衆議院

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第5号 平成18年4月26日(水曜日)

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平成十八年四月二十六日(水曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 佐藤 剛男君

   理事 木村  勉君 理事 戸井田とおる君

   理事 西村 康稔君 理事 林田  彪君

   理事 山本  拓君 理事 泉  健太君

   理事 大島  敦君 理事 田端 正広君

      赤澤 亮正君    遠藤 宣彦君

      小野 次郎君    小渕 優子君

      大野 松茂君    木原 誠二君

      後藤田正純君    土屋 品子君

      土井  亨君    中森ふくよ君

      平井たくや君    村上誠一郎君

      安井潤一郎君    市村浩一郎君

      大畠 章宏君    川内 博史君

      小宮山洋子君    鉢呂 吉雄君

      太田 昭宏君    石井 郁子君

      糸川 正晃君

    …………………………………

   内閣府大臣政務官     後藤田正純君

   内閣府大臣政務官     平井たくや君

   参考人

   (社団法人日本経済団体連合会経済法規委員会消費者法部会長代行)

   (三菱商事株式会社理事) 大村 多聞君

   参考人

   (弁護士)

   (日本弁護士連合会消費者問題対策委員会副委員長) 佐々木幸孝君

   参考人

   (東京大学大学院法学政治学研究科教授)      落合 誠一君

   参考人

   (特定非営利活動法人消費者支援機構関西常任理事) 飯田 秀男君

   内閣委員会専門員     堤  貞雄君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月二十六日

 辞任         補欠選任

  小野 次郎君     安井潤一郎君

同日

 辞任         補欠選任

  安井潤一郎君     小野 次郎君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 消費者契約法の一部を改正する法律案(内閣提出第五四号)

 消費者契約法の一部を改正する法律案(菊田真紀子君外三名提出、衆法第一九号)


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     ――――◇―――――

佐藤委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、消費者契約法の一部を改正する法律案及び菊田真紀子君外三名提出、消費者契約法の一部を改正する法律案の両案を一括して議題といたします。

 本日は、両案審査のため、参考人として、社団法人日本経済団体連合会経済法規委員会消費者法部会長代行・三菱商事株式会社理事大村多聞君、弁護士・日本弁護士連合会消費者問題対策委員会副委員長佐々木幸孝君、東京大学大学院法学政治学研究科教授落合誠一君、特定非営利活動法人消費者支援機構関西常任理事飯田秀男君、以上四名の方々から御意見を承ることにいたしております。

 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席を賜りまして、まことにありがとうございました。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査の参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 大村参考人、佐々木参考人、落合参考人、飯田参考人の順に、お一人十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、参考人の方々に申し上げますが、御発言の際にはその都度委員長の許可を得て御発言くださるようお願い申し上げます。また、参考人は委員に対し質疑をすることができないことになっておりますので、御了承をお願い申し上げます。

 それでは、大村参考人にお願いいたします。

大村参考人 日本経団連経済法規委員会消費者法部会長代行を務めております、三菱商事の大村でございます。

 本日は、このような発言の機会をちょうだいいたしまして、まことに光栄に存じます。

 政府提出法案のベースとなっております国民生活審議会における検討には、私も日本経団連の代表として、部会と検討委員会の委員として参加してまいりました。日本経団連では、昨年、お手元にお配りしております「「消費者団体訴訟制度の導入」に関する基本的考え方」を取りまとめ、この提言に基づきまして、国民生活審議会における議論に参画してまいりました。

 まず初めに申し上げたいことは、最近、大きな社会問題となっております架空請求や不正請求などの悪徳事業者による犯罪行為のことです。日本経団連としては、このような悪徳事業者の市場からの排除に向けて、個別業法に基づく行政措置など行政機関による取り組みや、警察による徹底した取り締まりを強く求めています。今回の法改正による消費者団体訴訟制度は、適格消費者団体に差しとめ請求権を付与するという、あくまで民事訴訟の枠組みにおける制度でありますので、悪徳事業者の排除という意味では一定の意義がありますが、その射程範囲は限られるものと思います。

 次に、本題についてですが、消費者団体訴訟制度は、直接の被害者でも具体的な利益の帰属主体でもない消費者団体に、消費者全体の利益のために差しとめ請求権という特別の権利を与え、事業者の不当な行為を差しとめるものであります。これまでの裁判では、具体的な事案につきまして、直接的当事者、権利の帰属主体の申し立てにより、適法か違法かの判断が個別になされてまいりましたが、この制度では、直接の当事者でも具体的な利益の帰属主体でもない適格消費者団体による提訴に対して裁判所が判断をすることになり、これまでの訴訟の枠組みを根本から変えるものであります。

 したがいまして、経済界といたしましては、我が国民事訴訟制度との整合性が確保できるか、競合事業者や政治団体、反社会的勢力などによる制度の濫用、悪用が排除できるかを大変懸念しておりますので、消費者全体の利益擁護にならない訴訟など、制度の濫用、悪用による不当な訴訟を徹底的に排除できる仕組みとし、国民の信頼に足る制度を構築していただきたいと存じます。

 政府提出法案の制度設計に当たりましては、国民生活審議会におきまして、学者、消費者団体、元裁判官、弁護士、経済界等、関係各界を交えてかんかんがくがくの議論を行い、皆のコンセンサスが得られた形で最終報告書を取りまとめました。また、昨年末には、政府が政府提出法案の骨子に対するパブリックコメントも実施しております。これらを踏まえ、政府におきましては、各界の主な主張を最大限、バランスよく反映させた形で法案をお取りまとめいただいているものと存じます。

 また、私どもが大変懸念しております制度の濫用、悪用につきましても、万全とは言えませんが、排除し得る工夫が施されており、政府提出法案の内容は、全体としては、基本的に妥当であると存じます。

 次に、個別の論点につきまして、経済界として特に重要と考えております事項を二点御説明申し上げます。

 第一は、厳格な適格要件の設定と適格消費者団体の透明性の確保であります。

 先ほど申し上げたとおり、経済界としては、差しとめ請求権を持つ団体による制度の濫用を懸念しております。和解金などの利得ねらいや、ライバル事業者のイメージダウンのために差しとめ請求権を利用することや、政治活動とかかわりのある団体が適格消費者団体に影響力を持ち、政治活動に利用することなどを大変懸念しております。

 そのため、適格消費者団体には、消費者全体の利益のために行動するにふさわしいガバナンスの確立が求められます。例えば、事業者等からの独立性の要件につきまして、事業者の役員及び重要な使用人、適格消費者団体と契約をしている弁護士などが適格消費者団体の役員や重要な使用人を兼任して実質的な影響力を行使することを禁止すべきと主張してまいりました。これについて、政府提出法案では、適格消費者団体の理事についてのみ規制し、特定の事業者の関係者が三分の一以上、同一の業種に属する事業者の関係者が二分の一以上占めないようにするとし、それ以外の兼任規制を施していません。

 この点については不十分であると考えますが、「適格消費者団体は、差止請求権を濫用してはならない。」と政府提出法案に明記されたほか、適格要件が厳重に定められ、また、訴訟手続における濫用防止措置などが講じられておりますので、これらの今後の厳格な運用が非常に大事であると存じます。

 また、透明性の観点から、適格消費者団体には団体運営に関する情報を開示させるとともに、開示された情報の適正さを客観的に担保するよう、外部によるチェック、開示した情報の虚偽記載などに対するペナルティー、帳簿などの開示、閲覧、内部統制システムの整備なども法律で規定しておく必要があります。政府提出法案は、これらの点に配慮した内容になっているものと存じます。

 第二は、訴訟手続における濫用防止措置であります。

 認定を受けた適格消費者団体であっても、例えば、適格消費者団体の役職員と差しとめを求めようとする相手方事業者との間に利害関係が生じる場合や、適格消費者団体が事業者に対して、不提訴や訴えの取り下げなどと引きかえに、裏で和解金や寄附、商品購入などを要求するなど、不当な利益を目的とする場合、また、重複訴訟や蒸し返し訴訟など、個別の訴訟における濫用の懸念が専門家からも指摘されております。

 したがいまして、適格消費者団体が、差しとめ請求権の行使に関して、事業者から財産上の利益を受領することは一切禁止するとともに、不当な訴訟については、裁判所が早期に訴えを却下できるよう法律上明記すべきであると考えております。この点につきましても、政府提出法案では一定の配慮がなされているものと存じます。

 最後に、損害賠償の問題について意見を申し上げます。

 消費者契約法では、個々の消費者には差しとめ請求権が認められていませんので、これを適格消費者団体に付与する今回の法改正には一定の意義があります。しかし、損害賠償となりますと話は全く異なり、個々の消費者が実体法上独自の請求権を有しており、民事訴訟法に基づいて行使することができます。

 消費者基本法では、消費者の自立がうたわれ、消費者政策も消費者の自立を支援することを基本とすると規定されています。したがって、損害賠償については、本人がこれを行使することが消費者政策上も本筋であると考えます。

 少額多数被害の救済策につきましては、既に政府で進められてきました司法制度改革におきまして、司法アクセスの改善や民事訴訟法上の選定当事者制度の拡充などさまざまな取り組みが行われております。本来、これらの成果を検証し、必要があれば、それらの改善策を検討するのが先決であります。その場合は、消費者法の分野だけで検討すべきものではなく、我が国民事訴訟制度のあり方の根本にかかわる問題として考えるべきテーマであります。

 したがって、損害賠償の取り扱いにつきましては、民事訴訟制度にかかわる根本的な議論と切り離して検討することには反対であり、今回の法改正の延長線での継続検討課題とすることは適切ではないと考えております。

 先生方におかれましては、このような全く新しい訴訟制度の導入に当たっては、濫用、悪用のない、国民の信頼に足る制度を構築し、また、適正に運用されるよう注視していただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 以上で私からの御説明を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手)

佐藤委員長 次に、佐々木参考人にお願いいたします。

佐々木参考人 弁護士の佐々木でございます。

 本日は、このような機会を設けていただきまして、ありがとうございました。

 現在審議されている消費者団体訴訟制度は、日弁連として長年その実現を望んできたものです。私は、日弁連消費者問題対策委員会の副委員長としてこの問題に取り組んできましたので、日弁連の意見をベースに参考人としての意見を述べさせていただきます。なお、意見陳述のうち、日弁連の意見の紹介以外の部分につきましては私見にわたるものであることをあらかじめ申し添えさせていただきます。

 日弁連は、平成十年に消費者契約法の日弁連試案というものを公表しておりますが、既にその中で、消費者契約法の実効性を担保するためには消費者団体訴訟制度の創設が必要であると提唱しております。平成十二年の消費者契約法の立法の際にも、日弁連として消費者団体訴訟制度の導入を働きかけましたが、残念ながら、当時は時期尚早として見送られてしまいました。それだけに、今国会で消費者団体訴訟がようやく日の目を見ようとしていることは、大変うれしく思っております。

 日弁連では、消費者団体訴訟制度を提唱して以来、大きな節目ごとに意見書あるいは会長声明を出してきました。本日は、それらの内容も紹介させていただきながら、私の意見を述べさせていただきます。

 消費者団体訴訟制度は、近年激増している消費者被害の未然・拡大防止につながる画期的な制度です。また、消費者基本計画で独禁法などへの導入も検討されることになっておりますように、他の分野での団体訴訟導入の先駆ともなるべきものですので、ぜひ今国会で実現されることを望んでおります。しかしながら、この画期的な制度の実効性を阻害する問題点をできるだけ取り除いた形で立法されることが必要というのが日弁連の考え方です。

 日弁連が内閣提出の法案の問題点として考えているのは、以下の点にあります。

 第一に、他の適格消費者団体による確定判決等が存する場合、同一事件の請求は原則としてできないとされていることです。この点に関しましては、後に述べますように、看過し得ない大きな弊害が予想され、消費者団体訴訟の実効性を著しく後退させることになるので、このような制約は排除されるべきであると考えます。

 第二に、裁判管轄ですが、政府案にある事業者の普通裁判籍、営業所等の所在地のほかに、不当条項を含む契約書等が使用された、あるいは不当勧誘行為がなされた行為地を管轄地に含めるべきです。

 第三に、差しとめの対象となる実体法に、消費者契約法四条、八ないし十条のほかに、少なくとも、民法九十六条、詐欺、強迫、民法九十条、公序良俗違反、借地借家法の強行規定を含めるべきであると考えます。

 第四に、不当条項のいわゆる推奨行為を差しとめの対象とすべきです。

 第五として、消費者団体訴訟を実効性あらしめるために、適格消費者団体に対する財政面を含めた積極的な支援を行うべきです。

 最後に、適格消費者団体が損害賠償を請求する制度や事業者の得た不当利益を吐き出させる制度については、喫緊の課題であるので、今国会で制度化できない場合でも、引き続き検討を続けていく必要があることです。そのために、年限を明確にした見直し規定を附則に設けるべきです。

 政府提案の法案の中で最も大きな問題点は、十二条五項二号で、他の適格消費者団体による確定判決等が存する場合、他の適格消費者団体は同一事件の請求が原則としてできないとしていることです。

 この点について以下にやや詳細に述べますが、個人的意見にわたるものであることをお断りしておきます。

 この規定は、現行の民事訴訟法の中で極めて特異な制度です。国民生活審議会のもとに設けられた消費者団体訴訟制度検討委員会の最終報告でも、「判決の既判力の範囲については、当該事件の当事者限りとし、」と、民事訴訟法の原則どおりとする旨が記載されていましたが、これと矛盾するものです。我が国の従来の法制度にない、かつ、諸外国の消費者団体訴訟制度にも類を見ないものであるため、さまざまな解決困難な問題の発生が予想され、裁判実務に混乱を持ち込むことになるのではないかと危惧されます。

 この規定の問題点は、大きくは二つあると思います。

 まずは、この規定自体が適用された場合には、さまざまな不合理な問題が発生するということです。もう一つは、訴訟に関与していない他の適格消費者団体に手続的な保障が与えられないまま、判決の効力が及んでしまうということです。

 まず、前者の、この規定を適用した場合の不合理な例ですが、十二条五項二号の「確定判決等」の「等」には、和解とか請求の放棄が含まれると説明されています。例えば、各地の適格消費者団体が同じ事業者に対して差しとめを求める訴訟を複数起こしている場合に、そのうちの一つの適格消費者団体と事業者との間で和解が成立すると、他の訴訟を起こしている適格消費者団体の請求は一斉に棄却されるということになります。

 もう少し具体的に申しますと、一つの適格消費者団体が差しとめ訴訟を起こし、第一審で勝訴したけれども、事業者から控訴されて控訴審に係属しているときに、後から同じ事業者に訴訟を起こした適格消費者団体がすぐに和解などをしてしまうと、一審勝訴している消費者団体はそれ以上訴訟を続けられないで、請求が棄却されてしまう。つまり、それまでの努力が無駄になってしまいます。また、先ほどと同じ状況のもとで複数の適格消費者団体が同一の事業者の不当行為に対して差しとめ訴訟を起こし、一つの適格消費者団体が敗訴判決を受けて控訴しなければ、他の適格消費者団体の請求はやはり一斉に棄却されることになります。

 このように、実際の適用場面を考えると、看過しがたい不都合な結果が起こり得る規定です。

 政府案は、このような不合理な結果が生じることを前提として、それを回避するために三十四条一項四号を設けています。

 この規定では、適格消費者団体が事業者と通謀して請求の放棄をしたり、消費者の利益を害する内容の和解をした場合などには、内閣総理大臣が適格認定を取り消すことができ、その場合には、他の適格消費者団体は同一の請求ができるとしています。

 しかし、だれでもわかるように、事業者と通謀したなれ合い訴訟かどうかの認定は極めて困難です。とりわけ、事業者との話し合いで双方譲り合って解決をする和解の場合に、通謀の認定はほとんど不可能でしょう。

 さらに、もともと裁判所の関与のもとで適法に行われた訴訟活動を、訴訟に関与していない内閣総理大臣が事後的に、消費者の利益に著しく反する訴訟追行を行ったか否かを判断することができるとは到底考えられません。そして、重要なことは、このように消費者団体の訴訟活動を内閣総理大臣の厳しい監督下に置くこと自体、活発に行われるべき適格消費者団体の訴訟活動を萎縮させかねないという重大な問題をはらんでいることです。

 政府案では、前訴の口頭弁論終結後の事情に基づいて新たな請求をすることはできることになっています。このことは、民事訴訟法の既判力の場合でも当然のこととされています。ただ、この点で申し上げておきたいのは、既判力の場合は、拘束されるのは訴訟当事者だけであるため弊害が少ないことも、政府案では、確定判決等の効力が他の消費者団体全部に及ぶため、大変不都合が生じてしまうということです。

 例えば、大規模な消費者事件の場合ですと、最初は事業者の組織ぐるみの違法行為であるとわからなかったことでも、後に刑事事件になって強制捜査が入って、勧誘マニュアルなどの新しい証拠が出てきて明らかになるということが間々あります。ところが、口頭弁論終結後に新たな証拠が出てきたというのは、これまでの審議での内閣府の説明を聞く限り、原則としては口頭弁論終結後の事情とは言えないということのようです。

 既判力なら、当事者限りですから、ほかの者がその新たな証拠を利用して訴訟を起こして勝てるわけですが、政府案では、十二条五項二号の規定によって、一度消費者団体の敗訴判決が出てしまいますと、それを覆す証拠が出てきたとしても、悪質商法が大手を振って横行するのを、他の適格消費者団体は切歯扼腕して眺めていなければならないことになりかねないのです。

 それから、先ほど申しました、他の適格消費者団体の差しとめ請求権が手続的保障なく奪われてしまうという点も問題です。もともと、消費者団体訴訟といっても、特別な訴訟手続があるわけではなく、通常の民事訴訟手続の中で審理されます。つまり、当事者の主張、立証活動の仕方、あるいは裁判所の物の考え方によって判断は異なり得るわけです。

 例えば、A団体は有力な証拠を持っていなかったがB団体は有力な証拠を持っていたという場合に、A団体が先行し訴訟を起こして敗訴が確定した場合、B団体は、有力な証拠を持っているにもかかわらず訴訟ができなくなってしまいます。訴訟にかかわってもいない他の消費者団体が、他の団体による確定判決等の後は一切差しとめ請求ができなくなってしまうという不合理さは明らかです。

 この不合理さを回避するため、政府案では、適格消費者団体に、訴訟状況等を他の適格消費者団体に通知し、内閣総理大臣に報告する義務を課しています。しかしながら、このような通知を受けたとしても、適格消費者団体には、他の消費者団体の訴訟上の和解、請求の放棄、上訴の断念をとめる法的な手だてが規定されていないのです。

 内閣府は、十二条五項二号のような仕組みを設ける必要性について、紛争の一回的解決の要請などを理由としています。しかし、そのためにこのような不合理な制度を設ける必要があるかは甚だ疑問です。濫訴の防止は、国生審の検討委員会でも相当議論されており、それを防止するための規定も各所に置かれています。

 例えば、差しとめ請求ができる適格団体の要件は、諸外国の立法例から見ても、濫訴防止の面から相当厳格なものにされています。また、行政監督権、事後的担保措置なども入れられています。それから、行政への業務、財政の報告義務なども定められており、何人からの財務諸表その他の書類の閲覧謄写請求も拒めないなど、適格消費者団体はかなりガラス張りの業務運営をすることになっています。また、金銭要求の禁止も規定されています。

 そして、もともと差しとめ請求は、それによって消費者団体に何ら経済的な利益をもたらすようなものではなく、むしろ経済的にかなり負担なわけです。それにもかかわらず、消費者団体が正当な理由もなく何度も差しとめ請求を起こしてくることを前提に、紛争の蒸し返し防止策としてこのような規定を導入する必要などないのです。この規定に関しては、ぜひとも修正をお願いしたいと思っております。

 その他の問題点につきましては、時間の関係で、簡潔に述べます。

 まず、裁判管轄の点ですが、政府案の事業者の普通裁判籍、つまり本店所在地や営業所の所在地だけでは不十分です。今では、電話勧誘販売や通信販売、インターネットを使った消費者取引がふえており、このような取引による消費者被害が増加しています。このような取引では、被害発生地に営業所等がないことも多く、ある地方で多くの被害が出ているにもかかわらず、事業者が遠隔地にいるために、被害が発生している地元の消費者団体がわざわざ遠隔地の事業者の本店所在地あるいは営業所所在地に赴いて提訴をしなければならないとすることは、地元の消費者団体に過大な負担を強いるものであり、不合理です。

 それから、政府案は、差しとめ請求の対象として、消費者契約法四条、八ないし十条のみにとどめています。少なくとも、民法の詐欺、強迫、公序良俗違反は、消費者契約法が規定する行為より悪質なものであり、要件判断も困難ではなく明確性に欠けるところがないので、差しとめの対象とすべきです。

 政府案は、いわゆる不当条項の推奨行為を差しとめの対象とはしていませんが、事業者や事業者団体が不当な約款の推奨を行っていた事例は過去及び現在でも見られるところですし、ドイツ、オランダ、イギリス等の外国法制でも推奨行為の差しとめや撤回が認められていることからしても、差しとめ請求の対象とすべきです。

 また、政府案では、適格消費者団体への財政的支援については何ら触れられていません。しかし、本制度の公益的性格にかんがみ、また本制度の実効性を高めるためには、適格消費者団体への財政的支援が考えられるべきです。

 最後に、消費者団体による差しとめ請求だけを認めても、差しとめが認められるまでに得られる不当な利益が事業者の手元に残るならば、事業者による不当行為は後を絶ちません。真に消費者被害の根絶を志向するなら、被害者の損害賠償請求を消費者団体が行使して、取り戻して被害者に配当するような損害賠償請求権、あるいは事業者の不当な利得を吐き出させるための、ドイツの不正競争防止法に見られるような不当利得剥奪請求権が認められなければなりません。消費者被害が激増している現在、至急にその検討が開始されるべきです。

 それも含め、消費者団体訴訟は新たな制度であることから、運用状況等を見て、より実効性のあるものとするため、年限を設定しての見直し規定について附則を設けるべきです。政府案では、附則に検討規定を置いていますが、いつまでに検討を行うべきかの期限が置かれておらず空文化するおそれがありますので、せめて五年後に見直しをする旨の規定を置くべきです。

 いろいろ問題点を述べさせていただきましたが、ぜひとも、この制度の実効性を阻害する問題点をできるだけ取り除いた形で立法していただきたく思います。消費者団体訴訟制度が、消費者被害の予防、拡大防止のために本当に役立つ制度として消費者から信頼を寄せられるものになりますよう心から願って、私の意見陳述を終わります。(拍手)

佐藤委員長 次に、落合参考人にお願いいたします。

落合参考人 消費者契約法の一部を改正する法律案に関する私の意見を申し上げます。

 まず第一に、私の意見の結論から申し上げますと、政府提出の法律案を支持したいというふうに考えます。

 第二に、政府案を支持する基本的な理由を申し上げます。

 消費者団体訴訟の導入については、さまざまな意見がございました。消費者側あるいは事業者側に、非常に極端なものから、さまざまな意見が出されたわけであります。

 私は、この問題に関して、国民各層の御意見を十分に聞きながら結論を得ました国民生活審議会の立場が最もバランスがとれたものと考えておりまして、政府提出の法律案は、この国民生活審議会の立場に基本的に沿ったものとなっているからであります。

 御承知のように、国民生活審議会は、消費者団体あるいは消費者代表、法曹関係者、事業者、事業者団体等、国民各層を集めた消費者問題に関する最も重要な審議会でございます。国民生活審議会の消費者団体訴訟に関する検討委員会は、消費者法や民事訴訟法などの専門家も含めまして、平成十六年五月以降、一年以上にわたって消費者団体訴訟制度のあり方について十分な議論を重ねまして、その結論は、いわば英知の結集と言ってよろしいかと思います。

 国民生活審議会といたしましても、委員会の結論を妥当であるとしたものでありまして、政府案は、これに基本的に依拠してつくられているということが重要であると思います。

 第三といたしましては、消費者団体訴訟制度を消費者契約法に導入することの意義について申し上げたいと思います。

 平成十二年に制定された消費者契約法は、消費者と事業者との間の消費者契約というものを直接のターゲットとする我が国初めての、すべての事業者を含む、包括的で透明性の高い具体的な民事ルールとしてつくられ、我が国の消費者法において大変重要な役割を果たしております。例えば、世間的にも大きく注目されました学納金返還訴訟などの裁判例も多く出ましたし、消費者契約の適正化を大いに前進させたということは積極的に評価されるべきであると考えます。

 今回、この消費者契約法に消費者団体訴訟制度を導入するということによって、一定の消費者団体が消費者契約法上の違法行為をする事業者に対して差しとめ請求が可能ということになります。これにより、事業者は、消費者契約法の趣旨をさらに一層理解し、その遵守を徹底するということが期待されます。

 消費者団体訴訟は、消費者契約法の実効性を大きく前進させるものでありまして、消費者基本法、公益通報者保護法などの制定に続きまして、消費者団体訴訟の導入がなされれば、我が国の消費者法全体の整備が大きく前進することになると思います。

 現行の消費者契約法は、事業者が消費者契約法に該当する違法行為をした場合に、個々の消費者が事後的に被害の回復を図ることを容易にする、そういう効果を持っておりますけれども、今回、消費者団体訴訟制度が導入されることになりますと、第一に、まだ被害が生じていない、あるいは生じそうであるという段階で、その意味で事前的に事業者の違法行為を差しとめることが可能になります。第二に、弱い立場にある個々の消費者ではなくて、消費者団体が個々の被害者である消費者にかわって事業者の違法行為の差しとめを求める、これが可能になる。

 以上のこの二点につきまして、消費者団体訴訟は、我が国の消費者法体系全体において全く初めてのものでありまして、消費者保護のために大変画期的なものであると考えております。

 政府案は、差しとめ請求の対象となる行為は、消費者契約法に明確に類型化された行為に限定をしております。このようにすることにより、事業者から見れば、どのような行為が差しとめの対象になるのかより明らかとなり、高い予見性を確保できるということになります。

 この制度は、個別の被害救済とは別の観点から、集団的な利益を、しかも事後的ではなく事前的に保護する、そういう差しとめ請求権を認めようとするものであります。事前予防の効果を持つ、言いかえれば大変強力な制度であるわけでありまして、したがって、差しとめの対象はできる限り明確であるべきであり、私は、政府案の立場はまさに適切なものと考えております。

 また同様に、同一事件の取り扱い、訴え提起前の事前通知、あるいは裁判管轄等に関する諸規定も、政府案の立場はバランスのとれたものになっているというふうに考えております。

 先ほど申し上げましたように、この新しい制度は甚だ強力な制度でありまして、まずは実行をして、その運用状況を見ながら改善を図っていく、そういう対応が必要であると考えます。

 諸外国では、適格消費者団体に損害賠償請求権を行使させるという考え方もあり、この問題は、私としても重要論点であるというふうに認識をしております。しかし、現実の導入をするためには、十分な議論がさらに必要であるというふうに考えます。これは、差しとめ請求権が認められるのであれば損害賠償請求権も認められるはずであるといった大ざっぱな議論では、到底現実にはワークしないものであると考えております。

 被害者本人ではなく、適格消費者団体による損害賠償請求権の行使については、我が国ではまだまだ議論が熟していないというふうに考えておりますが、また、さらにこの問題は、やはり国民生活審議会のような場で、国民各層による十分な議論を経た上で導入の是非の結論を得るべきではないでしょうか。その意味で、政府案が団体訴訟の対象を差しとめ請求権に限定していることは、現時点においては妥当であるというふうに考えております。

 なお、今回の改正により、消費者契約法には消費者団体訴訟制度が導入されることになりますが、司法制度改革推進計画では、法分野ごとに、個別の実体法においても同様な検討を行うというふうにされております。この観点からは、独占禁止法や景品表示法等の他の法律にも逐次団体訴訟制度が導入されることが望ましく、これらの導入ができる限り早い段階で実現することを期待したいというふうに考えております。

 私の意見は以上のとおりでございます。(拍手)

佐藤委員長 次に、飯田参考人にお願いいたします。

飯田参考人 特定非営利活動法人消費者支援機構関西、略称ケーシーズと申しますが、そこの常任理事をしております飯田でございます。

 本日は、こういう意見表明の機会をいただきまして、本当にありがとうございます。

 消費者支援機構関西は、関西の二府五県の主な消費者団体が昨年設立した団体で、現在、団体正会員十三団体、個人正会員七十数名、その他賛助会員が加入しております。消費者団体のほか、弁護士、司法書士、消費生活相談員等で構成し、消費者被害相談や啓蒙活動を行い、制度が導入された際には、団体訴権制度を関西地域で担っていこうと考えております。消費者と専門家が力を合わせ、団体訴権を行使するにふさわしく、消費者と社会に信頼される適格消費者団体として活動したいと考えております。

 間もなく団体訴権制度が導入、実施されることに非常に期待を寄せております。それは、まず第一に、多数の被害が生じている中で、被害の未然防止、拡大防止を図ることができること、二番目に、消費者団体が公正な取引市場を実現するために一定の役割を果たすことができること、三番目には、消費者団体と事業者との共同によって、よりよい契約内容、関係を検討するなどの新しい協力関係をつくることができること、こういう展望ができるからです。

 私どもは、制度の実施前から、事業者の不当な契約条項や不当な勧誘行為について調査を行い、必要な申し入れ活動を行っております。現在の消費者被害の状況にかんがみるとき、私どもは、実効性のある団体訴権制度が早期に導入されることを心から願っております。今回提出された政府案、民主党案が十分審議され、消費者被害の未然防止と拡大防止のために、使い勝手がよく実効性のある制度となるよう非常に期待をしているところです。

 しかしながら、今回提出された政府案の内容においては幾つかの問題があると考えております。

 そこで、委員会に提出されました政府案について意見を申し上げます。

 まず第一に、政府案第十二条五項の規定についてです。

 第十二条五項では、幾つかの例外を除き、他の適格消費者団体による差しとめ請求に係る訴訟等につき既に確定判決等が存する場合において、請求内容及び相手方である事業者等が同一である場合には、差しとめ請求をすることができないとしています。

 第十二条五項に基づく制度案は、差しとめにかかわる紛争が一回的に解決できるということを前提に組み立てられています。団体訴権制度に従って訴権を行使したとしても、事業者の行為を差しとめるかどうかを判断するのは裁判所です。適格消費者団体は、事業者の不当性を訴え、それを立証することに努めますが、その訴え等をそのまま認めるかどうかは裁判所が判断することです。

 何が不当であるかという問題は、一回で解決するとは限りません。むしろ、これまでの消費者被害事件の裁判例は、直線的に同じ判決が出ているわけでもなく、裁判官の判断によって勝訴・敗訴判決があり、ジグザグな経路を経て社会通念上妥当な判決に収れんしていくというのが一般的です。しかし、政府案の描く仕組みは、不当性を争ってもそれは一回的に解決をするというものです。

 同じような発想に、特定商取引法上の行政処分があります。訪問販売やマルチ商法などを対象に、事業者の不当行為を調査したり資料提出を求めたりして行政が当不当を判断し、それに基づいて処分が行われます。これは、行政処分が必ず正しい判断を下しているかのような視点に立って、その処分をもって解決を図るものです。済みません、配付の資料はこの「視点」という二文字が抜けております。訂正いたします。当不当を判断するのは行政であって、その判断が正しいかどうかを争うことは、よほどのことがない限りありません。

 しかし、団体訴権制度においては、訴えを起こすのは適格消費者団体であっても、その当不当を判断するのは裁判所です。適格消費者団体には立入調査権があるわけでもありません。にもかかわらず、政府案では、あたかも行政処分と同じ仕組みで団体訴権制度が効力を発揮するかのように考えられています。

 しかも、一回的解決に至る経路は確定判決だけではありません。政府案には「確定判決等」とあり、それには和解も含まれ、次のような事態が想定されます。

 例示をしておりますが、まず一番目ですが、A団体が一審で勝訴し、事業者から控訴されて二審で争っていたとします。同じ事業者に対して同じ事案でB団体が訴訟を起こして争っていたが、途中でB団体が事業者と和解をしてしまったとします。政府案では、この時点でA団体の訴訟は終了してしまうことになります。つまり、一審で勝訴してもその効力は消費者に及ぶことなく、B団体の和解の内容によって消費者への対応が行われることになります。

 例の二ですが、C、D団体が同じ事業者の同じ不当行為を訴えて訴訟中であったとします。C団体には確かな証拠があって、勝訴を確実視していました。ところが、D団体が和解に応じたり敗訴判決後に控訴を断念するという判断をした場合には、例一のごとく、C団体の訴訟は終了してしまいます。それを見越した事業者は、事業者にとって勝訴の見込める裁判には応じても、それが見込めない団体との裁判は延期戦術をとるということが起こり得ます。

 例二のような事態が常態化すれば、適格消費者団体は、消費者利益を擁護しようと思えば思うほど、勝訴が確実でなければ裁判に訴えることができなくなります。適格消費者団体に訴える権利があるにもかかわらず、それを行使するのをためらう萎縮効果をもたらすことになります。

 政府案は、こうした点を補おうとさまざまな仕組みを取り入れています。政府案第十二条六項では、確定判決に係る訴訟の口頭弁論の終結または確定判決と同一の効力を有するものの成立後に生じた事由に基づくものである場合には、他の適格消費者団体は訴えることができるとしています。この成立後に生じた事由とは何を指すのか、上記の懸念を払拭することができるのか、国会審議の過程でぜひとも明らかにしていただきたいことです。

 政府案の第二の問題点は、政府案第三十四条第一項第四号の規定です。

 政府案第三十四条は、内閣総理大臣が適格消費者団体への認定を取り消すことができる事由について規定をしています。すなわち、内閣総理大臣が適格消費者団体の認定を取り消すことができる事由に、一つ目が、事業者と共謀して適格消費者団体が一たん起こした差しとめの訴えをみずから放棄したとき、二番目に、適格消費者団体が不特定かつ多数の消費者の利益を害する内容の和解をしたとき、三番目には、不特定かつ多数の消費者の利益に著しく反する訴訟等を適格消費者団体が行ったときを挙げています。この事由は一見もっともなものですが、ここには重大な問題が潜んでいます。

 その問題点の第一は、認定を取り消す主体が内閣総理大臣に由来していることです。

 適格消費者団体が事業者の不当行為の差しとめを求めて裁判を起こしたとしても、その不当性の適否を判断するのは裁判所です。第三十四条第一項第四号の規定は、その裁判を通じて行われた適格消費者団体の行為が消費者利益に反すると内閣総理大臣が判断したときに、その認定を取り消すというものです。これでは、裁判所の判断とは別に、適格消費者団体の裁判上の行為の適否を行政府が判断することになります。日本社会の根本原理は三権独立です。しかし、この規定はそれを侵す疑義があります。

 第二の問題点は、認定取り消し事由に、不特定かつ多数の消費者の利益を害する内容の和解をしたときという事項があることです。

 この事項がもたらす効果は絶大です。これによって、適格消費者団体は事業者と和解することを避けるようになります。制度上、和解という解決手段はあっても、その結果認定を取り消されるかもしれないと考え始めたら、裁判官から和解を勧められたとしても簡単には応じられないということになります。そうすると、三審まで行かなければ終われないということになってしまい、被害拡大を防止するためと起こした行動が、裁判の終結まで時間を要してしまうことにつながってしまいます。

 しかしながら、和解によってある部分を譲歩したとしても、より消費者にとって有利な契約環境を早期に実現することができるのであれば、それは不特定多数の消費者の利益にかなうものであり、むしろ積極的に推進される方策の一つだとも言えます。被害の拡大防止にとって、早期の解決はとても重要なことです。この問題点は、そういう判断さえも封殺してしまいかねないものです。訴えの適否を裁判官ではなく行政府がするという規定を盛り込んだことによる矛盾です。

 政府案の第三の問題点は、差しとめ請求の範囲が消費者契約法に基づく範囲に限られていることです。

 全国の消費者センターや弁護士、司法書士に寄せられる相談の解決には、消費者契約法だけではなく、特定商取引法や製造物責任法、民法の詐欺、強迫、公序良俗違反など、さまざまな法律がその根拠となっています。今回は消費者契約法の改正として提案されていますが、立法の趣旨を日本社会に生かしていくためには、これにとどまることなく、その適用範囲を広げていくことが必要と考えます。

 その意味で、早期に消費者契約法以外の関連法にも消費者団体訴訟制度を導入することを検討すべきと思います。そのことが公正な市場を形成していくための大きな力となり、何よりも団体訴権制度の実現を求めてきた消費者、消費者団体の要望にこたえ、消費者被害の根絶を願って全国で奮闘している消費生活相談員の皆さん、弁護士、司法書士の皆さんの思いにかなうことと思います。

 政府案の第四の問題点は、差しとめ請求の対象に推奨行為を含まないことです。

 しかしながら、実際の消費者被害の事例では、事業者の団体が不当な契約約款のひな形を作成し、その使用を奨励している例があります。これを差しとめ請求の範囲に加えないことは、非常に矛盾があります。推奨行為ではなくひな形を使用する個々の事業者に対して差しとめ請求をすることは、いわゆるモグラたたきに相当するもので、消費者被害の拡大防止に資するためには、実効性が極めて低いと言わざるを得ません。ぜひともこの推奨行為も差しとめ請求の対象にすべきです。

 二十一日の当委員会の審議では、推奨行為を差しとめ請求の対象にしない理由に、一つ目が推奨行為の程度がさまざまであること、二番目が事業者団体の自主的ルールづくりを萎縮させることが挙げられています。しかし、そうであれば、程度を限定する場合を考えたり自主的ルールづくりに透明性を確保する、そういうことで解決することではないかと思われます。上記で挙げられた推奨行為を差しとめ請求の対象にしない理由は、納得できるものではありません。

 政府案の第五の問題点は、適格消費者団体が訴訟を起こす際の管轄裁判所が制約を受けることです。

 二十一日の委員会の審議でも出されていますが、事業者の行為地を除外する理由に、判決の矛盾併存等の弊害に対応すること、事業者の予測可能性を損なうことなく当事者が公平に攻撃防御を尽くせるようにすること、個別事件を離れて消費者全体の利益に資するため、個別の被害地に着目するのは適切ではないこと、全国で提訴可能となれば事業者の応訴負担が過大になることが挙げられています。

 しかし、裁判になった場合には、正確な被害情報を収集する、証人を立てることなどは、被害が発生している現地でこそ可能なものです。被害拡大防止を効果的に果たそうと思えば、行為地で提訴できることが立法の趣旨にかなうことと思います。

 教材販売の不当勧誘、販売行為をしている事業者の営業所が実際には地方都市にあるという例もあります。しかし、その被害の発生地は、大都市であったり、必ずしも営業所所在地ではありません。こうした場合には、大都市で発生した被害をもとに提訴しても、その裁判管轄は地方都市となります。また、被害は全国的規模で同時発生するとは言えず、特定地域から広がっていくというのが通常です。そのときに、管轄裁判所が限られるというのであれば、悪質な事業者はこうした制度を悪用して、適格消費者団体に負担を強いることを予定することができます。この矛盾を払拭する必要があります。

 政府案の第六の問題点は、損害賠償制度がないことです。

 今回、この制度は国民生活審議会消費者政策部会の議論の枠外に置かれました。しかし、事業者の不当な行為によって事業者の懐にため込まれた利得は被害者に返還されてしかるべきです。また、消費者が被害の過程でこうむった損害について補償を求めることは過大な要求とは言えません。今回、民主党案が損害賠償制度を提起したことは、消費者の思いにかなったことと歓迎したいと思います。私は、団体訴権の中に損害賠償制度を早期に導入すべきと思います。

 冒頭に申し上げましたように、団体訴権制度の導入は、長い間、消費者団体や消費者問題に取り組んできた相談員、弁護士、司法書士の皆さんが待ち望んでいたものです。この制度を活用する消費者団体が果たす役割は非常に大きなものがあります。それは、市場の事後チェックとしての機能だけではなく、公正な市場を形成していくための柱としての位置づけを持っています。

 私たちは、実効性のある団体訴権制度を実現し、その制度を使って消費者被害の未然防止、拡大防止のための一翼を担い、公正な取引環境のある社会を実現すべく、全力を挙げて奮闘する決意です。

 今国会で実効性のある団体訴権制度が設計されますよう、十分審議を尽くしていただくことをお願いして、私の発言とします。(拍手)

佐藤委員長 以上で各参考人からの意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

佐藤委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。木村勉君。

木村(勉)委員 私は自由民主党の木村勉でございます。四名の参考人の皆さん、お忙しい中、本当にありがとうございます。

 この消費者団体訴訟制度については、自民党はプロジェクトチームをつくりまして、約一年にわたって検討をしてまいりました。論点は多岐にわたっておりましたけれども、我が国にとって全く新しい制度であり、堅実な制度設計にすべきという考え方が大勢を占めておりました。

 そこで、消費者トラブルは、事業者が消費者に対する不当な行為をやめない限り、被害が次々に広がってしまいます。このため、事業者の不当行為そのものをやめさせるための方策として、一定の消費者団体に事業者の不当な行為に対する差しとめ請求訴訟を認める、いわゆる消費者団体訴訟制度の導入は極めて重要な課題であります。一日も早く導入することが望ましいと考えているものであります。

 この制度は、欧州では定着しているようでございますけれども、我が国の場合は初めてで、大変多くの方々が長い間待ち望んできたものであります。四名の方々、それぞれの立場で、意見の相違もございますけれども、画期的なもので、早くやれ、期待しているということは共通しているわけであります。

 その中で、政府案は適格消費者団体の要件を厳しく設定しており、本制度に対する差しとめ請求の対象が限定的であるというような意見もございますけれども、まず落合参考人にお伺いしたいと思います。

 差しとめ請求の対象が明確であるべきだということで述べられ、今回の政府案、先生が関与した審議会の線に沿って、評価するというお話がございました。例えば、同一事件について確定判決等が既にある場合には、ほかの適格消費者団体は原則として請求することができないということでございまして、これについては佐々木弁護士から、これはだめなんだということで、るる説明があったんですけれども、こういうものに対して、政府の案は限定的であるとか制約的だ、裁判はどんどん起こせた方がいいという意見も出てくるわけですけれども、それに対して落合参考人はどうお考えなのか、お聞かせいただきたいと思います。

落合参考人 今お尋ねいただきましたことにつきまして回答したいと思います。

 三点御指摘があったと思いますが、第一に、差しとめ請求の範囲、それから裁判管轄、第三に請求内容及び相手方が同一の場合の確定判決の効力という三点につきましてどういう意見かということであろうと思いますけれども、確かに、御指摘のように、政府案と民主党案というものを比較した場合は、民主党案の方が要件が緩やかになっております。このように要件を緩やかにすることの持つ意味ということでありますけれども、私は政府案の立場の方が妥当なんじゃないかなというふうに思っております。

 その理由は、簡単に申し上げますと、消費者団体訴訟という制度が日本では全く初めて導入される制度であるということであります。そして、そういうことは、現行の法制度の中では全く新しい試みがなされる、しかもこれは差しとめという非常に強力な手段を認めるということであります。したがって、まじめにビジネスをやっている事業者であっても差しとめ請求の対象になり得るということが常に存在するということになります。

 そういう強力な手段というのは、消費者保護という点からしますと非常に有用であるということは間違いありません。だけれども、そのために、まじめにビジネスをやっているビジネス活動というものがそれでもし阻害されるということになりますと、そういう問題、これは副作用ということになりますが、そういう副作用をなるべく生じないような対応というものも制度の導入に当たっては考えておかなきゃいけないのではないかということであります。

 そういう意味で、副作用がなるべく出ないような配慮をしようという政府案の方が要件が厳しくなっているということであって、私としては、初めて導入する強力な制度であるということから、それらの中でバランスをとった政府案の線でまず導入をするということが適当なのではないかというふうに思っております。

木村(勉)委員 もう一つ、既判力や何かの件で、被害があった場合はどんどん消費者団体が訴えができた方がいいんだということに対してはどうでしょうか。

落合参考人 お答えいたします。

 それについては、先ほど佐々木参考人それから飯田参考人の方からもそれぞれ御意見があったわけでありますけれども、ここで飯田参考人が言われた点等を考えてみると、もし飯田参考人が言っているようなままでいけば、そこで指摘されているような問題が生じ得るということは確かだと思います。しかし、例えば、例の二番目として挙げております、C、D団体が同じ云々という場合なんかを考えてみますと、通常、適格消費者団体であるC団体、D団体というものは、同一の内容で、同一の事業者を相手に差しとめ請求をしているということであるとするならば、当然、CとDはお互いに連絡をとって、お互いに有利な証拠を集めて協力する、そういう関係に立つはずでありまして、お互いにそういう差しとめ訴訟に関する情報の提供ということは、政府案の中にもありますように、積極的に情報が行き渡るようにしようという手だてがなされている中で、適格消費者団体が、同じ内容で、同じ事業者に対して全く別個に、お互いに情報の交換もしないままに訴訟を追行するということは、私は現実には余り考えられない事態ではないかなというふうに思っております。

 したがって、消費者の権限の行使は、通常の場合は別といたしまして、例外的な場合には、やはり濫用的なものというのが考えられるわけであって、濫用的な場合は、つまり、正常な業務活動、事業活動というものが阻害を受けるということであります。

 したがって、正常な業務活動が円滑になされるという利益と、それから、悪質な事業者が悪質な不当行為をしている、それを事前に差しとめるというプラス、その両者のバランスの中に制度は設計されるべきであって、そういう意味では、この同一事件の確定判決の効力等の問題につきましても、私は、政府案のような対応でまずやってみるということではいかがかなというふうに思っております。

木村(勉)委員 よくわかりました。

 まず、貴重な、強力な武器だから一回やってみて、濫用されないように、そしてまた、同じ事件で、同じ問題でどんどん訴訟が繰り返されていかないように、弁護士さんという立場からはそういう気持ちはわかりますけれども、やはりここはそういう形で発足して、それで、何年かたったらまた見直していくという形でこの制度をよりよいものにしていくということが大事じゃなかろうかなと思うわけであります。

 次に大村参考人にお伺いしますけれども、この制度を導入するということで、事業者は緊張感を持ってコンプライアンスの精神を高めていくと思うんですけれども、事業者の立場からこれをどうとらえておられるのか、そしてまた、濫用の懸念という観点から政府案についてどのように評価されているか、御意見を賜りたいと思っています。

大村参考人 冒頭申し上げましたように、個々の消費者が消費者全体のために差しとめ請求権を行使するというような権利は従来認められていない、この法改正でそういうことが認められるということは大変大きな意義があろうかと思います。

 したがいまして、事業者というのは、この法律ができる前から本来そうすべきでありますが、消費者に対して適切な行動をとるということについて、さらに緊張感を持った経営が図られなくちゃならないし、それを行わなきゃいけないんだというふうに思います。

 それから、繰り返し落合先生の方からもありましたけれども、本制度に基づく差しとめ請求権というのは、ある意味、大変強力な権限でございます。これが民民の訴訟でありますと、被告、原告双方が権利義務の主体でありますので、一方が一方だけを訴えるということは余りなくて、一方が訴えれば反対側は、あなた、お金を払っていないじゃないかとか、お互いに反訴したり主張し合うわけですが、この制度は、適格消費者団体は検察官のように一方的に事業者を訴えるだけで、その消費者団体に対する反訴というのが想定されていないわけです。

 このような非常に強力な制度でありますので、立ち上がりは、特に濫用がなされないように、適格団体の認定それから訴訟制度の運用等におきましていろいろと濫用がなされないような歯どめが設けられるべきであろうと思いますが、政府提出法案にはこのような濫用防止の考え方が、従来の長年にわたる関係者の議論を踏まえて適切に盛り込まれていると私は思っています。

 以上であります。

木村(勉)委員 大企業はこういう問題に対しても即対応が適切にできると思いますけれども、中小零細企業も対象ですから、もちろん、悪意を持ったものはその対象で摘発されなくちゃならないのですけれども、悪意がなくて、しかし、濫用されたら大変だと言われることで中小零細企業なんかの事業が萎縮することのないような形で、安心してこの制度が運営されることが大事じゃなかろうかな、こう思っているわけであります。

 飯田参考人にお伺いしますけれども、これまで、自主的な活動として事業者に申し入れ活動などをされてきたと聞いておりますけれども、これまでの活動に限界があったと思うんですけれども、どのような点が限界だとお感じであったのか、そして、この制度を導入することが今どういう実感を持っておられるかということをお聞きしたいと思います。現在、この制度を導入するに当たって、適格者団体としてのいろいろな申請や何かの手続もされておると思いますけれども、どういう作業をされておるか、お聞かせいただければと思っています。

飯田参考人 制度の実施前でございますが、私どもは、あるいは私どもに参加をする各団体のところでは、現在も、事業者の不当な契約条項ですとかあるいは勧誘行為が認められる場合には、それをやめるべきだという申し入れの活動もしております。

 具体的な事業者名は差し控えさせていただきますけれども、例えば、住宅の賃貸契約の契約書に我々から見て不当ではないのかと思われるものがあったり、あるいは、各種学校の解約損料、解約料の規定等が一般的に見て厳し過ぎるのではないのかというようなこと等、具体的な約款等あるいは契約書面等を検討いたしまして、そういう活動をしているところです。

 しかし、制度の実行前ということで限界ももちろんございます。まず、その契約約款やあるいは契約書面等を入手しなければ事は始まりません。しかし、単純にその約款をいただきたいというふうに請求したからといって、事業者の皆さんがそれにすぐ応じていただけるわけではございません。中には、何の権利があってそういう申し入れをするのだというふうに電話をされてこられる事業者の方も現在はいらっしゃいます。

 そういう点では、この制度を実行しまして、我々のポジションが上がってそういうことにも対応いただける、そういうことになることを非常に期待をしているところであります。

木村(勉)委員 参考人の皆さんから、本当に期待をされているということでございますから、この差しとめ請求というものについて明確に対象を定め、濫用のない制度としてしっかりとした設計にしていかなければならないと思っております。

 今回、政府案で成立させていただき、制度を早急にスタートをさせなければならないということ、その上で施行の状況をしっかりと見て、今後必要とあらば、それは期限を切って五年後に見直して、いろいろ今言われた問題についても見直していくということでスタートすることが大事だろう、こう思っております。

 以上をもちまして私の発言を終わります。ありがとうございました。

佐藤委員長 次に、小宮山洋子君。

小宮山(洋)委員 民主党の小宮山洋子でございます。

 参考人の皆様には、それぞれのお立場から貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございました。

 私たち民主党は、常に消費者、生活者の立場からさまざまな政策をつくってまいりまして、今回も対案という形で、これは二年間にわたりまして多くの方から御意見をいただいてつくり上げたもので、決して大ざっぱにつくったものではございませんので、先日の審議でも、与党の方からも、よくつくられているという評価もいただいているものでございます。

 そうした中で、御意見を伺っていると、どうも消費者というものへの考え方がお立場によってそれぞれ違うのだなという気がしておりますが、やはり、自立した消費者がきちんと権利を行使できる、そのための大切な制度として私たちはこれを位置づけたいと思っております。

 御承知のように、消費者被害、本当に多くの方が被害に遭いますが、一人一人は少額なので、なかなか訴えを起こしてまでということはこれまでありませんでした。御指摘のように、司法制度改革も進み始めましたが、まだ緒についたところで、そこが十分に機能しているとは言えない中で、今回、本当に消費者が待ち望んだ消費者団体訴訟制度が実効性のあるものとしてしっかり機能するということを考えて対案をつくっております。

 幾つか政府案との違いがございますが、一番大きな違いは、損害賠償制度を盛り込んだことだというふうに思います。もちろん予防は大事です。けれども、被害をきちんと救済することと両輪にならないと、なかなか、不当な利益を得た悪徳の業者などがそれを直していく、是正していくということにつながらないのではないかというふうに思っております。

 私たちも、これは差しとめ請求よりはより厳格に、裁判所が許可をした者だけができるというようにしておりますし、そもそも政府案では、適格団体を政府が認定するということで、恐らく全国で十ぐらいしかできないと聞いておりますので、その人たちがそんなに濫訴をするというような性悪説に立ってしまいますと、なかなか実効性のあるものにならないのではないかというふうな気持ちで伺わせていただいておりました。

 その損害賠償制度につきまして、消費者の代表の皆様や弁護士の方は早期に導入をとおっしゃいましたし、落合参考人も検討課題としては検討する必要があるとおっしゃいました。そして、大村参考人は、この消費者契約制度の延長線上で検討することもいかがなものかというふうに承りましたが、もう一言ずつ、それぞれのお立場で、損害賠償制度、先日の質疑でも、政府側も検討していくというお約束はいただきましたけれども、皆様に御意見をお述べいただければと思っております。

大村参考人 お答えいたします。

 繰り返しになりますが、損害賠償というのは、個々の消費者個人に属人的に属している権利でございます。この権利を第三者が事実上取り上げたり、その個人の意思に基づかないで訴訟を遂行する、こういう法制度というのは、基本的にはアメリカのクラスアクションに類似した制度でございますが、世界でアメリカだけなのではないかなと思っています。

 このクラスアクションの考え方が、第三者が、すなわち弁護士がその消費者の意思に基づかずに莫大な利益、報酬を得られる、こういうことになって弁護士が事件をつくり出す。民主党の案にも報酬の規定がありましたが、報酬ねらい。そうなりますと、これは人間のさがでありますが、要は、公益と称して報酬が目的になる、この運用に必ずなります。

 したがって、裁判所からいかに高額の報酬をかち取るか、そういう観点からの訴訟の運営、証拠開示、全く無意味な時間基準でふやすとか、こういうことをいたします。その他、事件をつくり出すために、こういう公の席上じゃ口にするのもはばかるような、弁護士間での報酬の取り合いの争い、それから、企業側から、キーパーソンから訴訟をつくり出すための情報をとろうとするアプローチ等、大変弊害があります。

 このような制度を導入することは、社会、日本の国の形を変えてしまうんじゃないかと大変危惧しています。したがって、アメリカでも経済界ではこのような制度は大変反発が多くて、それから、欧州でもこのような制度は拒絶反応ということがあります。したがって、あくまでも日本の、当事者が権利を行使する、こういう基本原則に基づいた選定当事者制度の問題とかを広い見地から検討するというふうにするのが適切と思います。

 この場合には、少額の被害というのは消費者がこうむっているだけじゃないんです。例えばNHKの料金を踏み倒しているとかいった場合に、では、NHKが少額の訴訟をどうやって実現するんであろうかとか、共通する問題もあろうかと思います。したがって、これは民事訴訟法の改正問題として検討すべきかと思います。

 以上、私の意見を申し上げます。

佐々木参考人 この問題につきましては、先ほどの意見陳述でも述べましたように、適格消費者団体による差しとめ請求だけを認めても、差しとめが裁判所で認められるようになるまでに事業者が不当な利益を得てしまうという事態が残るのであれば、結局、事業者による不当な行為は後を絶たないということでございます。

 それから、確かに損害賠償請求権自体は個々の消費者が持っているわけでありますけれども、少額多数被害という消費者被害の特質から、実際にはそういう権利を持っていてもほとんどの人が泣き寝入りをしてしまうということで、個々の消費者の被害救済を実現する制度というのはやはり必要であるということです。とりわけ、今日のように消費者被害が激増している状況のもとでは、そのような事業者の不当な利得を吐き出させること、また少額多数被害の被害者の被害を救済すること、これは非常に重要な喫緊の課題であるというふうに考えております。

 日弁連も、そのような課題を認識しまして、幾つかの消費者団体による、不当利得の吐き出し制度あるいは損害賠償制度の検討を行って、意見書を作成しているところであります。

 それで、民主党の適格消費者団体による消費者損害賠償請求権ですけれども、このような事業者による不当な利得の吐き出しと少額多数被害の救済の必要性という要請に沿った提案であると思います。

 民主党の提案は、いわゆるオプトアウト型のクラスアクションに近いと思われますけれども、現実にこれに似た制度が機能している国もあるわけですし、先ほど大村参考人の方から出た指摘、訴訟を追行する者の資格につきましても、適格消費者団体に限定した上でさらに裁判所の許可に係らしめるということで、あるいは報酬についても裁判所の許可に係らしめるという形で弊害を除去しようとしているものと考えられます。我が国の消費者団体訴訟制度の充実のために検討に値する一つの立法提案ではないかというふうに思っております。

落合参考人 私も基本的に、差しとめ請求だけでは不十分な部分は残る、したがって、少額多数の被害が出ているような場合に、その損害賠償請求権というものが十分行使できなくて、結局、悪質事業者のやり得になるという事態は好ましくないというふうに思っております。

 問題は、そういうやり得にならないものをどういう形で是正するかということであって、これはある意味で、私は二つ重要な問題があるかと思います。

 一つは、被害者の範囲をどうやって正確に決めるか。私は業者から悪質な勧誘を受けましたと名乗り出てきたのがどんどん出てきているという場合に、本当にそういう被害に、勧誘を受けた者なのかどうか、ある意味で被害者の範囲をどうやって決めるかという非常に難しい問題があります。ここがしっかりしないと、いわばそういうものに便乗して不当な利益を上げるという人間が出てくる。これをいかに排除して、本当に被害を受けた人をどう限定していくか、法技術上、ここが一つの重要な問題になると思います。

 それから第二番目は、そうやって被害者の範囲を確定した上で、今度その被害者に公平に分配をする、事業者がいわばためた部分について公平に被害者に分配していこうという手続がまた問題になります。

 ここは、一番徹底したそういう制度としては、破産法というものが債権者間の平等というものを考えた仕組みとして成り立っているわけですけれども、御承知のとおり、破産法は非常に複雑な法体系になって、技術的にも非常に膨大な法律になっております。同様に、船主責任制限法というのがありまして、例えば船舶の衝突でたくさんの被害者が出たといった場合に、その船主の財産から多数の被害者に対して公平に分配をしていくという手続が船主責任制限法には用意されているわけですが、これも破産法の規定を参考にしつつでき上がっており、非常に複雑な方法としてでき上がっております。

 したがって、先ほど私が申し上げた二つの問題を、公平に、しかも正義にかなう形で適切に被害補償を行っていくか、ここを適切な制度として構築しないと、不当な人間に利益を与えるという結果が出てきますので、そこの検討はまだ十分ではないんじゃないか。私の知る限りでの、私自身の見解としてはそういう見解でありまして、その辺のところをさらに、先ほども申し上げましたように、国民生活審議会等の場でいろいろな英知を集めて、適切な損害賠償、消費者団体による損害賠償という制度をつくり上げていくという検討を十分やらなきゃいけないんじゃないかなというふうに思っております。

飯田参考人 私の立場は先ほど意見で述べたとおりでございますが、消費者団体から見まして、どう考えても、不当な利得が事業者の手元に残ったままで返還もされない、そういうことはやはり不合理としか言いようがないというふうに私は思います。その点で、まだまだ議論が成熟している段階にはございませんが、民主党案というのは一つの検討に値する制度設計になっているのではないかというふうに思います。

 お金の流れを心配する向きもございますが、それは透明性を高めた制度をきちっとつくればよいというふうに私は思いますし、何よりも優先すべきは、やはり不当な利得、本来消費者のもとに返さなければいけないものがちゃんと戻っていく、こういう制度をきちっとつくることが何よりも大切かというふうに思います。

小宮山(洋)委員 ありがとうございました。

 私たちも、確かにこの損害賠償制度、日本で仕組むのは非常に難しいということで、このことだけで一年以上かけていろいろな検討をしてまいりました。ですから、今回対案として出させていただいたので、ぜひこれもたたき台の一つとしていただいて、差しとめだけで終わりということではなくて、次への筋道をしっかりとつけていただきたいということを申し上げています。

 濫訴という御心配もいろいろと先ほどから出ておりますけれども、そのことを私どもは、裁判所をしっかりと、総員の範囲の確定ですとか配当計画の許可の決定とかをかませることによりまして、公平な仕組みをつくりたいというふうに考えておりました。

 政府の方も犯罪収益吐き出し法案をこの国会にも提出をされていますし、いろいろな知恵を使って、やはりもちろん差しとめができるということは一つの大きな進歩です。だけれども、これで終わりでは決してないので、両輪としてと申し上げましたけれども、そちらの損害賠償の方についても、ぜひ皆様の知恵も出していただいて、検討を始めてやっていってほしいと思いますし、私たちもその努力をさせていただきたいと思います。

 それから、先ほど佐々木参考人が力を込めておっしゃいました、同一事件の請求が原則としてできないということについて、ほかの参考人から、それをした場合の懸念ということも幾つか表明されましたので、重ねておっしゃりたいことがあれば伺いたいというふうに思います。

佐々木参考人 先ほど私の意見の中で、濫訴の防止ということあるいは解決の一回的要請ということからこういう制度を設けたのだということについて、それはこの規定を置く必要はないのだということで申し上げているところでございます。

 この制度をつくるに際しましては、濫訴防止ということが検討委員会の中でも非常に議論されまして、先ほど申しましたように、適格消費者団体の認定につきましても、諸外国から比べてかなり重いハードル、高いハードルを消費者団体は課せられているわけです。そのほかに、先ほど内閣総理大臣の監督権の問題も申し上げましたが、そのように大変多くの規制がかかっているということもありますので、濫訴の懸念ということはまずないというふうに考えております。

 それから、落合参考人の方から、もともと消費者団体が同じ事業者に対して複数訴訟を起こすということ自体があり得ることなのかというふうな疑問が提示されたわけでございますけれども、消費者団体は、個々それぞれが独自の判断を持って訴訟活動に当たるわけでありまして、それぞれの団体自体がそれぞれ価値観が違うわけで、その価値観のもとに、ある場合においては、この事業者に対しては自分の地元地域で被害がたくさん出ているから裁判をやらなければならないということで、ほかの団体が起こしている場合であっても訴訟を起こさざるを得ないということも考えられるわけでございます。そこのところを、必ず消費者団体は協調してほかの消費者団体に裁判を起こしてもらうというような形での取り決めができるわけではありませんので、やはり個々の消費者団体がそれぞれの独自性を持って訴訟を追行するということを尊重すべきだろうというふうに思っております。

 以上です。

小宮山(洋)委員 それから、政府へのパブリックコメントでも民主党案へのパブリックコメントでも、消費者団体や消費者の皆さんから非常に多かったのが、やはりこういう活動をするために財政支援をしてほしいという御意見が大変多く寄せられましたが、飯田参考人はそのことについてどうお考えですか。

飯田参考人 私どもの活動は、支出ばかりが強いられる、そういう活動になります。事業者の方からいろいろな資料等を取り寄せたり、あるいはその検討の会議を何回も重ねる、その事務所等も自前で用意しなきゃいけない。そういう点では、収入というよりも支出のことばかりが強いられるということが原則的な、運営にかかわって必要なことかと思います。

 そういう点では、会費や寄附金だけでこの活動費を賄うというのは非常に制約があろうかというふうに思います。そういう点で、何らかの形でこの適格団体の活動をきちっと支援をいただくということが必要かというふうに思います。

 その実際のお金の交付の仕方というのは不透明であってはいけないというふうに思いますが、きちっとした透明性を確保した助成事業ですとか、あるいは第三者の基金を通じてその活動を支援するとか、そういう制度をぜひ実現いただければというふうに思います。

小宮山(洋)委員 ぜひ、これは消費者が待ち望んでいた制度ですし、これからこの二十一世紀の消費者と事業者の関係を変えていく制度だと思っておりますので、これは別に党派で対立することではございませんから、知恵を出し合って、よりよい実効性のある制度につくり上げていきたいというふうに思っております。

 ありがとうございました。

佐藤委員長 次に、田端正広君。

田端委員 公明党の田端でございます。

 きょうは、参考人の先生方、大変お忙しい中、また貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございました。先生方は、この問題についてはもう長年専門的にかかわってこられた、そういうお立場でございまして、本日の御意見もそういう意味では大変奥の深い議論であったと思っております。

 私は、この問題は日本には今までなかった新しい仕組みの法制度だ、それを今回導入するという意味では画期的なことだ、こういう思いをしております。そういう消費者団体訴訟制度という第一歩がこれから始まるという大変意義のあるこのときに際して、今、大方の皆さんは、企業の皆さんも消費者の皆さんも、それぞれ立場は違えど、それは大変いいことだ、そういう前提に立っての御議論にあるのではないかと思っております。

 さらに、それを運用面でもうひとつよくしていこう、せっかくいい法律をつくるならもっといいものにしていこう、こういうお立場、そしてその意味では、なおかつ、こういう点ではまだちょっと過不足があるよ、まだ問題点があるよ、こういうことできょうはいろいろとそれぞれのお立場からの御意見をいただいているんだ、こう思っております。

 いろいろ突き詰めていけば、適格消費者団体に差しとめ請求を認める、可能にする、これはもう大変なことだ、そこが一番大きいことだと思います。したがって、適格団体はどうあるべきかとかそういったことにもなるし、同一事件が起こった場合にはどうしたらいいのかという議論にも今なっているんだと思いますし、また、適格消費者団体の財政的支援とかそういったことにも話が及んでいるんだろう、こういうふうな思いをいたしているわけであります。

 それで、まず落合先生にお伺いしたいと思いますが、先ほど先生は、消費者契約法が平成十二年に導入されて、それの一つの大きな成果として学納金の返還、こういう一つの新しい今までになかった事例も生まれている、こういう具体的なお話もございましたが、今回、この制度、差しとめ請求を可能にしたということ、それは消費者全体にとって大変大きな利益といいますかプラスになるんだ、私はこう思っております。

 この法律が今までになかった法律だけに、どういう位置づけになっていくのか、特に消費者問題が今多発している、いろいろなトラブルが多いわけですが、今後の展開というものはどういうふうにこの法律によって予想される、評価されるようになるのかということを、もう少し詳しくお願いしたいと思います。

落合参考人 私は、日本の消費者法全体の体系の中で、差しとめ請求というものを被害を受けた者ではなくて一定の消費者団体に、これはしたがって被害者ではないわけですね、被害者でない第三者、事前差しとめと、それから被害者でない者がそういう権利を行使するという二点において、非常に画期的な制度であるというふうに思っております。

 しかし、考えてみますと、消費者被害というものを十全な形で回復し、そして将来防止していこうということを考えたときには、差しとめ請求というものが広い範囲で認められていくという方向は、十分検討すべき方向であろうというふうに思っております。

 その意味では、今回、消費者契約法の一部改正という形にして差しとめ請求がもし認められるということになりますと、それがどんどんほかの消費者に関係する諸法律についても及ぼされていくという、非常に大きな先鞭となるという意味で、非常に重要な意味を消費者法全体について持っているというふうに思っております。

 さらに、消費者全体の被害を十分に救済し、かつ被害防止というものに十分目配りをする、そういう観点からは、先ほどありました損害賠償という問題も避けては通れない問題である。しかし、一挙に何事も実現するというのは、これは現実の世界では極めて難しいことであります。差しとめ請求という強力な手段が認められたということは、それからさらに進んで損害賠償という問題に対する道筋も開くことになる、そういう意味においても、私は、この差しとめ請求、消費者団体訴訟というものについては大きな意義を認めております。

田端委員 ありがとうございました。

 それで、きょうの議論の中で一番の問題は、同一事件に対してどう対応するかということが少し見解が違っているのかな、こう思いますが、落合先生は、先ほど、政府案におけるこの考え方は非常にバランスがとれている、こういうお話でございました。つまり、濫訴を防ぐといいますか、そういう行き過ぎを少し抑えなきゃならないという面と、そういう現状をどうするかという意味で、法案の中では、例えば適格団体同士の連係プレーとか情報の交換とか、あるいはそれぞれの協力、こういう仕組みもできているわけで、また、一部ではありますが例外的措置としてそのことも認定している、こういう流れでありますが、この問題について、これは非常に大事なところかと思いますが、落合先生の見解をもう一度お伺いしたいと思います。

落合参考人 私、先ほど申し上げましたけれども、ややちょっと私の表現があるいはミスリーディングな面があったのかもしれませんけれども、濫訴という意味は複数の消費者団体が差しとめ請求を起こすということではなくて、私が申し上げたかったのは、確かに複数の消費者団体が差しとめ請求を各地で起こすということはあり得ることであります。しかし、そういう事実があれば、それは情報として伝わるはずであるし、そして今度、和解をするあるいは判決が出そうだとかそういった情報を含めては、今度は訴えを提起している消費者団体が相互に情報を交換して、お互いに勝つように協力していこうという対応がとられるはずであろう。したがって、同一請求、そして同一当事者、そういう事件に限ってはたくさん、幾つも、一つそういう判決が出るということは、実はそこに提起されている相当いろいろな訴訟についての連携等を踏まえた上で出るのが普通であろうということを申し上げたわけであります。

 したがって、全く孤島の中で訴訟が行われており、お互いに連絡ができないというような状態がもし適格消費者団体に想定されるのであれば、政府案のような対応というのは、あるいはややきついというような評価が出てくるかもしれませんけれども、今や消費者団体は、消費者基本法にもありますように、国が、消費者の利益を守る団体として積極的に活動することを消費者基本法上も位置づけている団体であります。しかも、そういう消費者団体の中で特にエリートとして認定されたものが適格消費者団体ということになるわけで、訴訟をいろいろな地域でいろいろな適格消費者団体が起こしたときに、お互いに連携をとらないというような事態は、私はちょっと想定しがたいだろうと思うわけであります。

 そうだとすると、全然知らない間に不当な内容の判決が出た、あるいは和解がなされたというようなことというのは、いわば想像的にはそういうものも考えられるかもしれませんけれども、現実的には余りあり得ない事態ではないかなというふうに思っておりましたので、先ほどそのようなことを申し上げました。

 したがって、そういう点を考慮していきますと、一見、制約的と見える規定も、実際にそれが問題になる場合というのはほとんどないであろうし、しかも、仮にそういう場合が生じたとしても、それの安全弁というものがさらに用意されているということですから、私は、それほど消費者団体の方々が心配される必要はないのではないかなというふうに思っております。

田端委員 この点、佐々木先生とは少し見解が違うのかと思います。佐々木先生のいろいろおっしゃっていることもわからないことではないんですけれども、しかし、法律を運用するという面で第一歩が始まるわけですから、いきなり理想的なといいますか百二十点とるような、そういうことはなかなか難しいだろうなと思っておりましたが、今この問題について、先ほども佐々木先生の方から、例えば、なれ合いといっても、そのなれ合いの認定というのは難しいんじゃないか、こういうお話もございました。しかし、この法律そのものの性格といいますか、公益性というものを最優先していけば、そしてまた、消費者の利益に著しく反するというその議論というものを軸に据えていけば、そこのところは考えられるんではないのかなという思いがいたします。

 この点について、佐々木先生、いろいろ御意見があろうかと思いますが、適格消費者団体間の連携とか、あるいは例外的には、十二条六項でしたか、後訴も認めているわけでありまして、そういう形で、ここは今のこの政府案に従ってまずやっていく、そうした上で、適格団体といっても、そんなにたくさん認定されるわけじゃないんでしょうから、そこから議論を次の議論へとつなげていく、こういうことを感じるわけでありますが、いかがでしょうか。

佐々木参考人 まず、同一事件について他の適格消費者団体が請求できないという規定が設けられた理由ですけれども、それは、一回的解決の要請あるいは紛争の蒸し返しの防止ということから設けられているわけです。

 私たちも、実際に団体訴訟制度が運用されている国に行って話を聞きましたけれども、どこでも、そういう濫用というようなことは話がありませんでした。どこでも消費者団体は的確に運用しているというふうなお話でございました。とりわけ、我が国の政府案を見ますと、消費者団体に対してさまざまな、濫用を防止するような措置が既に組み込まれているわけです。それにもかかわらず、それにさらに上乗せをするような形でこういうふうな規定を設ける必要があるとは思えないということでございます。

 それで、確かに、消費者団体がそれぞれ連絡等をとって訴訟活動を進めるということは重要なことだと思いますけれども、しかし、各消費者団体がそれぞれ訴訟がかかる裁判所は、それぞれ物の考え方が違う裁判所ですし、消費者団体自体の主張の仕方、あるいは証拠の出し方、立証活動なんかについてもそれぞれ違いがございます。そういう中で、それぞれの消費者団体がよかれと思って行っている訴訟活動について、訴訟にかかわっていない内閣総理大臣が、その訴訟活動が消費者全体の利益を著しく損なうというような判断ができるのかというふうなことについては、やはり疑問を持たざるを得ないということでございます。

 それから、もう一点ございました、各消費者団体が連絡をとり合って訴訟を追行すれば、我々が懸念しているような事態は起こらないのではないかということでございますけれども、例えば、今度和解をしますということをある適格消費者団体から連絡を受けたとしても、連絡を受けた消費者団体が、その訴訟の中に入って当事者として、その和解について、例えばそれを阻止するような権限が与えられていれば別ですけれども、現在の制度の中では、そういうふうな手続、ほかの適格消費者団体がみずからの権利を失うことがないように手段がとれるという手続が規定されていないのであります。ですから、そういうところで、たとえ連絡等があったとしても、みずから好まないような結果を避けるすべがない、それにもかかわらず確定判決等の効果が及んでしまうというところに不合理な点があるというふうに考えております。

田端委員 佐々木先生の御意見は、一貫して私もずっと伺ってきていますからよくわかるんですが、しかしこれは、そういう意味では、全体のバランスといいますか、法案全体の運用面でいけば、そこはなかなか難しい、どこまで詰めるかというのは難しいかな、こういう思いもいたします。

 それで、大村参考人にお伺いしたいわけでありますが、つまり、適格団体の存在といいますか立場といいますか、これは非常に大きな意義を持ってくるわけであります。したがって、今の同一事件がどうのこうのということも、適格団体がどういう認定を受けて、どういう団体がどういうふうにするのか、そこが非常にこの裁判のポイントになるんだろうと思うわけであります。この認定と、それから検証という言葉がいいのかどうかわかりませんが、やはり適格団体に対しての一つのそういうことも必要かと思いますが、この点について、大村参考人の御意見はいかがでしょうか。

大村参考人 お答えいたします。

 政府の審議会でも、適格団体の認定という考え方について、大変徹底した議論がなされました。欧州の主要な消費者団体訴訟制度を採用している国は、事実上、その国の適格団体が一つであるか、もしくは全国団体一つで、その傘下にある組織のみが事実上適格団体として活動している。このような欧州の制度であれば、適格団体同士の別の、いわゆる繰り返し、反復、紛争の蒸し返し訴訟というのはそんなに気にする必要はないんですが、我が国の今回の法案の骨子というのは、基本的に、適格団体の数は限定しない、それから規模もそれほど考えない。それからブティック型。総合型で何でもやるんじゃなくてブティック型、この分野だけだ、そういう適格団体も認められるようにしよう、こういうふうに議論が発展いたしました。

 そうなりますと、今度は、適格団体同士の連携をしていただかないと、同じ種類の訴訟で反復継続、この団体はああいう考えでやって、訴えが負けたけれどもけしからぬ、私はもう一回訴えたい、こういう話になりかねない。制度としては、もともとそういうことを容認するような制度をつくろうとしているわけです。したがって、適格団体の認定は厳しくすると同時に、数は限定しない、規模も限定しないけれども、公正な運用をするという適格団体の業務規程をきちんと入れてくださいとか、それから事後的担保措置、きちんと活動を開示してください、開示した団体が広く国民一般が判断できる材料を出してください、このような考え方で政府の法案になっております。したがって、まさにそこのところの今後の運用というのを我々は注視していかなくちゃいけないというふうに思っています。

 以上でございます。

田端委員 済みません、もう時間になりましたので、本当は飯田参考人にもここをこの後伺いたかったんですが、私の意見だけ申し上げます。

 適格団体に対するサポートといいますか支援のあり方、これはぜひ我々も頑張って追求していきたい、こう思っておりますし、先ほどお話ございました被害発生の現地における裁判管轄の問題、これも大変大事な問題だと思っておりますので、以上二点、今後もまた一生懸命努力することをお誓いして、質問にかえさせていただきます。

 ありがとうございました。

佐藤委員長 次に、石井郁子君。

石井(郁)委員 日本共産党の石井郁子でございます。

 きょうは、参考人として、それぞれ御専門の立場から貴重な御意見を聞かせていただきました。本当にありがとうございます。

 初めに、佐々木参考人と落合参考人に基本的な問題で伺いたいと思います。

 近年、消費者行政は、保護から自立へ、また事前規制から事後規制へということが強調されているわけでございます。そうした影響からでしょうか、消費者団体が調査した都道府県の消費者行政を見ますと、担当職員が減少している、予算も五年間で二割も減少して、後退が目立っているわけでございます。

 そういう中で消費者の被害が大幅に増加している。苦情相談件数が、一九九六年から二〇〇五年までの十年間に三十五万から百九十万と五倍加した。被害の深刻化がうかがえるわけでございます。

 消費者行政の体制が縮小している、被害は増加している。私は、ここに、消費者を自立した権利主体と位置づけながら、権利を擁護する方策が不十分ではないかという問題、また、満足な被害者救済制度がないことなどがあるのではないかというふうに考えるところでございます。

 そこで、この右肩上がりの消費者被害を減少に転じさせるために消費者の行政で今何が必要なのか、また、そういう中でこの団体訴権制度がどういう位置づけとなるのか、あるいはどんな役割を果たしていかなければならないのか、こういう点について佐々木参考人と落合参考人から伺いたいと思います。

佐々木参考人 消費者行政の問題につきましては、確かに行政による消費者保護という形で行われてきましたけれども、要するに、行政が事業者を取り締まる形で消費者の権利を確保しようということで今まではやってまいったわけですけれども、どうしても、そのような形で行われるものは、後追いになってしまったりとか、あるいは縦割り行政の谷間に入ってしまって被害が救済されないということもございました。

 ただ、もう一つ言えますのは、行政の方で取り締まりをする権限を持っているわけですけれども、それが適正に行使されてきたのかどうかという点がやはり大きな問題だろうというふうに思っております。

 そういった後追いとか縦割り行政の弊害から消費者被害がふえてきたという面があるわけですけれども、そこを今度は、消費者団体が差しとめ請求権、あるいは民主党の案でいきますと損害賠償請求権のようなもので消費者の権利を、被害の予防と救済を図っていこうというふうに考えているわけでございますけれども、それとあわせて、行政が持っている監督権限あるいは処罰をする権限等があるわけですから、それをきちんと行使していくということがやはりこれまで以上に重要になってくるのではないかというふうに思っております。

落合参考人 やはり事前規制というものから事後規制を中心にしていこう、そういう流れの中で消費者についても自立ということが言われているわけですけれども、その自立という意味は、消費者がみずからの頭で考え、そしてみずからの権利をみずからで守れるようなシステムというものをつくり上げるということであります。したがって、消費者が自分の権利を守ろうと思ったときに使える手段、これを充実させていかなければ消費者の自立というものも成り立たないということになるわけですね。

 そこで、消費者の自立の環境整備として、いわば消費者法の憲法ともいうべき消費者基本法というものができたわけであって、しかもそれはビジョンを持った形で消費者行政をやろうということで、消費者計画というものを内閣で決めて、今まで行き当たりばったり的にもしやられているとすれば、ある一つの理念のもとに総合的に消費者行政をやるという取り組みが、消費者基本法を受けた形で、消費者計画でそれがようやく実現されつつある。

 そういう中で、公益通報者保護法というものも成立をしたわけですし、今回、消費者団体訴訟というものも認められるということになると、消費者が自分の消費者としての権利を守るための手段というものがさらに法律上充実していくということがあります。

 同時に、事後規制が中心になるということになりますと、消費者みずからがみずからの権利を回復しなきゃいけないということがあるわけで、その点については裁判所を利用するというのが一つの有効な方法ですので、裁判所を利用しやすくしようということで司法改革というものが実行され、弁護士の数が極めて少なくて消費者団体に有効なアドバイスが行き渡らない、そういうような状態というものは避けなければいけない、そういう状態を是正しなければいけないということで、弁護士の数も大幅にふやすということをやり、消費者にとって弁護士というものが身近になるようにという政策も今進められているわけであります。

 そういう意味で、消費者がみずからの権利を守るための手段を増強するというのが基本的なあるべき姿だと思いますけれども、そういう姿の中で本消費者契約法の一部改正ということが実現されれば、私は、そういう基本的な方向への加速というものが大いに期待できるのではないかなと思っておりまして、ぜひこれが成立するということを願っております。

石井(郁)委員 後訴遮断問題について飯田参考人に伺いたいと思います。

 この問題について私も先日の委員会で質問をいたしましたが、後訴遮断のねらいというのは、やはり事業者に訴訟の負担をかけさせないということにあるようです。それで一回的解決で決着させるということかなというふうに思うんですが、しかし、これは民事訴訟法から見て問題だということがありますし、また、第一、消費者団体に一回的解決をする基盤が整備されているのかという点でも、大変疑問というか問題だというふうに思うんですね。

 先ほども意見陳述の中でいろいろとこの問題を述べられましたけれども、もしさらに補足的に述べられることがありましたら伺いたいと思います。

飯田参考人 先ほど、行政処分との対比で少し意見を述べました。

 消費者事件に係る裁判というのは、我々が望むほど、資料が集まったり、あるいは証言者が見つかったり、証拠が見つかったり、そういうことが必ずしもあるわけではなくて、個々の裁判ごとに、証拠の物件やあるいは資料が異なる中で、裁判所においてそれが判断をされていく、こういう経緯をたどるものと思います。そういう点では、出てくる判決というのは必ずしも一様ではなくて、変化を起こし得るということが原則かというふうに思います。

 それに対しまして、行政処分、特商法上の行政権限というのは、行政側に、立入調査ですとかあるいは報告を求める、そういう権限がございます。そういう点でいいますと、その調査の仕方なりを間違わない限り、同じものが事業者から収集されたり、あるいは証言を得たりということができるはずでございます。そういう点からいいますと、同じ資料から判断するわけですから、そう間違いが起こることはあり得ないというのが原則的な考え方かというふうに思います。

 そういう点では行政処分の行政権限とは全く違いまして、この適格消費者団体は、いろいろな苦労をしながら資料を集め、証言者を募り、証拠をそろえていく、こういう苦労をするということが前提になっております。そういう点でも、いろいろな形で私どもにこの負担があり得るということでございまして、そういう中でいろいろな制約を受けるというのは、ますますその活動が萎縮してしまう、制約されてしまうということになろうかというふうに思いますので、その辺はぜひ十分な審議をお願いしたいというふうに思います。

石井(郁)委員 法律がどのように制約を課すかという問題は大事だと思いますけれども、やはり、萎縮効果みたいなことを生んだのでは本当にこの立法の実効性というところが確保できないわけですから、そういう面でもこれは慎重に考えなきゃいけないことをたくさん含んでいるというふうに私どもも考えております。

 次に、団体訴権についての問題で、大村参考人にも伺いたいと思います。

 きょうの意見陳述の中におきましても、訴権の濫用、悪用により健全な経済活動が損なわれるおそれがあるということを述べられました。これはずっと、一連の経団連のヒアリング記録、これまでの見解表明等々でも述べられてきたところでございますけれども、きょうも強調されたわけでございます。

 しかし、この間の経過をちょっと振り返りますと、PL法とか消費者契約法のときにも経済界からは濫用の懸念ということが強調されてきたかと思うんですが、実際にその制度を実施してみますと、その制度を濫用という話は聞こえてこないんですね。

 それで、経団連には、会員企業活動のガイドライン的な企業行動憲章をつくっていらっしゃるというふうに思いますが、その憲章を具体化した企業行動憲章実行の手引きというのがございまして、私、それを見てみますと、その中にも、関係法令の遵守とか、PL法や消費者契約法の趣旨に沿って、企業が消費者への情報提供等をすることが大事だということが書かれているわけですよね。

 ですから、こういうものを見ますと、消費者団体訴訟制度、団体訴権がやはり効果的に活用されるということはこの企業の行動憲章にも沿うものだというふうに考えられるわけですが、その点についての御見解はいかがでございましょうか、お聞かせください。

大村参考人 お答え申し上げます。

 企業が長期的な企業価値を増大していくためには、基本的に、最終的に消費者の信頼を得る、消費者価値を実現するということが不可欠であり、また、消費者との信頼関係を増進することも不可欠であります。したがって、日本経団連の意見でも、今回の消費者団体訴訟制度の導入を検討することは時宜を得ている、こういう基本的な評価をしております。

 先ほど先生の方から引用がありました企業行動憲章それからその実行の手引き、まさにそのとおりでございまして、これらについて、日々我々は消費者重視の政策を企業がとれるように努めている次第であります。

 それから、その濫用の件でございますが、先ほどの御指摘の実体法の問題と今回の消費者団体訴訟制度における濫用の懸念とは全く質が異なります。

 実体法の問題であれば、現に被害をこうむった方が裁判所で自分の被害を主張、立証し、そして公正な判断を仰ぐ、こういうことでございます。ところが、繰り返し申し上げますけれども、この新しい制度というのは、本来では、従来の考え方では当事者じゃなかった人が出てくるということで、権利義務の帰属主体ではない方が権利義務を代表して訴えるということは、これまた繰り返しになりますけれども、歴史上初めての制度設計でありますので、専門家も、内閣府の検討委員会でもいろいろな専門家の方がおっしゃっていますけれども、あらゆる制度というのは濫用がある、濫用がないということはあり得ない、したがって濫用があり得るということを前提に制度設計すべきである、このような議論を展開した結果、内閣府の審議会の最終意見書になり、それを踏まえた上で政府の法案に至っていると思います。

 以上でございます。

石井(郁)委員 きょう、ここでは、議論する場でありませんので、御意見を伺っておきたいというふうに思います。

 それで、あとの時間ですけれども、適格消費者団体の認定問題で、これは先ほど飯田参考人からも、三十四条、総理大臣の認定の問題での御指摘がございました。この問題の重要性というのを強調されたというふうに私も思うんですね。

 内閣総理大臣が裁判所の判断と別に適格消費者団体の裁判上の行為の適否を、行政府が判断をする、こういう点で、裁判とかかわりなく行政処分を行うということはあるけれども、もし裁判所の判断に関連して行政が別に判断をするということになると大変問題だという指摘かというふうに思うんですね。

 これはもう少し突っ込んだ見解を伺いたいというふうに思いますので、飯田参考人と、この点では佐々木参考人からも伺うことができればというふうに思いますが、あと残りの時間でよろしくお願いいたします。

飯田参考人 先ほどの意見で述べたとおりでございますが、消費者団体から見まして、三権が独立、分立をしている、そういう中で、裁判所の判決に従って私たちの活動のその後の目標なり活動が決まっていく、そういうことを通じて消費者の利益を確保していく、擁護していくということが私どもの務めでありますし、目的でもあるわけです。

 そういう中で、一たん出た判決なりあるいは適格消費者団体が判断した結果について、さらに後づけで行政府がそういう判断をするというのは本当にあり得るのだろうか。あるいは、もしそういうことをやろうと思えば、行政府の方は適格団体の活動なりあるいはその訴訟活動なりを逐一見ていなければいけない、そういうことにつながっていくのではないのか、そういう懸念を持っております。

 そういう点では、この点はぜひ修正がかなうものであればしていただきたいですし、十分な審議をお願いしたいというふうに思います。

佐々木参考人 私の方で申し上げたいのは、こういうふうな規定を置くこと自体によって適格消費者団体の訴訟活動が萎縮をしてしまうという点が大変重要な点だろうというふうに思っております。

 後で内閣総理大臣が訴訟活動を見て、著しく消費者の権利、消費者を害するというふうな要件に当たれば適格を取り消すという大変重い措置がとられるわけですね。消費者団体というのは、何年もの間、時間をかけて準備をして、適格を取得して適格消費者団体になるわけですけれども、それを取り消すという大変重い措置がとられるということなわけです。

 そのために、消費者団体としては、訴訟を起こすときには、後で適格を取り消されるようなことがないように、十分証拠を集めて、これでも大丈夫なのかというようなことで、十分な検討を行って、検討を行った上にもさらに検討を行ってというふうな形で訴訟を起こさざるを得ない。また、訴訟の途中で訴訟活動をするについても、常に最善を尽くす、最善以上のことを考えて行わなければならないということで、この消費者団体訴訟という手続自体が大変重い手続になってしまった。

 もともと、消費者団体が活発にこの制度を利用して取引の公正を図ろうとした制度であったはずなんですけれども、ある意味では大変消費者団体がびくびくしながら訴訟を起こし、追行しなければならなくなってしまったというところで、制度の性格が変わってしまったという感さえもあるのではないかというふうに思っております。

石井(郁)委員 どうもありがとうございました。

 きょうの御意見を参考に審議に生かしていきたいと思っております。

佐藤委員長 次に、糸川正晃君。

糸川委員 国民新党の糸川正晃でございます。

 本日は、参考人の皆様、大変御多忙の中、貴重な御意見を賜りまして、本当にありがとうございます。私からも数点質問をさせていただきたいと思います。

 今現在も増加し続ける消費者トラブルに対しまして、被害の広がりそのものを防止しようという趣旨で、今回、消費者契約法を改正して消費者団体訴訟制度を導入するということは大変重要なことだ、また大変重要な提案であるというふうに考えております。

 事業者が消費者に対する不当な行為をやめない限り、被害はどんどん拡大していってしまう。そこで、事業者の不当行為そのものをやめさせる、そのために直接の被害者でない消費者団体が差しとめ請求権を行使して被害の広がりを防ぐというこの仕組みは、我が国の法制度においても新しくて、また評価すべきものであるというふうに考えております。

 今回、消費者契約法につきましては政府案のほか民主党案も提出されておりまして、政府案と民主党案の最大の違いは、政府案が差しとめ請求権を対象とするのに対して、民主党案では損害賠償請求権も可能としている、こういう点であるというふうに思っています。

 この点に関しお考えを数点お伺いしたいんですけれども、まず、落合参考人と大村参考人にお尋ねいたします。

 被害者でない消費者団体が消費者のために損害賠償請求権を行使する、こういうことに対してどのようなお考えをお持ちなのかということに対して、全般的な評価について両参考人の御見解をお聞かせいただきたいというふうに思います。

落合参考人 損害賠償請求につきましては、先ほどもちょっと申し上げたんですけれども、課題として考えていくべき問題である。その課題を考えるに当たっては、二つの点で被害者の範囲を的確に把握し、そしていかに公平に、平等に、公正に分配するか、そこがうまく仕組みとして成り立てば、そういう制度というものも消費者法の体系の中に取り入れていくということがふさわしいというふうに私は思っております。

 ただ、直ちに取り入れるかどうかという点については、裁判所の関与というのを民主党の案はある意味では非常にメーンに置いているわけで、しかし、裁判所もやはり積極的に関与していくためには、一定の裁判所がよるべきルールというのが明確になっている方が好ましいわけであって、そうすると、そこのルールを示そうとすると、破産法等を参考に裁判官がよるべきルールを具体的に示していくというような形が必要になってくるのかなというふうに思います。

 そこで、裁判所はある意味では消費者のためのものですが、それのみに限らず全国民のための機関であって、裁判所が例えば非常に時間をとられる、あるいはそれがゆえになかなか結論が、配当というところまでいかないというようなことがあるとすると、これはかえって消費者にとっても有利なことではありませんし、それから、裁判所が特定の事件に多大の労力と時間を投入するということによって、本来救われる別の被害者が起こしている請求というものが十分に審理されないというような問題も起きてくるわけで、したがって、そういうバランスも考えつつ、裁判所になるべく負担がかからないような形で迅速かつ公正な賠償が行われるような手続を考えていかなきゃいけないのではないかな。

 そういう観点からすると、私はなお検討の余地があるというふうに考えております。

大村参考人 お答え申し上げます。

 被害の当事者ではない第三者が被害者の損害賠償請求権を行使するということに関しましては、実務家の長年の直観からいいまして、必ず腐敗が起こる。なぜならば、お金が動くわけですから、人の不幸と申しますか、第三者が受けた損害を、その本人の了解も意思も基づかずに損害賠償債権を行使するということに関しましては、私の長年の実務家の直観、アメリカにおける経験等をかんがみまして必ず腐敗が起こる。これは個人としては強く申し上げたいところでございます。

 ただ、もう少し政府の審議会の検討状況も踏まえまして申し上げますと、まず、このような損害賠償請求権を消費者団体が行使するという制度をつくることについては、その必要性の当否も含めて慎重に考える必要がある。私はその必要性はないと考えています。あくまでも債権を回収するという民事訴訟法一般の制度として検討すべきであって、ここに消費者団体が出ることは、その必要はないと思っています。

 仮にお立場で必要性があるという立場をとるとしても、これは大変問題があります。日本の民事訴訟制度というのは、あくまでも当事者が現実の損害を立証して、熱心に立証して裁判官が納得したらその損害額を損害賠償請求として認める、こういう制度でございますが、ここに第三者が出てくるというのは何を意味するか。これは、現実の損害額から離れた損害を認定してくれ、実は現実の損害額を認定するのは面倒くさい、一律に推定しましょう、民主党の案もそうなっています。このような制度を導入するということは、先ほども申し上げましたけれども、日本の司法制度の根幹を揺るがす問題であります。

 すなわち、現実の損害から推定してでもある意味では懲罰的な意味も含めて損害をとるということは、これは第三者が検察官に成りかわる、もしくは政府に成りかわるということを意味するわけですが、ここまでの議論を含んでおりまして、このような制度導入を軽々に進めるのは不適切であると思います。

 以上でございます。

糸川委員 ありがとうございました。

 では、次に、佐々木参考人にお尋ねいたします。

 適格団体が個々の被害者にかわって損害賠償請求権を行使する場合、自分の請求権が行使されていることに気づかないということが出てくるのかな。この場合、適格団体が敗訴してしまうと、このような気づかない人たちの持つ損害賠償請求権まで奪われてしまう可能性があるのではないかな。この点について、裁判を受ける権利という観点から、佐々木参考人の御意見をお聞かせいただけますでしょうか。

佐々木参考人 今の御質問は恐らく民主党案を前提にしたお話だと思うんですけれども、確かに、法案を眺めてみますと、そのような形で判決の効力はそのクラスの総員に対して及ぶということになっていますので、気がつかないうちに判決が出るということも考えられるわけです。

 ただ、それに対して民主党の案としましては、それをそのクラスの被害者の方にわかるような形で広報をするということを考えておられるようで、その広報の仕方については、裁判所がそういう方たちに伝わるような形を考慮して考えるというふうなことになっているようでございます。そういったような形で、消費者の権利保護を図ろうとしていると思われます。その場合であってもなお知らなかったという場合もあり得るとは思うんですが、その辺のところをどういうふうな広報をするかという問題にかかってくる問題のように思います。

糸川委員 ありがとうございました。

 大村参考人に、現場という立場から少しお尋ねしたいんです。

 アメリカには、先ほどのお話にもありましたけれども、民主党案と比較的類似していると言った方がよろしいんでしょうか、クラスアクションの仕組みというものがございます。弊害もあるというふうに聞いております。アメリカではどのような問題があるのか、事業者という立場から、御存じのことがあれば御紹介いただきたいなというふうに思います。

大村参考人 お答えいたします。

 先ほど紹介いたしましたことと一部重なりますが、クラスアクション制度ということになり、かつ三倍賠償もあるということもあります。それから、陪審制度があるということも関係しますが、基本的にクラスアクションというのは、一部の消費者が全体を代表して、それを延々弁護士が束ねるということでございますが、基本的には消費者というのはだれか連れてくればいいのであって、弁護士が事件をつくるという制度であります。

 これは弁護士自身が、日本の弁護士さんがおっしゃっていましたけれども、アメリカは弁護士の弁護士のための弁護士による国である、こういうようなことをおっしゃっていました。まあ、これは、民主党の案も基本的には消費者団体というところの裏には弁護士がいるということになるでしょうけれども、こういう形で弁護士報酬ねらいの訴訟が起きてくるということであります。

 それで、そのために事件を、いわゆるプレーンティフローヤーという形でそういう訴えを起こす専門の弁護士が競っておって、どちらが先にそのクラスアクションの扱い権を得るかという形で大変な血みどろの無益な争いをしたり、そのために弁護士事務所が割れたりくっついたりしているということもあります。

 それから、訴訟の進行でございますけれども、米国では基本的に時間制度ということがあって、どのぐらい時間を使ったかということが、裁判官が弁護士に対する報酬を決める査定の根拠になる。

 そうなると、意味のない訴訟遂行を延々する。ひたすら、若い弁護士に時間を使わせてチャージを多くして、それを裁判所に登録するという形で、反対側の被告側の企業側の弁護士も、もうつき合い切れないという形で、原告側のプレーンティフローヤーが延々と無駄な時間を使っているときに、本来ではまじめに同席すべき弁護士が新聞を読んだりたばこを吸って、つき合わないというような現実もあります。

 それから、特に巨額の金額にとにかくまとめる。日本と違って印紙がないこともあるんですけれども、巨額の訴額にして、最後は、勝つか負けるかは、受理次第といいますか判決次第ということでわからないから、不確定性が高いだろう、したがって巨額の和解をしなさいということで、日本企業も千億単位の和解金を払っているという事例もあります。こういうことで、アメリカでクラスアクションを経験した日本企業は、ほとんどその異常さで困惑しているということであります。

 その費用も、消費者に還元されるというよりか、弁護士とか手数料で過半数が持っていかれてしまう、こういうことで、国民経済的にも極めてマイナスの制度であります。

 欧州の企業等は、こういう制度は欧州には絶対入れないということで実務家も言っておりますし、それから、アメリカの企業も少しは直そうとしておるんですけれども、弁護士の弁護士のための、弁護士がもうかる国でありますので、一たん入っちゃったらもう直らないというのが実情であります。

 以上でございます。

糸川委員 ありがとうございました。

 では、飯田参考人にお尋ねいたします。

 飯田参考人、関西一円で制度を担うために設立されたNPO法人の常任理事ということでございますが、政府案では、公布から一年を経過した日から施行されるということになっています。消費者支援機構関西という団体では、今後この施行に向けてどのように準備をされていく予定か、お聞かせいただけますでしょうか。

飯田参考人 今回、今国会でこの法案が成立をして制度がスタートするということであれば、おおむね一年後ということかというふうに思います。

 認定条件に、相当期間活動実績があることというふうにも政府案ではなっておりまして、そういう意味では、私どもは今の時点から、担うべく、その準備をするということをしております。

 そういう点で、お配りしましたパンフレットの中にもございますが、現時点においても、事業者の不当な約款ですとかあるいは勧誘行為が特定できれば、それについてやめるべきである、こういう点については改善すべきであるという趣旨の申し入れ活動をしようというふうに思っております。

 そのために、個々の事案、テーマに基づきまして、その約款ですとか勧誘行為のどこが不当なのかという特定をしたり、そのことを事業者の方にまずは通知申し上げる、申し入れをする、あるいは場合によっては話し合いの場を設けていただいて、こういう点についてはこういうふうに改善すべきではないのかというようなことを繰り返しやっていきたいというふうに思います。

 そういういろいろなテーマ、事案に基づいた活動を積み上げまして、私どもの団体の中にもいろいろな経験を蓄積したいというふうにも思いますし、そういうことを通じまして、事業者の方とも、ある種の信頼関係もつくっていけるのではないのか。

 私どもは何も訴権行使だけを目的にしているわけではなくて、そういうことを通じまして、公正な取引環境、社会環境をつくっていくというのを非常に大きな目的にもしております。そういう活動を、制度発効前であっても一生懸命やりたいというふうに考えております。

糸川委員 ありがとうございました。

 もうほとんど時間がございませんので、最後に大村参考人と佐々木参考人にお尋ねしたいんです。

 今回の改正両案につきまして、大村参考人には、民主党の案に対して、それぞれよい点と悪い点に対してお聞かせいただきたい、佐々木参考人には、政府案に対して、それぞれよい点と悪い点をお聞かせいただきたいというふうに思います。

大村参考人 お答えいたします。

 民主党案につきましては、正直申し上げまして、政府の審議会の議論の結果、問題があるということで見送られたのをそのまま全部出しているということなので、私としては政府案の方がいい、それ以上の意見は申し上げられません。

 以上でございます。

佐々木参考人 私も、先ほど意見を申し上げたとおりでございますが、消費者団体訴訟制度という画期的な制度ができるということについては大変うれしく思っておるところでございます。

 ただ、先ほど問題点として挙げました、他の適格消費者団体による確定判決等が存する場合、同一事件の請求は原則としてできないという規定については、何とか御修正をお願いしたいというふうに考えております。

 それから、裁判籍の問題ですけれども、これも、この契約条項が使われた地あるいは不当な勧誘行為がなされた行為地、これを管轄地として含めるべきであるということ、それから、差しとめの対象となる実体法に、民法九十六条、民法九十条、借地借家法の強行規定を含めるべきであるという点、不当条項のいわゆる推奨行為も差しとめの対象とすべきであるという点、消費者団体訴訟制度を実効あらしめるために、適格消費者団体に対する財政面を含めた積極的な支援策を考えるべきであるという点、それから、見直し規定については、きちんとした年限、少なくとも五年という年限を入れた見直し措置を規定すべきであるという点については不満がございます。

糸川委員 大変貴重な御意見をありがとうございました。今後の参考にさせていただきたいと思います。

 終わります。

佐藤委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、一言ごあいさつを申し上げます。

 参考人の皆様には、貴重な御意見をちょうだいいたしました。まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして、厚く御礼を申し上げます。

 次回は、来る二十八日金曜日委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時三十一分散会


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