衆議院

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第23号 平成15年6月10日(火曜日)

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平成十五年六月十日(火曜日)
    午前十時開議
 出席委員
   委員長 山本 有二君
   理事 佐藤 剛男君 理事 塩崎 恭久君
   理事 園田 博之君 理事 吉田 幸弘君
   理事 河村たかし君 理事 山花 郁夫君
   理事 漆原 良夫君 理事 石原健太郎君
      太田 誠一君    小西  理君
      左藤  章君    下村 博文君
      中野  清君    平沢 勝栄君
      保利 耕輔君    星野 行男君
      保岡 興治君    吉川 貴盛君
      吉野 正芳君    井上 和雄君
      鎌田さゆり君    中村 哲治君
      水島 広子君    山内  功君
      上田  勇君    山田 正彦君
      木島日出夫君    中林よし子君
      保坂 展人君
    …………………………………
   法務大臣政務官      中野  清君
   参考人
   (一橋大学教授)     上原 敏夫君
   参考人
   (日本経済新聞社論説委員
   )            藤川 忠宏君
   参考人
   (弁護士)        松森  宏君
   参考人
   (全国借地借家人組合連合
   会事務局長)       船越 康亘君
   参考人
   (JAM組織局長)    高村  豊君
   参考人
   (NPO法人ウィンク理事
   長)           新川てるえ君
   法務委員会専門員     横田 猛雄君
    ―――――――――――――
委員の異動
六月十日
 辞任         補欠選任
  日野 市朗君     井上 和雄君
  不破 哲三君     中林よし子君
同日
 辞任         補欠選任
  井上 和雄君     日野 市朗君
  中林よし子君     不破 哲三君
    ―――――――――――――
六月十日
 民法の一部を改正する法律案(第百五十一回国会衆法第五四号)の提出者「漆原良夫君外二名」は「漆原良夫君外一名」に訂正された。
同月九日
 法務局・更生保護官署・入国管理官署及び少年院施設の増員に関する請願(日野市朗君紹介)(第三〇七五号)
 裁判所の人的・物的充実に関する請願(日野市朗君紹介)(第三〇七六号)
 治安維持法の犠牲者に対する国家賠償法の制定に関する請願(家西悟君紹介)(第三〇七七号)
 同(池田元久君紹介)(第三〇七八号)
 同(今川正美君紹介)(第三〇七九号)
 同(植田至紀君紹介)(第三〇八〇号)
 同(大谷信盛君紹介)(第三〇八一号)
 同(海江田万里君紹介)(第三〇八二号)
 同(鍵田節哉君紹介)(第三〇八三号)
 同(北川れん子君紹介)(第三〇八四号)
 同(後藤斎君紹介)(第三〇八五号)
 同(穀田恵二君紹介)(第三〇八六号)
 同(佐々木秀典君紹介)(第三〇八七号)
 同(塩川鉄也君紹介)(第三〇八八号)
 同(重野安正君紹介)(第三〇八九号)
 同(田中慶秋君紹介)(第三〇九〇号)
 同(土肥隆一君紹介)(第三〇九一号)
 同(東門美津子君紹介)(第三〇九二号)
 同(中西績介君紹介)(第三〇九三号)
 同(中林よし子君紹介)(第三〇九四号)
 同(葉山峻君紹介)(第三〇九五号)
 同(原陽子君紹介)(第三〇九六号)
 同(春名直章君紹介)(第三〇九七号)
 同(伴野豊君紹介)(第三〇九八号)
 同(日野市朗君紹介)(第三〇九九号)
 同(日森文尋君紹介)(第三一〇〇号)
 同(肥田美代子君紹介)(第三一〇一号)
 同(古川元久君紹介)(第三一〇二号)
 同(前田雄吉君紹介)(第三一〇三号)
 同(松本善明君紹介)(第三一〇四号)
 同(山内惠子君紹介)(第三一〇五号)
 同(吉井英勝君紹介)(第三一〇六号)
 同(大島令子君紹介)(第三一九二号)
 同(大谷信盛君紹介)(第三一九三号)
 同(大森猛君紹介)(第三一九四号)
 同(鍵田節哉君紹介)(第三一九五号)
 同(五島正規君紹介)(第三一九六号)
 同(今田保典君紹介)(第三一九七号)
 同(重野安正君紹介)(第三一九八号)
 同(島聡君紹介)(第三一九九号)
 同(鈴木康友君紹介)(第三二〇〇号)
 同(東門美津子君紹介)(第三二〇一号)
 同(中津川博郷君紹介)(第三二〇二号)
 同(永田寿康君紹介)(第三二〇三号)
 同(葉山峻君紹介)(第三二〇四号)
 同(肥田美代子君紹介)(第三二〇五号)
 同(山内惠子君紹介)(第三二〇六号)
 同(山井和則君紹介)(第三二〇七号)
同月十日
 法務局・更生保護官署・入国管理官署及び少年院施設の増員に関する請願(木島日出夫君紹介)(第三二四七号)
 同(中林よし子君紹介)(第三二四八号)
 裁判所の人的・物的充実に関する請願(星野行男君紹介)(第三二四九号)
 同(山村健君紹介)(第三二五〇号)
 同(山花郁夫君紹介)(第三三五五号)
 治安維持法の犠牲者に対する国家賠償法の制定に関する請願(大谷信盛君紹介)(第三二五一号)
 同(鍵田節哉君紹介)(第三二五二号)
 同(児玉健次君紹介)(第三二五三号)
 同(近藤昭一君紹介)(第三二五四号)
 同(齋藤淳君紹介)(第三二五五号)
 同(重野安正君紹介)(第三二五六号)
 同(土井たか子君紹介)(第三二五七号)
 同(東門美津子君紹介)(第三二五八号)
 同(平岡秀夫君紹介)(第三二五九号)
 同(藤木洋子君紹介)(第三二六〇号)
 同(山内惠子君紹介)(第三二六一号)
 同(山村健君紹介)(第三二六二号)
 同(井上和雄君紹介)(第三三五六号)
 同(大谷信盛君紹介)(第三三五七号)
 同(鹿野道彦君紹介)(第三三五八号)
 同(鍵田節哉君紹介)(第三三五九号)
 同(金田誠一君紹介)(第三三六〇号)
 同(木下厚君紹介)(第三三六一号)
 同(土井たか子君紹介)(第三三六二号)
 同(山内惠子君紹介)(第三三六三号)
 同(山花郁夫君紹介)(第三三六四号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案(内閣提出第一〇二号)


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     ――――◇―――――
山本委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本日は、本案審査のため、参考人として、一橋大学教授上原敏夫君、日本経済新聞社論説委員藤川忠宏君、弁護士松森宏君、以上三名の方々に御出席いただいております。
 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いをいたします。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 まず、上原参考人、藤川参考人、松森参考人の順に、それぞれ十分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。
 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。
 それでは、まず上原参考人にお願いいたします。
上原参考人 一橋大学の上原敏夫でございます。
 本法律案につきまして、手続法を専攻しております一研究者の立場で意見を申し上げたいと思います。
 本法律案は、特に三つの点で重要な意味を持っていると思います。
 第一は、抵当権の効力とその実行手続についての改正であります。近時の判例、実務、学説の展開を受けまして、明治以来の民法の規定を改め、また、その実行手続である民事執行手続を改善しております。
 まず、担保不動産収益執行の手続を新しくつくっております。抵当権者は、その選択によって、不動産を売却せずに賃料等から長期的に被担保債権の回収をすることができるようになります。次に、滌除という制度について、抵当権の効力を不当に弱めるものであるという古くからの批判にこたえまして、改善をしております。抵当権実行手続を開始するに当たっての第三取得者への通知義務をなくし、また、抵当権者が第三取得者の申し出額の一割増しで買い受けなければならないという規定も削除いたしまして、抵当権者の負担を軽減しております。これにより、不当に安い申し出額で抵当権の抹消をねらう妨害行為を防ぐことができると思われます。
 さらに、本法律案は、抵当権と利用権との調整を合理化するために、短期賃貸借の保護を廃止しております。他方で、抵当権者の事前の同意によって抵当権設定後の賃貸借に対抗力を与える新しい制度も創設しております。この新制度により、例えば、主に賃貸を目的とする建物を融資を受けて建築するというようなことは容易になるものと期待されます。
 このほか、土地につき抵当権が設定された後に建築された建物を、抵当権者が土地とともに競売する権限も認めております。抵当権の目的となっていない建物の存在によって土地の売却が困難になるという事態を防ぐ趣旨であります。
 第二は、不動産の競売手続及び引き渡し、明け渡しの強制執行手続について、執行妨害対策を徹底するため、民事執行法及び民事保全法を改正している点が挙げられます。
 本法律案は、まず、不動産の競売手続で用いられる各種の保全処分を強化しております。御承知のとおり、この点につきまして民事執行法は、平成八年、十年と重ねて改正されました。また、裁判所も積極的に制度の運用の努力を重ねております。しかし、執行妨害は後を絶たず、最近では債権者も保全処分の申し立てに消極的であるというような指摘もあるところであります。本法律案は、保全処分発令の要件を緩和し、また、早い時期から保全処分によって不当な占有者を排除して執行官保管とするということを可能としております。
 占有者が執行官の調査にもかかわらず氏名や身分を明らかにしないとか、あるいは、占有者がしばしば入れかわることによって保全処分や引き渡し命令の発令を困難にするという執行妨害も見られます。本法律案は、端的にそのような場合に占有者を相手とする保全処分の発令を可能にして、このような執行妨害に対処しております。
 なお、不動産競売手続の改善策としましては、新たに内覧制度を設けまして、買い受け申し出前に不動産の内部を見るということを可能にしたり、あるいは、物件明細書をインターネットで公開して広く買い受け希望者に競売不動産の情報を提供しております。これらによりまして、競売手続を可能な限り一般市場での売買に近づけ、迅速に、また合理的な価格で不動産を売却できるように努力しております。
 また、本法律案は、不動産の引き渡し、明け渡しを命ずる債務名義の強制執行につきましても、占有による執行妨害に対する対策をとっております。債務名義の成立後に不動産を占有する者がかわった場合には、裁判所に申し立てて承継執行文というものを得なければなりませんが、これにつきましても、占有者を特定せずに承継執行文が得られるようにしております。また、後に述べますように、明け渡し催告という手続を新たに設けましたが、この手続が新たな執行妨害のきっかけとならないような配慮をしております。
 さらに、不動産内に多量の動産を持ち込むといったことによる執行妨害もありますので、執行官に、債務者への引き渡しができない動産を保管せずに直ちに売却するという権限を与えております。
 第三に、司法制度改革審議会の提案を受けて、民事執行法を改正し、債権者が得た債務名義が絵にかいたもちにならないよう、その権利実現の実効性を確保しております。
 まず、間接強制の利用可能な場合を広げております。債務者の任意の履行を促すソフトな執行方法としての機能に着目した改正であります。債権者は、直接強制や代替執行ができる場合でも、さらに間接強制を選択できるようになります。
 また、債務者に、裁判所において、その所有する財産につき陳述させる財産開示の手続を新たに設けております。金銭債権につき債務名義を得ても、執行対象となる債務者の財産を探索する能力や資力がない債権者は、執行を断念せざるを得ないという問題を解決するためです。
 さらに、扶養料等の少額定期給付債務の履行を確保するため、将来の分も含めて一括して債務者の将来の収入の差し押さえをすることを可能にしております。
 ところで、この法律案は、抵当権者のように一般的に強い立場にある債権者の保護に傾いているのではないかという印象を持つ方もおられるかもしれません。しかし、この法律案の内容を見ますと、決して債権者の権利実現だけを一方的に重視しているわけではありません。法律案は、同時に、弱い立場にある者の保護をできるだけ図りまして、債権者の利益との調整に努めております。
 例えば、短期賃貸借の保護を廃止するかわりに、賃借人には三カ月間の明け渡し猶予期間を認めております。また、不動産の明け渡し執行手続一般の改善として、明け渡し催告の制度を設けました。特に、明け渡しにより住居を失うことになる占有者の立場に配慮して、転居先の確保などの準備をする時間的猶予を与えているわけであります。競売手続の執行官保管の保全処分も、決して通常の用法に従って不動産を使用収益している債務者を排除する趣旨ではありません。
 新たに設けられる財産開示手続におきましても、基本にできる債務名義について、請求権を既判力をもって確定しているものや、その成立過程に問題の少ないものに限定したり、債務者が一度開示をした場合には三カ月間は手続を繰り返せないようにしたり、さらには、債権者がこの手続で得た情報を目的外で利用、提供することを禁じるといったことで、債務者の利益に極力配慮しております。
 他方で、債権者といっても、力の弱い零細な債権者、現行法のもとでみずから強制執行を行うことが事実上困難な債権者もおりますので、そのような債権者の利益を保護することにもこの法律案は配慮しております。
 例えば、給料債権の先取特権による保護の範囲について、民法の規定を商法、有限会社法並みに合わせるという改正をいたします。使用者がどのような法形態であっても、未払いの給料債権全額につき先取特権で保護されるようになります。先取特権に基づく動産競売手続の開始を容易にする法改正もされる予定であります。前に述べました財産開示手続や扶養料等の履行確保のための改正も、零細な債権者の保護を主な目的とした制度と位置づけることができます。
 以上、簡単に見てきましたところを総括いたしますと、私は、この法律案は、全体として、現代の社会経済情勢を踏まえ、また取引や執行手続の実務からの要請にこたえる適切なものであると考えます。債権者、債務者その他の利害関係人の利益が鋭く対立する状況で適用される法規範が内容でありますので、さまざまな意見があるところでございますが、法制審議会等での議論を十分に反映し、現時点で成案の得られたところを具体化した妥当な内容の法律案であると考えております。
 以上でございます。(拍手)
山本委員長 ありがとうございました。
 次に、藤川参考人にお願いいたします。
藤川参考人 おはようございます。日本経済新聞の藤川と申します。
 本日は、担保法とそれから執行法を改正するための法律案の審議に当たって、私の意見を述べる機会を与えていただきまして、まことにありがとうございました。
 個々の改正案の具体的な意見を申し上げる前に、基本的な考え方というものを私はまず述べてみたいと思います。
 お手元にレジュメをお配りいたしましたけれども、まず初めは、今回の改正は、単に執行妨害を排除するという目先の問題ではなくて、担保法制全体を改革する、そういう高い視点から進めるべきであるという考えがいたします。
 今何が問題になっているか、特に実務の世界で何が問題になっているかといいますと、民法施行百年の今の担保の法制がどうも耐用年数が過ぎておる、産業界の要請にこたえられない、そういう問題が起きているわけです。具体的にどういうことかといいますと、土地担保に傾斜した今の抵当権の制度、これでは産業界や金融界の需要に応じられないという現実があります。
 お手元にお配りしたレジュメの二枚目、三枚目に、私が九五年、九七年に書いた新聞のコピーがございます。この当時何が問題になったかといいますと、バブルが崩壊して、その後、不動産競売の申し立てが殺到しました。ところが、裁判所の態勢が追いつかない、そして法律が非常に悪い、そのために不動産競売妨害が頻発するという事態が起きておりました。
 この当法務委員会の大きな業績だと思いますけれども、二度にわたって議員立法で民事執行法が改正されました。法律はかなりよくなりました。それから、裁判所の方も努力をして陣容を整えてきました。先ほど上原先生もお話がありましたように、運用の現場でも非常に積極的な法解釈を進めた。その結果、執行妨害というのはかなり解消されてきました。
 現実に売却率を見ますと、例えば東京地裁の執行部の売却率が今八三%に達しています。笑い話ですけれども、今一番売れている不動産市場はどこかといいますと競売じゃないかという話があるぐらいに売れています。
 それでは、不良債権処理の後起きた問題はすべて解消したのか。実はそうではない。一番根本にあります、先ほど申し上げましたような不動産を担保とした融資、それから、実は企業全体あるいは事業が生み出すキャッシュフロー、それに着目した融資制度をつくらなければいけない、ところが、それを支える法律の体制がないというのが一番の問題でございます。
 そこに、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンという大阪にできました大きなテーマパークの話を書いておきました。全部で総事業費が二千三百億でございます。このうち千二百五十億円をプロジェクトファイナンスという方法で調達いたしました。これを支えたのは観光施設財団抵当法という法律ですが、これがとんでもない法律です。担当した融資の方にお話を伺ったんですけれども、ユニバーサル・スタジオの大きなあの構内にある施設から果てはいすまで全部一覧表に掲げ、しかも図面に落として、それを目録として登記所に登録する、膨大な手数と手間とそれから司法書士に対する費用が大変なものだと言っておりました。
 ですから、そういうような新しい企業、産業界の需要にこたえるような担保法をつくらなければいけないというのが現状です。単に目先の執行妨害ということではなくて、そういうことをぜひやっていただきたいということでございます。
 それから二番目、これは執行の面でございます。
 今度の執行の大きな目玉というのは、権利実現の実効性の確保ということだと思います。よく笑い話に私は申し上げるんですけれども、裁判所というのはペーパー商法じゃないかと。金幾ら支払えという判決主文はくれます。しかし、それを実現するかどうかは執行の問題です。ところが、これまで法曹界の人全体が執行について余り関心を持ってこなかった。我々は実体的な権利関係の確定には関心はあるけれども、執行というのはこれは司法の仕事じゃないという意識が非常に強かったと思います。その結果、やくざ、パンチパーマをした人が執行を担うという変な仕組みができております。ですから、そういう意味で、今度の改正で執行を強化する、権利実現を強化するというのは非常に意味があると思います。
 さて、それでは個別的な論点に入っていきたいと思います。
 収益執行という新しい手続をつくったこと、私はこれは評価できます。
 先ほど申し上げましたように、土地の交換価値ではなく収益に着目して、そこに係っていく仕組みをつくるということでは大変意味があると思います。そこに末野興産の話を書きました。これはもう時間がないのであれしますけれども、実際に管理を厳格にすればどのような効果が上がるのかという一つのモデルケースだと思います。
 二番目に、短期賃借制度の廃止です。
 私は辛うじてこれはやむを得ないかと思いますが、非常に問題があるのは敷金です。今のまま敷金に対する手当てをなしに短期賃借制度をやめていいのかどうなのか。今の短期賃借権制度には、賃借人の保護という点でも非常に手薄なものがあります。しかし、今度やめてしまった場合、この敷金はどうなるのか。そこに書きましたように、預託金保護みたいな形での何らかの保障制度なしに、裸で追い出していいのかなという感じはします。ただ、今全体的な濫用の問題を考えますと、これはやむを得ない点ではないかと考えます。
 それから、同意に基づく対抗力、これは本当に使えるのかなというのが私の実感でございます。非常に要件が厳し過ぎます。だから、そこに書きましたように、対抗要件も登記だけではなくて、今現行にありますような形で特別法に基づく対抗要件、これを組み込めないのか、それから包括同意はだめなのか、それから、借地借家法に承諾にかわる裁判所の許可という制度がありますが、そういうものが使えないのか、こういう問題点はあると思います。
 それから、執行法について申し上げます。
 今度の執行法の改正で最大の目玉は僕はこれだと思います。債務者、相手方を特定しないで承継執行文それから保全決定が出せる、これは大変いいことでございます。
 個人的な話を申して申しわけございませんけれども、昨年のちょうど六月に大津で民事暴力介入に対する大会が開かれまして、そのときに、執行妨害をしているあるいは占有しているのがわかっていながら何でそれが追い出せないんだ、住所がわかれば、そこの住所を占有している者ということで、ここに書きましたような承継執行文なり保全決定が出せないのかということを言いましたら、大分笑われました。それは民事訴訟の常識に反するんだというのが法律家の意見でございました。ところが、コロンブスの卵で、今度の改正案では、決定を出す段階ではわからなくても執行の段階で特定できればいいという新しい考えを出しております。これは大変いいことだと思います。
 それから三番目に、財産開示手続でございます。
 今までは大体やむを得ないとかいいだろうということを言っていましたけれども、これは私は非常に批判的でございます。
 一般の債務者を法廷に呼び出して、過料の制裁のもとに、おまえの財産どれだけあるということについては非常に抵抗があります。もっと言いますと、民事訴訟、私も随分、民事訴訟をいつも傍聴しておりますけれども、正直言ってかなり偽証があります。それを野放しにしておいて、ここだけ本当のことを言えというのはどうかなという感じがします。それから、これを使うのはだれだろう。まともな金融機関、銀行というのは恐らくこんなことをしないだろう。こういうことをすれば、恐らく週刊誌で、銀行のあこぎな手口ということで批判されるに決まっていますので、商工ローンとかあるいはサラ金が使う可能性が大きいと思います。もう少しソフトな方法ができないかということでございます。
 以上、私の意見としましては、全般的にはまあまあということでございますが、この改正にとどめず、今後の、平成の担保法大改正の一歩としていただきたいというのが私の意見でございます。
 ありがとうございました。(拍手)
山本委員長 ありがとうございました。
 次に、松森参考人にお願いいたします。
松森参考人 おはようございます。日弁連の民事訴訟法等改正問題検討委員会の事務局長をしております松森でございます。よろしくお願いします。
 担保・執行法制の一部改正法案についての意見を述べさせていただきます。
 担保・執行法の改正は、司法制度改革審議会の最終意見書においても司法制度改革の一環として求められており、日弁連も、資料の4の(5)、日弁連意見書にあるとおり、改正の必要性を認める立場をとってき、積極的な意見を述べてきております。
 今般の改正は、先ほどの先生方の御意見のとおり、滌除制度の見直しをし、そして担保不動産収益執行手続を創設しております。また、民事執行法五十五条の要件緩和、占有者の特定緩和など、いわゆる執行妨害行為を排除するための有効な措置を盛り込んでおります。扶養義務等に係る金銭債権に基づく強制執行の特例制度や、財産開示手続制度の創設により、権利の実現性、実効性をより高めるものになっていると思います。
 もちろん問題点はないとは言えません。特に、この法案について問題であると思われる三点に限って、意見を述べさせていただきたいと思います。
 まず第一に申し上げたいのは、先ほど来出ております、担保法制に関する事項の中では、短期賃貸借保護制度の廃止についてでございます。改正案は、執行妨害の一手段として濫用的な短期賃貸借が利用されているなどの理由から、短期賃貸借制度を廃止し、総抵当権者の同意による対抗力付与の制度などを創設するものであります。このような同意による対抗力付与の制度を創設せざるを得ないのは、短期賃貸借を否定する、廃止するからでございます。
 弁護士会としましては、参考資料の4の(5)の先ほどの日弁連の意見書、そして4の(6)で、本年三月十四日、短期賃借権の廃止に反対する意見書を提出しております。弁護士会としては、多くの正常な賃貸借に基づく賃借人を保護すべきであり、執行妨害者による短期賃貸借制度の濫用対策は、平成八年、十年などの保全処分の強化、今回の改正によってもさらに強化されております。さらに、刑事罰則の強化、刑事摘発によれると考えております。認識としては正常な賃借権が多いのであり、そして、国民全体の中から見れば一般的に、賃借権で建物を借りている、こういう方々が多いので、一挙にそういうものを廃止して国民の信頼を図れるかどうか、非常に危惧しているわけです。
 確かに、濫用的賃貸借の妨害、弊害はあります。しかし、これに対しては、裁判所あるいは抵当権者も、これまでの緩やかな対応ではなくて、きちんとした対応をとるようになっていくと信じておりますので、今後そのような濫用的なものは排除できていくのではないかと考えております。短期賃貸借制度自体を廃止することなく排除可能だということで、短期賃貸借保護制度の廃止について反対するということになっています。
 この点につきまして、特に日弁連としましては、現在の我が国の賃貸借の行く末、こういうものを見て、一般国民の観点から見て、やはり短期賃貸借は守るべきだと考えておるわけです。このような改正が行われると、競売によって、それまで安定していた短期賃借人の地位は一挙に瓦解します。いわゆる地震売買と明治時代言われたものが、今回、地震競売という言葉で国民にいろいろ問題点を指摘されるようになると思います。この点については弁護士会としては黙っているわけにはいかないんだと思います。
 そのほかの点については、やはり執行妨害、濫用的な賃借権については、その保全処分制度などについては積極的な意見を述べていくということにしており、今回もその立場はとっております。
 次に、執行妨害と短期賃貸借について、この意見書では、二番目に述べているところの(2)というところ、ページでは九十四ページですが、そこでは、今回の改正については、みずからの債権回収につき必ずしも積極的ではなかった抵当権者を守るため、賃借人という第三者の犠牲のもとこれがあるんだということを注意しておきたいと思います。言い直しますと、抵当権者を賃借人という第三者の犠牲のもとで保護するという点はいかがなものであろうかと思います。
 この点にかんがみまして、そもそも民事執行というのは、公益的なものもありますが、私債権回収のための手続である、これは忘れてはならないと思います。そして、債権者あるいは抵当権者が自助努力をすることが肝要であります。この点は現在の金融機関の問題と共通することがあるんではないかと考えていますが、もうこの程度にします。そして、抵当権者において、例えば抵当権設定のとき、あるいは貸し付けに焦げつきができたとき、あるいは差し押さえのとき、節目節目において担保不動産の状況を管理、調査して把握することがまさにその妨害対策の根本であると考えております。これを十分していなかったためすきを与えた抵当権者のために、第三者である賃借人を犠牲とすることは、到底、国民の納得は得られないものと信じます。
 次に、第二番目として、執行法制に関する問題に移りたいと思います。これらについては、短賃の廃止とは異なって、その運用の改善とか運用について御注意をいただきたいという立場から意見を述べさせていただきます。
 問題点は、先ほどの先生方と同じように、競売不動産の内覧制度の問題と財産開示手続の創設についてでございます。
 まず内覧についてでございますが、まさに弁護士会は、既に意見書において、情報提供という面から、開かれた競売手続を実現するためには物件の内覧制度の創設は望ましいと考えていました。しかし、この点について、特に占有者の生活権やプライバシー等に与える負担等についても配慮した制度設計及び運用をすべきであると述べております。この点に関して、今回の法制度は、従来、当初は執行官保管をされている物件についての内覧制度であったはずのところ、対抗力がある場合に限って占有者の同意が要るというような立場に変わってき、刑事罰までついてくることになっております。この点について、居住者のプライバシーなどについて十分配慮する手続がとられなければいけないと考えます。
 次に、財産開示手続について申し上げますと、先ほど藤川先生方がいろいろ問題点を指摘された、まさにそのとおりだと思います。しかし、運用におきまして考えなきゃいけないこと、あるいは先生方が言われたところで実は重要な観点が残されているのではないかと思います。
 これは、財産開示についてどういうイメージをしているかによって政策を間違えてはいけないのではないかと思います。それは、一方では善良な少額債務者に対するいわば弱い者いじめのための道具に使われる可能性はないか、これは債務者側から考えた場合です。しかし、債権者側から考えると、今度は、債務者の中に巧みに執行を逃れるような人がいる、危ないと思ったらすぐ財産を隠してしまう、こういう人もいる。この点について、どちらに焦点を当てていくのかによって制度設計は変わってくるかと思います。
 しかし、やはり弱い人たちをないがしろにするということはまさに許されないと思います。我々もいつも考えるんです。あすは我が身という言葉です。この言葉から弁護士会の立場をお酌み取りいただきたいと思います。
 以上です。よろしくお願いします。(拍手)
山本委員長 ありがとうございました。
 以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
山本委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。吉野正芳君。
吉野委員 おはようございます。衆議院の吉野正芳、自由民主党でございます。
 ただいまは貴重な御意見を賜り、本当にありがとうございます。
 私なりにこの担保法について勉強し、これから質問させていただきますけれども、まず、短期賃借制度です。
 私が初めて短期賃借制度という制度をわかったのは、学生時代ではなくて世の中に出てからです。それも、借家人、借地人等々のいわゆる借り手側の保護ということではなくて、担保、抵当権が設定された後であるにもかかわらず短期賃借権が優先するという、私にとっては何でという驚きでありまして、それでは担保権者、抵当権者の権利というものはどこにいっちゃうのかな、そんな思いを昔したことがございます。
 そういう中で、この短期賃借制度ができたのは百年前です。これは明治二十九年。百年前にできた背景というのを私はどうしても先生方に教えていただきたいなというふうに思って、これから質問するんですけれども、私なりにできた背景を考えてみますと、まさに明治二十九年、江戸時代から明治に変わって、新しく法制度ができたところですから、その当時の時代的背景は、当然、住むところもいわゆる江戸時代の長屋、そして大家様という、ほとんどの国民が持ち家ではなくて、住宅も借家、そしてお店も借家、江戸時代の長屋の大家様は所有者ではなくて管理人だったというお話も伺うくらいでございます。
 そして、この間レクを受けたんですけれども、借り手側の保護という思想でこの短期賃借制度ができたのか、こう聞いたら、そうではないんだ、貸し手側の住宅なりお店が借りられやすくするために、いわゆる借り手側が安心して借りることができる、そういう、ある意味では不動産流通を円滑化させるためにこの短期賃借制度ができたんだというふうな見方もできるわけでありまして、まさに江戸、明治初期にかけての不動産流通を円滑にするためにできたもの。それで、いわゆる借り手側の保護というものは借地借家法できちんとあるので、この短期賃借権は不動産流通を円滑にするということが根底になっているというお話も伺ったんですけれども、その辺の時代的背景を、藤川先生、わかっている範囲内で教えていただきたいと思います。
藤川参考人 お答えいたします。
 大変勉強されておられて、私も、かえってこちらがきょうは勉強させていただいたような気がいたします。
 一新聞記者ですので、どこまでお答えできるかわかりませんけれども、今の御指摘、この短期賃借、三百九十五条というのは梅謙次郎さんが入れたと言われていますけれども、その趣旨は、今のお話のとおり住宅流通の保護ということとともに、もう一つは、よく言われていますのは、建物の荒れることを防ぐためと私は聞いております。人が住まないと建物が荒れてしまう。だから、三百九十五条は、民法六百二条の管理権、管理の範囲において、期間だけですけれども、認めるという形をとっております。
 しかし、それが、時代がたつに従って、これは非常に重要なことだと思いますけれども、やはり居住というのは生活の基盤ですから居住権を保護するという思想が出てきた。立法趣旨に新しいねらいを加えるということは決しておかしいことではないと私は思います。
 その後、御存じのように、建物保護法なり、後で借地借家法に変わりますけれども、そういうものができるに従って、法律の考え方、趣旨が異なって理解されるようになってきたということだと思います。
 ですから、立法趣旨を重んずるか、その後の社会的な変化を重んずるか、これは見方によって違いがあると思いますが、先生御指摘のとおりの、初めはそういう趣旨であったかと思って、大変勉強になりました。ありがとうございました。
吉野委員 同じ件を上原先生にもちょっとお願い申し上げます。
上原参考人 ただいま議員及び藤川参考人が御指摘のとおりだと思いますが、あと、私が乏しい知識で、あるいは先生方から教えていただいたことを思い浮かべてみますと、明治時代にこのような保護の法制ができたということについては、いわゆる金融資本の台頭に対する警戒心というものがあったのではないか。それがほかの関係でも、今いろいろ問題になって改正がされようとしている抵当権の効力をやや弱める、制限する、そういう立法につながったということを理解しておりまして、そのことだけお答えいたします。
吉野委員 ありがとうございます。大変参考になりました。
 松森参考人にちょっとお尋ねをしたいんです。
 日弁連では、今参考人お話しになりました意見書、三月十四日の意見書で、短期賃借権の廃止について反対の立場をとっておられます。
 ここをちょっと読ませてもらいます。大多数の市民、企業が、その生活を、住居、店舗、オフィスを短期賃貸借により取得し生活をしている。大多数の賃借人は、正常短期賃貸借として保護されている。よって、廃止をした場合、正常な賃貸借市場の形成が阻害される。こう言われているわけでありまして、今私が、短期賃借権制度が生まれた時代的背景と、全く大体同じようなことを述べておられると思います。
 でも、百年前の日本と今の平成の世の中とで、果たして同じ観点からこのことが言えるかどうかというところを質問したいんです。
 例えば、賃貸借マンション、賃貸借オフィス、今どんどんつくられています。大きな賃貸借のそういう物件は、必ず今は仲介不動産屋さんという方が入るはずなんです。所有者が個別に借りる方と契約していくというのはほとんどまれでありまして、一括借り上げの仲介不動産屋さん。そういう意味では、ここで述べられている、借りる方がかわるたびに同意登記をするという実効性に乏しいだろうというところは、私は今の平成の世の中ではここは論点が薄いんじゃないのかと思います。
 例えば、小さな物件、たばこ屋がありまして、おばあちゃんがいまして、たばこ屋ではなかなか商売がうまくないから、五階建てのビルを建てました。一階はいい場所だからテナントに貸して、自分たちは五階に住んで、あと残りのところはマンションなりオフィスビルに貸しております。でも、世の中が悪くなって、特にまた新しいオフィスビルがたくさんできて、みんなそちらにシフトしてしまう。賃料、家賃を下げざるを得ない。そうすると、借金で買った部分が返還できなくなってしまった、さあ、銀行は抵当権の実行に入ってくるという形で、競売という形になろうかと思いますけれども、そういった場合に、三年間という短期賃借権を守っただけで今のその状況が果たして防げるのかどうか。
 私は、もっと大きなマクロ経済の大きな流れの中でいくのであって、たった三年という時間的な制約を課すことでその借り手側の保護がされるというのはちょっと近視眼的じゃないのかなというふうに思います。そういう意味でも、これはマクロ経済の問題ではないのかなというふうに思います。
 敷金等々の問題、いろいろ細かく言うと、藤川先生もおっしゃったように、本当にまだまだ不十分な点はあろうかと思います。私はそう思うわけですけれども、そういうところで、参考人の意見はどういう意見でしょうか。
松森参考人 重要な事項をお尋ねで、ありがとうございます。
 まず第一につきまして、先生が御指摘のとおり、大型マンションで、きちんとした仲介人、ディベロッパーによるというのが本当に多いのかということです。都市部、あるいは電車や何かで外を見ますと、小さな住宅が建ち並んでいることも多いわけです。こういうところに住んでいる方々、今まさに逆にリストラで困っている方々も多いわけですから、こういうところの点についてまずどうお考えをするかということで、先ほど言ったとおり、短期賃借人の保護ということをお話ししたわけです。
 そのほか、マンションや何かでも、やはり今後のこと、敷金の保障とか、出たらどうなるか、それぞれ新しい場所を探し求める、これができるのがやはり短期賃借人保護ということであるからこそだと思います。
 それで、大部分の方々は、今回の競売や何かで問題となるような嫌がらせとかそういうことをする方々ではない、それが世間一般の賃借人であることをおわかりになっていると思いますので、その点を強調した上、さらに、立法当時の、百年間来た、特に民法という根本法の中の短期賃借権について国民がどう考えているか。こういう点について、例えば、確かに借りるときに重要事項説明で、抵当権が設定されている、御存じですか、敷金は返らない可能性がありますよ、こういう説明を受けるでしょうか。まさに抵当権を設定するときに、銀行が、あなたのは競売になったら全部取り上げられますよ、こう言って説明して抵当権を設定しているでしょうか。
 ここから、まさに銀行のインフォームド・コンセント、貸し主、強い立場の人のインフォームド・コンセント、これがなかったことが今回の原因だというのも考えられるわけです。これもやはり社会全般から考えた一つの見解だと思います。
 こういう点から考えまして、現在のところ、短期賃借制度がどういうものか国民が本当にわかっているのかどうか、こういうこともわからずして、早期に廃止して、これらの国民の犠牲のもとに金融機関を守るということはいかがなものかということが弁護士会の主張なんです。
 これでよろしいでしょうか。
吉野委員 三年、そして土地は五年、山林は十年という短期賃借権の期間がございます。これは、やはり百年前なんです。百年前の時間の概念、社会的時間、経済的時間等々を加味しますと、日弁連として、本来であれば、三年というのは短いからもっと長くすべきだという主張を、今の考え方からすれば当然すべきじゃないのかなというふうに私は思うんですけれども、それはしていないわけでありまして、そういう時間的な部分というところも、本当にそう思っておられれば主張すべきだということを私は申し上げたいと思います。
 最後に、藤川先生、これからの金融制度というのは、例えば、プロジェクトファイナンスもあり、不動産の証券化等々もあり、住宅金融公庫も住宅ローンを証券化、債券化して小口に分けて国民に販売するという形で、まさに大きく変わっております。そういう中で、これだけの担保法改正でこれからの新しい金融に対して十分なのかどうか、その辺の感想をいただきたいと思います。
藤川参考人 お答えいたします。
 先生御指摘のとおりで、私は、これは平成の大改革の一里塚とすべきだと考えています。これで、明治三十四年の施行以来百二年間変わっていない担保法制が変わったんだと思ってもらっては困る。
 もっとあけすけに言いますと、私は、ウナギのにおいをかいできまして、担保法に手をつけるというので、きっとウナギが出てくると思ったんです。ところが出てきたのは、どうもメソウナギどころかドジョウのかば焼きではないかという気がいたします。では食べないかというと、やはり食べる必要、僕はぜひこれを食べていただきたいと思うんですけれども、本当はもっと大きな立派なウナギのかば焼きをつくっていただきたいというのが私の意見でございます。
 どうもありがとうございました。
吉野委員 これで終わります。本当にありがとうございました。
山本委員長 山花君。
山花委員 民主党の山花郁夫でございます。
 参考人の皆様方におかれましては、早朝よりありがとうございます。
 まず、藤川参考人にお伺いをしたいと思います。
 先ほど松森参考人から、執行法制の改正について、特に財産開示手続についてどういうイメージを持って考えるかということが重要ではないかという御指摘がございましたけれども、私も、ここのところ、言ってみれば、余りいいイメージを持っていないのかもしれません。
 つまり、藤川参考人が先ほど、執行手続のところでは、裁判所が一生懸命やるというよりも、パンチパーマをかけたような人たちが出てくるという話をされておりました。まさにこの財産開示手続についても、商工ローンや消費者金融が多用するのではないかという御指摘をされていますけれども、消費者金融にも、いいものもあれば、ちょっといかがかと思うようなものもございまして、こういうところにまさにパンチパーマの人がやってくるんじゃないのかな、こんな印象を持っているんですが、もっとソフトな方法を考えられないかというお話のようですけれども、その点についてもう少し具体的に、こんな方法があるんじゃないかという御提案があればお話しいただきたいと思います。
藤川参考人 大変ポイントをついた御質問をありがとうございました。
 まず初めのイメージの問題でございます。
 実は、お話のとおり、これはどういう人がどういう場面で使うかというイメージによって大分違うと思います。実は、先ほどちらっと末野興産のお話を申し上げましたけれども、あのとき取材をしていまして、末野興産は膨大な資産隠しをしたんです。当時、私どもは宇宙遊泳と言っていましたけれども、短期の定期預金を次々と切りかえて、それをボストンバッグの中に隠して、検察側の冒頭陳述によりますと、大体二千億を超える定期預金を家族名義で持っていたと言われています。そういうものに対する対応であるとか、それから、よく裁判官の方と話をすると、例えば交通事故の加害者ですけれども、判決を出しても、こいつは払わないな、財産を隠しそうだなということが時々あるそうでございます。
 そういう意味で、先ほどペーパー商法と申し上げましたけれども、判決が単にペーパーに終わらないためには必要だなという感じがいたします反面、では、実際これまでこういうことをやる人はどういう人だろうというと、私は、一部かもしれませんけれども、やはり商工ローンとか消費者金融とかが多用しそうな気がいたします。
 そういう点で、私がそこでソフトな方法といいますのは、平成十年の民事執行法の改正でございます。あれでライフライン照会という制度が入りました。例えばある人が占有しています、そこにガス、電気などをだれが料金を支払っているんだということを執行官が照会できるようになっています。それで占有を特定できるようになりました。同じような点で、銀行あるいは税務署に対しての照会ができないか。ただし、個人情報保護の問題があります、要するに目的外使用になりますから。そこをうまくクリアできて、公益的な目的だから開示できるということになれば、それはやれるのではないかなと。そういう方法で対応できないか。いきなり法廷に連れ出してというのは、我々一般庶民の立場からいいますと、裁判所に来ることは非常に怖いことです。そういうことをやれないかということを考えたわけです。
 ただ、悪質な債務者ということを考えるとこういう制度も仕方がないかなという気はしますけれども、これもまさに皮膚感覚で、私は非常に抵抗を覚えるということでございます。
 お答えになりましたでしょうか。
山花委員 松森参考人にお伺いしたいと思うのですが、同じような中身です。
 要するに、これは使い方を気をつけないと、つまり、制度として全くけしからぬという制度では私はないとは思うんですが、ただ、どうもそういう、やくざまがいというとちょっと言葉がきつ過ぎるかもしれませんけれども、そういう人たちに利用されると、それこそ弱い者いじめではないですけれども、実際の現場へ行けば、そういう人たちはわあっと暴れたりいろいろするけれども、警察とか呼ぶとその場では手を出さなかったりとか、そういうおそれもあるのではないかなと思うのですけれども、この点についてもう少し敷衍してお話しいただきたいと思います。
松森参考人 ただいまの御質問に関しまして、先に一点だけ申し述べさせていただきたいと思います。
 今、藤川委員が申し述べていただいたとおり、実は、日弁連としましても、まず最初の段階として第三者照会ということを考えておりました。それは、弁護士法の二十三条の二の照会手続に対してなかなか回答がない、こういうことの回答があったかどうか、これがまず前提の上に、ある一定の要件のもとに、先ほどお話があった金融機関とか税務署とか、そういう第三者に照会するなどの手続を設けていただきたいということがありましたので、この点は、今後先生方が御審議していただくと、まことに弁護士会としては喜ばしいことと思います。
 次に、先ほどの、悪質な財産隠しの問題点と弱い素人のまじめな債務者という対比で大きく分けていきますと、悪質な債務者に対しましては、まさにそういうことになれていますから、法廷に呼び出されてもきちんと答えるのではないか、まさに準備して答えるだろうということで、財産開示制度はそういう者に対してどうなのかと考えると、今回のように出頭義務とか陳述義務で罰則を設けるということは仕方ないのかなと思います。
 しかし一方、この制度は、素人であり、わからない人が来た場合、基本的には財産開示の日の財産があるかどうかに限っての質問になっています。しかし、これについて、私のレジュメでも述べたとおり、逆に悪質なものを考えた場合は、ある程度広く引いて、こういう財産はどこに行ったのという程度までは聞けないと、まさに意味がないと思います。
 しかし逆に、一般のよくわからない消費者、一般の債務者が、例えば、よく相続や何かで、田舎で相続があった場合、その相続の登記もしていないし、自分のものになっているのも知らない方も多いわけです。それを調べてきて、これ、あるじゃないか、うそをついているんじゃないか、ほかにもあるんじゃないかという手口もあり得るのではないか。こういうことをどうやって保護できるのだろうかと悩ましいところなわけです。
 そしてさらに、こういう手続があるよ、ちゃんと払わなかったらこの手続を使うよという可能性はないんだろうか、先生はそういうことも御心配だと思います。まさにそのとおりだと思います。
 こういう点、やはりどちらかをイメージしないと適正な制度というのはつくれないのではないか。先ほど申したとおり、やはりそういうものに対する特別な手当てがなしにこの制度を導入するということは、十分準備している人に対する手続であって、かえって意味がなくなり、本来の趣旨から反していく可能性があるのではないか。ですから、逆に言えば、一般の弱いまじめな消費者を考えてしまうと、そういうものに立ち向かう法制度はできないと思います。ですから、このあたり、きちんと区分けして制度をつくれば、まさに先ほど藤川委員が言われた悪質なものに対処できる。
 さらに、逆に言えば、債権者としては、詐害行為取消権が行使できるように事前にもっと情報を、特に大きなお金を貸すのであるから、得ておけばとも思われるところです。しかし、やはり、借りた者が全然返さないでいい、隠した者勝ちということはまさにこれは許されないことだと思うので、この制度設計については弁護士会は賛成しているのはそういうことなわけです。しかし、心配はないわけではないということで、運用についてはお願いしたい。ソフトな扱いという藤川委員の言葉を使いたいと思います。よろしくお願いします。
山花委員 したがって、財産開示手続については、恐らく運用の面で相当慎重な配慮というものが必要なんだろうなという印象を持ちました。
 上原参考人にお伺いをしたいと思います。
 若干技術的というか、細かいことなんですけれども、今回、先取特権について、商法並みと申しましょうか、広がったのは、これはこれで結構なことだと思います。ただ、この先取特権なんですけれども、例えば企業倒産が最近大変ふえてきておりますが、こういったときに、そこに勤めていた人たちがこれを実際行使しようとするとなかなか容易なことではなくて、先取特権そのものといいますか、一応、実現方法としては、手続上二種類あるといってよいかと思います。
 つまり、例えば、会社の方が銀行預金を持っていたとします。それに対して一般債権者が差し押さえてきた、労働者の方が差し押さえをして、まあ差し押さえる物は何でもいいのですが、という形でやったとします。この場合、少し民法なり訴訟法なり勉強した人が聞けば、それは労働者が勝つでしょうと思うのですけれども、実はこの場合、実務の取り扱いでは、両方とも普通の差し押さえということを理由に、特に労働者の方が優先するという取り扱いにはされていないんですね。
 反面、先取特権の実現として債権を実現しようとすると、今度は民事執行法の百九十三条に言う「担保権の存在を証する文書」、これを労働者側が持っていなければいけないですから。ただ、この担保権を証する文書というのが、実際の運用というのが物すごく厳しくて、例えば給与明細だけ持っていてもだめだ、できれば賃金台帳があった方がいいと。ただ、賃金台帳なんというのは、それこそ職場占拠でもして持ってこないとないわけですし、ましてや、中には取り扱いのいいかげんなところもあったりとか、賃金台帳の真正さを担保しようとすることになるとちゃんと判こを押してなきゃいけないという話になるんでしょうけれども、それもどうも怪しいものがあったりする。そうすると、実際の実現のところで、制度として今回六カ月の枠が消えましたというだけではなくて、もう少し手続のところで配慮していかなければいけないのではないかな、そんな印象を持っているのです。
 一つは、「担保権の存在を証する文書」をどうするという話になると、裁判官の自由心証の問題も出てくるでしょうから、法律で書くというのはなかなか難しいんでしょうが、実際、実現するためには、もう少し本当に手続のところを、執行の実務のところを何とかしなければ、使い古された言葉かもしれませんが、幾ら先取特権の範囲を広げても絵にかいたもちになってしまうのではないかという懸念を持っているのですけれども、この点について何か御意見があれば、お聞かせいただけないでしょうか。
上原参考人 ただいまの御質問、御指摘はもっともなことだと思います。
 先取特権、特に労働者の一般先取特権の実行方法について規律をどうするかということにつきましては、法制審議会等でも随分議論をいたしました。しかしながら、御指摘のとおり、現在の改正法案におきまして、特にその先取特権の存在を証明する文書につきまして具体的な規律をするということはしていないわけであります。
 どうしてそういうことになったかということにつきましては、一つは、今御指摘の、認識としましては非常に裁判所の運用が厳しいのではないかという御指摘があるわけですが、一方で、法制審議会の中で、特に裁判官の方の御意見では、必ずしもそういうわけではないのではないかという指摘もありまして、それは個々のケースによって決まることでありますので、何とも判断がつきかねるということがあります。
 もう一つは、では具体的に条文に規律すればそれでうまくいくかというわけですが、それがなかなか難しいのではないか。かえって、その文書を特定して列記しますと、それ以外の文書では足りないというような、むしろ厳格な運用になるのではないか。現在のままのような、「担保権の存在を証する文書」という形で抽象的に規律しておいて、あとは運用において、例えば一つの文書では証明、疎明として十分でないといたしましても、複数の文書を総合的に判断して、裁判官のまさに自由心証ということで、合理的な運用ができるのではないか、そういう考え方で現在の提案になっているかと思います。
 以上です。
山花委員 時間が来たので、終わります。どうもありがとうございました。
山本委員長 漆原良夫君。
漆原委員 公明党の漆原良夫でございます。
 まず、財産開示の点から、私が悩んでいることを率直に三人の参考人の方にお尋ねします。
 今回の財産開示の対象となるもの、例えば、親から相続を受けたとかあるいは贈与を受けた現金、動産も対象になりますし、あるいは給与債権、これも対象になると思います。悪質金融業者の債務者は、預金債権や給与債権も差し押さえの対象となるため、親兄弟から生活のためにもらったお金も預金しないで現金で持っているとか、あるいは給与債権を差し押さえられないために勤務先を業者に教えないとかいう工夫をして生活を立てて家族を養っている人も結構多いわけですね。
 今回、この財産開示によって、これも全部オープンにせよというふうになるわけでございますけれども、そういう最低限度のお金を隠していることというのは、法律はともかく、そもそも悪いことなのかなというふうに私は悩んでおるんですが、このことについて三人の先生方の御意見をお伺いしたいと思います。
上原参考人 まず、最低生活に必要なお金ということで、本当にそういうものであれば、これはもともと差し押さえ禁止財産ということで法律で保護されるわけでありますから、もしそれについて明らかになったとしましてもその執行の対象にはならない、こういうことではないかととりあえず考えております。
藤川参考人 大変難しい質問で、お悩みになっているのもよくわかります。
 私も、やはり基本的なといいますか、生存に必要なものまではがす、要するに、昔よく高利貸しは寝ている老人の布団まではぐといいましたけれども、やはりそれをしてはならないと思います。そういうためにこれを使われてはならないというのが私の出発点でございます。お答えになったかどうかわかりませんが、そういうことだと思います。
松森参考人 漆原先生の悩みというのは我々の悩みだと思います。
 やはり、基本的には差し押さえ禁止財産以外は開示というのが表向きだと思います。しかし、それぞれ使う立場と使われる立場を考えますと、先ほど藤川先生が言った、やはり生存のために必要だ、最低限度、これは差し押さえ禁止財産だけでいいものかどうか。そのときに、先生が言わんとしているのは、刑法的に言えば緊急避難的な隠しというのは肯定されていいんじゃないかということ、あるいは肯定したら不公平じゃないかという悩みだと思うんですが、この点については、どういう立場で財産開示をしているのか、どのぐらいの財産なのか、やはりきちんと債権者が申し立てていない限りは裁判所も注意をするとか、きちんとする手続をつくらないといけないような気がします。
 やはり、これで国民がみんな、そんなんだったら庶民はお金を隠すも何もできないと思って自暴自棄になるのが一番怖いのではないかと思います。
漆原委員 先ほども、この制度ができたらどうなるかという話がありましたが、どんなイメージをこの制度によってイメージするのかというふうな話がありました。私は、この制度をぱっと聞いて、これはサラ金業者に大きな武器を与えることになるんじゃないかなというふうに直観をしました。今でも簡易裁判所はサラ金業者の執行文の付与機関みたいになっているのが現実でございますけれども、今度は、この制度ができることによって、地方裁判所がある意味で過料の制裁つきで呼び出して、陳述を義務づけて、裁判官と債権者が一緒になって、債務者に対して、財産は何持っているんだ、白状しろということを迫る姿が目に浮かんでくるんですが、この制度をそういうふうな制度にしてはならぬなというふうに実は思っておるんです。
 先ほど藤川参考人から末野興産の話がありました。ああいうことを聞くと、何とかしなきゃいかぬなとも思うんですが、どっちが使われるか、どっちをイメージするかによって大変違ってくるんでしょうけれども、悩みが深いところでありまして、判決をもらっても執行できないんじゃ意味ありませんから、本当に必要なところにはきちっと対処できるような法律にしたい。しかし、また一方では、庶民が裁判所に呼ばれて、おどおどしながら、制裁の精神的、心理的圧迫を受けながら白状させられるという構図は何とか避けたいなというふうに実際思っております。この辺の線引きをどうするのか、これは非常に難しいんですが、松森先生、藤川先生、この辺、どんなふうにしたらいいとお考えでしょうか、お教えいただければありがたいと思います。
松森参考人 先生が言われるように、善良でまじめな市民が追い込まれるようなことがないようにという場合、例えば債権額とかあるいはおよその住居とか、こういうことで、ある程度の目安ができればそういうことでチェックはできるのかなと思います。しかし、それが本当の財産隠しをするプロにかかったら、これはもう表から入るとなかなかできないからこういう開示命令手続というのをとられるんだと思います。
 したがいまして、例えばいろいろな見解としては、業者と一般市民と分けるのかどうかとか、こういう点も論議されても、なかなかそこの線引きが難しいんだろうと思います。だけれども、逆に言えば、困った庶民と困った庶民の闘いというのもあるわけですね。そういう場合に、金額でいくと今度はそのあたりが救えるかどうかというのがありますので、弁護士会としてもなかなかそこまで線引きが考えられていなくて、結局、もう少しイメージを膨らませて、それぞれについてもっと具体的に、事案に対処して、今先生が言われた事案とか、こういうのを具体的に討議していかなければきちんとした対応はできないのではないかと思います。
 裁判所が全部対応できるかというと、私立探偵じゃないわけですから、あるいは弁護士でも、そこまで調べているぐらいだったら詐害行為取消権が行使できるのではないかと思うので、このあたり、財産開示命令がどの程度機能するかという点については、やはりもう少し運用を見てからか、あるいは十分先に検討してからかにしなければということで、先生の御期待の基準とか、それはまだなかなか悩みの最中ということでお答えにしたいと思います。
藤川参考人 お答えいたします。
 御指摘のとおり、どういう基準を設けるか、非常に難しいと思います。
 一番初めに上原先生がこれについて要件を述べておられました。債務名義をかなり限定しています判決であるとかそれに類するものであること、それからまた、初めに強制執行なりなんなりをして、それで満足を得られない場合であるとか、それから、知られている財産で満足が得られない、そういう要件をかなり絞り込まれていますので、これでもいいかと思いますけれども、私は、個人的にはこういうことを考えています。
 例えば交通事故の損害賠償、これなんかの場合に、やはり被害者救済の必要性というのは非常に高い。だから、保護されるべき債務者、債権者のそれぞれの地位といいますか、それを少しこの要件の中に盛り込めないかなということ。これは素人の考えなので、そんなことは法律は無理だよと言うかもしれませんけれども、そういうことを盛り込めないか。先ほど末野興産の悪質な財産隠しの話を申し上げましたけれども、そういうものを何とかこの中に、法律でだめだったら最高裁の規則なりなんなりで盛り込めないか、そういう工夫ももう一つできないかというふうに考えています。
漆原委員 大変ありがとうございました。ここは本当に、私ども悩みながら審議を続けていくことになると思います。
 短期賃貸借についてお伺いします。
 これまでも執行妨害を対象にした法改正がなされてきて、最高裁も、十一年十一月二十四日の判決で、従来の判例を変更して、抵当権者が所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使できるというふうな、ある意味では画期的な判決を下しているわけなんですが、今回の短期賃貸借の廃止をしなければ執行妨害の弊害をなくすことができないのかどうか、あるいは、短期賃貸借というのは維持しながら別な方法でもできるではないかという二つの意見があろうと思いますが、上原参考人と松森参考人にこの点をお尋ねしたいと思います。
上原参考人 確かに、御指摘のとおり、短期賃貸借について、それを残しても、例えば正常なものと異常なものとを分ければ対処できるのではないか、あるいは、既にそのような枠組みで例えば保全処分の運用がなされているのではないか、そういう有力な意見があるということは承知しております。ただ、立法でこの問題を解決しようという必要があるのは、やはりそのような、ある意味で一般条項的なものをさらに導入するということは、法律としては非常に難しい、また運用も難しい。
 確かに、保全処分で現在異常なものが排除されているというふうには見えますけれども、しかし、それはあくまで保全処分という形で、限定的な資料に基づいての判断で、まさに裁判所からいえば、非常にかたい、慎重な判断の上で、本当にこれは濫用だ、異常なものだというものだけを排除できている、こういうふうに思われるわけで、まさにそれによって、今現在、短期賃貸借で一応形として保護されているために、しかし、実質は濫用的なもので本来保護すべきではないというものをかなり放置しているのではないか。そういう認識がありまして、私としては、今回、この短期賃貸借の保護を撤廃するということはやむを得ない判断ではないか、そういうふうに思います。
松森参考人 先ほどからお話ししていますとおり、結局のところ、正常な賃借人が保護されているかどうか、あるいは、現在の執行の場面で濫用的なものが保護されているかどうかという点の認識の差ではないかと思います。しかし、これまで何回も執行制度について先生方が改正の意見を出され、それが、平成十年、八年とか、こういうのが認められ、徐々ではありますが、執行はどんどん進んでいるような、決済がされているという状況があります。
 そしてさらに、正常と非正常についてどう考えるかということにつきましては、おおよそ弁護士会の方は正常だというものを認識しております。その点について、その方々の保護と、非正常者を排除して抵当権者を保護する、どちらがいいのかという選択だと思います。確率の問題だと思いますが、例えば上原委員では、非正常者が正常の形で残っている場面が多くて、それが非常に問題だということになりますが、先生の今の平成十一年の画期的な判決に基づきますと、これはある面では抵当権者に力を与えた、強力な武器を与えたわけです。
 ところが、これは逆に言えば、責任を持ってくれということのメッセージだと思います。というのは、抵当権を設定するからには、先ほど申したとおり、十分な調査、管理をして、そして、例えば執行の段階で、保全処分の段階でも、きちんとした資料を裁判所に出せれば、正常、非正常で争われるポイントは、もうここバブル以来、いろいろなポイントは金融機関等十分おわかりのはずですから、そのときのポイントをつく書面とか、写真とか現場の場面、ビデオとか、いろいろありますから、そういうものを御用意できるんではないか。そうして排除するのが本来であって、そうでないと、まともな正常者まで今回全部切ってしまうということになるわけです。
 そして、今回の同意による対抗力とか期間の保護とか、こういうものをつけ加えましても、これをつけ加えるということは、やはり短期賃借のよさを残したいということだと思います。しかし、大事な、今我々でもマンションに入っています、三カ月の敷金が返ってくるかこないか。これは、三カ月で猶予はありますよと言ったって、三カ月の賃料を、バブルのころでしたら皆さん御用意できると思いますが、今できるんだろうか。こういうトラブルをつくってまで、今短賃を廃止する必要があるのかということです。
 金融機関は、これだけ努力しましたよ、汗みどろ、夏、写真を撮りに行きます、現場を見に行きます、すぐ保全処分も出るような準備もできています、これをやっているんでしょうか。そうじゃなくて、まじめに働いている正常賃借人をこういう制度で、まさに地震競売で追い出していいのかどうかが、まさに弁護士会が危惧するところということです。
漆原委員 以上で終わります。どうもありがとうございました。
山本委員長 山田正彦君。
山田(正)委員 自由党の山田正彦です。
 上原先生にお聞きしたいんですが、例えば、短期賃借権の制度はなくなりますね。そうしますと、抵当権は、あらゆる物件に第一順位、第二、第三順位とついているわけですから、今度、その後の利用者がいつ借りていても追い出されてしまうということになると、不動産の利用、藤川先生が言っていましたが、不動産は所有から利用の時代だ、そういったものに著しく反してくるんではないか、いわゆる抵当物件そのものの価値も下がってくるんじゃないか、そんな気がするんですが、いかがですか。
上原参考人 私は単なる法律学者ですので、そういう経済的なことについて必ずしもきちんとした知識を持ち合わせておりませんが、一つ言えることは、このような短期賃貸借が保護されないという新しい制度のもとでどういう取引が行われるかというのは、これまでの取引とは違ってくる面があるのではないか、こういうことが言えます。
 例えば、敷金の問題が先ほど来議論されておりますが、今後は、場合によって敷金が返ってこないという危険がかなり高くなる、こういうことでございます。では、その場合に、今までどおり賃借人側がかなり高額な敷金を何の保障もなしに支払うかといいますと、やはりそうはならなくなるのではないかと思います。
 もちろん、それは個々のケースで、賃貸人、賃借人側のそれぞれの力関係ということで決まる問題でありましょう。あるいは、先ほど来も問題になっております、仲介業者がどこまでそれを説明すべきか、こういう問題にもかかわることだと思いますが、私としては、このような新しい法秩序が形成されたならば、きちんとそれは説明し、納得した上で両者が契約をする。その場合には、当然、敷金の取り方、払い方も変わってくるのではないか、このように考えております。
 したがいまして、従来の敷金が保護されなくなるという話ではこの新しい法律案はないわけでありまして、従来の形の、既に過去において設定されている賃借権につきましては、現在と同じ保護がこれからも与えられるということでございますので、今後、新しい取引がどうなるかということで考えますと、私としては、このようなことで法律として割り切れば、それなりの法秩序あるいは取引が形成されていく、こういうふうに考えておりまして、こういうことになったら絶対に例えば賃借人が一方的な不利益を受ける、そういうことにはならないのではないか、そう考えております。
山田(正)委員 明け渡し猶予期間が三カ月しかないわけですから、最近、競売も早くなって、半年ぐらいで競落されてすぐ出ていかなきゃいけない。そうなったとき、利用者としては、この短期賃借権がなくなったら、今おっしゃいました保証金の返還請求もどうなるか、大変難しい問題がある。
 ところが、実際に非正常型というのは、最高裁調査の二〇〇一年三月、これは藤川先生のペーパーですが、これによると一二%ということですね。ほとんど、九割近いものは正常型だったとする。それに対していわゆる利用を阻害するような、新しく賃貸借のやり方も変わるんじゃないかと上原先生がおっしゃいましたが、それほどのことをこの短期賃借制度を廃止してやらなきゃいけない、そうお思いですか。いかがでしょう。
上原参考人 今、九割が正常だという御指摘でありますが、先ほどの私のお答えでも申し上げましたとおり、その統計というのは、やや別の見方ができるのではないかと思います。
 それは、あくまでも保全処分という手続において、裁判所がその心証として確実にといいますか、明らかに不正常だという判断ができたというのが十数%ということでありまして、私が先ほど申しましたように、本来不正常であって排除すべきもの、しかしそこまでの確信が得られないので正常というふうに扱って保全処分を出していない、そういうケースがかなりあるのではないかと私は考えております。
 いずれにしましても、短期賃貸借制度の廃止というのは、短期賃借権という制度があることによって、それを、それにかこつけて濫用する、執行妨害をする、そういう芽をやはり一つずつつぶしていくことが、抵当権という制度のきちんとした機能を確保し、あるいは競売手続をきちんと機能させるために必要である、こういう政策的な判断ではないかと思うわけでございます。
山田(正)委員 非正常なものが例えば十数%より仮に多かったとしても、それについて、抵当権侵害とか詐害行為とか、いろいろな意味で、断行の保全処分、これもまた相手が不特定の場合でも断行の保全処分ができるようになれば、十分そういった悪質な場合の排除というのはできるんじゃないですか、先生。どうお考えですか。
上原参考人 繰り返しになりますが、保全処分というのは、やはり極めて限られた資料に基づいて判断しなければならないという限界がどうしてもあるということで、それだけではやはり不十分なのではないか。あるいは、そういう保全処分あるいは個々のケースでの正常型、不正常というような判断を積み重ねていくというのは、一般の取引社会から見ましても、結果の予測可能性ということにおいてかなり問題があるのではないか、そういうふうに考えております。
山田(正)委員 松森先生にお聞きしたいのですが、いわゆる新しく、短期賃借権が廃止されて、同意に基づく賃借権の対抗力の制度ですね、これで、抵当権者は普通に考えて同意しないと思うのですね、幾ら交渉しても。
 そういった場合に、藤川先生が御提案なさっていましたが、同意にかわる裁判所の許可、そういう制度の創設というのも必要なんじゃないかという気がいたしますが、先生はどうお考えでしょう。
松森参考人 先ほど来先生のお話を伺っていて、上原先生に対する御質問は、十分理解ができる、そのとおりだということが多かったわけです。
 それで、今の御質問に対しましては、この抵当権者の同意というのが本当にされるような場合、それに対しては、普通の賃借人はそれに対応できて、会話、コミュニケーション、インフォームド・コンセントで、条件等についてちゃんと正しい判断ができるのかどうか。この点は非常に問題だと思います。そしてさらに、きちんとできるとしたら、抵当権者の方は超優良な適正な企業しか相手にしないのではないかという心配もあります。
 そこで、どういう制度がいいのかといいますと、結局、短期賃貸借をなくさなければ現在何も問題がないので、このようなまた制度をつくった場合、国民が本当に、今でさえ、短期賃貸借はわからないとか、抵当権と賃借権の関係はわかっておられないわけです。このあたりをさらにこういうものを屋上屋を重ねて理解して――もし本人が失敗したならば、これは追い出されるのはわかると思います。しかし、失敗するのは、賃借人は第三者なんですね、抵当権者対建物所有者の問題で、それにひっかかれて賃借人が保護されない。賃借人は建物の賃料をちゃんと払っているわけです。こういう人たちを保護できないという問題と、先ほどの同意の場合に、敷金や何かも、超優良企業だと敷金をいっぱい払えるかもしれません。一般の市民、国民は本当に抵当権者が同意するほど払えるのだろうかどうかという問題もあるかと思います。
山田(正)委員 確かに短期賃借権がなければ新しい制度を創設する必要はないんだと思うのですが、どうやらこの法案は、閣法で、与党多数で通るんじゃないかと思っているのですが、そういった場合の……(発言する者あり)まだわからないですが、もしかそうなった場合、いわゆる短期賃借制度を廃止されて、保証金の返還請求、それをどうしたらいいのか。松森先生と藤川先生。
松森参考人 短期賃貸借廃止反対の立場で、何か……。
 ただ、やはり最悪の状態を考えた場合、やはりそういう保障の問題は大事だ。ある面、短期賃貸借廃止をしないのと同様なところということで、やはりその分は何としてでも守るということで、方法としては考えておらなかったのですが、期間の保障としては、例えば三カ月じゃなくて六カ月とか、この程度は考えてきたわけです。
 そのほかに、もう一つは、必ず例えば優先弁済を受ける権利とか、例えば収益執行の場合に受けるとか、こういう形でできないかなというのは、今、思いつきですけれども、考えます。
 この程度で、御審議をお願いいたします。
藤川参考人 お答えいたします。
 私も、この短期賃借の最大の問題は敷金の問題だと思います。結局、三年ですから、手続の途中で切れちゃうことが幾らでもあり得るわけですから。
 それで、やはり一つは、ここに書きましたような預託金の保障、保護という制度が考えられないか。例えば、今皆さん海外旅行のパック旅行を申し込みますけれども、旅行会社がつぶれた場合にはあれは補償されますよね。営業保証金というもので、全部は補償しませんけれども、戻ってくるという仕組みがあります。そういうことを考えられないかというのが一つ。
 もう一つは、猶予期間は三カ月です。この猶予期間の三カ月は、家賃は敷金と相殺させてしまえば、関東は大体三カ月ぐらいですか、大阪へ行くと長いですけれども、大阪へ行くとちょっとはみ出る部分がありますけれども、それで相殺すればいいじゃないか、そういう考え方だってあると思うんです。そういう形で敷金の問題は解決がつくんじゃないかと思います。
山田(正)委員 大変貴重な御意見ありがとうございました。
 私の質問、時間が参りましたので、これで終わらせていただきます。
山本委員長 木島日出夫君。
木島委員 日本共産党の木島日出夫です。
 三人の参考人の皆さん、大変ありがとうございました。
 上原先生にお伺いをいたします。
 本法案は全体として弱い立場にある者の保護に努めたと陳述をされました。そこで、抵当権と賃借権との権利関係の調整問題、その中心は短期賃貸借の保護の廃止でありますが、その弱い立場にある者の保護に努めた一つの理由として、新制度は総抵当権者の同意を得ての賃借権の保護ということをおっしゃいましたが、事実上、抵当権者の同意を得るには、承諾料とか家賃の値上げとか、現実に追い出されるか値上げを受認せざるを得ないか、そういう経済法則が働くんじゃないかと思えてならないんですが、その辺はどう考えているんでしょうか。
上原参考人 確かにそういう問題はあるかもしれませんが、恐らく私の予想しているところでは、これはやはり、単に個別的に、ある賃借人が抵当権者に同意を求めるという形にはならない、そういう形では機能しないのではないかと思います。
 むしろ建物所有者、賃貸人が、特に融資を受ける際の条件として、これは賃貸専用の建物であるというような条件で融資を受けまして、そしてこういう人に貸すんだ、こういうテナントが入るんだという形で、ある意味で全体としてパッケージでその融資を受けて、またその関係での同意をとる、こういうことになるのではないかと思います。
 その場合に、もちろんその分だけ、そういう形で賃借権が保護される形であるので、賃料が高くなるということは、あるいはあるかもしれません。しかし、それはそういう安定的な長期の賃貸借契約であるということで、賃借人側としてもそれに見合う金額であるかもしれないわけでありまして、私は、個別的に何か同意をとるために承諾料のようなものが払われるということにはならないように考えております。
木島委員 どうも、経済的な実態をどう見るか、大分私と考えが違うんですが、私は、根本的に言いましたら、日本の現行民法で短期賃貸借の保護しかないという、その根本からやはり問われているんじゃないかと思えてならないんです。
 というのは、現在は明治時代と違いまして、賃貸マンション、賃貸テナントが非常に中心になっています。それは、建設した所有者がもう最初から、自己使用目的ではなくて賃貸用に建物を建てるという前提ですね。それから金を貸す金融機関も、これは賃貸用の建物ということを承知して金を出す。債権回収の主たる方途は賃借人の賃料だという状況のもとで建物が建てられる。そして真っ先に抵当権がつきます。そして、抵当権がついた上で賃借人が入り込んでくるわけであります。そうしますと、現行法では、辛うじてそういう場合には三年の短期賃貸借のみが保護されているんですが、今度法改正になりますと、その保護すらがなくなってくるという状況ですね。
 しかし、私は、そういう今日の賃貸マンション、賃貸テナントの建設の状況、融資の実態から見たら、賃借人がいて当たり前と。ですから、抵当権が実行されても、それは、抵当権は賃借権を破らずという、ドイツでは居住用の賃借権者は抵当権者より強いわけです。フランスの場合は十二年保護されるんですね。そういう方向にこそ行くべきではなかったかと。
 すべての建物を言うわけじゃありません。賃貸マンション、賃貸テナントというのがはっきりしているような物件、建物については、むしろ賃借人の保護を強化する方向が社会的に求められているのではないか、それが社会的な公平というものではないかと思えてならないんですが、そういう議論はなかったんでしょうか。もう一度、上原先生に。
上原参考人 確かにそのような議論もありましたし、法制審議会等でも、何人かの委員からそういう意見も開陳されたわけであります。
 ただ、今回このような形での立法を提案しているというのは、確かに言葉で、賃貸専用だとか、それを専ら目的とする建物だとか言うことは簡単でありますが、それをどのような形で明らかにするか、あるいは、初めはそうではなくて途中で建物の所有の目的が変わってきた場合にどうするのか。そういう問題を考えますと、公示の制度も含めて、そう簡単には対処ができないのではないかというふうに考えられて、このような同意ということで、ある意味で抵当権者の主観的な判断に任せる、こういう制度を提案しているということになったんだと思います。
 ただ、先生御指摘のような、お金を貸す側も、賃貸が前提だ、その賃料から自分の債権を回収するということであれば、まさに、むしろ現在の提案されている同意というスキームが働く場面なのではないかと思います。
木島委員 ですから、経済法則からいったら、家賃の値上げとか更新料をもっとよこせということにならざるを得ない、それを危惧するわけであります。
 時間がありませんから、ここでその論争をするつもりはありませんが、ドイツなんかは居住用の賃借権は抵当権より強いんですね。そういうしっかりした法律、制度を持っているわけです。これはもう公示制度がどうかは関係ないんですね。居住用の賃借権は抵当権者よりも強い。フランスは十二年保護する。そういう方向が全く出てこなくて、むしろ逆に、辛うじての三年の短期賃借権すら、保護すら廃止してしまうというのは、どうも方向が逆ではないかというふうに思えてならないんです。
 その同じ質問を藤川参考人に。
 先ほど、やむを得ないとおっしゃいましたね、短期賃貸借制度の廃止はやむを得ないと。私は、やむを得ないのではなくて、方向が逆ではないかと。それで公示できるんと思うんです。賃貸用のマンションかどうかなんていうのははっきりしますよ。最近の東京のど真ん中に建っているような高層住宅とか、田舎の農家が農地をつぶして賃貸のアパートを建てたなんていうのは、自己使用目的でないことは明々白々。そういう明々白々な場合はそういう登記制度をつくったらどうかという提言すら、たしかこれは松岡教授なんかはしているわけなんですから、そういう方向に一歩踏み出すべきではなかったかと思うんです。
 やむを得ないというのはちょっと残念なんですが、藤川参考人から御意見を。
藤川参考人 大変痛いところをつかれまして、そのとおりだと思いますが、お答えいたします。
 まず、基本的な認識として、先生と大分同じところがあると思うんですが、これからますます土地、不動産もそうですけれども、入居者がいて何ぼ、裸の土地、更地がいいというのは、これは今までの日本の土地神話があったからです。値上がりするから更地がよかった。ところが、土地が広いアメリカなんかでは、入居者のない、あるいは借り手のない土地なんていうのは価値がありません。そういう意味からいうと、いかに入居者を安定させるかということは非常に重要です。
 それでは今の短賃制度は入居者の地位の安定に役立っているか。偶然の事情に非常に左右される。三年が、たまたま競売の申し出直前に更新だったら三年使えますけれども、手続に一年ぐらいかかっていたら、あとの二年しか残らないということがあり得ます。
 ですから、ここにも書きましたように、包括的な同意というのは、これは僕はそこの手段の方法だと思うんですけれども、包括的同意という話を書きましたのは、このマンションは、あるいはこの不動産は自己所有目的なのか収益目的なのか、それは提供する側が選択できて、包括的同意を与えるかどうかを選択できる制度にしておけばいいじゃないか。すべて個別同意で、入居者藤川について同意を与える、小泉について同意を与える、木島については同意を与えるという形じゃなくて、この建物は全部包括的に同意しますよという制度を選択的に入れておけばいいじゃないかというのが私の考えです。そうすることによって入居者の安定を図れないかということだと思います。
 やむを得ないと申しましたのは、そういうこともありますので、そういう慣行がこれからできないかなということと、それからもう一つは、リースバックの考え方じゃないですけれども、間に何かダミー的なものを挟んで、それが借りて一般の入居者に転貸するという手法もあり得るかなということです。
 それからもう一つは、お触れになりませんでしたけれども、附則五条で、今入っている、現在の居住者は更新されても守られるということになりますので、附則五条があれば今の契約は更新の場合にも短賃の対象になってくるなということで、やむを得ないかなというふうに考えました。
木島委員 しかし、今、建物賃借権の更新状況を見ますと、大体三年あるいは二年で更新されているんですね。私は、それは家賃の据置期間であって、賃借権というのはちょっと、三年とか二年じゃないとは思うんですが、形式を重んじる法律の状況、裁判所の状況を見ますと、三年で更新されている、一たん切られて新しい賃借権ということになりますと、附則じゃ保護されないということになるんですね。
 松森参考人にお伺いいたしますが、全体の大きな流れとして、抵当権の効力の守備範囲が単なる交換価値から使用価値までウイングを伸ばす、広げる。それだけ抵当権の力を大きくするのであれば、そういう法理念が今回の法制度改正の柱を貫いているんだとすれば、逆に言いますと理念的に賃借権の保護は強化されて当たり前じゃないかと思うわけなんですね。
 そうだとすれば、私はドイツのように居住賃貸物件全部とは言いません、少なくとも賃貸マンション、賃貸テナントが明々白々のようなものについては、公示制度も工夫すればできるかと思いますので、抵当権は賃借権を破らずという方向に一歩進めてもよかったんじゃないか、あるいはせめて私は日弁連からそういう提言が出されてもよかったんじゃないかというふうに思うんですが、そういうことはいかがでしょうか。率直な御意見をお聞かせください。
松森参考人 まさに木島議員が言われたとおりで、弁護士会としては居住用と収益用を区分して十分論議したかというと、そこはなかなかできず、その理由としては、短期賃貸借の廃止に対しての防御ということを中心に、正常賃借人が多いのかどうか、こういうことを検討してきたためにおくれたかと思います。
 確かに、今回短期賃借権を廃止することで、抵当権者の同意とかという問題が出た途端に、やはり今言ったとおり、使用価値の問題、この使用権をどうするか、利用権を柱とする抵当権制度をどう見直すかということになれば、先ほど来お話ししているとおり、抵当権者が強くなるということはそれだけ責任を負うんだということで、きちっとやる。そうした場合、議員がお話ししたとおり、例えば居住用の場合と賃借の場合はわかるのではないかという気がしますね。ある面、銀行はきちんと融資をしなきゃいけない、責任を持って管理をする、それだけ強い権利なんだから。となれば、抵当権を設定する融資のとき、居住用か、どういう入居者を予定しているかきちんと言う、そういうものを出さなければ貸せないことになりますね。そういうものが出れば、先生の言われた公示に結びつくということでは、検討できるのかなと思っております。
木島委員 最後に一問だけ、財産開示手続についてお聞きをいたします。
 要するに、悪質な債務者なる者、実際財産がありながら名義を他人名義に切りかえてしまって隠す、そういうものを実際どうえぐり出すかということが一つ立法目的としてはあろうかと思います。
 そこで、私は、この財産開示制度の法的な位置づけというのは、いろいろ言っても、結局は詐害行為取消権行使のための準備行為としての役割を果たすんじゃないかと思うんですね。そうしますと、詐害行為取消権というのはあくまでも民事上の権利であって、この権利を相手が妨げたからといって、過料とか罰則ということはないんですね。そうしますと、その準備行為の意味を持つ財産開示制度にまともに応じなかったら過料というのは、大きな法体系からいってもちょっと行き過ぎかなと。しかも、この制度がサラ金業者等に悪用されたら大変なことになる、いわゆる身ぐるみはがされるという恐ろしい社会になるんじゃないかと危惧して仕方がないんですが、そういうことに対して、時間が来たようですから、上原参考人から御意見をお伺いして、終わります。
上原参考人 今御指摘の問題ですけれども、詐害行為の取り消しの準備行為になるのではないかと。確かに、そういう実質があることは確かであります。
 ただ、この今回の案は、初めの議論としましては、それをもっと積極的に陳述内容にすべきだ、例えば過去一定期間の取引、財産の処分等についても開示すべきだ、こういう議論もあったところですが、さすがにそこは問題があるということで、現在の財産を開示すればよい、こういうことになったわけであります。ただ、もちろん債権者は、その開示期日において債務者に対して質問をすることができるわけですから、そういう質問等を通じて、そのような過去の取引がある程度明らかになるということがあるかもしれません。
 ただ、そのようなことがあるからといって、その詐害行為取消権が民事の手続であるから過料の制裁はそぐわないという御指摘ですが、それはちょっと話は違うのではないかと思います。私は、やはりきちんとした債務名義が成立して、それにもかかわらず債務者がそれに従わない、履行しないという事態を前提としてこの財産開示制度はできているわけでありまして、そういう事態になった場合に、債務者としては、基本的には、やはりその財産を明らかにするという公の義務があるのではないか、そういう形で裁判所での手続に協力するという義務がやはり出てくるのではないかと思います。
 ただ、御指摘のとおり、ある意味では悪質な債権者に濫用されるという危惧は確かに持っておりまして、それはやはり運用上いろいろと工夫がこれから必要ではないかと思います。
木島委員 終わります。ありがとうございました。
山本委員長 保坂展人君。
保坂(展)委員 社民党の保坂展人です。
 まず、上原参考人に、同僚議員からも先ほど出ておりましたけれども、短期賃貸借制度廃止に当たって、登記前に抵当権者の同意、これによって対抗力ということが新設されているわけですが、どういう方がこういう同意をするんでしょうかね。ケースとして考えられるでしょうか、実態上。
上原参考人 先ほどほかの方の御質問、あるいはほかの参考人の方のお答えの中でもその点は出てきたかと思いますが、私としては、やはりまさに賃貸専用のビルのようなものを、抵当権をつけて融資を受けて、建築して、さらに貸す、こういう場合を考えております。
 その場合に、多くの場合、やはり確実なテナントというものを予想した上で建物を建てるわけでありますから、もうその段階である程度賃借人も特定されている。そういうことで、抵当権者としても、この賃借人が入ってきちんと建物を使って賃料を払うのであれば、そこから賃貸人に対する融資の債権を回収できる、そういう期待のもとで同意をする、こういうふうに思います。
保坂(展)委員 次に、藤川参考人に伺いますが、今の上原参考人のお話では、明らかなテナントであるとかあるいは住宅ということであればあり得るんじゃないかというお話でしたけれども、実際上、どうですかね。抵当権者として、そういう物件なら、この条項を使って、対抗力ありますよということを一つの価値として、つまり、おおむねそういうように運用というか使われるんだというふうに私は余り思えないんですけれども、実際にどうですか。いろいろな現場を見ていらっしゃって、使われそうですか。
藤川参考人 お答えいたします。
 例えば、再開発ビルなどの場合には、上原先生がおっしゃったようにあり得ると思います。例えば、まずああいう場合にはキーテナントを決めます、ダイエーを入れる、三越を入れる。キーテナントを決めまして、それからそれに合わせ設計をして再開発するというケースが多いものですから、そういう場合には、まずキーテナントを決めておきますから、それに対しての、オーナーの登記といいますか、賃貸借の登記と、それから貸し手の同意はあり得ると思います。
 それから、先ほどちらっと申し上げましたように、オーナーがダミー会社をかませるということはあり得ると思うんですね。要するに、抵当権者とお互い同意の上で賃借人会社をつくっておいて、それに対して同意を与えて、それから転貸をする、個々のマンションに。ただ、大変面倒なことなので、そんな面倒なことをしてダミーをかませるぐらいだったら、賃貸目的については包括的な同意を選択制として入れたらどうかというのが私の提案でございます。
保坂(展)委員 次に、松森参考人に伺いますけれども、テナント商店ということを町の中で考えてみたいんですけれども、ビルになりますよね。例えば、もう何十年と定評を得ているウナギ屋さんとか、その地域に密着した店舗、商売、親子あるいは今三代目だとかありますよね、東京にもございます。そういうところでも、この新しい制度が導入をされたときに、それは営業を続けられるかもしれない。これはだから抵当権者がどういうふうに判断するかということだと思いますけれども、しかし、そうでない判断で、このビルはウナギ屋だとか呉服屋だとか、そういうものは邪魔だ、全部一括大型店舗の方が割がいいじゃないかといった場合には、やはりこれは三カ月で出ていかなければいけないということになるのか。そしてまた、その場合は、かなりの保証金を積んでいるはずですよね。この保証金というものを、じゃ、一体だれから回収すればいいんだという、小規模の業者さんというか、商店主たちは大変な苦悩に陥ると思うんですが、ここはどう解決したらいいんですか。
松森参考人 先ほどの抵当権者の同意の問題につきましては、先ほどから明らかなとおり、再開発とかサブリース会社とかということで、新しい物件、優良な企業という前提になるかと思います。そうしますと、先生のただいまの具体的な御質問につきましては、弁護士会としてはだからこそ短賃廃止反対の立場なんですが、今の話を今回の条文でそのままいきますと、やはり先生の危惧する点は全部出るんだろうと思います。ですからやはり難しいと。
 そういうところで、そういう危惧を何とか逃れようという中小企業の人たちがどういうことになるかというと、ある程度自分の犠牲で、敷金を少し入れて、さらに賃料も仕方なく上げさせられて、そしてそのビルにしがみつくしかないのかな。そうでなかったら、地震売買のように、今度は、持ち主、建物所有者は、不動産競売になっちゃうよ、競売されたらという事柄が一つの口説き文句になるのかなという気がします。
保坂(展)委員 藤川参考人に伺いますけれども、多様な町場の商店が入っているテナント自身が、今回、建物自体が持っている収益力にも着目するとすれば、そういった営業努力というか、定評というか、おいしい店がいっぱい入っているとか、そこもやはりその建物の価値だということになると思うんですね。しかし、そうであったはずなのに、どうも一括大型店舗にしたいというふうになってきたときに、じゃ、一千万の保証金はどうなるのか、これはどうやって返還を迫ればいいかといっても、実態上、一千万どころか百万ももらえないというふうなことに直面する人がどんどん出てくるという、これは将来においてですけれども、そういう危惧はございませんか。
藤川参考人 お答えいたします。
 ちょっと誤解があったのかなという気はするんですが、こういうことだと思います。例えば、三代続いたウナギ屋さん、今の朝のNHKのドラマじゃないですけれども、それが借地だあるいは借家だというのは大いにあり得ます、下町に行けば行くほどそうですけれども。ただ、その場合、じゃ、その賃借というのは抵当権におくれているかというと、多分、金を借りるときに契約を結ぶ、抵当権を結ぶわけですから、のれんが古ければ古いほど賃借権の方が先に立っているんじゃないか。だから、御懸念の点は、それは比較的少ないんじゃないか。要するに、初めに金を借りてテナントを募集するとこれはおくれますけれども、ずっと続いていた、それでオーナーさんがちょっと金が必要だったので後で抵当権を設定した場合にはこの問題にはならないという気がします。
 それから、もう一つは、附則五条ですけれども、わざわざ丸括弧で更新の場合を含むと書いてありますので、更新の場合も私はそれは大丈夫じゃないかと思います。
保坂(展)委員 藤川参考人にもう一度伺いますけれども、私は、不良債権処理を迅速に進められないやはり銀行の責任というのを強く感じています。先日、私、日本橋の、創業四百年、三河から徳川さんと一緒に来たというつくだ煮屋さんとか、呉服屋さんとか、そういうだんな衆にも会いました。バブルのときに大変、七億でビルを建てたい、いや、十五億にしてくださいということで、過剰融資ですね。これが九五年を過ぎて、ここ近年、金融庁の査定で、あんたのところは債務超過だ、健全化計画を出せ、出せなければ、これは占有屋ではありませんけれども、しまいには出ていけということで、夜逃げ同様でいなくなられる方もいるし、大変な苦境に陥っている。そういう意味で、不良債権処理でこれを潤滑にする、占有屋対策ということで、そこは絞った法律であればいいと思いますけれども、今の短期賃貸借でも、やはり占有屋以外の多くの人たちに波及をしていく含みを持っているわけです。
 この委員会の質疑でも、労働債権についてこれが民法から商法のところに拡大をするんだということについては、それは評価をしたいというふうに我々考えていますけれども、一方、工務店として四、五人の少数の従業員で、外注費といってもほとんど提供は労務だという場合には、やはりまだ一般債権で、これまた倒産時には全額なんてほとんど無理だという実態はどんどん、そこは余り手当てのされぐあいが薄い。やはり社会的な公平という見地に立って、そのあたりのバランスは一体どのようにお考えになっておられるのか。
 例えば、定期借家権という制度もできましたけれども、優良な賃貸住宅が普及して住宅市場の活性化になるという賃貸借、そういうことも言われましたけれども、何かやはり一人一人の庶民や生活者がもっと保護される政策も今日必要なんじゃないかという観点で、一言お願いをしたいと思います。
藤川参考人 お答えいたします。
 今のお話はそのとおりだと思います。新しい時代、だから先ほどから申し上げましたように、これは単に執行妨害排除というだけではなくて、新しい時代の新しいバランスのとり方、抵当権とそれから利用権との調整をどうするか。そういう意味で考えなければならない問題であって、それは、やはり基本的なところに立ち戻って、二十一世紀の社会経済あるいは金融の仕組み、そのあり方を根本に見据えて僕は議論する必要があると思います。単に、執行妨害を排除するという非常に目先の問題だけではいけないなということでございます。その一歩にぜひしていただきたいと思います。
保坂(展)委員 同じ点を松森参考人にも一言お願いをしたいと思います。
松森参考人 ただいまのお話、すべてごもっともだと思います。
 個人的ですが、これから、例えば短賃の廃止、一括にするよりも、今まで裁判所で事件ごとに一人一人の顔が見える事件手続をしてきたわけですね、保全処分。こういう一人一人の顔が見える手続にこれからなるかどうか。そして、債務超過の債務者が元気に対応できるような制度ということを考えていきたいと思います。そのためには、短賃の廃止の廃止はぜひともお願いしたいと思います。
保坂(展)委員 同じ点、上原参考人に一言お願いをして、終わります。
上原参考人 初めに私の報告で申し上げましたように、この担保・執行法の改正ということについてはいろいろな立場の人の利害が絡む問題でありまして、こういう制度をつくったから完全にこちらが得をするとか、あるいは逆にこちらが損をするとか、そういう問題ではないと思います。
 また、一方で、ある債権者のために、善良な債権者のために制度をつくれば、しかし、悪質な債権者が濫用するではないか、そういう問題も指摘されて、そのとおりだと思うわけです。
 ただ、現在のままの姿でよろしいのか。あるいは、裁判所の運用によってうまくいっているのではないか、そういう声もあるかと思いますが、しかし、その裁判所の運用というのは、出てきた結果、表面だけの統計だけではわからない面もかなりあるのではないかと思います。新しい法律をつくって、その法律の内容をきちんと周知徹底をして、それに従った新しい取引の秩序等が形成されていくということがやはり重要なのではないかと思います。
保坂(展)委員 終わります。ありがとうございました。
山本委員長 以上で午前中の参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。
 この際、休憩いたします。
    午後零時三分休憩
     ――――◇―――――
    午後一時十六分開議
山本委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 午前に引き続き、担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案について、参考人として、全国借地借家人組合連合会事務局長船越康亘君、JAM組織局長高村豊君、NPO法人ウィンク理事長新川てるえ君、以上三名の方々に御出席いただいております。
 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いをいたします。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 まず、船越参考人、高村参考人、新川参考人の順に、それぞれ十分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。
 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。
 それでは、まず船越参考人にお願いいたします。
船越参考人 全国借地借家人組合連合会の船越康亘でございます。本日は、本委員会にお招きをいただき、短期賃貸借制度に関する借地借家人の立場からの意見を述べさせていただく機会を与えてくださいまして、まことにありがとうございます。
 今回の短期賃貸借制度の廃止の民法改正法案に当たっては、基本的には、同改正法案に対し、善良な賃借権者の救済措置が極めて不十分であり、抵当権設定後の賃借権の対抗力を最小限保障することを強く要請する立場から意見を述べさせていただきます。
 その理由は、以下のとおりです。
 その第一は、今日の借地借家人を取り巻く住宅事情からであります。
 住宅貧困者層は、生活不安と居住不安の二重の不安を抱えて深刻な状況にあります。
 昨年三月、国土交通省の外郭団体でつくられた住宅市場研究会の報告書によりますと、今日の借地借家人の住宅事情は、我が国の高齢社会が進行する中で、民間借家の高齢者世帯は二〇〇〇年で約百七十九万世帯であり、二〇一五年では約三百三十万世帯に急増すると報告されています。また、民間借家住まいの高齢者の平均年収所得は一九九九年で三百二十八万九千円であり、その四六・五%の世帯が生活が苦しいと訴えています。
 しかも、高齢者世帯が安心して住み続けられる住まいの確保は、依然として入居差別が横行し大変困難であります。
 とりわけ、大都市の借家人は、かつての戦前長屋や木賃住宅が主たる住まいでありましたが、地上げ屋の標的になり長年住みなれた地域から追い立てられ、住み続けられる権利が奪われていきました。地上げのその跡地は土地の高度利用が進み、建物は高層化し、その大半の建物は投資対象となり、金融機関の融資によって供給されたものです。その供給された建築物は、完工直後に抵当権が設定され、その後賃借権が設定されています。
 一九九八年度の土地住宅統計調査によりますと、全国の約四千四百万世帯のうち、民間借家は一千二百万世帯であり、そのうち九百二十八万世帯が集合賃貸住宅、いわゆる賃貸マンションの居住世帯であります。それは、国民の約二一%が賃貸マンション居住者であることが推計されます。借家住まいの約七八%の世帯が賃貸マンションに居住していることも明らかです。
 今回の民法改正法案は、これらの賃貸マンション居住者の居住の安定に少なからず大きな影響を及ぼすものとなります。
 第二に述べたいことは、賃借権の設定を前提にした建物に対する抵当権設定には、賃借権の対抗力を保障することの正当性についてであります。
 先週私は、大阪のある賃貸マンション居住者から相談を受けました。その一つは、九十戸の賃貸マンションの居住者から、従来の家主からこれまで月額八万円の家賃を月額二万円に値下げし、保証金はこれまで四十万円を六十万円に引き上げる新規契約を結びたいというものでした。事情を聞くと、その賃貸マンションは、既に競売手続がとられ、裁判所から事前調査が完了し、近々中に競売になる予定でした。相談者は、入居十八年がたち、抵当権設定以前の賃借権者であり、契約の更新に応じませんでした。
 二つ目の事例は、ことし四月に仲介業者の紹介で賃貸マンションの契約を行った居住者から、仲介業者から受け取った重要事項説明書についての相談でした。同説明書は、不動産業団体が発行した様式でした。そこには権利関係について記載する欄がありましたが、無記載で説明も受けていませんでした。また、家屋所有者欄にも空欄のままで、貸し主不明の説明書でありました。その後、私たちが調べますと、その仲介業者は貸し主が依頼した仲介業者とは別人で、登記簿謄本の提示もなければ貸し主も不明であるという物件を仲介したことがわかりました。
 この二つの相談事例は、今日の賃貸住宅市場の中で起きている相談事例としてはまれなものではありません。
 賃貸マンションは八〇年代前半から急増しましたが、その大半は住宅金融公庫などの公的資金の融資を受けて供給されています。そして、バブル前後には、地上げ跡地に土地の高度利用と投資を目的に金融機関が湯水のごとく莫大な資金を不動産へ投資し、地価の暴騰を招いたことは御承知のとおりであります。そして、それまで公的資金の融資に依存して供給されていた賃貸マンションの建設資金の確保は民間金融機関に依存し、一九八八年から一九九八年の十年間で賃貸マンションの供給はおおむね倍増しました。このように急増した賃貸マンションは、建物が完工された直後に抵当権が設定され、その後に賃借権が設定されることになります。いわゆる賃借権の設定があらかじめ確定している融資であり、そこに抵当権が設定されているのです。
 そこで、賃借権者は、抵当権設定後の賃借権は、競落後の新所有者に対する賃借権の対抗力が消滅することについてほとんど無意識のまま賃貸借契約が締結されていることが通例であります。
 宅地建物取引業法は、仲介業者が賃貸借契約の仲介をするに当たって、あらかじめ重要事項説明書に権利関係について説明する義務があります。しかし、同説明書には権利関係も記載せず、説明もしない状況であります。記載されていたとしても、抵当権設定後の賃借権は、競落後の新所有者に対抗力がないことまで説明していません。仮に、借り手側は、仲介業者から、賃借権が新所有者に対抗力がなく契約が解消されることを知ったならば、通常の場合、賃貸借契約は締結しないでしょう。また、仲介業者側は、そのような権利関係を借り手側が知り得たならば、事業活動に少なからず影響するため、説明も消極的にならざるを得なくなります。
 また、大多数の借り手側は、抵当権と賃借権との関連については全くの無知であり、仮に仲介業者が説明したとしても、将来にわたって居住不安が起き得ることを予測せず、理解しないまま契約を締結している場合がほとんどです。
 私は、担保抵当権制度を否定するつもりはありません。債権者が債務者の債務不履行の際生じた債権確保として、抵当権の設定は有効な措置と考えています。
 同時に、現行民法が制定された当時は、金銭貸借や商取引で生じた債務不履行の際の債権確保の予備的手段として施行されたものであって、今日のように投資目的とした融資の金銭貸借の担保としては考えられていないと思われます。
 なぜならば、不動産投資に対する経済活動は当時は皆無であったからです。住宅金融公庫法の成立後、賃貸住宅建設資金の公的融資制度が拡充し、住宅投資が経済活動の中に一定のウエートが置かれる中で、賃借権設定前の抵当権設定の建物が大半となったと考えられます。その上、賃借権の設定された担保価値は、賃借権が付与されていない担保価値よりも当然下落することは抵当権者は自明のことです。
 三つ目の意見は、私は、少なくとも、賃借権設定を目的にした建物の抵当権設定後の賃借権は、善良な賃借権者に限って対抗力を付与し、救済措置を求めるものです。
 善良な賃借権者は、安全で安心して住み続けられることを求めて賃貸借契約を締結しています。そして、そこに住み続けてこそ、地域社会の一員として生活者となり得るのです。善良な賃借人は、賃貸借契約の最も基礎的条件である信頼関係を尊重し、日常生活を送っています。人間の尊厳を守り、生活の基礎的基盤である住まいがある日突然破壊される事態となると、それははかり知れない苦痛と不安の生活が始まります。
 かつてバブル経済の中で、地上げ行為が、人権問題となり地域崩壊につながり大きな社会問題となりました。今回の民法改正法案は、地上げ行為の合法化をさらに強めることになりかねません。既に、地上げ屋は、競売物件の買いあさりを始めていると言われています。
 今回の改正法案は、競落後三カ月後には契約の解消を余儀なくされ、再契約するとしても新所有者の一方的な契約条件に応じない限り、借地借家人には選択の余地もありません。その上に、賃貸借契約締結時に預けた敷金、保証金が返済されないということになれば、賃借権者の住みかえや事業の再建すら奪うことになります。
 私は、善良な賃借権者の救済措置がない中で今回の民法改正が行われますと、国家賠償請求訴訟が全国各地で起こることも懸念しています。
 最後に、一九九五年六月、トルコのイスタンブールで第二回国連人間居住会議が日本政府も参加し開かれました。この会議は、居住の権利という新しい概念を独立した基本的人権として位置づけることを世界各国が承認した画期的な国際会議でした。そして、居住の権利として適正な住まいを七項目にまとめ、居住の権利宣言として採択されました。その一つの事項に、強制立ち退きやプライバシーの侵害がないことが挙げられています。
 今回の民法改正法案は、善良な賃借権者の居住の権利を無条件で剥奪するものです。第二回国連人間居住会議で採択された居住の権利宣言に照らし合わせても矛盾することであり、国会で拙速に採択せず、慎重な審議をお願いし、善良な賃借権者の正当な居住の権利を保護されるよう切にお願いし、私の意見陳述とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
山本委員長 ありがとうございました。
 次に、高村参考人にお願いいたします。
高村参考人 JAMの高村と申します。
 私ども、機械金属産業分野の広範な業種の組合で構成しておりまして、構成組合が約二千二百、そのうち八割が中小企業の労働組合という実態にございまして、この一、二年、私どもの中で中小企業を中心にしまして倒産が急増をする、こういう状況の中にございます。そういう状況の中で、きょう私からは民事執行法上の保全処分について、私どもの中で実際に起こった事例を御紹介申し上げながら、労働組合の立場から御意見を申し上げさせていただきたい、こんなふうに思っております。
 実は、これから私が申し上げる事例というのは、経営破綻したある中小企業で、労働組合が会社から生産の管理運営をゆだねられて、労働組合を中心にして会社を見事再建させた、こういう事例になるわけであります。
 実は、ここは窯業タイルの設備を手がけておりまして、全国シェア六割という大変高い技術を持った企業でありました。詳細な経過はともかくとしまして、ここが経営悪化をしまして、一九九八年の三月に商法に基づく会社整理の申し立てをいたしまして、会社再建を図ることになりました。
 しかし、私どもの組合としては、現経営陣では会社再建は困難、こういう判断から、組合執行部が中心となりまして、管理職の皆さんにも御協力をいただきながら、再建委員会というものを同社内に設立をいたしました。そして、ある条件のもとに会社の設備、機械を使って労働組合が自主的に生産をする、こういう協定を会社との間で提携をしながら、それ以降、労働組合が中心になって会社の運営に携わってまいったのです。
 そういう中で、会社の代理人は債権者集会を開いて再建案を示しました。しかし、労働組合を中心とした再建委員会は、見通しの甘さも含めて、この代理人が作成をした再建案では会社再建は困難、こういう判断に立ちまして、当時この会社は百八名の従業員がおりました、この百八名の従業員を四十八名に削減をするという、労働組合みずからが血を流す、こういう再建計画をまとめました。
 その上で、組合大会を開きまして、九八年の五月三十一日をもって全従業員を解雇する、そして、六月の一日をもって再建に自分をかけるという人を中心に四十八名を新たに再雇用して再スタートを切る、こういうことを組合の大会に提案をいたしまして、全体の同意を得て、その九八年の五月三十一日をもって全員を解雇する、そして翌六月一日、会社再建に情熱を持って当たるという人を中心に四十八名を再雇用しまして新たなスタートを切った。
 その後、一般債権者は二百十六社ございました、一つ一つ債権者を回り、労働組合の役員は、債権者から罵倒を受けながらも、みずからがつくった再建計画を熱意を持って訴え、最終的に一般債権者の九七%がこの労働組合を中心とした再建案に同意をいただきました。
 そうした経過の上に立って、九八年の三月に裁判所に申し立てをしました商法に基づく会社整理の申し立てを半年後の十月、取り下げをいたしまして、自主再建でいくという方針に移りまして、債権者の皆さんには労働組合が示した債権の二〇%を一括して弁済をする、こういうことで、一括して弁済をして整理を完了いたしました。
 一方、金融機関との関係では、ある都銀を除いて、他の金融機関はこの労働組合の再建計画に理解を示していただきました。しかし、労働組合の再建案に理解を示していただけなかったある都銀が、その年の十一月、工場の土地、そして会社のゲストハウス、社長の自宅を裁判所に対して競売の開始の申し立てをいたしました。
 そして、この工場の土地などを競売に付したまま、翌年の二月、いきなりアメリカの債権回収会社に私どもの企業の持っていた債権全額を売却する、こういうことになりまして、アメリカの債権回収会社からは私どもの企業に対して、債権を買い取れ、債権を買い取ることができなければ立ち退け、こういう要求が参りました。私どもは、何とかこの高い技術を持った企業を再建させなければならないという思いで、アメリカの債権回収会社から債権を買い取るための資金を提供していただけるスポンサー探しに奔走しましたが、景気低迷の中で、私どもの思うようなぐあいにはなかなか進みませんでした。
 そして、ある都銀が競売に付したままこの債権全額をアメリカの債権回収会社に売却したわけですが、だれも買い手がつかない中で、アメリカの債権回収会社がみずから落札をして名義変更し、その上で裁判所に会社に対して不動産の明け渡し命令の申し立てをいたしました。
 その上で、裁判所から不動産明け渡しの命令が出されまして、裁判所の執行官を伴ってその企業に参りました。しかし、そのときは、先ほど申し上げましたように、九八年の三月時点で、労働組合が会社から設備を譲り受けて自主生産を行う、こういう協定を示しつつ、私どもとしては強制執行に応じられない、こういうことを申し上げまして、執行官はそのことを確認して、通告をしただけでそのときは帰りました。
 そして今度、アメリカの債権回収会社は、労働組合に対して不動産の明け渡し命令を裁判所に申し立てをしました。その間、私どもも会社の従業員と一緒になってスポンサー探しに奔走しました。最終的には、九九年の十月段階で、私どもの企業の技術を高く評価をするスポンサーがあらわれまして、アメリカの債権回収会社から債権を買い取るための資金提供をしていただける、こういう決定をいただきまして、アメリカの債権回収会社との最終的な合意に至りました。
 このアメリカの債権回収会社と私どもとの合意の数日後に、裁判所から労働組合に対して不動産の明け渡し命令が送付されてまいりました。まさに時間との競争の中で、私どもはこの再建の取り組みを進めてきました。今、この会社は見事に再建を果たし、着実に業績を上げているわけであります。
 そこで、私がきょう御意見を申し上げたいことは、民事執行法上の保全処分につきましては、労働組合の正当な活動については保全処分の対象にならない。実務的には確立をされているというふうに認識をしておりますが、今申し上げたような例えば外資の債権回収会社とかいった、日本の労使関係あるいは法律というものについて余り熟知をされていない、こういう業者が参入することによって、今私が具体的に申し上げた事例でも、もしこの債権を買い取るための資金を提供していただけた会社の決断がおくれたら、労働組合に対して不動産の明け渡し命令が出され、それに基づいての強制執行が行われていって、この会社の再建はできなかった、こういうことにもなるわけであります。
 そうした意味で、実務的には、そうした労働組合の正当な行為については保全処分の対象外、こういうことになっていることは十分認識はしておりますが、今申し上げたような、日本の労使関係も法律制度も余り熟知されていない、こういう外国の業者が参入することによって大きな混乱を招くことになるのではないか、こんな危惧も持っております。
 その点では、法律の条文に明記はできなくても、せめて規則等で、労働組合の正当な行為についてはこれを保全処分の対象外とする、こういうことを明記する必要があるのではないか、私はこんなふうに思っておるわけであります。
 そのことを最後に申し上げて、私からの意見陳述とさせていただきます。大変ありがとうございました。(拍手)
山本委員長 ありがとうございました。
 次に、新川参考人にお願いいたします。
新川参考人 こんにちは。眠そうな人もいらっしゃいますが、大丈夫でしょうか。私の発言は多分十分もかからないと思いますので、じっくり聞いていただければありがたいです。
 私たちの団体ですが、NPO法人ウィンクは、女性の自立と子供たちの健全育成をスローガンに活動している団体です。九七年の十二月から、インターネット上に母子家庭共和国というサイトを主宰しています。現在では、一日四万人のアクセスがあります。一人親家庭の悩み等をサポートしています。
 子供たちの健全育成という視点から、養育費の確保という問題に意欲的に取り組みをしております。近年寄せられる養育費の不払いの問題というのは、一人親家庭の問題というよりも、大人世代の責任の問題として取り組む必要性があるのではと私はすごく強く感じています。
 実は、団体で、昨年、東京都の助成金を受けて養育費実態調査というのを行いました。三月に、そのアンケート結果と未払いの現状、別れた親を思う子供たちの気持ちなどをまとめた調査冊子が発売になっています。これです。「僕らには親が別れても愛される権利がある!」、子供たちの声をタイトルにしました。きょうは本当は、私はもっとすごい人数がいるかと思ったので、参考資料としてお配りできないなと思ったんですけれども、このぐらいの人数だったら一冊ずつ配ればよかったなと少し後悔しています。この内容から少し抜粋してお話ししたいと思います。
 アンケートは、昨年の十月から十二月に、インターネットの母子家庭共和国にて行われました。有効回答数五百五件です。インターネットを使っている人ということもあって、年代は二十代後半から三十代前半に集中しました。お子さんの年齢も乳幼児を育てるお母さんが多く、離婚後三年未満の方が多かったです。
 養育費をもらっているかについてですが、期限どおりに全額受け取っていると答えたのが二八%、期限どおりではないが受け取っているを合わせると三八%になりますが、それでも四割にも満たないというのが現状です。
 養育費の取り決めについては、口約束が二六%、調停、公正証書、裁判で取り決めをしたと答えた人が四七%になっています。合計すると七割以上の人が、何らかの形で取り決めはしているということになっています。
 支払われない理由として自由記述に挙がったのは、一部面接交渉権の拒否やドメスティックバイオレンスによる問題なども挙げられましたが、大多数は、親としての責任感の欠落を指摘する声が多かったです。また、近年の不況によるリストラや給料の減給、相手方の再婚による不払いという意見もありました。
 今回の法案改正で一番気になる部分である強制執行についてですが、支払われないときに強制執行までしたと答えている人はたったの一・七%です。
 強制執行に関しては、手続をとっても現行の法律ではむだと答える人が多く、おくれるたびに手続をしなくてはならないのは費用も時間もかかるからできないと答えている人が多かったです。それで、強制執行まではいかず、その手前で泣き寝入りをしている人が多いのが現状です。
 また、調停委員や弁護士などサポートする人のアドバイスに、ないところからは取れないよとか、費用がかかりますよといったあきらめの強要みたいなものがあるのも事実です。
 今回の改正案ですが、私たちにとっては、この養育費問題というのを考えていく上で小さな、小さな一歩だと思っています。あえて大きな一歩と言わないのは、正直言って、これだけで養育費が確実に確保されるとは思えないからです。強制執行がすごくふえるとも思えません。サラリーマンには適用しますが、自営業の父や母を持つ子供たちの養育費の確保はどう守られるのでしょうか。
 私は、本来ならば、この養育費問題だけで一つの法案があってもいいのではないかと思っています。諸外国には、養育費を払わないと逮捕される国もあります。リストラなどで払えない親に、立てかえ制度を設けている国もあります。子供たちを国の子として守っていくのであれば、まだまだこれだけでは足りないと思います。小さな一歩ではありますが、当事者を含め、社会が考えていくきっかけになればいいなとは思っています。
 養育費は、親の、一人親の生活を潤すものではなくて、一人親家庭の子供の権利だからです。親の別れは、子供たちには何の責任もありません。離れた親から愛される権利の一つが養育費だと思っています。
 まずこの法案が無事に可決されて、小さな一歩ではありますが、皆さんで考えていける一歩になればいいなと思っております。どうもありがとうございました。(拍手)
山本委員長 ありがとうございました。
 以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
山本委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。左藤章君。
左藤委員 自由民主党の左藤章でございます。三人の参考人の皆さん、本当にありがとうございます。
 それでは、順次質問させていただきたいと思いますので、よろしくお願いを申し上げます。
 まず、新川参考人にお話をお聞きしたいと思います。
 先ほど、養育費の問題、不払いの方がかなりいる、実際もらっているのは二八%、おくれている人も入れても三八%、こういうことでございますけれども、このたびの法案で、そういうものを押さえる、差し押さえまで含めてできるということになるんですが、これは実際そういうことをお願いしようとすると、お父さんの方じゃなくてお母さんがそういうことを言わなきゃならない、裁判所へ行って手続をせないかぬ。これについて皆さん方の、非常に複雑だと思うのか、それとも、まあ仕方がないと思うのか、その辺の皆さんの感覚というのはどんなものでしょうか、教えていただきたいのであります。
    〔委員長退席、園田委員長代理着席〕
新川参考人 一番初めにありがとうございました。
 強制執行に対しては、非常に高い壁があるというのは事実です。なので、小さな一歩と申し上げましたが、やはり強制執行までするというのは、当事者にとってはそれなりの覚悟が必要だと思っています。それと費用がすごくかかる、時間もかかるというところで、そこを自分でできるようにするとかということも必要だと思っています。
左藤委員 やはりそういう費用がかかる、時間がかかるということで逆におっくうになっていただくとまた困るわけなんですが、この法制度がもし通ることになれば、ぜひひとつ皆さん方のお仲間にもしっかりとしていただいて、子供のことは、特に養育費も含めて、本当に将来の日本を背負う子供たちを育てるわけですから、こういうシステムは、ぜひひとつ我々も大いにやっていただきたいと思うし、そういうことを皆さん方がちゅうちょするんじゃなくて、していただけるように、またいろいろやっていただきたいな、このように思います。
 それで、船越参考人に一つ御質問をさせていただきたいと思います。
 実は先ほど、午前中なんですが、いろいろな参考人、三人の方がお越しになって、例の短期賃貸借の件なんですけれども、これについてのいろいろな両方御意見がございました。しかし、一番問題にされているのは、おっしゃったことだけじゃなくて、要するに、俗に言う占有屋という、競売妨害ですね。実は、御存じのように警察の調べによりますと、この短期賃貸借保護制度を悪用した占有者の七割以上が暴力団関係者だ、こう言われているわけです。
 ですから、やはりこれは非常に、なっていくとスムーズに物が動かない、こういう問題があるんですが、この点についてはどうお考えでしょうか。
船越参考人 お答えします。
 実は、私どもは、そういう暴力団とか悪質な居座り組とか、こういうものをよしとは全然思っておりません。したがって、そのことをとらまえて短期賃貸借をなくしてしまうこととは、次元が私は違っているというように考えております。
 以上でございます。
左藤委員 それはおっしゃるとおりかもしれませんが、ただ、一つその中で、先ほどもあった話で、例えば競売をかける、競売をかけて、そしてまた例の保証金といいますかを何カ月間、何十万か賃借するときは入れますね。これが戻ってこない。というのは、当然貸した方は倒産をしているわけですから、ない。こういう話がありましたけれども、この辺の実態はどうなんでしょうか、借家人から見たら。
船越参考人 お答えします。
 多分、先生がおっしゃっていただいているのは、敷金が返らぬことについての実態はどうか、こういうことですね。
 バブルのときにも随分この問題が大きな問題になりました。御承知だと思いますけれども、バブルのときに、裁判所は競売にかけるときに、競売条件の中に新所有者に敷金を返還するということを付与して入れておられた、こういうのが通常の裁判所の判断でありました。
 私は、敷金は当然、借地人や借家人の立場から申しますと、貸し主さんに対する預託金みたいなものですから、この預託金はいかなる方が所有者になろうともそれは当然返されて当たり前、こう考えておりますから、例えば競落者が新所有者になりましても、その預託金は当然引き継いで返済してもらいたい、こういう考え方を持っています。
 もう一つ、現状はどうかということでありますけれども、現状は、バブルのそういう特殊な事情のない限りにおいては、私どもはまず二つの点で解決の仕組みを持っています。
 一つは、重要事項説明書の中に、この権利関係について抵当権が設定されているということが明示されてない、そういう場合の仲介については、仲介業者に請求をして損害賠償で取り立てるというやり方、これは現にあります。
 それからもう一つは、やはり旧所有者が支払い能力がないわけでありますけれども、明示されておっても、旧所有者に対して損害賠償請求をする、当事者能力がない場合が多いわけでありますけれども、やはりそういう訴えをして取り返す、そういう例もあります。
 以上です。
左藤委員 ちょっともう一回聞きたいんですが、裁判で新しい人が落札をする、そして一応三カ月、借り手が三カ月以内に明け渡さなきゃならないということになっているんです。実は、さっきやった預託金といいますか、大阪では保証金というんですが、何カ月分、大体平均三カ月ちょっとだと思うんです、私どもも一般的に。先ほどの午前中の参考人もおっしゃっていましたが、ちょっと大阪は多くて三カ月以上だと言っています。
 ある面では、逆に言えば、出ていけと言われても、三カ月以上は、言い方は悪いけれども、預託金分があるわけでありますので、こういうことで住んでいられるわけですよね、技術的には。さっきお話しになりませんでしたけれども、この辺はどうなんでしょうか。
船越参考人 敷金については、私は大阪で主として仕事をしている立場でありますけれども、公的融資でつくられた住宅であっても六カ月間の敷金が上限であります。したがって、三カ月というのはほとんどないというように認識しております。それから、公的資金を使わない民間賃貸住宅は、やはり家賃の十カ月分以上の例が通例になっております。
 したがって、今先生がおっしゃられたように、三カ月間猶予期間があるから、その預託金で家賃を払わなくて相殺したらいいじゃないか、多分そういうことをおっしゃりたいんだろうと思うんですけれども、借家人はやはり素朴でありますから、そういうようなことの知恵は余り回りません。普通はそういうことはやらないものなんです。
 以上でございます。
左藤委員 済みません、わかりました。いや私は、そう考えてしまうのが大阪の人間かな、こう思うんですが。
 それと、先ほど高齢者の問題、バブルもはじけた、年金も上がらない、こういう状態で、高齢者の借家人が非常に多くなっていく。先ほどの話で、年収三百二十八万九千円とおっしゃっていまして、しかも、そのうち四六・九%が生活が苦しいということは、これは民間借家の平均コストが高いということにも相なるんですね、逆に言うたら。(船越参考人「コストがですか」と呼ぶ)コストというか要するに家賃が高いといいますか、家賃が高いということになるんですが、こういう場合は、借家人組合の考え方は、その高い、例えば今たくさん賃貸マンションができています。しかし、必ずしもいっぱいではありません。私は大阪ですから、よくわかります。そういうのに対して、かわるとか値下げ交渉とかいろいろな話があると思うんですが、その辺はどう組合の方で考えておられるんですか。
船越参考人 高齢者にとって、家賃負担は極めて深刻な問題です。
 現在私たちがどういう考え方を持っているかと申しますと、一つは、やはり住みかえができるならば大変いいと思うんです、安くていいところへ住みかえできることはいいと思います。しかし、残念ながら、大阪は御存じのとおり、今申しましたように敷金が家賃の十カ月分あるいは六カ月分、こういうことですから、敷金に対する助成は全くないわけでありますので、すぐにその資金を確保することはかなり困難であります。
 それからもう一つは、高齢者がたやすく住みかえることが果たして可能なのでしょうか。それから同時に、仮に住みかえたとしても、その方の生活基盤は改めてつくり直さなければならぬという苦痛感があります。そういうことから考えますと、生活環境を変えることが高齢者にとってよくないというのは、これは学説でも実態調査でもはっきりしておりますので、余り住みかえを勧めるということは私はしておりません。むしろ、高齢者に向けて公的に家賃補助制度をもっと充実させる必要が私はあると思っております。
 以上です。
    〔園田委員長代理退席、委員長着席〕
左藤委員 わかりました。
 それでは、高村参考人に一つお伺いをしたいと思います。
 先ほど一九九八年の会社更生法の云々で、組合が無事再建をし、その間いろいろ競売の問題、外資系の問題含めてお話がありましたけれども、この中で最後におっしゃった、一番大事なことだと思いますが、労働組合を保全処分の対象から除外することが明文化されておりません、これをはっきりした方がいいと先ほどおっしゃっていました。これは労働組合全体としてのお考えだと思うんですけれども、それをもう少し詳しく、根拠も含めてお話を聞かせていただきたいと思います。
高村参考人 先ほど私どもの中で実際に起こった事例を御紹介申し上げましたが、金融機関が持つ不良債権処理の加速化というのは、まさにこれから始まる問題だろうというふうに私は思っております。そういう中で、私どもの先ほど申し上げたようなケースが今後起き得る可能性も私は十分にあるだろうというふうに思っております。
 そういう中で、労働組合が中心となって会社の再建を図ろうというときに、私はすべて外資を否定しているわけではありませんが、例えば外国の債権回収会社が債権を買い取って、しかも、そういう業者というのは、企業を大きく育てて将来の収益から投資したものを回収しようという考え方は全くございません。やはり、すぐにその土地なりを売って資金を回収する、こういう考え方が非常に強いわけでありまして、そうした業者がどんどん参入することによって、本来であれば十分再建可能な企業であっても、その再建の芽がつぶされてしまう、私はこういう危険があるのではないかというふうに考えております。そういう意味では、労働組合の正当な行為については、やはりこの保全処分からは対象除外にする、そういうことは、やはり多くの技術を持った企業を再建につなげていくという意味でも必要ではないか、こういうふうに考えております。
左藤委員 時間になりましたので、失礼します。どうもありがとうございました。
山本委員長 山花郁夫君。
山花委員 民主党・無所属クラブの山花郁夫でございます。きょうは、参考人の皆様、貴重な御意見どうもありがとうございます。
 まず、船越参考人にお伺いをしたいと思います。
 短期賃貸借の問題ですけれども、現行の法制度のもとで、短期賃貸借が競売になったとしても対抗できるかどうかというのは抵当権の設定の前後で分けられて、抵当権設定前であれば、期間の問題もありますけれども、対抗できると。これは法律の理屈の上ではよくできた話なんですね。つまり、抵当権設定者は賃借権があることを覚悟してその分しかお金を貸さないんだから。一方、抵当権におくれた賃借権のケースだと、もう既に抵当権設定者は賃借人に勝てることを前提として貸しているんだからということです。それを聞くと、ああなるほどと思ってしまうんですが、ただ、実態としては、むしろ法律の大原則というのは、お金は借りたら返さなきゃいけないわけですから、抵当権がなくなるのが本当は原則だと思っています。
 そうやって考えてみると、実は、抵当権の設定の前後ということで分けている現行の制度も問題があるのではないかと思う反面、今回の法改正では、そういう前後ということではなくても、正当なものであれば三カ月と。この三カ月は保護されるという理由について、立案している法務省の方では、大体三カ月ぐらいあれば引っ越しとかもできるんじゃないでしょうか、こういうような認識なんですけれども、実際の現場の皆さんの御意見として、この三カ月で果たしてどうなのかということについて、御意見をいただきたいと思います。
船越参考人 お世話になります。
 私は、基本的に短期賃貸借制度そのものが借地借家人にとっていいのか悪いのかというのをいつも考えている一人です。
 と申しますのは、安心して住み続けられるということが善良な借家人にとっては最大の目的であります。そう考えますと、三カ月であろうと三年であろうといずれ住みかえを強制的に、全く無実の者が強制的に追い立てられるような、そういう仕組みが住宅問題を考えるときに果たしていいのかどうか、こういうことを常に考えております。
 そういう視点から考えますと、先生から今御質問ありました、三カ月で住みかえが可能なのかどうかとか、あるいは抵当権設定前後の差が果たしていいのかどうかとか、こういう問題についてはいろいろな論議があると思います。
 少なくとも、三カ月ではお年寄りはそういう住みかえの段取りはできません。それから小学校とか中学校、あるいは学校教育を受けているような家族が三カ月間で転宅しなさいということを考えましたら、その家庭の大きな生活リズムを変えていく、生活環境、条件を変えていくことの弊害をどう解決するんでしょうか。
 そういうことを考えましたら、やはり住みかえを強制的にさせるというような仕組み自身に私は問題があると思っています。
山花委員 新川参考人にお伺いしたいと思います。
 きょう陳述されたのは別の論点でしたけれども、今回のこの短期賃貸借の問題で、大家さんが破産してしまったようなケースで、抵当権がついていて、それが実行されると三カ月の間に住みかえなければいけないケースが出てくるというものが内容になっています。
 ところで、お年寄りというのも一つのグループだと思いますけれども、それだけではなくて離婚された女性なんかでも、保証人を立てろとかなんとかいう話が出てくると、なかなか家が借りられないなんという話も聞いたことがあるんですけれども、そこら辺は皆さんのお仲間の中でそんなような話というのは出ていたりとかするんでしょうか。もし御存じだったらお話しいただきたいと思います。
新川参考人 住宅の問題というのも、一人親家庭が抱えている問題の中の大きな問題の一つです。三カ月で退去しなきゃいけない、そのときに、物件を探さなきゃいけないわけですよね。それはやはり非常につらいと思います。
 今現状は、やはり母子家庭に部屋を貸してくれる大家さん、不動産屋さん、非常に少ないのが現状です。
山花委員 ありがとうございます。もう一問、新川参考人にお伺いしたいと思います。
 先ほど、今回の改正は小さな小さな一歩であるという表現をされましたけれども、恐らくそうなんだと思うんです。つまり、今回のは執行法のことですから、ちゃんと養育費の取り決めがされていて、かつ払う相手方も資力があって、それに対して訴えを提起したケースですから。
 これも当事者の方からぜひお話を伺いたいんですけれども、離婚された家庭の中でも、最近DVなんかで離婚されるケースもあって、そういうケースだと、そもそも養育費の取り決めどころじゃない、ともかく離婚届に判を押してもらうことが先決でというようなケースもあるわけですよね。そうだとすると、恐らく、本当にまさに小さな一歩で、そういう家庭には全く今回の法改正というのは影響がないんだと思うんです。
 先ほど、スウェーデンだとかいろいろな国では、国がかわりに取り立てるところもあれば、国が支給して、その分のお金を社会保険庁から相手方の、パートナーの方から取り立てるという制度があったりとか、そういういろいろな制度があると思いますし、それだけではなくて公的な形での援助というものも必要かもしれない。
 もっと言えば、相手方の方、ちゃんと払っている人に対してはそれなりの所得の控除なりで検討しなきゃいけないとか、いろいろあると思うんですけれども、今回は一つの小さな一歩であるとすると、もうちょっと全体としてこういうことを検討してほしいというところがあったら、ぜひこの機会にお話しください。
新川参考人 今先生がおっしゃられたとおりだと思います。
 この養育費の問題というのは非常に難しいなと感じておりまして、ドメスティックバイオレンスが絡むと、やはりもらいたくないと言われる女性がすごく多いです。
 海外の事例等で言うと、私はちょうどきのうアメリカのドメスティックバイオレンスの事例を見てきたんですが、やはり国が間に介入して、面接交渉権も、警察官が立ち会いをする等をしてNPOがそこに介入して行うとか、もちろんそこに養育費の問題も発生するので、そこを国としてきちんと確保してあげる。払えない人には立てかえ制度があったりとかということが進んでいます。
 日本は、ここに来るまでやはりそういうところが整備されていないということが非常に問題だと思っていまして、離婚時にも、親権というのは取り決めをしないとできないんですが、一番考えなきゃいけない子供の問題、子供たちが本当に健全に育成されていくためにその先どういうものがあったらいいのかであったりとか、あと、やはり子供たちというのはすごく親に愛されたいんです。離れている親の愛情を確認できる一つが養育費だと思っていますので、金額の問題だけではなくて、そういう意味でも、これは本当に大きな問題としてとらえて考えていかなくてはいけないのではないでしょうか。
山花委員 高村参考人にお伺いしたいと思います。
 先ほど、会社が倒産というか、事実上の倒産なんでしょうか法的な倒産なんでしょうか、その辺はちょっと正確にはわからなかったんですが、そういうケースでも、組合の方で一生懸命頑張って再建されたという、大変すばらしい事例だったと思うんです。
 改めてお伺いしますけれども、こういったケースで、実際、職場が従前の形で、法律的には占有しているという形になるんでしょうか、その中で協定を結んで再建に向かって努力していった。ところが、今回の法律をそのまま読んでそのまま適用すると、会社側どころか第三者に対抗できるなんておよそ考えづらいわけですよね。その点を正当な組合活動に対してはしっかりと、できれば法律の形ではっきりさせてほしいという話だったと思うのですけれども、その点について、改めて。
 つまり、全部が全部うまくいくケースとは限らないですよね。幾ら組合が頑張って再建計画を立てて、でも、場合によっては、場合によってはという言い方は失礼ですけれども、ちゃんとやはりうまくいくケースもあって、ただ、再建に向けて労使ともに一生懸命頑張っているという、これは本当に今、不良債権処理だ何だいっても、やはり立ち直れるところのチャンスは確保したい、それは組合としてというだけではなくて、やはり日本の経済にとって必要なことではないか、そういう趣旨で受けとめてよろしいですね。
高村参考人 もう詳しくは申し上げませんが、そのとおりでございます。
山花委員 これは再建に向けて頑張ったというケースですけれども、それだけではなくて、今回の全体としての倒産法制の見直しの中で、労働債権の確保をどうしていこうかという問題があります。
 民法の個人給料の先取特権について六月という期間を外して、外したのはそれはそれでいいんだと思うんですけれども、実際それを確保しようとすると結構手続の点で大変であったりとか、先ほども少し参考人と午前中議論させていただいたのですけれども、つまり、それを先取特権として実行しようとすると、その証明がすごく困難ですよね。
 そもそも、自分の賃金が幾らあるのかわからないケースだって労働者の側はあるわけで、つまりは残業代、今までどういう形で払われていたのかとか、そもそもついているのかついていないのかとか、賞与分まで入るとどれぐらいあるのかわからないケースもあって、証明せよといってもなかなかできなかったりとか。
 ただ、もっといえば、それで一生懸命手続をとっていって、もう本当に落ち穂拾いのような債権を集めて、さあ、やっとこれぐらい取ろうかと思ったところ、どんと国税が来て全部パアになってしまうなんという話も聞くわけです。本来的にはこの先取特権というのはもう少し、民法上の地位だけではなくて、国税なども含めて確保するということが必要ではないかと思うのですけれども、その点についての御意見をいただければと思います。
高村参考人 今さら申し上げる必要もないかと思いますが、労働者というのは、ある企業に勤め、唯一そこから家族を含めた生活の糧を得るという、それ以外に収入の道はない、こういう立場にあるわけであります。そういう意味でいいますと、一生懸命働いた、しかし経営破綻をして倒産をする。しかし、今先生がおっしゃられましたように、法律上は公租公課が労働債権に優先する、こういうことで、結果として労働債権のかなりの部分が確保できなかった、こういう事例もございまして、そういう意味からいいましても、私どもとしては、やはりたとえ労働債権の一部であっても、そうした公租公課、あるいはもっといえば別除権に優先する、こういうことが法律上、措置が必要ではないか、こんなふうに思っております。
山花委員 我が国はILOの百七十三号条約についてまだ十分な取り組みがなされていないように感じておりますが、この一七三号条約は労働者の労働債権の保護条約ですけれども、この点について、政府に対して、どういう取り組みをすべきだとお考えでしょうか。
高村参考人 例えばフランスなどでは、正確な数字を忘れましたが、たしか九カ月分ぐらいでしたか、これは別除権、公租公課、すべてに優先をする、こういう法律上の明記がございます。そういう意味でいいますと、私ども、実際さまざまな倒産にかかわって感ずることは、他の先進諸国に比して法律上の労働債権の位置づけがやはり低いのではないか、こういう認識を持っております。そういう意味では、やはりILO条約の早期批准を望むところであります。
山花委員 時間が参りましたので、終わります。どうも貴重な御意見、ありがとうございました。
山本委員長 上田勇君。
上田(勇)委員 公明党の上田勇でございます。
 きょうは、三名の参考人の方々には大変貴重な御意見をいただきまして、まことにありがとうございます。三名の方々に御発言をいただいた内容なども踏まえまして、若干、確認も含めて、教えていただければというふうに思いますので、どうかよろしくお願いをいたします。
 まず最初に、船越さんにお伺いしたいというふうに思うのですが、きょうのお話を伺いまして、居住の権利、それから安定性、それが重要であるということは、そういう認識については私もそのとおり理解するものでございます。
 そこで、現行のこの短期賃貸借の法制度の場合でも、競売にかけられますと、定められている期間が建物では三年が最長なんですかね、ですし、ほとんどの場合はそれよりも短い期間で実際は対抗できなくなるわけなんですけれども、そうなりますと、きょう承った御意見というのは、今の制度でもやはり不備があるんだ、むしろ、今回の法改正によって生じた不備というよりも、現行制度をもっと居住者の立場で改めていかなければいけないという御主張だったというふうに承ったのですけれども、そういうような考えでよろしいのでしょうか。
船越参考人 日ごろはお世話になっております。ありがとうございます。
 私は、二つの面でそのことは考えております。
 既存の契約においても、抵当権が設定されている建物とわかれば、借家人は非常に居住不安におびえるわけです。いつどなたのものになるのか、こんなこともあるわけであります。それから、これから契約をなさる借家人、この場合はどうなのか、恐らくそのことを先生はおっしゃっておられたのだろうと思うのですね。
 これから賃貸契約を結ばれる場合は、不動産業者、仲介業者がきっちりこの短期賃貸借についての性格や将来的な状況を説明すれば、恐らく、契約を結ぶことについては非常に、ある程度覚悟をして結ばなければならない、そんな状況が生まれます。その場合は、確かに居住不安、将来不安、あるかもしれませんが、自覚しているわけですから、まあある程度やむを得ないかなというような思いもします。
 しかし、現状を考えましたら、大半はそんな説明もありませんし、あるいはそういう認識もありませんし、そういうような知識も当事者にはないと思います。
 以上です。
上田(勇)委員 今お話があったように、実際に賃貸借をしている借り手の方というのは、そういうことを余り考えずに、その物件が抵当権が設定されているのかというようなことも特に考えることなしに契約をしているということはもうそのとおりだというふうに思います。
 そういう意味では、やはり現行の法律においても実はそういう不安定な部分があるということを、これまでは抵当権が執行されるというようなケースというのがそれほど一般的ではなかったので余り意識することもなかったけれども、実は非常に不安定な状況にあったんだということだというふうに承りました。
 そうすると、今回の法改正の中でもう一つ、これは抵当権者の同意によって賃貸借に対抗力を与える制度を新しくつくるというのがございます。そうすると、現状でも非常に不安定な部分がある、ある意味では、一つ新しい制度をつくって、それは安定性を向上させる、居住の安定性を改善するという意味では私は評価できることだと思うのですが、問題は、それが本当に有効かどうか、実効性があるかどうかという点じゃないかというふうに思います。
 実際にそういうような契約を結んでいる方々で組織されている団体の船越さんの立場から、この新しく創設された制度、もちろんこれはすぐに全部が有効に働くということではないかもしれませんが、期待できるものなのかどうか、その辺の御認識を伺いたいというふうに思います。
船越参考人 今先生がおっしゃったように、有効に働くかどうかといいますと、有効にはそう働かないというふうに思っています。
 なぜかといいますと、抵当権者は多分金融機関です、大方の場合は。一般借家人は、銀行との関係というのは、信頼関係はそう深くあるわけじゃありません。しかも居住用がほとんどですから、そういうものに抵当権者である金融機関が同意するとは思えないわけです。大企業で収益性を上げるような、そういうテナントであればあり得るかもしれません。しかし、残念ながら、一般庶民はそういう力がありませんので、同意が得られるような条件は極めてまれだろうと思っています。
上田(勇)委員 ありがとうございました。本当はその辺もうちょっと伺いたいところでもあるのですが、ちょっと時間の関係があるので、次に移らせていただきます。
 新川さんにお伺いをいたします。
 ここに、これは調査室でつくってもらった資料に新川さんのことが掲載されている毎日新聞の記事も入っているんですけれども、この記事も含めてちょっとお伺いをしたいんですけれども、先ほどの御意見の中で、NPOのウィンクで調べたところによると、養育費を期限どおり全額受け取っている、約束どおりに全部履行されているのは二八%にすぎないというお話がございました。この記事の中にも、新川さん御自身もこれまで実はちゃんと取り決めをしながら受け取ることができなかったということが書いてございます。
 今回、この強制執行の手続、若干利用しやすいという方向で改善されたというふうに私は思っているんですけれども、そうすると、こういった御自身の経験も含めて、これは取り決めながら受け取れなかったというようなことが、全部を回収することは難しいのかもしれませんが、多少なりとも改善できたであろうかというふうにお考えでしょうか。その辺をお伺いしたいというふうに思います。
新川参考人 小さな一歩とお話ししましたが、ないよりはあった方がいいと思っています。
 私自身も受け取れなくて非常にやはりつらい思いをしておりまして、私がというよりも、子供がやはり父親に愛されているという実感を持てないのが非常に残念だなと今も感じています。
 この法案が通ったら、私もちょっと強制執行を学んで、やるやらないかは別にして、勉強してみたいと思っております。
上田(勇)委員 もう一点伺いたいんですけれども、これはやはりこの記事の中で、ウィンクの調べでは、養育費の取り決めについて、口約束か念書でしかないのが二六%であって、全く取り決めがないというのも一九%もある。そういう意味では、調停とか審判でちゃんとした取り決めとして文書で残っているものの方がむしろ少ないということなんだろうというふうに思います。
 そうした裁判所の調停が成立した事件で、これは裁判所の方で調べているので見てみますと、期限どおり全額受け取っているという人が五〇%になるんですね。だから、やはり手続をちゃんとしてやっていく、ちゃんとそこであらかじめ決め事をしていくということによって、随分と事態は改善されるのかなというふうにも思いますし、せっかく今回、強制手続、若干やりやすくなったとはいっても、最初のところが、前提があいまいだとやはりなかなかしにくいんだろうなというふうに思います。
 そうすると、やはりこういった制度であるとか、そういうデュープロセス、ちゃんとしたプロセスでちゃんと決めておいた方がいいですよというようなことについて、しっかりとした知識、情報がやはり提供される必要があるんだろうなというのを感じたのです。もちろん、皆さんのようなNPOの団体がそういうことに取り組まれているということは非常に評価できることなんですけれども、やはりこれは同時に、行政でいろいろな相談に乗るところだとか、また裁判所だとか弁護士さんなどの司法関係者の方々も、そういった正しい知識、情報といったことをちゃんと知らせていくというような取り組みというのが、そういう努力が必要なんじゃないのかなというふうに思うんです。
 例えば、今最も、そういう当事者の立場に立ったときに、どういったところで情報を提供してもらうのが一番多くの人に正しく知ってもらえるのかなということについて、何か御意見ございますか。よろしくお願いします。
新川参考人 実は、私には養育費問題の十年計画というのがありまして、ちょっと話すと長くなるのですが、ファーストステージとしては、やはり支援者の方の啓発というのを考えております。
 先ほどもちょっとお話ししたのですが、今現在は、やはりないところは取れないよとあったりとか、あきらめの強要みたいなことが一部あるので、そうではなくて、子供のために頑張って守ろうよという支援が必要なのではと思っています。なので、支援者が第一段階ではぜひ頑張ってほしいと思います。
上田(勇)委員 それで、次に高村さんにお伺いしたいというふうに思います。
 きょうお話をいただいた内容とは直接関係ないのですが、高村さんは労働組合の役員でもございますので、この法案の中のもう一つ重要な問題で労働債権の問題がございます。いわゆる労働債権について、今度の法案では、民法の先取特権の被担保債権の種類、範囲を拡大して、基本的には商法の規定と合わせるということで、そういう意味では拡大をしているわけでありますが、それはそれで方向としては評価できることなんだろうというふうに思います。
 ただ、私、従来から連合の皆さんとかから伺っていますと、労働債権の見直しについてはいろいろと組合におきましても検討されていて、また租税債権などとの先後の問題とかについてもいろいろと御検討されているというふうに承知をしているのですけれども、今回の法案に対する評価、またさらに今後の課題として、この労働債権の問題についてお考えがあればお述べいただければというふうに思います。
高村参考人 私ども、連合という立場で、今回の法改正にかかわりましてさまざまな御要望を申し上げてまいりました。その中で、今先生からお話がございました件に関して言いますと、私どもとしては、労働債権の一部を別除権に優先させる、こういう新たな制度の創設だとかいったことも要望として申し上げてまいった経緯があるのですが、そうしたものを除けば、先生今おっしゃられました民法と商法の先取特権の規定の統一化も含めて、私どもはそれなりの評価をしておる、こういう立場でございます。
上田(勇)委員 以上で終わります。
山本委員長 石原健太郎君。
石原(健)委員 今回、短期賃貸借制度が、保護制度が廃止になるということで、最初に船越参考人にお尋ねしますけれども、廃止にはならない方がいいというふうには当然お考えだろうと思うのですけれども、改正になって、それで三カ月は猶予期間があるわけですね、家を出ていくのに。そのほかに、もっとこうした救済措置があればいいのだけれどもとか、お考えがありましたらお聞かせいただきたいと思います。
船越参考人 お答えをいたします。
 私どもは、基本的には短期賃貸借制度そのものに疑問を持っておるわけであります。むしろ、何で抵当権設定前と設定後の差を、善良な借家人に差をつけるのか。
 居住は、定住することを目的にして居住するわけであります。契約も、安定したそういう居住を守るために契約を結ぶわけであります。そうしますと、抵当権があるなしにかかわらず、そのことは基本的に保障されなければならないというように考えています。
 したがって、私は、抵当権があろうとなかろうと、既に抵当権を設定する際に、賃借権が設定されるものという前提が今の賃貸マンションなどはあるわけですから、当然、設定されようとされまいと、賃借権は対抗力があるものだということが一番いいと考えております。
 以上です。
石原(健)委員 明快なお考えをお聞かせいただいて、ありがとうございます。
 それから、今度改正されたとしますと、不動産市場というんですか、借り手はなかなか慎重になって、簡単に借りるのにちゅうちょするんじゃないかというようなことから、不動産市況が下火になるんじゃないかと心配する方たちもいますけれども、そうしたことについてはどうお考えになっているでしょうか。
船越参考人 私は、住まいはいつもいいものを求めていく、これが人間として当然なことだと思います。したがって、借りやすい、しかも、先ほど来申しました、賃貸契約に安定したそういう条件があれば市場は活性化すると思っています。
 以上です。
石原(健)委員 高村参考人にお尋ねしたいんですけれども、組合が一生懸命工場や建物を使って再建しているときに、何で銀行はアメリカの回収会社に売ったか、その辺の経緯がもしおわかりでしたら教えていただきたいんです。
高村参考人 そのある都銀がなぜそうしたかという経緯はなかなかつかめないんですが、私ども、アメリカの債権回収会社と何度か話し合いを持ってまいりました。その中で、アメリカの債権回収会社も先ほど申し上げたある企業についての調査をしておりまして、高い技術を持っているという評価をアメリカの債権回収会社もしておりました。
 ですから、私どもとの話し合いの中では、アメリカの債権回収会社は、日本の銀行はなぜこんな高い技術を持った会社の債権を売却するんだろう、その点についてはアメリカの債権回収会社自身も疑問を持っていたところであります。いずれにしても、私どもは日本の製造業の中間工程を受け持つような業種で成り立っておりまして、やはりそこが弱まれば私は日本経済そのものが弱る。
 要は、資源を買い、あるいはエネルギーを購入するにしても、外貨がなければそれは買えないわけでありまして、その外貨を稼いでいるのはまさに私どもの産業でありまして、やはりそこの衰退が日本の経済を弱めてしまう、そういう思いから、私どもは何としても、技術を持った企業はどんな困難があっても再建しようという、こんな思いで常に対応してまいっております。
石原(健)委員 高村参考人にもう一つお聞きしたいんですけれども、組合の正当な行為は保全処分の対象にするなということをおっしゃっていましたけれども、再建中の会社であれば、それは組合だけじゃなくて、そうした会社が主体になってやっているものであっても、簡単に債権回収会社なんかに銀行が売り渡すというようなことは組合に限らず余りよくないことじゃないかと思うんですけれども、その点はどうお考えになっていますでしょうか。
高村参考人 私どもの中では、先ほど具体的に申し上げた事例のほかにも同じような事例がございまして、ある九州の中小の会社でも、やはりその銀行が持っていた債権を、私が先ほど具体的な事例で申し上げた同じアメリカの債権回収会社にいきなり売却するという、こんなことが特に中小企業の現場では起こっております。
 やはり私は、企業というのは、技術を含めて社会的な有用性があれば、問題点を正せば必ず再建ができる、さまざまな取り組みの中でそういうふうに強く思っているわけでありまして、やはりそうした高い技術を持ったところはつぶさない。これは単に一銀行と一企業との取引という問題を超えて、日本の製造業をどう再生していくかという立場からやはり考えるべき問題だろうというふうに思っております。
石原(健)委員 新川参考人にお尋ねしたいと思います。
 先ほど来質問が出ておりましたけれども、もう一度聞かせていただきたいんですけれども、養育費を期限どおりもらっている人が二八%、おくれている人が一〇%。残りの人たちは、そういう養育費がなくても何とかやっていけるような世の中の仕組みなんでしょうかね。
新川参考人 世の中の仕組みではないです。児童扶養手当も削減されましたので、母子家庭の生活というのは非常に苦しくなっております。
石原(健)委員 調停できなかったり口約束だけしかできなかった人、あと残りの人は、これは何で養育費についてもう少し主張しないんでしょうか。
新川参考人 先ほども、養育費に対しては非常にさまざまな思いがあって、児童扶養手当は本当に皆さん欲しいとおっしゃるんですが、養育費に関しては、人によっては欲しくないという人も実際にいます。
 それは、やはり先ほども出たように、暴力の問題があったりして怖いというのが一つ。それから、やはり大人の非常にどろどろとした感情で離婚をされているので、もう離婚したら縁切り、子供のための養育費というのがやはりなかなか通じない部分があって、そこをうちの団体としても強く主張して運動をしております。
石原(健)委員 終わります。どうもありがとうございました。
山本委員長 木島日出夫君。
木島委員 日本共産党の木島日出夫です。
 三人の参考人の皆さんには、大変実態を陳述していただいて、本当にありがとうございました。
 船越参考人から最初にお伺いいたします。
 先ほどの陳述によりますと、九八年、民間借家が一千百万戸といいますか世帯、そのうち賃貸マンションが九百二十万世帯ですか、九百二十八万戸。これは大体集合住宅あるいは区分所有の高層アパート、そういうものだと考えていいんでしょうか。一戸建てというのはほとんどないと見ていいんでしょうか。
船越参考人 先ほど述べさせていただきました賃貸マンションというのは、集合住宅と見ていただいて結構です。
木島委員 そうすると、建物そのものが、最初から所有者は賃貸を目的として建設したと伺っていいわけですね。
 私も再三この委員会で、もともと賃貸用に建てられた建物については、最初に金を出した金融機関が抵当権をつけるのは当たり前なんですが、その後に賃借人が入ってくるわけで、それはもう想定しているわけですから、家主が破綻をしてしまって競売になっても、貸し主である金融機関は当然賃借人がいることが前提だと考えているわけで、そういう面で、私も、船越参考人の要望にあるように、そういう場合には賃借人の方が強いという法制度で当たり前だと思っているわけです。
 ところが日本では、短期賃貸借、現行法ですら三年しか保障しないというのは法の不備ではないかとすら思っているわけですが、ドイツでは、居住用の賃借権は完全に抵当権者より強いと。立派な法の格言がありまして、抵当権は賃借権を破らない、見事な格言になっているわけです。フランスは十二年守られているんです。
 そうしますと、今回の改正法で三年すら切り捨てられるというのはとんでもないことだと思うんですが、全借連として、そういうドイツ、フランス並みに居住用の賃借権を守れというのは当然だと考えているということでしょうか。
船越参考人 先ほど石原先生からも同じような趣旨の御質問があったように思うんです。
 私は、そのときにもお答えしましたけれども、本来、抵当権が設定されるとかされないとかいうような、あるいはされた後か前かとかいうことではなくて、住めば、そこで契約すれば、抵当権があってその後に賃借権があっても、それは対抗力をずっと持たせるべきであるという考え方を全借連としてはしております。
木島委員 あと、全国九百二十八万世帯の賃貸マンションの賃借契約の実態をちょっとお聞きします。私は、大体二年か三年に一度書きかえをさせられている、更新をさせられているんじゃないかと見ているんですが、現状はどんなものでしょうか。
 一度賃貸借契約を結んじゃうと、それは期間の定めのない永久の賃借契約になっているのか、二年か三年で打ち切られてまた書きかえをさせられてしまうのか、そのときの家賃の増減とか権利金の問題とか、どんな実態なんでしょうか。
船越参考人 先生も御承知だと思いますけれども、今の借地借家法では、あるいは民法で、借家については契約期間は一年以上とすると。そうしますと、今結ばれている契約は二年ないし三年が多いんですが、最近は一年という契約期間がかなりふえてきております。そして、それを回転よくしていくわけであります。その際に、契約を更新する場合は更新料とか礼金とか、あるいは敷金を上積みするとかいう要求が出てまいります。それから、あわせて、契約を再契約する場合は家賃の値上げを要求する、こういうような事態がありますから、できるだけ短くしたいというのが貸し手側の考え方であります。
木島委員 もしそういう短い契約がいわゆる短期賃貸借ということで法律的に固められていきますと、家主が破綻した、建物所有者が破綻をして競売になったら、ほとんど全部吹っ飛んでいくということになるわけですね。大変な実態が日本社会であるということを感じました。
 JAMの高村参考人からお聞きをいたします。
 先ほど来、労働組合が大変頑張り抜いて、中小企業の破綻を乗り越えて、また債権者との折衝も強めて企業を守った、労働債権を守ったということ、大変感銘深く私も話をお聞きしました。
 JAMとして、中小企業の倒産、たくさんあると思うんですね。そのときに労働債権、未払い退職金とか未払いの給料とか、その債権をぎりぎりのところでどう確保するか。必ずぶつかってくる相手は抵当権者だと思うんです。金融機関だと思うんです。そういう場合に、労働債権の確保のために占有して頑張り抜いて、抵当権者に譲歩してもらって未払い退職金をかち取るために頑張るというような場合と、もっと頑張って、さっきの例のように、生産活動を続けて頑張り抜く。最近は余り少なくなっていると思うんですが、両方あると思うんですね。
 そういう場合に、先ほど、日本の金融機関、日本の労働慣行ですと、そういう正当な労働組合の占有あるいは生産活動、それは大体、抵当権者の方といえども手荒なことをしないような慣行が息づいているようにおっしゃられましたね。そんな実態をもうちょっと教えていただけませんか。それがアメリカの会社だと荒っぽくやってくるというのは、ちょっとそういうふうに伺ったんですが、法律ではないと思うんですね。その辺の実態をもうちょっと教えてください。
高村参考人 先ほど具体的に申し上げたようなケースというのは、ここ最近の出来事ではないかと私は思っております。
 従来ですと、倒産をする、まだまだ資産価値もそれなりの評価がされ、仮に破産状態であっても、土地を売却して労働債権をほぼ確保できるという時代もあったんですが、今や資産デフレが続く中で、もうオーバーローン状態。そういう中で資産を売却しても、ほとんど労働債権は、よくて四割、五割、こんな状況が私どもの特に中小では多いわけであります。
 そうした中で、これからまさに金融機関の抱える不良債権処理の加速化という中で、先ほども幾つか事例を申し上げましたが、とにかくその企業が持つ技術は一切評価をせず、数字だけを見て容赦なく切り捨てる、こういう銀行の対応には、私は現場を預かる立場として大変憤りを感じているわけでありまして、それが行き過ぎれば、日本の製造業そのものをやはり衰退させてしまう、こういうような大きな問題にもつながっていくわけであります。
 そういう中で、先ほど申し上げたように、アメリカの債権回収会社というのは、とにかく企業を育てて、その将来の収益の中から投資したものを回収しようという考え方は全くございません。買った債権についてはとにかく買い取らせるか、あるいは、その土地を明け渡させて売却をして、そして投資したものを回収していく、こういう立場でありますから、そうしたことを日本の社会の中で許せば、やはり製造業そのものが衰退をしていく、こんな大変大きな危惧を抱いております。
木島委員 これまで民事執行法の改正のたびに、執行を強化するという法改正が続いてきました。社会的に不法な集団が不法に占有をして債権者の権益を妨害するというのはもう当然論外でありまして、そういうのを抑え込むために法改正は当然賛成するが、例えば私が先ほど言いましたような労働組合の正当な占有、労働債権回収のための正当な行為、そういうことに対して、執行法を強化して労働組合を排除していくというようなことはやめるべきだという立場に立って私どもはこれまでも論じてきたわけでありますが、今回の不動産執行法の改正も、非常に危ないわけですね。そういう面では非常に危ないわけでありまして、執行を強めるという観点から正当な労働組合の権益が害されないように、本当は法案そのものの中に入れればいいんですけれども、法体系上難しいという場合でも何らかの歯どめの措置をとっていきたいなとは思っておりますので、また労働組合からもそういう実例をたくさん挙げていただきたいと思います。
 時間も迫っておりますから、最後に新川参考人にお聞きをいたします。
 先ほど来、小さな一歩というお話がありました。私も弁護士の経験がありますから、本当に小さな一歩だと思っています。
 大体強制執行するのは一・七%のみということを聞いて、改めて大変びっくりしているんですが、今回の法改正は、辛うじて、別れた夫がまじめに一つの会社に勤め続けている場合は一回の執行申し立てでずっと将来までそれが続く、何度も何度も執行申し立てしなくて済むという、そのことだけなんですね。そういう意味じゃ本当に小さな一歩だと思うんですが、会社をかわられますとだめなんですね、これ。それから、御要望のように、自営業者の場合は全然だめですね。その辺、どうお感じですか。率直な要望を述べてください。
新川参考人 なので、これをきっかけにして、本当に養育費だけの法案ができるといいなと思っています。必要だと思います。
 具体的には、まず離婚制度なんですが、離婚するときに、今現状は親権の取り決めだけであるというところに問題があると思っていまして、養育費、払うとか払わないとかは別にして、まず考える機会をそこで一つ与えなくてはいけないのかなというふうに思っています。やはり当事者というのは非常に感情的になって、早く離婚したいという気持ちの方が先走るので、そこでやはり制度があって、一度子供たちのことを考えるという制度が一つ必要だと思います。
 養育費の執行に関しても、やはり諸外国の制度は本当にいろいろと整っているなと思っていまして、そういうところを学びながら、取り入れられるところを日本でもぜひ取り入れてほしいと思います。
木島委員 あと一分ほど残っていますから。
 実は、今回の法改正、私もこの部分は賛成なんですが、よく法律を読みますと、「確定期限の定めのある定期金債権を有する場合」と。ですから、毎月々の養育費、これはいいですね。「その一部に不履行があるとき」ということですから、もし一回不履行して給料を差し押さえていく、そうすると、ずっと毎月差し押さえしなくてもいいということになるんですが、どうも下手するとこの解釈で、一たんある月まで不履行が終わる、そうすると、新たな不履行が発生した場合にはまた申し立てしなくちゃいかぬのかなという面倒くさいことに解釈によってはなりかねないので、この辺、我々これからも詰めていきますが。
 私は、会社をかわってしまった場合とか自営業者とか、そういう場合に、一回だけの申し立てで将来安定的に養育費が入ってくるには、例えば家庭裁判所がもう代行してしまうというか、一度不履行を起こしたら、奥さんからの申し立てがあったら将来ずっと家庭裁判所が面倒を見て、それで一定の時期にとまったら家庭裁判所に持ってくるような、そういう安定的な制度を、難しいんでしょうけれども、つくってもいいのかなと思うんですが、そんな提案、どうお感じですか。
新川参考人 ぜひその辺が整備されていくといいなと思っています。ただ、基本的には、制度がないと払えないのではなくて、親なのだから責任を持って払っていけるようにやはり社会が働きかけをしていくことというのが一番大事だと思います。しようがなくて払うというのは、どうもちょっと解せないなと思います。
木島委員 終わりますが、もちろんそうなんでしょうけれども、ふらちな旧夫がいるから法律が必要なんだと思うんですがね。
 三人の皆さん、大変ありがとうございました。
山本委員長 保坂展人君。
保坂(展)委員 社民党の保坂展人です。
 まず、船越参考人に伺っていきたいと思います。
 きょう、そして前回も議論をしていて、私は率直なところ、本来住宅政策の根幹にかかわる問題が、非常に手続法的なところで、しかも大変な利益、不利益の変更があるという、ここを当事者がほとんど知らないまま進んでいっているようなところに危惧を覚えるわけです。
 かつて、定期借家権創設について、私たちも相当ちょうちょうはっし議論をしました。最終的には反対をしたんですけれども、優良住宅がそのような制度を導入することによって大変市場にあふれてくる、競争原理によって安い、いい住宅が出てくる、そしてお年寄りもどんどん貸してもらえるようになるというような、本当にそうなるのかなといって議論をしてきたんですけれども、なかなかそうはなっていないんじゃないかという実態かと思います。そのあたり、どうでしょうか。
船越参考人 今先生がおっしゃってくださいましたように、四年前にもうそろそろなるわけでありますが、定期借家制度が創設される際には、提案者側からは、広くていい住宅が安くて大量に出回って、日本の住宅問題はこれで解決する、そういうスタンスのキャンペーンが張られておりました。しかし、現在は、何らそれは一向に解決していない、むしろ公的な施策がどんどん後退して、住宅そのもの、国民の住宅が市場原理にさらされて、逆に格差が広がってきているというのが実態ではないかと私たちは考えております。
保坂(展)委員 その定期借家権の議論のときにも、例えば年限で切って、一年なら一年、二年なら二年で完全に出る、いわばそこで正当事由などはそこはもうありませんよと、定期借家権という制度の中では。しかし、場合によっては、そのときに妊娠中かもしれないし、病気になっているかもしれないし、事故に遭っているかもしれないではないか、そういう者については、社会的に弱い立場の人については公共住宅でしっかり手当てをしていくんだ、ここの公共住宅のところもなかなか危ういわけですけれども。
 本案に入りまして、船越参考人にもう一問伺いたいのですが、この短期賃貸借制度の廃止によって、現行の附則で、契約ないし更新は保護されるというところが激変緩和措置的な役割なんでしょうけれども、しかし、そうであるにしても、何らかの理由で引っ越しをする、それから転居をして契約を結ぶということについては新しく当事者がどんどん出てくるわけで、実際どのような影響が考えられますか。
船越参考人 はっきりしていることは、住みかえが非常に一層困難になるということであります。なぜかというと、将来展望がないわけでありますから。
 それからもう一つは、住みかえたいとしても住みかえるような能力のない、そういう社会的弱者と称する階層の人たちの住宅事情は一層悪化するであろうというふうに考えております。
保坂(展)委員 ということは、やはり今幸いにしてこういった従来の民法上の正当事由で保護されている物件に住んでいる方は、一たん出るとこれは二度とその権限を使えないということで、流動化はむしろ阻害されてしまうという心配もあるということがわかりました。
 高村参考人に伺います。
 私も労働組合の先ほどのお話は他にも幾つも聞いておりまして、これだけの、不良債権処理とは何かという問題にも絡んでくると思いますけれども、工場を全部売却するとこれは鉄くずにしかならないと言うんですね。その価値を生産する技術を持っている人から見れば無限の価値を生んでいく生産用具であっても、それはそういう目で見なければ鉄のごみにしかならない、むしろ処理費用がかかっちゃうというようなことなので、会社を、組合でみんなで相談をして、旧経営者とも協議をして、そして自主生産していくということを、幾つも成果を上げているという話を聞いているわけです。九六年来、ここの部分はずっと議論になっていまして、労働組合あるいはその他の正当な活動については、十分な配慮がされなければならないというのが九六年の議員立法の提案理由の中で語られておりました。
 先般、この法律の審議で、法務省の民事局長にこの点を確かめたところ、この原則は変わらないんだ、そしてまた、今問題になっているところの保全処分の発令、その場合、正当な労働組合活動がいわゆる価格減少行為、ここに相当してくるかどうかということが問題になるんだろうけれども、ここの部分は、正当な労働組合活動であれば直ちに価格減少行為だというふうにするわけではないというような答弁はいただいているんです。ただ、国会での議論、あるいは附帯決議も含めまして、なかなか、実際の労働現場あるいは倒産のまさに火事場の中でのちょうちょうはっしのやりとりの中で、実態としてどのぐらいいけるのかという不安の声も届いているんですね。
 高村参考人に伺いたいのは、こういった議論を当法務委員会でしているわけですけれども、実感として、今回の法律がもし成立した場合に、今おっしゃられたような自主生産や職場再建の労働者の努力、組合の努力というのは守られる、あるいはそこに影響が出てくる、どんな実感でとらえられていますでしょうか。
高村参考人 結論的に申し上げますと、今のものでまいりますと、やはり私どもとしては大きな心配を抱かざるを得ない、こういう考え方であります。
 いずれにしても、これから不良債権処理の加速化の中で、私が先ほど申し上げたような事例があちこちで出現する可能性があるのではないかというふうに心配をしておりまして、そういう中で、実務上は先生がおっしゃられたような考え方が確立をされていたにしても、それがきちっと活字になっているかいないかでは、やはり大きな問題を生ずる可能性があるのではないか、こんな認識でおります。
保坂(展)委員 そしてまた、この五十五条の保全処分などを決定していく場合において例えば労働組合の活動があったというようなときには、これは審尋を裁判所が行うというように定めてきたと思うんですね。ここら辺の実態は、いろいろな現場に当たられていて、どのように運用されているんでしょうか。
高村参考人 私どもの中でも、銀行が私どもの企業の持っている債権をいきなり第三者に売却する、こういう事例は幾つかあるわけでありまして、そして、その債権を買ったところあるいは銀行が不動産の明け渡しの申し立てをするとか、あるいは工場の土地の競売開始を申し立てるとかいったことがあちこちで起こっておりまして、実務上は、そういう考え方があったにしても、実際そうした問題を個別処理していく段階では、どんどん私どもの考えている方向とは逆のような事象が起こっている、こんな認識でおります。
保坂(展)委員 今回、九十万を超える意見を募集されたということで、労働債権について相当立法過程で議論がされているということで、法務省の、これは中間試案に対する各界意見の紹介というのを読みますと、これは、労働債権に係る先取特権について抵当権にも優先すべきだという、先ほどからも出ていますけれども、それだけの意見がやはり出てきた。にもかかわらず、こういうものは公的機関の立てかえ払い制度ということがあるではないかということで退けられたという経過があります。
 下請中小企業の外注、これは外注費で、労働債権として保全されるどころか、抵当権、先取特権、その下の一般債権に位置づけられてほとんどその回収が困難だ、場合によって、交渉がうまくいって回収される例もあるとは聞きますけれども。
 質問は、公的機関の立てかえ払い制度というのはかなり機能しているものなんでしょうか、労働債権をめぐるやりとりの中で。どうでしょうか。
高村参考人 御存じのように、賃確法に基づく立てかえ払い、その対象に退職金も入っておりますが、現実には改正されて、今二百九十六万でしたか金額は少し忘れましたが、私どもの中で、退職金を外部に保全している、こうしたところはやはり限られる。多くの中小は外部にほとんど退職金を保全していることもない。そういう中で倒産に追いやられ、あるいは社会保険料、税金の滞納の一方である、こういう中で、ほとんど労働債権が確保できずにこの立てかえ払い制度を活用する、こういうケースはたくさんございます。
 そういう意味では、金額的な問題については私どもいろいろ要望があるんですが、少なくともそうしたほとんど労働債権が確保できない中で、最高二百数十万という金額であっても、それを労働債権の一部として活用できるという点ではそれなりの機能をしているんではないか、こういうふうに思っております。
保坂(展)委員 金額の壁も課題だと思いますけれども。
 それでは、新川参考人に伺います。
 小さな一歩であると。本来なら、養育費についてのしっかりした立法を望んでおられるということでしたけれども、その具体的なイメージについて、例えば養育費を支払わないという、意識してというか、意識もしないでということで、これは非常に問題だという父親もいると思います。ただ、給料がどんどん減ってしまって、現実的にもう支払えないんだというケースだとか、あるいは病気になってしまった、あるいはその他の事情で請求のしようがないというケースもあるかと思うんですね。しかし、その場合にも、今少子化対策ということで、子供はこんなに少ない、子供を、次世代を育成するのを支援しようということを政府挙げてやっているわけですけれども、では、そういった養育費について、どうしても当事者が何らかの理由で支払いができないときには、公的に、例えば国やそれにかわる機関が援助をする、しっかり出す、これは子供は社会の財産なんだからという、そういう発想もあるのかなと思いますけれども、その辺のイメージについて一言お話しいただけたらと思います。
新川参考人 養育費については、払わない人と払えない人が確かにいると思います。あとは、払っている人に対する何らかの控除というのも必要だと思います。
 今ないのは、全く考える機会がないというのが問題だと思っていて、まずその場面をクリアして次に進みたいと思っていまして、私も本当にさまざまな意見を聞くので、どこからどういうふうに整備していいかわからないというのが本音で、ぜひここにいる皆さんに、小さい一歩から始めて、一緒に考えていっていただけるとすごくうれしいです。
保坂(展)委員 どうもありがとうございました。これで終わります。
山本委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。
 次回は、明十一日水曜日午前九時五十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後三時五分散会


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