衆議院

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第5号 平成16年11月9日(火曜日)

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平成十六年十一月九日(火曜日)

    午前九時三十一分開議

 出席委員

   委員長 塩崎 恭久君 

   理事 園田 博之君 理事 田村 憲久君

   理事 西田  猛君 理事 平沢 勝栄君

   理事 津川 祥吾君 理事 伴野  豊君

   理事 山内おさむ君 理事 漆原 良夫君

      井上 信治君    大前 繁雄君

      左藤  章君    坂本 哲志君

      柴山 昌彦君    谷  公一君

      津島 恭一君    早川 忠孝君

      松島みどり君    三原 朝彦君

      水野 賢一君    森山 眞弓君

      保岡 興治君    柳澤 伯夫君

      柳本 卓治君    加藤 公一君

      鎌田さゆり君    楠田 大蔵君

      小林千代美君    佐々木秀典君

      樽井 良和君    辻   惠君

      前田 雄吉君    松野 信夫君

      松本 大輔君    江田 康幸君

      富田 茂之君

    …………………………………

   法務大臣         南野知惠子君

   法務副大臣        滝   実君

   法務大臣政務官      富田 茂之君

   最高裁判所事務総局刑事局長            大野市太郎君

   政府参考人

   (司法制度改革推進本部事務局長)         山崎  潮君

   政府参考人

   (法務省大臣官房司法法制部長)          寺田 逸郎君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    大林  宏君

   政府参考人

   (法務省矯正局長)    横田 尤孝君

   政府参考人

   (法務省保護局長)    津田 賛平君

   政府参考人

   (文部科学省大臣官房審議官)           山中 伸一君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

十一月九日

 辞任         補欠選任

  大前 繁雄君     坂本 哲志君

  笹川  堯君     津島 恭一君

  河村たかし君     前田 雄吉君

  仙谷 由人君     楠田 大蔵君

同日

 辞任         補欠選任

  坂本 哲志君     大前 繁雄君

  津島 恭一君     笹川  堯君

  楠田 大蔵君     仙谷 由人君

  前田 雄吉君     河村たかし君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律案(内閣提出第六号)

 刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出第八号)


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     ――――◇―――――

塩崎委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として司法制度改革推進本部事務局長山崎潮君、法務省大臣官房司法法制部長寺田逸郎君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 質疑の申し出がありますので、これを許します。小林千代美君。

小林(千)委員 おはようございます。民主党の小林千代美です。

 私も、先通常国会から法務委員会に所属をさせていただいているんですけれども、このたび初めて南野大臣に質問をさせていただくことになりました。よろしくお願いをしたいと思います。

 実は、南野大臣が法務大臣におなりになったということで、私は、これも一種の小泉さんのサプライズ人事かなというふうに感じましたのと同時に、個人的な意見で申し上げさせていただければ、南野大臣、南野さんが大臣になられたことを、当初私は大変期待をしていた一人でもありました。

 といいますのも、先国会で、ここでDV防止法改正の質疑を私もやらせていただきましたけれども、南野大臣初め参議院の共生社会の調査会の皆様方、一生懸命にこの法案に取り組んでくださいまして、この十二月の二日から法施行という運びになったわけでございまして、南野大臣も、このDV法の改正については大変御尽力をいただいておりました。

 また、大臣が、この場でさまざまもう答弁をしていただきましたけれども、弱者救済あるいは弱い人の立場で、女性の立場で人権を守るといったことに対して、今までずっと取り組んでいらっしゃったことを私は評価をしていた一人でもございました。

 この間、民主党の委員も質問をさせていただいておりますけれども、南野大臣のホームページ、これは自民党さんのホームページの中の南野さんのページ、議員紹介のページなんですけれども、そこの中に、南野知惠子さんのメッセージといたしまして、「共に生きる社会、共に創る社会を目指したいと思います。」このように書いていらっしゃいますし、先日、民主党の辻委員が使っておりましたというか紹介をいたしておりました、南野さんが監修をされた本の抜粋の中にも、「これからの日本社会を展望するならば、共生の精神に基づき、弱者にやさしく他者に寛容な社会、特に、少数の異質な人々にも寛容で多様な生き方やあり方を認めるような社会を築いていくことが重要であると思う。」このように、もう今まで人権といった問題に大変力を入れてこられた方が法務大臣になられた。

 私は、この法務省の所管をしている人権擁護といった課題にも大変熱心に取り組んでいただけるんではないかと思って期待をしていたわけなんですけれども、残念ながら、最初のごあいさつを伺ったときに、それが、思いが崩れ去ったといいますか、がっかりをした部分もあるわけでございます。

 この最初のごあいさつの中で、これを読んでみますと、現下の緊急課題は治安の回復ですというふうに、一番最初に治安問題を挙げていらっしゃるんですよね。これは全部で五ページにわたるあいさつなんですけれども、数えてみましたら、七十三行中三十六行、これは最初のあいさつと終わりのあいさつは除いたら、実質はもう半分以上この治安、国内治安に関する事項というところに書いていらっしゃるんですよ。

 私は、今まで大臣が取り組んでいらっしゃいました御自身の思いとこのあいさつの分量というのは、どう考えても矛盾があるんじゃないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。

南野国務大臣 お答えいたします。

 先生のいろいろな私に対するコメント、ありがとうございます。

 私も、今まではいろいろな分野についてしっかりと政策、法律をつくってきたつもりでございますが、この立場になりましたところで、それを法務省という包括的な物の見方をしなければならないということにも及んでおります。

 そういう意味では、現在の日本において治安の再生というのは本当に重要な課題であると考えておりますので、あいさつの中でも最初に使わせていただいております。そのような考えから大臣あいさつの冒頭に話させていただいたものではありますが、そのことが人権問題の軽視のようにとられるということであれば大変残念でございますので、ともにお仕事をさせていただく中でその誤解を解いていただきたいというふうに思っております。

 私は、個々の人の人権を守るための政策につきまして、本当に重要であると考えておりますので、過去の私がつくってきた法案、今お話しいただきました。そのことについてはそのとおりでございますし、私の考えもそこに根づいているということは変わりございません。それを積極的に推進していきたいというふうに考えております。

 また、私は、治安をよくするということは、すべての国民の皆様のお一人お一人が大切にされ、安心、安全に生活できる世の中にすることだと理解いたしております。以前この委員会でもお話ししましたとおり、政治家として私が軸としているところは、個々の人々が大切にされ、安心、安全に生活できる世の中にしたいということでございますので、このような姿勢で法務行政に取り組んでいきたいと思っております。

小林(千)委員 もちろん、法務大臣となられて、例えば国内の治安の問題、行刑行政の問題、その他所管をする法務管轄の事項について全般的に、大臣なんですから取り組んでいただかなければいけないことは、これはもちろん当たり前のことでございまして、何も私は、この治安回復の問題についてどうでもいいということを申し上げているわけでは当然ございません。ただ、やはり、今までの大臣の行ってきた活動あるいは実績というものが当然評価をされての大臣任命だったと思いたいんですよ。過剰な期待でしょうか。

南野国務大臣 過剰か過小か、それは私存じ上げませんが、今ここに立たせて役目をさせていただいております。

小林(千)委員 ぜひとも期待にこたえていただきたいと思いますし、個々の人々が大切にされる、命が大切にされる、例えば犯罪の被害に遭わないように、あるいは犯罪の被害者を助けるために、もちろんそれも全部人権と言ってしまえば人権なんですよ。それはもちろん治安維持だって人権といえば人権なんですけれども、それを言ってしまいましたら余りにも範囲も広がってしまいます。地震対策の被害者支援も人権といえば人権ですし、それは何でも人権にかこつければなってしまうんですけれども、南野大臣の思いはそれよりももっと違うところにあると信じたいんですよね。

 では、ちょっと質問を変えさせていただきたいと思います。

 このごあいさつの中に、治安再生のためにということの中で「厳格な出入国管理の実施も必要不可欠」というふうにおっしゃっておりました。

 これは、日本も難民条約を批准していますけれども、国連からも強い指摘を受けているところでございます。二〇〇三年には難民認定を日本はわずか十人しかしていないんですよね。庇護を求める難民申請者に対して、例えばこの文章の中でおっしゃっているように、少数の異質の人々にも寛容で多様な生き方、あり方を認める社会、これが大臣の思いなんですから、こういった考え方から、ぜひ大臣として、この出入国管理のあり方等を抜本的に見直しをするべきではないのでしょうか。ぜひお答えください。

南野国務大臣 お答え申し上げます。

 私は、就任時に総理から言われたことは、世界一安全な国日本、その復活を目指してほしい、犯罪に強い社会の実現のための行動計画に基づき、出入国管理の強化等の諸施策を推進されたいという御指示を受けました。それとともに、人権と人道に最大限配慮した在留許可と、それから難民認定の運用に努められたい、そのようなお言葉をいただき、御指示を受け、確かに、大臣あいさつの中では、すべての国民の皆様が安心、安全に生活できる世の中にしたいという気持ちから前者を強調しておりますけれども、おっしゃるとおり、外国人が悪いとか排除すべきとか、そういう考えは毛頭ございません。

 法務省では、専門的または技術的分野の外国人などは積極的に受け入れる方針でございますし、そのような方にはどんどん日本に来ていただきたい、そして十分に人権と人道に配慮した外国人施策を先生とともに考えていきたいと思っておりますので、よろしくお願いします。

小林(千)委員 日本の国内の治安を守る、世界一安全な国をつくるということと、少数の異質な人たちに対しても寛容な社会というのは、私はこれは当然両立できることだと思うんですよ。ところが、出入国管理法の前回の改正の内容を見てみましても、残念ながら、その異質なものを認められるとは言いがたいのではないかなというような思いも強く持っております。

 それで、もう一つお伺いしたいんです。

 例のごあいさつの中に出てきた四つの片仮名用語、私もわからなかったんです。バイオメトリックス、これの内容につきましては、松島委員の方から伺っていただきまして、私もわかりましてありがとうございましただったんですけれども、このバイオメトリックスを活用した出入国審査の実施というものが、御答弁の中では、「本人確認に最も効果的な顔、それから虹彩、目のあれでございます、」これはそのまま言っているんですよ、「それから指紋などを出入国審査に活用するものでございます。」というふうに御答弁いただいているんですけれども、これは具体的に、出入国審査でどのように目のあれですとかをするんですか。

南野国務大臣 おれおれじゃなく、あれあれという。

 バイオメトリックスということにつきましては、もう先生御存じのように、生体情報認証技術、そういう我々が持っている技術を利用して行うことであり、人の体の一部の特徴を使って本人自身であることを証明するために用いられているものである。最近では、先生の自宅にも取りつけておられますか、またはオフィスビルでの出入りの管理、あるいは銀行での暗証番号がわりにも活用されていると承知いたしております。

 出入国審査の分野では、各国の旅券に記録する生体情報の種類としておりますが、先ほど私があれと言ったのは、目の虹彩のことを指しているのではないでしょうか。顔や指紋あるいは目の虹彩を活用することが国際的に既に決められており、欧米諸国においても、今後発行される旅券に生体情報というものが記録されるようになってきております。

 どのように活用するかということにつきましては、現在、政府部内で議論を行っており、具体的な方策についてはまだ決まっておりませんけれども、今後、諸外国の動向を踏まえながら、かつ国民の理解を得ながら、最もよい方法について考えていきたいと思っております。

 それで、今、バイオメトリックスということについて、出入国で問題をどう解決しているか。本年度は、成田空港において、生体情報の記録された旅券のモデルなどを使用した実験を実施し、その情報の読み取りが正確かつ迅速にできるかどうかの検証を行うこととしております。その結果を踏まえまして、バイオメトリックスを出入国審査業務にどう反映していくかということの検討をさらに深めていきたい。

 先生、旅券をお持ちですよね。この旅券、これは実物でございます、借りてきた分でございますけれども、この中に、ちょっと取り出しました、これが一つのICチップでございます。このICチップを、この旅券の表の方ですかね、少し分厚くされているところの中に組み込んでしまいますから、外から一見これは見えません。そういうような形のパスポートをつくっていき、これによって、顔の画像または名前を初めとする基本的な身分事項が組み込まれます。さらに、電子的な封印をいたしますので、この内容を不正な方法によって読み取ったり、あるいは改ざんすることができないというような形でこのパスポートを使っていきます。

 この中にICチップを組み込み、これが外から見えないようにするというのが我々の今後の方針でございますので、バイオメトリックスをパスポートにどう活用していくかということの御理解はいただけたと思っております。

小林(千)委員 それは初めて伺ったんですけれども、パスポートの中にそのICチップを組み込んでいる。今そういうことを法務省の方で取り組んでいらっしゃるんでしょうか。

南野国務大臣 旅券の発給については外務省の管理でございます。詳細について述べることはできませんけれども、来年度中にバイオメトリックス情報が記録されたICチップが搭載された日本旅券を新たに発行する予定となっております。

 この新型旅券、これは今モデルでございますが、新型旅券につきましては、現行旅券よりもさらに進化した偽変造防止のための印刷技術を施しておりまして、外国のいわゆる地下工場において不正に作成されるものとの見きわめが容易にできるように工夫されているほか、ICチップ上の記録に関しましても、これに不正な書き込みができないよう電子的なかぎが厳重にかけられるような仕組みになっていると承知しております。

小林(千)委員 そのバイオメトリックスについては十分にわかりました。

 しかし、パスポートですから、持っている人はというか、発給を求める人は全部その情報を提供しなければいけないわけですよね。あとは、出入国で、来日される外国人に対してどのようなチェックをするのか、まだはっきりわからないところが多いですけれども。

 そうやってひとみの虹彩ですとか指紋ですとかを提供するわけなんですけれども、私たちだって、時々指紋をとられることはあるじゃないですか。嫌だなと思いますよ。これこそ人権侵害じゃないんですか。今まで人権派としてやっていた大臣、どうなんですか、これ。

南野国務大臣 バイオメトリックスの機能の一つが身体の一部の特徴を利用した誤りのない確実な本人の確認の手段であるということから、重要な個人情報であるということは言うまでもありませんが、したがいまして、今後の出入国審査でこれを活用する場合に、情報の内容が第三者に漏れたり、あるいは入管行政の本来の目的以外に使われることのないよう、例えば、行政機関における電子情報の取り扱いを定めたセキュリティーポリシー、これまた片仮名でございますが、これをきちんと整備するなど、万全の体制で対応すべきことは当然と考えております。

 でも、セキュリティーポリシーぐらいは御存じだと思います。

 個人の人権を大切にする観点から、今後もこの点には十分に関心を払っていきます。

小林(千)委員 余計な一言かもしれないですけれども、墓穴は掘らない方がいいと思いますけれども。

 指紋押捺問題については、外国人登録のときにあれだけ人権侵害であるということになりまして、大問題になって、あれは廃止をされたわけなんですよね。そのときも、個人確認のための方法論というのは多分大きく議論になったはずです。それをもう一回ここで同じことが繰り返されるんでしょうか、大臣。

南野国務大臣 外国人の方々の登録におきましては、平成十一年までに指紋押捺の制度があったことは承知いたしております。これは、在留外国人の本人確認のために実施されていた制度でありますけれども、在日韓国・朝鮮人の方を初めとして心理的負担をかけるもの、今先生が言われたとおりでございまして、廃止すべきとの意見を踏まえ、指紋にかわる新たな本人確認方法、具体的には、署名、顔写真、家族事項登録が確立したことを機会に、段階的に廃止することとしたものであります。

 これは、平成四年になりますと、永住者及び特別永住者について廃止、平成十一年に全廃ということになったことは先生も御存じだと思いますが、テロ犯罪対策の一環として、航空機での入国審査時に本人確認を正確かつ厳格に行う必要がある、こうした観点から、要注意外国人に厳正に対処をする。過去の経緯もよく踏まえながら、制度のあり方について慎重に検討してまいりたいと思っております。

小林(千)委員 おっしゃるとおりに、これは人権侵害の可能性となる問題なわけなんですよ。大変この件については問題が多いのではないかなというふうに思います。

 こればかりやっていられないので、次に進みたいんですけれども、大臣の所信のあいさつのときに、今問題になっております二十二文字、人権擁護に関する事項のところで触れられていたのはわずか二十二文字でした。この全部の七十三行中、一行にもなっていないんですよ。これは民主党の委員の方からもこの間指摘があったところなんですけれども、しかも、これ、内容を見てみますと、五ページ目の一番最後のところの最後から何行目のところに二十二文字がちゃっと書かれているだけなんですよね。

 これは大臣の今までの思いとは随分ギャップがあるのではないかと私は思いますし、読み上げさせていただきますと、「この他、登記所備付地図の全国的な整備、今なお跡を絶たない人権に関する諸問題への対応、」このように並んで文脈が続いているんですけれども、登記所の地図と並列扱いなんですよ。別に私、登記所の地図はどうでもいいと言っているわけじゃないんですけれども、登記所の地図の整備と、今まで大臣が取り組んでいらっしゃってきた人権擁護というものがここに一緒に並ばれていることに対して違和感を感じませんか。

南野国務大臣 すべての事柄が大切ですので、特に違和感は感じておりませんが、私の取り組んできましたDV、また、児童、高齢者の虐待の問題などは、家庭や福祉のあり方といった政府全体として取り組むべきさまざまな側面がございます。そうしましたことから、法務大臣としてのあいさつには、その部分は個人的にやってきている、それを理解していただけるものとして取り入れなかったんですが、しかし、御指摘のとおり、これらの問題は現時点においても真剣に取り組むべき人権問題であることには違いございません。大臣あいさつに書いてあるか書いていないかにかかわらず、しっかりと取り組んでまいります。

小林(千)委員 やはり国民は、我々もそうですけれども、この最初の冒頭の大臣のごあいさつを伺って、大臣の取り組む姿勢というものをメッセージとして受けるわけであり、それがこれからの大臣のきっと法務大臣として御尽力されるところなんだろうなというメッセージ性というものがとても強いあいさつなはずなんですよ。それが登記所の地図と並列して書かれている、しかも、この二十二文字に、人権擁護という大変法務省でも重大な事項に対してこれだけの分量でしか扱われていないということに対して、大変大きな不満を持っているところでもございます。

 ぜひ、大臣、やはり今まで取り組んできたそれを軽視するつもりがないとおっしゃるのであれば、二十二文字の中に、「今なお跡を絶たない人権に関する諸問題への対応」、この「諸」というところが何を指すのか。今まで取り組んできた思いもあると思います、具体的にDVですとかおっしゃっていただきましたけれども。二十二文字しかなかったんですから、大臣の思いを、お時間差し上げますので、「諸」で何を指すのか、ぜひこの場でおっしゃってください。

南野国務大臣 私のあいさつの件については先ほども申しました。もう一度繰り返します。

 現在の日本において治安の再生は本当に重要な課題であると考えております。そのような考えから……(小林(千)委員「それは最初に聞いたからいいです」と呼ぶ)よろしいですか。時間を下さったように思いましたので、読み上げようといたしました。

 一つは、我が国の主な人権課題は、女性に対するパートナー等からの暴力や、また、職場におけるセクシュアルハラスメント、子供に対する親等による虐待、また、子供同士のいじめ、高齢者に対する家族等による虐待、障害者に対する差別取り扱い、また、HIVに感染された方々やハンセン病の元患者様方々に対する差別的取り扱いなど、これは大きな課題でございます。

 法務省の人権擁護機関には、全国の法務局・地方法務局にその支局がございます。また、法務大臣の委嘱を受けた民間ボランティアである人権擁護委員の方々が一万四千名もおられる、このことは先生も御存じだと思いますが、人権侵害を受けた方々に対しては、人権相談を行ったり、人権侵犯事件として調査を行い、救済のための措置を講じております。

 あいさつの中にすべて網羅することはできませんが、私の気持ちはすべてが人権擁護と言っても過言ではないというくらいに人権問題についての思い入れはございます。

小林(千)委員 ぜひそれをごあいさつの中に入れていただきたかったというふうに思います。

 次に移らせていただきたいと思いますが、今臨時国会は、司法制度改革の締めの臨時国会でもあると思いますし、それを最後に担当される大臣として大変大きな責務を持っていらっしゃることと思います。

 南野大臣がこの法務大臣になられたということでいろいろな声もありますけれども、一市民として今までさまざまな問題に取り組んでいらっしゃった方が大臣になられたということは、私は、これは評価すべきことではないかなと思います。何も法務大臣というのは法曹出身者だけがなるものでもないと思いますし、この中にも法曹関係者の方々がたくさんいらっしゃいまして、それでなくても、法務委員会、わかりづらいですとか、なかなか市民に演説しても理解してもらえないですとか、そういうところが多いんですけれども。

 私も全く法曹出身でもありませんけれども、一市民としてこの司法制度改革に参与できたことを大変うれしく思っている一人でもありますし、その市民としての感覚というものをこの法務委員会で生かしていきたいというような取り組みをしているところですし、そういった、同じような立場にいらっしゃると言ったら申しわけないかもしれませんけれども、一市民として、法曹出身者じゃない立場の大臣としてこの司法制度に取りかかる姿勢というものも大切なのではないかなというふうに私は思うんです。

 そこで、最初にお伺いしたいんですけれども、この司法制度改革というものは何のための改革なのか。大臣、ごあいさつの中でおっしゃっていることは、「国民にとって身近で頼りがいのある司法制度を構築するため、」というふうに、その趣旨、目的をおっしゃっているわけなんですけれども、それだけでは不十分ではないか。市民としての役割というものを司法の中でしっかり、積極的に果たす必要があるのではないか。

 例えば裁判員制度でもそうですけれども、国民が、市民が主体的、有意的に参加して、国民が司法に積極的にかかわって支えていかなければいけないというシステムをつくることが司法制度改革の一つの役目でもあると私は思いますが、この件について、大臣は司法制度改革をどのように考えていらっしゃるでしょうか。

南野国務大臣 先生がおっしゃっておられること、全くそのとおりだと思います。専門者の中に一般市民が入って開かれた司法を築いていこうというのがこのたびの改革になってくるわけでございます。

 そういう意味では、今日本の社会は複雑多様化しておりますが、司法制度の改革は、社会のこういった複雑で多様化していく変化というものと大きく関連していると思います。

 つまり、事前規制の形をとっていた社会、これは、護送船団と言われている社会のあり方から、護送船団に乗っかっていれば損はしないというような、そういう社会はもう国際的にも通用しない時代になってきていることは、先生も御了解していただけると思います。それで、透明なルールをつくって、そのルールに関係してそれを適正に守っていく、いわゆる事後規制型の社会に変わっていくのが求められているのではないかな、そのように思います。

 この場合、今、ルールと私が申し上げましたが、そのルールをしっかり公正に守っていき、そして適正な競争をする、そういうふうな形で歩かなければ成り立っていかない社会になりつつあるわけですから、そういうものをしっかりと後押しするのは司法になってくるというふうに思います。

 そういう意味では、これまで以上に司法ということが大きく国民の中に根づいていかなければなりませんし、司法制度改革というものが望まれている、期待されている、司法の力を国民は信用していきたいというふうに思う方向に向かっていっていると私は思っております。

 そこで、国民的な基盤の上に立って、新しい社会にふさわしい、より身近で、速くて、頼りがいのあるという司法をつくることを目指していくのが我々の心であり、国民の皆様方に対して、御意見も広く反映しながら、司法制度の改革を進めていこうとすること、その心は先生の心と一緒だろうと思っております。

小林(千)委員 その司法制度改革ですけれども、十一月末に解散をされるということですね。この司法制度改革推進本部というものは、本当に鳴り物入りで登場したものでした。たしかこれは、本部長は小泉総理がやっていらっしゃいますよね。大臣は、この司法制度改革推進本部、担当は何をされているんでしょうか。

南野国務大臣 副本部長をさせていただいております。

小林(千)委員 法務大臣が副本部長を担当されている、そしてメンバーの方々は、各大臣がみんな委員になっていらっしゃるという、本当にもう全閣僚挙げて取り組むべき課題なわけですよね。それが今、この十一月末で解散を迎えるという大切な時期に来ているわけなんです。

 まだ積み残している法案もございますし、また、通った法律の中でも、例えば裁判員制度のように、実際に法律はできたけれどもこれから運用をどうするのか、いかに国民に理解をしていただける、より国民に身近な司法をつくり上げるかということで、これから先も大変大きな課題を持っていると思いますし、あと半月しかないわけなんですから、大臣、ここで、この委員会が所管をしていることですから、予算委員会の締め総じゃないですけれども、締めくくり総括みたいなものを、これは総理御出席のもとでやるべきじゃないですか。

南野国務大臣 総理のお出ましを伺うかどうかというのは別でございますが、今先生お尋ねの司法制度改革推進本部の設置期限も、裁判員制度についての国民の啓発活動や、総合法律支援構想に係る日本司法支援センターの設立準備など、法務省が中心となって取り組む課題は少なくありません。

 そこで、法務省の所要の体制を整備して、総合調整を担当する内閣とともに、司法を国民の身近なものとするための改革に取り組んでいきたいと思っております。十一月末でそのような形を引き継いでいくということになろうかと思っております。

小林(千)委員 もちろん、その後の所管である法務省の役割というものは大切なものがあるんですけれども、あれだけ大きな打ち上げ花火を打ち上げて、それだけのメンバーで構成されたこの本部なんですから、やはりこれは大臣、今まで、この委員会に総理がいらっしゃって、そういった質疑をしたことはあるんでしょうか。

南野国務大臣 一回あるそうでございます。

小林(千)委員 いつの一回だかよくわかりませんけれども、この締めくくりの大切なときに、今言った総理を招いての締め総、これをぜひやってください。大切なことだと思いますよ。いかがですか。

南野国務大臣 御検討させていただきたいと思います。

小林(千)委員 委員長、ぜひこれは理事会で検討してください。

塩崎委員長 ぜひそのようにしたいと思います。

小林(千)委員 ということで、もう法務委員会は忙しくてしようがないわけなんですけれども、まだ法案も山のように残っておりますし、これで、臨時国会、十二月三日まででどうするのかな。重要法案もこの後たくさん残っておりますし、法案がメジロ押しになっているんですよ。一番心配しているのは、十分な審議時間がとれるのか、これを私たちは今一番心配しているんですけれども、いかがでしょうか。

南野国務大臣 今先生が御心配な、できるかできないかということでございますが、それはいろいろすばらしい先生方が法務委員会におられます。そういう意味では、審議していただけるものと信じております。

小林(千)委員 十分な実りある審議を私もしていきたいと思っております。

 これ以上やっていると、ADRをやる時間が本当になくなるんですよ。だから、本当に時間がなくて大変なんです。やっとADRに入りますけれども。

 このADRの一番の課題というのは、今回のこの法案はあくまでも基本法ですので、これがどれだけ実効力のあるものになるかというのはこれからの大変大きな課題になると思っております。

 法務省さんの方からこういった資料も配られているんですけれども、今のADRの活用状況、司法型、行政型、民間型というふうに言われておりますけれども、特に民間型のADRの活用が少ないという現状があるわけですね。

 これにはさまざまな理由があって活用されていないという現在があるんだと思いますが、その中には、やはり理由としては、この民間型ADRというものが、助言やアドバイスあるいは説明といった、一方にしか働きかけていない。これは、いわばADRではないわけなんですよね。そして、和解やあっせんというような機能を果たしていないところが多い。これが一つだと思います。

 また、民間型ADRというのが、これは業界がつくっているものが多い、こういったこともあるんでしょうか、中立性に対して、使う側、利用する側にとって見たら疑問点が多い、これがやはり民間型ADRが今使われていない現状の理由ではないかな、原因ではないかなというふうに思いますけれども、これをクリアしなければいけないわけでございまして、これをクリアするべき今回の基本法になっているんでしょうか、お伺いいたします。

山崎政府参考人 ただいま御指摘のいわば中立性、公正性でございますけれども、これは大変重要でございます。この法律案の三条にも基本理念を設けておりますけれども、そこにもこの旨がうたわれているということでございます。

 具体的には、この法律案では、まず認証基準といたしまして、手続実施者が紛争の当事者と利害関係を有することとか、あるいはその他の手続の公正な実施を妨げるおそれがあるというような場合、そういう場合には、その手続実施者を排除するための方法を定めていることが必要であるという基準を設けております。

 それから、二番目でございますけれども、申請者の親会社とか子会社、そういうような関係にあるような、いわゆる実質的な影響力を及ぼせるような立場にある者の影響力、これを防止できるような体制を設けているということ、これを基準にしておりますので、これによってそういう点はチェックをする、こういう体制でございます。

小林(千)委員 もう一つの課題といたしまして、このADRが利用促進されるために、そのADRが、今も言っていただきました公正性、中立性、そして透明性というものがはっきり市民に提示をされていないとなかなか利用促進がない、利用が進まないという面も当然あると思います。

 しかし、もう一方では、ADRの特徴といいますか、よい点でもあると思うんですけれども、非公開性、プライバシーが確保されるという面もあると思いますし、当事者間の自主性で話し合いが進められる、あるいは多様性を持っている、こういった特徴はADRとして残していかなければいけないと私は思います。

 一見、こうやって、例えば非公開性と透明性といったような相矛盾するようなADRのこれを、どのようにこれから透明性というものを確保されていくべきでしょうか。

山崎政府参考人 ただいまの御指摘の点、何点かございますけれども、まず、認証基準を設けているわけでございますけれども、先ほども申し上げましたような点をきっちりチェックするために設けるということになりますけれども、認証基準は最低限のものを設けるという考えでできておりまして、そういう意味では、そこをクリアしていただけるところについては自由な発想でさまざまな分野について活動していただくということで、多様性は確保できるだろうというふうに考えております。

 もう一つの御指摘の非公開性と今度は逆に公開性の問題、一見矛盾するようではございますけれども、この両方の要請を満たさなきゃいかぬということになります。

 非公開性の点は、これがこの手続の一つのポイントでもございますので、まず認証基準の中に、秘密を適切に保持するための取り扱いの方法とか、あるいは秘密を知った者がその秘密を確実に保持するための措置、こういうものを定めていなければならないとしておりまして、ここで非公開性を担保するわけでございます。

 逆に今度、透明性も確保しなければならない点がございます。それは、例えば利用者に対する説明義務、こういうものを定めるということ、あるいは、情報を広く国民に提供するために、認証を受けた事業者の氏名あるいは業務の内容等について法務大臣による公表をする、こういう規定を設けておりまして、その両者のバランスをとっているということでございます。

 あと、自主性につきましては、当然でございますけれども、この点も条文を置きまして、当事者の自主的解決の努力が尊重されるべきものであるということなどの業務の特性に配慮しなければならないという規定を置いておりまして、ここで自主性を尊重する、こういう手配をしているということでございます。

小林(千)委員 その透明性の部分、特に情報公開に関するところなんですけれども、この法案の第三十一条のところにその情報公開に関する条文が書いてありまして、そこでは、法務省令の定めるところにより、さっきおっしゃっていただいた住所や氏名や当該業務、何を担当しているかだとかということが書いてあるわけなんですけれども、公開される内容としてこれだけで果たしていいのか。そのほかに「法務省令で定めるもの」というふうに書いてありますけれども、ADRを利用する側にとってみたら、そこのADRの機関が今までどのような事例に取り組んできてどのような結果を出しているのか、これは利用する側としてみたらとても気になるところの一端でもございますし、それを公表することによって社会的正義も果たす役割をADRは持っているのではないかなと思います。

 もちろん、非公開性、プライバシーの確保という、そこはケアされなきゃいけないところなんですけれども、解決結果に関する情報を中心といたしまして、法務省令でどのような内容を定めるというふうに今お考えなのでしょうか。

山崎政府参考人 この点に関しましては、先ほど客観的な情報を公表するというふうに申し上げましたけれども、その中には、手続の業務の内容、それからその実施の方法、こういうものももちろん公表するわけでございます。例えば、報酬に関する事項とか、そういうものも当然その対象になるということでございます。

 それから、ただいま御指摘の点につきましては、個々の事件については、やはりプライバシーの問題がございますので、これを公表するというわけにはいかないと思いますけれども、そこのADRでどのような種類のものがどの程度あるかとか、あるいはその解決の率がどの程度であるかとか、こういうような客観的なデータ、こういうものについて、国民が、ここは何をやってどういう傾向があるか、そういうことも知るために必要な情報というふうにも考えられますし、今後、いろいろ御意見を賜りながら、どういうものを盛り込んでいくかということを今検討中であるということでございます。

小林(千)委員 利用者が一番知りたいと思っている情報、これをやはり的確に公表していただきたい。今後の課題になるのかもしれないですけれども、ぜひ、そこをオープンにしていただくことにより、やはり積極的に利用される、活用されるADRというものをつくり上げていただきたいと思います。

 そして、このADRの対象とする事例なんですけれども、特に民間型ADRの場合、当事者の自主性というものをその特徴として持っているんです。対等な関係で紛争の解決のために話し合う、あるいは和解をしていくということも必要だと思うんですけれども、当事者同士の力関係が余りにもかけ離れている場合、交渉能力が非対称的である場合、かつ、いわゆる強い者が情報をたくさん持っている、弱い者は情報を何も持っていない、こういうものが予想される分野におきましては、具体的に申し上げますと、例えば個別労働紛争ですとか、これもそうだと思うんですよ。使用者側がデータを全部持っている、労働者側は何も持っていないですとか、あるいは消費者の金銭貸借関係で一方が個人であるものですとか、あるいは建物、土地の賃貸借で借り手が個人であるもの、こんなようなものが考えられるのかなという思いもあるんですけれども、例えばこういった問題については、行政型のADRというものが解決手段になるかもしれません。

 例えば、先ほど申し上げました個別労働紛争というものは、先国会で労働審判制度というものもでき上がりました。それが積極的に利用されるべきだと思います。そういった例で申し上げましたような分野は民間型のADRの対象外にすべきではないか、このように思うのですけれども、運用としていかがでしょうか。

山崎政府参考人 この点につきましては、我々の検討会の方でもいろいろ議論はされました。これについて、では、このジャンルを除くということになりますと、そういうジャンルの紛争は一体どこに行って解決をするのかということになるわけでございまして、オールマイティーにやっているのは裁判所の調停とか、それはあるかもしれませんけれども、ある種の紛争について、専門性を生かして紛争を解決していくということ、こういうことが、除いてしまうと一体どこで行われるのかという問題にもなるわけでして、果たして、国民の紛争を救済するという立場から、除いちゃっていいのかどうかという問題が出てくるわけでございます。

 それよりも、そういうものも含みながら、力関係が違う場合には、手続実施者を選ぶ段階で、その影響力がなるべくないような、そういうようなシステムにして国民を救済していく、こういう方法をとるべきではないか、こういう議論が行われまして、最終的にはそのジャンルを除くということはいたしませんでした。

 ただ、力の違い、こういう点も当然ございますので、認証を受ける場合、あるいは認証を受けた後の業務の監督等につきましては、そういう実態にあるということ、これを十分に配慮した運用がなされていく必要があるというふうに考えております。

小林(千)委員 そういったところで、利用者が一番気にしているところ、対等な力関係ではないというところで、自分のそういった紛争というものがどう中立性が確保されて扱われるのかというのは一番気になるところでもありますし、やはり認証基準、認定基準のところでそこは明確に、クリアになってもらわなければいけないと思いますし、そういった情報というものが当然公開をされてしかるべきだと思っております。それがやはり前提とされた上で、力関係があるような事例に対しても枠を持つわけではない、引き受けるよといったようなことにならない、前提条件がやはりそこは十分に必要になってくると思いますので、これはぜひ、よろしく、しっかりと精査をしていただきたいと思います。

 そして、第十条になるんですけれども、この第十条のところで、認証審査参与員、こういった制度ができるわけでございまして、認証の申請をするときですとか、あるいは審査をする上でも重要な役割を果たすであろう認証審査参与員の方、この方々は、この法案では「若干人を置く。」としか書いていないわけなんですし、どういう方がなるのかなと思いましたら、「専門的な知識経験を有する者のうちから、法務大臣が任命する。」というふうに書かれているわけなんですけれども、具体的に、こういった大きな役割を果たすであろう認証審査参与員、これはどういった方が任命されるんでしょうか。

山崎政府参考人 これは、現在でも、利用がそれほど進んではおりませんけれども、現実に実務をやっている方がおられます。そういうような経験者、あるいは法律家でこれを経験されている方もかなりおられるわけでございますので、そういう経験者の方。それから、あるいは、そもそもそういうことをやっていなくても紛争処理について非常にたけております法律家がいるわけでございますので、そういう法律家の方々。それから、裁判外紛争解決手続に関しまして、いろいろ内外の動向に明るい学者の方とか、そういうような方々をイメージしているわけでございます。

 具体的には、これからその基準を考えながら採用していくということになろうかと思いますけれども、「若干」と書いてございますけれども、これはどれだけの申請が出てくるかによるわけでございますが、現在、大体十数名というような、その辺のイメージで考えているわけでございますが、申請が大量に出てくるということになれば、もっと追加をして任命せざるを得ないということになろうかというように考えております。

小林(千)委員 実際にこの認証、認定を受ける事業者がどれだけ出てくるかというのはまだ未知数であるところが多いとありますし、司法制度改革推進本部が出しているこの案内の中でいろいろADR機関が挙げられているんですけれども、この認証制度を利用するかしないかというところは任意であると思いますし、どの程度の事業者がいわゆるこのマル適マークの申請に来るかという問題もあると思います。

 また、例えばいわゆる士業の方々が、自分も紛争処理解決の代理人として認証を求めてくるというケースもあると思いますけれども、大体、初年度どのぐらいというふうに見込んでいるんでしょうか。

山崎政府参考人 ただいま、これはパンフレット、私どもの方で出しているものでございますが、ここで勘定してもそれほどの数があるわけではない。行政型のもあるわけでございますので、それを除いた数の全部が申請してくるとは思えないということでございます。この何割かというのはちょっと私が今申し上げるわけにいきませんけれども、それ以外に、先ほど御指摘がございましたように、専門職種団体の方々が新たにそのジャンルについて申請をしてくる、そういう考えがあるということを聞いておりますので、そういうことを合わせて、具体的な数はわかりませんけれども、最初にそれほど多くなるかどうかということは、ちょっとまだ数としてはつかめないという状況でございます。

小林(千)委員 本当にわからないとおっしゃっているとおりに、この法案が、基本法が、つまり枠組みができたところで実際にどういうふうに働くのであろうかというところは、実は私もわからないんですよ。

 ですので、この法案が成立をして、今後このADRがどのように利用されていくかということは、今後やはり追跡調査もしなければいけないと思いますし、これは附則で見直し規定もついているわけでございますけれども、今後、この法案が通った後、どのような調査をしながら、この利用促進、いつまでもこのままじゃまずいわけなんですよね、どのような利用促進を図っていくつもりなのか。

 また、今回見送られた課題もありまして、例えば執行力、法的執行力を付与するのかどうなのか、こういうことも考えているのかどうなのか、ちょっと今後の見直しについてお考えをお聞かせください。

山崎政府参考人 今後の調査の問題でございますけれども、いろいろな連絡協議会とか、そういうものを設けるようにして、なるべくいろいろな声が上がるように、それを集約できるような、そういうシステムを運用上考えてまいりたいというふうに思っております。

 それから、今回対象になりませんでした執行力の付与の問題とか、そういう問題もそのテーマ、課題の一つでございますので、それ以外にも、これからいろいろやっていくと問題が生ずるかもしれませんので、そういうものを踏まえて五年後に見直す、こういうことを考えておるわけでございます。

小林(千)委員 私は、このADRの特性というものは、これからも十分生かされていくべきではないかなというふうに思っております。紛争解決の手段といたしましてさまざまな手段があるわけなんですけれども、やはり裁判といいますと、もちろん裁判は今時間もかかる、短縮はされてきておりますけれども、時間もかかる、お金もかかる、ややこしそうだというようなイメージも持たれておりますし、裁判になりますと、どうしても権利義務関係だけで判断をされてしまう。切った張ったの世界になってしまって、そこまでは持っていきたくないんだけれども、当事者間の話し合いの中で何とか友好的に解決をしていきたい、和解をしていきたい、こういった思いを持っている紛争でこのADRが活用されるべきではないかなというふうに思っておりますけれども、最後にお伺いしたいんですけれども、このADR、今後どういうふうに、育てていくといいますか、特徴を紛争解決の手段として生かされていくべきでしょうか。

山崎政府参考人 ただいま御指摘のように、国民の方々、さまざまな方がおられますので、やはり裁判ではやりたくない、裁判は特に公開の場でやることにもなりますし、時間もかかる、あるいは金もかかるということになるかもしれません。そういう解決方法を選ぶ方と、やはり公開じゃないところで速く、安くやってほしいという方もおられるわけでございます。

 したがいまして、そちらの方々が、そういうふうに希望される方が十分紛争が解決されるような手続を設けたわけでございますけれども、これが運用上きちっといくように、政府としても情報をきちっと集めて、必要な改正等は速やかに行っていってこれを育てていきたい、こういうことでございまして、今後期待する法律ということで御理解を賜りたいというふうに思います。

小林(千)委員 まさに、この法律がうまく育っていけるように期待をして、これからの検討事項もこれは多く持っている法案だと思いますので、ぜひそこのところをしっかりとこれから精査していただきながら、実りあるADR、解決の機関というふうになることをお願い申し上げまして、時間が来ましたので質問を終了させていただきます。

塩崎委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 これより討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 内閣提出、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

塩崎委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 この際、ただいま議決いたしました本案に対し、田村憲久君外三名から、自由民主党、民主党・無所属クラブ及び公明党の共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を聴取いたします。加藤公一君。

加藤(公)委員 ただいま議題となりました附帯決議案について、提出者を代表いたしまして、案文を朗読し、趣旨の説明といたします。

    裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律案に対する附帯決議(案)

  政府並びに最高裁判所は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。

 一 裁判所、行政機関、民間団体等が提供する仲裁、調停、斡旋等の裁判外紛争解決手続が、国民にとって裁判と並ぶ魅力的な選択肢となるよう、関係機関等の連携強化の促進や国民に対する十分な情報提供を図るとともに、総合的な裁判外紛争解決手続制度の基盤の整備に、なお一層努めること。

 二 民間団体等が行う裁判外紛争解決手続において、その解決の結果を当事者が履行しないときは、裁判外紛争解決手続を利用する国民のためその実効性が確保されるよう、利用者の権利保護も十分配慮した上で、必要に応じ法整備を含めて検討すること。

 三 民間団体等が行う裁判外紛争解決手続の開始から終了に至るまでの手続ルールに関し、国際的な動向等も視野に入れ、合意が得られない場合の適用原則について、必要に応じ法整備を含めて検討すること。

 四 本法の施行後、早期に、裁判外紛争解決手続制度について検証し、必要があると認めるときは、本法の見直しも含め所要の措置を講ずること。

以上であります。

 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

塩崎委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

 採決いたします。

 本動議に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

塩崎委員長 起立総員。よって、本動議のとおり附帯決議を付することに決しました。

 この際、ただいまの附帯決議につきまして、法務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。南野法務大臣。

南野国務大臣 ただいま可決されました附帯決議につきましては、その趣旨を踏まえ、適切に対処してまいりたいと存じます。

 また、最高裁判所にも本附帯決議の趣旨を伝えたいと存じます。

 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

     ――――◇―――――

塩崎委員長 次に、内閣提出、刑法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 趣旨の説明を聴取いたします。南野法務大臣。

    ―――――――――――――

 刑法等の一部を改正する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

南野国務大臣 刑法等の一部を改正する法律案。

 刑法等の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。

 近年、我が国の治安水準や国民の体感治安が悪化しているとの指摘がなされていますが、その大きな要因の一つとして、人の身体に攻撃を加え、その生命や身体等の重要な個人的法益に重大な危害を及ぼす凶悪犯罪その他の重大犯罪の増加傾向が続いていることが挙げられます。

 こうした中で、平成十五年十二月、犯罪対策閣僚会議において、犯罪に強い社会の実現のための行動計画が取りまとめられ、当面取り組むべき重点課題の一つとして挙げられました治安回復のための基盤整備の項目の中で凶悪犯罪等に関する罰則を整備することが求められましたが、特に凶悪犯罪等については、刑法や刑事訴訟法に定められている有期刑や公訴時効の期間のあり方等が現在の国民の正義観念に合致しているのかという問題が、かねてから指摘されていたところでもあります。

 そこで、凶悪犯罪を中心とする重大犯罪に対し、最近の犯罪情勢及び国民の規範意識の動向等を踏まえた上で、事案の実態及び軽重に即した適正な対処が可能になるよう、刑法及び刑事訴訟法等を改正し、所要の法整備を行おうとするものです。

 この法律案の要点を申し上げます。

 第一は、刑法を改正して、有期の懲役及び禁錮を一月以上二十年以下とするとともに、有期の懲役及び禁錮を加重する場合においては、三十年にまで上げることができるものとしています。

 第二は、刑法等に規定された個々の凶悪犯罪等、すなわち、強制わいせつ、強姦、強姦致死傷、殺人、傷害、傷害致死及び強盗致傷等の各罪の法定刑の上限または下限を見直すとともに、二人以上の者が現場において共同して強姦または準強姦の罪を犯した場合等について、新たな処罰規定を設けるものです。

 第三は、刑事訴訟法を改正して、凶悪犯罪等についての公訴時効の期間を延長するものであり、死刑に当たる罪については二十五年、無期の懲役または禁錮に当たる罪については十五年、長期十五年以上の懲役または禁錮に当たる罪については十年とするものです。

 その他所要の規定の整備を行おうとしております。

 以上が、この法律案の趣旨であります。

 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願い申し上げます。

塩崎委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。

 ただいま議題となっております本案審査のため、明十日水曜日、参考人として東京都立大学法学部長前田雅英君、日本弁護士連合会副会長大塚明君、朝日新聞編集委員藤森研君の出席を求め、意見を聴取したいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として法務省刑事局長大林宏君、法務省矯正局長横田尤孝君、法務省保護局長津田賛平君、文部科学省大臣官房審議官山中伸一君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局大野刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。松島みどり君。

松島委員 昨年の刑法犯認知件数は、全体では前年に比べて一・三%減っており、これは九年ぶりの減少です。しかしながら、殺人は前年に比べ四・〇%増加、強盗は九・七%増加といったぐあいに、凶悪犯罪はふえております。そして、内閣府がことし七月に行いました治安に関する世論調査では、日本は安全で安心して暮らせる国だと思うかという質問に対し、そう思うと答えた人は四二%、そう思わないと答えた人がこれを上回る五五%となっております。

 こうした中で、今回、刑法を改正し、人の心身を傷つける犯罪に対する法定刑をこれまでより厳しくすることは、全体としてはとても望ましいことだと私は考えております。被害者や遺族によるあだ討ちが禁じられている以上、犯罪者には、被害者が納得のいく形で罪を償ってもらわなきゃいけない、これを国家が定めなくてはならないと私は考えるからです。

 この刑法は、明治四十年、一九〇七年に制定された後、用語の改定などはありましたけれども、刑期の見直しは初めてだといいます。何と制定以来九十七年ぶりということでございます。

 人生五十年と言われた時代と寿命がこれほど長くなった現代に同じ刑期ではおかしいと考えます。これまで犯罪者の人権ばかりを口にする反対勢力の妨害などもあって、刑期が改定されないまま今日に至ったことには非常に怒りを覚えます。しかしながら、この歴史的改正に法務委員として立ち会えたことは大変うれしいことでございます。

 きょうは十一月九日でございます。一年前のきょう、私たちは国民の代表として選ばれ、国会に出てまいりました。国民の声なき声を最も代弁するのは、わかっているのは、法律家でもなければマスコミでもなく、私たち国会議員だと、政治家だと私は思っております。こういう立場に立ちまして、今回の改正で疑問に思う点を挙げ、質問とさせていただきます。

 一番目は、今回の法改正で、強盗致傷罪は無期または六年以上二十年以下の懲役と非常に重い刑でございます。一方、殺人罪は死刑または無期または、ここから先ですが、五年以上二十年以下の懲役となっております。確かに死刑を含んではいますけれども、最も軽い場合は強盗致傷よりも刑期が一年短い。これは一体どういうような場合を想定しているのでしょうか。

    〔委員長退席、田村委員長代理着席〕

南野国務大臣 お尋ねの件でございます。殺人犯につきましては、その刑の下限が、酌量減軽をしなくても執行猶予にすることができるという懲役三年というものがありますが、国民の正義感に照らせば、寛大に過ぎると思われることから、今回それを引き上げたものでございます。

 先生おっしゃるとおり、五年という形にいたしましたが、もっとも、現実に発生している殺人事件を見てみますと、例えば介護疲れや家庭内暴力に対する事案などの中には、執行猶予とするのが適正ではないか、相当ではないかと思われるものもあります。しかも、そのような事案につきましては、裁判所による酌量減軽という判断を得た上で執行猶予とした方が国民からもわかりやすい司法判断のあり方のようにも思われております。

 こういったことから、今回の改正では、殺人罪の刑の下限を五年に引き上げる、そういうことにしたものでございます。

松島委員 それでは、強姦罪が三年以上二十年以下の懲役、強姦致死傷罪が無期または五年以上二十年以下の懲役、新設された、これは新設されてよかったと思っておりますが、集団強姦等罪が四年以上二十年以下の懲役というのは、先ほど申しました強盗致傷罪の最低が六年以上ということに比べていかがなものでしょうか。

 殺人の場合には、今大臣が言われましたように、第三者が見聞きしても加害者に対して同情の余地があるケースはあると思います。あり得ると思います。やむにやまれずということがあるかもしれません。しかし、女性の心をずたずたにする、場合によっては男性不信を招き、その後の人生をも左右しかねないような犯罪、これに対する罰の方が強盗致傷罪よりも軽いということは私には信じがたいものであります。到底許せないことです。

 性行為というものは、望んで行った場合はとてもすばらしい、喜びに満ちたものであります。しかしながら、望まない相手を暴力でねじ伏せ、行為に及んだ場合、私は幸いにもそういう経験ございませんけれども、想像の範囲ですが、想像できる範囲で申し上げますと、その対象となった女性は体も心も激しい痛みを感じるものだと思います。この二つは女性にとっては全く別物の、正反対のものです。ひょっとしたら男性の中には、性行為全部、十把一からげにされる人もいるのかもしれないけれども、女性にとっては絶対に違います。

 男性の中には、もちろん多くの男性はまともな方でございますけれども、男性の中にはこの違いを認識していない、極めて困った人がいます。社会的にある程度立派な、まともな男性であっても、性犯罪のことを、例えば交通事故に遭うようなものだとか、どうせ減るものじゃないだろうとか、女だって楽しんだだろうとか、ひどい、聞くにたえない軽口をたたく人がいましたり、あるいはポルノ映画やポルノ雑誌の中には、女性が暴力ずくで犯されて喜びを感じる、最初嫌がっていても、その後何か喜んでしまうんだみたいな間違った観念に基づく表現がしばしば見られます。こういったことが未成熟な青少年に悪い影響を与えて、罪の意識を持たずに性に関する犯罪を犯す、そういうおそれが高い。

 そうした中で、強盗致傷より罪が軽い場合があるというのは一体どういう考えなのか。殺人と違って、やむにやまれぬ気持ちで強姦したなんてことはあり得ないはずです。それだったら強姦にならないで別のことでしょう。

 こうした中で、どういうことでこんな法案をつくられたのか。これを、基本でありましたでしょう法制審議会のメンバーというのは、この法案をつくった人は男性ばかりなのか。男性だとしても、もし自分の娘や妻が強姦されたらという、そういう想像力を働かせたことがないのでしょうか。私は怒りを覚えます。

 裁判員制度によって国民の司法への参加だとか一般国民の常識を生かした裁判を目指すといいますけれども、こんな女性一般の常識から外れた法律をつくっておいて、司法への参加を呼びかけても全く無意味で言語道断だと思います。いかがでしょうか。

大林政府参考人 お答え申し上げます。

 委員御指摘のとおり、強姦罪等は被害者に極めて重大な侵害をもたらす犯罪であるにもかかわらず、その刑が寛大に過ぎるだけではなく、暴力的犯罪としての凶悪性が著しい、集団による強姦罪の刑が一般の強姦罪と同じであることについても国民の正義感に合っていないとの指摘がなされていたところでございまして、今回の改正では、強姦罪や強姦致死傷罪の刑を引き上げるとともに、新たに集団強姦等罪と集団強姦等致死傷罪を設けることとしております。

 そして法定刑につきましては、強姦罪の法定刑の下限を現在の懲役二年から、それ自体として執行猶予を付すことができる限界である懲役三年に引き上げることとしております。

 また、これらの罪の中で最も重大と思われるのは集団強姦等致死傷罪でありますけれども、今お尋ねの、軽くするような場合があるのかということでございますが、例えばということでございますけれども、犯人がいわゆる前科等がない、犯罪への、これは集団強姦を前提としていますのでいろいろな役割がありますけれども、その中でも関与の度合いが比較的軽微である、しかも被害者に対して慰謝の措置を尽くして、被害者もこの人は許してもいいというような事案もないわけではないというふうに思われます。このような場合に、酌量減軽をしても執行猶予を付すことはできないという場合は、やや、そういう場合については問題があるというふうに思われますので、集団強姦等致死傷罪の法定刑の下限を、酌量減軽をした場合において執行猶予を付することができる限界である懲役六年としておりまして、これは今回の改正により、強盗致傷罪の法定刑の下限を懲役六年に引き下げた趣旨と基本的には同じでございます。

 その他の集団強姦等罪、これは準強姦を含むから「等」になっておるわけでございますが、強姦致死傷罪は集団強姦等致死傷罪よりは軽い罪であると考えられますので、そのバランスから、その法定刑の下限をそれぞれ四年と五年にしたものでございます。

松島委員 今の御答弁は私の質問に対して正確に答えていると思いません。

 なぜならば、強盗致傷罪、つまり強盗、暴力を使って人から物を奪う、そしてけがをさせる。このけがで一番軽い場合は、いわゆる全治一週間ぐらいのかすり傷その他も含まれると思います。それの最低限と、強姦、よしんば強姦罪や強姦致死傷罪の最低との比較を私は申し上げているわけです。

 そして、今言われました集団強姦等罪、集団強姦等致死傷罪で、特に集団強姦等罪で一番短いのが四年と言われました。確かに、下っ端で、見張り役で、恐らくそのグループの中でも使いっ走りでいじめられているような人が、情状というか、これは仕方がないなというのはあるかもしれません。しかし、一対一であるはずの強姦致死傷とか強姦罪とかいうのは、下っ端も見張り役も何もないはずでございます。

 なぜこれが強盗致傷より軽い場合があるか、それについてお答えください。

大林政府参考人 強盗致傷罪について、強姦罪との比較において、強姦の方が軽いのはいかがかという御議論があることは私どもも承知しております。

 ただ、刑のバランス等いろいろございまして、重い方の、犯情の悪いものについては重い刑が科せるような形に今回しておりますので、強盗罪についてはかねてより、ほかの財産刑のあり方がどうあるべきかということは従前から議論がございまして、今回の法制審議会においてもそのような議論がございました。

 今、委員御指摘の点、私どもも認識はしておりますので、今後そういうあり方がどうあるべきかということについて、さらに検討をさせていただきたい、こういうふうにも考えております。

松島委員 今、刑のバランスということを言われました。例えば、強盗致傷罪というのはこれまで非常に重かった。七年以上十五年以下だった。これを一年引き下げる。ひょっとして、皆さん方の発想の中で、こっちを下げてこっちを上げて、じゃ、まあ、これでちょぼちょぼかという気持ちがおありなのかもしれない。

 そして、実際の裁判の中で重いときは重くしていくからと言われました。しかしながら、これは国民へのアピールということもあるわけです、法定刑というのは。裁判でそれぞれゆだねられるんだったら、法律をつくる人はいいかげんでもいいことになるでしょう。幅を持たせておいたら全部厳しく裁判所がやってくれるということだったら、じゃ、軽い方をどんな軽いのにしておいてもいいということになってしまう。それは、法律をつくる立場の方々が、裁判で重いこともできるからいいなどという言いわけは絶対におかしいと思います。

大林政府参考人 委員おっしゃることは私も理解できます。

 ただ、今回、法改正によりまして、例えば強姦罪の場合は二十年以下の懲役という形で上限が上がります。これも一つの、重くなりますよという点においては、外にあらわれるメッセージだと思います。

 今おっしゃる、強姦とそれから強盗罪の問題については私ども認識していますけれども、従来からの位置づけといいますか、それはケースケースによって、委員御指摘のとおり強姦罪の方が悪質だというケースももちろんありますし、強盗罪も、かなり被害者に対してダメージを与えるような強盗罪の形態もあります。これについては今後とも検討課題にさせていただきたい、こういうふうに思っております。

松島委員 恐らく、法制審議会の答申の後、私はパブリックコメントという言葉は嫌いです、意見募集と自分では言っておりますけれども、意見の募集をされたと思います。意見の募集の中で、これに対して、軽いじゃないかという意見はかなり出てきていないでしょうか。重過ぎるという意見はありましたでしょうか。伺いたいと思います。

    〔田村委員長代理退席、委員長着席〕

大林政府参考人 今の御質問のパブリックコメント自体は今回やってはいませんけれども、委員御指摘のとおり、おかしいんじゃないか、強盗罪が財産的なものを対象とする、それから強姦罪については、女性の尊厳そのものを、かなり大きなダメージをその後も与える、その重さをどう考えているかという御指摘は私どもも伺っております。それを踏まえた上で今回改正案を出させていただいたわけですけれども、さらにその点については、委員の御指摘も踏まえて検討させていただきたいというふうに思います。

松島委員 先ほど申しましたように、裁判員制度によって国民の司法への参加などということを唱えても、私常々申し上げておりますけれども、法律が難しい言葉だとまず意味がない、一般にはわからない。さらに、法律が世間の常識と外れていたら、民意を反映していなければ、これはどんな制度をつくったって私はだめだと思うんです。

 私は、国会議員として仕事をする中で、特に女だからどうこうということをふだんは意識しておりません。しかし、この法律は耐えられないものだと考えています。

 今後、検討するというお話がございました。こうやって法案が上がってきたものをどういうふうに検討されるのかわかりませんけれども、どうか委員会の同僚の皆様にもこの点はよく留意していただきまして、ここにいらっしゃる委員の皆様は男性でありますけれども、女性の気持ちを十分わかる方だからこの国会へ出てこられた方と信じております。どうかよろしくお願いいたします。

 次に移ります。

 時効についてお尋ねしたいと思います。

 今回、重大事件の公訴時効期間が延長されました。しかしながら、犯罪被害者及びその遺族にとりましては、何年たっても事件は終わりません。殺人事件の犯人が二十五年間無事に逃げおおせて、ほっとして、もう罪に問われることはないんだということで名乗り出る、名乗り出ると安心、安堵いたします。その人は楽になるかもしれない。しかし、そうすると、遺族、被害者、重大事案でまだ本人御生存の場合は御本人だし、特に亡くなられた場合は遺族でございます。遺族にとっては耐えられない。この憎しみ、苦しみをどこへ、法の裁きも受けない、どこへぶつければいいのか、本当につらいものだと思います。

 私は、軽い罪ならばともかくも、殺人事件や重大な後遺症の残る傷害、重傷を負わせる傷害事件の場合は時効というものは存在させるべきではないと考えておりますが、なぜそういう人たち相手にも時効という制度があるんでしょうか。

滝副大臣 まず、公訴時効のお考えは、今先生御指摘のとおり、犯罪に対する被害者あるいは社会の処罰感情、そういうようなものが時間とともに希薄化する、こういうようなことを根拠とする考え方、それからもう一つは、証拠が保全できているかどうか、証拠が得られるかどうか、そういうような手続上の問題、こういうことで公訴時効が定められているわけでございます。

 その中で、先生が一番最初に御指摘になったように、国民の平均寿命は延びている。延びていると、時間がたつに従って、基本的には、被害者やあるいは家族なんかのいわば感情というのが簡単に希薄化せずに、寿命が延びた分だけやはりそういう感情が残っていく。そういうことがやはり一つあるわけですね。それからもう一つは、やはり最近の科学技術の進歩、証拠保全の能力が上がってきた。そういうような証拠保全、長期間たっても残っている。

 こういうようなことで今回の公訴時効を延長する、こういうことに踏み切らせていただいたわけでございます。

松島委員 いや、延びたのはいいんですけれども、何で殺人事件の場合はずっと罪は罪ということにならないで、時効でそこで終わっちゃうんでしょうか。

大林政府参考人 今副大臣が述べられたように、要するに、時効の制度は、処罰感情の希薄化、あるいは証拠が散逸してしまうでしょう、いつまでもそのような不安定の状態を残すのはまずいでしょうという趣旨で公訴時効が定められたものでございます。

 しかしながら、今委員御指摘のとおり、殺人等の重大犯罪については、外国では時効そのものを、そういう制度を設けていない国も少なからずあります。ですから、これは法政策的な考え方であろうかなと。

 しかしながら、委員も御指摘になったように、刑法、刑事訴訟法は明治以来ずっと同じような形で長年続いてきておりますし、事案によっては、もう時効によって打ち切って、捜査は、いわゆる捜査機関はまたほかの捜査に振り向けるし、本人は安定した地位で社会的に生活していく、そういう必要性のある場合もあろうかなということで、おっしゃる意味で、殺人等について、そういう重大なものはそう簡単に忘れられるものではないという問題はありますけれども、過去の日本における司法制度の経緯等から見て、今直ちにその公訴時効制度を廃止するということはちょっと困難かなと。

 しかしながら、委員の御指摘のような事例がありますので、今回、公訴時効期間を延ばして、捜査機関において適切に対応できる形にしたいなというのが今回の立法趣旨でございます。

松島委員 長い年月がたつと、証拠なども散逸して、調べるのが難しくなるというのはわかります。それを考えますと、やはり治安維持、回復のためには、やはり警察及び検察の初動捜査能力を高める。そのためには、予算もつけて、人員も確保するということが必要ではないかと思います。

 さて、無期懲役というものがございます。

 無期懲役という判決で刑務所に入って、これは、言葉のとおり読んだら、ずっと、無期に、いつまでも入っていることになっていますけれども、現実には仮出獄するケースが多い。

 現在、平均何年で仮出獄しているのか。そして、仮出獄した人のいわゆる再犯率、五年以内に罪を犯すその再犯率というのはどういうものなのか。また、今回の法改正の影響で、無期懲役の人が実際に刑務所にいる年数、この平均年数というのは変化すると予想されるのかどうか。ここについて伺いたいと思います。

津田政府参考人 平成十五年中に仮出獄をいたしました無期受刑者のうちで、当該無期刑につきまして初めて仮出獄になった者は十四名おりますが、その者たちの平均服役期間は約二十三年四月となっております。また、平成十一年から十五年までの五年間に行刑施設に再入した者のうちで前刑が無期刑である者は八名でございます。

 今後における無期刑受刑者の仮出獄までの服役期間の変化についてでございますが、将来のことでございますので、これを予想することは困難でございますが、今回、刑法が改正された場合におきましても、地方更生保護委員会におきまして、制度の枠内で、犯罪情勢を踏まえまして適正に運用されるものと考えております。

松島委員 刑が決まった有期刑で仮出獄した人の再犯率はどうでしょうか。さっきの方は何とかで八人と言われましたけれども、率としては全然出してもらえなかったんですが、それも含めて、有期刑で仮出獄した人の再犯率がどうであるか。また、有期刑の場合の刑期満了の人の再犯率はどうであるかをまず教えていただきたいと思います。

横田政府参考人 お答えいたします。

 再犯率というお尋ねでございますが、私ども行刑当局で把握できますのはいわゆる再入率になりますので、それでお答えさせていただきます。

 その再入率でございますが、まず、平成十一年の一年間に出所した受刑者、合計二万三千百二十六名についての結果でございますが、この一年間に出た二万三千百二十六名のうち、仮釈放により出所した者が一万三千二百五十六名、それから、満期釈放により出所した者が九千八百七十名ございます。

 この出所受刑者における、その出所した平成十一年を含むその後の五年間の間に行刑施設に再入した、戻ってきたといいますか、その者の累積の比率を申し上げますと、仮釈放者は、五年のうちにそのうちの三八%が行刑施設に再入しているということになります。それから、満期釈放者につきましては、その五九%が行刑施設に再入しているという数字になっております。

松島委員 つまり、刑務所の中で割とまじめにして、反省の態度もいいということで仮出所した人のうち三八%、三人に一人以上の割合でまた五年以内に刑務所に舞い戻っている。そして、満期、刑期をちゃんと無事終えた人が五九%、半分以上が舞い戻っているわけですね。もちろん、犯した罪の重さ、どんなのがあるかわかりませんけれども、そう考えますと、この仮出所させる決定というものが甘いのではないか。

 さらに、刑期満了を十分やっても五九%が出てくるということは、もともと、そもそもの刑期が甘過ぎるのか。あるいは刑務所で、いや、刑務所の方は頑張っていると思います、それはもう、あの過酷な労働条件で、私も見させていただいて、独居房に二人入れたり、いろいろ、大変なところでよく怖くなくやっているんだなと私は思いますけれども、ここで矯正するということは無理なんじゃないか。この三八%、五九%という数字を伺うと、根本的なことを、今回法律で刑期を長くするとかなんとかしても、また違うことも考えなきゃいけないんじゃないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。その判決を行う裁判所の方と、両方に伺いたいと思います。

横田政府参考人 矯正局の立場から申し上げます。

 おっしゃるように、私どももこのただいまの数字をもって決してよしとしているわけではございません。理想は、もちろん再犯ゼロ、再入ゼロが矯正の目的でございます。それはもちろん現実論としてなかなか難しゅうございますけれども、私どもといたしましては、とにかく受刑者を改善更生させて、社会復帰をさせるというのが矯正の目的でございますので、それを基本として今処遇を進めているところでありまして、今後とも、このような状況を踏まえまして、新たな処遇方法なども取り入れながら、できる限りこの再犯、再入が少なくなって、本当に完全に社会復帰できるような矯正を目指してまいりたいと思っております。

津田政府参考人 仮出獄のこともお尋ねでしたので、私の方からその点についてお答え申し上げます。

 先ほど矯正局長からも答弁がございましたように、平成十一年の仮出獄により出所した者につきまして、五年間の間に矯正施設に再入した者の累積の比率が約三八%ということでございますが、平成十五年に保護観察を終了した仮出獄者について見ますと、仮出獄期間中の再犯により刑事処分を受けたという者は約一%となっておるところでございます。

 私どもといたしましても、保護観察が終了した後につきましても引き続き再犯が防止できるように、今後とも保護観察の充実には努めてまいりたい、このように考えております。

 それからなお、先ほどの御質問で、無期刑について再犯率というのはないのかという御質問がございましたので、あわせてお答え申し上げますが、有期刑の場合でございますと、ある年度におきまして、期間満了により保護観察を終了した者のうち、その期間内に犯罪を惹起したことによって刑事処分を受けた者の割合というものを出すことは可能でございますけれども、無期刑の場合は保護観察中に期間満了というものがございませんものですから、有期刑と同様の意味で率を出すということが困難であるということであろうかと思います。

大野最高裁判所長官代理者 私どもも、審理をしているときは、再犯、決して犯さないようにということを願って、被告人に対してもそういった説示をし、被告人質問の中でもまたそういったことについていろいろ尋ねたり、あるいは、保護者等を含めて、監督する人たちにも注意を促すといったようなことをして判決をしているわけです。

 残念ながら、再犯ということももちろんあり得るわけですが、そういった場合につきましては、なぜそういうことを繰り返すのかということについてもできる限り本人に考えてもらうということをしておりますし、やはり、再犯が重なるということであれば、刑としては重い刑を言い渡すといったようなことにして対応するといったようなことであります。

松島委員 私は、治安という問題は、人権の問題と全く一緒である、裏表であると思っています。弱い立場の者、例えば、暗がりを歩いて帰るのが怖いのは女性だったり、ひったくりに遭うのは男性だったり、連れ去りに遭うのは子供だったりいたします。恐らく二十代、三十代の体格のいい男性は余り怖い思いをすることがないと思います。そういう意味で、弱者の立場に立つということと、治安をしっかりよくしていくということはイコールであります。

 どうか、今の質問、いろいろ質問させていただきましたけれども、まだ、今後またさらに質問の機会を得て、伺ってまいりたいと思います。治安を回復させるためにはあらゆる手段を使っていただきたいと思います。よろしくお願いします。

塩崎委員長 次に、江田康幸君。

江田委員 公明党の江田康幸でございます。本日は、刑法等改正に関して質疑をさせていただきます。

 警察白書によりますと、平成十五年の一般刑法犯の認知件数は二百七十九万百三十六件に上っております。これは戦後最高水準を更新中であるということだと思いますが、中でも人の命や体などに重大な危害を及ぼす凶悪犯罪の増加が目立っております。

 警視庁の統計によりますと、最近十年間の認知件数の変化を見ても、殺人は一三%増、強姦は五三%増、傷害は約二倍、強制わいせつに至っては二・八倍に増加しております。

 内閣府の九月の世論調査でも、ここ十年間で日本の治安が悪くなったと回答した人が八六%に上ります。また、自分や身近な人が犯罪に遭うかもしれないと不安になることが多くなったと回答した人が八〇・二%という結果も出ております。

 また、法務省の統計によりますと、判決で言い渡された刑期と仮出獄などによって実際に執行した刑期を比較した場合、執行期間が近年やや短くなる傾向にある。九割以上の刑期を終えた割合は、一九九八年に二八%だったものが年々減って、昨年は二〇%となっております。国民の平均寿命が刑法制定当時から三十年以上も大幅に延びている中で、刑罰が相対的に軽くなっているという実情もあるかと思います。

 明治四十年の制定以来、初めての刑法の抜本的改正となった背景には、このような治安状況の悪化、平均寿命の変化、国民感情の変化があると私は思っておりますが、改めて法務大臣、これらについてどのように認識されているかをお伺いいたします。

南野国務大臣 お答え申し上げます。

 近年、人の命や体に重大な危害を及ぼす凶悪重大犯罪が後を絶たずに、我が国の犯罪情勢は厳しい状況下にあると思います。また、このような犯罪につきましては、現在定められている刑の長さが国民感情に合っていないという御指摘もございます。また、昨年十二月に取りまとめられました犯罪に強い社会の実現のための行動計画、そこにおきましても、刑事法の整備が求められております。

 今回の法案は、このような状況を踏まえ、凶悪重大犯罪に対し適切に対応できるよう刑法等を改正するものでございます。

江田委員 それでは、法案の具体的な内容についてお伺いをさせていただきたいと思っております。

 まず、有期刑の上限の見直しについてでございますが、現行法では、有期の法定刑の上限は十五年、これを、加重の事由がある場合、すなわち複数の犯罪を犯した場合に適用される処断刑の上限は二十年となっております。そもそも、現行の十年、十五年、二十年が有期の法定刑の上限とされていることによって実務上どのような問題が、また課題が生じているのか、お伺いいたします。

大林政府参考人 統計によりますと、平成十五年において、無期刑の言い渡しを受けた人数が九十九人となっていますけれども、これは昭和三十四年の百人以来の高い数値でございます。また、無期刑の言い渡しを受けた人数は、昭和五十年代を中心に一たん減少した後、増加に転じております。

 また、この昭和三十四年から平成十五年までの間、十五年を超え二十年以下という現行刑法のもとで最長期にわたる有期刑の言い渡しを受けた人数は増加傾向を続けておりまして、昭和三十四年においてゼロ人であるのに対し、平成十五年では七十二人となっております。

 このように、無期刑と長期の有期刑の宣告人員がともに増加傾向にある中で、このどちらの刑を選択すべきかということが、理念的なものにとどまらず、実務上大きな問題になっておりまして、無期刑と有期刑との差を狭めていくことが、適正な量刑の実現という実務的な観点からも求められているものと理解しております。

江田委員 今申されましたように、無期刑また長期刑というのが非常に増加している。そういう中で、このどちらを選択すべきかというところにおいて悩むべきような犯罪が多くなっている。そういう意味でこの十五年を、今回の法改正におきましては、それぞれの有期の法定刑及び処断の上限をそれぞれ二十年、三十年と改めることをなされたと思うのでありますが、どのような点を考慮してそのようになっているか、また改めてお伺いいたします。

大林政府参考人 委員御指摘のとおり、有期刑の法定刑及び処断刑の上限の見直しにつきましては、近年の犯罪情勢や国民感情の変化、平均寿命の延びなどを踏まえ、適切な刑を科すことができるようにするために必要な見直しを行うものとしたものでございます。

 具体的な数字として、二十年及び三十年という年数を採用しました理由でございますが、有期刑の法定刑の上限と処断刑の上限との間で、いわゆる併合罪加重等の趣旨が損なわれることのないように一定のバランスをとる必要があるということ、それから処断刑の上限につきましては、有期刑の場合、宣告刑の三分の一、無期刑の場合は十年で仮出獄の資格を得られるということになっておりますけれども、この両者との間の連続性といいますか、これを配慮したものでございます。

江田委員 わかりました。

 次に、強姦罪等についてお伺いをいたしたいと思っております。

 凶悪犯罪の中でも、この強姦罪や強制わいせつ罪等の性犯罪は、暴力によって被害者の人格や人間性、人権を著しく破壊するものでありまして、このような犯罪に対しましては、加害者の刑事責任を厳正に追及する必要があると思っております。

 最近の新聞報道でございますけれども、婦女暴行等の事件につきまして検察官の求刑十二年を上回る懲役十四年の判決が出されたとのことでありますが、近年の強姦罪に関する裁判所の科刑状況はどのようになっているか、法務当局にお伺いします。

 また、集団による強姦につきましては、皆さんも御存じだと思いますが、私大生らがサークルを利用して女性をパーティーに誘って泥酔させて集団で強姦をしていた、いわゆるスーパーフリー事件の主犯格の判決が最近ございました。これで共犯者全員の一審判決が出そろいましたけれども、この判決結果についてあわせて法務当局にお伺いいたします。

大林政府参考人 通常第一審である地方裁判所における平成六年から平成十五年までの過去十年間の強姦罪の科刑状況につきましては、平成七年から判決が増加傾向にございます。三年を超える、いわゆる三年超の懲役刑の判決を受けた者の数がおおむね増加にありますけれども、特に三年超五年以下の懲役刑の判決を受けた者は、平成六年から平成七年までの間は六十人台でございましたが、平成十一年から百人台を推移しております。平成十五年には百四十六人となっております。そして、十五年超二十年以下の懲役刑の判決も、平成九年の一名に対する判決以降で初めて平成十四年に二件なされ、平成十五年に三名の者が判決を受けております。

 また、御指摘のいわゆるスーパーフリー事件につきましては、第一審において、主犯格とされた被告人に対し懲役十四年が言い渡されたほか、これ以外の被告人十三名に対しても、その関与の程度等に応じてそれぞれ懲役二年四月から懲役十年までの実刑判決が言い渡されております。

江田委員 今申されましたように、検察官の、そこを申されたかどうかわかりませんが、最近では、このような強姦罪、婦女暴行事件に関して、検察官の求刑では甘過ぎるということで、裁判所の判断はさらなる長期の判決が出ている、そういう現状にあるかと思っております。

 ましてや、このスーパーフリー事件というのは集団強姦罪としてまことに許せない事件でございまして、そのような事件に対しまして、女性の人権を擁護するということのためには、強姦罪の罰則を強化して集団強姦罪を新たに創設するなど、強姦罪の罰則強化、性犯罪の罰則強化に取り組む必要があると強く考えます。

 公明党は、集団強姦罪の創設を昨年の衆院選のマニフェストに掲げて、全力でこれまで取り組んでまいりました。さらに、南野大臣を座長、公明党の浜四津議員を座長代理とする与党女性と刑法に関するプロジェクトチームで、強姦罪や強姦致死傷罪の罰則強化、集団強姦等罪や集団強姦等致死傷罪の創設を当時の野沢法務大臣に強く申し入れてきたところでございます。これらの要望につきましては今回の法案にすべて反映されておりまして、評価するところでございます。

 大臣自身の活動も含めまして、今回、強姦罪を初めとする性犯罪の罰則を強化したその趣旨について、改めてお伺いいたします。

南野国務大臣 お答えしたいと思います。

 私も、今の法務大臣のポストに就任する前から、強姦罪などの罰則が寛大に過ぎるのではないか、そういう問題意識を持っておりました。そのため、女性と刑法、そのPTの座長として、公明党の浜四津先生とともに野沢前法務大臣に罰則の見直しを求める申し入れをしてきたところでございます。

 今回の改正はこのような問題意識を踏まえたものであると思いますし、私といたしましては、我々の活動もこれに寄与できたのかな、そのような感想を持っております。

江田委員 先ほど松島議員の議論にもございましたけれども、強姦罪の法定刑が依然として強盗罪よりも低いという指摘は、以前からこれはございます。もう今回は質問はいたしませんけれども、先ほどもこの強姦罪と強姦致死傷罪の刑のバランスについて、それを例として今後ともこの強姦罪の法定刑についてさらなる検討を加えていくということで答弁があっておりました。

 私の方からも、この女性の人権、本当に人間性を破壊するようなこういう強姦並びに集団強姦等について、その辺のところをしっかりと検討された上で、また法務委員会の方にも御報告、また必要な見直しというのもしていかなければならない非常に大事な問題だと思っております。

 次に、殺人罪等についてもお聞きしたいと思います。

 今回、殺人につきましては、法定刑の下限を執行猶予のつかない五年に引き上げております。確かに悪質な殺人事案もございますけれども、最近、介護疲れによるものとか、同情を禁じ得ないようなものもその中にはあります。今回の殺人罪の改正では、このような事案に対してはどのように対処することになるのでしょうか。政務官、よければお伺いいたします。

富田大臣政務官 先生御指摘のように、現行の殺人罪の法定刑の下限は三年で、これでは酌量事由等がなくても執行猶予がつけられる状況にあります。これは、国民の正義感に照らすとやはり低過ぎるのではないかということで、今回、下限を五年に引き上げさせていただいたところであります。

 しかし、先生が今言われましたように、現実に発生している殺人事件を見ますと、その中には執行猶予に付すのが相当ではないかと思われるものもあります。このような事案につきましては、酌量減軽の判断を得た上で執行猶予に付すことも可能であり、今回の改正によって、国民の正義感を反映しながら、事案の軽重に応じた適切な科刑をすることが可能になるというふうに考えております。

江田委員 わかりました。今申されましたように、そういう悪質な殺人事案の中にも、考慮すべきそういうような事件も、介護等の疲れによる殺人等もございます。そういうようなところも配慮でき得る改正になっているという答弁であったかと思いますので、そのように理解したいと思っております。

 次に、公訴時効の延長についてお伺いをさせていただきます。

 また新聞報道によりますけれども、殺人罪などの凶悪犯罪で、時効完成後に犯行を名乗り出る例が続いておりますですね。被害者の遺族の方々からは、人を殺しても十五年間逃げ切ればふだんどおりの生活が送れるのはおかしいという声も出ております。

 例えば、東京都足立区の小学校女性教諭殺害事件。これは、二十六年前に殺害したとして、犯人がことしの八月に自首をしてきたわけでございます。自宅の床下に埋めていた、その自宅が区画整理で取り壊されることで不安になって自首してきたということでございます。犯人も、もちろんこれは時効が完成していたということは知っていた。

 このような件に関して、遺族の方々からは、時効完成で犯罪者と呼ぶことすらためらってしまう、また、犯人がわかってももうどうしようもない、遺族をこういうふうに苦しめるような時効というのは一日も早く廃止してもらいたい、そのような遺族の方々からの悲痛なお訴えがあっておるわけでございます。

 このように、被害者や遺族の悲しみには時効はないという国民意識が私は高まっているのではないかと思います。今回の公訴時効期間の延長につきましては、このような被害者の遺族の声にこれは配慮したものかどうか、この点についてお伺いいたします。

富田大臣政務官 時効制度の廃止につきましては、先ほど刑事局長の方が答弁したとおりでございます。

 今回の公訴時効期間の延長により、重大な犯罪については起訴できる期間が延びることになりました。被害者やその御遺族を含む国民の正義感情にも、これでこたえられるようになるのではないかというふうに考えております。

江田委員 今回の法案では、殺人罪など死刑に当たる罪の公訴時効の期間が十五年から二十五年に延長されております。

 時効制度は、時間の経過で処罰感情が薄れて、証拠が散逸して捜査が困難になるというような理由で設けられているのは皆様御承知のとおりでございますが、DNA鑑定等科学捜査も、科学技術も進歩しております。また、犯罪抑止という考えから、現代にそぐわないという意見もあります。その一方で、長期にわたる警察力の投入は、これはまた納税者の負担にもなるというような意見もございます。

 今回、延長に踏み切ったその理由について、確認をさせていただきたい。

大林政府参考人 公訴時効期間の延長によりまして、現在より長期にわたる捜査を維持する必要のある事案が生じることは御指摘のとおりでございますが、捜査当局におきましては、これまでも、限られた人的、物的資源の中で創意工夫を凝らしながら、刑罰法令の適正かつ迅速な適用実現に努めてきたところでございまして、今回の改正後も、捜査資源を有効に活用することにより、適正かつ可能な捜査処理を行っていくもの、そういうふうに考えております。

江田委員 無限に警察力を投入するということはできないというようなことでこのような時効というのもありますが、先ほどからのように、もう時効自体を廃止してもらいたい、やはり遺族の方々というのはそういう思いに至っておられるわけでございます。そういうところをしっかりととらえた上で、今回の改正で公訴時効の期間は十五年から二十五年とか延びるわけでございますけれども、時効そのものについて国民感情とのずれがあるかないか、そういうところもしっかりと、今後ともに、この時効については今後の課題としても検討を続けていかなければならないのではないか、そのように思いをいたすわけでございます。

 ちょっと戻りますけれども、傷害罪についてお伺いをしておきます。

 傷害罪につきましては、殺人罪や傷害致死罪のように死の結果を伴わない犯罪でありますけれども、その上限を引き上げる理由について、これも確認をさせていただきます。

大林政府参考人 傷害罪の中には、例えば激烈な暴行が加えられた結果、被害者が一命を取りとめながらも、いわゆる植物人間になるような、重篤な傷害の結果が惹起されるような凶悪、重大なものも含まれておりまして、そのような事案については、国民の処罰感情などを考えれば、現在の法定刑の上限である懲役十年では必ずしも十分ではないのではないかというふうに思われますことから、これを懲役十五年に引き上げることとしたものでございます。

江田委員 それでは次に、受刑者の収容状況についてお伺いをさせていただきます。

 大臣のあいさつにもありましたけれども、平成十六年の八月の末現在では、刑務所等の受刑者の収容率は一一七%に達するなど、その過剰収容状態というのは極めて深刻な状況にあるかと思っております。

 今回の法定刑の引き上げでこの服役期間がさらに長期化すれば、過剰収容状態というのはますます深刻化することが懸念されるわけでございますけれども、受刑者の処遇改善を進める中で、収容体制の充実は必要不可欠であると考えております。この収容者の増加に対する施設の拡充、増設、刑務官の増員などの計画はどのようになっておりますでしょうか。

 また、刑罰の長期化は、受刑者にとってはその社会復帰を難しくする一側面も持っておるわけでございまして、受刑者の社会復帰を円滑にする更生教育など、今後どのように取り組んでいくのか、所見をお伺いいたします。

南野国務大臣 お答えさせていただきます。

 先生御指摘のとおり、現在、刑務所等における過剰収容状態は本当に極めて深刻でございます。白書にも特集を組ませていただいたところでございますが、今回の法改正によりましてどの程度収容人員が増加するかを予測するということは、これは大変難しいことでございます。

 今後とも、刑務所の拡充を含めた収容能力の増加と所要の要員の確保に努めてまいりたいと考えております。

 お尋ねの更生教育への取り組みにつきましては、我が国の刑務所においては、受刑者を改善更生させて社会復帰させるということを基本とした処遇を進めているところでございます。刑期の長い受刑者につきましても、矯正教育、職業訓練等のより効果的な実施や保護観察等との連携、これを一層充実強化を図ることによりまして、円滑な社会復帰ができるように努めてまいりたいというふうに思っております。

 刑務所におきましての職業訓練、これを奨励するとともに、行刑改革会議の提言を踏まえ、カウンセリング等の処遇を充実するなどして、受刑者の改善更生に有効な矯正教育の充実を図っていきたい、そのように思っております。

江田委員 この点に関しましては、今大臣からの答弁がございましたけれども、収容者の増加に対する計画というものについては、私も具体的に伺っておりますけれども、本年度の予算並びにその計画におきましても、それは収容予定者を下回るといいますか、そのような計画でしかない。それに対して具体的にどのように対応するかということは、非常に、予算上の問題というのがあるかとは思っておりますが、この点については大いに我々も適正に応援をしていかないといけないなと強く思っております。

 それから、更生教育についても、実際、出所してから五年間における、再度刑務所に入ってくる再入率というのは五割程度である、二人に一人が戻ってきているわけですね。現行の更生教育というものが果たして目的を達成しているかどうか、そこら辺については検証が必要だと思います。暴力団からの離脱とか薬物依存症克服に向けた支援の強化とか、職業訓練拡充のための基盤整備というもの、実態に即したそういう対策を講じるべきときが来ているのではないかと思いますので、その辺の対応についても、本当に具体的に実効力のあるものを実施していっていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

 最後になりますけれども、今回の法案が近年の犯罪情勢とか国民感情を踏まえたものである点は評価できると思いますが、罰則の強化だけで治安の悪化を防げるものではないわけで、これは総合的な取り組みが必要かと考えております。

 犯罪抑止に向けまして、犯罪防止に向けまして、総合的な取り組みのあり方について法務大臣の見解をお伺いいたします。

南野国務大臣 お答えいたします。

 今回の改正は、治安回復のための基盤整備の重要な一環をなすものでございます。単に罰則を強化するだけで治安の回復を図るのに十分であるとは考えておりませんが、政府は昨年十二月、犯罪対策閣僚会議におきまして、総合的な犯罪対策として、犯罪に強い社会の実現のための行動計画、これを策定し、現在これを推進しているところでございます。

 今後とも、この行動計画の実施に一生懸命取り組み、我が国の治安の回復を図っていきたいと考えております。先生の御趣旨を体していきたいと思っております。

江田委員 今大臣申されましたように、政府としても、昨年十二月に取りまとめた犯罪に強い社会の実現のための行動計画に基づいて犯罪対策を実施して、総合的な治安対策というのを実施されてきているかと認識しております。ただ、それが、検挙率なども依然二割台、重要犯罪に限っても五割台と低迷を続けているのもまた事実でございます。

 効果的な、実効力のある、また地域のそれぞれの状況に対応した、そういう対策が必要かと私は思っておるわけでございますが、公明党としましても、マニフェストにも我々は掲げさせていただいております。警察官の増員、OB等の活用をしていただいて、そして空き交番をまずゼロにする、空き交番ゼロ作戦というのを強く遂行していただいて、街頭犯罪とか侵入犯罪の増加に対して、例えば、スーパー防犯灯とか子ども緊急通報装置の整備等とあわせて、地域の自主防犯活動の推進など、地域の防犯力の向上のための施策を大いに支援していかなければならないのではないかと思っております。

 また、五年間で不法滞在外国人の人数を半減させるというような強い意志で、出入国管理体制の厳格化とか、外国政府との連携強化に努めていくべきだというような趣旨で、マニフェストにも提言させていただいておりますが、そのような総合的な地域の状況に合わせた防犯、治安対策を、今後とも政府におかれましてはとっていただきますようにお願いを申し上げまして、私の質問とさせていただきます。

 ありがとうございました。

塩崎委員長 次回は、明十日水曜日午前九時五十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時四十二分散会


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