

 各党において、憲法改正をするかしないか、あるいはどのように改正するかという議論は当然あってしかるべきであります。ただ、そのことと憲法改正手続法の議論とは別個の問題であり、手続法自体は、改憲のためのルールでも護憲のためのルールでもない、現行憲法自体が想定している公正中立なルールでございます。

 また、公明党が、憲法九条に第三項を加えて九条改憲を目指しているとの御指摘がございました。

 先ほど我が党の石井啓一議員からございましたように、現行憲法をすぐれたものとして堅持しつつ、時代の変化によって足らざる部分を追加していく、いわゆる加憲を我が党が唱えているところは御承知のことかと存じます。九条については、一項、二項はともに堅持し、その上で、自衛隊や国際貢献のあり方、安全保障のあるべき姿を追加するかどうか、追加するとした場合、どのような方法が考えられるかについて検討しているということでございまして、三項を加えるということを決めているわけではございません。

 次に、マスメディアによる国民投票運動についてのお尋ねがございました。

 広報協議会は、憲法改正の発議があったときに、その発議をした国会みずからが憲法改正案を国民に広報するために国会に設置される機関であります。そして、その委員選任に当たっての反対会派への配慮規定やパンフレットにおける賛否両方の意見の平等掲載など、国民に賛否に関する情報を正確に提供し、国民投票における的確な判断を仰ぐための仕組みをそろえたつもりでございます。これは条文を読んでいただければわかります。このことは、政党等における広告放送、新聞広告についても基本的に同様でございます。

 したがいまして、御指摘のような、改憲キャンペーンに協力させる仕組みなどでは毛頭ございません。(拍手)

    〔枝野幸男君登壇〕

枝野幸男君 笠井議員の御質問にお答えを申し上げます。

 まず、なぜ今、この手続法をつくろうとしているのか、そして、現に進行している改憲案づくりと結びついているのではないかという御質問でございます。

 そもそもが、この法律は、憲法九十六条の規定がある以上、改憲をするとかしないとかという議論が具体的に最もない時期、それは、つまり一九四六年の憲法全面改正の時点直後に本来は制定しておいていただければ、我々が今こうやって苦労することはなかったんだというふうに思っています。

 そして、これは共産党さんの御指摘のとおりでございまして、具体的な改憲案というものの議論が熱くならない段階で、できるだけそれとは切り離す必要がある。そうしますと、むしろ遅きに失したのではないかというぐらいに思っておりまして、これ以上各党の憲法に関する議論が具体化をし過ぎた段階では、やはりその具体的になってきている自分たちの考え方をどうやって通そうかということの方が前に出てしまう。今ならばぎりぎり間に合うタイミングというか、むしろ遅きに失しているのではないか、そんな理解で今この法案を提出させていただいているということを申し上げたい。

 なお、私ども、先ほど来申し上げているとおり、現時点で憲法改正をするとかしないとかという具体的な決定はしておりません。変えることを含めてあり方を一から議論し、それに基づいて憲法提言を提起して、国民との対話集会を重ねております。

 その対話集会を経てさらにどういったステップに進むのかということについては、党内で御指摘のようないろいろな議論があるのは事実でありますが、何といっても、この対話集会によって国民の皆さんの理解、それから国民の皆さんの意思を受けとめていくことがまずは前提条件であります。なぜならば、私たちがどのような意見を持ったとしても、最終的に国民投票で過半数の皆さんの御支持をいただけなければ、それは我々は言うだけの話であって、何の建設的でもありません。

 したがって、国民の皆さんの合意を得ていくということと同時並行して、これだけ国民の皆さんの理解、合意が得られるならば、では具体的に発議をしましょう、こういうことになるのが当たり前のことでありまして、そのことを無視して、ひとりよがりで改憲、改憲と叫んでいる人たちは私は究極の護憲派だと申し上げておるんですが、まさに我々は、そうしたまじめな議論の中で国民の意思を受けとめようとしている。

 そして、そのときには我々も、ただ白紙で、国民の皆さん議論してください、皆さんの議論が煮詰まりましたら我々は発議します、これはまた無責任な話でありまして、発議の権限を与えられているんですから、それは問題があると私たちが考える論点、議論を要すると私たちが考える論点について国民の皆さんにしっかりと提示し、また、私たちなりにはこう考えるんですがということをしっかりとお示しをし、それによって国民の議論を喚起して、そしてその中から国民のコンセンサスというのを形成し、あるいは吸い上げていく、こういう議論をしていくのは当然のことで、そのために今、憲法提言を提起しているということでございますので、御理解をいただきたいというふうに思っております。

 次に、憲法九条についてお尋ねがございました。

 確かに、昨年私どもが発表いたしました憲法提言の中には、憲法九条についても、変えることも含めて議論の俎上に上げております。そして、まさに具体的に御指摘をいただきましたけれども、制約された自衛権、自衛権の範囲をしっかりと憲法で制約をするということ、あるいは、海外に対する国際協力に当たって一定の歯どめというものを、国連決議などの歯どめというものを憲法上しっかりと置くべきではないかなどということについて、具体的にこう変えたらいいんじゃないかという提言もさせていただいております。

 そして、まさにこの提言を、今全国の皆さんと対話をしながら、どうでしょうかということを我々は今受けとめている作業をしているものでありまして、そのことをもって、今私たちが九条改正のためにこの法案が必要であるということとは全く結びついていない別問題でございまして、我々が九条を、では条文そのものを変えるべきであるとするのかどうするのかというのは、まさにこの国民の皆さんとの対話の結果、判断をしていくということになっております。

 なお、私たちは、憲法については、とにかく何が何でも条文が変わればいいやという改憲論や、何が何でも条文を変えなきゃいいやという護憲論のどちらにもくみしておりません。条文がどうあるかということではなくて、我が国の公権力のあり方がどうあるべきなのかという憲法の本質、国のあり方全体について、まずは骨太の議論をし、それを実現するために現行憲法の条文について不都合があるならばそれを変えていきましょうね、こういう議論をしておりますので、ぜひこの点についても御理解をいただければと思います。

 次に、公務員の運動規制についてお尋ねがありました。大変重要な問題でありますので、十分にしっかりと時間をかけて答弁をさせていただきたいと思っております。

 民主党では、確かに、これまでの論点整理の議論などに際して、この国民投票法制における公務員等の国民運動制限禁止、制限規定をなるべく最小限にするという観点から、国家公務員法の政治活動の制限などの一般的規定で対処すれば足りるのではないかということを検討し、そのことを申し上げたことがあったのも事実であります。

 ただ、そもそも国民投票運動においては、現在、国家公務員法及びそれに基づく人事院規則において国家公務員に禁止される政治的行為とはなされないものというふうに判断をいたしております。

 現在の人事院規則では、選挙、国民審査の投票、地方公共団体の議会の解散または公務員の解職の投票において、投票するように、またはしないように勧誘運動をすることを政治的行為として禁止をしています。

 一方、国民投票運動は主権者である国民の政治的意思の表明そのものと区別できないものでありますから、公務員も含めた国民一人一人が萎縮することなく自由に意見を述べられることが非常に重要であると考え、したがいまして、私どもは、法律上の規制を設けないことといたしております。

 したがって、その趣旨から考えれば、公務員が行う国民投票運動について、人事院規則で新たに政治的行為に含め公務員の憲法に関連する意見表明を禁止するようなことは、我が法案の趣旨から見て、人事院規則でそうしたことは定めることはできないものと考えており、想定をしておりません。また別途、国家公務員法の規定、公務の中立性を確保するとの観点でございます。

 国民投票運動に関する規制は投票の公正さを確保するという規制でありまして、規制の趣旨が違います、目的が違います。したがいまして、また別途、国家公務員法で、その点についてどうするのかという議論があり得るということは申し添えておきたいというふうに思っております。

 次に、国民投票広報協議会、メディアなどの中立性についてお尋ねがありました。

 国会内に設置される国民投票広報協議会における委員数の割り振りについては、憲法改正等の広報が、賛否両方の意見について国民にその情報を提供し、国民投票における的確な判断を仰ぐためのものですから、国会における多数、少数を踏まえつつも、中立公正さの観点に十分配慮して定められるべきものと考えます。

 そこで、憲法改正の発議に反対した会派が存在する場合、広報協議会の委員に原則として必ず入られるように、ドント方式による配分に例外を設け、できる限り少数派に配慮をするということといたしております。

 また、広報協議会の作成するパンフレットや主催する説明会については、改正案の説明については中立公正に、賛否それぞれの主張については公正平等に扱うこととしており、改正に有利な内容とならないよう配慮する規定を設けております。

 政見放送類似の無料放送や新聞広告欄の無償提供については、国会における議席配分を前提とした配分をするとの提案をいたしておりますが、この配分については、御指摘の点も踏まえ、今後の審議の中において柔軟に対応したいと考えております。

 なお、テレビ、ラジオの広告放送による改正賛成のキャンペーンについて、これを一律に禁止してしまえば、改正賛成だけではなく改正反対の主張もできなくなり、表現の自由が脅かされます。もちろん、活字メディアと違いまして、音声や映像を用いる放送メディアは、時に理性ではなく感情に訴えるという意味で扇情的な影響力を持つのも事実であり、また、それに多額の費用を要するというのも事実であります。

 したがいまして、私どもは、投票日直前に集中的に流されるという事態に対して、これを言論の自由市場で淘汰する時間的余裕がないことを踏まえて、直前七日間についての広告放送を禁止することといたしました。

 また、本日の午前中の特別委員会における参考人質疑、笠井委員もお聞きだと思いますが、そこでの発言なども踏まえて、この点についても、今後柔軟に対応していきたいと考えておりますので、ぜひとも建設的な御議論に参加いただきますようお願い申し上げます。

 以上です。(拍手)

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副議長(横路孝弘君) 辻元清美さん。

    〔辻元清美君登壇〕

辻元清美君 社会民主党の辻元清美です。

 私は、社会民主党を代表いたしまして、きょう議論になっております国民投票法両案に対し、自民、公明及び民主党の提出者に質問をいたします。(拍手)

 まず指摘しなければならないのは、なぜ今、急いでこのような重要な法案を提出したのかということです。最も重要な憲法に関する法案であるだけに、その制定の是非についても、あらかじめ選挙で主権者に問うぐらいの姿勢が必要じゃないですか。どうですか。

 各種の世論調査でも、国民投票法の制定は慎重にすべきという意見が六〇%以上なんです。それを、会期末になって突然法案を出したということは、急ぐべきではないというこのような声を置き去りにしていると言わざるを得ないと思います。

 社民党は、現行憲法を生かした政治を実現することが重要であると考えています。ですから、今、憲法改正のための国民投票法が必要であるとは考えておりません。私は、国会の外の、この急いで決める必要はないとの多数の人々を代表して、きょうは質問をしたいと思います。

 最初に、国民投票法の前提になる憲法についての基本的認識についてお伺いします。

 憲法とは、国民の権利を侵さぬように、国家機関の権力行使を制約する原則を定めたものです。これが近代憲法についての世界的な常識です。しかし、昨今の国会では、すべての基本になるこの認識すら無視された議論が横行しています。

 そこで、まず、憲法とはどのような法規範であるのか、だれがだれに対して、何のために発するものであるのかという、憲法についての基本認識を両案提出者にお尋ねします。

 また、憲法改正は憲法九十六条の規定に従ってなされるものですけれども、この改正には限界があり、全面改正は認められていないというのが通説です。そこで、両案の提出者に、憲法改正の限界についての見解を求めます。

 改正の限界については、現行憲法の基本原理である、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義すなわち戦争放棄という柱は変えてはならないものと考えますが、両案提出者の答弁を求めます。

 昨年、自民党は、新憲法草案を発表しました。この草案においては、国民が遵守しなければならない責務を国家が規定しているなどの点において、近代憲法の原理を逸脱しているという指摘が専門家からも出されています。自民党の新憲法草案についてのこのような指摘を、民主党の法案提出者はどのように考えますか。率直な御意見をお聞きしたい。

 このように、政権与党の中ですら、憲法についての国際常識と異なる認識が通用している今のような政治状況を放置したまま、国民投票法を議論することは、本末転倒ではないでしょうか。

 国民投票法は、国民投票の手続を定める単なる手続法であると説明されています。果たして本当にそうでしょうか。両案とも、国民投票の新設と国会法の改正という、全く次元の違うものを一つの法律で処理しようとしています。

 国民投票法は、主権者たる国民が憲法改正案の是非を選ぶ方法を定めるものです。これに対して国会法は、立法府である国会の運営を定めるもので、両者の性格は全く違います。一部に関連する事柄を含む場合でも、一つの法案にまとめるべきものではありません。公正な手続法をつくるというのならば、特に厳格に、国会運営や立法の手続に従わなければなりません。この点だけをとっても、両法案は大きな問題があり、取り下げられた方がよいと思います。

 さらに、両法案は、国民投票法案という表題からは想像すらできないような内容を規定しています。国民投票法案に組み込まれた国会法改正によって、両院に憲法審査会を新しく設置されるとしている点です。この憲法審査会の機能はどのようなものであり、どのようなことを審査するのか、まず、両案提出者の答弁を求めます。

 この憲法審査会は、憲法改正原案を審査するだけではなく、みずから憲法改正原案をつくり、提出することもできるとなっているではないですか。それも、閉会中も常に審査が可能で、次の国会に継続していく。これに加えて、国民投票法の本体は公布の日から二年後に施行されるのに対し、この憲法審査会は公布後最初に召集される国会から設置されるということになっています。もしこの法案が今国会で成立したら、法的には、次の国会から直ちに憲法改正原案の審査が開始し、閉会中もその審査を継続し、憲法改正原案をつくれるということになるのです。

 この法案は、国民投票法案といいながら、実際は、直ちに憲法改正に着手していく改憲準備法案になっていると言えるのではないでしょうか。改憲の中身を具体的に審査し決定するような機関を国会の中につくるかどうかということは、それだけで、独立して、時間をかけた国民的な議論が必要な、政治の最重要課題ではないでしょうか。

 国民投票の手続を決める法案の中にそのような重要な機関の設置まで盛り込むことが妥当と考える理由は、どこを探しても見当たりません。両法案提出者の見解を求めます。

 国民投票法は単なる手続で、改憲の議論とは切り離して制定するといいながら、憲法改正原案の審査機関の設置まで盛り込むことは、これをきっかけに改憲にまで持ち込もうというたくらみを忍び込ませていると見えるんじゃないでしょうか。

 国民投票法……(発言する者あり)ちょっと御静粛に願います。国民投票法が整備されなかったのは立法府の怠慢だと叫ぶ人がいます。私は、立法府の意思であり、熟慮した政治的選択であったと申し上げたいと思います。

 自民党など保守の人たちも含めて、歴代の内閣もまた、改憲手続法をつくらないということに意味を見出してきたのです。悲惨な戦争の体験から、現行憲法の基本理念に基づき、特に憲法九条に代表される平和路線を貫いた国づくりをするという立法府の選択の結果、国民投票法をつくってこなかった。世論も、このつくってこなかったという立法府の姿勢を長年支持してきたのだと思います。

 この基本的な日本のあり方を変更することになると考えているからこそ、今なお、国民投票法制定の是非については、慎重に取り扱ってほしいという声が多数を占めているのではないでしょうか。六十年間つくってこなかった意味をかみしめることなく、単なる手続法といいながら、改憲になだれ込む装置までを兼ね備えた法律を制定しようとするこの今の立法府の姿勢は、私は、日本を危うい方に持っていくのではないかと、深い憂慮を覚えております。

 何をそんなに急いでいるんですか、皆さん。今、立法府の私たちにまず求められているのは、憲法とは何なのかという共通の基本的な認識づくり、そして、日本の進路の選択をどうするのかという十分な議論をしていくことが求められているというように思います。

 私たちに改憲準備法案は要りません。両法案の撤回を求め、私の質問を終わります。(拍手)

    〔保岡興治君登壇〕

保岡興治君 与党案提出者を代表いたしまして、辻元議員の御質問について答弁申し上げます。

 まず、憲法とはどういう法規範であるのか、だれがだれに対して、何のために発するものであるのかという、憲法の性格についての基本認識についてお尋ねがございましたが、憲法は、国家機関が国民の権利を侵さないように、その権力の行使を制約する原則を定めたものであるということは、御指摘のとおりだと思います。

 他方、憲法は、国家機関を定めて、それぞれの機関に国家作用を授権します。すなわち、通常は、立法権、司法権、行政権及び憲法改正手続等についての規律が設けられています。この国家権力の組織を定め、かつ授権する規範も憲法に不可欠な要素だと思います。

 さらに進んで、二十一世紀には、国民と国家が対立するだけではなくて、協働関係に立つこともあり得るでしょう。そうすると、憲法は、国家目標の設定あるいは国民の行為規範としての役割、機能も持ってくるものだ、そう存じております。

 次に、憲法改正の限界についてお尋ねがございました。

 学説にはいろいろの議論があることは承知していますが、法的には、憲法改正には限界があると解するのが通説的な見解でございます。その際、限界として説かれるのは、日本国憲法の基本原則である国民主権主義、基本的人権の尊重、平和主義、この三つの原則であり、これを否定するような改正は、憲法の同一性を損なうものとして許されないと考えられています。私も、基本的にはこのような考え方が妥当であると考えております。

 また、全面改正あるいは新憲法制定は認められていないとの御指摘がありますが、憲法の改正とは、憲法の定める手続と制約のもとに現憲法に変更を加えるものであります。憲法九十六条の二項では、憲法改正について国民の承認を経たときは、現在の憲法と一体をなすものとして公布すると定めていることからもわかるとおり、現行日本国憲法を廃止するようなことは想定されていないと考えています。

 しかし、我が自由民主党の新憲法草案は、現行憲法の理念、原則は維持しつつ深化を図る全面的な改正であって、あくまでも現行憲法に許容される変更を加えるものでありますから、このようなことを日本国憲法は当然認めているものと考えております。

 なお、残余の質問に対しては、同僚議員から答弁をさせていただきます。(拍手)

    〔葉梨康弘君登壇〕

葉梨康弘君 辻元議員の御質問にできるだけ簡潔にお答えをいたします。

 憲法にかける辻元議員の思いには、与党の提出者の一員として、ある意味で敬意を表させていただきます。そして、今後の国会審議の中で、国民のためを思う我々の真摯な思いについてもぜひ御理解を賜れれば幸いに存じます。

 まず、国民投票制度の新設と国会法の改正を一つの法律で行うことの是非についてお尋ねがありました。

 憲法改正に係る国民投票法の新設とその発議手続のための国会法の改正は、憲法改正という一連の手続の中で位置づけられるものでございます。また、法律上あるいは条文上も、個別投票の仕組みを担保するための個別発議に関する条項、国民への周知広報機関である憲法改正案広報協議会の設置、構成、権限に関する事項など、内容的、政策的に密接に関連する事項がございます。これら両者の整合性を図るため、今回、その両者は内容的に一体不可分のものとして審議するべきものとして、一本化した法案で提案をさせていただいたものでございます。

 次に、憲法審査会についてのお尋ねがありました。

 本法案では、憲法審査会は、調査権限と審査権限とを有する常設の機関としています。とりわけ、憲法改正原案については、国民に開かれた形で、特に慎重かつ十分な審議の必要性がございます。そして、国民に開かれた審議を行う要請にかんがみ、公聴会の開催を義務づける必要があること、性質上、会期をまたがって慎重な審議がなされるべき議案であること、そして、このため閉会中審査について特例を設ける必要があること、さらに、審議の段階から両院間の意思の疎通を図るため合同審査会に関する規定を設ける必要があることなどから、他の委員会とは異なる扱いとする必要があり、このため、憲法審査会という特別の機関として位置づけたものでございます。この憲法審査会においては、しっかりとした真摯な調査が行われることが期待されるものでございます。

 この趣旨にかんがみれば、事前に改正の要否やその具体的内容及び論点に関する調査がなされ、これらを踏まえて憲法改正原案が提案され、その審査が行われていくというのが通常の手続であろうかと思います。憲法審査会発足当初、少なくとも国民投票法本体が施行されるまでの二年間は、改正の要否とその具体的な論点の調査に専念されることになるものと考えており、御懸念の趣旨は当たらないものと考えます。

 以上で答弁を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

    〔枝野幸男君登壇〕

枝野幸男君 まず、先ほどの笠井議員のお尋ねのうち、過半数の意味についてと最低投票率制度についてのお尋ねについて答弁を落としていたようでございますので、これをまず答えさせていただきます。

 投票に行かずに権利を放棄した者まで過半数の分母に加えることは適切ではないと私たちは考えます。一方で、わざわざ投票所まで足を運び、かつ、国会の発議を是とする意思を明確に示さなかった者については、この憲法上の規定でも国民の承認と書いてありますので、承認の意思がなかったものと判断するのが自然ではないかと考えております。

 したがいまして、賛成投票数が投票総数の二分の一を超えたことをもって憲法改正についての国民の承認があったものという規定にしているところであります。

 それから、最低投票率ですが、主権者たる国民の意思をできる限り正確に反映したものという観点からは、投票率が低いことは望ましいことではないと思っています。

 しかし、国民の皆さんの立場からすれば、賛成という意見、反対という意見と同時に、よくわからないから残りの主権者の皆さんで決めてください、こういう意思も当然にあり得るんだというふうに思っておりまして、棄権をする自由と言っては言い過ぎかもしれませんけれども、それもあり得るんではないかというふうに思っています。

 またさらに、最低投票率制度を設けますと、いわゆるボイコット運動によって発議を否決しよう、こういう運動を誘発しかねないというふうに思っております。

 また、実は、憲法改正といいますと、皆さん、例えば九条であるとか人権であるとか、そういうことが変わるということばかりを想定しておりますが、例えば最近でありますと、裁判官の給料は減額してはいけないという憲法上の規定がありまして、これを、現下の経済状況等を踏まえて、名目上他の公務員と横並びで下げるということについて、これは合憲なのか違憲なのかということで大分議論になりました。

 私は、個人的には、こういったことについては憲法の条文を変えるべきだというふうに思いますが、国民から見ればかなり技術的な規定でありまして、こういったものについて無理やり投票所に行けということがあり得るのかどうか。つまり、テーマによってやはり投票率が大きく変わってくるんだろうというふうに思っております。国民生活に大きく影響を与える、国民の関心が高いテーマについては当然高い投票率になるんだろうと思いますし、また、そのことを高い投票率にすることは、発議に賛成であれ反対であれ、発議権を持つ国会の一員である国会議員あるいは政党にとっての責任ではないか、こんなふうに思っております。

 それでは、辻元議員による質問にお答えを申し上げます。

 まず、憲法とはどのような法規範であるのかということについてお尋ねがありました。

 そもそも私たち国会は、法律を制定するという行為を通じて国民の皆さんに命令をする権限を有しています。なぜ私たちにこのような権限が与えられているのか。それは、選挙という主権者の意思に基づいて選出されているからでありますが、さらに、その前提には憲法があります。つまり、憲法によって主権者である国民から立法という権限を付与されているからこそ、私たちの権限行使は正当化をされています。また、国民から権限を付与されていると同時に、私たちは、憲法によってその権限行使の限界、つまり憲法に規定する基本的人権を害してはならないなどの制約を受けています。

 このように、憲法は、公権力から国民に対する命令である法律や政令等とは反対に、主権者である国民から、国会、内閣、裁判所等の公的機関に対し公権力行使の権限を付与し、その限界を定めるという性格を有していると考えます。こうした憲法の定義は、近代国家において共通のものであると同時に、我が国においても古来一貫しているものであることを申し上げたいと思います。

 すなわち、我が国最初の憲法と言われる聖徳太子の十七条憲法も、当時の主権者である天皇にかわって、摂政たる厩戸皇子が当時の官吏に対して命じた法規範であり、一般国民に対する命令ではないということです。

 なお、先ほど保岡議員の答弁では、国民対国家という対立概念ではない、それを乗り越えるんだというお話がありましたが、そもそも国民対国家が対立なのかそうでないのかという議論自体が、私は前提が違うと思っています。国家というものの構成要素が三つある。その国家というものの構成要素は、国民であり、領土であり、公権力である。その公権力と国民との関係を規定しているのであって、国家というのは、それを含んだ全体が国家なのであって、そもそも国家対国民などという議論ではないということを申し上げておきたいと思います。

 次に、憲法改正の限界についてお尋ねがありました。

 質問者の御指摘のとおり、憲法がその同一性を損なうような改正をすることはもはや改正とは言えません。それは革命と評価されるべきものであります。民主党は革命政党ではありませんので、現行憲法の中で、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という三つの理念を変更することはすべきでないと思っていますし、それは現行憲法の同一性を損なうものとして改正が許されないものであるというふうに考えております。

 次に、自民党の新憲法草案についての評価のお尋ねがありました。

 他党のことでもあり、また、第一次草案にすぎないとも聞いておりますので、深入りは避けたいと思っておりました。特にこの間、この六年間にわたりまして中山太郎憲法調査会長を初めとして、また、壇上におられる提案者の皆さんを初め与党の皆さんは、少なくともこの間、憲法調査特別委員会などの現場におきまして、党派を超えて幅広い合意形成に向けて、まさに誠意を持って真摯に対応してこられている、私たちもそれにこたえて誠意を持って真摯な対応のもとに、意見を一致させて手続法をしっかりつくっていこうということでやってまいりましたが、どうやらそうした真摯な考えでいらっしゃるのは、残念ながら、中山委員長や提案者の皆さんを初めとする一部の皆さんで、そうでない人の方が圧倒的だということがよくわかりましたので、遠慮なく申し上げさせていただきたいと思っております。

 御指摘のとおり、自民党の新憲法草案は、今申し上げました憲法の定義を全く理解していない論外のものであると強く申し上げたいと思っております。(拍手)

 憲法が、国民から公権力に対する授権規範であり制限規範であることを考えると、国民に対する命令と解される内容が含まれていること、これは憲法のイロハがわかっていない議論であると言わざるを得ないと思っています。また、そもそも国会は、国民の皆さんに対して憲法の範囲内で自由に義務を課すことができるのでありますから、法律でこれを定めるという規定を憲法に書くだなんということ自体も、これまた憲法のイロハがわかっていない議論である、こう言わざるを得ないと思っています。

 国会は、憲法に反しない限り自由に立法して国民に義務を課すことができるんです。特に、皆さんは国会の過半数を占めているんですから、自由に法律を制定して、それで国民に義務を課せばいいのであって、何でわざわざ憲法に国民の義務を課さなきゃいけないのか、さっぱりわけがわからない。そして、憲法によって命令を発する主体である国民が、同時に命令を受ける客体であるなどというのは、一種の論理矛盾であって、そんな論理矛盾のことを堂々と公党が提起されているだなんというのは、全く信じられないと申し上げておきたいと思います。

 また、法律でこれを定めるということについては、確かに、現行憲法においてもそういう規定があります。しかし、この規定に意味があるのは、一九四六年改正以前の日本の憲法でも、勅令などという形で、いわゆる行政命令で、法律によらないで国民に義務を課すということが日本においても歴史的に行われてきた、そういう経緯の中にあります。

 したがいまして、この四六年改正において、法律でこれを定めると書いてあることの歴史的な意味は、こうした行政命令によってはこういうことをやってはだめですよということを規定したことに法的な意味があるのであって、今や近代憲法先進国の常識として、法律に基づくことなく、つまり憲法に基づくことなく国民に変な義務を課しちゃいけませんよ、例えば課税をしちゃいけませんよとか、こんなことは常識なのであります。

 こうした歴史的な常識、世界的な常識に反した方向で、むしろ、法律の規定によりという規定をこんなたくさん設けていること、そして、やはりその中身を見てみると、実は憲法で何らかの枠を設けるんじゃなくて、法律でこれを定めるといって何でも好きなようにやってしまおうという話で、立憲主義そのもの、憲法そのものを否定するような中身でありまして、まず、憲法のイロハをしっかり勉強してきていただきたいということを申し上げたいと思っております。(拍手)

 なお、私が今申し上げたような認識は、例えば、皆さんも古くから改憲派の仲間でいらっしゃる小林節慶応大学教授なども同じようなことをおっしゃっているということを、ぜひ真摯に受けとめられるように申し上げたいと思っております。

 国会法との関係、そして憲法審査会の機能等についてのお尋ねがございました。

 この点については、大体のところ、葉梨先生が御答弁されたことと私たちも共通の認識であります。その上で一言付言させていただくならば、私どもも、憲法審査会ができたから、あるいはつくるということが、直ちに憲法の発議を国会で議論をする、こういうことにつながっていくとは私は思っておりません。

 なぜならば、まず、勘違いしている人たち、たくさんこの辺いらっしゃるようですが、国民投票で二分の一の賛成がなければ憲法は変わらないんです。国民の過半数の賛成が得られるというこの感触をつかめない限り、我々は無責任に発議はできないわけですね。同時に、国会の中で三分の二を超える合意形成が必要なんです。幸いなことに、参議院においては自民党と公明党では三分の二がございませんから、どうもけんかを売っているようでございますが、我々にけんかを売って三分の二がとれるのかよく考えていただきたいんですけれども、まず、三分の二を構成するためにどうやってコンセンサスを形成するのか、このことをしっかり踏まえて考えていかなきゃならないわけですね。

 こういうことを考えていくならば、いきなり改憲の、改正の原案を出してそれを議論するだなんという話では、国会の三分の二の形成も、国民の二分の一の形成も不可能なことはちょっと考えればわかることでありまして、まずは、中山委員長が頑張ってやってこられた五年間の憲法調査会での議論を踏まえ、その調査報告書を出発点にそれぞれの論点について議論を深めていく、こういうところから議論がスタートしていくんだ、そして、国民のコンセンサスが得られたらというときに初めて発議がなされるんだ、こういうことになっていくんだというふうに考えております。

 以上でございます。(拍手)

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副議長(横路孝弘君) 滝実君。

    〔滝実君登壇〕

滝実君 国民新党・日本・無所属の会の滝実でございます。

 議題となりました日本国憲法の改正手続に関する法律案、すなわち与党案と、日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案、すなわち民主党案の、二つのいわゆる国民投票法案について質問をいたします。(拍手)

 私は、国民投票制度について法制化への合意形成がされることが望ましい、そういう立場で憲法調査特別委員会で審議を見守ってまいりました。しかし、審議の積み重ねだけで合意に到達するには厳しい事情がある、こういうことを認識せざるを得ません。それでも道が開ける、そういうような観点から質問に入りたいと思います。

 日本国憲法の改正は、衆参両院のそれぞれ三分の二の賛成という重い要件に加えて、国民投票での過半数を求めております。これは世界の憲法では珍しい例であります。米国、オランダ、ドイツ、これらは国民投票を求めておりませんし、憲法改正に国民投票を求めている国でも、例えばフランスあるいはイタリアは、上下両院で三分の二の賛成があれば国民投票を不要といたしております。

 日本国憲法が無条件で国民投票を求めている背景には、昭和十三年の国家総動員法の成立を契機として翼賛議会が存続した、そういう歴史がありました。こうしたことが、議会だけに任せておけないという制度になっているものと考えることができるでありましょう。

 そこで、与党案、民主党案の提案者にお尋ねいたします。

 憲法改正案について賛成、反対の意見を国民に知らせるために、両案ともに広報協議会を設けることにいたしております。このことには異議ありませんが、賛成、反対を公平に扱うべきで、広報協議会の委員を所属会派の議員数で割り振らずに、賛成派と反対派から半数ずつとすべきではないでしょうか。そうしない理由を伺います。また、放送及び新聞広告の利便を政党へ提供するについても議員数で割り振っている理由を伺います。

 次に、国民投票は憲法改正の手続である、それは言うまでもありませんが、これにあわせて、憲法改正以外の重要な政治課題についても諮問的に国民の判断を求められるようにすべきではないでしょうか。

 昨年の郵政民営化法案が参議院で否決されましたのに、小泉首相は、郵政民営化賛成か反対か、国民投票的に国民に意見を聞いてみたい、そういうことで衆議院を解散しました。そのような重要案件があり得るならば、民主党案のように今回の法案に取り入れるべきであります。それとも、昨年の国民投票的に国民の意見を聞くことは議会制度上問題があるということでありましょうか。与党案の提案者にお伺いいたします。

 最後に、与党案と民主党案の提案者にお尋ねいたします。

 憲法改正手続を定めて憲法を改正しても、内閣の憲法解釈で条文に明示されていない運用が相変わらず行われるのではないかとの意見があります。我が国におけるこれまでの憲法の運用の歴史から見て、このような意見を否定することは難しいと思われますが、解釈で憲法を変えていくのをどのように抑えていくのか、伺いたいと思います。

 憲法は政治そのものでありますが、与党のためにでも、野党のためにでもないことは言うまでもありません。納得のいく国民投票法の実現を求めて、質問を終わります。(拍手)

    〔保岡興治君登壇〕

保岡興治君 与党提出者を代表いたしまして、滝議員の御質問にお答え申し上げます。

 憲法改正手続を定めた後、憲法を改正しても、内閣の憲法解釈で条文に明示されていない運用が行われるのではないか、解釈で憲法を変えていくのをどのようにして抑えるのかとのお尋ねがございました。

 日本国憲法制定から六十年近くが経過いたしておりまして、この間、我が国の社会も我が国を取り巻く環境も、内外とも大きく変貌を遂げてきており、その結果、制定当時の日本国憲法が予想していない事実や状況が出現しておりまして、憲法と現実との乖離が生じている面があるので、これに対しては、柔軟な憲法解釈によって規範性を維持し、対応してきたものと理解せざるを得ないわけでございます。

 もともと憲法は極めて抽象度の高い法であり、解釈に幅が生ずることも不可避であろうと思います。したがって、柔軟な憲法解釈そのものを否定するつもりはございませんが、このような解釈改憲にもおのずから限界があるものと考えます。また、御指摘のように、内閣の一部局が事実上憲法解釈を専権的に行ってきたことは問題があるとの意見も存在しますし、私も同じような考え方を持っております。

 そこで、私たち国会議員は、不当な解釈改憲を避けるためにも、憲法改正の際、その改正の趣旨をできるだけ条文に明確に表現するように努めるとともに、また、今後は、国会における常設の機関である憲法審査会が、その調査権限を行使し、立法府の一機関として憲法解釈を行うことも期待されるところであると存じます。

 なお、残余の質問に対しては、同僚議員から答弁させていただきます。(拍手)

    〔葉梨康弘君登壇〕

葉梨康弘君 滝議員から御質問いただきました。御質問があった事項について、できるだけ簡潔に答弁をしたいと思います。

 まず、広報協議会の構成、運営委員の割り当てについてのお尋ねがございました。

 広報協議会は、憲法改正の発議があったときに、国会みずからが憲法改正案を国民に広報するために設置されるものであります。ですから、その委員は、発議時点における国民の民意の反映という意味から、会派所属議員数の比率によりドント方式で配分することを基本としています。

 もっとも、憲法改正案の広報は、賛否両方の意見について国民にその情報を提供し、国民投票における的確な判断を仰ぐためのものですから、国会における多数、少数を踏まえつつも、中立公正さの確保が必要と考えます。したがいまして、広報協議会の構成に当たっても、ドント方式によっては反対した会派から委員が一人も選ばれない、そのような事態が生じる場合には、憲法改正案の発議に反対した会派にできるだけ配慮をすることとしています。

 同様の理由で、放送や新聞広告の利便を政党へ提供する場合についても、政党等の所属議員数を踏まえて適切に配分することとしております。

 次に、一般的な国民投票制度について、今回の法案の中に取り込まなかった理由についてお尋ねがありました。

 日本国憲法は、国会を唯一の立法機関と規定し、議会制民主主義を採用しています。したがって、一般的国民投票制度は、その意義を否定するものではありませんが、その導入自体が場合によっては憲法改正を要する課題であり、なお慎重に検討すべきものと考えています。

 加えて、国民投票が必要的要件とされており、かつ、その結果に法的拘束力がある憲法改正国民投票と、任意で諮問的な効果が想定される一般的な国民投票とでは、その本質を全く異にするものと思われます。このため、今回は、憲法改正国民投票法制に特化した議論に限定したところであります。

 ただ、先ほど申し上げましたとおり、一般的国民投票制度の意義を否定するものではありません。別途検討すべき事項であると考えております。

 以上でございます。ありがとうございました。(拍手)

    〔園田康博君登壇〕

園田康博君 民主党案に対する滝議員からの御質問にお答えを申し上げます。丁寧な御質問をいただきましたので、丁寧にお答えをしたいと思います。

 広報協議会における各会派の委員数の割り振り方法、公費による放送、広告の提供における各党への割り振り方法についてお尋ねがございました。

 私ども民主党提出者といたしましても、基本的な考えとしては、まさに滝議員同様、賛成、反対を公平に扱うべきであると考えてきたところでございます。憲法改正案の広報は、賛否両方の意見について国民にその情報を提供し、国民投票における的確な判断を仰ぐためのものでありますから、国会における多数、少数を踏まえつつも、それとは切り離して中立公正に行われるべきものと考えております。広報協議会の構成に当たっても、このような観点を反映させ、これを担保する必要がございます。

 一方、広報協議会は、憲法改正の発議があったときに、その発議をした国会みずからが憲法改正案を国民に広報するために国会に設置されるものでございます。このような趣旨にかんがみますと、その委員の構成は、発議をした時点における会派の議員数の勢力を反映させることが望ましいものでございます。したがって、その委員は、会派所属議員数の比例によりドント方式で配分することを基本とせざるを得ない面がございます。

 しかしながら、ドントによる配分では憲法改正の発議に反対した会派から一人も選ばれないという事態が生じる可能性もありますので、これは与党と同じように、このような場合には、憲法改正の発議に反対した会派にできる限り配慮をすることとした次第でございます。

 また、国民投票においては、国民に対して憲法改正案に関する情報や意見が適切に伝わることが重要でございます。そのためには、憲法改正が発議された経緯やその議論の状況等につき、これを当事者として最もよく理解している政党等によって活発に国民投票運動がなされる必要がございます。そこで、政党等が行うテレビやラジオの放送や新聞広告については、一部無料とすることといたしました。

 この場合においても、国民に対して憲法改正案に関する情報や意見が適切に伝わるためには、発議をした時点における政党等の所属議員数の勢力を反映させることが望ましいものでございます。したがいまして、放送及び新聞広告の利便を政党へ提供するについても議員数で割り振ることを基本にしたものでございます。

 しかしながら、その際にも、広報協議会への委員割り振りと同様、各政党等の所属議員数を踏まえることはありますけれども、憲法改正の発議に反対した政党等にもできる限り配慮をするべきであるものと考えております。

 この点につきましては、滝議員が御指摘されたようなことの議論があることもよく認識をさせていただいておりますので、これらの割り振りのあり方につきましては、今後十分に議論をしていきたいというふうに考えているところでございます。

 最後でございます。

 時々の政府の恣意的な解釈によって、公権力の都合に合わせて憲法の運用を左右しているという現実がございます。それどころか、同一の内閣においてすら憲法解釈が平然と変更されて、憲法の空洞化が指摘されているゆえんでございます。このままでは、憲法の基本的役割である公権力行使のルールという機能はなきがごときの状態に陥ってしまいます。

 今最も必要なことは、この傾向にしっかりと歯どめをかけて、実質的な法の支配、すなわち正義の支配を取り戻すことであると考えております。

 そのための方策として、一つは、従来のように行政府に憲法の有権解釈を独占させるのではなく、我々国会の中において有権的に憲法解釈をチェックできる機関を設けることでございます。この点、現在の憲法調査会あるいは憲法調査特別委員会にも既に日本国憲法に関する総合的な調査権限が与えられており、法案によって設置することとしている憲法審査会においてもこれは同様でございます。私たちといたしましては、これらの機関は憲法の調査、解釈において内閣法制局よりも強力な権限を有すると考えておりますので、これをぜひとも活用していきたいというふうに思っております。

 さらに、将来的な憲法本体のあり方にかかわる議論といたしましては、これまでの我が国の司法制度における司法消極主義を転換し、積極的に違憲立法審査を行う憲法裁判所などの専門の機関の設置を検討していくべきであるとも考えております。

 以上でございます。(拍手)

副議長(横路孝弘君) これにて質疑は終了いたしました。

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副議長(横路孝弘君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後四時五十八分散会

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 出席国務大臣

       総務大臣   竹中 平蔵君

       外務大臣   麻生 太郎君

       経済産業大臣臨時代理

       国務大臣   松田 岩夫君

       国務大臣   沓掛 哲男君


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