衆議院

メインへスキップ



第3号 平成21年3月17日(火曜日)

会議録本文へ
平成二十一年三月十七日(火曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長 山本 幸三君

   理事 大前 繁雄君 理事 桜井 郁三君

   理事 塩崎 恭久君 理事 棚橋 泰文君

   理事 谷畑  孝君 理事 加藤 公一君

   理事 細川 律夫君 理事 大口 善徳君

      赤池 誠章君    稲田 朋美君

      近江屋信広君    河井 克行君

      木村 隆秀君    木挽  司君

      笹川  堯君    清水鴻一郎君

      杉浦 正健君    平  将明君

      長勢 甚遠君    萩山 教嚴君

      早川 忠孝君    平口  洋君

      町村 信孝君    武藤 容治君

      森山 眞弓君    矢野 隆司君

      柳本 卓治君    石関 貴史君

      河村たかし君    寺田  学君

      中井  洽君    古本伸一郎君

      神崎 武法君    保坂 展人君

      滝   実君

    …………………………………

   法務大臣         森  英介君

   法務副大臣        佐藤 剛男君

   法務大臣政務官      早川 忠孝君

   最高裁判所事務総局総務局長事務取扱        小池  裕君

   最高裁判所事務総局人事局長            大谷 直人君

   最高裁判所事務総局刑事局長            小川 正持君

   最高裁判所事務総局家庭局長            二本松利忠君

   政府参考人

   (内閣法制局第二部長)  横畠 裕介君

   政府参考人

   (法務省大臣官房長)   稲田 伸夫君

   政府参考人

   (法務省大臣官房司法法制部長)          深山 卓也君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    大野恒太郎君

   法務委員会専門員     佐藤  治君

    ―――――――――――――

委員の異動

三月十七日

 辞任         補欠選任

  長勢 甚遠君     平口  洋君

  町村 信孝君     木挽  司君

  山田 正彦君     寺田  学君

同日

 辞任         補欠選任

  木挽  司君     町村 信孝君

  平口  洋君     長勢 甚遠君

  寺田  学君     山田 正彦君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 裁判所職員定員法の一部を改正する法律案(内閣提出第一七号)


このページのトップに戻る

     ――――◇―――――

山本委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、裁判所職員定員法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として内閣法制局第二部長横畠裕介君、法務省大臣官房長稲田伸夫君、法務省大臣官房司法法制部長深山卓也君、法務省刑事局長大野恒太郎君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

山本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

山本委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局小池総務局長事務取扱、大谷人事局長、小川刑事局長及び二本松家庭局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

山本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

山本委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。平将明君。

平委員 おはようございます。自由民主党の平将明でございます。

 昨年の秋に法務委員会の委員とならせていただきました。きょうは初めて質問をさせていただきます。経済産業や金融の部門では経済産業委員会でいろいろ勉強させていただきましたが、今回初めてということで、ちょっと的外れな質問になるかもしれませんが、御容赦をいただきたいと思います。

 本日は、裁判所職員定員法の一部を改正する法律案ということで質問をさせていただきますが、まずは、この法律案、判事や判事補を計画的に増強していくということでございますが、増強していくということに関しては全く異論はないわけでありますけれども、増強する一方、彼らの質の担保をどうするのか、また、専門性を要する分野で判断を下すために、そのバックアップ体制や研修はどうなっているのか、そういったところをお伺いしたいと思います。

 まず、私は、今、さまざまな司法に関する部分で、よく現場を熟知した人から、これはおかしいんじゃないかといったことが提起をされたり、また、判決とかそういったものが社会全体に非常に大きな影響を与えて、結果、国民生活に大きな悪い影響を与えるということも多々見られるわけでありますので、幾つか例を挙げて、その質問につなげてまいりたいと思います。

 一つは、医療関係であります。

 医療というのは大変専門性の高い分野であって、それが本当に正当な行為であったのか、もしくは無謀なチャレンジであったのかといったことを判断することは極めて難しいんだと思います。

 例えば、平成十六年の有名な事例でありますけれども、福島県大野病院の産婦人科の執刀医が難しい分娩手術をして、大変不幸なことに、出産をされた後に女性が死亡したという事件がございました。

 これは、執刀医が業務上過失致死と医師法違反に問われたわけでありますけれども、この執刀医の逮捕、起訴をめぐって、現場をよく知る医療関係者からは大変反発が起きた。そして、医療現場が萎縮をするといった指摘もあったわけであります。そして、その後、産婦人科を志す若者が激減をし、また、日本じゅうの産婦人科、診療所で分娩の取り扱いをやめて、いわゆる深刻な産婦人科不足が加速をすることになりました。

 結論としては、去年の八月二十日に福島地裁で無罪判決ということになりましたけれども、社会にかなり大きな影響を与えて、司法の判断といったものが問われた事例であったと思います。

 二つ目は、金融関係。

 グローバルな経済社会がどんどん発展をしていく中で、どこまでセーフでどこまでアウトなのかといった、非常に微妙な判断が求められるわけでありますけれども、一つ事例として挙げさせていただきたいのは、例の村上ファンドの村上元代表の証券取引法違反事件の有罪判決であります。

 村上代表を擁護する気はさらさらありませんけれども、これはかなり先端的な金融取引に対する判断でありますし、この判断自体が投資行動や企業の行動、またMアンドA、そういったものに大きな影響を与えますし、これも、先ほどの医療の判断と同じように、現場を熟知した人からは、ちょっと首をかしげるような判断ではないかといった提起がされているわけであります。

 この村上ファンドのインサイダーの事件は、ざっくり言うと、もともと村上ファンドがニッポン放送の株を持っていた、それを背景にしてニッポン放送にいろいろな要求をのませようと思ったけれども、なかなかうまくいかなかった。そこで、だれか協力者はいないかということで、ライブドアを巻き込んで、そしてライブドアとフジテレビのいわゆる株式取得合戦を過熱させて、その間に村上ファンドが高値で売り抜けたというのが問題の本質だと思います。

 実際、この判決はどういうことになっているかというと、要はインサイダー取引で有罪判決を出したということになっています。ちょっとわかりにくいかもしれませんが、このインサイダーの有罪判決というのは、実は市場関係者にとっては非常に大きな影響を与えました。

 私もさまざまな文書を読みましたけれども、例えば、実現をする可能性の高い低いは関係ないといった裁判官の指摘があったりして、例えば、ある企業を、ある一定の株式を取得して経営に影響を与えたいと思っている人がいたとして、それを阻止するためには、また別の第三者が、うちの会社、執行部があそこの株を五%以上保有しようということで今動いていますよという情報を敵対的買収をする相手に伝えると、それを聞いちゃったということで、その人は、その株を買うとインサイダーに問われる可能性があるという事例であります。

 本来であれば、証券市場の機能をもっともっと活性化しなければいけないにもかかわらず、本来は違う法律、違う条項で村上ファンドの事件は断罪すべきところを、無理くりインサイダーで挙げる、インサイダーで有罪を問うということで、結果何が起きたかというと、インサイダーの認定、インサイダー取引の成否の判断基準をこの判決によって不当に拡大してしまったということであります。

 さらに我々が衝撃を受けたのは、普通の感覚を持った人は衝撃を受けると思いますが、本件判決の中で、村上被告が、ファンドなのだから、安ければ買うし、高ければ売るのは当然だと言った言葉に対して、裁判官が、このような徹底した利益至上主義には慄然とせざるを得ないと述べたというのが広く伝わっております。慄然というのは、辞書で調べると、恐ろしさで身が震えるさまということですね。ファンドなのだから、安ければ買うし、高ければ売るのは当たり前だというのは、私は当たり前だと思っています。

 これはどういうことかというと、安く仕入れて高く売るということですから、これを恐ろしさで身が震えるほどびっくりしたと裁判官が言っているということは、要は、商売全部を否定しているようなものです。この理屈でいけば、百貨店もコンビニも商社も全部断罪されなければいけないということになるわけでありまして、ここにその裁判官の非常に浮世離れした感覚というか、公務員というのは、決まった月の決まった日に必ず給料が入って、親方日の丸だから会社がつぶれることはない、そういう生活をずっと送ってきていると、日本の経済社会を支えている普通の感覚から浮世離れしてくるのではないか、そういったことも考えられるわけであります。

 特に、今回、インサイダー取引の成否を拡大してしまったことによって、今、会社法改正と絡んで、内部統制をビルトインしなさいとか、コンプライアンスをしっかりやりなさいということを会社に要求しているわけですから、この辺の動きと相まって、私は、証券市場の機能を非常に阻害するものだというふうに思っております。

 この医療関係や金融関係の事例から、例えば医療や金融などの高度な専門性を要求される分野において、司法はしっかりとした判断を下すことができるのかという思いが一部ではあるんだろうと思います。

 さらには、先ほどの、安ければ買うし、高ければ売るのは当たり前ということに対して慄然とするような裁判官は、現場の感覚からちょっと離れ過ぎているんじゃないか、浮世離れした集団ではないかという思いを持つ人たちもいるんだと思います。

 これが正しいか正しくないかは答弁は求めませんが、今後、裁判官、判事や判事補を計画的にふやされるということですが、彼らの、いわゆる専門性分野で判断をするためにどういったバックアップ体制や研修をするのか、裁判官の質の担保をどうするのか、その辺についてお答えをいただきたいと思います。

大谷最高裁判所長官代理者 今幾つかの具体的事件について言及されましたが、この点については、私どもとしてコメントすることについては控えさせていただきたいという前提で、一般論として申し上げたいと思います。

 裁判所に持ち込まれますさまざまな事件というのは、近時ますます複雑化あるいは専門化しているところでございます。こういった状況に適切に対応して、司法関係者の認識あるいは意識といったものと事件に関係しておられる方々のそれとの間にずれがあるだとか、あるいは司法が世間知らずである、こういった批判を招かないために、裁判官の資質の向上を図ることや、あるいは裁判官が専門性を身につけることが必要であるということについては、私どもも同じように認識しております。

 そういった認識のもとで、裁判官の研修を担当しておりますのが司法研修所でございますが、この司法研修所におきましては、裁判官の資質の向上を図り、専門性を高めるために、専門分野研究会というものを開催し、医療、税務会計、知的財産権等といった専門的な知見を必要とする分野をテーマにしまして、お医者さんそれから大学教授あるいは弁護士の先生といった各分野の専門家を講師とする各種の講演、あるいは共同研究のほかに病院見学等の実地研究も実施しているところでございます。このような研究会は、受講した裁判官の側からも評判がいいところでございまして、今後ますます充実させていきたいと考えております。

 また、少し長い目で見た裁判官の育成策といたしまして、裁判所の外におきまして、判事補に多様で豊かな経験を積ませることを目的といたしまして、民間の企業研修、民間企業への派遣あるいは行政官庁等への出向それから弁護士職務経験、海外留学等も行っております。

 民間企業等への派遣におきましては、毎年、銀行あるいは証券会社等に裁判官を派遣しまして、裁判官が金融、経済の実情に直接接したりするなど、その知識、見聞を深めるための機会を設けているところでございます。

 また、行政官庁等への出向では、金融庁あるいは財務省、経済産業省等に裁判官を出向させて、金融経済行政の一端を担わせ、その実相といったものについても理解させる機会としております。

 今後も引き続きまして、関係機関等の協力も得ながら、専門的な事件に適切に対処できるように研修あるいは外部経験といった機会を充実させていくように努めていく、このように考えております。

平委員 ぜひ、そういう研修を強化していただきたいと思います。

 また、大変影響力が強いですから、そういう判決を出すことによってどういう影響があるのかといったイマジネーションをしっかり働かせていただきたいと思います。また、それで必要であれば予算措置をして対応する必要もあるんだろうなと思います。

 時間が来ましたので、最後に一問だけ。

 西松建設の巨額献金事件をめぐって民主党小沢代表の公設秘書が逮捕されました。このことに対して、小沢代表や党執行部の皆さんは、検察の側がおかしいのではないかといった主張を大分繰り返しております。これは新聞報道ですけれども、民主党の鳩山幹事長は、なぜこのような時期にこのようなということの説明がまるでない、行政としての責任を果たすべきだと述べていますね。これは、ちょっとつけ加えると、なぜこの時期にというのは、なぜ衆議院選挙を控えたこの時期に、このようなということは、このような逮捕に踏み切ったのかということだと思います。そのことに対して説明がまるでないのは、行政としての責任を果たしていないということだというふうに述べられているわけです。

 ちょっと私も専門的な知識はありませんが、逮捕して、何でこの時期に逮捕したんだといったことに対して説明をする行政としての責任はないと私は思いますけれども、そもそも、逮捕の時期、タイミングというのは、選挙があるからとかないからとかは関係ないと思いますね。法令違反があって、証拠を積んで、これは法令違反、かなり確信を持てるとなったら逮捕すべきだし、また、行政として、逮捕したから、なぜこの時期に逮捕したんだという説明をする責任はないと思いますが、その辺の確認だけ、最後にお願いいたします。

大野政府参考人 まずは、逮捕の時期についてのお尋ねでございましたけれども、検察当局が政治的な意図を持って捜査を行うということはあり得ません。逮捕の時期につきましても、不偏不党の立場で、証拠の収集状況等を踏まえまして、法に照らして適切に判断しているものと承知しております。

 本件事案について申しますれば、捜査の結果、大久保秘書について、犯罪の嫌疑があり逮捕の必要性があると判断したことから逮捕が行われたということでございます。

 次に、説明責任の関係についてのお尋ねでございますが、刑事事件における検察の職責は、国家の刑罰権を適正に実現することにあります。そして、基本的には、そのための公判遂行を通じて検察の公判活動は公となり、説明責任が果たされるというように考えているところでございます。

平委員 終わります。ありがとうございました。

山本委員長 次に、大口善徳君。

大口委員 公明党の大口でございます。

 本日議題となりました裁判所職員定員法の一部を改正する法律案につきまして、同法第一条の関係では、民事訴訟事件及び刑事訴訟事件の適正かつ迅速な処理を図るとともに、裁判員制度導入の態勢整備を図る等のため、判事の員数を四十人及び判事補の員数を三十五人増加すること、並びに、第二条関係の、民事訴訟事件、刑事訴訟事件及び家庭事件の適正かつ迅速な処理を図るとともに、裁判員制度導入の態勢整備を図る等のため、裁判所書記官等を百三十人増員するとともに、他方において、裁判所の事務を簡素化、合理化、効率化すること等に伴い、技能労務職員等を百二十七人減員し、以上の増減を通じて、裁判所職員の員数を、これは裁判官以外でありますが、三名増加するということでございまして、これについては賛成をいたします。

 ただ、きょうも弾劾裁判所訴追委員会で、準強制わいせつの裁判官のことについて私も質問することになっておるわけでありますけれども、ストーカーの事件を起こしたり、準強制わいせつ事件を起こしたり、あるいは判決書を偽造する職員がいたりということで、これは個人の問題というより裁判所としてのコンプライアンスに非常に欠ける面があると私は思います。この点につきましては質問しませんけれども、今後二度とこういうことがないように、しっかり厳しく対応していただきたい、こう思う次第でございます。

 さて、裁判の迅速化、専門化ということで増員を進めてきています。平成十三年四月十六日に最高裁が司法制度改革審議会に対して、訴訟の迅速化、専門化への対応と裁判官制度の改革を主たる目的として、今後十年間で五百人程度の裁判官の増員が必要である、こう回答して、平成十四年から司法制度改革の中で位置づけられて計画的に増員が図られているわけであります。今回の改正案が成立しますと、裁判員裁判制度導入の五年間百五十人も今回達成するわけでありますが、それとは別に八年間で三百六十七人の裁判官の増員が達成されることになります。

 平成十三年当時の司法制度改革の議論を踏まえて、この計画的な増員が大きく進展した今、これまでの増員の成果について検証するべき時期が来ていると思うわけであります。最高裁として、裁判官増員の成果が予想どおりあらわれているところと反対にあらわれていないところを、具体的な数字を示しながらお答え願いたいと思います。

 また、民事訴訟事件や家事事件が急増している状況にあって、今後新たな増員計画について最高裁がどのようにお考えになっているかもお伺いしたいと思います。

小池最高裁判所長官代理者 お答えいたします。

 委員御指摘のとおり、司法制度改革審議会におきまして、計画的な増員の構想を明らかにしたわけでございます。

 その趣旨といいますのは、裁判官の増員を図りまして、それによって裁判官の手持ち件数を減らすことによって、判決までに、その当時平均で二十カ月以上かかっていた証人調べのあるような手ごたえのある地裁の民事訴訟の審理を、一年以内に終了できるようにしたい旨の意見を述べました。ところで、平成二十年の末ではその平均審理期間というのが十八・九カ月程度かかっておりまして、まだここのところは達成できていないというところがございます。

 しかし、改善されたところもございまして、例えば、地裁の民事の未済事件のうち、その当時、二年を超える事件というのがおよそ一万二千件ございました。それが二十年の末では半減しまして、六千三百件程度まで減少しております。また、その当時、専門訴訟について非常に時間がかかると言われておりましたが、例えば医事関係訴訟、平成十二年には三十五・六カ月、約三年かかっておりましたが、二十年末には二十四・〇カ月、約二年というふうに短縮されておりまして、その他専門訴訟等は大幅に期間短縮されている。ここは非常に改善されていったところでございます。

 今後の計画でございますが、委員御指摘のとおり、地裁の民事訴訟事件は非常に急増しておりまして、平成二十年には二十万件に達しました。また、家事事件につきましても非常に増加傾向が顕著でございまして、二十年に七十二万件に達しております。また、事件の中身につきましても、世の中の動向を反映しまして、やはり事件内容は多様化、専門化、複雑化するというところがございます。

 そういった意味で、中長期的には事件の数、中身とも非常に増していく、あるいは難しくなっていくと思われます。

 また、法曹人口がふえるということになります。これについてはいろいろな観測がございますが、やはり事件の量あるいは内容等も難しくなるだろうという観測がなされているところでございまして、今後、裁判所、こういった中長期的な見通しのもとに人的体制の充実を図ってまいりたい。やはりこういった国民の期待にこたえる適正、迅速な裁判を目指し、事件動向を踏まえつつ、引き続き計画的な人的拡充を図ってまいりたい、かように考えております。

大口委員 この増員の目的の一つとして、裁判官の手持ち事件、これを司法改革審議会のときは、当時、百八十件を百三十から百四十に減らすべしと。こういうことで四百五十人ぐらい必要だ、こういう積算をされているわけであります。

 そういう中で、今、最高裁は、国会に対して、東京や大阪など一部の裁判所の裁判官の手持ち事件数についてしか明示していないんですね。ですから、最近の東京、大阪の状況はどうなのか。それから、裁判官の手持ち事件数を減少させることを目的の一つとして増員を行っている以上、地方の裁判官の手持ち事件数はどのように減少しているかということも具体的な数字を示すべきである、こういうふうに考えます。

 そして、今の、地方については単純には示せないということであるならば、やはり新たな数値目標というものを立てて、そして地方の裁判官の負担の適正化ということの目標を立てなければいけない、こういうふうに考えておりますが、いかがでございましょうか。

小池最高裁判所長官代理者 まず、東京、大阪の手持ち件数の状況を御説明申し上げます。

 平成十三年当時、委員御指摘のとおり、東京では大体百八十件くらいの手持ち件数ということだったわけであります。東京の通常民事部の裁判官一人当たりの手持ち件数であります。これが平成二十年度末では、東京地裁の民事の通常部で約二百三十件程度、大阪地裁の方では大体二百件程度となっております。平成十三年の末はそのぐらいでございまして、一時これは減少傾向で百六十件台ぐらいまで減っていったのでありますが、その後事件がふえてきているというような状況がありまして、今このような水準になっているというところでございます。

 それで、地方の裁判官というところで数値目標を立てるべきではないかということでございます。

 私どもも、この点は長年いろいろ考えておるわけでありますが、地方の裁判官に一義的に数値目標を立てるというのはなかなか難しゅうございます。と申しますのは、御案内のように、例えば地方の支部の場合には、一人の裁判官が刑事事件、民事事件、あるいは家事事件、少年事件をすべて取り扱っている場合がありますし、地方の本庁ですと、やはり複数の事件を取り扱っている場合がございます。

 それでまた御案内のように、訴訟事件と、例えば破産執行事件とかいう事件につきまして、また一件の裁判官の負担が大分違いますし、それから、事件の中身も大分違います。例えば、単純な売買という事件も、売買代金だけが争いになっている場合と、契約の趣旨が争いになっている、そういうところまでになりますと、これはいろいろ違い、一件の重みが違ってくるというところで、一義的になかなか数値目標を挙げるのが困難であるというところがございます。

 ただ、これは事件数というものが非常に大きなファクターでございまして、それを目安にしつつ、今委員御指摘のように手持ち件数、未済の件数、あるいは事件の動向、それから現場の負担感、そういったものをきめ細かく聴取しまして、負担の適正、あるいは適正な事件処理の体制を築いていく、このような体制をとっておりますし、今後もそういうようなことで考えてまいりたいと思っております。

大口委員 ですから、今後の増員計画を立てるわけでありますから、きちっとこれは国民にも説明できるように、やはりちゃんと数値目標を立てて、そしてそのためにはこれだけ必要なんだ、そしてどれだけ達成されているのかということを、裁判所はもっと積極的に国民の皆さんに説明すべき義務があると私は思います。ちょっとそんな努力が不足していると思っていますので、しっかりやっていただきたいと思います。

 次に、法科大学院の定員削減の件でございます。

 法科大学院の修了者を対象にした新司法試験、平成十八年から始まっています。当初、合格率は七割から八割ということを目指していたと思うわけでありますが、平成十八年の合格率は四八・三%、平成十九年は四〇・二%、平成二十年は三三%と、これは到底及ばない数字になっている。社会人がリスクを冒して入学するかという話にもなってきて、多様な人材を育成していくということにならないわけでございます。

 昨年九月三十日に、中央教育審議会から法科大学院の教育の質の向上のための改善方策、中間まとめが公表されました。これは本年四月中旬に最終まとめが予定されているわけでありますが、この中間まとめで、今後、法科大学院の質の一層の向上のため、入学定員の規模に比して質の高い教員の数を確保することが困難である、志願者数が減少し競争率が低いため質の高い入学者を確保することが困難である、修了者の多くが司法試験に合格していない状況が継続している状況が見られる法科大学院については、みずから主体的に入学定員の見直しを個別に検討する必要があるとしているわけであります。

 このような動きを受けて、文科省が昨年十月二十日から十一月十一日まで全国七十四法科大学院に対してヒアリングを行った結果、全体の四分の一を超える十九校が平成二十二年度入試から入学定員の削減をするということ、そして、このほか四十九大学院が定員の見直しについて検討を始める、こう回答しておりまして、法科大学院の九割が定員削減を検討しているわけであります。

 ことしの一月十六日、日弁連の新しい法曹養成制度の改善方策に関する提言は、新しい法曹養成制度について、「その理念との乖離が一部で生じていることから、社会の幅広い需要に応える多様で質の高い法曹を養成するため、」「地域的な適正配置に配慮しつつ、法科大学院の一学年総定員を当面四千名程度にまで大幅削減すること。」としているわけでございます。

 私の方は、前々から四千人ぐらいにすべき、こう言っているわけでございますが、法務大臣は、所信表明で、これからの司法を支える質、量ともに充実した法曹を確保するために、新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、平成二十二年ころに、司法試験合格者数を三千人程度とすることを目指す、また、法曹養成のプロセス全体の改善に努めるとおっしゃっているわけでございます。法務省も、異例のことでありますけれども、昨年の文科省のヒアリングに加わった、こういうふうに聞いております。

 現在五千八百人の法科大学院の定員は適切かどうか、また、このような法科大学院の定員削減をめぐる動きについて、法曹の質の維持の観点からどのように考えておられるか、森法務大臣にお伺いしたいと思います。

森国務大臣 私は、質、量ともに充実した法曹を養成するためには、各法科大学院が新たな法曹養成制度の中核的な教育機関としてその修了者の質を向上させる必要があるというふうに思っております。したがって、全法科大学院の入学総定員について何名が適当であるかということはともかくといたしまして、各法科大学院の修了者の質を向上させる観点から、みずからの判断により入学定員を適正化というか削減することは望ましいことであるというふうに考えております。

 今委員から御指摘ありましたように、法務省といたしましても、先ごろも文部省に協力してヒアリングを行ったところでございますけれども、法科大学院の教育の改善を促進するために、文部科学省に協力してその方向の努力に努めていきたいというふうに思っております。

大口委員 時間が来ましたので、以上で終了いたします。ありがとうございました。

山本委員長 次に、古本伸一郎君。

古本委員 おはようございます。民主党の古本伸一郎でございます。

 大臣におかれましては、連日の御対応、お疲れさまでございます。

 私からは、まず、判事、検事には一体どういう人がなっておられるのかという国民の素朴な関心について少し触れてみたいと思うんですが、委員長のお許しをいただいて資料もお配りをしてまいりたいというふうに思います。

 まず、司法試験の合格者の中から判事、検事が恐らく選ばれるんだと思うんですが、どういうふうにこの人物を選んでいるのかということなんですが、これは御本人が希望されるのか、それとも司法修習生の段階で何か優秀な方を一本釣りするのか、どちらでしょうか。

大谷最高裁判所長官代理者 裁判官の場合について申し上げますと、本人から裁判官に任官したいという希望がありまして、これに基づいて採用を決定するというプロセスでございます。

稲田政府参考人 お答え申し上げます。

 検察官につきましても、司法修習生の中で検察官に任官を志望する者の中から選考をさせていただいて採用をしているというところでございます。

古本委員 御本人の希望ということになるわけですが、ただ、司法修習生の段階で、チューターのような方が、先輩教官がついて、当然に人となりに触れ合うわけでありまして、ある程度の、俗っぽく言えば、つばをつけておくみたいなものがあるのではなかろうかというふうに思うんですが、その点についてはいかがでしょうか。

大谷最高裁判所長官代理者 司法修習生につきましては、御案内のように、実務修習あるいは集合修習というのがございまして、実務修習でいいますと、それぞれの指導官というのがついております。これは、裁判官、検察官、さらに弁護士の先生方が選ばれておりますし、それから集合修習についても同じく裁判教官、検察教官、弁護教官という方々がおられるわけでありまして、その方々が、今委員が冒頭に御指摘ありましたように、裁判官志望者につきましてもいろいろな面でその人物面などを見ていることは事実でございます。ただ、それ以上のものではありませんで、あとは本人が志望してきたときに選考の対象になる、こういうことでございます。

稲田政府参考人 お答えいたします。

 検察につきましても、基本的に今裁判所から御説明があったところと同じであろうというふうに思っております。

古本委員 これは、実は、委員会の前に、例えば司法試験の成績というんでしょうか、一番優秀な人からぎりぎりで合格なさったという方まで当然分布があるわけでありまして、この際、一度、当然個別のお名前は結構でありますから、大体、成績、どのぐらいに分布した人が判事、検事になっておられるのかというのは教えてもらえないかという要求をしたところ、これはあいにくお答えできません、こういうことなんですね。

 それでは、どういうことから判事、検事の、ある意味人間像を想像していくかということで、例えば任官のときの年齢や、それによって、翻れば何回目にして合格したかというような、つまり、人生挫折なしという方ばかりなのか、本当に蛍雪の思いでずっとやってこられて念願かなった方などなど、恐らく少しの想像する材料にはなるのかなと思いましてお願いをしたところ、お配りをしております資料の十二をごらんいただきたいと思うんですが、新任判事補の方の採用時の年齢でまいりますと、最年少が大体二十三歳、最高齢が、近年ですと五十八期、三十九歳の方がいらっしゃる。平均いたしますと大体二十七歳で任官なさっておられる、こういう状況がわかります。

 それから、司法試験の成績は情報開示できないということであったんですが、判事、検事別の最近の任官の大学別の一覧も、これはマスコミリリースしている資料を改めてお出ししているだけでありますので、特に新味があるわけではありませんが、こういう分布になっておるということでございまして、十三、十四の資料が判事、十五の資料が検事ということでございます。

 少し偏差なるものがあるならば、比較的検事の方が何となくざっくばらんにばらけているのかなという感じがいたしますが、これは何か検察の方で意図があるんでしょうか。

稲田政府参考人 お答え申し上げます。

 裁判所の方と比較して考えたことはございませんので、私どもだけの判断でございますので何とも申し上げにくいところはございますが、検察官の仕事といいますのは、もちろん法律的な能力でありますとか識見でありますとか、そういうことも重要でございますけれども、それのみならず、例えば中立公正な考え方ができること、あるいは真実を解明する意欲や犯罪に立ち向かう強い意思などというようなところも我々にとって非常に重要なことだと思っておりまして、ペーパーテストの成績とかそういうことに限らず、実務修習を初めとする司法修習期間中全般のありさまといいますか様子を見ながら採用していくというようなところを重視しているというところはあろうかというふうに思っております。

古本委員 そこで、今事務処理という話が出ましたが、担当しておる事件の数、事案の数を少し調べてみたところ、先ほど大口先生も御指摘をいただいておりましたが、たしか先輩委員が累次にわたり当委員会でお願いをしていたやに思いますが、やっと出てきた感がありまして、資料の四と五でございますが、これは全国の地方裁判所管内別事件数一覧ということで、網羅をしていただきました。

 これによれば、民事の最高、最高というのは、判事が一人当たり持つ事件数ですが、単純に見ますと、静岡地裁が二百八十三件で一番多い。少ないのが釧路地裁で百九件。ですから、一人の判事の格差は約二・六倍以上。それから、刑事で見ますと、大阪地裁が二百十六件、最低が秋田地裁で五十八件、一人の格差は三・七倍以上、こうなるんです。

 ところが、民刑兼務とありますように、民事と刑事を兼務なさっておられる方は地方裁判所は随分いらっしゃいまして、例えば秋田で申し上げれば、一人の判事が持つ刑事と民事の事件数を合わせますと実は二百四十を超えまして、繁忙と目される静岡や大阪地裁の負荷を上回るんですね。

 ですから、先ほどの大口先生の御議論にもありましたが、せっかくこのたび予算定員をふやすわけでありますので、高負荷と外形的に判断できる地裁への重点配分やいかにということについてお尋ねしたいと思います。

小池最高裁判所長官代理者 委員御指摘のとおり、まずこの資料から少し御説明いたしますと、今例が挙がりました大阪の裁判所をごらんいただきたいと思いますが、民事の訴訟事件数、あと担当裁判官、こうなっておりますが、民事と刑事を兼務している裁判官というのは、一番端にありますように、一人でございます。それで、民事と刑事の訴訟事件でございますが、合算しますと大体三万二千件強、そして、裁判官の数を足しますと、百三十八人というふうになります。それを単純に割りますと、おおよそ二百三十三件ということになります。

 それで、今度釧路の方をごらんいただきまして、先ほど挙がりましたので、ここも、民事訴訟担当、こうありますが、これは民事訴訟の事件と刑事の事件を合わせますと大体千七百件ぐらい。裁判官の数でございますが、民事担当十人、刑事担当九人、そして兼務している者は九人でございますので、実数の裁判官としますと、十と九を足して、また九を引くということで、十人になります。それで、おおよそ百七十三件ぐらいの件数ということになります。

 そうしますと、訴訟事件に限ってということになりまして、地裁には、ほかにも民事執行事件、破産事件とかございますけれども、こういう訴訟事件の比較にしますと、大阪の方がたくさんの事件を担当している。ただ、釧路の裁判官は、このほかに家庭裁判所の事件でございます家事事件、少年事件というものを担当しておりますので、大阪の方に比べて負担が著しく軽いということはないわけでございます。

 これはなかなか、委員御指摘のとおり、事件数というものが非常に重要な指数、指標になるということは当然でございます。また、どの裁判所であっても、きちんとした体制を組んで、適正、迅速な裁判をやらなければいけないということもございますが、今申し上げましたように、いろいろな事件がございますし、また、先ほども大口委員の御質問にもお答えしたところでございますが、事件の中身もいろいろございますので、決まった定数量をぽんぽんと積み上げるわけにいかないという面があるというところは御理解いただきたいと存じます。

 ただ、さまざまなファクターを見ながら、また時系列的な地方の繁忙状況というものを一つ情況証拠としながら、適正な配置を考えているということでございます。

古本委員 これは巷間言われております、事件数が多いために徹夜で判決を書くなんということはあるんでしょうか。

小池最高裁判所長官代理者 みずからの経験に照らしても、非常に大きな難しい事件がありますと、ずっと考えているうちに朝になってしまうということはございます。

 ただ、確かに、一時的に事件が集中したり、難しい事件がありますと、夜間遅くまでやることもありますし、休日に仕事をするということはございますが、それだからといって、雑な仕事をするということはない。これは、やはり判決の重みというものは裁判官は十分わかっておりますので、そういうことはないと思います。

古本委員 もちろんそれは信頼を申し上げるわけでありますが、さりとて生身の人間ですから、事件に追われ、そして判決を書くことが目的化してしまうようなことが万が一あったならば、これは大変な問題だと思うんです。そういった高負荷の状況の中から、結果として、先ほども出ておりましたが、考えられないようなセクハラ事件やら、これは判事、検事ともにあろうかと承知していますが、あるいは飲酒、暴行事件やらが、散発すると言ったらいいんでしょうか、ございますね。

 これは、普通の社会でも当然あり得る犯罪でありますから、判事、検事だからそうなるということではないとは推測をいたしますが、やはり高い負荷というのは人を追い込んでまいりますので、ぜひ適正な負荷になるように、判事、検事ともに、予算定員をふやすからには適正な配置に努めていただきたいと思うんですが、これは検事の方も同様にふやしていっているというふうに理解をしてよろしいですか。

稲田政府参考人 お答え申し上げます。

 法務省におきましては、現下の犯罪情勢でありますとか、あるいは裁判員制度を初めとする司法制度改革などに適切に対応していくために、これまでにも、検察官の増員を含めて、必要な体制の整備を行ってきているところではあります。

 今後の検察官の具体的な増員につきましては、毎年の事件数、犯罪動向などに対応することはもとより、諸般の事情も考慮しつつ、適切に対応していきたいというふうに考えているところでございます。

古本委員 ぜひ適切にお願いしたいんです。

 実は、直近の法務省のMOJのレビューによりますと、検察の方に送致された事件数が、平成十八年で二百四十四万件、二百四十四万七千百十七人が送致されたわけでありますが、検事の数で単純に割り戻しますと、恐らく一人当たり千四百件を超えるわけであります。

 日当たりに置きかえますと六件になるわけでありまして、刑事ドラマの見過ぎかもしれませんが、よく、留置所から検事のところに取り調べを受けに来て、十分ぐらいインタビューを受けて、はい、次なんて場面をテレビで見たことがあるんですが、実際にそういう場面も、地方検察庁の高負荷のところ、あるいは何かそういう事柄が重なり合えばそういったこともあり得るのか、それとも逆に、ある特定の者について、丸一日、朝から晩までずっと何か調書をとるというようなこと、これは事件の事柄によって違うんでしょうけれども、大体どんなイメージなのか。

大野政府参考人 検察庁の現場におきます捜査、公判等の処理状況でございますけれども、今委員が御指摘になりましたように、これは事件によってまさに千差万別でございます。比較的定型的な、例えば道路交通法違反事件等につきましては、一人の検察官がかなりの数の事件を捜査するということがあるわけでありますけれども、他方で、証拠関係が複雑で、あるいは重大な事件ということになりますと、一名の検察官が専従で相当期間、場合によっては数名の検察官が共同捜査体制というものをとって、相当の期間にわたって捜査に専従するというような、そんな状況もございます。

 いずれにしろ、事件の状況に即して対応しているわけでございます。

古本委員 これは、裁判員制度が始まるわけでありまして、判事、検事ともに実は新たな資質として求められる部分があると思うんですね。つまり、これまでは、独任官というんでしょうか、独立官庁としてそれぞれ、検察官であれば、ある意味自己完結していた。判事も同様かと思うんです。ところが、これからは、特に全く素人の民間人にわかりやすい説明をしていかなければならない。他方、民間人がしゃべっている普通の言葉を理解する力も涵養しなければならない。

 そういう意味では、裁判員制度をにらんで、通常の司法試験合格者に加えて何か新たな教育訓練的なものをどのようにしていくのか、少し簡潔に御説明いただきたいと思います。

大谷最高裁判所長官代理者 法曹養成というプロセスを考えますと、法科大学院、さらに司法修習生、そして裁判官というプロセスをたどるわけでございまして、今の裁判員制度についての委員の御指摘のとおり、もともと裁判官というのは黙っていればいいという職業ではありませんで、当事者が何を主張したいのかということを的確に把握し、そして、特に民事の和解の場などでは、それに対してきちんと裁判官の説明をしていくという説明責任のようなものがもともと求められているのだろうと思いますが、裁判員時代を迎えて、委員御指摘のように、さらに一段とそういう能力を、コミュニケーション能力といったものについて磨きをかけていかなければならないということは、私どもも十分承知しております。

 修習生時代でいいますと、そういう能力について、先ほども申し上げましたけれども、実務の指導官あるいは集合修習の教官などが見、そういう能力について問題がないかどうかというのは、裁判官に任官する際に指名諮問委員会という制度の中で委員の方々に見ていただいているわけですし、それから、裁判官になってからも、これは一つはOJTだろうとは思いますが、それ以外にも司法研修所の研修等でそういうコミュニケーション能力について一層力を注いでいきたい、このように考えております。

古本委員 ぜひ遺漏なきようにお願いをいたしたいと思います。

 実は、こうして最高裁、そして、恐らく検事御出身の刑事局長を初め、これは不思議なものですね。私たち国会議員も、期数を重ねてくるごとに、選挙という修羅場をくぐり、先輩議員も、重ねるごとに何か年輪といいますか、すごみのようなものを刻んでこられておられますね、国会の諸先輩は。そう拝察いたします。他方、裁判所の皆様は、気のせいか、せんだっての民事局長を初め、何となく柔和な感じがいたしまして、要するに、私たち国会議員が少し肉食的なものを感じるならば、むしろ検察の皆様に何かシンパシーを感じるといいますか、何か、最後の防人としての恐らく自負があるのかなとかいろいろなものを、お互い人間ですから、この近距離でお顔を拝見いたしておりますと私なんかはこう感じるんですけれども、大臣、何かそういう違いというのを感じたりいたしますか。

森国務大臣 私も、全く法務行政に縁がなくて法務大臣のポストにつきまして、それから法務省内での人間観察をしておりますと、委員おっしゃるように、やはり何となくある種の傾向はあるような気がいたします。

古本委員 大臣のお墨つきをいただきましたが、そういたしますと、要は、公選される、公に選出されるという意味におきましては、私たちは常に選挙をくぐってまいる。判事の皆様も、その頂である最高裁の判事は、かりそめにも国民の丸が打たれる、場合によってはバツの方もいらっしゃる、準公選と言っていいのかと思うんですが、検事の皆様には、実は事務次官よりさらに職能資格が上であるとされる、総長はもちろんのこと、次長検事、検事長、恐らく八名いらっしゃるんですか、公選ではないわけですね。

 これは、伺いますれば憲法に定めるところだという理解であるんですが、これはやはり民主主義のプロセスとして、検察行政は正当に民意を反映しているかどうかということをチェックするという意味では、ここに法務大臣がいらっしゃるので、これを指揮監督するということで恐らく担保されているんじゃなかろうかと思うわけでありますけれども、さような問題意識を若干持つ中で、少し議論を進めてまいりたいと思うんです。

 日本の国家の統治者は一体だれであるのか。恐らく内閣総理大臣が統治者であるという答えになるんだろうと思うんですが、きょう、かつて大変話題になりました昭和二十九年の造船疑獄を例に少し掘り下げてみたいと思うんです。

 権力を行使する大前提は、その行使する者が民意によって規律されて初めてしかるべきであって、立法府に対して内閣が連帯責任を負うことによって、つまり法務大臣が国会に対し連帯責任を負うことによって具現化されている、これは憲法の定めだと思うんですけれども、他方、内閣の一員である法務大臣は、その指揮監督する権能を留保されている、これがいわゆる検察庁法十四条の趣旨だと思うんです。

 法務大臣におかれては、先ごろの委員会で、たしかこの十四条について、俗に言う指揮権の発動、つまりは十四条に定めることについて、毛頭考えていないといった御趣旨のことを言われたかと記憶をいたしておりますが、そのお気持ちは今も変わりありませんか。

森国務大臣 三月十一日の法務委員会における私の答弁についてのお尋ねでございますけれども、私としては、検察庁法第十四条ただし書きにいわゆる指揮権が定められていることと矛盾するとは考えておりません。

 すなわち、検察庁法第十四条の趣旨は、検察官を一般に指揮監督することができる立場にある法務大臣の行政責任と、司法権と密接不可分の関係にある検察権の独立性を確保すべきであるとの要請との調和を図る点にあるものと考えております。

 そして、申し上げるまでもないことでございますが、検察当局は、常に法と証拠に基づき、厳正公平、不偏不党を旨として、その捜査の対象がどなたであっても、刑事事件として取り上げるべきものがあればこれに適切に対処しているものと承知をしております。

 したがって、現時点において、私はこのような検察に全幅の信頼を置いているところでありまして、先日の衆議院法務委員会においては、その信頼を前提として、個別の事件の捜査や処理について検察を指揮することは毛頭考えていないという私の所見を申し上げたものであって、先ほど申し上げたように、検察庁法第十四条に定められた制度を否定する趣旨ではございません。したがいまして、同じ思いでおります。

古本委員 資料の八、九をごらんいただきたいと思うんです。

 実は、造船疑獄事件というのは、一九五二年ごろから海運業界が不況に陥りまして、政府、国会に助成措置を要望した。そして、五三年一月に外航船舶建造融資利子補給法が成立した。しかし、業界は助成策が不十分として、改正法案審議や計画造船割り当てなどを有利に運ぶため、国会議員や運輸官僚に働きかけ、五三年四月実施の総選挙で自由党に巨額の献金をした。こういうことが端緒でありまして、いろいろな証拠物件、メモやらも出てまいりまして、結果、衆参議員四名、運輸省官房長らを収賄罪で起訴したということであります。

 その際に、これは大変著名な事例ですので、諸先生方御案内のとおり、当検察庁法十四条、指揮権を発動し、逮捕を免れた当時の佐藤栄作自由党幹事長は、後に政治資金規正法違反で在宅起訴された、利子補給法公布後などに船主協会、日本造船工業会などから四千万を超える献金を受領しながら帳簿に記載しなかったということで、これは政治資金規正法違反ですね、起訴されたんですが、国連恩赦で五六年に免訴。これが概要なんですが、少しおさらいをしておきました。

 問題はこの九番なんです、資料の九。これは少し調査室の方で時系列でまとめていただいたんですが、なかなか示唆に富んだやりとりがありまして、昭和二十九年の四月十七日にまず第一回検察首脳会議というのがあります。左の軸が衆議院の当委員会での政府答弁です。右側が当時のマスコミ等々の報道あるいは専門書から拾っていただいた時系列なんですけれども、四月十七日、検察首脳会議を開いて、そして、法務大臣に逮捕請求許可の指揮を口頭で仰いだところ、問題が重大だから慎重に検討した上結論を出すように、そういうふうに指示があった。

 これは困ったということで、後刻、第二回目の検察首脳会議を行っているんです。再び処分請訓をし、法務大臣は、逮捕延期の指揮権発動の意向を示したんですね。これを受け、翌日四月二十日、後日、第三回目の検察首脳会議、再び処分請訓、そして検察の最終方針を伝えたんですね。そして二十日の深夜、稟議書という形で正式に書面で逮捕請求の許可申請が出た。

 これに対し、四月二十一日未明、吉田内閣総理大臣の命を受けたとされる犬養元法務大臣から、指揮書の内容を確認すると同時に、指揮権の発動を決意なされ、四月二十一日の午後零時過ぎ、指揮権を発動。その名目は、米印の二にありますように、「佐藤栄作氏の逮捕請求許可の請訓については、事件の法律的性格と、重要法案の審議に鑑みて、別途指示するまで暫時逮捕を延期して、任意捜査すべし、この指示は検察庁法第十四条に基づくものである。」という請訓に対する回訓が回った、こういうことであります。

 そのときの理由を、後日当委員会でも随分議論になったようでありまして、資料の七、一枚戻っていただきまして、当時、国務大臣、副総理であったかと承知しておりますが、国会での質問にこう答えておられるんですね。なぜ指揮権を発動したかの理由、ここが、実は刑事局長初め検察の皆様が今日的にずっと内在してきた十四条の何とも言えぬ課題がここにあると思っているんです。

 実は、副総理はこう答えています。「検察庁法第十四条によりまして指揮権を犬養前法務大臣が発動いたしましたのは、」その理由ですね、線を引いています、「今日の政党政治におきましては幹事長の位置、特に重要政務に当つておりまする、国務に当つておりまする政府与党の幹事長の位置というものは、政府の動向をきめる上からも、また国会の運営におきましても、非常なかけがえのない重要な位置でありますので、もしうわさせられるような事態が発生いたしますると、」これは逮捕ということですね、「実際において国政の運営に非常な支障を来す、そういう意味から、検察の捜査あるいは処分というようなものの内容には立ち至らないが、できればその逮捕というような時期を延ばすことはできないか、」と。

 さらに、飛ばしますけれども、下段に目を移していただきますと、三行目あたりからですが、「政治的の考慮を加えるのは、すなわち内閣の一員である法務大臣が政治的考慮を加える、」「異例ではありまするが、指揮権を発動しまして、今日国際的にも国家的にも非常に重要な諸法案、しかもこの時期にぜひとも政府が国会を通過させたいと考えております諸法案、それを通過成立させたいという絶対的な必要から、あの処置に出たものと想像しております。」これは本人じゃないですから「想像しております。」と。

 ここから恐らく読み取れるのは、政府・与党の幹事長だから守らなければならないんだ、何よりも国会で重要法案と呼ばれている幾つかの課題を成立させなければならない、この二つの要求を満たすためには、指揮権を発動し、逮捕を延期してもらえないかということが唯一表ざたになっている指揮権の発動なんですよ。こういたしますと、検察の側も、その後、この十四条については相当慎重なことに恐らくなってきているんだと思うんですね。

 そこで、解説が随分長くなりましたので、念のため、少し委員の先生方にも紹介させていただきましたが、この指揮権というのはそもそも内閣総理大臣も有しておる、こういう理解でいいでしょうか。きょうは法制局も来ていただいています。

横畠政府参考人 検察庁法十四条の指揮権は、法律にあるとおり、法務大臣の固有の権限でございます。

 ただし、内閣法六条によりますれば、閣議にかけて決定した方針に基づいて、内閣総理大臣が法務大臣に対して一定の指揮を行うことができるという制度にはなっております。

古本委員 つまりは、内閣総理大臣も、法務大臣に閣議決定し指示することにより、この指揮権というものを法務大臣を介して恐らく発動できる、そういうふうに承知をいたしました。

 そういたしますと、当の法務大臣は、検察を全幅の信頼で、このことについて考えたこともない、毛頭ないということであるんですが、この十四条の設置のねらいというのを少し御説明していただけますか。

大野政府参考人 検察庁法十四条は、検察が行政権に属するということと、同時にまた司法権と密接不可分の関係にあるという、この特殊な性格から出てきている条文であるというように理解しております。

 そもそも検察に関する事項は法務省の所管事項でありまして、法務大臣の管理のもとにあるわけであります。したがいまして、先ほど委員が御指摘になりましたように、国民に対する関係では、内閣の責任という形で検察はコントロールを受けるという形になるわけでございます。

 ただ、冒頭に申し上げましたように、検察権は司法権と密接に関係しております。これをもう少し具体的に申し上げますと、司法権の独立といいますのは、司法権が独立、公正に行使されること、つまり、裁判官が個々の具体的な事件の裁判を行うに当たり、憲法や法律にのみ拘束され、一切の外部的な圧力や干渉等を受けない原則をいうわけであります。

 ところで、刑事訴訟におきましては、我が国においては検察官が基本的に起訴を独占しておりますし、また、起訴に対して裁量権を行使することが認められております。したがいまして、裁判所は、検察が起訴しない事件を審判することはできないわけでありますし、また、起訴された事件につきましても、検察官の主張や立証に基づいて判断をするということになるわけであります。そんな意味で、検察権の行使は司法権の行使の前提になっていると言うことができると思います。

 そこで、仮に検察権が不当な圧力によって公正を欠くような行使が行われたということになりますと、結果として司法権の行使も不公正なものとならざるを得ないわけでありまして、司法権の独立の趣旨が実質的に損なわれることになるわけであります。そうしたことから、司法権の独立を確保するためには検察権の独立性が要請されるということになるわけであります。

 そこで、行政権に属するということで法務大臣の管理のもとにあります検察でありますけれども、法務大臣の指揮権に一定の制約を加えまして、個別の事件の捜査処理につきましては、個々の検察官に対する直接の指揮はなし得ず、検事総長に対する指揮ができるというような形に制度をつくったわけでございます。

 このようにして、検察権が行政権に属することによる法務大臣の責任と、検察権の独立性の要請との調和が図られているものというように理解しております。

古本委員 今刑事局長がお答えになった話を要約しますと、大臣、これはやはり、一つに、要は内閣の責任において検察の独善を防止するという要素があると思うんですよ。一般に、政治家が検察に何か圧力をかけたんじゃないか、こういうふうなイメージがありますけれども、その逆目もありますね。したがって、第一に、法務大臣は連帯責任を負うわけでありまして、公選を受けたわけではない検事総長以下の、準司法的機関である検察が行うことについて、連帯責任を負う法務大臣として、これはまさにその独善を防止するチェック機能が一つある、これが第一ですね。

 もう一つは、検察が例えば政党の利害や都合により左右されるということがあったならば、今刑事局長がおっしゃったとおり、中正を失う、冒頭あったような不偏不党の精神を貫くことができないということになるんですね。

 それをまさに、両者の相反するエネルギーを調和させるいわば調整弁的な役割としてこの十四条があるわけでありまして、という理解で、今刑事局長、大きくうなずいていただきましたが、恐らくそうだと思うと、実は法務大臣というのは、党人が務めると、どうしても予断を与えるんじゃないかということがあると思うんですが、いかがでしょうか。

森国務大臣 私は、私の職責を果たすについて、一切そういうことは考慮しておりませんで、先ほどから委員がおっしゃっておりますように、指揮権というのは持ちつつも、現時点において検察に全幅の信頼を置いているということを申し上げたわけでございます。

古本委員 それでは、先ほどの刑事局長の話に少し戻りたいんですが、仮に、検事総長を通じれば、検察一体の原則に立てば、全国の地方検察庁、区検察庁を含めた、約千七百名になんなんとする検事全体を法務大臣は指揮監督できる、これで正しいでしょうか。

大野政府参考人 検事総長は検察のトップとして非常に重い職責を担っているわけであります。

 法務大臣の御方針と検察の方針が食い違う場合に問題が生じ得るかというふうに思うわけでありますけれども、そうした場合にも、実際のところは、十分に法務大臣と検事総長との間で話し合いが行われて、そこで納得の得られる妥当な結論が得られることが期待されているというように考えております。

古本委員 そういたしますと、お互い、片や政治家、党人ですね、そちらは不偏不党で検察業務を遂行する。他方で法務大臣は、検察が万が一独善に走らないように監視する役割もある。したがって、ある意味でのお互いの利害は、検察行政の公平な、そして正当なる遂行という意味においては互いに一致しているんですけれども、片や政治家、片や行政という中で、万が一これが反することがあった場合、互いの意見が分かれた場合には、検事総長は、法務大臣の指揮監督に背き、別途、みずからの次長検事以下に対して指揮命令する権能は有しておりますか。

大野政府参考人 先ほども申し上げましたように、実際の運用としては、法務大臣と検事総長との間の意見交換等によりまして適正妥当な結論が得られるだろうというふうに考えております。ただ、それでもどうしても結論が一致しない、いわば極限的、例外的な場合にどうなるか、こういうお尋ねかというふうに存じます。

 そこで、申し上げますと、検事総長は、その際に、法務大臣の指揮に従うという選択肢があろうかというふうに思います。これは、先ほど委員が指摘されました造船疑獄事件のときの処理がその形で行われたというふうに理解しております。

 一方、法務大臣の指揮がやはりどうしても納得ができないという場合に、その指揮に従わない場合には、これは実は国家公務員法の、上司の命令に……(古本委員「九十八条ですか」と呼ぶ)そうですね、九十八条、上司の職務上の命令に忠実に従わなければいけない、これに反することになるわけでありまして、その場合には懲戒処分の対象になり得るというふうに考えております。

古本委員 そうしますと、議論を整理しますと、法務大臣と、検事総長を頂点とする検察一体である検察機能が意見に相違があった場合には、法務大臣の判断を尊重する、これでよろしいですか。

大野政府参考人 先ほども申し上げましたように、極めて極限的な場合でございます。

 私が先ほどお答えいたしましたのは、あくまでも理論上の枠組みについて申し上げたものでございまして、実際に運用上どのような対処がなされるのか、今申し上げた理論上の枠組みも踏まえて適切に判断されるだろうというふうに考えております。先ほど申し上げたのは、あくまでも理論上の話であるということを申し上げたいと思います。

古本委員 恐らく、日常の会話で、そもそも、大臣、検事総長と例えば一日一回ぐらい会話したりとか、そういう感じなんですか。

 何かいろいろ読んでいますと、文献によれば、かつて法務大臣が検事総長を大臣室に呼んだだけで事件になったという話もあるそうなんですが、何か構造的に、そもそも検事総長室と法務大臣の部屋というのは行き来できるようになっているんですか。常日ごろコミュニケーションというのはやはりとっておかないと、刑事局長がおっしゃるような不幸な事態を招く可能性がありますから、念のため。

森国務大臣 日常的に検事総長と会うということはございません。ただ、いろいろな式典ですとか、そういった法務省の幹部ががん首そろえるようなときにはお会いしますけれども、特に日々、情報交換するということはありません。

古本委員 そうしますと、そういった極限の状態を招かないために日常的にどれだけ上に情報を上げるか、つまり、大臣に上げるかということに尽きるわけであります。

 例えば、読売新聞に連載されました「赤レンガの実像」の記述によりますと、いつどういう事件を報告するかを定めた規定はないとされている。大臣の関心にも配慮しつつ、あうんの呼吸で耳に入れるタイミングをはかる。

 他方、事柄の基準、何を報告し、何は報告しないか。何せ送致案件は年間二百四十万件ありますから、これはやはりある程度の基準がないと、恐らく報告に参る刑事局長も大変だと思うんですね。これは何か基準はあるんでしょうか。

大野政府参考人 検察庁から法務大臣に対する報告といいますのは、法務大臣が法務行政の最高責任者であり、また、国会の場で検察の活動について説明すべき立場にあるから行われるものであります。その場合には、当然のことながら、検察の案件につきまして、法務大臣を補佐する立場にある刑事局を通じてそうした報告が行われるということになるわけであります。

 そして、どういう場合に報告が行われるのかということでございますけれども、処分をする前に大臣の指揮を受けなければいけないと定められている事件もございます。これは処分請訓規程という法務省の訓令がありまして、外患罪、内乱罪等、かなり例外的な罪名でありますけれども、そうしたいわば国家の安危にかかわるような事件の処分に際しましては、あらかじめ検事総長が法務大臣の指揮を受けるべきものであるとされているわけでございます。

 それ以外の点につきましては、刑事関係報告規程等によりまして、事件の重要性、特異性あるいは国会等における説明の必要性等の事情を踏まえて報告がなされる運用とされておりまして、大臣がそのお立場上、職責上、当然承知しておくべき事柄につきましては、検察当局から法務当局、刑事局を通じまして適時適切に法務大臣に対して報告をしているということでございます。

古本委員 稟議書を回しての請訓が正式な請訓とすれば、恐らく口頭による、何か耳打ちする、上げていくということは、大臣、これは例えば週に一回ぐらいのペースで何かあるんでしょうか。就任以来どうでしょうか。

森国務大臣 検察から刑事局を経由して私に報告があったというのは、就任以来一回だけでございます。

 あと、案件表などは、秘書官を通じてそういった事項については報告を受けております。

大野政府参考人 先ほども御答弁を申し上げましたように、法務大臣が法務行政の最高責任者であり、国会等に対して説明をすべき責任のあるお立場におられるということを踏まえまして、折々、お耳に入れるべき案件につきましては、口頭で、あるいは今大臣が申し上げました案件表等によって説明をしているところでございます。

古本委員 つまり、当該大臣が、例えば御専門の分野やら、どういったことに関心を持っておられるのやら、いろいろ気配りしながら上げていくものなのか、それとも、ある一定の類例以上あるいは未満のところで何か分水嶺を引くのかどうなのかということでいきますと、過去のいろいろな例を読んでいますと、やはり、今おっしゃった具体的法律に決めのある内乱罪ほかを除けば、恐らく将来政治的な広がりを見せる案件については、これは口頭での請訓と言った方がいいんでしょうか、正式な稟議書ではないのかもしれませんが、比較的お耳に入れた方がいいというようなことを歴代検事総長がいろいろ御著書で書いておられたりするんですけれども、大体そういう理解でよろしいでしょうか。

大野政府参考人 事件の捜査処理につきまして、法務大臣のお耳に入れる趣旨でありますけれども、法務大臣から具体的事件についての指揮権が発動される、あるいは発動していただくための請訓をする、指揮を求めるという趣旨で報告しているわけではございません。法務大臣、法務行政の最高責任者として検察に対する一般的な指揮監督権があるわけでありますから、そして国会等に対して説明をすべきお立場にあるわけですから、そうしたお立場にかんがみて、お耳に入れておくべき事項についてお耳に入れているということでございます。

 したがいまして、基本的には事後的にお耳に入れているわけでありまして、それによって大臣の判断を仰ぐ、あるいは大臣の許可を求める、そのような運用をしているわけではございません。

古本委員 ということは、全国地方検察庁あるいは区検察庁、それぞれ担当されている事件がございますね。そのそれぞれの中から、これはひとつお耳に入れた方がいいかなということが仮にあった場合、これは事後的に、つまり、処分をした、処分ですから起訴だとか、あるいは場合によっては公判に既に入っておる案件でも今裁判の進捗はこうです等々ですね。起訴していいですか、悪いですかなんていうことは、仮に聞くことがあったならばそれは処分請訓であって、日常の業務としては、あくまでも終わった事柄の事後報告である、こういうことでよろしいですか。イエスかノーかだけで結構です。

大野政府参考人 日常の業務に関しましては、今まさに委員が御指摘のとおりでございます。

古本委員 随分時間をいただきながらやってまいりましたが、実は、日本においては、刑事局長がおっしゃったとおり、当然に、起訴されれば必ず裁判となり、裁判となれば必ず判決があるわけでありまして、ところが、その起訴権というのは、検察の起訴独占ということで、検察しか起訴はできないんですね、その権能は。他方、裁判所は、それをいわば受けて最終的に判決に臨む。そして、このたびは、刑事訴訟については一部の凶悪重大犯罪について民間人の参加による裁判員制度を始めていこうかということであります。

 現在、我が国における裁判になった場合の有罪率は何%ですか。

大野政府参考人 済みません、手元に正確なデータはございませんけれども、九九%を超えているものというように理解しております。

古本委員 大臣、つまり、準司法的機関ということでありますけれども、実は、起訴するかどうかがかなりその事件の行く末を決めると言っても、九九%ですから、過言ではないというふうに思うんです。

 そこで、法務省の資料によれば、平成十八年度でしょうか、二百四十四万七千百十七人の送致案件における起訴率が三二・六%なんですね。それから、実は起訴猶予が四割、そして嫌疑不十分も入れますと四四%を超えておりますので、検察の皆様も恐らく、これは果たして起訴すべきかどうかということを相当呻吟しながら、まさにうめきながら悩み、最後の決断をし、重大な判断をなさっている。これは御信頼申し上げたいわけでありますが、他方、起訴された暁には九九%有罪、こういうことですね。

 ただ、この起訴の三二・六%ですが、これをもう少し層別していただきたいんですが、この二百四十四万人を超える送致案件のうち、いわゆる検逮事案、検事逮捕事案による起訴率は何%ぐらいですか。

大野政府参考人 検察官逮捕をされた事件の中での起訴率のお尋ねですが、まことに恐縮ながら、そのような統計をとっておりませんので、起訴率について申し上げることはできません。

古本委員 では、この二百四十万件のうち、検事逮捕の事案は何人ぐらいですか。

大野政府参考人 平成十八年の検事逮捕人員は五百二十三名です。ただ、これは交通関係の事犯を除いております。道路交通法違反あるいは自動車による業務上過失致死傷事件等で検事逮捕する事案もございますが、これは含まれておりません。

古本委員 今数字をおっしゃっていただいたわけでありますが、つまり、起訴をされれば有罪率が九九%という中で、実は、検察行政を皆様が担っていく上で、少し興味深い事例があったんです。少し紹介したいと思うんですが、ちょっと文字が小さくて恐縮です、資料の十、十一をごらんいただきたいと思うんです。

 これは、先ほど御紹介いたしました造船疑獄の際に、当ハウスとして、やはり当時は、なぜ自由党の佐藤栄作幹事長を、そんな逮捕を見送ったんだという、想像いたしまするに相当な状況になっていたんだと思います。そういう中で、実は、衆議院の決算委員会から、職務上知り得た、つまり検察の皆様が知り得た情報について、この右半分に書いているものですね、取り調べの状況やら会計帳簿やらいろいろな捜査状況について、国会に提出を求めたわけです。

 これに対して、実は、昭和二十九年九月二十一日、法務大臣発、衆議院決算委員長あてで回答があったんですが、要は、出せないという結論が内閣からあったわけであります。そのときの理由が大変興味深いんですね。

 ちょっと省略しながら読みますけれども、「検察権を適正に行使するためには、その秘密は厳重に保持せられる必要がある。」「犯罪を捜査するため必要とするあらゆる取調をすることが許されており、場合によつては、令状を得て被疑者を逮捕、」「又は住居について捜索をし、証拠物の差押をするなどの強制処分を行うことができる。 かような強い権限に基いて犯罪の捜査を遂行するのであるから、」ここからです、「人の秘密にわたる事項に触れるのはもとより、取調の内容についても秘匿を要すべきものがある」「検察が、具体的事件の捜査の内容を秘匿しなければならないのは、他人の名誉を保護せんとするに止まらず、最も大切なことは、捜査の内容自体を秘匿しなければ、その職務の遂行そのものに支障を来す虞がある」と。

 これは、刑事局長、先ほど同僚委員が、ライブドア事案とか村上事案でしたか、いろいろおっしゃっていましたけれども、検察筋によるととか、らしいとか、そういう記事がよくありますけれども、この政府回答にそごを来しませんか。

大野政府参考人 ただいまのお尋ねは、検察捜査についての秘密の秘匿についてのお尋ねというように理解いたしました。

 確かに、社会の耳目を引く事案につきましてはさまざまな報道がなされるわけでございます。その個別の報道につきましてコメントするということは差し控えなければいけないと思いますけれども、報道各社が関係各方面にかなり広く深い独自の取材活動を行っているんだろうというふうに考えております。

 検察当局でありますけれども、従来から、捜査上の秘密の保持については格別な配慮を払ってきたものでありまして、捜査情報や捜査方針を外部に漏らすようなことはないというように承知しております。

 先ほど資料のところで委員が御指摘になりましたように、捜査の過程で収集した情報、資料等は、これは仮にも外部に明らかになりますと、関係者の名誉、人権を損なうゆゆしい事態を生ずるのみならず、進行中の事件につきましては、証拠隠滅工作を誘発し、あるいは事件関係者との信頼関係が崩れてその協力を得ることができなくなるなど、適正、円滑な捜査や公判の遂行に重大な支障が生じるからであります。

 以上であります。

古本委員 先ほどの法務大臣発の資料にもう一度戻っていただきたいんですが、さらにこういうくだりもあるんですね。「被疑者参考人の氏名及び証拠物の内容その他の取調状況或は捜査の手段方法等を無制限に公表し又は公表することとなるが如きは、密行を旨とすべき捜査の本旨に反し、現在及び将来における検察の運営に重大な支障を来す虞なしとしないのである。」と、ここまでおっしゃっているんですね。

 大臣、いろいろなことが世の中にあるわけでありますが、その割にはつぶさに新聞に描写されているようなものも感じるんですけれども、何か感想があれば。

森国務大臣 私は、検察当局は、先ほど刑事局長からも御答弁申し上げましたとおり、秘密の保持には格別の注意を払っていることと信じておりまして、一方で、報道機関もそれぞれの取材努力でいろいろな取材をして報道していることと思いますから、私は、検察当局からそういうことが発出されるということはないというふうに信じております。

古本委員 先ほど同僚委員の質問に刑事局長がおっしゃっていましたね、ある意味、国民への説明責任をいかに果たしていくかというくだりで、公判遂行を通じ説明責任を果たしていく。なかなか深い言葉だと思うんですが、しかし、その言葉がしんしんと行き渡るようなことに果たしてなっているんだろうか。

 法務大臣発の文書を続けて申し上げますと、「検察権の目的たる犯罪の検挙による国家治安の維持を全うし得ないこととなり、公共の福祉の保護を達成することが到底不可能であるのみならず、」ここからが大事なんです、「裁判官に予断を与え、裁判の公平を期する上に重大なる支障を来たし、司法権の公正なる運用を阻害することとなるものというべき」であると。

 つまり、ハウスから資料を出してほしいということが昭和二十九年にございました。そのときはかような理由で出せないとおっしゃっておられる。

 他方、説明責任を果たしていくのは一体どこで、記者リリース、記者レク等々もあるんでしょうけれども、きちんとそれはやるべきじゃなかろうか、多分そういった御趣旨だったと思うんですけれども、私も同感です。

 その意味では、公判を通じその説明責任を果たしていく、なるほどなと拝聴いたしましたが、刑事局長、最高裁も、これから裁判員制度が始まりますね。つまり、例え話がいきなり稚拙になりますけれども、例えば、学校給食で一週間のメニューがありますね。あしたはカレーだよとお母さんから聞いていたという子がいたならば、カレーだと言われて行ったら実はハヤシライスだったら、これは、カレーだと思い込んだらカレーでなきゃいけないんですよ。ハヤシライスが出た途端に、これは違うぞという感じがあります。

 つまり、起訴後は九九%有罪になりますね。そして、裁判員の皆様が参加するのはまさに公判ですから、したがって、公判前にどういった情報が、皆様が出せないと昭和二十九年におっしゃった事柄について、先ほどの村上事案初めもろもろの事案で、何やらここに書いていることとは言行不一致なことが仮にあるならば、私は一番危惧するべきことは、まさしく今刑事局長がおっしゃった、公判における予断を与えるという要素が多分にあると思うんですね。

 時間が参りましたので、最高裁、今こういうことのやりとりを横で聞いていただきましたが、裁判員制度を迎えている今、その前夜にあって、もろもろについてさような予断を与える情報が今あるやなきや、このことについて何か危惧あるいは御懸念、あるいは何の問題もない、少し御所見をお尋ねしたいと思います。

小川最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 今委員御指摘のようなことについては、特に事務当局としてお答えする立場ではございませんが、ただ、裁判員裁判制度になりましても、今までもそうですが、証拠裁判主義でございますので、私ども裁判所としては、裁判員の方にも、法廷で調べた証拠のみによって御判断をいただくというようなことは十分説明をしてまいりたいと思っております。

古本委員 では、刑事局長、法廷において、公判において説明責任を果たすということとの関連で、この昭和二十九年の法務大臣発の回答との連関性について最後に少しコメントをお願いします。

大野政府参考人 裁判に不当な予断を与えてはいけないという昭和二十九年当時の指摘は、実は、今委員が指摘されたように、裁判員裁判がこれから行われるということになれば、ますます妥当することになるだろうというふうに考えております。

 私、先ほど、説明責任は公判廷で果たしていくのが筋であるというふうに申し上げましたけれども、これは基本的に公判廷で果たしていくのが筋であるというふうに申し上げております。

 そして、捜査、公判に不当な影響を与えず、あるいは裁判所等に予断を与えないような、そういう弊害がなく、しかも、関係者の名誉、プライバシーにも配慮した形で起訴事実を、こういうことで起訴しましたというようなことを公表すること、これは恐らく先生の御懸念の点も含めて弊害がなくできることだろうというふうに考えております。

 いずれにしましても、そうした、予断を与えないというような点、あるいは捜査、公判に不当な影響を与えてはいけないという点と、国民にきちっと理解をしていただくという点のバランスをとって仕事を進めてまいるものというふうに考えております。

古本委員 裁判員制度は今国民も大変関心のあることであります。伺えば、今回辞退されている方も随分いらっしゃるというふうに、もともと不適格事由に当たった方は書類の返送があったやに聞いておりますけれども、やはり、本当に凄惨きわまる事件等々を担当するということは、登庁して、自分の担当がわかって初めてそういう場面になるそうですね。

 ですから、今後裁判員制度を進めていく上での課題については本日入れませんでしたが、ぜひ、予算定員をふやす限りは判事の皆様にも御奮闘いただきたいですし、何よりも検事の皆様が起訴しない限り裁判にはなりません。裁判になれば、こちらは判決を出すしかありません。つまりは、起訴するかどうかという唯一の権能を持っておられる皆様が、ぜひ、法務大臣ともよく、内閣がその責任を連帯しておるという原点に立ち返りまして、十四条については、時々に応じてむしろ柔軟に事々に当たっていかれた方がいいのではなかろうかということを少し思いますけれども、時間が参りまして恐縮ですが、改めて大臣に、最後、十四条の扱い、つまり検察との関係についてもう一度だけ総括をしていただいて終わりたいと思います。

森国務大臣 検察は行政の一つの機関であって、かつ準司法という非常に微妙な存在でありますから、私は、やはり法務大臣としては、指揮権の行使というようなことはよくよく慎重であるべきだと思っておりまして、現時点においては私は検察に全幅の信頼を置いていて、現時点においては指揮権を行使するつもりはございません。

古本委員 ありがとうございました。終わります。

山本委員長 次に、保坂展人君。

保坂委員 社民党の保坂展人です。

 裁判官が大変激務であるということで、定員を、枠をふやしていくということについては、もっともっと積極的に進めていくべきであるというふうに考えていますが、私、この十年近くにわたって、裁判官と検察官の給与、俸給、いわゆる待遇が、いわゆる各省の事務次官以上の待遇の方が多過ぎるんじゃないかということを指摘してまいりました。

 そこで、現在、何人おられるのか。裁判所と法務省からお願いします。

稲田政府参考人 お答え申し上げます。

 本年一月一日現在の数字でございますが、事務次官と同額あるいはそれ以上の俸給を受けている検察官は、検事総長、次長検事及び検事長の認証官が十名おりますが、それを含めまして六十六名となっております。

大谷最高裁判所長官代理者 裁判所の数字は平成二十年十二月一日現在ということになりますが、最高裁の裁判官十五人、高裁の長官八人のほか、百九十五人でございます。

保坂委員 事務次官のレベルというのは最高のレベルという理解ですが、それを上回る方がこれだけいるという必要は私はないと思いますし、見直しを求めたいということをこれまでも言ってきましたけれども、改めて大臣、どうですか。

森国務大臣 私は、裁判官あるいは準司法と言われるような検察というのはやはりそれなりに尊重されてしかるべきだと思いますので、必ずしもこれが不当だというふうには思っておりません。

保坂委員 事務次官レベルでいいじゃないですか。事務次官と同額か、同額は同じですけれども、上回る方もいるということは指摘しておきたいと思います。

 ちょっと他の問題に移りたいと思います。

 実は、裁判員制度をめぐる議論が非常に不足しておりまして、先ほども古本さんの質問にもちょっとありましたけれども、辞退をされている方が新聞報道によると約七万人いらっしゃる、こういうことなんですけれども、そもそも二十九万五千三十六人の方に調査票を送られているということなんですが、そもそもこの調査票に対して回答してきた人というのは何人ぐらいいらっしゃるのかというのはわかりますか。何%かも。

小川最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 回答された方の総数が十二万四千九百十一人で、名簿全体の四二・三%でございます。

保坂委員 つまり、四割ちょっとの方が回答されてきたということですね。

 そこで、新聞記事や最高裁の資料を見て考えたんですが、辞退の方のかなり多くが七十歳を超えた方、あるいは学生であるとか、こういう方は辞退したいと言えば自動的に辞退できますよという定型的なというんですか、そういう辞退理由者であるということだと思うんです。

 そこで、質問は、では、調査票を送り返してこなかった残る六割の方の中に、例えば今言った七十歳以上の、あるいは学生、そういう方たちがいらっしゃるんじゃないか。つまりは、七十歳以上の方で、私はできない、あるいはやれるとお答えを返してきた人が約四割の中に含まれているんでしょうけれども、残っている六割の中で、返答がない方、その中でどうでしょうか。

小川最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 委員御指摘のように、調査票の回答を返送していただけなかった方の中に、七十歳以上の方でありますとか学生の方は恐らくおられると思っております。

保坂委員 裁判員制度の辞退理由については、この法務委員会でも、例えば私は死刑についてはやめるべきだ、こういう主張ですけれども、国民の間でも、死刑について必要だという意見が世論調査をすると多いんですが、しかし、自分が裁判員制度でその判断を数日でやるというのはとても重圧である、無理だ、あるいは自分はとても勘弁してほしいという声はあるんですね。

 したがって、この最高裁の発表された回答状況の理由をもう一度確認しますけれども、欠格事由の方が三百九十一人、就職禁止事由の方が千四百八十八人、残り、定型的辞退理由の方が七万二百五十一人、あて先不明、この方が二千七百五十三人で、とりあえず先ほどの七万人余りの辞退という数字になっているんですけれども、残っている二十二万人の中で、七十歳以上の方もいる、そして私が今言った、むしろ、みずからの考え方、あるいは信条、あるいは宗教上の理由で、自分はとてもやりたくない、こういう人も含まれているんじゃないかと思うんですね。

 ですから、そのところの見通しはどうなんですか。二十二万人の中で、当然、具体的に裁判員裁判の期日が指定されてきたら、さらに相当減っていくのではないかと思いますけれども、いかがですか。

小川最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 七十歳以上の方は、恐らく全有権者の二〇%ぐらいだったかなと思っておりますので、その割合でいいますと、あと、ある程度の方々は当然この中に含まれておられますが、ただ、その方々が皆さん辞退を申し立てられるというわけではございませんので、ぜひやりたいという方も当然おられますので。

 それから、それ以外の方、今おっしゃった、自分の気持ちだとか、いろいろな精神的な面から辞退をしたいという方もおられると思います。それは今後、個別の選任手続の中で、あるいは質問票で、できるだけ前倒しでお尋ねしようと思っていますけれども、そういう方もおられると思いますが、ただ、なかなかその見通しが、何人かということを今申し上げるというのはなかなか難しいようには思っております。

保坂委員 この裁判員制度、私は、もっと吟味して、延期してはどうかと実は思っているんですが、全体としては五月スタートということで動いている。

 先ほども少し触れましたけれども、死刑の問題と、もう一つ、これは余り知られていないんですが、一昨年のこの法務委員会で、当時の小津刑事局長と何回か議論しているんですけれども、最高裁判所が、不公平な裁判をするおそれに関する質問のイメージというのを、裁判員の候補者に対する、これは検察官の要求があった場合に、こんなふうに聞くんですかということを例示しているわけですね。あなたは、特に警察の捜査を信用できるかという、すべからくそうですか、あるいはすべからく信用できませんかという設問。死刑についてはかなり踏み込んでいるんですね。あらゆる法定刑を選択できるかと聞いた後で、今回の事件の裁判で証拠によってどんな事実が明らかになったとしても、絶対に死刑を選択しないとあなたは決めているんですか、こういうふうに聞いてくるということで、私はかなり思想、信条に踏み込む設問だと思っています。

 そこで、質問は、虚偽陳述の禁止というのが裁判員法上の罰則でついているということは、私は重大だと思っています。ところが、この罰則も、三十万円の過料と五十万円の罰金という二つが立てられている。これはぜひケース・バイ・ケースと言わないでほしいんですが、どうして三十万円の過料と五十万円の罰金というふうに分けられているのか、その趣旨は何なのか、どういう場合に過料でどういう場合に罰金なのか、明快に説明をしていただきたいと思います。

大野政府参考人 裁判員候補者が裁判員選任手続において虚偽陳述をした場合の制裁に罰金と過料の二つが設けられている、その点についてのお尋ねでありました。

 いずれも、そうした制裁を科する目的といいますのは、裁判員等の選任の適正を図るためであるという点では共通しているわけであります。

 その中で、過料の方でありますけれども、裁判員候補者に課された義務の履行を担保するための、いわば秩序罰としての間接強制手段というように理解されております。当該の裁判所がそうした罰を科することになります。

 これに対しまして罰金の方でありますけれども、これは虚偽陳述を犯罪ととらえるわけでありますが、義務違反の行為がなされた結果、裁判員等の選任が適正になされず、裁判の公正が著しく損なわれるおそれがあるということから、その行為の悪質性に着目して刑事罰を科するわけでありまして、したがいまして、これは起訴の手続を踏むことになるわけであります。

 では、なぜこの二つの手続が別個にあるのかということでありますけれども、それは、それぞれの趣旨を踏まえて判断されることになると思いますけれども、質問手続の継続中に虚偽の陳述であることが明らかな陳述がなされて、正しい陳述を求めるために過料を科すというようなことも考慮されると思います。

 にもかかわらず、その虚偽の陳述を維持し、それが悪質であると考えられ、後日裁判所から告発があったというような場合には、罰金刑を科することも考慮されるというように考えております。罰金と過料、それぞれ、それが適用される場面はやや違うわけでありますけれども、これを併科する、両方その手続をとることは妨げられないというように考えております。

 なお、裁判員選任手続におきます正当な理由のない陳述の拒否につきましては、罰金は科し得ない、過料のみが科されるという点を申し添えます。

保坂委員 丁寧に御説明いただきましたが、私ども社民党のヒアリングでこの点を裁判所に聞いたところ、要するに客観的な事実に反することを言ったかどうかというのが一つのメルクマールだというのが法務省の見解なんです。

 それでは、今、裁判員面接で、死刑について、本当はどんどんやれという立場だけれども、裁判員をやりたくないので、私、死刑、絶対しませんと言おうじゃないかというようなことを言う人がいたり、あるいは逆に、死刑について反対だけれども、そのことを明確に言ってしまうと、裁判員として専断的忌避、検察側の忌避に遭うのでこれを言わない、あるいは十分には言わないというのは、心の中のことであって、客観的な事実というのはなかなか言い得ないと思うんですが、この辺、裁判所はどう考えますか。

小川最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 委員今御指摘のように、確かに今のお話のとおり、内心の話でございますね。ですから、それは果たして虚偽なのかどうなのかというのを個別の裁判体がどのように判断するかというのは、それは非常に難しいようなふうには思っておりますけれども……。

保坂委員 裁判所に続けて伺いますが、これは、立法当時は裁判員制度というフレームをつくったわけですね。中身は法曹三者でいろいろ詰めてこられた。それで、裁判所の映画とかあるいは法務省の映画とか、大体出ているものは見せていただきましたけれども、大体、この評議は、主に検察側の有罪の立証が果たされているかどうかの事実認定から入って、有罪か無罪かというのをまずは議論をする。それで、有罪だ、無罪だと分かれるわけですね。

 そのとき、例えば死刑というふうに多くの人が傾いている、凶悪な事件だ、死刑ということもあり得るなというような事件で、裁判員の方が、これはやっていないな、あるいは、相当検察側の立証は無理がある、自分は有罪とは絶対思えないと強い信念で思ったとしますね。そういう主張をしたとする。これは無罪ですよ、疑わしきは被告人の利益にということでしょうと言ったとします。しかし、多数決の評決では有罪というふうになってしまった。

 そうしたら、次に、では量刑ですね、どうしましょうかという議論に入るわけですね。いや、無罪だと言っているんだから、量刑はありませんよ、無罪は釈放でしょう、こういう話になる。その人は、次の量刑の評議、評決に加わっていくということになっているんですね。これはちょっとおかしいんじゃないかと。私はもうそれは加われません、辞任します、認められるのか。あるいは、いろいろ議論して、もうとても耐えられない、自分はそこに加わらない、その部屋から出ていってしまう、どう対応しますか。

小川最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 委員御指摘のような事態が生じるかどうか、抽象的な場合もあるかもしれません。まだわかりませんけれども、そういう場合に、裁判員法の六条一項三号というのは、刑の量定につきましては裁判官及び裁判員の合議によるという旨が規定されておりまして、また、裁判員法の六十六条二項は、裁判員は、評議に出席し、意見を述べなければならないというような規定になっております。

 したがって、委員御指摘のような場合が仮にあったとしまして、その場合も、裁判員法により、そういう裁判員の方にも量刑についての評議に出席して意見を述べていただくということになると思います。

保坂委員 最後にちょっと大臣に伺いますが、今の点、これは裁判員制度についていろいろな議論がある中で、議論がまだ余り及んでいない点だと思うんですね。つまり、世の中には職業裁判官の裁判でも誤判というのがあって、したがって、再審開始事件もあって、死刑についても、戦後四件の死刑囚が長期の勾留の後に再審無罪で釈放されているということもありました。職業裁判官でも、死刑でもし冤罪だったらと、これは非常に苦悩するところだと思います。

 国民からくじで選ばれた方が、いろいろなタイプの方がいますから、みんなに、大体多数意見に合わせていこうという人が多いかもしれませんが、中には、この人は違うと思うという心証を持って、この人はやっていないというふうに、自分はいろいろ総合して判断するといって、強力に評議で無罪を主張するということはあり得るわけですよ。そういう意味で、自由に意見を出してもらうということが裁判員制度なんです。その意見を出した後、多数決で有罪になった、そうしたら、その人は、死刑かどうかという話に意見を出さなきゃいけないんですね。これは矛盾していると思いませんか。

 そして、今の最高裁の説明では、死刑かどうかの評議に加わって量刑の判断を出して、そして、その後、死刑になったかもしれない。その後、記者会見するんですよ、報道機関の求めによって。嫌な人はしなくてもいいですけれども。そのときに、私はやっていないと思うので無罪だというふうに言ったけれども皆さんのお声は違っていたと言えば、これはまた守秘義務違反で刑事罰の対象になるということじゃないですか。

 だから、そういう意味では、この人はやっていないと思ったけれども全体で死刑と決めてしまったときに、猿ぐつわをはめて生涯生きなきゃいけない。大変な苦痛です。その点についてどう思いますか。

森国務大臣 裁判官と裁判員で慎重に評議をしていただくことになるわけですけれども、最終的には多数決でありますから、その結果でもって判決がなされると思います。

保坂委員 だって、無罪だと言う人にどうやって量刑を判断しろというんですか。自分は無罪だと思っているのに、量刑、あなた、どうですかと言われて、いや、自分はそれは加われませんというのが人情じゃないですか。無罪だと言うのに刑を決めろと言われているんですよ。何で拒否できないんですか。それだけ答弁を。

森国務大臣 先ほど申し上げたとおりです。

保坂委員 いや、大臣はそれでいいと思っていらっしゃるんですか。無罪だと思った人も、全体が有罪だと決めたら、では、その中で軽い方の刑を主張すればいいんですか、その裁判員は。それが合理的なんですか、この法の精神なんですか。

大野政府参考人 評議、評決の方法につきましては、裁判所法、裁判員法に規定がありまして、今委員が言われたような形で、ある段階での自分の意見が全体の意見と異なった場合には、次のレベルに進む際には、評議で整理されたその議論を前提に議論していただくということになっているというように承知しております。

保坂委員 ですから、私は、ぎりぎり譲って、死刑についてはもう全員一致でやったらどうかというふうに思うんですよ。つまり、全員一致であれば、ぎりぎりまで、その人が無罪というふうに言っても、全体の議論の中で、これはもうわかったということで判断するわけですから。そうしたら、こういうことは起こらないわけですけれども。

 多数決なので、無罪だというふうにはっきり思っている人も量刑をやれと言われる、これはおかしいと思います。集中審議を委員長に求めて、終わります。

山本委員長 次に、滝実君。

滝委員 無所属の滝実でございます。

 まず、裁判官の定員法でございますから、あらかじめ質問通告はいたしておりませんけれども、基本的なことだけ、突然で恐縮でございますけれども、申し上げたいと思うんです。

 一つは、当然、定員法ですから欠員はあるというのが前提なんですけれども、それでは、欠員以外の裁判官全員が稼働しているかというと、そうでもないと思うんですね。裁判官は、精神的にも肉体的にも全部健全とは到底思われないと思うんです。したがって、今、病気でもって常時どのぐらい勤務できない人たちがいるのか、大体どの程度おいでになるのか、まずそれをお聞きしておきたいと思うんです。

小池最高裁判所長官代理者 恐縮でございますが、その数値については、現在手元に持ってございません。お答えはちょっと今いたしかねます。

滝委員 ということは、肉体的にも精神的にも病気の人は大した数字ではない、こういう前提で定数が組まれている、こういうふうに考えていいんだろうというふうに勝手に理解をさせていただきます。

 そこで、今後なお四百五十人ほどの裁判官の増員が必要だということは前から決まっている話でございますけれども、問題は、そういう決められた数字をそのまま実現していくのが仕事なのかどうかということではないかと思うんです。

 というのは、四百五十人、これから六年かかって仮に埋めたとしても、恐らくまだまだそれでは不十分だという意見が必ず出てくる事態はあると思うんですね。恐らく、訴訟の件数がふえてくれば当然ふえてくる。したがって、そういうことを防止するためにも、どれだけ今の事件の案件を減らしていくかということも片や考えなければならない事態ではないかな、こういうふうに思うんです。

 そこで、その一つの問題として、いかに訴訟という格好から裁判外の紛争解決に持っていくかということで、かねてからADRの問題があり、そしてそれはそれなりに取り組んでいらっしゃると思うんですけれども、もう一つ、実は訴訟の枠の中で出てきている問題で、例えば行政事件、要するに、国の利害に関係ある事件が主として行政事件と思われるジャンルにあるわけですね。こういうものについて、事前に、いわば事務的に、行政的に解決する方法というのはないのか。

 例えば、これまで厚生省関係の薬害問題について、数多くの訴訟があり、それはいずれも極めて時間のかかる案件が多かったんだろうと思うんです。要するに、国の利害に関係する事案というのは、これはとことんまで判決を求めていかないとなかなか解決しない、途中で和解とかいう問題にはなかなか解決しない問題がある。こういう問題について、裁判所として、結局は何もせずに、最終的な審議を延々と続けていくのかどうか、その辺のところについてどういうお考えを持っているのかをお聞かせいただきたいと思います。

小池最高裁判所長官代理者 ただいまの問題につきましては、基本的には立法論にわたる問題ではないかと思います。

 これは突然の御質問でございますが、司法制度審議会の議論の中でも、行政のプロセス、行政過程においてどういう救済手続をとるのか、訴訟となったときに非常に重たくなりますし、先ほど御指摘のように、行政事件については和解というものがございません、そういう意味で、非常に重たくなりますので、議論はございましたけれども、ちょっとその辺について、裁判所から、そのありようというところを申し上げる立場にはないというふうに考えております。

滝委員 せっかく法制部長さんもおいででございますから、ごく基本的なことをお尋ねしたいと思うんです。

 国の利害に関係する訴訟については法務省の訟務部が担当し、全国各地の法務局の検事がその事件を担当しているというふうに思うわけでございますけれども、こうした事件について、今申しましたように、途中で行政的な解決を図るとか、そういうことで関係省庁と協議をしていくようなケースというのはあるんでしょうか。

深山政府参考人 行政事件、典型的なものは行政処分の取り消しを求める訴訟ですけれども、これについて、先ほど最高裁からの答弁もあったように、和解をすることは、行政処分というのは国家意思の発現ですから、私人間の合意でそれを別のものにしてしまうということは理論上できないと言われています。

 ただ、実際に、これは、一方の当事者は確かに法務省の訟務検事がやっていますけれども、裁判所の勧告、あるいは、事案に応じて、当事者間で、再処分をすべきではないか、あるいは、裁判所の方から、証拠調べはある段階までしたけれども、この処分はやや一部おかしなところがあるんじゃないか、そのことがある程度明らかになっているのではないかというようなことで、事実上の勧告を受けて再度処分をするということを法務省の訟務部門と原処分庁との間で協議をして、それで、再処分をすることによって原告の側が満足をしてそれで終わってしまう、よく事実上の和解と言っておりますけれども、そういう形の解決というのは事案によってはある程度やっております。

滝委員 特に厚生労働省関係だけではないと思うんですけれども、最近の各種の行政庁を相手取った事件というのはどうしても長引く。今法制部長さんがおっしゃったように、行政行為としてやったことについて簡単に民事的な和解はできない、こういうようなことを貫いていくと、結局長い時間、訟務担当検事もそれに振り回されるし、裁判所もおつき合いをしなければいかぬ。こういうことをどこかで方向転換するというか、考え方を変えていかないと、いたずらに事件が長引くという事態を避けられないんじゃないか。

 私は、昔、若いときに都道府県庁におりましたから、そのときには当然、訟務を担当して、行政事件、時々裁判所まで行っていたものでございますから、そういうことを経験いたしますと、特に、何となく無駄なことをやっているなという感じは否めないし、今も恐らくそういうことで担当者はお考えになっているんだろうと思いますから、何とかそういう点でも解決していけばそれだけ時間が省けるということでございますので、改めてこの問題を問題点として提起しておきたいと思います。

 そこで、次に、裁判員制度の問題についてお伺いをいたしたいと思います。

 最高裁はいろいろな文書をおつくりになっていますし、ビデオもおつくりになって、大体、裁判員というのは、どういう格好で法廷が進んでいくのかというのがわかってきている人も多いと思うんです。

 私も最近、最高裁の事務局からこういう「裁判員制度ナビゲーション」という冊子をもらいました。これは、いわば刑事裁判の本当に簡単な例でもって、非常によくわかる、大変すぐれた入門書みたいなものでございます。それを読んで考え、感じ取ったのは、裁判員は普通の社会人としての常識で判断してもらう、それで裁判というものについての何がしかの改善がされていけば、それが裁判員制度の大きな成果になるだろう、こういうふうなことを考えてまいりました。

 こういう現実の裁判員が加わった刑事裁判のことを考えてまいりますと、基本的には、裁判員は何をやるんだろうかということを改めて考えさせられるわけです。恐らくは裁判員も裁判官も同じなんですね。まずは事実の確定で、何がわかっていて何がわかっていないか、何がわかっていないかということを改めて裁判という手続で明らかにしていく、こういうことに尽きるんだろうと思うんです。

 そこで、このナビゲーションに取り上げられている放火事件の裁判員同士の審理の状況を読んでまいりますと、やはり、裁判員といえども当然のことながら普通の市民でございますから、言っていることが、憶測でしゃべっていたりなんかしていますね。事実認定のときに、裁判員Aさんは、多分こういうことじゃないのというふうに発言をする、それに対して、もっともらしい法律家みたいな裁判員がやはりおりますから、いや、証人はそんなことは言っていませんですとか、大変リアルに事件をこの裁判員制度の冊子で取り上げているものです。

 それを通じて考えられるのは、結局、裁判員法廷が始まるまでに、裁判員が、どういうようなことをお互いに意識して裁判に臨むかという最初のいわば申し合わせみたいなものが必要なんだろう、あるいは重要なんだろうと思うのでございますけれども、そういう場面について、裁判所側としては、どういうような用意といいますか、法廷を開くに当たって、裁判官、裁判員の会合でどういうことから裁判をスタートさせようとしているのか、いろいろプログラムをお持ちだろうと思いますけれども、その点についてまずお聞かせをいただきたいと思います。

小川最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 裁判員裁判にふさわしい裁判のあり方ということを、裁判所と、それから、もちろんこれは裁判所だけではございませんので、検察庁、弁護士会、これは法曹三者でずっとこれまで検討してまいりましたし、六百回を超えておりますけれども、模擬裁判もやっております。

 そこで、私どもとしては、国民の皆さんに入ってきていただくわけですので、本当に裁判にはなじみのない方でございますから、いかにわかりやすい審理を心がけるのかと。ですから、法廷で目で見て耳で聞いてわかる審理をするためにはどうしたらいいのかということを十分これまで模擬裁判を通じてやってまいりましたし、また、評議でも、裁判員の方が十分に意見を述べていただいて、裁判官ともお互いに、あるいは裁判員同士もお互いに十分に意見を述べ合って、いい結論に導くというようなためにはどんな評議のあり方がいいのかということを、これまで随分研究してまいりまして、それを、最近は、模擬裁判の成果と課題という形のものにまとめさせていただいて、それをさらにまた各裁判所でも議論していただくということで裁判員裁判の実施に備えておるということでございます。

滝委員 最近、本屋へ行きますと、裁判員裁判に対応していろいろなハウツー物が出ております。その中で、私も感心したのは、裁判員制度はまず国語力をお互いに高めるというところから意識をしないとうまくいかないんじゃないかと。裁判員に選ばれた人は、法律知識よりもまず国語力、要するに、ただいま申しましたように、何がわかっていて何がわかっていないか、わかっていないことについてどういう意識を持って審理に臨むか、あるいは裁判員同士の打ち合わせに臨むかではないかというようなことを思い知らされる本がたくさん出てまいりました。

 私は、そういう意味で申し上げるんですけれども、こういう法的ないわば模擬裁判も大事でございますけれども、心構えとして、きちんとしたことが考えられる、要するに推量はいけません、裁判長が最初に言いますように、証拠に基づいて判断してくださいということは推量はいけませんということなんですね、憶測もいけませんと。そういうことを貫いていってもらいたいということに尽きると思うんですね。それがいわば国語力の一つのあらわれだと思います。ただ、このナビゲーションで見てもわかりますように、最後の事実認定のところはやはり推定が入っちゃうんですね。そういう事例というのが具体的な裁判例では意外と多いんだろうと思うんですね。

 そういう問題について、要するに、裁判長、職業裁判官としては、裁判員に対してどう説明していくかということには、十分に、物すごく気をつけて、特に意識的にやっていただかないと、ただ単に日常の社会人としての常識でもって判断すればいいんだというだけでは事が済まないように思いますので、その点を、なお具体的なオリエンテーションでどういうふうにしゃべっていくのかをもう少しきちんとしていただいた方がいいんじゃないかなという感想をまず申し上げておきたいと思うんです。

 それからもう一つは、当然のことながら、これまでの判決でも、事件に当たる裁判官は過去の裁判例を前提として物事をお考えになっている。判決を書くときには当然量刑は過去の先例に従う、こういうことだろうと思うのでございますけれども、こういうことだけでいいんだろうかという疑問というのはやはりあるんですね。

 裁判官が量刑について必ず説明をする、模擬裁判でもそれが中心となって模擬裁判が展開されていますように、過去の裁判例ではどういう量刑をしているかということがまず量刑を考える場合の最大の出発点になる。そうすると、裁判官の過去の判例の量刑が前提になってリードされていくということですから、量刑の問題について裁判員が口を挟む余地がないんじゃないかな、こういうことも言えるのでございますけれども、これに対して、裁判所側はこれまでどういうふうな考え方を持っていたのか、お示しをいただきたいと思います。

小川最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 量刑といいますか、確かにこれまでの裁判例というものを参考にするということはございます。従前の裁判官による裁判の場合には、確かに細かく従前の裁判例を随分調べたりはしておりました。

 ただ、今後の裁判員裁判で、今、裁判所として議論して裁判官同士で考えておりますことは、これまでの量刑に関する裁判例の中から、大まかなある一つの犯罪類型、この事件で対象になっている犯罪類型の大まかな量刑傾向というものをグラフ的にお示しすると。何の手がかりもないというわけにはまいりませんのでそれをお示しして、ただ、それは幅がございますが、決してそれに拘束されるというか縛られるとかいうことではなくて、もちろんそこから下回るものもございますし、それから出るものもあるかもしれません。そうしたものは当然修正されるという前提で、裁判員の方にも十分に意見を言っていただいて、その範囲で御意見を言っていただくというようなことを考えているわけでございます。

滝委員 裁判に余り関係ない目から見ますと、例えば検事が求刑した量刑の八掛けが大体判決の量刑だとか、いろいろ、相場という前提で物を考える見方もこの世の中にはあるわけですね。したがって、そういうようなことから考えると、もう少し、裁判員としてどういう姿勢で取り組むのかという物の考え方がある程度あった方がいいんじゃないだろうかな、こういう感じもしないわけではありません。

 そこで、そういうことも含めて、裁判官と裁判員で審理の打ち合わせをいろいろする際に、裁判官からどういうような説明を受けるのかということがどうも裁判員制度の決め手のように思いますので、その点も十分に、裁判員が法律知識なしで量刑に参加できるのかどうか、その辺のところもわかりやすくお願いをいたしたいと思います。

 先ほど刑事局長から、特に無罪だという主張をする裁判員に対しても量刑には参加するように、こういうような考え方が示されておりますけれども、やはり、それはそれで具体的に裁判員がどういう態度をとるかの際には非常に混乱するのではないだろうかなという感じがありますので、少なくとも裁判員が常識的に動けるようなことをぜひお願いいたしたいと思うんです。特に、わからなかったらわからないというのでいいんだというのがこれまで常識的に流されてきた裁判員制度の判断の基準だったと思いますから、そういうことについてもう一遍、最後に。

 細かい問題は抜きにして、わからないという人に対して、もっと具体的に量刑で賛否を問われるということ自体が何となく違和感がありますので、その点について裁判所側はどういうふうに考えているかをお示しいただきたいと思います。

小川最高裁判所長官代理者 量刑の評議の当初あるいは過程においては、なかなか御自分の意見がまだ形成できないという方はおられると思いますし、やはり、評議をだんだんと詰めて、尽くしていくうちに、それぞれの方々がそれぞれの意見を徐々に形成されていくというふうに思います。

 ですから、わからないという御意見の方は、またさらに評議を進めて、十分に議論をして、その上で意見を述べていただくということになろうかと思っております。

滝委員 時間が参りましたので終わりますけれども、最後に、本当は法務大臣に、行政事件について、やはり、法務省が処分を通じて把握した裁判の進行状況に応じては、行政的に解決すべき問題は解決するという関心を法務省全体として持ってもらう必要があるのではないかということを、意見だけ申し上げまして、終わりたいと思います。

 ありがとうございました。

山本委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

山本委員長 これより討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 内閣提出、裁判所職員定員法の一部を改正する法律案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

山本委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

山本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

    ―――――――――――――

山本委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時七分散会


このページのトップに戻る
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.