衆議院

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第18号 平成14年6月28日(金曜日)

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平成十四年六月二十八日(金曜日)
    午前九時三十三分開議
 出席委員
   委員長 園田 博之君
   理事 佐藤 剛男君 理事 塩崎 恭久君
   理事 棚橋 泰文君 理事 山本 有二君
   理事 加藤 公一君 理事 平岡 秀夫君
   理事 漆原 良夫君 理事 西村 眞悟君
      荒井 広幸君    太田 誠一君
      後藤田正純君    左藤  章君
      佐藤  勉君    笹川  堯君
      下村 博文君    鈴木 恒夫君
      西川 京子君    西田  司君
      平沢 勝栄君    保利 耕輔君
      松島みどり君    柳本 卓治君
     吉田六左エ門君    吉野 正芳君
      岡田 克也君    鎌田さゆり君
      佐々木秀典君    日野 市朗君
      水島 広子君    山花 郁夫君
      石井 啓一君    藤井 裕久君
      木島日出夫君    中林よし子君
      矢島 恒夫君    植田 至紀君
      原  陽子君    徳田 虎雄君
    …………………………………
   議員           加藤 公一君
   議員           平岡 秀夫君
   議員           水島 広子君
   法務大臣         森山 眞弓君
   厚生労働大臣       坂口  力君
   法務副大臣        横内 正明君
   法務大臣政務官      下村 博文君
   政府参考人
   (法務省刑事局長)    古田 佑紀君
   政府参考人
   (法務省矯正局長)    鶴田 六郎君
   政府参考人
   (法務省保護局長)    横田 尤孝君
   政府参考人
   (厚生労働省社会・援護局
   障害保健福祉部長)    高原 亮治君
   法務委員会専門員     横田 猛雄君
    ―――――――――――――
委員の異動
六月二十六日
 辞任         補欠選任
  鎌田さゆり君     山井 和則君
同日
 辞任         補欠選任
  山井 和則君     鎌田さゆり君
同月二十八日
 辞任         補欠選任
  左藤  章君     佐藤  勉君
  中川 昭一君    吉田六左エ門君
  木島日出夫君     矢島 恒夫君
  不破 哲三君     中林よし子君
  植田 至紀君     原  陽子君
同日
 辞任         補欠選任
  佐藤  勉君     左藤  章君
 吉田六左エ門君     西川 京子君
  中林よし子君     不破 哲三君
  矢島 恒夫君     木島日出夫君
  原  陽子君     植田 至紀君
同日
 辞任         補欠選任
  西川 京子君     中川 昭一君
    ―――――――――――――
六月十日
 治安維持法犠牲者国家賠償法の制定に関する請願(中津川博郷君紹介)(第四三二五号)
 同(大畠章宏君紹介)(第四四八〇号)
 裁判所の人的・物的充実に関する請願(鎌田さゆり君紹介)(第四三二六号)
 同(山内功君紹介)(第四四八二号)
 同(山花郁夫君紹介)(第四四八三号)
 民法改正による夫婦別姓も可能な制度導入に関する請願(渡海紀三朗君紹介)(第四四七九号)
 法務局、更生保護官署、入国管理官署及び少年院施設の増員に関する請願(山花郁夫君紹介)(第四四八一号)
同月十一日
 民法改正による夫婦別姓も可能な制度導入に関する請願(上川陽子君紹介)(第四六九六号)
 同(熊代昭彦君紹介)(第四八二五号)
 民法改正における選択的夫婦別氏制度の導入に関する請願(石毛えい子君紹介)(第四八二四号)
 治安維持法犠牲者国家賠償法の制定に関する請願(細川律夫君紹介)(第四九九八号)
 法務局、更生保護官署、入国管理官署及び少年院施設の増員に関する請願(日野市朗君紹介)(第四九九九号)
 同(藤井裕久君紹介)(第五〇〇〇号)
同月十二日
 夫婦別姓制度の導入を図る民法改正反対に関する請願(太田誠一君紹介)(第五一七一号)
 同(稲葉大和君紹介)(第五七〇九号)
 治安維持法犠牲者国家賠償法の制定に関する請願(筒井信隆君紹介)(第五三〇三号)
 同(古川元久君紹介)(第五三〇四号)
 法務局、更生保護官署、入国管理官署及び少年院施設の増員に関する請願(木島日出夫君紹介)(第五三〇五号)
 同(中林よし子君紹介)(第五三〇六号)
 裁判所の人的・物的充実に関する請願(平岡秀夫君紹介)(第五三〇七号)
 民法改正による夫婦別姓も可能な制度導入に関する請願(伊藤達也君紹介)(第五三〇八号)
 同(伊藤公介君紹介)(第五五〇二号)
 同(菅義偉君紹介)(第五五〇三号)
 民法改正における選択的夫婦別氏制度の導入に関する請願(松島みどり君紹介)(第五五〇一号)
同月十三日
 夫婦別姓制度の導入を図る民法改正反対に関する請願(金子一義君紹介)(第五九五五号)
 治安維持法犠牲者国家賠償法の制定に関する請願(保坂展人君紹介)(第五九五六号)
 同(石毛えい子君紹介)(第六一〇八号)
 同(枝野幸男君紹介)(第六一〇九号)
 同(佐々木憲昭君紹介)(第六一一〇号)
 民法改正による夫婦別姓も可能な制度導入に関する請願(野田聖子君紹介)(第五九五七号)
 同(石井郁子君紹介)(第六一一三号)
 法務局、更生保護官署、入国管理官署及び少年院施設の増員に関する請願(木島日出夫君紹介)(第六一一一号)
 裁判所の人的・物的充実に関する請願(木島日出夫君紹介)(第六一一二号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 政府参考人出頭要求に関する件
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案(内閣提出第七九号)
 裁判所法の一部を改正する法律案(平岡秀夫君外五名提出、衆法第一八号)
 検察庁法の一部を改正する法律案(平岡秀夫君外五名提出、衆法第一九号)
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案(水島広子君外五名提出、衆法第二〇号)


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     ――――◇―――――
園田委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、平岡秀夫君外五名提出、裁判所法の一部を改正する法律案及び検察庁法の一部を改正する法律案並びに水島広子君外五名提出、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案の各案を議題といたします。
 この際、お諮りいたします。
 各案審査のため、本日、政府参考人として法務省刑事局長古田佑紀君、矯正局長鶴田六郎君、保護局長横田尤孝君及び厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長高原亮治君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
園田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――
園田委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。水島広子君。
水島委員 民主党の水島広子でございます。
 まず初めに、政府案がつくられるきっかけとなったと言われている池田小学校事件とこの法案との関係について伺います。
 池田小学校事件は、本当に痛ましい事件でございました。貴重な幼い命が奪われただけでなく、いまだにいえない心の傷を抱える方々の痛み、そしてその心のケアをされている方々の努力は今も続いております。
 事件で傷ついたのは当事者の方たちだけではございませんでした。全国の各地で地域に溶け込もうと必死で努力されている精神障害者の方たちも、これだから精神障害者は危険だという声が高まる中、さらなる差別と偏見によって深く傷つけられました。その旗振り役となったのが小泉首相だったと私は思っております。
 事件発生から二週間もたたない昨年六月二十日の厚生労働委員会で、私は、小泉首相の事件直後の言動について批判をいたしました。
 事件の翌日、まだ容疑者の精神鑑定もされていない、事件の詳細もわからない段階で、小泉首相は、精神的に問題がある人が逮捕されても、また社会に戻ってああいうひどい事件を起こすことがかなり出てきていると述べ、刑法見直しを検討するよう山崎幹事長に指示されています。この言動についての見解を坂口大臣に伺いましたところ、「小泉総理がおっしゃったのは、それはいわゆる一般論として、重大な犯罪を犯す精神障害者の場合にはどうするかということをおっしゃったんだろうと思うのですが、時が時だけに非常に誤解を生むことになったかもしれません。」というふうに答弁されました。
 法案審議に入る前にここで改めて確認しておきたいのですが、小泉首相の指示というのはどういうものだったのでしょうか。そして、この法案はその指示に基づいてつくられたものと理解してよろしいのでしょうか。これは、法務大臣、厚生労働大臣のそれぞれにお伺いしたいと思います。
森山国務大臣 心神喪失等の状態で重大な他害行為が行われる事案につきましては、被害者に深刻な被害が生ずるだけではなくて、精神障害を有する人がその病状のために加害者となるという点でも極めて不幸なことでございます。
 そこで、精神障害に起因する事件の被害者を可能な限り減らして、また、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が精神障害に起因するこのような不幸な事態を繰り返さないようにするための対策が必要でございまして、御指摘の総理の御発言もそのような趣旨であったものと理解しております。
 この法律案は、このような総理の御発言や、いわゆる大阪・池田小学校児童等無差別殺傷事件をきっかけとする国民各層からの適切な施策が必要であるとの御意見を受けまして、さらには、昨年十一月に取りまとめられました与党プロジェクトチームによる調査検討の結果等も踏まえまして、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する適切な処遇を確保するために今国会に提出させていただいたものでございます。
坂口国務大臣 平成十一年でございましたけれども、精神保健福祉法の改正が行われまして、そのときの衆参の附帯決議に、「重大な犯罪を犯した精神障害者の処遇の在り方については、幅広い観点から検討を早急に進める」、こういう附帯決議がつけられていたわけでございます。そこで、法務省と厚生労働省におきましては、十三年の一月に合同検討会を設けまして、それから具体的な検討を続けてきたところでございます。
 また、池田小学校の児童殺傷事件を一つのきっかけといたしまして、精神医療界を含む国民各層から、このような施策の必要性についての意見が高まったことも事実でございまして、総理からも、重大な犯罪を犯した精神障害者が精神障害に起因する犯罪を繰り返さないようにするための対策を検討する必要がある旨の御指示があったと認識をしているところでございます。
 こうした中で、与党におきます検討結果が取りまとめられたことを踏まえまして、今回の法案の提出に至った次第でございます。
水島委員 今聞きたかったことをまだお答えいただいていないように思うんですけれども、小泉総理が、池田小学校事件についての見解を問われたときに、先ほど申しましたような、精神的に問題がある人が逮捕されても、また社会に戻ってああいうひどい事件を起こすことがかなり出てきていると述べ、刑法見直しを検討するよう山崎幹事長に指示したというふうにお答えになっているわけですけれども、この池田小学校の事件と小泉首相の指示との関係、その指示は具体的にどういうものだったのかということをもう一度お答えいただきたいと思います。
森山国務大臣 私といたしましては御説明したつもりでございましたが、御指摘の総理の御発言は、一般論として、精神障害に起因する事件の被害者を可能な限り減らして、また、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が精神障害に起因するこのような不幸な事件を繰り返さないようにするための対策が必要であるという御趣旨であるというふうに私は思ったわけでございますし、平成十三年の六月でしたか、ただいま厚生労働大臣も御説明なさいましたけれども、小泉総理の御発言は、池田小学校の事件が精神障害に起因して行われたものと断定して述べられたのではなくて、もちろんそれが一つのきっかけになったとは思いますけれども、かねてから、平成十一年に行われました附帯決議その他に基づきまして既に研究を始めておりましたものが、さらにこの事件をきっかけとして高まってまいりました国民の要望というものを受けまして、さらに努力を進めて、今日のような提案に至ったというふうに私も考えているところでございます。
水島委員 今の御答弁の中で、さらにこの事件をきっかけとして高まってきたというふうにおっしゃったわけでございますけれども、なぜこの事件をきっかけにしてそのような声が高まってきたとお考えになりますでしょうか。
森山国務大臣 精神的に問題のある方が事件を起こすということは時々今までもあったことは事実でございまして、そのたびにいろいろな人が議論をするという事態がもちろんあったわけでございますけれども、昨年の池田小学校の事件は、余りにも悲惨な、幼い子供たち、全く罪のない子供たちが大きな被害に遭うという事態でありまして、特にショッキングな事件であったというふうに思いますので、それが世間の注目を非常に集めまして、そして、ふだんならばこのようなことに余り強い関心を持たなかった方々も含めていろいろな人がこの問題について考え、発言するようになったということでございますと私は思います。
水島委員 ふだんこの問題に強い関心を持たない方たちも……(発言する者あり)
園田委員長 退室してください。退室してください。(発言する者あり)傍聴人の規則を破っていますよ。(発言する者あり)じゃ、とりあえずいい。
水島委員 じゃ、続けさせていただきます。
 今、日ごろこういう問題に強い関心を持たない方も注目をされたという趣旨の御答弁でございました。私もそうだと思います。だからこそ、正しい法律的な知識に基づかずに、感情的にこの問題が扱われたのではないかと思います。
 もう大臣も十分御承知のように、精神障害に起因する犯罪ということで考えますと、犯行時点における精神状態、犯行時点における責任能力ということのみが問われるわけでございまして、その人に精神科通院歴があるとか、精神科の診察券を持っているとか、あるいは精神疾患を持っているとか、そういったことがそのまま心神喪失ということにつながるわけではないということは大臣も十分御承知だと思いますけれども、日ごろ強い関心を持たない人たちが、事件そのものは非常に残虐なものでございましたし、私も小さな子供を持つ親という立場でもございますので、とても他人事とは思えませんでしたけれども、そのような事件が起こったときに、法律について十分な知識を持っていない人たちが、これは精神障害者による犯罪だと言われたときにどういう心理状態に陥るかということは、これは大臣であれば十分御理解いただけるのではないかと思います。
 ですから、そんな状況であのような事件が起こりまして、メディアも一斉に犯人は精神科通院歴ありというようなことを言い立てている、そして、世間的な風潮としては、これだから精神障害者は危険なんだというような声が高まってくる。これは精神障害者の人権に関しては一つの危機的な状況であると思いますから、そういうときの政府の責任というのは危機管理なのではないかと私は思います。
 そのようなときの危機管理のあり方としては、首相が言うべきだったことは、刑法の見直しの指示ではなくて、まだ鑑定も行われていない、今いたずらに精神障害に焦点を当てることは偏見を助長するだけだから避けなければならないと言って、正しい法的な知識を与えるということをしなければならなかったのではないか。一国の首相としてはそのような言動が期待されていたのではないかと思います。またあるいは、六月二十日の厚生労働委員会で、そのような小泉首相の言動に対して、時が時だけに非常に誤解を生むことになったかもしれない、そのような答弁を下さった坂口大臣みずからが、小泉首相を批判しつつ軌道修正すべきだったのではないかと思います。
 今私がお伺いいたしました点について、小泉首相はみずからの言動を反省し、全国の精神障害者の方たちにおわびと偏見解消に向けてのメッセージを出す必要があると思いますけれども、法務大臣、厚生労働大臣、それぞれいかがお考えになりますでしょうか。
森山国務大臣 おっしゃることもまことにごもっともな点がたくさんございまして、私は、小泉総理がどのように発言されたか一言一句ちょっとよくわかりませんけれども、このような問題がまた二度と起こらないように、精神障害を持つ方も、またそれに関連して被害を受ける人も二度とないようにしたいというお気持ちが表現されたというふうに思うわけでございます。
 それを受けとめました私ども法務省及び厚生労働省、そして特にこの問題に関して専門的な知識を持っている方々は、それをどのように具体化するか、法律の改正が必要であるかどうか、あるいは精神障害の方々の気持ちを考えればどのような処遇が必要であろうかというようなことについて慎重に検討いたしまして、その前から何年もかけて勉強しておりましたことでもございましたので、それを具体化してこのような法案として提案するというのが、その結論といいましょうか、その検討の結果、研究の結果出したものでございまして、これがそのお答えであるというふうに御理解いただければありがたいと思います。
坂口国務大臣 厚生労働委員会で私がお答えしましたのは、総理のおっしゃったことはこういう事件を繰り返さないためにどうしたらいいかという観点からお考えの一端を言われたものだろうということを言いたかったわけでございます。したがいまして、その具体的なやり方をどう進めていくかというところまで具体的な御指示はなかったというふうに思っております。
 池田事件のときに、この犯罪を犯しました人がいわゆる精神障害手帳をお持ちであったといったようなこと、あるいはまた過去に措置入院をされたといったような経緯があったこと、また過去の勤務の中でそうした問題があっておやめになったという経緯があったこと、これらがあったことも事実でございまして、そうしたことからマスコミ等におきましても取り上げられたものというふうに私は思っております。
 いずれにいたしましても、この問題だけではなくて、他にも問題を繰り返す人たちもいるわけでございますから、そうした人たちに対してより適切な医療、治療を行い、その人たちが立ち直っていただくためにどうするかといったことをきちんとやっていく場所がないということもまた問題であるというような立場から御発言になったものというふうに思っている次第でございます。
水島委員 どうもまだきちんとお答えいただけないようでございます。
 その九九年の法改正の附帯決議に基づいて法務省と厚生労働省で検討を進められてきたということを私は否定しているわけではございませんし、そのことはそのことで、一つの軸であるわけです。
 ただ、今ここで私が申し上げておりますのは、池田小学校事件直後の精神障害者バッシングとも言えるような、精神障害者の人権という観点から見たときの、あの危機的な状況における総理大臣の危機管理のあり方として、あのような言動は間違っていたのではないかという点をお伺いしているんですけれども、これについてはいかがでしょうか。
坂口国務大臣 精神障害者の皆さん方の問題もございますし、そして、お子さん方を守る、守らなければならないという一方において人権の問題もあるというふうに思っております。その双方を考えて、そして適切な措置がとれるようにということを総理は御発言になったのであって、それに対して我々は、今までから法務省と厚生労働省で進めてまいりました検討会等を早く急いで、そして対応しなければならないというふうに我々の方が理解をした、こういうことではないかというふうに思っております。
水島委員 今議場から過剰反応だというような声が飛んでおりましたけれども、確かに全国の各地で精神障害者に対する過剰反応が起こりました。精神障害者の作業所に石が投げ込まれたりとか、あるいは、ある町議会で精神障害者のために確保されようとしていた予算が急に雲行きが変わってしまったりとか、いろいろなところで過剰反応というものが起こったと思いますけれども、このような事実は厚生労働省としてはいろいろ情報は収集されていますでしょうか。
高原政府参考人 御指摘のとおり、例えば、精神障害者の方の作業所とそれから近隣の小学校と大変うまい関係でやっていた、しかしながら、この事件をきっかけにその小学校との交流が途絶えてしまった、そういう話は幾つか聞いております。私どもは、それについて残念なことだと考えております。
 そういった意味での誤解や偏見をなくすること、そういうふうなことを関係の部局の責任者、つまり都道府県、政令市等の責任者の集まりなどで、そういうふうなことがあったら教育担当部局とよく話をして、特に小学生、中学生とその地域の精神障害者の交流、そういった問題については進めていくようにというふうに申し上げておる、そういうことでございます。
水島委員 そのような情報をある程度つかんでいらっしゃるのであればなおさらでございますけれども、この池田小学校の事件というのは、発生直後には非常に社会的な話題となったわけですけれども、その後その話題性というのはかなり一過性のものがあって、最近ではまた、一年たちましたのでこのところまた少し話題にはなっておりますけれども、世間一般の方たちは池田小学校事件というのは精神障害者による犯罪だったんだということだけが頭にインプットされてしまって、その後その犯人が責任能力をきちんと問われて、そして起訴されていることですとか、そういったことまできちんと一般の方たちの頭に入っているかというと、私は極めて怪しいのではないかと思っております。
 今高原部長が答弁されたように、そのようにあの事件をきっかけとしていろいろと悲しい現実が起こっているということを厚生労働省としても御存じであるということであれば、池田小学校事件はこういったものであって、そして、今の法律というのはその犯行時点の責任能力が問われるのであって精神障害者一般云々という話ではないのだというようなことについてのメッセージを厚生労働省として今まで池田小学校以後に出されていますでしょうか。
高原政府参考人 本件は法廷においてさまざまな議論が行われておりますので、それが一たん結論を得た時点において広く国民の皆様方に理解を賜る、そういうふうに考えております。
 また、そういうこととは別に、精神障害者ないしは精神障害というふうなことにつきまして国民の方々が理解していただく、これは全く別な次元のものとしてきちんと進めていかなければならない。そして、そういうふうなことを国民の方々に御理解いただくためにも、ある種のきちんとした治療を行う、そういったスキームが必要ではないか、そういうふうに考えておる次第でございます。
水島委員 今までのところ何もメッセージを発しておられないという御答弁として伺いました。
 次に進ませていただきます。
 事件直後の世論の高まりというものもいろいろと問題の多いものではございましたけれども、私は、先ほどからもまた御答弁を伺っておりまして、政府はその解釈すらさらにゆがめているのではないかというふうに思っております。
 先日の本会議で森山大臣は、「この事件をきっかけといたしまして、心神喪失等の状態で重大な他害行為をした者の処遇について、精神医療界を含む国民各層から、適切な施策が必要であるとの意見が高まった」と答弁されております。先ほどもそのような御答弁をいただいていると思います。
 私は、ここに大きな誤解と論点のすりかえがあるのではないかと思うわけでございますけれども、池田小学校の事件の被疑者は、責任能力があるということで起訴されていますので、心神喪失等の状態で重大な他害行為をした者とは言いがたいわけでございます。また、事件直後、精神鑑定もされていないうちに、心神喪失等の状態で重大な他害行為をした者とは決められないわけでございます。
 ですから、事件をきっかけに高まったのは、心神喪失等の状態で重大な他害行為をした者の処遇について適当な施策が必要であるとの意見ではなく、重大な他害行為をした者が心神喪失等の状態であった疑いがある場合適当な施策が必要であるとの意見だったのではないでしょうか。わかりにくいかもしれませんけれども、これは大きな違いであると思います。
 大臣の御答弁から察するに、政府はこの問題のとらえ方を誤っているのではないかと思うんですけれども、どちらが正しいとお考えになりますでしょうか。
森山国務大臣 私は誤っていないと思います。先生がおっしゃいました二つのデフィニションのうちの後の方が非常に重要なのではないかというふうに私個人としては思っておりますが、しかし、今まで私が申し上げてきたことはその線に沿っているつもりでございます。
水島委員 多分私より森山大臣の方が御聡明な方だと思うんですけれども、前者の方が後者よりも狭いと思います。後者の方がより広いと思うんです。
 つまり、重大な犯罪があって、その人が心神喪失の状態だったかもしれない、違うかもしれない、そのようなときに、それを解決するためのどういう仕組みをつくるかというのは広い定義でございます。一方、大臣が今まで答弁の中でおっしゃっているのは、心神喪失等の状態で重大な犯罪を犯した者の処遇ということでございますので、その中の心神喪失等ということがわかっているケースだけを対象にしているわけですので、狭いということになるわけでございます。
 このどちらが問われているのかということをお伺いしたいのでございます。
森山国務大臣 私が今まで申し上げたことではっきりしておりませんでしょうか。自分でははっきり申し上げたつもりでございますけれども。
水島委員 何度も繰り返して恐縮ですけれども、今まで大臣が使われてきた表現は、心神喪失等の状態で重大な他害行為をした者の処遇について適当な施策が必要であるとの意見が高まったというようなおっしゃり方をしておりますので、狭い領域のみを対象にされているわけでございますけれども、私は、世間一般の方たちが問題にしているのはそうではなくて、私が申しました広い方のことを対象にして言っているのだと思います。精神障害者というだけでその犯行時点の責任能力がどうだったのかということもいいかげんになっているのではないか、とにかくそういったものが一緒くたにしていいかげんに扱われているのではないかというようなことも問題意識にかなり大きくあるのではないかと思いますけれども、いかがでしょうか。
森山国務大臣 先生のおっしゃる広い方というのは、確かに前提としてあるわけです。そういう状況が二度とないようにしたい、そして精神障害者の方がそのために非常に差別をされるとか偏見を持たれるということがないようにしたいということはもう当然でございまして、しかし、その中で法律的に措置をするべきものは何かということになりますと、かなり厳密に定義をして、きちっと決めてからしなければいけない面がたくさんございますので、私が法律の説明について申し上げた内容が狭い範囲のようにおとりになったかもしれませんが、それは広い問題の中の非常に重要な部分ではありますけれども、それだけであるということを申しているわけではございません。
水島委員 何か、聡明な大臣でございますので、何となく説明がつけられたような感じもいたしますけれども、その違いについてさらにおわかりいただけるように質問を進めてまいりたいと思います。
 今大臣がおっしゃった、その狭い対象に対してより厳格に定義をして施策を進めるというのが今回の政府案に当たるものであると理解しております。ただ、私が言いました広い範囲というのは、これは刑法の適正な運用ということにもなるのではないかと思いますけれども、重大な犯罪を犯した人がどういう事情で犯罪を犯したのかをきちんと見分けて、それぞれに対して適正な処置をしていくということ、その部分が問われているのではないかということを申し上げたいんです。
 その違いによって取りこぼされるのは、例えば鑑定の問題がございます。起訴前、起訴後の精神鑑定について、起訴前鑑定は簡易鑑定が多く、十分な鑑定が行われているのか、あるいは、診察する医師によって病名など鑑定結果がまちまちであるなどといった問題点がかねてから指摘されておりますけれども、政府案にはこのような問題を解決する仕組みが盛り込まれておりません。それは今のような問題のとらえ方を誤っているからなのではないかと思いますけれども、いかがでしょうか。
森山国務大臣 検察当局におきましては、精神障害の疑いのある被疑者による事件の処理に当たりまして、犯行に至る経緯、犯行態様や犯行後の状態等につきまして、刑事事件として処理するために必要な捜査を尽くし、事件の真相を解明した上で、犯罪の軽重や被疑者の責任能力に関する専門家の意見等の諸事情を総合的に勘案して、適切な処分を行うように努めているものと承知しております。その際には、事案の内容や被疑者の状況等に応じて、行われるべき精神鑑定の手段、方法についても適切に選択をしているものと承知しておりまして、現在の鑑定のあり方に重大な問題点があるとは思っておりません。
 しかしながら、事件の捜査処理における責任能力の判断の重要性にかんがみまして、さらに適切な鑑定がなされるよう、専門家の意見等を踏まえて、鑑定人に被疑者に関する正確かつ必要十分な資料が提供されるようさらに心がけるなど、鑑定の運用のあり方について必要な検討は行っていかなければならないと思っております。
 また、この法案におきましては、心神耗弱ないし心神喪失であった者のみを対象としておりまして、検察官は、その申し立てをするため、心神耗弱ないし心神喪失の状態であったことを厳格に判断する必要がありますので、当然、この点について厳密な認定をすることになると承知しております。
水島委員 つまり、鑑定に関して現在出されている批判というのは正しくないというふうに認識なさっているということでよろしいのでしょうか。
森山国務大臣 その点については、最善を尽くしておりますけれども、これで百点満点、全く問題がないというわけではないと思いますから、さらに改善するべく努力をしてまいりますということを申し上げたわけでございます。
水島委員 この鑑定のことについては、またこれからも伺ってまいりたいと思います。つまり、先ほど私が申しました二つの定義のうちどちらが正しいかということでございます。今大臣がおっしゃったように、鑑定について大した問題意識をお持ちでないということが、この問題のとらえ方を小さな部分だけに矮小化してしまっているということになるのかどうかということなんですけれども、もしも本当に、鑑定について全く問題がないあるいはもうできる限りの問題はないというふうに認識されているということであると、いわゆる世論というものに対してもやはり理解を誤っていらっしゃるのではないかと私は思いますけれども、そのように本日のところはこちらとしては受けとめさせていただいてよろしいでしょうか。
森山国務大臣 さっきも申しましたように、鑑定人に被疑者に関する正確かつ必要十分な資料が提供されるようにさらに心がける必要があるということは考えておりまして、つまり、鑑定の運用のあり方について必要な検討は今後も続けてまいらなければいけないというふうに思っております。
水島委員 今回の政府案の中で、検察官が裁判所に対して申し立てを行った場合に、そこでまた精神鑑定を受けまして、そして、そこで検察官が心神喪失者と認めた者に対して、裁判所が、対象者が完全責任能力を有すると認めた場合には申し立てを却下したり、あるいは、心神耗弱者と認めた場合にはこれを検察官に通知してその再考を求めることとする、そのような仕組みが盛り込まれていると理解しておりますけれども、今私が申しました理解は正しいでしょうか。
古田政府参考人 そのような仕組みになっております。これは、検察官の認定には法的拘束力はないことにかんがみまして、責任能力について、この対象者、申し立てを受けた人からのいろいろな言い分とかそういうこともございますでしょうから、裁判所として、対象者として認めてよいかどうかを確認するという手続を必要に応じてとるようにしているということでございます。
水島委員 そうしますと、やはり検察官の段階での簡易鑑定が不十分であるからそのような追加の鑑定のような仕組みがつくられるということになるんでしょうか。
古田政府参考人 そのような趣旨ではなくて、いわゆる簡易診断で責任能力の判断が十分つくケースも非常に多いわけです。ただ、先ほども申し上げましたように、対象者の側からして、自分は責任能力があったんだという主張をされる方も、それは出てくる可能性はあるわけでございます。そういうときには、裁判所の方で、対象者と認めてよいかどうかということをさらに確認するという手続を設けているということでございます。ですから、常に裁判所の方で改めて責任能力についての鑑定をするということではございません。
水島委員 そうしますと、現行ではそのような検察官が裁判所に申し立てて対象者であるかどうかを判断するという仕組みがございませんので、検察官の段階で簡易鑑定をして責任能力がないとされた者がそれに対して異議があった場合でも、それを修正できるような仕組みは現行ではないというふうに理解してよろしいんでしょうか。
古田政府参考人 これは、いろいろなケースがあるわけでございますが、被疑者の立場からいたしますと、刑事裁判を受けるといいますか、みずからが被告人になるということを求める、そういうようなことは法律上はあり得ないことでございますので、そういう意味では、被疑者の側からはそういうようなことはない。ただ、例えば、被害者の方でありますとかそういう方から検察審査会に対して、検察官のした不起訴処分に対しての審査を求めるということはございますので、そういう場合に、検察官の責任能力の判断が適切であったかどうかということがチェックされるということは現行法制上もございます。
水島委員 この問題についてはまた後でもっと詳しく質問してもらえればと思うんですけれども、ここでちょっと最後に一つだけ確認しておきたいのは、つまり、現行では、今刑事局長がおっしゃったように、わざわざみずからが刑に身をゆだねることは不利益になるので、被疑者がそれを申し立てるということはあり得ないという趣旨の御発言でございましたが、今度の新法の中ではそのような仕組みを認めているということは、どういうことを意味するんでしょうか。
古田政府参考人 先ほども申し上げましたとおり、この対象者というのは、心神喪失あるいは心神耗弱ということが大前提でございます。ただ、それについての検察官の判断と申しますのは法的拘束力がない。そこで、裁判所としては、自分が審判の対象としていいものかどうかという確認をしなければならないわけでございまして、そういう裁判所が審判の対象としてよろしいかどうかという確認をする手続の一つということになるわけです。
 その場合に、通常、例えば責任無能力であるということについて対象者側も全く異存がないとか、そういうケースも多いと思いますが、そういうときに裁判所としては、意見を聞いて問題がないと考えれば、それで確認としては十分である。ただ、本人の言い分としては、自分が責任無能力、この制度の対象とされるということについては異存があるというふうな場合もあり得ることは想定されるわけでして、そういう場合には、今申し上げたような、対象者として認めていいかどうかという確認の意味で裁判所でそういう点についてのチェックをする、そういうことを申し上げているわけでございます。
水島委員 つまり、もう一言確認させていただくと、今度は、新しい制度、法的拘束力のある制度ができるので、そこの対象者となるに当たっては、本人の言い分も聞いて厳正に判断しなければいけないけれども、現行では、とにかく検察官の手を離れた後には何も制度がないので、そこに法的拘束力のあるものは何もないので、そこでチェックを行う必要はないというような理解でよろしいのでしょうか。
古田政府参考人 結論的にはそういうことになろうかと思いますが、要するに、裁判所が自分が審判ができる対象かどうかということは、これは裁判所にとって確かめなければいけない場面がある、そういうことがポイントでございまして、その理由としては、もちろんこれが法的な、本人に対して自由の制約あるいは干渉を伴う処分を言い渡すものであるということから出てくるということにもなろうかということでございます。
水島委員 今回、私たちは現行制度の改善という観点から法案を提出しておりますけれども、政府が、現行制度の改善ではなく、新法の立法という形であえて新たな処遇制度をつくられた理由をまず教えていただきたいと思います。
 これは法務大臣と厚生労働大臣、それぞれにお願いいたします。
森山国務大臣 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、国の責任において必要な医療を確保し、不幸な事態を繰り返さないようにして、その社会復帰を図るということが重要でございます。そして、そのためには、精神保健福祉法による措置入院制度とは異なり、裁判官と医師が共同して入院の要否、退院の可否等を判断する仕組みや、国が統一的に、入院による医療とともに退院後の継続的な医療を確保するための仕組みなどを整備することが必要でございます。
 そこで、この法律案によりまして、このような仕組みを備えた新たな処遇制度を創設するということにしたものでございまして、そのような関係で、新しい法律ということでお願いしているわけでございます。
坂口国務大臣 今回の法律をごらんいただきますとおわかりをいただけますとおりでございますが、一つは、広く精神障害者一般をその対象とするものではなく、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者のみを対象とする。また、人身の自由の制約や干渉を伴うことから、医師と裁判官により構成される裁判所の合議体が決定する仕組みを整備したということが二番目でございます。国が責任を持って専門的な医療を行う、これは三番目でございます。退院後の医療の中断が起きないように、継続的な医療を確保するための、保護観察所によりますところの観察、指導の制度を整備するということが四番目。
 こうした特徴を持たせた法律になっておりますが、こういうふうにしますためには、やはり現在の法体系ではできないということでございまして、新しい法体系を考えた次第でございます。
水島委員 坂口大臣に重ねてお伺いしたいと思うんですけれども、今回のこの制度と措置入院制度の違いは何なんでしょうか。
坂口国務大臣 措置入院制度と今回の違いといいますのは、今回の場合には、いわゆる医師だけの決断と判断というものではないというところが一つの大きな違いだというふうに思います。
 そして、かなり範囲も狭められてきていると申しますか、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者のみを対象とするということでありますから、その対象もかなり限定されてきている。そうした違いがあるというふうに思います。
水島委員 伺いたいことは、制度の違いというのは見ればわかることでございますけれども、なぜ、措置入院制度の運用の改善では今回政府が目的としているようなことができないとお考えになったのでしょうか。
坂口国務大臣 もう少しお話しいただけませんか。
水島委員 私たちが提出しております対案をお読みいただいていればと思うんですが、今既に、ある程度自由の制約を伴う入院形態、それも強制的な入院形態で、国が責任を持っていると理解できる措置入院制度というものがあるわけでございますけれども、その制度をうまく使っていくことではなく、なぜこのような新しい仕組みをつくらなければならないのかということをお伺いしたいわけでございます。
坂口国務大臣 ですから、そこを説明しようと思いますと、この法の仕組みの話をしなければならなくなるわけでありまして、先ほどから申し上げておりますような特徴のあるもの、これをやはりつくっていこうということになってくるわけでございます。
水島委員 恐らく反対側から聞いた方がいいのかもしれないですけれども、では、今回政府が目的としようとしていることを達成するには、措置入院制度には何が不足しているとお考えなんでしょうか。
高原政府参考人 措置入院制度では、広い意味での自傷他害のおそれということで判断をしております。新制度におきましては、もう少し長期的な見通しのもとで制度を運用する、これが一番大きな特徴であろうかと考えております。
 また、単なる自傷については本制度の対象としていないというふうな点で違いがあろうかと考えております。
水島委員 今の御答弁、三点ありました。自傷他害のおそれと長期的な見通しと、三つ目が自傷が含まれていないと。一つ目と三つ目は同じようなことを言っているわけですけれども、つまり、自傷他害のおそれというのが広くあって、今回の対象となるものはその中に含まれるということなのか。
 長期的な見通しという言葉も出てきたわけですけれども、ちょっとここで改めて確認しておきたいんですが、措置入院の要件である自傷他害のおそれにおける他害のおそれと、政府案における再び重大な他害行為を行うおそれとの違いというのは何なんでしょうか。
高原政府参考人 相当程度重複していることは事実でございます。
 そのために、従来は措置入院制度で何とか運用してきた。しかしながら、司法精神医学というふうな領域が独立した分野として諸外国において発展してまいりまして、委員も常々御指摘のとおり、いわゆる国際的な医療水準というふうなことを日本でも取り入れなければならないというふうな観点からいたしますと、すべての精神保健福祉法の定める措置入院病院におきまして直ちにそういった高レベルの司法精神医学の実践というふうなことはなかなか難しゅうございます。
 したがいまして、ある中心的な中核施設を幾つかつくりまして、そこで人を養成しながら、手厚い体制、そして、外国の司法精神医学をそのまま適用できるのかどうかというふうなことの検証も含めまして、きちんとした日本なりのデータ、エビデンス、科学に基づく証拠、そういったものを積み上げてよりよい処遇に生かしていく、そういうふうなことはあろうかと思います。
水島委員 もう一度ちゃんとお答えいただきたいと思います。今、私が質問しましたことについての御答弁は、相当程度重複していると思われるということしか御答弁いただいておりません。
 措置入院制度における自傷他害のおそれの他害のおそれと、政府案の再び重大な他害行為を行うおそれとの違いは何なのか、端的にお答えいただきたいんです。
古田政府参考人 他害のおそれというのは、他人を害する行動に出るおそれでございますから、これは犯罪行為に当たるものが恐らく中心にはなりますでしょうけれども、それを含めてより広い概念であろうと考えているわけです。
 一方、この法案の場合には、そのような他人を害する行動に出るおそれの中から、特に人の生命、身体に重大な危険を及ぼすおそれのある行為、それは直接的に暴行でありますとかを加えるとか、そういうふうな身体に対して直接攻撃するようなケースもありますでしょうし、あるいは放火というようなケースもあり得るとは思いますが、精神保健福祉法で言う他害行動の中で、特に問題になる生命、身体に重大な影響を及ぼす、安全に重大な影響を及ぼすおそれのある行為を対象にするということになっているわけでございます。
水島委員 先ほど高原部長が、何か長期的な見通しなどとおっしゃっていましたけれども、厚生労働省としても、今の自傷他害のおそれの他害のおそれと、再び重大な他害行為を行うおそれとの違いの今の刑事局長の御答弁の内容で、そのままでよろしいでしょうか。
高原政府参考人 長期間というふうな言い方が誤解を招くようでありましたら訂正したいと思うわけでありますが、本法の法案におきます入院は、最低限六カ月ごとにレビューされるわけでございます。しかも、入院中はその主治医が観察しておるわけでございますので、その限度で必要な予測を行うということになろうかと思います。
水島委員 もう一度聞きますけれども、つまり、厚生労働省としても、法務省がおっしゃっている、その他害のおそれの定義の違いということは、先ほどの刑事局長の御答弁で必要十分なものであるとお考えになりますでしょうか。
高原政府参考人 必要十分だと考えております。
水島委員 そうしますと、また先ほどの質問に戻らせていただきますけれども、措置入院制度で足りないものは何なのかということなんですけれども、これをもう一度御答弁いただけますか。
高原政府参考人 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の処遇につきましては、これまで、委員御案内のとおり、措置入院などの形で一般の精神病院に入院するケースが多く見られたところであります。
 こうした者を措置入院制度のもとで処遇することにつきましては、一般の精神障害者と同様のスタッフ、施設のもとで処遇することとなるため、先ほど来申し上げておりますような専門的な治療がなかなか困難となっている、また他の患者にも悪影響を及ぼすこともあるということがございます。また、このような者について入退院の判断が事実上医師にゆだねられておりまして、医師に過剰な責任を負わせているのではないかという御指摘もございます。また、都道府県を越えた連携というふうなものはなかなか確保できない。特に退院後の通院医療を確実に継続させるための実効性のある仕組みについては、現在の措置入院の形ではなかなかできない、そういった問題があることを承知しております。
 また、措置入院制度全般につきまして、都道府県ごとの制度の運用方法や、精神保健指定医による措置入院の要否の判断に必ずしも一定の水準があるのかどうかという問題もございます。措置入院者を受け入れる指定病院の中にも人員、体制等が不十分な病院があるということも、残念ながら事実でございます。
 また、退院後のフォローアップ等につきまして、医療機関による受診指導、そういうふうなことは熱心に先生方行っていらっしゃいます。それからまた、御連絡がありますと、保健所の方から訪問指導、そういうふうなこともやっておりますが、必ずしも対応が十分じゃないというふうなことがある、そういうふうに承知しております。
 したがいまして新しい骨格というふうなものが必要になっている、そういうふうに考えております。
水島委員 ちょっと通院の方はまた後で伺うとして、今は入院というところに限っていかないと、時間がいたずらに費やされてしまうと思うんですけれども、今おっしゃったこと、例えば、今人手が少ないのでなかなか全体のレベルの底上げができないですとか、あるいは入退院の判断が医師のみに任されていて医師の責任が重いのではないかとか、あるいは都道府県をまたがった対応ができないとか、都道府県ごとのばらつきがあるとか、こういったことは、何も重大犯罪を犯した人に限ったことではなくて、措置入院制度全体としてこれから改善しなければいけない点なのではないんでしょうか。
高原政府参考人 御案内のとおり、その措置制度の問題自身の改善というふうなものは、私ども今後取り組んでまいりたいと考えております。しかしながら、取り組む順序といたしまして、やはりプライオリティーの高いものから取り組んでいくというふうなこともあろうかと思います。
 特に、重大な犯罪行為に該当する行為を心神喪失もしくは耗弱の状態で行った方につきましては、ほとんどの場合、きちんと医療をやれば有効なわけでございます。しかしながら、国際的な人員水準とか設備基準とか見ましても、やはり一挙に全国でこれをやるというふうなことはなかなか難しい点があるわけでございまして、本人もお気の毒、周囲の方も問題行動によっていろいろお困りになる、人身もしくは財産に重大な影響がある可能性がある、そういうふうな領域から改善を行っていく、これは措置入院制度の改善とは別にやはりきちんとやるべき課題だと考えております。
水島委員 まだよくわかりません。
 今の御説明でプライオリティーという言葉も出てまいりましたけれども、今度の政府案が成立した暁には、この指定入院医療機関において治療を受けたいというふうに重大犯罪を犯していない人が希望した場合には、そこでの治療は受けられるんでしょうか。
高原政府参考人 そのようなことは考えておりません。
水島委員 そうであれば、今御答弁の中で、措置入院全体としてももっと改善しなければいけないけれども、まずプライオリティーを考えてこのようなところから手をつけていくということであるんですけれども、その場合のプライオリティーというのは何なんでしょうか。
高原政府参考人 古田局長から御答弁申し上げたような、事案の重要性というふうな点も一つの考慮対象だと考えております。
水島委員 それを措置入院制度とは別につくっていくということの理由がまだどうしても理解できないんですけれども、なぜそれを別につくらなければいけないんでしょうか。
高原政府参考人 一つの重要なポイントは、医師のみの判断でいいのかということでございます。医師によってそれなりに、委員御案内のとおり、診断名一つとりましても一致率が必ずしも高いわけではない。それでそういうふうな問題、これは、もちろん、医学、医療、精神医療の問題として改善していく必要があるわけでございますが、そういうふうなことも反映いたしまして、都道府県ごとのばらつきもある。そういうふうな問題を解決するためには、やはり厚生労働省が基本的に治療指針ないしは公訴基準を示し、一定の判断基準によって入院を命ぜられた方を対象とした病院をつくる、そういうふうな制度が必要だと考えております。
 繰り返しますが、都道府県ごとに制度をつくるというふうなことは、処遇の公平性を改善する観点から、その枠組みのままでやるということは必ずしも適当ではないのではないかということも一つであり、それから、医師のみで判断していいのかという問題も一つであります。
 それから、医師の判断というふうなものはあくまでも医学的観点に立ったものでございますが、本人にはいろいろ言いたいこともあるだろう、そういうふうなことについて、それは問診という形では聞くわけでございますが、医師の方から一方的にやるというふうなことは徐々に改善していく必要があるのではないか。したがって、新しい制度におきましては、医師及び裁判官が、弁護人、弁護人という言い方をしておりませんが、弁護士の方などのサポートのもとにきちんと言いたいことが言えるような、そして、それが医学的な観点のみならず、社会的な観点も含めて、法的な観点も含めていろいろ議論がされる、そういうことが必要なのじゃないかと考えております。
水島委員 そうすると、厚生労働省としては、措置入院のレベルが都道府県ごとにばらついているのは仕方がないけれども、重大な犯罪を犯した人に対してはもっと処遇を公平にしなければいけないというふうに考えていらっしゃるのでしょうか。まずその点を伺って、後でもっと伺いたいんですけれども。
高原政府参考人 措置入院につきましても、可能な限り統一的な判断基準と診療基準、そういうふうなものが定着していくことが期待されておるわけでありますが、心神喪失、耗弱、そういった方につきましては、それだけ病状が重いというふうな認識もあるわけでございまして、まずこういった方からきちんとした、レベルの高い医療を受けていただいて社会復帰を促進する。そういうことによりまして、委員御指摘のように、精神障害者に対する差別、偏見といったようなものも、やはり治るんだということで解消していくのではないかというふうに考えておる次第でございます。
水島委員 措置入院制度についてもばらつきは解消していくべきだという趣旨の御答弁と受け取りましたが、そうであれば、やはり、新たな制度をつくるというよりは措置入院制度の改善をすべきではないかとまた思うんですけれども、どうしても新たな制度をつくる必要性ということになると、恐らく入退院の判断を医師のみがやるかやらないかというところに、先ほどからずっと御答弁を伺ってきますと、どうもそのあたりに限局されてくるのかなと思います。
 またここで、先ほどの措置入院の要件である自傷他害のおそれと、政府案における再び対象行為を行うおそれ、その違いなんですけれども、今、高原部長は、あくまでも措置入院においてはそれは医学的判断であるというふうにおっしゃいました。そうすると、政府案においてはどういう判断になるのか。おそれが認定されるそのおそれの違いというものをもう少しここで御説明いただかないと、先ほどの御説明とはまた違ってくるように思いますけれども、精神科医が判断するときには広く自傷他害のおそれだけが判断できて、そのうちどの犯罪行為をやるかということの限定になってくると裁判官がやるというふうな理解になるんでしょうか。
高原政府参考人 それは私どもの理解とは異なっております。
 私が医学的な観点からと言うのは、現行の措置入院制度におきましては医学的観点から医師のみが判断をしておるという点につきまして、医学的判断からと言っておるわけでありまして、担当しておる医師は、それなりに、家庭の状況であるとか、社会の状況であるとか、そういうふうなさまざまなことを考えて御判断にはなっておると思いますが、やはり、メディカルスキームといいますか、メディカルパラダイムといいますか、医療的な物の見方のみにとどまる。これはやはり対象者にとって必ずしもいいことではないのではないか。まして、自分の意見、自分の立場、自分の考えというふうなものを十分サポートしてくれる、そういうふうな人がついて話ができる、そういうふうな場が必要ではないのかということでございます。
 それから、自傷他害のおそれと本件におきますおそれの中身でありますが、本法案におきましては、「継続的な医療を行わなければ」ということで、医療が必要かつ有効であるという縛りをしております。さらに、「継続的な医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために」ということで、「心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害」というふうな形で限定をしておるわけでございます。それでその精神障害の症状のために再び対象行為を行うおそれの有無を判断する、こういう構造になっておるわけでございまして、それに比べまして、自傷他害というのは、もう少し広い、もう少しというかかなり広い概念である。他害という概念も、「心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為」と、この対象行為が他害行為の中に含まれることは事実でありますが、その中の一部であるということがまず違う。
 それから、「継続的な医療を行わなければ」というふうなことにつきましては、これは、暗黙の文章といいますか、措置入院につきましても条理としてはあるわけでございますが、本法案におきましては、継続的な医療の必要性というふうなものがあるということがその対象の条件になるわけでございまして、また、「心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害」ということでもまたさらに対象範囲を限定しておるわけでございます。それで医師の鑑定を基礎として裁判所が判断をする、そういうふうなフレームで構成をされております。
水島委員 ますますよくわからないんです。
 何点も伺いたいことがあるので時間があればと思うんですけれども、まず、措置入院の場合にも、どういうふうに規定されているかというと、入院させなければその精神障害のためにこれこれの行為を引き起こすおそれがあると認めた場合と、そこで自傷他害行為を広く書いているわけでございますけれども、限定されているかされていないかということでいけば、措置入院の場合であっても、そこに記載されている精神障害のために起こすということですから、限定されていると思います。ですから、これと今回の政府案との違いということにはならないと思います。
 また、医療が継続されていればというふうにおっしゃるわけですけれども、入院すれば毎日医療の連続ですので、入院させなければ自傷他害のおそれありということであれば、これはやはり継続した医療が行われなければ自傷他害のおそれありというふうに解釈できますので、同じことを言っているんじゃないのかなと思うんですけれども、まず、その点についての確認は、それで正しいでしょうか。
高原政府参考人 ある種のおそれを精神科医が予測する、その予測に基づいて、ある行為、行政行為でございますが、新制度におきましても精神保健福祉法においてもある行為がとられる、ここら辺は共通した枠組みでございます。
 それから、広い意味での自傷他害という精神保健福祉法におきます措置入院の案件の対象というふうなものも、広い意味では精神保健福祉法の方が広うございますが、それの中の一部を抽出しているというふうに考えていただければ、大きな、広い、精神保健福祉法で言うおそれの判断の中で、さらにフォーカスしたといいますか、限局したものについて、やはりおそれを判断して処遇を決める、そういうことだろうと思います。
 それから、いささか委員の御認識と、ちょっと混乱させるような発言でまことに恐縮でございますが、やはり入院の必要性とは別に、別にといいますか、一体のものといたしまして、退院した後にどのように医療が確保されるかというふうなことは極めて重大なポイントであると認識しております。
 病状が悪化する、病状が悪化することによって通院が途絶えがちになる、それから、コントロールすべきような薬もなかなか、アポイントメント時に行かないとか、切れるとか、行きにくくなるとか、また病状が悪化するとか、さまざまな悪循環の結果、憂慮すべき事態が起こっているということもまた事実でございますので、そういった者につきましても退院後の、ないしは入院の必要がない人に関しましても、医療の継続性を確保する。これは現在政府提案を行っております法案の特徴であろうと考えております。
水島委員 先ほども、時間がないので今は入院の話に限りたいというふうに申し上げたと思います。
 時間がいよいよなくなってきましたが、その通院の確保が必要であれば、措置入院制度の後の通院の確保をどうするかというところを新しい制度をつくればいいわけであって、今、なぜここで措置入院制度と違う入院制度をつくろうとしているのかということをお伺いしているわけでございますけれども、どうも先ほどからの御答弁、例えば対象としている行為についても、措置入院における自傷他害のおそれの方が広くて、その中に今回の再び対象行為を行うおそれというものが含まれるんだったら、何も新しいものをつくらなくても、その全体を改善していけばいいということになるので、なぜ新しい制度をつくらなければいけないのかということをどうしても伺いたいわけなんです。
 例えば、その判断を医師だけがするかしないかという話であるわけですが、これも先ほどから部長がおっしゃっているわけでございますけれども、最初におっしゃったときには、医師の判断だけに任されてしまうと医師の責任の重さということが指摘をされているということをおっしゃった。先ほどは、今度は、今は医師が一方的にそれを伝えるだけであって、それを伝えられる側にもいろいろと弁護人のもとに言いたいことが言えるような仕組みをつくらなければいけないというふうにおっしゃった。
 どちらも含まれるのかもしれないんですけれども、今回、この新しい政府案の中では医師だけが判断しなくていい仕組みがつくられるのかもしれませんけれども、一般の措置入院制度の中で、その措置入院の要否を判断する、あるいは退院を判断するときに、この新しい仕組み、例えば先ほどおっしゃったように、医師が判断していくためにもいろいろとサポートがあった方がいいとおっしゃったんですけれども、これは、今、普通に措置の判定をしている医師はみんなもっとサポートが欲しいと思っていると思うんですけれども、この新しい政府案におけるサポートというのは、措置入院制度における医師も受けることができるんでしょうか。
高原政府参考人 これは別個の体系でございますので、現在のところ考えておりません。さまざまなそういったサポートというふうなものも、一〇〇%、十全に均てんするというふうな状況ではございませんので、やはり重点的にということになろうかと思います。
 措置入院制度のもとで処遇することにつきましての問題点は幾つかあるわけでございますが、もう一度整理して御答弁申し上げますと、一般の精神障害者と同様のスタッフ、施設のもとで処遇することとなります。したがいまして、専門的な治療が困難になってまいります。また、他の患者にも悪影響が及ぶということにもなりかねないわけでございます。
 現在、御案内のとおり、どちらかというと重症者につきましては各病棟に分散して処遇を何とかやるというふうなことで、他の患者にも手薄な医療になりがちでございます。
 それから、医師の責任ないしは裁判制度を取り入れることの意味ということについては、別々に御説明申し上げたので、互いに矛盾するというふうにお考えかもしれませんが、これは両方の側面がございます。
 それから、都道府県を越えた連携、そういったものにつきましてはやはり国の制度として行うのが適当なのではないか、こういうふうに考えておるわけでございます。
水島委員 時間もなくなってまいりましたので、また次回以降ぜひ続けていきたいと思うのですけれども、今の御説明だと、どうも、重大な犯罪を犯せば手厚い医療を受ける権利が生じるけれども、重大な犯罪を犯さない限り手厚い医療は受けられない、その他大勢として扱われるというふうにもちょっと聞こえるので、非常に気になりますので、これは次回以降また伺っていきたいのですけれども、本日も通告してある質問の多分半分も行っていないと思いますが、それほど問題の多い法案、または確認しなければいけない点の多い法案なのかなと思います。
 最後に、一言だけ確認させていただきたいのですが、そうしますと、措置入院の要件のときの自傷他害のおそれの他害のおそれと、この政府案における再び対象行為を行うおそれのおそれ、それぞれの予測に関して、見通す時間的な範囲というのは同じというふうに考えてよろしいのでしょうか。
 私は、措置入院というのは、どちらかというと、今すぐ入院させないと何かするかもしれないという緊急避難的な入院制度というふうに理解しているのですけれども、今回の政府案も同じように考えるのか。あるいは、その先に通院確保制度をつけているということから、やはり見渡している範囲がより広くなるのか。その点について明確な御答弁をお願いします。
古田政府参考人 措置入院における判断のポイントがどういうところにあるか、これはいろいろ考え方があると思います。
 過去は、私の理解では、やはり治療の確保が可能かどうかとか、あるいは症状がどう変化するかとか、そういうことを考えて判断されていたのではないかと思いますが、徐々に、現在の症状自身から見てどうなっているのか、そういう判断に移ってきているのではないかと理解しております。
 したがいまして、この問題は、判断の資料として何を用いるかということでございまして、やはり精神の障害というのは症状にも波があるのも事実でございますし、治療が継続されなければまた症状が再燃して問題行動を起こす、そういうことも現実に懸念しなければならないわけでございます。
 ただいま御提案申し上げております制度につきましては、そういうような点を含めて、十分な資料に基づいて判断をするということでございまして、目の前の症状だけで決めるわけではない。そこの点は、今の措置入院の運用とはある意味では違うところがあるかもしれません。
 ただ、予測の期間というようなことは、これは特にないわけでございまして、ただいま申し上げたようないろいろな資料を前提として、このままの状態で置いておけば、治療を加えないで置いておけばいつ問題行動を起こすことになるかもしれないというおそれがあることが認められるということがポイントでございます。それは、一定の期間の予測ということではなくて、そういう状態が続くかどうか、この仕組みによって入院している間、そういう判断を常にしていく。その必要がなくなれば、そういう問題がないということになれば直ちに退院の申請をしなければならないという仕組みになっているわけでございます。
 そういう意味で、期間的に長期の予測とか短期の予測とか、そういうレベルの判断の問題ではないと考えております。
水島委員 今の御答弁の内容についてもぜひ次回以降に質問をさせていただきたいと思います。ぜひこれからも実のある審議が続けられますようにお願い申し上げまして、質問を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。
園田委員長 平岡秀夫君。
平岡委員 民主党の平岡秀夫でございます。
 今回は本当に重要な法案の審議ということでございます。しっかりと審議をしていきたいと思うんですけれども、実は、ちょっとほかに時間がとれないものですから、この時間を利用させていただいて、政治と金の問題という極めてまた重要な問題についても確認をさせていただきたいというふうに思っております。
 時間がありませんので、端的に申し上げます。
 横内法務副大臣がその資金管理団体として届け出をしている団体は何という団体でしょうか。
横内副大臣 地域未来研究会という団体でございます。
平岡委員 その地域未来研究会が、鈴木宗男衆議院議員の資金管理団体である二十一世紀政策研究会及び自民党北海道衆議院比例区第一支部あるいは北海道衆議院第十三支部から、一九九九年から二〇〇一年までに受けた寄附はそれぞれ幾らでしょうか。
横内副大臣 私の政治資金管理団体でございます地域未来研究会に、鈴木宗男議員の関係団体から受けた政治献金は幾らかという御質問でございます。
 まず、一九九八年には、鈴木宗男議員の資金管理団体でございます二十一世紀政策研究会から五十万円受けております。一九九九年には、二十一世紀政策研究会から百万円、それから、鈴木宗男議員が支部長をしております自民党北海道衆議院比例区第一支部から百万円を受けております。二〇〇〇年でございますが、二〇〇〇年には、自民党北海道比例区第一支部から百万円を受けております。二〇〇一年には、二十一世紀政策研究会から百万円、それから、これも鈴木議員が支部長をしております自民党北海道第十三選挙区支部から百万円を受けております。
平岡委員 横内法務副大臣が代表者となっている政党支部はどこでしょう。
横内副大臣 自由民主党山梨県第三選挙区支部でございます。
平岡委員 その政党支部が、同じく二十一世紀政策研究会、自民党北海道衆議院比例区第一支部または自民党北海道衆議院第十三支部から、一九九八年から二〇〇一年までに受けた寄附はそれぞれ幾らでしょう。
横内副大臣 自民党北海道衆議院比例区第一支部から、二〇〇〇年に二百万円受けております。それ以外の、二十一世紀政策研究会、それから自民党北海道第十三選挙区支部についてはございません。
平岡委員 以上、私の方でお聞きした寄附以外に、一九九八年から二〇〇一年までの間、横内法務副大臣またはその関係する団体が、鈴木宗男衆議院議員またはその関係する団体から金銭または何らかの財産を受けている事実はありますか。パーティー券等の購入も含めて、お答え願いたいと思います。
横内副大臣 ただいま御報告を申し上げました数字以外に、委員がおっしゃいますパーティー券等も含めまして、鈴木宗男議員の関係団体から資金の受け入れをしているということはございません。
平岡委員 ありがとうございました。
 それでは、法案の審議に入らせていただきます。
 この法案については、現在の精神医療についていろいろな課題があるということだろうと思います。民主党も今回、精神保健福祉法についての改正案も提出させていただきました。検察庁法、それから裁判所法の改正も出していますけれども、これは精神保健福祉との関係ではちょっと薄い関係でございますけれども、お互いに、現在の精神医療の分野においてさまざまな課題があるという認識は多分一緒だろうというふうには思っているんですけれども、我々は、今回の政府の提案というのが本当の精神医療の改善につながっていくのか、場合によっては、こういう仕組みをつくることが日本の精神医療をおくらせてしまうのではないか、そういう危惧も持っているわけでございます。
 そういう意味において、政府案については賛成できない、反対するという態度は明確にしているわけでありますけれども、他方、我々民主党が提案いたしました三法案、裁判所法、検察庁法の一部改正、そして精神保健福祉法の一部改正、これについて両大臣がどのように評価しておられるかということをまず最初にお伺いしたいと思います。
    〔委員長退席、山本(有)委員長代理着席〕
森山国務大臣 民主党案につきましては、政府案と異なりまして、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に焦点を当てたものではなくて、このような者の適切な処遇を確保すべきであるという国民の声にどのようにこたえるか、退院後の治療継続の確保を具体的にどのように実現するか等の問題があるのではないかと思われます。
 また、司法精神医学に関する研究機関を裁判所や検察庁に置くことにつきましても、司法精神医学の向上を図ること自体は重要でございますけれども、本来、そのような研究や専門家の養成は、それを行うにふさわしい専門性や中立性を備えた組織において行われるべきものであり、裁判所等において行うことが適当であるか疑問を感じるわけでございます。
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、継続的で適切な医療を確保し、不幸な事態を繰り返さないようにすることによりまして、その社会復帰を図ることが肝要であると考えております。また、精神医療界を含め国民各界各層からも、このような者の処遇に関する適切な施策が必要であるとの意見が述べられております。政府案は、このような者の適切な処遇を確保するとの観点から立案したものでありまして、どうぞ御理解を賜りたいというふうに思います。
坂口国務大臣 民主党案につきまして私も拝見をさせていただいておりますが、先ほどから議論をいたしておりましても、この民主党案では、犯罪行為を行っていながら心神喪失等を理由に無罪または不起訴になった者に対する処遇は必ずしもすべてカバーされていない。従来から問題として指摘されております、措置入院から漏れ落ちて社会にそのまま戻るようなケースは残ってしまうということが一つ。
 それから、処遇の実質的な決定者が、先ほどから議論をいたしておりますように、医師のみである点で措置入院とこれは変わっておりませんし、医師に過重な負担が負わされてきたという指摘に対しまして少しこたえることができないのではないか。大きい点はその二つではないかというふうに思っております。
平岡委員 かなり誤解があるんじゃないかなというふうに思いますけれども、今、坂口大臣の方から、犯罪行為を行っていながらこれらの者に対して云々というくだりがございましたけれども、それでは、ちょっと聞くんですけれども、この法律の目的は何なのかという点です。
 これは、実は法務大臣が本会議でもお答えになっておりますし、この委員会でも与党の人たちの質問に対してもお答えになっておりますけれども、ここでもう一度、この法律の目的は一体何なのか、これを明確に述べていただきたいと思います。
森山国務大臣 本会議及びこの委員会の冒頭でも申し上げましたけれども、この法律案は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し、その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより、継続的かつ適切な医療の実施を確保するとともに、そのために必要な観察及び指導を行うことによって、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、対象者の社会復帰を促進しようとするものでございます。
平岡委員 端的に答えていただきたいと思いますけれども、この法律の目的は、精神障害者の方々に対する医療なんですか、それとも刑事罰の代替なんですか、それとも社会の保安維持なんですか、一体どれなんでしょう。
森山国務大臣 今も申し上げましたように、病状の改善とそれに伴う同様の行為の再発の防止、そして対象者の社会復帰という、幾つかの目的を持っております。
平岡委員 ということは、この法律は、社会の治安維持といいますか、保安の維持ということも目的の中にあるということでよろしいですね。
森山国務大臣 主役は、そのような罪を犯すことになってしまった人々の改善更生、さらに社会復帰ということが一番重要な目的でございます。
平岡委員 一番重要な目的というんじゃなくて、私は、社会の保安維持、これもこの法律の目的ですねということを確認しているんです。
森山国務大臣 そのような現象によって大変心配あるいは不安を感じる国民一般についてももちろん考えなければなりません。このような人々が症状が改善して社会復帰をされるということによって国民の安心も確保できるという意味では、おっしゃるような目的も間接的にはあると思います。
平岡委員 それでは、この法律によって処遇される人たちというのは、これは入院に限って言いますけれども、指定入院医療機関に入院されたときに、どのような処遇を受けることになるんですか。
高原政府参考人 基本的には、アセスメントといいますか評価、一般の病気でいいますと診断ということでございます。
 それに基づきまして、さまざまな行動パターンとか心理状況とか、それから、もし家庭とかそういうふうなものが幾らかなりとも寄与しているのであれば、そういったものの改善を外側からやる、心理療法、精神療法、作業療法、そういったものがコアになりまして、さらには症状を抑えるための薬物等ももちろん併用されるわけであります。それから、社会復帰に向けて、社会環境、生活環境の調整、そういったものがなされるというふうに考えております。
平岡委員 当然、入院に入ればその間身体が拘束されるという状態に入るんだろうと思うんですけれども、この身体の拘束は何のために行われるんですか。
高原政府参考人 身体拘束ということの趣旨についてでございますが、いわゆる拘束、狭義にいいます、例えば老人の領域で拘束ゼロというふうな形の、抑制帯を使うとかいったようなことは、いわゆる司法精神医学の世界におきましては、遠いといいましても数十年昔のことでございまして、今そういうふうなことを行っている国はございませんし、私どももそういうことについては考えておりません。極めて興奮で抑えがたいときに制限的にあるということはあります。
 もしその拘束というものが、一定の入院、病室もしくは病棟にいるということを強制されるというふうな意味でありますと、それはそのとおりでございます。したがいまして、ある程度の自由の制限を伴うわけでございまして、医師のみではなくて、医師の診断をもととしながら、裁判所の判断によってこれを行うというふうな形をとっておるわけでございます。
 しかしながら、拘束というのが、一定の病棟もしくは一定の病室というふうなことで理解いたしますと、もちろん、症状が改善いたしまして、外出させた方が社会復帰効果がいいんだ、ないしは外泊させることも必要なんだというふうな判断がございますと、これはできるようなシステムになっているわけでございます。
 したがいまして、その拘束という言葉の意味によりまして、非常に狭義の、物理的な拘束というのはまれにしか行われないだろう、しかし、病室もしくは病棟の中から外に出ないというふうな意味での拘束はあり得る話ですし、それがある意味では入院の目的にもなるわけですので、広くこれは行われるだろう、しかしながら、医療上の必要に応じて外出、外泊というふうな制度も取り入れている、そういうことでございます。
平岡委員 拘束という言葉が適切でなかったかもしれませんけれども、今、病室とか病棟に強制的に入らなければいけないというのは、何のためにそうなるのですかということを聞いたんです。これはむしろ、厚生労働省に聞くんじゃなくて、法務省の方で答えてもらわなければいけない話だと思いますけれども、何のために入院をしなければいけないのか、何のために入院をするという形で身体を閉じ込めなければいけないのかという点です。
    〔山本(有)委員長代理退席、委員長着席〕
古田政府参考人 これは、まず、入院をさせて治療を行わなければならない、問題行動を起こすおそれがあるということがポイントでございますので、入院をさせるということには、当然二つの意味があるわけで、一つには、治療を確保する、そして、その治療の確保のためのそういう入院という措置をとらないと事故を起こすことを防止するのが困難である、この二つの面があろうかと思います。
 この問題につきましては、現在の措置入院における、入院させなければ、自傷のことは格別として、他人を害するおそれがあるということと同じ構造の問題と考えております。
平岡委員 先ほども水島委員の方から、措置入院と今回の新処遇制度の違いというところで、どういう点が違うのかというのがありましたけれども、端的に言って、どうも政府の人たちは、これはあくまでも精神障害者の人たちのための強制的な医療を提供する仕組みなんだというようなことを言っておって、本当にそう考えてこの法案を提出しているのか。私は、先ほど来から大臣にもお聞きしていますけれども、社会の保安維持とかいったようなことをこの法案の中で考えておるということは事実だろうと思うんですね。それをあえて、そういうことではなくて、医療が中心なんだ、医療が中心なんだというような言い方をしているところに、今回の政府の提出している法案のまやかしがあるんだろうというふうに思うんですね。この点については、民主党の案についてのいろいろな御批判があったのでちょっと入っていきましたけれども、ちょっと視点を変えまして、大臣にもお聞きしたいと思います。
 先ほど、池田小学校事件の問題が提起されまして、この池田小学校事件とそしてこの法案との関係はどういう関係かというお話がありました。
 先日、法務大臣が、白鴎大学の講演で、大臣に就任してから三つの大きな決断をしたというふうに言っておられます。ほかのものはともかくとして、その一つの中に、池田小学校児童殺傷事件の犯罪を未然に防げなかったのかというところから始まる法整備の問題を挙げられたというふうに報道をされているわけでありますけれども、そういう問題意識を持っておられるとして、今回のこの心神喪失者等医療観察法案というのは、その大臣の問題意識にちゃんとこたえている法案になっているというふうに思っておられますでしょうか。いかがでしょう。
森山国務大臣 昨年の十二月に白鴎大学におきまして講演を確かにいたしました。このときには、いわゆる大阪・池田小学校児童等無差別殺傷事件をきっかけにいたしまして、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する処遇について国民の関心や議論が高まったことを踏まえまして、法整備を検討しておりますということを申したものでございます。
 もっとも、法務省と厚生労働省におきましては、これより少し前から、このような者に対して適切な医療を確保するための方策やその処遇のあり方等について検討を行ってまいったわけでございまして、この事件をきっかけにして、精神医療界を含む国民各層から、適切な施策が必要であるとの御意見が高まりましたことや、与党プロジェクトチームでの調整や検討結果等も踏まえまして、このような法律案を提出したわけでございます。
 十二月の時点で私が申しましたのは、問題意識といいましょうか、何かしなければいけないのではないかという私自身の気持ちを話したわけでございますが、その後でこのような案としてまとまってまいったわけでございまして、この法律案によりまして、このような者の病状の改善とか、これに伴う同様の行為の再発の防止ということが図られて、その社会復帰が促進されるものというふうに考えるわけでございます。
平岡委員 私の質問の仕方をちょっと変えると、池田小学校事件を未然に防げなかったのかという問題意識を大臣が持っておられるということだったですね。今回の法案はこの池田小学校事件が未然に防げるような仕組みになっていますか。
森山国務大臣 この法律案は、心神喪失等の状態で殺人、放火等の重大な他害行為が行われた場合に、これを行った者に対して継続的に適切な医療を行い、また、医療を確保するために必要な観察と指導を行うということによりまして、その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、本人の社会復帰を促進するということを目的にしているわけでございまして、そのために必要な施策をいろいろとこの中に織り込んでおります。
 したがいまして、絶対に二度と起こらないということを、将来のことについて私がここで断言するということは難しいわけでございますが、今考え得るさまざまな方策をできるだけこの中に仕組みとして取り入れまして、最善を尽くしていきたいというふうに思うわけでございます。
平岡委員 いや、全く答えになっていない。私は、この法案で池田小学校事件のような犯罪を、ようなと言うと、いろいろ定義はあるかもしれませんけれども、池田小学校事件の犯罪を未然に防げた、防げるようになるというふうに大臣は判断しておられるかということを聞いているんです。
森山国務大臣 申し上げましたように、このような仕組みをきちんと法律上新しく設けるということによりまして事態が改善されるというふうに思います。
平岡委員 思うだけで、何の関連性もなくて、何の論理的な説明もなくて、思いますだけじゃ全く説明にならないというふうに思うんですけれども、そこは水かけ論になってしまっても時間のむだですから、ちょっと視点を変えて聞いてみたいと思います。
 今回の新制度の立法については、なぜ立法してきたのかということは先ほど来からいろいろと説明がございました。精神福祉法の平成十一年の改正、あるいは平成十三年からの法務省と厚生労働省との検討というようなことがございましたけれども、実は、私の手元に、これは平成十二年に法務省の刑事局が出したメモで、こういうふうに書いてあります。
 「精神障害者の犯罪は、最近、特に増加しているわけではない。 精神障害者を危険な存在(犯罪予備軍)と見ることは社会情勢から見て困難であると考えられる。むしろ、精神障害者は、その者が抱える精神障害に対し適切な医療措置を施されるべき存在であるととらえることが必要である。」そして、この注として、「法務省において、犯罪を犯した精神障害者とそれ以外の者との再犯率を比較検討しているが、精神障害を持たない者と比較して精神障害者の再犯率が高いとの調査結果は得られていない。」そして、「その中心的要素である「危険性の予測」について誰が、どのようにして行うのか、また、どの程度の確実性をもって可能なのか等これまで指摘されていた理論的・実際的に困難な課題がある。」ということを法務省としての見解として、刑事局の見解として示されているわけでありますけれども、こういう見解を持っておきながら、なぜ今回このような法案が提出されることになったのか、そのことを説明していただきたいというふうに思います。
古田政府参考人 今回法案を提出するに至ったのは、先ほど来御説明している経過でございますが、最大のポイントを申し上げますと、殺人でありますとか放火でありますとか、こういう重大な犯罪行為に該当する他害行為に至った方たち、こういう人たちのその後のその状態に応じた処遇をどういう手続で決めるのが最も適当なのか、こういう問題が一つあるわけでございまして、これを措置入院の改善ということで可能なものかどうか、それとも何らかの新しい仕組みをつくる必要があるのか、この辺が非常に重要な問題であったわけでございます。
 これについてさまざまな検討を加えた結果、そういう重大な犯罪行為に該当する行動に不幸にして至った、こういう場合には、その状況に応じた取り扱いといいますか処遇を決めるには、それにふさわしい、やはり裁判所が関与する手続ということが必要であろう、そういう結論に達したということでございます。それがポイントでございます。
平岡委員 今刑事局長に経緯をちょっと説明してもらいましたけれども、大臣、先ほど私が読み上げた法務省の刑事局の資料、これでは明確に、今回のような措置は適当ではない、むしろ精神医療の問題としてきちっとやっていくべきだ、そういう見解を法務省は持っておきながら、今回こういった法案を提出してきたことについて、大臣としてどうお考えになりますか。
森山国務大臣 先ほど先生がお読みくださいました文書、法務省の方で、ある一定の時点でそのような考えを持っていた。今も基本的には変わらない面も多いと思いますが、でありますからこそ、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案というものでございまして、その皆さん方の医療とか観察とかいうことに関する手続を決めたものでございますので、そのような問題意識を受けた上でつくられたものというふうに私は解釈しております。
平岡委員 今、精神障害者の方々の医療と観察、一応、重大な他害行為を行った人たちということの限定でしょうけれども、そういう医療と観察のための法案であるというふうに言いましたけれども、最初に申し上げたように、どうもそこにまやかしがある。そういうふうに言っておきながら、実は社会の保安を維持するためのものであるという先ほど来からの議論があるわけですよね。
 それで、せんだって、ここで同僚議員の方から、かつての保安処分と今回の新処遇制度というのはどこがどう違うのかというような質問がありまして、何か知らぬけど、法律に書いてあることをたらたらと述べて、全く子供の議論みたいなことが行われておりましたけれども、そもそも、保安処分というものの基本的な性格というものに照らして、今回の新処遇制度というものは保安処分に該当しないというふうに言えるんですか。いかがでしょう。
森山国務大臣 先生がおっしゃいました保安処分というのは、多分、昭和四十九年の改正刑法草案及び昭和五十六年の刑事局の案における保安処分ということをおっしゃっているのではないかと思いますが、刑事手続の一環といたしまして、刑事事件の審理を行った裁判所が刑事訴訟手続によって刑事処分としてその要否や内容を決定することとされておりまして、また改正刑法草案におきましては、処分を受けた者は法務省が所管する保安施設へ収容する、そういうことを想定したものでございました。
 これに対しまして、この法律案による新たな処遇制度におきましては、刑事事件を審理する裁判所とは別の、精神科医をもその構成員とする裁判所の合議体が、刑事手続とは別個の審判手続によりまして、法的判断と医療的判断をあわせて行うことによって処遇の要否や内容を決定するものでございまして、刑事処分とは異なるものでございます。また、処遇を受けることとなった者は、厚生労働大臣が所管する病院へ入院または通院するということにしております。
 さらに、制度の目的という点から申し上げましても、改正刑法草案等における保安処分は刑法に規定することとしていましたので、刑法という法律の性格からして、社会防衛ということが直接の目的とされていた部分もございますが、この制度による処遇は、対象者に対して継続的に適切な医療を行うということ等によりまして、その社会復帰を促進することを最終的な目的とするものでございますので、本法律案による新たな処遇制度と保安処分とは全く異なるものと思います。
平岡委員 かつての保安処分であろうが治療処分であろうが、適切な医療を提供するという考え方においては、別にそれを否定していたわけでもないわけでありますよ。保安処分というのは、学問的にはいろいろな説があるかもしれませんけれども、基本的な性格として言えば、まず犯罪行為の存在を前提条件として、そして裁判所による言い渡しというものを条件とし、そして危険性を除去するために自由を剥奪または制限する、そして先ほど言いましたように強制的な治療を行うというようなことが基本的な保安処分の性格であるわけです。
 その基本的な性格に照らして、先ほどちょっとこの新制度を説明されましたけれども、結局は、いろいろなところでちょこちょこっと何か言っておられましたけれども、精神科医が一緒になって判断するからこれは裁判所による判断ではないんだというような言い方もされていましたけれども、実際はこれは裁判所で言い渡すわけですね。裁判所で判断をし、そしてそれに不服があれば高等裁判所そして最高裁へも上告していくことができる、そういう仕組みをとっているわけですね。ということは、もう本質的にはこれは保安処分そのものでしかあり得ない。
 先ほど来から、直接的な目的として社会防衛を刑法のときは挙げていたけれども、ここは直接的でないから違うんだと。では、間接的な目的としてはあるというふうにさっきからおっしゃっているわけでありますから、まさにこれは保安処分であるということを前提としてきちっと議論しなければいけない、そう思うんですけれども、いかがでしょうか、大臣。
古田政府参考人 ただいま委員御指摘のとおり、保安処分という言葉の定義については、これは非常に広い、さまざまな考えがございます。ただいま委員が御指摘になった、裁判所による処分というふうに限定されておっしゃいましたけれども、保安処分という概念はそれに限らないという理解もまた一方でございまして、かつていろいろなことが議論された中で、例えば現在の措置入院制度もそういう意味では保安処分の一種であるという理解もあったわけでございます。
 したがいまして、保安処分というものをどういうふうに考えるのか、それによっては委員御指摘のようなことにもなろうかという面はあろうかとは思いますけれども、私どもが申し上げておりますのは、かつて問題になりました改正刑法草案等で導入が検討されたその制度とこの制度とは違うということを申し上げている。そこを御理解いただきたいと存じます。
平岡委員 今刑事局長が、いみじくも、保安処分というのはいろいろあるんだというようなお話をされました。確かに、これが保安処分であるということできっちりとしたものがあるというふうに私も思いませんけれども、であればこそ、かつて、保安処分、治療処分、こういったものが検討されてきたときには、法制審議会刑事法特別部会といったようなところで、ちゃんと法制審の審議を経た上でこういう案を提示してきているわけですよね。昭和四十四年の保安処分、治療処分に関する要綱案、あるいは、昭和四十七年改正刑法における治療処分についてのものについては、いずれも法制審でちゃんと議論して、行われている。
 これは先ほど言いましたように、保安処分というのは必ずしもこれだというものがあるわけじゃなくて、我々の目から見たらこれはまさに保安処分そのものだというふうに思われるようなこの法律案を、全くそうした法制審の審議を経ずして出してくるというのは、いかにもこれは拙速であるし、国民全体の意見を踏まえていないというふうに私は言わざるを得ないんです。
 大臣、どうですか。この法案については、ちゃんと法制審議会の審議を経て持ってくるべきじゃないですか。どうでしょう。
森山国務大臣 法制審議会は、法務大臣の諮問に応じて、民事法、刑事法その他法務に関する基本的な事項を調査審議することということになっております。
 一方、この法律案による新たな処遇制度は、心神喪失等の状態で殺人、放火等の重大な他害行為を行った者につきまして、刑事手続が終了した後にその適切な処遇を決定するための手続等を定めることによりまして、継続的に適切な医療を行い、また、医療を確保するために必要な観察と指導を行うことによって、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もって本人の社会復帰を促進することを目的にするものでございまして、民事法、刑事法その他の法務に関する基本的な事項と最初に申し上げましたが、法制審議会の仕事に関するものではないというふうに判断いたしまして、法制審議会による審議を経ることはしなかったものでございます。
平岡委員 そういう、何か形式的に、前の保安処分とちょっとここが違っているからこれは保安処分じゃないんだ、刑法に書いていないからこれは法制審にかけなくていいんだといったような形式的な議論をしてもらっちゃ困るんですよ。やはり、この法案というのは国民にとって非常に重要な法案なんですよね。今までの日本の刑事法の世界の中で責任というものをどう考えるかといったようなことにもかかわってくる重大な法案なんですよね。それを、今言ったように形式的に、ここがちょっと違っていますから、ここは刑法の中に入っていませんから、こんなことで法制審議会なんか経なくていいというのは、私はとても認めがたいというふうに思うんですね。
 では、これからはどういうふうにやるんですか。刑法の中で改正しない限りにおいては、刑事法の問題についても別に審議しなくてもいいということになるんですか。
森山国務大臣 法制審議会の仕事というのは先ほど申し上げたようなものでございますので、基本的に、刑法とか民法とか、そのような基本的な法律についての問題について審議をしていただくわけでございますが、もちろんそのほかにも、あるいは事態、内容によって必要な場合もあり得るかもしれませんが、基本的には、先ほど申し上げたようなことをやっていただく場所でございます。
平岡委員 先ほど、この制度をつくるに当たって、これは坂口厚生労働大臣の答弁だったんですけれども、過ちを繰り返さないための制度を検討するんだというようなくだりがございました。
 そして、この法案の中には、「再び対象行為を行うおそれ」というふうに書いてありますけれども、再犯のおそれという言葉でいきますけれども、処遇の理由として端的に再犯のおそれということを挙げているわけであります。
 先ほどちょっと注意を受けましたけれども、再犯のおそれというのは、何も精神障害の方々だけの問題ではなくて、それは通常の健常者だって再犯のおそれのある方は多分いるんじゃないかなと。そういう抽象的な言葉で言えばですよ。ただ、それを判断するというのは、この人はそういう再犯のおそれのある人だというふうに決めつけるということはなかなかまた難しい問題があろうというふうに思うわけです。
 ただ、ここで皆さんが、再犯のおそれがあるということをもってして、社会的な秩序を守っていく、保安を維持していくというために拘束をしてもいいということになれば、これはいずれまた、精神障害者の方々以外の問題にも波及していくというふうに思っているわけですけれども、再犯のおそれによって身体を拘束していく、先ほど、身体拘束というとまたちょっといろいろ議論ありましたから、病院に閉じ込めておくというようなことを認めるその根拠、健常者に比べて精神障害者の方々をこういう形で処遇することについての根拠、一体どういう事実関係があり、例えば、健常者に比べて精神障害者の方々が再犯率が高いとか、再犯のおそれが非常に高いとか、そういう何か根拠があるんですか。
古田政府参考人 先ほど来申し上げておりますように、この法案は、精神の障害によって心神喪失あるいは心神耗弱の状態で犯罪行為をするに至った場合に、これに対する治療を確保して、その社会復帰を図るということが最も中核的な目的であるわけでございます。
 そこで、再び対象行為をするおそれということを要件としておりますのは、再犯率が高いとか低いとかいうことよりも、そのような強制治療を施すために、どういう場合にそういう強制治療が許されるのか、そういう危険がない場合に強制治療というのはこれは許されるべきではない、そういう考えに基づいて、強制治療を施す範囲を限定するために設けているものでございます。したがいまして、再犯率というようなことと直接かかわりのある問題ではございません。
 ただ、念のため申し上げますと、精神の障害があって、それで犯罪行為に至った方々、こういう人たちのその後の再犯率というのは、厳密な意味での調査は大変困難でございますが、例えば、同じ方が何回刑事手続にのることになったかというような面から申し上げますと、全体としては二七%程度と理解しております。ただ、第三者に対していろいろな問題行動があった場合の方については、四〇%弱という数字が一応出ている。
 しかし、これは、いずれにいたしましても、すべての方についての成り行き調査をするわけにはまいりませんので、そういう一応の数字であるということだけ御理解いただきたいと思います。
平岡委員 処遇の理由として再犯のおそれを挙げているということでありまして、そういうことで処遇が決まってしまうということであると、これは何か精神障害者の人たちだけの問題じゃなくて、もっともっと広がってしまうというような懸念もあるということでありますけれども、この再犯のおそれだけをちょっと取り出して考えてみても、果たしてこのおそれというのは判断できるのか、判定できるのかということが随分多くの人たちから疑問を呈されているわけであります。
 そこで、実は本会議のときに厚生労働大臣は、再び対象行為を行うおそれを判断可能であるというふうに答弁をされているわけでありますけれども、その根拠として、二〇〇〇年版オックスフォード精神医学教科書を挙げておられました。
 実は、私、どの部分を見て厚生労働大臣はそういう答弁を了承されたのか教えてほしいということを聞きました。そうしたらこれをいただきました。ニューオックスフォードテキストブックオブ、その次は読めないんですけれども、これをいただきました。それで、私にこれを見て判断してくれと言われました。私は、何だ、厚生労働大臣はこれを見てその答弁を判断されたんですねと。
 厚生労働大臣、ちょっと、これを読んで、どこの箇所で厚生労働大臣がそういう答弁をされたのか、御教示いただきたいと思います。
坂口国務大臣 本会議におきまして私がそういうふうに申し上げたことは事実でございますし、また一例として申し上げたわけでございます。
 昨年、私もドイツに参りまして、多くのこういう精神科の先生にお会いをして、実際可能かどうかということの問題につきまして議論をさせていただき、多くの先生方から、それは可能だ、我々はそれをやっているというお話を伺ったわけでございます。
 しかし、本会議におきましては、そのオックスフォード精神医学教科書につきましてお答えをしたところでございます。このオックスフォード精神医学教科書を引用いたしましたのは、精神障害者が暴力に及ぶリスクについて精神科医が予測することは国際的に当然のことというふうにされていたからでございます。
 具体的にどういう記述があるかということでございますが、患者が他人に害を及ぼさないように振る舞う見込みを評価することは正当な臨床活動である。これは二千六十六ページでございます。右の段でございます。
 それから、リスクアセスメントとリスクマネジメントは際立って現在の精神保健の中心的な業務となってきている。これは二千六十七ページでございます。これも右の段でございます。
 それから、治療において患者の暴力の可能性を的確に評価する能力を持つことは、精神科医や臨床心理士、さらにはその他の精神保健の専門家に対しても期待されているものである。それは二千六十八ページでございます。
 それから、我々は精神保健の専門家として将来の確率の評価に従って行動しなければならない。我々はリスクアセスメントとリスクマネジメントの方法を可能な限り効果的なものにする努力をしなければならない。これは二千七十六ページの右の段でございます。
 以上のようなところを踏まえまして、お答えをさせていただいたところでございます。
平岡委員 今大臣が御答弁されたその箇所を日本文として我々にお示しすることはできますでしょうか。
坂口国務大臣 それは可能だと思います。
平岡委員 それで、今、厚生労働大臣がずっと読み上げられました。いろいろなくだりがあろうと思います。
 実は、これは厚生労働省からいただいたんではなくて、別な方からいただいたんで、これが正しい訳なのかどうなのか私もよくわかりませんけれども、この中にもいろいろなことが書いてあります。リスクという言葉もおそれと訳すのか確率と訳すのか、やはり英語の本来の使い方というのはいろいろあるわけでありまして、リスクマネジメントというのも、やはり確率的なもので、どのように確率を少なくしていくかというようなことになるわけですね。例えばこういうくだりがあります。
 「重症の精神障害者によって犯される殺人はきわめて稀なので、殺人をおかす患者を事前に予測しようとすれば、必然的に多くの患者を誤って危険であると判断することになる。」「あらゆる患者が将来に暴力行為を犯すすべての可能性を摘みとろうとすることは、広範囲に強制力を行使することにつながり、精神医療従事者をますます監督的かつ管理的な役割へと追い込むことになるであろう。」「リスクに対する保険数理的方法を確立しようとする研究が現れた。」こう書いてあります。リスクについても保険数理的方法、これもよくわからないかもしれません、私もわからない部分がありますけれども、今私が読み上げただけでも、これはおそれを予測することについては非常に大きなリスクがあるということも述べているわけですよね。それにもかかわらず、あえて自分の都合のいいところだけ引っ張り出してきて、これを根拠にして、おそれを予測することは可能であると言うのは、私は、いかにも短絡的といいますか自己中心的というか我田引水的というか、いっぱい言葉はあるわけですけれども、と思うんですね。
 大臣いかがですか。これ、本当にちゃんと全部読んで、自分としてそういう理解をされた上であの答弁されたんですか。
坂口国務大臣 正直に申し上げますが、率直に申し上げまして、全部読んだわけではございません。しかし、そこに書かれておりますこと、それから私がドイツ等で勉強しましたこと等を踏まえまして、諸外国におきましては予測ということはやはり行われている、この予測というものは可能であるという立場に多くの学者が立っているということは事実でございます。
 それは当然、そのいろいろのデータをもとにでございますから、そしてあくまでも予測でございますから、すべてがそれではその予測どおりにいくかということになれば、それはいかないことは医学の世界のことでございますからあり得るというふうに思いますが、しかし、そこはかなり研究されている、この分野における研究がかなり積み重ねられているということは事実でございます。その研究が積み重ねられた上で、その人たちもいろいろの行動をしているわけでございます。
 これは、諸外国でのそうした今までの多くの経験を踏まえた上での判断でありまして、私は、日本におきましてもこれからこの分野の方面は研究されるのであろうというふうに思いますし、その研究の結果その予測が次第に可能になる、そういう研究結果が積み重ねられていくのではないかというふうに思っている次第でございます。
平岡委員 今大臣は非常に重要なことを言われました。これから研究が進んでいけば次第にそういうおそれを予測することができるようになるであろうと。
 つまり、今はできていないということですよね。今できていないのに、この制度を持ち込んだら一体どんなことが起こるんですか。疑陽性といいますか、もしかしたら起こるかもしれない、本当は神様の目から見たらこの人は起こらないんだけれども、人間が判断することですから、もしかしたら起こるかもしれないというような状況に置かれた人たちが、やはりこの制度の中で強制的におそれがあるということで閉じ込められてしまう、そういうことになってしまうわけですね。
 それは、確かに、これから医療が進めば、精神医学が進んでいけば、予測をますます確率が高いものとしてできてくるかもしれませんけれども、今いみじくも大臣が言われたように、これから研究が進めば予測が可能になるかもしれませんという答弁だったですね。そんな状態の中でこんな制度を持ち込んでいいんですか。大臣、もう一度答弁してください。
坂口国務大臣 もう少し丁寧にお答えをさせていただきたいというふうに思いますが、不幸にして、日本の中ではそういう研究というのは今まで進んでこなかった。しかし、欧米を中心にいたしまして、諸外国におきましては研究が進んできているわけであります。私は、その一つとして、ドイツ・ベルリンにおきます病院、そして携わっておみえになります先生方のいろいろのお話も聞いたりもしてきたわけであります。
 そういう診断の、まあ診断の中の一つに入るというふうに思いますけれども、そういう診断をするという技術あるいは仕方といったようなものにつきましての今までの諸外国における積み重ねがありますから、日本においてこれを導入いたしますときには、一遍にたくさんつくるわけではなくて、一カ所か二カ所つくっていくというようなことになるんだろうというふうに思いますけれども、そこの精神科の先生方は、そうした問題につきまして詳しい方も日本の中にもおみえだというふうに思いますけれども、諸外国のそうしたこともよく御勉強をいただかなければならないだろうというふうに思っている次第でございます。
 現在も、日本の中におきましても、多くはありませんけれども、この道につきまして、かなり御勉強をされている先生方もおみえになることも事実でございます。ただ、一般的にこれが広がっていないということを先ほど申し上げたわけでありますから、その先生方を中心にしまして、さらに研さんを積んでいただくということが大事ではないかということを申し上げたわけでございます。
平岡委員 丁寧に説明していただきましたけれども、最初にありましたように、日本ではまだ進んでいないんだというお答えも今の中にもございました。そういう状況の中でこんな制度を持ち込むということは、かなり私は短絡的といいますかいいかげんな対応ではないかというふうに思うことを指摘させていただきたいと思います。
 そこで、実はこの点に関して、六月七日のこの委員会で刑事局長が、処遇の判断について裁判所が関与しているケースがむしろ一般である、そういうくだりがございました。つまり、触法の精神障害の方に対して処遇を決めるときに裁判所の関与しているケースが一般的だという答えがありました。そして、今、厚生労働大臣の方からも、諸外国においてはいろいろな予測みたいなことが行われているんだというようなことがございました。
 そこで、ちょっと一つだけ、私もよくわからなかったので確認していきたいと思うんですけれども、そうした裁判所が関与して処遇が決定されたという場合のその処遇先ですね。入院に限定して言えば、入院の処遇先となる病院というものは、これはそういう裁判所が判断した人たちだけが入る病院であって、一般の精神障害の方々がこういう裁判所の判断ではなくて入ってくるというものと全く別につくられているんですか。この点をちょっと、私もよく知らないので確認をしていきたいと思います。
 ただ、私がいろいろな勉強会で聞いたときには、非常にイギリスの制度というのが参考になるのではないかというようなことを説明された際にも、イギリスのこの入院される先の病院というのは、必ずしも裁判で処遇が決定された人たちだけが入る病院ではなくて、一般の人たちも入る可能性のあるというか入る病院である、そこで処遇がされるんだというふうに説明を聞いていますので、そこをまずちょっと確認させていただきたいというふうに思います。
古田政府参考人 いろいろな国のすべてを必ずしも把握しているわけではございませんけれども、ただ、今御指摘のありましたイギリスにつきましては、私どもの理解しております限りでは、犯罪行為を行い、裁判所によって入院を命ぜられた者の中で、裁判所が危険性があると認めて退院制限命令をかけるという制度がございますが、この退院制限命令を受けた患者は、通常、マキシマムセキュリティーホスピタルあるいはリージョナルセキュアユニットというふうな、保安病棟あるいは保安病院に収容されているというふうに承知しております。
 ドイツを例にとりますと、ドイツの場合は、州立病院に収容されますが、その中でいわゆる司法患者用という病棟を用意しているのが普通で、そこに収容される場合が通常であるというふうに理解しております。ただ、常にそういう病棟に最後までいるということではなくて、ほかの病棟に移すことが適当な程度に病状が回復すれば、ほかの病棟に移すということも行われていると承知しております。
平岡委員 この新処遇制度では、例えば、ある程度症状が改善したからこの処遇のもとではなくて通常の精神医療の処遇に持っていこうというようなことは、今ドイツの例をちょっと言われましたけれども、そういうことは可能なんですか。
高原政府参考人 この指定入院医療機関で入院治療を受けることが必要でなくなった場合には、直ちにその他の、つまりその指定入院医療機関以外のところで治療を受ける。治療というか、入院を要しないという形になるわけでございまして、その段階におきましては、一般の医療機関で入院するとか、それから通院で治療を受けるとか、最低限、通院の命令といいますか決定は出ると思いますが、通院というふうな形で地域内処遇を基本とする。
 その中で、例えば自傷行為が問題になる、そういうふうな場合には、入院すれば、精神保健福祉法に基づきそういう処遇がなされるでありましょうし、御本人の方がもう少し入院していたいということで、入院が適切というふうに認められれば、一般の精神病院に入院する、そういうことはできる、そういうふうな構成となっております。
平岡委員 この法律の一つの大きな問題点というのは、短くするために触法精神障害という言葉を使わせてもらいますけれども、その人たちとそうでない人たちを完全に分離してしまって、本当の意味での治療目的ではないということなんですね。
 ですから、高度な治療を要する人たちに対しては、多分考えられておられる指定病院、何かえらい高度な病院らしいですけれども、そういうところで処遇を受けて、もうそこで処遇する必要はなくて、実は入院は必要だけれども一般の措置入院のような形で処遇していくことでもう十分に対応できるというようなときに、こっちに移っていくというような仕組みとか、そういうものが全くないわけですね。本当に隔絶されてしまっている。
 こんな医療の仕組みというのをつくるということに非常に私は疑問に思うんですよね。医療ということを皆さんが強調されるならされるほど、やはり、いろいろな精神医療に対する仕組みというものがお互いにつながり合い、連絡し合いという仕組みがなければいけないというふうに思うんですけれども、大臣、どうですか。こんな仕組みをつくって、全く通常の医療と隔絶した仕組みをつくり、そしてまた別のところには一般の精神医療が行われている、そういう仕組みをこの日本の社会につくっていいんですか。どうでしょう。
坂口国務大臣 先ほどから議論されておりますように、この場合には再犯を予防するということが大前提としてあるわけであります。いわゆる重大な犯罪を繰り返さないという大前提があって、その人たちに対してどうするかという問題でございます。
 一般の精神病棟でおみえになる皆さん方の中にその皆さん方もお入りいただくことができるようになれば、それは行くということもあり得るんだろうというふうに思いますし、それから、もう入院している必要がないということになればお帰りをいただいて、そして、そのかわりに、その皆さん方を温かく見守る人たちをつくっていくということにするわけでありますから、決して社会から隔離を常にし続けるということではありませんで、早く治療をし、そして社会復帰をしていただくならば、そこで多くの皆さん方が温かく見守っていくというようなシステムをここに導入しているわけでありますから、決して隔離された問題ではないと思っております。
平岡委員 今、坂口大臣が重要なことを言われました。この法案は再犯を予防するということが大前提である、こういうふうに言われました。
 法務大臣、いかがですか。先ほど来からの説明の中では、まずこの法律の一番の目的は何ですか、この前も塩崎さん、聞かれましたよね、本会議でも聞かれましたよね、そのときに、大臣は何と答えられたか。多分覚えておられると思いますけれども、社会復帰を促すことがこの法律の主な目的なんです、主たる目的なんですというふうに言われました。今、坂口大臣は、再犯を予防することが大前提であると。この二つの省庁でもお互いに何か責任を押しつけ合っている。法務大臣は何か厚生省所管のような話を言い、厚生大臣は法務省所管のような話を言い、一体どうなっているんだ、そんなことでこの法律がちゃんと機能するのか。法務大臣、どうですか。
坂口国務大臣 私が再犯の予防を前提にしているというふうに申しましたのは、それは一度重大な犯罪を犯した人を対象にまずしているということを申し上げたわけでありまして、その人たちを一日も早く社会復帰させるということがこのシステムの中の大事な部分であることは先ほど申し上げたわけであります。
 しかし、そこへ入る人たちは、どういう人たちもみんな入れるのかといえばそうではない。それは、一度重大な犯罪を犯しそれが繰り返される可能性があるということを認めたときに、その人たちに対して一日も早い復帰、それは医学的な面での復帰もありますし、医学だけの問題ではなくて法的な意味での復帰ということもあるだろうというふうに思いますが、そうした趣旨を申し上げたわけであります。
平岡委員 坂口大臣は、いろいろ勉強されておられるんだろうと思うんですけれども、一度犯罪を犯した人を対象とする制度であるということを表面的には言われました。
 ただ、本会議でこういうことも言っておられるんですね。現代の精神医学においては重大な他害行為を行うおそれがあることを判断することは可能であると。言われたのは、これは必ずしも一度犯罪を犯した人について言っているわけではなくて、精神医学の中では精神障害になっている人についてはそういう判断をすることは可能であるという仕組みというものとして大臣は答弁をされておられるんですよね。
 なぜ一度犯罪を犯した人だけを対象とする制度をつくるんですか。先ほど言ったように、精神医学では、大臣の答弁のとおりに言えば、現代の精神医学においては重大な他害行為を行うおそれがあることを判断することは可能なんだと言っているにもかかわらず、なぜ一度犯罪行為を犯した人だけを対象にする制度をつくるんですか。
坂口国務大臣 よく理解をした上で御発言になっているというふうに思いますが、そこまで広げていくことになりますとさまざまな問題が起こってくると私は思います。したがいまして、非常にこの法律は限定的になっているわけであります。
 先ほどから議論がありますように、必ずしも犯罪を犯す人は繰り返しているわけではなくて、初犯の人もこれは多いわけであります。中には、初犯の方が多いんだからその人たちも全部含めればいいではないかという御議論も実はこの過程であったことも事実でございます。しかし、そこまで広げていきますとさまざまな問題に突き当たる。
 したがって、非常に限定的に、一度犯した人の中で今後もこれを繰り返す可能性がある、例えば、同じ環境でそして同じ病気の重さで同じ病状にその人が置かれたときに、その人が再び同じことを犯す可能性としては私は出てくると思うわけで、そうしたことに限定をしてやはりこれはいくべきだということでこの法律ができたというふうに私は理解をいたしております。
平岡委員 最初に、この法律のまやかし、建前と本音が違うというような話をさせていただきましたけれども、まさにそういうまやかしがあるんですね。
 つまり、どういうことかというと、やはり一度対象行為といいますか犯罪行為に該当する行為を行った者に対して何らかの罰を加えよう、責任を問おうというような、そういう内容になっているから今のようなお話につながってくるわけですね。一度犯した者についてこういうことをしようと。
 逆に言うと、今回、もう一つの欺瞞、まやかしとして、立派な医療設備を持った、スペースが広くて立派な医療環境があるところに入ってもらうのでそこで高度な医療を行うんです、だからこの仕組みを認めてほしい、こういうような説明も行われているわけでありますけれども、もしそういう説明が正しいのであれば、先ほど私が言いましたように、いろいろと大変な精神障害にかかっている人たちもこの設備が利用できるようなものにしなければ論理的な整合性はないというふうに思っているわけです。
 こうした立派な設備がなぜ一般の精神障害の人たちが利用できる施設としてつくられないのか、この点を厚生労働大臣にお伺いしたいと思います。
坂口国務大臣 まだ何にもできていない段階のことでございますから、これからどうするかという問題になるわけでございますけれども、先ほどから議論がございますように、特別な病院をそこにつくって、そして、この人たちだけの病院をつくるということではなくて、国立病院の中の一つの病棟なら病棟を改造なら改造させていただいて、そしてこの病棟に充てさせていただくといったようなことになるのではないかというふうに思っている次第でございます。
 したがいまして、病院としましては、一般の精神病患者の皆さん方も入院をしておみえになる、しかし隣同士の部屋ということではなくて、特別な病棟においてそれは行うといったことになるのではないかと思っている次第でございまして、すべてのほかの病院はこのままにしておいて、そしてそこだけをよくするというような考え方はもちろんございませんが、これから順次、精神医療の現場のあり方というものにつきまして、今検討もいたしておりますけれども、この秋ごろには一つの結論が得られますので、早くさらに充実したものにしていきたいというふうに思っている次第でございます。
平岡委員 いろいろな人たちが指摘する中に、やはり、今の精神医療の現状というものが余りにも問題が多いんだということを言われる方が多いんですね。特に、私もこの前八王子の医療刑務所へ行きましたときにいろいろつくづく感じたんですけれども、刑務所の中の精神医療そのものがどういう水準にあるかというのはいろいろな評価があるかもしれませんけれども、一たん医療刑務所から出るときにどういうふうな受け入れがあるかといったようなことを考えたときには、本当に皆さんが苦労されているような状況にある。つまり、一般の精神医療の状況というのが、余りにもずさんな、余りにもいいかげんなものになってしまっているというところにやはり基本的な問題があるんだろう。
 ですから、この法案とは切り離した問題として、私もぜひ厚生労働大臣にお願いしたいんですけれども、一般の精神医療のそうした仕組みなり、あるいは制度なり運用なりということに対して、もっと真剣に厚生労働省として対応していく努力をしてほしいということをこの場でお願いしておきたいというふうに思います。
 それで、ちょっと時間がなくなってしまったのですが、あと、大きなテーマとしては、今回の処遇法について言うと、憲法上のさまざまな手続保障規定というのがございます。直接的には刑事事件を対象としたような内容でございますけれども、先ほど申し上げましたように、この法律の仕組みというのは、一つは、先ほどから議論していますように、一度そういう触法行為を行った精神障害者の方々に対しても罰を加えよう、責任を問おうというようなこと、あるいは保安処分的な要素、身柄を拘禁していく、こういった要素が十分に含まれた法案になっているにもかかわらず、この手続的な保障がほとんど憲法の規定に違反しているといったような状況になっているというふうに私は見ております。
 例えば、二十四条に「事実の取調べ」というようなことがございますけれども、この事実の取り調べにおいても、自白法則あるいは伝聞証拠排除原則などがほとんど守られていないという状況であります。こうした憲法三十一条以下の適正手続に違反しているというような規定を置いているということについて、これは大いに問題だと思いますけれども、法務大臣の見解をいただきたいと思います。
森山国務大臣 この法律案によります処遇の制度は刑罰にかわるというものではございませんで、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者であって、不起訴処分となり、または無罪等の裁判が確定した者に対して継続的かつ適切な医療を行い、また医療を確保するために必要な観察等を行うということによって、その者の社会復帰を促進するというための制度でございます。これは先ほど来たびたび申し上げたとおりでございます。
 また本制度による処遇は、その者が対象行為を行ったからといって当然に行われることとなるものではなくて、広く医療が必要な者の中からこの制度による医療を行うこととする者を限定するため、一定の行為を行った者であることをその要件としたものでございます。裁判所は検察官の認定に疑問を抱いた場合に、本制度の対象者であることを確認するために、これに必要な限りで事実の取り調べを行い、関係証拠によって対象行為の存否を確認することを想定しております。
 したがって、このような本制度の目的や対象行為を行ったことの要件の趣旨等にかんがみますと、対象行為を行ったか否かの確認手続を含め、この制度による処遇の要否、内容の決定手続は刑事訴訟手続と同様のものでなければならない理由はありませんで、裁判所が適切な処遇を迅速に決定し、医療が必要と判断される者に対しては、できる限り速やかに本制度による医療を行うことが重要であるということにかんがみまして、刑事訴訟手続より柔軟で十分な資料に基づいて適切な処遇を決定することができる審判手続によることが最も適当であると考えます。
 このため、本制度においては対象行為の存否の確認を含め、裁判所による審判手続により対象者の処遇の要否、内容を決定することとしたものでございまして、このような仕組みが憲法第三十一条以下の趣旨に反するものとは考えられないと思います。
 なお、この法律案による制度と同様に、非訟手続で非行事実の認定を行うことにしている少年審判についても憲法の趣旨に反するとは考えられません。
平岡委員 今長々と言われましたけれども、この法律というのはやはり何かコウモリみたいな感じで、あるところを攻められると、いや、これは医療を提供するものですから、あるところを攻めますと、いや、これは裁判手続できちっとやっています。こういうような何か二面性を持ったところがあるいいかげんな法律だというふうに、私は非常に欺瞞に満ちた、まやかしのある法律だというふうに思っております。ぜひ真剣な議論をこれからもしていただいて、ぜひよりよい制度をつくっていくということを政府と一緒に、あるいは与党の方々も一緒になって考えていきたいと思います。
 時間が参りましたので、これで終わります。
園田委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。
    午後零時六分休憩
     ――――◇―――――
    午後一時二分開議
園田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質疑を続行いたします。植田至紀君。
植田委員 社会民主党・市民連合の植田至紀です。
 きょうは、初めてのこの法案にかかわる我が党の質問でございますので、おおむね立法の背景に横たわる問題について、幾つかの点にわたって、主には法務、厚生労働大臣にお伺いをしたいわけです。
 まず、冒頭、これは午前中の質疑でもお話があった問題だろうと思いますけれども、いわゆる昨年六月の池田小事件、池田小学校で起きた児童大量殺傷事件の加害者が過去精神病院への入院歴がある、いわゆる触法精神障害者の問題としてとらえられたがために、与党においてまず先行的に検討が行われていた。そして、それにいわば誘引される形で本法案が政府から提出されたというふうに私はまず入り口として認識しておりますが、そういう理解でよろしいわけでしょうか。これは、法務大臣、厚生労働大臣お二方両方から、午前中のお話とダブるかもしれませんが、お話しいただければと思います。
森山国務大臣 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の処遇のあり方につきましては、例えば、平成十一年の精神保健福祉法の一部改正法律案の審議の際に、国会におきまして、その検討を早急に進めることとの附帯決議が行われておりますように、いわゆる大阪・池田小学校児童等無差別殺傷事件が起こる前から適切な施策が求められていたものでございまして、法務省と厚生労働省におきましても、昨年の一月から合同検討会を開催するなど調査検討を進めてきたところでございます。
 そのような中で大阪・池田小学校の事件が発生いたしまして、これをきっかけといたしまして、精神医療界を含む国民各層から適切な施策を求める声がさらに高まったものと考えております。このような国民各層からの御意見をも踏まえまして、この法律案により新たな処遇制度を創設するということにしたものでございます。
坂口国務大臣 午前中にも御答弁を申し上げたとおりでございますし、今また法務大臣からも御答弁のあったとおりでございますが、平成十三年の一月から法務省と厚生労働省の間で合同検討会を続けておりまして、事務レベルではございますけれども、かなり頻回にこの会談を重ねておりまして、問題点を煮詰めてきたところでございます。
 これは、先ほども法務大臣からお話ございましたように、精神保健福祉法の改正のときの附帯決議におきまして促進するようにということでございまして、それらを受けてやっていたわけでございます。
 先ほど委員が御指摘になりましたように、池田小事件が起こりまして、そうした問題がさらにこの論議を加速させたことは間違いないというふうに思っております。さらに、与党内におきましても議論が重ねられまして、この法律の提案に結びついた次第でございます。
植田委員 両大臣のお話はわかりますが、今回、例えば、既に附帯決議があることも承知しておりますし、池田小事件というものがそうした論議を加速させる一つの契機になっただろうという御認識ですけれども、かかる重大な問題が起こり、そしてそれを受けて、やはりこうした問題について議論をしていきましょう、また、新たな制度的枠組みが必要だろうという議論をするに当たって、これは次回聞こうとは思っているのですが、少なくとも二つの問題が出てくるだろうと思います。
 一つは、そもそも今回政府が出された法案が、例えばこうした池田小の事件を防止する、そうした事件を未然に防ぐという意味で、本当にそうした問題意識と合致しているのかどうなのかという点が一つあるかと思います。
 それともう一点、池田小事件でもそうですけれども、特に心神障害を持っておられる方々が犯罪を起こした場合、そういう意味では精神障害者全般にかかる差別と偏見というものがそういうときに高揚してしまう局面があるかと思います。新たな制度的枠組みを仮に検討するに当たって、新たな差別や偏見を起こすようなものであっては決してならないということも一つやはり考えていかなければならないと思います。
 ですから、国民各層の意見というものの前提に、そうした意識を規定づける前提に、後でいろいろとお伺いしますけれども、差別や偏見を引き起こしてしまうような精神医療の現状であるとか、また刑事手続における問題等々というもの、また措置入院の結果の問題等々あるのではないかと私は思っております。
 その点につきまして、きょうは民主党案全体にわたって質問をする予定はしておりませんが、次回以降お伺いをするに当たって、まず入り口のところで基本的な民主党の提案者の御認識をお伺いしたいわけですが、いわゆる立法事実、現状認識において、政府案とは当然違う中身を出されていることは承知しておりますが、現状認識としては、政府案をつくるに至った政府の作業といわば認識においては共通するところがあるのかどうか。
 例えば、今回の民主党さんが出されたところでも、池田小事件のようなものを繰り返さないためにということで冒頭にペーパーをいただきましたけれども、政府案もそういうことは言っていることは言っているわけでございます。
 ですから、少なくとも今置かれているこうした現状認識、立法事実において共通するのかどうかという点。する面もあって、しない面もあるということであれば、そういうことでも結構なわけですけれども、いずれにいたしましても、民主党さんとしては政府案には反対の立場ですからこういう法案を出されたんだけれども、その点については重なり合う部分があるのかないのか。また、固有の問題意識は那辺にあるのか、もしあるとするならば。その点について、これは今後民主党さんに御質問させていただくに当たっての予備知識として、まず、どういう問題意識で出されたのかということをお教えいただけますか。
平岡議員 お答えいたします。
 立法事実についての認識は政府案と共通の点があるのかないのかというような点でございましたけれども、我々としては、現在の精神医療の状況というのがやはり多くの課題を抱えている、そういう認識、多分政府もお持ちになっているんだろうと思います。それが今回の法案につながったという面もあろうと思います。我々も、そういう面では同じ認識に立っていると思います。
 ただ、今回政府が提案した中身を見てみますと、先ほどの議論にありましたけれども、どうも、精神障害の方が犯罪行為に当たる行為をしたことに対して何か刑事罰にかわるような処罰をしようとか、あるいは、社会の治安を維持するような形での保安処分的なことをしようといったようなことがやはり随所に感じられているというふうに私は思っております。その点、民主党案は、責任を問うことのできない精神障害を理由にしてそういう行為に至ったことについては、やはり医療制度をきちっとつくっていくということが必要であるという認識に立って、精神保健福祉法の改正をしているということでございます。
 それからもう一つ、精神鑑定の問題がございまして、これも政府は、現在の起訴前の精神鑑定についてはほとんど問題がないんだ、ただ、いろいろあるかもしらぬから、改善のための努力をしようというようなことも先ほどの答弁でありましたけれども、基本的には、精神鑑定の制度には問題がないという認識に立っています。我々民主党の方は、やはり検察官段階における精神鑑定が特に問題が多い、場合によっては裁判所における精神鑑定についてももっと充実させる必要があるというような観点に立って、今回の民主党案を提出しているということでございます。
 それから、先ほど冒頭申し上げましたけれども、政府案は、今回の法案を出すことによって、部分的には何かどこか特殊なところで精神医療が進歩をしていくというような説明もありましたけれども、我々は、精神医療全体の水準を引き上げることが必要であるというような視点に立って、精神保健福祉法の改正を提案しているということでございます。
植田委員 感想だけ申し上げておきますと、民主党の案、我が党でも説明を受けたわけですけれども、民主党さんが目指す精神医療の現状をどう改善していくかという問題意識と全体の構図は、我々も首肯でき得べき点、たくさんあるかと思いますし、できればあれをひとつ素材にしながら議論していく必要はあるかなと思うんです。
 ただ、我々が考えておるそもそもの前提として、受け皿としての精神医療の現状をどう改善していくかというところは、法案ではなくて民主党さんの十カ年戦略という政策文書になっているわけなんですね。ですから、今回の法案でいくと、いわば措置入院のところをどう充実させるかということなんですが、そこを充実させたときに、では今度実際の医療の現場がどう改善するのかというところが、今回民主党さんが出された法案では担保されていないなという気がいたします。
 きょうはそこは議論いたしません。全体として民主党さんの問題意識なりその方向性なりは非常に評価しつつも、実際の精神医療の問題の改善は法律ではなくて党が出しておられる政策文書である限りにおいて、ややそこは、今回の法案だけ限定して議論した場合、やはりちょっときついところあるな、そういう問題意識を持っておるということだけあらかじめ御承知いただければと思いますが、それについてはまた別途伺いますので。
 非常によくまとめられて、うちもあれぐらいのものがまとめられればというふうには思っておったんですが、そこは力量不足でございました。
 さて、精神医療の問題についてここでまずお伺いしたいんです。というのは、きょうは特にその背景に横たわる問題ということでお伺いしたいわけですが、ここでは特に厚生労働大臣が主になるかと思いますが、要するに現状がどうなのかということで、精神病院の医師、看護職の数の問題からまず聞きます。
 一九五八年の厚生省の通知で、他の科よりも医師、看護職を三分の一ないし三分の二で構わないということで、実際、それすら下回っているという実態が長らく続いてきたわけです。お話を伺いますと、看護職の格差は減ぜられているようですけれども、医師についてはまだ十分改善が見られていないように思います。とりわけ、この五八年の通達以降、六〇年代、いわば劣悪な精神病院がたくさん生まれたんではないか。これはかつての宇都宮病院における職員による患者撲殺事件等々でも明らかだろうと思います。ただ、こうした問題が、マスコミや世論、また国際世論が騒ぎ始めるまで、指摘するまで、実際のところ、厚生省や司法当局というのが調査に動いていなかったというのが実態ではなかったかと思うわけです。
 そんな中で、例えば一般医療ですと、医師が十六人に一人、看護婦が三人に一人、薬剤師が七十人に一人ということですが、精神医療については、医師が患者四十八人につき一人、看護婦が六人につき一人、薬剤師が百五十人につき一人ということが基準となっているわけですけれども、こうした問題をまず改善することが先決なんではないでしょうか。少なくとも、精神医療の実態が決してよろしくない、それを改善していかなければならないということが共通の土俵であるとするのであれば、この問題をまず改善するというのが必要なんじゃないのかなと。
 私は精神科の専門家でもお医者さんでもないので、実際にその程度の基準でできるんだということであればそういう御見解でも述べていただければいいんですが、こうした基準を見直す必要はないんでしょうか。もしないとするならば、一般医療よりも低い水準で構わないという理由、根拠というのがどの辺にあるのか。これは厚生労働大臣にお伺いいたします。
坂口国務大臣 精神医療の内容もだんだんと変わってきたというふうに思っております。したがいまして、これからの精神医療のあり方というものにつきまして、現在も検討会でいろいろ検討をしていただいているところでございますが、そうした専門家の皆さん方の御意見も伺いながら、ひとつさらに精神医療の面における前進をさせていきたいというふうに思っております。
 もちろん、その中には人的な配置の問題もあるというふうに思っております。現在の看護婦さんの数にいたしましても、六対一ということでございますから、これは最近まではもっと悪かったわけでございますけれども、よくいたしましたけれども、現在そういうことになっている。果たしてこういう状況でいいのかどうかといったこともあるわけでございまして、現状に即して、医療の進歩に即してその内容を改善していかなければならないというふうに思っております。
 ことしの秋ごろには、検討していただいております結果も出るようでございますので、そうしたことも踏まえまして、一層、精神病院のあり方といったものにつきましても前進をさせたいと思っているところでございます。
植田委員 今お伺いした点、要するに、そもそも現行の基準にかかわっても当然検討の対象であるという認識をしてよろしゅうございますでしょうか。
坂口国務大臣 まさしくそこが論点でございまして、現状と、そして今後進んでいくであろう精神医療の中身とを見まして、そして適切であるかどうかの判断になるだろうというふうに思っております。
植田委員 今のが基準の話でございますわね。基準について見直していかなければならないというのが論点だということですが、現状においてその基準を下回っている施設がやはりかなり相当数あるということが指摘されているわけです。
 まず、そこで伺いますが、医師、看護婦、薬剤師、それぞれ精神医療についての基準があるわけですけれども、基準を下回っているような施設が大体それぞれどれぐらいのパーセンテージなのか。これは参考人の方でも結構ですけれども、お答えいただけますか。
高原政府参考人 平成十二年度におきます、医療法第二十五条に基づく立入検査について各都道府県等が実施した千二百の精神病院のうち、医療法におきます人員配置基準を満たしていたものが、医師数については七八・六%、九百四十三病院、看護師については九七・二%、千百六十六病院、薬剤師については八三・五%、千二病院であったと承知しております。
植田委員 私も、質問の中でその看護の部分にかかわってはかなり改善が見られるということは申し上げたかと思いますが、改善をしているといっても、医師が七八・六パーということは二割以上がその基準すら下回っているということでございますよね。とすれば、少なくとも、そもそもこの基準自体が論点となって今議論をなさっておられるわけですわね。だから、この基準を下回るような基準が出てくることは恐らくないだろうと思うわけですが、現に今あるその基準すら下回っているそれぞれの施設にかかわって、今立入検査とおっしゃいましたけれども、それぞれ具体的にどんな指導を行っておられるんでしょうか。
高原政府参考人 人員配置基準の遵守は、良質かつ適正な医療の提供のために重要な事項であると考えております。このため、都道府県等において、原則として毎年すべての病院に対し医療法に基づき立入検査を実施します。その際に人員配置基準の充足状況についても調査を行い、基準に達していない場合はその改善を指導してきたところであります。また、厚生労働省におきましても、都道府県に対する事務指導監査の際に、精神保健福祉法の指定基準を遵守していない病院については指定の更新を行わないようにするなど、指導の徹底を図っているところであります。
 人員配置基準自身の問題につきましては、ただいま大臣が御答弁申し上げたとおりでございます。
植田委員 いずれにいたしましても、まず基準そのものが見直されなければならない一つの論議の対象になっており、そしてまた、その基準を満たしていないところがこれぐらいのパーセンテージだったら、毎年指導を行っているということでございますから、その意味で、まず精神医療の現場において満たされていないところがありますよということだろうと思います。満たされていないというところが大切だと私は思うんです。
 そこで、私、この辺、特に医療のところは門外漢なので、ここは専門の大臣の方にもお伺いしたいわけですが、調べましたら、精神障害者の入院患者のベッド数が大体三十五万人分あるそうですね。そして、そのうち半数以上の十七万八千人分が二十四時間隔離病棟、それで、ここは出入りも施錠されておりますし、閉鎖されておる。そこに約十五万の人が五年以上にわたって隔離されておるというようなことも聞くわけです。
 今度は、治療のあり方、医療のあり方ですけれども、まず、当然ながら患者一人につきの医師なり看護や薬剤の数は、それはそれなりに基準を満たした上で、なおかつもう一回検討を加えていかなければならないけれども、こういう言い方をするとどぎついですけれども、強制隔離政策を低劣な医療によって維持をしていくということは、決して現在の日本の精神医療において正しいあり方であるとは思いません。その意味で、低劣な医療、これを今回は医師の頭数だけで象徴させましたが、じゃ、こうした隔離病棟、強制隔離政策、そうしたものについては今後どういうふうにお考えなんでしょうか。
坂口国務大臣 これもこれからの精神医療の進捗状況によるというふうに思いますが、まず最初に、現在治療を受けなければならない人というのはどのぐらいになっているのか、これは、年々歳々、最近ふえてきているというふうに言われております。
 そして、その中で本当に入院をしなければならない人がどれぐらいな割合で、外来の通院治療をお受けになる方がどれぐらいでいいのかということの見定め、そして、現在おみえになります精神科の先生の数、あるいは看護婦さんの場合には他の科も共通でいきますけれども、先生の場合には、なかなかほかの科の先生にこちらにコンバートしてもらうというわけにはいきません。したがいまして、医師等の数の問題等も考えていかなければならない。
 今後の問題として、この精神科の先生が非常に少ないということであれば、やはり精神科の先生がもう少しふえていくような対策を講じなければならないし、まず、基本的な問題としてはその辺のところも考えていかなければならない。
 そして、精神科の薬剤等におきましても非常に優秀な薬剤が出てまいりまして、今までとは違った内容になってきております。したがって、今までならば入院をしあるいは隔離をしというようなことが必要であった皆さん方の中にも通院で可能といったような方も出てまいりますし、そうした医療の進み方等もあわせながら検討をして、今後のこの対策と申しますか、計画というものを立てていかなければならないというふうに思っている次第でございます。
植田委員 だから、私が申し上げている課題については当然課題の一つとして否定なさらないわけですが、幾つもそうして検討しなければならない課題を設定され、御答弁をされればされるほど、そうしたものの整備がまだ途上にある中で何でこういう政府案が出てくるんだろうという疑問がますますますます深まっていくわけなんですよね。要するに、精神医療の実態の改善こそがまず先決であるにもかかわらずかかる法案が出てくることへの疑問は、今のお話を伺いながら、むしろ私は非常に深く受けとめるわけです。
 といいますのは、厚生労働大臣、実際治療を受けながら、精神障害が原因でもしくは精神障害を持った方で犯罪行為をするという人がいらっしゃったとしましょう。そうなれば、やはりこれは医療環境に何か問題があったのではないか、まずそこが問題だったというふうに考えるのがごく自然だろうと思うんですよね。その点、別に間違ってませんよね。どうでしょう。
坂口国務大臣 これは病状とそして診療というものとのかかわりでございますが、先生が御指摘のように、一般的に申し上げれば、精神科医療の全般的なレベルアップというのは、これは当然のことながら必要だというふうに私は思っております。
 さはさりながら、そういうレベルアップをいたします中で不幸にして重大な犯罪を犯すような人が出てまいりましたときに、そしてその人が繰り返す可能性があるというふうに思われましたときに、その皆さん方をどのような形で一日も早く健全に、そして社会に帰っていただけるようにするかといったことを考えていかなければならない。それは、その患者さんの問題でありますと同時に、社会全体に及ぼす影響もあるわけでございますから、そこをやはり我々としては考えていかなければならないというふうに思っております。
 最初に御指摘になりましたように、もし仮にその皆さん方を放置、放置という言葉はよくありませんけれども、特別にその皆さん方に手を差し伸べるということをしなかった場合、そういうことになってもし仮に重大な犯罪が繰り返されるということになりますと、これは精神患者の皆さん方全体にも大変な御迷惑をかけることになるわけでございますし、そうしたこともやはり考えていかなければならないと思っている次第でございます。
植田委員 大臣、おっしゃる話は、もちろん、一般論としてそういう問題意識をお持ちであるということについては私は決して反論するつもりもありませんし、それはそのとおりだろうと思うわけです。しかし、そもそもかかる問題が議論される背景には、一般論の話じゃないわけですよね。個々の事例が、特に、例えば社会的に深刻な不安を呼び起こすようなそうした事例、事件が起こるときに必ずこうした世論が沸き上がるわけです。
 要するに、少なくとも私が申し上げたいのは、一般論として頑張らなきゃならないということはよくわかる、それは何も精神医療に限ったことではありませんから、医療全体そうですから。ただ、この種、個別の事案にかかわってそうしたことに対処できるような精神医療というものを確立していかなければならないということ、それについての努力が積み重ねられてきたのかどうなのかという点について、私は若干疑問を持つわけです。
 例えば、かつて佐賀でのバスジャックの事件の少年がいましたけれども、そこの入院していた病院ではほんまにどうやったんやという議論がいろいろ内からも外からもあったと聞いています。でも、そういうケースというのは意外と寡聞にして聞かないケースが、私が物を知らないだけかもしれませんが、例えば事件を起こしたとされる通院者であるとか退院者を治療しておった病院における治療の内容、処遇体制というものは、やはりそうした機会をとらえて見直していかなければならないと私は思います。実はそういうことを余り聞かないんですよね。
 だから、今最初に聞いた、精神障害が原因で犯罪行為を犯すという人がいるということであれば、やはり医療環境に何らかの問題があったんではないかと普通考える、それは否定なさらないと思うんです。ならば、そうした個別の事件が起こったときに、そうした人々が通院しておった、入院しておった病院等、その施設の医師数、看護婦数、治療内容、これは年に一回立入検査をやっているわけですから調べられるわけですけれども、問題点等をちゃんと緻密に精査したことはあるんでしょうか。やはりそれは一般的な調査では済まない場合も出てくるかもしれませんね。それで、治療内容に問題はなかったというふうに判断されるケースもあるかもしれませんが、そもそもそうした問題点というものを実際にお調べになったことはあるでしょうか。
坂口国務大臣 私の知る限りにおきましては、いわゆる病院の先生方の治療方針というものに立ち至って、そしてそれが適切であったかどうかということを調べたというケースはないというふうに思っております。
 したがいまして、これは医療全体の問題にもまた立ち至るわけでございますが、今、厚生労働省といたしましては、それぞれの病気についてのいわゆる基本的な考え方といったものを整理して、そしてさまざまな病気に対する治療のあり方の基本的な考え方というものを一つ一つまとめているわけでございます。大変な作業でございますが。
 しかし、現在のところ、それぞれの、例えば大学なら大学において、あるいは国立なら国立の病院、一般の病院なら一般の病院におきまして、先生方がおやりになっております治療方針、治療方法といったものについて、国の方が、それはこうすべきああすべきといったことを言ってはおりませんし、なかなかそこは言うべき範囲ではないというふうに思っている次第であります。むしろ、新しい世界の研究の成果でありますとか、あるいは流れといったようなものを御紹介申し上げていくといったことをやはり我々としてはやっていかないといけないのではないかというふうに思っております。
 例えば、病院によりましては、いわゆる開放治療を非常に進めておみえになるところがございます。開放治療は開放治療で非常にそれで効果をまた上げていただいているわけでございますが、しかし、開放治療におきましても、それでは問題点がないかといえば、一般社会の中におけるその人たちの存在の問題をどうするかといったことをあわせて検討をしていかなきゃならない、そういう問題点もあるのではないかというふうに思っております。
 少し話が長くなりましたけれども、結論的に申しますならば、病院の中の治療方針について、我々がそこにこうすべきだといったことを指摘したことはございません。
植田委員 治療の方針なり内容、それはそれぞれお医者さんが判断して、これが適切だと思われる治療をされるわけでしょうから、それについてくちばしを入れるというのもおかしな話ですわね。それはおっしゃるとおりですわね。
 しかし、果たしてそれが治療と言えるのかどうかという疑念を抱くようなケースはないのかどうか。果たしてそれが治療と言えるのかどうか。そうでなければ、そこで入院なりなさっていた方々が出てきてからいろいろな訴えをされることもないでしょうし、また、そこで患者が不審な死を遂げてそのことが問題になるということもないだろうと思うんです。むしろ、そういうことをまた未然に防いでいかなければならないと思うんですけれどもね。
 だから、治療の中身、こういう治療をしていますよということは、それは私だって、行ったって、一度や二度見たって専門家じゃないからわかりませんが、果たしてそうした治療としての水準を超えたものをやっているのかどうなのかというのは、やはり何らかの問題が起こったときにきちんと精査すべきなんじゃないでしょうか。後で問題が起こって、冒頭申し上げましたね、宇都宮病院の話もしましたよね、ああいうのも治療ですから治療内容については立ち至って我々は申し上げられませんというふうに言い切れるんでしょうか。
 だから、私が申し上げているのはそういうところなんですけれども、その辺教えていただけますか。
坂口国務大臣 先ほどバスジャックのお話を挙げられましたが、あの事件が起こりました後、恐らくその病院も含めてであるというふうに思いますが、精神科の先生方が集まられまして、そして今後の治療のあり方についていろいろと御検討になっているという話を聞いているところでございます。
 したがいまして、そうした問題が起こりましたときに、行政がそこに立ち入ってどうしろこうしろというようなことを言うのではなくて、やはり専門の先生方がいろいろと御検討をいただいて、そしてこういった問題を未然に防ぐためにはどういうふうなことが大事かというようなことをお話し合いをしていただくということが私は非常に大事ではないかというふうに思っております。
 そこには、行政の関与すべきものと、そして行政が関与してはならないやはり一線がある、やはり専門の先生方は専門の先生方として、その辺のところをいろいろ学会等で御議論をいただくというのが本来の筋ではないかというふうに思っている次第でございます。
植田委員 それは本来の筋でしょう。そういうことで学問、医学というのは進歩するんでしょうけれども、そのことは私は別に否定も何もしているわけではないんです。
 ただ、今申し上げた私の趣旨は御理解いただいていると思うわけです。要するに、医療の話ではない、医療と言えないような実態が実際訴えられている、そのことについての事実関係を把握する必要があるでしょうということを私は申し上げているんですよね。
 だから、今のその専門的な医学の話ではなくて、精神医療の話ではなくて、果たしてそれが医療と呼べるものなのかどうなのかということを検証しなければならないケースが余りに多過ぎたんじゃないですかということを申し上げたんです。そこはあえてしつこく繰り返しませんけれども。
 いずれにいたしましても、いわゆる精神に障害を持っておられる方のそもそもの犯罪の発生率は低いわけですよね。再犯率も決して一般の健常者と比べて高いとは言えません。このことも一応法務省の方に確認しようと思ったんですが、ちょっと時間がありませんのでもう質問はいたしませんが、少なくとも再犯率も犯罪発生率も精神障害を持った方々の発生率は低いというのははっきりしているわけでございます。少なくとも高いとは言えない。低い、だからほうっておいたらいいのかというふうにおっしゃるだろうと思うわけですが。
 これは厚生労働大臣の御見解を伺いますが、そうした精神に障害をお持ちの方が間々何らかの犯罪を犯すケースは、これは事実として存在するわけです。それを未然に防止するための大前提というものは、そもそも適切な医療が施されることであり、またそれが施される体制の整備が確立されること、その不断の努力がまずそもそもの大前提としてあるよということは確認できますね。
坂口国務大臣 そこは御指摘のとおりと私も思います。
 そして、入院をしておみえになります場合には、病院の管理下にありますから、かなり皆さん方の診療というものは順調に進むだろうというふうに思っておりますが、退院をされました後、そして、御家族があればいいですけれども、お一人でお住まいになるというようなケースもあるわけでございますから、退院をなさいました後、その患者さんが十分に、例えば薬をお飲みになっているかとか、あるいはまたスポーツあるいはまたお仕事等に対してどのように対応しておみえになるかといったようなことについて御相談に乗る、その皆さん方のパートナーになるような人が私は必要だというふうに思っております。
 それが地域の保健婦さんなのか、それとももっと違った形の人であるのか、それはいろいろあるだろうというふうに思いますが、そうした体制もつくり上げていかないといけない。病院内の、いわゆる病院の問題とそして地域社会における手の差し伸べ方、そうしたこともあわせて充実をさせていかなければならないと思っているところでございます。
植田委員 非常にいい話なんですよ。地域医療の充実ということも非常に大切なことですよね。実際に、社会に復帰をする、それをフォローしていく、またケアをしていく、そうした体制づくりも大切だ、やっていかなければならないと厚生労働大臣おっしゃるわけです。
 やっていかなければならないといみじくもおっしゃった。要するに、今私聞きましたですよね。こうした精神に障害を持った方々のそうした犯罪というものを仮に未然に防止するとするならば、医療の面での適切な医療の確保、またそうした体制の整備が大前提ですよねと私が聞いたら、それは否定なさらない。むしろ、積極的にさまざまな課題設定をされて、例えば地域医療の問題もそうですし、入院における治療もそうですし、そして社会復帰してからの治療も大切ですよと、いみじくもそうおっしゃっているんですよね。そうおっしゃるということは、現段階において、少なくとも、それらがまだ課題として設定されなければならない精神医療の現状があるということを厚生労働大臣はお認めになるわけですね。
坂口国務大臣 もちろん、先ほど申しましたように、この精神科領域の医療の進歩というものも非常に目覚ましいものがあるわけでありますし、それに対応いたしまして、やはり整備というものも進めていかなければなりません。しかし、それはなかなか一朝一夕でできることじゃありませんので、マンパワーも整えていかなければなりませんしいたしますから、そういうことを目指して努力をするという傍ら、その一方におきまして、今御審議をいただいておりますような問題も行っていかなければならないというふうに私は申し上げているわけであります。
 基礎的な問題は、これはやらなきゃならないとおっしゃる、そのとおり私もやらなきゃならないというふうに思いますが、そこを徐々に進歩させていけばすべてが解決するかといえば、そうでもない。そうしたところを埋め合わせていかなければならないわけでありますので、この法案の御審議をいただいているわけでございます。
植田委員 そこが違うんですけれどもね。
 それで、ちなみに、これは医療の話にはならないかもしれませんが、別に質問通告しておりませんが、今いろいろと厚生労働大臣がお話しなので、お伺いするわけです。
 実際、地域医療、例えば、地域社会でそうした人を受け入れて、社会生活を営む中で、復帰をしていただくケアをする、そういうフォローアップをする、その大前提になる啓発活動というものは必ずしもないわけです。むしろ戦前の方がそうしたことが行われていたようなケースを私は耳にします。
 しかし、この間、戦後五十有余年、いわば精神医療の実態そのものが、その現状自体が、まさに精神障害者に対する差別や偏見を助長するような意味内容を持っていたのではないかどうかということは、私は、これは検証しなければならないと思うのです。私も、読んだわけではございませんが、人から教えていただいて、そうした論文なんかを指摘されたこともありますけれども、そうした問題についてまず解決しなければならないんじゃないでしょうか。
 例えば、体制づくりは今おっしゃったようなところはあるけれども、今度は、その体制をつくっていくためのまた大前提というものをどういうふうにお考えでしょうか。
坂口国務大臣 非常に大きな問題で、日本の社会全体のあり方のお話に触れておみえになるというふうに思います。
 戦前の体制がよかったかといえば、これはこれでまた問題もあったわけでございますけれども、いわゆる向こう三軒両隣、一つの組織をつくって、そしてお互いに助け合っていくというようなことは行われていたわけでありますから、そうした中で、例えば、それがいかなる病気であれ、病気があればお互いに助け合っていくというようなよき慣習と申しますか、そうしたものがあったことは事実でありまして、そうしたところは、現代社会におきましては、隣は何をする人ぞというような感じになってきているということは、それは御指摘のとおりだろうというふうに思っております。それだけに、やはり全体で病気の皆さん方に対して手を差し伸べていく新しい組織が必要になってきているということを先ほどから申し上げているわけでございます。
 そうしたことも我々念頭に置きながら、ただ単に病院の中の問題だけではなくて、あるいは診療所の問題ではなくて、そうした患者さんが社会で生活をしていただくためにどうするか、仕事の問題をどうするか。精神障害者の皆さん方にも雇用の場を提供しようということで、一歩、今前進をさせているところでございますが、これはそうした問題とも結びついてくるわけでございますから、これを徐々に底上げをしていかなければならないというのは、御指摘のとおりと私も思っております。
植田委員 精神障害者問題に係る人権教育・啓発にかかわっての厚生労働省の取り組み等については、きょうは用意していませんから、また別途、次回お伺いしようと思っていたのですが、少なくとも、そんなに充実したことはされていないはずです。ここでは、そこの論争は避けます。
 ただ、用意した質問をほとんどできないで、法務大臣には本当に申しわけないのですが、今全部途上にあるとおっしゃるわけです。もちろん終着ではないでしょう、常に進歩していくものでしょうから。ただ、一方でそういう精神医療の改善というものを大前提としながら、それもやりますけれども、並行して、今回政府案を出してこれを審議していただいているんですと坂口さんはきれいにまとめておっしゃるんですが、今のお話を伺っていると、要するに、私自身の指摘については何一つ否定されないわけですよ、それも課題です、それもおっしゃるとおり課題ですと。むしろ、私が申し上げると、それについて、より専門家として詳しいお話の御披露があるわけですよね。
 ただ、それらが途上にある、まだ満たされていない、課題として設定はされているがこれからの議論でありますよというようなことであれば、例えば、今の精神医療の現状が差別意識や偏見を助長している側面はもちろん否定はされないわけですよね。否定はされない。それはできないでしょう。そんなことはありませんとは言えない実態があるわけです。そして、医療の、治療内容については私も専門家じゃありませんからわからない部分もありますが、治療と呼べるような対応が、さまざまなそうした精神病院、施設で行われているんだろうか。
 私は、先日、法務委員会の視察で武蔵病院に行ってきましたけれども、あれは全国的に見ても水準の高いところだろうと思いますから、あれが大体押しなべて日本の精神医療の水準ですというふうには私は到底思えないわけです。思えないような事実があるわけです。
 とすると、こういうことになってしまいませんか。今回出てきた法案の立法事実の前提には、現状の精神医療の貧困がある。そこをまず改善すれば、かかる法案を提出する立法事実なんというものは失われてしまうんじゃないでしょうか。そうは思わない。その辺、では教えていただけますか。
坂口国務大臣 これは限りなく前進をしていかなければならないわけでありますから、どこまで行ったらそれでいいというわけのものではありません。
 したがって、精神医療全体としての前進は進めてまいりますけれども、しかし一方において重大な犯罪を犯すような人たちが出てくるという事実も、これは消しがたいわけであります。この事実をこのままにしておきますと、そのことがまた全体として精神障害者の皆さん方の問題としてはね返ってくるということもあり得る。
 ですから、一度そうした重大な犯罪を犯したような皆さん方に対しましては、その人たちが、再びそういうことが起こらないようにきちんと治療も行い、そして社会的にも社会復帰ができるようにしていかなければならない。そうした犯罪の問題と治療の問題と両側面あるわけでございますから、そうしたこともあわせて、それを治療すると申しますか、その皆さん方を指導していくような場所というものが必要になってくる。そこを整備することがまた全体としての精神医療を大きく前進させる一歩になるというふうに私は思っている次第でございます。
植田委員 それは無限に結論、終着点がないわけですから、精神医療はこれからどんどん進展をしていくから、一方ではかかる政府案をやるということとは何ら矛盾しないとおっしゃるわけですが、僕がよくわからへんのは、坂口大臣がおっしゃる話でいけば、かなり、最初の大前提としての精神医療というものをこれからどう改善し、また改革していくのかというところの問題意識は持っておられるし、具体的な獲得目標も設定されている。とするならば、そういう問題意識に立ったときに、この今回の政府案をそこで必然化する条件は何一つ話されていないわけです。これでなくてもいいんじゃないのと。
 例えば、今の問題意識でいけば、きょうは横にお座りですけれども、民主党の案のように、措置入院をどういうふうに改善するか、充実させるかという具体的な手法があってもいいんじゃないかという意見も当然出てくるかと思うんですね。私は、民主党の案に賛成するとか反対するとかということじゃなくて、坂口厚生労働大臣のお持ちの問題意識から民主党が出されている案が出てきても余り不思議じゃないなと。民主党の提案者が、いや、そんなことはないとおっしゃるかもしれませんが、むしろ民主党の案の方が整合性持てるんと違うかなんてお思いにならないんですか。
坂口国務大臣 措置入院だけではうまくいかない。現在、措置入院をし、そして入院した皆さん方が間もなくまた社会にお帰りになる。それを今繰り返しているわけですね。その中で重大な問題等が出てくる可能性がありますから、そこを我々は指摘をしているわけでありまして、そこが委員と私の考え方の違うところといえば違うのかなというふうに思いながら先ほどから聞いていた次第でございます。
植田委員 時間が終わりましたので、実は、法務大臣に刑事司法の問題等々伺いたかったんですが、これは次回に回します。
 最後に、午前中の、たしか水島議員の質疑の中でも厚労省の部長がおっしゃっていましたけれども、そこまでおっしゃるんであれば、自傷他害のおそれと再犯のおそれというのの、他害と再犯のおそれの定義、どうなっているのか。重なるところもございますと、さっきもちょっと笑っていたんですが、まるで武力攻撃事態と周辺事態とどう定義づけ分けするんだというような議論とよく似た議論で何かごまかしておられたような気がしますけれども、では、今回の法案で網がかかる人たちの治療の方法がまた変わってくるんですか。変わらないでしょう。何か特別な治療方法があるんですか。ないでしょう。だから、そこはやはり、いわゆる医療の側からの認識として、定義づけはそれ以上はよう定義しはらへんのでしょう。あれだけでも今回の政府案を出す意味というか、立法事実がないということを、むしろ部長みずから論証されたと私は思いながら水島委員とのやりとりを聞いておったわけですよ。ここは、恐らく厚生労働大臣もそのやりとりを聞いておられましたでしょうが、少なくとも医療という切り口から今回の問題を考えておられるお立場として、矛盾は全然感じておられないんでしょうか。
坂口国務大臣 一般の患者さんの場合と違いますのは、既に、それは一回か二回かはわかりませんけれども、重大な事故を起こしたということが前提にしてあって、そして、それを繰り返させないために、やはりその人たちを本当に社会復帰をさせるためにどうするかというのが今回のねらいでありまして、それから、大前提になりますところが違うといえば大きな、実は最大の違いだというふうに思います。
 ですから、入院をされてからの治療方法につきましては、それはそんなに違わないんでしょう。しかし、それは医療の面からだけではなくて、いわゆる犯罪を犯したという側面からの、また、強制治療というものがやはり存在をする。ただ単に医療だけの話ではない、そこが違うということをやはり理解をいただかないと、これ全体に御理解をいただけないのではないかと私は思っております。
植田委員 時間が参りましたので終わりますが、今の答弁を引き取って、ここから先の話は、今度は法務省に聞いた方がいい話の方が多いだろうと思いますので、実はきょうもそれ聞くつもりだったんですが、それはちょっと時間の都合で、申しわけございませんでした。
 以上で終わります。
園田委員長 西村眞悟君。
西村委員 本日は全般的なことをお聞きいたしますが、民主党が案を出されておりますので、まず民主党の案について、若干の御答弁をいただきたいと存じます。
 民主党の案の趣旨説明、配られた資料ですが、「今回の池田小学校事件の犯人が、過去に軽微な犯罪行為を繰り返していたときに、きちんとした精神鑑定を受けていたならば、その時点で何らかの刑事処分がなされることによって、今回のような重大な犯罪は防ぎ得たでしょう。」というふうな趣旨説明の中の文章がございます。
 私もそういうふうな思いを持って、痛恨な思いを持ってあの事件を眺めている者の一人ですけれども、民主党は、本案を提出した以上、現状を放置してはだめなのだ、現状は早急に改善すべきである、このような前提でこの法務委員会に臨まれているということは、まず最初に確認してよろしいですか。
平岡議員 お答えします。
 今の御質問の趣旨が現状のどの部分を指しておられるのかということが明白ではなかったわけですけれども、先ほど引用されていた部分というのは鑑定の話でありましたけれども、我々としては、鑑定、特に起訴前の鑑定の部分……(西村委員「鑑定の話は聞いていない」と呼ぶ)いや、先ほど読まれたところに、「きちんとした精神鑑定を受けていたならば、」というところがちょっと引用されたので、鑑定の部分について言えば問題もあると思いますし……
西村委員 ちょっと済みません、私の質問の順序が悪かったようで。
 まず、対案を出された以上、この対案は、現状を放置してはいけないから出されたんだ、これは当然のことだと思って私は聞いたわけですね。
 次に、その対案が出される問題意識として、現行のいわゆる精神障害者の福祉に関する法律のどの時点で何らかの刑事処分がなされることによって今回の重大な犯罪は防ぎ得たのだろうかというのが私の疑問なんです。どういう刑事処分をしたらこの犯罪が防ぎ得ただろうと考えておられるのか、これを御答弁ください。
平岡議員 今の問題のとらえ方なんですけれども、どういう刑事処分が行われていたらどうなったであろうということを言っているのではなくて、我々としては、この池田小学校事件の被告人となっている人について言うと、過去に事件を起こした際にいろいろと精神鑑定ということで簡易の鑑定も行われているようでありますけれども、その結果として彼は不起訴になっているというふうなことがあって、それを通じて、彼は多分、自分は精神障害者ということで偽っていれば処罰をされないというような意識を持ったのではないか。そういうような点をきちっと精神鑑定をして、そして、彼が犯した犯罪に対応した刑事的な処分がされているならば、彼は、やはりこういうことをすればこういうことで処罰されるんだ、そういう遵法意識というものを呼び起こして、そして彼も犯罪に至ることはなかったのではないかということで、我々はこういう説明をさせていただいているということであります。
西村委員 彼は、不起訴になって措置入院されておるわけですね。今の答弁では、不起訴にせずに刑事処分を受けさせれば、重大な、今回の小学生を殺傷する、殺すということは防ぎ得たのであろうという前提ですか。
平岡議員 きちんとした精神鑑定が行われていればどうなったかということでいくと、これが本当に心神喪失者であるということであるならば、措置入院という形で本来的な医療行為が行われていたであろうし、きちっとした精神鑑定の中でこれが詐病であるということがわかったならば、それに対応する刑事的な手続が進められて、それにふさわしい刑事処分が行われていたであろう、そういうきちっとした流れの中でこの問題が処理されていたならばこうした事件には至らなかったであろうという考え方です。
西村委員 その刑事処分という意味はそういう意味であるのはよくわかりましたけれども、民主党は、今の御答弁の中でもあるように、治療では限界があるというふうな思いがされているんじゃないですか。
 治療は、急性症状は、例えばこの宅間も、寝れないとか、それから十日分の薬を一日で一遍に飲んだとか、いろいろなことを言っているわけですね。仮に夜間救急精神センターに来て彼が入院に至ったとしても、眠れないとかいう急性症状がおさまったときに、ちょっと待て、まだおれというふうに拘束はできないのが医療なんですな。
 彼は、親族と同居もしていなくて、そういう状況にあって犯行に至っていくわけですが、こうすれば防止できたという議論は、ある意味では、起こった犯罪を前にすれば、水かけ論になりがちなんですね。今も私は反論しなかったでしょう。なぜか。反論できない。お互いに反論できないことを言い合っていても仕方がない。防止するにはこうすればいいというふうなことは言われたけれども、既に起こったものにどう対処すればいいのかという問題は、防止するにはという以上に重大な問題で、我が国では既に起こっているわけですな。それで、私としては、期せずして、趣旨説明の中における「刑事処分がなされることによって、」云々の説明の仕方によって、民主党さんも措置入院だけではうまくいかないぞと。
 私が夜眠れない、十日眠れないんだと言ってくる、そして入院する同じ病院で、例えば、これは架空の前提ですが、八人の児童を理由なく殺した者と同様に治療として扱うのでうまくいくのか、社会はそれで納得できるのかというふうな重大な問題にいよいよ我々は突き当たってきたんだ、こういうふうに思うんですが、民主党さんは、全く純然たる治療の領域で、司法と医療の重なる領域にある本深刻な問題に対処し得ると真実思われているんですか。
水島議員 お答え申し上げたいと思いますけれども、そもそも、その人にどのような対処をするかということを考える上では、医学的に正確な診断、そして犯行時点での責任能力、そのあたりに対しての厳正なる鑑定が必要であると思っております。
 医療と刑事処分というものは、必ずしも、医療にさらに刑事処分を追加するとよいというような、そういう位置関係にあるものではなくて、純然たる、厳正たる診断に基づいて犯行時点において心神喪失状態にあったとされている人に対しては、これはきちんとした医療しか解決手段にはならないわけでありまして、医療にさらに刑事処分を追加するということがプラスの要素になるものではございません。
 私たちが申したいのは、司法と精神医療の連携の部分に問題があるのではないかということでございまして、本来は司法の世界で、刑法の世界で裁かれていくべき人が、そこの連携がきちんととれていないために、いいかげんな鑑定などによりまして医療の世界に紛れ込んできてしまっていることが問題なのではないかということを提起させていただいているわけでありまして、医療と刑事処分を合わせると相乗効果が得られるとか、そのようなことを申し上げたいわけでは全くございません。
西村委員 そういうことを聞いておるのでは全くないのです。それならこういうことを聞きましょうか。
 民主党は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の現行制度の改善という観点から、今突きつけられている深刻な問題に対処するんだ、一般法で対処するということですね。対象は、精神障害及びその疑いのある者一般となる。政府案は、触法行為を行った者と対象を限定しておるわけですね。
 この民主党の一般法の改正と、触法行為を行った者、まさに司法と医療の重なる分野で犯行に及んで、それが精神の障害に基づく心身喪失状態において起こったと。この二つの法案はどういう関係にあるんだろうか。一般法と特別法の関係にあるんだろうか。そうとするならば、民主党の案が仮にそのとおりだと、私もそのとおりだと思う部分は多い、通りましても、政府案を排斥するものではないだろう、両者は並立が可能である、こういう構造ではないかと私は思うんですが、そうではないんですか。民主党案が通ったら政府案は排斥されて亡きものにならなければ論理上成り立たないのですか。これを聞きます。
平岡議員 お答えいたします。
 論理的な面でいくと、今回の、政府が提出している新しい処遇法とそれから精神保健福祉法、両立しているということがまず現実としてあるわけですけれども、我々の案も、措置入院制度を改善するという意味においては、決して論理的に併存しない、併存たり得ないというものではないとは思いますけれども、ただ、我々は、こうした新しい制度の形でやる精神医療のあり方そのものが大きな問題があるというふうに考えておりますし、こうした政府の案ができることがいろいろこれからの精神医療のあり方に問題を起こすという意味において、新制度は成立すべきではないという考え方に立って今回の対案を提案しているということでございます。
西村委員 論理的に並立はできる、しかし現実、政治判断は並立させてはならぬのだということですな。
 そうするならば、民主党案の前提たる精神保健、精神障害者福祉に関する法律の要点、かなめである自傷他害のおそれは精神医学において認定可能だという前提に立っておられるわけですね。当然のことですが、確認のためお聞きします。
水島議員 我々の法案は、自傷他害のおそれの概念について改正をするものではございませんので、自傷他害のおそれの判断については従来どおりであると承知しております。
西村委員 次に政府案に行きますが、民主党案も大分理解できました。どういうふうに位置づけたらいいのかと私も迷っておりましたので。
 それで、政府案ですけれども、今話題になりました、長い法律で、精神保健福祉法と略しますが、精神保健福祉法を充実して、施設の充実、マンパワーの充実、さらに現行措置入院制度の充実強化、これでは不完全なのか。政府案を出された以上、不完全だという前提に立っておられる。
 そこで、触法心神喪失者の処遇に関して、現行精神保健福祉法をもっては、もしくはその改正では対処し切れないんだと、独自に本案を出さねばならないと思い至った理由は何かと法務大臣にお尋ねいたします。
森山国務大臣 精神保健福祉法による措置入院制度は、精神障害者一般を対象としております。この制度の対象者につきましても、同法による一般の精神医療の対象としてきたところでございます。
 しかし、このような心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、都道府県知事の判断にゆだねることなく、特に国の責任において手厚い専門的な医療を統一的に行う必要があると考えられますし、精神保健福祉法における措置入院制度とは異なって、裁判官と医師が共同して入院治療の要否、退院の可否等を判断する仕組みや、退院後の継続的な医療を確保するための仕組み等を整備することが必要であるというふうに考えられますことから、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する新たな処遇制度の整備が不可欠なものと考えまして、今回この法案を提案することにいたしたものでございます。
 もとより、精神保健・医療・福祉対策の一般の充実を図るということは極めて重要でございまして、この法律案に基づく制度を効果的に運用する上でも必要であるというふうに思います。
 また、このような施策は、精神障害者が孤立して、援助も受けられず不幸な事態に陥ることを未然に防止することにつながるものでもあると考えておりますが、この点について、この法律案と別に、その施策については厚生労働省において総合計画の策定を進められていると伺っております。
西村委員 今、法務大臣がもちろんということで御説明いただいた精神障害者一般に対する施策は、このために厚生労働大臣に御足労いただいているわけですが、やはり先ほどからのいわゆる問答の中でも、この増加する精神障害者に対する対処、ケア、その人員、設備は十分なのか否かということが重大な社会的問題になっておるわけで、要求される純然たる医療の現場での充実をいかに図られるか、これについて大臣の御答弁をお願いいたします。
坂口国務大臣 御指摘いただきましたように、この精神疾患による治療を受ける方の数というのはかなりふえてきておりまして、平成十一年度だけを見ましても、全国で二百四万人というふうに言われております。特に最近、また、中高年における躁うつ病等がふえてきているというようなこともあるというふうに聞いております。
 このような状況に対しまして、質の高い精神医療というものをどう維持していくかということは大きな課題でございまして、このレベルアップというものはもちろんやっていかなければならないというふうに思っております。
 先ほど西村先生御指摘になりましたように、マンパワーの充実も含めまして、これはやっていかなければならないというふうに思っておりますが、これを一方でやりながら、しかし、これをやっているからといって、この触法分野における犯罪がなくなるかといえば、そうではない。そこのところもやはり押さえておくということが大事ではないか、そんなふうに考えている次第でございます。
西村委員 すべての制度には、本来の趣旨、そして、社会状況の中でそれが機能する限界がございます。その限界を見きわめて、その限界の果てに大きな社会的問題として立法の不作為が生じているならば、それを埋めねばならないのが我々の任務であります。
 それで、今厚生労働大臣が言われたように、治療だけの、いわゆる従来の精神保健福祉法での限界の果てに、医療と司法と重なり合う領域があるわけですね。そこで重なり合う領域がございますから、ここで医学において共通の前提があるわけですね、両者を機能させるためには。
 先ほども民主党の先生方にお聞きしましたけれども、一般法としての精神保健福祉法は、措置入院の要件に自傷他害のおそれを規定しております。このおそれというのはどういうことかといえば、蓋然性、起こるべき蓋然性の予測なんだろうと思います。もちろん、この精神医学において特有なことではなくて、あらゆる医学において、この生活状況を続ければ数年の後に肝硬変が発症する確率は何%だとかいうことがあるわけですから、それと同様に、私は単純にそう思っているわけです。
 問題になっておりますのは、私がちょっと理解できないのは、自傷他害のおそれは、今の民主党の先生の御答弁でも、医学でできるんだと言いながら、この限定した例ですね、重大な犯罪行為を犯した精神に障害のある方が再び行うおそれ。つまり、蓋然性があるのかないのかの判定に関して、精神医学は同じようにできるんだと私は思い込んでおりますが、どうもできないんだと。この部分だけはできないんだというふうな声も私らの耳に入ります。そして、議論は堂々めぐりですね。
 したがって、ここで有権的な御答弁を厚生労働大臣と法務大臣にいただきたいんですが、これが概念のポイントです。これがあやふやなら、この法案は本当に用をなさない。一度重大な他害行為を犯した精神障害の方が再びそれを犯す蓋然性がある、おそれがある、これは精神医学で認定できるんですか、御答弁を。
坂口国務大臣 一度重大な問題を引き起こしました患者が再び起こす可能性があるかどうかということは、これはなかなか一概に言えないことだというふうには思いますけれども、しかし、その人が同じような環境に置かれ、同じ病気の程度になり、そして同じような治療状況の場に置かれましたときに、その人が再び起こる可能性というものは予測でき得るものと私は思っております。
 そうした意味で、一度重大な犯罪を犯しました人たちに対します問題というのは、特別な対応の仕方というのをひとつ考えていかなければならない。今先生が御指摘になりましたように、それがすべていわゆる精神医学的なもので起こっているものなのか、それとも、それだけではなくて、その人の本来持っている、あるいは生まれてからのそこで養われてきた性格的なものでありますとか内心的なものでありますとか、そうしたものとそこが重なり合って起こっているものであるかどうかといったようなことも議論の的になるんだろうというふうに思っておりますが、そこが重大な問題を起こした人たちの問題の非常に難しい点だというふうに私は理解をいたしております。
西村委員 実に難しい問題だと私も思います。
 しかしながら、バスジャック事件とかいろいろな事件を見ていますと、先ほど民主党の趣旨説明にもあったように、あの時点で何かをすれば防げたんだという曲がり角があるわけですね。ただ、これが精神障害の方だけを差別することであってはならない。健常な、患者でない人も、大臣さっき言われた、あの人の持っている癖、あの人のいろいろな生活環境から来て、ああいうしぐさをすればあの物をとるぞ、これは予測可能なんですね。
 私は司法修習生のときに、警察官と一緒にすりの現行犯逮捕をやってやろうと思って、あれはとるぞと言えば、必ずとりましたですな。そういうことで、人間というのは案外予測可能かもわかりません。ただ、私は精神科医ではありませんからそれ以上のことは言えませんが、これがこの法律の極めて重大な部分であるし、本当に注意して運用しなければならない部分であるということは十分わかって、これから聞いていきます。
 精神保健福祉法との関係について、ずっと本法案について聞いていきますけれども、精神保健福祉法二十九条の知事の措置入院、これは効力がありますね、措置入院をさせると。それから、本法案四十二条の裁判所の入院させる旨の決定、これは法的効力においてどうなんだろうか。同じか。脱出防止に異なる体制で臨むのか。本法案における入院させる旨の決定の入院病棟というものは、精神保健福祉法による措置入院もしくは一般の入院患者の病棟と異なるものにするのかということですね。これはどうなんでしょうか。
    〔委員長退席、山本(有)委員長代理着席〕
古田政府参考人 この法律案に基づきます入院も、それから精神保健福祉法二十九条の規定に基づく措置入院も、処分を受けた者の意思に反して入院をさせることができ、無断で病院から退去することを許さない、そういう意味では、これは法的効果としては共通といいますか、同じでございます。
 ただ、この法律案に基づく制度の場合には、措置入院制度では認められていない無断退去者に対する連れ戻しが規定されている、その点が法的効果としては違う点がございます。
 実際に入院中の者の無断退去を防止するための措置ということは、この制度のもとで治療を行う必要性が高い、そういう対象者の特性にかんがみて、入院を担当する医療機関におきまして、継続的な入院医療を確保するという観点からそれにふさわしい体制をとられるものと考えておりますけれども、これは病院内での処遇の問題ですので、厚生当局の方から御説明をと考えております。
高原政府参考人 ただいま御提案申し上げております法案におきまして、病棟の構造、設備、それから広さ、どういう人員を配置するのか、どういう基準で医療を行うのか、これらは今後詰めていき、厚生労働大臣の告示として明らかにする予定でございますが、諸外国の動向並びに実績、そういったものを見据えて、効果があると言われているものを取り入れて積極的に推進してまいりたい、そのように考えております。
西村委員 先ほどの民主党との私のやりとりの中でも、宅間に関しては措置入院の中で鑑定等々をやればよかったと、悔やまれることがあるわけですね、あのバスジャック事件の少年もそうですが。
 今回の、本法四十二条に言う入院させる旨の決定では、退院させるかどうかは裁判所が関与しておりますから、措置入院よりも社会防衛的な観点、再犯防止の観点が重視され、その観点からの退院の抑制というものは措置入院よりも強く出てくるわけでしょうか。
古田政府参考人 まず、前提の問題として、個々の対象になる人は、これは重大な犯罪行為をした人ということになるわけでございます。したがいまして、その処遇につきましては、社会の関心も高い場合が非常に多く、それにふさわしい慎重な手続で決定するということが必要であると考えているわけでございます。したがいまして、退院の判断もやはりそういう慎重な処遇の決定の手続の中で行うことが適切ということで、御提案しているような仕組みにしたわけでございまして、基本は、こういう方たちにとって必要な医療の継続、これを確保するということが大前提、基本でございまして、そのことがもちろんながら病気によって起こる再度の問題行動の防止にも当然役立つということは事実でございますので、そういう意味で、間接的に当然社会の安全にも資するということになるわけでございます。
    〔山本(有)委員長代理退席、委員長着席〕
西村委員 重大な他害行為が現にあったというふうなことから、司法が関与せざるを得ないわけですね。
 こういう問題の初動がどこから始まっていくかといえば、警察が駆けつけて犯人を逮捕する、そして、警察の拘置所に入れる、そこで言動がおかしいということから、これはどういう精神状態かというふうな司法のプロセスがずっと進んでいく中で医療が介入してくるというふうなことですね、現実的には。今の、いわゆる入院させる旨の決定、そしてこれによって入院するというのは、結局は裁判所の事実の認定、重大な他害行為という事実の認定に基づいた社会防衛措置である。しかし、この社会防衛措置の中身は、治療そのものである。あたかも、重大な他害行為が心神喪失でない者によって行われれば自由刑が言い渡される、しかしその自由刑の中身は、いわゆる特別予防、一般予防、つまり被告人、受刑者の改善更生そのものであるというのとパラレルに考えて、私はそう解釈をしておるんです。
 再び言いますが、事実の認定に基づいてなされる入院させる旨の裁判所の決定は社会防衛措置であるが、その中身は患者の治療そのものである、こういうふうに解釈してよろしいんでしょうかな。ちょっと、その点、私も確認させてください。
古田政府参考人 この法案の考え方は、先ほども申し上げましたように、重大な犯罪行為をした者で心神喪失あるいは心神耗弱の状態で不起訴または無罪になった者、こういう人たちにつきまして、その特性に応じた処遇を、やはり社会的関心にもこたえる面から慎重かつきちっとした手続ですることが必要であるということでございます。
 それで、このことは直ちに社会防衛ということであるわけではなくて、そういうふうに社会的に重大な関心を呼ぶような、あるいは持たざるを得ないようなことがしばしば起こる行為に出た方たちをどのようにしてその処遇を決めるのが一番世の中として納得ができるかという問題が中心にあるということでございます。
 それで、その場合に、心神喪失あるいは心神耗弱になったその原因である精神障害、これが引き続きあって、これにやはりきちっとした治療を継続的に確保しないと同様の問題行動を起こす可能性がある、そういう蓋然性があるという場合に国が治療を確保してそういうことが起きないようにする、そのことによって本人の社会復帰を促進するということでございまして、その治療はいわば刑にかわるものとかそういうものではございません。要するに、対象者の特性に応じて必要な措置をきちっととるということが眼目でございます。
西村委員 そうですね。私も精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第一条の目的と本法案第一条の目的を読み比べてみましたが、やはり治療による再発防止という目的を達成することによって社会を防衛する、つまり、不安をなくすということがこの法案の目的であろうと私は解釈しております。
 次に、少々細かいんですが、一般法の精神保健福祉法の措置入院の要件には、自傷のおそれがある。この法案には、自傷のおそれだけでは入院させる旨の決定は下せない、したがって、四十二条に言うこの法律における医療を行わない旨の決定があるんだと思いますね。これがこの法案における判断である。
 しかし、一般法がある。一般法は、ほっておけば彼はどっかで飛び込んで死ぬかもわからないというふうな自傷のおそれがある者に対しては、措置入院の要件で彼みずからを保護しようとしている、彼及び彼女を保護しようとしているということなのであります。
 四十二条におけるこの法律における医療を行わない旨の決定があったときも、知事に措置入院を通報することは本法であり得るのか。これは先ほども、冒頭聞きましたように、本法と一般法は並立し、お互いに助け合う関係にあるのかということを示していることかもわかりませんので、確認のためお伺いいたします。
古田政府参考人 この法案におきましては、この法案による制度のもとでの処遇の対象となりますものは、やはり一定の重大な問題行動に出るおそれが認められるという場合に限っておりますので、それ以外の場合、つまり、自傷のみのおそれ、あるいはこの法律で予定しておりますような重大な問題行動以外の問題行動、他人を害する行為、そういうおそれしか認められないという場合が仮にあるとすれば、それは、御指摘のとおり、精神保健福祉法の措置入院制度によって対応をすることを予定しております。
西村委員 やはりこういう分野では一般法と特別法の関係にあるんだということなんだと思います。
 次に、事実認定のことをお聞きしますが、この事実認定は司法と医療の領域における司法の重要な任務だと私は思うんですね。
 法務省と厚生労働省合同検討会議録の中にも、一人の患者さんが、そもそも精神障害者と一般の人を区別するのはおかしいんだ、精神障害者の場合は不起訴にして多くは裁判を行わないと。「裁判を行わない限り事実関係が一切合財やみの中に葬られてきてしまいます。それが今までの日本における精神障害者の起こした事件の大半です。そういうことがあるがゆえに、逆に精神障害者に対する誤解や偏見というものが増長されてきたと私は考えております。」池田小学校の例も挙げられて、「精神障害者を一般国民と区別するという考え方は基本的には私は間違いだと思います」というふうに言われるわけですね。
 私もこの方と同感なんです。やはり事実関係は、重大な犯罪、触法行為があった以上、明確にしなければならない。
 例えば、人間社会一般というのは、事実関係がわからず八人もの子供たちが亡くなったということについて一番恐れるわけですね。交通事故で毎年我々の社会では一万人以上死んでいるんです。後世の人間から見たらいかに残酷な社会であるかと判断されるかもわかりません。我々は交通事故一件一件で驚愕してうろうろはしておりません。事実関係がわかっているからですね。そしてそれは社会の許された危険として受け入れざるを得ないというふうなことなんですね。
 本件でも事実を明確にするということは非常に大切なことで、この点について精神障害者と一般人を区別してはならないという精神障害者の方の声が現実に合同検討会で上がっているという前提を踏まえて、本法における事実の認定はいかに確保されているのか、概略についてお伺いしたいと思います。
 その中で、三十一条で、審判期日の審判を非公開としている。そして、刑事訴訟法が準用される事実の取り調べにおいて、処遇事件の性質に反しない限り刑事訴訟法は準用されると規定されておりますが、反対から読めば、準用されない場合はどういうことかということはお聞きしておきたい。
 それからさらに、事実の取り調べにおいて検察官、付添人が当事者として争う構造になっておるのかということについて御答弁を概略いただきますようにお願いします。
古田政府参考人 この制度の審判はその目的が適切な処遇を決定するということにあるもので、事実の認定そのものを直接の目的とするものではございません。しかしながら、対象者であるということについてはこれは当然明確にならなければならないわけでございまして、その意味でどのような犯罪行為があったのかということは明らかにされるわけでございます。
 なおかつ、その場合に、申し立てを受けた方から、事実が違うというふうな例えば申し出等がございますれば、裁判所としてはそれについて必要な範囲で事実の確認をしなければならないということになるわけでございまして、そういう意味で、審判の対象者であるということを確定するという意味合いからではございますけれども、事実いかなる行為があったのかということを明らかにする仕組みになっているわけでございます。
 その中でどういうふうにしてそれを明らかにしていくかということになりますと、これは検察官の方が申し立てるわけでございますので、検察官から資料などの提出というのを義務づけておりますし、また一方、審判を申し立てられた側からは、これは付添人が必ずつく仕組みにしていて、それによってそういう問題についてのいわば権利保護、こういうものが可能になるようにしているとともに、資料の提出、これは例えば証拠調べの申し出みたいなものも当然含むわけですけれども、そういうようなことは一般的に可能にして、それによって裁判所において適切な事実の確認ができるような仕組みを考えているわけでございます。
 それで、次に、この審判を非公開としているという理由でございますけれども、これは、特に精神の障害に関する審判を行うわけでございますので、場合によっては、遺伝的負因の問題でありますとか、非常に多くの家族の方のプライバシー、そういうようなものにも影響をする場合が当然予想されるわけでございます。そういう点から、無差別に一般的に公開するというのはやはり非常に問題があるであろうと考えた次第でございます。
 ただ、被害者の方あるいはその遺族の方、こういう方々からすれば、やはりできるだけ透明な手続で判断してもらいたいという御要望もあることも十分理解できますので、そういう方々については、審判の傍聴、これも一定限度でしていただけるようにしているわけでございます。
 それから最後に、事実の確認の手続を当事者主義的にするのかどうかということですが、これは、審判の目的が処遇の決定ということで、しかも医療を確保するということですから、迅速かつ柔軟に行わなければならない。そういう意味で、当事者主義的な構造をとることは審判の目的からして大きな支障を生ずるという問題が起きますので、裁判所の職権で事実確認の手続を進めていくということにしておりますが、検察官あるいは申し立てを受けた者側からの資料の提出その他の必要な措置は十分行われるようにしてあるものでございます。
西村委員 ありがとうございます。
 次に、本法は医療と司法の重なり合う領域で、医療の分野は、犯罪が成立するのか、それとも触法なのかという重大な司法の判断に不可欠に影響を及ぼす、こういうことですね。
 そこで、私の経験に基づいてお聞きするわけですが、医療と司法の領域である以上、緊急の治療の必要がある場合に、すべての司法手続に治療が優先して保障されているということが条文上保障されておるのか、それともそれは運用に任すのかということであります。
 これは、例えば心臓病の非常に激しい被告人であった、直ちに治療をしなければならない、一般の刑事訴訟にも起こることでありますけれども、それは万人がわかるのですね。これはほっといたら死ぬというのが血を流しておったらわかるわけですが、私は、幼稚園のお子さんと乳飲み子を二人とも刺し殺してしまった若いお母さんの弁護を緊急に引き受けたことがありますが、例によって、逮捕して警察の拘置所にいるわけですね。そして、私にわかるのは一日後です。見にいけば、素人の私でも、体が揺れておって、目がうつろである、これをこういう施設に入れておけばどうなるかということで、検察官に通報して、彼が直ちに反応してくれたので、治療という方向に行きました。
 こういう、まさに重なる領域においては、それが制度的にできるような体制、つまり法条文上配慮がなされておってしかるべきだなと思うのですが、この点について本法案はいかに配慮しているか。運用で配慮するのか、条文上こうなっていますと配慮するのかということをお聞きします。
 裁判官による鑑定入院命令とか、今、処遇の決定としての鑑定を延々と二カ月も三カ月も続けておって、肝心の治療というものがそこで切断されておる。そして、決定を出して治療しますといっても既に手おくれというふうな患者を対象にする本法ですから、その点については特にどういう配慮がなされているか、御答弁をいただきます。
古田政府参考人 ただいまのお尋ねにお答えする前に、先ほどの御質問に一点お答えをし忘れた点がございました。
 事実の取り調べにおきまして、「処遇事件の性質に反しない限り、」ということで、例えばどういう条文が適用されないことになるのか。最も典型的には鑑定留置、これは鑑定のために入院させているわけでございますので、こういうようなものは当然排斥される。典型的にはそういうものがございます。
 それから、ただいまのお尋ねでございますけれども、まず、鑑定のために入院ということでございますから、鑑定に必要なために治療が必要な場合というのは当然あるわけでございまして、その範囲の治療を行うということは当然のこととなると思います。
 それに加えまして、例えば、非常に緊急に治療が必要な状態にある、これは通常治療を加えないと恐らく鑑定もできないことになるとは思いますが、そういうときに、通常の精神医療で許された限度で、つまり本人の同意なしでできるという意味で許された限度で、必要な治療はできると考えております。
 また、もちろん本人が同意しているときとか保護者が同意しているときは、それに基づく治療は可能である、そういうふうに考えております。
西村委員 現実的には、こういう事件が認知されるのは、先ほど言いました、警察が行って現場を見て現行犯逮捕する、身柄は拘束されている状態で起こりますから、これも治療の一般法との共同関係がここでも生じるのかなという感じが私もいたしておりますが、運用でいえば、こういうことは本法においてはいつも起こり得ることだということで、特別の配慮をなされるべきであろう、このように思います。
 時間が来ましたので終わります。ありがとうございました。
園田委員長 木島日出夫君。
木島委員 日本共産党の木島日出夫です。
 本日は、最初の質問でありますので、政府提出法案、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案について、制度の枝葉の部分ではなくて、制度の根幹にかかわる部分についてお聞きをしたいと思いますので、原則として法務大臣、厚生労働大臣から答弁をいただきたいと思います。民主党提案の法案については、きょうは質問いたしませんので、お下がりいただいて結構でございます。
 他害行為を行ったが、心神喪失あるいは心神耗弱により刑法第三十九条の責任能力を認めることができなかった者の処遇につきましては、法務省はかつて、一九七四年、昭和四十九年、法制審議会において決定されました刑法改正草案において、保安処分として治療処分、禁絶処分また療養看護等の創設を画そうとしたことがありました。しかし、それに対しては、国民各界各層の皆さんから、これは精神障害者に対する差別、人権侵害ではないかとの厳しい批判が上がりまして、法務省もこれを断念したという歴史があるわけであります。
 今回政府は、装いを新たにいたしまして、今回の法案を提出してきたものでありますが、まず、法務省はかつてのこの経験をどのように総括しているのか、御答弁を願います。
    〔委員長退席、山本(有)委員長代理着席〕
森山国務大臣 先生御指摘の、法案を一、二度出しましたということは、私も承知しておりますが、かなり前のことで、私自身では全く詳しいことは承知しておりません。しかし、おっしゃいますような問題点、あるいはそのような懸念があって結果的には断念をしたという話も聞いております。
 それらの経験を踏まえまして、このたびは、特に、そのような該当者が早く回復し社会復帰をするという最終的な目的を明らかにいたしまして、そして、そのためにどのような措置が必要であるかということがわかりやすくなりますようにというふうに考えまして、今回の法案を御提案させていただいているわけでございます。
 平成十一年でしたか、精神保健福祉法でございますか、その審議がございましたときに、改めて今後さらに検討をするようにという附帯決議をいただいておりますし、厚生労働省と法務省が協力して検討を具体化しつつありましたところでございましたので、このたびは、そのような問題で無用な誤解を招いたり、必要以上の心配をおかけすることがないようにということを十分心がけてつくったものでございます。
木島委員 一九七四年当時、私は弁護士をしておりましたが、大臣は法務大臣ではありませんので、次の質問は法務省の刑事局長で結構であります。
 今回の法案と、かつて一九七四年に刑法改正草案の中に盛り込まれたいわゆる保安処分とはどこがどう違うのか、基本的な点について明らかにしてください。
古田政府参考人 ただいまお尋ねの刑法改正の過程でのいわゆる保安処分制度との大きな違いを申し上げますと、いわゆる保安処分制度におきましては、刑事手続の一環として、刑事事件の審理を行った裁判所が刑事訴訟手続によりまして刑事処分として決めるという仕組みになっていたものでございます。要するに、過去のいわゆる保安処分はあくまで刑事裁判の一つの類型ということでございます。
 次に、当時の保安処分制度といたしましては、収容施設をどうするかということが一つの大きな問題でございまして、これにつきましては、法務省において設置する施設に収容するということで検討がされていたものでございます。
 以上が当時の保安処分でございますけれども、今回の御提案は、この処遇の決定を刑事手続と切り離しまして、刑事手続が終わった後に、あくまでその対象者の精神障害の状況等に応じてどういう処遇をするのが最も適切かという観点から、別な裁判所が判断をする。
 その裁判所も、裁判官だけによる裁判体ではなくて、医療関係、医療の観点からのいろいろな見方も十分反映できるように精神科の医者との合議体にし、さらに、必要に応じて精神保健福祉士などの方の御意見も聞くようにする。医療関係の観点も十分反映できる仕組みによって判定することとしている。そういう意味で、同じ裁判所の判断にいたしましても、裁判体の手続が全く異なっている。
 それからさらに、先ほど申し上げました入院につきましては、これは、厚生労働大臣が所管するあるいは指定する病院へ入院をするということで、法務省で設置するものではない。
 この辺が基本的に仕組みの上で大きな違いとなっております。
    〔山本(有)委員長代理退席、委員長着席〕
木島委員 自傷他害のおそれのある精神障害者に対しては、現行精神保健及び精神障害者福祉に関する法律、略してこれから私は精神保健法と言いますが、この中に措置入院の仕組みがあります。
 今回、新たな法律をつくり、処遇の要否の決定及び内容について新しい制度を創設しようとするものは、この現行措置制度の一部分について特別の制度のもとに置こうというものであります。現行の精神保健法の普遍的、一般的な措置入院の枠組みから、重大な犯罪に該当する行為を行った者についてのみ特別な枠組みを創設する理由、目的はどこにあるのか。これは、厚生労働大臣、法務大臣、両者からお聞きをしたいと思います。
森山国務大臣 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、国の責任において必要な医療を確保し、不幸な事態を繰り返さないようにして、その社会復帰を図ることが重要でございます。
 そして、そのためには、精神保健福祉法による措置入院制度とは異なりまして、十分な資料に基づいて、対象者の権利保障にも配慮しつつ、裁判官と医師とが共同して入院の要否、退院の可否等を判断いたしまして、必要な者には手厚い専門的な医療を行い、さらに退院後の継続的な医療を確保するための仕組み等を整備することが必要であると考えられましたことから、この法律案を御提案したものでございます。
坂口国務大臣 法務大臣のお述べになったとおりでございますが、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行いました者につきまして、必要な医療を確保し、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の再発の防止を図る、本人の社会復帰を図る、このことが重要であると考えております。
 このため、今回の法案におきましては、広く精神障害者一般をその対象とするものではなく、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者のみを対象としております。
 人身の自由の制約や干渉を伴うことから、医師と裁判官によりまして構成される裁判所の合議体が決定する仕組みを整備した上で、国が責任を持って専門的な医療を行いますとともに、退院後の医療の中断が起きないように、継続的な医療を確保するための保護観察所によりますところの観察、指導の制度を整備することとしておるものでございます。
木島委員 答弁がありました。
 今回、措置入院の制度の枠組みの中から、その一部について特別の仕組みを創設しようとした主な目的、キーワードで言いますと、国の責任、あるいは十分な治療、あるいは手厚い専門的な医療、あるいは医療の継続性の確保などが答弁の中にあったかと思います。
 言葉をかえますと、大変失礼ながら、これは現行措置入院の仕組みが一定程度機能していないということを政府みずからが認めたものだと私は受けとめます。現状もそうだと私も思います。攻撃、批判するという意味ではありません。現状、そうだ。本来、手厚い専門的な医療は、すべての自傷他害のおそれのある精神障害者のために必要なものではないのでしょうか。現在の精神医療の現状ではそれができていない。
 厚生労働大臣は、現行精神医療制度のどこにどのような問題があると認識しているのか、お聞きをしたい。大きく二つあるのです。措置入院における精神医療制度と、措置入院に関係なく、一般、もっと広い日本の精神医療制度全体の問題もあるわけです。二つの側面があるということを念頭に置いて、どこにどのような問題があるのか、厚生労働大臣の基本的な認識をお聞きしたいと思うんです。
坂口国務大臣 特に、現行の措置入院制度につきましては、都道府県ごとの制度の運用方法でありますとか精神保健指定医によります措置入院の要否の判断にばらつきが見られますこと、それから措置入院者を受け入れる指定病院の中に人員、体制等が不十分な病院がありますこと、退院後のフォローアップにつきまして、医療機関による受診指導、保健所による訪問指導等のみでは対応困難なケースがありますこと等が現在問題になっております大きな問題点だというふうに思っております。率直に十分でないということを認めなければならないというふうに思っております。
 このため、今回の制度の創設と並行いたしまして、措置入院制度全般につきましても現在調査を進めているところでございまして、その結果を踏まえまして、必要な改善策を講じていきたいというふうに思っております。
 それからもう一つ、全般的な問題につきましてのお話もあったわけでございますが、我が国の精神保健それから医療、これは福祉にも広がりを持つというふうに思いますが、精神病のベッド数が諸外国に比べて多いのは多いんですが、特に長期入院者の占める割合が高いといった問題点がございます。それから、精神病床の機能分化が十分に進んでいないという点もございます。入院患者の社会復帰でありますとか、地域におきます生活を支援するための施設やサービスがまだ十分に整っていないという点もございます。これは先ほどの措置入院のところと同じでございますが、それに、国民の精神疾患や精神障害者に対する正しい理解がまだ十分とは言えない、こうした問題点があろうかというふうに思っているところでございます。
木島委員 二つの側面について御答弁をいただきました。特に後者の、措置入院ではなくて一般的な我が国の精神医療制度の問題点、厚生労働大臣、かなりえぐり出した答弁だと思います。
 確かに、専門家筋から私も聞いております。入院が多過ぎる。資料によりますと、現在三十四万九千床のベッドがある。特に問題なのは、我が国の場合に、入院患者の平均在院日数が長過ぎるという問題だと指摘されております。先日厚生労働省からいただいた資料を見ますと、入院期間別在院患者割合、細かい数字ははしょりますが、五年ないし十年が一四・三%、十年から二十年が一四・四%、二十年以上が一五・二%。五年以上を足しますと四五%という驚くべき長期入院になっているわけであります。これが、本当に必要な医療が人権にも配慮してきちっとなされていれば問題はないんでしょうが、そうはなっていない。したがって、この長期入院がいわゆる監獄にほうり込まれたと同じような状況になっているとすれば、それは人権上問題だという点も指摘されておるわけです。
 特に、私はその指摘に加えて、今入院患者の中心が精神分裂症であります。精神分裂症の基本的な特徴が、人間関係がうまくつくれない、社会関係がうまくつくれない、そこにある。そうしますと、これの本当の意味での治療をやって、人間関係、社会関係をつくるためには、こんな十年も二十年も病院に閉じ込めたんでは社会復帰ができるはずがない。それで、今、全世界の精神医療の大きな趨勢は、病院に閉じ込めるんではなくて、いわゆる地域に出して、地域の皆さんと一緒になって、本当に大変な作業でありますが、人間関係、社会関係ができるような医療こそが志向されているんじゃないんでしょうか。そこに日本の精神医療の根本問題があると多くの皆さんから指摘されているわけで、私もそうだと思うんですが、厚生労働大臣にはそういう認識はございますでしょうか。
坂口国務大臣 大筋におきまして、今御主張になりましたことに私も反対はいたしません、賛成でございます。
木島委員 そこで、実はおくれている我が国の精神医療、保健、福祉を抜本的に拡充することが今我が国においても緊急に必要だ。そのような立場、観点から、私ども日本共産党は去る五月三十日に見解と提案を発表いたしました。
 「重大な罪を犯した精神障害者の処遇の問題で、国民が納得できる道理ある制度を」と題する文書であります。委員の皆さんには委員長のお許しをいただきまして配付させていただきました。その「日本共産党の具体的提案」の5、「遅れているわが国の精神保健・医療・福祉を抜本的に拡充する」という欄にこんな文章をしたためておきました。
 「精神障害・人格障害を起因とする犯罪行為を抑止するためにも、先進諸国にくらべてきわめて遅れているわが国の精神医療・保健・福祉の全体の改善・充実策がもとめられます。このことは、「再犯」の防止にとっても意義あることです。この面の対策は、今回の、罪を犯してしまった精神障害者の処遇制度創設とは相対的に別の問題であり、一定の期間・予算が必要となりますが、以下の施策を並行してすすめる必要があります。」
 こう述べまして、重要な施策として、保健所や市区町村の保健センターの充実、地域精神医療のネットワークの確立、精神障害者に対する在宅福祉サービス、グループホーム、ホームヘルプサービスなど、これを抜本的に拡充する。夜間、休日の精神科当番医制度や、電話相談対応システムなど、二十四時間対応可能な精神科救急医療体制の整備を進める。そして、非常に根本的な政治の問題であります、今健康保険法で診療報酬の問題が提起されておりますが、精神科診療報酬を改善し、人員配置基準がほかの医療、一般医療に比べて非常に低い、悪いですから、人員配置基準を引き上げることなど、精神科医療体制の充実を図る。こんなことを挙げたんですが、簡潔で結構でございますが、厚生労働大臣の、この提案に対する受けとめをお聞かせ願いたいと思うのです。
坂口国務大臣 今配付されましたのをさっと拝見しているところでございまして、全体として、具体的にどのように書かれているのかというところまで熟読をいたしておりませんが、しかし先ほどからお挙げになりました項目はいずれも大事な項目をお挙げになっているというふうに理解をいたしております。
木島委員 ありがとうございました。
 そこで次に、政府提出の法案に基づく新たな制度の創設の問題であります。この新たな制度が差別や人権侵害にならずに、法務大臣が答弁しましたように、この制度が手厚い医療を行うことになるんだ、そして我が国の非常におくれている精神医療全体の水準を引き上げるその第一歩になるのか、呼び水になるのか。それともそうはならずに、かつての保安処分の再来にすぎないのか。この法案をどう見るか、政府が提出してきたこの仕組みをどう見るか。法律そのものから、それから現状の体制、実態からやはり判断しなきゃいかぬ、見きわめなきゃいかぬと私は思っているんです。
 それで、その判断分岐は何か、制度の具体的な設計の理念、内容の問題が当然中心です。そして、それを支える体制が本当につくれるのかどうなのか、政府がつくる気があるのかどうなのか、予算をつける気があるのかどうなのかも含みますが、それにかかっていると思います。
 それで、我が党の先ほどの見解と提案というのは、政府の考えているのと同じじゃ全然ありません。しかし、そういう新制度をつくることは必要だろう。新制度をつくるんであれば、それは、断じてかつての保安処分の再来になってはならぬ、我が国の精神医療全体の水準を引き上げるための呼び水になる、第一歩になる、そういう方向が必要だ。そんな思い、そんな観点から全体がつくられているということを御理解いただきたい。
 簡単で結構ですが、総枠としての我が党の見解について、法務大臣と厚労大臣の御所見を賜りたい。
森山国務大臣 私も、拝見させていただきまして、大変貴重な御意見と受けとめております。ありがとうございました。
木島委員 それでは、基本的な問題でありますが、今回我々の目の前に提起されております政府の法案が、かつての保安処分の再来なのかあるいは精神医療引き上げの第一歩になるのか、具体的な中身について、先ほど言いましたように、枝葉の問題じゃなくて、きょうは制度の根幹にかかわる問題に絞って、幾つか、時間の許す限り質問をしていきたいと思います。
 先ほど答弁にもありましたが、この新制度、仕組みは大きく二つの側面を持っております。一つは処遇決定の手続の問題です。もう一つは、入院と通院でありますが、処遇の内容、あり方の問題であります。
 そこで、まず第一に、処遇決定手続の問題についてお聞きをいたします。今回の法案は、現行の措置制度による二人の医師の判断、措置決定から、いわゆる裁判所、これは一人の裁判官と一人の医師の合議体でありますから二人が賛成して初めて処分ができると思うんですが、この裁判所の合議体による決定に変えるという問題であります。根本的な制度の改変であります。確かに判断主体は変わります。
 それでお聞きしたいんです。それでは、判断主体を現行措置制度から皆さんがつくろうとする審判制度に切りかえることによって判断基準や観点が変わるのか、あるいは判断するための材料、どんな事実関係を調査するのかというその材料が変わるのか、それをお聞きしたいんです。もうちょっと法的に言いますと、精神保健法二十九条の自傷他害のおそれの判断がこれまでの制度です。しかし、今回の法案の第四十二条、再犯のおそれが今回の審判の認定の対象であります。どう違うんでしょうか。
 一番制度の根幹にかかわる問題ですから、詳しく答弁願います。
坂口国務大臣 では、私の方から先に答弁をさせていただきますが、本法案におきましては、対象者に対しまして継続的な医療を行わなければ心神喪失または心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれの有無について、医師の鑑定を基礎として裁判所が判定することとされております。この再び対象行為を行うおそれというのは、仮に継続的な医療を行わなければ心神喪失または心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び重大な他害行為を行うことが予測されることを指すものでございます。
 これに対しまして、措置入院におきます自傷他害のおそれといいますのは、仮にその者を入院させて医療及び保護を行わなければ現時点の精神障害に起因する症状により自傷または他害行為を引き起こす可能性があることを指すものでございます。予測する行為の範囲は、本法案で言いますところの一定の重大な他害行為に限られず、また、実務上その予測を比較的近い将来のものとして行われるものととっているところでございます。
森山国務大臣 厚生労働大臣から御説明があったとおりでございますが、精神保健福祉法が規定する自傷他害のおそれも、この法律案が規定する再び対象行為を行うおそれも、いずれも強制的な入院を認めるために必要とされる要件でありまして、また、精神障害を原因として生ずる病状から一定の問題行動が引き起こされる可能性の有無を判断するものであり、両者は基本的には同様のものでございます。
 ただし、他害行為とは、精神保健福祉法第二十八条の二第一項に基づく厚生労働大臣の告示にも示されておりますように、殺人、放火等の重大な他害行為のみならず、窃盗等の比較的軽微なものも含むものとされておりまして、自傷他害のおそれは、再び対象行為を行うおそれに比べまして、より広範な行為を引き起こすおそれがある場合にも認められることになるといった違いがございます。
 また、このようなおそれの有無を判断する際の資料につきましても、自傷他害のおそれの判断に際しましては、実務上短時間の措置診察により判断されていること等から、判断資料には一定の限界がありますが、再び対象行為を行うおそれの判断に際しましては、対象者を一定期間病院に入院させて鑑定や医療的観察を行うこととしていることに加え、検察官や対象者、付添人に資料提出や意見陳述の権利を認めるなど、より広範な資料が収集できるようにしておりますので、より的確にこのようなおそれの有無を判断することができるような仕組みとしております。
 また、再び対象行為を行うおそれの有無の判断に際しましては、その者の生活環境等をも考慮することとしておりまして、このような生活環境等に照らし、入院によらなくても治療の継続が確保されるか否か、問題行動を起こしやすい状況にあるか否かといった、純粋な医療的判断とは異なる判断をも行うことを法文上明記しておりますが、自傷他害のおそれの有無の判断に際しても、明文の規定はないものの、このような判断を行うことが排除されているわけではないというふうに考えられます。
木島委員 非常に大事な、核心に触れる部分なんですが、非常に難しい問題です。
 それで、厚生労働大臣の答弁の中に、現行措置制度は、現時点のその対象者の状況、それを把握するんだ、そして、今回の政府案の審判は、より継続的な、長期的な視点でその対象者を見るんだ、そういうことを言わんとしたんでしょうか。あるいはこう聞いていいんですか。
 今、森山法務大臣からは、現行措置制度の判断の対象は、必ずしも純粋精神医学的観点だけではない、それ以外のいろいろな問題、社会的な背景やらそういう問題も含むという答弁が出ましたね。私、そうだと思うんですよ。
 それで、そうすると、坂口厚労大臣の答弁というのは非常に大事な観点になってくると思うんですね。現行措置制度は非常に瞬間的な判断なんだ、今回の政府法案はもっとより長期的な判断なんだ。そうすると、判断の視点も違ってきますし、判断材料も違ってきますし、対象である重大な犯罪行為を犯した障害者で不起訴になった者の対処、物の見方も違ってくるんじゃないかと感じられますので、私のそういう理解でいいんでしょうか。確認しておきたいと思うんです。
坂口国務大臣 大略そういうことを申し上げたつもりでおります。
 この再び対象行為を行うおそれの方は、今御指摘のように、将来、精神障害のために心神喪失または心神耗弱の状態になるおそれがある、そしてそこで再び犯罪を起こすことが予測されるかどうかということの判断である。
 ですから、現在ではなくて将来、その時間は将来でいいと思うんですが、将来に精神障害というものが再び起こって、そして、以前に問題が起こったときのような心神耗弱あるいはまた心神喪失というような状態になるおそれがあるかどうかということの判断であるということを申し上げたわけでございます。
木島委員 私、精神保健法の措置入院の判定手続については余り勉強していないんですが、現在の措置入院の二人の医師の判断も、確かに目の前にある障害者を診るんですが、この障害者が現在、近い将来、そしてまた先の将来、本当に他人を害するおそれがないのかということが判断の対象になっているんじゃないんでしょうかね。現行法は余り先のことは判断対象になっていないんですか。措置入院の二人の医師の判定の中身の問題です。
坂口国務大臣 それは近い将来の、少し先のことも含まれているかもしれませんけれども、措置入院の場合には、現時点におけるおそれの方がやはり重きが置かれているというふうに私は理解をいたしております。
木島委員 きょうは最初の質問で基本問題だけですから、時間を余りこれで使いたくないので、また後ほど細かくやりたいと思います。
 我が国の刑事法学者の意見にこういうのがあるんです。措置入院の判断と今度の政府案の仕組みでどこが変わるのか。こういう言葉があるんですけれども、法務大臣聞いてください。今回の政府案では、精神科医と地方裁判所の裁判官との合意という形式を採用しているとはいえ、実質的には、司法的判断の医療的判断に対する優越を意味することになる、だから反対なんだというんですよ。そういう見方を日本の刑事法学者が声明で出しているんです。
 裁判官と医者とが合議でやるけれども、実質、司法判断が優越してしまって、医師の医療判断が劣後する、だから、司法判断が前面に出てきて保安処分的になるという考えでしょうかな。しかし、これは日本の刑事法学者の基本的な声明なんですよ。こういう側面というのはあるんでしょうか、法務大臣。
森山国務大臣 処遇事件を取り扱う合議体は、継続的な医療を行わなければ心神喪失等の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認められるか否かを判断し、これに従って処遇の要否、内容を決定するものでございます。
 このような決定をするに当たりましては、医師による医療的判断にあわせて裁判官による法的判断が行われることが重要であり、また、両者のいずれの判断にも偏ることがないようにすることによりまして、両者が共同して最も適切な処遇を決定することができる仕組みとすることが重要であると考えられましたことから、一人の裁判官と一人の医師により合議体を構成することにしたものでございまして、二人の人が相談をして合議をしていただくということで、どちらが優越であるというようなことが決まっているわけではございませんし、さらにつけ加えて申し上げますと、日本共産党の御提案では、このほかに精神保健福祉士等の精神障害者福祉の専門家を加えた三人の合議にするべきであるという御提案のように拝見いたしました。
 確かに、精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術を有する専門家の意見は、処遇の要否、内容の決定に当たって有益であるとは考えられますので、政府案におきましてもそのような専門家に精神保健参与員として参加していただくということを考えておりまして、裁判所は処遇の要否、内容の決定に当たって、原則としてそのような専門家の意見をお聞きするということにしております。
 しかし、そのような専門家の意見は、精神保健審判員及び裁判官による医療的、法的判断と並んで、これらとは別の見地から処遇の要否、内容について判断を行うものというよりも、みずからの知識経験に基づいてこれらの判断に有益な意見を提供していただく、そしてこれを補助するという性格のものであるというふうに理解いたしておりますので、この方に評決権は与えられていないわけでございますが、しかし、十分その御意見を拝聴して、二人で相談をしていただくというふうに決めているところでございます。
木島委員 これは医師である坂口厚労大臣から率直な意見を聞きたいと思うんですね。
 今の措置入院は、二人の医師ですよね、それが判断をする。今回の仕組みは、一人の医師と一人の裁判官。医療は素人だと思うんですね。私も法律家ですから、医療は素人ですよ。その医療に素人の裁判官が関与することによって、一人の医師の判断が劣後してしまうというか、そんな状況というのは、危惧はないですか。
 今、二人の医師ですよね。今度、裁判官が入る、一人の医師になるということで、医療的判断、精神神経の専門医としての判断が後景に退かれてしまう、そんな心配は、医師としての立場もおありになるので、坂口厚労大臣、ないでしょうか。
坂口国務大臣 措置入院の場合には、一般病院で、非常に多くの医師がこれにかかわるわけであります。多くの医師というのは多くの病院においてこれが行われるということを言っているわけでございますが、今回の場合には、非常に限定をされました病院で、そして非常にこの道に対しての配慮のあると申しますか、知識のある人たちがそれに当たることになると思います。これが都道府県に一つなのか二つになるかわかりませんけれども、そういう場所で、非常に卓越した人たちがその判断に加わるということでありますから、私は、そこは今の措置入院とは少し違うのではないかというふうに思っております。
 私、この前ドイツにお邪魔しましたときにも、その辺のところを、司法の立場の皆さん、そして医師の立場の皆さん、双方で最後どう決めるんですかということを随分突っ込んで、いろいろドイツの例も聞いたわけです。率直に言えば、司法の立場の皆さん方の御意見と医師の立場の意見が違うこともある、だけれども、とことんそこを議論して、そして最後に決めているということを言っておみえになりました。なるほど、それはそれぞれの立場が違うわけでありますから、いろいろの意見が出てなかなか一致しにくい点も率直に言ってあるんだろうというふうに私は思いますけれども、そこはしかし合議制でございますから、いろいろの角度から議論をしていただいて決定をしていただくということ以外にないのではないかと思っております。
木島委員 きょうはこの問題はこのぐらいに切り上げて、次の問題に移ります。
 処遇の具体的な内容についてです。
 まず、入院治療の問題です。
 先ほど来同僚委員からも質問がありましたが、法案の指定医療機関による入院治療は、現行の措置入院による治療とどこがどう変わるんでしょうか。外形的なことは私もわかります。現在の措置入院は、医療機関は、民間であれ公立であれ国立であれ構いません。今回の法案は、国立、公立医療機関だけですね。そんな外形的なことはわかるんですが、今回、制度をつくることによって、医療の面で、入院治療の面ではどこがどう変わるんですか。わかりやすく答弁ください。
高原政府参考人 本制度で、指定入院医療機関における医療につきましては、まず第一に、精神療法と申しますか、心理療法と申しますか、行動療法と申しますか、こういったタイプの患者さんにふさわしい療法を医師及び精神心理技術者によって頻回に行う。毎日とまではいかないかもしれませんが、週に三回、四回というふうなセッションがあるんだろうと思います。集団でやる、あるいは個人でやるということでございます。
 それから、社会復帰を前提にしておりますので、作業療法などを通じて訓練を綿密に行う。例えば、一人で暮らしていくわけでございます。ないしは、仲間とグループホームで暮らしていただくわけでございます。ないしは、福祉ホームでアパートのような形でお暮らしになる。さまざまなチョイスはあるかと思いますが、やはり身辺自立といいますか、そういうふうなことに向けましてきちんとした作業療法を行っていく、そういうふうな治療プログラムになろうかと思います。
 それから、患者の行動観察を入念に行いまして、おそれがあるのかないのか。おそれがなくなってくれば、これはもうできるだけ、かつ直ちに退院の手続をとるということでございますので、患者の行動観察を入念に行いまして、おそれの評価を行うなど、一般の精神病院で行う医療に比べて手厚いということ、専門的であるということ、かつ高度である、そういうふうな医療を行うこととしております。
木島委員 より重厚な医療をやる、社会復帰を前提とした治療をやる、そういう治療プログラムを考えている、私は結構なことだと思うんです。しかし、それが本当にやれるのか。まだ目の前にないんですね、我々の目の前に提示されていない。やりたいというだけであって、法律だけつくっちゃって手抜きをされたら、国会がだまされたことになるわけですね。
 ですから、本気になってやるんなら、予算も人も必要でしょう。案を提示してもらいたいと思うんですよ。現行の措置入院制度における精神医療ではできてない、こういうことをやるんだということを出していただいて、予算措置も間違いなくつくんだということを示していただかないと、私は、委員会審議がやはり不十分なものになるということを指摘して、ぜひ出してもらいたいと思います。
 最後に、時間が迫っておりますから、次に通院治療についてお伺いいたします。
 率直に言って、この部分は現行措置入院制度には基本的にないですね。全く異なっております。かつての保安処分制度の療養観察制度に非常に近いんじゃないかと思えてなりません。人権侵害のおそれが色濃く出てきてしまうのではないかと危惧されるのがこの法案の通院治療の問題であります。このやり方では、私は、通院治療効果も逆になってしまうんではないかと危惧します。
 私は、日本共産党の提言にもありますように、通院治療にも、むしろ入院治療以上に医療、福祉の観点が求められているんじゃないか、精神障害者、医療関係者を中心に組織された医療、福祉の地域でのチームワークによってこそ通院治療体制は組まれるべきではないかと考えるんです。犯罪者の更生を主目的とする保護観察所を処遇機関としていることは、私は根本的な間違いだと思います。せっかく入院の方はこれだけ手厚い重厚な治療をやろうと言っているのに、なぜ通院の方は保護観察所が乗り出さなきゃならぬのですか。法務大臣、答弁ください。
森山国務大臣 このような方々が必要な医療を確保しまして、不幸な事態を繰り返さないようにするということは大変大事なことでありまして、それが社会復帰を図る重要なポイントだと思います。このような者の処遇につきましては、精神医療界を初め国民の各層から、適切な施策が必要であるというところをいろいろと御意見をちょうだいしております。
 そこで、法務省におきましては、厚生労働省と共同いたしまして、このような者の適切な処遇を確保するために新たな処遇制度を整備することにいたしたものでございまして、具体的には、現在の保護観察所にはそのような専門家がおりませんので、対象者の処遇に必要となる精神保健や精神障害者福祉に関する専門的な知識経験を持つ職員を何とか配置いたしたいと考えまして、いろいろ工夫いたしました結果、全国の保護観察所に精神保健観察官、そういう方々を相当数確保いたしまして、その体制整備を図りたいというふうに考えております。
 精神保健観察はこの精神保健観察官が中心になってやっていただくということでございますが、心神喪失の状態で重大な他害行為を行った者について継続的に、かつ適切な医療を確保するということは、やはり通院の際のそのような観察が不可欠であるというふうに思うからでございまして、その改善更生を促すことにも大変重要な方法だと思います。
 たまたま全国に五十カ所ほど保護観察所がございまして、そのネットワークを使うということが、今このような御時世、行政改革の御時世におきまして適当ではないかということでございまして、この者が行います仕事は、ほかの保護司あるいは保護観察官の仕事とは全く違うものでございます。
木島委員 もう時間のようですので終わりますが、現行の保護観察所にはそんな能力はもう全くないんです。ゼロですよ。私は、継続的な通院治療の確保のために保護観察所を使うなんというのはとんでもない間違いだ、まさに、継続的な通院治療の確保には、医療、福祉の観点からこそその確保のために努力することがその対象者の治癒につながっていくんじゃないかと思えてなりません。
 法務省の当事者がつくっている全法務省労働組合の意見書によりますと、そんな体制は全然ない、現在保護観察官は六百人程度しかいない、そしてどんなに忙しいか。犯罪者の更生のために物すごい仕事をしているんですよ。保護観察件数は約六万八千件、環境調整事件数が約三万件、更生緊急保護受理件数が一万七千件。物すごい仕事を、大変な仕事を担っているんですよ、保護観察所の皆さんは。医療と関係ないところで物すごい仕事。こんなところに精神障害者の通院治療確保のために任務を与えたって、そんなことできやしない。そうすると、結局、保安処分的な発想から要するに縄をつけるような発想になってしまうんではないか。私は、ここはもう根本的に政府案が間違っているところだと重ねて指摘をいたしまして、終わります。
園田委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後三時三十九分散会


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