衆議院

メインへスキップ



第10号 平成18年10月26日(木曜日)

会議録本文へ
平成十八年十月二十六日(木曜日)

    ―――――――――――――

  平成十八年十月二十六日

    午後一時 本会議

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 経済上の連携に関する日本国とフィリピン共和国との間の協定の締結について承認を求めるの件の趣旨説明及び質疑


このページのトップに戻る

    午後一時三分開議

議長(河野洋平君) これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

 経済上の連携に関する日本国とフィリピン共和国との間の協定の締結について承認を求めるの件の趣旨説明

議長(河野洋平君) この際、経済上の連携に関する日本国とフィリピン共和国との間の協定の締結について承認を求めるの件につき、趣旨の説明を求めます。外務大臣麻生太郎君。

    〔国務大臣麻生太郎君登壇〕

国務大臣(麻生太郎君) 経済上の連携に関する日本国とフィリピン共和国との間の協定の締結について承認を求めるの件につきまして、その趣旨の御説明を申し上げさせていただきます。

 この協定は、日本とフィリピンとの間において、物品及びサービスの貿易の自由化及び円滑化を進め、投資の機会を増大させ、ビジネス環境の整備を図り、知的財産の保護を確保し、幅広い分野での協力を促進するものであります。

 具体的には、この協定は、両国における物品及びサービスの貿易障壁を削減、撤廃すること、また、幅広い分野での法的枠組みや協力のための枠組みを設定することを定めております。これは、例えば、投資機会の増大、ビジネス環境の整備、知的財産の保護、反競争的行為の規制、人の移動の円滑化、また、人材育成や中小企業の支援などの分野での協力についてであります。

 この協定は、平成十五年十二月の当時の小泉内閣総理大臣とアロヨ大統領の会談において交渉開始に合意したことを受け、両国政府間で締結交渉を行ってきたものであります。その結果、本年九月九日にヘルシンキにおいて、両首脳の間でこの協定の署名が行われた次第であります。

 この協定の締結により、両国間の経済上の連携が強化されることを通じ、両国の経済が一段と活性化され、また、両国関係全般が一層緊密になることが期待をされます。

 以上が、経済上の連携に関する日本国とフィリピン共和国との間の協定の締結について承認を求めるの件の趣旨であります。(拍手)

     ――――◇―――――

 経済上の連携に関する日本国とフィリピン共和国との間の協定の締結について承認を求めるの件の趣旨説明に対する質疑

議長(河野洋平君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。三ッ矢憲生君。

    〔三ッ矢憲生君登壇〕

三ッ矢憲生君 自由民主党の三ッ矢憲生でございます。

 私は、自由民主党、公明党を代表しまして、ただいま議題となりました経済上の連携に関する日本国とフィリピン共和国との間の協定の締結について承認を求めるの件につきまして、外務大臣及び農林水産大臣に対して質問を行います。(拍手)

 まず初めに、本協定の意義について質問いたします。

 我が国は、貿易自由化に向け、戦後一貫してガット、WTOを通じた枠組みづくりを進めてきました。他方、近年になり、WTOを補完する取り組みとして、世界的な規模で自由貿易協定を戦略的に締結する動きが活発化しています。そうした動きの中で、国際的にビジネスを展開している我が国の企業が競争力を維持強化するためには、我が国としても他の国々におくれをとることなく、FTAやEPAの締結を積極的に推進していくことが重要だと考えます。また、WTOやFTAあるいはEPAの取り組みは、国内消費者にとっても、輸入品の価格低下等により選択の幅が広がるという意味で、実質的な利益が感じられることと思います。

 そうした観点からは、第一義的には、我が国産業界そして我が国の消費者に配慮して貿易の自由化のための政策を推進することが重要となりますが、EPAにはそれ以上の意義があります。幅広い分野にわたって経済上の結びつきを強化するEPAには、我が国にとってのパートナーづくりといった側面があるものと考えます。すなわち、EPAを通じて、我が国の一部の業界が利益を得るだけではなく、相手国も利益を見出すことによって、相手国との二国間関係のさらなる強化につながり、我が国にとって外交戦略上有益な国際環境が形成されるべきであります。

 ついては、今次のフィリピンとの協定において、日本とフィリピンの双方にとってどのような利益が期待されるのかという点も含め、本協定の意義について、麻生外務大臣にお伺いいたします。

 次に、本協定による農林水産業への影響についてお伺いいたします。

 本協定に限ったことではありませんが、我が国とFTAやEPAの締結を希望する相手国が、我が国の農産品市場のさらなる開放を求めていることは、多くの場合事実であろうと思います。しかしながら、FTAやEPAのあり方を考えるに当たっては、例えば、産業界が利益を得るために農業がいたずらに犠牲を強いられるという事態は避けなければなりません。私は、FTAやEPAにおける農林水産物の関税交渉は、我が国国内の現状に十分留意し、我が国の農林水産業における構造改革の努力等に悪影響を与えないような形で進めるべきだと考えます。また同時に、我が国の食料安全保障の確保、農業の多面的機能への配慮も欠いてはなりません。

 そうした観点から質問いたしますが、本協定による市場開放の結果、我が国の農林水産業に悪影響を与えることにならないかという点につき、松岡農林水産大臣にお伺いいたします。

 次に、看護師、介護福祉士の受け入れについてお伺いいたします。

 今回の日・フィリピンEPAの交渉において、看護師、介護福祉士受け入れが経済連携の枠組みの中で合意されたことは、日本とフィリピンの人的、経済的なつながりを強固にする上で非常に有益と考えられます。また、フィリピンからは世界各国へ多数の看護師、介護福祉士が派遣されており、フィリピン人看護師、介護福祉士が世界的に見て評価されていることがうかがえます。日本が今後、少子高齢化社会を迎える中で、このようなフィリピン人看護師、介護福祉士が日本でも活躍することを切に願うところであります。

 今回、外国からの看護師、介護福祉士の受け入れのために枠組みを設けることについては、日本国政府としても全く初めての取り組みと聞いておりますが、日・フィリピンEPAにより具体的に何が新たに可能になるかという点につき、麻生外務大臣からの御説明をお願いしたいと思います。

 最後に、今後のEPA、FTA交渉推進の戦略についてお伺いいたします。

 我が国が推進している経済連携の取り組みを概観してみますと、まずは二〇〇二年にシンガポールとの間でEPAを締結しました。それ以後、二〇〇五年にはメキシコ、二〇〇六年にはマレーシアとの間でEPAを締結し、フィリピンとの本協定は四つ目のEPAとなります。そのほか、タイ、インドネシア、ASEAN全体、チリ、ブルネイ、湾岸協力理事会というように、数多くの相手と協定交渉を行っているものと承知しております。

 我が国が推進しているEPAは、物品の貿易自由化のみならず、投資の自由化や保護、知的財産の保護、競争政策でのルールづくり、さまざまな分野における協力等、幅広い分野において包括的に相手国との経済関係全体を強化するものであり、そのため、EPAは、その準備過程また交渉過程において大変な労力を要するものと理解しています。

 しかしながら、そうした現実は現実として、我が国産業界が競争力を強化するためにも、戦略を持って、合理的な考えにのっとって相手を選び、協定を締結していく必要があると思います。また、フィリピンとの協定は交渉に相当の時間を要したと承知しておりますが、交渉のスピードアップが求められているところであります。

 もっとも、交渉それ自体は相手のある話であり、例えばFTA締結の経験豊かなチリとは本年二月に交渉を開始し、先般九月には早くも大筋合意に至ったと聞き及んでおります。そのように、協定交渉は、相手側の交渉経験の豊富さや双方の経済関係の状況などにより差異が生ずるものとは理解いたしますが、相手次第というばかりではなく、我が国としても何らかの対応策を講じていくべきものと考えます。

 ついては、今後のEPA、FTA交渉推進の戦略とスピードアップの方策について麻生外務大臣のお考えを伺いまして、私の質問を終わります。

 ありがとうございました。(拍手)

    〔国務大臣麻生太郎君登壇〕

国務大臣(麻生太郎君) 三ッ矢議員から三問ちょうだいをしております。

 まず、本協定の意義でありますが、本協定は、物品やサービスの貿易自由化のみならず、投資、知的財産、ビジネス環境、人の移動等、幅広い分野を対象とする包括的なものとなっております。これらの分野での法的基盤を強化することにより、日本・フィリピン間の経済関係が、貿易・投資を中心に、より一層強化をされるということになります。このことは、日本・フィリピン双方にとっての利益であり、この協定を通じて両国関係のさらなる緊密化が期待されているところでもあります。また、日本にとっては、本協定が他の東アジア諸国等とのEPA交渉をさらに促進するということになり得ると期待をいたしております。

 次に、看護師、介護福祉士の受け入れについてのお尋ねがあっております。

 この協定によりまして、初めて、一定の条件のもとで、国家資格取得を目的としたフィリピン人の看護師、介護福祉士候補者の入国及び一時的滞在の受け入れが実現することとなります。また、本協定の枠組みで入国した者が国家資格を取得した場合は、看護師、介護福祉士として引き続き就労が認められることになっております。

 最後に、今後のEPA、FTAの進め方及び交渉の迅速化についてのお尋ねがあっております。

 現在、日本では、特に東アジア諸国とのEPAを積極的に進めております。今後の交渉相手は、一昨年十二月の第三回経済連携促進関係閣僚会議で決定をした基本方針にのっとって検討してまいりたいと考えております。すなわち、日本にとり有益な国際環境の形成や、経済利益の確保に留意をして交渉相手を決定してまいりたいと思っております。

 また、交渉の迅速化、スピードアップをするためには、交渉の当初から条文のひな形をあらかじめ提示することや、また、相手により交渉内容を絞ることなどを既に実践もいたしております。(拍手)

    〔国務大臣松岡利勝君登壇〕

国務大臣(松岡利勝君) 三ッ矢議員の御質問にお答えいたします。

 日・フィリピンEPAの我が国の農林水産業に対する影響についてのお尋ねでありますが、フィリピンとのEPA交渉に当たりましては、我が国の輸出関心品目でございますその品目につきまして関税撤廃を求める一方で、農林水産業の多面的機能や食料安全保障の確保、我が国農林水産業の構造改革の努力などに悪影響を与えないよう、十分留意して交渉に取り組んできたところでございます。

 その結果、フィリピンとの協定におきましては、一つといたしまして、我が国の関心品目でございますリンゴ、ブドウ、ナシなどフィリピンの関税撤廃を行う一方で、二つといたしまして、国内農林水産業への悪影響が極力生じないよう、我が国の基幹品目や地域の重要品目などにつきましては、個別品目の事情に応じ、関税撤廃の例外品目としたり、経過期間を設定するとともに、関税撤廃、削減により輸入が急増し、国内で影響が生じた場合に発動できる二国間セーフガードを確保するなどの措置を行ったところでございます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 笠浩史君。

    〔笠浩史君登壇〕

笠浩史君 民主党の笠浩史でございます。

 民主党・無所属クラブを代表して、ただいま議題となりました日本・フィリピンの経済連携協定について、政府に対して質問を行います。(拍手)

 私ども民主党は、WTOにおいて自由で多角的な貿易体制の強化充実のための協議を促すと同時に、アジア太平洋地域における相互協力と信頼醸成を進め、EPA、FTAの締結を積極的に推進していくべきと考えております。そして、このような蓄積によって、究極的には、東アジア共同体構想の実現へとつなげていくためのビジョンを描いております。ともに生きる社会づくりを掲げる私ども民主党としては、アジアに対してもEPA、FTAのネットワークを整えつつ、共同体的なつながりが熟していくように努めてまいりたいと思っております。

 まず、外務大臣にお伺いいたします。

 今回の日本・フィリピン経済連携協定も、このような東アジア共同体構想につながるものとして位置づけられているのでしょうか。基本的な哲学についてお聞かせください。そして、その際、アメリカをどう位置づけるのかも含めて、具体的にどのような構想をお持ちなのかもお答えください。

 各国では、WTO交渉が停滞する中、EPA、FTA締結の動きが活発化しております。アジア諸国でも、特に中国は、積極的に二国間及びASEANとの協定交渉を加速させています。我が国としては、東アジア共同体構想について、やはり日本が最終的にリーダーシップをとっていきたいとの思いを強く持つべきであると思いますが、外務大臣は、今後日本がイニシアチブをとるためにどのような方策をお考えになっているのか、お聞かせください。

 また、包括的なWTO体制と二国間関係であるEPA、FTAを我が国の経済外交政策の中でどのように位置づけ、推進し、活用していくのでしょうか。現在交渉中断に陥っているWTOドーハ・ラウンドについて、事態をどのように打開し、交渉再開に進めていくおつもりなのかもあわせてお答えください。

 今回のフィリピンとの協定のほか、我が国はこれまで、シンガポール、メキシコ、マレーシアとEPAを締結、発効しましたが、タイとは、大筋合意にこぎつけたものの、先般のクーデター等により締結交渉が停滞しており、韓国とは交渉が中断したままです。先日の日韓首脳会談では、中断していた交渉を再開したい旨の発言もあったと聞いておりますが、政府は、現在交渉中の各国の動向をどう認識し、交渉をどのように進めていくのでしょうか。

 また、政府からは、今回、メキシコとのEPAの規定に基づき、今後三年間の関税割り当ての枠内税率を確定する内容の議定書も提出されております。今後のEPA交渉を成功させるためにも、既に発効しているEPAに対する評価をしっかりと検証しておくことが極めて重要でございます。EPA締結による経済や外交への効果、影響についてお答えください。

 日本・フィリピンEPAの最大の眼目は、初めて労働市場を一部開放し、フィリピン人看護師と介護福祉士を受け入れることだと思います。我が国では、看護師と介護職員の不足が深刻化しております。現在、看護師は全国で四万人以上も不足しており、介護福祉士についても、充足している施設は四割にも満たないという調査があります。このような状況のもと、我が国としてフィリピン人看護師と介護福祉士を受け入れるべきと考えて今回の協定に同意をされたのか、厚生労働大臣にお伺いをいたします。

 ちなみに、我が国の看護師や介護福祉士の方々の置かれている労働環境は極めて厳しいのみならず、結婚や出産に伴って職場を離れざるを得ないケースも多いと聞きます。フィリピン人看護師、介護福祉士の受け入れに当たり、まずは日本国内の医療、介護の現場における労働条件の現状をどう認識され、今後どのような施策が必要とお考えなのか、厚生労働大臣の見解をお聞かせください。(拍手)

 医療、介護の現場における慢性的な人手不足の緩和のため、フィリピン人看護師、介護福祉士を安価な労働力として活用しようとしている施設があるという話も聞いております。一方で、日本人の看護師、介護福祉士のさらなる待遇悪化を危惧する声も聞こえてきます。日本看護協会は、自国の看護師不足を解消するとの理由で安易に外国人看護師を受け入れるべきではないと、反対の声明を出しているほどです。

 フィリピン人看護師は世界でも優秀だとされていますが、英国などの英語圏では英語で試験を受けることができますが、今回の協定では、日本で働くためには、当然ながら日本語で試験に合格しなければならないなど、ハードルは高く、現実的には受け入れはなかなか困難だと思われます。そもそも、政府としては、今後、フィリピン人看護師、介護福祉士の受け入れを拡大するつもりがあるのかどうか。もしあるのだとしたら、このために具体的にどのような施策を考えているのかについてもお答えください。

 さらには、実際の労働条件、労働環境が劣悪では、せっかく受け入れ枠を整えても優秀な人材が集まらず、その活用も難しくなります。フィリピン人看護師、介護福祉士を安価な労働力と考えるのではなく、医療に携わる専門家として、日本で働く仲間として、万全な受け入れ体制を整えることも必要です。

 フィリピン人看護師、介護福祉士の報酬については日本人と同等以上とされましたが、受け入れる施設側に遵守させるとともに、より一層の待遇改善を図ることで優秀な人材を確保すべきだと考えます。人の命や健康、心の問題にかかわる医療、介護の現場において、言葉の壁や制度、生活習慣の違いを克服し、優秀な人材を確保するために、どのような受け入れ体制を整えていくのか、また、研修の実態の確認など受け入れ後のフォローをどのように行っていくのか、厚生労働大臣にお伺いをいたします。

 政府は、外国人労働者の受け入れについて、専門的、技術的分野のいわゆる高度な技術者などに限定し、一般労働者は原則拒否するとしながらも、個別に在留資格を設け、なし崩し的に受け入れ拡大を進めてきました。一方で、現在、日本で働いている外国人労働者の四分の一以上が不法残留者とも言われております。現在の外国人労働者の就労状況に対する政府の見解をお伺いするとともに、今後、少子高齢化の進展によって労働力不足が懸念される中、外国人労働者をどのように受け入れていくのか、政府の基本姿勢をお伺いいたします。

 特に、一九九三年から、途上国との国際協力を進める目的で、外国人研修・技能実習制度が始まりました。この制度を使って多くの研修生が入国をしております。しかしながら、研修中は企業との雇用契約がないため、労働基準法などが適用されず、単に安価な労働力として長時間の単純労働をさせるケースが多く、実習に移行後も不当な条件で働かせる企業も多いのが実情です。こうしたこともあり、多くの研修生が、失踪したり、不法滞在で資格外の職についています。こうした現状を放置することは断じて許されません。政府として、こうした失踪者などの実態についてどの程度把握をされているのか、具体的にお答えください。

 また、厚生労働省では研究会を設置し、今後の対応を検討すると伺っております。いつまでに結論を出すつもりなのか、そして、どのような対策を想定されているのかをお答えください。

 次に、農業の問題についてお伺いをいたします。

 今回、フィリピンとの協定交渉では、農業分野において砂糖の関税率引き下げが問題となり、結局、四年後に再協議となりました。また、今後、アジア諸国、ASEANとの交渉に当たり、米の問題が協議の中で浮上することも予想されます。このように、農業分野における交渉で我が国が苦境に立たされる原因は、政府・自民党が長期にわたって続けてきた場当たり的でなし崩しの農政により、日本の農業基盤が脆弱になってきたことに尽きます。EPA、FTA交渉を有利に進めるためにも、早急に日本の農業政策の抜本改革と基盤の強化を行わなければなりません。

 私ども民主党は、農政を根本から改革するため、総額一兆円に及ぶ個別所得保障政策を打ち出していますが、今後、国内の農業を育成しつつ、どのような交渉を展開していくのか、農林水産大臣にお伺いをいたします。(拍手)

 さらに、民主党は以前より、国際競争力を強化し、科学技術振興を図るため、知的財産権の強化に取り組んでまいりました。今回のフィリピンとの協定では、知的財産分野において、新たに権利侵害品の税関差しとめ対象の拡大や出願手続の簡略化などが盛り込まれました。模倣品製造は、ブランド品や各種ソフトのみならず、さまざまな分野で広がっており、にせものの薬品や、にせものの部品を使った製品によって生活の安全が脅かされる可能性も決して少なくありません。

 急増する模倣品、権利侵害品の対策は、我が国のみならず、各国にとっても喫緊の課題であります。模倣品の多くがアジアで製造され、流通しております。今後、ASEANを含むアジア諸国とEPA交渉を行うに当たり、こうしたことへの対策をどのように行っていくのか、政府の方針をお伺いいたします。

 また、知的財産の戦略的な活用が両国の経済発展に資すると考えますが、政府の認識をお聞かせください。

 最後に、東アジア共同体構想という壮大なビジョンのもとに、今回の日本・フィリピン経済連携協定を位置づけ、我が国としてこのような蓄積を積み重ねていくためには、アジア各国・地域からの信頼、協力が不可欠であることは言うまでもありません。ともに生きるアジアをつくるために、日本が果たすべき使命は大変大きいと思っております。力で力をねじ伏せようとする覇道ではなく、王道によりアジアの国々と接することのできる日本であるよう心から願って、私の質問を終わらせていただきます。(拍手)

    〔国務大臣甘利明君登壇〕

国務大臣(甘利明君) 笠議員にお答えいたします。

 EPAにおける模倣品対策及び知的財産の活用についてのお尋ねであります。

 EPAにおける模倣品対策につきましては、日・フィリピンEPAにおきましても模倣品の販売禁止が規定されましたが、今後とも、WTOのTRIPs協定における義務以上の保護が達成されますように、制度整備等を促していく所存であります。

 このように、EPA交渉を通じまして、各国が知的財産保護を強化し、投資環境を整備することによりまして、外国企業の投資や国内企業の健全な活動が促進され、アジア諸国全体の経済活動が活発化すると考えます。

 経済産業省といたしましては、引き続き、模倣品対策を初め、アジア諸国において十分な知的財産保護が図られますように取り組む所存であります。(拍手)

    〔国務大臣麻生太郎君登壇〕

国務大臣(麻生太郎君) 笠議員より七問ちょうだいをいたしております。

 まず、日本・フィリピンEPAと東アジア共同体構想の関係についてのお尋ねがあっております。

 EPAと東アジア共同体との関係につきましては、平成十六年十二月に経済連携促進関係閣僚会議で決定をされました基本方針にも言及をされているところです。すなわち、EPAは、東アジア共同体の構築を促すなど、政治・外交戦略上、日本にとって有益な国際環境を形成することに資するものであり、日本・フィリピンEPAにつきましても、このような考え方に基づくものであります。

 次に、東アジア共同体構想についてのお尋ねがあっておりました。

 日本は、地域の平和と繁栄のため、自由、民主主義、人権などの普遍的価値とグローバルな規範にのっとった、開かれた東アジア共同体を築いていきたいと思っております。東アジア地域協力の発展に向けて、アメリカを含みます地域内外の諸国の理解と支持も得つつ、東アジア首脳会議を初めとする各種の枠組みを、それぞれの特色を生かしながら、幅広く活用してまいりたいと思っております。

 続いて、東アジア共同体構想について、日本がリーダーシップをとっていくための方策についてのお尋ねがあっております。

 日本は、東アジア首脳会議を初めとする各種枠組みを活用して、金融やエネルギー、感染症対策等、地域のさまざまな共通課題に関する具体的な協力に積極的に貢献してきたところでもあります。また同時に、ASEANを初めとする東アジア諸国との間で経済連携協定、いわゆるEPAを推進してまいります。こうした重層的な取り組みを通じて、将来の共同体の形成に向けてリーダーシップを発揮してまいる考え方であります。

 次に、WTO体制とEPA、FTAに関する日本の方針についてのお尋ねがあっておりました。

 日本は、WTOを中心とする多角的自由貿易体制、いわゆるWTOの維持強化を対外経済政策の基本といたしております。一方、EPA、FTAにつきましては、このWTOを補完し、我が国の対外経済関係の発展及び経済的利益を確保することに寄与するものであると認識をいたしております。このような認識のもと、日本として、WTOとこれを補完いたしますEPA、FTAを車の両輪として、双方を着実に進めてまいりたいと考えております。

 次に、WTOドーハ・ラウンド中断の事態打開に向けた方針についてのお尋ねがあっております。

 WTOドーハ・ラウンド交渉のいわゆる中断というものは、多角的貿易体制の恩恵を受けておりますすべてのWTO加盟国にとって望ましくない状況であります。日本としても、関連閣僚会合への参加や関係各国との意見交換などを通じて交渉再開への働きかけを行っております。引き続き、ドーハ・ラウンド交渉の早期再開に向けて積極的に取り組んでまいりたいと存じます。

 次に、現在進行中のEPA交渉、とりわけタイ及び韓国との現状及び方針についてのお尋ねがあっておりました。

 日本は、東アジアとのEPAを重要な課題と位置づけております。包括的で質の高いEPAの締結を目指し、スピード感を持って、交渉を積極的に進めてまいりたいと考えております。

 タイとのEPAの交渉につきましては、協定の条文は基本的に確定をいたしております。しかし、御存じのように、タイの国内事情のために署名には至っておりません。日本としては、早期にタイ側がこのEPAに署名できる政治状況になることを望んでおるところでもあります。

 韓国とのEPA交渉につきましては、交渉の取り進め方についての意見の相違があります。交渉が中断をしておる理由ですが、日本としては、引き続き、誠意を持って、交渉再開に向けて韓国側に粘り強く働きかけを行ってまいります。

 最後に、既に発効しておりますEPAの効果や評価についてのお尋ねがありました。

 既に発効いたしておりますシンガポール、メキシコ、マレーシアとの協定は、貿易の自由化や経済活動の円滑化のためのルールづくりを行いました。マレーシアとの協定については、本年七月に発効したばかりでありますので、その効果は現時点で必ずしも明確ではございません。しかし、シンガポール及びメキシコとの間では、例えばメキシコでは、一年間に約三八%増加したりいたしておりますので、EPAの発効後、貿易量が増加し、投資も拡大をしておるというように思っております。

 このように、EPAが日本と相手国との間の経済交流を活発化させ、相手国との二国間関係の一層の緊密化につながることに資するものだというように考えております。(拍手)

    〔国務大臣柳澤伯夫君登壇〕

国務大臣(柳澤伯夫君) 笠議員から、私に対しては六点にわたって御質問がありました。

 まず、フィリピン人看護師及び介護福祉士の受け入れの背景についてでございます。

 国内におきましては、御指摘のように、看護、介護いずれの分野におきましても、全体としては人手不足の状況ではないものの、一部地域や事業所では人手不足感があるものと認識いたしております。こうした人手不足感に対しては、有資格者の未就労者の就労促進等により対応すべきものと考えております。したがいまして、今度の受け入れにつきましては、労働力不足対策ではなく、あくまでもフィリピンとの経済連携協定の枠内で例外的、特例的に行うものであります。

 我が国の看護職員、介護労働者の労働実態についてお尋ねがありました。

 看護職員の労働実態等については、医療技術の進歩、患者の高齢化、重症化等により、看護職員の役割は複雑多様化しており、その業務密度も高まっていると認識いたしております。このため、新人、中堅等の各レベルでの研修を通じた資質の向上等に取り組んでいるところであります。

 介護労働者については、賃金面の不満や定着率が低い等、解決すべき課題があると認識しております。このため、雇用管理の改善等に努めてまいります。

 フィリピン人看護師、介護福祉士の受け入れ拡大についてお尋ねがありました。

 外国人が日本語で看護師、介護福祉士の試験に合格することは簡単ではないと考えております。そのため、受け入れに当たっては、入国後六カ月間、財団法人海外技術者研修協会において日本語研修を実施した上で、その後、国家試験までの間、病院や介護施設において日本語学習や生活支援を含む適切な研修が行われることを受け入れの要件とする予定としているところであります。

 なお、受け入れ規模については、当面、現在の協定内容以上に拡大する予定はございません。

 四つ目に、フィリピン人看護師、介護福祉士の待遇改善、受け入れ体制の整備についてお尋ねがありました。

 フィリピン人との雇用契約においては、日本人と同等以上の報酬であることを受け入れ要件とする予定であります。また、受け入れ施設で就労する場合には労働関係法令が適用されることから、同等報酬要件等の遵守状況や研修の実施状況について国際厚生事業団を通じて確認するとともに、同事業団が受け入れ施設に対して適正な雇用管理についての助言指導を行うことといたしております。

 五つ目は、外国人労働者の受け入れ方針等についてのお尋ねがありました。

 我が国では、すぐれた外国人研究者、技術者等を積極的に受け入れることとしているほか、日系人等、身分に基づく在留資格で入国した外国人などが現在就労いたしております。その上に、現在受け入れを認めていない外国人労働者を新たに受け入れるとすれば、一つ、労働市場の二層化等の悪影響が生じて格差是正の妨げになること、また二つ目に、滞在の長期化や定住化に伴う深刻な社会的問題が発生する等の弊害が懸念されることから、慎重に対処すべきものと考えております。

 その関連で、外国人研修・技能実習制度についてお尋ねがありました。

 平成十七年に報告のあった研修生と技能実習生の失踪者の数は千八百八十八人であります。外国人研修・技能実習制度につきましては、規制改革・民間開放推進三カ年計画等におきまして制度の適正化について指摘がなされており、このため、厚生労働省としては、御指摘の研究会を設置し、実務研修中の法的保護のあり方、不正行為を行った受け入れ機関に対する規制の厳格化等の事項を中心に検討を行い、今年度中に結論を得てまいる所存であります。

 以上であります。(拍手)

    〔国務大臣松岡利勝君登壇〕

国務大臣(松岡利勝君) 笠議員の御質問にお答えいたします。

 農業政策の抜本改革とEPA交渉についてのお尋ねでありますが、我が国農業が秘めております新世紀にふさわしい戦略産業としての可能性を最大限に引き出すためには、意欲と能力のある担い手に施策を集中化、重点化することにより、我が国農業の構造改革を進めることが必要であります。

 このため、担い手に対象を絞った新たな経営安定対策を平成十九年産から導入すべく、関係法律を整備したところであり、この戦後農政の大転換ともいうべき政策改革により、強靱な農業構造を実現してまいります。

 また、EPA交渉に当たりましても、このような農政改革の努力を最大限に生かすことができるように、相手国とのEPAにより、食料安全保障の確保や構造改革の努力に悪影響を及ぼさないかといった視点を重視するとともに、農業分野におきましても、我が国農産物の強みを最大限に生かして、ギブ・アンド・テークの関係が成り立つよう、我が国と相手国双方のメリットのバランスを十分考慮する必要があると考えております。

 農林水産省といたしましては、農業の構造改革による体質強化を促進しつつ、攻めるところは攻める、譲るところは譲る、守るところは守るとの考えのもと、我が国と相手国の農業の共存共栄が図られますようなEPAを締結できますよう積極的に取り組んでまいります。

 以上であります。(拍手)

議長(河野洋平君) これにて質疑は終了いたしました。

     ――――◇―――――

議長(河野洋平君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後一時四十八分散会

     ――――◇―――――

 出席国務大臣

       外務大臣   麻生 太郎君

       厚生労働大臣 柳澤 伯夫君

       農林水産大臣 松岡 利勝君

       経済産業大臣 甘利  明君

 出席副大臣

       外務副大臣  浅野 勝人君


このページのトップに戻る
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.