衆議院

メインへスキップ



第11号 平成20年11月18日(火曜日)

会議録本文へ
平成二十年十一月十八日(火曜日)

    ―――――――――――――

  平成二十年十一月十八日

    午後一時 本会議

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 国籍法の一部を改正する法律案(内閣提出)

 労働基準法の一部を改正する法律案(第百六十六回国会、内閣提出)

 麻生内閣総理大臣の金融・世界経済に関する首脳会合出席等に関する報告及び質疑


このページのトップに戻る

    午後一時二分開議

議長(河野洋平君) これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

谷公一君 議案上程に関する緊急動議を提出いたします。

 内閣提出、国籍法の一部を改正する法律案を議題とし、委員長の報告を求め、その審議を進められることを望みます。

議長(河野洋平君) 谷公一君の動議に御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。

    ―――――――――――――

 国籍法の一部を改正する法律案(内閣提出)

議長(河野洋平君) 国籍法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。法務委員長山本幸三君。

    ―――――――――――――

 国籍法の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔山本幸三君登壇〕

山本幸三君 ただいま議題となりました法律案につきまして、法務委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、出生後日本国民である父に認知された子の日本国籍の取得に関する国籍法の規定は一部違憲であるとの最高裁判所判決があったことにかんがみ、父母が婚姻をしていない場合における認知された子にも届け出による日本国籍の取得を可能とするとともに、虚偽の届け出に対する罰則の新設等、国籍行政の適正な運用を図るために必要な法整備を行おうとするものであります。

 本案は、去る十一月十三日本委員会に付託され、翌十四日森法務大臣から提案理由の説明を聴取し、本日質疑を行い、採決の結果、全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。

 なお、本案に対し附帯決議が付されたことを申し添えます。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は可決であります。本案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

谷公一君 議案上程に関する緊急動議を提出いたします。

 第百六十六回国会、内閣提出、労働基準法の一部を改正する法律案を議題とし、委員長の報告を求め、その審議を進められることを望みます。

議長(河野洋平君) 谷公一君の動議に御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。

    ―――――――――――――

 労働基準法の一部を改正する法律案(第百六十六回国会、内閣提出)

議長(河野洋平君) 労働基準法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。厚生労働委員長田村憲久君。

    ―――――――――――――

 労働基準法の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔田村憲久君登壇〕

田村憲久君 ただいま議題となりました労働基準法の一部を改正する法律案について、厚生労働委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、長時間労働を抑制し、労働者の健康を確保するとともに仕事と生活の調和を図るため、所要の措置を講じようとするもので、その主な内容は、

 第一に、一カ月八十時間を超える時間外労働について、法定割り増し賃金率を二割五分から五割に引き上げるものとすること、

 第二に、年次有給休暇について、労使協定により、五日分は時間単位で取得できるものとすること

等であります。

 本案は、第百六十六回国会に提出され、継続審査となっていたものでありますが、本日、提案理由の説明の聴取を省略した後、自由民主党、民主党・無所属クラブ及び公明党より、法定割り増し賃金率を五割に引き上げる規定について、一カ月六十時間を超える時間外労働に適用するとともに、施行期日を平成二十二年四月一日に改める修正案が提出され、趣旨説明を聴取しました。次いで、討論、採決の結果、修正案及び修正部分を除く原案はいずれも賛成多数をもって可決され、本案は修正議決すべきものと決した次第であります。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は修正であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(河野洋平君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり修正議決いたしました。

     ――――◇―――――

 内閣総理大臣の発言(金融・世界経済に関する首脳会合出席等に関する報告)

議長(河野洋平君) 内閣総理大臣から、金融・世界経済に関する首脳会合出席等に関する報告について発言を求められております。これを許します。内閣総理大臣麻生太郎君。

    〔内閣総理大臣麻生太郎君登壇〕

内閣総理大臣(麻生太郎君) 私は、十一月十三日から十五日まで、米国のワシントンを訪問し、金融・世界経済に関する首脳会合に出席をしました。

 首脳会合におきましては、各国は、現下の金融危機と世界経済の減速への対応、そして、国際金融システムと金融規制、監督の改革の方向性と具体策で一致をいたしております。

 まず、危機への短期的な対応につきましては、各国が協力して行動をとっていくことを確認しております。

 私からは、九〇年代からの日本の経験を踏まえ、次の点を強調いたしました。不良債権の徹底かつ早期の開示、二、金融機関に対する公的資金による資本の増強、三、マクロ経済政策により実体経済を支えることの重要性であります。

 次に、中期的な危機の防止策に関してであります。

 この点につきましては、危機の影響を受けた中小国や新興国への支援を進めること、そして、IMFなどの国際金融機関の資金基盤を増強する必要性が共有されました。そのため、日本は、IMFに最大一千億ドル相当の融資を行う用意があることを表明しました。

 これに対し、参加首脳から、評価と歓迎の意が表明されたところです。また、IMFの専務理事からも、金融資本市場の安定維持に大きく貢献し、日本のリーダーシップへの強いコミットメントを明確に示すものとして、歓迎の声明が出されたところでもあります。

 次に、金融の規制、監督の改革についてであります。

 有機的な国際的連携の機能の強化、二、格付会社への規制と監督体制の導入、三、市場混乱時の時価会計基準の扱いなど、私が指摘した世界各国の協調的な取り組みの必要性について、首脳間で共有をされたところです。

 さらに、保護主義に対抗し、経済が内向きにならないようにするとともに、WTOドーハ・ラウンド交渉の今後の枠組み、いわゆるモダリティーについて、年内に合意するよう努力することについて一致をしております。

 最後に、長期的な通貨体制のあり方としては、次のようなことを会議で主張いたしました。

 問題の根底には、世界的な貿易の不均衡があります。これを是正するため、基軸通貨国は、赤字体質を改める一方、過度に外需に依存している国は内需拡大に努める必要があります。こうしたすべての国の政策協調により、ドル基軸通貨体制を支える努力を払うべきことを申し上げました。

 一方では、アジアなど、域外に開かれた地域協力は、グローバリズムを補完するものであります。日本としては、十二月のASEANプラス3や東アジア首脳会議などに向け、アジア地域の金融協力強化と自律的発展のため、取り組みを進めていきたいと考えております。

 なお、首脳会合出席に加え、ブラジルのルーラ大統領、英国のブラウン首相、インドネシアのユドヨノ大統領と個別に会談を行いました。

 ルーラ・ブラジル大統領とは、金融危機への対応などについて意見交換を行うとともに、二国間関係を強化していくことで一致しました。

 ブラウン英国首相とは、金融危機に対する国際的な取り組みを中心に意見交換を行い、多くの点で意見が一致をいたしております。

 ユドヨノ・インドネシア大統領とは、金融危機の克服を初め、経済分野を中心とした両国の連携について意見交換を行いました。

 日本の具体的な提言は、首脳宣言にもその多くが盛り込まれたところです。

 我が国は、今回の首脳会合の成果を具体的な行動に移します。また、新しい世界経済と金融に対応した国際的経済システムの実現に向け、引き続きリーダーシップを発揮していきたいものと考えております。(拍手)

     ――――◇―――――

 内閣総理大臣の発言(金融・世界経済に関する首脳会合出席等に関する報告)に対する質疑

議長(河野洋平君) ただいまの発言に対して質疑の通告があります。順次これを許します。平沢勝栄君。

    〔平沢勝栄君登壇〕

平沢勝栄君 質問に先立ちまして、一部の野党が、昨日の党首会談で何らの合意を見なかったからという理不尽な理由で、既に合意されていた参議院側の委員会日程をほごにしている事態に対しまして、私は、議会制度の崩壊を懸念し、猛省を促すものであります。

 次に、自由民主党を代表いたしまして、去る十四日及び十五日に麻生総理及び中川財務・金融担当大臣が出席された米国ワシントンにおける金融・世界経済に関する首脳会合について、総理及び財務・金融担当大臣にお伺いいたします。(拍手)

 まず、今次会合は、先進国、新興国、途上国の多くの主要国首脳が一堂に会する歴史的な場となりましたが、総理は会合の場で積極的にリーダーシップを発揮され、各国首脳から高い評価を得たと聞いておりますが、どのようなリーダーシップを発揮されたのか、お伺いしたいと思います。

 今回の首脳会合においては、国際金融機関、特にIMF改革が重要なテーマになりました。現下の世界的金融危機を克服していく上で、IMFが果たす役割の重要性は多言を要しません。しかし、アジアにおいては、IMFに対して、不信とまではいかないまでも、複雑な気持ちを抱く向きがないわけではありません。一九九七年のアジア経済危機の際、融資を行う際にIMFが途上国に対して要求したさまざまな政策上の条件、いわゆるコンディショナリティーは必ずしも適切ではありませんでした。また、アジアの国の中には、当時のIMFの対応に感情的な反発を示す向きもありました。

 今後、いわばアジアの代表たる我が国が、IMF改革に臨むに当たり、アジア経済危機のときのことを改めて総括しておくことは極めて重要なことであると考えますが、この点に関する総理の御所見をお伺いしたいと思います。

 続いて、今次首脳会合で採択された金融・世界経済に関する首脳会合宣言の内容についてお聞きしたいと思います。

 私自身の感想を申し上げますと、金融危機への当面の措置、中期的措置が盛り込まれ、内容的に充実し、具体性に富んだ宣言であり、高く評価できるものと考えております。

 この宣言を読んだ際、やはり目に飛び込むのは、新興国、途上国が、より大きな発言権と代表権を持つべしという点であります。例えば、金融安定化フォーラムという金融規制、監督の対話フォーラムを新興市場国に早急に拡大せよとのくだりがあります。世界経済における新興国の比重を考えれば当然のことであり、日本としても積極的に推進していくべきと考えます。

 その一方で、参加国がふえれば、これまで先進国がリードしてきた金融規制、監督のスピードが逆に後退しないかという手続面での懸念もまたあり得ますが、これをどのように解決していくおつもりか、中川財務・金融担当大臣に質問したいと思います。

 世界経済が後退懸念にさらされているとき、国は内向きになる傾向があると言われます。そのような流れを防ぎ、自由貿易を推進するためにも、世界貿易機関、いわゆるWTOのドーハ・ラウンドの早期妥結は重要な点であると思われます。

 本宣言においては、WTOのドーハ・ラウンドを成功裏に妥結に導く枠組みについて本年合意に至るよう努力する、我々は、貿易担当大臣に対してこの目標の達成を指示し、また、必要に応じて直接支援を行う用意をしておくとのくだりがあります。このWTOドーハ・ラウンドの年内妥結に向けての決意について、総理の御所見を伺いたいと思います。

 今回のG20サミット開催は、中国、インド、ブラジルといった新興経済国を参加させなければ世界経済を運営していくことはできないという現実を象徴的に示しました。経済面における世界的な枠組みに大きな変化が起きているときに、政治、安全保障面が旧態依然としたままでは許されるはずはありません。

 政治、安全保障面において、国際機構として最も重要な役割を果たしているのは国連安全保障理事会であり、その中でも常任理事国の力は圧倒的であります。中国を初めとする新興経済国が世銀やIMFにおいてより大きな役割と発言権を獲得しようとしているときに、日本が安保理常任理事国になる見通しが全く立たないことに複雑な思いを持つのは私だけではないと思います。

 単に経済にとどまらず、大きな世界的な枠組みの問題として、日本は安保理常任理事国入りを積極的に推し進め、早期に実現すべきものと考えますが、総理の御所見をお伺いしたいと思います。

 今後の世界経済を見通したときに、一つのかぎとなるのが中国経済であります。中国は、世界の工場と言われるまでに発展し、減速が懸念されるとはいえ、驚異的な経済成長率を誇っています。しかし、その内実は、輸出に過度に依存する一方、国内総生産に占める個人消費の割合は過小のままであり、決して健全なものとは言えません。

 一衣帯水とは、単に日中友好の政治的スローガンではありません。経済の実態は、中国の繁栄なくして日本の繁栄はなく、その逆も真であるというところまで来ています。一九八〇年代、巨大な対米貿易黒字を抱えた我が国は、米国から内需主導型の経済構造への転換を厳しく求められましたが、今、それが求められているのは中国ではないでしょうか。十三億もの民を有する中国が内需主導型の経済構造へ転換していくことのメリットははかり知れないものがあると考えますが、それをどのように促していくべきか、総理の御所見をお伺いしたいと思います。

 最後に、今般の首脳会合は大変有意義であったと考えますが、今後重要なことは、今回決めたことのフォローアップであります。世界経済が急速に変化する中で、なるべく早く第二回会合を開催する必要があります。世界第二位の経済大国たる日本の重みにかんがみれば、本邦開催も有力な選択肢ではないかと思いますが、次回会合開催地及びその時期に関する総理の御所見をお伺いしたいと思います。

 これから年末にかけて、APEC首脳会議、ASEAN関連首脳会議、東アジア首脳会議等、さまざまな会合が予定されています。総理におかれては、今次会合の成果をそれらの会合と有機的に関連づけつつ、金融危機の克服及び世界経済の安定に向け、引き続きリーダーシップを発揮していただくことをお願いいたしまして、私の代表質問といたします。(拍手)

    〔内閣総理大臣麻生太郎君登壇〕

内閣総理大臣(麻生太郎君) 平沢議員の質問にお答えをいたします。

 まず最初に、今回の首脳会合における日本のリーダーシップについてのお尋ねがありました。

 今次会合では、私から、一九九〇年代からの日本の経験を踏まえた短期的な対応策を説明するとともに、IMFに対する最大一千億ドルの融資表明を行うなど、重要な貢献を行い、各国から高い評価を得られたと考えております。

 また、格付会社への規制、監督体制の導入、二、市場混乱時の時価会計基準の扱いなど、金融の規制、改革の必要性を指摘し、首脳宣言にもそれらが盛り込まれたところです。

 今後、日本といたしましては、今回の合意の迅速で着実な実施に取り組みつつ、引き続き世界経済の安定に貢献してまいりたいと考えております。

 アジア通貨危機の総括についてお尋ねがありました。

 アジア通貨危機の際、IMFが果たして適切な対応を行ったかということにつきましては、御指摘のような議論の余地があります。それを踏まえ、日本としては、現下の金融危機を克服していく上で、特に中小国、新興国に対する支援についてIMFに現実的かつ柔軟な対応を促しつつ、引き続きこれを活用していくことが重要と考えております。

 なお、東アジア地域におきましては、当時の通貨危機の反省に基づき、通貨危機が生じた際に各国の外貨準備を融通し合います、いわゆるチェンマイ・イニシアチブの枠組みが整えられてきておりまして、これはIMFを補完するものと位置づけておるところです。

 WTOドーハ・ラウンドの年内妥結に向けた決意についてお尋ねがありました。

 金融危機のもとでは、保護主義に抵抗し、貿易・投資の一層の自由化を進めなければなりません。保護主義に走れば、貿易は減少し、全世界が敗者となります。

 今般の首脳会合では、このような観点から、各国首脳が世界経済における貿易のあり方を議論し、WTOドーハ・ラウンド交渉がバランスのとれた形で早期に妥結するよう、メッセージを発出したところであります。

 政府としても、宣言に述べられたとおり、最大限の努力をしてまいる覚悟であります。

 日本の安保理常任理事国入りを積極的に推し進め、早期に実現すべきとの御意見がありました。

 安保理改革につきましては、国連において、交渉の開始が決定され、改革の実現に向けた機運が高まってきております。

 政府といたしましては、二十一世紀にふさわしい国連に変えていくため、日本の常任理事国入りを含みます安保理改革に引き続き積極的に取り組んでまいる覚悟であります。

 中国経済についてお尋ねがありました。

 中国の輸出依存度は高く、国内総生産に占めます個人消費の割合は少ない、小さいのは事実であります。この点は中国側も認識をしており、先般、温家宝総理は、内需拡大のための新たな措置を提唱されました。日本としては、これを高く評価しているところであります。

 中国の内需主導による自律的な経済成長は、世界経済の安定した発展に寄与するものでありまして、日本としても、中国側の取り組みを引き続き注視してまいる考えであります。

 最後に、次回の金融サミットの開催地及びその時期についてお尋ねがありました。

 次回首脳会合は、来年四月三十日までに開催されることとなり、詳細は、今後、各国間で調整が図られることとなりました。

 日本としては、現下の状況に対応していく上で、開催地及び開催時期を含めまして、次回会合をいかなる形とすることが適当かとの視点で関係国と協議を進めていきたいと思っております。

 いずれにいたしましても、日本としては、今回の合意の迅速で着実な実施に取り組みつつ、引き続き世界経済の安定に貢献してまいりたいと考えております。

 残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)

    〔国務大臣中川昭一君登壇〕

国務大臣(中川昭一君) 平沢議員にお答えいたします。

 金融安定化フォーラムにおける新興国、途上国等の発言権などについてお尋ねがありました。

 今回の首脳会合におきましては、金融安定化フォーラムは新興国に早急に加盟国を拡大すべきとされたところであります。

 具体的な拡大の進め方につきましては、今後検討していくことになりますが、参加国が増加した場合に、金融規制、監督のスピードが鈍るのではないかとの懸念につきましては、テーマによって適宜作業部会を活用するなどの工夫が必要になるものと考えております。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 下条みつ君。

    〔下条みつ君登壇〕

下条みつ君 民主党の下条みつでございます。

 私は、ただいまの麻生総理の金融サミットの報告に対しまして、民主党・無所属クラブを代表して質問させていただきます。(拍手)

 麻生総理、大変ハードスケジュールな金融サミット、お疲れさまでした。総理の得意とされている外交と経済分野ですが、二十カ国の首脳の中で、わずか二日間でその存在感をアピールされるのは、さぞかし大変だったとお察し申し上げます。

 ただ、きょうは、本音で思い切った質問をさせていただきますので、総理、よろしく御回答をお願いいたします。

 まず、今回、緊急に会合が開催されるに至った世界金融危機の問題です。その原因とその責任の所在について、総理は一体どのようにお考えでしょうか。

 世界的な経済学者ポール・サミュエルソン教授は、悪魔的な金融工学が原因と指摘した上で、金融商品に何が組み込まれているか理解していた経営者は一人もいなかった、一連の危機は過去八年間にわたる市場の規制緩和がなければ起きなかったと、米国ブッシュ大統領の政策の失敗を明確に指摘しています。

 つまり、アメリカの住宅バブルの崩壊によってサブプライムローンの焦げつきに端を発した巨額の不良債権が、細かく切り分けられた証券化商品のどこに入っているのかだれにもわからない状態になっており、アメリカ政府も何のチェックもしなかったということであります。自由な市場経済がモラルハザードを引き起こすまで、アメリカ政府が放置した結果だと言えます。

 まず、この金融危機の原因と責任について、総理の御認識をお伺いしたいと思います。

 次に、総理が表明されたIMFへの一千億ドル、つまり日本円で約十兆円の融資についてお聞きします。原因と責任の大部分がアメリカにある金融危機に対して、なぜ、今、日本が約十兆円もの巨額の融資をIMFに対してしなければならないかであります。

 日本の外貨準備高は、平成二十年九月末、約百兆円です。この外貨準備高の一〇%に相当する十兆円を融資する根拠は一体何かということであります。

 IMFの資金規模は全体で約三十二兆円、主要国からの出資比率は、アメリカが一八、ドイツが六パー、イギリスが五パー、フランスも五パー、そして日本は六パーで、約二兆円の出資をしております。アメリカに次いで世界で二番目の出資国であります。今までは、自国の経済規模に応じた応分の負担をきちんとしてきております。総理は、各国からのIMFへの出資規模を現在の三十二兆円から六十四兆円へ倍増することを提案され、これが実現するまでの緊急融資として、十兆円、実に提案された増資額の三分の一を日本が先につなぎ融資するという大盤振る舞いを御提案されたわけであります。

 そこで私が疑問に思うのは、第一に、現在、IMFには約二十兆円の余剰資金があります。それなのに、今なぜ日本が十兆円融資するかの根拠が不明であります。

 第二に、世界各国の外貨準備高を円建てで見れば、二〇〇八年四月時点で、日本は約百兆円であるのに対して、中国は百七十六兆円、ロシアが五十二兆円、インドは三十一兆円となっております。したがって、日本一国が千億ドル、つまり十兆円を出すには、非常に無理があると思います。

 一体、総理は、何を裏づけに、日本だけが十兆円の融資をするという判断をされたのか、理解に苦しみます。その根拠をお示しいただきたいと思います。

 このようにお聞きしますと、総理は、IMFへの出資比率を拡大することで、発言力を確保するねらいがあるとお答えになるかもしれません。また、IMFの資金力増強に貢献して新興国を味方につけ、増資の際に出資比率を拡大する戦略とお答えになるかもしれません。では、この発言力とは一体何のことでしょうか。

 もし発言力が増すと、日本国民にとってどのようなメリットがあるか、明確に御答弁いただきたいと思います。

 さらに、百八十カ国を超えるIMF加盟各国が総理の提案した二倍の増資に直ちに応じてくれれば結構ですが、もし、追加の出資が実行されず、IMFの資金が現在の三十二兆円から六十四兆円にならなければ、日本が出す十兆円は、一体、いつどこから日本に返済され、そのIMFの倍額増資の計画は、どこまで話し合われ、合意が取りつけられているのでしょうか。聞くところによりますと、金融サミットに参加した二十カ国のうち、まだどこも増資をオーケーしていないのではありませんか。

 イギリスのブラウン首相は、新興国が拠出金をふやすべきだとして、直接中国に連絡したり、サウジアラビアやカタールなどの産油国へ出向いていますが、まだ増資を承諾したとは伝えられておりません。今回の金融サミットでも、日本以外に融資の意向を示した国はありませんでした。日本と世界銀行との出資で設立する中小国向けの三十億ドルの新しい基金についても、中国に協力を断られ、日本単独になったと伝えられています。

 このように、十兆円の融資について、どこまで国際的な調整、根回しができているのか、非常に疑問であります。どこかの何とか給付金と同じで、全く生煮えではありませんか。

 これまでのIMFの緊急支援融資は、その融資条件が厳しく設定されており、融資先の国における財政、金融両面の引き締めや弱体化した金融機関の閉鎖などが厳格に求められておりましたが、今回は、それを大幅に緩和する方針であると伝えられております。ということは、日本が融資する十兆円は、非常に甘い条件、緩い審査でどんどん新興国、中小国へ貸し付けられていくという結果になりかねません。その点についても、総理は一体どうお考えなのか、お答えいただきたいと思います。

 冒頭で申し上げましたように、原因と責任の大部分はアメリカにあります。ブッシュ大統領の経済政策、金融政策の失敗とアメリカの投資銀行のモラルハザードにあります。その後始末に、日本一国だけが十兆円もの巨額で危険な融資を背負う必要がどうしてあるんでしょうか。総理は、きちんと国民に説明すべきです。なぜ、出資比率に応じた主要国からの協調融資ではなくて、日本一国の融資なのかをです。

 さて、私がなぜこう言うかといいますと、総理はよく御存じだと思いますが、主要先進国における各国政府の債務残高、この対GDP比を国際比較してみますと、二〇〇八年現在、イギリスが五〇%、フランスが七一%、イタリアが一一七%、そして、日本は一七一%。日本は、GDPの一・七倍に上る借金大国、先進七カ国の中で最悪の水準であります。他の先進国が着実に財政健全化を進めて、対GDP比の債務残高を減らしている中で、日本は急速に悪化、最近の四年間では対GDP比一七〇%を超える借金大国になってしまったんです。その日本が、なぜ一国だけで十兆円拠出するのかという意味であります。

 総理は、外貨準備からの融資だから直接財政に響かないとおっしゃるかもしれませんが、外貨準備も、もとをただせば国民の税金ではありませんか。それも、赤字国債を発行して日本が借金をしたお金で米国より買わされているものであります。つまり、日本は、借金をして積み上げた外貨準備のお金をIMFに出そうとしているのではないでしょうか。

 また、もう一つ御紹介したい数字があります。自殺率の国際比較であります。

 WHOの資料によると、人口十万人当たりの自殺率で見たとき、イギリスは六十三位で七人、イタリアが六十二位で七人、アメリカは四十三位で十一人、カナダは四十一位で十二人、ドイツは三十四位で十三人、フランスは十九位で十八人、そして、我が日本は世界の中でワースト第九位で二十四人であります。先進七カ国の中でやはり最悪です。これが日本で苦しんでおられる方々の本当の姿ではないでしょうか。

 さらに、株価の下落率を見てみます。

 この九月から十月末にかけて主要株式指数を比較してみますと、今回の金融サミットに参加した二十カ国は当然すべて下落しています。その下落率の小さい順番で見ると、先進七カ国で一位はアメリカです。二位がイギリス、三位がフランス、四位がドイツ、五位がイタリア、六位がカナダ、そして、最下位は日本であります。悪い悪いと言われた米国は、実は参加国で一番下落率が低くて、反対に日本は一番悪いんです。総理、これが日本の株式市場の現実であります。

 借金率も最悪、自殺率もトップ、株価の下落も最大、そんな日本のありさまの中で、果たして、十兆円という巨額の融資を出すことに、国民感覚として、庶民感覚として非常に大きな疑問、大きな違和感を感じるのは私だけでしょうか。総理、わかりやすく言えば、そんな場合ではないのであります。国内を何とかしなくてはとお思いになりませんか。

 そして、それでもなお、総理の提案どおり、仮に日本が外貨準備からIMFを通じて十兆円を融資するのであれば、その後のチェック、フォローについても責任を持ってかかわっていく体制にすべきだと思います。総理、金融サミットの場で、この点も当然強く主張されてきたはずだと思いますが、御説明いただきたいと思います。

 IMFの二〇〇六年の職員数は二千六百六十七人、このうち日本は三十六人で、一・三%にすぎません。これまでの出資比率が六・三%、今回十兆円出せば、実に二八・六%にはね上がります。IMFから新興国、中小国への緊急支援融資についても、日本がその審査や管理に積極的に関与できる体制を要求して当然だと考えます。

 実は、このことは、総理がIMFの役割として提案された早期警戒機能の強化に深く関係しております。

 そもそもIMFの目的は、協定第一条に、国際金融秩序を維持し、また為替制限を撤廃することによって世界貿易の拡大を図り、もって経済成長を促進させるとあり、もともと、個別の金融機関、個別の金融商品を監督、監視する機関ではありませんし、その機能も持っていないんです。そもそも、経済や金融状態の違う国ごとにそれぞれのルールに従って経営されている民間金融機関を、IMFが一つの基準で監督していくことは現実的に難しいと思います。すると、総理の言われるIMFの早期警戒機能とは具体的にどういうことなのか、お示しいただきたいと思います。

 むしろ、従来からのIMFの緊急支援融資の制度の中で、きちっとした審査、チェックをしていくことが基本であります。国際的取引を専門とする個別の金融機関や、高度に専門化、細分化された金融商品の監視、監督、規制は、各国の金融当局の協調の中で別の枠組みで取り組むべき課題であると提案いたします。総理の主張は、規制、監督の強化を強く求めるフランスなどのヨーロッパ各国と、規制強化にもともと消極的なアメリカの中間をとっただけに見えてなりません。

 日本国内に目を転じれば、新銀行東京の失敗、農林中金の外債運用の問題など、どれも融資の素人、運用の素人による失敗と言っても過言ではありません。同じように、IMFはマクロ経済の専門家であって、ミクロ経済のプロではありません。IMFに個別の金融機関や個別の金融商品を審査、管理することを過大に期待してもかなり難しいと、各国の多くの専門家の方たちも指摘しております。

 現在の資金三十二兆円のIMFに十兆円出すのですから、その先の運用についても、十兆円が垂れ流しになることのないように、日本が厳しく審査して、また、審査体制について主張をして当然だと考えます。金融サミットの場で強く話されたと思いますが、総理の御説明をお聞きします。

 総理、私は、困っている中小国、新興国を助けなくていいと言っているのではありません。IMFに十兆円出すのなら、日本は日本の内情とその分に相応して対応すべきであり、今、日本の国内で困っている人を救うことが先ですと申し上げているのであります。

 具体的な例を挙げれば、全国の公立小中学校の耐震補強工事なら、総事業費おおむね三兆円、このうち三分の二を補助するとなれば、二兆円でできます。

 子育て支援を考えても、全国の三歳から五歳までの幼児教育、つまり幼稚園や保育所にかかる保護者の負担は約七千億から八千億円で十分に賄えます。児童手当支給額を一律二万円にする場合の追加費用は約二兆円です。

 医療で見ても、医師不足で困っている全国の自治体の病院の累積赤字総額は、約一兆九千億円で補てんすることができます。未就学児の医療保険の自己負担を無料化した場合、国の経費は千五百億円で済みます。

 年金の関係でも、例えば低所得者への基礎年金の公費支給は、一兆一千億円でできます。

 民主党が主張している農林漁業を守るための所得補償は、一兆四千億でできます。

 そこで、今回発表された金融サミットの宣言を見ると、内需刺激の財政政策の活用が盛り込まれております。中国、アメリカ、ヨーロッパ各国などが打ち出した景気対策の総額は百兆円を超えております。実際の景気浮揚効果については懐疑的な見方も出されていますが、日本国内の対策は、果たして、総理が十月三十日に会見を開いて発表された生活対策だけで十分だとお考えなのでしょうか。

 総理は、会見の中でも、ポイントはスピード、迅速に、選挙よりも景気であると国民への公約として言っておられますが、二次補正予算の提出は一体いつになるんでしょうか。当然、会期を延長してでも速やかに二次補正を提出し、国会を正常化し、一刻でも早く国民生活を救うべきだと考えます。会期の延長とあわせて、総理にお伺いいたします。

 総理は、金融サミットを終えた後の記者会見で、日本は金融危機を一国だけで乗り越えてきたと自信満々におっしゃっていました。総理、今の日本は生活危機なのであります。

 きのう、与謝野大臣が景気後退を、内閣府がGDP成長率の二期連続マイナスなどを発表していますが、生活危機を早く救うために、生活対策、景気対策をやっていくのが筋ではありませんか。

議長(河野洋平君) 下条君、申し合わせの時間が過ぎましたから、なるべく簡単に願います。

下条みつ君(続) 国民が待っているのは、都合が悪いから国会を閉じて、海外に金を出すことではないんです。

 総理、どこか、よほどの大国が困っているんでしょうか。IMFの資金を三十二兆から六十四兆へ倍にしておかなければならないほどの潜在的危機が、もうどこかの国であるのでしょうか。それとも、その大国が、不良資産買い取りとか住宅公社支援、自動車産業支援のために百兆円以上の財政支援が想定され、IMFへの財政支出の余裕がないので、その国のしりふきをしてあげているのでしょうか。また、資金が苦しくなった中小国、新興国がロシアや中国から直接資金を借りてしまい、その大国の世界戦略上のバランスを危惧しているのでしょうか。しかし、だからといって、IMFを使って何とか食いとめるために、日本だけに金を出せというのは筋違いも甚だしいのであります。

 繰り返しますが、私は何も、中小国、新興国を救わなくていい、バランスを崩してもいいと言っているのではありません。日本だけが、国情を考えたときに、十兆円を出す必要はないのではと申し上げているのであります。今こそ、日本のリーダーとして、お金を差し出すだけではなく、国家観を持って、指導力、調整力を発揮すべきだと申し上げているのであります。

 総理、貸しをつくるのであれば、間もなくやめるブッシュさんではなく、今後、四年また八年つき合うオバマさんではありませんか。それが、日本の国益を考えた、したたかな外交なんであります。

 どうか皆さん、最後に申し上げます。

 総理、私は、今まで申し上げたことは、総理がすべて悪いということを言っているのではありません。ほとんどだめだと言っているのであります。

 以上、私の質問を申し上げて、このごあいさつとかえさせていただきます。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

    〔内閣総理大臣麻生太郎君登壇〕

内閣総理大臣(麻生太郎君) 下条議員からの、ごあいさつではなく、御質問にお答えさせていただきます。

 まず最初に、今回の世界金融危機の原因と責任についてお尋ねがありました。

 今回の金融危機は、証券化商品に代表される新しいビジネスモデルが拡大していく中で、市場参加者がそのリスクを適切に管理できず、金融市場が深刻な混乱に陥ったものであります。他方、幾つかの先進国におきましては、規制当局も金融技術革新の速度についていけず、混乱が一層深まったものだと認識をいたしております。

 IMFへの融資についてお尋ねがありました。

 国際金融システムが大きな危機に直面している状況において、日本によるIMFへの融資の意図を表明いたしました。このことにより、金融支援を必要とする国々のニーズにこたえる十分な財源をIMFが有しているという信頼感を高め、金融市場の混乱に対する新興市場国の抵抗力を強めることとなります。ひいては、このことが国際的な金融市場の安定維持に大きく貢献するものと考えております。

 IMFに対する日本の融資の返済についてお尋ねがありました。

 日本がIMFに対して融資する最大一千億ドルの融資は、IMFから中小国、新興国に対して支援を行うための原資となるものであります。したがって、日本に対するその返済は、支援を受けた中小国、新興国からのIMFへの返済を原資とし、IMFの責任でなされるものであり、IMFの増資とは関係ありません。

 IMFの融資審査についてお尋ねがありました。

 今回の危機に当たり、IMFは、危機に対応する新興国、中小国に対して積極的かつ柔軟に支援を行っていかなければならないと考えております。

 他方、IMFは、融資を行うに当たって、審査体制を充実させる必要があるというのは御指摘のとおりであります。例えば、IMFが最近、短期流動性のファシリティーを導入したのは御存じのとおりです。ここでは財政金融政策の引き締めといった政策要件は課されませんが、借入国が良好な経済実績を有しているかどうかについて審査することといたしております。

 日本一国の融資を実施することについてお尋ねがありました。

 IMFに対して行う融資は、我が国の外国為替特別会計の保有する外貨準備を活用するものであります。このことにより、金融支援を必要とする国々のニーズにこたえる十分な財源をIMFが有しているという信頼感を高め、金融市場の混乱に対する新興市場国の抵抗力を強めることになります。ひいては、このことが国際的な金融市場の安定維持に大きく貢献するものと考えております。

 なお、私からは、産油国や外貨準備を多く有する国が日本の取り組みに加わることを促す発言も行っております。一つでも多くの国が中小国、新興国支援のために融資に加わっていただくことを期待しているものであります。

 IMFに対する融資のチェックとフォローについてお尋ねがありました。

 IMFに対して行う融資は、IMFの一般資金勘定への貸し付けの形で行われ、通常行われる他のIMFの融資と同様の財源として活用されることとなります。日本としては、IMFに対する第二位の出資国として、当然のことながら、IMFの業務のチェックとフォローにかかわっていくことになります。

 IMFの早期警戒機能についてお尋ねがありました。

 IMFの早期警戒機能とは、IMFがIMF加盟国のマクロ経済、金融市場の状況が危機に陥る可能性があるかどうかを早期に発見し、各国の当局に適切な対応を促し得るための機能であります。したがって、個別の金融機関、個別の金融商品の監視、監督を念頭に置いたものではありません。

 生活対策についてのお尋ねがありました。

 政府・与党が取りまとめました生活対策におきましては、第一に生活者の暮らしの安心、第二に金融・経済の安定強化、第三に地方の底力の発揮というようなものを三つの重点分野として、必要な施策を取りまとめつつあります。こうした対策を着実に実施していくということで、金融市場の安定化、経済の活性化を通じた自律的な内需主導の経済成長につなげていきたいものと考えております。

 最後に、二次補正予算の提出時期と会期の延長についてのお尋ねがあっております。

 二次補正につきましては、現在、作業を急がせております。その提出時期及び国会の会期を延長するかどうかについては検討しているところであります。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 上田勇君。

    〔上田勇君登壇〕

上田勇君 私は、公明党を代表して、ただいま議題となりました金融・世界経済に関する首脳会合、いわゆる金融サミットの報告に対し、麻生総理並びに関係大臣に質問をいたします。(拍手)

 今日の世界経済を取り巻く状況は、百年に一度とも言われる金融危機に見舞われ、先進国のみならず、新興国、途上国を含めて大きな試練に立たされております。

 こうした中で、主要二十カ国の首脳や国際機関の代表が一堂に会して、世界経済の成長を回復し、世界の金融システムに必要な改革を達成するために協働することを決意したことは、極めて有意義なものであったと認識いたしております。

 また、日本としては、麻生総理が、危機の克服として、幾つかの具体的な提案を行うとともに、かつての日本における金融危機克服の経験、教訓を世界各国首脳に紹介し、その共有もできるなど、日本の果たす役割も大きなものがあったと考えております。

 一九二九年に起きた世界恐慌から八十年、戦後のいわゆるブレトンウッズ体制が構築されてから六十年余りが経過をいたしました。今日、世界が新たな試練のときを迎える中で、世界各国は、それぞれの課題や困惑を抱えながらも、知恵を結集していかなければなりません。

 世界経済の構成の大きな変化を踏まえて、今回の会合には、先進国に加えて新たにロシア、中国、インドなどの新興国も参加しました。その意味では、長期的な視点に立って世界経済の安定と成長に向けた新たな国際的秩序のあり方を模索し、再構築していく上で、大きなターニングポイントとなる歴史的な会議であったと考えております。

 麻生総理に、今回の金融サミットの意義についてどうお考えか、まずお伺いいたします。

 以下、首脳会合の内容に関して質問をいたします。

 初めに、景気対策についてお伺いいたします。

 首脳会合で合意された宣言においては、各国が即効的内需刺激の財政政策を用いると記されています。景気対策が重要であると世界各国が一致した認識のもとで、財政出動による景気の下支えを行うマクロ経済政策について協調していくことが合意されました。

 既に、我が国においては、第一次補正予算を成立させたのに続き、先月末には内閣、与党において新たに生活対策を決定しています。その中には、所得税、住民税の定額減税の前倒し実施でもある定額給付を含む生活者支援、中小・小規模企業支援など総額二十七兆円規模の幅広い分野にわたる施策が含まれております。国際的な合意に従ってこれらの経済対策を迅速、円滑に実施していくことは、我が国の国際的な責務であると考えますが、総理の御認識をお伺いいたします。

 そのためにも、早期に第二次補正予算の編成、成立を目指すとともに、平成二十一年度予算案、税制改正においては、生活対策に盛り込まれた施策を着実に実行するほか、景気対策を最優先した内容にしていくべきだと考えます。総理のお考えをお伺いします。

 首脳会合においては、今般の危機の根本原因について、世界経済の金融への行き過ぎた偏重が起こり、その中で適正、慎重なリスク管理を行う姿勢が失われ、健全な市場の基礎である規律や透明性が低下していったことにあるとの認識が共有をされたと承知しております。あくまで、自由な市場が基本ではあるものの、公正で公平なルールに基づくものでなければなりません。

 金融は、元来は、実体経済の活動を円滑化、効率化することを通じて実体経済の発展を支援する機能を果たすべきものであります。しかし、今日の金融は、実体経済と乖離して肥大化し、結果として実体経済の足を引っ張るものとなってしまいました。

 今回の首脳会合において、金融市場と規制枠組みを強化する改革を実行し、特に、規制当局は、国境を越える資本フローを含め金融市場のすべての部門において協調、連携を強化するべき合意がなされたことは評価するものであります。

 しかしながら、各論においては、例えばヘッジファンドに対する規制のあり方などに関して、ヨーロッパとアメリカでは溝があるという指摘もあります。機関投資家による投機的な資金が金融や商品市場を混乱させ、実体経済にゆがみをもたらしていることは事実です。

 また、格付機関の規制についても一定の合意がなされました。格付機関は、金融市場にとり今や不可欠な存在になりつつありますが、その影響力が大きいゆえに、特にサブプライムローン問題では、より問題を増幅させる結果となりました。スタンダード・アンド・プアーズやムーディーズなどの代表的な機関はアメリカの会社であります。規制の強化に慎重な面もあるアメリカが果たして十分な対応を行うことができるのか、疑問視する声もあります。

 私は、国際金融資本市場に大きな影響を及ぼす活動に対しては、適正な規制強化が必要であると考えています。財務・金融担当大臣の御認識と規制強化のあり方に関する我が国の方針についてお伺いいたします。

 いずれにしても、国際的な金融の規制が適切に機能していくためには、グローバル経済の中では各国の規制当局との連携と協力が不可欠であります。我が国としても、こうした国際金融の適切な規制に対しては、各国の考え方の調整役を果たすなど、より積極的な役割を果たしていくべきであると考えますが、総理及び財務・金融担当大臣の御見解をお伺いいたします。

 次に、IMFの機能強化についてであります。

 IMFが国際金融の中で非常時において果たす役割は、アイスランドを初めとした中小国への支援の状況を見ても極めて重要なものであります。今般、新興国の関与を拡大することで合意がなされましたが、世界経済における各国の経済的なウエートが戦後直後とは大きく変化していることからすれば、ある意味当然のことではありますけれども、極めて重要な変化でもあります。

 また、これに関連して、麻生総理は、IMFの金融市場の動きに対するモニタリング機能の向上やIMFの財政基盤強化などについて、当面の対応として最大一千億ドルの資金融通についてコミットされました。この提案に関し、各国は総じて前向きな評価を示しておりますが、これは、世界経済危機の克服に向けた日本に対する期待の表明ではないかと思います。

 さらには、アジアの中の日本として、アジア銀行の拡充などを含めた域内金融の円滑化においても、日本の役割は大きなものがあります。

 IMF機能及びアジア金融のあり方と日本の役割について、総理の御見解を賜りたいと存じます。

 次に、国内の金融情勢について伺います。

 国際的な金融危機と世界経済の停滞の影響もあり、国内の金融機関による貸し渋り、貸しはがしといった信用収縮が一層深刻になっています。中小・小規模企業の資金繰りは極めて厳しく、経営が著しく圧迫を受けております。

 既に、政策金融機関による貸付枠の拡大や要件の緩和、信用保証の対象業種の拡大や融資枠の拡大等、事業規模で総額三十兆円の対策が決定をされています。また、金融担当大臣ほか関係大臣からは、金融機関等に対して、資金供給の円滑、迅速な対応の要請も行っています。しかし、多くの中小企業等では、資金調達に依然として大変苦労しているのが現状であります。我が国経済の基盤を支えるとともに多くの雇用の場を提供している中小企業等に対する支援は、最優先に取り組んでいかなければいけない課題であります。

 総理の御認識と御決意を伺います。

 最後に、本日の異常な国会の状況について総理に伺います。

 参議院では、あらかじめ外交防衛委員会の与野党の理事間で合意されていた、法案に関する質疑、採決、また財政金融委員会等、すべての審議が行われておりません。

 昨晩の党首会談において、小沢民主党代表が、第二次補正予算が提出されるまで一切の審議を拒否する旨発言したと報道されています。

 政府・与党としても、早期に補正予算の成立を期すべきだと考えており、鋭意編成作業を進めているところではあります。しかし、それを条件に、事前の合意をほごにして、金融危機対応のための法案審議も含めてすべての審議を拒否するとの対応は、理不尽そのものであり、まことに遺憾と言わざるを得ません。この事態に関する総理の御所見を伺い、私の質問とさせていただきます。(拍手)

    〔内閣総理大臣麻生太郎君登壇〕

内閣総理大臣(麻生太郎君) 上田議員の質問にお答えをさせていただきます。

 まず最初に、今回の金融サミットの意義についてのお尋ねがあっております。

 世界的な経済状況が悪化する中で、今次首脳会合では、主要先進国と新興経済国の首脳が一堂に会し、金融危機と世界経済減速への対応、金融システムのあり方などにつき議論を行いました。その結果、四十七項目の行動計画を含む、具体的かつ行動志向的な宣言を発出しました。このようなサミットが開催されたのは初めてのことでもあり、歴史的な会合であったと考えております。

 金融危機を克服し、世界経済を安定させるため、今回の合意の迅速で着実な実施に取り組むことが重要と考えております。

 経済対策の迅速、円滑な実施についてのお尋ねがありました。

 八月の安心実現のための緊急総合対策に続きまして、今般、政府・与党が取りまとめた生活対策におきましては、第一に生活者の暮らしの安心、第二に金融・経済の安定強化、第三に地方の底力の発揮という三つを重点分野として、必要な施策を取りまとめております。こうした対策を着実に実施することで、金融市場の安定化、経済の活性化を通じた自律的な内需主導の経済成長につなげてまいりたいと思っております。

 補正予算及び平成二十一年度予算案についてのお尋ねがありました。

 補正予算の提出時期につきましては、現時点で決めているわけではありません。しかし、生活対策に基づき、速やかに実施できるものについては実施に移すこととし、予算措置が必要なものはさらに内容を詰めるなど、必要な作業を進めているところであります。

 また、本対策に盛り込まれました施策につきましては、平成二十一年度予算編成とも連結して、切れ目のない連続的な実行を図ってまいりたいと考えております。

 国際金融の適切な規制に関し、我が国の役割についてのお尋ねがあっております。

 先日の金融・世界経済に関する首脳会合におきましては、私から、金融の規制、監督の改革について、一、有機的な国際連携の機能の強化、二、格付会社への規制と監督体制の導入、三、市場混乱時の時価会計基準の扱いなど、世界各国の協調的な取り組みの必要性を指摘し、首脳宣言にもそれが反映をされておるところです。

 日本としては、引き続き、金融における適切な規制のあり方についてリーダーシップを発揮していき続けたいと思っております。

 IMFの機能強化、アジア金融のあり方などについてのお尋ねがありました。

 IMFにおきましては、危機の再発防止に資するため、早期警戒機能や市場監視機能を高めることが重要であると考えており、私からも、先日の首脳会議で提案をしたところです。

 また、新興国、中小国への支援におけるIMFの役割も重要であり、そのためのIMFの資金基盤を確保するため、日本からIMFに対し、最大一千億ドルの資金融通を提案したところであります。

 他方、IMFの取り組みを補完するものとしては、アジア地域におきましては、通貨危機が生じた際に各国の外貨準備を融通し合う形でのチェンマイ・イニシアチブの枠組みが整えられつつあるところであります。

 我が国は、今後とも、IMFの機能強化及び地域金融協力の両面においてリーダーシップを発揮していかなければならないと思っております。

 中小・小規模企業に対する支援についてお尋ねがありました。

 年末を間近に控え、多くの中小・小規模企業の経営者が資金繰りに不安を感じておられるのは御存じのとおりです。この不安に対し、生活対策に基づき、三十兆円規模のしっかりとした資金繰り支援を講じてまいりたいと考えております。また、民間金融機関に対しましても、中小・小規模企業に対する円滑な資金供給の確保に努めるよう、要請をしておるところであります。

 早速、十月末には、緊急保証制度を開始しました。昨日まで営業日で十一日間になりますが、既に三万七千件を超える相談をいただいております。さらに、経済環境の悪化に迅速に対応すべく、先週、ソフトウエア産業や電気メッキ業など、対象業種を拡大したところでもあります。

 今後とも、経済情勢を注視して、中小・小規模企業に対する資金繰り支援を迅速かつきめ細かく実施してまいりたいと考えております。

 最後に、民主党が審議を拒否していることについての御質問がありました。

 民主党が、第二次補正予算を提出しないと法案の審議に応じないと主張しておられることは、まことに残念であります。

 インド洋補給支援法及び金融機能強化法は、それぞれ重要な法案でありまして、これまで野党の御理解も得て、順調に審議をしていただいてきたものであります。これらの法案と何ら関係ない二次補正案と関係づけて審議を拒否されることは、理解をできません。速やかに審議を進め、国民の負託にこたえることを期待しております。

 残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)

    〔国務大臣中川昭一君登壇〕

国務大臣(中川昭一君) 上田議員にお答え申し上げます。

 ヘッジファンドや格付会社に対する規制強化についてのお尋ねでございます。

 御指摘のように、金融取引が国境を越えて行われる中、国際金融資本市場において大きな影響力を及ぼし得るヘッジファンドや格付会社に対しては、国際的に協調してさまざまな問題に取り組んでいくことが重要であります。

 この点につきまして、先般のG20首脳会合では、ヘッジファンドについては、統一されたベストプラクティスの提示を求め、その適切性を評価すること、格付会社については、国際的に共有されているルールと整合的に、格付会社に対する強力な監督を実施していくことなどについて合意が得られたところであります。

 我が国といたしましては、これらの課題につきまして引き続き国際的な議論に参加していくとともに、格付会社につきましては、証券監督者国際機構の基本行動規範をベースに、登録制度の導入についても検討を行っていきたいと考えております。

 次に、金融の適切な規制における我が国の役割についてお尋ねがありました。

 先般の金融・世界経済に関する首脳会合におきましては、麻生総理より、金融の規制、監督の改革について、有機的な国際連携の機能強化、格付会社への規制と監督体制の導入、市場混乱時の時価会計基準の扱いなどについて、世界各国が協調的な取り組みを進めていくことの必要性が提案され、同会合後に公表された首脳宣言にもその旨反映されているものと承知しております。

 こうした総理のリーダーシップを踏まえ、今後、来年四月三十日までに開催される次回会合に向けて最大の成果が得られるよう、我が国としては、各国当局等と協調しつつ、今般の首脳宣言の行動計画について着実な実施を図るとともに、金融安定化フォーラムなどの場において、金融危機の再発防止、金融システムの強化のための国際的な議論に引き続き積極的に参加していきたいと考えております。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 佐々木憲昭君。

    〔佐々木憲昭君登壇〕

佐々木憲昭君 私は、日本共産党を代表し、金融サミット報告に対して質問します。(拍手)

 まずお聞きしたいのは、巨大金融機関やヘッジファンドを規制、監督する具体策について、麻生総理自身がこの会合でどのような提案をしたのかという点であります。

 この十年来、アメリカでは金融業界に大きな変化が起こりました。金融緩和、自由化政策のもとで、銀行の貸出債権を売却し、それを証券化し、さらに他の金融商品と組み合わせて金融派生商品を次々とつくり出し、それらの投機的な売買を通じて価格をつり上げ、金融バブルを発生させてきたのであります。それを推進してきた張本人が巨大な複合金融機関とヘッジファンドであったことは明らかであります。麻生総理にその認識はあるのでしょうか。

 サミットで配付された麻生提案のどこを見ても、その活動を具体的に規制する提案がないのはなぜでしょうか。

 麻生提案の中で、自由な市場原理に基づく競争が成長の基礎であると述べていることは重大です。これまで、アメリカ政府は、経済の活性につながるとして投機活動を放置し、まともに規制しませんでした。麻生総理の提案は、それを容認するものになっているのではありませんか。

 金融サミットの宣言は、アメリカの政策立案者、規制当局及び監督当局に対して、リスクを適切に評価し対処しなかったと批判しています。総理はこの指摘をどう受けとめているのでしょうか。

 また、日本は、異常な低金利政策を長い間続け、円を低金利で大規模に調達し、金利の高いドルで運用する円キャリートレードを増幅させたのであります。これがアメリカの金融バブルを発生させる一因となったことは金融当局も認めており、日本にも重大な責任がありました。総理にその認識はあるのでしょうか。

 結局、麻生総理は、金融サミットで、自由市場原則を強調するアメリカに追随し、巨大金融機関やヘッジファンドを規制する具体策を示すこともなく、目玉政策として十兆円の資金融通を提案したのであります。これでは、日本は単に気前よくお金を出すだけの存在と思われるだけではありませんか。

 総理は、日本の経験を世界に伝えると言われました。しかし、日本がやってきたことは何でしょうか。乱脈経営で危機に陥った大銀行に対して国民の税金を大規模に投入したこと、不良債権処理の名で中小企業に犠牲を押しつけたこと、リストラで労働者を減らし利益を上げたことであります。これらは、何の責任もない国民に、金融機関の乱脈経営の犠牲を転嫁するものだったのではありませんか。

 このため、失敗しても最後は税金で救ってくれるという安易な依存心を日本の銀行業界に蔓延させました。これまでの銀行甘やかし政策こそ見直すべきではありませんか。

 最後に、カジノ経済破綻のツケを国民に回さない対策です。

 金融危機と景気後退を理由に、大企業が先頭に立って、派遣社員、期間社員を初め労働者を大量に解雇する動きが広がっております。例えば、トヨタ自動車とそのグループ企業では七千八百人、日産七百八十人、マツダ八百人など、名立たる大企業が相次いで派遣社員や期間社員の削減計画を発表しています。

 これらの大企業は、減益になったとはいえ、依然として莫大な利益を上げており、巨額の内部留保も抱えているのであります。こうした不当な人減らしを放置すれば、日本経済はますます深刻な事態となります。政府は、大量解雇を中止し雇用を維持する最大限の努力を払うよう、経済団体、主要企業に対して指導と監督を強化すべきであります。

 中小企業への不当なしわ寄せを許さないことも重要です。景気後退を理由とした、中小企業に対する銀行の貸し渋り、貸しはがしが強まっております。直ちにやめさせなければなりません。

 このことを求めて、質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣麻生太郎君登壇〕

内閣総理大臣(麻生太郎君) 佐々木議員の質問にお答えをさせていただきます。

 まず最初に、今回の金融危機の原因についてお尋ねがあっております。

 今回の金融危機は、証券化商品などに代表されます新しいビジネスモデルが急速に拡大していく中で、金融機関などの市場参加者がそのリスクを適切に管理できず、金融市場が深刻な混乱に陥ったものと認識をいたしております。

 巨大金融機関やヘッジファンドの活動の具体的規制の提案についてのお尋ねがあっております。

 今回の首脳会合におきましては、御指摘の点を含むさまざまな論点があります。私からは、資本移動がグローバル化した状況のもとで、金融監督や規制において国際的な協調の重要性を指摘しております。

 金融機関やヘッジファンドに対する規制については、共同宣言におきましても、情報開示の徹底、ベストプラクティスの策定などを含むさまざまな提言がなされておりますのは御存じのとおりです。日本としても、今後、同宣言に盛り込まれた事項について、具体的な施策に移していきたいと考えておるところです。

 自由な市場原理に基づく競争についてのお尋ねがありました。

 私は、自由な市場原理に基づく競争が今後とも成長の基礎であり続けることを確信しております。他方、今次の金融危機の発生には、新たな金融商品の出現やグローバル化に各国政府による監督、規制が追いついていかなかったという問題があると認識をしております。

 したがって、金融危機の再発防止のためには、金融規制、監督の改革、協調を進めていくことが重要であると認識をいたしております。

 金融サミットの宣言における指摘についてお尋ねがありました。

 今次首脳会合で合意された首脳宣言は、各国による監督、規制が金融の技術革新についていけなかったとの認識に立って、さまざまな金融危機への当面の措置、中期的措置が盛り込まれております。私も同様の認識を持っており、アメリカにおきましても、今後、今次の合意の着実な実施に取り組んでいくものと理解をいたしております。

 低金利政策及び過剰流動性のお尋ねがありました。

 日本銀行は、バブル崩壊後のデフレという極めて厳しい経済物価情勢に対応するため、御指摘の金融施策を講じたものと考えております。

 なお、金利水準が投資行動、市場の流動性などにどのような影響を及ぼすかにつきましては、国内外の経済や金融市場の動向によってさまざまな面が考えられるところであります。

 IMFへの融資についてお尋ねがありました。

 国際金融システムが大きな危機に直面している状況におきまして、日本によるIMFへの融資の意図を表明したところです。このことにより、金融支援を必要とする国々のニーズにこたえる十分な財源をIMFが有しているという信頼感を高め、金融市場の混乱に対する新興市場国の抵抗力を強めることになります。ひいては、このことが国際的な金融市場の安定維持に大きく貢献するものと考えております。

 過去の我が国における金融危機の際の政策対応についての御質問がありました。

 バブル崩壊後の日本の経済におきましては、金融機関の不良債権の処理、十分な資本の確保などが課題となっておりました。こうした課題に対応するため、不良債権処理の促進や公的資本増強を行ったものであります。

 これによりまして、金融機関の財務の健全性や金融システムの安定が確保されるとともに、金融仲介機能の発揮にも寄与したものと考えております。したがって、議員の御指摘の点は当たらないものと考えております。

 これまでの銀行甘やかし政策こそ見直すべきではないかとのお尋ねがありました。

 公的資本を増強した銀行に対しては、必要に応じ、経営責任の明確化を求めるなど厳格に対処しており、これまでの政策が甘やかしであったとの御指摘は当たらないと考えております。

 派遣社員などの雇用の維持についてのお尋ねがありました。

 雇用情勢が下降局面となる中、非正規労働者の雇用の安定の確保というものは重要な課題であると認識をいたしております。そのため、大企業を含め、派遣先が派遣契約を解除する際には、関連企業での就業をあっせんするなどにより、就業機会の確保を行うよう指導を行ってまいりたいと考えております。

 最後に、中小企業に対する貸し出しについてのお尋ねがありました。

 現下の経済情勢のもと、中小企業の業況が厳しい状況にあるのは御存じのとおりです。こうした中、年末を間近に控え、資金繰りに不安を感じる中小企業も多いと思っております。

 中小企業に対する円滑な金融は、民間金融機関の最も重要な役割の一つであると認識をいたしております。政府としても、緊急保証制度を先月末から開始するなど、しっかりとした資金繰り支援を迅速に講じているところでもあります。

 さらに、金融機能強化法の改正により、民間金融機関の資本基盤を強化し、中小企業に対する金融仲介機能の発揮に万全を尽くしてまいりたいと考えております。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 日森文尋君。

    〔日森文尋君登壇〕

日森文尋君 私は、社会民主党・市民連合を代表して、金融サミット報告に対して総理に質問いたします。(拍手)

 最初に、サミットや重要な国際会議に先んじて、従来、各党の党首の意見を伺うというのが通例でしたけれども、なぜ今回そうしなかったのか、これをまずお伺いしたいと思います。

 世界大恐慌以来とも言われる今回の危機に際して、G8の枠を超えて二十の国と地域が集まり、当面の危機の克服と二十一世紀型の国際金融体制の構築について、進むべき方向を一定確認したことは評価をしたいと思います。しかし、後世、歴史的なものと言われるとは総理の気負いにすぎず、細部の設計は先送り、日本の存在もかすんでいるように思えてなりません。アジア地域の金融協力の強化にしても、アジアとの連携の見通しは困難で、単なる資金の出し手に終わってしまう危惧すらあります。

 G20が政治ショーに終わるのか、新たな経済秩序への歴史的一歩となるのか。G20の意義と評価、日本の役割と今後の見通しについて、総理の見解はいかがでしょうか。

 G8や世界銀行、IMF主導の世界経済、金融体制に対する信頼が大きく揺らいでいる今日、世界の声を真に反映するグローバルガバナンスへ向け、国連の強化、世界銀行やIMFにおける貧困国の発言権を拡大し、公正かつ民主的な運営を図ることが必要だと思いますが、総理、いかがお考えでしょうか。

 ILOは、世界の失業者が二千万人ふえ、〇九年末には過去最悪の二億一千万人へ達する可能性があるとしています。我が国においても、派遣の中途解約、雇いどめ、内定者の取り消しといった雇用崩壊が深刻度を増しており、雇用の確保と公正な分配が求められています。グローバルユニオンもG20労働組合サミットを開き、ワシントン宣言をまとめました。とりわけ、代替エネルギーの開発や省エネによって雇用を創出するグリーン・ニューディール、環境に責任ある投資による経済回復を図るべきとの提言、需要を拡大するには、労働市場の規制緩和と労働者保護義務の撤廃ではなく、実質賃金の引き上げ、所得と富のより公正な分配を後押しすべきとの提言は注目に値すると思いますが、見解はいかがでしょうか。

 総理は次回金融サミットの日本開催を主張されていますが、実際には、麻生政権はいつまで続くのかに関心が集まっていたとも言われています。そこで、日本開催の見通しと、日本で開く場合、各国の労働者代表やNGO代表を参加させるお考えはあるのか、御所見を伺いたいと存じます。

 今回のG20は、ドル基軸通貨体制について触れられなかったことにも見られるように、金融危機の深層にメスを入れたとは言えません。金融工学の発達と小さな政府路線、アメリカの貿易赤字によって世界じゅうに垂れ流されたドルを中心とした過剰資金の流入から、カジノ資本主義が現実化しました。基軸通貨国米国の経済構造を温存したままでは、未来は見えてきません。複雑な金融商品や巨額マネーの奔流を野放しにした欧米当局の責任についてどう受けとめているのか、答弁を求めます。

 日本も、超低金利政策と米国債購入による円マネーの供給の拡大でアメリカのドル体制を下支えしてきた責任があります。必要なことは、今回の金融危機を日本経済にとっての歴史的な転換期ととらえ、大企業だけが潤う対米依存、輸出立国というあり方から、内需主導にかじを切りかえ、人間らしい暮らしを支える金融経済を目指すことだと思いますが、総理、いかがでしょうか。

 最後に、グリーンスパン前FRB議長は、私は過ちを犯したとみずから誤りを認めました。我々の直面する重要な問題は、それをつくったときと同じ考えのレベルで解決することはできないとアインシュタインが喝破したように、ブッシュ政権に追従し、新自由主義的構造改革を進めてきた自民党政権には、この世界的な危機を解決することはできません。構造改革路線を転換させ、それこそが百年に一度の危機を脱するきっかけになることを強調して、私の質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣麻生太郎君登壇〕

内閣総理大臣(麻生太郎君) 日森議員の質問にお答えをさせていただきます。合計七問の質問があったと存じます。

 最初に、重要な国際会議には、事前に各党の意見を聞くのが通例だとの指摘がありました。

 日本の命運を決める国際会議の際には国民の意見を十分に踏まえるべき、当然であります。しかしながら、国際会議のたびに事前に各党の党首の意見を聞くことは、通例だとは考えておりません。

 次に、今回の首脳会合の意義と評価、日本の役割と今後の見通しについてお尋ねがありました。

 今次首脳会合では、主要先進国と新興経済国の首脳が一堂に会し、金融危機と世界経済減速への対応、金融システムのあり方について議論を行われたところです。その結果、四十七項目の計画を含む、具体的かつ行動志向的な宣言が発出されたところです。このようなサミットが開催されたのは初めてのことでありまして、歴史的な会合であったと考えております。

 会合におきましては、私からは、九〇年代からの日本の経験を踏まえた短期的な対応策を説明するとともに、IMFに対する最大一千億ドルの融資表明を行うなど、重要な貢献を行い、各国から高い評価を得られたと存じます。

 次回会合は、来年四月三十日までに開催されることとなっております。日本としては、今回の合意の迅速で着実な実施に取り組みつつ、引き続き世界経済の安定に貢献してまいりたいと考えております。

 IMFや世界銀行、国連の改革についてのお尋ねもありました。

 先日行われた金融・世界経済に関する首脳会合におきましても、私から、IMFや世界銀行などにおける発言権、投票権のシェアにつきまして、今日の世界の経済構造を正当に反映するように見直すべきだと提案を行っております。

 その結果、首脳会合におきましては、世界経済における経済的比重の変化を適切に反映できるよう、これらの機関の改革を推進することにコミットし、最貧国も含めまして、新興市場国及び途上国は、より大きな発言権及び代表権を持つべきとされたところであります。

 雇用の確保と公正な分配についてお尋ねがありました。

 雇用の安定を図ることは、暮らしの不安を取り除くという観点から重要であります。このため、先般取りまとめた生活対策に基づき、年長フリーターなどの正規雇用化の支援、地域における雇用機会の創出などの雇用対策の強化に取り組むとともに、低炭素社会の実現につながる省エネ・新エネ設備投資減税などによる自律的な内需拡大により雇用創出を図ってまいります。

 また、家計に対する緊急支援の観点から、雇用保険料の引き下げに向けました取り組みを進めるとともに、経済界に対して賃金引き上げの要請を行う予定であります。

 次回の金融サミットの日本開催の見通しとNGOなどとの対話の重要性についてお尋ねがありました。

 第二回会合については、今後、各国間で調整が図られることとなりました。日本といたしましては、現下の状況に対応していく上で、開催地を含め、次回会合をいかなる形にすることが適当かとの視点で関係国と協議をしてまいります。

 NGOなどとの対話の重要性については、十分認識をいたしております。一方、本件会合については、第一回会合で合意をされました原則と決定を早急に実施することが最優先とされるべきであり、その上で参加形態は決定されるべきことと考えております。

 欧米当局の責任についてのお尋ねがありました。

 先日、私が出席した金融・世界経済に関する首脳会合におきましては、今般の危機の根本的な原因について、先進国と新興国で認識が共有されたところであります。

 具体的には、首脳宣言に書いてありますように、幾つかの先進国では、政策・規制当局はリスクを適切に評価せず、金融の技術革新についていけなかったとの認識が示されておるところです。

 また、首脳会談は、かかる認識に立ち、さまざまな金融危機への当面の措置、中期的措置を盛り込んであり、我が国としても、今次合意の迅速かつ着実な実施に取り組んでまいりたいと考えております。

 最後になりましたけれども、内需主導型経済への転換についてお尋ねがありました。

 現下の世界的な金融経済変動に対応していくためには、内需主導の持続的成長が可能となりますよう、経済の体質転換を進めていくことが重要であろうと考えております。

 このため、今回の生活対策において、金融資本市場の安定確保に向けて万全の措置をとることに加えまして、住宅投資の活性化、低炭素社会構築に向けた設備投資の促進などを図ることといたしております。

 また、新経済成長戦略を強力に推進するなど、新たな産業や技術により新規の需要と雇用を生み出します。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 下地幹郎君。

    〔下地幹郎君登壇〕

下地幹郎君 国民新党の下地幹郎です。

 私は、国民新党・大地・無所属の会を代表して、十一月十四日から十五日に行われたワシントンでの金融サミットについて質問をいたします。(拍手)

 麻生総理は、今回の金融サミットについて、今回の会合は歴史的なものだったと後世に言われることになるだろうと記者会見で述べられました。

 その歴史的な金融サミットを行わざるを得ないような原因は、過剰な市場原理主義、過剰な規制緩和から生まれたヘッジファンドを初めとするグローバルな投機マネーがありとあらゆる金融商品をつくったことであり、その一つであるアメリカのサブプライムローンが世界の金融危機の発端になりました。つまり、アメリカの金融政策が大きな過ちを犯したことは明確であります。

 麻生総理、今回の金融サミットで、アメリカ政府が規制強化に対して消極的な姿勢であることは、みずからの国の原因で金融危機が起こったということについて余りにも認識が甘過ぎるのではないでしょうか。

 私は、麻生総理が提案した、日本が一九九七年から一九九八年に直面した金融危機を乗り切った経験から主体的な役割を果たしていくこと、国際通貨基金、IMFに対して最大十兆円の資金を拠出すること、この二つを実行しながらも、同時に、アメリカ政府の金融政策の過ちも指摘し、同じ過ちを起こさないというメッセージをアメリカ政府に示させることが、これ以上の金融危機を拡大しない大きな防止策になるのではないかと思います。

 麻生総理は、この金融危機以降、ブッシュ大統領との会談や今回の金融サミットの全体会議において、ブッシュ大統領に対してそのことを指摘したことはあるのでしょうか。まず、そのことをお聞かせください。

 私は、このような厳しくて率直な意見をアメリカ政府に言えることが、本当の意味での日米同盟であると思います。以前、日本が国連の常任理事国に仲間入りをしたいと手を挙げたときに、アメリカの一票がふえるだけだという声が国際世論の中であったことを忘れてはなりません。それだけに、このような日米同盟に対する見方を払拭するためにも、アメリカの政府に対して意見を述べることは、我が国が世界の国々の信頼を得ることにつながることにもなると思います。

 そして、来年の四月末までに、各国がみずからの金融政策の成果をもって、いま一度G20金融サミットを行うことも決められました。そのときに、我が国は、世界の金融危機解決のための主体的な役割を果たすということを発言した立場から、国内における金融政策及び景気対策の成果を世界の国々に示さなければなりません。

 そのために、国民新党は、参議院において金融機能強化法案について新たな提案をしております。金融機関の貸し渋り、貸しはがしが行われないように、監督官庁に任せるだけではなく、立法府として明確な意思を国民に示す必要があるのではないかと考えております。つまり、金融機能強化法案の修正を行うべきであります。

 また、景気対策においては、第二次補正予算、国費五兆円の四〇%を占める定額給付金の二兆円を改め、今、国民が望む政策、医療の安心、地方経済の活性化、また今後の重要課題になる失業対策等に手厚く予算を振り分けるという見直しを行うべきであります。

 民間世論調査において、麻生総理の支持率は三〇%を切りました。定額給付金の反対も六〇%を超えました。つまり、国民は麻生総理に政策の転換を求める強いメッセージを発信しているのです。

 麻生総理、ここは国民の声に真摯に耳を傾け、政策の転換を図るべきであります。そのことは、決して迷走でも混乱でも優柔不断でもありません。だれがこの国の内閣総理大臣になろうと、国民の声に耳を傾けない人は絶対にいないからであります。

 今は、麻生総理が勇気を持って政策転換の決断をすることが必要であることを改めて強く申し上げ、私の質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣麻生太郎君登壇〕

内閣総理大臣(麻生太郎君) 下地議員の質問にお答えをいたします。

 まず最初に、今次金融危機拡大の防止策についてのお尋ねがあっております。

 私は、今次の金融危機の発生には、新たな金融商品のグローバル化に各国政府による監督、規制が追いついていかなかったという問題があると認識をいたしております。この点をブッシュ大統領が議長を務めた今次首脳会合の場でも指摘をしたところであります。その結果、首脳会談において、幾つかの先進国、どこの国かはおわかりでしょうが、幾つかの先進国では、政策・規制当局はリスクを適切に評価せず、金融の技術の革新についていけなかったとの認識が示されております。

 今後、このような認識に立ち、さまざまな措置を盛り込んだ今回の合意を各国が迅速かつ着実に実施に取り組んでいくことが重要だと考えております。

 次に、定額給付金のための予算の振り分けについてお尋ねがありました。

 定額給付金は、景気後退下での生活者の不安にきめ細かく対処するものであり、生活対策における重要な施策の一つだと考えております。また、生活対策は、定額給付金とあわせまして、医療対策、地域活性化対策、雇用セーフティーネット強化も盛り込んでおります。

 これらの施策を一体として進めることで、生活者の暮らしの安心を確保してまいりたいと考えております。(拍手)

議長(河野洋平君) これにて質疑は終了いたしました。

     ――――◇―――――

議長(河野洋平君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後二時四十四分散会

     ――――◇―――――

 出席国務大臣

       内閣総理大臣  麻生 太郎君

       法務大臣  森  英介君

       財務大臣

       国務大臣  中川 昭一君

       厚生労働大臣  舛添 要一君

 出席内閣官房副長官

       内閣官房副長官  松本  純君


このページのトップに戻る
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.