衆議院

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第8号 平成23年4月20日(水曜日)

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平成二十三年四月二十日(水曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長 奥田  建君

   理事 滝   実君 理事 辻   惠君

   理事 橋本 清仁君 理事 樋口 俊一君

   理事 牧野 聖修君 理事 平沢 勝栄君

   理事 大口 善徳君

      相原 史乃君    井戸まさえ君

      大泉ひろこ君    川越 孝洋君

      京野 公子君    熊谷 貞俊君

      黒田  雄君    桑原  功君

      階   猛君    橘  秀徳君

      中島 政希君    野木  実君

      三輪 信昭君    水野 智彦君

      山岡 達丸君    山崎 摩耶君

      横粂 勝仁君    河井 克行君

      北村 茂男君    柴山 昌彦君

      棚橋 泰文君    森  英介君

      柳本 卓治君    城内  実君

    …………………………………

   参考人

   (駿河台大学法学部教授・副学長)         吉田 恒雄君

   参考人

   (東京大学大学院法学政治学研究科教授)      大村 敦志君

   参考人

   (弁護士)

   (日本弁護士連合会子どもの権利委員会幹事)    磯谷 文明君

   法務委員会専門員     生駒  守君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月二十日

 辞任         補欠選任

  野木  実君     磯谷香代子君

  山崎 摩耶君     山岡 達丸君

  横粂 勝仁君     福島 伸享君

  河井 克行君     徳田  毅君

同日

 辞任         補欠選任

  磯谷香代子君     野木  実君

  福島 伸享君     横粂 勝仁君

  山岡 達丸君     山崎 摩耶君

  徳田  毅君     河井 克行君

    ―――――――――――――

四月二十日

 民事訴訟法及び民事保全法の一部を改正する法律案(第百七十六回国会閣法第八号)(参議院送付)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 民法等の一部を改正する法律案(内閣提出第三一号)


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     ――――◇―――――

奥田委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、民法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、参考人として、駿河台大学法学部教授・副学長吉田恒雄君、東京大学大学院法学政治学研究科教授大村敦志君、弁護士・日本弁護士連合会子どもの権利委員会幹事磯谷文明君、以上三名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表し一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多忙の中、御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れば幸いに存じます。よろしくお願いいたします。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、吉田参考人、大村参考人、磯谷参考人の順に、それぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対しお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようにお願いをいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承を願います。

 それでは、まず吉田参考人にお願いいたします。

吉田参考人 おはようございます。

 ただいま御紹介いただきました駿河台大学の吉田でございます。

 私の方から、今回の民法等の改正につきましての意見を述べさせていただきます。先生方のお手元には私の資料が既に配付されていると思いますので、それをごらんいただきながらお聞きいただければと思っております。

 私の方からは、今回の改正案全体についての評価と課題ということで、簡単に総括的なお話をさせていただければと思っております。私は、大学で民法家族法の講義を担当したり、また、児童福祉、特に児童虐待をテーマにしてこれまで法学的な立場から取り組んでまいりましたので、それらの経験なども踏まえてきょうのお話をさせていただければと思っております。

 まず、いきなり法案の中身に入っていきますけれども、最初の、離婚後の監護についての提案がございます。

 詳しい内容は既に先生方お聞きになっているとおりで、ただ、私の方からの見方といたしましては、今回の、離婚後の監護についての条文が設けられるというのは、明文をもって基準がはっきりする、従来の実務がこれで成文化されたという点では大変よろしいかと思います。

 ただ、平成八年に提出されたものと同内容ということになってまいりますと、その後の状況の変化、社会の変化もあれば学界における変化もあるわけで、それらの点についての十分な議論がなされたのかどうかというところが若干気になるところであります。そうしたところも含めて御議論いただければというふうに思います。

 次に、民法の改正案とありますが、特に親権絡みのところですけれども、二の(一)にありますように、今回の改正案で、子の利益という、そのために親権を行使すべきだという点、これは大変よろしいかと思います。実務では当然のことなんですけれども、とかく親権というのは親のためというふうに一般的に理解されかねない面がありますので、これをきちんと明記したというのはとても大きな意義があると思います。

 ただ、もう少し欲を言えば、例えば、児童の権利条約にありますように、国際的動向などからすると、子供の権利の視点というところから親権の制度を整理するということもあってもよかったのではないかというのが一つです。

 それからもう一つは、今回は親権の総則規定ということで改正案が出ておりますけれども、親権の問題、子の利益の問題は、親子関係の成立、養子であれ実子であれ、かかわってくる問題でありますので、規定の仕方としては、民法の頭のところ、民法の二条で、婚姻のところと同じような理念規定を置くということもあったのではないかと思っております。

 では、次の、懲戒権規定ですけれども、懲戒場というのが現行法上存在しない、これを削除するというのはよろしいかと思います。ただ、国連の子どもの権利委員会、児童の権利委員会の第三回目の勧告にありますように、我が国においては体罰の禁止を明文化すべきだという勧告が出ております。これに対する配慮というのをしなくてよろしいのかどうか。また、世界的に見ますと、現在十八カ国で体罰禁止を盛り込んだ法律を持っております。こうしたことなども、法改正に当たっては考慮してよろしいのではないかということであります。

 (三)の親権の喪失のところですけれども、1の、喪失と停止の審判。特に、今回、一時停止の制度が設けられたという点、これは大変よろしいところかと思います。特に、虐待する親に対する指導をきめ細かく行う、しかも、それを法的な枠組みのもとに行うことができるようになった。親の指導効果、また、虐待の状況がなくなるということに応じて段階的な権利制限が可能になるというところでは大変よろしいかというふうに思っております。

 また、現在の児童福祉法二十八条の入所措置審判でありますと、審判があった場合の親権関係が余り明確ではないんですね。それが、今回この一時制限の制度が設けられたということで、入所措置がとられた児童についての親権の関係がこれで整理されるという点では大変よろしいかというふうに思っております。

 ただ、比較的軽微なケースで、親権全体を制限するというところまで踏み込むものなのかどうか。ソーシャルワークの視点からすれば、親の親権全部を制限するというのは、自分が全体を否定されたように思うのではないか、また、子供からすれば、自分の親がそういう否定された親なんだというふうに思ってしまうのではないか。とするのであれば、必要な部分だけ制限するという部分制限、こうしたことも検討されてよろしいんじゃないか。

 実は、法制審では大分このあたりを議論したというのは先生方御承知のとおりでありまして、技術的にもなかなか難しいところがある、裁判所の実務の点から見ても実現がなかなか困難であるというところは重々承知しておりますけれども、ただ、素朴に考えますと、果たしてそれでいいのかなというのがあります。

 次の、親権喪失等の申し立て権者に、今回、子自身が加えられたというところ。これも、子供の自己決定とか自立という点から見て適切だ。この自己決定、自立というのは、要は親を見切るということなんですね。親からひどい性虐待を受けて、そしていまだにそれを苦しんでいるという未成年の人からすれば、これが一つ立ち直りのきっかけになる。とてもつらいことかと思いますけれども、そうしたことによって初めて次のステップを歩むことができるという例も聞いたことがあります。そうした意味では、この制度、本来であれば児童相談所長がすべきところ、やはり子供自身の選択でというのは大変つらい選択ではありますけれども、こういう道があってもよろしいのではないか。

 ただし、これを行うとなると、子供に対する精神的な影響がとても大きいですから、これに対する児童相談所や家庭裁判所、また民間機関による支援というのを当然しなければいけないだろうということです。

 次のページをごらんください。

 未成年後見でありますけれども、これに関しては、従来なかなかその受け手がなかったというところを、今回の改正で、これを法人後見また複数後見ということで実現しよう。成年後見と比較して、特に身上監護の面の対応が非常に難しくなりますので、とても一人では受け切れないというところから、それぞれ専門職と親族に分けるというような形での複数後見、また一方を法人とするということで、多様な受け皿を用意するという意味ではとても評価できる。

 ただ、実施に当たっては、その報酬をどうするかという問題が一番大きい。また、その専門性をどのように確保するかということも大事な課題であります。

 児童福祉法の方ですけれども、一時保護について、児童福祉審議会の意見を聞くというふうにしておりますけれども、この児童福祉審議会をどのように使うかというときに、親と施設または児相との対立調整の機関、そういう役割を私は期待しております。とすれば、親自身の申し立てというのでしょうか、児童相談所が児童福祉審議会に専門的な意見を求めるというだけではなくて、親からの申し立ての手だてというのが用意される、また、子供の申し立ての手だてということを用意しなければ、対立調整の役割は難しくなるんじゃないか。

 それから、(二)の、児童福祉施設長また児童相談所長の権限で、不当にこれを妨げてはならないということが条文化されていました。これも、従来、入所中の子供をめぐる親権関係で不当な要求をする親が少なくない、子供の利益を図れないというところでこうした条文がつくられたわけですけれども、現場の感覚からしますと、当不当をだれがどう判断するんだという点が実際に課題として残るわけですね。またこのあたりをきちんと整理するガイドラインが出されないと、かえって現場は混乱することになりますので、この手当てというのは当然に必要になってくるだろうというふうに思っております。

 改正案全体に対する課題でありますけれども、今回の改正案は、これまでの児童虐待防止法の成立、改正、また児童福祉法の改正というその延長線上にあるということで、家庭に対する公的な介入というのがより一層強められた。私的な面に対する介入でありますから、当然人権に対する配慮が必要になってくる。また、適正手続ということも必要になってきますので、これらの制度の運用に当たってはそうした配慮が必要だろうということが一つ。

 それから二番目は、条件整備です。先ほどの後見人の部分と同じでありますけれども、制度はつくられたけれども運用できるだけの人がない、金がないということであっては絵にかいたもちに終わりますから、この条件整備を適切に行うということが必要です。

 さらに言えば、こうした介入の方法で児童虐待の問題に関与するというのは、これはあくまでも例外でありますので、根本的な対策というのはやはり予防であります。子供の育成施策というものを重視することを並行して行わなければ、かえって親は萎縮することになりますので、この予防施策をさらに充実していただきたい。

 立法上の課題ですけれども、今回の法改正に当たっては、時間の制約上、親権全体についての検討が十分できませんでした。言ってみれば応急的なものにとどまっているということで、本来であれば、もう少し幅広い親権の議論の中での、こうした介入の問題、また児童虐待等の視点での議論が必要かと思います。

 法理論的な課題もありますし、それからもう一つは、制度的なインフラの問題です。事件数がこれだけ多くなってきた中で、裁判所がどの程度関与すべきかというのは、理論的な問題であると同時に、実際の実現可能性を考えなければいけません。諸外国と比べて、このあたり、司法関与というのが日本では十分とは言えない状況がある。それと、司法のインフラ、また、児童福祉の体制整備ということも同時にしていかなければ、改正法が生きたものにはならないだろうというふうに思っております。

 以上、ちょっと早口で説明させていただきましたけれども、私の意見とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

奥田委員長 どうもありがとうございました。

 次に、大村参考人にお願いいたします。

大村参考人 東京大学の大村でございます。このような発言の機会を与えていただきましたことに対しまして、まず御礼を申し上げます。

 私は、資料のようなものを特に用意してございませんけれども、ごく簡単なお話をさせていただきたいと存じます。

 児童虐待は、二十年ほど前から社会問題として改めて認知されるようになりましたけれども、この問題に対しましては、これまで児童福祉法の改正や児童虐待防止法の制定による対応が図られてきたところでございます。特に、二〇〇〇年に制定されました児童虐待防止法は、その後も数次の改正を経まして、より充実したものとなってきているところでございます。

 他方で、児童に対する父母の権利義務の基本を定めるのは民法でございます。しかし、この民法につきましては、特に改正がなされることなく今日に至っております。

 今回の法案は、児童虐待の防止という観点に立ちまして、民法の関連規定の見直しを図るということを中心とするものでございます。

 私は、要綱案の審議を行いました法制審議会の児童虐待防止関連親権制度部会に委員として参加しておりましたが、この法案の意義は次の三点にまとめられるのではないかというふうに考えております。以下、私の専門であります民法の部分を中心に、順次御説明をさせていただきたいと存じます。

 第一は、先ほども御指摘がありましたが、親権の行使が、子の利益、子供の利益のためになされるということを条文上明言したという点でございます。

 今日、子の利益は家族法全体を支える基本的な価値であるとされておりますけれども、従前は、民法が子の利益に言及するのは幾つかの場合に限られておりました。具体的に申しますと、家庭裁判所が親権者や監護権者を変更する、これは条文で申しますと民法の八百十九条の六項とか七百六十六条の二項という規定ですが、家庭裁判所が親権者や監護権者を変更する場合、あるいは、同じく家庭裁判所が特別養子縁組の成立や離縁を認める場合、これは条文でいいますと八百十七条の七、八百十七条の十という規定でございますが、これらの場合に限られていたわけでございます。

 これに対しまして、今回の法案は、裁判所だけではなくて、父母もまた、親権行使あるいは監護権者の決定に当たっては子の利益を最優先にしなければいけないということを明らかにしたわけでございます。

 これとあわせまして、懲戒権の行使につきましてもまた、子の利益のためになされる親権の行使として適切なものでなければならないということを明示いたしました。

 こうした考え方は、既に児童虐待防止法において示されていたところでございます。すなわち、同法の四条六項には、「児童の親権を行う者は、児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を有するものであって、親権を行うに当たっては、できる限り児童の利益を尊重するよう努めなければならない。」このように定められているわけでございます。

 しかし、市民社会の基本法と言われます民法におきまして、この考え方が改めて宣言されたということの象徴的な意味は大きい、社会に訴える力を持つものだというふうに言うことができようかと思います。親権を有する父母であっても、懲戒の名のもとに子供を虐待することは許されないということが、これまで以上に社会の共通認識として浸透するということが期待されるところでございます。

 第二に、親権の喪失の制度のほかに、親権の停止という制度を定めたということでございます。

 従前も、民法八百三十四条の規定によりまして、父母が「親権を濫用し、又は著しく不行跡であるとき」には、家庭裁判所は親権の喪失を宣告することができるとされていたところでございます。しかし、この制度は、親権の喪失という重大な効果が生じますために、実際には余り利用されてまいりませんでした。従来の例を見る限りでは、裁判所が親権喪失の宣告に慎重、消極的であったというよりも、むしろ関係者が申し立てをちゅうちょするということが多かったのではないかというふうに思います。

 そこで、今回の法案は、取り消しによって回復は不可能ではないというものの、無期限に親権が失われてしまうこれまでの親権の喪失という制度に加えまして、二年という上限を区切って親権を失わせる親権の停止という制度を設けたわけでございます。これは、子の利益が害される程度が低い場合にも、その程度に応じて限定的に親権を失わせることを認めようというものでございます。

 あわせまして、児童福祉施設長等がとる措置と親権との関係を明確化し、施設長等が権限に基づいて行う適切な措置に対して、父母はこれを妨害することができないともしたわけでございます。特に、生命身体の安全確保のためには、施設長等は、父母の意思に反するとしても必要な措置を講ずることができるということを明示しております。

 このように、より広く適用することができる親権の停止という新しい制度を設けますとともに、児童福祉施設長等の権限を明確にすることによりまして、必要に応じて適切に親権を制限することが可能になるかと思います。これらによりまして、親権の存在が障害となって虐待を防止することができないという状況は改善されるものではないかというふうに思っております。

 第三に、未成年後見制度をより使いやすくするための工夫というのをしております。

 親権の喪失あるいは停止の結果といたしまして、親権を行う者がいなくなったという場合には、未成年後見人が選任されることになります。しかし、未成年後見人は親権者とほぼ同様の重い義務を負いますために、実際には、そのなり手がなかなか見つからないという状況にございます。この困難を乗り越えるために、法案は二つの方策を講じております。

 一つ目は、複数の未成年後見人を選任することを認めたということでございます。例えば、未成年者のおじさん、おばさんが夫婦二人で未成年後見人になるということですとか、親族の一人と弁護士の先生などといった専門家の方があわせて未成年後見人になる、このようなことも可能になります。

 もう一つの方策は、個人だけではなく、法人もまた未成年後見人になり得るとしたことでございます。これによりまして、適切な団体、組織に未成年後見人の任務を果たしてもらうということが可能になろうかと思います。

 従前、成年後見人の場合とは異なりまして、未成年後見人は一人でなければならないとされておりました。また、法人が未成年後見人になるということは、制度上想定されておりませんでした。これは、成年後見人が主として成年被後見人の財産の管理を行うのに対しまして、未成年後見人は、未成年者の養育を主たる任務とするということにかんがみまして、一人の人が責任を持って臨むことが必要であり、法人にこの任務をゆだねるのは適当ではないと考えられたためだろうと推測いたします。

 こうした考え方は、今日でも妥当しないわけではありません。そのため、法案は、複数の後見人が適切に職務を行うための仕組みを設けるとともに、個人であれ法人であれ、未成年後見人となるのにふさわしい者を選任するということを予定しているところでございます。

 法案の内容については以上でございます。まとめて申しますと、親権の行使の理念として、子の利益というのを改めて宣言する、そして、子の利益が害される場合には、親権を制限し、速やかに未成年後見人を付することができるように努めるということになろうかと思います。

 最後に、この制度の運用と今後の立法につきまして、私の意見をつけ加えさせていただきたいと存じます。

 親権の問題に限らず、家族の問題に関しましては、家庭裁判所が極めて重要な役割を果たします。例えば、新しく提案されております親権の停止という制度が十分に機能するかどうか、この点は家庭裁判所の運用に依存するところが大きいと思います。父母の権利に十分に配慮しつつ、効果的に虐待等に対応することができる安定的な運用基準の確立が望まれるところでございます。

 また、この法案の立案は民法と児童福祉法との連携を意識しつつ行われておりますけれども、実際の運用に当たりましては、二つの法律の担い手となります家庭裁判所と児童福祉諸機関の密接な連携が期待されるところでございます。

 家族の問題に関しましては、国民の間にさまざまな考え方が存在しております。そのため、現代においては、家族法の改正は容易なことではございません。婚姻や離婚あるいは生殖医療にかかわる親子関係につきまして、改正の必要性が指摘されつつ、なかなか実現に至らないのはそのためであると考えております。

 しかし、日本国憲法の制定に伴い家族法が大改正されてから既に六十年以上が経過しております。この間に家族のあり方が大きく変化していることはだれもが認めるところでありましょう。今回の法案が対象とする児童虐待は、まさにそのような問題の一つであろうかと思います。この重要な問題に対応するための法案が提出されたことの意義は大きいと考えます。

 しかしながら、今回の立法は児童虐待に対応するためのものでございまして、親権のあり方を全体として見直すものではございません。さらに、家族法全般を見渡すならば、改正を要する重要な問題はほかにも少なくございません。先生方におかれましては、今回の改正を第一歩といたしまして、家族法の現代化にぜひ取り組んでいただければ幸いに存じます。

 以上でございます。どうもありがとうございました。(拍手)

奥田委員長 どうもありがとうございました。

 次に、磯谷参考人にお願いいたします。

磯谷参考人 磯谷でございます。

 私は、主に児童相談所長の代理人として児童虐待事件にかかわってまいりましたほか、児童福祉をめぐるさまざまな法律問題について、全国の児童相談所その他の関係機関から御相談を受けてまいりました。また、法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会、それから社会保障審議会の専門委員会におきまして、日弁連選出の幹事あるいは委員として議論に参加をさせていただきました。きょうは、児童虐待問題にかかわってきた法律実務家の一人として、今回の法律案について意見を申し上げたいと思います。

 まず、今回の法律案は、児童虐待防止の観点から親権制度に大きく切り込んだという点で大変画期的なものだと考えております。画期的だと考える点として、次の五点を御指摘申し上げたいと思います。

 まず第一に、監護教育権を定める民法八百二十条に「子の利益のために」という言葉を入れているという点です。親権が子供の利益のために行使されるべきだということを最初にはっきり宣言しているということは、その後の条文を運用する上で重要な解釈指針となると思われますし、また、親権と日々格闘をしている現場の感覚としましても、大変心強い規定だと思われます。

 第二に、親権制限の要件が見直されて、新たに親権停止制度が設けられるなど、これまで使いにくかった親権を制限する制度が随分使いやすくなるという点でございます。

 さらに、親権制限の申立人として子供が加えられるということも画期的だと考えております。もちろん、子供自身が申し立てをせざるを得ないような事態は決して望ましいものではありません。特に児童相談所長が、必要なケースはきちんと申し立てをしていくということが大切です。しかし、児童相談所が常に適切な対応をしてくれる保証はありませんので、やはり子供自身がみずから裁判所に救いを求める手段があるということは、とても大切なことだと思います。

 画期的だと思われる第三の点は、懲戒権規定が改正をされるという点です。

 日弁連としましては、懲戒権規定全体の廃止を求めてまいりましたが、少なくとも、今回、実質的に子の利益に反する懲戒を認めないという趣旨が明確にされるという点で、確実な前進だと考えております。

 第四に、施設入所中、里親委託中、一時保護中の子供と親権などについて一定の整理がなされるという点も画期的だと思います。

 例えば、児童養護施設の現場では、親が子供の治療に反対したり、子供の日常生活に事細かに干渉するなど、親権との関係に日々悩まされてきました。今回、親は施設長の措置等を不当に妨げてはならないということが明記されるなど、対策が講じられたことは、現場の悩みを相当程度改善するものと期待をされます。

 ただ、この点に関連しまして、一点だけ懸念している点がございます。

 児童福祉法改正部分で新設の四十七条五項ですが、緊急の必要があると認めるときは、親権者等の意に反してでも措置をとることができると書かれています。これを意地悪く反対解釈をしますと、緊急の必要がないときは、たとえ親権者の意思が不当なものであったとしても、親権者等の意に反して措置をとることはできないのではないかと言われかねないように思います。社会保障審議会の報告書では、措置をとるべきことを明らかにするということにしていました。

 この点、とらなければならないと改めるか、もしくは、国会の審議の場で、緊急の必要がないからといって、親権者の意に反しては何もできないということではないんだという趣旨を明らかにしていただければと思います。

 少々脱線をしましたが、最後に、未成年後見人として複数が就任できるようにして、また法人も就任できるようにするという点も画期的であります。

 現在、親権制限をちゅうちょする大きな理由は、その受け皿となるべき未成年後見人のなり手がいないという点にあります。今回の改正案では、複数後見も法人後見も、たった一人で苦労をしょい込まなくて済むという点で、未成年後見人の負担を軽減するのに役立つものと考えております。私としては、今後、福祉関係者や心理の専門家、あるいは家庭裁判所の調査官経験者や子供の権利に詳しい弁護士などが、未成年後見人の受け皿となるような法人を立ち上げるようになりますと、充実した未成年後見が可能となるのではないかと思っております。

 次に、今回の法改正を前提に、比較的短期的に解決されるべき課題と考えている点についてお話をいたします。

 一つ目は、今申し上げた未成年後見人に関することであります。

 複数後見が認められ、法人後見が認められるのは確かに前進ですが、率直に申し上げて、これだけで未成年後見人のなり手がふえるとは考えておりません。

 第一に、未成年後見は、財産管理のみならず身上監護も含みますので、例えば子供が第三者を傷つけた場合、未成年後見人が法的責任を問われるというおそれがあります。もちろん、常に問われるという趣旨ではありません。しかし、そういう可能性がありますと、当然、引き受けるのにはちゅうちょしてしまいます。

 第二に、報酬の問題です。現行法では、家庭裁判所は、被後見人の財産の中から相当な報酬を与えることができるとしています。しかし、成年後見とは異なりまして、未成年後見は、子供に財産があるとは限りません。これは関西の弁護士から聞いた話ですけれども、家庭裁判所から弁護士会を通じて未成年後見人の推薦依頼がありまして、その際、メモが付されていたそうですけれども、そこに、報酬は全く見込めませんというふうに書かれていたという笑えない話もございました。何かあったら責任は問われる、でも報酬はないというのでは、たとえ法人であっても、やはり未成年後見人にはならないでしょう。

 したがって、未成年後見制度を本当に機能させるためには、最低限、業務を続けていけるだけの報酬を国が支払うとともに、賠償責任について保険制度を設けるなど、善意で未成年後見人になった者が思わぬ責任を負わされることがないように、しっかりとしたサポートをしていただきたいと思います。

 二つ目は、児童養護施設で生活する子供たちと親権との関係で、なおすっきりしない、解決しない点があるということでございます。

 例えば予防接種について、施設で子供たちに予防接種をしようとしても、病院から、親の承諾がないとだめだと言われてできないということがあるそうです。

 教育に関しては、例えば、本当はその子のためには特別支援学校に就学させるのが適当であると思われるのに、親が反対するため先に進まず困っているということも聞きます。私の理解では、親が反対したからといって、法律上、特別支援学校に就学させられないのかというと、必ずしもそうでもないだろうと思ってはおりますが、実際には親の意見を尊重せざるを得ないようです。

 パスポートも問題にされています。施設を支援してくださる方の御好意で、子供たちが近場の海外旅行に行くということがあります。家庭のない子供にとってはとても貴重な経験なわけですけれども、海外旅行にはパスポートが必要となりますが、パスポートの申請も親の協力がないとなかなか難しいようです。

 精神病院への医療保護入院も課題です。虐待を受けた子供の中には精神的に不安定な子供も少なくないのですが、かなり状況が悪いとき、精神病院に医療保護入院をさせた方がよいということもあります。しかし、親が反対すると入院を断念せざるを得ないということもあるようです。

 こういった問題は、確かに、親権停止をした上で未成年後見人を選べば解決する問題だと思われますが、そこまでしなければならないのかと疑問に感じております。親が子供を施設に入れた経緯を振り返ってみますと、子供を虐待してしまったり、適切に養育できないなどの事情で施設に入れていることが多いわけですから、基本的に施設に任せる部分がかなりあるんだろうと思っております。そうしますと、予防接種、特別支援学校への就学、パスポートの申請などといった点については、関係省庁が連携して、必ずしも親の協力を得なくてもスムーズに対応できるように工夫をしていただきたいと思っております。

 三つ目は、接近禁止命令の拡大です。これは社会保障審議会の委員会でも議論をされました。

 現行法では、児童虐待防止法に、虐待をした親に対し、子供につきまとってはいけない、子供のいるところを徘回してはならないという命令を出せる接近禁止命令が定められていますが、これは、児童福祉法二十八条の承認のもとで子供が児童養護施設などに入っている場合に限られています。しかし、実際には、民間のシェルターに入っている子供、親族の家に身を寄せている子供、ひとり暮らしをしている子供などにとっても、親の接近を避けたい事情があることが少なくなく、そういった子供たちにも接近禁止命令はぜひ望まれるところだと思います。

 このような私の意見に対しては、磯谷はそんなことを言うけれども、現行法の接近禁止命令ですらほとんど活用実績がないではないか、拡大する必要など本当にあるのかという批判を耳にします。しかし、そもそも児童相談所がかかわっていて施設にいる子供は、組織的に守ることが可能です。一方、小さい民間シェルターにいる子供、ひとり暮らしをしている子供などには、組織的に守ってくれる大人たちはいません。昨年、全国児童養護施設協議会が取りまとめた調査によりますと、親が施設を退所した子供にお金を無心するためにつきまとったり、性的虐待が疑われるケースで、退所した後の子供の居場所を捜すなどのケースがあったそうです。

 また、私の意見に対しては、ほかにも、面談強要禁止仮処分などを活用してはどうかという意見もございました。しかし、もし本当に面談強要禁止仮処分が機能するのであれば、いわゆるDV法の保護命令など必要ないことにならないでしょうか。実際には全くそんなことはなく、DV法の保護命令は年間三千件前後の申し立てがあり、年間二千五百件前後の発令があると伺っています。DV法も児童虐待防止法も議員立法だったと思いますので、行く行くは接近禁止命令の拡大をぜひ議員の先生方にお願い申し上げたいと思います。

 若干御注文めいたことも申し上げましたが、何はさておき、今回の法律案が一日も早く成立することを願っております。特に、親権停止制度については大変期待をしております。

 考えてみますと、これまで児童虐待防止において活用されてきました児童福祉法二十八条という制度は、わざわざ裁判をして、実務上相当ひどい虐待を認定して、子供を施設に保護しながら、親権については何も触れていないというちょっと不思議な制度でした。

 以前は、以前の学説ですけれども、児童福祉法二十八条の承認があっても、親権はとめられているわけじゃないんだから、親は子供の引き取りを求めることができるのではないかといった意見すらあったようであります。もちろん今ではそういう意見を聞くことはありませんが、私は、二十八条の制度は、そういう意見も出てきかねないほど中途半端な制度だというふうに感じております。

 むしろ、虐待を認定した以上、きちんと親権をとめて、ケースワークの枠組みをつくって、児童相談所がしっかりと主導できるような体制こそ望ましいと考えており、そういう視点から、この親権停止制度はとても役に立つのではないか、ぜひ活用したいと思っているところでございます。

 以上で私の意見陳述を終わります。(拍手)

奥田委員長 どうもありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

奥田委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。橘秀徳君。

橘(秀)委員 おはようございます。民主党の衆議院の橘秀徳でございます。

 三人の先生方、まことにありがとうございました。時間がないので、焦って質問をさせていただきます。

 まず一点目でありますが、磯谷文明先生にお聞きいたします。

 児童福祉法改正について、施設入所中で親のいる子供について、施設長は監護、教育、懲戒に関し必要な措置をとることができるとされています。それと親権との関係について、今回の法律案では、親権者は施設長の措置を不当に妨げてはならないとしておりますが、若干これまでの議論の中と法案になるときと仮定が何かちょっと変わった気がいたします。この舞台裏についても少し教えていただければと思います。

 それから、例えばその当不当の判断についてであります。先ほど来、磯谷先生よりお話ありましたが、特別支援学級か普通学級か、親と施設長と判断が分かれていく。また、医療を受けさせる場合にも、例えばがんの治療については、切る切らない、重粒子線の治療を行うなどなど、本当にたくさんの場合があると思います。当不当の判断が難しい場合はどう考えるかということと、運用についての御意見もあわせて磯谷先生お聞かせください。

磯谷参考人 御質問ありがとうございます。

 まず、施設に子供がいる場合で親権者がいる場合に、施設長等が監護について権限を持つ。この点については、実は、法務省の研究会、それからその後の社会保障審議会等で議論してまいりましたのは、一律、施設長の権限を親権者の親権よりも優先させるというふうな枠組みで考えていたわけです。

 考えてみますと、いわゆる親の同意、意思に反していないということで施設に入っている場合には、そもそも施設長の方で強い権限を持っていたとしても、余り下手なことを言いますと、親の方でそれじゃ同意は撤回しますと言われてしまえば、そもそも施設に措置をしているその根拠自体がなくなってしまいますので、現実問題としては、やはり施設長としては丁寧に対応せざるを得ないだろう。一方で、二十八条の、承認を得て施設に入っている場合というのは、これはもう裁判所が虐待を認定しているわけですから、やはり施設長の権限が優先してもおかしくないだろうというふうに考えて、そういう割り切りをしていたわけです。

 ところが、最後の段階で、私が聞くところによりますと、内閣法制局の方から、どうもそのような一律というふうな形で法律に盛り込むということは適当でないというふうな御意見があったということでございました。その是非について今ここで何も申し上げるつもりはございませんけれども、いずれにしても、先ほど吉田参考人もお話しになったように、その結果、必ずしも線引きが明確でなくなったという点は否めないのかなと。

 何が不当か。例えば、親の方も、自分は不当なことを要求しているというふうに意識している人はいませんので、自分は正当だとみんな思っているわけですから、そういう意味でも、これが何か解決の基準になるかどうかというところは、やや悩ましいところであるかと思います。ただ、そうはいいましても、やはり児童相談所あるいは施設の方としましては、このような規定が入りますと、それはそれで一つ心強い部分でありますし、また、その当不当について、恐らくは児童相談所、あるいは場合によっては児童福祉審議会などの意見も聞きながら対応していく、そして、その中である程度この基準が見えてくるんじゃないかとも思っています。

 また一方で、私どもが期待しているのは、厚生労働省の方でやはり何らかガイドラインをつくっていただいて、全国の児童養護施設あるいは児童相談所の指針となるようなものを提供していただきたい。その中で、先ほどの特別支援学校の問題、あるいはその他もろもろの問題もなるべく触れていただければ、実務としてはやりやすいのではないかというふうに考えているところでございます。

 以上です。

橘(秀)委員 ありがとうございます。

 続いて、また磯谷先生にお伺いいたします。

 大村先生からも、未成年後見人制度が非常に使いやすくなったのが今回の法律の三つ目の利点ということをいただきましたが、特に未成年後見人、先ほど磯谷先生からもお話ありましたが、家裁から弁護士会に対して未成年後見人の推薦依頼があったような場合でも、その際の家裁のメモが、報酬は全く見込めませんと書かれていたということで、非常に厳しいものと思っています。

 この未成年後見人への報酬については、当委員会の中で、小宮山副大臣は、急いで検討するということだったんですが、弁護士さんが未成年後見人になられることは多々あると聞いています。磯谷先生はやられたことがあるかということと、実際お話を伺っていて、どういう問題点がありますでしょうか。

磯谷参考人 お答えいたします。

 御質問ありがとうございます。残念ながら、私自身は未成年後見人の経験はございませんが、弁護士の中ではこの経験をしている方が何人もいらっしゃいます。そこでいつも話題に上るのが、実は、この未成年後見人、今弁護士が未成年後見人をやる場合というのは子供に財産があることが多いわけですが、この子供の財産をめぐって子供とバトルを繰り広げるということが多いと聞いています。

 具体的にどういうことかといいますと、子供の方はその多額のお金を使いたいわけですね、スポーツカーを買いたいとか、いろいろ遊びたいとかというふうなことになる。ところが、後見人の弁護士としては、いや、今それを使うのはよくないというふうなことで説得をする。その繰り返しというふうなことを聞いています。

 今の点からもおわかりのとおり、単に財産を管理するというだけではなくて、ある意味、子供への教育というところも密接不可分に絡んでいるというのが、恐らくこの未成年後見の難しさであろうというふうに思っています。

 それから二つ目。よくこれも聞く話なんですけれども、弁護士の未成年後見人が、一生懸命子供のためを思って、心を鬼にして財産をしっかり守って、成人をしたときに子供に対してそれを渡すわけですね。これは当然渡すわけです。ところが、渡した途端に、数カ月で数千万円のお金をみんな使ってしまったというようなケースも、これもまたしばしば聞きます。そうすると、弁護士としては、それまで一生懸命子供のためにと思って頑張っていたのに、非常にむなしい気持ちになるというふうなこともありまして、このあたりは、子供の成長というのは本当は段階を踏んでいくものなのにもかかわらず、法律上二十というところでばしっと切っている、そこでゼロか百かということになっているところの難しさかなというふうに思っております。

 それから三つ目は、今の未成年後見の運用では、弁護士が未成年後見人になる場合も、自分の本籍地といったものも裁判所の方に届け出まして、そして子供の戸籍の方に自分の本籍地も書かれるということになるわけです。いわば、自分の個人情報を提供して引き受けるということになるわけです。最近、弁護士もなかなか怖い目に遭う事件も出ておりまして、児童虐待というのは、特にその親と非常に厳しい対立関係になるということもございますので、このあたりの運用も本当は何とかしていただきたいなというふうに思っている次第でございます。

 お答えになっているかどうかわかりませんが、よろしいでしょうか。

橘(秀)委員 ありがとうございました。

 吉田先生からも、申し立て及び報酬に対する公的支援と、それから未成年者の不法行為に対する損害賠償責任の確立ということですので、ぜひ、理事の皆さんには、附帯決議なり、このあたりはきっちりと対応をお願いさせていただきたいと思っております。

 それから最後に、特に吉田恒雄先生にお伺いしたいと思っています。

 今回、親権の一部制限、一部停止ということを見送られたわけなんですが、昨日も委員会で質問が相次いだところでありました。それから、城内先生からもありましたが、そもそも親権とはというような、そうした議論がありまして、例えば、ドイツの一九七九年の民法の改正、身上監護と財産監護に分けたということなり、あと、イギリスの一九八九年の親責任の導入があったこと、それから、大村先生については特にフランスの民法に造詣が深くていらっしゃるということを伺っておりますが、この点を、吉田恒雄先生それから大村先生にそれぞれ御答弁をいただければと思います。よろしくお願いします。

吉田参考人 御質問ありがとうございます。

 親権制度の見直しということで、先ほど最初にお話ししましたように、今回、離婚後の監護の問題もあわせてのっておりますけれども、やはり平成八年から比べて現在の状況を見ると、例えば、離婚が大変多くなっているということで離婚後の監護の問題がありますけれども、それは単に親だけの問題ではなくて、離婚した後再婚した、その再婚した家庭に子供が引き取られて、では、もとの親とのかかわりはどうするんだと。よく横の拡大家族といいますけれども、もとの親との関係をどう整理するか。

 それから、親が子供を育てられないというときに親族に預ける、今回の被災児童の場合にはこれが大変多いというふうに聞いておりますけれども、親族に子供が預けられた場合に、では、親と親族とが子供をめぐって対立する、例えば、今度は親族のもとに子供がいるときに祖父母が会えるのかという、祖父母の監護の問題があるわけですね。

 こうなってくると、現在の家族法はいわゆる核家族を基本にして考えておりますけれども、家族状況からすると非常に複雑になっているというふうに見てみますと、親権のあり方というのが、果たして親だけが親権を行使するべきものなのか。親の属性を外すということはできませんけれども、そうした子供に対するかかわりというのは必ずしも親だけではないだろうというふうに考える。そういう意味で、私的な面と公的な面の両方から親権の問題を考えなければいけない。この背景にこうした家族の変化があります。

 それからもう一つは、平成八年に比べて、現在、少しずつではありますけれども、婚外子の出生率が上がっています。これも、欧米ではかなりこうした婚外子の割合はふえておりますけれども、日本でも、婚外子をめぐる親権、監護の問題ということもあわせて考えなければいけないわけで、こうした意味で、非常に大きな課題がこの背景にはあるだろうというふうに思っています。

 その場合の見方でありますけれども、先ほど御質問にありましたように、例えばイギリスの親責任という考え方などは、やはり子供に対して親は養育する責任を負うんだ、この責任をだれが負うかというときに、必ずしも親だけでなくてもよろしいんだというような考え方が基本にあります。

 そして、もう一つ大事なのは、この親責任は、親に責任を一方的に押しつけるのではなくて、子どもの権利条約にもありますけれども、親がこの責任を果たせるように国が支援しなきゃいけないんだというわけですね。そして、親がこの責任を果たすために、親はほかから妨害されないような権利を持つんだ、こういう形で、親の権利、親権ということを考えていくわけなんです。

 まさに子供を中心にして親権制度を考えるということになってくると、親が一番子供を育てるのに適切だという点、これは変わりはないとすれば、親が育てられるようにするにはどうしたらいいのか。そうした意味で、福祉の問題であると同時に、これを法的な枠組みの中で位置づけるということが必要ではないかというふうに思います。非常に理念的な話ですけれども、まずそこを押さえていかないと親権の見直しにはつながらないというふうに思っております。

 以上です。

大村参考人 御質問どうもありがとうございました。

 フランスの話をせよということでございますので、その点について若干お話しし、また関連のことをお答えさせていただきたいと存じます。

 フランスで、親子法、親権法について大きな改正があったのは、一九七〇年、七二年でございますけれども、その後、八〇年代の後半から頻繁に改正がなされるようになって、今日に至っております。

 フランスの制度の特色は、育成補助などと呼ばれておりますけれども、裁判所と行政が共同いたしまして、親の指導などを含めまして、深く子育てに関与するものだというふうに理解されているところでございます。吉田参考人からもございましたけれども、親とともに国家ないし社会が子育てをするという観点が強いというふうに感じております。

 それから、それとも関連いたしますけれども、親の立場をどのように考えるのかということでございます。

 フランスでは、今日では、親権というふうに翻訳をしておりますけれども、オトリテパロンタルということで、オーソリティーという言葉を使っておりまして、かつては、プーボワール、権限という言葉を使っておりましたが、少しそれが後退した表現になってきております。

 日本でも、実は、戦前から、親義務というふうに改正をした方がよいのではないかという議論がございます。これは、穂積重遠という、戦前の児童虐待防止法の立法にも関与した方の意見でございますが、そのような議論がありまして今日に至っております。

 今回、法制審におきましても、権利義務というのをどのようにするのか、例えば、義務を先にして、義務及び権利というふうにしてはどうかというようなことも議論されたところでございます。

 ただ、議員御質問のとおりでございまして、親権というのは、国家も関係いたしますので、国家と子供と親の関係というのを整理することが必要でございます。義務を先にし権利を後にするということで片づく問題ではございませんので、本格的な親権法の審議の際には、その点を整理した上で表現を調整するということが望ましいのではないかと考えます。

 以上でございます。

橘(秀)委員 ありがとうございました。

 この親権の議論は、理念面から、それから全体から、この立法府の場で必要じゃないかということを改めて教えていただきました。ありがとうございました。

奥田委員長 次に、平沢勝栄君。

平沢委員 自民党の平沢勝栄でございます。

 三人の参考人の先生方には、お忙しい中、本当にありがとうございました。時間がありませんので、できるだけ簡潔な答弁をお願いしたいと思います。

 最初に、今の続きなんですけれども、親権について、今、大村参考人は、フランスでは何かオーソリティーというようなことを言われました。そして、穂積先生は親義務というような言い方をした方がいいんじゃないかということを言われました。今の民法に親権と書いてあるのに何となく違和感を感じるんですけれども、この今の日本の民法の親権というのは英語では何と訳しているんでしょうか。そして、例えばイギリスとか、ほかの国では、ついでに何という言葉を使っているんでしょうか。そこをちょっと教えていただけませんでしょうか。

大村参考人 御質問どうもありがとうございます。

 先ほどもございましたが、私、フランス法を主として研究対象にしておりまして、日本の親権に当たるものを英語あるいはドイツ語でどのように表現しているのか、現在、手元に資料はございません。

 フランスについて繰り返しますと、先ほど申し上げましたように、プーボワールという言葉を使っておりました。戦前で申しますと、プーボワールパテルネル、父の権限ということで父権ということでございましたが、これが、先ほどの繰り返しになりますが、オトリテ、オーソリティーという言葉に変わっているということでございます。

 日本法は、もともとフランス法を下敷きにしておりますので、このプーボワールないしオトリテという観念を引き継いで、これを親権というふうに翻訳してきたのではないかと考えております。(平沢委員「英語では何と言うのでしょうか」と呼ぶ)英語で何と言うか、ちょっとすぐにお答えすることはできません。

平沢委員 多分、恐らくパレンタルオーソリティーとか何かと言われるんだろうと思いますけれども、ちょっと何か言葉に違和感があるなという感じがするんです。

 では、次にちょっと行かせていただきますけれども、また大村参考人にお聞きしたいと思うんです。

 親権の喪失という形で最初に民法を制定したときは規定したわけですけれども、先ほど来いろいろお話がありましたように、段階的にあった方がいいんじゃないかということで、今度、一定期間の停止ということを置いたわけですけれども、最初に民法を制定したときに、そういった段階的なものを全く想定しないで喪失だけを規定したのは、これは立法者の意図は何だったのでしょうか。

大村参考人 お答えいたします。

 従前、親権の喪失という制度が余り使われてこなかったというふうに申し上げました。立法したときにも、親権の喪失ということは実際には余り使われるということを想定していなかったのではないかというふうに思います。

 そもそも、親権を喪失させてよいのかということ自体が問題になったかと思います。親の権利であるというのを喪失させていいのかということが問題になるけれども、しかし、一定の場合にはやはり喪失させるということが必要であろうということで、現在の親権の喪失という制度が置かれたものというふうに認識しております。

平沢委員 次に、吉田参考人にちょっとお尋ねしたいと思うんです。

 今回は、児童虐待を防止する、そして子供の権利利益を擁護する、これが目的の改正でございますけれども、この児童虐待、先ほど大村参考人ですか、二十年前からこの問題が大きくクローズアップされたというようなお話をされました。外国では、チャイルドアビューズというのは昔からあったわけで、昔、日本では家庭内暴力というと、子供が親に暴力を加える、子供が親を虐待というのはおかしいですけれども、暴力を加えるのは言われていたのですけれども、それが途中から、今度は日本でも親が子供を虐待するというふうになったわけです。

 昔からチャイルドアビューズといいますか児童虐待はあったけれども、問題になったのが一九九〇年代からなのか、それとも、昔はそれほどなかったのが、最近急にこの問題がふえて、そしてクローズアップされたのか、もしそうだとすれば、その原因は何とお考えになられるか、教えていただけますでしょうか。

吉田参考人 御質問ありがとうございます。

 虐待の問題というのは昔からあるというのは当然のことで、子殺し、子捨てというのはどこにでもあった話ですね。それがいわば古典的な虐待というふうに言ってもよろしいかと思います。

 外国の例からしますと、たしか一九六〇年代だったと思いますけれども、アメリカでケンプという小児科医が、被殴打、殴られた子供症候群というのを発表しました。ある子供には複数の原因のわからない傷がある、また古い傷と新しい傷が混在している、そういう一群の症候群、シンドロームがあるということを発表して、そして従来気がつかなかった虐待というものが表に出てくるようになりました。それはいわば新しい形の虐待かと思います。

 我が国におきましては、今議員御指摘のように、特に一九九〇年代から現代型の虐待が社会問題化してきました。この大きな理由は、民間機関が子供虐待の電話相談を始めましたところ、一般の御家庭から、自分が虐待しそうだ、こういう電話相談がかなりありました。これは従来の子捨て、子殺しとは異なりまして、育児不安であるとかそれから子育て不安であるとか、要は孤立した中での子育て、それが原因となって虐待が生じ得るんだということが明らかになった。そういう意味で、従来の虐待の認識や態様とは異なる対策が必要になってくるという形で、虐待の問題が一気に広がってきたということが原因ではないかと思います。

 そうした意味では、現在の虐待というのは、広く子育ての全体の問題として理解していかなければいけない。ここで議論しているような非常に重たい虐待というのは、虐待のグラデーションの中で本当にブラックの方なんですけれども、これだけが虐待ではないんだということが大事なところかと思います。

平沢委員 ありがとうございました。

 次に、磯谷参考人にお聞きしたいと思います。

 先ほど、親権の停止の申し立てに子供が加わったのは画期的というお話をされました。そうなんでしょうけれども、しかし、子供が加わることによって子と親の再統合が難しくなるんじゃないかということも考えられますし、年齢制限が設けられていないというのも何かちょっとよくわからないのですけれども、子供が申立人に加わるようなケースは外国でも見られることなのか、そして、そういった心配はないのかどうか、その辺ちょっとお聞かせいただけませんか。

磯谷参考人 御質問ありがとうございます。

 まず、外国で子供の申し立てがどうなっているかということは、大変恐縮ながら、私の方でちょっと答える能力がございません。ただ、子供の申し立て権につきましては、先ほどもちょっと触れさせていただきましたように、画期的なものだと考えております。

 再統合が難しくなるのではないかというふうなところですけれども、現実の問題として、今、児童福祉法二十八条で対応したりしていますが、その中でも、子供の意思というのはやはり親に伝わることもあります。ですから、親はそこで子供がどう考えているか直面することもある。しかし、それでもやはり、そこがむしろ出発点になって、ああ、そうか、子供はこうとらえていたのかというところから親子の調整というのが始まるというところもございます。ですから、決して対立構造になったからもう再統合が難しくなるというふうには考えておりません。

 それからあと、やはり懸念されるところが、子供に対する心理的な負担というところも一つ心配なところがありますけれども、このあたりは、決してそういうものがないとは申し上げませんけれども、やはりそこはサポートがとても必要になるんだろうと思っています。

 子供が申し立てをした場合に、恐らく家庭裁判所としては、まず、調査官も当然つけてしっかり事案を把握すると思いますが、必要があれば、これは家事審判規則の中で児童相談所などに連絡をとって、そこでまた連携をしていくということも可能になっているんですね。ですから、そういった形で、子供に対してやはり必要なサポートもしながらやるということになるだろうと思っておりますので、心配はないとは申し上げませんが、相当程度そこは解消できるのではないかというふうに考えております。

平沢委員 ありがとうございました。

 次に、吉田参考人にお聞きしたいんですけれども、先ほどの御説明の中で、親権の一部停止についてはあってもよかったんじゃないかというようなお話がございました。

 確かに、例えば医療ネグレクトだけの問題であれば、その部分だけ停止して、ほかも全部停止する必要はないんじゃないかという気がしないでもないんですけれども、欧米の例がもしおわかりでしたら、そこも含めて、この親権の一部停止というのは今後の課題として、私たち、取り組む必要があるかどうか、お答えいただけませんでしょうか。

吉田参考人 欧米の例ということで、詳しいことはわかりませんけれども、具体的に、裁判所への申し立てによって親の反対をいわば差しとめるというような形で、また親の反対にかわって裁判所が許可するというような形での個別的な判断というのがなされている例があるというふうに聞いております。

 そして、一部制限に関しては、先ほども申しましたように、確かに、技術的にどこまでを一部とするのかというのは難しい点はあるかと思います。例えば医療ネグレクトに関しても、手術の問題だけに限らないのではないか。例えば、医療契約も入ってきますし、それからその後の、医療後のケアの問題も出てきます。そうしたところで、どこまでを制限したらいいのかという、具体的に定めるのは大変難しい。また、順次制限していくことになってくるので切りがないんじゃないかというような指摘もあります。

 ただ、明らかにこの点だけ制限すればいいというようなケース、ほかに及ばないようなケースというのも当然考えられる。例えば予防接種についてとかというケースが考えられるのであれば、やはりそれは無用にすべてを制限する必要はないだろうということで、今回の一時制限はよろしいんですけれども、一部、全部制限というのが、先ほど申しましたように、親にとって、子供にとって、またはソーシャルワーク上、少し重過ぎるのではないかという印象を持っております。

平沢委員 最後に大村参考人にお聞きしたいと思います。

 先ほど、今回はいわば児童虐待の観点から親権の一部を見直したということで、これから家族法全体の現代化等に取り組んだ方がいいというお話でございました。大村参考人、今回の法改正は児童虐待防止を目的としたものですけれども、児童虐待防止に一定の効果はあると思いますけれども、その辺について、効果についてはどのようにお考えになられて、今後、法の見直しでこの辺はぜひやってもらいたいというような点がありましたら、ぜひ教えていただけますでしょうか。

大村参考人 ありがとうございます。

 今回の立法の効果についてでございますけれども、制度としては従前よりも使いやすいものを用意できたのではないかというふうに考えております。

 ただ、吉田参考人、磯谷参考人の御指摘もございましたけれども、これを適切に運用していくための実際上の制度づくりというのが重要なのではないかというふうに思っております。施設が権限を行使するというのを、社会がそのようなものとして受け入れていくというようなことを普及していただくということが大事だろうというふうに思っております。

 それから、今後の課題としてどんなものがあるのかという御質問でございましたけれども、親権に関して申しますと、今回は、例えば、懲戒権の規定をどうするのかというような問題につきまして、必ずしも完全な答えを出したわけではございません。これは、親権の内容として別に居所指定権というのがございますが、こちらをどうするのかということともかかわっております。居所指定権は、子供の奪い合いとの関係で非常に問題を含んだものでございますので、こうしたところをあわせて検討するというようなことが親権に関する課題としてはございます。

 また共同親権というのも各所で今話題になっているところでございますけれども、これなどについても検討することが必要だろうというふうに思っております。

 それから、親子の関係がさまざまな形で複雑になっているということもございますので、親子法の問題、そして離婚あるいは配偶者の死亡の問題等々、挙げると切りがないわけでございますけれども、親権に関する問題としては、先ほど申し上げたようなものは早急に対応する必要があるかと考えております。

平沢委員 ありがとうございました。

 時間が来たから終わります。ありがとうございます。

奥田委員長 次に、大口善徳君。

大口委員 公明党の大口でございます。

 吉田参考人、大村参考人、磯谷参考人、きょうはありがとうございます。

 それでは、まずお伺いをさせていただきたいと思うんですが、親権について子供の利益のために行使をしなければならないという点は八百二十条で明確にされた、大変意義のあることであるわけでございます。

 そういう中で、吉田参考人、子供の権利の観点で、これをどう解するのか。今回も親責任のことですとか親権の概念についていろいろと議論があったと思うんです。その中で、子供の権利との関係で、この規定でいいのか、あるいはもう少しこう考えた方がいいという御意見がございましたら、お願いしたいと思います。

吉田参考人 子供の権利の視点から条文をどう考えるかということでありますけれども、基本的に、先ほど申しました子どもの権利条約が一つ下敷きになるかと。例えば、親は、子を適切に監護し、教育する権利を有し、義務を負うという表現ではなくて、子供は親により適切に監護され、教育される権利を有するんだという形で、子供を中心に据えるということでもよろしいかと思います。

 ただ、民法に入れるのが適切であるかどうかは別としても、親は、先ほど申しましたように、その権利、義務または責任というふうに言ってもよろしいかと思いますが、それを果たすためにさまざま支援を受けることができるんだというふうなことを同時に書いておかなければ条約の趣旨には反するだろう、これを民法に入れるか児童福祉法に入れるかというのは技術的な問題かと思いますが、そうしたところ。

 例えば、子供の権利の視点を懲戒権に入れるとすれば、子供は親によって、暴力によらずにまた品位を傷つけられずに教育を受け、しつけを受ける権利があるんだというような規定ぶりもあるかと思います。そのあたりは外国の立法例などを参考にすることができるかと思っております。

大口委員 次に、これは磯谷参考人にお伺いしたいんですが、今回、例えば、施設長と、あるいはいわゆる児童相談所長等と親権者の権限の対立、これを解消するために、三十三条の二の二項、三項、四項、それから四十七条の三項、四項、五項という規定ができたわけです。

 磯谷参考人も、この四十七条の五項あるいは三十三条の二の四項の反対解釈をすると、生命身体の安全を確保するため緊急性がある場合は親の意に反してできるけれども、では、そういう緊急性がない場合については、反対解釈としてできないのかと。こういう点で、今回の三十三条の二の二項や三項との関係、四十七条の三項、四項との関係が非常に不明確である、こういうお話であったわけですね。

 そして、パスポートの問題、それから予防接種の問題等々は、親の同意が必要だということで、では、児童相談所長あるいは施設長、里親等が、どういう場合にこれは子の福祉のために必要な措置だと判断してできるのかどうか。そこら辺は後で裁判、訴訟で訴えられるというような問題もございますので、非常に現場が混乱するのではないかと。厚労省はガイドラインを出すと言っていますけれども、先生は児童相談所等々からいろいろ相談を受けておられるとお伺いしていますので、そのガイドラインのあり方についてお伺いしたいと思います。

磯谷参考人 御質問ありがとうございます。

 まず、ガイドラインについては、一つは実体法といいますか、どういった場合が、少なくともこれは不当だとか、これはよく施設の方も受けとめなきゃいけないというようないわゆる実態面での区分けというのが、これは厳密にどこまでというのは難しいんですけれども、やはりなるべくそれがあった方が現場としてはありがたいというのが一つございます。

 それからもう一つは、手続的な部分ですね。つまり、親と対立したときに、どういうふうにそれに対応するのか。例えば、先ほどちょっと申し上げた児童相談所の話を聞くとか、あるいは児童福祉審議会の話もありましたし、あるいは施設の方で何か苦情の委員会みたいなものがあることもございますので、そういったいわゆる手続を踏んで、なるほど、これはほかの人たちに聞いても、親の言っていることはこのケースについてはちょっと受け入れられないよねということがわかれば、恐らくそれは、その後、裁判になった場合にでも、裁判所も当然考慮をされるのではないかなと。

 ですから、そういった実態の部分とあと手続の部分もなるべくガイドラインに定めてやっていただくと、現場としては助かるんじゃないかなというふうに思っております。

 以上です。

大口委員 次に、大村参考人にお伺いをしたいと思います。

 今回、親権の停止の制度を設けたりという点では、家庭裁判所がかかわる場面が非常に大きくなってくる。また、そういう点では、もう一つは、児童相談所の所長等が申立人になっているわけですから、この親権停止等の制度が機能するためには、児童相談所等の所長さんがやはり子の福祉のために、利益のために相当働かなきゃいけないと思うんですね。それが機能するかどうかということが、今まで親権喪失の場合は確かに使いにくい制度であった、しかし、親権停止の場合は使いやすくなったとはいうものの、本当にそれが子供の利益のために使われるようになるのかどうか、そこら辺の環境整備が必要だと思うんですね。この点について大村参考人にお伺いしたいと思います。

大村参考人 御質問をありがとうございます。

 御指摘のとおりだろうというふうに思っております。

 実は、従前の親権喪失の制度が本当に使いにくかったかどうかというのは検証を要するところでございまして、私の発言の中でも申し上げましたけれども、申し立てをしたのに家庭裁判所がそれを認めなかったというケースはほとんどないんですね。ですから、申し立てがされれば認められるだろうと。ただ、親権が喪失されるというふうになっておりますので、児童相談所長としても、これを申し立てていいものかどうかというのがなかなか決心がつかないということでございました。

 その意味で、今回、敷居を下げましたので、一時的な親権の停止というのが必要であるというふうに御判断になれば、ぜひ積極的にこれを使っていただくということでそのような制度ができたのだということを周知徹底していただくということが必要だというふうに考えております。

大口委員 それに関連いたしまして、磯谷参考人は、児童相談所等の御相談を受けておられるという立場から、条件整備という観点で、やはり、政府に対してこうあってもらいたい、特に厚労省に対してこういうふうにしてもらいたい、あるいは家庭裁判所に対してこうあってもらいたいということがあれば、お伺いしたいと思います。

磯谷参考人 御質問ありがとうございます。

 先ほど、親権停止の申し立て制度、今回もし法案が成立すればこれは非常に画期的だと申し上げましたが、これはやはり児童相談所に使ってもらわないと何の意味もないということになってしまうと思うんです。

 そういう意味で、まず第一に、やはり児童相談所長さんたちへの研修というのはとても重要なことだと思っております。この点はやはり厚労省の方には十分お願いをしたいというふうに思っています。

 先生方御承知かもしれませんが、子どもの虹情報研修センターという厚生労働省の方で音頭をとってつくられているところがございますけれども、そこでも早速こういったことについて研修をするということも伺っておりますので、なお一層充実させていただきたい。

 それから、先ほど大村参考人がおっしゃった、本当は、裁判所は申し立てをしてくれれば認めたかもしれない、むしろ児童相談所がちゅうちょをしていたという面があるのではないかというお話だったと思いますけれども、そういった面は確かにあると思います。

 行政機関というのは、ちょっと私が余り申し上げるのはあれですけれども、やはり、うまくいかない、間違いということに非常にこだわられるといいますか、慎重になってしまうんですね。もうまず違いなく認められるものしか申し立てをしない。

 しかし、実際は、裁判所は話が来てみなきゃわかりませんし、実際に子供と会って裁判官がどう判断するかというのは、我々からすればそれはわからないことなわけですよね。ですから、そのあたりは、決して何か失敗を恐れるといいますか、余り過度に慎重になることなく、必要だと思うケースがあれば、もちろん関係者の意見も聞いた上で、やはり果敢にやっていただきたいというふうに思います。そういう意味でも、厚労省の方で、ぜひ、児童相談所の方にお話をしていただければなというふうに思っております。

大口委員 大村参考人にお伺いして、その後、磯谷参考人にもお伺いしたいんですが、磯谷参考人の方から接近禁止命令の拡大というお話がございました。

 確かに、今、二十八条の場合で、しかも面会、通信の禁止というものが出されている場合に限って接近禁止命令が出されているが、しかし、それこそ、民間のシェルターにいる子供たちとか、親族や知人方に身を寄せている子供、ひとり暮らしをしている子供に対しても、利用する必要があるのではないかということが磯谷参考人からございました。

 これについては、いろいろ慎重な議論、例えば司法のチェック等がどうなのかとか等々あるわけでございます。実際、例えば仮処分等もできるのではないかという議論もあるわけでございますが、この辺について大村参考人にお伺いして、その上で磯谷参考人からさらにお話しいただければと思います。

大村参考人 ありがとうございます。

 接近禁止命令につきましては、法制審でも大分議論がされまして、その議論の内容については、磯谷参考人が意見陳述の中でお触れになったとおりかと思います。

 繰り返して申しますと、接近禁止命令は今余り使われていないではないかというような指摘がなされるとともに、先生の御指摘があった仮処分を使えるということもあるのではないかという指摘がされました。

 接近禁止命令については、現在の状況と、それから今回磯谷参考人が求められている状況と違うのではないかという御指摘が磯谷参考人の方からございましたけれども、仮処分の方につきまして、まずはそれを使ってみていただく、その実績を積み重ねていただいて、仮処分に対する需要があるけれども、しかし、使い勝手の悪さがあるというような事実が積み重なった段階で、接近禁止命令の拡大というものを検討するということになるのではないかというふうに認識しております。

磯谷参考人 御質問ありがとうございます。

 この接近禁止命令というのは、親と子の面会、通信の制限を徹底するものというふうに理解をしております。その関係で、特に児童虐待の現場における親と子供の面会についてちょっとお話ししたいと思うんです。

 というのは、親は子供が保護されますと、とにかく会わせろ、会いたいというふうなことを言ってくるわけですけれども、実際は、例えば、その子供が、お父さんが怖い、家に帰りたくないというふうなことを児童相談所に言っていても、親が、会わせろ、いいから会わせろと言って、会わせる。そうすると、子供の方は、それまで嫌だ、怖いと言っていたのが、まるで蛇ににらまれたカエルのように、おうちに帰るというふうに言い始めるんですね。

 この虐待ケースの支配関係の強さというところは非常に顕著なものがあって、児童相談所は、率直に申し上げて、ある意味、こういった失敗をずっと積み重ねてきた。ですから、面会の怖さというものをとてもよくわかっているわけです。一方、確かに面会交流というのは親にとっても重要な権利だと思いますけれども、子供の福祉を害するような面会というのはやはり望ましくないんだろうと思っているわけです。

 特に、児童相談所の現場を知る者として申し上げると、まず最初に、虐待の疑いがあって通告されて、そして一時保護をした、まだどういう事情、どういう事実関係なのかわからない、それから、子供の方も一体どういう心理なのかわからない、その間に面会をさせるというのはやはり非常にリスクが高いと思っております。ですから、一時保護をして、少なくとも、その子供の心理面接も結果も出て、そしてその事案もよくわかりというところまでは、まず面会もとめる必要があるし、それに対して応じられないんだったら、接近禁止もする必要があるというふうに思っています。

 そして次は、今度は、事案もよくわかった段階で、性的虐待なんかは典型ではありますけれども、やはり面会が子供にとってふさわしくないということがある。この場合には、これまた、場合によっては親権もとめるのとセットでも構わないと思うんですけれども、やはり面会、通信を制限する必要がある、ひいては接近禁止をする必要があるというふうに思っております。今のはちょっと御質問の趣旨から若干ずれるかもしれませんが、児童相談所の現場で考える問題です。あとは、先ほど申し上げたひとり暮らしだとか、そういったようなところでもニーズがあるというふうに思っています。

 裁判所、そもそも司法が絡むのか、行政判断でできるのかというところも実は議論がございまして、私は個人的には、やはり権利の制限が強いので裁判所が絡むべきではないかというふうに思っていますけれども、少なくともそのあたり、必要性、それからどういう制度設計にするかということも引き続きよく議論をさせていただきたいなというふうに思っております。

 以上でございます。

大口委員 では、時間も来ましたので、これで終わります。ありがとうございました。

奥田委員長 次に、城内実君。

城内委員 城内実でございます。

 三人の先生方、きょうは本当にお疲れさまでございます。まず、吉田先生、大村先生、磯谷先生、それぞれお三人の先生に共通してお聞きしたいことがございます。

 まず、未成年後見制度についてですけれども、これまでは一人の個人ということでありましたけれども、これはなかなか引き受け手がいないということで、複数にしたことは、私はそれはそれでいいと思うんです。

 そこでさらに、未成年後見を行える法人というのも加わりましたが、今まで先生方の御説明もありましたけれども、私は素人なんですけれども、では、実際に未成年後見を行える法人というのがどれくらいあるのか、そういう実態面の問題と、そしてさらに、法人といってもピンからキリまであるのではないかなと思うんですが、やはりそこには、何か、ガイドラインや基準づくりをしっかりやった上でないと、かえってマイナスではないのかなというふうに思います。そしてさらに、法人といった場合、やはり個人ではありませんから、責任の所在がややあいまいではないかなという点があると思います。この点について、三人の先生方、まず吉田先生、次に大村先生、磯谷先生から、より踏み込んだお考えをお聞きしたいというのが一つ。

 二つ目は、これも共通の質問でございますけれども、親権停止の請求権者に子が加えられたということですが、先生方御指摘のように、子供にこのような選択をさせるのは酷ではないかということでございますし、吉田先生は先ほど、これは親を見切ることになる、次のステップに入ってしまうということをおっしゃいましたし、磯谷先生も、子供自身の申し立ては決して望ましいわけではないという話をされました。

 私自身は、やはり、これは決定的に親子関係が解消されるということにつながりかねないので、性的虐待など極めて限定されたケースだけに認めるべきではないかと思って、原則できるということではなくて、これは限定というおもしを課した方がいいのではないかと思うんですが、この点についても、吉田先生、大村先生、磯谷先生から、お考えをより踏み込んでお聞きしたいと思います。

吉田参考人 御質問いただき、ありがとうございます。

 まず、法人後見の点ですけれども、実際に法人ができるのかということですが、ここで想定されるのは、例えば、子供がこれまで暮らしてきた施設、これが法人後見として、その子供が施設を退所した後、自立するのに必要なときに、その子供のことをよくわかっている法人としての社会福祉法人が後見人になるということは考えられます。

 それから、現在でも、FPICでしょうか、元家庭裁判所の調査官の方がつくられた団体がありますけれども、そこなどは、実際に未成年後見実務をしているというふうに聞いております。

 今後は、先ほど磯谷参考人のお話にありましたように、例えば、弁護士さんが中心になり、そこにソーシャルワーカーが入ったりカウンセラーが入ったりという、さまざまな専門職種から成る法人がこうした未成年後見を受けることによって、未成年者の身上監護に対する配慮もできれば財産管理もできるようになるだろうということで、そうした法人の育成ということが必要になるかと思います。

 そして、その法人のガイドラインですけれども、当然のことながら、今回の法案にも入っておりますけれども、法人を未成年後見人にする場合には、その適格性、例えば未成年者と利害関係があるような場合、これはまずいということになるかと思います。それは、法律の中に盛り込むことは可能です。これは、成年後見の場合と同じかと思います。

 そして、責任の所在でありますけれども、これは当然、法人でありますから、法人自身が責任主体という形で処理されていくというふうに思っております。

 それから、子の申し立てでありますけれども、子の申し立てに関しては、当然のことながら、すべての子ではなくて、意思能力がなければいけないというのは、これは原則からして当然のことであります。

 それに加えて、子供が親権制限または喪失の申し立てをするというのは、先ほど御質問にありましたように、もうほとんどこれによって回復の見込みがない、親子再統合の見込みがない、こういうケースに多分なってくるだろうと思います。ここまで子供に意思決定をさせた上で再統合の働きかけをするのは、さらにその傷口を広げることになりますので、むしろ、先ほども申しましたように、これが子供の自立につながっていくんだ、要は、親を見切った上で子供がひとり立ちするときにどうしても必要なんだ、こういう形で運用されていくのが望ましいのではないか。

 したがって、こうした、親を訴えるという申し立てをしたいという子供が来た場合に、それに対して、児童相談所や家庭裁判所、また弁護士さんその他がどのようにその子供と対処するかということで、その申し立て段階で子供の福祉に対する配慮というのが当然必要になってくるかと思います。そうした意味で、何が何でも子供に申し立て権を認め、すべての申し立てを、門戸を開くのがよろしいということではありません。

 以上です。

大村参考人 まず、未成年後見人としての法人についてでございますが、先ほどガイドラインというお話がございましたが、これは法律中には、新しく設けられます八百四十条の三項の中に、括弧書きといたしまして、「未成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無」というのが挙げられております。ですから、規定上はこれを基準とするということになりますが、より詳細な基準を事実上設ける必要があるのかという点につきましては、そういうものがあった方が便利だろうというふうに思います。

 もう一つ、子の申し立て権についてでございますけれども、この点は法制審でもかなり議論がございましたが、私は、子が申し立てをするということについてはやや消極的に考えております。子の周囲にいる人たちが適切な申し立て権限を行使して、子の利益を図るというのがまずなされるべき事柄だろうというふうに思います。ですから、子の申し立て権が認められたことによって他の関係者が子の利益に配慮しないようになるということはぜひ避けなければならないというふうに考えております。

 ただ、他方で、子供本人以外に申立人が見つからないという事態も、全くないとは申せません。現行法のもとで申しますと、八百三十四条は、「子の親族又は検察官の請求によって、」となっております。検察官が請求せざるを得ないというような事態も全くないわけではございませんで、そうした場合に、検察官に訴えることなく子本人が申し立てをできるという道を最後の救済ルートとして残しておくことは必要なのかなというふうに考えております。

磯谷参考人 御質問ありがとうございます。

 まず最初の未成年後見の法人後見につきましては、既にお二人の参考人がおっしゃったこととかなり重なりますので、そこは省かせていただきます。

 法人の方でこれから考えているところについても、やはり、先ほどの責任の、保険の問題であるとかあるいは報酬の問題であるとか、そういったところがどういうふうに整えられるのかがわからないと、なかなか手を挙げにくいということもございますので、そういう意味では、なるべく早く、どういった支援をしていただけるのかということを明らかにしていただくといいかなというふうに思っております。

 法人はその責任の所在が明確でないというお話もありまして、そういう面も全くないわけではないのかもしれません。しかし一方で、未成年後見の現場でも、やはり親族の後見人が子供のお金を使い込んでしまうとかいうふうなこともないわけではないわけでありまして、やはりそこは、個人でありますと、むしろその人の個性にかなり左右されてしまう部分が多いのではないか。その点、先ほど少しお名前も挙がりました家庭問題情報センターとか、あるいは弁護士などがつくっているそういったNPO、社会福祉法人などであれば、それなりにきちんと平準化した形で対応ができるのではないかなというふうにも思っております。そして、何よりも、家庭裁判所が的確に判断がされるだろうということを考えております。

 それから二つ目の、子供が申し立て権を持っているところにつきまして、極めて限定されたケースのみにしてはどうかというお話がございました。

 実質論としては、先ほども私も申し上げましたように、子供が申し立てをするケースがどんどんふえるというようなことを想定しているわけではございません。そういう意味では、今の議員の先生のお話と共通する部分があるかと思います。ただ、それを何か法律上ラインを引くということはなかなか困難であろうとも思っておりますので、そこのところは、やはり運用でしっかり工夫をする必要があると思っております。

 その点にちょっと関連して申し上げますと、特に、子供が親を告訴するというふうなこともあるわけでございますけれども、弁護士がここにかかわることもあります。実際に、弁護士は決して子供に対して、告訴をした方がいいというふうなことを言っていることはありませんで、むしろ、子供がそういったことを考えている場合に、どういうリスクがあるか、そしてそれが子供にとっても負担なんだよというところをしっかり説明した上で、あとはやはり事案もかんがみて、どうしてもそれがやはり子供の選択ということであれば、それならサポートしよう、こういうふうな形でやっております。

 したがって、恐らく、子供が申し立てをするという場合に、多くは弁護士がやはりかかわることになると思いますけれども、そこのところは同じような対応になると思いますし、ひいては、恐らく日弁連も、そういった形で、かかわる弁護士に一定のガイドラインを示していく必要があるのではないかというふうにも思っております。

城内委員 それぞれの先生方の御説明、本当にありがとうございました。

 次に、磯谷先生にちょっと質問したいんですが、いわゆるネグレクトということがございまして、実際、片親のお母さんが子供に食事を与えずに遊び歩いたというような事件がございましたけれども、そして餓死してしまった、こういうネグレクト、まあ極端な例ではありますけれども。

 ただ、この問題について私は非常に難しいと思うのは、食事をつくらない、そのかわりに小遣いを渡して適当に買い食いしなさいということで、これがいわば、それが当たり前だと子供が思った場合、そして第三者が見て、でも、これはやはりネグレクトというか虐待に近いのではないかな、この判断が非常に難しいというふうに思います。その際、これが親権停止に当たるか当たらないかという基準というのは、やはりケース・バイ・ケースによると思いますけれども、つくった方がいいんじゃないかなということであります。その点についての御意見をお伺いしたいということ。

 もう一つは、いわゆるメディカルネグレクト、医療ネグレクトというのもありまして、有名なのは宗教上の理由で輸血を親が子供にさせないというケースであります。実際、この医療ネグレクトというのは、その宗教の信者であるアメリカでは多分そういう例がすごく多いと思うんですが、我が国にも某宗教団体の信者がおりまして輸血をしないというふうに言っておりますけれども、こういったケースは我が国の場合はどれぐらいあるのかということ。当然、子供が自己決定能力がない場合ということも考慮しなきゃいけませんし、さらに、医療ネグレクトについてもいろいろあると思うんですが、例えば、治療費が一千万円とか二千万円かかる、にもかかわらず成功率が極めて低い場合は、これは当然、医療行為を受けないという選択肢が必ずしも医療ネグレクトとは言えるはずもないんですけれども、そういった基準、そういうものはちゃんとつくっているのかどうか、これからつくるのかどうか、こういった点について磯谷先生にちょっとお聞きしたいと思います。

磯谷参考人 御質問ありがとうございます。

 まず、ネグレクトの先ほどのケースで、つまり、親が食事をつくらない、子供はお金を与えられてそれで買い食いするのが普通だと思っている。要するにだれも困っていないというふうな状況なんだと思いますけれども、こういったもので親権の停止になるかということだと思います。

 もちろん、おっしゃっていただいたようにケース・バイ・ケースでありますのと、加えて、やはり児童相談所がこういうケースはかかわって、そして、そのケースワークの中で親がどう変わっていくのか、変わっていかないのか。それから、例えばその親族で何かサポートがあるのか、子供にどういう影響が出ているのか、あと、子供のやはり年齢にもよってくると思いますし、そういう意味で本当に判断が難しい部分だと思います。

 恐らく、いきなり親権停止をというよりも、さまざまなケースワークを試みて、その経過の中で最終的に判断していくというのが実務ではないかというふうに思っております。

 それから、医療ネグレクトについて、宗教上の理由で輸血拒否という有名なケースがありますけれども、どのぐらいの数かというところで、正確な数をちょっと私の方でも把握はしておりませんが、やはり時々遭遇することに加えて、先ほどおっしゃった特定の輸血を拒否する宗教ではなくて、どういう宗教かよくわからないんですけれども、ひょっとすると親の理念なのかもしれませんし、あるいは何か親独自の宗教なのかもしれませんし、そういうふうなことから適切な治療を受けさせなかったり、あるいは非常に不適切な民間療法的なものにこだわったりというケースもあるわけでして、そういう意味でいつも悩んでおります。

 その中で、では、先ほどそのガイドライン、たしかおっしゃったかと思いますけれども、この医療ネグレクトについては、いわゆる生命倫理の問題も絡んでくる部分もありますので、もう本当に難しくて、これは私も少し勉強させてはいただいておりますが、何か今こういった解決ができますよというふうなお知恵を申し上げるような状況にはございません。

 ただ、非常に大ざっぱなことを申し上げると、やはり司法が絡んでこの医療ネグレクトということを取り上げて親権をとめていくということであれば、それはやはり、恐らくほとんどの人がその親の選択はおかしいと考え、やはり当然子供にはこの医療を提供しなきゃいけないだろう、そういった事案になってくるだろうというふうに考えております。

城内委員 時間もありませんので、まだまだ質問したいことはたくさんありますが、私の質問はこれで終わります。

 ありがとうございました。

奥田委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人の御三方には、貴重な御意見をいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表し厚く御礼申し上げます。(拍手)

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時十五分散会


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