衆議院

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第22号 平成15年6月6日(金曜日)

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平成十五年六月六日(金曜日)
    午前九時三十分開議
 出席委員
   委員長 山本 有二君
   理事 佐藤 剛男君 理事 塩崎 恭久君
   理事 園田 博之君 理事 吉田 幸弘君
   理事 河村たかし君 理事 山花 郁夫君
   理事 漆原 良夫君 理事 石原健太郎君
      太田 誠一君    上川 陽子君
      小西  理君    後藤田正純君
      左藤  章君    笹川  堯君
      下村 博文君    中野  清君
      平沢 勝栄君    星野 行男君
      保岡 興治君    吉野 正芳君
      渡辺 博道君    鎌田さゆり君
      今野  東君    津川 祥吾君
      中村 哲治君    水島 広子君
      山内  功君    上田  勇君
      山田 正彦君    木島日出夫君
      中林よし子君    保坂 展人君
      山村  健君
    …………………………………
   法務大臣         森山 眞弓君
   法務副大臣        増田 敏男君
   法務大臣政務官      中野  清君
   最高裁判所事務総局民事局
   長
   兼最高裁判所事務総局行政
   局長           園尾 隆司君
   政府参考人
   (法務省民事局長)    房村 精一君
   政府参考人
   (法務省入国管理局長)  増田 暢也君
   政府参考人
   (財務省大臣官房審議官) 石井 道遠君
   政府参考人
   (厚生労働省大臣官房審議
   官)           青木  豊君
   政府参考人
   (厚生労働省雇用均等・児
   童家庭局家庭福祉課長)  唐澤  剛君
   政府参考人
   (国土交通省土地・水資源
   局長)          倉林 公夫君
   法務委員会専門員     横田 猛雄君
    ―――――――――――――
委員の異動
六月六日
 辞任         補欠選任
  左藤  章君     上川 陽子君
  吉川 貴盛君     渡辺 博道君
  日野 市朗君     津川 祥吾君
  不破 哲三君     中林よし子君
同日
 辞任         補欠選任
  上川 陽子君     左藤  章君
  渡辺 博道君     吉川 貴盛君
  津川 祥吾君     今野  東君
  中林よし子君     不破 哲三君
同日
 辞任         補欠選任
  今野  東君     日野 市朗君
    ―――――――――――――
六月六日
 裁判所の人的・物的充実に関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第二八八二号)
 同(石井郁子君紹介)(第二八八三号)
 同(小沢和秋君紹介)(第二八八四号)
 同(大幡基夫君紹介)(第二八八五号)
 同(大森猛君紹介)(第二八八六号)
 同(鎌田さゆり君紹介)(第二八八七号)
 同(木島日出夫君紹介)(第二八八八号)
 同(児玉健次君紹介)(第二八八九号)
 同(穀田恵二君紹介)(第二八九〇号)
 同(佐々木憲昭君紹介)(第二八九一号)
 同(志位和夫君紹介)(第二八九二号)
 同(塩川鉄也君紹介)(第二八九三号)
 同(瀬古由起子君紹介)(第二八九四号)
 同(中林よし子君紹介)(第二八九五号)
 同(春名直章君紹介)(第二八九六号)
 同(不破哲三君紹介)(第二八九七号)
 同(藤木洋子君紹介)(第二八九八号)
 同(松本善明君紹介)(第二八九九号)
 同(矢島恒夫君紹介)(第二九〇〇号)
 同(山口富男君紹介)(第二九〇一号)
 同(吉井英勝君紹介)(第二九〇二号)
 同(保坂展人君紹介)(第二九三〇号)
 同(木島日出夫君紹介)(第二九五四号)
 同(不破哲三君紹介)(第二九五五号)
 同(山内功君紹介)(第二九五六号)
 同(漆原良夫君紹介)(第三〇一二号)
 同(小西理君紹介)(第三〇一三号)
 同(中村哲治君紹介)(第三〇一四号)
 法務局・更生保護官署・入国管理官署及び少年院施設の増員に関する請願(鎌田さゆり君紹介)(第二九〇三号)
 同(保利耕輔君紹介)(第二九〇四号)
 同(保坂展人君紹介)(第二九二九号)
 治安維持法の犠牲者に対する国家賠償法の制定に関する請願(横光克彦君紹介)(第二九二八号)
 同(赤嶺政賢君紹介)(第二九五七号)
 同(石井郁子君紹介)(第二九五八号)
 同(今川正美君紹介)(第二九五九号)
 同(大出彰君紹介)(第二九六〇号)
 同(大幡基夫君紹介)(第二九六一号)
 同(川田悦子君紹介)(第二九六二号)
 同(北橋健治君紹介)(第二九六三号)
 同(玄葉光一郎君紹介)(第二九六四号)
 同(小宮山洋子君紹介)(第二九六五号)
 同(今野東君紹介)(第二九六六号)
 同(佐々木憲昭君紹介)(第二九六七号)
 同(志位和夫君紹介)(第二九六八号)
 同(瀬古由起子君紹介)(第二九六九号)
 同(中川正春君紹介)(第二九七〇号)
 同(楢崎欣弥君紹介)(第二九七一号)
 同(肥田美代子君紹介)(第二九七二号)
 同(不破哲三君紹介)(第二九七三号)
 同(細川律夫君紹介)(第二九七四号)
 同(松本龍君紹介)(第二九七五号)
 同(矢島恒夫君紹介)(第二九七六号)
 同(山内功君紹介)(第二九七七号)
 同(山口富男君紹介)(第二九七八号)
 同(山元勉君紹介)(第二九七九号)
 同(横光克彦君紹介)(第二九八〇号)
 同(安住淳君紹介)(第三〇一五号)
 同(阿部知子君紹介)(第三〇一六号)
 同(家西悟君紹介)(第三〇一七号)
 同(池田元久君紹介)(第三〇一八号)
 同(石毛えい子君紹介)(第三〇一九号)
 同(今川正美君紹介)(第三〇二〇号)
 同(植田至紀君紹介)(第三〇二一号)
 同(枝野幸男君紹介)(第三〇二二号)
 同(大谷信盛君紹介)(第三〇二三号)
 同(奥田建君紹介)(第三〇二四号)
 同(桑原豊君紹介)(第三〇二五号)
 同(小林守君紹介)(第三〇二六号)
 同(中村哲治君紹介)(第三〇二七号)
 同(葉山峻君紹介)(第三〇二八号)
 同(原陽子君紹介)(第三〇二九号)
 同(日森文尋君紹介)(第三〇三〇号)
 同(肥田美代子君紹介)(第三〇三一号)
 同(細野豪志君紹介)(第三〇三二号)
 同(牧野聖修君紹介)(第三〇三三号)
 同(山内惠子君紹介)(第三〇三四号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 政府参考人出頭要求に関する件
 参考人出頭要求に関する件
 担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案(内閣提出第一〇二号)


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     ――――◇―――――
山本委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案を議題といたします。
 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。
 本案審査のため、来る十日火曜日、参考人の出席を求め、意見を聴取することとし、その人選等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
山本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
 引き続き、お諮りいたします。
 本案審査のため、本日、政府参考人として法務省民事局長房村精一君、入国管理局長増田暢也君、財務省大臣官房審議官石井道遠君、厚生労働省大臣官房審議官青木豊君、雇用均等・児童家庭局家庭福祉課長唐澤剛君及び国土交通省土地・水資源局長倉林公夫君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
山本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――
山本委員長 次に、お諮りいたします。
 本日、最高裁判所事務総局園尾民事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
山本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――
山本委員長 これより質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。山内功君。
山内(功)委員 民主党の山内功でございます。
 大臣、まず、今回の担保・執行法の改正によりまして、雇い人の給料の先取特権が、範囲が拡大といいますか、強化されているのですが、その趣旨について、まず伺いたいと思います。
森山国務大臣 株式会社におきます使用人の労働債権の先取特権につきましては、商法第二百九十五条が規定しまして、それ以外の雇い人の労働債権の先取特権につきましては、民法第三百八条が規定しております。
 これらの先取特権の対象となる労働債権につきましては、商法では、雇用関係によって生じた一切の債権とされておりますが、民法では、六カ月間の給料とされております。また、先取特権による保護を受ける主体につきましては、商法では、委任、請負等の契約に基づくものも含まれると解されておりますが、民法では、雇用契約に基づくものに限られると解されております。
 しかし、債務者が株式会社であるか否かにより、先取特権によって保護される労働債権の範囲についてこのような差異を設けることは、必ずしも合理性がないと考えられます。そして、労働債権を保護する観点から、このような差異は、その保護を拡大する方向で解消することが相当と考えられます。そこで、この法律案では、民法第三百八条の規定の内容を商法の規定と同一内容にまで拡大することにしたものでございます。
山内(功)委員 現在の景気は大変不景気でして、経営不振とか企業倒産ということになったら、それこそ、生活資金というか、生活の糧である労働者の賃金というものの取得がますます困難な経済情勢にあると思うんです。ですから、そういった世の中にとって、やはりセーフティーネットをしっかりとしておくということは必要なことだと思うんですが、法務省としては、そういうような問題状況についてどういう認識を持っているのかということと、どんな取り組みをすべきだと考えておられるのか、聞きたいと思います。
房村政府参考人 御指摘のように、労働債権の支払いが確保されるということは、労働者及びその家族にとって、生計を維持するために非常に重要なことだろうと考えております。
 法務省といたしましても、私どもで所管する民事基本法の分野において、これまでも労働債権の十分な保護が図られるように配慮してきたところでありますし、この法律案においても、ただいま御指摘をいただいた雇い人給与の先取特権の拡大を図ったところではございます。
 また、現在、企業等が倒産した場合における労働債権の保護につきまして、破産法の見直し作業の中で、労働債権の優先順位を一部引き上げるという案について、鋭意検討を進めているところでございます。
山内(功)委員 四十代、五十代の再就職というのは大変厳しい、ハローワークも朝からいっぱいというような状況で、一たん雇用の場を失った人が再就職をするということは、かなり大変なんですね。だから、そういうような考慮もあって、賃金については、より保護していこうというような配慮が必要だと思うんです。そのために、法制審議会の中間試案では、労働債権については抵当権等よりも優先的に考えるべきじゃないかというような指摘がされたんですね。ところが、今回の法案ではそれがすっぽり抜けているんですが、その点は、どうしてなんでしょうか。
房村政府参考人 御指摘のように、この担保・執行法制の検討過程で発表されました中間試案におきましては、「労働債権の保護等の観点から、民法の先取特権の規定に関するその他の見直しをするかどうかについては、なお検討する。」とした上で、注として、「例えば、労働債権に係る先取特権について、その一定の範囲については、何らの公示手段も要さずに最優先の効力を認め、特定の財産の上に存する抵当権等の担保権にも優先するものとすべきであるとの意見がある。」ということで、そういった意見があることを御紹介しております。
 ただ、この意見につきましては、その後の審議会の審議におきまして、確かに、こういう考え方をとった場合に、労働債権の保護は厚くなるわけでございますが、抵当権等の担保権が設定された後の労働債権について、担保権に優先する効力を与えるということになりますと、設定時には認識することができない労働債権が優先してしまうということで、抵当権者等の利益を不当に害するおそれがある、また、そのようなことになると、抵当権を設定する場合に、抵当権設定者として、事後的に優先する労働債権が出てくることを恐れて与信額を低下してしまう、ひいては、債務者が十分な資金調達を得ることが困難になるのではないか、そのような悪影響が指摘をされました。
 また、そういう優先権を認めた場合に、これは個別執行の場面でございますので、一部の不動産についてのみそういう優先権が行使されるということになりますと、抵当権者間での不平等が生ずるということも指摘されております。
 そのような問題があることから、最終的に、法制審議会においては採用するに至らなかったということでございます。
山内(功)委員 しかし、今のような考えは、労働債権を抵当権よりも優先するという考えを抜きにしても、今、例えば土地の値段というのが、変動が激しい、激しいというよりは下がっている状況ですね。ですから、抵当権を設定するときには、何掛けの債権が保全されるものとして抵当権を設定したらいいのか、七掛けなのか、六掛けで見ないと今はちょっとまずいかなとか、そういう考慮は、当然、担保権を設定する者としては、与信を考えるのは、審査の担当者の当然の能力だと思いますし、それが二番抵当、三番抵当になると、一番抵当がどれだけ残っているかどうかというので、やはり、二番抵当、三番抵当を打つ人は、同じ考慮、あるいはそれ以上の配慮をしなくちゃいけないわけですね。
 だから、それから考えれば、例えば、労働債権を二カ月間は最優先だと考えるとか、あるいは三カ月間は見ていこうとか、例えば雇用保険なんかでも取得するのに普通二カ月ぐらいかかりますよ、だから、その期間ぐらいは優先して考えていこうじゃないかという考慮はやはり必要だと私は思うんですけれども、どうですか。
房村政府参考人 御指摘のような考え方は、諸外国の中でフランスがとっておりまして、六十日分の労働債権に係る先取特権について最優先の地位を与えております。ただ、諸外国の例を見ても、フランスがある意味では極めて特殊でございまして、各国共通に、抵当権のような担保物権については、その設定後に生じた債権に優先するというのが基本的な構造になっております。
 それはどういうことかといえば、先ほども申し上げたように、担保権を設定する場合に、担保価値をそこで把握する、その後に生ずる債権によって優先されるということになりますと予測可能性が害される、また、個別執行の場面でそういった優先権を認めますと、その優先権が主張される抵当物件によって抵当権者の間に不公平が生ずる、このようなことがやはり考慮されて、おおむね諸外国においてもフランスのような制度をとっていないのだろうと思います。
 法制審においてもこの点も議論されましたが、今申し上げたようなことで、労働債権の保護ということは重要なことではあるけれども、最優先の地位を与えるというのはやはり難しいのではないかということで採用に至らなかったわけでございます。
山内(功)委員 今、抵当権より上位に置こうということで議論したんですが、もし、百歩譲って、抵当権の設定者の期待可能性を後のその会社の状況によって奪ってしまうというような危惧ということがなかなかぬぐえないとしたら、それでは、租税債権よりは優先すべきではないのかという議論についてはどういうふうに考えていますか。
石井政府参考人 お答え申し上げます。
 今御指摘がございましたが、現在、国税徴収法におきまして租税債権に優先権が与えられております。
 これは申し上げるまでもないことでございますが、その理由といたしましては、租税が国家の財政的な裏づけとなるものであるということ、あるいは、租税負担の公平性を確保するためにすべての納税者から確実に徴収をさせていただく必要があるということ、あるいは、私債権が反対給付を前提に相手を選択して成立するものであるのに対しまして、租税債権は、一方的に課されまして、納付、徴収されにくいというような事情にあるという特質を踏まえて、そのような仕組みに現在はなっているということでございます。
 そこで、一方、租税債権と私債権との具体的な優先関係につきましては、今御議論がございましたような私債権の私法上の優先順位、これも考慮しながら調整がなされております。この私債権の私法上の優先順位については、今御議論がありますような民法、商法等の実体法で定められておりますので、そういう労働債権の私債権の中での位置づけということも関連してくるわけでございます。
 したがいまして、今御指摘の、優先させるべきではないかという御質問に対してのお答えでございますけれども、労働債権と租税債権の優先順位を考える上では、今申し上げました一般的な租税債権の持つ特殊性を考慮に入れる必要があるという観点、それと私法上の優先順位の中でこの労働債権がどのように位置づけられるかという観点、この二つを踏まえながら慎重に検討をすべき事柄であろうというふうに考えております。
山内(功)委員 しかし、この論点も結構昔から論じられてきた論点だと思うんですね。これからも慎重に検討したいということではなくて、この担保・執行法を割とすっきりと整理していこうという趣旨で今回の改正案が出たと思いますので、やはり今考えていかなくちゃいけない問題じゃないかと思うんです。
 今財務省が言ったような、税金が国家のためにというのは、確かに、国ができ上がる過程においてある一定の程度で中央集権化も必要だったと思うし、国として税金を使いますという論理は、今までは間違っていなかったと思いますよ。
 だけれども、これからはやはり官から民へとか国から地方へという、これは政府が一体となって考えていこうという日本の国家の方針ですね。それは何のためにそういう考えを持つべきなのかといったら、地方とか個人とか、やはりそういう人たちを大切にしていこうという理念でしょう。つまり、何人か、あるいは何十人か何百人勤めていた、その個人の人たちの生活を守っていこう、その人たちがまた再就職、あるいはいろいろな形で生活がまたできていけばそれによって租税収入も上がっていくということから考えると、税金を考える上で、個々人についてどうなのかということの考慮はやはり必要だと私は思います。
 倒産したときに租税債権が優先すると。その倒産したときに優先される債権によって租税の収入というか国家財政というのはそんなに助かっているんですか。
石井政府参考人 国家財政との関係の御質問でございます。
 なかなか数量的にどうこうということを申し上げるわけにまいりませんけれども、一般的に、租税債権の優先順位を劣後させた場合どういう懸念があるかということを国家財政の観点から申し上げますと、一つは、当然のことながら配当順位が下がるということで、租税債権への弁済額が減少するということが基本的に起こり得るわけでございます。それに加えまして、優先順位が劣後することに伴いまして納税者の方が期間内に納税しようというインセンティブが下がることで、滞納がふえるのではないかという危惧もございます。それからまた、これは考え過ぎとおっしゃるかもしれませんが、租税債権の成立後、優先する他の私債権を成立させるというようなことが可能となりますので、租税債権の徴収を免れる行為が生じかねないというような点もございます。
 これらのことから、租税債権の優先順位を劣後させることが財政にも相当な影響を与えるのではないかというふうに懸念しております。
 ただ、今御指摘の倒産の場合の租税債権の扱いについては、現在、破産法、破産手続の中における租税債権の優先順位の問題について法制審議会で議論されておりますけれども、その中で、租税債権のあり方ついて、破産の場合の扱いについて個別具体に優先関係をどう再整理するかということは今議論が行われておると承知しておりまして、その中で、私どもも私どもなりの考えを申し上げておりますが、その議論の行方を見守って、結論を得るべく、我々としても協力をしてまいりたいというふうに思っておる次第でございます。
山内(功)委員 少し古い決議なんですけれども、昭和三十四年に衆議院の大蔵委員会で、賃金債権や下請代金債権の保護については特段の考慮をするべきであるという、それは国税徴収法案に対しての附帯決議なんですけれども、こういう決議がなされているんですよ。
 その後、この決議に基づいてどういうふうに特段の考慮がされてきたのか、その検討状況を聞かせてください。
房村政府参考人 先ほども申し上げましたけれども、法務省としても、所管しております民事基本法の分野で、賃金債権の重要性にかんがみまして、その保護を可能な限り図っていくということをしてまいりました。特に現在は、最も租税債権と労働債権のいわば取り合いが厳しい状況に置かれます破産手続の中で、労働債権の優先順位を一部引き上げる、逆に租税債権の優先順位を一定の場合に引き下げるというような改正を法制審議会において調査審議しているところでございます。
 私どもとしては、やはり賃金債権等の重要性を、可能な限り民事基本法の分野で図っていきたい、こう考えて努力をしているところでございます。
山内(功)委員 一般の先取特権を実際に行使する場合、その行使についても、それが使いやすい行使方法であるか使いにくい形であるかによっても労働債権を保護しているかどうかが決まると思うんですけれども、給料債権を一般先取特権として行使する場合に、担保権が存在する証明書を出させますね。雇用があるということと、それから給料の額が決まっているということ、多分この二つは大前提だと思うんですけれども、最高裁はどういうものを徴して判断をしているんですか。
園尾最高裁判所長官代理者 お答えいたします。
 まず、雇用契約の存在につきましては、労働基準法で備えつけが義務づけられておりますところの労働者名簿が提出されるというのが一般的でございますが、これがない場合には、雇用契約書などが提出されているようでございます。
 また、給料の定めにつきましては、これも労働基準法で備え置きまたは作成等が義務づけられておりますところの賃金台帳並びに就業規則などの賃金規程、これらが提出されるのが一般的でございますが、これらがない場合には、過去の給料明細書、給料明細の記載がある給料袋あるいは過去の銀行振り込みが記載されておる預金通帳などが提出されているようでございます。
山内(功)委員 最初に言われた雇用証明書なんですけれども、それは代表者とか専務取締役とかCEOのだれかがつくった証明書でなくても、例えばいつも人事をつかさどっておるような人事課長とか庶務係長とか、そういう人たちがつくった雇用証明書でもいいんですね。
園尾最高裁判所長官代理者 雇用証明書につきましては、裁判官の中にも大いに議論のあるところでございます。
 雇用証明書につきましては、雇用者の側から提出される証明書ということですので、しかるべき証明力があるというふうに認められるわけでございますが、特に倒産直後に出されたもの、このようなものは場合によって内容が不正確であったり、あるいは、請負関係であるにもかかわらず、十分な検討がなされないで雇用関係であるというような証明書が出されている事例もあるということで、その証明力に疑問を呈するという意見もあるわけでございます。
 しかし、労働者の側から見ますと、このような場合には、既に会社の実体がなくなっているなどいたしまして、ほかに適切な証明書がないというような理由で雇用証明書という書類を作成してもらうという場合もあるわけでございますので、その取り扱いについては大いに議論がされているところでございます。
 このような認識の中で議論がされているところでございますので、個々の事例において、その証明力あるいはそれを補充する証拠がないか、あるいはそれがいつ作成されたものなのかというようなことをいろいろ検討しながら、適切な運用がされていくように、私どもも、そのような運用がされていくだろうということを期待して見守っておるところでございます。
山内(功)委員 確かに、一見しておかしいような書面は排除すればいいので、ただ、余り資格要件というのを厳格に運用すると、例えば、企業の経営者というのは、最後は、手形の決済をするために苦しんで、高利貸しから借りてでも今月の末の手形をクリアしたい、そういう思いに駆られますよね。それによって借金も膨らんでいくでしょうし、保証人を借入契約書ごとにまたつくらなくちゃいけませんので、今度は自分の女房のお父さんの判こをもらったとか、いろいろなことで精神的に追い詰められて、きちんと法的な倒産の整理をするならいいんですけれども、夜逃げとか、あるいは会社の整理をきちんとしないままほっておくとか、そういう経営者も結構多いんですよ。
 だとすると、余りそこで、代表者印が押してある、あるいは個人印、実印が押してある書面じゃないとというように厳格に適用すると、多分、雇用契約の存在を証明する文書としては、裁判所としては不十分にみなされるような書面しかつくれないと私は思うんですね。だから、もし変な書面を使って労働債権だと言えば、それは裁判所を使った詐欺ですから、そういう人には後で懲らしめればいいんで、余り入り口で厳格なものを要求するというのは労働者にとっては酷だと思いますけれども、最高裁、もう一度お願いします。
園尾最高裁判所長官代理者 まことにそのような議論もされていて、そういうことで大いに裁判官の中でも事実の認定に関して議論をしておるところでございます。
 そのような御意見もこれまで伺っているところでございますし、また、虚偽の債権が混入してくるという他の債権者の不利益なども、さまざまなことを検討して今後とも大いに研究をしていくということになっていくだろうというふうに考えております。
山内(功)委員 雇用契約の存在ともう一つ、給料の額が明確でないとこの一般先取特権の規定は使えないので、給料の額についてはやはり一応の主張と立証は必要だと思うんですけれども、労働者側がその主張をする場合に、例えば時間外手当あるいは休日割り増し賃金あるいは歩合給などについては、ちょっとやはり立証が難しいと思うこともあると思うんですね。実務上、そういう場合にはどのような証拠で認定しているんでしょうか。
園尾最高裁判所長官代理者 御指摘の点につきましては、正常な雇用関係であれば書類が調っているわけですが、賃金の不払いが生じるという事例ではそのような書類がそろっていないということで問題になるわけでございます。
 御指摘のように、時間外手当あるいは休日割り増し賃金あるいは歩合給というような場合に、その立証がなかなか難しいというような事例もございまして、裁判所に申し立てられる事例としては、結果としてそのような事例は余り多くはないわけですが、申請があります事例におきましては、例えば、そのような書類が完備していない場合に、過去の給与明細書から認められる時間外手当の金額と若干の補充資料とに基づいてその後の時間外手当の額を推認していくとか、あるいは過去の銀行振込金額と基本給との差額についての証明と若干の補充資料とによって時間外手当の額を推認するなどいたしまして、実務においては具体的事例に応じてさまざまな工夫をしておるところでございます。
 なお今後とも、実態に即した適切な運用がされるように研究が継続されていくというふうに考えております。
山内(功)委員 特に、残業していても残業代金を請求しにくいとか、そういう会社もあるわけでして、研究されるのは結構なんですけれども、入り口を狭める方向で研究されるのだけはやめていただきたいと思いますし、それから、裁判所ごとに運用が違うということも間々聞くことがあるものですから、できれば使いやすい運用方法を全国的なレベルで統一してもらえればなという希望を述べさせていただきます。
 それから、厚生労働省、十年前に労働債権についてILO百七十三号条約が成立しているんですが、この中では労働債権の保護についてはどういうふうな規定になっているんでしょうか。
青木政府参考人 今御指摘になりましたILOの百七十三号条約でありますが、平成四年にILOで採択をされたものであります。
 これは、中身については二部と三部に分かれておりますが、第二部では、特権による労働債権の保護ということで、賃金等の労働債権については、使用者の支払い不能になった三カ月以上前の分の賃金債権、これらについて、その優先順位を国税だとかあるいは社会保険料などの特権を付与された債権よりさらに高いものとするということを定めております。
 それから第三部では、未払い賃金等の労働債権の保証ということで、支払い保証機関による保証について、倒産等の場合に限定しないで、支払い不能の場合のすべての労働債権について、例えば八週以上の賃金などを保証機関による保証を行うことということを規定しているものでございます。
山内(功)委員 今聞いている内容だと、非常にいい内容だと思うんですけれども、なぜ日本は批准しないんですか。
青木政府参考人 このILO条約の第二部の特権による労働債権の保護につきましては、今申し上げましたように、各種債権の優先順位について述べているわけですが、我が国におけるそれぞれの優先順位というものについては、御案内のように、国税徴収法でありますとか民法などの一般実体法により定められておるところでございますが、今申し上げましたように、この条約が求めているような、三カ月以上の労働債権の優先順位を国税等の特権を付与された他の大部分の債権より高いというふうには現在の我が国ではなっていないというところでございます。
 それから、第三部の未払い賃金の支払いの保証の部分についても、我が国では倒産等の場合には未払い賃金の立てかえ払い制度というものがございまして、それによって労働者の救済を図っているところでございますけれども、この条約が定めておりますような、倒産等の場合に限定されない、すべての場合の労働債権についての保証機関による保証ということは行われておりませんので、この条約については我が国の法制度と内容が異なる点が見られるということで、この条約を批准していないところでございます。
山内(功)委員 条約は、国内法が整備されていないから条約を批准しないということでもないでしょう。なぜならば、その条約に見合ったような法整備をしていくという機運にも使えるんじゃないんですか、条約を批准するということは。だから、私は、今日本の法制度が追いついていないからというのは余り理由にはならないと思うんですけれどもね。
 いずれにしても、百七十三号条約について、精神としては間違っていないと私は思いますので、先ほど財務省の方から、破産法については、今、労働債権のもう少し格上げについての法整備を考えているというような話もあったんですけれども、厚生労働省が多分労働問題については最も主管官庁だと思いますので、賃金の確保について、百七十三号条約の精神に追いついていくような研究機関というか、そういう考慮はないんですか。
青木政府参考人 ILO条約につきましては、それを批准した場合には誠実に守るということでありますので、我が国としては、国内の法制度等とそごがないように、できるだけ国内法制度等を整備して、しかる後に批准をしていくという態度をとっているところでございます。
 このILO百七十三号条約が平成四年に採択されたことを機としまして、労働債権の保護についての重要性が世界的にも非常に関心も高まったということでありますし、厚生労働省といたしましても、平成十二年に労働債権の保護に関する研究会というものを設けまして、いろいろなその後の法制審での労働債権の保護についての御議論にも十分対応できるように、検討、研究をしてきたところでございます。
 そういうことで、基本的な考え方については、内容については、そういう意味で批准するに至ってはいないところでありますけれども、今御指摘がありましたように、そういうことで研究等をしてきているところでございます。
 ただ、この平成十二年の研究会報告においても、実は、労働債権の引き上げの問題についても随分と深く議論をいただいたところでありますけれども、まだ検討を深めるべきさまざまな論点があるということで、広範な観点からの議論がさらに必要というような検討結果もいただいているところでありますので、こういったことも踏まえながら、私どもさらに研究はしていきたいというふうに思っております。
山内(功)委員 国内法を整備して百七十三号条約に近づいていく、そして批准をしていくという方向性を明言されましたので、実り多い研究がなされるものと期待をしたいと思っています。
 民事執行法上の保全処分についても改正案があるんですが、例えば暴力団が不法占拠している場合を考えてのことだとは思うんですけれども、著しくそういう不動産の価値を損なったり傷つけたりするという、その「著しく」という要件を今回外すというふうに改正をするんですが、その趣旨はどういうことなんでしょうか。
房村政府参考人 御指摘のように、民事執行法におきまして、いわゆる執行妨害行為として不動産の価格を減少させるような行為に対応するために保全処分が設けられています。ただ、その発令要件として、現在は、「不動産の価格を著しく減少する行為」、これが発令の要件となっております。
 ところが、最近、執行妨害の手段が非常に巧妙化しているというようなことから、この「著しく減少する」ということを立証することがしばしば困難になっている、こういう指摘を受けております。そういうことから、より適切に執行妨害行為に対応できるように、この「著しく」という要件を外しまして、不動産の価格を減少する行為、これがあれば保全処分が発令できるということにして、執行妨害行為に対する対応を適切に行えるようにしようということでございます。
山内(功)委員 これも労働者とか労働組合に関係すると思うんですけれども、私が知っている例でも、企業の経営者はトンズラしてしまった、債権者は押し寄せてくる。だけれども、残った従業員というか組合員の皆さんは、会社の自分たちの部屋でずっと、カップラーメンみたいなものを食べながらでも、自分たちの技術をしっかりと、駆けつけてくる債権者に、こういう能力があるんだ、こういう技術を持っていて、こういうふうに債権者の皆さんのためにもなるようなものをつくっていくからということで、結局、今、普通以上の会社になっている会社もあるんですね。
 だから、労働組合の正当な組合活動が、著しく損傷を与えないという要件が、著しく損傷を与えなくてもいわば追い出しができるというような規定になることによって、自分たちの活動が制約されるのではないかという危惧を持っている人が多いんですよ。この点についてはどう考えたらいいんでしょうか。
房村政府参考人 この保全処分と正当な労働組合活動、こういう関係につきましては、この保全処分を設けるときにも議論をされまして、その時点でも、正当な労働組合活動である限りは当然価格減少行為には該当しないという考え方が示されたところでございますし、現時点においても、私どももそう思っております。また、今回「著しく」ということが外れたからといって、そのことによって、従来、価格減少行為に該当しないとされておりました正当な労働組合活動が価格減少行為に当たるということになるとは考えておりませんので、その点は従来と変わらない、こう思っております。
山内(功)委員 済みません、大臣、今民事局長が言われたことは大臣も同じ考えでいいのかどうかだけ、答えていただけますか。
森山国務大臣 結構でございます。
山内(功)委員 では最後の質問になりますけれども、二年前にサービサーをここの委員会で法案を成立させまして、サービサーの中には外資系の会社も多いんですね。ゴーンさんのような強い権限を持って会社が立ち直る場合ももちろんあって、外資系というのはすごい人もいるんだなと思う反面、日本の労働慣行とか労使慣行とかということに余り精通していない方がサービサーを設立したり、その中の担当者になっていろいろな執行行為をやったりするというようなこともある、これからふえてくると思うんです。
 実際にも何か二、三件問題となっているようなんですけれども、損傷が著しくない場合との除外規定のほかに、先ほどから出ています話を、大臣も確認答弁をしていただきましたことを尊重するとすれば、正当な活動が妨げられないように、本規定はそういうふうに解釈をするというような一文を修正文としてつけることはどうでしょうか。
房村政府参考人 先ほども申し上げましたが、この保全処分の解釈に当たりまして、正当な労働組合活動が価格減少行為には該当しないということは既に確立した解釈でございますし、国会でもそういう説明がされておりますし、その後の運用を見ましても、そういう理解で運用されているということでございますので、改めてそのような条文を置くまでもなく当然のことではないか、こう考えております。したがいまして、あえてそのような条文を設ける必要はないのではないか、こういうことでございます。
山内(功)委員 この法律の改正された趣旨とか、今後の労働債権についてはこういうふうな扱いになりますというようなことをぜひいろいろな機会を通して宣伝をしていただきまして、今後、労働債権について政府を挙げて積極的な取り組み、検討を御祈念申し上げまして、質問を終わります。
 ありがとうございました。
山本委員長 鎌田さゆり君。
鎌田委員 おはようございます。民主党の鎌田さゆりでございます。よろしくお願いします。
 私は、短期賃貸借制度の見直しについてまずお伺いをしたいと思います。
 いわゆる短期賃借権について、執行妨害のおそれが高いとして、短期賃貸借制度を廃止するという今回の法改正の中身のようでございますけれども、まずは、やはりこれも現状、実態がどうなっているのかということを明らかに認識をした上でないとなかなか議論も進まないと思いますので、実態というところで伺いたいと思いますが、賃貸用のマンション、アパート、オフィスビル、テナントビル等、これらにおきまして、抵当権が設定されている物件の比率というのは全体のうちのどのくらいなんでしょうか。
房村政府参考人 正確な数字はわからないわけですが、一般的に申し上げますと、賃貸用のマンションとかアパートを建築する際には、建築費用に充てるために金融機関から融資を受けて、完成時にその建物に抵当権を設定するということが多いと思われます。ただ、この融資を完済すれば当然抵当権は消滅するわけでございますので、実際に、現在ある賃貸用のマンション、アパートのうちどの程度のものに抵当権がなお設定されているのかということは不明でございます。
鎌田委員 つまりは、一般的には、やはりもともと、初めのうちから、賃借人が契約をする時点においてはほとんどが抵当権はもう設定されているというふうに考えていいのではないかと。
 それで、私自身もちょっと、余り新しい資料ではないんですが、九八年度版の総務省の統計局で出されている住宅・土地統計調査、これですと、例えば民間の借家数総数では、全国で約一千二百万戸、そのうち賃貸マンションが約五三%ということで、しかも、八八年度に比較しますと、この九八年度、賃貸マンションがこの十年間で約九五%増加をしているということで、やはり、今お話しくださったとおり、ほとんどがもう抵当権が設定されているという物件のもとで賃借人がその契約を開始するというふうに考えていいのではないかと思うんです。
 では、今度、今回の法改正の中身にあります、抵当権におくれる短期賃貸借は抵当不動産賃貸借のまたどのくらいかということもお伺いしようと思った――いいですか、じゃ、お願いします。
房村政府参考人 これも必ずしも厳密な数字ではないかもしれませんが、競売物件について最高裁の方で調査したその結果でございます。これで見ますと、競売物件のうち、建物でございますが、賃借権が設定されているものが大体四三%程度でございます。その賃借権のうち抵当権におくれる賃借権、これが大体七九%、残りの二一%は抵当権に優先する、こんな数字になろうかと思っています。
鎌田委員 今の数字を見ましても、ほとんどが、その七九%の方、抵当権におくれる短期賃貸借というふうにとらえられるのではないかと思います。
 では、また実態のところですが、短期賃貸借制度の中で、反社会的勢力、いわゆる占有屋と呼ばれている人たちというかグループというか、そういうところによって悪用されている、あるいは悪用された事例は、抵当権におくれる賃貸借のこれまたどのくらいの比率を占めるんでしょうか。
房村政府参考人 これも正確なところは非常にわかりにくいわけでございます。ただ、裁判所においては、短期賃貸借のうち、例えば敷金が非常に高額であるとか、長期間の前払いがされている、あるいは占有の実態を伴わない、こういうような明らかに濫用的なものにつきましては、これは短期賃貸借の濫用であるとして、競売によって引き受けない、こういう扱いをしております。
 そういったものの件数を見ますと、これはやはり先ほど申し上げた最高裁の調査でございますが、不動産競売事件が四千六百六件ございまして、そのうち短期賃貸借と判断されたのが千五百七十五件でございます。
 それで、そのうち八百九十件は引き受けとされまして、四百九十二件は、競売開始後期間満了で終了してしまう、そういうことで、そこで賃借権が対抗できなくなってしまう、そういう扱いになっております。
 それから、残り百九十三件については、先ほど申し上げたような濫用型の短期賃貸借で、引き受けないと判断されております。期間満了の場合には濫用かどうかという判断がされておりませんので、引き受けになったものとそれから濫用型だと判断されたものを比較いたしますと、率としては八二対一八ということになります。
 ただ、これはあくまで、先ほど申し上げましたように、非常に高額な敷金があるとか、明らかに濫用だということがわかって、積極的に引き受けないと判断できたものでございます。
 ただ、こういう判断は、それは非常に難しいわけでございますし、特に、最近は執行妨害が非常に巧妙になって、なかなか濫用目的であるということが認定しにくくなっておるというようなこともありますので、実際にどの程度のものが濫用されているかというのは、この裁判所で把握できたものより相当上回るだろうとは思いますが、実際の割合は、そういうことでなかなかわかりません。
鎌田委員 八二対一八という数字をお示しいただきました。そこから言えるのは、やはり、明らかに濫用していると裁判所がきちんと判断をしているのは二割にはいっていないということ。
 今の御答弁の中で、明らかに濫用と判断できない、潜在的なものであるとか表に出てこないということで、そういったものも含めるとこれよりふえるだろうというようなお話もありました。しかし、今回は、やはり法律を改正して、日本全国あまねくの制度にするわけですから、やはり、きちんと統計あるいは調査によって出てきた数字というものに基づいていかないと、より多くの人にとっての公正な制度改正にはならないと私は思いますので、やはり、八二対一八という数字に基づいて考えなければいけないのかなと思います。
 この数字から見ますと、明らかに濫用だというものが一八で、二割に満たないから、少ないから、一部だから、一部のそういったものを排除するために賃借権というものに対して規制をかけていくということへの御異論もあることも承知をしつつ、しかしながら、また一方で不動産執行妨害というものが現実にあるわけですから、そして、もうこれは本当に社会問題化をしているわけで、それに対してきちんと何らかの措置をしていかなければいけないということも、私は理解をしている一人でもあります。
 それでなんですが、ちょっと簡単に、不動産執行妨害の実態というものとあわせて、これは単純素朴な疑問なんですけれども、占有屋と呼ばれる人たちは、あの物件は抵当に入っている、間もなく競売にかけられそうだ、あそこに入って短期賃貸借を結べば我々にとっていい上がりになるぞというような、そういう情報をとって、見通しを立てて行動に移す。いわゆる暴力団と呼ばれている方々が多いようですが、なぜそういうことが可能なんでしょうか。二つ、お答えいただけますでしょうか。
房村政府参考人 まず、不動産執行妨害の実態の関係でございます。
 これは、ただいま申し上げたような数字、例えば一八%というのは、これは裁判所において引き受けないとして対応できたものでございます。実際に、実態としては短期賃貸借が相当濫用されているというのは、執行にかかわる者にとってのある意味では常識でございます。
 特に、立法する場合には、そういうきっちり統計数字に出せないものの実態としてあるということも踏まえて、そういうものにも対応できるような制度にしていく必要があろうかと思っておりますので、その点は、私どもとしても御理解を賜りたいと思っています。
 濫用の実態としてどんなものがあるか。これはさまざまなものがありますが、典型的なのは、競売開始前あるいは競売開始後に所有者との間で短期賃貸借契約を締結して占有を開始する、そして、高額な敷金を入れたということを主張いたしまして、その敷金の返還名目で金銭の支払いを求めるとか、あるいは、賃料を前払いしたということを主張いたしまして、無料でその不動産を使用しようとする。あるいは、短期賃貸借を主張して、明け渡しになかなか応じない。そういうことで立ち退き料を要求する。あるいは、そのような形によって競売を成立しにくくさせる。他の者に入札をさせずに、みずから低い価格で落札をして転売利益を得ようとする。あるいは、そもそも競売が成立しないように種々手を尽くしまして、その間、その建物をみずから利用してしまう。さまざまなものがございます。
 どんなことでそれを知るのかというと、競売開始決定というような公の手続が始まれば、それは当然調べればわかることですが、やはりそこは、暴力団にとって現在、競売関係が非常な資金源になっているということを指摘されておりますので、さまざまなルートを通じて、例えば事業が危うくなったところをねらうとか、あるいは多重債務を抱えている人たちを調べ上げるとか、そこはまさに蛇の道はヘビということではないかと思います。
鎌田委員 いろいろ御紹介いただきました。ありがとうございました。
 やはりそういう社会問題に対応しなくちゃいけない、大切だというものもともに理解はしたいと思います。情報を入手できるというのは、やはりそちらの方にもこの部門の担当者がいるんだなということを改めて何か考えさせられる重大な問題だということもわかりましたが、実際、そういうふうに悪質な事例が目立って、社会問題化していることも本当にわかります。
 ただ、さかのぼりますと、九六年、九八年の段階で、民事執行法の執行妨害排除の改正が行われているようでありまして、その後の最高裁判決でも、抵当権者に明け渡しの請求権を認める判例見直しも出ております。
 短期賃貸借の悪用に対処するには、手続上のこういった執行妨害対策の強化では不十分なんでしょうか。そして、やはりどうしてもそれでは不十分なんだということを、改めて、なぜ不十分なのかということをお示しいただきたいと思います。
房村政府参考人 御指摘のように、平成八年に民事執行法を改正いたしまして、引き渡し命令の相手方を拡大して、より容易に引き渡しが可能になるようにいたしましたし、また、平成十年には、執行官の調査権限を拡充したり、保全処分を創設したりというようなことを行いました。それによってそれなりの効果は上がってきておりますが、依然として短期賃貸借が占有屋等による執行妨害に濫用される例が後を絶たないということでございます。警察等で、執行妨害事件として立件している事件について見ましても、そのほとんどにおいてこの短期賃貸借が濫用されている、こういう実態にございます。
 執行妨害対策をさらに強化するために手続の強化とか罰則の強化ということも行うべきことは御指摘のとおり当然だろうと思いますし、そういうことから、今回の改正でもいろいろな点での改正をお願いしているわけでございますが、やはりそれと並びまして、そもそも濫用がしにくい法律制度をつくるということも重要ではないかと思っております。
 そういう意味で考えますと、現行の短期賃貸借制度というのは、抵当権におくれる賃借権に、本来的には優先すべき抵当権に対抗する地位を与えてしまうという、ある意味で、最も濫用されやすい部分を持っているというのは事実でございますので、やはりその点を何とかする必要があるのではないか、こう考えております。
鎌田委員 濫用しにくい法制度をつくるということも十分理解できます。それは、いわゆる悪用している占有屋等に対してであって、しかし、悪用しない、いわゆる善良なといいますか、当たり前な、まともな、通常の賃借人の立場、こういったものの保護を置き去りに、おろそかにしてしまうというようなことが同時に行われるようであっては、これはまた絶対あってはいけないんではないかなと私は思うわけです。
 そうはいっても、どこから見ても、借金を結局返せなかった、ビルだったらオーナーさんなり債務者の方が、悪いとは言いませんけれども、返せなかった、そのことが根本にあるわけでありますから、その点、何の責任もない賃借人にとっては、たまたま自分が借りた、契約した時点が抵当権におくれる。そしてまた、自分がたまたま借りたビルのオーナーが借金で首が回らなくて、返せなくなって、それで競売になってと、何かたまたま続きでアンラッキーだったな。それでもって、今度の法改正で、競売が成立して、新たな買い受け人が決まって三カ月で出なきゃいけないというのも、アンラッキーでは済まされない、ちょっと極端に言えば、理不尽さというものをこれは感じるのを禁じ得ません。
 そこでなんですが、通常の賃借人の立場についてちょっとお伺いをしたいと思います。
 抵当権者の同意により賃借権が安定するというのも全くそのとおりだと思います。ただ、その賃借人に対して宅建業者、不動産屋さんでしょうか、その方が契約をする際に、例えば、この物件は今抵当権が設定されています、そして今度の法改正でこういうことで、こうでこうで、もしそういう事態になったら三カ月以内にこうなるんですよとか、そういうさまざまな情報をいわゆる賃借人に、物件をいろいろ選択する際の基準として余地を与えることとして、その情報を公開する義務というものが今あるのかどうか。あるいは、私は情報公開を徹底して行うべきだと思いますが、それを指導していくお考えがあるのか、お答えください。
房村政府参考人 ただいまの御質問にお答えする前に、いわゆる正常な短期賃貸借の保護という点について若干御説明をしたいのですが、よろしゅうございましょうか。
 現行法におきまして、もちろん濫用型のものを保護する必要は全くないわけでございますが、逆にいわゆる正常な形の短期賃貸借、これが常に保護されるかといいますと、そうはなっていないわけでございます。
 まず、基本的に、抵当権の実行が開始されまして競落されるまでの間に短期賃貸借の期間が満了してしまいますと、もうそれ以後は対抗できなくなりますので、これが実際上は三十数%ございます。ですから、正常な短期賃貸借であっても、期間の先後関係、そういう偶然的な事情で保護されないものが相当数あるということが一つございます。
 それからもう一つは、短期賃貸借につきましては、「抵当権者ニ損害ヲ及ホストキハ裁判所ハ抵当権者ノ請求ニ因リ其解除ヲ命スルコトヲ得」という規定になっております。この規定は、短期賃貸借が設定されることによって競落価格が低下する、そして競落価格が低下することによって抵当権者の配当を受ける額が下がる、こういう場合には損害が生ずると言われております。それで、一般的に、短期賃貸借権が設定されれば競落価格は下がるということが経験則である、こう言われております。現実に今、競売されている物件で抵当権者が満額の配当を受けられる事件は非常に少ない。したがいまして、理論的には、ほとんどの短期賃貸借につきまして、この民法の規定に基づく解除請求がされれば実際は解除されてしまう、そういう危うい地位にあるわけでございます。
 ただ、民法の規定が解除を訴えによってしなければならないとしておりますので、抵当権者にとっては非常な負担になるということから、現実に解除請求に至っているものはそう多くはございませんが、理論的には、現在の民法の考え方としては、短期賃貸借であればこれを無条件に保護するという形にはなっておりませんで、あくまで抵当権者の配当に影響を与えない範囲で保護する、こういう法律の建前になっているということをまず御理解いただきたいと思います。
 それから、御質問の抵当権の有無について宅建業者が説明する義務があるかどうかということでございますが、これは宅地建物取引業法で重要事項について説明をする義務が課されておりまして、その重要事項の中には当然、建物に抵当権が設定されているということは含まれております。
 また、今回この法律が成立をさせていただきました場合には、従来と異なりまして、抵当権設定後の賃借権の設定については常に劣後するということになりますので、その点については、私どもとしてでき得る限りの周知の努力をしていくというつもりでございます。
鎌田委員 今るる御説明をいただきましたけれども、前段も後段も、私は、やはり現場の実態というものをきちんと把握して、理解をして、そして制度をよりいい方向に変えていかなきゃいけないと思うんですね。
 その中で、特に後段の方なんですが、義務はあるということを御説明いただきました。重要事項説明書を発行して権利関係を事前に説明する義務があると。しかし、やはりまた実態に目を向ければ、いわゆる不動産屋さんにすれば、この物件が幾らかでもやはりお客さんにいい印象でもって、なるべくは高い契約を結んでいって、手数料をなるべく一円でもという中で、今抵当に入っています、こういう状況です、ああいう状況ですと、若干でもお客さんにとって、では、この物件、やめようかしらというような、不利になるような情報というものはなかなか開示をされていないということは、これまた私は実態だと思うんです。
 ですから、それまた後段で、指導を徹底していくというお考えはもうどんどん、そのとおりきちっと進めていただきたい。しかしながら、実態はなかなかそうなっていないということをお認めいただきまして、賃借人に対して物件に対する選択の余地というものが、ここの部分だけでもすごく大事な部分なんですが、狭められているということを御認識していただいた上でお取り組みを進めていただきたい。
 そこでなんですが、例えば賃借人が現行法の中で抵当権の存在を知らされていなかった場合、あるいはこれからの法改正の中でそういう場合の救済措置というものは考えていらっしゃいますか。
房村政府参考人 仲介業者に対する行政的な措置というのは、これは宅建業法の方で規定がされております。
 民事的に考えますと、そういう抵当権の存在という重要な事実を知らせずに賃貸借契約を締結したということであれば、それが仲介業者が適切に知らせなかったためだ、それによって損害をこうむったということであれば、債務不履行あるいは不法行為に基づきまして、その損害をこうむった賃借人は仲介業者に対して損害賠償の請求をするということは法律上可能でございます。
鎌田委員 はい、ありがとうございました。
 そうしますと、また次なんですが、例えば抵当権のついた物件とそうでない物件とでは、私が感じますに、ほかの条件が同じならば賃貸料に差がついてもいいんじゃないか。あるいは、賃借人が契約を結ぶ際に、そのあらゆる情報を出していただいた時点で、ああ、私の場合、こういう抵当権におくれる契約だから、そうするとこういう事態が発生すればこういうことがあるかもしれないんだ、でも、わかった、それを覚悟して契約をしよう、ただ、それでは賃貸料、少し安くなるのかしら、そういったような交渉というものもできるのかどうか。二点についてお答えいただけますか。
房村政府参考人 御指摘のような、他の条件が同じで、抵当権がついているか、ついていないかということであれば、一般的に考えると、それは抵当権のついていない方が賃料としては高く取ってもおかしくないということになろうかとは思いますが、ただ、これも抵当権が実行される可能性の問題もあります。非常に資力のある賃貸人であればほとんど気にしないでしょうし。そういうこともありますので、実際にどうなるかというのはなかなか難しいわけでございますが、一般的に言えば、そういう差は生じようかと思います。
鎌田委員 そこをぜひ確認をしたかったので、一つ、賃借人にとっての考える、選択をするという機会をきちんと提供していくことも、私は、賃借人の立場を守っていくというところでは大事だと思いますので、今の答弁をしっかり覚えておきたいと思います。
 それから、買い受け人と賃借人の関係について、賃借人をめぐっての関係について伺いますが、買い受け時より三カ月と今回数字として出されました。その三カ月の根拠を、時間が少し迫ってきましたので、少し要約してお願いします。
房村政府参考人 今回、明け渡し猶予期間を認めましたのは、最終的に買い受け人に対抗できないとしても、急に移るというのはやはり賃借人にとって酷だということから、転居先を探して引っ越しをする、そういう準備期間を与えるということを考えますと、三カ月程度あれば十分ではないか。
 また、逆に、競落する立場からしますと、競落後は直ちに利用したいものを、明け渡し猶予期間はみずから利用できないわけですので、この期間が長くなりますと競売に参加する人が減少しますし、競落価格も低下してしまう、それは、所有者にとっても抵当権者にとっても損害を与えることになりますので、その両者を考慮いたしまして三カ月という期間を決めたものでございます。
鎌田委員 今回の法改正に当たっては、各界、各団体、いろいろな方々に法務省も意見を伺って、集約をしたものを今回資料としてもお出しをいただきました。
 その中で、例えば日弁連の皆さんは、A案、B案、B1、B2と出されている中で、今回の法改正のもともとになったA案に対しては、やはり一部の濫用者のために善良な賃借人の立場というものが犠牲になるということで反対を表明し、B1という期限を少し制約をかけた中で、そちらならば賛成できるというものも表明し、また、全国借地借家人の団体の皆様は、とにかく反対だ、善良な居住者、まじめに生活をし、まじめに家賃も払い、そこで生活をし人間関係を営む我々にとっては大変酷な今回の制度改正だということで、これにも反対を示しております。
 ですので、この三カ月ということについては、人によってはやはり三カ月あれば十分だという人もいるでしょうし、逆に人によっては一週間あれば十分だという人もいるかもしれない、でも、人によっては六カ月あっても本当に困難なんですという人もいると私は思うんですね。ですから、やはりそういったそれぞれの事情というものを加味した中での制度改正というものにしていかないと、二割に満たない明らかな濫用者のところのために善良なところが犠牲に遭うというふうにとらえられてもまた仕方ないと私は思いますので、この辺は、これからの議論なんかを聞きながら、また私自身もさらにきちんと判断していきたいと思います。
 敷金についてなんですけれども、買い受け人が敷金を継承しないとすれば、賃借人の敷金返還請求権はどのように保護されるでしょうか。いわゆる収益物件を競売されて著しく信用が劣悪化した賃貸人を相手に敷金の返還請求を行うことになるわけですから、私は、本当に、あら、うそでしょうという率直な感じを否めません、冗談じゃないわという感じも否めません。その点について、ちょっと御説明いただけますか。
房村政府参考人 今回、短期賃貸借を廃止して引き受けをしないということになりますので、原則どおり、敷金は当初の賃貸人、敷金を払った相手から直接返していただくということになります。ただ、御指摘のように、競売になるわけですから、それは事実上資金が足りないという場合もあり得るだろうと思います。
 少なくとも、現在の締結されております短期賃貸借については新法を適用するということはいたしませんので、これは従前どおりの扱いになります。したがいまして、これから締結する短期賃貸借契約についてということになりますので、ある意味では、それを念頭に置いて契約を締結していただく。
 これは、例えば現在でも、賃貸借契約の中で、賃貸人が差し押さえを受けた場合には敷金の返還請求権の履行時期が到来するとして、以後の賃料との相殺を可能にするという特約を結んでいる例も現実にございます。そういったものをあらかじめ締結すれば、競売開始決定で差し押さえの効力が生じますと、以後の賃料については敷金の返還請求権との相殺が可能になる、そのことによって事実上敷金のいわば返還を担保するということは可能なわけでございます。そういったようなことをあらかじめやっていただくということによって、相当程度の保護が図れるのではないか。
 また、今回、抵当権者の同意を得て賃貸借に対抗力を与えるという制度もつくっておりますので、最初からこれを利用していただければ、そういう敷金の返還請求権の引き受けの問題は、当然に引き受けになりますので問題は生じないわけでございます。
 そういう意味では、従来と比べまして相当変わってまいりますので、私どもとしても、賃貸借契約締結に当たってそういう点を認識していただけるようにできるだけの周知をしないといけない、こういうぐあいに思っております。
鎌田委員 私の持ち時間が終わりましたので、まだまだ予定したのは残っておりますが、また次回にいろいろ伺いたいと思います。きょうは、情報公開というもの、賃貸借人に対してきちんと選択の余地を与えるということをぜひお約束をしていただきたいなと思って、終わります。ありがとうございました。
山本委員長 山花郁夫君。
山花委員 民主党・無所属クラブの山花郁夫でございます。
 今回もまた束ね法ということで、民法の部分と執行法の部分、いろいろあるわけですけれども、こういった提出の仕方については、次期国会以降配慮いただきたいということを申し上げまして、法務大臣からもそのように検討したいという答弁をいただいておりますので、それぐらいにいたします。
 今、山内委員、鎌田委員の話などを聞いておりまして、若干価値判断として、法務省の民事局というか法務省全体として、どこまで立法事実の調査で御認識されているのかなと思うところがございます。
 と申しますのも、例えば先取特権について範囲を広げるということ、それはそれとして結構なんですけれども、ただ、先ほど山内委員からの質疑でもありましたように、実際は実務の手続のところで、例えばどういう書類があればいいのかであるとか、そういうことがもっと緩くないと、これはもっとも裁判所に申し上げる話なのかもしれないですけれども、まさに本当に絵にかいたもちになってしまうところがある。
 以前、執行法でしたか、議論させていただいたことがあります。つまり、中小とか零細企業で倒産した労働者なんかは、そもそも、給料の六カ月分と言われたって、自分の給料の六カ月分が幾らだかわからないのがむしろ普通だったりとか、そういうときに証明書をとれと言われたって、会社に行って判こでも持ってきて、窃盗になってしまいますが、自分で押すとかしないとだめだったりとか。
 もっと言えば、先ほど給与明細という話がありましたけれども、例えば、一生懸命裁判所にこれが給与明細ですと言っても、昔、年配の先輩方だったら、ひょっとすると経理課か何かからもらって、経理課の人が手書きで書いて、それに判こでも押してあるような明細だったかもしれませんけれども、今パソコンでぱこぱこぱこと打ち出したような明細だったりしますから、判こがないとか言われちゃうとどうしようもないです。ただ、今実態は明細というのはそういうものですから、これでだめだと言われると困ってしまうんですよね。
 だから、そういうところについてもう少し配慮していただきたいなというのが一つ。それは意見としてだけ申し上げます。
 法務大臣、突然ですけれども、今鎌田委員からも質問があった話です。人によっては、引っ越しをするのに一週間で十分だという人もいれば、三カ月でもなかなか難しいという人がいる。一つのグループがあるんですよ、なかなか引っ越し先が決まらないという。離婚された女性なんかが非常に家を探しづらいということを御存じですか。
森山国務大臣 そういう話は聞いたことはございます。
山花委員 そうなんですよね。大体、家を借りようとすると、保証人をつけてくれと契約書にあります。例えば、離婚をして仕事を今探していたりとか、せいぜいパートだったりとか、収入が十分じゃない、不動産屋さんの方がそう見るケースだと、しようがないから、女性の方がまさかもとの夫に保証人になってくれとも言えませんから、そうすると実際実のお父さん、お母さんに保証人になってもらおうとする。
 ところが、例えばお父さんが亡くなられていたりとか、あるいはもう仕事を引退されていたりとか、そういうケースだと、保証人との関係、どなたですか、親ですという話になると、それじゃだめですということで、不動産屋さんからけられちゃうような、不動産屋さんがいけないのかあるいは大家さんがいけないのかわからないですけれども、そういうケースがある。実際に我が党の、固有名詞は避けますが、参議院の女性の方でも、自分自身は年間それなりの年収もあったし十分払えるんだけれども、保証人を立てろと言われて、それがなかなか見つからなくて、相当長期間にわたって家が借りられなかったという経験をされた方もいるわけであります。
 確かに、先ほどの議論の中でも出ておりましたけれども、抵当権というのは普通、登記をして公示されていますから、見ようと思えば見られるんだと。ただ、それは民法の教科書を見ればどこにでも書いてあるし、大体、担保物権というのが設定されて、後順位の人はその実行を覚悟すべきだ、それは法律の理屈としてはそうなんですけれども、結構、実社会ではそれはフィクションなんですよね。賃借人の方が家を借りるときに、この家は抵当に入っているかしらなんて見ることはまずないですし、ましてや、むしろ民法の原則というのは、義務は履行しなきゃいけないというのが大原則で、したがって大家さんがお金を借りていたら返すのが大原則なんですよ。つまりは、抵当権が設定されても、普通は返してなくなるんですよ。
 ですから、最後の究極の判断のときにどっちが優先しますかと言われれば、もちろんフィクションの説明になります、公示もされているし、それを覚悟して入ったはずだということになります。実際はそうやって多くのケースではむしろ履行されるのが通常で、実行されるケースなんというのは、総体からいえば恐らく、データもないですし、私も持っているわけじゃないですけれども、推測になりますけれども、恐らくほんの一部が実行されて、賃借人が場合によっては出ていかなきゃいけないというケースですから、その保護として本当に三カ月が十分なのかなという気が今いたしております。
 ただ、またそれは後日、十分時間をとって議論をさせていただきたいと思いますが、きょうは、執行法の関係で、養育費等の支払いの関係で問題となります扶養義務等に係る金銭債権に基づく強制執行の特例ということについて聞いてまいりたいと思います。
 この点についても、先ほど、果たして法務省はどれぐらいのことについてお調べになられたのかなという印象を持ちますと申し上げたのは、例えば最高裁なんかも、事務総局ですか、そちらの方で、過去どれぐらい養育費というものが支払われているかなどについて実情の調査などを行われているようであります。それを見ても、随分と額も低いし、こんなものかと思ってしまうような数字なんですが、ただ、これは要するに、最高裁というか裁判所が調査できるものですから、ということは、対象はそもそもそういう約束がありやなしやということで問題になったケースだということが言えると思います。
 そこで、きょう厚労省の方に来ていただいているんですけれども、まず、そもそも大前提として、幾つか現在の状況について教えていただきたいと思います。
 最近、離婚がすごくふえていますね。現在どれぐらいの離婚件数があるかとかいった、あるいは有子離婚の割合はどれぐらいかということについて教えていただきたいと思います。
唐澤政府参考人 それでは、お答え申し上げます。
 先生お尋ねのございました離婚の件数でございますけれども、年々増加をしてきてまいりまして、今、これは十三年、昨日も十四年が発表されましたが、二十九万件というのが年間の件数でございまして、このうちお子さんのいる有子離婚の割合というのは約六割でございます。
 このような離婚の増加に伴いまして、母子家庭も非常にふえておりまして、私ども、五年に一度、全国実態調査、大きな調査をやっておりますけれども、平成十年で約九十五万世帯、現在では恐らく百万世帯を超えているだろうと考えておりまして、非常にふえてきている状況でございます。
 この母子家庭の状況で、お母さんは就労と子育てというものもお一人で担わなければいけない、こういう大変な状況にあるわけでございますけれども、その就労の状況では、常用の方が五割、しかし他方でパートの方も四割という状況であるわけであります。
 したがって、母子家庭で直面する一番大きな問題というのは経済的な問題でございまして、平成十年の調査で見ますと、母子世帯の平均収入、これは三人世帯でございますが、二百二十九万円という状況でございまして、一般世帯が六百五十八万円でございます。これも約三人の世帯でございますので、三分の一ぐらいの水準にとどまっているというのが現状でございます。
 それで最後に、養育費のことでちょっと一言触れさせていただきますと、こういう非常に厳しい経済状況に置かれております母子世帯にとって、お子さんを育てるための養育費というのは大変重要な役割を担っているわけですが、現状は、この養育費について取り決めをしている方というのは離婚の世帯の三五%にとどまっておりまして、しかも、そのうち実際に養育費を受け取っているという方は二一%という状況でございます。したがって、この一四%の差というのは、取り決めをしたけれどももらっていない、あるいは何回か送ったけれどもその後途絶えてしまった、こういうような実情にあるのが母子家庭でございます。
 以上でございます。
山花委員 離婚件数が二十九万件ぐらいということですから、大変な数ですよね。一年三百六十五日しかありませんから、もう本当に、数分に一つのカップルが離婚しているというような時代になっています。
 私は、別に離婚がふえていることがいいとか悪いとかいうことにはならないんじゃないかと。つまり、むしろ、がんじがらめに縛られてでも、どんな目に遭ってでも最後まで添い遂げなきゃいけないということが必ずしも幸せかどうかということについては疑問がありますので、ここはいろいろな意見があるところだと思います、離婚がふえているのが嘆かわしいという方もいらっしゃいますから、そういう意見もあるんでしょうけれども、私は必ずしもそうは思っておりません。
 ただ、問題は、今お話があったように、そういったところで母子世帯の平均年収が約二百二十九万円、少ないですよね。どうやって生活しているんだろうと思うような感じです。しかも、養育費について取り決めがされているのが約三五%ということですから、ほかの世帯では養育費ももらっていないわけです。恐らく今回法務省としては、法務省としてはというか、最高裁などがお調べになったのは、事実上、この三五%の中の数字になってしまうのかなと、ほかに調査のしようがないでしょうから。ということですので、今回の法律の中で、いろいろと先ほども問題点の指摘はありましたけれども、今回のこの養育費を取りやすく、取りやすくという言い方が適切かどうかわかりませんけれども、執行が平易になるということは、評価はしたいと思っています。
 今回のこの部分の改正の意義について、簡単に御説明いただきたいと思います。
房村政府参考人 養育費につきましては、調停あるいは審判等でその負担が決められましても、月々比較的低額で、月ごとに決まっているということから、その履行をしてもらえないときに強制執行するとなると、ごく少額の債権についていわば毎月申し立てをしなければならないということで、非常に手数がかかる、負担が重い、こういうことから、せっかく債務名義がありながら強制執行ができない、こういう指摘があったわけでございます。
 そういうことから、今回この養育費等につきましては、一回でも支払いを怠れば、将来分についても、その相手方の給料等の継続的な収入を差し押さえることができる、こうすることによりまして、一回の申し立てによって、以後毎月、養育費の支払い日が来、相手の給料日が到来しますとその分を取り立てることが可能になる、こういうことで養育費の確保を図りたい、こう考えたわけでございます。
山花委員 法務大臣、法務大臣としてというか、お立場としては、法務大臣であるとともに国務大臣ですから、内閣のメンバーなんだと思います。つまり、法務省の責任者でもありますけれども内閣の一員ですので、この問題については意見が合うかもしれないところだと思っていますので、ぜひ考えていただきたいと思うんです。
 恐らく法務省としてできることは今回のようなやり方なんだと思うんですが、ただ、例えばスウェーデンなんかですと、一九三七年から既に養育費の立てかえ払いの制度というものがあります。つまり、国の方で立てかえて払って、その分を一方配偶者から国が請求するというやり方です。
 もう釈迦に説法だと思いますけれども、養育費の取り決めをして離婚ができるというのはまだ平穏な別れ方でして、最近、DVなんかのケースだと、ともかく離婚届に判を押してもらうことが大事で、もう養育費どころじゃないというケースもありますよね。こういったケースだと、むしろ、どの程度の比率あるいは金額にするかということについては法律で定めないと執行の根拠がないんでしょうけれども、例えば、国が養育費を立てかえ払いをしておいて、社会保険庁などが取り立てを行うというようなやり方も考えられますし、執行のところで工夫するということと取り立てのところで工夫するというのは決して二律背反ではありません。大変困っている女性方が大変いるわけです。ぜひ、そういったことで国務大臣としても発言をしていただきたいと思いますけれども、一言御決意をいただきたいと思います。
森山国務大臣 この問題はもう随分前から日本でも話題になっておりまして、何とかこれを早く解決したいと私自身、個人としても考えておりました。このたび、このような方法が新たに考えられまして、それが実際に実行されるときに当たったのは、私としては非常に気持ちがうれしいわけでございます。
 おっしゃるように、国によっては財政事情も違いますでしょうし、一九三〇年からと今おっしゃいましたが……(山花委員「三七年です」と呼ぶ)三〇年代ですね、国のこの問題に対する考え方や国民の世論も随分違うと思いますので、日本もいずれ将来そういうふうにできれば、その方が女性にとっては助かると思いますが、ほかのこともいろいろ考えなければいけませんので、当面はこの改正によって、何とかその改善のための第一歩というふうにしていきたいと思います。
山花委員 何か最後は法務大臣の立場に戻られてしまいましたけれども、ぜひ厚労省なども御検討いただければと思いますので、よろしくお願いを申し上げまして、終わります。
 ありがとうございます。
山本委員長 次に、石原健太郎君。
石原(健)委員 大臣は参議院の本会議があるそうなので、その時間になったらいつでも御退席いただいたらと思います。
 法案に入る前に、読売新聞に抗議文書を申し入れた入国管理局長にお伺いしたいと思うんですけれども、この抗議文を出すときには、だれかと相談なさってから出したんでしょうか。
増田政府参考人 抗議申し入れ書を出すこと自体につきましては、私の判断で出すことを決めました。
 法務省においては、広報は官房の秘書課が担当しておりますので、私の方でこれを出すことについては、秘書課長の方に連絡を入れておきました。
 それから、当時、大臣は国会に行っておられて連絡がとれずにその指示を仰げなかったものですから、事務次官には、私の考えを報告して御了解を得ておきました。
石原(健)委員 その新聞に出ている記事の中身が正しいか正しくないかとか、そういうことについてはだれかと相談されたんですか。
増田政府参考人 記事が正しいか正しくないかは、もう私どもには一目瞭然といいますか、つまり、この記事に書かれていたことを前提としますと、そこに書かれている人物が近く法務大臣によって難民認定されるという方向にあるという事実のないことは、私ども百も承知していたことですから、別に相談したということはございません。
石原(健)委員 この記事が出た日に、いろいろ電話なんかは来たんでしょうか。
増田政府参考人 電話というのは、国民から、国民からと言うと大げさですが、新聞の読者からとかそういうことでございますか。(石原(健)委員「いや、まあいろいろ」と呼ぶ)電話は来ました。
石原(健)委員 どんなところから来たんでしょうか。
増田政府参考人 読者からも法務省に電話は参りましたし、その他からも参りました。
石原(健)委員 その他について聞かせていただけたらと思います。
増田政府参考人 政治家の方からも、この記事が真実かどうかの問い合わせはいただきました。
石原(健)委員 役所とか官庁関係、あと総連なんかからも来たんでしょうか。
増田政府参考人 ほかの役所からの電話はなかったと思います。それから、総連からの電話もなかったと思います。
石原(健)委員 思いますって、つい最近のことですし、御本人が出られたんなら、思いますという言葉は別に必要ないと思うんですけれども。
 記事の中に、報告書が近く上がるということが書かれていますが、報告書は存在していたんでしょうか。また、ごらんになっていたんでしょうか。
増田政府参考人 ただいまお尋ねを受けました調査報告書につきましては、そこに書かれている人物の難民認定申請が実際にあったということを前提としての御質問だと思うのですが、私どもは、従来から、申請者の生命身体を保護する必要とかあるいはプライバシー保護の必要がございまして、難民認定の件につきましては、申請があったかどうか、またどういう人からの申請案件を調査しているかどうかについてのお答えは差し控えさせていただいているのです。
 したがいまして、ただいまお尋ねの調査案件も、それがあるかないかは、実際にその人の申請があることを前提とする問いでございますので、恐縮でございますが、お答えは差し控えさせていただきたいと思います。
石原(健)委員 難民認定するとかしないというのも、これは行政の一環としてやっていると思うんですよね。私らは議員として、行政がどういうふうになされているかということについて、当然質問したり答えてもらったりする立場にあると思うんですけれども、その点はどう考えていらっしゃるんでしょうか。
増田政府参考人 この難民認定につきましては、先ほども申しましたが、申請者とかあるいはその家族、親族などの生命、身体を守らなければいけないという要請がございます。また、プライバシーも保護しなければいけない、こういう要請もございます。
 そのようなことから、私どもとしては、個別の案件について、どういう人が難民認定申請をしたか、あるいはしているのか、それに対して現に調査が行われているのか、あるいは、結論として、申請に対してどのような結果を出したのかについては一切公表しないこととしておりますので、その点は御理解いただきたいと思います。
石原(健)委員 それでは、最初の方の質問で、何もこんなことは調べるまでもないというのは、何を根拠にそういうふうにおっしゃっているんですか。
増田政府参考人 先日来申し上げていることでございますけれども、あの記事には特定の人物の名前が書かれていて、それについて難民認定申請がなされているという前提の記事になっております。しかし、それに対して私どもは、そういう申請がなされているかどうかもお答えを差し控えさせていただきたいということを申し上げているわけです。
 しかしながら、お尋ねがありますので、あの記事を前提としてということで答えさせていただいたわけです。つまり、あの記事を前提とすると、そこに書かれた人物について近く法務大臣が難民認定をするんだ、そういう方向になっているんだというふうな記事でございますから、そういう事実があるのかといえばそれはない、ないことは私どもはわかっている、そういう意味で申し上げたわけでございます。
石原(健)委員 この記事は事実に反するとか、誤った記事は載せるなということなんですけれども、私らがこの記事を素直に読むと、複数の法務省幹部に、これを書いた人はちゃんと打診しているわけですね。じゃ、複数の法務省幹部が、その記者に、いいかげんな、うそのことを言ったということになるんでしょうかね。
 それで、あなたは新聞社に謝罪しろと言っているけれども、何をどう謝罪しろと言っているんですか。それで、さらに言うと、もしこれが事実でないんなら、複数の法務省幹部こそ新聞記者に謝らなくちゃならないんじゃないですか。
増田政府参考人 一般論として申し上げさせていただきますが、さまざまな報道関係者から何らかの形で接触を含めて取材があり、その都度、適宜適切に対応しているものと承知しております。
 難民認定に関する取材や問い合わせにつきましては、難民認定手続や法制度など一般的事項については取材に応じておりますが、個別具体的な事案につきましては、これまでこの委員会でも再三申し上げましたように、入国管理局といたしましては、申請者あるいは申請者の家族等の生命、身体の安全あるいはプライバシーを保護する、そういう観点から、取材を受けましても難民認定申請を前提とする質問にはお答えしないこととしているわけです。
 今回の記事に関して、取材があったか否かとのお尋ねでございますが、その記者が接触してきたことは事実でございますが、先ほど申し上げたとおり、個別具体的な事案であったため、お答えはしておりません。したがって、もちろん、北の元工作員難民認定へ、法務大臣が近く判断を下す、可能性が強い、そういう趣旨のことを言った事実はございません。
石原(健)委員 それでは、この記者が、複数の法務省幹部はこう言っているというようなことは、それも事実じゃないというふうに局長はおっしゃるんですか。
増田政府参考人 ちょっとお待ちください。
 この記事には、「複数の法務省幹部は、調査報告書の内容を覆す新事実がない限り、初の北朝鮮難民として認定することになるとしている。」こう記載されております。
 少なくとも、具体的な事件について、このような結論になると具体的に答えたという事実はございません。ただ、この記事は、具体的な事案について具体的に答えたということなのか、それとも、質問を受けたときに一般論として、一般に調査報告書の内容にそれを覆す新事実がない限り認定されることが多いというようなことを、一般論として述べるということはあり得るところでございます。
石原(健)委員 この記事は、「複数の法務省幹部は、調査報告書の内容を覆す新事実がない限り、初の北朝鮮難民として認定することになるとしている。」ということで、全然一般論じゃないじゃないですか、特定のことを言っているじゃないですか。
増田政府参考人 私が申し上げたのは、一般論として、調査報告書が法務省に来て、そのときに、それを覆すものがないときには認定されることがあるということを一般論として答えたということはあり得るだろう、そういうことを申し上げているのであって、具体的な事件について、この事件は調査報告書を覆す証拠がないとこのとおり認定されるというふうに、具体的に答えたという事実はないということでございます。
石原(健)委員 納得できないですね。「認定することになるとしている。」こういう記事なんですね。
 どうも、局長の答弁を聞いていると、じゃ、法務省幹部が記者にいいかげんなことを言ったことになるんじゃないかということで、謝るべきはその複数の法務省幹部じゃないかということになると思うんですけれども。
増田政府参考人 具体的な事件について、北の工作員が難民として認定される方向にある、大臣が近く決断を下すだろう、調査報告書を覆す事実がないとそのようなことになるだろうというようなことを、具体的な事実について語ったことはないということでございますから、法務省の幹部が間違ったことを答えたということはございません。
石原(健)委員 法務省幹部が間違えているんじゃないと言ったら、この記事が正しいということで、あなたがこういう抗議文を出すということは間違っていることなんじゃないですか。
増田政府参考人 ちょっと御質問の趣旨がよく、あるいは誤解しているかもしれませんが、法務省幹部が間違えたわけではないのでして、その記事が間違っている、つまり、そこの記事に書かれている案件で難民認定されるということ、それがそのように書かれていることが事実に反するから抗議をしたということでございます。
石原(健)委員 いや、局長は、これは日本語を、このまま素直にこの新聞記事を読んでくだされば、そんなことを一々言っていなくたってわかることじゃないですか。「複数の法務省幹部は、調査報告書の内容を覆す新事実がない限り、初の北朝鮮難民として認定することになるとしている。」これは、このとおり読んだら、もしか局長が、これは事実じゃないんだ、単なる憶測記事だと言うんなら、この法務省幹部がこの記事を書いた人に謝らなくちゃならないでしょう。
増田政府参考人 先ほどから申し上げましているとおり、一般論として述べたことが、具体的な事案でそのまま当てはめられて、これは初めて北朝鮮難民として認定されることとしているというように記載されておりますから、これは事実に反する、そういうことを申し上げているわけでございます。
石原(健)委員 でも、複数の法務省幹部に記者は会ってこういう記事を書いている。それで何で謝罪しなくちゃならないのか。
 それと、個々のケースには答えられない、答えられないと言うけれども、新聞にこれだけ大きく出て、もう全国に知れ渡っていることについて何で、私は何も個々のことを、家族がどうのとか、その人の本名は何だとか、そんなことを聞いているんじゃなくて、報告書があるのかないのかと聞いただけなのに、何で個々のケースだというふうにおっしゃるんですか。新聞にこんなに大きく出ているんじゃないですか。
増田政府参考人 新聞には確かにこのように記載されておりますが、この新聞には、書かれてある人物についての調査報告書が書かれているわけでございます。
 そして、この記事では、この調査報告書に書かれた事実を覆すものがなければ、北朝鮮難民として初の認定をされるであろう、そういうふうに結ばれているわけでございますけれども、複数の法務省幹部が答えたとしても、それは一般論として答えたというのは、一般に、調査報告書が法務省に提出された後、それを覆す事実がなければその調査報告書の意見になることが多いであろうというような趣旨のことを一般論として述べたことはあるかもしれないと。
 しかし、この記事に書かれたこの案件が、この調査報告書どおりに、新たな事実がない限り、初めて北朝鮮難民として認定されることになる、そういうことを答えた事実はございませんということを申し上げているわけでございます。
 それから、家族のことについて私が申し上げたこと、あるいは新聞にこれだけ出ているのに、家族のことなどどういう関係があるかという、こういう御質問と聞いてよろしいでしょうか。
石原(健)委員 家族のこととかなんとかいろいろあるから、個々のケースについては言えないというふうにあなたは言ったんですよ。ところが、私は、あなたは家族のこととかなんとか言うけれども、新聞にこんなに出ていることを何で言えないのか、そう言っているだけのことであって、何も私は家族とこの記事とか私の質問を結びつけようとしているんじゃなくて、家族ということはあなたが言ったんじゃないですか。
 それと、最終判断は大臣がされるわけですよね。大臣にも聞きも何もしないで、あなたは何で勝手にこういうものが出せるんですか。
増田政府参考人 最初に申し上げましたとおり、この件は入管に関する業務ということで、私の判断と責任で出すことにしたわけでございますが、これを出すに当たっては、先ほど申し上げたと思いますが、大臣にこの件を報告して、そしてこういう抗議申し入れ書を出すことについての了解をとろうという考えはございました。
 ただ、この記事が出た日は朝から参議院で別の委員会が開かれていて、大臣はその委員会の方にもう出かけていらっしゃいました。そして、私の方で大臣のその日の御都合を確かめたところ、もう夕方まで委員会があって、しかもその後の夜まで用事があるということで、七時ぐらいになるまで、大臣にお会いして報告して、こういう抗議申し入れ書を出すということの御了解をとれないものと判断しました。
 そこで、この件については夜までこのまま放置するよりも速やかに対応をとった方がいいという考えから、私の方で判断いたしまして抗議申し入れ書を出すこととして、大臣には後で報告して、了解をいただこうと考えたわけでございます。
石原(健)委員 認定は大臣がするんでしょう。大臣に報告もしない、相談もしない、何もしないで、僕は恐らくこの報告書というのは新聞に書いてあるとおりじゃないかと思うんですけれども、それを、事実に反し、読者に誤った印象を与える憶測記事だなんというようなことを新聞社にあなたは言っているわけですよね。
 大臣がどういう決定をするかわかりも何もしないうちに、勝手に、事実に反しとかなんとかそういうことを、全国的に一千万部近いんですか、発行しているそういう新聞社に対して、あなたがそういうことを言う資格があると思っているんですか。
増田政府参考人 先ほども申しましたが、この件は入国管理局の業務に関連する問題でございましたから、この抗議申し入れ書を私の名前をもっていたすこととしたわけでございます。
 その理由は、これまでにも申し上げましたけれども、ここに書かれている記事は、北の工作員が難民認定される方向にある、法務大臣が近くその決断をする可能性が強い、こういうことが書かれているわけで、これは事実に反するわけで、この事実に反する記事を実際に読んだ国民がこの記事のとおりだろうと誤解することになる、それをこのまま放置しておくことは好ましくないと入国管理局長として私が判断し、大臣の了解をいただく時間がございませんでしたので、私の判断で抗議することとしたわけでございます。
石原(健)委員 私らがこの記事を読む限り、事実に反しているかどうかよくわからないので、何で事実に反しているのか教えてください。
増田政府参考人 これは、その記事に書かれている人物に対し、近く難民認定へという事実はございません。決まってもいないのに、この人物に関する難民認定がいかにも決まったかのように書かれているのは、非常に間違った印象を与えるものと考えました。
石原(健)委員 だって、認定するとかしないとか決めるのは大臣なんじゃないですか。
増田政府参考人 難民認定の決定をなさるのが法務大臣であることは、そのとおりでございます。
石原(健)委員 大臣がするのに、何であなたがこんな抗議文を出すんですか。
増田政府参考人 最終的に大臣が、大臣のお立場でいろいろ配慮なさって、難民として認定するかどうかを御判断されるわけですが、そこに至る前に、法務省の中では、この難民認定の事務は入国管理局が担当しております。その入国管理局の責任者が私でございますので、私の責任でこの誤った記事に対して抗議をする必要があると考えた次第でございます。
石原(健)委員 そうすると、また最初に戻るんですけれども、この記事を書いた人は、ちゃんと複数の幹部にも当たっているんですよね。だから、その複数の幹部は、では新聞社の人にうそをついて、日本じゅうにうその情報をばらまいたということで、法務省の幹部は非常に責任が重大じゃないですか。
増田政府参考人 同じような答弁を繰り返して恐縮でございますが、法務省幹部がうその答えをしたということはございません。あくまでも、この記事に書かれているように、その北の工作員が難民認定の方向にある、あるいは法務大臣が近くその判断をされるというのは、法務省幹部の発言で出たことではなくて、これを書いた記者の方で書いたことであって、だからそれは事実に反することを書かれた、こういうことでございます。
石原(健)委員 そうすると、法務省幹部のことはともかくとして、では、難民認定はしないんだというこれが事実で、この記事が事実でないというのなら、難民認定はしないんだぞということなんですか。
増田政府参考人 そのような意味ではございません。
 何が違うかというと、近く難民として認定される方向にある、法務大臣が近くそのような判断をされる可能性が強いということが事実でないのであって、それ以上のことについては、それ以外のことについては触れておりません。
石原(健)委員 近くというのが、これ、どのくらいの期間を指すのか、その人その人によって判断が違うと思うんですけれども、あなたは、近くというのはどのくらいの期間と思って違っていると言っているんですか。
増田政府参考人 近くという言葉だけをとらえて違っているとか当たっているということを申し上げているのではございません。近く難民認定される、あるいはその方向にある、法務大臣が近く難民認定の決断を下す、それは事実ではないということを申し上げているわけでございます。(発言する者あり)
 あるいは質問を誤解したかもしれませんが、近くとはどれぐらいの期間かというお尋ねを受けたものですから、近くとはどれぐらいの期間と考えて間違っているのかというお尋ねを受けたと理解したものですから、それは近くという点だけをとらえて間違いと私が考えたわけではなくて、私は、近く難民認定する、あるいはその方向にある、あるいは法務大臣がその決断を下される可能性が強い、それらが違うということを申し上げているわけでございます。もし質問を誤解していたら申しわけございません。
石原(健)委員 ちょっと平行線をたどっているので、私ももう一度よく検討してみたいと思うし、局長の方でもよく検討していただきたいと思うんですけれども、あと、憶測記事を出して抗議文書というのですけれども、新聞の記事を見ると、例えば、国会の会期は延長されるんじゃないかとか何々派は今度こういうふうになるんじゃないかとか、憶測記事というのはもう極めて多いと思うんですよ。
 ちょっと極端な例を言えば、競馬新聞の予想なんというのは全部憶測ですよね。間違ったら毎日毎日謝罪文出さなくちゃならないことになるじゃないですか。(発言する者あり)そうです。スポーツの記事なんかも憶測が非常に多いんですよ。
 それで、この抗議文を出したということについては、今でも正しいと思っているんですか。
増田政府参考人 まず、スポーツ新聞の競馬のことなどおっしゃいましたけれども、私はこの記事は……
石原(健)委員 まず言ったのは、私は政治の世界の話をしたんですよ。国会の会期延長になるんじゃないかとか、そういう憶測記事があるという。何であなたは僕が最後に言ったことを一番先に出すんですか。
増田政府参考人 少なくとも、今回書かれたこの難民の記事は、そのような憶測ではなくて、もっと確定的な印象を読者に与える記事だと私は読みました。だから、これは間違っていると考えたわけでございます。
 それから、抗議申し入れ書を出したことが今でも正しいと思っているのかという御質問だと思いますけれども、出したことは間違っていないと考えております。
 ただ、おとといですが、この委員会で大臣から、ちょっと表現はどうかという御発言もございました。これは大臣からそのような発言を受けたわけで、これは重く受けとめているところでございます。
石原(健)委員 人の受け取り方なんというのは、その人その人、一人一人全部受け取り方なんて違うんですから、そういうことを根拠にしてほしくないですよ。どうやって人の考え方だの受け取り方、あなた決めるんですか。その人その人、全部違うじゃないですか。あなたはそう思っているのかもしれないけれども、一般の国民はそんなふうに思っていないかもしれない。そんなこと、答弁の理由にならないんじゃないですか。
増田政府参考人 申しわけございませんが、私の日本語の理解としては、これは難民認定の方向に話が固まったというふうに読みました。確かに、それは国民さまざまな読み方はあるのかもしれません。しかし、一昨日も申しましたが、法務省にその日の朝からメールとか電話とかかかってきましたが、それはすべて、やはり法務大臣が近く難民認定を決めたのだ、そのことについて、それぞれの方がそれぞれの立場で意見を述べておられるものであって、決して憶測ということを前提として読んでおられる方は、少なくとも法務省にメールなどをよこされた方には一人もおりませんでした。
 それから、それは確かにほかの読み方をされる方もおられるかもしれませんが、いろいろこの件についてほかの方からも問い合わせを受けましたけれども、それはやはりどの方も、法務大臣がこのような認定を決めたのだなという前提で問い合わせをされたものでした。
石原(健)委員 日本には一億二千万人からの人間がいて、役所にそのうちの何%の人がメールやったのかも知りませんけれども、それは特に関心の強い人たちだけでしょう。読売新聞なんというのは一千万近く出しているんでしょうけれども、これを見て、そのうちの何%の人が、では法務省に、あなたのところに連絡をとったのかなんといったら、そんなのは僕は本当にごく微々たるものだと思う。そんな一般の受けとめ方がどうのこうのとかなんとか、そういうことで答弁してほしくないですね。
増田政府参考人 私の立場から申しますと、入国管理局長として、この記事がこのまま放置されると、法務大臣がこのような判断をしたのだなということの誤解がこのまま続くというふうに思ったわけでございます。
石原(健)委員 近く判断という近くって、何も判断したみたいに受け取られるだの何だのって、こんなに大きく書いてあるじゃないですか。それと、翌日の産経新聞にもこれと同じような記事が出ていましたけれども、では、あなたは産経新聞にも抗議したんですか。
増田政府参考人 産経新聞に抗議はしておりません。それはもうこの読売の後追いだと判断したからです。
石原(健)委員 おかしいじゃないですか。後追いだろうと何だろうと、記事にして出しているんだもの。後追いと言うけれども、読売新聞と産経新聞の両方とっている人ばかり日本にいるわけじゃないですよ。産経新聞しかとらないで、読売なんてとっていない人だっている。その人たちに、何で後追いと言えるんですか。
増田政府参考人 誤った記事に対して、何でも抗議をするなどということは考えておりません。この二十九日の読売の朝刊は、これはやはりきちんと入管の姿勢をはっきりさせておいた方がいい、こういう考えで抗議を申し入れたものであって、その翌日の新聞記事につきましては、私はその必要があるとまでは考えなかったものでございます。
石原(健)委員 では、あなたは、そのときそのときの自分の気分でやったりやらなかったりするんですか。記事の中身はほとんど同じですよ。
増田政府参考人 私の考えといたしましては、最初に出た読売の記事に対して抗議をした、これで入管の立場ははっきり伝わったものと考えて、その後の産経については抗議をしなかったものです。
石原(健)委員 読売に出した抗議文が、何で産経の人がわかるんですか。
 それで、そういう扱いというのは公平じゃないのじゃないですか。不公平ですよ、一カ所だけは抗議文を出して一カ所は放置しているというのでは。行政というのは公平じゃなくちゃいけないのじゃないですか。
 では、委員長、答弁を整理してもらうことにしまして、法案の質問に入らせていただきます。局長、どうぞお帰りくださって結構です。
 不動産執行事件のことなんですけれども、この推移を参考資料の後ろの方にあるグラフで見る限り、また示されている数値、未済事件のピークは平成七、八年ごろで、それはたまたまバブルの崩壊があったからそこでたくさんたまったと思うんですよ。平成九年ごろからは新受件数より実行件数の方が多くなっています。スムーズに処理されるようになっていると思うんです。今となって改正する必要も特にこの数字を見る限りないようにも思えるのですけれども、今回改正する必要性について、改めてお尋ねしたいと思います。
房村政府参考人 御指摘のように、不動産執行事件の件数を見ますと、未済事件について見ますと、平成七、八年ごろがピークで、その後相当減少してきております。ただ、新受件数を見ますと、逆に平成三年代には四万件であったのが十年に七万件を超しまして、現在でも七万七千件ということで、平成七、八年ごろに比べましてずっと多い数字になっております。
 この未済件数が減少しましたのは、やはり平成八年、それから平成十年に民事執行法が改正されまして執行妨害対策の強化が図られるということ、また、裁判所において実務上の運用改善に非常に取り組まれ、努力をされたということから手続の迅速化、売却率の向上が見られて、未済事件数が減少したと思っております。
 ただ、今申し上げましたように、新たに処理すべき新受件数の事件数は依然として非常な高水準でございますので、やはり事件を適切に処理するためには執行妨害等に対する対応をより強化して、その処理の適正、効率化を図る必要がある、こう考えまして、今回法案を提出させていただいたものでございます。
石原(健)委員 今、未済事件で一番長く滞留しているのは、どのくらいの期間解決できないで滞っているのでしょうか。その理由と思われることも、あわせて御説明いただけたらと思います。
園尾最高裁判所長官代理者 不動産競売事件のうちで処理に長期間を要しておる事件といたしましては、申し立てから配当手続の終了までに五、六年あるいはそれ以上の期間を要しておるというものがございます。それらは、大変悪質な執行妨害があったり、あるいは占有者が多数で、しかもその権利関係が極めて複雑であったりするなどの事情がある事件でございまして、これらにつきましては、売却を繰り返しましてもなかなか買い手があらわれないということで長期間を要するということになってございます。
 最も長くかかっておるのではどの程度かというお尋ねでございますが、これは極めてまれな事件でございますが、十年以上かかっておるというような事件もございます。これは、物件に関して紛争がございまして、競売手続が停止されて売却が進められないというような事件でございます。
石原(健)委員 最短の場合は、どのくらいの期間で処理できるのでしょうか。
園尾最高裁判所長官代理者 不動産競売事件について言いますと、最も短期間で終了するものといたしましては、申し立てから三カ月以内に売却実施命令が発せられるものが一定程度ございます。これらの事件は、その後売却が完了して配当手続が行われまして、最も短いものでは半年程度で配当を終えるということになってございます。
石原(健)委員 今回の法の改正は別な目的でやることだと思うんですけれども、平均、期間的にはどのくらい、半年程度よりもっと短縮される可能性もあるのでしょうか。
房村政府参考人 今回改正をお願いしておりますのは、保全処分であるとかさまざまな分野で適正、迅速に執行するための各種の対策をお願いしているところでございますので、これが実現した場合にどのくらい短縮するか、数字的に把握するのは困難ではございますが、これを適切に運用していただければ相当迅速化は図れるのではないか、こう思っております。
石原(健)委員 今回の改正で、短期賃貸借制度がなくなるということのようですけれども、ちょっとこれは突然なんですが、一般的に、短期賃貸借契約はどのような場合に利用されていますでしょうか。
房村政府参考人 一般的には、建物の賃貸借、特にアパートとかそういう場合には賃貸期間を二年とか三年とする例が多い、その更新のときに改めて賃料等を検討するというのが通常ではないかと思いますので、建物賃貸借につきましては、短期賃貸借に該当するものが相当数を占めているのではないかと思っております。
石原(健)委員 今回の改正に当たって、短期賃貸借の廃止について各方面から意見や要望が寄せられたと思いますが、その状況を説明していただけたらと思います。
房村政府参考人 今回、中間試案では、短期賃貸借につきまして三つの案を示しました。
 A案というのが、抵当権におくれる賃貸借は、その期間の長短にかかわらず抵当権者に対抗することができないとする案でございます。それから、Bの1案というのが、例えば二年程度の一定範囲内の期間の定めのある抵当権におくれる賃貸借は、その期間内に限り抵当権者に対抗することができるという、今の現行法が三年でございますのでこれを相当期間短縮する、その上で、かつ、期間満了時には引き渡し命令の対象となる、そういうような案をBの1案といたしました。それから、Bの2案は、さらに期間を短縮いたしまして、契約の残り六カ月程度の一定の期間内に限って対抗できるものとする。
 こういう案を提示いたしまして、この三つについて意見を伺いましたが、この中間試案に寄せられました関係各界の意見は、A案、期間の長短にかかわらず対抗できない、これに賛成する者が多数でございました。それから、B1案とB2案についてもそれぞれ賛成はございましたが、このB1、B2案に対する賛成を合計してもA案に賛成する者には及ばない、こういう状況でございました。
石原(健)委員 短期賃貸借の廃止について強力に賛成した団体、また強く反対した団体等にはどんなところがあったか、教えていただいて、また、それぞれの主な理由などもおわかりでしたら、お願いします。
房村政府参考人 これはいろいろなところから御意見が寄せられたわけでございますが、まずA案、短期賃貸借を廃止するという案に賛成されましたのは、組織で申し上げますと、執行制度を利用することの多い銀行協会、全銀協であるとかあるいは経団連、それから住宅金融公庫であるとか信用保証協会であるとか、そのほか、資産評価政策学会あるいは不動産学会、それから大学関係でも、相当数の大学というようなところからの賛成がございます。
 それから、B1案に賛成いたしましたのは、貸金業協の一部、消費者金融協の一部というような、それから大学が数校。それから、Bの2案について、弁護士会関係が賛成しております。
 あと、全借連は、借地借家組合の連合でございますが、これは、ともかく、正常な賃貸借は設定時期の先後にかかわらず存続させるべきである、こういう意見を寄せております。
 A案に賛成した方々の意見は、やはり短期賃貸借が執行妨害に非常に濫用されやすいということ、それから、その引き受けということで抵当権者が損害をこうむっている、これを存続したのでは濫用を防ぐことは不可能ではないか、このようなところでございます。
 あと、B1、B2については、やはり正常な賃貸借についてはこれを保護すべきではないか、こういうことから、期間を短縮してもその保護を図るべきであるというようなことが主な理由でございます。
石原(健)委員 短期賃貸借制度が賃借人保護の制度として合理的に機能していないと提案理由で言われていますが、なぜそう言えるのか、御説明ください。
房村政府参考人 まず、短期賃貸借制度でございますが、これについては、競売開始決定がなされた後にその短期賃貸借の期間が満了しまして、その後に競落がされる、こういう事態になりますと、期間満了時の更新は対抗できないという解釈でございますので、これは全く保護をされません。したがいまして、競落をされれば、直ちに明け渡さなければなりませんし、敷金についても、もとの賃貸人に請求する、こういう形になります。
 したがって、これは、差し押さえの時期、それから競落の時期と賃貸借契約時、あるいはその更新時の先後関係で保護を受けるかどうかが決まるという、全くそういう偶然的な事情に左右される、こういう仕組みになっております。
 それからまた、賃貸借契約の期間が三年を超える契約をしている、例えば四年とか五年の賃貸借をしていますと、これは一切保護が与えられません。したがって、正常な賃貸借であっても、期間を長く決めてしまいますと、全く保護が与えられない、こういうことになっております。
 また、いわゆる正常型の賃貸借でございましても、民法の三百九十五条のただし書きで、抵当権者に損害を与える場合には解除請求ができる、こういうことになっております。実際の理解としては、短期賃貸借が設定されますと競落価格は必ず下がるというのがいわば常識でございますので、抵当権者が債権額の満額の弁済を受けられない、配当を受けられない場合には、その賃貸借契約は、民法の三百九十五条ただし書きによれば、解除請求されて解除されてしまうという地位にある。
 そういうことで、この短期賃貸借を保護するという民法の規定も、偶然的な事由に左右されたり、あるいは抵当権者の配当額によってその保護の程度が違ってくるというような意味で、賃借人の側の事情が同一であってもその扱いが異なってくる、こういう形になっておりますので、必ずしも合理的なものではない、こういう指摘がかねてからされているところでございます。
石原(健)委員 時間ですので、終わります。ありがとうございました。
山本委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。
    午前十一時五十五分休憩
     ――――◇―――――
    午後一時開議
山本委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質疑を続行いたします。山花郁夫君。
山花委員 山花郁夫でございます。
 午前中、石原委員からも指摘があった入管の問題について質疑をさせていただきたいと思います。
 先日も取り上げましたけれども、読売新聞東京本社編集局長殿ということで抗議の申し入れ書が出ていますが、これは何時ごろ、どういう意思決定の過程を経て出されたものかということについてお答えください。
増田政府参考人 これは、この日の朝刊を受けまして、九時半の勤務開始前後から対応について検討を開始して、十時台には当局として抗議を行うことを決定いたしました。
山花委員 この書面の内容について、先ほどの質疑の中で、次官までは相談したと言われておりましたけれども、それは何時ぐらいなんでしょうか。
増田政府参考人 これは、先ほど申し上げた十時台に私の方で決断をしたその後でございます。その直後でございます。
山花委員 私は先ほどの質疑を聞いていてもよくわからないんですけれども、あの記事のどこに問題があったという認識なんでしょうか。
増田政府参考人 あの記事に掲載されている人物が難民として認定される方向になった、法務大臣が近く難民として認定する決断を行う可能性が強い、こういう点が誤りであるということでございます。
山花委員 いやいや、誤りがどうかということを聞いているんじゃないんですよ。要するに、これは表現の自由に対する抑制をしているわけですから、どういう保護法益があって、つまり、守られるべき対象は何だったんですか。
増田政府参考人 この新聞に載りました事案は、複雑困難な背景を持った北朝鮮から来た方が初めて難民認定申請をした、こういうケースでございます、新聞記事を前提とすると。
 そうすると、社会的にも大きな注目を浴びる極めて重要な事案でございますが、難民認定申請については、重ねてまた申し上げますけれども、その申請があったか否かといったことについてはこれまで公表していないところでございますが、難民認定することが決まっていないにもかかわらず、いかにも決まったかのように報道されたこと、これが法務省の難民認定業務の適正さに対する内外の方々の信頼を損ないかねない、そう考えて、これは放置しておくとその誤解が解けないと考えたことでございます。
山花委員 いやいや、今のは大変な答弁ですよ、それは。業務の信頼とかおっしゃいましたね。つまり、あの新聞の記事が役所の側の利益を侵す、そういう答弁ですね。
増田政府参考人 役所の利益を申し上げたわけではなくて、国の内外からの信頼を損ないかねない、それから国民の誤解が解けない、そういうことを申し上げているのでございます。
山花委員 余計悪いじゃないですか。社会法益でもなければ、いわば国家的な法益に対して表現の自由を抑制したという話ですよね。つまり、国の利益ということですね。余計悪いですよ、それは。
 今のは、国の信頼という、そういうことですね。
増田政府参考人 先ほど来、表現の自由に対する抑制というようなことをおっしゃっているんですけれども、もともと、間違った記事が出たので、この記事は誤りですよと申し上げているのであって、私としては抑制とは考えておりません。
山花委員 そういう答弁をすることが恐ろしいですよね、私は。抗議文に書いてあるじゃないですか。「今後このような誤った記事を掲載」、今後のことまで言っているわけですよ。憲法の教科書を見れば、そういうことは事前抑制の原則的禁止の法理ということで書いてありますよ。
 いいですか。つまり、もともと表現の自由というのは、歴史的には、例えばどういう髪型がいいとかどういう服装が似合うとか、そんなことというのは制限されたことはないんですよ。何でこれが憲法上保障されるかといえば、政府の活動に対して批判をしたり、それに対してチェックをしたり、そういうことで保障されているんですよ。事後的にこういうこと、国の利益に反するからというのは、まさに憲法違反じゃないですか。そういう認識すらないということが恐ろしいですね、私は。何を考えているんですか。
 いいですか。こうやって、事実に反するとかおっしゃっていますけれども、反するなら、記者会見で、ここはこうですと言えば済む話ですよ。特定の社に対して、「このような誤った記事を掲載することのないよう、」今後、要するに、当局の話を聞いてから記事を書けと言っているようなものじゃないですか。現に読売新聞は、その後、これに対する記事を何にも書いていないですよね。読売がどういう認識かわかりませんけれども、それこそがまさに萎縮的効果というものですよ、そういう抗議が来たから書けなくなるという。
 国の作用だとか役所の作用だとかそういうことに対して、例えば推測記事を書いた、ほかの新聞社が、もしかしたらあれはおかしいんじゃないかと書く、そうやって思想の自由市場の中で決していくというのが表現の自由の保障の意味じゃないですか。これが個人のプライバシーとか名誉とかそういうことで、例えば、今回の記事が出たことによって、当該元工作員と呼ばれる人が、何か生命の危険があるとかなんとかでそれはまずいというのはあなたたちの仕事じゃないですよ。それは人権擁護局の仕事ですよ。恐ろしい答弁ですよ。要するに、自分たちが憲法違反のことをやっていても、何にもわかっていないということですね。
 この本を読まれますか。何だったら、この当委員会で憲法学者を呼んで参考人聴取をしたっていいですよ。今回のこんなのに、そんな意識で大丈夫だなんて言う人がいると思っていますか。憲法違反だとは思っていないわけですね、あなたは。
増田政府参考人 入管の業務に関連して誤った記事が掲載される場合に、抗議をして、このような間違った記事は今後掲載しないでもらいたいと申し入れる行為が憲法違反であるとは考えておりません。
 また、このような行為が事前に表現を抑制する行為だとも思いませんので、事前抑制禁止の法理に触れるとも考えておりません。
山花委員 今、いかに憲法のことをよくわかっていないかお答えになりましたよね。事前に抑制することに当たるとは考えていません、その程度の認識なんですよ。あなた、勉強し直してくださいよ。
 事前抑制の原則的禁止の法理というのは、「広義においては、表現行為がなされるに先立ち公権力が何らかの方法で抑制すること、および実質的にこれと同視できるような影響を表現行為に及ぼす規制方法をいう。」これは佐藤幸治さんの本ですけれども、こんなことは通説的な話であって、事前じゃないからいいんだなんて、そんなのはわかっていない証拠じゃないですか。
 もう一度御答弁ください。今、本当にそんなことを言ったんですよ、憲法違反じゃない、しかも事前じゃないからと。理屈になっていないじゃないですか。
増田政府参考人 私の理解している事前抑制禁止の法理というのは、表現行為がなされる前に公権力が何らかの方法でそれを規制することと説かれているわけですが、今回私の行いました抗議は、今後行われる新聞報道において、何も当局に事前に記事を出してもらいたい、当局がそれを審査しますよとか、それによって、また場合によっては規制しますよとか、そんな意思は毛頭ないし、そんなことは全く書いていないわけで、そういう意味で、私は事前抑制禁止の法理に触れるとは考えていないということを申し上げているわけです。
山花委員 いやいや、本当に学者に聞いた方がいいと思いますね、これは。こんな答弁を許していちゃいかぬですよ。
 いいですか。あなたがどう思うかなんて関係ないんですよ。その辺からしてもう理解ができていないですよね。これを受け取った側がどういう印象を受けるか、それによって萎縮的効果が起こるかどうかというのが決定的に大事な要素なんですよ。入管当局はどういうつもりで出しましたなんて、そんなばかなことを言っていたって、そんなことは全然法律論としては関係ない話ですよ。
 法務大臣、朝日新聞は、この件について何ら対応がとられておりません。しかも、向こうは記事が自信があるのかもしれないし、こんな抗議、へとも思っていないのかもしれない。朝日じゃない、失礼、読売ですね。ただ、例えば、これは大きな新聞社だから、あるいはプライドがあって何とも思っていないかもしれないけれども、こういうことが、もっと小さなメディアだったり、普通こんなものが来ればびびりますよ。
 「読者に誤った印象を与える憶測記事が掲載されており、」つまり憶測である、要するに、こういう予想がされる、それをあの人は誤った記事だと言っているし、「このような誤った記事を」、「このような」というのは一体では何を指しているかという話ですよね。つまり、今回のような記事を書くな、しかも「訂正と謝罪を求める」。過日、法務大臣は、その「訂正と謝罪」というところが言い過ぎだったかもしれないと言っていますけれども、このような誤った記事を掲載することを今後やっちゃいかぬと言っているわけですよ、これは。いいんですか、これ。事後的に了承されたようですけれども。
森山国務大臣 報道機関はいろいろな情報を正しく国民に伝えてくれるということが重要な仕事で、もしそれが誤ったことであれば非常に誤解を招きますから、そういうのは報道機関の使命としても十分気をつけてもらわなければならないことだと思います。
 ですから、局長が行いました抗議の言葉、字句そのものが正しいかどうかはまた別に考えなければなりませんが、報道機関の使命として、正しいことをちゃんと報道してほしいというのは当然のことだと思います。
山花委員 当然のことかもしれないけれども、それを役所がやっちゃいかぬわけですよ、公権力が。正しいことを言え、そして、これが間違いだ、これが正しいと判断するのが。
 本当に正しいかどうかというのは、それは思想の自由市場の中で決するべきことであって、例えば、そのときの記事は、記者レクでも記者会見でもいいです、あれはちょっと違いますよと例えば法務大臣がおっしゃって、他の新聞社が、そういう記事が出たけれども、例えばの話ですよ、どうも読売の記者は自信があると言っている、反面、法務省はこういう事実はないと言っている、そういう報道がなされて、そういう自由市場の中で正しいかどうかは決せられていくというのが、それが憲法上の大原則じゃないですか。
 公権力が、あの記事は間違っている、しかも、例えば、さっきも申し上げましたように、この記事が出たことによってだれかの命が危ないとか、そういう人権上問題があるということなら、やり方はもちろんいろいろ考えなきゃいけないでしょうけれども、まだわかりますよ。
 さっきから答弁を聞いていると、朝から電話がかかってきました、役所が大変なことになりました、それで、あの記事は間違っているから、それ行けといってやっているわけじゃないですか。これが憲法違反じゃなくて何だというんですか。では何、こんなこと何でもない、全く適法な行為である、いや、適法かもしれません、でも憲法違反ですよ、これは。
 まだわからないですか。僕は、申しわけないけれども、あなたたちの後輩になる職員には、予備校で教えていましたから、こういうことを教えてきましたよ。上司がそんなのというのは大変情けないですね、私は。
 撤回しないんですか、これ。むしろ、こういう文書を特定の社に送りつけて、今後こういう記事を書くなと。どういうつもりで言ったかなんかもうもはや問題じゃないんですよ。受け取った側がどういう印象を持っているかが決定的に大事なことなんです。
 本来、本来というか、これは早急に撤回して、むしろあなた方が謝罪すべきですよ、読売の本社に。申しわけないことをしたと、やり方がまずかったと。ただ、最後の一点は言っても構わないですよ。そういう記事は、我々はあの記事は違っていると思っている、それは言っても構わないけれども。そうすべきじゃないですか。
増田政府参考人 今般の抗議申し入れ書によって新聞社には入管局の立場を伝えて、これは御理解いただいたものと考えております。
 その新聞社がどのような対応をとられるかは先方の考えもあろうと思いますし、今後何らの対応がないとしても、それはそれとして、尊重していかなければいけないと考えております。
 付言しますと、抗議申し入れ書の中の「このような誤った記事を掲載することのないよう、」という部分につきまして先ほど来御批判を受けておりますけれども、私といたしましては、あくまで、今後記事の内容について事前に入管局の了解を求めてもらいたいとか、そんなことを要求したわけではございません。あくまでも、国民に誤解を与えることのないよう、正確な記事の報道を求めたものでございます。
山花委員 まさに今の一番最後の部分が憲法上問題があると言っているんですよ。何でわからないんですか。公の権力を持っている人がそういうことを言っちゃいかぬのですよ、公権力が、メディアに対して、正確に報じろと。
 正確な記事かどうか、つまり、いいですか、もう何かできの悪い受講生に説明しているようで気分が悪いですけれども、報道の自由といったときには、かつては確かに単に事実を機械的に伝達する自由だと言われていたかもしれない。しかし、もう宮沢教授の時代から、そこには記者の主観が入るのだ、そういうふうな説明になっていますよ、もう何十年も前から。定説ですよ、通説というよりも。
 主観が入る以上、客観的には誤解を与えるような記事というのは当然出るんですよ。それが報道というものじゃないですか。それを、間違っているか正しいかなんということをあなたたちが判断して、しかも本当に客観的な事実というよりも、むしろ今回の観測記事が間違った印象を与えるからとか、それによって何かいっぱい抗議の電話がかかってきただとか、そんなことは、はっきり言って、全然判断要素として大事な話じゃないですよ。
 むしろ、いいですか、古来より表現の自由、言論の自由が保障されてきたのはそうやって政府批判の自由であって、表現の自由が保障されているということは、それによって多分役所はさんざん迷惑な思いをすると思いますよ。だけれども、むしろそのことの方がより一層の国民の福利にかなうということで憲法原則になっているわけじゃないですか。どこの国に行ったって人権宣言の中に書いてあることですよ。
 今の答弁だと、もし――何か理解したんだかされたんだかわからないですよ、読売はどうだか知りませんけれども、こういう記事を出して、自分たちはまだ正しいんだと言い続けて、にもかかわらず何も対応しないというのは、要するに、ただ単におどしたという話じゃないですか。正しいと思っているんだったら、最後まで貫くべきでしょう。それを、こういうのを一枚出して、あとどうされるかは知りませんというのは、要するに、この抗議の申し入れ書はおどしだ、そういう答弁ですよ、今のは。許されるわけないじゃないですか。撤回してくださいよ。
増田政府参考人 再三お答えいたしますが、撤回する意思はございません。
 確かに、委員のおっしゃるとおり、報道の自由あるいは表現の自由が、政府批判というようなことで、非常に歴史的にも意義を有していたというようなことは私も重々承知しておりますけれども、したがって、政府は、政府批判に対する、報道に対して、それなりの姿勢、謙抑的な姿勢なども持たなければならないだろうということもわかります。
 しかしながら、私は、今回のこの記事につきましては、やはり抗議しなければいけないだけの過ちであると考えたわけでございます。
山花委員 ちっとも謙抑的な姿勢じゃないじゃないですか。
 つまり、物事にはやはり順序というのがあって、こういう記事が出て、大臣なりしかるべき人が会見されて、違いますということを言えば、それでまず済んだと思いますし、それでもなおいろいろあって、よっぽどのことがあれば、もう一回申し入れをするとか、それもこんな文面じゃないですよ、もうちょっとほかにやりようがあるにもかかわらず、九時半に始まって、もう十時には意思決定して、しかも難民認定をされる最終的な決定権者である法務大臣には相談もせずに、次官には言ったと言っていますが、結局、官僚で勝手に決めた、こういう話じゃないですか。
 いいですか、さっきからの答弁で、あの記事のどこが誤ったものなのかという問いに対して、「難民認定へ」と、それが誤った印象を受けるんだと再三答弁されています。難民認定へ最終的な判断をするのは法務大臣じゃないですか。ああいう記事が出て、あらかじめ法務大臣がしませんということを言っていて、そして当日のその時点でも意思は変わりませんということならまだいいですよ。まだその判断を最終的にするかしないかわからないんだから、間違っているかどうかなんてわかるわけないじゃないですか。
 つまり、それをぱっと見て我々には明々白々に間違いだということがわかりますと言っていましたよね。つまりは、政治家たる法務大臣がいなくたって、あなたが要するに一番偉いという認識なんでしょう。要するに、最終的な決定権者に何も相談もしないで、間違えていると判断して、そして抗議文を出しているじゃないですか。どういう理屈なんですか、これは。
増田政府参考人 難民認定が大臣の御判断によってなされるというものであることは、もう先ほど来申し上げていることです。
 また、私、午前中申しましたとおり、今般の抗議に当たっては、大臣の御都合を確かめたけれども、早い段階でお会いできる見込みがないということで、私の判断で決めたものですが、確かにおっしゃるとおり、権限者である大臣の御意向を確かめもしないで、局長の一存、判断でこのような抗議申し入れ書を出すことを決めた、そしてそれを実行したということは、午前中の御指摘などを伺っていて、まことに申しわけございませんが、それはやはり努力は足りなかったと。私、その日の大臣の御都合が夜までというふうなことで、ちょっとその点は手抜かりがあった、もっときちんと大臣に御報告すべきであったと思います。
 それから、一点、なぜ局長がそんな間違いだと言えるのかということでございますが、一般的な手続でということで御説明させていただきますが、難民認定の手続というのは入国管理局の中で……(山花委員「法務大臣の判断を仰いでいないのに、なぜ間違いだと言い切れるのかと」と呼ぶ)
 ですから、そのためにちょっと御説明させていただきたいのですが、局の内部でまず記録、資料の検討などが行われ、そこで何らかの方針なり意見がまとまってきて、それが最終的に事務当局で、大臣に対してどのような御判断を仰ぐか、記録を整え、資料を整理して、その上で大臣に提出して御判断を仰ぐ、こういう手続、経緯になっております。
 申し上げにくいんですが、この件につきましては、まだ大臣に上げるような手続などに至っていないので、大臣が近く判断をする、難民認定の方向で判断をするという、それは間違いだと私は考えたわけです。
山花委員 いやいや、それは大変な答弁ですよ。つまりは、事務方が全部決めるから、大臣の指示がなくたって自分たちで全部やるんだ、そういう答弁じゃないですか。そんな、ちょっと中井さんのときとまた話が同じようなことになってきていますよ。
 つまり、いいですか、実務がどうかということじゃなくて、法的な建前としては、大臣が、だってまだそういうのがなくたってどうされるかわからないですよ。そんなことを言える話じゃないのはわかっていますが、例えばの話です。例えば、あの件はどうなっているんだと問い合わせて、早くやってちょうだいよと言う可能性だってあるわけじゃないですか。当日、最後の最後まで、それはわからないですよね。つまりは、記事が出た時点では何もその点を確認していないでやっているわけですから。
 結局、だからどうなっているんですか、法務省という役所というのは。法務大臣というのはお客さんですか。
増田政府参考人 私の説明がもし足りていないとしたらおわびしますけれども、難民認定の大臣の御判断というのは、いきなり大臣が御判断なさるというのではなくて、その手順を踏んで記録が整理され、検討され、それで事務的にいろいろ整えて、その上で大臣にお伺いを立てて大臣の御判断を仰ぐ、こういう手順で進むものですから、その点から考えて、まだ大臣がこの件について近く難民認定の方向で判断をなさるという状況にないと私は考えたわけです。
山花委員 例えば、理屈というか実務はそうなのかもしれませんけれども、あの日の朝の記事を大臣が読まれて、これはではこうしなさいと指示した可能性の問題です。あるわけじゃないですか。あったとしても、つまり法務大臣がそういう決断をしたとしても、あなた方は、まだそういう事務的なのが整っていないからだめですとか、つまり方針が役所として決まっていないからだめですと、そういうことを言っているわけじゃないですか。
 法務大臣、ちょっと時間がなくなってきましたので、責任ある立場にある方として、これは私は申しわけないけれども、ずっと憲法専攻でやってきましたけれども、これはどう考えたって、憲法違反の疑いと前まで言っていましたけれども、憲法違反なんですよ、はっきり言って。撤回されるべきだと思いませんか。
森山国務大臣 入国管理局長は、先ほど来本人が御説明しているような考えで、自分の預かっている守備範囲の仕事の中で、進捗状況を見ても、まだこれからやらなきゃならない、全く白紙の状態であるケースについて、いかにも決まったかのごとき印象を与える記事というのは困るというふうに判断して、あの記事は間違っている、今後も注意して正しい報道をしてほしいということを言っただけでありまして、言論の自由とか報道の自由とかを規制するなんという考えは全くないと思います。
山花委員 それがいかぬのですよ。つまり、そういう気持ちがあったかどうかなんというのは問題じゃないと先ほど来、言っているじゃないですか。そういう答弁はいかぬです。ちょっと整理してください。
山本委員長 速記をとめてください。
    〔速記中止〕
山本委員長 それでは、速記を起こしてください。
 山花郁夫君。
山花委員 後ほど、後ほどなのか後日なのかわかりませんが、理事会で協議をしていただくとして、つまり、どうも私では権威がないようなので、もしあれだったら委員会として憲法学者の方でも呼んでいただいて、これはどうかということをやっていただいても結構だと思います。そんな長時間でなくて結構ですし。
 ただ、私は、これは事前抑制の原則的禁止の法理にまさに当たるようなケースで、申しわけないけれども、私は授業のときにはこういうような例というので、今までないけれども、例えばということで挙げていたかもしれないような話なわけですよ。役所が、行政の活動に対して新聞社が間違った活動をして、特定の社に対して抗議をする。それぐらいな話なのに、百歩譲って、仮に自分が言っているのがもっとデリケートな、ボーダーラインの話だったとしましょう、百歩というか一万歩ぐらい譲って。仮にそうだったとしても、相当微妙な話なわけですよ。それを先ほど来入管局長や法務大臣が言われているような感覚でやられては、私は本当に恐ろしいことだと思います。
 つまり、繰り返しになりますけれども、例えばこれを出したことによって何らかの法的効果を伴うものじゃないというのはそれは当たり前のことです。当たり前のことですけれども、事実行為によって、要するに表現の自由を萎縮させてはいけない。萎縮的効果がある、それだけ表現の自由というのはデリケートな権利なんだから、つまり、事前に抑制したのと実質的に同視できるような影響力を及ぼすこと、これも禁じられているのだというのが通説的な見解なわけです、形式的に事前か事後かということじゃなくて。
 まさに、私は憲法違反だと思うけれども、仮にそうじゃなかったとしても、かなりデリケートなケースであるにもかかわらず、そういった認識でされているという、本当に私は法務省のそういう感覚はちょっとどうかしていると思うし、再三再四申し上げますけれども、今人権擁護法案のようなものを検討されているようですけれども、そんな程度の人権感覚の役所ができるわけないということを再度申し上げて、質問を終わりたいと思います。
山本委員長 中村哲治君。
中村(哲)委員 民主党・無所属クラブの中村哲治です。
 私は、抵当権を担当して、この担保・執行法の質疑に当たらせていただきます。
 抵当権の具体的な中身に入ります前に、私が今回まず皆さんに訴えをさせていただきたいのは、不動産登記法の十七条の地図についてでございます。
 小泉政権は、不良債権の処理を加速させる、そういう方針を掲げておりますけれども、この国の登記簿がどのようになっているのか、これについて余りにも世間の関心が低いのではないかと私は思っております。不良債権の処理をするためには、抵当権の実行も促進していかないといけない。そのためには、登記所にどのような地図が設けられているのか、その現況がどのようになっているのか、それを把握する必要があります。
 近代国家と土地の測量というものは、法律上も非常に重要な問題であります。だからこそ、民法は百七十七条において「不動産ニ関スル物権ノ得喪及ヒ変更ハ登記法ノ定ムル所ニ従ヒ其登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス」と対抗要件を定めております。
 そして、その百七十七条「登記法」という文言を受けて、不動産登記法というものが定められている。そして、不動産登記法十七条には「登記所ニ地図及ビ建物所在図ヲ備フ」、そういうふうに定めております。だから、法務省がしないといけないんです。
 さて、この不動産登記法の十七条の地図でありますけれども、整備状況はどのようになっていますか。
房村政府参考人 御指摘のように、不動産登記法十七条では、登記所に地図を備えるとなっております。この不動産登記法十七条で言っております地図というのは、近代的な測量技術に基づきまして、いわゆる現地復元性、測量地点の座標を測定いたしまして、それに基づいて現地で復元できる、こういう性能を持った地図をこの十七条の地図だということで実務で取り扱っております。そういうことから、そのような正確な要請を満たす地図のことを十七条地図、こう言っております。
 この十七条地図の整備状況でございますが、現在、登記所には、今申し上げた正確な十七条地図が三百四十一万枚ございます。実は、その十七条地図の性格を今御説明いたしましたのは、登記所には十七条地図以外の地図がやはり大量に備えつけられております。これは昔からいわゆる公図と言っているものでございまして、機能としては、やはりその土地の所在を特定するための図面でございますが、これは精度は相当ばらつきがありまして、相当正確なものもあれば、明治時代につくられた、精度的には相当劣るものもございます。こういったものを現在、地図に準ずる図面と呼びまして、十七条地図がない箇所について備えつけておりますが、これが約二百九十一万枚でございます。
 合計いたしますと、登記所に備えつけられておりますいわゆる地図もしくはそれに準ずる図面として、合計六百三十二万枚ありまして、そのうちの五四%が正確な十七条地図、四六%がその地図に準ずる図面、こういう状況でございます。
中村(哲)委員 今説明していただいたことが、私が先ほど配らせていただきました法務省からいただいた資料に載っております。
 そこで確認なんですけれども、その整備の方法としてはどのような方法があるんでしょうか。
房村政府参考人 正確な十七条地図を整備する場合には、現地に行きまして、境界を確認して、そこの地点を正確な測量技術によって測量するということが必要でございます。これを現在行っておりますのは、法務局もみずから行っておりますが、最も大規模に行っておりますのは国土調査法に基づく地籍調査でございます。これによりまして、そういう境界を確認した上で地図をつくっていただいて、その地籍図を登記所に送っていただいて登記所に備えつける、こういう形で十七条地図の整備が進んでおります。
中村(哲)委員 委員の皆さんにはこの資料を見ていただいたらいいんですけれども、国土交通省がやっている国土調査の地籍図が二百九十四万枚ということで、十七条地図の八六・一%を占めているんです。そして、農水省が中心となって行っている土地改良図等が四十七万枚で一三・八%なんです。つまり、法務局が作成している四千枚というのは十七条地図の〇・〇六%にすぎないということなんです。
 本来、十七条地図を備える責務というのは法務省が負っていながら、〇・〇六%しか法務局はつくれていない。ここに非常に大きな問題があるんです。
 そこで、国土交通省に伺います。
 先ほど民事局長がおっしゃった国土交通省がやっている地籍調査、これはどのように行っているんでしょうか。
倉林政府参考人 お答えを申し上げます。
 地籍調査でございますが、これは、国土の開発及び保全並びにその利用の高度化に資するとともに、地籍の明確化を図ることを目的といたしまして、国土調査法及び国土調査促進特別措置法に基づき実施しております。
 調査の方法でございますが、一筆ごとの土地につきまして、その所有者、地番及び地目を調査いたします。そして、土地の境界それから地積、面積でございます、こういったものにつきまして一筆ごとに測量を行いまして、その結果を地図及び簿冊に作成いたしまして、主にこれを市町村が実施主体として行っております。そして、費用負担につきましては、国が二分の一、都道府県が四分の一、市町村が四分の一ということでございます。
 この地籍調査でございますが、これは土地取引の円滑化や都市計画等の策定、災害復旧の迅速化等に役立つものでございます。また、公共事業の施行に当たりましても、地籍調査を行っている地区と行っていない地区におきましては、やはり用地取得につきましてもかなりコストあるいはスピードが違ってくるというふうに思っております。そういう意味では、今後とも地籍調査のより一層の推進に努めてまいりたいと考えております。
中村(哲)委員 地籍調査をしっかりやっていきたいと国が幾ら思っても、実施主体が実は市町村なんです。市町村がこれをやりたいと思わなければなかなか進まないんです。
 現実的に、進捗率の詳細という資料がありますけれども、その中で大阪府なんか二%ですよ、進捗率。都市部は軒並み低いんです。なぜかと申しますと、都市部では新たな開発を進める必要がないからなんですね。地籍調査をしてメリットがあるというのは、自分たちの土地を開発するために、そういう整備をしておいた方が外側から開発の資本も入ってくれるだろう、そういったところで、どちらかというと、都市ではないところの方が地籍調査ということはしやすい、また、やりたいというインセンティブが働くわけです。
 だからこそ、国土交通省が幾ら頑張っても、また、閣議決定で十カ年計画をやって、努力はされている、そしてそれは進めていただきたい、しかし限界があるんです。だからこそ、法務省が、本来の自分たちの仕事と認識して予算をとってしっかりしないといけない、これが私の主張であります。
 参考に、国土交通省にお聞きいたします。地籍調査の予算はどのようになっているでしょうか。
倉林政府参考人 国の予算でございますが、今お答え申し上げましたように、地籍調査の実施におきましては、国はその費用の二分の一を負担しております。国の負担分につきましては、平成十五年度におきまして約百三十億円を負担しております。事業費としてはその倍ということになります。
 ちなみに、先生今、都市部のお話をされましたが、昭和二十六年以来五十三年間やっておりますけれども、御指摘のように都市部におきましてはまだわずか一八%ということで、都市部は特に人手も金もかかります。なかなか、土地が動くときでないとこの必要性というものが個々人に感じられないということもございまして、今は市町村長さんのお考え方によっているところでございますけれども、ぜひ、こうした都市部におきましても進めていきたいというふうに考えております。
中村(哲)委員 今御答弁あったように、地籍調査の予算は百三十億円、事業費でいうと、その倍ですから二百六十億円なんです。
 常識的に考えれば、この十七条地図を備える義務は法務省にあるわけですから、同じぐらいは予算がついているんだろうなと常識的には思うはずです。だから事業規模で二百六十億円ぐらいの予算がついていてもおかしくないな、そういうふうに私は思うんですけれども、民事局長、法務局としての予算は幾らついていますか。
房村政府参考人 大変お答えしにくいんですが、平成十五年度予算におきまして、法十七条地図作成作業経費として九千百万円が計上されております。
中村(哲)委員 これは耳を疑う数字ではありませんか、委員の皆さん。
 実は私、十年間の予算をあらかじめとらせていただいたんですよ。ことしで百四十三分の一。この十年間見ても、ひどいときは二百八十一分の一しか予算をとっていないんですよ。
 本当に日本という国は近代国家なんですか。近代国家というのは、財産を国がきちんと保障する、それが憲法二十九条の財産権の保障なわけです。先ほども私は冒頭に申しましたように、民法百七十七条で登記法を定めてそこを対抗要件としているのも、近代国家としての一番の義務がそこにあるからですよ。それなくして幾ら銀行の問題、不良債権の問題と言っても始まらないんです。そのことをきょうは大臣に本当に訴えたかったんですよ。
 どう考えてもこれはおかしい状況だと思うんですね。小泉政権が不良債権の処理を第一に考えるのであれば、なおのことこの十七条地図というのは整備しないといけないのじゃないか、私はそのように考えるんですけれども、大臣、いかがお考えでしょうか。
森山国務大臣 おっしゃるとおり、法十七条地図は不動産取引を公示する不動産登記制度において基本をなすものでございまして、その整備の重要性につきましては法務省として十分認識しております。これまでも、その整備の必要性の高い地域から優先して着実にその整備を進めてきたところではございます。
 今後とも、このような法十七条地図整備の重要性にかんがみまして、国土調査に基づいて地籍図の作成を推進していただくとともに、法務省といたしましても、関係各方面と連携協力しながら、さらに整備を進めることができるように努力してまいりたいと思いますので、どうぞ御支援をくださいますようお願いいたします。
中村(哲)委員 精神的な支援なら幾らでもしますよ。でも、九千百万円が国土交通省の百三十億円に、予算規模だけでですよ、事業規模でいったらこの倍ですけれども、百三十億円にたどり着こうと思ったら、年間一〇%ずつ予算を上げても何年かかるんですか。国土交通省の予算自体も、地籍調査というのはしないといけないということですから、これは必要なんでしょう。それから、市町村のイニシアチブでやっているんですから、これはしないといけない。だけれども、それだったら都市部の方は進まないんですよ。だからこそ法務省がやらないといけないんです。
 今までは、この国というのは、どちらかというと右肩上がりで来ましたし、開発を中心に考えていれば物事は済んだ。しかし、そうではなくて、事前規制型ではなくて事後救済型にするんだ、そういうことで司法制度改革もこのように進んできた。そういうことを考えると、二十一世紀は法務省がしっかりしてもらわないと困るんですよ。
 優先順位をつけて予算を請求するというのもあるんですけれども、本来近代国家としてやらないといけないことができていないんです。そこを認識して、閣議でもきちんとかけて、やはり来年からは十億、二十億にしてください、まずそこから始めさせてくださいと。そして、やはりあるべき姿としては、国土交通省がやっている地籍調査の事業費規模二百六十億円程度まで将来的には伸ばさせてくださいというふうに言うべきだと考えるんですけれども、大臣、決意のほどをお聞かせください。
森山国務大臣 大変力強い御支援をいただきまして、まことに心強く存じます。できるだけ御趣旨に沿って目的が果たせますように、頑張りたいと思います。
中村(哲)委員 頑張っていただけるということですので、ぜひ頑張ってください。
 それでは、具体的な法案の中身に入らせていただきます。
 まず、不動産収益に対する抵当権の効力であります。
 法案では、第三百七十一条、「抵当権ハ其担保スル債権ニ付キ不履行アリタルトキハ其後ニ生ジタル抵当不動産ノ果実ニ及ブ」ということを改正案は定めております。
 抵当権の行使という意味では、判例上確立している物上代位による賃料差し押さえという手段が既にあります。改めてこの三百七十一条の規定で改正をした理由は、どのような理由なんでしょうか。また、物上代位による賃料差し押さえという手法と、今回設けた、果実にそのまま賃料を含めるという、正面から求めたという手法の違いはどこにあるんでしょうか。
房村政府参考人 御指摘のように、現在の民法三百七十一条は、抵当権の効力が抵当不動産の付加一体物にも及ぶという、その前の三百七十条を受けまして、抵当権の効力がその抵当不動産の差し押さえ後の天然果実に及ぶということを明らかにしている条文でございます。
 それを、御指摘のように、今回、天然果実のみならず法定果実にも及ぶということを明らかにするような条文にいたしているわけでございますが、これは実は、抵当権の効力が法定果実、いわゆる賃料が典型でございますが、そういったものに及ぶかどうかということにつきましては、抵当権の性質に絡んで説の対立がございました。抵当権が非占有担保性を持っているということから、抵当物件の使用収益の対価である賃料に対して抵当権を行使することは許されないという説も相当有力に主張されていたわけでございます。それが、ただいま委員からも御指摘のありました物上代位を最高裁の判決で認めるというものが出されまして、抵当権の効力が法定果実にも及ぶということが判例上明らかにされました。
 そういうことから、法改正をするに当たりましては、天然果実のみならず法定果実にも抵当権が及ぶということを条文上も明確にする方がよいだろうということから、今回、その双方を含む形での条文に変えたわけでございます。
 それと、現在でも、物上代位で賃料へ抵当権の効力を及ぼすことが可能なのに、今回、さらに収益型のものを設けた理由ということでございますが、個別に物上代位をするということはもちろん可能でございますが、例えば賃借人が非常に多数いる物件、こういったものについて、そのすべてについて物上代位をしていくということになると非常に手間がかかるわけでございます。しかし、そういう優良な賃貸物件であれば、その物件から上がる賃料収入で抵当権者が優先弁済を受ければ、無理にその物件を競売しなくてもいい。それは、抵当権者にとってもメリットがありますし、物件所有者にとってもメリットがある。
 一方、債務名義に基づく強制執行の方では強制管理という、賃料収入から弁済を受ける方法が既に設けられておりますので、抵当権についても同種の収益型の手続を設けることが双方にとって利益があるだろう、こういうことから、新しく今回、収益型の手続を設けさせていただいたわけでございます。
中村(哲)委員 そうすると、担保不動産を引き続き管理していくノウハウを持った人、そういう者を裁判所が適切に選任する必要があると思うんです。そういったノウハウは裁判所にあるというふうに考えて法案をつくったのかどうか。そこの確認をさせてください。
房村政府参考人 担保不動産収益執行の場合には、管理人を選任してまさにその不動産の管理をしていただくわけですので、適任の人を選ぶ必要がありますが、現在も、強制執行として強制管理があって、そこで同じように管理人を選任しております。
 その実績から見ますと、やはり、執行官あるいは弁護士の方を裁判所の方で選任しているようでございますが、そういうノウハウの蓄積もありますので、担保不動産収益執行の手続が新たに設けられた場合も、そのノウハウを活用して、また、さらにその利用の頻度も上がると思いますので、新たに不動産管理会社を加えるというようなことも考えられますし、そこは適切に対応していただけるだろうと思っております。
中村(哲)委員 従来の強制管理の手続でも年間二、三十件しかないということを事前に聞いておりまして、だから、今までは弁護士とか執行官で対応できたんだろうと。これがどれぐらい使われるかわかりませんけれども、今後、その使用状況を見ながら、立法事実が本当にあったのかどうかの検証もしていくという、そういう御答弁と理解します。
 さて、今回、この改正が成ったために、抵当権の性質が少し変わるんじゃないか、変わったというふうに考えざるを得ないんじゃないかというふうにも考えられると思うんです。つまり、今まで、抵当権というのは非占有担保性があった、つまり、設定者には占有を残すことによって、そこからの収益に関してはその占有者にとどめておこう、しかし、換価価値によって被担保債権の満足を得ていこう、そういう考え方が基本にあったと思うんですけれども、今回の改正によってその考え方が変わったのかどうか。政府はどのようにお考えでしょうか。
房村政府参考人 御指摘のように、抵当権の性質に関しまして、抵当権はその物の交換価値を把握する、それが本質だ、使用収益は抵当権を設定した債務者に留保されるんだ、こういう考え方があったことは事実でございます。
 ただ、その点については、抵当権が交換価値を把握することを本質としつつも、当然、その収益にも抵当権の効力が及ぶという考え方も同時に有力に主張されていたわけでございます。その争いに、最終的に最高裁判所が平成元年に決着をつけまして、抵当権の効力がそういう賃料債権等にも及ぶ、物上代位でそれを差し押さえて弁済を受けることが可能である、こういう判断を示しましたので、抵当権の本質についてはその段階で決着がついたということでございます。
 今回の法改正は、そういう、従来から判例によって確認されました抵当権の性質を前提として新しい制度をつくったものでございますので、これによって抵当権の本質が変わったということはないと理解しております。
中村(哲)委員 抵当権の性質が変わったわけではないという話であったので、そこは確認させていただきたいと思います。
 私は、三百七十二条の、物上代位の勉強を大学でさせていただいたときは、やはりこれは、なし崩し的な実現なんじゃないかという説が一番適切なんじゃないかと実感しておりました。抵当不動産、これは、土地は滅失しませんけれども、建物は徐々に朽ちていく。三十年ぐらいで使えなくなっていく。その使えなくなっていく価値もいわば賃料に含まれているわけですから、抵当権の実行、換価性の中にその賃料の一部分は含まれるんじゃないか、私はそのように学生時代考えておったところでございます。
 そういったことを考えても、抵当権の性質は変わっていないという政府の答弁も、私もそのとおりだなというふうに考えております。
 では、次に参ります。
 この法案では、第三百七十八条で滌除制度の見直しがされております。抵当権消滅請求ということが新たにできるようになっておりました。この滌除制度を見直す理由はどういうところにあるんでしょうか。濫用の事例がたくさんあるということですが、その具体例も含めて御説明ください。
房村政府参考人 現行民法では、三百七十八条で、御指摘のように滌除という制度を設けております。これは、抵当権の設定された不動産を取得した者が、抵当権者に対して一定の額を示して、この額で抵当権の消滅を求めるわけでございます。抵当権者がそれを承諾いたしますと、第三取得者は、そのお金を払って抵当権を消滅させて、抵当権の負担のない物件を手に入れることができる。
 一方、抵当権者の方としては、その額が不満がある場合には、当然承諾できません。その場合には、抵当権者としては、現行制度では、申し出の額より一割高い額で競落する、こういう前提で競売の申し立てをしないといけない、それをしなければ承諾したものとみなされてしまう、こういう仕組みになっております。さらに、その前提として、抵当権者は、抵当権を実行する場合にはそういう滌除権を持っている者に対してあらかじめ通知をしなければいけない、しかも通知をして一カ月たたないと競売できない、こういう負担があります。
 そういうことから、抵当権を実行しようと思うと、そういう負担があってすぐにできない。また、そういう通知をいたしますと、実行までの一カ月間にいろいろな妨害工作をされるおそれがある。向こうから滌除の申し出がありますと、それに対してみずから競落義務を負ったそういう競売申し立てをするかどうか、こういう負担がある。このようなことから、抵当権者にとって非常に負担になっている。また、そういう負担があるがために相当低い額での滌除の申し出にも応ぜざるを得ない、こういうような指摘がされております。
 そういうことから、今回、そういう不都合をなくすために思い切って見直しを行って、かつ名称についても、滌除というのはいかにもわかりにくいものですから、抵当権消滅請求というわかりやすい名称にしたということでございます。
中村(哲)委員 技術的な話になるんですけれども、所有権者に限ったのはどういう理由なんでしょうか。現行法では、地上権者や永小作権者にも滌除ができる規定になっておりますけれども、今回の法案ではそれが除外されておりますが、その理由はいかがでしょうか。
房村政府参考人 まず第一に、ほとんど利用されていないということがあります。それからもう一つは、仮に残しますと、所有者の知らない間に、地上権または永小作権を取得した者が滌除の申し立てをして抵当権者が競売の申し立てをすると、本来所有者が債務をきちんと払っているのに競売されてしまう、こういう事態が起こるということもございます。
 それから、今回、抵当権消滅制度として存置をした、合理化したということの中には、被担保債権が物件の価額を超過している、そういう物件についてなかなか流動化しにくい。それを、合理化した抵当権消滅制度に基づいて、抵当権の負担をなくして流動化したい、こういうねらいもあるわけですが、これは永小作権とかあるいは地上権者が滌除しても達せられませんので、そのようなことを総合考量いたしまして、今回は所有権者に限ったわけでございます。
中村(哲)委員 時間が参りましたので、あと積み残した質問、また滌除権者への配慮という問題についても聞きたかったんですが、これで質問を終わります。
山本委員長 保坂展人君。
保坂(展)委員 社民党の保坂展人です。
 この担保物権・民事執行制度の改善のための民法改正案、この審議に当たりまして、ぜひちょっと法務大臣に聞いていただきたいというか、考えていただきたいことがございます。
 それは、私、これは今から四年ほど前でしょうか、平成十一年の十二月三日に、民事再生法の審議のときに初めてこの法務委員会で御紹介をしたんですけれども、実は、この国会議事堂にある国会テレビ、ちょうど衆議院のところ、テレビスタジオができまして、また参観者の皆さんが集まったり、大きな建物ができ上がりました。最終段階でそのテレビスタジオの工事をされた電気工事の職人さんたちが何と工事代金を払ってもらえなかったということを、たまさかテレビ番組でやっていますよということで呼ばれまして見ていたら、確かに、延々とその工事の経過、これは、間に入った、仕事を衆議院が発注して受けた元請がさらに中請に発注する、そこがどうも倒産したようですけれども、そして、その中請の会社が倒産をしたものですから、そこが発注していた工務店、お父さんが社長で子供が社員というようなところもあります。五百六十万円とか不払いを受けてしまって工務店を閉じざるを得ない、こういう嘆きの声があったんですね。
 いろいろな方がインタビューに出てきて、国会議事堂が映りまして、結局法律がないんですよね、こういう話になる。つまり、結局、不払いを受けたときに、汗水たらして、国会のこの議論を国民に一般に広げるための工事をした、ですから、そのテレビでも言っていましたけれども、国会ですから一番安全な工事だと思った、まさか不払いになるとは思わなかった、こうおっしゃったわけですね。
 ところが、今の扱いでは、これは本当に一般債権ということで、ようやく交渉をして、弁護士さんがかけ合って、これは相当いい例で、一五%回収したということですね。だから、これは一千万の工事をして百五十万、こういうことで、相当大きなダメージをその業者さんたちが受けた。これは何とかならないのかなということを、何回か私やってきました。
 当時、予算委員会でも、青木官房長官など、初めて聞いた、びっくりしました、国会の工事をして不払いですか、こういう話もあったんですね。御存じでしたか。
森山国務大臣 私も存じませんでして、きょう先生が御質問なさるというので、あらかじめざっとした話を聞きました。
保坂(展)委員 その当時から、残念ながら倒産件数もふえています。景気もまだまだ上向いていません。特に建設業関係はかなり厳しい上に、その当時も厳しかったんですけれども、大変にゼネコンなどの倒産も、中規模のところも出てきている。
 国会でそういう出来事が起こったということは、非常に我々にきちっと働けということを示しているように私は思うんですよ。これは、不良債権処理全体にかかわる問題でもあるとともに、働く、労働するということはどういう行為なのかと。一人親方、いらっしゃいますよね、手間請ともいいますけれども。そういう方はもちろんのこと、家族とか、数人の工務店で働いて、外注費といってもほとんどこの人件費であるという人たちが、いざそういった倒産を受けたときに全くもらえない、あるいは運よくもらえて一五%という状態は、非常に不備があるというふうに私は思うんですね。議論のスタートに、御感想をいただきたいと思います。
森山国務大臣 今の国会のテレビの工事の件については、国会は確かに直接契約した人に払ったんだそうですけれども、それが、その途中がつぶれてしまったために、実際に手を下した、働いた人たちに渡らなかったという話だと思います。そのようなことが国会にかかわる場所で起こったというのは、本当に先生のおっしゃるとおり、まことに残念であり、私たちも大いに関心を持たなければならないことだというふうに思います。
保坂(展)委員 民事局長にお尋ねしますが、当時の細川民事局長にこの起きた時点で伺いますと、これは民再法、民事再生法の議論でしたから、労働者性の強い方の債権の再生手続については、下請個人事業主と再生債務者との間の形式にこだわらず、労務提供の実態を見て、労働雇用関係に基づくものと同じように扱えるかどうかを判断すると。そしてもう一つ言われているのは、請負契約だからといって優先債権扱いができないというわけではない、指揮命令系統や継続性等々で債務者との間の関係を見る、こうおっしゃっているんですが、ここからもうちょっと進みましたか、あれから。どうですか。
房村政府参考人 民事再生法における扱いについては、今御紹介いただいた、当時の細川局長の答弁と現在も変わっておりません。実態として労働債権として保護に値するものであれば、その形式にかかわらず、先取特権を認めてその保護をするという点は変わっておりません。
 そういう意味では、従来、民法においてはそういう形になっていなかったものですから、今回の改正においては、民法における労働債権の先取特権の付与の範囲を拡大いたしますとともに、民事再生法等でもとられております、実態に応じたものに、法形式にとらわれずに保護を与える、そういう考え方を及ぼしておりますので、広い意味ではそういう保護の範囲は広がりつつある、こういうぐあいに考えております。
保坂(展)委員 確かに広がりつつあるんですが、広がりつつある部分が、広がったところと、まだ、よく見て、個々具体的にというか、裁判所任せというか、そういう部分で、それぞれ違った決められ方がされたりしているようでございます。
 内容に入っていきたいと思いますけれども、今まさに民事局長がおっしゃったこの労働債権の問題について、今回、商法の方に実はシフトをさせて広げたという問題について、私のもとにも、中小の工務店をやっておられる方とかあるいは労働組合からも、大変関心が強い、極めて強い。しかも、建設関係はもとよりですが、非正規雇用と言われるさまざまな形態の雇用が生まれてきて、そういったところからも関心が寄せられています。倒産が多いですから、この不況の中で働いている皆さんが、倒産や経営危機に陥ったときに、賃金が出ない、あるいは労働の対価としての、これは契約形態を問わず、実態として出てこないというのは、大変なピンチに立たされるわけです。
 そういう意味で、これまで、労働債権の先取特権は非常に不十分であって、実態として、労働債権として認めてもらうにも大変苦労しておられる。例えば一人親方、手間請ということで、労働力として現場に入る、そして仕事をしている、しかし屋号があったりしまして、個人事業主としての申告をしていたりするという場合もございますけれども、こういった場合には、今回の法改正によって、労働債権として認められる方向に動いたと見てよろしいんでしょうか。
房村政府参考人 現在の民法の先取特権の保護の対象になるのは、雇用契約に基づく給料債権に限るというのが解釈でございましたので、おっしゃるような手間請従事者については、その保護を及ぼすということは解釈上無理だったわけでございます。
 ただ、今回の改正によりまして、その契約の形式ではなく、実態として債務者に対して労務を提供して生活を営んでいる者であるかどうか、こういう実態に着目した判断が可能となり、かつ、保護の範囲も、そういう雇用関係から生じた債権全般に及ぶということになりましたので、もちろん個別的な事案によることではございますが、保護の対象になり得るようにという改正でございます。
保坂(展)委員 そういう意味では広がったということですが、もう一つ、最後の六カ月間の給料という従来の期間的制限を撤廃されています。これはどういう意味があるんでしょうか。
房村政府参考人 これは、民法では、御指摘のように、最後の六カ月間の給料と限定していたわけでございますが、同じ労働債権に対して、商法では、株式会社の使用人であれば、会社と使用人との間の雇用関係に基づき生じたる債権ということで、そういう期間の限定なしに保護を与えておりました。今回、その違いが合理的なものとは思えないということで、一致させることにしたわけでございますが、労働債権の保護の趣旨からいえば、当然、広い方に一致させる、そういうことで、六カ月の制限を撤廃したということでございます。
保坂(展)委員 そこの六カ月を撤廃して、雇用関係の先取特権は給料その他債務者と使用人との雇用関係に基づき生じたる債権につき存在すというふうに改めていると思いますが、この定義でしょうか、どのぐらいの範囲を指して述べているのか、規定をしているのかということについてお示しいただきたいと思います。
房村政府参考人 これは基本的に、雇用関係に基づき生じたる債権すべてを含む、現在の商法の解釈と同じでございますので、給与等はもちろん入りますし、それから退職金も入ります。それから、身元保証金も入ります。そういう意味で、現行の商法と同じように、雇用関係に基づいたものを広く保護の対象とするということでございます。
保坂(展)委員 前回までの雇い人という、今、余りそういう言葉は使いませんけれども、使用人も余り使わないような気が、使われる方も一部いらっしゃいましたけれども、つまり、労働の対価としてどういう範囲があるかというところなんですが、例えば賃金、給料、報酬、委託料あるいは外注費等々の名称にかかわらず、労務提供の対価である債権であれば、それは労働債権と解していいのかどうか。
房村政府参考人 御指摘のとおり、労務提供の対価としてのものは、名称のいかんにかかわらず、広く入ります。
保坂(展)委員 民法が制定されたのは明治時代でございます。その明治にさかのぼるまでもなく、ここ二十年あるいは十年に限定しても、随分と新しい働き方が出てきたのではないかというふうに思います。
 そういう意味で、法律が社会の実勢上の変化を追いかけていくのもなかなか大変だという時代に入ってきていると思いますが、一番端的な事例が、非正規雇用の労働者だというふうに思います。かつて、労働者といえば、企業との間で雇用契約を結んで働く正社員あるいは職員ということを指していましたけれども、最近では、形式上は雇用契約は結ばずに、請負契約、個人事業主だという形で働いていたり、あるいは外注委託契約の体裁をとって働いているタイプの労働者などが非常にふえてきているという状況があります。そういう意味では、労働者の概念、定義というものを社会の実勢を見て拡張していくことが必要なのではないかというふうに思います。
 現行法は雇い人の給料と書いているので、非常に狭い意味の狭義の労働者、つまり、雇用契約を結んで給料をもらって働く正社員しか、いわばそのフレームに入ってこないという欠陥があったのではないかということで、そこのところは、やはり、非正規のさまざまなタイプの労働者、例えば今、一人親方のことを言いましたけれども、屋号を持って個人事業主として働いているんだけれども実態は労務提供だというような人たちも含まれてくるんではないかというふうに思いますが、その点はいかがですか。
房村政府参考人 御指摘のように、現在の民法の雇い人というものは、雇用契約に基づくということに、非常に狭く、限定的に解されていたということから、今回は、使用人あるいは雇用関係という一般的な呼び方をすることによりまして、その実質に着目して、法形式あるいは名称にかかわらず、実質的な雇用関係にあってその労務提供の対価として受ける者である、こういう者を広く保護の対象としたわけでございますので、御指摘のような者も、もちろん具体的事案にはよりますが、入り得るわけでございます。
保坂(展)委員 建築関係だけではなくて例えば運送業などでも、従来だと、会社が車両を保有して、社員として雇用契約を結んで運転手さんに給料を払う、こういう形だったのが、例えば車両を運転手の所有にするという形で分け与えて、そのかわり維持費であるとか交通事故のリスクであるとかさまざまなことは自分持ちですよという形、持ち込みドライバーというような形も出てきておりますし、償却制などという、そんな働き方も出てきているようです。運送業はかなり過当競争の状態にあって、経営の圧力からもそういった手段をとっている会社が大変ふえてきているというふうに言われています。
 経営危機から延命するということで、社会保険料の負担から会社が軽減されるという面もあるわけですけれども、車両を本人に払い下げて、雇用契約を結んだ労働者ではなくて、個人事業主だという形をとって同じ仕事をさせているという場合もこれは入ってくるのかなというふうに思いますが、その点はいかがでしょうか。
房村政府参考人 御指摘のように、現在、非常に社会が複雑になっておりますので、同じ労務の提供をする場合でも、その法的形式がさまざまなものになっているだろうと思います。
 そういう意味で、今回の改正は、そういう法形式あるいは名称ということではなくて、その実態に着目をして、それが実質的な労務提供、使用人に当たるのかあるいは雇用関係に当たるのか、そういう判断をして保護の対象を画していくという考え方に立っておりますので、御指摘のようなものも、事案によって実質的な雇用関係が認められれば当然保護されるということになろうと思います。
保坂(展)委員 ずっと例を挙げていくとこれは切りがないので最後にしますけれども、いわゆる在宅ワークということで、形としては個人事業主として、外注委託契約という形式で仕事をしていただくという場合に、これも雇用契約がないんですけれども、しかし、在宅で、自宅で労務を提供して対価としての賃金を得るというような場合に、同じ問いになりますけれども、その原則でよろしいんでしょうか。
房村政府参考人 繰り返しになりますが、やはりその実質に着目をしていただく。それは、雇用契約を結んでいる者が自宅で会社に労務を提供するということももちろんあり得るわけですから、単に在宅だということだけで雇用関係が否定されるということはないだろうと思います。やはり実質に着目をいたしまして、実質的に雇用関係にある、支払われているものがその労務提供の対価である、こういうことであれば当然保護の対象に入ってくる、こういうことでございます。
保坂(展)委員 ここからまた国会テレビの話にちょっと戻りたいんですけれども、お一人で手間請として入る、それさえ認定が難しかったわけですから、これは明らかな前進というふうに私も思います。ただ、グループで請け負っている場合であるとか家族工務店とか、そういう形で、少人数、零細なんだけれども、外見上、形態上は、すぐにこの改正があってもなかなか難しい部分というのがあるかと思うんですが、その点、もう少し実態をよく見て努力をしていただけないかというふうに思うんです。
 労働省が、これは労働省であった最後の時期でしょうか、平成十二年の十二月十三日に労働債権の保護に関する研究会報告というのをまとめているようです。これをめくりますと、大分しっかりした指摘を受けとめられているように思います。「労働債権は十分な弁済を受けているとはいえない状況にある。」というふうに触れておりますし、保護の必要性について、一般先取特権が与えられているとはいっても、その保護をしていく理由を五点挙げているんですね。
 一点目は、労働者というのは賃金に頼っているため倒産により物すごく影響を受けるんだ。それから、交渉力が非常に乏しいということで債権回収というのはなかなか難しい。三番目に、企業倒産の場合は生活の維持継続の点で物すごく不安定な状況に置かれる。そして四番目として、労働者は企業の財産形成や企業倒産後における企業財産の維持に貢献していて、労働債権はそういう意味で保護されるべきだ。それから、一般的な債権者に比べてはるかに情報ギャップがあるんだということで、情報のギャップということも挙げていますね。
 これらをもとにいろいろ検討されたと思います。そして、法的整理においても、先ほどちょっと触れておりました民事再生法の手続などで少し手厚くなっていますけれども、この報告書では、破産手続などにおいてもまだ課題はあるということを示しております。
 この課題を、今回の改正で一定程度広がりましたけれども、なおやはり課題として強く認識していただきたいというふうに思うんですが、いかがでしょうか。
房村政府参考人 ただいま御紹介いただいた研究会には法務省民事局からも関係官がオブザーバーとして参加をしておりますので、内容は私どもも承知しております。
 私どもとしても、労働債権の保護の必要性ということは非常に重要なことだと認識しておりますし、そういう意味で、民事基本法の改正をする場合には、常に労働債権の扱いをどうするかということを念頭に置いて進めているつもりでございます。そういう意味で、今回も先取特権の範囲を拡張させていただきましたが、現在検討しております破産法におきましても、労働債権の保護について、今までより一歩進めた内容のものを現在検討しているところでございます。
 今後も、民事基本法の改正に当たりましては、労働債権の重要性を念頭に置いて取り組んでいきたい、こう考えております。
保坂(展)委員 今触れられた破産法の部分ですけれども、破産手続においては、一般先取特権の認められる範囲の労働債権は優先的破産債権となりますけれども、抵当権等の被担保債権や財団債権に劣後をしてしまう、手続によってしか弁済が受けられないし、また期間も一定程度要する、また、会社更生手続から破産手続に移行した場合には財団債権となるのに対して、当初から破産手続を行っている場合と差異がある、この辺が課題になっているというふうに考えてよろしいですか。
房村政府参考人 まさに御指摘の点が課題となっております。その内容として、労働債権の一部を財団債権にいわば格上げをする、こういうことを検討しているところでございます。
保坂(展)委員 今回の法案提出に当たって、こちらの資料の方に出ていますけれども、担保・執行法制の見直しに関する要綱中間試案というのがございます。ここで、先取特権の四番目の「その他」のところで「例えば、労働債権に係る先取特権について、その一定の範囲については、何らの公示手段も要さずに最優先の効力を認め、特定の財産の上に存する抵当権等の担保権にも優先するものとすべきであるとの意見がある。」というように、今これが認められるとすれば、国会テレビ問題も、やはり国会は動いていたということになると思います。
 しかし、それを受けて、こちらの方で、担保・執行法制の見直しの要綱中間試案に対する各界の意見が来た、大変多く来たようでございますね。九十万件を超えるものが来たということですけれども、この辺の議論は、労働界は当然そういうふうにしてくれ、あるいは中小零細の工務店などからは歓迎の声が上がったことでしょうし、経済界あるいは金融などの方角からはちょっと待ってほしいという声が上がったやに報告されていますけれども、その辺の議論の様子はいかがだったんでしょうか。
房村政府参考人 御指摘のように、中間試案では、いわばスーパー先取特権といいますか、抵当権にも優先する保護を労働債権に与えるべきではないかという意見があるということも御紹介しております。
 ただ、この意見は、仮にそういう扱いをすることになりますと、抵当権者にとっては、抵当権設定当時に予測不可能な労働債権が抵当権に優先するということになりますので、不測の損害をこうむるおそれがある、また、当然、そういうことになれば、あらかじめ抵当権を設定する場合に非常に与信額を低く抑える、そういうことになって、債務者が金融を得ることが困難になる、こういうことが予想されるわけでございます。そのようなことから、結局、その後の審議会の審議では、その意見は採用されなかったわけでございます。
 また、それに対するパブリックコメントでの意見でございますが、御指摘のように、労働界からは強く推す意見が参りましたが、数としてはやはり反対というのが圧倒的に多かったということでございます。
保坂(展)委員 先ほどの国会テレビの方から出発した議論を振り返ると、当時の法務省の答弁では、例えば会社更生法、民事再生法で言うと、少額債権の優先的弁済制度というのがあります、これをしっかりと使っていただいて、銀行などの大口債権者に優先して配当できる仕組みを設けていますということでした。ただ、これが本当に実態として動いているのかどうかというのは、いろいろ聞いてみると、そうなかなか使われていないというふうにも聞いているんですけれども、その辺はどうなのかということが一点。
 やはり欧米型のように、これは、発注者が労賃相当分を元請業者を経由しないで直接下請業者に支払う制度を、これは法務省だけの範囲じゃないかもしれませんけれども、産業政策的な見地から創設することもできるのではないかと。今おっしゃいましたスーパー先取特権といいましょうか、抵当権にも優先するような部分というのはなかなかというお話でしたけれども、やはり、いわゆる銀行の不良債権処理、なかなかこれも道が見えないわけですけれども、社会を支えている、本当に汗を流して労力を使って日々働いている人々あるいは中小零細の工務店、そこの立場にも十分やはりこれから配慮をされる必要があるかと思うんですね。そのあたりの問題意識はいかがでしょうか。
房村政府参考人 再生法の少額債権の弁済の件でございますが、これはかなり活用されていると聞いておりますし、実は、この間お願いをいたしました会社更生法の改正の際にも、その少額債権の弁済をより利用しやすくという方向での改正も行ったところでございます。したがいまして、この制度は、そういう少額債権者、特に中小企業の人たちにとってはそれなりに利用していただいているのではないかと思っております。
 その保護の必要性ということでございますが、これはいろいろな他の権利関係との調整という問題はございますが、一般的な考え方としては、御指摘のように、十分その保護を考えていく必要があろうかと思います。
 そういうことで、私どもとしても、基本法を改正する場合には、さまざまな利害調整の中で、そういった労働債権なりあるいは中小企業の弱い立場の人たちの権利をどう保護するかということも念頭に置いて作業を進めているつもりでございます。今後もそのつもりで努力をしたい、こう考えております。
保坂(展)委員 この九九年の民事再生法の衆議院の法務委員会における附帯決議、ここには、倒産手続における賃金債権、退職金債権の債権の優先順位について、さらに諸外国の法令等を勘案するなどして検討し、所要の見直しを行うこと、破産法等いわゆる倒産法を改正するに当たっては、労働債権について、特に再生手続から破産手続等に移行した場合にその優先性が維持されるようにするなど、格段の配慮をすることという附帯決議がなされていますし、また参議院でも、この法律の附帯決議については、倒産法制全体の手続における労働債権、担保つき債権、租税債権、公課債権等の各種の債権の優先順位について、諸外国の法律等も勘案し、所要の見直しを行うとともに、賃金の重要性にかんがみ、労働債権について、特に再生手続から破産手続に移行した場合に、その優先性が維持されるようにするなど、格段の配慮をすることと、ほぼ同様の附帯決議です。
 これらについて、先ほど破産のところは触れましたけれども、大変強く国会の議論として求められている。一方で、そういったパブリックコメント等々の意見調整もあったけれども、これは課題としてしっかり背負っていただきたいんですね。いかがでしょうか。
房村政府参考人 先ほども申し上げましたが、現在検討中の破産法におきましては、労働債権の扱い、これを検討しておりますし、また、その際、各手続間で移行した場合にどうするかということも検討を進めているところでございます。
 また、その御指摘は多分、破産法にとどまらず今後ということだと思いますが、その点は、私どもも、今後民事基本法を立案する場合には、当然そういった労働債権の保護というようなことも念頭に置いて作業を進めたいと考えております。
保坂(展)委員 この一連の質問の最後に、法務大臣に。
 当面、金融機関などが速やかにこの手続を終えることという趣旨も、これは大事だと思いますけれども、一方で、多数の働く人がこの社会を支えている、その働いた形がどうあれ、これはやはり、働いた分の労賃といいますか、労働債権として、これは形態を問わずしっかり当然の権利として獲得できるということはずっと議論されてきている問題なんですね。
 今回の法律では、いわゆる手間請であるとか持ち込み運転手さんだとか、そういう形のものは比較的認められやすいんですけれども、工務店とかグループで請け負うみたいな形になると、まだなかなか、相当努力をしないとその働いた汗が報われないという非常に困った事態に追い込まれる国民が多数いるということをぜひしっかり見ていただいて、さらに、国会ケーブルテレビ工事のことがさっぱり教訓にされていないと言われないようにぜひ御努力をいただきたいと思います。いかがでしょうか。
森山国務大臣 おっしゃるとおりでございまして、働いた人の汗がむだにならないような社会をつくっていかなければいけないと思いますので、今この法律の関連でも、破産法について検討する際にさらに考えていかなければならないという言葉がございましたが、そのような方向でこれからも検討していきたいと思います。
保坂(展)委員 では次に、いわゆる執行妨害の関係について何点かお聞きします。
 いわゆる占有屋という方々が暗躍をしていてなかなか不良債権処理が進まないということで、さらにそこを強化しよう、同時に刑法の側からも手当てをしようということで、一連の法改正がされるというふうに考えておりますけれども、いわゆる労働組合活動が、これらの名目で、端的に言えば弾圧されてしまうんじゃないかとか、あるいは非常に阻害されてしまうんじゃないかということが、九六年の段階でもこの法務委員会でも議論されたと、私がまだ入ってくる前でしたけれども、記録を見ると書いてございます。
 倒産企業において、労働組合が、事業主との労働協約に基づいて労働債権を確保したい、あるいは雇用を確保したい、会社資産を保全すべく会社のいわゆる自主生産をするということも行われてきている。これらの労働組合の活動が、執行妨害だということで一くくりに全部認められないということになるのではないかという危惧が一定の声としてあったんですが、私は、これは占有屋対策ということで目的は明快なんだろうとは思いますけれども、そこのところを一点、ちょっと気になるので、お聞きをしておきたいと思います。
房村政府参考人 これは、正当な労働組合活動がいわゆる執行妨害に当たるということは考えられないわけでございます。
 一番問題になるのは、保全処分の発令に際しまして、その正当な労働組合活動が条文で言っているいわゆる価格減少行為に当たるかどうかということが問題になる例かとは思います。
 これは、この保全処分を法改正するときの国会でも説明をしていることでございますが、正当な労働組合活動がこの価格減少行為には当たるものではない、こういう考え方で立案をしておりますし、今回、この保全処分の要件を緩めまして、著しいという要件を外しておりますが、もともと価格減少行為に当たらないという考え方については、その要件を緩めたからといって変わるものではございませんので、その点は従来どおり、正当な組合活動がこの価格減少行為に当たることはないと理解しております。
保坂(展)委員 それでは、園田先生もいらっしゃいますが、当時、自社さ政権の時代でございまして、これは三党で共同提出したんですね。提案理由説明の中に、労働組合活動その他正当な活動に対しては十分に配慮をしなければならないということを前提としていますという提案理由があり、なおかつ、その附帯決議においてもさらにこの点について言及がされているというふうに、記録を見ますと書いてございます。そのあたりの趣旨というのは今日全く変わらないんだということで確認をしてよろしいでしょうか。
房村政府参考人 その点は現在でも全く変わっておりません。
保坂(展)委員 それでは、賃金債権の執行に関しても少し伺っておきたいと思います。
 賃金債権の先取特権があって、これは手続的な問題ですけれども、実際に仮差し押さえや取り立てをしようというときに、担保権の存在を証明する文書というものを裁判所に提出しなければならない。この要件というのが実際非常にきつい。最近少し運用が変わってきているということも聞いているんですけれども、賃金が払われなかったということを証明するために、就業規則を出したり、あるいは会社代表者の印鑑証明を持ってきたり、賃金台帳とか、そもそも、混乱状態の中でそういったものはないというケースが多いというふうに聞いています。また、その多くは会社が所有しているものですから、いわばどこにあるのかわからないということが多いと思うんです。
 このあたりの要件を緩和されるか、さもなくば賃金不払いを使用者に証明させる、文書の発行を逆にやっていただくとか、何らかの工夫はありませんでしょうか。
房村政府参考人 労働債権には先取特権が与えられているわけでございますが、それを行使しようと思うと、おっしゃるように担保権の存在を証する文書を提出して裁判所に認定してもらわなければいけない、こういう負担があるわけでございます。典型的なものとしては、ただいま御指摘ありましたような賃金台帳とかそういったものを、各種の資料を出して、総合的に裁判所に判断していただくということになっているだろうと思います。
 ただ、御指摘のように、会社が混乱したりして、なかなか資料の収集が困難だという場合もあろうかと思います。法律的には、そういうことも考えまして、特定の文書ということを要求いたしませんで、広く「証する文書」ということで、いろいろなものを総合して裁判所で判断していただけるように、こういう考え方でできております。
 ただ、裁判所も、やはりそれなりに、権利関係の判断をするわけですから、ある程度の資料を要求されるのもやむを得ないだろうと思いますが、その運用方はいろいろ工夫していただいていると思いますし、私どもとしても、今後どんな工夫ができるか、さらに考えてみたいとは思っております。
保坂(展)委員 必ずしも硬直的な運用ではないというふうに聞きましたけれども、実際にこういった混乱、先ほど報告書の中にも情報のギャップというお話が出てまいりましたが、いろいろお話ししてみると、やはり倒産とかになれているという方は余り今日いませんので、大変な混乱の中で、どうやって証明するか。相当これは努力をして、自分が確かにそこに働いていたということを証明するために四苦八苦されているんですね。
 裁判所がそれぞれ考えるというのはもっともなんですが、何らかの考え方を少し示していただけないですか。どういった工夫があり得るのか。つまり、印鑑証明やら賃金台帳やらそういうものがない、ないけれども、ではそれに準じたものというのは、一体どういう方法があるのか。どうですか。
房村政府参考人 これはなかなか難しくて、どうしても、例を挙げよう、例示しようと思うと典型的な例を挙げてしまうわけですね。そうなりますと、それがないときの扱いがかえって難しくなってしまう。そういうこともあって、この法律では単に「証する文書」とするだけで具体的な例示を行っていないんですが、そういうことは、多分その扱いをどうするかと考える場合も同じではないか。比較的思いつくのは、典型的ないかにも証明力の高い文書が思いつくわけでございますが、問題になるのはそういうのがないときでございますので、そういうものがないときのことを具体的例示で決めるというのはなかなか難しいのではないか。
 そこは、裁判所は裁判所なりに工夫をしていることと思いますし、私どもとしてもどんな知恵を出せるかということは今後も考えてはいきたいと思いますが、今申し上げたような事情でなかなか難しい面がある。それぞれの個別の事案において適切な判断をしていただくということに最終的にはなってしまうのではないかと思っております。
保坂(展)委員 養育費の問題も今回出てきております。前にも少し触れたかもしれないんですけれども、養育費については、数万円ぐらいの規模なので、これはまとめて請求をしてというふうにできるというふうに民事局長がおっしゃったんですけれども、数万円でなかなか養育できるものではないだろうというようなことをやはり感じるわけですね。
 今回、そういう制度ができるということについて、それは一歩前進かもしれませんけれども、法務大臣の方、養育費について、実際にしっかり払っている方はやはり非常に少ない。そしてまた、払わない場合どうかといっても、案外逃げ切れているという現実があるわけですけれども、これら、特に養育費ということを議論するときに数万円ということを前提に話していくような、そういう議論というのは、もう少しやはり実態に即して議論していった方がいいんじゃないかというふうに思います。高校生、大学生になれば数万円どころじゃありませんから。そのあたり、いかがでしょうか。
森山国務大臣 養育費にもいろいろありまして、おっしゃるようなケースもあると思います。
 しかし、それが仮にわずかなものであっても、なかなか十分払ってもらえないというケースもたくさんございまして、大体、毎月の給料の中から二万とか三万とか、あるいは五万とか、その程度のものをぜひ払ってもらいたいというふうに思いましても、それを一回ごとに手続をするのでは大変であるということから、できるだけそういう手間がかからないで一括取れるようにしたいというような方法が今考えられているものでございますが、これですべて解決ではございませんので、当然、離婚なら離婚の、二人の相談あるいは裁判の決定によって決まるものではございますけれども、必要な、取るべき養育費があれば、それをきっちりといただけるように、手だてを次々に考えていかなければならないというふうに思っています。
保坂(展)委員 デフレ経済の中ですから、今大臣がおっしゃったような金額、二、三万から五万といっても、これは本当に大変だという状態の方もいらっしゃるんだと思うんですね。ただ、一方においては、もっと収入があるのにどうせその水準だというような、そういう方もいるし、また、それであっても払わないという方も現に存在するわけですね。
 現実には、だから、養育ということが、実際上、女性にすべてかかってしまうという実態は、もう大臣もよく御存じだと思いますね。ですから、そのあたりをやはり、今回の制度も大事ですけれども、最初の議論の前提自身がやや偏った前提に立って語られてはいないかということが私はちょっと気になったので、私は男性ですが、気になりましたので、お聞きしたのですが、いかがお考えですか。
森山国務大臣 今も申しましたように、いろいろなケースがあると思いますので、そのケースごとに考えなければならないとは思いますけれども、今回のこれは、先ほど申し上げたようなものを何とか確保しようという手段でございますので、一歩前進と言わざるを得ないと思います。
保坂(展)委員 それでは、時間が来ましたので、終わります。
 どうもありがとうございました。
山本委員長 木島日出夫君。
木島委員 日本共産党の木島日出夫です。
 担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案であります。非常に多岐にわたる改正でありますが、担保法また民事執行関係法の基本原則にかかわる改正がたくさん盛り込まれておりますので、順を追ってお聞きをいたします。
 最初は、民法三百九十五条、いわゆる短期賃貸借保護制度の改正についてであります。
 これは抵当権と賃借権との利害関係の調整を規定する改正でありますが、まず、現行民法三百九十五条の趣旨、どこにあるんでしょうか。
房村政府参考人 抵当権におくれて設定された賃借権は、抵当権者に対抗することができず、抵当不動産が競売により売却されたときに消滅するというのが民法の原則でございます。
 しかしながら、この原則どおりにいたしますと、抵当不動産の使用収益が阻害されるおそれがあるということから、現在の民法三百九十五条は、短期賃貸借制度を設けまして、一定の短い期間の賃貸借については、競売による売却後も、その期間内の賃借人による占有を認めるということとすると同時に、それが抵当権者に損害を与える場合には抵当権者に解除請求を与えるという形で、利用の調整を図ったものというぐあいに理解しております。
木島委員 そのとおりですね。
 ただ、午前中からも同僚委員からも再三指摘されておりまして、また、数字でも幾つか出ておりましたが、明治時代につくられたこの基本原則が、今日、経済変動が大きく変わる中で、やはり現行制度も本当にこれで十分なのかどうなのか、いろいろな側面から見直しする必要があるんだろうと思うのです。
 それは、端的に言いまして、今日、都市部ではマンション建設、農村部でも農地をつぶして農家が賃貸住宅を建設するというのが非常にふえてきているわけです。そういう賃貸マンションや、農村部でも賃貸住宅を建設する、いわゆる建物の所有者は、ほとんど銀行から融資を受けて建てます。
 そうしますと、まず目的は、もう明確に賃貸であります。自己使用じゃありません。しかし、銀行から融資を受けますから、建物が完成、竣工いたしますと、賃借人が入る前にまず銀行の融資があって、抵当権が先についていきます。これはもう明らかです。一〇〇%でしょう。そして、銀行の抵当権がまずつけられた後、目的に沿って賃借人が入っていくわけであります。そして、たまたまそういう状況のもとに賃貸人たる建物所有者が破産してしまう、それで抵当権が競売される、それで新しい所有者が生まれる。
 そうしますと、現行法でも、正当な賃借人、当然の賃借人、その物件の本来目的に沿って借り受けている賃借人、居住者ですね。これが新しい抵当権実行による所有者に勝てない。少なくとも三年、短期賃貸借三年しか保護されないというのが現行制度で、これは幾ら何でも今日のマンションや賃貸目的の住宅の場合には不合理ではないか。根本的な疑問が現行制度にも私はあると思うのです。
 そのような場合には、建物そのものは賃貸を目的としているのですから、そして所有者がみずからの責任でつぶれてしまった、そして抵当権が実行されたという場合には、賃借人の権利の方が、当然、建物のことを私は想定しています、建物賃借人の権利の方が、新しい建物の買い受け人よりも強くていいのではないか、それが私は社会的な公平ではないかと考えざるを得ないのですが、その根本問題について、民事局長はどんな認識なんでしょうか。
房村政府参考人 確かに、現在、賃貸用物件というものはふえております。その場合に、御指摘のように、まず賃貸用物件ができたときに抵当権が設定される。その後に賃貸借契約が結ばれるというのが通常だろうと思います。
 しかしながら、融資をした人も賃貸用物件という前提で融資をしているわけですから、賃貸借の負担をこうむることは当然予測できるのではないか、こういうことから、賃貸用であることが明らかな物件については、抵当権の設定におくれる賃貸借を保護するという仕組みも考えておかしくないのではないか、こういう指摘が実は法制審議会の審議の中でもございました。
 現行では、そういう抵当権におくれる賃貸借を保護するものとしては短期賃貸借制度しかございませんし、この短期賃貸借は、競売時期等の偶然の事情によって保護されたりされなかったりという欠点がございますので、新しい制度でそういうものができないのか、こういうような検討も実際になされました。
 ただ、結局、議論をいたしまして、賃貸用の物件というのですが、必ずしも、典型的な場合はわかるだろうとは思いますが、現実にそういう制度としてつくろうと思いますと、その境目が非常に不明確である。また、そういう賃貸借の権利関係がどのようなものになるかが不明なまま、抵当権者がその負担をこうむらなければならないということになりますと、抵当権者にとってやはり不測の損害をこうむるおそれがある。また、それを避けようと思うと、与信額が非常に低くなってしまうだろうというようなこと、それから、賃貸用建物であることを公示するということが非常に困難である、また、事後の賃借権が優先するということになると、これを濫用されるおそれというのを防ぐ的確な方法がないのではないか、こういうような議論がございまして、最終的に、そういった賃貸用の物件について事後の賃借権が優先するという制度を設けるのはやはり困難だ、こういうことになりました。
 ただ、そういう賃貸専用物件については、抵当権が設定されていても安定した賃貸借ができるような社会的需要はあるのではないか、そういうことから、今回、抵当権が設定された物件についても抵当権者の同意を得て、賃貸借に対抗力を与える、こういう新しい制度をつくったわけでございます。
 これを活用していただければ、抵当権者の方も、優良な賃貸物件ということで、確実な収益が上がるということを前提として融資をし、また、その上がった収益から回収をしていくということが可能になりますし、そういう意味で、今回の新しい制度を考えたというのは、御指摘のような問題もあるということから新しい制度を考えたわけでございます。
木島委員 現行制度でも、正当な賃借権者が、これは居住でもテナントでもそうです、社会的に弱者ですよね。テナントなんかは本当にそうでしょう。権利が現行でも守られていない、最大三年しか守られない。
 しかし、私の指摘に対して、法制審議会でもそこは問題だという認識があるので、民事局長、今最後に答弁されましたが、今度の改正法で、そういう権利が保護されない賃借人でも、抵当権者の同意を取りつければ引き続き居住ができる、賃借権を維持できるということですね。
 しかし、同意をもらうというのは、抵当権者は金融機関ですからね、ただじゃ同意しないわけですよ。家賃の値上げあるいは更新料、そういう名義で一定の金員を社会的弱者であるテナントや居住者から受け取って、それを払ってくれた人は、あるいは家賃の大幅な値上げを承諾した場合には同意するということに、当然、経済法則からなるんじゃないでしょうか。その辺の懸念は全然感じなかったんですか、今度の法改正で。
房村政府参考人 今回の新しい制度、抵当権者の同意を得て賃借権の登記をして、対抗力を付与する、こういう制度をつくりましたのは、まさに御指摘のような賃貸用物件、これについて抵当権が設定されておりますと、競売がされた場合に権利が保護されないおそれがある、こういう不安を抱いていると、優良な賃借人を見つけることも困難ではないか。現在の状況からすると、安定した賃借権を保障することによって、より優良な賃借人を探すことが可能になる。そういう意味で、貸す方の要請もあるだろう、また、使う方にとっても、当然、対抗力のある賃借権であれば、安心して使えるわけでございます。
 そういう優良物件が、安定した権利関係のもとに継続的な収益を上げるということになれば、抵当権者にとっても利益ですから、抵当権者としても、そういった賃貸用物件について、同意にお金を要求するというようなことではなくて、基本的に、同意をすることによって、より優良な賃貸物件としての運用を図るということは、社会的需要としてもあるのではないか、そういうことを考えて今回の制度というものを設計したわけでございます。
木島委員 抵当権者たる金融機関の同意、承諾がなければ自分のテナントが維持できない、居住が継続できないとなれば、賃借人と銀行、抵当権者との力関係が、どっちが強いかは明らかでしょう。銀行の方が強いに決まっているんですよ、承諾するかしないかは自由なんですから。そうしましたら、日本の経済法則からいったら、資本主義の経済法則からいったら、金融機関たる抵当権者は、いわゆる承諾料を持ってきてください、あるいは家賃を値上げしてくださいと言うに決まっているじゃないですか。
 そういう配慮が全然なしに、今回、民法三百九十五条を改正して、いろいろ理屈を言って、抵当権者の承諾を得れば引き続きテナントは借りられるんだ、居住者は借りられるんだという制度をつくったからいいじゃないかなんというのは、全く、社会的弱者たるテナントや居住用賃貸物件の賃借人の権利を損なうもの、抵当権者たる大金融機関ですよ、金融機関の利益を一方的に図るものと私は指摘せざるを得ないんです。
 大体、マンションにしろ、農村での賃貸住宅にしろ、貸し主たる金融機関は何を目当てにしているかといったら、そのマンションなり賃貸物件が、きちっと賃借人がいて賃料が入ること。銀行の貸し金の唯一の回収の基礎は賃料収入でしょう。当たり前ですよ。それなら、こんな変な、承諾が必要だなんということを言わずに、民法の基本原則を変えて、明治以来の基本原則をここで変えるんですから、抵当権と賃借権との優先劣後関係、力関係を変えるわけですから、せめてそういう制度をつくるべきではなかったか。まだ遅くはありませんから、この審議を通じて、つくるべきではないかと私は思います。
 ちなみに、民法の大御所であり、今は亡き我妻栄教授の文章を読みましても、大体、この民法六百二条、短期賃貸借というのは借地借家法の立法趣旨と合わないと。借地借家法というのは、そこに住んでいる限り権利は永続するんだというのが借地借家法の原点でしょう。そういうことを言っているということ。これは民事局長、十分に御勉強のことですから、そこをしっかり受けとめていただきたい。
 今回の何でこんな、短期賃貸借が、現行でも不十分な短期賃貸借の保護制度がさらに後退する、短期賃貸借保護制度廃止ですからね、なってきたのかといったら、私は一言で言ったらこれは法務大臣の責任だと思うんですが、政府の経済政策だと思うんですよ。政府の経済政策で、短期賃貸借をもうなくせなんということが連続して出されています。
 指摘してみましょうか。
 平成十一年二月二十六日、経済戦略会議、「日本経済再生への戦略」でもそんなことが書かれています。平成十二年十二月十二日、行政改革推進本部規制改革委員会、「規制改革についての見解」でもそんなことが書かれておる。平成十三年十二月十一日、総合規制改革会議の「規制改革の推進に関する第一次答申」でもそんなことが書かれておる。短期賃貸借が、まるで目のかたきにされている。
 そもそも、こんな問題が今噴き出しているのは、政府の経済失政によってバブルがはじけて、不動産価格が低落をして、そういう中で競売もうまく進まない、倒産もふえる、そういう経済失政の結果でしょう。それなのに、物件が売れないというその責任を挙げて社会的弱者である賃借人、テナント、居住者に押しつけようとしているのが、この短期賃貸借保護制度の廃止じゃないですか。
 銀行の利益を余りにも保護して、弱者である賃借人の権利をないがしろにするという本質がここに見えるんじゃないかと思えてならないんです。これはもう基本問題です。法務大臣、そう感じませんか、午前中からの論議を聞いて。
森山国務大臣 先生の御説も理解できますけれども、経済にはほかにもいろいろな状況がございまして、この短期賃貸借の持っている問題もあるわけでございますので、そのことに考えをいたして、このような考えを持ったんだというふうに私は思います。
木島委員 経済がそうだと言うんですが、じゃ、民事局長に聞きます。
 ヨーロッパに目を転じて、フランスやドイツの賃借権と抵当権の優劣関係はどうなんでしょうか。フランスでは、少なくとも十二年間、賃借権は保障されるんじゃないでしょうか。抵当権より賃借権は十二年分は強い。ドイツでは、居住用の賃借権は永久に保護されているんじゃないでしょうか、抵当権に対して。教えてください。
房村政府参考人 外国の制度でございますので必ずしも正確ではないかもしれませんが、御指摘のように、フランスでは、売買は賃貸借を破らない、こういう原則がとられておりまして、まさに期間十二年を超えないものについては、登記をすることを要件として賃借権が優先する、こういう考え方がとられております。
 また、ドイツにおいては、不動産競売の競落人に対しては賃貸借の解約権を付与している、こういうことでございますが、居住用の物件についてはこの解約権が広く制限されているため、実質的には競落人が賃借権を引き受けることが原則となっている、こう説明されております。
木島委員 法務大臣、お聞きのとおりですよ。フランスでは、売買は賃借権を破らない、まことに見事な格言じゃないですか。これは実行していますよね、フランスは。ドイツでは、居住用の賃借権に対しては、幾ら抵当権がついて競売されたとしても、競落人は解除できない。当たり前じゃないですかね。
 日本でも全部やれとは、私はきょうは一歩下がりますから言いませんが、少なくとも賃貸用マンションあるいは賃貸用に建てられた住宅、そういう建物を建てるために銀行が融資をして、抵当権をつけた。そして借り主が倒産してしまった、そして競売になった、そして新しい所有者があらわれた。そんなのは当たり前の、せめてそんな分野では、日本でもフランスとドイツに倣って、フランスのようにすばらしいものにしようとは私、言いませんよ。せめてそういう場合は保護する制度をつくったらどうですか。今回、改正するのならつくれるでしょう。そんな難しいことじゃないですよ。
 いや、これはもう政治判断。法律の理屈じゃない、政治判断ですよ。何でフランス、ドイツ並みに、並みまで言わない、半分でいい、フランス、ドイツの賃借権保護制度の半分ぐらいまで今回つくれないんですか、日本で。――いやいや、もう政治判断。
山本委員長 では、先に民事局長。
房村政府参考人 フランス、ドイツの制度については先ほど御説明したとおりでございますが、これは、例えば売買と賃貸借の関係、あるいは抵当権と賃貸借の関係というのはどちらが優先するかということは融資にとって極めて重要なことでございますし、当然、どういう原則をとるかということによって、他の法律制度あるいは経済の運営の仕方というものも決まってまいります。フランスはそういう考え方に立って他の仕組みもできていることでありましょうし、社会的な仕組みもそうなっているんだろうと思います。
 日本では、抵当権は登記をされた場合には賃貸借等に優先する、こういう考え方が基本原則としてとられているわけでございますので、そういう基本原則を動かさないままに一部にそれと違う、当然、事後の権利に勝つということを前提として考えられている抵当権に対して事後的に優先する権利を認めるという制度を一部入れるというのは、非常な混乱を招くおそれもあるわけでございますので、諸外国にあるからといってその部分だけを日本に持ってくるということは、理論的に考えてもなかなか難しい問題があろうかと思います。
 もちろん、政治的判断ということはあろうかと思いますが、そういう法律的な、実務的な判断というものも当然検討した上でないと政治的判断というのは難しいのではないか、こう思っております。
木島委員 そういう答弁をするなら言いましょう。
 いや、だから私は、明治時代にこの民法ができたときと今日、全然違うじゃないですかと。明治時代にこの民法がつくられたときには、恐らく賃貸マンションとか、今農村地帯で、私の周辺でもそうですよ、農地がつぶれてマンションがどんどんつくられている、そんなことは想定されなかったんですよ。
 今日はそういうのが、午前中でも、もう五割を超えているというのは、たしか数字、答弁があったんじゃないですか、賃借人が非常にふえていると。そういう場合は、金融機関ですらが賃貸用だというのを前提で金を貸しているんでしょう。そうでしょう。賃借人がいて初めて家賃が入って、銀行の貸し金も回収できる。それならもう、家主が変なことをやってつぶれてしまった、ばくちに手を出してつぶれてしまって、競売された、家主の責任でしょう。それで、新しい権利者が生まれた。賃借人を同じ条件で保護して、金融機関に何一つ不利はないでしょう。追い出す方が金融機関は不利でしょう。そうでしょう。どうですか、ですから政治判断が必要だと言うんですよ。
 私は、ドイツ並みに全部保護しろとは言いません、フランス並みに全部保護しろとは言いません。せめてその建物が明白に賃貸用マンションである場合、賃貸用建物である場合、その居住者の賃借権ぐらいは保護して当たり前ではないかと。何がまずいんですか。金融機関にとってもマイナスは何にもないじゃないですか。それなのに何で、今度の法改正で短期賃貸借すら削ってしまうなんという、血も涙もない、本当に冷酷無比な、短期賃貸借保護制度の廃止というような、こんな法律を持ち出してきたんですか。
 これは森山法務大臣、あなたが出したんですからね、答弁してください。
森山国務大臣 賃貸借の内容につきましては、賃借期間の長短や付随して差し入れられる敷金の額などがさまざまでございますことから、抵当権設定後の賃貸借が常に抵当権者に対抗できることとすると、抵当権者にとって、不動産の価値をどのように評価して与信をすればよいかの判断が困難になってしまいます。また、賃貸マンションにおいても執行妨害は行われておりますので、抵当権設定後の賃貸借が常に抵当権者に対抗できることとすると、賃貸マンションでは今まで以上に容易に執行妨害をすることができることになってしまうのではないかと思います。さらに、賃貸用の建物とそれ以外の建物とを客観的な基準によって区別することがそもそも大変困難であります上、賃貸用の建物であることを公示する方法を設けるということも困難であるという問題もあります。
 このような事情から、賃貸マンションについて、賃借権が常に抵当権に優先するという制度を設けるということは困難だというふうに考えます。
木島委員 今の大臣の答弁の最後のところ、大変大事なところなんです。
 賃貸用物件か居住用物件か区別が困難と、お説であります。しかし、そこの問題について、日本の学者の皆さん、何と言っているんですか。区分けをして、善良な、正当な賃借権を保護する仕組みは工夫できると。
 例えば堂垣内教授は、二種類の抵当権にしたらどうかと。一つは賃借権を引き受ける抵当権と、賃借権を引き受けない抵当権、二種類つくったらどうだと。融資の段階から、ああ、これは賃借権を引き受ける抵当権で結構ですよと、それは賃貸マンションなら当たり前ですから、そういう抵当権を金融機関に選ばせる。抵当権を二種類にしたらどうかという説を、大変おもしろい説を挙げています。
 それから松岡教授は、もっとわかりやすいことを言っています。建物登記に、賃貸用物件か自家用物件か登記で明記したらどうかと。非常におもしろい説ですね。これは日本の物すごいすぐれた民法学者ですよ、松岡先生。賃貸マンションなんかいいじゃないですか、賃貸用建物であると。農村で農地をつぶして、学生たちに賃貸する住宅、どんどん出ていますが、そういうのは自分が、農家が住むわけじゃないから、賃貸用物件というので登記に明示させたらいいじゃないですか。そういう場合は、賃貸用物件の場合は賃借人を抵当権者より優先する、保護するという仕組みをつくれば非常に簡単じゃないですか。そういう提案がどんどん、この法制審の論議が進んで、いろいろ並行的に出ていたんですね。
 もう一つ言うと、生熊教授というんでしょうか、最も解釈ですごいことを言っていますよ。賃貸借は抵当権実行による新所有者に対しても継承されるという学説をもうどんどんと挙げている。こういう学者だって今、日本にいるんですよ。民事局長、笑っていますけれども、本気になってこういう学説を立てている人もいる。これはひとつ紹介しておきます。
 少なくとも私は、松岡先生の、もう初めから明確に賃貸物件のために建てた場合は、建物登記を二種類分けてやったらどうですか。そういう制度設計、難しくないでしょう。
 これはもう技術じゃないよ。政治判断だ。大臣、答弁してください。
森山国務大臣 私は民法の学問については非常に素人でございますが、それでも、今先生がおっしゃいましたような、偉い先生が唱えていらっしゃる学説ですから、それなりに理屈があるんだろうとは思いますけれども、なおその区別ができるのかなという疑問が最終的にどうしても残るのでございます。仮に区別して公示したといたしましても、執行妨害の問題は残るのではないかというふうに思います。
房村政府参考人 先ほども御説明しましたように、賃貸用の物件、これが非常にふえているというのは明治時代と大きく異なっているというのは委員の御指摘のとおりだろうと私どもも思っています。
 そういうものに対して、現状の抵当権と短期賃貸借の関係では適切に対応できないのではないかというのも共通の認識だろうと思います。それに対して、どう対応するかということでございますが、一律に、賃貸用物件であるものについて抵当権におくれる賃借権が優先するということは濫用の危険あるいは抵当権者の予測可能性というような点から非常に難点があるということは、先ほど申し上げたように、法制審議会でも議論されたわけでございます。
 私どもとして、委員からは抵当権者の同意というのをとるのは余り現実的ではないというような御指摘もございますが、委員から指摘をされておりますように、抵当権者にとっても賃貸用の抵当物件であれば、それが賃料収入を確実に上げるということは利益を有しているわけでございますので、賃貸借に抵当権者の同意を得て登記をするというのは、当然、賃貸借契約締結時点でございます。
 ですから、これから借りようとする人がこの物件については抵当権者の同意があって事後競売されても自己の賃借権は大丈夫だ、こういう保障を得て入れるということですから、まさに、そういう保障がないものと比べて、ある意味では競争力のある物件になる、そういう優良な物件として賃借人を確保することには抵当権者も利益を持っているわけですから、まさに市場原理で、そういう場合に抵当権者が高額な承諾料を要求する、そういうことによってお客が逃げてしまうのは抵当権者にとってもマイナスだろう。
 それは、委員から抵当権者にとっても賃借人がいて安定した賃料収入が入ることが利益なんだという御指摘がありましたが、まさにそういう状況を前提にすれば、このような制度も十分成り立ち得る、競争力を持った優良な賃貸物件を提供するということは抵当権者にとっても利益ですし、もちろんその所有者にとっても利益ですから、そこは利害が一致するわけでございます。
 また、利用者にとっても、そういうことで確実な賃借権を確保できればそれは願ったりかなったりですから、そういう意味で、この制度というのは相当の需要にこたえることがあり得るのではないか。
 また、明治時代とこういう状況が変わってきましても、抵当権がそれにおくれる権利に優先する、こういう基本原則そのものは変わっていないわけですから、そういう基本原則を守った上で新しい事態に対応する制度を工夫するということが、やはり法制度としてはあるべき姿だろうと思います。
 そういうことで、さまざまな議論がありました。御指摘のような御意見もこの法制審の中でもありましたが、やはり現実的な制度として考えれば、同意を得て確実な賃借権を保障するというのが抵当権者にとっても予測可能性を害さないし、しかも契約時点での話ですから、力の強弱によってそれが左右されるという可能性は非常に少ないだろう、そういうことを考えてつくったわけでございます。
木島委員 全然現在の日本の経済状況を理解していないですよ。これだけ賃貸マンションが林立する状況になってきているときに、明治時代につくられた、賃借権よりも抵当権が上なんだなんという理屈で法律を改正しようとするなんというのは合わないですよ。承諾を求めようとすれば、賃料値上げされるか承諾料持ってこいと言われるに決まっていますよ。根本的にこれは反省してもらいたいと思うんですね。
 午前中から、もう大体、反社会的勢力が短期賃借権を盾にして競売妨害をするとか、新しい競落人に対して権利を主張してすごむというようなことを言っておりますが、そんな、一部だということは午前中の議論でも明らかでしょう。現実では、もうそんな反社会的勢力による短期賃貸借を利用した競売妨害なんというのはほとんどないということは、物の本を読めばみんな書いてあるでしょう。商工中金の部長たち、みんな言っていますよ。裁判官、みんな言っていますよ。もうそんな状況じゃないんですよ、バブルがはじけた一九九〇年と違うんですから。もう十数年たった今日、そんな、ないんですよ、全然。
 むしろ、賃貸マンションなんというのは賃借人がいて当たり前なんですから、賃借権を取得したということを盾にして入り込んで、それで妨害するなんてあり得ないんです。入ってもらった方がいいんですから、家賃を取ればいいんですから、新しい所有者は。だから理屈にならない。
 それでは、ついでに、敷金と保証金等が、預託金などが保護されるのかどうなのか、お聞きします。
 現行制度、どうなんですか。それから、これで民法三百九十五条が改正されると、これはどうなるんですか。
房村政府参考人 敷金等につきましては、現行の制度のもとにおきまして、短期賃貸借で抵当権に対抗できるとされて、競落された段階までその賃借権が存続している場合には、賃借権を競落に対抗できると同時に、敷金の返還請求権も買い受け人に対して持つということになります。
 ただ、競売開始決定があってから競落までの間に短期賃貸借の期間が満了いたしますと、その時点で対抗できないこととなるとされておりますので、その場合には、敷金等はもとの賃貸人から返還を受ける、買い受け人に対して請求することはできない、こういう関係に立ちます。
木島委員 そうしますと、日本の建物賃借契約を見ますと、大体二年契約で更新されているんですよ。大体そうですよ。よくて三年ですよ。大体これは、三年たったら立ち退くということじゃないんですね。テナントなんかそうでしょう。二、三年で立ち退かされたらたまったものじゃない。何百万という設備投資で焼き鳥屋さんやるわけですからね。居住もそうでしょう。大体二年とか三年という短期で賃貸借契約は結ばれています。法的にはそれは短期賃貸借契約でしょう。しかし、経済的にはそれは賃料値上げ据置期間なんですね、実態は。家賃値上げ据置期間たる意味を持っているんですよ、二年とか三年で契約をつくっているというのは。そういう状況なんですね。
 そうすると、そういう場合は、今民事局長言いましたね、競売開始決定から競落までの間は保護されない。もちろん、競落後なんかの賃借権、敷金その他は仮に差し入れられても保護されない。もとの所有者から取れという。もとの所有者なんて破産してどこかへ夜逃げしているんですから、取れるはずないんですがね。そういう、形は二年ないし三年更新で契約書がつくられる。しかし、実態は、それは家賃据置期間としての意味を持つ。そういうような敷金とか保証金というのは、これは保障されていいと思うんですね。新しい競落人に請求できるようにしていいと思うんですが、そういう解釈、とれませんか。
房村政府参考人 そもそも、民法三百九十五条で、短期賃貸借を抵当権より後のものであるにかかわらず抵当権に対抗できることができることを認めたのは、三年という極めて短い期間の占有である、そういうものを認めても、抵当権者にとってあるいは引受人にとっての負担が少ない、こういう前提で認めているわけでございますので、ただいま御指摘のように、実質はそういう短い賃貸借ではなくて、賃貸借期間としては非常に長いものであるということであれば、それはそもそも短期賃貸借保護の趣旨とは異なる賃貸借ということになるのではないかと思います。
 現在、短期賃貸借の保護という法形式に当てはめてそういう建物賃貸借を保護しておりますのは、あくまでその期間が二年なら二年、三年なら三年で満了する、こういう前提で保護をしている。それが当然に継続するものだとすれば、短期賃貸借の趣旨とは異なってくるのではないかと思います。
 ですから、短期賃貸借の期間が競売開始決定から競落までの間に満了いたしますと、当然にそこで法定更新は起きませんし、合意更新をしても買い受け人には対抗できないという解釈がとられておりますし、仮に競落後その期間が満了いたしますと、競落時点で対抗できるとされましても、競落後の満了時点で法定更新をせずに終了する、こういうのが解釈でございますので、その点は、短期賃貸借というのが保護されるのは、あくまでその期間が極めて短い、したがって抵当権者あるいは買い受け人の負担が軽い、こういう前提でその保護が図られているというのが法の趣旨だろうと思っております。
木島委員 だから、私、最初から言ったように、現行の制度だって賃借人の権利が非常に薄過ぎると思っているわけです。
 それに加えて日本の現在の経済情勢、不動産賃貸の現状は、大体二年とか三年で契約が更新されている。一たん切られちゃうんです。書きかえるんですが、その書きかえというのも、結局は、それで本当の意味の契約を一たん切って、再契約というんじゃなくて、賃料値上げ据置期間たる意味をほとんど持っているわけですから、そういう場合にたまたま家主が倒産して夜逃げしたような場合には、そして競売されてしまったような場合には、せめて敷金とかそういう賃借人の権利、それは保全するように手当てをしてやったらどうか。あるいは、手当てができなければ、法解釈でそういう解釈を民事局長がここで答弁したらどうかと私は思うんですが、この面でも本当に冷たい、情けない答弁だと私は感じました。そう思いませんか、大臣。
房村政府参考人 私が申し上げたのは、制度の仕組みを申し上げたわけでありまして、別に敷金を無視していいというようなことを申し上げたつもりはございません。
 ただ、引き継がなくなれば、その敷金をどうするかという問題は当然に起きます。法制審の中でも、引き継がないということにした場合には、競売開始決定があった以後は、敷金に満つるまで賃料を払わないでいいというような仕組みは考えられないか、こういうような議論もなされました。しかし、そういうこととしてしまいますと、敷金返還請求権に最優先の地位を与えるのと同じになってしまうというような難点もあるということで、最終的には、法律で手当てをするのは難しいだろう、こういうことになったわけでございます。
 先ほどもちょっと紹介いたしましたけれども、現実になされている賃貸借の中には、賃貸人が差し押さえを受けた場合には賃借人の敷金返還請求権の期限が到来する、こういう特約を結んでいるものもございます。そうなりますと、競売開始決定があって差し押さえの効果が生じますと、特約に基づいて敷金返還請求権を行使できる、したがって、自己の賃料債権と敷金の返還請求権との相殺が可能になる。このような形で保護を図るということは、事前にそういう特約を入れれば可能になる。
 今回のこの法律は、これから締結される新賃貸借契約に適用されるわけでございますので、そういったような方法で実質的な敷金返還請求権の保護を図るという道も可能ではないか、こういうような議論もされたところでございます。
木島委員 昨年、平成十四年三月二十八日に、最高裁は大変な判決を出しました。細かくは述べませんが、敷金というものが、本来、賃借権者に帰属するということを基本的に据えた最高裁判例ですね。中身は、もう時間ありません、触れません。
 昨年ですよ、最高裁が打ち出したこういう敷金の本質的性格に関する考え方と、今回、法改正で、さっき民事局長からも解釈ありましたが、敷金返還請求権がどうも断ち切られてしまうというようなことは、どうも矛盾してしようがないんですが、突然の質問で恐縮でありますが、どう考えますか。――いいです。後でまたやりましょう。
 私はきょうは十一のテーマについて質問する予定だったんですが、たった一つの短期賃貸借保護の問題だけで五十分を終わりそうなんで、次に、民法三百六条、雇用関係の先取特権についてお聞きします。
 これも午前中から同僚委員が再三聞いておりますから、私は簡単に質問します。
 今度の改正法によって、民法を商法に準ずるようにするというわけですね。民法の保護を商法の保護に高めるということで、それは結構なことです。そこで、改正三百六条は、雇用関係を原因として生じたる債権は先取特権を持つということです。先ほど来、同僚委員から、雇用か請負か委任か、非常にわけのわからない、境界が最近は殊さらになくなっておると。これは非常によろしくないんですが、力の強い企業が殊さらに雇用を嫌っているんです。雇用を嫌って、請負とか委任という契約にして、権利を小さくしようという、そういう配慮なんですよ、経済法的には。労働債権に絞らないで、請負とか委任とか、そういう関係から生まれた権利も、この新民法三百六条の雇用関係から生じた債権として保護すべきだ、再三同僚委員から質問があり、これは民事局長もそこそこ立派な答弁をさっきしていましたね。
 それで、この文章、なかなか意味深の文章なんですね。雇用関係を原因として、そこから生じた債権という言葉を使って、私、いいなと思うのは、雇用契約という言葉を使わなかったということ。そこまで法務省が配慮しているとすれば、これは立派なものですが、雇用契約から生じたる債権じゃなくて雇用関係から生じたる債権、非常に幅広に解釈できる余地を残した。
 そうしますと、これはもう、先ほど答弁で実態と言いましたね、実態が労使関係、事実上、講学上、言いますと、使用従属関係といいますか、使用従属関係にある、上にある者と下にある者の関係、それは労働契約であれ、雇用契約であれ、委任契約であれ、請負契約であれ、そんな形はどうでもいい、契約書の名前はどうでもいい、使用従属関係にある両当事者から生まれる債権は雇用関係から生じた債権として民法三百六条で救うというふうに私、解釈したいなと思っているんですが、いいでしょうか。
房村政府参考人 御指摘のように、ここで雇用契約とせずに雇用関係としたのは、その実質に着目して判断をしてもらいたい、こういうことからでございます。
 したがいまして、解釈といたしましても、ただいま御指摘いただきましたように、法形式にとらわれずに、その実質に着目をいたしまして、それから生じた債権であれば、この先取特権の保護の対象になります。
木島委員 それは大変結構な答弁ですね。
 大臣、先ほど同僚の保坂委員からも質問されていましたね。一人親方の場合とかNHKの集金人とか、そういうのは雇用契約なのか、請負契約なのかよくわからぬ、境界線なんですね。そういうことから発生する債権、言ってみれば労働債権と概称されていますよ。厚生労働省はそれを保護しようと一生懸命しています。
 しかし、法務省が悪いんですよ。法務省は非常に変な法理屈で、縦割りにしちゃうんです。そういうことをやめて、今幅広に解釈できるという答弁ですから、これは結構なんですが。
 それならもう一つ、幅広にすることと同時に、権利を強めるということが今回、改正法で求められたんじゃないでしょうか。権利を強めるという意味は、何との関係で強めるかというと、こういう労働関係あるいは使用従属関係から生じた債権を抵当権より強める。もっと言いますと、午前中も同僚委員が質問していましたが、租税債権より強くするということが今求められていたんじゃないか。
 なぜかというと、税金だって結局は労働者が働いたその成果から、会社が収益を上げ、その収益から租税債権になっていっているわけですから、そういう会社が破綻したときには、労働債権というのを、あるいは労働関係から生まれる債権というのを税金より強くしたって何ら不思議じゃないんですよ。今の日本は抵当権絶対の思想でありますが、抵当権者といえ、銀行といえ、労働者が働く汗の結晶から利益が生まれ、その利益の中から銀行への借金が返済されているんですから、そういう債権は、これもヨーロッパ並みに、租税債権や抵当権よりも強くしたって何ら不思議じゃないんですよ。
 これも政治決断なんですが、今回、全然その決断をされていないんです。法務省が財務省に負けているということなんです、これは。これは、ひっくり返すつもりないですか。大臣。
森山国務大臣 先生のお考えもわからないことはないんですけれども。
 一定の範囲の労働債権に係る先取特権について、抵当権に優先する効力を認めるということについては、抵当権がその設定時には認識することができない労働債権に優先されることとなりますために、抵当権者等の利益を不当に害するおそれがあるということ、また、そのようなおそれを考慮した抵当権者の与信額の引き下げにより、債務者の資金調達に悪影響を及ぼすおそれがあるなどの点に問題があると考えられます。
 また、租税債権に優先する効力を認めるということについてでございますが、労働債権、租税債権、社会保険料債権等の各種債権の優先関係につきましては、民法、商法、国税徴収法、国民健康保険法等の実体法において規定されておりまして、現行法のもとでは、租税債権、社会保険料債権等の公租公課は、原則として私法上の債権より優先するということになっております。その理由は、これらの債権は国家等の財政の基盤でありまして、公益性が高く、公平かつ確実に徴収されるべきものであるということによるものと理解されております。
 このような現行法の趣旨を考えますと、労働債権に係る先取特権の優先順位を引き上げ、これに租税債権に優先する効力を認めるというのは非常に慎重な検討を要すると思われます。
木島委員 そういう答弁をするから私は情けないと言っているんですよ。
 国際社会から日本政府にどんなことが突きつけられていますか。ILO百七十三号条約八条一項には何て書いてありますか。労働債権は、国家、社会の保障制度より高い順位を与えられてしかるべきだと。いいですか。ILO百七十三号条約八条一項ですよ。労働債権は、国家の権利、租税債権や社会保障の権利、いろいろな、日本も社会保障の権利、強いですね、倒産したときに、社会保険事務所なんかすぐ入り込んできて、差し押さえしてみんな持っていってしまう、それよりも強い順位を権利として与えて当たり前だと。
 この条約、日本は批准していますか。国際社会、そういう水準ですよ。批准していますか。
森山国務大臣 まだしていないと思います。
木島委員 だからだめだというんですよ。もう国際社会はそういう水準。ILO百七十三号条約を批准して、批准すればもう国際社会の常識なんだから、労働債権は租税債権や社会保障債権より強い、堂々とそういう法改正を提案したらいいじゃないですか。
 まことに残念だということをきょうは主張して、質問を終わります。
山本委員長 次回は、来る十日火曜日午前九時三十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後三時四十四分散会


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