衆議院

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第8号 平成25年4月12日(金曜日)

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平成二十五年四月十二日(金曜日)

    午前十時一分開議

 出席委員

   委員長 石田 真敏君

   理事 江崎 鐵磨君 理事 奥野 信亮君

   理事 土屋 正忠君 理事 ふくだ峰之君

   理事 若宮 健嗣君 理事 田嶋  要君

   理事 西田  譲君 理事 遠山 清彦君

      安藤  裕君    池田 道孝君

      小田原 潔君    大見  正君

      門  博文君    神山 佐市君

      菅家 一郎君    黄川田仁志君

      小島 敏文君    古賀  篤君

      今野 智博君    末吉 光徳君

      鳩山 邦夫君    三ッ林裕巳君

      宮崎 政久君    宮澤 博行君

      盛山 正仁君    枝野 幸男君

      階   猛君    辻元 清美君

      今井 雅人君    西根 由佳君

      西村 眞悟君    大口 善徳君

      椎名  毅君

    …………………………………

   法務大臣         谷垣 禎一君

   法務副大臣        後藤 茂之君

   外務副大臣        鈴木 俊一君

   法務大臣政務官      盛山 正仁君

   外務大臣政務官      あべ 俊子君

   最高裁判所事務総局民事局長

   兼最高裁判所事務総局行政局長           永野 厚郎君

   最高裁判所事務総局家庭局長            豊澤 佳弘君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    深山 卓也君

   政府参考人

   (外務省大臣官房参事官) 新美  潤君

   法務委員会専門員     岡本  修君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月十二日

 辞任         補欠選任

  林田  彪君     宮崎 政久君

同日

 辞任         補欠選任

  宮崎 政久君     林田  彪君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律案(内閣提出第二九号)


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     ――――◇―――――

石田委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として法務省民事局長深山卓也君及び外務省大臣官房参事官新美潤君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

石田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

石田委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局永野民事局長兼行政局長及び豊澤家庭局長から出席説明の要求がございますので、これを承認するに御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

石田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

石田委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。大口善徳君。

大口委員 公明党の大口善徳でございます。

 ハーグ条約の締結の必要性について、まずお伺いしたいと思います。

 ハーグ条約を締結することの意義については、国際的なルールに基づいて子の不法な連れ去り問題を解決するとともに、親子の面会交流の機会を確保することにより、子を有害な影響から保護するとともに、子の利益に資することになると理解しているわけであります。

 四月四日の本会議におきましても、外務大臣は、本条約を締結しない状態が継続することは、我が国国民にとって大きな不利益であるとともに、国際社会における我が国の姿勢も問われかねません、こう答弁をされています。

 もちろん、国際社会の一員としての我が国の姿勢を示すことも大事でありますが、我が国国民にとって大きな不利益を解消することこそ非常に重要であると考えています。

 そこで、外務大臣が答弁されました、我が国の国民にとっての大きな不利益ということにつきまして、もっと具体的に御答弁をいただければと思います。

鈴木副大臣 ハーグ条約締結の意義、不利益な点についてということでございますが、ハーグ条約は何よりも子の利益を最重要視している条約でございます。我が国がハーグ条約を締結しない状態がこのまま継続をいたしますと、国際的なルールに従った問題の解決ができずに、子の不法な連れ去りの未然防止がなされない、また面会交流に関する支援も得られない状態が継続をすることとなります。これは、誰よりも、子にとっての不利益であると考えられます。

 また、我が国からの子の不法な連れ去りも多数発生をいたしておることを考えますと、条約に基づく返還手続を利用できないことは、我が国の親にとっても不利益であります。

 さらに、条約を締結しないことによって面会交流の機会の確保のための支援が得られないこと、我が国がハーグ条約を締結しないことによって外国に在住する日本人が直面しております一時帰国の制限といった状況が継続すること等も、我が国の親にとっての不利益であると考えております。

大口委員 次に、中央当局の体制についてお伺いします。

 先般の本会議において外務大臣は、発足当初は十名程度の体制で取り組むと答弁されました。条約実施法上の中央当局にさまざまな任務が課されています。特に面会交流については、条約発効後、申請が殺到する可能性もあります。

 外務省として、具体的にどのような体制で臨むのか。また、十名程度の体制では不十分だと考えますが、いかがか。弁護士やソーシャルワーカーだけでなく、子の利益、子の心理、子のダメージに関する専門家も必要ではないかと思いますが、いかがでございましょうか。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 先生から御質問のありました件につきまして、条約はまだ発効しておりませんので、条約が発効した後の申請件数あるいは中央当局の事務量について推測の範囲を超えることはできないわけでございますけれども、特に、委員御指摘のように、面会交流申請につきましては、条約発効前の連れ去りや留置に起因する場合でも、条約発効後に面会交流が実現していなければ対象となることに鑑みれば、御指摘のとおり、条約発効直後から一定数の申請があると想定しております。

 具体的には、他国における例、例えば各国の中央当局の体制でございますが、アメリカは七十五名と極めて多いんですけれども、イギリスは五名、フランスは十一名、ドイツは二十名、カナダは三名、豪州は七名、韓国は三名、イタリアは十一名といったような他国の例もございます。

 そしてまた、各国から日本に連れ去られたとして返還を要請されている件数、あるいは、外務省や日弁連が実施してきた調査結果等も踏まえて検討した結果、外務省及び法務省から人材を適切に配置するとともに、ソーシャルワーカーあるいは弁護士といった各分野からの専門家を採用いたしまして、発足当時は十名程度の体制で対応できるだろうと考えておりますが、御指摘ございましたとおり、必要に応じ、体制の見直しについても検討してまいりたいと思っております。

 また、子の利益を重視するという条約の趣旨も踏まえまして、御指摘のありました中央当局に子の心理に関する専門家を配置する必要性も認識しておりますところ、今後検討してまいりたいと思っております。

大口委員 次に、中央当局による子や子の同居する者の住所等に関する情報収集についてお伺いしたいと思います。

 これらの所在地の情報収集に関して、先般の本会議におきまして、外務大臣は、まず、配偶者暴力相談支援センター、配暴センターに対して提供を求め、センターを通じて得られない場合には、民間シェルターのネットワーク団体から必要な協力が得られることを前提として、直接シェルターに対してではなく、当該ネットワーク団体を通じて情報提供を求めることを検討する、こう答弁されているわけです。さらに、このような協力が得られるよう当該ネットワーク団体に働きかける旨の答弁もされています。

 今まで、どのような名称のネットワーク団体にどのような働きかけを行ってきたのか。やはり、中央当局とネットワーク団体との協力関係が重要です。この協力関係を構築する実現性の見込み等についてお伺いしたいと思います。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 今委員から御指摘ございましたとおり、民間シェルターに対し情報提供を求めることが必要になった場合でも、民間シェルターのネットワーク団体から必要な協力が得られるということを前提に、そのネットワーク団体を通じて情報提供を求めるということを検討したいと思っております。

 このような考え方に基づきまして、過去に二回、一度目は平成二十四年五月、二回目は平成二十五年三月、民間シェルターのネットワーク団体でございますNPO法人全国女性シェルターネットの代表者との意見交換を行い、説明を行いました。この全国シェルターネットといいますのは、国内で百カ所近く活動しておる民間シェルターのうち、約六十数カ所がメンバーとなっているネットワークと伺っておりまして、私どもの考え方を御説明するとともに、意見交換を行った次第でございます。

大口委員 次に、DV等によって身を隠しておられる親子の住所情報について、それが厳重に秘匿されることが当事者等にとって重要なことなわけでありますけれども、裁判所における記録の閲覧等の手続の運用面においても、子の返還事件においては、DV被害等を受けたと疑われる事案については、国内のいわゆるDV事案における記録の取り扱いと同様に、当事者や子の所在地の記載が外部に漏れることのないように配慮する必要があると思います。

 最高裁に、具体的にどのような対応をやられるのか、お伺いします。

豊澤最高裁判所長官代理者 お答えいたします。

 この法案におきましては、記録中、裁判所が外務大臣から提供を受けた相手方または子の住所または居所が記載され、または記録された部分につきまして、相手方の同意、あるいは強制執行するために必要があるときを除いては、閲覧等が許可されないというふうに定められております。

 その趣旨は、個人情報の保護への配慮というふうに考えられますので、裁判官の許可がある場合を除き、裁判記録から個人情報が外部に明らかになることにならないよう徹底してまいりたいと思います。

 また、これ以外につきましても、国内の家事事件における記録の閲覧制限等に関する規律と同様の規律が設けられております。したがいまして、DV被害等を受けたと疑われる事案につきましては、住所秘匿を希望する当事者の意向等を踏まえまして、DV被害等の事案で非開示希望が出された情報が不当に開示されることのないよう、適切な運用がされるように、立法の経緯等、周知を図ってまいりたいというふうに考えております。

大口委員 本当に命に及ぶ危険性もあることでありますので、厳重によろしくお願いしたいと思います。

 次に、子の返還拒否事由を規定する本法律案の第二十八条一項一号によりますと、返還申し立てが子の連れ去り等から一年経過した後になされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応している場合には返還拒否できる、こうなっています。

 子が新たな環境に適応しているか否かについて、家庭裁判所の審理において、どのような方法により、どのような状態を見きわめようとするのか、その結果、どのような状態が認められれば返還拒否事由に該当すると認定することになるのか、具体的に説明をお伺いしたいと思います。

深山政府参考人 具体的にどのような状態が認められれば、子が新たな環境に適応していること、この要件に該当することになるかは、裁判所が個別の事案に応じて判断するというのは言うまでもないんですけれども、具体的な考慮事情を申し上げると、例えば、子の就学状況、それから課外活動の状況、子の友人関係といった子を取り巻く周囲の状況、そのほか、子の心身の状況、あるいは、日本語がちゃんとしゃべれてコミュニケーションがとれるかといった、子の言語能力といった子自身の生活状況、こういったものに照らして総合的に判断がされるものと思っております。

大口委員 次に、二十八条の第二項の各号についてお伺いしたいんですが、この二十八条の第一項の四号に関して、返還拒否事由の該当性を判断する指針として、同条第二項の各号に三つの考慮事情が例示されているわけであります。

 そこで、先般の本会議でも、重要な考慮事情になり得る旨の答弁を法務大臣からいただいたんですが、考慮事情の何号に当たるのかということをお伺いしたいと思います。

 まず、一で、子を連れ去った親がもとの居住国に入国できない場合。二として、子を連れ去った親がもとの居住国に戻ると逮捕、刑事訴追のおそれがある場合。三、子を連れ去った親がもとの居住国に戻れたとしても居住国での生計維持が困難な事情がある場合。四、子を連れ去った親が相手方親から受けた過去の暴力のために、元居住国に戻るとPTSDなどの精神症状が発症する場合。以上四つの事例で、どのような考慮事情に該当するのか、お伺いしたいと思います。

谷垣国務大臣 今、四つのケースをお挙げになりましたが、子を連れ去った親がもとの居住国に入国できない場合、第一の例でございます。それから、子を連れ去った親がもとの居住国に戻ると逮捕、刑事訴追のおそれがある場合、これが二番目。それから、子を連れ去った親がもとの居住国に戻った後の生計維持が困難な事情がある場合、三番目。この一から三は、いずれも、第二十八条第二項の子の返還拒否事由の考慮事情のうち、第三号の「相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情」、これに該当し得ると考えられます。

 それから四番目、子を連れ去った親が相手方から受けた過去の家庭内暴力のために、もとの居住国に戻ると、心的外傷後ストレス障害、いわゆるPTSD、こういった精神疾患が発症する場合、これについては次のように考えられると思います。

 まず、過去に家庭内暴力があった場合は将来も同様の暴力が繰り返される可能性があると認められますので、子の返還拒否事由の考慮事情のうち、これは第二十八条第二項第二号の、相手方が「子に心理的外傷を与えることとなる暴力等を受けるおそれ」、これに該当し得ると考えられます。

 それからまた、精神疾患が発症するおそれがあり、親が子とともにもとの居住国に戻ることが困難である場合や、もとの居住国に戻っても子を監護することができる精神状態にない場合は、子の返還拒否事由の考慮事情のうち、これは二十八条第二項第三号の「相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情」、これに該当し得ると考えられます。

大口委員 外務省から、ハーグ国際私法会議事務局の判例データベース等で、各国の裁判所の返還拒否の判断をした裁判事案の概要、これを取りまとめたものが公表されているわけです。

 この概要を見ますと、相手方の中央当局から母の入国について確約がなかったり、母に逮捕状が出ているために子供とともに戻れなかったりするような場合。これは、母と子を引き離すことが「子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。」に該当するとして、返還拒否の判断がなされているわけであります。

 こういうふうに、母子が離別することになる場合は重要な考慮事情に当たるということは確認していますけれども、さらに、この概要の裁判事例によりますと、母子の離別だけでなく、兄弟姉妹が離別することになる事態についても返還拒否事由に該当する例が示されています。

 そこで、子の返還により兄弟姉妹と別離することになるような場合についても本法律案で重要な考慮事情に当たるものとして考慮されるのか、お伺いしたいと思います。これは該当条文もあわせて御答弁ください。

深山政府参考人 今御指摘があったとおり、この法律案では、二十八条一項四号の返還拒否事由の有無を判断する上で重要な考慮要素を同条第二項の各号で掲げておりますけれども、子の返還により子が兄弟姉妹と離別するという事情は、その各号に掲げられた考慮要素に直接該当するものではございません。

 ただ、子の返還により子が他の兄弟姉妹と離別することは、一般的にはその子の精神面に多大な影響を与え得るものでございますので、具体的な事案によることではありますけれども、二項の柱書きに規定する、三つの重要な考慮要素「その他の一切の事情」というのが柱書きにありますが、この「その他の一切の事情」として考慮されることになると思われます。

大口委員 次に、この二十八条の第二項の第三号に規定する考慮事情に関して海外の事例を挙げてみますと、裁判所の審理により子が返還されたところ、実際には、その返還を申し立てた監護権者が子の監護を行えずに、里親あるいは施設に子が預けられてしまう、こういう事例があります。

 スイスの例でありますけれども、自国からオーストラリアに子を返還することとして、母親が刑事訴追のおそれがあることから同行できないで、子だけが返還された。ところが、父親に養育能力がなかったため、子は一年半にわたり三軒の里親のもとを転々とさせられ、結局、オーストラリアが母親に監護権を与える旨を決定して、スイスの母親のところに子が戻された、こういう事例があります。スイスにおいては、このような、返還先の国での監護環境が整わない場合にまでも子を返還することが適切なのか、こういう議論になりまして、それで、子の最善利益を考慮する事情として明示する立法がなされたわけであります。

 今回の法案の二十八条の二項第三号、「申立人又は相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情の有無」ということは、まさにこういうスイスの事例のような場合に当てはまるということで、子をもとの居住国に返還した場合、里親や施設に預けられてしまうような可能性があれば、これは重要な考慮事情として返還拒否の事由に該当するということでよろしいのか、お伺いしたいと思います。

深山政府参考人 今御指摘のような事情は、まさに「申立人又は相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情」に当たる典型的な場合だと思っております。

大口委員 また、いわゆるノイリンガー判決というのがございます。これは、イスラエルに移住したスイス国籍の母親とイスラエル国籍の父親との間に子がいるわけですが、父親が関与していたある種の活動に子が引き込まれることを母親が恐れまして、結局は離婚をして、子が二歳のときにひそかに子を連れてスイスに帰国をしたということですが、父親がハーグ条約に基づいて子の返還の申し立てをした。

 最終的にスイス連邦裁判所が子の返還を命じることになったわけでありますけれども、母親は、ヨーロッパ人権裁判所に、このスイス裁判所が命じた子のイスラエルへの返還は、ヨーロッパ人権条約の家族生活に関する人権の不当な侵害に当たるということを提起して、そして、一旦はこの人権条約に違反ではないとされたわけですけれども、子をイスラエルに返還するとトラウマの危険があるとして、専門家の鑑定などを主張して、最終的にはそれが認められて、ヨーロッパ人権裁判所の大法廷で、子の返還を執行することは家族生活が尊重される権利を定めたヨーロッパ人権条約第八条に違反する、こういうふうにされたわけであります。

 このいわゆるノイリンガー判決は、ハーグ条約による子の原則返還主義が必ずしも子の最善の利益につながるものではないことを示しているのではないかという指摘、意見があるわけでございます。

 ハーグ条約は三十年たっているわけでありますが、起草当初は、非監護親による監護親からの子の奪い去りという類型が多かったと思うんですね。共同親権等が世界に広がりまして、主たる監護親の何らかの事情で子を国外に連れ出す類型というものが広がってきているわけであります。そういうことでありますので、この二つの類型を一くくりにすることが適切ではないのではないか、こういう意見もあります。

 こういう意見に対して、法務大臣からお考えをお伺いしたいと思います。

谷垣国務大臣 今委員がお引きになったノイリンガー事件、これは、欧州人権裁判所で、ハーグ条約に基づいてされた子の返還命令の執行が具体的事情のもとでは欧州人権条約に違反すると判断された、そういう事例であるというふうに承知しております。

 そこで、この判決は一体どういう評価をなすべきかということでございますが、ハーグ条約に基づく子の返還の判断の枠組みそのものに影響を与えるものであるという見方、それから、個別の事件における特殊事情を考慮した事例判断の一つにすぎず、判断の枠組みに影響を与えるものではないとの見方がある。そのほかにも、本来、常居所地国においてされるべき子の監護のあり方についての判断を、子の返還手続の中で判断することを許容することにつながるのではないかという懸念も示されている。その評価や受けとめ方が、いろいろな学説、学者の判断があるわけですが、識者によってもかなり異なっているようでございます。

 そこで、個別の事件に対する欧州人権裁判所の判断でありますし、このように識者の評価も分かれておりますので、日本の法務大臣としてどうかと言われると、非常にお答えしにくい。ただ、こういう個別的ないろいろな事情のもとで欧州人権裁判所がこういう判断を下したということは、重要な参考になるのではないかと思っております。

大口委員 そういう点では、子の最善の利益を確保するということを第一として運用していくことが何よりも大事なことではないかな、こういうふうに私は考えますが、その点はいかがでございますか。

谷垣国務大臣 ハーグ条約を日本が受け入れて実施していく上で、子の利益の確保というものが最重要事項であるということはもう御指摘のとおりでございます。ですから、今回のハーグ条約の実施法においても、その第一条で、「子の利益に資すること」、これがこの法律の目的である旨を規定しているところでございます。

 ハーグ条約は、子の監護をめぐる紛争は子がもともと居住していた常居所地国で解決するのが望ましいという趣旨を基礎として、子の返還を原則としているものではございますけれども、個別具体的な事情によっては子の返還を拒否することが子の利益に資することがあり得るという理解のもとに、子の返還拒否事由を定めているわけでございまして、裁判所においても、このようなハーグ条約の趣旨にのっとった運用がされるものと考えております。

大口委員 最高裁にお伺いします。

 そういう点で、ハーグ条約に関連する事案というものは裁判例がたくさんあります。こういうものをしっかり収集して、それで東京家裁、大阪家裁でやるわけですが、その専門性の向上を図っていかなきゃいけないと思いますが、いかがでございましょうか。

豊澤最高裁判所長官代理者 お答えいたします。

 ハーグ条約実施法に基づく事件の処理に当たりましては、条約の趣旨に沿った形での解釈、運用がされていくことが非常に重要である、この点は委員の御指摘のとおりだと考えております。

 最高裁判所といたしましては、関係機関の協力を得つつ、委員御指摘の外国における裁判例を初め、有益と考えられる情報を東京、大阪の両家裁に提供するなどしているところでございまして、今後も、法案の審議状況を見ながら、必要な情報提供等を続けてまいりたいというふうに考えております。

大口委員 次に、子の返還手続の裁判について、先般本会議で質問をさせていただいたときに、外務大臣は、裁判所が、子のもともと居住していた国におけるDVの実態についての調査をすることが必要と判断し、中央当局である外務大臣に、当該国におけるDV実態について調査を嘱託することが可能である、こういう答弁がありました。

 日本の裁判所がDVの有無を判断するために必要な情報を、日本の中央当局が外国政府から十分得ることができるのか。外国のどのような機関等からどのような情報を得るのか、外国の病院の場合の診断書、あるいは外国の警察の相談記録など。また、既にハーグ条約を締結している各国間でどのような協力が行われているのか。可能な限り具体的にお伺いしたいと思います。

鈴木副大臣 御指摘のような場合、つまり、裁判所が、子がもともと居住していた国におけるDVの実態について調査をすることが必要と判断した場合においては、我が国の中央当局は、子がもともと居住していた国の中央当局に対して調査を要請することになります。

 具体的に、どのような情報がどのような機関から得られるかにつきましては、個別の事案によって異なりますので一概に申し上げることが難しいのでありますけれども、我が国のハーグ条約締結の準備段階において、主要締結国の中央当局との間で協議を行った結果、調査に対する協力について前向きの回答がおおむね得られているところでございます。

 現在の条約締約国が他の締約国からの要請に応じて情報収集や情報提供を行っている例といたしましては、例えばドイツでは、他の締約国から中央当局に対して子の社会的背景に関する情報提供が要請された場合、中央当局は少年局に依頼を行い、依頼を受けた少年局は、ドイツの国内法により、子の社会的背景及びその生活環境について情報を提供する義務を負っているところであります。

 また、フランスにおきましては、他の締約国から要請があれば、中央当局は検察官にその旨連絡することとなっておりまして、検察官は子の就学情報や社会福祉情報等の必要な情報を収集することになっております。

大口委員 そうすると、外国病院の診断書とか外国警察の相談記録、こういうものも当然入手できるということでよろしいですか。

鈴木副大臣 裁判所からそのような調査の委託を受けた場合、当該国の中央当局に対して病院の診断書や警察の相談記録等につき調査を要請することになります。

大口委員 次に、ハーグ条約の締結に伴う邦人の保護の観点から、在外公館の体制整備について。

 これも、先般の本会議において外務大臣が、DVや虐待を受けた邦人や子の相談に適切に対応していくことが極めて重要である、これらの措置を拡充していくことが重要と考えると。そういう点で、今後外務省としてどのような措置を考えているのか、具体的に御答弁いただきたいと思います。

 それから、特にこの相談は大事ですね。相談担当者の研修がまた極めて大事でございまして、いかなる人材あるいは組織が、どのような内容、教材を使ってこの相談担当者の研修を行うのか。そこについてもお伺いしたいと思います。

鈴木副大臣 外務省として、在外公館の領事が家族法専門の法律家、弁護士等に迅速に相談できる体制を構築するとともに、現地で、家庭内暴力被害者支援緊急用シェルターの運営、カウンセリング、法律相談、裁判支援等を行っている関係団体、専門家等と連携をして、日本人向けの活動を強化する等の方策をとっております。

 また、研修でございますが、外務省は、ハーグ条約締結国に所在する我が方の在外公館の領事担当者を対象といたしまして、ハーグ条約に関する研修を累次にわたって実施いたしております。

 具体的には、領事初任者研修、領事中堅研修、赴任前個別研修等において、領事局及び総合外交政策局の担当者が講師になりまして、赴任予定者及び在外公館担当官に対し、ケーススタディー形式を取り入れつつ実施いたしているところでございます。

 ハーグ条約を締結後、これらの支援措置が一層重要となりますので、さらなる体制強化に努めてまいりたいと思っております。

大口委員 専門家による研修も大事だと思うんですね。ですから、どういう専門家、組織が研修をするのかということについて、やはりもう一回、このハーグ条約が発効されることを考えていただいて、充実したものにしていただきたいと思うんですが、そこら辺、もう一度答えてください。

鈴木副大臣 先ほども申し上げましたけれども、やはり研修は大変重要なことだと思いますので、先生の御指摘も踏まえて、今後、さらに支援体制の強化に努めてまいりたいと思っております。

大口委員 次に、これはハーグ条約にまだ入っていない現時点においてでありますけれども、DV、虐待にかかわる邦人からの相談に対して、やはり在外公館がきちんと対応することが重要であります。今からもう一回見直して対応する必要があります。

 そこで、現在、どのような対応をして相談や支援措置を行っているのかの説明をお願いしたいと思います。そして、このような相談や支援措置について、過去の実績を、数字がわかれば数字を示して御説明いただきたいと思います。

 それから、先般の本会議で、DV被害のケースにおいて、邦人の生命、身体に差し迫った危険が及ぶといった状況のもとで、緊急性があれば渡航証明を発行するとの外務大臣の答弁がありました。これは母親だけでなく子に対しても発給するのか。これもお伺いしたいと思います。

鈴木副大臣 在外公館では、家庭内暴力被害や児童虐待の相談を受けた場合、任国の保護、救済制度を説明して、弁護士や福祉専門家、シェルターの紹介を行うなどの支援を行っているところでございます。また、生命に危害が及ぶ場合等、緊急の場合であると判断されたときには、在外公館が警察や裁判所に通報、救援要請を行っております。

 それから、具体的な相談支援の過去の実績ということでございますけれども、二〇一一年三月から二〇一三年の三月までの二年間、在外公館別の子の連れ去りや家庭の問題等に関する相談件数は、主要公館でありますけれども、在フィリピン大使館で四十四件、在英国大使館二十五件、在ニューヨーク総領事館十九件、在ボストン総領事館十八件、在瀋陽総領事館十四件、在トロント総領事館十一件、在シアトル総領事館十一件などとなっているところでございます。

 それから、現地事情に詳しい団体と在外公館が連携をして在留邦人の相談に対応している場合もございます。具体的には、在ニューヨーク総領事館とニューヨークアジア人女性センター、そして在ロサンゼルス総領事館とリトル東京サービスセンターとの連携が例として挙げられます。

 それから、帰国のための渡航書について、子の生命や身体に差し迫った危険が及ぶ、または子の福祉が損なわれるおそれがあると認められ、緊急に帰国する必要があると判断される場合には、子に対しても帰国のための渡航書を発給することといたしております。

大口委員 次に、子の返還事件の審理に当たって、弁護士を依頼する、それから外国の書面について翻訳をする、それから外国の病院とか警察の相談記録の翻訳も必要になるということであるわけですけれども、民事法律扶助制度を利用する場合に、法テラスにおいて援助の対象となる案件の内容ごとに立てかえの基準が設定されていまして、翻訳に係る立てかえの限度額は十万円と定められているわけですね。これは、十万円ではとてもとても、ハーグ事案の特殊性からいきまして足りません。

 そこで、これにつきましては、少なくともやはり百万円程度に引き上げなければならない、こういうふうに私ども考えておりまして、ぜひとも、これは財務当局と協議をされているとお伺いしておりますけれども、法務省として、大臣、この件につきましては、十分、やはりこのハーグ事案について審理の充実と、そしてまたDV被害者等の方の主張が正当に審理に活用されるよう対応していただきたい、こういうふうに思いますが、いかがでございましょうか。

谷垣国務大臣 今、大口委員が御指摘されましたように、民事法律扶助では上限は十万ということになっております。しかし、ハーグ関連の案件では大量の法律的文書の翻訳が必要になってくるだろうと、これは当然想定されるわけです。したがいまして、こういう特殊性を踏まえた検討がもちろん必要でございまして、今後も引き続き、こういう点を踏まえまして、関係機関との協議を行うこととしております。

 当事者が経済的な事情を理由に不十分な準備状態で審理に臨まなければいけないというような事態が生ずることは避けなきゃならない、私もそういう思いでございます。

 翻訳費用の立てかえ基準については、現在、関係機関と協議中でございまして、また、今後とも引き続き協議をしていかなきゃならない現時点でございますので、確定的な金額については今ちょっとお答えすることは難しゅうございますが、きょうの委員が示されました点を踏まえて、我々、きちっと協議をしていきたい、このように考えております。

大口委員 元財務大臣でもあったわけでございますので、どうかよろしくお願いしたいと思います。

 次に、本法律案第百五十一条で、子の返還申し立てから六週間が経過したときは、申立人等が裁判所に対し審理の状況説明を求めることができるとしているわけでありますが、ハーグ国際私法会議が作成した二〇一一年のハーグ条約統計分析書によりますと、条約締約国における子の返還に関する審理期間について、返還命令が出されるまでの平均日数が百六十六日、それから、返還拒否の判断が出されるまでの平均日数は二百八十六日とされているわけでございます。

 そういうことで、確認をしたいんですけれども、子の返還事件の審理において、第百五十一条に規定する六週間経過による説明というのがどういう意味を持つのか、お伺いしたいと思います。子の返還事件の審理において、当事者や子に対する意見の聴取など、慎重かつ丁寧な審理が求められるわけであります。このような時間的な制約と捉えるべきではないと考えますが、いかがでございましょうか。

谷垣国務大臣 ハーグ条約は、申し立てから六週間以内に子の返還についての判断がされない場合には、申請者が遅延の理由を明らかにするように求めることができる、こう規定されておりまして、今度の法律案の百五十一条はこのハーグ条約の規定に則した規定であるわけですが、その趣旨は、こういった規定により子の返還事件の迅速な処理を促すということであります。

 そして、子の返還事件の審理が申し立てから六週間以内に終了しないからといって、何らかの法律的効果が生ずるものではありません。現に、ハーグ条約の締約国におきましても、全ての事件を申し立てから六週間以内で審理を終えているわけではありませんで、特に返還拒否事由が主張された事案においては、相当程度の時間をかけて審理がされているものと承知しております。

 こういうふうに、この百五十一条に基づく審理の状況の説明は、子の返還事件の迅速処理を求めるものではありますけれども、事案に応じて必要かつ適切な期間をかけて審理するということに矛盾するものではないということでございます。

大口委員 次に、子の返還の代替執行についてお伺いしますけれども、やはり、法律でも子の心情に配慮した規定が設けられているわけであります。そういう点で、やはり今回、先般の本会議におきましても、代替執行においては、ソーシャルワーカー等の子の福祉に関する専門的知見を有する職員を立ち会わせる、これは法務大臣からそういう御答弁があったわけであります。

 そこで、最高裁にお伺いしたいんですけれども、やはり、子の心情に配慮した権限の行使が適切に行われるようにするためにまたソーシャルワーカー等が立ち会いをするということでありますと、執行官とソーシャルワーカーの連携ということも必要であります。そういう点で、子の返還の代替執行に対しての執行マニュアル、執行官提要というのを作成する必要があると思いますが、いかがでございましょうか。

 それが一点と、あと、法務大臣に対してお伺いしたいんですけれども、こういうふうに、ハーグ事案においての子の返還の代替執行についてはこういう規定があるわけであります。しかし、国内における子の引き渡し事案についてはこのような規定がない。民事執行法の動産執行の規定を類推適用して、執行官による子の引き渡しが実施、運用されているわけであります。

 そういう点で、国内事案についてはより適切な対応ができるよう、やはり立法も含めて検討していく必要があると思いますが、この点は法務大臣にお伺いしたいと思います。

 以上、二点お願いします。

永野最高裁判所長官代理者 お答えいたします。

 ただいま委員から御指摘のあったとおり、今回の法案における子の返還の執行手続においては、子の心情、福祉に十分に配慮するとの観点から、執行官の権限につきましても細やかな規定が設けられているところであります。

 したがいまして、法が成立した場合に、具体的な執行場面において法の趣旨、目的に沿った適切な運用が確保されるように、マニュアルを作成するなどして現場の執行官に周知徹底をしてまいりたいというふうに考えております。

谷垣国務大臣 今、最高裁からも御答弁がありましたけれども、国内の子の引き渡しの強制執行は、現行の実務では、まず間接強制の方法による。そのほかに、一定の場合には直接強制の方法によっているもの、こういう場合もあると承知しております。しかし、直接強制については、これを許容する執行実務においても、子供の人格の尊重等々の観点から、可能な限り子の利益に配慮して執行するということが行われているというふうに承知をしております。

 国内における子の引き渡しの強制執行については、明文の規定は今特別なものはないんですが、このハーグ条約の実施を契機として、必要か必要でないか、要否ですね、それからあり方、今後検討が必要となってくるというふうに考えております。

大口委員 最後に、この条約発効前に生じた子の連れ去り事案については適用されないということなのでありますけれども、面会交流については適用されているわけであります。ただ、外国の方が、あるいは日本の方でもそうですが、今連れ去られている方についても適用があると思い込んでおられる方もいらっしゃいます。そこら辺の広報と、条約発効前に生じた子の連れ去り事案についてどう対応していかれるのか、お伺いしたいと思います。

鈴木副大臣 周知についてでございますけれども、本条約を適切に実施していく上で、御指摘のような広報、これをしっかりやっていくということが大切であると思っております。

 そのような認識のもとで、本年一月には、外務省主催でハーグ条約公開シンポジウムを開催したところでございます。また、既に在外公館においてハーグ条約に関するパンフレットを配布いたしております。

 今後は、本省及び在外公館の外務省ホームページを通じた広報や説明会の開催などを初めといたしまして、関係省庁、地方公共団体、各種団体等とも協力しつつ、幅広く広報を行って周知を図ってまいりたいと思っております。

大口委員 あと、面会交流における子の連れ去りの防止についてもお伺いしたいと思います。

石田委員長 時間が参っておりますので、簡潔にお願いいたします。

鈴木副大臣 例えば、現在、具体的には、子が連れ去られた国の現行制度の活用の推奨、それから、在外公館の領事が連れ去られた子と親にかわって面会する領事面会を外務省として支援すること、それから、情報を共有することを目的とする二国間の連絡協議会を通じた対応等を行っているところであります。

大口委員 どうもありがとうございました。以上で終わります。

石田委員長 次に、宮崎政久君。

宮崎(政)委員 自由民主党の宮崎政久です。沖縄県第二選挙区、沖縄の地からやってまいりました。

 本日は、貴重な質問のお時間を与えていただきました各会派の理事の皆様に、まず御礼を申し上げます。

 今回は、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律案の質疑でございます。

 私自身、平成七年から十七年ほど、沖縄で弁護士をさせていただいております。沖縄には、日本の矛盾と、そしてこの国とアジアの将来に向けての大きな可能性がぎゅっと凝縮して存在をしております。今回のハーグ条約の締結に当たっての法案質疑に当たりましても、この国の大きな方向性と、あともう一つ、地域に住む一人一人の国民からの目線、こういうものを加味して本日は質問させていただきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いを申し上げます。

 さて、この法案の趣旨、もう皆様御承知のとおり、近年、国際結婚する日本人の増加を背景にして、国際結婚が破綻をした夫婦の間で、一方の親が子供を母国に連れ去る、連れ帰ることがトラブルとなるということがふえており、これを国際的に解決するルールに我が国としても加盟するべきであるということで、ハーグ条約の締結に向けた審議が現在進んでおるところです。

 もう既に御承知のとおり、アメリカから子供を連れて帰ったお母さんが、FBIから誘拐犯として国際指名手配をされるという事案がある。逆に、日本から海外に子供を連れ去られても取り返すことがうまくできなくて、泣き寝入りになってしまっているなんというケースもある。また、日本人のお母さんが日本に子供を連れて帰って、今度は、これを来日して取り戻そうとした外国人の方が刑事事件として取り扱われる、こんな事案も発生しておるわけであります。

 国際結婚が破綻した際に、夫と妻、そしてその子供をどのように処すべきかということは、多くの国が参画をする国際的ルールにのっとって処理をするのが私はやはり望ましいと考えております。現在、ハーグ条約、八十九カ国が加盟して、G8諸国の中でも我が国だけがここに加盟をしていない。紛争解決のルールを明確にして、いたずらに子供に負担をかけないような状況にしていくという意味でも、この法案については、私は前向きな立場からぜひ議論をさせていただきたいと考えております。

 そこで、まず冒頭に外務省にお伺いをしたいのですが、まず、この条約締結の意義を国民の皆さんにしっかりと御説明いただくことが重要だと思っております。条約を締結することで、国家をまたいだ子供の返還や面会交流などがどうなるのか、こういうことについて不安を抱いている国民の皆さん、また国際結婚の当事者、御親族の皆さん、多くいらっしゃると思います。まず、こういうことも念頭に、冒頭御説明いただければと思っております。

あべ大臣政務官 宮崎委員からの質問にお答えいたします。

 沖縄で弁護士活動をずっとされていた中、さまざまな事例を見ていらした宮崎委員からの御質問にお答えをいたします。

 我が国のハーグ条約締結の意義におきましては、具体的には幾つかあるんだと私ども思っております。

 その中の一つが、まず、子の不法な連れ去りが発生した際の返還のためのルールが明確になる。国際的な標準条約に従って問題の解決が図られるようになるほか、その国際的なルールを前提として海外で生活している日本人が実際に受けている制約などを回避することができる。また、二点目になりますが、さらなる子の連れ去り事案の未然防止の効果が期待できるだろう。また、最後に、国境を越えて所在する親子の面会交流の機会の確保が期待できるというふうに考えております。

 また、国境を越えた不法な子の連れ去りによる一番の被害者は、子供たち自身であります。子供の利益を保護するという見地からも、国際的なルールにのっとって問題に対応できるように同条約の早期締結を実現することが、我が国にとって極めて重要だというふうに思っております。

 本条約を締結しない状態が継続することは、我が国の国民にとって大きな不利益であるとともに、国際社会における我が国の姿勢も問われかねないと言われているところでございます。我が国国民も当事者となっている子の不法な連れ去り問題に待ったなしで私どもが取り組んでいくために、条約の早期締結が極めて重要だと考えております。

宮崎(政)委員 ありがとうございます。

 今政務官からも御指摘がございましたとおり、子供の利益、福祉、いかにこれを確保していくかということが、実施法案の制定に向けて重要なことであることは間違いありません。

 一方、慎重派と言われる、この条約に関して慎重な意見を述べられる方々の中では、我が国の国民、国益をしっかり守っていけるのかということに対する疑念をお持ちの方もいらっしゃるわけです。国内にいる我が国民、日本人に限らず、外国にいる在外邦人の皆さんを、どう守り、どう支援をしていくのか。

 条約でありますので、相互主義ということになるわけでありますけれども、ややもすれば、相手国の司法の場において、我が国の国民の利益が十分に守られない懸念があるんじゃないか、人種的な差別を受けたりすることがあるんじゃないか、いろいろな懸念がそこにあって慎重な意見を述べられる方もいらっしゃるわけであります。

 条約締結の後に、公平性の担保を含めて、我が国国民、国内にいる、在外である、いずれを問わず、自国民の権利利益の保護に対してどのようなお考えでいるか、外務省の見解を伺いたいと思います。

あべ大臣政務官 宮崎委員の質問にお答えいたします。

 ハーグ条約を締結することが本当に国益にかなうのか、さまざま議論もございましたところでございますが、ハーグ条約、子の利益が最重要であるとの認識に基づいて、国際的な子の連れ去りなどの問題を解決するために作成され、今や国際的ルールとして確立しているところでございます。米国また欧州各国から我が国に対し、ハーグ条約の早期締結に向けて要請がされていることは事実でございます。

 しかしながら、日本人の国際結婚及び国際離婚が増加するに伴って、外国から我が国に不法に子を連れ去った事例のみならず、実は、我が国から外国に不法に子が連れ去られた事例も多く見られるようになっております。特に、実態調査におきまして、外務省の平成二十二年の五月から十一月の調査でございますが、日本へ子を連れ帰った事案が十八件であるのに対し、日本から子を連れ去られた事案が十九件あるわけでございます。

 このように、我が国国民が当事者となっている子の不法な連れ去り問題に待ったなしで取り組む観点から、ハーグ条約の早期締結は国益にかなうものと考えております。

宮崎(政)委員 ありがとうございました。

 それでは、この法律の各論で少し議論をさせていただければと思っております。

 私は沖縄で弁護士の活動をしてまいりました。そこでの経験も踏まえてぜひ御指摘を申し上げたいところは、まず、裁判管轄の集中の件でございます。本法案においては、東京家庭裁判所と大阪家庭裁判所に裁判管轄が集中されております。

 お手元に実は資料を配付させていただいております。下にページ番号で一と二と表裏で書いております。これは、国際結婚、夫婦の一方が外国人である件数、割合について示しておるものでありますが、全国で総婚姻件数に占める国際結婚の割合は三・九%であるところ、沖縄県の場合は四・七%と相対的に高くなっておるんです。そして、これを見てみると、妻が日本人で夫が米国人である国際結婚の割合というのは、実に全国の二〇・一%が沖縄にあるわけです。

 これは、もう既に御承知のとおり、沖縄に在日米軍基地が多数存在していることが起因しております。防衛省の発表で、昨年の三月三十一日現在、在日米軍人など約十万三千人おられるわけでありますが、そのうちの約半数の五万人の方が沖縄県で居住をされておられます。

 そうなりますと、裏に行きまして、国際結婚から生まれてくる子供さんの数でありますが、全国で、父親が外国人で母親が日本人の九千三百八十九人のお子さんの出生の中で、父が米国人、母が日本人の割合は、ちょっと書いていないんですが、これは約一七%になります。沖縄県の場合は、外国人の父と日本人の母から生まれた出生数三百六十九人のお子さんの中から、父親が米国人の方であるケースは三百十一件、つまり八四・二%がこういう国際結婚カップルから生まれております。事ほどさように、沖縄では、日常生活の中でも、国際結婚、そこから子供さんが生まれているというのは余り珍しくない、普通にあるというような実情もあります。

 こういう数字から見ましても、条約締結の暁には、ハーグ条約に基づく子の返還の申し立て事件が沖縄県民である日本国民を対象として一定数は提起されるであろうということは、統計学的に見ても明らかであると私は考えております。

 こういう趣旨から、那覇家裁にも管轄があるべきだというのが従前から主張している点でございますが、まず、今回の法案、東京、大阪にのみ管轄を集中させている、この理由についてお尋ねをしたいと思います。

谷垣国務大臣 沖縄から颯爽と当選されてこられた宮崎委員とこういう形で議論ができますこと、大変うれしく思っております。

 それで、今、管轄のお話ですね。こういうふうに東京家裁と大阪家裁に集中した理由は、これは全く新しい類型の判断をしなきゃならない、そこで、これを適切かつ迅速に処理していくためには、事件処理にかかわる裁判所が、事例の集積を通じて専門的知見やノウハウを獲得、蓄積していく必要があるということがまずございます。

 このことに加えまして、今、沖縄の国際結婚の状況を数字でお示しになりましたが、子の返還申し立て事件の事件数、これは全国で年間数十件程度であるというふうに見込んでおります。我が国の渉外婚姻関係事件全体の七割以上が東京高等裁判所管内それから大阪高等裁判所管内の事件で占められている実情、これは平成二十二年の数字でございますが、こういったことを踏まえて、東京家裁それから大阪家裁、この二庁に管轄裁判所を集中させることとしたというのが組み立てでございます。

宮崎(政)委員 ありがとうございます。

 確かに、裁判所における事例の集積、専門的知見の集積という意味では、管轄集中というのは意義があると思います。

 しかしながら、例えば、先ほどのような数値、実際の国際結婚の数、そこから生まれてくるお子さんの数に対する配慮があるべきじゃないか。あと、例えば沖縄の場合は、中央当局と管轄裁判所の連携ということを考えてみましても、例えば、アメリカの中央当局である国務省に統括されている米国総領事館というのもありますし、我が国では中央当局は外務大臣、外務省ということになるわけでありますが、外務省の沖縄事務所もそこに所在しているということで、この連携の強化という意味でも支障がないという側面もあります。

 要するに、日本国において引き渡し事件が起きたときには、私の念頭に今置かれているのは、子供を連れて、からがら帰ってきた日本国民である沖縄県民の女性と米国人の男性との間で、アメリカの方から起こされるという案件のときに、相手方となる日本人の出頭の負担などもありますが、実は、申立人の出頭の負担ということを考えてみても、以前、駐留をしていたその沖縄の地で訴訟手続が行われる、そして、そこには在日米軍があって、そこで一定の助力が得られるという意味では、ある意味、その負担を軽減させるという意味もあるのではないかと思ってはおります。

 このような事情もあり、管轄集中を別途の形で何らかの配慮がいただけないのかどうなのか、この辺、ちょっと大臣の御所見をもう一度いただきたいと思っております。

谷垣国務大臣 今御指摘のように、大阪と東京に集中させることにはしております。しかし、私も、委員のお考えと同じように、子の返還申し立て事件の当事者が遠隔地に所在するということを理由にして不利益をこうむるようなことがあってはならない、これはできる限りの配慮をすることが重要だと思っております。

 そして、この法律案では、遠隔地に所在する当事者に配慮した裁判手続と運用が可能となるような規律も設けておりますので、そういったことも活用しながら、遠隔地に住む方々あるいは遠隔地を便宜とする方々に支障が生じないような運用というのは、これは力を込めて取り組む必要があると思っております。

宮崎(政)委員 ありがとうございます。

 今御指摘がありました遠隔地当事者への配慮、法制度上どのようになっているか、お伺いしたいと思います。

 つまり、沖縄県民の場合であると管轄は大阪家裁ということになるわけであります。沖縄の当事者が大阪に出向くということになれば、御自身の出頭も大変だ、代理人を頼んだとしても、当然、代理人の費用だってその当事者の方の費用負担になるわけであります。こういう金銭的な負担もあるというところから、遠隔地に所在する方の裁判を受ける権利をしっかりと確保するという意味で法制度上どのような配慮がされているか、御説明いただければと思います。

深山政府参考人 遠隔地に所在している当事者に対する配慮ということですけれども、子供の返還申し立て事件は、もともと、普通の民事訴訟のように何度も出頭を求める手続ではないというのは御案内のとおりですが、事案によって、書面のやりとり、あるいは、電話会議システムやテレビ会議システムというようなものが今全国に整備されておりますので、こういったシステムを活用することによって、最寄りの裁判所にお出かけになって、例えば那覇の裁判所にお出かけになって、大阪とは電話あるいはテレビ会議で、出頭しないで手続を進行させるというようなこともできますし、そうやって十分に議論を煮詰めた上で最終的な当事者の審問等を行うということで、毎回毎回出頭するという負担を避けるような配慮をしているところでございます。

宮崎(政)委員 ありがとうございます。

 テレビ会議システム、電話会議システム、こういう機器を使ったものは十分配慮に値すると思っております。

 ただ、もう一つ配慮いただきたいのは、その事件当事者になっている皆さんの心情なんですね。つまり、子の引き渡し返還事件の当事者になっているということは、外国から子供さんを連れて日本に戻ってきた、そして、外国から引き渡しの申し立て事件が起こされて、今、司法手続の場に上っているという状況で、最終の判断を司法の場でしてもらうというときに、先ほどの例で言えば、沖縄のお母さんがどんな思いでいるか。やはり判断をしてもらうときには、判断をする人、裁判官に直接話を聞いてもらいたいと思うと思うんですね。

 これは、一般の民事事件における、例えば離婚案件、親権をめぐる案件、これでも同じであります。やはり当事者の方が、通常民事事件と同じように、電話会議などで争点整理をして、例えば尋問なども画面を通じてやってもある程度ロジックの世界で納得ができるという案件とはやはり違うんですね。心の問題、その当事者となっている父親、母親、大人の人生の問題でもあり、また、子供さんの人生そのものの問題であるんです。

 ですから、私は、実は通常の民事訴訟であるとか家事事件で行われている出張尋問というのがしっかりと行われるべきじゃないかというふうに考えているんです。

 例えば、この法案の中でも、二十八条の一項四号では、返還拒否事由を判断するに当たって、「常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。」と定めておられるわけですね。これは返還された後のことであって、かつ、子供の状況が耐えがたいものか否かを判断するに具体的な事情が要件事実となって、評価根拠事実となって審理の対象となるわけです。やはり、そこでしっかりと判断の主体である裁判官に直接訴えたい。当事者の手続的な保障という意味でも、出張尋問というのは非常に重要だというふうに考えております。

 雑駁に言って、やはり裁判官さんに直接聞いてほしいんだと思うんですよね。これは、家事事件の場合には裁判官さんに直接聞いてほしい。そういう状況にある当事者への配慮という意味でも、この出張尋問の可否についてはどのようになっているか、御説明いただけますでしょうか。

    〔委員長退席、若宮委員長代理着席〕

深山政府参考人 子供の返還申し立て事件におきましては、事件を担当する家庭裁判所が、事実の調査として、審問の期日を開いて当事者の陳述を聞くことができるとされております。この事実の調査として行う審問は、特に決まった方式はございませんので、裁判所外で行うことも可能ですし、事件を担当する大阪家庭裁判所以外の裁判所で行うことも可能となっております。

 したがいまして、相手方が沖縄に所在するという御指摘のような事案において、大阪家庭裁判所の担当裁判官がその必要があると判断した場合には、沖縄に赴いて直接当事者の話を聞くことは制度上可能となっております。

宮崎(政)委員 ありがとうございます。

 ここで問題は、費用負担の問題だと思っております。つまり、当事者が訴訟費用だということで費用負担しなければいけないということになると、例えば裁判官一名ないし複数名と書記官の方が大阪家裁から那覇家裁の方まで出張してくるということになると、往復の航空券と、当然三十分、一時間ですぐ終わるような案件ではないでしょうから、宿泊を要するという事案も十分考えられるわけでありまして、仮に、少なく見積もってお一人七万円ぐらいかかるとしても、裁判官一名、書記官一名来るとしても十四、五万円かかる、裁判官が複数名来るとなれば二十万円を超えるような費用がかかるということも考えられるわけであります。

 これは相当な金額となって、そうそう当事者の皆さんが負担できるわけではないと思われるわけですが、この費用負担の関係はどのように定められておりますでしょうか。

深山政府参考人 子供の返還申し立て事件におきましては、家庭裁判所が裁判所外で事実の調査として審問する場合に発生する裁判官あるいは裁判所書記官の旅費や宿泊料につきましては、当事者が負担すべき手続費用には当たらないとされておりますので、これらの費用については当事者は負担する必要がございません。

宮崎(政)委員 ありがとうございます。

 次に、裁判所での個別の案件の処理に、当然これは個別案件の事案になるわけでありますけれども、遠隔地の日本国民の当事者が不利益にならないよう、当事者が希望する場合には、今のような事実の調査として出張尋問をしっかりと運用してもらいたい、このように考えておるわけでありますが、この実際の運用をしっかりとできるのか、裁判所において周知などしていただけるのか、この辺、最高裁の見解を伺いたいと思います。

豊澤最高裁判所長官代理者 当事者の陳述を聞くという審問の手続を当該の当事者が居住する地の裁判所で行うかどうか、この点につきましては、当事者の生活状況や意向、審理上の必要性の程度等の諸般の事情を考慮して判断されていくものと思われます。

 委員御指摘のとおり、個別事件におけるこの点に関する判断は、あくまでも当該の裁判体がその事件におけるさまざまな事情を総合的に考慮して行うということになりますので、その点につきましては御理解をいただきたいと思います。

 なお、周知の点についてもお話がございました。

 最高裁判所におきましては、これまでも、法案が成立した場合には、必要に応じて、立法の経緯や趣旨を周知するよう努めてまいったところでございます。

 今回のハーグ条約の実施法につきましても、成立の暁には、公布された法律の内容についてはもとより、立法の経緯につきましても、国会における審議の内容がわかるようなものを添付するなどして、周知を図ってまいりたいというふうに考えております。

宮崎(政)委員 ちょっと今の点をもう一回確認したいんですけれども、この立法の経緯の中で今回このようなやりとりをさせていただいている、遠隔地の当事者の裁判を受ける権利を十分に配慮するために出張の形式による事実の調査をしていってほしい、こういうやりとりがあった、こういう具体的なことについてしっかりと周知を図っていただきたいと思っておりますが、いかがでしょうか。

豊澤最高裁判所長官代理者 先ほども申し上げましたが、国会における審議でどのような議論がなされたか、そういった点につきましても周知を図ってまいりたいというふうに考えております。

宮崎(政)委員 ありがとうございました。

 この管轄の件、これで終えたいと思いますが、私の敬愛する谷垣法務大臣に御所見を賜りたいと思っておるんです。

 実は、このやりとりをさせていただいたのは、資料も出したように、やはり沖縄県民、基地の過重な負担の解消を今政府を挙げて取り組んでいただいておりますが、実際、その過重な基地負担のもとに、日本の国を守るために、日米地位協定に基づいて、先ほど申し上げたように五万人からの米軍人等の皆さんが沖縄に居住をしていただいている。その反映というんでしょうか、これは悪いという意味ではありません、いろいろな意味で、ですから冒頭申し上げたように、沖縄にある日本の難しい問題と将来に向けての可能性と、ぎゅっと凝縮した形であることがここに一つ反映していると言わざるを得ないんですね。

 ですから、この遠隔地当事者の裁判を受ける権利を十分に保障してもらいたい。所得の低い沖縄で、先ほど申したように、遠隔地まで、裁判官さんに聞いてもらいたいという思いの中で、大阪まで赴くのがなかなか難しい方もたくさんいることは、私の経験上も容易に想像できます。今後、この辺にしっかりと配慮をされた運用をしてもらいたい、こんな思いでおります。

 谷垣大臣の御所見を賜りたいと思っております。

    〔若宮委員長代理退席、委員長着席〕

谷垣国務大臣 今、宮崎委員がおっしゃるように、沖縄の今までの歴史、そういったものを踏まえて、いろいろ今御指摘のような状況があるんだろうと思います。そして、そのことが、いろいろな意味での沖縄の重荷でもある面もあるし、それから、将来の希望もぐっと凝縮したものであるという表現をお使いになりましたが、こういう国際結婚がこれだけ多いということは、今までの日本から見ればかなり例外的かもしれませんが、また一つの新しい日本の面でもあると私は思うんですね。

 沖縄から当選されてこられた宮崎委員が今のような御主張をされるのは、私はよくわかります。遠隔地の権利、これをしっかり守るように、これからの運用にも、私、できることは全力でやらなければいけないと思っております。

宮崎(政)委員 ありがとうございました。大変心強いお言葉をいただきました。

 それでは、次の問題に移らせていただきたいと思います。返還拒否事由に関して質問をさせていただきたいと思っております。

 多くの、この法案に対して慎重に考えている方が心配をしているのは、要は、夫によるDVからやむを得ず子供を連れ帰って、逃げ帰ってきたというような場合に、ハーグ条約に加盟することで子供を夫のもとに連れ戻さないといけないことになるんじゃないか、返還原則だというような言葉だけが耳に聞こえてきて、連れ戻されてしまうんじゃないかということに対する危惧感が国際結婚の当事者の方の間には非常に多いと思います。

 夫から妻に対するDVであっても、そういう環境で育つ子供の心身に対する影響は大きいというわけでありまして、この法案を審議するに当たっても、子供の利益、福祉というものを最大限配慮すべきという前提に立ってみても、この夫婦間暴力の問題というのも見過ごせない問題であります。

 子供への暴力ではなくて、夫婦間暴力の場合に子供の返還が生じるような事案になった場合、法案上はどういうふうに規定されているか、まず御説明いただければと思います。

谷垣国務大臣 夫婦間の暴力でやむを得ず子を連れ帰ったというような案件は十分想定されるところですね。それで、これについてはどう判断していくか。この法律案の第二十八条第一項四号に、返還拒否事由の一つとして、「常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。」こういうふうに決められております子の返還事由、この判断において今のようなことが考慮されるわけです。

 ただ、まことにこの第一項四号の規定は抽象的でございまして、その判断で、いかなる事情、これだけではやはりわかりかねるところがある、明確ではないところがある。そこで、第二項で、その考慮事情のうち重要なものを例示しているわけですね。

 そして、配偶者間における暴力の存在は、例えば、配偶者から暴力を受けた親が子供と一緒に常居所地国に戻ると、配偶者から再度暴力を受けて子の心身に悪影響を及ぼすことが推認されるような場合には、第二十八条第二項第二号の、「相手方及び子が常居所地国に入国した場合に相手方が申立人から子に心理的外傷を与えることとなる暴力等を受けるおそれ」がある場合というのにこれは該当し得ると思います。

 それから、常居所地国には適切に子を監護する者がいないにもかかわらず、配偶者から暴力を受けた親が、過去の被害体験の恐怖から、子と一緒に常居所地国に戻ることができないような精神的状況にある場合に関しては、第二項第三号の、「相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情」、これに該当し得るというふうに考えます。

 具体的事案において、こういった考慮事情、それからその他の事情を総合勘案して、子を耐えがたい状況に置くこととなる重大な危険があると判断された場合には、裁判所は子の返還を命じないこととなるというふうに考えております。

宮崎(政)委員 ありがとうございます。

 実際に子の引き渡しの裁判の場面を想定いたしますと、当然これは、子供さんと一緒に我が国に帰ってきているというような状況で裁判になるわけであります。夫婦間暴力があったということを立証したいというような相手方、当事者になった方がこの立証の資料をどうやって収集していくのか。まさかその国に戻ってとってくるということもできないような状況であるわけであります。

 特にDV被害を受けたような場合で、例えば、病院の診断書をとってくる、相談をしたような記録を取り寄せてくる、こういうことに関して在外公館の助力というのが不可欠であるかと思いますが、外務省、この点についてどのような手当てをしているか、お聞かせください。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 今委員からも御指摘ございましたとおり、日本において返還の有無を判断する裁判がある場合、特に当事者でおられる日本人の方が、自分が外国にいたときのいろいろの事情について証拠を集めることに困難があるということは十分あり得ることだと思います。

 そういう前提で、条約そして実施法の枠組みの中で、裁判所の方から要請があった場合は、中央当局、日本の場合、外務省でございますが、その中央当局が各国、例えば相手国の中央当局と連絡調整を行って必要な情報を得るように要求するという仕組みがありまして、これを使いまして、なるべく情報が得られるように努力したいと思っております。

宮崎(政)委員 ありがとうございます。

 次に、子供の意思をどのように反映するのかという点についてお聞きをしたいと思います。

 これは、国内事案での離婚であるとか親権をめぐる調停、家事審判手続などでもそうでありますが、子供の一定の年齢、判断能力、発達の程度に応じて、その意見を聴取する場合がございます。例えば人事訴訟法三十二条四項であるとか家事事件手続法の六十五条などにも、そういう規定もございます。

 まず、国際的な子の引き渡しに関連する裁判の手続において、子の意思をこの手続の中でどうやって反映させていくのか、制度上どうなっているのか、御説明をお願いいたします。

深山政府参考人 この法律案では、返還拒否事由の一つとして、子が常居所地国に返還されることを拒んでいるというものを挙げております。これは端的に、子供の意思を直接尊重しよう、考慮しようというものだと思います。

 また、手続過程においても、裁判所は、子の陳述の聴取等により子の意思を把握するように努め、終局決定をする際には子の年齢及び発達の程度に応じてその意思を考慮しなければならないという規定も置いております。

 さらに、子の返還を命ずる裁判がされた場合に、子供そのものにも即時抗告権を認めるというような形で、子の返還の裁判に子の意思が反映されるよう配慮しているところでございます。

宮崎(政)委員 返還拒否事由の判断をするに当たって、子供の意思を確認していく。例えば、具体的な手続の中で、もちろん幼年であればそれは判断が難しいでしょうけれども、一定の判断能力がある年齢になったとしても、やはりそれは子供でありますので、その聴取等が子供の健全な発育に対して影響を与えるということは十分に考えられるわけでありまして、この点、聴取の仕方などについてどのような配慮が制度上されるのか、手続上、運用上されるのか。この点について、今用意されているものについて御説明いただければと思います。

深山政府参考人 子供の返還申し立て事件は、御案内のとおり、子供に関する紛争、家族に関する紛争を専門的に扱う家庭裁判所で行われます。

 家庭裁判所には、心理学等の専門知識を持った調査官がいますし、調査官を活用することによって、子に心理的な負担をかけない形で事情を聞くというようなことも可能になっていますし、そもそも、一般の民事事件をやる地方裁判所と違って、家族問題の専門の裁判所でございますので、審理のさまざまな場面で子供の利益を尊重した運用ができるということは、国内の子供をめぐる紛争を担当している今までの実績から考えても問題はないのではないかと思っております。

宮崎(政)委員 ありがとうございます。

 特に子供への配慮が一番求められるのは、強制執行に関する場面であることは間違いないわけであります。子の引き渡しに関する決定がなされて、執行という段階になったときに、その執行手続の中で、子の福祉という観点が最も求められる最大の場面がやってくると思います。

 当然、執行官、裁判所職員だけでなく、それにかかわるソーシャルワーカー等との連携が既に明らかにされておりますけれども、この点について、まず、法整備上、現行どうなっているのか。現行の国内法との関係で、何か新たにこれを定めていく必要があるのか。運用がしっかりと行われなければいけないという点から考えて、強制執行に関して、子の福祉という観点から配慮されているものの法整備はどういうふうに進んでいるのか、この点の御説明をいただきたいと思っております。

深山政府参考人 今御指摘があったとおり、一般の国内事案については、子供の引き渡しについての強制執行について特別な規定は置かれておりませんが、本法律案では、子供の返還の強制執行について詳細な規定を置いております。

 まず、強制執行の方法として、間接強制と代替執行、二つの方法を用意しておりますが、間接強制は、御案内のとおり、返還を命ぜられた者に、返還義務を履行するまで、一定の期間、一定額の金銭の支払いを求めることによって、心理的に強制する。代替執行は、裁判所が、返還を命ぜられた者にかわって返還を実施する人を選んで、その人に返還を実施させる。こういう方法でございますが、子供に対する利益を尊重するということから、より子供の心理的影響が少ない間接強制を前置するということにして、それでもどうしても返還していただけない場合に代替執行の方に行くということになっておりますし、代替執行で執行官が子供のいるところに赴くという場合においても、子供に直接威力、有形力を行使することは、法律上禁止しております。

 また、子供以外の、例えばそこにいる親御さんであっても、子供に悪影響を及ぼすような態様での威力の行使も禁止して、なるべく子供に悪影響が及ばない形で強制執行を実現しようというようなルールを設けております。

宮崎(政)委員 ありがとうございます。

 子の引き渡しの決定が出て、子供が返還というようになってしまった後でありますけれども、その後、当然、常居所地国において親権等をめぐる裁判が起きるわけであります。そこで、在外公館等がいかなる支援をすることができるのかということについての御説明をいただきたいというふうに思います。

 つまり、かの地において裁判に臨まないといけないという日本国民がそこにおるわけであります。つらい状況にある日本人をいかに支援していくのか。金銭的な支援が難しいとしましても、例えば、現地における法テラスのような機関を紹介していくなど、次のステージに移った場合においても在外公館の役割は非常に大きいと思うわけでありますが、そこに対する備えなどはどのようになっているか、外務省の見解をお伺いしたいと思います。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 今まさに先生御指摘のとおりでございまして、現在、海外での訴訟費用や弁護士費用につきまして、日本の政府が直接支援する制度はございません。

 したがって、現地で困難に直面している邦人の方々、法律の相談も含めてございましたときには、在外公館の方で、まさに、その国の無料法律相談あるいは公的な司法支援制度、保護、救済、裁判に関する制度を御説明するのみならず、大使館あるいは総領事館の方で、弁護士、福祉専門家、シェルター、通訳の紹介を行うなど、解決に向けた支援を行っております。

 具体的な例でございますが、特に、今回話題に上っていますハーグ条約、家庭、家族、離婚等の問題をめぐりましては、ニューヨークの日本総領事館では、ニューヨークのアジア人女性センターという団体に総領事館の方から業務委託をいたしまして、DVの被害とか離婚、子の親権問題等で悩んでいる邦人女性のための相談窓口、これは日本語で相談ができるようにしております。また、同様なシステムで、ロサンゼルスにある日本の総領事館の方からロスのリトル東京サービスセンターというところにも最近業務委託を開始したところでございます。

 こういった形で、まさに御指摘ありましたように、その国々のまさに法テラスのような司法支援制度、それをうまく邦人の方が使えるように、大使館、総領事館としてさらに支援をしていきたいと考えております。

宮崎(政)委員 最後ですが、中央当局となるハーグ条約室の今後の果たすべき役割についてお伺いをしたいと思います。

 外務省がこれまでやってきたいわゆる本来業務とは異なるさまざまな業務を担わないといけない。そうなってくると、このハーグ条約室の要員の手配、人的な措置、どのような対策がとられているのか。国民の保護という観点からも重要だと思っております。この点、御説明いただければと思います。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 まさに今委員から御指摘ございましたとおり、中央当局、外務省にとって初めてでございますし、まさに、国際間の子供の連れ去りにかかわる問題という現実の問題を扱うことになるわけでございます。そういうこともございまして、これは、外務省のみならず、政府を挙げてといいますか、各省あるいは民間、いろいろな方々の御協力を得てやる必要があると思います。

 具体的には、まず外務省、そして法務省からも人材を適切に配置させていただきまして、さらには、ソーシャルワーカーあるいは弁護士といったいろいろな分野からの専門家の方を中央当局の職員として採用させていただきまして対応したいと思っております。

 とりあえず全体として発足当初は十名程度の体制で取り組む考えでございますが、これは、実際、業務といいますか事務が生じたのを見て、必要に応じてまた体制を考えていく必要があると考えております。

宮崎(政)委員 ありがとうございました。

 遠隔地の当事者も含めて、日本国民の国益をしっかりと守る、こういう姿勢でハーグ条約及びこの法案の審議が進みまして、速やかな法案成立に向けて努力をしてまいりたいと思っております。

 本日は、ありがとうございました。

石田委員長 次に、小田原潔君。

小田原委員 自民党の小田原潔でございます。

 本日は、質問の機会を頂戴いたしまして、まことにありがとうございます。

 私の選挙区には横田基地があります。立川市、昭島市、日野市であります。

 私ごとですが、私も、アメリカ合衆国本土で基地の近くで幼少時代を過ごしました。一九七四年から七五年のことであります。ひげの隊長でおなじみの佐藤正久防衛大臣政務官の留学先でもあった米国の陸軍指揮幕僚大学というのがございます。カンザス州のレブンワース郡というところでありましたが、そこの現地の小学校に通っておりました。NATO諸国の軍人さんのお子さんたちが三十人ぐらい、実に国際色の豊かな地域でありました。日本人は、私と妹だけでありました。

 したがいまして、日本人が恋しくなり、家族ぐるみでおつき合いをした御家庭がありました。そこは、米国の軍人さんと日本人の奥様の一家でございます。奥様は御主人をしっかりと支え、大変幸せな一家でいらっしゃいました。成人してから、一度、再会を果たしました。そのときも、大変温かい家庭で迎えてくれました。

 本日、ハーグ条約について質問をするというのは、何となくやるせなく、隔世の感がいたします。

 宮崎政久先生が詳細について御質問をされました。それは、夫婦間の状況を病気に例えれば、重症患者の手当ての手法、マニュアル等々についての質問のようなものではなかったかと思います。私は、どちらかというと予防医学に興味がありまして、きょうの質問は、どちらかというとそういった格好になるかと思いますが、どうか御容赦いただければと思います。

 まず、確認をさせていただきたいと思います。

 この法を通す本当の目的というのは、ハーグ条約に加盟しないと我が国が野蛮な国だと思われる。これは、御説明をいただいた資料のしょっぱなにも、ハーグ条約は一九八〇年に採択され、八三年に発効している、もう三十年たっている、しかも、G8の諸国中、日本のみが未締結。これをアピールするということは、先進国でこれに入っていないと恥ずかしいという口調が見え隠れするのではないかと思います。私は結構だと思います。英語教育と同等に並べていいかどうかはわかりませんが、我が国が国際ルールを理解している国だと証明することは国益に資すると思います。

 まず、実務の御担当にお伺いしたいと思います。

 この法で理念として守るのは何なのか、個別の親と子なのか、これを教えてください。

深山政府参考人 ハーグ条約は、国際的な子の不法な連れ去りや留置があった場合に、子の監護に関する事項はもともと子が居住していた常居所地国において取り決めるのが子供の利益の観点から望ましい、こういう考え方に立っているものでございます。

 この法律案も、そのハーグ条約の実施法でございますから、この法律案の最終的な目的も、子の利益を図ることにございます。

 そのために、第一条の目的規定において、「子の利益に資することを目的とする。」と規定をしておりますほか、子の返還申し立て事件の手続が子の利益に配慮したものとなるようさまざまな規定を置いておりまして、委員御指摘のとおり、国際ルールとして確立しているというのはそのとおりではございますが、内実としての理念あるいは守るべき究極の価値は、子の利益ということだと思います。

小田原委員 では、この法で守ろうとする対象者はどれぐらいの人数を想定していらっしゃるのか。また、そのことでかかるコストというのはどれぐらいかかるという見込みをお持ちなのか。さらには、その対象になり得る方々は、我が国の地域別にはどういった分散を把握していらっしゃるのか、教えてください。

深山政府参考人 この法律が施行されたときの子の返還申し立て事件、つまり、他の条約締約国から我が国に連れ出された子の返還を申し立てる事件の数を予測するというのはなかなか困難でございます。

 ただ、これまで諸外国から指摘されている連れ去りの件数や諸外国における事件数などを踏まえると、年間数十件程度になるのではないかと考えております。そうしますと、数十組の当事者、夫婦とそのお子さんが、この手続の対象者ということになります。

 それから、お尋ねのあった対象者の所在別、地域別の話ですけれども、これも現段階で確たる予測をするのはなかなか難しいんですけれども、我が国の渉外的な婚姻関係事件、これは、少なくとも夫婦のどちらかが外国人で、家庭裁判所に婚姻関係の紛争として持ち込まれた件数でございますが、その全体の七割以上が東京高等裁判所管内及び大阪高等裁判所管内の事件で占められている実情にございます。したがって、こういったことに照らすと、東京、大阪といった都市圏に住む対象者の方が、数としては、あるいは割合としては多くなるんだろうというふうに思います。

 また、最後に、この法律案の施行に伴って生ずるコストですけれども、コストについては、ちょっと現段階で具体的に述べることは困難でございます。少なくとも法務省については難しいという状況にございます。

新美政府参考人 今、法務省の方から主として裁判所、裁判手続の方に係る件数あるいは費用の問題がございましたが、外務省の方からは、外務省が中央当局を務めることになりますので、そして、まず一義的には中央当局が守ろうとしている方々から御相談を受ける立場にあるので、お答えしたいと思います。

 もちろん、条約はまだ御承認いただいておりませんので、それが実際、発効してから何件ぐらい申請件数があるのか、つまり、何人の方が御相談に来るのかは、現時点では推測の域は出ないわけでございますけれども、いろいろな各種の調査結果あるいは過去の統計等を踏まえまして、一定の仮定に基づいて、あえての推計でございますけれども、日本が条約に入りました場合、我が国の中央当局に対する援助の申請は、返還そして面会交流、二つあるわけですが、合わせて大体月数十件ぐらいはあるのではないかというふうに推測しております。もちろん、これは推測でございます。

 そして、費用でございますが、これももちろん推測は困難なわけですが、中央当局を担当いたしますことになる外務省といたしましては、平成二十五年度の予算案におきまして、ハーグ条約締結の関連経費といたしまして、例えば中央当局の関連経費、在外公館における相談の対応、支援体制の強化、研修に対する経費、周知広報のためのセミナー関連の経費、あるいは締約国との協議のための経費等々、約一億三千五百万円を計上しているところでございます。

小田原委員 ありがとうございます。

 返還拒否事由についての御説明の中で、子の面前で申立人が相手方に暴力を振るう場合ですとか、申立人がアルコール依存症であることとか、こういった例示を挙げながらこの法を議論するということを考えると、どちらかといえば、これは対象者が日本人の女性であるというのをかなり念頭に置いたものではないかというふうに私は感じます。そうしますと、先ほどの宮崎先生の主張どおり、私も、沖縄の家裁でも同様の裁判が受けられる方が望ましいのではないかなというふうに思います。

 さて、先ほど年数十件というお話でありましたが、国際結婚をする方の数ですとか、結婚した後、離婚する人の数を把握されていらっしゃいましたら、これはもしかしたら厚労省かもしれませんが、教えてください。

深山政府参考人 まず、国際結婚の方の件数でございますが、ハーグ条約が作成された昭和五十五年当時は約七千二百件ほどでしたけれども、平成二十三年のデータでは、その約三・五倍に当たる二万六千件ほどに増加しております。

 これに伴いまして、国際離婚の件数も増加しておりまして、平成二十三年のデータでは約一万八千件ほどになっております。

小田原委員 ありがとうございます。

 私も同様の件数を把握しております。特に、一時四万件ぐらいを超えていた時期があったようですが、これは入国管理が厳しくなってから三万件程度に落ちついたというふうに理解をしています。

 国際結婚の中には、大体八割近くの、男性による、お嫁さんを探されて国際結婚をされたという方々と、女性による国際結婚に分かれていて、国際結婚の数が大きく落ち込んでも離婚の数が余り変動がないということは、余り今回の法の対象者に我が国の男性が当てはまるという想定ではないのかなという気がしております。

 我が国は、離婚した後、片方の親に親権が属するわけですが、共同親権が常識の国の人からすれば、愛する子に会えなくなって、恨みが募るのは当然だと思います。DVを理由にする、または帰国すると児童虐待で捕まる、これは裁判所の方々には、いや、DVは証明できるんだというお答えしかないとは思うんですが、究極のところは本人同士しかわからない部分が非常に大きいと思います。

 この法が、共同親権の国やハーグ条約との整合性という観点で、どのように整合性が担保されているのか教えてください。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 委員御指摘のとおり、確かに世界の国の中で、日本のように単独親権の国もございますけれども、共同親権をとっている国も数多くございます。ハーグ条約が対象としておりますのは、締約国が離婚後の共同親権制度と単独親権制度のいずれを採用しているかにかかわらず、もともと居住していた国へ子供を帰そう、その可否を決定しようということについてでございます。

 したがって、ハーグ条約によって親権が決定されることはございませんので、各締約国の親権制度のあり方とハーグ条約との整合性が問題になることはないと考えております。

小田原委員 そうだと思います。

 したがいまして、離婚した後も必ず両方に会う権利があるんだと信じている人にとっては、問題は解決されずに、恨みは募り続けるんだというふうに僕は思います。

 私個人は、日本が片方の親に親権を与えるという判断は正しいと思っています。以前、椎名委員が、欧米ではツーツーファイブというような習慣があって、問題に対処しているというようなお話がありました。週末と平日で相互に預け合うというお話でしたが、これは、離婚を一度するのであればうまくいくかもしれませんが、離婚した人が再婚してまた子をもうけて、また離婚して、三度目に再婚してまた子供ができた場合は、日がわりで預かる子供がかわり、家庭構成が変わり、子供の方は毎日帰る家が変わる。これが我が国の追求する家庭像だとはとても思えないからであります。

 さて、把握されている限りで、国際結婚した方が離婚する理由について、どういったものが多いのか教えてください。

深山政府参考人 国際離婚の理由を正確に把握できているわけではないんですけれども、司法統計によりますと、先ほど申し上げました我が国の家庭裁判所における渉外婚姻関係事件、少なくともどちらかの当事者に外国人が含まれる婚姻をめぐる紛争事件の申し立ての動機のデータがございまして、これを見ますと、動機として多いのは、性格が合わない、暴力を振るう、異性関係、生活費を渡さないといったようなものが多いものとして挙げられると思います。

小田原委員 ありがとうございます。

 私も、一生懸命調べまして、司法統計年報を見ました。夫からの申し立ての理由は、性格が合わない、異性関係、浪費する、異常性格の順で多いんだそうです。女性からの申し立ては、確かに、性格が合わない、暴力を振るう、生活費を渡さない、異性関係。

 ただ、ここで私が強く申し上げたいのは、これは親同士の話であって、子供と性格が合わないから離婚する人はいないんですね。この法はあくまでも子の利益と子の権利を守るといいながら、既に、離婚をするという時点で子供には大きなダメージを与えております。

 国籍に関係なく、価値観の相違は当たり前だと思います。日常生活に入れば、奥さんというのは旦那の言うことは全部は聞かないし、逆もまたしかりだと思います。ただし、子供ができてからの夫婦関係というのは、社会的な責任が発生しております。性格が合わないというだけで離婚をしていいのか。子供のダメージを考えれば、離婚というのは、子供にとって核のボタンを押すのと同じようなものでありましょう。

 かく言う小田原家の核のボタンも、よく見れば指紋が幾つかついていると思います。特に、落選をしてから、資金もないのに二度目の選挙に出ると言い出したときは、それは、性格が合わないというものでは説明のできない危機と亀裂が入るものであります。しかし、それでも、努めて協力し、けんかをしても乗り越えることで、人生の深みですとか喜びを得るのだと思います。また、そうでないと人生はつまらない。

 私は、この法で私たちが残し伝えようとしている社会像は何なのか、ぜひ谷垣大臣に伺いたいと思います。

谷垣国務大臣 今、小田原委員のお話を伺っておりまして、参議院にチャレンジし、そこで苦杯をなめられ、そして今度の衆議院選挙で当選してこられた御苦労があったんだろうなと思います。

 それで、委員がおっしゃった、国際結婚に限らず、家庭なんてなかなかそう簡単にいくものじゃないぞ、それを乗り越えて努力していくことにやはり意義があるというか真実があるんだろうという御意見は、私も個人としては、大いにそのとおりだろうというふうに思います。

 私の周辺で離婚された方も、夫婦関係がかなり難しくなっているけれども、子供が一人前になるまでは何とか頑張ろうというようなことで、お子さんが独立をされてから離婚をされたというような方もいらっしゃいますし、やはり一律には言えない、それぞれの夫婦関係のあり方というのがあるんだろうと私は思います。

 そこで、ハーグ条約並びに今度の法律がどういう社会像あるいは家族像を前提にしているかというお問いかけですが、私、法務省に参りまして、例えば深山民事局長とこの点に関して余り深く議論したわけではありません。したがって、これは私のどちらかというと個人的な見解かもしれませんが、この法律は、何か極めて理念的な法律というよりも、現実問題としてこれだけ国際結婚がふえてくると、それはうまくいく方だけではなくて、残念ながらうまくいかない結婚もふえてきた、そのときにお子さんをどう位置づけていくかという、どちらかといえば技術的な法律ではないかというのが私個人の受けとめ方でございます。ですから、特別な家庭像というものをこれが指し示しているわけでは必ずしもないんじゃないか。

 しかし、こういう御答弁をしながら、この法律をつくって、これから二十年、三十年たったときに、ああ、この法律は日本社会をこういうふうに変えたんだと不明を恥ずるかもしれません。そこは、実はまだそこまで私は予見する能力がありません。

 ただ、現在のところ、私は、国際結婚がふえ、そして残念ながらうまくいかない御夫婦もふえてきた中での技術的な処理を定めた法律である、こういうふうに理解をしております。

小田原委員 谷垣大臣、ありがとうございます。今の御答弁、大変心にしみました。手続論の法律なんですとさらりと言われたらどうしようかと思っておりました。

 事実、私の女房は、ちょうど今ごろ、地元立川の都議会選の出陣式で挨拶をしているところであります。多分してくれていると思います。

 統計を見ますと、女性の方で、国際結婚をされる方が毎年大体八千人から九千人の間、離婚される方が三千四、五百人の間で推移しているようです。単純計算すると、四割の方が毎年離婚をする。期間でいうと、平均で二年半もたないというのが現実であります。

 私は先ほど予防医学というふうに申し上げましたけれども、私が渡米する前に日本ではやっていた歌謡曲の中に、はしだのりひこさんの「花嫁」という歌がありました。花嫁は夜汽車に乗って嫁いでいくの、命かけて燃えた恋が結ばれる、帰れない、何があっても、心に誓うのと。今でも感動します。どうかこういう価値観を、次の世代にも、次の次の世代にも残していくべきだと思っております。

 結婚をして子供をもうける重みと責任をできれば当然に予見をして受けとめる、そういう個人を育むのが我が国が目指すものではないかと思います。できれば父と母がいて、大人の当人同士の事情で離婚をするのではなくて、離婚しない家庭が大半というのが、現政権の目指す保守の心ではないかと私は思います。

 離婚して帰ってきても、個人のトラブルで発生した問題を国が守ってくれるという安易な行動をかえって助長させないか、あえてお伺いをしたいと思います。

谷垣国務大臣 この法律は、国際結婚が破綻して、離婚して帰ってきても国が守ってくれるという観点から理解すべき法律ではないのではないか。これは先ほどのお答えと通じますが、どうしていくかという技術的な法律だというふうに私は捉えております。

 したがいまして、もしこれがなければ、さあ、いろいろな問題が起こったときに、それは、この法律で想定される事案に即して見れば、お子さんをかつての配偶者が連れていってしまう場合もあるし、自分が子供だけは離したくないと思って一緒に来る場合もあるでしょう。しかし、これがありませんと、住む国が異なってしまうと、解決する手段が見つからなくなってしまう、私はそういうふうに捉えております。

 私は法務大臣でございますから、親族法、家族法というものも扱わなければなりません。余り一定の家族観を人に押しつけるようなことも控えるべきだと思いながら答弁をいたしますが、しかし、小田原委員がおっしゃいましたように、俗な言葉で言えば、馬には乗ってみろ、人には添うてみろというようなことを申しますけれども、やはり、自分と相性の合う人に出会って、でき得べくんばともに白髪の生えるまで、こう思うのが大多数の方ではないかなと私は思っております。

小田原委員 谷垣大臣、ありがとうございます。今の御答弁も感動いたしました。

 質問事項は以上ではありますが、できればこの法を速やかに通して、ただし、これを通したことで、ハーグ条約を締結することができ、我が国が立派な先進国だと胸を張るのではなく、ハーグ条約は締結をするが、もっと大事なのは、責任ある大人として、結婚をするということについての重みを受けとめる、そういう個人になりましょうという社会への発信となれば大変光栄だと思います。

 子を守るのは法ではなく、その前に両親であるという価値観を引き継ぎたいと強く訴えて、私の質問を終わります。

 どうもありがとうございました。

    ―――――――――――――

石田委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。

 ただいま議題となっております本案審査のため、来る十九日金曜日、参考人の出席を求め、意見を聴取することとし、その人選等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

石田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 次回は、来る十七日水曜日委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時五十八分散会


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