衆議院

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第10号 平成13年5月18日(金曜日)

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平成十三年五月十八日(金曜日)

    午前九時一分開議

 出席委員

   委員長 保利 耕輔君

   理事 奥谷  通君 理事 塩崎 恭久君

   理事 田村 憲久君 理事 長勢 甚遠君

   理事 佐々木秀典君 理事 野田 佳彦君

   理事 漆原 良夫君

      荒井 広幸君    太田 誠一君

      熊代 昭彦君    左藤  章君

      笹川  堯君    鈴木 恒夫君

      棚橋 泰文君    谷川 和穗君

      中川 昭一君    松宮  勲君

      山本 明彦君    吉野 正芳君

      渡辺 喜美君    枝野 幸男君

      日野 市朗君    平岡 秀夫君

      水島 広子君    山内  功君

      山花 郁夫君    上田  勇君

      都築  譲君    藤井 裕久君

      木島日出夫君    瀬古由起子君

      植田 至紀君    徳田 虎雄君

    …………………………………

   法務大臣         森山 眞弓君

   内閣府副大臣       松下 忠洋君

   法務副大臣        横内 正明君

   法務大臣政務官      中川 義雄君

   厚生労働大臣政務官    佐藤  勉君

   最高裁判所事務総局民事局

   長

   兼最高裁判所事務総局行政

   局長           千葉 勝美君

   最高裁判所事務総局家庭局

   長            安倍 嘉人君

   政府参考人

   (内閣法制局第一部長)  阪田 雅裕君

   政府参考人

   (内閣府男女共同参画局長

   )            坂東眞理子君

   政府参考人

   (警察庁警備局長)    漆間  巌君

   政府参考人

   (総務省行政管理局長)  坂野 泰治君

   政府参考人

   (総務省自治行政局公務員

   部長)          板倉 敏和君

   政府参考人

   (法務省大臣官房長)   但木 敬一君

   政府参考人

   (法務省大臣官房訟務総括

   審議官)         都築  弘君

   政府参考人

   (法務省大臣官房司法法制

   部長)          房村 精一君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    山崎  潮君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    古田 佑紀君

   政府参考人

   (法務省矯正局長)    鶴田 六郎君

   政府参考人

   (法務省人権擁護局長)  吉戒 修一君

   政府参考人

   (法務省入国管理局長)  中尾  巧君

   政府参考人

   (公安調査庁次長)    三谷  紘君

   政府参考人

   (外務省アジア大洋州局長

   )            槙田 邦彦君

   政府参考人

   (厚生労働省健康局長)  篠崎 英夫君

   法務委員会専門員     井上 隆久君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月十八日

 辞任         補欠選任

  藤井 裕久君     都築  譲君

  不破 哲三君     瀬古由起子君

同日

 辞任         補欠選任

  都築  譲君     藤井 裕久君

  瀬古由起子君     不破 哲三君

    ―――――――――――――

五月十八日

 弁護士法の一部を改正する法律案(内閣提出第六二号)

同月十七日

 治安維持法犠牲者国家賠償法の制定に関する請願(阿部知子君紹介)(第一五四二号)

 同(赤嶺政賢君紹介)(第一五四三号)

 同(上田清司君紹介)(第一五四四号)

 同(大出彰君紹介)(第一五四五号)

 同(奥田建君紹介)(第一五四六号)

 同(菅直人君紹介)(第一五四七号)

 同(北橋健治君紹介)(第一五四八号)

 同(今田保典君紹介)(第一五四九号)

 同(永井英慈君紹介)(第一五五〇号)

 同(葉山峻君紹介)(第一五五一号)

 同(藤村修君紹介)(第一五五二号)

 同(細川律夫君紹介)(第一五五三号)

 同(松本善明君紹介)(第一五五四号)

 同(松本龍君紹介)(第一五五五号)

 同(大島敦君紹介)(第一五七六号)

 同(大島令子君紹介)(第一五七七号)

 同(大谷信盛君紹介)(第一五七八号)

 同(鍵田節哉君紹介)(第一五七九号)

 同(木島日出夫君紹介)(第一五八〇号)

 同(古賀一成君紹介)(第一五八一号)

 同(佐々木秀典君紹介)(第一五八二号)

 同(志位和夫君紹介)(第一五八三号)

 同(鈴木康友君紹介)(第一五八四号)

 同(原陽子君紹介)(第一五八五号)

 同(春名直章君紹介)(第一五八六号)

 同(不破哲三君紹介)(第一五八七号)

 同(山村健君紹介)(第一五八八号)

 同(吉井英勝君紹介)(第一五八九号)

 同(伊藤忠治君紹介)(第一六一〇号)

 同(釘宮磐君紹介)(第一六一一号)

 同(熊谷弘君紹介)(第一六一二号)

 同(島聡君紹介)(第一六一三号)

 同(東門美津子君紹介)(第一六一四号)

 同(中川正春君紹介)(第一六一五号)

 同(楢崎欣弥君紹介)(第一六一六号)

 同(伴野豊君紹介)(第一六一七号)

 同(赤嶺政賢君紹介)(第一六二九号)

 同(池田元久君紹介)(第一六三〇号)

 同(石井郁子君紹介)(第一六三一号)

 同(石毛えい子君紹介)(第一六三二号)

 同(小沢和秋君紹介)(第一六三三号)

 同(大幡基夫君紹介)(第一六三四号)

 同(大森猛君紹介)(第一六三五号)

 同(木島日出夫君紹介)(第一六三六号)

 同(児玉健次君紹介)(第一六三七号)

 同(五島正規君紹介)(第一六三八号)

 同(穀田恵二君紹介)(第一六三九号)

 同(佐々木憲昭君紹介)(第一六四〇号)

 同(佐藤敬夫君紹介)(第一六四一号)

 同(志位和夫君紹介)(第一六四二号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第一六四三号)

 同(瀬古由起子君紹介)(第一六四四号)

 同(中林よし子君紹介)(第一六四五号)

 同(春名直章君紹介)(第一六四六号)

 同(不破哲三君紹介)(第一六四七号)

 同(藤木洋子君紹介)(第一六四八号)

 同(細野豪志君紹介)(第一六四九号)

 同(松本善明君紹介)(第一六五〇号)

 同(矢島恒夫君紹介)(第一六五一号)

 同(山口富男君紹介)(第一六五二号)

 同(横光克彦君紹介)(第一六五三号)

 同(吉井英勝君紹介)(第一六五四号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件




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     ――――◇―――――

保利委員長 これより会議を開きます。

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 各件調査のため、本日、政府参考人として内閣法制局第一部長阪田雅裕君、内閣府男女共同参画局長坂東眞理子君、警察庁警備局長漆間巌君、総務省行政管理局長坂野泰治君、総務省自治行政局公務員部長板倉敏和君、法務省大臣官房長但木敬一君、法務省大臣官房訟務総括審議官都築弘君、法務省大臣官房司法法制部長房村精一君、法務省民事局長山崎潮君、法務省刑事局長古田佑紀君、法務省矯正局長鶴田六郎君、法務省人権擁護局長吉戒修一君、法務省入国管理局長中尾巧君、公安調査庁次長三谷紘君、外務省アジア大洋州局長槙田邦彦君及び厚生労働省健康局長篠崎英夫君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

保利委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

保利委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所千葉民事局長及び安倍家庭局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

保利委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

保利委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。佐々木秀典君。

佐々木(秀)委員 民主党の佐々木です。

 新任されました森山大臣にいろいろお伺いをしたいと思います。

 実は、私は、森山法務大臣の御就任は、亡くなられましたけれども、大臣の御夫君であられた森山欽司先生は天国で大変喜んでおられるのではないか、また期待しておられるのではないかと思います。

 実は、今からもう三十二、三年前になりますけれども、あれは昭和四十四年でしたか、夏に、札幌地方裁判所で、長沼町というところに自衛隊がナイキ基地をつくる、それに対して住民が反対をする、そこで馬追山という山に保安林がある、これは農林大臣の管轄になっているわけですけれども、これを基地に転用するためには保安林を解除しなければならない、それで保安林の解除を農林大臣が許可した、その処分の取り消しをめぐっての裁判だったのですね。実は、これが自衛隊の違憲性が争われることになるというので、全国から大変注目をされた。

 この裁判をめぐって、その裁判を担当していた福島裁判官が青年法律家協会という団体の会員である。この団体は現在もございまして、大変活発な活動をしておりますが、たまたま私はその青年法律家協会の議長をそのときにやっておりました。時折、青法協は政治的な発言もすることがあったのですけれども、そういう政治行動をやっている団体ではない。その当時、青年法律家協会には、少壮の弁護士、学者、それから検察官若干名、二百名を超える裁判官が加入しておりまして、それで裁判官部会というものをつくって、非常にまじめな法律研究をやって、新聞、雑誌などにも発表したりしていたのですね。ところが、これが政治的な色彩が強い、それに裁判官が入っているというのはゆゆしい問題だということに火をつけられたのが実は森山欽司先生だったわけでございます。

 森山欽司先生は、法曹出身ではありませんけれども、大変、司法の問題に造詣が深く、また御関心が深く、いろいろな御提言もなさっていた。その森山先生が火をつけられたようなことから、裁判官のあり方、裁判所のあり方、あるいはその独立性、中立性などをめぐっての大議論が沸き起こりまして、その後に、宮本裁判官の再任拒否問題だとか、あるいは司法修習生の裁判官になることについての新任拒否事件だとか、いろいろな具体的事件に発展していくわけですが、その間に私と森山先生は何度かテレビだとかあるいは報道の場で論議をする機会を持たせていただいて、その御造詣の深さに大変感心しつつも、かなり意見を異にいたしまして、しかし非常に真摯に対応していただいて、私などはまだぺいぺいの弁護士だったのですけれども、そのことを思い起こしたりしております。

 それだけに、森山先生が御存命でしたら恐らく法務大臣にもおなりになっただろうと思われるだけに、今度、森山大臣が御就任ということはいろいろな意味で私は感慨深いと思います。どうかひとつ、また女性の目も交えてこの司法の問題にお取り組みをお願いしたい、このように思います。

 先般、所信をお伺いいたしました。時間がありませんから多少かいつまんでということになりますけれども、御案内のように、今、小渕内閣のときに発足いたしました司法制度改革の審議会が、短い期間で非常に精力的な御検討で、いよいよ来月には最終答申が出ることになっております。ここで討議されている中身、そして既に昨年の秋に中間報告も出ておりますので大体基本的な姿勢はわかるのですけれども、言ってみれば、我が国の司法制度の根本にかかわり、そのあり方に関しての論議、それに基づく提案が具体化されるということになりますと、私は、本当に我が国の歴史上百年に一度とも言えるような大改革になるだろう、こんなふうに思っております。

 そこで、大臣はこの間の所信で時代の要請にこたえるべく司法制度の変革ということを言われておる。小泉内閣はあらゆる分野での改革ということを言われておりますけれども、この司法改革というのはその中でも非常に重大な意味を持ってくると思いますので、この司法制度改革のイメージについて、まずお聞きをしたいと思います。

森山国務大臣 佐々木先生の、亡夫の森山欽司についても言及いただきまして、大変温かいお言葉をいただき、まことに恐縮に存じます。私は、大変微力ではございますが、一生懸命やりたいと思っております。

 そこで、司法制度改革の問題でございますが、今日本はあらゆる面で非常に大きな改革の必要に迫られておりまして、行政改革、財政改革、その他さまざまな改革に取り組むところでございますが、その中核をなすのが実は司法制度改革ではないかというふうに思っております。

 ですから、これからの社会が、特に司法の面から申しますと、事後監視・救済型へと転換していく中で、国民の権利、利益の救済を図る司法の役割というのは大変重要になっていく、一層重要性を増していくというふうに考えられます。

 さらに、国民が身近に利用することができて、社会の法的ニーズに的確にこたえることができる、そのような司法制度をつくっていくということがどうしても必要であるというふうに考えております。

 司法制度改革審議会の中間報告におきましては、先生十分御承知のとおり、裁判の迅速化、司法へのアクセスの拡充などの制度的基盤の整備、それから、法曹等の大幅な増加などの人的基盤の充実強化、さらには、司法の国民的基盤の確立といった点が司法制度改革の三つの柱ということになっておりまして、これらの課題は、時代の要請にこたえるべき司法制度を築く上でいずれも全部重要でございますので、審議会がこれらの問題を含めまして実りの多い最終意見を取りまとめてくださるように期待しているところでございます。

佐々木(秀)委員 そこで、まだ最終的な答申が出される前段ですので、具体的な問題については、この答申が出た後にまたこの委員会でもいろいろと議論させていただきたいとは思うんです。

 しかし、この答申が出されますと、いずれにしても、政府としてそれをどう具体化していくか。そのとおりではない。もちろん、それに基づいて検討をされて具体化の方策を取り決められるんだろうと思うんですけれども、この答申が出た場合に、その答申の内容を具体化する受け皿、そして、それを検討し具体化する推進体制、これが非常に重要になってくると思うんですね。これについては今どういうようにされようという構想がおありなのか、その辺をお聞かせいただければと思います。

森山国務大臣 先生おっしゃいますとおり、これは非常に大きな広範にわたる改革でございます。ですから、司法制度改革審議会の最終意見が六月に出るという予定でございますが、これについては政府全体で取り組んでいく必要があるのではないかというふうに考えておりまして、法務省といたしましても、もちろん、政府の一員といたしまして、特に深いかかわりのあります立場といたしまして、改革の実現に向けて最大の努力をしていきたいというふうに考えております。

佐々木(秀)委員 まさに政府全体として取り組んでいただかなければならないわけですね。これは法務省だけの問題ではありませんが、しかし、何といっても法務省が主になっていただかなければなりませんので、どうか関係の各省庁、各大臣にもぜひ御協力方を求めていただきながら、しっかりとこの答申に取り組み、そしてその内容をよりよいものにするために御努力をいただくようにぜひお願いをしたいと思います。

 もう一つ、この所信の中で大臣は、「この変革期にあって、時代に即応した経済活動を支えるにふさわしく、かつ、国民にわかりやすい民事、刑事の基本法制の整備を早急に行う必要がある」ということを強調されて、法務省としては、平成十七年までを目途に全力を挙げて集中的にこれに取り組んでいるところだ、こういうようにおっしゃっております。つまり、現在進行形でもうやっているんだということなんですけれども、だとすれば、取り組んでおられる法制の内容など、余り細かくなくて結構ですけれども、特にその重立ったものなどについてお話をいただければと思います。

横内副大臣 私から御答弁をさせていただきます。

 民事、刑事の基本法制の整備、多方面から多岐にわたる検討を行っているところでございます。

 簡単に申し上げますと、商法関係につきましては、まず、コマーシャルペーパーのペーパーレス化のための法律案を今国会に近く提出をさせていただく。それから、ストックオプション制度の改善等に関する商法の改正案を今年秋の臨時国会に提出することを目指して検討を行っております。

 そして、商法関係で一番大きい課題は会社法制の大幅な見直しでございまして、そのための商法改正案を平成十四年の通常国会に提出する予定で検討しておりまして、現在、法制審議会の会社法部会でも審議を行っておりますけれども、本年の四月十八日にその中間試案を公表して、関係方面の意見を聞いているところでございます。

 倒産法関係も大きな課題でございまして、会社更生法の見直しを平成十四年度中、それから破産法の見直しを平成十五年度中に結論を得るということで、現在、法制審議会で検討、審議中でございます。

 民法につきましては、抵当権等の担保権の執行手続の法制の見直し、あるいは建物区分所有法の法律の見直し等を法制審議会で近々議論を始めるということにしております。同時に、民法、商法の、全面的な平仮名化といいましょうか、現代口語化の改正をしていきたいと考えております。

 刑事基本法制につきましても、現在は、健全な経済活動を推進するための経済関係の罰則の見直しについて検討を進めております。

 同時に、コンピューターの普及に伴いますハイテク犯罪に的確に対応するための捜査手続の整備とか、あるいはハイテク犯罪に関する罰則の整備等についても検討を進めているところでございます。

 なお、今、今国会に検討をお願いしているわけでありますが、クレジットカードに関する犯罪が多発している状況から、そういったものに対する罰則の整備を行うべく、刑法の一部改正に関する法律を今国会に提出してお願いをしているところでございます。

 以上でございます。

佐々木(秀)委員 一つ、老婆心というか老爺心ながら申し上げておきますけれども、確かに、司法というのは社会のあらゆるものに対してさまざまな影響を持ち、また、さまざまなところに役に立つという役割があることは否定はしないわけで、特に経済と司法というものの結びつきの大きさも私はわかるんですけれども、ただ、それが経済のためにというのならいいんですけれども、経済界の、特に一部経済界のために資するなどということではならないと私は思うんです。

 今お話があった中で、ストックオプションの問題もありました。実は、前にストックオプション導入のときには大変問題になりまして、自己株の取得というのは本来、我が国の商法上は原則禁止だったんですね。これを解禁したわけです、規制緩和したんですね。これはまさに経済界全体というよりも経済界の一部の御要請が強かったと私は思うんです。今、さらにそれに検討を加えるということですけれども、どうかひとつ、そういう大きな視点に立ってお考えをいただいて、特定の利益団体などだけのためになるような法律というのは私はいかぬと思うんです。このことを十分にひとつお気にかけていただきたい。また、そういう論議も私どもさせていただきたいと思います。

 それともう一つ、私は、司法の役割の大事なのは、何といっても国民の権利を守るということだろうと思うんです、人権を守る。特に、規制緩和の中で競争社会になってまいりますと、どうしても弱者が出てくるのは間違いない。その弱者のためのセーフティーネットといいますかセーフガードというか、そういうことに考慮した司法の役割というもの、これは強調し過ぎることはないだろうと思うんです。

 そういう意味では、所信の中で、今のくだりに続いて、大臣は人権擁護のことについても触れられております。近々、人権擁護推進審議会が、これまた二十五日と聞いておりますけれども、人権救済制度のあり方に関する答申を出される予定のようですね。これについては、一部新聞がその全文を入手したなどということを報道しておりますけれども、まだ正式に出ておらないわけですから、これが出た段階でまたこの人権の問題については議論をさせていただきたいと思っております。どうかそういう点での配慮をぜひお願いしたいと思います。

 それと、私たち民主党としても、司法制度改革への意見、議論をいたしまして取りまとめをいたしまして、この意見を取りまとめたものを昨日付で実は内閣官房それからこの審議会の方にもお出しをしておりますので、大臣も、そう大部のものではありませんので、お手元で見ていただければありがたいと思います。

 きょうは裁判所も来ておりますけれども、時間がないので、これはまた後の機会に裁判所とも議論したいと思うんですが、今度の審議会の中で非常に法曹人口の具体化についていろいろな提言をなさっている。特にその中で、弁護士人口、これを十年後には今の倍以上にするんだ、五万人体制にするんだということをまず言われて、その手だてとして、司法試験の大改正、それから司法試験の合格者を一気に三千人までふやす、それからまた、法科大学院構想なども打ち出しておられるんです。

 しかし、私は、どちらかというと一番問題なのは、裁判所、裁判官だと思うんですよ。

 現に、もうここでもさんざん議論になりましたように、裁判官の数が本当に足りない。それで、現場の裁判官は、通常事件で訴訟を担当する裁判官が、民事事件など二百件以上の事件を抱えてあっぷあっぷしているということで、ゆとりなどというものはとてもない、人間的な生活あるいは家庭を持っている裁判官は家庭生活を楽しむなんという時間が全くないというような状況、こういうことでは私はまともな裁判ということは期待できないと思うんですよ。ですから、裁判官の給源をどうするかということが非常に大問題になると思うんです。

 この審議会に過日、最高裁判所が裁判所改革のあり方についての提言をなさっておられる。それなりになかなか評価に値するところもあるわけですけれども、しかし裁判官の増員については、ここ十年間であと五百人ぐらいふやしたいというようなことを言っているようなんですが、こんなものではとても足りない。片っ方で毎年毎年三千人からの司法試験合格者が出るという中で、十年間で五百人なんというのは、これは話にならないんだと思うんですよ。しかも、弁護士の数がどんどんふえてくると、それに従ってやはり事件だって多くなるのは間違いないんですから、そんなみみっちいことを言っていないで、もっとどかんとふやす手だてを講ずることが必要だろう。

 そのためには、実は、今度の審議会の中間答申の中で、私はやや残念だなと思われるのは、法曹一元についてはっきりとした提言をなさっておられないことなんです。私どもの民主党の意見書では、やはり法曹一元ということを、裁判官、検察官になる人は弁護士経験を経た者からとるというように、アメリカのようにする方がいい。それによってよい裁判官、よい検事もたくさん得られるんじゃないかということを実は提言しておりますので、この点についても御考慮いただきたい。

 それからまた、今まで何といっても国民と裁判所あるいは司法との距離が遠過ぎたと思うんですね。そういう意味で、国民の司法参加の方策を審議会がいろいろ提言されているのは、これも評価に値することだろうと私は思います。しかし、残念ながら、裁判員制度が刑事事件だけに限って今考えられているというのはいかがなものか。民事事件でも、あるいは、特に国や行政機関を相手とするような裁判の場合に、国民から裁判員を求めるというようなことももっと積極的に考えられるべきではなかろうかというようなことを私どもの意見書では提言しております。

 それから、国選弁護人あるいは公選弁護人の制度を、起訴された人だけではなくて被疑者の段階からつけるべきこと。それから、法律扶助の制度も、以前に比べますと財政援助も大分拡大はしましたけれども、先進諸国に比べるとまだまだ足りないものですから、こういうことについてももっと国は積極的に取り組んだらどうかというような提言もしておりますので、大臣、ぜひこれも御参考にしていただければと思います。

 時間の関係もございますから、司法改革の問題はこの程度にいたします。

 実は、入管の問題は、この間、長勢委員が非常に現状についていろいろな問題点を指摘された質問をいたしました。これもいろいろお聞きしたいと思ったんですが、時間がありませんので端的に。

 この間、長勢委員の質問でも明らかなように、とにかく入管業務は非常に大事だし、ますます忙しくなってきていますね。それから、地方空港などで外国からのチャーター便をどんどん出すようになって、実は私の地元の旭川空港などでも、ことしは台湾からのチャーター便が非常に多くなってきている。そのたびに、出張所がないものですから、入管、税関の関係の方、ほかから来ていただいてやっていただくんですけれども、これは需要はますますふえると思うんですよ。

 しかし、この間、総務省のお話のように、定員枠の中でやりくりしなきゃならないから大変だというんですね。しかし、法務行政というのはどうしたってこうやって人手がかかるわけですよ。人手の要るところに人を配置しなければならない。しかし、それは定員枠の中でやるとすれば、こっちにふやせばこっちは減らさなきゃならない。しかし、登記事務なんかだって、これは幾らコンピューター化するからといったって、やはり人の力によるところが大きいわけです。

 そこで、入管局長、一つは、いずれにしても入管行政についてはもっと定員が欲しいんでしょう。たくさん必要なんでしょう。そのことだけ、要るか要らないかだけ確認させてください。

中尾政府参考人 非常に委員の方から温かいお言葉をちょうだいして、そのとおりでございますと申し上げたいところでございます。

 二千五百四十五人の体制、入管職員の中で、入国審査官が千百九十六人、それから入国警備官が千十二人という状況でございますので、私どもといたしましては、このような現況を踏まえまして、出入国管理体制の一層の充実に向けまして、体制整備に今後とも最大限の努力をしていきたいと存じております。

佐々木(秀)委員 局長としてはそのぐらいしか答えられないんだろうけれども、僕はもっと遠慮しないで言った方がいいと思うんだね。

 そこで、総務省、この間、定員の枠があるものだからということを言っているんだけれども、これは特別扱いで、例えば政府が、これは特別扱いだよ、枠外でこれしたらどうだということになったらどうなるんですか。考えられるんですか。

坂野政府参考人 委員の御指摘の点でございますけれども、私ども定員管理を行っております立場からいたしますれば、現在の総定員法のもとで、部門を問わずそれぞれの部門で可能な限り合理化努力を払っていただき、そこで生み出された削減原資をもとに必要な部門に増員を行って、全体として行政の効率化を進める、この方針及び枠組みというものはやはり今後も維持をしていく必要があると考えておるわけでございます。

 その中で、御指摘の入管あるいはその他の部門についてもいろいろな御事情があるわけでございまして、私ども、できる限りそういう御事情を伺いながら、可能な限りの努力はさせていただきたいと考えております。

佐々木(秀)委員 結局、定員枠を維持してその中で考えるとなれば、必要なところにはふやすけれども、どこか削らなきゃならないんですね。だけれども、そうなると削られたところだって大変なんだ。

 ですから、どうか大臣、閣議でこういうことも議論をしていただいて、どうしても必要なものには必要な人事配置をするということについての御議論をやっていただきたい、ぜひお願いしたいと思います。

 時間がありませんのでこの程度にはしょって、最後の質問。これも限られましたけれども、実は、弁護士法二十三条の二で、「弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。」という規定がございます。六法全書では「報告の請求」という見出しがついておりますが、私たちは、照会請求権、こういうように言っております。強制的な調査権限を持たない弁護士にとって、事件の解決のために、依頼者の権利擁護のために、この条項というのは非常に大事な条項で、できるだけ、支障のない限り、この照会を受けた公務所あるいは団体などはこの報告に協力をしていただく必要があるだろうと思っておるんですけれども、しかし、これについて、どうも最近地方の自治体などがなかなか素直に応じてくれないという事例が見受けられるわけです。

 そこで、実は私、この間、森総理大臣あてに質問主意書を提出いたしまして、四月六日付で森総理大臣名によってこの答弁をいただいたんですけれども、どうもちょっと明確でないところがあるものですから、お尋ねをしたいと思います。

 これについては、内閣法制局で「法制意見百選」という刊行物を出しておられる。これは昭和六十一年刊行のものですけれども、これにこの条項についての解説がある。これについては実は内閣法制局が昭和三十八年の三月十五日付で内閣法制局第一部長の回答を出されている。これについて、今言った「法制意見百選」の中で、現在最高裁判所の事務総長をやっておられる堀籠幸男さんが解説を書かれておられます。

 この解説では、この条項の照会については、照会があった場合には、ただ、公務員には守秘義務があるわけですね、これとの関係であるわけですけれども、守秘義務によって守られるべき公益と照会に基づく報告によって得られる利益とを個々の事案ごとに比較考量することによって報告義務の有無を決定すべきものだと。そして、比較考量の結果、報告を受けることによって得られるべき利益の方が勝る場合には、公務所は報告すべき義務を負うものである、そして、報告すべき義務があると認められるときには、守秘義務の課されている事項について報告をしても、刑法三十五条に言う法令によりなしたる行為として違法性が阻却され、秘密漏えいの罪は成立しないことになる、こう言っているのですね。

 内閣法制局にお伺いしますけれども、この見解は今でもこのとおりであるとお伺いしてよろしいですか。

阪田政府参考人 政府としての弁護士法二十三条の二についての考え方は、先日の先生の質問主意書に対する答弁書の中で明らかにしておるとおりであります。

 今御指摘がありました法制意見は、何分四十年近く前の古いものでありまして、率直に申し上げて、その中に、やや舌足らずで、どうも十分に意を尽くしていないのではないかと考えられるような部分があると私は思っておりますけれども、その結論の部分におきまして、御案内のように、他に違法性阻却事由がある等特段の事由が認められるときは格別云々と述べておりますことからも明らかなように、その真意は、地方公務員法第三十四条等に規定する秘密に該当する事項について、これを開示することが正当視されるような特段の事由が認められる場合にまで弁護士会からの照会に対して回答することが許されないというような趣旨ではございません。そのことを今先生が御指摘になりました堀籠元参事官も述べておられるものだというふうに承知をしております。

佐々木(秀)委員 そこで総務省にお伺いいたしますけれども、実は総務省の前身である自治省が、これは昭和六十三年の四月ですけれども、窓口事務質疑応答集というのを自治省の行政局振興課が編集して出しておられるのです。これがいろいろ、地方自治体などが行政運営について大変参考にしておられるようなんです。

 この中で、今の弁護士法の二十三条の二の解説が千七百五十一ページに載っているのですけれども、この抜粋が今の法制局第一部長の見解を紹介しているのですけれども、非常にこれは間違った紹介の仕方をしていると僕は思うんです。

 これによると、内閣法制局見解として、弁護士会の照会は、結局は照会を申し出た弁護士の依頼者の利益のためのものであるから、他人の私人の秘密を犠牲にすべきではないとの理由で報告を拒否すべき旨回答した行政実例があります。昭和三十八年三月十五日第一部長回答、こうなっているのです。

 地方自治体でこの報告を拒否してきた例、例えば平成十一年六月一日に、富山市長が富山弁護士会からの照会に対してこれを拒否している。それに今のこれを添付しているのですよ、この別紙のように。こういうことがあるからお答えできませんと言っているのです。

 これは非常に私は間違っていると思うんです。総務省として、これを直す考えがあるのかどうか。こういうことで使われたのでは私はまことに困ると思うんだけれども、どうなんですか、総務省。

板倉政府参考人 お答え申し上げます。

 弁護士法第二十三条の二の規定に基づく弁護士会からの照会の対象事項が地方公務員法または地方税法に規定する秘密に該当する場合には、秘密に該当する事項を開示することが正当視されるような特段の事由が認められない限り、秘密を漏らした者は地方公務員法または地方税法に規定する罰則の対象になるということで、照会に応じて当該事項を報告することは許されないというふうに解しております。この内容は、先ほどの質問主意書で御回答を申し上げたとおりでございます。

 この点につきましては、各地方公共団体におきまして今申した趣旨を十分理解した対応がなされますように、会議等を通じまして周知を図るとともに、今後とも必要に応じて助言等を行ってまいりたい、こういうふうに考えております。

佐々木(秀)委員 時間がありません。残念ですけれども、これ以上議論できませんけれども、この主意書でも御回答いただいた、今もお話があったように、総務省としては、弁護士法二十三条の二に基づく照会があった場合には、各地方公共団体において前段で述べた趣旨を十分理解した上での対応をなされるよう今後とも助言を行ってまいりたい、こういう行政指導をすることになっております。

 だとすれば、さっき内閣法制局の方で言ったような趣旨をきちんと伝えていただいて判断させるというふうにしていただきたい。さっき御紹介したようなマニュアル、このマニュアルの記載は、私は間違っておると思いますよ。だとすれば、これを直していただかないと、間違った行政指導になってしまうと思いますよ。この点、まず検討してください。今は即答は求めませんけれども、後にまたお尋ねをいたしますけれども、ぜひそういうふうに御指導いただきたいということを申し上げて、質問を終わります。

 ありがとうございました。

保利委員長 次に、枝野幸男君。

枝野委員 時間がありませんので、端的にお答えください。

 ハンセン病の判決が出ております。控訴期限は来週ですが、控訴するかどうか、結論は出たのか、出ていないのか、答えられないのか、三つのうちどれですか。

森山国務大臣 まだ今のところお答えする段階ではございません。

枝野委員 裁判所あるいは司法制度というのは何のために存在するのですか。

森山国務大臣 司法制度というのは、具体的な争訟につきまして法を適用し、これを解決することにより権利の実現及び法秩序の維持を図ることを目的とするものであると理解しております。

枝野委員 権利の擁護はわかるのですが、法秩序は何のために維持するのですか。

森山国務大臣 大きく申せば、国の安定のため、国民の安定した生活のためということになるのではないでしょうか。

枝野委員 三審制度は何のためにあるのですか。

森山国務大臣 我が国では三審制度を採用しておりますが、当事者が下級審の判断に不服がある場合には、さらに上級審の判断を求めることができるということになっておりまして、この制度によりまして、下級審の判断に誤りがある場合にはそれが是正され、当事者の権利の保護と法令解釈の統一を図ることができるものと考えております。

枝野委員 法律論ではなくて、法律論を離れて、ハンセン病の元患者の皆さんに対して法務大臣はどうお考えですか。

森山国務大臣 昨日、私も患者の代表の方にお目にかかりました。るる具体的な御経験について承り、本当に胸が痛みまして、何とかしなければいけない、何らかの方法で救済策を考えなければいけない問題ではないかというふうに考えた次第でございます。

枝野委員 何らかの形であの患者の人たちを救済しなければならないということであるならば、控訴をする理由はないのじゃないですか。

森山国務大臣 現実のお気の毒な状態を何とか救わなければならないという気持ちは先ほど申したとおりでございますが、法律の問題はまた手続その他さまざまなことを勘案いたしまして総合的に考えていかなければならない問題ではないかと思いますが、特に具体的に、責任官庁であります厚生労働省のお考えもあるでしょうし、いろいろと協議をしていかなければいけないと思います。

枝野委員 先ほど、司法制度も三審制度も人権を守ったり国民生活を安定させたりということのためにある、つまり法制度はそのためにあるということをあえて先にお伺いをしておいたのです。その上で、この被害者の人たちを救済しなければならないということも一方でお感じであるならば、法制度の目的から考えれば、法制度が云々かんぬんという話は些事ではないのですか。総理がよくおっしゃっている些事にこだわらずという話じゃないんですか。

森山国務大臣 私は、法秩序を維持するということは些事ではないと思います。非常に重要な国民生活の基本でありますので、これをきっちりと守っていくということは大変重要なことだと思います。

枝野委員 ですから、法秩序を守るのは何のためなんですか。

森山国務大臣 先ほど申し上げましたように、全体の国民の安定した生活を守るため。

枝野委員 全体の安定のために、あの被害者の人たちは、あの人たちの思い、今までの苦しみというものはそれに比べれば小さい、そういう答えですね。

森山国務大臣 その両方を比べてどちらが大きいとか小さいとか言える問題ではないと思います。質が違う内容だと思います。

枝野委員 質が違うけれども、どちらか選ばなきゃいけないわけですよ。どちらか選ぶとしたら、どちらを優先させるんですか。

森山国務大臣 政府全体としてできるだけ皆さんの御意見を承り、そして総合的な判断をしなければいけないと思いますので、政府全体としての考えをまとめなければいけません。そのお時間がもう少し必要ではないかというふうに思います。

枝野委員 では、別の視点から聞きましょう。この判決は憲法解釈について新たな見解を示しておりますか、おりませんか。

森山国務大臣 これは特に国会のあり方について言及していらっしゃるということが、これは初めてではございませんけれども、非常に重大な課題を投げかけていると思います。また、十三条が憲法違反ではないかということも言及しているかと思います。ちょっとここに判決がございませんので、失礼いたしました。

枝野委員 ちゃんとこれは通告してあると思うんですが、最高裁の判例で、ある条件を満たせば国会の立法不作為は違法になるという判例は既にあるんじゃないですか。そして、今回の判決はその判例を引いて事実の当てはめをしているだけではないですか。

森山国務大臣 その点についても子細に検討させていただいているところでございます。

枝野委員 控訴するしないという決定が出たら、もし特に控訴をした場合はその点説明していただけますか。

森山国務大臣 決定が出ました場合には説明を申し上げると思います。

枝野委員 では、委員長、決定が出たら集中審議してほしいんですけれども、審議してください。

保利委員長 後刻理事会で協議をさせていただきます。

枝野委員 結論が出る前に実は教えていただかないと困るんです。我々は当事者ですから、法務省として今回の判決の憲法解釈についてどう評価するかを事前に教えていただいて、立法府として、その法務省としての、あるいは内閣法制局を含めた内閣としての法律判断を参考にしながら我々は結論を出さなきゃいけないと思うんですが、いかがですか。

森山国務大臣 決定が出ましたら、いずれにせよ御説明申し上げる機会があると思います。

枝野委員 いや、違いますよ。

 最終的には、国が被告の事件については法務省、政府が当事者、代理人的な側面も含めて決定をするわけですが、この件は我々の不作為が問われているわけですから、私も平成五年から国会議員をやっていますから、平成八年の間の三年間の立法不作為の違法を問われているわけですから、そのことについて我々として、控訴すべきであるかしないべきかという当事者として判断を下すに当たって、その判断の前に政府としての見解が要るんじゃないですかと聞いているんです。

森山国務大臣 当然、国会の御意向もお伺いするということになると思います。

枝野委員 ですから、国会の意向を聞くに当たっては、法務省としては、あるいは内閣法制局も含めてもいいですが、政府としては、今回の判決の中で、特に憲法判例として前例になりかねないわけですから、その部分のところについてどういう判断をしているのかお示しいただいて、その判断が正しいのか正しくないのかディスカッションをさせていただかないと、本来は我々は結論を出しにくい。

 一方的に法務省なり政府なりから、これについては法律上憲法判例を統一しなきゃならないとか、いろいろごちゃごちゃ些事をおっしゃっている人たちがいるようでありますが、そういうことを公開の場できちんと言っていただいて、ディスカッションしていただいて、なるほどそうだったら、確かに法秩序全体維持ということも大事なことですから、さあどうしようかという政治判断は要るかもしれませんが、オープンの場でそのことについてどう考えているのかディスカッションする場がないと、だから控訴しないという結論は少なくとも出せないと思うので、事前に出していただくべきと思いますが、どうですか。

森山国務大臣 実際のやり方といたしましては、上訴の要否の判断について参考にいたしますために、所管行政庁、つまりこの場合は厚生労働省でございますが、その意見を聴取しておりますけれども、国会議員の先生方の問題につきましては、衆参両議院の事務総長あてに両議院の意見を求めるという手順になっております。

枝野委員 その手続についての話を聞いているんじゃないんですけれどもね。事前にその法律判断についての法務省なり法制局なりの意見というものをお示しいただいた上で国会としての意思を決めるということじゃないとおかしいんじゃないですかと申し上げているんですが、時間がないので、これはこれ以上言いません。私はそう思います。

 もう一つ、その国会の意思なんですが、事務総長に聞くという話はないんじゃないですか。事務総長を通じて聞くんじゃないですか。

森山国務大臣 国会が国会の意思をどのように決定され、表明されるかということにつきましては、国会の御判断にお任せしなければいけないと思います。

枝野委員 ですから、事務総長は国会議員じゃないんですから、事務総長に聞くという先ほどの御答弁はおかしいんじゃないですか。事務総長を通じて聞くという話じゃないとおかしいんじゃないですか。

森山国務大臣 そのとおりでございます。

枝野委員 事務総長を通じてだれに聞くんですか。事務総長を通じて、少なくとも議長または、あるいは議長も通じてなのかもしれないけれども、事務総長という議員でない人に、つまり当事者でない人を通じてだれに聞くんですか。事務総長には意思決定権がないわけですから、事務総長が勝手に、私はこういう判断で、衆議院としての意見はこうですと答えられちゃ困るわけですよね。そのことは政府としてもわかった上で事務総長を通じて聞かなきゃいけないんじゃないですか。

森山国務大臣 国会が国会の意思をどのように表明されるかというのは、国会の御判断ということでありますので、そのようなことを事務総長を通じてお願いするということです。

枝野委員 ですから、そのことを例えば事務総長がきちんと議長なら議長、議院運営委員会なら議院運営委員会に伝えるということを前提としてでないと、通じてということにならないわけですよ。ですから、そういうことをちゃんとされているんですねと。でないと、衆議院としての意見をどう決めるのかは衆議院が決める話ですけれども、ここを通じてというのを、例えば一国会議員を通じて聞いたって、聞いたといえば聞いたのかもしれないけれども、そこはちゃんと院の意思をきちんと体現してくるであろうという聞き方をしなければ無責任だから聞いているわけですよ。

森山国務大臣 事務総長を通じてお聞きするということは、つまり、「事務総長は、議長の監督の下に、議院の事務を統理し、公文に署名する。」ということが国会法の第二十八条にも書いてございますし、そのような根拠に基づきまして事務総長が処理していただけるというふうに思います。

枝野委員 人権擁護局長も来ていただいていると思いますが、人権擁護局は何のためにあるんですか。

吉戒政府参考人 お答え申し上げます。

 人権擁護局は、昭和二十三年に発足した組織でございまして、そのとき以来、各種の啓発広報活動によりまして国民の間に広く人権尊重思想が普及徹底するように努めるとともに、具体的な人権に関する相談や人権侵犯事件の調査処理を通じまして、関係者に人権尊重の思想を啓発し、被害者の救済に努めているところでございます。

枝野委員 被害者の救済をするんですよね。まさか政府は、さすがにハンセン病の被害者の人たちが何らかの意味で人権を侵害されたということは否定されませんよね。

 そのことについて、法務省は、だから、国の被告代理人的な立場と、被害者の人権を擁護するという立場と、ある意味では双方代理的な立場になっているのではないですか。そういうところをどうやってクリアするのですか。

吉戒政府参考人 法務省には人権擁護局と訟務部門と二つございまして、それぞれ職責は違いますので、それぞれの分野におきまして、私どものところでは人権擁護の観点からこの事件について御判断させていただく、訟務の方は訟務の方として、訴訟の代理の観点から判断をされるものというふうに承知しております。

枝野委員 それはよくわかっているのですが、行政権を持っているのは局ではありませんから、大臣というか内閣ですから、大臣というところに体現されて行政権は内閣にあるわけですから、その中で、人権擁護と訟務の立場というのは双方代理的なことになるのではないですかということを申し上げているので、だから人権擁護局は法務省から切り離しておくべきだということを申し上げておきたいというふうに思います。

 最後に、この点についてもう一つ確認をしておきます。この件について控訴をするしないというのは、これは政府として、つまり内閣として決定していただくということでいいですね。

森山国務大臣 法務大臣が責任者でございますが、非常に重要な課題でございますので、具体的に責任ある厚生労働省、あるいは総理のお考えも十分伺いまして、最終的にやらせていただきたいと思います。

枝野委員 したがって、今回控訴するしないということの結果については、当然のことですけれども、内閣全体として責任を持っていただくということを念を押しておきたいと思います。

 時間が短いのですが、金正男問題について聞きます。

 金正男と思われる人物が偽造パスポートで入国した件について、当該同一パスポートで過去三回入国の例があるというふうなことになっていますが、同一の偽造パスポートで三度、四度にわたって不法入国をしたというケースは、過去にありますか、ありませんか、わかりませんか、答えられませんか、どれですか。

横内副大臣 今委員の御質問は、一つのパスポートで三回入国した例があるかどうかということでございますか。それは、今そういう資料は手元にございません。調べてみます。

枝野委員 今回の偽造パスポート、偽造でありますから、だれかがどこかで偽造してそれを入手したのか、自分で偽造したのか。こういう偽造パスポートの入手ルートについては把握をできているのですか、できていないのですか。

横内副大臣 今回の偽造パスポート、どういうような組織がつくって、それをどういうふうに入手したのかというようなことにつきましては、調査をいたしましたけれども、十分解明はできておりません。

枝野委員 ドミニカの偽造パスポートのケースは少ない、信用性が高いというふうに以前レクチャーの方に聞いたのですけれども、そういうことも前提にして今のお話だとすると、これが金正男かどうかという政治問題以前の問題で、そもそも入管行政として、過去こんなに同じパスポートで入ったケースがあるかどうかわからないという、ある意味では特殊なケースなわけですね。たくさんあるのだったら、あります、数はわからないけれどもありますと答えられるわけで、一つ、レアケースなわけです。

 もう一つは、ドミニカパスポートという信用性が高いと言われているパスポートについて、三度も見逃されるような、そんな精巧な偽造をしていたというケースなわけですよ。我が国の入管行政をしっかりさせようと思ったら、この点限りにおいてももっときちんと捜査すべきではないですか。

横内副大臣 ドミニカ共和国のパスポートが信頼性が高いかどうかという判断はともかくといたしまして、偽造ドミニカ共和国旅券というのが最近は大変にふえておりまして、平成十一年度はゼロだったわけでありますが、平成十二年度中に五件、このドミニカ共和国の偽造パスポートが発見されております。

枝野委員 では、その五件について、どういうところでどうつくられてという捜査はどれぐらいしたのですか。

横内副大臣 この偽造パスポートにつきまして、具体的にどういう製造ルートだったかという調査は、当然それを利用した人間にいろいろな調査をするわけでありますけれども、そこまでは私どもとしては調査はしておりません。

枝野委員 ちなみにドミニカ共和国には今回のケース、あるいは、過去の十二年に五件ですか、そういうケースについて通報して、そっちでどうなっているのか、変なパスポートで入ってこられたら困るからというような交渉とかはしたのですか、していないのですか。

横内副大臣 ドミニカ共和国に対しましては、今回この偽造旅券が発見をされたということにつきまして、外務省を通じてドミニカ共和国がその旅券を発給したかどうかという事実も確認をしております。五月二日に外交ルートを通じて同国に照会をし、五月十五日に、それは偽造だ、当国としてはそういうものを発給したことはない、そういう回答を得ておりますので、ドミニカ共和国にそういう事実は伝えているということでございます。

枝野委員 この問題は政治問題の方が最初に出てきてしまったのでみんな忘れてしまっているのですけれども、入国管理行政として不法入国をきちんとシャットアウトするということは大事なわけですよ。この偽造パスポートで過去三回も入っているわけですよ。そういう精密な偽造をすることについて、どういうところでどうつくっていて、どういうルートでこれが流れているのか。しかも、過去、おととしなかったのに去年は五件も出てきている。しかも三件、つまりチェックできなかったわけですね。

 当然のことながら、こういう偽造パスポートがつくられないようにドミニカ共和国とも協力をして、例えば、ドミニカ共和国に対してどういう情報があればそっちで捜査しやすいのだというようなやりとりを十分にして、その上で、もちろん主体的にはドミニカ共和国が捜査しなければいけない話ですけれども、そのための情報資料はどれぐらい金正男と思われる男からとったのですか、とっていないのですか。

横内副大臣 先ほども御答弁をいたしましたけれども、この偽造パスポートをどういうふうに入手したか、その辺につきましては調査をいたしましたけれども、確認ができなかったということでございます。

枝野委員 何を調査したのですか。どこで調査したのですか。基本的には、ドミニカ共和国のパスポートを持ってシンガポールからやってきたのだから、シンガポールとかドミニカとか、そういうところにいろいろ照会をかけて、そんなもの二日や三日で調査できるのですか。やっていないではないですか。

横内副大臣 入管の調査というのは、委員御案内のように、出入国の適正な管理をする。そして、偽造のパスポートを使って不正に入国した場合にはそれを速やかに退去させるというのが入管法の目的でございますから、入国管理担当の職員はそういう観点での調査を行っているわけでございまして、さらにそれを、ドミニカ共和国でどういうルートでどうやってそれがつくられたかとか、そういうことまでは一般的には調査をしていないということでございます。

枝野委員 そのことが間違っているのですよ。だから告発権があるのですよ。捜査機関に捜査をさせるための告発権があるのですよ。日本の入管行政というのは、偽造パスポートを持っている人間を入管のところでチェックをして、偽造パスポートだったら追い返す。だけれども次から次へと偽造パスポートで、しかも自分たちが過去に三回も見逃しているわけですよ、そういう精密な偽造パスポートがどんどんつくられてどんどん入ってこようとしていても、その根元のところはほっておいて、日本の入国管理というのは関係ないのですね。どんどんつくられて構わないのですね。今の答えはそういうことでしょう。

横内副大臣 偽造パスポートがどんどんつくられて構わないということではもちろんないわけでありますけれども、入管職員の仕事としては、そういう偽造パスポートをできるだけしっかりと発見をし、そしてそういう不正な入国に対しては退去をする、そういう仕事をきちっとやっていくというのが入管職員の仕事でございますから、そういうことで仕事をしているということでございます。

枝野委員 私は入管局長にお尋ねをしているのではないのですから。入管局のお役人の人がそういう処理をするのは当たり前ですよ。そこに捜査権限もないのだし。だから法律に「告発するものとする」と書いてあるのでしょう。

 直接には海外まで含めて捜査をするだなんということはできないから、こんな偽造パスポートがたくさんある、あるいは今までなかったような精密な偽造パスポートがつくられている、根元を絶とうと思ったら不法入国罪で捜査機関に捜査をしてもらう。だから告発の条項があるのではないですか。なぜ告発の条項を使わないのですか。今回のようなケースで使わなければいつ使うのですか。

 まさに皆さん自身が見逃すような精密なパスポート、しかもふえてきている。その国のパスポート、こんな変なものをつくられないようにということは、もう我が国だけに限らないけれども、特に我が国へ入ってきているケースが最近ぼっと出ているわけだから、我が国の入国管理行政をしっかりさせるために告発するのは当然じゃないですか。

横内副大臣 偽造パスポートを使った不正入国というのは非常に件数が多いわけでございまして、例えば、具体的に数字は後でお話をいたしますけれども、非常に件数が多いわけであります。したがって、何でもかんでも偽造パスポートを使っているから告発というわけにはいかないわけでありまして、偽造パスポートを使って入ってきた人間が犯罪にかかわりがあるとか、そういう場合に限って告発をする、実際の運用としてはそういう運用でやらせていただいているということでございます。

枝野委員 その従来の運用が間違っているんじゃないかというのが一つですよ。だって、間違いなくすべての偽造パスポートの話は不法入国罪で、犯罪そのものなんですから、成田におり立った瞬間に。やろうと思えば、全部逮捕できて、全部起訴することはできるんですよ。

 それからもう一点、そもそも間違いなのは、数が多いからこそ根っこを断たなきゃいけないんじゃないですか。固有名詞は挙げませんけれども、偽造パスポートがはんらんをしているような国の話だったら、あるいは本国の方の体制だって不備もいろいろあったりするだろうから、ある意味では我が国ではどうにもならない、チェックを一生懸命するしかないというケースも確かにあるでしょう、相手国によっては。でも、ドミニカというのは、おととしまでは前例がないような信用性の高いパスポートだったはずなのに、去年五件も出てきている。しかも、その五件のほかですよね、今回の、過去に三件入っているというのは。ということは、こういう芽の段階で摘むということが、まさにあの告発条項、告発の規定があるということに込められている意味じゃないんですか。こういうところで告発をするから、ばかみたいな数がたくさんあるという話になる前にとめられるということじゃないですか。

横内副大臣 委員の御指摘のような点は私どももわかるわけでありますが、現実に毎年数百件というような偽造パスポートを使った不法入国事案があって、それを現実にすべて告発をするということになると、実態の手続としてなかなかやはり警察としても対応できないということがあるわけであります。したがって、犯罪にかかわる事例とかそういうものに限って、悪質なものについて告発をしているということでございます。

 今回の場合には、具体的にそういった、例えば麻薬の問題だとかあるいは過去に犯歴があったとか、そういうふうな事例ではなかったために、従来の処理例に従って、告発はせずに強制退去処分をしたということでございます。

枝野委員 時間のようですから、最後に、今の御答弁に対して二つ申し上げておきたいというふうに思います。

 今度警察にも私お尋ねしようと思います。警察の方は、何百件という不法入国について告発をされたら捜査する力がないほど日本の警察というのは頼りないんですねと今度警察にお尋ねをしたいというふうに思います。本当にそういう話なんですかということですよ。

 それから、例えば今麻薬云々とかという話をおっしゃいました。確かに、麻薬を所持して不法入国をするとかいうようなケースの方が悪質なのはよくわかります。でも、入国管理行政というのはそういうものじゃないんじゃないですか。つまり、偽造のパスポートみたいなもので入ってくるということ、そのこと自体が麻薬を国内でやるケースと匹敵するぐらい大変重大な話ではないんですか、この国にとっては。それとも、我が国は、そういう国境の垣根は低くします、どんどん入っていらっしゃいと。少なくとも我が国はそういう政治選択をまだしていないですよね。入国のところでがっちりガードする。

 私は、不法入国罪そのものが、例えば覚せい剤とかそういう事案と同じぐらい、それが正しいかどうかは別として、少なくとも今の日本では重大な犯罪だということの位置づけで、前提で我が国の入国管理行政はできているというふうに思いますので、麻薬とかがくっついていなかったらただ追い返せばいい――もちろん、全部を全部起訴しろなんて言っていませんよ。根っこを断つために必要だと思われるケースは少なくとも、起訴するかどうかは別として、告発して、逮捕、勾留しておいて、その上でドミニカとかシンガポールとかといろいろと協力をして根っこを断つための努力をするというのが、金正男だろうとだれであろうと、それ以前の問題の入国管理行政として当然やるべきことだったということを申し上げて、終わらせていただきたいと思います。

 ありがとうございました。

保利委員長 次に、平岡秀夫君。

平岡委員 民主党の平岡秀夫でございます。

 枝野議員に引き続きまして、私も、金正男と見られる男の不法入国問題についてまず御質問したいと思います。

 私の質問の趣旨、目的というものをまず先に申し上げたいと思うんですけれども、私はこの問題については、やはり事実関係を国民の前にできる限り明らかにして、その明らかにされた事実に基づいて内閣または小泉総理あるいは森山法務大臣がどのような判断を下したのかということをやはり国民にちゃんと説明する責任があるんではないか、そういう観点に立って、今まで政府がいろいろなことを説明しておりますけれども、それに対して、本当にそうであったのかということを私として非常に関心があるといいますか、むしろ今までの全体の流れを見ると、政府は本当のことを言っていないんじゃないか、そういうような思いがするわけであります。例えば、人定ができていない、人物の確認ができていないとか、あるいは過去の不法入国は確認できなかったであるとか、そういったようなことは、いろいろな新聞報道あるいは我々が直接目にした光景、そうしたものから考えると、どうも事実ではないんではないかという感じを国民のみんなが持っているというような状況にあるということをまず御理解いただきたいと思います。

 そこで、森山大臣は、この前の予算委員会でこういうふうに答弁しておられます。「各関係者の意見その他を一々報告をもらいまして、私は、それらを聴取し、総合的な判断をいたしまして、方針を決定し、指示した」と答弁しておられます。そして、小泉総理はこの問題に対して適切な処理がなされたと思いますと答弁しておりますけれども、こうした判断の基礎となった事実というものが必ずしも明らかになっていない。そのような状態の中で、我々が小泉総理あるいは森山大臣が判断したことについてどう評価していいのかわからないというのが現状でございます。

 そういう意味で、判断の基礎となった事実をできるだけ明らかにすべきであるというふうに考えておりますけれども、森山大臣の見解をまず伺いたいと思います。

森山国務大臣 先般の予算委員会で申し上げたことではございますが、もう一度具体的に御説明申したいと思います。

 本件といたしましては、北朝鮮の出身であると称する四人の男女、そのうち一人は子供、幼児でございましたが、偽造のドミニカ共和国旅券を持っておりまして、不法入国しようとしたことでございます。成田空港におきまして、入国目的を休暇と称しまして上陸申請をいたしました。四人の男女は家族関係または親族関係にあるということ、それから、四人のうちの一人については北朝鮮の金正日総書記の長男である金正男ではないかという未確認の情報があるというようなこと、いずれも中国への送還を希望しているなどというようなことを報告を受けたのでございます。

 私は、そのほか、本件不法入国事件に係る供述内容並びに関係省庁の意見などを総合的に判断いたしまして方針を決定したものでございまして、総理ほかの御了承も得ましたので、この判断については御理解いただけるものと思っております。

平岡委員 ほとんど事実関係は明らかになっていないんですけれども、先ほど同僚の枝野委員の方からも偽造旅券について質問がありました。私は、この四人のうち三人が偽造で一人が不正取得だということで最初に報道をされておって、この前の予算委員会のときに入管局長が、不正取得のやつも何か偽造と最後は認定したというような表現をとっておられたのにちょっとひっかかっておるんですけれども、最終的には、当局の判断としてみれば、不正取得というふうに判定をした人については、不正取得なんですか、それとも偽造だったんですか、どちらなんでしょうか。

中尾政府参考人 お答えいたします。

 先ほど、私どもの副大臣の方からお答えいたしましたように、不正取得と当初疑われた女性の旅券につきましては、五月二日にドミニカ共和国の方に外務省を通じて照会をし、五月十五日に正式に、発給事実がなく、それは偽造であるということが明らかになっておりますけれども、本件の処理に当たっても、当該旅券の記載事項のうちの国籍がドミニカ共和国になっているにもかかわらず、当該本人がドミニカ国籍を有していないという認識であり、その旨の供述をしたものでありますから、国籍がドミニカ共和国でないということは、当該旅券について発給事実がないと推認されますから、結局のところ、トータルとして偽造だというふうに判断いたしましたけれども、入管法上は、基本的には有効な旅券を所持していない場合には不法入国となりますので、構成要件上では、有効な旅券がない、所持をしていない者として不法入国と認定した、こういう経緯でございます。

平岡委員 私は、偽造と不正取得とでは若干意味合いが違うんじゃないかなと思うんですけれども、確かに入管法上同じなのかもしれません。ただ、国際的に見ると、偽造の場合というのは、発行した当局とは基本的には関係ないところで行われている。ただ、不正取得の場合は、やはり発行した当局が何らかの手段によってだまされて出しているとかそういうことがあるわけですね。

 そうなりますと、先ほどドミニカ共和国に対して照会をしたということがありましたけれども、この不正取得の分について言うと、むしろいろいろな犯罪、ドミニカ共和国が直接巻き込まれている犯罪として、通報以上の行為、つまり犯人の引き渡しとかそういうことが必要じゃないかと思うんですけれども、さっき入管は関係ないと言われたので、警察庁、きょう来ていただいていると思うんですけれども、ちょっと答えてもらえますか。

漆間政府参考人 お答えいたします。

 今の質問については、これは本来入管当局の判断でございますので、私、警察の方として意見を申し上げる立場にはございません。

平岡委員 一般的な質問をします。

 不正取得であったということで、仮に告発があるとか通報があった場合に、警察としてはドミニカ共和国との間では何かしなきゃいけない国際的な取り決めとかというのはないんですか。

漆間政府参考人 お答えいたします。

 ドミニカ共和国との関係については特別な取り決めはございません。

平岡委員 それで、それはとりあえず置いておいて、先ほど入管局長が、五月十五日に発行したことはないというドミニカからの返事をもらったというふうに言っているんですけれども、五月二日に照会をして五月十五日に返事が来た。その前にこれは偽造旅券ということですべてを葬り去ってしまったというのはいかにもおかしい。やはり五月十五日まで待って、ちゃんと返事が来てから、そしてそれに基づいて、不法取得なら不法取得ということの判断をして対処すべきであると私は思うんですけれども、なぜその五月十五日までの回答を待たずに五月四日の時点で処理を決めたんですか。

中尾政府参考人 お答えいたします。

 入管法上のことで申し上げますれば、入管法では、不法入国でないということを立証する側は、当該不法入国の疑いを受けた者になっております。この点は刑事訴訟法の立場とは全く立証責任が転換しております。

 したがいまして、本件につきましては、五月二日に不法入国の容疑で立件をして、必要な調査を行い、当人が不法入国であることの認定に服せば、その限りで不法入国ということで強制手続をとることになっております。

 本件につきましても、三人につきましては偽造旅券だということは、先ほど申し上げたようなことで、私どもの鑑定ではっきりいたしましたし、先ほどのような解釈で、これは有効な旅券でないということは明らかになりましたから当該処分をいたしたわけでありまして、それ以上のことは要求されているものとは承知しておりません。

平岡委員 先ほど来から偽造偽造というふうに言っておるんですけれども、この偽造については、報道を見ると、写真だけを張りかえたもので、素人でも見たらすぐにわかるというようなことであったというような報道もあれば、逆に、写真も非常に精巧にできておって、素人目にはわからぬというような報道もあります。

 そこで、この金正男と見られる人の持っていたパスポートがどういうふうにして偽造だと判明し、どこの部分が偽造であったのか。そして、不正取得されていたというそのリさんの旅券についていうとどこの部分が偽造であったのか、それをお答えください。

中尾政府参考人 本人、金正男だと思われる人物の旅券について申し上げますと、いわゆる旅券の身分事項に関するページがございますが、そのページ全体が精巧に張りかえられていたということでございます。

 当初、不正取得だと疑われた者の旅券につきましては、鑑識で精査したところ、改ざん、偽造の部分が一切認められなかったということでございます。したがって、先ほど申し上げたようなことで、発給事実がないという推認をいたしましたから、全体が偽造だ、こういうことになろうかと思います。

平岡委員 それで、この事件について言うと、どうしてこの金正男と見られる男が入国審査のところでひっかかったのかということがまた一つの大きな、皆さん方が推測しているところであるんですけれども、どうしてこの男が入管で審査を受けなければならない事態に至ったのか、これをお答えください。

中尾政府参考人 委員御指摘の人物につきましては、アジア系の外国人であるにもかかわらず、最近悪用事例が多いということのドミニカ共和国旅券を所持していた上に、本件につきましては、当該人物とともに四名が団体で上陸したことなどから不審に思い、口頭審理に回し、口頭審理の際に女性がいわゆる朝鮮の言葉を使ったというようなことから、先ほど申し上げたような、私どもが持っております偽変造対策室の鑑識に旅券の真偽を確かめて、その結果、先ほどお話しいたしましたとおり、三通の旅券については偽造だということが判明して、違反立件という形になった次第でございます。

平岡委員 今の答弁にあるように、鑑識にかけなければ偽造だということがわからないというような偽造旅券を持っている人間について口頭審理にかける、そういうことが現場で行われたとはとても思えないんですけれども、本当にその現場で不審に思って、それで口頭審理に付したんですか。

中尾政府参考人 今の点についてお答えいたしますけれども、今申し上げた事情のほか、私どもといたしましては種々の未確認情報はいろいろな形で得ておるわけでありますけれども、本件につきましても、少なくともアジア系の外国人が偽造のドミニカ旅券を所持して入国するおそれがあるという程度の情報は事前に入手しておったわけでありますので、その意味で、その関係のことも含めて対応したやに聞いておる次第でございます。

平岡委員 これは大臣に聞きたいんですけれども、大臣は記者会見なんかで、事前にそういう情報はあったのかということを聞かれて、そういう情報はなかった、空港の場における担当官の機転によって見つかったものだという答えをしているんですけれども、それは間違いですね。事前に情報はあったんですね。

森山国務大臣 私は事前には承知しておりませんでした。

平岡委員 私は、森山大臣が事前に知っていたかを聞いているんじゃなくて、入管当局として事前に情報を得ていたかどうかということを聞いているのであって、入管当局が事前に情報を得ていたかどうかについて、森山大臣はそれでいいんですね、そういうことでいいんですねということを今確認しているんです。

森山国務大臣 私は存じておりませんでしたが、局長のただいまの説明によって、そういうことであったかというふうに考えております。

平岡委員 今知ったというのは、本当に、政治的判断をする人がそういう情報も知らないで政治的判断をするということはあっていいんですか。そういう基本的な情報についてはきちっと踏まえて、そういう情報に基づいて我々はこういう判断をしたんだということを説明しなければ、一体何に基づいて皆さん方が判断しているのか我々は全然わからないわけですね。

中尾政府参考人 今、御質問されている先生と私どもの大臣との間で若干そごがあるやに思います。

 私の方は、大臣の方の御意識としては、金正男氏ではないかという限りの情報は事前情報としては私どもはなかった、こういうことは大臣の方に御報告はしておりましたし、金正男という者が特定できるそういう形の、名前についての情報は事前に私どもはなかった、そういうことで、大臣の方もそういう御理解であった、こういうことでございます。

 ですから、私の方の説明が、今先生と私どもの大臣との間の説明にそごが出てきたのはそういう形だろうと思います。

平岡委員 いずれにしても、何らかの情報が事前にあったということを契機としてこの人たちを口頭審理に回せるようなことができたということだろうと思います。

 そこで、またこれも不思議なことなんですけれども、報道には偽造パスポートのコピーのようなものが出ておるわけでございます。こういう状況の中で、森山大臣は記者会見で今回の事件に対して、入管局の職員について、本来の仕事を粛々とやってくれたということで、入国管理局の職員は非常によくやってくれたということをまず考えていますというような発言をしておられるんですけれども、このコピーが出回っているということを考えてみると、これはどこから出たかを考えれば、当然、入管の職員を経由してどこかから出ているわけですね。こういうことについて、大臣としてはどうお考えになりますか。

 この偽造パスポートのコピーが出回っていることに対してきちっとした部内調査をして、これに対する法務省としてのきちっとした対応をしなければいけないんじゃないですか。こんな、何かすっとんきょうな記者会見における発言というのはどういうことなんですか。

森山国務大臣 入管の職員がよくやってくれたということは確かに申しました。それは、ちょうどあの時期はゴールデンウイークの時期でございまして、非常に出入国者が多いところで、大変な仕事の繁忙の中きちっと偽造を発見して、そして処置をしてくれたという意味でございます。

 コピー云々のことについてでございますが、これは出所について承知しておりません、もちろん。入管当局から流出したという事実はないと承知しております。

平岡委員 入管当局から流出した事実はないと承知しているというのは、ちゃんと調べた、調べた上でそういうふうに法務省として判断したということですか。

森山国務大臣 調査いたしましたが、そのような事実はないということでございます。

平岡委員 きょうは法務大臣しか大臣はおられないので、そこまで言えるのかどうかわかりませんけれども、一応外務省もそれから警察当局も来ていただいております。このコピーの流出の根源、どこから流出したのかということをちゃんと調べていただいて、それについてしかるべき対応をやはり政府としてとる必要があると私は思いますので、ぜひ調べていただきたい。そして、調べた結果をまた教えていただきたいというふうに思います。

 そこで、次に、これも予算委員会でちょっと質問されているんですけれども、ドミニカ共和国を出国したのが、リについては四月二十九日に出国しているとか言っているんですけれども、ほかの三人については、ドミニカ共和国の出国の時期というのが明らかにされておりませんけれども、旅券に示されている出国の時点というのはいつでしょうか。

中尾政府参考人 お答えいたします。

 手元にちょっと資料がございませんので、申しわけございませんが、記憶しているところによりますと、ドミニカ共和国の証印はなかったと承知しております。女性一名についてドミニカ共和国の出国証印があった、こういうふうに承知しております。

平岡委員 それからもう一つ、旅券について、今、幼児については何か答弁を差し控えるようなことを言っていましたけれども、やはり同じ予算委員会で、海江田委員の質問は、幼児はキンというふうな姓であるということを言っておったんですけれども、この幼児の偽造旅券についても、何が書かれていたか、子供ですから、だれが両親であるのかということ、それから、その子供の姓は何であったのか、おっしゃってもらえますか。

中尾政府参考人 幼児につきましては、旅券上両親の記載はございません。また、幼児の氏名につきましてはお答えを差し控えさせていただきたいと思います。

平岡委員 なぜ答えられないんですか。人物を特定しろと言っているわけではないんで、姓だけでもいいんです。姓だけ言ってください。

中尾政府参考人 幼児につきましては、人道上の配慮等々ございますし、そこまで申し上げるわけにはまいりません。

平岡委員 事かように、この偽造旅券については、これは正当な手段であるかどうかはわかりませんけれどもマスコミには出されているにもかかわらず、我々は見たこともない。どこからどこまでがどういうふうになっているのかさっぱりわからないということであります。今のような答弁もありまして、本当に入管当局あるいは警察当局を含めてちゃんとした審理が行われているかどうかわからぬ、こういう事情であります。

 ぜひ、この偽造パスポート四つについてこの委員会に提出していただくようにお願いしたいんですが、委員長、いかがでしょう。

保利委員長 後刻、理事会で協議をさせていただきます。

平岡委員 それから、今度は人定の問題ですけれども、人定ができなかったということなんですけれども、この人定については入管当局はどのような手段をとって確認をしたんですか。

 新聞によりますと、写真照合で金正男と酷似していることがわかったとかいうようなことが出ているわけでありますけれども、写真を見てわかった部分があるのではないかなというふうにも思うんですけれども、どういう手段で人定をしようとしたのか、それを教えてください。

中尾政府参考人 先ほど私どもの副大臣からも申し上げたとおり、入管法上は、当該不法に入国した外国人を速やかに国外に退去させるという行政目的の範囲内で行うわけでありますので、当該本人が、私はこういう名前であるということを申し立てて、特段の具体的な反論材料がない限りはその名前として私どもの方としては退去強制手続をとる。そのかわり、退去強制手続をとられた者の不利益といたしましては、五年間我が国に入国できないという形になろうか、こういうことでございますので、その限りでの特定をしております。

平岡委員 予算委員会でも、外務大臣は、人定とそれから入国目的をはっきりさせるようにということで外務当局の方にも指示したというのがあるわけですけれども、そうすると、外務当局の方からそういう人定をしてくれということがあったけれども、入管当局にとってみれば、その必要性はない、退去強制をするために必要なものだけやっていれば後はもう関係ないという態度で終始したということですか。

中尾政府参考人 お答えいたします。

 外務省からそういう話があったかどうかについては、私は具体的には承知しておりません。

平岡委員 これだけ政治判断、政治判断と言われている中で、外務大臣がそういう指示をしているにもかかわらず、入管の方は、これだけのことを調べれば我々はこれだけやっていいんだというようなことをやるのは、それは入管当局の独断じゃないですか。どうですか。

中尾政府参考人 私どもといたしましては、この件につきましては、五月一日に、現地の成田空港支局から現地の千葉県の成田空港警察署に本件の事案の発生を、事実を通報は済ましております。私どもとしては、通報ということで、とりあえずは警察とのコンタクトを済ましております。

 従来、私どもといたしましても、警察に対してまず通報ということで、不法入国事犯につきましても、昨年は、具体的な数字はちょっと忘れましたけれども、全体として不法入国事犯を含めて七百件ぐらいの通報をいたしておりまして、不法入国事犯は、たしか百二十件前後の通報をして、その通報した中から十七、八件ぐらいの告発を受けていただいているのが実情でございます。一応、その限りでは、私どもとしてはやれることはやった、やっておるつもりでおります。

平岡委員 非常に不満なんですけれども、次へ進みたいと思います。

 今、入管局長から、通報はした、だから大体役割は終わったんだというような趣旨のことがありましたけれども、逆に、これは新聞などを見ても、法務省幹部、これはもしかしたら入管局長かもしれませんけれども、警察に通報しているのだから、別に告発していなくても、警察が必要だと思えば捜査したでしょうと言っているというようなことがまた出ているのですけれども、警察当局にお伺いします。通報を受けたのですから、このAについては逮捕すべきであったと思うんですけれども、なぜ逮捕していないのですか。

漆間政府参考人 お答えいたします。

 一般論として申し上げますと、入管当局からの通報により警察として捜査を開始するということは可能でありますけれども、一般的なこの種事案については、通常、入管当局からの告発等によりまして、証拠書類の提供を受けまして、その上で逮捕をするという形になります。

 本件の処理に関しましては、法務省と警察庁との間でさまざまな意見交換がございましたけれども、最終的には法務省が退去強制手続をとられたということだったのでございます。

平岡委員 ちょっと時間がなくなったので、大分飛んでしまうのですけれども、強制送還されたときに、外務省職員と法務省職員が一緒に同行しておるのですけれども、これらの費用の負担はだれがやったのですか。特に、全日空の二階席は全部空席とされて、二十六席を十人で占めたというようなことになっているのですけれども、その費用はだれが払ったのでしょう、それぞれ。

槙田政府参考人 外務省の職員が合計三名行っておるわけでございますけれども、この費用は外務省予算の外国旅費から出ております。これは、この三名の……(平岡委員「三名分だけですか」と呼ぶ)そうです。成田―北京間の往復の航空運賃ということでございますから、今委員がおっしゃったような二階席を全部借り占める、そのための全席費用を払うとか、そういうふうなことはしておりません。三名のみについて負担をしております。

平岡委員 時間がないので、法務省の職員はいいです。

 それで、外務省の職員はアジア大洋州局の審議官が一緒についていっているのですけれども、何のために行ったのですか。それと、中国の程永華アジア局次長が出迎えているという報道もあるのですけれども、このときに、連れていった人が、金正男であると見られる男がだれだったのかということは確認ができているのですか。

槙田政府参考人 これは、確認はできておりません。入管の方でいろいろなお調べはあったと思いますが、そこでこれが今委員のおっしゃるような人物であるという確認はとれていないというふうに私は聞いております。

平岡委員 そもそも、外務省が旅費を使ってまで三人も派遣して、しかも、かなりの高官なわけですね。行ってから何をしたのですか。ちゃんと、行ったら、この人はそうですかということぐらいは確認するのが我が国のためじゃないですか。これからまた後、金正男が入ってくるようなことになったときにどうするのですか。本当にこれは確認すべきだったと思うんですけれども、なぜしていないのですか。

槙田政府参考人 私どもが、この人物が中国に行くに当たって外務省の職員を派遣いたしましたのは、これは委員御承知のように、大変なフィーバーの中で不測の事態が起きることを避けなければならないという考慮もございまして、そういう中で職員を同行をさせたということでございます。

 それから、この人物について人定を確認すべきではないかという御指摘につきましては、私どもは、もちろん北朝鮮にかかわることにつきましてはさまざまな観点から強い関心も持っておりますし、そういう努力をすべきであるということ、これは一般論としてはおっしゃるとおりだと思いますけれども、この人物についてはいろいろと入管当局においてお調べがあって、その結果確認ができないということでございまして、その点はそういうものとして私どもは受けとめておったということでございます。

 なお、ついでに申し上げますと、中国側においても、これがどういう人物であるかということについて我々に何らの確認もできていないはずでございます。

平岡委員 わざわざ外務省が中国当局に対して受け入れを要請して、そして受け入れてもらって、わざわざ一緒についていって引き渡しをして、中国側からも高官が来ているというような状態の中で何も、この人がだれかということも会話も出ない、そんな外交というのはあるのですか。私は非常に不思議に思います。

 時間が来たのでやめますけれども、また機会があったらいろいろと聞いてみたいと思います。終わります。

保利委員長 次に、水島広子君。

水島委員 民主党の水島広子でございます。

 このたび、長尾立子さんに続いて森山眞弓さんが史上二人目の女性法務大臣になられたことは、非常に大きな期待を持って受けとめられております。

 何といっても、長尾さんは、法制審議会が民法改正要綱を答申したときの大臣であり、初の女性大臣のもと民法改正が実現すると注目されたわけですが、それがとんざしたまま現在に至っているのは御承知のとおりでございます。

 そんな中、民法改正に向けてリーダーシップをとられてきた森山さんが法務大臣になられ、今、国内の多くの方たちが、これでやっと民法が改正されると心強く思っています。それも、官房長官まで歴任されている大物の森山大臣ですから、その期待の大きさはひとしおです。女性が政策決定の場に参加すること、特にその頂点である大臣になられることがどのような意味を持つのか、実際に理解するよい機会になると思っております。男女共同参画をうたって五人の女性閣僚を誕生させた小泉内閣の真価が問われることにもなりましょう。私も、後輩女性議員として大いに勉強させていただきたいと思っておりますし、地元栃木県でも多くの女性たちが期待を持って見詰めております。

 本日は、民法改正について質問させていただきますが、女性の大臣が誕生してよかったと全国の女性たちを元気にさせるような御答弁をいただけるものと御期待申し上げます。

 さて、先日、私たちは、議員立法で民法改正案を衆参両院に提出させていただきました。我が党といたしましても、衆議院は八回目、参議院は五回目の提出となります。その法案自体の審議はぜひ速やかにしていただきたいところですが、本日は、民法改正をめぐる今までの法務省の姿勢について伺いたいと思います。

 一九九六年二月、法制審議会は、それまでの五年間に及ぶ審議の結果、婚姻制度等に関する民法改正要綱を答申しました。その直前、二月二十三日の法務委員会で長尾大臣は、御答申をいただきましたならば、この法案の成立に向けまして関係方面の御理解をいただけますよう、私として精いっぱいの努力をさせていただきたいと思っておりますと意欲を述べられています。

 ところが、その国会への提出は見送られました。法制審が答申しながら提出されなかった法案は、民法改正案を含めて歴史上四案しかなく、極めてまれなことであるわけです。

 まず、なぜ民法改正案が提出されなかったのか、その理由について改めてお伺いいたします。

森山国務大臣 平成八年でございましたか、あのときに、法制審議会が、選択的夫婦別姓も含む民法の幾つかの項目について改正の進言をなさってくださいました。それはある意味で非常に画期的な内容でもございましたので、それを法案にして提案いたしますのには各党各派の御了解を得て、御賛成をいただいて出したいというのが法務省の考えであったと思います。

 その答申を得ましたものを各党にお諮りいたしましたところ、特に当時の自民党の中に必ずしも賛成でないという方がかなりの数おられまして、しかも、たくさんの項目、多岐にわたっておりましたので、これは賛成だけれどもこちらはちょっとどうかとか、またいろいろな意味で疑問が幾つも残ったわけでございます。それで、残念ながらあのときすぐに御答申に沿った提案をできなかったのではないかというふうに思っております。

    〔委員長退席、奥谷委員長代理着席〕

水島委員 今まで国会答弁を調べてまいりまして、ようやく今回初めて、各党の中の反対があって出せなかったということがこの委員会の審議の場で明らかにされたということで、敬意を表したいと思っております。

 それと申しますのが、なぜ法案を提出できなかったのかというような質問に対しまして、九六年の十二月の法務委員会までは前向きな答弁をされているわけですけれども、九七年の十一月からは、このときには法務大臣が、

 事柄は日本のこういうふうな身分法に関する大切な問題でございますし、それからお一人お一人の家庭、個人に影響することでもございますので慎重の上にも慎重を期した方がいいんじゃないだろうかというふうなことで、法制審の答申に加えまして、そういうふうにお願いいたしまして世論調査等をやっていただいた経緯がございます。

  そういうふうな経緯を踏まえてみますと、結論的に申し上げまして、いわゆる選択的夫婦別姓制度の採用についてはまだ国民の大多数の御賛同を得るに至っていないという結論になったわけでございます。

と既に後ろ向きな答弁になっておりまして、このときから盛んに世論調査ということが引き合いに出されるようになってきているわけでございます。九六年からその翌年の答弁の間に何があったのか。

 この世論調査ということにつきましては、法制審も実は一九九四年九月に総理府において行われた結果も見ながら審議を慎重に進めてきたということを、九六年十二月の法務委員会で政府委員の方がはっきりと答弁されているわけです。一九九四年の世論調査というと、選択的別姓のための法改正に賛成の人は二七・四%であり、その後引き合いに出されている九六年の世論調査における賛成三二・五%よりもさらに少ない時点であるわけです。

 法制審の答申した民法改正案が世論を理由に提出されないということは、一九九四年の世論調査に基づいて出された法制審の答申が間違っていたということになるのではないかと思いますけれども、本当にそうなのでしょうか。法制審というのは大変権威ある審議会だと思っておりましたけれども、違うのでしょうか。それとも、この法務省の答弁における理屈が途中ですりかわったということなんでしょうか。お答えいただければと思います。

森山国務大臣 法制審議会というのは、非常に権威のある学識経験者がおそろいになって慎重に考えていただく大変大事な審議会でございます。そのことは今も変わらないわけでございます。

 私は、率直に申しまして、あの平成八年のときの法制審議会の答申を見まして、これは学者の先生方、あるいは専門家の方々が、これからの日本の新しい時代を見越して、こういう考え方もあるのではないかというやや先進的な御提言をなさったのではないかな、そんな感じを受けました。

 ですから、それを具体的に法案にして国民の多くの人に理解してもらい、かつ本当に実施していこうということになりますと、やはり世論全体がどうであるかということを慎重に重ねて検討しなければいけないということになったのではないでしょうか。そんなふうに理解しております。

    〔奥谷委員長代理退席、委員長着席〕

水島委員 もちろん、世論調査によって世論の動向を知ることは重要だと思います。ただし、事人権の問題に関しては、仮に少数意見であっても正しい方向を指し示す必要があると思うのです。法改正に賛成の人が二七・四%の時点でも民法改正を答申した法制審の見識を私は高く評価しております。困っている人、必要な人は一部であっても、それが他者の権利を脅かさない限りはやはり法改正すべきであるというのがこの問題の本質だと思うからです。

 この点について、大臣は十分に御承知であると思いますけれども、改めてお考えをお聞かせ願えればと思います。

森山国務大臣 もう先生がよく御存じのとおり、今の国民の価値観は非常に多様化しております。この数年来の変化でもかなり大きなものがあるのではないかというふうに考えております。ですから、今まで生まれたときから使ってきた従来の名字を結婚してもその後もずっと続けて使いたいと思い、それを認めるという考え方が次第にふえてきていると私は感じております。

 また、少子化が進んでまいりましたので、一人っ子同士の結婚ということもしばしばあるようになりまして、本人たちはもとより、その親御さんや親族の皆さんが、できれば選択的夫婦別姓をやってもらいたいと周りの方がおっしゃるというのも最近は少なくございません。

 特に、女性が職業を持つようになりまして、今日、今の制度では結婚して届けをした途端に姓を変えなければいけないというのが甚だ女性にとって職業上不利であるということがたびたびございますので、職場によっては大変御理解のあるところも最近はふえてまいりましたけれども、最終的に法律上の名前を使わなければならないということがどうしてもございますので、それが甚だ不利をこうむるという職業も間々あるわけでございます。ですから、このようなことは非常に女性にとっては大きな問題でございます。

 これは選択的夫婦別姓ですから、男性もそのような被害をこうむる方もいらっしゃるわけでございまして、この際、やはり多様な価値観、多様な生き方というものを受けとめて、法律制度もそれにふさわしいものに変えていくのが望ましい、私個人はそう思っております。

 しかし、先ほど来先生もおっしゃっておりますように、国民すべての人に関係のあることであり、本人が直接該当しなくても国民生活全体に大きな関係があり、物の考え方の根本にかかわると申してもいいようなテーマでございますので、法務大臣の立場から申しますと、近く世論調査も予定されておりますし、それも参考にさせていただいて、さらに関係の皆さんの御意見をよく伺い、国会における議論も深めていただいて、ぜひまとめていただきたいというふうに願っている次第でございます。

水島委員 今の御答弁、大臣の個人的な見解の部分には私も非常に共感するところがあるわけでございますけれども、やはりこの問題に関しましては、もちろん世論の動向も追い風になってきていることは確かでございますけれども、ただ、やはり先ほど申しましたように、人権問題に関しましては、世論調査で多数決というようなことではなく、本当に高い見識を持ってあるべき方向を指し示すことも法務大臣としての大きな役割ではないかと思っておりますので、ぜひそのような方向で御検討いただきたいと思います。

 そして、あくまでも世論調査の結果を見てということであるとしましても、一九九六年の世論調査の結果の考察についても、単に賛成と反対が拮抗していると言われておりますけれども、年代別に見ますと、二十代、三十代では選択的別姓に賛成の人が反対の人よりもはるかに多く、四十代でも賛成の方が多いという結果になっております。

 ここに一九九六年の初婚率のデータがございますけれども、人口千対で見ますと、十九歳未満が四・七、二十代前半が四七・八、二十代後半六八・六、三十代前半一九・〇、三十代後半四・一、四十代前半〇・九、四十代後半〇・三というふうに、実際に婚姻届を出す世代は主に二十代から三十代前半でありまして、その世代では多くの人が選択的別姓に賛成なわけです。

 世論調査の結果を見る際には主に当事者となる人たちの意見を重く受けとめるべきだと思いますけれども、大臣の御意見はいかがでしょうか。

森山国務大臣 当然、当事者になる人たちの意見を尊重することは重要なことだと思います。

 しかし、先ほども申しましたように、そのような新しい生き方、新しい夫婦のあり方というようなことを法的に認めるということになりますと、該当する人々だけではなくて、その周辺の人、あるいは広く言えば国民全体に問わなければならないということがどうしても欠かせないと思いますので、その点も十分考えなければいけないことではないかと思います。

水島委員 今の御答弁、また先ほどの御答弁でも、該当する人だけではなくてすべての国民にかかわる問題だというふうにおっしゃっておりまして、また、先日の衆議院本会議での代表質問への御答弁の中でも、国民生活に重大な影響を及ぼすというふうにおっしゃっておりましたけれども、希望する夫婦が別姓にすることで、それ以外の人たちに具体的にどのような重大な影響があるのでしょうか。

森山国務大臣 希望する方がその希望する道を選べる、そのような方法を開くということでありますので、水島先生おっしゃるとおり、私も、一番具体的に関係があるのはその該当する人たちだと思います。

 しかし、例えば自分の娘や息子、あるいは自分の周辺の人たちがそのような生き方、暮らし方をするということになれば、家族や親戚、親族の皆さんが重大な関心を払うのは当然だと思いますし、さらに広げて申せば、そういう問題を日本の社会が受け入れるのかどうかということは、社会全体にとっても大きな問題であろうというふうに思うのでございます。

水島委員 今大臣御指摘のように、最も重大な影響を及ぼされているのは選択的別姓が認められないために夫婦同姓を一律に強制されている人たちだということを、もちろん大臣も十分御承知だと思いますけれども、ぜひ忘れないでいただきたいと思いますし、別姓を希望する人たちの人権がそうでない人たちの人権よりも軽いなどということはあってはならないわけでございますので、本当に選択肢をきちんと提供できるような体制をつくっていただきたいと思っております。

 そして、今おっしゃいましたように、確かに自分の親戚の中にそういう見なれない形態の夫婦があらわれるということは、もちろんそれを知らない人たちにとっては、非常に不安を感じたり不信感を持ったりということも現実的にはあると思っております。だからこそ私は啓蒙活動というものは大変必要であると思っております。

 さて、法務省といたしましても、一九九六年の十二月までは、少なくとも法案提出に向けて前向きに努力したいという答弁をされておりまして、また、先ほどの大臣の御答弁の中でも、これからぜひ議論を深めて成立に向けて努力をしてほしいというような趣旨の答弁をいただきました。実際に今まで法務省としまして具体的にどのような努力をされてきたのかをここでお伺いしたいわけです。

 まず第一点としまして、毎年、政府提出法案として提出すべきものとして、与党への働きかけをされてきたのでしょうか。毎年働きかけをしたけれども提出できなかったということであれば、政府の責任というよりは与党の責任ということになると思いますが、いかがでしょうか。

森山国務大臣 毎年必ずやってきたかどうかということは、ちょっと私も子細に承知しておりませんが、私が与党の議員の一人として、与党の中でも折に触れてこのことは声を上げまして、何か打開する方法はないかということで、同じ考えの議員の皆さんと折々相談をしていたことは事実でございます。

水島委員 では、法務省の方で結構なのですけれども、その毎年の事実経過を教えていただけますでしょうか。

山崎政府参考人 お答えを申し上げます。

 ちょっと詳しいデータを持っておりませんが、提出予定法案として掲げたという記憶はございません。

水島委員 そうしますと、最初に出そうとして与党内の意見がまとまらずに断念されてからというものは、与党に向けて再度考え直してほしいという努力は法務省としてされていなかったというふうに今の御答弁を受け取らせていただいてよろしいかと思います。反論がございましたら、どうぞ。

山崎政府参考人 ただいま私が申し上げましたのは、提出予定法案という形はとりませんでしたけれども、個々の先生方にはぜひ御理解をいただきたいということで個別に御説明を申し上げ、周辺整備ができるように我々としても努力はしております。

水島委員 それを毎年されてきたというふうに理解してよろしいのでしょうか。さらに、個々のどういう議員にされてきたのかというのも教えていただきたいのですけれども。

山崎政府参考人 適宜必要に応じてということになりますが、今、私ずっとこの担当をしているわけではございませんので、すべての先生方の名前を挙げろというのはちょっと不可能でございます。それはまた個別の問題はちょっと御勘弁いただきたいと思いますけれども、我々としても個々に御説明申し上げているということは間違いございませんので、御理解をいただきたいと思います。

水島委員 時の総理大臣、また法務大臣、その他与党内で力を持っておられる方には当然御説明をいただいてきたものだと思います。ただ、今データをお持ちでないということですので、そのあたりの事実経過につきまして、後ほどでも結構ですので、議員個人というよりは、そういう責任ある立場の人にきちんと説明をしてきたかということでございますので、それは私は教えていただける内容だと思いますので、ぜひ教えていただけますようにお願いいたします。

 時間がありませんので、大臣への御質問を続けさせていただきたいと思います。

 次に、今は与党に対してどういう働きかけをしてきたかという質問でございますが、先ほども申しましたが、国民への啓蒙をどういうふうにしてきたかというのも重要な点でございます。民法が夫婦別姓を認めていない以上、この問題への理解を深めるといっても、身近にそういう夫婦がなかなかいないわけですから、国民にはなかなか理解をするような機会がないわけでございます。

 今まで民法改正運動に取り組んでまいりましたが、別姓を認めている国があるのかなどという質問を受けることも多くございました。先進国で選択的別姓を認めていないのは日本だけだという事実を知って驚く人も多いわけです。また、夫婦同姓は日本の昔からの伝統などと言っている人も議員の中にもいらっしゃるようですけれども、同姓はあくまでも明治維新に西洋社会のまねをして取り入れられたものであるということも知らない人が多いわけです。別姓には絶対に反対だという人にしても、これは選択制なのだということを知ると賛成に回る人も多いわけです。

 これらの事情が正しく理解されていない状況では、理解を深めることも冷静な議論をすることもできないと思います。法務省として今までどのような啓蒙活動をされてきたのか、お答えいただきたいと思います。

森山国務大臣 法務省としては、皆さんの御理解を得るためにいろいろ努力はしてきたようでございます。わかりやすく解説したパンフレットを作成して配ったり、また、答申を現在も法務省のホームページに掲載したり、その内容を広く公開いたしまして、世論調査の結果をまた公開するなど、いろいろの努力をしてきたようでございますが、私の印象としては、法務省の言葉というのはちょっと難しいのですね。特に、選択的夫婦別姓というのも非常にかた苦しくて、何だか物すごいことをするような印象をまず受けますので、先生がおっしゃいましたように、希望する人がその道を選ぶことの可能性を開くという趣旨なのだということをもっとよくわかりやすいように、強くPRをするべきだと私は思っております。

水島委員 ありがとうございます。ぜひわかりやすいPRをお願いします。

 私もずっと日本で暮らしておりますけれども、実は一度として、法務省のそのような広告というか、そういうものを目にしたことがございません。わざわざ法務省のホームページにアクセスするというのも相当法務行政が好きな方ではないかと思いますので、普通に暮らす一般の市民、余り難しい文字が読めなくてもわかるような広告宣伝をぜひお願い申し上げます。その際には、先ほど申し上げました点をぜひ押さえていただいて、あらぬ誤解やあらぬ不安感を持たれないように、ぜひそのような実のある宣伝をお願いいたします。

 さて、時間も限られてまいりましたけれども、もう一点、非嫡出子の問題についてお伺いいたします。選択的別姓と同様、あるいは子供の人権という意味ではそれ以上に民法改正における重要な要素でありますが、国連の委員会勧告を受けながらいまだに放置されている問題でございます。

 私は、ことし三月の予算委員会分科会で、当時の高村法務大臣に質問をいたしました。法律婚を守るという大義があるとしても、なぜ法律婚をないがしろにした親は何も法律上の差別を受けずに、子供のみにその影響が及ぶという構造になっているのか、なぜ当事者の大人ではなく、みずからの出生に何の責任も負わない子供が差別を受けなければならないのかという私の問いに対して、高村前大臣は、「責任のある親が何のとがも受けない、おかしいじゃないかというのは、そうかなという気もいたします。」と法律の問題点を認められた上で、ではどうしたらよいのか、なかなかよくわからないと答弁されています。

 森山大臣は、この点について高村前大臣から何らかの申し送りを受けておられるのか、森山大臣としてはどうお考えになるのかをお聞かせ願います。

森山国務大臣 今引用されました高村大臣の答弁の載りました議事録を拝見しました。

 全く高村大臣のおっしゃるとおりで、確かに、親の方には何もなくて子供だけがそのような不利をこうむるのはおかしいというのはあり得る議論だと思います。しかし、また方法が難しいというのも一つの問題でございまして、何かうまい方法はないものかというふうに私も思案するところでございますが、これも先ほどの選択的夫婦別姓と同様に、非常に重大であり、かつ民法の重要なテーマでございますので、これは私の全くの私見ですけれども、できれば別々にそれぞれ考えた方がいいのではないかなというふうに考えております。

水島委員 選択的別姓の問題と非嫡出子の問題、片や大人の権利の問題、片や子供の権利の問題だと思いますけれども、別々に御検討いただくにしましても、別々にそれぞれ真剣に御検討いただきたいと思うんです。

 もう一つ、同じ日の委員会で、私は無国籍状態児についても質問をさせていただいておりまして、親が不法滞在をしているからといってその子供が福祉や医療や教育の枠外に置かれている現状を放置してよいとは思われないという趣旨の質問をさせていただきましたが、高村前大臣は、「今直ちにお答えできないわけですが、ちょっと考えてみたいと思います。」と答弁され、さらに「人権の観点から法務省としても考えたいと思います」「子供と親は違うんだから子供については保護が与えられるべきだというのは、それは一つの考え方だと思いますし、私もある程度賛成したい部分もある」と答えられています。

 この点についての申し送りを受けておられるか、また森山大臣としてはどうお考えになるかをお願いいたします。

森山国務大臣 同様に、高村大臣の御答弁の議事録を拝見しました。

 先生の問題指摘も非常に重要なことだと思いますが、子供の出生及び生育の経緯、家族状況、就学の事実など、人道的な観点を含めまして、個々の事案について在留特別許可を与えるかどうかというようなことを慎重に判断しております。そのような際に、親と子供が別れて生活するということになることも多いようでございますが、その是非についても検討しなければいけないというふうに思います。

 退去強制に関連する在留特別許可の取り扱いにつきましては、今後とも適正な法の運用に努めてまいりたいと考えております。

水島委員 この子供たちの人権問題というのは今までなかなか日が当てられなかった領域でございますけれども、こうした領域への造詣の深い森山大臣ならではの温かい取り組みを心から御期待申し上げております。

 また、先ほどの選択的夫婦別姓の問題でございますけれども、現在は、事実婚夫婦であっても生命保険の受取人になれるなど、現場では柔軟な対応がされております。それでも民法が改正されないようでは、これからますます法律婚を選ぶ人が少なくなると思います。通称使用を続けている人であっても、周りとの折衝に疲れ果て、書類上の離婚を選ぶというケースも私の身近ではふえております。私自身も、法律婚をしながら、必要なときには書類上の離婚を繰り返しておりますけれども、週刊誌に悪口を書かれたり、選挙区で何度も夫を取りかえているというデマを流されたりと大変な目に遭っておりまして、事実婚の方がどれほど楽だと思ったかわかりません。

 今の日本の民法を見ておりますと、壊れた赤信号の前でみんながしばらく待っていたけれども、ついに待ち切れなくなって信号を無視して歩き始めたというような印象を持っております。そして、先進国の中でみずからの姓の選択を認めていない唯一の国である日本が、もしかしたらどこよりも先に法律婚が形骸化することになるのかもしれません。壊れた信号を直すのか、信号が壊れていることにいつまでも目をつぶっていくのか、法治国家の政府としての責任は大きいと思っております。

 今国会に私たちは議員立法で民法改正案を提出しておりますが、議員立法だからと逃げ腰にならず、もともとは法制審の権威ある答申に基づいて進められていた政策であるということに改めて思いをめぐらせていただきたいと思います。

 御党の野田聖子代議士も、御結婚を控えて、野田の名を残したいと悩まれていると伺っております。このタイミングで森山さんが大臣になられたという幸運を決してむだにしないよう、民法改正を望む多くの人たちの期待にぜひこたえていただけるような大臣としてのリーダーシップを心から期待申し上げておりますが、その点につきまして、最後に一言、大臣としての決意表明をお聞かせいただけますようにお願いいたします。

森山国務大臣 非常に激励の趣旨で御質問いただきまして、私も新たな覚悟で頑張っていきたいというふうに思います。

水島委員 どうもありがとうございました。その新たな覚悟というのが、ぜひ森山大臣の任期中に、長い懸案でございました民法改正を実現してくださるというそのお言葉に置きかえて理解させていただきまして、また、私、大変未熟者ではございますけれども、できる限りの応援をさせていただきたいということをお約束申し上げまして、私の質問を終わらせていただきます。

 どうもありがとうございました。

保利委員長 次に、山内功君。

山内(功)委員 民主党の山内功でございます。

 本日は、森山大臣に、まず報道の自由一般についてお伺いしたいと思っております。

 報道の自由は、憲法二十一条で「言論、出版その他一切の表現の自由」、その中に報道という言葉が書いてありません。だから解釈で考えるしかないんですけれども、世の中にどういう事件が存在しているか、それを一つずつ選んで、それを適切に構成して発表する、そこに送り手の意思が入っておりますので、言論の一つの形態として報道の自由は憲法二十一条で保障されていると私は考えているのですが、大臣はどういう御見解でしょうか。

森山国務大臣 報道機関の報道は、民主主義社会において国民が国政に関与するについて重要な判断の資料を提供するものでございまして、国民の知る権利に奉仕するというふうに考えられます。その自由は、表現の自由を保障した憲法二十一条の保障のもとにございまして、最大限尊重されなければならないと理解しております。

 一方、報道機関は、その影響力が非常に大きいということを考えますと、その活動に対して重い責任をお持ちになっているわけでございまして、その限度で報道の自由に一定の制約が生じるのはやむを得ないのではないかというふうに思っております。

 この問題について、憲法上保障された表現の自由、報道の自由の重要性にかんがみまして、まずは報道機関が報道される側の人権に十分配慮していただいて、自主規制をなさるなど自主的に取り組んでいただくことが望ましいと考えております。しかし、法務省の立場といたしましては、人権擁護の任務を負っておりますことから、行き過ぎた報道によって個人の名誉やプライバシー等が侵害された場合には適切に対処するように努めているところでございまして、具体的には、これらの報道機関に対して、人権侵害行為の中止、謝罪等による被害の回復、再発防止策の策定などを求める勧告を行うなど、折々しているところでございます。

 いずれにいたしましても、この問題に関しましては、人権擁護推進審議会の調査審議を踏まえまして適切に対処してまいりたいと思います。

山内(功)委員 報道は、まず取材があって、それから編集があって発表ということになると思います。つまり、報道の自由を保障するためには、取材活動が十分になされなければいけない、つまり取材の自由についても憲法二十一条の要求するところだと考えますが、大臣の御見解はどうでしょうか。

森山国務大臣 今申し上げましたように、もちろん取材も報道のために必要なことは当然でございますが、その取材に当たって、取材される人の人権ということも考慮していただかなければならないというふうに思います。

山内(功)委員 小泉政権の誕生はメディアの力に負うところが大きいと思っております。総裁選で当初の予想をはるかに超える圧勝は、よく言えばメディアの改革イメージの浸透が守旧派を駆逐したということだろうと思っております。森内閣時代までに、自民党の中で、自民党批判の報道を取り上げてメディア規制を目指していこう、そういうような動きがあり、また、そういう組織もつくられておりますが、情報公開を重要視する小泉新内閣の一員として、大臣は、現代の民主主義国家においてメディアが果たす重要性についてはどういうふうに認識しておられますか。

森山国務大臣 申し上げるまでもなく、メディアの果たす役割は非常に大きいと思います。大きいだけに責任も感じていただきたいというふうに考えているわけです。

山内(功)委員 そのことについてはおいおいまた触れていこうと思っております。

 先日は、府中刑務所の視察に便宜を図っていただきましてありがとうございました。府中刑務所の受刑者の情報が六十数人も流出した事件がございました。今日までの調査結果についてお答えをいただきたいと思います。

横内副大臣 私から御答弁をさせていただきます。

 お尋ねの府中刑務所の流出事案につきましては、ことしの四月の初旬に調査チームを設けて調査を開始しております。これまでの調査結果では、流出した情報は、府中刑務所の中の四十ある工場のうちの一つの工場に就業をしておりました六十数人の受刑者の氏名と番号と生年月日、刑の終了日が流出をしたということでございます。

 この情報は、刑務所の職員が作成、使用したものではございませんで、受刑者の中で、計算係ということで、そういう仕事をさせていた受刑者が個人的に作成、使用していたものを他の受刑者が書き写して刑務所外に持ち出したものでございます。

 ただ、当該情報を持ち出した受刑者とか、持ち出し方とか、協力者の有無ということについては、現在なお調査中でありまして、まだ特定するという段階にはなっておりません。

 以上でございます。

山内(功)委員 昨年の八月に名古屋刑務所から千九百名の情報が漏れた事件がございました。昨年の十一月には再発防止策を保岡法務大臣がつくられました。再発防止ということに関して漏れがあったのではないでしょうか。

鶴田政府参考人 お答えいたします。

 委員御指摘のとおり、昨年八月に名古屋刑務所におきまして、受刑者の一覧表、リスト、それが盗み出されて外に流出したという事件がございました。その後、その経緯等を調べまして、窃盗という容疑でその流出させた者を特定して、刑事手続に付したわけですけれども、このような刑務所内での個人情報の管理あるいはその保護という観点から、やはり刑務所内の情報管理に反省すべき点があるのではないかということから、今委員が御指摘になられましたように、十一月に、そういった個人情報の重要性を認識して、その管理に徹底を期すように通達を出したところです。そういったものを出したところでまたこういった事態が生じましたことはまことに遺憾なことであるというふうに感じております。

 ただいま副大臣の方から御説明がありましたが、ある程度の事実は判明しておりますけれども、なお今後調査すべきところが残っておりますので、引き続き、どういう形で、あるいはどういうルートで情報が流出したかといった点もさらに調査を続けて、その段階でまたしかるべき対応をしたいというふうに考えております。

山内(功)委員 受刑者の情報というのは最もセンシティブな情報だと思っております。今後の対策を十分にとるべきだと思っております。

 全国の受刑者の刑務所の定員に占める割合が一〇六%と定員をオーバーしているんですね。大臣、このことについて、まず、犯罪はなぜふえているんでしょうか、そして、今後ますます受刑者というのはふえていくんでしょうか、それとも減っていくんでしょうか、ちょっとその辺の認識をお伺いしたいと思います。

森山国務大臣 なぜ犯罪がふえてきたかという御質問ですが、これは非常に複雑な、さまざまな要因によるものだと思います。とても私が一口で申し上げられるような内容ではないと思いますが、これからの問題はさらにもっと難しゅうございまして、これからの社会がどのようなものになっていくか、大いに希望の持てる面もございますし、さまざまな不安材料もございますので、その社会の動向次第だと思いますが、このような複雑な社会になった日本の犯罪を急速に減らしていくというのは非常に難しいのではないか。できるだけ少なくするように努力を続けると言うしかほかに方法がないと思います。

山内(功)委員 例えば、出所時の持ち物検査を厳格にするために職員の数をふやす、そういうことも再発防止の一つの方法ではないかと考えております。行財政改革の厳しい折だとは思いますけれども、そのこともひとつ法務当局の方で御検討いただければと思っております。

 先ほどから出ておりますけれども、金正男さんと思われる男の人のパスポートの写真が出てしまいました。つまり、厳格な管理が行われているところから情報が出る。例えば刑務所の塀の中から情報が出る、これなどは国民は全く信じられないことだろうと思っています。

 今、個人情報保護法を政府の方で国会に提出されました。しかし、それは民と民の法律ですよね。ただ、住民基本台帳法で個人の情報も十一けたの数字で管理をしている国家になっているんです。民間に対して個人情報の徹底、あるいはそれに対してのアクセスの問題を検討するよりも、そういう法務省の倉庫の中からパスポート写真が出る、あるいは塀の中から受刑者記録が出る、そういう国家としての情報管理、それをまず考えるべきじゃないかと思うんですが、どうですか。

森山国務大臣 先生御指摘の幾つかの事件が、被収容者の個人情報の保護、管理についての重要性を改めて考えさせております。大変遺憾なことであったと思いますが、今回の事案につきましては、特に府中の問題につきましては、その全容がまだ明らかにはなっておりませんが、いずれにせよ、釈放者の所持物品の検査に問題があったということは否めないのではないかと思います。

 五月九日に、釈放者の所持物品の検査や被収容者の個人情報の保護、管理を適正に行うよう、改めて矯正局保安課長から全国の矯正施設に対しまして指示させたところでございます。

 今後、不明な事項について引き続き調査を行いました上、その結果を踏まえまして必要な対策を講じ、被収容者の個人情報の適正な保管、管理等につきまして、その重要性の認識を深めさせることを含め、より徹底させまして同種事案が二度と起こらないように努めてまいりたいと思っております。

山内(功)委員 これは、同じことを内閣府にもお聞きしたいと思います。

 民間の個人情報だけを先行して議論するのではなくて、政府とか独立行政法人あるいは特殊法人、地方公共団体、そういうところが持つ個人情報についてもセットで議論する、その姿勢がまず大切じゃないかと思うんですが、どうでしょうか。

松下副大臣 内閣府の副大臣の松下と申します。

 この個人情報保護法案は、国会に提出されておりまして、まだ委員会に付託されておりません。内閣委員会で議論されることになっておるというふうに承知しておりますけれども、まだ本会議の方で趣旨説明がなされておりませんで、いわばつるしの状態になっているということでございます。そういうところで、今法務委員会の中でこれが話題になって、山内先生からお話がありました。民主党の方で先生は中心的にこの問題に取り組んでおられて、大変大きな役割を果たしておられることをよく承知しておりまして、一刻も早く内閣委員会の方できちっと議論できる場をつくっていただきますように心からお願いしたいというふうに思っております。よろしくお願いしたいと思うんです。

 それから、個人情報の取り扱いについての今の御質問でございますけれども、昨今、民間企業において顧客情報を初め大量の個人データがデータベース化されて、IT技術により利用されております。また、今後、電子商取引の普及によってますます個人情報の利用が進むことが見込まれております。これは御承知のとおりだと思います。国際的にも、ほとんどの国では民間部門を含めた個人情報保護法が整備されておりまして、国際的にも整合のとれた法制化が喫緊の課題となっております。

 国の行政機関の保有する個人情報につきましては、既に昭和六十三年に、行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律、いわゆる行政機関個人情報保護法が制定されました。この制度が整備されておりますけれども、個人情報の保護に関する法律案におきましては、公布後一年を目途に、本法案の趣旨にのっとって現行の行政機関個人情報保護法をさらに見直すべき旨を条文上明記しております。後ろの方に入っております。

 この法律案は、官民を通ずる基本原則を定めるということで、行政機関における個人情報の取り扱いに関しても基本法的な位置づけを有するものであることから、まず本法案を御審議いただきたいというふうに考えております。その際の議論を十分に踏まえながらも、行政機関個人情報保護法の見直しを行っていくということが適当であるというふうに認識しておるところでございます。

山内(功)委員 個人情報の取扱事業者についてはさまざまな義務規定が課せられていて、それに違反したときには勧告、命令という形で大臣が直接的に手を突っ込む、そしてそれに違反した場合には罰則まで加える、そういうような法律になっております。

 先ほど、報道の自由あるいは取材の自由で共通な認識を大臣と持たせていただいたと思っておりますけれども、例えば報道の自由に関して言いますと、放送、新聞社、通信社、それに類するような報道機関という機関しか保護されていない、適用が免除されていない。つまり、個人のライターあるいはジャーナリスト、評論家、個人の作家、そういう方々についての保護が不十分だと私は思うんですが、どうでしょうか。

松下副大臣 出版社とかフリージャーナリスト、報道を業としている者であれば、これは法案第五十五条に規定をしておりますけれども、報道機関に該当するというふうに考えております。報道を業としているということでございます。

 なお、今フリージャーナリスト等の話がございましたけれども、このフリージャーナリスト等が相当数の個人情報をデータベース等によって保有していない場合に、そもそも法案第二条に定義する個人情報取扱業者には該当しない、こういうふうに考えているわけでございます。

山内(功)委員 雑誌や書籍を出版する出版社は含まれているんですか。

松下副大臣 「その他の報道機関」ということがございまして、放送機関とか新聞社とか通信社、こういうものは報道を事業として行う機関というふうに認識をしております。そして、「その他の報道機関」ということで、出版のうち報道をその主たる活動の一つとして行う者、これは雑誌の一部が該当し得るかもしれませんが、それはきちっと報道としての機関というふうに認識をしております。

 それ以外に、報道以外の出版を行う者、例えば、小説でありますとか写真集でありますとか漫画でありますとか、実用地図、趣味といったようなものを出している者がございます。いわば出版社がしているわけですけれども、これにつきましては、表現の自由といった第四十条の配慮義務が当然なされるべきだというふうにも認識しておりますので、そういうことで御理解いただきたいと思います。

山内(功)委員 解釈で、その機関の中に含んで読み込むということを先ほどから言われていますけれども、もしそうだとすれば、なぜ条文にきちんと書かないんですか。

松下副大臣 小説家にしましても、そういう方たちは、出版の事業の中にかかわっておられますけれども、その本来の仕事は、報道するということではなくて、情報の蓄積、あるいは情報を自分の仕事として一定のものを持っているということでございまして、ここで言う報道ということには当たらないんじゃないかなというふうに思っているわけでありまして、自然にそういう解釈をしていただければありがたいというふうに思います。

山内(功)委員 報道の分野については適用除外になっているとしても、基本原則は適用になるわけです。そこに萎縮効果が働くと私は考えています。

 今、政治家のスキャンダル報道がこれからできにくくなるんじゃないか、つまり、この個人情報保護法は、公人を保護する法律、あるいは政治家保護法、そういうふうに指摘する方もおられます。そのような指摘をされていることについてはどう考えますか。

松下副大臣 近年、民間企業や行政機関等、全般にわたりまして、ITを利用した大量の個人情報の処理が拡大しておりまして、その流出が社会問題化をしております。また、個人情報の取り扱いに対する不安感が広がっているほか、国際的にも整合性を保った国内法制が急務となっております。

 このような観点から、個人情報の保護に関する法律案は、個人情報の適正な取り扱いのルールを定める、国民の権利、利益の侵害を未然に防止しようとするものでありまして、IT社会における制度的な基盤の一つとして重要であると考えております。

 報道分野につきまして、法律案の第五章で、個人情報取扱事業者の義務等を適用した場合事前規制となるおそれがあることから、報道機関が報道の用に供する目的で個人情報を取り扱う場合は適用を除外しているわけです。これはお話ししたとおりであります。

 もう一方、基本原則は何人にも適用されることとなると考えておりまして、法律上一律かつ具体的な義務を課すものではなくて、個人情報の保護のために自主的に努力すべきことを定めるものである。また、主務大臣による関与もないことから、報道機関の正当な報道活動を制限するものではないというふうに考えております。

 したがって、本法律が政治家や官僚のスキャンダル隠しのために利用されたり、おっしゃったように報道に萎縮効果をもたらすというような危険性はないものと考えているわけでございます。

山内(功)委員 法律というのは、立法者の意図を超えてひとり歩きをすることもあるんじゃないでしょうか。

 歩きながらの質問にはお答えできませんという方がおられましたが、例えば、個人情報保護法に触れるからこのことについては話をしません、そういうようなコメントを出して煙に巻くような政治家がこれからふえるんじゃないですか。

松下副大臣 ちょっと私がここでお答えすることでないと思います。それぞれの方の、総理としての、あるいは大臣としてのそのときの見識で対応されるものだというふうに考えております。

山内(功)委員 まだまだ指摘したい事項があったのですが、ちょっと時間の関係でできません。さまざまな問題のある法案です。私たちとしては、この法案審議を含めて、絶対に反対することをこの場で強く指摘しておきたいと思っております。

 大臣にお伺いします。国債の発行額を三十兆円以下にするということを総理が約束しておられます。今後厳しい財政構造改革が推し進められなければならないと考えています。同僚の議員がお話ししたと思いますが、司法改革によって例えば法曹人口の増員だとか、あるいは、今まで三人しか裁判官が並ばなかったところに一般の人が何人か入るということになると、裁判所の構造自体が変わってくる。これについて随分お金のかかることもあるなと思っております。大臣に、予算全体で、切るべきところは切り、必要なところはふやすというめり張りをつけた構造改革がぜひとも期待されているところだと思っています。司法制度改革の実現へ向けて質量ともに充実させるという大臣の所信をいただきましたが、予算面で特段に今後配慮していくという問題点については、どういうところを考えておられるでしょうか。

森山国務大臣 御指摘のように、司法制度改革を基本的にいたしまして、国民に使いやすい、親しめる法律、法制度ということになりますと、今よりももっときめ細かく動かしていかなければいけない。あるいは先ほど来お話が出ております入国管理局の仕事についても、先日御質疑をいただいたりいたしましたが、非常に人員が少ない中で苦労しております。一層の国際化ということが見込まれる中で、そういう面ももっと手当てをしなきゃいけないということをいろいろ考えますと、おっしゃいますとおり、財政改革の折から非常に難しい問題を解いていかなければいけないと思いますが、おっしゃいますようにぜひ必要なところには手当てをしていきたいというふうに考えております。

山内(功)委員 では最後に、府中刑務所では、五月の十六日現在で二千七百七名の収容者がおり、そのうち四百九十七名が外国人ということで、五人に一人が外国人受刑者だそうなんです。四十二カ国の人種の方がおられて、三十二言語の外国人がいる。しかし、八カ国語しか所内の職員では対応できないというのですね。お医者さんにしても、耳鼻科と眼科の医師は所内にいない。国際化とかいろいろ社会が大きく変化をしていると思っています。法務行政を担っていかれるということで厳しく所信を表明された大臣にこれからも私たちは期待をしておりますので、力強く私たちも応援しますので、司法の充実あるいは法務行政の充実に向かって力いっぱい頑張っていただきたいと思っております。

 質問を終わります。

保利委員長 次に、都築譲君。

都築委員 自由党の都築です。

 まず、森山法務大臣には、このたびの大臣就任、まことにおめでとうございます。たしか昭和二十五年だと思いますが、労働省に入省されて以来半世紀に及びますが、一貫して女性の地位の向上、そしてまたいわれなき女性に対する差別の仕組みや、あるいはまた差別の意識といったものの解消に全力で取り組んでこられたことに、心から敬意を表する次第でございます。また今日、新内閣のもと五人の女性閣僚が誕生された。一説には、参議院選挙向けの看板娘を並べた。こういう印象もなきにしもあらずでございますが、五人閣僚、大臣が並ばれること自体、これは一つの事実でございまして、女性が大臣になることがもう当たり前の世の中になってきたということで、大変大きな進歩ではないか、こんなふうに思うわけでございまして、ここに至るまでの森山大臣の御尽力に重ねて敬意を表する次第でございます。

 同時に、今、人々の心の中には、そしてまた社会全体の中にも、大変いろいろな種類のそしてまたいろいろな程度の差別の問題がございますが、先日出されました熊本地方裁判所におきますハンセン病国家賠償請求訴訟、正確にはこのほかに、人権侵害謝罪・国家賠償請求訴訟、こういうふうに言うようでございますが、この問題について、そういった差別解消の観点から取り組んでこられた森山先生が今法務大臣というお立場に立たれて、そして今日、法務大臣が、国が損害賠償請求を受けた場合の訴訟代理人となるわけでございまして、そういったお立場で、きょうはぜひ幾つかの御見解をまず聞かせていただきたい、このように思うわけであります。

 まず、今回の判決について、随分新聞であるいはまたテレビで、そしてまた各政党の中でもいろいろな議論が行われ、報道がまた行われているわけでございまして、森山法務大臣、そしてまたきょうは厚生省の政務官もお越しをいただいておりますので、それぞれのお立場で今回の判決をどのように受けとめられておられるのか、まず最初に聞かせていただきたい、このように思います。

森山国務大臣 私も、昨日患者さんの代表の方から御面会を求められまして、喜んでお目にかかったわけでございますが、直接お話を伺いまして、新聞その他で知り及んでいたこと以上に大変深刻な印象を受けました。今までハンセン病患者であった皆さんがどんな深刻な苦しみを味わっておられたか、大変お気の毒だと言わざるを得ません。何とも言葉がない気持ちで、胸がいっぱいだったわけでございます。

 一方、法的な問題といたしましては、熊本地方裁判所の判決におきまして、厚生労働大臣と国会議員の国家賠償責任が認められたことにつきましては、大変厳しい判決だというふうに受けとめております。

佐藤大臣政務官 政務官の佐藤でございます。

 今、御質問がございましたように、五月十一日、熊本地裁におきまして、国側の敗訴の判決が言い渡されたということに対しましては、大変厳しい判決と受けとめさせていただいております。

 先日、五月十四日でございますけれども、大臣が原告団の方々とお会いをいたしました。そのときには、大臣の立場としておわびを申し上げるというお話をさせていただいております。ただ、判決の対応につきましては、今後なお判決内容を詳しく検討しなければいけないと思っておりますし、法務省等、関係省庁と協議をしていかなきゃならないと思います。

 また、国の法的責任の問題とは別に、入所者の方々に対する医療、福祉、社会復帰等に引き続き最善を尽くしてまいりたいという気持ちで対応してまいりたいと思いますので、よろしくお願い申し上げたいと思います。

都築委員 今お二方のお話をお伺いいたしまして、いずれも判決は厳しいと受けとめておられるわけでありまして、その厳しいというのはどういう観点から厳しいということになるのか。国の、訴訟を争ってきた、被告として戦ってきた立場から、その正当性、主張が認められなかったということで厳しい、負けたから厳しい、こういうふうに言われるのか。その判決の中身自体についてもどういうふうにお考えになるのか、もう少し詳しくお聞きをしていきたい、こんなふうに思うわけであります。

 らい予防法が平成八年に廃止をされました。それまでの本当に約一世紀にわたる間、旧法、さらにその前のらい予防に関する法律以来、強制隔離といった政策が綿々としてとられてきたわけでありまして、この絶対的、強制的終身隔離政策、そして患者絶滅政策といったものによって、一体人権侵害といったものが、個人の自由あるいはまた個人の権利、こういったものであったとお考えになるのか、なられないのか。その点について、大臣そしてまた厚生大臣政務官のお考えをお伺いしたいと思います。

森山国務大臣 今回の裁判におきましては、ハンセン病患者の方々に対する従来の国の政策が強制隔離等に当たるかどうかということが争われたものでございますが、人権擁護の観点から申しますと、一般論といたしまして、国がハンセン病患者の方々への偏見を助長し、差別する政策を行うということはあってはならないことであったと考えております。

佐藤大臣政務官 ハンセン病、らいということになるわけでありますが、古来から日本にあった病気であるということは皆さん御承知のとおりだと思います。さまざまな形での差別、偏見が強くありまして、これによる人権侵害がこの世の中で生じたものと認識をさせていただいております。

 昭和二十八年に改正したらい予防法における国立療養所への入所措置については、入所、退所、外出等に関しまして、その時代時代の医学的見地等を踏まえた対応が行われてきたものと認識をさせていただいております。

都築委員 今佐藤大臣政務官の言われた医学的見地、そういったものがどのように形成されてきたかという観点も大変重要だろう、こういうふうに思うわけであります。ただ、そのことが判決の中では、国の主張とそれから原告側の主張、そういったものと違った形で裁判所の判断が示されておるわけであります。

 ただ、その過程の中で、先ほど森山大臣が言われたように、国自体が偏見や差別を助長してはならないというのは当然のことだろうと私は思うわけであります。それは、そもそも、やはり法務省に人権擁護局という人権を守るための組織があるわけでございます。

 そういった意味で、例えば国の主張として、昭和五十六年以降医学的な回復の方途といったものが確立をされ、それ以後については、ハンセン病患者を強制隔離しておく、そういったものの合理性というものは問われることになるかもしれないというふうな話がたしかあっただろうと思います。原告側は、もう昭和二十年代からおかしいんだ、こういう指摘でございました。

 しかし、人権擁護を担当する立場におかれて、実際患者さんとして隔離された人たち、同時に、実はその家族の方たちも大変な偏見に苦しむような状況に置かれた、わざわざ保健所が来て消毒薬を家の中にばらまいていくとか、あるいはまたいろいろなうわさが立つ中で、大変な苦しみを味わってきたわけでありまして、そういった問題を考えると、果たして本当に国として責任がなかったのかどうか。そういった問題は厳しく問われていくのではないのか。

 きょうのところは、大臣もそして大臣政務官も、役所の皆さんにいろいろな情報をいただいて、そしてきょうのこの委員会審議に立っておられる、こんなふうに思うわけでありますが、私ども自由党は元来政治主導の行政を実現していこうということで考えておるわけでありまして、だからこそ、実は、政治家のお立場で大臣の、また政治家のお立場で大臣政務官の、それぞれの考え方をお聞きし、どうやってこの問題に行政を指導して運営をしてやっていかれるか、そこのところをお聞きしたい、こんなふうに思うわけであります。

 そんな観点から、先ほど森山大臣言われました、差別、偏見を助長してはならないということがございますが、では、人権擁護担当官庁として、今まで、私どもが考えるのは本当に昭和二十年以降の取り扱いについてもおかしい、こう思うのですが、仮に国が主張してきた昭和五十六年以降のあり方についても、実際に人権擁護の観点からどういう活動を展開されてこられたのか、そこの点をお聞きしたいと思います。

森山国務大臣 法務省といたしましては、ハンセン病に対する偏見、並びにこれに基づく患者本人及びその家族に対する差別につきましては、かねてから重大な人権問題の一つと認識していたところでございます。

 これまで、ハンセン病患者やその家族に対する偏見や差別をなくすために、関係機関と連携を図りながら啓発活動を積極的に進めるとともに、患者に対する人権侵害がなされた場合には、人権擁護機関として調査を行い、必要に応じて関係者に対する啓発を行うなど、被害の救済に当たってまいったところでございます。

都築委員 今の大臣の御答弁を聞いていると大変整然と御答弁をされるのですが、ただ世の中の実態としては、昭和五十年どころではなくて、今日まで非常に偏見は存在をし、また差別も実際に残り続けてきたことが今問われているわけだろうと私は思うのであります。

 今大臣がお答えになられたような形で個別に対応してこられた、こういうお話でございますけれども、本当にそれであったなら、今なぜここで、この時点でまだこれほど大きな問題になっているのか、そのことがよくわからぬわけであります。やっている、やっている、限られた予算の中でやっているんだとおっしゃるかもしれないけれども、では一体、それで世の中は本当にハンセン病に対する偏見や差別といったものがなくなったのかといったことを考えたら、今大臣御自身がお考えになって、なくなっているとお考えでしょうか。

森山国務大臣 差別とか偏見とか、物の考え方を改め、直していくということは非常に難しい、最も困難な壁と言ってもいいと思います。最初に都築委員がおっしゃいました男女差別の問題でもそうでございますし、そのほかの問題でも、物の考え方を改める、今まで思い込んでいたものをすっかり変えるということは大変難しゅうございます。

 例えば、法律をつくってもその法律だけで解決するものではございませんし、役所が誠心誠意、最大限の努力をいたしましても、それだけで徹底するものではございません。やはり時間をかけ、たびたび、根気よく努力を続けていくということが社会全体で行われなければいけないというふうに思いますので、大変残念ながら、全部すっかり解決したとは思っておりません。

都築委員 今、大臣の御答弁を聞いておりまして、社会の中に、それこそ有史以来ハンセン病にかかった方たちというのはおられて、大変苦しい思いをされてきた。それが、明治になって、そしてまた昭和の時代になっても実は法律的に強制隔離を国の政策として行ってきた。そこが私は一番大きな問題であろうと思うわけであります。

 ただ、当時の衛生状態あるいはまた栄養状態、患者の発生状況とか、そういったものを考えたらやむを得なかったという国の判断が当時あったかもしれません。しかし、その特効薬と言われるプロミンとか新しい薬が開発されて、菌の活動を抑えるだけではなくて、菌を本当に殺していくことができる、完全に無菌状態にすることができるという治療法が確立されて以降なおまだ強制隔離、そしてまた、例えば断種とか中絶をしてしまう、あるいはまた、所長の指示に従わない場合は強制労働にするとか、懲戒ということで房に閉じ込めてしまうとか、そういうことが行われていた。

 同時にまた、実は、戦前の場合は、それこそ民族浄化、無らい運動なんというキャッチフレーズのもとに、県や市町村の役場の人たちが患者さんが出たところに行って、あるいはまた警察官も動員されて、徹底的に患者を洗い出して、そしてまた、大変怖いものだという意識を植えつけていった。社会の中であったのではなくて、人工的な行政の制度の中で実はそういった偏見をつくり上げてきたこと自体について、今の原告団の皆さん方は深い憤りを持って、それはおかしかったのではないのかということを言っておられると思うのですね。

 社会でもともとあった偏見をなくしていく、それは今、差別解消の問題についてさまざまな運動が行われております。それは本当に難しいということは今大臣が言われたとおりかもしれません。ただ、この問題は、国がそれだけの予算をつけて、力を尽くして、実は偏見をつくってきてしまった。そこに問題があるのであれば、それを国として当然反省をし、謝罪をしながら、新しい取り組みを始めていく、差別の解消に向けて、また差別をつくったときと同じような精力を注ぎ込んで取り組んでいくことが一番大切なことではないのかな。同時にそれが、また別の意味での差別といったものを、行政が方針の誤りで、政治が方針の誤りで新しい差別をつくることを未然に防止する一番大切なことではないのか、こんなふうに思うわけでございますが、いかがでございましょうか。

森山国務大臣 おっしゃったとおりであると、私も同感でございますが、このたびの判決、そしてそれが社会に与えた影響といいましょうか鳴らした警鐘というのが大きな一つのきっかけになって、このような問題が解決されるようになればよろしいと思っております。

都築委員 それでは、きょうの新聞を見ますと、随分政府部内でも議論が行われ、また、与党の中も見解が分かれている、こういう報道が行われているわけでございまして、それぞれのお立場というのがやはりあるんだろうと思います。

 ただ、きょうのこの毎日新聞の一面に、ハンセン病訴訟、控訴後に和解の案が浮上、首相が世論を見きわめ判断という見出しになっておるわけです。その文言を読んでいきますと、「法務省は、国会が必要な立法措置を取らなかったことによる国家賠償責任を認めれば、ほかにも「国会の不作為」を追及する訴訟が相次ぐ可能性を懸念」する。それから、厚生労働省内では、国会の決めた法律に従って責任を問われることへの反発が強い、控訴断念を主張する坂口厚生労働大臣と官僚側の意見が対立している。こんなお話は、これは新聞の記事ですから、どこまで真実なのかどうかよくわかりません。

 しかし、私自身は、今の日本の政治、行政改革を新内閣も強く訴えておられる中で、一番の基本は、明治以来、実は超然内閣、超然官僚主義と言われるように、国会議員を低く見て、大衆はさらに低く見て、国の運営を仕切ってきた役人の皆さん、役人の皆さんというのもちょっとおかしいのですが、そういったものを、本当に国民の皆さんの意見を聞いて、そして国民の皆さんに訴えて、国民の皆さんに選ばれた政治家が実は大筋の方向をしっかりと定めて運営をし、国民のために活躍をする、そして間違えたら責任をとっていく、そういう政治主導の仕組みに改めることが何よりも大切だと思うのであります。

 大臣、就任されてわずか二週間、三週間というような状況の中で確かに難しいのかもしれない。そういう問題もあるかもしれません。しかし、その分、だから政党として、政策調査部門とか審議部門とか、そういったところはもっと充実をして、不断に国民の抱えている、国民の間に横たわる課題といったものを真剣に議論し、そして、そのトップとして大臣あるいはまた副大臣、政務官といった人が行政の仕組みを運用していく、そういう形に改めていくことが何よりも大切であって、国民の利益から離れたところに役人の利益がある、省の利益があるということ自体が、民主主義、そしてまた国民主権といった仕組みの中では本当におかしなことではないのかな、私はこんなふうに思うわけであります。

 特に大臣になられると、今回の訴訟代理人としての法務大臣のお立場を支えるのは訟務部門の皆さん方だろう、こういうふうに思うわけでありますが、同時に大臣は、人権擁護局の職員に対しても指示、指揮をされて、また助言をいただきながらやっていく、こういうことになるわけであります。

 そういった意味で、では今度の裁判の問題について、ここまで原告が訴えるほど人権侵害というのが甚大なものであって、裁判所が認めるこの人権侵害というのが深刻なものであって、そしてなおかつ、原告団の平均年齢が七十四歳、大変失礼な言い方ですが、余命もどこまであるかわからないような状況の中で、彼らが死に絶えるのを待ち続けるのか、それとも、今の時点で本当に国としての姿勢をはっきりさせ、また償うべきものは償っていくという方法をやられるのか、この二つの立場を抱えられた法務大臣としては、今どういうふうに内部を統括されようとしておられるのか、その点についてちょっとお伺いをしたいと思います。

森山国務大臣 おっしゃったとおり、法務大臣は二つの役目をいただいているわけでございまして、人権を擁護していくということは非常に基本的な大事な仕事でございますし、また一方、政府の裁判に当たって代表して控訴なり上告をする権限というものを持っているということでありますので、その両者をといいますよりは、人権擁護ということをよく考えつつ、与えられた職責を果たさなければいけない。

 場合によっては、お互いにそこを、矛盾し、あるいは調整を必要とする場合もあるということはつくづく痛感しているところでございまして、省内ばかりではなく、むしろ、主たる所管官庁でございます厚生労働省、あるいはさらには総理大臣の御判断もあることでありますので、そういう皆さん方と協議を十分させていただいて判断したいというふうに考えております。

都築委員 今大臣が答えられました政府部内での協議の話、それから、与党のお話も当然あろうと思うわけであります。

 実は、公明党のお立場を坂口大臣あるいはまた桝屋副大臣に聞かせていただければ本当によかったのですが、なかなかお忙しいようでございます。ただ、与党の中で実はどういう協議をされておられるのか。きのう公明党の神崎代表は、総理にお会いされて、断念をすべきだ、こういう公明党のお立場を言われた、こういうことでございます。

 では、自民党の中は一体どういう協議をされておられるのか。何か幹部の人たちがあるいはまた大臣といろいろとお話しになられたり、その程度で物事を考えておられるのか。今回の判決の問題もそうでございますが、長年にわたる患者さんや元患者さんたちの苦しみといったものをどういうふうに改善、解消していこうとお考えになっておられるのか。そこら辺のところをお聞かせいただきたいと思いますが、大臣あるいはまた政務官、それぞれお立場があるのであれば、お聞かせをいただければと思います。

佐藤大臣政務官 政府部内での協議ということでございますが、判決の対応につきましては、今法務大臣が申されましたように、厚生労働省、法務省、関係省庁において詳しく検討させていただいております。

 なお、連立与党内での検討状況につきましては、立法府内のことでありまして、いまだ検討の課題ということでございまして、さまざまな情報はございますが、現時点において、その詳細を完全に把握していないという状況にございますので、答弁を差し控えさせていただきたいと存じます。

 いずれにいたしましても、二十五日という控訴期限でありまして、それまでには必ず結論を出さなければいけないということでもございますので、検討させていただいて、政府として適切な対応を行ってまいりたいと思います。

 先ほどの御発言の中に、大臣と役人との隔たりというお言葉がありましたが、厚生労働省としては一切そういうことはございません。大臣のもと一体となっての協議をさせていただいておりますので、よろしくお願いを申し上げたいと思います。

都築委員 別に一体にならなくたっていいと私は思っておりまして、ただ、政治が本当に責任を持って役人の皆さんを指導していくんだということが何より大切だし、それが有権者、いわゆる国会議員を選んだ国民の皆さん全体に対する責任の果たし方であろう、こう思うわけであります。

 それぞれ本当に役人の皆さん方は優秀な方たちが多く、理路整然と物事を詰めていかれます。ただ、私自身実は思い起こすのは、それこそもう二十年ぐらい前でしょうか、記憶がおぼろげで恐縮でありますが、たしか日経新聞の夕刊に小さなコラムがありまして、そこで大蔵省の事務次官を経験された大変有力な方が、あのころからもそうだったのでありましょうけれども、最近の若い官僚について、君たちは理路整然と間違えるという苦言を呈していた。だから、法律理論を駆使して、自分たちが主張したことが一部のすきもないほど完璧な理論構成をやってくるけれども、出発点が間違えていたら世の中からは受け入れられないよ、こういう話ではないのかということを思うわけであります。

 ひところの金融関係の不祥事などを見ておりますと、どうも理に走り過ぎた、そんな感じがするわけでありまして、そこのところを、国民の常識というか、あるいはまた国民の良心というか、国民の意識というか、国民の夢というか希望というか、そういったものをしっかりと行政機構の中に反映させていくのが、政治家である大臣や副大臣、政務官の皆さん方の役目であろう、私はこんなふうに思うわけでありまして、ぜひしっかりと指導性を発揮していただきたい、こんなふうに思うわけであります。

佐藤大臣政務官 大変誤解があったら恐縮でございますので答弁させていただきますが、大臣指導のもとでということでございますので、御理解をいただきたいと思います。

都築委員 それで、まだよくわからないのですが、私どもは、控訴はぜひ断念をして、国会の立場でも、行政の立場、政府の立場でもしっかりとした対応をすべきだ、こう思うわけであります。

 ただ、もし控訴をされるような場合、控訴によって守ろうとする法益というか、そういったものは一体どこにあるとお考えになっておられるか。大臣も厚生政務官も、それぞれの役所の中での議論を聞いてきておられるでしょうから、どこにあるとお考えでしょうか。

森山国務大臣 控訴の要否につきましては、先ほども申し上げましたように、各方面と協議しておりまして、慎重に検討しているところでございます。

 検討中の段階でございますので、その内容にかかわることにつきましてはお答えを差し控えさせていただきます。

佐藤大臣政務官 法務大臣と同じお答えになって大変恐縮でございますけれども、検討の内容にかかわることにつきましては回答を差し控えさせていただきたいと思います。

都築委員 森山大臣にお伺いをしたいのでありますが、大臣のこの所信表明、非常に簡潔で、司法制度改革という大変重要な時期に大臣に御就任をされて、そしてまたその中で、時代の大きな変化の中で司法制度そのものも当然変革をしていかなければいけないという決意を述べられておられるわけでありますが、法務省の基本的な使命、役割といったものは一体どこにあるのか。それは、中でおっしゃっておられるように、法秩序の維持、あるいは権利を守るのだ、こういうことだろうと思うのです。

 ただ、私自身の考えを申し上げれば、権利を守って正義を実現することが一番大切なことであろう、こういうふうに思うわけでありますが、ただ、法律理論の整合性をきわめていくという考え方もまた、それこそ大臣をサポートされるスタッフの皆さんの中には大いにあるのではないか。よその裁判への影響も考えなければいかぬ、こういうことがあろうかと思いますが、実際に政治家のお立場で、法務省の基本的な役割をどう考え、そして法務大臣として、どういうふうに政治家として取り組んでいかなければいけないのか、その点についてちょっとお伺いをしたいと思います。

森山国務大臣 法務省は、基本法制の維持及び整備、法秩序の維持、国民の権利擁護、国の利害に関係のある争訟の統一的かつ適正な処理並びに出入国の公正な管理というような仕事を預かっている、それが任務でございます。

 したがいまして、法律理論の整合性をきわめるということももちろん大事でございますけれども、それよりも、国の利害に関係のある争訟の統一的かつ適正な処理を図るとともに、国民の権利擁護を図るように努めるべきであるというふうに考えております。

都築委員 もう一つお伺いしたいのは、政治家のお立場で実は法務行政のトップに立たれたわけでありまして、先ほどから私が申し上げてまいりましたそういった問題について、冒頭の方で、偏見や差別を助長してはいけないとか、胸の痛む思いである、そういう政治家の生の声といったものを、どういうふうに今御自身が取り組んでおられるさまざまな仕事、職務の中で反映されていかれるのか。

 そしてまた、私は、政治家だからこそ、国民の皆さんに実は痛みを伴うそういうものを、例えば、ちょっとこれは余談ではありますけれども、今百二十七人で十八億何千万円余、こういう賠償が、もし四千五百人すべての患者に対してやるとなったら膨大な額になる。こんなことを計算する人も実は中にいるわけでございますけれども、実はそのお金は結局どこから来るかといえば、みんな税金から来ることになるわけでありまして、では税金の使い道として本当にどうなのかという議論もあるかもしれません。

 ただ、例えば金融機関の救済のときに一兆も二兆も三兆もつぎ込んで、それを外国の投資会社に数百億円で売り払ってしまったようなケースもあることを考えると、国民の皆さんは怒っている。しかし、こういった人権問題、判決を援用すれば、国が今まで犯してきた違法性、こういったものに対する償いとしては当然であるということであれば、それこそ政治家が先頭に立って、国民の皆さんに、こういうことを国が誤った方針でやってしまった、その償いをしなきゃいけないから皆さんわかってくださいということを言えるのは政治家しかいない、役所の皆さんではそんなことはとても言えないわけでありまして、その点について大臣の役割はいかがかということをお聞きしたいと思います。

森山国務大臣 おっしゃるとおりでございまして、法律の理屈あるいは整合性だけを求めるのであれば、政治家は特に必要があるわけではございません。それのほかに、国民の感覚といいましょうか、有権者の気持ちというものを反映して、血の通った政策を実際に実行していくということが政治家に与えられた、どちらかと言えばその面の役割が大きいのではないかというふうに私は思っておりますが、しかし、この具体的な案に関しましては考えなければいけないことがたくさんございまして、今先生が御指摘のような問題もその中の重要な部分でございます。それらをすべて総合的に判断して調整し、できるだけよい決着をしたいというふうに考えているわけでございまして、今現在苦慮している最中でございますので、これ以上のコメントはお許しいただきたいと存じます。

都築委員 ぜひそのよい決着をしたいという思いを実現していただきたい、こんなふうに切に希望しますし、最後の質問は、実は法務大臣自身がされるのか、それとも総理大臣まで上げて決断をされるのか、そこのところをお伺いしたい、こんなふうに思っておりました。というのは、これほど大きな問題について、やはり今までの形式的な組織手続上の問題だけで大臣決裁というわけにはいかないだろう、そしてまた、小泉内閣の一つの真価がここで問われてくるのであろうと私は思うわけであります。

 私ども野党の立場では、今までいろいろな問題が、改革の名のもとにスローガンやキャッチフレーズが大変大きく取り上げられてまいりましたが、改革の具体的な中身は何一つないというのが私どもの見方でございまして、大変厳しい言い方で大変恐縮でありますが、せめてこういう問題について、本当に国民の権利、人権を守る、自由を守る、そういった観点からぜひ改革の実を上げていただきたいな、こんなふうに要望をする次第であります。

 時間が参りましたので、以上で私の質問は終わります。ありがとうございました。

保利委員長 本会議散会後直ちに委員会を再開することといたしまして、この際、休憩いたします。

    午後零時十三分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時十五分開議

保利委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 議事に先立ちまして、ただいまネパール王国下院法務・議会担当委員長マヘンドラ・ヤダフ君御一行が当委員会の傍聴にお見えになっております。御紹介を申し上げます。

    〔拍手〕

    ―――――――――――――

保利委員長 質疑を続行いたします。木島日出夫君。

木島委員 日本共産党の木島日出夫でございます。

 きょう、私は、去る十一日の熊本地裁のハンセン病国家賠償訴訟での判決に関してお尋ねをする予定でありますが、その前に、選択的夫婦別姓、非嫡出子相続差別撤廃問題について、内閣府の男女共同参画局長を招いておりますので、こちらを先に質問させていただきます。

 既に午前中も同僚議員から質問がありました。法務大臣からの答弁もお聞きをいたしました。選択的夫婦別姓問題、新たな覚悟で取り組みたいという決意の表明がありました。私も何度か当委員会でこの問題を質問し、現に今、私は野党三党の法案の提案者の一人として法案を提出しているわけでありますが、これまでの法務大臣の姿勢が若干消極的になってきているんじゃないかと思っていましたところ、先ほど来、森山新法務大臣から新たな覚悟で取り組みたいという答弁がありましたので、一歩前進するのではないかと期待をしているわけであります。

 そこで、森山法務大臣在任中にどの程度の段階までこの問題を引き上げようとされるのか。世論調査をやっていきたいということは本会議答弁で聞いておりますから、その具体的な中身について踏み込んだ答弁をまずもらいたいと思うんです。

森山国務大臣 この問題は、私自身も一女性議員として多大の関心を持ってまいったものでございますし、特に女性の多くの人が職業についてその職業上の不利益をこうむる可能性のある問題としまして、多大の関心を持ってまいりました。かねて、自分の党内でも、またほかの党の皆様方ともこのことがよく話題になりまして、何とか打開の方法はないものかということをいろいろな場合に協議していたところでございます。

 今、野党の皆さんから議員提案がされているということを伺いましたが、与党の中にも熱心な方が少なからずおられますので、両者でよく意見をすり合わせていただいたらさらに前進するのではないだろうかと期待するところでございますが、法務省といたしましては、やはり政府の提案として提案するということになるといたしますと、それなりの世論というものを十分に参考にしなければなりませんし、その他各方面の御意見を十分に聴取しなければいけないというふうに思いますので、まずは予定されております世論調査の結果を参考にし、議員の先生方のお話し合い、あるいはその他の方々の御意見をよく聞いて進めていきたいというふうに考えております。

 在任中にとおっしゃいましたけれども、いつまで在任していますかちょっとまだわかりませんので、必ず在任中にできますというお約束は私としてはいたしかねますけれども、できるだけ前の方に進めたいというふうに考えております。

木島委員 私は、森山大臣とは児童買春法の制定問題で一緒に法案づくりのために大変汗をかいたことがあることを思い出しているわけでありますが、ああいう問題でも、失礼ながら大臣の所属をされている自民党の中では、立法化の初期の段階では少数派だったのではないかと思います。そういう状況にあるにもかかわらず、大臣が先頭に立って努力をし、野党の議員とも同じテーブルに着いて、そして超党派で法案をまとめ、そういう力関係が生まれてくる中で、与党の賛同も得る中で法案が見事に成立していったという経験があるわけです。

 それから、つい最近成立したドメスティック・バイオレンスに関する法もそうだと思うのです。これはもう御案内のように、法務当局や最高裁当局から、これまでの法体系とはちょっと違うということで大変厳しい反応があった法案でありますが、これも参議院における女性の議員の皆さんの努力によって、そういう法務、最高裁当局の反応を抑えて、見事に法案をつくり出してそれを成立させていったという経験があるのですね。

 今私は、この選択的夫婦別姓の問題にしろ非嫡出子の相続差別撤廃の問題にしろ、求められているのは、そういう基本的な人権を前進させるというために、やはり世論をリードしていくということではないだろうかと思うのです。基本的人権にかかわる問題です。二十一世紀に入りました。大臣の所信もお聞きをいたしましたが、二十一世紀社会は基本的には人権の世紀だという位置づけもされております。大変結構なことだと思うのです。今、二十一世紀に入って重要なことは、一人一人の生き方の問題、夫婦のあり方の問題、家族のあり方の問題、多様な生き方、これを社会が全体として容認し合う、そういう寛容な社会を目指していくことではないだろうか。

 そうしますと、若い夫婦の間に、夫婦別姓で婚姻前の大事な名前を維持しながら夫婦関係を結び、維持し、それを生かしていきたい、そういうことを選択する夫婦があってもいいではないか。そういう夫婦を周りが寛容的な温かい気持ちで認めていく。そういう社会こそが、場合によっては少数派の人権を維持しながら、社会全体として、住みよい、人権が守られる社会に近づいてくるのではないかというふうに私は思うわけであります。

 この問題では、午前中の議論にもありましたが、既に九六年の段階で法制審が答申を出しているわけです。法制審の学者の皆さん方は、決して選択的な夫婦別姓を望む当事者だけの利益のためにこういう答申を出したわけではありません。そういう日本社会全体の、家族法のすべての問題を考慮の上にああいう答申を出されたのだというふうに思うのですね。

 そうしますと、今大臣に求められるのは、そういう世論の前進を踏まえて、やはり一歩踏み出すということではないでしょうか。もう一度御決意を。

森山国務大臣 大変激励をしていただきまして、まことにありがとうございます。

 私もぜひ一歩踏み出したいと思っておりますが、そのプロセスに多少手間と時間がかかるのではないかと思いますが、それをぜひ議員の皆さん方の御議論によって後押ししていただきたいというふうに考えます。お願いいたします。

木島委員 昨年の十二月十二日に閣議決定されました男女共同参画基本計画には、選択的夫婦別姓制度の導入を検討することが盛り込まれました。また、発足をいたしました男女共同参画会議の基本問題専門調査会でも検討が始まったようであります。

 そこで、きょうは内閣府の坂東男女共同参画局長をお呼びしておりますので、その趣旨、現状、今後の見通しについて御報告いただきたい。

坂東政府参考人 お答えいたします。

 御指摘のとおり、昨年十二月に閣議決定いたしました男女共同参画基本計画におきましても、男女平等等の見地から、選択的夫婦別氏制度の導入について、国民の意識の動向を踏まえつつ、引き続き検討を進めるとしております。

 このたび男女共同参画会議の基本問題専門調査会がスタートいたしましたが、検討テーマといたしまして、選択的夫婦別氏制につきましても御検討をしていただくこととしております。

 選択的夫婦別氏制につきましては、既に今御指摘のとおり相当の議論の積み重ねがありますので、男女共同参画社会の促進という観点から、特に国民一般の関心が高い課題であり、また、今年度中に世論調査が実施されるなど新たな動きが出ておりますので、これらを踏まえて、本専門調査会で、夫婦同氏制であることから生じる実生活上の不便、不利益という点を中心にこの問題について検討をしていくということにしております。

木島委員 その検討のプロセスとかスケジュールとか、そんなのはどんな状況でしょうか。具体的なスケジュール等を答弁願えませんか。

坂東政府参考人 この男女共同参画会議基本問題専門調査会は、五月十四日に第一回の会合を開きまして、おおむね一カ月に一回程度の会合をしていくこととしておりますが、今年度中に、それまでの議論、論点を整理して発表していただくことになろうかと思っております。

木島委員 森山大臣は、男女共同参画会議のメンバーでもあろうかと思うのです。いよいよ内閣に置かれた共同参画会議の基本問題調査会でこういう論議がここまで始まってきているわけですから、一段のリード役を果たされることを重ねて要望しておきたいと思います。この問題はこれで閉じます。坂東局長には退席されて結構です。

 それでは、今月十一日に熊本地裁から出されたハンセン病の国家賠償訴訟での国の責任を認める原告側全面勝利の判決についてお聞きをいたします。

 三年前のこの裁判の提訴のときに、原告団団長の荒田重夫さんは、パンフレットでこのような一文を書いております。非常に胸が打たれる文章ですので、お聞きください。

  人権回復の裁判にご理解とご支援を

  入口があって出口のない元国立療養所星塚敬愛園に半世紀、五十七年を過ごし、もう八十の坂を越え人生の終末を歩かされている老体です。「らい予防法」が廃止になったとはいえ現実は変わらず、いかに私どもの人生を根こそぎ奪い取り、その上家族まで差別と偏見の中で今なおバラバラに過ごさざるを得ないのか。強制収容、強制隔離によって死んでいった療友二万有余人。星塚敬愛園では千八百有余人どんなにか苦しみの中で古里に思いを残し逝かれた事であろうか。そして今を生かされている者五千有余人の思いを、国は、政府は、真剣にその重みを考え廃止したのだろうか。私には到底そうとは理解できない。

らい予防法が廃止されて二年を経過して、この裁判に踏み切ったときの原告団長の言葉であります。そして、三年に及ぶ裁判闘争を踏まえて、本月十一日、画期的な判決が出されたわけであります。

 ハンセン病患者は、戦前戦後、九十年にわたって国の誤った政策のもとで療養所に隔離をされ、断種、中絶など数え切れない人権侵害を受け、差別と偏見によって、家族やふるさと、社会から断絶する生活を余儀なくされてきたわけであります。

 今回の判決が、人権侵害を認め、隔離政策を続けてきた国、厚生省の責任を断罪し、同時に、国会の立法不作為を違憲としたことは、人間の尊厳の回復を求めて闘い続けてきた全国の元患者の皆さんに大きな光明を与えるものだと私は思います。

 そこで改めて、法務大臣は、裁判の被告であり、被告代表者であるわけでありますが、この判決をどのように受けとめているのか、まずお聞かせ願いたいと思うのです。

    〔委員長退席、田村委員長代理着席〕

森山国務大臣 去る十一日に出ました熊本地方裁判所の判決につきましては、非常に重く受けとめております。私も昨日、患者の代表の方数名に直接お目にかかりまして、いろいろお話を伺いました。ハンセン病患者として療養所におられた皆様方のこれまでの苦しみ、お一人お一人の体験、どのお話もすべて、涙なくては聞けないような深刻なお話でございまして、何と申してよろしいか言葉もないという気持ちでございました。大変お気の毒なことだと心から思っているわけでございます。

 法的な問題といたしまして、厚生大臣と国会議員の国家賠償責任というのが認められたということも、国にとって大変厳しい内容の判決、判断であったと受けとめております。

木島委員 今、全国の療養所に入居している患者、元患者の皆さんは四千五百人に上っております。平均年齢は七十歳を超えております。七十四歳とも言われております。毎年二百人が亡くなっております。

 裁判でいつまでも争っている時間はこの皆さん方にはありません。今なすべきことは、国は、それは国会も政府もみずからの責任をしっかり認める、そしてこの判決に対して控訴をしないこと、そして誠実に全面解決に向けて努力することではないでしょうか。原告や元患者の皆さんが求めておりますように、被告、国は判決を真剣に受けとめ、人権回復の措置をとるべきだと考えます。

 いろいろほかの省庁や国会とも協議するのでしょうが、改めて、法務大臣として控訴しない、そういう立場、決断を求めたいと思うのです。法務大臣としての控訴しないという決断をここで述べていただきたい。心から私は要望しますが、御答弁願います。

森山国務大臣 昨日お目にかかった皆様のお口からもそのようなお言葉がありまして、私も大変胸を打たれるところでございました。

 ただ、今回の判決について、控訴するかどうかということは大変重要な問題でございまして、私、法務大臣ひとりの考えで決められるものではない、政府全体の大事な決定であるというふうに思いますので、関係機関と十分協議をしなければならないと思います。その上で慎重に決定していきたいと存じます。

木島委員 今、法務大臣ひとりで決められるものではない、政府全体で決めていきたいとおっしゃられましたが、その中にはもちろん、今回の判決で立法不作為が断罪された衆議院、参議院も当事者であるということは御承知ですね。

 既に五月十一日に、法務省から衆参両院に対して、衆参両院の意向を速やかに回答していただきたいという照会がなされていることを私も存じております。今、衆参両院では議院運営委員会でどういう態度をとるべきか大変深刻な、徹底した論議が進んでいるところであります。

 意向を聞くのは政府全体と答弁されましたが、当然ですが、衆参両院の意向も聞いた上で判断がなされるということを伺ってよろしいですね。

森山国務大臣 政府全体と申し上げましたのはちょっと言葉が足りなかったかと存じます。政府の中でも、総理を初め深くかかわってこられた厚生労働省も当然いろいろとお考えがあると思いますし、判決で特に言及されました国会の責任ということを考えますと、国会の御意向を十分お伺いしなければならないというのは当然でございます。

木島委員 実は、きょうの私ども日本共産党が発行しているしんぶん赤旗に原告の鷹志順さんという方のコメントが載せられております。こういう言葉が使われているのです。「控訴は、入園者が死に絶えるのを待つということ。そんなことは絶対にしないでほしい」。私も弁護士であります。控訴されたときにどんなに時間がかかるか大体想定はつくのです。そういう時間は元患者の皆さん、もちろん原告団の皆さん方にはもうないと思います。この必死の叫びをしっかり受けとめていただきたい。

 そこで、衆参両院の意向も踏まえる、そして政府、各省庁の意向も踏まえる、午前中の答弁では、総理とも協議をしっかりしたいという答弁もありました。それは当然やっていただきたいのですが、その中でも私は、やはり権限法で被告、国の代表者たる法務大臣森山眞弓氏、あなたがどういう態度をとるか、控訴をされるかされないかの決定的に重要なかぎだと思います。

 先ほど来、再三同僚委員からの質問に対しても、法務大臣はそれについては答えなかったわけなんです。それで、ほかの省庁はともかく、衆参両院はともかく、法務省として、法務大臣としては控訴すべきと考えるのか、すべきでないんだと考えるのか、答弁いただきたいんです。先ほど私、るるいろいろなお話をいたしました。こういう全体の状況を考えたら、やはり法務大臣としても控訴しないというのがとるべき態度だと私は思うんです。御答弁願いたい。

森山国務大臣 法務大臣は、国を当事者とする訴訟については、国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律第一条によりまして、国を代表する、代理するということになっておりますが、と申しますことは、国の全体の意思がどうであるかということを確認しなければならないと思いますので、その作業をやっておりますところでございますので、私自身のコメントということは控えさせていただきたいと存じます。

木島委員 それは逃げなんです。逃げ。法務省としての、法務大臣としての意思はあるはずなんです。

 当然、所管であるのは厚生労働省です。私は、法務委員と厚生労働委員を兼務しておりますから、午前中ここを抜け出して厚生労働委員会に行きました。そこで、委員からの質問に答えて、坂口厚生労働大臣はこういう答弁をしましたよ。今度の判決で強制隔離が違法だと判断を受けた、しかも判決は、昭和三十五年を基準点にしてそれ以降の強制隔離が違法だと判断があったと。国際社会のハンセン病患者に対する処遇のあり方、いろいろな会議が積み重なってあります。きょうは細かくは論じません。そういうのを踏まえて、当時の厚生省、旧厚生省の責任としては、昭和三十五年を基準点にしてそれ以降の責任を判決は断罪した。それはお認めになりました。

 この裁判で、旧厚生省は争いましたよね。そういう責任はないという立場で訴訟を遂行しました。法務大臣もそうです。しかし、それが判決によって覆されて、被告、厚生労働省、旧厚生省の言い分は通らなかった。そして、原告にとっては不満です。戦前からの強制収容は違法だということまで主張していたわけですから、完璧な全面勝訴とは言えないんでしょうが、少なくとも昭和三十五年以降の強制隔離については違法だと断罪があった。それについては、坂口厚生労働大臣はその判決を是認する答弁をしましたよ。当然、自分の所管じゃない立法府の立法不作為の問題については答弁しませんでした。それはいいでしょう。そこまでやったんですよ。

 ですから、法務大臣は、今大臣が答弁しましたように、確かに最終的な控訴手続をする当事者です。その前段階では、衆参両院の意思も受け、意向も受け、厚生労働省の意向も受け、また、これだけの大きな政治問題ですから、先ほど法務大臣が答弁されましたように、小泉総理大臣とも協議をする、その協議を踏まえて最終判断がなされる。私は当然だと思うんです、これだけの問題ですからね。それは当然ですが、それを前提にして、しかし法務大臣、法務省としての意思は全くないわけじゃないわけですよ。法務省、法務大臣がどういうスタンスに立つか、どういう立場で控訴の要否について態度表明するかというのは、ある面では決定的ですよ。だから、私は逃げてはいかぬと思うんです。

 再々答弁がありますように、法務大臣というのは国の秩序の基本です。そして同時に、人権擁護の大事なお役所でしょう。法務省の所管にはいろいろな局があるでしょう。訟務担当もあるでしょう。それを全部踏まえて、法務省としての意思が法務大臣の意思に体現されてくるんだと思うんですね。

 判決後一週間たっています。もうあるんだと思うんです。逃げないで答弁していただきたい。

森山国務大臣 逃げるという意味では全くございませんが、むしろ自分に与えられた権限を正しく行使するために関係方面と協議をしている最中でございますので、そのことを御理解いただきたいと存じます。

木島委員 いや、協議するのはいいんですよ。だから、どういうスタンスで協議するのか。私は控訴すべきでないと考えるという立場で協議していただきたい。残念ながら協議の相手方が違う態度だったという場合には、いろいろ、ではどうしようかという問題が出てきますよ。わからないんですよ、今の法務大臣のスタンスが。

 判決が下った翌日の日経新聞の社説には、こういう文言があります。「この問題は、過去の過ちを認めない行政の硬直性と、少数者の痛みに鈍感な国会の怠慢が招いた悲劇といえよう。当時の厚生行政に最大の責任があることは、間違いない。だが、国会もこれほど明白で悲惨な人権侵害をもたらしている法律を廃止しなかった責任を問われてもやむを得まい。」

 そうしますと、かりそめにも今回の判決を受けて控訴して争い続けるということは、まさに日経新聞が主張したように、過去の過ちを認めない行政の硬直性を続ける愚を犯すことになるんじゃないか。私は、そのこと自体が、控訴して争い続けること自体が、元患者の皆さん、原告団の皆さんに対して新たな人権侵害を生み出すんじゃないかと思います。本当に思いますよ。そういう状態をつくり出すこと自体が新たな人権侵害を生み出すことになる。

 法務大臣はあいさつで、人権の世紀とも呼ばれる今世紀にあって人権擁護行政の一層の充実強化を図ることが必要であることは申し上げるまでもありませんと述べたばかりであります。どうか、この問題に関する限り、やはり人権行政という立場から控訴すべきでない、そう法務省としては考える、法務大臣としては考えるという立場に立って近々行われる総理との交渉にも臨んでいただきたいし、どんな意見が厚生労働省や衆参両院から来るかまだ予断を許しませんが、少なくとも法務当局としてはそういう立場に立つんだという立場に立って折衝に当たっていただきたいと思うんですが、いかがでしょうか。

森山国務大臣 今引用なさいました新聞の論説、そしてまた先生の今のお言葉、非常に強い感銘あるいは深い印象を与える厳しいお言葉でございまして、それを十分に踏まえた上で協議をしていきたいというふうに思います。

木島委員 もう一つ、大事な言葉を紹介したいと思います。これは、五月十一日の朝日新聞の夕刊に出ていた著名な憲法学者の奥平康弘さんの談話であります。「これまで最高裁判例などで特別な場合に限定され、「できっこない」とされていた「立法の不作為」に踏み込んだ画期的判決だ。隔離政策を規定したらい予防法は、その存在自体が人権を著しく制限してきた。法を廃止しさえすれば解決でき、付随する弊害もなかったのに、国会や行政はそれを怠った。この判決に異論を提起することは困難だろう。」こう述べておるんです。

 法務大臣は、非常にお忙しい政務の中、この判決文全文はお読みになりましたでしょうか。私、ここに持ってきておるんです。五百ページを超える大部でありますが、全部読みました。率直に言って、画期的な判決ですよ。国会の立法責任を問うた判決で、画期的です。そして、画期的だけじゃなくて、私は非常に手がたい判決だなと法律家としても感じます。控訴されても絶対に負けない、そういう非常に手がたい論理の構築をし、そして証拠の認定もしておるということがうかがえるのです。

 例えば、さっき言ったように、旧厚生省の責任を昭和三十五年以降にしたこと。そして立法府の立法不作為の責任をさらに五年おくらせて昭和四十年以降にしたこと。

 もっと手がたいなと私が感じるのは仮執行の宣言なのです。これは、判決言い渡しと同時に仮執行ができるのが常識なのですが、十四日間仮執行をとめたのです。十四日間たってから仮執行ができる、これは異例なのですよ。

 というのは、十四日たって控訴しなければ執行できるわけですから、控訴されたら、執行停止のいろいろな高裁の判決なんか出されますと執行しにくくなるわけですから、少なくとも十四日間は、勝訴した原告側においても仮執行でそんなことをやらずに、やはりじっと政府や国会の対応を待つべし、必ず控訴しないという判断を国会や政府や法務大臣はとってくれるだろう、それまで静かにしていなさいということがこの仮執行の宣言を十四日間おくらせた本当に深い意味だというふうに思うのです。

 それから、この裁判は、これだけの大型の裁判で、これだけの大変な中身のある裁判にもかかわらず、三年で判決を言い渡しました。異例のことですよ。それも、私は、この裁判を直接担当した裁判所が一番深く掘り下げて事実認定もし物を考えた人たちでしょうから、そこまで考え抜いて、ある面では石橋をたたいて渡るような手がたい論理を構築しながらこの判決に行き着いたのではないかと思うのです。だからこそ、憲法学者の奥平康弘さんが、異論提起は困難だ、この判決をおかしいと言うことは困難だろうということを言っているわけなのです。そういう判決だという感じなのですね。私も本当にそう思います。

 それだけに、法務省のお役人は法律家ですから、いろいろな細かい法理論はあるでしょう、これまでの判例体系上どうだとか、法理の理屈上どうだといろいろな意見はあるでしょう、しかし、この問題に関する限り、そういう瑣末なことは乗り越えて、ひとつ日本の人権を前進させる。少なくとも、この当事者の皆さんのこういう状況をしっかり真正面から受けとめて、ここは、国も敗訴です、国会も敗訴です、厚生労働省も敗訴です、これには服しましょう、むだな争いはもうやめましょうという態度をとることが、私は、最後に求められる大局的な判断、それが政治的な判断という言葉なら政治的な判断という言葉を使ってもいいと思うのです、そういう立場に立たれるべきではないかなと思うのです。

 これは、私は、総理大臣にもそういう立場に立ってもらいたいし、その前段として、少なくともこの所管である法務大臣にはそういう立場に立ってこの判決を読んでもらいたいし、見てもらいたいと思うのですが、いかがでしょうか。

森山国務大臣 大変先生の御熱意あふれるお言葉、深く感銘いたしました。そのお気持ちをしっかりと踏まえまして、これからの調整に当たっていきたいと思います。

木島委員 時間もほとんどなくなってまいりました。厚生労働省をお呼びしておりますので、一言、先ほど私からも御披露しましたように、午前中の厚生労働委員会で坂口厚生労働大臣の答弁を私はこの目で、この耳で直接受けてきているわけでありますが、改めて、厚生労働省としてこの判決をどう受けとめるかについての答弁をしてください。

篠崎政府参考人 五月十一日に熊本地方裁判所において国が敗訴の判決が言い渡されましたけれども、国といたしましては、大変厳しい判決であると受け取っております。

 判決の対応につきましては、引き続き坂口厚生労働大臣、関係省庁等とも相談しつつ、慎重に検討してまいりたいと考えております。

木島委員 時間ですから終わりますが、私は最後に、戦前戦後九十年間に及ぶ、世界にもまれに見る人権侵害の状況にこれで終止符を本当の意味で打つ、むだな控訴をして、これだけ辛酸をなめ尽くしてきている原告団の皆さん、そしてこの裁判を見詰め、裁判を起こそうと思っても起こせなかったたくさんの人たちがおるわけですし、もう既に他界されたたくさんの皆さんがいるわけですから、そういう皆さんの思いをもしっかり受けとめて、争いに終止符を打って、控訴しないで、そして本当の意味の全面的な解決のために、少なくとも法務省が、法務大臣が率先垂範行動されんことを重ねてお願い申し上げまして、質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

田村委員長代理 これにて木島日出夫君の質疑は終了いたしました。

 続きまして、植田至紀君。

植田委員 社会民主党・市民連合の植田至紀です。

 午前中、また先ほども議論があったところですけれども、私も、まず選択的夫婦別姓の導入にかかわる民法改正について、森山大臣のお話をお伺いしたいと思います。

 先ほど来のお話を伺っておりますと、かなりいろいろな前向きな熱意のこもったお話でございまして、まず心より敬意を表したいと思いますし、また、森山さんが法務大臣になってよかったなと思えるような結果を心より期待するものです。

 幾分この間の質疑で重なる部分もあるかと思いますが、私ども社民党は、この間一貫して民法改正を、この選択的夫婦別姓、婚外子差別の廃止等々を含めて推進してきた立場であるとともに、私自身、法律婚ではなくて事実婚という形で夫婦生活を営んでいる、いわば当事者という立場からすると非常にこれは切実でございまして、実際に確定申告しようにも、配偶者控除は私らは受けられへんわけでございまして、貧乏国会議員としてはかなりつらいものもございますが、少なくとも両性の本質的な平等というものをしっかりと具現化するという意味で、これはそろそろやらないかぬなというふうに思っておるわけです。

 既にこの間、午前中の水島委員や、また木島委員のお話の中でも、かなり個人的には前向きなそういう思いを伺ったところですけれども、九六年、残念ながら当初国会提出が断念された折にも、あるインタビューで、当時森山議員が「個性化、多様化の時代だし、選択の幅を広げることは自然の成り行きだと思う。」というふうに述べられているわけです。

 自然の成り行きなのにいまだ実現していないということについて、恐らく大臣は非常に残念に思ってはると思うのですが、その辺のお気持ちはいかがでしょうか。

森山国務大臣 今引用していただきまして思い出しましたが、たしか平成八年だったと思いますけれども、法制審議会の結論が具体化できないままに終わったということが非常に私も残念でございましたので、インタビューに答えましてそういう発言をしたのだと思います。

 今も基本的には同じような気持ちでございまして、私はそのころ教育の問題に携わっておりまして、教育も非常に多様化、個性化の時代ということで改革を目指していたわけでございます。同じように、経済界でも、あるいはほかの分野でも、個性化、多様化ということは共通の変化のトレンドでございましたので、そのような国民の意識、社会の意識の変化を受けて、この夫婦別姓の問題についてももっと柔軟に対応したかったな、そのときはそう考えました。

 今も、ますます個性化、多様化している時代でございますから、あのとき、どちらだかよくわからない、あるいはちょっと心配と思われた方も、次第にそのような考え方を受け入れてくださるようになっていらっしゃるのではないかというような期待はいたしておりますが、個人的な期待だけではなくて、やはりしっかりしたデータがあればなおいいというふうに考えまして、世論調査、五年ぶりにしていただくということになりそうでございます。

 そのようなことを踏まえて、また、多くの皆さんの、先ほど内閣府の方の男女共同参画会議でも具体的に取り上げてくださるというお話がございましたし、議員の皆さんの間にも大変具体的なアクションが積極的に出ておりますので、そのような動きを踏まえて、できるだけ一歩前進、さらに具体化していきたいというふうに私としては考えております。

    〔田村委員長代理退席、奥谷委員長代理着席〕

植田委員 当時から自民党の中でかなり強い反対論があったことはよく御承知されていると思います。その中で、家族が崩壊するじゃないかということがよく言われたと思います。

 実は、インタビューの記事、九六年の八月二十日の夫婦別姓の対論ということで、森山眞弓元官房長官と先ごろまで自民党の参議院議員であった村上正邦さん、このお二人が対論ということで、村上さんの方が反対なんですが、この方がこうおっしゃっているんですよね、家庭崩壊につながる理由について。「家族としての姓、ファミリーネームこそ根底で、家族の一体感を担保している。また、別姓になると事実婚が増える。法律婚と事実婚の差がなくなるので、すべて事実婚みたいになってしまう」。私のように事実婚をやっている者としては、失礼ながら非常に失敬な話だなと私は思ったわけですけれども、選択的夫婦別姓を導入したら家庭の崩壊につながるなんというのは、当然森山大臣は考えてはいらっしゃらないと思いますけれども、その点についての御意見、お伺いできますか。

森山国務大臣 私はそういうふうには思っておりません。現に、事実婚という形で別姓のまま暮らしていらっしゃる事実上の御夫婦、何組か存じ上げていますが、そういう方の方がそうでない人たちよりも一体感が少ないとは思えないと思いますので、それぞれの家族のあり方というのは別に姓が同じであるかないかということが決め手にはなっていないと思います。

植田委員 戸籍を入れて同姓であっても仮面夫婦というのはぎょうさんいらっしゃるわけですから。私どもは別に仮面夫婦では全然ございませんが、当時の森山元官房長官も、「それは同姓、別姓には直接関係ない。固定観念にとらわれるから、家族の一体感が姓の同一と不可分と思い込んでいる。情緒的な感情論だ。感情論と法律論は別で、冷静に議論すべきだ」というふうにおっしゃっていますが、そのとおりでしょうか。

森山国務大臣 そのとおりでございます。

植田委員 改めて、きちっとこの論旨を貫徹していただいて、自民党の中の反対論をできれば説得していただければというふうに非常に心より期待しているわけでございます。

 既に、個人的にはもう御推進というお立場はいろいろな形で、今大臣という現職にありながらも、最大限表現されていただいておりますので、非常に敬意を表したいんですが、私ども野党三党、民主、共産、社民、午前中の水島委員も、また木島委員も、そして私もこの提案者として加わっておるわけですが、この民法の一部を改正する法律案について、法務大臣の立場を離れれば、心ひそかに成立を希望されているんじゃないかと私なんぞは思うわけでございますが、いかがでございますか。

森山国務大臣 余り深く、細かいところまできちっと勉強したわけではございませんが、私の個人的な感じをちょっと申し上げさせていただくとすれば、選択的夫婦別姓の問題と、嫡出、非嫡出の公平の問題と両方入っておりますようですね。それは両方とも大事なテーマだとは思いますが、別々に一つずつおやりになった方が取り組みやすいのではないかなというような感想を持っております。

植田委員 いずれにいたしましても、新たな覚悟で頑張っていきたいという御決意を既にもう聞いておりますので、その決意を共有し合えればというふうに思っているところでございます。

 では、続きまして、入管行政にかかわって幾つかお伺いしていきたいわけですが、その前に一点、特に外国人犯罪の現状についてちょっと気になる新聞記事を読ませていただきました。

 五月八日の産経新聞で、「日本よ」というタイトルで、月一回、識者と言われる方々がそれぞれ執筆をされるらしいんですが、東京の石原慎太郎知事が「内なる防衛を」ということで、中国人の犯罪について言及をされています。こういうことを書いています。「国内での外国人犯罪検挙数は約三万五千人、内中国人犯罪は一万五千人弱」云々かんぬん、「現に東京で最大の、重犯者用の府中刑務所は収容人員の限界は二千六百人だがすでに満杯で、服役中の外国人犯人数は五百人、内、中国人犯罪者は二百九人」云々、そしてこうしたものをいわば理由にして、言ってみれば、特に中国人を中心とした犯罪が激増してゆゆしき問題だというふうな理由づけにしているんですが、こうしたデータを含めて、これがその根拠になり得るのかどうなのか、まず事務方で結構でございますので、教えていただけますでしょうか。

中尾政府参考人 お答えをさせていただきます。

 外国人犯罪の検挙数につきましては、私どもでお答えする立場ではございませんが、警察庁の統計を見ますれば、来日外国人犯罪の総件数につきまして、平成十一年が三万四千三百九十八件、平成十二年が三万九百七十一件でありまして、そのうち中国人による犯罪の検挙件数につきましては、平成十一年が一万五千四百五十八件、同十二年が一万六千七百八十四件と増加していることがわかります。

 また、同じ統計でございますが、平成二年における来日外国人犯罪の総検挙数は六千三百四十五件、同八年における来日中国人による犯罪の検挙件数は七千三百十件にとどまっておりますので、統計上の数字で申し上げれば増加しているということが言えると思います。中国人犯罪につきましても同様の傾向があるというふうに承知しております。

植田委員 この産経の石原さんの記事では、検挙数が人数というふうに書いていますよね。三万五千人とか一万五千人とか、これは本来件数ですよね。だから、ここでの石原さんの記述はその意味では不正確ですよね。少なくともここでの記事は、データの読み違いか何か知りませんが、そうした不正確なものによってそうした趣旨のことが書かれているということをまず言っておきたいと思います。

 その上で、ここで非常に私気になりますのは、これは法務大臣に伺います、せんだって中国人同士でのかなり残虐な殺人事件があった、そして犯人の中国人が逮捕された、犯罪者同士の内輪もめか何かであったようですが、そのことをるる書いた上で、石原知事、こういう言い方をしています。「しかしこうした民族的DNAを表示するような犯罪が蔓延することでやがて日本社会全体の資質が変えられていく恐れが無しとはしまい。」「民族的DNAを表示するような犯罪」、こういう言い方をしているわけです。

 少なくともこういうDNA云々というのは明らかに非科学的な話でございますし、言ってみれば、日本に来た外国人の旅行者が山手線に乗っていて財布をすられた、それで本国、自分の国に帰った、日本人はみんな泥棒だ、あそこは盗人国家だと言うようなものですよね、これ。しかも、民族的DNAなどと、まさにこれは人種差別でしょう、こういう言い方をすると。もちろん、ここでお伺いする撤廃条約とのかかわりにおいては解釈権外務省にありとおっしゃるのはわかりますが、人権擁護行政に携わる法務大臣といたしまして、こうしたことはやはり人種差別撤廃条約の趣旨、精神に反すると私は素直に読み取ってしまうんですが、その点の御感想なり御意見、お伺いできますでしょうか。

    〔奥谷委員長代理退席、委員長着席〕

森山国務大臣 御指摘の石原東京都知事の寄稿は中国人による犯罪についてお述べになったものというお話でございますが、御指摘の部分につきましてはその御趣旨を必ずしも正確に私理解している自信がございませんが、しかし、また地方自治体の首長としてその見解をお述べになったものでございますので、私がこの場でこれにコメントすることは差し控えたいと思います。

 なお、人権擁護行政を所管する法務省といたしましては、外国人に対するいわれのない差別をなくし、その基本的人権が尊重されますよう積極的に啓発活動を行うなどの取り組みをこれまでしてまいりましたし、これからもしていきたいというふうに考えます。

植田委員 せっかく民法改正にかかわっては個人的にも積極的におっしゃっていただいているんだけれども、ここはえらい遠慮ぎみなんですね。ちょっとここは突っ込みたいところなんですが時間がないので先へ進みますが、少なくとも「こうした民族的DNAを表示するような犯罪」などと、言ってみれば、犯罪の類型によってすぐにこれはここの連中がやったのだと決めつけるような行為、まさにこれは差別であり、偏見だということだけはもう一度言うておきたいと思います。

 次に、入国管理行政の幾つかを、細々した点でございますけれども、まず在留特別許可の基準にかかわってお伺いしたいのです。

 私も何度かこうした非正規滞在外国人の方々の支援グループと一緒に法務省にも陳情もさせていただいた経験があるのですけれども、よくその中でお伺いするのは、やはり在留特別許可の審査の基準というものはどうも恣意的で、不透明なのじゃないかという指摘をよく受けるわけです。確かに、法務省さんが御説明をされるのは、個々のケースを慎重に審査するということを、私も常に聞いておるわけですけれども、やはり一定の、例えば滞在年数であるとか、子供の年齢、資産等々でのそうした基準というようなもの、また内規みたいなものが存在するのかどうなのか、そして今後そういうことを考えるおつもりなのかどうなのかだけをちょっとお伺いしたいと思います。

中尾政府参考人 お答えいたします。

 委員御指摘の在留特別許可の許否につきましては、入管法五十条の規定に基づきまして、個々の事案ごとに、在留を希望する理由とか、家族状況、生活状況あるいは素行、内外の諸情勢、その他諸般の事情を総合的に考慮いたしまして、個別的に決定しているところでございます。特に在留特別許可の基準というものはございません。

 また、これらの事情につきましては、委員御案内のとおり、個々の事案によって異なりますので、一般的な基準を設けることは困難であると考えておる次第でございます。

植田委員 恐らく、仮に基準を設けてしまうと、逆にこういう外国人の方々で困る方々も出てくるだろうということも推察するわけですが、少なくとも透明性の確保ということについては御努力いただきたいというふうには思っております。

 そしてもう一点、こうした在留特別許可をしないという判断の際に裁決書を作成するというふうに出入国管理及び難民認定法施行規則四十三条によって定めておるということなんですが、どうも訴訟の中ではこういう裁決書を作成してへんということも明らかになっているようです。これは違法にはならないのでしょうか。裁決書というものをつくらなくてもいいというふうになるとするならば、それはどういう事情、どういう理由によるものなんでしょうか。

中尾政府参考人 お答えいたします。

 裁決書につきましては、委員御指摘のとおり、入管法施行規則四十三条で、法務大臣の裁決につきましては同規則所定の裁決書をもって行うものと規定されておるところでございますが、この規則の定めますところの裁決書は、外国人が退去強制事由に該当するか否かについて認定するための様式ということになっております。しかしながら、実際のところ、退去強制事由に該当するか否かを争う事例は非常に少ない状況でございます。裁決は、結局のところ在留特別許可の可否を決するものとなっておるのが実情でございます。

 このような実情にかんがみまして、当局におきましては、従来から同規則所定の様式とは別の様式で裁決を行っているところでございます。本来ならば、同規則所定の様式を改正すべきところでございますが、省令を改正して、今後早急に規則の所定の様式を改正して本来の姿に戻したい、そういうふうに考えておるところでございます。

植田委員 実情に合わせて対応しておられるということですね。

 その実情に合わせてということでいけば、私は次にお伺いしたいのが、違反容疑がありとした場合は収容令書を発付して身柄を収容するといういわゆる全件収容主義、これ自体が既にもう実情に合ってきてへんのと違うやろかというふうに思うわけです。実際に日本人と婚姻する非正規の滞在外国人もふえているし、また実際に特別許可を求めて出頭した上で、いろいろな形で、仮放免を認められるなりなんなりということもあるわけでございます。

 そういう意味で、既にもう全件収容主義というものは崩れているのじゃないか。今後は、逃亡のおそれがないということがはっきりしておれば、収容すべきではなくて、仮放免を認めるべきではないかというふうに思いますし、それともう一点、例えば刑事訴訟法では、保釈制度のように権利としてそういう制度があるわけですが、仮放免についても、これは権利としてそういう申請ができるような、そういう方向にそろそろ持っていってもいいのじゃないかと思うんですが、この二点についてはいかがでしょうか。

中尾政府参考人 ただいま委員の方から貴重な御意見をお伺いしたところでございますけれども、退去強制手続におきます収容の目的というものにつきましては、容疑者の出頭を確保いたしまして、容疑事実に係る審査を円滑に行い、かつ最終的には退去強制処分が確定したときにその者の送還を確実に実施することということが目的とされておりますし、本邦内における在留活動もあわせて禁止することにあるために、全件収容いたしまして退去強制手続をとることになっております。

 もっとも、個々の事情を考慮いたしまして、委員御案内のとおり、年齢、健康状態、あるいはその他人道上の配慮等を必要とする場合には、仮放免を弾力的に運用しているところでございます。したがいまして、今のところ、現行の制度を見直す必要はないと考えております。

 また、先ほど委員の方から刑事訴訟法におきます保釈制度と同様に、権利として仮放免というものの権利を認められるべきではないかという御質問がございましたけれども、退去強制手続は入管法により身柄を収容したまま行うものとされておりまして、仮放免を規定しております入管法五十四条は、あくまでも特別な事情がある場合の例外処置として位置づけられておるところでございます。

 また、退去強制手続における仮放免と刑事訴訟法に定める保釈とはおのずからその趣旨が異なるものでございますので、そういったところを勘案いたしますと、同様に対応することは適当ではないと考えているところでございます。

植田委員 いずれにしても、現在の仮放免というのは収容所の所長さん等が判断するわけですけれども、確かに、今の入管行政を見ますと、不透明、恣意的だ、いろいろな情報が公開されない、そうした裁量の範囲が大き過ぎるのじゃないか等々の指摘があるわけでございます。そういう意味で、むしろこうした実情に即した、罪を憎んで人を憎まずとも申しますが、そうした実情に合わせたところで、立法技術的なところはいろいろあるかと思いますけれども、やはり御検討を前向きに考えていく必要があるのじゃないか。これから外国人の方は入ってくる方が多くなるのはほぼ確実でしょうから、そういうことも考えてほしいなと思っておるのです。

 もう一点、「外国人の出入国、難民の認定又は帰化に関する処分及び行政指導」が行政手続法の三条で適用除外となっているのですが、なぜこういうことが除外となったのか、当時、どんな議論があってこれを適用除外にしたのかをお伺いしたいのです。

 といいますのは、行政手続法では、五条で審査基準の策定公開をやっていますし、六条では標準処理期間の設定、また七条では申請に対する速やかな審査、八条では不利益処分時の理由提示等々あるわけで、これは同法が適用されればかなりの改善が見込まれると思うんですね。私は削除した方がいいと思うんですが、これを適用除外とした理由というものは、当時、どういう理由でこれは除外したのかという点について御教示いただけますでしょうか。

中尾政府参考人 お答えいたします。

 委員御質問の行政手続法につきましては法務省所管の法律ではございませんので、本来ならば当局の方で御説明する立場ではございませんが、総務省行政管理局編さんの「逐条解説行政手続法」を見ますと、外国人の出入国に関する処分及び行政指導が適用除外される事由について、以下のとおりの記述がございます。外国人の出入国に関する処分及び行政指導は、基本的に国家の主権にかかわる事項であるとされ、このような分野については、一般国民に対する通常の処分等を対象とする本法を適用することは本法の意図するところではないためというふうにされているところでございます。

植田委員 それは承知しておりますけれども、それでは少なくとも現段階においては日本人と区別を設ける合理的理由ではないということだけ申し述べたいと思います。

 もう一点、入国管理局関係職員への人権教育の充実にかかわってなんですが、調査票を見ますといろいろとやっておられるんですけれども、この間、人権教育のための国連十年国内行動計画策定後、研修に外国人の人権に係る講義を設けた結果、人権関係諸条約等に職員が一段と精通することになり、これまで以上に外国人の人権を尊重した公正かつ適正な入管行政が遂行されることとなったとこの調査票ではあるんですが、具体的に、じゃこの外国人の人権に関する講義というのはどんな内容でなされたのか、そして、その結果、一段と職員が人権関係諸条約等に精通されたというのは一体どういう理由、どんな根拠なんですか。

 また、同じように、公正さがどういうふうに確保されて適正な行政が行われるようになったのかという点、そしてまた、今後の課題として、さらなる研修内容の充実を図るというふうに述べておられるんですけれども、何を充実せんといかぬのか、課題は何なのか、その点もお話しいただけますでしょうか。

中尾政府参考人 お答えいたします。

 私どもの行政について御理解いただき、非常にありがたいところでございます。

 特に、私どもの方といたしましては、外国人の人権に配慮した入管行政を遂行するため、各種職員研修の場を通じまして人権関係諸条約等に関して研修を実施いたしまして、人権に対する意識の一層の向上を図っているところでございます。

 先ほど委員御指摘いただきました中堅職員を対象とした入国管理局関係職員中等科研修においては、外国人の人権という講座の中で、国際人権規約、児童の権利条約、人種差別撤廃条約等の人権関係諸条約について講義を行っているところでありますし、憲法の講座の中でも外国人に対する人権保障に対する講座を行っております。また、外部の大学の先生をお招きいたしまして、入国管理局関係職員高等科研修におきましては外国人の人権について講義をしていただいているところでございます。

 委員の方で、職員が一段と人権の関係について精通され、外国人の人権に配慮した公正な入管行政が行われるようになっているというふうな御指摘をいただきましたけれども、それをどういうふうにはかるかということになりますと、やはり、私どもの日々行っております入管行政の各職員のそれぞれの日々の実情をごらんいただいて、その成果が上がっているかどうかをはかっていただくしかないというふうに考えておるところでございます。

 また、人権教育に係るそういう研修等で、今後の課題とかそういったところでどのようなことをやっておられるかという御質問がございましたが、この点につきましては、私どもといたしましても日々いろいろ工夫、研究を重ねているところでございますが、やはり、人権教育でございますから、研修教材の充実やOA機器等を取り入れた、一層の工夫を凝らした方法を今後ともやっていくべきではないか、そういうふうに考えているところでございます。

植田委員 私も何度か入管の施設、大阪等に行ったことがあるんですけれども、まめに私どもも行って実際見てきて、また質問させていただく機会があればさせていただきたいと思います。一段と精通された適正、公正さについては、また私どもも行って見てきたいと思います。

 時間がありませんので、次に、司法制度改革にかかわる敗訴者負担の導入に係る点について簡単にお伺いします。

 私自身、法曹界にいる人間ではございませんでしたから、そういう意味では素人でございますが、一方で法曹人口をふやそうという話があって、一方で乱訴防止やからといって、言ってみれば裁判官と弁護士の数はふやすのに裁判は減らすんですかと、単純にそういうふうに素朴に理解してしまうわけです。けったいな話やなと思うわけです。

 ここで特に、敗訴者負担導入のいわゆる推進論、幾つかあるかと思いますが、例えば、これまで訴訟に踏み切れなかった人々が訴訟を提起できるであるとか、また乱訴を防止しなきゃならないということですけれども、そういう乱訴という実態がどういうふうになっているのか。もちろん、これについて、乱訴はありますなんということを最高裁はお答えできることはないでしょうけれども、巷間どういうふうにそういう話を聞き、どういうふうに受けとめておられるかということぐらいは最高裁の方もお答えが可能だと思いますので、その二点、ちょっとお伺いできますでしょうか。

千葉最高裁判所長官代理者 弁護士費用の敗訴者負担の問題でございますけれども、弁護士費用を訴訟費用として敗訴者に負担させるという制度の導入が問題になっているわけでございます。

 現在そういう制度はございませんので、現在問題になりますのは、不法行為が行われて、その不法行為の被害者が自己の権利の擁護のために訴えを提起することを余儀なくされて訴訟追行を弁護士に委任した場合に、その弁護士費用、これについて、因果関係があり、相当と認められる範囲内の損害賠償の請求ができる、こういう判例理論でこの敗訴者負担の点が問題になっているわけでございます。

 こういう判例は、これまでも個々の事案ごとにそういう判断が積み重ねられてきているのがございます。件数については承知しておりませんけれども、そういう判例があるということは事実でございます。

 乱訴の問題でございますけれども、この乱訴という意味が一義的には明らかになっていないわけでございますが、判例等によりますと、例えば、原告の主張する権利または法律関係が事実的、法律的な基礎を欠いている、かつ原告がそのことを知りながらあえて訴訟を提起した、こういうような場合とか、あるいは、同じように根拠を欠くにもかかわらず、原告が不法、不当な目的に基づいて訴えを提起する場合、あるいは、一つの紛争について裁判所の公権的な判断が既に示されているにもかかわらず繰り返し不当な目的で訴訟を提起する、そういう訴訟の蒸し返しをするという場合、こういうように、客観的に見て正当な権利行使と言えない訴訟、これを乱訴というふうに言っているようでございます。

 そういう定義を前提にいたしますと、裁判所の中で実務を担当する裁判官からの話によれば、こういう訴訟というのは皆例外なく経験をしているというところでございます。ただ、これも件数についての統計的なデータはございませんけれども、多いとまでは言えないけれども極めて少ないとまでは言えない、そのぐらいの数がある、こういう実態だというふうに承知しております。

植田委員 現状の訴訟費用支払いにおけるいわゆる括弧つきの敗訴者負担についてはまだ質問していなかったんですけれども、先走ってお答えいただきました。

 こうした問題、私は今回取り上げませんでしたが、ハンセン病の問題にしても、昨日ちょっと私懇談会に参加してきたんですが、じん肺訴訟、例えばじん肺だって、一度かかったらもう後は進行するだけで特効薬もないわけです。そうした方々が、置かれているしんどい条件の中で訴訟を提起されている。これは行政訴訟であり、また政策提言型訴訟と言ってもいいかと思いますけれども、敗訴者負担ということになれば、少なくとも訴訟提起できるときに勝てるか勝てへんかわからぬわけです。例えば、かつて豊田商事の事件があったときも、一審ではこれはたしか負けておるはずなんですよ。周りから見て正しいなと思ったって実はなかなか勝てへん場合が多い。しかも裁判が長くなる。その長い間一貫して、訴訟を提起したさまざまな方々の人権というのは侵害され続けてきているわけです。

 そういう意味で、言ってみれば、司法制度改革の中でやらなきゃいかぬのは、そういう方々の裁判を受ける権利というものをだれもが保障されるということを具現化する観点からやらなきゃならないことであって、入り口で閉ざしてしまうというような敗訴者負担の導入については私は断固反対なわけです。

 確かに、議論の中で、外国でもやっているという話があります。実際に、調べてみたらイギリスやドイツでもそうした敗訴者負担があるんだけれども、こういうところでは、例えば、言ってみれば、裁判扶助制度であるとか訴訟保険というのが整備されているわけです。にもかかわらず、そうした国々においても敗訴者負担によってやはり裁判を起こしにくいという指摘もあるわけです。

 そういう意味で、制度の導入の必要性について法務大臣はどのように考えておられるのか。当然それは、今審議されていますということなんでしょうけれども、少なくともそうした訴訟保険などの整備を前提にして推進するというふうなお考えをお持ちなのかどうなのかも含めて、いかがでしょうか。

森山国務大臣 今るる御指摘のような問題点がありますが、弁護士費用の敗訴者負担制度というものを導入しようかということでいろいろ検討がなされております。

 しかし、御指摘のように、敗訴者負担制度が不当に訴えの提起を萎縮させるおそれがあるということも、多くの方が考えているところでございまして、一定の種類の訴訟については、例えば政策提言型とかあるいは消費者問題の訴訟とか、そのようなものについてはこの例外とするべきではないかというふうな意見ももちろんございます。この例外とすべき訴訟の範囲とかその取り扱いのあり方などについても、具体的に検討しなければいけないというふうに考えております。

 法務省といたしましては、司法制度改革審議会の審議の結果などを踏まえまして、検討してまいりたいと思っております。

植田委員 いずれ、六月十二日に答申が出るということでございますから、今おっしゃった例外ということもありましたけれども、そういう例外というのは本来あり得ないものだと私は思っておりますが、時間がありませんので、この点についてはまた別途いずれ議論させていただくことになろうかと思います。

 五分しか残っておりませんので、最後、人権救済制度のあり方について、これも二十五日に答申が出る話でございますので、鋭意検討がなされているものと存じますということになると思うんですが、私、もう三カ月前ですか、二月二十七日にも法務委員会の質疑で幾つかお伺いして、その範疇をちょっとでも超えればありがたいなと思いながら質問させていただきたいんですが、法務大臣にまずお伺いします。

 その二月二十七日の審議の中で、この審議会の審議にかかわって高村法務大臣は、審議会の方では国際的潮流を踏まえて審議をしていただいていると思っておりますというふうに理解されているわけです。当然そうした審議会の審議をそういうふうに認識されるとともに、今後の人権救済制度、国内人権機関をどういうふうにこしらえていくのかということについては、当然、現下の国際的な潮流をしっかり踏まえたものでなければならないというふうに思われるわけですが、これは答申が出る前の段階、今でもお答えできる範囲だと思いますので、お答えお願いできますでしょうか。

森山国務大臣 私も、基本的に高村大臣が御答弁申し上げた線でやっていきたいというふうに考えております。国際的潮流というのもいろいろございますでしょうが、例えば、いわゆるパリ原則、国連人権センター制作のハンドブックなどの国際的な取り組みに十分配慮した調査審議が我が審議会においても行われていると思いますので、その答申をいただきまして、最大限にこれを生かしていきたいと思います。

植田委員 このときの審議は二月の二十七日だったんですが、三月の二十日には国連の人種差別撤廃委員会で最終所見が出ましたですね。これもやはり当然国際的潮流として踏まえなければならないところへ入ってくると思うんですが、イエスかノーかだけで結構です。

森山国務大臣 それもその一つの重要な資料だと思います。

植田委員 とするなら、この最終所見の中でこういうことが書かれてあるんです。委員会は、締約国の法律においてこの条約に関連する唯一の規定が憲法第十四条であることを懸念する。この条約が自動執行性を有さないという事実を考慮し、委員会は、特に条約第四条及び第五条の規定に従い、人種差別を禁止する特別法の制定が必要であると信ずるというふうに書いてあるわけですが、これも当然、今のお話の経過からいくと、踏まえるべき国際的潮流の一つであるということは御認識されるんでしょうか。――法務大臣に伺っています。

保利委員長 人権擁護局長、まず答弁してください。後に法務大臣。

吉戒政府参考人 先生の御指摘の国連人権委員会の最終報告につきまして、それに対して日本政府としてどういうふうに考えるかということにつきまして、今報告書をまだまとめている最中でございます。御指摘の文言があることは承知しております。

植田委員 いや、そんなに難しいことを聞いてなかったんですよ。

 要するに、当然踏まえるべき国際潮流の中の一項目のことを指摘しただけでありまして、この最終所見も国際潮流として御認識されてあれするんであれば、こういう項目についても真剣にお考えになるんですねということを大臣に問うただけなんです。どうぞ最後に大臣、お願いします。

森山国務大臣 参考資料として重要なものだと思っております。

植田委員 もうあと時間がなくなりましたので、一分ぐらいあるかもしれませんが、終わります。

保利委員長 次回は、来る二十二日火曜日正午理事会、午後零時十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後二時三十五分散会




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