衆議院

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第14号 平成17年4月20日(水曜日)

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平成十七年四月二十日(水曜日)

    午前九時二分開議

 出席委員

   委員長 塩崎 恭久君

   理事 田村 憲久君 理事 平沢 勝栄君

   理事 三原 朝彦君 理事 吉野 正芳君

   理事 津川 祥吾君 理事 伴野  豊君

   理事 山内おさむ君 理事 漆原 良夫君

      大前 繁雄君    城内  実君

      左藤  章君    笹川  堯君

      柴山 昌彦君    園田 博之君

      谷  公一君    早川 忠孝君

      松島みどり君    水野 賢一君

      森山 眞弓君    柳澤 伯夫君

      柳本 卓治君    加藤 公一君

      小林千代美君    佐々木秀典君

      辻   惠君    松野 信夫君

      松本 大輔君    江田 康幸君

      富田 茂之君

    …………………………………

   法務大臣政務官      富田 茂之君

   参考人

   (東京大学大学院法学政治学研究科教授)      江頭憲治郎君

   参考人

   (早稲田大学法学部・大学院法務研究科教授)    上村 達男君

   参考人

   (日本弁護士連合会司法制度調査会商事経済部会副部会長)          内藤 良祐君

   参考人

   (早稲田大学大学院法務研究科教授)

   (弁護士)        浜辺陽一郎君

   参考人

   (日比谷パーク法律事務所代表パートナー)     久保利英明君

   参考人

   (株式会社M&Aコンサルティング代表取締役)   村上 世彰君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月二十日

 辞任         補欠選任

  井上 信治君     城内  実君

  河村たかし君     中村 哲治君

同日

 辞任         補欠選任

  城内  実君     井上 信治君

  中村 哲治君     河村たかし君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 会社法案(内閣提出第八一号)

 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出第八二号)


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     ――――◇―――――

塩崎委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、会社法案及び会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案の両案を一括して議題といたします。

 本日は、両案審査のため、参考人として、東京大学大学院法学政治学研究科教授江頭憲治郎君、早稲田大学法学部・大学院法務研究科教授上村達男君、日本弁護士連合会司法制度調査会商事経済部会副部会長内藤良祐君、早稲田大学大学院法務研究科教授・弁護士浜辺陽一郎君、日比谷パーク法律事務所代表パートナー久保利英明君、株式会社M&Aコンサルティング代表取締役村上世彰君、以上六名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用中にもかかわりませず御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきまして、御教示を賜れれば大変ありがたいと思いますので、よろしくお願いいたしたいと思います。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、江頭参考人、上村参考人、内藤参考人、浜辺参考人、久保利参考人、村上参考人の順に、それぞれ十分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず江頭参考人にお願いをいたします。

江頭参考人 江頭でございます。

 本日は、衆議院法務委員会で意見陳述の機会をお与えいただきまして、大変ありがとうございます。

 今回の会社法案の実質改正事項を審議した法制審議会会社法(現代化関係)部会の部会長をしておりましたので、法案が現行法を実質的に改正している主要な点につき、一言意見を申し上げたいと存じます。

 主要な改正事項は五点あると認識しております。第一が有限会社の廃止及び株式譲渡制限会社法制の大改正、第二が会計参与制度の創設、第三が合同会社制度の創設、第四が合併等組織再編行為の自由化、第五が剰余金分配手続等の自由化であります。

 第一から第三は、非公開会社にかかわる改正であります。

 会社法改正は、大会社、公開会社中心にとかくなりがちでありまして、非公開会社法制までは手が回らない状態が続いてきたわけでありますけれども、今回、昭和十三年の有限会社法制定以来の抜本改正が実現することは、非公開会社の経済に占める重要性が認識された結果であり、学者としても大変喜ばしいと考えております。

 非公開会社法制のうちで、部会で当初意見が対立していたのは、新しい株式譲渡制限会社法制のあり方、とりわけ、その取締役の任期の定め方と監査役制度のあり方でありましたけれども、幸いにして、審議のある段階で、中小企業団体及び学者、法曹界双方がともに満足する解決策、すなわち、取締役の任期につきましては原則二年であるけれども定款で十年まで延長を認めるということ、それから監査役制度については、二〇〇三年十月の要綱試案と異なりまして、会計監査権限のみの監査役というものを認めるけれども、業務監査権限のある監査役のいない会社については個々の株主の権限を強化するという形の解決策が見出されまして、その結果、関係者すべてが満足する結論に至ったのは大変喜ばしいと考えております。

 改正実現の暁には、中小企業団体等関係団体の手で非公開会社の関係者に新会社法の内容につき十分な情報提供がなされて、関係者が内容を十分理解して非公開会社の定款自治をうまく運用していかれることを願っております。

 それから、第四番目、第五番目の点は、これは公開会社にも関係する実質改正事項であります。

 世界各国の公開会社法制の動向には、現在、共通の方向性があると私は考えております。それは、一方では、米国のサーベンス・オクスレー法に代表されるような経営者に対する監督の強化、すなわち、最近のはやりの言葉で言えばコーポレートガバナンスに関する規制強化でありますが、他方で、経済の激しい変化に対応できるよう、株式制度とか、あるいは組織再編、剰余金分配等の制度を自由化するという動きであります。

 日本におきましては、前者の問題につきましては、平成十三年、十四年に大改正があり、現在その改正の成果を観察している時期なので、今回は余り多くの大きな改正は含まれておりません。大きな改正事項は、内部統制システムの充実を大会社に要求するということ、それから取締役の責任、株主代表訴訟制度等であります。

 そして、今回は後者、組織再編、剰余金分配等の自由化に重点を置いた改正になっておりますが、これは同じ大陸法系の国であるドイツ等におきましても、例えばキャッシュアウトを容認する、従来は株主に必ずキャッシュアウトされるか株式をもらうかの選択権を与えなければいけないということだったんですが、会社の方でキャッシュアウトを決めるということも認める、それから現物配当を認める等の改正をドイツも最近行いました。そういう方向と同じ方向の動きであると考えております。

 部会において意見の集約ができず、今後の検討課題とされ、法案に盛り込まれなかった事項もないではありませんが、この法案にある事項につきましては、部会のすべての参加者が納得し、合意に達した内容のものであるということを申し上げたいと思います。

 以上で意見陳述を終わらせていただきます。(拍手)

塩崎委員長 どうもありがとうございました。

 次に、上村参考人にお願いいたします。

上村参考人 上村でございます。

 本日は、本委員会におきまして会社法改正案につきまして意見を述べる機会を与えられましたことを光栄に存じております。

 私は、法制審の会社法現代化部会には参加しておりませんが、一つの分科会には参加しておりました関係上、一定のシンパシーを有しております。その意味で、現在の日本の企業社会の雰囲気を反映した法案だということで一定の意義を認めておりますが、これが日本の長期的な企業法制のあり方を示す決定版かと言われれば、さらに今後検討すべき多くの問題点ないし課題があるというふうに思っております。

 まず最初に、公開会社の話でございます。

 このところ、日本の企業社会は大きな変化を迎えております。株式会社というのは、本来は証券市場を活用する仕組みでございますが、戦後の日本は証券市場を使わない企業社会でやってきました。そこでは、経営者のあり方、それから官僚が指導する、銀行を頼る、そして大衆を代表していたのは労働組合ということで、そうしたその四本の柱の幹部間のやりとりで日本の企業社会が運営されていた。しかし、今や、証券市場と一体の本格的な、本物の株式会社であろうとしている、そういう模索の過程にあるというふうに考えております。

 そこでは、健全な証券市場をつくるためには、それを実行できるガバナンスがなきゃいけないということでございますし、そして、健全な証券市場があることで今度は逆に企業の経営判断等も公正なものたり得るということで、お互いに頼り合う関係にあるわけでございます。その意味では、今回の法案は、そうした証券市場と向き合うという面と、それからもう一つは閉鎖会社法制の見直し、両面あるというふうに考えております。

 まず、そうした証券取引法と会社法の一体化の方向は、法案を見ましても、証券取引法の情報開示があれば決算公告は要らないとか、あるいは証券取引法の情報開示があれば新株発行前の通知、公告は要らないとか、あるいは取締役の欠格事由として会社法違反と証取法違反が同一視されるとか、そういった方向はあるわけでございます。

 しかし、現実に、日本の企業社会は、会社法の情報開示にはほとんど頼っておりませんで、有価証券報告書を頼りにしておりますし、それから監査も、証取法の公認会計士、監査法人の監査、これを会計監査人という名のもとに行っておりますし、会計も、財務諸表規則が今や商法施行規則を経由して商法上の規則であると言っていいところまで来ておりまして、そういう意味では、株式会社のガバナンスも証券市場あるいは投資家に対して向けられる、そういう認識が第一に必要であるというふうに考えております。その意味で、つまり、証取法適用会社法というような本格的な会社法の構想が本当は必要であるというふうに考えております。

 しかし、改正法案が定義しております公開会社というのは、要するに、譲渡制限の定款規定のない会社であるというふうな定義になっておりますので、その意味では、こうした公開会社という概念が普及し、みんなが、公開会社というのは要するに譲渡制限がない会社のことなんだということになることは、本来の公開会社法のあり方からは非常に誤解を招くことになるのではないか。そういう意味で、公開会社法の制定が早急に必要だというふうに考えております。

 それから、法案に共通の考え方は、共通の機能を持った問題であれば共通の概念でまとめ上げるということでございまして、これは、まさに学者がやるようなそうした作業が立法の形で実現しているわけであります。つまり、幾つかの異なった概念の中の幾つかの要素を分解しまして、その分解の組み合わせでそれぞれ当事者が使い分ける、こういうことでございます。

 例えば、株式配当と無償交付、これを株式分割というふうにした。今度、無償交付という概念は復活するようです。しかし、実社会では、株式配当という言葉を使いますし、無償交付という言葉を使う。新株予約権つき社債というふうに概念をまとめましても、実社会では、転換社債型新株予約権とか、新株引受権つき社債型とかというふうに分けます。

 あるいは、株式譲渡制限会社という概念なんですけれども、そこに取締役会がなくて監査役がいる、あるいは監査役がいないというふうになりますと、これはいわゆる従来で言う有限会社でありますので、恐らく実社会では、いわゆる有限会社というふうな言葉が使われるのではないかと思われます。剰余金分配という概念で統一しますが、恐らく実社会では、年に一回やるものを利益配当と呼び、それから、半年に一回のものを中間配当と呼び、株式の返還を伴うものを自己株式の取得というふうに呼ぶであろうと思われます。

 そういう意味では、例えば持ち分会社という概念につきまして、これはそれだけではちょっとわからないということで、合名会社、合資会社、合同会社というふうに概念は残している、こういうことになっております。

 私は、やはり立法というものはこうやって一度分解して整理してみるということが必要かなとは思いますが、しかし、最終的には、国民にとってわかりやすい概念、型、言葉に集約して、そしてそれを示すということが立法としては望ましいというふうに思っているところであります。

 例えば、カクテルを飲むときに、ジンがあってそこにトニックウオーターがまざっていて、そして、ライムがあって氷が入っているものを食べなさいと言われてもわからないわけでありまして、ジントニックと言うとわかるというようなものでございますので、やはり言葉とか概念というものが非常に大事で、そのためには、さして使うことが予想されないものは切り捨ててでも概念をつくり上げていくということも必要ではないかな。そういう意味では、今後の会社法制というものは、もう一度株式会社法制を再構築する、そういうプロセスが必要なのではないかという感じを持っております。

 それからもう一つは、企業再編法制が大幅に自由化されているわけでありますが、企業再編を自由化する、つまり、くっつけたり離れたりということは自由化されますけれども、企業結合の状態についての規制が欠けているということでございまして、企業結合法制が欠落している。情報は連結である、あるいは納税も連結にしたい、配当も連結ということを想定している、監査や会計システムも共通である、しかし、責任とガバナンスだけは別である、そういう体制というのは、日本でいつまでもそれを温存し続けることはできないのではないか。つまり、本格的な企業法制がない中で、企業再編の自由だけが拡大するということから出てくるひずみというものがいろいろな面に出ているのではないか、そういう印象を持っております。

 それから、先ほど申しましたことと共通でございますが、有限会社等閉鎖会社は、平成二年改正のときには、むしろ閉鎖的株式会社の閉鎖性ということが強調されまして、有限会社的な仕組みを株式会社法の中に導入していく、こういう発想が強かったわけでございます。今回は、いわゆるベンチャー法制という発想が非常に強くなっておりまして、会社法が持っている自由さを有限会社にも認めていく、こういう流れになっているわけでございます。

 しかし、同族的で閉鎖的な、家族的な株式会社にとっては、むしろ不自由さこそが重要であるということもあり得るわけでありまして、その意味では、伝統的な閉鎖会社で一々裁判等にできない、そういった人たちが泣き寝入りをするというようなことになりはしないかということを心配しております。しかし、これは、やはりもう一度再構成をする際に検討すべきことなのではないかというふうに今考えております。

 最後でございますが、先ほど申しましたように、証券市場を使いこなすような株式会社というものは常に変化するものでございます。それに対しまして、長期的な視野に立ちました真の日本の企業社会のあり方を検討する常駐の部門といいましょうか、それが日本に欠落しているのではないかと思われます。

 欧米では、市民社会のコントロールのもとに企業社会と資本市場を置くという強い規範意識のもとに、株式会社制度と証券市場を運営するということがございます。株主、投資家といえば個人であるということが前提であります。したがいまして、法人向けに第三者割り当て増資をするということ自体がまず原則としてない、そういう社会でございます。

 したがいまして、そういう制度の背景も含めまして本格的に日本の企業社会を構築するためには、経験不足の日本では知恵と論理が大事であります。そういう意味では、そうした知恵と論理を常に駆使して企業社会のあり方を検討する、そうした常設の企業法制委員会というか審議会、そういったものをつくることも必要ではないか。これからの日本の企業社会のあり方にとって長期的に見て大事なものは何か、そういう観点に立法府としても関心を持っていただければということが最後の感想でございます。

 以上で私の話を終わらせていただきます。(拍手)

塩崎委員長 どうもありがとうございました。

 次に、内藤参考人にお願いいたします。

内藤参考人 弁護士の内藤良祐でございます。

 本日は、会社法案の審議にお招きいただきまして、大変光栄に存じております。日本弁護士連合会における議論を踏まえまして、会社法案に対し意見を述べさせていただきたいと思います。お手元にあらかじめペーパーをお配りいただいているかと思いますが、これに沿って説明させていただきます。

 会社法は、現行法制にかわり会社に関する基本法となるものですから、社会全体から見て公正であるべきと考えます。したがって、企業の競争力強化ないしは経営の便宜という経済政策的な観点もさることながら、会社法の基本的視点に立ち返って、株主及び債権者の保護との調和を図ることが必要です。また、そのほかのステークホルダーとの関係でも、企業はよき市民でなければならないと考えております。さらに、将来の評価にたえ得る、国民にとってわかりやすい、利用しやすい制度であるべきであると考えております。

 法案は、事前規制を極力排し、事後規制で弊害に対処することを基本方針としているものと考えることができます。このような基本方針につきましては、弊害の防止策が十分とられるのであれば、効率的な経営を可能にするものとして積極的に評価し得るものと考えております。また、中小企業に関しては、機関設計の柔軟化など、企業実態に即した改正がなされており、この点についても評価できるものであると考えております。

 しかし、個別の制度について見ると、立法の必要性の議論が先行し、その方法の相当性や弊害防止策の実現可能性についての検証が必ずしも十分になされているとは言いがたい部分が見受けられます。

 そこで、三つの観点から意見を申し上げようと思います。

 まず第一点は、中小企業に関して、法制度を企業実態に合わせたために、弊害に対する対策が不十分になっている部分があります。第二点は、大規模公開会社に関して、幾つかの点でコーポレートガバナンスの観点で後退している点が見られることです。第三点は、少数株主の保護の問題です。株式買い取り請求権や事前差しとめ請求権が用意されてはいても、これらの制度が果たして有効に機能するのか、その実効性に関して疑問がございます。

 まず第一点の中小企業関係ですが、最低資本金制度の廃止が提案されております。

 最低資本金制度は、設立時に企業にバッファーを持たせるという意味で、債権者保護との関係ではなお有用であると考えます。株式会社においても有限会社並みの機関設計が認められ、すべての会社に最低資本金一千万円を要求するのは過大だとしても、会社が社会的存在であり、その責任を全うさせることを考えると、現行法において有限会社に求められていた最低資本金三百万円は、これを要求するべきであると考えます。

 取締役の任期についても、譲渡制限会社においては最長十年まで伸長することができることになっておりますが、十年というのはいかにも長過ぎるのであり、登記手続を遵守しようという意識が希薄化し、実質的な経営者の交代が外部から確認できなくなるなどの弊害が考えられます。少なくとも、休眠会社整理の実効性を図るためにも、五年程度の期間にすべきであると考えております。

 第二のコーポレートガバナンスに関しては、まず、株主代表訴訟において、濫訴防止のため提訴要件を設ける点について反対でございます。そもそも、提訴要件を設けなければならないほど濫訴が多いと言えるのか、疑問であります。

 提訴株主の主観的目的を提訴要件の問題とすることは、株主が会社のために取締役に対して訴えを提起するという株主代表訴訟の性格から見て、参加が可能な他の株主との関係で問題がありますし、担保提供制度の活用や、訴訟上の権利濫用などの法理により裁判所によって個別具体的な事案において解決を図るのが妥当であり、一般的な提訴要件とすることは妥当ではありません。

 また、会社が経済的損失をこうむることを理由に取締役の責任を追及させないとすれば、コンプライアンスの理念やコーポレートガバナンスの理念にもとることになり、違法行為を行った取締役を不当に利得させる結果となります。

 会社の正当な利益が害されるとは何を意味するのか不明確でありますが、仮に、株主代表訴訟が提起されたこと自体により会社の信用が失墜し、それによって会社が不利益を受けることがあったとしても、会社としてはそれを甘受すべきであります。

 また、会社が過大な費用を負担することとなるという点も、不正行為に関する調査を行うに当たって、調査の費用が過大であることを理由にその調査を放棄することは不適当であり、代表訴訟の却下を認めるとなれば、いわゆるしり抜けを多数発生させることになり、コンプライアンスやコーポレートガバナンスを低下させることになります。さらに、費用が過大か否かが代表訴訟の大きな争点となり、行為の正当性いかん、取締役の関与やその責任に関する実質的審理がなおざりにされるおそれもあります。

 また、過大な費用とは何に対して過大なのか不明確であります。代表訴訟における請求額に対して過大な費用ということなのか、それとも、会社の規模、支払い能力に対して過大な費用ということなのか、不明確であります。さらに、株主側にその費用の過大性を調査、反証させることが困難であることも考えれば、このような要件を訴訟要件とすることは是認できません。

 次に、法案は、取締役会の書面決議を容認しております。しかし、書面決議を容認した場合、取締役相互間で実質的な議論がなされる保証はなく、重要な問題であればあるほど、経営者が、社外取締役や従業員取締役が出席している取締役会での実質的議論を避けたいという誘惑に駆られたとしても不思議はなく、取締役会の形骸化を助長させるおそれがあります。また、社外取締役が十分な情報を取得できず、適正な判断ができなくなるおそれがあります。

 テレビ会議システムや電話会議システムが解釈上許容され、IT技術の進展に伴ってその高性能化、軽量化が実現され、コストも安くなっていることから、こうした方法を用いることによって、遠隔地に居住する取締役がいたとしても、取締役会の開催がさほど困難になるとは思えません。また、取締役の責任を追及する上でも、議論の過程が明らかにならなければ、その責任追及が困難になることも考えられます。

 近時、ガバナンスに関する議論の高まりと取締役会審議の形骸化に対する反省から、取締役会において実質的な議論を活発に行う傾向も見られますが、書面決議を容認することはこうした動きを後退させる懸念があります。欧米でもこのような制度は認められておりません。

 書面決議を許容するとしても例外的でなければならないとする点については、一般的なコンセンサスがあると思われます。例外とすべきもので、しかもその弊害のおそれが大であるとすれば、原則禁止するというのが正しい態度であると言わざるを得ません。法案において、譲渡制限会社については取締役会の設置自体強制されないのであり、取締役会を設置する会社は取締役会で議論を行うことを前提としているはずです。

 このほか、株主総会の招集地を取締役が自由に定め得るとする点や、重要財産委員会の員数要件を緩和する点などにおいて、コーポレートガバナンスの後退が見られます。

 少数株主の保護との関係では、種類株式の設計が自由になり、種類株主間の対立や特定の種類株主に対する不公正な取り扱いが懸念されます。法案では、株式買い取り請求権が多用されておりますが、そのような場合に経済的補償だけで十分でない場合もあり得ます。特に、種類株式や新株予約権の場合、取得価格の評価自体困難を伴うことから、自己の株式に係る取得価格の決定の申し立てをすることができるとしても、実質的にかかる司法的救済が機能しないおそれもあります。

 そのほかの問題として、商号の登記の関係で、商法十九条及び商業登記法二十七条を廃止するとの提案があります。しかしながら、これは、従前から商号を登記している事業者の利益を著しく害することになり、不当であると考えます。また、登記された商号は十分保護されるべきであり、商法二十条は一項、二項ともに存続させるべきであると考えます。

 立法形式の点では、省令への委任が多く見られますが、特に監査日程を省令に委任した会社法案四百三十六条は、執行と監査という対立する利益に関する手続法規でありますから、法律で定めるべきであると考えます。

 以上をもって私の意見陳述を終わります。本日はどうもありがとうございました。(拍手)

塩崎委員長 どうもありがとうございました。

 次に、浜辺参考人にお願いをいたします。

浜辺参考人 浜辺陽一郎でございます。

 私は、弁護士として企業法務に携わる傍ら、会社法制あるいは企業のコーポレートガバナンスないしコンプライアンスにつきまして、ロースクールで研究、教育に携わりつつ、物を書いたりお話しする機会も多くある者でございます。

 本日は、独立の立場から、会社法案につきましてこうした意見陳述の機会を与えてくださいましたことにつきまして、御礼申し上げたいと思います。

 さて、きょうのテーマでございます会社法案につきまして、私は、全体としてこれは二十一世紀の企業社会にふさわしい内容になっているであろう、すなわち、グローバルな競争に順応し、企業活動を活性化させるという観点から、今回の会社法案の全体的な方向性としては基本的に賛成でございます。

 もっとも、細かいことではありますけれども、先ほど日弁連の内藤先生のお話にもございましたとおり、法文のあり方としては、かなり重要な事項も含めて法務省令への委任が多く、もう少し会社法本体で明らかにしてほしい部分もございます。この点につきましては、機動的な改正ができるようにするためという説明なのだろうとは思いますが、そうした細かい議論をおくとすれば、先ほど申しましたとおり、基本的には賛成したいと思うのです。

 ただ、今回の新会社法には、一点、画竜点睛を欠いている重大な問題があるのではないかと考えます。それは新会社法の八百四十七条ないし八百五十一条のあり方に関するものでございまして、本日は、時間の制限もございますので、この点に絞ってお話をしたいというふうに思っております。

 私は、今回の会社法案、基本的に賛成だと考えるのは、現代のコーポレートガバナンスのテーマ、基本的に企業のパフォーマンスとコンプライアンスという二つのものを向上させるという目的の観点からつくられているということであろうと考えるからではあるんですが、このコンプライアンスを推進してきたのは一体何だったろうか。今までの企業法務の動きを見ておりますと、恐らく、実務的に一番大きな影響を与えたのは株主代表訴訟制度だったのではないかと思います。

 大和銀行事件の判決を初めとする数多くの事件を通じて取締役の責任のあり方について議論がなされ、それを踏まえて企業経営のあり方もかなり前進したのではないか。つまり、それが刺激となって、我が国の企業社会においてもコンプライアンスの強化がようやく緒につきつつあったというところでございました。

 ところが、その後、何件かの有名な事件におきまして、株主の原告資格の喪失によって門前払いに終わるというケースが生じておりまして、これを広く見てみますと、現在、多くの上場会社で、その上場企業である親会社の株主が、現実の事業を行っている子会社であるとか孫会社の役員に対して、どんなにその事業子会社の役員に不正があってもその役員の責任追及を株主にはさせないといったような、そういう制度になってしまっております。

 これは、代表訴訟が起きた後においても、例えば持ち株会社化されますと原告資格を喪失させられるという形となるために、深刻な疑惑が顕在化した経営問題においてさえ、実質的な審理ができないまま、株主からの訴訟による真相解明の道が絶たれてしまうというケースが現実化しておるわけでございます。こうした持ち株会社化が進んでまいりますと、いわば株主代表訴訟の形骸化が進んでしまうのではないか。

 もっと言えば、それはつまり、現代の企業社会において重視されるべきコンプライアンスの推進についても、こうした制度環境があるために、現在若干足踏み状態ではないかと感じておるんですけれども、これが後退してさらにゆゆしき事態が起きはしないかと懸念するものでございます。

 もっとも、今回の改正法では、その弊害を直すために、八百五十一条におきまして若干の修正が加えられております。これは、ちょうど大和銀行のケースでもありましたように、訴訟が起きた後に株式移転あるいは株式交換などによりまして組織再編があった場合であっても、株主が子会社との関係を維持している限りは原告適格は喪失しないという改正でありまして、これ自体、もちろん、ないよりはあった方がましであることは当然でございますが、しかし、これは小手先の修正にすぎず、極めて不徹底なものであると考えます。

 より根本的には、親会社株主、具体的には、上場、公開されている株式の株主が事業子会社の役員に対しても新たな代表訴訟を起こせるような制度、つまり、一般的に言われておりますところの、二重もしくは、孫会社のようなケースもございますので、多重株主代表訴訟制度を正面から認めるべきではないかと考えます。

 その関係から今回の会社法案との関係におきましてその必要性を補足いたしますと、まず第一に、代表訴訟の趣旨を全うさせるというためにも必要でございます。

 そもそも、御承知のとおり、代表訴訟制度というのは、現実に経営者に責任追及をすることができない場合に、本来、直接に損害賠償を求めることができない株主が、会社にかわって責任ある役員に対して、会社に賠償するようにということを求める手続でございまして、役員の責任追及の最終的な手段でございます。

 この趣旨からいたしますと、子会社あるいは孫会社の役員に対しても、その親会社が、その仲間である子会社であるとか孫会社の経営者を訴えるということは現実的に困難であるのが日本の企業社会における実情であるわけですから、既にそうした機能しない状態において、子会社、孫会社の事業会社の役員に対して親会社の株主が訴える制度を認めなければ、制度としては不徹底であろうかと考えます。

 また、第二に、今回の組織再編法制の自由化によりまして、施行期日は少し先ということでございますが、対価の柔軟化に伴ってキャッシュアウトマージャーが可能とされる予定になっております。これを利用することによって、後から原告株主を排除することができることも可能になるわけではございますが、こうした法制を認める以上は、やはり二重株主代表訴訟をあらかじめ制度として設けないと、結局、こうした事業再編法制が濫用されるおそれが高いのではないか。

 これは、現実に、既に持ち株会社化が進んでいることからしますと、実は、先ほど引用しました八百五十一条も、このままでは役に立たない、あるいはほとんど出番がないということになってしまうおそれもございます。理論的には、八百五十一条を認めている以上は、さらに真っ正面から、当初からの二重株主代表訴訟を認めるべきではないかと考えます。

 第三に、濫用の危険性を防止するための制度のバランスという点でございます。

 今回、新しく八百四十七条一項ただし書きで、先ほど日弁連の方からも若干問題ではないかという指摘がございましたが、確かにその問題もありますが、もしこの制度を何らかの形で生かすとすれば、こういった制度もありますし、あるいは担保提供制度、既にございますそういった制度や、訴えの利益などの一般法理、さらには既に整備されております特別の役員の責任軽減制度、これは他の損害賠償制度にはないわけですけれども、こういったものなどがございます関係で、二重株主代表訴訟制度を導入してもそれほど弊害はないのではないか。

 むしろ、株主代表訴訟制度というものは、よほどのことがない限りは、やたらめたらと濫用されるものではないのではないか。つまり、株主そのものが直接に金銭を取得するものではございませんので。最近の提訴件数の横ばい状況もそういった状況を反映しているわけでありまして、そういった観点から、濫用の危険性はないのではないか。

 そして第四に、まさにこのコンプライアンス推進のための必要性ということでございます。

 結局、これがなければ、現在推進されるべきコンプライアンスが結局抑制されてしまう。コンプライアンスに向けた企業の取り組みが抑制されてしまいまして、弁護士としましても、現実にこういった制度がないことから、役員責任についての可能性を問われれば、これはかなり低いと言わざるを得ない、こういったような状況がまずいのではないか。

 第五に、潔い経営者とずるい経営者の間の不公平という問題もさらに生じてまいります。

 つまり、ずるい経営者は、持ち株会社というような手段などを駆使することによって安全な地帯に入る。ずるい経営者はそういうふうである。他方、潔い経営者と申しますか、あるいはそういった悪知恵の働かないと申しますか、そういった経営者だけが結局持ち株会社にしないで代表訴訟の被告になる。そうしますと、何のことはない、今の制度というのは、結局そういった人しか訴えられないような、そういうとんでもない、欠陥の制度になっているのではないか。

 最後に、経営者の権限とのバランス論でございます。

 今回の会社法におきましては、事前抑制を最小限度にしつつ、事後のチェックを可能とするということによる規律の整備が非常に重要になってきた、権限の拡大であるというふうに考えます。

 昨今、株主をないがしろにした経営者の行動も問題視されており、これに対応するための修正として、株主代表訴訟のあり方を見直す必要がある。

 それでは、それは大変なことなのではないかと。部会で反対意見のあった根拠として二点ございますが、提訴要件の絞り方が難しいとか組織形態選択の制約になるというのは理由にならない。そもそも、これは非常に簡単な修正で済むわけでございまして、八百四十七条の法文の「株式会社に対し」訴えることができるというところを、「株式会社及びその子会社に対し」とすればよろしい。そして、子会社は今回きちっと第二条に定義も設けられておる。もちろん、法務省令に委任されている部分、これ自体、冒頭申し上げたとおり問題はあるんですけれども、その点において絞る必要はないのではないかと考えます。

 本日、緊張感を持った経営を推進するために、二重株主代表訴訟、多重株主代表訴訟を認める観点から、もう一度この点について検討すべきではないか、また、こうした重大な問題について国会が本当に機能しているかどうかがこの点において試されているのではないかというふうに考える次第でございます。

 どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

塩崎委員長 どうもありがとうございました。

 次に、久保利参考人にお願いいたします。

久保利参考人 御紹介いただきました久保利でございます。

 きょうは、参考人として先生方にお話をする機会を与えていただきまして、本当にありがとうございます。

 お手元に、「発言要旨」という二枚組と、その添付の「商事法務」の最新号の情報をお配りさせていただきました。私は、弁護士であり、かつ大宮法科大学院大学の教授という立場で、かつまた現実に、先生方をお騒がせしております某ライブドア事件のニッポン放送社外取締役であった者ということも含めて、感懐も含めお話をしたいと思います。

 私は、基本的にはこの改正に賛成でございますが、「問題点の指摘」の1と2の点についてはもう少し検討が必要なのかな、こう考えております。

 第一番目は、委員会等設置会社というのが平成十四年につくられたわけでありまして、このときに附帯決議で、委員会等設置会社の取締役については過失責任なのに、監査役設置型の会社においては無過失責任の部分がある、これを早く調整すべきだと。もちろんこれは、詳細に言えば、幾つかその責任の濃淡は確かにあるわけでありますけれども、そういう附帯決議に基づいて今回の改正になったというふうに理解すればあながち反対すべきものではございませんが、現実には、委員会等設置会社においては、商法施行規則の百九十三条というところでこの内部統制システムをちゃんとつくれというのがあり、したがって、委員会等設置会社ではこれはもうできているわけです。

 今回、監査役設置会社においても同様の条文は入ったわけでありますが、逆に言うと、監査役設置会社で今までいた会社というのは、本当の意味の内部統制制度を全く持っていない。すなわち、監査役そのものが監査をみずから行うということによって実はコンプライアンスを確保してきていた。それが、果たして今後、監査役を置きながら内部統制制度というのをどうつくっていくんだろうかという、会社経営の実態からいうと非常に疑問がある。そういう中で過失責任にだけ変わってしまうということが、コンプライアンス、コーポレートガバナンス上いかがなものだろうかという疑問を禁じ得ないわけであります。

 二番目は、各参考人からいろいろな視点から説明のありました代表訴訟に関するものであります。

 この代表訴訟の中で、訴訟終了要件として、過大な費用を負担することになるというような例示が相当の確実さをもって予測される場合には訴訟を却下してよいということになっておるわけでありますが、実は、そういう形で裁判所に具体的な、果たして費用の負担が過大かどうか、それが相当の確実さをもって予測されるかといいますと、ほとんど裁判所は、これはなかなか認めてくれないのではないか。ということは、実際は、法律をつくっても余り機能しないという結果になるかもしれない。

 すなわち、日本の裁判所においては、企業価値の判断とかあるいは経営判断の合理性とか、こういう種類のものを全部裁判官がみずからの知見によって判断しようとしている。

 アメリカのケースを見ると、それは裁判所には余りなじまない、むしろ独立社外取締役というものに依拠して、その人たちが本当に独立した立場から判断をしたものであればそれを認めていこうという流れになって、だからこそ訴訟委員会というものがあって、代表訴訟というものを会社として行うべきかどうかということについての決定権限をそこにゆだねている。これがもしいいかげんな組織であれば、裁判所は、あなた方の訴訟委員会というものがでたらめだからだめですよと言えばいいわけでありまして、経営判断等の中身に判断を入れていくのではなくて、そのあり方というものを審査する、これは裁判所でも十分できるわけであります。

 そういう意味では、日本でも、社外取締役制度というものを十分取り入れて、その中の独立というファクターを考え、しかもそれを取締役会の過半数というような形に持っていけば、裁判所に無理を強いることをしないでも済むのではないか。裁判官も大変でございます。取締役会に一遍も出席したこともないような方々が、この企業経営の判断がいいかどうか、企業価値を毀損するかどうかを判断しろと言われるのは、実は大変に苦しまれることではないだろうかというふうにさえ考えます。

 それから、3と4でございますが、今後この法律が最終の会社法制の決定版であるというふうに当初喧伝されましたが、やはりそうではない。

 これは大変使いやすくなって、いろいろな意味で便利になってきたと思います。もう一方で、敵対的買収に対する対抗措置、確かに、黄金株の譲渡禁止ということを認められました、あるいは新株予約権等のポイズンピルも含めて、大変使い勝手がよくなってきたように思いますけれども、しかし、お手元に配付をいたしました添付のフランスの制度、これはイギリスに刺激を受けてつくられたものでありますが、日本ですと、三分の一を超える株式を取得しようとする者が公開買い付けの義務を受けるわけでありますが、あちらでは逆に、三分の一以上を取得した者は全株を買い取れ、こういう意味での強制的公開買い付け制度というのがあるわけでありまして、これは少数株主の保護というのが目的になるわけでありますが、そういう形のものもひとつ考える必要があるのかなと。

 特に、これから知財立国というふうな形になっていったときに、果たして、新興産業が資金を助けてくれというときに、とても金融はそんな金を貸してはくれないだろう。そうすると、当然ベンチャーキャピタルだ、そうなるとIPO、新規上場だ。新規上場したら、もう、おまえ、上場した以上は、これは会社を売りに出しているんだから、乗っ取られたってあきらめろよというふうに言われても、必死になって創業期の苦しみの中からコンテンツをつくったり特許を発明したりした人たちにとっては、残念でたまらないだろう。

 しかも、それが四九%という程度のところまでしか持てなくて、向こう側が五〇・〇〇〇三%持っちゃったという中で、自分はせっかくやったのに何の意味もない、だったらこの四九・九九も全部買ってくれ、それで今度は次のことをまた始めるよというふうになったならば、知財立国としても回っていくのかなということも考えまして、検討に値すると思います。

 それから、証券取引市場の公正性、透明性、ToSTNeT1の問題として、証券取引法二十七条の二の、三分の一以上を買い取る場合にはTOBをやれと。しかし、これは時間外の、取引所の場内取引だという話になっているわけでありますが、本当にそうなのかどうか。河本一郎先生のような著名な学者も、これは証取法違反なんだという意見書を公刊しておられるくらいでございまして、こういう点で、これ以外にもループホールがいろいろあるのかなというふうに思います。

 そういう点で言いますと、ぜひ、今の証券取引市場が公正性、透明性というものに欠けるところがないかどうか総ざらいをしていただいて、本当に世界に出して恥ずかしくないような、そういうマーケットというものをつくる必要があると考えております。

 それから、最後になりましたが、私、ロースクールで教えていることもありまして、新司法試験というのは大変気になります。この法律が成立いたしますと、その施行は多分十八年度ということになると思いますが、十八年五月にもう第一回目の新司法試験がスタートするわけです。そうすると、それを受ける既修コースの学生は、一体この会社法で受けるのか旧商法で受けるのか、大変悩むわけでありまして、そうすると学校教育も、一体どの法律をどの段階で教えたらいいのかということで大変混乱します。

 そういう意味で言いますと、ぜひ施行時期だけでも早く決めていただいて、もう今からこの法律でいくんだよというのであれば、我々教員としても早目にこの法律に基づいた教育ができますので、そのあたり、ぜひ先生方によろしく御高配願いたい、こう考える次第でございます。

 以上でございます。ありがとうございました。(拍手)

塩崎委員長 ありがとうございました。

 次に、村上参考人にお願いいたします。

村上参考人 村上でございます。

 本日、このように意見陳述の機会を与えていただき、まことにありがとうございます。私は、株式市場に近いところに身を置く者として、きょう、いろいろな意見を述べさせていただければと思います。

 現実に、会社を起こして以来、公開買い付けということもやってみましたし、株主代表訴訟も現在やっております。もしくは、株主提案も何度も出しておりまして、プロキシーファイトというようなことも現実にやっておりますので、その辺の意見を言わせていただければありがたいと思います。

 きょう、個々の法文というよりも、主に、どのようにすれば株式市場が活性化していくのか、そして今回の会社法にどのような物の考え方をつけ加えていただきたいかという視点に立って、四点、お話をさせていただきたいと思います。

 お手元にレジュメが配付されていると思いますので、企業統治、コーポレートガバナンスの必要性、それからそもそも公開企業とはどういう意味なのか、そして今回この会社法でも取り上げていただいています会社の敵対的買収への防衛策、そして最後に、従業員が大きな株主になるESOPという制度について、この四点、お話を申し上げたいと思います。

 まず、コーポレートガバナンスの必要性でございますけれども、会社法では、私が読む限り、これは明らかに株主が株式会社の所有者であるというふうに読めるわけでございます。そして、経営者に株主が経営を委託して、取締役は株主から経営監視を委託された代理人である、そういうふうに読めると思います。

 一方、株式非公開会社におきましては、多くの場合、所有者と経営者が一体でございます。そういう意味では、株主と経営者の利害が相反することは少ないと思いますけれども、公開企業においては、株式市場を通じて不特定多数の投資家が株主となるということで、多くの場合、所有と経営が分離をしておるわけであります。

 そういう意味で、経営が株主の利益に反するものとならないよう株主が経営者を統治する、これがコーポレートガバナンスではないかと私は思っております。

 今回、ちょっと久保利先生とは意見を異にするかもしれませんが、株主が経営者を選ぶということが本来あり得べき姿なのに、経営者が株主を選ぶようなことになりかねない事態があったと思います。私は、これは株主として、認めていただいては困るというふうに思っておるわけでございます。

 次に、公開企業の使命、そもそも上場とは何かという点について申し上げさせていただきたいと思います。

 これは選挙とよく似ていると思います。国会議員の先生も、一人一人の国民から選ばれて国会議員になっておられると思います。ただし、国会議員の先生の選挙の場合、一人一票はほぼ平等でありますが、公開企業の取締役の場合は、株に対してお金を出した額もしくは株数に応じて選挙権が変わってくるわけであります。そういう意味では、多くのお金を出して多くの議決権を持った者は取締役をより選びやすくなるということでございます。

 そもそも、公開企業は、社員と内部昇格経営者の共同体ではないと私は思っております。中長期的な株主価値向上を目的とする機能集団である。その結果、仮に会社が経営者と従業員のものであれば、よく感じますのは、国は国会議員と官僚のものではないかというのと同じようなことになってしまう、それはおかしい。国は国民のものであるというふうに思いますし、会社はやはり株主価値をどのように向上していくかということが重要ではないかと思っております。

 もちろん、公開企業には、顧客、従業員、取引先、地域社会など多くのステークホルダーがありまして、多数の関係者の利害を調整するということは必要であります。これもあくまで、調整をした上で、どのようにして株主価値を中長期的に向上させるのかが公開企業の経営者の使命であります。

 また、経営者が株主価値、企業価値のエンジンだとすると、社外取締役というのは、暴走を食いとめるブレーキになるものと思います。そういう意味では、株主の代表として経営者を取り締まるのが社外取締役の大きな役割だと思っております。そのため、先ほど久保利先生の御説明にもありましたが、独立していることということが極めて重要で、社長が全部取締役を選ぶというのは非常におかしな状況でありまして、あくまで取締役は株主が選ぶものであります。そのように商法には規定されていると思うわけであります。

 そういう意味では、健全な市場のもとでは、使命を果たさない経営者や企業はぜひ退場していただくというのが必要ではないかと思っております。

 三つ目で、今回の会社法のテーマにもなっております企業防衛策ということについてお話をさせていただきたいと思いますけれども、例えば、TOBというものがかかったときに、株価が二〇%とか三〇%アップでTOBというものをかけるわけであります。もし経営者がそれに反対するのであれば、その経営者は、それ以上の値段の株価がつくような経営ができるよということを立証することが大前提であると私は思っております。そういう意味では、買収者が企業価値を引き下げることが明確である場合以外、基本的には、企業防衛策というのは一体何だろうというふうに疑問を感じるわけであります。

 公開企業の使命についての社会的な合意や株主価値向上の市場インフラストラクチャーがまだ欠けているような状況、特に独立社外取締役が過半数を占めないような状況の中で、一体買収防衛策とは何なのか、保身ではないのかというのを強く感じるわけであります。実績のない経営者や淘汰されるべき企業、経営者という方たちの保身、温存につながってはいけないと思うわけであります。

 さらに、もう一点述べさせていただきますと、活力のある株式市場や日本経済の競争力を維持するためには、これは商法の改正ではございませんが、上場基準というものをよく証券取引所には考えていただきたい。

 例えば、株式を持ち合っているというのは、お互いに反対するのはやめようね、特に今回のニッポン放送の公開買い付けでは、買い付け価格が現在のマーケットプライスより低いにもかかわらず、そこに応募した企業が多数ありました。このようなことは日本以外の国では考えられないと私は思います。これは明らかにおかしいということであります。そのために、応じてくれたら何かを与えてくれるんじゃないかという不透明さをすごく感じるわけであります。

 例えば、持ち合いの株については議決権について一定の制限を設けること。それからもう一つ、先ほど久保利先生もおっしゃっておられましたが、イギリス法におきましては、三分の一ぐらい公開買い付けをしてしまうと、あと全部買い取らなきゃいけないよという法制度があります。そういう意味では、日本の場合は親子上場というのがいっぱいありまして、二分の一以上特定の会社が持っていたときに、私が株主になっても、何を提案しても通らない可能性がある。こんなおかしな上場があっていいのかというふうに思っておるわけで、これは商法の問題ではなくて上場規則の問題ではないかと思っております。

 最後になりましたけれども、産業政策と福祉政策ということについて述べさせていただきたいと思います。

 私も十数年間、産業政策を立案するような組織におりましたことから、産業政策というのは、企業活動を促進し、その結果、雇用の増大や収益の向上を伴うことによって国が富んでいくものだというふうに私は考えております。一方、福祉政策というのは、すべての国民が幸せに暮らせるようなセーフティーネットではないかというふうに思っております。

 ただ、戦後の日本においては、終身雇用制というような、法律には書いていないわけですけれども、制度によりまして、産業政策と福祉政策を融合させてきた部分があると思います。いい部分ももちろんあります。ただし、本来政府が担うべき社会福祉政策をあえて企業に押しつけている部分もあるのかなということで、これは企業の競争にとっていかがなものかと若干思っておるわけでございます。

 今後の大競争時代を迎えて、産業政策と福祉政策の両立を図るようなものがあってもいいのかなと思いますので、最後に一点だけ、エンプロイー・ストック・オーナーシップ・プラン、ESOPという制度について、これは会社法で制定するものではないかもしれませんが、今回の会社法の改正の一環としてぜひお考えいただければいいと思うものを御紹介させていただきます。

 アメリカでは現在、ESOP、これは確定拠出年金の一類型として従業員が多くの株を持つという制度で、ここに税制等の恩典がついております。そうすると、アメリカの場合、特に労働集約型の産業の場合は従業員が大株主になっている、三〇パー、四〇パー持つというケースがありまして、ESOPで大体一〇%弱はアメリカのマーケットの中で持たれている、従業員が大株主なわけです。

 私も産業政策に関係しておった人間として、当時役所にいた経験では、企業の経営者や従業員に株をもっと買いませんかと言ったときに、いや、こんな会社の株、危なくて買えませんよというような方がいっぱいいらっしゃったので、違うだろう、そんなことで上場していてどうするんだというふうに思ったわけでございます。

 そういう意味では、こういう制度をつくって、従業員や経営者が株を持ちやすくするような制度をぜひ御提案し、将来的な課題として、日本にはこれは向いた制度だと思いますので、そういう制度も導入していただけるといいのかなというふうに思っております。

 以上でございます。どうもありがとうございました。(拍手)

塩崎委員長 どうもありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。早川忠孝君。

早川委員 自由民主党の早川忠孝でございます。

 本日は、六名もの各分野の非常に重要な役割を果たしておられる方々から参考人として当法務委員会で御意見を開陳いただきまして、本当に心から感謝を申し上げます。

 会社法の改正というのは、極めて重大かつ広範に及んでおります。同じ内容を語るについても、やはりいろいろな切り口があるものだなと改めて思っておりますが、まずは、日弁連の司法制度調査会の方からいろいろな御意見がありましたので、内藤参考人にお話を承り、あわせて江頭参考人にコメントをちょうだいしたいなと思っております。

 ガバナンスということが極めて重要であるわけでありますけれども、コーポレートガバナンスの観点からいうと、今回の会社法の改正については後退をしている面がある、特に取締役会の書面決議ということについて内藤参考人の方から意見の開陳があったわけであります。私も危惧をしているところでありますけれども、特に内藤参考人がこの点を強調されるゆえんについて、まず御説明をいただきたいと思います。

内藤参考人 お答えいたします。

 結論から申しますと、やはりガバナンスの根幹をなす問題であるというふうに考えているからでございます。

 従来、企業不祥事が起こるたびに会社法の改正というのは数次にわたって行われてきたと思いますけれども、その際に、制度として、例えば監査役会であるとか委員会であるとか、そういった新しい制度が導入されてまいりました。また、構成員に適切な人材を確保するという意味で、社外取締役であるとか社外監査役、こういった属性を定めることによって一定のレベルを保とう、こういう努力がなされてきたかと思います。

 ところが、会議を開いて議論をしてチェックをするという基本的なことができないのであれば、せっかくこうした制度をつくっても意味がなくなってしまう、こういうことでございます。いわば、仏をつくって魂を入れずということになりかねないと思います。

 それから、新しいそういった制度をつくるということは大変お金がかかる話であろうと思います。ところが、きちっと会議を開いて議論をしなさいということは、これはお金がかからない話なんですね。そういう意味で、そのコストのかからないことを放棄してしまうというのは非常に残念でならない。性善説に立って理論構築をしていくのも結構なんですけれども、やはり人間の本性あるいは本音、こういったものを正面からとらえて考えていったらいいのではないかな、そういうことでございます。

早川委員 念のため、代表訴訟の点について、内藤参考人それから浜辺参考人から御意見の開陳があったと思います。私は、代表訴訟制度によってかなり企業経営者の意識改革が図られていった、ところが、近年の代表訴訟制度の見直しの過程の中で、若干その機能が後退局面に入ってしまったのではないだろうかなというふうに思っております。

 まず、代表訴訟の現状等についてどのような認識をお持ちであるか、内藤参考人に御説明をいただきたいと思います。

内藤参考人 お答えいたします。

 現状、東京地方裁判所に提起される代表訴訟の申し立て件数というのは、毎年大体二十件程度というふうに承っております。それから、審理期間につきましても、他の類型の訴訟と比べて格別長いというようなことは聞いておりません。代表訴訟の特性として、その複雑さであるとかあるいは証拠が一方に偏在している、そういう特徴を考えましても、ある程度慎重な審理は必要だと思いますし、特に長いということはないのであろうというふうに思っております。

 先ほど、訴訟委員会というお話が出ましたけれども、これは法制審議会の現代化部会において相当長期間にわたって議論されたというふうに承っております。また、この制度の中身というのが非常に難しくて、単にアメリカの制度を持ってくればそれで済むという話でもないというふうに思いますので、この点については、例えば訴訟委員会の判断が裁判所を拘束するというようなことは、今回提案されている会社法案よりもさらにまずい制度ではないかというふうに考えております。

 以上でございます。

早川委員 今回の会社法案の中で、いわゆる現代化と言われておりますけれども、私も疑問点を持っているのは、有限会社法制はかなり有効に機能した面がある、これを、有限会社、株式会社を一本化するということについて、なお審議を尽くす必要があるかなというふうに思っているところであります。その点について上村参考人からも若干御指摘があったように思います。それとあわせて、久保利参考人あるいは村上参考人から、まさに公開上場会社についての企業買収、再編の関係でいろいろな提案がなされました。

 これを踏まえて、法制審の方で現代化の作業の責任者として当たられた江頭参考人に御意見を伺いたいのでありますが、私とたまたま大学中、一緒に勉強させていただき、全く同じ時期に司法試験に合格させていただいた。ただ、残念ながら、その当時の商法の神様と言われた江頭参考人はそのまま大学に残られました。日本の商法を担ってこられた。私どもは実務の世界に入ってしまいまして、それこそ久保利参考人がロースクールで教えておられる、まさにこれから学ばなければ新しい法制には全く対応できない、法律家としてはもう耐用年数を過ぎてしまったと思っております。

 しかし、そういったことを踏まえながら、江頭参考人に、これからの、今進められようとする会社法案について、まず、有限会社法制と株式会社法制を一体化するということについての問題、あるいは先ほどガバナンスの面で、取締役会の書面決議ということについて日弁連の方からも指摘がありました。それから、代表訴訟制度のあり方とか、あるいは訴訟委員会制度について久保利参考人からも御提案がありました。こういったことについて、所見をお伺いしたいと思います。

江頭参考人 大変重要な点を三点、御質問いただいたわけですが、まず、有限会社制度の廃止と株式譲渡制限会社法制の大改正の点であります。

 早川先生がおっしゃったように、有限会社法制というのは大変いい制度で、また現実にうまく動いてきたんだと思います。今回の改正は、その有限会社法制を実質的に株式譲渡制限会社法制の中に取り込む改正であると私は認識しております。

 そういうことが必要な理由は、現在は、本来有限会社に向くような会社が、つまり定款自治が広く認められてしかるべき会社が、無理して株式会社になっている、そのために窮屈なことになっている。なぜそういうことをするかというと、株式会社の方が聞こえがいいということだろうと思います。そこで、株式会社という名のもとに実質有限会社の制度がとれるという形に制度を持っていくということがこの法案で考えられているわけであります。

 次に、日弁連の内藤先生それから浜辺先生から御指摘がありました書面決議、それから株主代表訴訟等の点でコーポレートガバナンスが後退しているのではないかという点でございます。

 この点は、確かに後退と言われれば後退なのかもしれませんが、ただ、先ほども申しましたように、一方でガバナンスの強化、他方で競争力を強化するといった観点から、意思決定の迅速化のための組織の柔軟化ということも迫られているわけであります。

 書面決議について申しますと、代表取締役が取締役会に対して報告をしなければならない取締役会というのは、三カ月に一回は開かなければならないわけで、現在でも取締役会を開かなければならないと法律でなっているのは、三カ月に一回であります。その取締役会は、これは現実に会議を開くことは今回の会社法でも要求しておりまして、その意味で、取締役会が全く開かれない会社が出るとか、決してそういうことではありません。

 法律の上では、少なくとも会議を開かなければならない回数は減っていないわけでありまして、意思決定の迅速さとの関係で、取締役がたまたま集まれないために非常に迅速を要する意思決定ができないというようなことを避けるために書面決議も導入したということでございます。

 それから、代表訴訟の点は、八百四十七条の新しい訴訟却下要件の点と、それから多重代表訴訟の点が指摘されたかと思います。

 この代表訴訟につきましては、これは昭和二十五年改正で日本にアメリカの制度が導入されたわけでありますけれども、実は、アメリカの制度と日本の制度とは相当違っております。

 アメリカの制度の場合は、株主は、取締役等の責任の追及だけではなくて、およそ会社を代表して訴えを提起できる。アメリカの場合、取締役会が権限を濫用して訴訟を提起していないと、とにかく何についてでも株主は株主代表訴訟というのを提起できるんですね。責任追及に決して限らないわけです。ですから、その反面、裁判所にそういう訴えを認めるかどうかの相当広い裁量権限が与えられております。

 要するに、取締役会が権限を濫用して訴訟提起を怠っていないかということを裁判所が判断するわけであります。先ほどお話に出た訴訟委員会も、委員である独立の取締役が、取締役会が権限を濫用していないと認めると裁判所に言えば、裁判所もそうだろうというふうに判断する、そういう制度でありまして、要するに、裁判所が訴えを認めるかどうかの裁量権を相当広く持っている制度であります。

 日本の制度は、それに対しまして、株主はとにかく責任追及だと言えば訴えを起こせるという制度になっております。その辺の違いがありまして、かねてから、もう少し裁判所にそういう裁量権を、つまり、会社の利益にならないような訴えについては却下できるような裁量権を与えてはどうかという意見はかなりあったわけでありまして、その関係で八百四十七条は入ったわけであります。

 そして、八百四十七条については、これによって取締役の経営に関する抑止効果がなくなるのではないかというような意見もありますが、文言は、現在東京地裁の民事八部の裁判長である西岡さんも部会の委員でありますから、そこに加わりまして非常に細かく詰めたわけでありまして、裁判所が適切な裁量をきかせるような文言になっているというふうに私は認識しております。

 それから、多重代表訴訟の御指摘でありますが、これは企業結合の状態にあるときの一つの問題で、今後の検討課題かとは思います。

 ただ、なぜ今回多重代表訴訟が入らなかったかと申しますと、多重代表訴訟を認めますと、一つは、結局、子会社にして子会社の取締役にしていると代表訴訟の対象になる、一つの会社で一つの営業本部の本部長にしていると、これは取締役にしていない限り代表訴訟は起こらないということになりますので、そういう観点から会社の組織を考えるというようなことになっては本末転倒であろう。むしろ、今後の柔軟な組織ということを考えますと、そういうことはしない方がいいという点が一つありました。

 それから、アメリカで多重代表訴訟を認めますのは、先ほど申しましたように、要するに何でも株主代表訴訟が起こせるという前提があっての制度でありまして、多少日本とは違うところがあるので、今回は導入できなかったということでございます。

    〔委員長退席、田村(憲)委員長代理着席〕

早川委員 本当にいろいろなお話を承りたいのでありますが、残念ながら、千ページを超える法案も、わずか十五分ぐらいで六人の先生方のお話をお聞きするのを終了しなきゃいけません。

 私は、会社法関係の基本法は、枠組みは百年もつような体制を基本法としては維持していただきたい。例えば、企業買収関係の法制について独自の法制が必要であるとすれば、それはその分野の個別法を制定するというような形でいかなきゃいけないだろう。

 そういう意味では、実務家であります久保利参考人、現実にそういった法制の策定にも関与された村上参考人、あるいは現場でいろいろ若手の法曹の指導に当たられている久保利参考人あるいは内藤参考人、上村参考人、江頭参考人、浜辺参考人に、そういう観点から提言をこれから続けていただきたいということをお願い申し上げて、私の質問を終了いたします。

 ありがとうございました。

田村(憲)委員長代理 次に、柴山昌彦君。

柴山委員 自由民主党の柴山昌彦でございます。

 参考人の皆様方には、本日は、御多用中のところ大変貴重なお話を賜りまして、本当にありがとうございます。

 時間がございませんので、単刀直入に質問に入らせていただきたいと思います。

 まず、久保利参考人、そして村上参考人にお伺いしたいと思います。

 言うまでもなく、このたび、大変大きなMアンドAの事件のいわゆるプレーヤーとして私どもの関心を呼んだわけですけれども、この中で、企業防衛ということが大変大きなテーマとなりました。

 今回の会社法改正で企業防衛に対する一定の法制度の枠組みというものはできたんですが、実際の運用上、これが果たして、過剰防衛、経営者の保身に当たるのか、それとも本当に企業のためによい防衛なのかということを選別するのは、もちろん裁判所という機関がありますけれども、それ以外にどこが妥当な買収かどうなのかということを判断すべきだとお考えでしょうか。

 社外取締役なのか。社外取締役が、いや、これは企業価値を損ねるんですよというように言うのが妥当なのか。定款あるいは株主総会の特別決議でそれを判断するシステムをつくっていくのが妥当なのか、地域社会を含めたパネルという形で判断するのが妥当なのか、それ以外の何か仕組みというものが考えられるのか。

 企業は株主のものであるという村上参考人のお話もあったんですけれども、この買収防衛についての判断のあり方、これについてお二方にお話をそれぞれ伺いたいと思います。

久保利参考人 久保利でございます。お答え申し上げます。

 私は、プレーヤーとして出たつもりはないので、社外取締役ですから、あくまでも経営陣に対するモニタリングということでありますけれども、企業価値あるいは企業防衛という問題からいいますと、少なくとも裁判所の決定も、この新株予約権の発行については自己保身ではないと。なぜならば社外取締役四人も賛成をしているからという形で、自己保身でないことは認めていただいたんですが、では、それは一体何なんだという話になりますと、結局はフジサンケイグループに残りたいという判断である。

 私の考えとしては、結局、企業価値、企業防衛というのは、一般株主さんのためにどれだけの価値をこの会社に残せるかということでありまして、結果的に一〇〇%買ってしまえば、どんなに企業価値が落ちようと損をするのはTOBで買い取った方ですから一向に構わないんですが、そういう点からいいますと、今回のようにTOB対TOBでないような場合、特に一〇〇%でない場合には大変神経を使いまして、一般株主さんにできるだけ企業価値を守ったまましかるべき時間を与える必要があるだろうというふうに考えました。

 企業価値というのは、私は、裁判所が判断するわけでも社外取締役が最終判断するわけでもない、結局はユーザーあるいは株主さんが最終的に判断するんだろう。

 私、今でも思い出しますのは、ミネベアの高橋高見さんが、敵対的MアンドAもいいけれども、MアンドAの成功かどうかは株をとったかどうかで決まるんじゃない、その後本当にその会社が爆発的に成長していく、成功した、そのときMアンドAは成功するんだということをおっしゃいまして、まさに企業価値というのは、そういうある程度の時間もかけないと本当は正確には判断できないものではないかというふうに思っております。

 ありがとうございました。

村上参考人 現在の日本の公開企業の中で独立社外取締役が一体どれぐらいいるかというと、多分一%に満たないんじゃないかと思います。欧米の上場企業の場合は、独立社外取締役というのが相当数います。その場合に、独立社外取締役の役割は、もし公開買い付けがかかったときに、その公開買い付けプライスよりも高いプライスを現経営陣でできるのかどうかということに尽きるんだと思います。公開買い付けがかかって、やめてくれと言う前によく言われるのは、株主のためにもっと価格を高くしてくれという意見が出ます。自分だけが保身に走るようなことは絶対にあってはいけないわけですし、逆に、今は企業の中から、ずっとそこに二十年、三十年働いた人がほとんどの取締役をやっている状況の中で、企業防衛は、ほとんど保身につながっていく状況だと僕は思います。

 そういう意味では、先生の御質問に対しては、一義的には、やはり独立社外取締役が、上場した暁には過半数になるような状況が早く達成されることが必要だと思っております。

 さらに、一点つけ加えさせていただきますと、何のために上場したのかということが今回のニッポン放送やフジテレビの問題でも言えるかと思います。そもそも上場する必要がなかったのではないか。例えば、放送法という体系の中で公的な部分がよく最近もお話をされていると思いますが、そうであれば、自由に株主が決められるような上場という選択をなぜ選ばなければいけないのかということを真剣に考えてそれぞれの上場企業の役割を考えるべきだと思いますので、上場とは何かということを上場される折にはぜひ考えていただければありがたいなと思います。

 以上でございます。

柴山委員 ありがとうございます。

 今回、いろいろな法制度の改正がされたんですが、まだまだこれから考えなければいけない課題がたくさんあると思います。

 先ほど久保利先生からスクイーズアウトのお話がありました。私も検討に値する法制度だと思っておりますので、これに関して、江頭先生、上村先生、内藤先生、浜辺先生、そして村上先生、それぞれ一言ずつ、その導入の採否についての御意見、コメントをいただけたらと思います。

 あと、最近、防衛策の一環としてアメリカなどで採用されている、要するに買収に先立って被買収会社の取締役と事前協議をしましょう、そしてその同意が得られなかった場合には買収してからの組織再編を例えば二年間凍結します、そういうような制度を導入すべきじゃないかという議論がされております。これについてのコメントも一言ずつ、できればお伺いしたいと思っております。

 あと、今回、買収防衛策がとれることになったんですが、例えば拒否権つき株式を譲渡制限をかけて導入するということが劇薬になるのではないかというような意見が一部で言われておりますが、これについての御意見、これも一言ずつお伺いしたいと思います。

田村(憲)委員長代理 皆さんにですか。

柴山委員 それでは、村上先生、江頭先生、上村先生のお三方にお伺いします。

江頭参考人 先ほど久保利先生から提案があったのは、イギリス等であるような、三分の一を取得するとその残りの株式も買わなければいけないという制度ですね。この点につきましては、私も非常に重要な提言であると思っております。

 企業買収制度につきましては、とかく、日本ではアメリカの影響が強いものですから、ライツプランといいますかポイズンピルといいますか、そちらの方に話が行ってしまうんですけれども、あれはやはりアメリカ的な制度でありまして、ヨーロッパはそういう制度をとっていない。むしろ、株主保護のためには久保利先生が指摘されたような制度をとっている。この点は、どちらの道を行くかということについては、日本は十分議論を尽くす必要があるのではないかというふうに考えております。

 それから他方、ライツプラン、ポイズンピルによる防衛策についてどう考えるかという点でありますけれども、この点は、結局、ライツプランを解除して買収できるようにしなければいけないのではないかという判断がどうしても裁判所に持ち込まれるわけであります。その場合の法制度が問題でありまして、これは企業価値を高めるいい買収なのかどうかをだれが判断するのか、先ほどから問題になっている点がまさに問題になってくるわけです。裁判所なのか社外取締役なのか云々といった問題であります。

 この点は、村上参考人が先ほどから言っておられますように、日本の独立社外取締役の現状がどうかとかいろいろな要素にかかわりますので、だれが判断すべきかということについても、現段階ではどうなのか、それから将来についてはどうなのかというのは分けて議論しなければいけないのかもしれません。なかなかこの点も難しい問題を含んでいるというふうに考えております。

 現在、経済産業省の企業価値研究会でしょうか、あそこで提言が出ておりますけれども、何か、こういう形をとっておれば原則適法であるとか、そういう発想が強いんですが、取締役の独立性とかが非常に流動的な段階で、この方法なら原則有効だとか、はっきりしたルールにするのが賢明なのかどうかということについてもよく考える必要があるのではないかというふうに考えております。

上村参考人 お答えさせていただきます。

 まず、今江頭参考人からもお話がございましたけれども、日本は、アメリカをモデルにするのかヨーロッパをモデルにするのかというのがやはり大きな選択肢だと思います。

 アメリカは、私の理解するところでは、変な表現ですけれども、保安官とライフルとジョン・ウエインのいる西部劇のように、徹底的な自由でありますけれども、悪者がいたら、あるいは不正があれば徹底的に追及する。証券規制は包括規定が大活躍しておりまして、抜け道とか漏れというのはないわけです。そういうふうな形で徹底的に追及していくという形だと思います。

 ヨーロッパは、やはり伝統的な共同体の厚みといいましょうか、そういうものを背景に、必ずしも、自己株式の取得だってまだ原則禁止でありますし、最低資本金も頑として守りますし、種類株もそんなに自由にやれるわけではないし、ストックオプションだって余り評価していないということであります。

 それぞれの行き方があろうかと思います。ただ、自由だけはアメリカ型で規律だけヨーロッパ型のように、おいしいところだけつまみ食いということがないようにしなきゃいけない、そういう主張がかなり強いというふうな印象を持っております。

 それから、ポイズンピルでございますけれども、これは、ポイズンはポイズンで、相手が健康体であれば毒であります。ですから、それは認められない。しかし、相手がより猛毒であれば多少の毒であっても良薬になる、そういうものでありまして、つまり、攻める側との相対的な評価が基本にある。単に企業価値が高められさえすればいいというだけではなくて、攻める側が、例えば今回のように証券市場の論理を踏みにじって出てきたというようなものの場合には、そういうものに対してはある程度の毒薬といいましょうかポイズンも必要な場合もあるというふうに私自身は考えております。

 ですから、比較的凡庸な経営者であったとしても、しかし、攻める側が非常に違法、不正な行為をしてきた場合には、凡庸でも守られるべきだというふうに私は考えております。

 それから、アメリカの場合には、LBOの経験がございまして、短期で借金漬けで会社に買収をしかけてくる。それに対して、先ほど柴山委員から御紹介がございましたように、例えば、二年間は企業結合できないとか、あるいは取得しても議決権は二年間行使できないとか、自分たちの州の会社を守るために各州がそういう立法をした経緯がございます。

 それは、一つは防衛策がどうかという問題がありますけれども、今度は攻める側をどう評価するかという問題がありまして、短期間で借金漬けで買収をするという場合には、恐らくは、買収した後の会社を食い物にするという蓋然性が高いので、例えば二年間は議決権が行使できないというような資金であれば、それは真っ当な資金のはずだから、それはいいというような考えだろうと思います。

 株主というのは、株を取得して一株持っていましても、六カ月持っていないと代表訴訟も提起できないわけでありまして、それは、きのう買ってきょう代表訴訟を提起するというようなことは認めないわけですね。まして、会社を支配するほどの者であれば、支配する側の正当性というものをスクリーニングする仕組みというのはあってしかるべきだというふうに私は思っております。そういう意味で、ポイズンピルというのは評価されるべきだと。

 今回の場合は、例えば、塩崎委員長がおっしゃっていますように、日本版SECがあったり、証券市場の規制が非常に厳格だったりしたら、どういうふうな形に変わっていたのかなというふうに思うんですが、どうもその辺のチェックが十分でなかったために、防衛も過剰な反応をしがちだ、そういう印象を受けているということだけ申し上げさせていただきます。

村上参考人 スクイーズアウトについては、私は賛成であります。そのようなオプションが適用できるようにしてあげることは賛成であります。

 それから、二年間の凍結やポイズンピルにつきましては、私は、最終的にそのようなものが入れられることを判断するのは、個々のケースでは株主だと思うんですね。株主の過半数が賛成しているかどうか。もしこれで、総会で決議できないのであれば、その株主からの代理人である取締役がどう考えるか。

 ただ、今申し上げましたように、日本の場合は、株主から選ばれている取締役というのはほぼ現状ではいないような状況の中で、このような経営者の保身ができるような制度ができることが本当にいいのかどうか、そこはもう少し成熟した上場企業というものがまず求められるのではないかというふうに思っています。その暁に、このような制度ができ、また活用されることはいいのではないかと思っております。

 以上でございます。

柴山委員 どうしてもあと一問質問したかったんですが、質疑時間が終了してしまいましたので、問題提起にとどめます。

 浜辺先生、そして内藤先生が御指摘になった多重代表訴訟の件でございますけれども、これは、持ち株会社、株式移転、交換を導入するときに、既にその危険性というものが本来検討されていなければいけなかったのかなという気がいたします。

 私は、個人的には、法人格の否認、江頭先生、詳細な論文をお書きですけれども、というものとか、あるいは第三者としての損害賠償責任の追及、今で言えば商法二百六十六条ノ三等、これを活用するとか、いろいろ工夫をしていくしか道がないのかなというような気がしております。

 いろいろ課題が多い法制度ですけれども、これから定着に向けて頑張れればと思います。

 以上です。どうもありがとうございました。

    〔田村(憲)委員長代理退席、委員長着席〕

塩崎委員長 次に、江田康幸君。

江田委員 公明党の江田康幸でございます。

 本日は、貴重な意見を各参考人から聞かせていただきまして、大変ありがとうございます。

 今回の会社法制案では、実質的に、企業実態に応じた会社区分の見直しを初めとしまして、会社制度の利用者の視点に立った抜本的な大改正が行われておりまして、その点を私は評価すべきだと思っております。

 私の方からは、制度利用者の立場に立った改正という視点から、今回の会社法制案の内容につきまして、各参考人の方々に、基本的なところについて押さえておくべきかなと思いますので、質問をさせていただきます。

 まず、会社法案におきます大きな改正事項として指摘されておりますのが、株式会社と有限会社の一体化ということでございます。この点につきましては、全国中小企業団体中央会からも強い要望があっておりまして、今般の改正というのはその要望に合うものと考えております。もう皆さん御存じのように、企業数の九九・七%は中小企業である、また雇用者数の七割を占めているのが中小企業であると言われますけれども、我が国経済の活力の源泉であり、雇用の担い手という現状にかんがみますれば、この改正というのは我が国の経済活動の発展に大きく資するものと考えております。

 他方では、株式会社と有限会社の一体化につきましては、現状に合っていないということが指摘されておりますので、そういうことも含めての改正になっていると思いますが、株式会社と有限会社とが一体化された結果、会社法案が成立、施行されますと、現行法のもとで設立され運営されてきた有限会社というのは、変更手続、登記手続を経まして株式会社へ移行することもできますし、これらの手続を経ることもなく、従前の有限会社とほぼ同様の会社として存続することもできると理解しております。そうすると、現行の有限会社の経営者は株式会社に移行するか否かの選択を迫られることになると思います。

 そこで、中小企業経営者から相談を受けてアドバイスを与えるべき立場におられる内藤参考人にお伺いいたしますが、有限会社から株式会社へ移行するメリット、デメリットとしてどのような点が考えられるか、そして、そのような移行を考えている経営者に対してどのようなアドバイスをなされるか、その点、いかがでしょうか。

内藤参考人 私、日弁連という立場で来ておりますので、個別の依頼者にどういう回答をするかという非常に難しい問題ですので、なかなかお答えしづらいところです。

 基本的に、一体化することは妥当であろうと思います。ただ、やはり、既存の有限会社でどれだけ社会実態に認知されているか、そういった問題もあるかと思います。ですから、そういった利益も十分保護されなければならない。

 抽象的ですが、その辺で御勘弁いただきたいと思います。

江田委員 久保利参考人、どうでしょうか。

久保利参考人 弁護士としては、具体的な会社の状況をお伺いし、要するに、何であなたのところは有限会社でいるのか。今、江頭先生からもお話がありましたように、有限会社という名前を嫌ってむしろ株式会社というものを選択している非常に小規模の会社もあるわけでありまして、そういうふうに、本当はなりたかったんだけれども何かのいきさつでもともとの有限会社を使っているよというのであれば、株式会社になりますかと申し上げますし、いや、もうとにかくあらゆる経費、嫌だ、何もしたくない、このままでいいということで、ほっとけというクライアントであれば、じゃ、まあそうしましょうか、中身はそんなに変わらないしねということで、少なくとも私の理解している限りでは、そこで株式会社に変更する、そのために巨大なメリットが出るような有限会社があるとは考えられませんし、どちらでもそれはお考えになったらいい。

 ただ、やはり名前として株式会社の方が一般的、社会的通用性が高い。しかし、現実には、昔は出資金と資本金の額が大分差がありましたので意味がありましたけれども、今やもうそういう最低資本金制度がなくなった中で、果たしてその両者の峻別にどれほどの意味があるだろうかというふうに考えますと、私としては、経営者がやりたいようにおやりなさいというのが私の説明だと思います。

 申しわけありません、役に立たないで。

江田委員 的確なアドバイスをされていくかと思いますが、今お話に出ました設立時の出資額規制の撤廃も今回行っているわけでございまして、大きな改正事項のもう一つが出資額規制の撤廃でございます。

 現行法では、株式会社が一千万、有限会社は三百万とされているこの規制の撤廃でございますが、この規制が撤廃される背景としまして、指摘されておりますように、必ずしも資本を重視して融資が行われているわけではないという実態があるものと考えます。

 設立時における出資額規制が撤廃されますと、創業、起業というものが非常に促進されてくるであろう。これは、いろいろデータがありますけれども、経産省所管の新事業創出促進法によって最低資本金規制特例を受けて設立した会社数というのは一万二千社に上る、資本金一円で起業してきた会社は五百二十七社に上る、そういうようなことで、起業がしやすい、新産業の創出がしやすいということで非常に経済活動が活発化する、そういう効果が生じるものと考えられます。

 しかし、一方では、実体のない株式会社が設立されて法人格が濫用されるようなケースが頻発するのではないかというような懸念もございますので、確認しておきたいと思いますけれども、法律の実務家である内藤参考人と浜辺参考人にします。設立時における出資額規制が撤廃された場合には、このような危惧は現実化すると考えられますでしょうか。

内藤参考人 お答えいたします。

 新事業創出特例法に基づく零細企業の実態あるいは弊害についての実証的な研究というのは、まだなされる段階に至っていないというふうに考えております。また、そうした弊害を調査するだけの十分な時間的な経過も、まだ経過していないだろうというふうに思っております。

 また、名前だけでそういう法人格を濫用するというケースは、アメリカでは幾つか見られるようですので、日本でもそういった危惧は当たるのではないかというのが基本的な見方でございます。

 以上でございます。

浜辺参考人 これは、国民の法律遵守に対する意識の問題があろうかと思います。

 一円会社でもできるよということによって、それを濫用する危険性というのはやはり現実にはないわけではないだろう。会社制度というのは、それを通じてお金もうけをするということでございますから、そういう意味においては、もちろん性善説もいいんですけれども、やはり弊害が生じた場合の規律という観点からの法整備というものもしっかりとする必要がある、その意味での手続といったものもしっかりとしている必要があると考えます。

江田委員 ありがとうございます。

 ちょっと時間がないので先に進めますが、もう一つ、組織再編行為に係る規制の見直しで合併等対価の柔軟化についてお話を進めさせていただきます。

 今般、先ほどからもありますように、ライブドアによるニッポン放送の株式の買い取りが報道されたわけでございますけれども、折から会社法案では合併等の対価が柔軟化されるということで、三角合併が可能になったわけでございますが、外資による我が国企業に対する敵対的買収が増加するのではないかという多くの懸念があったわけでございます。

 そこで、これも確認しておかねばならないと思いますので質問させていただきますけれども、合併等の対価が柔軟化されることによりまして、外資による我が国の企業に対する敵対的買収がふえるとお考えであるかどうか、またそれが我が国の経済にどのような影響を与えるか、これについて、それでは村上参考人にお聞きしたいと思います。

村上参考人 簡単に申し上げますと、ほとんどふえないと思います。

 今も、買収しようと思えば、日本に法人をつくって、そこにファイナンスをして公開買い付けをかければいいわけですから、別に自分の、例えばアメリカの企業の株を使わなくても、欲しい企業があればどんどん買収ができるのは事実です。ただ、それを防いでいるのはやはり株主構成のようなところがあって、どんな価格が出てきてもお互いに売りっこなしよねなんというのが現実にあると思います。これは、経済の活性化については極めてマイナスだと思います。

 日本の企業が、海外の企業も、買収という言い方が適切かどうかわかりませんが、いろいろな形で提携もしくは合併、もしくはいろいろな形で資本を入れている状況の中で、私は、どんな会社でもいいですから、ぜひ日本に資本を投下していただいて、産業を活性化していただき、そして雇用をどんどん創出していただくことが適切ではないかと思います。

 敵対的買収というものがそんな簡単にいっぱい出てくるわけでは決してないと思いますので、外資であれ、もしくは日本の企業の金であれ、ぜひどんどん活発に投資をしていただくことが肝要ではないかと思っております。

 以上でございます。

江田委員 敵対的買収というのは、そう簡単にはやれるものではない、珍しいケースである、合意的な合併がメジャーであるということだと思いますが、一方、会社法案では、現行法に比べまして、改めて確認をさせていただきますけれども、敵対的買収に対する防御策を容易にとることができるようになったわけでございます。

 これを生かして防御策をとるか否か。とるとして、どのような内容とするか。これを採用した場合の市場の評価等にも照らしながら、個々の企業の判断にこれはゆだねられるべきものですよね、そう考えます。そして、現状では、一部の大企業では既に防衛策の策定に係る検討に入ったという企業もあるとお聞きしております。

 そこで、最後の質問になるかと思いますけれども、これはもちろん個々の事例によって異なると思いますけれども、敵対的買収に対する防御策を採用しようとする企業に対して、どのようなアドバイスを行っていかれるか。また、敵対的買収に対する防御策が我が国よりも早く導入されたアメリカにおいては、その実情はどのようになっているか、この件について久保利参考人、村上参考人にお伺いしたい。

久保利参考人 お答えいたします。

 ポイズンピルあるいはそれ以外の買収防衛策、これを考えるときに、何をあなたは守ろうとしているのかということを正確に認識してほしい。

 そもそも取締役の自己保身なんということのためにこれは使うものではありませんよ。本当に株主さんのために役に立つような、そういう仕掛けをつくり、かつ、そのことによって、ステークホルダーすべてを含めて、この企業を守り切るということが本当に役に立つんだという場合に使うんですよ。敵対的と言うけれども、経営者と敵対するということがあっても、それは必ずしも本当の意味の敵対的ではない。株主の持っている価値をばらんばらんにしてしまうような、蚕食されてしまうようなものが来たときには、一体化のメリットをぜひ守りたいということで使うんですよ。

 このことを正確に認識をした上であれば、私は、なるべく中立的な社外取締役を含めた人たちを中心にして中身を検討し、一番リーズナブルな、その会社の置かれた環境にふさわしいものをとるべきだ、こう考えておりまして、そのことは、まともな証券マーケットができていれば、それはアメリカであれ日本であれ、同じようなことだろうというふうには思っております。

 以上です。

村上参考人 久保利先生がおっしゃったことと同意見なんですが、そういう防衛策をとることによって、中長期的に株主価値が本当に上がるのかということが唯一の判断点だと思います。

 それからもう一点、アメリカでは現在ポイズンピルを導入している企業が、特に大きな企業では減ってきたというふうに聞いております。

 その理由は、特にアメリカの場合、年金が株を保有しているケースが多いので、守るためのポイズンピルはだめだよという反対意見を結構出しておられると聞いております。今後の日本も年金の比率がどんどん上がってくると思います。そのときに、やはり年金さんは中長期的に見てその企業の株主価値が上がるのかどうかという視点で賛成、反対をされますし、今回、株主総会で定款の変更をするということが行われることがその導入に際して多いと思いますので、そういう意味では、真っ当な株主、持ち合いではない真っ当な株主がどう判断されるかということが極めて重要だと思っております。

 以上でございます。

江田委員 大変貴重な御意見、御回答、ありがとうございました。参考にして、この会社法の改正を進めていきたいと思います。

 ありがとうございました。

塩崎委員長 次に、松野信夫君。

松野(信)委員 民主党の松野信夫でございます。

 六人の参考人の皆さん、大変ありがとうございました。貴重な御意見をいただきました。

 私は、個人的には久保利参考人と村上参考人には特に感謝を申し上げたい。と申しますのは、私の方は、民主党の方で会社法のこの問題のプロジェクトチームの事務局長をさせていただいて、昨年からずっとこの問題を担当させていただいておるんですが、最初は、非常に難しい、複雑でわかりにくい、こういうようなことがあって、なかなかメンバーを集めるのも苦労する。ところが、ことしになりまして、お二人の方でいろいろと話題を提供していただきましたおかげで、大変メンバーがたくさん集まってまいりまして、活発な意見が特に合併問題等については出されるようになりました。その意味からも感謝を申し上げたいというふうに思います。

 さて、この会社法につきましてはいろいろな御意見があるかと思いますが、日本の会社、企業ができるだけ活発に動いていく、そういう方向でやはり考えていかなければならない。そうすると、やはり予見可能性というものをしっかり考えていかなければならない。違法なのか適法なのかがこの法律を読むと一目瞭然だ、こっちが勝つかあっちが勝つかもすぐわかる、一々裁判所の判断を求めなくても勝負がつくというような形で、ある意味ではもう徹底してドライに、ビジネスライクに判断を求めていくということが求められるのではないかなという気がしております。

 そういう意味で申しますと、今回、合併問題で、例のニッポン放送株事件が起きたわけですけれども、これもいろいろ裁判があって、不公正な発行かどうか、これが問われたわけです。こういうのもできるだけ予測可能性を持って早く勝負がつくような形の方がいいのかなと思っているんですが、今回は、極めて日本的な形で、和解というようなことで一応の幕がおりたのかなというふうに思いますが、こういう日本的な和解という形で終わったことについて、村上参考人の方で何か御感想なりでもあれば御開陳をいただきたいと思います。

村上参考人 余り個別のことを述べるのが適切かどうかわかりませんが、一点、最後に、私が、今回のこの月曜日に発表になった点で言うと、それは、個々の企業の話ではなくて、トータルの株主に対してきちっとしたオプション、例えば今回、ニッポン放送が再び自己株取得の公開買い付けをしますというプレスリリースを出しておられます。その後、金銭による株式交換で一〇〇%子会社にしますということを出しておられるので、単に当事者だけではなくて、すべての株主に対してのオプションを明確にされた発表をされているということは、感謝を申し上げていいと思います。

 ただ、感想だけ申しますと、なぜあの企業が上場していたのかな、何のための上場かというのは強く思いまして、五年間もかけて経営陣を説得してきたわけであります。上場する必要はない、非公開にすべきではないかということを説得してきたわけでありますから、ことしをもって非上場になるのは、私にとっては、あり得べき上場企業の姿ということでは非常にうれしい思いであります。

 以上でございます。

松野(信)委員 合併対価の柔軟化の問題については、特に柔軟化すること自体は、これは結構なことかなというふうに思っております。ただ、今回のこの法案は、合併対価の柔軟化の部分に限って一年間施行を延期するというような形になっているわけで、この点はなぜそういうふうなことになったんだろうか。どうも、一部には外資脅威論というようなものもありまして、敵対的買収がふえるから、その部分だけ一年間延期するんだというような議論もあったように聞いております。

 しかし、余りそういうような形になると、日本市場というのは非常に閉鎖性が高いということで、かえってマイナスの面も出てくるのではないか。その部分だけ一年延期するというのは、余り賛成は、私個人的にはなかなか難しいな。むしろ、敵対的買収の問題は、会社法の合併対価の柔軟化の問題というよりか、証券取引のTOBの方の問題ではないか、こういうような気持ちで、施行一年延期という点については正直いかがなものかという気がしているんですが、この点について、よろしければ久保利参考人、そして江頭参考人の方から、法制審でそういうような議論がどの程度あったのか、この辺も御紹介いただければと思います。

久保利参考人 久保利でございますが、一年延期が是か非かは、私がとても参考人として申し上げるようなテーマではないと思いますけれども、TOBの問題はどうだという御質問については、全くそのとおりである。

 要するに、今までのさまざまなケースがありますけれども、本当の意味で、TOB同士で敵対的買収が始まったというケースはないわけでありまして、ライブドア事件も実はそうではない。証券取引所のさまざまなルール等々についても、そういう修羅場といいますか、そういうときにどう対応するかというルールが本当はできていない。あるいは、ToSTNeT1等についても、あれは使ってはいけない、禁じ手だということは暗黙に流れていたわけでありますが、じゃ、それがどうなのかという話になりますと、実際には使われたケースもあったようであります。

 そういうふうに考えてまいりますと、私は、むしろ、おくれているのは、外資の脅威云々ではなくて、日本の経営者たちの元気のなさといいますか、アグレッシブ性のなさという問題。そして、証券取引所がいつまでたっても旧来の体質から抜け切れないで、新しいものを取り入れてもっと完備をしていくという姿勢がどうも弱いのではないか。そしてもう一つ、日本の証券監督行政の中で、本当にリーガルに基づいて、法律をしっかり認識した方々が強い権限を持って行っていくという体制、こういう強い規制と、その規制を離れたところでは自由なマーケットができる、これが実はおくれているのではないか。

 したがって、外資の脅威論の問題ではなくて、我々自身、日本国の問題として、本当にこのままオープンにしていいのかどうかというところが問われているのではなかろうかと私個人的には考えているところでございます。

 ありがとうございました。

江頭参考人 合併対価の柔軟化の問題は、直接に最初に提案されたのは、あるいは外資だったのかもしれません。この点は、経済財政諮問会議で対内直接投資の推進ということがありまして、そして、その一環として法制審で審議が始まったということは事実かと思います。

 それからまた、日本経団連初め日本の経済団体も、この対価柔軟化は企業組織再編にとって有用であって賛成だという方針を出されたわけであります。

 そういうことでありまして、それから、かつ、この合併等の対価の柔軟化は、合併にせよ株式交換等にせよ、契約を締結して行う事柄でありますから、これは友好的に行われる場合の制度でありまして、確かに、そういうふうに一〇〇%取得できるのであれば敵対的でもやりたいという人がふえる可能性は、それは論理的には確かにあるのかもしれませんが、法制審の場では、今申しましたように、これは本来友好的な形で行われる制度であるから、それからまた、敵対的買収というのは非常に、やはりハードルはいろいろ多いものだと思います。

 したがって、一〇〇%にできるから敵対的でもやってやろうかというものがそれほど多く出るかということもありますし、法制審では、そういった、これが外資による敵対的買収をふやすという議論は、直接はどの委員からも出なかったというふうに記憶しております。

松野(信)委員 時間が余りありませんので、次の問題です。

 内藤参考人、浜辺参考人からもお話がありました株主代表訴訟、私も個人的には、この法案の中で何が一番問題かというふうに言われたら、これがやはり一番大きな問題だと。株主代表訴訟によってコンプライアンスをしっかり維持する必要性というのはやはり特に強まってくるのではないか。そうした中で言うと、ややこの代表訴訟が抑制的な形で仕組みがつくられているなというふうに言わざるを得ないかと思います。

 八百四十七条が「責任追及等の訴え」ということで記載しているわけですけれども、私が問題と思いますのは、一号の方の、自己または他人の不正な利益を図りとか、あるいは会社に損害を与える目的で訴えを起こす、これは禁止する、これはまだわかります。

 しかし、二号の方は、特に会社に過大な費用の負担が生ずるとか、あるいはそれが相当の確実さをもって予測される、こういうような記載になっているものですので、これは非常にあいまいです。また、恐らく裁判所も非常にお困りになるのではないかなという気がしておりまして、せめてやはりこの部分はむしろすっきり削除する方がいいのではないかというような、これは個人的な意見を持っているんですが、その辺のところは江頭参考人はどのようにお考えでしょうか。

江頭参考人 御指摘の八百四十七条一項二号の文言でありますけれども、会社の「利益が著しく害される」というのは、典型的には、株主代表訴訟に対応するために会社の営業秘密等を公にしなければいけないというような場合を考えております。それから、「株式会社が過大な費用を負担する」というのは、これは結局、原告側が敗訴いたしました場合には、取締役が費やした費用について、これは委任事務費用として会社は償還しなければならないということになりますが、ほとんど勝訴の見込みのない訴えというのが実際には株主代表訴訟の現実にはあるわけで、そういうふうに裁判官が判断した場合に典型的にこれは適用されるのであろうと思います。

 審議の過程では、経営者の立場を代表する日本経団連の関係の委員の方からは、株主代表訴訟というのは単純に会社の損害をてん補する制度であるから、それに勝訴した場合に入ってくる金とそれからその場合に会社が要する費用を単純に比較して、とにかく費用の方が多くかかるものであればこの二号で却下できるような文言にしろという御意見もあったのですけれども、それについては、株主代表訴訟はそれだけの制度ではない、コンプライアンスの確保等の役割もあるということで、そういう単純に利益と費用を比較するというような文言はやめて、より裁判所に適切な判断ができるような文言にしたという経緯がございます。

 この文言につきましては、先ほど申しました東京地裁民事八部の西岡裁判官も非常に積極的にこの文言の作成については関与されましたので、裁判所としてはこれでいけると思っているのではないかというふうに私は考えております。

松野(信)委員 私は、今お話しいただいたような点は、一号のところでかなりの部分はカバーできるんじゃないかなというふうに思っているんですが、今の江頭参考人の御意見を聞いて、浜辺参考人の方はこの点についてはどのようにお考えでしょうか。最後の質問です。

浜辺参考人 お答えいたします。

 御指摘になりましたこの二号につきましては、恐らく機能的には担保提供制度とあたかも重複して働くような気がします。こちらの方は最初から却下というか門前払いにするような制度であるのに対して、担保提供の場合には、もちろん手続的な局面は違いますけれども、ただ、実質的には非常に似通ったものになるのではないか。そう考えますと、これはある種屋上屋、手続の違う局面で似たようなものを、ここでもシャットアウトできる、あそこでもシャットアウトできるというような形になっているという意味で、ちょっとやり過ぎなのではないかという気がいたします。

松野(信)委員 ありがとうございました。大変参考になりましたので、今後の審議につなげたいと思います。

 どうもありがとうございました。

塩崎委員長 次に、辻惠君。

辻委員 民主党の辻惠でございます。

 本日は、六人の参考人の先生方、貴重な御意見をお聞かせいただき、ありがとうございました。

 非常に重要な問題だし、論ずれば論ずるほどいろいろ深い問題が出てくるという意味で、十分間お話しいただくだけでは非常に足りないなという感じがまずあります。また、質疑についても十五分と限られておりまして、六人で割ると二分半ずつということです。

 本来であれば、恐らく、私が思うには、学者のお立場で江頭参考人と上村参考人、やはりいろいろ御意見も違うところがあるのかなというふうにも思いますし、実務上の問題では久保利参考人と村上参考人、御意見の違いとかいろいろお立場の違いもあるのかなと。

 だから、その辺を、例えば質疑者が、それぞれお話をしていただいて、間をつなぐ形でいろいろ議論を深めて発展させられるような、そういう持ち方ができれば、これもまたおもしろいのかなというふうに思いましたけれども、何せ十五分ですので、それぞれお一人ずつ、二分半ということを念頭に個別に御質問をさせていただきたいというふうに思います。

 まず、江頭参考人に御質問をさせていただきたいと思います。

 上村参考人の方からお話があって、企業再編の自由だけが拡大をして、企業結合法制がやはり欠落しているという点が問題なのではないかという御指摘があったと思うんですね。私もずっと弁護士をやっておりましたけれども、この十年間、特に持ち株会社化していろいろな意味で新たな問題が多々出てきている。そういう意味で、上村参考人の御指摘になっている点も確かにそうなのかなというふうに思いますし、また、主人公が株主なのか経営者なのかということで、どちらを基本に据えて問題を考えるのかというときに、今回の法案は経営者が株主を選ぶことにならないであろうかというような村上参考人の御指摘もあると思うんですね。

 そういう意味におきまして、企業結合法制の欠落ということで総括できるのかなと私は思うんですが、こういう御指摘についてどう考えておられて、それについてもし問題点があるとすれば、どういう方向で解決をすべきか、今後の課題としてどうすべきなのか、その辺についてお話を伺わせていただければと思います。

江頭参考人 御質問をいただいた点は大変重要な点でございまして、企業結合法制について今後まだ検討しなければならない点が多いということは、これは御指摘のとおりだと思います。最初のプレゼンテーションのときに私は今後の検討課題として残された問題はないわけではないと申しましたけれども、それの一つはまさにその企業結合法制であると考えております。

 近時、某銀行の企業合同におきまして、実質上一〇〇%子会社である銀行を譲渡する、それが株主の意思表示も何らなしに、持ち株会社であるために、親会社である持ち株会社の取締役会限りでできたといったことにつきまして、いろいろ問題とする向きもあるということも存じております。

 これはもともと、ああいうことが起こるということは、株式交換の制度をつくったときにもう既に予想されていたことでありまして、あのときは非常に、もう実質審議一年足らずで制度をつくりましたので、そういう持ち株会社株主の権利をどうするかということについて、それは今後の検討課題だとそのときもされたということが多いわけであります。

 その点を初めとして、その他、第三者割り当て増資の方法で子会社になる、これについて、現在、これも取締役会限りでできるわけでありますけれども、本当にそれでいいのかという指摘も、法制審議会の部会の中でかねてより委員の中から出ている点であります。それから、対価柔軟化に伴って、その対価の性質等について誤解を招くような記載が書類にあった場合にどういう責任を取締役に負わせるべきなのかといった問題も部会で相当審議されましたけれども、結局、今回は盛り込ませませんでした。

 そういうふうに、非常に課題は多いところであるというふうに考えております。

辻委員 では、上村参考人にお伺いいたします。

 健全な証券市場をつくるということで、本物の株式会社をこれからいよいよ実現させるべき時代なんだという御指摘があったというふうに思います。そのときに、一つ、国民にとってわかりやすい型に集約すべきだ、言葉、概念をわかりやすいものに集約するのが望ましいというふうにおっしゃられたように思いますが、具体的にもう少しその辺についてお考えを展開していただければありがたいなということと、もう一つ、証券市場の健全化というときに、今回民主党は、日本においてアメリカのSECに倣う、規模とか権限についても、そういうものをやはり設置すべきであろうという提案をいたしておりますけれども、その問題についてあわせて御見解をいただければと思います。

上村参考人 お答えいたします。

 大変大きな問題でございまして、二分半ではちょっとあれなんですが、会社法の考え方は大きく変わったというふうに私は思っております。

 これはちょっと村上参考人とは意見が違うと思うんですが、株主が会社の所有者であり、そして経営者は代理人であるというふうには考えておりません。つまり、それはあくまでも、経営が証券市場に訴えていって、そして投資家がそれを評価して買った後に株主になるわけですので、やはりまず最初に証券市場の論理というものが徹底的に評価されるのが基本だと思います。

 現実に今回のライブドアの件でも、三分の一を超えて公開買い付けが行われていたとすれば、すべての投資家が平等に扱われて、そしてオークションマーケットが出てきた可能性があるわけですから、株主や投資家にとって、その方がまず最初は望ましかった。そして、それによって株主構成が決まりますので、そこから先は会社法だというふうに考えております。そういう意味では、私は、株式会社法の基本認識は変わったと。

 ただ、もちろん、会社を評価して買ってくれた株主を大事にするということは極めて大事なことでありますので、恐らくその点は村上参考人とも一緒なのかもしれませんが、まずそういうふうに思っております。

 そのためには、アメリカでも州の会社法よりは連邦の証券法がまず優先するというのが大原則でありまして、したがって、証券市場の規律というものが十二分に行われているということなしには会社法の論理は展開しないというふうに思います。その意味では、日本版SECのような監督体制は非常に大事な課題だというふうに思っております。

 特に、今まで原則禁止のことだらけだった会社法が原則自由になった。それは、要するに証券市場を使う、そういう自由でもあるわけですから、証券市場の規律が非常に大事だ。自由が余りにも優先して規律が追いつかないものですから、今はちょっと金融庁も対応し切れていないんじゃないか。そうするとどうするかというと、現行法は適法だけれども、すぐ変える、つまり何でもすぐ体制改正ということになるわけですので、そういう悪循環を是正するためにもきちっとした本格的な証券市場規制が大事で、そのためには日本版SECがある。

 そして、証券市場を守り抜くということは国民の生命財産にかかわるわけでございまして、安易なバブルが形成され、それが安易に崩壊するということがいかに怖いかということは、株なんかやったことがない国民すべてにかかわっていることでございます。そこでは、一切漏れのない、包括規定も十分に使えるような、そういった機動的な監視監督体制が必要だというふうに考えております。

辻委員 ありがとうございました。

 では、内藤参考人に伺います。

 確かに、基本的視点ということで、競争力の強化、経営の便宜ということと、株主、債権者の利益の保護、それぞれ調和を図る必要がある、そういう観点から、今回、問題点は大分あると、私もそういうふうに思うんですけれども、御指摘になられている。

 では、今回の法案の整備を踏まえて、次に、例えば企業結合法制ということについてどのような御提案をしていけばいいというふうに、日弁連のお立場では難しいのかもしれませんけれども、簡単にお話しいただければと思います。

内藤参考人 お答え申し上げます。

 日弁連という立場では非常に難しい問題です。

 ただ、こういうことは言えるかと思います。まず、企業結合法制というルールが公正であること。これは、国民から見て公正に見えるものでなければ法に対する信頼を失いかねないと思いますので、まず公正であること。それから、先ほどもおっしゃっておられましたけれども、明確に予見可能であること。さらに大事なことは、こうしたものに対して司法判断が的確になされること。この三つであるというふうに考えております。

 以上でございます。

辻委員 もうあと四分ぐらいしかないという通告が参りましたので、ちょっと駆け足でさせていただきたいと思いますが、浜辺参考人、持ち株会社化の弊害ということに恐らく焦点を当てられて、二重株主代表訴訟を認める必要があるということを強調されていると思うんですが、これ以外になお検討すべき制度なり、弊害を除去するためのお考えということがあればお聞かせいただきたいと思いますが、いかがでしょう。

浜辺参考人 お答えいたします。

 細かいところを言っていけば切りがなくて、法務省令への委任がなされている部分が特に、重要なところがかなり委任されているというところで、これがちょっと不透明性を増しているのではないかというふうに思います。

 ただ、全般的には、自治ということを重視するということで、いろいろ考えていけば今回の考え方は非常によく練られている。ただ、経済界のニーズをかなり受け入れているのはいいんですけれども、若干、部会の方では突破できなかったところをやはり国会の場で、公正なのは何かということを考えていただきたいというふうに考えます。

辻委員 あと、お二方に、とりあえず一遍に質問をさせておいていただきます。

 まず久保利参考人ですが、村上参考人からは、やはり久保利参考人を意識して、何度となくお名前が、特定名が挙がっておりました。社外取締役の独立性ということを村上参考人は強調されていて、今回のニッポン放送のお立場で、社外取締役としての独立性を持った十分な対応をなされたのかということについての御指摘があるのかなというふうに思ったりはいたします。その点についてもしコメントがあればいただきたいなというふうに思うことと、もう一つは、経営陣の使い勝手がよくなるということを久保利参考人は先ほどおっしゃったように思いますけれども、一方で、経営者が株主を選ぶということでいいのかという村上参考人からの御指摘がある。これを踏まえて、どのようにお考えになっておられるのかということを久保利参考人にはお伺いしたい。

 それから、申しわけない、村上参考人にあわせてお伺いさせていただきます。

 おっしゃっているのはよくわかるように私自身は思うんですが、例えば、ステークホルダーがたくさんいる、利害を調整する必要があるんだと。「顧客・従業員・取引先・地域社会など、」等々とあって、では調整する理念というのは「株主価値・企業価値を中長期的に向上させる」ということで集約されているんだけれども、何かまだ抽象的な感じが非常にするんですね。だから、その点について、それぞれの、やはり地域社会もステークホルダーとしてその利害を調整する。例えば、今論議している会社法制の中でどのように利害を抽出して調整を図ろうと考えるべきなのかという点が一つお伺いしたいところであります。

 もう一つは、「大競争時代を迎え、」云々という御指摘もあるんですが、結局、産業政策、福祉政策と結びつくということなんだけれども、そこについても、今の企業がどうあるべきなのかという、株主を優先的に考えるべきだということと、産業政策、福祉政策、そこで弊害が生じれば福祉政策で救えばいいというような意味でおっしゃっているのか、そうではないのか。その辺について、御説明いただければと思います。

 以上です。

久保利参考人 久保利でございます。

 多岐にわたる御質問でございますが、まず一つは、株主が取締役を選ぶ、それはそのとおりであります、総会で選ぶんですから。

 しかし、例えば第三者割り当てというのを考えてみますと、授権資本の枠と発行済み株式総数の比較をいたしますと、授権資本の枠というのは発行済みの四倍あるわけであります。要するに、今発行しているものよりももっと大きいものを発行しても、これは取締役会の決定でできるわけですね。現実に、ベルシステム二四というのは時価総額よりももっと大きな金額を発行して、その第三者割り当ては適法であると裁判所で認められている。

 ということは、株主を選ぶ権利は、実は経営陣、取締役会にあるんですね。ですから、これを常にドグマのように株主が必ず選ぶんだというふうに言うと、少し違うところがあるのではないか。

 さはさりながら、私は、社外取締役として常に株主のことを考えるのは当然でありまして、第三者、特に独立をした取締役としては、多くの一般株主さんがこの行動によって迷惑をこうむるかこうむらないか、これだけを考えてまいりました。

 結果的には、例えば、二五%までTOBを下げるときには、フジの提案に対して私は反対をいたしました。これは、二五%ということになってしまうと、三分の一もとれないまま、結局、議決権の効果を失わせてしまうということになるからであります。

 一方、新株予約権については賛成いたしました。これは、企業価値の毀損というのを少なくとも私どもが真剣に考えた結果、全取締役一致して、ライブドア側に行った場合にはニッポン放送の価値が毀損されるという判断になったからであります。

 裁判所はどっちもどっちでよくわからぬというお話でございましたが、私どもとしてはそう考えました。そこのところが、立証責任ができていないとかという裁判上のいろいろな問題で認められないのは残念でありますが、仕方ない話でありました。

 だからといって、社外取締役が社内の執行陣に唯々諾々とやったわけではなくて、独立性を持って判断する、これは取締役であれば全員そういう形で考えるのは当然のことだというふうに私は考えていますし、それができないようでは社外取締役というのは役に立たない、意味がない、こう考えております。

 以上でございます。

村上参考人 御質問のお答えの前に、久保利先生は、私、社外取締役に入っていただいて本当に感謝をしておるわけであります。やはり社外取締役がいるということで議論が透明性を保ってできるということは、本当に感謝をしておるわけでございます。

 ただ、社外取締役であっても、私どもの意見と違うこともそれは間々あるし、できたら過半数が独立の社外取締役でないと、久保利先生がいらっしゃっても多勢に無勢ということもありますから、やはり透明性を保った取締役会というのは形成させていただきたいと思います。

 それで、ステークホルダーの話でございますが、やはり上場企業に対して投資をしておる者からすると、究極は、株主価値の向上に対して、例えば社会貢献もしないような会社が株主価値向上に本当につながるのか、もしくは従業員の首切りだけをやっている会社が株主価値向上につながるのかというと、お取引先も大切にし、従業員も大切にし、かつ、その従業員が働きやすい環境をつくることが、ひいては株主価値向上につながると思います。

 もっと言うと、何の役にも立たない従業員を抱え込んでいる企業の経営者は、これは経営者として失格であります。そこは企業に求められている役割ではなくて、その部分は、先ほど先生のお話にもありましたけれども、どっちかというと福祉政策の方に行くわけでございまして、それは、場合によっては首になっても、国が福祉政策としてやるべきことだと思います。

 私は、産業政策というものと福祉政策というものはやはり分けて考えるべきものでありますが、アメリカにある制度でもありますESOPという制度を通じて、できましたら従業員の方や経営者の方も株主と目線を同じくしていただきたい。それに対して国が若干支援する制度ができ上がってもいいのではないかということで、それによって企業が活性化するようなESOPという制度をぜひ創設していただければありがたいなと思っている次第でございます。

 以上でございます。

辻委員 議論は尽きないところでありますが、審議をしっかり充実させて、検討させていただきたいと思います。ありがとうございました。

塩崎委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人の皆様方には、貴重な御意見、そしてまた率直なお考えをお述べいただきまして、まことにありがとうございました。今後の法案審議の参考にさせていただきたいと思っております。委員会を代表いたしまして、厚く御礼を申し上げます。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時二十六分散会


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