衆議院

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第17号 平成16年4月21日(水曜日)

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平成十六年四月二十一日(水曜日)

    午前九時三分開議

 出席委員

   委員長 柳本 卓治君

   理事 塩崎 恭久君 理事 下村 博文君

   理事 森岡 正宏君 理事 与謝野 馨君

   理事 佐々木秀典君 理事 永田 寿康君

   理事 山内おさむ君 理事 漆原 良夫君

      左藤  章君    佐藤  勉君

      桜井 郁三君    中野  清君

      早川 忠孝君    平沢 勝栄君

      松島みどり君    水野 賢一君

      森山 眞弓君    保岡 興治君

      柳澤 伯夫君    山際大志郎君

      泉  房穂君    枝野 幸男君

      加藤 公一君    鎌田さゆり君

      河村たかし君    小林千代美君

      小宮山洋子君    辻   惠君

      中井  洽君    松野 信夫君

      上田  勇君    富田 茂之君

      西  博義君    川上 義博君

    …………………………………

   法務大臣         野沢 太三君

   法務副大臣        実川 幸夫君

   法務大臣政務官      中野  清君

   最高裁判所事務総局刑事局長  大野市太郎君

   政府参考人

   (司法制度改革推進本部事務局長)  山崎  潮君

   政府参考人

   (総務省自治行政局選挙部長)  高部 正男君

   政府参考人

   (法務省大臣官房司法法制部長)  寺田 逸郎君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    樋渡 利秋君

   政府参考人

   (法務省矯正局長)    横田 尤孝君

   法務委員会専門員     横田 猛雄君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月二十一日

 辞任         補欠選任

  上田  勇君     西  博義君

同日

 辞任         補欠選任

  西  博義君     上田  勇君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案(内閣提出第六七号)

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出第六八号)

 総合法律支援法案(内閣提出第六九号)

 刑事訴訟法の一部を改正する法律案(河村たかし君外四名提出、衆法第一九号)


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     ――――◇―――――

柳本委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案及び総合法律支援法案並びに河村たかし君外四名提出、刑事訴訟法の一部を改正する法律案の各案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 各案審査のため、本日、政府参考人として司法制度改革推進本部事務局長山崎潮君、総務省自治行政局選挙部長高部正男君、法務省大臣官房司法法制部長寺田逸郎君、法務省刑事局長樋渡利秋君、法務省矯正局長横田尤孝君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局大野刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。辻惠君。

辻委員 民主党・無所属クラブの辻惠でございます。

 昨日は、河村たかし君外四名提出、衆法第十九号の刑事訴訟法の一部を改正する法律案について御審議いただきました。

 この法案が何よりも今日必要な意味につきましてはきのうの答弁で各答弁者から明らかにされていると思いますが、今、裁判員法案そしてまた公判前整理手続を導入する刑事訴訟法の一部改正法案が審議されておりますけれども、これと不可分一体のものとして今の日本の捜査のありようが変革されなければ、本当の意味においての日本の刑事司法の改革というのはできないんだということについて、かなりの部分、きのうは明らかになったものと考えております。

 今後、この問題について、民主党だけではなくて、広く各議員の方々に理解が深まって、この法案がよりよい形で法案として成立するように向かうことを願ってやまないものであるということを冒頭で述べておきたいと思います。

 それで、一点、きのう与謝野委員の方から私に対して御質問がありまして、時間の関係でちょっとお答えできなかった点について補足させていただきたいというふうに思いますけれども、弁護人の役割について、起訴後の弁護人というのは、被告人のために、被告人の利益のためにあらゆる法的なサービスを提供するものであるということはわかるけれども、捜査の段階で、弁護人の役割としては、真実を話すように、そのように慫慂するというのが弁護人の役割ではないのか、このような趣旨の御質問が与謝野委員からありました。

 これに対して、私は、そうではない、弁護人には真相究明の義務はないのであって、むしろ依頼者との信頼関係を築くということが弁護人の役割であり、それを無視して真相究明を慫慂するとなれば、むしろ依頼者との関係で倫理違反になる、むしろ、逆に弁護士倫理に問われる問題ではないのだろうかというお答えをしました。

 その点をもう少しかみ砕いて申し上げますと、家族も含めて、重大な犯罪が生じた直後は、被疑者に対して非難を浴びせかけるわけであります。その意味におきましては、最も身近な家族を含めて、国民のみんなが被疑者に対して理解を示さない、そういう状態になる。全くこの世界の中でただ一人孤立無援の状態に置かれる、そのようなときに弁護人の果たす役割は何なのかということが、申し述べたいことであります。

 そのときに、国民の多くの人々や、また真相究明を求めるいろいろな立場の人と同じく唱和をして被疑者に接見に入って対応することは、これは弁護人としての役割ではない。歴史的に認められてきた異端の弁護ということが近代社会の本当に不可欠な弁護人の役割であるということにかんがみれば、被疑者の横に並んで、本当の、気持ちを和らげ気持ちを聞き出し、かつ、あなたのその意味では言い分を全面的にきちっと受けとめる、そして適切なアドバイスをする人間として自分がいるんだよと、そういう信頼関係をかち取るということが弁護人の役割である、そのことを、昨日少し言葉足らずでありましたので、きょう冒頭で補足させていただきたいというふうに思います。

 そして、けさの新聞報道によりますれば、裁判員法案そして公判前整理手続の刑事訴訟法の改正法案について、成立へというふうに、今国会で成立へ、今週中にも衆議院を通過する見通しであるという報道がなされております。

 私は、裁判員法案についてもまだまだ審議が足りないと思いますし、それよりももっと根本的に日本の戦後の刑事裁判のあり方を変える刑事訴訟法の改正、公判前整理手続の問題点についてもっともっと審議がなされなければならないという考えを、今もってなお持っております。ただ、いろいろな手続の中での推移でありますから、私も政党人の一員として、事態は事態として受けとめたいというふうには思いますが、参議院なり、いろいろな場面において、もっともっと審議が尽くされなければならない問題があるということをあわせて述べさせておかせていただきたいと思います。

 そこで、このような戦後の刑事裁判の大きな制度の枠組みを変える重要な法案が、今衆議院を通過しようとしている、させられようとしている。このような時点にあって、これは、司法制度改革推進本部に小泉首相が本部長として就任をされ、司法改革と称して提出されている法案であります。この法案を提出する小泉内閣の側の、その意味では責任というものは、重大な問題があります。そして、その小泉内閣を両輪の一輪として支えておられる安倍晋三幹事長もまた、この提案を提案されるとするのであれば、みずからに、人からいろいろな批判なり、いろいろな問題点が指摘されるとすれば、それに対してきっちりと答えていく、そういうような姿勢をお持ちになってこそ初めて、この法案を提出する提出側としての責任者としてのありようなんではないか、このように思います。

 このような観点から、冒頭で、安倍晋三幹事長にかかわる問題、そしてその敷衍する問題について質問をさせていただきたいと思います。

 四月十八日付の朝日新聞によれば、「安倍幹事長の選挙はがき 京大教授、推薦人に」という見出しの記事が出ております。この記事を要約しますと、京都大学教授、評論家の肩書の中西さんが、中西輝政さんであったと思いますが、公職選挙法上認められる選挙運動用のはがきの推薦人に名前を出しているという事実を確認したという報道であります。

 このような報道がなされたという事実について、大臣は認識されておられますか。

野沢国務大臣 報道があったことは存じております。

辻委員 今は独立法人に国立大学もなっておりますが、二〇〇三年十一月、第四十三回総選挙の時点では、京都大学はまだ国立大学であったというふうに考えますが、国立大学の教授が公職選挙法上の選挙はがきに推薦人として名を連ねるということは、何か問題がないのかあるのか、この点は大臣いかがですか。

野沢国務大臣 個別の問題については、私から言及するのは差し控えたいと思います。

辻委員 では、一般論としてお尋ねします。

 国家公務員は、国家公務員法上、政治活動が禁止されております。そして、人事院規則によれば、さまざまな制限事項が定められております。その国家公務員である国立大学の教授が、公職選挙法上の選挙はがきに推薦人として名前を連ねること、このことは、法律的な問題において、一般論としてはどのような問題があるとお考えでしょうか。

高部政府参考人 お答えを申し上げます。

 公選法上は、公務員の地位利用による選挙運動の規制がございます。ですから、この個別具体の事案についてどうだということは申し上げられませんが、公選法上の関連規定として地位利用の選挙運動の規制というものがあるということだけお答えをさせていただきたいと思います。

辻委員 公選法上のビラとして、そうすると、こういうものは一般に配布することは許されるんでしょうか。

高部政府参考人 公選法上法定されておりますビラ、はがき等について、公選法の中で規制されているものに触れない形で配布することは、当然許されるものというふうに考えておるところでございます。

辻委員 そうすると、公選法上の選挙はがきに国立大学の教授が推薦しますという記載があるものを配布することは公職選挙法上許されている、こういうお答えなんですか。

高部政府参考人 お答えを申し上げます。

 公選法上許されている選挙運動手段として認められておりますはがき、ビラ等を配布することは、公選法上許されるわけでございます。それについて、他の規制あるいは公選法の規制に触れて罰則はどうなるかということは、また別途の問題としてあろうかと思います。

辻委員 おっしゃっていることはわかります。記載したことについて、個人の責任が同時に問題になるかどうかということをおっしゃっていると思うんですが、公職選挙法上、しかし、そういう国立大学の教授が推薦人として名を連ねる、そういうはがきを配布することは公職選挙法上問題はない、公職選挙法上は違反であるとか抵触する問題はないんだ、こういうお答えなんですか。

高部政府参考人 個別具体の事案について、それが法律の規定に反するか否かということについてお答えは私どもとしてしかねるところでございますが、先ほど来申し上げておりますように、公選法上選挙運動手段として認められたものを配布するということ自身は、公選法上当然許されているというふうに思っております。

辻委員 そうすると、個人的な責任の問題はともかくとして、国立大学の教授が推薦しますということが記載された公職選挙法上の選挙はがきは、公職選挙法上は特に問題にはされない、つまり、配布されたとしても、これは回収しなくてもいい、それは配布すれば配布得、いわばまき得である、こういうことなんですね。

高部政府参考人 御指摘がございました具体的事案が公選法上の各種の規制についてどういうふうに評価されるのか、これは私どもとして、個別の問題についてお答えはいたしかねるところでございます。

 ただ、先生御指摘は、公務員の地位利用による選挙運動の規制との絡みを念頭に置かれておっしゃっておられるのか、その辺わかりませんが、公選法上は、選挙運動手段として認められたはがきについては、当然枚数制限等々ございますけれども、その範囲内で配布することは公選法上認められている。ただし、その選挙運動手段として認められた手段で運動したことが結果としていろいろな禁止規定にどのように触れるかというのは、その後の問題として議論はあり得ることだ、これは一般論でございますが、こういうことだろうと思っております。

辻委員 そうすると、今のお答えによりますと、公職選挙法上配布が認められている選挙はがき、例えばこれは三万五千枚とか認められております。証紙が張ってあって公職選挙法上認められるはがきであれば、その内容の記載は問わないで、それは配布自体は公職選挙法上は何ら問題が生じない、問題が生ずるとすれば別の問題である、それを配布するまたは承諾した人の個人が何らかの法律に抵触するかどうか、そういう問題なんだ、こういうお答えですね。

高部政府参考人 公職選挙法上は、その内容について、いかなる内容になっているかというのを事前に規制して、それを制限するというような体系になっておりませんので、公選法上の認められた手段の中で配布することは、当然、公選法として認められているというふうに考えますが、無論、その配布した内容によって公選法なり他の法令に基づいてどのように評価されるかというのはまた別途の問題としてあり得ることだ、一般的にはそのように考えます。

辻委員 そうすると、公明正大な選挙というふうに言われていても、ある意味では、その選挙はがきの記載について、だれか個人的に、何らかの法律に抵触すれば個人的にそれはその人が責任を引き受けるということで覚悟して臨めば、どんな内容のはがきであっても公職選挙法上は配布して問題がない、別に回収をしなくても何ら問題がない、こういうことなんですね。

高部政府参考人 公選法上問題がないという評価の意味合いがちょっと問題になろうかと思いますが、公選法上は、一定の枠内で選挙運動手段として配布が認められているといたしますと、それを事前にその内容によって規制するというような体系をとっておりませんので、それは選挙運動手段として頒布するということは公選法にのっとった選挙運動としてやられるものだというふうに思っております。

 ただし、その内容によって、そのことが別途あるいは公選法の中でのいろいろ各種規制についてどのような評価がされるかというのは、これは、今の配布手段として認められているということと、それから、中身がどうでそれをどういうふうに措置するのか、これはまた別途、二つの問題であるのではないかというふうに考えているところでございます。

辻委員 おっしゃっていることは、整理してよくわかります。配布自体は、公職選挙法上認められる選挙はがきであれば、配布すること自体は問題がないということをおっしゃっている。

 私は、そうすると、内容のいかんを問わず、例えば、内容に問題があるものであっても、それはまいてしまえばまき得であって、それについては問われるのは政治責任である、そのようなものをまいたことについてどう真摯に問題をとらえてどう対処するのか、そういう政治責任の問題だ、こういうことなんでしょうか。

高部政府参考人 先ほど来お答えいたしておりますように、配った態様によって、それが法的にどう評価されるかということは当然あり得るわけでありまして、選挙運動用はがきに虚偽の内容を記載すれば、虚偽事項公表罪といったような罰則が用意されているわけであります。

 特に、公選法の罪に該当いたしますと、これは当選無効、これは候補者本人がした場合には当選無効あるいは一定の罰則というのはもう用意されておりますので、今先生御指摘の部分が必ずしも明確ではございませんが、態様によって、法律的な罰則等々、あるいは選挙の効力といいますか、当選の効力に及ぶ、あるいは民事的な責任関係というのがまた別途生ずる、あるいは他法令、いろいろな態様があり得るのではないか、かように思うところでございます。

辻委員 まあ、虚偽記載で公選法違反に触れるかどうかという個人責任の問題等が生じるという問題はとりあえず置いておいて、そのような、例えば虚偽記載のものであったとしても、公選法上認められている選挙手段であるんだから、それの配布は、特に公選法上、個人責任の問題を除けば問題がない、そういう御回答を先ほどから繰り返しておられますけれども、これは、こういう国政選挙、公職選挙を運営する、管理する立場にとって、それを調査する必要はないんですか。

高部政府参考人 形式的な部分で、私どもにお届けいただくものについて審査させていただくことは物によってございますけれども、基本的には、選挙運動なり政治活動というのを私ども政府等が事前に規制して、その内容がこうであればこういう運動はいけないというような体系には基本的にはなっていないもの、かように考えているところでございます。

辻委員 そうすると、例えば、虚偽記載の選挙はがきが配布された、そして、その虚偽記載が、その個人が刑罰の問題とか等々の問題になるということはあるけれども、そういう虚偽記載の公選はがきが印刷されて配布された事実については、選挙管理委員会なり、選挙を主催する、主催というか選挙を運営する立場の方々は、特に、調査をしたり、それについて今後それを抑止していくような手だてを講ずるための措置を講ずるなり、そういうような問題意識を持った調査というのはされないのですか。

高部政府参考人 政治活動とか選挙運動について、私ども政府がその内容等について事前規制するということはいかがかという考え方のもとに今の体系は成り立っているというふうに考えておりますし、なおかつまた、私どもの選挙管理にといいますか、選挙事務に従事する者が、そういう、特に犯罪事実に該当するかどうかといったようなことを事前にあるいは事後でも内容を調査して対応するというのは、今の体系上そうなっておりませんし、また、そのようなことが今後とも可能だというふうには現時点では考えておらないところであります。

辻委員 そうすると、虚偽記載の選挙はがきについては、先ほども指摘しましたけれども、そういうものを作成した個人が何らかの法律に抵触するということで問擬される可能性はあるにせよ、そういうはがきを作成して配布すること自体はとりたててとどめる手段がない、今の公職選挙法上、またその運営上、手段は講じられていないというお答えとして理解いたします。

 もし違うのであれば、後で違うということをお答えいただければいいと思いますが、一応その上で、次に進ませていただきたいと思います。

 今、その想定している国立大学の教授が、公職選挙法上の選挙はがきに推薦人として名を連ねた、こういう事案を想定しておりますが、この教授がそのような名を連ねることについて了承していた場合は、どのような法律的な問題が生ずるのでしょうか。

高部政府参考人 あらゆる局面を私どもの方で想定してお答えするのはなかなか難しい面がございますが、虚偽事項公表罪ということが一つ公選法にございますので、公選法の中では、行為時にその内容が虚偽であることを認識しつつ、そのような事実を公表するというものが規制されているというふうに考えておるところでございますので、具体的事実に基づいて選挙運動用のはがきにそのような内容を記載したということになりますと、虚偽事実公表罪というようなことは問題になってこないのではないだろうか、これは一般論として申し上げますと考えられます。

 ただ一方で、御指摘の部分が、これはちょっとすべてわからない部分がございますが、もう一つ、公務員が行っていることについてということで御指摘をいただいているといたしますと、先ほどお答えいたしましたように、いろいろな規制はあろうかと思いますが、公務員の地位利用による選挙運動という規制が一つ公選法にはございますので、私どもの所管法の範囲内で言うと、その該当がどうなのかというような議論があり得るのかもしれませんが、公務員の地位利用による選挙運動という概念の中で、これまでいろいろな実例等々の中で私ども理解してまいりますのは、「地位を利用して」ということが選挙運動を効果的に結びつけるというようなことで考えられておりますので、推薦ということで、肩書をつけて推薦人になったということだけで、他の法令については私ども承知しておりませんが、公選法上は、そのことの事実だけで地位利用があったというふうには従前から解されていない、かように考えているところでございます。

辻委員 今の設例で、国立大学の教授が了承していた場合は、候補者側にはそれ自体として抵触する法規はないというお答えだと思います。記載を了承した教授側については地位利用罪に当たるかどうかという問題が一応俎上に上る。これにつきましては、公職選挙法の百三十六条の二に地位利用罪ということで規定があります。

 これは、注釈書によれば、地位を利用というのは、はがきに単に職名を通常の方法で記載することを了承しただけでは直ちに地位利用には当たらないというふうになっております。今のお答えはそういうことでありますが、ただ、そのはがきを地位を利用することが可能だと思われる対象、例えば関係者のところとかに主要に配布するということであれば、やはりそれは地位利用罪に該当するおそれが具体的に生じてくる、こういう理解でよろしいんでしょうか。

高部政府参考人 個別具体の事案については、いろいろな事実を総合的に判断して決められることですので、今先生の御指摘いただいたことについて、直ちにそれに該当するあるいはしないというお答えは難しいところでございますが、先ほど来申し上げておりますように、「地位を利用して」という概念がございますので、当然のことながら、肩書を付したということがあった場合に、すべての事案についてこの条項に該当しないということは当然のことながら申し上げられないと思うんですが、先生お読みになられましたように、私どもの解釈といたしまして、通常の形で単に肩書を付しただけではこの規定に該当することはないというふうに従前から解しているところでございます。

辻委員 その場合に、公選法の百三十六条の二に外形的に該当するかどうか、具体的に可罰的違法性を持った、解釈上これに該当すると言えるかどうかは個々のケースであるというお答えなんですが、そうすると、国家公務員法に基づいて人事院規則が定められていると思いますが、この人事院規則上、何か教授に責任なり何らかの問題が生じるということはいかがなんでしょうか。これは法務省なんでしょうか、どちらでしょうか、お答えいただきたいと思いますが。

高部政府参考人 答弁に立たせていただいて恐縮でございますが、ただいまの国家公務員法等の規制は私ども所管してございませんので、お答えはいたしかねますので、御理解をいただきたいと思います。

辻委員 では、それは別途、別の機会にもう少し突っ込んで伺っていきたいと思いますが。

 では次に、国立大学の教授が了承していなかった場合、この場合には国立大学の教授及び候補者側にどのような法律的な問題が生ずるんでしょうか。

高部政府参考人 これも、すべての法律関係について私がお答えするのは困難であることをまず御理解いただかなければいけないと思いますが、私どもの所管している公選法の中の虚偽事項公表罪との関連で申し上げますと、先ほど申し上げましたように、一定の要件のもとに虚偽の事項を公表した者がこの罰条に触れるという形になっておりまして、この罰条の適用については、これも昨日お答えいたしましたけれども、これまでの判例によりまして、本罪が成立するためには、行為者において行為の当時、公表事項が虚偽の事項であることを認識していたことを必要とするというふうに解されているところでございますので、この規定上、いろいろな諸要素がありますので、一つに絞って断定的にお答えするのは困難かと思いますが、候補者が推薦人に名を連ねることを同意していたかどうかという視点よりも、公表した方がどういう状況のもとにそういう行為をしたのかということがこの条項の適用に関して検討されるべき問題になってくるのではないかというふうに考えているところでございます。

辻委員 公職選挙法二百三十五条一項の問題を今お答えになりましたが、同時に、刑法百五十九条三項、私文書偽造罪に該当することも構成要件上はあり得るということでよろしいんでしょうか。

樋渡政府参考人 犯罪の成否は収集された証拠に基づいて判断されるべき事柄でございますので、法務当局といたしましてはお答えいたしかねることをまず御理解いただきたいというふうに思うのでありますけれども、なお、あくまでも一般論として申し上げますれば、これは委員にとりましては釈迦に説法ということで、なかなか言いにくいことでもございますけれども、私文書偽造罪は、行使の目的で、他人の権利、義務または事実証明に関する文書もしくは図画を偽造した場合に、同行使罪は、このようにして作成された文書等を行使した場合に成立するものというふうに承知しております。

辻委員 公職選挙法二百三十五条一項に該当する場合に告発される例が多いやに聞いておりますが、告発受理の例というのは確認されているんでしょうか。

樋渡政府参考人 お尋ねのことは捜査機関の活動内容にかかわる事柄でありますので、法務当局としてはお答えいたしかねるのでございますが、あくまでも一般論として申し上げますれば、特に選挙違反の事案に限った取り扱いというものがあるわけではございませんでして、告発と言えるためには、特定した犯罪事実を申告してその犯人の処罰を求める意思表示をすることなどが必要でございますので、検察当局におきましては、告発がなされた場合、そのような要件を備えているか否かを検討し、要件を備えている場合にはこれを受理するなど適切に対処しているものというふうに承知しております。

辻委員 県会議員選挙で栃木県で上都賀郡の選挙区の件で告発が受理された例、また下関市長選挙で下関署が二百三十五条一項に該当するとされる告発を受理した件、そしてまた栃木県のこれは河内町でしょうか、の件で告発が受理された例等々、告発状が受理された例はありますが、告発状に基づいて逮捕に至った例はあるんでしょうか。いかがですか。

樋渡政府参考人 検察活動の具体的な例でございまして、そのようなものが受理され、その結果逮捕されたかどうかというものは今把握しておりません。

辻委員 二〇〇二年の十一月に、東京都武蔵村山市長選挙で、二百三十五条一項、虚偽事項の公表罪で市長候補が逮捕された。そして、結論的には罰金三十万円の略式処分を受け、かつ公民権停止四年の処分を受けた。このような事例があると思いますが、この点は確認されていないということでしょうか。

樋渡政府参考人 急のお尋ねでございまして、今把握しておりません。

辻委員 それは、事実、新聞報道されておりますからぜひ御確認いただき、かつ同種の例についてまた御報告をいただきたい、このように考えます。

 そこで、国政選挙で虚偽事項の記載であるという記載罪が成立する場合について伺いますが、これは告発状を受理する管轄はどこになるんでしょうか。

樋渡政府参考人 それは、告発を出される方が告発状を持参された場合に、先ほど申し上げましたような要件が整っているかどうかによって判断されるべきことだろうというふうに思います。

辻委員 そうすると、裁判管轄なりを前提にしないで、全国どこででも、告発状を持ち込めば、具体的なケースがそれに満ちる程度の嫌疑があるということであれば告発状は受理される、そういう理解でいいんですか。

樋渡政府参考人 先ほども申し上げましたが、検察活動の具体的な内容にかかわるものでございますので、法務当局としてはお答えいたしかねるのでございますが、先ほども申し上げましたような要件を備えた告発状が提出されれば、その要件を吟味いたしまして適切に対処をするものと承知しております。

辻委員 では、これは例示としてお聞きいただきたいというふうに思いますが、例えば、その虚偽事項が記載された公選法上の選挙用のはがきが山口県下で配布をされ、そこに推薦人として名前が挙がった国立大学の教授が京都に住んでいる場合、告発状は、別に山口県下の検察庁、県警ないしは京都府下の検察庁ないし府警に届けなくても、東京地検特捜部にしろ警視庁の捜査二課にしても、それは管轄としては、要件さえそろえれば受理する用意はあり得る、こういう理解でいいんですね。

樋渡政府参考人 受理するかどうかといいますことは、まさしく検察活動の具体的な内容にかかわることでございますので、当局としてはお答えいたしかねます。

辻委員 いや、一般論としてお聞きしているわけですから。

 公職選挙法上は、例えば、これは連座制の規定の管轄の問題ないしは公職選挙法違反の刑罰の管轄の問題、これは刑罰については一般原則に戻るだろうと思いますが、一般原則に戻るとすればそれは管轄が限定されてくるわけでありますから、二百三十五条一項に限らず、公職選挙法上の刑罰に関する告発状を受理するのは、それは一般原則による行為地とかいうような管轄に限らないで、全国どこででも告発状としては受理することは可能なんだ、こういう一般論的理解でいいんですね。

樋渡政府参考人 あくまでも一般論として申し上げますれば、告発状の内容が先ほど申し上げたような要件が整っているかどうか検察官が判断した上で、どこの地検でも適切に対処するものと思います。

辻委員 そうすると、そういう虚偽事項の記載を行った者がだれかによってどのような問題が生ずるかということについて伺いますが、その行為者が選挙の総括主宰者、出納責任者であった場合には、これは候補者本人にはその有罪無罪等の帰趨はどのように影響するんでしょうか。

高部政府参考人 公選法の関連でいいますと、連座の関係についてのお尋ねだというふうに理解してお答えさせていただきたいと思いますが、御案内のとおり連座制という規定がございますけれども、連座制につきましては、一定の買収罪等の罪を犯して刑に処せられた場合に、たとえ候補者等が買収罪等の行為にかかわっていなくても、そのような不正行為から得られた選挙における当該候補者の当選を無効とする制度なわけでございます。

 したがいまして、総括主宰者等の連座対象者が買収等の罪を犯して刑に処せられた場合に適用されるものでございますが、虚偽事項公表罪につきましては、この連座制の適用はないというふうになっておるところでございます。

辻委員 公職選挙法上二百五十一条の二の規定する総括主宰者、出納責任者等の選挙違反行為は、二百二十一条、二百二十二条等であれば連座制の問題になるけれども、二百三十五条一項の罪については連座制の適用外であるというお答えだと思います。

 また、公職選挙法二百五十一条の三の組織的選挙運動管理者等についても同じように言えるという理解でいいと思いますが、当選人本人が二百三十五条一項を犯していれば、これはどういう問題が生ずるんですか。

高部政府参考人 公職選挙法第二百五十一条は、当選人が一定の選挙犯罪を犯し刑に処せられたときはその当選人の当選は無効とする旨を規定しているところでございまして、虚偽事項公表罪につきましては、同条が規定する一定の選挙犯罪に該当いたしますので、虚偽事項公表罪を犯して刑に処せられれば、その当選人の当選は無効になる、かように解しております。

辻委員 新聞報道によれば、四月十九日の朝日新聞でありますが、安倍晋三幹事長がお答えになって、これは法令に何ら違反するものではない、問題はないというふうにおっしゃっております。

 法令に違反するものではないというのは、高部選挙部長がおっしゃられたように、公選はがきの内容いかんに問わず、公選法上認められるはがきであれば配布することに問題がないという趣旨で合致するものであろうというふうに考えるわけでありますが……(発言する者あり)不規則発言を注意してください。

柳本委員長 御静粛に願います。御静粛に願います。

 質問を続行してください。

辻委員 戦後の刑事裁判を根本から変える可能性のある、そういう法案を出す、司法改革と称してそれを出している小泉内閣の中で枢要の地位を占める安倍幹事長が、果たして公職選挙法上の問題についてどういう見識を持ち、具体的な問題についてどういう行動をとっているのかということは、やはり提出する側の姿勢を問われる問題である。したがって、法案を審議するに当たって、やはり前提的にそこは確認すべき問題である、このことを私は冒頭で申し上げて、この質問に臨んでおります。質問を続けさせていただきます。

 新聞報道によりますと、この安倍幹事長の問題でありますが、これは、中西夫人に対して、名前を使わせてほしいというふうに電話で申し入れをした、夫人が本人に伝えるのを失念したんであろう、このような報道になっております。

 これはまた、事実関係の問題ですから別途しかるべき場で審議をさせていただきたいというふうに思いますが、夫人にそのように電話をできる人間というのは、相当近しい、かなりそれは安倍幹事長ないしは安倍幹事長に近しい人でなければ、そういうフランクな話し合いができる立場にはないというふうに思うわけであります。

 そういう意味におきまして、安倍幹事長が本人としてそのような電話をしたのか、ないしは、本人でないとしても、安倍幹事長に相当近しい人がそのような電話をしたとすれば、安倍幹事長は、当然、そのような電話をした事実の経過について認識できていてしかるべきであろうというふうに私は考えるものであります。

 その意味におきまして、虚偽事項の記入罪の未必の故意が成立する可能性がある、このように考え、現に告発状を準備しております。この告発状の提出については、具体的に事実関係なりいろいろな問題について、もう少し整理しなきゃいけない、詰めなければいけないと思いますが、このことを申し述べておきたい。法令に何ら違反しないというふうにうそぶくだけでこの問題は解決しないんだ、事実関係を解明してそのてんまつについて具体的に特定する、そのことが必要であろう。重大な法案を提出する内閣の責任者として、それが出処進退を、けじめをつけるゆえんであろう、このように考えます。

 このような事実が事実としてもう少し煮詰まって告発状が提出されるような段階になれば、これは法務省なり総務省としてはどのような行動をとることをお考えでしょうか。

樋渡政府参考人 御仮定の質問に答える立場には当局としてはないものと考えております。

辻委員 私の手元には、安倍晋三さんの公職選挙法上で配布された公選はがきがあります。「明るい未来へ、責任ある選択。あべ晋三は実行します。」という表書きがあり、その下に「あべさんを推せんします。 京都大学教授中西輝政」という記載があります。

 この問題は、単にケアレスミスとかいう問題ではなくて、それについて具体的な釈明責任をきちっとやるかどうかということが政治家の資質として問われているんだということを指摘しておきたい、このように思います。私は、この問題を今後も取り上げる可能性を申し上げておきたいと思います。

 今回審議になっております法案に関して、時間の関係で、午後の時間帯にじっくりと証拠開示の問題についてはさせていただきたいと思いますが、現時点では、訴訟指揮権の実効性の確保ということで刑事訴訟法上問題がなされております。この点について伺いたいと思います。

 刑事訴訟法二百八十九条の関係で、「国選弁護人の選任」、そして、二百七十八条の二の関係で、「命令の不遵守に対する制裁等」ということで、「出頭命令違反に対する制裁」、そして、二百九十五条の関係で、「裁判長による尋問又は陳述を制限する命令違反に対する処置請求」というふうに記載があります。刑事訴訟法等の一部を改正する法律案関係資料によれば、八ページ、九ページで、「訴訟指揮権の実効性確保」というくだりがあります。

 冒頭、私は、野沢法務大臣に、現在の刑事裁判で何か大きな問題があるのかということをお尋ねしたときに、特に大きな問題はないというお答えであったと思います。そのような状況の中で、なぜ今この抜本的な刑事訴訟法の改正案が提案されているのかという根本的な問題がありますが、それはひとまず置いたとして、訴訟指揮権の実効性を確保ということで、わざわざ国選弁護人の選任や訴訟指揮権に基づく命令の不遵守に対する制裁等を盛り込まなければいけない立法事実というのはあるんでしょうか。

山崎政府参考人 この点に関してでございますけれども、前にも答弁させていただいておりますけれども、現在の刑事訴訟法、おおむね順調にはいっているというふうに申し上げましたけれども、やはり個々の問題を見ればいろいろな問題も生じているということでございまして、それをよりよくしようというのが今回の改正の趣旨でございます。

 ただいま御指摘の点につきましては、やはり公判期日の指定をめぐりましてさまざまな紛糾があり、そして出頭に応じないということが現実に生じている。ただ、具体的な事件、どういう事件にということは差し控えさせていただきますけれども、現実に、そういう事態が生じて裁判が相当長引いているということが指摘をされている、こういう立法事実を踏まえているわけでございます。

辻委員 今のは極めて重大な意見ですね。実際、そういう立法事実は私は確認してませんよ。七〇年代の中盤までには、退廷をしたり、いろいろな問題が刑事弁護をめぐって起こったという事実はあります。

 私は、四年間、東京弁護士会の法廷委員会の委員長の職にありました。そのときに、期日指定の問題とか、裁判長の訴訟指揮権の問題について、いろいろな救済の申し立てが弁護士さんからあって、それを審理して、こういう問題点があるんじゃないかということで東京地裁の所長にお会いして、是正改善を申し入れたこともあります。むしろ、訴訟指揮権をめぐる問題は、裁判長の側の強権的な訴訟指揮に問題があるケースも多々あったということを指摘しておきたい。

 今山崎さんがおっしゃいましたけれども、近時もまた、出頭命令に違反して出頭しない、退廷をするような例があるというのは、どのような統計調査に基づいて、何件、そのような事案がいつあるんですか。その点についてお答えください。

山崎政府参考人 具体的な統計はとっておりませんけれども、私ども把握している限りでは、特異な例かもしれませんけれども、最近、やはり出頭をめぐっていろいろトラブルもございまして、順調に出頭していただけなくて、かなり審議が長引いているというものが現にあるということで、申し上げているわけでございます。

辻委員 出頭をめぐるトラブルが仮にあったとして、それがここで言う訴訟指揮権の実効性を確保するという規定をわざわざ導入しなければいけない立法事実であるということは論証されておりません。

 つまり、出頭をするかどうかというトラブルがあったとして、それはどういう原因によって、例えば期日指定をめぐって裁判長が、弁護人のいろいろな都合を無視して、非常に強行的に連続的な期日を指定するということが今までありました。それをめぐってトラブルが生じたことが現にある。そのような場合であれば、それはだれに原因があるのか。法曹三者がそれぞれ協力し合って期日を決めていくというのが原則であって、その中でトラブルといっても、さほど大きなトラブル、根本的なトラブルになっている例は、今、極めてまれな例であると思います。

 しかも、そのまれな例の原因がどういう問題であるのかということについても、これは検証しなければいけない。そうでなければ、ここで言う立法事実があるということで引用することができないじゃないですか。

 訴訟指揮権を強めることだけ、つまり、迅速裁判を確保するために裁判所が弁護人に対して統制権を及ぼす、そのような内容がこの訴訟指揮権に基づく命令の不遵守に対する制裁である、これでは、お互いが信頼関係に立った、協力した裁判ということができないじゃないですか。このような訴訟指揮権に基づく命令の不遵守に対する制裁を導入することは逆行する、裁判長の強権的訴訟指揮を強めるだけである、このように考えますが、いかがですか。

山崎政府参考人 個別の事件でございますから、その訴訟の訴訟指揮に関して不満があるという場合は当然あろうかと思いますけれども、それはそれとして、そういう手続が刑事訴訟法の中に設けられているわけでございまして、まずそれでやっていただきたいということになろうかと思います。それが原則だろうと思います。

 ここで言われているものは、そういうような刑事訴訟法のルールの中では御し切れない、そういうような事態が生ずるというような場合もあり得るわけでございます。そこで、本当に制度的担保として、これは、そういう事態が生ずれば、それぞれその監督するところに、適当な処分をする、処置をとるべきことを請求することができるということでございまして、これはしなければならないということでもございません。することができるわけでございます。

 それからまた、そこで受けた方の側として、これは必ず処分をしなければならないということでもございません。ですから、その原因いかんによっては何もないということは当然あり得るわけでございますが、そういうのは制度的な担保の問題であるということでございます。

辻委員 必ずしもしなければならない、それは当然でしょう。しかし、今問題になっているのは、抜こうと思えば抜ける伝家の宝刀とも言える制度を新たに導入する必要性があるのか。そういう立法事実が現在の刑事裁判の現場において存在するのか。現在の刑事訴訟法の手続の中で十分それは対処できているわけじゃないですか。具体的にこの場で典型的な例を示せないことに明らかなように、現にそのような大きな問題はない。仮に何らかの問題があったとしても、しかし、それは極めてレアケースであって、その具体的な問題点というのは、それは突き詰めて検討してみなければわからないわけです。

 そのようなまれなケースを持ち出して立法事実だと言って、今のこの刑事訴訟法の改正の中で、訴訟指揮権の実効性確保ということで裁判所のある意味では強権をこのように盛り込む必然性、必要性は全くないと私は考えます。

 この刑事裁判の根本的な制度をいろいろなところで変えていこうとする行きがけの駄賃みたいな感じでこの訴訟指揮権の実効性確保とうたって、新たな弁護人に対する統制的な意味を持つ制度が導入されている。このことについて、立法事実が全然きちっと説明できていないというふうに……。

 もう一度お尋ねします。どのような立法事実か、具体的に答えてください。

山崎政府参考人 例はございますけれども、物によっては、現在係属中の事件もいろいろございます。そういう点から、個々の事例について私の方から申し上げるのは適当ではないというふうに思いますけれども、現にそういう事態が生じていて、裁判が相当におくれているというような指摘がさまざまなところからされておりますし、改革審議会の意見の中でも、こういう点については、その事実認識としてはそういう問題が生じているということから取りまとめも行われているということでございまして、それを踏まえて私どもはこの法案を提出させていただいている、こういうことでございます。

辻委員 私は、今回の法案の審議に当たって、憲法上の被疑者、被告人の権利が後退、侵害することがあってはならない。他方で、例えば裁判員制度について、国民の常識を判決に反映させるという政策的目的があるとおっしゃる。それで、この刑事訴訟法の一部改正、では、公判前整理手続の立法目的は何なのか。恐らくこれは、迅速裁判である、争点を早期に整理し、裁判所が主導権をとってやりやすい裁判をつくっていくんだというところに本音があるように思います。

 しかし、それは一方で、被疑者、被告人の権利がかなり弱められていっている。具体的に個々の法案を見れば、いろいろなところで、裁判官の訴訟指揮権が強化される、弁護人の弁護権が弱められている、いろいろな規定があります。

 このような点について、もっともっと検証されなければいけない。それが国会の役割である。憲法上の権利の後退を一歩も認めてはいけない、これがやはり国会の審議のあり方であり、国政に期待される、国民の側から負託を受ける国会の役割であろうということを指摘して、午前中の私の質問を終わらせていただきます。

柳本委員長 下村博文君。

下村委員 自民党の下村博文です。

 私は、きょうのメーンテーマであります総合法律支援法案についてお聞きしたいと思います。

 自民党は、既に平成十年の六月から司法制度特別調査会報告「二十一世紀の司法の確かな指針」という取りまとめを行いまして、国民に身近で利用しやすくわかりやすい司法を実現するための具体的な検討課題を指摘して、そして政府に司法制度改革のための審議会の設置を求めてきたところでございます。これを受けまして政府も内閣に司法制度改革審議会を設置し、平成十三年六月に提出されたこの審議会の最終意見にのっとって、これまでさまざまな司法制度改革関連法案が提出されているわけでございます。

 改革の原点に戻って考えますと、国民が今、司法に対して期待し、そして必要としているのは、使いやすくて、そして頼りがいのある司法ということではないかと思います。

 これまでの司法改革はすべて、このような司法の実現を目指して行われ、平成十五年の通常国会では、国民に最も身近なところにある簡易裁判所で取り扱うことのできる民事事件について、その上限額を引き上げることなどを内容とする司法制度改革のための裁判所法の一部を改正する法律案、こういうことも成立をして、司法へのアクセスの拡充が図られているわけでありますけれども、しかし、根本的なところで、さらに国民により身近な司法にするという改革が必要だというふうに思いますし、そのための司法のより身近な存在ということでは、このアクセス、これの拡充をする、この橋渡し、この部分の改革が必要ではないかというふうに思うわけであります。

 具体的に、司法制度に関する情報を手軽に国民が手に入れることができない。あるいは、だれかに相談に乗ってもらいたいけれども、どこに相談に行ったらいいのかわからない。弁護士、司法書士などの法律の専門家に相談をしたいけれども、身近なところにいないために相談できない。このようなさまざまな問題があるわけです。

 司法制度改革推進本部の本部長である小泉総理も、こういう問題が残されていることを受けとめて、法的紛争を抱えた市民が気軽に相談できる窓口を広く開設し、きめ細やかな情報や総合的な法律サービスを提供することにより、全国どの町でも市民が法的に救済を受けられるよう、司法ネットの整備を進める必要がある、こういうふうに指摘をされているところであり、この司法ネットについては、自民党も一年近く、小委員会を設けまして、精力的な検討を積み重ねてきているわけでございます。

 まず最初に、確認として質問しておきたいと思いますが、今般の一連の司法制度改革関連法案、これは司法制度改革審議会の意見を受けた閣議決定である司法制度改革推進計画をよりどころとしておりますけれども、この総合法律支援法案との関連について、この推進計画はどのような位置づけなのか、まずお答えを願いたいと思います。

野沢国務大臣 今委員御指摘のとおり、平成十四年三月に閣議決定されました司法制度改革推進計画は、民事法律扶助の拡充、それから司法の利用相談窓口の充実、さらには情報提供の強化、被疑者、被告人の公的弁護制度の整備、また法律相談活動等の充実を規定しているところでございます。これらはいずれも司法制度をより国民の皆様にとって利用しやすい、取りつきが容易になるということを目指すものでございます。

 その法律支援法案、今回提案しておりますが、これは、裁判その他の法による紛争の解決のための制度の利用をより容易にするとともに、弁護士や隣接法律専門職者等のサービスをより身近に受けられるようにするための総合的な支援の実施及び体制の整備を行おうとするものでございます。

 委員今お話のありましたように、橋渡しという役割が非常にこれは大事になると思うわけですが、その中核となる支援センターにおきましては、相談窓口業務、民事法律扶助事業、国選弁護人の選任に関する業務、また司法過疎地帯の対策、さらには犯罪被害者支援などの業務を行うこととしております。

 したがって、本法案は、推進計画において規定されている各事項を、その趣旨に沿って一体として実現するものと言うことができると考えております。

下村委員 国民にとって、この日本司法支援センター、これは大変に期待されるものになってくるかというふうに思いますが、本法案によって新たに設立をされるということでございますので、これについてまずお聞きしたいと思うんですが、一般の国民にとって、紛争に巻き込まれた場合、紛争解決制度などについての情報提供を受けるということで、紛争の解決に向けた具体的な道案内をしてもらえるかどうかということが非常に重要であると思います。

 この観点からすると、支援センターが既存の組織、団体と連携協力しつつアクセスポイント業務を行い、そして連携協力を通じて法的な紛争解決に関する情報をこのセンターが収集をし、そして整理された形で総合的な情報を利用者に提供するという非常に画期的なものであるというふうに思います。

 具体的にこの支援センターがどのような情報提供を国民に伝えるということになるのか、お聞きしたいと思います。

実川副大臣 どのような情報提供を行うかというお尋ねだと思いますけれども、支援センターにおきましては、法による紛争の迅速かつ適切な解決に資するように、関係する情報、資料を収集しまして整理した上で一般の利用者に供し、あるいは個別の依頼に応じて提供することとしております。

 具体的には、裁判に関します情報のほか、弁護士会その他の隣接法律専門職者団体に関する情報、さらには交通事故紛争処理センターなどの裁判外の紛争解決制度に関する情報、また地方公共団体でありますとか行政機関の相談窓口に関する情報を広く一般的に提供するほか、利用者の個別の相談内容に応じまして必要な情報を選択して提供することなどが考えられております。

下村委員 それから、大変情報提供を行う支援センターということで、直接行って詳しく聞きたいという方もいらっしゃると思うんですが、一方、いろいろな御都合等によってなかなか窓口まで行けないという方々に対しては、これから、今もう既に高度に発達した情報社会ですから、この支援センターも、情報提供を行う場合にはインターネットによる相談受け付けをするとか、支援センターにおいてのIT技術、これを積極的に活用することによって、自宅からでもアクセスができて情報を受けられるということを期待されている方々も多いのではないかというふうに思いますが、このような対応についてはいかがでしょうか。

中野大臣政務官 委員の御質問にお答えしたいと思いますが、支援センターにおきましては、いわゆる駆け込み寺的な機能といいましょうか、そういうものも含めた相談窓口を設けておりまして、相談の受け付けや情報提供を行っているということは御承知のとおりでございます。

 この情報提供に当たりましては、今委員もおっしゃいましたけれども、利用者のアクセスを容易にする観点から、インターネット等の情報通信技術を活用することを想定しているところでございまして、具体的には、インターネットを活用して、例えば遠隔の地からの方、また体が御不自由で移動が容易にできない、センターに来られない方、そういう皆さんが、今委員がおっしゃるとおり、御自宅とかいろいろな形でもって、このセンターが持っている本来の機能でございます法律相談や情報提供などのサービスを受けられるように、そういう点では今後全力で頑張ってまいりたいと思いますので、よろしくお願いします。

下村委員 インターネットを通じて国民の方からいろいろな相談に乗る、また窓口で相談に乗るということがいろいろ出てくるかというふうに思います。

 こういうふうに紛争に巻き込まれた多くの方からの相談を受け、そして個別の事案に応じて適切に関係機関への事件の振り分けを初めとする情報提供を的確に行う、こういうアクセスポイント業務を担う担当窓口、これは大変に重要な役割だというふうに思うんですね。ただの受け付けではとてもできることではない。そのために、かなりの、それ相応の法的知識、あるいは熟練度、それから相当のノウハウが必要になってくるというふうに思います。

 迅速かつ適切な業務の遂行なくして真の司法へのアクセス障害の解消ということはあり得ないわけでありまして、この辺、この支援センターの窓口担当者、これは普通の窓口担当者とはちょっと違うと思いますし、ここの振り分けでその後の的確な対応が決まってくるというふうに思いますので、どういう人を充てる予定なのか。また、相談窓口業務の知識や、あるいはそういう対応能力等の向上のための方策としてどのようなことを考えておられるか、お聞きしたいと思います。

実川副大臣 委員御指摘の窓口担当者、これは大変重要なことだと思っております。

 その支援センターの窓口担当者には、法曹資格や隣接法律専門職者としての資格を有しないまでも、法律的な素養あるいは実務経験を有する者を充てることが考えられております。

 また、相談窓口業務が実効的に機能していくためには、窓口担当者の技術の向上が重要課題となるものと認識しております。そのための方策といたしましては、窓口担当者に対します研修を徹底するほか、適切な情報提供が可能となるようなマニュアルを作成することも考えられております。

下村委員 次に、この支援センターの業務であります民事法律扶助事業、これについてお聞きしたいと思いますが、さらに重要になってくるというふうに思います。

 司法による紛争解決が今後さらに重要になる中で、紛争解決の数が大変ふえてくるということになりますと、経済的な理由で司法による紛争解決をあきらめることのないようにするための民事法律扶助制度、まだまだ不十分でありますが、さらにこれから、より以上重要になり、また一層の充実が求められるというふうに思うわけであります。

 しかし、現実の民事法律扶助、これは破産事件の対応に追われておりまして、十二分に扶助の需要にこたえ切れていない、こういうことでございます。同じ予算でも、効率的な業務運営を行うことによって少しでも多くの事件に対応できるような仕組みを設けるということが、今回の法案が成立することによって緊急の課題になってくるかというふうに思うわけでありますけれども、このような民事法律扶助事業を効率的に行うために、この法案でどのような仕組みを設けるということになっているのか、お聞きしたいと思います。

実川副大臣 御承知のように、現行の民事法律扶助法でありますけれども、個別の事件ごとに一般の開業弁護士等が法律事務を行い、法律扶助協会におきまして、依頼者が支払うべき報酬、実費を立てかえる仕組みのみでありますけれども、本法案のもとでは、支援センターに属します常勤弁護士等に法律事務を取り扱わせることを可能としております。さらに、支援センターの業務に専従する常勤弁護士等の積極的な活用によりまして、一層迅速で効率的な援助の実施が可能となるものと考えております。

    〔委員長退席、漆原委員長代理着席〕

下村委員 この民事法律扶助制度とあわせまして、公的刑事弁護、これに対する業務についてお聞きしたいというふうに思いますけれども、平成十二年、そして十三年に、自民党の司法制度調査会、ここの報告において、公的刑事弁護制度の整備は、民事法律扶助の拡充と並ぶ二つの大きな柱の一つということで指摘をしているところであります。

 今回の総合法律支援法案では、支援センターの主要な業務として五つ挙げられておりますけれども、公的刑事弁護業務、これはこの五つの業務の中の一つということになりますけれども、公的刑事弁護制度は、国民の権利の保護や国の刑事司法作用の適正な運営の確保にかかわるというものでありますから、その重要性というのは大変にこれからも求められるものであるというふうに思うわけであります。

 そこで、この支援センターの公的刑事弁護業務として具体的にどのようなことを想定しているか、また、その重要性についてはどのように認識をされておられるか、お聞きしたいと思います。

野沢国務大臣 お答えをいたします。

 全国的に充実した弁護活動を提供し得る体制を整備するために、支援センターにおいては、常勤の者を含め契約により弁護士を確保することとしております。その上で、支援センターは、裁判所等の求めに応じまして、契約により確保した契約弁護士の中から国選弁護人の候補を指名して、裁判所等に通知し、通知に基づき国選弁護人に選任された弁護士にその事務を取り扱わせる業務を行うこととしております。

 支援センターによる弁護体制の整備は、被疑者、被告人が弁護人の援助を受ける権利を実効的に担保しまして、充実かつ迅速な刑事裁判の実現を可能にするという観点から、大変重要な意義のある制度と考えております。

下村委員 今回、国会に提出されている刑事訴訟法の改正案によりますと、被疑者に対する公的弁護制度の対象事件、重大事件でございますけれども、これが三年程度の後にはさらに拡大をされて、長期三年を超える懲役、禁錮の罰に拡大するということとされておりまして、対象となる事件数がかなり多くなるのではないかというふうに思うわけであります。

 他方、司法過疎の問題があるということを考えますと、特に地方においては多数の事件に弁護士が対応できないのではないか、こういう懸念もあるわけであります。

 この被疑者に対する公的弁護制度の対象となる事件の数は、一体どれぐらいになるというふうに予想されるか、また、司法過疎の問題もある中で対象事件の拡大に果たして対応できるかどうか、これについての考えについてお聞きしたいと思います。

実川副大臣 委員御指摘の公的弁護制度の対象となる事件の数、それから対象事件の拡大に対応できるか、そういう御質問でありましたけれども、今回の刑事訴訟法改正の施行の当初は、司法過疎地域の問題がありますので、被疑者に対します公的弁護制度の対象事件は、死刑または無期もしくは短期一年以上の懲役もしくは禁錮としております。この対象事件で勾留された被疑者の数でありますけれども、平成十四年の統計で約一万人でございます。

 また、改正法施行から三年程度が経過した後、対象事件を死刑または無期もしくは長期三年を超える懲役もしくは禁錮に拡大することとしておりますけれども、この対象事件で勾留された被疑者の数でありますけれども、平成十四年の統計で約十万人となっております。

 なお、実際の対象事件数につきましては、そのうちどの程度の被疑者が弁護人の選任を請求するのか、また、請求した被疑者のうち選任要件に該当する者がどの程度いるかによることとなります。

 支援センターが、契約によります弁護士を確保し、司法過疎地域にも事務所を設けるなど、全国的に充実した弁護活動を提供し得る体制を整備することによりまして、改正法施行から三年程度経過後には被疑者に対します公的弁護制度の対象事件を拡大いたしましても、これに実効的に対応することが可能になるというふうに考えております。

下村委員 今回、司法制度改革、トータル的な施策を行っている中で、司法人口も大幅にふやすということと、それから、今までのような試験中心ではない形での人材育成ということで、ロースクールもことしから始まったわけでございます。

 今お答えのように、今回の刑事訴訟法改正によって、さらなる充実発展ということも必要になってくるわけでありますが、同時に今裁判員制度についても審議されておりまして、ほぼ与野党修正合意が今得られつつある中で、この裁判員制度を導入することによってもこれは大変な国選弁護人の確保が必要になってくるのではないかと思います。

 実際に裁判員となってもらう国民の方々の負担を考えますと、とても今までの、旧来のような裁判につき合っていられないというのが率直な多くの方々の思いであるというふうに思います。そのために、できるだけ事前の準備をしっかりやってもらうということを前提として、できるだけ連日裁判を開いて集中審理を行う、そして迅速で極力短期間のうちに処理をする、しかし拙速になってもならない、こういう裁判をこれから行う必要があるわけであります。そのために、集中審理に対応できる国選弁護人をまず確保できるかどうかということが、この裁判員制度を実施する前提条件になるわけであります。

 この裁判員制度の実施のために、支援センターが集中審理に対応できる弁護士を十二分に確保する前提がありますけれども、その確保の見通しについてどう考えておられるか、お聞きしたいと思います。

実川副大臣 委員御指摘の弁護士の確保ということについてでありますけれども、裁判員制度を含む刑事裁判の連日的開廷に対応するためには、私選弁護人については弁護士の業務体制の組織化あるいは専門化が求められるとともに、刑事事件の多くが国選弁護事件でありますことから、支援センターにおきまして、常勤の者を含め契約により弁護士を確保し、全国的に充実した弁護活動を提供し得る体制を整備することが重要であるというふうに考えております。今後、支援センターにおきましても、必要な弁護士が確保されるものと考えられております。

下村委員 次に、この支援センターの理事長にはどのような人を任命するのか、基本的な考えをちょっとお聞きしたいと思うんです。

 これは自民党の中で、この支援センターをどんな組織にするかということについては、実はかなりこの小委員会で議論がされました。これは、行政改革が叫ばれている中で、新たな制度設計ということにおいて、それと矛盾してもいけない、できたら株式会社みたいな形で民間的な発想が必要ではないか。しかし、一方で、そこには公的資金を投入するわけでありますから、株式会社に公的資金の投入をするということもなかなか難しいということが自民党の中の小委員会の中では議論になりまして、最終的には今回のような形にもなっているわけですが、いずれにしても、この支援センターは公正中立な組織でなければならないわけであります。

 また、今申し上げましたように、公的な資金を受け入れてサービスを提供するということでございますので、支援センターが特定の業界の関係者だけで運営されたりとか、あるいは特定の業界の利益だけが優先されるということであってもならないわけでありまして、こういう観点からも、この支援センターの理事長にどのような人がつくのかが非常に重要であります。

 かといって、この支援センターが天下りのような組織には絶対これはすべきでもない。しかし、法的な知識を十二分に持っている人でなければ運営できない。この辺のバランスとして、象徴して、この支援センターの理事長、どういう人が適任か。任命する権限を与えられているのが法務大臣でございますので、大臣に、この支援センターの理事長はどのような人を任命をお考えなのか、その条件についてお聞きしたいと思います。

野沢国務大臣 委員御指摘のとおり、支援センターの業務運営に当たりまして、理事長の果たすべき役割は非常に重要であると考えております。

 本法案におきましては、理事長の選任に関しまして、支援センターが行う事務及び事業に関して高度な知識を有し、適切、公正かつ中立な業務の運営を行うことができる者であることを要件としておるところであります。また、独立行政法人一般の例に倣いまして、政府、地方公共団体の常勤職員は役員になることはできない、いわゆる天下りはしないということに加えまして、裁判官もしくは検察官または任命前二年間にこれらであった者は理事長にはなれないこととしております。

 理事長の選任に当たりましては、このような法案の定める要件に従いまして、適任の方にお願いしたいと考えております。

下村委員 最後に、この支援センターの業務開始がいつごろになるかということでお聞きしたいと思うんですが、裁判員制度も、これは五年程度をかけながら、多くの方々に御理解をいただいて、そして多くの方々に積極的に参加をしてもらうような施策が今後必要になってくると思います。

 同じように、この支援センターが行う業務、これも、どれもが国民が必要としている業務であるというふうに思いますけれども、この業務を、今申し上げましたように、中立そして公正、また、お役所仕事にならない、効率的に行えるような組織にするということにおきましては、一定の期間が必要であるというふうに思いますし、また、せっかくこういう制度ができるわけでありますから、総合法律支援についての広報を積極的に行うことによって、利用者の方々に総合法律支援体制の整備についてよく理解をしていただく、そして司法をより身近に感じていただくということにおいては一定の期間が必要であろう、このように思うわけでありますけれども、この支援センターの業務開始はいつごろをお考えになられているか、最後にお聞きしたいと思います。

野沢国務大臣 お答え申し上げます。

 支援センターが業務を開始するまでには、設立に関する事務に加えまして、事務所の設置、職員の採用等に関する事務など、相当の準備作業が必要となります。法律が成立した後に一定の準備期間が必要であると考えておりますが、現在のところ、平成十八年度中には法人を設立した上で、業務が開始できるようにしたいと考えております。

下村委員 ありがとうございました。終わります。

漆原委員長代理 左藤章君。

左藤委員 自由民主党の左藤章でございます。

 今、下村議員がいろいろ質問をさせていただきましたけれども、なるべくダブらないように質問をさせていただきたい。

 特に、総合法律支援法というのは、我々も、今下村先生がおっしゃったように、自民党でもプロジェクトチームをつくって、少しでも国民に利便性のある、わかりやすい、そしてどこでも行ける、そういうものをつくらなきゃならない、司法過疎と言われるところもしっかり解消しなきゃならないという思いで出てきた法案でありますので、力を込めて、ひとつ質問させていただきたいと思います。

 今いろいろ、小泉政権で行政改革、構造改革と言われると、当然いろいろな法案がありますけれども、よくいろいろな機会でも、今までは認可制だったのが登録制になったり、それはどういうことかというと、事前規制から事後チェックという体制に今なってきたわけであります。当然、そういうことも変わってくると、いろいろな社会的不安といいますか、そういういろいろなトラブルも含めて発生する。事後規制になると当然そうなるわけでありますので、そうすると、司法の役割というのはこれまで以上に大切になるんじゃないかな、このように私ども思っています。

 ちょうど平成十三年の六月に、御存じのように司法制度審議会を設置して、司法制度改革法案等が出て、いろいろな法案、裁判員もそうです、この前の弁護士法の改正もそうです。そういうものを全部今やりながら進めている中で、やはり一番国民にとって必要である、そして使いやすい司法でなければならない、このように我々は思っております。

 ちょうど二年前ごろに、よくサラ金の問題とか自己破産の問題とかということで、司法書士の先生方の御協力もいただきながら、簡易裁判所で扱える民事事件の上限を引き上げることができたわけですけれども、その中でもやはり出てきたのは、司法書士さんにお願いに行っていいのか、弁護士さんにお願いに行っていいのか、いろいろ一般国民が迷うんであろう。そうすると、ますます司法制度改革のために、このアクセスというのが非常に大切になってくるんだろうと我々は思っているわけであります。

 それで、このアクセスをどうするか、橋渡しをどうするかというために、この司法制度を改革することによって進めさせていただきたい。国民から見れば、情報が手軽に入ることにしたい。相談に行ける場所はどこなんだ。そして、お金もない。こういうところにするにはどうしたらいいかということになるわけですので、これをしっかりやっていきたいな、このように思っているところでございます。

 やはり国民が全国のどの地域にあっても法的紛争解決のために情報を得られるように、また、新設する運営主体を、これは司法ネットを中核として、司法ネットを構築する必要があると我々は自民党のPTでも提言をしてきたわけでありますけれども、この運営主体の組織のあり方や業務の内容のほか、業務の運営に当たっては、利用者の意見を適切に反映する必要がある。

 そして、司法過疎地、先ほども下村先生のお話にありましたけれども、効率的に事務所を配置する必要がある、弁護士活動の独自性についても考える必要があるんではないか、こういうふうに留意点も含めて提言をさせていただいております。

 ここで申し上げた問題点の前提として、司法を国民により使いやすいものにすることを目的として今回提出された総合法律支援法について、いろいろお伺いしたいと思っております。

 そこで、この法案でございますけれども、司法ネットである司法センターの行う業務と、従来の弁護士さん、また司法書士さんなどの既存の機関、団体の取り組みとはどのような関係になるのか。そして、弁護士会や隣接関係の方々の協力を得ることが非常に大切であると私は思いますが、どのように意見を聴取しながら進めているのか、お聞きをさせていただきたいと思います。

山崎政府参考人 ただいま二つ御質問があったかと思います。

 まず最初の、弁護士会あるいは司法書士会等とどのような連携関係にするのかという点でございますけれども、この法律のサービスにつきましては、全国どこにおいても法による紛争の解決に必要な情報あるいはサービスの提供が受けられる社会を実現するということがまず大目的でございます。

 その関係で、弁護士会あるいは司法書士会などの民間組織の役割は大変重要でございまして、支援センターは、これらの組織、団体の取り組みを尊重しながらこれを補完していくべきものである、こういう位置づけでございます。ただいま御指摘がございましたように、民間でできるものは民間で大いにやっていただく、そこで足りないものについて国の方として補完をしていく、こういうような位置づけだということになります。

 したがいまして、そういう関係からは、私どものセンターの取り組みは、その各組織あるいは団体間の適切な連携協力、これを保ちながらやっていく、いわゆる車の両輪のような関係にある、こういう位置づけだろうと思います。

 こういう関係から、私ども、この御協力をいただく、現実に実務を行っていただく法律専門職者の方々、あるいは弁護士会の方々とどのような意見交換をしているかということでございますが、これは第二の御質問でございます。

 これにつきましては、私どもの本部の方の司法アクセス検討会でこの問題を検討してきたわけでございますけれども、そこで日本弁護士連合会、それから日本司法書士会連合会から御意見もいただいておりまして、その意見を参考にさせていただいたということでございます。

 それともう一つでございますけれども、私どもの事務局の方で、隣接法律専門職者団体の方々と意見交換会、これを設けまして、そこでいろいろ御意見を賜りまして、そのような意見を全部法案の中に反映させて今回提出をさせていただいた、こういう経緯にあるわけでございます。

左藤委員 隣接の方々とよく相談して、我々も意見を聞きながら、この法案というのは進めさせていただかなきゃあかんし、みんながわかりやすいものでなきゃならないと思うので、今おっしゃった、ぜひこれからの運営に当たってもそういうように隣接の方と相談をしていただきたい、こういうふうに思います。

 実は、その中で、先ほどもありましたけれども、司法支援センターの組織とはどうなのかという、行革の中で、先ほどお話がありました、株式会社にするのかとか、いや新しく独立法人をつくるのかとか、いろいろな議論がありました。

 私どもも、先週、お話がありました、杉浦先生と一緒に大韓法律救助公団というのを見に行って感心をしたわけですけれども、そのことは後で申し上げますが、その中でも、やはり考えてみますと、参考にしますと、やはり独立法人の方がいいのかな、行革とはちょっと逆行するけれども、やはりこれしかないんじゃないかな、こういうふうに私は思います。

 しかし、今までの独立法人と違う、何かそういうことも考えなきゃならない、全く同じではだめだろうと思いますので、その辺の組織についてどうお考えになっているか、お答えをお願い申し上げたいと思います。

山崎政府参考人 行政改革大綱、これは平成十二年十二月一日の閣議決定でございますけれども、これにおきまして、公共性が高く、国の関与が必要と判断された事務事業のうち、国が直接行う必要がないものについては、透明性や業績評価の仕組みなどが整備された独立行政法人において行うこととされているわけでございます。

 私どものこの総合法律支援構想の中核となります支援センターも、その業務内容の公共性に照らしまして、公正中立で、運営責任の明確性それから経営内容の透明性が図られ、提供するサービスの質及び効率の向上を図る仕組みとする必要がございまして、そういう基本的な考え方からいきますと、独立行政法人の枠組みに従うのは適当であるというふうに考えたわけでございます。

 他方、この支援センターの行う業務は、単に行政のものだけではなくて、司法に密接に関係するものであるということから、最高裁判所が設立、運営に関与することが必要である、こういうことになるわけでございます。

 そこで、この支援センターにつきましては、独立行政法人通則法に基づく独立行政法人そのものではございませんけれども、中期的目標管理など運営の効率性、透明性に係る措置を講じることとしておりまして、国立大学法人、これと同様に、広い意味での独立行政法人、こういうふうに整理をしているところでございます。

 もう一つのお尋ねでございますが、どういう特徴を持っているかということ。先ほどちょっと申し上げましたけれども、司法にもまたがる、こういう特徴があるわけでございます。その点で、裁判所の関与がこの規定の中に随所に設けられているという特徴がございまして、まず第一点の特徴は、設立の関係ですね。設立委員につきましては、これは法務大臣が命ずるのでございますけれども、最高裁判所も裁判官を設立委員に命ずるということにしております。

 それから、この組織の中に審査委員会を職務の独立性の関係から設けているわけでございますが、そのうちの委員の一名は最高裁判所の推薦する裁判官であることを必要とするとしております。

 それから、業績評価のために評価委員会というのを設けることになっておりますけれども、これも最高裁判所の推薦する裁判官が一名以上含まれている、こういうことを手当てしているわけでございます。

 それ以外に、いろいろ各所の場面で意見を聞くという形になっておりまして、例えば役員の任命等について、それから法務大臣による中期目標の策定とかその中期計画の認可、そういうものに関しましても、これは最高裁判所の意見を聞かなければならない、こういう形にしているわけでございまして、この点が普通の独立行政法人とは違う点である、こういうことでございます。

左藤委員 よくわかりました。

 それと、この前も言われましたけれども、例の司法過疎地域という問題なんですが、全国で二百三カ所ある、地方裁判所の支所も含めてですけれども、弁護士がいない、また一人しかいない、よく言われるいわゆるゼロワン地域というのが何か五十八カ所あるということを聞いております。

 これは何とか我々は解消したいという意味もありますけれども、弁護士会もいろいろ基金を出して過疎地に公設事務所を設置するということをやっているんですが、よく聞くと、やはりそういう田舎の方に行きたくないという弁護士さん、それから事務所の維持とか経費に非常に金がかかる、経費がかかってしまうということで、なかなかゼロワン地域が解消されていないというのが現状だと思います。

 これに対して、やはり、これは今から法律サービスをしなきゃならないということを考えると、この現状に対してどのように認識をなさっておられるのか、その認識はどの程度なのか、ちょっとお聞きしたいと思います。

山崎政府参考人 ただいまゼロワン地域の数字の御指摘がございましたが、最近のデータでは、ゼロワン地域は五十三カ所。今五十八カ所と言われましたけれども、その後、弁護士会等でいろいろ努力をされて、事務所を設けたりして、徐々に減ってきているという状況でございます。

 これに関しましては、私どもの方といたしましても、まず、全国で法律サービスを行うわけでございますので、必ず都道府県には一つ事務所を置くということになろうかと思いますが、では、その先、司法過疎地域にどの程度のものを置いていくかということは、それぞれの場所のニーズとか、あるいは地理的条件、さまざまな要因がございますので、私どもは、その辺のところをよく実情を把握した上で、最終的にどのような形態にしていくかということを考えているわけでございます。

 ただ、仮に、そういうところに事務所ができて、常勤の人がいないというような場合であっても、巡回をさせるとか、あるいは地方公共団体と連携してサービス提供を行うとか、さまざまな工夫をいたしまして、その解消を図っていきたいと思います。

 また、我々の努力にプラス、日本弁護士連合会等の取り組みも今一生懸命行われているわけでございますので、そういうところと連携をしながら、なるべく早期に実質的なゼロワン地域がなくなるような、そういうようなことをしていきたいというふうに考えております。

左藤委員 今の御答弁を聞きますと、巡回も含めてということになりますね、考えるということになると。これはすばらしい。あまねく全国にこのサービス、郵便局のネットワークみたいな話なんですが、そういうぐあいになってほしい、我々は絶えず思いますけれども、そうすると、その組織がどういうぐあいに設けられるのか。本部は一カ所当然出てくるだろう。そうすると、全国に、支店と呼んでいいのか支部と言っていいのかわかりませんが、そういうのを五十カ所ほど設けるんだろう、こういう話も聞いております。そして、今お話あった、あとは巡回をする。こういうことになりますと、やはりいろんな面での経費の問題とか、そういうものが出てくるわけです。

 その経費の問題は後でまた質問しますが、そういうことをするときのネットワークの仕方。巡回する、例えば、田舎でどういう人たちがどう困っているかという、巡回はいいんだけれども、どういう国民ニーズを吸い上げるのか、こういう問題が出てくると私は思うんですね。それはどのようにやられるか、質問させていただきたいと思います。

山崎政府参考人 確かに、司法に関するニーズ、それから、どういう点のニーズが多いかという点については、それぞれ地方でさまざまな違いがあろうかと思います。私どもは、そういう地域のニーズに対して、地域の特色を生かしながら適切に対応するということが大変重要であると認識をしております。

 そこで、この法案の三十二条の三項という規定を置きまして、各地域において協議会、これを開催するなどいたしまして、地域の利用者等の意見を聞きまして、その実情に応じた業務運営を行う、こういうことを想定しているわけでございます。これからスタートして、これが機能して、特徴のあるものになるようにということを考えております。

左藤委員 司法センター、いろいろ設けることを、設置することができるというようになりますと、先ほどもお話ありました、常勤をする弁護士また非常勤の弁護士、いろいろな問題が出てまいります。

 先ほど、杉浦先生と韓国に行ったと言いましたけれども、そこで、大韓法律救助公団で勉強させていただいた。そこに、みんな、窓口で電話応対も含めてやっている人というのは、実は、司法試験を通って、まだ採用されていない方とか、俗に言ういそ弁という方になるのか、司法修習生を終わった後の人たちが対応しているわけですね。これはちょっと、韓国のお国の問題で、徴兵制度の絡みもありますけれども。

 私は、やはりそういう、法科大学院を出て、司法試験を通って、そして司法修習生を終わった、その後の人たち、または、この前弁護士法の改正がありましたように、裁判官とか検事が弁護士事務所へ行って研修をする、そういう人たちを、ここの司法センターに来ていただいて、失礼ですけれども、若いですからそんな高給でもないだろうと思いますし、逆に、そういういろいろな人のニーズを、苦情も含めて聞くことが社会勉強にもなるんだろうし、また、社会のニーズを的確に、将来の弁護士さん、司法官になるときにお役に立つんじゃないだろうか、私はこのように思うんですね。

 その辺について、法務副大臣、先ほど言った、判事補も含めて、また若手検事も含めての活用についてはどのようにお考えになっておられますか。

実川副大臣 御指摘の判事補あるいは若手検事の活用について、これは党の方でもいろいろ議論があったというふうに承知いたしております。

 司法支援センターでありますけれども、民事、刑事を問わず、あまねく全国におきまして、法による紛争の解決に必要な情報、またサービスの提供が受けられるような総合的な支援の実施、また体制の整備を行う総合法律支援構想の中核的な役割を果たす重要な機関でもございます。

 支援センターがどのような人材を弁護士として採用するかは、まずは支援センターにおいて検討されるものでありますけれども、一般的には、判事補及び検事が一定の期間支援センターにおきまして弁護士として勤務することは、支援センターにより提供されるサービスの充実を図る観点から、意義がある場合もあると考えられております。

左藤委員 今、司法試験を通った人たちがそこに当たるということになる、若手も含めて、そういうぐあいに対応していただけるということになりますが、ちょっと質問の告知はしておりませんけれども、やはりそこに、弁護士さんだけじゃなくて、隣接の方々、司法書士さんの方々、また企業間の問題がある、そうすると公認会計士さんもあるだろう、また、特許の問題で弁理士さんもあるだろう、土地の境界の問題でもめるだろう、こういういろいろな隣接の方々の協力を得るためにも、そういう方々の配置といいますか、司法センターにどういう取り組みで入っていただけるか。常勤をしていただくのか、非常勤で来ていただくのか、そういうものを含めて、山崎さん、どういうお考えを持っておられますか。

山崎政府参考人 隣接専門職者の方々について、大いに協力していただかなければ、この事業は遂行できないということになろうかと思います。

 これにつきましては、例えば、法律扶助の対象になるような法律相談、こういうものがあるわけでございまして、こういう関係につきましては、それぞれもちはもち屋のところがございますので、そういう専門の方にはそこに入っていただいて仕事をしていただく。これは常勤かどうかはちょっと別として、いろいろ契約を結びましてやっていただくということが一つ考えられます。

 それからもう一つは、そこで行う相談だけではなくて、それぞれの組織でいろいろ行っているものもあるわけでございますので、そういうところにまた御案内を申し上げるという関係から、御協力をいただくということですね。

 こういう点も含めまして、いろいろな対応で御協力をいただいて、スムーズなサービスができるようにということで、具体的にこれからいろいろ詰めてまいりたいというふうに思っております。

左藤委員 隣接の法律専門家の方の御協力をいただいて、そうしていただきたい。

 そして、もう一つ、俗に、いわゆる裁判までいかなくていいADRの問題。ADRで解決できる。これも含めてお考えになっていると理解していいんでしょうか。

山崎政府参考人 俗に言うADR、裁判外紛争処理でございますけれども、これの関係も、これからいろいろ提携をして、そちらの方で処理をしていただくという事案も当然ございますので、やはりそちらとの連携協力も強化をしていきたいというふうに考えております。

左藤委員 先ほど、評価委員会、この司法支援センターについての評価委員会の話がございました。もちろん、設立するときに、最高裁を初め、いろいろ考えながら、関与しながらつくるんですが、先ほど地域の話が出ましたけれども、地域から見ているとそれぞれの地域の特徴がございますし、その人選というのが大きな問題になるんじゃないかなと思います。

 というのは、本部は東京にあったとしても、全国に五十カ所支部ができるわけですから、その支部について、本部が全部情報をしっかり把握して評価できるとは思えませんので、やはり支部で評価委員会というのをつくる必要もあるだろうし、地域の特色というのはあります。そういうものを加味しなきゃならないと思うんですね。

 こういうものを考えて、どのような業務運営をなさるか、そして、どのように評価するのか。これはちょっと法務副大臣に質問をさせていただきたいと思います。

実川副大臣 御指摘の評価委員会の人選、また運営方法という御質問でありますけれども、評価委員会は、既存の独立行政法人評価委員会と同様に、客観的、また専門的な見地から、法人の業務の実績に関する評価を行い、支援センターの業務評価において重要な役割を果たすことが期待されております。

 既存の独立行政法人評価委員会の例を見ますと、評価委員会の委員は、学識経験のある者のうちから主務大臣が任命するのが通例であります。また、支援センター評価委員会の委員の人選につきましては、業務の実績に関する評価を適切に担当していただける適任の方にお願いしたい、このように考えております。

 また、評価委員会の運営に当たりましては、総合法律支援の意味を踏まえつつ、客観的、専門的な見地から業務の実績に関する評価が行われることを期待しております。

 また、委員御指摘の地域の特徴を生かした業務運営はどのように評価されるか、そういう御質問であろうと思いますけれども、御指摘のとおり、支援センターは、地域の特色を生かしつつ、当該地域の実情に応じた運営に努めるべきものと考えております。

 したがいまして、業務の実績に関します評価につきましても、全国的な業務の実施状況とあわせまして、各地域における業務の実施状況も踏まえて行われる必要があろうと考えております。

左藤委員 ありがとうございました。

 それで、評価委員会はしっかりと運営していただきたいと思いますし、やはり国民から見て、その評価によって、また司法センターのそれぞれの支部のあり方、または全体のあり方も評価に出てくるんだろうと思いますので、しっかり頑張っていただきたいと思います。

 それで、予算の問題なんですけれども、これをつくるときにいろいろ問題がありまして、我々、実は、支援センターをつくろうという背景には、一つは、実は、弁護士会は弁護士会で無料相談をやる。県や市、それぞれまた、週に一遍二時間、市役所でやっているのか公民館でやっているのかわからないけれども何かやっている。ところが、一般市民から見ると、いつやっているかわからない、どの場所でやっているかわからない。二十四時間とは言いませんけれども、大体、九時から五時までの普通の日、あいているという場所が正直言ってなかった。それで、ぜひこの司法センターをつくりたいな、こういうふうに我々が考えたのがスタートです。

 そうすると、当然、先ほど申し上げた予算の問題が出てくるわけでありますが、法律扶助協会の予算とか、それぞれの都道府県、また市町村で使っている予算、そして弁護士会で使っている予算、またそれぞれの隣接の方々が使っている予算というものは、やはり合体して、合理的に、しかもしっかりやっていくことが一番大事だろうと思います。

 この予算について、我々は、非常に今から頑張って我々自身が獲得をせなあかぬという問題もありますけれども、どのように考えておられるか。副大臣にお尋ねをさせていただきたいと思います。

実川副大臣 御指摘の予算に関してでありますけれども、総合法律支援構想の運営主体となります日本司法支援センターでありますけれども、これまで法務省におきましても、予算を確保してきた民事法律扶助事業関係の業務に加え、これは今委員御指摘になりましたけれども、法による紛争解決制度の有効な利用に資する情報提供の充実強化の業務、あるいは国選弁護人の選任に関する業務、またいわゆる司法過疎地域におきます法律事務に関する業務、さらには犯罪被害者の支援に関する業務等、幅広い業務を担当することを予定しております。

 法務省といたしましては、これらの業務を効果的かつ効率的に処理するため、必要な予算の確保に努めてまいりたいというように考えております。今後、運営上の詳細とあわせまして検討を重ねてまいりたい、このように考えております。

左藤委員 以上で質問を終わらさせていただきますが、とにかく、今いろいろ質問させていただく中で、やはり国民に利用しやすい、そしてわかりやすい司法支援センターであってほしい、こういう思いでございます。

 あと、十八年度に開業するということでございます。三年しかありませんけれども、しっかり頑張っていただきますようにお願いを申し上げ、質問を終わらさせていただきます。ありがとうございました。

漆原委員長代理 桜井郁三君。

桜井委員 自民党の桜井郁三でございます。

 先日は、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案も質問させていただきました。また、きょうは、総合法律支援法案を質問させていただくわけでございますが、今まで、立法や行政というのは国民が非常に参加をしてきた。その中で、司法というのは、今までどちらかというと閉ざされた、そういう中で、これから市民が参加したり、あるいは市民のサービスをどうつくっていくのか、こういうような、大変、今までと違った新しい角度からの法案の成立ということでございますから、これから国民にどうわかりやすくしていくのかということが大変重要なことだろうというふうに思っております。

 今まで、この司法というのは国民にとって大変縁遠い存在であると言われておりました。司法という言葉は、何か近寄りがたい、そういうイメージがあるというのもその原因の一つかもしれません。司法をより身近なものにするには、とにかく、国民がいつでも簡単に相談できる、きちっとした解決手続にのせてもらえるよう、仕組みをつくることが必要と考えておるわけであります。

 さて、現在、トラブルに巻き込まれた一般の国民がすぐに行けるところとしては、一つには市役所などの市民相談所があります。今、左藤委員もお話ありましたように、私の藤沢市においても、市役所に窓口があります。もちろん、司法だけではなく、行政だとかいろいろな問題があるわけでございますが、その中の、一週間に二日か三日は司法の相談というようなこともあるわけでございますが、そういう司法の入り口として、市役所などで行われている市民相談は重要な役割を果たしていると思います。こういう制度は今後も続けてもらいたいと考えております。

 そこで、法務副大臣にお伺いをいたします。

 総合法律支援構想における地方公共団体の役割はどのようなものになっているのでしょうか。

実川副大臣 御指摘の、地方公共団体の役割等についての御質問だったと思いますけれども、総合法律支援の実施及び体制の整備は、民事、刑事を問わず、あまねく全国におきまして、紛争の法による解決による必要な情報あるいはサービスの提供が受けられます社会を実現することを基本理念としております。また、住民の福祉の向上に寄与するものでございます。

 また、他方、地方公共団体でありますけれども、住民の福祉の増進を図ることを基本といたしまして、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとされております。

 このように、総合法律支援の実施及び体制の整備でありますけれども、地方公共団体が図るべきものとされているいわゆる住民福祉の中身として重要な意義を有するものでございます。

 そこで、本法案では、地方公共団体は、その地域におきます総合法律支援の実施及び体制の整備に関し、必要な措置を講ずる責務を有するものとしております。

桜井委員 次に、国民に法律問題などで相談を受け、弁護士や司法書士などの法律専門家のサービスが必要になった場合のことについてお伺いをいたします。

 支援センターは、裁判をするための資金がない方や、弁護士がいないために相談ができない地域の方も必要な法律サービスの提供が受けられるようにするための事業を行うと聞いております。また、刑事事件の被告人等に対する国選弁護に関する事業も行うと聞いております。このような事業が行われることはすばらしいことだと思っております。

 このような事業を行うために、支援センターは弁護士や司法書士などの法律専門家と契約をするそうでありますが、そこで重要なのは、支援センターと契約した弁護士や司法書士などは、利用者である国民の利益を第一にサービス提供に当たることだと思うわけであります。支援センターが提供するサービスの中には、国や地方自治体を相手とする民事訴訟もあると思います。また、刑事事件の弁護は、常に、公的機関や裁く側から見た犯罪容疑者、被疑者に対するサービス提供を内容としております。このため、サービス提供の担い手である弁護士、司法書士等は、利用者の利益を第一にサービス提供に当たることができるような仕組みが必要であると思います。

 そこで、お伺いをいたします。

 支援センターと契約する弁護士や司法書士などの法律専門家の職務の独立性を確保し、利用者である国民の利益を第一にサービス提供するために、どのような措置が講じられているのでしょうか。

    〔漆原委員長代理退席、塩崎委員長代理着席〕

実川副大臣 御指摘のように、弁護士や司法書士等の職責にかんがみれば、その職務の独立性を確保することは大変重要であるというふうに考えております。

 そこで、本法案におきましては、弁護士等の職務の特性に常に配慮しなければならないものとした上で、支援センターとの間で契約をしている弁護士等の職務の独立性を明記し、具体的な職務活動につきましては支援センターの指揮命令を受けないことというふうにしております。

 また、有識者等によりまして構成される審査委員会を設けまして、契約弁護士等に対する契約解除等の措置に関しましては、その議決を経ることとする、このようになっております。

桜井委員 支援センターが行う情報提供についてお伺いをいたします。

 法律による解決を必要とする事件等が生じた後に、それを解決するために、法律にのっとった手続についての情報が提供されることは重要だと思います。しかし、それだけでなく、事態が深刻化する前に問題解決のために方策が示されることは、早期の解決に役立つと思います。早期に事件が解決されることは、やむなく巻き込まれた当事者にとってはありがたいことだと思います。また、事態解決に必要となる社会的なコストの軽減という点でも、素早い対応は望ましいことだと思っております。

 そのような観点からすれば、法的係争事件の予防に役立つ情報の提供もまた非常に意義のあるものであると考えております。

 そこで、お伺いいたします。

 支援センターの相談窓口においては、法律による解決を必要とする係争事件の予防に役立つ情報についても提供されることになるのでしょうか。

実川副大臣 委員御指摘の紛争の予防に役立つ情報についても提供されることになるのか、そういう御質問であろうと思いますけれども、現に発生した紛争の解決はもとより、紛争の発生を未然に防ぐことが重要であることは言うまでもございません。紛争の予防に役立つ情報の提供もまた必要でもございます。

 現実の個別の紛争を前提とせずに、紛争解決制度の有効な利用に資する情報を一般的に提供することは、紛争の予防に役立つ情報の提供としての意義を有するものと考えております。

桜井委員 法的紛争事件の発生を未然に防ぐためには、法律相談サービス提供の場所を訪れた利用者に対して、個別の案件に応じた情報提供をするのみならず、広く一般の国民に対しても司法制度に関する情報提供などの広報活動を行い、日ごろから司法を身近に感じてもらうとともに、実際に法的な解決が必要となった場合に、どのような方法が利用可能なのかを広く知らせておくことが望ましいと考えます。

 そこで、お伺いをいたします。

 小中学校での司法制度を含めた法律に関する教育は、法的な事件解決に関する広報活動の分野で支援センターが役割を果たすことを想定されているのでしょうか。お伺いをいたします。

実川副大臣 小中学校での法教育のあり方、あるいは実施方法につきましては、昨年七月に法務省に設けられました法教育研究会におきまして検討が行われているところでございまして、この研究会の検討結果を踏まえまして、法教育の実施に関して支援センターの果たし得る役割等につきまして、今後、必要な検討がなされていくものと考えております。

 さらに、法的な紛争解決に関します広報活動でありますけれども、支援センターにおきまして、裁判に関する情報のほか、弁護士会その他の隣接法律専門職者団体に関します情報、あるいは裁判外の紛争解決制度に関する情報等を広く一般に提供することなどを想定しております。

桜井委員 法務省に設置された法教育研究会の検討結果等を踏まえて、今後、司法教育に関して支援センターが果たすことのできる役割についての検討が進められているとのことであります。これからも大変期待したいと思います。

 それとともに、利用者である国民の視点に立って、現在の支援センターの業務の範囲の中で、司法制度等の教育について支援センターができることをしていくということも重要であると思います。

 それでは、続きまして、犯罪被害者支援に対してお伺いをいたします。

 犯罪被害者支援は大変重要であると思います。特に、犯罪被害により身内の方を亡くされた遺族の方々の心情を考えますと、犯罪被害者支援の必要性が痛感されます。自由民主党においても、犯罪被害者支援に関して積極的な検討を続けているところであります。刑事上の手続においては、犯罪被害者に配慮した規定が設けられておりますが、それだけにとどまらず、犯罪被害者やその遺族の方々の心情にも配慮して、必要なときに必要なサービスが提供できるような総合的な対応が求められていると考えております。

 重大犯罪の被害者やその遺族の方々にとって、被害に遭われた直後は、まず、その精神的なダメージを回復することは最も必要とされていると思います。この分野では、法律の専門家が対応するというよりも、精神的なケアの専門家が対応した方が適切であると思います。刑事裁判の法廷出廷などに伴う不安の解消も、法律の専門家よりは、親身になって話を聞いてくれ、適切なアドバイスのできる支援者によって行われた方が適切である場合もあると思います。犯罪被害者支援に真剣に取り組んでおられる民間の団体は幾つもあると聞いており、そうした団体の方々が、精神的なケアや出廷に伴う不安の解消など、法律の専門家ではできないようなきめ細かな対応をされていると聞いております。

 残念なことに、犯罪被害者支援の分野では、このような地道な活動が広く知られていないという問題もあるようであります。

 そこで、このような問題を解決し、犯罪被害者やその遺族の方々により近い立場で親身になって対応し、犯罪被害者やその遺族の方々の苦痛を和らげることができるような仕組みが必要だと思います。

 そこで、お伺いをいたします。

 犯罪被害者支援のために、支援センターではどのような業務を行われているのか、お伺いをいたします。

実川副大臣 委員御指摘の、犯罪の被害を受けた方や遺族の方は、突然の不幸に大きな肉体的また精神的負担を受け、みずからの利益の保護あるいは権利の実現のためにどうすればよいか途方に暮れてしまうのが実情ではないかというふうに思っております。

 司法センターでは、犯罪被害者の方が置かれております状況を十分に念頭に置きながら、その支援のために積極的に取り組んでいくことになると考えております。

 すなわち、支援センターでは、犯罪被害者のためにさまざまな取り組みをしている組織等と緊密な連絡関係を構築し、個々の犯罪被害者が受けておられます心身のダメージ等に十分に配慮しながら、そのときに最も必要な援助が受けられるような集約した情報を速やかにかつ懇切丁寧に提供することになっております。

 また、各地の弁護士会あるいは弁護士連合会等と連携しながら、提携をしながら、犯罪被害者問題に精通した弁護士を犯罪被害者に紹介し得る体制を整備することも予定されております。

 また、必要な場合には、民事法律扶助制度をも活用しつつ、問題となっております事案に応じて、適切な弁護士から必要な法的サービスが受けられるようにし、損害賠償等の実現あるいは刑事手続への適切な関与が図られることになると考えております。

    〔塩崎委員長代理退席、委員長着席〕

桜井委員 続きまして、支援センターの業務運営の透明性の確保についてお伺いをいたします。

 支援センターが、これまでにお聞きしてまいりましたとおりの各種業務を行うに当たっては、税金の投入を受けるわけでありますから、国民に対する説明責任を果たすべく、業務運営の透明性が十分に図られなければならないということは言うまでもありません。

 そこで、お伺いをいたします。

 支援センターの業務運営の透明性を確保するための方策としてはどのようなものが措置されているのでしょうか。お伺いをいたします。

実川副大臣 御指摘のとおり、支援センターの業務運営に当たりましては、その透明性を確保することが重要であるというふうに考えております。

 そこで、本法案におきましては、支援センターは、その業務の内容を公表すること等を通じまして、その組織及び運営の状況を国民に明らかにするよう努めなければならないものとしております。

 また、具体的にでありますけれども、業務方法書を初めといたしまして、中期目標、また中期計画、業務報告書、役職員の報酬、さらには給与等の支給基準などにつきましても公表すべきものと考えております。また、財務諸表等を一般の閲覧に供することとしております。

桜井委員 総合法律支援法案は、司法という存在が国民にとって雲の上の存在である状況を解消し、国民が裁判その他の紛争解決の制度をより容易に利用できるようにするとともに、弁護士等の法律サービスをだれもが平等に、より身近に受けられるようにすることを通じて、司法という存在が高ねの花ではなく、手を伸ばせばもぎ取れるような存在にするという非常に有意義な法案であって、高く評価できると考えております。これを着実にかつ実効的に実現していくことが重要であると思います。

 そこで、最後に、法務副大臣にお伺いをいたします。総合法律支援体制の整備に向けた法務副大臣の決意をお伺いいたします。――では、大臣、お願い申し上げます。

野沢国務大臣 参議院に行ってまいりまして、ちょっと失礼をいたしましたが、一番まとまったところで御回答を申し上げたいと思います。

 総合法律支援構想につきましては、司法を国民により身近なものにするために、民事、刑事を問わず、あまねく全国において、法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられるような総合的な支援の実施と体制整備を行おうとするものでございます。

 総合法律支援構想は、国民にとりまして身近で頼りがいのある司法制度の構築を目指す今般の司法制度改革の中でも極めて重要な意義を有するものでありますので、その実現に全力を挙げて取り組んでいく決意でございます。

桜井委員 ありがとうございました。

 今後、総合法律支援構想の実現に向けて、なお一層の御努力を期待申し上げまして、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

柳本委員長 御苦労さん。

 漆原良夫君。

漆原委員 公明党の漆原良夫でございます。

 総合法律支援法は、全国どこでもだれでも利用できる身近で頼りになる司法の実現を目指すということで、私は、この司法制度改革の根幹をなす大事な法案だと思っております。

 きょうは、実川法務副大臣を中心に御質問をさせていただきます。

 この国民に身近な司法の実現に関しては、私ども公明党は、かねてから法律相談をずっとやってきたり、あるいは民事法律扶助制度の制定、予算の増額、この扶助事業の拡充に努力をしてきたところであります。総合法律支援法は、身近な司法の実現を目指して我が党やほかの関係機関、団体においてこれまで取り組んできたことを国が施策として実現するというものでありますから、ぜひとも成立させなければならない法案だというふうに考えております。

 そこで、お尋ねしますが、本法案によって、今後は日本司法支援センターが総合法律支援構想の中核となって業務を行ってまいります。他方で、これまで国民に身近な司法の実現を目指して、日弁連や弁護士会、あるいは地方公共団体などさまざまな機関、団体が独自に有意義な活動に取り組んでまいりました。この本法案によって、これらの取り組みが意欲を失うようなことがあってはならぬと思うんですね。

 また、この総合法律支援の実施が国の責務であり、その中核となるのが支援センターであることから、既存の取り組みを行っていた機関や団体が、国がやってくれるんだからということで、結構今まで予算を地方自治体も組んでやってきたわけですから、負担になっていたことは間違いない、そこで、今後は国がやるんだからということで手を引いてしまったのでは、これまた利用者である国民の利益をかえって損なうという結果になります。

 関係機関、団体の既存の取り組みと、総合法律支援法案で設立される日本司法支援センターとの業務の関係はどうなるのか、お尋ねしたいと思います。

実川副大臣 委員御指摘の、関係機関またこれまでの既存の団体と今回の司法センターの関係という御質問だったと思いますけれども、あまねく全国におきまして、法による紛争の解決に必要な情報、サービス、あるいは社会を実現する上で、日本弁護士連合会その他の民間組織あるいは地方公共団体の役割は重要でございます。

 司法センターは、これらの組織、団体の取り組みを尊重しつつ、これを補完していくべきものと考えております。さらに、支援センターが設けられることによりまして、これらの組織、団体の取り組みについての意欲を失わせることがあってはならないというふうに考えております。

 したがいまして、総合法律支援の実施及びその体制の整備に当たりましては、支援センターと、既にさまざまな取り組みを行っている各組織、団体等の間の適切な連携協力を保ちながら進められる必要があるというふうに考えております。

漆原委員 この総合法律支援の実施と体制整備を行うことについては、弁護士とか、あるいは日弁連や弁護士会の協力が絶対に必要不可欠だというふうに考えております。

 この法案では、国や地方公共団体に責務を課することだけではなくて、日本弁護士連合会や弁護士会あるいは弁護士や弁護士法人についても責務を定めておりますが、その理由をお尋ねしたいと思います。

実川副大臣 全国あまねく、弁護士等のサービスをより身近に受けられるようにするための総合的な支援を行うことが、総合法律支援の重要な柱となっております。

 弁護士は、法律事務の代理権限を有するとともに、刑事訴訟手続におきまして弁護人となることができる唯一の資格者ですので、日本弁護士連合会あるいは弁護士などが総合法律支援において果たすべき役割は極めて大きいものがございます。そこで、本法案の第十条第一項、第二項におきまして、日本弁護士連合会等の責務を定めたものでございます。

漆原委員 この総合法律支援は、窓口相談業務やあるいは司法過疎対策など、地域に密着して、紛争に巻き込まれた住民がその解決のために必要とする情報あるいは法的サービスの提供を行うものでありますが、住民の福祉の向上を旨とする地方公共団体の果たすべき役割も大変大きいものがあるというふうに思っております。

 法案九条では地方公共団体の責務が定められておりますが、地方公共団体による財政的な支援を考えているのかどうか、この辺をお尋ねしたいと思います。

実川副大臣 財政的な支援ということでありますけれども、総合法律支援の実施及び体制の整備は住民の福祉の向上に寄与するものである一方、地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本といたしております。地域におきます行政を、自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとされております。このように、総合法律支援の実施及び体制の整備は、住民福祉の中身といたしまして重要な意義を有するものであることから、これを地方公共団体の責務として規定したものでございます。

 そして、これと同様の趣旨から、本法案では、地方公共団体が、支援センターの増資に当たり出資できること、また、その地域におきます支援センターの業務運営に当たり協力できることなどを規定しております。地方公共団体からの財政上の支援もまた想定されているところでございます。

 もとより、こうした規定によりまして、地方公共団体に直接具体的な義務が課せられるものでありませんので、住民サービスの向上のために各地方公共団体が具体的にどのような措置をとるかにつきましては、各地方公共団体の実情に基づき、その判断によってお決めいただくものと考えております。

漆原委員 続いて、支援センターの業務運営のあり方についてお尋ねします。

 支援センターは、地域のニーズや実情に合わせて、適切かつ柔軟な業務運営を行うことが肝要であろうと思っております。そのためには、画一的、硬直的な運営に陥らないように、民意を十分に反映して業務運営を行うことが必要であるというふうに思います。

 支援センターの運営は、行政指導で行われてはならない、あくまで利用者の立場に立ったものでなければならないと思っておりますが、そのためには、弁護士会や弁護士の意見はもちろんでありますけれども、一般の市民の意見が反映される仕組みが必要と考えますが、この辺についてはどういうふうになっているのか、お答えいただきたいと思います。

実川副大臣 支援センターの業務の運営に当たりましては、その透明性を確保するとともに、弁護士会等の関係団体等あるいは利用者である国民各界各層の意見を適切に反映していくことが重要であるというふうに考えております。

 今回の本法案では、支援センターの業務の運営に当たりましては弁護士会等に意見を求めることができるとするとともに、地域におきます業務運営に当たりましては協議会を開催する等として、広く利用者その他の関係者の意見を聞くこととしております。また、業務方法書あるいは事業報告書、財務諸表など、業務運営の基本となる文書につきましても公表することにしております。

 これらの仕組みなどを通じまして、支援センターの業務運営の透明性を確保するとともに、国民の意見の適切な反映に努めていくことになるというふうに考えております。

漆原委員 事務局にお尋ねしたいと思うんですが、三十二条の第三項に、支援センターは、地域における業務の運営に当たっては広く利用者その他の関係者の意見を聞いて参考とし、当該地域の実情に応じた運営に努めなければならない、こうなっていますね。この当該地域の実情に応じた運営というのは、具体的にはどんなことをお考えなのか、お尋ねしたいと思います。

山崎政府参考人 これは、民事扶助のことを念頭に置きますと、例えば、その地域でどのような事件が多くて、やはり国民の方がどういうようなサービスを欲しているかとか、そういう実態をよく把握して、そのニーズになるべくこたえられるような運営をしていかなければならない、こういうことを念頭に置いているわけでございます。

 それ以外には、法律相談等につきましても、それぞれ地域のいろいろな特色がある部分だろうと思います。ですから、そういう点について手厚く対応できる、そういうような体制も組んでいかなければならない、こういうようなことを考えまして、司法といいまして全国で行われておりますけれども、やはり地域地域によってそれぞれ特徴がございますので、そこに合わせたような形のサービスを手厚くしていく、こういうことを念頭に置いているわけでございます。

漆原委員 次に、センターは契約によって弁護士を確保して、その弁護士が法律サービスの提供を行う、こういうふうになっております。

 他方で、この支援センターは法務大臣が所管する法人でありまして、センターが確保した弁護士に対する監督権限が、例えば担当する事件の処分方針の決定であるとかにまで及ぶことになれば、これは弁護士の独立性が害されることになるわけですね。

 そこで、本法案では、公正中立な審査委員会を設けて、支援センターの理事長が弁護士に対して契約解除等の措置をとる場合には審査委員会の議決を経る必要があるとされていることは、弁護士の独立性を確保する上で意義のあることだというふうに思っております。

 一方、これはあくまで契約に基づく措置であって、弁護士法に規定されている弁護士会の懲戒権限とは関係ないというふうに私は理解をしておるんですが、本法案では「(懲戒を含む。)」という言葉が二つあります。二十九条八項と三十五条二項、「(懲戒を含む。)」という文言が規定されておりますが、念のため、お尋ねします。

 本法案で、二十九条第八項の審査委員会の議決事項及び三十五条二項の法律事務取扱規程の条文の中に「(懲戒を含む。)」と記載してありますが、この「(懲戒を含む。)」というふうに記載した趣旨をお尋ねしたいと思います。

実川副大臣 議決事項の中に「(懲戒を含む。)」と記載した趣旨は何かということでございますけれども、御指摘のありました本法案の第二十九条第八項の懲戒とは、規定上も明らかとなり、契約に違反した場合の措置についての契約上のものでありまして、弁護士法上の懲戒ではございません。

 この規定がないと、常勤弁護士に対します懲戒につきましては一般の労働法制によるとの解釈を生じかねませんので、審査委員会の議決を経なければならないということを明確にするために「(懲戒を含む。)」と規定しているところでございます。

漆原委員 ここはちょっと事務局にお尋ねしたいんですが、この懲戒というのは、どんな内容を考えているんですか。

山崎政府参考人 この法案全体といたしまして、弁護士業務の独立性、これを確保しなければならないということにしております。その関係から、この審査委員会の議を経て行っていくということになるわけでございますが、ここで考えているのは、例えば、依頼者との関係で信頼関係を失ってしまったというような事態が生じたという場合に、その業務について任を解くということ、そういうようなことが念頭にあるということでございます。

漆原委員 弁護士の業務は独立してやるということでありまして、官の監督を受けないというのがこれはもう弁護士法の精神でありますから、そこに懲戒という言葉が出てくるとぎょっとするわけでありまして、何でこんな、わざわざ懲戒なんか書く必要があるのかな。今おっしゃったような内容であれば、これは契約内容で明らかなわけであって、任務を懈怠した弁護士は解雇されるわけですから、契約上でも幾らでも、解雇もできるし、あるいはもっとしっかりやれという注意もできるんでしょうし。わざわざここで何も、紛らわしい、弁護士がぎょっとするような懲戒という言葉は用いなくてもいいのではないかという指摘もあるんですが、事務局長、いかがでしょうか。

山崎政府参考人 先ほど副大臣の方から答弁がございましたけれども、我々がこれを入れたのは、これを書かないと、一般の懲戒、特に常勤の弁護士でございますけれども、これは労働者に当たるわけでございますので、労働基準法等の適用を受けるということになると、そこの懲戒ということになりますと、組織が直接懲戒をするというような、そういうイメージになってしまいまして、この審査委員会じゃないということになります。これは厳に避けなければならない。そういう疑義が生じないようにということから、ここに括弧で入れたわけでございます。

 最終的には、そこの疑義が生ずるかどうかということの判断にかかわるわけでございまして、そのところは、いろいろ国会の方の御判断で定めていただければというふうに思っております。

漆原委員 次に、支援センターの業務となる民事法律扶助事業についてお尋ねしたいと思います。

 我が党は、冒頭にも申しましたように、民事法律扶助事業の拡充に力を注いできたところでありますが、しかし、それでもなお、この民事法律扶助事業がそのニーズに十分に対応できていないというのが現実ではないでしょうか。

 例えば、破産事件の急増などで、扶助を受けたくともすぐに扶助を受けられない、待たされる、こういう事案がふえているのも事実でございます。それだけに、この総合法律支援法案によって民事法律扶助事業がさらに拡充されるということで、私は大いに期待しているところでありますが、この点について、この法案の第四条は民事法律扶助事業についての整備発展を基本理念として定めておりますが、少ない予算の増額を含めて、どのように対処していくのか、副大臣にお尋ねしたいと思います。

実川副大臣 現行の民事法律扶助法では、個別の事件ごとに一般の開業弁護士等が法律事務を行い、また、法律扶助協会におきましては、依頼者が支払うべき報酬、また実費を立てかえる仕組みのみでございますけれども、本法案のもとでは、支援センターに所属する常勤弁護士に法律事務を取り扱わせることを可能としております。この常勤弁護士の活用によりまして、一層迅速で効果的な援助の実施が可能となるものと考えております。

 また、専属の事務職員を抱えます日本司法支援センターが民事法律扶助事業を担うこと自体も、組織基盤及び事務処理体制の強化に資するものと考えております。

 民事法律扶助事業に係る予算につきましては、近年の扶助事件の伸び等を踏まえまして増額されているところでありますけれども、法務省といたしましては、民事法律扶助事業を含めまして支援センターの全業務を効果的かつ効率的に処理するため、必要な予算の確保に努めてまいりたい、このように考えております。

 また、今後、運営上の詳細もあわせまして検討を重ねてまいりたいと考えております。

漆原委員 このいわゆるネット法ができることによって、今の民事法律扶助法というのが効力がなくなるわけですよね。大変僕らは心配をしている、扶助事業を一生懸命やってきたその法案がなくなってしまうんですから。このネット法に引き継がれるということになるわけなんだけれども、本当に今のレベルを下げてはならない。どんなことがあっても現在の、そんなことはないと確信しているんだけれども、これは将来のことでわからないことですから、これはもう口が酸っぱくなるほど念を押しておきたい。断じて今のレベルから下げてはならないということを強く大臣にも副大臣にも申し上げておきたいというふうに思っております。

 ところで、今の法律扶助協会は、民事法律扶助事業のほかに自主事業もやっているんですね。これは大変広くやられておりまして、刑事被疑者の弁護事業、これは今後できますけれども、さらに少年保護事件付き添いの扶助事業、それから中国残留孤児国籍取得支援事業、あるいは難民法律援助事業とか、さらには犯罪被害者法律援助事業とか、これは、民事法律扶助法で定められた以外の事業を自主事業として一生懸命頑張っている。

 これは非常に国民の身近な司法の実現にも資するものだというふうに私は思っておるんですが、問題なのは、今の民事法律扶助法がなくなって、それがこのネット法に引き継がれるということになるんですけれども、この自主事業は引き継がれるのかどうか。この辺は、副大臣、いかがでございましょうか。

実川副大臣 御承知のように、支援センターは、第三十条第一項各号に規定します業務に支障のない範囲内で、業務方法書で定めるところにより、国あるいは公共的な法人等の委託を受けて業務を行うことができることとなっております。これによりまして、どのような事業を行うかにつきましては、支援センターの設立後、委託の希望を持つところとの協議により定まることとなりますけれども、法律扶助協会の行っている先生御指摘の自主事業につきましても、これを活用して実質的に引き継ぐことは可能である、このように考えております。

漆原委員 ぜひとも、今行われているような自主事業については引き続いて行われるような、積極的な取り組みをお願いしたいと思っております。

 次に、あまねく全国において身近な司法を実現するためにはどうしてもやらなければならないことは、いわゆる弁護士ゼロワン地域の解消ということでございます。

 この法案に言う総合法律支援によって、いわゆる弁護士ゼロワン地域の解消に向けて、これは大変難しいことだと思うんだけれども、どのように取り組まれようとしているのか。これは法務大臣にお答えをお願いしたいと思います。

野沢国務大臣 かねてから委員大変御熱心にこの司法過疎問題に取り組んでおられることにつきまして、敬意を持っておるものでございますが、このいわゆる司法過疎の問題を解消することは、国民に身近な司法を実現する上で非常に重要な課題であると考えております。

 そこで、支援センターの事務所配置等に当たっても、各地のニーズそれから地理的条件などの地域の実情に十分配慮しながら、司法過疎地帯の解消に向けて、効果的かつ効率的な対策が検討される必要があると考えておるところでございます。

 常勤弁護士をまず常駐させる事務所を設置することが難しい地域につきましても、常勤弁護士を巡回させること、さらには地方公共団体と連携しましてサービス提供を行うことなど、さまざまな工夫を重ねまして、日本弁護士連合会等の取り組みとも連携を図りながら、ゼロワン地域の解消に向けて努力してまいるつもりでございます。

漆原委員 この前、佐渡へ行きまして、ゼロワンに近いんですよ、あそこ。佐渡へ行きまして、今こんなことを法務委員会でやっているんですよ、ゼロワン地域の解消で公設事務所ができますよ、もしも佐渡みたいなところを、新潟市に事務所ができて、相談に行けない場合は、法務大臣は、巡回という方法で皆さんの相談に、ニーズに応じるというふうにおっしゃっていますよと言ったら、大変喜んでいました。ですから、ぜひとも巡回の頻度を上げていただいて、本当に離島は大変です、これは。そういうところまであまねく、それこそあまねく法的サービスが提供できるようなシステムづくりをぜひともしていただきたいというふうに思います。

 次に、公的刑事弁護に関する業務について質問しますが、公的刑事弁護制度は、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案と一体となりまして、被疑者段階と被告人段階とを通じた一貫した弁護体制を整備するという重要な法案であります。この被疑者段階と被告人段階とを通じ一貫した弁護体制を整備するという公的弁護制度の意義とか重要性について、法務大臣の所感をお尋ねしたいと思います。

野沢国務大臣 被疑者段階と被告人段階とを通じ一貫した弁護体制を整備することが今回のこの法案の中で新たに加わったことは、大変意義のあることと思いますが、まず、被疑者、被告人が弁護人の援助を受ける権利を実効的にまず担保すること、また充実し、かつ迅速な刑事裁判の実現を可能にするという二つの観点から、大変これは重要な、意義のある制度と考えております。

漆原委員 最後になりますが、心配な点が二つあるんです。一つは、司法ネットについては本当に予算が確保できるのかな。小さな政府を目指す中で大きな司法を目指そうということで我々もやっているわけですね。そういう意味では、この司法ネット構想が我々の目的を達成するためには、相当大きな予算を確保しないと、すべて絵にかいたもちになってしまうという危険性をはらんでいます。

 それからもう一つ、本法案ではありませんが、裁判員の法案でございますけれども、これも国会でもう本当に長い間審議をしましたけれども、その中で心配事は、裁判員の確保をどうするかなという、これはもう国民の皆様に理解と協力を得られないとこの法案はだめになるわけですね。日弁連なんかよく言います、もう施行期日を三年くらいにして、鉄は熱いうちに打て、そういう言葉で、もっと短いうちにやるべしとおっしゃるんですが、しかし僕は、熱くなっているのはあなた方だけで、国民はまだぬるくもなっていないんじゃないかということを申し上げているんですが、まさにこれから温めていく必要があるわけですね。

 そういう、犠牲を覚悟の上で裁判員になろうというふうに国民の皆様になっていただかなくちゃならぬわけですから、ネットについては予算の確保をどうするのか、それから裁判員については、国民の皆様の協力を得るためにこの五年間でどうするのかということ、この二つを大変心配しております。

 法務大臣、これに対してどう対処されるのか、ぜひお考えをお聞かせ願いたいと思います。

野沢国務大臣 御心配のような絵にかいたもちにとどめてはならないわけでございます。そのためには、御指摘のとおり、裁判員制度の運営に当たって、国民の皆様の理解と協力が不可欠である、これがまず大前提であろうと思います。

 したがいまして、今後さまざまな機会を通じまして、裁判員制度の意義やその具体的内容について国民の皆様に理解と関心を深めていただくように努めまして、裁判員制度の実現に向けて全力を尽くしてまいりたいと思います。マスコミその他を通じた広報、さらにはさまざまな講習会等による講習、PR、さらには学校教育そのものにも司法に関する教育のカリキュラムを取り入れるなどの工夫が不可欠であると私は考えております。

 今回、多少余裕をいただくようにお願いしておりますのも、そういった準備をするために、国民の皆様が真にこの制度を御理解の上、使いこなしていただけるように、時間を十分とりたいということで余裕をお願いしておるわけでございます。

 それからさらに、予算の面では、法律支援構想の運営主体となる日本司法支援センターが、これまで法務省において予算を確保してきた民事法律扶助事業関係の業務に加えまして、法による紛争解決制度の有効な利用に関する情報提供の充実強化の業務、さらには国選弁護人の選任に関する業務、いわゆる司法過疎地域における法律事務に関する業務、犯罪被害者の支援に関する業務など、幅広い業務をさらに加えまして担当することを予定しておるわけでございます。

 そこで、これらの業務を効果的かつ効率的に処理するため必要な予算の確保に努めてまいりたいと考えておりますが、今後、運営上の詳細とあわせ、検討を重ねまして、効果を上げたいと考えております。

漆原委員 私も今いろいろなところで国政報告とか時局講演会に参加しますが、必ず時間をもらって裁判員制度を御説明申し上げて、御理解をいただくようにお訴えをさせていただいています。本当に所期の目的を達成できたら、すばらしい法案だと私は思っておりますので、政府、我々も一体になって、国会議員も一体になって、ぜひとも実現していきたい、また予算の確保についても、与党、野党問わず、この予算をしっかり確保していきたいというふうに思っております。

 どうもありがとうございました。

柳本委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午前十一時五十六分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時四分開議

柳本委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。辻惠君。

辻委員 民主党・無所属クラブの辻惠でございます。

 裁判員法案、そして公判前整理手続をめぐる各論の問題について、多々問題点があるということで準備をしてまいりましたが、時間が余り残されていないということですので、この一時間において、証拠開示の問題、そして、先般御質問いたしましたけれども、公判前整理手続終了前に証拠請求のできなかった証拠をやむを得ない事由に当たる場合には審理が始まってからも請求できる、そこの具体論について少し伺いたい。そして三点目は、裁判員制度の評決というのが、本当に国民から選ばれたとされる裁判員の意見が反映するような、そういうシステムになっているのかどうなのか。以上三点について、時間の許す範囲でいろいろ伺っていきたい、このように思います。

 それで、まず証拠開示について、公判前整理手続の中でということでありますから、予断排除の原則、起訴状一本主義との関係の問題点が多過ぎるということの前提の上でありますけれども、提案者の方では、従前の証拠開示よりも開示の幅が広がっているんだ、このように言っておられます。

 そこで、刑事訴訟法三百十六条の十五というのが、その広がった場合の一つの場面であるということでありますが、ただ、この三百十六条の十五というのは、ある意味で非常に、要件が加重にいろいろ規定されております。証拠開示が現実に実現されるためには、クリアしなければいけないいろいろな要件がある。

 まず、三百十六条の十五では、次の各号に掲げる証拠の類型のいずれかに該当しなければならないというふうにされています。この類型に入っていないものは開示されない、こういう趣旨ですね。

山崎政府参考人 ただいまの御質問でございますが、三百十六条の十五、この規定によっては開示がされないということになります。この規定では、今ここに掲げてある類型以外のものについてこの手続にのることはないということです。

辻委員 三百十六条の十四では、検察官側が取り調べを請求する主張事実に沿う請求証拠の開示が認められていて、三百十六条の十五は、検察官の請求証拠の証明力を判断するために重要であるもの、そういう観点から認められている。それで、弁護側が、弁護側の主張に沿う証拠ということで、三百十六条の二十の規定がある。こういう構造になっておりますから、今お答えになったのは、この類型以外のものについては三百十六条の二十で検討の余地がある、こういう御趣旨ですか。

山崎政府参考人 三百十六条の十五、ここでは対象にならないということでございます。それから、三百十六条の二十でも、それは同様ということになろうかと思います。そちらの方は、その適用はないということになる。二十の方ですね、二十の方に関しては。(辻委員「適用がないというのはどういう意味でおっしゃっていますか」と呼ぶ)類型のあれがないということです。

辻委員 三百十六条の十五で、類型として一号から八号まで記載があります。この類型に当たらないものは、検察官の請求証拠の証明力を判断するための証拠だということでの開示を認めることはできないということになるという規定の趣旨だというお答えだと思います。

 ただ、三百十六条の二十で、弁護人側の主張に関連する証拠としての余地はあるんだというお答えでありますが、三百十六条の二十で具体的に証拠開示を得られるためには、三百十六条の十五以上に厳しい要件をクリアしなければいけないということでありますから、事実上、証拠開示がそう容易には認められないということなのではないかというふうに私は考えざるを得ないということであります。

 それで、三百十六条の二十の各要件については、この後少し時間をとって伺いたいと思いますが、八類型についてのみ認められるという三百十六条の十五であっても、しかし幾つかの要件が課されている。「特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であると認められるものについて」のみ認められるということでありますが、これは、多くの先進国ではこのように証拠開示の要件を加重に制限している国は見当たらないと思いますが、この点、いかがでしょうか。

山崎政府参考人 突然でございまして、ちょっと諸外国のことについて、ただいまちょっと手元にあるのは、これはアメリカの連邦の場合、連邦規則でございますけれども、これについては書類及び有体物ということで、例えば被告人の防御の準備に重要なものとか、それから公判で検察側が主張立証の証拠として用いようとするもの、それから被告人から取得し、もしくは被告人に属するもの、こういうものに限られるというようなルールがあるというふうに承知をしておりまして、全部を開示するというルールが本当に世界でどの程度なのか、ちょっと私もその点は承知をしておりませんで、何らかのやはり枠というんですか、これがかぶっているというふうに承知をしております。

辻委員 基本的に全面開示が筋であろうというふうに私は思っておりますけれども、やはり過渡的なプロセスというものがありますから、具体的な、要するに改善策としては、いろいろな形のものがあり得る。

 この三百十六条の十五で規定されるような、「特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であると認められるもの」、例えばこれは、重要であると認めるのは検察官が認めるわけであって、開示を迫られる検察官が自分の判断で重要かどうかを認めるということは、開示を求める側の意見が具体的には反映しない。つまり、検察官側の内在的な制約なり基準はあるにしても、検察官の判断で重要かどうかを決められるというのは、これは客観的な基準のあり方としては非常に恣意的な要素が多分にあるわけで、妥当でないと考えますが、この点はいかがですか。

山崎政府参考人 第一次の判断者、これは検察官でございますけれども、検察官は、この法律に書いてございますように、開示の必要性と弊害とを比較考量して開示の要否を判断するということでございまして、恣意的な判断が許されるわけではないということが前提でございます。

 ただ、意見の食い違いというのは起こり得るわけでございます。そこで、検察側が開示しない場合には、被告人側から、検察官の判断に不服があるとして、裁判所に裁定を求めることができるという制度を設けておりまして、最終的には、裁判所の方でその開示の要否を判断をするということで担保がされているというふうに理解をしていただきたいと思います。

辻委員 結局、証拠開示を認めなければ争点をより的確に、正確に、早く煮詰めていくことに支障が生じる。公判前整理手続のこの刑事訴訟法改正の思想をそんたくすれば、弁護人側の権利を拡充する、そういう要請も一部満たされているというふうに提案者はおっしゃっているわけだけれども、しかし同時に、開示の幅を広くすることによって、争点整理がより的確に、早くなるという意味を持つというのが恐らく提案者の意向だと思うんですよ。それはそのとおりでいいんでしょうか。

山崎政府参考人 まさに御指摘のとおりでございまして、早くその争点をきちっと浮き彫りにさせよう、こういうことでございます。

辻委員 そうであるとすれば、争点の整理をより円滑に、そして的確にできるように、開示するかどうかの判断権を当事者にゆだねるのではなくて、第三者機関、まさに、是非はともかくとして、公判前整理手続に裁判官が登場するわけでありますから、第三者である裁判官にその証拠開示の判断を求めた方がよりベターだというふうに考えるのが普通の考え方だと思いますが、どうしてそういう規定になっていないんでしょうか。

山崎政府参考人 刑事裁判は当事者主義の構造になっているわけでございますので、必要なものについて相手が要求したときに、まず自己判断で提出をするかどうかということを問うのは別に不思議なルールではないわけでございまして、それでもどうしてもうまくいかないという最後のとりでとしまして裁判所がそこをきちっとした判断をする、こういうことで、構造としてそんなに不思議な構造ではないというふうに考えております。

辻委員 この三百十六条の十五を見ると、これによって証拠開示の幅が広がったんだというふうに主張されておりますが、冒頭で申し上げたように、八つの類型に限っているということが一点。

 それから、特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であると検察官が認めなければいけないという要件が課されている。この点について、極めて制約的、限定的であるというのが二点目。

 そして、さらに、被告人・弁護人から開示の請求があった場合において、その重要性の程度、その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度、これを検察官が判断すると言っているんですよ。弁護人が、みずからの防御のために必要だ、重要だというふうに言っていることを検察官が判断する、検察官がうんと言わなければこれは出てこない、そういう要件が加重されている。

 しかも、さらに、当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度を検察官が考慮して相当と認める。

 つまり、四点にわたって、証拠開示を現実のものとするためには四つの扉をあけていかなければいけない。そして、その扉をあける門番は全部検察官だということであります。

 しかも、この証拠開示を求めるためには、どのような証拠なのかということを明示して請求しなければいけない。それはこの三百十六条の十五の二項で規定されていますが、弁護人は具体的な証拠の特定性を明示しなければいけない。弁護人にとっては、具体的な証拠がどのようなものなのかということをなかなか特定しにくいというのが実務であるわけであります。だから、この点においても、弁護人側から具体的な証拠開示を求めるには、大きな障害が置かれているわけです。

 その意味で、五つの障害を全部クリアしていかなければいけないし、それを必要だと認めるのは、全部、ある意味では検察官の判断にゆだねられている。これじゃ、現実に証拠開示がまともに機能しないということになりませんか。

山崎政府参考人 大きなポイントは二つあろうかと思います。

 一つは、検察官が判断するという点でございます。これは先ほども申し上げましたけれども、当事者主義構造をとっている刑事訴訟法でございます。そういう点から、まず第一次的には当事者が判断をするということでございますが、特にこの点につきましては、捜査について責任を負っているのは検察官でございます。裁判所だって全部の証拠を知っているわけではございません。やはり、全体の中でどういう証拠があってどういう判断をするかというのは、まず検察官が一番よくわかるわけでございます。したがいまして、検察官に判断権をゆだねるというのは、それは当然の話だろうと思います。

 ただ、これではやはり意見の食い違いがいろいろ出てくるわけでございますので、最終的な担保は、やはり裁判所が最終的に判断をするというところで担保がされているということでございます。

 それからもう一点御指摘がございまして、証拠を請求する場合でございますけれども、これは、「開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項」、こういう表現をしているわけでございまして、これは、典型的に言えば、例えば、現在であれば、何月何日付、だれだれの検察官に対する供述調書、こういうような言い方をするわけでございますが、この法案で求めているものはそういうものではございませんで、犯行現場から押収された証拠物とか、犯行状況の目撃者の供述調書とか、あるいは被害者の死因に関する鑑定書とか、そういうような概括的な特定で足りるということでございますので、それは、請求する側がお困りになるという事態は生じないというふうに考えております。

辻委員 今おっしゃった二点について、それぞれ伺いたいと思います。

 一点目については、当事者主義の構造だからとりあえず検察官が判断するんだというふうにおっしゃっているけれども、三百十六条の二十で弁護側が請求する証拠についても含めて、最終的にはやはり裁判官が証拠提示を求めて見るということになっているわけですよ、最終的に刑訴法では。ですから、要するに、最終的に裁判官の判断にゆだねて、そこで妥当性なり相当性の判断を担保する、検察官の一方的な恣意にはゆだねないんだということが担保されているとすれば、それを前倒しにして、この三百十六条の十五の段階で裁判官がかかわるというふうにしたって全然支障は生じないじゃないですか。この点は、生じるか生じないか、答えてください。

山崎政府参考人 証拠を持っているのは検察官でございますので、検察官に要求してすべて出るという前提も、もちろんあるわけでございます。そうなりますと、一々それを裁判所を介してすべてのものについてやるというシステムにしなくても動くものは動く、どうしてもそこはうまく解決できないものについては最後の手段として裁判所が判断する、こういうことでございますので、全部最初から裁判官ということになったときに、それは本当にスムーズに、その手間が随分かかるわけでございますので、その点について、かえって遅くなりはしないか、こういう点もございます。

辻委員 いや、私が質問しているのはそういう意味ではなくて、それはもちろん、開示請求をして、検察官が任意に出されればいいわけですよ。だけれども、争いになって、それは出したくないというような証拠が出てきて、それの必要性の判断をめぐって意見が分かれたときに、分かれれば検察官の必要性判断、相当性判断が先行するわけだから、出てこなくなるわけですよ。

 だから、そういうお互いが争いになるような件については最初から裁判官が判断をするというふうにした方がスムーズに事が進むし、それの方が公平であり中立的じゃないですか。そのことを申し上げているんです。なぜそうしないんですか。そうすることの弊害がどこにあるんですか。

山崎政府参考人 これは、あらゆる場合を考えているからこういう制度を設けているわけでございまして、ただいま委員御指摘のように最初から争いがあるというような状況になれば、直ちに申し立てをしていただければよろしいわけでございまして、それでスムーズに動くわけでございます。それを、全部について、争いもないのに裁判所に全部判断をさせるというまでの必要はないという、その合理性の問題でございます。

辻委員 時間の関係で、恐らくこれは同じ、水かけ論になることになってしまいますから、水かけ論であってはいけない。

 本当に証拠開示を真剣に考え、弁護人の防御権を保障するという観点に立てば、検事側の五つのバリアをすべてくぐり抜けなければ弁護側が証拠に達し得ない。そして、その五つのバリアを判断する主要な権限はすべて検事側が握っている。このことでは、やはり証拠開示のハードルが物すごく高い。現実の運用に当たって、やはり検察官は、それは新たな制度になったからといったって、今までの培われた経験と思想のもとで恐らく動かれるわけであるから、なかなか証拠開示がスムーズに出てこないということが容易に予想されるわけであります。だから、そういう意味におきまして、制度的にやはりきちっと、証拠開示については客観的な第三者が判断するということを前倒しで制度として認めるべきであるということを申し上げておきたいというふうに思います。

 そして、先ほどの二点目でありますが、三百十六条の十五の二項について、弁護人が証拠開示を請求するときに、識別に足りる程度であればいいんだというお話でありました。

 しかし、例えば民事の債権の差し押さえとかいうような例を挙げれば、差し押さえ債権ははっきりしていたとしても、被差し押さえ債権の特定について、例えば継続的な売り掛け債権だったら、何月何日から何月何日ごろまでの、しかもどういう商品を対象として発生する売り掛け債権なのかということを、ある程度特定を求められるわけであります。これは民事の債権差し押さえの実例でありますから、それがそのまま本件に適用になるわけではありませんけれども。

 つまり、言いたいことは、要するに識別について、今の刑事裁判の実務では、何月何日付の検面調書とか何年何月何日付の員面調書だとか、かなり特定しなければそもそも証拠開示請求の俎上に上ってこないということと比較すれば、今お答えになったように、少し幅が広く、その意味で、識別に足りる程度の特定性で足りるということにおいて一歩前進かもしれない。しかし、そこはなお、概念は非常にあいまいである。したがって、運用においてはどのように運用されるのかということについては、物すごくやはり懸念が生ぜざるを得ない。この点はどうですか。

山崎政府参考人 先ほど概括的な特定の点を申し上げましたけれども、ですから、そういう意味では外延のところですね。本当に求めている証拠がそこに全部入るのか入らないのかという問題はあろうかと思いますけれども、この点、最後はやはり裁判所が、持っている証拠について、検察官の方に、どういうものが全部あるのか、それを一応把握した上で、その範囲に入るのか入らないのか、これを判断することができることになっておりますので、そこできちっとしたものは対応ができるというふうに考えております。

辻委員 議論を蒸し返しませんけれども、今おっしゃったことからいうと、最終的には裁判所が出てきて、外延と内包の外延について判断するんだから、識別に足りるかどうか判断するんだから問題はないんだというふうにおっしゃっている。

 そうだとするならば、三百十六条の十五の規定についても、私は、第一次的に例えば検察官がそれに応じるかどうかの判断をスクリーニングするということは、それ自体はあり得る話だと思いますけれども、そうだとしたときに、余りにも弁護側の防御の必要性とか重要性とかいう、弁護側の事情も含めて検察官が判断するという構造になっているのはやはりおかしいんじゃないのかということを先ほど述べているわけであります。だから、第三者的な裁判所が判断をした方が、最後のところはよりベターなんではないかという問題意識で質問をしたんだということをつけ加えておきたいというふうに思います。

 次に、三百十六条の二十について伺いますが、ちょっとその前に、戦後の冤罪事件で、よく何かあれば八海事件であるとか松川事件だとかいうふうに取り上げられます。松川事件は、結局のところ、死刑判決が出たけれども、最終的に最高裁判所でひっくり返って無罪になったわけでありますが、その重要なターニングポイントになったのが諏訪メモだと言われております。

 つまり、諏訪メモと言われるようなものが今回の刑事訴訟法の改正の三百十六条の十五の類型に当たるということで出てくる余地があるのかどうなのか、この点はどうですか。

山崎政府参考人 ちょっと個別の事案で、その諏訪メモがどういうものかという、私も直接見ているわけではございませんので個別のあれは避けたいと思いますが、一般的にメモと言われれば、これは「証拠物」、一号がございますけれども、これに当たるのではないかと思います。

辻委員 ただ、諏訪メモは、そういう存在は全くわからなかったわけです。検察の方が隠していたわけじゃないですか。死刑判決が出た後にようやく何かの拍子であらわれて、それが日の目を見て、それで命が救われたという案件なんですよ。

 だから、今おっしゃったように、まず、この三百十六条の十五の一号の「証拠物」にメモは当たるというふうに言えるかもしれない。しかし、クリアしなければならない要件はその他もろもろあるわけであります。例えば三百十六条の十五の二項の、弁護人の側がこれを識別して明示しなきゃいけない、これには、そういうメモの存在がわからないんだから出てこないわけであります。

 だから、そういう意味においても、少なくとも警察官が収集した証拠のリストについては全件検察庁に送致すべきであるし、その検察庁のもとの証拠のリストについては、これはその証拠のリストそれ自体を弁護人に開示すべきだというふうに考えますが、いかがですか。

山崎政府参考人 現在のルールでも当然でございますけれども、警察の方で得たいろいろな証拠、これを全部検察庁の方に送付する、これは当然の話でございます。

 それを前提にして、検察官手持ちの証拠の標目、これを被告人の側に開示をするということになりますと、そこに詳細なものを、仮にどういう内容のものと概括的にでも書けば、これは全部開示したことと同じになってしまいます。そうなりますと、結局は抽象的な特定をする、供述調書とかあるいは鑑定書、証拠物とか、そういうふうにならざるを得ないことになります。そうなりますと、それを出したからといって何か特定ができるのかということになりますと、それは余り意味がないことになります。したがいまして、リストを見せるという形はとりたくないというふうに思っております。

辻委員 だけれども、最終的に争いになった場合に、三百十六条の二十七で、裁判所は検察官に対して、「その保管する証拠であつて、裁判所の指定する範囲に属するものの標目を記載した一覧表の提示を命ずることができる。」だから、検察官の手元にある証拠の標目について、公判前整理手続の段階で裁判所の目にはとまる、そういう仕組みになっているわけですよ。だから、弁護人にそれを明らかにしたって具体的な支障は何ら生じないのではないかということが一点。

 それから、今おっしゃったように、証拠の標目は全部抽象的に書いてあるということにならざるを得ないというふうにおっしゃったけれども、少なくとも、弁護側からこの標目のこれはどういう証拠なんですかという問い合わせがあったら、それを逐一答えればいいわけですよ。そのことがより争点を整理することに、急がば回れなんですよ。より信頼関係のもとでそれを開示して、弁護側も早目にどういう手持ち証拠が検事側にあるのかということがわかれば、改めて後から追加的に証拠請求するということはしなくても足りる場合があるわけですよ。

 そういう意味において、検察官の手持ちの証拠の標目のリストを最終的には裁判官に見せることがあり得る、そういう制度になっているんだから、弁護人にあらかじめ見せることにしたって何ら支障が生じないんじゃないですか。本来、この公判前整理手続で争点整理を早目に行うという趣旨に、むしろそれの方が合致すると考えられるのではないですか。その点、二点についてお答えください。

山崎政府参考人 これは、リストをつくって裁判所の方に見せるということになろうかと思いますけれども、これはやはり裁判所の方で最終的に判断をしてもらうためのその判断の材料としてリストを開示するわけでございます。したがいまして、先ほど言いましたように、ただこれが証拠物だとか、それじゃ意味がないので、もう少し書くことになると思うんですね、裁判官に見せるためには。これをもって判断をするということになるわけです。

 これを全部弁護人の方に見せろということになると、本当に開示する必要があるかないか、まだこれから判断することでございますので、それがないものに関しても全部見せろということになるわけでございますので、そうなると全面的オープンと同じになるということから、それは相当ではない、こういう判断でこの法律案を考えているということで御理解を賜りたいと思います。

辻委員 この裁判員制度が、この法律の予定している一年間の件数というのは約三千件ぐらいであろうというふうにお聞きしたように思いますが、違うのであればそれは正していただいていいんですけれども、三千件のうち、例えば、そういう証拠の標目をつくって、鑑定書、実況見分調書というふうに表題だけを書いていればそのまま別に特に問題にならない事件の方が多いんじゃないかと思うわけですよ。

 つまり、否認をして、逐一その証拠の標目についていろいろ、これは何なのか、つまり、検察庁の側では、裁判官から求められたときに初めてやればいい仕事を前倒しで弁護人の要求にこたえるために先にやらなければいけない、その件数が余りにも多いと困るんだというのが一点。二つ目は、全面開示につながるから困るんだということをおっしゃったんだけれども、少なくともその一点目の理由については、三千件のうちにそういうことが必要となる件数というのはそんなに多くないわけでしょう。では、それをやればどうなんですか。

山崎政府参考人 この制度は裁判員裁判に限定しているわけではございません。一般事件全部に絡むものでございます。裁判員裁判は二千七百件と予想しておりますけれども、そういう意味で、ほかの事件でも非常に複雑なものもあるわけでございまして、そうなりますと、それがそんなに少ないかと言われると、そうでもない。

 それからもう一つは、捜査は、もうこれは釈迦に説法でございますけれども、当初はかなり広く捜査をすることになろうかと思います、明らかな事件では別でございますけれども。そうなりますと、それに関係した証拠というのは膨大にあるということもあり得るわけですね。そうなったときに、このリストをつくっているだけでも大変な作業になるわけでございます。

 これについて全件について必ずつくらなきゃいかぬとか、そういうことになると、それだけで膨大な作業時間を要する、かえって審理がおくれる、こういう点もございます。そういうことから、全件についてリストをつくって開示をするということは現実性がないだろうということでございます。

辻委員 ちょっと私が質問の前提を誤解して、裁判員制度の件数として三千件弱を予定している、それを前提にお尋ねしましたが、基本的にはこれは全件に、裁判員制度の適用以外の案件については必要性を認めた場合に適用になるということでありますけれども、前提が違ったということで、数の問題については私の質問を撤回しますけれども。

 ただ、裁判官に求められれば手持ち証拠の標目を明らかにするのであれば、弁護人に対しても手持ち証拠の標目を明らかにするということをもう少し工夫しながらやることはあり得るのではないか。頭から、例えば関連性がなければならない、必要性がなければならない、弊害の程度を考慮するんだとか、相当性判断は検察官が判断するんだとか、これを読めば、通常、常識的に読めば、検察官はここも判断する、ここもチェックする、ここもチェックする、本当に検察官はこれは嫌がっているんだな、証拠開示について本当に消極的な思想に貫かれているんだなということが見え見えな制度としてこの規定が読まれかねない。

 そのようなことは、検察官としても、検察庁としても本意ではなかろうし、むしろそのような規定をすることが現場の検察官に要らぬプレッシャーをかけることにもなるかもしれない、そのように考えますから、やはりこういう加重な要件についてはもう少し緩和する方向での検討をするお考えはありませんか。

山崎政府参考人 検察官は公益の代表者でございます。法律できちっと定められたことにつきましては、きちっとした履行をしなければならないということは当然でございます。これをプレッシャーと感ずるのか、当然のことと感ずるのか、そこの違いだろうと思いますけれども、私はきちっとした対応をすることができるというふうに考えております。また、その周知徹底も図らなければならないというふうに考えております。

 それから、この法案について、これでいいのかという御指摘でございますが、これがベストだということで提案させていただいておりますので、現在、これ以上のことを考えるつもりはございません。

辻委員 ベストだというふうに考えておられるということについては大いなる反論があります。ただ、ほかの論点についても確かめておきたいことがありますから、ちょっと先に進みます。

 やはり、弁護側主張に関する検察官手持ち証拠の開示、三百十六条の二十に当たっても、弁護側がどういう事項なのかを明示すべき義務があるというふうにされています。だから、やはりさっき三百十六条の十五のところでお伺いしましたけれども、証拠として何があるか、手探りで不明な状態なわけでありますから、三百十六条の二十の規定を設けたからといって、この規定を手がかりに弁護側が具体的に証拠開示請求をしていけるのかどうなのかというその有効性については、やはり疑問が残ってくる、疑問が出てくると思います。

 この点、もう少し配慮する余地があると思いますが、いかがですか。

山崎政府参考人 これは、先ほど来申し上げておりますけれども、この二十に関しましては、被告人の主張、これが前提になるわけでございますので、主張を明確にしていただくということがまず第一だと思います。

 それとの関連で、あと、どういう証拠を求めるかということですが、これは先ほども申し上げましたけれども、識別に足りる事項でいいということでございますので、その主張に関連する供述書とか、そういうような形になるわけでございます。例えば、そこの犯行現場における証人等の、証人というか目撃者ですか、そういう者の供述書とか、それから、そこらに、その辺に遺留されている証拠物、されていた証拠物とか、そういう特定で足りますので、そういう関係からいけば、これを利用していただくということは十分可能だというふうに考えております。

辻委員 そうすると、ある犯行現場でのやりとりがあって、そこに遺留物があるのかないのか、その遺留物いかんによっては、その犯行の態様とか、いろいろ事実を確認していく手がかりになるそういうものもあり得る。また、目撃証人がいるのかいないのか。その犯行現場での犯行の存否なり態様なりを検討するに当たって想像されるいろいろな証拠というのはあると思うんですね。それを、では、例えば目撃証人がいるのかいないのか、いればその目撃証人の検面調書、員面調書等々すべてを出せ、遺留物があればその遺留物の存否及び、それについて何か鑑定したりいろいろなことがあれば、それについてすべてを出せというようなことを三百十六条の二十で請求すればそれが出てくるということでいいんですか。

山崎政府参考人 基本的にはそうでございますが、この条文の一項でいろいろ要件が書かれておりますので、その関連性の程度とか、そういうものももちろん問題になりますし、それから、それ以外にその必要性それから弊害のおそれ、これも十五の方と同じように、その要件はかぶりますけれども、通常は、本当に弊害があるもの以外で関連性があるものというものは提出になるというふうに考えられます。

辻委員 恐らくそこは、具体的な実務の中でかなり、定着するまでいろいろな試行錯誤というか攻防があるところなのかなというふうに思います。ですから、その試行錯誤、攻防の中で、余りにもこの規定が、関連性がなければならない、必要性がなければならない、そして「当該開示によつて生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、」と、この弊害の内容及び程度という、何にとっての弊害なのか、その内容及び程度、微に入り細に入り、何らかの理屈をつけて証拠開示を拒否することのできる手がかりになるような、非常に抽象的、あいまいな文言が法文の中にちりばめられているわけですよ。だから、現場でいろいろな試行錯誤で知恵を出し合っていろいろやっていくことにおいて、この法文がひとり歩きして、むしろ桎梏になるというような事態も考えられるわけであります。

 ですから、今のこの法案、法文のすべてがベストだ、そういう硬直的な物の言い方をなさるのではなくて、もう少し柔軟な提案者としての姿勢をこの場で発言として示していただけませんでしょうか。

山崎政府参考人 先ほど私、余りかたくなな気持ちで答えたつもりはございませんで、法案としてはこれでまずいきましょうということを提案させていただいているわけでございまして、これがやはりいろいろ弊害を生ずるということであれば、これは政府の責任としてそれはもう修正していかざるを得ない、これはもう当然に考えていることでございまして、委員と意見が変わらないというふうに考えております。

辻委員 いや、もう六回目ぐらい山崎さんとはまみえていますが、初めて評価していただいて、御礼を申し上げます。

 やはりこの三百十六条の二十が、ある意味では、弁護側に対する、この法案は決して防御権を無視したものではないという一つのアピールする材料として出されているというふうには思いますけれども、しかし、今論議させていただいているように、多々、多くの問題がある、だから規定の仕方等についてももっと工夫がなされてしかるべきだと。

 今、山崎局長の方からは、運用の実態を見たりいろいろな提言を受けてそれはやはり変更することもあるのが自然であろうというお答えをいただきましたので、本当はもう少し突っ込みたいわけでありますが、この点については、また別の機会がきっとあると思いますので、それにゆだねたいというふうに思います。

 それで、あと十五分しかありませんから、二百八十一条の四で、目的外使用の禁止ということについて規定があります。例えば、「次に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供してはならない。」

 非常に抽象的、あいまい。「目的以外の目的」というのは、これを読んだだけでは何を言っているのか、非常にわからない。

 しかも、これは、いろんなところで意見が出ておりますから細かくは繰り返しませんけれども、裁判を冤罪事件だというふうに闘っていこうというときには、それを支援する人たちもあらわれてくるだろうし、それが報道価値があれば報道する必要もある。そして、そのような争点になっている、これは学者的に見ても非常に関心を引く問題である可能性もある。

 だから、そういうそれぞれの人たちに対して、しかるべき方法で、しかるべき手段で情報が開示される、情報が伝わるということは、むしろ全体にとってマイナスではない、プラスであるというふうに考えます。非常に抽象的に目的外使用の禁止をしていたのでは、社会が非常に閉塞状況になるし、一方で刑事裁判をめぐる国民の関心を高めるといいながら、国民の関心を遠ざけるような論理矛盾を起こすような規定になっているのではないかと思います。

 この点、改善の余地についてお聞かせください。

山崎政府参考人 この規定自体は、当該被告人の事件あるいはその被告人の事件に密接に関連する事件、そこで使うもの以外の目的外使用を禁止しているということになります。

 先ほどいろいろな取り組みのお話がございました。これにつきまして、その情報が出ちゃいけないということを私ども言っているわけではございませんで、ここで、複製ですね、そのものを目的外に使用してはならないということを言っているわけでございますので、その内容についていろいろなところでお話をされるとか議論をするということ自体は全く禁止をしていないわけでございます。

 私どもとしては、そのものを利用しなくてもその内容を伝えることは十分できるので、それでもって足りるのではないかということで考えているわけでございますので、そこのところは御理解を賜りたいというふうに思っております。

辻委員 現行刑事訴訟法でも、訴訟記録については、使用の制限、閲覧の仕方とか制限がたしかあった、規定が刑事訴訟法上あったと思いますが、それに加えてこれを規定しなければいけない、そういう必要性、立法事実というのはどういうものなんでしょうか。

山崎政府参考人 もともとこの立法趣旨は、これをオープンにすることによって、罪証隠滅とか、証人威迫とか、関係者の名誉、プライバシーの弊害が生ずるということを考えているわけでございますけれども、今までのルールは明確でなかったわけでございますね、法廷で使われた証拠に関しては。

 今回は、先ほど来議論をさせていただいておりますけれども、証拠開示にてかなりの証拠が出ていくことになります。それで、これは法廷で使われないものもあり得るわけでございます。そういうもので構造が今までよりかなり広がってきているわけでございます。そうなりますと、きちっとしたルールを明確にしておく必要がある。今まで余りなかったことがかえって逆に問題であるということにもなろうかと思いますけれども、今後は証拠が今まで以上に多く出ていくということから、きちっとしたルールを明確にしましょう、こういうことで設けたものでございます。

辻委員 時間がもうあと十分しかありません。

 それで、前々回でしょうか、三百十六条の三十二について、公判前整理手続終了までに証拠調べを請求できなかった証拠であっても、やむを得ない事由によってできなかったのであれば、それは公判開始後許容されるんだという御趣旨の答弁があり、しかも、このやむを得ない事由というのは、例えば控訴における事実調べの範囲として、刑事訴訟法三百八十二条の二などで言われている「やむを得ない事由」よりも広いんだということを答弁されたと思います。

 それについて、前回は、アリバイ主張をすることの必要性について、現に公判審理で検察官側の証人の証人尋問の結果を見て初めて判断するのが得策であると弁護側としては考えざるを得ないような場合があるんだけれども、そういう場合にはやむを得ない事由に当たるんですねというふうに申し上げれば、否定的な回答が返ってきたように思います。

 この点は再考していただけませんか。簡単にお答えいただければと思います。

山崎政府参考人 たしか、この間はアリバイの証人のことで弾劾をするということだろうと思いますけれども、この点につきましては、争点として検察の方からもう証拠が出ているわけでして、それの弾劾ということならば当然予測がされるわけでございます。これをわかっていながら請求をしないということになれば、それはやむを得ぬ事由には当たらないということで、ここは考え直す余地はちょっとございません。

辻委員 例えば、真犯人は被告人のAさんだというふうに検事側が立証しようとしていて、それに沿うBさんの供述がある。供述調書が開示されていてBさんの供述はそういうふうに書いてある。しかし、どうもいろんな矛盾きわまりない供述内容であるから、実際、公判廷でBさんを反対尋問で崩すことも可能である、崩れることだって可能である。そうすると、被告側からあえて積極反証でアリバイ証人を持ってきて立証しなくても、Aさんを無罪に導くことができる。Bさんの証人尋問を弾劾すれば、それで勝利に向かうわけだから。という判断で、弁護側がみずからのアリバイを立証できる可能性があるC証人を、あえて公判前整理手続が終了するまで明らかにしなくてもいい、そういう選択肢、そういう場面というのは、通常いろいろあり得るわけですよ。

 ですから、それをしゃくし定規に、Bさんの供述調書が明らかになって、そのBさんの言っている内容は恐らく想像がつくんだから、それを弾劾することで、使える証拠については全部公判前整理手続終了までに明らかにしろというのは、弁護側に余分な負担と、手持ちのいろいろな証拠というか手持ちの選択肢を全部先に公に明らかにさせるということであって、これはある意味では、被告、弁護側の黙秘権を侵害することにもなるし、無罪の推定をその意味では制度的に崩すことになるのではないか、このように私は問題意識を持っております。

 これについては、もっともっと突っ込んで議論したいところでありますが、あと五分でありますので、三百十六条の三十二というのは極めて問題のある規定であり、やむを得ない事由というのはもっと柔軟に考えられなきゃならないということを指摘しておくにとどめたいと思います。

 最後に、裁判員制度の評決であります。

 これは、裁判員法の六条で裁判官及び裁判員の権限が定められていて、六条の一項で、裁判官及び裁判員の合議によるということで、事実の認定、法令の適用、刑の量定、これについては裁判員はかかわることができる。二項で、法令の解釈に係る判断、訴訟手続に関する判断、その他裁判員の関与する判断以外の判断、これは構成裁判官の合議による。したがって、これは裁判員はかかわることができない、このようになっております。

 そうすると、裁判員制度が適用される案件で、恐らく、否認事件で争いになっている場合には、検察官側の開示する証拠についてはかなりの部分を不同意にして、いろいろ証拠開示の要求とか、準備手続についてかなり時間がかかることが予想される。私は、六カ月、場合によっては一年ぐらいかかる案件だって出てくるんじゃないかというふうに思いますが、そこで、証人を何人か特定して、公判を開きましょうと。それで、裁判員の方がそれに参加して、公判審理が三日間、四日間開かれる。しかも、それについても、制度上では期日間の整理手続というのがあって、連日開廷が基本とされているけれども、裁判員が参加した審理が途中で中断をして、また整理手続に移行して、そこには裁判員は参加できなくて、それでまた審理が再開される。

 つまり、裁判員がかかわれるプロセスというのは極めて限られており、極めて部分的であり、ある意味で極めて限定的であり、時間も連続性がない場面が多々あるわけであります。そういうようなかかわりしか裁判員はできないというシステムになっている。

 しかも、権限からいっても、法令の解釈、訴訟手続に関する各判断、そしてその他裁判員の関与する判断以外の判断、つまり、その他すべては職業裁判官の判断、合議によるというふうになっているわけであります。

 そうだとすると、心証形成の合議というのは、この合議については、裁判官の合議について裁判員は場合によっては傍聴が認められるというふうになっておりますけれども、仮に傍聴していても、主要な、例えば、これはどのような法令に当たるんだろうというその解釈の論議を専門裁判官だけがやっていて、それを傍聴して聞いていて、例えばそれが二時間ぐらいにわたって、次に三十分間ぐらい、きょうの証人尋問のあの証人の証言はどう評価するだろうか、すべきだろうかということで、そこは裁判員が意見を言って、しかし、それ以外のまた手続が、裁判員のかかわれない手続が始まれば、今度はまた裁判員はお客さんでそこに座っているだけであってということで、つまり、評決に至る過程において裁判員がどれだけ主導権を持って自分の意見を反映させることができるのかということが全く見通せない、そういう制度になっている。

 だから、まさに裁判員はパートタイムのお客さんであって、しかも、この合議体は裁判長は裁判官の中から選ぶというふうになっておりますし、また、通常、株主総会なんかでいえば、少数株主権は、株主もそうだし、少数の取締役だったら少数取締役の取締役会の招集権というのはあるわけでありますから、しかし、この裁判員制度に基づく合議については、裁判員の側からそういう招集権があるという規定もない。つまり、徹頭徹尾、部分的な権限しか与えられていない、部分的な時間しか関与できない、しかも部分的な形でしか合議にもかかわれない。

 このような中で裁判員が自分の意見を、裁判官を説得するような形で意見を反映させることなんて、通常考えたらあり得ないじゃないですか。どうしてこれで裁判員の意見を反映することが可能なんだと、そういう楽観的なことが言えるんですか。その点についてお答えください。

山崎政府参考人 これは、すべての問題について裁判員の方が権限があるということになりますと、これは非常に負担の重いものになるわけでございます。それから、憲法上の問題にもいろいろなってくるわけでございますので、そこは一定の制約を設けたということで、まず御理解をいただきたい。

 それから、法律解釈等について、これは裁判官の専権でございますけれども、一定の事件で流れているところで、あるところで法律解釈が問題になったときに、そこだけ裁判員の方は外して、また別途それが終わったらやる、こういう流れが本当に国民の方に理解を得られるかどうかという点もございまして、この法文でも、その合議の傍聴を許して、かつ、その意見を聞くことができるという点も配慮しておりまして、必要であればまさにそれで意見もお聞きするということで、一体性を持ちながら審理をしていく、こういうシステムになっているわけでございますので、そこは御理解を賜りたいと思います。

辻委員 いや、まさにこの裁判員法案が本末転倒の構造になっているということが、今、山崎さんの発言で如実にあらわれているわけですよ。

 裁判員の負担が重いということがあって、負担を軽くするための制度ということでいろいろな制度が組み立てられていっている。しかし、そのときに、刑事被告人の権利はどうなるのかということについては頭の外になっているわけですね。それを念頭に置いて考えられていない。

 つまり、この制度設計に当たっては、刑事被告人の権利はどこかに追いやられていて、裁判員をとにかく導入するんだ、そのためには裁判員の負担が重くなってはいけないんだ、そちらを主要に制度設計がなされている。これでは、私が一番最初にお伺いしたように、裁判員、国民の常識を裁判に反映させるという政策目的、そのためには裁判員に参加してもらわなきゃいけない、負担が重いと参加してこない。だから、そういう政策目的をまず優先して制度設計をして、一方で、刑事被告人の権利の保障はどこかに追いやられているわけですよ。

 具体的な防御権の個々の条文等についてはもっといろいろ私は議論をしたいと思いますけれども、要するに、この制度設計そのものが、刑事被告人の権利は後景化されていて、後退し、侵害したとしても、それは歯牙にもかけず、裁判員の参加、そして、裁判員、国民の負担が重いということを軽くするんだということを優先的にこの制度設計がなされている。これは、やはり根本的な思想が間違っているというふうに思わざるを得ません。この点はやはり改善すべき余地が多々ある、改善していくべきだと私は考えます。

 最後に、これは、だからこそ秘密の漏えいの問題を考えなきゃいけないんだという反論が出てくるかもしれないけれども、私が聞いている限りにおいては、あの三浦和義さんの一審裁判において、判決は、第一審は無期懲役であった。第二審は、私はよく何度もめぐり会った、しっかりした裁判長でありましたから無罪判決になった。しかし、第一審の無期刑の一年前の合議においてはこれは無罪だった、無罪の合議にほぼなっていたということをいろいろな情報で私は得ております。そこに、裁判長が交代したからといって突然無罪が無期になるというようなことがやはりあるんだなというふうに、なるほどそのとおりだな、それが今の裁判の実態だなと。

 つまり、言いたいことは、裁判長、裁判官、専門裁判官の間でも合議というのは平等な形で、自由討議の形で現に進行していない。このような制度のもとで、裁判員が加わったからといって、本当の意味での合議、裁判員の意見が反映する、そのようなことがどこまで保障されるのか、やはり疑問が最後までつきまとう。この点を指摘して、私の質問を終わらせていただきます。

柳本委員長 御苦労さま。

 中井洽君。

中井委員 民主党の中井です。

 法務大臣に一時間お尋ねを申し上げます。

 役所の方もだれか、こういう御希望もあったんですが、私、かつて自自連立のときに、国会のあり方というのをめぐって自民党さんといろいろな協議をいたしました。以来、予算委員会等も含めて、役人の方は御退席いただいて大臣に聞く、お互いそれは間違えるときもありますが、それはそれで仕方がないことでありますから、議論をする、こういうスタイルでお願いをしたいと考えております。

 また、法務委員会は初めてで、したがって法務委員会の質問も初めてになると考えております。詳しいことは、我が党、そうそうたる論客が座ってまいりまして、本当にすばらしい質疑をやっていただいたと思いますので、私は私なりの観点から大臣にお尋ねをしたい。

 同時に、十数年本当に、司法改革、よくここまで来たなという思いもございます。法案の中身、それぞれ不満もあれば不安もあります。しかし、ここは、この改革というものがうまくスタートしてほしいなという、かつて関係した一人として、思いもございます。そういう観点からお尋ねをいたします。

 ただ、法案の質疑に入ります前に、三つばかりお許しをいただいて、法務関係のことで幾つかお尋ねをしたいと思います。

 私も、国会はもう二十四年になります。それで、この国会議員でいる間に、日本の国が情報局というのを持ってほしい。この間のイラクの問題なんかでも、それはそれなりに政府が一生懸命おやりになっているし、危機対策室も、村山内閣のときの阪神・淡路の大失敗以来随分整理されてきたし、統一をされてきたと思っています。しかし、世界の中での情報ということについて、日本の政治、行政というものは非常におくれているんじゃないか、このことを常に思って、国家として、情報局、こういったものを持たない欠陥というのは大変な損失だと考えています。

 この点について、法務大臣、公安庁も監督をなさっているわけでありますが、どのようにお思いか、お尋ねをいたします。

野沢国務大臣 閣僚の大先輩として、また国会における先輩議員として、いろいろ忌憚ない御意見をちょうだいして、何とか御答弁を務めたいと思っておりますが、よろしく御指導をお願いいたします。

 今お話のありました情報局をということでございますが、まさに、現在の政治を進めるために最もやはり基本になるものが私は情報ではないかなと思っております。そのために、毎日あらゆるメディアをまた利用し、かつまたいろいろな関係機関を活用しながらこの情報の収集に努めて政治的判断に誤りがないようにすることが、我々、政府の一員として最も大事な仕事と心得ておるわけでございます。

 法務省といたしましても、公安調査庁をお持ちのことは既に委員先刻御承知でございますが、この公安調査庁におきまして基本的に必要な情報を収集いたしまして、それぞれ法務行政に生かしていることも、これもまた既に長年の実績があるわけでございます。また、防衛なり外務なり、あるいは似た仕事としましては国家公安委員会がございます、警察がございますが、それぞれ情報部門を持ちまして、独自のやはり情報ルートを開拓しながら、誤りなきよう努力をしているわけでございます。

 これを一元化したらどうかという御意見もあろうかとは思いますが、それぞれのやはり持っております事務所なり発生経緯なり、あるいはこれまでの長年のおつき合いの中からかけがえのない情報も得られることを考えますと、やはり当面、私は、それぞれの分野、部門におけるこの各員がそれぞれ情報を収集し、これをいかにして集約するかというところに問題を集めたらいかがかと思っております。

 ちなみに、今回のイラクの人質対策におきましても、官邸を中心に対策本部をつくりまして、そこへ情報を集中しながらここまで努力をしてきて、結果が非常によかったということでございます。

 今後とも、御意見をちょうだいしながら改善に努めたいと思っております。

中井委員 閣僚の自画自賛として承っておきますが、公安庁という役所がありながら、破防法対象の団体だけの調査ということで、僕は大変もったいないことだなという思いもございます。お話にありましたように、警察は警察、防衛庁は防衛庁の調査機関もあるんでしょう。しかし、内閣に、本当に世界の情報というものを入れて判断材料にする、こういう役所が僕は必要だとあえて付言をいたしておきます。

 イラクの人質のお話がございましたので、さらにこのイラクのことについて聞きますが、五百数十人の自衛隊の方が活動をされております。私どもから言わせれば、大変難しい法律をつくって、急いで派遣をされた。したがって、準備不足のところが幾つかあるんじゃないかと心配を常々してまいりました。

 そういう意味で、騒然としたイラクの中で、これから万々一イラクで活動される自衛隊の諸君が、何か事故を起こす、あるいは正当防衛で殺傷をする、そういったときに法的な面でどういう地位にあるんだろう。承れば、CPAから占領軍と同じ待遇を受けている。占領軍と同じ待遇を受けているということは、要するに、自国に裁判権があるということだと思います。自国に裁判権があるということは、自衛隊の警務官もあの地に行っているんだろうと思います。

 しかし、その警務官が日本で与えられている地位というのは、自衛隊が自衛隊の基地内で、あるいは施設内で起こした犯罪だけに優先権があるんじゃないか。自衛隊の施設外で自衛隊員が何らかの犯罪を起こしたり巻き込まれたりしたときの第一位の捜査権というのは、警察にある、あるいは検察にあるんだろうと僕は思っています。それがない場合に、本当にどうするんだ。

 よその国には軍法会議というのがある。日本の自衛隊はそこまでまだ整理ができていないんじゃないか。そういう中で、どういう法的枠組みであそこにおられる五百数十人の自衛隊の方々は守られているのか、あるいはこれから法律が適用されていくのか、法務大臣としてお答えください。

野沢国務大臣 この司法刑事の問題に入る前に、何よりも、このたび三人の日本人の方々、それから、引き続き二人の方々が無事解放されたことにつきまして、政府はもちろん努力をいたしましたが、国民の皆様、議会の皆様、そして、それを受けていただいたイラクの関係者の方々の御好意によって問題が解決しましたことを、閣僚の一員として心から御礼をまず申し上げたいと思います。

 そこで、今お尋ねの問題でございますが、イラクでの復興支援にこの自衛隊が行っておりますことは、あくまで人道復興支援ということで、治安維持とかイラクの中の争いに巻き込まれないことをもう前提に今行っておるわけでございますけれども、そのために、規律の維持には十分気を使っているということでございます。

 事件が発生していない現時点で、お尋ねのような仮定の問題について私がお答えすることがふさわしいかどうか、これはひとまずおくといたしまして、一般論として申し上げますと、イラクに派遣されています自衛隊員の犯罪行為につきましては、現地の裁判権から免除されることになっているものと承知をしております。これは、CPAとの協定なり命令によってそうなっておるわけでございますが。

 したがって、もし問題が起こったときには、日本の刑罰法規が適用される犯罪行為ということで、日本で裁判が行われる、こういう仕組みになるわけでございまして、これはCPAがもし仮にほかの統治主体に変わったとしても引き継いでいただけるものと期待をいたしております。

中井委員 私がお尋ねしましたのは、万々一巻き込まれたり起こしたときに日本に裁判権があるというのはさっき申し上げたとおりであります。

 そのときに、自衛隊の警務官が調べるんだろう、そこから後の処理ということがどういう手続になるんだろう。あるいはまた、警務官は日本国内では自衛隊の基地や施設の中での権限は有しているけれども、海外の自衛隊ではどういう権限を有しているんだ。日本の国内であるならば、警察と自衛隊で結んだ協約というもので線引きがされている。警務官がどう判断して、検察へ届けるのか、それも仕組みとしてできているだろう。しかし、海外に行ったときにどういうシステムになっているんですかとお尋ねをしているわけでございます。

野沢国務大臣 これは、自衛隊の内規に従いまして、やはり今御指摘のような警務官の方々のお働き、さらにはそれぞれの上司なり関係者のお力によって当事者を把握いたしまして、私どもの方に移送していただく、そういうことの中から問題が始まると解しております。

中井委員 では、十分想定をしていただいて、お若い方がああいう物騒なところへ行っていらっしゃるんですから、総理以下は平和だ、平和だとおっしゃるけれども、これはもうだれもが平和でない、安全でないことはわかっているわけですから、法的な面でそごのないようにひとつ監督をしていただいて、詰めなきゃならないところが残っているなら、十分、警察、法務省、検察庁、そして自衛隊でお詰めをいただきたい。これからも海外へたびたび出ていくんだろうと僕は思います。そういったときに法整備をしておくというのは我々の役割であろう、このように考えておりますので、強く要望をいたしておきます。

 それからもう一つは、過般私どもの永田議員がお尋ねをしたと思いますが、本当ならあそこに専門家がおりますから専門家がお聞きをすればいいのですが、彼は法案の提出者でありますから質問ができないので私がかわってお尋ねをいたしますが、大臣は、国鉄へ御入社なすって、五十三で国政へ打って出られたと承知をいたしております。昭和六十一年の御当選。

 六十一年の四月から、国会議員も強制的に国民年金に加入しなければならない、こう決められております。今国会の審議の過程の中で、つまらぬ話だけれども、大臣諸公がお払いになっているのかどうかというのが非常に大きな話題となってまいりました。今までにお答えいただいていれば何でもない問題なのを、お答えにならない。

 坂口厚生大臣なんかは六十まで払っていましたとお答えになっていらっしゃる。お答えにならないと、何か払っていないのかなと。せっかく御立派な御人格を疑わざるを得ないような、つまらぬ話でございます。プライベートだというお答えをなさったやに聞いておりますが、これは国民の義務の話でありますから、行政のトップにいる大臣、しかも法をつかさどる大臣がこれをプライベートだと言うことはないだろうと僕は思っています。

 払っていなかったら払っていないで対応策をお考えいただければいいことであります。お忘れになったというなら次回に、御家庭でお聞きいただいて、そういうことは奥さんに任せてあるというのならば次回にお聞かせいただければ結構なことでありますが、あえてお尋ねをいたします。お答えください。

野沢国務大臣 私の経歴につきましては今委員御指摘のとおりでございまして、それに従いまして適切に処理をしておりますが、年金その他の詳細につきましては、プライバシーにわたりますので差し控えさせていただきたいと思います。

中井委員 大臣、御自分でプライバシーだとお考えになっていらっしゃるというのなら、ちょっとこれはここでけんかをしなきゃならなくなっちゃう。自民党の国対筋でそう答えろということであるなら、これはちょっと理事会で、別室で協議していただいて、国対へそれぞれ持ち帰ってもらって話をしてもらえばいい。私はほかの質問をしていますから。

 これはどうなんでしょうか、これはプライバシーでしょうか。義務であることは御承知のとおりだと思います。昭和六十一年の四月からでございます。私も昭和六十一年から払い始めました。六月の選挙で、衆参同日選挙で、大臣はお通りになったけれども、私は落選しましたから、落ちながら払うというのはつらいなと思いながら払った記憶、鮮明に覚えております。六十で無事終わりましたから、まあやれやれと思っております。

 実川さん、副大臣、どうですか。あなたは長いこと、県会からこっちへ来られて、十年以上国会議員やっていらっしゃるから、このことは御存じですね。お払いに……。

 簡単なことだ。払っていると言えばそれでしまいのことでございますから、どうしてそんなことがプライバシーなのか、僕は全然わかりません。お答えください、実川さん。

実川副大臣 私も昨年で払い終わったと思いますけれども、今大臣の答弁がありましたように、プライバシーということでございますので、よく調査して、また御答弁させていただきたいと思います。(中井委員「いつまでにお答えいただけるの」と呼ぶ)期限は、なるべく早い時期に、調査して、よく調べてみます。(中井委員「採決までに答えてくれる」と呼ぶ)すべて女房に任せてありますので、それはよく調査して答弁させていただきます。(中井委員「大臣、いかがですか」と呼ぶ)

野沢国務大臣 最初申しましたとおり、私の経歴に従って適切に処理をしているというとおりでございまして、詳細は、私も銭金は余り得意な方ではありませんので、これは御勘弁いただきたいと思います。

中井委員 先ほど決算行政監視委員会か何かへ行っておりましたら、小野さんが、それは厚労委員会で議題となっていることですのでここではお答えしませんと、こう言う。国対からそう言われましたというような答えをするから、それは自民党の国対さんがそれを、どうなのかなとちょっと思ってお尋ねをあえていたしました。

 僕は、これはプライバシーじゃない。こんなことは何ということはないんだ。僕は、野沢大臣の立派な御経歴から聞いても間違いはないとは思いますが、答えてさっと済ませていただいたら次の質問に行けるのですが、これがプライバシーだと言うのなら、資産公開からこれはすべてプライバシーじゃないでしょうか。それを私どもは出して、国民に批判をいただきながら、また身をさらして、国政という大事なものを預かってやっているんではないでしょうか。

 それは任意加入だとか、大臣、まことに恐縮だけれども、大臣の国鉄の、JRの年金、幾らですかとかそんなことは、僕はひょっとしたらプライバシーだろうと思います、金額は。しかし、国民年金、五十三から六十まで国会議員としてお掛けになりましたかと、これは唐突に聞いているんじゃなしに、ここ二週間、河村議員が提案して以来、これはかなり国会で話題となっております。(発言する者あり)ああ、それはさっき言うたんです、一番先に。そういう意味で、ぜひお答えをいただきたい。

野沢国務大臣 今、委員、いみじくも御指摘いただきましたように、資産公開その他、すべてルールどおり御報告いたしておりまして、この中で適切な処理をしている、こういうことでございます。

中井委員 お人柄で、お払いになっているとお答えになったと私は判断をいたします。

 ぜひ内閣、閣議等でも、こんな問題で大事な時間を割かずにさっさと答えようよと、だれか払っていない人が一人か二人いるために迷惑じゃないかと大臣からでもおっしゃっていただけたら、もっと早く審議が、国会全体の審議が進むんだ、こう思っております。

 法案の方に入らせていただきます。

 大臣もいろいろな御経験をなさっておられますが、その御経験の中で、裁判を提訴なさったり、お受けになったり、あるいは傍聴、裁判そのものをごらんになったりという御経験はございますか。

野沢国務大臣 私も、法務大臣になったのが法務行政に携わった最初でございますが、これまで私の経歴の中で、もう二十年以上になりますけれども、名古屋の新幹線公害訴訟において証人として呼び出されまして、相当詳細にわたって長時間油を搾られたことがございます。これが初めての経験でございまして、幸いこの裁判は両者議論を尽くした結果和解になりまして、大変円満な結果になったことを覚えております。これがまず第一でございます。

 あと、私のマンションが日影障害、いわゆる日照権問題で被害を受ける方が何人か出たという中で、その問題について東京地裁にみんなで訴えた、これの支援をしたということで、私自身がその原告になったということではございませんが、これは実は大変貴重な体験でございまして、なかなか日照権というのは今の権利の中では余りどうも強くないなということで、涙をのんだことがございます。

 それから、最近では、国会で設けられております裁判官弾劾裁判所の裁判官として、不祥事を起こしました裁判官の罷免について審理をいたしまして、結果、やはりこの職に値せずということで罷免をしたという経験がございます。これは記録にも残っておるとおりでございます。

 今のところ、実際私自身が参加し、あるいは判断を迫られたのは三件でございますが、先日来のお話にありましたように、刑事裁判、特にこの裁判員制度を議論するに当たりましては刑事裁判の実態をわきまえていないことにはいかぬということで、近いうちにできるだけ、隣にもあるわけですから、現場を見学し、関係者のお話を伺いたいものと考えておるところでございます。

中井委員 私も、大臣になるまで法務委員会に所属したこともなければ、法務省にお邪魔したこともないというので、本当に身を縮める思いで短い期間大臣を務めさせていただきました。

 このときに、申し上げれば有名な裁判でございましたが、判決が一審でございまして、もうだれしも有罪だと思っていたら無罪になったんですね、一審は。もう今最高裁まで行って有罪でございましたが。僕は、聞いちゃいかぬのかもしれませんが、法務省の専門家何人かに聞いたら、いやと言って、実はあの裁判官は今度の判決で定年です、こう言うんですね。定年前は優しい判決が出るんです、傾向としてと。だから、びっくりいたしまして、そういうことはあるんだなと感じたのが一つございます。

 それから、大臣は弾劾の方ですが、私は訴追委員の方を三年実はやらせていただきました。事件として弾劾へ送ったのは何もないわけですが、物すごい訴えが来るんですね、数が。そして、あの裁判官はこういうけしからぬ言辞をやったとか行動をしたとか、まあいろいろな訴えでございます。初めは、その裁判所、最高裁から来ておった方が処理して僕らに見せておったんですが、途中で超党派で、それは一遍、当たる当たらぬは別にして詳細に調べさせていただく、裁判官もこれだけ人間性あふれた方がいらっしゃるなら、やはりチェックというものは必要だ、こう痛切に思ったのを大事な経験にして今日まで参りました。

 そういう経験が僕もあるわけですが、今の裁判というものをどういうふうに大臣は見ていらっしゃるか。特に刑事裁判全体を、山崎事務局長なんかは、非常にうまくいっている、こういうお答えでありましたが、どういうふうに率直にごらんになっているか、お聞かせを願います。

野沢国務大臣 私は、法務大臣を拝命いたしましたときに、小泉総理から三つほど特命事項をちょうだいしていまして、その第一が、司法制度改革をしっかりやってください。それからもう一つが、治安が大変悪くなっている、昔は日本は世界一安全な国と言われていたにもかかわらず、最近の状況を見ると坂道を転げ落ちるように悪くなっている、これをひとつ戻してほしい、昔のように安心して町を歩ける、そういう国にしていただきたい。それからもう一つが、刑務所が大入り満員ということで、五万人以上のところに、未決を入れますと七万人前後の方がお世話になっている、これを何とかしないといかぬな。この三点をできるだけひとつおまえの力で頑張ってくれ、こういう御注文でございました。

 それで、それを進めていくためには、何よりもやはり、これまでの司法制度のあり方、裁判のあり方、検察、弁護のあり方、それから現場の刑務所の行刑のあり方、これをすべて私自身の目で見て、私自身の判断でいいか悪いか判断しようということで、私もできるだけ時間をつくりまして、例の名古屋刑務所に一番先に飛んでいきましたが、そのほか、北は網走から南は福岡まで、各種の行刑施設を全部見て回って、実態を拝見したわけであります。

 それとあわせまして、この司法制度の成り行きといいますか、なぜこれをやらなければならなかったかという点についても大変思いをいたしまして、はっきり言いまして、今これをやらなきゃいかぬ理由は何かといえば、もう委員御案内のとおり、とにかく裁判がお金がかかる、あるいは庶民にとって遠いところにある、取りつきにくい、わかりにくい、これを何としても克服しないとぐあいが悪いな。しかし、正しいかどうかという大筋のところではなかなかよくやってきたのではないかと、私はそれぞれの事案を見ると判断されるわけでございます。

 逆に言いますと、今までの検察、司法の担当者の皆様は最善の努力を尽くしてきたがゆえに、逆に改革についての問題が先送りされてきたのではないか、そういう意味で、今こそまさに変えるときだ。明治のあの大改革に引き続き、戦後の占領軍が来てから相当な見直しをしたわけですけれども、百年たった今日でもまだ片仮名まじりの法律がいっぱい残っておるわけでございまして、それを運用しておられる検察それから裁判、弁護の皆様方が精いっぱいの努力をしてもたせてきたのではないかなと思います。

 そこで、やはりこの司法制度改革は、まさに日本を、私、第三の開国と言っておるんですが、国際基準に照らして恥ずかしくないルールに見直して、そして現代の言葉である普通の文体に直して、わかりやすい裁判という意味で、また迅速な裁判という意味で裁判員制度を導入する。取りつき、寄りつきのいい、総合法律支援の法律も通していかなきゃいけない。一連の改革こそ、まさに、これまで立派ではあったけれども十分ではなかったという点を改善し改良する絶好のチャンスが来ている。まさにそういう歴史的な意義ある仕事にたまたま私が素人でありながら充てていただいたということは、大変光栄であると同時に、実は大いに責任を感じておるところでございまして、諸先生方の御指導をいただきながら、何としてもこの改革を果たしていきたい、こういう思いでいっぱいでございます。

中井委員 御情熱はよく承っておきます。

 ただ、先ほどおっしゃった犯罪検挙率の低下、これはもう目を覆うばかりで、法務大臣として検察全体を御統率いただくと同時に、最大の原因は警察だと僕は思います。人数が少ないとか、いろいろございます。しかし、警察自体の腐敗、堕落も目を覆うばかりになってきているんじゃないかと考えております。

 僕は、一月ほど前に、民主党の中に、警察不祥事疑惑の解明の本部、そして警察を新しくつくり直そう、いい警察にやり直そう、そういう本部の本部長を引き受けて、いろいろと聞いておりますが、まあ本当であるなら残念なことです。これらにだれが手をつけるんだと言ったら、警察ですから、だれもいない。やはり検察だろう。ここら辺も含めて頑張っていただきますことを、あえて付言いたします。

 同時に、古い片仮名まじりの法律があるというお話、本当にそのとおりでございます。公職選挙法でも、片仮名ではありませんが、利害誘導罪なんという明治三十四年につくられた法律がいまだに残っておりまして、用水、小作というのを利用して利益を与えてはならないというような法律がありまして、いまだに適用される。こんなことを含めても、幅広い、バランスのとれた議論の中で司法改革というものにお取り組みいただきますようお願いをいたします。

 それで、そういう改革を急がなければならないというのに、今回のこの法律は、成立した後、施行まで五年かかると書いてございます。大臣、法律が施行されるまで五年かかる法律というのは、今までお聞きになったことはおありでしょうか。

野沢国務大臣 もう既に通っております住基ネットの法律が五年の準備期間を要していると承知しております。

中井委員 調べましたら三つほどあるんですが、それらはすべて三年でございます。住基法も三年。しかし、中の一部が五年、こういうふうになっております。介護保険法もそうでございます。法律全体が五年というのは長い。

 例えば、野沢大臣は一生懸命おっしゃるが、ことしの夏で御勇退と聞かせていただいております。ここにおります我々は全部、あと三年五カ月で任期でございます。この夏に行われます参議院議員さんはそれから六年でございますが、今回で法律が成立したら、成立過程の論議をしておりません。五年たったら、この議論をしている国会議員は、まあ衆議院議員は残っている人は何人かおるんでしょうが、だれもおらない。そういう中で、どうして五年もかかるんだ。先ほどから何か、ベストだ、こういうお言葉があったようですが、ベストならあしたからでも実行すればいいんじゃないかと。それは準備期間が要るということはよくわかります。しかし、五年というのは余りにも長いと率直に思いますが、いかがでしょうか。

野沢国務大臣 この法律が具体的に実行されるための条件が幾つかあろうかと思います。まず第一は、国民の皆様にこれが周知徹底して理解されるということ、そして、大方の国民の皆様が、なるほど、これはおもしろい制度だ、自分たちのためになる、積極的に参加しよう、こういうマインドをつくっていただくことがやはり大事であろうかと思います。

 これまでも努力はしてきておりますけれども、私は、これはまだ十分とは言えないので、やはり、このPR期間、さらには学校等も活用しました教育も、司法制度をPRし、普及し、理解してもらうために活用していかなけりゃいかぬかなと思っております。

 そのほかの具体的な手続、手順といたしましても、いわゆる裁判所の規則の制定、最高裁判所にこれはやっていただくことになろうかと思いますが、そういった規則制定、さらには裁判員制度の施行の前提となります諸制度、それから建物自身も、今のものでいいかどうかな、こういうことがございますし、それから裁判前の手続を進めたり、あるいは弁護士のいわゆる被疑者段階からの活用を考えますと、数が今のままでいいかどうか、これもございます。幸いロースクールで今相当な養成が進んでおりますので、そういった施策とあわせて考えていきますと、やはり五年というのは、相当な期間、適当な期間、必要ではないかな、かように今思っておるところでございます。

中井委員 今のお話を聞きましても、建物を直していかなきゃならないというのは一つ理由かなと思いますが、全国で五十の地方裁判所、まあこれを一年十ずつで五年かけて直すということでもないんだろうと僕は思います。

 それから、国民に対する周知徹底と教育ということ、これは大事なことでございます。

 しかし、私はかつて、比例代表で政党名を書くという選挙制度の変更のときに、民社党でございましたが、理事をいたしておりまして、各党が一番心配したのは無効票なんですね、無効票。周知期間をたしか半年ぐらいとったか三月だったかと思いますが、みんなで、どのぐらい無効票が出るか。多い人は、五%を超える、こう言いました。少ない人で三%と言いました。ところが、やってみたら〇・二%の無効でございました。日本人というのはすごいな、立派なものだと改めて思いました。

 私は、こんなのは一年か二年やったら、あっという間に国民がよし参加してみようと言っていただけるようになる、こう信じて疑っておりません。五年というのは、やりたくないとしか思えない。余りやりたくないんだけれども、まあ改革だと言うからやってみるか、五年たてば忘れるんじゃないかと思ってやっているとしか思えない長さでございます。

 どうぞひとつ、お考えを賜りますようお願いいたします。

野沢国務大臣 どうしても五年かけろということではなくて、五年以内、準備でき次第という理解でおりますので、それは、一日でも早く実行できるように、さまざまな準備を整えながら、御理解をいただいていくつもりでございます。

中井委員 これを五年かけてスタートして、刑事事件の全部でもないということでございましょう。そうしますと、刑事事件の全部、また民事裁判全体、こういう裁判員制度にどういうタイムスケジュールでやっていかれるのか。あるいは、これは本当に陪審制度という形にいくのか、この制度のまま固定して、アメリカやヨーロッパにもないような日本独自の陪審制度を確立しようと思っていらっしゃるのか。小泉さんの改革というのは、御当人に聞いてもさっぱりわからない。御当人がわかってない人でありますから、やはり担当の法務大臣にお尋ねをしたい、方向性を現時点でどう考えていらっしゃるんだと。

野沢国務大臣 日本にも陪審制度というのが昭和の三年から十八年まで一時期あったことは、もう委員御案内のとおりであろうかと思います。

 今回導入しております裁判員制度というのは、諸外国の陪審制度や参審制度も参考にしながら、いわゆる特定の国の制度をそのままコピーするということではございませんで、我が国の裁判制度や社会のあり方を踏まえた上で、独自の制度として制度設計をした。その意味でいいますと、本当に各国の制度のいいところを集めたかな、そういうふうに今私どもとしては考えておるわけでございます。

 そういう意味でいいまして、裁判員が裁判官と一緒に合議するという意味ではドイツ、フランスの参審制に近いわけでございますし、法律解釈や訴訟手続の判断に裁判員が加わらないということで、具体的な事案ごとに処理をするという点では英米の陪審制度に近いということでございます。

 そういった点も考えまして、今度のこの制度は、とりあえずこの姿でスタートをした上で、さらに必要な見直しも適時していけば立派な制度として育っていくんじゃないかな、大変期待をいたしておるところでございます。

中井委員 民事等裁判全体に、どのぐらいの期間をかけたら裁判員制度を導入できるとお考えになっているのか、ここのところをひとつお聞かせをいただきたいと思います。

 それから、英米のことを言われましたが、大臣が英米の陪審員や参審員のことを余り御存じだとは私は思いませんが、ゴールデンウイークで映画でもごらんになるんでしたら、ついこの間、「ニューオーリンズ・トライアル」という映画を僕は見ましたが、これは非常にアメリカの陪審制度の裏まで含めてわかったおもしろい映画でございます。古い映画でしたら、イギリスの「情婦」という、有名な、これはアカデミーか何かをとった映画もございます。かなり陪審制度に関する本や小説や映画が出ておりますから、ごらんになっていただいて、ああしまった、あんなこと言わなきゃよかったとお思いにならないように、ひとつ折々御勉強もいただければと思います。

 ひとつ、大体どんなタイムスケジュールを考えていらっしゃるのか、お答えをいただきます。

野沢国務大臣 何よりも、まずこの法案を通しました後には、直ちに政令の検討、さらには、さまざまな規則に決定をゆだねておることがございますので、これの準備をしてまいらなければならない。あわせまして、やはり先ほど申しましたような、裁判員制度を導入するに当たりましての施設の整備、さらに、それに伴いますまた経費、費用の見積もり、積算、そして最終的にはそれを国民の皆様が御理解いただけるような教育システムの構築等、まさに毎日続けても非常にこれは厳しい工程になるのではないかなと思っております。

 特に、裁判員制度を導入して一番のまず目立った形で効果があらわれますのが、いわゆる裁判期間の短縮であろうかと思いますが、この短縮をするためには、そのための事前の準備、それに必要なルールの制定、この辺について、皆さんの御納得いただける形づくりという意味で、今のところ、二年、三年、そして実施までの五年というものは、ある程度これを必要な期間と考えておるわけです。

中井委員 答弁が長いのは結構ですが、答えをちゃんと。裁判全体にこの裁判員制度を持っていくのにどのぐらいのタイムスケジュールをお考えになっているかとお尋ねをいたしました。それが一つ。

 尋ねるついでに、それからもう一つは、今お話ありました刑事事件で、私は、裁判所がこの裁判員制度を適用する事件と選択する、そのときにせいぜい長くて一カ月ぐらいだろう、こう判断をしておったのでありますが、仲間の弁護士さんやらは、いやいや、それは無罪を争ったら、中井さん、三年、五年かかります、一年なんてざらですよという御指摘をいただきまして、びっくりいたしました。

 それぞれ質疑があったかもしれませんが、そういう長い場合の裁判員の負担というのは大変なことだろうと思うんですが、そんな長くかかることも予想して、これもやむを得ないとしての制度創設でしょうか。

野沢国務大臣 刑事事件を今対象といたしておりますが、これによってこの制度そのものの検証を進めながら、さらにその先、民事、商事をどうするかという点については、今後の課題として御検討いただくようにしていかなきゃいかぬかと思っております。

 それから、二年、三年ということは、私どもは、もうこれからはあってはならないし、既に裁判迅速化法の中で二年以内ということもうたわれておるわけでございますので、できる限り短い期間で勝負がつくように、そのためのまた手続を今回詳細に決めさせていただいているわけでございますので、これをまず実行する、その中からその先の展望を開きたい、こう思っております。

中井委員 よくわからぬのですが、現実に、和歌山砒素カレー事件なんというのは、この間から高裁が、裁判が始まったわけでございます。何年もかかるんでしょう。ここに裁判員をつけるということになったら大変なことになるんじゃないか。一月もたないんじゃないかと僕は思います。ここのところをどう仕分けするんだというのをお聞かせいただきたいと思います。

 それからもう一つは、裁判員が六人、こういうわけですが、補充員が六人待機しているというんですね。どうして六人要るんだろう。これは、裁判員の方は、二週間かかっても、自分たちは大事な使命を果たしているし、判決、量刑、これに参加するわけですから我慢いただけると思います。しかし、補充の方は、じっと黙って聞いて、何も参加しない、しゃべってはだめ、これは到底もたないと直観的に思います。補充の方をもっと減らすというやり方をしないとやっていけないんじゃないか、反発が出るんじゃないか、このように心配いたしますが、大臣、いかがでしょうか。

野沢国務大臣 一概には申せませんが、裁判の大部分はやはり数日程度で終結する、そのことを前提としてこれを設計しておるわけでございますが、今委員御指摘のとおり、二年も三年もかかりそうな事案ということになれば、これについてはどういうふうに処理をするか、具体的にその事案を見てそれぞれ裁判所が判断していただければいいと思っておりますが、そのためにも、やはり事前の準備、これが重要でございます。

 それから、今御指摘のような、予備に六人というような話もございますが、やはりこの制度が順調に機能するためにも、予備員の皆様にもそれなりの心構えで臨んでいただきまして制度のお支えをいただくように、これまたひとつPRをし、それぞれ御理解をいただきたい、こう思っております。

中井委員 予備員六人でお支えをいただくというが、この方々が、むだだった、何の意味もないと裁判が終わってから言い出したら、あっという間に制度に参加する人が減ってきますよ。僕はそう思います。

 一人か二人予備員としてお願いをするぐらいにできる制度にしていかないと、法務省はかとうございます、裁判所もかとうございますから、一遍六人の予備員と決めたらずっと六人の予備員でいかれます。これをやり出したら国民がもたない、私はこのことをあえて申し上げておきます。準備期間の間に十分御検討いただくなり、参議院でぜひ修正をお願い申し上げたい、このように思います。

 それからもう一つは、判決が過半数、他の裁判も過半数だからこれは過半数にした、こういう御説明を聞きました。それはそれであります。しかし、裁判官が三人、そのうちの一人が賛成で過半数、こういうことになっているようでございます。裁判官一が賛成で有罪、二が反対で無罪、それから裁判員六人のうち五人が有罪、一人が無罪。こういったら過半数、こういうことでしょう。そうすると、有罪になった被告は、何だ、専門家の裁判官は、おれは一対二だったじゃないかと思う。あるいは、裁判員の方々も、何となく、専門家は二名は無罪だったのかと思う。こういう形が出てくるんじゃないかと心配をいたします。

 こういうところの御議論というのは、どのような形で納得の上で過半数になさったんでしょうか。

野沢国務大臣 まず、やはり裁判員制度を導入する前提としては、裁判官と裁判員が対等の立場で議論を重ね、評議をいたしまして、そして多数決で決めるということがあるわけでございます。

 この多数決決定につきましては、裁判所の中でも一般的に行われていることでありますので、裁判員制度を導入したからこれが特別に加重されるということには当たらない、こう考えるわけでございますが、今委員御指摘のとおり、その多数決の中身が心配だということでございますが、やはり裁判官がどちらか一つ、判断の中に三人のうち一人は入っているということで憲法上の問題もクリアできますし、そして結果としての多数決というのは、そもそもこの裁判員制度を導入する趣旨からいたしましてもこれが妥当であるということでございまして、私は、これは国民の皆様の良識に期待をいたしたいと考えております。

中井委員 良識に期待するということやなしに、こういう形での過半数でいいのかという問題だ。参加する国民の良識があるから裁判官と同じ方向を示すよ、それでは参加する意味もないんだろう。時によっては違う、素人は素人の判断というのがあるんだと僕は思っています。アメリカなんかの事例を聞きますと、それは目を覆うような結果が出るときもあるけれども、それはそれなりに十二人が満場一致になるような努力を随分されておる、そこで成否を決めていく、こういうやり方でございます。

 そういう意味で、日本の場合はお互いのいいところをとっているというのは、私は、三分の二というものをぜひ考えるべきだ、三分の二の評決、これを考えるべきだ、このようにあえて御提言を申し上げ、また私ども民主党の修正案ではそのようになっております。これは、その方がいいな、このことを実感いたしているところでございます。

 その次に、裁判員の候補者の忌避の問題でございます。

 これは、これから政令で定めるということのようでございますが、やはり、ほとんど回避、忌避できない状況のアメリカや欧米の陪審員や参審員の制度に比べて、日本はかなりの形で裁判員を辞退できることになっている。そういう仕組みでスタートしようとされておられます。これは、果たしてそれでいいのか。そこのところは大臣としてのお考え、根幹の問題としてお尋ねをいたします。

野沢国務大臣 今委員御指摘のところは、司法制度改革審議会の中でも御議論があり、それから改革本部においても随分とこれは議論を重ねてきた課題でございます。やはり家庭の事情とか、あるいは病人がいるとか、あるいは勤めの関係でどうしても自分がいなければ会社が回らないとか、これはなるほど、どなたが見ても納得できる理由があろうかと思っております。この辺のところはやはり配慮しないと、この制度自体が動かないということもありますので、一つはっきり具体的にこれは名を挙げて言っているわけでございますが、問題は人の考え方によってどうかというところに一つ課題がありますので、これは今後政令をつくる中で十分議論をし、御納得いただけるところで定めていきたい、こう考えております。

中井委員 僕自身は、義務化としてやはり考えを受けとめていく。国民全体が義務として参加するんだ、できる限り忌避、回避の要件というのは認めていかないんだ、やむを得ないというのは裁判所が判断するんだという方向が一つあるんじゃないか、こう考えております。

 同時に、たびたび仕事を理由に、まあそうたびたび当たるわけではないんでしょうが、回避したりした人が公職につく、僕は、こういうことは許されることではないんだという社会をやはりつくっていくべきだ。やはり公職につこうとする者は、喜んで私生活や仕事を犠牲にしてでもこういうものに参加をする、そういう風潮の中で初めて裁判員制度というのは充実したものになるんじゃないか、こう考えております。ぜひ頭の中のどこかに、私がそういったことも言ったと覚えていただけたらと思います。

 時間がなくなってまいりました。あと一つか二つ聞きます。

 これは、地方は地方で、刑事事件で裁判員をおやりいただきます。そうすると、初めのときはどこでも大変な騒ぎになるんじゃないか。そのときに、事件そのものがもう既に事前にその地域では十分報じられている、あるいはそれから何年かたって裁判員制度で刑事事件を裁こうとしても、新聞やテレビの地方版ではかなり有名な事件も出てくる。そうすると、その地域の人はもう既にすり込まれている。

 そういったときに、裁判地の変更というのが簡単にできるのか。裁判員はみんなその地区の選挙民でしょうから、みんな知っていると僕は思うんですね。そういう意味で、先入観のある人たちが裁判を聞いて判断するというのは少し裁判にとってマイナスではないか、こう思いますが、大臣、いかがでしょうか。

野沢国務大臣 やはり、委員御指摘のとおり、公平な裁判が法に基づいて行われることが何よりも大事なことと考えておりますが、法案では、このような公平な裁判を保障するために、以下のような手当てをしております。

 まず第一に、事件関係者や不公平な裁判をするおそれのある者などを裁判員に選任しないという制度、これを設けているということ。第二が、裁判官と裁判員とが十分に評議を行う過程を通じて適正な結論に到達することが予定されているということ。それから三つ目が、法令の解釈については裁判官のみが判断権限を有するということで、裁判員の関与する判断は、裁判官及び裁判員の双方の意見を含む過半数の意見によることとされていることでこれが平均化されるんじゃないかということでございます。

 しかし、こういった前提がある場合でも、今委員の御心配されるような事柄が、地域によっては出てくる可能性もありますけれども、現在、このような場合には、刑事訴訟法第十七条によりまして、審理を行う裁判所を変更することが可能に、現行制度でもなっております。この制度の発動については、具体的には状況によりまして裁判所が判断をいたしまして決めていただけるもの、こうなっております。

中井委員 裁判官というプロが判断をする場合には、裁判地は場合によってはそう大事なことではないかもしれません。しかし、裁判員という全く素人の一般国民が、その地域で既に情報が十分広まっている事件について判断をする。それは、それから証拠等、いろいろなもので判断をしていくんだとおっしゃるけれども、なかなかそうはいかないし、場合によっては被告の権利というものが初めから侵害される。大臣は、裁判地の変更というのはできるようになっているとおっしゃるが、日本ではなかなかそういうのは認められないのが現実であります。私は、裁判員制度を適用するに当たって、裁判地の変更というものをもっと簡易にできる仕組み、これをぜひおつくりいただきたい、このことを最後に申し上げておきます。

 一時間にわたっておつき合いをいただきまして、ありがとうございました。最後に、我が党は刑事訴訟法の一部改正というのを今国会に昨日提案して、趣旨説明をいたしました。質疑も行われました。大臣、あの法案をお聞きになってどのようにお考えか聞いて、終わりといたします。

野沢国務大臣 各般にわたって大変詳細な対案あるいは修正案をお出しいただいていることについては敬意を表するものでございます。十分、この委員会の中において御議論をいただいた上でその結果が出ました場合には、私どもはそれを尊重してまいりたいと思っております。

中井委員 ありがとうございました。

柳本委員長 御苦労さまでした。

 山内おさむ君。

山内委員 民主党の山内おさむでございます。

 裁判員法案につきまして、最後の質疑者ということになりました。これから五十年、百年続く制度を私たちのこの委員会の構成メンバーで世の中に送り出すという大事な役目を負っていると思っております。国民の目から見る、あるいは刑事の被疑者あるいは被告人、犯罪被害者、そういう人たちの目から見て、今の刑事裁判制度というのが本当にその人たちの利益をしっかりと保障しているのかどうか、そういう観点から何度か質疑をさせていただきました。きょう最後ですが、政府の誠実な答弁を期待したいと思っています。

 私は、裁判員は公判の法廷に来るときに何にわくわくして来るかというと、法廷で自分たちが担当する被告人がどういうことを言ったり、どういう動作をするか、それに興味を持ちながら第一回目の裁判に立ち会いに裁判所に来ると思うのですが、大臣はどう思われますか。

野沢国務大臣 まさに委員御指摘のとおりと思いますが、やはり裁判が、人が人を裁く、もちろん法律とルールによって裁かれるわけでございますが、生きている人間ということで、当然そこには感情が入り、そしてそれが表情にあらわれ、そしてまた言動にそれが反映されるということで、やはりこの裁判制度というのは、一堂に会して、原告、被告あるいは弁護する側、そこで集まった皆様のまさに英知の結晶として結果が出てくるということで、正しい社会、明るい社会をつくっていくためには全く必要不可欠な私は仕事ではないかなと。大変その意味で、今度の裁判員制度が、国民の皆様に身近で、そして速く、そして公平なものに落ちつくような形で法案を仕上げてまいりたい、そして国民の皆様の御期待にこたえられる制度に仕立てあげたい、こう考えております。

山内委員 そうすると、被告人の、どういう言葉遣いをするんだろうかとか、あるいはどういう表現をするんだろうか、どういう表情で話をするんだろうか、法廷での態度はどういう態度をとるんだろうか、そういう生の現場の姿を裁判員は見に来ると思うんですね。

 そうすると、今までの刑事裁判のように、逮捕で三日間、勾留で二十日間、二十三日間、警察あるいは検察当局が身柄を確保して、調書をたくさんつくって、その調書を裁判所に持ってくる、そして裁判官はそれを黙々と見る、読む。そういう今までの刑事裁判制度とは全く違った、つまり公判廷中心の裁判になる、あるいはなるべきだ、私はそう思うのですが、大臣はどうでしょうか。

    〔委員長退席、塩崎委員長代理着席〕

野沢国務大臣 そういった書類の整理あるいは証拠の検証、そういったものをできるだけ事前に処理をした上で、これには相当時間がかかるかと思いますが、今委員御指摘のように、裁判はまさに生身の人間の、被告人のやはり一挙手一投足は非常に大きな影響を受けると思いまして、現場における判断、これが非常に重要になると私も同様の理解でございます。

山内委員 アメリカなどでは、弁護人が立ち会わない、あるいは立ち会う機会を与えられていない、あるいはそういう機会を与えられていないままにとった自白調書、そういう調書は採用しない、そういう制度をとっている国もあるようですし、私が読んだ本の中では、ドイツは自白調書そのものを証拠として採用しない。そういう仕組みを持っている国があるようですけれども、その裁判になる二十三日間の集められた調書ではなくて、公判廷で、被告人が本当のことを言っているんだろうか、うそのことを言っているんだろうか、あるいは被害者に対してちゃんと謝罪の意思を持っているんだろうか、あるいは口先だけ謝っているんだろうか、そういうようなことを自分たちが、一般国民が今までの裁判官と同じ資格や立場で判決を出していく、そういうわくわくとしたものがあってこそ初めてその裁判員が、もし判決の言い渡しによって仕事を終えた後も、裁判員というのを経験してみたら、そういうようなことをほかの国民にも言って歩いてくれると思うんですけれども、大臣、どうでしょうか。

野沢国務大臣 裁判の命の一つである公平さということ、真実を明らかにするという点からしますと、やはり法とそれに必要な証拠、これを丹念に検証する中で真贋が明らかになっていくということはこれまた間違いない事実であろうと思います。加えまして、やはりそれに携わっております関係者、そして特に被告人の感情というものはやはり大きな要素の一つ、こう考えるわけでございます。

山内委員 ですから、被告人が裁判の前に言っていたこと、それは全くむだだとは私も思いませんけれども、できるだけ、被告人が法廷で述べたこと、あるいはそれについて証人が供述をする、そういう態度、表現、それから言葉の使い方、そういうものを全部含めて正しい裁判をしていくということが私も大臣と同じようにあるべき裁判員制度だと思っています。

 だから、これを突き詰めていけば、私は、この裁判員制度あるいは刑事訴訟法改正の制度で話をされてきた取り調べの可視化とか、それから被疑者についてまで国選の弁護人をつけていく、そういうことは将来は不必要になるんじゃないかと思うんですね。

 つまり、法廷で述べたこと、法廷での態度、たとえ無罪を争っているにしても、自分はアリバイがあってその現場にいなかった、そしてその殺人事件は起こさなかったという被告人を、その現場にいたという人を証人として法廷に呼び出して、その証言が本当に正しいかどうか。正しければ被告人を有罪にできるし、証言が正しくない、見間違えた目撃証言だったら被告人を無罪にできる、そういうのを法廷でやればいいので、二十三日間の間に、その被告人が被疑者のときに、おどして調書をとったんだとか、あるいは錯誤に陥れて裁判所に持っていくべき証人調書や被疑者調書をつくったんだ、そういうむだな争いというものはなくなると思うんですね。

 だから、被疑者段階で、誤った調書がつくられる、あるいは誘導とか強引な取り調べによって被疑者が自白をさせられる、だから録画、録音、弁護人を立ち会わせろ、そういうような議論もなくなっていくと思うんですが、大臣の御見解を伺いたいと思います。

野沢国務大臣 被疑者の立場というのは、私は、やはり大変、状況として孤立したり、あるいは孤独であったり、そしてまた、あるいは反省もあろうかと思いますが、立場として非常に弱い立場にあることは否めない事実だろうと思います。

 したがいまして、弁護士の方に相談をするという権利あるいはその事実、保障だけはやはりしっかりと担保した上で、必要がない人はもうもちろんこれは使うことはないわけでございますから、そういった面で、今後とも、この国選弁護人のあり方も含め、やはり十分な弁護制度の保障だけはしておかなければならない、こう考えております。

山内委員 だとしますと、では、被疑者の国選弁護制度についてお伺いしますが、被疑者の国選弁護制度については、弁護人が司法支援センターという、いわば法務省の認可した団体の雇った弁護士が弁護人となる。そうすると、法務省の組織の中の弁護士が被疑者の弁護人になる。警察や、まあ警察は警察庁が直接には監督しているんでしょうけれども、警察や検察官の管理監督権限を持っている法務省の組織の一員である雇われた弁護士が自分の弁護をしているということになると、その被疑者自身は被疑者国選弁護制度というものに全幅の信頼を置かないんじゃないかと思うのですが、どうでしょうか。

野沢国務大臣 大変大事なところをお聞きいただいておりますので、法律の趣旨と、それから今お尋ねの疑問点についてのお答えを申し上げたいと思いますが、総合法律支援法案、今回の法案は、国選弁護人の選任に関する業務を行う日本司法支援センターの主務大臣を、私、法務大臣としておるわけでございますが、法務省は、もとより法秩序の維持、国民の権利擁護を任務としております。総合法律支援に関する事務を所掌するものとして、ほかにない、最もふさわしい官庁ではないかと私は思っております。

 また、本法案の運用に当たりましては、弁護士及び隣接法律専門職者の職務の特性に常に配慮しなければならないとされている上、支援センターに対する法務大臣の監督権限は理事長の任命権限や中期計画等の認可等に限られておりまして、法人の独自性が十分尊重されたものとなっております。

 それに加えまして、本法案では、まず契約弁護士などが支援センターとは独立してその職務を行うとされていること、また有識者等により構成される審査委員会を設けまして、契約弁護士等に対する契約解除等の措置に関してはその議決を経ることとされておりまして、契約弁護士などの活動の自主、独立性については十分な担保がされていると理解しております。

 したがいまして、法務大臣が支援センターの主務大臣となることについては何ら問題がないものと考えております。

山内委員 目には目を、歯には歯をという前近代的な刑罰から、国がしっかりと司法制度を整えて、国家として刑罰権を行使しますという仕組みで近代国家は成り立っているわけですから、そこに一般国民あるいはその適用を受ける被疑者、弁護人が少しでも国家に対して気を使う、あるいは、例えば契約を解除されるんじゃないかと思って余り突っ込んだ刑事弁護をしない、そういうような事態になれば制度としてはもう崩壊すると思うんですが、こういう心配は絶対にないと聞いてよろしいんでしょうか。

野沢国務大臣 私、弁護士さんの使命そのものがある意味で対権力について人権を擁護するという崇高な使命を持っているわけでございますから、それに照らして、委員御心配のような事態にはならないと考えておりまして、国家の関与については最小限で進めなければならない、そういう理解で進めております。

山内委員 大臣の被疑者国選弁護制度に向けた決意、大変すばらしいなと思って今お聞きしていました。

 そうすると、例えば、今、勾留の段階でしか被疑者国選弁護はつかないんですが、実は一般の国民は逮捕をされるということによって物すごく動揺します。逮捕されればそれだけでも三日間留置施設に入れられます。

 確かに勾留というのは十日、十日の二十日間で、二十日間あなたを入れますよと言われたらそれはもう大変な動揺が走るとは思うんですが、一般の市民生活を送っていて理由があって犯罪を起こした人は、逮捕しますと言われてから三日間の逮捕を伴う勾留というのも随分精神的にうろたえると思うんですが、逮捕時から被疑者弁護制度を考えるという考えはないんでしょうか。

山崎政府参考人 その点に関しましては、私どもの検討会でも議論を十分したわけでございます。

 委員御案内のとおり、捜査段階の最初の時間は四十八時間と七十二時間というふうに制限されているわけでございまして、そういうような中で、現在の手続に加えて、被疑者の請求あるいは裁判官による要件の審査、あるいは、この運営主体でございます日本司法支援センターによる弁護人候補の指名それから通知、それから裁判官による選任命令の発令等、さまざまな手続がその間に行われるわけでございまして、このような短時間の中に新たな手続を設けるという時間的に非常に余裕がない、乏しいということから、現実的には非常に難しいだろうということでございます。

 この種の逮捕というのは突発的に起こることも当然あるわけでございまして、その突発的な事態に、ではすべてについて対応はできるかといったら、現実問題は非常に難しいという状況でございます。そういうことを考えまして、一番合理性のある早い段階はどこかということから、勾留の段階から選任をしていく、こういうふうに考えたわけでございます。

山内委員 将来的な課題としては、つまり、例えばいろいろな条件が整う、弁護士の数がふえる、そういうような条件が整えば逮捕時へ見直す用意はあるんでしょうか。

山崎政府参考人 これにつきましては将来課題ということで、現時点では考えておりませんけれども、これが安定的に運用できて、さまざまな手続に支障がないということであれば、考える余地もあろうかというふうに思います。

 ただ、そうなりますと、捜査の持ち時間、四十八時間とか七十二時間とか、この辺のところにもいろいろ影響してくる問題でございまして、ただこれだけで済む問題かということになりますので、全面的にいろいろ考えていかざるを得ないという事態にもなり得るということを御理解賜りたいと思います。

山内委員 それでは、被疑者国選弁護人制度の対象事件はどうなっているのでしょうか。

山崎政府参考人 これは二段構えになっておりまして、まず、改正後最初の段階でございますけれども、これは司法過疎地域の問題がございますので、対象事件を死刑または無期もしくは短期一年以上の懲役もしくは禁錮に当たる事件ということにしているわけでございます。

 それから、改正法施行から三年程度が経過した後に、対象事件を死刑または無期もしくは長期三年を超える懲役もしくは禁錮に当たる事件、いわゆる公判段階におきます必要的弁護事件というところに拡張をしていくということでございます。

 前段の事件数は大ざっぱに言いまして一万人ということになりますし、後半の拡大した方は十万人が一応対象になるということでございますが、現実に国選弁護をどの程度希望されるかという問題もございますので、そのままの数字になるわけではないということでございます。

山内委員 この被疑者国選弁護人制度というのは、防御能力が劣る、あるいは弁護人の助力を必要とする、そういう人たちに対して国家として弁護権を保障してあげようという制度だと思いますので、社会的に注目を浴びた重大な事件あるいは否認事件あるいは高齢者による事件、そういう事件にまで広げていくという考えはないですか。

山崎政府参考人 今言われたような重大な事件とか特定の事件について広げていくという御趣旨だと思いますけれども、これは、じゃ、どういう事件が重大事件なのか、高齢者によるものにつきましても、さまざまな態様があるわけでございまして、こういうものについて一律に本当に切れるのかどうかということですね。そういうことにしなければ、一定、この事件ということがはっきりしなければいけないわけでございますので、そういうような切り方は本当に可能かどうか。

 例えば否認事件といっても、否認とは一体どの程度の否認をいうのか。事実は認めているけれども情状のところで争っているとか、それ以外の全面的な否認もございます。さまざまな態様がございまして、これを明確に区切れるかという問題、ここが大きな問題であるというふうに考えております。

山内委員 だとしたら、身体拘束をされた被疑者についてはつけていくというような仕組みはどうですか。

山崎政府参考人 これは、今対象事件を限っておりますけれども、それをもっと法定刑の低いところまで拡張をしていくのはどうか、こういう御趣旨だろうと思います。これにつきましては、これから制度を運用して、まず順調にいくかどうかということを確かめなければならないというふうに思います。

 もう一つ、総合法律支援の関係で、弁護士制度を確実なものにしていく必要があるわけでございますけれども、こういう状況で本当にその対応ができる状況かどうかということですね。これは、完全にきちっと把握しなければならないだろうということで、本当に過疎地域等が、そういうところがなくなっていくかどうかという問題。

 それからもう一つは、やはり、公的資金を導入するわけでございますので、それに伴う国民の負担、こういうものを、バランスをどういうふうに考えていくかという問題であろうかと思いまして、現在、私どもは、その点を全く否定しているわけではございません。将来の課題であるというふうに認識をしております。

山内委員 ただ、被疑者国選弁護人制度というのが、勾留時からつけることによって、勾留時の弁護、それから起訴になった後は国選弁護人として同じ弁護士が引き継いでいく。争点も早い段階からわかるから裁判の長期化も防げる。それから、もちろんコストも安くなる。そういう物すごいメリットがあると私は思うんですね。

 だから、せっかく新しい、国民が関与する、裁判官と協働する裁判員制度をつくるわけですから、もっと将来的に検討する用意が、懐を持っておいてほしいなと思います。

 それから、弁護士は、やはり適切な金額というものが保証されないとなかなか被疑者弁護として登録をするということも少ないと思うので、報酬というのはどういうような方法で決まるのかを教えてください。

山崎政府参考人 これは二通りございまして、センターで雇用する常勤弁護士の場合を考えますと、これは事件ごとではなくて給与で支給されるという形になります。これはちょっと別な形になります。

 問題は、契約によって行う弁護士さんでございますけれども、この点につきましては、支援センターにおきまして国選弁護人の報酬及び費用の算定基準を定めた契約約款を作成することになっておりまして、これによりまして報酬等が支払われていく、こういう構造になっているわけでございます。

 まだその最終的な内容等をこれから詰めなければならないということででき上がっておりませんけれども、いずれそう遠くない時期にこの約款をきちっと定めるということになろうかと思います。

山内委員 国民そして利用者、それから弁護士あるいは弁護士会、そういう人たちの意見を酌んだ報酬の決め方をされる予定なんでしょうか。

山崎政府参考人 総合支援法案に関しまして、さまざまなところで、その運用に当たります弁護士会の意見、これはお聞きしなければならないだろうと思います。そういう点から、日弁連、弁護士会等が意見を述べる、求めることができるという規定を置いております。そういう点でいろいろな御意見を十分に賜った上、最終的に判断をして決めたいというふうに考えております。

山内委員 また費用の件、財政措置の件でお聞きしますけれども、法律扶助協会の自主事業としても、以前から刑事被疑者の弁護援助事業を行っていました。二〇〇一年には、全国で六千百七十四件、費用として四億七千二百万円をかけています。

 政府は、この被疑者弁護の制度を引き継いで司法支援センターの仕事とするわけですけれども、対象者は何人ぐらいの見積もりで、どれぐらいの予算をつける考えなんでしょうか。

山崎政府参考人 センター全体の予算は、まだはじき出しているわけではございません。不確定要素が多分にございます。

 この被疑者弁護の関係でいえば、先ほど申し上げましたのは、最大限、当初の段階では一万人ですか、それが対象になり得る。ただ、これは一万人全員が請求するかどうかはわかりませんので、それの何割かということが対象になります。

 それから、先ほど来言われております契約の金額でございますが、これがわからない、まだ現段階ではわかりませんけれども、そういうものを掛ければ総額が出てくるということでございまして、現在、たしか被告人の弁護の関係では、七、八十億、ちょっと記憶があいまいでございますが、少なくともそのぐらいの金額が必要であるということでやっていると思いますので、その辺から大体の額が出てくるということでございます。

山内委員 将来の課題として、裁判能力に劣る、あるいは弁護士の助力が必要であるというケースは、刑事だけではなくて、例えば民事事件もそうだと思うのですが、民事事件に適用をしていくという考えは将来課題としてあるのでしょうか。

山崎政府参考人 ただいまの御質問は、民事事件についても国選弁護を導入ということですか。

 これにつきましては現在扶助で行っておりまして、その扶助について今後どのように手厚いものにしていくか、こういうところで、この扶助は現在いろいろ金額的に十分ではないところとかいろいろあります。それは政府もいろいろ努力しておりますけれども、これで基本的に、それはおかしいという声を聞いておりませんし、私は、現在の手続をもっともっと充実させていく、その方向でいきたいというふうに思っています。

山内委員 行政事件についても今と同じ答弁になるのでしょうか。

山崎政府参考人 現在の法律扶助で行政事件訴訟も扶助の対象になっておりますので、そちらの関係で行っていくということで、そこは変更はないというふうに考えております。

山内委員 被疑者国選弁護人制度についてはこのあたりで終わりますけれども、私がこの民事、行政事件についてお聞きしたのは、その適用については法律扶助制度の精神を生かして頑張っていきますというような答弁をいただきたかったのはもちろんなんですけれども、一番最初に話をさせていただきましたけれども、民事事件でいえば、例えば国家賠償訴訟があるんですよね。それから、行政事件というと、もうまさに国を訴える、それから地方公共団体を訴える。

 案外、司法支援センターの応対が悪かった、もう非常に、何かたらい回しにされたり、職員の応対で傷つけられたり、紹介してもらった弁護士がいいかげんだったとか、そういうことを思っている人は、司法支援センターを管理している、その場合は国でしょうか、それを訴えると思うんです。そうするとまた、被疑者刑事弁護と一緒で、やはり国の設置したそういう司法支援センターの弁護士で果たして大丈夫なんだろうかとか思うと思うんですが、どうでしょうか。

山崎政府参考人 これは本来、国なんかが一切絡まない、それでできれば一番理想だろうと思いますけれども、現にできないからこそ国の方がいろいろお手伝いをさせていただいておりまして、それでは、では国が外れた場合に一体どういう方法があるのか、実は私もちょっとよくイメージがわかないところでございます。

 ただ、そういうことで、いろいろ、何というんですか、申し入れをしにくいような状況が仮にあるとすれば、そういう点はきちっと改善をしていかなければならない、使いやすいものにしなければならない、これは我々のテーマだというふうに思いますけれども、ただ、ではこの制度をまた別の制度で本当に考えられるかというのは、ちょっと私も現在頭に何も浮かんでこないという状況でございます。

山内委員 国民の目から見て使いやすい制度にしなくちゃいけないと思いますので、やはり派遣してもらった弁護士の派遣元を訴える、国を訴える、国家賠償を起こすという、何というんですか、利用する国民として何か抑制的になる、そういう気分に国民を追い込んではいけないと思いますので、ですから、被疑者弁護にしてもそうですし、民事事件、行政事件をやって国や司法支援センターのやり方がまずかったという裁判を起こしたい人たちももちろん気兼ねなく利用できる制度にしなくちゃいけないし、そこで携わる弁護士というのは本当に自主的に、そして独立心を持ってしっかりとやらなければいけないな、そういう仕組みにしていかなければいけないなと思います。

 それでは、我が党の修正協議の中で、保釈の件について裁判員に関係して主張している箇所がありますので、その点を二、三点お伺いしたいと思います。

 二〇〇三年に保釈を許可されたのは一万人います。このうち、保釈が取り消しとなったのは二十三人なんですね。大臣、この数字を聞かれてどう思われますか。

野沢国務大臣 一万人という数字も実は相当なものだと思いますが、二十三は、なかなかよく考えて、結果としてこうおさまったのかなと、なかなかいい数字だと思います。

山内委員 非常に少ないと私は思うんですね。

 これも、逃げた、あるいは証拠を隠滅したということで保釈が取り消しになるという人よりも、例えば保釈中に事件を起こしたとか、そういうことで取り消しになる方が多くて、保釈金を積まさせて保釈をして、逃げたとか、あるいは罪証隠滅行為を次々と犯していく、そういうような人たちというのは本当にわずかなんですけれども、こういう保釈の実態から見ると、もう少し保釈については寛大に、一万人なんという数字じゃなくてもっとふやしてもいいんじゃないかと大臣思われませんか。

野沢国務大臣 大事なポイントでございますので、現行の保釈のあり方を含めて少し御説明申し上げたいと思いますが、勾留の制度は、被疑者、被告人の身柄を拘束することにより、その逃亡及び罪証隠滅を防止しようとするものでございます、これはもう委員御承知のとおりでございますが。現在の刑事訴訟法は、被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある場合など保釈制限事由がある場合を除きまして、保釈を許さなければならないこととなっておりまして、保釈制限事由がある場合であっても、裁判所が適当と認めるときには保釈を許すことができる、これはいわば大変寛大な仕組みだと考えておりますが、裁判所はこのような制度の趣旨に沿って保釈の可否を判断しているものと承知しておりますので、数の方で少ないとか多いとかふやせとかということではなくて、中身が問題であろうかと思っております。

山内委員 今大臣がおっしゃったのは、原則として保釈をするんだよ、だけれども、いろいろ問題のある場合には保釈を制限しているという、原則は比較的保釈については寛大な言い方をされたんですが、最高裁の先日のお話でもありましたけれども、一〇パーか一一パーでしたよね。ですから、十万件事件があって、八万件保釈をしていて、二万件は保釈が許されなくて、二万件も保釈をもっとしたらどうかと私は言っているんじゃなくて、十万件あって、約一割しか保釈になっていなくて、あとの九割の部分については保釈になっていないので、それは大臣の言われる原則と例外が逆転しているんじゃないかと。

 そこが、例えば、今、二十三日間ほとんど丸々取り調べ官の手の中に身柄がある。あるいは、保釈についても原則と例外が逆さになっている。よく人質司法といいますけれども、そういうような現象が、その十万件のうち一割と九割が逆なんじゃないかと皆さんが指摘することだと思うんですが、大臣、どうでしょうか。

野沢国務大臣 やはり治安を維持する、あるいは法の趣旨、ルールを守るということ、そして、現実にそれによって拘束されているという事実、これらの総合判断が、先ほど委員が御指摘ありましたような数字になって結果としてあらわれているわけでございますが、このあり方という点について言えば、できるだけこれは母数である数が少なくなることがまず一番大事でございますし、それから、そもそも、勾留し、そこで罪を量定し、そしてできれば将来は矯正し、立ち直っていただきたいんだ、これが本来の趣旨でございますから、保釈によってその道が開かれることが可能ならば、できるだけその道もやはり大きくあけておくことは大事かと思っております。

 そして、しかしそのことが、また再犯につながったり、世の中に不安をもたらすことであってはならないということで、あくまで、法の正義とルール、これは貫く中での、それぞれの立場の皆様の人権を十分尊重して進めなければならないと思っております。

山内委員 大臣の被疑者弁護の際の御説明の中で、やはり被疑者の人権を保障するためにこういう仕組みを考えたんだと言われました。

 今、弁護士や家族が留置場や拘置所で面会をする際に、間に強化ガラスみたいなものがあって、それを通して話をするんですね。そして、実際に、拘置所なんかでいえば、例えば五時までに終わってくださいというような制限がありますから、例えば四時五十分に面会室に入ったら、たった十分間しか、面会、あるいは裁判の打ち合わせ、それから家族の現状、そういうことが全く話せないんですね。

 ですから、被疑者あるいは被告人の人権を大切に思っておられる大臣なわけですから、できればもっと現場の保釈を、まず、してもいいよと意見を言うのが検察官ですので、もっと実質的に対等に検察官と弁護人・被告人側が法廷でしっかりと議論をして、いい判決を出していくためには、もっと保釈について寛大になっていただきたい、そういう指導を大臣として検察当局にしていただきたいなと私は希望をします。

 さて、裁判員法の中に、裁判員や補充裁判員に接触した場合には保釈を取り消すよとか、保釈をしないよとか、接見は制限するよとか、そういうような規定が盛り込まれているんですが、裁判員あるいは補充裁判員に接触した場合に限って適用すべきであって、裁判員あるいは補充裁判員に接触するおそれがあるときには、それは制限すべき事由とはすべきではない、そう思うんですが、どうでしょうか。

山崎政府参考人 条文で「接触すると疑うに足りる相当な理由があるとき。」としたその理由でございますけれども、これは、裁判員制度を設けるわけでございまして、接触をすることによって裁判員の方が恐怖を感じて裁判員として公正な判断をすることができなくなる、そういう事態が発生してはそれは遅いだろうということを考えまして、接触する準備を被告人が進めているような場合には未然に防止をする、こういうことから、いわば裁判の公正を事前に確保しておく必要があるだろうということからこういう規定を置いたわけでございまして、その点は、私どもとしては、一応の理由はあるというふうに考えております。

山内委員 推進本部として一応の理由はあるという説明は説明としてお聞きしますけれども、おそれという概念を多用すればするほど、不確定な、不確実なことでも、つまり事実として接触した、面会した、電話をかけた、メールを送った、そういうようなことがなくても身柄について拘束できるという規定なわけですから、やはりそういう場合には、確実に接触をした、あるいは待ち伏せして出会った、勤め先に行った、そういうような、つまり現実に行動をしたということでいわばその黒白を決めるというか、その方が私は、刑事手続としてはしっかりとした制度設計になると思っています。これも修正協議で御検討をいただきたいと思います。

 それから、連日的開廷の点については、同僚議員からも、公判前整理手続についていろいろな方面から、政府の運用については自重すべき点は自重してほしいというような質問が出ました。

 私は、まず、連日的な開廷になるんだったら、例えば、裁判の審理が終わったら、あした評議しましょうとか、あした評決しましょうということになると思うんですが、その時点で、裁判でやりとりをされた公判記録というのは、公判調書は裁判員もその日に読める、そういう仕組みになっているんでしょうか。

    〔塩崎委員長代理退席、委員長着席〕

大野最高裁判所長官代理者 委員から御指摘のとおり、連日的開廷のもとでは、証人尋問等が終わり、裁判員が後に調書を確認することなく、本来であれば法廷で心証形成するというのがその審理のあり方であろうと思います。そのような審理におきましては、当該証言の内容を確認するために調書を確認するという役割は、大分これまでに比べますと低くなってくるものと思われます。

 したがいまして、連日開廷下で、これまでのように期日が終了した後に速やかに供述調書が作成されているということが必ずしも必要であるかという点もあります。また、例えば、録音テープやビデオテープによって生の証言内容を残すことも考えられるほか、技術の進捗状況等を考えまして、音声認識技術の活用といったようなものも考慮して、今後の調書のあり方といったようなものを考えていきたいと思っております。

山内委員 公判記録の即日交付については、速記録の活用も含めて、連日開廷が本当に成功するような仕組みを考えてもらえるわけですか。

大野最高裁判所長官代理者 その供述調書のあり方等につきましては、いろいろな方法があり得るわけでありまして、先ほど申し上げましたようないろいろな技術の発展、進捗状況等も踏まえて考えていくということであります。

 なお、反対尋問のために調書が必要というようなことについては、先ほど申し上げたように、本来そこで心証をとっていくということですので、主尋問と反対尋問は原則としてその日に行われるということが、裁判員の心証がとりやすいという観点からも、必須のことであろうというふうに思っております。

山内委員 それから、毎日のように裁判があるということは、毎日のように弁護人と被告人が裁判に対しての打ち合わせをしなくちゃいけないと思うのです。先ほどお聞きしましたように、保釈というのは余り十分に保釈されていないなというような現実があるわけですから。

 そしてもう一つは、被告人というのは重大事犯、法定合議事件の中でも重大事犯について裁判員制度が適用になっているわけですから、なかなかそういう事件について保釈というのは今の刑事実務の中では認められていないと思いますので、あらゆる場において、特殊ガラス越しでもいいのですが、あらゆる場において接見の機会を与えるというのは必要だと思っています。

 それで御質問なんですが、例えば、金曜日まで毎日のように公判があって、月曜日に評議あるいは判決を出そうというケースもあると思うのです。そのときに、土曜日あるいは日曜日に接見をしたいといった場合にはどういうふうな扱いになるんでしょうか。

横田政府参考人 お答えいたします。

 私からは、行刑施設における接見についての範囲でお答え申し上げます。

 行刑施設に収容されている被収容者の接見でございますが、現行監獄法令上は、原則として執務時間内でなければこれを許さないとされておりますけれども、それとともに、行刑施設の長において、処遇上その他必要があると認めるときは例外的にこれを許すものとされております。

 したがいまして、被告人の弁護人から土曜、日曜または夜間の接見の申し出がございました場合には、行刑施設の長において、当該接見の緊急性、必要性や、当該接見のための職員の配置が可能であるかなどを検討し、個別にその許否を判断することとなっておりまして、現に弁護人の申し出を受けまして個々具体的に適切な運用を行っているところでございます。

 今後とも適切な対応をしてまいるということになります。

 以上です。

山内委員 今の御説明によりますと、例えば夕方の五時から夜の九時ぐらいまでですかね、そういう夜間についても同じような御答弁と聞いてよろしいんでしょうか。

横田政府参考人 お答えいたします。

 現在の運用でございますけれども、これは委員も御存じかと思いますが、日弁連との申し合わせがございまして、現在、原則としては土曜日の午前中に実施するということになっておりまして、夜間については、これは執務時間外でございまして、現実的にはこれは行っておりません。

山内委員 土日とか夜間の接見について十分に機会が保障されるような運営を私の立場としては望みたいと思っています。

 最高裁に同じ問題について。

柳本委員長 追加ですか。よろしゅうございますか。

 横田矯正局長。

横田政府参考人 お答えいたします。

 ちょっと先ほど不十分でした。

 実例としては夜間に、これは先ほど個々具体的な判断の問題だと申し上げましたが、それに従って、実例としては夜間でも接見を認めたというケースがございます。

山内委員 十分に機会が保障されるような運営がなされることを私の立場では希望したいと思っています。

 次に、最高裁に同じような質問ですけれども、裁判が例えば四時半か五時で終わった、その後、裁判所の構内で弁護人が被告人と接見をしたいといったときには、この裁判員制度が適用となっている事件の被告人との接見については十分な機会を保障されるんでしょうか。

大野最高裁判所長官代理者 裁判所構内における接見の問題だと思いますけれども、裁判所構内における接見におきましても、公判審理などのために出頭しているわけです。したがいまして、審理が終わった後、身柄がそのまま裁判所構内にいればいいわけですけれども、押送等の関係ですぐに拘置所等へ戻るということになったりしますと、そのあたりのことについては調整が必要になってきますし、場合によっては認められないということになる。

 身柄が裁判所にある間であれば、接見は原則として認めておりますけれども、今言ったような例外的なことはあり得るだろうと思っております。

山内委員 最高裁にも、裁判所構内での接見については、特に、裁判員制度で連日的開廷が行われるわけですから、十分な配慮、機会の保障が必要だと私は思います。

 それから、公判前整理手続の中で、証拠調べの決定や証拠調べ請求の却下決定をなすことになっていますが、例えば自白の任意性について問題がある場合、あるいは違法収集証拠ではないかと強く弁護人が主張するような場合については事実調べをするのでしょうか、その点をお伺いします。

山崎政府参考人 二つ、今例を出されたと思いますけれども、まずは自白の任意性、信用性の問題、これに絡む、任意性が証拠能力の問題かと思いますけれども、ただ、これはもう信用性とほとんどのところがダブるわけでございまして、この点につきましては公判できちっと供述をしてもらう、そういう形が望ましいというふうに考えております。そうなるだろうと思います。それを切り離すことができるなら別でございますけれども、通常はできない。

 それから、証拠能力の、一般的な証拠物の証拠能力等につきまして、これが犯罪の実体と絡むものであれば、その信用性とも絡みますので、これは公判でやっていただくということになりますけれども、それに絡まないところのもので、その証拠能力があるかどうかというような、いわゆる形式的な証拠能力の問題、こういう点につきましては、この公判前整理手続でやるということは可能であると考えております。

山内委員 私は、きょうの質疑で中心的に話していることは、この裁判員制度をせっかく採用するわけですから、今までいろいろと批判があったような刑事手続、そういう部分については、できるだけ変革をしていこう、変えていこう、新しい仕組みをつくってもいいんじゃないか。だから、その中の一つのやはり大きな動きというのは、被告人や証人が思いのたけをしっかりと公開法廷の場で、弁護人やあるいは検察官あるいは裁判官の主尋問や反対尋問や補充尋問や、そういういろいろな尋問にさらされながら、しっかりとしたことを言っている、あるいは供述に矛盾がない、そういうことを裁判官や裁判員の目から見て、なるほど、この人の言っていることは正しいことなんだといって、自信を持って判決を出す、そういう公判中心主義、あるいは証人尋問あるいは被告人質問中心の公判手続を実現したいという思いからでございます。

 だから、公判前整理手続の中で何かができるんだというような言い方よりも、やはり、例えば自白の任意性についても、違法収集証拠についても、とにかく三者で問題となったようなことについては公開の法廷でしっかりと議論をして、裁判員も含めた中で慎重に判断をしてもらう、そういう手続が必要だと思っています。

 せっかく裁判員制度をつくるわけですから、直接主義、自分たちの目の前でいろいろなドラマが展開する、生の声で、生の動作を見ながら判断ができる、そういう直接主義、口頭主義を実質化して、本当に裁判員の皆さんが、自分たちが自信を持って、それは死刑を言い渡すかもしれませんけれども、死刑あるいは無期とか、今度は懲役が二十年から三十年満期、入るというような法改正も予定もされていると思いますので、そういう判決を自信を持って言い渡しができるような裁判体をつくるべきだと思っています。

 本当に、最後の質疑者になりましたけれども、政府と、私たち、この法案の作成に立ち会ったこの法務委員一緒になって、今後、施行時期までの数年間、問題点があれば、またしっかりと皆さん方と議論をしたいと思います。

 ありがとうございました。

柳本委員長 御苦労さまでした。

 これにて、ただいま議題となっております各案中、内閣提出、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案及び刑事訴訟法等の一部を改正する法律案並びに河村たかし君外四名提出、刑事訴訟法の一部を改正する法律案に対する質疑は終局いたしました。

 次回は、明二十二日木曜日午前九時五十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後四時十一分散会


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