衆議院

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第15号 平成18年4月11日(火曜日)

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平成十八年四月十一日(火曜日)

    午前九時三十一分開議

 出席委員

   委員長 石原 伸晃君

   理事 倉田 雅年君 理事 棚橋 泰文君

   理事 西川 公也君 理事 早川 忠孝君

   理事 松島みどり君 理事 高山 智司君

   理事 平岡 秀夫君 理事 漆原 良夫君

      赤池 誠章君    稲田 朋美君

      太田 誠一君    鍵田忠兵衛君

      笹川  堯君    柴山 昌彦君

      下村 博文君    平沢 勝栄君

      三ッ林隆志君    森山 眞弓君

      矢野 隆司君    保岡 興治君

      柳澤 伯夫君    柳本 卓治君

      石関 貴史君    枝野 幸男君

      高井 美穂君    津村 啓介君

      細川 律夫君    伊藤  渉君

      保坂 展人君    今村 雅弘君

    …………………………………

   法務大臣政務官      三ッ林隆志君

   参考人

   (財団法人矯正協会附属中央研究所研究第一部長)

   (中央大学大学院法学研究科兼任講師)       鴨下 守孝君

   参考人

   (明治大学名誉教授)

   (弁護士)        菊田 幸一君

   参考人

   (慶應義塾大学大学院法務研究科兼法学部教授)

   (弁護士)        安冨  潔君

   参考人

   (弁護士)

   (日本弁護士連合会刑事拘禁制度改革実現本部本部長代行)          西嶋 勝彦君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月十一日

 辞任         補欠選任

  近江屋信広君     鍵田忠兵衛君

  河村たかし君     高井 美穂君

同日

 辞任         補欠選任

  鍵田忠兵衛君     近江屋信広君

  高井 美穂君     河村たかし君

    ―――――――――――――

四月十一日

 刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案(内閣提出第五一号)(参議院送付)

同日

 国籍選択制度の廃止に関する請願(近藤昭一君紹介)(第一三八九号)

 成人の重国籍容認に関する請願(近藤昭一君紹介)(第一三九〇号)

 借地借家法の改悪反対に関する請願(穀田恵二君紹介)(第一四四一号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第一四四二号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第八五号)


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     ――――◇―――――

石原委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、参考人として、財団法人矯正協会附属中央研究所研究第一部長・中央大学大学院法学研究科兼任講師鴨下守孝君、明治大学名誉教授・弁護士菊田幸一君、慶應義塾大学大学院法務研究科兼法学部教授・弁護士安冨潔君、弁護士・日本弁護士連合会刑事拘禁制度改革実現本部本部長代行西嶋勝彦君、以上四名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつを申し述べます。

 本日は、御多忙中にもかかわらず御出席を賜り、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきますよう、委員長からもお願い申し上げます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、鴨下参考人、菊田参考人、安冨参考人、西嶋参考人の順に、それぞれ十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て御発言いただきますようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願いたいと思います。

 それでは、まず鴨下参考人にお願いを申し上げます。どうぞよろしくお願いいたします。

鴨下参考人 おはようございます。

 私は、一昨年五月十四日の当委員会に、名古屋刑務所問題の参考人として出席した際、今日の行刑に発生している問題は、法制度が不備であること、全国的に高率収容が長く続いていて、職員の負担能力の限界を超えていることなどの要因が錯綜して発生しているとして、監獄法の全面改正を早期に実現し、職員の増員及び組織体制の抜本的な見直しを図る必要があるとの意見を述べました。

 また、昨年五月十日の参議院法務委員会において、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律案の参考人として意見を述べた際にも、未決拘禁者及び死刑確定者の処遇が改正されなければ行刑全体の抜本的な改革は実現できないとして、監獄法の早期全面改正の必要性を強調しました。

 私は、過去に監獄法改正作業に携わった経験から、代用監獄や弁護人の接見交通権の問題などがネックとなり、未決拘禁者の収容処遇に関する改正法案は当分の間まとまらないのではないかと思っていました。今回の改正法案の早期提出は、現状を変えなければならないという関係者の危機意識があったからであると思います。

 行刑は、社会の法秩序維持の最後のとりでと言われています。一日も早く法制度を新たにして、社会から信頼される行刑を築かなければなりません。今国会において、できる限り速やかに審議成立が図られることを期待しております。

 法案の主要な改正点である刑事施設に収容される未決拘禁者と死刑確定者の処遇について、若干の意見を述べます。

 まず、未決拘禁者の処遇ですが、法案第三十一条は、処遇の原則として、「未決の者としての地位を考慮し、その逃走及び罪証の隠滅の防止並びにその防御権の尊重に特に留意しなければならない。」と規定しております。

 このような規定は現行法にはなく、専ら解釈運用にゆだねられていたのですが、法律で明記されることにより、受刑者とはその収容目的や処遇上の配慮が異なることがはっきりとして、処遇に関する規定の解釈運用の指針となり、適正な収容処遇を行うことができるようになると評価しております。

 次に、具体的な問題を挙げて意見を述べますと、まず、弁護人等との面会については、第百十八条に、日及び時間帯、同時に面会することのできる人数並びに面会の場所について、管理運営上の制限に関する規定が設けられております。

 現行法にはこのような規定がなく、制限の是非をめぐりトラブルのもとになっておりました。この規定が置かれることにより、刑事施設側の対応が容易になると考えます。

 ただ、弁護人等との面会の重要性を考えますと、管理運営上の制限は画一的に運用されるべきではなく、同条第三項の規定に基づき、日時及び人数については、管理運営上支障がなければ柔軟に認めていくべきことはもとよりであります。

 次に、弁護人等以外の者との面会、いわゆる一般面会については、刑事訴訟法第八十条に、法令の範囲内で保障する旨規定されていますが、現行法には規定がなく、監獄法施行規則に、面会の時間、時限、場所、職員の立ち会い、外国語使用の制限などが規定されているだけで、面談の内容による一時停止や終了に関しては法令に規定がないため、トラブルとなることが少なくありませんでした。

 法案では、第百十六条に、面会の立ち会い及び立ち会いをさせない場合に関する規定、第百十七条に、罪証隠滅の結果を生ずるおそれがある場合の一時停止及び終了に関する規定を設けております。また、第百十八条第五項で第百十四条を準用して、面会の相手方の人数、場所、日及び時間帯、時間及び回数に関する必要な制限は法務省令に委任する旨規定するとともに、面会の回数制限は、一日につき一回を下回ってはならない旨規定しております。

 さらに、第百十六条第二項で、「自己に対する刑事施設の長の措置その他自己が受けた処遇」に関して、「調査を行う国又は地方公共団体の機関の職員」及び「弁護士法第三条第一項に規定する職務を遂行する弁護士」との面会は、規律秩序を害する結果または罪証隠滅の結果を生ずるおそれがあると認めるべき特別の事情がある場合を除き、職員に立ち会いをさせてはならない旨規定しております。

 これらの規定は、未決拘禁者の権利保護の面からばかりでなく、刑事施設側の判断をも容易にすることになるので、重要な改正点の一つであると思います。

 信書の発受については、現行法は、第四十六条第一項で「許ス」と規定し、第四十八条に公文書の披閲、第五十条に信書に関する制限の命令への委任を規定し、それを受けて監獄法施行規則に公文書以外の信書は検閲する旨の規定等の規定が置かれているだけで、信書の内容による制限については法令に規定がありません。このため、弁護人等と未決拘禁者の間で発受する信書の検閲の是非が問題とされたこともあります。

 法案では、第百三十五条第一項で発受信書は検査する旨規定し、その第二項で、「弁護人等から受ける信書」、「国又は地方公共団体の機関から受ける信書」及び「自己に対する刑事施設の長の措置その他自己が受けた処遇に関し弁護士法第三条第一項に規定する職務を遂行する弁護士から受ける信書」で規律秩序を害する結果及び罪証隠滅の結果を生ずるおそれがないものは、それに該当することを確認するために必要な限度の検査にとどめる旨の規定を設け、それ以外の信書については、第百三十六条で第百二十九条を準用して、内容による差しとめ、削除、抹消などの制限をすることができる旨規定していることも、未決拘禁者の権利保護の面で評価することができます。

 以上のように、未決拘禁者の処遇は、特に重要とされる外部交通権の面だけを見ても、法案は現行法よりも格段に改正されていると思います。

 次に、未決拘禁者の処遇を経験した立場から、法案には規定がない問題について意見を述べます。

 未決拘禁者の多くは、初めて拘禁施設に収容され、身体的行動の自由を奪われた状態で、刑事裁判の一方の当事者として、弁護人を頼りに防御権を行使し、訴訟手続を進めていく立場にあるので、ちょっとしたことがきっかけで心情が不安定になることがあります。心情が不安定であれば、自殺、自傷などの処遇上問題が発生するおそれもあるので、心情の安定が得られるよう処遇上の配慮をする必要があります。

 私は、大阪拘置所に勤務していたとき、初入者の入所時に、任意の方法でアンケート調査を実施し、心配なこと、不安に思っていること、施設に聞きたいことなどについて記入してもらい、処遇専門職員に面接指導させ、本人が希望すればカウンセリング等を行って心情の安定を図り、その結果を処遇の担当職員に引き継いで処遇上の参考にし、家族や弁護人の面会がないことに不安を感じている場合は、施設から電話で本人の心情を伝え、面会を求めるなどの配慮を行っていました。

 受刑者と異なり積極的な矯正処遇の対象にはなり得ませんが、未決拘禁者にも処遇があるというのが私の意見であり、本人が希望する場合には面接指導、相談助言等の措置をとることができるように、省令以下で配慮することも検討されてよいのではないかと考えます。

 次に、死刑確定者の処遇に関して意見を述べます。

 死刑確定者の処遇について、現行法は、第九条で、別段の規定あるものを除き刑事被告人の規定を準用する旨規定していますが、他に特別の規定が置かれていないこともあって、未決拘禁者の処遇に準ずるべきであるという意見が従来から強く主張されています。

 在監者に関する一般的な規定は死刑確定者にも適用され、その収容の性質に応じた取り扱いがなされることになっているのですが、それらの規定の解釈運用の指針となる明文の規定がないために、トラブル発生の原因となっていました。特に、面会、信書の発受、物品の差し入れなどの権利、自由を「心情の安定を害するおそれ」を理由に制限することの違法性が多くの訴訟事件で争われてきたことは周知のとおりであります。

 法案では、第三十二条第一項で、死刑確定者の処遇に当たっては、「心情の安定を得られるようにすることに留意するものとする。」という原則規定を置き、その第二項で、「必要に応じ、民間の篤志家の協力を求め、その心情の安定に資すると認められる助言、講話その他の措置を執るものとする。」旨規定しています。そして、死刑確定者の権利自由とされている自弁物品の使用、差し入れ物の取り扱い、保管私物または領置金品の交付、一人で行う宗教上の行為、自弁の書籍等の閲覧、面会の一時停止及び終了等、信書の内容による差しとめ等などの規定を見れば明らかなように、心情の安定を害するおそれを制限要件とはしておりません。

 心情の安定は死刑確定者自身の主観的な問題であるので、施設側がその心情の安定をおもんぱかって積極的に働きかけたり、権利自由を制限することはせず、その主体性を重んじることにしたものであり、現行と比べて極めて重要な改正であると評価しております。

 さらに、その他関連する問題について意見を述べたいと思います。

 ここ数年の行刑の現状を見ても、施設の運営管理面、被収容者の処遇面で大きな変革がありました。この法律の施行後もいろいろな面で変革を迫られることが予想されます。

 改正前の刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の附則第四十一条には、五年以内の見直し規定が置かれています。これからの行刑は、社会状況の変化に対応し、社会的要請にこたえる必要がありますので、柔軟な対応がとれるようにしていく必要があると考えます。

 また、高率収容の問題は、受刑者に注目が集まり、幾つかの刑務所の新設、増設が進められていますが、三多摩地区を含む東京、大阪、名古屋、川崎など、大都市に所在する拘置所の未決拘禁者の収容増にも着目する必要があります。

 拘置所は、裁判所や検察庁に近い都会地に位置しなければならず、その新設には地域社会の利害も絡んで大変な困難が伴うことは承知していますが、この法案の審議に際し、拘置所の新設の促進に関する決議をしてもらえれば行政への後押しになると思います。

 最後に、この法案が成立施行されれば、被収容者処遇及び施設管理は全面的に新法体制に入ることになりますが、実際に運用に当たる第一線の職員の組織体制が現状のまま変わらなければ、職員の負担は重くなるばかりで、抜本的な行刑改革はなし遂げられないと思います。

 平成十五年の矯正統計年報によれば、懲罰の対象となった規律違反行為が全国で約四万五千件ありました。そのうち、約八千件、全体の一八%が刑務作業の怠役、いわゆるサボタージュで最も多く、次に多かったのは、約三千六百件、これは全体の約八%で、職員に対する暴行傷害や抗命行為でした。

 この事実をもってしても、第一線の職員が大きな負担を負い、苦労していることが明らかであります。新法を円滑、適正に運用することができるような組織体制が一日も早く整備されることを希望して、私の意見を終わります。(拍手)

石原委員長 どうもありがとうございました。

 次に、菊田参考人にお願いいたします。

菊田参考人 明治大学の名誉教授でありますが、今は弁護士になって二年程度でございますけれども、実務の経験もしております。

 そういう関係で、行刑改革会議というのが発足いたしまして、いわゆる受刑者の処遇法案の原案の作成に参加することができました、メンバーの一人であります。その流れの中で、未決拘禁の有識者会議の委員ということで任命されたわけでありますけれども、私自身は大学で犯罪学というものを中心にやってまいりまして、広い意味の刑事法学でありますけれども、いわゆる代用監獄制度というのは刑事訴訟法のプロパーの問題でもあります。そういう意味では、この有識者会議のメンバーにはそういう専門家は一人もいなかったということが非常に残念であります。

 御存じのように、今までありました監獄法、明治以来百年になるわけでありますけれども、このときの起草者でありました小河滋次郎という監獄学者がおります。この方は、代用監獄は将来廃止すべきであるということを強力に主張していた人であります。百年過ぎた今日、代用監獄が今なお存続しようとしている、これは非常に残念なことであります。そういう流れの中で、日本では、代用監獄を廃止すべきだということが、日弁連を中心として、長い歴史の中の闘いになってきたわけであります。

 その間、戦後でありますけれども、特に国連の規約人権委員会、これは日本が批准しております。そして国内法としても有効なものであるということが確立しているわけであります。その国連規約人権委員会の勧告が、二度、三度にわたって、日本の代用監獄が国際法に違反するということを勧告してきております。

 そういう背景の中で、今までの経過の中で、今法務省の方がおられましたが、もともと、この監獄法改正は長い歴史がありますが、その最も具体的なのは、刑事施設法案というものができました。そのもとになったのが、法制審議会の刑事法部会の決議であります。その中では、当然、代用監獄は将来廃止すべきだということを明記しております。それに基づいていわゆる「監獄法改正の骨子となる要綱」というものができました。これは多くの研究者を中心として、長い時間をかけて作成されたものであります。それに基づいて刑事施設法案というのができたんだけれども、この骨子から法案に至る間に似ても似つかないものができたというのが、我々の共通の認識となったわけです。

 同時に、御存じのように、その時点で留置施設法案というものが警察庁から突如出てまいりました。そういうことで、拘禁二法案というものが出てまいりまして、さすがに、留置施設法案そのものの反対と同時に、刑事施設法案にも反対するということの大きな反対勢力がありまして、これは御存じのようにつぶれたわけであります。

 その後、単独に、この刑事施設法案は何回にもわたって廃案になったわけであります。そして、日弁連と警察庁と法務省が三者協議を重ねた結果、結論が出ないということで、有識者会議というものができました。この有識者会議は先ほど言ったような希薄な内容でございます。つまり、専門家は一人もいない。それにげたを預けたこと自体が、代用監獄ということを非常に専門家から外れさせてしまったという意味で問題があるというふうに私は思っております。

 その会議の中で、私は本当に一人だけだと思います。日弁連の代表者もおりましたが、要するに、代用監獄を、少なくとも現状の代用監獄を即刻廃止しろということを言うつもりはありません。私も単なる学者的な理論だけを主張するつもりはありません。理論としては、これは国際法違反である、そして国際司法に反するものであるということ、国際条約に反するとは思いながら、即刻あす廃止しろという即刻廃止論を言うつもりはありません。ただ、漸減方向、将来は漸減すべきだということについては強力に発言したわけであります。

 ここにも提言がありますが、提言の中で、当面はこの代用監獄を存続させるけれども近い将来廃止すべきだという文言を入れるように、私は強力に主張いたしました。けれども、最終的に後半の方において、全体のトーンとしては、将来的に廃止するんだ、こういうニュアンスを含めたものとして提言ができ上がりました。

 それには、警察庁の強力な代用監獄存続という態度と、法務省の、どちらかといいますと、私に言わせれば、拘禁二法案が廃案になった後でこの刑事施設法案だけを単独に立法化させようという法務省、これは非常に強力にその担当者が進めてまいりました。私もそういう意味で行刑改革の委員であったことを非常に誇りに思っておりますし、学者間でもほとんど批判がありません、刑事施設法案については。ということから、一方は、留置施設あるいは代用監獄については、警察庁の指導というか影響に非常に左右されてしまったというふうに思います。

 その中にも、いわゆる代用監獄にかわる拘置所といいますか、こういうものを法務省は増設すべきであったけれども、その経過の中において、ほとんどそのような予算的な努力をしておりません。一方、警察庁の方はどんどん新しい留置場を建設してまいりました。

 この審議の中で、東京都もこれから新しく東京都内に拘置所をつくろうというふうな、拘置所といいますか留置場の近代化したものをつくろうというふうになっているようですけれども、これは、本来国が拘置所としてつくるべきものを警察庁が先行してつくった、つくったものは国に譲れない、これは地方の予算でつくっているものだから今さら拘置所に移譲できない、こういうようなへ理屈を言っていますけれども、それは間違っている。私は、警察庁が拘置所たぐいのをつくることに予算を取ること自体が間違っている、間違ったものをつくってしまったから譲れない、こういうようなことでまかり通っているという行き方は非常に残念であります。

 いずれにしましても、有識者会議においては、この後から出た文書などを読みますと、当有識者会議としては代用監獄を存続させるというふうなトーンになっていますけれども、その当会というのは、当有識者会議としてはということなんですね。

 これは、当時の南座長は、私が強力に当面はということを入れろということは言えないという議論をした中で、私ども有識者会議のメンバーの多数は、こんな九人のメンバーでこの重大な歴史を持つ代用監獄を永久に置くというようなことは到底結論は出ないんだ、当会としては、当面これでやらざるを得ないという意味のニュアンスであるということを、これは議事録に出ております、そういう形でこの提言というのが出たわけです。

 出てきた結果の、今日の法案それ自体は、表面づらを見ますと、将来も廃止するという文言は一向に出てこない。あるいは、当会はというのはまるで永久に存続させたというようなことのニュアンスにとられていますが、それは間違っております。

 そういうことで、一方では、警察が留置場を持っていることで弁護人の便宜だとかあるいは遠距離の拘置所に行くことが事実上不可能だというような議論がありますが、それは末梢的な問題だ。国際法に違反している、違法の代用監獄を存続させる、そういう法律をつくること自体が日本も加盟している国連の人権規約に反するんだという、大きな柱を失ってしまって、そして、要するに私に言わせれば、母屋を人に譲り渡して軒先をきれいにした、近代化した、そういうことがあってはならぬ。

 今までの二、三日の間に法務委員会で議論されたこと、ちらちらと見る機会がありました。自民党、公明党の先生方も、弁護士出身の方でしょうが、とにかく代用監獄は絶対に将来もあってはならぬのだということを強力に主張されていますね。こういうような意見が有識者会議には出なかった。それは、有識者会議というその体質がそのとおりなんです。

 そういうことであって、私は、最後にかけるのはこの委員会で、あるいは今後の国会において、少なくとも、即時廃止しろとは言わない。けれども、修正すること、部分改正すること、そして附帯決議をつけること、あらゆる可能な限りのことをやって、この法案を、永久に存続させるような意味で置くようなものであってはならぬ、これはまさに、監獄法学者の小河滋次郎が言ったこと。

 あえて、言うなれば、私はその有識者会議のたった一人の基本路線を主張した男です。たまたまきょうはこういう機会を与えていただきました。これは私の人生における最後の発言する機会だと思っています、こういう重大な問題は。百年の先この問題が続くことになれば、私はその百年の後の方に、菊田という男がここでこういうことを話ししたんだということを記録にとどめてもらいたい、それぐらいの意気込みできょうはやってまいりましたので、ひとつ皆さん、有識者会議なんというのは無視するべきです。あれは無視、いや、無視するような形をしたんです。要するに……(発言する者あり)いやいや、表面づらだけを繕うことによって実質を引き取ろうという策略のもとにできたものです。そういうようなものは何の権限もない、私はそう思います。したがって、この先、歴史に残るという意味で、記録だけでも私はとどめていただきたいということを申し上げたい。

 個別的なことを申しますと、弁護士の面会、これについては、私は絶対に許せない面があります。

 それは、規律、秩序を害するようなことがあるときには、弁護士にも面会の立ち会いをする、あるいは面会を許可しないというような文言がありますが、弁護士を何と心得ているか。これは弁護士に対する最大の屈辱であります。そういうような侮辱的な表現が法案の中に盛り込まれることは絶対に許せない。

 弁護士は、被疑者、被告人とだれの立ち会いもなく面会し、そして信書をやりとりする、受刑者も、被疑者も弁護人に対しては何の検閲もなく交通権を与える、これは国際的な最低の条件です。今申し上げたように、これは国連の基準に照らしても、ミニマムスタンダードなんですよ。

 国連あるいは国際的な人権というものは、その国においてそれぞれの事情、背景があります。しかし、日本は日本的警察行政というふうな、そういう勝手な議論で正当化、居直ろうとしている。それは絶対にあってはならないんです。こういう国際化された中において、日本だけが日本的行刑とか日本的警察行政ということで突っ走ることは、まさに日本は人権において発展途上国だと言われていることを皆さん御存じですか。そういうような評価を受けること自体をこれから改めて国際的に示そうとしているわけですから、代用監獄は国際的に悪名をとどろかせています。そういうのを再認識するような法案ができることは、これは実に恥ずかしいことだと思いますね。

 そういう点で、重ねて申し上げますが、こういう法律について徹底的に再考を願いたいというふうに考えます。

 以上です。(拍手)

石原委員長 どうもありがとうございました。

 次に、安冨参考人にお願いいたします。

安冨参考人 慶応義塾大学の安冨でございます。

 まず、本未決拘禁者の処遇等に関します今回の立法の意義ということについて申し上げたいと思います。

 現在審議中の刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律案でございますが、これは昨年の五月に制定されました刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律に引き続きまして、法改正が見送られた未決拘禁者の処遇等について法整備を行うものでございまして、これにより監獄法の改正が果たされるということは画期的なことであるというふうに考えております。

 もっとも、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律では、刑事施設の基本及びその管理運営に関します事項並びに受刑者の処遇について法整備がなされたところでありますが、残されました未決拘禁者、死刑確定者等の処遇との間で法律上の格差を生じているということになっていることから、その格差を埋めるべく、早急に法整備を行うということが必要となっているわけであります。

 その意味で、未決拘禁者、死刑確定者等の処遇について法整備を行うこの法律案はぜひとも早期に成立させていただきたい、このように考えるところであります。

 次に、我が国におきます刑事司法における代用監獄、今代用刑事施設ということでありますが、この制度の意義について述べたいと思います。

 これまで監獄法の改正ということがしばしば議論されましたけれども、これが実現しなかった大きな理由というのはいわゆる代用監獄、すなわち代用刑事施設の問題にあったと思います。

 代用監獄は、御案内のとおり、監獄法の第一条第三項におきまして規定されているところでありますけれども、これが刑事施設ニ於ケル刑事被告人ノ収容等ニ関スル法律第二条におきまして代用刑事施設と改められたわけであります。この代用監獄、今は代用刑事施設は、これは被勾留者や受刑者を収容する警察の留置場ということでありますが、この代用刑事施設制度をめぐりましては、捜査機関である警察が被疑者の身柄を拘束あるいは収容することによって、自白の強要等の違法な捜査が行われやすく、ひいては冤罪の温床になっているんだ、こういう批判が加えられているところであります。

 言うまでもなく、憲法あるいは法に基づき公権力を行使する警察が違法、不当な捜査をするということがあってはならないのは当然のことでありますが、もし違法、不当な捜査が行われるというようなことがあるとすれば、それは、留置施設における処遇の問題というよりも、捜査活動そのものの適正さが問われるべきものであるというふうに考えます。

 この点につきましては、警察におきまして、昭和五十五年以降、いわゆる捜査と留置の分離を図り、捜査部門と留置部門を被疑者留置規則及び警察庁組織令において組織上及び運用上明確に分離をし、被勾留者の処遇の適正を図る上での制度的保障がなされているというふうに聞いておりますが、今回の法律案では、第十六条の第三項におきまして、法律上も捜査と留置の分離を定めて、適正な捜査活動に資するようにしているというふうに思われます。

 捜査と留置の分離、これは実務上徹底され、また定着しているものと思いますけれども、本法案におきまして、法律上の規範として規定されているということは重要な意義があるというように考えます。

 ところで、我が国の刑事訴訟法では、御案内のとおり、被疑者を逮捕したときから七十二時間、また、被疑者を勾留請求したときから十日間、やむを得ない事由があるという場合にはさらに十日間、すなわち、最大二十三日以内に公訴を提起しないときは被疑者を釈放しなければなりません。このことは、捜査機関にとりまして、期間の制約がある中で、検察官が公訴を提起するか否かを判断するために必要な証拠を収集しなければならないということを意味しております。

 殊に、第一次捜査権を有します警察が、逮捕された被疑者を検察官に身柄送致した後も被疑者を取り調べ、短期間のうちに周到で緻密な捜査を遂げて、検察官が証拠に裏づけられた起訴、不起訴を決定する、こういう我が国独自の刑事司法制度のもとでは、代用刑事施設というのが重要な機能を果たしていると言えます。

 一般に、被疑者は、犯行状況を最もよく知っているというように思われる者であります。物的な証拠や参考人の供述がある場合でも、被疑者のいわゆる秘密の暴露が犯罪行為と被疑者との結びつきを認定するのに決定的な証拠となるということも少なくありません。また、刑法を初めとした刑事実体法が主観的要素を要件としていることからも、被疑者の取り調べなくして真相解明ができない場合が多いと言えます。このような被疑者の取り調べを行うに当たっては、捜査機関と被疑者の身柄を拘束する場所とが比較的近接し、身柄を拘束する場所には取り調べ室等の施設が整備されている必要があります。こういう条件を満たす施設として、警察の留置施設、すなわち代用刑事施設があると考えます。

 この代用刑事施設は、我が国の刑事司法制度やその運用におきまして、警察の捜査を支える基盤として機能している、このように評価することができると思います。

 次に、我が国の法制上、被疑者の勾留場所として拘置所が原則であり、代用刑事施設は例外である、こうしたことをしていないという点について述べたいと思います。

 代用刑事施設につきましては、法律上、被疑者の勾留場所として拘置所が原則であり、代用刑事施設は例外にすぎないと言われることがあります。しかし、刑事訴訟法の解釈といたしまして、拘置所と代用刑事施設のいずれかを原則とし、いずれかを例外とするというふうにしているわけではありません。

 刑事訴訟法では、裁判官が被疑者を勾留する旨の裁判をするに当たって、勾留場所を指定して勾留状に記載しなければならないという規定になっております。この勾留場所の指定は、裁判官が当該事件に存する諸事情を総合して裁量により決める事項でありまして、法規上、この指定を直接拘束するような規定はありません。これまでの刑事司法の実務では、被疑者の勾留場所は、当該事件の捜査に当たっている警察署の留置場を指定し、捜査が終了して起訴されると、その事件の係属した裁判所に近い拘置所に被告人を移監するという運用であるということであります。統計を見ましても、勾留される全被疑者のうち、拘置所に入所した人員の割合というのは、昭和四十六年には一八・五%であった。これが平成十六年には一・七%になっているというふうに聞いておりますが、このことからしても、代用刑事施設を勾留場所とすることを例外とする判断を裁判官がしていないということがうかがえると思います。

 次に、代用刑事施設の漸減ということについて述べたいと思います。

 代用刑事施設を廃止すべきである、こういう立場から、昭和五十五年の法制審議会の答申の百十項の(二)におきまして、代用刑事施設の漸減を求めた漸減事項であるという意見があります。しかし、この百十項の(二)につきましては、そもそも代用刑事施設の漸減について立法することを求めたものではなく、改正法の実施に当たっての運用上の配慮事項とされているものであります。

 そして、この項目の趣旨につきましては、代用刑事施設はあくまでも例外であり、廃止に向けてできるだけ減らしていくべきであると解釈される立場があることは承知しておりますけれども、私はそのように考えません。先ほども述べましたが、刑事訴訟法では、被疑者の勾留場所として拘置所あるいは代用刑事施設のいずれかを原則とし、いずれかを例外とする、こういうことはしていないのでありまして、この点につきまして、改正法の実施に当たって配慮すべき事項により変更を加えようとするものではあり得ないからであります。

 私は、この趣旨につきまして、勾留場所は裁判官の適正な裁量により指定されるべきであるが、裁判官が勾留場所を刑事施設に指定しようとしても、最寄りの地に刑事施設が存在しないとか、刑事施設の収容能力が十分でないという理由から、留置施設を勾留場所として指定せざるを得ないというような例を徐々に少なくするように刑事施設の増設やあるいはその収容能力の増強を図る、このように要請したものというように理解しております。

 もし、代用刑事施設を漸減させるということを定めたり、あるいは具体的に求めたりすることになりますと、現に裁判官によって拘置所でなく代用刑事施設を勾留場所としているというこの現実の必要性を損なうことになるばかりか、迅速適正な捜査の遂行にとって大きな障害になると思います。また、近年の厳しい治安情勢を反映して、警察の留置施設の過剰収容状況が深刻化しておりますが、その厳しい財政状況の中で、現実の留置需要に応じた収容力を確保するために、都道府県において留置施設の整備などに大変苦労しているというように聞いております。こうした予算措置にも大きな支障が生じてしまうのではないかと懸念するところであります。さらに、留置業務に精励している第一線の警察官の士気をそいでしまうということになるのではないかという点も忘れてはならないように思われます。

 次に、今回の法律案におきます留置施設に関する改善点に関する評価を述べたいと思います。

 まず、この法律案の第二十条から第二十四条までに規定されております留置施設視察委員会であります。これは、警察本部ごとに、部外者である委員から成る留置施設視察委員会を設け、委員会が施設を視察し、その運営に関し留置業務管理者に対して意見を述べるというもので、留置施設の運営を外部の者が直接チェックすることができ、また、施設側に率直な意見を述べられる、こういう点で画期的なものであるというふうに考えます。

 これにより施設運営の透明化が図られ、被留置者の適正な処遇の大きな担保となるものというように評価することができます。

 また、法律案の第二百二十九条から二百三十五条までに規定されています不服申し立て制度でありますが、これも、昨年成立いたしました刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律におきましても、警察本部長に対する審査の申請や事実の申告等の制度が設けられていたところでありますが、今回の法律案では、刑事施設における不服申し立て制度との均衡を図り、警察本部長の裁決等に不服がある被留置者は都道府県公安委員会に不服申し立てを行うことができるようにするなど、制度の充実が図られております。

 こうした不服申し立て制度の整備は、被留置者の権利救済の観点から、大きく評価することができると考えております。

 以上、法律案につきまして意見を申し上げましたけれども、この法律案は、未決拘禁者の処遇等に関しまして今日の法制度として合理的であります。御審議の上、速やかに成立することを希望いたします。

 以上でございます。(拍手)

石原委員長 どうもありがとうございました。

 次に、西嶋参考人にお願いいたします。

西嶋参考人 御紹介いただきました西嶋でございます。

 未決拘禁法案が審議されるに当たりまして、代用監獄の廃止と未決拘禁制度の抜本的改革を長年訴えてきた者として意見を述べたいと思います。

 代用監獄の廃止は日弁連の創立以来の悲願であることについて、まず申し上げたいと思います。

 代用監獄制度が変則的であり、暫定的な制度であることは、百年前の立法者も明言しておりました。我が国における未決拘禁制度の最大の改革課題は、この代用監獄制度の廃止であり、それは日弁連の創立以来の悲願であります。日弁連は、二十四年前、不十分な刑事施設法案には抜本修正を求め、代用監獄を恒久化するものとして留置施設法案には廃案を主張しました。拘禁二法案反対に全国の弁護士会が立ち上がったのです。三度上程された二法案は、いずれも廃案となりました。

 今回の法整備に当たって、代用監獄が存続することについてであります。

 未決拘禁者の処遇等に関する有識者会議は、わずか二カ月、実質五回の審議で、代用監獄の存続を前提とする提言をまとめました。代用監獄の実態や諸外国にはない異例な制度であることの調査も検討もなく、制度上の山積する論点の解明もなく、また、法制審要綱が求めた漸減条項を顧みることもなく、現状を追認してその法制化を促したのです。この提言を受けた法案には、代用性はあるものの、もう一つの柱である暫定性は全く法案に反映されておりません。

 次に、代用監獄は廃止されるべきであることについて申し上げます。

 第一は、自白の強要、冤罪の温床であることについてです。

 一九八〇年の法制審漸減要綱に逆行して、被勾留者の留置場収容は九八%を超えております。この現状について法務、警察当局は、一九八〇年以降、捜査と留置業務の分離が図られてその弊害はないと言っております。しかしながら、捜査と留置の分離は、警察部内の担当分けにすぎません。一九八〇年以降、今日まで、引き続き代用監獄を舞台とした冤罪事件や人権侵害事例が後を絶っていないのです。

 例えば、死刑再審四事件が無罪となったほかに、昨年の九月二十一日に再審開始決定が出ました布川事件があります。この事件は、代用監獄で自白させられ、拘置所へ移された後、否認いたしました。そうすると、再び代用監獄に戻されて、自白を迫られたのです。

 三年前の四月の鹿児島県議会議員選挙の選挙違反事件においては、逮捕、勾留された十六名の被疑者が全員代用監獄に留置されました。ほとんどの者が、連日九時から夜間まで長時間の取り調べを受けました。取り調べは過酷をきわめました。起訴された十三名全員が公判で否認して、公訴事実を全面的に争っています。任意捜査の十数名に対するひどい取り調べも含めまして、鹿児島県弁護士会は、三回の臨時総会を開いてこれに抗議しました。

 このような取り調べと拘禁の不十分な分離の状態は確立された国際準則を満たさないものです。このことを二度にわたり国際人権規約委員会から指摘され、日本政府は、代用監獄の廃止を含む速やかな改善を果たす責任を負っているのです。

 次に、代用監獄の廃止は非現実的ではないということです。

 法務、警察当局は過剰拘禁の現状では、留置場収容の漸減は非現実的と言っております。しかし、過剰拘禁の解消は、未決にあっては勾留要件の厳格な適用や拘禁の代替手段の構想、起訴前を含む保釈制度の改革、受刑者にあっては仮釈放制度の弾力的運用などにより対処すべきであります。

 当面、拘置所増設の努力を怠ってきた国の怠慢を改めて、施設の増強を急ぐべきであります。他方、既に建設され、あるいは計画中の、専用のあるいは独立の警察留置場を法務省の所管に移したり、それを全留置場に及ぼしていくべきであります。留置係を法務省職員にするなどの措置を講ずることも考えてよいと思います。

 このように、代用監獄の将来的廃止、漸減は可能だと考えます。

 代用監獄の漸減についてであります。

 法案が、留置施設法案と異なり、費用償還法を存置し、代用監獄の収容費が法務省予算から支弁される制度を維持していることや、不十分ながら、法務大臣が公安委員会に意見を述べ、報告を受ける規定を設けたことなどは、是とすることができると思います。しかしながら、代用監獄の将来的廃止の方向も漸減すべきことも規定していないことには、強く反対せざるを得ません。

 そこで、日弁連は、さきの法制審要綱の漸減条項の趣旨が附則に規定されるよう法案の修正を求めております。少なくとも、このことを附帯決議で宣言してほしいのです。同様に、いびつな代用監獄の制度が日本的な刑事司法制度から派生していることに照らしますと、有識者会議が提言しておりますように、刑事司法制度の総合的改革の中で、改めて代用監獄制度の存廃について検討すべきであります。このことを国会の意思として附帯決議していただきたいと思います。

 このような修正ないしは附帯決議すら実現しないとすれば、私たちは、法案全体に反対せざるを得ません。拘禁二法案に反対してきた当然の帰結であり、全国の日弁連会員の総意と言えましょう。

 その他の法案の問題点について若干申し上げたいと思います。

 一番目に、無罪推定を受ける者としての地位の尊重であります。

 未決拘禁者が無罪の推定を受けること、その処遇も無罪の推定を受ける者にふさわしいものでなければならないことは、国際人権法が定めるところです。本来、未決拘禁者の処遇原則を定めた法案三十一条に、無罪推定を受ける者としての地位の尊重が明記されるべきだと考えます。

 二番目、警察留置場における反則行為に対する禁止措置と防声具の使用についてであります。

 法案が、警察留置場での反則行為に対する禁止措置を導入し、防声具の使用を容認しているのは、この無罪推定の原則からも許されないと考えます。そればかりか、この二つは取り調べに利用されることが大いに懸念されるのであります。いずれも、過剰収容の解消まで、あるいは保護室が整備されるまでの一時的措置であることが明らかにされるべきであります。

 三番目に、捜査と拘禁の分離の徹底についてであります。

 代用監獄の弊害除去の最小限の要求である捜査と拘禁の分離措置として法案が用意しているのは、留置担当官が被留置者の捜査に従事してはならないという第十六条三項の極めて不十分な規定だけであります。

 拘禁が捜査に利用されないことを保障するためには、第一に、捜査担当官が被留置者の留置業務に従事してはならないことを正面から定めるべきであります。第二に、留置担当官は、起居動作の日課時限を捜査担当者に遵守させるべく、取り調べの打ち切りなどを要求できる規定を置く必要があると考えます。

 四番目に、電話とファクスの導入についてであります。

 テレビ電話を含む電話とファクスは、現代において、当然利用されるべき交通手段だと考えます。被疑者段階の国選弁護が決まり、大量のかつ頻繁な接見需要の補助的手段として、それは必須です。

 問題は、受刑者については法制化されているのに、未決については運用で対処するとされていることです。法制化されなければ、当局の管理体制や予算上の制約を理由に、一部地域や制限的な運用にとどまることが懸念されます。制度として確立すること、全国的規模で実施すること、弁護人から未決拘禁者に対するだけでなく、双方向の通信を認めること、弁護人の事務所で発受信できる体制に移行すること、弁護人と未決拘禁者の間は秘密が保たれること、家族、知人との通信にも広める努力をすることなどが審議の中で約束される必要があると考えます。

 五番目に、弁護人の面会、通信の完全な保障についてであります。

 法案百十七条と二百十九条は、拘置所と留置場の面会に関しまして、弁護人の場合でも、規律及び秩序を害する行為があれば、それぞれ一時停止あるいは終了させることが可能な規定となっております。

 この規定は、常時監視を前提としており、憲法や刑事訴訟法で保障された弁護人の秘密交通権をあからさまに侵害するものです。絶対に削除される必要があると考えます。

 また、未決拘禁者から弁護人あての信書も検閲されてはならないところです。再審請求する死刑確定者と弁護人間の面会、信書についても、秘密が保障されるべきだと考えます。

 一言付言させていただきますと、先ほど意見が出ましたけれども、警察において、対立当事者の一方である被疑者に対して自由に取り調べができるか、これは一つの大きな問題でございまして、現行法では、正面から認めた規定はございません。それから、勾留場所が裁判官の自由な裁量で決められているか、これも必ずしも正確ではありません。これは、現実の問題としては、検察官が代用監獄に収容してくれという圧力をかけて、裁判官から勾留決定を引き出している現実を見失ってはならないと考えます。

 最後に申し上げます。

 拘禁施設の閉鎖性は、被拘禁者の人権と処遇、さらには人的、物的管理をめぐる諸問題発生の根源でした。今、ここに光明が差そうとしております。刑事施設視察委員会が既に動き始め、留置施設視察委員会が新たに設置されることになっております。

 次なる課題として、刑事司法の改革を進める際には、取り調べの可視化等を含む捜査のあり方に加え、代用監獄制度の廃止を含むそのあり方について、刑事手続全体との関連の中で検討することが求められていることは、有識者会議の提言によっても明らかであろうと思います。

 これまでるる要望しました法案の修正や附帯決議、とりわけ代用監獄の将来的廃止と漸減の方向に沿う対応がなされて、日弁連も支持できる法案が生まれることを願うとともに、新たな改革へのスタートが速やかに切られることを強く要望いたしまして、私の意見陳述とさせていただきます。

 ありがとうございました。(拍手)

石原委員長 どうもありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終了いたします。

    ―――――――――――――

石原委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。矢野隆司君。

矢野委員 自由民主党の矢野隆司でございます。

 本日は、鴨下参考人、菊田参考人、安冨参考人、そして西嶋参考人の各先生方には、大変御多用の中、当委員会に御出席をいただきましたこと、また、貴重な御意見を賜りましたこと、冒頭に御礼を申し上げます。

 今、参考人の皆さん方から、それぞれのお立場から、専門的な観点を交えてお話がございました。いささか私ごとには及びますが、かつて新聞記者をしておりましたとき、永年、警察担当の記者をしておりましたが、当時は警察庁広域指定の百十四号あるいは百十六号といった事件が私の担当所管でございまして、時代がそうであったのかもしれませんけれども、私自身、何度も留置場を見せてほしい、見学させてほしいというようなことをお願いしたことがございます。結局、なかなか見せてはいただけなかったんですけれども、私にとっても、大変関心、かつかかわりのある問題であるというふうに認識をして、きょうは質問をさせていただきたいと思います。

 さて、早速ですが、限られた時間ですので、幾つかの論点に絞って、個別具体的な法律の必要性あるいは有効性についてお尋ねをしたいと思います。

 まず、今回の改正法案百十七条及び第二百十九条から伺います。

 ここでは、弁護人の面会を一時停止できる旨の内容が盛り込まれております。この件につきましては、漸減条項とともに、当委員会でも何度もこの点が取り上げられ、またその議論の中で、秘密交通権を侵すのではないか、あるいは弁護士が規律や秩序を害するようなことを前提に考えていいのかといったような議論がございました。先ほど菊田参考人からは、弁護士に対する侮辱、屈辱であるというような御発言もございましたけれども、また西嶋参考人からは削除すべきである、こういった御意見もございました。

 そこで、刑事訴訟法の専門家として、安冨参考人、それから大阪拘置所所長という実務経験がおありの鴨下参考人に、この条文の必要性あるいは留意点といったものがあれば、まず最初に伺いたいと思います。

安冨参考人 お答えをいたします。

 百十七条等の規定でありますけれども、これは未決拘禁者と弁護人等との面会においての刑事施設の規律、秩序を害する行為が行われた場合に、刑事施設の職員が面会を一時停止等させることができる、こういうことでございます。

 ここで、委員御指摘の秘密交通権を侵害するのではないかという御懸念でありますけれども、そもそも未決拘禁者と弁護人との秘密交通権というのは、面会あるいはその会話の内容というのを第三者に知られることなく面会できる、こういうことを言うんだというふうに理解しております。その意味では、職員が未決拘禁者と弁護人等々が面会している面会室内の会話を耳をそばだてて聞く、こういうことがあってはならないのは当然のことでありますけれども、未決拘禁者と弁護人との面会において、刑事施設の規律あるいは秩序を害する行為が行われたという場合に、職員が面会を一時停止しても、それは秘密交通権を侵害したということにはならないというように考えます。

 例えば、フランスなんかでもそうですけれども、ガラス張りのそういう面会室のようなものがありまして、そこを職員が見ている、監視している、監視というよりは見ているというような例もありますし、そのことが秘密交通権の侵害であるというようにもその当該国においても考えられていないということを考えましても、今のような意味で秘密交通権の侵害に当たるというふうには考えません。

 以上でございます。

鴨下参考人 先ほどもお話ししましたように、幾つかの施設で未決拘禁者の処遇を経験しておりますが、具体的に規律、秩序を害する行為があった場合という例としては、未決拘禁者の側が弁護人面会中に大声を発して、ほかの部屋の人たちに迷惑をかける、あるいは仕切り板が真ん中にありますが、それをたたいて大声を上げるというようなことがあった場合、それを聞きつけた職員が駆けつけて面会室に入り、迷惑だからやめなさいという制止をし、それに従えばそのまま続けますが、従わない場合は面会室から一時連れ出して、落ちついたところでまた再開するということは時にありました。

 弁護人についてを申し上げますと、弁護人につきましては、私が勤務した施設での限りでは、弁護士会あるいは個々の弁護士の先生方とも非常に良好な信頼関係もできておりまして、そういう経験は私は具体的にはありません。

 ただ、これはもう随分前のことですが、仄聞したところでは、拘置所の面会室をごらんになるとおわかりかもしれませんが、通話孔という穴のあいているところから、弁護人がこよりをつくって未決拘禁者に不正にメモを渡そうとした事例があったとか、あるいは、携帯電話で、本来接見禁止中で外部の者との接見が禁止されているにもかかわらず通話をさせたりというようなことがあったということは聞いております。こういうことは通常の状態では考えられませんが、万一そのようなことがあった場合の規定ということで置かれたものと理解しています。

矢野委員 ありがとうございます。

 次に、新設、新たに設けられた条文でございますが、第三十一条についてお伺いしたいと思います。

 何名かの参考人の先生方からは御意見をちょうだいいたしましたが、未決拘禁者の処遇に当たって、未決の者としての地位を考慮し、その逃走及び罪証隠滅の防止並びに防御権の尊重に特に留意しなければならない、こういう条文でございますが、法曹界の中には、先ほどの御意見にもありましたように、未決であるゆえ無罪推定を受ける者にふさわしい処遇を規定すべきではないのか、こういった御意見があるというふうに聞いております。

 そこで、無罪推定とはいえ一般人と全く同じ扱いをしていいものかどうか、この点、先ほどの参考人の方々の中では、安冨参考人からはこの点について余りお触れがなかったので、安冨参考人からこの点についての意見を伺いたいと思います。

安冨参考人 お答えいたします。

 今御指摘になりました、いわゆる無罪推定の原則ということでありますが、これは、検察官が有罪とするための立証の責任を負う、こういう原則でありまして、これは刑事訴訟法におきまして、いわゆる証拠法上の原則だというふうに理解しております。その意味では、未決拘禁者の処遇に直接つながるものではないというふうに考えます。

 未決拘禁者につきまして有罪という前提での処遇は許されないということでありまして、これは第三十一条に規定されております「未決の者としての地位を考慮し、」という文言の中で尽くされているというように考えます。

 以上でございます。

矢野委員 それでは次に、裁判員制度をにらんだと申していいと思いますが、収容者の防御権を実質保障するために、夜間、休日の面会、あるいは、今回の改正案では、一方通行ながら弁護士側から電話による通信が可能になるなど、収容者の権利という面では大きな前進があったように思っております。

 先ほど安冨参考人が述べられましたけれども、留置施設視察委員会制度も今回立ち上げることになっておりますけれども、それらを評価するならばどういうふうに評価をされるか。また、有効に機能させるため、運用面でこの際何か御意見をいただけるのであれば簡潔にお願いをしたいと思いますが、これにつきましては、鴨下参考人、菊田参考人、西嶋参考人から御意見を聴取したいと思います。

鴨下参考人 お答えします。

 弁護人等との夜間、休日の面会につきましては、現在も運用上、事前に申し出があれば職員を配置して対応するということを大阪拘置所でもやっておりました。管理運営上支障がない場合を除いて、休日や夜間の面会は私は認めてよいのではないかと思います。

 ただ、現状を言いますと、職員に休暇も満足に与えられない厳しい配置状況でありますから、現在運用が行われているように、例えば、翌日の公判の打ち合わせのためにぜひとも必要であるとか、あるいは前日に申し出があるというようなことで、職員の配置が可能である場合に例外的に認められるべきではないかというふうに思います。

 休日や夜間の面会が常態的に行われるようになりますと、これは施設の管理運営面で多大な支障を生ずることになります。こういう問題は、私は実務的にはやってきたことですが、弁護士会との間でよく協議をして、いろいろな問題が生じないように、しかも、施設側の管理運営上の状況もよく理解していただいた上で実施されるのがしかるべきだろうと思います。

菊田参考人 現在でも、警察の留置場では、夜間も面会したり、場所によりますけれども、ほとんど時間の制限なく行われておりますし、そういうことが実務上非常に大事だというふうには思っております。

 それから、今、留置されている者が弁護人に連絡するのにも、電報ぐらいしか方法がないんですね。やはりこれは、今の時代、ファクスとかいろいろな電話もあることですから、そういう方向でやるということは、当然これくらいはやるべきことだというふうに思っております。

西嶋参考人 面会の点については省略いたしまして、視察委員会がどういうふうに機能すればよろしいか、その希望を若干申し上げたいと思います。

 刑事施設視察委員会、留置施設視察委員会、いずれにも共通することですけれども、やはり委員会が自主的に活動する機会というか場面をぜひ保障していただきたい。例えば、その意見を言う刑務所側とかあるいは留置施設側、こういうのが事務局を担って、そこで全部取りまとめて委員会の運営を仕切るというようなことになってしまいますと、これは本来の視察委員会が設置される目的に反しますので、委員会が自主的にどういう事務局を置き、どういうふうに活動するか、ぜひ、そういうことが自由に意見が述べられて、かつ、そのことを謙虚に施設側が受けとめて運営の改善に資するということがよろしいのではないかというふうに思っております。

矢野委員 先ほども数名の参考人の方から御意見がございましたが、いわゆる捜査と留置の分離について伺います。

 今回の法整備に当たっては、留置と捜査の分離を法律上明確にするものと理解をしております。自白の温床とも言われてきたさまざまな状況や環境の改善にも踏み込んで、法による根拠制定をしていることに加えて、必ずしも十分ではないという御意見はございますけれども、不服の申し立て制度につきましても、現行よりは改善された内容になっていると思います。

 反面、小規模警察署等におきましては、夜間などの当直体制での留置業務管理者が適正に確保できるのか、あるいは、共犯者が多数いる場合、複数の被疑者、勾留者をいわゆる分散留置する際に、その分散留置先で均一あるいは同一のいわゆる処遇が担保されるのかといったような指摘もあるようでございますが、法案における全体的な捜留分離につきまして、極めて厳格な運用が求められるのは当たり前かもしれませんが、今回の改正に当たりましての評価、やはり同じく、運用面で何か御提言、御意見があれば伺いたいと思います。

 これは安冨参考人、それから、先ほどお触れになりましたが、西嶋参考人からも改めて伺いたいと思います。

安冨参考人 捜留分離ということは、刑事司法制度を考えていく上で非常に重要な点であることは否定できないところでありますし、今回の法律でそれが法律として具体的に示されたということを高く評価するものであります。

 その上で、その法に従った形での運用ということは、それぞれの機関において厳格に対応していただくということを強く求めたいというふうに思います。

西嶋参考人 先ほども触れたことの繰り返しになるかもしれませんけれども、やはり捜査担当者が留置業務に従事してはならないということも反面からきちんと規定しておくべきですし、起居動作の日課時限が正確に守られるように、ふだんから留置担当官が取り調べ官に対して意見が言えるようにしておかなきゃいけないだろうというふうに思います。

矢野委員 それでは次に、質問をかえまして、死刑確定者の処遇についてお尋ねいたします。

 現在、七十九名の確定者がいるというふうに伺っておりますけれども、今回の改正法案第三十二条に、その者の心情の安定が得られるように留意するという条項が設けられております。また、第百二十条におきましては、新たに交友関係なるものの面会も可能になったとされておりますけれども、この心情の安定につきましては、先ほども鴨下参考人がおっしゃいましたが、個々の収容者によって、何をもって安定とみなすかという点でそれぞれ事情が異なると思うわけでございます。

 ともかく、今回の改正で条文に明示されるわけでございまして、今回の死刑確定者の処遇に関しまして、鴨下参考人、それから、改めて菊田参考人に御意見を伺いたいと思います。

鴨下参考人 先ほども少し申し上げたわけですが、実際に多数の死刑確定者を処遇した経験から言いますと、死刑確定者の場合は、これは刑事訴訟法上は想定はしていないと思うんですけれども、十年、十五年、二十年という期間、収容されているケースが非常に多いわけです。その間に親族との関係も途絶えて、全く外部との交通の相手がいないということもある人が少なくないことは事実であります。

 そういう意味で、私は個人としては、心情の安定が得られる、あるいは心情の安定に資すると認められる、そういう者については、私の個人の見解としては認めてもよいのではないかというふうに考えているわけですけれども、実は、この心情の安定が得られる、あるいは心情の安定に資すると認められるという判断が、施設側とそれから当該死刑確定者との間で非常に異なる場合があります。この場合をどうするのかというのが、この法律の規定をこれから解釈運用するときに一つの大きな問題にはなるのではないか。

 施設側というのは、えてして施設全体の運営管理という視点から個々の収容者の問題を見ていく、収容されている側はみずからの問題について考えるということで、かなりその視点がずれるということで、判断のずれが生じるということが、実務の経験からしますと往々にしてあるということは間違いありません。法律に今度は書かれたわけですから、その点の解釈運用が適正になされるようにしていく努力が必要だと思います。

菊田参考人 死刑囚の処遇について私は先ほど触れなかったんですが、この死刑囚処遇の法案については全然議論されていないですね。有識者会議のときでも、これは検察庁がかかわっているので、死刑囚は別の問題だからということで、完全に度外視されたわけですが、その中で私は、この問題については改めて時間をかけて議論すべきだということを確約させるような発言をしております。その後、弁護士会と法務省が一、二度議論されたようには聞いておりますが、その程度で今回の法案になったというふうに思われます。

 心情の安定ですが、そもそも心情の安定というのは主観的な問題でして、外部が、あなたは心情が安定するからこうする、ああするというような問題じゃないですよね。本人が、自分が心情の安定をするにはどういうことが望ましいかというときに、やはり今も、家族しか会わせていない、あるいは弁護士でも立ち会いがあるというような、いろいろな制限があります。いろいろな、これは可能な限り、基本的に未決として、人としての会うべき人を会わせるというのが基本であります。それを心情の安定という枠の中で制約するという方向自体が、私は非常に大きな問題だと思います。

 将来的には、やはり少なくとも既決の受刑者並みの面会、通信等々の枠を設定するというのが当然のあるべき姿だろうというふうに、その点では、今回の法案はまだ議論が尽くされていないし、問題点があろうというふうに思っております。

矢野委員 以上で私の持ち時間が参りましたので、質疑を終わりますが、イギリスの小説家で、国会議員も務めておりましたジェフリー・アーチャーの「獄中記」を読みますと、未決段階でも食事が選択できるとか、あるいは収容者側からの電話が認められておるなど、日本もこれから取り組まねばならないテーマが多数見受けられます。

 昨日、たまたま府中刑務所へ私、視察をさせていただきました。休みをとることもままならない職員の方々の体制を目の当たりにいたしまして、鴨下参考人が先ほど御指摘になったごとく、こういった体制も早く善処、改善すべきことだと痛感しております。

 本日は、改めて御出席の参考人各位に御礼を申し上げまして、私の質疑を終わります。ありがとうございました。

石原委員長 次に、高山智司君。

高山委員 民主党の高山智司でございます。

 きょうは、参考人の先生方、お忙しいところ、法務委員会参考人としてお越しいただきまして、ありがとうございます。

 まず、私の方から一つ、先ほど安冨先生の方からは伺いましたけれども、参考人の方それぞれに伺いたいのは、未決拘禁者の地位というんでしょうか、無罪推定がある、こういったことを踏まえて、今回この法案で未決拘禁者の地位というようなことの規定がありましたけれども、本来これはどういうふうに考えるべきだということと、今法案において未決の地位というのはこのように考えるということを、それぞれのお立場で御説明いただければと思います。

 それでは、鴨下先生からお願いします。

鴨下参考人 先ほど安冨参考人の方からも説明がありましたように、無罪の推定を受ける者にふさわしい処遇、この無罪の推定というのは一体どういうことなのかというのは、それだけでは何も具体的な内容はないわけです。

 確かに、証拠法上は有罪とみなされないということがございますけれども、それで、先ほどから何名かの方が申し上げておりましたが、国際的な条約だとか人権関係の決議だとかというものを見ても、訴追を受けた者は、自己の弁護に必要なすべての保障を与えられた公開の裁判において法律に従って有罪の立証があるまでは、無罪と推定される権利を有するということが世界人権宣言に書いてありまして、それを受けた形で、例えば人権B規約、あるいは最低基準規則にも規定があるわけですが、具体的な施設の中での処遇については、既決の者とは違う処遇をしなさいということが人権B規約に書いてあるだけでして、どのように具体的に違うのかということは、それぞれの国の立法にゆだねられているというふうに私は理解しております。

 具体的な問題でございますけれども、収容施設の分離、それから処遇も、積極的な矯正処遇の対象になり得ないということはもちろんですが、例えば、刑事訴訟の当事者としての活動が容易にできるように、外部交通の面でも受刑者よりも格段に保障的に配慮されている、あるいは施設の中での生活も、画一的なものではなくて、非常に自由な生活をさせるというようなことがこの法案にも随所に盛り込まれているわけでして、それが、未決拘禁者の処遇ということで立法される基本的な内容だろうというふうに理解しております。

菊田参考人 被疑者、被告人というのは、有罪が確定するまでは無罪が推定される、これは憲法三十一条の規定でありますし、自由権規約十四条にも、その原文で明記されております。

 第一に、無罪の原則というのは、未決拘禁を可能な限り回避するということが要請されているわけです。拘禁を可能な限り回避する。つまり、拘束しないというのが原則であって、拘束することそのものは例外でもあるというのが、未決拘禁者のいわゆる無罪推定の基本原則だろうということが第一点であります。

 それから、仮に拘禁された場合でも、これは被拘禁者の権利が最大限に保障されなきゃならない。これは市民的権利の達成という意味では、最小限守られなきゃならないということであります。証拠法上の問題にとどまらないということでありますから、そういう点では、明らかに、自由権規約も、未決拘禁者というのは有罪の判決を受けていない者としての地位にふさわしい別個の扱いを受けるというふうに規定しております。

 そういう意味で、無罪推定の原則の意義を正しく理解した上でこれを具体化していかなきゃならないという基本原則を私は認識してほしいというふうに思っております。

西嶋参考人 無罪推定の原則が証拠法上の原則にとどまるものではないことは、今、菊田参考人がおっしゃったとおりであります。国際準則から見ましても、それは処遇の面でも考慮されねばならないということが、例えば国連被拘禁者処遇最低基準規則の八十四条にも明記されておりまして、「無罪と推定され、かつ、それにふさわしく処遇されなければならない。」と言っておりますし、この分野の権威でありますアンドリュー・コイルさんの「国際準則からみた刑務所管理ハンドブック」の中にもこのことが明記されております。それから、現にイタリアの行刑法では、きちんと行刑法規の中に、無罪の推定を受ける者として未決拘禁者は処遇されなきゃならない、そのことを処遇の第一条の原則の中に明記しております。

 そういう意味で、我が拘禁法の中にも本来取り入れられるべきでありますし、これと矛盾する形になる、有罪を前提としたかのような懲罰とか、あるいは弁護人と被拘禁者の面会に停止とか終了が入るというのは、これはいかがなものかというふうに考えております。

高山委員 ありがとうございました。

 それでは、鴨下参考人に伺いたいんですけれども、先ほど意見陳述のお話の中で、いろいろ御経験の中で、未決の方に対してもさまざまな処遇をしてきた、いろいろ相談に乗ったりですとか、そういうようなお話があったんですけれども、そこをもう少し詳しく伺いたいということ。

 それと、鴨下先生は大阪拘置所での経験が中心だと思いますけれども、いわゆる代用監獄というんでしょうか、警察署での留置においてどういう処遇が今までなされてきたのか、この点についてどういうふうに今まで御経験されたか、その経験の部分をお話しください。

    〔委員長退席、早川委員長代理着席〕

鴨下参考人 先ほど意見の中で申し上げた未決拘禁者の処遇ということですが、これは、多くの人は初めて身柄を拘束される、しかも拘置所に収容されるということで非常にショックを受けて心情不安定になっている、あるいは、これから先どうなるのであろうかということの不安というものがあります。それは、通常の新入の調べの手続の中ではそういう心情を吐露する場面というのが余りないということがありまして、実は、実務の上で非常に深刻な問題は、入所当初に、心情が不安定で、自殺、自傷、既遂はありませんでしたけれども、それにたぐいする行為をする被収容者もないわけではありませんでした。

 ということで、職員の皆さんと検討した結果、率直に、自分はこういうことが不安なんだ、こういうことが心配なんだ、あるいはこういうことを聞きたいんだということをアンケートに記入してもらって、それに沿って、説明できるところは責任ある職員が説明する。場合によっては、かなり心情的に不安定だというふうにみなされる、認められる場合は、心理の専門家の職員もおりますので、本人に希望を聞いた上で、カウンセリング等をして落ちつかせるというようなことをやっていたわけです。

 これは別に法令に根拠がありません。ですから、本人の意思に反しない限りにおいて、任意にという条件でやらせていただきました。その結果ですが、一年後には相当そういう問題が解消されるような状況になったということがありました。

 もう一つの問題ですが、代用監獄の処遇の問題、これは、私は直接には何カ所かの警察の留置場を見ておりますが、もともと代用監獄というものがあるわけじゃないわけです。勾留場所として指定された場合にその留置施設が代用刑事施設になるということですから、その留置施設には逮捕留置者もおりますし、被疑勾留もおりますし、場合によっては被告勾留も入っているというような状況があって、分離という面からすると、拘置所のように確実な分離というのが果たしてできるのかなということを心配したような施設もありました。しかし、その後の警察の努力で非常に施設の改善がなされて、そういったことは解消しているということを聞いております。

 問題は、そこに収容されている被収容者の処遇、これが本来の、本来のという言い方は適切かどうかわかりませんが、拘置所に収容されている未決の人と、かなり現行では違っている面もあるやに聞いております。それは、取り調べというものと密接な関係もあるんでしょうが、たばこを吸わせたり、あるいはいろいろな特別な食事を用意したりというようなこともかつてあったということも聞いております。

 今回、これが一体の法律になったということは、私は予想はしていませんでした。警察、海保、刑事施設は別の法律で考えるものだと思っていましたが、今回は一体の法律で出てきて、しかもその中に被留置者もすべて処遇の規定が入っているということですから、これは、そういうかつてあったと聞いているような問題は恐らく解消されるのではないかというふうに理解しております。

高山委員 鴨下先生にもう一度、もう少し詳しくお願いしたいんですけれども、鴨下先生が今回、本来であれば未決の法案が、いわゆる、言葉は悪いですよ、代用刑事施設というんでしょうか、これは別法で出てくると考えていたと。これはなぜ別法で出てくると考えていらっしゃったのか。

 それと、今回のこの法案により、さまざまな問題は解決される方向だということを私も信じたいのですけれども、現段階において、先生がきちんとやられていた大阪拘置所、拘置所と比べて警察署の留置というのはどういうところで決定的な問題点があるのか。

 その二点について伺いたいと思います。

鴨下参考人 私は先ほどから大阪拘置所の例だけを申し上げております。そのほかにも名古屋拘置所の経験もございますが、施設の規模というのが収容者の処遇に大きな影響を与えていることは事実ではないかと思います。拘置所でも、大規模な拘置所と小規模な拘置支所では、例えば衣食住の予算の面でも随分と違いがありますので、小規模の施設ではかなり苦労されているということを、刑務所の所轄の拘置所の実情を見た限りでもそれは理解されるところだと思います。

 警察の留置施設そのものは、本来目的は被逮捕者の留置の施設あるいは酔っぱらい等の保護の施設として設置されているものですから、長期的な未決収容の施設としての設備、機能という面では、本来の拘置所とは若干異なる面がある。その部分があったがために、従来の法改正作業の中では、警察は警察の留置施設に関する法律案を、海上保安庁は海上保安庁の留置施設に関する法律案を、刑事施設は刑事施設のというふうに分かれて、しかし大多数は刑事施設法案の規定を準用するような立法がずっと国会に提出されてきた経緯がありました。

 今回、それが一つにまとめられたということは、今度の法律案は三省庁の所管、共管法律になるということになります。そういう意味では、処遇一つの問題につきましても、三省庁が共有の問題として協議するという機会がふえるのではないか。そういう意味で処遇の差がだんだんなくなっていくのではないかなということが期待されます。

高山委員 鴨下先生、ありがとうございます。その処遇の差がなくなるという意味では、いい方にどんどん収れんされていくといいとは思うんです。

 先ほどの鴨下参考人のお話にもありますように、どうなるかわからないので、カウンセリングを行ったりですとか、未決の方に対していろいろな配慮をされていたと思うんです。

 西嶋先生に伺いたいと思うんですけれども、これは弁護士会の方でまとめていただいた資料だと思うんですけれども、今まで、いわゆる代用監獄の弊害というようなことで、これを見ただけでも随分いろいろな事例があるんですね。それで、今の鴨下先生のお話にありましたように、刑務官の方であったり担当官の方が物すごい悪意でもってやっているということでもどうもないようなんですけれども、西嶋先生の方でまとめられたこの資料によれば、弊害も随分起きているようでございます。

 西嶋先生の方から、今までどういう弊害があったのか、またこれの根本的な原因は何であったのかということを御説明願いたいと思います。

    〔早川委員長代理退席、委員長着席〕

西嶋参考人 この一覧表は、皆さん、今お手元にございますでしょうか、日弁連の封筒の中に入っております参考資料ですけれども、暴行を受けた事例とか、それから面倒見が行われた事例とか、幾つかの分野に分けております。一番多いのは、長時間とか、それから心理的、精神的圧迫を受けた取り調べの例。

 これは確かに、現象的には取り調べ室で行われる場面で、留置場の房の中で行われるわけではないわけですけれども、取り調べ室と留置場の房が近接しているということで、まさに警察の庁舎の同じ屋根のもとで行われるということで、そういうことが保障される、つまり行われやすい。これに比べると、拘置所の場合には、全然取り調べの場所とは別になっておりますから、そういう可能性が極めて少ない、例外はございますけれども。

 そういう意味で、こういった場所的な可能性というのを保障するものとして私たちは代用監獄の弊害を主張しておりまして、これが切り離されるということになれば、弊害の大半は解消されるのではないかというふうに思っております。

 なお、取り調べに関連しない場面でも、例えば女性に対するわいせつ行為の問題とか、これはやはり警察留置場に特有の問題ではなかろうかというふうに思っております。

 そういう意味で、取り調べと密接に絡みますけれども、取り調べ以外にも人権侵害の例は代用監獄ではあるんだということの事例をまとめてみました。

高山委員 ありがとうございます。

 それでは、今回のこの法案の中で、弁護士の立ち会いを制限するというんでしょうか、そういった部分もあるようなんですけれども、そこの部分も踏まえて、いわゆる刑事施設のみならず、裁判制度、裁判員導入も含めて、刑事司法手続が今大きな変革期にあるという中だと思うんですけれども、こういった中で未決の拘禁者の扱いがどのように今後変わっていくのかということを、各参考人の先生方から御意見をちょうだいしたいと思います。

鴨下参考人 未決拘禁者の処遇も、私個人の見解では、これからの一つの行刑制度の改革の中で、まだ変わり得る余地はあるのではないかというふうに思います。ただ、先ほどからの繰り返しになりますけれども、未決拘禁者、あるいは受刑者もそうですが、被収容者の権利保護ばかりを強調されますと、それを運用するのは刑務官なわけですね。その刑務官の負担という面が非常に重くなる、これは事実であります。

 先ほど菊田参考人から、行刑改革会議も有識者会議もあんなものは無視するみたいな御発言がありましたが、正規のメンバーの方がそういうことをおっしゃられると、私たちは何を基準にして、何を根拠にしてこれからの改革をするかという問題にもなります。

 それを具体化する形での立法がされているんだというふうに受けとめて、少なくとも行刑の実務に携わっている者は今度の改革も真剣に受けとめて実現しようというふうに努力するはずでありまして、その過程で出てくるいろいろな問題にこれからどう取り組むのかということもあわせて、先ほどもちょっと申し上げましたが、附則の第四十一条にある見直し規定というものは極めて重要であろうというふうに私は考えています。

菊田参考人 先ほど私は、無視しろという言葉を確かに申し上げたけれども、提言の本当の意味が理解されていない、議論した中身が伝わっていない、正確なところを理解していただきたい、こういう意味で言ったわけで、言葉足らずであったことをおわびしますけれども、そういう意味であります。

 未決拘禁者、将来どう変わるかということですが、これは先ほどから申し上げているように、あくまでも無罪推定と証拠の隠滅を防ぐ、こういうことだけが未決拘禁の目的でありますから、要するに、保釈等々、あとう限り民間人と同じ扱いをするという方向ですべての考え方が進められていくべきであって、管理運営だとか処遇上の問題だとか、これは未決の無罪推定者なんですから、処遇という言葉自体がおこがましいというか、行き過ぎだと思いますね。

 そういう基本的理念を忘れないで、あくまでも、代用監獄について申し上げますと、これは裁判官という司法コントロールのもとに置かれている人物であり、無罪推定されている人間の立場だということを根幹として理解していただきたいというふうに思っております。

安冨参考人 お答えいたします。

 未決拘禁者の場合は、逮捕、勾留されているということで、裁判官が、犯罪の嫌疑があるという相当理由に基づいて身柄の拘束を許可している、あるいは命じているということでありますので、そういう立場において、罪証隠滅や逃亡のおそれを防止するということが行われる、そういう中での処遇といいましょうか、留置施設側からの処遇ということになっていくと思います。

 ただ、この法律は、未決、既決あるいは死刑確定者ということを総合的に全体としてとらえているというところで、その処遇面における余り大きな格差がないというか、格差がないような形で進んでいくということが、将来的な形ではないかというふうに考えております。

西嶋参考人 私は、二つの点に限って申し上げたいと思います。

 一つは、自己矛盾かもしれませんけれども、できるだけ拘禁を少なくしていくという方向で努力することが必要だろう、そのことが終局的には過剰拘禁等の解消等に役立つのではないか、それから同時に、無罪推定を受けるという法的地位を保障する形になるのではないかというふうに思います。

 もう一つは、よく言われることですけれども、無罪推定を受けている、あるいはまだ有罪の判決を受けていない、裁判中だというにもかかわらず、腰縄で、手錠をかけられて法廷に出てくる、この姿はいかにもおかしいんじゃないか。現に、いろいろと市民会議等で指摘を受けております。法廷での場面でも、一般市民と同じような形で法廷にあらわれませんと、裁判員には、何だ、この人はもう犯罪者かという誤解を招きかねないという意味でも、ぜひ服装等についての細かな配慮がやはり今後も必要ではないかというふうに思います。

高山委員 先生方、ありがとうございました。

 非常に多くの論点を皆様方から御説明いただきまして、なかなかこれは軽々には決められない法案だな、より一層の慎重審議が必要じゃないかなということを、きょう深くまた考えさせていただきました。本当にどうもありがとうございます。

石原委員長 次に、伊藤渉君。

伊藤(渉)委員 公明党の伊藤渉でございます。

 本日は、四人の先生方には、大変お忙しい中当委員会のためにお時間をちょうだいいたしまして、本当にありがとうございます。

 申すまでもなく、冤罪の温床と厳しい指摘もされているいわゆる代用監獄でございますけれども、今回の法改正は、代用監獄の法的根拠を明確にしたというふうに評価をされる一方で、代用監獄の廃止どころか、法的根拠を与えて固定化をしたとの批判もございます。ここまでの質疑でも、大臣から、理想としては廃止するのが望ましいとの答弁も出ております。しかし、現実問題として、弁護する側、また捜査する側、双方から見ても、便利な方がいいし、スムーズな業務遂行が可能になるというようなことも言われております。

 私、もともとエンジニアの出身でございまして、こういった問題には全く先入観なく、今回の委員会でのやりとりも聞かせていただいている中で、やはり大きな方向として廃止していく方向に持っていくことは、総論は皆様一緒なんだろうと思っております。

 鴨下先生と西嶋先生にお聞きをしますが、その意味で、この代用監獄制度を将来的に廃止していくために、具体的かつ現実的に、一歩前進の方策、こういったことについて何か御提案、御教示いただければと思います。

鴨下参考人 ただいまの御質問ですが、先ほども少し申し上げているところですけれども、私は、法制審議会における小委員会、部会、総会、これは西嶋参考人も同様だと思いますが、事務局員としてずっと出席させていただきました。

 その審議の経緯を見ますと、先ほどからいろいろ御意見も出ていましたが、当面、この漸減条項の趣旨というのは、本来裁判官が勾留場所として拘置所を指定したいにもかかわらず、収容能力がなくて、やむを得ず警察の留置場を代用として指定するというケースも少なくないという現実があるわけです。

 実は、私が大阪拘置所にいるときも、管内の警察署からやんややんやの催促で、移送したい、移監したいという打診があっても、未決拘禁者はもう既に満杯でありまして、出ていった後、順次リストをつくって拘置所に受け入れているというのが実情でありました。そのために、大阪府警管内の警察の留置場もいつも満杯ということで、非常に犯罪が多い大阪の場合は困っていたわけであります。

 そういうようなことで、先ほど意見の中でも申し上げましたが、代用監獄を廃止するというのを将来方向として出した方がいいというのであれば、拘置所をいかに増設するか、新設するかという面がないと意味がないわけです。それは皆さんおわかりの上で発言されていると思うんですが、現在ある刑務所の拘置区あるいは拘置所、拘置支所を合わせても百八十に満たない未決の収容施設で、例えば簡易裁判所単位、区検察庁単位に拘置所を設けるということになると、物すごい量の施設が必要になるわけです。

 先ほど少し申し上げましたが、例えば三多摩地区、あるいは東京二十三区内でもそうですけれども、もう既に東京拘置所が満杯である場合どこに収容するか、八王子の拘置支所もいっぱいであるというようなことで、やむを得ず警察の留置場に収容しているというケースも少なくないと聞いております。

 そういうようなことが少なくとも早く解消されるように、行政当局にも希望いたしますし、そういう国政の面で、国会の方々にも推進方、後押しをお願いしたいというふうに思っています。

西嶋参考人 代用監獄の将来的廃止に現実的に一歩一歩近づける方法ですけれども、一つは、今、鴨下参考人がおっしゃったように、拘置所に収容するケースをふやしていって、最終的には代用監獄に収容される例がなくなる、ゼロに近づくということじゃないか、そういう意味では拘置所の増設は必須の問題だろうと思います。

 都市部、例えば裁判所の横につくるということもぜひ必要なことで、用地の問題、いろいろあるかもしれません、あるいは住民の説得等あろうかと思いますけれども、ぜひこれは考えていかなきゃいかぬ。

 私どもは、二十年近く前に、簡裁の統廃合の問題があって、多くの簡裁が中心の簡易裁判所に統合されるという例がありました。こういう機会こそ、ぜひ簡易裁判所の跡地に拘置所をつくるべきではないかということを弁護士会は進言いたしましたけれども、一顧だにされませんでした。それから、東京の霞が関に小菅の支所をつくるべきだという意見も申し上げましたけれども、いかがなものかということで、全然相手にされませんでした。

 たまたま、例えば八王子の例で申し上げますと、八王子の裁判所が立川に移るということになっております。三多摩における警察留置場の収容定員に近いような施設を、立川に十分収容能力がある施設をつくる好機だと思います。ぜひ、こういう好機を一つ一つ逃さずに着実にやっていけば、代用監獄の廃止に少しずつ近づいていくのではないかということが言えると思います。

 それから、先ほど申し上げましたように、現在ある留置場を法務省の所管にするということも、これは真剣に自治体と国との予算のやりとりの関係を考えていけば、たくさんの皆さんの知恵を集めれば、できないことではないだろうというふうに思っております。

伊藤(渉)委員 今、西嶋先生からもおっしゃっていただいた内容ですけれども、その有識者会議の中で、現在進められている大規模独立留置場は、独立した拘禁施設そのものであって、本来法務省が管理すべき未決拘禁施設にふさわしいので、これらの大規模独立留置場からまず法務省所管に移して代用刑事施設の漸減を実現していくべきであるという意見があったが、その一方で、単なる所管がえではなくて、治安に関する地方公共団体と国の役割分担や責任の所在にかかわる重大な問題であると、常に意見が両方の方向で出てくるんです。

 これは鴨下先生と菊田先生にお聞きしますが、まずは施設の所管がえというところからでも代用刑事施設の漸減を実現していくべきかどうかについて、御見解をお伺いしたいと思います。

鴨下参考人 先ほど参考人のお話の中にもありましたが、明治二十年代に近代行刑のもとになる監獄法、監獄則というのができた当時は、警察の留置場も監獄の一種になっていたんです。これは規定を見ればはっきりしております。ところが、明治三十八年に本来の監獄が内務省から司法省に所管がえになった時点で、要するに所管庁が違ってしまったという経緯があります。ということで、明治四十一年に現行監獄法ができたときには、警察の留置場を使うときは代用するという規定が一条の第三項に置かれた、そういう経緯があるわけです。

 簡単に、所管をかえればいいじゃないか、あるいは何とかなるんじゃないかというふうにおっしゃいますが、現在の行政の状況からしますと、例えば裁判所の予算、敷地、土地の管理もすべて裁判所が独立してやっている、そこに法務省の施設を建てるということは非常に難しい問題がある。

 そして、例えば、警察の留置場に勤務する留置係職員は法務省の職員にするということで指揮監督権が及ぶんじゃないかという御意見も従来から何遍も繰り返し出ている問題ですけれども、それも、先ほど申し上げた所管がかわったという経緯からすると、間接的に意見を述べたり監督したりというようなことはできるにしても、直接法務省の所管にするということは、現在の行政の状況からすると非常に難しい問題があるということで今日まで来ているということを申し上げたいと思います。

菊田参考人 そもそも、前回もお話ししましたように、留置場そのものが地方財政のもとにできているという発想があって、それで、警察庁は予算取りが利口なのか、とにかく、私の表現で言えば、警察権力というものが予算取りに非常に有効に働いていると思います。そういう点では、法務省というのは、どういうわけか、予算取りが下手だといいますか、拘置所をこの間どんどんふやすべきだったけれども、警察庁に押されてふやしていないんです。

 そういう結果が今日に至っているわけで、そういうことはともかくとしても、今ある留置場を法務省管轄にしろということについて、これは地方財政だ、国の財政だととやかく言っているけれども、そもそも犯罪者というのは国の司法管理のもとにあるべきものであって、地方行政にあるものじゃないですよね。

 そういう基本的なことから考えて、先ほど西嶋委員がおっしゃったように、工夫すべきことは幾らでも可能だし、理屈じゃない、可能なことを実現するという方向で、私は実務的に解決していただきたいというふうに思っております。

伊藤(渉)委員 ちょっと話題を変えますが、次は菊田先生と安冨先生にお聞きをします。

 先ほども出ましたけれども、拘置施設に収容が可能な状態でも、裁判官の方が留置施設への留置を選択することがあるとこの質問の準備をしている間で聞いたんですが、有識者会議の議論の中でも、被疑者の拘置場所は裁判官が勾留の裁判において決定していることを前提に、被疑者の拘置所への直入人員は、昭和三十三年には七万人を超えていた、その後一貫して減少して、近時では三千人程度になっている。また、勾留されている全被疑者のうち、拘置所に勾留されている被疑者の割合は、昭和四十六年には一八・五%が、同様にほぼ一貫して減少し続けて、平成十六年には一・七%になっている。

 先ほど、西嶋先生からも、背景に警察の圧力があるなどという不穏なコメントがありましたけれども、裁判官の判断もあって、事実上、代用監獄に被疑者を入れる流れがある、これは事実だと思うんですが、このことについて、未決拘禁者の人権への配慮と司法の判断についてどう理解すればいいのか。これは菊田先生と安冨先生にお聞きしたいと思います。

菊田参考人 先ほど西嶋さんがおっしゃったように、それは検察官の要請に基づいて代用監獄を指定しているということであって、裁判官のフリーハンドによるものではないという背景はあるというふうに思います。ただ、現実問題として、拘置所というところが過剰拘禁であるということからきているだけであって、裁判官のあくまでも自由な発想から生まれてきているものではない。それを根拠にすることは裁判官も理解できないんだろうというふうに私は思います。

 ともあれ、司法コントロール下にあるという意味からいけば、やむを得ず置いているということが基本的な考えであろうと思っております。

安冨参考人 お答えいたします。

 刑事訴訟法の解釈運用という観点で申し上げたいと思いますけれども、先ほども意見の中で申し上げさせていただきましたが、刑事訴訟法の規定の中では、どこに勾留するかということは、あくまでこれは裁判官の健全な裁量のもとで判断されているということでありますので、その意味で、裁判官が、どこに勾留するかを決めるということについてのさまざまな事情を総合的に御勘案になって決めていらっしゃるということであるというふうに考えております。

伊藤(渉)委員 もう一度菊田先生にお伺いしますが、裁判官がフリーハンドの判断で決めているんじゃないとおっしゃるに当たる何か客観的な事実というか、そうおっしゃる理由をお聞かせいただければと思います。

菊田参考人 いや、私は別に裁判官の実務的なことを知っているわけではありませんけれども、物理的にとにかく拘置所というところを、これはもう超過剰拘禁であることは間違いないわけですよね。そういう物理的なところから、やむを得ずそういう指定をしているんじゃないかということを申し上げているわけです。

伊藤(渉)委員 また話を変えて、次は鴨下先生と西嶋先生にお伺いしますが、冤罪の温床という批判に対して、昭和五十五年に警察庁内部で規則をつくって、捜査と留置を分離してきたと聞いています。

 今回の法整備の改善点として、留置担当官は犯罪の捜査に従事してはならない旨を法律上明記した。また、警察本部に留置施設視察委員会を設置した。そして、被留置者の処遇とか不服申し立て手続も、刑事施設における被収容者とほぼ同様の規定を設けて、処遇の均衡を確保した等々言われております。

 その一方で、それぞれの部門の責任者が同じ警察署長である。つまり、留置部門を分離したといっても、責任者が同一ではいかがなものかというような見方もございます。この点についての評価と見解をお伺いしたいと思います。

鴨下参考人 私もすべての警察の留置場を知っているわけではありませんが、幾つかの留置場を前に見学したことがあります。その当時、ちょうど、先ほど安冨参考人からお話がありましたように、警察内部で、留置管理は総務部、そして捜査は刑事部というふうに分かれて運用するようになった。その実情も見てみました。

 確かに、外観的に見ると、同じ警察の中でやっているんだから、従来からあったいろいろな、西嶋参考人御指摘のような弊害はぬぐい去れないんじゃないかという意見もあるのももっともなことだと思います。ただし、警察は相当の努力をしているということは、私はうかがうことができました。

 まして、今回は法律ではっきりとそれを分けるということが出ている限りは、これは、例えば同じ刑事施設の中でも受刑区と未決の収容区を分けて、処遇に当たる職員は、刑務官は同じであっても処遇は違うということは、法律に基づいてきちっと区別して処遇するということになるのであれば、警察の場合もその辺は法律的な担保がされるのではないかなというふうに思います。

西嶋参考人 現実的な問題だけを申し上げますと、日課時限、つまり食事を何時にして、睡眠を何時にして、それで朝何時に起こす、この日課時限が決められておるわけですけれども、これを必ずしも捜査官は守りません。その場合に、留置担当の係は、例えば食事の時間になったから取り調べ室から戻してくれ、それから、もう九時で就寝時間だ、取り調べを終わってくれ、これは言えないんですね。せいぜい内部通達で説明されているのは、取り調べの中止を検討することを要請するという、何かこわごわと留置担当官が取り調べ官に意見具申する程度のことしかできない。これでは全然分離の実態はないだろうというふうに思います。

 それから、具体的に、ある被疑者は、取り調べにもうきついから行きたくない、房から出たくないと言っている場合に、そのことを尊重して、じゃ、おまえ、取り調べ室に行かなくていいよ、おれが説明してやるから、そういう趣旨のことは一切ない。強引なときには、留置場から引っ張り出して、それで捜査官に身柄を渡す、こういうことも起こり得るということで、やはり留置と捜査の分離は、どうしてもこれは徹底しづらいんじゃないか、同じ警察の中では無理なんじゃないかということを懸念しているわけであります。

伊藤(渉)委員 最後に、もう一度鴨下先生と西嶋先生に、全く違うことをお聞きします。

 これは新聞で読んだんですけれども、裁判員制度導入に向けて、供述調書の信憑性をめぐる争いを減らしたい。容疑者と弁護人が頻繁に連絡をとっていれば、裁判で自白を強要されたとして、調書の任意性、信用性を否定することは難しくなるだろうと。

 そもそも、外部交通の整備、電話接見というものですが、自白の強要が減るという考えについての御見解とあわせて、今漆原先生もずっと委員会でも言っている可視化というものでこういった自白の強要というのも減らせていける方向に向かうのかどうか、この点について御見解を伺いたいと思います。

鴨下参考人 ただいま委員の御質問にあります電話による通信というのは、これまでない、なかったことでありますから、今後の法律のあるいは運用上の問題としてどうかということでお答えしたいと思います。

 現実の問題として、これは私たちが見ている資料によりますと、特定の施設と検察庁を結んで試行的にまずやってみるというようなことが資料に出ておりました。

 私は、大阪におりましたころ、大阪弁護士会の先生方と勉強会をやっておりましたが、将来的には、三十年後になるかどうかわからないけれども、刑事訴訟法三十九条の解釈で可能になるならば、例えばテレビ電話を利用して、そういう通信、交通が弁護士と未決の間にできるようになることが望ましいと私は思う。ただし、それには弁護士の先生方の信頼関係が崩れるようなことが今あってはならないということで、御協力をお願いしますということを申し上げて、勉強を続けてきた経緯があります。

 そういうことを考えますと、今回の試行は検察庁に御協力をいただくというようなことが資料に書いてありますが、それをいただきながら、要するに実施の時間とかあるいは時限とか、そういった問題も含めて、どのような問題が生じるのかということをよく見きわめた上で、将来的には広げていくということになるのではないかというふうに思っています。

西嶋参考人 弁護士が切実な問題として電話接見を希望しているのは、むしろ警察留置場の問題で、拘置所の場合よりもその比重は高いと思っております。しかし、これはあくまでも補助的な手段でありまして、やはり直接面会して、例えば否認事件の場合などは、面会して事件についての打ち合わせをするということがなければ、電話で済ますというような問題ではないだろうというふうに思っております。かえって、むしろ面接の必要性が、電話でぜひ来てくれとかいうことでふえるのではないか。

 それから、可視化の問題ですけれども、私どもは、弁護人接見が自由に頻繁に行われることと可視化が進むということは車の両輪だろうというふうに思っております。両方が相まって自白の強要とか不任意な自白を除いていくということで、裁判員裁判の迅速な審理に資するのではないかというふうに思っております。

伊藤(渉)委員 ありがとうございました。

 以上で質問を終わります。

石原委員長 次に、保坂展人君。

保坂(展)委員 社民党の保坂展人です。

 菊田参考人にまず伺いたいんですが、先日、四月五日、当委員会におきまして、この法案の審議の冒頭に、今回は未決をやるわけですけれども、既決の受刑者処遇はどうなっているだろうかという中で、昨年七月三日に宮城刑務所で受刑者の方がみずから亡くなったとされている問題について、菊田先生が宮城刑務所の方に行かれて、近隣の房にいた受刑者の方と面会をされて、亡くなる前に助けてくれという声も聞かれていたとか、あるいはその亡くなり方、口にちり紙を詰めて絶命、これはちょっと不審ではないかというような御指摘をされていることを紹介しました。

 その結果、矯正局長は、巡閲官情願などにおいてこういった暴行などの申し立てがあったということは認めたんですが、職員による暴行の事実はなく、不当な処遇が行われているという報告もないというようなことで、法務大臣の方も、受刑者の処遇を不必要あるいは不合理に厳しくしたことはない、こういうことなんですが、このあたり、どういうふうなことを確認されたのか、簡潔にお願いします。

菊田参考人 自殺の件については、周りの複数の人間が証人として、受刑者ですが、助けてくれとか、それから、前日その本人と会っていて、それは土曜日だったんですが、月曜日には仕事があるんだけれども、お互いに月曜日には頑張って仕事しようね、こういうような会話も交わして仲よく別れたというような人物であるわけです。

 その助けてくれという言葉を聞いた男も、ちり紙でのどを詰めたというようなことを聞いたものだから、自分でも実験してみた、とてもじゃないけれどもそんなことで自殺できるはずがない。あるいは、もっと細かく言いますと、ふだんなら、朝起きて布団をかぶっていれば係官が起こすわけですけれども、朝飯もドアの入り口から入れたままでほったらかして、昼までほっとけという形で放置されて、昼、亡くなったというようなことがあったので、非常に、すべてにおいて不自然であったということがありました。今、そういうことで、事実については、これからの問題として可能な限り証拠を集めるという方向で作業をしております。

 宮城刑務所の問題そのものは、私、個人的にそういった行刑改革会議に関与し、そして新しい法律ができたという意味で、この法律が本当にこれから有効に受刑者の基本法として働くことが可能なのかどうかということの一つの大きな、宮城刑務所の事件が試金石だというふうに思っております。この事件だけじゃないです。暴行を受けた、そしていろいろな傷害を受けた、これが物すごい数出てきているんです。それをすべて扱うわけにはいきませんので、そのうちの特にひどいのを告発するという形でやっております。

 これは、そのこと自体が全国の刑務所の受刑者に伝えられまして、あちこちからいろいろな形で、一番問題なのはやはり医療の問題ですが、それを中心として、とんでもない状況が行われているという報告がいっぱい来ております。これらを一つ一つ、証拠に基づいて、私は法務省当局にも報告し、恐らく幹部の方もこういう現状を知らないんじゃないかと思うんですね。監督機関である矯正管区というのがありますが、そのレベルで抑え込んでいるというのが実態だというふうに思います。

 そういうことで、私は、きのうも前橋刑務所へ行ってまいりましたが、今、現場の受刑者と直に連日会っておりますので、その実態を証拠をもとにどんどん矯正当局に提出して、そしてこの法案が本当に実のあるものになるように監視し、ウオッチングをしていきたいというふうに思っております。

保坂(展)委員 行刑改革会議の委員として立法過程に参加される前段で名古屋刑務所事件、そしてこの衆議院の法務委員会においても毎週この行刑施設問題の集中審議をやるということの中で行われた改革がまだ道半ばである、そしてまた、本来あってはならないことが起きている可能性があるということで、法務省の方にも現在調査を求めているところでございます。

 次に、鴨下参考人に伺っていきたいと思います。

 鴨下参考人の書かれた「矯正講座二十六号(二〇〇五)」「行刑法改正の経緯と問題点(その一)」という文書がございます。この中に、これは平成二年に廃案になった刑事施設法案について、「代用監獄についても、法律の一部である附則で漸減することを明記しており、現状の恒久化にはならないはずである。」こう書かれているわけなんですけれども、そういった明文化された附則があるのに実らなかったことで、その後いろいろなよくない事態が生まれたという趣旨で紹介されていると思うんですが、この辺はどういう事実だったのかということをお答えいただきたいと思います。

鴨下参考人 今御紹介されたものは、前に廃案になった法案の件と理解していますが、その当時の修正の附則にそういうものが、漸減条項が規定されようとしていた。しかし、先ほどから何人かの方も申しておりましたけれども、この漸減条項の趣旨が、要するに、将来の廃止の方向なのか、あるいはそうではないのかということも、法制審議会のこれまでの経緯を私なりに理解しているところでは、とにかく拘置所に収容しなければいけない者を留置場に収容するということを少なくしていこうという趣旨がまずあって、それを限りなく進めていけば将来的にはどうなるかというような趣旨でその条項が設けられたというふうに理解しております。

 そこには同床異夢みたいなところもありますし、現実的に考えればどうかという問題もありますが、少なくとも附則というのは法律の条文の一つであったわけで、それが前の廃案法案には明記されていた。にもかかわらず、反対意見が多くて日の目を見なかったということが実はあるわけです。

 今回の法案は、少なくとも、状況が変わっているということもあるんでしょうが、そういう附則の規定もないというところで、ただ、従来は法律が別々にあったものを一体化したということで、適正を期するということで、その問題についてはまだ触れていないのかなと、私は私なりにそう考えております。

 だから、将来的にどうなるかという問題がありますが、先ほど意見の中で申し上げたように、まず拘置所をいかにふやすかということについて、法務当局は予算のとり方が下手だと先ほどどなたかがおっしゃいましたが、法務当局だけの問題ではありませんので、その辺についての御支援、後押しが必要ではないかということを申し上げました。

保坂(展)委員 今少しお触れになったことなんですけれども、廃案になった刑事施設法案の附則の中に漸減条項というものがあったのに、反対で流れてしまった。今回のものにはないわけですね。鴨下参考人御自身の御意見であれば、今回、附則にしっかり書くべきではないか、私はそういうふうにお考えなのかなと思うんですが、いかがですか。

鴨下参考人 立法というのはそれぞれの時点における状況によって変わるものだというふうに、私の長い経験でも感じています。

 従来の附則に盛り込んだ廃案法案、その附則に盛り込むということについてどれだけ私たちが苦労したかということは御理解いただけるんじゃないか。それには、日弁連側も説得しましたし、警察庁側も説得して、とにかくこれでいこうということになったのが、反対もあり、また国会のいろいろな情勢もあって、廃案になってしまった。

 今回どうなのかということについては、必ずしも私個人の意見を申し上げるには、もう既に法案が出ていますので、ちょっとその立場にはないのですが、あれっ、どうしたのかなという気持ちは正直ありました。しかし、これによって、三法案が一体化する形によって処遇の適正を期するということによってこの法案は成り立ったのかというふうに考えれば、当面、当面と言うとおかしいですが、これで早く立法化するということになった方がいいのではないか。

 先ほどからいろいろな御意見の中に、代用監獄廃止の方向が見えなければ反対だということになると、また二十年前に戻ってしまうわけです。なぜそのことを、同じことを何遍も繰り返すのか、私にはわかりません。

保坂(展)委員 この点で西嶋参考人に伺いたいんですが、私のいろいろ聞いてきた話では、法制審議会の答申に盛られたその中身を、要綱には残っていた、幾つかのやりとりの中で、最終的に法案化されるときには消えてしまっていたということが何か相当当時争点になったんじゃないかと理解をしているんですが、その辺はどうだったんでしょうか。

西嶋参考人 法制審要綱をまとめる際に、日弁連から推薦された委員がおりまして、その委員も含めて全会一致で、先ほどから話題になっております漸減条項が採用されました。それは、そういうことを採用することを前提に警察の留置場に未決拘禁者を収容することを認めるということで、日弁連側の推薦された委員の全員の理解では、終局的には拘置所に収容する例をふやして代用監獄に収容する例を減らしていく、その終局はゼロだ、こういう認識で、それがまとまるならということであれだったんですけれども、それと予測しない留置施設法案がセットになりまして、しかも、法務省から留置場予算が出るのではなくて、警察独自の予算措置を講じるというようなことになって、法務省から切り離される形になるということで、これではトータルで納得できないということで、日弁連としては強い反対の姿勢に立ったんだと私は理解しております。

保坂(展)委員 菊田参考人と西嶋参考人にちょっとお聞きしたいんですが、有識者会議での議論について先ほどからもお話が少しありましたけれども、国連の人権規約委員会の議論も代用監獄の廃止まで求めたものではないという意見が示され、そもそも刑事司法手続は各国独自の歴史と国民性を背景として発展してきている、これを度外視した国際的基準なるものを尺度として個別制度の存廃を議論するべきではないとの見解ですね。こういったことは、菊田参考人は反対されたということだったんですが、どういうやりとりでこれがまとめられたのかということと、それに対する見解を西嶋参考人にそれぞれお願いします。

菊田参考人 規約人権委員会の勧告を受け、そして日本の代用監獄が条約違反であるということは明々白々であるわけです。今おっしゃったような理屈というのは、これは日本的警察行政という独自の立場からの、もう全然世間に通用しないことであります。それは皆さんも含めて、国会議員の方も、それから弁護士会はもとよりですが、学者は当然、警察庁以外に今おっしゃったようなことを言っている人はだれもいません。

 そういうことで、ごり押ししたと申しますか、ただ並行にそういう議論があったということだけでありまして、これが国際人権規約違反であることは明々白々だということであります。

西嶋参考人 規約人権委員会とか、それからそこでまとめられた見解、その前提をなす条約、これは、それぞれ特殊な各国の法制度とか国民感情を前提として、それを取捨選択といいましょうか、止揚して一つの国際基準ができ上がっておるわけでありまして、それについて、かつ、日本政府も批准しております。にもかかわらず、また改めて日本あるいは各国の特殊事情を持ち出して、一たん成立した準則を守れない、これはとんでもない、背信行為ではないかと私どもは思って、条約違反だと思っております。

 それから、この拘束力といいましょうか、国際準則に従って自分たちの警察拘禁制度を改めた国が、トルコとかその他現にございます。そういう例を見ますと、日本政府あるいは日本の国内でそういう議論をしているのは、私どもは恥ずかしいという思いをしております。

保坂(展)委員 続いて、幾つか西嶋参考人に伺いますが、受刑者処遇法によって、受刑者の面会には立ち会いを付さないことがまず原則になっております。この法案では、刑事施設については例外的に立ち会いを省略できるが、警察については例外なく立ち会うという規定になっております。このような規定に合理性があるとお考えかどうか。

西嶋参考人 これも私どもは立法の過程で、警察庁との交渉等の中で、受刑者以下の処遇ではおかしい、いわんや拘置所とも横並びしないと。

 現に、多くの、かなりの部分は自白して、裁判を受ける場合にはほとんど争点もなくなっている、そういう面会の場合にも相変わらず立ち会いをつけなければいけないのは不合理ではないか、立ち会いを省略してもいいというふうな場面があるはずだ、だから柔軟に考えるべきだということも申し上げたんですけれども、警察庁の意思は非常にかたいものがございました。

 そういう意味で、私どもは、ぜひこれは国会の場で、そういうことがないように、受刑者、そして拘置所と並んで留置場でもそういった立ち会いをつけない場合があり得るということ、それが人的な余分な負担を解消する上でも役立つのではないかというふうに思っております。

保坂(展)委員 続いて西嶋参考人に伺いますけれども、死刑が確定した確定死刑囚との再審事件の弁護引き受け、また面会をするときに、いわゆる立ち会いということでどういう支障が出てくるのか、弁護人との間でやりとりする信書の検閲などについても含めてお答えいただきたいと思います。

西嶋参考人 受刑者、刑務所にいて再審を進める人と全く同じなわけですけれども、死刑囚でも再審を進めている人は何人もおります。私も名張事件の弁護人であり袴田事件の弁護人ですけれども、やはり再審を進める場合には、これからどういう新証拠を準備するか、検察官の主張に対してどういう反論をしていくかということを、本人の意見を聞きながら進める場合があります。

 そういう場合に立会人が横にいるということは、死刑受刑者、死刑者にとってもあるいは受刑者にとっても、自由な発言が阻害される、萎縮することは間違いないし、こちら側からも、立証計画を本人と打ち合わせる際に、これがいつどういう段階で外に漏れるか、検察官に伝わってしまうだろうかと、現にそういう例があるものですから、やはり慎重を期します。そういう意味では、弁護活動上の重大な制約になる。

 再審請求をする場合には、弁護人と秘密交通が保障されるように、立ち会いがない場面が十分あるようにぜひお願いしたいと思っております。

保坂(展)委員 最後に、安冨参考人に伺います。

 今、西嶋参考人から名前が出た袴田巌さんという確定死刑囚の方がいらっしゃいます。私は、東京拘置所で三年前にお姉さんと弁護人と何人かで会うことができました。しかし、これはもう例外中の例外で、彼は、自分はもういなくなった、自分は、袴田という者はもうおらぬのだと言って、呼び出しても出てこないんですね。お姉さんが会いに行っても全部拒否で、そしてもちろん、裁判関係書類を差し入れても全部受け取らないんですね。

 ですから、東京高裁への再審請求は棄却されてしまいましたけれども、棄却されたことも、あるいは逆にこれが開始ということで、弁護団と、では打ち合わせということになっても、呼び出しても来ないので、会えないんですね。これは長期の拘禁症状だということになっていますけれども、こういう状況をどうお考えになるのか、お願いします。

安冨参考人 大変難しい問題かと思います。

 個人的な意見として申し上げるならば、収容されている方の人権というものは最大限に尊重されるように制度設計されるべきであるというふうに考えます。

保坂(展)委員 時間になりましたので、終わります。どうもありがとうございました。

石原委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人の方々には、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。

 次回は、明十二日水曜日午前九時五十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時五十分散会


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