衆議院

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第9号 平成22年11月16日(火曜日)

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平成二十二年十一月十六日(火曜日)

    ―――――――――――――

 議事日程 第九号

  平成二十二年十一月十六日

    午後一時開議

 第一 平成二十二年度一般会計補正予算(第1号)

 第二 平成二十二年度特別会計補正予算(特第1号)

 第三 平成二十二年度政府関係機関補正予算(機第1号)

 第四 防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律の一部を改正する法律案(第百七十四回国会、内閣提出)

 第五 外国為替及び外国貿易法第十条第二項の規定に基づき、北朝鮮を仕向地とする貨物の輸出及び北朝鮮を原産地又は船積地域とする貨物の輸入につき承認義務を課する等の措置を講じたことについて承認を求めるの件(参議院送付)

 第六 原子力の平和的利用における協力のための日本国政府とヨルダン・ハシェミット王国政府との間の協定の締結について承認を求めるの件

 第七 所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とスイスとの間の条約を改正する議定書の締結について承認を求めるの件

 第八 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とオランダ王国との間の条約の締結について承認を求めるの件

 第九 日本国の自衛隊とオーストラリア国防軍との間における物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とオーストラリア政府との間の協定の締結について承認を求めるの件

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本日の会議に付した案件

 日程第一 平成二十二年度一般会計補正予算(第1号)

 日程第二 平成二十二年度特別会計補正予算(特第1号)

 日程第三 平成二十二年度政府関係機関補正予算(機第1号)

 日程第四 防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律の一部を改正する法律案(第百七十四回国会、内閣提出)

 日程第五 外国為替及び外国貿易法第十条第二項の規定に基づき、北朝鮮を仕向地とする貨物の輸出及び北朝鮮を原産地又は船積地域とする貨物の輸入につき承認義務を課する等の措置を講じたことについて承認を求めるの件(参議院送付)

 日程第六 原子力の平和的利用における協力のための日本国政府とヨルダン・ハシェミット王国政府との間の協定の締結について承認を求めるの件

 日程第七 所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とスイスとの間の条約を改正する議定書の締結について承認を求めるの件

 日程第八 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とオランダ王国との間の条約の締結について承認を求めるの件

 日程第九 日本国の自衛隊とオーストラリア国防軍との間における物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とオーストラリア政府との間の協定の締結について承認を求めるの件

 地方交付税法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

 農林漁業者等による農林漁業の六次産業化の促進に関する法律案(第百七十四回国会、内閣提出)

 平成二十年度一般会計予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書(承諾を求めるの件)(第百七十三回国会、内閣提出)

 平成二十年度特別会計予算総則第七条第一項の規定による経費増額総調書及び各省各庁所管経費増額調書(承諾を求めるの件)(第百七十三回国会、内閣提出)

 平成二十年度決算調整資金からの歳入組入れに関する調書(承諾を求めるの件)(第百七十三回国会、内閣提出)

 菅内閣総理大臣のAPEC首脳会議に関する報告及び質疑


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    午後一時二分開議

議長(横路孝弘君) これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

 日程第一 平成二十二年度一般会計補正予算(第1号)

 日程第二 平成二十二年度特別会計補正予算(特第1号)

 日程第三 平成二十二年度政府関係機関補正予算(機第1号)

議長(横路孝弘君) 日程第一、平成二十二年度一般会計補正予算(第1号)、日程第二、平成二十二年度特別会計補正予算(特第1号)、日程第三、平成二十二年度政府関係機関補正予算(機第1号)、右三案を一括して議題といたします。

 委員長の報告を求めます。予算委員長中井洽君。

    ―――――――――――――

 平成二十二年度一般会計補正予算(第1号)及び同報告書

 平成二十二年度特別会計補正予算(特第1号)及び同報告書

 平成二十二年度政府関係機関補正予算(機第1号)及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔中井洽君登壇〕

中井洽君 ただいま議題となりました平成二十二年度一般会計補正予算(第1号)外二案につきまして、予算委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 この補正予算三案は、去る十月二十九日本委員会に付託され、十一月四日野田財務大臣から提案理由の説明を聴取し、八日から質疑に入り、昨日、質疑を終局し、討論、採決を行ったものであります。

 まず、補正予算三案の概要について申し上げます。

 この補正予算三案は、十月八日に決定された円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策を実施するために必要な措置等を講じようとするものであります。

 一般会計予算については、歳出において、緊急総合経済対策費として四兆八千五百十三億円を計上するとともに、既定経費の減額等を行っております。

 また、歳入においては、税収において二兆二千四百七十億円の増収を見込むとともに、前年度剰余金の受け入れを計上するほか、税外収入の減額を見込んでおります。

 この結果、補正後の平成二十二年度一般会計予算の総額は、当初予算に対し歳入歳出とも四兆四千二百九十二億円増加して、九十六兆七千二百八十四億円となっております。

 特別会計予算については、国債整理基金特別会計、労働保険特別会計など十一特別会計において、所要の補正を行うこととしております。

 政府関係機関予算については、株式会社日本政策金融公庫について、所要の補正を行うこととしております。

 次に、質疑について申し上げます。

 質疑は、基本的質疑二日、集中審議一日、締めくくり質疑一日を通じ、経済対策、財政・金融政策、外交・安全保障問題、通商政策、地域主権の推進、情報管理・危機管理のあり方、政治資金問題等、国政の各般にわたって熱心に行われました。

 昨日、質疑終局後、自由民主党・無所属の会及びみんなの党から、それぞれ、補正予算三案につき撤回して編成替えを求めるの動議が提出され、趣旨の説明がありました。次いで、補正予算三案及び両動議について討論、採決を行いました結果、両動議はいずれも否決され、平成二十二年度補正予算三案はいずれも原案のとおり可決すべきものと決しました。

 いわゆるねじれ国会の中、初の補正予算審議で、見通し等、大変不安なものがありましたが、各党各会派委員各位の皆様方の御努力と御協力のおかげで、きょう、円満無事に本会議上程に至りました。委員長として、心から感謝申し上げますとともに、今後ともの御協力をお願いして、御報告といたします。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(横路孝弘君) 平成二十二年度一般会計補正予算(第1号)外二案に対しては、石原伸晃君外三名から、三案につき撤回のうえ編成替えを求めるの動議が提出されております。

 この際、その趣旨弁明を許します。石破茂君。

    ―――――――――――――

 平成二十二年度一般会計補正予算(第1号)、平成二十二年度特別会計補正予算(特第1号)及び平成二十二年度政府関係機関補正予算(機第1号)につき撤回のうえ編成替えを求めるの動議

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔石破茂君登壇〕

石破茂君 自由民主党・無所属の会を代表して、平成二十二年度一般会計補正予算(第1号)、平成二十二年度特別会計補正予算(特第1号)及び平成二十二年度政府関係機関補正予算(機第1号)につき撤回のうえ編成替えを求めるの動議に関して提案理由を申し述べる。(拍手)

 北海道五区の補欠選挙に続く、一昨日の福岡市長選挙における民主党候補の大敗は、一体何を意味するか。内閣支持率は、なぜこのように急低下し、危険水域とも言える二〇%台に突入したのか。それは、国民の間に横溢する民主党政権への不信と怒りの発露以外の何物でもない。

 民主党が、政権交代以来、ただただ自民党政権との差異化を図るべく行ってきたさまざまな試みは、何ら国民に利益をもたらすことがなかった。国民の抱いた希望は失望へと変わり、今や、絶望から大きな怒りとなって、うねりのごとく全国に高まりつつあるのである。

 内政にとどまらず、外交、安全保障における無策、無能、無定見、無責任ぶりは、今や目を覆わんばかりの惨状である。今や国民の九割が外交・安全保障政策に不安を感じているという、かつて一度もなかったこの事態を一体どのように考えているのか。

 学べば学ぶほど、沖縄におけるアメリカ海兵隊の果たしている抑止力の意味がわかった、鳩山前総理のこの言葉に、日本国民も海外政府も、ただ唖然としたのである。抑止力の意味も理解していない者がこの国の政権を担っていたという、そのような事実に対し、愕然とし、慄然たる恐怖を覚えたのである。

 普天間問題の迷走から始まった稚拙な外交は、我が国の領海である尖閣諸島海域における中国漁船との衝突問題とその後の映像流出問題、これが北方領土問題にも飛び火するなど、日米同盟には大きな亀裂が生じ、日中、日ロ関係は悪化するばかりであり、この回復には数十年を要するとすら言われている。

 APECにおいて幾つかの首脳会談が行われたが、日米同盟は何らの深化も見せなかった。今回合意を見た民間交流事業の推進は、同盟強化の本質では決してないのである。やがて示される新防衛大綱に今回の教訓はどのように反映されているのか。マニフェストにも書かれていないインド洋における補給の中止を無理やりに強行し、テロとの闘いの責任を放棄して諸外国の失望を招き、最大の懸案である普天間基地移設問題は、何の具体的な努力もしないままにその対応を沖縄県知事選挙後に先送っておきながら、何が日米同盟の深化なのか。

 外交に重大な影響をもたらす判断を、権限も能力も有しない検察に押しつけることの一体どこが政治主導なのか。政治は関与していないというのが本当に真実であるなら、それは、外交権は内閣に属し、処理すべき外交関係を所掌するのは内閣であるとの日本国憲法の趣旨に反するものであるし、実際は関与しておきながら、あくまで関与していないとするのなら、国民に対する重大な背信である。刑事訴訟法の起訴便宜主義を都合よく勝手に拡大、歪曲的に解釈しており、この何が法治国家なのか。

 国民に必要な情報の提供もせずに、一体どこが、国民一人一人がみずからのこととして考える外交なのか。政府・与党の中には、日露戦争後のポーツマス条約に臨んだ小村寿太郎の例を引き、真実を伝えれば国民世論が激高しかねないとして映像の非公開を正当化する意見があるやに聞くが、これこそまさに笑止千万である。当時の国民が激高したのは、時の政府が国民に伝えるべき真実を明らかにしてこなかったからにほかならない。歴史に学ぶとすれば、映像をすべて公開し、中国漁船の不当性と我が国海上保安庁の対応の正当性を内外に訴え、国論を統一した上で外交に臨むことが当然なのである。

 証拠を公開しないことによって守られる利益が、公開することによって得られる利益より大きい場合には、公益上、公開しないことが許される、これが刑事訴訟法第四十七条の趣旨である。この判断は内閣として行うべきものであり、内閣はその説明責任を有する、私はそのように予算委員会で何度も指摘をしてきた。公開することによって得られる利益を上回る利益とは一体何なのか、政府は何一つ説明しようとしていない。そのようなものがあろうはずがないから説明しないのだとしか私には思われない。

 映像を見た予算委員会理事の一部は、公然と報道にその内容を語っている。この状況の中で、一体映像のどこが秘密なのか。政府における情報の危機管理体制も、委員会の秘密保持体制もずさんなままにしておきながら、保安官に守秘義務を課し、厳罰に処すべきだとする主張はおかしいとは思わないのか。

 いわゆる西山事件についての東京高裁判決は、国家利益のためにではなく、時の政府の政治的利益のためになされる秘密指定は、これを疑似秘密として、国家公務員法の罪が成立しない場合があり得ると述べている。秘密の指定権者も明確に定められていなかった事実から考えても、今回の映像の秘密指定も、今の民主党政府の政治的利益のためになされたものではないかとの思いを禁じ得ない。

 やることなすことすべてがずさんであり、無責任である。これで、国民が外交、安全保障に不安を持たない方がおかしいのである。

 映像流出問題の陰に隠れた感があるが、警視庁外事第三課のテロ捜査資料の流出も極めて重大な問題であり、民主党政権の稚拙な外交、ずさんな危機管理は、我が国の国益を大きく損ないつつあるのである。

 政治資金問題をめぐり、我が党は、昨年来、小沢一郎元幹事長に対して国会の場での明確な説明を求めてきたが、いまだに実現を見ていない。この間、菅総理は、議員みずからの判断にゆだねる、岡田幹事長の努力を見守るなどとひたすら傍観者の姿勢に徹し、何らのリーダーシップも発揮していない。民主党代表として、小沢元幹事長に対して、あなた自身が定めた政治倫理綱領に従って、国会に出て説明をせよ、代表の指示に従えぬなら党を出よと言えばいいだけの話なのに、なぜそれができないのか。

 企業・団体献金の廃止こそが政治と金の問題を断ち切るとあれほど言っておきながら、なぜそれをいともあっさりと撤回したのか。これまで民主党の言ってきたことは一体何だったのか。民主党には国民の政治不信を解消しようとする気が全くないのだと断ずるほかはない。

 リーダーシップを全く発揮せず、言ってきたことには何ら責任を持たない、これが民主党の政治姿勢そのものなのである。このような内閣には、そもそも、補正予算を提出する資格など全くないのである。

 これまでのこうした政府・民主党の内政、外交への対応ぶりを強く糾弾しつつ、以下、政府より提出されている平成二十二年度補正予算に対する問題点及び組み替え提案について申し述べる。

 第一の理由は、民主党政権が推し進める温室効果ガス二五%削減や製造業への派遣禁止、最低賃金法改正など、雇用空洞化政策がいまだ撤回されていないことである。これらの政策を今後も推し進めた場合、国内で事業を継続し、雇用を維持することは極めて困難となる。

 多くの企業が工場等の海外移転やその準備を進めている今になってなお総理は雇用、雇用と叫んでおられるが、雇用は一体だれがつくるのか。製造業への派遣を禁止した場合、一体何が起こると考えているか。皆が正社員になり、高い賃金を受け取り、幸せな社会が実現されるとでも思っているとしたら、それは大いなる幻想である。稼がなくても、働かなくても、利益を上げなくても雇用が守られる人々とは異なり、日々生き残りに必死な民間企業は、決してそのような選択をしないのである。

 製造業への派遣禁止が行われれば何が起こるか、考えてもみよ。企業は安価な労働力を求めて海外に移転する、派遣を望む労働者は雇用市場から締め出される、企業が仮に日本に残ったとしても、正社員には過重な負担が生ずる。このような現実は、民主党の諸君には想像もできないことかもしれない。

 政府は、企業の悲痛な叫びに一切耳を傾けることもなく、偽善と自己満足によって、国民を大きな不幸に陥れようとしているのである。雇用は、企業が、産業がつくるのであり、政府がつくるものではない。企業が国内で事業を行い、収益を得ることで雇用を生み、賃金を生み出すのである。

 我が日本国は社会主義国家ではない。自民党は、今後の経済対策の大前提として、このようなアクセルとブレーキを同時に踏むような雇用空洞化推進政策の即時撤回を求めるものである。

 第二の理由は、補正予算の規模である。

 政府案では総額四兆八千億円規模としているが、これには地方交付税の増額分約一兆三千億円が含まれている。この地方交付税の増額分は、本来、景気対策の実施の有無にかかわらず計上されるべきものであり、これを除けば、政府の景気対策としての補正予算の規模は三兆五千億円程度にしかならない。この交付税分を計上していることは規模の水増しであり、この規模の考え方自体、撤回すべきものである。

 我々は、交付税分以外で五兆円規模への上積みを提案するものである。

 第三の理由は、財源についての考え方が異なることである。

 政府は、我が党が撤回を求めている、子ども手当、高速道路無料化、農家への戸別所得補償制度、高校無償化のいわゆるばらまき四K政策を続行する方針であるが、厳しい財政状況を勘案するならば、こうしたばらまき四K政策は直ちに撤回し、我が党が以下に主張する、緊急性かつ即効性のある施策の財源とすべきである。

 我が党の一昨年来の経済対策の効果による税収増二兆円や、国債費償還における利率が下がったことによる返済差額の一兆円という予想外の収入を財源としていることも看過できない。政府が発表した月例経済報告では一年八カ月ぶりに経済動向を下方修正しているが、このような下半期の経済状況が極めて不透明な折、本当に二兆円を超える税収増があるのか、それ自体が疑わしく、慎重な財政運営が求められる中で、見込み税収を財源として計上することは極めて問題である。政府案は、財源に対する哲学、理念がないと断ぜざるを得ないのである。

 第四の理由は、政府案には地方への配慮が大きく欠けていることである。

 真の景気回復には地方経済の活性化が不可欠である。政府案では、地域が自由に使える地域活性化交付金の規模を三千五百億円程度としているが、緊急性及び即効性にかんがみ、さらに厳しさを増す地域の現状に対応するには全く不十分な規模である。

 自民党は、地域経済・雇用対策として、地方が自由に活用できる交付金を一兆五千億円に上積みすることを提案するものである。

 第五の理由は、地域の主要産業である農業、農村、漁村、山村に対する配慮が足りないことである。

 我々は、早期の米価下落対策として五百億円、さらに、中長期的に足腰の強い農業をつくる視点から、執行停止となった農業基盤整備事業費三千億円の復活を提案するものである。

 一口に農業を守ると言うが、農村をどのように守るか、農家をどのように守るか、それらの政策手法はおのずから異なるものであり、産業政策と社会政策は、これを混同すべきではない。財政負担は、いかなる理由に基づき、どこまで許されるのか、関税率はどこまで下げられるのか、そもそもそのような交渉は可能なのか、これらについての展望を全く示さないまま、ただ来年の六月までに考えるというのでは、TPPに対する農家の不安が高まるのは当然であり、極めて無責任な姿勢と断ぜざるを得ないのである。

 第六の理由は、家計を支えている者に対する配慮が不足している点である。

 家計を支えている女性や高齢者に対して、就業機会を提供し、その社会参画を推進することは、不況下において家計全体の収入を上げる手段として有効であり、さらに、失業者のいる世帯に対する児童、学生への就学支援は、貧困の連鎖を断ち切る意味からも、今こそ実行すべき政策である。我が党は、合わせて二千億円規模を提案する。

 第七の理由は、経済対策の名称を、円高対策、デフレ対策と標榜するには、余りにも対応が遅過ぎる点である。

 こうした国民経済の厳しい現状をとらえることなく、単なる数字合わせの補正予算案には全く説得力がないのである。

 我が党は、一昨年から昨年七月までに、四度にわたり緊急経済対策を間断なく実行した。しかるに、政府は、今回の補正予算において、平成二十一年度第一次補正予算において一部執行停止を行った施策、例えば、地域医療再生基金、緊急人材育成支援事業等を、補正予算の項目として、憶面もなく復活させている。一度執行停止したものを再び予算項目として入れ込むことについて、深く考えることもなくただ執行停止したことへの反省、謝罪の弁も、説明も全くないままに予算計上することは問題であり、かかる説明できない予算には到底賛成しかねるのである。

 第八の理由は、補正予算案は財政規律の意識の欠如が強く見られることである。

 補正予算と本予算とは別との考え方を我々はとらない。補正予算においても財政健全化の思想は生かされなくてはならないのである。

 我々は、衆議院に提出した財政健全化責任法案の早期成立を強く求めている。財政規律のある確かな社会保障制度の確立があってこそ、経済対策はその効果を発揮するものである。信頼性のある持続可能な財政構造を一刻も早く確立することこそ急務である。

 我が党が提出している法案と、政府が六月に閣議決定した財政運営戦略との間に基本的な考え方の相違はないが、幾つかの重大な差異点がある。五年後の平成二十七年度までにプライマリーバランスを平成二十二年度比で半減させるとの目標を実現させるためには、財政健全化の中期計画は、政府閣議決定で示された三年ではなく、自民党の提案する五年を一期とするのが当然である。

 いずれの党が政権を担っても、ポピュリズムの誘惑に負けることなく財政健全化は推進されなければならない。民主党の当初のマニフェストを実行するためには、平成二十三年度には十二兆六千億円、二十四年度には十三兆二千億円、二十五年度には十六兆八千億円が必要となる。無駄を省くだけでこのようなお金が出てこないことは、民主党政府自身が証明したとおりである。確かな財源を確保しないままばらまき的な大盤振る舞いを続ければ財政が破綻することは必至であり、民主党のマニフェストは当然修正されるべきものである。

 国債が暴落せず、低金利が保たれているのは、まだ日本の財政に一縷の信頼が残されているからである。そのためにも、容易に変更が可能な閣議決定ではなく、法律として政府を把捉し、納税者の代表たる国会も関与することとするのが当然である。

 国民の生活が第一などと言って、選挙に勝つためなら何を言ってもいいなどと、すべての民主党議員が考えているわけではよもやあるまい。良識ある諸君はきっといるはずだと私は信じている。本法案にのっとった予算編成を来年度予算から行うためにも、今国会での早期成立を強く訴える。これこそが将来世代への我々の責任であり、議員各位の賛同を切に願ってやまない。

 一昨年、当時の小沢一郎民主党代表は、民主党には政権担当能力がないと述べて、自民党との大連立を提唱した。我々は小沢元代表とは政策も政治手法も全く異にするが、小沢氏のこの見立てが実に正しかったことが、あれから二年たった今、確実に立証されたことは、まさに皮肉としか言いようがないのである。

 映像流出問題の責任に関して、仙谷官房長官は、政治責任と執行責任は別だと言い放ち、いまだかつて聞いたこともない新見解を披瀝された。はしなくも露呈したこの考え方が、民主党政治を貫く思想なのである。

 政治主導を標榜し、格好のいいことは政治が手柄をひとり占めする、都合の悪いことはすべて官僚に責任を押しつける、こんな姿勢で行政が動くはずがない。官僚は国民から選ばれてはいない。国民から選ばれた政治家だけが、そのゆえをもって、国民に対して責任を負える立場にいるのである。官僚機構が何をしようと政治がその責任を負わないのなら、監督責任も任命責任も回避するのなら、これは統治機構の崩壊であり、民主主義の否定である。このような考えの民主党が政権担当能力を発揮することなど、そもそもあり得ないのである。

 今回映像を流出させた海上保安官の逮捕が見送られることは妥当な判断であると考える。今後さらに捜査が続けられることになるが、政府こそ、この保安官が、今回の行動は政治的主張や私利私欲に基づくものではない、一人でも多くの人に遠く離れた日本の海で起こっている出来事を見てもらい、一人一人が考え、判断し、行動してほしかっただけなのだと述べていることを、謙虚に、真摯に政府こそ受けとめるべきなのである。

 積み木細工をつくるには、一つ一つ丁寧に長い時間をかけなければならない。つくるには長い時間かかるが、それを壊すのは一瞬で足りるのである。「日本の壊れる音がする 今なら、まだ間に合う!」これは、財政・経済政策や沖縄問題に心血を注いでこられた島田晴雄氏の最近の著書のタイトルである。そう、今ならまだ間に合うのである。

 我が国は、今や、財政も、経済も、外交も、安全保障も、まさしく危機管理の段階に入っている。我々に残された時間は極めて短く、とるべき選択肢の幅は恐ろしく狭いのである。今さえよければいいのではない。我々は、将来の人々に、そして、我が日本国を営々と築いてきたいにしえの人々に責任を持たねばならない。日本さえよければいいのではない。日米安全保障条約が、我が国のみならず極東の平和と安定をその目的としているように、我々は世界に責任を持たねばならない。我々自民党は、新綱領に示されたこの精神にのっとり、国民の期待にこたえるべく全力を尽くす所存である。

 以上、政府補正予算案について速やかな撤回を求め、組み替え動議を提出する理由を申し述べた。議員各位におかれては、国民の代表としての良識に基づき御賛同賜らんことを願い、提案理由の説明とする。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(横路孝弘君) これより、補正予算三案に対する討論と、動議に対する討論とを一括して行います。順次これを許します。中川正春君。

    〔中川正春君登壇〕

中川正春君 中川正春です。

 私は、民主党・無所属クラブを代表して、ただいま議題となりました平成二十二年度補正予算案に賛成、自民党・無所属の会提出の動議、みんなの党提出の動議に反対の立場から討論を行います。(拍手)

 二〇〇八年のリーマン・ショックとそれ以降の異常な円高、そしてデフレを受けて、政府・与党としても景気については非常に厳しい見方をしてきました。その結果、九月以降で九千二百億円の予備費を使った緊急対策がまず第一弾、そして、それに続く今回の四兆八千五百億円の補正予算が第二弾、さらに、来年の、成長戦略を基本にした第三弾の本予算と、切れ目なく続く対策が、基本的には日本の経済の構造転換を見据えながらのめり張りのきいた刺激策になって、その効果は十分に期待し得るし、また、徐々にその足跡、その基盤というのが日本の経済の中にあらわれてきているということが言えると思います。

 今回は、こうした一連の対策の中の第二弾、補正予算であります。

 具体的には、第一に、新卒者・若年者支援の強化、雇用の下支えと生活支援などに約三千二百億円、第二に、グリーンイノベーションやライフイノベーションの推進、アジア経済戦略推進など新成長戦略の推進・加速に三千四百億円、第三に、子育て、医療・介護・福祉等の強化による安心の確保に約一兆一千二百億円、第四に、地方交付税の増額、地域活性化交付金の創設、その他、防災対策、学校の耐震対策や、農林水産業への緊急支援、中小企業の資金繰り支援などに三兆七百億円、計約四兆八千五百億円を追加計上しております。

 財源は税収増などで賄い、新たな国債の発行は行いません。景気対策を求める国民の声にこたえながら、同時に、福祉、医療分野での雇用の創出や、これからの成長分野、グリーンイノベーション、ライフイノベーションなどの新産業創出への構造転換を推し進めるきっかけをつくる予算だということが言えます。

 以上、申し上げた上で、予算審議について一言触れていきたいというふうに思います。

 今回の補正予算の審議をめぐって、予算委員会の現場では、与野党を問わずいろいろなことが起こりました。そしてまた、いろいろな駆け引きもあったわけでありますが、いずれにしても、きょうの国会で採決に至ったこと、このことについては、皆さんに改めて心から、現場を担当する者としてお礼を申し上げたい、感謝を申し上げたいと思います。さらに、武部筆頭を初め野党の皆さんにも、言いたいことはいっぱいあるんですが、まず、心から、心からお礼を申し上げたいというふうに思います。

 一方で、国民の政治に対する思いは非常に厳しいものがあります。これは、与野党問わず、私たちの国会機能も含めた政治全体に対する信頼が大きく低下していることを真剣に受けとめなければなりません。

 ねじれ国会で戸惑うのは日本だけではない。近くではアメリカの中間選挙の結果や、ヨーロッパ諸国など多くの先進国の中で、ねじれが世界の共通した政治課題にもなってきております。

 歴史のパラダイムが大きく変わろうとしているときには、国民そのものが逡巡をし、迷うのです。だからこそ、新しいねじれという環境の中で、政治の意思決定過程にも新たな知恵とそれから仕組みが必要なのであります。この現実に与野党が目を背けてしまうことは、国民から政治全体の信頼を失ってしまうということになる、私にはそんな危機感があります。

 国民の意思は、対立と足の引っ張り合いではなくて、真っ当な話し合いであります。その中で、与野党ができる限り妥協点を見出しながら、日本が今克服しなければならない幾多の課題を解決するということであります。与野党間の政治駆け引きによって、国家としての意思決定ができずに、大事なことが先送りされるようなことがこれ以上起こっていくことは絶対に許されない、そういうところまで来ているのであります。

 こうした思いから、改めて提案をしたいというふうに思います。

 新たな与野党の話し合いの場、これができる政治プロセスを国会の中にぜひつくっていただきたい。予算そのものの審議は、国民生活に直結しているだけに他の議論とは切り離し、同時に、野党の政策が具体的に与党の予算案の中に取り込まれていくということがはっきりわかるプロセスが国民から見えるということが大事なのだと思うのです。国民の負託にこたえるためにも、私たちが、成熟した大人の民主主義、新たな政治プロセスの話し合いへと踏み出そうではありませんか。(発言する者あり)

議長(横路孝弘君) 静粛に願います。

中川正春君(続) 以上、予算委員会の現場で汗をかいている者の立場から一言提言をし、同時に、補正予算への皆さんの御賛同をお願いして、討論といたします。

 ありがとうございました。(拍手)

議長(横路孝弘君) 武部勤君。

    〔武部勤君登壇〕

武部勤君 私は、自由民主党・無所属の会を代表いたしまして、平成二十二年度補正予算案については反対、自由民主党・無所属の会提出の編成替えを求める動議には賛成する立場で討論いたします。(拍手)

 ただいま、中川民主党予算委員会筆頭理事から過分なエールを賜りました。このことについては、敬意を表し、感謝したいと思います。

 しかし、率直に申し上げて、政権交代してから一年余り、この一年は一体何だったのか。一つに、総理を初めだれもが決して責任をとろうとしないこと、二つに、マニフェスト、特に財源論が大うそであったこと、三つには、民主党には全く政権担当能力がないこと、まさにこれらを証明する一年であったとしか言いようがありません。

 総理の無責任さが招いた我が国の混乱ぶりは、目を覆うばかりであります。

 政治と金の問題では、野党が一致して小沢一郎元幹事長の国会招致を求めたにもかかわらず、岡田幹事長に任せていると、全く指導力を発揮しようとしないではありませんか。このたびの尖閣諸島をめぐる問題でも、責任転嫁に躍起となるばかりで、必然的に国会運営は強引となり、補正予算を審議すべき国会は混乱をきわめているのが実態であります。

 経済への無策ぶりも驚きであります。

 夏ごろからじわじわと世界経済に及んできた景気回復の息切れ、株価の下落、急激な円高への対応のまずさが、今日の深まる不況の一因となっていることは明らかであります。参議院選挙後も、代表選挙等党内の権力争いに明け暮れ、国民の生活が第一と言いつつ国民生活を全く顧みない、この大罪を我々は到底看過することはできません。

 さらには、普天間基地移設問題から始まった外交における迷走、たび重なる不手際も許されるものではありません。

 尖閣諸島での中国漁船衝突事件をめぐる問題では、政府の危機管理能力の欠如を露呈してしまったではありませんか。今なお混乱をきわめ、迷走を繰り返しているのであります。

 このように、政府の稚拙な外交は、日米同盟を脆弱化し、日中、日ロ関係の悪化を招き、外交力は劣化し、日々、国益が損なわれ続けているのであります。

 さて、本論に入ります。

 まず第一点目、民主党政権が推進する温室効果ガス二五%削減や製造業への派遣禁止、最低賃金法改正など、雇用空洞化を進める政策がいまだ撤回されていないことであります。企業マインドを冷やすこんな政策を掲げて、どうやって国内で事業を継続し、雇用を維持しろというのでありましょうか。

 菅総理、雇用は一体だれがつくるんですか。総理、あなたですか、政府ですか。いいえ、雇用は、企業が、産業がつくるのであります。企業が国内で事業を行い、収益を得ることで国内の雇用を生み、賃金を生み出すのであります。

 予算委員会の答弁で、野田財務大臣は、基本理念で雇用空洞化の危機、これは我々も共通の認識ですと述べております。ならば、直ちにこうした政策を撤回されるのが筋ではありませんか。こんなブレーキをかけるような政策を掲げたまま景気回復へのアクセルである経済対策を実施してみても、効果が期待できるはずもないじゃないですか。

 第二点目、経済対策の規模であります。

 政府案では総額四兆八千億円規模としていますが、その中身を見ると、地方交付税の増額約一兆三千億円が含まれており、本来であれば、政府の経済対策としての補正予算規模は三兆五千億円程度にすぎません。この地方交付税の増額分は、経済対策の実施の有無にかかわらず計上されるものであり、規模の水増しそのものであります。とても賛成できるものではありません。

 第三点目、補正予算の財源の問題であります。

 政府案では、我が党が一貫して主張している、政策効果のない子ども手当、高速無料化、農家への戸別所得補償、高校無償化などばらまき四K政策の続行を前提としています。政府は直ちにこれらを撤回し、補正予算の財源に充てるべきであります。

 さらに指摘すれば、我が党の昨年来の経済対策の効果等によって税収が見込みより増額した分の約二兆円と、国債費償還の利率が下がったことによってできた返済差額の約一兆円という予想外の歳入を財源としていることの問題であります。本当に二兆円を超える税収増があるのか、慎重な財政運営が強く求められるこのときに、見込み増収を財源として計上することは甚だ疑問であります。

 四点目、地方への配慮が全く足りないということであります。

 真の景気回復には地方経済の活性化が不可欠であります。政府案では、地域が自由に使える地域活性化交付金の規模は三千五百億円としています。しかし、緊急性及び即効性にかんがみ、さらに厳しさを増す地域の現状に対応するには全く不十分であります。

 地域経済・雇用対策として、地方が自由に活用できる交付金を一兆五千億円規模に上積みすべきであります。

 五点目、下落が激しい米価への対策が見られないことであります。

 米価の下落は、ばらまき政策の一つである戸別所得補償制度が足かせとなっているからではありませんか。我々は、早期の米価下落対策として五百億円、さらに、中長期的に足腰の強い農業をつくる観点から、農業基盤整備事業費三千億円の復活を提案いたしております。(発言する者あり)やじるなら、もう少し勉強してからしっかりやじりなさい。

 六点目、家計を支えている人に対する配慮が不足している点であります。

 家計を支えている女性、高齢者に対する就業機会、社会参画は、家計全体の収入を上げる手段として極めて有効であります。さらに、失業者のいる世帯に対する児童、学生への就学支援を、貧困の連鎖を断ち切る意味からも、今こそ実行すべきであります。

 七点目、そもそも、経済対策の名称を、円高、デフレ対策と標榜するには、余りにも対応が遅過ぎる点であります。

 自由民主党は、一昨年から昨年七月までの間、四度にわたり緊急経済対策を矢継ぎ早に実行し、効果を上げてまいりました。一方、民主党政府は、我が党の補正予算を執行停止した事業、例えば、地域医療再生基金や緊急人材育成支援事業等を、今回の補正予算において、憶面もなく復活させています。ミッシングリンクの解消など、公共事業も堂々と計上されています。

 あのコンクリートから人への大合唱はどこへ行ったんですか。一度執行停止したものを説明が全くないままに再び入れ込んだり、政策的に矛盾する事業の予算を計上したりするような厚顔無恥な予算には、到底賛成することはできません。

 最後に批判すべきは、政府には財政規律の強い意思が見受けられないことであります。

 我々は、確かな社会保障制度と財政規模の裏づけがあってこそ、経済対策がその効果を遺憾なく発揮することができるとの考えのもと、財政健全化責任法案を提出いたしております。一刻も早く、信頼できる持続可能な財政構造を確立することが急務であり、今国会での成立を強く求めるものであります。

 今のためだけではなく将来のために、日本のためではなく世界のために、次代を見据え、真摯に議論しようではありませんか。各党会派の皆様に改めてお願いする次第であります。

 自由民主党・無所属の会は、政策不況から国民生活を守るために……(発言する者あり)

議長(横路孝弘君) 静粛に願います。

武部勤君(続) 編成替えを求める動議を提出いたしました。我々の内容をよく吟味していただき、ぜひ賛成の意思を示していただきたいと存じます。

 最後に、菅総理、あなたは所信表明で、御自身の内閣を有言実行内閣と称されました。しかし、尖閣問題でも小沢問題でも、国民の声に対し余りにも鈍感で、逃げの一手ではありませんか。国民は、民主党・菅内閣を称して、びびる、ぶれる、逃げる、言行不一致・鈍感内閣とやゆしているのであります。機能不全に陥った政権に、国家の安全や経済財政のかじ取りを任せるわけにはまいりません。ましてや日本の将来を任せるわけにはいかないのであります。

 綸言汗のごとし、言行は君子の枢機なりと申します。総理、この意味、おわかりですか。

議長(横路孝弘君) 武部勤君、申し合わせの時間が過ぎましたから、なるべく簡単に願います。

武部勤君(続) 言葉は心の声、行いは心の跡。総理を初め閣僚の皆様にはぜひこの言葉を拳々服膺されんことを申し上げ、私の討論を終わります。(拍手)

議長(横路孝弘君) 服部良一君。

    〔服部良一君登壇〕

服部良一君 社民党、服部良一です。

 私は、社会民主党・市民連合を代表し、政府提出の二〇一〇年度補正予算三案に対し賛成、自由民主党提出の組み替え案に反対の立場で討論を行います。(拍手)

 冒頭、一言、菅総理に申し上げます。

 私は、今の内閣は、何をしたいのかわからない内閣、言葉をかえれば、理念なき内閣としか思えません。

 昨年政権交代で発足した鳩山前政権は、世界に地球温暖化防止を訴え、アジアには東アジア共同体を語り、国内には内需拡大による雇用創出を示し、何よりも、命を大切にする政治を呼びかけてきました。

 しかし、今、菅政権はどうか。TPP加盟検討発言や外交の混乱、名護市辺野古の新基地建設は推進では、これでは、外需依存内閣、アメリカ主導内閣ではありませんか。

 弱肉強食の小泉・竹中構造改革路線から決別し、格差社会を是正して、生活再建、国民の生活が一番という政権交代に期待した多くの国民の思いを裏切るべきではありません。生活に本当に困っている多くの国民にしっかり寄り添って、文字どおり、命を大切にする政治を情熱を持ってやっていただきたいことを強く申し上げておきます。

 さて、日本経済は、急激な円高、二番底への不安、構造的なデフレ、五%の失業率など、深刻な状況にあります。

 社民党は、国民生活の再建を進めるため、低炭素・グリーン経済社会への転換、若年・非正規を中心とした雇用対策、広がる貧困の解消、地方の活性化、中小企業支援の強化を柱とした、緊急的な経済対策及び補正予算の編成を求めてきました。

 今回の補正予算案には、介護施設整備の推進、待機児童の解消対策、新卒者・若年者支援の雇用対策、地域医療再生臨時特例交付金の拡充、児童虐待対策、安心こども基金の拡充、橋梁の修復など身近な公共事業、公立学校や病院の耐震化、太陽光発電、脱アスベストの促進に向けた地域活性化交付金の創設、地方交付税の増額、生活困窮者の生活支援対策、林業再生プランの推進、海上保安庁の体制整備、災害対策や中小企業支援の強化、口蹄疫対策基金などなど、社民党も提言し、かつ要求してきたものが多数盛り込まれることとなり、評価いたします。

 一方で、国際熱核融合炉推進事業費や市町村合併推進費などなどの疑問のあるものも少なからず含まれており、また、そもそも提出が遅い、規模も不十分ではありますが、現下の深刻な経済や国民生活の状況にかんがみ、一日も早い成立が望まれるものであり、政府案に賛成いたします。

 なお、自民党提出の組み替え案については、財源の捻出方法や歳出追加項目について疑問があり、賛同できないことを申し上げ、討論を終わります。

 どうもありがとうございました。(拍手)

議長(横路孝弘君) 遠山清彦君。

    〔遠山清彦君登壇〕

遠山清彦君 私は、公明党を代表し、ただいま議題となりました平成二十二年度補正予算三案について、反対の立場から討論を行います。(拍手)

 以下、反対する主な理由を述べます。

 まず指摘しなければならないことは、菅内閣が、日本経済の厳しい現状に対する認識が甘く、対策がすべて後手に回っている点であります。感度なし、責任感なし、スピード感なし、菅総理、これがあなたの内閣の経済対策の本質です。

 デフレ、株価低迷、円高の三重苦に直面する日本経済にとって、最も重要なポイントは、本年八月でありました。私たち公明党が、厳しい経済の現状と見通しを踏まえ、補正予算を含む追加的経済対策の必要性を本院予算委員会で指摘したのは、八月三日でありました。さらに、九月二日には、円高・デフレ脱却へ向けて緊急経済対策を発表し、一日も早い補正予算案の編成を求めたわけでございます。

 しかし、菅内閣の、そして与党・民主党の対応はどうであったか。

 九月上旬には、民主党代表選挙で約二週間の政治空白。為替介入も含めた円高対策への対応もおくれ、結局、本補正予算案の国会提出は、十月二十九日、公明党の指摘から何と三カ月、十月一日の臨時国会召集から一カ月もたってからであります。この間、一体何をやっていたのでしょうか。余りにも遅過ぎる、余りにも国民生活に無頓着。この経済対策のおくれに菅総理は極めて重大な責任があるということを指摘しておきたいと思います。

 第二の反対理由は、本補正予算案の中身が、中小企業に冷たい、地方に冷たい、農業に冷たい予算であり、到底国民生活を守ることができない点でございます。

 もちろん、部分的には評価できる面もあります。例えば、子宮頸がん等ワクチン接種の公費助成、妊婦健診十四回の公費助成の継続、学校の耐震化など、これまで公明党が国会等で強く主張してきた政策も一定程度反映されております。

 しかし、中小企業の緊急保証制度が景気が厳しい中で来年三月に打ち切られれば、中小企業の資金繰りはどうなるのか。再び貸し渋りや貸しはがしの問題が惹起すれば、景気回復どころではありません。

 また、本補正予算案の地域活性化交付金はわずか三千五百億円であります。この程度では、地域経済の活性化、地域雇用の安定、創出には全く不十分であります。公明党が提案をしておりました一兆二千億円規模には遠く及んでおらず、これでは、地方に冷たい予算と断ぜざるを得ません。

 さらに、農業に関しても、農家は深刻な状況であります。

 民主党主導の戸別所得補償制度による補てん分が米価の激しい下落を招いているのではないかという指摘もある中で、政府は、なぜ責任ある緊急の米価対策をとらないのでしょうか。十分な国民的議論を喚起することなく突然出してきたTPP交渉の議論も含め、菅内閣には農家への思いやりが全く感じられません。

 第三の反対理由は、本補正予算案が、デフレからの脱却及び景気を回復軌道に乗せるために、規模を含め、力強さに欠ける、極めて不十分な予算である点であります。

 私は、デフレ脱却と経済成長、そして財政健全化を両立させていくためには、補正予算においてこそ、使える財源をフルに活用して最大限の景気刺激策を講じることが重要であると考えます。しかし、本補正予算案では、例えば、昨年度の決算剰余金は特例措置を講じればなお八千億円の活用が可能であるにもかかわらず、そうはいたしておりません。

 今回の補正予算の規模は、実質は四兆円にも満たないのであります。これでは、本格的な雇用創出や民間需要の喚起には力不足であり、デフレ脱却はおろか、景気回復の牽引力となるのか、甚だ疑問があると断ぜざるを得ないわけであります。

 以上、反対する主な理由を三点申し上げました。

 今、国民生活の現場、地方の現場を歩けば、景気回復にはほど遠く、仕事がないとの声が満ちあふれています。しかし、確固とした国家戦略も持たず、日本経済を立て直すという責任感、覚悟を持ち合わせない菅内閣には、こうした国民の声は届いていないのではないですか。

 経済対策そっちのけで、党内の権力闘争で騒いだり、できもしない公約を振りかざしてパフォーマンスに走る前に、今の政権には、地に足をつけて、もっと国民の声、地方の声に誠実に耳を傾けてもらいたい、このように思います。

 菅総理は、有言実行内閣と言いました。しかし、政権交代から一年余り、民主党政権は、国民に何の説明もないまま、次々とマニフェストに掲げた公約にみずから違反してきただけではないですか。

 政治と金をめぐっては、小沢氏の国会での説明責任の場を設けず、マニフェストに逆行して企業・団体献金も再開する。普天間、尖閣など、たび重なる外交課題への稚拙な対応。危機管理の欠如と隠ぺい体質。政権の失態は、数えれば切りがありません。

 菅総理、あなたの内閣は、今や有言逆行内閣であります。もはや、国民からは、民主党政権の政権担当能力そのものが疑われています。この点について、菅内閣の自覚と猛省を促すとともに、今後の政権運営に当たっては、どこまでも謙虚に、そして真摯に国民と向き合って行動されるよう強く訴え、政府提出の平成二十二年度補正予算三案に対する私の反対討論を終わります。

 なお、自民党提出の組み替え動議については、認識を共有する部分はあるものの、見解を異にする部分もあり、総合的に勘案し、反対をいたします。(拍手)

議長(横路孝弘君) 笠井亮君。

    〔笠井亮君登壇〕

笠井亮君 私は、日本共産党を代表して、菅内閣提出の二〇一〇年度補正予算三案に反対の討論を行います。(拍手)

 第一は、円高、デフレなど、今日の景気悪化に苦しむ国民の要求にこたえていないことです。

 この一年間で見ても、労働者の雇用情勢は一向によくなっておりません。離職した労働者は七百二十四万人と、新たに採用された人を四十万人も上回っているのです。民間賃金の減少は平均二十三万七千円と、過去最大の下落となっています。円高による生産の減少と生産拠点の海外移転が影響した円高関連倒産が、前年より一五%も増加しています。まさに国民生活は悪化の一途をたどっているのであります。

 今とるべき対策は、家計を直接支援し、内需を拡大する抜本的な対策です。

 具体的には、大企業の内部留保を国民に還流させ、労働法制の抜本的な改正による雇用の安定と賃金の底上げを図ること、後期高齢者医療制度はすぐに廃止し、高過ぎる国保料を軽減するなど社会保障を充実させることです。雇用の七割を担い、地域経済を支える中小企業には、官公需活用による積極的な仕事起こし、販路の拡大、物づくり技術を担う町工場への固定費補助、既往債務の負担軽減などが必要です。農家に対しては、過剰米の緊急買い上げや鳥獣被害対策などを直ちにとることです。こうした国民生活を最優先する政策への根本的な転換こそ、今必要なのであります。

 今回の補正予算案を見ると、国民生活に関する対策では、子宮頸がん等のワクチン接種への財政支援や、中小企業への資金繰り支援における借りかえ保証の追加など、国民の要求を一定反映したものはありますが、失業者への就職支援策や、安心こども基金の積み増し、高齢者医療制度の負担軽減策など、ほとんどが自公政権時代からとられてきた政策の延長にすぎません。中小企業の資金繰りの命綱である景気対応緊急保証や政策金融機関の金利引き下げ措置は、今年度末で打ち切るのではなく、継続すべきであります。

 第二は、このように国民生活に対しては極めて不十分な一方で、新成長戦略の推進・加速として、新たな大企業支援策が盛り込まれていることであります。

 政府の新成長戦略は、法人税減税と大企業の国際競争力強化による経済成長、規制緩和と民営化による雇用創出、日本農業と地域経済を破壊するアジア太平洋自由貿易圏、FTAAPの推進など、徹底して供給サイドに立った大企業応援策を中心としたものです。その上、米国主導の環太平洋戦略的経済連携協定、TPPを推進しようとしているのであります。

 本補正予算案には、政府の新成長戦略を前倒しして実施する施策が並んでおります。

 イノベーション拠点立地支援は、試作品づくりや実証研究のための大規模設備投資に補助金を拠出するものです。戦略的MアンドAの推進は、国際競争力強化と称して、産業革新機構の出資機能を活用し、大企業の海外大型買収を支援するものです。インフラ・システム輸出の促進は、原発や水事業、鉄道等の輸出、海外展開への支援策で、新成長戦略の目玉と位置づけられているものであります。いずれも、大企業の要求にこたえたものにほかなりません。

 公共事業関係は、国土ミッシングリンクの解消、すなわち、高速道路の建設や戦略港湾、首都圏空港の整備など、事業規模約九千六百億円もの予算が組まれております。コンクリートから人へと言いながら、大型開発事業に依存したものになっているのであります。

 大企業を応援すれば経済がよくなり、いずれ暮らしもよくなるという政策は、既に破綻しております。大企業が上げた空前の利益は、内部留保や配当、役員報酬などに回るだけで、労働者や中小企業に流れることはなかったのです。それが、今日の景気低迷、貧困と格差を広げる要因となっているのです。こうした大企業優先の路線は根本的に改めるべきであります。

 最後に、情報収集衛星の体制整備として、いわゆるスパイ衛星の新たな予備機の研究開発費が計上されています。これは、宇宙を軍事に利用するもので、認めるわけにはいきません。

 また、NATO・アフガニスタン国軍信託基金への拠出金が計上されています。医療分野を名目に、同基金への拠出を通じてアフガニスタン国軍を支援するとしていますが、外国軍への財政支援は、憲法九条を持つ日本として、断じて許されません。

 なお、自由民主党提出の編成替え動議については、教育、福祉を削ってほかに回すやり方は問題であり、賛成できません。

 以上、反対討論といたします。(拍手)

議長(横路孝弘君) これにて討論は終局いたしました。

    ―――――――――――――

議長(横路孝弘君) これより採決に入ります。

 まず、石原伸晃君外三名提出、平成二十二年度一般会計補正予算(第1号)外二案につき撤回のうえ編成替えを求めるの動議について採決いたします。

 石原伸晃君外三名提出の動議に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(横路孝弘君) 起立少数。よって、石原伸晃君外三名提出の動議は否決されました。

 次に、平成二十二年度一般会計補正予算(第1号)外二案を一括して採決いたします。

 三案の委員長の報告はいずれも可決であります。三案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(横路孝弘君) 起立多数。よって、三案とも委員長報告のとおり可決いたしました。(拍手)

     ――――◇―――――

 日程第四 防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律の一部を改正する法律案(第百七十四回国会、内閣提出)

議長(横路孝弘君) 日程第四、防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。安全保障委員長平野博文君。

    ―――――――――――――

 防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔平野博文君登壇〕

平野博文君 ただいま議題となりました法律案につきまして、安全保障委員会における審査の経過並び結果について御報告を申し上げます。

 本案は、特定防衛施設周辺整備調整交付金の交付の対象となる事業として、現行の公共用の施設の整備に加えて、その他の生活環境の改善または開発の円滑な実施に寄与する事業を規定するものでございます。

 本案は、第百七十四回国会に提出され、五月十一日に本委員会に付託され、同月二十八日北澤防衛大臣から提案理由の説明を聴取した後、今国会まで継続審査に付されていたものであります。

 今国会におきましては、去る十一月の十一日、北澤防衛大臣から再度提案理由の説明を聴取した後、質疑を行いました。質疑終局後、討論、採決の結果、賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。

 以上、御報告を申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(横路孝弘君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(横路孝弘君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 日程第五 外国為替及び外国貿易法第十条第二項の規定に基づき、北朝鮮を仕向地とする貨物の輸出及び北朝鮮を原産地又は船積地域とする貨物の輸入につき承認義務を課する等の措置を講じたことについて承認を求めるの件(参議院送付)

議長(横路孝弘君) 日程第五、外国為替及び外国貿易法第十条第二項の規定に基づき、北朝鮮を仕向地とする貨物の輸出及び北朝鮮を原産地又は船積地域とする貨物の輸入につき承認義務を課する等の措置を講じたことについて承認を求めるの件を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。経済産業委員長田中けいしゅう君。

    ―――――――――――――

 外国為替及び外国貿易法第十条第二項の規定に基づき、北朝鮮を仕向地とする貨物の輸出及び北朝鮮を原産地又は船積地域とする貨物の輸入につき承認義務を課する等の措置を講じたことについて承認を求めるの件及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔田中けいしゅう君登壇〕

田中けいしゅう君 ただいま議題となりました承認を求めるの件につきまして、経済産業委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 平成十八年十月九日の北朝鮮による核実験を実施した旨の発表を契機として、外国為替及び外国貿易法第十条第一項に基づき、同年十月十四日以降、北朝鮮からのすべての貨物の輸入を禁止する等の措置が継続して実施されております。

 また、昨年五月二十五日の北朝鮮による二回目の核実験を実施した旨の発表を受け、外国為替及び外国貿易法第十条第一項に基づき、同年六月十八日以降、北朝鮮へのすべての貨物の輸出の禁止等の措置が継続して実施されました。

 政府は、その後の我が国を取り巻く国際情勢にかんがみ、本年四月九日の閣議において、この措置を継続することと決定いたしました。

 本件は、一年間を期限とし、四月十四日以降も当該措置を講ずることとし、国会の承認を求めるものであります。

 本件は、第百七十四回国会で本院を通過しましたが、参議院において審議未了となったものを再提出するものであります。去る十一月四日本委員会に付託され、五日に大畠経済産業大臣から提案理由の説明を聴取し、十二日に質疑に入り、質疑を終了したものであります。質疑終局後、採決を行った結果、全会一致をもって承認すべきものと決しました。

 以上、報告いたします。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(横路孝弘君) 採決いたします。

 本件は委員長報告のとおり承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(横路孝弘君) 御異議なしと認めます。よって、本件は委員長報告のとおり承認することに決まりました。

     ――――◇―――――

 日程第六 原子力の平和的利用における協力のための日本国政府とヨルダン・ハシェミット王国政府との間の協定の締結について承認を求めるの件

 日程第七 所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とスイスとの間の条約を改正する議定書の締結について承認を求めるの件

 日程第八 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とオランダ王国との間の条約の締結について承認を求めるの件

 日程第九 日本国の自衛隊とオーストラリア国防軍との間における物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とオーストラリア政府との間の協定の締結について承認を求めるの件

議長(横路孝弘君) 日程第六、原子力の平和的利用における協力のための日本国政府とヨルダン・ハシェミット王国政府との間の協定の締結について承認を求めるの件、日程第七、所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とスイスとの間の条約を改正する議定書の締結について承認を求めるの件、日程第八、所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とオランダ王国との間の条約の締結について承認を求めるの件、日程第九、日本国の自衛隊とオーストラリア国防軍との間における物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とオーストラリア政府との間の協定の締結について承認を求めるの件、右四件を一括して議題といたします。

 委員長の報告を求めます。外務委員長小平忠正君。

    ―――――――――――――

 原子力の平和的利用における協力のための日本国政府とヨルダン・ハシェミット王国政府との間の協定の締結について承認を求めるの件及び同報告書

 所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とスイスとの間の条約を改正する議定書の締結について承認を求めるの件及び同報告書

 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とオランダ王国との間の条約の締結について承認を求めるの件及び同報告書

 日本国の自衛隊とオーストラリア国防軍との間における物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とオーストラリア政府との間の協定の締結について承認を求めるの件及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔小平忠正君登壇〕

小平忠正君 ただいま議題となりました四件について、外務委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 まず、日本・ヨルダン原子力協定は、本年九月十日、ヨルダンのアンマンにおいて署名をされたものであり、我が国とヨルダン・ハシェミット王国との間で、原子力の平和的利用に関する協力のための法的枠組みについて定めるものであります。

 次に、日本・スイス租税条約改正議定書は、本年五月二十一日、スイスのベルンにおいて署名されたものであり、我が国とスイスとの間で、投資所得に対する源泉地国課税をさらに減免するとともに、国際的な標準に沿った税務当局間の租税に関する情報交換の枠組みを創設すること等について定めるものであります。

 次に、日蘭租税条約は、本年八月二十五日、東京において署名されたものであり、我が国とオランダ王国との間で、投資所得に対する源泉地国課税をさらに減免するとともに、相互協議に係る仲裁手続を導入すること等について定めるものであります。

 最後に、日豪物品役務相互提供協定は、本年五月十九日、東京において署名されたものであり、我が国の自衛隊とオーストラリア国防軍との間で、共同訓練、国際連合平和維持活動、人道的な国際救援活動、大規模災害への対処のための活動等のために必要な物品または役務を相互に提供するための枠組みについて定めるものであります。

 以上四件は、十月二十六日に外務委員会に付託をされ、十一月五日前原外務大臣から提案理由の説明を聴取いたしました。次いで、十二日、質疑を行い、討論の後、採決を行いました結果、いずれも賛成多数をもって承認すべきものと議決をした次第であります。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(横路孝弘君) これより採決に入ります。

 まず、日程第六ないし第八の三件を一括して採決いたします。

 三件を委員長報告のとおり承認するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(横路孝弘君) 起立多数。よって、三件とも委員長報告のとおり承認することに決まりました。

 次に、日程第九につき採決いたします。

 本件を委員長報告のとおり承認するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(横路孝弘君) 起立多数。よって、本件は委員長報告のとおり承認することに決まりました。

     ――――◇―――――

小宮山泰子君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。

 内閣提出、地方交付税法等の一部を改正する法律案を議題とし、委員長の報告を求め、その審議を進められることを望みます。

議長(横路孝弘君) 小宮山泰子さんの動議に御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(横路孝弘君) 御異議なしと認めます。よって、日程は追加されました。

    ―――――――――――――

 地方交付税法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

議長(横路孝弘君) 地方交付税法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。総務委員長原口一博君。

    ―――――――――――――

 地方交付税法等の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔原口一博君登壇〕

原口一博君 ただいま議題となりました地方交付税法等の一部を改正する法律案につきまして、総務委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、平成二十二年度の補正予算により同年度分の地方交付税が一兆三千百二十六億円増加することに伴い、このうち一兆百二十六億円を平成二十三年度分として交付すべき地方交付税の総額に加算して同年度に交付することができることとするとともに、本年度においては、三千億円を交付することとし、これに対応して平成二十二年度分の普通交付税の額の算定に用いる雇用対策・地域資源活用臨時特例費の単位費用の改定等を行おうとするものであります。

 本案は、去る十二日本委員会に付託され、本日、片山総務大臣から提案理由の説明を聴取し、続いて、自由民主党・無所属の会提出の修正案について趣旨の説明を聴取いたしました。次いで、本案及び修正案についての質疑を行い、討論、採決の結果、修正案は賛成少数をもって否決され、本案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(横路孝弘君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(横路孝弘君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

小宮山泰子君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。

 内閣提出、農林漁業者等による農林漁業の六次産業化の促進に関する法律案を議題とし、委員長の報告を求め、その審議を進められることを望みます。

議長(横路孝弘君) 小宮山泰子さんの動議に御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(横路孝弘君) 御異議なしと認めます。よって、日程は追加されました。

    ―――――――――――――

 農林漁業者等による農林漁業の六次産業化の促進に関する法律案(第百七十四回国会、内閣提出)

議長(横路孝弘君) 農林漁業者等による農林漁業の六次産業化の促進に関する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。農林水産委員長山田正彦君。

    ―――――――――――――

 農林漁業者等による農林漁業の六次産業化の促進に関する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔山田正彦君登壇〕

山田正彦君 ただいま議題となりました法律案につきまして、農林水産委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、農林漁業者等による農林漁業の六次産業化の促進による農林漁業の持続的かつ健全な発展及び農山漁村の活性化を図るため、基本方針の策定並びに総合化事業計画及び研究開発・成果利用事業計画の認定について定め、これらの計画に基づく事業の実施についての支援措置を講じようとするものであります。

 本案は、第百七十四回国会に提出され、五月二十日本会議において趣旨説明及び質疑が行われ、同日本委員会に付託され、五月二十六日提案理由の説明を聴取し、以後、継続審査となっていたものであります。

 今国会におきまして、本日、質疑を行い、質疑終局後、本案に対し、民主党・無所属クラブ、自由民主党・無所属の会、公明党及び社会民主党・市民連合の四会派共同提案により、法律の題名を、地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律に改めること、制定の理由を明らかにする前文を加えること、目的規定を見直すこと、六次産業化に係る規定を見直すこと、地域の農林水産物の利用の促進に関する規定を追加すること等の修正案が提出されました。趣旨の説明を聴取した後、採決を行った結果、修正案及び修正部分を除く原案はいずれも全会一致をもって可決され、本案は修正議決すべきものと議決した次第であります。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(横路孝弘君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は修正であります。本案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(横路孝弘君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり修正議決いたしました。

     ――――◇―――――

小宮山泰子君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。

 第百七十三回国会、内閣提出、平成二十年度一般会計予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書(承諾を求めるの件)、平成二十年度特別会計予算総則第七条第一項の規定による経費増額総調書及び各省各庁所管経費増額調書(承諾を求めるの件)、平成二十年度決算調整資金からの歳入組入れに関する調書(承諾を求めるの件)、右三件を一括議題とし、委員長の報告を求め、その審議を進められることを望みます。

議長(横路孝弘君) 小宮山泰子さんの動議に御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(横路孝弘君) 御異議なしと認めます。よって、日程は追加されました。

    ―――――――――――――

 平成二十年度一般会計予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書(承諾を求めるの件)(第百七十三回国会、内閣提出)

 平成二十年度特別会計予算総則第七条第一項の規定による経費増額総調書及び各省各庁所管経費増額調書(承諾を求めるの件)(第百七十三回国会、内閣提出)

 平成二十年度決算調整資金からの歳入組入れに関する調書(承諾を求めるの件)(第百七十三回国会、内閣提出)

議長(横路孝弘君) 平成二十年度一般会計予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書(承諾を求めるの件)、平成二十年度特別会計予算総則第七条第一項の規定による経費増額総調書及び各省各庁所管経費増額調書(承諾を求めるの件)、平成二十年度決算調整資金からの歳入組入れに関する調書(承諾を求めるの件)、右三件を一括して議題といたします。

 委員長の報告を求めます。決算行政監視委員長大村秀章君。

    ―――――――――――――

    〔報告書は本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔大村秀章君登壇〕

大村秀章君 ただいま議題となりました平成二十年度一般会計予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書外二件につきまして、決算行政監視委員会における審査の経過及び結果を報告申し上げます。

 第一に、予備費等の各件につきまして申し上げます。

 これらの各件は、財政法の規定等に基づき、国会の事後承諾を求めるため提出されたものであります。

 まず、平成二十年度一般会計予備費は、賠償償還及払戻金の不足を補うために必要な経費、年金記録確認地方第三者委員会の運営に必要な経費等十一件で、その使用総額は二百九十七億円余であります。

 次に、平成二十年度特別会計予算総則第七条第一項の規定による経費増額は、社会資本整備事業特別会計道路整備勘定における道路事業の推進に必要な経費の増額等二特別会計の十五件で、その経費増額の総額は四百二十七億円余であります。

 第二に、平成二十年度の決算調整資金からの歳入組入れにつきまして申し上げます。

 これは、決算調整資金に関する法律の規定に基づき、国会の事後承諾を求めるため提出されたものであります。

 平成二十年度におきましては、予見しがたい租税収入の減少等により、一般会計の歳入歳出の決算上、七千百八十一億円余の不足を生ずることとなりましたので、これを補てんするため、同資金からこれに相当する金額を平成二十年度の一般会計の歳入に組み入れたものであります。

 委員会におきましては、これら各件につき第百七十四回国会において財務大臣から説明を聴取した後、今国会において、本日、質疑を行い、質疑終了後、討論、採決の結果、各件はいずれも全会一致をもって承諾を与えるべきものと議決をいたしました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(横路孝弘君) これより採決に入ります。

 まず、平成二十年度一般会計予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書(承諾を求めるの件)につき採決いたします。

 本件は委員長報告のとおり承諾を与えるに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(横路孝弘君) 起立多数。よって、本件は委員長報告のとおり承諾を与えることに決まりました。

 次に、平成二十年度特別会計予算総則第七条第一項の規定による経費増額総調書及び各省各庁所管経費増額調書(承諾を求めるの件)及び平成二十年度決算調整資金からの歳入組入れに関する調書(承諾を求めるの件)の両件を一括して採決いたします。

 両件は委員長報告のとおり承諾を与えるに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(横路孝弘君) 起立多数。よって、両件とも委員長報告のとおり承諾を与えることに決まりました。

     ――――◇―――――

 内閣総理大臣の発言(APEC首脳会議に関する報告)

議長(横路孝弘君) 内閣総理大臣から、APEC首脳会議に関する報告について発言を求められております。これを許します。内閣総理大臣菅直人君。

    〔内閣総理大臣菅直人君登壇〕

内閣総理大臣(菅直人君) APEC首脳会議に関する報告をさせていただきます。

 私は、十一月十三日から十四日まで、横浜で、第十八回アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議に出席し、議長を務めました。

 APECは、アジア太平洋の二十一の国と地域から成る経済を中心とした協議体であります。世界のGDPの約五割、人口の約四割を占めております。APECの地域は、今や世界の成長センターとして世界経済を牽引していると言っても決して過言ではありません。

 今回の会議で、私は、議長として、横浜ビジョンを取りまとめました。太平洋をまたいで、アジア、大洋州、北米、そして南米の国々が連携していくことで、持続可能な成長につながるものです。横浜APECの成果は、APECの歴史の新しい一ページになる、このように確信をいたしております。

 今回のAPEC会議に先んじて、我が国は包括的経済連携に関する基本方針を閣議決定し、農業の再生と開国を両立することを明確にいたしました。これがAPECにおける議論を促進し、今回の会議の成功に大きく貢献したものと考えています。

 今回の会議での具体的な成果は、次のとおりであります。

 一、最重要課題がアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現に向けて具体的な手段をとるということであります。FTAAPに向けた道筋については、ASEANプラス3、ASEANプラス6、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定等の現在進行している地域的な経済連携を基礎として、さらに発展させること等についての意見の一致がありました。

 この関連で、私からは、TPP協定について、その情報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始していく考えであることを表明しました。

 また、本年が先進国・地域の達成期限となっていた、自由で開かれた貿易及び投資を実現するとのボゴール目標について、十三の国と地域は目標の達成に向けて顕著な進展を遂げたとの共通認識に達しました。

 さらに、APECで初めての長期的かつ包括的な成長戦略を策定することに合意をいたしました。これは、世界経済・金融危機の教訓を踏まえ、地域の成長の質を向上するため、均衡ある成長、あまねく広がる成長、持続可能な成長、革新的成長及び安全な成長の五つを達成することを目的とするものであります。

 また、WTOドーハ・ラウンド交渉の早期妥結に向けた決意を再確認するとともに、輸出規制等を含め、貿易を阻害する効果を持つ措置を新設、強化しないとの二〇〇八年の約束を、二〇一三年まで延長することに合意をいたしました。

 なお、APEC首脳会議の機会に、オバマ米国大統領、胡錦濤中国国家主席、メドベージェフ・ロシア大統領、ハーパー・カナダ首相、李明博韓国大統領、ピニェラ・チリ大統領、ガルシア・ペルー大統領と個別に会談を行いました。

 オバマ米国大統領とは、日米同盟を深化、発展させ、来年前半に招待をいただいた私の訪米の機会に、二十一世紀の同盟のビジョンを共同声明のような形で示すことで一致をいたしました。

 胡錦濤中国国家主席とは、尖閣諸島について我が国の確固たる立場を述べるとともに、戦略的互恵関係を発展させていくことや、政府間・民間交流の促進、経済分野を含むグローバルな課題での協力を強化していくことで合意をいたしました。

 メドベージェフ・ロシア大統領とは、国後島訪問について抗議の意を明確に伝えました。その上で、領土問題の解決のための協議と経済協力のための協議を首脳同士を含めて進めていくことについて改めて合意をいたしました。

 ハーパー・カナダ首相とは、政治・平和安全保障分野に関する新たな協力枠組みの文書に署名し、これらの分野を中心とした緊密なパートナーシップを築いていくことを確認しました。

 李明博韓国大統領とは、日韓図書協定の署名を歓迎し、未来志向の日韓関係を構築すべく努力していくことを確認しました。また、北朝鮮問題について、日韓米の連携を強化していくことで一致しました。

 ピニェラ・チリ大統領とは、我が国にとり重要な資源供給国であり、また、EPAのパートナーであるチリとの経済関係を強化していくことを確認しました。

 ガルシア・ペルー大統領とは、日・ペルー経済連携協定(EPA)交渉が完了したことを確認し、同EPA交渉完了に関する共同声明に署名しました。

 以上、今回のAPEC首脳会議、そして七カ国との二国間会談を通じ、我が国が、大きく国を開き、発展著しいアジア太平洋地域とともに成長の道を歩むことこそが国益につながるものと確信した次第であります。(拍手)

     ――――◇―――――

 内閣総理大臣の発言(APEC首脳会議に関する報告)に対する質疑

議長(横路孝弘君) ただいまの発言に対して質疑の通告があります。順次これを許します。長島昭久君。

    〔長島昭久君登壇〕

長島昭久君 民主党の長島昭久です。

 ただいまの菅総理のAPEC報告に対しまして、民主党・無所属クラブを代表して質問いたします。(拍手)

 さて、総理、韓国・ソウルに飛んでG20、そして横浜に戻ってAPECでの議長役と、大変なハードスケジュールであったと推察いたします。まずは、お疲れさまでした。

 また、諸外国から多くの賓客を迎えるに当たりまして、大変な御尽力をいただきました地元の皆様並びに警備に当たった警察を初めとする関係各位に敬意を表し、感謝を申し上げる次第でございます。

 さて、ことしは、アジア太平洋地域における先進国にとりまして、一九九四年にインドネシアのボゴールで開催されたAPEC首脳会議が設定をしたボゴール目標達成の年に当たります。先進エコノミーは二〇一〇年までに自由で開かれた貿易と投資を達成する、これがボゴール目標であります。

 APECは、現在、参加国のGDP合計が世界全体の五割を超え、貿易量及び人口は世界全体の約四割を占め、EUやNAFTAを上回るまさに世界の成長センターとなっており、このような地域において経済統合が推進され、域内での貿易・投資の自由化が進むことは、域内外への巨大な経済効果が期待できるところであります。まさにその牽引役が、日米を初め、韓国、オーストラリア、台湾、シンガポールなど、十三の先進エコノミーであります。

 ことしは、日本がAPEC首脳会議の議長国であり、来年は、アメリカ合衆国が議長を務めることになっております。ボゴール目標達成期限を挟んで、アジア太平洋地域最大の先進民主主義国である日米両国が続けて指導的立場に立つことになったのは、単なる偶然とは思えません。日本は、大事なアンカーとして、ボゴール目標達成の努力に区切りをつけ、新しいポスト・ボゴールのビジョンを提示する重責を担いました。

 その意味で、アジア太平洋地域における初の成長戦略を策定する今回のAPEC首脳会議では、各国の意見調整に難航が予想されるなど、議長国の力量も問われました。その中で、二〇一五年までの行動計画の策定を柱とする横浜ビジョンを採択できたことは、議長国としての大役を十二分に果たし、我が国の力量を参加各国に示すことにもなり、大きな成果だったと思います。

 とりわけ、アジア太平洋地域を一つの自由貿易圏として確立させるFTAAP構想は、APECの一大目標であります。しかし、FTAAPは、一朝一夕には実現できません。そのために、日韓中FTA、ASEANプラス3、ASEANプラス6などさまざまな努力がなされておりますが、現在大きな注目を集めているのが、完全な自由貿易を目指すTPPの取り組みであります。

 TPPは、内向きで、閉塞感にさいなまれ、自信を喪失し、ともすればガラパゴス化しているのではないかと批判されている今日の日本を、再び世界に向かって大きく開放し、開国がもたらす外からの刺激によって日本経済を新たな高みに押し上げるものであります。もちろん、高度な市場開放に伴って国内産業が厳しい競争にさらされることは間違いありません。しかし、この痛みなくして日本が再浮上することはないでありましょう。

 また、APEC首脳会議の議長国として日本がFTAAP実現への道のりにおいてリーダーシップを発揮するためには、アジア太平洋地域における経済連携でルールメーキングの母体となる可能性の高いTPPへの参画こそ、その最大の試金石となります。その意味で、APEC首脳会議に臨むに当たり、党内外の厳しい、激しい議論を乗り越えて総理がTPP関係国との協議を開始すると宣言したことは、平成の開国に向けて総理の並々ならぬ決意のあらわれと、深く感銘を受けた次第であります。

 そこで、菅総理に、改めて、TPP交渉参加に向けての御決意を伺いたいと思います。

 しかし一方で、TPPは日本農業を直撃することになるでありましょう。

 自民党時代に半世紀続いた農政の失敗は、今やだれの目にも明らかであります。荒れたまま放置されている農地はふえるばかりであり、農業に従事する人々の高齢化も進んでおります。国民の食生活における嗜好の変化を無視した農政は、ついに食料自給率を四割以下にまで押し下げました。TPPによる農産品の貿易自由化は、疲弊した日本農業にさらなる打撃を与えることになるに違いありません。

 食料安全保障はもとより、農業には治山治水の役割もあり、山紫水明の豊かな国土を保全する上でも、日本農業を衰退させるわけにはいきません。農業を魅力ある産業として何としても再生をしていかなければならないのです。したがって、TPPへの参加は、日本農業の抜本的な構造改革と組み合わせて実現されなければなりません。

 政府は、TPP協議と並行して、農業構造改革推進本部を立ち上げ、来年六月までに基本方針を立て、十月までに行動計画を策定するとしています。

 農業構造改革の目玉は、戸別所得補償であります。そのためには大きな財源が必要となります。恐らく、年間数兆円規模の財源を、五年、いや十年と、続けていかなければならないでしょう。しかし、この財政上の痛みこそ、新生日本農業を生み出す痛みなのであります。大胆な歳入改革なくして各種の政策財源が絶対的に不足することが明らかとなりつつある今日、日本経済の生き残りをかけて国を開くためには、何としても農業構造改革の財源を捻出せねばなりません。

 そこで、総理、改めて、日本農業の再生をかけた農業構造改革に向けての総理の御決意を伺いたいと存じます。

 最後に、APECとの関連で、総理のアジア太平洋戦略を伺いたいと思います。

 TPPの議論が日本で沸騰する少し前、シンガポールの外交官が私に興味深い話をしてくれました。TPPの意義は、単なる経済構想にとどまらない、台頭する中国を見据え、日米が中心となってアジア太平洋地域の安全保障を確立していくプロセスそのものだ、こう述べました。

 私は、アジア太平洋の戦略的な構図というものは、米国とその同盟諸国が西太平洋に結集し、旧ソ連にかわって台頭しつつある中国との戦略的均衡と安定を確保するというものです。その上で、自由貿易体制を通じ、日米のような先進民主主義国と中国に代表される新興工業国との共存共栄を図るというものであります。

 最近の尖閣諸島や北方領土への傍若無人なる対応に見られるように、中国やロシアの対外姿勢は、時に、十九世紀的な、力を背景に国家意思を前面に押し出すスタイルを隠しません。このような理不尽な国家意思の押しつけを断固拒否するためには、まず、みずからの国はみずからが守る、こういう主権国家としての当たり前の姿を確立しなければなりません。

 折から、政府は、五年ぶりに防衛計画の大綱を見直しております。厳しい財政事情のもとでも着実な防衛力の整備を進めることが、まず求められます。特に、今度こそ、北方重視の冷戦思考と完全に決別し、機動的な防衛力を大胆に南西方面へシフトさせるという思い切った政治決断をすべきであります。

 こういった自助努力がまず先にあって、その上で、五十周年を迎えた日米同盟をさらに深化、発展させ、米韓、米豪といった西太平洋に広がる米国の同盟網を確固たるものとし、同時に、中国との戦略的互恵関係を安定させ、その基盤の上にアジア太平洋地域全体の経済統合を促進する、これが日本の大戦略だと考えます。

 そこで、総理、このたびの新たな防衛計画の大綱、そして日米同盟の深化、発展、これらの方向性を含め、総理の描くアジア太平洋戦略をぜひ国民の前に披瀝していただきたいと存じます。

 いずれにいたしましても、明治、昭和に次ぐ第三の開国ともいうべき平成の開国は、黒船と敗戦という外圧によって無理やりこじあけられた過去二回の受け身の開国とは根本的に異なります。国力の低下、人口減少、新興国の台頭などといった内外の危機感をばねに、あくまでもみずからの意思によって国を開くところに歴史的な意義を見出すものであります。これぞまさしく真の開国であり、こういった国策の大転換は、政権交代が実現した今だからこそ初めて可能になったと確信いたします。

 したがいまして、菅総理には、農業を初めとする国内の構造改革から逃げることなく、むしろ、開国の大方針をてことして、長く放置されてきた内政上の諸課題を一気に解決する、堂々たるリーダーシップを発揮していただきたい。このことを強く御期待申し上げ、私の質問とさせていただきます。

 ありがとうございました。(拍手)

    〔内閣総理大臣菅直人君登壇〕

内閣総理大臣(菅直人君) 長島議員から、激励も含めて、大変元気のいい御質問をいただいたことを、まず心からお礼を申し上げます。

 まず、今回のAPECにおける意味、まさに長島議員御自身が言われたように、二〇一〇年ということしは、ボゴール目標を達成する一つの区切りの年でありました。そして、その後にどういうこの地域におけるポスト・ボゴールの絵をかいていくかということが問われたAPECでありました。それに先立って、我が内閣で、包括的経済連携の基本方針を、党の中の議論を含め、内閣として決定していただいたことが、このAPECに対する大きな刺激となって大きな成果を得ることができた。先ほど御報告をいたしたとおりであります。そういった意味で、今回のこのAPECの結果は、我が国が国を開くということとまさに表裏一体の方向性を示すもの、私は、そのような気持ちでこのAPECの議長を務めさせていただきました。

 これは、内容的には、開国と農業再生の両立を図っていくという大戦略であります。そして、その中で、二国間の貿易交渉、多国間の貿易交渉、さらにはTPPと、この問題に対して情報収集を進めながら対応していく必要があるということで、関係国との協議を開始することといたしました。

 APECの終了直後に行われた九つのTPP参加表明国の会議に、議長として、オブザーバーとして私も招かれました。その中での議論は、九カ国がこの一年間の間にTPPを実現していこう、そういう意見を首脳間で交換されている、そうした場面でありました。私たちは、それぞれの九カ国に対して、情報収集を含めてこれからそれぞれ協議をさせてもらいたいということも表明をし、了解をいただいたところであります。

 次に、農業構造改革に向けた決意について御質問をいただきました。

 日本の農業は、私は、大きな力を持っていると思います。今回のAPECに集まられた首脳あるいはその奥さんたちも、日本の食べ物については、本当においしいしヘルシーだということを口をそろえて言われております。そういった意味で、日本の農業あるいは農産物は、世界に誇る質と、そして、そうしたすばらしい味を持っていると思います。

 しかし、残念ながら、我が国の農業の現状は、そうした力をフルに発揮できていないのが現状じゃないでしょうか。それは一つの数字にあらわれております。つまり、現在農業に従事している人の平均的な年齢が六十五・八歳という、大変な高齢化が進んでしまっているということであります。

 私は、これには幾つかの原因があると思いますが、一つは、戦後つくられた農地法という法律が、小作制度を防ぐためということで、農業を既にやっている人しか農地は買えないという高い障害を長年加えていたために、新たに農業に参加をしたいと思う人たちが参加できない結果、こうした六十五・八歳という構造にまで立ち至ってしまった、一つの大きな原因だ、このように考えております。

 また、これまで、農業、林業、漁業というと第一次産業ということが言われてきましたけれども、しかし、農作物が加工されれば食品になり、それがレストランで出されればサービス業になる。まさに、一次産業、二次産業、三次産業の付加価値を農業という枠の中に取り込むことにこれまで必ずしも成功しなかったことが、日本の農業を衰退させてきた一つの要因だと考えているところであります。

 こういった根本的な農業のあり方を、今回、農業構造改革推進本部を立ち上げ、私が本部長となり、鹿野農水大臣と玄葉戦略大臣のお二人が副本部長となって、内閣一丸となって取り組んでいく覚悟であります。どうか皆さんの御支援もぜひともよろしくお願いを申し上げます。

 そして、最後に、長島さんから、みずからの国はみずからで守るという主権国家としての姿勢を確立すること、これこそが重要だという、まさにそのとおりの主張をいただいたことを、私は、心から敬意を持って申し上げたいと思います。

 今、五年置きに行われている防衛力の大綱の中で、従来のように、ここにこういう部隊がいるから、それで他の国からの侵略は抑止できるといったような、どちらかといえば静的な発想、スタティックな発想から、ある事態がこの地域で起きるなら、そこにウエートを移していく、動的な防衛力というものに変えていかなければならない時代にやってきている、このように考えております。

 そういった意味で、防衛力の大綱についてはこの十二月までにその方向性を決めることにいたしておりますけれども、そうした根本的な見直しも含めて、我が国が、自分たちの国は自分たちの意思で守るという、そのことを防衛大綱の中でもしっかりと実現したい、表現をしていきたいと考えております。

 そして、その上で、日米同盟を基軸としつつ、韓国、オーストラリア、そうした国々との連携、さらには、インド、ASEAN諸国との良好な友好関係を増進することといたしております。そのことが、アジア地域における安定と、そして世界の平和にとって最も重要な安全保障の形であるということを私自身も考えているわけでありまして、そのことを申し上げておきたいと思います。

 最後に、中国との戦略的互恵関係の構築及びアジア太平洋地域の経済統合は、こうした基盤を持った安全保障体制を前提として進められるべきことだ、このことを申し上げて、私の答弁とさせていただきます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(横路孝弘君) 甘利明君。

    〔甘利明君登壇〕

甘利明君 自由民主党の甘利明です。

 私は、自由民主党・無所属の会を代表し、過去に経済産業大臣としてAPECに二回出席した経験も踏まえて、ただいま報告のありました横浜における第十八回APEC、アジア太平洋経済協力会議の結果につきまして質問をいたします。(拍手)

 まず最初にたださなければならないのは、本年六月に発足した菅内閣にとって、外交面における大きな課題でありましたAPECが、議長国として果たしてどの程度の成果があったと認めることができるかであります。

 菅総理は、十一月十四日、会議終了後の記者会見において、私が議長を務めたAPEC首脳会議が大きな成果を得て成功裏に終了したと前置きをした上で個別の問題に言及をし、最後に、太平洋を挟む国々との連携は、まさに日本がこの平成の時代に改めて開国することであり、横浜におけるAPECは、その歴史としても大きな一ページになると同時に、我が国の歴史においても大きな新しい一ページになると手放しで自画自賛をしておられます。

 尖閣の問題も北方領土の問題も逃げ腰に終始したのは、機嫌を損ねたらAPECに来てもらえないのではないか、二国間会談ができなくなってしまうのではないかと、ひたすらAPECの成功を取り繕うことに終始した結果ではないんでしょうか。そうまでして取り繕われたAPECにおける協議を通じて、つまり、毅然たる姿勢のかけらもない協議で、一体何を根拠にして、大きな成果であるとか、我が国の歴史においても大きな新しい一ページといった総括を行われたのか、質問の最初に菅総理の認識をお伺いいたします。

 質問の二点目は、FTAAPについてであります。

 横浜ビジョンでは三つの方向性が示されました。すなわち、緊密な共同体、強い共同体、安全な共同体であります。そして、その共同体の結成のために、APEC地域全体をFTAの対象とするFTAAPの構築に向けてTPPやASEANプラス3やASEANプラス6を活用するとあります。

 実は、私自身、経済産業大臣として出席した二度のAPECにおいて、ASEANプラス3よりもASEANプラス6を推進してまいりました。というのも、ASEANプラス3では中国の経済覇権が前に出過ぎるおそれがあり、人口大国インドを加えることによってバランスをとる、そして、オーストラリア、ニュージーランドを加えることによって、将来、アメリカをアジアにつなげていく橋渡しとする。つまり、ASEANプラス6は、FTAAPへのビルディングブロックになるからであります。

 二十世紀のアメリカは大西洋国家でありました。二十一世紀のアメリカは太平洋国家たらんとすることを目指しています。アメリカにとって、世界の成長センターたる東アジアにいかにコミットしていくかは死活問題であり、同時に東アジア自身にとっても、アメリカのプレゼンスが、安全で安心な経済連携地域を構築する上で必須要件になってきています。

 総理は、このASEANプラス3やTPPをFTAAPへとどうつなげていくのか、その見解をお伺いいたします。

 近年、ASEANにおいて日本がなし得た最大の成果の一つは、日本発の国際機関としての東アジア・アセアン経済研究センター、略称ERIAを創設したことであります。発足後わずか二年にして、ASEANサミットの際に、ASEAN事務局と机を並べて出席する存在となりました。ASEAN各国の経済分析を請け負い、各国別に経済戦略を提案するまでの存在になりました。我が国の経済成長戦略にとって、東アジアの経済成長を取り込むということが至上命題になっていますが、日本の発意で設置をされ、日本が運営資金の約束をし、ASEANプラス6の十六カ国から理事や研究者を選出する、東アジアのセンター・オブ・エクセレンスになりつつあります。

 しかるに、そのERIAの予算は、二年連続、事業仕分けで二割カットの対象とされています。その理由は、拠出金の各国の分担をふやすべきというものであります。日本が金を出さなければ、恐らく中国が真っ先に、すべて自分が負担をする、そのかわりに役員ポストをこちらに大幅に割り振れと言うに決まっているのであります。日本のイニシアチブで東アジアの経済発展を誘導し、それを日本の成長に取り込むとした戦略拠点が、まさに乗っ取られるということになるんです。

 菅総理並びに蓮舫大臣は、ERIAの戦略的意味をどれくらい御存じで仕分けをされようとしているのか、真意を伺います。あわせて、私が、現内閣中、数少ない真っ当な大臣だと信ずる大畠経産大臣に、ERIAの予算を守り抜く決意を伺います。

 私がなぜAPECに関連しERIAを取り上げるかといえば、APECの組織上の最大の弱点は、常設事務局を持たないということであります。議長国が持ち回りで事務局を設置するために、ともすれば、継続する課題解決への推進力が落ちているからであります。東アジア版OECDたらんとするERIAをむしろ強化して、APECの常設事務局の役割を日本主導で担っていかれるつもりはないか、総理に伺います。

 次に、環太平洋パートナーシップ協定、TPPへの菅内閣及び与党民主党の対応について伺います。

 TPPへの協議参加を決めた日本に対し、数カ国から、APEC議長国として率先して決断をしたことは評価されるとの反応を得たと、前原外務大臣が胸を張っておられます。問題は、TPPの行方をどうシミュレーションして、その洞察のもとになされた決断であるかどうかということであります。トラスト・ミーと大統領の面前で約束しながら、翌日にはそんな意味で言ったつもりはないと言ってこれをほごにし、国際社会の不信を買った二の舞になりはしないか、軽薄な毅然たる決意になりはしないかと心配をしております。

 私も、我が国がかかわらざるを得ない枠組みであるならば、いかなる国際的な枠組みに関しても、ルールをつくる際には必ず参加すべきだと思っている一人であります。他人がつくったルールに後から参加するくらいなら、自分に都合のよいルールをつくることに全力を挙げるべきです。問題は、TPPが、将来、日本がかかわらなくてはならない枠組みであるのかないのか、まず見きわめることであります。そして、かかわらざるを得ないと判断したときには、犠牲を強いられる分野についての対応策を先回りして講じておくことであります。

 総理は、どういう視点から日本が必ずかかわらなければならない枠組みだと判断されましたか。そして、影響を受ける農業分野について、戸別所得補償の拡大で対処できるとされた点はどういう理由か。米から大豆、麦、畜産、酪農、果樹へと対象を広げていく中で、戸別所得補償の拡大をしていくだけの政策で農業の競争力がどうして強化できるのか、また、今の政策を全分野に広げていく際に一体幾ら予算がかかると考えておられるのか、総理に伺います。

 次に、日米、日中、日ロの首脳会談について伺います。

 国際社会から広く首脳が参集するAPECは、二国間の首脳会談の場でもあり、特に菅政権においては、普天間飛行場問題を抱える日米、尖閣諸島周辺における漁船衝突事件とその後の反日デモなどぎくしゃくする日中、さらに、十一月一日のメドベージェフ大統領による国後島訪問を受けた日ロ、以上三つの首脳会談の行方を日本国民はかたずをのんで見守っていたのであります。

 首脳会談の成果について、菅総理は記者会見において、日米については日米同盟関係をさらに深化していこうという点で合意、日中は戦略的互恵関係の発展について合意、日ロでは領土問題の解決と経済協力について二つのフィールドで話し合うということで合意し、それぞれ前進することができたと総括をされました。一体何が前進なのか、本当に理解に苦しみます。

 日米について、本来ならば、オバマ大統領との間で普天間飛行場問題の最終決着が図られるべきでありました。しかし、鳩山前総理以後、民主党政権の公約破りで怒りが渦巻く沖縄の県民感情を形だけおもんぱかるばかりで一歩の前進もなく、そのような状況下で、日米の同盟の深化など可能なはずがないではありませんか。

 日中につきましては、またしても立ち話の懇談に終わるのではないかと危惧をしていましたところ、土壇場になって、二十分間余り、通訳を計算すればわずか十分間の会談は実現をしました。しかし、菅総理は記者会見において、この地域に領土問題は存在しないという基本的立場を明確に伝えたと明言したものの、記者の質問に対しては、私の就任時の六月に戻すという、そういうことを実現することができたんですと述べられました。つまり、菅内閣の腰砕け外交でマイナスに陥っていた日中関係を白紙の状態に戻せた、要するに、成果はゼロだったということを菅総理みずからがはしなくも告白してしまったと言わざるを得ません。

 まして日ロ関係に至っては、ロシア首脳の北方領土訪問というソ連時代を含めても前代未聞の出来事の直後でも、二つの国が経済的にも協力関係が深まる中で、領土問題においてもいい影響が出てくる、そういうことが十分あり得るなどと、楽観的というよりも、事態の重大性をおよそ認識していないコメントが発せられる次第でありました。

 総理、あなたは、日ロ首脳会談で、北方四島は我が国固有の領土であると明確に伝えたのですか。

 菅政権が、恐らく、したたかでしなやかという意味で使っておられる柳腰外交は、世間から見れば、及び腰外交にほかなりません。自信のない中途半端な態度、最初だけこわもてに出て、反撃されるやすぐ腰砕け。

 これら三つの首脳会談について、菅総理は、何の成果もなかったと認めるべきではないでしょうか。見解を伺います。

 以上、横浜APECに関連し、菅内閣の対応について幾つかの質問をいたしましたが、最後に国民の前でたださなければならないのは、菅内閣、民主党の政権担当能力であります。

 菅内閣発足以来約五カ月、九月の民主党代表選挙からは二カ月が経過しました。この間、改めて指摘するまでもなく、菅内閣の支持率は急降下を続けており、例えば読売新聞の調査によれば、六月の発足当時六四%を記録したものが、十一月現在三五%にまで落ち込みました。換言すれば、六月に菅総理を支持した国民の半分近くが菅内閣を見限ったということになります。

 この十一月の調査では、中国漁船衝突事件をめぐる菅内閣の対応を評価しないという人が何と八二%、菅内閣が今の経済情勢に適切に対応していると思う人は一二%、そうは思わない人が七九%、また、小沢一郎元幹事長の政治と金について、民主党の対応は不適切だと思う人が八四%を占め、さらに、小沢氏が国会で説明すべきだと思う人も八四%に上っているとの結果が報じられております。

 総理、日本の国民は、お金や物を幾らばらまいても、それにつられて安直に政権を支持したりはしないのです。

 さらに、この週末に行われたANNの世論調査では、ついに支持率二八・五%を記録しております。まさに危険水域以外の何物でもありません。

 過去数カ月の菅内閣の迷走ぶり、中でも、中国漁船衝突で露呈した及び腰外交や腰砕け外交。現下の苦しい経済状況に置かれている国民を救い出すための施策に対して余りにも無為無策。さらに、そうした国民感情を逆なでするかのような、政治と金の問題への無神経きわまりない対応。二カ月前の民主党代表選において、民主党所属の国会議員の半数近くが小沢氏に一票を入れたことは記憶に新しいところであります。

 そのような国民感情から遊離した民主党が仕分け会議といったパフォーマンスにうつつを抜かしている間にも日本の国際的な地位の低下はとまらず、国民の生活は一向に上向かず、菅内閣が国家国民のためではなく一内閣のメンツや延命のために日々を過ごしていることを図らずも露呈したのが、今回の横浜APECの結果ではなかったんでしょうか。

 菅総理が今後も政権を担っていこうとされるならば、経済、外交、安全保障、政治と金など山積する諸問題にどのようなお覚悟と決意とリーダーシップを持って当たられようとしているのか、総理の答弁を伺って、私の代表質問とします。(拍手)

    〔内閣総理大臣菅直人君登壇〕

内閣総理大臣(菅直人君) 経済産業大臣として二度のAPECに出席された甘利議員から内容の込もった御質問をいただきまして、ありがとうございました。

 ただ、最初に申し上げたい一言は、機嫌を損ねたらAPECに来てもらえないのではないかといって私が逃げ腰だったと言われますが、まさか、このAPECに、これだけの成長センターの会議に、私は、ロシアや中国の首脳が来ないことはあり得ない、そのように当初から確信しておりました。二国間の問題とAPECの重要性の違いは甘利さん御本人もよくよくわかっておられるはずでありまして、そういう、いわば、これ以上言うと言葉が過ぎますのでやめますけれども、そういう目線の余りにも低い見方はぜひおやめをいただきたいということを冒頭申し上げておきます。

 今般のAPEC首脳会議での重要なテーマの一つは、二〇一〇年のボゴール目標達成に区切りをつけ、アジア太平洋地域の持続可能な成長を実現させるための将来像を構想することでありました。私は議長として、そのような構想を横浜ビジョンとして取りまとめました。

 この横浜ビジョンを踏まえ、太平洋をまたいで、アジア、大洋州、北米そして南米の国々がそれぞれ連携していくことで、この地域全体の持続可能な成長につながると考えております。

 特に、アジア太平洋自由貿易圏、FTAAPの実現に向けた具体的な手段をとることに合意をいたしました。また、この地域として初めての、長期的かつ包括的な成長戦略を取りまとめたところであります。

 また、このようなAPEC首脳会議の成果を踏まえ、我が国が大きく国を開き、発展著しいアジア太平洋地域とともに成長の道を歩むことが国益につながること、そして、このような考え方から、今回の会議の成果は、APECの、そして我が国の歴史の新しい一ページになると私は確信をいたしております。

 このように、世界の成長センターであるアジア太平洋の国と地域の首脳が一堂に会し大きな成果を生んだAPEC首脳会議にこの地域のこうした首脳国はすべて出席をしていただいたことは、もちろん御承知のとおりであります。

 そこで、FTAAPの実現に向けた道筋についての御質問をいただきました。

 FTAAPについては、二国間のFTAやEPAを積み重ねる、あるいは多国間におけるASEANプラス3、ASEANプラス6、TPPといった協議など、いろいろな道筋があります。ASEANプラス6について言えば、市場として大きな潜在力を有するインドや、先進民主主義国の豪州も参加しており、大いに意義があると認識をいたしております。日本とインドとの間では既にEPA交渉が完了し、将来のアジア太平洋地域の自由貿易圏に向けて具体的な一歩を踏み出しております。そういった意味で、甘利さんがASEANプラス3よりもプラス6を重視するという一つの考え方については、傾聴に値する御意見として聞いておきたいと思います。

 我が国としては、アジア太平洋地域全体における自由貿易圏を目指し、このように幾つかの道筋についてそれぞれ積極的に進めていく、これが横浜ビジョンでの大きな方向性であると確認をいたしているところです。

 来年は米国オバマ大統領がハワイのホノルルでAPECを主催することになっています。それに向けて、大変実り多くのことを盛り込んだ横浜ビジョンを着実に実現してまいりたいと考えております。

 次に、東アジア・アセアン経済研究センター、ERIAの予算等についての御質問をいただきました。

 議員の御指摘のとおり、このERIAについては、G20の場などで何度もASEAN事務総長のスリン事務総長からお話をいただき、西村事務局長に大変頑張っていただいて、ASEANやAPECにとって本当にかけがえのない存在だということを何度もお聞きかせいただきました。そういった意味で、甘利議員がERIAについて高い評価をされていることを私も改めて、このことについて御支援などをいただいたこともあったと思いますが、お礼を申し上げたい、このように思っております。

 事業仕分けの結果は同センターの拠出金のあり方等について問題提起をしたものと聞いておりますけれども、少なくともこのERIAという組織の重要性ということについてはしっかりと念頭に置いて来年度の予算を考えてまいりたいと思います。

 なお、一つだけ申し上げますと、APECの常設事務局というものをERIAがやっているというのはちょっと意味が違っておりまして、APECの国際事務局は一九九二年以来シンガポールに設置されておりまして、その機能の強化が課題でありましたが、二〇〇七年のAPEC首脳会議において事務局長の常任化など事務局機能の強化が合意され、本年から、初めて、専任事務局長としてヌール氏が就任しておられます。

 なお、現在のこのAPEC専門の事務局は、事務局員六十五名、こういうふうに聞いているところであります。

 いずれにいたしましても、APECに対してもASEANに対しても大きな力を発揮しているERIAの重要性については、御指摘もいただきましたので、十分に頭に入れて対応していきたいと考えております。

 次に、TPPへの判断及び農業分野の対応に関する御質問をいただきました。

 甘利議員からは、TPPのルールづくりへの我が国の関与の必要性及びセーフティーネットの準備について、大変傾聴すべき御意見をいただいたと認識をいたしております。自由民主党の中には、保守的な考え方で質問される方もたくさんおられまして、ぜひとも甘利議員の方向で党内の御意見の集約をいただけるとありがたい、このように思っております。

 APEC開催を前にして、包括的経済連携に関する基本方針を閣議決定いたしました。今、再び大きく国を開くとの決意のもと、すべての品目を自由化交渉の対象として、世界の潮流から見て遜色のない高いレベルの経済連携を進めております。

 具体的には、二国間及び多国間の経済連携協定の交渉等に妥結及び加速化を進め、さらに、TPPについても関係国との協議を開始することといたしました。事実、APEC期間中もTPP参加九カ国の首脳会議が開かれ、私もAPEC首脳会議の議長としてオブザーバー参加をし、情報収集に直接当たったところであります。この場では、来年APECホノルル会合までに交渉に結論を出すという意欲が各首脳から示されておりました。

 農業分野の対応策については、必要予算額等について、今般設置する農業構造改革推進本部において、平成二十三年六月をめどに基本方針を決定し、さらに、必要な財政措置及びその財源を検討することといたしており、中長期的な視点を踏まえた行動計画を平成二十三年十月をめどに策定することといたしております。

 具体的な対処については同本部の場で徹底して議論をしていただくことになりますが、例えば、農業の二次、三次産業への進出による六次産業化、新規参入支援を進めるための農地利用のあり方の検討、規模拡大や生産向上、輸出支援等の措置を抜本的に検討してまいりたい、このように考えております。

 次に、日ロ首脳会談について御質問をいただきました。

 北方四島が我が国固有の領土であるという我が国の原則的な立場はしっかりと伝えました。そして、今回、自分は、メドベージェフ大統領の国後訪問について、その立場から改めて抗議をいたしたところであります。そして、日ロ間の平和条約交渉においてもこの日本の原則的な立場を前提として対応するということも申し上げたところであります。

 日米、日中、日ロ首脳会談についても重ねて御質問をいただきました。

 今般のAPEC首脳会議において、米国、中国、ロシア、韓国を初め七カ国との間で首脳会談を行い、それぞれ大きな成果があったと私は考えております。

 日米関係については、一部に同盟関係が必ずしも十分に機能していないのではないかという御心配や御指摘もありましたけれども、今回、オバマ大統領との三度目の首脳会談を行い、日米同盟こそが、日本においても、この地域においても必要不可欠なものであるという認識で一致し、信頼関係を深めて、回復してきたと考えております。

 このような信頼関係のもと、先日の日米首脳会談では、さらに日米同盟を深化、発展させ、来年前半に招致をいただいた私の訪米の機会に、二十一世紀の日米同盟のビジョンを共同声明のような形で示すことで一致をいたしました。日米同盟は新たな段階に進む準備に入ったと考えております。

 日中関係については、尖閣諸島沖の漁船衝突問題以降、ぎくしゃくした状況が続いておりました。そして、今回の首脳会談で、改めて、自分の就任時の六月における戦略的互恵関係の推進という原点に戻ることを確認いたしたものであります。

 甘利さんは、白紙に戻したからプラスになったとは言えないと言われましたが、私の数学の知識でいえば、マイナスからゼロになったということは大きな前進だ、このように考えているところであります。

 日中首脳会談では、尖閣諸島について我が国の確固たる立場を述べるとともに、戦略的互恵関係を発展させていくことや政府間・民間交流の促進、経済分野を含むグローバルな課題での協力を強化していくことで合意をいたしました。

 日ロ首脳会談では、先ほども述べたように、我が国固有の領土であることを申し上げた上で、国後島訪問について抗議の意を明確に伝えました。従来、首脳間での領土交渉がこの間必ずしも進展をしていなかったわけでありますけれども、これから、領土問題の解決のための協議と経済協力のための協議を首脳同士で進めていくことについて合意をいたしました。その上で、メドベージェフ大統領の方から訪ロの招待をいただきましたので、私の方も、検討の上、対応を、希望しているということを申し上げました。

 そういった意味で、何の成果もなかったという御指摘は全く当たらないということを改めて申し上げておきたいと思います。

 次に、山積する諸課題についての覚悟とリーダーシップに関する御質問をいただきました。

 議員が御指摘のとおり、我が国は、この二十年間の長きにわたって先送りしてきた重要政策課題がたくさん存在しております。経済、財政、社会保障、地域主権、外交の改革は、過去の政権が積み残して、もはや次の世代に残していくことができない課題だということで、私はこの国会における冒頭の所信表明演説でそのことを申し上げたところであります。菅内閣発足以来、喫緊の、景気、経済、雇用対策に不断に取り組みを行い、同時に、今申し上げたような重要政策課題については、いわばこれを次世代に残さないという覚悟の中で取り組んでいくことを改めてこの場でも申し上げたいと思います。

 また、いろいろと世論調査の結果についてお述べをいただきました。

 確かに世論調査は一つの世論の指標でありますから、それは真摯に受けとめなければなりませんけれども、非常に短期に上下をする傾向もありまして、そのことについて一喜一憂をし過ぎることも大変問題だと思っているところであります。そうした立場でしっかりと政治に取り組んでまいりたいと思います。

 また、政治と金の問題についても、岡田幹事長のもとで党として政治改革推進の議論を積み重ねております。

 代表選のことにも触れられましたけれども、代表選では私が再選されて、そして、新たな党執行部と内閣を改めて構成いたしました。決して二重権力構造といったことにはなっておりませんので、どうか御心配をされないでいただきたいと思います。

 また、大変困難な道のりではありますけれども、まさに私があえて有言実行という表現をいたしましたのは、つまりは、黙っていても、物を言わなくても、後に残すか残さないかが問われているわけでありまして、そういった意味では、二十年間にわたって長く大部分の時期に政権を担当されていた自民党の皆さんも、次世代に残さないという、そのことを共通の目標としてしっかりと政策的な対案を出していただくよう心からお願いして、答弁とさせていただきます。

 なお、残余の件については、担当の大臣から答弁させます。(拍手)

    〔国務大臣蓮舫君登壇〕

国務大臣(蓮舫君) 甘利議員にお答え申し上げます。

 先ほど菅総理からも答弁がございましたが、東アジア・アセアン経済研究センターは、地域の成長、統合のための知的センターとして設立されたものであり、東アジア経済統合推進のため、重要な役割を果たしていくものであると私も認識しております。

 他方、昨年秋の事業仕分けにおきましては、我が国の九九%という突出した拠出割合の多さ等を踏まえ、ERIAの戦略的な位置づけ等も含めて議論をした上で予算要求の縮減とされ、拠出金についても、一層の経費削減を行うとともに、諸外国にも応分の負担を求めるべきと指摘され、また、関連予算も見直すべきとされました。

 平成二十二年度の同センター予算につきましては、関連予算の縮減が図られている一方、拠出金自体については、諸外国に働きかけを行っているものの、事業仕分けの取りまとめ結果の反映が不十分と見られる点もございまして、十一月九日の行政刷新会議において、平成二十三年度予算編成過程において適切な対応を行うことを求めたところでございます。

 事業仕分けでは、東アジア・アセアン経済研究センターの意義を否定するものではなく、多額の国民の税金を投入するものであることから、さらなる効果的、効率的な予算の執行を求めた評価結果となったものでございます。

 以上です。(拍手)

    〔国務大臣大畠章宏君登壇〕

国務大臣(大畠章宏君) 甘利議員の御質問にお答えを申し上げます。

 東アジア・アセアン経済研究センター、略称ERIAの予算の確保についての御質問をいただきました。

 御質問をいただいたERIAは、二〇〇六年、当時の二階経済産業大臣が設立を提唱し、そして二〇〇七年、当時の甘利経済産業大臣がERIAの設立に尽力をされたものと承知をしております。

 ERIAは、東アジアの経済発展、統合に関する政策研究、提言を行っている国際的な研究機関となり、経済産業省といたしましても、これまでの歴史を踏まえて、ERIAの研究活動を支援しております。

 先日の東アジア首脳会議関連会合の際には、ERIAが作成したアジア総合開発計画などが高く評価されたところであります。今後、我が国としてもこれらの実施を支援しアジア地域の発展に貢献するとともに、我が国経済の成長につなげていきたいと考えております。

 御指摘のERIA関連予算につきましては、昨年の事業仕分けを踏まえ、予算の効果的な、そして効率的な執行に取り組んでいるところであります。

 また、これまでオーストラリア、ニュージーランド、インドなどより資金拠出を受けておりますが、引き続き、御指摘を踏まえ、ERIAのさらなる機能強化に向けた我が国としての方策を検討し、しっかりと支援してまいります。(拍手)

    〔議長退席、副議長着席〕

    ―――――――――――――

副議長(衛藤征士郎君) 東順治君。

    〔東順治君登壇〕

東順治君 東順治です。

 私は、公明党を代表して、菅総理大臣のAPEC横浜会合に関する報告に対して質問をいたします。(拍手)

 本年六月に帆を上げた菅直人丸は、目下、船内に次々と多くの問題を抱え、船長も船員も目的地を知らないままに、国内外の荒波に翻弄されて、大海原をさまよっております。乗客たる国民は、まるで秋のつるべ落としのごとく急落し続ける世論調査の内閣支持率が示すとおり、民主党に抱いたかつての過剰な期待感を今や大いなる失望と憤りに変え、余りにもぶれ過ぎる政権運営に悲鳴を上げております。菅政権は、まさに内憂外憂の状態にあるのであります。

 今日我が国が直面している外憂とは、申し上げるまでもなく、極度に悪化した日中関係と日ロ関係であります。さらに申し上げれば、横波を受けながらも日本丸を真っすぐ航行させるバラスト水の役割を担ってきた日米関係が昨年九月から急激に不安定化したことが、外憂の根幹に横たわっております。

 APEC横浜会合は、閉塞感漂う日本経済に活気を取り戻し、中国及びロシアとの二国間関係を修復し、そして日米関係を強化する転機に果たしてなり得たのでしょうか。このような観点から、菅総理並びに関係閣僚に質問をいたします。

 APEC横浜会合の最大の焦点は、我が国が議長国としてリーダーシップを発揮して、アジア太平洋自由貿易圏、いわゆるFTAAPの実現を目指す道筋をいかに決めることができるかということであったと理解しております。

 採択されたAPEC首脳宣言では、我々はAPECの地域経済統合の課題をさらに進めるための主要な手段であるFTAAPの実現に向けて具体的な手段をとる、FTAAPは、中でもASEANプラス3、ASEANプラス6及びTPP協定といった、現在進行している地域的な取り組みを基礎としてさらに発展させることにより、包括的な自由貿易協定として追求されるべきであるとされ、最終目的地点では一致したものの、そこにたどり着くための道筋では、環太平洋パートナーシップ、いわゆるTPPとしたい米国とASEANプラスの枠組みを利用したい中国との主導権争いが早くも始まっており、また、我が国は、FTAAPの実現年次を二〇二〇年にすることを根回ししたようですが、それより早い実現を望む先進国側とそれでも早過ぎるとする開発途上国側との間で意見の集約ができず、実現年次を明記できませんでした。

 この結果を見れば、議長国日本のリーダーシップが発揮されたというよりも、我が国は、ただ司会役に徹し、意見を集約することなく、どの国からも文句の出ようのない宣言を作文したにすぎないのではないでしょうか。そのように感じざるを得ません。

 私が最も危惧している点は、菅総理がAPECで表明したTPPに対する我が国の取り組み方針であります。

 今月九日に閣議決定した包括的経済連携に関する基本方針では、国を開き、未来を開く、そのために決意を表明する、その一方で、貿易自由化により最も影響を受けやすい我が国農業に配慮した結果、TPP協定については、その情報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始するとして、TPPに我が国が参加するかしないのかの判断を避けました。

 ところが、菅総理は、APECの場では、日本の農業は高齢化が進み、貿易自由化のいかんにかかわらず、このままでは将来の展望が開けませんと発言。この発言に、APEC参加各国・地域は、日本の農業への打撃がいかに大きなものであっても、日本はその経済成長のためにTPPに参加するのだろうと、当然のごとく受けとめました。

 つまり、国内的に重要な閣議決定と国際的に重要な意味を持つ菅総理の意思表明との間に大きな開きが生じているのであります。これは見逃すことはできない。

 菅総理、あなたは、ただ一人、日本国の最高責任者であります。一体、TPPに参加することを本当に決意しているのか、現時点ではそこまでは決めていないのか、改めて国民の前であなたのTPPに対する心の底の思いを明確に示していただきたい。

 次に、日中首脳会談について伺います。

 本来なら何の心配もなくセットされるべき日中首脳会談だったのに、開催されるか否か、それ自体が大きな懸案事項となってしまいました。その要因は菅内閣の対中外交の稚拙さにあることを、まずは猛省を求めなければならない。

 実際に日中首脳会談が行われたというそれだけでもし菅総理がほっとされていたとすれば、これは実に情けない。会談することは、目的ではなくて手段であります。目的は、いかに具体的に日中関係を打開するかにあったはずであります。

 一国を背負った人物としての毅然とした姿とはほど遠く、いかにも力なく、ぼそぼそとメモに目を落としながら語る菅総理。終始一貫、表情はかたく、にこりともしない胡錦濤国家主席。それでいて、会談で戦略的互恵関係を改めて進めていくことを確認し、就任時の六月に日中関係を戻すことができたなどと、記者会見で胸を張っている場合ではありません。重要なことは、首脳会談で、菅総理が胡錦濤国家主席に対し何を主張し、先方からどのような言質をとり、どのような合意に至ったかという点にあります。

 菅政権の外交は弱腰外交とやゆされています。私に言わせれば、弱腰というよりも、腰そのものがないように見えて仕方がないのであります。

 具体的にお伺いいたします。

 菅総理、あなたは、なぜ、胡錦濤国家主席に、中国人船長の逮捕以来、中国側が行った東シナ海のガス田共同開発に関する一方的な条約締結交渉の延期、日本人訪問団等の受け入れ中止、レアアースの禁輸等々、一連の反日的行動に対し抗議をしなかったのですか。菅総理、あなたは、日本が言うべきことを言わず腹の中におさめることが戦略的互恵関係とでも誤解をしているのではありませんか。

 日中首脳会談で菅総理が主張した内容と、胡錦濤国家主席の返答、具体的な措置として合意されたことがあれば、その内容を御説明願います。

 ビデオ映像が流出した問題には、二つの重大問題が突きつけられています。

 一つは、政府部内での情報管理のあり方です。

 政府が公表しないと決めた情報を、いかなる理由があれ、政府職員が個人の判断で公表したということは、結果的に、多くの国民が称賛しようとも、許されるべきではなく、公務員の服務規定違反等の適正な処分は当然のことと私は思います。

 もう一つは、しかしながら、政治の責任は一体全体どこへ行ってしまったのかという問題であります。

 政治職と執行職のトップは責任のあり方は違うなどと実に珍妙な詭弁を弄している仙谷官房長官に不信任案が突きつけられたことは当然でありますが、その官房長官にあえて問いたい。今般ビデオ映像が流出したという事実に対する政治の責任のとり方はどうあるべきか、しかとお答えいただきたい。

 加えて、国益のために、今からでも正式なビデオ映像の全面公開を行うべきだと考えます。菅総理の見解を伺いたい。

 菅総理は、ロシアのメドベージェフ大統領とも会談しました。

 大統領は、今月一日、これまで、ソ連邦の時代においても、そしてソ連邦をロシアが継承して以降も、だれ一人国家トップが訪れなかった北方領土に足を踏み入れました。これは、北方領土に関するロシア政府の対日方針が大転換したのではないかということを顕著に示す出来事ではないか、そのような危惧を覚えます。

 ロシアの対日姿勢が変化してきた兆しは、これまでに幾つかありました。

 ことし七月にはロシア軍が択捉島で軍事演習を行ったり、我が国が第二次世界大戦の降伏文書に署名した九月二日を事実上対日戦勝記念日とするロシア国内法が制定されたり、九月には、ロシアが中国とともに第二次世界大戦終結六十五周年に関する共同声明を発出し、中国と共同して、暗に、我が国が歴史を歪曲したかのごとき非難をしました。これら一連の行動の延長線上に今回の北方領土訪問があったと見るべきだろうと私は思います。

 外務省は、九月末に大統領自身が近く必ず北方領土を訪問すると発表した以前からその兆候をつかんでいたと思いますが、大統領の北方領土訪問を思いとどまらせることがなぜできなかったのか、在モスクワ日本大使館の力量不足なのか、菅内閣の対ロ外交の失敗のせいなのか、あるいは鳩山前政権に責任があるのか、前原外務大臣に認識を伺います。

 前原外務大臣は、大統領の北方領土訪問前、ベールイ駐日ロシア大使を通じて、大統領が訪問すれば日ロ関係に重大な支障が生じるとロシア側に伝え、北方領土訪問を断念するよう促しましたね。にもかかわらず大統領が国後島訪問を断行した今、外務大臣の認識が正しいとすれば、菅内閣は対ロ関係に重大な支障を抱えてしまったのであります。だからこそ、日ロ首脳会談で菅総理は大統領に国後島を訪問したことに抗議をした、これだけではだめなのであります。肝心なことは、今後大統領が北方領土のほかの島へ訪問しないという言質を得たかどうかということであります。

 大統領は日本は領土問題へのアプローチを変更し経済協力を進めるべきだと語ったとも報じられており、これが事実であり、それが北方領土問題の棚上げをもくろむものであるとすれば、我が国として、これに対して厳重に抗議をしなければなりません。

 実際、首脳会談において大統領はこのようなアプローチの変更を提案したのか、そうであれば、菅総理はそれにどのように反論したのか、また、この首脳会談を受けて、今後、日ロ間の北方領土交渉をどのように展開しようとしているのか、菅総理にお尋ねをいたします。

 今日、日中関係と日ロ関係が極度に悪化している背景には、我が国外交の基軸である日米同盟関係が空洞化しているという事実があります。

 リアリズムの視点から申し上げれば、国際政治の中で、ある二国間の力関係は、両国の力関係のみでははかることはできません。さまざまな二国間や多国間の同盟関係や友好関係が複雑に絡み合って決まってまいります。

 外交、安全保障に疎く、御自身が自衛隊の最高指揮官であることも知らなかった総理にはわからないかもしれませんが、北東アジアにおいては、日米関係が強固で安定している場合は、我が国と中国やロシアとの関係が比較的良好に維持され、逆に、日米関係が不安定化すれば、中国やロシアが我が国に対し強硬な姿勢で臨んでくる。

 民主党政権による外交の最大の失敗は、対等で緊密な日米関係と言いながらも、その中核にある日米安保関係を軽んじたことにあります。

 その最たるものは、普天間飛行場代替施設建設問題に関する自公政権時代の日米合意の見直しです。政権をとる目的だけで普天間飛行場の移転先を最低でも県外と発言したツケをとる形で、既存の合意を一たんほごにして米国の信頼を裏切った後に、結局は、ブーメランのごとく、自公政権時代の日米合意と同じ沖縄県内の辺野古移設という結論に戻り、沖縄県民をも裏切りました。そのことにより、結局、単に時計の針をもとに戻したのみならず、自公政権時代よりも問題をはるかにこじらせてしまいました。

 今般の日米首脳会談で、オバマ大統領は、来年の春に菅総理の訪米を要請し、その際に、日米同盟に関する共同声明を発出することを提案しました。一方、菅総理は、普天間飛行場移設を五月の日米合意に基づき進めるための最善の努力をオバマ大統領に約束しましたが、大統領の提案は、来年の春までに普天間問題を日本政府の責任で決着してほしい、そういう事実上の最後通牒であると私は思います。そのタイムリミットを超えた場合、日米同盟関係は崩壊の危機に瀕することになる、そのような危機感を覚えざるを得ません。

 今般行われたオバマ大統領との首脳会談で、菅総理は、オバマ大統領に対して、普天間問題について、日米合意を進める具体的な約束を何かしたのか、お伺いいたします。

副議長(衛藤征士郎君) 東順治君、申し合わせの時間が過ぎましたから、なるべく簡単に願います。

東順治君(続) 普天間問題に関し、地元沖縄の理解を得るということは、自公政権下においては、この問題を解決するための重要な一要素として取り組みました。その結果が、一〇〇%の満足とはいかなかったまでも一応の理解を得て、日米両国政府間で辺野古移設を合意したのです。

 一方、民主党政権は、沖縄の理解が大切であると口では言っても、ことし五月、沖縄の理解を棚上げして、新たな日米合意を締結しました。その上、来年春の訪米までには時間は限られている。だからこそ、最終の代替施設建設計画をいつまでに策定するのか、追加的な環境アセスがもし必要ならば、いつ始め、終わらせるのか、そうした工程表があってしかるべきです。ありますか。

 もしあるならば、その工程表の中身をお尋ねして、私の質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣菅直人君登壇〕

内閣総理大臣(菅直人君) 東順治議員にお答えをいたします。

 まず、TPPについての御質問についてであります。

 APECの開催を前にして、包括的経済連携に関する基本方針を閣議決定いたしました。今再び大きく国を開くとの決意のもと、すべての品目を自由化交渉の対象とし、世界の潮流から見て遜色のない高いレベルで二国間、多国間の経済連携を進める、そのために農業改革や規制・制度改革を含む抜本的な国内改革も推進する、こういう考え方であります。これは、開国と農業再生を両立させ、ともに実現するという大戦略であります。

 TPPについては、情報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開催することといたしました。この関連で、TPP参加九カ国の首脳会合が開かれ、私も、APEC議長としてオブザーバー参加し、情報収集を直接行いました。TPPへの参加については、こういった情報収集を通じ、今後、総合的に判断をしてまいります。

 いずれにせよ、我が国としては、交渉参加国との間で、アジア太平洋地域における貿易・投資の自由化について緊密に協議をしていきたいと考えております。

 次に、日中首脳会談について御質問をいただきました。

 日中関係については、尖閣諸島沖漁船衝突問題以降ぎくしゃくした状況が続いていましたが、今般の首脳会談で、改めて、私が首相に就任した六月の時点の、戦略的互恵関係を進めていくという、この原点に戻すことを確認いたしました。これは、いわば、マイナスであったものをゼロに戻すということであり、大きなプラスと考えております。

 日中首脳会談では、尖閣諸島について我が国の確固たる立場を述べるとともに、戦略的互恵関係を発展させていくことや、政府間・民間交流の促進、経済分野を含むグローバルな課題での協力を強化していくことで合意をいたしました。

 いずれにせよ、日中両国の間には御指摘のようなさまざまな問題がありますが、それらを乗り越えてしっかりとした関係を築くことが戦略的互恵関係の意味でもあり、両国が努力をして日中関係の進展を期してまいるべきだと考えております。

 中国漁船衝突事件の映像記録の公開について御質問をいただきました。

 中国漁船衝突事件の映像記録の公開については、国会からの所定の手続による要求があれば、捜査の状況等を踏まえ、適切な判断がなされるべきものと考えております。

 今後の北方領土交渉について御質問をいただきました。

 十三日の日ロ首脳会談では、私からメドベージェフ大統領に、国後島訪問について抗議の意を明確に伝えました。

 私とメドベージェフ大統領は、北方領土問題の解決のための協議と経済協力のための協議を首脳同士を含めて進めていくことについて、改めて合意をいたしました。その上で、メドベージェフ大統領から訪ロの招待をいただきまして、私も、検討して応じたい、このように申し上げました。

 政府として、北方四島の帰属の問題を最終的に解決して平和条約を締結するとの方針には、何ら変わりはありません。私の内閣では、首脳間の議論等を含め、強い意思を持ってロシアとの交渉を粘り強く進めていく所存であります。

 日米首脳会談と普天間飛行場移転問題について質問をいただきました。

 横浜で行われた日米首脳会談において、普天間飛行場の移設問題については、私の方から、本年五月の日米合意をベースにして最大限の努力をしたいという旨のことを申し上げ、オバマ大統領から、私の取り組みを評価する旨の発言がありました。

 普天間飛行場代替施設に関するさらなる質問をいただきました。

 普天間飛行場の移設問題については、本年五月の日米合意を踏まえて取り組むと同時に、沖縄に集中した基地負担の軽減にも全力を挙げて取り組んでまいります。

 具体的には、在沖縄海兵隊の要員約八千人及びその家族約九千人の沖縄からグアムへの移転の着実な実施、嘉手納以南の施設・区域の返還の着実な実施、北部訓練場の過半の返還の促進等について、米国の協力を求めつつ、最善を尽くす考えであります。

 沖縄において、普天間飛行場の移設問題については厳しい声があることは十分承知しておりますが、引き続き、沖縄の方々の御理解を求め、誠心誠意話し合ってまいりたいと思います。

 なお、代替施設の位置、配置及び工法に関する専門家による検討については、八月三十一日に終了しております。今後、さらに、沖縄の皆さんの理解を得るべく、最大限の努力をしてまいりたいと思います。

 残余の質問については、関係大臣から答弁をさせたいと思います。(拍手)

    〔国務大臣仙谷由人君登壇〕

国務大臣(仙谷由人君) 東順治議員の、ビデオ映像の流出に係る責任についての御質問をいただいておりますので、お答えいたします。

 これまでお答えいたしておりますが、本事案については、まず捜査当局による事実関係の解明が急務であると認識をいたしております。また、政治の責任といたしましては、その結果を踏まえて、責任のあり方と再発防止策の早急な確立が必要であると考えております。

 なお、御指摘の、政治職と執行職の責任についての私の発言、あるいは委員会での答弁というものは、強制的な捜査権を持つ行政機関の執行職の責任と政治職の責任は違う、レベルが違うということを述べたものでありまして、政治の責任を回避するという意味で申し上げたものではありません。政治の責任は政治の責任で、別途考えられなければならない、こういう趣旨でございます。

 一般論として、それらの機関は強制的な捜査権を持った機関でありますが、それらの機関は政治的影響力を排除するためにも独立性を有しておりまして、それに伴う責任も当然それに従って担っている旨を述べたものでございます。

 以上であります。(拍手)

    〔国務大臣前原誠司君登壇〕

国務大臣(前原誠司君) 東議員にお答えをいたします。

 メドベージェフ大統領の国後訪問についてお尋ねがございました。

 二〇〇五年以降、ロシアの政府高官の北方領土訪問は急増しております。例えば、二〇〇五年には国防大臣、二〇〇六年には教育科学大臣やサハリン州知事、二〇〇七年には第一副首相、外務大臣、経済発展貿易大臣やサハリン州知事、二〇〇九年には連邦院議長、二〇一〇年はサハリン州知事が二度訪問しております。

 この背景には、資源価格が高騰し、ロシアの財政が比較的豊かになり、今まで放置をされてきた北方領土や千島列島に資金が流入するようになったことがあります。具体的には、約八百億円規模の二〇一五年までのクリル発展プログラムが現在行われており、二〇一一年から第二段階に入るプログラムのフォローアップが政府首脳の訪問の主な目的だと推察をしております。

 残念ながら、北方領土の非日本化が着実に進んでおります。一九五六年、日ソ共同宣言以来、北方領土問題は五十四年間解決できておりません。北方領土問題解決は、我々日本人の悲願であります。我が国固有の領土である北方四島の帰属を確定させ、平和条約を結ぶという確固とした方針のもと、現下の戦略環境を踏まえ、粘り強く交渉に臨んでまいります。(拍手)

    ―――――――――――――

副議長(衛藤征士郎君) 吉井英勝君。

    〔吉井英勝君登壇〕

吉井英勝君 私は、日本共産党を代表して、APEC報告について質問します。(拍手)

 まず、TPP、環太平洋パートナーシップ協定の問題であります。

 米国オバマ政権は、TPPを、アメリカの通商政策、対アジアを中心とした輸出倍増計画の柱に位置づけ、アメリカ主導で強力に進め、日本の対応を求めています。

 菅総理が十月の所信演説で、新成長戦略の工程表にもなかった参加検討を突如打ち出し、協議開始を強行したのはなぜなのですか。もともと日本は、東アジア共同体、ASEANプラス6を提唱してきました。なぜ方針を大転換し、アメリカ主導のTPPにかじを切ったのですか。明確な答弁を求めるものであります。

 先週九日の予算委員会で、玄葉大臣は、二国間EPAが進められなかったのだから、TPPというハイウエーに乗ることになったと答弁しました。この意味を国民にわかるように説明してください。

 現在、TPPの参加交渉に入っているのは、APECに加盟する二十一の国、地域のうち九カ国にすぎず、中国も韓国も入っていません。そして、九カ国のうち、チリなど六カ国と日本は既にEPAを締結、合意しています。したがって、TPPに日本が参加する実質的意味合いはアメリカとオーストラリアにあり、その中核は、事実上の日米FTAなのではありませんか。

 重大な問題は、アメリカ主導のTPPは、原則、例外なくすべての品目の関税をゼロにし、完全な自由化を求めることです。農畜産物を初めとするあらゆる品目、サービス、金融、労働力の移動から投資まで、すべてに及ぶのであります。

 総理は、平成の開国と言い、世界から立ちおくれているかのように言いますが、本当にそうでしょうか。例えば日本農業は、鎖国状態どころか、世界で最も開かれた市場となっています。農産物の平均関税率は、韓国が六二・二%、EUが一九・五%などに対して、我が国はわずか一一・七%であります。一方、世界最大の農産物輸出大国であるアメリカやオーストラリアに対して、我が国の食料自給率は四〇%にすぎません。

 TPP参加に、北海道初め八道県議会や全国町村会、JA全中などが反対決議と反対運動を行っています。鹿野大臣、農水省の影響試算によっても、日本農業と地域経済に壊滅的な影響を及ぼすことは火を見るよりも明らかではありませんか。

 食料安保のAPEC新潟宣言に見られるように、世界的な食料危機、飢餓と貧困からいっても、また、気候変動、生物多様性、地球環境や国土の保水、自然環境の保全からいっても、農林水産漁業は、一たん失うと取り返しのつかない多面的機能を持っております。決してお金だけに換算できるものではありません。総理の認識を伺います。

 前原外務大臣は、先月、日本のGDPの一・五%の第一次産業を守るために九八・五%が犠牲になっていると発言しました。まさに暴論であります。前原発言の撤回を求めます。総理もこうした認識を容認されるのか、答弁を求めます。

 TPPが目指すシームレス、すなわち切れ目のない地域の形成とは、一体、だれのための、どういうものなんでしょうか。

 自動車、電機など輸出大企業は、今や巨大な多国籍企業に成長し、既に世界じゅうに海外生産拠点を設け、国際生産ネットワークを築いています。シームレスな市場の形成は、日本経団連、財界の一貫した要求です。TPPの実現により、例えばある自動車メーカーは、輸出を海外生産に切りかえたり、米国工場を拡張し、そこを輸出拠点としてオーストラリアへの輸出拡大を図ることを表明しています。

 このように、TPPは、国内立地と雇用の拡大を保障するものではなく、かえって産業と雇用の空洞化を加速しかねないものではありませんか。

 経済の国際化、グローバル化が進む今日、多国籍企業の国際競争力は、その国の競争力、国民の利益と厳密に一致しなくなっている時代であることは、一九九二年の経産省の通商白書が喝破したとおりであります。総理にこうした認識はありますか。答弁を求めます。

 次に、日米首脳会談です。

 菅総理は、安保改定五十周年に当たり、米軍の引き続くプレゼンスが必要との認識を示し、普天間基地の辺野古移設に、五月の日米合意をベースに最大限に努力すると表明しました。これは、沖縄県民の県内移設反対の総意を真っ向から踏みにじるものではありませんか、総理。

 また、泥沼化し、治安状態の悪化が深刻化するアフガン本土に自衛隊医療部隊の派遣を検討すると表明したことも重大です。アメリカ側にどのような約束をしたのですか。そもそも、アフガンに展開する国際治安支援部隊への自衛隊の派遣は、憲法九条から問題となり、自民党時代でさえ踏み出せなかったものであります。一体どのような根拠で正当化するのですか。明快な答弁を求めます。

 総理は、今歴史の分水嶺に立っていますと言いながら、いつまで日米同盟にしがみつく政治を続けるのでしょうか。経済でも外交でも、日米同盟を絶対視するのではなく、真に、平和、人権、対等・平等・互恵の東アジア共同体の構築を目指す、その政治への転換こそ求められているのであります。

 以上、答弁を求め、質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣菅直人君登壇〕

内閣総理大臣(菅直人君) 吉井議員の御質問にお答えをいたします。

 環太平洋パートナーシップ、TPP協定及び東アジア政策についての御質問をいただきました。

 APEC開催を前にして、包括的経済連携に関する基本方針を閣議決定いたしました。今再び大きく国を開くとの決意のもと、すべての品目を自由化交渉の対象とし、世界の潮流から見て遜色のない高いレベルで二国間、多国間の経済連携を進める、そのために、農業改革や規制・制度改革を含む抜本的国内改革を推進するというものです。これは、開国と農業再生を両立させて、ともに実現する大戦略であります。

 TPPについては、情報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始することといたしました。先般のAPEC首脳会議においても、アジア太平洋自由貿易圏、FTAAPについては、二国間のFTAやEPAの積み重ね、あるいは多国間におけるASEANプラス3、ASEANプラス6、TPPといったいろいろな道筋があり、最終的にはアジア太平洋全体における自由貿易圏構築を目指し、このような幾つかの道筋についてそれぞれ積極的に進めていくこととなったところであります。

 TPP協定について御質問いただきました。

 TPP協定交渉に参加している九カ国の中で、米国が、貿易額、GDP等で大きな地位を占めていることは事実であります。一方、TPP協定は、APECの国と地域に開かれた協定であり、さまざまな国が関心を表明しております。先般も、TPP九カ国と関心国の事務レベル会議が開催されました。今後、TPP交渉への参加国がふえる可能性があります。

 先般、APEC首脳会議の機会にTPP九カ国の首脳会合が開かれ、私もAPEC議長としてオブザーバー参加し、情報収集を直接行いました。その際、TPP協定はアジア太平洋地域の経済連携の基盤となることが期待されているとの説明がありました。

 いずれにせよ、横浜ビジョンにおいては、FTAAPは、ASEANプラス3、ASEANプラス6及びTPP協定といった現在進行している地域的な取り組みを基礎としてさらに発展させることにより、包括的な自由貿易協定として追求すべき旨、記載されているところであります。

 農業の多面的機能について御質問いただきました。

 御指摘のとおり、農業は食料の安定供給や環境維持など多面的機能を有しており、意欲ある農業者が農業を継続できる環境を整え、食と地域の再生を図ることは重要であります。

 一方で、我が国農業は、貿易自由化とは関係なく、そもそも、平均年齢が六十五・八歳と高齢化が進み、後継者難にも苦しみ、このままでは立ち行かなくなる状況に陥っております。

 なぜこういう状況が続くのか。若い人が皆農業を嫌っているかといえばそうではなく、農業をやりたいという思いを持っている方はたくさんおられると思います。そういう人が自由に、また、障壁なく農業に参加できるように、農地法などの法体系のあり方も再度見直す必要があるのではないかと考えております。

 そこで、国を開くに当たり、まず農業改革の方から具体的な作業を始めたいということで、私自身が本部長となり、鹿野農水大臣と玄葉戦略担当大臣に副本部長になっていただき、農業構造改革推進本部を立ち上げる所存であります。何としても、農業構造改革に内閣一丸となって取り組む覚悟であります。

 日本のGDPの一・五%の第一次産業に関しての御質問であります。

 私見を申し上げれば、農業の重要性はGDPの比率だけではかれるものではないと認識をいたしております。

 一方で、一般に農業といえば一次産業を連想するわけですが、本来は、そこで生まれたものをいろいろな形で加工するという二次産業、そして、それをレストラン等で供し、あるいは小売で販売するということで喜びを持って迎えられるという三次産業、全体として考えるべきものだと思います。

 このサプライチェーン全体で付加価値を生む産業として考えていきたいと思います。そうすることで、貿易の自由化という変化をチャンスととらえて農業を再生する一つの道筋が見えてくると考えます。

 TPPと産業空洞化についての御質問をいただきました。

 言及された一九九二年の通商白書は次のように述べております。「国際展開が進んだ企業は資本の国籍にかかわらず、現地の雇用者を多数擁し、現地の市場を中心として財・サービスを提供する」ということであります。

 御指摘のその解釈が本当に正しいのかどうか、ちょっと、意味するところが両面あるように私には思えます。その意味するところは、資本の国籍が日本であったとしても、外国に立地を移してしまえば日本の雇用には貢献できないということであります。すなわち、日本という国土の企業立地の優位性を外国との関係で確保しなければ、我が国の雇用は確保、拡大できなくなってしまうわけであります。

 したがって、まさに日本に立地する優位性を確保するため、アジアを初めとする世界の主要貿易国との間で、世界の潮流から遜色のない高いレベルで経済連携を進めることにしたものであります。

 現在は、日本に立地して海外に輸出する場合、当該国における関税を賦課されることになり、当該国に工場を移して生産することが有利になる場合がありまして、経済連携を進めれば、我が国にそのまま立地し、我が国の雇用に貢献した上で輸出を行うことができる、こういう意味で理解できると思います。

 普天間基地移設問題に関する質問をいただきました。

 普天間飛行場の移設問題については、本年五月の日米合意を踏まえて取り組むと同時に、沖縄に集中した基地負担の軽減にも全力を挙げて取り組みます。

 具体的には、在沖縄海兵隊要員約八千名及びその家族約九千名の沖縄からグアムへの移転の着実な実施、嘉手納以南の施設・区域の返還の着実な実施、北部訓練場の過半の返還の促進などについて、米国の協力を求めつつ、最善を尽くしていく考えであります。

 沖縄において普天間飛行場の移設問題について厳しい声があることは十分承知しておりますが、引き続き、沖縄の方々の御理解を求め、誠心誠意話し合ってまいりたいと考えております。

 アフガンへの自衛隊医療・衛生要員派遣についての御質問をいただきました。

 十三日の日米首脳会談において、私からオバマ大統領に対し、アフガニスタン国軍の医療分野での教育訓練について要請があると承知しており、前向きに検討していると述べました。

 他方、現時点では、派遣の形態や法的根拠等について検討しているところであり、確定的にお答えできる段階にはありません。

 日米同盟と東アジア共同体構想について御質問いただきました。

 日米同盟は、我が国の外交、安全保障の基軸であり、アジア太平洋地域のみならず、世界の安定と繁栄のための共有財産であると考えております。我が国としては、日米同盟を基軸とし、さらに、韓国、オーストラリア、インド、さらにはASEAN諸国との良好な友好協力関係を増進することが重要だと考えております。

 同時に、アジアを中心とする近隣諸国とは、政治、経済、文化等のさまざまな面で関係を強化し、東アジア共同体構想の実現を見据えて、国を開き、具体的な交渉を一歩でも進めてまいりたいと思います。

 十四日まで横浜で開催されたAPEC首脳会議においても、アジア太平洋諸国と、地域経済統合、成長戦略、人間の安全保障を中心にアジア太平洋の将来像について議論を行い、首脳宣言として横浜ビジョンに合意することができたものであります。

 なお、残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)

    〔国務大臣前原誠司君登壇〕

国務大臣(前原誠司君) 吉井議員にお答えをいたします。

 第一次産業がGDPの約一・五%であることは事実であります。また、日本の貿易量に占めるEPA、FTAカバー率は、昨年の末時点において一六・五%。韓国の三六%や、EU各国が軒並み五〇%を超えていることを考えれば、第一次産業に配慮して、貿易立国で発展してきた日本の貿易自由化がおくれていることは事実でございます。

 私は、数年前、同様の発言をいたしまして、赤旗だったか地域紙の京都民報だったか忘れましたけれども、御党に同様の批判をされました。ちなみに、そのときの第一次産業はGDPの約三%でした。つまり、数年間で、第一次産業はGDP比率が半減したんです。

 経済は失われた二十年で成長せず、第一次産業は半減する、そして、農業従事者の平均年齢は六十五・八歳になりました。つまりは、国を十分に開かずに、経済は成長できずに、守ってきたはずの農業も現状のとおりであります。

 我々は、今までの政策の反省に基づき、国も開き、農業政策も抜本的に変えるべきだったということを申し上げたまでであって、発言の撤回の必要は全くないと思っております。(拍手)

    〔国務大臣玄葉光一郎君登壇〕

国務大臣(玄葉光一郎君) 吉井議員にお答えをしたいと思います。

 二国間EPAが進められなかった、だからTPPというハイウエーに乗ることになったとの答弁の意味を説明せよということでございます。

 主要貿易国間において、高いレベルのEPA、FTA網が拡大をしています。しかし、ただいまの答弁にもありましたけれども、こうした動きの中、残念ながら、我が国の取り組みはおくれています。

 御指摘の例えについては、取り組みがおくれつつある我が国は、いわばこれまで一般道を走ってきたようなものであります。これに対して、非常に高いレベルの多国間の経済連携協定であるTPPはハイウエーに例えられるとの意味で申し上げたものであります。

 なお、吉井議員はハイウエーに乗ることになったとおっしゃいましたけれども、私は乗ることになったとは言っておりません。乗りなさいという議論になっているということを申し上げたと思います。つまり、ハイウエーたるTPPについては、交渉参加の前の段階の協議というのが現在の我が国の状況であります。

 我が国として、従来の経済連携の取り組みから前に踏み出し、二国間の高いレベルの経済連携を目指す。二国間の高いレベルの経済連携を目指すということは基本方針で確認をいたしました。いわば一般道からこの二国間の高いレベルの経済連携という高規格道路に乗って、そして、そのような取り組みを推進していく中で、どこかの時点でハイウエーに上がる、つまりTPPに参加することもあり得るかもしれません。あるいは、韓国のように、二国間のハイレベルの取り組みを進めていく結果、高規格道路が既にハイウエーになっている、つまり高いレベルの多国間の経済連携が結果的に実現される、そういうこともあり得ると考えております。

 ハイレベルな二国間の経済連携を、どのような国と、どのような順序で、どのような時間軸で進めていくか、それと多国間の経済連携をどのように組み合わせていくかは、国内対策を先行させつつ、まさに戦略的に考えていかなければならないと考えております。(拍手)

    〔国務大臣鹿野道彦君登壇〕

国務大臣(鹿野道彦君) 吉井議員の御質問にお答えいたします。

 まず、TPP参加が日本農業と地域経済に及ぼす影響についてのお尋ねでございます。

 総理からもお話がありますとおりに、TPP交渉につきましては、その情報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始することにした、こういうことでございます。協議の状況や、いろいろな分野からも総合的に勘案しながら、これから交渉参加の判断を行うというふうなことでございます。

 一方、農業分野は、農業従事者の高齢化あるいは後継者難、低収益性などを踏まえれば、将来に向けてのその持続的な存続が危惧される状況にありまして、競争力をどうやってつけていくか、あるいは、海外におけるところの需要拡大と我が国農業の潜在力を引き出す政策というふうなものが必要になってきているのではないか、こういうことであります。

 このため、農業構造改革本部、これは仮称でございますけれども、設置をいたしまして、経済連携の推進と、我が国の農業、農村の振興、そして自給率向上をいかにして両立させていくか、持続可能な農業を目指すための対策を検討していきたい、こういうふうに思っておるところでございます。

 次に、農業の多面的機能についてのお尋ねであります。

 申すまでもなく、日本の農業は、食料の安定供給に加え、国土の保全、水源の涵養、そして環境保全、景観形成、文化の継承、生物多様性の保全など、国民生活に重要な、多面にわたる機能を有しているものと認識しているところでございます。

 このために、EPAの推進に当たっては、今申し上げましたとおりに、どうやって、農業、農村の振興と、そしてこのようなEPAの推進というふうなものの両立を図っていくか、持続可能な農業を目指してまいりたいと考えております。(拍手)

    ―――――――――――――

副議長(衛藤征士郎君) 中島隆利君。

    〔中島隆利君登壇〕

中島隆利君 社会民主党・市民連合の中島隆利です。

 ただいま議題となりましたAPEC首脳会議に関する報告について、菅総理にお伺いします。(拍手)

 アジア太平洋地域は、世界の成長を担いつつある一方、この地域に先進国もあれば途上国も多く含まれているように、経済格差や貧困問題も存在しております。今回、横浜ビジョンで、二〇二〇年に向けて、自由貿易圏、FTAAPの構築を目指すとしましたが、経済の自由化だけでアジア太平洋地域の持続的な発展が可能なのかどうかは、さらに検討する必要があります。

 鳩山前総理は、経済協力に加え、環境分野も含めた人間のための経済の一環として、東アジア共同体構想を打ち出してこられました。この点、自由化を柱としたFTAAPと鳩山前総理が推進してこられました東アジア共同体構想の関係はどのようなものなのか、お答えをいただきたいと思います。

 政府は、APEC首脳会議の前段に包括的経済連携に関する基本方針を閣議決定し、TPP協定について、関係国との協議を開始するとしました。総理は、この点に関連し、APECの議長記者会見において、新しい平成の開国という形で推し進めると述べられました。

 しかし、総理の言う平成の開国について、例えば共同通信の最新の世論調査では、農林漁業者の実に八八%が反対しております。食料自給率が一四%にまで低下することが見込まれるTPP協定への参加に対し、今後の農業政策のあり方を示さずに協議を開始するのは、順番が逆さまなのではないでしょうか。

 また、閣議決定された基本方針では、規制・制度改革について、非関税障壁を撤廃する観点から今後の方針を決めていくとされています。非関税障壁の分野でも、医療、通信、保険など、国内産業に大きな影響を与えるのではないでしょうか。とりわけ、政府が今国会に引き続き提出している郵政民営化見直し法案も例外ではありませんし、BSE汚染牛肉輸入防止対策も問題となります。これらの点につきまして非関税障壁の撤廃ありきで検討を始めることは逆立ちしているように思いますが、御所見をお聞かせください。

 さて、総理は、オバマ大統領との日米首脳会談において、米軍普天間基地の移転問題について、日米合意をベースに、改めて最大の努力をしたいと述べ、辺野古沖建設を進める意思を改めて示しました。しかし、これは沖縄県民の意思とは明らかに異なっています。県民の合意の得られない方針でこのまま米国との外交を続けていけば、これは日米関係の深化どころか、どこかの時点で矛盾が出てくるのは明らかであります。沖縄県民の意思に沿って日米合意を一たん振り出しに戻し、普天間基地の国外、県外移設を進めるべきではないでしょうか。

 さて、軍事政権から自宅軟禁処分を受けていたミャンマーの民主運動家、アウン・サン・スー・チーさんが、処分を解かれ、約七年半ぶりに自由の身となりました。今回のスー・チーさんの解放をどのように評価し、今後のミャンマーとの関係をどのように考えているか、お答えをいただきたいと思います。

 最後になりますが、APEC議長会見の最後で、総理は、恐らくTPPへの参加を念頭に、改革にはいろいろな痛みを伴う場面もありますと述べられました。どこかで聞いた言葉であります。気がつけば、自由化、規制緩和の一辺倒であった小泉構造改革と同じ方向に進んでいたということのないよう強く警鐘を鳴らして、私の質問といたします。(拍手)

    〔内閣総理大臣菅直人君登壇〕

内閣総理大臣(菅直人君) 中島議員にお答えを申し上げます。

 FTAAPと東アジア共同体構想についての御質問をいただきました。

 横浜ビジョンに盛り込まれたアジア太平洋自由貿易圏、FTAAPについては、二国間のFTAやEPAの積み重ね、あるいは多国間におけるASEANプラス3、ASEANプラス6、TPPといった協議など、いろいろな道筋があります。

 我が国としては、アジア太平洋地域全体における自由貿易圏を目指し、このような幾つかの道筋についてそれぞれ積極的に進めていく、これが横浜ビジョンの大きな方向性での合意であります。これは、開放的で透明性の高い地域協力を一歩一歩着実に推進し、将来的に東アジア共同体を構想していくということとも整合的なものと考えております。

 TPPの実現の影響に関する御質問をいただきました。

 日本の農業は潜在的な競争力を持っていると認識しております。今回のAPEC首脳会議でも日本料理を供しましたが、大変高い評価をいただきました。

 一般に農業といえば一次産業を連想しますけれども、本来は、そこで生まれたものをいろいろな形で加工する二次産業、それをレストラン等で供し、あるいは小売で販売するということで喜びを持って迎えられるという第三次産業、全体として考えるべきものであります。このサプライチェーン全体で付加価値を生むことを考えれば、日本農業再生の一つの道筋が見えてくると考えます。

 同時に、我が国農業は、貿易自由化とは関係なく、そもそも、平均年齢が六十五・八歳と高齢化が進み、後継難にも苦しみ、このままでは立ち行かなくなる状況にあります。なぜこういう状況が続いてきたのか。若い人が必ずしも農業を嫌っているというのではなくて、農業をやりたいと思う人が参入できない障壁などがいろいろこれまでにもあったと思います。

 そこで、国を開くに当たり、まず農業改革の方を具体的な作業を始めたいということで、私が本部長となり、鹿野農水大臣と玄葉戦略担当大臣に副本部長になっていただき、農業構造改革推進本部を立ち上げる所存であります。何としても、農業構造改革に内閣一丸となって取り組む覚悟であります。

 次に、規制・制度改革については、経済連携の積極的推進の観点からも、海外のすぐれた経営資源を取り込むことにより国内の成長力を高める観点からも重要であります。このため、行政刷新会議のもとで、平成二十三年三月までに具体的方針を決定すべく検討を進めてまいりたい。

 郵政民営化見直しについては、これまでの情報収集で、本件を取り上げるとの情報は得ておりません。

 いずれにせよ、関係国の関心事項や要望については、これから始まる関係国との協議の過程で明らかになるものと考えておりますが、各国との協議について、現段階ではこれ以上のことは差し控えたいと思っております。

 次に、普天間飛行場移設問題に関する質問をいただきました。

 普天間飛行場移設の問題については、本年五月の日米合意を踏まえて取り組むと同時に、沖縄に集中した基地負担の軽減にも全力を挙げて取り組んでまいります。

 具体的には、在沖縄海兵隊要員約八千名及びその家族約九千名の沖縄からグアムへの移転の着実な実施、嘉手納以南の施設・区域の返還の着実な実施、北部訓練場の過半の返還の促進などについて、米国の協力を求めつつ、最善を尽くす考えであります。

 沖縄において普天間飛行場の移設問題について厳しいことは承知をしておりますけれども、引き続き、沖縄の方々の御理解を求めて、誠心誠意話し合ってまいりたい、このように考えております。

 次に、ミャンマーでアウン・サン・スー・チー女史が自宅軟禁を解放されたことについての御質問をいただいております。

 我が国は、ミャンマーにおける民主化運動の指導者アウン・サン・スー・チー女史が長年にわたり自宅軟禁措置のもとに置かれていたことに大きな懸念を有しておりました。十三日、同措置が解除されたことを一歩前進と受けとめております。

 我が国は、スー・チー女史及び国民民主連盟、NLDとの実質的対話の実現を含め、ミャンマー政府が、人権状況の改善、民主化及び国民和解の実現に向けて今後一層の前向きな措置をとることを期待しており、そうした働きかけを続けてまいりたいと考えております。(拍手)

    ―――――――――――――

副議長(衛藤征士郎君) 柿澤未途君。

    〔柿澤未途君登壇〕

柿澤未途君 みんなの党を代表して質問いたします。(拍手)

 APECの日中首脳会談はわずか二十二分間でした。冒頭、菅総理はずうっと下を向いてメモを読んでおられましたが、あれで日本の主張が中国に伝わったと思いますか。通訳を除けば半分の十分程度のやりとりだったと推察されますが、その中で、菅総理の実質的な発言時間は一体何分だったのですか。そして、尖閣諸島は日本固有の領土であるとはっきり明言したのですか。伺います。

 次に、日ロ首脳会談について伺います。

 鳩山前総理も含め、日ロの外交ならぬ社交に明け暮れて、ロシアが九月二日を対日戦勝記念日と定めても抗議をせず、択捉島で軍事演習を行われても、抗議だけして拱手傍観していました。そういう政権の対応が今回のメドベージェフ大統領の国後島訪問という事態を招いたという認識はあるのでしょうか。

 今回の国後島訪問に対しても、日本政府は正式な対抗措置をとっていません。河野大使の一時帰国はわずか四日間、しかも、報告のためです。それでいいのでしょうか。妥当な対応だったと思っていますか。そのような姿勢で、今後の歯舞、色丹訪問を食いとめられるのでしょうか。伺います。

 しかも、今回の日ロ会談で、クリル諸島は将来もロシア領だとメドベージェフ大統領に言われてしまったというではありませんか。大統領の発言は、北方領土の帰属問題を解決するとした一九九三年の東京宣言からの明らかな後退で、首脳の発言としては極めて重大です。

 菅総理は、それをわかった上で、来年中のロシア訪問の要請に対して、検討したいと応じたのですか。そして、ロシアを訪問するのですか。伺います。

 さて、APEC財務相会合の共同声明では、より市場で決定される為替レートシステムに移行し、通貨の競争的切り下げを回避すると明記されました。これは、市場をゆがめる政府・通貨当局の為替介入をやめようとの趣旨と解されます。

 そもそも、為替介入は経済理論からも実態からも長期的な効果は薄いのに、外為特会で百兆円も借金してまでなぜ続けるんですか。アメリカが提案した経常収支の不均衡是正の数値基準に対する日本政府の評価、見解もあわせて伺います。

 TPPと農業について伺います。

 菅総理は、開国と農業を両立させると事あるごとに口にしていますが、言葉だけになってしまっているのではないでしょうか。必要な改革を行えば、日本の農業は世界で戦えます。しかし、それとは全く逆方向の政策を現政権は推進しているのではないですか。

 その最たるものが戸別所得補償政策です。小規模な兼業農家を温存し、減反参加が前提なので農地の減少にもつながる。それどころか、意欲ある主業農家が農地所有者から補償目当ての農地貸しはがしを受けるような現政権の戸別所得補償政策では、日本の農業の再生に全く逆行しています。

 政府は、農業構造改革推進本部を設置し、来年度予算にも反映させるといいますが、何をやろうというんですか。玄葉大臣が語っているように、今の戸別所得補償を拡充するような見当違いの政策では、農業の競争力強化には全くつながりません。

 アメリカとFTAを結んだ韓国は十年間で約九兆円を投入したと言われ、GDP比で日本の四十兆円に相当すると言われていますが、たとえ何十兆円ばらまいたとしても、今のような政策をやっている限り、日本の農業は、TPPとともに十年以内に壊滅してしまうでしょう。

 覚悟と戦略なき開国では国を滅ぼすだけです。今のばらまき色の強い戸別所得補償政策をやめ、早急に農業分野で競争力強化のまともな政策プランを示した上でTPP交渉に参加することを求めます。

 見解を求めて、質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣菅直人君登壇〕

内閣総理大臣(菅直人君) 柿澤議員にお答えをいたします。

 日中首脳会談についての質問をいただきました。

 日中関係については、尖閣諸島沖の漁船衝突問題以降ぎくしゃくしていた状態が続いていましたが、今般の首脳会談で、改めて、私の就任時の六月の、戦略的互恵関係を進めていくとの原点に戻ることを確認いたしました。これは、いわばマイナスをゼロに戻すということであって、大きな前進であったと思っております。

 私の発言時間を自分ではかっていたわけではありませんけれども、日中首脳会談では、尖閣諸島について我が国の確固たる立場を述べるとともに、戦略的互恵関係を発展させていくことや、政府・民間交流の促進、経済分野を含むグローバルな課題での協力強化であります。

 確固たる立場というのは、尖閣諸島は我が国固有の領土であって、この地域に領土問題は存在しないということであります。

 限られた会談時間の中ではありましたが、非常に有意義な意見交換が行われた、このように考えております。

 メドベージェフ大統領からのロシア訪問についての御質問をいただきました。

 我が国固有の領土である北方四島の帰属の問題を最終的に解決して平和条約を締結するとの方針に何ら変更はありません。それゆえ、メドベージェフ大統領の国後訪問について抗議を行ったところであります。

 従来、首脳間での領土交渉は、この間必ずしも十分に進展しておりませんでしたが、今回の会談で、改めて、領土問題解決のため首脳間で協議をしよう、さらには経済協力のための協議も行おう、このことで合意をいたしました。このような議論を前提に、メドベージェフ大統領からの訪ロ招待があったことに対して、検討したい旨、応じました。今後、国益を踏まえて検討を行っていきたい、このように考えております。

 農業構造改革推進本部についての御質問をいただきました。

 日本の農業は潜在的な競争力を持っていると認識しております。今回のAPEC首脳会議でも日本料理を供しましたが、大変高い評価をいただきました。

 一般的に農業といえば一次産業を連想しますけれども、いろいろな形で、二次産業、三次産業の全体で考えれば、もっともっと付加価値を生み出すことができると考えております。

 また、大変高齢化が進んでいることも、なぜ若い人が農業に参加できないのか、その障壁をなくすることも重要であります。

 そこで、国を開くに当たり、まず農業改革の方から具体的な作業を始めたいということで農業構造改革推進本部を立ち上げ、私が本部長、鹿野大臣、玄葉大臣に副本部長になっていただいて、全力を挙げて取り組みたい。その中で、必要な財源措置及び財政措置についても検討することといたしているところであります。

 戸別所得補償制度と農業分野の対応策に関する御質問をいただきました。

 戸別所得補償制度は、農業が食料の安定供給や多面的機能の維持という重要な役割を担っていることを評価し、意欲ある農業者が農業を継続できる環境を整え、食と地域の再生を図るため創設されたものであります。

 農業分野の対応策については、農業構造改革推進本部の場で、持続可能な力強い農家を育てるための抜本的な対策を徹底して議論していくこととしておりますが、戸別所得補償制度については、これを基盤としつつ、規模拡大や生産性向上等を進めるためにはどのような措置をとり得るのかといったことを検討してまいりたい、このように考えております。

 残余の質問については、関係大臣から答弁をさせます。(拍手)

    〔国務大臣野田佳彦君登壇〕

国務大臣(野田佳彦君) 柿澤議員から、私には二つのお尋ねがございました。

 一つは、為替介入についての御質問でございます。

 現在、我が国においてデフレが進行し、そして経済情勢が依然として厳しい中、為替相場の過度な変動は、経済、金融の安定の悪影響から、看過できない問題でございます。こうした中で、御指摘のように、先般のG20やAPEC会合でも、より市場で決定される為替レートシステムに移行し、通貨の競争的切り下げを回避することに加え、準備通貨を持つ国々を含む先進国は為替レートの過度な変動や無秩序な動きを監視することが合意をされたところでございます。

 なお、整理して申し上げますが、我が国の九月の介入は為替相場の過度の変動を抑制する観点から実施したものでございまして、通貨の競争的な切り下げを目的とした介入ではございません。

 いずれにしましても、我が国としては、こうした合意を踏まえつつ、必要なときには為替介入を含む断固たる措置をとる考えでございます。

 続いては、経常収支不均衡についての御質問がございました。

 経常収支は、御案内のとおり、家計、企業、政府、それぞれのセクターがさまざまな経済活動をした結果出てくるものでございますので、ある意味、経常収支の黒字あるいは赤字が生じるということは、これはやむを得ないし、不健全なことではございません。財政収支と違って、政府がコントロールできるという筋のものではございません。したがって、経常収支について厳格な数値目標を設置することには疑問がございます。

 ただし、大規模な経常収支不均衡が継続をしている場合には世界経済の持続的な成長を損なう可能性がございますので、特にそのような場合には、不均衡の要因を見きわめる必要がございます。

 そうした観点から、先般のG20サミット会合においてもこうした問題意識から、不均衡が継続的で大規模か否かを参考となるガイドラインに照らして判定すること、各国・地域の状況を考慮する必要性を認識しつつ、継続した大規模な不均衡の性質や、調整の障害となっている原因を評価することについて合意をいたしました。

 大事なことは、国、地域によってさまざまである経常収支不均衡の要因を見きわめるため、参考となるガイドラインの内容をこれから深めていくこと、議論をしていくことであって、例えば日本の場合も経常収支は黒字なんですが、その大宗は所得収支の黒字でございます。

 御案内のとおり、所得収支の黒字というのは、これまでに例えば海外で資産をつくってきた、そこからの配当であるとか利子であるとか、海外に出た企業の収益でございますので、成熟した経済が海外に投資をして得る収入というのは、ある意味当然でございます。

 そういう各国の事情などはしっかりと勘案するようにすることも訴えながら、この参考となるガイドラインについて、積極的に議論にかかわっていきたいと思います。

 以上でございます。(拍手)

    〔国務大臣前原誠司君登壇〕

国務大臣(前原誠司君) 柿澤議員にお答えいたします。

 国後訪問の原因についてお尋ねがございましたが、先ほど同僚議員にお答えをしましたので簡潔に申し上げますと、資源価格が高騰し、クリル発展プログラムが行われており、そのフォローアップが主な目的だと思っておりまして、議員の御指摘は当たらないと考えております。

 二つ目に、この国後訪問を受けた日本の対応について妥当だったかということでございますが、状況に応じて対応することが適切だと考えておりまして、今後、その方針に基づいて対応してまいりたいと考えております。

 最後は、北方領土訪問の可能性についてでございますが、十一月十三日の日ロ首脳会談において、菅総理からメドベージェフ大統領に対して、先般大統領が国後を訪問したことを、我が国の立場、そして日本国民の感情から、受け入れられないと抗議をいたしました。また、私からも、同日行われた日ロ外相会談において、ラブロフ外相に対して、極めて遺憾であるとの日本の基本的立場を明確に申し上げました。これからも粘り強く取り組んでまいります。

 以上です。(拍手)

副議長(衛藤征士郎君) これにて質疑は終了いたしました。

     ――――◇―――――

副議長(衛藤征士郎君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後五時七分散会

     ――――◇―――――

 出席国務大臣

       内閣総理大臣    菅  直人君

       総務大臣      片山 善博君

       法務大臣      柳田  稔君

       外務大臣      前原 誠司君

       財務大臣      野田 佳彦君

       文部科学大臣    高木 義明君

       厚生労働大臣    細川 律夫君

       農林水産大臣    鹿野 道彦君

       経済産業大臣    大畠 章宏君

       国土交通大臣    馬淵 澄夫君

       環境大臣      松本  龍君

       防衛大臣      北澤 俊美君

       国務大臣      岡崎トミ子君

       国務大臣      海江田万里君

       国務大臣      玄葉光一郎君

       国務大臣      自見庄三郎君

       国務大臣      仙谷 由人君

       国務大臣      蓮   舫君

 出席内閣官房副長官

       内閣官房副長官   古川 元久君


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