衆議院

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第17号 平成14年7月24日(水曜日)

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平成十四年七月二十四日(水曜日)
    午前九時開議
 出席委員
   委員長 大畠 章宏君
   理事 逢沢 一郎君 理事 小島 敏男君
   理事 渡辺 具能君 理事 渡辺 博道君
   理事 野田 佳彦君 理事 細野 豪志君
   理事 河合 正智君 理事 工藤堅太郎君
      岩崎 忠夫君    奥山 茂彦君
      嘉数 知賢君    梶山 弘志君
      亀井 久興君    実川 幸夫君
      高木  毅君    谷川 和穗君
      近岡理一郎君    西川 公也君
      宮本 一三君    望月 義夫君
      石毛えい子君    藤村  修君
      山内  功君    山花 郁夫君
      山元  勉君    横路 孝弘君
      太田 昭宏君    吉井 英勝君
      北川れん子君
    …………………………………
   内閣府大臣政務官     奥山 茂彦君
   内閣府大臣政務官     嘉数 知賢君
   参考人
   (國學院大学法学部教授) 藤原 靜雄君
   参考人
   (明星大学人文学部教授) 大橋 有弘君
   参考人
   (ジャーナリスト)    櫻井よしこ君
   参考人
   (日本弁護士連合会情報問
   題対策委員会幹事・コンピ
   ュータ研究委員会委員)
   (弁護士)        藤原 宏高君
   内閣委員会専門員     新倉 紀一君
    ―――――――――――――
委員の異動
七月二十四日
 辞任         補欠選任
  小野 晋也君     高木  毅君
  古賀 正浩君     宮本 一三君
  谷本 龍哉君     梶山 弘志君
  仙谷 由人君     山内  功君
同日
 辞任         補欠選任
  梶山 弘志君     谷本 龍哉君
  高木  毅君     小野 晋也君
  宮本 一三君     古賀 正浩君
  山内  功君     仙谷 由人君
    ―――――――――――――
七月十二日
 高速道路の障害者用駐車場に駐車する健常者への罰則に関する請願(福井照君紹介)(第六五四一号)
 透明で民主的な公務員制度改革の実現に関する請願(末松義規君紹介)(第六五八八号)
 同(佐藤観樹君紹介)(第六五九三号)
 同(小泉俊明君紹介)(第六六〇六号)
 同(重野安正君紹介)(第六六〇七号)
 同(井上和雄君紹介)(第六六一二号)
 同(小泉俊明君紹介)(第六六一三号)
同月二十三日
 透明で民主的な公務員制度改革の実現に関する請願(阿部知子君紹介)(第六七三三号)
 同(阿部知子君紹介)(第六七五二号)
 同(佐藤観樹君紹介)(第六七六二号)
 同(五島正規君紹介)(第六七六六号)
 同(樋高剛君紹介)(第六七六七号)
 同(樋高剛君紹介)(第六八〇一号)
 高速道路の障害者用駐車場に駐車する健常者への罰則に関する請願(赤羽一嘉君紹介)(第六八〇〇号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 個人情報の保護に関する法律案(内閣提出、第百五十一回国会閣法第九〇号)
 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案(内閣提出第七〇号)
 独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律案(内閣提出第七一号)
 情報公開・個人情報保護審査会設置法案(内閣提出第七二号)
 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出第七三号)


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     ――――◇―――――
大畠委員長 これより会議を開きます。
 第百五十一回国会、内閣提出、個人情報の保護に関する法律案並びに内閣提出、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律案、情報公開・個人情報保護審査会設置法案及び行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案の各案を一括して議題といたします。
 各案審査のため、本日、参考人として、國學院大学法学部教授藤原靜雄君、明星大学人文学部教授大橋有弘君、ジャーナリスト櫻井よしこさん及び日本弁護士連合会情報問題対策委員会幹事・コンピュータ研究委員会委員、弁護士藤原宏高君、以上四名の方々に御意見を承ることにいたしております。
 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席を賜りまして、まことにありがとうございました。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 藤原靜雄参考人、大橋有弘参考人、櫻井よしこ参考人、藤原宏高参考人の順に、お一人十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと考えております。
 なお、参考人の方々に申し上げますが、御発言の際にはその都度委員長の許可を得て御発言くださるようお願い申し上げます。また、参考人は委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承をお願いいたします。
 それでは、最初に藤原靜雄参考人にお願いいたします。
藤原(靜)参考人 國學院大学法学部の藤原と申します。
 本日は、衆議院内閣委員会において参考人として意見を述べる機会を与えていただきましたこと、まことに光栄に存じております。限られた時間でございますので、早速意見に移らせていただきます。
 IT社会におきましては、民間企業と行政機関とを問わず、個人情報が大量かつ瞬時に世界的規模で移動するわけでございます。しかし、個人情報は、一たん誤った取り扱いをされれば万事休すであるという性質のものであります。実際、個人情報の不適正な取り扱いの例が目立つようになり、国民は漠然とした不安を抱いていると考えております。このような意味で、個人情報保護法制の整備は我が国の今後にとって非常に重要な課題であり、関係法律が早急に制定されるべきであると考えます。
 そして、個人情報保護法制を整備するに当たっては、我が国の場合、民間部門を中心とした包括法が必要であるという観点が重要であろうかと思います。
 今日は、三十年前とは異なり、コンピューターがだれでもが使える通常の文房具の一つであると言ってよい時代であります。このような時代におきましては、民間部門における個人情報の取り扱いこそ一番の問題であるというのは、国際的な共通認識となっておるところであります。
 民間部門が保有する個人情報の量は、公的部門とは比較にならないくらい多いというのが実情であります。その証拠に、諸外国の法制を見ても、OECD加盟二十九カ国中、既に二十四カ国が民間部門を包括的に対象とする個人情報保護法を有しております。我が国においても、国際社会の一員として諸外国の法制との調和を図る必要があるのではないか、そのように考えるわけでございます。
 我が国においても、名簿業者、事業法が制定されていない分野が少なくないこと、企業の活動は多種多様な業に及ぶものであること、これらを前提にいたしますれば、民間部門を包括的に規制する必要があるのであり、個別法で対応できるものではないと考えております。実際、平成十一年の住民基本台帳法の改正時に、我が国のメディアは既に正確に包括的な法律の必要性を唱えていたわけでございます。
 次に、個人情報保護法案の要点について、簡単なコメントを加えさせていただきます。
 まず第一に、個人情報保護法は、基本原則と民間部門に対する一般法という意味合いがあるわけでございますが、基本原則が官民例外なく我が国の社会のすべての者にかかることで、社会全体の個人情報保護意識が高まると思います。ちょうど、情報公開法ができて、我が国の社会に説明責任、アカウンタビリティーという言葉が浸透したのと同様の効果を上げることができるであろうと考えております。また、民間部門に対する一般法、包括法の部分は、これまでルールのなかった民間部門の個人情報の取り扱いのあり方に基本原則を具体化して秩序を与えるものであると言えます。この両者が相まって、自主規制を旨としつつも、我が国の個人情報保護法制の進むべき道が示されたことになります。
 個人情報保護法のもとで、行政機関等個人情報保護法、個別分野の個人情報保護法、また、政府の施策、業界のガイドライン等が制定あるいは策定されるのであり、個人情報保護法は羅針盤としての機能を営み、そのような意味で早期の制定が重要なわけであります。
 第二に、議論の多い点、すなわち、基本原則の法的効果について一言触れておきたいと思います。
 基本原則は、言うまでもなくすべての国民に対する努力義務規定であり、それゆえ、違反行為を是正するための担保措置も定められていないわけであります。つまり、違反したからといって直ちに罰則が科せられるわけではないということです。また、その裁判規範性について申しますれば、直接、基本原則の各条を根拠に裁判上の開示請求権等が導かれるものではないと考えます。しかしながら、例えば、確かに民法上の不法行為による損害賠償請求等の場面では、基本原則は違法性の一つの判断要素となり得るであろうと考えております。
 ただ、違法性を認定する場合の判断要素ということにつきましては、後にも触れるメディアとの関係で少し補足しておきたいと思います。つまり、報道機関には、たとえ法を犯してでも報道する必要があるという場面があり得るかもしれません。しかし、そのような場合は、裁判官というのは、その必要性も含めて、例えば適正な取得であったかどうかを判断するのであろうということです。つまり、必要性はきちんと考慮されるということです。それも含めた適正の判断であるということです。法案の基礎となりました大綱が、「個々の基本原則は、公益上必要な活動や正当な事業活動等を制限するものではない。」と述べているのは、このような趣旨であろうかと思われます。
 このように考慮しても、メディアを外せという議論は、メディアを司法権の対象からも外せという主張に等しいことになると言わざるを得ないのではないでしょうか。
 第三に、この法律には、開示、訂正、利用停止等、国民の側の関与の手段が規定されております。権利の中身とその手続が書いてあるわけです。このことは、実質的には、プライバシー権、あるいはその現代的な内容であると言われる自己情報コントロール権を認めていると言ってよいと思います。具体的な中身が書いてある分、すぐれた立法であると評価できるのではないかと考えます。
 第四に、監督機関のあり方と主務大臣という制度についても一言述べておきたいと存じます。
 現在、我が国の行政のあり方は、御承知のように、事後チェック型の行政への移行期にあるわけでございますが、それを反映して、この法律の主務大臣は、民間部門の当事者同士の自主性に事をゆだねておくべきではない、そういう場合にのみ出てまいります。関与の中身も、義務規定の施行に必要な限度で報告の徴収をする、助言をするということが基本となっております。義務規定の実効性を担保するために勧告をするには一定の要件をクリアする必要があり、命令を出すにはもっと厳しい条件があるわけです。このような仕組みは、一般の行政規制のあり方からすれば特段珍しいものではありませんし、例えば立入検査権が置かれていないことからわかるように、業者に負担の多い、強い規制でもないわけです。
 それから、例えば、世界で最も厳しい個人情報保護法制を有すると言われることのあるドイツでも、民間部門の監督というのは、主として州の内務省等の監督官庁が行っております。
 第五に、現在最も議論されているメディアの扱いについて意見を述べさせていただきます。
 まず、表現の自由という憲法上の権利と、これまた憲法上の権利であるプライバシーの権利を保護するための制度間の調整をどう図るかは、個人情報保護法制を組み立てる上での困難な問題の一つである、これは事実であります。表現の自由との調整は、諸外国でも、国民のプライバシー意識、当該国におけるメディアの地位、役割、実態等を背景としてさまざまな立法例があるわけでございます。実際、各国の個人情報保護法の立案過程でさまざまな議論が闘わされております。しかしながら、一方の権利が一方的に優越するという立法政策をとる国はほとんどないわけです。まずこのことを強調させていただきたいと思います。
 そこで、この法律を見てみますと、我が国の場合、メディアには主務大臣がいないこと、セキュリティー、国民の権利救済の部分についても努力義務規定にとどまっていること、報道目的を一部でも含めば適用除外となること等、各国の法制の中ではメディアの保護に厚い規定であると位置づけることができると言えます。これは客観的な事実であろうと思います。
 さらに、自主的な取り組みを認める点もEU指令などにも見られるところでありますが、この法律の要請の程度は、努力義務であることからもわかるように、やはり比較法的に見れば弱い部類に属すると言ってよいと思われます。そしてまた、諸外国で要求されております自主的取り組みのレベルは高いものであり、個人情報保護に関する苦情処理手続の整備なども求めるものであるということもつけ加えておきたいと思います。
 それでは、残されました時間で、次に、行政機関等個人情報保護法案について、重要と考えることを指摘させていただきます。
 第一は、行政機関等個人情報保護法制定の基本的視点であります。
 すなわち、この法律の制定のゆえんは、まず、従来の昭和六十三年法が課題を残していたということ、それに加えて、民間部門ばかりではなく行政部門においても、電子政府を進める中でIT化が急速に進んでおり、これに対応する個人情報保護法制を整備する必要がある、こういう実質的な理由を確認する必要があるかと思います。
 具体的には、第一に、個人情報保護法の基本原則の具体化を図っている、そして個人情報保護法の第五章の「個人情報取扱事業者の義務等」についての規定との整合性の確保を図っている。それから第二に、情報公開法の立案過程でいわば宿題とされました個人情報の本人開示の問題、つまり、自分の情報を自分で見てその流れをコントロールするという問題、その課題を解決しているわけであります。
 さらに言えば、個人情報保護法はIT社会に対応できるものではありますが、主として民間部門の規制でありますから、規律の内容としては個人情報の流通の入り口と出口を厳しく規制しているものの、先ほども申し上げましたように、中身は自主規制を旨とする必要最小限の規律にとどまっているものであると言えます。これに対して、公的部門を対象とする行政機関個人情報保護法の方は、中身の具体的な規律に厳格性を求めていると言ってよいと考えます。
 第二に、それでは、現行法よりどこが充実強化されているかということです。
 まず、対象となる個人情報の定義そのものが従前とは異なっております。例えば、何が個人情報かということに関しまして、だれだれのことでわかるという個人識別性における他の情報との照合、つまり、どれかの情報と組み合わせればだれだれのことであるとわかるという判断につきまして、個人情報保護法の場合と異なり、行政機関法の場合は、照合が容易であるという容易性の要件を要求しておりません。これは、個人情報保護法が、民間部門の負担や利用、条文で言いますところの有用性を考慮して対象に一定の制限を加えているのに対し、公的部門を対象とする行政機関等個人情報保護法が、より厳格な個人情報保護を目指しているからであると考えられるわけです。
 また、対象となる個人情報は、紙に記録された個人情報を含め、行政文書に記録された個人情報であります。旧法のように電子計算機処理に係る個人情報には限られておりません。この個人情報の範囲が情報公開法のそれと同程度にまで拡大されたということは、実務上も大きな意味を持つものと言えます。これによって地方自治体等で問題になっている部分の大部分は解決されることになるわけです。
 それから、本人の関与について、旧法では権利ではなかった訂正請求が権利とされております。加えて、新たに利用停止請求が権利とされております。争いある場合には、第三者機関である情報公開・個人情報保護審査会に不服を申し立てることができるわけですから、本人の権利は著しく強化されたと言えます。
 最後に、その他、例えば利用目的の変更にありましても、相当の関連性というものが求められるようになっているわけです。
 このように、行政機関等個人情報保護法は、旧法に比べ非常に厳しい規定となっていると言ってよいわけです。
 最後に、情報公開法制定時にもさまざまな議論があったわけでございますが、この情報公開法が制定されて、我が国の社会、そして国民と行政のあり方は、御存じのように劇的に変化しつつあります。同様に、個人情報保護法制が整備されれば、我が国のプライバシー保護、個人情報保護の意識は一気に高まると存じます。そのことによって従来懸念されていた問題も解決されていくというわけであると思います。したがって、できる限り速やかに法律の制定を望むものであります。
 本日は、意見を開陳する機会を与えてくださったことにもう一度御礼を申し上げて、私の意見陳述は終わりとさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
大畠委員長 藤原靜雄参考人、ありがとうございました。
 次に、大橋有弘参考人にお願いいたします。
大橋参考人 明星大学の大橋と申します。
 私の方からは、情報通信ネットワークシステムの観点から個人情報保護のことを申し述べたいと思います。
 言うまでもなく、経済社会活動、国民生活において、コンピューター処理、ネットワークの利用、これは大前提となっているところであります。我々は、この情報処理技術、ネットワーク技術の恩恵にあずかる、そしてこの恩恵を維持するために、手作業に後戻りすることは事実上不可能だと私は思っております。役人の数を幾らふやしたとしても現在のサービスを維持することはできないというふうに思います。そして、役所の行政サービスあるいは民間における顧客サービスというものは、この情報通信技術を使って、個人の情報、個人レベルの情報を処理しなければ実現しません。ここに、先ほど来議論されております個人情報の保護の必要性があるというふうに思います。
 ただ、現状では、行政機関、それと民間というところでは、個人情報の保護方策、規制に差が大きくあります。先ほど藤原参考人の方からもありましたように、国の行政機関では、電子計算機処理に係る個人情報は保護されています。電子計算機に係らない部分については宿題として残されていたわけですけれども、今回は、その分が手作業処理の個人情報も含むという形で強化されたものが上程されたところは御承知のとおりです。
 一方、地方公共団体では、多くの団体が既に条例という形でこの保護方策をとっております。まだ人口比率では少ないんですけれども、制定されていない団体もありますので、この部分はやはり制定を急ぐべきだというふうに思っています。
 一方、このような状況の中で、民間における個人情報の保護規制は皆無という状況であります。高度情報通信社会推進本部の個人情報保護部会の検討、そして同法制化専門委員会の検討を経て、官民全体をカバーする基本法制が国会へ上程されたというところです。これは、個人情報保護の空白部分を埋めるという大きな趣旨、意味があるというふうに考えています。
 なお、この部会中間報告と専門委員会の大綱の関係でややずれがあるのではないかという御議論もあるように聞いております。しかし、中間報告においては、基本原則のあり方、それから適用の除外範囲、開示、訂正を権利として認めるか、罰則、第三者機関、この辺の法制面の詳細、技術的なことを専門委員会の検討にゆだねたわけです。そして、これを受けて専門委員会で諸問題に対する具体的な検討が行われて、その結果が大綱としてまとめられております。
 多くは、先ほどのゆだねられた検討課題を、努力義務としての基本原則、開示、訂正の制度化、報道分野の義務規定の適用除外等が大綱としてまとめられたのは、今参考人から意見があったとおりです。要するに、中間報告の内容を尊重して法制的観点から具体化したものであって、両者がずれがある、あるいは趣旨を変質したものというふうには考えておりません。
 次に、プライバシーという概念、言葉について、若干意見を申し述べておきたいと思います。
 個人情報保護の法制は、個人情報の不適切な利用による個人の権利利益への侵害を防ぐため、個人に関する情報を保護するというふうになっております。ここにおいてはプライバシーという言葉は使われておりません。プライバシーというのは、やや判断がある、人によってまた違う解釈がある、時代によってまた変遷があるというふうに考えます。その意味では、個人に関する情報を保護するというのは、はるかに広くきちんとしているというふうに思っています。
 国民の個人情報が行政機関に登録されて、それによって国民がしかるべきサービスを受ける、こういう関係である以上、行政において個人情報処理が行われる、不可欠なことであります。ここでは、プライバシー侵害、プライバシー問題ということではございません。よく言われますように、女性の年齢を聞くのは失礼であるとかいう議論とは全く関係のない世界でありまして、サービスを提供するからには、個人情報、その個人の属性、一番基本となる氏名、生年月日、性別、住所、これらはプライバシーという概念とは全く異なるものというふうに私は考えております。
 その次に、個人コードの議論もこの保護法の関係で随分大きく出ておりますので、その点についても申し述べておきたいと思います。
 先ほど、サービスという観点からすると、個人レベルの情報が処理されない限りは実現しない。その意味で、個人レベルの情報処理を行うためには、個人個人を特定する識別コードが必要なことは言うまでもありません。
 私どもは、既に多くの番号、コードを持っているわけです。一方で、番号で国民を管理するとは何事かというような議論もあるかと思いますけれども、それでは名前で管理するかというと、実際は、名前で管理するとしても、コンピューター処理の中ではそれはコード化されております。番号です。結果として出てくるのが、印刷されるときに名前になるかどうかということでありまして、番号で処理、管理されることには違いがありません。
 一方、それでは氏名と生年月日で本人を特定できればいいではないか、番号は要らないという議論もあろうかと思いますけれども、氏名、生年月日で識別できる、特定できるのは九〇%前後です。そのことは、国民の中で一千万人以上の人が特定されない、自分のことが特定されないわけです。本人でない人に情報が提供されないように、そしてしかるべき人にしかるべきサービスが提供されるように、ここでは本人を特定する番号、コードが必要であります。
 また、番号によって国民のすべての情報が名寄せされて個人に対する統制が強化されるのではないかという懸念もあるやに聞いています。しかし、これは、行政制度の仕組みからしてあり得ないことであります。大きな誤解であるというふうに私は思っております。
 行政は、法律で定められた権限の範囲内でしか個人情報を収集し、利用することはできません。行政機関の個人情報保護の規定により、目的外の個人情報利用は皆無ではございません。それは、ある権限の中で収集、利用されている個人情報が、しかるべき理由、根拠、明快なものがありました場合には他の機関に提供されることはあります。それは、法律上明示して、公示の上、限定的に、ちゃんとその理由が明らかになった範囲内でしか使われておりません。そういう枠の中でございますので、個人情報が束ねられて国家統制が強化されるということは、行政の仕組みからはあり得ないことであります。
 次に、住民基本台帳ネットワークに関係した話を申し上げておきたいと思います。
 住民基本台帳ネットワークは、国民の居住関係を公に証明するという既存の住民基本台帳制度の基本を何ら変更するものではありません。公に証明するというものであります。データそのものが秘密情報ではございません。
 今までは市町村内に閉じられていたシステムがネットワーク化されることによって、全国どこでも住民票の写しがとれるように、あるいは、住民情報のうち、県、国においても共通して使われている基本四情報といいます氏名、生年月日、性別、住所、この基本四情報をネットワークで県、国の方にも提供しようというものであります。これによって住民票の添付ということも省略されるということになります。これらは、何も新しいことではなくて、既に本人がその紙を持って届けたり出頭したりする方法で行われている手続でございます。それをネットワークで行うということだけであります。
 また、県レベル、全国センターに多くの情報が蓄積されるというふうな議論もありますけれども、ここに蓄積されるデータは、先ほどの基本四情報と識別コードの番号情報だけであります。そして、その県レベル、全国センターから、本人確認情報といいますけれども、本人確認情報の提供を受けた県、国は、目的の範囲内でしか利用されない、目的外に利用することは禁止されております。漏えいに関しても、制度的、運用的、あるいは技術上の今現在考え得る最高水準の方策をとっておりまして、何ら問題はないというふうに私は思っております。
 また、住民基本台帳ネットワーク自体でこのように独立した保護方策がきちんととられておるということから、民間における個人情報の保護の空白がないような方策は早急に制定されるべきだというふうに思いますけれども、これをもって住基ネットの運用が危ないということとは直接結びつきません。
 住民基本台帳ネットワークは、行政サービスの利便性とか行政側の大幅な省力効果、効率化あるいは費用対効果の観点から大きなメリットが期待されるところであります。法律の定める施行期日である八月五日を期して施行されるべきであるというふうに思っています。
 以上で私の意見陳述を終わりにさせていただきます。(拍手)
大畠委員長 大橋有弘参考人、ありがとうございました。
 次に、櫻井よしこ参考人にお願いいたします。
櫻井参考人 おはようございます。ジャーナリストの櫻井よしこと申します。
 情報について語るときに、私たちは、まず、この国の情報のあり方というものをしっかりとらえておく必要があるんだろうと思うんですね。個人情報保護法案は、民間個人情報保護法案と行政個人情報保護法案、二つございます。それに加えて、今問題になっている住民基本台帳ネットワークがございます。実は、この三つすべてを総合した形で情報というものを考えないと、この国の情報という断面で切った姿というのは決して見えてこないと私は思います。
 前段として、藤原先生が外国との調和を図る必要があるとおっしゃいました。私も、情報という観点においては、日本は大いに外国との調和を図る必要があると感じております。例えば、我が国では情報公開法はたった一年前の昨年四月一日に施行されました。それ以前は情報公開法さえなかったんです。先進国としては非常に恥ずかしいことでございます。
 情報は一体だれのものか。官僚のものではないんです。国民のものなんです。国民の代表である政治家の皆さん方のものなんです。しかし、私たちが情報をとろうとすると、多くの壁に阻まれました。その壁のところに並んでいらっしゃる官僚の皆さん方が一生懸命に情報を隠しました。
 例えばの話、私たちはこの国のお金の流れについてどのくらい知っているでしょうか。国民は、予算が国のお金の一番大きな流れだと思います。しかし、この国には、国民の目には決して見えてこなかった特別会計というシステムがございます。一般会計はわずか八十兆円前後でございますけれども、特別会計を流れるお金の総額は二〇〇〇年度実績で三百九十一兆円でございますよ。この特別会計を流れるお金の姿がどれだけ国会で実質的に論議されるのか、したがって国民の目に見えるのか。見えません。
 私は、三、四年前に「日本の危機」という本を書きまして、そのときに一生懸命にこの特別会計の取材をしましたけれども、一橋大学の中谷巌先生のような方でさえも、特別会計の全体像というものをつかむことができておられませんでした。それは、先生が勉強不足ということではなくて、特別会計というものの情報が出てこないからなんですね。特殊法人が情報公開の対象になったのは、情報公開法が施行されて一年が過ぎたときのことでございました。
 なぜ、このように国民に密着した、すべての部門で大きな活躍をしている特殊法人の情報が出てこないのか。それは、情報が国民の手に渡っていないからであります。情報は、主として官僚の手にあるからでございます。その官僚の手にある情報を私たちの代表である国会議員の皆さん方だって十分には存じてはいらっしゃらない。だから、皆さん方は役人を怒るんですね。
 私たちは、この情報の壁をなくすために情報公開法を設定せよということを長く言ってきました。たった一年前です。そして、今、個人情報保護法案が論議されております。住民基本台帳法が実行されようとしております。
 個人情報保護法案は非常に問題があります。私は、今現在ある個人情報保護の法律が万全だとは決して言いません。それは極めて不十分なものでありますけれども、それにかわるものとして、今ここで審議しようとしている、議論しようとしている個人情報保護法案、それは、民間のものも行政のものも大変に大きな問題を抱えているというふうに思います。
 細かい点は後ほどの質問のところでお答えできると思いますけれども、例えば、藤原先生は、基本原則は、まあ、みんなに希望する常識のようなものだとおっしゃいましたけれども、日本でこの個人情報保護法案をつくるときにお手本としたのが、OECDの八原則でございます。これは国際社会でプライバシーの憲法と言われているようなものでございますけれども、そのプライバシーの憲法と言われるOECDの八原則は、我が国の法律でも条例でも何でもないんですけれども、それが既に日本の裁判所でいわゆる判決の根拠として使われております。
 これは早稲田大学の名簿提供事件と言われるものでございますけれども、この判決の全文がこれでございます。その中で、これは情報を出した方が負けてしまったんですけれども、「本件名簿の提出は、上記OECDガイドラインの定めに照らしても、原告らのプライバシーの権利を侵害する違法なものであることは明白である。」というふうに、東京地裁の判決のもととなって使われているんです。
 ですから、個人情報保護法案、民間個人情報保護法案、行政個人情報保護法案が成立したときには、この基本原則は、ただ単に常識ですよというふうな使い方ではなくて、明確に裁判所の根拠となることは当然目に見えてくるわけですね。何といっても、外国のもので、日本国の法律でもないものが既に日本の裁判所で判例の根拠として使われているわけですから、日本国でそのような法律ができたときには、当然、司法はそれを使うものと考えなければならないと思います。
 このような形で、私は、メディアが大変に萎縮させられてしまう、自粛させられてしまう、自粛しているうちはまだまだ救いがございますけれども、民間個人情報保護法案のようなものが成立してしまえば、メディアは自粛から萎縮へと明確に移っていってしまうだろうというふうに感じております。
 この民間個人情報保護法案、行政個人情報保護法案、住民基本台帳ネットワークの三つをあわせて考えるときに、非常に私が気になる点がございます。それは、官僚はすべて善だという前提なんですね。情報を持つ人間はそれをもって悪用することはない、法律の枠外に足を踏み出すことはない、すべて官は、政府は正しいのであるから任せなさいと言っているに等しいものが、この三つの法律の中から見えてきます。
 これは、私は、そのとおりであってくれればこんなにうれしいことはないわけで、すべて官が善であるならば、法律をつくることによってすべて片がつくんですね。法律の文言の一片で片がついてしまいますけれども、現実がそうでないということを示しておりますので、私たちは、この法律に書かれている、少なくとも書かれていることをうかがわせる法律の名前ですね、個人情報を保護する法案という、名前だけは非常に立派でございますけれども、中身はそれとは似ても似つかないものを通すわけにはまいりませんし、また、その名前のように、本当に個人情報を保護するというのであるならば、法律の文言だけではなくて、それを担保する仕組みというものをきっちりとつくっていただきたいと思うんですね。監視システムであるとか第三者の参加であるとか、そのようなさまざまなことがここで考えられるというふうに思います。
 それから、この三つの中で、あと二週間もすれば稼働するのではないかというふうに言われている住民基本台帳ネットワークですけれども、このことについて多くの議論がございます。
 住民基本台帳ネットワークは完璧な技術であると大橋先生がおっしゃいました。大変に進んだ技術を取り入れていて何の問題もないということをおっしゃいましたけれども、一体どこを見てそのようなことをおっしゃるんでしょうか。
 政治家の皆さん方にも理解していただきたいのは、アメリカで九月十一日にテロ事件がございました。あのテロが起きた後に、アメリカ全土が集中して、これはもうすごく、変な外国の工作員とかスパイとかテロリストが入ってきたら大変であるから、アメリカ本土を守るためにというので、ホームランド・セキュリティー・ミニストリーというのを、本土防衛省というんでしょうか、つくる作業に今取りかかっております。そのときにアメリカの官僚が出してきたのは、まさに今、日本がやろうとしている住民基本台帳ネットワークのようなシステムなんですね。国民に番号を振って、その番号のもとに個人情報を集めて、その人の動向が必要とあらばチェックすることができるようなシステムをつくりましょうと。
 アメリカは、攻撃されてもう大変な損害を出しました。六千人以上の方々が亡くなったわけですから、国民も政治家も、一時期、これにわっと賛同を示したんです。そして、システムが論議されて、予算もついて、いざこれを実行しようという段階になりまして、これはアメリカ議会から待ったがかかったんですね。官僚がこういう法案を出してきたけれども、政治家として、国民の代表として、これで果たしてよいのであろうか、これで本当に国民のプライバシーが守られるのであろうか、国民の人権がきちんと守られるのか、これは私たちが考えなければならないということで、官僚が出してきた番号システム、予算もついて執行直前になって、アメリカの議会はこれを否決したんです。
 つまり、私が皆様方に訴えたいのは、個人情報保護法案、これは民間も行政もそうです、住民基本台帳ネットワークは、これは官僚の皆さん方が書いてきたものではございませんか。政治家の皆さん方は、国民の代表としてその中身を本当に御存じでいらっしゃいましょうか。これが実行されたら一体どういうことが起きるのかということを本当に御存じでしょうか。もし御存じであるならば、御存じの上にこれを実行しようとするのであるならば、私は、これは民主主義に反することだと考えております。
 なぜならば、どの世論調査を見ましても、住民基本台帳ネットワークの施行には七五%、八〇%以上の人たちが反対であると言っております。凍結をしてほしいという答えは、朝日新聞の調査でも産経新聞の調査でも七五%、七六%に及んでいるんですね。御承知のように、朝日新聞は社説で住民基本台帳ネットワークに反対しております。反対に産経新聞は、社説で住民基本台帳ネットワークに賛成しております。賛成、反対、主張を真っ向から闘わせている二つの新聞が、巧まずして世論調査を行って、巧まずして同じ結果が出たんです。七六%が凍結してほしいという声です。これは国民の声だと思わなければならないと思います。
 そしてまた、地方自治体、皆さん方、選挙区にお帰りになって御自分の足元の市町村長にお話をぜひ聞いていただきたい。市町村長の皆さん方が、もしくは区役所の皆さん方が、本当にこの住民基本台帳法を、片山総務大臣がおっしゃるように、みずから望んでつくってもらったものかどうか、どうぞその点だけでも聞いていただきたい。
 私は、昨年九月から十一カ月間、この点について本当に多くの地方自治体を取材してまいりました。その中のどれ一つとして、私たちがつくってくれと言ったのではありません、私たちがつくってくれなんて言ったことありませんということを否定した自治体はございませんでした。すべての自治体が、押しつけられたんです、知らないうちに、補助金をもらえるというのでやったんです、中央省庁がやったんです、私たちはこれは本当に住民にメリットがあるかどうかわかりません、多分ないと思います、住民にどうやって説明したらいいのかわかりません、だまされた、これは国の勝手であるというふうな激しい意見さえ出ているんです。これは、皆様方お一人お一人の選挙区の市区町村長、首長さんに聞いていただければ、私の申し上げたことは事実であるということがおわかりいただけると思います。
 私が申し上げたいのは、政治家であるならば、官僚が持ってきた法案に唯々諾々と従うようなことはやめていただきたい。なぜならば、あなた方は私たち国民の代表なのですから。私たち国民の代表は官僚ではないんです。官僚は私たち国民に仕える身分なんです。それが私たち国民に情報も渡さずに、十分な情報開示もしてくることなしに、これほどの反対を目前にしながら、それでも住基ネットを施行するんだ、個人情報保護法案を通すんだというのは余りにも不遜であると私は申し上げたいと思います。
 ちょうど十五分間でございます。ありがとうございました。(拍手)
大畠委員長 櫻井よしこ参考人、ありがとうございました。
 次に、藤原宏高参考人にお願いいたします。
藤原(宏)参考人 弁護士の藤原でございます。
 もう一人の藤原でございますので、後で御質問のときには分けてお願いしたい。話す内容は、最初の藤原先生とは全く違うことになります。
 現在、私の方は、日本弁護士連合会のメンバーとしていろいろな検討をしております。その中で、完全にはわかっておりませんが、かなり重要なことがわかってきております。そういう意味で、きょうのお話は、私個人としての意見、それから日本弁護士連合会として既に承認を得た部分、全部取りまぜてお話をさせていただきますので、その点は御容赦を願いたいと思います。
 まず最初に、個人情報保護の問題というものは、民間、行政すべて含めて、日本がどういう社会になっていくのかということを前提に考えるべき問題であろうと思っております。そういう意味で、まず、電子政府、電子自治体というものを現在政府が推進しているわけですから、それに対してどういう法的環境整備が必要かという点で考えてみました。
 まず、電子政府、電子自治体は、詳しくは言いませんが、すべてのデータ、行政データは電子化されてネットワーク化されるということであります。したがって、そこではデータ漏えいのリスクは必然的に伴うということでありまして、内部からの不正、それから外部からのハッキング等を防止するための法制度が必要であるということになります。
 それから、当然、ネットワーク化、電子化ということになりますと、膨大なセキュリティー上の予算が必要だということも疑いがないわけでございまして、セキュリティー上のコストとネットワーク化の便利性とは比較検討の上でバランスがとられなければいけない、こういうふうに考えております。
 それから、もう一つ重要な視点として申し上げたいのは、こういう行政情報の電子化、ネットワーク化というものは、その便利を受ける国民、それから住民と日夜接している地方自治体の意見、こういうものを取り込みながらみんなの意見を聞いてつくるものであるというふうに思っていまして、現在の行政の仕組みを単にコンピューターに乗っけただけみたいなものでは到底いけないというふうに考えているわけなんです。
 それで、現在、政府が発表しているe―Japan重点計画、こういうものがありますが、これが霞が関WANそれから総合行政ネットワークとして今後具体化されていくということだと考えております。ところが、こういう仕組みと、既に平成十一年の改正住基法で動き出している住民基本台帳ネットワークが稼働し出すとどういうことになるのかということをちょっとお話をしたいと思います。
 私のレジュメの絵を見ていただきたいんです。三枚目の絵ですけれども、ちょっとごらんください。
 左側が、従来の説明をされている住民基本台帳ネットワークでございます。その住民基本台帳ネットワークから行政機関に対して本人確認情報の提供がなされるということになりますと、当然、提供を受けた行政機関側のデータベースの中には住民票コードが入ってきます。そして、行政機関のデータベースが相互に提供されるということになりますと、当然相互に提供された行政機関のデータベースの中にはすべて住民票コードが入ってくるわけであります。したがって、行政機関が保有する個人情報というものは住民票コードで検索が可能になるということは避けがたいのであります。つまり、住民票コードを住基ネットから提供を受けるということは、行政機関のデータベースはほぼすべて住民票コードで検索が可能となるということは避けがたいと考えていただきたいのであります。
 問題は、そういうことを前提として、行政機関の保有する個人情報保護法というものはどういう機能を持たなきゃいけないかということを考えてみました。
 電子政府の観点からいくと、行政機関の保有する個人情報保護法というのは電子政府の基本法ではないか、つまり、電子政府の安全を守るための基本法ではないかと考えているわけであります。つまり、行政を電子化し効率化はするけれども、それに伴うリスク、不利益な点を全部カバーする安全のための法律じゃなきゃいけない、こういうふうに考えるわけであります。
 そのためには、具体的には、本来の業務処理に必要な範囲を超えた名寄せを制限するとか名寄せの結果の漏えいを禁止するとか、それから複数の行政機関相互間のデータマッチングを制限する、国会が法律でコントロールする。これは具体的に別表一で書いておきましたが、米国連邦法では既にデータマッチング法というものが制定されております。なぜ我が国はこのような諸外国の法制度を見習おうとしないのかというふうに強く思うわけであります。
 それから、行政機関が膨大な個人情報を電子化してネットワーク化して管理するということになれば、当然、その行政機関がそういう個人情報を乱用しないように、きちんとした第三者機関をつくるべきではないかと思います。
 これについても、既に国民総背番号制が入っているスウェーデンにおいては厳しい第三者機関が設置されている。これについては資料二で簡単にまとめておきましたが、要するに、裁判官が第三者機関の主要な構成メンバーになっているということなんです。したがって、第三者機関がどこかの省庁の上につくというような問題ではなくて、もう準司法的な機能を持った第三者機関を入れている。法律専門家が入っている、こういうところが第三者機関として個人情報をコントロールしましょうということであるわけでありまして、なぜ我が国はそれを参考にしないのかというふうに思います。
 それからもう一点は、罰則による担保というのは不可避であるということです。
 そして一番重要なことは、実は、住基ネットが稼働した場合は、行政機関で保有される個人情報というのは基本六情報に限られない。当然、それ以外のセンシティブ情報も含めた重要な情報がすべてデータベース化されて、住民票コードとくっついて管理されていくのであります。これは後で具体例を示します。
 そういう観点からいきますと、基本的には、行政個人情報保護法というものは悪用されない仕組みが入っていなきゃいけない。悪用されない仕組みが入っていなければ、こういう法律は抜本的に見直すべきであるということでありまして、現在の法案は全くこの視点が欠落しております。もちろん、第三者機関についてどういうものがいいのかというのは、これは大変困難な問題であります。従来、日本にはない制度である。それから、新しい役所をつくるのかとか財政上の問題とかあります。しかし、現実に、スウェーデンのデータ検査院は膨大な予算をとっております。
 つまり、番号管理するということはそれだけのコストを伴うんだということを強く御認識いただきたいのでありまして、単に便利なだけではない、多大なリスクもある、損失もこうむるわけでありまして、番号管理が必要かどうかは、コストそれから便利性そして国民の権利利益に対してどれだけマイナス面を持つのかということを総合的に考えて決めるべきことではないかと思います。
 少なくとも、行政機関個人情報保護法が、現在、この法案審議の状態でもし成立しないとなれば、現行法案でも全く不十分ですが、少なくとも、住基ネットは住基法上の措置だけでは全く個人情報保護は不十分ということでございます。
 それから、住基ネットと霞が関WANの接続の観点から申し上げますと、現在、住基法上では九十三行政事務ということですが、近々二百六十四事務に拡大されようとしている。その事務を一個一個検討するまでには至っておりませんが、現在検討途中のもので中間報告させていただきますと、そもそも住民基本台帳ネットワークから本当に本人確認情報の提供が必要なんだろうかと思われる事務がかなりある。何でこんな事務に本人確認情報が提供されなきゃいけないのか。
 それから、本人確認情報の提供はなるほど必要かもしれない。しかし、その他の添付書類が全く電子化される見通しが立っていないものもたくさんあるんですね。そうすると、たくさんの添付書類が必要で電子化される見通しが立っていないのに、住基ネットから本人確認情報の提供だけを受けてどうする気ですか、紙ぺら一枚、住民票一枚だけを電子化するということにどれだけの意味があるんですかと非常に疑問を感じざるを得ないということでございます。
 そして最後に、住民基本台帳ネットワークと接続することによって、現在の行政機関がさまざまな申請を国民から受けるわけなんですが、センシティブ情報と明らかに結びついていると思われる部分をちょっと指摘します。
 資料六が、まだ検討は不十分だという前提でお話をさせていただきたいんですが、現在の本人確認情報の提供を受けるべきだとされている二百六十四事務の中には、欠格条項としての前科の存在というものが、申請を受理するか、申請を認めるかどうかの判断材料になっているものがたくさんあるんですね。
 そうすると、いろいろな申請、例えば火薬取締法に基づく火薬類保安責任者免状の出願、このような行政事務が電子化されるというときに、当然欠格条項としての前科の存在がある。もちろん、この前科の存在をこの申請を受けた経済産業省はどういう手続でその真偽を確認するのかというのは僕らはわかっておりませんけれども、もしこれが法務省からのデータベースで提供を受けるということになれば、もちろん、当然経済産業省はこの申請者について欠格事由があるかないかということを判断するわけでありまして、もし欠格事由があったということがわかったということで申請を却下すれば、この申請者には欠格事由に該当する前科があったというデータは間違いなく行政機関の中に残るであろうと思います。そういうものがたくさんあるんです。
 ですから、ぜひ皆さん、この提供される事務を見ていただいて、本当に住民票コードとくっついたときに何が起こるのかということを現実の目で見ていただきたいと思うわけなんです。そして、住民票コードが入れば、そのような、だれがどのような申請をしたのか、そしてどういう理由で申請が却下されたのか、場合によっては前科によって申請が却下されたということすら名寄せができるということにならないかということです。
 したがって、この名寄せの禁止というのは、ただ単に努力義務を課す程度のものでは到底担保されないということでありまして、具体的な法律の仕組みによって制限しなきゃいけないと思っています。しかし、基本的には、オンライン化されますとだれでも端末をたたけば見れるわけでありまして、どのような仕組みで本当にその権限の範囲を超えた名寄せを防ぐのかということは非常に難しいんであります。それを公務員の倫理観だけで行おうというのは無謀だというふうに思うわけであります。
 したがって、行政機関の保有する個人情報保護法ではそういう部分をよく考えていただいて、どういう仕組みを入れたら、どういう技術的な仕組みの中で、法的な仕組みの中でそういう本来の業務処理に必要な範囲を超えた名寄せを防げるのか、乱用を防げるのかということを御検討いただきたいわけであります。
 それから、あと一言申し上げますと、基本的には分散処理ということが重要であろうというふうに思っておりまして、公的認証サービスを使いますと、電子証明書の中に既に基本四情報が入っていますから、公的認証サービスが稼働すれば、住民基本台帳ネットワークから本人確認情報をオンラインでとらなくても、行政ICカードに格納された電子証明書から本人確認情報がとれるということを申し上げたい。
 それから、電子政府全体を考えると、どう考えても現在のセキュリティー水準は非常に低い水準にあると思われるわけでありまして、いろいろなハッキングの例とかを見ると、政府の担当者の認識が非常に低いというふうに考えざるを得ないわけでありまして、こういうことをすべてボトムアップするには、やはりセキュリティー対策基本法という法律をきちんと国が制定して、例えば一定の技術の認定制度を導入し、その認定を受けた人が各行政機関に入り、自分のネットワークを監視する、このような仕組みが要るのではないでしょうか。
 そして、もちろんそのネットワークの監視をするということになりますと、第三者機関が適当だということになりまして、セキュリティーの維持のための第三者機関と個人情報保護法のための第三者機関は本当に同じなのがいいのかも非常に難しい問題で、今後検討していただきたいと思うわけであります。
 それから、最後に一言だけ申し上げますが、民間部門の個人情報保護法、現在の法案は、一般法、基本法プラス具体的な義務を持った個別法にもなっております。ですから、現在、これが通れば当然、一般民間人は規制される。そしてその上で、個人信用情報とか、もっと重要な個別的な分野のものの検討がたなざらしにされておるということでありまして、もっとそういう全体的なことを考えて見直していただきたい。
 以上でございます。ありがとうございました。(拍手)
大畠委員長 藤原宏高参考人、ありがとうございました。
 以上で各参考人からの意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
大畠委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。岩崎忠夫君。
岩崎委員 おはようございます。自由民主党の岩崎忠夫でございます。
 参考人各位におかれましては、大変お忙しいところを早朝からお越しいただきまして、まことにありがとうございました。時間も余りありませんので、早速質問に入らせていただきます。
 まず、参考人全員にお伺いしたいんですが、個人情報保護法制を整備する緊急性についての御認識をお伺いしたいと思うのであります。
 近年、高度情報化社会の進展に伴いまして、個人情報がデータベース化され、そして企業の顧客情報が大量に流出したり、あるいは個人情報が不正に売買されるなどの事件が相次いで社会問題化しているわけであります。このようにIT化が進む一方で、個人情報を保護する法制の整備を急ぎますことは、国民のプライバシーを守る上からも必要不可欠のことだと思われるのであります。
 この個人情報保護に関しましては、ほとんどの先進国で民間部門を含む保護法制が整備されているところであります。情報通信技術が進展する中で、民間部門を含んだ個人情報保護の仕組みを早急に整えますことは急務であると思われますが、民間部門を含んだ個人情報保護法制の整備の緊急性の基本的な認識について、時間がありませんので、各参考人にそれぞれ一言ずつお答えいただきたいと思います。
藤原(靜)参考人 岩崎議員の仰せのとおりだと存じます。
 国民の不安、誤解を除くためにも個人情報保護法制の整備をしていただきたい。これは焦眉の問題であると考えております。
大橋参考人 国の行政機関において個人情報保護法が制定されたときに、宿題が二つあったというふうに思っています。それは、民間部門の規制、それから紙の個人情報処理の問題、その二つの解決策として今、保護法案が上程されたというふうに思っております。
 保護の空白の部分というものをなくしていくという趣旨、これが国民の個人情報に対する不安を解消していく手段であると思います。それから、先ほど申しましたように、国民の利便性あるいは省力化ということが期待される住基ネットを今後実施していくためにも、この個人情報保護法制が必要であるというふうに思っております。
櫻井参考人 私は、悪法であるならば、ない方がよろしいかと思っております。
 個人情報を保護するための法整備はもちろん重要でありますけれども、今提出されている民間個人情報保護法案、行政個人情報保護法案はいずれも悪法であると思いますので、もし整備なさるのであるならば、もう一度法案を根本からつくり直していただきたいと存じます。
藤原(宏)参考人 個人情報保護法制の整備が緊急課題であることは十分に認識しております。
 しかし、現在の行政機関の保有する個人情報保護法は、いわば行政機関個人情報利用法になっております。行政機関が自分たちで個人情報を利用し合えるだけ利用しましょうという発想でつくられておりまして、先ほどの名寄せを制限する、コントロールするという発想が全く欠落しておりますので、抜本的につくり直していただきたい。以上を願う次第でございます。
岩崎委員 各参考人とも、中には、法案の中身についてはいろいろな意見がある、場合によっては抜本的に見直すべきだ、こういう意見も入っておりましたが、個人情報保護のための法制整備を基本的に急ぐべきだ、そういう意見であるというように承った次第であります。
 私がこのような質問をいたしましたのは、法案に反対する論調の中には、個人情報保護に対する認識が必ずしも十分でない、そのように見受けられる発言が一部に見られるからであります。また、法整備の緊急性に対しまして、私どもの国会審議が必ずしもこれに対応できていない、こういうことの自戒を込めて御質問をさせていただきました。
 次に、基本原則のメディアへの適用について藤原靜雄参考人にお尋ねをいたします。
 これまでの委員会での質疑や報道等によりまして、個人情報保護法案をめぐりますメディアに関する論点はかなり整理されてきたように思われますが、その中で大きな論点として残されているものに、基本原則をメディアにも及ぼすことの是非、そして基本原則の持つ意味合いは何かということがあると思うのであります。
 私は、ともに憲法に由来します個人情報保護と表現の自由とがあたかも対立概念であるかのような言い方がされますのは大変に問題であって、個人情報保護と表現の自由とは基本的に両立し得るものだ、そういうように考えております。報道といえども、報道の自由とともに、取材されたり記事にされたりする方の人格権が尊重されるべきことは論をまちません。また、報道機関が自主規制に取り組んでいるからといって、基本原則は適用しなくてもいいんだ、そういうようなことは言えないのではないかと思うのであります。
 問題は、法案の基本原則の法的性質について、誤解も含めてさまざまな理解がされ、これが議論を混乱させているかに思われることであります。ただいま藤原参考人から、基本原則の法的性質は、いわば各人による努力義務規定であるとの説明を受けました。そのような努力であれば報道機関においても日ごろ実践されていることだと思いますし、本法案は、そのことを基本的な理念あるいは考え方として明確にしたにすぎないことになります。また、ヨーロッパの個人情報保護法制と比較してみましても、むしろこの法案はメディアが規制対象にならないように、メディア保護に手厚い、メディアに配慮した緩やかな法制だとのお話を今伺った次第であります。
 そこで、藤原靜雄参考人にお尋ねをいたします。法案の基本原則がそのような法的効果を持つにとどまるものであれば、あえてメディアを基本原則の適用除外とするまでの必要はないと思いますが、どのようにお考えでしょうか、お伺いをしたいと思います。
藤原(靜)参考人 今の御質問の中にありましたように、また私が先ほど意見を述べさせていただきましたように、個人情報の適正な取り扱いに自主的に努力する、努力すべきということはメディアであっても当然のことでありますし、現にそのような取り組みも行われ始めたかのように承っております。ただ、諸外国と比べれば、その自主性、自主的取り組みというものはまだ十分とは言えないと思います。例えばドイツ等と比べても、苦情処理手続あるいは実効ある権利救済手続という意味で不十分なものであります。
 しかしながら、自主規制の方向、自主的取り組みの方向に動き始めた。だとすれば、各人が置かれた状況に応じて自主的に努力すれば足りるというのがその基本原則であります。ですから、そのような基本原則からメディアだけを除外すべき積極的な理由は見出しがたいのではないかと考えております。仮に、表現の自由という観点からメディアのみを除外すれば、他の自由にかかわる分野についてはなぜ除外しないのであるかという議論が始まろうかと思います。
 それから、先ほど櫻井参考人から御意見あったところですけれども、基本原則がメディアに及ぶといたしましても、行政による関与や罰則は予定されていない。また、これを根拠に直接に、先ほど申し上げましたように、開示請求権等が導かれるわけではございません。ただ、報道の自由、表現の自由が不当に妨げられないように、例えば四十条において配慮規定が置かれているわけであります。
 また、先ほど櫻井参考人から御意見のありました不法行為等、早稲田大学の江沢民事件でございますけれども、あらわれるときに、裁判所の解釈原理になるとしても、報道などを含む個人情報の有用性に配慮するということを法目的、第一条に掲げているわけであります。法目的に掲げている以上、メディアが一方的に不利になる、そのような解釈が裁判所でなされるとは考えておりません。先ほどの御主張というのは、裁判官の手からも全く自由な権力をつくれと言っているものに等しい、そのように考えております。
岩崎委員 ありがとうございました。個人情報の適正な取り扱いに自主的に努力すべきことはメディアであっても当然のこと、基本原則からメディアだけを除外すべき合理的な理由は見出しがたいと、明快なお考えを承りました。
 次に、民に厳しく官に甘いという批判があります。この問題について藤原靜雄参考人にお尋ねをいたします。
 防衛庁の個人情報リスト作成問題を機ににわかに高まってまいりましたのが、法案は民に厳しく官に甘いのではないかという批判であります。その論拠とされますのは、行政機関個人情報保護法案には罰則規定がないではないかなどのようであります。私は、そうではない。
 個人情報保護法案では、個人情報取扱事業者の自主性、自律性を尊重し、個人情報保護の観点から必要かつ最小限の規制にとどめているのに対し、行政機関個人情報保護法案においては、行政の公開性、透明性の観点を加味して、個人情報の取り扱いについてはより厳格に制度化されている、当然のごとく官に厳しいものになっていると受けとめているのであります。
 そこで、藤原靜雄参考人にお尋ねします。今回の法案で、個人情報の保護の内容について、実際に民に厳しく官に甘いようなものとなっているのでしょうか、お伺いをしたいと思います。端的にお答えいただきたいと思います。
藤原(靜)参考人 結論から申し上げれば、そのようなことは決してないと思います。
 時間の関係もありますので、ごく簡単に申し上げます。
 第一に、両法制の規律の内容ですが、先ほど申し上げたように、民は入り口と出口は、特に出口は厳しくしてあります。ただ、規律の中身は、自主規制をベースに緩やかなものになっております。これに対して、官は規律の中身そのものを詳細かつ広範に規律しているということで、その意味で官が厳しい。
 それから、近時論議になっております罰則規定の有無ですけれども、民間部門は、確かに罰則規定がございますけれども、個人情報の漏えいにつきまして、悪質な事業者の行為で、例えば主務大臣の命令にも従わない、そういった場合に初めてその命令違反に対して罰則が科せられるという仕組みであります。つまり、勧告を出して、それでもだめなら命令が出る、その後初めて罰則が来るという間接罰であります。一方、行政機関の場合は、これは直罰なわけです。直ちに罰則が来る。また、仕組みそのものも違いますが、罰則の点でも甘いことは決してないのではないか、そのように考えます。
岩崎委員 法案の内容は民に厳しく官に甘いというような批判は全く当たらないとの説明であるということだと承りました。
 次に、住基ネットの施行についての質問をいたします。大橋有弘参考人にお伺いをいたします。
 住民基本台帳ネットワークシステムは、地方公共団体共同のシステムとしてこの八月五日から稼働することになります。全地方公共団体では、稼働に向けてこれまで多額の予算計上を行い、データ整備や住民への広報活動など着実な準備を積み重ねてまいりました。また、住基ネットは、e―Japan重点計画に基づく電子政府、電子自治体構築のためにも重要な基盤となるものであります。これが仮に施行延期となれば、地方公共団体、住民双方に大きな混乱が生じるばかりか、政府が目指す平成十五年度までの電子政府、電子自治体の実現にとって大きな支障となるものであって、そのようなことはあってはならないことであります。
 大橋有弘参考人はこれまで住基ネットのシステムの構築にかかわってきたとのことでありますが、住基ネットのシステム構築に当たりましては、予想されるさまざまな問題を想定して、安全な上にも安全なシステムとなるよう、二重三重にセキュリティー措置を講じていると伺っているところであります。
 そこで、大橋有弘参考人にお伺いをします。他の参考人からの反対意見をお聞きになっての御感想をお伺いしたいと思いますし、とりわけ住基ネットについて、情報漏えいなどのセキュリティーや個人情報の一元化などのプライバシーなどについてこれを問題にする声があるわけでありますが、この点についてのお考えもお伺いしたいと思います。
大橋参考人 今お尋ねの件に関して、まず私なりの感想を申し上げたいと思いますけれども、住基ネットワークに関してはかなり大きな誤解があるのではないか、あるいはこれは行政側がきちんと説明をうまくし切れていないという反省があろうかとも思いますけれども、誤解があるというふうに私は思っております。
 システムの中身、そして制度ということに絡むものですから、なかなか理解しにくい面、そしてそれが国民の方からの理解がなかなか得られないという状況があろうかと思いますけれども、一方では、プライバシーが危ない、番号で管理する、牛は十けただけれども人間は十一けた、こういうレベルの議論ではなかなか国民の理解は得られないというふうに私は思っております。行政側はもっとこの問題について根本的な理解を求めるような努力をすべきでありますし、国民はこの問題そのものの反対をしているわけではないというふうに私は思っております。
 それから、国と自治体との関係ですけれども、この住基ネットはもともと、先ほど申しましたように、自治体の事務、住民基本台帳事務をつかさどっている市町村の仕事であります。それを市町村の中だけではなくネットワークで便利にする、効率化を図る、そして県、国はその結果として、自分の仕事に、別途集めている情報をそこから提供を受ける、恩恵にあずかる立場にあるというふうに思っています。
 そして、先ほど来、少し誤解なのか、あるいは内容を御存じないで、あるいはあえて誤解なのか、私はよくわかりませんけれども、名寄せの問題が出ております。
 名寄せというのは、それ自体が悪ではないんです。今の行政の事務の中で名寄せができないことには、我々は十分な個人のサービスを受けられないことになります。子供がしかるべき年齢になれば、義務教育、学校の就学の案内が来ます。選挙権も、しかるべき年齢に達したときにそれが案内される、通知される。あるいは、卑近な例で申しますと、私なども、役人をやっていた時代、それから大学へ行った時代の稼いだ、あるいは払った年金保険料、最終的には、しかるべき年齢に達したときにすべての保険料を名寄せして、そして適正な年金をいただくわけです。そういう意味で、名寄せというのは、それ自体が悪というのは全く誤解に満ちたものです。
 そして、その名寄せは、限られた範囲内でしか行っていけない、できない、それも当然のことであります。やたらに個人情報を集めて名寄せして、それを見て監視している人がどこにあるんでしょうか。どういう役所がその仕事をしているでしょうか。行政の制度、仕組みを少しでも御理解いただくならば、役所は権限に基づいた範囲内でしか個人情報を利用できないということになっております。それが大前提として御理解いただきたいと思います。行政が悪である、役人は悪であるという大前提では、私たちは、国民と行政の関係は成り立っていないというふうに思います。
 それから、セキュリティーに関してでございますけれども、一つの例を挙げて申し上げれば、通信回線は専用であります。そこに防火壁もある。そこを無理してこじあけて入ってきて得た情報は暗号化されております。この暗号化の技術は今このところ相当進んでおりまして、例えばこの暗号を解読するのに、一台数億円するスーパーコンピューターを何十台も並べて、何十年間そのコンピューターを回せば解けるかもしれない。でも、その間に、既に漏えいしたことはすぐ検知されておりますから、修正すればいいんです。つくり直せばいい。暗号コードは振り直せばいいんです。とても、何十年をかけて暗号解いている人なんかいないと思います。それで解いて得た情報は大した中身ではないんです。
 そういうことで、セキュリティーに関しても、やや誤解に満ちた議論がされているように思います。
岩崎委員 住基法上、システム運用上も、個人情報保護措置は十分に講じられている、こういう御意見でございました。
 私は、住基ネットワークシステムには非常に大きな誤解がある。国民総背番号制であり、国家機関があらゆる個人情報を住民票コードによって一元管理するシステムでないかというような大変壮大な誤解があるわけですが、これは全くあり得ない。住基のネットの基本的な点を全く理解しない意見だろうと思っているわけであります。
 住基ネットが保有するのは、本人の居住関係を公証する氏名、住所、性別、生年月日、この四情報だけであります。そして、法律に定める特定された行政機関と行政事務のためにだけこれが本人チェックのために提供されるのでありまして、提供を受けました行政機関は、その目的のためにだけ使う、目的外利用は一切禁止されている。そして、目的外利用したのにかかわった者は刑罰が加重された重大な守秘義務がかかっているわけでありますし、一切の名寄せや行政機関相互の照合にこの住基番号を使ってはいけないというように、明確に禁止規定をされているわけであります。
 論者が言うように、住民票コードを検索キーとしていかなる情報機関の個人情報データベースも検索することができるんじゃないかということは、これは一切できない、法的な禁止措置がされているわけでありまして、この点についての誤解が一切ないように。それに増して、やはり行政当局が住基ネットの説明あるいは個人情報保護法案等の説明が十分できていないことがこのような誤解を招いている。
 そのことを私は非常に残念に思いまして、行政当局がもう少ししっかり国民にPRをしていただきたいとお願い申し上げまして、質問を終えたいと思います。
大畠委員長 これにて岩崎君の質疑は終了いたしました。
 次に、野田佳彦君。
野田(佳)委員 民主党の野田佳彦でございます。
 きょうは、四名の参考人の皆様におかれましては、当委員会に大変お忙しいところお運びをいただきまして、心から感謝申し上げたいと思います。
 いろいろな質問を多少なりとも考えてきたんですが、今までの質疑を聞いていて、ちょっとこれは違う路線でざっくりいこうかというふうに思いました。
 この個人情報保護法の動きを、国民の不安を、誤解に基づいていると。私は、誤解ではなくて、極めて本質的な問題がある、そのことに対して敏感に国民は不安に思っているということが正解なんだろうと思っています。そのことを踏まえて順次質問をさせていただきますけれども、まず、櫻井参考人にお尋ねをしたいと思います。
 今国会も終盤に入りましたけれども、残念なことに、政治家のスキャンダルがとても多くて、そのことの問題がきょうもまた、同時期に政治倫理審査会で参考人招致をやっているという状況です。
 こういう問題が出てくることはとても残念なんですけれども、こういう問題に光を当てて真相究明をしていくというのは、もちろん国会の仕事でもあると同時に、取材をされている報道機関の皆さんの、あるいはフリーのジャーナリストの皆さんの丹念な取材があったから、こういう悪が、うみが暴き出されてくるんだろうというふうに思うんです。そういう報道をする立場にとって、個人情報保護法、私はとても欠陥が多い法律だと思いますけれども、この法律が成立をしているならば、恐らく巨悪は安心して眠れる、小悪ははびこる世の中になってしまうだろうと私は思うんです。
 特に、櫻井参考人の場合は、薬害エイズ問題等で大変丹念な取材をされてあの安部副学長を追及していったように、これまでも大変すばらしい実績がございますが、この法案が通ったら、櫻井さんの今やっていらっしゃるお仕事にどういう具体的な影響が出るか。基本原則は単なる努力規定ではないというふうに私は思っていますので、その点も踏まえてお考えをお聞かせいただきたいと思います。
櫻井参考人 お答えさせていただきます。
 もしこの個人情報保護法案が成立していたとしたら、一連の薬害エイズ事件の報道はほとんどが成り立たなかったであろうというふうに私は考えます。
 例えば、個人情報をとるときに、その利用の目的が明確にされなければならないということが基本原則の第四条にございます。また、第五条は、個人情報は適法かつ適正な方法で取得しなければならないという規定がございます。また、第八条では、「個人情報の取扱いに当たっては、本人が適切に関与し得るよう配慮されなければならない。」というふうに書いてございます。
 私は、生物製剤課長だった松村明仁さんも、帝京大副学長だった安部英さんも、その周辺を、ここで詳細を申し上げることはできないんですけれども、極めて多くの方々、それから一見関係のないような人のところまで足を運んで、何十時間という時間を費やして取材をいたしましたけれども、これが、どのような目的でこの情報を得ようとするのかとか、本人の確認を得ているのかとか、その情報を得たときに、本人に、これを公表していいのか、どういうふうに扱ったらいいのかということを申し上げて了承を得なければならないとしたら、あの報道は一切表に出なかったというふうに思います。
 ですから、その私の体験からも、この個人情報保護法案を成立させるようなことがあれば、この国のジャーナリズムは死ぬと思います。死なない、大丈夫である、十分な配慮をしているというのは、ジャーナリズムを全く存じていらっしゃらない方のおっしゃることだと思います。
野田(佳)委員 引き続き櫻井参考人にお尋ねをしたいと思います。
 もう一方の行政機関の個人情報保護法にかかわることでありますけれども、これは当然住基ネットの問題にもかかわってまいります。
 先ほどのお話で、九月十一日のあの同時多発テロ以降のアメリカの動きについて御示唆をいただきました。結局は、通し番号をつけようとしながらも、一方でやはり懸命な、デモクラシーの危機に思いをいたして、議会が最終的には歯どめをかけたという動きだったと思いますけれども、私は、それと同じような事例を、ちょうど昨年の今ごろですけれども、韓国に行ってまいりまして、韓国におけるプライバシー保護制度合同調査団という、一部の国会議員と、そして首長、ジャーナリスト、学者の皆さんと行ったんです。
 御案内のとおり、韓国は、もう三十数年前から国民に番号はつけられております。そして、九七年にICカードの導入も図られようとしました。しかし、結局は、やはり国会議員や市民活動家のさまざまな意見が噴出をして、カード化までは阻止をしたという経緯があるんですね。
 番号は完全に社会の中に溶け込んできている。もう社会的なインフラだと思います。旅館に泊まるにも、商取引するにも、土地取引するにも、あるいは自動車の登録をするにも番号は必要です。これは、南北分断の歴史を考えると、やはりいまだに厳しい緊張関係がありますから、そのことはあの国にとっては必然だったのかもしれませんが、さすがにカード化までは踏みとどまっているんですね。そこまでいったらプライバシーの侵害になってしまう、その漏えいの危機もいっぱいあるということで、ぎりぎり歯どめをかけている。
 私は、これも国のありようを、民主主義とは何ぞや、自由主義とは何ぞやという、まさに深い洞察を踏まえた動きだったと思うんです。アメリカもそうだ。韓国もそうだ。だけれども、今、日本の議論というのは、残念ながら、民主主義とは何ぞや、自由主義とは何ぞやという深い洞察を踏まえてこの議論ができていないように私は思うんです。
 私は、櫻井参考人の立論といいますか御主張には、まさに自由とかデモクラシーを踏まえた今回の法案に対する姿勢が見えてくるように思いますけれども、その点についてのお考えをお聞かせいただきたいと思います。
櫻井参考人 先ほどの十五分間のスピーチでも申し上げましたけれども、この個人情報保護法案、住民基本台帳ネットワーク、すべてを含めて通してきますのは、官僚による国民の支配でございます。その国民の中には政治家の皆さん方も入っていると思っていただきたいと思います。
 例えば、アメリカでは、国会議員の皆さん方がITコーカスというのをつくっております。百五十名ほどの議員の方々が集まって、このコンピューター社会、インターネット社会に技術というものをどのように政治に従わせていくのか、技術によって政治が振り回されるのではなく、政治の思うところに技術をどのように取り込んでいくかということを非常によく勉強しているんですね。政治家でありながら、その辺のコンピューター技師とは負けないくらいの技術論を闘わせるくらいの実力が彼らにはございます。
 国会議員の皆さん方は非常にまじめな方たちが多いと思います。住民の方々を思っている方も多いと思いますけれども、本当に、例えば、住民を守るために、デモクラシーの国として、民主主義の国としてこの国を守るために、では、私たちはコンピューターをどういうふうに使うのかということについて、技術論を少しでもお勉強なさったことがあるだろうかとちょっと問いたいと思うんですね。
 私は、技術と観念論というものが一致しなければ観念論は空回りをしてしまうというふうに思います。例えばこの行政個人情報保護法案のことを、先ほど大橋先生は、目的外利用されるようなことはない、住基ネットではそのようなことはないとおっしゃいましたけれども、住基ネットがこの行政個人情報保護法案と重なりますと、住基ネットで集められた情報は、行政に入った途端に行政個人情報保護法案によって規定されるんですね。その行政個人情報保護法案は、第三条で、利用目的を変更する場合には、相当の関連性があればよろしいと書いてございます。そして、ある特定の役所が得た情報をほかの役所に使い回しすることについて、その第八条で、これも、内部で利用する場合、相当な理由があれば一つの役所からほかの役所、独立行政法人もしくは地方自治体に使い回しをしてもよろしいということを法律で書いてあるのが行政個人情報保護法案ですね。ですから、これは使い回しされることは確かなんです。
 それから、岩崎先生ですか、罰則はあるというふうにおっしゃいましたが、これは罰則がないんです。そこのところを御認識を新たにしていただきたいと思いますし、この三つの法律のどこを見ても、国民に十分な情報を与え、メディアに十分な自由を与え、そしてそれをもって国民に考える能力を育てさせて民主主義をもっと充実した健全なものにしていこうという意図はどこにもないと思います。
 アメリカで大統領が生まれましたときに往々にして言われるのは、あのケネディ大統領でさえもCIA長官には頭が上がらなかったといいます。その理由は何か。行政府が余りにも多くの個人情報を、プライバシーを知っているからなんですね。アメリカの議員の皆さん方は、このように政治がいわゆる官僚に従うのではだめなんだ、政治がイニシアチブをとらなければならないんだということでITコーカスをしているんですね。
 そういう意味で、デモクラシー、自由、そして政治の理念と技術をどういうふうに結びつけていくかということを委員の皆様方全員に心して学んでいただきたいとお願い申し上げたいと思います。
野田(佳)委員 今回の個人情報保護法の審議は住基ネットの問題にもすごく深くかかわっていますけれども、そのことを端的にお話をされたのが平成十一年六月の小渕元総理の御発言でございました。自由主義とか民主主義とかを踏まえた御発言かどうかはわかりませんが、しかし、少なくとも包括的な個人情報保護法の制定が住基ネット稼働の前提であるというお話をされて、それを踏まえて附則もつけられたわけでございます。
 これは、今になってみると、時間的にも、今、衆議院でこういう状況でございますので、とても法案が通る状況ではないことはもう明らかです。今国会、もう成立はしません。でも、にもかかわらず政府の答弁は、小渕元総理の発言には法的拘束力はないという言い方です。法的拘束力云々ではなくて、私は、政治家の言葉の重みをどう考えるかだと思うんです。櫻井参考人は先ほど、官の暴走、独走をおっしゃっています。私は、時の総理大臣、トップの方が政治家として国民にあるいは国会に約束をしたこと、そのことをどう受けとめるか。政治主導の国と言われながら、総理大臣の言葉がこんなに、役所側の答弁の都合で、法的拘束力もないと一言で言われちゃうととまってしまう、納得してしまう与野党の政治家では私はいけないというふうに思っています。
 そういう意味では、ちょうど今櫻井参考人も住基ネットの延期、凍結に向けて大変精力的な動きをされていますけれども、その点のお考えをぜひお伺いしたいと思います。
櫻井参考人 まさに野田さんのおっしゃるとおりだと思います。
 例えば、小渕さんは、現職の総理大臣として、自民党の党首として、国会の場で三度にわたりまして、住民基本台帳ネットワークの施行については、政府は個人情報の保護に万全を期するために速やかに所要の措置を講ずるものとするということをお答えになりました。三度にわたって現職の総理大臣が、皆様方の党首としても、総理大臣としてもお答えになったわけですね。
 それを今になりまして、いや、あれは小渕さんの個人的見解でありますと。そして、小渕さんは、総理大臣は行政府の長であって立法府の長ではありませんと。行政府の長は法律をつくることはできないんです、だから、法案を考え、中身を吟味して文言をつくって、法案として国会に提出したところで総理大臣がおっしゃったことの意味は全うされるのです、そこで個人情報保護の措置は万全の措置がとられたことになるんですということを福田官房長官がおっしゃいましたが、これは何と天につばする言葉でございましょうか。これは、政治家が政治家の最も重い職責であります総理大臣の責任を放棄するものでございます。政治家の責任を放棄して官僚の指示に唯々諾々と従うというのがこの答弁ではありませんでしょうか。もし政治家が、国会でどのような約束をしても、答弁をしても、その答弁の内容をただの作文にして、内閣法制局にでも相談をして法案にして国会に提出すればそれで責任が果たせるというのであるならば、こんなことはだれにでもできます。
 そして、皆様方の現実の政治活動をお考えになっていただければ、法案を提出しただけで本当に内閣総理大臣の責任は全うされるんでしょうか。そうであるならば、なぜ今小泉さんは闘っているんですか。なぜ道路公団の改革法案を出して、そこでこれですべてよしとならないんでしょうか。なぜ特殊法人の改革法案を出した段階ですべてこの特殊法人の改革は全うされましたということにならないんでしょうか。有事法制もそうです。郵政三事業の関連法案もそうですね。医療法案もすべてそうです。法案を提出した段階で責任が全うされるのであるならば、それから先小泉さんが批判されたり褒められたりすることは全くないのでございまして、そのようなことで政治家の責任が全うされるということを皆さん本当に信じておられるのであるならば、これは政治に対するこの上ない否定であり侮辱であると思いますし、皆さん方を国会に送った国民に対するこの上ない裏切りだというふうに私は思います。
 したがって、小渕さんが約束をしたこの個人情報の保護に万全を期するために速やかに所要の措置を講ずるということが実行されない限り、つまり、これは、国会の皆さん方は個人情報保護法案だという形で論議をしてまいりました。私は、個人的に、個人情報保護法案が成立したとしても個人情報は守ることができないという考えでおりますけれども、表向きの形式論としても、皆さん方は個人情報保護法案を成立させることが個人情報の保護に万全を期するための措置であるという前提でお話しになってこられたわけですから、この個人情報保護法案が通らないまま住民基本台帳ネットワークを施行することは、明らかに法律違反でございます。
 なぜならば、今申し上げたこの個人情報保護に万全の措置を速やかに講ずるというのは、改正住民基本台帳ネットワーク、附則第一条第二項となって法律となっているからですね。この法律を満たさずに施行するということは、行政府及び立法府がみずから法律違反を犯すことになるということを申し上げたいと思います。
野田(佳)委員 時間が本当に少なくなってしまいまして、藤原宏高参考人にたくさん聞きたいことがございましたが、絞ってというか、例えば、もう一人の藤原靜雄参考人、さっき官に甘く民に厳しいということに対する岩崎委員の御質問に答えがございましたが、多分全く違うお立場だと思います。そのことについてひとつ触れていただきたいのと、それから大橋参考人から、名寄せの問題については何か誤解があるんではないか、そのものは悪ではないというお立場のお話がございました。あるいはセキュリティーについてもお話がございました。私は、多分、藤原参考人は全く違う立場だと思っています。
 藤原参考人、私は以前、「サイバースペースと法規制」という御著書を読ませていただいたことがございます。また、最近も、「電子署名と認証制度」ですか、まさにこの分野の専門家です。まとめて、短時間ですが、言いたいことがあれば言っていただきたいと思います。
藤原(宏)参考人 まとめられるかどうかわかりませんが、簡単に申し上げます。
 行政機関がさまざまな情報を電子化して蓄積するということで名寄せはできるということですから、それはある意味では膨大な権力を持つことに等しい。従来の紙であればそういうことはできない。したがって、行政機関の中でわからない形で個人情報が勝手に使われるようなことは決してあってはならない。見えないわけです。民間は幾らでも、マスコミが厳しく指摘するとか、そういう方法でコントロールができる。しかし、行政機関の中は見えないのであります。したがって、行政機関の保有する個人情報保護法というものは、きちんと見えない中でも機能する法律でなければいけない。
 ところが、現在の法案は、目的外利用の規定はありますが、罰則はありません。先ほどの自民党の先生の質問は、厳しい処罰があるかのような説明は誤解であります。それから、現在の住民基本台帳法上も目的外利用は禁止されておりますが、単なる努力義務に等しい。全く努力義務としかなっておりません。罰則はありません。この点も極めて誤解されているのではないかと申し上げたい。
 そういうことで、現在の状態では、行政機関が保有する個人情報保護法は、今後の電子政府の時代においては全く何の歯どめにもなっていないということで、官に甘いということを御理解いただきたい。
 それから、セキュリティーは、日弁連はこれまでも六回ほど地方自治体の現場の職員の人たちと勉強会をしてきましたが、不正は地方自治体の中から起こるとはっきり市町村の担当者が言っておるんです。つまり、住基ネットの担当者の中から、不正は市町村の中から起こると言っておるんです。
 それは簡単です。コミュニケーションサーバーと言われる全国のデータベースを検索できる端末があたかも廊下の隅のようなところに置かれており、だれがさわってもいいかのようなところに管理されておって、そして、その機械をだれが扱うのか、専任の担当者も決まっていない。セキュリティーの教育も受けていない。これが現状です。
 そういう中で一万台を超えるであろう端末を持つ住基ネットを動かせば何が起こるのか。技術的に万全だから問題はないということを我々は信じていいんでしょうか。そうではありません。担当者は危険だと言っておるんです。その声をどうして国会は聞かないんでしょうか。
 以上です。
野田(佳)委員 時間が来たので終わりますが、本当は参考人をもっとお呼びして聞きたい方がたくさんいらっしゃる。例えば、堀部参考人、園部参考人、検討部会や専門委員会の座長クラスの方にも来ていただきたかったというふうに私は思います。そのことはちょっと残念ですので、また次にチャンスがあればと思います。
 終わります。
大畠委員長 これにて野田君の質疑は終了いたしました。
 次に、河合正智君。
河合委員 参考人の諸先生におかれましては、御多忙のところ御出席を賜りまして、最初に厚く御礼を申し上げさせていただきます。
 藤原靜雄教授は鼎談の中で、「およそ法律の底には政治の情熱、道徳の理念、経済の必要が流れている」という尾高朝雄先生の言葉を引かれております。この議題となっております個人情報保護法制につきましても、人類にとりまして、農業革命、産業革命に次ぐ第三のデジタル革命によるIT社会の角度からの政治の情熱、それからIT社会特有の情報漏えい等によるプライバシーの侵害等の社会の要請、それから第三番目でございますが、経済の必要ということにつきまして、ネットワーク社会といえばもはや単なる国内問題ではない、一九八〇年のOECDガイドライン、一九九五年のEU指令は、個人データの流通と保護の問題は国際的な枠組みを必要とする問題であることが確認されていますと述べられております。
 特に、この内閣委員会におきましても、この第三の問題、この問題につきまして議論が非常に欠けていると私は認識しております。
 したがいまして、私は、個人情報保護法におけるメディアの取り扱いにつきましての国際的な水準について、特に、時間の関係で、藤原靜雄先生にお伺いさせていただきます。
 日本国内に、本法案はメディア規制法であるといったキャンペーンがございますけれども、国際比較を通して、果たしてそれがどうなのかを明らかにさせていただきたいと思います。
 まず、EU指令についてお伺いさせていただきたいと思います。
 EU指令の第九条では、加盟国は、プライバシーの権利と言論の自由に関する現行の規定を調和させる必要がある場合に限り、ジャーナリズム、芸術または文学上の目的のためにのみ行われる個人データの処理について適用除外を定めるものとすると定めておりますけれども、これをどのように解釈すべきとお考えでしょうか、お伺いさせていただきます。
藤原(靜)参考人 お答えいたします。
 現行のEU指令の第九条の文言につきましては、EUにおきましても報道関係の団体が積極的なロビー活動を展開したところであります。ただ、御指摘のとおり、報道分野を一括適用除外にせよとの主張は受け入れられておりません。つまり、例外的な条件を置くための条件の整備をメディアに求めているわけです。
 その場合、その適用除外というのは比例原則に反してはならない。つまり、実際に意見の表明の自由が侵害される可能性があって、この自由を実際上行使するために必要な場合にのみ、その場合に初めて適用除外が選択されるということでございます。
 つまり、個人のプライバシーの権利は適切に守らなければならない。適用除外というのは、この指令のほかの規定や他の特別な規定に基づく例外が十分に柔軟でありまして、プライバシー保護と意見の表明の自由というものが調整できるときには、場合によってはそういう国では必要もないということを明確に述べております。そして、適用除外の範囲からはセキュリティーというものは除かれております。要するに、比例原則、つまり、実効ある権利救済が一般の国民に対してなされて初めてメディアの特権も認められる、そういう立場であります。
河合委員 EU指令第二十九条に基づく作業部会におきまして、適用除外はメディアやジャーナリスト自体を守るものではない、ジャーナリズム目的のための個人データの処理を守るのであるとしております。そこで、私は、ジャーナリズム目的、文学上、芸術上の表現目的のみを適用除外としている、このことにつきまして、ここで言うジャーナリズム目的というのは、公共性、公益性といった概念が内包されているのではないかと考えます。
 特に、先ほど藤原靜雄参考人は、陳述されました中で大綱を引かれました。この大綱の記述につきまして、また、先生は論文で、「報道機関も適用除外についての配慮を受けた結果として相応の責任を負う」と述べられておりますが、その見解について改めてお伺いさせていただきます。
藤原(靜)参考人 相応の責任という議員の御質問の点でございますけれども、先ほど御質問の中にございましたように、EUの立案過程で最大の有力な議員たちが主張した中に、メディアとかジャーナリズム、ジャーナリスト自体を守るのではなく、表現の自由、国民のためのジャーナリズム目的の個人データ処理を守る、それが目的であるということが言われたわけです。
 指令は、表現の自由とプライバシーの権利の調整を求めている。指令から導かれる権利義務を制限するということが、先ほど申し上げました、また御質問の中にありました比例関係にあるというためには、特に専門委員会の見解によりますれば、各人がメディアに対して行使し得る保障がきちんと考慮されておらなければならない。つまり、例えば、公表以前に情報にアクセスする権利とか情報を訂正する権利を認める、これはメディアにとって大変な事態でございますから、許されないであろう。しかし、そうであるとするならば、公表後に反論権あるいは誤った情報を訂正する権利を認められてしかるべきではないか。それで比例関係にあると言えるのではないか。
 すべての場合において、個人というのは自分の権利の侵害に対して適切な権利救済が求められなければならない。したがって、権利救済でありますとかは適用除外にはならない。つまり、例外規定とか適用除外規定が比例原則にかなっているか否かということは審査される。そして、その審査の際には、ジャーナリストというものの持つ倫理的、職業的義務、あるいは当該職能にある者によって自発的に組織された団体による監視というものがきちんとなされているかどうか、そういったところを総合的に見る。つまり、何よりも実効的な権利救済があって初めて自分たちの先ほど申し上げたような特権というのは貫くことができる、そういう立場をとっております。
河合委員 次に、ドイツにおきます適用除外の対象につきましてお伺いさせていただきます。
 EU指令では、先ほど申し上げました適用除外としておりますのに対しまして、ドイツでは、適用除外の対象が、報道関係の専ら自己の報道編集上の、または文学的な目的となっております。
 ここで質問させていただきたいんです。ここで文学を挙げられておりますが、これはルポルタージュ的なものに限定されていると言われておりますが、それはなぜなのか。それから、ドイツにおきましては芸術は適用除外の対象から除外されておりますが、なぜなんでしょうか。また、日本では、一部でも報道が含まれていれば適用除外となるというふうにこの法律はつくられておりますが、日本とドイツを比較してどのようにお考えでしょうか。
藤原(靜)参考人 お答えいたします。
 今の御質問のとおり、芸術というものは、まず、ドイツの憲法でありますところの基本法五条三項にも規定されている、そういった事情があります。しかしながら、そもそも文学とか芸術といったものは大変外縁の定めにくいものであります。どこからどこまでが個人情報保護法との関係での文学であり芸術であるのかというのは一義的に定めがたい。
 そこで、ドイツの議論におきましては、従来、プレスの自由ということでメディアの特権が認められてきたわけでございますけれども、その場合、プレスといった場合には、定期的刊行物でございますとか週刊とか月刊とか季刊とかといったようなものが念頭に置かれて自由を認められてきた。そして、たまたま単発的に出る出版のようなものにつきましては、個人情報保護法との関係で議論があった。そこのところの議論を整理するために文学というものを入れて、これは出版というものについても配慮をしておりますよということを認めたわけです。ただ、その点は、既に我が国の方は認められているところでございます。
 それから、一部でも報道目的が入っていればという御質問でございますけれども、ドイツの場合は、これはEU指令を受けまして明文で専らと、つまり、主として報道目的でなければならないんだという規定ぶりになっております。そして、そのような前提でただいま各方面で議論がされているところであります。
 したがって、この両者を比べるならば、その場合、前提は、ドイツというのは、ヨーロッパの中でも個人情報保護を重く見ているけれども、ただし、歴史的な経緯から表現の自由を非常に重視している、その国に属すということでありますけれども、その表現の自由を重視している国においても専ら報道目的でなければならないという限界が引いてあるわけであります。
 それに比べますと、我が国の場合、たとえ一部でも報道目的がかかっていればジャーナリズムの自由、メディアの自由は守られるわけでございますから、非常に緩やかというか、表現の自由に厚く配慮した規定になっていると考えるわけでございます。
河合委員 翻って、日本の適用除外の意味についてお伺いさせていただきますが、ヨーロッパ各国の法制におきましては、EU指令に従いまして、メディアに関してすべての義務規定を適用除外としているわけではございません。特に安全管理措置につきましては、EUの個人情報保護に関する特別調査委員会による勧告、一九九七年になされておりますが、そこにおきましても適用除外は認められないということになっております。それにもかかわらず、日本では安全管理措置を含むすべての義務が適用除外となっておりますが、この点についてどのようにお考えでしょうか。
藤原(靜)参考人 お答えいたします。
 今の御質問にございましたように、安全管理義務というのは、個人情報保護法制を持つ国では、EUを受けて、ヨーロッパの諸国ではすべて義務規定となっております。おっしゃるとおりです。
 そして、それはなぜかと申しますと、個人情報保護の問題には、人格権につながる部分と、もう一つ、先ほど来議論になっておりますデータのセキュリティー、技術的なセキュリティーにつながる部分がある。どちらかというと安全管理義務というのはデータのセキュリティーにつながる部分であります。そこにおいて組織的または技術的に万全の措置をとることが求められる。そうでないと、今日新聞等をにぎわわせておりますように、ホームページ等から大量の情報が流出するというようなことになるわけです。したがって、比較法的に見ますと、安全管理義務を努力義務にしてしまうとか一般的な義務規定にしない国というのは非常に珍しいと思います。
 以上であります。
河合委員 次に、監督官庁と、それに関係しましてメディアの自主的な取り組みについてお伺いさせていただきたいと思います。
 藤原教授はこのようにお述べになったことがございます。我が国の実情というのは、独立した監督機関が不存在である、それからメディアの実効ある自主規制制度が欠如しているということを認識された上でお書きになっています。そのことを踏まえましてあわせてお伺いさせていただきますが、ヨーロッパ各国では、形態の違いはございますけれども、メディアについても何らかの監督機関が置かれております。それに対して、日本における個人情報保護法案では、メディアに関する主務大臣は置かれないという仕組みになっておりますが、この点についてどのようにお考えでしょうか。
 また、ヨーロッパ各国の法制におきましては、メディアがそれぞれ個人情報の取り扱いについて行動基準を策定しております。それに対して監督官庁が審査を行うなど、何らかの関与をする仕組みとなっております。日本の個人情報保護法案におきましては、監督官庁は関与しない、メディア自身による基本原則に沿った自主的な取り組みとその公表を求めているにとどまっておりますけれども、この点についてどのようにお考えでしょうか。
藤原(靜)参考人 ただいまの点についてお答えいたします。
 まず、主務大臣でございますけれども、主務大臣というのはメディアにもあるのが外国の姿であると思います。例えば、ドイツは州の内務大臣でございます。イギリスには文化・メディア・スポーツ担当大臣というのが存在いたします。もちろんこれはそれぞれの国の歴史、事情を反映していると思われるわけですけれども、主務大臣がいないという点についてのみ申し上げれば、その分、先ほども申し上げましたように、国民との関係でのメディアの側の自己責任が重くなるということだと存じます。
 そして、それについて自主的取り組みということと監督官庁ということでございますけれども、自主的取り組みということにつきましては、先ほど来申し上げておりますように、例えばドイツには報道評議会というものがございまして、メディアの各代表、さまざまなメディアの代表が出まして中立的な機関をつくっている。ただ、その中立的な機関はかなり長い歴史を持っているんでございますけれども、その中立的な機関でさえ、このたびの二〇〇一年の個人情報保護法が制定される、つまり、EU指令を受けた個人情報保護法が改正されるに当たりましては、やはり身内に甘いのではないかという批判を浴びまして、プレスコード、つまり、メディアに携わる者としての倫理コードを大幅に改定しております。その中には、個人情報保護の処理に関する苦情処理規程というものがきちんと定められていたり、新たに苦情処理手続に係る規程というのが詳細に定められております。従来も個人情報保護に留意するという程度の規程はあったのでございますけれども、ドイツの場合では、それでは不十分であるという批判を受けてつくったわけであります。
 それから、監督官庁ということでございますけれども、我が国の場合と違いまして、例えば、イギリスには、その自主規制をするガイドラインをおつくりになるときに国務大臣が出てくる。あるいは、ドイツの場合でも、表現の自由を尊重してメディアとの関係に配慮しますが、それでも内務省の担当者がオブザーバーとしてメディアが自主規制をつくるときには出てくる。さらに、フランスでいえば、クニールで自主規制のガイドラインそのものを審査してもらえるといったような仕組みになっております。そして、ただ審査することができるということでありまして、メディアは必ずしも、例えばフランスの場合でもドイツの場合でも、行政機関の審査を受ける必要はないわけです。しかし、その場合には、国民がどういうふうな態度を示すかということが大事になってくるわけであります。
 いずれにせよ、その自主規制というものにどのように取り組むかというのは、今後の重要な課題ではないかというふうに考えております。
河合委員 最後になると思いますが、第三者機関についてお伺いさせていただきます。
 藤原先生は、論文の中で、将来的な課題としまして、「苦情処理なども含めて、個人情報保護法制度の運用に最終的に責任を持つ独立した行政機関の必要性も議論されるべきであろう」とお述べになっております。
 現段階でこの法律におきまして第三者的な独立機関を選択しなかった理由。それから、第三者機関といいましても、例えばアメリカにおきましては、FTCにおきましては訴訟の提起権も有しておりまして、被害者にかわって裁判所に訴えることもできるわけでございますが、ヨーロッパ各国でもそれぞれ違いがあるように思います。どのようなタイプの第三者機関が日本の制度として将来検討するときにふさわしいとお考えでございますか、お伺いさせていただきます。
藤原(靜)参考人 第三者機関の問題というのは、行政法学においても非常に悩ましい問題でありまして、いろいろと難しい議論があるところでございます。それは、今から申し上げるような理由があるからであります。
 すなわち、一方においては、我が国においては常に行政改革の流れというものがあるわけでございます。組織が簡素化されなければならないし、もしも屋上屋を架すような組織であればつくらない方がいいという流れがずうっとあるわけでございます。しかしながら、もう一方に、確かに第三者的な中立な機関が重要な行政分野では重要である、そういう要請があるわけでございます。
 そこで、諸外国の様子を見てみますと、諸外国の委員会の中には、今御質問の中にありましたアメリカのFTCのように、特定の分野ではございますけれども強い権限を持つ機関もある。これに対してヨーロッパの場合には、どの国でも、例えばイギリス、ドイツ、フランスなどを見てみますと、六十人から八十人ぐらいの事務局体制を持った独立機関がある。
 しかしながら、その中でも、よく誤解されるので一言申し上げておきますと、例えばドイツの場合、公的部門は、連邦のデータ保護監察官、オンブズマン的な役所が包括的にコントロールしております。しかしながら、民間部門につきましては各州の内務省管轄でございます。つまり、民間部門につきましては、各州の官庁、内務省でありますとか首相府に置かれた部門でコントロールしているというわけです。そういうやり方もあるということです。
 さらに言えば、フランスのクニールというのはとても権限の強い機関でございますけれども、これは事前規制、届け出制の審査等もやるような機関でございます。さらに、イギリスのコミッショナーというものは、これはメディアのあり方にも口出しをする権限が条文上認められているような機関でございます。
 我が国の場合を考えますと、公的部門におきましては、情報公開・個人情報保護審査会というのができるわけでございます。私は、地方自治体の情報公開条例、二十年以上の歴史があるわけでございますけれども、その歴史を追って研究したことがございますけれども、この審査会の答申の持つ機能、審査会で答申が出て、それが行政機関、地方自治体でいえば首長部局等に与える影響というのは非常に大きなものがございます。つまり、この審査会が有効に働けば相当の部分カバーできる。
 それからさらにもう一つ、例えば我が国の場合、民間部門につきましても国民生活センター等での蓄積がございます。苦情処理、消費者問題でありますけれども、実際のアンケート、統計等によれば、個人情報保護の問題も多く来ております。ここでのノウハウもあるということで、私が現在申し上げられることは、その審査会でありますとかあるいは国民生活センター等の機関、こういった、現在与えられている、あるいは現在活躍している機関をまず利用してみて、その結果、それでもやはり第三者機関が要るということであれば、それは今後の課題として後日検討するというのがこれまでのこういう立法のあり方からして現実的ではないか、そのように考えております。
河合委員 貴重な御意見と御示唆を賜りました。大変ありがとうございました。
大畠委員長 これにて河合君の質疑は終了いたしました。
 次に、工藤堅太郎君。
工藤委員 自由党の工藤堅太郎でございます。
 参考人の先生方には、お忙しい中を御出席いただきまして、私からも厚く御礼を申し上げたいと存じます。
 これまでの質問と重複する点が多々あろうかと存じますけれども、どうぞよろしくお願いを申し上げます。大分のどがやられておりまして、しゃべり過ぎだそうでありますが、お聞き苦しいと思いますけれども、御容赦をお願いいたします。
 まず、櫻井よしこ参考人に二、三お尋ねをいたします。
 総務大臣が、来月五日の住基ネットの稼働は、あくまで個人の住所、氏名、性別、生年月日の四項目に限って運用するので、システム上、個人情報の外部流出は考えられないというように話しておられるわけでありますが、参考人はかなりの自治体関係者と接触をされて、その対応ぶりに危険性が感じられると訴えておられるわけでありますけれども、その根拠はどのようなものか、まずお伺いをいたします。
櫻井参考人 工藤先生にお答えいたします。
 地方自治体に行ってみますと、総務省が机の上でお考えになっている住基ネットの構成図というのがございますけれども、それと地方自治体の実態がまず全く違います。例えば、総務省がお考えになっているこのネットワークの構成図の中では、住民基本台帳の部分は完全に独立している形になっているんですね。この住基ネットの回線はほかとはつながっていませんというふうにおっしゃるんですね。
 きょう実は、余りにもややこしい図なのでそれを持ってこなかったんですけれども、もし必要であれば後ほど委員会に届けさせていただきますけれども、ある県で、総務省の指示に従いつつ、住民基本台帳ネットワークのコンピューター構成図をつくって、それに従って一生懸命つくろうとしているんですが、そこに民間の企業の方が手伝いに来ました。地方自治体の六四%ですか、六〇%以上が専任の職員を一人も置いておりません。ゼロ人でございます。民間企業に丸投げしているというところが自治体の大体七〇%でございますから、いろいろな自治体に民間の企業の方が行っているんですが、民間のコンピューター技師に対してある県が、こういうものをつくれと総務省に言われているんだけれども困りました、どうやったらいいでしょうと言って、その大事な大事な構成図を見せたんですね。
 その構成図を見ましたら、もう見事にこの住民基本台帳ネットワークは、セグメントとしては分かれているんですけれども、線としては全部つながっているんです。しかも、小中学校、公民館、図書館もずうっとつながっていて、住民基本台帳ともつながっていて、それがほかのさまざまな行政サービスのラインともつながっていて、そしてインターネットにつながっているんですね。ということは、これは現実は全然違うんだなと。
 それから、先生もおっしゃいましたけれども、とても厳重にファイアウオールを設けているんだとおっしゃるんですが、本当に地方自治体に行ってみますと、いや、うちはまだ、独立した端末機を使うようにと指示されているんだけれども、そんな余裕も職員もないし、この今使っている端末機で住民基本台帳ネットワークの打ち込みの作業をやっているんですとおっしゃるんですね。だから、端末機も一緒だということはラインも一緒だということですね。
 まず第一に、ですから、独立したラインであるということが真っ赤なうそであるということが一つ。
 それから、地方自治体の方々に聞いてみますと、いや、これは四情報だけではなくて、例えば、住民が引っ越したときに一緒についていく児童手当とか介護保険とかそれから生活保護とか、そういうのも全部くっついているんです、これはもう最初からくっついているんですと。そのほかにサービスを広げていきますから、サービスが広がっていけばいくほど、いろいろな情報がここにぶら下がってきます。四情報は本人確認のための情報として入れますけれども、この本人確認のための十一けたの番号もしくは四けたの暗証番号をネットで拾っていけば、これは十分にとれるんですというのが地方自治体の方及び地方自治体を助けている技術者の言葉でございますから、私は、これは大変に危険なことだというふうに申し上げてまいりました。
工藤委員 ありがとうございます。
 総務省は、今回の住基ネットの稼働について、先ほど申し上げましたように、極めて制約した上で運用するので何ら問題はない、このように言っているわけでありますが、去る六月七日に、電子政府構想を進めるためと称して、現行法の住基ネットの利用事務九十三件を二百六十四件に拡大する電子政府関連法案を閣議決定しました。
 さすがに、この法案、個人情報保護関連法案が審議中であるといったようなこととか、まだ住基ネットが稼働していないというようなことで、それに新たな要件を加えるということは与党内でも反対があったということで、事実上断念したというような状況でありますが、こうした政府の対応は、将来あらゆる行政事務をネット化していこうという意図が明白でありまして、そこには個人情報保護に対する基本的な思考が欠落をしている、私はこのように思うわけであります。まさに近い将来、総背番号制に移行して一元化した巨大ネットワークができ上がることになるおそれが大である、このように思います。
 そこで、世界の現状に精通しておられる櫻井参考人、こうした社会の出現はどのような問題を惹起してくるんだろう、どのように思われるのか、その点をできるだけ簡潔にひとつお願いします。
櫻井参考人 日本が今導入しようとしている住民基本台帳ネットワークというシステムは、国民に赤ちゃんからお年寄りまで番号を振って、カードを持たせて、そのカードにICチップを埋め込むシステムでございますが、これは、世界広しといえども日本しか採用していない仕組みなんですね。どの国も、ICチップが入っているようなカードを国民に持たせるようなことはしておりません。
 もしこれが実現いたしましたら、いろいろな個人情報が一元的に集まってまいりますし、先ほど申し上げたように、これはインターネットにもつながるような構図になっております。もちろんファイアウオールはありますけれども、技術的にこのファイアウオールを破ることは不可能ではございません。そうしたときに、私たち国民一人一人の情報は、裸で金魚鉢の中に入れられて国際社会の中に置かれるようなもので、それは極めて外部からねらわれやすいと思いますし、また、ネット犯罪の七、八割は内部からの流出でございますから、それも多発すると思います。
 個人のプライバシーが侵害されるだけではなくて、これは日本という国の安全保障が根底から揺るがされることだと私は考えております。ですから、個人にとっても国家にとっても、情報の危機、安全保障の危機がやってくると思います。
工藤委員 個人情報保護法案についてお尋ねをしたいんです。
 作家の城山三郎氏が、著作活動に大きな制約が課せられ、いかに出版、表現の自由を侵す可能性が高いかを天下の悪法という言葉で断罪しておるわけでありますが、政府答弁では、城山さんのような作家や櫻井さんのようなフリージャーナリストも第五十五条の適用除外に該当する、何ら問題ない、このように言っているわけであります。こうした政府の見解に対しては、条文解釈上かなり無理がある、私もこう思うのでありますけれども、その辺、いかがお考えなんでしょうか。
櫻井参考人 この点につきましては、先ほど来、少しでも、一部でも報道ということが含まれるならば適用除外になるんだという答弁がたびたびここでなされてまいりましたけれども、もしそうであるならば、基本原則にはっきりと、報道は除外する、表現者は除外する、報道だけではなくて、文学者それから芸術家、そういった表現をなりわいとする人たちはすべて除外するというふうに明確に書き込めばよろしいだけの話だと私は思います。
 それを書かないで、いやいや、こういう条件ならば除外されるんだ云々とおっしゃる。それから、総務省の役人に聞きますと、そういうことは国会で御議論くださればよろしいではありませんかとおっしゃる。国会で議論したことが議事録に載ったとしても、法律になったとしても、小渕総理大臣の言葉でさえも今は無視されようとしているわけですから、基本原則においてマスコミを除外しないでおいて、その点についてもし御心配ならば国会で議論なさいませという言葉は、前例が余りにもございますから、私は信用することができません。
 ですから、明確に、メディアと表現者、芸術家それから文学者、そういった人たちを適用除外にするということを書き込んでいくのが筋であろうかと思います。
工藤委員 もう一点だけ櫻井参考人にお尋ねをします。
 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法案についてでありますけれども、基本法では、先ほど来いろいろ話が出ておりますように、民間事業者に罰則規定が設けられているにもかかわらず、行政機関の方は何ら規定がない。
 これまでも幾度となく住民基本台帳の流出事件はありましたし、先般当委員会で取り上げました防衛庁のリスト問題、特定の事柄をデータベース化して目的外に使用することの容易さを暗示しているわけであります。
 また、本法案の三条では、使用目的があいまいな表現で規定されておりまして、国の行政機関による個人情報の収集、保有、利用が、民間事業者に比べて、法律や政令等の規定によるものだけに、極めて権力的に収集、使用されるおそれがあると私は思うのであります。
 それゆえ、本来、こうした観点から、行政機関の取り扱う個人情報については二重、三重の保護規定を設けても不思議ではございません。改めて、罰則規定並びに厳格な運用についての御見解をお承りしたいと思います。
櫻井参考人 日本におきまして個人情報をだれが一番多く持っているか、それは紛れもなく行政でございます。生まれたときには出生届、その後、どうもいろいろなことが行政側に通知されます。個人情報を百とすると、七割から八割方の個人情報は行政の手にあるというふうに言われているわけですけれども、その行政が、先ほど申し上げたように、国民の個人情報を一たん手にした場合、利用目的を変えることも相当の理由があればよい、もしくは、ほかのお役所に譲ることも相当の理由があればよい。相当の理由というのは、法的にはいかようにでも説明がつくあいまいな規定でございます。
 しかも、そのことに対して、罰則がないですねと言うと、いいえ、ありますというふうにお役人は答えます。どういう罰則ですかと聞きますと、国家公務員法、地方公務員法がございます、守秘義務がありますと言います。守秘義務違反の場合は、一年以下の懲役もしくは三万円以下の罰金でございます。
 しかし、注意をしなければならないのは、この罰則規定というのは、公務員が意図的に情報を売ったり流したりしたときのことなんですね。うっかり、管理が悪くて流出してしまいましたとか、そういったことについては罰則規定はないんです。ですから、この前防衛庁で行われたことについても、どういう罰則が与えられたでしょうか。ないわけですね。ですから、この前防衛庁で、情報開示を請求した人の個人情報が集められて庁内のLANで回されておりましたけれども、あのようなことは、この個人情報保護法案、行政個人情報保護法案が成立しましたら、すべて合法になります。ですから、私たちメディアの人間は、ここはちょっと問題なんじゃないんですかという問題提起もできない。問題提起しようとしたら、官僚の皆さん方は、あら、櫻井さん、何ですか、これは合法なんですよとおっしゃるに決まっているんですね。
 このような行政個人情報保護法案は、他国に類例を見ない、官僚重視の、それから国民を軽視した、官僚こそが善で、情報を一手に握ってもよいんだという、官尊民卑の精神の最たるあらわれではないかと思います。
工藤委員 大分時間も経過をいたしました。次に、藤原宏高参考人にお尋ねをいたします。
 今回の住基ネット稼働について、日弁連が六、七月に全国三千二百四十一の市町村を対象に行ったアンケート、これで、回答率は四六%だったと聞いておりますけれども、コンピューターに精通している自治体の担当職員が意外と少ない、先ほども若干述べられておりましたが、万一トラブルが発生したときなど、解決に戸惑うのではないかと指摘していますが、正直なところ、各地で集会に参加をされて地域の現状を観察されてこられた参考人の視点から見られて、住基ネットが円滑に稼働するとお考えでしょうか。簡潔にどうぞお願いします。
藤原(宏)参考人 お答えします。
 住基ネット自体は、セキュリティー上の欠陥があるだけではなくて、ネットワークシステム上にもバグがある疑いがあります。これは、地方自治体の職員の人たちが自由記載欄というところに本音をやっと書いてくれました。しかし、余りにも直前過ぎます。したがって、自治体の職員の人たちがこれは本当に問題だねということをやっとその六月の段階で言ってくれたということで、僕たちはその声を受けて皆様に申し上げているということでございまして、本当に隠された事実がわかってきたという重みを御理解いただきたいんであります。
 それから、もう一点申し上げますと、自治体の意見は、個人情報保護の制度が前提であると、非常に不安だと言っているのは、理由ははっきりしているんです。自分はコンピューターは何もわからない、そしてセキュリティーの教育も受けたことがない、そういう自分たちがこれほどの巨大なネットワークを本当にさわっていいのかということであります。したがって、セキュリティーを、お金がないのであれば国はちゃんと予算措置をとって専門の技術者を雇わなきゃいけない、そういうことであろうと思います。
工藤委員 藤原宏高参考人は、ある集会で、住基法は所定の事務処理以外の情報利用を禁じているが、情報のデータベース化は禁じていないと指摘をされて、警察や税務当局など行政当局がデータをつなぐと個人情報は容易に集められるとその危険性を話されておられますけれども、こうした状況を避けるためにはどのような方策が考えられるのか、教えていただきたいと思います。
藤原(宏)参考人 国民に番号を振ってコンピューター管理する以上、名寄せは防げません。これは国民の選択の問題だと思っております。名寄せは防げない。したがって、乱用防止のガードがどれだけかかるのかというのは当然リスクを伴いながら考えなきゃいけない問題である。
 したがって、もし名寄せを危険だと考えるんであれば、番号を振らない方策を考えなきゃいけない。それはまさに分散処理の考え方でございまして、きょうの私の参考資料のところにもちょっと触れておりますが、公的認証サービスをうまく使うことによって、電子証明書には番号が振られておりません、コンピューター的には本人かどうかはそれでも十分わかるんであります。それから、基本四情報は電子証明書からもとれる、したがって全国データベースも要らない。
 なぜ、この制度を考えないのか。セキュリティーに膨大な負担のかかる全国センター方式だけに固執するのか。これは、今後、住基ネットから提供する情報を基本六情報以外に拡大しようとする意図があるからではないかと疑わざるを得ないんであります。
 以上です。
工藤委員 もう時間が参りましたので、最後の質問、もう一点、藤原宏高参考人にお伺いをいたします。
 今のお話にも共通しますけれども、各省庁別に、国民の理解のもとに、国民の利便性に必要な個人情報を活用するためにのみ、必要最小限度においてデータを収集することで電子政府の実現は十分可能だ、私はこのように思っておりまして、今の先生のお話を伺って、同感だな、そういう思いをいたしたわけであります。各省庁が集めた個人情報をどの役所でも活用できるシステムでは個人情報のデータベース化が可能となって、人間のやることですから、どんな罰則規定を設けても目的外に使用する公務員が必ずあらわれるだろう、このように思うんでありますが、その点、いかがお考えでしょうか。
藤原(宏)参考人 僕ら法律家としては、公務員の方々が悪いことをするなんていうのは信じたくありません。しかし、新聞報道を見る限り、我々法律家の認識としては、やはりそういう事態が起こり得るということを前提に法制度をつくるのが政府の責任であるというふうに思っております。
工藤委員 参考人の先生方には、本日は、大変貴重な御意見をちょうだいいたしまして、本当にありがとうございました。
 私は自由党でありますが、我が党では政府提出の各法案に反対しておりますことを申し上げまして、質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。
大畠委員長 これにて工藤君の質疑は終了いたしました。
 次に、吉井英勝君。
吉井委員 日本共産党の吉井英勝でございます。
 本日は、四人の参考人の皆さん、本当にお忙しいところ、どうもありがとうございます。
 最初に、住基ネットの稼働問題から伺っていきたいと思うんですが、四人の参考人の皆さん、お一人お一人から伺いたいと思います。
 実は前に座っておられる大畠委員長も私ももともと技術屋出身なものですから、技術屋的感覚からしますと、コンピューターシステムというもの、これは技術的に見て一定の保護を行っていくという可能性はあるということ、それはわかるわけです。しかし同時に、技術的に、情報には侵入し、収集し、そして漏えいするという、この可能性もあるという、二つの面をしっかり見ておかなきゃいけない、技術屋的感覚からすると大体そういうものだと思います。暗号技術があればセキュリティーは一〇〇%万全などという、そういう簡単なものじゃない。
 そういうことをちゃんと踏まえた上で、住基ネットの稼働が既に政府の方では仮運用を開始しましたが、トラブルが相次いでおりますし、先ほどもお話ありました各種の世論調査などでも、住基ネットの稼働の延期を求める世論が広がってきております。昨日でしたか、高知県の知事さんも懸念を表明しておられました。それでも政府は八月五日から稼働しようというわけですが、私たちはこれには反対という立場をとっております。
 そこでお伺いしたいんですが、個人情報保護制度を未整備のままネットを稼働した場合、個人情報の漏えいの危険があります。個人情報漏えいの危険とその影響、そのときの政府の責任というものについていろいろな角度から議論がなされておりますが、四人の参考人、お一人お一人からこれをひとつ伺いたいと思っているんです。
 あわせてもう一つは、十一けたの番号が生まれたときからずっとついてくるわけですが、そうなりますと、個人情報を国が管理するということができるというシステムでもあります。先ほど来お話ありました総背番号制につながる危険もあるわけですが、政府の方は、使用の事務を限定しているのでその心配はない、こういう言い方をしておりますが、この点についてもあわせて御見解を伺っておきたいというふうに思います。
藤原(靜)参考人 御質問にお答えいたします。
 議員の御質問は、前半はリスク管理、マネジメントの問題、つまり、人間のやることである以上、必ずセキュリティーホール等があって、そこで失敗が起こるのではないかという問題。それから二番目は、世論調査等で不安があるではないか、それを前提にして住基台帳法を個人情報保護法がないままにスタートさせるのはどうかという御質問。それから、十一けたの番号をつけたときにオーウェルの言っているような世界が来るのではないか、それについてどう思うかという御質問であったかと理解しておりますけれども、その前提で手短にお答えさせていただきます。
 まず、第一の個人情報保護法制の方ですけれども、私は、本日、個人情報保護法、そして行政機関等個人情報保護法を専ら専門にする者として来たわけでございますけれども、法案を拝見する限り、住民基本台帳法の中にもかなりの個人情報保護の規定が入っている、そのように受けとめました。つまり、個人情報保護法制と住民基本台帳法の個人情報保護は、恐らく法的に言えば一般法と特別法の関係になるんじゃないか、そのように思いました。
 それから、二つ目ですけれども、オーウェルの世界が来るかどうかという御質問ですが、諸外国でやっております、これまた私は専門でありませんけれども、北米型の社会保障番号を使う、北欧型のように住民の登録番号等を使うといったような管理型のものに比べれば、住基台帳法というのは、法案にあるものは四情報プラス二情報、そして目的事務が限られているということでありますから、セキュリティーの問題さえきちんとすればおっしゃるような懸念はないのではないか。セキュリティーは、私自身も、研修等で徹底的にしていただきたいとは思っております。
大橋参考人 ただいま先生の方から技術者としての御懸念があったと思いますので、そのことを少しお伝えしたいと思います。
 おっしゃるとおり、技術論の中で、安全性の確率は一〇〇%で世の中動いておりません。たとえ飛行機であっても、技術論からすれば、何がしかの危険、リスクを負って空を飛んでおります。その危険性を見た上でそれの対処というものが考えられる、そうしないと動きません。確率論というものは、確率論的にゼロということはあり得ないけれども、事実上それはなしに近いというふうに考える。そして、その〇・何%からのリスクに関してはそれなりの措置をとるというのが技術論の本質だというふうに思っております。
 それから、先ほど来お話し申し上げていますように、住基法の住基ネット自体で厳密な保護措置がとられている。そして、今、民間における包括的な基本法制ができ上がらないと直ちに漏れて危ないということは、これは大きな誤解に近いのではないかというふうに思います。法律の中にあれだけの厳しい規定がある、それにもかかわらずというのは、私は理解できないところであります。民間においての利用まで規制している。このたぐいの法律は余りないというふうに私は認識しております。それは、民間に漏れないような万全を期すと同時に、それを悪用する悪い人がいるということまでそれを規制しようとしています。我々は、マイナーな悪のために便利さを捨てるということは考えるべきではないというふうに思っています。
 それから、番号の話ですけれども、十一けた、子供のころから云々とありますけれども、先生を含め我々は番号をいっぱい背負っております。国民総背番号というやや情緒的な言葉に乗っておりますけれども、我々は、先ほど来申しましたように、この情報通信ネットワーク社会において、私を特定してもらう、そうしないと私は私の受けるべきサービスが受けられない、あるいはほかの人にその情報が伝わってしまう。あくまでそれは、きちんと私であるということを、本人を確認していただきたい、そういうために番号というものがいろいろなシステムの中に活用されているわけです。
櫻井参考人 大橋先生が、暗号技術があればかなり何十年も大丈夫だというお話を先ほどのお答えの中でおっしゃいまして、私は、このような現実離れをしたことをおっしゃる方がおられるのかと大変に驚きました。暗号技術があれば、それが何十年もかかって日本国民の情報を守ってくれることができる、一つの暗号技術が何十年もかけなければ解くことができないような時代ではないからこそ、技術者が頭を痛めているのだと思います。
 もちろん、一つの技術はある意味では立派なものがあるかもしれませんけれども、世界じゅうのコンピューターの専門家たちが、ハッカーと呼ばれる人たちも含めて、日々本当に驚くほどの技術革新を、革新というのか改善というのかわかりませんけれども行っておりまして、一つのいわゆる暗号もしくはファイアウオールというものをつくっても、それはすぐに破られるかもしれないという危険があるからみんな大変に心配しているのでありまして、ある一つの暗号を使えば何十年も大丈夫だという担保があれば、このような場で私も発言するようなことはないかと思います。
 さて、情報が漏えいした場合の危険と損害でございますけれども、これはもう本当に取り戻すことができないような損害が生じると思います。なぜならば、情報というのは、一たん漏れ出したらそれを取り戻すということはできないんですね。
 これはある大手広告代理店の実際の体験でございますけれども、大変大事なお客様、クライアントからあるソフトの開発を頼まれまして、お客さんの情報を管理するソフトですけれども、これを六百万円で請け負ってソフトをつくりました。
 このソフトの中に一つ問題がございまして、大事なお客様の情報が漏えいしてしまいました。クライアントは当然のことながら大変に怒りまして、この大手の、本当に日本を代表するような大手の広告代理店でございますが、必死にこの情報の回収に走りました。
 情報の回収といいましても、コンピューターで流れた情報というのは完全に回収することは実態として不可能なんですね。それでも、この大手の広告代理店はここまでやったかというくらいの努力をして情報を回収しまして、それでも回収し切れたという保証はなかったのですけれども、クライアントの方がまあそれで勘弁してやろうと言って許した。それまでの費用は一億八千万円かかっているんですね。六百万円で請け負ったソフトが一億八千万円かかりました。
 これは、たった一つの小さなプロジェクトの具体例でございます。日本国民一億二千五百万人の情報が漏れた場合、それをどうやって回収するのか、一体だれが責任を持って弁償するのか、弁償することができるのか、私は、できないというふうに思います。
 さて、この弁償ということですけれども、私は先ほど一つ間違えまして、地方自治体が税金で住基ネットを整えているから、地方自治体の首長さんは税金でやってもらえるからというので引き受けた方もいらっしゃると申し上げましたが、これは実は税金ではございませんで、地方交付税からのお金なんですね。地方交付税というのは、もともと地方自治体が自分のために使うことができる大切な財源なんですね。だから、国が、あたかも中央が出しているという形をとりながら、実態は、本当は地方自治体に行っていいはずのお金を使わせている。
 しかも、法律上、この住基ネットは国は責任をとらないのでございます。大橋先生が説明なさったと思いますけれども、情報は地方自治体が集めて、それを国がお借りするという立場なんですね。国は、いいところだけをとっているんです。手間も暇もお金も自治体に全部負担させます。そして、国は、その情報のおこぼれを使うと称して使い放題に使うことができる。それは、行政個人情報保護法案によって担保されるわけですから、使い放題になります。
 しかも、もし問題が起きたときに責任をとらされるのは地方自治体の首長なんですね。
 京都の宇治市で、十九万人の住民全員の基本台帳情報がネットで売られたことがございました。これに対して裁判が起こされまして、一審、二審、最高裁、全部宇治市が負けました。一人一万五千円の損害賠償です。一万円と、五千円の弁護費用ですね、払いなさいと言われました。原告はそのとき三名でございましたから四万五千円で済みましたけれども、十九万人全員が提訴した場合、宇治市という小さな町は二十八億五千万円を市の財政から払わなければならないんですね。
 このような法的責任そして危険に首長は直面する。しかし、このようなシステムを半ば強制的に、半ば以上強制的に地方自治体にさせる国は何の責任もとらないんですね。そして、気楽に議論をして、片山総務大臣は地方自治体の要請によってこれをしておりますと。とんでもないことでございます。
 さて、技術的にどれほど穴があるか。これは日弁連の調査でございますが、トラブルが試運転で発生したというのは三一%、三分の一に上ります。その中で、簡単にトラブルは解決しなかったといったのが三八%でございます。最後まで、どこまで努力しても解決することができなかったのが三%ございます。インターネットのオンラインというのは、一つでも穴があればこれはとられてしまうんです。ですから、三%もの自治体が最後まで解決しなかったというのは大変な事態でございます。
 そして、自治体の皆さん方がやりたくないというのは、お金がかかる割に住民へのサービスというものは全く充実していない。費用対効果について、これは合理的だと思いますかという質問に対して、合理的と答えた地方自治体は三千三百の中でわずか七%でございます。ほかは、合理的ではない、計算に合わないという答えをしているということを申し上げて、このような仕組みを稼働させるということ自身がおかしいと私は思いますし、四情報だけが入るのだということも、片山総務大臣は電子政府をつくるときにこれは役立つとおっしゃっているわけですから、電子政府というのはすべての行政事務に使っていくということを意味していると思いますので、当然、この番号が使われる機会はもう歯どめがきかなくなるところまでふえていく、その分の危険性も大きくなるというふうに認識をしております。
藤原(宏)参考人 我々弁護士としては、個人情報保護法制が未整備のまま住基ネットが稼働するなんという事態は信じたくありません。それは、今のこの国会の場でも依然として誤解がまかり通っております。
 まず第一の誤解。住基ネットは、なるほど、基本四情報そこそこです。しかし、八月五日から稼働したときには、その本人確認情報が行政機関のデータベースとくっつくということをだれも理解していない。行政機関のデータベースが全部電子化されれば、そこには前科の有無とかそういう犯歴情報まで入ってくる、それが住民票コードとくっつくということをだれも理解していない。基本六情報だけであると依然として言っておられる。これは全く残念です。
 そして、番号がつく。これは共通番号だというところが致命的なんです。共通番号じゃなければ名寄せは困難です。従来は、個々の役所が紙のデータベースを持っていた。番号もない。だから、実際に名寄せはできないんです。やろうと思ったら何年もかかる。だから、リスクはない。しかし、全部オンライン化されてデータベースがつくられ、しかも共通番号であれば、一朝一夕に生まれて死ぬまで全部個人情報は集められるわけです。したがって、それを前提として制度を考えないというのは全く残念です。
 それからもう一つ。法律家の立場からいえば、住民基本台帳法は個人情報保護としては全く十分ではありません。住民基本台帳法が十分だと言っておられるのは全くの誤解です。私の資料の四を見てください。ちゃんと書いてあります。これがいまだに理解されていないということも全く残念です。
 現在の地方自治体のセキュリティーのレベルから考えたら、電子政府に対応した我が国としては、二十四時間あらゆる端末を監視するぐらいの根性がなきゃ電子化は進められないのであります。二十四時間全部の端末を監視するということは、どれだけのコストがかかるのかということは政府は計算したことがあるのでしょうか。一万台の端末がある。各市町村について一人の人間が自分の市町村の端末を二十四時間見るだけだって、三交代要るわけですから、一万人以上の職員が要る。そして、その人がログファイルをきちんと見ていかない限りは不正のアクセスはとめられないんですね。ですから、その予算をどうして政府はとろうとしないのか。それは市町村が各自やる事務だということでほったらかしにするということは、政府が欠陥の仕組みを自治体に強制することになりませんか。
 僕ら法律家の見地からいけば、住基法には、附則として「所要の措置を講ずるものとする。」とある。したがって、個人情報保護法制がとられてない現状では、今は、政府は違法ではないか。個人情報保護法制をとらない住基法自体、今の政府の状態は違法であろうと思います。そして、その違法状態のまま住基ネットを稼働するということであれば、これは、データ漏えい事故について政府が責任を負うのは当然のことだろう、裁判所も当然認めてくれるだろうというふうに信ずるものであります。
 したがって、国は、きちんと電子政府に対応した環境としては、セキュリティー基本法をつくり、専門の技術者を雇い、その専門の技術者をちゃんと地方自治体に振り分けるぐらいの根性を持たなきゃ簡単にこの住基ネットを動かしてはいけない。ところが、残念なことに、施行してからチェックしましょう、これは順番が逆ではないでしょうか。こんな簡単なことはだれでもわかる。
 以上です。
吉井委員 もう時間が参りましたので、二人の藤原参考人に一言ずつだけお聞きしておきたいんですが、先ほど、藤原靜雄参考人からもお話ありました解釈基準の問題ですね。
 この基本原則は努力義務規定なんですが、解釈基準として使われたときに、これはメディアにとって自粛、萎縮効果を持つというふうになってくると私は思うんですが、政府の基本原則の法的性格というものについて、お二人の藤原参考人から、もう時間がありませんので、一言ずつお答えいただいて、質問を終わりにしたいと思います。
大畠委員長 規定の時間が来ていますので、簡潔にお考えをお願いします。
藤原(靜)参考人 先ほど申し上げましたように、民事不法行為訴訟等の解釈基準のときにはなり得ると思います。要するに、違法性の判断の一つの要素にはなり得る。ただし、議員おっしゃった萎縮効果ということにつきましては、基本原則が萎縮効果でありますと、それぞれの現在あります守秘義務規定すべて萎縮効果を持つという論法が成り立ってしまうと思います。
 以上です。
藤原(宏)参考人 お答えします。
 基本原則をメディアに適用除外しないで具体的な罰則規定だけを除外するというのは、法律の矛盾であると思います。
吉井委員 もう時間が参りましたので、終わります。どうもありがとうございました。
大畠委員長 これにて吉井君の質疑は終了いたしました。
 次に、北川れん子さん。
北川委員 社民党・市民連合の北川れん子といいます。
 きょうは、四人の参考人、貴重な御発言、そして資料をいただきまして、本当にありがとうございます。
 杉並の区長の方が区民アンケートをとりまして、その結果も出てきてまいっております。その集計結果では、凍結、延期が七一・二%ということであり、またヤフーを使っていらっしゃる皆さんのアンケート結果も、凍結は九一%。やはり、時間がかかるほどに、この住民基本台帳ネットワークのありようの欺瞞性と、それが管理、監視につながるという市民感覚というものが如実に沸騰してきていると思うんです。
 藤原宏高参考人にお伺いをいたしますが、きょうは、本当に貴重な、後も使い回すことが十分可能な資料をおつくりいただきまして、本当にありがとうございます。
 この中に、先ほど、それぞれの事務規定の内容が、何もわざわざネットワークを使わなくてもいいんじゃないかというので、一つ、やはりパスポートの問題があります。具体的な行政事務ごとの中の旅券法三条一項のパスポートの中に、戸籍の問題等絡めて、本籍地入りの住民票を改めてとらなければいけないから必要ないんじゃないかというふうにお書きいただいているんですが、この住基ネットの問題と戸籍の問題また本籍の問題等々を絡め合わせて、今お考えになる点がございましたらお伺いしたいので、よろしくお願いします。
藤原(宏)参考人 資料五のところで今の部分は検討させていただいておって、決して十分な検討ではありませんが、旅券法については、現状では全く意味がない。ただし、多分、政府の方では、旅券法は改正される考えではないかというふうには思っております。つまり、現在、旅券法で「本籍の入った住民票」という規定はいずれ改正して、多分、基本六情報だけでいいという改正は行うのではないかなというふうには考えています。この点だけは。
北川委員 きょう野党の参考人でお越しいただいた櫻井よしこ、藤原宏高参考人の御質疑が、それぞれやはり鮮明な誤解、曲解というものを訂正してくださったという意味で、すごく大きな一場面を今後つくっていくことになったと思います。この日本の国にとって、人々にとって、住民基本台帳が動くということが不幸の始まり、そして、これの不幸を少しばかりとどめる個人情報保護法が成立もしないのに施行しようとしている国の動きというものがあったわけですが、それにも増して、個人情報保護法自身が持っている欺瞞性といいますか、それが役人の、行政、官僚の人たちの仕事の権益の幅が広がり、権限の幅が広がり、市民への重圧となるという点なども御提言いただいたわけです。
 藤原宏高参考人にお伺いしたいんですが、弁護士としての立場から、この住基ネットを動かすときの九九年の議論の中にもあったんですが、これは憲法違反ではないかと。憲法十三条等々に関しましてなんですけれども、この憲法違反論議に関してはどのようにお考えになっているか、お伺いしたいと思います。
藤原(宏)参考人 残念ながら、私自身は平成十一年の改正当時の議論には直接はかかわっておりませんで、憲法違反かどうかという点については、ちょっとこの場ではお答えは勘弁させてください。
北川委員 憲法違反論議というものに関してはなかなか御慎重な御発言だったと思うんですけれども、やはり幸福を追求する権利というものに関してかなりの規制をかけてくるということが、きょうのそれぞれの御発言の中にあったというふうに拝察するんです。
 櫻井よしこ参考人におかれましては、少し違った観点で。
 与党の皆さんの中に亀裂が出ているというのが産経新聞の中でも報道されています。三十一日の会期末を前に、住民基本台帳ネットワークの八月五日の稼働問題が終盤国会の波乱要因として浮上している、自民党の中に同調する動きが強まっていると。それのリーダーとして櫻井よしこ参考人はいらっしゃったという面があると思うんですが、この間の与党の、また特に自民党の中での櫻井よしこさんと考えを一にする人たちの動きを御紹介いただき、今どういうふうに考えていらっしゃるかということを御披露いただきたいんですけれども。
櫻井参考人 北川さんにお答えをさせていただきます。
 まず、私が与党の議員の皆さん方と軌を一にしているという事実はございません。
 私は、与党の皆さん方、野党の皆さん方、ほぼ全員にこの住民基本台帳ネットワークは大いに問題があるということを訴えました。そして、私なりの資料もお送りいたしました。これは、与党野党問わず、日本の国民の代表である政治家の皆さん方全員という意味でお送り申し上げました。
 そして、野党の皆さん方ともいろいろお話をいたしましたし、与党の方とも個別にいろいろお話をいたしましたけれども、私の立場は、あくまでも私はジャーナリストでございます。そしてもう一つの立場は、国民共通番号制に反対する会というものをつくりまして、その代表を務めておりますけれども、私はどこの政党と軌を一にしてという行動をとったつもりはございません。ただしそれは、勉強会とか意見交換会がございます場合には、野党の皆さん方の会合にも出席をしてまいりましたし、与党の皆さん方の会合にも出席をしてまいりました。一人でも多くの皆さん方に私の感じている問題点を理解していただきたいと思って説得を続けてまいりました。
 それで感じたことは、与党の方も野党の方も最初はこの住基ネットの問題点について余り意識しておられなかったんですね。問題を共有して、時間を費やしてお話をともに進めていく間に、与党の方も野党の方も、なるほどそれは問題なのだという認識を高めてくださったのが現実でございます。
 今現在、確かに自民党の中では住基ネットを考える議員連盟というものができて活動しております。私も呼ばれて参りましたけれども、これは私はあくまでも外部の人間として呼ばれて参りましたもので、その中に入っている立場ではございませんので、その会議に出て、どういう議論が行われてどういう質問が出たかというふうなことについては存じ上げておりますけれども、それ以上のことは存じ上げてはおりません。
北川委員 私は、櫻井よしこさんが、街頭でチラシを配って、住基ネットって御存じですか、こういうふうな仕組みというのが八月五日から施行される、現実には七月二十二日から試運転に入った、そういう動きをしていらっしゃるということもあわせまして、何も与党自民党と軌を一にしてという意味で言ったのではなくて、そういう外の世界に向けて言っていらっしゃる動きを受けとめて、そしてその議論をしようということを野党与党に、私はちょっと野党の立場だったものですから自分のことを言わずに申しわけなかったんですが、その中に同調者が出てきた、そういう動きを大きく広げていってくださる原動力になったという意味でお伺いしたかったわけです。
 そして、この住基ネットの持っている問題も、そして個人情報保護法の持っている問題も、私が先ほど憲法に抵触するのではないかと言ったのは、これが子供の年齢、意見表明ができない人たちもからめ捕られていく問題としてあるということですね。
 例えば、マスコミの立場、ジャーナリストの立場で個人情報保護法の問題を論議する点が多いわけですが、個人情報取扱事業者と規定されるのは年齢に関係がありません。今の若い世代は、十八歳未満であってもいろいろな形でのインターネットの利用というものは取得しています。そういう意味でいうと、十八歳未満であっても、あなたがあしたから個人情報取扱事業者だとみなされれば、主務大臣がついて管理する可能性というのは、幅が持たされたわけですね。
 そういう意味においても、私自身は、やはりこれは慎重であるべきだし、本来の意味の個人情報保護法にはなっていないものであるという意味で考えているわけですが、その辺におかれまして、住民基本台帳ネットワークもそうなんですが、赤ちゃんから付番をする、それも全国共通の番号である、そういう意味を考えられて、この間、動いて外の世界の声も聞かれている櫻井よしこ参考人におかれましては、そういう点を重視してと言ったら申しわけないんですが、その方面から、外の世界の人たちと街頭で出会った面も含めて、何か考えるところがあれば、感じられたことがあれば御披露していただきたいんですけれども。
櫻井参考人 私は、街頭でも多くの方と会話をいたしまして、そのときに多くの質問を受けました。
 いろいろな方が、あなたはコンピューターに反対ですかと聞きました。私はコンピューターに大賛成でございます。いろいろな方が、あなたは番号制に反対ですかと聞きました。私は番号制は必要だと思っております。ただし、今論じられているような、赤ちゃんからお年寄りまで十一けたの番号でそれを共通番号とするということに大きな問題があるというふうに答えてまいりました。
 私は、例えば、運転免許の番号とか保険証の番号とか、それからいろいろなセットの銀行口座の番号とか、いろいろな番号がございますが、そういう番号はこのコンピューター社会においては当然必要なんですね。それがなければやはり効率よい運営ということをすることができませんので、番号は必要だけれども、番号はできるだけ限定した目的のために使うべきだという立場でございます。
 欧米社会でも、一つの番号で個人のほぼ全体の情報を管理しようなどという一極集中管理の仕組みというのはないんですね。ですから、私は、欧米でも分散管理の方向に行っていますよと。番号も使う、コンピューターも使う、それによって効率のよい社会、それから生産性の高い社会をつくるのは当たり前の話なんです、日本の二十一世紀を考えますと。しかし、やり方が違うんじゃないんですか、このやり方では必ず失敗しますよということを申し上げてきまして、議論を重ねれば、大半の人、ほぼ全員が理解をしてくれました。
 国会議員の皆さん方、与党の方も野党の方も、かなり精力的に動いていらっしゃいますけれども、私は、そのような政治家の姿を見ているときに、なるほど、一つの事案をよくよく勉強なさって、何が自分の選挙区の住民のためになるのか、何が国民のためになるのかということを本当に国民の代表として判断したときにこういう行動になるんだというふうに実感をしております。
 そのことに気がつかずに、いや、地方自治体が反対していることにも目をつぶり、各種世論調査で圧倒的な大多数が凍結を希望していることにも目をつぶり、そして首長さんたちの不平不満にも耳をかさずに住基ネットを稼働させるというのは、私は、みずから政治家であることをやめて官僚のしもべになる道を選んだ人々だというふうに認識をしております。
北川委員 すごく力強い御発言をいただいたと思うんですが、福島の矢祭町が、全国初めて住基ネットの離脱というのを表明しました。七千三百人の町ということで、私は存じ上げない町だったんですが、こういう動きがある。また、市の職員なり首長さんなりを勇気づけていくという意味で、櫻井よしこ参考人がされてきたこの間の動きというのは、いろいろな人たちに勇気を与えていったと思うんです。
 藤原宏高参考人にお伺いしたいんですが、この住基ネットの離脱に関して福田官房長官は、参加は法律上の義務、説得し、最終的には参加をしていただく、義務違反だというような、義務違反というのは法律違反という意味ではないのかもわかりませんが、地方自治体分権化の時代に入りまして、こういう矢祭町の意見表明と行動というものに関して、政府は、こういうものは義務違反だという言い方をしているんですが、これに対してのお考え等をお伺いできれば幸いです。
藤原(宏)参考人 住民基本台帳法上、接続をしないというのは、住民基本台帳法の条文からすれば違法のように考えられるというのはそのとおりだと思います。
 しかし、附則にある所要の措置を実施しないという政府も違法なわけですから、お互い違法な同士がどっちが違法だというのはいかがなものかと思います。
北川委員 同じ違法者同士ということで、カウントダウンに入ってきて、あと残すところ五日ばかりになったわけですね、審議は。野党の方は十二日に凍結案というものを出しているんですが、それが総務委員会の段階ではとまったままになって、いわゆる業界用語でつるしがおろされないというところにあります。これが終盤国会の波乱の要素ということでの紹介記事になっていったと思うんです。
 藤原靜雄参考人の方に今度はお伺いしたいわけですが、藤原靜雄参考人のレジュメの中に、基本原則の法的効果というところをお書きになっていまして、それほどこの義務規定の段階で司法判断を仰がれるというようなこと、迎えることはないんじゃないかという意味で言われたというふうに理解しているんですけれども、「法学教室」というものの中にも藤原靜雄参考人は、「例えば、民法上の不法行為による損害賠償請求の場面では、基本原則は、違法性の判断要素となり得るであろうし、また、差止請求等の場合にも、請求権の底にある人格権の一つの現われとして参酌されることはあり得よう。」と、民法上、裁判になった場合に、このことが使われるのかな、使われないのかなという面が、このレジュメよりは少し突っ込んで述べていらっしゃると思うんですよ。
 でも、三宅弘弁護士なども新聞紙上で言われているんですけれども、人権擁護法があります。これについては、彼はこういうふうに言っているんですね。「「つきまとい」とされる取材行為を「救済」を名目に人権委員会がメディアを規制することになる。その際、個人情報保護法も適用され、同法の定める「適正な取得」に違反するかどうかが判断されるだろう。」というふうにも言われていますし、九九年八月の、自民党の報道と人権のあり方に関する検討会の内容の中にも、やはり司法判断、民法上の判断の中に組み込まれていくんではないか、組み込んでいこうよという積極的な意見もあったと聞いているんです。
 藤原靜雄参考人にお伺いしたいのは、やはり、こういう人権擁護法の出てきている動き、そして自民党の検討会の中での発言等々も絡めて、今、いかがでしょうか。司法判断がやはり密接に絡んでくるのではないかと思うんですが、その辺の御見解をもう少し詳しくお伺いしたいと思います。
藤原(靜)参考人 お答えいたします。
 まず、人権擁護法案というお話でございますけれども、私が北川議員の質問を正確に理解していればという前提でございますけれども、そもそも個人情報保護法というのは、我が国におきましては一九八〇年のOECDの勧告以来の懸念でありまして、それが昭和六十三年に公的部門だけできた。民間部門がずうっと先進諸国の中でも珍しく、ないままに今日に至ったということで、個人情報保護法の必要性というものはずうっと意識されておりました。
 そもそも個人情報保護法案が出されたのも、ほかの法案より私が理解している限りではずっと早いし、私の希望であれば、もっと早く通していただきたかったし、審議していただきたかった。そうであれば、ほかのものとセットであるとかほかのものと絡めて論じられる必要もなかったのになと思っております。
 それから、司法判断のところでございますけれども、これは先ほどの御質問にもあったんですけれども、確かに、解釈の原理と申しますのは、解釈の基準と申しますのは、その物差しの一つとして使われる可能性はある。違法性を裁判官が判断するときに、その物差しの一つとして使うであろう。
 しかし、それは、私が最初の意見陳述の中で申し上げましたように、メディア等がその目的のために、やむにやまれぬその公益のために行動したのであれば、そのことを含めて適正であったとか適法であったとかというのを裁判官はきちんと判断するし、今までもしてきたのではないかという、そういう前提で解釈基準の一つになり得ると申し上げているわけです。
北川委員 やはりそこにおいてはあいまい性が残り、メディアが対象になるというところにおいて、社民党は対案という中で、やはりこの基本原則というものは憲法上で賄えるのではないかという立場を示したわけですけれども、その辺のことがありまして再確認をさせていただきたいという意味でお伺いをいたしました。
 あと少しお伺いしたい点があったんですけれども、時間が来たというところになりましたので、きょうは本当にどうもありがとうございました。
大畠委員長 これにて北川さんの質疑は終了いたしました。
 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人の皆さんに一言御礼を申し上げます。
 本当に長時間にわたり貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございました。これからの委員会の質疑の参考に十分させていただきたいと思います。委員会を代表して御礼を申し上げます。ありがとうございました。(拍手)
 次回は、来る二十六日金曜日午前九時二十分理事会、午前九時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後零時九分散会


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