衆議院

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第25号 平成18年5月16日(火曜日)

会議録本文へ
平成十八年五月十六日(火曜日)

    午後三時三十三分開議

 出席委員

   委員長 石原 伸晃君

   理事 倉田 雅年君 理事 棚橋 泰文君

   理事 西川 公也君 理事 早川 忠孝君

   理事 松島みどり君 理事 高山 智司君

   理事 平岡 秀夫君 理事 漆原 良夫君

      赤池 誠章君    稲田 朋美君

      近江屋信広君    太田 誠一君

      笹川  堯君    柴山 昌彦君

      下村 博文君    高鳥 修一君

      平沢 勝栄君    三ッ林隆志君

      水野 賢一君    森山 眞弓君

      矢野 隆司君    保岡 興治君

      石関 貴史君    枝野 幸男君

      河村たかし君    小宮山泰子君

      細川 律夫君    伊藤  渉君

      保坂 展人君    滝   実君

      今村 雅弘君    山口 俊一君

    …………………………………

   法務大臣         杉浦 正健君

   法務副大臣        河野 太郎君

   法務大臣政務官      三ッ林隆志君

   外務大臣政務官      伊藤信太郎君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    大林  宏君

   政府参考人

   (外務省大臣官房審議官) 長嶺 安政君

   政府参考人

   (外務省大臣官房参事官) 辻   優君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月十六日

 辞任         補欠選任

  稲田 朋美君     高鳥 修一君

同日

 辞任         補欠選任

  高鳥 修一君     稲田 朋美君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出、第百六十三回国会閣法第二二号)


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     ――――◇―――――

石原委員長 これより会議を開きます。

 第百六十三回国会、内閣提出、犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案並びにこれに対する早川忠孝君外二名提出の修正案及び平岡秀夫君外二名提出の修正案を一括して議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 各案審査のため、本日、政府参考人として法務省刑事局長大林宏君、外務省大臣官房審議官長嶺安政君、外務省大臣官房参事官辻優君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

石原委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

石原委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。枝野幸男君。

枝野委員 ありがとうございます。

 きょうは、今回の提案されている法案が国際的な組織犯罪の防止に関する国連条約に基づいているという、その関連のことについてお尋ねをしたいと思います。

 まず、政府案であれ与党修正案であれ、六条の二で新設をされるいわゆる共謀罪というのは、この条約のどの部分を国内法化したものであるのか、御説明ください。

伊藤大臣政務官 お答え申し上げます。

 この条約の第五条1の(a)の(i)をベースに置いて法律化したものでございます。

枝野委員 次に、一貫して、政府あるいは与党修正案提出者は、越境性の要件を入れてはいけないんだとおっしゃっておられますが、それはこの条約のどこが根拠になっておるんでしょうか。

伊藤大臣政務官 お答え申し上げます。

 今回対象になっている国際組織犯罪防止条約でございますけれども、この条約の第三十四条2においては、「第五条」「に従って定められる犯罪については、各締約国の国内法において、第三条1に定める国際的な性質又は組織的な犯罪集団の関与とは関係なく定める。」と規定しておりまして、このことがベースになっているということです。

 特に、この条約は、法の抜け穴というものを巧みに利用して行われる国際的な組織犯罪の実態に適切に対応するために、国際的な組織犯罪の防止に特に有効であり、またその取り締まりの必要性が特に高い行為類型については、国際的な性質の存在を要件とすることなく犯罪とすることを各国に義務づけたものでございます。

枝野委員 では、この条約の三十四条2の主語は何ですか。

伊藤大臣政務官 御質問は第三十四条の二項についての御質問だと思いますので、この主語は、「第五条、第六条、第八条及び第二十三条の規定に従って定められる犯罪については、」というところが主語でございます。

枝野委員 このうち、六条、八条、二十三条はきょうの質問とは直接関係ありませんので、先ほどの共謀罪との関連で言えば、正確に言いますと、第五条の規定に従って定められる犯罪については、これが主語であるということでいいですね。

伊藤大臣政務官 そのとおりでございます。

枝野委員 では、第五条の規定に従って定められる犯罪とは何ですか。

伊藤大臣政務官 お答え申し上げます。

 重大な犯罪を行うことを合意する等について犯罪としているものでございます。

枝野委員 これはむしろ法務省かもしれませんが、この場合、行われる犯罪行為の実行行為は何ですか。

杉浦国務大臣 重大な犯罪を行うことを合意することでございます。それが一つの犯罪として処罰される。

枝野委員 そうなんですね。五条によって犯罪とされる行為は合意という行為なんですね。合意が実行行為なんですよね。

 合意については国際的な性質と関係なく定めると読むのが適切なのではないですか、法務大臣。

杉浦国務大臣 委員のお尋ねは、この規定が、犯罪の実行行為である共謀行為それ自体に適用があることは明らかでありますが、御質問は、このような理解を前提とした上で、共謀等の対象となる犯罪について、国際的な性質と組織的な犯罪集団の関与を要件とすることは禁止されていないのではないかという点にあると理解しております、間違っていたら御指摘願いたいのですが。そのような解釈は、私どもは許されないものと考えております。

 すなわち、条約三十四条二項は、ただし書きにおきまして、「第五条の規定により組織的な犯罪集団の関与が要求される場合は、この限りでない。」と規定しておりますけれども、この第五条の「組織的な犯罪集団が関与するもの」という要件は、この条約の審議の過程で、我が国が共謀の対象犯罪の要件に加えることを提案したものであります。また、条約第五条の3におきまして、「組織的な犯罪集団の関与するすべての重大な犯罪を適用の対象とすることを確保する。」こう規定されていることからいたしますと、条約三十四条の2のただし書きによってその要件を加えることが例外的に許されているのは、共謀の対象犯罪についてであることは明らかでございます。

 したがって、条約第三十四条の2本文の規定による禁止は、単に共謀行為だけでなくて共謀の対象犯罪にも及ぶことは当然でありまして、そのように解さなければ、ただし書きは全く意味を持たない規定となることは明らかであると考えられます。

枝野委員 今の説明、わけがわからないんですけれども。

 いいですか。では、逆の聞き方をしましょうか。

 この条約三条は、適用範囲について、「この条約は、別段の定めがある場合を除くほか、次の犯罪であって、性質上国際的なものであり、」云々かんぬん「について適用する。」と規定をしております。

 先ほど来問題になっている三十四条では、五条、六条、八条、二十三条がすべて、国際的な性質とは関係なく定めるとなっておりますが、そうすると、この三条の1はどういう意味があるのか、説明をしてください。

石原委員長 答弁者は挙手をお願いいたします。

 伊藤外務大臣政務官。

伊藤大臣政務官 お答え申し上げます。

 この条約第三条は、条約の適用範囲を規定するものでございます。次に掲げる犯罪、すなわち(a)の、組織的犯罪集団への参加の犯罪化について定める条約第五条、犯罪収益の洗浄の犯罪化について定める条約第六条、腐敗行為の犯罪化について定める条約第八条、司法妨害の犯罪化について定める条約第二十三条の規定に従って定められる犯罪及び(b)の重大犯罪、すなわち、長期四年以上の自由を剥奪する刑またはこれより重い刑を科することができる犯罪のうち、性質上国際的なものであり、かつ、組織的な犯罪集団が関与するものという要件を満たす犯罪に限って条約が適用されるのが原則でございます。

 しかし、この条約第三条に規定されているように、別段の定めがある場合には、このような国際性と組織性の要件を満たさなくとも、この条約の別の条に規定されている別段の定めに従って条約が適用されることと解されます。

 そして、この別段の定めの一つが、先ほどお答えいたしました条約第三十四条第二項であることから、共謀罪を犯罪とするに当たっては、この条約第三十四条第二項の定めに従う必要があり、国際性の要件を付することは許されないと解されるわけでございます。

枝野委員 ですから、それはわかっているんです。わかっていた上で申し上げているのは、五条も六条も八条も二十三条も、皆さんの解釈によると、三十四条で国際性、越境性の要件を要しないと完全になるんだと。では、国際性の要件が必要な三条一項があるがために、適用範囲が、越境性を持っていないものには対象にならないんですよという効果をもたらすのはどこの規定ですか、これを聞いているんです。

石原委員長 答弁者は挙手をして御答弁を願いたいと思います。

 外務省、法務省、どちらが御答弁をされるのか、お願いを申し上げたいと思います。(発言する者あり)

 枝野君の質問に対しまして御答弁をされる方が決まるまで、速記をとめてください。

    〔速記中止〕

石原委員長 速記を起こしてください。

 外務省伊藤外務大臣政務官。

伊藤大臣政務官 お答え申し上げます。

 犯罪化に関する規定は第三十四条の2でございます。

枝野委員 三十四条の2とおっしゃいましたでしょう。だから、三十四条の2が別段の定めなんでしょう。三十四条の2が別段の定めで、別段の定めを除くほかと書いてあるわけですよ。では、別段の定めを除いてこの三条の1が適用されるのはどこですかと聞いているんですよ。(発言する者あり)

石原委員長 私語は慎んでください。

伊藤大臣政務官 別段の定めの規定でございますけれども、別段の定めに当たる規定としては、先ほどお答えしました組織的な犯罪への参加の犯罪化等について定める条約第三十四条第二項の規定のほか、犯罪人引き渡しについて定めた条約第十六条第一項の規定や、法律上の相互援助について定めた条約第十八条第一項の規定が挙げられます。

枝野委員 通告外ではないと私は思っていますが、前回、こちらの手のうちをさらしてここを問題にしていますということを最後にこの委員会できちっと申し上げていて、このことについて聞きますというのですから、今ぐらいの話のところは出てくるのは当然の前提で準備をしていただいてというか、当然、理解をして法案を出してこられているんだろうという範囲であるというふうに私は思っております。

 今、そうです、御指摘のとおり、三十四条という別段の定めを除くと、国際的な犯罪の協力であるとか引き渡しであるとか、いわゆる捜査手続の協力のところについては適用除外の三十四条はかぶらない。逆に言うと、そこにしかこの三条の1の適用範囲というのはかぶらないんですね。

 だとすると、普通の法律の定め方からすると、これは、一番最初に五条があるんですよ。組織的な犯罪集団への参加の犯罪化、この条約の一番の柱のところは、この五条の組織的な犯罪集団への参加の犯罪化という実体法部分のところこそが一番中心的な部分であって、それを実体法的に各国の国内法で犯罪化をしても、それだけではもちろん実際の犯罪の抑止に十分ではない場合がある。当然のことながら、手続法部分でも国際協力をしなきゃいけませんねということがついてくる。手続法の部分の方がむしろ二次的である。

 だとすると、その二次的なところにしかきかないような三条の規定で原則は越境性を要するということを書くというのは、物事はあべこべではないですか。普通の法令のつくり方からすれば、むしろ、メーンである組織的な犯罪集団への参加の犯罪化のところについての規定が原則であって、派生する部分のところについてだけは縮小して、犯罪の捜査のところだけは越境性の要件を要しませんというのが、むしろただし書きでつくのが普通の、これは別に日本の法制のつくり方ではない、条約のつくり方としても基本的な考え方ではありませんか。どうですか。

伊藤大臣政務官 捜査協力は別段の定めの一つでございまして、それ以外のすべてについて原則が適用されるということでございますので、御理解賜りたいと思います。

枝野委員 逆でしょう。三条一項の原則の方が犯罪捜査の協力の方に適用されて、一番の中心である、いわゆる共謀罪の部分のところ、犯罪化の部分のところが別段の定めで例外にされているというのはあべこべじゃないかと言っているんですよ。

伊藤大臣政務官 議員の御質問でございますが、あべこべかどうかという御質問ですけれども、私どもといたしましては、この第三条一項は、この条約の適用対象となる犯罪を、まず、性質上国際的なものであり、かつ、組織的な犯罪集団が関与するものと限定しておりますけれども、同時に、別段の定めがある場合には例外を認めているという構造になっております。その上で、この別段の定めを認めるとの規定を受けて、第三十四条二項で、条約創設犯罪については、各締約国の国内法について、国際的な性質または組織的な犯罪集団の関与と関係なく定めるということを義務づけているわけでございます。

 この規定は、条約の文理解釈や起草経緯からも明らかなように、国際的な性質または組織的な犯罪集団の関与の有無を問わず、すなわち、国際的な性質または組織的な犯罪集団の関与の存在を条件としないで犯罪化するということを義務づけるというふうに解されるわけでございます。

枝野委員 文理解釈は、先ほど申したとおり、またこの後詰めますが、文理解釈としてはあべこべです。

 それから、条約の締結過程の話をおっしゃるんだったら、審議をとめて、今まで言ってきている資料を出してください。出してくるまで質問できない。資料を出してください。

 その条約の審議プロセスが大事だ。だから我々はその審議資料を出してくれと言うのに、出してこなかったのが今までの審議プロセスじゃないですか。条約の締結のプロセスとおっしゃるんだったら、資料を出してください。質問できません。(発言する者あり)

石原委員長 枝野君、申しわけございませんが、質問の要旨をもう一度だけ簡単にお願い申し上げます。

枝野委員 いいですか、今の御答弁のうち、文理解釈という話についてはこの後詰めます。しかし、文理解釈とそれから条約の締結の過程ということを根拠としておっしゃいました。この条約の締結過程がどうであったのかということがこの法務委員会で一貫して大議論になってきて、その締結過程の資料を出してくれという話について一切応じてこられなかったので、この審議過程が明らかになってこない。その審議過程ということを根拠にされるんだったら、資料を出してから話を進めたいと思います。

 以上。

石原委員長 ただいまの質問で質問の御趣旨はわかったと思いますので、御答弁をお願い申し上げたいと思います。

 外務省伊藤外務大臣政務官。

伊藤大臣政務官 起草過程につきましては、今まで、可能なものについてはすべて提出しております。非公式協議等公開できないものについては、それがわかるように、できる範囲で資料を提出しておりますので、御理解賜りたいと思います。

枝野委員 少なくとも私たちのところに、交渉経緯において、条約の締結プロセスにおいて、なぜ今のような解釈に必然的になるのかという説明は受けておりません。

 説明をしてください。どうして今のようなことになるんですか、条約の締結プロセスから。

石原委員長 条約の締結過程を答弁されたので、条約の締結過程を明らかにしろという質問でございますので、お答えいただきたいと思います。(発言する者あり)

 御静粛に願います。(発言する者あり)御静粛に願います。

伊藤大臣政務官 条約の締結過程でございますが、実は、もう既に提出の資料の中から引用させていただきますけれども、共謀罪等については、国際的な性質と関係なく定めるとする本条約第三十四条2については、当初、本条約第三条で定められている条約の適用範囲に関して議論がなされたわけでございます。

 すなわち、アドホック委員会、条約起草のための政府間特別委員会、第七回の会合等の審議において、性質上国際的なものを本条約の対象とする犯罪の要件として加えるべきであると主張した国は、本条約が国際組織犯罪を防止する条約である以上、そのような条件を加えるべきと主張したわけでございます。

 これに対して、日本を含め、性質上国際的なものを要件とすべきでないと主張した国は、本条約が国際組織犯罪を対象としていることは明らかであるとしても、そのような犯罪を防止し、その捜査及び訴追に関する国際協力を確保するためには、一律に厳格な要件を定めることは適当ではなく、国際組織犯罪の実態に対処できるような適用範囲を確保する必要があるため、そのような条件を加えるべきではないと主張したわけでございます。

 その後、このアドホック委員会第八回会合の審議において、シンガポールから、条約の原則的な適用範囲については、性質上国際的であり、かつ、組織的な犯罪集団が関与する場合に限定するとともに、必要に応じて、例外として、今話題に出ました、別段の定めを置くことを内容とするという提案がなされたわけでございます。

 この提案については大きな異論が出なかったわけでございますが、別段の定めとして、どのような事柄について、どのような要件とするかについては、さまざまな意見が参加国からあったわけでございます。

 ただし、本条約が犯罪化を求める犯罪の構成要件については、仮に国際性、組織性を要件とすると、対象となる犯罪が組織犯罪の実態に照らして不当に狭くなる上、早期かつ的確な検挙、処罰が困難となるとの考え方から、我が国を含め、国際性及び組織的な犯罪集団の関与を要件としないことを支持する国が少なくなかったわけでございます。

 こうした経緯を踏まえ、アドホック委員会第十回会合において、フランスから、条約が犯罪化を求める犯罪の規定においては、国際性及び組織性の要件を含むものと解釈してはならない、英語で言いますと、シャル・ノット・ビー・コンストルードと提案がなされました。

 そこで、議長がこれを簡潔、肯定的な文に改めるように求めた結果、現在の本条約第三十四条2の規定と同じく、国際的な性質または組織的な犯罪集団の関与と関係なく定める、シャル・ビー・エスタブリッシュド、間がありましてインディペンデントリーとの文言に改められたということでございます。

 もっとも、現在の本条約第五条の共謀罪等の犯罪化においては、組織的な犯罪集団の関与を条件とすることは許されるところ、フランスの提案のままでは条約の規定相互に矛盾が生じると解されることから、アメリカから、現在の本条約第三十四条2の末尾に、現在の本条約の第五条の規定に従い、共謀罪については組織的な犯罪集団の関与を要件とすることが禁止されないようにという趣旨の文言を加える提案がなされたわけでございます。

 このアメリカの提案とあわせたフランスの提案に対して、ごく一部に反対意見はございましたけれども、我が国を含む多数の国がその内容を支持し、基本的な点については合意に至ったということでございます。

 さらに、この内容に照らして、本条文の位置を適用範囲ではなく条約の実施の部分に移すことが提案され、異論なく支持された結果、現在の本条約第三十四条2として規定をされたという経緯でございます。

枝野委員 今のお話は、三十四条の2が置かれた経緯は御説明をいただきました。私が今申し上げているのは、この三十四条の2の読み方についてお話をしているんです。

 三十四条の2、第五条に従って定められる犯罪、つまり共謀が犯罪とされるということについては国際性と関係なく定めると書いてあるんですが、つまり、共謀が国内だけで完結をしている、国内で、日本の関係者だけで、外国から来たわけでもなくて共謀がなされた場合であっても、国際的な犯罪を行うということの共謀が行われたならばこれは処罰しなければいけないと読むのが、この三十四条の2の文理からは自然であるということを申し上げているんです。

 それに対して外務省は、いや、その共謀の対象になっている犯罪そのものも国際性、越境性の要件を要しないんだ、そういう要件を置いてはいけないんだということをおっしゃっているんです。そのことが今の審議過程の中でどういうふうにあらわれておるのか、説明をしてください。

伊藤大臣政務官 そもそも、本条約第五条1(a)の(i)に言ういわゆる共謀罪というのは、重大な犯罪を行うことを合意することでございまして、この点、共謀の対象となる重大な犯罪と合意することを切り離して考える、例えば、重大な犯罪に国際性の要件を付し、そのような重大な犯罪を合意することには国際性の要件を付さないと考えることは、極めて不自然だというふうに考えるわけでございます。

 また、本条約第三十四条2の趣旨は、前段で私が申し上げましたように、法の抜け道を巧みに利用してさまざまな国において活動を展開している組織的な犯罪集団の性格にかんがみれば、本条約第三条1の規定にかかわらず、問題となる犯罪について国際性等の要件を付してはならないということでございます。したがって、共謀行為それ自体のみならず、その対象となる犯罪についても国際性の要件を付すことはできないと解されるわけでございます。

 本条約第三十四条2の解釈については、この条約が採択される前から共謀罪の規定を有している米国及び英国からも、共謀行為それ自体及び共謀の対象となる犯罪、いずれについても国際性の要件を付すことはできないと理解しているとの回答を得ているところでございます。

枝野委員 今のお話の最後のところをまず伺います。

 この間の質疑のときには、これは平岡さんでしたか、いや、二、三日前に回答をもらったというお話でしたよ、口頭で。もしこの条約ができるプロセスの中でそういう回答があるんだったら、その証拠を出してください。(発言する者あり)

石原委員長 御静粛に願います。

 議事運営は委員長にお任せをいただきたいと思いますが、よろしいでしょうか。

 外務省伊藤外務大臣政務官。

伊藤大臣政務官 今申し上げた英米の回答というのはまさに最近得られたものでございますが、両国とも、この条約のいろいろな過程において、口頭でそのような発言があったことも事実でございます。(発言する者あり)

 ちょっと訂正させていただきます。

 英米の回答は最近得られたわけでございますけれども、この英米両国とも、この条約が採択される前から共謀罪を持っているということでありますので、そういう国について聞いてみたということでございます。

枝野委員 国連はいつからアメリカの下部組織になったんですか。英米はそういう考え方を持っているかもしれないけれども、まさに条約の締結過程というのは、各国がどう考えて、どういうふうに理解をし、そしてどういうことの前提で合意が調ったのか。英米がそういう主張をされていたとしても、それに対する違う意見もあったりしたから、フランスなどが折り合うのを出してきたわけでしょう。

 それで、その折り合うのがどういうことなのかということについて、明確に、そのすべてについて国際性を要しないと言っている国と、いや、それではだめなんだと言っている国との間でどういう、例えば何らかの申し合わせとかなんとかがあったというんだったら、それに基づいて解釈するということがあってもいいでしょう。しかし、一方当事者はこう言っていましたという話だけでは何の説明にもならない。

 念のため申し上げますが、先ほど来、変なやじが飛んでいますけれども、私は別に政務官に恨みはありません。本当に事務的なことだったら局長に出てきてもらって回答していただいてもいいです。しかし、前回の審議において、これは政治レベルで答えてもらわなきゃならない答弁だと言っているにもかかわらず、差し出がましくあの局長が手を挙げて出てきて回答している。こういう前例があるから、政府参考人として置いたら、本来政治ベースで答えるべきことまで出てきて回答される、だから政府参考人は要らないとやらざるを得ないんですから。それは外務省の責任だということを強く与党に対して申し上げておきたいというふうに思います。

 いずれにしても、しょせん英米がそう言っていたという話なのであって、条約の解釈を、日本はアメリカの属国ではありませんから、アメリカがどう解釈しているのかということで解釈をしなければならないなんということは全く必然性はない。まあ与党の皆さんはアメリカの属国のつもりでいるのかもしれませんが、私たちはそうではありませんのでということを申し上げておきたい。

 その上で、改めてもう一回伺います。

 今度は文理の問題であります。三十四条で申し上げている条約の実施の二項のところは、五条の規定に従って定められる犯罪については、普通に考えれば、この犯罪というのは共謀罪であります。共謀そのものが犯罪であるということです。共謀罪、共謀したこと自体が犯罪になるといった場合に、その前提となっている犯罪、共謀した罪、つまり五条の条文で言えば重大な犯罪、重大な犯罪が国際性を帯びていたとしても、共謀罪の実行行為そのものは日本の国内において完結をされていることです。

 つまり、外国のあの組織とこういうふうに金を行き来もさせて、あそこから資金をもらってそれでこういう犯罪をしようとか、あそこの外国人を今度こういうふうに入国させてそれでこういう犯罪をやろうとか、あるいはあべこべに、日本ですべての共謀をして、いつごろあの国に入っていってこういう犯罪をしようとか、そういったことを共謀したとしても、その共謀の実行行為自体は越境性を満たしません、越境性を持ちません。

 そういった場合に、それは犯罪にならなくていいんですよということになったとすれば、確かに法の抜け道ということになるかもしれない。日本においてすべての計画、共謀を全部しておいて、用意ドンで実行に走って外国に被害をもたらす、こういうことがあったりしたらいけないだろうというふうに思います。あるいは、日本の国内で全部共謀をしておいて、さあ、いよいよ実行だという直前になって、外国から人がどっと入ってきたりとか武器がぐうっと持ち込まれたりとかして、それで犯罪が起こりました、それを、越境性の要件があるからということで、共謀段階で食いとめることができませんでした、こういうことでは法の抜け道になるでしょう。

 ですから、私たちの解釈のように、共謀という行為そのものに越境性がなかったとしても、その共謀した犯罪が越境性のある犯罪であるならば、それはちゃんと国内法で取り締まらないと法の抜け道になるということで、三十四条の2というのは非常に合理的な規定であるというふうに思います。

 しかしながら、先ほど来、明確なお答えがいただけないように、三条で、越境性のある犯罪がこの条約の対象だ、条約の名称も国際的な組織犯罪の防止に関する条約だとなっているのに、一番のコアのところについて、国際的な犯罪じゃなくてもいい。そんなことの方がよほど不自然じゃないか。だとしたら、この文理の解釈として、よほどの根拠、理由を示さなければ、私が今申し上げたような解釈をするのが当たり前ではないか。法務大臣、どうですか。

杉浦国務大臣 お尋ねの趣旨は、共謀の対象となる重大な犯罪についても国際的な性質のものに限定することを禁止しているというなら、その実質的な理由を明らかにしろ、こういう趣旨に拝聴いたしたんですが、現実の社会では、個別具体的な犯罪行為だけを見ますと、単独犯であったり、犯罪行為自体は一国内にとどまるために性質上の国際性を認めがたいけれども、その背後に実際には国際的な犯罪組織が存在し、あるいは、国際的な組織犯罪に発展する可能性もあると考えられる場合もございます。

 特に捜査の初期の段階においては、いかなる犯罪の共謀がなされているのかについて、その犯罪の背後関係を含めまして、それが国際的な性質を有するか否かが明らかでなく、さらに捜査を進めてもその立証が容易でない場合が少なくございません。

 そもそも、国際組織犯罪防止条約、この条約が犯罪化を義務づけている共謀罪は、組織犯罪対策上有効性があることから、これを犯罪とする罰則を各国が標準装備すべきものであると考えられたために、その犯罪化が義務づけられたものでございます。

 さきに述べたような現実を踏まえますと、仮に、共謀罪を犯罪とするに当たって、その対象犯罪を国際性を有するものだけに限定いたしますと、組織犯罪の実態に照らして、対象となる犯罪事象が不当に狭くなる上、早期かつ的確な検挙、処罰が困難となり、ひいては、この条約の趣旨でございます一層効果的に国際的な組織犯罪を防止するという趣旨、目的を没却してしまうことになりかねません。

 そこで、国際的な組織犯罪に対する効果的な対処を確保するため、条約三十四条の2は、条約が犯罪とすることを義務づける共謀罪について、国内法でこれを犯罪とするに当たっては、共謀の対象となる犯罪を含めて、国際性の要件をつけることを禁止したものと考えているところでございます。

枝野委員 いいですか、この法案はこの条約の国内法化である、だから、非常に広範だけれども、条約に基づいたことでやらなきゃならない。国内に限定された越境性を要しない犯罪であってもさらに厳しい取り締まりをしなきゃならない、一定の要件のもとで。そういうものがあるかもしれないということは、それは否定をしません。だけれども、それは本法とは別に、まさに国内法としてやればいい話で、あくまでも今の法律は条約を国内法化するということで、さまざまなその他の要件のところが緩んでいるわけです。

 さて、この条約です。繰り返しますが、条約で、各国の国内法、国内完結のものについてああしろこうしろだなんということは、まさに主権の侵害じゃないですか。そもそも、そんなことを国際社会がやるはずないじゃないですか。そんなことをやりますなんという話自体、あったらおかしいんですよ、内政干渉なんですよ。

 だから、これは国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約なんです。国際的な組織犯罪の防止という目的に関したときに、それは、例えば先ほど申したとおり、共謀という事実は国内で完結しているけれども、その共謀の結果の、行われる、予定されている犯罪が越境性を持っていたら、それはちゃんと取り締まらないといけないでしょう。それはそうだと思います。

 しかし、まさに共謀も全部国内で行われている、行われた犯罪も全部国内である、そこで共謀されている犯罪もすべて国内的に完結をされている、その犯罪について、どうして国際的な組織犯罪の防止のために取り締まらなきゃならないんですか、この条約で規制しなきゃならないんですか。

 それは別途国内法で議論するということを否定するつもりは全くありません。しかしながら、この条約の解釈としてそんなことが出てくること自体が、そもそも論理矛盾じゃないですか。表題と矛盾をしているじゃないですか。そして、全部すべて国内で完結をしている犯罪について、別に国内でどう決めようと、国際的な組織犯罪を防止するという観点からは影響を与えるはずないじゃないですか。

 いや、そうはいっても、さまざまな意味で法の抜け道を考えるとおっしゃられるかもしれません。でも、そうだとしたら、この共謀罪という法律をつくること自体の原点に返ってまた矛盾が生じますよ。

 なぜならば、与党の修正案あるいは政府も従来答弁でおっしゃっているということだとすると、共謀という単なる言葉だけの話で、しかも犯罪の対象になるのは組織犯罪集団だけであるということを繰り返しおっしゃっておられます。組織犯罪集団によって、言葉だけの合意あるいは言葉すらない合意のところで、限定された長期四年以上の犯罪をちゃんと共謀しましたということがいずれにしろ立証できなければ、こういう犯罪を法定しても何の意味もないわけですよ。

 組織的な犯罪集団によって長期四年以上の犯罪の共謀がなされたということを立証することができるような条件のときに、その対象になっている犯罪が越境性を持っているのか持っていないのかということ自体、ちゃんと立証できるじゃないですか。逆に言ったら、そこのところで、本当は越境性を持っている国際犯罪なのに、いや、そのことについてだけは立証できません、だけれども、真意に基づいて犯罪の共謀をしました、そしてこの団体は組織犯罪集団です、このことだけは立証できます、こんなばかな話がありますか。

 抜け道というと、一般論としては何となくもっともらしく見えるかもしれませんが、国際的な犯罪を犯すというところの越境性を要件にしていても、抜け道には決してならない。大臣、違いますか。

杉浦国務大臣 御答弁としてはちょっと見当外れになるかもしれませんが、この条約は、百何十カ国が承認しているんですけれども、主権国家が、国際的な犯罪集団による犯罪を抑止しようという趣旨で集まって、長い経過の上で合意した条約であります。しかも、各国はそれぞれの国の基本法制に矛盾しない範囲内で共謀罪は設けなさい、こういうことになっておるわけでございまして、この条約の実施を担保するために、私どもは国内法を制定しようとしておるわけであります。国内法の制定作業をやっておるというふうに理解しておるわけでございます。

 共謀罪については、我が国の法制においても共謀を罪としているものも幾つかあるわけなんですが、英米法なんかは、コンスピラシー、共謀そのものをすべての犯罪について禁止しておりますから法制は違うわけですけれども、しかし、我が国としても、組織集団の重大な犯罪についての共謀を処罰するということは、今まで共謀罪が付せられていた、共謀が罪となっていた罪との均衡等から見て、基本法制と矛盾しないということで、この共謀罪を法定することを御提案しているんだと私は理解しておるんです。

 先生のおっしゃっている趣旨は、必ずしも定かに私、理解しているかどうかわかりませんが、先生のおっしゃっている趣旨からいっても、この共謀罪を制定することは我が国の国内法制の整備として妥当だということにならないんでしょうか、こんな感じがするんですけれども。

枝野委員 なりませんね。こんなに広範な、私文書偽造とか公職選挙法違反とか政治資金規正法違反とか、どぶろくをつくるとか、そういうところまで対象にされるんでしょう。しかも、ぎりぎりでも予備とかが要るんじゃないかと我々は言っていますけれども、そういうことも今のところだめなんでしょう。そんな、合意をしたという証拠、つまり、本気で言ったのか、うそで、冗談で言ったのかもわからないような話の、しかも供述証拠しか出てこない、つまり自白に頼って立証する、こういうことでやるんだったら、相当絞らなきゃいけない。

 英米は共謀だけで全部犯罪にしますと。それは、大臣御承知のとおり、英米法の基本体系は我々と違うじゃないですか。英米法は、我々よりももっと弾劾主義を徹底しているじゃないですか。我々の国は、条文を見ると弾劾主義を徹底しているように見えるけれども、現実的には糾問的じゃないですか。

 アメリカでは、例えば、弁護士が立ち会わないと取り調べができないというような制度もたくさんあるじゃないですか。陪審制じゃないですか。取り調べをするという前提じゃない、初めから、捜査の段階から、被告、弁護側と捜査機関側とが対等な条件で捜査をするというところだから、いや、それでもあるかもしれませんけれども、日本のような密室で取り調べをするという国とは違って、自白強要というおそれが少ないと一般に言われる、そういう制度をとっている。だからこそ、自白以外になかなか証拠のない共謀というだけで処罰をするということも国内法体系としては一応あり得るかもしれない、いいことだとは私は思わないけれども。

 しかし、我が国は、残念ながら、英米法の国々とは刑事訴訟の少なくとも運用は大分違うんですよ。英米と同じようにやるというのなら、刑事訴訟法も英米にそろえてください。弾劾主義の徹底をしてくださいよ。それならば話はわかりますよ。ところが、こっちだけは英米の話。日本の刑事訴訟とかというのは、むしろ大陸法的な要素が物すごく強い。だけれども、こっちは大陸法の要素でやる、こっちは英米法の要素でやる、こういう矛盾したことをやっているからおかしなことになると言っている。

 時間もなくなってきますので、最後に改めて申し上げます。

 少なくとも、三十四条の2という条文を、繰り返します、第五条の規定に従って定められる犯罪については、国際的な性質とは関係なく定める、この条約は守りましょうよ。守って結構です。だから、共謀という事実については、国際性を満たしていなくても、それは犯罪にするということでも結構です。

 しかしながら、そもそもこの条約全体が国際的な組織犯罪を防止するという目的なんですから、その目的に照らしても、今の文言とは決して矛盾しない。共謀の対象になった犯罪そのものについては国際性、越境性の要件を課すということ、我が国は、条文を読んだらそう判断しましたので、そういう法制をしましたと言っても、どこの国からも非難は、我々におっしゃれないような裏の密約でもない限りは、条文の解釈としては何の問題もない。文言を素直に解釈いたしました、この条約の趣旨、目的から素直に解釈をいたしましたと言えば、何の問題もない。

 したがって、条約で国際的に約束をしているという理由は、越境性の要件は外せという、我々の主張を排除する根拠としては全く成り立たないということを申し上げて、次の質問者に譲りたいと思います。

 ありがとうございました。

石原委員長 次に、平岡秀夫君。

平岡委員 民主党の平岡秀夫でございます。

 今、同僚の枝野議員から、越境性の問題について、条約の三十四条あるいは第五条、第三条というものを引用しながら、政府が解釈していることの不当性というものを追及させていただいたわけでありますけれども、私も、そういう意味では、この政府が主張している文理解釈というものの根拠がいかにあいまいなものであるか、おかしいものであるかということについて、ここで重ねて質問させていただきたいというふうに思っております。

 五月十二日の私の質問に対して、外務省の方から、なぜ、この国際的な性質については、共謀罪そのものではなくて、共謀罪の対象となっている重大な犯罪について国際的な性質をつけてはならないんだというふうになっているかということについて答弁がありました。

 ちょっと概略のところだけ申し上げますと、こういうことだったんですね。条約の三十四条の2のただし書きによって、組織的な犯罪集団の関与の要件を加えることが例外的に許されるのは、あくまで共謀罪の対象犯罪である重大な犯罪であることは明らかだ、だから、組織的な犯罪集団の関与も要件とするということと並びで書いてある国際的な性質についても、共謀罪の対象犯罪となっている重大な犯罪になっているということが明らかなんだ、こういうような話だったんですね。

 しかし、ちょっとよく見てみると、この組織的な犯罪集団の関与というものについてはどういう仕組みになっているかといいますと、この条約の第五条のところを見ていただきますと、ここの第一項の(a)の(i)のところに共謀罪の話が書いてありまして、「国内法上求められるときは、」云々とあって、その最後に、「組織的な犯罪集団が関与するもの」ということで書いてあります。

 この組織的な犯罪集団が関与するものというのは一体何であると、何に対して関与しているというふうに解されるのか。この点について、まず外務大臣政務官からお伺いいたしたいと思います。

伊藤大臣政務官 お答え申し上げます。

 本条約第五条1の(a)の(i)は、国内法上定めるときは、組織的な犯罪集団が関与するものを要件とすることができる旨、規定しております。

 この組織的な犯罪集団が関与するものという要件は、重大な犯罪に係るものだと考えられます。このことは、条約交渉の過程で我が国が、共謀の対象犯罪の範囲を限定するために、組織的な犯罪集団の関与を要件として加えることを提案したことを受けて取り上げたという経緯がございます。この我が国の提案では、組織的な犯罪集団が関与するものという要件が重大な犯罪に係っていることが明らかになっております。

 また、同じく第五条のうち1の(b)及び3で、組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪と規定され、組織的な犯罪集団の関与するという要件が重大な犯罪に係っているということが明確にされてございます。

平岡委員 それで、同じく第五条一項の(a)の(i)に、「その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為を伴い」というふうに書いてあるわけでありますけれども、この合意の内容を推進するための行為を伴っているものは何であるというふうに解しているんでしょうか。

伊藤大臣政務官 お答え申し上げます。

 本条約第五条1の(a)(i)は、いわゆる共謀罪について犯罪化するに当たり、その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為を伴うことを認めております。この合意の内容を推進するための行為を伴うのは、重大な犯罪を行うことを合意すること、すなわち共謀罪でございます。

 そしてまた、国内法上求められるときは、その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為を伴うという文言を提案した英国は、次のように説明してございます。すなわち、共謀罪の概念が存するコモンローの法体系の国のうち、共謀を処罰するためには何らかの行為があったことが追加的要件とされている国に配慮したとのことでございます。これは、米国法のいわゆるオーバートアクトを念頭に置いたものであると考えられます。

 このような経緯からも、合意の内容を推進するための行為を伴うのが、重大な犯罪を行うことを合意すること、すなわち共謀罪であるということは明らかでございます。

平岡委員 明らかなんですよね。合意の内容を推進するための行為を伴うのは、それは共謀という行為なんですよね。共謀という行為に伴う。それで、ではその後ろの方は、組織的な犯罪集団が関与するものは何なんですかと言ったら、これは重大な犯罪なんですと。これは文理的にいっておかしいですよね。別々の、ここで「又は」で結ばれているその二つは、同じものに係らなきゃいけない。つまり、この五条一項の(a)の(i)というのは、それぞれ条件が伴っているものはすべて共謀に対して係るというふうに読まなければいけない。そうだとすると、三十四条の第二項に言うときの組織的な犯罪集団が関与するということについても、これは共謀に係っているんです。共謀に係るというふうに解してそんなに不自然はなくて、ちゃんと共謀罪というのはできるんですよ。

 そう考えたときに、国際的な性質を伴うものが、重大な犯罪についてそうだというんじゃなくて、共謀に係っているというふうに考えるのは非常に自然ですよね。第五条の解釈からしても自然であるし、第三十四条の解釈からしても、先ほど枝野委員の方からるる指摘したように、全く大きな問題は生じないということで、我々としては、これは解釈宣言をすることによって、我が国の共謀罪については、共謀そのものについては国際的な要件を伴わないけれども、重大な犯罪については国際的な要件を伴っていても何も問題はないというふうにしてもいいと思うんですけれども、どうでしょうか。

伊藤大臣政務官 今回のことですけれども、要件ごとに別途に考えることというのは矛盾していないというふうに私どもは考えております。

 合意の内容を推進するための行為を伴うという要件及び組織的な犯罪集団が関与するという要件は、それぞれの要件ごとに、その作成の経緯、性質及び趣旨等を考えて、個別に考えることが妥当というふうに考えます。すなわち、先に合意の内容を推進するための行為を伴うものが共謀罪の要件として提案された後、先ほど述べたように、組織的な犯罪集団が関与するものについては、共謀罪の対象犯罪の範囲を限定するために、重大な犯罪の要件として我が国が提案し、それが受け入れられ、合意されたものでございます。

 このような経緯を踏まえれば、今申し上げたような解釈が適当であるというふうに考えております。

平岡委員 皆さんの頭では皆さんが説明したことが適当だというふうに言われるのかもしれませんけれども、こうやって条文になったものを見たら、私たちが言っていることの方がむしろ条文の文理解釈上も素直なんですよ。そういうふうに解しても、そんなに我々の国内法をつくるに当たって問題じゃないんですよ。だから、そういうふうに解釈しますということで宣言して、我々が提案しているように、共謀罪については国際性の要件を加えるんだということでいいんじゃないですか。それをあえてしないということは、何か意図的なものがあるというふうにしか思えないですよ。

 そのことだけ、文理解釈上も政府が言っていることはおかしいということについて私は指摘させていただいて、ただ、百歩譲って、文理解釈上は今まで説明されたようなことが仮に正しいとしたとしますよ、だけれども、これについて我が国の国内法制化をするに当たって、やはり大きな問題があるから、ここは条約の留保をする。先ほどの解釈の問題でいけば解釈宣言でいいわけですけれども、解釈宣言でやるのか条約の留保でやるのか、それを国内の立法者の判断を踏まえてやればいいというふうになるんだろうと思うんですね。

 そういう意味で、私は、条約の留保ということを前々から、長期四年以上の自由刑の部分についてと越境性の部分については問題とさせていただいているわけであります。せんだって質問をさせていただいたら、何か、条約の一言一句と違う国内法制化をしたら条約の趣旨、目的に反するんだというような答弁があって、私も、本当に政治家の答弁としていかがなものかと、愕然としてしまったわけでありますけれども。

 そこで、お伺いいたします。我が国は、これまでの条約締結に当たって、条約の趣旨、目的に両立しないものではないという理由で条約の留保を行ったことはあるんですか、どうですか。

伊藤大臣政務官 我が国が条約を締結する場合に、基本的にはこれを留保なしに締結することが望ましいとは考えております。また、条約上、留保を認める旨の明文の規定があり、我が国として必要と判断される場合には、当該規定に基づき留保を付すこととなります。

 他方、条約上、留保を認める旨の明文の規定が行われていない場合であっても、条約の趣旨及び目的と両立する範囲内で留保を付すことは、国際法上排除されていないところでございまして、我が国として、やむを得ない場合、これを行ってきたところでございます。

 いずれにしても、我が国がこれまで付してきた留保は、このような考え方に基づいており、条約の趣旨及び目的と両立する範囲で行っているものでございます。

 さて、その具体的な例ということの御質問でございますけれども、例えば、留保を認める旨の規定に基づき付した留保としては、万国郵便条約に付したものが挙げられます。(平岡委員「そんなことは聞いていないよ」と呼ぶ)よろしいですか。(平岡委員「行ったことがあるかと聞いているんです」と呼ぶ)ございます。

平岡委員 留保の規定に基づいて留保したなんて、今聞いていないんですからね。もう答弁しないでくださいよ。

 あるということであるならば、これまで、そういう条約の趣旨、目的に両立しないものではないという理由で行った留保というものについては、どういうものがあったんですか。

伊藤大臣政務官 留保の規定がない条約について行った例でございますけれども、例えば、児童の権利に関する条約、これは平成六年の締結でございますが、我が国は、自由を奪われた児童の成人からの分離の規定、第三十七条(c)第二の留保を付しております。同条は、自由を奪われたすべての児童、すなわち十八歳未満の者が成人から……(平岡委員「それはいいです。ほかには」と呼ぶ)

 私の方の手元には、もう一つ、一九七三年の海洋汚染防止国際条約の一九七八年議定書についてのことでございますが、議定書締結時、昭和五十八年、一九八三年において、現行条約を実態に合わせ改善すること等……(平岡委員「その理由はいいです。ほかには」と呼ぶ)ということでございます。

平岡委員 今、児童の権利に関する条約と海洋汚染防止条約の関係の議定書、二つ挙げられましたが、ほかにはないんですか。

石原委員長 これは事務方でいいですよ。答えてください。

 外務省長嶺審議官。

長嶺政府参考人 事実関係の問いですので、私の方からお答えさせていただきたいと思います。

 ただいま政務官から二例を御答弁申し上げましたけれども、それ以外のものといたしまして、例えば、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約あるいは人種差別撤廃条約等がございます。

平岡委員 政務官、どれだけ事前に勉強されたかわかりませんけれども、今政務官が言われた条約というのは、本当に、ある意味では留保というのは大したことのない話なんですよ。確かに、これはもう余り関係ない留保なのかもしれません。だけれども、後から事務当局が言ったものというのは、これはかなり条約の趣旨、目的に反するかもしれない、今までの外務省の答弁あるいは外務政務官が答弁してきたのでいくと、趣旨、目的に反する内容かもしれない、そういうものなんですよね。

 例えば、今御説明の中にありました国連人権規約Aのものについて言えば、例えばここに後期中等、高等教育の無償化の導入の話があるんですよね。これについては、我が国は、財政上お金が余りないからとかいったような理由でこれを留保している。この後期中等、高等教育の無償化の導入というのは、条約の中で書かれていたらこれは物すごく大事な話ですよ。こういう内容ですら条約の趣旨、目的に反しないということで、両立しないものではないということで留保されている。

 同じ条約の中で、例えば、公の休日に対する報酬を支払いなさい、こういう内容になっていることについて、我が国は、国民の祝日に賃金を支払うという社会的合意というものは存在しないと見るのが現状であろうということから留保している。これについても、公の休日に対する報酬を支払うということについては、これはある意味では条約の中で非常に重要な部分であって、これを留保するということは、今までこの委員会で外務省が答弁したことによったら、こんなのは条約の趣旨、目的に反するということで認められないかもしれない、こういう話ですよ。

 先ほどありました人種差別撤廃条約、この条約の中では、人種的優越または憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動等につき処罰立法措置をとることを義務づけている。こういう条約の中身であるにもかかわらず、我が国は、こういう問題については罪刑法定主義に反することにならないかについても極めて慎重に検討を要する事項であるというようなことを理由にして、やはりこれは条約の趣旨、目的に反しないということで留保をつけている、こういうことですよね。

 さらに、先ほど、今回の件について言えば、解釈宣言の中でも対応できるのではないかという話がありましたから解釈宣言について言いますと、先ほどの条約と同時に締結された市民的及び政治的権利に関する国際規約、一九七九年に批准されたものでありますけれども、この中で、警察には日本国の消防が含まれると解するというような、常識的に言ったら警察の中に消防が入るのかなというように私は思いますけれども、そういうことですら解釈宣言の中で、日本では警察の構成員には日本国の消防職員が含まれると解釈するんだというようなやり方で、条約の適用が国内的には行われないということをやっているわけですよね。

 今回、長期四年以上の部分ではいいけれども、長期五年以上あるいは五年超ということにしたら、これは条約の中核にかかわる話だから留保なんか認められないんだというような趣旨の答弁とか、国際性の話についても、そういう似たような、条約の趣旨、目的に違うことをすればいかにも反するようなことを言っていますけれども、そんなことは全然ないと思いますよ。外務大臣政務官、どう思いますか。

伊藤大臣政務官 今いろいろと御指摘があったわけでございますけれども、いずれの条約についても、趣旨、目的に合致する範囲内において留保したものであり、御指摘は当たらないというふうに考えております。

平岡委員 全く政治家らしくない御答弁で、非常に残念であります。

 これは、昨年の十月二十一日に、私、この件について質問しているわけです。留保を付すことは可能じゃないかということを言ったときに、当時は小野寺さんという大臣政務官であったわけですけれども、ここのところは、

 交渉過程において、本条約への留保については、ウィーン条約法条約の留保に関する規定が適用されることが確認されています。したがって、ウィーン条約法条約第十九条に従い、条約の趣旨及び目的を損なわない限度であれば、本条約に対し留保を付すことは、御指摘のとおり、可能であります。

  しかし、本条約については、既に平成十五年の通常国会におきまして、留保を付さずに締結することにつき国会の承認をいただいております。行政府としては、本条約につき、このような形で国会の承認をいただいている以上、当然、留保を付さずに締結することとしており、その前提での国内担保法の審議をお願いしているところであります。

こういうことなんですよね。

 当時言っていたのは、私たちが指摘している長期何年以上とか国際性の性質とかというのは、条約の趣旨、目的に反するものであるということではなくて、あるいは両立しないものではないということではなくて、これは、既に国会で承認をいただいているからもう留保を付さないでやりたいんだというふうに答弁しているんですよ。それが、この通常国会に入っての審議の中で急に、これは条約の趣旨、目的に反するものだ、これは条約の中核にかかわるものだというような説明になって変わってきたんですよ。政務官、これは本当に私はおかしいと思いますね。

 この経緯については、ここにおられる方がどれだけレクを受けておられるかわかりませんけれども、副大臣、よろしいですか。ちょっと私、今から質問しますので、しっかりと聞いてください。

 私は、この条約の中で、長期四年以上の自由刑とか、あるいは国際的な性質に関係なく定めるといったようなそれぞれの規定を留保することは、決してこの条約の趣旨、目的に両立しないものであるからできないというものではないと思うんですよね。だけれども、政治家として副大臣と法務大臣にお聞きしたいんですけれども、皆さんは、先ほど言いました二つの規定については、条約の趣旨、目的に両立しないものであるからできないと考えるのか、それとも、先ほど昨年の答弁も申し上げましたけれども、この規定について留保することは適当でないと考えるから留保すべきではないと考えるのか、どういう見解をお持ちでしょうか。政治家としての見解をお聞きしたいと思います。

 特に法務副大臣は、これから総裁選挙にも立候補されようという、本当に政治家としてこの国をどう導いていくかについてしっかりと考えなきゃいけない人。これまでのこの委員会の審議の中で、我々がこの問題についてはこうあるべきじゃないかということを主張してきたので、しっかりと聞かれたと思います。どういうふうに思われますか。

河野副大臣 政治家としてお答えをしろということでございますので、衆議院議員河野太郎といたしましては、本院が留保を必要とせず承認をしておりますので、私は、自分の所属する院の決定を最大限尊重したいと思います。

平岡委員 まあ、河野副大臣は、結局の話として言えば、この二つの規定を留保することは条約の趣旨、目的に反することになるということではなくて、院の決定に従いたい、こういう話ですね。これは別に院の決定に従う必要もないんですけれどもね。従う必要もないんですよ。今回の法律で、こういうものがつくられましたということならば、当然にこれは留保せざるを得なくなるということですから。副大臣は、先ほどの私の質問に対しては後者を選ばれたということですね。

 では、法務大臣はどっちを選びますか。政治家としての見解としてはどっちになりますか。

杉浦国務大臣 私は、留保することはできないと思っております。

 平岡先生のような御主張をなさるならば、条約承認の際にもっとそういう議論をなさるべきじゃなかったでしょうかね。外務省からもこの委員会で当初からるる答弁があったわけですが、もう繰り返すまでもないと思うんですけれども、繰り返すと時間がつぶれますから。

 御指摘の規定、私は、共謀罪の対象となる重大な犯罪を長期四年以上の拘禁刑とする規定ですとか、これに国際性の要件をつけてはならないという規定は、この条約の交渉過程でも、いろいろ御説明で聞かれました、最も議論になった事項だと承知しております。そういう議論を経て、もちろん、英米法だけじゃないです、回教法の国もある、いろいろな国のそれぞれの主権国家が議論をして、最終的に現在の条約の文言のように規定されたものであるというふうに理解いたしております。

 国際的に組織犯罪にきちっと対応する、そういう条約の趣旨からいたしまして、四年以上を重大犯罪とするということは至極妥当だと思いますし、それから、国際性の要件を付することは、先ほど枝野議員にお答えいたしましたが、捜査に着手していろいろやっていく過程で、わからないわけですから。実際、国際的犯罪につながるか、つながりかねないものに対応するには、実にふぐあいになるというふうに考えております。

平岡委員 大臣、そうは言われますけれども、この条約の審議の過程のときには、ここの共謀罪の問題については民主党の議員もしっかりと問題を指摘させていただいております。残念ながら、私はその当時、外務委員会にもおりませんでしたので、そういう議論には参加していませんけれども、今、主張すべきであったというふうに大臣が言われたということは、主張していれば、この規定について留保することは特に条約の趣旨、目的に反するものではないんだということですよね。(発言する者あり)いや、そうですよ。

 そんな、もともと反するんだったら、それは堂々と答弁すればいいですよ。そんなことで堂々と答弁しないで、人の揚げ足をとるようなことを言って、あのとき主張しなかったのが何でそんなこと言うんだ、そういうような答弁をしていたのでは、これは本来、我々は国民のために今この共謀罪の法律を審議しているんですよ、国民のために。本当に皆さんが不安に思っているんですよ。政府に対して不信感まで持っている。こういうような状況の中で、どうしてこれが本当に真摯な議論ができないのか。そんな揚げ足をとるような議論をしないでいただきたい、こういうふうに思います。

 それで、今、法務副大臣も法務大臣も、決してこの二つの規定を留保することが条約の趣旨、目的に反するものであるというふうな御答弁がなかったので、やはりこれは反するものじゃないんですよ。ここはやはり、そういう立場に立って法律の審議をしっかりとしていただきたいと私は思うわけであります。

 そういうことで、ちょっと国際的な話について、せっかくでありますので続けておきたいと思うんですけれども、まず、これは同僚議員が質問をしておりまして、そして私も昨年の十月に質問主意書で聞いていることでありますので、もうしっかりと準備は整っていると思いますから、お答え願いたいと思います。

 重大な犯罪ということで、定義が長期四年以上の自由刑ということになっているわけでありますけれども、先進諸国において、長期四年以上の自由刑というのはどれくらいあるのかということについて、日本を除くG8の国々について調査した結果をここで発表していただきたいと思います。これは通告してありますので、政務官。

伊藤大臣政務官 お答え申し上げます。

 G8諸国の国内法規における重大な犯罪、長期四年以上の自由を剥奪できる刑またはこれより重い刑を科すことができる犯罪を構成する行為でございますが、これに該当する刑の数については、これまで当方から照会した結果を今、順次御報告申し上げたいと思います。

 まず、米国については、そのような犯罪の正確な個数に関する情報は提供できないということでございます。すなわち、連邦の刑法典だけを見ても、少なくとも数百の犯罪が存在します。加えて、刑法典に含まれない、例えば環境犯罪や反トラスト犯罪のような多くの犯罪が特別な刑事規定として存在しまして、また、米国は連邦制度をとっておりますので、五十州がそれぞれ、この要件に充足する非常に数多くの犯罪を定めているところでございます。また、同国の連邦法においては、共謀罪につき特に法定刑の重さ等による限定を設けていないと承知しております。

 次に、イギリスでございますが、英国については、犯罪は単一の刑法ではなく膨大な個別法の中で定められているため、重大な犯罪に該当する犯罪の数を提供することはできないとのことでございます。また、共謀罪の対象犯罪については法定刑の重さ等による限定を付しておらず、理論的にはすべての犯罪について共謀罪が成立するものであるということでございます。

 次に、カナダでございますが、カナダについても、重大な犯罪に該当する犯罪の数は把握していないという回答を得ております。また、同国においては、正式起訴可能犯罪及び略式裁判で処罰される犯罪のすべてが共謀罪の対象とされていると承知しております。

 その他、G8諸国のうち、残るドイツ、フランス及びロシアからは、重大な犯罪の総数については承知していないとの回答を得ております。

 もう少しかいつまんで説明してまいりますと、ドイツについては、国際組織犯罪防止条約に言う重大な犯罪に該当する犯罪は、刑法のみならず、国際刑法や麻薬法などの特別法においても規定されており、そのような犯罪の総数が幾つになるかは把握していないとの回答を得ております。

 フランスについては、凶徒の結社罪の対象となる重罪または五年以上の拘禁刑が認められている軽罪の数については、刑法のみならず特別法にも犯罪規定があり、極めて多数にわたるので、その正確な数は把握していないわけでございます。ただし、刑法上の数に限れば、現在、二百十の犯罪が存在しているという回答を得ております。

 また、ロシアについては、刑法典の規定を初めとして重大な犯罪に関する規定が種々あるが、重大な犯罪に当たる数を具体的には承知していないとの回答を得ております。

 以上でございます。

平岡委員 これは先ほど枝野委員の方からも指摘がありましたように、そもそもの刑法体系が相当異なっているので、我が国と同列に論じることはできないということでありますけれども、よくよく考えてみると、それだけ本当にばらばらなんですよね。そういう中で、我が国が長期四年以上の自由刑に限定してつくったところで、今度は向こうから捜査協力依頼があったときには、それに応じられるか応じられないかというのは、また個別に見ていかなきゃいけないんですよね。

 そういう意味においては、これは四年以上と定めたからといってほとんど意味がないと私は思うんです。我が国は、重大な犯罪というのは、フランスが刑法で二百十とかと言っていましたから、我々が五年超にすれば三百六ですよね。それでもまだ我が国が多いぐらいですよ。我が国がそれぐらいのものをしたからといって、一体何が国際的に非難されなきゃいけないんですか。

 そういうことを考えてみたら、私は、長期四年以上の自由刑を守らなければ条約の趣旨、目的に反するんだというようなことを言うのは、これはもう本当に本末転倒というか、条約の趣旨を理解していない、そういうふうに言わざるを得ないですよね。

 さらにちょっとお聞きいたしますけれども、前に宿題になった話として、この条約の第五条に基づいて、立法化に当たって合意にオーバートアクトと言われる顕示行為というものを伴うこととした国というので、オーストラリア、ラトビア、サウジアラビアというものを挙げていただきました。

 それで、オーストラリアについては、どういうふうに規定してあるのかということについてはお聞きいたしましたけれども、昨年十月の二十八日に質問してそのまま宿題になっていますそれ以外の国々については、この顕示行為についてはどのように規定をしているんでしょうか。

伊藤大臣政務官 お答え申し上げます。

 オーストラリアは削除してよろしいわけですね。(平岡委員「聞きました」と呼ぶ)

 それでは、ラトビアからお話ししたいと思いますが、ラトビア及びサウジアラビアについては、本条約第五条3に基づき、国際連合事務総長に対し、自国の国内法上合意の内容を推進するための行為が求められる旨の通報をしていると承知しております。

 これらの国の国内法では、具体的規定ぶりについて、両国所在の我が国大使館を通じて鋭意調査を行った結果、以下のとおりでございます。

 サウジアラビアについては、イスラム法の原則に従い、処罰されるためには何らかの行為が必要であるとの回答を得ました。しかし、具体的にどのような行為が必要であるかということについては、十分な説明を得られておりません。

 また、ラトビアについては、合意の内容を推進するための行為に該当する行為に関して、同国の刑法の組織的な集団と題する規定の中に定められている旨の回答を得ました。しかし、その規定のうち実際にどの部分が該当するかについては、十分な説明を得られませんでした。

 これらの両国については、鋭意調査を行った結果、先ほど申し上げた結果が得られましたので、何とぞ御理解賜りたいと思います。

平岡委員 よく調べられなかったということについては理解しますけれども、ではどうするのかというと、やはりこれも、先ほどの長期四年以上の自由刑というのが、各国ばらばらでいろいろなものがあるというのと同じように、顕示行為と言われているものについてもいろいろあるということなんですよね。だから、それぞれの国がそれぞれの国の法体系に応じたものをつくればいいというのが条約の示唆しているところだ、条約が定めていることだというふうに私は解していいと思うわけです。

 そう考えてみると、今、与党提案者の方では、犯罪の実行に資する行為、これも、少しまた、何かもっと明確になるように検討されているというふうにも伺っていますけれども、犯罪の実行に資する行為というのは、我が国の法体系の中では、これも枝野委員が指摘していますけれども、今までなかった話で、一体どこからどこまでが入るのかよくわからない。息をすることも寝ることも、あるいは頑張れよというふうに声をかけることも、そういうことになるかどうかもわからない。

 さらに、今検討されているものが何かということは秘密でしょうから、言うことはできないということだと思うんですけれども、そういうことだと考えたときには、やはり私は、我が国の法体系から考えたときには余りにも広過ぎる。広過ぎると一体どういうことが起こるのかというと、結局、立証が難しいということになるので、捜査においては、また自白を強要するような、自白を偏重するようなことが行われてきてしまうのではないかというふうに思うんですよね。

 この点について、与党提案者、まだまだこの犯罪の実行に資する行為というのを、もっともっと我が国の刑法の法体系にこれまでなれ親しんだ、そういう概念でつくるということが必要ではないかと思いますけれども、どうですか。

早川委員 まず、御懸念の組織的な犯罪の共謀罪についてですけれども、与党修正案提案者としては、構成要件を厳格化、明確化し、かつ限定化する、こういう趣旨で作業をしているところであります。

 そのために、第一の方法としては、対象となる団体を、組織犯罪集団、組織的な犯罪を実行することを共同の目的とする団体、こういうふうに限定しておこうと。

 それから、御承知のとおり、犯罪の実行に資する行為という概念を提案させていただきました。これは、言ってみれば合意の内容を推進する行為、条約でこういった条件を付加することが認められている。その解釈の中で、犯罪の実行の結果から表現をして、犯罪の実行に資する行為という表現を選ばさせていただきました。

 しかしながら、それでもその適用の範囲が言ってみれば拡大される、ひとり歩きすることがあるのではないかという御懸念の中で、今私どもが考えておりますのは、犯罪の実行に必要な準備その他の行為、こういう表現ぶりではいかがであろうかと思っているところであります。

 その趣旨は、すべて平岡委員が御指摘になったように、あくまでもこれは組織犯罪集団の重大な犯罪の共謀、私はこれを、端的に言えば組織犯罪共謀罪、こういうふうに読めば誤解の余地がほとんどなくなるのではないかと思います。単なる共謀罪と言うからひとり歩きをしてしまったということだと思います。

 これまでは、団体という言葉が原案に出されておりました。この団体ということが、言ってみれば概念が、例えば飲み屋さんで話をしただけでも、あるいは労働組合がストライキを話し合っただけでも罪に問われるのではないか、こういうふうな解釈にどうもつながってしまった。そういうことをいろいろ工夫を重ねた結果、現時点では、組織的な犯罪集団、共謀も組織犯罪共謀、こういうふうに言うことがいいのではないか。

 さらには、一番大事なことは、私どもは最終的な提案というふうに考えているところでありますけれども、労働組合、これがまさに出てくるということで、留意事項というのをさらに詳細に規定することによって拡大解釈がないようにしよう、こういった三点からの努力をしているところであります。

平岡委員 与党提案者が今検討している内容を言われたので、またその部分は、現実に修正案という形で出てきたらしっかりと聞こうと思いますけれども、今、犯罪の実行に必要な準備その他の行為というふうに私には聞こえました。まあそういうことだと思いますけれども、準備というのは法律の中にも時々出てくる話ですよね、刑法の中でも。その他の行為というのは、準備以外に何があるんですか。

早川委員 大変恐縮でありますけれども、これはまさに、与野党の共同修正を実現するために今一生懸命検討しているところであります。その規定ぶりについて御疑念がないようにという協議を今しているところであります。

 言ってみれば、実行に必要な行為ということを類型的に考えて、犯罪の実行に必要な準備その他の行為。これは決して「犯罪に必要な準備、その他の行為」ではなくて、「犯罪の実行に必要な準備その他の行為」、こういうことになります。これは準備罪という考え方もありますので、準備罪というふうな刑法上の概念に該当する行為だけが該当するということになりますと、いわゆる重大な犯罪を実行することを共謀する組織犯罪集団の犯罪実行を未然に防止する、そのために国際社会が連携をしようというこの条約の締結並びにそれに伴う国内法の整備という趣旨には相反することになります。以上の趣旨であります。

平岡委員 結局何でも入るんだという、ほとんど今までと変わらないことを、ただ単に準備という言葉を例示的に挙げることによってごまかそうという、何というんですか、朝三暮四とか何かありましたよね。本当に、もっともっと与党提案者の方々は、実質的にこうだったんだから犯罪が絞り込まれたんだ、そういうのを示してくださいよ。何か知らぬけれども、こういうようなこそくな手段で提案されると我々は本当に困ってしまう。

 ちょっと時間がなくなってしまって、まだ組織的犯罪集団の話、一番メーンのところが残ってしまっているので、また、まだまだ審議する時間はたっぷりあると思いますから、きょうはついでに、我々が提案している、犯罪の実行に資する行為というふうに皆さんが言っておられるところについては予備という形で、これは刑法の中でも規定してありますし、判例でもいろいろと出てきて、どういう概念かということはそれなりに確立をされておるし、多くの国民の皆さんも大体こんなものだということについて理解しているわけですけれども、何で予備ということではだめなんですか。

早川委員 国際組織犯罪防止条約が許容しています合意の内容を推進するための行為という要件は、米国法のいわゆるオーバートアクトを念頭に置いたものと考えられますけれども、米国法におけるオーバートアクトの要件は、あくまで共謀を処罰の対象としつつ、その処罰範囲が不当に拡大することを防止するため、共謀の段階から実行に向けた段階に移ったことのあらわれである行為が行われたことを要件としているものと考えられ、この条約が合意の内容を推進するための行為の要件を付加することを認めている趣旨も同様に解することができると考えられます。

 他方、予備罪における予備行為は、その行為自体が処罰の対象となるものであり、また、予備罪における予備行為と言えるためには、犯罪の実現にとって客観的に相当程度の危険性を備えたものであることが必要であるとする裁判例もあります。

 したがいまして、国内法において合意の内容を推進するための行為に相当する要件を付加する場合に、このような、犯罪の実現にとって客観的に相当程度の危険性を備えた行為であることが必要であるとすることは、共謀それ自体を犯罪として処罰の対象とすることを義務づける条約の趣旨に反するおそれがあると考えられることから、適当ではないと考えられます。

平岡委員 今、予備が処罰の対象になっていると言いましたけれども、予備というのは予備罪というのをつくらない限りは処罰の対象にならないんですよ。それは勘違いですよ。予備という行為そのものは、いろいろなものがあるわけですけれども、予備罪というのをつくらない限りは犯罪の処罰の対象にならないんですよ。それをまず、しっかりと認識し直していただきたい。

 それから、アメリカでオーバートアクトというのがあるからそれに倣ったものだと。さっきから議論されていますが、いつからアメリカの属国に日本はなったんですか。アメリカでオーバートアクトを使っているから日本でもオーバートアクトを使わなきゃいけない、そんな理屈はどこにもないですよ。

 そういうことを考えたら、さっき言ったラトビアだとかサウジアラビアだって自分の国の、準備行為、顕示行為というものをしっかりと自分の国の法制の中で考えているんですから、日本だってそうやって考えればいいじゃないですか。そんなところで遠慮することなんか全くないですよ。

 そういうことを申し上げて、時間が来たので終わりますけれども、一番本体のところの組織的犯罪集団、この議論がまだまだわかりにくくなっているので、しっかりと議論させていただくことを最後に申し上げまして、私の質問を終わります。

石原委員長 次に、保坂展人君。

保坂(展)委員 社民党の保坂展人です。

 杉浦法務大臣に伺います。

 日本ペンクラブが、今回の共謀罪反対の声明を出されました。長いので全文は紹介しませんが、

 共謀罪の導入がこの世の中と、そこで暮らす一人ひとりの人間に何をもたらすかは、あらためて指摘するまでもない。民主主義社会における思想・信条・結社の自由を侵すことはもちろんのこと、人間が人間であるがゆえにめぐらす数々の心象や想念にまで介入し、また他者との関係のなかで生きる人間が本来的に持つ共同性への意思それ自体を寸断するものとなるだろう。

  この国の戦前戦中の歴史は、人間の心象や意思や思想を罪過とする法律が、いかに悲惨な現実と結末を現出させるかを具体的に教えている。私たちはこのことを忘れてはいないし、また忘れるべきでもない。

こういう部分ですね。

 ペンクラブですから、格調高く、大変懸念を表明している。反対だ、こういう意見ですが、どういうふうに考えますか。

杉浦国務大臣 ペンクラブの方々は立派な方々ばかりなんですけれども、全く誤解されていると思うんですね。もう嫌になっちゃうんですよ。もっと正しく、素直に理解していただきたいと思うんですけれどもね。本当にそう思いますよ。組織犯罪集団を処罰するために我々は一生懸命検討しているわけですからね。

 私どもを呼んで、ペンクラブで話させていただければ、お伺いしてよく御説明申し上げますけれども、ペンクラブでもどこでも伺いますが、本当に今おっしゃったような趣旨、私はテレビで見ましたけれども、えらい誤解されているなと本当に残念に思いましたね。

保坂(展)委員 嫌になっちゃうなと言われたら、これはちょっと、今回の法案を提出している法務大臣ですからね、国民に対して理解も求めなければならない。

 国民の中でも、日本ペンクラブも一つの大きな影響力もあり、また歴史もある団体ですよね。井上ひさしさんに直接会って、誤解ですと言って、きちっと理解を求めるつもりはありますか。

杉浦国務大臣 ここでしっかりと御審議いただいて誤解が解けつつあると思いますし、修正の協議も行われて、御懸念を払拭するように一生懸命高山先生も汗を流していただいておるわけですから、この法案の仕上げということで結果を示したらいいんじゃないでしょうか。

 そのペンクラブのような誤解はあちこちあることはよく承知しておりますけれども、この国権の最高機関である国会の委員会でよく御審議いただいて、そういう方々の持っておられる懸念を一掃することが一番大事だと私は思っております。

保坂(展)委員 国民の理解をということを言うのであれば、私は、そこまで、嫌になっちゃうよというふうにおっしゃるのであれば、きちっと連絡をとってお話しになるのが筋だというふうに指摘しておきます。

 具体的に法案の内容に入っていきますが、刑事局長に伺います。共謀の既遂は合意の成立をもって認めるということですが、成立前、共謀の合意に至る過程を法務省は何と呼ぶんでしょうか。

大林政府参考人 お答え申し上げます。

 共謀、すなわち犯罪を実行することについての具体的かつ現実的な合意が成立するまでにはさまざまな過程をたどるものと考えられますが、共謀の成立時期については、当該事案における具体的な事実関係に基づき、目的、対象、手段、実行に至るまでの手順、各自の役割等、具体的な犯行計画を現に実行するために必要とされる各種の要素を総合的に考慮して、具体性、特定性、現実性を持った犯罪実行の意思の連絡とその合意がなされたと言えるか否かによって、個別具体的な事案ごとに判断されることになるものと考えております。

 そして、この共謀が成立する前の段階につきましては、法律で何か定義づけなければならないといったものではございませんし、また、個別の事案ごとに、共謀が成立するまでにどのような過程を経るかは千差万別でございますので、どのような言葉で言いあらわすことができるのか、一概に言うことはできませんけれども、一般に、共謀罪が成立していない段階とか、共謀が完成していない段階などと呼んで差し支えないのではないかと考えております。

保坂(展)委員 例えば、昨年の議論の中で、一般的な用語で言えば、まだ完成していなくて、ぐるぐる回っているようなイメージとか、あるいは、もやもやしている段階と刑事局長は言っているんです。説明してもらえますか。個別具体的な事案に即してと言われちゃうと、これは審議できなくなっちゃいます。どうぐるぐる回っているのか、どうもやもやしているのか。

大林政府参考人 今申し上げましたように、共謀というのはいろいろな形態があろうかと思います。その過程において、その一つの比喩的な表現でございまして、逆に言えば、それが確定したといいますか、共謀罪として問えるような状態を、先ほど申し上げたとおり、共謀罪が成立しているというふうな言い方ができると思います。

 ですから、その前の過程については、まだ完成していないという状態であって、それは比喩的な、あるいは法文上の表現ではございません。その前の段階ということで御理解いただきたいと思います。

保坂(展)委員 少なくとも、刑事法の答弁で刑事局長がもやもやしたとかぐるぐるとか言わざるを得ないという、大変御苦労だと思いますけれども、それだけあいまいだということを我々は問題にしているわけなんですね。

 もう一点伺いますが、共謀中でも、合意に至らなければ共謀罪とは認められないんですね。そして、共謀の開始から合意に至るまで合意すれすれのところを行きつ戻りつすることは容易に想像できますよね。つまり、そこがぐるぐるという意味ですかね。成立するか成立しないかというところをぐるぐる回ったり、何かそれが成立したんだかしていないんだかフォーカスが絞り切れない、それがもやもや、これでいいですか。

大林政府参考人 一般的なことで申し上げますと、共謀というのは、先ほど申し上げたとおり、いろいろな過程を経るものがあろうと思います。

 それは、割合とはっきりした形で早期にできるものもあれば、恐らく、組織の問題ですから、いろいろなことを考えながら、例えばの話、それは組織により行われるわけですから、だれをそれに充てて犯罪をするとか、それはまずいという事情があるとか、そういう意味において、共謀のいろいろな形態の中には、いろいろな相談をしながら進んでいくものもあろうかと思います。

 ですから、そういうものの一つとしての比喩的な表現だということで御理解いただきたいと思います。

保坂(展)委員 ですから、国民の間でもやもやした気持ちが晴れるように、やはりすっきりさせていただかなければならないというふうに思います。

 昨年も刑事局長と議論したんですが、子供に悪いことをするなよというふうに親は言いますね。では、悪いことを言うなよというふうにこれからは言わなきゃいけないのかなと。悪いことを発言するな。でも、よく考えてみると、悪いことを言うやつの近くにいるなということにならないかという点を、ちょっと一例挙げて伺います。これは私の創作ですから、現実の事件ではありません。

 十九歳のA君が中学時代の同級生四人に数年ぶりにばったり会いました。久しぶりじゃん、おれたちこれからカラオケに行くんだよ、一緒に行かないかと誘われました。中学時代に親しかった子が一人いて、いや、昔は悪かった子と一緒だったのが心配だった、だけれども、向こう側が、すげえ偶然会ったんだからつき合えよと言われて、まあいいかと思ってカラオケに入った。ひとしきり歌った後、雑談になりました。何かむかつくな、金ないし、すかっとすること何かないか、体格のいいBが言った。この前はうまくいったから、またやりますか、お調子者のCが言い出した。このA君は何のことかわからなかった。おい、秘密の話だからな、だれも言うなよ、動転しているAの表情をとらえてBがおどしをかけてきた。何が秘密なのか。Bがおどしをかけてきたこの目つきが怖くてすくんでしまった。おまえ、あすの夜に必ずこの店の前に来いよ。A君は黙っていた、無言です。下を向いているAにBは、わかったなと念を押した。

 実は、これはおやじ狩りの共謀の場面です。Aは話の内容が具体的に何を指しているのか十分わからなかったが、やばいという空気は読めた。Aの精いっぱいの抵抗は、黙って下を向いていることだった。

 翌日、おやじ狩りは実行されませんでした。メンバーの一人、Dが警察に駆け込んで計画を暴露。Aも含む四人は強盗の共謀容疑で逮捕された。Aは何度も深くうなずいて、メンバーとなる意思表示をしたとDは証言している。犯行に加わらないならなぜ黙っていたんだ、君も仲間なんだろうと沈黙の意味を問われて、Aは違うんですと必死に否定したが、なかなか認めてもらえなかった。

 つまり、黙って下を向いている、しかし、わかったなと念を押される、こういうことはあり得ますよね。これは、労働組合でもNGOでもない、ごくありふれた若者の世界に起こる話ですが、これはどうですか。おやじ狩りを繰り返していたとする。

大林政府参考人 結論から申し上げれば、ならないというふうに考えます。

 その理由として、今おっしゃられる、まず、その故意があるのかどうかというそこの問題が、いわゆる犯罪に対して加わる意味の今の認識の問題が、事情がよくわからないということを前提にしておられますから、まずそこの問題があろうかなと。

 それから今度、共謀罪について言えば、団体とは、その共同目的とする多数人の継続的結合体だ、団体の活動として、組織により行う、そういうものでなければならないという団体性の問題についても、今のような、ただ昔の人が集まったというだけで団体性が出るものでもないというようなことから考えて、今の御提示の事案というのはその共謀罪等になるものではないと考えております。

保坂(展)委員 そうおっしゃいますけれども、カラオケに行ったこの少年グループのうち二人以上が、では、こういった当該おやじ狩りみたいな行為、これは犯罪ですね、これを繰り返すことを結集軸としていたと。いわば混和的な集団ですね。A君はそういう事情を知らないで行った。そのときに、わかったなと念を押され威迫されて黙っていたということを、結局、これはどうですか、供述中心の捜査になるんじゃないですか、おまえがそこで合意していたかどうかということが問われるんじゃないですか。

 刑事局長はその団体性のところで言いますけれども、では、仮にその団体性のところがクリアされていれば、まさに組織的犯罪集団だったというふうにクリアされていれば、捜査は、心の中で何を思ったのか、おまえは共謀に入っただろう、こういうことが焦点になりませんか。そのときに、共謀に入っていない、同意していないということをどうやって証明すればいいんですか。

大林政府参考人 今おっしゃられていることは、共謀罪だけではなくて、一般の犯罪の共謀でも言える話だと思います。それは、収集された証拠をどう判断するか、基本的にはそういう問題であろうかと思います。

 ですから、今おっしゃられるような事例、例えば、主犯がいて、もう一人の者が余り認識ない、あるいは積極的な同意をしていないという問題については、当然それは、事実認定の中において、捜査機関において、あるいは裁判において、そのような事実認定ができるのかどうか、専ら証拠及びその証拠の判断によるものではないかと思います。

 ですから、一般的に申し上げて、共謀罪の場合に、共謀を前提としますから、実際の実行行為がありませんから、その点において立証が非常に困難であるということは間違いないというふうな認識ではいます。

 ただ、今おっしゃられる問題は、共謀があるかないかということで、一般の事件においてもそういう問題は争われることですし、それについて立証しなきゃならないことだと考えております。

保坂(展)委員 この共謀罪に対して世間の理解が広がらない。法務大臣がおっしゃるように、いろいろ誤解が云々というところに、明らかに、これは共謀が成立した、合意した後に翻意するということがあるわけです、現実には、人間集団の中で。個人の内面では当然ありますね。そして、複数人でもあります。しかし、それは既遂であって取り消せない、こういうことですね。このことは、どう考えても国民の理解を得にくいんじゃないですか。つまり、社会的な損害を発生しないわけです、犯罪が実行されないわけだから。

 我々は、法律で、いろいろ刑事法で縛ると同時に、人間の良心なり良識なり、そういうものをまず強固に取り戻していくという、内面の中でおかしなことを考えたときに引き返す、黄金の橋とも言われますが、そういうところを焼き切っているということ、これはおかしいと思いませんか。

大林政府参考人 委員御承知のとおり、犯罪が着手した状態で未遂になった場合、自発的にやめた場合に中止未遂という制度はあります。しかし、これは前から御説明しているとおり、共謀罪というのは、共謀が成立した、そこでもう犯罪が成立してしまいますので、その後は、一つは、今問題になっている自首減軽の問題がありますけれども、その中で、あとはもう量刑的な問題等処分の問題でいろいろ考慮されることだろうと思いますけれども、今のように犯罪が成立した場合には、もうそこで評価せざるを得ないというのは共謀罪の特質でございますので、それはやむを得ないことかというふうに考えております。

保坂(展)委員 団体性の要件というのは政府案にありましたね、今回は与党でいろいろ修正をされていますが。

 もともとの政府案で、それこそ団体性を十分認めることができる、いわば犯罪を目的とした団体であると認めることができる、こういう集団の中で、必ずしも会議とかあるいは綿密な打ち合わせなどを要せずに、比喩ですが、目くばせでも成立をしますと。そういう条件を前提として、刑事局長が言ったのは、そういう団体性の要件などを全部満たしていれば、いわゆる実行行為を促すサインとして目くばせでも成立します、こう言っていますが、お変わりはありませんか。

大林政府参考人 先ほども申し上げたとおり、法案の共謀罪が成立するためには、漠然とした相談では足りず、これから実行しようという犯罪の目的、対象、手段、実行に至るまでの手順等について、具体的かつ現実的な合意がなされなければなりません。

 また、法案の共謀罪は、重大な犯罪のうち、厳格な組織性の要件、すなわち、団体の活動として、当該犯罪行為を実行するための組織により行われるもの等の要件を満たすものに限って成立しますので、暴力団の殺傷事犯やいわゆる組織ぐるみによる振り込め詐欺のように、犯罪を実行するための組織の構成、指揮命令の方法や各人の役割分担等についても、具体的かつ現実的な合意がなされなければなりません。

 したがって、このような犯罪の遂行に向けた具体的かつ現実的な合意が、目くばせだけによって行われることは考えられないと思います。

 もっとも、この組織的な犯罪の共謀罪についても、他の犯罪と同様、その態様はさまざまであって、例えば、暴力団の組員らが事前に綿密に犯行の計画を立てて準備を進めた上で組長にその実行の最終的な了解を求めたときに、組長がそれを了承したというような場合には、具体的かつ現実的な合意がなされたと認められることもあり得なくはないと思います。

 私の前の答弁は、そのような暴力団の組織や活動の実態を前提とし、かつ、事前に綿密な相談がある場合について申し上げたものであり、目くばせだけで共謀罪が成立すると申し上げたものではございません。

保坂(展)委員 これは当たり前のことを今刑事局長は答えているわけで、目くばせだけだったら、まばたきもしますからね。まばたきも今質問中何回かしたらもう共謀罪成立なんて、そんなばかな話はないわけです。

 大臣、今局長が答弁しましたけれども、そういった団体性の要件を備えていれば、つまり、簡単に言えば犯罪着手に至るスタンバイですね、できていれば、目くばせでも成立する場合があり得る、こういう答弁ですが、それでいいですか。

杉浦国務大臣 今の局長答弁は、詳細を尽くしていたんじゃないでしょうかね。

 ワンフレーズだけ独走しますと誤解を生みますので、目くばせだけで、先生がおっしゃっただけで成立するわけがないわけですし、局長が言ったような綿密な共謀、謀議を重ねて、その上でということであれば、あり得ない話じゃないとは思うんですが。

保坂(展)委員 今大臣が言われたのは、私は目くばせだけで成立するなんということはないと言っているわけですね。局長がるる答弁したように、前提があって、暴力団だ振り込め詐欺、今例を挙げました、そういうことが積み上がっていて、そして目くばせが合意のサインだったということはあり得ますねと聞いているんです。

杉浦国務大臣 あり得るとは思うんですが、新聞の記事になりますと、目くばせだけでというのが躍っちゃうんですね。それが怖いんですね。誤解を生みますから、目くばせだけでは成立しないと申し上げた方がいいと思います。

保坂(展)委員 これは全然かみ合っていないですよ。だって、局長はそういった前提があれば成立するということを昨年の答弁で申し上げましたと言っているんですよ。目くばせだけで成立しますかと聞いていない。この政府提出の共謀罪の前提条件たる団体のところがクリアされていて、だれが何をやるかというようなことも全部決まっていれば、そのリーダーが目くばせをするということで共謀成立というのはあり得ると答弁しているんですよ。

 ないんだったら、では、全部修正してくださいよ。大臣のリーダーシップで全部取り消してくださいよ。そうしたら、今までの刑事局長答弁と違いますよ。おかしいです。

大林政府参考人 先ほど申し上げましたけれども、組員らが事前に綿密に犯行の計画を立てて準備を進めた上で組長にその実行の最終的な了解を求めたときに、組長がそれを了承したというような場合には、具体的かつ現実的な合意がなされたと認められることもあり得なくはないと思います。ただ、それは具体的な事実関係によりますから、成立するとかしないとかいう一般論はちょっと言いがたいんですけれども。

 ですから、それはさっきから申し上げているとおり、共謀というのは、おっしゃられるようなまばたきであろうとも、あるいは黙示の、うなずくという、前おっしゃられていましたね、そういうものの中でも共謀の一部を構成するということは当然あるというふうに考えております。

保坂(展)委員 大臣、これはちょっとやはり局長と、私は大林局長は正直にこの法案の中身を答弁されていると思うんですよ。だって、これまでの最高裁判例とかを見ていけば。

 今ちょっとびっくりしたのは、私は目くばせと言ったんだけれども、今、まばたきも出ちゃったんです。まばたき、これはどうですか。いろいろな状況が積み上がっていればまばたきでもでは、これは何もしなくてもに等しいじゃないですか。

杉浦国務大臣 私にはちょっと、まばたきというのは聞こえなかったですけれども。

保坂(展)委員 今の刑事局長の答弁は、この共謀罪では、団体性があり、そしてその共謀の下地をつくる種々の条件が出そろっていれば、目くばせとかまばたきとか、その他のことでも成立することはあり得なくはないと言ったんですよ。これはどうですか。そのとおりですか。

杉浦国務大臣 まばたきだけで共謀罪が成立することはあり得ません。

保坂(展)委員 まばたきだけで共謀罪が成立したら、あらゆる、人類はみんな共謀罪ですよ、そんなことを言ったら。大臣だって今したじゃないですか。そんなことは言っていない。

 つまり、黙示の共謀、暗黙の共謀というのはあるわけでしょう、打ち合わせも何もなくて。それはあり得なくはないと刑事局長は言っているじゃないですか。それは法務大臣としてちゃんと説明責任を果たすべきじゃないですか。

大林政府参考人 私は、今の大臣の答弁と私の答弁が矛盾しているとは考えておりません。

 委員がおっしゃられているとおり……(保坂(展)委員「目くばせは意思ですよ、まばたきは自然行動だよ」と呼ぶ)それは、先ほど言いましたように、黙示の行動というのはいろいろあって、周りの集団において、このようなサインがあればこうだというふうな場合もあろうかと思います。それは一般論の問題でございまして、また委員がおっしゃられるように、そういう黙示の行動だけで足りると思っていないというのは委員もおっしゃっておられるところだし、私どももそう申し上げているところでございます。

 ですから、そういう勝手知ったる集団の中で、いろいろなサインをもって共謀がなされるということも、それはあり得なくはないということでございまして、矛盾はないというふうに思っております。

保坂(展)委員 法務大臣、この法案の立法者はだれですか。

杉浦国務大臣 政府が提案しておりますけれども、国権の最高機関である国会であります。

保坂(展)委員 先日、例えば強制執行妨害罪で、子供に対して学資保険が満期になってこれを譲るということ、これは強制執行妨害の無償譲渡に当たらないという答弁を刑事局長はしたんですよ。私は、それは大事な答弁だ、逐条解説にこれを書くように指示してください、こういう質問予告をしたら、いや、そういうことはできません、だって、これは担当立法者が個人の見解に基づいて書くものですと。では、国会審議は何なんだ、こういう疑問を持ったんですね。

 大臣は、この審議の中で必要なものはやはり逐条解説にもきちっと書くように指示することはできますか。それとも、立法者というのは担当の局付検事なんですか、法務省の場合。はっきりさせてもらいます。

杉浦国務大臣 いわゆる逐条解説書というものは、法務省がその出版に関与するものではございません。どのような内容がこれに記載されることになるかについてはお答えすることはできませんが、仮に、今回の法案の立案作業等に従事した担当者により逐条解説が執筆されることになりました場合には、通常は、その執筆者は、国会における審議内容を参考にすることはもちろんのこと、必要に応じて、そこでなされた答弁の具体的内容についても記載することになると思います。通常はそう思います。

保坂(展)委員 だから、法務大臣は、これは今回の国会審議で大事だから逐条解説にきちっと書きなさいよということを、政治家として、政策をつくる責任者として指示することはありますか。それは、逆に言えば、法務省からすれば、いや、大臣の越権行為だ、それは担当者が勝手に書くものだ、個人的に書くものであって、法務省からそれはいろいろ言われたくない、こういうふうに言われたらどうしますか。

杉浦国務大臣 大臣の指示に基づいてつくるわけではございませんので、大臣がそういうようなことまで一々指示するのはいかがかと思いますが、当然のことながら、今答弁申し上げたとおり、立法者は国会でございますから、逐条解説書なるものは、別に担当者であろうと、学者とかいろいろな方が逐条解説をつくっておられますけれども、国会の審議を十分に踏まえて逐条解説をされるべきものだというふうに思っております。

保坂(展)委員 逐条解説というものがこうやって出ていて、それをめぐって議論もありますが、時間になりましたので、さらにこれは議論をさせていただきたいと思います。

 終わります。

石原委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後五時四十二分散会


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