衆議院

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第8号 平成17年10月26日(水曜日)

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平成十七年十月二十六日(水曜日)

    午前十時開議

 出席委員

   委員長 塩崎 恭久君

   理事 田村 憲久君 理事 早川 忠孝君

   理事 平沢 勝栄君 理事 三原 朝彦君

   理事 吉野 正芳君 理事 高山 智司君

   理事 平岡 秀夫君 理事 漆原 良夫君

      秋葉 賢也君    井上 信治君

      稲田 朋美君    近江屋信広君

      太田 誠一君    柴山 昌彦君

      菅原 一秀君    関  芳弘君

      谷  公一君    松島みどり君

      松本 洋平君    三ッ林隆志君

      水野 賢一君    森山 眞弓君

      保岡 興治君    柳本 卓治君

      石関 貴史君    枝野 幸男君

      小川 淳也君    河村たかし君

      玄葉光一郎君    津村 啓介君

      伊藤  渉君    保坂 展人君

      滝   実君    山口 俊一君

    …………………………………

   法務大臣政務官      三ッ林隆志君

   参考人

   (上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻教授)   長沼 範良君

   参考人

   (日本弁護士連合会国際刑事立法対策委員会事務局長)            山下 幸夫君

   参考人

   (明治大学法科大学院・法学部教授)        川端  博君

   参考人

   (関東学院大学法学部教授)            足立 昌勝君

   参考人

   (慶應義塾大学大学院法務研究科兼法学部教授)

   (弁護士)        安冨  潔君

   参考人

   (日本弁護士連合会国際刑事立法対策委員会副委員長)            海渡 雄一君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

十月二十六日

 辞任         補欠選任

  柴山 昌彦君     菅原 一秀君

  谷  公一君     関  芳弘君

  枝野 幸男君     小川 淳也君

同日

 辞任         補欠選任

  菅原 一秀君     柴山 昌彦君

  関  芳弘君     松本 洋平君

  小川 淳也君     枝野 幸男君

同日

 辞任         補欠選任

  松本 洋平君     谷  公一君

    ―――――――――――――

十月二十六日

 共謀罪新設反対に関する請願(平岡秀夫君紹介)(第一五八号)

 国籍選択制度の廃止に関する請願(佐々木隆博君紹介)(第一六七号)

 同(山井和則君紹介)(第一八六号)

 同(仙谷由人君紹介)(第二二五号)

 同(丸谷佳織君紹介)(第三一七号)

 同(池坊保子君紹介)(第三六三号)

 同(渡辺周君紹介)(第三六四号)

 成人の重国籍容認に関する請願(佐々木隆博君紹介)(第一六八号)

 同(山井和則君紹介)(第一八七号)

 同(仙谷由人君紹介)(第二二六号)

 同(丸谷佳織君紹介)(第三一八号)

 同(池坊保子君紹介)(第三六五号)

 同(渡辺周君紹介)(第三六六号)

 犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案の廃案に関する請願(保坂展人君紹介)(第一八五号)

 同(石関貴史君紹介)(第二二八号)

 同(泉健太君紹介)(第二二九号)

 同(河村たかし君紹介)(第二三〇号)

 同(穀田恵二君紹介)(第二三一号)

 同(津村啓介君紹介)(第二三二号)

 同(辻元清美君紹介)(第二三三号)

 同(玄葉光一郎君紹介)(第三一九号)

 同(平岡秀夫君紹介)(第三二〇号)

 同(高山智司君紹介)(第三六八号)

 共謀罪の新設反対に関する請願(保坂展人君紹介)(第一八八号)

 同(河村たかし君紹介)(第二二七号)

 同(石井郁子君紹介)(第三六七号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出第二二号)


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     ――――◇―――――

塩崎委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 ただいま、本案審査のため、参考人として上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻教授長沼範良君、日本弁護士連合会国際刑事立法対策委員会事務局長山下幸夫君の両名の方々に御出席いただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用中にもかかわりませず御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただくようお願い申し上げます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、長沼参考人、山下参考人の順に、それぞれ二十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず長沼参考人にお願いいたします。

長沼参考人 上智大学法科大学院教授の長沼範良でございます。

 本日は、いわゆる条約刑法に関連する刑法等の一部を改正する法律案について、参考人として意見を述べる機会を与えてくださいまして、まことにありがとうございます。

 私が専門として勉強している分野は刑事訴訟法でございますので、本日述べます意見の対象は、この法案のうち、刑事訴訟法の一部を改正する旨の第二条に関する部分に限ることといたします。この部分は、この法律案に関する法務参考資料第三号の二十一ページ以下に概要が記載されておりますので、御参照いただければ幸いでございます。

 なお、この法案の立案が考慮されていた時点において、関係する事項について私個人の意見を明らかにしたことがございますが、その内容は、同じく法務参考資料第三号に資料16の(2)として引用されております。

 まず、基本的な考え方でございますが、私は、この法律案に見られるハイテク犯罪に対処するための刑事手続法の整備に賛成する考えを持つものでございます。

 その理由は、第一に、コンピューターが広く社会に普及し、それらがネットワークを形成して、情報処理が高度化している現状におきましては、ハイテク犯罪に対処するために必要な法的手段を構築する必要があるということでございます。ネットワーク犯罪に対応するには、刑事手続の側にもしかるべき手段が必要だということでございます。

 第二に、ネットワーク社会の形成は国際的なものでありますために、その対応も国際的な見地からなされるべきであるということでございます。国際社会の一員として、我が国の法律制度もそれにふさわしいものでなければならない、そういう必要があるというふうに考えられるからであります。

 このような観点から、法律案の定める個別の手続につきまして、私見の概略を述べることといたします。なお、法文の体裁から、幾つかの手続について、裁判所が実施する場合と捜査機関による場合とが併記されておりますけれども、以下の検討では、専ら捜査機関が実施する場合を念頭に置いて話をさせていただきたいと思います。

 私の一枚紙のものの「第2」という記載の部分でありますが、リモートアクセスの点であります。まず、このリモートアクセスの新設の点で検討いたします。

 これは、差し押さえるべきコンピューターに電気通信回線で接続している記録媒体からデータの複写をすることを認める処分でありますが、新しい二百十八条二項は、捜査機関にこのようなリモートアクセスの権限を認め、新しい二百十九条二項は、令状に接続先の記録媒体の範囲を記載すべきものとしております。

 この処分の必要性の点でございますが、例えば、ファイル保存用のレンタルサーバー、あるいは企業内LANにおける特定データ保存用のハードディスクなどを想定した場合に、まず、被疑事実に関連するデータが記録されている特定のコンピューターを差し押さえることとして、これとあわせて、そのコンピューターからアクセスできる別の記録領域にある先ほどのようなデータですが、これらのうち、被疑事実に関連するものを証拠として保全する必要があるというのは考えられるところであります。

 このような場合、現行法の差し押さえでは、差し押さえられたコンピューターからアクセスできる別の記録領域までが当然に強制処分の対象になるわけではございません。なぜならば、他の記録領域へアクセスする権限というのは、利用者である人に帰属する権限でございまして、コンピューターを差し押さえたからといって、当該コンピューターの占有の移転に伴ってアクセスの権限が当然に捜査機関に移るわけではないということでございます。

 そこで、そのような場合に、差し押さえるべきコンピューターに接続する記録媒体であって、処理データ保管用のものにアクセスして、そこからデータを複写し、その上で当該コンピューターを差し押さえるというような新しい強制処分を設ける必要があるというふうに考えます。そして、令状主義の要請からすると、裁判官の発付する差し押さえ許可状に、差し押さえるべきコンピューターとあわせて接続先の記録媒体を記載することが必要であると考えられます。

 問題点の検討でございますが、このようなリモートアクセスについては、令状主義の観点から、やや慎重な考慮が必要であります。

 その一つは、憲法三十五条が捜索、押収について対象を明示する各別の令状を要求しているのに、一見すると、対象となるコンピューターと接続先の記録媒体という別々のものが強制処分の対象になるかのように思われる点であります。

 しかしながら、憲法が対象を個別に明示、特定した令状を要求している趣旨は、捜索、押収をする正当な理由の存否がそれぞれの場所や目的物ごとに異なるので、各別に裁判官がその点を審査することとし、かつ、これを令状に明記することによって捜査機関の執行の過誤や逸脱を防止する点にあるというふうに考えるべきですので、そう考えるとしますと、ネットワークで接続している特定のコンピューターとその情報処理用データを記録する媒体との使用状況にかんがみて、裁判官が、捜索、押収する正当な理由の存否を一体的に判断できるということ、しかも、接続先を令状に明記することによって、捜査機関としてもその範囲でしかこの処分ができないことが示されるのであれば、個別性、特定性の要件に欠けるところはないというふうに考えます。

 二つ目の議論として、接続先の記録媒体について所在場所の明示がないということを問題にする見解があり得るかもしれません。

 しかし、憲法三十五条が捜索を令状主義の規制に服させた趣旨は、対象を発見するための強制処分一般について、事前の司法審査を要求することによって、プライバシーの保護その他の人権保障を全うしようとするものであります。そうしますと、捜索する場所を挙げているのは、いわば例示として、有体物の発見を目的とする強制処分の場合にその物理的所在場所を示すべきだとするものと考えられます。憲法三十五条の令状主義は、そのような有体物の発見のための場合に限らず、広く一般に、証拠を発見するための強制処分を規制対象にするものですから、それぞれの処分の性質に応じた対象の明示の仕方を要求しているものであります。

 このことを接続先のデータ複写という処分について当てはめてみますと、憲法三十五条に言う捜索とは、差し押さえるべきコンピューターと記録媒体との接続状況を確認し、かつ、複写させるべきデータの存在の状況を確認することであります。そして、捜索する場所とは、差し押さえるべきコンピューター及びこれと接続して一体として構築されたネットワークの関係部分のことでございます。したがいまして、これらについて、令状裁判官の審査が及び、かつその内容が令状に明記されることで令状主義の要請は満たされると考えます。

 この点で、新しい二百十八条二項、新しい二百十九条二項は、この処分の対象を、特定のコンピューターに接続している記録媒体であって、そのコンピューターで処理するデータの保管用のものに限定、かつ、令状にはデータを複写すべき記録媒体の範囲を記載するものとして、以上の要請にこたえようとしているものと考えられます。

 これと異なり、差し押さえるべきコンピューターからアクセス可能な不特定の記録媒体について探索的、一般的にデータを取得することを許容する処分であるとしますと、これは令状主義の要請を満たさない処分であるということで、立法できないものと言わざるを得ません。しかし、法案の示すリモートアクセスがそのようなものでないことは明らかであると考えます。

 なお、対象の限定という観点からは、当該コンピューターからアクセスできる記録媒体であること、及び当該コンピューターで処理すべきデータを保管するために使用されていると認められることで十分であるというふうに考えます。

 専ら当該コンピューターで処理すべきデータを保管するために使用されているという限定を付すべきであるという見解もございますが、アクセス先の記録媒体が特定されていることが、無限定な強制処分を防止するための本質的な要請であります。そうではなくてこのような専らの要件をつけ加えますと、例えば、Aコンピューターの処理用データが保管されている記録媒体にBコンピューターからもアクセスできるということのゆえに、この複写の処分ができないということになり、今日のネットワークの実態からして明らかに不適切であると言わざるを得ません。

 また、データ保管のために現に使用されているという限定を付すべきだという見解もあるようでございます。しかし、これでは、差し押さえの時点でのコンピューターの接続状況次第でこの複写の処分ができたりできなかったりするということになって、これまた不適切であるというふうに考えます。

 次に、第三の記録命令つき差し押さえの点でございます。

 この処分の実質は、対象者に必要なデータを記録媒体上に移すように命じた上でその記録媒体を差し押さえるものでありますから、一種のデータ提出命令というべき性質を持つものと考えられます。このような新しい処分の必要性は、種々の場面で想定できると思われます。

 例えば、特定のデータが存在すること及びその利用権限者が何人であるかは判明しているが、そのデータが記録されている記録媒体の所在場所が不明であるというような場合、あるいは、特定のデータが複数の記録媒体に散在して記録されているために、利用権限者において一定の処理をして出力する必要があるというような場合などでございます。これらの場合、処分の対象者として想定できますのは、データ処理に協力的な者というふうに考えられることでありましょう。

 もちろん、このような記録命令つき差し押さえの場合にも、憲法の令状主義の観点から、対象の特定が十分になされなければなりません。この場合、処分の実質が特定のデータに関する提出命令であることからすれば、被処分者に探索的なデータ提出を求めないことが令状主義の要請であるというふうに思われます。そうしますと、対象データとその利用権限者を特定して、被処分者に提出を求めるべきデータの範囲が画されていれば、令状主義の要請は満たされるものというべきであります。

 もとより、対象データについてどのような具体的記載があれば特定の要請を満たしていると言えるのかは、対象となるデータの性質、そのデータの記録状況、利用権限者の利用権限の態様その他の事情に応じて具体的に判断するほかないというふうに考えます。

 続きまして、第四の差し押さえの執行方法という点でございます。

 この点につきましては、差し押さえにかわる複写等の処分を新設するということでございます。すなわち、コンピューター等の電磁的記録媒体を差し押さえる場合に、関係する部分だけを他の記録媒体に複写してその記録媒体を差し押さえる処分を新設することでございます。

 この改正の必要性については、次のように考えることができると思います。

 例えば、業務用コンピューターのハードディスクに被疑事実に関連するデータが記録されている蓋然性がある場合、これを差し押さえて証拠として保全することが考えられますが、特定のデータのみに被疑事実との強い関連が認められ、その他の大量のデータが無関係であるということがあり得ます。このような場合に、関連するデータを取得するために、その記録媒体を差し押さえること以外に、関連するデータのみを複写した別の記録媒体を差し押さえることができるものとすれば、被処分者に対する侵害の程度がより低い処分で目的を達成することができることになります。

 なぜならば、例えば、大量の顧客データが記録されている記録媒体を差し押さえてしまいますと、被処分者の業務に支障が生じる、あるいは関連するデータ以外の第三者、顧客側の利益が侵害されるということも考えられますが、以上のような代替的な執行方法を設ければそのような事態は回避できるからでございます。

 なお、侵害程度がより低いこのような代替的執行方法を設けるのであれば、こちらの方法をむしろ本来的な執行方法として、これによりがたい場合に限って記録媒体全体を差し押さえることができるものとすべきだという見解もあるかもしれません。しかし、データの内容だけではなくて、データの存在の仕方も証拠になるものでございますから、関係するデータのみの複写をまず第一次的な方式とすべきだというふうには言えませんし、差し押さえの執行方法は現場に臨んだ捜査官の合理的な判断にゆだねるべき場合も多々あると考えますので、事前に執行方法を規制しておくことは相当でないというふうに考えます。

 次に、第五の協力要請の点でございます。

 捜査機関が電磁的記録媒体を差し押さえる場合、被処分者にデータ処理等について協力を求めることができるということでございます。

 このような要請の必要性については、次のように考えられます。

 複雑なコンピューターシステムにより関連するデータが記録されている場合、そのデータの内容を確認、選別するためには、コンピューターの機能、セキュリティー設定の内容などを知った上で、そのデータについて一定の情報処理をする必要がある場合があります。この場合に、被処分者が協力的である場合には、データ内容の確認と選別のために、その者自身に操作をさせた方が、効率性あるいはデータ保護の観点から好ましいでありましょう。また、被処分者の中には、データに利害関係を有する第三者との関係で、これを開示しない義務を負っている者もあり得ます。そのような者にとっては、協力を求められた場合に、これに応じることの法的根拠が明らかになっていることが望ましいとも考えられます。

 そこで、差し押さえの対象物が電磁的記録媒体であるときは、捜査機関が被処分者に対してデータ処理等の必要な協力を求めることができるとする意義があると考えられます。もっとも、これらの協力要請は、被処分者が非協力的であればその内容は実現できません。その場合には、令状に記載された記録媒体であると思料されるもの全部について捜査機関が差し押さえをした上で、差し押さえ物について捜査機関の側において必要な処分をするということになろうかと思われます。

 次に、第六の保全要請の点でございます。

 新しい百九十七条二項は、捜査機関が電気通信事業者または電気通信設備の設置者に対して、その業務上記録している通信履歴のうち必要なものを特定して、九十日を超えない期間を定めて、これを消去しないよう求めることができるとして、通信履歴の保全要請について規定しております。

 このような保全要請の必要性については、次のように考えられます。

 通信履歴に関するデータについて証拠収集の必要があれば、例えば記録命令つき差し押さえにより対応することになると思われますが、令状の発付が速やかになされるとは限りません。令状発付の根拠が直ちに得られるわけではありませんし、外国からの共助要請の場面などでは相当程度の時間がかかるということがあり得ます。他方では、このようなデータは業務上の必要により保存されるものでありまして、一定期間経過後は速やかに消去される実情にあります。

 したがいまして、一定の通信履歴に関するデータについて、これを消去しないように求めることができるものとする必要があると考えられます。そうしますと、ここで考えられている処分については、保全という名前ではあるものの、新たに個別のデータの記録を求めるものではありませんし、また、一般的に一定範囲の通信履歴の収集、保存を要請するものでもありません。記録命令つき差し押さえなどの処分が予想される場合に、特定のデータの消去を見合わせるよう要請する処分であると位置づけることができると考えられます。

 必要性についてはこのように考えられるとしても、この処分については、捜査機関、通信事業者、通信の当事者という三者の関係に留意して検討する必要があると思います。その際、この段階では捜査機関が通信履歴に関する情報を取得しているわけではないという点に注意しながら検討する必要があろうかというふうに思います。

 まず、通信事業者は、業務上必要な限度で通信履歴を保持しているわけでありますから、捜査機関からの要請があるとはいえ、業務目的ではない他目的でそのようなデータを保持し続けることが正当と言えるか、問題となり得ます。しかし、通信事業者がデータを保持し続ける正当な理由には、課金等の業務目的のほか、世界的なインフラとなったインターネットの運営に参画する者として、その正常な運営を確保して正当な利用者の利益を守る立場から、不正行為等の防止措置に必要な限度で通信履歴を保存するという一般的な理由も含まれると考えられます。したがいまして、捜査機関から見れば、具体的なデータを示して保全要請することは、通信事業者の側で不相当な行為をとるよう要求するものとは言えません。

 とはいえ、通信事業者に対して、その特定のデータの抽出や保存に関する技術上、経済上の負担を課すとも言えますので、その正当性について、事前に裁判官の判断を経ていることを必要とする見解もあり得るかもしれません。しかし、捜査機関としては、この処分により通信事業者の業務運営について何らかの情報を収集、認識するわけではありませんので、この段階で裁判官の令状を経るということまでの必要はないと考えます。

 一方、捜査機関と通信当事者との間の関係では、通信の秘密あるいはプライバシーの利益の観点から問題があるように見えるかもしれません。しかし、事業者の側で保存しているデータは、そもそも正当な業務目的で通信当事者が譲り渡した情報であります。通信履歴に関しましては、通信当事者の側で、事業者を利用しておきながら、自分のデータに限って課金その他の正当な業務目的があっても保存してはならないと主張しても、それは通るものではありません。

 そうしますと、このような通信履歴に関する情報について、捜査機関が事業者に一定期間これを消去しないように要請したとしましても、これは捜査機関の側で通信当事者の利益を侵害していることにはなりません。なぜならば、一方で、通信履歴は既に事業者が一定の目的で保存しているデータでありまして、通信当事者限りで秘密にしておけるものではありませんし、他方では、捜査機関としては、この処分により通信履歴そのものについて情報を取得するものではないからであります。

 したがいまして、保全要請については、捜査機関限りの判断で通信事業者に一定の要請をするものとして十分に成り立ち得る制度設計であるというふうに考えます。

 時間の関係上、いろいろ省略しましたので、私見の概要は参考資料の末尾に私の論文を記載しておきましたので、御参照いただければ幸いでございます。

 以上でございます。(拍手)

塩崎委員長 どうもありがとうございました。

 次に、山下参考人にお願いいたします。

山下参考人 私は、日本弁護士連合会国際刑事立法対策特別委員会の事務局長をさせていただいております山下と申します。

 このたび、参考人として意見を述べさせていただく機会をいただきまして、ありがとうございました。

 以下、私の方からは、今回の法案のうち、ハイテク犯罪に対処するということと、サイバー犯罪に関する条約を締結するための国内法整備の部分に限って意見を述べたいと思います。

 まず、前提となっております欧州評議会のサイバー犯罪条約に対する評価についてでございます。

 まず、この条約の適用範囲について御指摘をしておきたいと思います。

 この条約では、十四条二項によって、コンピューターシステムによって行われるすべての犯罪にこの条約が適用されることになっております。いわゆるサイバーテロの場合に限らず、ごく普通の犯罪においても、コンピューターが手段として使用されてさえいればこのサイバー犯罪条約が適用されるということで、この適用範囲は極めて広いものであります。

 サイバー犯罪条約は、現在までに四十二カ国が署名し、十一カ国が批准しておりますが、先進主要国は、アメリカを含め、まだどこも批准をしておりません。その理由といたしましては、市民の間から、インターネット上のプライバシーの保護や通信の秘密などの人権保障が後退することへの危惧、また、IT産業界からは、過大な経済的負担の増加についての危惧などが出されているからだと言われているところであります。

 欧州評議会のオブザーバーである日本だけがサイバー犯罪条約を急いで批准する必要性は認められず、その国内法整備についても慎重に審議されるべきであると考えます。

 サイバー犯罪条約には、法執行機関が、ネットワークを通じて行われる通信に干渉し、そのコミュニケーションにおけるプライバシーを侵害するとともに、情報や思想を伝達する自由を侵害するおそれがある規定が含まれています。

 特に、サイバー犯罪条約二十条は、留保しない限りすべての犯罪について通信履歴をリアルタイムで収集することを求めており、また二十一条は、重大な犯罪について通信内容をリアルタイムで傍受することの立法を、それぞれ締約国に求めております。そのようにして、法執行機関に対して極めて広いコミュニケーションに対する傍受の権限を与えようとしておるところであります。

 今回の改正案ではこのすべてが対応されているとは考えられないんですけれども、憲法二十一条二項後段が通信の秘密を憲法で保障し、通信履歴のようなものも含めて広く保護している我が国の法体系から見て、このサイバー犯罪条約二十条が矛盾抵触していないかについては疑問があるところであります。

 日本弁護士連合会は、サイバー犯罪条約につきましては、二〇〇四年四月十七日付の「サイバー犯罪に関する条約の批准に関する意見書」におきまして、十分な議論がなされないまま同条約を批准することには反対することを表明するとともに、仮に批准するとしても、人権保障の観点から各条項によって認められた条件の付加や留保を最大限行うことを求めておりました。

 昨年の第百五十九回通常国会におきまして、サイバー犯罪条約を締結することについては既に国会で承認がなされているところでありますが、まだ正式な批准手続はとられておらず、国内法整備については、条約の批准に当たって行う宣言や留保についてまだ検討の余地があることを前提に慎重に検討されるべきであると考えます。

 次に、今回問題になっております法案について意見を述べたいと思います。

 この点につきましては、日本弁護士連合会は、この問題が法制審議会刑事法部会で審議されていた際に、二〇〇三年七月十八日付の「ハイテク犯罪に対処するための刑事法の整備に関する意見」を公表しておりますので、あわせて御参照いただければと思います。

 まず、今回の刑法等一部改正案の基本的な姿勢について述べます。

 我が国の刑事法制は、これまで、捜索・差し押さえ等の捜査の対象をあくまでも有体物に限定するという立場を堅持してきました。これに対して、サイバー犯罪条約は電子データそのものを捜索・差し押さえ等の対象とすることを前提として、新たな捜査手法を締約国が立法化することを求めており、我が国の法体系とは異なる法体系を前提としてつくられていると考えられます。

 したがって、サイバー犯罪条約を批准するのであれば、刑事立法のあり方としては、捜索・差し押さえ等の対象を有体物に限定している現行の刑事法制を根本的に見直し、電子データないし情報を対象とする新たな法制を構築すべきであると考えられるところであります。

 ところが、今回の刑法等一部改正案では、あくまでも有体物を前提とした従来の我が国の刑事法制の枠組みを基本的に維持しつつ、電子データないし情報に対する捜査に対して応急的に対処しようという観点から法案がつくられております。そのために、後に述べるリモートアクセスに関する改正案のように、従来の有体物に対する伝統的な差し押さえのあり方をも大きく変容させるおそれを含んでいるわけであります。このような刑事立法のあり方が相当かどうかについては、大いに議論があり得るところであります。

 当委員会におきます七月十二日の審議におきまして、大林政府参考人は、捜査機関が濫用し、関係者の利益が不当に害されるおそれがないように法律上厳格な要件等を定めている旨を答弁しておられるところでありますが、後に述べますように、必ずしも法律上厳格な要件が規定されているとは言いがたく、現場の捜査担当者の恣意的な判断によって濫用されるおそれがないとは言い切れません。

 以上を前提に、具体的な改正案の内容について意見を述べます。

 まず、刑法百六十八条の二、同三として新設が提案されている不正指令電磁的記録等作成罪等について意見を述べます。

 改正案では、作成や提供などが禁じられる対象が「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」「前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録」とそれぞれ規定されております。しかしながら、ここで言われている「意図に沿うべき動作」とか「その意図に反する動作」という表現は極めてあいまいであり、構成要件として不明確であると言わざるを得ません。

 次に、この構成要件では、ウイルスが感染したコンピューターからウイルスを除去するいわゆるワクチンと言われるものを作成するなど、正当な行為についても処罰されるおそれがあります。

 この点について、当委員会における七月十二日の審議において大林政府参考人は、研究や実験目的の場合には、コンピューターウイルスを自分自身の電子計算機上で作動させるか、これを作動させることにつき承諾を得た第三者の電子計算機上で作動させる限り、この法律による目的がないということになるので処罰されない旨を答弁しているところであります。

 しかしながら、不正指令電磁的記録等作成罪の目的規定は、通常の目的規定が犯罪行為を行う目的というような形で規定されていることとは異なっており、他人の承諾の有無によって目的があると判断されたり、目的がないと判断されるというのでは、目的自体によっては、犯罪行為と非犯罪行為を区別する意味を持たないということになります。そういたしますと、この目的自体が極めて不明確であり、正当な開発や試験などが排除されるよう明確な規定がなされる必要があると言えます。

 したがって、以上に述べた構成要件が改められない限り、不正指令電磁的記録等作成罪等の新設には反対であります。

 なお、改正案では、不正指令電磁的記録等作成罪については、コンピューター上で電子ウイルス等を作成しただけで三年以下の懲役または五十万円以下の罰金を科することになっています。例えば、不正アクセス行為の禁止等に関する法律に基づく不正アクセス行為の罰則が一年以下の懲役または五十万円以下の罰金とされていることと比較すると、かなり重く処罰されることになります。

 特に、刑法百六十八条の二として新設が提案されている不正指令電磁的記録等作成罪は、不正指令電磁的記録等を実行の用に供する行為から見れば予備的な行為を処罰するものでありますが、そのような早い段階で処罰しなければならないという立法事実があるかどうか、疑問があります。したがって、この罪につきましては、このような構成要件を新設することについて、慎重な審議をお願いしたいと思います。

 次に、刑法百七十五条のわいせつ物頒布等の罪の改正案について意見を述べます。

 改正案は、現行法が使用している頒布という概念を現行法とは全く異なる意味で使用することにしており、捜査現場における混乱を招くおそれがあります。

 また、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律七条一項後段は、改正案に対応する部分について、「電気通信回線を通じて」「児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者」と規定しており、両者の規定ぶりが異なっておりまして、この点でも捜査現場における混乱を招くおそれがあります。

 この点につきましては、既に成立している児童ポルノ処罰法が使用している電気通信回線を通じて提供というような用語に統一するか、公衆送信というような新しい用語に統一するなど、構成要件の仕方を改めることが望ましいと考えられます。

 次に、刑事訴訟法の改正による電磁的記録に係る記録媒体の差し押さえの執行方法と記録命令つき差し押さえについて意見を述べます。

 このような新しい執行方法を認めること自体には異論はないところでありますが、改正案の刑事訴訟法百十条の二は、「差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体であるときは、差押状の執行をする者は、その差押えに代えて次に掲げる処分をすることができる。」と規定して、差し押さえ許可状を執行する現場の捜査官に、その差し押さえにかえて新しい執行方法をとるかどうかの裁量が与えられています。

 その結果、従来どおり、コンピューターやサーバーそのものを差し押さえることも可能になりますが、それを認めますと、コンピューターやサーバーに保管されている証拠となるべきデータとは無関係の個人情報を含んだ大量のデータも捜査機関の手に渡ってしまうこととなり、その資料が後に捜査等の資料として濫用される危険性がないとも言い切れません。

 したがって、差し押さえるべきものが電磁的記録に係る記録媒体である場合には、原則として他の記録媒体に複写等した上で当該他の記録媒体を差し押さえるという方法によって行うべきであり、コンピューターやサーバーそのものを差し押さえるのは、そうしなければ差し押さえの目的を達することができない特別の事情がある場合に限るという補充性の要件を追加すべきであると考えます。

 次に、いわゆるリモートアクセスに関する刑事訴訟法九十九条二項の改正案について意見を述べます。

 この改正案によりますと、コンピューターとLAN等で接続しているサーバーの記憶領域であって、被疑者のID等によってアクセスすることが可能なすべての電子データが差し押さえの対象となる可能性があります。

 特に危惧されるところは、ある企業に関する犯罪の容疑で差し押さえをする場合において、東京の本社に設置され、管理権限を有する従業員が使用しているコンピューターに対する捜索・差し押さえ許可状で、電気通信回線を使って接続された北海道の支店のコンピューターの中に保管されている電子データを、別の記録媒体に複写した上で差し押さえることも可能となるのではないかという点であります。

 この点につきましては、当委員会における七月十二日の審議において、大林政府参考人は、リモートアクセスが認められる範囲については、電子計算機の差し押さえを許可する差し押さえ許可状に明示されなければならないこととなっており、捜査機関はこの範囲内に限って複写を行うことになるから、この規定が憲法に違反することはない旨を答弁しているところであり、本年十月十四日の当委員会の審議においても同様の答弁がなされております。

 しかしながら、実際には、差し押さえ許可状に基づいて、差し押さえの対象となっているコンピューターからアクセスして初めて電子データの保管先が具体的に判明するという事態が多く予想されるところでありまして、差し押さえ許可状が明示する場所と物については、ある程度包括的かつ抽象的な記載となることが予想されます。

 そうしますと、具体的な場所や物が明示されていない差し押さえ許可状で、差し押さえの対象とは異なるコンピューターに保管された電子データを差し押さえることができることを認めることになりますが、これは憲法三十五条が差し押さえの対象を場所と物で特定することを要求していることに反します。

 また、電子データに関してこのような差し押さえを認めるとすれば、憲法三十五条の保障を弛緩させ、やがては有体物に対する差し押さえについても、従来よりも緩やかな要件で、令状に明示された捜索すべき場所とは異なる場所にある物に対する差し押さえを許容する事態を招来するおそれがあることをも考えますと、このような規定を新設することには強く反対いたします。

 次に、刑事訴訟法百九十七条の改正案で保全要請を追加しようとしている点について意見を述べます。

 サイバー犯罪条約十六条一項は、締約国は、通信記録その他の特定のコンピューターデータが滅失または改ざんに対して特に弱いと信ずるに足りる理由がある、その場合にこのような規定を設けることを要求しています。しかし、改正案ではこのような理由は要求されていません。サイバー犯罪条約の国内法整備を根拠にこのような規定を設けるのであれば、このような要件を付加すべきであります。

 また、保全要請は、裁判所の令状によるのではなく、任意捜査として行われることとなっておりますので、第三者によるチェックが行われず、捜査機関によって濫用されるおそれがあります。

 また、保全の対象は過去の通信履歴に限られますが、ある程度継続して保全要請を行えば、通信履歴の範囲ではありますが、結果的にほとんど通信傍受と同じ効果を上げることが可能となります。

 したがって、保全要請が濫用されないための担保として、保全要請に際して、差し押さえ許可状の発付手続の申請中またはその準備中であることが要件とされる必要があります。

 また、通信傍受の場合に準じて、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律二十九条が認めている国会への運用状況の報告を導入してチェックできるようにすることが必要だと考えます。

 また、保全の期間については、改正案は、「九十日を超えない期間を定めて、」としておりますが、プロバイダー等は、この期間が長過ぎるために過大な負担となることを主張しており、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律七条一項が通信傍受の期間を最大三十日と定めていることとの均衡から、最大三十日とするのが相当であると考えます。

 さらに、保全要請については、憲法二十一条二項後段が保障している通信の秘密との関係が問題となります。

 この点につきまして、当委員会における十月二十一日の審議において、大林政府参考人は、最終的にこの情報を捜査機関として手に入れるためには令状によって差し押さえるという手続が必要だから、憲法上の問題はない旨を答弁しております。

 しかしながら、この制度は、まず通信履歴を保全要請によって保存し、その後に、差し押さえ許可状によって差し押さえることが初めから予定されています。すなわち、保全要請という制度がなければ、差し押さえ許可状が発付された時点では既に消滅していたかもしれない通信履歴が、保全要請によって保存されるということになります。

 そうであるならば、捜査機関の行為としては、保全要請とその後の差し押さえ処分を一体として見るべきであり、そのように一体としてなされる捜査機関の行為は、憲法が保障する通信の秘密を侵害することは否定できないと考えられます。

 したがって、この改正案で提案されている保全要請の規定については、強く反対いたします。

 以上に述べた意見を参考にしていただき、国会において慎重かつ十分な審議がなされることを希望しております。

 清聴ありがとうございました。(拍手)

塩崎委員長 どうもありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。三原朝彦君。

三原委員 三原でございます。

 長沼参考人、山下参考人、御苦労さまでございます。私、こういうのは全くの素人なもので、教えていただこうと思ってきょうここに立ったんですけれども、私は二つのことをお聞きしたいと思います。まずリモートアクセスのことと、次は保全要請のことを聞きたいと思うんですが、私の結論は、ここで山下参考人が引用されている、最終的にはこの大林さんの言ったことに答えは近いんですけれども、しかしながら、少しばかり聞かせていただこうと思うのです。

 憲法三十五条で、強制処分の対象範囲を確定し、それ以外に強制処分が及ぶことのない、被処分者に対して物事を明示してやる、こういうことになっているわけでありますけれども、リモートアクセスといいますと、例えば、本社があるでしょう。支店があるでしょう。明らかに目に見える物であるならば、場所を明示して、物を明示して、はい、これは証拠でとりますといってとりますけれども、情報であれば、行ったり来たりしてやっているものでもあるし、たまさか本社で証拠として物をとろうとした。

 そうしたら、その情報を故意に、そういうこともあり得べしと思って自分の離れたところに置いておるようなことだって、私みたいな犯罪に素人の者だって、そう考えることはあると思うんですよ。そういうことになったときにも、それでも、そういうことはやはり、ちゃんと令状もないのに見せるというようなことになるんだから、とるんだからいけないということになるんでしょうかね。

 私は、そういう点では、まずは、ある犯罪が起こっておるという状態があって、それに対して、明らかにこれは証拠として、企業に乗り込んでいってここでの情報もとり得べしということになった場合には、そこで、堂々と憲法三十五条に基づいてそこに行って場所と物と明示したら、その物が、ずっと先まで情報が行ったものまでちゃんと堂々と活用できると私は思うんですよ。

 では、まず、それに対して否定的な山下参考人から、どうしてそれがおかしいんだということになるのか。

山下参考人 もともとリモートアクセスという中には種類が幾つかあります。法務省も挙げている例などからいくと、いわゆるストレージサービスといって、インターネット上においてハードディスクのようなもの、専用に使っているもの、これなどは一体的にとらえることがある程度できると思うんですが、一番問題になっているLANといいますか、全国各地に会社がLANで接続している、こういう場合が一番問題でありまして、その歯どめが必要ではないかということを言っておるわけです。

 今の現行法では歯どめが余りにも弱い。現場の捜査官の判断で、結局アクセスができる、できるところに、そこに何かデータがあるというときに、それを差し押さえてしまう可能性が高いということで、つまり濫用のおそれが極めて高いということを言っているわけであります。

 専用のストレージサービスのところとかハードディスクにかわるストレージサービスとか、あと電話の留守番録音のサービスとか、そういうものは一体的なものであるというふうに理解することは可能なんですが、会社組織などでデータがいろいろなところに分散しているというときに、それを果たして一体的と見ることが可能なのかどうかということに関しては、現在の法案では、余りにもそれが現場の判断によって非常に濫用されるおそれがある、歯どめが余りにもなさ過ぎる、そういうことから問題であるということを言っておるわけであります。

 特に、憲法が要求している物、場所というこの特定はかなりかたい要求でありまして、この例外を認めるのは本当にまさに一体であると見られるような場合に限るべきであって、全国各地の支店にデータが分散しているような場合は、一体と見るというのはもともとかなり無理があるケースであるというふうに考えています。

三原委員 では、長沼先生、同じような問題ですけれども、それでは、今言われた専用のものとかハードディスクなんかじゃなくて、LANを使っていても、例えば企業が自分たちで明らかに詐欺行為みたいなことをうまく利用してやっていたようなことがあった。犯罪性がすごく高い。今言われたように三十五条に基づいて、場所と物で捜査に来た。おかしいところがあるぞとやろうとしたら、それでもだめなんでしょうかね。先生はどう思われますか。立法措置か何かすればいいのかどうか。

長沼参考人 このリモートアクセスの点でございますけれども、これは現行の差し押さえをベースにした制度でありますので、もともと対象物としては記録媒体という有体物を前提にしているわけであります。したがって、情報そのものを取得するための強制処分というのではなくて、その情報が所在しているという記録媒体を対象にする、こういうことだろうと思うんですね。

 事前に、令状裁判官は、その点も含めて、その特定の記録媒体中に関係するデータがあると判断しなければ令状を出してはいけないはずであります。事前の捜査機関からの情報などによって、その種の令状を発付できるという判断に到達するのであれば、それはその種の記載をした令状を出して、捜査機関は最初のコンピューターの差し押さえの過程において、必要な限りで関連する情報があると思われる記録媒体にアクセスする、そこから情報を取得して、取得した複写後の媒体をまた差し押さえる、こういうことになろうかと考えております。

三原委員 しかし、明らかに、私は思うんですけれども、悪いことする人は必ず、その情報は自分のところになかなか置かないですよね。遠いところに置くに決まっているんだから、そこのところをやはり、こちらはその裏をかいてちゃんとやらないと、情報媒体が離れたところにあれば、それもやはり関連したものということでちゃんと何かの形で接続といいますか、手に入れるようにしないと、これは今の新しい犯罪、サイバー犯罪に対して対応できるような状況じゃないと、私は話を聞きながら思ったような次第であります。

 では、次に行きますけれども、通信の秘密、保全の要請でありますけれども、この保障は、通信の内容とか通信の存在に関する事柄、発信人や受信人の特定、つまり、氏名とか住所とか発信の日時等々の秘密の保障がその概念にあって、そういうことで問題になるのが、そういうのを、ちゃんと秘密保持は保障されているんだけれども、それがまた犯罪性の強いものが何かあって、そこでちゃんと、その人間がいろいろなことをやってきた、ある面ではぱっと早く押さえておいてもらわないと将来にわたって禍根を残す。

 こういうようになったときに、その法益、つまり社会に対して悪いことをしておるということが明確であるようなものが、それを通信媒体を使ってやっているというのがわかれば、私はやはり、何ものぞくわけでもない、可能性がある、ちょっと置いておいてください、こういうこと自体が、何も一般の人が何かやっていることをのぞき見するようなことで保全しろというんじゃないわけですから、明らかに大いなる可能性があるということになれば、保全だけしてもらうということはまことに理にかなっておるし、それを、通信の秘密の保障の二十一条に明らかに反しているんだということにはやはり幾ら考えてもならない。これはまた大林さんの結論に私は近いんですけれどもね。

 しかし、そのことが明らかに、まずは、見るわけでもない、犯罪性の高いものであるということは置いておいて、そしてまた犯罪が成立する中で一つの証拠になるようなことになれば、当然認められてしかるべきだと私は思っているんですけれども、それに対して否定的な御意見を言われる山下さんの方から、もう一度明確にお答えを。

山下参考人 かつて不正アクセス禁止法をつくる段階で、ログという通信履歴、ログを保存するかどうかということが議論になりました。このときに当時の郵政省は、ログを保存することは通信の秘密を侵害するということで強く反対したと聞いておりまして、現在もそういう規定はありません。また、世界的にも、ログを保存するというような法制をつくる動きはありますが、まだその動きは十分ではありません。

 つまり、ログということは、これはかなり、だれとだれが通信をしたかとか、そういうことも極めて重要な通信の秘密の内容をなしているわけでありまして、それを保存させる、保存するということ自体でやはり通信の秘密の侵害になり得るものでありまして、日本のこれまでの郵政省、現在の総務省でございますが、そこがとってきた通信の秘密のとらえ方は、どちらかというと非常に広いとらえ方をして、そういう通信履歴も含めて厚く保護されるべきであるということで、それがプロバイダー業者においても、ログはむしろどんどん早く捨てていくというか、そういうものを持たないという観点から捨てていっているというか、自動的に消去されているわけですが、それが現状です。

 それをとめるのが今回の保全要請でありまして、しかも、この要請に当たっての要件といいますか、それが非常に低いということです。つまり、令状請求に必要な嫌疑とかそういうものは要求されておらないわけでありまして、捜査の必要があれば捜査機関はそれをいつでも要求することができる、極めて低いハードルで要求することができるわけでありまして、これはそういう意味では大変、通信の秘密ということに関しては、そういう低い要件の中で簡単に通信の履歴の保存を認めるというのはやはり問題があると考えます。

三原委員 長沼先生、どうお考えになりますか。

長沼参考人 確かに、おっしゃるとおり、通信の秘密というのは大変大事な利益でありますので、通信の内容だけではなくて、通信の存在も通信の秘密の中身に入るということだろうと思います。

 ただし、これは通信の当事者と通信の事業者の関係で申しますと、一定の通信発信先、発信元、それから日時等々については、業務の必要の上で通信事業者において把握していないといけない場合があるわけですね。それは、例えば料金体系であるなり、あるいはその他いろいろな正当な業務上の目的等あり得るはずであります。その限りでは、通信の履歴に関する情報は、通信当事者の側から通信事業者へ一種譲り渡した秘密であるというふうになるのだろうと思います。

 これについて、捜査機関がこの情報を直ちに取得するというのであればいろいろ問題が発生するかもしれませんが、この法案の構築している制度といいますのは、通信事業者の側においてそれを消さないでそのまま持っていてくれということですので、もともと通信の当事者の側が事業者に譲り渡した情報を事業者の側で正当な理由がある限り持ち続けてください、こういうことだろうと思うのです。したがって、捜査機関との関係で通信の秘密の侵害という問題が起こる、そういう場面ではないというふうに理解しております。

三原委員 私も、一般のことで何かそれをチェックして調べるわけではなくて、明らかに犯罪性が高いからちょっと置いておいてくださいということだと理解していますし、そういうことがつまり通信の秘密の保障に対して反しているというわけではあり得ないと思っているのです。

 もう一つ、ちょっと長沼先生にお聞きしたいのは、例えば、通信の履歴を保存してくださいということに対する問題じゃなくて、ある企業か何かが法に触れるようなことをたまさか、偶然かもわからないけれども、しているような感じを見つけた。しかし、それがそうなのかどうなのかというのをしばらく見ておかなきゃいけない。そうしたら、今から先に起こるようなことに対して通信履歴をとっておいてくれというのは、今までの履歴をつかまえて見るのではなくて、しばらくとっておいてくれという言い方は、これはどうなんでしょう。

長沼参考人 その点でありますけれども、今度の仕組みで見ますと、これからなされるという通信ではなくて、既に通信事業者において把握している、そういう履歴について消さないでくれ、こういう仕組みのように考えておりますので、将来にわたってこれを全部把握しろ、こういうことにはならないんだろうというふうに思います。

三原委員 終わります。

塩崎委員長 次に、高山智司君。

高山委員 民主党の高山智司でございます。

 きょうは、長沼先生、山下先生、お忙しい中、どうもありがとうございます。

 まず、両先生に伺いたいんですけれども、今回のこのサイバー条約に基づいて、日本国内でもこういうインターネット関連の法整備をしなきゃいけないということでございます。

 私が理解するところでは、やはりインターネット関連、コンピューターにどんどんプログラムを打ち込んだりいろいろな表現方法をするというのは表現の自由に極めてかかわるものであります。また、例えばインターネットの画面上に何か表示されたり、あるいはウイルスが入ってきたりということで、もちろん経済的被害が甚大になるということもありますけれども、それでいきなり画面から何か出てきて人が死ぬとかけがをするとかということではございませんので、インターネット上のルールをつくるという上では、特に今までインターネットが発展してきた経緯を考えますと、というのは、国主導でやってきたのではなくて、自由な民間の、それこそ本当に個人主体の発想でどんどん世の中に広がってきたということを考えますと、刑法まで使って規制するということの謙抑性といいますか、どの程度組み込んで考えたらいいのかという、程度の問題でちょっと抽象的な質問なんですけれども、長沼先生、山下先生、それぞれどういうスタンスで考えられているか、長沼先生の方からお伺いします。

長沼参考人 今の表現の自由あるいは情報ということでございますけれども、確かに、情報の流通に伴っていろいろな見るべき自由濶達な議論の展開、こういうことはあろうかと思いますけれども、同時に、犯罪現象もそれで進行するということになるわけですね。

 それで、刑事手続の面で見ますと、情報そのものをとらえて情報そのものを追求する、そういう新しい手段を発想する、こういうことではなくて、あくまでもそれが有体物の上に情報として乗っているときに、その有体物をとらえて、捜査のために証拠物として収集するということが基本的な仕組みだろうと思いますので、また、その限りにおいてそういう仕組みを構築することができるんだろうと思いますので、それを基本的な姿勢として考えております。

山下参考人 私は基本的に、通常の、一般の世の中の日常生活とインターネットというのは、別に異なる規制をするべきものではない。逆に言うと、日常生活上の法規制は当然インターネットの規制にも及ぶと考えておりますが、今回のこのサイバー犯罪条約というのは、どちらかというと、コンピューターまたはインターネットの技術を使えば、捜査は確かに従来の捜査よりやりやすいわけです。例えばインターネットを使えば、先ほど通信履歴の問題がありましたけれども、そういうのを調べるのは比較的簡単なわけですね。

 つまり、技術の発達によって、インターネットまたはコンピューターに関する捜査というのは極めて進歩している状況で、通常の捜査または通常の社会生活の中での規制よりも厳しい規制がむしろなされようとしている。サイバー犯罪条約は、むしろそういう通常よりもより厳しい規制または厳しい捜査手続を定めようとしているという点に私は問題があるというふうに考えております。

高山委員 また両先生に伺いたいと思うんですけれども、今、山下参考人からもありましたように、通常の自由な生活よりもこのサイバー刑法が何かより厳しく決めるようなニュアンスがあるということでしたけれども、そもそも、まず、サイバー犯罪条約よりも、今、国会に提出されています日本の刑法を改正するサイバー刑法の方がどうも処罰範囲がより広いのではないか、捜査機関側にとってみれば使い勝手がいいかもしれないけれども、インターネットを楽しんでいる市民生活からすると、条約よりも日本の刑法の方がやや窮屈なのではないか、こういう印象を私は受けるのです。

 これは両参考人に伺いたいんですけれども、日本では、他国に比べて、とりわけサイバー社会を取り締まる必要性というのがあるのでしょうか。立法事実について伺いたいんですけれども。

長沼参考人 私が参考人として意見を陳述しましたのは手続法上の部分に限定しましたので、その点についての意見を明らかにしなかったのでありますが、条約との関連ということだけで一点申し上げますと、条約で履行を求められている最低限の要請だけを立法すれば、国際社会で生きていける、日本の法制度として立派なものだというふうには私は考えておりません。条約で履行を求められている最低限のものに加え、この際、必要な手続法上の整備もすべきだというのが私の基本的な考えでございます。

山下参考人 この点は、不正指令電磁的記録等作成の罪に関して、当委員会の議論の中でも、南野法務大臣自身が、条約よりも広い処罰範囲を定めているものであるという答弁をしているところでありまして、明らかに広いです。

 今回の法案全体についてですけれども、条約が求めるものをかなり超えたものがございます。また、わいせつ罪の改正はサイバー犯罪条約とは関係のない改正でございます。そういう意味で、条約と比べるとかなり広い規制をしようとしていると言えます。

 それで、世界的なといいますか、インターネットの規制に関しては、これは国境がないことでありまして、日本だけが悪いとか、どこが悪いということはなくて、結局インターネットは世界がつながっておりますので、日本だけ状況が悪いということは逆に言うとないわけでありまして、それは世界共通であるということでありまして、日本だけがサイバー関係で厳しい規制をしなければならないという立法理由はないと考えます。

高山委員 私、今両参考人のお話も伺っていて、どうも今回のこの刑法の改正は、条約で確かに全世界的にサイバー犯罪を取り締まる必要がある、だけれども、それに乗じて何かどんどん捜査手法をふやして、我々の、一般市民のインターネット社会がより窮屈になるんじゃないかなという印象を受けました。けれども、きょうは参考人質疑でございますので、それはまた後日、また来年にも引き続き議論をしていかなきゃいけないことだと思っております。

 ちょっと、個別の話を伺います。

 わいせつのデータが今度処罰化されるというような話がありました。これはまた両参考人に伺いたいんですけれども、わいせつ画像が画面にぽんと出てきて、見えた時点でわいせつ物の陳列というのではなくて、保管しているだけでもうわいせつ物の陳列になってしまうというような規定がございます。

 これは、例えばわいせつな本を売っている町の本屋さんで、自動ドアがぱっとあけばそういう本が見えてしまうという本屋さん、当然あると思うんですけれども、これは、では自動ドアがあけば見えてしまうぐらい簡単な、見えないようにしているだけなのでわいせつだということになってしまうのでしょうか。それとも、私はちょっと、ただ保存しているだけでもわいせつ物の陳列に当たるというのはやや行き過ぎではないかと思いますが、長沼先生からどうでしょうか。

長沼参考人 これまた私の意見陳述の対象である手続法の分野を超えた質問でございますけれども、私の一応学問上の見解といたしましては、刑法のわいせつ物の陳列というのは、不特定または多数の人が認識できるような状態に置くということで足りるというふうに思っております。

山下参考人 今質問にありました、保管しているだけで今回犯罪化されているわけではないと思います。

 今回の法案は、インターネット上で要するにわいせつ画像が画面上で見える、これは従来、判例上は公然陳列であるというふうに理解されてきました。刑法は先ほど言ったように有体物を前提としておりますので、陳列というのは、画像の陳列ではなくてサーバーの陳列ということになるんですけれども、そのような概念でとらえていたのを、今回、電子メールで画像を送信してもこれは頒布になりますよということをつけ加えたのであって、保管自体が直ちに今回処罰されることになったのではないと理解しています。

高山委員 失礼しました。それでは、長沼先生にもこちらの手続の点でも伺います。

 先ほどから保全要請ということでございますけれども、私もまず、保全要請とは一体どういう処分なのか、何なのかなというのがはっきりわからないものですから、これは強制力を伴っているものなのか、それとも任意捜査なのか、ちょっとはっきりわからない部分が多くて、まず、これが講学上何なのかというのを、それぞれ両先生に教えていただきたいんですけれども。

長沼参考人 これは新しく立法で百九十七条三項を起こす、こういうことであるようですが、これは恐らく二項と同じ性質の処分で、相手方には法的義務を生じさせる処分である。しかし、その義務の履行について、何か直接強制なり間接強制なりを想定しているものではないのではないか、こういうことだろうと思います。

山下参考人 私の理解では、これは任意捜査というか任意処分であるということでありまして、強制力がない。したがって、相手方はこれを拒否することができるということになります。ちなみにサイバー犯罪条約では、この点はどちらかというと強制処分を前提としていると思われます。そうしないと確保できないわけですね。ところが、日本のこの法案に関しては任意処分ということでつくられているというふうに理解しています。

高山委員 これまた両参考人に伺いたいんですけれども、そうしますと、この保全要請をするときに、任意処分のちょっと延長のような感じで、これは警察の方あるいは捜査機関が電話で通信事業者にかけてやってくれということで事足りるということなのでしょうか。それとも、何か文書でやりとりをきちんとして、そうしないと一体どの範囲をやってくれというのか明示もしていなければ、何となくだれ某が怪しいからあいつの通信記録よろしく頼むというようなことでいいのかどうか。これは令状主義の観点からもどうなんだろうということを私は疑問に思うんですけれども、この点、両参考人に伺います。

長沼参考人 この点は、私は捜査機関ではありませんので、どういう要請の仕方をするのであろうかということはわかりませんが、推測の範囲で申し上げれば、恐らく、要請があったという事実と要請の中身を明らかにしておく必要があるので、書面によることになるのだろうと思います。

 ただし、それを法律の上で書くかどうかということはまた別問題でして、刑事訴訟法の上で一定の書式による書面によるべしということが規定されているのは、極めて重要な手続の場合に限られているということだろうと思います。

山下参考人 この点は、この法案の審議の前に行われた法制審議会刑事法部会において議論になっておりまして、なるべく運用上は文書で行うというような回答になっているのですけれども、これはやはりきちっと明確に法律または少なくとも規則で、文書でやることを求めるべきであると思います。そうしないと、先ほど先生も言われましたように、いつまでとか期間もはっきりしないということがありますので、それは文書で行うことを少なくとも規則のレベルぐらいできちっと定めるべきだし、可能であればやはり法律できちっとその点は文書によって請求するということを明らかにすべきであると考えます。

高山委員 これまた両先生に伺いたいんですけれども、この保全要請なりで、通信の記録ですか、それをとっておいてくれということですが、これはメールのやりとりだけじゃなくて、このパソコンからどのウエブサイトを見たというこのアクセス、どこのサイトにしているんだということも全部含まれるんでしょうか。これはどうなんでしょうか。ちょっとこの辺があいまいだなと私は思ったんですけれども。

 メールのやりとり、いわばどこからどこにこういうメールが送られていますよということだけなのか、それとも、このパソコンからあそこのウエブサイトを見た形跡が、殺人請負サイトですとか薬物のサイト、どうもそういうものをやっているものまで全部含むのか、ちょっとそれをまず伺いたいんですけれども。これはどのように解されますか、この文言からは。

長沼参考人 新しい百九十七条の三項で考えているのは電気通信を行うため、こういうことのようですので、電気通信に該当するというものでないとその処分の対象にはならないんだろうというふうに思います。

山下参考人 この規定上は、電気通信の関係で「業務上記録している電気通信の送信元、送信先、」云々とあります。したがって、これは理論的には、やはり先ほど先生が言われたような、例えばプロバイダーが保管している会員がどのサイトにアクセスしたかというようなことも含み得る。つまり、送信というのは、まさにそのアクセスをするときには命令を送信して、それでそのアクセスをしているわけでありまして、その送信、つまり、だれが、いつ、どこそこで、どういうサイトにアクセスしたかというのも、一応記録は残り得ると思うのです。

 従来、この規定は電子メールのことを想定し、電子メールのいわゆるヘッダーに当たるような部分をイメージして議論されているのですが、理論的には、そういう今言われたような、会員がどのサイトにアクセスしたかというような記録も記録されて残っていれば対象になり得るというふうに考えます。

高山委員 時間が終了いたしました。きょうは非常に勉強させていただきまして、ありがとうございました。私の質問を終わります。

塩崎委員長 次に、伊藤渉君。

伊藤(渉)委員 公明党の伊藤渉と申します。

 新人でもございまして、基本的なことを確認するような形で山下先生、長沼先生にお聞きしたいと思います。

 まず初めに、差し押さえるべき電子計算機の電気通信回線で接続している記録媒体からの複写について、先ほどから出ておりますリモートアクセスについてでございますけれども、この中で、差し押さえ状または差し押さえ許可状に「差し押さえるべき電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、その電磁的記録を複写すべきものの範囲を記載しなければならない。」ものとするとありますけれども、この範囲というのが、普通にイメージすると非常に広範な領域に点在をしていて、またその量も非常に膨大な電子データのような気がするんですけれども、任意捜査の段階で、この範囲を記載するために電磁記録を複写すべきものを、どのように、またどの程度特定をしていくのかということをちょっと教えていただきたいと思います。

長沼参考人 これは、裁判官がやはり令状を発付する前提として審査できないといけませんので、審査の対象となる個別性、特定性を満たし得る程度の情報収集がなされていないと、恐らく捜査機関の側としても令状の請求はできないだろう、こういうことだろうと思います。

 裁判官の令状審査を経由させる趣旨と申しますのは、裁判官の側において事前にそのような強制処分が必要であるかどうかというのを特定の対象について審査するということですので、それができないような場合ですと、そもそも令状請求に至らないであろうと思います。

山下参考人 この点は、先ほど、最初に私の方で意見陳述させていただきましたが、捜査段階ではなかなか、実際にどういう形で電気通信回線に接続しているのか、またどこにその記録媒体があるのかということはほとんどわからないわけでありまして、ある程度想像といいますか、いろいろ捜査はしますけれども、大体推測をした上で、それを疎明するに足る資料をつけて裁判官が審査するわけでございますが、現在の捜査実務というか捜索・差し押さえ令状の実務から見ると、かなり抽象的な表現といいますか、抽象的な形で記載がなされる可能性が高い。

 したがって、余り、先ほど私も言いましたが、令状に記載しているからいいというようなことは言えない。つまり、非常に抽象的なもので、どこでも、捜査官が現場で判断、かなり裁量で、実際のリモートアクセスをして、複写すべき対象となるデータといいますか、その記録媒体を捜して、その中で、捜査官の判断で、現場でこれが必要だろうという判断をされて、複写されて差し押さえられる可能性が高い。つまり、令状では限定がほとんどされない可能性が極めて高いというふうに考えます。

伊藤(渉)委員 また改めて両先生にお伺いしますけれども、今のお話を受けて、結果的に、具体的にといいますか、どんな記載になるのか。これも非常に難しい問いかけかもしれませんが、ちょっと御意見を伺えればと思います。

長沼参考人 これは、恐らく令状に記載すべき事項というのは、今後法律ができてから裁判所規則その他、場合によっては運用によって固まっていく世界であろうというふうに思いますけれども、対象となるべき記録媒体がきちっと特定されていなければならないということははっきりしているわけでありまして、対象となる記録媒体を特定して記載すべき要求というのは、裁判官においては慎重な審査をする、捜査機関においては範囲から逸脱した執行はしない、被処分者の側からしてみれば、これはコンピューターの差し押さえを受ける人ですが、コンピューターの差し押さえを受ける人にしてみれば、対象外の行為まで自分が受忍させられるいわれはないということはきちっと記載される必要がありますので、そのような方式になるのではないかというふうに推測いたします。

山下参考人 この点に関しましては、令状には、差し押さえるべき電子計算機に、電気通信回線に接続している記録媒体であってという、この記録媒体の部分が、例えばパーソナルコンピューターとかストレージサービスとか、そういう形で具体化されることはあると思いますが、それがどこにあるかとか、そのような場所とかに関する特定はしようがないのでされない、だから非常に抽象的な限定になってしまうと思います。

 ちなみに、現在の捜索・差し押さえ許可状でも非常に抽象的に書かれて、さらに最後に、その他これに類する一切の何とかとか、非常にそういう一種の例示的な形になって、あとは現場で判断していいですよという形で令状を出されていることが多いわけでありまして、そういう意味では非常に、この規定があり、かつ、今後規則で事項が決まるとしてもなかなか限定されにくい性質のものですので、そのような書き方になるのではないかと思います。

伊藤(渉)委員 では、今のを受けまして長沼先生にお伺いしたいんですけれども、先ほどの意見陳述の中でもございましたとおり、憲法第三十五条のお話ですけれども、その中に「捜査する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、」云々というところがあるわけですが、今のお話を聞くと、そこがきちっと場所と物を明示できるということがやはりわからなくなってくるんですけれども、もう一度、確認の意味でお聞かせいただきたいと思います。

長沼参考人 憲法で言っております捜索、押収というのは、現行の刑事訴訟法の指す捜索、押収に限定されるわけではなくて、もっと広い意味で対象者のプライバシーを制約するような強制の処分が捜査機関において必要な場合にはしかるべき令状の請求、発付の手続を経由しないことには立法できない、こういう趣旨だろうと思います。

 捜索する場所の明示が憲法上要求されているのは、まさしく有体物である場所、例えば家宅を捜索するというような強制処分を法律上つくるのであれば、それは物理的な場所を表示するような仕組みでないといけない、この限りで意味があるわけで、憲法三十五条はより広く、さらにそのような強制処分については、その処分の性質に応じて対象となる物といいますか、対象を探すための処分については探すべき対象のありかといいましょうか、対象の所在の仕方についてきちっと令状に記載しろ、そういう要求だろうというふうに思っております。

伊藤(渉)委員 こういった世界に素人の人間にはやはり非常にわかりにくいので、またしっかり勉強したいと思います。

 次に、保全要請の話でございますけれども、対象者として「電気通信を行うための設備を他人の通信の用に供する事業を営む者又は自己の業務のために不特定若しくは多数の者の通信を媒介することのできる電気通信を行うための設備を設置している者」とありますけれども、両先生にお伺いします。具体的にどういった方が対象者になるのでしょうか。

長沼参考人 保全要請でありますけれども、法文上は「電気通信を行うための設備を他人の通信の用に供する事業を営む者」それから「自己の業務のために不特定若しくは多数の者の通信を媒介することのできる電気通信を行うための設備を設置している者」ということでありますので、そのような設備を有している者ということなんだろうと思いますが、事柄の性質上、これは相手方にこのような要請をしても協力することがおよそ見込まれないということでありますと、仮に法的義務をかけたりしてもこれを強制的に履行するすべがありませんので、基本的には法的義務を付加することによってこのような要請に応じてくれることがあると見込まれる者ということに運用上落ちつくのではないかというふうに、推測ですが、考えております。

山下参考人 この規定につきましては、前半はいわゆるプロバイダー等の通信事業者を指しており、後半は、この条文から見ると、いわゆる会社それから研究所、大学機関、このようなものを指している、すなわち通信事業者以外の人も今回広く対象になっておりまして、これについてはかなり民間の負担が多くなることが予想されるということで、私どもとしては、この後半については広過ぎるのではないかと考えております。

伊藤(渉)委員 私も、素人なりに読むと、確かにたくさんの対象者が出てくるんじゃないかと思ったわけですけれども、そういう方々に対して「電気通信の送信元、送信先、通信日時その他の通信履歴の電磁的記録のうち必要なものを特定し、」云々と、消去しないように求めることができるとありますけれども、これも先ほど来出ているとおり、通信の秘密を保障した憲法第二十一条第二項の規定に抵触するおそれがあるですとか、逆に内容を開示させるものではないので憲法の規定には抵触しないですとか、こういう議論があります。

 要するに、令状をとらずに、司法のチェックを受けずにこういった相当広いと思われる対象者に対して、また膨大なデータの消去を最大九十日させないということが求められるということは、例えば、そのことによって当事者に費用負担が発生してしまうこともあるでしょうし、任意処分と強制処分の位置づけがやはり微妙だなと私も思うんですけれども、これを両先生にまたお伺いしたいと思います。

長沼参考人 確かに、相手方に対して一定の負担が生ずるというのはおっしゃるとおりだと思います。これは対象を特定されて消去しないような履歴ということですから、その選別あるいはそれを消去しないようにするための技術的な手段を講じるということによって、ひょっとすると各種の費用上、時間上の負担が生ずるということだろうと思いますけれども、これは現在の百九十七条二項の照会の場合とほぼ同程度の負担だろうというふうに思いますし、また、これは義務を強制的に履行するすべはありませんので、その限りではこのような位置づけで適切なのではないかというふうに思います。

山下参考人 この点につきましては、プロバイダーの方々のお話を聞きますと、もちろん、これは通信が行われてすぐに要請が来る場合とそうでない場合がありますが、例えば少し時間がたって要請が来た場合には、もう既に過去のものは圧縮をして、倉庫じゃないんですけれども、圧縮をして保管している。そうしますと、こういう要請が来るとその圧縮したものを解凍し、その中から特定の個人の通信履歴を取り出すという作業が必要になる。これはかなり労力を要すると言われています。

 また、これが一件に限らず、例えば何百件も来たとか何千件も来た、こういうことを想定いたしますと大変な負担になるということで、もちろんそういう通信事業者は専門の担当者がいるわけではありませんから、警察から要請が来たときに初めてそれに対応するということなので、人件費も含め大変な負担になる、しかも、九十日という大変長い期間保管しておくということなので大変負担になるということを言っておられました。

 そういう意味で、これを今の法律上、恐らく費用はもちろん通信事業者、自分の方で持つということになると思いますので、しかも、もちろん任意処分とはいえ、警察から言われたことをむげに断ることもできないということになりますので、必ず応ぜざるを得ない、そうなりますと大変な負担になるというふうに思われます。

伊藤(渉)委員 今の話で、長沼先生にもう一度お伺いしますけれども、私も、任意と言いつつもやはり警察の方からそういったことを要請されると、さっき言った、費用が発生するとか、そういった理由で率直に断れるものなのかどうかというのがよくわからなくて、ちょっとその辺のことを教えていただきたいと思います。

長沼参考人 これは事実上どういう意思決定をするかというのは、それは対象者のいろいろな考え方によるのだろうと思いますが、恐らく法的義務を課すという点においては、これは課しているのだろうと思います。ただ、その義務を課された側において履行するかどうかという点については、それぞれの考え方によるのだろうと思います。

 ただ、一点つけ加えますと、費用その他、仮にあるにしても、その協力に応じることによって、そういった通信全体のインフラの質の向上といいますか、品質の保持ということに役立つわけですから、究極的には、保全要請を受けた側においても利益になっているというふうに思っております。

伊藤(渉)委員 また細かい話ですけれども、長沼先生に、最大九十日という長さの妥当性についてのお考えをお聞かせいただければと思います。

長沼参考人 これは、「九十日を超えない期間を定めて、」こういうことですので、最大限の話でありますので、常態的に九十日だということでは多分ないんだろうなというふうには思います。

 ただ、条約の上でも各種の要請がありますので、例えば、共助要請の観点ということからしますと、これは六十日を超えないといけませんので、そういうことも含めて、九十日というのは妥当な線ではないかなと思っています。

伊藤(渉)委員 次は、山下先生にお聞きしたいと思います。

 サイバー犯罪条約の第十六条第一項に、「特に滅失しやすく又は改変されやすいと信ずるに足りる理由がある場合」という文言がありまして、それが今回の国内法の改正ではなくなっている、これを入れるべきだというような御意見だったと思うんですけれども、これも具体的に、ここに書かれているこの日本語、想定されるケースというのはどんなものをイメージされているか、お聞かせいただきたい。

山下参考人 「滅失しやすく又は改変されやすい」というのは、余り明確にちょっと具体例が今浮かびませんが、例えば、かなりもう通信から時間がたっているということ、これは滅失しやすいということですね。それから、改変されやすいというのは、例えば、そのプロバイダーというかその業者が余り評判のよくない業者で、何か犯罪行為に関係しているのではないかとか、そのようなことから改変される可能性もあるということであって、かなりそういう特殊なといいますか、ある程度歯どめをかける意味でこういう規定が設けられていると思います。

伊藤(渉)委員 つたない基本的な質問で、真摯にお答えいただきまして、ありがとうございました。

 以上で終わります。

塩崎委員長 次に、保坂展人君。

保坂(展)委員 社民党の保坂展人です。

 両参考人に伺いたいと思いますけれども、先ほど来も少し出ていました保全要請に関してなんですが、この委員会でも、かつて通信傍受法をめぐって大きな議論があり、また、現在、通信傍受法のいわば適用状況を見ると、携帯電話がほとんどというかすべてだと思います。一方、審議していた当時は、電話局ということが想定されまして、委員会でも、電話局でどのように傍受するのかということを見に行ったという記憶もございます。

 ということで、携帯電話会社の管理をしている通信履歴、これも当然対象になろうかと思いますが、現状の捜査状況ということで言うと、携帯電話会社の管理している通信履歴の中に、その方がどこにいるのか、基地局と結んで、例えば東京の千代田区のここにいるというようなことを示していく位置情報、それから、電話をかけたときにどこの基地局を通してどこへかけたかという、これは位置確認情報と言われるそうですが、それと課金情報などが並んで管理をされていると聞いております。

 これらの情報が捜査照会あるいは必要においては検証令状で出されている。これは、その方がどこにいて、だれに電話をかけて、どのように動いているのかということはプライバシーそのものではないかというふうに私は思うんですが、この点に関して、長沼参考人からまず伺いたいと思います。

長沼参考人 まず、百九十七条が想定している通信履歴というのは、そこに例示がある「送信元、送信先、通信日時その他の通信履歴」ということで、それと性質上等しいあるいは類似するものだろうと思います。また、それは通信事業者の側において業務上必要な限りで保管しているという前提だろうと思いますので、等しい性質のもので、なおかつ事業者の側で業務上の正当な理由があるということで保管しているものに限られるということなんだろうというふうに理解します。

保坂(展)委員 個人情報保護法をめぐって議論をしたときに、これは当然過去の通信履歴を捜査照会なり検証令状で取得するということだと理解していたんですが、そうではなくて、これから、つまり今の時点で何日間というような形で情報を求めるということも行われていると刑事局長もお認めになったわけなんですね。

 そうなると、今度は山下参考人に伺いますけれども、やはりこれは当時の郵政省のガイドラインでも、憲法上の通信の秘密に直接該当しないまでも、しかし、もしかすると通信内容そのものよりも大きな個人情報、プライバシーであるというような議論がなされてきた経緯を踏まえると、いかがなものかと私は思いますが、いかがでしょうか。

山下参考人 全く私も同感でございます。

 ちなみに、百九十七条の三項の改正案につきましては、法制審議会の段階では、将来のものも含む形の提案がされたのですが、最終的に、将来ではなくて過去のものに限るという形の修正がなされておりまして、現在の法案もそうなっている。

 したがって、やはり将来のものをあらかじめ要請してとることは望ましくないということはそこでも示されていると思いますので、特にこの百九十七条三項は、現在そういう考え方に基づいてつくられておりますので、基本的に、将来のものまであらかじめそれを予測する形でとることを認めることは不当であるというふうに考えます。

保坂(展)委員 今度は、例えば児童買春・ポルノの法案で、児童買春で逮捕される、あるいは立件される方の多くが、少女側の携帯電話のメール履歴が端緒であるというふうに言われています。

 山下参考人の意見陳述の中に、保全要請が結果的に捜査権の濫用になっていくのではないか、保全要請を繰り返していくことによって、例えばメールのやりとりなどが蓄積をされる、それを最終的に差し押さえるということで、実態としては通信傍受に近くなってしまうのではないかという御意見だったかと思うんですが、その点に関して長沼参考人の御意見を。

長沼参考人 この百九十七条の三項は、最初に、捜査についてはかくかくしかじかの処分ということですから、捜査についての必要が認められないのであれば、およそそういう要請をすること自体できないだろうと思いますので、個別具体的な場面で捜査機関がそのような捜査上の要請をする場合に限られるということなんだろうと思います。

 仮に、濫用の事態を心配されるにしましても、濫用されるような事態があれば、相手方としては法的義務を履行しませんので、むしろ捜査機関の側でそのようなことをやるのは、言ってみれば自分の手足を縛ることになりますので、必要がある場合に限るという運用になるのだろうと思います。

保坂(展)委員 この委員会でも、通信傍受をめぐって激論があったんですけれども、捜査手法としてそういうことが一〇〇%だめだという議論ではなかったように思います。やる場合には厳格な要件をつけて、通信の秘密を保障した憲法にもきちっと整合するように議論されたと思います。したがって、本人に対する告知であるとか、さまざまな厳格な要件が通信傍受法では一応つくられたかと思います。

 しかし、メールでコミュニケーションする、ああしよう、こうしようということが、そのデータが蓄積されて、これからとっておいてねということが一定期間蓄積をされて、それが今度差し押さえによって開封されるというか通信の内容が取得できるということであると、これはメールか電話かの違いであって、実態としては通信傍受に極めて近い行為であって、とすれば、厳格な要件をもっと求められるべきではないかと思いますが、この点どうですか、長沼参考人。

長沼参考人 恐らく、通信に関係する処分であるという点では類似しているのかもしれませんが、通信傍受とこの保全要請というのは性質が全く違うというふうに私は思っております。

 それはまず第一に、捜査機関においては通信の情報そのものを取得するわけでは全くないということでありまして、この要請によって実現される内容は、通信事業者が本来正当な業務目的で保持していたものはそのまま保持され続けるということにとどまるわけであります。それに対しまして通信傍受に関しましては、御承知のように、非常に厳格な要件のもとで一定の通信の内容そのものに対して捜査機関の側で承知する、こういうことになりますから、そこでは、性質上大きな違いがあるだろうと思います。

保坂(展)委員 同じ点について、山下参考人にさらに御意見をいただきたいと思います。

山下参考人 今、御質問の中で、今回の保全要請は、とりあえずメールの中身は見られないというか、保存されないことになっておる点は一点御指摘しておきたいと思いますが、ただ、この規定が、先ほどから言っているように任意捜査である、しかも、捜査の必要があればということですが、捜査の必要があるかどうかということのチェック等が第三者がする余地がない。そのような点で、やはり私は濫用するおそれがあると思っております。

 また、法制審議会刑事法部会の議論の中でも、連続的にこれを要請することはあり得るというような話が出ておりまして、要するに、連続的にこれを行えば、ある程度まとまった期間についてのその間の通信履歴を後でとることができるということになりますので、それはやはり事実上盗聴とほとんど同じこと、時間的には少し後になりますけれども、事後的に盗聴したと同じ形になり得るという点で問題があると考えています。

保坂(展)委員 差し押さえのことについて、長沼参考人に伺いたいんですけれども、例えば、会社の中でLANが敷かれているとかいうとわかりやすいわけなんですけれども、しかし、LANで一体となっているということに限定されているわけではないようにも思います。

 例えば、差し押さえの対象となるパソコンと接続している自宅のパソコンとか友人宅とか、あるいは、会社であると仮定したならば、社外の人たちのパソコンなりサーバーなりということも当然対象になるかと思うんですが、そうすると、やはり幅広になり過ぎやしないか。令状主義の観点でいかがでしょうか。

長沼参考人 これは、対象となる記録媒体は、もともとの差し押さえるべきコンピューターで処理すべき電磁的記録を保管するために使用されているということを認めるに足りる状況ということになりますので、また、その点について裁判官の審査が及びますので、その点の限定で十分かと思います。

保坂(展)委員 同じ点で、山下参考人。

山下参考人 今言われた例で、確かに自宅と職場とか、そういうことはあり得ることですね。あと、友人との関係で、例えばここに書いてあるような保管するために使用するという状況はあり得るところでありまして、結局、理論的には、電気通信回線でつながってさえいれば、捜査官は、ある一カ所のコンピューターを差し押さえるときに、そこからアクセスするものを全部見られるわけです。

 見た上で、必要があればそれを複写して差し押さえるわけですけれども、現場の裁量が非常に広く認められているというか、認められる可能性がある。先ほど言ったように、令状でそれを制限することが非常に難しいということから、結局、現場の判断で非常に広く、アクセスが可能なものについてデータを複写して差し押さえる可能性が高いというふうに私は考えています。

保坂(展)委員 最後に両参考人に、このサイバー関係の新しい提案も、三法一体、強制執行妨害とまた違うジャンルのものもありますけれども、全体としては、テロなど国際組織犯罪に対する国際条約に基づいたという流れの文脈の中で出てきているわけですけれども、どうでしょうか、少し、テロだ、組織犯罪だということと全く関係ない一般の個々の犯罪ということも当然これは区別されないで対象となるわけで、この三本同時にまとまって出てくるというあたりについて、専門家としてどうお感じになるかというあたりを聞かせていただきます。お二人にお願いします。

長沼参考人 これは大変難しい、研究を要する御質問でありますけれども、世の中いろいろ変わってきて、情報化、国際化、こういうことがありますので、法律の側においてもそれに対応できる範囲で地道な努力を重ねていかなくてはいけないのではないかというのが私の基本的な考え方でございます。

山下参考人 私としては、今回こういう形で実質的には三本の法律にわたるものを一本にまとめて提出されているというのは、法律の出し方としては大変問題があると思っております。やはり、それぞれ全く性格の異なる、しかも、条約も二つの全く異なる条約について一本の法律でこれを出すというのは極めて乱暴でありまして、本来であれば、三つに分けて、一つ一つの法案についてきちっと慎重な審議をしていくべきであるというふうに考えます。

保坂(展)委員 では、最後に山下参考人に、わいせつ物に関しても、ホームページ上で陳列ですか、そして今度、メールで頒布、いろいろ概念が錯綜していたりとか、これは、かなりわいせつ物をめぐって拡大をしていくんじゃないだろうかという危惧を述べられたかと思いますが、その点を一言伺って終わりにしたいと思います。

山下参考人 先ほども言いましたが、現在は公然陳列という概念でホームページで閲覧することをとらえていて、今回、電子メールで送信するものは頒布というふうにとらえようとしているんですが、実は、コンピューターの技術上はどちらも全く同じことが行われておりまして、それを一方で公然陳列、一方では頒布という概念というとらえ方をするのは、私は、間違っているというか理論的に正しくないと思うので、本来であれば、ここできちっと概念を整理し、現代のこういうコンピューター時代に対応した規定をつくるべきだったと思うんですが、判例の解釈を引きずり、少し継ぎはぎをした形での立法がされようとしているということもあって、法案の決め方がかなりあいまいになってしまった。

 その結果、濫用されるというとおかしいのですが、わいせつかどうかというのは別ですけれども、どういう場面で適用されるか。例えば、一対一の通信の場合にも適用されるかどうかというのは必ずしも明確ではないのですが、この法案でいくとそれも適用される可能性がある。では、それがどうして頒布なのかというような問題も含めて、今回の法案ではその辺が必ずしも明確になっていないと思いますので、処罰範囲についてもう少し明確な規定をするべきであると考えます。

保坂(展)委員 終わります。ありがとうございました。

塩崎委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人の方々には、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して、厚く御礼を申し上げます。

 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午前十一時三十八分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

塩崎委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 ただいま、本案審査のため、参考人として明治大学法科大学院・法学部教授川端博君、関東学院大学法学部教授足立昌勝君、慶應義塾大学大学院法務研究科兼法学部教授・弁護士安冨潔君、日本弁護士連合会国際刑事立法対策委員会副委員長海渡雄一君、以上四名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用中にもかかわりませず御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れれば幸いに存ずるところでございます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、川端参考人、足立参考人、安冨参考人、海渡参考人の順に、それぞれ二十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず川端参考人にお願いいたします。

川端参考人 川端でございます。条約刑法に関する法律案について、刑法研究者の立場から意見を述べさせていただきます。

 各領域においてグローバリゼーションが推進されている今日、時代の要請に対応する刑法典の改正のほかに刑事関係の法律の新規立法が相次いでなされており、刑事立法の時代と言われるようになっています。このような刑事立法は、時代の要請に迅速に対応する点において、極めて高く評価されるべきものであります。立法に関与されておられる国会議員の先生方に敬意を表するゆえんであります。

 グローバリゼーションへの対応としての刑事立法の特徴は、国際化する犯罪現象に対して、各国がそれぞれの法制度の制約の範囲内で、相互に協力し合って有効適切な対応措置を講じようとしている点に認められます。従来、刑事法の領域においては、主として国内法の枠内で整合性のある立法に関心が向けられていたと言えます。今や内実の伴った国際協力が求められているのであり、立法論を主張するに当たって、私たちはこの点にも留意しつつ努力しなければならないと思っております。

 以上述べました観点から、今回の条約刑法に関する法律案を検討してみますと、以下のように評価することができると思います。

 まず、議論のある共謀罪の新設から見ていくことにいたします。

 一般論として、処罰規定の新設に当たっては、立法の必要性を示す立法事実が必要であります。本法律案における共謀罪の立法事実としては、第一に国際組織犯罪防止条約の要請と、第二に我が国における暴力団による組織的犯罪に対する有効適切な対処の必要性があると考えられます。

 国際組織犯罪防止条約は、一層効果的に国際的な組織犯罪を防止し及びこれと戦うための協力を促進するための国際的な法的枠組みを創設する総合的な条約であり、締約国に対して、重大な犯罪の共謀等を犯罪とすることや司法妨害を犯罪とすることなどを義務づけています。

 組織的な犯罪においては、計画や準備段階に関与する者が多い上に、その計画内容も具体的かつ詳細であり、組織の指揮命令等に基づいて実行される可能性が高く、現実に犯罪が実行された場合には、重大な結果や莫大な不正な利益を生じさせます。そこで、犯罪の実行の着手前の一定の行為を処罰することによってその抑止を図っていると考えられるのであります。

 具体的には、条約五条は、重大な犯罪を行うことを合意する共謀罪または組織的な犯罪集団の活動に積極的に参加する参加罪の一方または双方を犯罪とすることを義務づけています。この点について、法律案は、参加罪ではなくて共謀罪を選択し、組織的な犯罪の共謀罪を設けることを提案しております。

 そこで、その点の評価が問題となります。

 特定の犯罪行為と必ずしも直接に結びつかない行為を参加罪として犯罪化することは、我が国の犯罪体系には存在しない全く新たな犯罪類型をつくり出すこととなり、犯罪体系における整合性が欠けることになります。

 一方、我が国では、既に一定の犯罪に関して共謀または陰謀が独立の犯罪として規定されているのであります。このことについては後で改めて述べることにしますが、重大な犯罪に限定した上で共謀罪を新設することは、現行の犯罪体系に適合するのであります。したがいまして、この選択は極めて妥当であると言えます。

 共謀罪の新設が妥当であるとしましても、次に、法律案の共謀罪は条約の要請を満たすものかどうかが問題となります。

 条約は、原則として、重大な犯罪、すなわち長期四年以上の自由を剥奪する刑またはこれより重い刑を科することができる犯罪の共謀を犯罪とすることを義務づけており、その上で例外的に、国内法上求められるときは、組織的な犯罪集団が関与するという要件を付することを認めております。

 そこで、法律案の共謀罪は、この組織性の要件を付した上で、組織性の要件を満たす重大な犯罪、すなわち死刑または無期もしくは長期四年以上の懲役もしくは禁錮の刑が定められている犯罪に限り、共謀罪の対象とすることにしています。これは、同条約の要請を満たし、かつ、それを超えるものではないと評価できます。

 さらに、法律案の共謀罪が国際性ないし越境性の要件を付していないのは、条約の要請を超えるのではないかという点が問題となります。

 条約三十四条2は、国内法で共謀罪を新設する場合には国際的な性質とは関係なく定めると規定しておりまして、明文上、国際性の要件を付することを認めておりません。これを要件とすることは許されていないのであります。

 それでは、なぜ条約が国内法の要件として国際性の要件を付することを禁止しているのでしょうか。その理由は、次の点にあると考えられます。

 すなわち、ある犯罪について、国際的な犯罪組織が関与しているけれども、個別的具体的な犯罪行為が、単独犯であったり、その犯行が国内にとどまったりして、性質上の国際性が認められない場合が存在します。捜査の初期の段階においては、当該犯罪行為について国際性が判然としない場合も少なくないのであります。したがいまして、国際性を要件としますと、組織犯罪に対する抑止策としては狭くなり過ぎて、条約の本来の目的に合致しないと考えられるのであります。

 次に、法律案の共謀罪を新設する国内的な立法事実について検討する必要があります。

 共謀罪を新設しますと、従来から存在する暴力団による組織的な殺傷事犯や、昨今頻発している振り込め詐欺のような組織的な詐欺事犯などについて、実行の着手前の段階における検挙、処罰が可能となり、被害の発生を未然に防止できることになります。犯罪組織が資金を得るために種々の犯罪に関与することがありますので、実行の着手前に犯罪組織の活動を摘発して組織犯罪に有効適切に対処する必要性は強いと言えます。したがいまして、ここに立法事実が認められることになるわけであります。

 ところで、法律案が提示している共謀罪の条文案について刑法学の観点から理論的検討を加えますと、次のようになります。

 まず、現在の刑法体系との整合性が問題となります。現行刑法は、既遂犯処罰を原則とし、限定的に未遂罪と予備罪を処罰しています。さらに、内乱罪等については陰謀を処罰しております。一般人としての国民を対象とする刑法典において陰謀罪が規定されていることは、法体系上、極めて重要な意味を有します。

 すなわち、刑法体系上、陰謀ないし共謀を処罰すること自体は、我が国においては全く新たな立法に属するわけではないのであります。現に、特別刑法においては、共謀罪を処罰する規定は決して少なくはないのです。例えば、国家公務員法百十条一項十七号、地方公務員法六十一条四項、軽犯罪法一条二十九号、競馬法三十二条の六、自転車競技法二十八条、モーターボート競走法三十九条等があります。その詳細は、衆議院調査局法務調査室作成の法務参考資料三号二百二十五ページ以下に記載されているとおりでございます。

 次に、法律案における共謀罪そのものの内容について見ることにいたします。

 法律案における共謀罪は、すべての犯罪の共謀を一般的に処罰するものではありません。重大な犯罪であること及び組織性の要件、すなわち、団体の活動として、当該犯罪を実行するための組織により行われるものであることを要件としております。

 このような組織性の要件を満たす犯罪については、各自が任務を分担して組織の指揮命令に基づいて行われますので、犯罪が実行される可能性が高く、また、実行された場合には重大な結果や莫大な利益を生じさせることが多いため、組織性のない通常の犯罪よりも悪質で違法性が高いと言えるわけであります。

 問題は、組織性の要件、団体に不正権益を得させ、または団体の不正権益を維持し、もしくは拡大する目的及び法定刑による対象犯罪の特定によって、処罰の限定がなされ得るか否かにあります。なぜならば、不当な処罰の拡大をもたらす立法は避けられなければならないからであります。

 法律案の共謀罪は、前に触れました厳格な組織性の要件のほかに、重大な犯罪を団体の不正権益の獲得、維持、拡大の目的で共謀した場合に限って成立することになります。

 このように、共謀罪が成立するためには、第一に、団体の活動として、犯罪行為を実行するための組織により行われる犯罪、第二に、団体に不正権益を得させる等の目的で行われる犯罪の遂行を共謀するという構成要件を満たすことが必要とされます。

 第一の要件のうち、団体の活動とは、団体の意思決定に基づく行為のように、組織の構成員の結合の目的が犯罪行為を実行することにあるものをいうと解されます。したがいまして、共謀罪は、犯罪行為を行うことが共同の目的に沿うような団体であり、かつ、団体内部に犯罪実行部隊を持つような団体である場合に限って適用されることになります。

 第二の要件のうち、不正権益とは、団体の威力に基づく一定の地域または分野における支配力であって、当該団体の構成員による犯罪その他の不正な行為により当該団体またはその構成員が継続的に利益を得ることを容易にするものをいいます。したがいまして、共謀罪が適用されるのは、みかじめ料を獲得するための縄張りのような支配力を有する団体である場合に限られることになります。

 この二つの要件は、組織的犯罪処罰法三条において組織的な殺人等を加重して処罰する場合の要件と同じであり、実際上、本条は、暴力団や詐欺会社等の活動として行われた犯罪についてのみ適用されているのであります。

 このような要件を要求することによって、共謀罪の成立範囲が限定されます。例えば、団体の活動や縄張りと無関係に友人等と共謀しても、共謀罪は成立しないのであります。また、犯罪実行部隊のような犯罪行為を実行するための組織を持たない市民団体や会社等の団体に属する人が共謀したとしても、共謀罪は成立しないのであります。そうしますと、正当な団体活動が共謀罪の構成要件を満たすことはあり得ないことになります。

 このように、解釈上、処罰範囲の限定は明確になされているのでありますが、そのことは条文上一見して明白であるとは言いがたいのであります。それは、定義規定が入れ子構造になっているからでありますが、それを解きほぐしていきますと、内容は明解であると言えるのであります。

 次に、対象犯罪の限定の問題を見ることにいたします。

 法律案の共謀罪は、組織的に行われる死刑または無期もしくは長期四年以上の懲役もしくは禁錮の刑が定められている罪の共謀を処罰の対象としています。これでは対象犯罪が広範囲になってしまい不都合であるかの観を呈します。しかし、これは条約の要請するところであります。

 すなわち、条約は、重大な犯罪について、法定刑を基準として、長期四年以上の自由を剥奪する刑またはこれより重い刑を科することができる犯罪を共謀罪の対象犯罪とすることを義務づけていますので、共謀罪の対象犯罪を選別して規定することは条約上できないわけであります。対象犯罪は広範囲にわたっていますが、実際上、共謀の対象とされる犯罪はある限度限られることになると考えられます。

 英米法系の国においては、共謀罪の成立を限定するための要件として、共謀罪であるコンスピラシーにオーバートアクトが要求されています。コンスピラシーにおいては、特に対象犯罪を限定せずに、一般に犯罪を犯すことを合意することが処罰されていますので、顕示行為または明白な行為と翻訳されているオーバートアクトが必要とされるのであります。

 条約は、オーバートアクトについて、合意の内容を推進するための行為を伴うものという要件をつけることを認めていますが、我が国における共謀罪については、特にこれは必要とされておりません。それは、共謀の内容に具体性が要求されており、その認定が非常に厳格でありますから、オーバートアクトを要求する必要がないとされているからであります。さらに、法律案における共謀罪は、前に述べましたように、厳格な組織性や厳格な目的の存在が要件とされていますので、処罰範囲が不当に広がるおそれはないと言えます。したがいまして、このような要件を付する必要はないと考えられます。

 国際組織犯罪防止条約二十三条は、司法妨害罪の犯罪化を要求しています。犯罪化が要求されている行為の中には、既に我が国の刑法典に規定されているものが含まれています。それらを改めて立法するまでもないことは当然であります。現行法上存在しない行為態様は、「条約の対象となる犯罪に関する手続において虚偽の証言をさせるために、又は証言すること若しくは証拠を提出することを妨害するために」、「不当な利益を約束し、申し出若しくは供与すること」であります。

 これを受けて、法律案七条の二は、証人等買収罪の新設を提案しているわけであります。その規定ぶりは、条約の要求を満たしつつ、司法妨害罪の実質を有する現行刑法における偽証罪や証拠隠滅罪、証拠偽造・変造罪等を考慮に入れており、非常にわかりやすいと評価できます。

 七条の二に規定されている行為は、刑法典におけるこれらの罪の教唆犯として処罰すれば足り、本条の新設は不要ではないかという疑問が生ずるかもしれません。もしそれらの罪の教唆犯で賄うとしますと、共犯従属性説をとる判例・学説の見地においては、行為者が処罰されるためには少なくとも正犯の行為が構成要件に該当する必要がありますので、条約の要請を満たせないことになります。なぜならば、条約は、「不当な利益を約束し、申し出若しくは供与すること」自体の犯罪化を求めているからであります。そうしますと、やはり本条のような規定の新設が必要であると思います。

 以上で意見陳述を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手)

塩崎委員長 どうもありがとうございました。

 次に、足立参考人にお願いいたします。

足立参考人 関東学院大学の足立と申します。

 大分長くつくってきたものですから、早口で読まないと全部読み切れないかもしれません。しかし、一応まとまりのあるものですから、全部読みたいと思います。

 法務省は、本法案の提案理由として、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約の締結に伴い、組織的な犯罪の共謀等の行為についての処罰規定の整備を挙げています。また、法制審議会においては、このような立法を行うのは、組織犯罪条約の批准に伴う国内法の整備であり、国内に立法事実があるからではないことを法務省は認めていました。

 では、なぜ条約には存在しない言葉を用いた条文をつくり、処罰範囲を拡大しようとしているのでしょうか。もし、立法事実が存在せず、条約の批准のみを目的とするのであれば、条約の内容を十分に検討し、規定できることとできないことをはっきりさせた上で、国内法には影響の出ないようなものをつくるべきではないでしょうか。

 法案では、組織的犯罪処罰法を改正し、六条の二として組織的犯罪共謀罪の新設を提案しています。その条文については既に御案内のことと思いますので、ここでは繰り返しません。

 では、なぜ組織的犯罪処罰法の改正を提案しているのでしょうか。組織的犯罪処罰法は、組織として犯罪を行う団体を処罰するものではありません。対象となる犯罪を行うことができる団体であれば、どのような団体でも適用されます。

 この組織的犯罪処罰法の中に共謀罪を位置づけることは、共謀罪が組織的犯罪対策の一環として行われ、それに限定しているかのような外皮をまとわせることを目指しています。しかし、法案では、組織の持つ犯罪性は要求されていないので、どのような団体であれ、その団体の性質を問わず、法案に該当する犯罪の共謀を行えば、それは処罰対象とされてしまいます。

 これでは、すべての組織が対象となるでしょう。政党、会社、団体、市民運動など、すべての団体や組織が対象となるのです。しかし、この共謀罪の独立処罰を組織的犯罪処罰法に規定することにより、このようなすべての団体が適用対象となるという一般化の外皮を社会に隠し通すことができるのではないでしょうか。

 では、提案されている共謀罪の具体的要件について考えてみたいと思います。

 まず、対象犯罪としては、「死刑又は無期若しくは長期四年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪」であります。それは全部で六百十九の犯罪が該当すると答弁されています。この数はもっと多くなるのではないかと思います。そのほとんどは、組織犯罪とは全く無関係なものです。特に日本の刑法は、構成要件を柔軟に定め、法定刑の幅を広げています。その結果、長期四年以上の懲役または禁錮の刑を定める犯罪がふえてしまうのです。構成要件を細分化していれば、長期四年以上の懲役または禁錮に該当する犯罪は、それなりの重さを持つものに限定されているはずです。

 処罰の対象とされる共謀については、「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行」の共謀と定めています。

 団体については、組織的犯罪処罰法三条一項に定める規定によることになります。すなわち、「団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するもの」と定義されていますが、そこには犯罪性は全く要件にされず、逆に、すべての団体が当てはまるようになっています。したがって、二人以上の者が集まって結成したものなら団体であり、それで足りることになります。それ以上の限定は全くありません。

 法案は、このような団体の活動として、その中に実行組織を編成し、対象犯罪の遂行を共謀することを犯罪としています。

 そこで、刑法では、なぜ処罰対象を行為に限定しているのかについて考えてみます。

 イタリアのチェザーレ・ベッカリーアは、一七六四年に「犯罪と刑罰」という本を書きました。彼は、その中で、犯罪の尺度は社会に与えた損害であると述べています。これは、社会に損害を与えなければ犯罪にはならないことを明らかにしています。つまり、考えただけ、話し合っていただけでは犯罪にならないのです。ここに思想が処罰されない根拠があると思います。

 そのことの前提として、絶対主義国家における国家権力の恣意的行使と恣意的処罰を挙げる必要があります。近代刑法は、啓蒙思想を媒介として、そのような国家刑罰権のあり方を規制するものとして誕生しました。

 近代刑法では、その規制原則として、法律なければ犯罪なく、刑罰なしという罪刑法定原則、刑罰の重さは社会に与えた損害あるいは侵害の程度に従うという侵害性の原則または行為原則、責任なければ刑罰なしという責任原則を認めています。これらの原則は今日でも守られなければならないと思います。

 そこで、犯罪に至る過程を考えてみます。お配りしてあるレジュメの4のところの図をごらんください。時間は上から下へと過ぎています。

 犯罪を行おうとする者は、最初にどのような犯罪をどのように行うのかについて考え、決意いたします。この決意だけでは、社会的損害とは無関係であり、処罰されることはありません。その決意に基づいて、犯罪実行の準備を行います。これが予備の段階です。しかし、この段階ではまだ社会的損害を惹起していません。その危険性すら存在していません。だから、予備は無処罰が原則です。刑法は、総則には規定を置かず、個別犯罪として例外的に特に重大な殺人罪や強盗罪のような犯罪の予備についてだけ処罰することとしています。

 これに対して、犯罪の実行に着手したけれども、何らかの理由により結果が発生しなかった場合には未遂となります。これは実行行為を行っているので、結果発生の危険性が高くなります。そこで、刑法では、総則に規定を置き、明文による規定がある場合には未遂は処罰されることになっているのです。

 犯罪行為を実行し、結果が発生すれば、既遂になります。犯罪と定められていれば、すべての既遂は処罰されることになります。これは社会的損害が発生しているからです。

 このように見てきますと、犯罪には三つのタイプがあることになります。

 まず、第一のタイプです。これは、その下のところで、「既遂処罰しかない犯罪」を見てください。予備や未遂は処罰されず、既遂のみが成立する犯罪で、ほとんどの犯罪がこれに該当します。次に、第二のタイプは、未遂と既遂が成立する犯罪です。これは、法律の中で未遂処罰規定が存在する場合に適用されます。第三のタイプは、予備、未遂、既遂のすべてが処罰される犯罪です。これは非常に例外的で、殺人罪や強盗罪など、特に重大な法益に対する犯罪についてのみ成立します。

 ここで、今回の問題となっている共謀罪の独立処罰規定をこの三つのタイプに当てはめてみましょう。共謀は、まだ決意の段階であり、社会的損害を惹起していないので、無処罰が原則であることが前提とされなければなりません。

 第一のタイプの共謀罪です。既遂のみが処罰される犯罪を共謀した場合についてです。この場合には、未遂や予備が処罰されないのに、なぜ共謀を処罰することが可能なのでしょうか。

 具体的事例で考えてみます。刑法二百五十八条、公用文書毀棄罪についての刑罰は三月以上七年以下と定められ、二百五十九条は私用文書毀棄罪について五年以下とし、二百六十条の建造物損壊罪では五年以下と定めています。これらの犯罪については、未遂処罰規定は存在していません。

 ある労働組合が自分たちの主張を明らかにするために、会社の建物に大きな文字で主張をどのように書きつけるかを相談したとすれば、建造物損壊罪の共謀に該当し、どのような準備も行わず、文字を書こうともしていないのに、この共謀だけで処罰が可能となります。その根拠はどこにあるのでしょうか。国民はだれ一人として納得はしないでしょう。

 第二のタイプの共謀罪です。これについても同様に指摘することができます。犯罪行為の準備過程である予備が処罰されないのに、それ以前の段階にとどまっている共謀がなぜ処罰されるのでしょうか。

 第三のタイプと共謀罪についてです。この場合については、共謀罪処罰の説明はしやすいと思います。しかし、それが理論的正当性を持つかどうかは別の問題です。

 次に、別の側面から共謀罪について考えてみます。

 ここは衆議院の法務委員会です。出席されている方々は、選挙で当選された代議士の方々です。その選挙を規律している法律は公職選挙法ですが、その中に長期四年以上の懲役または禁錮を定めている犯罪が存在することを皆様方は御存じでしょうか。衆議院にしろ参議院にしろ、すべての議員に該当しますので、それについて説明します。

 二百二十二条では、多数人買収罪を規定しています。これは、多数の人に対して買収行為を行った場合に成立する犯罪で、五年以下の懲役または禁錮とされています。したがって、長期が四年以上ですので、共謀罪の対象とされる犯罪です。議員を当選させるために結成される選挙事務所は、事務長を頂点とし、出納責任者まで存在する団体です。事務長のもとで、幹部が集まり、この不利な状況を打開するために、多数の選挙人を集め、供応接待をし、運動員として学生アルバイトを雇うことを共謀した場合、この共謀罪で処罰されることになるのではないでしょうか。

 また、二百二十五条は、選挙の自由妨害罪を規定しています。それに対する罪として、四年以下の懲役または禁錮が定められています。したがって、同様な事例の中で、不正な方法による選挙の自由を妨害することを共謀した場合も、このような事例はこの共謀罪に該当するでしょう。

 この法案を提案している法務省は、このような事例は該当しないと言うでしょう。しかし、法文上、それが該当しない保障はどこにもありません。法文上該当するならば、適用されると見るのが通常であります。

 委員の皆様、自分たちの首を絞めるような法案に賛成しますか。賛成するとすれば、どうしてでしょうか。法務省の言いなりにならず、じっくりと自己の信念に基づいて考えてください。そうすれば、この法案の危険性は一目瞭然だと思います。

 これら二つの事例は第一のタイプに該当するもので、どちらも未遂処罰規定はありません。既遂しか処罰できないのです。なぜ共謀だけで処罰できるのでしょうか。

 議員の皆さん、もう一度よく考えてください。社会的に害悪を与える団体だけが処罰の対象とされているのではないのです。どのような団体であっても、対象とされる犯罪を行うことを共謀した場合には適用されることになります。このようなことは財界についても言えますが、時間の関係上省略いたします。

 この共謀罪で実際に有罪を獲得することは非常に難しいでしょう。だから法律を成立させてもよいということにはなりません。

 刑罰法規は、犯罪をつくり出し、捜査の対象をつくり出すのです。共謀罪が捜査の対象です。捜査は警察官の主観的嫌疑で始められます。捜査の過程で犯罪の嫌疑がなくなった場合には、捜査を終了することになります。

 この共謀罪がどのように使われるのかについては全くわかりません。しかし、法律は制定されてしまえばひとり歩きをします。言葉に書かれていないことを信用するわけにはいきません。立法事実が存在しないのであれば、批准に適応するが、国内では適用できない法律をつくればよいのです。

 一度失われた権利を回復することは容易ではありません。権力は、一度手に入れた権利を絶対に手放すことはないでしょう。この例が、コントロールドデリバリーです。これは麻薬新条約を批准するために麻薬特例法で認められたものですが、その後、銃刀法にも導入されました。このことからはっきりすることは、国民は、失うことは容易だけれども、守ることは非常に難しいということであります。

 共謀罪新設により失われるものは非常に大きいでしょう。結果的には、私たちの生活が日常的に監視されることになってしまいます。この監視権限を絶対に権力に渡してはならないと思います。

 さて、バーミンガム・サミットの話をしたかったのですけれども、もう時間がありませんので、そこを省略いたします。

 果たして、近代市民社会の成立においてかち取られた近代刑法の諸原則は、今やその存在意義を失ってしまったのでしょうか。あるいは見直されなければならないのでしょうか。もう一度、近代社会の原点に立ち返って考えてみる必要があります。

 共謀罪の新設は、刑法改正に匹敵するものです。その新設により、私たちが生活しているこの社会が変質してしまいます。また、近代刑法が確立した原則を否定してしまいます。このような法律は、十分な国民的議論が必要なのではないでしょうか。

 法務省の御用学者の集まりである法制審議会が答申したからといって、そのまま認めてよいということではありません。国会は立法の場です。立法を担うべき理性ある人々の集まっているところです。私利私欲を捨て、党利党略の立場に立たず、国民の立場に立った真摯な議論を希望してやみません。

 最後になりましたが、一言、条約の訳語について触れたいと思います。

 国連条約の正文には、中国語も含まれています。トランスナショナルを外務省は国際的と訳し、市民の立場では越境的と訳されていますが、中国では跨国的とされています。またぐという漢字を使って国です。国をまたぐということです。多分、正文を持つ中国の言葉が正しいのではないでしょうか。国をまたぐ犯罪を処罰する条約なのです。国際的でもなく、国を越えて行われるものでもありません。同じ漢字の国として、翻訳に際しては、正文である中国語を利用すべきではないでしょうか。

 御清聴感謝いたします。ありがとうございました。(拍手)

塩崎委員長 どうもありがとうございました。

 次に、安冨参考人にお願いいたします。

安冨参考人 慶應義塾大学の安冨でございます。

 私は、我が国におきます組織的犯罪の状況を踏まえまして、共謀罪の新設の合理性、妥当性について述べさせていただきたいと思います。

 御案内のとおり、我が国の治安悪化の大きな要因の一つに、暴力団による犯罪、組織的な薬物及び銃器の密売あるいは密輸、来日外国人組織による犯罪等の組織を背景とする犯罪の深刻化が指摘されているところでございます。

 国内の主要な犯罪組織である暴力団の状況を見ますと、暴力団構成員及び準構成員の数は、平成十六年末、総数約八万七千人とされております。その勢力は平成八年以降一貫して増加傾向にあるところでございます。警察の取り締まり状況を見ますと、暴力団員等の検挙人数は平成十六年末で二万九千三百二十五人となっておりまして、暴力団勢力の人数と対比いたしますと、その相当数を毎年検挙しており、かなり徹底した取り締まりがなされていると言えると思われます。

 しかしながら、暴力団は、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律、いわゆる暴力団対策法の施行後、組織実態の隠ぺいを図りつつ、正当な事業活動のほかに、政治活動あるいは社会運動等を仮装しながら巧妙に活動を行う傾向を特に強めておりまして、覚せい剤取引やのみ行為、あるいは賭博等の伝統的な資金獲得活動はもとより、金融業、産業廃棄物処理業、建設業等の各種事業活動への参入、行政対象暴力、あるいは債権回収、証券取引、公的融資制度への介入を初め、最近では、いわゆるやみ金融、振り込め詐欺、恐喝、通貨偽造、スキミングによるカード犯罪、環境犯罪、さまざまな分野への活動に手を染め、その資金獲得活動をますます多様化させて莫大な利益を上げており、これまでの取り締まりでは対処が困難となってきているのであります。

 今回法案に定めます共謀罪は、直接的には、国際組織犯罪防止条約の締結に伴う国内法の整備という観点から立法が提案されているものでございますが、共謀罪制定に当たっての国内的な立法事実も幾つか認められると考えます。

 まず第一に申し上げたいのは、暴力団の対立抗争事件でございます。

 暴力団対策法施行後、暴力団相互間の対立抗争事件の件数と申しますのは、平成十六年には六件とかなり減ったわけでございますけれども、いまだ毎年多数の対立抗争事件が発生しております。市民に対して不安を与えるとともに、財産的な被害等も生じており、今後も一般市民の巻き添えによる死傷者が出る危険性がなくなったとは言えません。

 このような対立抗争の際には、暴力団において明らかに対立抗争の対応のための共謀が行われていると考えられるところでありまして、共謀罪が新設されれば、これを検挙することにより、対立抗争事件の発生を未然に防止することが可能になると思われます。

 対立抗争については、凶器準備集合罪の適用によって検挙可能ではないかという御指摘もあろうかと思いますが、暴力団の実態を考えますと、集合しないで実行する場合など、同罪だけで常に的確な対処が可能になるとは考えられません。少なくとも、傷害罪または建造物損壊罪の共謀の立証ができれば処罰対象にできる、こういう共謀罪が我が国には必要であると思われます。

 現在は、暴力団の対立抗争事件が発生した場合、その報復としての対立抗争事件が具体的に計画されても、警察としては、組事務所周辺において警戒に当たる、こういう対応をしているにすぎません。しかし、対立抗争を行う具体的な計画を立てても、そのような計画を行うこと自体を取り締まり対象にできないということは、法治国家において極めて異常なことであるというふうに思われます。対立抗争に見られる法秩序の破壊行為を計画どおりに実行することを許してしまうような法制度は極めて問題であるというふうに考えます。

 第二に、オウム真理教による悪質な組織的犯罪について述べたいと思います。

 御承知のとおり、オウム真理教による地下鉄サリン事件等は、法治国家において到底許容できないテロ行為と評価できる悪質な組織的犯罪ですが、今後、いずれかの団体等により、同種の犯罪行為が行われる可能性を否定することはできません。

 このような団体により、この種の悪質な組織的な凶悪犯罪の計画が進められていることが判明した場合においても、現行法では、少なくとも予備罪等の何らかの犯罪の構成要件に該当する事実が行われるまでは、処罰対象にはできません。

 しかし、取り締まり当局において、このような計画が進められている具体的な事実を把握したにもかかわらず、現行法に定められた犯罪に該当する事実を把握できない限り検挙することができないというのでは、実際に犯罪が敢行され、多くの被害者が出てしまう可能性があり、市民感覚として、そのような事態は到底容認することができないと思います。計画段階でこれを阻止できる、そういう法制度を設けるべきでありまして、共謀罪はこれを実現するものであると考えます。

 第三番目に、右翼団体による街宣活動についても触れたいと思います。

 暴力団対策法施行後、右翼団体によります街宣活動が増加しております。市民、企業に対する重大な脅威となっているのであります。しかしながら、現行法におきましては、威力業務妨害罪、名誉毀損罪等に該当しない限り街宣行為自体を取り締まり対象とすることはできず、現在では、右翼団体の街宣車が走り回っていても、警察はその被害を防止することができません。

 これらの街宣行為の目的は、そのほとんどが金銭獲得の目的であると考えられます。そして、この実態を把握することができれば、恐喝行為の共謀罪として検挙することが可能であります。共謀罪により、法治国家とは思えないような右翼団体による街宣活動を防止することができると言えるように思います。

 次に、共謀罪制定の合理性について申し上げたいと思います。

 組織的な犯罪は、一般に、犯罪組織に属する者などが計画や準備段階に関与し、綿密な計画が立てられ、組織の指揮命令に基づいて行われることから、このような犯罪の共謀がなされますと、計画どおりに犯罪が行われる可能性が高く、また、一たびそのような犯罪が実行されますと、市民に被害を生じる重大な結果や組織を利する莫大な不正利益を生ずることが多いので、共謀の段階で処罰する必要性が特に高いと思われます。

 組織的犯罪が行われる場合、それに関与する者の間において、犯罪を実行するための共謀が必ず行われます。共謀罪は、その共謀事実を犯罪とすることにより、具体的な犯罪行為が実行されて市民に被害が生ずる前に、検挙、処罰することを可能とするものでございます。

 具体的な組織的な犯罪計画があることを捜査機関が把握したにもかかわらず、犯罪が実行されるまで何ら対応できないというのでは、市民にとって安全、安心な社会を実現する上で適切ではありません。組織的犯罪が実行される前にこれを未然に防止するための立法上の手当てが必要であります。

 今回法案の定めます共謀罪は、重大な犯罪、すなわち死刑、無期または長期四年以上の懲役、禁錮の刑に当たる罪であって、かつ、組織的犯罪処罰法における組織的な犯罪の加重処罰要件と同じ厳格な組織性の要件を充足する犯罪を共謀した場合に限って処罰をすることにしております。

 このような法案は、国際組織犯罪防止条約が、国内法制定に当たって、組織的な犯罪集団が関与するという要件を付することを認めていますことから、団体の活動として、当該犯罪を実行するための組織により行われるものとした上で、組織性の要件を満たす重大な犯罪、すなわち死刑、無期または長期四年以上の懲役、禁錮の刑に当たる罪に限って共謀罪の対象とすることとしているのでありまして、決して条約を超えるものではなく、条約の枠組みの中にあるという意味で妥当であります。また、重大な犯罪一般について対象とするものではなく、組織性の要件を満たすものに限って共謀罪の対象としているということでありますから、この法適用に当たって、処罰範囲が不当に広がるものではないと考えます。

 また、いわゆる国際性を要件とすべきではないかという御意見があることは承知しておりますが、国際組織犯罪防止条約の三十四条の2では、国際的な性質とは関係なく定めるとしているのでありますから、条約の解釈として国際性を要件としないと解されますし、国際性を要件とするとなりますと、国際性を伴わない国内の組織的犯罪、例えば暴力団による対立抗争に見られる組織的な殺傷事件でありますとか、振り込め詐欺のような組織的な詐欺事件、あるいは外国人組織犯罪集団の構成員が関与しない暴力団の縄張り獲得などの事件で共謀が行われても、国際性の要件を満たさないということになりますので、これらの事案について処罰できなくなってしまいます。これは妥当ではないというふうに考えます。

 また、団体であればすべて共謀罪の対象となるというわけではありません。組織性の要件が満たされる場合に、共謀を行った者が検挙、処罰の対象となるということでありまして、犯罪行為を行うことが共同の目的に沿うような団体であり、かつ、団体内部に犯罪実行部隊を持つような団体である場合、あるいは、みかじめ料を獲得するための縄張りのような、その威力に基づく支配力を有するような団体に限られるのであります。

 このような厳格な組織性の要件が設けられておりますから、犯罪行為を実行するための組織とは関係しない団体に属する人には共謀罪が成立しないと考えられます。この意味でも妥当な処罰範囲が確保されるものと考えます。

 共謀罪に批判的な論者の皆さん方は、市民の内心の自由、表現の自由を侵害するというようなことを主張されますけれども、今回の法案で想定される共謀罪というのは、二人以上の者が重大かつ組織的な犯罪を実行しようと共謀する行為を処罰するものでありまして、決して人の内心を処罰するというものではありません。

 また、共謀する行為と言えるためには、特定の犯罪を実行しようとする具体的、現実的な合意をする行為がなされなければならないので、そうした合意をする行為に至らない段階で犯行の計画を抱いていたとしても、それだけで共謀罪が成立するものではありません。仮にそのような考えを表にあらわしたとしても、漠然とした相談だけで共謀罪が成立するものでもありません。

 また、共謀罪の取り締まりについて、その濫用の指摘がございますけれども、まず第一に、警察あるいは捜査機関内部の監督あるいは監査の徹底を図ること、第二に、検察や裁判所という司法機関等の審査が行われること、第三に、国会やマスコミ等の外部機関による監視などが行われること、これらによって共謀罪の取り締まりの濫用については歯どめがかかると考えます。

 我が国におきます組織的犯罪集団によるテロとも言える凶悪重大事件の典型例として、先ほど申し上げましたオウム真理教による地下鉄サリン事件等が挙げられます。

 この事件は、既に述べましたけれども、共謀罪が制定されていて、捜査当局が組織的犯罪集団により重大な犯罪が行われる計画が存在するということの端緒を得て、捜査当局が組織内の共謀の状況を捜査により解明することができれば、共謀の段階で、共謀に加わった者を検挙、処罰することにより、重大な被害が発生することを未然に防止することが可能であったと考えられます。今後の組織的犯罪集団による凶悪重大事件についても同様であると思います。

 最後に、共謀罪の捜査手法について一言申し上げたいと思います。

 今回の法案では、共謀罪の新設に当たりまして、新たな捜査手法の導入は予定されておりません。共謀罪は、具体的、現実的な合意をする行為を共謀として犯罪とするものですから、共謀事実自体についての立証を必要とします。その意味では、これまでと同様に、捜査の端緒を求め、可能な捜査手法を駆使することで共謀の立証がなされることになると考えます。

 例えば、犯行計画のメモなどの合意に関する物証でありますとか、周辺事情あるいは共謀の状況を見聞した者からの情報提供、別の事件の捜査の過程での関係者の供述などによって、具体的、現実的な合意の存在が裏づけられることになると思われます。

 さらに、既に導入されておりますが、コントロールドデリバリーあるいは譲り受け捜査、通信傍受等の組織的犯罪の取り締まりに有効とされている捜査手法を十二分に活用していくことによって、共謀罪の捜査手法としての一定の成果が期待されるところでございます。

 以上、組織的な犯罪の共謀の罪に関しましての新設に賛成するという立場から意見を申し述べさせていただきました。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

    〔委員長退席、早川委員長代理着席〕

早川委員長代理 どうもありがとうございました。

 次に、海渡参考人にお願いいたします。

海渡参考人 私は、日弁連を代表して、本法案の越境組織犯罪防止条約の国内法化にかかわる部分について意見を述べさせていただきます。

 日弁連は、既に本法案に関連して、「国連「越境組織犯罪防止条約」締結にともなう国内法整備に関する意見書」を二〇〇三年にまとめ、これを公表しております。お手元にも配付させていただきました。

 私たちが常識として学んできた刑法においては、犯罪の被害が発生して初めて犯罪として処罰できるということが原則でした。しかし、本法律案において提案されている共謀罪は、犯罪の発生するはるか以前に、関係者の合意の段階から処罰できるものというふうにされております。この委員会でも、単なる目くばせでも共謀が成立する場合があるというふうに法務省は説明されておられました。

 合意の段階から処罰するということは、思想そのものを処罰しているわけではありませんが、人の内心において悪い考え方を持っているということと紙一重の段階から国家刑罰権を発動しようとするものです。

 確かに、イギリスやアメリカにおいても、共謀を処罰しようとする規定が存在します。両国において、過去に、共謀罪は、労働組合運動、反体制運動、反戦運動などを封じ込めるために治安的に用いられてきました。今もアメリカにおいては、反戦運動で一たん無罪とされた事件について再度共謀罪として訴追がなされるというような、恣意的な運用がなされております。

 共謀罪は、近代刑法を前近代の専制刑法に逆行させようとするものであり、日弁連はその制定に強く反対します。

 共謀罪制定の理由として、政府は、国連の条約の国内法化のためであるとし、国内の犯罪情勢においてはそのような立法を必要とする立法事実はないと説明されてきました。きょうの参考人の質疑の中では、さまざまな事情を川端先生や安冨先生から御発言がありましたけれども、このような説明は法制審議会では審議されておりません。また、テロ対策の点を安冨先生は言われましたけれども、テロについては、殺人予備の罪、爆発物取締罰則に定められた共謀罪といった手段で十分対応が可能だと思われます。

 国内において共謀罪の立法事実がないのであれば、少なくとも条約が求めている最低限の立法にとどめるという謙抑的な姿勢が法案の立案担当者には求められていたというふうに考えます。しかし、ここに提案されている法案は、この条約の求める範囲をはるかに超えてしまっております。

 ここで、条約に関する留保の可能性について述べておきたいと思います。

 条約は、三十四条一項において、各国の国内法の原則に従って執行すればよいというふうにされております。この条約には、明文で留保を禁止したり、特定の留保しか認めないといった規定はございません。ウィーン条約法条約の十九条によれば、当該留保が条約の趣旨、目的と両立しない場合には留保できないとされています。この条約の目的や適用範囲に定める趣旨、目的と両立できる範囲では、条約の留保はこれからでも十分可能である、国会の承認は終わっておりますが、批准の段階で十分可能であると考えます。

 私は、一九九九年四月にウィーンで開催されておりましたこの条約の起草のための第三回のアドホック委員会に出席し、傍聴させていただきました。日弁連では、この条約の重要性に早くから注目し、その審議の過程をフォローするため、必ず毎会期に代表団を送るようにしてまいりました。

 条約起草委員会に出席されていた日本政府代表の皆さんは、非常にバランスのとれた、常識的な対応をされていたというふうに思います。日本政府が審議冒頭に国連に提出されたペーパーには、「すべての重大犯罪の共謀と準備の行為を犯罪化することは我々の法原則と相容れない。」とはっきり明記されております。このような立場に立って、日本政府は、重大犯罪を組織的な犯罪集団に関する重大犯罪とすることなどの修正を提案されていたのです。

 共謀罪について、組織犯罪集団の関与を条件とすることは、条約五条が明文で認めているところです。このことを提案したのは日本政府御自身なわけです。この条約を批准した国々の中でも、ノルウェーやチリなどでは、共謀罪について、組織犯罪集団の関与を要件としております。

 ところが、法案にはこの規定がありません。法案に定める共謀罪の構成要件は、「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者」とされています。つまり、共謀を行った者が一つの団体に所属していること、この団体の中に組織があり、この組織によって犯罪が実行されたこと、この二点だけが要件になっているわけです。

 この規定は、九九年に制定されました組織的犯罪の処罰に関する法律の規定を踏襲したものですが、この団体の中には、犯罪性のない株式会社、市民団体、サークルなど組織犯罪集団でないものが含まれるということは、法務省みずからの立案担当者が書かれたこの法律のコンメンタールの中で明確に述べられております。その点は、きょう配付しました私のペーパーの注にはっきり出典を明記しておきました。

 政府は、国会に提出した文書の中では、当初は我が国の刑事法制の原則的なあり方に反するおそれがあると判断していたということを認めながら、対象となる重大犯罪の範囲が限定され、組織犯罪集団の関与を条件に付すことが可能となったため、この方針を転換したというふうにこの委員会に提出された書面の中で説明されています。であるならば、このことを誤解の余地なく法文の中に明記すべきだったのではないでしょうか。

 日弁連は共謀罪の制定そのものに反対ですが、最低限、組織犯罪集団の定義として、重大な犯罪を遂行することを目的としていること、団体の意思決定に基づいて継続して重大な犯罪を繰り返していること、こういったことを法案の中に明記し、このような組織犯罪集団の関与した重大な犯罪に適用範囲を限定するということを明記するべきだと考えます。

 法案は共謀罪の成立する犯罪を長期四年以上の刑を定めるすべての犯罪としており、その数は実に六百十九にも及びます。適用対象がこのように広範なものとなったのは、条約二条が重大犯罪の定義として長期四年以上の刑を定める犯罪としたためであると説明されております。

 他方で、各国の条約の実施は国内法の原則に沿って進めれば足りることは、条約の三十四条一項に明記されております。各国の国内法の刑期の決め方によって、国内法における重大犯罪の範囲は全く別々になり得るという条約の規定になっているわけです。

 我が国の刑法体系は、犯罪の法定刑の幅が著しく広いというのが特徴であります。このことから、条約の審議過程においても、日本政府代表は、重大犯罪を長期四年の刑期をメルクマールに決めるということについては強く反対されておられました。この反対意見に同調する国々もたくさんあったわけでございます。リスト方式でどうだという意見があったわけです。

 実は、既存の組織犯罪処罰法の犯罪収益収受の罪の前提犯罪というのは、一九九九年の時点において、日本政府自身が組織犯罪が関与する可能性のある重大犯罪としてリストアップしたものだったわけです。この数をきょう来るに当たって数えてきたのですけれども、その後改正されて少し数がふえておりますが、合計百八十六の罪が定められております。六百十九に比べれば、百八十六、三分の一以下なわけです。

 本条約の批准に当たって解釈宣言を行うことによって、既存のこの組織犯罪処罰法の別表、これが我が国の考える重大犯罪であるというふうにしてこの条約を批准するということは十分許される、条約の趣旨、目的にも反しない、許される選択であるというふうに考えるものであります。

 共謀罪については、合意を推進する行為を条件とすることを条約五条が明文で認めているところでございます。合意を推進する行為については、アメリカの共謀罪におけるオーバートアクトと同様のものであるという説明がよくなされております。しかしながら、オーバートアクトの程度については、アメリカの判例の多くは、オーバートアクトはコンスピラターの微々たる行為で足り、目的達成から遠く離れたものであっても構わないといった判例があります。

 他方で、どの程度のレベルの犯罪の準備行為が条約上の合意を推進する行為として必要かは、各国の国内法の基本原則に基づいて決定できることであります。これをアメリカのオーバートアクトを基準にして決めなくてはいけないというものではありません。そのことが条約上合意をされているわけでもありません。オーストラリア、ラトビア、サウジアラビアなどの各国において、合意を推進する行為を要件としたという通報が国連あてになされておりますけれども、ここでもオーバートアクトという言葉は使われておりません。

 提案されている法案では、犯罪の合意だけが要件であり、それ以上の何らかの犯罪の準備行為ということは全く必要とされていません。

 法務省の御説明では、オーバートアクトは、アメリカ法においては、犯罪の成立要件、構成要件ではなく、犯罪の立証の問題、法定証拠の問題であるという説明がされているようであります。したがって、犯罪構成要件に書き込むことは適当でないという御説明のようです。

 しかし、この問題は、条約に基づいてどういう国内法をつくるべきかということでありまして、アメリカ法、アメリカの判例について議論するべき問題ではないわけであります。松宮孝明立命館大学教授は、この合意を推進する行為というのは、ヨーロッパ大陸法流の理解からすれば、言うまでもなく共謀罪の客観的構成要件要素であるというふうに述べられています。

 共謀罪こそが我が国の法原則に本来合致しないものである、このことは法務省御自身がお認めになっていたことなわけです。共謀罪の処罰範囲を限定するため、少なくとも犯罪の準備行為を犯罪の構成要件とするということは、この条約を批准する上で疑いの余地なく可能なことでありますし、必要不可欠な措置であるというふうに考えるものです。

 本法律案においては、共謀罪は、実行の着手前に警察に届け出た場合には刑を減免することになっております。このような犯罪実行着手前の自首減免の規定は、条約上、その導入が義務づけられているものではございません。

 このような規定があれば、犯罪を持ちかけた者が会話を録音するなどして相手の犯罪実行の同意を得た上で届け出た、録音テープ、ICレコーダーとかを持って届け出た場合、犯罪を持ちかけた方の主犯は処罰されず、それにうんと言って同意しただけの者が処罰される、こういう事態になりかねません。

 例えば、市民団体、労働団体の中に公安警察機関がスパイを送り込み、何らかの犯罪行為を行うことを持ちかけ、多くの関係者が同意したところで、それをテープに撮って警察に届け出た。犯罪の実行前に全構成員が逮捕されてしまう。しかし、持ちかけた本人は、その名前も住所も全くわからない、こういうことになりかねないわけです。こういう事態というのは、多くの国民を疑心暗鬼に陥れ、密告社会への道を開きかねないものと考えます。

 自首の必要的減免規定は司法取引や訴追免除といった制度につながっていくものであり、別途に徹底的な議論、討論の場を設けて討論された後に決定されるべきことではないでしょうか。日弁連は、この自首の際の刑の減免規定については、その削除を強く求めるものであります。

 共謀罪の制定に当たっては、犯罪の越境性、すなわち犯罪が国境を越えて発生していることを要件とすることができるかどうかは、日弁連と法務省の間に深刻な対立がございます。

 日本政府は、条約の三十四条二項を援用し、国内法化の段階では、越境的という性質は国内法の要素としてはならないというふうに主張されています。確かに同項には、五条による共謀罪は、国際的な性質、これは先ほどの越境的な性質という意味だと思いますが、と関係なく定めるというふうに規定されています。

 この条約三十四条二項というのは、もともとの草案にはなく、条約審議の最後の会合となりました第十回会合の終盤になってフランスが提案してきた。それがさらに形を変えて急遽盛り込まれた規定でございます。

 そして、本項の趣旨は、条約の公的記録のための解釈的な注という、トラボ・プレパトワールという文書ですが、この当該部分を見ますと、条約の適用範囲を変更したものではなく、越境性と組織犯罪集団の関与が、これはこの条文については関係ないんですが、ほかの条項に関連して言っているんですが、国内法化の本質的な要素ではないことを明確化したものであるとされています。

 今言いました解釈というのは、条約の実際の正文との間では若干そごがあるというふうに私も認めますけれども、もともと提案されていたフランス提案とは非常に整合する、そういう中身の注になっているわけです。

 日本政府がこの委員会に公開していただいた公電を子細に読んでみますと、このフランスの提案というのが審議の途中で変わっていくわけですが、こういう内容自体を変えるという提案がなされたという経過は一切なくて、この場所を、イギリスの提案によって、条約の適用範囲の規定から条約の執行という、一番重要な規定からもっとランクの低い規定に移す、そういう修正が行われただけ、あとの修文は議長が勝手にやってしまっているという経過がわかります。

 したがって、ウイーン条約法条約に基づいて、この条約の制定の経過というものを見ますと、この条約三十四条二項は、条約五条について、越境性の要素を国内法に含む必要がない、そのことはドゥー・ノット・ハブ・トゥーというふうに解釈的注には書いてあるわけですが、必要がないということを意味しているというふうに理解できます。

 仮に、この三十四条二項の解釈自体が、今外務省や法務省がおっしゃっているとおりであるというふうに仮定してみたとしても、国内法化に当たっては、慎重な姿勢をこの国会としてとって、この三十四条二項について留保する、そして国内法において越境性を規定するということは、批准の障害とは考えられません。むしろ、条約全体の趣旨からすれば望ましい措置である。したがって、ウイーン条約法条約上、当然許される留保になるというふうに考えるものであります。

 共謀罪は社会を変えてしまう危険性を内包しているということを述べたいと思います。

 松宮教授の言葉をかりるならば、共謀罪においては、なされた行為よりも敵と味方の区別の方が重要である。ゆえに、行為よりも行為者が重視され、行為者刑法となる。法定刑にも、組織犯罪と一般犯罪とでダブルスタンダードが導入される。同時に、刑罰の意味も変わる。敵に対する刑罰では、社会復帰、統合、同化は意味をなさなくなるのである。

 この委員会におきまして、この春、受刑者処遇法の改正というものをやっていただいたわけです。ここで犯罪者の社会復帰に向けた大変意味ある制度をつくっていただいたわけですが、そういった刑事司法の改革と真っ向から反するものが、この共謀罪なんです。このようなものを成立させると、刑事司法そのものが、一般市民相互の約束事としての市民刑法という性格を変容させ、社会の中の貧困層や少数派、社会的に反対を唱えている人たち、そういった者を社会から排除していく敵味方刑法といったものになっていきかねないというふうに考えます。

 また、共謀罪が導入されれば、犯罪捜査のあり方が一変する可能性があります。先ほど安冨参考人もおっしゃられましたが、共謀罪を取り締まろうとすれば、人々の会話や電話、メールの内容そのものが犯罪となるわけで、これらのものを証拠として捕捉することが必要になります。

 そのためには、通信傍受法、盗聴法の適用範囲を拡大していく、さらには室内盗聴制度を導入する、サイバー犯罪条約でその導入が提案されているメールのリアルタイム傍受の制度化を図るといったことが次々に提案されてくる可能性があるのではないでしょうか。また、自白偏重の促進、さらには、さまざまな団体に警察機関のスパイを潜入させるといったことが予測されるところであります。

 今、ほとんどの町の主要な街灯に監視カメラが設置され始めております。この監視カメラに人の顔の認識ができるシステム、そして一定の非常に指向性の強いマイクかなんかを連動することができれば、街頭でしゃべられていることそのものによって共謀罪が立証できるといった、本当に恐ろしい、究極の監視社会に行き着くことになるのではないでしょうか。

 結論を述べたいと思います。

 日弁連は、近代刑法の原則を変容させる共謀罪の制定そのものに強く反対します。仮に、国連の条約の批准に際して共謀罪の立法化が不可避であるとしても、少なくとも次のような修正を加えるべきです。

 適用範囲を、越境性のある、組織犯罪集団の関与した行為に限定するべきです。組織犯罪集団については、重大な犯罪行為を行うことを目的とし、かつ、現に重大な犯罪行為を累行していることを要件とするべきです。

 対象犯罪は、組織犯罪集団が組織的に関与する可能性のある重大犯罪、具体的に言えば、現行の組対法の別表に限定するべきです。

 犯罪成立のために、合意だけでなく、犯罪の準備行為を要件とするべきです。

 密告の奨励につながるような実行着手前の自首による必要的な減免規定は削除するべきです。

 この本法案の他の項目について、結論的な意見だけを述べさせていただきます。

 マネーロンダリング犯罪の前提犯罪については、その飛躍的拡大に強く反対するものです。そして、マネーロンダリングの前提犯罪を、長期四年以上の刑を定めるすべての犯罪ではなく、少なくとも組織犯罪集団の組織的に関与する可能性のある犯罪に限定するべきであると考えるものです。時間がありませんので、理由は配付しました書面に譲らせていただきます。

 証人買収などの罪については、現行刑法の証拠隠滅の罪、偽証罪の範囲で十分対応可能であると考えます。捜査機関と弁護側では、証言における真実、虚偽という判断が百八十度異なってくる場合があるんだということを銘記していただきたいと思います。条約批准に当たっては、この条約二十三条に関しても留保を求め、国内法化に際しては、証人買収罪の削除を求めるものです。

 仮に全面的な削除が不可能な場合には、この規定の適用範囲を、やはり少なくとも組織犯罪集団の組織的に関与する可能性のある犯罪に限定するべきであると考えます。理由は配付しました書面に譲らせていただきます。

 以上、本法案について日本弁護士連合会の見解を御説明しました。既に、日弁連だけでなく、日弁連加盟の各地方単位会の二十四会、過半数を超えているわけですが、二十四会において、本法案に反対する声明が公表されております。

 本法案は、刑事司法の基本原則、国民の人権保障について重大な影響を及ぼす、本当に刑法体系そのものを変えてしまうような重大な法律でございます。この国会におかれましては、以上のような指摘させていただきました問題点を十分審議して、条約の留保、法案の削除、修正など、必要な措置を講ぜられるよう、心から希望いたします。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

早川委員長代理 どうもありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

早川委員長代理 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。田村憲久君。

田村(憲)委員 自由民主党の田村憲久でございます。

 きょうは、参考人の四方には本当に大変参考になる御意見をいただきまして、ありがとうございました。心から厚く御礼を申し上げます。

 さて、今回の法改正でありますけれども、国際組織犯罪防止条約、これが、特に共謀罪に関して、非常に必要性というものから国内法の改正をせざるを得ないということでありますが、感慨深いといったらあれなんですけれども、もう既に、国会に提出されてから、六国会目でございまして、やっと参考人の先生方からいろいろと御意見をいただけるところまで来たかなというふうに思っております。

 この国際組織犯罪でありますが、年々凶悪化、多様化しておる現状を考えますと、やはりこのような条約を結んでそういうものを未然に防いでいかなきゃならない、この必要性はあるんであろうと思いますけれども、その中において、特に共謀罪、これを法整備していく中においては、私自身も法律に何回か目を通すのですが、なかなかわかりづらいところがあるのは事実でありまして、組織犯罪処罰法、これ自身はこの条約のためにつくられたわけではありませんから、つくられてきた経過といいますか、つくり方自体が非常に難しくなっておるといいますか、理解をしづらくなっておるというのは事実だと思います。

 法の二条で団体の定義がされておるわけでありますが、これは今もいろいろとお話がありましたとおり、決して犯罪組織だけに限定しておる定義ではないわけでありまして、いかなる団体にも当たる。

 ただ、今のお話の中で、一点、サークル等々も当たるというお話があったんですけれども、これはぜひとも川端参考人にお伺いをいたしたいんですが、サークルというような非常に同志的なといいますか、同じレベルの、愛好会的な、そのような同心円的な組織自体が果たしてこの団体に当たるのか。団体というものを明確に定義した場合、なかなかこれは抽象的でわかりづらいんですけれども、どういうものが団体なのかというものを教えていただければありがたいんです。

川端参考人 どうも御質問ありがとうございます。

 組織犯罪対策法につきまして、今お話ございましたように、この法律は、団体規制をする法律ではなくて、先生の御発言にございましたように、特定の犯罪行為を団体の活動として行うという形で捕捉するという趣旨でつくられたものですから、いわばこの定義規定が、先ほど申し上げましたように、入れ子構造になっておりまして、三条二項とか六条とか、相互に入っている関係でわかりにくいわけです。

 それで、団体といいますと、やはりある程度組織性を持っていなければならないわけでございまして、組織があって、それによってその組織の意思決定がきちんとなされ、そして活動の効果が組織に帰属するといったある程度明確なものを持ったものでなければならないわけであります。

 今サークルの問題が出てまいりました。サークルというのは同好会というような趣旨の団体ということだろうと思います。その場合に、この法律の予備罪の規制がなされた場合に、適用可能性があるかどうかという点がまず争点になると思うのです。その場合には、この共同の目的という点が絞りになるわけでございます。

 犯罪行為を行うような目的がサークルには存在いたしませんので、目的条項によって、形の上では組織性を持ち、そしてそれが意思決定がなされ、実行がなされるという場合であっても、別の角度で制限されて適用の範囲が限定されるという要素がございます。

田村(憲)委員 わかりました。ちょっとわからないところもあるんですが、また個人的にお聞きいたしたいと思います。

 あわせて、今も先生おっしゃられたんですが、非常にわかりづらいのは、さらに三条で、団体の活動が括弧書きで実は定義されているわけですね。これ自身も、犯罪性というものは一切括弧書きの中には入っていない。ただ、前後を読みますと、団体活動として犯罪を行った場合が対象になりますから、当然、その団体活動というものが犯罪というものに密接にかかわっているわけでありまして、そこで多分、その組織の犯罪性といいますか、組織的犯罪というものをある程度明確に限定してきているんであろうなと思うんですが、これまた行ったり来たりなものですから、まさに六条もそうなんですけれども、ここがなかなか法文を読んでおるだけでは理解できない。これは野党の方々もそういう御意見があるわけであります。どこで、組織犯罪集団といいますか、犯罪組織性というものを読み込めばいいというふうにお考えになっておられますか。

川端参考人 ただいまの御質問にお答えさせていただきます。

 先生御指摘のとおり、三条とか六条を行ったり来たりしないとこの中身がわからないというような条文構造になっております。これは先ほども申し上げましたように、個々の行為について組織的な形態で遂行するかどうかというような観点が加味されております。

 もし、簡単に団体規制ということであれば、組織暴力団対策法と同じように、集団を特定しておいて、その集団の行う行為だけを処罰するという方法でやれるはずなのですが、この法律の場合には、特定の犯罪を組織的に行動することで処罰の対象になるという構成がとられておりますから、今述べましたような組織性という部分と、それから団体の活動としてなされるということがまた要件としてかぶさることによりまして、より組織的な犯行形態というのがここで限定されてくる、こういう構成になっているわけでございます。

 その点が非常にわかりにくいと言われればおっしゃるとおりなのです。ですから、これは対象犯罪を組織的に行うという形で処罰の対象にしようとしておる関係で今述べましたような問題が生ずるわけです。

 ただ、立法技術上これをどうするかという点はまた将来問題となり得るかと思いますが、これを定義規定として一カ所にまとめてしまうということはあり得るだろうと思います。そうしますと、その定義関係で、その条文に行けば、行為の内容が組織的な団体による組織的活動としての行動であるということがすぐわかるような構成はあり得ると思うのです。

 ただ、現行法のもとにおいても、この解釈のルールに従っていけば、これはわかるようになっておりますので、一般にはちょっと理解しがたい面もあるかもしれませんが、解釈論としては明解であると言えると思います。

田村(憲)委員 ただ、この委員会の議論でも、野党の先生方からは、そこが、例えば労働組合がここに書かれている犯罪を犯した場合に対象になるんではないかと。もちろん、労働組合という組織自体の中身が目的等も含めて変質してしまえばそれはあり得るんでしょうけれども、労働組合が今の現状のままで、何らかのここに書かれている等々の犯罪を犯した場合に対象になるんじゃないか、そういう心配が起こってきておるのかな。だから、もう少し明確にそこら辺のところがわかるような書き方ができれば本来はいいのかななんということを率直に感じます。

 ちなみに、きのうも委員会でいろいろな議論が出たんですが、要するに団体の範囲、つまり、団体の範囲には当然入るんですが、組織犯罪集団として、行政機関がなり得るということはあり得ますか。

川端参考人 ただいまの御質問は想定の範囲外でございまして、今言ったような行政機関というのは、本来、そういった違法目的のために存在するものではございませんので、そういった行政機関が特定の犯罪を遂行するような組織性を持って、そして共同の目的を持ってそれを行うということは本来あり得ないと考えます。

田村(憲)委員 私もそうだと思うんですね。その目的自体が、行政機関は国民に対して行政としてのサービスを提供するところにありますから、それ自体が犯罪を目的とするということはまずあり得ないので、当たらないんだろうと思います。確認のために御質問させていただきました。

 それでは次に、今海渡先生からお話がございましたけれども、六条の二の組織的犯罪の共謀、共謀罪のところにおいて、合意を促進する行為、要するに、予備的また準備的な行為が必要であるかないか。オーバートアクトという話も出てまいりましたけれども、条約では、これ自体を置くことは許されておるわけですね。それをなぜ今回入れなかったのか。海渡先生からは説明の中でそのお答えをいただいたような気がするんですけれども、法制審の中でどういう議論があってこれが抜かれたような形になったのか、これは川端先生にお聞きをいたしたいと思います。

川端参考人 お答えさせていただきます。

 このオーバートアクトと申しますのは、これはコンスピラシーの処罰範囲を狭めるという実践的な目的から設けられている法原理でございます。

 先ほども申し上げましたように、我が国では、英米法流のコンスピラシーという概念のもとで共謀を罰しているのではなくて、あくまでも犯罪の決意があり、そしてそれが共謀関係に入り、予備、そして実行の着手という段階を踏んで行われる場合の共謀を予定しているわけでございます。

 この点につきましては、先ほども申し上げましたように、もう既に法文上、現行法上も共謀罪がございます。そういった共謀罪の成立範囲の問題として、実務及び学説は、この共謀の内容を非常に特定して厳格に認定していくべきだという考え方をとっております。

 したがいまして、その観点からしますと、オーバートアクトは、英米法で、特にアメリカの州において認められているものでございますが、オーバートアクト自体の範囲が非常に広がっています。例えば、準備に行く前の段取りの電話をするといったような場合でもオーバートアクトだということになるわけです。むしろ我が国における共謀罪の場合には、そういった個別的な、具体的な遂行計画というのが明確に共謀の段階で定まりますので、それ以上に、さらにオーバートアクトといったような要件を必要とすることはないであろうというような考え方が、英米法と違って、我が国の大陸法系のもとでの共謀罪の要件の問題として一般にとられているということがあったからでございます。

田村(憲)委員 いろいろと厳格に、組織性も含めて規定されているからあえて必要がないというようなお話だったんだと思うんですが、ただ、委員会のいろいろな議論の中で、そうはいってもやはり心配だという声が非常に多いというのも現実であろうと思います。

 仮に、このオーバートアクトというものを法文の中に入れた場合、何か問題が生じる可能性があるのか。もっと言うと、実際問題、犯罪捜査をする上でそれが非常に障害になる可能性があるのか。これは安冨先生に先ほどの話の流れからすればお聞きした方がいいのかもわかりませんけれども、教えていただければありがたいと思います。

安冨参考人 お答えいたします。

 若干御質問が先ほどの重複に係りますが、法制審議会での議論というのは、要するに、厳格な組織性ということが要件とされているので、格別いわゆるオーバートアクトというような要件までは必要ないんじゃないかということだったと思います。

 オーバートアクトを要件の中に入れるかどうかというのは非常に慎重な検討をしなければいけないと思いますけれども、ただ、組織性の立証のやり方と、オーバートアクトというものを入れたときの立証のやり方というのは、具体的な捜査の手法からいうと異なってくるかもしれませんが、少なくとも従前の捜査手法において同様な捜査が可能であるというふうに思います。

 ただ、私も個人的には、これはもう先生方の御議論であろうかと思いますけれども、オーバートアクトの要件を入れることについては、それも一つの方法としてはあり得るのかなというふうに思っております。

田村(憲)委員 最後に国際性の問題をお聞きしたかったんですが、この後、これは漆原先生がしっかりやっていただけるということでございますので、私の質問はこれにて終了させていただきます。

 どうもありがとうございました。

早川委員長代理 次に、平岡秀夫君。

平岡委員 民主党の平岡秀夫でございます。

 きょうは、大変貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございます。

 私の方からも幾つか質問させていただきたいと思うんですけれども、私は、全員の方々にそれぞれ質問させていただきたいというふうに思っています。

 きょうの皆さん方の御説明を伺って、テーマを少し私なりに整理いたしまして、まず最初は、共謀罪の位置づけをどう考えるかということでございます。

 この点については足立参考人の方から大変詳しい話もありましたし、まさに一般の人たちが、既遂処罰しかない犯罪、あるいは既遂、未遂処罰があるけれども予備が処罰されていないというようなものについてまでどうして共謀罪というものを設けなければいけないのかというようなところの、基本的な問題提起をされたと思うんです。

 その点について、私は川端先生に、足立先生の問題提起に対して、私も、組織犯罪処罰法を見ても、確かに既遂の話と未遂とか予備は罰する、ただし、その罰せられるものはかなり限定した犯罪になっているわけですね。今回、共謀罪というものを設けたときに、これらがすべて、六百十九に上る犯罪について共謀罪という形で、共謀という状況にとどまっているものに対して処罰をするということについての、どうも理論的な根拠が私はよくわからないという意味において、ぜひ川端先生の方にこの点をちょっと、御見解をお示しいただきたいというふうに思います。

川端参考人 回答させていただきます。

 共謀罪というのが、先ほどから問題になっておりますように、近代刑法においては例外現象であるということは、どなたも承認されるところでございます。重大な犯罪について共謀罪が処罰の対象になっているというのもまた共通の認識でございます。その意味において、我々は、この近代刑法が確立してきた刑法の大原則をそのままここで否定するというようなものではございません。

 そこで、基本的に考えられるのは、ただいま御質問にございましたように、六百種類にもわたる犯罪が共謀罪の対象犯罪となるという点でございます。

 これは、犯罪類型としての罪名でございますが、それをどう数えるかという点によって数の大小が生じます。一項犯罪とか二項犯罪とか、あるいはその中で、例えば内乱罪の場合のように首謀者とか、そういう形でいろいろ類型化していきますとそれも一罪という扱いをしているようでございまして、法務省の数はどうもそういう計算をしているようでございます。ただ、これが一般的な、犯罪類型と通常言われるような形での罪名でいきますと、六百にも及ぶようなものではございません。ただ、範囲が広いということはおっしゃるとおりでございます。

 そういった場面で、近代刑法のもとで本来既遂しか処罰されないようなものについても共謀段階で処罰の対象にするのはおかしいではないかという御疑問はもっともであり、私もそのように思います。

 ただ、これは、先ほど来お話ししておりますように、条約上の関係がございます。国際的な観点で、国際条約の批准等に当たって、各国が協力してできるだけ早い段階での犯罪の鎮圧を図るという要請がございますので、そういう共謀罪を処罰の対象にする事態が生じてきているのでございます。

 これに関しましては、先ほど来、立法事実については、国内法における問題としてもこれが承認されていることになりますから、今言ったような点での御心配は存在しないだろうと考えている次第でございます。

 予備罪との関係で、単なる共謀ということでございますが、しかし、共謀というのは、先ほど来申し上げておりますように、非常に個別具体的な犯行についての計画を十分に練って、そして緻密な犯行計画、それから組織内における共同分担とか手順が非常に明確にそこで決められることになりますから、単なる話し合いといったものではございませんで、そういった点での限定というのは十分に働き得るということでございます。

平岡委員 今川端参考人が、条約の要請である、それが国内法でも承認されているというような、少し言葉が足りていなかったのかもしれません、私の理解が不足しているのかもしれませんけれども、国内法で承認されているというのは、条約で、国際性に限らずに法定すべきであるということが書いてあるということをもってして今回の立法が正当化されるんだ、そういう論理だというふうに私は受けとめたんです。

 今のお話でいきますと、国内でそういう共謀罪というものをつくらなければいけない立法事実というのがあって、だからつくるんだということであるならば、国内の法体系の中で、今私が申し上げましたように、既遂とか未遂とか、あるいは予備とか共謀とか、そういうような段階に応じて法体系が組まれていることに対して、今回の法案は、それを無視した過大な共謀罪という犯罪を創出しているんじゃないかというふうに私は思うんですね。

 今川端参考人が言われたのは、あくまでも条約で国際性に限らずに手当てすべきだと書いてあるから、それは国内法でこういうことをつくるのが承認されるんだというふうに説明されたという理解でよろしいでしょうか。

川端参考人 これは、先ほど申し上げましたように、第一の要請として国際条約上の要請があるという点と、それから第二には、国内法上の立法事実もございますので、その限度で私は国内法上もこれを立法化しても差し支えないであろうと考えているという趣旨でございます。

 それで、対象犯罪の根拠につきましては、これはまさに国際法上の条約の要請するところですからそれに従わざるを得ないという面はございますが、現実に、一定の犯罪を行うことによって、特定の犯罪状況でそれを行うことのメリットがその組織にとって生ずるというような事態は、犯罪類型の中身という点からしますと、六百種類ある中のすべてではございませんで、そこにはおのずと性質上限定が図られてくるであろうという趣旨でございます。

平岡委員 ちょっと時間がないので、次の質問に移りたいと思います。

 組織犯罪集団性というところでございますけれども、安冨参考人の方からもお話がありました。そのときにちょっと気になったのが、オウム真理教の例を挙げられたんです。オウム真理教というのは、もともと組織的な犯罪集団ととらえるものなのか、もともと宗教集団だったのがその後変質して組織的犯罪集団になったのか、その辺はちょっと私もよくわかりませんけれども、先ほど、官庁はこの法律の対象になる団体となり得るのかという質問に対して、官庁はならないんじゃないかというふうに言われました。まさにそこにこの問題の本質があるんですよ。

 この法務委員会でも随分議論しました。議論した中で、例えば警察が裏金づくりをするということで、その組織が挙げて、例えば経理部局を挙げて裏金をつくっている、これは公金横領です。そういうようなことをしているのは、これは犯罪集団にならないんですかという、そこの質問なんですよ。それに対してどう答えるかということがちゃんと答えられていないので問題になっているわけです。

 そこで、お伺いします。

 これは安冨先生ですけれども、オウム真理教は、いつの段階から組織的犯罪集団になったということで共謀罪の適用が行われることになるんでしょうか。先生の御見解をお示しください。

安冨参考人 集団として、あるいは団体としてというふうに申し上げた方がいいかもしれませんが、そこが正当な宗教的な活動を行うという共同の目的を持っている限りは、私はそれは適用にならないというふうに思います。

 しかしながら、そこにおいて犯罪的な行為を行う共同目的を持つに至った段階で、それは今回のような共謀罪を適用しても構わないと私は考えております。

平岡委員 その例でいきますと、先ほどの警察の例ですけれども、警察の経理部局が自分たちの裏金をつくって、この裏金で自分たちの例えば遊興費に使うとかせんべつに使うとかいうようなことをし始めた、それは継続性もあるわけです、組織でやっているわけです。その場合はどうですか。組織的犯罪集団になるんですか、どうですか、安冨先生。

安冨参考人 お答えをさせていただきたいと思います。

 警察の組織という行政組織でいう限りは、これは正当な治安目的の警察組織でありますので、そこにおいて行政機関が対象となる団体になるというふうには考えられません。

平岡委員 まさにここのところにこの法務委員会でも議論があるんですよ。本当の正当な目的と言われたって、それはオウム真理教だって、初めから犯罪集団になりますとかいうようなことを書いているはずないわけですね。自分たちが信じているこの宗教を世の中に広めて世の中を幸せにしよう、そういう目的のためにつくっているわけであって、それがどこからかちょっと犯罪行為をするようになってしまった。その犯罪行為をすることになってしまったことを目的としてとらえるのか、そうでないのか、そこのところに大きな問題があって、対象範囲がはっきりしないということを言われているわけです。

 そこで、海渡参考人にお伺いしたいと思います。

 そうした組織犯罪集団性というものが非常に問題になっているというこの状況の中で、どのようにすれば組織犯罪集団性が特定される、つまり、多分、この四人の参考人の方々が共通かどうかわかりませんけれども、もう凶悪な暴力団にはこの法律が少しぐらい適用されてもいいのかな、新しい法が適用されてもいいのかなと思っておられるかもしれません。では、どんな集団なら適用されてもいいような集団として、まあ何とか、納得はしないかもしれませんけれども、我慢できるというふうにお考えなのか、お願いします。

海渡参考人 実はきょう、ここに三浦守さんほかが書かれた「組織的犯罪対策関連三法の解説」という書物のコピーを持ってきております。この中で、既存の組対法の団体の部分についてどう書かれているかというと、共同の目的というものについて、「例えば、会社が対外的な営利活動により利益を得ることなども、「共同の目的」に当たり得る。」とはっきり書かれております。犯罪目的なんということは一切コンメンタールには書かれていないんです。それから、組織というのも、これも犯罪を行う組織だというふうに先ほどから言われておりましたが、「例えば、会社の一部を構成する部や課は、通常、「組織」に該当すると思われる。」とはっきり書かれております。団体の定義についても、「本項に規定する「団体」は、暴力団その他犯罪の実行を目的とするものには限定されない。」。

 この国会に対して法務省の方々が説明されていることと、法務省の方々が実際に事件の訴追に当たって参考にされているこの文献とで説明が食い違っているわけです。これは非常に大きな問題で、国会に対してはそういう説明をし、実際の実務はこういうコンメンタールに従って行われていくわけですね。

 ですから、私は、本当にこの間の御説明が正しいんだとすれば、最低限、組織犯罪集団というものの関与する犯罪をこの共謀罪の要件として、その定義としては、重大な犯罪を遂行すること自体をこの団体の目的としているということ、そして、それの判断については、団体の意思決定に基づいて現実に継続して重大な犯罪を繰り返している。もちろん、前科があるということまでの必要はないと思います。まとめて三件やったということが摘発されたときでももちろん構わないと思うんですけれども、そういう厳格な要件を付した形にすれば、犯罪を目的としていない一般の市民団体や労働組合がたまさか違法な行為を行ったというような事例をこの法律の適用範囲から完全に除外することができるのではないか。

 そういう意味で、先ほど申し上げたような修正、繰り返し言いますが、日弁連はそういう修正をしたからといって共謀罪に賛成するわけではない、反対の立場は変わらないんですが、仮にこの国会の中でこの制定がやむを得ないというようにお考えになるんであったとしても、そういう修正はぜひともやっていただきたいというふうに考えております。

平岡委員 時間がなくなったので、最後に捜査の問題について御質問したいと思うんです。

 本当は皆さん方に聞きたいんですけれども、先ほど足立先生が、バーミンガム・サミットの話をしようとして、時間がないからやめられたということであるんですけれども、私は、バーミンガム・サミットでは、先生の本を読みますと、新たな犯罪捜査手法を導入すべきであるというコミュニケが発表されたというようなことで、何か時代が変わってきたんだというような趣旨のことを書かれておられるわけであります。本来、こうした共謀罪を導入されるということについて、犯罪捜査のあり方についてどういうことが懸念されるのか、先生の方から、このバーミンガム・サミットも触れながら、ちょっと教えていただきたいと思います。

足立参考人 お答えいたします。

 バーミンガム・サミットについて言いたかったことは、現在の二十一世紀と近代刑法ができた十八世紀末あるいは十九世紀、その違いについてであります。アメリカのリノ司法長官が、二十一世紀の犯罪については十九世紀の武器ではもはや対抗できないという発言をしました。つまり、これをどう考えるかという問題なんです。

 そのときに、アメリカの司法長官としてその状況をどうとらえたかと考えますと、アメリカという巨大大国でどのような犯罪が行われているんだろうか、まさにそれは麻薬であり、民族のるつぼであったわけです。ですから、そこで行われているアメリカの犯罪に対応するにはさまざまな国際性が必要になってくる、だから条約を持ってこなきゃならないというようなことを主張されたんだと私は思います。

 しかし、では、日本の現実をよく考えてみますと、果たしてそのような現実はあるのでしょうか。私はないと思います。例えば、髪の毛は黒いです。そこにさまざまなものをまとったりして来たときに、私たちはどのような目で彼らを見てしまうんでしょうか。私たちが彼らを逆に監視しているようなことになっているんじゃないでしょうか。つまり、本当に日本にそういう国際的テロと言われるものの現実的脅威はあるのでしょうか。私はないような気がいたします。

 つまり、それを口実にしてつくられれば、先ほど言いましたけれども、私たちの市民社会が、さまざまな形で新たな捜査手法が導入されることによって、これを認めますと、盗聴法の拡大の根拠になります。したがって、それは次の世代の監視社会へとつながる道だと私は考えています。

平岡委員 時間が参りましたので、終わります。

早川委員長代理 次に、漆原良夫君。

漆原委員 公明党の漆原でございます。

 きょうは、四人の参考人の先生方、本当に貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございました。

 早速質問させてもらいますが、まず、国際性について、これは足立参考人と安冨参考人にお尋ね申し上げます。

 この条約の名前、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約となっております。この条約の目的は、第一条に、「この条約の目的は、一層効果的に国際的な組織犯罪を防止し及びこれと戦うための協力を促進することにある。」と明確に規定しております。本条約を受けて、組織的犯罪処罰法の改正、その目的も、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を実施するため、」こう改正しようとしております。

 しかし、これからつくられる共謀罪においては、全く国際性の要件が入っておりません。リフォーム詐欺とか、あるいは振り込め詐欺が対象となるというふうに言われておりますけれども、「国際的な組織犯罪を防止」と「これと戦う」、そういうことを標榜してこの条約を締結したわけでございます。しかし、実際にできた国内法は、それと関係のない、全く国内的な、暴力集団でもない普通の国民が、普通の市民が、たまたま不況になってリフォーム詐欺をやろうじゃないかというふうに組織してやった場合でも適用になるということになりますので、そういう組織犯罪と戦うといいながら、実際は国内犯罪だけを処罰するような結果になりかねないというふうに私は思っているんです。

 こういう結果、本当にこれでいいんだろうかという、条約の目的、趣旨に逸脱をすることにならないかという根本的な疑問を感じておるんですが、この点についての参考人の御意見を承りたいと思います。

足立参考人 お答えいたします。

 私は、条約の方を優先させるべきであって、あくまでも条約の範囲内に限定した国内法化を図るべきだと思っています。というのは、あくまでも目的は条約の批准なんですから、だったら、条約で要求されていることをつくればいいと思います。そして、その上で、国内法の諸原則がありますから、それとどう適合したものを国内につくるかという作業が必要なのではないでしょうか。

 私は、先ほど言いましたように、未遂や予備のない規定でなぜ共謀罪が突然出てくるんだろうか。それだったら既遂の前の未遂、予備だって処罰されなきゃおかしくなってしまいます。それが日本国内法の原則だと思うんです。それとどう適合させながら条約を国内法化するかという視点が必要なのだと私は思います。

安冨参考人 お答えさせていただきます。

 今回の国際組織犯罪防止条約の目的につきましては、先生御指摘のとおり、国際的な組織犯罪の防圧を図るといいましょうか、それに対する条約であるということは承知しているところでございます。

 ただ、条約解釈にかかわることだと思いますけれども、先ほどから出ておりますが、三十四条の2以降、これをどう読むかであります。国際的な性質とは関係なく定めるという文言になっておりますので、この意味からいたしますと、むしろ国際性というものを要件とはしないという形での法案づくりになろうかなというふうに理解するところでございます。

 また、国際性を仮に要件といたしますと、先ほど申し上げさせていただきましたけれども、例えば、国際的な犯罪組織が関与しているとはいっても、具体的な犯罪行為だけを見ますと、むしろ国内的な犯罪行為にとどまるような場合もあるでしょうし、それから、捜査の初期の段階ですと、果たして国際的な犯罪組織が関与しているのかどうかということが必ずしも判明しないような事態もあり得ると思います。そういう意味で、国際性を要件とするということになってしまいますと、国際性がかかわらないようなものが逆に処罰されないという、いわば不均衡が生ずるようなことになるのではないかと思います。

 そういう意味で、国際的な犯罪組織に対抗するんだという条約の趣旨は十分理解できるところでありますけれども、国際性を入れることによって、むしろ処罰に間隙を生ずるといいましょうか、アンバランスになってしまうというようなことになってしまうのではないかと思いますので、国際性というものを要件とするのは立法においても適切ではないのではないかというふうに私は考えます。

 以上でございます。

漆原委員 今先生がおっしゃった三十四条二項、これは非常に解釈が分かれておりまして、我々も英語を読んでもなかなかわからぬなという気持ちなんですが、「第五条、第六条、第八条及び第二十三条の規定に従って定められる犯罪については、各締約国の国内法において、第三条1に定める国際的な性質又は組織的な犯罪集団の関与とは関係なく定める。」こうなっているんですね。

 問題は、これは外務省の答弁でも、国際性や組織性の存在を条件とすることなく犯罪化することを義務づけた規定だというふうに答弁しています。当委員会でも、法務省の局長は、国際性を要件とすると条約違反になって批准できないんですということをはっきりおっしゃっているんですが、この点について、川端参考人と海渡参考人に、この条約をどう解釈したらいいのかお聞きしたいと思います。

川端参考人 お答えさせていただきます。

 今、条約の解釈の問題が出ております。この点につきましては、先ほども申し上げましたが、私は、この文言からしますと、これは要件としてはいけないと解するのが妥当であろうと考えております。

 その理由でございますが、この国際性というのは、確かに、国際犯罪に対抗するという意味で、それを要件としてかぶせるような外観をとっております。しかしながら、国際協力のもとで一定の組織犯罪が行われる場合に、国内だけで犯罪行為を行っていて、そして国際的な関係では、いろいろなルートを通して国際犯罪組織同士が国際的に連携するという事態もございます。

 ですから、最初から国際性という形で枠をはめるのではなくて、あくまでも国内における犯行の中でそれが行われた場合に、その組織的な活動によって一定の、例えば二項の場合にはその組織に対しての権益の確保とかそういうのが出てまいりますので、そういったことによって一定の集団自体が勢力を拡大していったり、そこで犯行をさらに広げていくというようなことを通して国際社会に対して悪影響を及ぼし得る事態もございますので、まずはその犯行に着目して、それによってその処罰の範囲を定めていこうという趣旨でこの条約ができていると解しております。

 以上でございます。

    〔早川委員長代理退席、委員長着席〕

海渡参考人 条約の三条に定めている越境性の部分を見ますと、この(c)という項目を見ますと、二つ以上の国において犯罪活動を行う犯罪集団が関与している場合は、犯罪自身が一つの国の中で行われていても越境性はあるというふうに定義しておりますので、ある意味で、国際的に活動しているような暴力団が関与している犯罪については、この越境性を要件にしたとしてもかなり広範に取り締まりが可能ですし、国際協力も可能です。だから、実質的な意味で、法務省が言われているような不都合というのは、僕は何も起こらないというふうに思います。

 現実問題として、この条約の審議の過程で、この三条の越境性の要件を決めることが非常に大きな論争のテーマで、まさしく条約の適用範囲をこの条項によって決めようとしていて、ここをどう書くかということをめぐって延々と議論が繰り広げられて、最後の第十回目で、この条約の一番重要な義務づけ規定については適用を外すなんということを決めるということ自身が、条約の審議としておかしいんです。本当に僕はおかしいと思います。

 ですから、今、確かに三十四条の二項の文言だけ見れば、その法務省や外務省のおっしゃっているような解釈も成り立ち得ると思いますけれども、この条約全体の審議の過程を見れば、いかにもおかしい。そんなこと起こり得ないようなことが起こったという感じがしておりまして、この委員会でも条約の審議資料を取り寄せていただいて、それを読んでもなぞは深まるばかりということです。

 先ほど御説明いたしましたけれども、条約の解釈的な注というのはフランスの提案と全く一致していて、条約の国内法化に当たって、国際性の要素を要素とする必要はないというレベルのことがこの条項によって決まったんじゃないか、各国の自由に任せるということですね。条約の適用範囲自身は三条で越境性のあるものに限定しているけれども、国内法化に当たっては、各国が自由にしていいですよということを決めた条項であるというふうに解釈するのが、少なくとも条約の審議過程からすれば最も整合的な解釈である。

 仮に、条約の解釈としても、その文言がこうなっていますからこれ以外の解釈がないんだというふうにおっしゃるとしても、その場合には条約の留保ということが可能だ。条約自身の趣旨、目的に反しない限りは留保して構わないわけであって、この条約の正文がこういうふうになったということ自身は非常に不明瞭な部分がある、したがって、この点は留保して、我々としては、越境組織犯罪条約の趣旨そのものに沿って、それに沿った共謀罪をつくりましたということで、堂々と国連に対して留保した上で通報されればいいんじゃないか、それに対して文句を言えるような国はないと僕は思います。

漆原委員 留保の問題が今出ましたので、先生、留保の根拠として、三十四条の一項ですか、「締約国は、この条約に定める義務の履行を確保するため、自国の国内法の基本原則に従って、必要な措置をとる。」という、ここから留保というのが読めるんでしょうか。その辺の説明をしていただきたいと思います。留保をして批准をすることができるというふうに読めるんですね。その辺の説明をお願いします。

海渡参考人 条約上、留保できるかどうかということについては、ウィーン条約法条約というものがございまして、その十九条で定められております。

 条約の中には、この条約のこの規定は留保できないというふうに条約そのものの中に書いてある条約というのも結構あるわけです。しかし、この条約についてはそういう規定はございません。したがって、一般原則に従って判断するわけですが、一般原則ははっきりしておりまして、条約の趣旨、目的に反するような留保は認められないとなっております。

 この条約の趣旨というのは、越境組織犯罪を取り締まることが条約の趣旨でございますし、目的規定にもそうなっているし、適用範囲もそういうふうに決められているわけですね。ですから、それに反しない留保はウィーン条約法条約の十九条によって認められるということは、国際法上異論のないところかというふうに思われます。

漆原委員 次に、立法事実の有無について、これは安冨参考人と足立参考人にお尋ねしたいんです。

 共謀罪を新設する立法事実ありやなしや、こういう問題になりますけれども、特に、国際的な組織犯罪集団として、一体日本にはどのような団体があって、それがどんなふうな違法行為をしているのか、だから新設の必要があるんだという、この辺の、国際的な犯罪集団に限っての立法事実という点について御説明願いたいと思います。

足立参考人 余りありませんね。

 例えば、歌舞伎町の蛇頭の活動とか、非常に限られたところしかないような気がいたします。あるいは、もう少し言えば、ハバロフスクの方のロシアンマフィアですね。あのロシアンマフィアの人たちが日本海の都市や北海道で中古車売買に手を染めていますね。あるいはプレジャーボートに手を染めたりしていまして、それを盗んで集めてくるという手法をとっているという事例を聞いております。

 ですから、そういうものに限定しているのであって、それが果たして共謀罪をつくったからといって取り締まれるのでしょうか。現実的に、未遂なら未遂、予備なら予備の段階で捕捉すれば、私は十分足りると思っています。

安冨参考人 お答えをいたします。

 今、足立参考人の方からもお話がございましたけれども、私も詳細については承知しておりませんけれども、中国系のマフィアといいますか、そういう人たちによる薬物の取引であるとか、あるいはそれに関連するような犯罪等々が国内で行われているというようなことは聞いておりますし、また、ロシアの一定の組織犯罪集団による車の密輸等々もあるやに伺っております。

 そういう意味でいいますと、純粋国際性のみをもって律すべき事例としての詳細については、遺憾ながら承知しておりません。

漆原委員 大変貴重な御意見、どうもありがとうございました。

 以上で終わります。

塩崎委員長 次に、保坂展人君。

保坂(展)委員 社民党の保坂展人です。御苦労さまです。

 先日までのこの委員会における質疑で、共謀というものが、現状の共謀共同正犯における共謀の概念なり定義とほぼ同一であるということで法務省からの答弁を聞いているわけです。そうなると、言葉を要しない暗黙の共謀、あるいは黙示の共謀と申しますか、あるいは犯罪計画が組織内であったことを黙認している、こういうことも含めて対象になるというようなことを聞きますと、どうもこれはちょっと、振り返るに、治安維持法の時代というのがありまして、目的遂行罪というものがいかに拡張されてその後の大変な猛威を振るっていったのかということを思い出すわけですが、この点について、海渡参考人と足立参考人にちょっと御意見をお伺いします。

海渡参考人 この共謀罪が治安維持法並みの悪法ではないかというような意見を聞くわけですけれども、確かに目的遂行罪というのは国体変革であるとか私有財産制度の改廃といったことの目的は入っていたわけですが、そういった目的を遂行するためのあらゆる行為に広がっていった。

 この共謀罪はもっと広いとも言えますね。六百幾つの犯罪行為に向けられた何らかの意思の合致があればいいわけですから。もちろん、ここに団体性と組織性というものが今の法案でもかぶさっておりますけれども、その団体には犯罪目的といったものもかぶさっていないという状況のもとでは、一般の市民団体であるとか労働組合などが行うような活動に幅広く適用されていく。現実にそういうことがイギリスやアメリカで、労働組合運動や反戦運動に適用されているという共謀罪の実態からしても、その危険性は指摘できる。本当に、共謀罪が治安維持法の二の舞にならない保証はないというふうに思います。

足立参考人 私は、その治安維持法治下の目的遂行罪の持っていた意味を考えたいと思っています。

 つまり、それによって特高警察の力が強まりまして、あらゆるところで特高警察に処罰が可能になりました。しかし、これは処罰といっても実際に処罰されるわけではない。逮捕、勾留され、拷問を加えられて死亡した人もいます。つまり、そういう時代だったんだと私は思うんですね。

 それと同じことが、では果たして、この時代に、警察は本当に法務省の解釈どおりのことを実行するのでしょうか。私はそうは思いません。いざというときになったら、使える法律はすべて使って取り締まりをするのはオウム事件のときに証明したことだと思います。まさに私は、そういうような状況で、警察国家をつくることにおいては、同一のレベルのことの話じゃないかなと思います。

保坂(展)委員 海渡参考人のペーパーの続きの部分に、マネーロンダリングの点がございます。九九年の組織的犯罪処罰法の際になかった贈賄や税法違反、これが犯罪ということで加えられていったということで起きてくる問題点について御意見をいただければと思います。

海渡参考人 きょう配付させていただきましたペーパーの十四ページに書いておいたんですけれども、贈収賄事件であるとか所得税法違反であるとか、そういった法律がマネーロンダリングの対象犯罪になるということは、そこでやりとりされたお金自身が犯罪収益ということになります。

 したがって、政治家がわいろを受けたときには、今まではそのわいろを受け取った政治家だけが犯罪ということで訴追されてきたわけですが、そのお金がだれに渡ったか、その渡った先の人がそのことを知っていたのかどうか、それが犯罪捜査の対象になるわけです。私は知らなかったというふうに言っても、今度は、知らないわけはないだろうと、逮捕して、ちょっとこれは、うちの会長さんはどういうところからお金をもらっているのか知りませんでした、後ろ暗い金と思わなかったのか、そうかもしれないと思いましたと言うと、これは犯罪収益であったことの未必の故意があると、犯罪収益収受罪ということになりかねないわけです。

 ですから、もちろん犯罪収益収受罪、マネロン罪というのは、薬物取引であるとかそういったものにだけ適用されるというふうに皆さん思われてきたかもしれませんが、贈収賄や税法違反に適用されて、今、日歯連の問題が非常に問題になっておりますが、あのお金を受け取った人全員が警察の取り調べを受ける、訴追を受けるかどうかはそこでどういうふうに答えたかによる、そういう時代が来るということになると思われます。

保坂(展)委員 確かに、犯罪収益の隠匿、これ自体処罰対象になりますし、また、犯罪収益のすべてを動かしたということではなくて、みずからの財産の中に混和したということも、たしか処罰対象になっていたと思います。

 そういう意味で、政治的な濫用のおそれがあるんじゃないか、こういう指摘があるわけですけれども、川端参考人、いかがでしょうか。そういう意見に対して、どう思われますか。マネーロンダリングの法律が組織犯罪対象ということで、暴力団とか国際組織犯罪集団という前提でお話をされていたように思いますけれども、幅広く、例えば政治家の資金移動などにも、解釈の仕方によっては濫用があり得るんじゃないかという意見が今出ましたけれども、いかがですか。

川端参考人 お答えいたします。

 マネーロンダリングに関しましては、これはもともとは組織犯罪、特に暴力団関係の団体が違法に取得した金銭をロンダリングし、そして利益を全部確保することを防止することで設けられた法律でございまして、その点からしますと、今言ったような通常の団体が行ったものについては、私はそこまで対象が広がっていくというようには考えておりません。

保坂(展)委員 それでは足立参考人に伺いますが、今回提案されているこの合体された法律の中に、強制執行妨害の問題もございます。

 先日から、強制執行妨害が、免れるためにということが、強制執行を妨害する目的でというふうに拡張して、そして実際の財産の移動、例えば無償で子供に進学の費用という形で渡した場合どうかとか、あるいは無償じゃなくて低額で渡した場合どうかというような、強制執行の対象となる財産、一般の市民が債務超過に陥って、そしてその財産を子供のためにあるいは今後の生計のためにと移動させること自体も、条文を読めば、この法律に該当するおそれもある。

 また、弁護士がこういった相談を受けた場合、報酬を得る目的によってということで、五年以下、五百万円以下。これは、刑からすれば、共謀の段階でもまたこれは成立し得る。

 この辺の問題は余り議論されていないと思うんですが、いかがでしょうか。

足立参考人 全くおっしゃるとおりだと思います。

 私は、法律の概念というのは非常に厳格であるべきだと思っていますので、法律に該当するものはすべて捕捉可能であります。それを言葉によって、いろいろプラスアルファをつけて、果たしてそれで今後の社会を動かせるかといったら、残るのは言葉しか残りません。法律の言葉だけです。だったら、この言葉に入ってくるものはすべて入ってきてしまう。ですから、今おっしゃられたような事例はすべて該当することになるのではないでしょうか。

保坂(展)委員 安冨参考人に伺いたいんですけれども、今回のこの法案がこのまま通った場合、捜査手法の問題について伺いたいんですけれども、例えば通信傍受にしても、あるいは、共謀の立証というのは実際にはなかなか難しいと思います。そうすると、やはりリアルタイムでメールをやりとりしている事柄そのものを、むしろ捜査上必要であるという根拠が出てくると思うんですね、議論の中で。あるいはおとり捜査であるとか、現状ない捜査手法の拡大をしなければ共謀行為が立証できないという一種の拡張が、歯どめがなくなるという心配を私どもしているんですが、その点、いかがでしょうか。

安冨参考人 お答えさせていただきます。

 先ほどもお話をさせていただきましたけれども、共謀罪についての具体的あるいは現実的な合意、これに関する立証に関する捜査のやり方の問題だろうというふうに伺いましたけれども、この点は、通信傍受法の拡大であるとか、御指摘のような新たな捜査手法の必要性であるとか、そのことは今回の共謀罪の立法の過程においては別の問題だろうというふうに認識しております。と申しますのも、従前どおり、共謀とか陰謀罪というのも既にあるわけでございますし、そういう場合の手法と捜査手法において大きく異なるものではないというふうに考えます。

 そういたしますと、犯行計画のメモでありますとか、周辺者からの情報提供でありますとか、そういったようなところからの捜査によって、十分共謀罪における捜査は可能なのではないかというふうに考えます。

保坂(展)委員 海渡参考人に伺いますけれども、先ほどお話のあった、強制執行妨害における、弁護人が債務超過に陥った個人ないし事業者から相談を受けた場合、あるいは証人等買収罪なども新設をされています。これだけ広範囲に共謀罪がつくられると、弁護士活動に及ぶ影響というのはどのような点が危惧されるでしょうか。

海渡参考人 強制執行妨害罪につきましては、残念ながら、日弁連としてまとまった意見をまだつくれていませんので、ちょっと個人的な意見ということで述べさせていただきますが、債務超過に陥っている方から相談を受けるときに、どうしても義理のある御友人がいて、これだけ払った上で破産の申し立てをしたいとか、そういう話は日常的にあるわけですね。僕は、それはやっちゃいけないことですよと言うようにはしていますけれども、では、本人がそれをやっているかやっていないかということをチェックするというところまでしているかというと、していない。

 現実問題として、そのことを相談したら弁護士さんがいいと言いましたというふうに、後でそのことがばれて強制執行妨害罪になって、いや、あなた、弁護士を頼んでいたじゃないか、相談しなかったのかということになると、弁護士自身がそういう罪に問われる。現実に、安田好弘弁護士という方が、著名な弁護士ですけれども、強制執行妨害罪に問われて一審無罪になったという事件があるわけですけれども、今回は構成要件がさらに広がっていますので、弁護活動にも大きな影響が及んでくる危険があるかなというふうに感じております。

 証人買収罪についても、現実に、検察官側の証人について、我々が具体的な、検察側の調書とは別の証言をしてくれるということでお会いして、いや、実は検事に随分こういうふうに言えというふうに言われて調書をつくったけれども、事実は被告人に有利なこういう状況なんですよと言ってくださったとします。では、無実を証明するために証言に出てください、いいですよという話になった。その打ち合わせをしたときの食事代を弁護士がポケットから払うということは、むしろ僕は当然なことだと今まで思ってきたんですけれども、これからはそれは証言の買収罪。

 検事から見れば、我々から見て真実の証言であっても、自分の今まで主張してきたことと違うわけですから、弁護人側が虚偽の証言をさせようとして、そして証人に働きかけて、食事をごちそうして証言することを約束させたと。その証人を申請したらすぐ弁護士が捕まってしまって、もうその事件の進行ができなくなってしまう、そういった事態も予測できるのかなというふうに思っております。

 以上です。

保坂(展)委員 今回の法案が、かなり広範に、しかも各方面にまたがって、国際組織犯罪とは全く無関係な領域も含めて提案されているということに対して大変危惧を深めました。

 ありがとうございました。終わります。

塩崎委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人の方々には、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して、感謝申し上げたいと思います。

 次回は、来る二十八日金曜日午前十時二十分理事会、午前十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後三時二十一分散会


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