衆議院

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第22号 平成28年4月5日(火曜日)

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平成二十八年四月五日(火曜日)

    ―――――――――――――

 議事日程 第十三号

  平成二十八年四月五日

    午後一時開議

 第一 総合法律支援法の一部を改正する法律案(第百八十九回国会、内閣提出)

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本日の会議に付した案件

 日程第一 総合法律支援法の一部を改正する法律案(第百八十九回国会、内閣提出)

 環太平洋パートナーシップ協定の締結について承認を求めるの件及び環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案(内閣提出)の趣旨説明及び質疑


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    午後一時二分開議

議長(大島理森君) これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

議長(大島理森君) この際、御紹介申し上げます。

 ただいまヘルマン・クリスト・オーストリア共和国国会議員団団長御一行が外交官傍聴席にお見えになっておりますので、諸君とともに心から歓迎申し上げます。

    〔起立、拍手〕

     ――――◇―――――

 日程第一 総合法律支援法の一部を改正する法律案(第百八十九回国会、内閣提出)

議長(大島理森君) 日程第一、総合法律支援法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。法務委員長葉梨康弘君。

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 総合法律支援法の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔葉梨康弘君登壇〕

葉梨康弘君 ただいま議題となりました法律案につきまして、法務委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、法的援助を要する者の多様化に、より的確に対応するため、日本司法支援センターの業務につき、認知機能が十分でない者、大規模災害の被災者及びストーカー等被害者に対する法律相談援助の充実等を図る等の措置を講じようとするものであります。

 本案は、第百八十九回国会に提出され、継続審査に付されていたものであります。

 今国会では、去る一月四日本委員会に付託され、三月三十日岩城法務大臣から提案理由の説明を聴取し、質疑を行い、同日質疑を終局しました。

 四月一日、本案に対し、東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律の有効期限が延長されたことに伴い、必要な技術的な修正を加えることとする修正案が自由民主党及び公明党の共同提案で提出され、趣旨の説明を聴取しました。

 採決の結果、修正案及び修正部分を除く原案は全会一致をもって可決され、本案は修正議決すべきものと決しました。

 なお、本案に対し附帯決議が付されたことを申し添えます。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(大島理森君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は修正であります。本案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(大島理森君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり修正議決いたしました。

     ――――◇―――――

 環太平洋パートナーシップ協定の締結について承認を求めるの件及び環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案(内閣提出)の趣旨説明

議長(大島理森君) この際、環太平洋パートナーシップ協定の締結について承認を求めるの件及び内閣提出、環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案について、趣旨の説明を順次求めます。外務大臣岸田文雄君。

    〔国務大臣岸田文雄君登壇〕

国務大臣(岸田文雄君) ただいま議題となりました環太平洋パートナーシップ協定の締結について承認を求めるの件につきまして、その趣旨を御説明申し上げます。

 政府は、平成二十五年七月から、この協定の交渉に参加しました。その結果、本年二月四日にニュージーランドのオークランドにおいて、十二カ国の代表者によりこの協定の署名が行われた次第であります。

 この協定は、物品及びサービスの貿易並びに投資の自由化及び円滑化を進めるとともに、知的財産、電子商取引、国有企業、環境等幅広い分野で新たなルールを構築するための法的枠組みについて定めるものであります。

 具体的には、市場アクセスに関し、我が国については、農産品の重要五品目を中心に関税撤廃の例外を数多く確保しつつ、我が国の輸出を支える工業製品については、十一カ国全体で九九・九%の品目の関税撤廃を実現いたします。

 また、原産地規則、税関手続、ビジネス関係者の滞在、知的財産、電子商取引等に関するルールの整備等により、中小企業を含めた日本企業の海外展開を促進するものであります。

 この協定の締結により、アジア太平洋地域に自由で公正な一つの経済圏が形成され、世界のGDPの約四割と約八億人の人口から成る巨大市場がつくり出されます。

 また、多様な企業、産業間の連携やイノベーションが促進され、我が国を含めたアジア太平洋地域全体の生産性が向上することが期待されます。

 さらに、この協定には、経済的利益を超えた、長期的な戦略上の大きな意義があります。

 我が国の同盟国である米国を初め、価値を共有する国・地域とともに二十一世紀にふさわしい新たな自由、公正で開かれた国際経済システムをつくり上げていくことにより、アジア太平洋地域の国々との関係が一層緊密化し、ひいてはこの地域の平和と安定に大きく寄与するという戦略的価値を有するものです。

 以上が、この協定の締結について承認を求めるの件の趣旨でございます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(大島理森君) 国務大臣石原伸晃君。

    〔国務大臣石原伸晃君登壇〕

国務大臣(石原伸晃君) ただいま議題となりました環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明申し上げます。

 この法律案は、環太平洋パートナーシップ協定を締結し、これを実施するため、必要な関係法律の規定の整備を総合的、一体的に行うものであります。

 次に、本法律案の要旨を御説明申し上げます。

 第一に、関税暫定措置法等を改正し、原産地手続及びセーフガードに係る手続等の規定の整備を行うこととしております。

 第二に、知的財産の適切な保護を図るため、著作権法等を改正し、著作物等の保護期間の延長等の規定の整備を行うこととしております。

 第三に、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律を改正し、外国にある登録認証機関の監督等の規定の整備を行うこととしております。

 第四に、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律を改正し、競争上の問題を合意により解決するための制度に関する規定の整備を行うこととしております。

 第五に、畜産物の価格安定に関する法律等を改正し、牛、豚の生産者に係る経営安定を図るための規定の整備等を行うこととしております。

 第六に、特定農林水産物等の名称の保護に関する法律を改正し、国際約束により諸外国と相互に農林水産物等の地理的表示を保護できる規定の整備を行うこととしております。

 このほか、所要の規定の整備を行うこととしております。

 以上が、この法律案の趣旨でございます。(拍手)

     ――――◇―――――

 環太平洋パートナーシップ協定の締結について承認を求めるの件及び環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑

議長(大島理森君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。吉川貴盛君。

    〔吉川貴盛君登壇〕

吉川貴盛君 自由民主党の吉川貴盛です。

 ただいま議題となりました環太平洋パートナーシップ協定の締結について承認を求めるの件及び環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案について、自由民主党を代表して質問をいたします。(拍手)

 自由貿易の推進は、我が国の通商政策の柱です。経済連携に関しては、国益に即して、メリットの大きなものは積極的に推進するとともに、これによって影響を受ける分野については必要な国境措置を維持し、かつ万全な国内経済・地域対策を講じる、このことは我が党の一貫した立場であります。

 こうした中、TPPについては、我が党が政権与党に復帰し第二次安倍政権が成立して間もない二〇一三年二月に、安倍総理がオバマ大統領との日米首脳会談に臨み、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することは求められないことなどを確認し、総理は、国家百年の計であるとして、TPP交渉への参加を決断いたしました。このような決断に至るまでには熟慮に熟慮を重ね、考え抜いた末の決断であったのだと思います。

 総理はこのときどのような思いでTPP交渉に参加すると決断をしたのか、まずはお伺いをいたします。

 我が国は二〇一三年七月からTPP交渉に参加をいたしました。その後、二年三カ月にわたって、十二カ国の間で国益をかけた厳しい交渉を積み重ね、昨年十月、アトランタで開催された閣僚会合で大筋合意に至り、本年二月にニュージーランドで署名がなされました。

 多数国間の経済交渉をまとめることがいかに困難であるかは、WTOのドーハ・ラウンドの現状を見ても明らかなところですが、アジア太平洋地域で、それぞれ特徴がある十二カ国が一つの経済圏をつくるという目標のもとに合意に至ったことは、それ自体に大きな意味があると考えます。

 国益をかけた厳しい交渉の結果、十二カ国で合意し署名したTPP協定は、我が国にとって、そしてアジア太平洋地域にとって、どのような意義があり、メリットをもたらすと総理はお考えでしょうか。

 TPP交渉に当たっては、我が党は累次の決議を行い、国益がしっかりと守られる、結果として我が国の繁栄につながる交渉を政府に対して求めてきたところであります。衆議院及び参議院両院の農林水産委員会では、交渉参加に当たって決議を行い、農林水産物の重要品目について、引き続き再生産可能となることなどを強く求めてきたところであります。

 そして、政府は、党の決議、国会の決議を後ろ盾にして粘り強く交渉を行い、守るべきは守り、攻めるべきは攻め、政府・与党一体となって交渉に臨んだ結果、合意に至ったものと認識をしております。

 交渉が大筋合意に至った後、我が党も政府も、結果について丁寧な説明を積極的に行ってまいりましたが、現場からは、将来への不安の声、厳しい御意見を頂戴します。豊かな日本の食をつくり出しているのは現場の生産者です。そして、生産者の方々が営々と続けてきた農林水産業が、中山間地域を含む美しく活力ある地域をつくり上げてまいりました。これらの地域をこれからも守っていかなければなりません。

 そこで、総理にお尋ねいたします。

 TPP協定については、衆議院及び参議院両院の農林水産委員会決議に掲げられている、農林水産物の重要五品目を初め実現を図るべき項目について、政府として実現できたと認識しておりますでしょうか。総理の認識を伺います。

 今回の交渉を通じて、政府は守るべきは守るという姿勢を貫いたわけですが、最後にはアメリカの圧力に譲歩するのではないかと心配している国民も多いと思います。現に、アメリカ国内では、一部の業界団体が日本の国内対策について批判しているとの報道もあります。アメリカ政府が、議会の承認手続をスムーズに進めようとすることを目的として、他国の国内対策について見直しを要求し、制度を変更させるのではないかと不安視する声もあります。

 TPP協定に関連する国内手続については、立法措置が不十分、あるいは不満であるとして、他国から追加的立法措置を求められたり、我が国に不利な内容の見直しや解釈を文書で約束することを求められるのではないかとの懸念もあります。

 そこで、お伺いします。

 今回提出されたTPP整備法案は、私どもは必要かつ十分な内容であると考えておりますが、一部の人が懸念しているように、今国会で整備法案が成立した後で、よもや他国から修正、追加などの要求がなされることは想定されないと考えますが、石原大臣から明確な答弁を求めます。

 TPPに関しては、交渉中から秘密主義だとの批判がありましたが、私自身、何度も現地に出かけ、政府対策本部が現地でも丁寧な説明会を開催している状況を目の当たりにしており、政府としても、諸制約の中で最大限国民への情報提供に努力されてきたと認識をしております。

 大筋合意後も、どの国よりも早く合意内容の全貌を公表し、与党と一体となって、全国各地で農林漁業者、中小企業の方々を含む多くの国民の皆さんへ説明に努めてこられました。

 交渉参加の際の条件があって、交渉途中の情報を出すことに制約があることは承知をいたしております。外交交渉ですから、全てを話せるわけではないことは当然であります。その上で、合意内容に関しては、この国会で丁寧な説明を行うことが必要であると考えますが、石原大臣の見解をお聞きいたします。

 TPPは、我が国にとって大きな飛躍のチャンスであります。国民の不安、懸念にしっかりと寄り添いつつ、このチャンスを最大に生かす政策を全力で展開すべきであり、我が党としても、この審議を通じ国民の皆様の理解が深まるよう努力を尽くします。

 野党の皆さんにおかれましても、より充実した審議とすべく、建設的な議論をされることを心からお願いいたしまして、私の質問を終わります。

 ありがとうございました。(拍手)

    〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇〕

内閣総理大臣(安倍晋三君) 吉川貴盛議員にお答えをいたします。

 TPP交渉への参加の決断についてお尋ねがありました。

 政権交代前の二〇一二年、TPPにより太平洋が一つの巨大な経済圏になろうとしていました。米国とEU、そして韓国も、互いの貿易の自由化に取り組んでいました。日本だけが内向きになってしまったら、成長の可能性はなく、優秀な人材も集まらないと考えました。

 一方で、日本には息をのむほど美しい田園風景、国民皆保険制度を基礎とした社会保障制度などがあります。TPP交渉の参加に当たっては、こうした世界に誇るべき日本の国柄が守られないのではないかという懸念もありました。

 二〇一二年の衆議院選挙で、私たち自由民主党は、聖域なき関税撤廃を前提とする限り、TPP交渉参加に反対すると明確にするとともに、国民皆保険制度を守るなど五つの判断基準を掲げました。

 政権発足後間もない二〇一三年二月、私はこの国民との約束を守るため、訪米してオバマ大統領と会談し、TPPは聖域なき関税撤廃を前提としないことを直接確認しました。例外なき関税撤廃を目指して始まっていたTPP交渉に後から参加しても、交渉によって国益を守る道を切り開くことができました。

 さまざまな意見を伺いました。熟慮の末、最終的には、米国を初め普遍的価値を共有している国々とアジア太平洋地域における新たなルールをつくり上げていくことは、日本の国益となるだけでなく、必ずや世界に繁栄をもたらすものであると確信して、TPP交渉への参加を決断したものであります。

 TPPの意義についてお尋ねがありました。

 TPPは、消費者の生活を豊かにします。参加国間の貿易障壁は激減し、域内のさまざまな商品を安く、手軽に、安心して手に入れることができるようになります。

 TPPは、八億人市場、世界の四割経済圏を生み出し、GDP十四兆円の押し上げ効果が持続します。日本国内の人口減少を乗り越えて日本経済が中長期的に力強く成長していく基礎となります。

 関税が撤廃、削減されるだけではありません。新しいルールが自由で公正な競争を促し、イノベーションを活発にします。全く新しいビジネスも生まれてきます。独自の技術や地方の特産品で果敢に海外市場に挑戦する人々が大いに活躍できます。国内にいながらにしての海外展開も容易になります。TPPを契機に工場を日本に戻すことを検討しているという動きも見られます。海外からの直接投資も拡大します。

 TPPは、品質が高く、海外で人気の高まっている日本の農産物に新たな巨大市場をもたらします。多くの国で農産物の関税がなくなるだけでなく、地理的表示が保護されます。地域の特産品づくりに込めた手間暇が真っ当に評価されるようになります。これは、農業者の皆さんがブランド化や大規模化で国際競争力をつけ、海外に販路を開拓する絶好のチャンスです。

 今後、このようなメリットを生かし、TPPを我が国の成長戦略の切り札としてまいります。

 国会決議との関係についてお尋ねがありました。

 TPP交渉においては、重要五品目を中心に、関税撤廃の例外をしっかり確保し、関税割り当てやセーフガード等の措置を獲得しました。

 それでもなお残る農業者の方々の不安を受けとめ、昨年十一月、総合的なTPP関連政策大綱を決定し、緊急に実施すべき対策に必要な経費を補正予算に計上しました。重要品目が確実に再生産可能となるよう、交渉で獲得した措置とあわせて、引き続き万全の措置を講じていきます。

 交渉結果が国会決議にかなったものかどうかは、最終的に国会で御審議いただくこととなりますが、政府としては、国会決議の趣旨に沿うものと評価していただけると考えております。

 残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)

    〔国務大臣石原伸晃君登壇〕

国務大臣(石原伸晃君) 整備法案の成立の後に他国から修正等の要求がなされることはないのかというお尋ねがございました。

 環太平洋パートナーシップ協定、いわゆるTPP協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律は、TPP協定を実施するために必要不可欠なものとして、関連する国内法の規定の整備を総合的、一体的に行うものでございます。TPP協定に規定する義務を履行するため必要かつ十分な内容であり、その義務を履行するために追加的な立法措置は不要であると認識をしております。

 また、同法律案は、TPP協定によって生ずると現時点で想定される影響に対応するためにも、必要かつ十分な内容となっていると認識をしております。

 なお、TPP協定第三十章第五条は、各国がそれぞれの関係する国内法上の手続を完了した旨を書面により、取りまとめ国、いわゆる寄託者であるニュージーランドに通報した後六十日で締結の効力を生じると規定しています。各国とも必要な関係法律を整備し通報することで締結の手続は終了いたします。したがいまして、関係法律の整備内容を他国と調整することは想定されておりません。

 TPP協定の合意内容について丁寧に説明すべきとのお尋ねがございました。

 我が国を含め、TPP協定への交渉参加国は、交渉参加に当たって、秘密保護に関する書簡により、各国との具体的なやりとりについては公表しないこととされております。こうした事情から、交渉段階での情報を説明することに制約があることはぜひ御理解をいただきたいと思います。

 しかし、政府としては、合意内容を正確かつ丁寧に説明することを通じて、国民の皆様方の懸念や不安を払拭するよう最大限努力をしてまいりました。大筋合意後、地方も含めて説明会は過去二百九十回実施し、公表した概要資料や質疑応答集等は千五百ページにも及ぶものでございます。

 今後の国会審議等の場においても、TPP協定の各規定の内容や趣旨、解釈等について、引き続き丁寧に説明をしてまいります。(拍手)

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議長(大島理森君) 山尾志桜里君。

    〔山尾志桜里君登壇〕

山尾志桜里君 民進党・無所属クラブの山尾志桜里です。

 私は、民進党・無所属クラブを代表し、ただいま議題となりました環太平洋パートナーシップ協定及び環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案について質問をいたします。(拍手)

 私たちは、先月、政権を担うことのできる新たな政党となるため、民進党として新たな一歩を踏み出しました。国民の声を聞き、国民の言葉で語り、国民とともに政策を前に進めていく、それが私たち民進党です。

 そして、国民の声の中でも最も切実な声に応えるため、民進党は今、一部は他の野党とともに、与党に対案を示して審議を求めています。一つは安全保障関連法の廃止法案と周辺事態法等の対案、もう一つは保育士給与を五万円引き上げる保育士等処遇改善法案です。

 政治が取り組むべき課題は、その時代の国民の声の中にあります。私たちは、国民の命と暮らしの根本にかかわる課題について、国民の声とともに対案を示しています。安倍総理、対案を出せとあれほどおっしゃったのに、なぜ出された対案から逃げるのですか。しっかりと審議に応じていただきたいと思います。

 さて、昨年十月、交渉参加以来二年を経て、TPP協定交渉が合意に至りました。私たち民進党は、綱領にも定めたとおり、持続可能な経済成長を重視する立場です。したがって、TPPを含む高いレベルの経済連携を進めていくことは、日本の成長をさらに推し進めるため必要な枠組みであることは否定いたしません。しかし、問題は中身。何が守られ、何をかち取ったかということであります。

 合意以来、私たちは全国各地に足を運び、生産者、消費者の方々と膝を交え、将来に向けた生産の継続、地域の維持、食の安全、安心、国民皆保険制度の堅持などについて、国民の不安の声を直接お聞きしてまいりました。

 そして、もう一つ国民の皆さんからお聞きした声があります。それは怒りです。この怒りに対し、何よりまずしっかり総理が御自身の言葉でお答えをいただきたいと思います。

 聖域なき関税撤廃を前提とするTPP協定参加には反対、これは自民党の皆さんの二〇一二年衆議院総選挙における政権公約です。そして、この政権公約に基づき、うそつかない、TPP断固反対、ぶれない、TPPへの交渉参加に反対と大きく書かれたポスターが農村部を中心に全国各地に張られました。

 総理、はっきり申し上げます。これはうそです。このうそにこそ国民の皆さんが怒っているのです。アベノミクス、集団的自衛権、一億総活躍社会、私たちは、その都度、総理の説明するうそに国民の皆さんとともに怒り、追及をしてきました。そして、これから審議を行おうとするTPPも、残念ながら、またうそを追及しなければなりません。

 総理、今からでも遅くありません。国民に真摯に向き合ってください。総選挙での約束を守らなかったことを認め、その理由を説明してください。国民との対話はそこからスタートするはずです。国民の皆さんへの総理の真摯な説明を求めます。

 さて、TPPを議論するに当たり、その交渉の中心人物たる甘利前大臣がこの場にいらっしゃらないことは、極めて残念でなりません。加えて、事務方トップを担ってきた鶴岡首席交渉官まで、何と審議入りをしたきょう、駐英大使への転出が閣議決定されました。

 政府としては丁寧に説明を尽くしていく、そのようにおっしゃいますが、どこにその姿勢が見えるのでしょうか。これまで民進党が行ってきたヒアリングでも、甘利前大臣から石原大臣への引き継ぎメモは作成されず、引き継ぎ自体もたかだか電話で二十分。

 TPP協定の是非に関する国会審議は、日本がこれまで経験したさまざまな自由貿易協定をはるかにしのぐ、極めて重要な議論であります。このような議論を行うにもかかわらず、その議論の場に、交渉を担った前大臣もいない、首席交渉官もいない。いるのは、就任前公然と、関税自主権を完全に放棄するようなTPPには反対と明言していた石原大臣です。

 前言を翻した担当大臣が、一夜漬けのようなにわか知識で空虚な答弁を繰り返しても、国民の負託に応える議論はできません。断固抗議します。

 人のみならず、情報もまた隠されようとしています。

 TPP協定を審議していくに当たって極めて重要な点は、何をかち得たかであると同時に、我が国の利益がどのように主張されてきたかを検証することです。そのため、私たちは、交渉参加以来、再三再四、情報の公開を求めてまいりました。そのたびに政府からは、交渉にかかわることでお答えできないという紋切り型の回答が繰り返されるばかりでした。

 これでは、国民の負託に応える議論ができないので、旧民主党と旧維新の党は一致して、通商交渉に関する情報提供の促進を求める法案を提出してまいりました。今回、合意に至り、交渉過程を検証すべく、民進党の追及チームで調査をスタートしたところ、今度は、閣僚級協議や事務レベルの協議では記録が一切作成されていないとの回答が繰り返されております。

 仮に記録が一切ないということであれば、決議を守ろうとする姿勢そのものが欠如していると言わざるを得ません。まさに国会軽視です。

 TPP協定の閣僚級協議や事務レベル協議では一切記録を作成していないのか、その他の文書においても交渉経緯に関する情報を公開するお考えはないのか、担当大臣の答弁を求めます。

 国会決議との関係についてお伺いします。

 交渉へ参加するに当たり、衆参農林水産委員会では、政府に対し、与野党一致して決議を行いました。この決議こそ、国益を守ることができたか否か、国会が批准を是とするか否かの重要かつ明確な基準です。

 この決議では、重要五品目は除外または再協議とすること、そして聖域の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合には脱退も辞さないと、政府に対し厳しい姿勢を求めてまいりました。

 しかし、結果を見れば、聖域である重要五品目は除外にも再協議にもならず、何と約三割の品目で、関税は削減または撤廃される結果となりました。この結果をもって、聖域が確保された、国益が守られたなどと強弁するには余りに無理があります。

 この一点をもってしても、協定は国会決議に違反するものであり、日本の国益は守られなかったと評価せざるを得ません。果たして国会決議は守られたのか、総理の明快な御説明をお願いします。

 農林水産業への影響についてもお尋ねします。

 農林水産省が昨年示した試算では、TPP協定が発効されても、対策を講じていれば、最大二千百億円程度の生産減少額にとどまるとされました。しかし、説明を求めてみると、輸入はふえ、人口は減少するにもかかわらず、生産量は変わらないという極めて理解不能な試算となっています。事実、自治体が独自に行った生産減少額の試算によれば、国の試算と二十倍以上の開きがある県も存在します。

 閣僚席の皆さん、与党の皆さん、国民の声、生産者の声をしっかりと聞かれたのでしょうか。影響が大きいことをひた隠すために、農業の現実を直視せず切り捨てようとすることは、欺瞞に満ちた過小評価であり、余りに不誠実です。

 対策を講じない場合の影響試算など、実態の調査を再度行い、審議に当たって誠実に国会に示すべきと考えますが、農林水産大臣のお考えをお聞かせください。

 最後に、食の安全、安心についてお伺いします。

 食料自給率が決して高いとは言えない日本は、農産物や加工食品の輸入が多く、特に小さいお子さんをお持ちの御家族などにとって、食の安全、安心は大きな関心事です。国会決議でも、食の安全、安心及び食料の安定生産を損なわないこと、これを政府に求めています。

 今回の合意において、政府は、日本の食品の安全が脅かされることはないとの説明を続けていますが、しかし、協定においては、新たな義務づけを行う場合に、輸出国側の利害関係者の関与が確保されるよう規定が置かれ、遺伝子組み換え食品の表示も同様に適用されることとなっています。

 また、参加各国において使用可能な農薬や食品添加物がそれぞれ異なることから、日本の安全基準はしっかりと守られるのだろうか、心配の声も広がっています。

 この場で確認させてください。食の安全、安心は損なわれていないのか、そして損なわれる可能性はないのか、担当大臣の見解を伺います。

 与党の席に座る多くの方々は、過去、民主党のTPP交渉には反対と発言されてこられました。そのような皆さんが、選挙でうそをつき、今はアベノミクスの切り札などと、さらなるうそを重ねておられます。

 それがうそであり、うその上塗りだとしても、失敗に次ぐ失敗を重ねるアベノミクスの大きな穴をしっかり埋めるような、目に見える成果があるのであれば、私たちは前向きな議論に臨みたいと思っています。

 しかし、記録はつくっていない、交渉経過は検証できない、守り切ると約束した聖域でも相当数で関税撤廃をのまされる、優位に立つべき自動車分野でも大幅な譲歩を重ねた。この状態で、漫然と国会の審議を求めてくるのは不誠実です。

 私たち民進党は、この国会での議論を通し、あのうそから今も続く安倍政権の慢心とおごりが、いかに国益を傷つけ、いかに国民の暮らしを脅かそうとしているか、しっかりと厳しく検証していくことをお約束申し上げ、私の質問とさせていただきます。(拍手)

    〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇〕

内閣総理大臣(安倍晋三君) 山尾志桜里議員にお答えをいたします。

 民進党提出の法案についてお尋ねがありました。

 国会の運営については、国会がお決めになることであると考えます。

 その上で、子育て支援でも経済政策でも、そして外交・安全保障政策でも、日本を取り巻く現実を直視し、その解決のための政策の選択肢を国民に提案していただくことは、大歓迎であります。

 多様な議論の中から、逃げることなく、実効的かつ実現可能な政策を取りまとめることは、並み大抵のことではないと思います。新しく政調会長となられた山尾議員の御活躍を期待しております。どうか、お互い切磋琢磨しながら、国民の負託に応えていきたいと考えております。

 自民党の公約との関係についてお尋ねがありました。

 二〇一二年の衆議院選挙における自由民主党の公約は、聖域なき関税撤廃を前提とする限り、TPP交渉の参加に反対するというものでありました。

 政権発足後間もない二〇一三年二月には、オバマ大統領との首脳会談で、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することは求められないことなどを直接確認した上で、交渉参加を決断しました。

 我が国は、交渉を主導することで、農林水産品の約二割について関税等による保護を維持しました。厳しい交渉の中で国益にかなう最善の結果を得ることができました。こうして、自由民主党がTPP交渉参加に先立って掲げた国民の皆様とのお約束は、しっかりと守ることができたと考えております。

 国会決議との関係についてお尋ねがありました。

 TPP交渉の結果、米などの重要品目について、関税撤廃の例外をしっかり確保しました。牛肉などの輸入が万一急にふえた場合には、緊急的な、輸入を制限することができる新しいセーフガード措置を設けることも認められました。

 それでもなお残る農業者の方々の不安を受けとめ、昨年十一月、総合的なTPP関連政策大綱を決定し、緊急に実施すべき対策に必要な経費を補正予算に計上しました。重要品目が確実に再生産可能となるよう、交渉で獲得した措置とあわせて、引き続き万全の措置を講じていきます。

 交渉結果が国会決議にかなうものかどうかは、最終的に国会で御審議いただくことになりますが、政府としては、国会決議の趣旨に沿うものと評価していただけるものと考えております。

 残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)

    〔国務大臣石原伸晃君登壇〕

国務大臣(石原伸晃君) 情報開示についてのお尋ねがございました。

 TPP交渉については、これまでの交渉会合の期間中や会合終了後に適宜記者会見を行い、情報提供に政府としては努めてまいりました。また、大筋合意後には、地方開催も含めて多くの説明会を実施してまいりました。

 このように、政府としては丁寧に対応してきていると考えております。

 TPP協定に関する文書については、個々の事案に応じて適正に作成し、保管をさせていただいているところでございます。

 今後の審議におきましても、TPP協定の各規定の内容や趣旨、解釈等について、引き続き丁寧に説明を行ってまいります。

 なお、我が国を含めまして、TPP協定への交渉参加国は、交渉参加に当たって、秘密保護に関する書簡により、各国との具体的なやりとりについては公表しないと決められております。こうした事情から、交渉段階での情報を説明することに制約があるということは、ぜひ御理解をいただきたいと思います。

 食の安全等々の影響についてのお尋ねがございました。

 TPP協定による食の安全に関するルールは、日本が既に締結をしておりますWTO協定の中の衛生植物検疫措置協定、いわゆるSPS協定を踏まえた内容となっております。したがいまして、残留農薬、食品添加物の基準、遺伝子組み換え食品等の安全性審査や表示を含めまして、TPP協定によって日本の制度が変更されることはございません。我が国の食の安全、安心が脅かされるという懸念は当たらないものと考えております。

 他方、御指摘の心配のお声に対しましては、これからも丁寧に説明を行ってまいります。(拍手)

    〔国務大臣森山裕君登壇〕

国務大臣(森山裕君) 山尾議員の御質問にお答えいたします。

 農林水産業への影響について、対策を講じない場合の影響試算などの再試算についてのお尋ねがありました。

 今回の農林水産物の試算については、あくまでもTPPの影響のみを考慮したものであり、将来の人口減少などの他の要因については考慮しておりません。

 試算では、交渉で獲得した措置とともに、体質強化対策や経営安定対策などの国内対策により、国内生産量が維持されると見込んでおります。

 また、TPPの影響については、三十六の道県において一定の試算が行われており、このうち三十二の道県は、国に準じた試算方法をとっていると承知しています。

 今回のTPP交渉の結果、国家貿易等の国境措置や長期の関税削減期間等が設定されたことから、平成二十五年三月のような、関税は即時撤廃、国内対策は講じないため競合品は原則海外産に置きかわるという単純化した前提を置いた試算を行うことは困難であると考えています。

 また、政策大綱及び関連予算を決定するなど既に国内対策の具体化を進めている中で、国内対策を考慮しない試算を行うことは、現実とかけ離れた仮定に基づいたものとなりかねないことからも、適当でないと考えています。したがって、再度試算を行う考えはありません。

 今後も、現場で御努力をいただいている方々の気持ちを大切にしながら、これまで進めてきた農政改革や政策大綱に掲げた施策を着実に実行してまいります。

 これにより、次世代を担う生産者が、新たな国際環境のもとでも、夢と希望を持って、所得の向上を図り、経営発展に積極果敢に取り組んでもらえるような農政新時代を切り開いてまいります。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(大島理森君) 稲津久君。

    〔稲津久君登壇〕

稲津久君 公明党の稲津久です。

 私は、公明党を代表し、ただいま議題となりました環太平洋パートナーシップ協定の締結について承認を求めるの件及び環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案について質問をいたします。(拍手)

 本題に入ります前に、総理にお伺いいたします。

 先般、ワシントンにおいて核セキュリティーサミットが開催され、核テロ防止へ向けた国際連携が確認されたものと認識していますが、総理も出席された中でどのような成果があったものと評価をするか、あわせて、我が国が八年ぶりに議長国を務めることになった本年五月開催のG7伊勢志摩サミットについて、サミット開催に向けた意気込みをお伺いいたします。

 さて、我が国が少子高齢社会から人口減少社会に突入し、右肩上がりの経済成長が望めない状況にある中、世界経済の約四割、人口八億人を占める巨大な経済圏の成長を取り込むことによってこのような状況に歯どめをかけること、ここにTPPの意義があると考えます。

 国内の八倍もある巨大市場の出現と、域内の貿易、サービス、投資の高水準の自由化、さらに包括的なルール形成の実現は、産業界全体にとって大きく市場が広がり、商機が到来していることを示しております。

 TPPを生かすには、グローバルに展開する世界市場の変化を見きわめ、それに見合った輸出体制や産業構造をつくり上げる必要があると考えますが、TPPによって国益をいかに高めようとしているのか、総理の所見を伺います。

 昨年十月五日の大筋合意を受けて、政府は十一月二十五日、総合的なTPP関連政策大綱を取りまとめました。それに先駆け、公明党も十一月十九日に、TPPに関する総合対策に向けた提言を政府に提出、牛・豚マルキンの法制化と八割から九割への補填割合の引き上げなど、再生産を確実なものとする農業政策、先進的な分野のイノベーションの促進や地域産品、サービス産業など、TPPを最大限に生かす輸出促進、産業活性化など提言をさせていただきました。この提言が、政府の政策大綱及び平成二十七年度補正予算や二十八年度本予算にどのように反映されているのか、TPP担当大臣の答弁を求めます。

 次に、中小企業の輸出、海外展開支援について伺います。

 我が国には、技術力を生かした高品質、高付加価値の工業製品や農産物をつくりながらも、関税や投資、サービスに関するルールが整備されていないことが障壁となり、海外展開や輸出に踏み切れなかった中小企業や農林水産業者が数多くいます。TPPによる市場アクセスに係る諸条件の改善、通関手続の迅速化など、TPPによる各種手続の簡素化、標準化、投資ルールの明確化、知的財産の保護等により、海外展開しやすくなります。

 政府として、事業者の理解を深める相談窓口の整備などの総合的支援など、中小企業の海外展開を促す環境整備について、具体的にどのように取り組もうとしているのか、TPP担当大臣の答弁を求めます。

 TPP交渉における市場アクセス交渉の結果、重要五品目については関税撤廃の例外を確保し、調製品を含め品目ごとの交渉で、関税割り当て、セーフガード等の措置を獲得。水産分野でも、漁業補助金に対する国の政策決定権は維持されました。

 そこで、重要五品目について、国会決議に沿うものであるのかどうかとの認識を伺うとともに、一部の調製品の関税撤廃について、どのような基準で選び関税撤廃としたのか、またその影響はどの程度であると考えるのか、TPP担当大臣の答弁を求めます。

 我が国の農業の現状、すなわち就業人口の大幅な減少と就業平均年齢六十六歳という現状を考えたとき、農政新時代を目指す上で基盤となる担い手不足が深刻であることは間違いありません。TPPのあるなしにかかわらず、農業を成長産業としてよみがえらせなければならないと考えます。

 新規就農支援の安定的実施や、すぐれた経営知識、技術の習得支援、ICTの活用での革新的技術の開発や、水田、畑地の高機能化などによる産地イノベーション、畜産クラスター事業の拡充などによる畜産、酪農の収益力強化など、体質強化策や経営安定策の実効性を高め、農業の成長産業化につなげるための具体的な取り組みが必要であると考えますが、総理の見解を伺います。

 次に、中山間地域対策について伺います。

 効率化や規模拡大が難しい中山間地域では、特にTPPによって受ける影響は大きいと思われます。二〇一五年度の中山間地域等直接支払交付金の交付面積の減少率は、制度が始まって以来最大となる見通しです。このままでは荒廃農地が増加し、将来的に地域農業の維持が困難となる危機的な状況です。

 複数集落が連携して相互に協力を行ったり、小規模で高齢化が進む集落を近隣集落が支えるといった活動への支援や、中山間地域等直接支払い制度の拡充など、具体的な対策が必要であると考えますが、農林水産大臣の答弁を求めます。

 次に、農林水産物・食品の輸出促進に向けた戦略と取り組みについて伺います。

 TPP交渉において、我が国の農林水産物・食品の輸出拡大の重点品目の全てで関税撤廃ができたことは評価したいと思います。世界的な日本食ブームの広がりや、伸び行く海外の有望なマーケットに打って出ていく好機となります。

 そのためには、輸出のための検疫体制や物流インフラの整備、生産コスト低減による国産木材のシェア拡大、水産業の体質強化策、六次産業化のさらなる推進など、戦略的に施策を講じる必要があると考えます。

 農林水産物及び食品の輸出促進に向けた戦略や取り組みの方向性について、農林水産大臣の見解をお伺いします。

 農林水産物の輸出促進に向けて特に重要になってくるのが、地域における特産品のブランド化を加速させる地理的表示保護制度、いわゆるGI制度です。昨年六月に申請受け付けが始まり、既に、夕張メロンや兵庫県の但馬牛、神戸ビーフ、福岡県の八女伝統本玉露など十二産品が登録されています。

 TPP参加国は、他国のGIを保護する場合の基本的なルールについて規定しており、GIに関する相互保護を通じて、ジャパン・ブランドとなる登録産品の輸出促進が期待されます。

 一方で、地域ブランドの品種が外国で出願、登録を済ませていないため、国際条約が機能せず、無断で生産、販売される実例もあります。

 そこで、GI制度の目的と生産者、消費者のメリットについて、また、今後さらに登録数をふやしていくべきと考えますが、登録数の目標についての考え方、さらに、政府としてのブランド戦略の必要性について、総理の答弁を求めます。

 TPPによって我が国の食品安全に関する基準が緩和されるのではないかとの懸念に対して、政府は、TPPの大筋合意を受けて、食品の安全に関する制度について、また、遺伝子組み換え食品表示を含めた食品の表示要件に関する制度について、変更を求めるものではないとしています。

 しかし、一方、日本の食品安全に関する基準や遺伝子組み換え作物の表示義務等が変更を求められる可能性はないのか、また、通関手続の迅速化やTPPの影響による輸入食品の増加によって、我が国の食品輸入の検査体制が追いつかなくなるのではないかといった懸念や指摘がなされたことに対して、どう答え、また対策を講じようとしているのか、総理の答弁を求めます。

 TPPの大筋合意前は、TPPによって、特に地方公共団体の公共工事に外国企業が参入し、国内の建設業や関連産業に影響が出るのではないかとの懸念の声がありました。

 しかし、実際のTPP協定の約束内容は、現行の国内調達制度を変更するものではなく、また、新たな市場を外国企業に開放することを約束するものでもないことが判明。逆に、アジア地域では、今後、多くのインフラ需要が見込まれており、TPPによりインフラ関連産業に大きな利益をもたらす可能性があります。

 そこで、政府が掲げる平成三十二年に約三十兆円のインフラシステム受注実現の目標に向け、どのように取り組んでいくつもりなのか、総理の答弁を求めます。

 金融分野においても、大筋合意前、我が国の公的年金制度や国民皆保険制度に影響が出るのではないかとの懸念の声もありましたが、これも、金融サービス章の規定で、公的年金や公的医療保険といったいわゆる国が提供する社会保障には適用されないと明記され、守られた形になりました。

 一方、原則自由化によって、我が国の金融機関の海外進出が容易になると考えられており、中小企業が海外展開する際、各地で地場産業を支えている地方銀行も海外進出することによって、確実なサポートができるものと期待できますが、こういった金融分野におけるメリットをどう生かしていくべきと考えるのか、TPP担当大臣の答弁を求めます。

 TPPにおける著作権侵害罪の一部非親告罪化の規定について、アニメや漫画の二次創作物への影響が懸念されておりましたが、これも権利者の利益に有害な影響を及ぼすケースのみ告発するとの条件が加わったことにより、二次創作物等への萎縮効果が生じないように配慮されています。

 一方、対象範囲を適切に限定しつつ、悪質な海賊行為については非親告罪の対象とすることで、海賊版対策の実効性確保が図られることになりましたが、今後、具体的にどのような制度や仕組みで海賊版対策の実効性を確保するのか、文部科学大臣の見解を伺います。

 投資家と国との間の紛争の解決のための手続規定、いわゆるISDS条項についてお聞きします。

 ISDSによって国が外国投資家から巨額の賠償を請求されるといった懸念や批判がありましたが、ISDSは投資分野を対象とする損害賠償請求であり、投資受け入れ国に制度変更を求めるものではなく、濫訴を防止する措置も多く盛り込むなど、企業の保護と各国の政策のバランスが図られており、また、環境対策や保健政策など正当な規制については、企業は提訴できないこととしています。

 そこで、濫訴防止規定の実効性についての認識を伺うとともに、TPPを含めた国際的紛争解決への支援を強化する必要があると考えますが、TPP担当大臣の見解を伺います。

 最後に、TPP委員会の位置づけとTPP運用へのかかわり方について伺います。

 TPPは生きている協定とも言われ、締約国の代表者で構成されるTPP委員会が、TPPの実施、運用に関する問題の検討に加え、発効後三年以内及び定期的な見直しや、TPPの改正や修正の提案を検討すること等を規定しております。

 TPPが発効に至った場合、我が国として、このTPP委員会における運用のあり方に対しどのようにかかわっていくのかは、極めて重要な課題であると認識していますが、TPP委員会の位置づけとTPP発効後の運用へのかかわり方について、TPP担当大臣の答弁を求め、私の質問といたします。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

    〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇〕

内閣総理大臣(安倍晋三君) 稲津久議員にお答えいたします。

 核セキュリティーサミットの成果及びG7伊勢志摩サミットへの意気込みについてお尋ねがありました。

 核セキュリティーサミットでは、まず、ベルギーなどにおける一連のテロ攻撃に対し、世界の全ての国が立場の違いを超えて一致団結し、断固テロと闘わなければならないと強く訴えかけました。

 北朝鮮については、日米韓の三首脳が一堂に会し、一連の核、ミサイルによる挑発行動に対して、日米韓で緊密に連携して対処していくとの明確なメッセージを発出するとともに、拉致問題についての理解と支持を得ました。

 核セキュリティーについては、テロリストの手に渡ると危険な核物質を最小限にすることに関し、我が国が率先して大きな実績と新たな約束を示して世界の取り組みをリードし、議長のオバマ大統領から高い評価を受けました。

 原子力安全については、福島の過酷事故の教訓を全ての原発利用国、導入国と共有し、原発の安全性、事故対策についての知見を世界に広げていくとの決意を表明しました。

 G7伊勢志摩サミットや二〇二〇年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた核テロへの対策強化等を通じ、世界の核セキュリティーの向上に積極的に貢献していくことを表明しました。

 伊勢志摩サミットでは、世界経済が最大のテーマとなります。世界経済の不透明感が増す中、G7議長としての日本の役割に強い期待を感じます。

 G7が世界経済の持続的かつ力強い成長を牽引しなければなりません。今般、オバマ大統領やトルドー首相、米国の有識者とこうした認識を共有し、大変実りある議論ができたと考えています。これを伊勢志摩サミットにつなげ、世界に対して明確なメッセージを発信していきたいと考えています。

 TPPの活用についてお尋ねがありました。

 TPPの効用を真に我が国の経済再生、地方創生に直結させるため、総合的なTPP関連政策大綱を決定しました。

 その中で、中堅・中小企業の海外展開、工業品のみならず、農林水産物・食品、サービス等の輸出促進を図る新輸出大国の実現、TPPによる貿易・投資の拡大を国内の経済再生に直結させるグローバルハブの実現、体質強化による攻めの農林水産業への転換を後押しし、経営安定、安定供給のための備えを万全とする施策を推進する農政新時代を政策目標として掲げています。

 今後とも、政策大綱に基づき、TPPのメリットを最大限生かし、強い経済を実現してまいります。

 農業の成長産業化についてお尋ねがありました。

 我が国の農業については、農業従事者の平均年齢が六十六歳を超えているなど、その活性化は待ったなしの課題であり、安倍内閣では、農業の成長産業化の実現に向け、農政全般にわたる抜本的な改革を進めてまいりました。

 TPPの大筋合意後であっても、農業を成長産業化させるとの安倍内閣の方針は全く変わりません。

 総合的なTPP関連政策大綱に即し、平成二十七年度補正予算に、次世代を担う経営感覚にすぐれた担い手の育成など、具体的な体質強化対策を盛り込むとともに、TPP整備法案により、肉用牛や肉豚、砂糖に関する経営安定対策の充実を図るなど、必要な対策を講じております。

 さらに、現在、農林水産業・地域の活力創造本部のもとで、本年秋を目途に、さらなる体質強化策について具体的な検討を進めているところです。

 今後とも、公明党とも緊密に連携しつつ、農政新時代を切り開くため、実効性のある施策を講じてまいります。農業を成長産業化させ、若者がみずからの情熱で新たな地平を切り開いていける、そういう夢のある分野にしてまいります。

 地理的表示保護制度、いわゆるGI制度についてお尋ねがありました。

 GI制度は、長年、地域で生産され、高い品質の評価を得た農林水産物や食品について、生産者の努力が正当に評価され、また、消費者が本物の産品を安心して選べるよう、その名称を知的財産として保護する仕組みです。

 TPPでは、地理的表示の保護の手続について共通のルールを設けます。必要な国内法の整備を行うことで、我が国のGI産品のブランド価値が海外でも守られるため、輸出に取り組みやすくなります。

 このため、政府としては、まずは平成三十二年までの五年間で、各都道府県において、最低一産品の地理的表示の登録を目標とし、これを契機とし、さらなる産品の掘り起こしをすることとしております。

 また、その実現に向けて、制度の普及、浸透や、特色ある地域産品のブランド化に向けた情報発信、マーケティングなどの取り組みへの支援を行っております。

 さらに、TPP整備法案により地理的表示法を改正し、諸外国との地理的表示の相互保護を可能とすること等により、国内外においてブランド価値の保護を強化することとしております。

 このように、政府としては、地理的表示の登録の拡大策により、戦略的に地域の農林水産物や食品のブランド化を進め、さらなる輸出の拡大につなげてまいります。

 食品安全についてお尋ねがありました。

 TPP協定では、締約国が自国の食品の安全を確保するために、科学的根拠に基づいて必要な措置をとる権利を認めています。我が国は、科学的根拠に基づいて食品の安全に関する基準を設定し、検査などを行っており、制度の変更を求められることはないと考えています。

 食品の表示については、遺伝子組み換え作物に関する表示を含め、TPP協定に我が国の制度の変更が必要となる規定はありません。

 輸入食品の検査については、今後の食品の輸入動向等を踏まえ、着実に検査できるよう体制の確保を図ってまいります。

 今後とも、我が国の食品の安全確保を第一に考え、制度を着実に運用してまいります。

 TPP協定によるインフラ輸出の新たな可能性についてお尋ねがありました。

 政府としては、インフラシステム輸出戦略に基づき、昨年、質の高いインフラパートナーシップを発表するなど、インフラ輸出を強力に推し進めてきています。

 その中で、TPP協定が発効すれば、締約国の政府調達へのアクセス改善による、建設業を初めとする日本企業の参入機会の拡大や、貿易・投資の自由化によるインフラ分野の輸出及び現地進出の促進などが見込まれます。

 こうした新たな機会も最大限活用し、私自身トップセールスを積極的に行うとともに、政府一体となって施策を総動員し、我が国のインフラ輸出を推進してまいります。

 残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)

    〔国務大臣石原伸晃君登壇〕

国務大臣(石原伸晃君) 公明党の提言が政府の政策大綱などにどのように反映されているのかというお尋ねがございました。

 昨年十一月、公明党から、TPPに関する総合対策に向けた提言が政府に提出をされました。その中には、中小企業等が海外で活躍できる環境の整備に向けた施策、国内産業の活性化、競争力強化に向けた施策、安心と希望を持てる農林水産政策等が含まれていると承知をしております。

 政府として、同じく十一月に、総合的なTPP関連政策大綱を決定いたしました。その中には、公明党の提言を踏まえ、具体的に、TPPの活用促進のための施策、TPPを通じた強い経済の実現のための施策、攻めの農林水産業への転換及び経営安定、安定供給のための施策などが政策大綱に盛り込まれたところでございます。

 こうした総合的なTPP関連政策大綱を実現するための予算として、平成二十七年度補正予算として四千八百七十五億円、平成二十八年度当初予算として一千五百八十二億円を計上させていただいております。

 TPPを契機とした中小企業の海外展開を促す環境整備についてのお尋ねがございました。

 TPP協定では、TPP参加十二カ国のどこでつくられた製品であっても優遇を受けられる措置を確保いたしました。日本にいながらにして、中小企業にも海外展開のチャンスが出てまいりました。

 さらに、TPP協定により、進出先での技術移転要求の禁止、通関手続の迅速化などが図られ、中小企業の海外展開の環境が大幅に向上いたしました。

 昨年十月の大筋合意後に開催された説明会でも、中小企業からさまざまな意見が出されております。

 そうした意見を踏まえ、昨年十一月に総合的なTPP関連政策大綱を決定し、経済産業局、ジェトロ、中小機構の六十五カ所の拠点での相談窓口の設置、ジェトロ、中小機構、日本商工会議所などの参加を得て、新輸出大国コンソーシアムを設立し、専門家による海外事業計画の策定、現地での商談や海外店舗立ち上げなどの支援などに取り組み、今後とも政策を総動員して支援をしてまいりたいと考えております。

 いわゆる重要五品目などにつき、国会決議との関係についてのお尋ねがございました。

 TPP交渉においては、国会決議を後ろ盾に各国と粘り強く交渉が行われた結果、厳しい交渉の中で、我が国はおよそ二割の関税撤廃の例外を獲得いたしました。また、重要五品目を中心に国家貿易制度の堅持やセーフガード等の有効な措置を獲得いたしました。国益にかなう最善の交渉結果が得られたと確信しております。

 交渉結果が国会決議にかなったものかどうかは、最終的には国会で御審議いただくこととなりますが、政府としては、国会決議の趣旨に沿うものと評価していただけると考えております。

 重要五品目に関する調製品については、一つ一つを精査し、輸入実績の少ないもの、国内農産品との代替性が低いものなど、我が国の農業への影響が少ないと判断されたものに限定して関税を撤廃したところでもございます。

 TPPによって、中小企業が海外展開する際の金融分野におけるメリットをどう生かしていくべきかについてのお尋ねがございました。

 TPP協定により、地方銀行を含んだ日本の金融機関の海外展開が促進されますと、日本の中堅・中小企業の海外展開の後押しとなることが期待をされます。この点、TPP協定は、金融サービスについて、WTO協定やこれまでの経済連携協定よりもさらに自由化を前進させるものとなっております。

 昨年十一月に取りまとめた総合的なTPP関連政策大綱においても、地銀を含めた我が国の金融機関の海外進出や金融機関等による企業の海外進出の支援を位置づけております。政府としても、こうした取り組みを積極的に進めてまいりたいと考えております。

 TPP協定におけるISDS手続における濫訴防止規定の実効性と、TPP協定を含めた国際的紛争解決への支援強化についてのお尋ねがございました。

 投資家と国との間の紛争解決、いわゆるISDS手続は、投資家の予見可能性の確保や法的安定性の向上に資することから、我が国に必要な制度と認識をさせていただいております。

 交渉の結果、ISDSに関する条項は我が国の国内法との整合性を担保できており、日本政府が提訴されるような事態は想定されておりません。

 また、協定には、環境や健康など、正当な目的のために各国が必要かつ合理的な規制を行うことを妨げられないことが明記をされているところでございます。

 これに加えて、仲裁廷の権限の範囲外であれば申し立て等の迅速な却下が可能になっているなど、濫訴防止の措置が相当程度盛り込まれております。

 近年、我が国が締結するEPAや投資協定の数はふえております。そのため、国際的な紛争を解決するための政府の体制も改善、強化していくことが重要であり、関係省庁において体制強化に努めているところでもございます。

 TPP委員会についてのお尋ねがございました。

 TPP委員会は、協定の実施、運用に関する問題を検討することなどを任務としております。協定の実効性を確保する上で中心的な役割を果たす機関となります。

 TPP委員会は協定の見直しの検討などの任務を有していますが、TPP委員会における全ての決定は、いずれの国からも反対がないことが条件となっております。したがいまして、我が国の国益に反する決定がなされることはございません。

 我が国としては、TPP委員会の運営に積極的に関与し、我が国の国益を守りつつ、協定の円滑な運用、発展に貢献していく考えでございます。(拍手)

    〔国務大臣森山裕君登壇〕

国務大臣(森山裕君) 稲津議員の御質問にお答えいたします。

 中山間地域対策についてのお尋ねがありました。

 中山間地域等直接支払交付金については、平成二十七年度の第四期対策への移行期において三万三千ヘクタールの取り組み面積の減少が見込まれており、その減少幅は、平成二十二年度の第三期対策への移行期と比べて大きくなっています。

 その減少理由としては、新たな協定締結に必要な話し合いに時間を要したこと、農業者の高齢化等により協定参加者数が減少したこと等によるものであります。

 平成二十七年度からの第四期対策においては、現場の要望も踏まえ、複数の集落が連携した活動体制づくりへの支援、近隣集落による小規模・高齢化集落の農業生産活動への支援、特に条件の厳しい超急傾斜地への支援という加算措置等を講じております。

 さらに、平成二十八年度からは、他の集落と連携して将来の農地利用についての戦略を定めるなど、広域で活動する集落について、営農を中止した場合の交付金返還措置を軽減するなど、運用を改善したほか、超急傾斜地の支援を受けるための条件を明確にしたところであります。

 これらの措置等によって、丁寧に説明を行い、本交付金制度の一層の活用を図ってまいります。

 このほか、今回のTPP対策においては、中山間地においても、高収益作物の導入等を通じた担い手の収益力向上など、生産者の可能性と潜在力を遺憾なく発揮できる環境を整備することとしております。

 今後とも、地域政策と産業政策を車の両輪として、地域の主体的な取り組みを後押しすることにより、中山間地域の振興を図ってまいります。

 輸出促進に向けた戦略の取り組みや方向性についてのお尋ねがありました。

 農林水産物・食品の輸出に当たっては、平成二十五年度に初めて国別、品目別の戦略を定め、各産地や官民の主体が連携したオール・ジャパンの体制で取り組んでいるところであります。

 これまでの取り組みの結果、平成二十七年の農林水産物・食品の輸出額は、過去最高の七千四百五十一億円、前年比で二一・八%増加し、平成二十八年に七千億円という輸出戦略上の中間目標を大きく超え、一年前倒しで達成することができました。

 今後は、二〇二〇年の一兆円目標の前倒し達成を目指すこととし、TPP交渉の合意を受けて策定をいたしました政策大綱に基づき、米、牛肉、青果物、お茶、水産物等の重点品目ごとの輸出促進対策の推進、合板、製材原料の生産コスト低減、持続可能な収益性の高い操業体制への転換による水産業の体質強化、六次産業化等の推進等による地域の産品の海外展開の拡大、検疫手続の円滑化など輸出阻害要因の解消など、多様な取り組みを行っていくこととしています。

 これらの具体的な推進方策を検討するため、政府においては、私を含め関係閣僚と有識者から成る輸出力強化ワーキンググループを設置し、さらなる輸出促進に向けた議論が行われているところです。

 本ワーキンググループにおいては、供給サイドだけではなく、海外市場のニーズの把握と販路開拓、流通業者と生産者サイドとの連携や物流などについて議論がなされております。

 こうした議論も踏まえつつ、あらゆる政策を動員し、関係省庁、関係団体、民間企業等と連携をし、さらなる輸出拡大に取り組んでまいります。(拍手)

    〔国務大臣馳浩君登壇〕

国務大臣(馳浩君) 稲津議員から、海賊版対策の実効性の確保についてお尋ねがありました。

 本法律案においては、著作権等侵害罪のうち、いわゆる海賊版の譲渡や公衆送信などのような悪質な侵害行為について、非親告罪とすることとしております。

 これにより、国民の規範意識の観点から容認されるべきでない悪質な著作権等侵害行為が、権利者が告訴をしないために放置されたり、告訴期間の経過により告訴できなくなるなどの事態が避けられ、海賊版対策の実効性を上げることが期待されます。

 また、TPP協定では、著作権等の保護範囲や法執行の面で、既存の国際条約以上の水準確保が求められていることから、TPP協定の締約国において著作物等の保護がより適切に行われるようになり、海賊版対策により資することが期待されております。

 さらに、文部科学省としては、海賊版対策の実効性を確保するため、二国間協議や政府職員などを対象とした研修、セミナーの実施、国内外における普及啓発事業の実施等、関係省庁と連携して、海賊版対策事業を引き続き推進してまいります。(拍手)

    〔議長退席、副議長着席〕

    ―――――――――――――

副議長(川端達夫君) 笠井亮君。

    〔笠井亮君登壇〕

笠井亮君 私は、日本共産党を代表して、TPP、環太平洋連携協定及び関連十一法案について質問します。(拍手)

 ことし二月、米国、日本など十二カ国が署名したTPPに対して、参加各国で国民の反対の声が沸き上がり、発効の見通しは立っていません。

 ところが、安倍内閣は、早期発効に向けた機運を高めていきたいなどと、前のめりに批准を強行しようとしています。

 TPPは、参加各国が関税を原則撤廃するもので、農産物輸入が完全に自由化され、農林漁業と国民の食料に大打撃となるものです。

 さらに、非関税障壁撤廃の名のもと、食の安全、医療、金融、保険、官公需、公共事業の発注、労働など、国民生活のあらゆる分野で規制を取り払っていくものです。

 安倍内閣が、その交渉内容や国民へのリアルな影響も明らかにせず、批准に向けてひた走るなど、断じて許されません。総理の明確な答弁を求めます。

 TPPは、国会決議に明確に違反するものです。

 二〇一三年の国会決議は、農産物の重要五項目、米、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖は、関税撤廃を認めない、除外または再協議にするとしています。

 自民党は、この決議を守ることを国政選挙の公約にしたはずです。

 ところが、今回のTPPでは、安倍総理自身も聖域とした重要五項目のうち三割の品目で関税が撤廃され、米でも、関税ゼロの特別輸入枠まで新設されました。

 わずかに残った関税も、発効七年後には、撤廃に向けた協議を約束させられました。

 これは明白な国会決議違反、公約違反ではありませんか。

 国会決議はまた、交渉により収集した情報は、国会に速やかに報告し、国民への十分な情報提供、幅広い国民的議論を行うことを求めています。

 ところが、安倍内閣によるTPP交渉は、入り口から出口まで徹底した秘密交渉が貫かれ、日本の参加条件とされた日米二国間の並行協議でも、何が話し合われ、日本が何をどう受け入れたかもわかりません。これも国会決議違反です。

 しかも、協定は日本語が正文になっていません。附属書などを含む全文の和訳の国会提出が求められているのに、英文八千四百ページのうち六千ページ分もの和訳が提出されていません。

 安倍内閣が、甘利前大臣のもとで秘密裏に進めてきた内容を含め、交渉の全経過を国会と国民に報告することを初め、十分な情報開示を行うことを強く求めます。

 TPPは、暮らしと経済のあらゆる分野で、国民の利益と経済主権を多国籍企業に売り渡すものになっています。

 米国を代表する百八の多国籍企業、業界団体が名を連ねたTPPのための米国企業連合は、米政府に要求書を出し、例外を設けることは、米国の農業者、製造業者、サービス業者が新しい市場に事業を拡大する機会を制限すると、専ら多国籍企業の利益拡大の立場から日本に市場開放を求めてきました。これこそ、TPPの真実ではありませんか。

 日本でTPPを強く要求したのは、日本経団連など財界や多国籍企業だけであります。JA組合長の九三%は国会決議が守られていないと表明し、各県医師会や子供を持つ親からも懸念の声が相次いでいます。

 国民の側からTPPを結んでくれなどという声は上がっていないではありませんか。

 農業の関税撤廃をめぐって、安倍政権は、百五十六のタリフラインの関税を維持したなどと言います。

 しかし、段階的関税削減を含めて八二%以上の撤廃は、日豪EPA、経済連携協定やウルグアイ・ラウンド農業合意をはるかに上回るもので、史上最悪の農業潰しにほかなりません。

 日本共産党は、昨年十月の大筋合意後、全国での農業調査を行いました。ある自治体からは、TPPで離農が波を打って押し寄せるのではないかとの心配を聞きました。あるミカン農家は、父親が地域の農家から信頼されて託してくれた園地を自分の代でだめにするわけにはいかないと涙まじりに語りました。

 総理は、こうした声をどう受けとめますか。

 今、政府が行うべきは、農産物の価格保障と所得補償を組み合わせ、安心して再生産できる農業をつくることであり、国民への食料の安定供給、食料自給率を引き上げることこそ最大の責任ではありませんか。

 TPPの大きな眼目は、進出する多国籍企業の利益を保証する非関税措置の撤廃です。すなわち、あらゆるサービスが規制緩和の対象となり、緩められた規制をもとに戻せない仕組みや、企業や投資家が損害を受けたとすれば、ISD条項を用いて相手国を訴えられる仕組みまで盛り込んでいます。

 このもとで、遺伝子組み換え作物や輸入食品の急増で食の安全が脅かされかねません。製薬企業が薬価決定に影響力を及ぼして薬価が高どまりし、労働分野では、賃金低下、非正規雇用の増加、労働条件の悪化がますます進行するのではありませんか。

 政府や自治体が発注する建設事業などでは、国際入札の義務により地産地消の取り組みができなくなり、地域の仕事が奪われることになりませんか。

 将来の保険医療制度などの協議や日本郵政における保険商品販売など、既に米国の要求に応えている金融、保険では、TPPをてこに継続的に米国の利害関係者が日本に物を言える仕組みを盛り込んでいるではありませんか。

 加えて、TPPが発効した途端、協定に基づく各種委員会が立ち上がり、日本に再交渉を迫る仕組みまで盛り込まれています。

 まさに、幅広い分野で、今後の国民生活と営業を脅かすことは明白であります。

 次に、TPPの経済効果についてです。

 安倍内閣は、貿易や投資拡大でGDPを十四兆円押し上げる一方、農業への影響は、牛肉、豚肉、乳製品等三十三品目が千三百億円から二千百億円の生産減となるだけと、極めて過小に評価しています。

 また、TPPは八十万人もの新しい雇用を生み出すと吹聴しています。しかし、この八十万人は、ある分野で雇用が失われても、労働者は他の分野へ自由に移動できるので、結果として失業は起きないという、全く現実とかけ離れた想定ではありませんか。

 総理、農業への影響、非関税措置撤廃への影響について、なぜ責任ある試算を示さないのですか。TPPがもたらす深刻な打撃をないものと描くまやかしの試算で国民を欺くことは、断じて許されません。

 日本が進むべきは、経済格差を拡大するTPPではありません。国民の懐を暖める経済への抜本的転換とともに、アジアと世界で、各国の経済主権、食料主権を尊重しながら、平等互恵の経済関係を発展させる貿易・投資のルールづくりの先頭にこそ立つべきであります。

 真の国益に反するTPPは、徹底審議の上、批准でなく撤退を、関連十一法案の廃案を強く求めて、質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇〕

内閣総理大臣(安倍晋三君) 笠井亮議員にお答えをいたします。

 TPP協定の承認についてお尋ねがありました。

 我が国は、交渉を主導することで、農林水産品の約二割について関税等による保護を維持するなど、厳しい交渉の中で国益にかなう最善の結果を得ることができました。

 TPP協定においては、食の安全、国民皆保険等に関する我が国の制度変更を求められるものではありません。TPP協定によって必要となる法改正は、環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案で提出しているものが全てであります。

 これまでも、国会における説明を初め、説明会を地方を含め過去二百九十回開催し、地方経済産業局や農政局、税関、ジェトロ等に相談窓口を設置し、さまざまな相談に対応するとともに、千五百ページに及ぶ協定概要資料に加え、「TPPを巡る懸念や不安に関するQ&A」をホームページに掲載するなど、国民の不安の払拭や情報提供に努めておりますが、引き続き、国民の皆様のさらなる御理解をいただけるよう、丁寧な説明に努めてまいります。

 国会決議との関係についてお尋ねがありました。

 TPP交渉の結果、米などの重要品目について、関税撤廃の例外をしっかり確保しました。牛肉などの輸入が万一急にふえた場合には、緊急的に輸入を制限することができる新しいセーフガード措置を設けることも認められました。

 それでもなお残る農業者の方々の不安を受けとめ、昨年十一月、総合的なTPP関連政策大綱を決定し、緊急に実施すべき対策に必要な経費を補正予算に計上しました。重要品目が確実に再生産可能となるよう、交渉で獲得した措置とあわせて、引き続き万全の措置を講じていきます。

 交渉結果が国会決議にかなったものかどうかは、最終的に国会で御審議いただくこととなりますが、政府としては、国会決議の趣旨に沿うものと評価していただけると考えております。

 なお、発効後に再協議を行う場合にも、国益に反する対応をすることはありません。

 TPPの情報開示についてお尋ねがありました。

 TPPに関しては、外交交渉という性格上、また、交渉参加の際の秘密保護に関する書簡による制約はあるものの、衆議院、参議院の農林水産委員会の決議も踏まえ、交渉中からできる限りの情報開示に努めてきました。

 TPP交渉の状況については、これまでの交渉会合中や会合後、頻繁に記者向けブリーフィングや説明会を実施するなど、政府から丁寧に情報提供してまいりました。

 大筋合意後も、合意内容を正確かつ丁寧に説明すること等を通じて、国民の懸念や不安を払拭するよう最大限努力してまいりました。国会における説明のほか、地方も含めて説明会は過去二百九十回実施し、公表した概要資料等は千五百ページにも及びます。日本以外の国の関税率表や、投資、サービス等の約束、留保の内容については、過去のWTO協定や経済連携協定等の例に倣い、和訳の作成にかえて、詳しい概要を記載した説明書をしかるべき手続を経て国会に提出、公表しています。

 今後とも、国会審議の場を通じ、TPP協定の各規定の内容や趣旨、解釈等について、引き続き丁寧に説明してまいります。

 TPPによる多国籍企業の利益拡大や協定に対する国民の支持についてお尋ねがありました。

 TPPの利益は、決して多国籍企業に対するものにとどまりません。TPPは、消費者の生活を豊かにします。域内のさまざまな商品を安く、手軽に、安心して手に入れることができるようになります。

 TPPによって、中堅・中小企業など、独自の技術や地方の特産品で果敢に海外市場に挑戦する人々が大いに活躍できます。国内にいながらにしての海外展開も容易になります。

 品質が高く、海外で人気の高まっている日本の農産品に新たな巨大市場をもたらします。

 御指摘のJA組合長のアンケートは、農業者の不安を払拭するための対策の具体的内容が十分明らかでなかった段階で行われたものと承知しております。

 総合的なTPP政策大綱をまとめる過程で、現場の声を丁寧に伺い、それを大綱や補正予算に反映しました。

 TPPによる新たなルールは、自由で公正な競争を促進し、イノベーションを活発にし、高い価値を生む力を発揮させます。国民皆保険制度や食の安全が脅かされるようなルールは一切ありません。

 国民の皆様のさらなる御理解をいただけるよう、引き続き丁寧な情報提供を行うとともに、中堅・中小企業、農業者等に幅広くTPPを活用していただけるよう、政策を総動員して支援を行ってまいります。

 農業分野の交渉結果、農業関係者の声、そして今後の農政の方向についてお尋ねがありました。

 関税撤廃が原則というTPP交渉の中で、特に農業分野について、国会決議を後ろ盾に粘り強く交渉いたしました。その結果、米や麦の国家貿易制度や豚肉の差額関税制度など、重要五品目を中心に関税撤廃の例外をしっかり確保し、関税割り当てやセーフガード等の措置を獲得しました。

 それでもなお残る農業者の方々の不安を受けとめ、安心して再生産に取り組めるよう、総合的なTPP関連政策大綱に基づき、万全の対策を講じてまいります。

 史上最悪の農業潰しであるとの指摘は全く当たりません。

 また、重要五品目を含めたTPPの農林水産分野への影響については、関税削減等の影響で価格低下により生産額の減少が見込まれるものの、体質強化対策による生産コストの低減や品質の向上、経営安定対策などの国内対策により、引き続き生産や農家所得が確保され、国内生産量が維持されるものと見込んでおります。

 政府としては、現場の農業関係者になお不安の声があることを踏まえ、引き続き、TPPの合意内容や対策の内容、農業分野への影響等について丁寧に説明し、不安の払拭に努めてまいります。

 一方で、TPPによりアジア太平洋に巨大な経済圏が生まれることは、日本の農業にとって大きなチャンスであります。おいしくて安全な農産物の輸出を初め、このチャンスを生かそうとする意欲のある農業者の取り組みを、あらゆる政策を総動員して力強く後押ししてまいります。

 安倍内閣で取り組んできた農業改革をさらに進め、農業を成長産業化させることにより、国民への食料の安定供給、食料自給率、食料自給力の向上を図ってまいります。

 なお、農産物の価格保障は、需要の動向にかかわらず、一定の価格を生産者に保障するため、消費者から選ばれない農産物の生産を助長し、ひいては農業の弱体化を招くおそれがあることから、問題が多いと考えております。

 食の安全、薬価、労働、建設事業など、地域の仕事への影響についてお尋ねがありました。

 TPP協定では、食品安全に関する規制や薬価の決定過程について制度の変更を求められていないこと、建設分野の政府調達制度の変更を求められていないこと、貿易等に影響を及ぼす形での労働条件の切り下げは認められていないことから、御指摘は当たりません。

 なお、TPP協定を含めた成長戦略の実施により、経済の好循環を一層確かなものとし、雇用・所得環境の改善に取り組んでまいります。

 米国の利害関係者が介入するのではないかとのお尋ねがありました。

 医薬品等に関する附属書についての米国との間での交換公文では、薬価に関する手続について協議する用意があることを確認していますが、これは、従来から米国と行ってきた協議を相手側の要請に応じて行うことを確認したものです。

 日本郵政の保険商品の販売は、米国の要求に対応しているものではありません。TPP協定の附属書では、郵便保険事業体における保険の提供の競争条件について規定されています。仮にこれらの内容に適合しない措置があるとされた場合には、申し立て国に協議の機会を与えることとなりますが、我が国にはこれらの内容に適合しない国内法令や政策は存在しないため、現状の変更を求められることはありません。

 したがって、米国の利害関係者が、TPP協定を契機にこれまでよりも日本の制度に介入するようになるとの御指摘は当たりません。

 TPP協定に基づく各種委員会及び再協議規定についてお尋ねがありました。

 TPP協定に限らず、通商協定では、協定発効後に協定の実施や運用について各国間で協議を行うさまざまな委員会が設置されることは一般的です。将来の見直しや再協議に関する規定が設けられることも一般的で、TPP協定においても、複数の分野で見直しや再協議に関する規定が設けられておりますが、これは将来の合意について何ら予断するものではありません。

 いずれにせよ、再協議を行ったとしても、我が国の国益に反し、国民生活を脅かすような合意を行うことはありません。

 TPPの経済効果分析についてお尋ねがありました。

 平成二十五年の試算は、TPP参加予定国の関税が全て即時撤廃され、国内対策を何も講じないことを前提としていました。このため、国内の農業者は体質改善に取り組む時間的猶予を与えられず、壊滅的な打撃を受けるとの結果が導かれました。

 これに対し、今回は、関税削減、撤廃の効果を、守るべきものを守った実際の交渉結果を踏まえて分析しました。農林水産物については、複雑な国境措置を残したことから、個別品目ごとに精査し積み上げた生産量の見込みの数値を組み入れました。

 その結果、農林水産物については、関税削減等の影響で価格低下による生産額の減少が生じるものの、体質強化対策による生産コストの低減、品質向上や経営安定対策などの国内対策により、引き続き生産や農家所得が確保され、国内生産量が維持されるものと見込んでいます。

 その上で、TPPの合意内容が貿易コスト引き下げ効果のあるさまざまなものを含んでいることを踏まえ、生産性向上や労働供給増の効果を含めて、より包括的な分析を行いました。

 雇用効果については、TPPによる貿易・投資の拡大により、生産性上昇が実質賃金を押し上げる結果、労働供給は約八十万人増加すると見込んでいます。

 経済効果分析では、雇用の産業間移動が円滑に進むという前提になっており、実際においても、失業者がふえることのない労働移動が行われるよう必要な対策を講じていきます。

 TPP協定は、あくまで手段にすぎません。その果実を実際に収穫するためには、TPPが開く新しいチャンスに果敢に挑まなければなりません。政策を総動員して、事業者や農林漁業者の積極的な行動を促し、最大限の経済効果を実現してまいります。(拍手)

    ―――――――――――――

副議長(川端達夫君) 下地幹郎君。

    〔下地幹郎君登壇〕

下地幹郎君 おおさか維新の会の下地幹郎です。(拍手)

 安倍総理、本日の本会議から始まる特別委員会でのTPP法案審議は、決して経済的観点だけでなく、安全保障の観点からも論議が必要であります。

 アジアでは、中国が一帯一路構想を掲げ、アジアインフラ投資銀行を設立し、経済的勢力の拡大を目指すと同時に、軍事面においても南シナ海において七つの人工島を建設し、一方的に力によって法による秩序を破壊しようとしています。

 我が国は、法の支配、自由主義、民主主義を共有する国々と協調し、恒久的な平和環境を構築するために、アジアにおける経済連携の強化を図らなければなりません。その意味において、TPPによる通商ルールを確立することは、自由経済を一層発展させることになり、中国の軍事的、経済的覇権路線を抑えることになります。

 安倍総理、中国の軍事的、経済的拡大路線に対抗して、TPP連携はどのような効果をもたらすと考えますか。安倍総理の見解をお伺いします。

 今、野党から、安保関連法を廃止する法案が提出されていますが、自民党の反対で審議が始まりません。我が党は、この法案に反対ですが、対案を準備いたしました。TPPと安全保障という観点からも、特別委員会と並行して安保委員会でも議論すべきであると考えますが、安倍総理の見解をお伺いします。

 安倍総理、消費税の引き上げを来年の四月に予定どおり行うつもりですか、再度先送りされるつもりですか。明確なお答えをください。

 TPPが発効すれば、アジア太平洋地域において、物、金、人、情報が行き来し、日本経済は成長すると、これまで総理は答弁されてきました。貿易が活性化し、国内への投資が拡大すれば、大企業、中小企業もその恩恵を受けることになることは間違いありません。

 安倍総理は、TPPをアベノミクスの第三の矢に位置づけ、日本経済の成長に欠かすことのできない政策とし、消費税を予定どおり上げてもTPPで日本経済は成長すると言ってまいりました。

 しかし、私どもおおさか維新の会は、今回は、TPPを議会で批准し、消費税の来年四月の引き上げは延期するという決断をすべきであると考えております。TPPの経済効果を最大限に日本経済の成長に向けることを選択すべきだと考えるからであります。総理の見解をお聞かせください。

 政府は、三回TPPの試算を公表しました。GDPの伸び率、農林水産物の生産減少額であります。しかし、三回とも想定条件を変え、結果はばらばらで、国民の信頼を得るものに至っておりません。

 安倍総理、TPPの国民の信頼を得るために、これが政府の最終的なTPP試算ですという新たな試算を特別委員会に提出すべきではありませんか。安倍総理の見解をお聞かせください。

 平成二十二年十月、当時の菅総理がTPP交渉への参加を表明し、平成の開国と位置づけ、国内論議がスタートしました。そして、平成二十三年十一月、野田総理が、日米首脳会談で初めて米国に対し、交渉参加に向け各国と協議に入ると意思を表明しました。

 民進党は、TPP協定に賛成した民主党、TPP協定に積極的に賛成した維新の党が合併してできた政党です。民進党が万一TPP法案に反対すれば、国民は政策に一貫性のない政党と判断することになるでしょう。

 一方、自民党、公明党は、平成二十四年の衆議院選挙で、聖域なき関税撤廃を前提にする限り、TPP交渉参加に反対という公約を掲げ、安倍政権が誕生しました。その翌年二月の日米首脳会談で、安倍総理は、日本には一定の農産品、米国には一定の工業製品というように、両国ともに二国間貿易上の配慮しなければいけない課題が存在することを認識し、一方的に全ての関税の撤廃を約束するものではないと確認したとして、平成二十五年三月に交渉参加の決断をいたしました。

 安倍総理、今、この時点でも、聖域なき関税撤廃に反対するという当初の選挙公約は守られたとお考えになっているのか、安倍総理の見解をお聞かせください。

 次に、TPP批准後の消費者行政の対応について提案します。

 TPPで我が国の食品の安全、安心は脅かされることはないとこれまで政府は言い切ってまいりました。しかし、我が国には、これまで以上に、輸入食品が国民の口に入る機会は確実に多くなることは明らかです。

 海外から輸入される安い多くの食品は、消費者の家計を助ける反面、本当に安全な食品なのか、不安は増すばかりです。我が国の消費者、我が国の輸出品を手にする海外の消費者を守るために、我が国の消費者行政の強化と国際的な消費者行政の連携が極めて重要であります。

 そこで、河野大臣にお聞きします。

 我が国の消費者行政を担う組織に目を向けると、三百人の小さな組織です。我が国の消費者行政がTPP加盟国の模範となるためにも、我が党としては、消費者庁を消費者省に格上げし、攻めの消費者行政をすべきだと考えています。

 今、消費者庁を徳島に移すという超ミクロな話がありますが、もっと大きな位置づけに消費者庁を置くべきではありませんか。河野大臣の見解をお聞かせください。

 最後に、イギリスの大政治家チャーチルは、終生保護貿易に異を唱え、グローバル世界経済の秩序の確立に心を尽くしました。彼は一貫して自由貿易主義を主張し、その理念を貫くために、保守党から自由党へくらがえまで行いました。

 自由市場を破壊したら闇市場をつくることになってしまう、これはチャーチルの名言です。きょうから始まるTPP法案批准のための論議は、決して甘利問題、交渉手続の透明性の論議に終始することなく、TPPの本質を見据えて、大きな視点から特別委員会の議論を行うべきであることを申し上げ、私の質問を終わります。

 ありがとうございました。(拍手)

    〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇〕

内閣総理大臣(安倍晋三君) 下地幹郎議員にお答えをいたします。

 TPPの戦略的意義についてお尋ねがありました。

 TPP協定は、単なる貿易自由化の枠組みではありません。日米両国を初め、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有する国々が、新しい経済ルールをつくるものです。これは、二十一世紀にふさわしい国際秩序を誰が構築するかという問題であり、まさに国家百年の計であります。

 大筋合意後、韓国、台湾、フィリピン、インドネシア、タイ等が、TPP参加に強い関心を表明しました。アジア太平洋に世界の四割の経済圏が生まれる。その求心力で、TPPは各国の経済改革の目標となり、法の支配が及ぶ範囲が拡大します。基本的価値を共有する国々が経済のきずなを深め、さらにその輪を広げていく。それは地域の安定に資するものであり、そこにTPPの戦略的意義があります。

 平和安全法制に関する法案審議についてのお尋ねがありました。

 野党五党が提出された法案や御党で準備されている対案の取り扱いについては、議員立法に関するものであることから、基本的に国会において御判断いただくべきものと考えています。

 その上で申し上げれば、平和安全法制は、さきの通常国会で戦後最長の延長を行い、二百時間を超える充実した審議の結果、野党三党の賛成も得て成立したものであり、政府としてはベストなものと考えております。

 消費税率引き上げとTPP協定の批准についてお尋ねがありました。

 TPPは、八億人市場、世界の四割経済圏を生み出す中で、我が国独自の技術や地方の特産品の海外展開を容易にし、海外からの直接投資を拡大させるものであり、日本経済が中長期的に力強く成長していく基礎となります。

 今後、これを我が国の成長戦略の切り札として、政策を総動員し、最大限の経済効果を実現してまいります。

 他方、来年四月の消費税率一〇%への引き上げは、世界に冠たる社会保障制度を次世代に引き渡す責任を果たすとともに、市場や国際社会から国の信認を確保するためのものであり、リーマン・ショックや大震災のような重大な事態が発生しない限り、予定どおり実施します。経済の好循環を力強く回していくことにより、そのための経済状況をつくり出していきます。

 TPPの経済効果分析についてお尋ねがありました。

 平成二十五年の試算は、TPP参加予定国の関税が全て即時撤廃され、国内対策を何も講じないことを前提としていました。このため、国内の農業者は体質改善に取り組む時間的猶予を与えられず、壊滅的な打撃を受けるとの結果が導かれました。

 これに対し、今回は、関税削減、撤廃の効果を、守るべきものを守った実際の交渉結果を踏まえて分析しました。農林水産物については、複雑な国境措置を残したことから、個別品目ごとに精査し積み上げた生産量の見込みの数値を組み入れました。

 その結果、農林水産物については、関税削減等の影響で価格低下による生産額の減少が生じるものの、体質強化対策による生産コストの低減、品質向上や経営安定対策などの国内対策により、引き続き生産や農家所得が確保され、国内生産量が維持されるものと見込んでいます。

 その上で、TPPの合意内容が貿易コスト引き下げ効果のあるさまざまなものを含んでいることを踏まえ、生産性向上や労働供給増の効果を含めて、より包括的な分析を行いました。現時点における最も適切な分析結果と考えております。

 TPP協定は、あくまで手段にすぎません。その果実を実際に収穫するためには、TPPが開く新しいチャンスに果敢に挑まなければなりません。政策を総動員して、事業者や農林漁業者の積極的な行動を促し、最大限の経済効果を実現してまいります。

 公約との関係についてお尋ねがありました。

 二〇一二年の衆議院選挙における自由民主党の公約は、聖域なき関税撤廃を前提とする限り、TPP交渉の参加に反対するというものでありました。

 政権発足後間もない二〇一三年二月には、オバマ大統領との首脳会談で、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することは求められないことなどを直接確認した上で、交渉参加を決断しました。

 我が国は、交渉を主導することで、農林水産品の約二割について関税等による保護を維持しました。厳しい交渉の中で国益にかなう最善の結果を得ることができました。こうして、自由民主党がTPP交渉参加に先立って掲げた国民の皆様とのお約束は、しっかりと守ることができたと考えております。

 残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)

    〔国務大臣河野太郎君登壇〕

国務大臣(河野太郎君) 下地幹郎議員にお答えします。

 消費者庁を消費者省に格上げすべきではないかとの質問がございました。

 消費者行政の司令塔である消費者庁の形態については、内閣府の外局である庁という仕組みを維持し、内閣総理大臣を主任の大臣とし、特命担当大臣がそれを助け、消費者庁の事務を掌理することとしたいと思います。

 これにより、例えば消費者安全法における措置要求についても、内閣総理大臣から担当大臣に求めることができることとなっております。

 消費者の権利を守るために消費者庁が常に牙をむき、それを積極的に使っていくことが重要であると考えております。(拍手)

副議長(川端達夫君) これにて質疑は終了いたしました。

     ――――◇―――――

副議長(川端達夫君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後三時十一分散会

     ――――◇―――――

 出席国務大臣

       内閣総理大臣   安倍 晋三君

       法務大臣     岩城 光英君

       外務大臣     岸田 文雄君

       文部科学大臣   馳   浩君

       農林水産大臣   森山  裕君

       国務大臣     石原 伸晃君

       国務大臣     河野 太郎君

 出席内閣官房副長官及び副大臣

       内閣官房副長官  萩生田光一君

       内閣府副大臣   高鳥 修一君

       外務副大臣    木原 誠二君


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