衆議院

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第21号 平成17年6月8日(水曜日)

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平成十七年六月八日(水曜日)

    午前九時三分開議

 出席委員

   委員長 塩崎 恭久君

   理事 田村 憲久君 理事 平沢 勝栄君

   理事 三原 朝彦君 理事 吉野 正芳君

   理事 津川 祥吾君 理事 伴野  豊君

   理事 山内おさむ君 理事 漆原 良夫君

      秋葉 賢也君    井上 信治君

      小野 晋也君    大前 繁雄君

      加藤 勝信君    川上 義博君

      左藤  章君    笹川  堯君

      柴山 昌彦君    園田 博之君

      松島みどり君    水野 賢一君

      森山 眞弓君    保岡 興治君

      柳澤 伯夫君    柳本 卓治君

      泉  健太君    加藤 公一君

      河村たかし君    小林千代美君

      佐々木秀典君    樽井 良和君

      辻   惠君    松野 信夫君

      松本 大輔君    江田 康幸君

      富田 茂之君

    …………………………………

   法務大臣         南野知惠子君

   法務副大臣        滝   実君

   法務大臣政務官      富田 茂之君

   国土交通大臣政務官    岩崎 忠夫君

   最高裁判所事務総局刑事局長            大谷 直人君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    寺田 逸郎君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    大林  宏君

   政府参考人

   (法務省保護局長)    麻生 光洋君

   政府参考人

   (法務省入国管理局長)  三浦 正晴君

   政府参考人

   (厚生労働省大臣官房審議官)           北井久美子君

   政府参考人

   (厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長)    塩田 幸雄君

   政府参考人

   (国土交通省大臣官房審議官)           大庭 靖雄君

   政府参考人

   (国土交通省大臣官房技術参事官)         中尾 成邦君

   政府参考人

   (海上保安庁交通部長)  地引 良幸君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

六月八日

 辞任         補欠選任

  谷  公一君     川上 義博君

  仙谷 由人君     泉  健太君

同日

 辞任         補欠選任

  川上 義博君     加藤 勝信君

  泉  健太君     仙谷 由人君

同日

 辞任         補欠選任

  加藤 勝信君     谷  公一君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第七五号)(参議院送付)

 刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出第五二号)(参議院送付)

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件


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     ――――◇―――――

塩崎委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、参議院送付、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として法務省民事局長寺田逸郎君、国土交通省大臣官房審議官大庭靖雄君、国土交通省大臣官房技術参事官中尾成邦君、海上保安庁交通部長地引良幸君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 質疑の申し出がありますので、これを許します。松本大輔君。

松本(大)委員 きのうからスライド登板いたしました民主党の松本大輔でございます。

 国会も少しきな臭くなってきたということかもしれません。最近では、私も地元を回っておりますと、次の選挙が厳しい人はさすがに首が涼しそうだねとか、あるいは法務委員会というのは答弁に立っているのは裁判官とか検事さんらしいね、政治家がノーネクタイでいると何か悪いことをして捕まっちゃったみたいだねとか、しゃれにならない言われようをしているきょうこのごろでありますけれども、あのカメラに映っている映像が本当にそんなふうに見えていないことを祈りつつ、きょうの質問に入りたいと思います。

 まず、きょうのこの船責法の改正の趣旨についてであります。先週金曜日の質疑で、井上委員からの御質問に大臣が御答弁をされていたと思うんですが、改めて確認をさせていただきたいと思います。

 今回の船責法の改正の趣旨というのは被害者の保護の強化である、こういう理解でよろしいでしょうか。端的にお答えください。

南野国務大臣 先生おっしゃるとおりでございます。

松本(大)委員 端的なお答え、ありがとうございました。

 同じ先週金曜日の質疑で、漆原委員が外国船と第十八光洋丸との衝突事故というものを例に挙げまして、責任制限額が実際の損害額を下回る割合というものをお尋ねになられています。簡単に言えば、被害者が泣きを見た割合は一体どの程度あるのかという御質問だったわけですけれども、それに対する御答弁が、寺田民事局長の御答弁なんですが、「損害額が限度額を上回る割合全体はどうなっておるかと申しますと、日本の船主責任相互保険組合における保険金の支払い件数全体、約八千件から九千件の間でございますけれども、そのうち、損害額が責任限度額を超えている、そのために保険金が限度額に抑えられるというのは、ほんのわずか、全体の〇・一%前後であろう」、こういうふうにお答えをされています。

 聞きようによっては、現状でも九九・九%カバーされているんだからいいじゃないかという考え方もあるんでしょうけれども、政府として、今回法改正をされるからには、そうじゃないんだ、わずか〇・一%でもカバーされていない、実際の損害額が保険金額を上回っているケースがあるのであれば、それはできるだけ一〇〇%救済できるように近づけていくんだ、被害者保護を強化するんだと。おお、そうか、大変結構なことじゃないかというふうに私は一見納得してしまいそうになったんですけれども、ただ、よく考えてみると、実はこの答弁は漆原委員の質問の御趣旨に沿っていないんじゃないか、実はミスリーディングな、すりかえ答弁だったんじゃないかなというふうに私は思っております。

 そこで、ぜひ局長にお伺いしたいんですけれども、御答弁にあった「損害額が責任限度額を超えている、そのために保険金が限度額に抑えられるというのは、ほんのわずか、全体の〇・一%前後」というこの〇・一%前後という数字についてなんですが、この数字の中に、外国船が加害者になっているケースというのは含まれているんでしょうか。

寺田政府参考人 これは、具体的に何件外国船かということは承知しておりませんが、全体の数字でございますので、外国船も含めた数字でございます。ただ、大半は日本船ではないかというように私どもは数字の上では考えてはおりますが、確たることは私どもとしては承知をいたしておりません。

松本(大)委員 今のは少し乱暴な御答弁だったんじゃないかなというふうに思います。

 局長は御答弁の中で、「日本の船主責任相互保険組合における保険金の支払い件数全体」とされていまして、日本のPIに入っていない外国船の場合はこの件数に含まれていない。だからこそ、局長御自身が、大半は日本船じゃないかというふうにお答えになられたということではないかなと思うんですが、当然、加害者には、日本船のケースもあれば外国船のケースもあるわけですし、しかも、漆原委員は、第十八光洋丸のケースを例に挙げて御質問をされているわけでございます。これはまさに外国船が加害者になっているケースでございます。

 にもかかわらず、局長の答弁には、では外国船全体としてどのぐらいあるのかというケースについては承知していないというか、お調べになられていないというか、それをあえて外された数字というか、日本のPIに入っているケースで、保険金の支払い件数全体の〇・一%ぐらいが実際には損害額が保険金の支払い額を上回ったケースだと。だから、〇・一%という数字には、実際上は外国船のケースはすべて盛り込まれているわけではないということだったんです。

 これでは、わざわざ漆原委員が第十八光洋丸の例を挙げながら御質問をされたこの趣旨にかなっていないんじゃないか、誠意ある答弁ではなかったんじゃないかと思いますが、大臣のお考えをお聞かせください。

南野国務大臣 今の先生のお尋ねでございますけれども、やはりそういうような保険にどれだけ入っているかということも、大変大きな課題であろうかと思っております。

 外国の保険が幾つあってということを、私、今存じ上げておりませんけれども、そういうものとの兼ね合いでございますので、できるだけ多くの船主がそういう保険に加入していただき、同じ土俵でお話し合いができれば、そこら辺のばらつきは少しでもよくなるのではないかなというふうにも思っております。

松本(大)委員 今お述べになられたのは、外国の船会社に対する希望というか、はかない願望ではないかなというふうに思うんですけれども、外国の船会社がすべて日本のPIに加入するわけではありませんし、やはり、後にも触れますけれども、外国船が海外の保険会社と契約していて、うまく救済が図られていないケースというのは現に存在をしているわけですから、当然、それについても調べた上で、現状はどうなのかと立法事実の検証を行っていかなきゃいけないと思うんです。

 というのは、冒頭の質問で、私、今回の法改正の趣旨は被害者保護の強化なんですかと聞いたら、端的に、そうですというふうにお答えをいただいたわけですから、被害者保護の強化、被害者の視点に立つのであれば、当然、加害者が外国船であろうと日本船であろうと、きっちり立法事実を検証しなければならなかったのではないかなというふうに思います。

 残念ながら、かけ声とは裏腹に、どうも、うがった見方をすると、日本の船主に対して、いや、実際には損害額が保険金の支払いを上回っているケースは〇・一%しかないんだから、保険金の上限が引き上がったとしても掛金はそんなに上がりませんよ、だから大丈夫ですと、要するに加害者になり得る船主を説得するためのデータなんじゃないかなと。だから、加害者側の視点に立った説明の仕方なんじゃないかなというふうに私は思っています。

 恐らく、被害者になり得る方の立場からすれば、今回の法改正の機会に、泣きを見なきゃいけないというような立法の不作為は解消してほしいというのが人情だと思うんですね。だけれども、外国船のケースは十分な調査、検証がされていなかったというのは、私は非常に残念であります。

 本日、お手元に配付させていただいた資料の表ですけれども、これは国交省さんにお調べいただいたんですが、昨年一年間、国有港湾施設で起きた事故が四十七件ありまして、日本船がそのうち十二件、船籍不明の一件を除く三十四件は、つまり七割以上は外国船によるものなんですね。にもかかわらず、外国船が我が国の領海内や港湾施設で起こした事故については、今回の立法事実の検証の中にきっちりとは含まれていないということだろうというふうに思います。

 委員長、これまでのやりとりをお聞きになられていたと思うんですが、やはり被害者保護の強化を立法の趣旨に挙げるのであれば、当然、日本船のみならず、少なくとも我が国の領海内、港湾施設で起こした事故については、外国船のケースについても、たとえ日本のPIに加入していなくても、調査をするということを行ってしかるべきですし、そのデータが示されないままにきょう採決が予定されているわけですが、これはいささか尚早ではないかなというふうに思うんですが、いかがでしょうか。

塩崎委員長 私に対する質問ですか。

松本(大)委員 ですから、データを出していただいた上で、もっと慎重な審議が必要ではないかなというふうに思うんですが。

塩崎委員長 そこは法務省の方で御検討いただいたらと思いますけれども、いかがでしょうか。

寺田政府参考人 大臣から、冒頭に、被害者の救済ということを申し上げたわけであります。それは、もともと、この七六年条約から九六年条約に上がる際に経済情勢が変化して貨幣価値も変わったこと、それから、必ずしも従前では十分でない被害者の救済についてもいろいろ検討された結果、国際的にこういう枠組みができたわけでございます。日本は、海運国全体の中ではいわば率先してこの九六年の議定書に加入しよう、こういう意思決定をして、それが大臣の先ほどの答弁の背景にあるわけでございます。

 したがいまして、私どもは、その引き上げ自体、議定書への加入自体は、被害者のことを十分に考えた上で、しかし、もともとのこの船主責任制限法というのは、海上の非常に危険な地域にあえて企業として乗り出していく、そういう海上企業についての一定の、保険を掛けているという現実を前提にした上ですか、保護ということとのバランスから成り立っているわけです。そのバランスが、私どもとしては必ずしも被害者の救済の方に十分バランスが行っているとは思えない部分もかつてあったわけでございますし、現在でも、一〇〇%これが十分に達成されているとはもちろん思っていないわけであります。

 先ほどの、私が〇・一%と申し上げましたのは、もちろん加害者側の保険のことも念頭にないわけではございませんけれども、しかし、全体として、この船主責任の制限があることによって救われない方というのは、日本船の場合も外国船の場合も当然あるので、日本船においてそれほど多くないということは、外国船においても保険がかかっている部分についてはそれほど多くないということを通常示しているということで一応お示しをしたもので、外国船については全くそれと違ったデータが仮にあるのであれば、私はそういうことをあえて申し上げなかったわけであります。

 今のお尋ねにございますように、外国船についてもいろいろな事故が起こり、かつ、これはこの前の前の審議で申し上げたところでございますけれども、現に裁判が起こっている中には外国船のものも含まれており、かつ、制限額を超えているのに制限額に結局抑えられたことがあるわけでありますから、被害者の救済が十分でないということは私どもも十分認識をした上で、しかし、国際的な調和を考えて、その枠内で今回の議定書に入って、その議定書に基づく法改正をしたい、こういう考え方で、今回、法案を御提出申し上げているところでございます。

松本(大)委員 その九九・九%という確率は、恐らくは外国船と日本船とでそんなに差はないんだ、ないんじゃなかろうかという仮説を立てられて、そのもとに今回の法改正の立法事実とされているというような気がしますけれども、仮説であれば、やはりそれは客観的なデータをもとに検証していかなければなりませんし、それをぜひ示していただきたかったなというふうに思います。

 もう少しこれをやりたいんですけれども、ちょっと時間の関係もあるので、きょうはせっかく国土交通大臣政務官にもお出ましをいただいていますので、次の質問に移ります。

 外国船による事故についての具体的な事例として、私の地元広島県で昨年起きましたロシアの木材運搬船による岸壁衝突事故を取り上げたいと思います。

 お手元に地元紙の記事を配付させていただきました。昨年九月の台風十八号については、御記憶の方も多いことと存じます。このケースは、私の地元の広島県の廿日市市の木材港というところに停泊していたロシアの木材運搬船が、台風の波浪で岸壁にたたきつけられて沈没した、ロシアの乗組員がお亡くなりになられて、国有財産である岸壁が百二十メートルにわたって破損した、流出した油によってカキなど地元の漁業にも被害が出たというケースでございます。

 ただ、問題なのは、台風が去って九カ月たった今も復旧の見通しが立っていないということでございます。

 今回のこの事故の概要を、被害額も含めて、また国有財産であるこの岸壁の復旧に向けた国の取り組みについて、国土交通大臣政務官にお聞かせいただきたいと思います。

岩崎大臣政務官 昨年の九月七日に、広島港廿日市地区岸壁に係留中のカンボジア船籍木材運搬船が、台風十八号によります暴風雨の影響により、船体を岸壁に衝突させ、木材埠頭の岸壁三百七十メートルのうち百二十メートルを破損したものでございます。

 施設を管理いたしております広島県からは、詳細については現在精査中と伺っておりますけれども、当該岸壁の復旧見込み額は約一億二千万円程度、また、別途漁業者に対する補償として約六千六百万円が請求されているとのことであります。

 国土交通省といたしましては、原因者であるロシア船主と保険会社、港湾管理者との協議を見守っている状況であります。

 また、施設の管理の責任の問題でありますが、国が所有している港湾施設に該当いたすわけでありますが、その場合には、国から港湾管理者であります地方自治体に管理を委託し、その施設使用料収入を港湾管理者の歳入としているというのが制度の建前でありまして、船主責任の制限法によりまして船主の責任が制限される場合におきましても、第一義的には港湾管理者である広島県において対応されるものと考えておるわけであります。

松本(大)委員 被害額が、岸壁損傷部分が一億二千万、漁業被害が六千六百万ということだったんですが、この新聞を読みますと、保険の手続がおくれているというふうになっていまして、もしもこの保険の支払い額が今の一億二千万と六千六百万の合計を下回っていた場合、保険で賄えない部分については、だれの負担で修復するんでしょうか。

岩崎大臣政務官 現行法によります当該船舶の現在の船主責任制限法上の責任限度額は約一億円と見込まれているわけでありまして、したがって、この事故に際しましては、それを超える損害額が出ているわけであります。したがいまして、それにつきましては、ただいま御答弁申し上げましたように、維持管理の責任は港湾管理者が一義的に持っておられるわけでありますので、広島県において適切に対応されるものと考えております。

松本(大)委員 国有財産であるのに、一義的には広島県が全額負担すべきだというのは、私は正直なところ違和感があります。

 先ほど、保険の金額は恐らく一億円だというふうにおっしゃったんですが、ロシアは我が国に先んじて九六年議定書を批准していまして、もし九六年議定書で計算すると、責任限度額が二億四千万になるはずでございます。したがって、九六年議定書ベースの保険にきちんと加入をしていれば、先ほどの一億二千万の岸壁損傷と六千六百万の漁業被害についてはこの二億四千万の保険でカバーされるということになるわけです。

 したがって、その保険がどうなっているんだという事実確認が何より大事だと思うんですけれども、実際にこの船が加入してるPI保険の金額が幾らになっているか調べていらっしゃいますでしょうか。事務方の方でも結構です。

中尾政府参考人 お答えいたします。

 今調べている範囲は、広島県の数字でございますけれども、約一億円というふうに聞いております。

松本(大)委員 なぜ一億円になっているのかというのは、ちょっと私もこの場ではすっきりはしないんですけれども、ロシアが議定書に批准をしている、であれば当然、このトン数であれば二億四千万の保険に加入してしかるべきであると思いますので、実際のところはどうなのか。今、聞いておりますということだったんですが、九六年議定書に批准をしているんだという事実をもとに、これは二億四千万じゃないんですかという突き返しというか切り返しを、ぜひ、設置者であり所有者でもある国が、県に対して、確認をとらせるというか、連携して確認を急いでいただきたいと思いますね。

 もしこれが保険でカバーされていれば、先ほど政務官がおっしゃった、その上端の部分というか、カバーされない部分は県が一義的に負担すべきだというところも、県の負担は少なくなるわけですから、そういった意味でも、実際の保険の金額が幾らなのかという調査をぜひ県と連携をとって行っていただきたいと思います。

 さて、この船責法なんですが、三条三項に「船舶所有者等若しくは救助者又は被用者等は、前二項の債権が、自己の故意により、又は損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為によつて生じた損害に関するものであるときは、前二項の規定にかかわらず、その責任を制限することができない。」という責任制限の阻却事由が付されております。

 そこで、今回の事故については、海上保安庁の沖合への避難勧告を無視してそのまま停泊し続けたというケースでございますので、その海上保安庁を所管している国交省さんに伺います。

 このロシア船の船長による行為、避難勧告を無視して停泊し続けた行為というのは、現行法、船責法の三条三項に規定される責任制限の阻却事由に該当するのかどうか、政府としての見解をお示しください。

岩崎大臣政務官 これは、具体的事案の関係でございますから、そうした観点も踏まえて、現在、原因者でありますロシア船主、それから保険会社、港湾管理者であります広島県の間で協議しているわけでありますから、ただいま御指摘の点も十分協議の対象になっているものと考えているわけでございます。

松本(大)委員 我が国の国内法に抵触しているかどうかを協議する必要はないと私は思います。

 では、この法律の所管官庁である法務省に伺いたいと思います。

 民事局長に、先ほどのケースがこの三条三項の責任制限の阻却事由に該当しているのかどうか、見解をお示しいただきたいと思います。

寺田政府参考人 この責任制限阻却事由というのは、具体的な事実を前提に考えなきゃならないわけでございまして、今委員がまさにお取り上げになられました、台風が接近しているあるいは暴風雨が来ている、どのぐらいの強さなのかというような、さまざまな事実関係をもとに判断いたしますので、私どもとしては、一義的にこれがどちらに当たるか当たらないかということを今申し上げることができる状況にはございません。

松本(大)委員 何か大変寂しい御答弁なんですけれども、なぜ私がここにこだわるかといえば、要するに、保険で賄えなければ広島県が全額負担して直してくださいよと言っている。では、保険でカバーされているかどうか確認したんですかと聞けば、いや、一億円だと聞いているということなんですが、実際にロシアは九六年議定書を批准しているわけですから、二億四千万であったとしてもおかしくない。さらに言えば、責任制限の阻却事由に該当していれば、そもそも保険金云々ではなくて、全額の賠償責任がこのロシアの船に生ずるということで、広島県としてもあるいは国としても、国有財産の復旧に向けて交渉のハードルが下がっていくということになるから、私はここにこだわっているわけでございます。

 昭和五十七年の改正の際に、太田誠一委員がこの三条三項に定める無謀な行為について質問をされています。当時の中島民事局長は次のように答弁しています。「たとえばあらしが来ておる、その最中に出航をすれば事故発生の危険は非常に高い、そういうことを認識しながら、通常人であれば当然思いとどまるべきであるような状況のもとで出航をした、あるいは船主の場合であれば出航を命じたというようなことが、この「損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為」に当たるであろうというふうに理解をしておるわけでありまして、」というふうに答弁をされています。

 このケースは出航したわけではありませんが、「たとえばあらしが来ておる、」「事故発生の危険は非常に高い、そういうことを認識」というケースに該当しておりますし、そういうことを認識したからこそ、海上保安庁はそう認識したからこそ沖合への避難勧告を出したわけですね。海上保安庁に沖合への避難勧告をされれば、損害の発生のおそれがあることを当然認識し得たはずなんですね。

 ですから、この答弁で言うところの、「通常人であれば当然思いとどまるべきであるような状況」、この場合は、勧告を無視して停泊し続けるようなことは、当然思いとどまるべきであった状況に該当する。したがって、「損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為」に当たるというふうに私は思います。

 改めて民事局長にお伺いします。

 過去の中島民事局長の答弁に照らして、今回のロシア船の行為はこの三条三項の無謀な行為に該当する、したがって責任制限は阻却されるべきであると考えますが、もう一度御見解をお願いします。

寺田政府参考人 当時の中島民事局長の答弁、私も記憶いたしておりますが、これは、一般論といたしまして、どういうケースがここの無謀な行為に当たるかということを問われましてそのような答弁をしたわけでございますが、先ほども申し上げましたように、では具体的な事実が本当にこの三条三項に当たるかどうかということは、これはやはり事実関係によりますので、おっしゃられたように、それに当たる可能性があるかというお尋ねであればその可能性はあるとは思いますが、それに当たるかどうかということを政府として確定的に申し上げるような問題ではないだろうというふうに先ほど御答弁申し上げたわけでございます。

松本(大)委員 可能性はあるのであれば、ぜひ、それに該当するのかどうか突き詰めていただきたいと思います。これは国有財産ですから、このまま、台風が去って九カ月間もそれが復旧されていない、国益が損なわれ続けているわけですから、ぜひその点を詰めていただきたいなというふうに思います。

 このお手元の資料に戻っていただきますと、復旧の見通しが立っていないケースというのは、私の地元のケースだけかと思いましたら、実は八件あるんですね、黒いマジックで囲んだところなんですけれども。その八件のうち五件が外国船が原因になっているんですね。

 先ほどから官僚の皆さんからはつれない答弁が続いておりますので、ぜひ、せっかくお出ましいただいた、政治家である政務官の政治的判断を求めたいと思うんですが、この廿日市の木材港の岸壁の復旧に向けて、例えば保険内容の確認であるとか、加害者との交渉、事実関係の確認であるとか、あるいは最悪の場合の財政支援も含めて、私は、設置者であり、そして所有者であり、そして被害者でもある国がもっと主体的、積極的に関与すべきである、広島だけではないわけですから、こういったケースについては国が積極的に関与すべきであるというふうに考えますが、政務官の御見解をお聞きしたいと思います。

岩崎大臣政務官 先ほどもお答えしましたように、国有施設である港湾施設については、港湾管理者に維持管理をすべてゆだねているわけで、その対価といたしまして使用料の徴収権限を与えているわけであります。

 したがいまして、幾つかの件についてまだ処理が済んでいないということでありますが、当然、港湾管理者としてそこは港湾機能をきちっと確保しなきゃいけませんから、港湾機能に支障のないように話し合いをできるだけ早く進めていただきたい、このように期待をいたしているところであります。

松本(大)委員 そもそも、前回の改正並みに今回の改正が早く行われていれば広島県もこんな苦労をしなくて済んだわけですから、やはり岸壁の所有者である国も、今ずっと連なってきた答弁のように、何か傍観者のような立場をとられるんじゃなくて、国民の税金で建設された国有施設が復旧されないまま放置されている、国益が損なわれ続けているということに関して、ぜひ主体的な取り組みを行っていただきたいということを申し上げまして、質問を終わります。

塩崎委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 これより討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 内閣提出、参議院送付、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を改正する法律案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

塩崎委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

     ――――◇―――――

塩崎委員長 次に、内閣提出、参議院送付、刑法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 趣旨の説明を聴取いたします。南野法務大臣。

    ―――――――――――――

 刑法等の一部を改正する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

南野国務大臣 刑法等の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。

 人身の自由を侵害する行為の典型である人身取引については、国連において、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書、いわゆる人身取引議定書が採択されていますが、近年、我が国でも、人身取引やこれに関連する反社会的行為が発生していることがうかがわれます。

 政府としましても、人身取引が重大な人権侵害であるとの認識のもと、その防止、撲滅と被害者保護に向けた総合的な対策を進めており、平成十六年十二月には、同議定書を早期締結すべきことも盛り込んだ人身取引対策行動計画を策定しております。

 加えて、人身の自由を侵害する行為としては、長期間の監禁事案や悪質な幼児略取誘拐事案、国境を越えた略取誘拐事案など、現行の罰則では適正な処罰が困難な事案も見られます。

 また、同様に国連で採択された国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する陸路、海路及び空路により移民を密入国させることの防止に関する議定書、いわゆる密入国議定書は、他人を不法入国させることを可能にする目的で行う不正な旅行証明書の製造等の犯罪化等について規定しており、我が国においても、これに沿った国内法を整備する必要があります。

 なお、政府は、平成十六年十二月、テロの未然防止に関する行動計画を策定しましたが、その中でもテロリストを入国させないための対策の強化が求められているところです。

 この法律案は、両議定書の締結に伴い、また、近年における人身取引その他の人身の自由を侵害する犯罪の実情等にかんがみ、刑法、出入国管理及び難民認定法等を改正し、所要の法整備を行おうとするものです。

 この法律案の要点を申し上げます。

 第一は、刑法を改正して、人身取引議定書の締結に伴い必要となる罰則の新設等を行うものであります。

 すなわち、同議定書が定める人身取引の処罰を可能とするため、人身売買の罪を新設するほか、臓器摘出目的を含む生命もしくは身体に対する加害の目的で行う略取等や、被略取者引き渡し等の行為の処罰規定を整備することとしています。また、国外移送目的略取等の罪の構成要件を日本国外移送から所在国外移送に拡大するほか、逮捕及び監禁の罪並びに未成年者略取及び誘拐の罪の法定刑を引き上げることとしています。

 第二は、出入国管理及び難民認定法を改正して、人身取引議定書及び密入国議定書の締結並びにテロリストの入国防止のための規定の整備を行うものであります。

 まず、人身取引された者の保護に関し、これらの者につき、一部の上陸拒否及び退去強制の対象から除くとともに、上陸特別許可及び在留特別許可の対象となることを明示し、他方、人身取引の加害者につき、新たに上陸拒否及び退去強制事由を設けることとしています。また、不法入国等を容易にする目的で行う旅券等不正受交付等の罪を新設するほか、船舶等の運送業者に対する外国人の旅券等の確認義務や、外国入国管理当局に対する情報提供に係る規定の整備を行うこととしています。

 第三は、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律を改正して、今回新設する罪等を犯罪収益等の前提犯罪とするものであります。

 その他所要の規定の整備を行うこととしております。

 以上が、この法律案の趣旨であります。

 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。

塩崎委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。

 ただいま議題となっております本案審査のため、来る十日金曜日、参考人の出席を求め、意見を聴取することとし、その人選等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 午前十時四十分から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午前九時四十分休憩

     ――――◇―――――

    午前十時四十五分開議

塩崎委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 各件調査のため、本日、政府参考人として法務省民事局長寺田逸郎君、法務省刑事局長大林宏君、法務省保護局長麻生光洋君、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長塩田幸雄君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局大谷刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。泉健太君。

泉(健)委員 民主党、京都の泉健太でございます。

 きょうは、この法務委員会の方での一般質疑ということで、私の方からは、二〇〇三年に成立をしました心神喪失者等医療観察法について、改めて質問をさせていただきたいというふうに思います。

 といいますのも、実は、ことしの三月の後半から四月の頭にかけて、新聞各紙にこんな記事が載っております。医療観察法、施行前の改正を検討という記事が各紙に載りました。

 どういうことかといいますと、医療観察法の方で、全国各地に、国公立の病院に、重大な犯罪行為を起こした精神障害者、そういった方々の、心神喪失者の入所というか措置入院をさせるための場所を約二十から三十カ所定めるということでこの法律ができていたわけですが、実際のところ、ほとんどのその拠点として整備をしようとしていた場所で反対運動、住民の説明会の中でも大きな反発が起こって、合意がとれないというケースが相次ぎまして、結局のところ、今合意がとれて着工ができたのは三施設だけという状況となっているわけなんです。

 まず、この医療観察法に基づく拠点整備の現状についてお答えをいただきたいと思います。

塩田政府参考人 心神喪失者等医療観察法は、御指摘がありましたように、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った人に対して適切な医療を提供し、その方の社会復帰を目指すという法律でございます。

 その中心となるのが指定医療機関でありまして、対象となる方に適切な医療を施すことによって、その人の社会復帰を目指すということでございます。法律上、国立、都道府県立病院で整備をするということになっているところでございます。

 今後三年間で、段階的に全国でおおむね二十四カ所、七百床を確保するということで整備に努めているところでございますが、国立は八カ所を予定しておりますが、御指摘がありましたように、現時点では三カ所程度の整備にとどまっているところでございます。

 都道府県立についても、厚生労働省の幹部総出で整備をお願いしておりますけれども、一、二の都道府県を除きまして、現時点では必ずしも積極的なお返事をいただいていないというところでございます。

 今後とも、指定医療機関の整備に努めてまいる所存でございます。

 現時点では、三カ所、九十床程度の整備になっているということでございます。

泉(健)委員 ということなんですね。対象者とされる方が年間に大体三百人ぐらい出てくるというふうに言われているわけですけれども、今お話がありましたように、国立の場合ですと八カ所中三カ所ですか、都道府県立の場合は十六カ所中一カ所というようなお話です。病床数でいいますと九十九床。とてもこれは足りないということは、これは小学生でも、足し算ができればわかるお話なわけですね。

 さて、そういう状況で、今、新聞報道ではありますけれども、この法律を施行前に改正するということについて与党と協議に入るということがこの新聞報道ではなされているんですが、現在の与党との協議状況はどうなっていますでしょうか。

塩田政府参考人 先ほど申し上げましたこの法律の準備状況について、関係の先生方に個別に状況を御説明しているという段階でございます。

泉(健)委員 それでは全然わからなくて、どんな改正を今考えられているんですか。

塩田政府参考人 現段階では、法律の施行状況を説明するとともに、確保を考えている指定医療機関の整備がかなり難しい状況にあるということを御説明申し上げているところでございます。

 私どもといたしましては、法の施行に向けて、今後とも、国の施設の整備はもちろんですけれども、都道府県に対して一層の要請をして最大限努力をするということでございます。

泉(健)委員 具体的には今何もないということでよろしいんでしょうか。

塩田政府参考人 法律の施行は公布の日から二年以内ということでありまして、七月十五日までの施行ということになると思いますが、現段階では法律の施行自身に支障はないと考えておりますが、長期的に見て、今の整備がなかなか進まない状況が進んだ場合には、法律の円滑な運用に支障が生じるおそれもありますので、私どもとしては、いろいろな事態を想定して、その場合にどういうようなことを考えるべきかについては、法務省とも相談しながら、そのときの対応策については部内的にはいろいろ検討をしているということでございます。

泉(健)委員 その検討の中に入るのかどうか、恐らく入れているんでしょうが、新聞報道では「都道府県立精神病院を代用するなどの経過措置を新たに盛り込む方向」だということで載っておりますが、これは事実でしょうか。

塩田政府参考人 この法律の中心となる指定医療機関につきましては、法律上、かなりの専門性を有する医療機関であることと公共性がある医療機関ということで、国と都道府県立に限られているところでございます。

 そういった観点から、必要な病床を確保するためには国あるいは都道府県に協力をしていただく以外に方途はないわけでありまして、やはり国はもちろんこれから最大限の努力をいたしますけれども、法律の趣旨からしますと都道府県にいろいろな形で協力をしてもらうという形での解決の方途を模索することが不可避ではないかと考えております。

泉(健)委員 そもそも、この法律は審議がされていたころからやはり大きな問題が多々ありまして、私たち民主党もこれは反対をしていたわけなんです。

 やはり、そもそも犯罪を種別によって、その犯罪が重大犯罪だったからといって、その人たちを集めてこういった形での拠点を整備するということが、果たしてそれが差別につながらないのかということは多くの指摘がなされていたところでして、そういったところで、全国各地、いわゆるそういう施設というものが自分の家の近く、地区に来るのはとてもかなわないというような方々が、こうして印象として持ってしまっているわけですね。

 現在でも都道府県立の精神病院あるいは民間の精神病院というのはあるわけですが、そういったものの中で私たちは全体の精神医療の水準を上げていくべきだということを常に提言してきたわけなんですけれども、残念ながら、こうした形で重大な犯罪行為を起こした者を別に処遇するということになってしまったものですから、実際にこういった住民から多くの反対運動も起こっているというふうに私は考えております。

 そういった中で、今お話がありましたが、結局のところ、まだ何もその整備について具体的に進んでいないというような話です。実際に、ことしの十二月ぐらいにはもうこの九十九床のままでは当然満杯あるいはあふれるという状況ができてくると思うんですが、そこまでに対応は間に合うというふうに考えてよろしいですか。

塩田政府参考人 原則は、法律が想定する本来の形の指定医療機関の整備に最大限努力するということになりますけれども、仮に本来の指定医療機関の整備に不足を生じるという場合があるとすれば、それに対しては、法律の趣旨、精神障害ゆえに重大な犯罪を犯した人に対して手厚い医療を施してその方の社会復帰を目指すという本来の趣旨に沿った医療が提供されるような形で、何らかの代替的な対応についても検討することが不可避ではないかと考えております。

泉(健)委員 やはりその代替的な対策ということが何を指すかだと思うんですね。

 もし仮に、都道府県立精神病院を代用するということになりますと、これは当然一般病棟というものがこれまで精神病院にあるわけですけれども、その一般病棟の、病院の中に増築をしたりあるいは新築をしたりということで、そこに人員を整備し、あるいは設置の基準に合った建物をつくりということで考えてよろしいんでしょうか。

塩田政府参考人 現時点では本来の指定医療機関の整備に努めるということが大原則でありますけれども、仮に指定医療機関の整備が、準備が整わないというケースについてどう対応するかということでありまして、これから関係の方々、まずはこの法律の立案に当たっていただいた先生方、いろいろな関係者の意見を聞いて、どういう対応ができるかということを検討するということでございますが、精神疾患ゆえに犯罪を犯してしまった方々への手厚い医療をきちんと提供するということが基本でありますので、そういう本来法律が求めている医療の水準、それから現実に都道府県が対応できる限度、そういったものを関係者の意見をよく聞いた上で、どういうことが対応可能かについて英知を集めて対応を検討することになるのではないかと考えております。

泉(健)委員 これから専門病棟に改築なり増築をしていく場合に、そうすると、一般病棟への受け入れ体制、一般の患者さんですね、そういったものにも影響は出てくるということはあると思うんですね。まずそのことについてお答えをいただきたいのと、今回の場合は特に指定入院医療機関が恐らく足りなくなるだろうということなんですが、そういった中で、さらに玉突きのように、通院医療機関の指定あるいは整備ということについては、今のところおくれ等々はないんでしょうか。

塩田政府参考人 指定通院医療機関の方につきましては、おおむね順調に指定作業が進んでいると考えているところでございます。

 それから、この法律に基づきます医療は国または都道府県の医療機関で提供するということでありますけれども、元来、精神保健福祉法では、国とか都道府県は精神医療において専門的な公共性の高い医療を提供するのが本来の役割でございますので、本来の形からすれば、都道府県立あるいは国立病院は、こういった法律に基づく手厚い先駆的な医療をするという意味で、こういった分野を優先的に対応していただくのも一つの考え方だと思います。

 各都道府県、公的な医療機関のあり方について、行革の観点とかいろいろなあり方について模索されておりますけれども、そういう中で、県立の病院のあり方として、一般の精神医療ではなくてこういった分野を重点的にやるということで方向づけをしていただくことは、都道府県立病院のあり方としてもあり得る話だと思います。

 仮に都道府県にお願いするにしても、県立病院としての一般病棟への影響がある形であれば、それぞれの県でそういう専門病棟の整備ができないわけですから、どこに現実の着地点を求めるかについては、個別の都道府県とよく相談した上で対応していただくということに当然なると思っております。

泉(健)委員 全国で説明会というものを開かれているわけですが、これは説明会の方には厚生労働省と法務省からも人は出ているんでしょうか、それぞれお答え願います。

塩田政府参考人 現在までに百回を超える説明会を、地元の住民の方々でありますとか地元の議会でありますとか、やってきておりますが、中心的には私どもの厚生労働省のスタッフが行っておりますが、ケースによっては法務省の方にも参加して、対応させていただいております。

泉(健)委員 法務省の方もそれでよろしいですね。

 その中で、これはあるケースなんですが、国と市は日程の案内を市報には掲載せず、病院周辺の自治会にしか伝えなかった、例えばこういった説明会を論争の場にしたくなかった、これは市の障害福祉課のコメントで出ているわけなんですけれども。説明会を開かれるときに、国は地元住民に対してどういった観点で情報を伝達しようというふうにお考えでしょうか。

塩田政府参考人 指定医療機関整備に当たっては、地元の理解をいただくということは不可欠の要素でございます。そういった観点で百回を超える説明会をしておりますが、説明会の開催に当たりましては、まず地元の市町村にどういう形で地元の住民の方に広報することがいいのかということを御相談申し上げまして、それぞれの市町村のお考えに沿って公報に載せたり載せなかったりという対応をしているところでございます。

泉(健)委員 そのときに、説明会の中で、それはいろいろと施設の概要ですとか今後の運営の仕方について具体的な中身ということにも触れられてはいると思うんですが、いわゆる理念、考え方、精神障害者の福祉の向上ということについて、しっかりとした説明はなされているんでしょうか。

塩田政府参考人 その場その場できちんと説明していると思いますが、先生から御指摘ありましたように、この法律というのが、日本の精神保健福祉医療の向上につながる施策でありますし、逆に言うと、日本の精神保健福祉の向上を図る観点、その一環としてこの指定医療機関を位置づけるということが不可欠の要素だと思いますので、こういう今度の法律の趣旨、また地域の精神保健福祉の向上を図る観点からこの施設が位置づけられるというようなことについても、きちんと地元に説明できるように今後とも努力したいと思います。

泉(健)委員 私たち民主党は、先ほども言いましたが、そもそも犯罪の種別によってこういった心神喪失者の受け入れ先というものを変えるべきではないということを言ってきたわけなんですけれども、こうして法律が通ってしまった以上は、それは政府にしっかりとした説明責任あるいは理解をしていただくということが当然あるわけでして、そういったことからも、ぜひこれは、しっかりと再犯を起こさないために、また、各施設、安全対策も十分にとっているんだと。

 いろいろ聞きますと、厚生労働省の方では、いわゆる精神障害者が医療機関から逃げ出したことについてはどうやら逃亡という言葉は使わないというお話もちらっと聞いて、無断退去ですか、何かそんな言い方もするらしいですね。脱走、逃亡という言葉は使わないらしいのです。

 とはいえ、それは一般の皆さんにしてみれば、そんな建前論なんというのはどうでもよい話でして、しっかりとした安全対策、きっとこれはとられているんだろうと思いますから、堂々とやはりそこは説明をして、そして真っ正面から御理解をいただくということもしていただきたいと思います。

 決して情報を隠していいことは全くありません。どんどん不信感が出てくるだけだというふうに思いますので、やはり政府としてこの法案を通した以上は、こういう施設がこの国には必要なんだということをしっかりと強く訴えて、そしてその本論から住民の皆さんにも御理解をいただく努力をもっとすべきだということも私はお伝えをしておきたいというふうに思います。

 そういう中で、今この施行前の法改正についていろいろお伺いしましたけれども、現在のところ、今のお話では、ことしの七月十五日が施行期限ということですけれども、このまま施行するのか、あるいは法改正をするのかというところなんです。

 済みません、もう一度お伺いをします。法改正を予定しているのか、それとも現在の法のままで何とか解釈なりで乗り切っていこうというお考えなのか、そこについてもう一度お聞かせください。

塩田政府参考人 現段階では、法の施行に向けて指定医療機関の整備に万全を尽くすということでございます。そして、三カ所整備が進んでおりますので、法の施行自体には支障がないと考えているところでございますが、このまま指定医療機関が整備が進まないという状況が進んだ場合には、法の円滑な施行に支障が生じることも想定されますので、法律の趣旨に沿って御本人たちに適切な医療を提供できるにはどういう形の対応策があるかについては真剣に考えるということであります。

 先生御指摘があったように、この法律によって、日本の精神保健福祉の向上につなげていくことも可能ですし、逆に言えば、日本の精神保健福祉の全体を向上し、地域で精神障害者が暮らせるという意味でこの施設が必要不可欠な施設だということをきちんと説明した上で、そういうものが実現するために国、都道府県はどういう役割を果たすのか、今の法律だけでその責任を果たせるのかどうかについては、法律の施行後も真剣に法務省とも御相談させていただいて、もちろん、この法案、委員会で真剣な議論をして成立させていただいた法案ですので、関係の先生方にもよく相談した上で、どんな対応が可能かについて考えたいと思っております。

泉(健)委員 少し細かい話なんですが、今の厚生労働省の検討されている方向の中で、都道府県立精神病院を代用するということになりますと、本来、国公立の病院で体制を整備しようとしていた。そこには、当然のように、人員配置についてはかなり一般の精神病関係の水準よりも手厚くされているわけでして、この人員の確保ということがまた課題に上がってくると思うんです。

 その中で、独立行政法人なり国公立の病院に本来的には勤めるということで現段階から話をしているケースがあるのかどうか、それは少しわかりませんが、そういった人員の確保をしているときに、これが都道府県立病院で仕事をするということになった場合のその人の雇用は、これは都道府県の雇用ということになるのか、それとも、とりあえず経過措置なので国の方の雇用ということになるのか、どちらなんでしょうか。

塩田政府参考人 本来この法律が想定したレベルの高い医療を確保するための医療機関の整備を目指すということが大原則でありまして、仮に都道府県に補完的な対応をお願いするとしても、それはあくまで暫定的なものであって、将来的にはちゃんとした本来の形を目指すということでございます。あくまで、これはまだ都道府県とも全く御相談しておりませんし、立法府の先生方とも正式な形で御相談しておりませんので、今の段階でどうこう言える熟度に到達しておりませんが、今御指摘の範囲内であれば、当然県立病院のスタッフであれば県の雇用ということだろうと思います。

泉(健)委員 時間も限られておりますので、次の質問に移らせていただきたいと思いますが、その前に大臣に、きょう法務大臣お越しいただいていますので、今こうして体制整備がおくれているという現状があります。そして、体制整備がおくれていても、当然のように毎日裁判も行われ、毎日警察、検察の取り調べも行われ、起訴も行われているという状況で、その対象者はどんどんふえていっているわけですね。こういう状況について、法務側から大臣の御見解をいただきたいと思います。

南野国務大臣 今るる厚生労働省の方からのお返事もございました。そのことをしっかり我々サポートし、または、ともにそういう問題点を考えていかなければならないと思いますが、今先生がおっしゃったような課題もそれに含まれております。

 七月十五日を目途と精いっぱい努力したいというふうに思っております。

泉(健)委員 ぜひ精いっぱい努力をしていただきたいと思います。

 次に、私たちが、国会答弁の中で当時の坂口厚生労働大臣からの御答弁をいただいたわけですけれども、平成十四年十一月二十九日の法務委員会厚生労働委員会連合審査会というものがありまして、この中で、いわゆる七・二万人の社会的入院患者の解消ということをどう図っていくかということの話し合いがありました。その中で、当時の坂口厚生労働大臣が、「これは前にもあるいは申し上げたかもわかりませんが、今までは一応十年というふうに言っていたわけでございます。」そして、「何も十年かかろうというふうに初めから思っているわけではございませんで、できる限り十年を縮めていくことができればというふうに、率直にそう思っている次第でございます。」というような御答弁をしていただいております。これは平成十四年の十一月なんですね。

 それから、私たちも、大変すばらしい答弁だということで、この七・二万人の社会的入院患者を十年間で解消してくださるんだなということで思っていたんですが、どうもその後、政府の対策が進んでいないという現状を見ましたときに、これはいつかまでにちゃんとできるんだろうかというような不安がどんどん強くなってまいりました。

 そして、実は、昨年の十一月に、私どもの方で、山井衆院議員が内閣に対して質問主意書を出したわけです。その中では、必要な期間を一応十年を目標としつつということで、結局、いつから十年が始まったのかが一切書いていない、あるいはまだ始まっていないのかもしれないという状況で、この社会的入院患者の解消はいつまでに図られるのか、これを御答弁いただきたいと思いますが、厚生労働省、お願いいたします。

塩田政府参考人 この医療観察法の議論の際に、日本の精神保健福祉の向上を図ることがこの法律の理解を深める上で不可欠だ、そういう結論になったと思いますし、その際に、当時の坂口厚生大臣の方から、向こう十年間で七万人という社会的入院を解消したいという御答弁を差し上げているところでございますし、当然、その時点からの十年ということだろうと考えております。

 坂口大臣は、国会でのやりとりの後、直ちに大臣自身を本部長とする精神保健福祉対策本部を省内に設置いたしまして、省を挙げての取り組みをしているということでございまして、七万人という社会的入院を解消するには、精神科病院の医療の改善のみならず、地域の受け皿が必要だろうということでありまして、押し出す側と受け取る側の両方の改革が必要だということであります。

 そういった観点で今国会に障害者自立支援法案というのを提案しておりますが、その中で、従来必ずしもはっきりしなかった、市町村が精神障害者の方々に対して計画をつくって地域の受け皿をつくるということもしておりますので、この法案の際に議論となった地域で精神障害者が住めるための対策については、省を挙げて取り組んでおりますし、今後とも最大課題として取り組んでまいりたいと考えております。

泉(健)委員 今の御答弁で、平成十四年からもうスタートをしている、この大臣の御答弁の後からもうこの十年というのはスタートしているんだということで、御回答いただきました。そうしますと、平成二十四年までにはこの問題は解消というふうに、答弁をいただきましたので、私どももそういう認識を持っておきたいと思います。

 残り五分間ぐらいになりましたが、もう一つ大変重要な問題を質問させていただきたいと思います。

 思い切った質問というか、一つの大きな原則を一気に変えることはできないとは私も思っておりますけれども、いわゆる医療観察法の中でなぜ今さまざまな問題が起こっているのかということの中に、刑法三十九条の問題があるというふうに私は思うわけなんです。

 精神障害者が事件を起こした場合の法手続の中で、検察官が起訴前精神鑑定ということをするわけですが、このほとんどがいわゆる簡易鑑定という、費用も安く時間も短い、この鑑定の中でまず判断をされる。そして、実は、心神喪失者、心神耗弱者と認められた者の処分結果というところで見ますと、裁判に至ったケースが平成十五年で八十九例、これは全体の一二・八%、不起訴に至ったケースが六百四件、八七・二%ということで、ほとんどが不起訴になっているわけですね。

 こういった簡易鑑定の末、不起訴になっているという状況でいきますと、実は、事件を起こした精神障害者というのは、まず裁判を受けられていないケースが多数存在をしているということが問題であります。そして、なぜこういった事態が起こるかというと、実は、刑法三十九条では「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」というものがありまして、公にはなかなか言われていませんが、やはり検察サイドとしては、立件をしても残念ながらなかなか裁判が進まない、結局のところ減軽あるいは無罪ということになってしまうので、余り裁判に至らせたくないというようなことも聞いております。

 そういった中で、この三十九条というもの自体も、ある一方では一つの刑法の原則ではあるものの、もしかすると、これは逆に精神障害者に対する特別な扱いということでの差別にもつながるのではないかというような論も、最近少しずつですが、刑法学者の中でも広がりつつあるところです。

 そういった中で、小泉首相が、あの大阪の池田小の事件のときに、ちょうどテレビ収録の中で発言をされました。刑法の改正を視野に法的不備の対応をということで発言をされているわけですが、法務省、この小泉首相の発言について、その見解と対応をどのようにされていますでしょうか。

南野国務大臣 先生御指摘の総理の御発言につきましては、一般論としてお答えしたいというふうに思っております。

 精神障害に起因する事件の被害者を可能な限り減らしていこう、また、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が精神障害に起因するというような不幸な事態を繰り返さないようにするためにはいろいろな対策が必要であろうということの趣旨であった、これは一般論でお答えしたいというふうに思っております。

泉(健)委員 もう時間がありませんので、最後の質問にします。

 本当はもう少し深く掘り下げたかったんですが、この刑法三十九条を定めている理由、これを改めて法務大臣に一度お伺いをしたいというふうに思います。

 近代刑法の中で一つの原則として定められたわけではありますが、現在、被害者感情あるいはその犯罪という部分を見てどう裁くのか、さまざまな原則、各論が述べられておりまして、そういう中で一度法務大臣の御見解をお伺いしたいと思います。

南野国務大臣 先生お尋ねの刑法第三十九条といいますのは、「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」という規定がございます。

 そういう意味では、心神喪失者とは、精神の障害によりまして、事物のことわり、善悪を弁識する能力がない、識別する能力がないか、またはこの弁識に従って行動する能力のない者でありまして、心神耗弱者とは、そのような能力が著しく劣っているというようなことでございます。そういう原則の一つである、責任主義の原則というところに基づいているということを御報告できると思います。

泉(健)委員 以上で終わります。

塩崎委員長 次に、松野信夫君。

松野(信)委員 民主党の松野信夫です。

 一時間の質問時間をいただきましたので、まず最初に、今、泉議員の方も取り上げておりました心神喪失者等医療観察法について若干触れておきたいと思います。

 この施行期限が七月十五日に迫っているということであります。それについて果たして準備は大丈夫かということで、今、泉議員の方からもいろいろ質問がありました。

 特に指定入院医療機関については、当局の御説明ですと、全国で二十四カ所、全部で七百床程度は確保する必要があるということで、それに向けて手続を進めているというようなお話でしたが、今、泉議員に対する御答弁では、結局、現在のところ、施設として国立が八カ所のうち三カ所、都道府県が十六カ所のうち一カ所、床としても九十九床程度しか確保できていない、こういう状況で、とてもとてもその七百床を確保するという状況には至っていないな、こういうふうに言わざるを得ないかと思います。

 これは指定入院医療機関の確保の点ですが、そのほかにもいろいろと、もし本当に七月十五日までに施行するというのであれば、いろいろ政省令の制定をしなきゃいけないし、入院、通院それぞれに係る運営あるいは処遇、行動制限、退院後どうするか、また鑑定入院というふうになったときの基準、ガイドラインはどうなるのか、どうもこの辺も必ずしも十分準備ができていないのではないかな、こういうふうに思いますが、まず、大臣に全般的な準備状況についてもう一度確認をしておきたいと思います。

南野国務大臣 先ほど厚生労働省の方々もお話しになられましたが、心神喪失者医療観察法につきましては、法務省におきましても、現在、その円滑な施行に向けて、厚生労働省等の関係省庁と協議をしながら、必要な政省令等の策定を進めているところでございます。

 また、本制度のもとにおける地域社会における処遇等に重要な役割を果たすこととなる保護観察所に、社会復帰調整官となるべき者を全国で五十六名配置いたしましたほか、各保護観察所におきまして、都道府県、市町村等を初めとする精神保健福祉関係機関と本制度の運用等に関する協議会等を開催いたしまして、連携協力体制の整備を進めているところでございます。

 そういう状況にございますので、ぜひ七月十五日にはこの法にのっとった形で展開できるべく、今最大限の努力をさせていただいているところでございます。

松野(信)委員 それは当然最大限の努力はしていただかないといけないのかなと思います。今大臣のお話ですと、いろいろ勉強会を、研修をしたとか、一定の人員の手当てをしている、その辺はわかりましたけれども、肝心の指定入院医療機関、これは先ほど私も申し上げたように、当初、二十四カ所七百床ぐらい確保する、こういうふうに言っていたんですが、先ほどの話だと九十九床しかできていない。こういう状況のもとでは、とてもとても施行するというふうにはならないのではないかなというふうに思います。

 実際のところ、では、いつになったら七百床確保できるというふうに考えておられるのか。また、実際に施行される、あと一月余りですけれども、一月余りの間に九十九床から相当数増加するという見込みがあるのかどうか。本当に施行時点で何床確保している、こういう見通しに立っているのか。この点はいかがですか。

南野国務大臣 最大限努力するということを先ほど申し上げましたが、指定入院医療機関の確保につきましては、一義的には厚生労働省において検討されることであります。さらなる整備の方策につきましては、現在、先ほどもお話がございましたように、関係各方面のさまざまな意見をお聞きするなどして幅広く検討を進めているということでございまして、この法律の確実な施行に向けて両省庁努力していくということを承知いたしております。

 そこで、法務省としましても、今後とも厚生労働省と十分に協議を行いまして、円滑な施行ができるように検討をしてまいるということのお話しか今十分にできないというふうに思っております。

松野(信)委員 そういうことだとすると、法施行の時点で、目標何床、現実にその目標が達成できたかどうかという具体的な数値はまだ出せない、そしてまた、当初予定していた全国で二十四カ所七百床程度についても、いつまでにそれを達成するという具体的な年月日も今の時点ではまだ明らかにすることはできないということでよろしいですか。

南野国務大臣 一応期限が七月十五日ということを目途にしながら我々やっているところでございますので、御了解いただきたいと思います。

松野(信)委員 それから、入院あるいは通院で、その運営や処遇に関して、具体的にどういうような処遇をするのか、あるいは行動の制限をするのか、この辺の行動制限に関する一定の基準とかガイドラインとか、この辺の策定作業はどうなっているんでしょうか。

塩田政府参考人 この法律の施行に当たっては、政省令事項とか告示事項とかいろいろございます。行動制限は厚生大臣の告示に当たるものでありますが、現在、原案をつくりまして、関係者の意見を聞いているところであります。明日も厚生労働省社会保障審議会において御議論していただくということで、施行に向けて準備をしているところでございます。

松野(信)委員 そういうような答弁だということは、現時点でも、入院の時点、そして通院の時点、運営をどうするか、処遇をどうするか、また退院した後どうなるかということの具体的なガイドラインはまだできていない、今準備中だということでよろしいんですね。

塩田政府参考人 さまざまな準備作業がありますけれども、例えば地域社会における処遇に関するガイドラインにつきましては、既に法務省との協議を終えまして、内容は確定しております。そのほか、医療機関でのガイドライン、運営の留意事項などについては法務省と今協議中でありまして、そう遠くない時期、七月十五日の施行までにはちゃんと内容は確定したいと思っているところでございます。

松野(信)委員 入院、通院以外の点ですけれども、これには、在院命令を根拠にして鑑定命令が出せる、これは法の三十七条にありますが、鑑定をするという規定もあるわけです。鑑定についても鑑定ガイドラインというものがつくられるということで、いろいろと御議論もされているように聞いております。

 ただ一方、例えば日弁連あたりからは、鑑定ガイドラインの策定については反対だ、中止すべきだ、こういうようなかなり厳しい意見も出されているわけですが、この鑑定ガイドラインというものは一体どのような状況になっているんでしょうか。

塩田政府参考人 御質問にありました鑑定ガイドラインにつきましては、厚生労働省として作成するという性格のものではございません。厚生労働科学研究におきまして、専門家の方々が研究の一環で取りまとめたという性格のものと理解をしているところでございます。

松野(信)委員 そうすると、鑑定ガイドラインについては、ある意味では厚労省がみずからつくるものでないということで今お伺いいたしましたけれども、しかし、鑑定命令というのが出されて、それで鑑定の医師がいろいろと鑑定作業をするということに当然なろうかと思います。

 その中で、では、果たして鑑定入院がなされている中で、例えば一定の行動制限の点はどうなるのか、鑑定中に一定の治療が必要になってくるというふうになったときに、その治療の方は一体どうするのか。鑑定を命じられた医師がするのか、それとも鑑定を命じられた医師とは別に、また何やら主治医というものを置いて、その主治医が鑑定入院中の医療は担当するというふうにするのか。例えば手続に対して異議があるというような場合、異議の申し立て、こういうような適正手続は一体どうなるのか。この辺についても大変大きな問題があるのではないかと思いますが、その辺はどのようにお考えですか。

塩田政府参考人 鑑定の期間の取り扱いについては、法律上具体的な記述がないということでありまして、どういう形にするかについては今後の課題であろうと考えます。

松野(信)委員 そうすると、先ほどお話がありましたけれども、鑑定についてのガイドラインは、厚労省みずから定めるものでなくて、ある意味じゃ丸投げをしたままで、厚労省は何か余り関係がないというような御答弁でありましたし、また、今私が質問したような点についても、今後の課題ということで答えられない。率直に、そういう状況で、例えば鑑定入院一つとってみても、きちっとした基準あるいはその適正手続というのが本当に保障されているのかどうか、まだまだこれはとてもまともに施行できる状況にはなっていないなという気がせざるを得ないわけであります。

 一応、厚労省がつくったわけじゃないけれども、鑑定ガイドラインらしきものがあるということですが、これは何らかの拘束力というのはあるんですか。

塩田政府参考人 法的な拘束力のある文書ではないと思います。

松野(信)委員 そうすると、鑑定ガイドラインについては、今あるのは別に法的な拘束力がないということですから、単なる参考にしかならないだろう、こう思いますが、では今後、法施行に合わせて、ある意味では法的な拘束力、法的な意味のある鑑定ガイドラインというものを七月十五日の施行日までに整えるという準備はあるんでしょうか。

塩田政府参考人 厚生労働省としては、現時点で考えておりません。

松野(信)委員 それまた一つ大きな問題です。先ほど申し上げたように、鑑定入院は法三十七条の鑑定命令に基づいてなされるわけですが、その場合もさまざまな問題が出てくるわけです。先ほど、その問題の一端はもう既にお話し申し上げましたけれども。それについても、全く拘束力のない、余り法的には意味のない鑑定のガイドラインあたりはあるけれども、意味のある、法的な拘束力のある鑑定ガイドラインは今のところ準備するお考えはない。

 そうだとするならば、具体的に、では、鑑定に当たる鑑定の医師は一体どういう基準でどういう判断をすればいいのか。鑑定中に本当に治療が必要になってきたような場合、では一体どうするんですか。この点はどうなんでしょうか。

塩田政府参考人 この法律自体は、精神疾患ゆえに重大事犯を犯した方について適切な医療を提供し、社会復帰を図るという法律でありまして、ある意味で、これまで日本の精神医療分野になかったものについて取り組むという意味があると思います。適切な医療を施すことによってそういう方が社会復帰できれば、それは日本の精神保健福祉対策の向上にもつながりますし、また逆に、何度も申し上げておりますように、日本の精神保健福祉全般の向上を図る中でこうした医療の位置づけも図っていく必要があると思っているところであります。

 鑑定期間中の医療のあり方については、この制度に限らず、日本の精神医療が抱える大きな課題の一つと認識をしているところでございます。

松野(信)委員 課題の認識はいいですけれども、ただ課題の認識をしていると言うだけで、具体的にはっきりとしたガイドラインも示すことができない。こういう状況では、あと一月余りの中でまともに法施行できる状況ではない、これはだれが見たってそういう結論にならざるを得ないのではないか、この点はもう言わざるを得ないと思います。

 もともと、この医療観察法について、入院、通院、あるいはいろんな鑑定問題についても、一般病院とは違って濃厚な精神医療を施すという大変結構なうたい文句でスタートしたわけですけれども、その現実たるや、もう二年ぐらいたっていますけれども、ほとんど大した準備もできていない、こういうことでありました。やはり、二年前の七月に強行採決して無理やりこの法律を成立させた、私ども民主党の方も強く反対をしたわけですけれども、無理やり成立させたツケがもう既に完全に回ってきているというふうに言わざるを得ないかと思います。

 大臣、そういう状況、お聞きのとおりの状況で、それは鋭意努力されるというのは結構ですけれども、率直に、これはあと一月余りの間でまともに法施行できる状況ではないというのをぜひ御認識いただいて、いろいろ対案もあるようですけれども、当分の間、この法施行を延長するとか、もう少し柔軟な対応を考えていかないと、これはとんでもないことになるのではないかと思いますが、大臣のお考えをお聞かせください。

滝副大臣 今、厚生省からも御答弁ありましたし、厚生省は確定していないものですからそれ以上のことは発言できないと思いますけれども、この問題は、この二年間、厚生省の国立精神・神経センターを中心にして、外国の実情調査なども踏まえて、現場は現場として入念な準備を続けてきているというふうに私は認識をさせていただいております。したがって、そういう意味では、七月十五日に間に合いますように、現場における対策、そういうものを踏まえて恐らく厚生省としては最終的な方針の取りまとめをやる。

 そういう意味で、私は、現場段階では、日本では今までないことを十分に入念に準備をしてきた、そういうような思いがあると思いますから、基本的に今スケジュールに従って淡々として、鋭意やっているということを私どもは、法務省としては御期待を申し上げたいと思っております。

松野(信)委員 鋭意努力は結構です。また、淡々と進めるというふうにおっしゃいますけれども、もう一月余りでありまして、これは率直に申し上げて、とてもまともに施行できる状況ではない、この点だけは強く御指摘をしておきたいと思います。

 医療観察法についてはこの程度にさせていただきまして、引き続いて、国籍の問題について御質問をさせていただきたいと思います。

 これは法務省の方も十分御承知かと思いますが、ことしの四月十三日、東京地裁の方で画期的な判決が出されております。これは、結婚しないで内縁関係にあった日本人の父親とフィリピン人の母親との間の子供さんです。この子供さんは、出生後に日本人の父親から認知された。いわゆる生後認知になるわけです。この男の子供さんについて日本の国籍を認めてくれ、こういう裁判があったわけですが、この裁判について、両親が結婚していないことを理由に日本国籍を認めない国籍法の三条は違憲だということでありました。結婚しているか、していないかということで、その間の子供さんが国籍があったりなかったり、こういうような差別というのは不合理だ、こういうことで新しい判断をしたわけであります。

 もちろん、法務省当局としては、これは容認できないということで控訴されておられるようですけれども、私は大変重大な問題提起をこの判決は行っているというふうに思いますが、まずこの判断を、大臣、どのようにお考えでしょうか。

    〔委員長退席、田村(憲)委員長代理着席〕

南野国務大臣 御指摘の判決につきましては、国の主張が取り入れられなかったということについては、これは残念だなというふうに思っております。国籍取得の要件をどのように定めるのかということは、国家にとっても重要な問題でございます。また、上級審の判断を求める必要があると考えまして、本年の四月二十五日、控訴したところでございます。

 今後は控訴審において適切に対処してまいりたいと考えております。

松野(信)委員 最近、昔からかもしれませんが、何かと適切に対処と。小泉総理も靖国参拝について我が党の菅代表から、ことしの一月二十七日の予算委員会だったと思いますが、参拝問題について質問があって、すべて答えは適切に対処するということでありまして、余り適切に対処という言葉が国会の中ではやるのもいかがなものかなという気がしますので、できるだけ具体的なところで議論をさせていただきたいというふうに思います。

 今回の判決というものは、まさに、結婚しているか、結婚していないかということで国籍付与の差を設けるのは不合理だということでこういう判断がなされたわけですが、考えてみますと、それは確かに、法律上はきちっと結婚をして、その間に子供さんが生まれる、最近は少子化ですからできるだけ子供さんを産んでいただいた方がいいですが、それが望ましいということは私も十分わかります。ただ、現実には、結婚をされてなくて、いわゆる事実婚あるいは内縁、こういうようなものがふえているわけでありまして、我々の国会議員の同僚の中にもそういう事実婚をしておられる方も現におられるわけです。

 私もちょっと調べてみましたけれども、政府の統計でも、日本で生まれる子供さんのうち五十人に一人ぐらいはこういう婚外子、正式に結婚をしていない夫婦の間の子供さん、これが五十人に一人ぐらいはそういうことになっているわけで、これだけの数が現実にあるということであれば、やはりこれはこれで受けとめて、子供さんに別に責任はないわけでありますので、余りこういう婚外子の方々が不利な扱いを受けないように、できる限り法的な整備、余り不利な扱いを受けないような法的な整備を基本的には目指す。いろいろ細かいところはあろうかと思いますが、基本的には婚外子の人が余りいわれなき不当な差別を受けない方向で法制度も考えていくべきではないかなというふうに思いますが、この点について、大臣の御感想でも結構ですが、いかがでしょうか。

    〔田村(憲)委員長代理退席、吉野委員長代理着席〕

南野国務大臣 婚外子の方がそういうような不利益をこうむらないようにという、これは一般論では十分理解できるところでございますけれども、結婚しているか、結婚していないか、結婚しながら他者に子供をつくるというようなこと、倫理的な問題も含めて、さまざまなケースに対して考えていかなければならないことだと思っております。

松野(信)委員 それで、国籍法を見ますと、国籍法は二条の一号ということで、これは要するに、父または母が日本人であれば、その間の子供は日本国籍を有する、こういうふうに書いてあるわけです。

 ですから、それこそ今、世の中はもうDNAの鑑定で明確に父子関係はわかる。母子関係は分娩の事実でわかりますので、日本人の母親の場合はほとんど問題はないわけで、大抵、裁判で問題になっているのは外国人の母親のケースですね。

 今申し上げた国籍法二条一号のケースで見ると、条文上は単に、父または母が日本人であればその子供は日本国籍だというふうに書いてあります。そうすると、胎児のうちの認知であろうと、出生後の認知であろうと、どうも区別をする必要性というのは、条文上もないし、実質的にも差を設ける必要は余りないのではないかなというふうに思うんです。

 この点については、法務省の解釈としては、出生のときに父親が日本人でないとだめだ、要するに胎児認知でないとだめだ、こういう解釈でどうもずっと来ておられるんです。この点については、率直に言うといかがなものかな、そこまで狭く解釈をしなくてもいいのではないかと私は思っているんですが、この点はいかがですか。

寺田政府参考人 おっしゃるとおり、今問題にされているような一般的なケースとの関係で申し上げますと、子の父が日本国民であるときの時点、つまり、出生のときにというのがポイントになるわけであります。

 この国籍法の二条の第一号というのは、出生のときに日本人の父との父子の関係が決まっていれば、それを原因として自動的に子に日本国籍が与えられる、こういうことでございますから、私どもも民法の規定に従いまして、父子関係というものを判定いたしております。

 もちろん、先ほどDNA等の問題を示唆されましたけれども、法律上の父子関係というのは、非嫡出の場合は認知ということで決まるというのがほとんどユニバーサルな制度でございますので、そういうことを前提にこの問題も考えてまいってきているわけでございます。

松野(信)委員 法務省当局の伝統的な考えは私も聞いておりますので、わからないではないんですが、ただ、先ほど申し上げたように、必ずしも出生の時点で日本人の父というのを確定しなくても、具体的にはさまざまなケースがありますので、その辺のところはもう少し柔軟に考えていく必要があろうかというふうに思います。

 現に、これは法律の二条と三条、三条は準正による国籍の付与ということになっているわけですが、これに該当しなくても、現実には裁判で国籍が与えられているというケースが出てきているわけですね。

 つまり、出生後の認知というのは、法務省のお考えではだめだ、あくまで胎児のうちに認知しないと出生の時点で日本人の父というのが確定しないから国籍付与はだめだ、こういう理解なわけですね。だけれども、現実には裁判で、出生後に認知された子供さんでも国籍を付与すべきだ、こういうケースが最近出ているわけであります。これは最高裁の判決でもそういうのが出てきたわけで、この辺は法務省当局はどのようにお考えになっていますか。

寺田政府参考人 これは、私どもといたしましても、全く例外的なケースがないことはないわけであります。

 そもそも、国籍法の三条というのは、事後的に婚姻を行った結果、準正ということで、婚姻関係の中で生まれた子と同等視される状況になれば日本国籍が与えれる、こういう制度でございますので、必ずしも出生のときが一〇〇%を確保されているというわけではない、それはそのとおりであります。

 ただ、おっしゃられたようなケース、つまり、平成九年の最高裁の判決などに見られるケースを念頭に置いて御指摘をされているんだと思いますけれども、これはもともと認知をしたくてもできなかったケースでありまして、そういう場合に、本来、認知できなかった事情というものが解消されるべき最初の段階で認知が行われれば、救済的にもともと胎児認知をしたと同等な扱いをするという非常に救済的な色彩が強い判決でありますので、私ども、やはりこれを本来の考え方の中心に据えるというわけにはいかない。

 そういう救済的なケースがゼロでないということも私どもも十分これは理解できることで、そういう扱いを最高裁の判決が出た以後いたしておりますけれども、それはあくまで例外的な場合だというように御理解を賜りたいと思います。

松野(信)委員 例外的な規定だ、例外的な場合だというのはわかりますが、ただ、どうも、胎児認知ならばオーケー、あるいはどうしても胎児認知ができないということでやや救済的な形で認める場合、このくらいまではよろしいけれども、出生後の認知、出生後に日本人の父親から認知するというのではだめだと。これの実質的な理由はどこにあるんでしょうか。

寺田政府参考人 これはもともと、出生時になぜ確定しなきゃいけないかということを裏返して言うことになるわけでございます。

 つまり、国籍法の二条をごらんいただきますと、出生時に子の国籍が確定するということがやはり本来のあり方であるということを示しているわけでございまして、逆に申しますと、出生後に子の意思に基づかずに今度はある事象が生じ、つまり、例えば認知が行われ、そのことによって子の国籍が自動的に変更されるということになりますと、法律関係は極めて不安定なことになるわけであります。

 そういうことを本来の姿としてはやはりあるべきでないということで避けたいというのが、私どものこの国籍法を立法いたしました際の考え方ということになるわけでございます。

松野(信)委員 国籍があったりなかったりということで、後からあることになったりというのは避けたい、そういうのはわからないではないんですが、ただ、その点についても今回、先ほど申し上げた東京地裁のことしの四月の判決を見ますと、やはりこの国籍法の、言うならば立法の趣旨、原点に返って判断をしている。そこはどういうことかというと、生まれてこられた子供さんと日本との、国との結びつき、ここのところをやはり考えていくべきだ、日本との結びつきがどの程度あるのかというのを考えて国籍の付与というのを考えるべきだ、このような論旨を展開しておられました。私は、これは国籍法の理念というか考え方に沿ったもので、非常に傾聴に値するのではないか、このように考えます。

 それで、現実に法務省当局が、原則として胎児認知に限る、あるいはどうしても胎児認知できないような例外的なケースは救済、そういうふうな胎児認知に限定するということで、結局、最高裁の判決が幾つか出たりするたびに継ぎはぎ的な通達で何とか、ある意味じゃお茶を濁しているというのが今の現状ではないか、こういうふうに思います。

 今答弁の中にもありました、まず平成九年十月十七日の最高裁の判決ですけれども、これは、女性の方が韓国人の方で、日本人の夫がいたわけですが、別の男性、別の日本人の男性との間で子供さんが生まれた、こういうケースですね。

 それで、これは嫡出推定が働いてしまうわけですので本当の日本人の父親というのがなかなか認知できない、こういう状況ですので、まず婚姻している日本人の父親との間で親子関係不存在確認をして、それから、その審判が確定した十二日後に認知をしたというケースで、まさにこれは出生後認知なんですが、これは最高裁判決の方は、「戸籍の記載上嫡出の推定がされなければ日本人である父により胎児認知がされたであろうと認めるべき特段の事情がある」ということで救済をしたということだろうと思います。

 そうすると、じゃ、この「特段の事情」というのは一体何だというのが次の問題に当然出てくるわけであります。それで、調べてみると、法務省の方は、平成十年の一月三十日に第一八〇号の民事局長通達を出しているわけですね。この局長通達を見ますと、こういう取り扱いをしなさいということで、「子の出生後三か月以内に嫡出推定を排除する裁判が提起され、その裁判確定後十四日以内に認知の届出等がされている場合」には「特段の事情がある」と認定する、こういうことで最高裁の判決の趣旨を踏まえてはいるわけですね。

 ところが、この局長通達の最後に、いろいろなケースについては「その処理につき当職の指示を求める。」つまり、民事局長のところに具体的なケースの場合は持ってこい、こういう通達を出しておられます。

 それから、もう一つ最高裁の判決を指摘いたしますと、これは平成十五年六月十二日の判決であります。これまた韓国人である母親と日本人である父親が離婚ができた翌日に子供さんが生まれた。これはまた嫡出推定が働いて、離婚した父親との間の嫡出が推定されるわけですね。ところが、実は別の日本人の男性との間の子供だったということで、やはり親子関係不存在確認がなされて、最高裁まで持ち込まれて、最高裁はある意味では救済しているんですが、その救済の理由がなかなか振るっているわけです。

 すぐに裁判手続できませんで、これは子が出生してから約八カ月ぐらいしてから親子関係不存在の裁判が確定しているんですね。約八カ月たっている。先ほどの民事局長通達では三カ月以内というふうに言っている。今回のこの平成十五年の最高裁は、約八カ月ぐらいたっているんですが、それはなぜかというと、これは帝王切開で子供さんが生まれたので、ずっと入院で大変だったということで、自宅療養を続けておられたということで、すぐにそういう法的な手続がとれなかったので、出生から訴え提起まで八カ月余りを要したのもやむを得ない、こういうことで、これまた救済をしているわけですね。

 こういう判決が出たら、今度は民事局長通達がまた出ているわけです。これが平成十五年七月十八日の第二〇三〇号の民事局長通達でありまして、これについても、一定のこういう判決が出たということがあって、最後に、処理については「当職の指示を求める。」ということで、要するに、民事局長のところに具体的な事例については持ってこい、民事局長が判断してやる、こういうくだりです。

 特段の事情があるのかないのかというようなことについては、結局、窓口では対応できないものだから、民事局長のところに持ってきなさい、民事局長が判断してやると。

 しかし、考えてみると、国籍が与えられるか与えられないかというのは、当該子供にとっては大変な問題です。この大変な問題を、民事局長のところに持ってこい、民事局長が判断してやる、こういうところなんで、まあ民事局長は偉いんだと思いますが、しかし、この子供のケースは特段の事情があるから、気の毒だから国籍を付与しよう、このケースは余り気の毒でないから国籍を与えるのはやめておこう、これはどういう基準で局長は対応するお考えですか。

寺田政府参考人 これは、先ほど申しましたように、法律で定めている原則があるわけでございます。しかし、二つポイントがありまして、一つは、法律でそもそも原則を定めていても、非常に気の毒なケースがやはり出てくる。

 それは、一つは類型的に考えられるケースがあります。さきに述べられました平成九年の最高裁判決においては、類型的に考えられる要素というのは、要するに、嫡出推定を受けていて、その嫡出推定がいわば認知ということをブロックすることによって、もともと認知をすることを妨げているわけですから、国籍を得られないという結果が生ずる、これは気の毒だなということであります。

 そこで、私どもの方といたしましても、いわばその当事者がベストを尽くして、そういう嫡出推定等による類型的にブロックされているケースについては救済的に国籍を与える道を開いているということを通達で明らかにしたわけであります。

 もう一つ問題がございますのは、その際は、当事者がベストを尽くすということは、要するに、それぞれの届け出期間あるいは出訴期間に適切に対応しているということが非常に重要な要素になっているわけであります。この点は、最高裁の平成九年の判決では問題にならなかった。つまり、当事者がベストを尽くしておられたわけであります。

 今度、平成十五年の判決は、これは判例集に載っていないことからもおわかりのとおり、救済判例のさらに救済判例的に、非常に事案に即した判断がされる場合によく見られる判決でありますけれども、これは、類型的な面の一面、つまり嫡出推定によってブロックされているというところは変わりないわけでありますが、期間においてはベストを尽くせなかったというわけであります。したがいまして、普通でありますと、これはやはり救済されないわけでありますが、先ほど委員も的確に御指摘なされましたように、帝王切開等の事情があって、御本人が期間を守れなかったという問題であります。

 つまり、最初の方は、いわば法律関係そのものによってやむを得ないというふうに見られるのに対しまして、この後の救済の第二のポイントは、期間を守れないのが非常に事実関係に即して決められる、これはなかなか類型化できない問題であります。

 そこで、私どもの通達も、第一の通達のように、こういうときには基本的にはこうしなさい、しかし、一応民事局長の判断も加えられるように連絡はしなさいという通達でございますが、二番目の方は、全く類型化ができないものでございますから、私どもの方で、本当に期間を守れなかったということについてやむを得ない事情があるかどうかということを判断するわけでありまして、それは帝王切開に限らないわけであります。その当該母親がどういう事情で期間を守れなかったかということを個別に判断しなきゃならない。

 それで、私ども、こういう個別の判断は一般的には一切しないで画一的にやるのが法務局のプラクティスになるわけでありますが、最高裁がこういうことも救済しなさいと言われた以上は、救済することをゼロにするわけにはいかないので、そういう道を開いているわけでございまして、私どもの判断といたしましては、最も慎重な民事局長のところまで事件を上げて判断する、こういうことになるわけでございます。

 もちろん、大事な事件でございますので、最終的な判断は大臣にしていただくことになるわけでございます。

松野(信)委員 民事局長というのは最も慎重な判断を求められる、そういうことなのかもしれませんが、しかし、ベストを尽くしたかどうか、これは非常に微妙な判断をすることになるわけです。最終的には大臣が決めるというふうに、大臣も大変なお役目であるわけですけれども、しかし、国籍が付与されるか付与されないかというものが、その産んだお母さんがベストを尽くしたかベストを尽くさなかったか、こんなところで子供の一生が決まるというのは、これはどう考えてもおかしい、やはり法律が十分こたえるものになっていないというふうに私は言わざるを得ないのではないかと。

 その根本は、要するに、原則として胎児認知でないとだめだ、父親が子供さんがまだ胎児のうちに認知をして、晴れて生まれたときに父親が日本人であるということがそれでわかっている、そういう胎児認知でないとだめだという、これに固執しているから、それにちょっと外れた人は、母親がベストを尽くしたか尽くさなかったか、気の毒だというふうな、そんな判断でやらざるを得ない。これは私はおかしいと言わざるを得ないと思います。胎児認知だろうと出生後の認知だろうと、要は日本人の父親との関係がはっきり出れば、これはやはり日本人として国籍を与えるというのがまず基本的な原則にしなきゃいけない、こういうふうに私は思います。

 それで、胎児認知と出生後の認知で明確に区別するという判断がもう既に破綻をしているというように今最高裁の二つの事例でも申し上げました。また、これは非常に気の毒な例が逆の例として既にあります。

 ちょっと御紹介をいたしますと、これは、日本人の男性とフィリピン人の女性との間で、ちゃんと結婚をして子供さんも生まれて、結婚している間の子供さんですから、これは日本人なんですよ。ところが、夫婦関係がちょっと悪くなりまして、実は、フィリピンのこの女性の方はフィリピンで既に結婚していたということが後からわかって、このフィリピンの女性の方が重婚だったということが判明したために、日本人の男性との結婚は無効になったんです、婚姻無効になっちゃった。

 そうすると、婚姻無効になった場合は、この子供さんはさかのぼって日本国籍をなくしちゃうんですよ。法務省当局の見解ですと、要するに、きちっと胎児認知でやっていなきゃだめだというのですから、この子供さんは日本国籍をさかのぼってなくしちゃうんですよ。これはおかしい。(発言する者あり)今、自民党席からもおかしいという声が上がって、大変力強い思いがいたしますけれども。

 それから、もう一つ別のケースもあります。これは、日本人の男性と外国人の女性との間で、これも結婚関係がきちっとあって、子供さんが生まれて、日本の国籍ということで子供さんが大きくなっていた。ところが、この外国人の女性は実は別の日本人の男性と不貞行為に及んでいて、その子供も別の日本人の子供であったということが判明して、親子関係が不存在になったんですね。そうすると、どっちにしろ日本人の父親なんですけれども、これまた親子関係不存在が確定して子供の国籍がなくなっちゃうというのは、これまたおかしな話だと思うんです。

 こういうケースは、確かにそんなにたくさんはあっては困るし、そんなにあるわけではないんですが、これまた基本はやはり、胎児認知でないとだめだ、出生後の認知ではだめだというところから基本的には来ているケースで、こういうようなおかしなケースが現実に発生しているんです。大臣、どう思われますか。

    〔吉野委員長代理退席、委員長着席〕

南野国務大臣 先生、いろいろなケースをお示しいただきましたけれども、これは性という問題が中心になって考えていかなきゃならない部分もあろうかなと思っております。いつ受胎したか、だれによって受胎されたかというような、その子の起源というものをどのように認めていくかというところにさかのぼらなければいけないという問題点であろうというふうに思います。

 そういう意味では、対象者がだれかわからない、同じ日本人でもだれの子供かわからないとするところに問題点が発生してくると思いますが、基本としては、この法律で戸籍を考える場合には、どういう人が日本人なのという、そこが一つの大きなポイントになるのではないだろうかな、そのように思っております。そういう意味では、女性の場合の再婚ができる期間というのを今まで持たれておりましたけれども、そういうようなところも一つあったというふうなことを御報告できるのかなというふうに思っております。

松野(信)委員 私は、もう率直に、こういう国籍が与えられるか与えられないか、当該子供さんにとって大変重大な問題については、これは画一的にわかるようにしておかなければいけない。例外的なケースは民事局長のところまで行って民事局長が判断せざるを得ないというようなのは、これは私は不幸なことだ。とするならば、やはり法改正を行って、胎児認知であろうと生後認知であろうと、要するに父親が日本人であればオーケーではないかという、もうそこにまで踏み込まなきゃいけないのではないか。

 恐らく法務省当局は、例えば生後認知あたりでもオーケーだというふうにすると、偽装の認知というのがなされて、おかしな形で運用される心配がある、こういうふうにお考えかもしれませんが、例えば仮にそういう偽装の認知がなされるというようなことでもあれば、当然一定の処罰あるいは事後的に対応することはできるわけで、余り入り口のところで縛ってしまうというのは、これはいかがかなと。

 現に、諸外国の例を見ましても、いわゆる出生地主義と血統主義と二つの主義がありますが、血統主義をとったとしても、これは生後認知でも国籍を付与するという外国の例はあるわけで、しかも、そういう国はふえているわけで、ぜひこれは法務省当局もそういう方向に向けて御検討をされたらどうかというふうに思います。

 やはり、先ほど申し上げたように、婚外子に余り不利益な扱いをできるだけしないというようなことにもこれはつながっていくわけです。現に、法務省は、平成十六年の十一月一日付で、嫡出でない子供さんの戸籍についても父母との続柄の記載は嫡出子と同等にする、昔は単なる子というふうにしていたのを、長男とか二男とか、これもやはり嫡出子とできるだけ同等にするということで、昨年、そういうような省令の改正もなされているわけです。そういうのも踏まえて、ぜひこの国籍問題についても検討していただきたいと思いますが、この点は、最後に大臣、ちょっとお考えをお願いいたしたいと思います。

南野国務大臣 大変難しい困難な課題であろうかと思います。日本人とはだれなの、そのもう一つ手前のところには、家族というものはどういうものなのかという問題の、親子のつながりという問題もあろうかと思いますが、今先生お申し越しでございますので、それを預からせていただきたいと思っております。

松野(信)委員 時間が参りましたので、終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

塩崎委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時十五分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

塩崎委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。辻惠君。

辻委員 民主党の辻惠でございます。

 きょうは八十分間お時間をいただきました。扱う課題は一つであります。再審問題ということで、多分、きょう、全部議論が煮詰まることはないと思いますので、継続してさらにさせていただくことにならざるを得ないと思いますが、可能な限り問題点を洗い出して、お互いに共通の議論ができる土俵づくりができればいいのかな、このように思っております。

 まず、再審問題の導入として、やはり依然、冤罪事件が陸続として起こっているという事実を指摘することができると思います。

 インターネット等で取り出しただけでも、例えば、新しいところから見ると、二〇〇五年五月二十三日、埼玉県警で、覚せい剤検査ミスで女性を誤認逮捕。同年五月五日、うその強盗被害届で男性を誤認逮捕、実は被害者であった、これは埼玉県警所沢署管轄の事件であります。これは後ほど詳しくお伺いしたいと思いますが、宇都宮東署の逮捕、検察庁が起訴して、無罪論告をせざるを得なかった事案、これは二〇〇五年二月二十五日に無罪の論告で釈放されております。

 ほかにも、二〇〇五年二月二十四日、福島県警郡山署、窃盗事件で誤認逮捕。二〇〇五年二月二十四日、愛媛県警が誤認逮捕、窃盗容疑、女性のアリバイ確認というような例があります。大阪府警での誤認逮捕等も数多く指摘されております。

 昨年の二月の末に、捜査の可視化に絡んだ問題で、やはり冤罪事件が数多くあると。大阪で、ビニールハウス事件で無罪、これは自白の証拠能力が否定されたという例も報告をされております。

 確かに、人のなすことでありますから、無謬であるわけはないんであって、そういう意味で、司法においても間違いを犯すことはある。しかし、冤罪事件がこのように陸続と数多く発生していいとは言えないというふうに思うんですね。そういう意味において、冤罪が生じてくる構造を極力除去するような努力がされなければいけないというふうに思います。

 その一つは、やはり捜査のあり方、これは自白偏重の取り調べというふうに一般に指摘されている問題であって、それを防止するためには、民主党が今国会で改めて法案を提出しておりますけれども、捜査の可視化を実現していくということが非常に重要なのではないかというふうに思いますし、仮に、公判請求に至った場合でも、事実の審理、徹底した審理を遂げる中で冤罪が防止できるような制度的な手当てというものをすべきであろう。それの最も有力な手当てとしては、やはり証拠開示の問題ではないかというふうに思うわけであります。

 そこで、まず、先ほど少し読み上げましたが、宇都宮東警察での誤認逮捕事件について、事実関係を確認して、どういう問題なのか、何が教訓化されるべきなのか、このことについて伺っていきたいというふうに思います。

 簡単に御紹介しますと、二〇〇四年の八月に、女子中学生二人の首を絞めたという暴行罪で逮捕され、これは暴行罪とあと二件の強盗罪ということで、十月に初公判が開かれ、その第一回でこれを認めるということでありました。そして十二月に、検察官が七年の論告求刑を行った。ところが、十二月下旬の判決公判の当日に、一転、無罪を主張したということで、審理が継続をした。その間、二〇〇五年の一月十七日に、全く別の人物が、別件で逮捕されている中で、この二件の強盗罪について、自分がやったというふうに自白をした。それを受けて、二月二十五日に、もともとの、宇都宮東警察で逮捕された事案で、検察庁は、宇都宮地検は無罪の論告を行った。そして三月十日、無罪判決がなされた。こういう事案であります。

 もう少し具体的に新聞報道等をもとに述べますと、当初、公判請求された初期の段階で、証拠は自白調書だけではないかということが言われていた。これに対して宇都宮地検は、自供だけではなくて、物的証拠もあるんだというようなことを言っていた。県警の方は、被害者が男性の写真を抽出した、つまり特定したということや、赤いサングラスという特徴的な物証が押収されているんだということを述べております。赤いサングラスとか包丁を押収したんだと、物証がありげに言っていた。しかし、実際の裁判では、そのような物証は証拠請求されていない。自白調書だけで推移したという事案であります。

 別人が自白をしたということで、結局のところ、本来の、冤罪事件の公判では、二月二十五日に無罪の論告がなされているわけでありますが、その新たに名乗り出たというか自白した真犯人とおぼしき者の公判が三月の二十九日か三十日に開かれているようでありますが、そこでは、犯行に使用された包丁とか目出し帽とかサングラスとか軍手、さらに、現場に残された足跡が証拠請求されているんですね。その足跡については、十二個採取されたうち十一個が一致したということなんです。

 つまり、もともと公判請求された事案では、赤いサングラスとか包丁とか、物証があると言いながら、自白調書しか証拠請求されていない。七年の求刑までいったけれども、判決の間際に無罪を主張し始めたので、審理をさらに継続していたところ、別件で逮捕された別人が自供した。その別人の裁判では、物証として、包丁とか目出し帽とかサングラスとか軍手とか現場に残された足跡とか、数多い物証を証拠として請求している、こういう事案なんですね。

 だから、率直に疑問に思うのは、物証と結びつける人間が別途出てこなかったから、その物証は証拠の中からはセレクトされなくて、最初の被告人とされた人物については、結局のところ、自白調書だけで公判請求していた。つまり、結局、その公判請求した人物が最初に自白したように、そして七年の求刑でもし翻さなかったとすれば、そのまま有罪判決になった可能性が非常に高くて、別件でたまたま逮捕された人物が自供しなければそのまま確定してしまったという蓋然性が非常に高いと想像される事案なんですね。

 だとすると、まさに確定後に、その有罪とされた人物が、自分は犯人ではないというふうに言い出したときには、再審請求が認められるかどうか、結局そういう話になっていくわけなんですね。

 そういう意味で、再審問題を考えるときに非常に参考になるというか、まさに再審請求に対してはどういう手続がなされるべきなのか、また、再審審においてはどのような手続がとられるべきなのかの参考になる典型的な事案ではないかというふうに思うわけであります。

 まず、この事案について、検察庁は、これについては検証結果を公表するというふうに言って、五月十三日付の下野新聞で紹介されているので、恐らく五月十二日付なのかもしれないというふうに思うんですが、自白を信用できると誤信したもので、違法捜査はなかったんだという検証結果を公表したという報道がなされているんですが、法務省の方でこの事実関係については掌握されているんでしょうか。いかがですか。

大林政府参考人 御指摘の事件につきましては、宇都宮地方検察庁において検証し、強盗事件で起訴された方が捜査の当初から一貫して自白をし、取り調べにも素直に応じていたことから、誤った心証形成をしてしまい、捜査側において、取り調べ及び補充捜査に際して、自白内容の合理性の検証や裏づけが十分ではなかった点が問題であったというふうな内容であると聞いております。

 実際には犯罪に関与していない方を犯人として起訴したことにつきましては、非常に残念なことであると考えております。

辻委員 もうちょっと痛切な思いで、やはり痛苦な反省が必要だというふうに思うんですね。二度と同じような間違いを犯さないということを本当に真剣に総括していくということの積み重ねの中でしかやはり組織は変わっていかないというふうに思いますし、そういう観点でいったときに、間違ってごめんなさい、まずかったというようなレベルにとどまっているように思えてならないんですが、なぜそうなったのかという原因について、もう少し深く分析した御見解なり、法務省としておありだと思うんですが、その点はいかがですか。

大林政府参考人 御指摘のとおり、無罪、無罪というか犯行を行っていない人について起訴したという点につきましては、非常に重大なことであるというふうに認識しています。

 ですから、この件について、まだ私どもも詳細な証拠を承知しているわけではございませんけれども、これは今後、検察官において、捜査、公判をしていく上で非常に貴重な題材である。したがって、これは宇都宮地検におきましても、再発防止のために、被疑者の特性に応じた適正な捜査、取り調べを行うというような形で指示しているようでございますけれども、私どもとしても非常に関心を持っている事案でございまして、今後、検察官に対する研修等において、こういう事案があった、十分に気をつけていかなきゃならぬということを十分に指導していかなきゃならない、このように考えております。

辻委員 この被告人とされた人物は重度の知的障害者であったようなんですが、この点は事実として掌握されているんですか。それについて、今回の誤認逮捕、起訴に至ったこととの関連でどのように分析をされているんでしょうか。その点をお答えください。

大林政府参考人 このたび起訴された方についての精神障害の程度等につきましては、プライバシーの問題がありますので、ちょっと私の口からは差し控えさせていただきたいと思います。

 ただ、今の御指摘の点も踏まえまして、やはり被疑者の年齢、境遇、性格、性別等の諸事情を勘案した上で、被疑者の特性を十分考慮した取り調べを行うというのは、これは非常に重要なことであると私どもは認識しておりまして、その自白の信用性についてはやはり十分な吟味が必要である、こういうふうに考えております。

辻委員 先ほど十分な研修を図っていくということもおっしゃったと思うんですが、では、この事案を簡単なものとは見ていないというふうにおっしゃっているわけだから、プライバシーの問題とかが問題にならない内部での教訓化するに当たっての題材として、どういう視点で、どういう切り口で、何が問題であったというふうに考えるのかという点をやはり具体的にもっと詰めて総括点を明らかにしないと、学んだことにならないんですよ、教訓化することにならないんですよ。

 だから、私は幾つかあると思うんですけれども、その点について、法務省としては、教訓化する材料として、これはどういう切り口で考えなきゃいけないというふうにお考えなのか、そこをもうちょっと詰めて、突っ込んでお答えください。

大林政府参考人 ただいま被疑者の特性に応じたという抽象的な言い方を申し上げましたけれども、御指摘のように、それは成人の場合でもいろいろな立場あるいは特殊な事情を持っておられる方もおります。それから少年の場合もいろいろな問題がございます。内部におきましては、こういう事案のもう少し詳細な内容につきまして、当然、これから研修もあり、それから指導についても具体的に触れて指導していく。これはそのようにすることは間違いないというふうに考えております。

辻委員 この取り調べに当たった直接の検察官なのか、そこははっきりしませんが、主任検察官は、この同じ人物を二〇〇二年当時に銃刀法違反容疑で逮捕して簡易鑑定を行っているということが新聞報道されているんですね。

 つまり、プライバシーの問題にかかわるから知的障害の程度云々というのはともかくとして、重度の知的障害だというふうに新聞報道されているんだけれども、そうすると、知的障害者であるということが認識できていて、そして取り調べで調書を作成するんだから、安易に誘導しないように、非常に迎合的になる可能性があるわけなんだから、取り調べの仕方、調書の採取の仕方について、やはりそれは真剣にきちっと反省点を明らかにすべきだろうというふうに思うんですね。だから、例えばそういう具体的なところについてどうお考えなのか、言える範囲でおっしゃっていただきたい。それが一つ。

 それからもう一つは、明らかに物証とされるものが数多く残っていて、足跡とか目出し帽とかサングラスとか軍手とか包丁とか、それは本件の、最初の誤認逮捕、起訴された人物の証拠には使われていないわけですよ。そうすると、数多くの物証が存在するにもかかわらず、自白調書だけで公判請求した、そういう公判請求。まあこれは裁量、起訴便宜主義だから検察官はそう判断したというふうにすれば終わりかもしれないけれども、裁量だって合理的な基準がないとそれは逸脱することになるわけですから。証拠の吟味の仕方、物証がそんなにあるのにそれが結びつかない人間を単なる自白調書だけで公判請求するということの安易さ、そこの問題について、やはりそれはきちっと教訓化されるべきものがあるんだと思うんですね。

 少なくともその二点について、もう少し踏み込んだ総括点というのをお示しいただきたいと思います。いかがですか。

大林政府参考人 一般論で、まず第一点のことについて申し上げますと、その精神障害の程度が大きい場合、ある程度、表現の問題として、それはいろいろな諸状況から判断して、具体的な供述が得られるように努力する。これは当然のことだと思います。

 それから、今第二の点でおっしゃられる、客観的な証拠をとる問題でございます。それは、委員が御指摘のとおり、今度真犯人が出てきたわけですから、真犯人とその証拠の結びつきというのは、当然、真犯人ですから、非常に確固たるものがあるでしょうし、それについて、そういう結びつきが確かに多いとは思います。

 ただ、もうこれも委員御承知のことと思いますけれども、刑事事件において、自白がある、そしてそれに証拠がある、それについての範囲内、吟味というのは千差万別でございます。

 ですから、今回の場合は、幸いといいますか、真犯人が見つかったということで、そういうものが具体化されたわけでございますけれども、やはり捜査の場合に、これは委員も御指摘のとおり、自白の吟味、信用性の吟味というのが第一でございます。そういう意味において、今御指摘になっていることは私も十分理解できるところでございますけれども、証拠に対する判断というのはいろいろ、そのときのいろいろな諸状況を勘案して処分がなされるということを申し上げたい、御理解賜りたい、こういうふうに思います。

辻委員 これが、もし真犯人が見つからなくて有罪のまま確定した場合、それで後日、いや、私はやはりやっていないんだというふうに言った場合に、再審の問題になるというふうに思うんですけれども、本人と事件を結びつける物的証拠がなくて、しかし、その物的証拠らしきものはたくさん現場には遺留があって、それは収集されている。それについて吟味する機会が、再審請求をしたら与えられることになるんですか。

 つまり、公判時点では、物証は何ら証拠として開示もされていなければ証拠請求もされていないわけだから、証拠はわからないんですね、どういう物証がほかにあるのか。再審請求をしたような場合には、その本人の側からすればわからない物証とおぼしき幾つかのものということについては、これはどうやって知り得ることができるんですか。知り得なければ、再審が具体的に開始になって、救われない危険性が非常に高いと思うんですけれども、それは非常に不合理だと思うんですが、この点、この事例から考えて明らかに不合理な例が生じてくるだろうと思われるんですが、その点はどうお考えですか。

大林政府参考人 ただいま申し上げたとおり、本件につきましては、真犯人が出てきたということで無罪ということが明らかに証明されたといいますか、そういう事案でございます。

 ただ、今委員御指摘のものは、ある面では仮定でございまして、そのために弁護士さんがおられ、あるいは裁判所の判断がなされるということでございまして、本件を前提にして、ではどうして救われるかというふうなことについては、なかなかこれはお答えが難しいかと、私はそう考えております。

辻委員 いや、だから、そこの問題、この件を前提にしてどうのこうのという議論はふさわしくないのかもしれませんけれども、この件が仮に確定をして、再審を求めたときに、自白調書が非常に不自然だとかおかしいということだけで、ほかに物証があるかどうかということが何らわからなければ、冤罪を晴らす手段について大きな制約をこうむることになるんですね。これについて、やはり理不尽だと思いませんか。いかがですか、その点。

大林政府参考人 委員がおっしゃられる御趣旨は私も十分にわかるんですけれども、ただ、一般論で申し上げれば、そのために刑事裁判があり、また上告制度もあるわけですから、それはそれとしての、一般論であくまで申し上げれば、その判断というもの、あるいは今先生がおっしゃるような再審制度もあるわけですから、それを通じて事実関係を明らかにするということでしかちょっと申し上げられないんじゃないかなというふうに思います。

辻委員 だから、これは、再審制度についての手続のあり方、制度設計のあり方に関連する問題として、こういう理不尽さがなくなるような制度設計を再審事案でされなければいけないということを私は言っているんですよ。

 だから、それについて、後ほどもう少し具体的に詰めてお伺いするつもりでありますけれども、現時点で、やはり何らかの工夫なり、もっと当事者の防御権が保障されるような、ないしは、存在したはずのいろいろな証拠にアクセスする権利がもう少し保障されるような制度設計がなされるべきだと思いますけれども、その点はいかがですか。

大林政府参考人 おっしゃることはわかりますけれども、制度上の問題では、もうこれも委員御承知のとおり、検察庁、裁判所、弁護士さん、それぞれの立場があって、これはいろいろ検討されているところでございます。今のような、委員がおっしゃるように、冤罪をなくすために努力しなきゃならないということについては、私もそのとおりだと考えます。

辻委員 日本の捜査については、国連の方で、やはり証拠開示について非常に不十分だ、捜査の可視化について非常に問題があるというふうな指摘がなされている事実がありますが、この点は認識をされているんでしょうか。

大林政府参考人 いわゆるB規約人権委員会が平成十年十一月に採択した最終意見において「弁護側には手続の如何なる段階においても資料の開示を求める一般的な権利を有しないことに懸念を有する。」との見解が示されたことは承知しております。

 これまで我が国においては、検察官が取り調べを請求する証拠については、あらかじめ弁護人等に開示しなければならないものとされていることに加え、裁判所はその訴訟指揮権に基づき、検察官が所有する証拠の開示を命ずることができるとされ、実際にも、検察官は、事案に即して証拠開示の要否、時期、範囲等を検討し、被告人の防御上合理的に必要と認められる証拠については、適正に開示してきたものと承知しております。

 さらに、昨年の刑事訴訟法の改正により検察官による証拠開示が拡充されたところであり、これにより、開示の必要性と弊害を考慮しつつ、争点の整理や被告人の防御の準備のために十分な証拠が開示されることになると考えております。

 また、同じ人権委員会の最終意見において「警察留置場すなわち代用監獄における被疑者への取調べが厳格に監視され、電気的手段により記録されるべきことを勧告する。」との見解が示されたことも承知しております。

 取り調べ状況の録音、録画等については、司法制度改革審議会意見においても、刑事手続における被疑者の取り調べの役割との関係で慎重な配慮が必要であり、将来的な検討課題とされております。

 したがって、法務省としても、この問題につきましては、刑事司法制度のあり方全体の中で慎重に検討することが必要であると考えているところでございます。

辻委員 今証拠開示に関する点はお読み上げいただいたんですかね。

 要するに、証拠請求する証拠以外には開示する義務がないとされているという点について、一般的権利を有しないことに懸念を表明するということが指摘されていますよね。この点は、先般の司法改革論議の中で、刑事訴訟法の一部改正ということで証拠開示の範囲がやや広まるんだというふうな御説明があり、部分的にはそうなる可能性がある面があるんですが、しかし、一般的な権利を有しないこと自体は変わっていないですよね。この点は問題だというふうにお考えにならないんですか。

大林政府参考人 今御指摘の点でございますけれども、刑事事件の訴訟記録には、広範な捜査活動の結果収集された種々雑多な資料が含まれておりまして、その中には事件の争点と関係しないものがあるほか、証拠開示によって関係者のプライバシーや名誉が害されるとともに、将来の捜査に対する協力が得られなくなるおそれがあるものもあるため、弁護側に証拠開示の一般的な権利を認めることは適当でない、このように考えております。

辻委員 結局、去年の司法改革の議論の中でも、刑事訴訟法の三百十六条の十五、十六、二十をめぐっていろいろ質問があって、答弁に立たれた山崎推進本部事務局長は、被告人の側に有利な証拠についても出す機会がふえるんだ、かなり拡充するんだというふうに繰り返し答弁をされているんですけれども、その趣旨についてはどういうふうに理解されていますか。

大林政府参考人 新しい制度との比較におきまして簡単に御説明しますと、現行制度では、もう委員御承知のとおり、検察官は、刑事訴訟法第二百九十九条第一項により、証人等の尋問を請求する場合には、その氏名及び住居を知る機会を与える、それから、証拠書類、証拠物の取り調べを請求する場合に、これを閲覧する機会を与えなければならないとされております。最高裁判所の判例により、裁判所は、証拠調べに入った後、一定の場合に、訴訟指揮権に基づき、検察官が所持する証拠の開示を命ずることができる、こういうふうにされています。

 これに対して改正後の刑事訴訟法では、証拠の開示の範囲を拡充しておりまして、具体的に申し上げますと、検察官は、公判前整理手続において、取り調べを請求した証拠書類、証拠物を開示するほか、証人等の尋問を請求した場合におきましては、現行制度のように証人等の氏名及び住居を知る機会を与えるだけでなく、その供述内容が明らかとなる供述調書等を開示しなければならないものとされております。

 さらに、検察官が取り調べを請求した証拠以外の証拠に関しても、公判前整理手続の段階から、被告人・弁護人の請求によって、検察官が取り調べを請求した証拠の証明力を判断するために重要な一定類型の証拠、それから被告人・弁護人が明らかにした主張に関連する証拠について、開示の必要性及び弊害を勘案して開示しなければならないものとされております。

 このような制度によって、開示の必要性と弊害とを比較考量しつつ、争点の整理や被告人の防御の準備のため十分な証拠が開示されることになると考えております。

辻委員 言葉上の問題はやや制約が減少したというか、証拠開示される範囲がふえる可能性があるということは確かに御説明になられるとおりなんだけれども、結局、最終的には、利益衡量というか、具体的なケースにおける判断になるわけですね。そのときの判断に当たっての基準として、どういう思想なりどういう理念なりを重要な価値だというふうに考えて具体的に切り分けていくのか、証拠開示に応じるのかということが問われるわけであって、だからこそ、国連のこういう勧告や、本来の証拠開示制度の意義なり趣旨なりについてのそれぞれの立場の方々の見解が問われてくるわけなんですよ。

 これは最高裁に伺いたいんですけれども、新刑事訴訟法の改正後の運用に当たって、証拠開示の問題について、どういう理念のもとに運用をするべく最高裁としては考えているのか。

 例えば、やはり裁判官が勧告する権限だってあるわけなんだから、検察官が非常に消極的な場合には、いや、それでは制度の趣旨にもとることになるんだということで勧告する、そういう人権理念というか、そういう見識を裁判官が持っていただくことが非常に重要だと思うんですけれども、最高裁としては、裁判官に対して、どういうような証拠開示についての見解を是として考えておられるのか、その点について御説明いただけませんか。

大谷最高裁判所長官代理者 お答えいたします。

 今お尋ねのあったことについては、基本的には、最終的に法の解釈に帰着するところがあろうかと思います。その点につきましては、事務当局としてこういう解釈をすべきだということについて申し上げるわけにはいかないということは御理解いただきたいと思うわけです。

 ただ、一般論として申しますと、裁判所といたしまして、争点整理を徹底させて公判の当初から集中審理を実現して適正迅速な裁判を行う、こういう理念のもとに、証拠開示というものが適正に行われることが不可欠であるということは従来から申し上げてまいりました。

 そして、今回の刑訴法改正では、改革審の意見を踏まえて、先ほどからお話のあります、検察官による証拠開示の拡充のための規定が盛り込まれたわけでございますから、その趣旨に照らして、裁判所としても法に基づいて適正な運用を行っていくということでございまして、この点は、それぞれの具体的な事件に携わる裁判官としても十分わかっていることだと思います。また、研究会等でもこの点についての議論を深めていきたい、こういうふうに考えております。

辻委員 冒頭で私が紹介申し上げた宇都宮のケース、自白調書だけが証拠請求されている。ほかにも証拠があるのかというように証拠開示の請求をする場合に、包丁があるとかサングラスがあるとか足跡があるとか、具体的にわからない場合には、三百十六条の十五なり二十なりというふうに言っても、証拠開示請求はそもそも成り立たないというふうに思うんですけれども、こういう事案については本来どうすべきものなんでしょうか。裁判所としては、それはもう仕方がないんだ、法律がない以上はもうしようがないんだ、こういうお考えですか。どうなんですか。

大谷最高裁判所長官代理者 ちょっと仮定的な議論ですので何ともお答えできないのですけれども、私自身の裁判官の経験のことをちょっと申し上げてお許しいただけるとすれば、証拠開示に関する判例等とは別に、個々の事件で裁判官が疑問に思ったことは法廷で釈明を求めて、検察官の釈明をしてもらい、そしてそれについて証拠調べが必要であるとすれば、それなりに、勧告をしたり、あるいは証拠開示命令を従来の最高裁の判例を踏まえながらやっていく、こういうことを行ってきたわけでございます。

 それで、今回、この法律に証拠開示に関する規定が明示されたことになりますので、今後は、この規定を軸としながら裁判官としては運用を行っていく、こういうことになるということだと思います。

辻委員 具体的な事案について、裁判官の見識というか、ある意味では資質に負うところが非常に大きいというふうに思うんですけれども、だからこそお伺いするんですが、最高裁としては、この国連の指摘については、全般的にこれは是とされているんですか。どうなんですか。どういう見解をお持ちなんですか。

大谷最高裁判所長官代理者 先ほどの国連の委員会の勧告につきましては、もちろん私どもはその内容を承知しております。

 これをどう解釈すべきかということについては議論もあろうかと思いますが、そのような勧告がされたということは厳然たる事実でございますので、最高裁判所としては、折あるごとに研究会などを通じまして各裁判官にはこの勧告の内容について周知させております。

辻委員 きょうのところはこの点については終えて、次に進みたいと思います。後日、また別の機会に証拠開示についてはいろいろ質疑をさせていただきたいというふうに思います。

 そこで、再審の問題に移して具体的に伺っていきますけれども、日本の今までの、一九七〇年代以降ということで結構でありますけれども、再審事件の状況というか、例えば、申し立て件数がどれぐらいあって、再審開始決定になった部分が何件ぐらいあって、そして現実に無罪になったケースが何件ぐらいあるのか、その辺の概要について御説明いただけませんでしょうか。

大谷最高裁判所長官代理者 お答えいたします。

 すべての審級で再審というのは問題になるわけでございますので、再審請求の人員の合計を申し上げますと、一九七〇年代、すなわち昭和四十五年以降でございますが、七〇年代の再審請求の人員の合計は九百八人、それから八〇年代は九百四十六人、それから九〇年代は七百九十人、それから、平成十六年までの二〇〇〇年代ということであえて申し上げますと六百九十五人でございます。

 なお、二〇〇〇年代の数値につきましては、平成十六年の統計の値が確定しておりませんので、概数ということになります。

 同じく、再審開始決定のあった人員でございますが、一九七〇年代から二〇〇〇年代まで申し上げますと、それぞれ、三百人、百六十七人、九十六人、五十七人でございます。

 また、同じく再審において無罪となった人員でございますが、これはそれぞれ、二百八十六人、百六十三人、九十七人、四十八人でございます。

 これらの数値のうち、二〇〇〇年代のものにつきましては、平成十六年までの概数ということになることは先ほどと同様でございます。

辻委員 今、九〇年代の再審開始決定になった数というのは九十六というふうにおっしゃったように思いましたけれども、多分違うんでしょうね。何人でしょうか。つまり、無罪になったのが九十七人とおっしゃったから、数字が合わないように思うんですが。

大谷最高裁判所長官代理者 数字としてはこれで正しいということになろうかと思います。つまり、開始決定のあったものについての人数と、それからその年中に無罪となったものということですので、数字がずれることになります。対応関係があるわけではありませんので、そういう数字の違いが出たものだと承知しております。

辻委員 では、再審開始決定になった事例に限らず、再審請求のあった各事例のうち、証拠開示がなされた事例は何件であって、かつ、事実調べがなされた件数は何件なのか、その点はいかがですか。

大谷最高裁判所長官代理者 まず、証拠開示に関しては、これは統計をとっておりません。再審請求審において裁判所が開示命令を出した事例としてたまたま知り得たということによりますと、いわゆる日産サニー事件というのが福島地方裁判所いわき支部でございましたが、これが証拠開示命令を出したということを承知しております。また、開示を勧告した例でございますが、いわゆる徳島ラジオ商殺し事件、徳島地方裁判所でございましたこの事件を把握しております。

 それから、事実調べの点についての御質問でございますが、これは本人の側からの再審請求事件が刑訴法の四百三十五条の再審事由に当たらないことのみを理由として棄却されたもの、これに関してのみ統計をとっておりまして、その点で、そういうものだということで御理解いただくことで御説明いたしますと、そういう、本人側からの再審請求事件が刑訴法四百三十五条に当たらないことのみを理由として棄却されたものにつきましては、事実調べをしたものの割合は以下のとおりでございます。

 一九八〇年代以降二〇〇三年、平成十五年までの間で棄却された人員は合計六百九十一人で、事実の取り調べを行ったのは五十人、約七・二%ということでございます。

辻委員 四百三十五条で棄却された件数についてだけ事実調べをなされたものが何人かというふうに、そこに限って統計をとっておられるのはどうしてなんですか。

大谷最高裁判所長官代理者 特に理由を私として承知しておるわけではないのですけれども、従来からの数字としては、これが一貫したものとして、統計としてとっておるということでございます。

辻委員 ちょっと改めて、証拠開示、事実調べの現状についてはまた伺いたいと思いますが、例えば、勧告をしたのは徳島ラジオ商事件だけだとおっしゃったけれども、先日の名張毒ブドウ酒事件でも勧告をしているという新聞報道がありますが、これは事実は掌握されていないんですか。

大林政府参考人 御指摘の事件につきましては、再審開始決定において、再審請求審における証拠開示に言及した部分がございませんので、ちょっとその詳細は判然といたしません。

辻委員 では、名張事件については後ほどまた伺いますけれども、最高裁に伺いたいんですが、さっきの再審請求の七〇年代から二〇〇〇年代の請求の件数と開始決定の件数を見たときに、七〇年代は九百八分の三百ですよね、だから三分の一。八〇年代は九百四十六分の百六十七だから、五分の一よりも少ないですね。九〇年代は七百九十分の九十六だから、八分の一ですよ。どんどん減ってきていますね。こういう傾向については、どういうふうに分析しておられるんですか、最高裁は。

大谷最高裁判所長官代理者 数字の上では委員御指摘のとおりの数字になっておるわけですけれども、何分、再審事件については個別性が非常に高うございます。先ほど申し上げませんでしたが、再審開始決定のあったものの中には、交通関係事件における身がわりの事案において検察官の方から再審請求された事件も数多く含まれておりまして、全体として何か特段の要因があってこのような形での現象が起きているというふうには、現在のところは考えておりません。

辻委員 いや、それは最高裁の御発言とは思えないですね。やはり再審事件というのは非常に社会的な関心があり、黙過できない非常に重要な事案ですよ。

 だから、そういうときに、明らかに傾向的に再審開始決定の割合が減っているという、これは、もしその交通事故の身がわり事件の数が水増しになっているんだというのであれば、それを除いた件数として御報告いただきたいと思うんですけれども、明らかに再審開始決定の比率が落ちているということは、では、冤罪の比率が落ちているのか、そんなことは一般的には言えないというふうに思うし、それについて最高裁として、数字だけ掌握していて内容について検討しないというのは、これは本来の最高裁のあり方として問題なんじゃないかなと思うんです。

 最高裁としては、再審問題について、そもそも具体的にフォローするような体制をとっておられるんでしょうか。それについて研究しているようなことがあるんでしょうか。あるのであれば、どういう機関でどういう研究をされているのか、どういう成果があるのかというのをぜひ教えていただきたいと思うんですが、いかがでしょうか。

大谷最高裁判所長官代理者 まず、数字の点で申し上げますと、再審開始決定のあったもののうち本人側請求によるもので申し上げますと、一九九〇年代でいいますと本人側請求が四人なのですが、平成十六年までの二〇〇〇年代ですと本人側請求によるものが八人ということになっております。そういうことで、個別性が高いということを申し上げた一つの理由ということになります。

 今お尋ねのありました再審ということの研究ということでございますが、再審というよりはもう少し広く、もとより無辜の者を罰してはならない、そういう誤判があってはならないということについては、裁判所としては、これは最高裁だけではなく、現場の裁判官一人一人が常に自覚しているところであります。

 そういう観点から、これまでにも、例えば事実認定に関する研究あるいは自白の信用性、任意性に関する研究などを裁判官が司法研究として報告して、これが公刊されております。後者の方では、どういうことに着目すれば誤判というものが生じないかということを詳細に分析しております。過去の事例などに基づいて分析しておりまして、いやしくも刑事裁判官を担当する者であればこうした書物については常に当たっているというものではないかと私としては認識しております。

辻委員 本来の再審手続はどうあるべきなのかとか、再審法をつくるべきなのかどうかという問題もありますけれども、そういうことに関する研究は最高裁としても当然どこかでされているように思うんですけれども、どうなんですか。

大谷最高裁判所長官代理者 今手元に正確な資料がないのですけれども、私の記憶する限り、最近では特にそういう具体的な司法研究等は行われていないというふうに思っております。

辻委員 では、ぜひ、ちょっとさかのぼっても結構ですから、一度御調査いただいて、研究結果なり、公表されているものがあれば資料をいただきたいなというふうに申し上げておきたいと思います。

 それで、さっき言われたような、七〇年代は九百八件再審請求がなされて三百件開始決定、三分の一。八〇年代は九百四十六で百六十七、五・五分の一ぐらいですね。九〇年代は七百九十で九十六、八分の一。どんどん減ってきているんですね。これは、七〇年代に白鳥決定、財田川決定という決定があって、四死刑事件で再審開始決定になって無罪になったという流れがとりわけ九〇年代以降大きく後退したというふうに指摘する声も学者や弁護士会の中には結構強いものがあるということは認識されていると思うんです。

 したがって、やはり再審手続についてどう考えるのかという考え方をもう一回きちっと検証し直さなければいけないし、そしてなお、この間の司法改革論議の上で、証拠開示の拡充や、そういう意味では審理の充実というふうなことがやはり国民的な関心と議論になっているという議論の成果を踏まえて、改めてもう一回、再審の手続なり制度というのはどうあるべきなのかというのを問い返さなければいけないというふうに私は思うんです。

 その前提として、財田川決定、白鳥決定ということについて、内容についてまず確認しておきたいと思うんですが、御案内いただけますでしょうか。

大林政府参考人 今御指摘のあった財田川事件について、概要等について申し上げます。

 いわゆる財田川事件につきましては、公訴事実の概要は、昭和二十五年二月二十八日、香川県内の被害者、当時六十三歳方において、就寝中の同人の顔面、頭部等を刺身包丁で突き刺したほか、全身三十数カ所に切りつけるなどして同人を殺害した上、現金一万三千三百円を強取したという事実でございます。

 その事件の裁判の経過は、昭和三十二年一月二十二日、強盗殺人により死刑判決が確定した後、二回にわたり再審請求がなされて、昭和五十四年六月六日に高松地裁において再審開始決定がなされ、昭和五十九年三月二十七日に無罪判決が確定したものと承知しております。

 その決定の内容についても御紹介しましょうか。(辻委員「簡単に」と呼ぶ)はい。

 この事件におきましては、自白の信用性について、被害者が着用していたとされる胴巻きに血痕付着がなく、自白に符合する現場の血痕足跡のないこと等の点で疑問があり、鑑定においても、犯行を認めた手記の筆跡が請求人のものであると認めることが困難であるとされまして、この鑑定が無罪を言い渡すべき新規かつ明白な証拠であるなどとして再審開始決定がなされ、再審公判においては、捜査段階の自白の任意性は認められたものの、請求人の犯行状況に関する供述が取り調べの進展に伴って大きく変遷していること、被害者が着用していたと供述していた胴巻きに血痕が付着していないこと、奪取金品の額、使途が変遷している上、残余金を護送中車外に投棄したことを裏づける証拠はないこと、凶器である刺身包丁の投棄場所に関する供述が変遷し、これが発見されていないこと等にかんがみ、自白の信用性に疑いがあり、他方、国防色ズボンを本件当時被告人が着用していたこと及びそこに付着する血痕が本件の際に付着したものであることを断定できないなどとして、本件について無罪を言い渡した、こういうふうに承知しております。

辻委員 白鳥決定、財田川決定について御紹介いただきたいというふうに言ったんですよ。やはり、これはまず白鳥決定から紹介すべきなんですよ。なぜかというと、それまでの再審事件について明らかに大きな門戸を開いたのは白鳥決定で、これが時代を開いた決定なんですよ。だから、再審問題についての認識、どの程度深い関心を持っておられるのかがやはり紹介の順番にあらわれますよ。

 時間の関係があるからちょっと私の方で白鳥決定を紹介させていただきたいと思いますけれども、恐らく異論のないところで言われていることは、この白鳥決定というのは二点あって、一つは、明白性が認められるかどうかについて当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断すべきであるということを言った、それまではそういうことはなかったんですね。だから、ここが新たな白鳥決定の地平であろうというふうに私は思います。

 二つ目は、再審審においても、これは通常の事実審理審と同様に、疑わしいときは被告人の利益という刑事裁判の原則が適用されるべきなんだということをはっきり言ったということが白鳥決定の非常に重要な点だろうと私は思うんですよ。

 この点については認識は一致しているんですか、一致していないんですか。最高裁、検察庁、それぞれお考えを伺いたいと思います。

大谷最高裁判所長官代理者 今委員が御紹介になりました二つの点は、いずれも白鳥決定の判文の中に明記されているところでございます。

 考え方はいろいろございましょうが、少なくとも実務の一般的な考え方としては、いわゆる総合評価説をとったということを含めて、最高裁の白鳥決定がまさにリーディングケースになるというふうに考えられております。事実、その後の最高裁の判例、再審に関する判例でも、白鳥決定それから財田川決定等が引用されているということでございます。

大林政府参考人 今の最高裁の答弁のとおりでございます。

辻委員 ちょっと聞こえなかった。同じということですか。本当ですね。

大林政府参考人 今問題になっているいわゆる全証拠を総合的に評価して判断すべきであるというふうな形で判文上出ていることについては、私どももそのとおりだと認識しております。

辻委員 何かトーンがちょっと変わったんですね。決定文としてそういうくだりがあるということは認識しているということであって、それが非常に新たな地平であって、再審問題について大きく、冤罪をなくするということについて大きな効果があるという点についてはどうなんですか。

大林政府参考人 今の白鳥決定の意義といいますか、重要性というものは私たちも十分認識しておりまして、それを踏まえた上で、検察官も、指摘されていることについてはそのような認識でおると思います。

辻委員 検察庁に伺いますけれども、これは「「再審無罪事件検討結果報告――免田・財田川・松山各事件」について」というのが、最高検察庁内に設置された再審無罪事件検討委員会が、一九八四年十月五日から一九八五年十月三十一日までの間に十回の会議を開いて行った。この存在については、一九八五年二月二十日の衆議院法務委員会の質疑で、当時の筧法務省刑事局長がその存在を明らかにしているということのようなんですけれども、この検討結果報告というのは、これは委員会に提出していただけますか、いかがですか。

大林政府参考人 御指摘の資料は検察当局の内部資料でございまして、ちょっとその詳細について私どもは申し上げられない状況にございます。ですから、その点については、提出できるかどうかについては、ちょっと差し控えさせていただきたいというふうに思っております。

辻委員 何を差し控えるのですか。

大林政府参考人 今申し上げたとおり、これは内部資料でございますので、その内容の詳細について申し上げること、そしてそれを提出するということについてはちょっと差し控えさせていただきたいということでございます。

辻委員 これは改めて法務委員会の方で提出を求めていただくような申し出を検討したいというふうに思っていますので、その点だけ今申し上げておきたいと思います。

 その内容に関して、これは法律時報の六十一巻八号で、それにコメントが加えられていて、どうもその報告書の内容が引用されたりしているので、恐らく事実に近いものだろうというふうに思われるのですけれども。

 白鳥決定を受けて、とりわけ再審請求審における提出証拠の問題について、これは証拠開示の問題についてでありますけれども、どのような考え方で提出する証拠を絞るべきかという問題があるということで、証拠提出を求められたものをどう絞るのかということをどうも最高検察庁は議論しているのですね。そして、「一応、再審請求人側から明白性、新規性のある証拠として提出されたものと関連のある必要最小限度のものにすべきではないか」というようなことを議論しているのですよ。

 これに関して、「検察官が公正な立場で検討し、検察官にとって不利だから証拠を提出しないという考え方で不提出にしているのではないということを明らかにしなければならない。」つまり、「不提出記録の中には、請求人に有利な証拠もあるので、これを提出しないということは、検察官が不利な証拠を隠しているのではないかと思われ兼ねないところに問題があるという意見もある。」ということで、それに対してどういうふうにするのかということをどうも検討していて、とにかく、検察官が提出する証拠は、新規性、明白性と関連する証拠に限るという主張をして筋を通す、裁判官と個別折衝してよく説明をするんだ、それでも裁判官の納得を得られないときは提出せざるを得ないけれども、その証拠に対して裁判所が誤った判断をしないように他の証拠との関係をよく見て、弾劾証拠の提出等も配慮すべきであるというふうに、これは指導をしているのですね。

 つまり、証拠開示をどれだけ少なくするのかということで研究している。これは白鳥決定をきちっと評価して前向きに検察庁が問題意識をそろえているとは思えないのですけれども、どうなんですか、この点、ちょっと説明してください。

大林政府参考人 あくまでも一般論で申し上げれば、再審請求手続の特徴といたしましては、通常の公判手続で既に証拠開示の問題も含め審理は尽くされていること、それから、通常、公判手続のような当事者主義構造ではなく、いわゆる職権主義構造であること、それから被告人側から無罪を言い渡すべき明らかな事情を主張して再審を請求し、検察官が被告人の主張に関連する証拠を提出するという仕組みになっていること、通常の公判手続と異なり証拠能力の制限がないことなどの特色があると思われます。

 したがいまして、再審請求審における不提出記録の開示等につきましては、このような手続の構造に応じた、関係者の名誉、プライバシー等の保護、捜査への影響等に対する配慮が必要であり、必ずしも確定前の刑事事件と同様に取り扱うことはできないと考えております。

 私が先ほど申し上げたとおり、内部資料について私どもが触れることはできませんけれども、冤罪事件が表にあらわれることを防止するために開示しないというような、そういう発想ではないというふうに思います。

辻委員 だけれども、そういうふうな疑いを持たれかねないからどうしようかということで検討しているのですね。そもそも、それは発想が逆転しているように思いますね。この点はさらに改めて機会を設けていろいろ質疑をさせていただきたいというふうに思います。

 もう一回、無罪確定した再審事件に戻りますけれども、免田事件、財田川事件、松山事件、徳島事件、梅田事件それぞれについて、証拠開示は具体的にどういうふうになされたのか、そしてまた検察官の手持ちの証拠リストについての開示がどのようになされたのか、それぞれについて御説明いただけますか。

大林政府参考人 まず、免田事件について、今の証拠開示の状況について、これはちょっと記録上必ずしも明らかでないので詳細はわかりません。財田川事件についても同様でございます。その他の事件も詳細にはちょっとわからない部分が多いのですが、今の証拠リストの関係につきましては、いわゆる梅田事件につきましては、第二次再審請求手続において、裁判所からの勧告に基づいて、検察官が公判不提出記録の目録を作成の上、同裁判所に提出した事実はある、このように承知しております。

辻委員 梅田事件だけ内容がわかっている、こういうことですか。調べればわかるんでしょう。弁護側なり学者の論文なりで、例えば免田事件は、第三次再審で検察官から未提出の記録を取り寄せて、免田さんのアリバイを証明する証言など重要な証拠が含まれていた、第六次再審では証拠リストが開示されたということが事実として一応まとめられているんですが、それは掌握されていないんですか、掌握する気もないんですか。どうなんですか、それは。

大林政府参考人 再審請求審におきましては、検察官が、弁護側や裁判所の求めに応じて、不提出記録の一部を裁判所に提出したり弁護側に開示したりする場合があるわけですが、その経緯が必ずしも記録されるわけでもないということで、証拠開示の状況について詳細な点は承知しておらないということでございます。

辻委員 いや、だって、さっきの最高検の中に設置された再審無罪事件検討委員会は、「免田・財田川・松山各事件について」となっているんですよ。それで、具体的に証拠開示の、これは一部しか引用されていませんけれども、いろいろ検討して、全面開示を求められたらどういうふうに対応すべきなのかということで、かなり長い報告書になっているんですよ。

 だから、そもそも免田事件を取り扱った報告書が出ているのに、免田事件で証拠開示がなされたのか、証拠リストが提示されたのかもわからないというのは、これは検察庁としては矛盾しているんじゃないですか。内部ではそういうことを言うんだけれども、外にはそういうことをやっているということ自体も説明できない、こういうことをおっしゃっているんですか。おかしいでしょう、それは。

大林政府参考人 一般論として申し上げれば、当然、裁判所、検察官、弁護側の間でその開示に関するやりとりはあると思います。

 ただ、請求審の構造上、いわゆる再審そのものの、いわゆる公判で行われるものではないという構造がありまして、そのやりとりの詳細がわからないところは多いということでございます。

辻委員 いや、だから、わからないはずがないじゃないですか。免田、財田川、松山各事件について検討結果報告というのをつくっているわけだから、最高検の中で。具体的に、それはいろいろ検察庁サイドで掌握できる事実を全部掌握して研究していると思いますね。だから、それは引き継がれていないというのか。

 さっきのお話では内部記録だから外に出せないというお話なんだけれども、では、免田事件で第三次再審で未提出の記録が明らかになったとか第六次再審で証拠リストが開示されたという事実を掌握していないというのは、やはりどう考えてもおかしいというふうに私は思います。この点、ちょっとまた別途質問させていただきたいと思います。

 財田川事件では第二次再審で捜査報告書つづりなどが開示されたということ、松山事件では第二次再審で未提出記録六冊が開示された、徳島事件では、第五次再審請求の三者協議で弁護側が開示を要求し、裁判所が開示を勧告して、合計二十二冊の未提出記録が開示された、そして梅田事件では第二次再審請求で証拠リストが開示され、またその中から証拠開示がなされたということなんですが、再審開始決定で無罪が確定した事案では必ず証拠開示がなされている、そして多くは事実審理もなされているというふうにまとめられると思うんですが、最高裁はこの点について、事実確認はどういうふうに掌握されていますか。

大谷最高裁判所長官代理者 先ほどもちょっと申し上げましたけれども、裁判所としましては、再審の請求審に関する証拠開示等の報告は受けておりませんので、掌握していないということになります。

辻委員 では、検察庁、法務省にお伺いしますけれども、これは再審に限らず、全件送致主義で警察から寄せられたいろいろな各資料、それから検察庁で独自に収集した証拠、こういうのは、証拠リストというのは必ず全件についてちゃんとつくっているのですか。この点はいかがですか、一般論として。全件について証拠リストというのはつくっているのですか、それは証拠請求する部分だけではなくて。

 つまり、証拠のリスト一覧ですよ。この案件について、このケースについては証拠としては何があるのか、その中からこれとこれとこれを公判に証拠請求しようと判断されると思うんだけれども、そういう証拠リストというのは、全件ないしは主な事案についてはつくっておられるということでいいのでしょうか。

大林政府参考人 これも一般論で申し上げますが、例えば、警察から事件送致されました、その場合に、目録的に、こういうものを送ったという形の目録がついていることはございますけれども、検察官が、例えば公判に出す証拠として考えた場合には、当然、その担当の検察官はリスト的なものをつくると思います。

 ただ、これも委員御承知だと思いますけれども、警察から来る書類は、報告書類とか、もういろいろな雑多なものが入っています。したがいまして、その全件について、これは証拠であるというリストは恐らくつくってはいないだろう。

 ですから、私の経験上申し上げれば、当然、公判提出を前提としたものについて、それはリスト的なものを担当検察官においてつくっているというものではないかというふうに思います。

辻委員 そうすると、冒頭で申し上げた宇都宮地裁の案件では、結局、包丁とか目出し帽とかサングラスとか軍手とか足跡とかいうのは証拠請求されていなかったわけだから、では、その最初の裁判のときにはそういう物証はどういう形で整理されるのですか。

 内部で、こういう証拠が収集されたというのは、名前はともかく、リストは一応つくるんじゃないんですか。それもない、していないということですか。では、どこかに放置しているわけでしょうか。

大林政府参考人 宇都宮の事件についての証拠関係について、私の方で詳細に承知しているわけではございません。

 一般論で申し上げますと、例えば、いろいろな証拠物があります。それについて、犯人との結びつきがあるものについて、通常は裁判所に提出する。したがって、その認定の手続、それから、それと犯人と結びつく証拠という形で構成されていると思います。

 ですから、証拠物としてあるものがすべて公判に提出される性質のものでもございませんし、今のような全リストをつくるということは、普通はないのではないかというふうに考えておりますが。

辻委員 いや、質問の趣旨はそういうことではないんですよ。

 では、違う聞き方をしますけれども、公判に請求する証拠以外の、請求しない未提出の証拠類については、基本的には全部きちっと保管するんでしょう。それは、どういうものがあるのかというのは、ちゃんとリストは手元にはつくっておくんでしょう。それはどうなんですか。

大林政府参考人 不提出の場合は不提出のつづり、それから公判提出の場合は、当然、提出の関係、大きく分けて二つに分けます。したがいまして、不提出の中にはいろいろな雑多なものがありますから、それはまとめてとじておきます。

 ただ、それについては、いろいろな状態で証拠というものは入ってきますので、それについて一々リストをつくるということはしていないはずです。

辻委員 その未提出の証拠というのはきちっと保管義務に基づいて保管されているんですか、保存されているんですか。その点はどうですか。

大林政府参考人 保管されていると思います。

辻委員 確定した後、何年間保管されるんですか。もし、確定した後でも、再審問題になっている事案であれば、その保管期間が徒過してもやはり保管をするというのが基本方針として保管されている、こういうふうに伺っていいんでしょうか。その点、いかがでしょうか。

大林政府参考人 確定記録の保存期間というのは、それは法定刑の区分けである程度決まっておりまして、その保存期限を過ぎれば、不提出記録と一緒になっていますので、それは廃棄されるのが原則だと思います。

 ただ、委員御指摘のように、再審等で、例えば、保存期間内に再審がなされて、当然それが将来的に問題となるということが予想される場合については、当然それは保存することもあり得るというふうに考えております。

辻委員 質疑時間が終了したというので、次回またこれは引き続いて質問させていただきたいと思いますけれども、今、最後、再審請求がされている事案については、不提出記録を含めて保存されることはあり得るとおっしゃったけれども、保存しないこともあるんですか。そんなことがあるんですか。そこをはっきりしてくださいよ。保存を義務づけられるんじゃないんですか。

大林政府参考人 今私が申し上げたのは、保存期間内に再審が申し立てられ、それが問題となることが予想される場合については、それは保存されるだろうと思います。ただ、例えば保存期間外で、もう廃棄した後に、仮に、そんな事案は少ないとは思いますけれども、再審が申し立てられたという場合は、これはもういたし方ないことでございまして、当然それは今のような具体的な状況において保存されるものだと思っております。

辻委員 保存期間内に再審請求があった事案については保存がされているんだという御発言があったということを確認して、きょうの段階では終わります。

 以上です。

     ――――◇―――――

塩崎委員長 次に、内閣提出、参議院送付、刑法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として法務省刑事局長大林宏君、法務省入国管理局長三浦正晴君、厚生労働省大臣官房審議官北井久美子君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。江田康幸君。

江田委員 公明党の江田康幸でございます。

 本日は、人身取引にかかわる刑法等の改正について御質問をさせていただきます。

 二〇〇〇年に人身取引防止議定書が国連で採択されまして、我が国も二〇〇二年にこれに署名したわけでございます。しかし、日本には、八〇年代、九〇年代から、タイ、フィリピン、中国、メキシコ、コロンビアなど、数多くの国から女性が商品として送り込まれる人身取引が行われ、それが依然続いている状況でございます。

 これらの女性の方々は、だまされて来日するケースも非常に多いわけでございまして、通常一人数百万円の架空借金が課せられて、パスポートを取り上げられて監禁され、売春などを強要され、逃げると殺すとおどされて、ひどい暴力を振るわれたりしているとお聞きします。

 こうした女性たちは不法滞在者として処罰されておりますけれども、しかし、よく考えていかなければならないのは、処罰されるべきは人身売買のブローカーでありまして、女性たちは被害者として保護されるべき対象のはずでございます。被害者であるにもかかわらず犯罪者扱いされて、現行制度では国外強制退去の対象となる。このため、被害者が警察への届け出をためらって、事件が表面化しない。そのため、加害者を検挙しにくいという要因にもなっているわけでございます。

 公明党は、人身取引問題に取り組むためのプロジェクトチームを立ち上げまして検討を鋭意進めながら、昨年十一月には、南野法務大臣に対して、人身取引防止及び被害者救済・保護推進に関する申し入れをするなど、人身取引問題について積極的に取り組んでまいりました。

 大臣への申し入れの内容でございますけれども、第一点は、刑法を改正し、人身取引罪を創設すること。二点目は、被害者救済、保護のための行動計画を策定すること。三点目は、被害者について仮放免や在留特別許可制度を弾力的に運用して保護、支援すること。そして第四点目は、人身取引被害者支援センター、これは仮称でございますけれども、それを設置すること。そして第五点目は、被害者支援に取り組むNPO法人と連携をとり、財政支援等を講じること。そして最後に、興行の在留資格の基準を定める省令を改正することの六点でありました。

 本日は、この申し入れが今回の法律案にどのように反映されておるか、また、今後の課題は何なのかについて明らかにする観点から私は質問をさせていただきます。

 まず最初に、刑法の改正についてお伺いをさせていただきます。

 これまでの日本の法律では、人身取引そのものを網羅的に処罰するものはなく、これまで刑法や特別法、例えば職業安定法とか売春防止法、入管法を個別に適用して対処してきたのが現状であるかと思います。しかし、これでは人身取引防止議定書の要請を満たしておらず、公明党はかねてから、早急に刑法を改正して人身取引罪の創設を求めてまいりました。今回の改正案では、人身売買罪として第二百二十六条の二が設けられたところでございます。

 そこで質問をさせていただきますが、まず、人身売買罪の創設でどんな効果が期待されているのか、お伺いいたします。また、人身取引議定書の定義からしますと、人身取引については、人身売買だけでなく、人を支配する行為全般について処罰することが求められているように思われますが、今回の法律案では、人身売買罪の創設以外に、人身取引議定書の要請をどのように反映しているものか、その両方について法務当局にお伺いいたします。

大林政府参考人 いわゆる人身取引議定書三条(a)では、犯罪化が必要とされる人身取引について、その目的、手段、行為の三つの要素から、「搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫若しくはその行使、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること又は他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若しくは利益の授受の手段を用いて、人を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受すること」と定義されておりまして、その際、「搾取には、少なくとも、他の者を売春させて搾取することその他の形態の性的搾取、強制的な労働若しくは役務の提供、奴隷化若しくはこれに類する行為、隷属又は臓器の摘出を含める。」とされております。

 今回、刑法に人身売買罪を新設するのは、今申し上げた手段の要素のうち、金銭の授受等を手段とする行為の処罰について、現行法では対応し切れない面があることなどによるものでございます。

 このほか、人身取引の要素の一つである搾取の目的の点では同議定書に言う臓器の摘出目的に係る場合が、また行為の点では輸送、引き渡し、蔵匿行為が、それぞれ現行の刑法との関係で問題となり、現行法では対応し切れない面があります。

 そこで、この法律案におきましては、人身売買罪を創設するほか、刑法二百二十五条の略取誘拐の罪、及び二百二十七条三項の被拐取者等の収受の罪の目的要件として臓器の摘出の目的を含む生命身体加害目的を追加するとともに、さらに、二百二十七条三項については、処罰の対象となる行為として被略取者等の輸送、引き渡し及び蔵匿の各行為を加えることとしております。

 これらの改正によって、人身取引議定書が要請する人身取引を漏れなく犯罪として処罰することが可能になると考えております。

江田委員 今おっしゃっていただきましたように、人を支配する行為全般について、この人身取引に対して実効性のあるものに今回の法改正はなっているということでございます。

 次の質問をさせていただきますけれども、この人身取引議定書の要請を満たすため、これにつきましては単に形式的に文言を対照するだけでは私は足りないと思いますが、人身取引議定書の理念を十分に取り込んだ法律やその運用になっていなければならないと考えております。

 例えば、人身取引議定書では、その表題にも「(特に女性及び児童)の取引」という文言を掲げておりまして、二条の「目的」でも「女性及び児童に特別の考慮を払いつつ、」とされております。そのような女性や児童に対する考慮という点で、具体的な事例に即してお伺いしたいと思います。

 売春をさせている者が、この外国人女性は売春することに承知しているんだ、同意しているんだから人身取引とは言えないだろうというふうに開き直るケースが多いと聞いております。成人の女性が家族を貧困から救うために、親からの働きかけなしに自発的にみずから売春を希望して売られたような場合など、人身売買について被害者の同意がある場合のようにも見えます。

 しかし、先ほど私が触れましたように、人身取引議定書が、「女性及び児童に特別の考慮を払いつつ、」と規定していることからしても、女性や児童の特性を考えて、売春をすることについて承知しているとの事情、これを過大視するというのはいかがなものかと考えておりますが、今回の法律案につきましても、売春をすることについて同意をしている場合であっても人身売買罪が成立するのかどうか、そこを法務当局にお伺いいたします。

大林政府参考人 御指摘のような事例におきまして、表面上被害者がみずから売春をして金銭を稼ぐことに同意していたといたしましても、本来は、不特定多数の相手方と性交等を行うことなどを希望しているものではなく、家族を貧困から救うため金銭を稼ぐには売春によるほかはないと考えてやむなく売春に及ぶに至ったと見る事案がほとんどであろうというふうに思われます。このような場合には、被害者の同意は自由かつ真摯な意思に基づくものとは認めがたく、当然に犯罪の成立が否定されるものではない、このように考えております。

江田委員 こういうケースは非常に多いと聞いております。貧困という理由で家族を救うために金銭を稼ぐ、その手段が売春によるしかなかったというようなことでこの日本に売られてきているというような事例が多いわけでございますので、それに対して、今、法務省の方からは、その事情を考慮して、勘案して、売春をすることに同意している、そういうふうに見かけられる場合であっても人身売買罪は成立、適用されるということでございますので、私どもの申し入れの内容にも沿った法律案の改正になっているかと思います。実効性が上がることを期待しております。

 次に、検察側の運用についてお伺いをさせていただきます。

 これまでの質問で、今回のこの改正案によりまして、人身取引議定書上の加害者処罰の規定やその理念を取り入れた整備が果たされることになるとのことでございますけれども、ことしの米国国務省のレポートによりますれば、昨年に引き続き、人身取引にかかわった者に対する刑罰が軽いと指摘されております。

 私もNGOの方から聞くわけでございますけれども、例えば、一事例であり、これは正確ではないかもしれませんけれども、四百人とも言われるような人身売買をしてきた男性に対して、判決が懲役一年十カ月であった。非常にこの判決が軽い、そういうようなケースがあるということをお聞きしておりますが、加害者に対して厳しい刑罰をもって対処するためには、実際の刑事裁判におきまして厳しい刑罰が実現されるように検察当局も努めるべきでありまして、法律の改正のみでは厳しい刑罰の実現に結びつかないおそれがあるのではないかと危惧しております。

 刑事手続上の被害者の保護についてもこれは同様でございますけれども、加害者に対する厳正な処罰や被害者の保護など、法律を執行する現場におきましても徹底される体制にあるのか、検察当局におけるこの取り扱いについて、運用について明確にしていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

南野国務大臣 先生御指摘のとおり、人身取引対策を実効あらしめるためには、人身取引問題の深刻さを十分に認識しまして、法律を有効的に運用することが重要である、そのように思っております。

 検察当局におきましては、各種の会議または通達、それを通じながら、各検察官に対しまして、関係法令を積極的に活用し、関係機関と緊密に連携しつつ、人身取引の実態を的確に解明し、また、犯罪組織自体の壊滅を目指した捜査を行って、一層厳格な科刑の実現に努めるとともに、人身取引の被害については、その事情を十分に勘案した適切な対応を行うよう配慮すべきこと、これを徹底しているものと承知しております。

江田委員 よろしくお願いをするところでございますが、徹底をしていただきたいと思います。

 次に行きますけれども、出入国管理及び難民認定法の改正について質問を進めさせていただきます。

 冒頭で触れましたように、昨年十一月、法務大臣への申し入れの中で、被害者について仮放免や在留特別許可制度を弾力的に運用して保護、支援することを取り上げました。この在留特別許可につきましては、現行法上も、入管法五十条第一項第三号の「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき。」との条項によって、在留特別許可を付与することができることになっております。

 今回の改正によりまして、人身取引等の被害者に在留特別許可を与えることができる旨の規定を明文化することになったわけでございますけれども、これを設けることによって現行法と何がどう変わってくるのか、少しわかりにくいと思いますので、お伺いさせていただきます。

 また、人身取引等の被害者であっても、必ずすべての人にこの在留特別許可が認められているわけではないということになるかと思いますけれども、それでは被害者の保護に欠けるというところは出てこないんでしょうか。法務大臣、いかがでしょうか。

南野国務大臣 今回の入管法の改正案におきましては、不法滞在状態にある人身取引被害者が保護の対象であることを法律上明らかにしておく必要があるというふうに考えたものでございまして、人身取引により他人の支配下に置かれたために不法滞在状態に陥った方については、原則として在留を特別に許可することとなると考えております。

 また、このような明文の規定を置くことによりまして、被害者の方が安心して保護を求めに来るというようなことが可能になるものと考えております。

江田委員 今大臣おっしゃっていただきましたように、人身取引の被害者にあっては、在留特別許可、これを原則的に与えることができる、大臣の裁量ということになるわけですけれども、そのようにお伺いをいたしました。しっかりとそこを考慮した判断を大臣にしていただきたいと思います。

 もう一つでございますけれども、今回の入管法の改正では、退去強制事由に該当している人身取引等の被害者に対しまして在留特別許可を与えることができるということを明記しただけでなく、一定の退去強制事由に関しては、人身取引等の被害者についてはそもそも退去強制事由自体に該当しないこととしておりますけれども、その趣旨は何でしょうか。

 逆に、人身取引等の被害者についてすべての退去強制事由から除外しなかったのはなぜでしょうか。法務当局にお伺いいたします。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 まず第一点目の、退去強制事由につきまして一部の者を除外したという理由でございますが、これは、現在ございます退去強制事由のうち、売春関係、それから資格外活動について人身取引被害者を除外するという改正案になっております。

 この背景といたしましては、我が国におきます人身取引の大半が性的搾取を目的とするものでございまして、売春の強要は性的搾取の最たるものであります。また、売春の強要を目的とするものでなくとも、人身取引によりまして性的行為を強要される、その結果として資格外活動というふうになる場合もあるわけでございまして、そうした被害に遭ったにもかかわらず退去強制の理由とされることは不合理であるというふうに考えますので、入管法の第二十四条の第四号イとヌでございますが、これを改正いたしまして、人身取引等により他人の支配下に置かれていたことにより、売春などの業務に従事した者と専ら資格外活動を行った者につきましては、特に退去強制の対象としないことにしております。

 二つ目の御質問でございますが、人身取引によりまして他人の支配下に置かれている状態で不法入国をしたケース、不法上陸をしたケース、また不法残留状態にある、こういった人につきまして、退去強制事由に該当しないということにいたしますと、そもそも在留資格がないわけでございますので、そういう人につきまして、本国への送還もできない、それから、在留特別許可を与えようといたしましても、在留特別許可と申しますのは退去強制手続の延長線上で与えられるものでございますので、この在留特別許可も付与できない、こういう状態になってしまいまして、何の資格もないまま本邦に滞在し続ける、こういう異常な状態になりますことから、除外をすることとはしておりません。

 また、刑罰法令違反などの他の退去強制事由につきましても、人身取引の被害の結果としてそうした刑罰法令に及ぶことが必ずしも多いとは言えないわけでございまして、例外的にそのような事態に至った場合には、在留特別許可制度により救済することができますことから、あえて退去強制事由からは除外することとしなかったものでございます。

    〔委員長退席、吉野委員長代理着席〕

江田委員 わかりました。今、ちょっとなかなかわかりにくいところ、在留特別許可並びに退去強制事由について明確にさせていただくために確認をさせていただいております。

 次に、不法滞在中の人身取引被害者への対応、これは最も大事な対応かと思っておりますが、幾つか質問をさせていただきます。

 不法滞在者である人身取引の被害者につきましては、不法滞在であることよりも、被害者となった経緯を踏まえて、保護に重点を置いた対応が重要である、私はそのように考えます。

 六月三日に公表されました米国の国務省のトラフィッキングレポートでは、人身取引被害者が退去強制されることを恐れて婦人相談所に相談できないという指摘がございますね。それについて、そのような事実が今現在あるのか、これを一つお伺いします。

 特に、被害者が不法滞在者である場合には、退去強制されてしまうことや、十分な保護、支援が受けられないのではないかと危惧されるわけでございますが、今回の改正では、人身取引の被害者が入国管理当局に安心して被害の実態を訴えられるようにするためにどのような配慮をしているのか、これは法務大臣政務官にお伺いをいたします。

富田大臣政務官 婦人相談所の件はちょっとこちらのあれではありませんので。

 今、入国管理局では、保護を求めてきた方が退去強制事由に該当している場合でも、人身取引の被害者であるというふうに判明した場合には、事実上、身柄を拘束せずに退去強制手続を進めた上で、在留特別許可を行っているところであります。このような取り扱いにつきましては、入国管理局のホームページやリーフレットを使いまして、国内外のNGO、外国公館あるいは出身国の関係省庁等、さまざまなチャンネルを通じて情報提供をしております。また、被害の申し立ての聴取に際しましては、母国語で被害の実情を訴えられるよう配慮することとしております。

 改正法では、人身取引被害者につきまして在留特別許可により保護されることを明文化しておりますし、施行後におきましても、広報に一層努めるなどし、被害者の方が安心して保護を求めて被害の申し立てをすることができるような環境整備に努めてまいりたいというふうに考えております。

江田委員 この点は非常に重要なことであるかと私は思うんですけれども、やはり安心して被害者が訴えてこなければ、事実、とにかく訴えてこなければ成立しないわけでありまして、加害者を検挙できない。そういう意味において、安心して入国管理当局に被害の実態が訴えられるようにするために、被害者が十分保護されるということが被害者に伝わるように、広報活動にもしっかりと取り組んでいただきたいと思います。母国語での対応という細かい配慮は非常に大事なことであるかと思いますので、よろしくお願いいたします。

 それで、これも政務官になるかと思いますが、どちらでもいいんですけれども、婦人相談所における保護等についてお伺いをさせていただきます。

 公明党は、昨年来、政府に対して、人身取引被害者支援センターを設置することという申し入れを行ってきたところでございます。しかし、政府は、昨年十二月に策定しました人身取引対策行動計画におきましては、この申し入れとは異なって、既存の婦人相談所における保護を活用するとともに、民間の保護施設への財政支援を行うということを発表されました。そういう立場であるということを明確にされたわけでございます。

 当面の対策としては、私もこれは理解できなくはないと思っておりますけれども、皆さん御存じのように、私どももNPOやそういう関係者の方々からお話を聞くのでございますけれども、婦人相談所というのが、例えばDV等の被害相談等で手いっぱいである、なかなかそういう人身取引に対する対応までいかないんじゃないか、そういうような懸念があるわけでございます。

 そういうような意味で、受け入れ体制が婦人相談所で十分なのかどうか、また保護を求めた女性のニーズに合っているのか、そういうような懸念がございます。万が一にも、保護を求めながらも、あきがないとか、満杯であるとか、手が足りないとか、そのようなことがないようにしていかなければならない。今後、法律の改正のその後にある課題として、そのように強く訴えさせていただきたいのです。

 そこで、婦人相談所における人身取引の被害女性の保護の数の最近の推移はどのようになっているのか、確認させてもらいます。また、保護を求めながらも収容されなかったケースというのはあるのか、どのように把握されているか。そして、先ほども申しましたように、受け入れの体制は十分できているのか。そこのところを厚生労働省当局にお伺いいたします。

北井政府参考人 まず、婦人相談所におきます人身取引被害者の保護の実績についてのお尋ねでございますが、婦人相談所で保護された人数は、平成十四年度二名、十五年度六名、十六年度二十四名となっております。また、十七年度につきましては、五月末現在で九名の保護を行っているところでございます。

 これまで人身取引被害者が婦人相談所に保護を求めてきたケースにつきましては、すべて、全員を婦人相談所で保護を実施しているところでございます。

 そして、婦人相談所の体制整備あるいはその保護体制が十分かというお尋ねでございますけれども、婦人相談所の体制につきましては、ここ数年、婦人相談所相談員の増員、一時保護の予算の大幅な増額、それから心理療法の担当職員の配置、それから外国人に対応するための通訳費の計上など、鋭意、体制整備に努めてきているところでございます。また、本年度からは新たに、人身取引被害者の民間シェルター等への一時保護委託制度も実施をすることといたしております。

 このような制度も積極的に活用しながら、こうした被害者の保護に向けた施策の実施に万全を期していきたいというふうに考えております。

江田委員 今のところは、保護を希望しながら婦人相談所で拒否されたケースというのはないということでございますので、一応安心はできますけれども、今後、この法律改正によって、人身取引被害者がさらに多く保護を求めてくるということが十分想定されるわけですから、さらに充実した体制をとっていかなくてはならないと思います。

 その際、重要になってくるのが、やはりNPO法人との連携ということになってくるかと思うんですね。これまでNPO法人の皆様方も、我々もヒアリングをさせていただきましたけれども、人身取引の被害者に対してまさに献身的な努力をなされておりまして、非常に頭が下がる思いでございます。

 公明党は、こうした実態を聞きまして、昨年、人身取引対策を行う関係省庁に対しまして、関係省庁は、被害者支援に取り組むNPO法人などと密接に連携をとって、財政支援等の支援策を講じることという申し入れをしたわけでございます。先ほどおっしゃられました、今回、民間シェルターへの一時保護委託費一千万円等も、この申し入れを受けて、十二月には、こうした支援措置につきまして平成十七年度の予算化が実現されたところでございます。

 そういうようなNPO法人との連携が非常に重要になってきますので、私、これはお願いでございますけれども、このNPO法人の実態それから活動の状況、どれだけの仕事があるのか、そういうところをしっかりとお話を聞いて、政府としてはそれに対して適切な対応をとらなくてはならないと思います。

 今、そういうような、一時保護委託費等の予算化が一千万円、これは非常に少ないものだということは承知の上で、しかし、こうやって予算化できたことは来年度に向けて大きな意味があることであると私は思っておりますので、評価はできますけれども、やはりNPO法人のそういう実態等を十分連携をとりながら掌握していただいて、被害者の保護につきましては、このような婦人相談所とNPO法人さらには入国管理局との連携というものを強く強く進めていただきたいことを申し上げたい。

 最後に、時間が来ておりますけれども、大臣に、この人身取引対策というのはまだ緒についたばかりでございます。行動計画に記載されている事項がすべて完了したわけではございません。人身取引の撲滅のためには、社会全体がこの問題に関心を持つことが非常に重要であるかと思っております。政府としてどのような対応をしていくのか、これもお伺いしたい。

 また、この法律案が成立した後に、絶えず人身取引対策については見直しをしていくということが必要であるかと思いますが、人身取引対策に関する今後の大臣の決意をお伺いして、私の質問を終わらせていただきます。

南野国務大臣 委員御指摘のとおり、人身取引の撲滅のためには、その重大性を広く国民に知っていただき、そのためには、広報啓発活動や人身取引対策についての不断の見直しが重要であるというふうに考えております。そのことは、昨年十二月に政府が策定いたしました人身取引対策行動計画、そういったものにも盛り込まれております。

 それから、法務省におきましても、今回の法律案を成立させていただいた後には、広報啓発活動を含めまして、その積極的かつ適正な運用を通じまして、加害者の厳正な処罰と被害者の保護の実現に努めます。そして、その過程において明らかになっていく人身取引の実態を踏まえながら、一層効果的な人身取引対策が実現できますように、関係省庁とよく連携しながら、全力で取り組んでいきたいと思っております。

江田委員 ありがとうございました。以上で終わります。

吉野委員長代理 次に、左藤章君。

左藤委員 自由民主党の左藤章でございます。

 刑法等を一部改正する、人身取引についての質問をさせていただきたいと思います。

 大臣も大変御苦労さまでございます、あっち行ったりこっち行ったり、本当に。

 それで、ちょっと申しわけないんですが、今回法改正をするわけですけれども、これまでの背景とかそういうことがあると思います。大臣からその背景を御説明賜れればありがたいと思います。

南野国務大臣 ありがとうございます。

 先生御指摘の、人身取引、このたびの法案につきましての経過でございますが、国連におきまして人身取引議定書が採択されておりますけれども、政府といたしましても、その防止、撲滅と被害者保護に向けました対策を進めておるところでございますが、昨年十二月には、議定書を早期に締結すべきことも盛り込んだ人身取引対策行動計画を策定いたしておるところでございます。

 それに加えまして、人身の自由を侵害する行為としては、長期間の監禁事案や、また悪質な幼児誘拐事件、そのような問題点がございまして、国境を越えた略取誘拐事案など、現行の罰則では適正な処罰が困難な事案ということも見られてきているところでございます。

 また、同様に、国連で採択されました密入国議定書におきましては、他人の不法入国を可能にする目的で行う旅行証明書の製造の犯罪化等につきましても規定いたしておりまして、我が国もこれに沿った国内法を整備する必要があるということでございます。

 なお、政府は、昨年十二月、テロの未然防止に関する行動計画を策定いたしましたが、その中でもテロリストを入国させないための対策の強化が求められているところでございます。

 この法律案は、このような背景を踏まえまして、必要な法整備を行おうとするものでございます。

左藤委員 大臣、ありがとうございます。本当にわかりやすく御説明をいただきました。

 今おっしゃったように、実は、国連の方で国際組織犯罪防止条約補足人身取引議定書が採択されたのは平成十二年なんです。我が国が署名したというのが二〇〇二年、平成十四年ですね。正直言って、ことしは平成十七年であります。簡単に言うと、我が国は何でこんなに遅くなったの、こういうことになるわけですが、これはなぜ時間がかかったか、法務当局からちょっと御説明をお願い申し上げたいと思います。

大林政府参考人 国際組織犯罪防止条約補足人身取引議定書は平成十二年十一月に採択されたものでございまして、我が国は平成十四年十二月に署名しております。

 同議定書の締結は国際組織犯罪防止条約への加入が前提となっておりますことから、法務省といたしましては、これら一連の条約、議定書の締結のため、まず平成十五年に国際組織犯罪防止条約を締結するための所要の法律案を国会に提出し、御審議をお願いしてきたところでございます。

 また、同議定書は平成十五年十二月に発効しましたけれども、我が国政府として、平成十五年に犯罪対策閣僚会議が策定した犯罪に強い社会の実現のための行動計画に同議定書を締結するための法整備を進める旨を盛り込み、法務省といたしましても、必要な検討作業を経た上で、平成十六年九月に法制審議会に対する諮問を行い、同審議会において慎重な審議をしていただくなどした後、今回の法律案の提出に至ったものでございます。

左藤委員 そういうことで、お話がありましたけれども、ちょっと質問通告していなかったので申しわけないんですが、これを見ますと、「中国を除き、すべてが人身取引議定書の署名国である。」こういうことになっていますね。

 中国に対して我が国は、こういうことに対して協力要請というか、やはり結構中国の問題が出てまいりますので、この辺はしておられるかどうか、御確認をお願いします。通告していなかったので申しわけないんですけれども。

大林政府参考人 御指摘のとおり、中国はまだ署名していないというふうに承知しておりますけれども、その理由についてはちょっと把握してございません。

左藤委員 我が国は、中国にオファーか何かしておりませんのでしょうか。

大林政府参考人 その詳細については、ちょっとわかりません。

左藤委員 はい、結構でございます。後でまた教えていただければ結構です。

 実は、人身取引議定書の中で、臓器の摘出の目的を問題としている部分があるんですね。臓器の売買について規約されていますが、今回の改正案で新設される罪とはどのような関係になるのか。これは、臓器移植の問題はいろいろありますので、ひとつお答えをお願い申し上げます。

大林政府参考人 臓器の移植に関する法律は、移植術に使用されるための臓器を提供することの対価として財産上の利益の供与を受け、または移植術に使用されるための臓器の提供を受けることの対価として財産上の利益を供与することや、これら臓器売買を有償であっせんすること、さらには、これらに係るものであることを知って臓器を摘出すること等の処罰を規定しておりまして、これらは社会の善良な風俗の維持及び移植機会の公平性確保という見地に立つものと承知しております。

 一方、今回の改正案では、臓器の摘出を目的とする略取、誘拐、売買等の行為を犯罪として処罰することを盛り込んでおりますけれども、これらの罪の保護法益は人身の自由であると考えております。

 したがって、臓器そのものの売買等の罪と臓器の摘出を目的とする人の略取、誘拐、売買等の罪とでは保護法益が異なるものでございまして、両者は別個の犯罪として成立する、法律用語で言えば併合罪という関係になる、このように解釈しております。

左藤委員 ありがとうございます。

 それでは、ちょっと次に行きたいと思いますが、国外移送罪の改正の趣旨についてちょっとお伺いしたいと思います。

 日本国外へ移送との構成要件を、今度、所在国外へ移送と改正するんですね。人身取引議定書の義務づけによるものではないと思われますけれども、この改正はどのような理由によってなされるのか、御説明を法務副大臣、滝先生お願いします。

滝副大臣 委員今御指摘のとおり、人身取引議定書では、人を所在国外に移送する行為を犯罪として直接義務づけているわけではございません。しかし、国境を越えて人の支配を不法にするということになりますと、原状の回復が非常に困難だ、こういうことが予想されるわけでございます。

 そこで、人身の自由に対する侵害が大きい、こういうことで、現在、我が国をめぐる問題として指摘されているのは、外国から我が国に女性が移送されてくるというのがほとんどでございますから、したがって、そういうような行為を処罰の対象とする必要がある、こういうような観点から、今回、人身取引議定書とは違いますけれども、そういうものを新しく入れたわけでございます。

左藤委員 今副大臣からお話があったとおり、ほとんど海外から日本に来る、これはよくあるパターンですが、ちょっと質問通告していなくて申しわけないんですけれども、日本から向こうへ、言い方は悪いですけれども、誘拐されて送られてしまう、または昔、変な話が、ジャパゆきさんという言葉もあったんですけれども、こういうことは今どの程度把握されていますか。

大林政府参考人 最近の認知件数みたいな公的なもので、十年間で一件あるかないかという程度の把握でございます。

 ただ、実態面については、私ども把握はしておりませんけれども、ないとは言えないのではないかというふうに考えております。

左藤委員 済みません、突然に申しわけないと思います。

 それから、今回、日本国外へ移送との構成要件を所在国外へ移送と改める、ちょっとさっきのと絡むんですが、日本人が外国から別の外国に連れられていく場合も含まれるのかどうか、これはどう考えるんでしょうか。

大林政府参考人 今回の法律案におきまして、日本国外へ移送との構成要件を所在国外へ移送と改正することとしておりますのは、人が現に存在する国からその国外に出されると、もとの所在地に戻ることが困難になるほか、生活様式、行動様式が異なる地での行動を余儀なくされる上、国家から受けられるべき庇護の内容も異なることになることから、人がその所在する国に引き続きとどまることについての自由、あるいは現に所在しているという事実状態について、人身の自由の重要な側面として保護する必要性が高く、このことは、日本国内から日本国外に移送される場合に限られず、当該対象者が現に所在する国からその国外に移送される場合についても同様であると考えられることなどによるものでございます。

 このような趣旨からいたしますと、外国から我が国に女性を移送するといった場合に限らず、お尋ねの、日本人が外国から別の外国に連れていかれる場合につきましても、今回の見直しによる所在国外へ移送の構成要件に当たり、処罰の対象となり得るものと考えております。

左藤委員 ありがたいことだと思います。そのようにしっかり取り締まってほしいですね。

 それから、日本国外での行為についての処罰の可否についてお伺いします。

 海外から日本へ送り出される人身取引の事案について、国内に入ってから後の行為は処罰されるとしても、日本国民以外の者が日本国外で日本国民以外の者を売買等した場合に処罰されることがあるのかどうか。

 また、その場合に、捜査機関としてはどのように海外のものを含めて連携をするのか。この辺、ひとつお伺いしたいと思います。

大林政府参考人 今回の法律案で改正の対象となる犯罪につきましては、いずれも、人身取引議定書が要請する国外犯処罰の範囲や人身の自由を侵害する犯罪に関する従前の国外犯処罰規定のあり方等を考慮し、刑法三条及び刑法三条の二により、日本国民の国外犯及び日本国民を被害者とする場合の国外犯を処罰の対象とすることとしております。

 したがいまして、お尋ねの、外国で外国人同士が外国人の被害者を売買等した段階では必ずしも我が国の刑法による処罰が可能とは限りませんけれども、我が国を目的地とする人身取引の場合には、その共犯者の犯罪地が日本国内にあることが少なくないと思われますし、そのような場合には、外国にいる外国人の共犯者も国内犯としての処罰が可能であると思われますし、人身買い受けの罪は日本国内で買い受け人が被害者の身柄を受け取った時点で成立しますので、外国の売り渡し人も含め、同罪の国内犯としての処罰が可能であると考えられます。

 このように我が国が刑罰権を行使することが可能な場合には、事案に応じ、我が国の捜査機関が外国当局と情報を交換したり、捜査共助や犯罪人の身柄の引き渡しを依頼するなどして、外国の捜査機関と連携するということになろうと思います。

左藤委員 はい、わかりました。

 今、外国の捜査機関とも連携してそれをやるということですが、さっきに話がまた戻って申しわけないんですが、そうすると、中国はどうなるのか。これは署名国じゃありません。これはどうなるんでしょうか。

大林政府参考人 例えば、誘拐等の罪につきまして、どの国も、恐らく中国にもそういう罪はあると思います。そういう罪につきましては、今回の条約に署名していなくても、捜査共助あるいは引き渡しの問題については相互主義でできることになると思います。

左藤委員 相互主義で通常どおりやれるということですね。ありがとうございます。

 それで、次にまたお伺いしたいと思います。

 国内外で行われる略取、誘拐それから売買の被害者について、日本国内での収受それから引き渡し等の処罰云々についてお伺いします。

 外国で外国人同士が外国人女性を略取、誘拐、売買したような場合に、日本国外での人身取引について処罰ができないとする。その被害女性が日本国内へ連れてこられた後、引き渡し、収受それから輸送行為が行われた場合、もともと国外でなされた略取、誘拐、人身売買についての我が国の刑法の適用がなくても、日本国内での引き渡し、収受、輸送等の罪は成立するんですか。どうなんでしょう。

大林政府参考人 日本国民以外の者が日本国外で外国人を略取、誘拐、売買する行為に及んだ場合、我が国の刑法の国外犯処罰規定に該当しない国外における行為ということになります。そのような場合であっても、このような行為が我が国の刑法の構成要件に該当すること自体は原則的に否定されないと解されます。

 また、二百二十七条三項に規定する引き渡し、収受等については、これらによって被害者の人身の自由が継続して侵害されるという観点からは、その前提となる略取、誘拐、人身売買が日本国外で行われたか日本国内で行われたかによって区別されるべき理由はないというふうに考えております。

 したがいまして、刑法二百二十七条三項の「略取され、誘拐され、又は売買された者」については、その行為者が我が国の刑法により処罰されるか否かに関係なく、客観的に我が国の刑法に言う略取、誘拐、人身売買に当たる行為の客体であれば、これに該当すると解され、日本国内でこれらの人たちの引き渡し、収受や輸送を行った者については、刑法二百二十七条三項の罪が成立し得るものと考えております。

    〔吉野委員長代理退席、委員長着席〕

左藤委員 二百二十七条三項を適用する、こういうことですね。わかりました。

 それから、犯罪収益です。もうかったというものですね。その利益の剥奪についてちょっとお願いします。

 実は、これは人身売買をして加害者の方が被害者を使っていろいろ、主に売春だろうと思うんですが、そういうことをして多額の利益を得るわけですね。そうすると、加害者というかその仲間の人が捕まった場合に、その利益分を没収するのか、この問題が一点。これについては通告してあります。

 それと、被害者の女性に、言い方は悪いけれども、キックバックという言葉がいいのかどうかわかりませんが、どう言っていいのか知りませんが、その人に渡さないのか、この辺はどうなんでしょうか。

大林政府参考人 御指摘のとおり、人身取引の加害者らは、この犯罪によって多額の不法な収益を得ていることがうかがわれるところでございまして、人身取引を防止、撲滅する観点からも、組織犯罪集団の活動を資金面から封じるという観点からも、人身取引によって得られた収益を犯人から剥奪することは非常に重要であると考えております。

 そこで、この法律案におきましては、いわゆる組織的犯罪処罰法を改正して、今回新設する人身売買罪等を含め、人身取引に係る罪から生じた犯罪収益が没収、追徴や、それに先立つ保全命令の対象となることを明示するとともに、これら犯罪収益等を隠匿、収受するいわゆるマネーロンダリング行為の処罰も可能とすることとしております。

 このように人身取引犯罪から生じた収益のマネーロンダリング行為を処罰することは、国際組織犯罪防止条約上の要請でもあり、今回の改正が実現された後は、検察当局において、人身取引によって得られた収益の剥奪に努め、このような犯罪組織の活動を資金面から封じ、ひいては人身取引の防止、撲滅に資するように努めていくものと承知しております。

 もう一つの、被害者への分配といいますか、救済といいますか、これは現在、この事案に限らず、被害者に対してその被害をどう分配するか、特に財産犯的なものについてはもう少しその額がはっきりするんですけれども、このような人身的な被害というものは非常になかなか評価しにくいという問題もありまして、これからそのような事案もふえていくと思われますので、検討課題にしてまいりたい、こういうふうに考えております。

左藤委員 今、その没収したお金というのは国庫に入れるという解釈ですね。それでよろしいですね。

 それと、今確かに、被害者の方に返すということ、返すというとおかしいか、どう言ったらいいかな、対価だから仕方ないと言っていいか、そうすると何か売春を公で認めたような話になるし、非常に厳しいことになるので、その辺は後の厚労省にお聞きしますけれども、そういうケアに回すとか、そういうことを考えていただければいいんじゃないかな、このように思います。

 次に、いろいろ先ほど江田先生からお話があって、十年間も何か四百人の人を云々して懲役一年と十カ月という話を聞いて、えらいめちゃくちゃやな、こう思うんですが、今度の法定刑の引き上げ、今逮捕監禁罪や未成年者略取誘拐罪の法定刑の上限が懲役五年から七年に引き上げられたわけですね。

 でも、それでもちょっと納得いかないというか少ないというか、まして先ほど江田先生のお話で一年と十カ月なんというのはえらい話じゃないかな、このように思うんです。いろいろなことが絡んでほかの並びもあるんだろうと思うんですが、この辺はもう少し引き上げが足りないんじゃないかというふうに一般的にみんな思うんですね。はっきり言って、人は殺していないかもしれませんけれども、強姦罪とかそういうのに近い話だろうと思うので、ちょっとその辺は、お願いします。

大林政府参考人 まず、逮捕監禁罪についてでございますが、身体に対する罪という点では、例えば暴行罪の法定刑が二年以下の懲役もしくは三十万円以下の罰金または拘留、科料とされているということ、保護責任者遺棄罪の法定刑が三月以上五年以下の懲役とされていること等の均衡上といいますか、そういう問題から、逮捕監禁罪の三月以上七年以下の懲役という法定刑は、相当程度重いものというふうに考えております。

 しかも、長期間にわたる監禁事案等の悪質事案におきましては、被害者に死傷等の重大な結果を発生させる場合が多いと考えられます。そのような場合には逮捕監禁致死傷罪が成立します。致傷の場合であれば三月以上十五年以下の懲役、致死の場合であれば三年以上の有期懲役、上限は二十年以下ということになります。

 また、未成年者略取誘拐罪については、懲役七年という法定刑の上限は現行の懲役五年よりも一段高くするものでございます。これも死傷に至る場合が少なくないというふうに考えられまして、例えば傷害罪あるいは傷害致死罪との併合罪として、それぞれ三月以上二十二年以下、致死の場合は三年以上二十七年以下の範囲の処罰が可能となります。

 また、法定刑につきましては、刑法等の法体系全体における他の罰則との整合性の考慮というものもございまして、確かにおっしゃられるように、量刑が軽いのではないかという事例も、私どももそういうふうに感じる事例もございます。これは法定刑と同時に、今の裁判の量刑の問題も深くかかわっているのではないかと思います。検察としては、やはり厳正に今後対処していかなきゃならないというふうに考えております。

左藤委員 やはりそういうことによって、被害者の人から見れば、殺人で殺されたことに次いで重いものだと思うんですね。自分の人生を非常に束縛されて、しかも、言い方は悪いけれども、やりたくないことをさせられて、恥も人間としてのプライドも全部捨てられるわけですから、これはちょっと、そういうことをやった人間に対してはもっと厳罰に処してもいいんじゃないかな、私はこのように思います。

 先ほどの江田先生ともまたダブるんですが、在留資格を有している被害者への配慮ということで、実は、先ほど挙がっていたNPO法人からもいろいろ話が出ていました。やはり被害者の人たちが無事解放されたとしても、すぐ帰らなきゃならないとかいろいろな問題が出てきて、特別在留許可とか、こういうことを配慮すべきだろうし、また、それによって、精神的ケアというのはあるんですが、すぐ帰りたくないから少し日本にいさせてくれとか、こういうことになると、これは厚生労働省にも絡むんですが、先ほどお話がありましたけれども、どういうケアをするのか。精神的な問題、住む場所の問題、そしていろいろ、しばらく日本というか、本国へ帰るまでに生活費を稼ぐやり方、これは問題もいろいろございますので、その辺の質問をさせていただきたいと思います。

北井政府参考人 人身取引被害者の保護につきましては、これまで生活上の問題を抱える女性の方々に対して幅広く相談に応じ、保護をし、カウンセリングを行う等の役割を担ってまいりました婦人相談所という機関がございますが、そうした婦人相談所を有効に活用していくことが一番現実的かというふうに考えております。

 婦人相談所の体制につきましては、ここ数年、相談員や心理担当職員の増員、あるいは予算の大幅な増額、あるいは通訳費の計上といったようなことで、鋭意体制整備を進めてきているところでございます。こういうことの中で、人身取引被害者につきましても、適切なケア、保護を行ってまいりたいと考えております。

 特に、カウンセリングの際に、恐怖感、不安感を取り除くためには、特に外国の方でございますから、多言語といいますか、さまざまな外国語に対応することが必要でございます。こうしたことから、心理担当の職員と通訳との共同作業によりまして、心理的なケアを含めたきめ細かな対応が必要だと考えまして、そうしたカウンセリングを効果的に実施されるように指導をしてまいりたいというふうに考えております。

 また、非常に知見の高い民間シェルター等もございますので、一時保護委託の制度等も活用いたしまして、被害者の保護に万全を期していきたいというふうに考えております。

左藤委員 今そういうことをしていただくにしても、来られた人、被害者の人というのは不法滞在なんですね。当然これは在留の特別許可というのは考えられるんですが、こういうことは、法務副大臣、当然法務当局としては配慮をしていただけるんだろうと思いますし、これまでにそういう具体的な例があったかどうか、お伺いをしたいと思います。

滝副大臣 今委員がおっしゃっておりますように、在留資格を有している被害者、こういう人たちにつきましても、心身の療養、こういうようなことが必要でしょうし、それからまた帰国のための準備ということも必要でございましょうから、そういう意味では在留期間の更新等の対象になるということにはなると思います。それは個別の判断でございます。

 今までの例としては、ことしの一月から五月にかけまして、興行の在留資格について、持っている被害者十一人につきまして保護いたしましたけれども、そのうちの一人につきましては在留資格の変更を現実に行っております。それから、他の者についても、今厚生省からもお話ございましたように、婦人相談所で一時保護した上で国際移住機関を通じて本国への帰国支援をする、こういうようなことも現実問題として既にことしやっております。

左藤委員 ことしから、実は、国際移住機関、IOMと言われるんですが、によると、帰国費用が、それぞれの国に帰る費用が支援されると聞いておるんです。これはお金がないときは当然してあげなきゃいかぬのですが、先ほど、おかしい話ですが、いろいろあって、言い方は悪いですけれども、不法行為をしてかなりのお金をため込んでいた、本人の意思は別として。お金をしっかりとためている、これをやはり持って帰りたい、こういう人も当然いるわけですね。

 そうすると、このIOMというところは、どういうぐあいに入管当局に対して、資産も、言い方は悪いですけれども、あるのか、それをチェックするのか。私はありませんと言っていても本当かどうかわからない、こういうこともあるので、その辺はどう対応するのか、お聞きしたいと思います。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 本人がどの程度お金を持っているかというのはなかなか、どこかに隠している可能性もありますので、全貌を完全に把握できるかどうか。通常は、退去強制手続に入りますと身柄を収容されるというケースが多いわけでございます。その際に本人の持ち物等はすべて持ってくるというケースがございますので、現金がどの程度今手元にあるかということは確認できるかと思います。

 なお、先ほどちょっと御質問があった件で、没収金を被害者の保護に充てたらいかがかという御質問がございましたが、入管の立場で申し上げますと、退去強制手続の対象になった方で日本国内でいわば低賃金で無理やり働かされていたというようなことで賃金未払いというような状態が認められたケースでは、本人の申し出に基づきまして入管の職員がもとの雇用主のところに行きまして、未払い賃金をちゃんと払ってやれというようなことで事実上指導して、履行させているケースもございます。

 御質問の、ちょっと外れて申しわけございませんが、IOM、国際移住機関の関係でございますが、ここはいわば帰国費用のない方の帰国支援というのが中心ではございますけれども、必ずしもそうでないケースにつきましても、そのほかに帰国後のいろいろな支援等もやっている組織でもありますので、帰国後の保護の関係等もございますし、また、第三国を経由して本国に帰るというようなケースもございますと、その第三国に入るための査証の取得という手続などがございます。こういうことも支援していただいておりますので、我々は、本人の希望等をよく聞きまして、IOMの方にその旨を伝えて保護をお願いしているという実情でございます。

左藤委員 もう時間がないので失礼しますが、一つだけちょっとお願いします。

 これはテロ対策とか国際犯罪の問題で、例のパスポートの確認の問題なんですね、運送業者、つまりエアラインとか。その問題ですが、不法入国とか不法上陸を防止するために入管が国の責任でもって運送業者に旅券等の確認義務を課す。その責任を不当に転嫁することではないかな、どうですか。要するに、責任はエアラインとか船舶の会社にあるんですよということがきちっと、やれるのかどうかの問題もあるし、やはり本当は入管としての責任があるんじゃないかな。この辺はいかが取り扱うのか。

 それともう一つ、今、水際対策でバイオメトリックスのいろいろやっています。こういうこともしっかり充実することが大事だろう、こういうように思いますので、これはきょうの人身売買と直接は関係ないですけれども、やはりそういう行為をする人たちの入国を未然に阻止するということは非常に大事なことですので、その辺を、進捗状況も含めてお答えをお願い申し上げたいと思います。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 まず第一点目の運送業者の旅券確認義務の関係でございますが、これは委員御指摘のとおり、確かに不法な目的で日本に来る外国人を水際で排除する第一の責任は入管当局にあることは当然でございまして、我々、鋭意、上陸審査で厳密な審査を行っているところではございます。

 ただ、できればそういう上陸のできない人たちが外国から来る飛行機に乗らないで済めば一番合理的でございますので。来た場合に、わかった場合に、また同じ航空会社に乗せて帰すという義務が課せられております航空会社にとってもそれはメリットがあるだろうと思っております。そういう意味では非常に合理的な制度でありまして、航空会社等はそれだけ負担にはなるんでございますが、そういういわゆる効果がある制度でございますので、先進国、英米仏等では既に実施をされておりますし、もともと各航空会社が旅客との間の航空約款を必ず締結しておりまして、そこでは正規の旅券がなければ乗せませんという内容になっておりますので、それも根拠になるのかなというふうに思っておるところでございます。

 水際対策につきましては、現在、政府の行動計画が昨年十二月に策定されておりまして、その中で上陸審査の際の指紋の取得等の問題が提起されておりまして、我々、なるべく早期に実現すべく、いろいろな観点から今検討をしておるところでございます。

左藤委員 以上で質問を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

塩崎委員長 次回は、来る十日金曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後三時三十分散会


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