衆議院

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第13号 平成23年5月25日(水曜日)

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平成二十三年五月二十五日(水曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 奥田  建君

   理事 滝   実君 理事 辻   惠君

   理事 橋本 清仁君 理事 樋口 俊一君

   理事 牧野 聖修君 理事 稲田 朋美君

   理事 平沢 勝栄君 理事 大口 善徳君

      相原 史乃君    大泉ひろこ君

      川越 孝洋君    京野 公子君

      熊谷 貞俊君    黒岩 宇洋君

      黒田  雄君    桑原  功君

      階   猛君    橘  秀徳君

      中島 政希君    三輪 信昭君

      水野 智彦君    森岡洋一郎君

      山岡 達丸君    湯原 俊二君

      横粂 勝仁君    河井 克行君

      北村 茂男君    柴山 昌彦君

      棚橋 泰文君    森  英介君

      柳本 卓治君    城内  実君

    …………………………………

   法務大臣         江田 五月君

   法務副大臣        小川 敏夫君

   法務大臣政務官      黒岩 宇洋君

   政府参考人

   (警察庁長官官房審議官) 田中 法昌君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    西川 克行君

   政府参考人

   (外務省総合外交政策局長)            鶴岡 公二君

   法務委員会専門員     生駒  守君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月二十五日

 辞任         補欠選任

  井戸まさえ君     湯原 俊二君

  野木  実君     森岡洋一郎君

  山崎 摩耶君     山岡 達丸君

同日

 辞任         補欠選任

  森岡洋一郎君     野木  実君

  山岡 達丸君     山崎 摩耶君

  湯原 俊二君     井戸まさえ君

    ―――――――――――――

五月二十四日

 情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出第四二号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出第四二号)


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     ――――◇―――――

奥田委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 趣旨の説明を聴取いたします。江田法務大臣。

    ―――――――――――――

 情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

江田国務大臣 情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。

 近年、コンピューターが広く社会に普及し、その機能も高性能化が一層進んで複雑かつ多様な情報を処理することが可能になっているとともに、世界的な規模のコンピューターネットワークが形成され、コンピューターとそのネットワークが極めて重要な社会的基盤となっております。

 このような情報技術の発展に伴い、いわゆるコンピューターウイルスによる攻撃やコンピューターネットワークを悪用した犯罪など、サイバー犯罪が多発するとともに、証拠収集等の手続の面においても、コンピューターや電磁的記録の特質に応じた手続を整備する必要が生じております。加えて、サイバー犯罪は、容易に国境を越えて犯され得るものであり、国際的な対策が極めて重要となっているところ、平成十六年四月に国会において承認されたサイバー犯罪に関する条約は、国際的に協調してサイバー犯罪に効果的に対処する上で、重要な意義を有するものであります。

 また、厳しい経済情勢が続く中で、暴力団等の反社会的勢力が組織的に関与する悪質かつ巧妙な強制執行妨害事犯は依然として後を絶たない状況にあるところ、強制執行手続の適正の確保を図り、権利実現の実効性をより一層高めるためには、この種の事犯に適切に対処することが必要であります。

 そこで、この法律案は、このような近年におけるサイバー犯罪その他の情報処理の高度化に伴う犯罪及び強制執行を妨害する犯罪の実情にかんがみ、これらの犯罪に適切に対処するとともに、サイバー犯罪に関する条約を締結するため、刑法、刑事訴訟法、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律その他の法律を改正し、所要の法整備を行おうとするものであります。

 この法律案の要点を申し上げます。

 第一は、情報処理の高度化に伴う犯罪に対処するとともに、サイバー犯罪に関する条約を締結するため、実体法及び手続法の整備を行うものであります。

 すなわち、実体法の整備としては、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、不正な指令を与える電磁的記録等を作成、提供する行為等を処罰する不正指令電磁的記録作成等の罪を新設するとともに、電気通信の送信によるわいせつな電磁的記録の頒布等を新たに処罰の対象とするなどしております。

 また、手続法の整備としては、電子計算機の差し押さえに当たり、電気通信回線で接続している記録媒体であって、当該電子計算機で作成、変更をしたまたは変更、消去ができる電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから当該電磁的記録を複写することができるものとすること、電磁的記録の保管者等に命じて必要な電磁的記録を記録媒体に記録等させた上、当該記録媒体を差し押さえる記録命令つき差し押さえを新設することなどのほか、通信履歴の電磁的記録の保全要請に関する規定や、電磁的記録の没収に関する規定等の整備を行うこととしております。

 第二は、強制執行妨害行為等についての罰則の整備を行うものであります。

 すなわち、現行刑法の関係罰則では処罰が困難な、封印等が不法に取り除かれた後における目的財産に対する妨害行為、目的財産の現状の改変等による妨害行為、執行官等の関係者に対して行われる妨害行為、競売開始決定前に行われる競売手続の公正を害するような行為等の強制執行を妨害する行為を新たに処罰の対象とし、その法定刑を引き上げるとともに、報酬目的でまたは組織的な犯罪として行われる場合に刑を加重することとしております。

 このほか、所要の規定の整備を行うこととしております。

 以上が、この法律案の趣旨であります。

 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに可決くださいますようお願いいたします。

奥田委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

奥田委員長 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として警察庁長官官房審議官田中法昌君、法務省刑事局長西川克行君、外務省総合外交政策局長鶴岡公二君の出席を求め、説明を聴取したいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥田委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。辻惠君。

辻委員 民主党、辻惠でございます。

 この情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案、これ自体は、過去三度にわたって、いわゆる共謀罪とあわせて三つの法案が提案されて、いずれも廃案になっている、その三つの法案の中から共謀罪のみを取り除いて、残りの二つの法案を今回提出されているということであります。

 確かに、前回は民主党は反対であり、修正意見を出していたという経緯がありまして、その意見を受ける形で、今回のこの法案においては、「正当な理由がないのに、」という文言を付加した。したがって、アンチウイルスソフトの開発や試験、バグ等については本犯罪には含まれないんだというような説明がなされております。

 そしてまた、事前に、いずれ差し押さえをするという前提でプロバイダー業者等に通信の履歴を消去しないで確保しておいてほしい、保全をしておいてほしいというようなことに関しては、必要性の要件を加えた。また、その保全要請については、従来は口頭であったのを書面で行うことにした。さらに、保全期間について九十日というのを最大六十日にしたということで、部分的に修正がなされているということであります。

 しかし、私は、なお通信の秘密や表現の自由という観点から多々大きな問題があるというふうに感ぜざるを得ません。そういう意味において慎重な審議をしなければいけないし、仮に成立をしたという場合には、捜査機関が権限を濫用しないような歯どめを講じることがやはり重要になってくるだろうというふうに思います。

 その上で、具体的に幾つかの点について大臣にお伺いしたいと思いますけれども、「正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、」「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」の作成が構成要件とされていて、それが実行の用に供したということでありますが、「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える」という行為は、これだけを読めば、例えば個人のプログラマーが自宅でいろいろソフトのプログラムの開発を行っていて、それは外界との具体的な接触がまだない時点なんですね、作成というのは。

 ですから、ある意味では、個人のプログラマーが、みずからの思想、表現の自由の一環としてプログラムの作成に当たっている、それはまだ具体的には、何をやっているのかは、外界とは全然接触がないから外からは知ることができない状態なわけです。そういう状況の中で、そのプログラムの作成が、正当な理由がないのにとか、意図に沿うべき動作をさせないようなものの作成だったのだということは、捜査機関においてはどうしてこれを覚知できるんでしょうか。

江田国務大臣 コンピューターウイルスの持っている社会的危険性というものは、これはもう今かなり広範囲にそういうことでコンピューター秩序が乱されているということがあって、大きなものがあると思っております。

 そして、コンピューターウイルスが実際に悪さをする段階に至るまで待って、実際にいろいろな悪さをして、その後に取り締まるという方法もあるいはあるかと思いますが、しかし、コンピューターウイルスの持っている社会的危険性を考えると、やはりこれは一定の限度で危険犯として処罰の対象にすべき必要があると我々は思ったわけでございます。

 しかしながら、これは委員おっしゃるとおり、さまざまな態様のものがあるので、しかもまだ実際にコンピューター秩序の中に入っていない段階ですので、そこはわからないということがあって、そこで、その部分の制約をするために、一つは目的、もう一つが正当な理由がない、二つの縛りをかけたわけで、今委員のお尋ねは、その二つの縛りはそれでいいとして、それをどうやって認識するかということですね。

 これはやはり行為の態様で具体的に見ていくほかないのかと思いますけれども、その作成の際におけるいろいろなメモがあったり、あるいは人との会話の中で、これでひとつやってやろうと思うんだとかいろいろなことがあって、そういうような周辺のさまざまな事情から判断することができるというように考えておりまして、単にコンピューターウイルスがあったというだけですぐ処罰になるということではないと思っております。

辻委員 やはり刑法犯として処罰されるというのは、現実に利益が侵害される、法益が侵害されるという結果が重要だと思うんですね。

 この作成罪というのは、つまり、例えばプログラマーが自宅で趣味でプログラムソフト開発をしていた、それ自体は、まだ外界との接触がないし、仮にウイルスと言われるようなもので妨害的なソフトを開発していたとしても、それを使うかどうかはまだわからないわけですし、現実に具体的にそれを使用すれば実害が生じるというふうになるわけでありますけれども、それ以前の段階なわけですね。

 なぜ、従前、共謀罪と一緒になって三つの法案ということで法案が提出されてきたのかということを見れば、ある意味、共謀罪と通底する考え方がこの法案にはあるのではないか。

 つまり、本来、内心の自由は憲法で保障されているし、表現の自由も保障されている。コンピューターソフトの開発に当たって、みずからの知識を、自分の手元でいろいろ作業をやっているという、これはまだ、いわば内心の自由の枠の範囲の中の行為だと思うんです。つまり、外界との接触がないわけだから、現実にまだ法益の侵害の具体的な危険性は全く発生していない、そういう段階を作成罪というふうにして処罰するのは、やはりこれは、いわば内心の意思を処罰するのと非常に近似した考え方ではないかというふうな指摘が現にあるわけですね。

 私がお伺いしたのは、では、そういう段階の行為を、つまり使用罪と同等以上に重罰で処罰をする対象にしているということは、犯罪の端緒というのは、どこでそれは得ることができるのか。

 そうすると、コンピューターのソフトをいろいろ開発しているようなプログラマーで怪しげな人がいれば、きっとこれはいろいろなことをやっているだろうということで目をつけて、それで何らかの、今大臣おっしゃったように、例えばメモがあるとかいうようなことでガサ入れをして、そして、そのコンピューターをあけて、いや、ここで作成しているじゃないかというふうに、そこで初めて処罰の具体的な危険性を覚知するということになるわけであって、そういう意味では、こういう構成要件を認めること自体が、捜査機関の極めて恣意的な捜査権の濫用を誘引する危険性があるのではないかというふうに私は思わざるを得ないわけであります。

 やはりこのような具体的な外界に対する接触の危険性が生じていない段階で処罰できるというのは、この定義自身が極めて一義的ではないんですね。あいまいだし不明確だし、いつ何どきそういうふうにガサ入れをされて、実はウイルスソフトを作成していたんだということで逮捕される危険、捜査機関の恣意があり得るし、逆に言えば、プログラマーの側からすれば、非常に萎縮的な効果が発生する。本来自由であるべき、表現の自由や内心の自由の表出活動の一環としてのプログラムの作成ということが抑圧されるような危険性があると思いますが、この点を、危険を払拭できるように捜査機関の側で戒めるべき節度というか、その点について、大臣、どうお考えでしょう。

江田国務大臣 コンピューターウイルスというものの定義、これも、私もどうもこういうところはそれほど詳しい知識を持っていないので、定義を定めるのは難しいことだなと思いますが、しかし、さまざまな文言を使ってコンピューターウイルスというものを定義しており、そして、このコンピューターウイルスの持っている社会的な危険性、これはやはり今看過できないものがある状態になってきている。コンピューター秩序というのが単に国内だけじゃなくて国際的にも広がって、そして、もう本当に社会生活を営む上での大変重要な社会的な基盤となっているので、この信頼はこれは確保していかなきゃならぬということで、危険犯として、通貨偽造の罪とか文書偽造あるいは有価証券偽造など、言ってみれば、そういうものと並ぶ形でコンピューターウイルス作成罪というものをここで出したわけでございます。

 おっしゃるように、通貨偽造であっても、それは子供のおままごとに使おうとか、なかなかよくできたね、しかし、一見もう明らかに通貨の偽造ではない、単なるおもちゃだ、こんなものまで捜査機関が入ってくるようなことは、これは認められません。同じように、コンピューターウイルスであっても、そういう意図は全くなくて、目的においても、あるいは理由においても、正当な理由がないとかあるいはおかしな目的を持っているとかいうものが全く感知できない状態なのに捜査機関があえて入っていくというようなことは、これはあってはならないと思っております。

 もともとの案に加えて、多くの人との協議の上で、「正当な理由がないのに、」というものを、念のためという形ですが、目的だけでは押さえ切れない部分があっては困るので今回つけ加えておりますので、濫用の危険はそれだけ歯どめをつけていると思っております。

辻委員 今おっしゃったコンピューター犯罪と言われるものというのは、多くは児童ポルノをめぐるものとか著作権をめぐるものであって、個人のレベルでのプログラムの作成全般について、それを作成罪の対象として考えるというのは、やはり非常に包括的過ぎるのではないかというふうに私は思いますし、そこに捜査機関の権限の濫用の危険性があるということを指摘しておきたいというふうに思います。

 次に、記録命令つき差し押さえということなんですけれども、目に見えないものを差し押さえるわけでありますから、憲法三十五条で言えば、捜索、押収すべき場所を特定して、物を特定しなければいけない。特定する物が具体的に目に見える形でないというようなことがあるわけでありますけれども、例えば、指摘されていることから言えば、電気通信回線で、本社のパソコンと地方の支店のパソコンが接続されているような場合に、差し押さえるべき電磁的記録がどこの支社のパソコンにあるか、実際にリモートアクセスしないとわからない。つまり、令状請求の時点で、裁判官による完全な審査、具体的にどこの場所の、つまり本店なのか支店なのか、そしてどういう対象なのかということの特定性が欠けることになる。

 これは、広い範囲で、いわば捜査官の判断によって非常に広く網打ち的に電磁的記録が押さえられる危険性があるのではないかという指摘がありますが、この点についてはいかがですか。

江田国務大臣 個人が管理しているパソコンがあって、そのパソコンにアクセスをして、そして、リモートアクセスというんだそうですが、別のパソコンにまで入り込んでいって、そこにあるいろいろなデータについてこれを読み取るというようなこと自体は、それは大いにあることで、その別のコンピューターの中にあるデータが怪しいというのでどうするかというのが問題なわけです。

 この法律で、リモートアクセスということについては、別のコンピューターにあるデータを自分のパソコンから操作して、これをいろいろ変えたりすることができる、そういうものでなければ、差し押さえまたは記録命令つき差し押さえ、そういうものの対象にはしないということにしておりまして、ただコンピューターから離れた場所のコンピューターにアクセスできて、そこにデータがあるというだけで、それを差し押さえ等できるようにはしないということにしているということでございます。

辻委員 だから、本社と支社で回線がつながれていて、それで、ではどこの支店にその差し押さえの対象となるものがあるのかというのはわからない段階で令状をとると。

 令状主義というのは、具体的な物を特定し、場所を特定し、そしてそれを裁判官が判断することによって、要するに差し押さえられないという自由が確保されているわけでありますから、やはりそこの点については、非常にあいまいな、余地を残すような場面が想定されるのではないか。そこについての危険性はやはりなくなっていないということを申し上げておきたいと思います。

 時間の関係がありますから、次に進みますけれども、保全要請という点について。

 これは、差し押さえの必要があるときに、プロバイダー等に対して、業務上実際に記録している通信記録のうち、必要なものを特定した上で、一時的に消去しないように求めるというのがこの保全要請だと。これは任意処分だ、強制処分ではないんだということなんですけれども、これはプロバイダー業者の方からいろいろ事情を聞いたところ、現実に行われている実際は、何日か前に業者のところに、実はこれこれこういうものを差し押さえたい、それがそれ以前に消去されたら困るから保全しておいてくれ、消さないようにしておいてくれということを任意に依頼して、プロバイダー業者がそれで保全をして、その後、差し押さえの必要性が具体化したということで、さっき申し上げたような記録命令つき差し押さえがなされるということなんですね。

 そうすると、保全要請は前の法案では九十日前からできるということになっていて、この法案も最大六十日前からできるというふうになっていて、そうすると、六十日後に差し押さえる必要性が具体化するものを六十日前から保全要請をするということは、業者に対しても非常に過酷な状況を強いることになるし、差し押さえの具体性が実はあるからという前提で保全要請するけれども、六十日たったら全くなくなっているかもしれないわけであって、そういう段階で保全要請をするということ自体、立法事実を欠くんじゃないか、具体的にこういうことで保全要請ということを認める必要性が欠けるんじゃないかというふうに思いますけれども、この点いかがですか。

江田国務大臣 保全要請は、その必要性については大いにあるということで、迅速に保全を求めることができる、そういう制度をつくらなきゃならぬと。そして、これは通信履歴に限って、内容まではいかないとか、あるいは消去しないように求めるにすぎず、通信履歴がそのまま捜査機関に開示されるものではないとか、罰則がないとか、そういうようなことで許容されるものと考えております。

 なお、期間について、これは三十日、そして必要があれば延長ができて最大六十日としているので、六十日後にやるから今置いておいてくれと言っているわけじゃない。直ちにでもやりたいけれども、それが三十日あるいは最大六十日まで延びることがあり得るということで、しかも差し押さえということが前提になっているわけでありまして、そうしたことを考えれば、もとの九十日というものより随分限定をつけておりますので、業者に対する負担は過度にはなっていないのではないか、こう思っております。

辻委員 業者の方に実際聞いたところ、せいぜい数日前に保全要請があって、そして保全をした上で差し押さえがかかっているというのがほぼ現実なんですね。

 差し押さえの必要性がある直前にやればいい、それを三十日前にわざわざやるというのは、その時点では差し押さえの必要性が本当にあるのかないのか、不明なわけですよ。司法判断を審査することができない段階で、任意の要請ということで保全要請をするということは、ある意味で、警察等捜査機関から求められればプロバイダー等の業者はやはり従わざるを得ないわけでありまして、差し押さえの必要性の有無がまだ明確でない段階で、そのときから保全要請をある意味で半ば強制されるというのは、これは非常にいかがなものかなというふうに私は思わざるを得ません。この点についても、捜査機関の権限が濫用されないような歯どめをやはりもっと具体的に考えるべきだろうというふうに私は思います。

 そこで、これは、いわばサイバー犯罪条約を前提として、国会で決議をして批准をした場合に、サイバー犯罪条約が求める国内法化ということになったときに、通信履歴にとどまらず、通信内容にも及ぶ、そういう権限を捜査機関に与えよという話になるのではないかという危険が指摘されておるわけであります。

 これは、サイバー犯罪条約では、「締約国は、自国の権限のある当局に対し、コンピュータ・システムによって伝達される自国の領域内における特定の通信に係る通信記録についてリアルタイムで次のことを行う権限を与えるため、必要な立法その他の措置をとる。」というふうに条約には規定されていて、その中に、「自国の領域内にある技術的手段を用いることにより、当該通信記録を収集し又は記録すること。」と。

 つまり、今は保全要請も含めて通信履歴だけにとどまっているというような話でありますけれども、サイバー犯罪条約が前提にしている国内法化の基準というのは、通信履歴だけではなくて、通信記録そのものの収集、記録なんですね。だから、通信内容も、これは次の法改正で、サイバー犯罪条約を批准した後、国内法化で、それの趣旨に沿うべく改正をすべきだという意見が出てきて、現時点の通信履歴にとどまらず、通信内容にまで及ぶ危険性があるのではないかという懸念が現実に表明されておりますけれども、この点について、その懸念がないんだということについて、大臣の見解をお伺いしたいと思います。

江田国務大臣 サイバー条約が求めている国内法整備については、これは私どもは、今回の法案で満たしていると考えておりまして、この法案を成立させていただいた後に、サイバー条約がこれでは批准できないじゃないか、加盟できないじゃないかというようなおそれはないものと考えておりまして、この法案が成立したら、そこからまた別のところへ広がっていくのではないか、そういう御懸念については十分に注意をいたしますが、私どもとしては、そういうことはない、断じてそういうことはしないというふうに考えております。

辻委員 当面これは通信履歴ということに限られているけれども、サイバー犯罪条約の批准後、通信内容にまで拡大するのではないかという懸念が指摘されている点について、そういう懸念に進むことはあり得ないという御回答をいただいたというふうに思います。

 そういう意味では、通信傍受法の全般的な改正にまで広がるのではないかという危険の指摘についての御回答を今いただいたのでありますけれども、サイバー犯罪条約に加盟をしたら、保全要請も含めて海外から要請を受けるということで、例えば三十日前から保全要請をするんだというような話になるわけで、例えば、アメリカのFBIが日本のプロバイダー業者に、これはしかるべき機関を通じてだと思いますけれども、そういう要請をしてくると。

 アメリカでは共謀罪が存在をいたしますから、日本では、共謀罪ということで、まだ実行行為に至る以前の段階の行為を取り上げて、それを捜査の対象なりにするということはあり得ないということでありますけれども、アメリカではそういうことがあり得るわけでありますから、それを前提に保全要請をプロバイダー業者にされてくるというようなことは、実は、そこがもうある意味では考え方が通底してしまって、共謀罪の対象として、それに沿う資料収集、証拠収集ということで、この法案に基づいて保全要請があり得るのではないか、こういう問題点についてはどうお考えでしょう。

江田国務大臣 これはもう委員御承知のとおり、いわゆる共謀罪については国会で大変な議論が行われました。当時、私どもは野党で、これは断固反対ということでいろいろやったわけでありますが、結果的には、共謀罪というものを新たな犯罪として我が国で取り入れるということはしなかったわけでございます。

 サイバー関係について、今回の法案が成立をしますと、関係国の間で捜査の共助ということにはなりますけれども、その際は、やはり双罰性といいますか、両方ともが罰する犯罪となっていることについて共助ができるわけで、アメリカの共謀罪は我が国ではありませんから、アメリカが自国の共謀罪のことについて日本に捜査共助を求めてきても、これはそういう共助の義務というものは負っていないということになると思っております。

辻委員 昨年の十月の段階で、法務省の次期通常国会提出予定法案という中には、今回の、これはコンピューター監視法案というような指摘がある法案も含めて、共謀罪も含めて、去年の十月の段階では法案が予定されていたように思うんですね。

 今なお、パレルモ条約の批准に当たって、国内法化が必要なのか、共謀罪を国内法化する必要があるのか。これは、従前は必要を前提として論じられてきたけれども、民主党も含めて、パレルモ条約の批准には共謀罪の国内法化は不要なんだという立場に立っておりますが、なお、法務省や警察庁や金融庁等の間で、パレルモ条約の批准を前提に、共謀罪の成立に向けた協議が現に行われていると思いますけれども、どういう協議が行われているのか、それについての具体的な予定がどうなっているのか、この点について最後にお答えいただきたいと思います。

江田国務大臣 パレルモ条約、国際組織犯罪防止条約ですね。これを締結して、国際社会と協調して組織犯罪を防止し、これと闘うというのは重要な課題であると思います。

 その締結に伴う国内法の整備については、これはもちろん進めていくことは必要ですが、十七年に提出した法律のうち、特に共謀罪については、これは先ほども申し上げました、さまざまな議論をして、そして今はその制定はしないということになっているわけでありまして、そうした経過を踏まえて、法務省として、さまざまな意見を踏まえ、どのような法整備が必要かという観点から、関係省庁とも協議をして検討しているところであって、これは、私ども、今までの経過はよく存じておりますので、そのことを踏まえるということを申し上げておきたいと思います。

辻委員 最後に。日弁連は、一たんはこのコンピューター監視法案は基本的にいいのではないかというふうに見解をされましたけれども、今、慎重審議が求められているということを最後につけ加えて、私の質疑は終わります。

 ありがとうございました。

奥田委員長 次に、橘秀徳君。

橘(秀)委員 民主党の橘秀徳でございます。

 本日、質問の機会を与えていただいて、ありがとうございます。きのうの昼に、あした質問しろということで、役所の皆さんにも御迷惑をおかけいたしました。外務省の総合政策局の方からは、もう日付が変わってから資料をいただいた次第でございまして、まことに御迷惑をおかけいたしました。

 ただ、そうしたところはあるんですが、ちょっとこの法案に関して、私は、非常に慎重というよりも、むしろ懸念、疑義を持っている一人であります。民主党の法務部門会議では、相当これは異論であったり反対というものが相次いでいたのですが、何かいつの間にか結局決まってしまって、法案が提出をされてしまったんじゃないか、そういった印象を持つものであります。

 当法案は、平成十六年に提出されて、十七年に法務委員会で審議されて廃案となった犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案から、民主党が従前反対してきた共謀罪を抜いての提出ということになると思うんですが、ただ、この共謀罪の創設が外れたにもかかわらず、今回の法案の中では、作成罪、ただつくっただけで、使用しない、実行を伴わずに、三年以下の懲役または五十万円以下の罰金。何かあたかも、どうしても共謀罪を連想させるような、そうしたところがある印象を持っています。先ほどの辻先生の質疑でますます疑義が深まったというところでありまして、こうした姿勢で質問させていただきたいと思います。

 また、折がちょうど悪かったということも言えるのではないかと思います。いろいろな修正があって、保全要請の主体を検察官等に限定ということでありますが、村木局長の事件、検察官のデータの改ざんということがまだ記憶に新しいところであって、本当に時期が悪い、タイミングが悪いということも言いたいと思います。

 それで、この法案について、ツイッターとかインターネット上では、法務省さんの方はサイバー法案ということを言われているわけでありますが、実際、この法案、コンピューター監視法案という呼び名で通用している次第であります。ネット上、ツイッター上、非常に懸念が表明されたところでありました。

 まず、大臣、この法案、本当に大丈夫なのでしょうか。それから、提出に至る経緯、それから意義について、改めてお伺いしたいと思います。

江田国務大臣 大丈夫なのでしょうかと聞かれますとどきっといたしますが、これは大丈夫。

 従来、旧政権の折に出されておりました共謀罪を含む法案について、今政権を預からせていただいている民主党を中心にして、大変な国会での論戦を繰り広げまして、そして共謀罪の新設はノーということになったわけであります。

 確かにあのときに、共謀罪もございましたが、同時に、コンピューターウイルスの関係、強制執行妨害の関係などいろいろ入っておりまして、議論は共謀罪に集中していたと思っておりまして、今回、その共謀罪を除いた部分、これを、国際社会の要請にもこたえる上で、私どもここへ提出したわけでございます。

 しかも、当時の法案に対して、正当の理由がないとか、あるいは期間の問題であるとか、保全要請の主体の問題であるとか、いろいろなものを限定を加えておりますので、私は、最近のコンピューターシステム、ネットワークのシステム、この重要性を考えれば、これは今必要な法案であって、大丈夫かと言われますと、大丈夫だということを申し上げておきたい。

橘(秀)委員 それでは、大丈夫かどうかをまた審議の中で確認していきたいと思います。

 確かに、大臣おっしゃるとおり、サイバー犯罪というもの、私も実は、先月になるんですが、外務省の方からメールが来て、それを一回あけようとしたんですが、これは怪しいと思って外務省の方に問い合わせましたら、ウイルスつきのメールでありました。それで、すぐそこで削除をしたわけであるんですが、今回、法案を提出するに当たって、こういうサイバー犯罪がふえているという説明を刑事局さんの方から伺いました。

 きょうは、警察庁の田中法昌審議官に来ていただいております。最近のサイバー犯罪、ネットに関連した犯罪の傾向について御説明いただければと存じます。

田中政府参考人 コンピューター犯罪、サイバー犯罪の検挙件数でありますけれども、平成二十二年中は六千九百三十三件で、これは前年比で二百四十三件の増加であります。平成十二年に統計をとり始めておりますが、一貫して増加傾向にあります。

 内訳につきましては、まず、他人のIDやパスワードを無断で利用する、いわゆる不正アクセス禁止法違反につきましては千六百一件、ネットワークを利用しました詐欺あるいは児童ポルノ事犯等のいわゆるネットワーク利用犯罪は五千百九十九件、コンピューターや電磁的記録を対象とした犯罪は百三十三件でございます。

橘(秀)委員 ありがとうございました。

 今、種別でもお答えをいただいたわけでありますが、私の方で数字を見て注目したのは、コンピューター、電磁的記録対象犯罪、警察庁さんの努力もある中で、実は大幅に件数は減っています。平成二十年に二百四十七件でありましたこの種の犯罪ですが、平成二十一年には五十二件の大幅減の百九十五件、それから、平成二十一年から二十二年にかけては六十二件の大幅減で百三十三件、平成二十年の二百四十七件から実は百十四件も減っている状況にあります。

 今回提出のこの法案が射程におさめる犯罪というのは実は減少傾向にあるのではないか、そう考えるわけでありますが、このことについて、田中法昌審議官、これはちょっと通告しておりませんでしたので、概要で、ざくっとで結構でありますので、よろしくお願いします。

田中政府参考人 お答えいたします。

 コンピューターウイルスという観点の御質問かと想像いたしますけれども、コンピューターウイルスに関連した犯罪の状況はどうだということでとってみますと、これは不正アクセス禁止法に当たる場合が比較的あるということであります。

 こういうような、いわゆる今申しました三つの類型に当たるとして検挙された事件でコンピューターウイルスに関連すると考えられるものは、これはあくまで警察庁に報告のあった部分だけでございますけれども、平成十五年から二十二年までに十三件を把握しておりまして、そのうち十件は不正アクセス禁止法違反である、こういうことでございます。

橘(秀)委員 ありがとうございます。

 今御答弁にありましたとおり、不正アクセス禁止法でできる部分を除くと三件ということ、平成十五年から二十二年の間であります。

 それから、サイバー犯罪、圧倒的に今回ふえているのは、児童ポルノの事犯であったりとか、これは去年から二百七十六件、五四・四%の増加。それから、児童買春それから青少年保護育成条例の違反が百四十九件と、この法律の射程にあるところ以外のところが大幅に伸びていて、それを除いたときには逆に減少傾向にあるのではないかということを指摘させていただきたいと思います。

 それでは、今回の改正案の細かい点についてお伺いをさせていただいてまいります。

 サイバー犯罪に関する条約、法務省お配りの今回の法案の五点セットの中の後ろに条約がありまして、後ろの方からめくっていただいて、二十ページ目に、条約の第十六条「蔵置されたコンピュータ・データの迅速な保全」というところがございます。「締約国は、特に、自国の権限のある当局がコンピュータ・システムによって蔵置された特定のコンピュータ・データ(通信記録を含む。)が特に滅失しやすく又は改変されやすいと信ずるに足りる理由がある場合には、当該権限のある当局が当該コンピュータ・データについて迅速な保全を命令すること又はこれに類する方法によって迅速な保全を確保することを可能にするため、必要な立法その他の措置をとる。」と、十六条の第一項にはあります。

 私がこの点懸念いたしましたのは、この条約の十六条と、憲法二十一条の第二項に言う通信の秘密の保障の整合性であります。

 当然、条約でありますので、まずは調印の署名があって、それから国内法制の整備を待って、その後に批准という手続に行くと思うんですが、この法律案が通ったとしても、この十六条の規定を満たすのかどうかというのが一点目の疑問。それから二点目に、そもそもこの十六条の内容というのは憲法二十一条に整合性がないんじゃないかということを思いました。

 この署名、調印の際に、外務省さんの方でどういう議論をされたか、この憲法二十一条二項と十六条の関係について御答弁いただければと存じます。

鶴岡政府参考人 サイバー条約あるいは実施法にとどまらずでございますけれども、政府は、一般に条約を締結するに当たりましては、誠実にこれを履行するとの立場から、憲法を初めとする国内法制との整合性を確保しております。サイバー犯罪に関する条約についても例外ではございませんで、条約と関連国内法令との間での整合性を確保した上で締結すべく、準備を行ってきておるところでございます。

 ただいま御指摘の第十六条に関するところでございますが、御指摘の条約の案文の中でごらんをいただきますと、今の御指摘になられた資料の十八ページからが「第二節 手続法」ということになっておるわけでございますが、十六条に参ります前に、第十五条という条文が置いてございます。この1のところで、「締約国は、この節に定める権限及び手続の設定、実施及び適用が、自国の国内法に定める条件及び保障」云々とございまして、この節に定められる事項につきましては国内法との整合性が確保されるということを定めているわけでございます。

 すなわち、この条約第十五条は、通信の秘密が基本的人権の根幹にかかわる問題であることを十分認識した上で、この関連規定をどの程度まで実施すべきかにつきましては、各国国内法上の人権保障の要請を踏まえて、各国が個別に判断すべきものと定めているところでございます。すなわち、第十六条に規定されております保全要請の制度は、第十五条の規定に従うことが条件とされておるわけでございまして、その実施につきましては、人権保障条項等との関係で許容される範囲での策定、実施がされるべきことが明示をされております。

 したがいまして、我が国の憲法におきまして保障される通信の自由の範囲内で関連国内法も規定されることとなりまして、今回の改正法案における保全要請は、通信業者などが業務上の必要性などから既に記録している通信記録を一定期間消去しないように求めるものにすぎません。保全要請を拒否した者に対する罰則もございません。また、その内容の捜査機関への開示を義務づけるものでもございません。したがいまして、保全要請の制度は、通信の秘密に関する憲法第二十一条第二項に適合するものと理解しておるところでございます。

橘(秀)委員 済みません、事前に伺っていた中身では、当初の議論で、憲法二十一条二項と条約十六条との関係については、ほぼ連日にわたっていわゆる保全要請を継続すれば、事後的な傍受を認めるに等しいこととなり、通信傍受法において厳格な要件をもって規律している趣旨を没却するとの考えも示されていたということも踏まえての検討が行われたということでありますが、これでよろしいですか。

鶴岡政府参考人 委員御指摘のとおりの議論が条約策定過程で行われた上で、先ほど御紹介いたしました、そのような人権上の要請を勘案した上で第十五条の規定が置かれたものと理解しております。

橘(秀)委員 次に、これを踏まえて江田法務大臣にお伺いさせていただきたいんですが、外務省さんの方でも、この二十一条二項との関係、慎重に議論をされたということ、通信傍受法のことも想定をされながらの検討ということでありました。

 もう御案内のとおりでありますが、通信傍受法は、本当に必要不可欠な重大な組織犯罪に限定、薬物関連、それから銃器関連犯罪、集団密航、組織的に行われた殺人の捜査、この四種に限定をされているはずでありますが、憲法二十一条の通信の秘密の保障というのは、通信の内容だけでなく通信の履歴にも及ぶというのがこれまでの通説だったと理解をしておるんですが、この点を含めて、保全要請と憲法二十一条第二項との整合性をお尋ねさせていただければと思います。

江田国務大臣 確かに憲法二十一条第二項との関係が議論の対象になる、これはそのとおりだと思っておりますが、通信内容だけでなくて通信履歴、これも通信の秘密の保障の対象となる、これはそのとおりだと承知をしております。

 ただ、通信内容は、これはもう通信そのものですから、憲法の規定がずばりと適用されるけれども、通信履歴となると、憲法の保障の対象ではあるけれども、やはり公共の福祉の観点から一定の限度というものはあるだろうと思っておりまして、今回の法案で私ども必要性を十分に考え、さらに、許容性ということも今外務省の方からの答弁にもございましたが、履歴が捜査機関に開示される、これはそのためには差し押さえというものが前提としてなければいけないので、今回は、消去しないように求めるにすぎない、あるいは罰則等の制裁もないといったいろいろな限定を付しておりますので、憲法二十一条二項と整合するというふうに解釈をしております。

橘(秀)委員 大臣、電子メールは御自分でよくお使いになられますか。

江田国務大臣 私は、そうしたことについては本当に素人でございますが、どの程度使っておればよく使ううちに入るのかというのはよくわかりませんけれども、コンピューターでメールを打ったり、あるいは受け取ったりすることは、私の年代の者の中では結構使っている方じゃないかと自分では思っていますが、よくということになるかどうかは、これは人の判断だと思います。

橘(秀)委員 私も、まだ大学生のころというのは、レジュメをつくるのも先生にレポートを出すのも手書きでやっておりまして、ちょうど私の、来月四十二歳になるんですが、ここを境に大分世代間ギャップがあると思います。それこそ昔は恋文といって文字で書いたようなのが、今はほとんどメールで若い世代はやりとりをしているような状況でありまして、この通信の秘密ということ、もう今はメーンは手書きの時代ではなくてメールの時代、電子レターの時代に入っていると思います。

 仲間たちの中で随分IT関係の仕事をやっているのが多いんですが、聞いたところ、やはり通信履歴というのと通信内容というのはそもそも密接不可分という見解が非常に多くありました。後ろから今ささやいていただきましたが、通信の日時とか送信先、送信元、それからヘッダーで大体のことはわかるということと、それから、そもそも内容は密接不可分であります。

 私はやはり、二十一条二項の通信の秘密、これについてはきちんと保障されていかなくてはならないものだと思います。重ねて法務大臣に御答弁を求めます。

江田国務大臣 このあたりになりますと、本当に私がよく完全に知っているという分野でないものですから、やや舌をかみそうにはなるんですが、本当に、今若い人たちを見ますと、ちゃっちゃかちゃっちゃか、携帯でもブラインドタッチというんですか、大学の入学試験の会場にまで持ち込んでいろいろやるというようなことでありますから、到底足元にも私どもは及ぶことができない、そういう世界が広がっているということはよくわかっているつもりでございます。

 その上で、通信事業者のデータの保管状況を、私も網羅的にもちろん把握しているわけじゃありませんが、一般には、送信メールの本文についてはプロバイダーのサーバーから直ちに削除される、受信メールの本文についても、プロバイダーの利用者においてダウンロードすればプロバイダーのサーバーから削除されるというものと承知をしておりまして、送信と受信の扱いを別にするということは可能だと思われまして、通信履歴についてプロバイダーに対して保全要請を行うことによって、電子メールの本文について保全されるということには必ずしもならない。履歴を見れば中身はわかるという場合もそれはあるのかもしれませんけれども、やはりそこは、履歴と内容とは違うものだと思っております。密接な関連があるんだというのは、あるいはそういうことかもわかりません。

橘(秀)委員 通常、メールを打つときに、ヘッダーの方なり、そこにきちんと大体こういう内容で送りますよというのは当然つけるわけですので、正直、ちょっと納得のいく答弁ではありませんでした。

 それでは、ちょっと時間がなくなってきましたので、先ほど辻先生もお話しされていたところであるんですが、今回、ネットワークに接続しているところについては、データのコピーができることになるということ。東京のパソコンを差し押さえて、ネットワークでつながっている支社であったり、あとはプロバイダーであったり、東京の一台が差し押さえられたら、九州だろうと、福岡だろうと仙台だろうと名古屋だろうと、どこでもとれてしまうということになると思います。

 憲法三十五条というのは、物と場所の特定を言っております。この憲法三十五条との整合性についても御答弁いただければと存じます。

江田国務大臣 三十五条との関係では、もちろん、何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び差し押さえを受けることのない権利というのは、三十三条の場合を除いて、正当な理由に基づいて発せられ、かつ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない、これはそのとおりでございます。ただ、その趣旨は、正当な理由、すなわち、その場所及び目的物につき捜索、押収を行う根拠が存在することをあらかじめ裁判官に確認していただいて、令状の上にそれを明示させて、恣意を封じようということだと理解をしております。

 この点、これは細かく言い出しますと、随分ここに書いてあるものでも長いんですけれども、自分の持っているパソコンからリモートアクセスといいますか、別のパソコンに行って、そこでいろいろなデータを読み取る。読み取るだけのデータには差し押さえなどが適用されるということはない。そうではなくて、自分の持っているパソコンでアクセスをして、そして、そのデータについていろいろな改変ができる、自分が自分のパソコンでコントロールする、そういう中に入っているというものをコピーして差し押さえるというようなシステムだと理解をしております。

 その部分については、もともとのパソコンとさらにリモートアクセスについての特定があれば、これは憲法三十五条一項の令状主義の範囲内にとどまっておると思っておりまして、憲法にも適合するものだと思っております。

橘(秀)委員 令状を請求する時点で、そこまでサーバーなりそうしたリモートアクセスのところが限定できるかどうか、これは非常に疑問であります。

 第二に、現場の捜査官の判断でどこにアクセスをするようになるとか、こういう危険というのは私には物すごくあると思います。ストレージサーバーであれば限定をされるのでありますが、それ以外の部分については非常に懸念を持つところであります。

 それでは最後に、やはりウイルス作成罪についてお伺いをしたいと思います。

 冒頭申し上げたとおり、実際に使わなくても、つくっただけで捕まるということであれば、表現の自由との兼ね合いであったり、さまざまなところでやはり疑義を持たざるを得ないということになります。

 今回、修正も加えられて、正当なという要件もつきました。ただ、この二つの要件については、正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の目的でという、この二つであります。この正当な理由の事例、具体的にどういうものが想定をされるのか。それから、当不当の判断、どのように真っ当に行うことができるのか。そして二つ目の要件でありますが、無断で他人のコンピューターにおいて実行させる目的でと、使ってもいないのに目的でというのは、もう非常に恣意的な、主観的な判断にならざるを得ないと思うんですが、この点に関して、大臣、どうお考えになりますでしょうか。

江田国務大臣 正当な理由があるか否かをどういう基準で判断するか、そしてもう一つは、これは目的犯になっているわけですが、目的というものもどういうもので、どういう基準なり方法で判断をするかというお尋ねでございますが、これは目的というものを一つちゃんととらえていて、しかし、それだけではやはりなお心配だというので正当な理由というのを付しているので、この二つの部分はかなり重なる部分があると思っております。

 いずれにせよ、行為の目的あるいは態様など諸般の事情を考慮して、その行為が正当防衛あるいは正当業務、そういう行為であるとか、あるいは相手方の同意があるとか、こうしたことになりますと、これは正当な理由がないということにはもちろんならないわけであります。

 さらに、目的の点についても、当然、コンピューターウイルスの研究者とかあるいはウイルス対策ソフトの開発者が研究や実験の目的でつくった、そして関係者のみで取り扱われるという場合は、これは目的にそもそも当たらないし、正当な理由もあるということになります。

 その目的とか正当な理由とかというのをどういう資料で把握するのかということも問題でございますが、単に内心の意図というだけで判断するということではなくて、例えば、ウイルスが作成されたパソコンを解析するといろいろな作成過程が出てきて、そこから合理的に推認される目的に関する意図というものが出てきたり、あるいはその作成過程にあるメモといったもの、あるいはほかの人との、仲間でやりとりしたメールといったもの、そういうようなものから客観性を持った認定というものは可能だと思っております。

橘(秀)委員 済みません、冒頭、諸般の事情を考慮してというようなところがあったんですが、例えば極端な例を申し上げますと、江田法務大臣、パソコンを余り使わない、苦手ということで答弁されておきながら、それは実際にはウイルスをつくっていることを隠すためで、そういうふうな判断をされたときには江田先生も捜査の対象になるというような懸念もあるんじゃないでしょうか。非常に主観的なものじゃないかと私は思います。

 今回の質問を通じてますます、率直なところ、この法案について私は疑義を持ちました。またこの後慎重に審議されることを望みまして、質疑を終えたいと思います。

 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

奥田委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。

 ただいま議題となっております本案審査のため、参考人の出席を求め、意見を聴取することとし、その日時、人選等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 次回は、来る二十七日金曜日委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十時十分散会


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