衆議院

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第5号 平成21年4月7日(火曜日)

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平成二十一年四月七日(火曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長 山本 幸三君

   理事 大前 繁雄君 理事 桜井 郁三君

   理事 塩崎 恭久君 理事 棚橋 泰文君

   理事 谷畑  孝君 理事 加藤 公一君

   理事 細川 律夫君 理事 大口 善徳君

      赤池 誠章君    稲田 朋美君

      近江屋信広君    河井 克行君

      木村 隆秀君    笹川  堯君

      杉浦 正健君    平  将明君

      長勢 甚遠君    萩山 教嚴君

      早川 忠孝君    町村 信孝君

      武藤 容治君    盛山 正仁君

      森山 眞弓君    矢野 隆司君

      柳本 卓治君    石関 貴史君

      小宮山泰子君    篠原  孝君

      中井  洽君    古本伸一郎君

      松木 謙公君    山田 正彦君

      神崎 武法君    保坂 展人君

      滝   実君

    …………………………………

   法務大臣         森  英介君

   法務副大臣        佐藤 剛男君

   法務大臣政務官      早川 忠孝君

   最高裁判所事務総局刑事局長            小川 正持君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    倉吉  敬君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    大野恒太郎君

   政府参考人

   (外務省大臣官房審議官) 北野  充君

   法務委員会専門員     佐藤  治君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月七日

 辞任         補欠選任

  清水鴻一郎君     盛山 正仁君

  河村たかし君     松木 謙公君

  中井  洽君     小宮山泰子君

同日

 辞任         補欠選任

  盛山 正仁君     清水鴻一郎君

  小宮山泰子君     中井  洽君

  松木 謙公君     篠原  孝君

同日

 辞任         補欠選任

  篠原  孝君     河村たかし君

同日

 委員河村たかし君が退職された。

    ―――――――――――――

四月七日

 刑事訴訟法の一部を改正する法律案(第百六十四回国会衆法第一三号)の提出者「河村たかし君外二名」は「高山智司君外一名」に訂正された。

四月七日

 国籍選択制度の廃止に関する請願(第四二九号)及び成人の重国籍容認に関する請願(第四三四号)は「河村たかし君紹介」を「石関貴史君紹介」にそれぞれ訂正された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律案(内閣提出第三七号)


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     ――――◇―――――

山本委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として法務省民事局長倉吉敬君、法務省刑事局長大野恒太郎君、外務省大臣官房審議官北野充君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

山本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

山本委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局小川刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

山本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

山本委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。平将明君。

平委員 自由民主党の平将明です。きょうはよろしくお願いをいたします。

 本日は、外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律案について質問をさせていただきます。

 このところグローバル化が急速に進んでおりますので、日本企業が外国の国家と取引をする事例が急速にふえていると思います。このような流れの中で、外国との間に生じた民事的な紛争について、どのような場合に日本の裁判所で解決できるかといったことを規定したのがこの法律案だと思いますが、グローバル化はどんどんどんどん進んでいくわけでありますので、民間企業の国際的な活動を後押しするためにも、早くこういった立法をしなければいけないと思っております。

 そこで、まずお伺いしたいのは、この法律案の提出に至った経緯について、国際問題に特にお詳しい副大臣にお伺いをいたします。

佐藤副大臣 おはようございます。

 ただいま平先生から御指摘がございましたように、グローバル化の関係でこの法律案を提出するわけでございます。御指摘のありましたように、最近のグローバル化の流れを受けまして、日本の企業も外国と取引をする事例がふえております。そのような中で、外国との間で生じた民事的な紛争について、日本の裁判所で解決できる場合を想定したものが、先生御指摘のように、この法律案でございます。

 至った経緯を少々お話し申し上げたいと思います。

 国際法の流れでは、国が他の国の民事裁判権に属するかどうか、服するかどうかという点については、原則として国は他の国の民事裁判権に服さないという絶対免除主義という考え方と、それから、一定の場合には国であっても他の国の裁判権に服する、制限免除主義というんですが、そういう二つの考え方があります。

 かつては、絶対免除主義が国際的に支配的な立場でございました。しかし、その後、国家の活動範囲そのものが拡大してまいりまして、国が、外交、防衛といったことだけじゃなくて、一般私人と同じように、他の国の会社や私人との間でごく一般的な商業取引等をすることが非常に多くなってきたわけでございます。そうなりますと、この種の取引まで他の国の民事裁判権から免除されるとするのは相当ではないということになったわけでございます。そこで、制限免除主義が多くの国において採用されるようになりました。

 そういう中、平成十六年、国連総会におきまして、制限免除主義に立ちまして、国及びその財産が他の国の民事裁判権に服すべき範囲等を明らかにする国連の国家免除条約が採択されまして、我が国も、約三年前、二年数カ月前ですが、平成十九年の一月に署名いたしました。

 また、我が国の最高裁判所も、平成十八年七月二十一日の判決において、これは大審院判決を覆すものでありますが、制限免除主義の立場に立つことを明らかにしたわけでございます。

 しかしながら、この判決によって、いかなる場合に外国が我が国の民事裁判権に服するかということについてすべて明らかになったわけではありません。そこで、この点に関しまして国内法を有していなかった日本としまして、外国がいかなる場合に我が国の民事裁判権に服するのかについて明らかにすべく、本法律案を先生御指摘のようにここに提出するに至ったわけでございます。

 以上でございます。

平委員 国際的な流れや日本の国内の判例、そういった流れの中でこういった法律案が出てきたということだと思います。

 この法律、すぐに整備をしなければいけないと思いますが、今よりもはるか前からグローバル化というのは進んでいて、多分多くの民間企業が、外国の政府、外国等とさまざまな取引をしてきたんだと思います。これまで日本の裁判所は、外国との間に生じた民事的紛争についてはどのような判断をしてきたのかといったことを法務大臣政務官にお伺いをいたします。

早川大臣政務官 お答え申し上げます。

 これまで我が国の裁判所では、具体的な事案ごとに国際慣習法に照らしまして、外国が我が国の民事裁判権から免除されるか否かが判断されてまいりました。すなわち、昭和三年の大審院の決定でありますけれども、外国国家は原則として我が国の民事裁判権に服することを免除されるという、いわゆる絶対免除主義の立場に立つことを明らかにしております。以来、この考え方が維持されてきたわけであります。

 この大審院の考え方に従いまして、我が国の下級審の裁判例でありますけれども、日本の企業が外国に対してコンピューターの売買代金相当額の支払いを求めた場合であっても、外国は裁判権から免除されるという国際慣習法があるものと判断されまして、日本の企業の訴えを却下する、こういう裁判例があったところであります。

 ところが、平成十八年の七月の二十一日に、最高裁判所は、昭和三年の大審院の判断を変更いたしました。外国国家は、私法的ないし業務管理的な行為については、原則として我が国の民事裁判権に服するという、いわゆる制限免除主義の立場に立つことを明らかにしたものであります。

 しかし、この判決によって、外国国家が我が国の民事裁判権に服する場合と示された私法的ないし業務管理的行為の具体的内容がすべて明らかとなったわけではありません。したがいまして、外国と取引等をする私人や企業にとりましては、外国と紛争となった場合に日本の裁判所で裁判をすることができるのか否かについて、依然として不明確な状況が残っていたところであります。

 以上であります。

平委員 時代の流れとともに判断も変わってきたということだと思いますし、個別事例ごとに判断をしてきたということだと思います。非常に不安定で、想定、予想がなかなかできなくて、企業としては動きにくいということだと思います。今後ますます一般企業がグローバルに展開をしていく、また、経済が成熟していきますと、どんどんどんどんニューフロンティアに進出をしていかなければいけないんですが、そういうところに行けば行くほど政府が信用できないということにもなると思います。

 それでは、この法律ができることによって、外国と取引する日本の企業にとってどういうメリットがあるのか、法務当局にお伺いをいたします。

倉吉政府参考人 ただいま委員御指摘のとおりでございまして、企業の立場というのは非常に不安定で予測がつきにくい、この問題について、そういう状況にございました。

 この法律ができることによりまして、国際的にも受け入れられやすいルールに基づいて、いかなる場合に外国が日本の民事裁判権に服するのかということについて明らかになり、外国及び私人の予見可能性、私人は私企業も含みますが、の予見可能性が確保されることになるものと考えております。

平委員 できるだけ早くこの法律を成立させていかなければいけないと思います。

 それでは、ちょっとわかりやすく具体的な例を挙げて御説明をいただきたいと思います。

 この法律案は、外国との間に生じた民事的な紛争について、どのような場合に日本の裁判所で裁判をすることができるかということを定められているわけですけれども、例えば、ちょっとさっき話が出ましたけれども、日本の電機メーカーが外国政府に大量のパソコンを納入する、そういったこともよくある話だと思いますが、その外国もしくは政府がその代金を払ってくれない、これも何か途上国ではよくありそうな話だと思います。そういった場合、日本企業は日本の裁判所で裁判をすることが可能になる、そういうことでしょうか、法務当局にお伺いをいたします。

倉吉政府参考人 まさにそのとおりでございます。

 この法律案の第八条になりますが、商業的取引、ここは定義規定を括弧して入れておりまして、物品の売買、役務の調達及び金銭の貸借など民事または商事に係る事項についての契約または取引、こうしておりますが、これに関する裁判手続について、外国は原則として日本の民事裁判権に服する、こうしております。パソコンの売買契約というのは物品の売買契約ですから、この商業的取引に該当するため、当該売買契約の相手方である外国は日本の民事裁判権に服することになります。

平委員 それでは、引き続きお伺いをいたしますが、日本の企業あるいは国民が外国に対して日本の裁判所で裁判をして勝訴判決を得たとします。そうすると、今度は、その勝訴判決に基づいて、現実に外国が持っている財産に対して強制執行をしていくという話になります。大事なのは、判決が出た後にちゃんと回収できるかどうかといったところが極めて重要な話になってくると思います。仮に、日本の裁判所で日本の企業また国民が勝訴判決を得ることができた、しかしながら、その判決を実効性あるものにするためには、その外国の有する財産に対して保全処分や民事執行をすることが認められることが重要だと思います。

 この点について、この法律ができる前、今までは、日本において外国の有する財産に対する保全処分や民事執行を行うことができたのかどうか、法務当局にお伺いをいたします。

倉吉政府参考人 ただいまの御指摘の点、大変大事な問題でありますが、これまで、国際法上一般に、外国の有する財産に対する強制的な措置は原則的に認められておりません。また、今まで、外国がその有する財産に対する保全処分や民事執行の手続について我が国の民事裁判権から免除されるか否か、あるいは免除されない場合があるとすればどのような場合か、いかなる要件で免除されないのかという点について規定した国内法はございませんでした。しかも、この点についての明確な最高裁判所の判例もなかったという状況でございます。

 したがいまして、例外的に外国の有する財産に対する民事執行を行うことができるのかについては個別の事案ごとの裁判所の判断にゆだねられる、こういうことになりまして、あらかじめこれについて当事者が見通しを持つということは困難な状況にあったと承知しております。

平委員 裁判権とあわせて、実際に保全処分や民事執行するといったことが予見が難しいという状態であったということだと思います。

 それでは、この法律案が国会で可決をされて法律として成立をし施行された際には、外国の有する財産に対する保全処分や民事執行について今までと何が変わっていくのかといったことをお伺いしたいと思いますが、外国の有する財産に対する保全処分や民事執行を行うことができるようになるのかどうか、法務当局にお伺いをいたします。

倉吉政府参考人 この法律案が法律として成立、施行された際には、一定の場合には外国の有する財産に対する保全処分または民事執行を行うことができるということが明確になります。

 すなわち、外国は、原則として、その有する財産に対する保全処分及び民事執行の手続について、我が国の民事裁判権から免除されております。これは第四条でございますが、したがって、原則として、外国の有する財産に対して保全処分及び民事執行をすることはできないということになります。

 しかしながら、外国がその有する財産に対して保全処分または民事執行をすることについて、幾つかの場合には免除されないということをこの法律は明記しております。第一は、条約その他の国際約束、第二は、仲裁に関する合意、第三は、書面による契約等の方法、この三つの方法によりまして明示的に同意した場合、この場合には、当該外国は、この保全処分または民事執行の手続について、我が国の民事裁判権から免除されません。これがまず最初の問題です。

 次に、外国がその有する財産を保全処分または民事執行の目的を達することができるように指定しまたは担保として提供した場合、これはちょっとわかりにくい表現ですが、担保として出す、典型的なのは抵当権を設定するということになろうかと思いますが、こういう場合には、当該外国は、当該財産に対する当該保全処分または民事執行の手続について、我が国の民事裁判権から免除されない。当たり前といえば当たり前のことでありますが、それからさらに、ここは大事なところですけれども、外国の同意等が今言ったような類型で全くないという場合でありましても、外国は、当該外国の有するいわゆる商業用の財産等に対する民事執行の手続については、我が国の民事裁判権から免除されない、こういうふうになっております。

平委員 ありがとうございました。

 保全処分や民事執行については今までは個別に判断をしてきた、それを国内法において明確にする、企業が活動しやすくするということにつながるんだと思います。

 実際に、それでは、日本企業が外国政府の有する財産に対して民事執行をすることができる道を確保しておかないと、企業としてはリスクヘッジにならないと思います。実際に勝訴判決が出ても、事前にそういうリスクをヘッジしておかないと、なかなかうまくスムーズに事が運ばないと思います。

 そこでお尋ねいたしますけれども、法律案によると、日本企業がリスクをヘッジするために外国政府の有する財産に対して民事執行をすることができるということですが、日本企業または個人、中心は企業になると思いますけれども、具体的などのような方策をとればいいのか、その辺を法務当局にお伺いいたします。

倉吉政府参考人 御指摘のとおりでありまして、先ほど、いわゆる商業用の財産であれば強制執行できるんだということが法律に書いてある、この案に書いてあると申しました。

 しかし、現実には、商業用だけのために持っている財産というのは実は限られるわけであります。日本に外国が財産を持っていると仮にいたしましても、例えば遊休不動産を持っている、およそその国家目的としては使っていないような不動産とか、それから商業用の取引だけのために特定した預金口座、こんなものでもない限り、判決をもらっても、後から押さえようとしても、ないということになります。

 それでは不十分じゃないかということになるわけでして、そうすると、むしろあらかじめ、そこは今委員の御指摘のとおりでございます、リスクヘッジをしておくということが一番大事だ。そのことが今この法律案の中で、あらかじめ同意を得ている場合とか、それから担保として提供させておく場合というのが明記されております。だれが見ても、ああ、それを最初にやっておけばいいんだ、こういうことになるわけでございます。

 それで、まず、外国と取引をする際などに、その有する財産に対する強制執行をすることについての、これは明示的な同意が要ると法律上なっています。これは条約にそうなっているからなんですが、その明示的な同意を書面による契約によってあらかじめ受けておく。そうすると、もうこれは確実であります。

 それから、さらには、先ほどちょっと私も申し上げましたが、強制執行の目的とすべき財産について指定を受けておく。これは一番確実なのは抵当権の設定を受けるということでございますが、こういうことをあらかじめしておけば確実である。そのことがこの法律に明記されているからよくわかるということになります。

 なお、強制執行の手続というのは、これは委員が御承知のとおりでございますが、我が国の司法権の発動であります。この我が国の司法権というのは、我が国の領域内にのみ及ぶというものでありますので、日本国外にある外国の有する財産に対して強制執行をするということはできません。したがって、外国から強制執行することについての明示的な同意を得る場合及び強制執行の目的とすべき財産について指定を受けておく場合、このいずれの場合にも、我が国の領域内にある外国の有する財産についてこの措置をあらかじめとっておく必要がある、こういうことになります。

平委員 大変スムーズに質問が進みまして、用意をした質問がすべて終わりましたけれども、あとまだちょっと時間がありますので、ではちょっと私の方の意見を言わせていただきたいと思います。

 まず一つは、これからどんどんグローバル化社会が進んでいく中で、特に日本はアジアにフォーカスを当てて、アジアを今まで外需と見ていたものを、まさに疑似内需としてとらえて経済活動をしていかなければいけないと思います。そういった中で、アジアはさまざまな国がありますから、これからそういう政府に対して、例えば日本の電気機器、パソコンや何かも含めて、また環境技術、そういったものを民間企業が政府と取引をしていくという可能性はどんどんふえていくんだと思うんですね。

 今お答えいただきましたけれども、では、どうヘッジをするのかといったときに、途上国と言っていいかどうかわからないですけれども、そういう国が日本で持っている資産をちゃんと保全できるように、担保で出せと言ったって、僕は出さないと思いますよ、その途上国の政府が契約するとき。ではNECのパソコンを二千台買ってくれと、あるアジアの国に言って、でもあなたのところは信用できないから日本国内で持っている資産を出せと。これはやはり力関係の問題があって、なかなかできないと思います。しかしながら、やはり紛争をしたときにどういう解決の仕組みがあるか、その環境を整備しておくというのはこれはすごく大事なことなので、急速にやっていかなければいけないと思います。

 あわせて、企業サイドに立てば、こういった司法のシステム、環境を整えるのと同時に、例えば裁判というのはやはり大変な話だから、事前に貿易保険みたいなものを掛けておいてヘッジをしておくということも必要でしょうし、それを特にアジアにフォーカスを当てて、やはりカントリーリスクの高い国にさらに我々は深掘りをしていかなければいけないので、そういうところを政府が支援をしていくというのがまず大事なんだと思っております。

 あと、きのうたまたま、この質問をすることになったので友人の国際弁護士とちょっといろいろなお話をして、今実務上何が問題なのかという話をしたら、若干それるかもしれませんが、訴状を外国に送達するときに非常に時間がかかる、この法律でも送達の件が載っておりますけれども、これは外国等、政府に限らず個人に対しても、民民に対してもそうなんですけれども、これを何とかしてほしいという意見が非常に強くありました。

 これはちょっと資料をいただいたんですが、アメリカなんかは中央送達という形をとると十二カ月、中国も六カ月かかるということであります。だから、大体半年とかかかる、半年以上かかるというイメージを持っていて、そうすると、指定をした口頭弁論期日までに送達が完了しないと初めからやり直しをしなければいけない、これを改善してほしいという要望が現場で非常に強くありまして、その解決方法としては、実はこれは条約にかかわることだからそんな簡単にできませんということだと思います。

 民訴条約及びヘーグ送達条約にかかわることであるので、時間がかかると思いますが、これからどんどんグローバルな経済というものが進んでいくわけでありますので、そのスピードに合わせて国際的な司法の環境も整えていかなければいけないと思いますので、問題意識として、条約にかかわることでありますけれども、新たな送達の国際的な枠組みをぜひ日本がリーダーシップをとってやってほしい。

 二つ目は、とはいうものの、条約というと大変たくさんの国々が関与するから時間がかかると思います。それならせめて二国間で、貿易量の多い二国間で協約を結ぶということをぜひやってほしいということでありました。

 例えば、日本はアメリカ、イギリスとは領事契約の締結をしているということで、これは普通のパターンで行くよりも、さっき言いました中央送達という形が、多分、訴えて、日本の裁判所に行って外務省に行くんですかね、それでまた向こうの外務省に行って向こうの裁判所に行く、こう何段階か経るんでしょうけれども、中央送達だとアメリカは十二カ月かかるんだけれども、領事送達という形を使えば三カ月と劇的に短くなる。中国も、中央送達だと六カ月かかるんだけれども、領事送達だと四カ月で済むということでありますので、こういった二国間の、特に貿易量の多い国に対してはぜひそういうことを整えていただいて、企業が何か問題が起きたときに、国際ということで果てしない時間がかかる、時間がかかって、それも、またこれを見ると、期日に間に合わないと最初からやり直しということだと、なかなかやはり海外に出にくいと思います。

 今、FTAとか統一経済圏を視野に入れてとか、経済産業分野ではいろいろな話が進んでいますけれども、その下支えとして、やはり司法の環境をグローバルに整えていくということも、ちょっとこっちはおくれがちになりますから、急いで国家としてはやっていかなければいけないし、まさにアジア・ゲートウェイの国家としてやっていく以上は、日本がリーダーシップをとってそういう司法環境をつくっていかなければいけないと思いますので、ぜひそういったことを今後の課題として取り組んでいただければと思います。

 ちょっと早いですけれども、終わります。ありがとうございました。

山本委員長 次に、神崎武法君。

神崎委員 公明党の神崎武法でございます。

 最初に、先ほどお話も出ましたけれども、国家免除に関します日本の判例の動向についてお伺いをいたします。

 日本の判例は、一九二八年の松山事件の大審院決定に基づき、長い間、絶対免除主義の立場をとってきましたけれども、二〇〇六年七月二十一日の最高裁判決によって判例変更がなされ、制限免除の立場を明らかにしたと言われております。

 最高裁の制限免除の立場、射程距離について、大臣から御説明をいただきたいと思います。

森国務大臣 ただいま委員から御指摘がありましたように、最高裁判所は、平成十八年七月二十一日の判決で、昭和三年の大審院の決定を変更し、外国国家は、その私法的ないし業務管理的な行為については、原則として我が国の民事裁判権に服するとの判断を示し、制限免除主義の立場に立つことを明らかにしました。

 もっとも、この判決は商業取引にかかわる裁判手続について判断したものであり、それ以外にどのようなものが私法的ないし業務管理的な行為に該当し、外国が我が国の民事裁判権に服するのかについて、この判決だけからは必ずしも明らかではありません。

 そこで、法務省としましては、外国がいかなる場合に我が国の民事裁判権に服するのか、その範囲を明らかにするためにこの法律案を提出させていただきました。

神崎委員 わかりました。

 それでは、法律案の中身に入りますけれども、商業的取引という言葉をこの法律案では使っております。商業的取引について例示規定を置いているわけでありますけれども、主権免除法制の整備に関する調査・研究報告書によりますと、商取引という言葉は、商行為に基づく取引であることを想起させ、誤解を招くから、私法的取引という言葉を使っております。あえて法律案で商業的取引の言葉を使ったのはどういうことでしょうか。

倉吉政府参考人 御承知のとおりでございますが、私法的取引にするか商業的取引にするかというのは一つの論点でございました。

 この法律案第八条では商業的取引としたわけでございますが、これに対応する国連国家免除条約の文言、これがどうなっているかというところが問題でございまして、コマーシャルトランザクション、こうなっております。これを日本語訳で当てはめるならば、商業的取引、こうなるんだろうと思います。

 実は、これは国際的な関係で使う法案ですので、この法案がもし国会で御承認いただいて成立するということになれば、これをまた英語やフランス語やドイツ語に訳して外国に示す、こういうことになるわけでございます。

 このように、基本的に、条約でコマーシャルという文言が用いられているにもかかわらず、商業的という文言を用いず、私法的という文言を用いますと、今度は国連国家免除条約とこの法律案がそごするのではないか、意味が異なるのではないかという誤解が生じるおそれがあります。そこで、この法律案では、商業的取引という文言を用いることにしたわけであります。

 先ほど、例示ということをちょっと委員が御指摘でございましたが、そこのところを明らかにするために例示も入れた、こういう関係でございます。

神崎委員 試案の段階では、甲案、乙案、両案がありまして、甲案は、定義も例示も置かないものとする、乙案は、例示を掲げるとともに、雇用契約が含まれないことを示す、こういう案があったわけでありますけれども、乙案を採用した理由についてお伺いいたします。

倉吉政府参考人 要するに、商業的取引という言葉を使いました。ところが、商業的というか、商というと、日本ではどうしても商取引を思い浮かべる、それでは狭過ぎるではないかという問題が起こりました。

 今委員の御指摘のとおりでありまして、この国連国家免除条約で言うコマーシャルという言葉は、日本法における商の概念よりも広く、営利性や事業性の有無を問わないものと解されております。このことは明らかにしなきゃいけないということで、法律案の第八条では、商業的取引の説明として括弧書きで、民事または商事に係る物品の売買、役務の調達及び金銭の貸借その他の事項についての契約または取引、こういうふうに例示を挙げて定義づけたわけでございます。

神崎委員 商業的取引の判断基準につきまして、二つの案が試案の段階ではあったわけです。甲案は、特段の規定を置かないものとする、乙案は、性質説に依拠しつつ、目的等も考慮に入れられる余地を残した規定を置くものとする、こういう両案があったわけでありますけれども、研究会では甲案を支持する意見が多数であったということでありますし、法律案でも同様な考え方に立っておりますが、その理由について伺いたい。

倉吉政府参考人 委員の御指摘は大変大事なところでございまして、我々も非常に考えたところでございます。

 商業的取引に該当するか否かの判断基準については、大きく分けて二つの考え方がございます。一つは、契約または取引の動機や目的に着目して判断する、こういう考え方。もう一つは、契約または取引の性質に着目して判断する、こういう考え方でございます。

 目的に即して判断する、仮にこの立場をとりますと、国が、外国が買うものであるということになれば、基本的に国家目的に決まっている。そうすると、どんなものを買おうとすべて国家目的だ、だから免除の対象になる、こうもなりかねない。つまり、その判断が恣意的になるおそれがあります。したがって、この判断基準としての客観性を維持するためには、先ほど申し上げました性質に着目して判断する考え方、これが基本的に相当であるとまず考えました。

 しかしながら、契約または取引の性質に着目する限りは、商業的取引に該当し得るような場合でも我が国の民事裁判権からの免除を認めないとすることが外国等の主権を侵害するようなケースが全くないとは言えません。皆無ではないということであります。これは実は平成十八年の最高裁判決も触れているところでございまして、我が国における民事裁判権の行使が当該外国国家の主権を侵害するおそれがあるなど特段の事情がない限り、こういう留保を付しているところでございます。したがって、このような場合には、例外的に、この契約や取引の目的等も考慮して、我が国の民事裁判権からの免除を認める必要があるということになるわけでございます。

 それでは、では、条文にどう書くか、こういう話になるわけですが、仮に商業的取引の判断基準について、性質だけに基づいて判断するんだ、こう書いてしまいますと、今の例外的な場合というのが読み込めないというおそれが生じます。しかし、かといって、例外的なケースを、今、どんなケースがこれから出てくるかわからないときに、すべて書き切れるかというと、これはなかなか困難である。無理にこれを抽象的な言葉で書き込もうとすると、かえって外国を免除してしまう場合が広がってしまうのではないか、こういうおそれもございます。

 そこで、そういったことを考慮した結果、この法律案においては商業的取引とだけ書いて、その判断基準については解釈にゆだねるというのが相当であると。基本的に、最高裁も、性質に即して考えろということを言っていて、先ほどの、ごく特段の事情がある場合には、こう書いているわけですから、裁判官は普通はこれに則して考えていくであろう、こういうこともあるということでございます。

神崎委員 次に、国連国家免除条約四条は、条約の不遡及を規定しておりますけれども、法律案は、この規定を置かないで、附則で経過措置を定めました。この規定を置かなかった理由はどういうことでしょうか。

倉吉政府参考人 御指摘の国連国家免除条約の第四条は、関係国についてこの条約が効力を生ずる前に開始された裁判手続については適用されないんだということを規定しております。条約は、効力を生ずるというのを基準にしているわけです。

 しかし、この法律案は、この条約に入っていない、条約を締約していない非締約国に対しても適用されるという前提でつくっております。しかも、この条約の発効を待たずして施行される、こういう前提にしているわけです。

 したがって、この法律案では、本則には条約第四条に相当する規定は置かず、附則の経過措置において、この法律案の施行前に開始された事件については適用されないということをシンプルに定めたということでございます。

神崎委員 条約第六条第二項(b)は、当該他の国が当該裁判手続の当事者として指定されていないが、当該裁判手続が実際には当該他の国の財産、権利、利益または活動に影響を及ぼすものである場合は、いずれかの国の裁判所における裁判手続は、他の国に対して開始されたものとみなしております。

 この点、試案の段階では両案ありまして、甲案は、条約に対応する規定は置かないものとする、乙案は、外国等が裁判手続の当事者ではないが、当該外国等に当該裁判の効力が及ぶ場合についての規定を置くべきである、この両案がありましたけれども、法律案は甲案を採用しております。その理由は。

倉吉政府参考人 この条約の第六条の二(b)という規定、今委員に読んでいただきましたが、なかなかわかりにくい条文でございます。

 これは要するにどういうことを考えているのかということなんですが、外国等が、ある裁判手続の当事者としては指定されていない場合であっても、その裁判手続が当該外国等の財産、権利、利益または活動に影響を及ぼすということがあるんだということを前提として置かれている規定でございます。これは、日本の法律家はなかなか思い浮かばないところでございまして、実は、具体的には、英米法系の国で見られる対物訴訟というのを想定しております。対物訴訟というのはどういう訴訟かといいますと、財産自体を被告として訴えを起こす、こういう類型でございます。

 我が国においては、そもそもこのような対物訴訟という制度がないわけであります。そうすると、それだけで、もうほとんどこんな規定を置く必要はないな、こういうことになるわけですが、また、さらにつけ加えますと、この民事裁判権からの免除の原則を定めたこの法律案の第四条、これは、外国等が裁判手続の当事者となる場合に限定した書き方にはなっておりません。そういうふうに、当事者となった場合に限って適用するんだという規定ではないわけでありまして、外国等が当事者とならない場合にもこの四条というのは当然係ってくるということになります。そうすると、こういう当事者となっていない場合でも、この法律案の四条で十分に対処できる、こういうことになるわけであります。

 そこで、この法律案では、あえて条約第六条二(b)、今委員が読み上げていただきました規定でございますが、これに相当する規定は置かなかったという次第でございます。

神崎委員 この法律案は非常に専門的で、一般の方は、読んでもよくわからないと思うんですね。

 そこで、具体的な事例を通して、この法律案がどういうことを規定しているのか、御説明をいただきたいと思うわけであります。

 まず最初は、外国政府に日本の企業が商品を納入したと。代金を払ってもらえない場合に、これは商業的取引に関する裁判手続だということで、裁判権が免除されないというふうに考えていいと思うんですけれども、商業的取引でも裁判権が免除される場合がありますけれども、どういう場合なのか。それから、具体的な事例で明らかにしていただきたいと思います。

倉吉政府参考人 先ほど判断基準の場面で、性質か目的かというお話をいたしました。性質で考えていけば、例えば売買であれば免除の対象にはならないという結論になるはずだ、基本的にはそうなるわけです。

 ただ、例えば物品の売買に関する裁判手続であっても、その物品の用途が外国の国防や外交に深くかかわるものである、そのような場合には、そのような裁判手続について我が国の裁判所が裁判権を行使するとすれば、外国の主権を侵害するおそれがあると考える余地があるわけでございます。

 したがって、このような場合には、「民事又は商事に係る物品の売買」、この法案の八条第一項に書かれている言葉ですが、それとは評価できず、商業的取引には該当しないとして、当該外国が我が国の民事裁判権から免除されるという場合もあり得ると考えられます。

 また、商業的取引に関する裁判手続であっても、次のような場合には、外国等は我が国の民事裁判権から免除されるということになります。これを簡単にちょっと列挙してみたいと思います。

 第一に、外国とその外国の国民との間の商業的取引のような場合、これは八条一項で除かれております。それから第二に、国同士の商業的取引、これは八条の二項の第一号で除かれるということになります。第三に、商業的取引の当事者が明示的に別段の合意をした、日本の企業と外国等が契約をしたんだけれども、これについての裁判は日本ではやらない、その当該外国でやるというようなことを契約書でぴちっと約束をした、こういう場合には我が国の民事裁判権からは免除されるということにしております。

神崎委員 次に、外国政府の日本にある大使館で雇われている日本人の給料未払いや解雇についてです。

 これは労働契約に関する裁判手続ということで、裁判権が免除されないというふうになっておりますけれども、外国政府の日本にある大使館が解雇等を理由に就労を拒否している期間の賃金支払い請求に関する裁判については、裁判権は免除されるのか、されないのか、お伺いしたいと思います。

倉吉政府参考人 外国等が解雇等をしたことにより労働契約が終了したということを理由として就労を拒否している期間の賃金支払い請求、これはどうなるのか、こういう御指摘でございました。

 これに関する裁判手続については、損害の賠償を求めるものではございませんので、これは条文の中で損害賠償を除くと書いてありますが、この法律案の第九条第二項第四号に言う、これは別の要件がもう一つあるわけですが、外国等の元首、政府の長または外務大臣によって当該裁判手続が当該外国等の安全保障上の利益を害するおそれがあるとされた場合でない限りは、当該外国等は我が国の民事裁判権からは免除されない、賃金支払い請求を求めることができる、こういうことになります。

神崎委員 調査・研究報告書によりますと、甲案、乙案、両案について検討がなされておりました。甲案は、当該裁判も金銭請求に係る裁判の一種であり、外国等に対する損害賠償請求に係る裁判と同様に考えると。乙案は、外国等が就労を拒否している期間の賃金支払い請求は、解雇の無効等を理由とするものであり、現実の就労や地位の確認を求める裁判について外国等が裁判権を免除される場合との取り扱いの均衡を考えるべきである。

 こういう両案があって、乙案の立場をとって、損害賠償請求に係る裁判のみを適用対象から除外をしているわけですけれども、これはどういう理由でしょうか。

倉吉政府参考人 この法律案の九条二項の三号及び四号というのは、ぱっと見たところ、なかなかわかりにくい条文で申しわけありません。こうしか書きようがなかったということなんですが、この九条二項三号及び四号については、今御指摘のとおりであります。損害賠償請求を除く、それだけ除いてあります。

 立案過程におきましては、金銭請求に係る裁判手続一般について、この各号の適用対象から除外して、外国等は我が国の民事裁判権から免除されないとするのか、あるいは、そのうちの損害の賠償を求めるものについてのみ当該各号の適用対象から除いて、外国等は我が国の民事裁判権から免除されないとするのか、いずれの考え方が妥当かということが検討されたわけでございます。

 ちょっと回りくどいかもしれませんが、説明させていただきます。

 前者の考え方、すなわち、金銭請求に係る裁判手続一般が我が国の民事裁判権から免除されない、こういうことにいたしますと、採用の成否や解雇等の効力を争う裁判手続において、この法律案九条二項三号または四号によって外国等が我が国の民事裁判権から免除され得る場合であっても、外国等が就労を拒否している期間の賃金支払い請求に係る裁判手続については免除されない、こういうことになります。裁判所が請求を認容する判決をする可能性が出てくるわけであります。

 そういたしますと、ここからですが、外国等は、例えば労働者を不採用とした場合、これは三号の場合でございます、あるいは解雇した場合であって、外国等の元首等により安全保障上の利益を害するおそれがあるとした場合、これが四号の場合ですが、このような場合であっても、認容されると、労働者に対して賃金を支払い続けなければならない、こういうことになります。

 このような事態は、実質的には、外国等に採用を、つまり採否を争う事件では採用を強制することになるし、それから、あるいは安全保障上の利益を害するおそれがあるのに、解雇が無効だという前提の行動をせざるを得ない、そこを強制したことと同じになる。そうするとこれは、この法律案第三号及び第四号の趣旨に反して相当ではないと考えられます。

 そのため、この法律案第九条の二項三号及び四号においては、後者の考え方をとりまして、金銭請求に係る裁判手続のうち、損害の賠償を求めるものについてのみ当該各号の適用対象から外したわけでございます。

 しかし、四号の方ですが、解雇した場合でございます。この場合には、解雇した場合、すっと要件を書いているわけではありませんで、先ほど申し上げましたように、外国等の元首等により安全保障上の利益を害するおそれがあるとされた場合に限り外れる、こういうことになります。したがって、もしその要件がない場合には、解雇等によって賃金支払い請求はできる。

 この帰結は、契約の採否が争われているときよりも解雇の場合の方が、少なくとも解雇の場合には労働者を保護する利益が非常に高いわけであります。だから、その場合には賃金支払い請求をこの限度で保障しようということ。保障しようと言うと言い過ぎになります。賃金支払い請求の訴えを起こすことができるようにしよう、こういうふうにしたということでございます。

神崎委員 有期雇用契約の更新の拒絶、これはどのような裁判手続で行うのでしょうか。採用または再雇用の契約の成否に関する裁判手続なのか、あるいは解雇その他の労働契約の効力に関する裁判手続なのか、いずれの手続で行うのか、明らかにしていただきたいと思います。

倉吉政府参考人 この九条二項の規定ですが、三号が採用のことを書いてあります。四号については解雇の場合を書いてありまして、では、更新拒絶はどうなるんだ、こういう御指摘だろうと思います。この点についても、ちょっと長くなりますが、説明をさせていただきたいと思います。

 労働契約の更新拒絶については、個別の事案に応じてさまざまな態様がございます。したがって、事案ごとに、その実質にかんがみて、いずれの裁判手続に該当するのかというのが判断されるということになるわけであります。

 そこで、具体的には更新拒絶の類型は二つあると言われておりまして、一つは、解雇権濫用法理が全く類推適用されない労働契約の更新拒絶であります。これは、例えば契約期間の満了によって当然に契約関係が終了するような場合がこれに当たりますが、この場合には、実質は改めて契約を締結する場合と言えますから、第三号の再雇用の契約の成否に関する裁判手続に該当する、こういうことになります。

 しかし、そうすると、もう一つあるわけでございまして、解雇権濫用法理が類推適用される場合があります。これは、具体的には、例えば、反復更新されて、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていると認められる場合、それから、相当程度の反復更新の実態から雇用継続への合理的な期待が認められる場合及び格別の意思表示や特段の支障のない限り当然に更新されるということを前提に契約を締結したものと認められる場合、これは、これまでの裁判例で類型的に挙げられて、学者の間でも大体そういうことだと議論されているものでございますが、このような場合には、労働契約を終了させる場合と同視し得るので、第四号の解雇その他の労働契約の終了の効力に関する裁判手続に該当すると考えられます。

 したがって、これとは別に更新の拒絶に関してこうするんだという規定を置く必要はなかったということでございます。

    〔委員長退席、大前委員長代理着席〕

神崎委員 次の事例は、外国政府の日本の大使館員が運転する自動車の交通事故で、日本国内で日本人が死傷したり財産が壊された場合、裁判が免除されるのかという点です。日本にいる外国の大使館員という意味です。

倉吉政府参考人 もちろん日本国内で交通事故を起こした、こういう事例でございますね。

 外国の公務員が公務中に日本国内で自動車の交通事故を起こして日本人が死んだりけがをした、あるいは日本人の財産が壊された場合、この場合については、法律案十条に規定がございまして、それが当該外国が責任を負うべきものと主張される行為によって生じた場合には、これは、裁判権の免除というのは訴訟要件になりますので、その事実があるかどうかではなくて、そういう主張をされているかどうかで判断するわけですが、そういう主張をされる行為によって生じた場合には、損害の賠償を求める訴訟を提起された当該外国は、先ほどのこの法律案の第十条によりまして、我が国の民事裁判権からは免除されない、こういうことになります。

神崎委員 同じような事例で、大使を乗せて日本の外務省に公務に向かう車が起こした交通事故で日本人の死傷者が出た場合はどのように取り扱われるか。これは、一般の公務員が運転をしていた場合、それから外交官が運転をしていた場合、二つのケースがあると思いますが、それによって扱いが異なるのかどうか。

倉吉政府参考人 大使以外の人が運転していたという場合には、先ほど申し上げたのと恐らく同じ帰結になります。まれな場合に、一緒に同乗していた大使が何か運転を妨害するような行為をしたのでそれが原因だということは、ちょっと違うかなと思いますが、多分、先ほどと同じ帰結になると思います。

 大使が運転していたという場合、つまり、外交官が運転していた場合はどうなるのかということですが、この場合についても、基本は、先ほど答弁した公務員の場合と同様でありまして、当該外国は、この法律案第十条によりまして、我が国の民事裁判権から免除されないものと考えられます。

 ただ、これは、外交官とわざわざ御質問されたのはこの趣旨だろうと思うのですが、この外交官個人に請求できるかという問題がございますが、外交官個人につきましては、外交関係に関するウィーン条約上及び国際慣習法上、原則として外国の民事裁判権から免除される、こうなっておりますので、例えば、我が国の裁判所において公務中に交通事故を起こした外国の外交官個人に対して損害賠償請求をするということは恐らくできないことになろうかと思います。

神崎委員 外国政府の日本の大使館が日本の企業から建物や不動産を借りているのに賃料を支払わない場合、これは不動産に係る権利利益等として裁判権が免除されない、このように解してよろしいでしょうか。

倉吉政府参考人 この法律案の第十一条でございますが、これは、外国が在本邦大使館として用いる不動産に関する裁判手続についても当然適用されます。

 それから、外交関係に関するウィーン条約及び領事関係に関するウィーン条約におきましても、外交使節団及び領事機関の公館その他の不動産に関する接受国の裁判所の民事裁判権からの免除については、実は規定されておりません。

 したがって、委員御指摘のとおり、外国が在本邦大使館として用いる不動産につきましては、当該不動産の賃料を支払わない場合には、この十一条で言います不動産の権利利益に関する裁判手続であるということになりますので、十一条、正確には十一条一項でございますが、これによって、我が国の民事裁判権からは免除されないという結論になります。

神崎委員 時間が来ましたので、終わります。

大前委員長代理 以上で神崎武法君の質疑を終わります。

 次に、加藤公一君。

加藤(公)委員 民主党の加藤公一でございます。

 この法案、先ほど来議論を聞いておりましてもわかるとおり、非常にテクニカルな法案でございまして、私も、勉強させていただく中でなかなか十分に理解し切れないところもあるものでありますから、きょうは基本的な事項について確認をさせていただくという趣旨で質問をしたいと思いますので、特に民事局長、ゆっくりお話しいただいて結構でございますから、私にもわかるように、わかりやすく御説明をいただければ大変ありがたいと思っております。

 では、まず最初に、ごくごく基本的なところでありますが、この法案には、前提となるといいますか、関連をする国際条約がそもそもあって、まだ発効はしておりませんが、その国際条約に日本が署名をしている、この国会でも、別の委員会でありますが、かかる、審議になるということになっておりますが、その国際条約があるにもかかわらず、あえてこの法案を提出する必要があったというのはどんな理由からか、まずここから伺いたいと思います。

倉吉政府参考人 先ほど少し答弁でも言及させていただきましたが、この条約に入っていない非締約国に対しても同じ理屈を適用する必要があるという事情によるものでございます。

 我が国の裁判手続において、諸外国を国連国家免除条約の締約国であるか否かにかかわらず差別なく取り扱うということが適当であるということでございまして、したがって、同条約に基づきまして、諸外国に一般的に適用されるこの法律案を提出する必要があると考えた次第でございます。

加藤(公)委員 大臣に、今の答弁を受けて最初に確認をしておきたいのでありますが、今の民事局長のお話の中に、非締約国であってもすべての国に同じ理屈を適用できるようにという話があったんですが、大臣に確認をしたいのは、外国に対する我が国の民事裁判権の免除については、これまで最高裁で判例が確定をしておりました。平成十八年に確定をした。この判例の原則を今回の法案で変更するおつもりなのか、そうではないのか、ここをまず確認しておきたいと思います。

森国務大臣 結論から申し上げますと、その判例の変更をするものではありません。原則変更するものではありませんが、委員御指摘のとおり、最高裁判所は、平成十八年七月二十一日の判決で、昭和三年の大審院の決定を変更して、外国国家は、その私法的ないし業務管理的な行為については、原則として我が国の民事裁判権に服するとの判断を示し、制限免除主義の立場に立つことを明らかにしました。

 今回の法律案は、この最高裁判所の判例を踏まえて、外国がいかなる場合に我が国の民事裁判権に服するのか、その範囲を明らかにするものであります。したがって、先ほど申し上げましたように、この法律案は、最高裁判所の判例である制限免除主義を変更するものではありません。

加藤(公)委員 では、それを受けて、少し一つ一つ確認をさせていただきたいと思います。

 まず、この法案の中で幾つか用語が使われているものの定義について伺っていきたいと思うんですが、「外国等」といきなり出てくるわけですから、対象となる国というのは一体何なのかというのが当然議論になるんですが、まず、その国とは何か。そして、さらに申し上げれば、我が国日本が承認をしていない国家について、それが含まれるのかどうか。ここを確認したいと思います。

倉吉政府参考人 この法律案の第二条の一号に「国」と書いてあります。この「国」というのは、文字どおり国である、国家それ自体であると言うしか言いようがございませんが、承認していないところはどうなんだという御質問でございました。これは、我が国が国家として承認していない主体は含んでおりません。

 この免除の考え方というのは、国と国は本来対等であるというところから来ております。ある国が、例えば、日本の側から見ますと、日本の企業が外国を訴えると外国が被告となるわけでございます。被告となって日本で判決を受けるということは、日本の司法権に服するということです。司法権は国の権力の中の一つでございますから、結局、裁判権に服するということは、本来対等であるはずの国なのに、それが下に入って服する、これはおかしいんだということで、それで長らく絶対免除主義がとられていたわけでございます。

 ここで言う国というのはそういう国でございますので、日本が承認している、向こうは承認されている、ここで対等の関係ということになりますから、そういう国を書いているということで、国家として承認していない主体は含まれていないということになります。

加藤(公)委員 今ぐらいわかりやすく御説明いただけると大変ありがたいのでありますが、少し例を挙げて確認をさせていただくと、ということは、例えば北朝鮮であるとか、あるいは台湾であるとかについては、裁判権の免除は一切認められない、こういうことでよろしいですか。

倉吉政府参考人 この法律案の適用対象となる国については、我が国が国家として承認していない主体は含まれず、したがって、北朝鮮及び台湾のいずれもこの法律案の適用の対象とはならないため、これらに対して、この法律により我が国の民事裁判権からの免除を認めるということは一切ないと考えられております。

加藤(公)委員 若干仮定の話ということになりますが、あえて確認をいたします。

 せんだっても、北朝鮮から飛翔体というものが発射をされ、物騒な事件がございました。きょうの本会議でもいろいろ議論、決議等がありそうでありますが、例えば仮に、ないことを祈りますけれども、仮に北朝鮮の行動によって我が国国内で損害が発生をしてしまったという場合には、今の理屈でいうと、その被害に遭われた、損害をこうむられた方は、北朝鮮に対して、我が国の裁判所に損害賠償請求訴訟を提起することができる、こういうことでよろしいでしょうか。

倉吉政府参考人 先ほど申し上げたとおりでございまして、この法律案の適用の対象となる国については、我が国が国家として承認していない主体は含まれず、したがって、北朝鮮はこの法律案の適用対象とはならないために、我が国として、北朝鮮に対して、この法律により我が国の民事裁判権からの免除を認めるということはないと考えられます。

加藤(公)委員 ということは、北朝鮮による拉致被害に遭われた被害者の皆さんが、北朝鮮に対して損害賠償を請求するという裁判を起こすということも、この法律が成立をしようが、それは我が国の中で可能だという理解でよろしいですか。

倉吉政府参考人 全く同様でございまして、我が国として、北朝鮮に対して、ただいま御指摘の事案につきましても、この法律により我が国の民事裁判権からの免除を認めるということはないと考えております。

加藤(公)委員 では、同じ第二条の定義のところでありますが、「国」というものの次に今度は「連邦国家」という言葉が出てまいります。この法案に言うところの連邦国家というのは一体何を指すのか。法務省としての見解を伺いたいと思います。

倉吉政府参考人 法務省としてという御指摘でございましたが、この点について外務省とずれがあるわけではございません。

 この「連邦国家」というのは、複数の州等によって構成される国家ということになると思います。

加藤(公)委員 複数の州によって構成されている国家というのは世界各国幾つもございまして、アメリカももちろんそうでありますし、カナダもそうでありますし、あるいはイタリアもそうでありますし、州ではありませんが、英国も、もともとがグレートブリテン及び北アイルランド連合王国でありますから、そういう意味でいったら、ここで言うところの連邦国家に当たるのではなかろうかという気がいたします。あるいは、ロシア連邦もそう呼ばれているわけでありますし、実際ロシアの中には幾つもの州や共和国が存在をしているわけであります。

 各論で、今申し上げた、例えばアメリカあるいはカナダ、イタリア、英国、ロシアというのは、ここで言うところの連邦国家になるんでしょうか。

倉吉政府参考人 第二条の二号「連邦国家の州その他これに準ずる国の行政区画であって、主権的な権能を行使する権限を有するもの」、こうなっております。

 主権的な権能があるのかということになりますが、これは、法律をつくり、そして執行し適用するという、国の主権的な権能がその州にあるかどうか、こういう問題でございます。

 それで、具体的な当てはめの問題になりますので、これはいつもずるいと言われるんですが、これは最終的には裁判所の判断にゆだねられることであります、法務省としてはこうお答えせざるを得ませんが、ロシアはこの連邦国家に該当すると思われます。それから、先ほど御指摘のあったグレートブリテン及び北アイルランド連邦というんでしたでしょうか、これも該当すると思われます。それから、アメリカももちろん該当する、アメリカの各州も該当すると思われます。

 ただ、イタリアについては、その実態が、きちっとした主権的権能を持っているのかというのが、いささか違うのかな、イタリアは当たらないのかなという程度に思われますが、最終的には裁判所の判断にゆだねられる事柄であります。

加藤(公)委員 民事局長にもう一回確認をしたいんですけれども、きのう、この法案について法務省の皆さんからお話をいろいろお聞かせをいただいたときに、ロシアはここで言うところの連邦国家に当たるかどうか判断しかねるというお答えだったんですが、今、民事局長は、連邦国家と考えられる、こういう御答弁だったかと思いますけれども、どっちが正解ですか。もう一回、確認をさせてください。

倉吉政府参考人 現時点で、ただいま答弁申し上げたとおり、ロシアは連邦国家に当たると考えております。

加藤(公)委員 実は、きのう、これを理解するために各論で少し御質問を法務省にしていたら、最初、ロシアは連邦国家に当たるかどうか一様には答えられない、こういう話だったんですね。

 その後、では具体的に、ロシアの中には、共和国、州、自治州あるいは地方という行政区画もあって、今八十五ほどの行政区画があると聞いていますけれども、例えば、その中でサハリン州とか沿海地方とか、日本に近いところを例にとって、それはここで言うところの連邦国家の州に当たるのかという御質問をしたら、それは当たりますという答えが返ってきたんですね。

 だとすると、連邦国家の州に当たる州があるのにロシアは連邦国家に当たらないというのは、これは理論上おかしな話なので、さあどっちだろうと思って、実は昨日のうちに外務省にお話を伺ったんです。

 それで、法務省の見解と外務省の答え、実はきょうわざわざ来ていただいたんですけれども、外務省のお答えはロシアは連邦国家に該当するという話だったものですから、わざわざお呼びしたんですよ。何で違うのかをここで正確に判断をしたいなという思いで実は来ていただいたので、外務省の方はちょっと無駄足を踏ませてしまったということになりますので、せっかく来ていただいたから一応確認のために伺いますけれども、国際条約上、ロシアは連邦国家に当たるということでよろしいですか。外務省に伺います。

北野政府参考人 お答え申し上げます。

 今先生からお話しいただいたとおりでございまして、ロシア連邦につきましては、共和国、州などの構成主体から成る連邦国家でございまして、国連国家免除条約の第二条の関連規定に言う連邦国家に該当するというふうに考えておりますので、先ほど民事局長の方からお答えをした認識と同様というふうに考えております。

加藤(公)委員 ということでございます。

 審議官、外務省はもう結構でございますので。ありがとうございました。

 事前にやりとりをしている中で、それは一〇〇%今と同じ回答が返ってくるかどうかわかりませんが、基本的なところを行き違いのないように、実は私、紙で全部やりとりをさせていただいておりまして、紙で回答をもらったら、ロシアは連邦国家に当たるかどうか一概に答えられないという話だったので、これは今後の、この法案が成立した後のことを考えると、民間の皆さんが取引されるときに、いわゆる予見可能性を確保しようとしてつくられたはずの法律なのに、それでは困るじゃないか、ここをはっきりさせたいという趣旨で実は今の質問をさせていただいたものですから、今後は、事前に伺ったことは正確にお答えをいただけるとありがたいな、そんなに厄介なことを聞いたつもりじゃありませんので、これはお願いだけしておきたいと思います。

 それでは、今の、連邦国家の定義についてはそれでよしといたしますが、その第二条に同じように、その続きというんでしょうか、連邦国家の州に準ずる国の行政区画という表現と、それからその後、主権的な権能を行使する権限という表現があります。

 これについても民事局長から御説明をいただきたいと思います。

倉吉政府参考人 今委員の方で読み上げていただきました、主権的な権能を行使する権限という言葉でございます。

 これも、先ほどちょっと触れましたが、国の権力の、権威の基本的なもの、法律を制定しこれを適用しまたは執行する、こういうことになろうかと思いますが、法律というか法令と言ってもいいのかもしれませんが、そういう権能を持っているというところが、主権的な権能を行使する権限を付与されたという団体であるとか、主権的な権能を行使する権限を有するものという意味でございます。

加藤(公)委員 ごめんなさい、前段の、連邦国家の州に準ずる国の行政区画というのをもう一回ちょっとお答えいただけますか。それは一体、州以外に何を指しているのか。

倉吉政府参考人 失礼いたしました。

 この法律案の第二条第二号の連邦国家の州に準ずる国の行政区画とは、連邦国家の州に準じるような主体ということになります。具体的に考えられるのは、例えば香港やマカオといった中国の特別行政区がこれに該当するものと考えられます。

 そのほかは先ほど申し上げたとおりです。

加藤(公)委員 では、今度は今の後段の方ですけれども、主権的な権能を行使する権限というものを付与された団体というのは一体、具体的に例を挙げていただきたい。具体的にどんなものがあるのか、例示をしていただけるとありがたいんですが、いかがでしょう。

倉吉政府参考人 先ほどちょっと申し上げました、国内法令の制定、適用または執行をする権限を付与された団体ということでありまして、しかも、その付与された主権的な権能の行使としての行為をする場合の当該団体を意味する、こう書いてあります。だから、そうではない行為もすることがある団体なんだなということがわかるわけですが、具体的には外国の中央銀行が典型的な例としてこれに当たり得ると考えております。

加藤(公)委員 ほかにはあり得ますか。実は、私が説明を聞いたときにも、各国の中央銀行がこれに当たるんだというのは私も理解できるところなんでありますが、逆に言うと、それ以外何かあり得るんだろうかという疑問があって、もしあるのであれば、参考に伺わせていただきたいと思います。

倉吉政府参考人 これは実は、我が国の例で考えるとわかりやすいかもしれませんが、市町村があります。

 市町村というのは、ある種の自治団体であるわけですけれども、実は地方の仕事だけをしているわけではなくて、例えば、法務省の民事局の所管のことになりますが、戸籍業務なんかを、これは本来国の業務ですが、市町村にやっていただいている、こういう関係がございます。そういう場合には、国の権限の権能の行使を一部担っているということで、当該市町村が例えばそういう戸籍の事務をしているという場面にあっては、この三号の団体に当たるということになると思います。

加藤(公)委員 では、今度は法案第三条について伺ってまいりたいと思いますが、確立された国際法規及び条約というのがここに出てくるわけでありますけれども、そのうち、外国等が主権免除を受ける根拠となるもの、これもぜひ具体的に教えていただきたいと思います。

倉吉政府参考人 まず、この条約として今御指摘の場合として典型的に挙げられるのは、外交関係に関するウィーン条約がございます。それから、領事関係に関するウィーン条約等が挙げられるということになろうかと思います。

加藤(公)委員 確認なんでありますが、確立された国際法規とは、いわゆる国際慣習法のことを言っているんだと思いますが、それによる主権免除の範囲とこの法案による主権免除の範囲というのは、これは異なっているのかどうか、ちょっとそこを教えていただけますか。

倉吉政府参考人 これは、この条文の三条を見ていただきたいと思うんですが、この法律の規定は、「条約又は確立された国際法規」これは国際慣習法でございますが、「条約又は確立された国際法規に基づき外国等が享有する特権又は免除に影響を及ぼすものではない。」こうなっております。だから、そちらの、条約や国際慣習法で外国等に何らかの特権または免除があるとすれば、それはそういうものにこの法律は影響を及ぼさないということになっておりますので、その分は除いた部分でこの法律が適用される、こういう関係でございます。

 ですから、委員のおっしゃることはよくわかります。この法律の字面だけを見ると免除されないみたいだなと見える場合に、よくよく考えてみると、それはこの法律の適用範囲ではなくて、こっちの、影響を及ぼさないとする国際慣習法で律されている部分だということになりますと、そこで外れるということになります。そういう関係でございます。

加藤(公)委員 今の、先ほどもちょっと申し上げたんですけれども、予見可能性を確保しようというときに、そうすると、この法律ができたからといって、ここだけ見ていれば済むという話ではないということですね。それはもう一回ちょっと確認をさせていただいて、それだけではなくて、条約なり国際慣習法までしっかり見ておかないと、どの範囲が裁判権の免除があるのかということははっきりしませんよ、こういうことでありますね。

倉吉政府参考人 先ほど申し上げました、論理の世界ではなくて、字面だけ見たら当たりそうだなというのも、気をつけておかないと当たらない場合があるよということがあるのはそのとおりでございます。

加藤(公)委員 では、国際慣習法とか条約の話はわかりましたが、この法案が仮に成立をした場合に、これまで我が国の判例では認められてきた範囲を超えて、それ以上に広く裁判権の免除が認められるということはあり得るんでしょうか。

倉吉政府参考人 これは、ちょっとまず論理的に申し上げますと、平成十八年の七月二十一日の、先ほど来挙がっている最高裁の判決でございますが、この判決によって、外国が我が国の民事裁判権に服する場合として示された私法的ないし業務管理的行為というのがあります。これについては、それがどこまであるのかということについては、この判決によってもその具体的内容がすべて明らかとされたわけではありません。

 この法律案は、民事裁判権からの免除が認められる具体的な範囲につきまして、これまでの諸国の慣行を踏まえて作成された国連国家免除条約に準拠して、外国等が我が国の民事裁判権に服する場合を明らかにしたものであります。そしてまた、先ほど申し上げました最高裁判決とも整合的なものであります。したがって、この法律案によって外国等が我が国の民事裁判権から免除される範囲が広くなることはない、論理的にはそのように考えております。

加藤(公)委員 では、一応確認をいたしますが、その逆に、この法案が成立した場合に、裁判権の免除の範囲が狭くなるということはあり得るんですか。

倉吉政府参考人 これも先ほどと全く同じ理屈でございまして、先ほど最高裁判決の説明をいたしました。この法律案は、先ほど申し上げましたとおり、これまでの諸国の慣行を踏まえて作成された国連国家免除条約に準拠して、民事裁判権に服する場合を明らかにしたものでありまして、結局繰り返しになってしまいますが、先ほどの最高裁判決とも整合的なものでありますので、免除される範囲が狭められるということは、これはもう決してないことであります。ありません。

加藤(公)委員 では、それを受けて、一つ具体的な話として例を挙げて伺いたい件があるんですが、法案の第九条に、外国等と個人との労働契約が存在する場合について規定があります。

 そこで、例えばでありますけれども、その外国等が派遣労働者を受け入れていた、派遣元企業があって、派遣先になっていたということですね、派遣労働者を受け入れていた場合、その派遣労働者の方が、派遣元の企業と契約をしている業務内容とは違う業務をその外国等から強制されてしまった。ありがちなトラブルだとは思いますが、その場合、では、その派遣労働者の方が、これはあんまりじゃないかということで、その外国等に対して損害賠償を起こしたい、その裁判権というのは免除されるのかどうか、これを教えていただけますでしょうか。

倉吉政府参考人 まず、この法律案の第九条は労働契約に関する規定であります。これはもう条文を見て明らかでありますが、したがって、労働契約関係にある当事者である外国等と個人との間に適用される、こういうことになります。

 そうすると、今言われました、派遣元に雇われた人が派遣先に行く、派遣先は外国である、こういうことですね。ところが、その外国から直接いろいろなことを強制されて、そういうもやっとした法律関係にある、これはどうなのかということですが、紋切り型に答えると、それが労働関係と言えるかどうかによって決まります、こう答えざるを得ません。

 具体的な事案ごとに、その実質にかんがみてこれは判断する必要があるということになりますが、労働者と、派遣先となった外国等との間に労働契約関係があると認められるような場合であれば、この法律案第九条の規律が当然生きますので、外国等は原則として民事裁判権から免除されないということになります。

 具体的にそれがどういう場合かということは、裁判例でどういうことが言われているかというのは委員がよく御承知だと思いますが。

加藤(公)委員 今の局長の答弁はよくわかります。よくわかります、納得いくんですが、一般的には、派遣労働者の方は、派遣元の企業、いわゆる派遣会社と雇用契約があります。それでどこかに派遣をされる、それがたまたま外国等であった。そのときに、これこれこういう業務をやってくださいねという約束で派遣をされたはずなのに、そうでない仕事もやらされてしまったという場合、一般的にそれが、外国等、いわゆる派遣先と派遣労働者の方の間に労働契約があったと常にそう言えるかというと、そうではないんじゃないかと思うわけですね。

 そうなると、その派遣労働者の方が、今挙げたような例えのトラブルに巻き込まれた場合、この九条を読む限り、外国の方が裁判権が免除されてしまう、つまり裁判を起こせないんじゃないかということを私は危惧しているんですが、そんなことはありませんでしょうか。

倉吉政府参考人 これはまさに、先ほども申し上げました具体的な事実関係による、結論を簡単に言うとそうしか答えざるを得ないわけですが、ちょっと御説明させていただきたいと思います。

 御指摘の最高裁の判例は、外国国家は、その私法的ないし業務管理的な行為については、原則として我が国の民事裁判権に服するんだという判断を示したものでありますが、この判決は商業取引に係る裁判手続について判断したものでありまして、それ以外にどのようなものが私法的ないし業務管理的な行為に該当し、外国が我が国の民事裁判権に服するのかということについては、この判決によってもその具体的内容がすべて明らかとなっているわけではありません。

 先ほどのお尋ねの事例である労働者派遣の関係ですが、これは実は、下級審の裁判例なんかではこう言われているということしかちょっと御紹介はできませんけれども、労働者と派遣先との間に黙示の労働契約が成立したと言えるような場合とか、それから、派遣元がほとんど形式的存在にすぎない、法人格否認の法理が適用または準用されるような場合、こういった場合には派遣先と派遣労働者との間の労働契約関係を認め得るとする下級審の裁判例等々がございます。そういうことを考えて、具体的な事案によるということになりますが、その事案ごとにその実質にかんがみてこれは判断せざるを得ないということになります。

 したがって、御指摘の最高裁の判例によりまして、お尋ねの事例については外国等が全部免除されてしまうんだ、そういうことを一義的に言うことはできないと考えております。

    〔大前委員長代理退席、委員長着席〕

加藤(公)委員 逆に伺いますと、一義的に免除されることはないということは、免除されることもあるということになりますね。

 それは、今局長がおっしゃられた判例に出てくるようなケースというのは、派遣事業における問題としてはかなり大きな深刻なケースなはずなんですね。一般的に、これはたまたま今外国の話をしていますけれども、そうでなくて、我が国の中で普通に行われている派遣ビジネスの中でよくあるトラブルとして、派遣先に行ったら本来の約束とは違う仕事もやらされたというケース、このトラブルというのは非常に多いわけですね。それがたまたま派遣先が外国等であったということは、これは往々にしてあり得るのではないかと私は考えておりまして、別にデータを持っているわけではありませんが。そのケースのときに、よほど深刻な大きな問題であれば損害賠償で裁判を起こせるけれども、そうでないと泣き寝入りになっちゃいますよという話になりはしないでしょうか、そのことを私は今心配しているんです。

 そのトラブルが泣き寝入りになってしまうというのでは、これはちょっと、せっかくこの法律をつくるのに、一カ所欠けているんじゃないかという気がしてならないんですが、局長、どうお考えになりますでしょうか。

倉吉政府参考人 ただいまの問題は、労働関係、労働契約が成立していると言えるかどうか、こういう個別の事案の問題でございますので、確かに、私が先ほど紹介した下級審の裁判例はそれがかなり深刻なケースであるという、もう委員の御指摘のとおりであります。だから、ちょっと具体的な事案に言及するというのは避けなければいけないと思うので非常に慎重な言い回しになっておりますが、そこまで深刻でない、ただちょっと派遣先の企業が指示、監督をしてしまったような程度にとどまって、労働関係が新たにそこに成立したとまでは言えないような場合については、労働契約に関するこの条文で外国政府に対して訴えを起こすということは、それはできないということになります。

 確かにこの法律案では、そういう場合について、今委員が考えておられるのは、それでも少し精神的に衝撃を受けた、慰謝料請求したい、そういう請求もできないのかということかと思いますが、これは先ほど、十一条ですか、不法行為的な規定も置いてありますが、これは、人が死んだかけがをした、あるいは有体物が滅失した場合に限っております。これは、国際慣習法がそういうふうになっているから条約がそうなっているわけでありまして、名誉毀損による精神的損害とか、そういったものまでは外国政府には言えないという規律にしているわけです。

 したがって、今委員の言われた事例が労働にも当たらない、しかし体が傷ついたわけでもない、こういうことになると、普通の、つまり不法行為による損害賠償請求というのも、この法律案ではできない。しかし、これは、現在のまさに国連国家免除条約がそういう規律にしているわけでありまして、これが現在の国際慣習法の行き着いているところですので、それを超えるというのは難しいということになろうかと思います。

 ただ、具体的な事案によることでございますので、最終的には裁判所が判断することで、私、若干言い過ぎているかもしれませんが、そういうこととして御了解いただきたいと思います。

加藤(公)委員 おっしゃるとおり、最後は裁判所の判断です。それはそのとおりだろうと思うんですけれども、何でこのケースを申し上げたかというと、別に、派遣という仕事あるいは働き方がそんなにトラブルばかりだと思っているわけではもちろんないんです。僕は、世の中で必要な仕組みだと思っている方なんですが、とりわけ、例えば通訳の方とかいうのは、スポットで、派遣で仕事をされる方というのが多いわけですね。当然、外国あるいは外国等というところに派遣をされるケースというのが想定されるわけで、その場合に、例えば通訳として派遣をされていったのに、ちょっとついでにこれをやってよと悪気なく言われた、こんなケースは当然あり得るだろうと思うんですね。

 これは、例えば諸外国ではそんなことは絶対ない。なぜかというと、損害賠償を起こされるとえらい多額の金額を取られかねないからということがあるかもしれませんが、日本だと比較的、まあまあいいじゃないの、ちょっとそれやっておいてよ、こんなケースが往々にしてあり得る、それがトラブルになっている、こう思うんです。

 それが、例えば大使館の仕事なのか何の仕事かわかりませんが、外国等というところにたまたま派遣をされて、本来の約束と違う仕事をさせられることによって何がしかの、名誉なのか精神的な苦痛なのかわかりませんが、損害をこうむったというと、結果的に、せっかくこの法律をつくっても、その方は泣き寝入りしてくださいという話になっちゃうわけですね、今の局長の答弁だと。

 それが、国際条約がそうなっているから仕方ないんですといえば、それは法理論上はそうかもしれませんが、一国民の立場で考えるとなかなか腑に落ちなくて、もっと大きな被害に遭って、もっと大きなトラブルだったら裁判を起こせるかもしれないけれども、あなたのぐらいだと裁判を起こしてみないとわかりませんよという話になれば、これはほぼ泣き寝入り状態じゃないか。

 これはどうもちょっと腑に落ちないんですけれども、局長、今後何か手だてを講じるおつもりはないですか。これはこのままでいいんですか。

倉吉政府参考人 済みません、その前に、先ほどの答弁で、人の死傷または有体物の滅失等、第十一条と言ってしまいましたが、第十条でございます。訂正させていただきます。

 ただいまの問題は非常に難しい問題でありますけれども、結局、そこが労働契約関係が成立しているとまでは言えないケースということできちっと仕切られてしまいますと、これはもう第九条では、今の通訳の事例であろうとも、いけないということになります。

 それがおかしいではないかというのは、普通の常識論というか感情論として、私だって、自国民、日本国民を保護したいと思いますから、それはよくわかるわけでありますけれども、今、やはり国家というのは重いものだ、それが、絶対免除主義をとっていたのが次第に制限免除主義に変わってきて、私法的な業務、管理的な行為については少なくともちゃんと裁判権に服さないとおかしいんじゃないかという流れになってきているところでございまして、その過程において、すべてが全部だということはやはりいかない。

 雇用契約がある場合にはそれは言えるけれども、それ以外のものは言えないし、一方、不法行為のところでは、名誉毀損だけでは、それで外国政府に対して裁判権に服させようというのは、それはちょっとまだ重過ぎるよというのが現在の国際的な感覚であろうと思いますので、今直ちにこれを改めるということはちょっと考えられないというふうに思っております。

加藤(公)委員 要するに、今のはわかりやすく言うために通訳の方の例を出していますけれども、通訳の方が例えば何か国際会議で仕事だ、その外国に直接、では一日アルバイトしてくださいと言われて、トラブルがあれば、それは労働契約があるから裁判を起こせる、しかし、同じ人が派遣会社を通してそこに仕事に行って同じトラブルに巻き込まれたら、裁判は起こせません、こういう話なんですよ、今のお答えは。僕はそこに物すごく素直に疑問がありますという話なんです。

 だから、きょうここで解決しろと言ってもそれは無理なんでしょうが、せっかくの法案の審議なので、加藤公一は大いにそこに疑問を持っているということだけまずは問題提起として申し上げておきたいと思います。

 ほかに幾つかやりたい件があるものですから、全然今の件に納得したわけではないんですが、次に進めさせていただきたいと思います。

 さて、この法案と直接関連をしてということではないのでありますが、法務省で、大臣御存じのとおり、せんだって総務省から指摘をされた問題というのがありまして、懲戒処分に関する非公表の問題というのがありました。

 三月の二十七日ですけれども、総務省が発表したところによりますと、法務、農水、国交の三省の出先機関が職員の懲戒処分を公表していなかった、これが人事院の指針に反している、こういう指摘がありました。十二件が公表すべき事案であったということで指摘をされておりますが、残念なことに、法務省がそのうち最多の八件を占めていたということであります。

 これがどういうケースで、それぞれ何で公表しなかったのか、これは大臣にお伺いをしたいと思います。

森国務大臣 法務省としては、これまで人事院の指針に基づいて懲戒処分を公表しておりましたが、今回、総務省から公表していないと指摘を受けた八件は、いずれも職員による扶養手当、住居手当の不正受給にかかわる事案であります。

 このたび、総務省から適切に公表する必要があるとの勧告を受けましたので、過去五年間の懲戒処分を調査したところ、人事院の公表指針に基づいて公表対象とすべきであったものの未公表であった事案が、総務省から指摘を受けました八件を含めて実は五十四件ありましたので、昨日六日に公表をいたしました。

 これらの非公表事案は、すべて扶養手当、住居手当等の不適正受給事案であり、いずれも受給した手当は全額国庫等に返納済みでございまして、また、不適正受給は職務行為自体との関連性が薄いというふうに、この点が一番あれなんですけれども、不適正受給は職務行為自体との関連性が薄いと考えてきましたことなどから、人事院の指針に規定されている公表の例外に当たるというふうに判断して、公表しておりませんでした。

 既に法務省においては、平成二十一年二月二十四日付で、こうした扶養手当等の不正受給事案等を含めて適切に公表するよう文書で連絡しておりまして、総務省からの指摘を踏まえ、人事院の指針に基づいて、一層適切に懲戒処分の公表を行っていくことにしております。

加藤(公)委員 確認をさせていただきますが、懲戒処分を公表すべき人事院の指針については認識していたけれども、これらは全部例外に当たるんだという誤った判断をしていた、こういうことでよろしいですか。

森国務大臣 人事院の懲戒処分の公表指針につきましては、公表対象、公表内容、公表の例外を定めているものであるというふうに理解をしております。

 人事院の懲戒処分の公表指針においては、公表対象については「職務遂行上の行為又はこれに関連する行為に係る懲戒処分」、次に「職務に関連しない行為に係る懲戒処分のうち、免職又は停職である懲戒処分」ということになっておりまして、公表内容については「事案の概要、処分量定及び処分年月日並びに所属、役職段階等の被処分者の属性に関する情報を、個人が識別されない内容のものとすることを基本として公表するもの」とされております。

 公表の例外でございますけれども、「被害者又はその関係者のプライバシー等の権利利益を侵害するおそれがある場合等」並びに、先ほど申し上げた事項によることが適当でないと認められる場合は、「公表内容の一部又は全部を公表しないことも差し支えないものとする。」と規定されております。

 なぜ公表の例外に当たると判断してきたかと申しますと、これは、職務行為との関連性が薄い手当の不正受給事案は、「一及び二」というのは先ほど申し上げた公表対象の懲戒処分ですけれども、それに適当でないと認められる場合である、要するに、公表の一番の「職務遂行上の行為又はこれに関連する行為に係る懲戒処分」ということを、そうじゃないというふうに判断してきたところが一番のポイントでございまして、しかし、やはりそれは税金の使途でございますので、職務上に係るといえばそういう面もあるなということで認識を改めまして、公表することにした次第でございます。

加藤(公)委員 本当はもう少しこれに関連をして細かなところも伺いたい件があるにはあるんですが、もう時間も限られている話でありますので、この件は少しはしょります。

 五年間でどれだけあったのか、もう一回全件調査をしたらどうですかというお話をしようと思っていたら、先にしていただいたそうでありますから、公表されたということは了といたしますが、公表する、しないということでいえば、きのうも僕は拝見しましたけれども、ケアレスミスだろうなというものも当然あるわけですね。それをぐちぐち言うつもりはないんですが、実際に処分されたんだったら、それは逆にきちんと公にして、これこれこういうことで処分しましたということをすべて明らかにしておく方がかえって信頼を得られると私は思っておりまして、今後、方針を変えられたということでありますからもう大丈夫だとは思いますが、二度とこのようなことのないようにお願いをしておきたいと思います。

 残りの時間、わずかになってしまいましたが、裁判員制度に関連をして幾つかお話を承りたいと思います。

 実は、先日、あることで私も知ったんですが、アメリカにおいて、陪審員の方が、インターネットを使って裁判所以外で情報を入手していたということが明るみに出て、その審理が無効になったというケースが実際に起きているというニュースを目にいたしました。

 日本で、まだ裁判員制度これからではありますけれども、裁判員候補になった方が、インターネット上、ソーシャル・ネットワーク・サービスなんかを利用してそのことを告白しているというケースも実際に起きている。これは、インターネットがここまで世界じゅう広がってまいりますと、当然、裁判員であったり、アメリカに行けば陪審員であったりという方々が、それを使って匿名で情報を流してしまったり、あるいは、ないことを祈りますけれども、裁判の評決に関して匿名で他者の意見を求めるということも、現実にやろうと思えばできてしまうわけですね。

 大変危険なことだというふうに私は思っておるんですが、こういうケースが想定される以上、公正な裁判を実施するという観点から、たとえ匿名であっても、インターネットを通じて裁判に関する情報を流すとか、あるいは他者に意見を求めるなどということは厳しく禁止されていますよということを、改めて、裁判員候補に選ばれた方に、初期段階から徹底して周知をさせていくべきではないかと考えるわけであります。

 もちろん、守秘義務違反に関して、余り罰則規定をしゃくし定規に適用するべきじゃないじゃないかという議論はこれまでもされておりますし、私も大いにそれは理解するところなんですが、しかし、裁判の公正さが失われるようなことは起こしてはならないと思っているものですから、裁判員に選ばれた方に対するレクチャーといいますか、周知徹底といいますか、この部分についてぜひ積極的に取り組んでいただきたいと思いますが、大臣の政治家としてのお考えと、そしてまた最高裁の方の取り組みと、あわせて伺いたいと思います。

森国務大臣 まことにごもっともな御指摘であるというふうに思います。

 裁判員の守秘義務は、他人のプライバシーを保護するとともに、裁判の公正さや裁判への信頼を確保し、評議における自由な意見表明を保障するために必要なものであります。このうち、評議における自由な意見表明を保障することについては、裁判員が、後の批判を恐れるなどして意見を述べることを差し控えることがないように、自由闊達にさまざまな意見交換がされる充実した評議が行われるようにしようとするものでありまして、このことは、裁判において適正な結論が得られるようにする上で大変重要な意味があるものと考えております。

 また、評議において述べたことが公表されないことにより、その後の追及や報復のおそれがなくなるという点で、裁判員の負担を軽減する意味もあると考えております。さらに、他人のプライバシーにかかわる情報も、その侵害は重大な不利益となることから、これを防ぐ必要も大きいと考えております。

 したがいまして、まことに委員の御指摘ごもっともでございますけれども、また違った角度からの御指摘もありますので、そういったことを十分勘案して、裁判所において、このような守秘義務の趣旨と重要性を裁判員の方々に御理解いただけるよう、適正に説明がなされるというふうに考えております。

小川最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 裁判員候補者であることを公にしてならないことや、裁判員には守秘義務があることにつきましては、裁判員候補者通知に同封させていただきました裁判員制度Q&Aとか、あるいは裁判員等選任手続期日のお知らせ、これは呼び出し状ですけれども、今後これに同封する予定の裁判員ナビゲーションでも御説明をさせていただいているところでございますけれども、委員御指摘の点も踏まえまして、今後、インターネットを通じた守秘義務違反などの事態が発生しないように、パンフレットやウエブサイトなどの手段をも用いて、早い段階から一層の周知に努めてまいりたいというふうに考えております。

加藤(公)委員 私自身は、インターネットなりパソコンなりというのは一つの道具としてしか使わないたちでありますから、それを趣味にしてどうのということはないんですけれども、大変お詳しい方ですといろいろな使い方ができるものでありまして、あくまでも自分の名を伏せて、匿名で意見を表明して、あるいは情報を流して、極端なことを言うと、実際審理の最中にある裁判の中身をインターネット上で公開して、そこで別の評決を出してしまうということも、理論上というか、物理的には可能な話であって、それがまた実際の裁判に悪影響を及ぼすということは大変危険なことではないかというふうに危惧をしておりますので、大臣と最高裁のお答えのとおりに、十分に周知をしていただきたいなと思うところであります。

 あわせて、裁判員制度がスタートいたしますと、職業裁判官の方とは違って、今まで法廷には全く無縁であった方々が裁判員として審理に加わるわけですが、そのときに、被告になっていらっしゃる方のさまざまな状況、個人的な事情、個性、能力、さまざまな状況に対する理解が必ずしも十分ではないという皆さんがそろってある審理をされるということも当然あり得るだろうと思っております。

 これは、何を私は心配しているかというと、被告の方がコミュニケーションに困難を抱えている場合に、相当な配慮をしないと公正な審理ができないのではなかろうかということを私は実は危惧しておりまして、この点、これは具体的にどうしてくれという話ではないんですが、大臣としてこの問題意識についてどうお考えになるか、御見解をお聞かせいただきたいと思います。

森国務大臣 公判手続においては、これまでも、何らかの障害があるためにコミュニケーションが困難な被告人に対して、裁判所を初めとする訴訟関係者において、その特性に応じたさまざまな配慮、すなわちハンディキャップを補完するような配慮が行われているものと思っております。

 このような、コミュニケーションに困難を抱えている被告に対し、その特性に応じたさまざまな配慮を行い、十分な意思疎通を図ることは、裁判員に対するわかりやすい裁判を行うという意味においても重要な事柄であって、法曹三者においてさまざまな工夫が行われていくものと期待しております。

加藤(公)委員 十分な配慮をしていただいていればいいのでありますが、本当にそうかという疑問がなくはないものですから今申し上げたのと、あと、大臣に最後に一つお話をしたいのは、裁判の場面だけではなくて、例えば取り調べの場面においても、コミュニケーションに困難を抱えていらっしゃる方が取り調べを受ける可能性というのは当然あるわけですね。

 これが、例えば外国人の方であれば当然通訳をつける、そうでないと会話が成立をしないので通訳をつけるということになりますし、あるいは、身体に障害をお持ちの方であれば、例えば手話であったり、あるいは筆談であったりという手段を用いるということも当然あるんだろうと思いますが、そうではない各種の障害、コミュニケーションに困難を抱える障害というのもあるわけでありますし、それを持っていらっしゃる方々も我が国にはたくさんおいででありますので、仮にそういう方々が取り調べを受けるとか、あるいは裁判の被告になる、もしかしたら被告ではなくて証人ということもあるかもわかりませんが、裁判の場面に出てくるということになった場合に、弁護士さんだけではなく、コミュニケーションをスムーズに運ぶための立会人というのも、今後考慮をしていってもいいのではないかというふうに私は思っているわけであります。

 これは、公正な取り調べをして公正な裁判をしていくという意味においては非常に大きな役割を担うと思いますし、裁判員制度が始まって、できるだけ裁判員の方にわかりやすい審理をするという意味からも重要ではないかと思っておるんですが、この点について、最後、大臣の御見解を伺って、終わりたいと思います。

森国務大臣 今御指摘のあった捜査におきましても、取り調べ対象者の年齢、境遇、性格、性別等の諸事情を考慮して適切に対応することが肝要であり、検察官は、例えば知的障害がある対象者などの意思疎通の困難な方の取り調べに当たっては、その困難さの程度に応じてできる限りわかりやすい発問を行うなど、適切な方法でコミュニケーションを図るようにしているということでございます。

 また、聴覚障害がある方の場合には、必要に応じて、例えば手話通訳者による通訳を介して取り調べを行うということもあると聞き及んでおります。

 そのほか、ケース・バイ・ケースでいろいろな方がいるわけでございますので、委員御指摘のとおり、そういった配慮をすることも必要であると思いますので、いろいろとこれから検討させていただきたいと思っております。

加藤(公)委員 終わります。ありがとうございました。

山本委員長 次に、保坂展人君。

保坂委員 社民党の保坂展人です。

 きょうは、外国等に対する我が国の民事裁判権についての法案について、同僚議員からたくさん出ておりますけれども、私も何点か、まず質問をしたいと思います。

 まず、民事局長に伺いますが、この法律を日本の国民が使っていくに当たってどのようなことに留意をするべきなのか。売買だとか、賃貸借だとか、金銭消費貸借などの契約類型ごとに、こんな点に注意してくださいということがありましたら御紹介いただきたいと思います。

倉吉政府参考人 それでは、その中身について、概要だけですが、申し上げます。

 この法律案では、まず、外国等が特定の事項または事件に関して我が国の民事裁判権に服することに明示的に同意した場合及び我が国の裁判所にみずから訴えを提起するなどした場合には、外国等は我が国の民事裁判権に服する、こうしております。

 次に、明示的な同意がない場合にはどうなんだということになりますが、この場合であっても、日本国民や日本の企業が外国等との間で物品を売買したり外国等に不動産を賃貸したなどというような商業的な取引、それから、日本国民と外国等との間の労働契約、そして、人の死傷または有体物の滅失等などに関する裁判手続のうち一定のものについては、外国等が我が国の民事裁判権に服するんだということにしております。

 また、この法律案は、裁判とは別に、外国等の有する財産に対する保全処分及び民事執行の手続について、外国等が我が国の民事裁判権に服する場合についても定めておりまして、まず、外国等がその有する財産に対して保全処分または民事執行をすることに明示的に同意をした場合及び保全処分または民事執行の目的を達することができるように特定の財産を担保として提供した場合には、我が国の民事裁判権に服するとしております。そして、さらに、外国等の明示的な同意がないような場合でも、その有するいわゆる商業用財産等に対する民事執行の手続については、外国等は我が国の民事裁判権に服する、こうしているわけでございます。

 したがいまして、こういう内容であるということを、法務当局としては日本国民や日本の企業に周知してまいりたいと思っております。

保坂委員 なかなか複雑な法律なので、これは、日本国民あるいは法人などにそれこそどのようなお知らせ、広報、工夫も必要かと思いますが、していく予定なのか。また、労働者の裁判を受ける権利が不当に害されないように、その制度の趣旨をきちっと広げていく方策について、お考えをお聞きしたいと思います。

倉吉政府参考人 この法律案を成立させていただきましたならば、その後、法務省のホームページでその概要を公表いたします。各種の雑誌等においても、その概要や解説等を投稿するなどして、広報に努めてまいりたいと思っております。

 さらに、今労働界というお話もありましたが、この法律案の要綱作成のための法制審議会において、各界の方から調査審議に協力をいただいております。経済界、労働界等の関係者、多々おられるわけですが、こういう方の御協力も得まして、より広く周知、広報に努めてまいりたいと思っております。

保坂委員 それでは、ちょっと法案を離れて、裁判員裁判について、先日聞いたことで、二、三、残りの時間で伺いたいと思うんですが、裁判所に伺いたいと思います。

 過日、裁判員裁判で、裁判長あるいは裁判所が過料を科すケースはどういうケースなのかということを法務省の方と議論したんですが、この過料を科すケース、例えば、裁判員裁判で面接をしている候補者がしゃべっていることがおかしい、うそだといって、その現場で制止をするなりして過料だというふうに宣告するのか、あるいは、後日、やはり虚偽だったのではないかということで、その当事者に対してどのような具体的な措置でこの決定を伝えるということをお考えになっているんでしょうか。

小川最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 今委員御指摘のとおり、裁判員法百十一条でございますけれども、裁判員候補者が、例えば選任手続における質問に対して虚偽の陳述をしたというときは、裁判所は決定で三十万円以下の過料に処するという定めがございますけれども、過料の決定の時期については、法律上、制限はございませんので、選任手続において直ちに過料に処するということもあり得ます。それからまた、選任手続終了後に過料に処するということもあり得ます。選任手続終了後に決定する場合は、対象者に決定書を送付して告知することになると思いますけれども、いずれにしましても、事案に応じて個々の裁判体が適切に対応するということになろうかと思います。

保坂委員 法務省刑事局長に伺いますが、そうすると、現場で裁判長が、これはもう虚偽だからだめですよといって過料に処して、なおその虚偽ベースの陳述を維持して悪質だと思ったときに、裁判所の告発を受けて立件する、起訴する場合もあるというふうに先刻言われました。

 その場合には、もう一つの方の刑事罰ですね、五十万円の刑事罰。過料の三十万円を裁判所がやって、五十万円の刑事罰の方を検事が事件を起訴するということになろうかと思うんですが、そういった裁判員裁判の面接ということだと、検事の方もその場で聞いていらっしゃるわけですね。裁判所の判断がなくても、検事の判断で、後に注目していって、これは虚偽だったということで、独自にというか、検事の判断で起訴をするということがあるのかという点についていかがですか。

大野政府参考人 お答えいたします。

 過料の制裁を科することと、刑事罰、罰金の制裁を科することとの関係でありますけれども、前回も答弁申し上げましたように、理屈の上では両方科されることもあり得るわけであります。また、これも理屈の上ででありますけれども、検察官が、裁判所の告発を待たずに、刑事罰を科すべきであるということで捜査、起訴の手続をとることもあり得るわけです。

 しかし、実際の運用について申し上げますと、過料にしましても、それから罰金にいたしましても、その目的は裁判員選任手続の適正を図るためのものであります。したがいまして、過料の科された事案について、あえてさらに刑事罰を科する必要があるかどうか、このあたりはもちろん個別の事案によるわけでありますけれども、過料が科された事実というのは当然にそれなりにしんしゃくすることになるだろうと考えております。

 ただ、申し上げたいのは、選任手続が適正に行われませんと、例えば、何回もこれは申し上げたことでありますけれども、本来裁判員として裁判に関与することができない人が関与することがあり得る、例えば被告人の会社に雇われている人間等があるというようなことになりますと、これはいわゆる絶対的控訴事由ということになりまして、裁判の成立に影響を及ぼすというような事案もありますので、悪質な場合に対応できるように刑事罰の制裁が過料の制裁に加えて設けられている、こういうことでございます。

保坂委員 わかりました。

 時間がないので、もう一、二問聞きたいので、答弁を短くお願いしたいんですが、これは裁判所もおっしゃっていましたが、要するに、人間の心の中の内心を客観的に証明するというのはなかなか難しいわけでございます。

 ただ、ちょっと例を挙げますと、これは、死刑についても、不公平な裁判をするおそれがあるケースとして最高裁の方が質問例をつくっていますから、例えば、刑事局長、死刑制度に反対だというブログをずっと書いている、あるいは死刑反対のイベントに参加をしていた、これは客観的事実。にもかかわらず、面接においては、こういったことを言うと忌避対象になるということで、積極的にこういった事実を、聞かれても明らかにしなかったし、そこはあいまいにした。しかし、評議において一転して死刑反対の主張をやはりそこでした。これも、評議においての言動というのは客観的な事実なんですね。

 そうすると、こういう場合は、裁判員法違反容疑で、虚偽陳述をしたということで捜査をすることはありますか。

大野政府参考人 もちろん、捜査をするかどうかというのは個別の事案になりますので、あくまでも一般論ということになるわけでありますけれども、評議の内容は、御案内のとおり秘密でございます。したがいまして、検察官が評議の中身に立ち入るということはおよそあり得ないことであります。

 なお、裁判員候補者があらかじめブログや文章で一定の見解を明らかにしていたとしても、それが選任手続の際の陳述といいましょうか、説明と食い違っていたからといって、それが直ちに明らかなうそを言ったというふうに認定できるかどうか、これもいろいろその事案によって議論の余地があるように思います。

保坂委員 では、もう一点ですが、裁判員候補が死刑のことを問われて、私は憲法十九条で保障されている思想、良心の自由に基づいて、あえてこの質問について答えを避けたい、私には沈黙の自由がある、これは憲法上保障されている権利だと言ったら、正当な事由なく陳述を拒んだケースに相当しますか。

大野政府参考人 裁判員法は、確かに、正当な理由がなく選任手続において陳述を拒むことはいけないというふうにしているわけでありますけれども、これに対しては罰則はございません。

 その上で申し上げるわけでありますけれども、実際にそうした質問に答えが得られなかったということも一つの資料になって選任手続が行われるものというように考えております。

保坂委員 では、法務大臣に伺いますが、確認ですが、憲法は最高法規であって、裁判員法にペナルティーがあったとしても、今刑事局長とのやりとりにあったが、憲法十九条で定められている思想、良心の自由ということを踏み越えて、これは裁判員法にあるから黙っていてはだめですよということまでは個人の内面に干渉はできないというふうにとらえてよろしいですか。どうですか。

森国務大臣 やはり個別のケースにもよると思いますし、今、仮定でこういう……(保坂委員「いえ、憲法と裁判員法の関係ということです」と呼ぶ)ですから、私は、そういったことをクリアして今日ここに至っているわけですから、後のことは、運用については裁判所において適切に判断をされると思います。

保坂委員 それは、法務大臣、めちゃくちゃですよ。裁判員法で、もし陳述をしなかった場合、これはだめですよとなっていても、憲法上、十九条において、自分は沈黙する自由を選ぶというふうな国民に対して、これは憲法の規定の方が上位ですね、こう確認しておるわけです。法務大臣なんですからそのぐらい答弁してください。個々具体的な話じゃないです、これは。

森国務大臣 そもそも裁判員法の第百十条は、裁判員候補者に関する欠格事由などが看過されることにより欠格事由などを有する者が裁判員に選任され、裁判の公平を害される結果となることを防ぐ趣旨から、裁判員候補者が積極的に虚偽の陳述をする場合について罰金に処すとしたものであります。

 裁判員候補者に対する質問は、裁判員としてその職務を行わせるか否かを判断するために必要な限りで行うことができるものであり、その限度を超えて裁判員候補者の内心にわたる事項について質問することは許されないし、裁判員候補者は、正当な理由があればその陳述を拒むことができます。

 したがって、第百十条は、裁判員候補者に対して、その内心の心情を表明することを刑罰で不当に義務づけるものではないと考えております。

保坂委員 それでは、法務大臣、死刑制度についてあえて問われることは、憲法十九条に保障されている思想、良心の自由、私はその権利においてこれはお答えしませんと言っても、別にペナルティーを科せられることはない、憲法の方が上位規定だ、こういうことでよろしいですか。今の答弁を要約すると、そういうことになりますか。

森国務大臣 今申し上げたとおりでございます。

保坂委員 私の言っていることでいいですか。

大野政府参考人 陳述を拒否することに正当な理由があると認められるときには過料はかからない。先ほど申し上げましたように、刑罰はもともとかからないわけであります。

保坂委員 もっと明確にしてほしいと思います。

 終わります。

山本委員長 次に、滝実君。

滝委員 無所属の滝実でございます。

 大変技術的な条文でございますから、読んでもなかなかイメージがわかない部分がありますので、そこのところをひとつ、イメージがよくわくような解説を民事局長にお願い申し上げたいと思います。

 まず、雇用契約とかあるいは損害補償、損失補償、こういった部分は、この条約によりますと、国家間で特段の定めをする場合には免除する、こういうような規定がありますね。ところが、現実に、この法案では、そういった関係をにおわせるような条文がないのでございますけれども、その辺のところはどういうふうに考えていらっしゃるんでしょうか。

倉吉政府参考人 御指摘のとおり、この国連国家免除条約の幾つかの条文にはただし書きが置かれておりまして、「ただし、関係国間で別段の合意をする場合は、この限りでない。」こうなっております。

 これらのただし書きは、国連国家免除条約とそれとは別の、関係国の間の合意という、いずれも、国家間の合意であるものの間の優先関係について定めたものであります。これは、今御審議いただいている法律案はもちろん国内法であるということになりますので、これらのただし書きに関する特段の規定を置く必要はない、このように考えたわけであります。

滝委員 その場合に、仮に、国家間の合意というのは形式的にはどういうことになるんでしょうか。ただ単に合意をしているのか、あるいはどうしているのかわかりませんよね。ですから、当然、法形式としては条約だろうという推測は成り立つんですけれども、そんなことを考えていらっしゃるんですか。

倉吉政府参考人 この国連国家免除条約は、国家間の合意というのに何を考えていたのかというのは、それは、厳密に考えると、国によっていろいろ思惑は違うのではっきりしたことは申し上げられませんが、少なくとも日本であれば、こういう条約というのは、当然、国会で承認を受けた、そういう条約ということになろうかと思います。

滝委員 次に、今回の法律改正に関連して、例の平成十八年の七月二十一日の最高裁判決がありますね。あれによりますと、審理を十分尽くすようにということで東京高裁に差し戻しされていますね。その結果がインターネットで探してもどうも出てこないのでございますけれども、法務省はどういうふうにつかんでいらっしゃるんでしょうか。

倉吉政府参考人 実は、この事件は現在、東京高等裁判所に係属しているようでございます。

滝委員 もともと、原審の東京高裁がこの事件を受けてから平成十五年の二月五日に判決を下すまでに、およそ一年間ぐらいで簡単にやっているんですね。ところが、この差し戻し審では随分時間をかけているというのは、もともと何が問題だったかというのが非常に関心があるんですけれども、民事局長、その辺のところはどうやってつかんでいらっしゃるんですか。

倉吉政府参考人 平成十八年の七月の最高裁の判決、これを見てみますと、かなり複雑な事案でして、国と日本の企業が直接契約をしたというのではないんです。国の代理人である、これはパキスタンなんですが、パキスタン国の代理人となっている企業と、企業だったと思いますが、それと日本の企業が契約をして、その効果が本人であるパキスタンに及ぶ、こういう契約でございます。

 この訴訟の中では、控訴審になってからパキスタンが出てきまして、もちろん主権免除の主張をしたわけでありますが、その中で、実は、この企業には代理権を渡していないんだ、これはうちの代理人ではないという争い方をしております。

 最高裁は、少なくとも、最高裁の原審になります東京高裁の判決は絶対免除主義に立って主権免除を認めちゃったものですから、それをひっくり返した。そうすると、これからさらに、少なくとも主権免除はされないんだということで、最高裁の判決の拘束力が破棄差し戻し後の東京高裁に及びますが、それを前提にしてさらに実体判断をしなければいけません。代理権があるのかどうかというのは争われているし、ほかにも契約の内容がどうか等、いろいろあろうかと思います。

 実は、これは個別の案件に関することですので、もうこれ以上は全然私の方もわかりませんが、そういったいろいろな審理をしている、あるいは和解を進めているというようなことも、私の経験からするとあるかもしれません。

滝委員 この原審というか事件は、少なくとも、東京高裁あるいは最高裁の判決の要旨から見る限り、もともと、裁判権は日本にある、こういう契約がされているようですね。したがって、今回のこの法律あるいは条約によって、改めてこういったこの種の国を相手取る事件が多くなるというよりも、もともと契約段階で、いろいろな契約の中で、今回この最高裁の判決の事例でもありますように、当然、契約当事者は裁判権の問題を契約の中に入れておる。したがって、今回の法律があろうとなかろうと、慎重に契約する人たちは、必ず裁判権の帰属の問題も入れているはずなんですね。

 そういう意味からいうと、要するに、何が言いたいかというと、この法律によって、どの程度こういった訴訟が日本の裁判所に持ち込まれてくるのか、その辺の見込みをどういうふうに考えているか。ほとんどふえる見込みはないとか、従来どおりというふうに考えているのか、その辺のところはどういうふうにお考えになっていますでしょうか。

倉吉政府参考人 一般論として申し上げますと、この法律ができれば、例えば事前にこういう同意をとっておくとか、担保をとっておくということをすれば、後の裁判がやりやすくなるということはわかるわけであります。

 それで、この法律ができたことによって事件がふえるという要素はある程度あり得ると思うんですが、しかし、それとは逆に、こういう場合にはむしろだめなんだな、むしろ、こういう法律ができているということで、国際的にも主権免除というのが問題になっているということで、本来の取引のあり方をきちっと見直していこうということもあるかもしれません。

 いろいろな要素があると思いますので、こういう事例がどの程度出てくるかというのは、結局は将来の具体的な事件の動向ということで、現時点では全く予測することはできないというのが正直なところでございます。

滝委員 今の民事局長さんの話でよくわかる点は、要するに次の判決で仮に勝訴判決を受けたところで、実際に強制執行する段階のことを考えたら、どういう担保をとっておくかということの必要性というか、そっちの方のリスクをどう解消していくかということが最大のポイントであって、この法律ができたからといって、安心というか、日本に関連する権限がこれでもって確保されているわけでも何でもないので、そういうようなことが今の民事局長さんの御答弁からうかがわれるということだけを私は理解させていただきました。

 もう一つ、これは法務省当局にお尋ねしたのでございますけれども、この条約等によって、これまでも、それからこれからも、日本の国が外国の民事裁判権によって訴えられるという事例をどうも把握していないようでございますね、なかなか難しいと思うんですけれども。さすがの法務省もそこまでは把握していない、こういうことでございますけれども、今後どういうふうにするんでしょうか。少しは関心を持ってウオッチするんでしょうか。とてもそれは難しいというふうに考えているんでしょうか。こういう事例があったときに、そもそも法務省当局に何らかの通報があるはずがないのでございますけれども、その辺のところはどう考えていらっしゃるんでしょうか。

倉吉政府参考人 これは本件の法律案とは関係ない話でありまして、外国の企業とか私人から、日本政府が取引をした、だけれども、何か不履行があるから払えというような、こういう訴訟を起こされる、こういうケースだろうと思います。

 これは、もしそういう事件があったとしても、ちょっと私、定かではありませんが、法務局の訟務部門に連絡が来るというものではないような気がいたします。

 そもそも、これはちょっと言い過ぎかもしれませんが、日本政府が外国の企業や私人と約束をして、これを破るというようなことは余りないのではないかという感じもいたします。

 ですから、現実に今のところ把握していないということでございます。

滝委員 日本の政府は大変きちょうめんな政府ですから、当然そんなことはないと思いますけれども、仮に訴えがあれば、日本国が訴えられるわけですから、当然法務省の訟務部が何らかの連絡を受けるべき話ではないかなと私は思っているんですけれども、その辺は全く考えていないということですか。

倉吉政府参考人 済みません。後刻、よく調べて御報告をしたいと思いますが、外務省ではないかなという感じもいたします。ちょっと調べさせてください。

滝委員 終わります。ありがとうございました。

山本委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

山本委員長 これより討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 内閣提出、外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

山本委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

山本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

    ―――――――――――――

山本委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時五十三分散会


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